説明

疲労回復剤

【課題】安全性が高く、身体作業に伴う肉体疲労からの回復を早める作用や疲労の蓄積を予防する作用などの抗疲労作用を示す医薬品、医薬部外品及び食品を提供すること
【解決手段】セージの葉又はその抽出物を有効成分とする抗疲労剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疲労からの回復剤及び/又は疲労の緩和剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生活者の6割以上の人は、日常的に疲労を感じており、以前と比較して十分な作業活動を維持できないと感じている。疲労に悩む生活者は、企業間競争の激化や成果主義の導入による心身負担の増大など、労働環境変化に伴って、年々増加している(非特許文献1を参照)。
【0003】
生活者は、日々の疲労からの回復を早め、疲労を緩和するために、入浴、コーヒーの飲用、一般用医薬品及びサプリメントの摂取、身体のマッサージなど、さまざまな方法を試行しているが(非特許文献2を参照)、日々の疲労に適切に対応できなかった際においては、疲労が蓄積していく。今や、疲労の蓄積に関連する健康障害及び経済損失は大きく、社会的問題になっている。
【0004】
これらの問題、特に肉体疲労を軽減する一つの手段として、運動持久力や筋力等の運動機能向上作用や、抗疲労作用を有する医薬品や食品を開発し、日常的に摂取する方法が提案されている。
【0005】
例えば、ジンセノサイドRg1及びジンセノサイドRb1を含有するオタネニンジン(学名 Panax ginseng C.A.Meyer.)抽出物やエレウテロシドB及びEを含有するエゾウコギ(学名 Eleutherococcus senticosus)抽出物などを含有する医薬品及び医薬部外品などは、古くから抗疲労作用を有する医薬品、いわゆる滋養強壮剤として用いられており、ヒトやマウスの運動機能を改善することが広く知られている(非特許文献3及び4を参照)。
【0006】
その他の運動持久力を向上させる効果を有する成分を含有する食品素材としては、ロザビン類やサリドロシドを含有するイワベンケイ(学名 Rhodiola Rosea L.)抽出物が報告されており、ヒトやマウスの運動機能を改善することが知られている(非特許文献5及び6を参照)。
【0007】
さらに、日々の疲労の蓄積に関連する健康障害を解決するためには、疲労からの回復を早め、疲労を緩和できる確かな方法を開発し、その方法を実施することが必要である。
【0008】
セージは、シソ科アキギリ属の多年草または常緑低木で、葉を採集し、陰干しにしたものが薬用や香辛料として利用される。一般に、「殺菌作用がある」、「リラックス作用がある」、などといわれている。ドイツのコミッションEモノグラフでは、外用で鼻粘膜・喉の炎症に、経口摂取で多汗に対する使用を示している(非特許文献7を参照)。また、セージには、アルツハイマー病の認知機能(非特許文献8及び9を参照)、外用での口唇ヘルペスに対する効果も報告されている(非特許文献10を参照)。
【0009】
しかし、セージの葉やその抽出物が疲労に与える効果、特に、肉体疲労の蓄積に対する予防効果や肉体疲労からの回復を早める効果については、これまで全く知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】疲労の実態調査と予防策、疲労の科学、222-228頁、株式会社講談社2001年
【0011】
【非特許文献2】疲労回復ホームページ、疲労の科学、229-233頁、株式会社講談社、2001年
【0012】
【非特許文献3】Asano Kら、Planta Med.、52巻3号:175-177頁、1986年
【0013】
【非特許文献4】木村と住吉、医学と薬学、50巻3号:329-334頁、2003年
【0014】
【非特許文献5】De Bock K.ら、Int.J.Sport Nutr.Exerc.Metab.、14巻3号:298-307頁、2004年
【0015】
【非特許文献6】Abidov M.ら、Bull.Exp.Biol.Med.、136巻6号: 585-587頁、2003年
【0016】
【非特許文献7】The Complete German Commission E Monographs、American Botanical Council and Boston、Integrative Medicine Communications、1998年
【0017】
【非特許文献8】Perry NS.ら、Pharmacol.Biochem.Behav.、75巻3号: 651-659頁、2003年
【非特許文献9】Akhondzadeh S.ら、J.Clin.Pharm.Ther.、28巻1号: 53-59頁、2003年
【0018】
【非特許文献10】Saller R.ら、Forsch.Komplementarmed.Klass.Naturheilkd.、8巻6号: 373-382頁、2001年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、安全性が高く、抗疲労作用を示す医薬品、医薬部外品及び食品を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者は、身体作業に伴う肉体疲労を改善及び予防する物質の探索を行った結果、安全性が高い天然物素材の中から、セージの葉の抽出物に、運動に伴う肉体疲労からの回復を早める作用や疲労の蓄積を予防する作用などを確認し、抗疲労剤として有用であることを見出した。すなわち、本発明は、下記(1)〜(8)に係るものである。
(1)セージの葉又はその抽出物を有効成分とする抗疲労剤。
(2)疲労からの回復を早めることを特徴とする(1)の抗疲労剤。
(3)疲労の蓄積を予防することを特徴とする(1)の抗疲労剤。
(4)疲労が生理的疲労である、(1)から(3)のいずれかの抗疲労剤。
(5)疲労が肉体疲労である、(1)から(3)のいずれかの抗疲労剤。
(6)肉体疲労が、身体に負荷を与えた際に作業効率が低下した状態である、(5)の抗疲労剤。
(7)セージの葉又はその抽出物を有効成分とする、身体に負荷を与えた際に肉体疲労に伴って作業効率が低下した状態を改善するための抗疲労剤。
(8)セージの葉又はその抽出物を有効成分とする、身体に繰り返し負荷を与えた際に肉体疲労に伴って作業効率が低下していく状況を軽減、緩和又は予防するための抗疲労剤。
【発明の効果】
【0021】
セージの葉又はその抽出物は、繰り返し運動負荷による運動機能の低下を改善し、抗疲労作用を示した。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明における疲労とは、身体あるいは精神に負荷を与えた際の作業効率の低下した状態を意味し、(1)生理的疲労、病的疲労及び薬剤由来の疲労、(2)末梢性の疲労(肉体疲労など)及び中枢性の疲労(精神疲労など)、(3)急性疲労及び慢性疲労などの疲労が含まれる。
【0023】
本発明の抗疲労剤を提供するに好ましい疲労の1つの態様は、生理的疲労である。生理的疲労とは、睡眠や休息の確保、栄養の摂取などを適切に得ることにより、自然の状態で回復が可能な範囲での疲労であり、病的疲労や薬剤由来の疲労を含まない。病的疲労とは慢性疲労症候群、悪性腫瘍、細菌又はウイルス感染、糖尿病、うつ病などの疾病に伴う疲労を示す。薬剤由来の疲労とは、抗ガン剤、免疫抑制剤、向精神剤などの使用によって引き起こされる疲労を示す。
【0024】
また、抗疲労剤の提供に好ましい他の疲労の1つの態様は末梢性の疲労であり、さらに好ましくは肉体疲労である。末梢性の疲労には、脳が主体となって疲労を感じている状態である中枢性の疲労を含まない。肉体疲労とは、身体疲労、筋肉疲労、運動疲労などと広義において同義である。
【0025】
本発明における肉体疲労とは、例えば身体作業により身体に負荷を与えた際に筋肉などの末梢組織が疲労することに起因して作業効率が低下した状態を意味する。ここで言う身体作業には、産業活動における労働作業のみでなく、日常生活における作業や運動、走行、自転車こぎ、階段の昇降などの動作も含む。
【0026】
「身体に負荷を与えた際に筋肉などの末梢組織が疲労することに起因して作業効率が低下した状態」とは、例えば運動持続時間の短縮や反復の運動回数の減少などの「持久力低下」、最大筋力(発揮できる最大の筋力)や筋持続力(最大の力を繰り返し何度も減少させずに長時間発揮できる能力)などの「筋力低下」を示し、運動機能の低下を意味する。
【0027】
急性疲労とは、適切な休息によって回復する一過性の疲労であり、慢性疲労とは,日々 の回復が不完全なために,疲労が蓄積して長期間にわたるものである。
【0028】
本発明の抗疲労剤は、「身体に負荷を与えた際に肉体疲労時に伴って作業効率が低下した状態を改善する」という効果を有し、疲労からの回復を早める効果を有する。好ましくは、本発明の抗疲労剤を肉体疲労時に摂取することにより、「身体に負荷を与えた結果低下した作業効率を、より早く正常な状態に改善する」という効果を有する。
【0029】
本発明における「疲労からの回復を早める効果」とは、例えば、疲労している状態から非疲労の状態に至るまでの過程を短縮する効果を意味し、休息や睡眠後の作業効率の低下がより早く改善、軽減、緩和していることを示す。
【0030】
本発明における「疲労からの回復を早める効果」は、好ましくは本発明の抗疲労剤が持久力又は筋力を向上させることにより達成できる。
【0031】
また、本発明の抗疲労剤は、「身体に繰り返し負荷を与えた際に肉体疲労時に伴って作業効率が低下していく状況を軽減、緩和又は予防する」という効果を有し、疲労の蓄積を改善、緩和又は予防する効果を有する。好ましくは、本発明の抗疲労剤を肉体疲労時に摂取することにより、「身体に負荷を与えた際に経時的に作業効率が低下していく状況を予防する」という効果を有する。
【0032】
本発明における「疲労の蓄積を改善、緩和又は予防する効果」とは、例えば疲労している状態が増悪し、身体に負荷を与えた際の作業効率がさらに低下することを消失、軽減または緩和する効果を意味し、身体作業の繰り返し負荷に伴う作業効率の低下が改善、軽減、緩和していることを示す。
【0033】
本発明における「疲労の蓄積を改善、緩和又は予防する効果」は、好ましくは本発明の抗疲労剤が持久力低下又は筋力低下を抑制することにより達成できる。
【0034】
本発明においてセージとは、和名 ヤクヨウセージ、学名 Salvia officinalisであり、シソ科アキギリ属の多年草または常緑低木を示す。セージの使用部位としては、全草でも良いが、主として葉を用いるのが好ましい。これらは、そのまま又は乾燥粉砕して用いることができるが、セージ抽出物として用いても良い。
【0035】
セージ抽出物とは、前記の使用部位、好ましくは葉部を、そのままあるいは乾燥した後に適当な大きさに切断したり、粉砕加工したりしたものを抽出して得られる抽出物である。抽出は、室温又は加熱した状態で溶剤に含浸させるか又はソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて行われる溶剤抽出の他に、水蒸気蒸留等の蒸留法を用いて抽出する方法、炭酸ガスを超臨界状態にして行う超臨界抽出法、あるいは圧搾して抽出物を得る圧搾法等を用いることができる。
【0036】
溶剤抽出に用いられる抽出溶剤としては、極性溶剤、非極性溶剤のいずれをも使用することができ、例えば、水、エタノール又はヘキサンなどであり、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用でき、溶剤を変えて繰り返し行うことも可能である。このうち、水、エタノールを用いるのが好ましく、水を用いるのがより好ましい。また、抽出物の分離精製手段としては、例えば、抽出物を活性炭処理、液液分配、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、ゲル濾過、精密蒸留等を挙げることができる。
【0037】
本発明に用いるセージ抽出物は、抽出物や分離精製物をそのまま用いてもよく、適宜な溶媒で希釈した希釈液として用いてもよく、濃縮抽出物や乾燥粉末としたり、ペースト状に調製したものでもよい。
【0038】
このようにして得られたセージの葉の抽出物には、ロズマリン酸、カルノシン酸及びフェノール性ジテルペンなどの成分を含有している。
セージの葉の1日あたりの摂取量としては、年齢、性別、体重などを考慮して適宜増減できるが、セージの葉重量に換算して2から9gが好ましく、3から6gが特に好ましい。セージの葉又はその抽出物の1日あたりの摂取量は、1日1回又は数回に分けて経口投与することができる。
【0039】
本発明の抗疲労剤は、セージの葉及び/又はその抽出物を配合した経口用組成物として提供することができる。例えば、セージの葉及び/又はその抽出物の他、本発明の効果を損なわない範囲で、ビタミン、アミノ酸、ミネラル、生薬及びその抽出物等を配合することができる。そして、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、抗酸化剤、コーティング剤、着色剤、矯味矯臭剤などを配合し、さらに必要に応じてpH調整剤、清涼化剤、懸濁化剤、消泡剤、粘稠剤、溶解補助剤、界面活性剤、香料などを配合して、常法により、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、ドライシロップ剤などの経口用固形製剤又はドリンク剤、飲料、濃縮飲料、固形発泡飲料、粉末飲料などの内服液剤として提供することができる。
【0040】
内服液剤・飲料中におけるセージ又はその抽出物の状態としては、溶解状態であっても、分散状態であっても良く、その存在状態は問わない。
【0041】
本発明の抗疲労剤は、通常、効能・効果を標榜できる医薬品、医薬部外品として提供されるが、特定保健用食品(健康増進法(平成14年法律第103号)第26条第1項の許可又は第29条第1項の承認を受け、「食生活において特定の保健の目的で摂取する者に対し、その摂取により当該保健の目的が期待できる旨の表示をする食品」)として、「肉体疲労が気になる方に」、「肉体疲労が残りやすい方に」などの表記を付して提供することも可能である。
【実施例】
【0042】
以下に本発明の代表的な試験例と実施例を示し、詳細に説明する。
【0043】
試験例1
マウスを用いた運動負荷時の作業効率におけるセージ葉抽出物の抗疲労効果の評価
(生薬抽出物の調製)
セージの葉の抽出物の肉体疲労に対する効果の評価を下記の通り行った。
セージ葉抽出物としては、次の工程により製造された抽出物を用いた。セージ葉に精製水を加え、加熱抽出後、浸出液を濾過した。濾液を加熱濃縮し、得られた濃縮抽出物にモルトデキストリン加え、スプレードライ法により乾燥粉末とした。得られたセージ葉抽出物の乾燥粉末1重量部は、乾燥セージ葉5.4重量部に相当しており(原生薬対比5.5〜6.7)、ロズマリン酸を4.33%含有していた。
また、比較素材として、運動持久力を向上させる効果が知られているエゾウコギ抽出物及びイワベンケイ抽出物を選定した。
エゾウコギ抽出物は、次の工程により製造された抽出物を用いた。エゾウコギに含水アルコール(30%エタノール)を加え、加熱抽出後、浸出液を濾過した。濾液を加熱濃縮し、得られた濃縮抽出物にモルトデキストリン加え、スプレードライ法により乾燥粉末とした。得られたエゾウコギ抽出物の乾燥粉末1重量部は、乾燥エゾウコギ約16重量部に相当しており(原生薬対比15.0〜18.0)、エレウテロシドB及びEの合計として 1.6%含有していた。
イワベンケイ抽出物は、次の工程により製造された抽出物を用いた。イワベンケイに含水アルコール(70%エタノール)を加え、加熱抽出後、浸出液を濾過した。濾液を加熱濃縮し、得られた濃縮抽出物にモルトデキストリン加え、スプレードライ法により乾燥粉末とした。得られたイワベンケイ抽出物の乾燥粉末1重量部は、乾燥イワベンケイ約2重量部に相当しており(原生薬対比2〜4)、ロザビン類を5.39%含有し、サリドロシドを1.42%含有していた。
【0044】
(抗疲労効果の測定)
抗疲労効果は、マウスを用いた限界遊泳試験により評価し、限界遊泳の繰り返し負荷に伴って短縮する限界遊泳時間を延長させる作用により判定した。実験には、8週齢の雄性 BALB/c Cr Slc マウス(日本エスエルシー(株))(32匹)を用いた。
限界遊泳試験は、限界遊泳の訓練(5回)、群分け、限界遊泳の負荷(2回)、及び抗疲労効果の評価(3回)より構成した。限界遊泳試験には、京大石原改良式運動量測定装置(流水型遊泳装置、(有)アニテック製)を用いた。運動量測定装置には水温34℃の水を注ぎ入れ、吐出水量12L/分にて遊泳させ、5分ごとに水量を1L/分の割合で増加させた。限界遊泳時間とは、疲労困憊により遊泳困難となった時点までの遊泳時間とした。限界遊泳後のマウスは、タオル等を用い、ストレスを与えないよう留意して体毛より水分を簡易的に除去した。限界遊泳の訓練(5回)は、1日間の休息日を挟んで行った。
群分けは表1に従い、各群の訓練時5回目の限界遊泳時間の平均に差がないように群分けした(4群、各群8匹)。
【0045】
【表1】

群分け後、セージ葉抽出物及び比較素材は15日間投与した。投与物質の投与は、0.1w/v% ポリソルベート80注射用水で調整した薬液を、体重1kgあたり10mlの容量で経口にて行った。セージ葉抽出物の体重1kgあたり投与用量は、ヒトにおいて胃腸障害にたいする効果が報告されている量又はヒト1日あたりの推奨量の三分の一量の生薬に相当する抽出物量とした。エゾウコギ抽出物及びイワベンケイ抽出物の体重1kgあたり投与用量は、ヒトにおいて運動機能に対する効果が報告されている量又はヒト1日あたりの推奨量の三分の一量の生薬に相当する抽出物量とした。
【0046】
投与期間中における限界遊泳の負荷(2回)は、投与開始の6日目及び9日目に、投与1時間後に行った。
抗疲労効果の評価(3回)は、投与の12日目に1回、15日目に2回行った。投与12日目における抗疲労効果の評価は、投与1時間後に行った。投与15日目における抗疲労効果の評価は、投与直前及び投与30分後に行った。
【0047】
次に、セージの葉の抽出物の肉体疲労に対する効果の評価結果を示す。
(1)投与12日目における抗疲労効果の評価
表2に、投与12日目(抗疲労効果の評価1回目)の限界遊泳時間の測定結果を示す。
【0048】
【表2】


溶媒群の投与12日目の限界遊泳時間は、繰り返し身体負荷に伴い、投与開始前(訓練時5回目)と比較して短縮していた。これより、投与12日目の溶媒群は疲労の状態であることが認められた。
【0049】
これに対して、セージ葉抽出物群、エゾウコギ抽出物及びイワベンケイ抽出物群の投与12日目の限界遊泳時間は、溶媒群の投与12日目の限界遊泳時間と比較して延長していた。特に、セージ葉抽出物群の限界遊泳時間の延長は著しく、投与開始前と比較しても延長していた。
【0050】
この結果は、セージ葉抽出物が、数日間の繰り返し運動負荷による運動機能の低下を改善し、抗疲労効果を有していることを示している。
【0051】
(2)投与15日目における抗疲労効果の評価
表3に、投与15日目(抗疲労効果の評価2及び3回目)の限界遊泳時間の測定結果を示す。
【0052】
【表3】

投与15日目における溶媒群の繰り返し2回目の限界遊泳時間は、1回目と比較して著しく短縮していた。これより、投与15日目の溶媒群の動物は疲労し易く、疲労が蓄積し易い状態であることが認められた。
【0053】
これに対して、セージ葉抽出物群、エゾウコギ抽出物及びイワベンケイ抽出物群の繰り返し2回目の限界遊泳時間は、溶媒群の繰り返し2回目の限界遊泳時間と比較して延長していた。特に、セージ葉抽出物群の限界遊泳時間の回復は著しく、有意な効果であった。
【0054】
この結果は、セージ葉抽出物が、短時間の繰り返し運動負荷による運動機能の低下を改善し、抗疲労効果を有していることを示している。
【0055】
試験例2
マウスの筋グリコーゲン量におけるセージ葉抽出物の抗疲労効果の評価
測定には、試験例1のマウス(4群、32匹)より採取した後肢骨格筋(ヒフク筋及びヒラメ筋)を用いた。また、運動を負荷しない健常対照として、同週齢の雄性 BALB/c Cr Slc マウス(日本エスエルシー(株))(8匹)をあわせて用いた。
骨格筋の採取は、試験例1を実施した翌日に約4時間絶食させた後に、深麻酔下で行った。骨格筋中のグリコーゲン量は、Glycogen Assay Kit(和光純薬工業(株))を用いて測定した。
【0056】
表4に、抗疲労効果の最終評価の翌日における筋グリコーゲン量の測定結果を示す。
【0057】
【表4】

溶媒群のグリコーゲン量は、運動負荷していない健常対照群のグリコーゲン量と比較して半減しており、回復していなかった。これより、筋グリコーゲン量の低下は、運動機能の低下の一因であることが認められた。
【0058】
これに対して、セージ葉抽出物群、エゾウコギ抽出物及びイワベンケイ抽出物群の筋グリコーゲン量は、溶媒群と比較して増加していた。特に、セージ葉抽出物群に強い増加作用が認められた。
【0059】
この結果は、セージ葉抽出物が骨格筋の機能維持または機能回復に有用であることを示している。
【0060】
以上の試験例より、セージ葉抽出物は、身体に負荷を与える作業に伴って作業効率の低下している状態において抗疲労作用を示し、疲労からの回復を早め、さらには疲労の蓄積を予防する効果を有していることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の抗疲労剤は、疲労を改善又は予防する医薬品、医薬部外品及び食品(特定保健用食品を含む)として有用である。本発明の抗疲労剤は、セージの葉又はその抽出物を有効成分とするものであり、安全性が高く、日常的に摂取することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セージの葉又はその抽出物を有効成分とする抗疲労剤。
【請求項2】
疲労からの回復を早めることを特徴とする請求項1の抗疲労剤。
【請求項3】
疲労の蓄積を予防することを特徴とする請求項1の抗疲労剤。
【請求項4】
疲労が生理的疲労である、請求項1から3のいずれか1項に記載の抗疲労剤。
【請求項5】
疲労が肉体疲労である、請求項1から3のいずれか1項に記載の抗疲労剤。
【請求項6】
肉体疲労が、身体に負荷を与えた際に作業効率が低下した状態である、請求項5に記載の抗疲労剤。
【請求項7】
セージの葉又はその抽出物を有効成分とする、身体に負荷を与えた際に肉体疲労に伴って作業効率が低下した状態を改善するための抗疲労剤。
【請求項8】
セージの葉又はその抽出物を有効成分とする、身体に繰り返し負荷を与えた際に肉体疲労に伴って作業効率が低下していく状況を軽減、緩和又は予防するための抗疲労剤。

【公開番号】特開2012−92028(P2012−92028A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239173(P2010−239173)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】