説明

疲労回復用食品組成物

本出願には、スズキ目サバ亜目に属する魚類などの回遊魚の抽出物または類似の組成の組成物を有効成分として含有することを特徴とする疲労回復用食品組成物が開示されている。これらの食品組成物によれば、運動や体力を要する仕事を行った後のからだの変化、或いは早朝起床時のからだの変化をいち早く回復し、からだを疲労の状態(自発運動量及び肝ATP減少)からいち早く回復し、活力をカラダに満たすことを容易ならしめる疲労回復用食品組成物を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、日常生活で疲れを感じたり、激しい若しくは長時間の運動や労働で疲労困憊したり起床時に不定愁訴を感じる者が使用すると有効な、回遊魚の抽出物または類似の組成を有する栄養成分の混合物を有効成分とする疲労回復剤、サプリメント、調味料等の疲労回復用食品組成物に関するものである。
【背景技術】
従来の疲労回復剤は、ビタミンやカフェインを含有する医薬部外品や滋養強壮飲料や、或いは朝鮮人参やローヤルゼリー、プロポリス等の天然の滋養強壮食品として、生活者(ここに、生活者とは健常者および病者すべての生活者を指称する)に多用されてきた。しかしながら、これらの食品は作用機序が完全には明らかにされておらず、また効果の点でもヒトにおいて十分には実感できるものであるとは言い難かった。また、これらの既存食品は、概ね医薬品的な形状であり、既存の食品に混和して利用することはその官能特性や物理化学的特性などから困難であった。日常の食生活で恒常的に摂取を行ない、疲労の回復や、その予防を行うことが目的であるならば、できればサプリメントの形状のみならず、一般の食品に美味しく混和できることが望ましく、かつ広範な食経験(ここにいう広範な食経験とは、世界中において、古来より広く喫食されていることを言う)があれば尚好ましいと考えられる。そのような視点では既存の食品や医薬品、サプリメントの成分では、食品への応用には限界があることから、食品として汎用性が有り、かつ食経験を豊富に有し、さらに効果的な食品の開発が望まれてきた。
ところで、激しい運動や仕事をこなすと生体は多量のエネルギーを喪失する。そのエネルギー源として糖質や脂肪が優先的に用いられることが古くから知られてきた。また、そのエネルギー産生の律速となる段階は、肝臓や筋肉のATP産生酵素であり、ここでの十分なATPの産生が円滑なエネルギー代謝と疲労状態の回避には極めて重要である。
本発明者の実験結果(後掲実験例参照)では、実験動物に運動を長時間負荷すると、骨格筋のATPは変化しないものの、特に肝臓のATP濃度がいち早く減少し、これと平行して実験動物の自発的な行動量が著減することを認めている。本発明で、回遊魚の一種である鰹抽出物は、このような場合に速やかに肝ATP濃度を回復し、かつ動物の自発運動量を正常化するのに極めて効果的であったことから、運動後や仕事後での疲労回復や、早朝起床時の不定愁訴の改善に効果的であると考えられた。
一方で従来から疲労回復に多用されている滋養強壮飲料は、各種ビタミン、カフェイン、タウリンなどを主成分とするが、カフェイン以外には明確な疲労回復効果は示されていない。また、朝鮮人参、ローヤルゼリーやプロポリスプロテインは、効果が認められる場合にあっても、その作用点が(ここに、作用点とは効能成分の生化学的なターゲット、例えば特定の酵素などを言う)明確ではなく、またこれらの製品全ては官能上にも大きな問題があり、医薬品的な形状以外では使用し難く、日常の食生活の中で多用することは困難であると考えられる。
一方、魚介類や畜肉に多く含まれるアンセリンやカルノシンがATPaseを活性化することは知られており、特開2002−173442号公報においては魚介類、鶏肉、畜肉などから得られるエキスの低分子画分を限外濾過膜を通して特異的にイミダゾールペプチド類、特にアンセリン、カルノシンおよびバレニンなどを精製し、これらから選ばれる少なくとも1種以上の投与により運動能力の向上及び抗疲労効果をもつことが提唱されているが、運動負荷後の疲労回復の際に重要となるATP量の検討は行っていないので、疲労回復との関係は明らかではない。
【発明の開示】
前項記載の従来技術の背景下に、本発明は、運動や体力を要する仕事を行った後のからだの変化、或いは早朝起床時のからだの変化をいち早く回復し、からだを疲労の状態(自発運動量及び肝ATP減少)からいち早く回復し、活力をカラダに満たすことを容易ならしめる疲労回復用食品組成物を提供することを目的とする。
本発明者は、前記の目的を達成すべく鋭意研究の結果、鰹、鮪、鯖などの回遊魚の抽出物およびこれに類似の組成を有する栄養成分の混合物が肝ATP量をいち早く回復し、かつ疲労状態を回復することを見出し、このような知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、鰹、鮪、鯖などの回遊魚の抽出物を有効成分として含有することを特徴とする疲労回復用食品組成物、およびこれに類似の組成を有する(a)鰹抽出物由来のペプチドやたんぱく質およびアミノ酸などの窒素化合物を合計して294mg以上または(a´)タウリン、アスパラギン酸、スレオニン、セリン、グルタミン酸、プロリン、グリシン、アラニン、バリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、フェニルアラニン、リジン、ヒスチジン、アンセリン、カルノシン、およびアルギニンのアミノ酸をおのおの4mg以上(アミノ酸量として計76mg以上)、(b)乳酸、クエン酸、リンゴ酸、およびコハク酸の有機酸を合計して55mg以上、(c)核酸関連化合物を1mg以上、および(d)NaClやKClのミネラル成分を合計して16mg以上の割合で含有し、かつアミノ酸量を1としたとき、有機酸は0.5〜2、核酸関連化合物は0.001〜0.5、そしてミネラル成分は0.02〜2の重量比となるような栄養成分の混合物を有効成分として含有することを特徴とする疲労回復用食品組成物に関する。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に言う回遊魚とは、鰹、鮪、カジキマグロ、鯖、鰯、にしん、ぶりなどの、産卵などのため、また季節により定期的に大移動する魚類を言う。特に、好ましくは、その効能の見地からカツオ、サバ、ソウダガツオ、マナガツオ、ミナミマグロ、ホンマグロ、クロマグロ、ビンナガマグロ、メバチマグロ、カジキマグロなど、スズキ目(Perciformes)サバ亜目(Scombrina)に属する魚類を用いるのが望ましい。なお、この分類は、「原色魚類検索図鑑(改訂13版)」(北隆館1989年発行)による。
本発明で使用する回遊魚の抽出物は、その製法には特別の制限はなく、常法により得ることができるものであるが、同様の組成であれば、これと異なる製法にて製造される抽出物であってもかまわない。
詳述すると、本発明で利用される回遊魚の抽出物としては、例えば、鰹、鮪、鯖などの肉の煮汁及び/又は蒸煮汁を常法により、Brix 20〜40程度に濃縮後濾過し、濾液をプロテアーゼにより20〜60℃で1分〜24時間の範囲で酵素分解処理後、Brix 40〜60程度に濃縮したものに糖類(例えば、グルコースやフルクトースなど)を0.1〜10%の範囲で添加した後、60〜150℃で1分〜24時間の範囲で加熱褐変処理を施したものを挙げることができる。また、上記の回遊魚の内臓、身および頭をミンチした後、麹醗酵させた後、火入れ、濾過したものを挙げることができる(特開2002−191321号公報)。さらにまた、上記の回遊魚の肉の煮汁及び/又は蒸煮汁を常法によりBrix 20〜40程度に加熱濃縮したのち濾過したものを挙げることができる。
加えて、上記の抽出物に他のエネルギー産生源である糖質等を配合しても差し支えない。
また、このような抽出物は、逆浸透ろ過法などにより塩分を除去したものであっても差し支えない。
また、鰹、鮪、鯖などの回遊魚の抽出物の代りにこれと同様の組成を有する組成物を使用することもできる。このような組成物として、(a)鰹、鮪、鯖などの抽出物由来のペプチドやたんぱく質およびアミノ酸などの窒素化合物を合計して294mg以上、(b)乳酸、クエン酸、リンゴ酸、およびコハク酸の有機酸を合計して55mg以上、(c)核酸関連化合物を1mg以上、および(d)NaClやKClのミネラル成分を合計して16mg以上の割合で含有し、かつアミノ酸量を1としたとき、有機酸は0.5〜2、核酸関連化合物は0.001〜0.5、そしてミネラル成分は0.02〜2の重量比となるような栄養成分の混合物を有効成分として含有する組成物(組成物X)、および(a´)タウリン、アスパラギン酸、スレオニン、セリン、グルタミン酸、プロリン、グリシン、アラニン、バリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、フェニルアラニン、リジン、ヒスチジン、アンセリン、カルノシン、およびアルギニンのアミノ酸をおのおの4mg以上(アミノ酸量として計76mg以上)、(b)乳酸、クエン酸、リンゴ酸、およびコハク酸の有機酸を合計して55mg以上、(c)核酸関連化合物を1mg以上、および(d)NaClやKClのミネラル成分を合計して16mg以上の割合で含有し、かつアミノ酸量を1としたとき、有機酸は0.5〜2、核酸関連化合物は0.001〜0.5、そしてミネラル成分は0.02〜2の重量比となるような栄養成分の混合物を有効成分として含有する組成物(組成物Y)を挙げることができる。なお、このような組成物における核酸関連物質とは、核酸、ヌクレオチド、ヌクレオシドおよび核酸塩基を言う。
組成物Xと組成物Yでは、組成物Xの方が疲労回復効果に優れている。組成物Xには、鰹抽出物に含まれていると考えられる未知成分(例えば、メイラード反応生成物など)が疲労回復効果に優れる原因となっているものと推定される。
回遊魚の抽出物もしくはそれに類似の組成を有する栄養成分の混合物に加え、本発明の疲労回復用食品組成物には、本発明の効果を妨げない範囲内で適当な添加物を配合することができる。
このような添加物としては、回遊魚の抽出物の疲労回復効果を助長する糖質(グルコース、スクロース、でん粉など)、脂質(植物油、魚油、動物脂など)、たん白質(大豆たん白、乳たん白など)、ミネラル(カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩などの無機塩類)、ビタミン類(チアミン、ナイシン、ビタミンC、カロテンなど)等の他の栄養成分;タウリン、カフェイン等の抗疲労成分;;食品としての機能(味、食感、安全性など)を付与するのに適当なスクロース、アスパルテーム、アセスルファムK、グルタミン酸ナトリウム、食塩等の嬌味成分;顆粒化、粉末化または固体化して食べ易くする同様の目的での糖質、無機塩類等の賦形成分;同様の目的でのエチルアルコール、酢酸、酢酸ナトリウム、グリシンなどの静菌性成分;同様の目的でのアナトー色素、ベニバナ色素、パプリカ色素、紅麹色素、ブドウ色素などの天然物由来色素、各種合成色素等の色素を挙げることができる。これらに限らず、その他の、この分野で常用されている添加物を配合することのできることももちろんである。
このようにして製造された本発明の栄養組成物は、そのまま、すなわち、適宜、液体混合物、粉体混合物などの形態で流通に置くことができる。また、疲労回復剤、サプリメント、調味料などの形態で流通に置くこともできる。
最後に本発明の栄養組成物の投与量(摂取量)について説明する。マウスに鰹抽出物を投与した試験の結果では、その投与量が乾物換算630mg/kgを超える量の場合に疲労回復作用が認められた。この用量を動物からヒトへ換算すると成人ヒト1人当り1日3食として1食あたり乾物換算500mg以上となる。
また、この量を下回る場合には効果は期待できない。
【図面の簡単な説明】
図1は、自発運動量の変化を示す(実験例1)。
図2は、肝臓中ATP/AMP比を示す(実験例1)。
図3は、自発運動量の変化を示す(実験例2)。
図4は、肝臓中ATP/AMP比を示す(実験例3)。
図5は、肝臓中ATP/AMP比を示す(実験例4)。
図6は、自発運動量の変化を示す(実験例5)。
図7は、肝臓中ATP/AMP比を示す(実験例5)。
図8は、自発運動量の変化を示す(実験例6)。
図9は、自発運動量の変化を示す(実験例6)。
図10は、自発運動量の変化を示す(実験例6)。
図11は、自発運動量の変化を示す(実験例7)。
図12は、1週間継続摂取後の自発運動量を示す(実験例8)。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例および実験例により本発明を更に説明する。
実施例1:鰹抽出物の作成
鰹抽出物を3種類作成した。すなわち、先ず、(A)鰹の肉の煮汁を常法によりBrix 30程度に濃縮後濾過し、濾液をプロテアーゼにより50℃で3時間酵素分解処理後、90℃で10分加熱して酵素失活させたものをBrix 60程度まで濃縮し、これに糖類(グルコース)を2%添加した後、90℃で1時間加熱褐変処理を施すことにより作成した(鰹抽出物A)。次に、(B)鰹の内臓、身、頭をミンチした後、麹醗酵させた後、火入れ、濾過することにより作成した(鰹抽出物B)。最後に、(C)鰹の肉の煮汁を常法によりBrix 30程度に加熱濃縮したのち濾過することにより作成した(鰹抽出物C)。
実験例1:自発運動量及び肝臓中ATP/AMP比の回復
各群8頭(各群n=8)からなる5週齢のCDF−1系雄性マウス3群(A、BおよびC群)をトレッドミルにおき、強制歩行運動を3時間負荷した後、それぞれ、▲1▼鰹抽出物A、▲2▼鰹抽出物B、および▲3▼鰹抽出物Cを鰹抽出物中の遊離アミノ酸量として1g/kgとなるようにゾンデを用いて経口投与し、その後、赤外線センサー付自発運動量測定装置を用いて60分間の自発運動量を測定し、対照群(Control群;脱イオン蒸留水のみ試料と同様の方法にて投与)との比較を行った。なお、各試料及び蒸留水は0.5mL投与した。結果を後掲図1に示す。
図中*、**、***は対照群との有意差を示し、*はp<0.05、**はp<0.01、***はp<0.001を示す。また、Total countsは60分間に赤外線センサーが計測した運動の回数を意味する。
また、各群6頭からなる5週齢のCDF−1雄性マウス3群(A、BおよびC群)をトレッドミルにおき、強制歩行運動を5時間負荷し、運動終了30分前にそれぞれ上記▲1▼〜▲3▼の鰹抽出物を投与し、運動終了後屠殺し、肝臓中ATP/AMP比を測定した。なお、比較のため、運度負荷及び投与を行わなかった群(無処置群、Blank)及び運動負荷はしたが蒸留水を投与した対照群(Control群)のマウスにおいても肝ATP/AMP比を測定した。なお、肝ATPおよびAMPはJournal of Chromatography,527巻、p.31〜39(1990)に記載のCarterらの方法に従って測定した。その結果を後掲図2に示す。
図1からわかるようにどの鰹抽出物を投与しても自発運動量の回復が認められたが、その中でも特に酵素処理を行った鰹抽出物Aで効果が認められた。また、図2より、鰹抽出物Aは肝臓中ATP/AMP比も有意に回復させた。
実験例2:自発運動量の回復
各群8頭(各群n=8)からなる5週齢のCDF−1系雄性マウス3群をトレッドミルにおき、強制歩行運動を3時間負荷した後、それぞれ、▲1▼鰹抽出物Aを遊離アミノ酸量として0.1g/kg投与(A0.1g/kg群)および▲2▼鰹抽出物Aを遊離アミノ酸量として1g/kg(A1g/kg群)をゾンデを用いて経口投与し、その後、赤外線センサー付自発運動量測定装置を用いて60分間の自発運動量を測定し、対照群(Control群;脱イオン蒸留水のみ試料と同様の方法にて投与)との比較を行った。なお、各試料及び蒸留水は0.5mL投与した。結果を後掲図3に示す。図中*は対照群との有意差を示し、*はp<0.05を示す。
図3からわかるように、鰹抽出物Aを遊離アミノ酸量として1g/kg投与した群で有意な自発運動量の回復が認められたが、1/10量である0.1g/kg投与群においても自発運動量が回復する傾向が認められた。
実験例3:肝臓中ATP/AMP比の回復
各群6頭からなる5週齢のCDF−1雄性マウス2群をトレッドミルにおき、強制歩行運動を5時間負荷し、運動終了30分前に、それぞれ、▲1▼鰹抽出物Aを遊離アミノ酸量として1g/kg(A群)および▲2▼D−グルコース1g/kg(グルコース群)を投与し、運動終了後屠殺し、肝臓中ATP/AMP比を測定した。なお、比較のため、運度負荷及び投与を行わなかった群(無処置群)及び運動負荷はしたが蒸留水を投与した対照群(Control群)のマウスにおいても肝臓中ATP/AMP比を測定した。なお、投与方法及び投与量については、実験例1におけると同様の条件にて行った。
その結果を後掲図4に示す。図4からわかるように鰹抽出物Aはグルコースよりも有意に肝臓中ATP/AMP比を回復させることが示された。
実験例4:肝臓中ATP/AMP比
各群6頭からなる5週齢のCDF−1雄性マウス3群をトレッドミルにおき、強制歩行運動を5時間負荷し、運動終了30分前に、それぞれ、▲1▼鰹抽出物Aを遊離アミノ酸量として1g/kg(A群)、▲2▼カツオエキス「マリンアクティブ」(焼津水産化学工業(株)製に含まれる遊離アミノ酸量として1g/kg(マリンアクティブ群)および▲3▼アンセリンを、前掲特開2002−173442号公報で抗疲労効果が認められた量である200mg/kg(アンセリン群)を投与し、運動終了後屠殺し、肝臓中ATP/AMP比を測定した。なお、比較のため、運度負荷及び投与を行わなかった群(無処置群)及び運動負荷はしたが蒸留水を投与した対照群(Control群)のマウスにおいても肝臓中ATP/AMP比を測定した。なお、投与方法及び投与量については、実験例1におけると同様の条件にて行った。
その結果を後掲図5に示す。図5からわかるように、鰹抽出物A投与群は先行技術品である「マリンアクティブ」及び抗疲労効果があるといわれるアンセリン投与群より、肝臓中ATP/AMP比が高い水準を示すことが明らかになった。
実験例5:自発運動量及び肝臓中ATP/AMP比
各群8頭(各群n=8)からなる5週齢のCDF−1系雄性マウス2群をトレッドミルにおき、強制歩行運動を3時間負荷した後、それぞれ、▲1▼鰹抽出物Aを遊離アミノ酸量として1g/kg(A群)、▲2▼鰹抽出物A中の遊離アミノ酸組成のアミノ酸混合物(タウリン、アスパラギン酸、スレオニン、セリン、グルタミン酸、プロリン、グリシン、アラニン、バリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、フェニルアラニン、リジン、ヒスチジン、アンセリン、カルノシン、アルギニンの混合物)を1g/kg(AAMix群)を経口投与し、その後、赤外線センサー付自発運動量測定装置を用いて60分間の自発運動量を測定し、対照群(Control群;脱イオン蒸留水のみ投与)との比較を行った。なお、投与方法及び投与量については、実験例1におけると同様の条件にて行った。
結果を後掲図6に示す。
また、各群6頭からなる5週齢のCDF−1雄性マウス2群をトレッドミルにおき、強制歩行運動を5時間負荷し、運動終了30分前に、それぞれ、上記と同じ投与をし、運動終了後屠殺し、肝臓中ATP/AMP比を測定した。なお、比較のため、運度負荷及び投与を行わなかった群(無処置群)及び運動負荷はしたが蒸留水を投与した対照群(Control群)のマウスにおいても肝臓中ATP/AMP比を測定した。その結果を後掲図7に示す。
図6および図7から、鰹抽出物A投与群において自発運動量及び肝臓中ATP/AMP比の回復が認められたのに対し、鰹抽出物Aの遊離アミノ酸組成のアミノ酸混合物では変化が認められなかった。このことから、抽出物に含まれる組成のアミノ酸混合物以外のものも必要であることが分る。
実験例6:自発運動量の変化
各群8頭(各群n=8)からなる5週齢のCDF−1系雄性マウス5群をトレッドミルにおき、強制歩行運動を3時間負荷した後、鰹抽出物Aの既知成分、すなわち、▲1▼乳酸、クエン酸、リンゴ酸およびコハク酸の550:4:3:5混合物(有機酸混合物群)、▲2▼イノシン1リン酸(核酸群)、▲3▼NaCl(NaCl群)、及び▲4▼▲1▼から▲3▼の混合物に実験例5で使用したアミノ酸混合物を加えたもの(アミノ酸混合物有機酸混合物NaCl群)、並びに▲5▼鰹抽出物Aを遊離アミノ酸量として1g/kg(A群)をそれぞれ経口投与し、その後、赤外線センサー付自発運動量測定装置を用いて60分間の自発運動量を測定し、対照群(Control群;脱イオン蒸留水のみ投与)との比較を行った。なお、投与方法及び投与量については、実験例1におけると同様の条件にて行った。その結果を後掲図8、9および10に示す。
図8、9および10から、鰹抽出物A投与群において自発運動量の回復が認められたのに対し、鰹抽出物A中の組成の遊離アミノ酸混合物、有機酸混合物、核酸、またはNaCl投与群では自発運動量の回復が認められなかった。しかしながら、それらすべての混合物においては鰹抽出物Aほどではないが、コントロール群に比べ自発運動量の回復が認められた。
実施例2:鮪抽出物および鰹抽出物の作成
次の方法にて鮪熱水抽出物を調製した。すなわち、先ず、鮪(ホンマグロ)の肉1kgをミンチしたものに対して2kgの熱水を添加して95〜97℃にて1時間抽出を行った。ろ過を行って得られた煮汁について常法により凍結乾燥を行い、鮪熱水抽出エキス粉末を42g得た。
また、上記の方法と同様に鰹についても熱水抽出物の調製を行った。すなわち、鰹の肉1kgをミンチしたものに対して2kgの熱水を添加して95〜97℃にて1時間抽出を行った。ろ過を行って得られた煮汁について常法により凍結乾燥を行い、鰹熱水抽出エキス粉末40gを得た。
実験例7:自発運動量の測定
各群8頭(各群n=10)からなる5週齢のCDF−1系雄性マウス3群(A、BおよびC群)をトレッドミルにおき、強制歩行運動を3時間負荷した後、それぞれ、▲1▼蒸留水(DW)、▲2▼実施例2で得られた鰹熱水抽出エキス(遊離アミノ酸量として1g/kg)、および▲3▼実施例2で得られた鮪熱水抽出エキス(遊離アミノ酸量として1g/kg)を経口投与し、その後、赤外線センサー付自発運動量測定装置を用いて60分間の自発運動量を測定し、対照群(Control群;脱イオン蒸留水のみ投与)との比較を行った。なお、投与方法及び投与量については、実験例1と同様の条件にて行った。結果を後掲図11に示す。
図11に示すように、鮪熱水抽出エキスにおいても鰹熱水抽出エキスと同様に、蒸留水投与群(DW群)と比較して、自発運動量の回復が認められた。
実験例8:鰹抽出物の作成および自発運動量の測定
鰹の肉の煮汁を常法によりBrix 30まで減圧濃縮を行い、濾過を行なった後に、電気透析(旭化成社製「アシライザーG3」)および凍結乾燥を行い、鰹抽出物の脱塩品を得た。
動物試験については以下の方法にて行なった。各群10頭からなる5週齢のCDF−1系雄性マウス2群につき、それぞれ、▲1▼対照食(「AIN−93G」組成の精製飼料;Journal of Nutrition 123,1939−1951,1993)および▲2▼鰹抽出物5%添加食(上記精製飼料のコーンスターチ配合量を5%低減させて鰹抽出物粉末に置き換えたもの)を与えて、1週間の飼育を行なった。なお、食餌については自由摂取をさせ、飼育期間中に1週間中に5日、1日に3時間の強制歩行を負荷した。飼育1週間後、強制歩行させた後に前述(実験例1)と同方法にて、赤外線センサーを用いて自発運動量を測定した。
得られた実験結果を後掲図12に示す。図に示したように、鰹抽出物添加食餌を与えたマウスは、対照食餌を与えた群と比較して、高い自発運動量を示す傾向が観察された。なお、食餌の摂食量については両群に有意な差は認められなかった。以上の結果から、鰹抽出物を継続摂取させた場合においても、疲労回復効果を示すことが確認された。
【産業上の利用の可能性】
本発明によれば、運動や体力を要する仕事を行った後のからだの変化、或いは早朝起床時のからだの変化をいち早く回復し、からだを疲労の状態(自発運動量及び肝ATP減少)からいち早く回復し、活力をカラダに満たすことを容易ならしめる疲労回復用食品組成物を容易に提供することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回遊魚の抽出物を有効成分として含有することを特徴とする疲労回復用食品組成物。
【請求項2】
該回遊魚の抽出物に加えて他の栄養成分、抗疲労成分、嬌味成分、賦形成分、静菌性成分及び色素からなる群から選ばれる1種以上の添加物を含有することを特徴とする請求項1記載の疲労回復用食品組成物。
【請求項3】
該回遊魚が、スズキ目(Perciformes)サバ亜目(Scombrina)に属する魚であることを特徴とする請求項1または2記載の疲労回復用食品組成物。
【請求項4】
該回遊魚が、鰹であることを特徴とする請求項1または2記載の疲労回復用食品組成物。
【請求項5】
該回遊魚が、鮪であることを特徴とする請求項1または2記載の疲労回復用食品組成物。
【請求項6】
該回遊魚の抽出物が、鰹または/および鮪の身の煮汁から抽出されたものであることを特徴とする請求項1または2記載の疲労回復用食品組成物。
【請求項7】
該回遊魚の抽出物が、鰹または/および鮪の身の煮汁を酵素分解して得られる抽出物であることを特徴とする請求項1または2記載の疲労回復用食品組成物。
【請求項8】
該回遊魚の抽出物が、鰹または/および鮪の身の煮汁及び/又は蒸煮汁を加熱濃縮して得られる抽出物であることを特徴とする請求項1または2記載の疲労回復用食品組成物。
【請求項9】
該回遊魚の抽出物が、鰹または/および鮪の頭、内臓及び/または腹皮を含む副生物をミンチにした後、麹を添加して醸造した醸造物から得られる抽出物であることを特徴とする請求項1または2記載の疲労回復用食品組成物。
【請求項10】
(a)鰹または/および鮪抽出物由来のペプチドやたんぱく質およびアミノ酸などの窒素化合物を合計して294mg以上または(a´)タウリン、アスパラギン酸、スレオニン、セリン、グルタミン酸、プロリン、グリシン、アラニン、バリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、フェニルアラニン、リジン、ヒスチジン、アンセリン、カルノシン、およびアルギニンのアミノ酸をおのおの4mg以上(アミノ酸量として計76mg以上)、(b)乳酸、クエン酸、リンゴ酸、およびコハク酸の有機酸を合計して55mg以上、(c)核酸関連化合物を1mg以上、および(d)NaClやKClのミネラル成分を合計して16mg以上の割合で含有し、かつアミノ酸量を1としたとき、有機酸は0.5〜2、核酸関連化合物は0.001〜0.5、そしてミネラル成分は0.02〜2の重量比となるような栄養成分の混合物を有効成分として含有することを特徴とする疲労回復用食品組成物。

【国際公開番号】WO2004/032652
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【発行日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−542857(P2004−542857)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012957
【国際出願日】平成15年10月9日(2003.10.9)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】