説明

疲労度評価装置、疲労度評価方法及びその利用

ヒトにおける疲労度が簡便かつ定量的に評価できる方法、キット及びその利用法を提供する。具体的には、被験者の血液を採取し、血液中のアミノ酸濃度を測定することにより、日常における疲労度を簡便かつ定量的に評価できる。さらに、抗疲労物質及び抗疲労食品の生体における抗疲労力を測定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトの疲労度を評価する方法およびその利用法に関し、特に、体液中のアミノ酸、例えば総アミノ酸、分岐鎖アミノ酸、芳香族アミノ酸、システイン、メチオニン、リジン、アルギニン及びヒスチジンから選ばれる少なくとも1種の濃度変化を指標として、ヒトの疲労度を評価する方法およびその利用法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
疲労は、日常生活において非常に身近な問題であり、ストレスの多い現代人の中では、慢性疲労に悩むヒトが多い。しかしながら、「疲労」に関する科学的・医学的研究は、断片的に行われていたに過ぎず、「疲労」という主観的症状をいかに定量的・客観的に表すかという決定的手段又は定量尺度については、ほとんど研究されていない。
【0003】
これまで、「疲労」の代表的な例として、筋肉疲労が主に研究されており、その指標として、筋肉中の乳酸産生量の増加が注目されていた。しかし、本来乳酸は、脳神経系にとって重要なエネルギー源であり、乳酸が筋肉活動を阻害するという説は、現在では否定的に捉えられている。また、運動負荷において分岐鎖アミノ酸が運動の持久力維持機構に機能し筋肉中で消費され、その結果、血中の分岐鎖アミノ酸が減少することが明らかにされているが、精神疲労に対する機構は明らかにされていない(非特許文献1参照)。そのほか、筋肉疲労にともなって、体液中のピルビン酸の上昇、およびpHが低下する現象が知られている。しかし、これらは筋肉への負荷という一定のストレスを与えたときには確かにみられる現象であるが、「疲労」は局部的な筋肉疲労とは異なり、生体に現れるもっと幅広い大きな生理現象と考えられている。
【0004】
また、ここ数年間、交通事故による死者数は、年間8,000人、負傷者数は、100,000人を超えており(非特許文献2参照)、これらの主要な原因の1つに自動車等の運転による疲労が考えられている。また、心血管系疾患の罹患や死亡の頻度が高い職業の1つとして自動車等の運転手があげられ(非特許文献3参照)、過労が死亡の危険因子として重要なものであると考えられている。このように、運転による疲労の問題も、医学的・社会的・経済的にも非常に重要なものであるにもかかわらず、運転と疲労との研究、特に自動車等の運転時の疲労軽減・防止についての研究はほとんどなく、さらには、それについての対策も立ち遅れている。
[特許文献1]
日本国公開特許公報「特開平08−026987号公報(公開:平成8(1996)1月30日)」
[非特許文献1]
H.K.Struder,W.Hollmann,P.Platen,R.Wostmann,H.Weicker,G.J.Molderings共著、「Effect of acute and chronic exercise on plasma amino acids and prolactin concentrations and on[3H]ketanserin binding to serotonin2A receptors on human platelets」Eur J Appl Physiol、1999年
[非特許文献2]
警察庁交通局交通企画課 交通事故統計年報
[非特許文献3]
上畑銕之丞著「過労の研究」疲P1−190,1993.
上述のように、運動負荷による疲労の客観的な判定方法は提案されているが、日常生活における疲労症状は、先に述べたように、多くの日本人が感じているものであるにも関わらず、その客観的な評価方法について、ほとんど報告がなされていない。また、日常生活における疲労症状は、そのまま放置すると長時間過密の働きすぎによる突然死である過労死に直結するおそれもある。さらに、過労死の問題は医学的、経済的、社会的にも非常に重要であると認識されているにもかかわらず、その科学的メカニズムについてほとんど解明されていない。このため、近年、社会問題化している過労死を防止するためにも客観的疲労度の評価方法が必要とされている。
【0005】
また、市場に氾濫する栄養ドリンクなどの医薬品又は健康食品等の多くは、疲労を回復又は抑制する機能性を売り物としたものであるため、その機能性に対する科学的な裏づけが消費者のみならず市場・社会全体において広く求められていた。
【0006】
以上のように、運動負荷による疲労についての知見はあるものの、運動負荷による疲労と日常生活における精神疲労とはまったく異なるものであり、日常生活における精神疲労の評価方法は開発されていなかった。このため、簡便かつ客観的にin vivoにおける日常生活における精神疲労についての評価方法およびその利用法の開発が強く求められていた。本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡便かつ定量的に疲労度、特に精神疲労の疲労度を評価する方法及び利用を提供することにある。
【発明の開示】
【0007】
本発明者は、上記の課題に鑑み鋭意検討した結果、体液中のアミノ酸の濃度変化を測定・評価するだけで、日常生活の疲労、特に精神疲労負荷に対する疲労度を定量的に評価できることを独自に見出し、この実験系を利用して日常生活における精神疲労度を測定することができる本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明に係る疲労度評価装置は、体液中のアミノ酸の濃度を測定する測定手段と、上記測定手段の測定結果を指標として疲労度を評価する評価手段と、を備えることを特徴としている。
【0009】
また、上記評価手段は、上記測定結果におけるアミノ酸の濃度が所定の値より低い場合、疲労度が高いと評価するものであることが好ましい。
【0010】
また、上記評価手段は、上記測定結果におけるアミノ酸の濃度が所定の値より低い場合、日常生活で生じる生理的急性疲労の蓄積による過労状態であると評価するものであることが好ましい。
【0011】
また、上記体液は、生物個体から分離した血液、唾液、脳脊髄液及び尿からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
また、上記アミノ酸は、総アミノ酸、分岐鎖アミノ酸、芳香族アミノ酸、システイン、メチオニン、リジン、アルギニン及びヒスチジンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアミノ酸であることが好ましい。
【0013】
また、上記疲労度の評価対象が、日常生活で生じる生理学的急性疲労であって、精神疲労であることが好ましい。
【0014】
また、上記測定手段は、被験者に対して疲労を負荷する前及び疲労を負荷した後のそれぞれにおける体液中のアミノ酸の濃度を測定するものであって、上記評価手段は、上記測定手段の測定結果から、疲労負荷前と疲労負荷後との体液中のアミノ酸濃度の変化量を指標として、疲労度を評価するものであることが好ましい。
【0015】
また、本発明にかかる疲労度評価方法は、上記の課題を解決するために、体液中のアミノ酸の濃度を指標として疲労度を評価することを特徴としている。上記の方法では簡便かつ客観的にヒトの疲労度を評価でき、疲労回復又は抑制効果を持つ医薬品をはじめ、栄養ドリンクや健康食品といった栄養補助食品の効果効能を定量的に求めることも可能である。さらに、過剰な時間労働などで引き起こりやすい過労状態を簡便かつ客観的に発見することも可能である。
【0016】
また、上記アミノ酸の濃度が低ければ、疲労度が高いと評価することが好ましい。また、上記アミノ酸の濃度が低ければ、日常生活で生じる生理的急性疲労の蓄積による過労状態であると評価することが好ましい。また、上記体液は、血液、唾液、脳脊髄液及び尿から選ばれる少なくとも1種で有ることが好ましい。また、上記アミノ酸は、総アミノ酸、分岐鎖アミノ、芳香族アミノ酸、システイン、メチオニン、リジン、アルギニン及びヒスチジンであってもよい。また、上記疲労度の対象が日常生活で生じる生理的急性疲労であって、精神疲労負荷に対する疲労であることが好ましい。さらに上記アミノ酸の濃度において、疲労負荷前および疲労負荷後のそれぞれにおける体液中のアミノ酸の濃度の変化量を指標として疲労度を評価することであってもよい。
【0017】
また、本発明にかかる疲労度評価キットは、上記の課題を解決するために、上述の疲労度評価方法を実施するためのものであることを特徴としている。
【0018】
上記の疲労度評価キットによれば、例えば、被験者から体液を採取し、体液中のアミノ酸の濃度を測定し、その濃度を算出することだけで、疲労抑制又は回復効果がある医薬品及び食品の効果効能を評価できる。すなわち、疲労抑制又は回復効果がある医薬品又は食品の生体における効果効能を簡便かつ定量的に求めることができる。
【0019】
また、本発明にかかる抗疲労物質の抗疲労力測定方法は、上記の課題を解決するために、上述の疲労度評価方法および疲労度評価キットのいずれかを用いて、抗疲労物質の抗疲労力を測定することを特徴としている。
【0020】
上記の方法によれば、抗疲労物質がどの程度、ヒトの疲労症状に対して改善効果を有するのか、すなわち、抗疲労物質の有する抗疲労力について、簡便かつ確実、さらに定量的に、測定することができる。
【0021】
本発明は、日常生活における疲労度を簡便かつ定量的に測定・評価するための方法、キット及びその利用法を提供するものである。このため、本発明によれば、日常生活において、疲労度を客観的に知ることができ、疲労が知らず知らずのうちに蓄積して引き起こされる種々の疾患の発生を回避できる。さらに、疲労を意識せずに働き続けることにより発生する過労死の発生率を低下させることもできる。
【0022】
また、本発明に係る方法は、抗疲労物質の抗疲労力を評価する方法であって、疲労状態の被験者に上記抗疲労物質を与える過程と、上記いずれかに記載の疲労度評価装置、疲労度評価方法又は疲労度評価キットにより、上記被験者の疲労が改善されたか否かを判断する過程と、上記被験者の疲労の改善の程度を指標として、上記抗疲労物質の抗疲労力を評価する過程と、を含むことを特徴としている。
【0023】
また、本発明に係る疲労度評価システムは、上記いずれかに記載の疲労度評価装置であって、抗疲労物質を与えられた被験者の疲労度を評価する疲労度評価装置と、上記疲労度評価装置の評価結果における、上記被験者の疲労の改善の程度を指標として、上記抗疲労物質の抗疲労力を評価する疲労度評価装置と、を備えることを特徴としている。
【0024】
また、本発明に係るスクリーニング方法は、抗疲労物質の候補物質をスクリーニングする方法であって、疲労状態のモデル動物に被験物質を与える過程と、上記いずれかに記載の疲労度評価装置、疲労度評価方法又は疲労度評価キットにより、上記モデル動物の疲労が改善されたか否かを判断する過程と、上記モデル動物の疲労が改善していることを指標として、上記被検物質が抗疲労物質の候補物質であると判定する過程と、を含むことを特徴としている。
【0025】
なお、上記疲労度評価装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを上記各手段として動作させることにより上記疲労度評価装置をコンピュータにて実現させる疲労度評価装置の制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【0026】
さらに、本発明によれば、市場に数多く供給される、疲労回復、滋養強壮・栄養補給を謳う医薬品や食品がどの程度生体において抗疲労力を発揮するのか、といった情報を消費者及び社会に提供することができる。これらの情報は、消費者にとって、過労の予防や、滋養強壮に有効な抗疲労食品や医薬品を選択する際の一つの目安として利用することができるものであり、これらの点において、本発明は非常に有用かつ社会的インパクトの強い発明であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
[図1]本発明にかかる実施例1における精神疲労負荷方法の一つである「鏡像文字の写し」の説明図である。鏡像文字の写しとは、鏡(23)に映った課題となる文字を記載した紙(21)の紙面を、鏡に映った状態の字体(22)のまま、他の紙面に写す動作である。
[図2][1−4]で使用したVAS試験用紙である。ここに示す図はおよその実際スケールを反映しており、線分としては10cm程度が通常である。
[図3]本発明の実施例1における朝、夜及び翌朝のVASの長さを示すグラフである。
[図4]本発明の実施例1における朝、夜及び翌朝の被験者の血液中の総アミノ酸濃度を示すグラフである。
[図5]本発明の実施例1における朝、夜及び翌朝の被験者の血液中の分岐鎖アミノ酸濃度を示すグラフである。
[図6]本発明の実施例1における朝、夜及び翌朝の被験者の血液中の芳香族アミノ酸濃度を示すグラフである。
[図7]本発明の実施例1における朝、夜及び翌朝の被験者の血液中のシステイン濃度を示すグラフである。
[図8]本発明の実施例1における朝、夜及び翌朝の被験者の血液中のメチオニン濃度を示すグラフである。
[図9]本発明の実施例1における朝、夜及び翌朝の被験者の血液中のリジン濃度を示すグラフである。
[図10]本発明の実施例1における朝、夜及び翌朝の被験者の血液中のアルギニン濃度を示すグラフである。
[図11]本発明の実施例1における朝、夜及び翌朝の被験者の血液中のヒスチジン濃度を示すグラフである。
[図12]本発明の実施例2における疲労負荷前及び疲労負荷4時間後のVASの長さを示すグラフである。
[図13]本発明の実施例2における精神作業前および精神作業4時間後の被験者の血液中のバリン濃度を示すグラフである。
[図14]本発明の実施例2における精神作業前および精神作業4時間後の被験者の血液中のロイシン濃度を示すグラフである。
[図15]本発明の実施例2における精神作業前および精神作業4時間後の被験者の血液中のイソロイシン濃度を示すグラフである。
[図16]本発明の実施例2における身体作業前および精神作業4時間後の被験者の血液中のグリシン濃度を示すグラフである。
[図17]本発明の実施例2における身体作業前および精神作業4時間後の被験者の血液中のプロリン濃度を示すグラフである。
[図18]本発明の実施例2における身体作業前および精神作業4時間後の被験者の血液中のアラニン濃度を示すグラフである。
[図19]本発明の実施例2における身体作業前および精神作業4時間後の被験者の血液中のアスパラギン濃度を示すグラフである。
[図20]本発明の実施例2における身体作業前および精神作業4時間後の被験者の血液中のリジン濃度を示すグラフである。
[図21]本発明の実施例2における身体作業前および精神作業4時間後の被験者の血液中のヒスチジン濃度を示すグラフである。
[図22]本発明の実施例3における運転シュミレーションによる複合的疲労の負荷方法を示す図である。
[図23]本発明の実施例3における運転シュミレーション作業前および運転シュミレーション作業後の被験者の血液中のトリプトファン濃度を示すグラフである。
[図24]本実施の形態に係る疲労度評価装置の機能ブロックを模式的に示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明にかかる疲労度評価方法について説明し、次いでキット及び利用法について説明することとする。なお、本発明は、これに限定されるものではない。
【0029】
(1)疲労度評価方法
本発明者は、被験者の体液を採取し、体液中のアミノ酸の濃度を測定することにより、ヒトの疲労度を簡便かつ定量的に測定することができることを見出した。この方法は、大掛かりな装置が必要ないだけでなく、体液の採取時間が短いことから、被験者にとって時間的拘束が少ないだけでなく、方法の実施者にとっても非常に簡便な方法である。
【0030】
まず、本発明にかかる疲労度評価方法の概要を簡単に説明する。なお、ここで述べる方法の概要は、後述するキット及び利用方法にも共通する部分が多分に存在する。
【0031】
上記方法では、まず、被験者の体液を採取し、体液中のアミノ酸の濃度を測定する。アミノ酸は、同一分子内にカルボキシル基とアミノ基を有する化合物であればよいが、好ましくは総アミノ酸、分岐鎖アミノ酸、芳香族アミノ酸、システイン、メチオニン、リジン、アルギニン及びヒスチジンが好適である。ここで、分岐鎖アミノ酸として、例えばバリン、ロイシン、イソロイシンがあげられる。また、芳香族アミノ酸として、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンがあげられる。体液は血液、唾液、脳脊髄液及び尿から選ばれる少なくとも一種以上であればよいが、好ましくは血液が好適である。
【0032】
さらに、体液中のアミノ酸の測定方法は従来公知の方法であればよく、具体的な手法、条件などは適宜設定可能である。例えば、体液を液体クロマトグラフィーにかけて、体液中のアミノ酸濃度を測定する方法などが挙げられる。
【0033】
また、本発明でいう「疲労度」とは、過度の肉体的、精神的な活動により生じた独特の病的不快感と休養を求める欲求を伴う身体あるいは精神機能の減弱状態の度合いをいう。ここで身体あるいは精神機能の減弱状態とは、身体および精神作業能力の質的あるいは量的な低下を意味する。
【0034】
本発明でいう「疲労」とは上述のとおり生理的疲労と病的疲労に分類され、上記「生理的疲労」は急性疲労と慢性疲労に分類される。さらに、「急性疲労」は精神疲労、肉体疲労および精神的・肉体的要素を含む複合的疲労に分類される。一方、上記「慢性疲労」についても、上記急性疲労と同様に分類できる。また、本発明における疲労度の対象は生理的疲労の中でも急性疲労であることが好ましい。さらに、本発明における疲労度の対象は、遷延性疲労であってもよい。
【0035】
本発明でいう「過労状態」とは、上記生理的疲労であって、慢性疲労である状態が持続した結果、生体リズムが崩壊し、生命を維持する機能に致命的破綻をきたした状態であって、病的疲労に至る状態を意味する。
【0036】
本発明でいう「精神疲労」とは、複雑な計算や記憶、又は思考などの心理活動ばかりでなく、我慢や緊張又は時間に追われて作業をすることの焦操感など、感情や意思の活動が過度に要求された場合に生じる疲労である。
【0037】
本発明でいう「肉体疲労」とは、肉体的作業の遂行によって起こる疲労である。
【0038】
本発明でいう「精神疲労負荷」とは、眼精疲労、心的ストレスを含む精神的疲労を与えることを意味する。
【0039】
本発明でいう「複合的疲労負荷」とは、肉体的・精神的要素をふくむ複合的疲労を与えることであって、たとえば自動車等の運転等が挙げられる。
【0040】
また、本発明に係る疲労度測定方法においては、上記アミノ酸の体液中の濃度が低ければ、被験者の疲労度が高いと評価することになる。これは、後述する実施例に示すように、被験者の疲労度が高まれば、それに応じて被験者の体液内のアミノ酸濃度が低下することから導かれる
さらに、本発明にかかる疲労度評価方法の一部あるいは全部をコンピュータ等の従来公知の演算装置(情報処理装置)を利用して行うことも可能である。例えば、本発明にかかる疲労度評価方法は、被験者から体液を採取する採取工程と、体液中のアミノ酸の濃度を測定する測定工程と、体液中のアミノ酸の濃度の測定結果に応じて被験者の疲労度を評価する評価工程とを含むと換言できるが、この中でも、特に評価工程に演算装置を利用することができる。
【0041】
なお、本明細書では、本発明の対象として、主としてヒト(被験者)を観念しているが、これに限定されるものではなく、実験動物等の各種哺乳動物についても適用かのうである。特に、マウス、ラット、ウサギ、サル等は実験動物として頻繁に利用されるものであるため、これらの生物に適用することは特に健康食品や医薬品の開発という面で有用性が高い。
【0042】
(2)疲労度評価キット
次に、本発明にかかる疲労度評価キットについて説明する。本発明にかかる疲労度評価キットは、ヒトにおける疲労度を評価するキットである。すなわち、上記(1)欄で説明した本発明にかかる疲労度評価方法を実施するためのキットであればよい。さらに詳細には、例えば、被験者の体液を採取するための手段と、当該採取後の体液中のアミノ酸の濃度を測定する手段とを有するキットであればよい。本発明における体液中のアミノ酸の濃度を測定する手段としては、従来公知の測定方法を実施するために必要な手段であればよい。具体的には、例えば、上記(1)欄で説明した体液中のアミノ酸の濃度を測定する方法を実施するために必要な試薬、器具、装置、触媒その他のものをいう。
【0043】
さらに本発明にかかる疲労度評価キットは、コンピュータなどの従来公知の演算装置を用いてなるキットとなっていてもよい。
【0044】
(3)疲労度評価装置
上記態様において、本発明は、上記(1)欄で説明した疲労度評価方法を実施するための疲労度評価装置を提供する。かかる疲労度評価装置には、解析対象の被験者から分離した体液中のアミノ酸濃度を測定する部材(手段)、アミノ酸濃度を指標として疲労度を評価する部材(手段)を少なくとも有していればよく、これら以外にも、例えば、評価結果を画像化する部材(手段)、および画像を表示する部材(手段)等を備えてもよい。
【0045】
例えば、図24に本実施の形態に係る疲労度評価装置の機能ブロックを模式的に示す。同図に示すように、本実施の形態に係る疲労度評価装置10は、測定部1、評価部2、記憶部3、入力部4、出力部5を備えている。
【0046】
測定部1は、解析対象生物の体液中のアミノ酸の濃度を測定するものであればよく、具体的な構成等は特に限定されるものではない。例えば、後述する実施例に示すように、体液を液体クロマトグラフィーにかけて、体液中のアミノ酸濃度を測定する方法等の従来公知の方法を利用して測定する構成や市販のアミノ酸濃度測定キット等を好適に用いることができる。
【0047】
評価部2は、測定部1の測定結果を指標として、上記体液を採取した個体の疲労度を評価するものであればよく、その他の具体的な構成等は特に限定されるものではない。つまり、評価部2は、上述した本発明に係る疲労度評価方法を実行する部材であると換言できる。かかる評価部2としては、例えば、従来公知の演算装置を用いることができる。この評価部2の構成の詳細については後述する。
【0048】
記憶部3は、疲労度評価装置10で利用される各種情報(被験者の氏名、性別、年齢、食生活、運動習慣等の一般的な情報の他、使用する体液の種類、体液中のアミノ酸濃度、評価結果、その他情報等)を記憶するものである。具体的には、例えば、RAMやROM等の半導体メモリ、フレキシブルディスクやハードディスク等の磁気ディスク、CD−ROM/MO/MD/DVD等の光ディスクのディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系等、従来公知の各種記憶手段を好適に用いることができる。
【0049】
また、記憶部3は、疲労度評価装置10と一体化されていて一つの装置になっていてもよいが、別体となっている外部記憶装置となっていてもよく、さらには、一体化された記憶部3と外部記憶装置とが両方とも備えられている構成であってもよい。例えば、一体化した記憶部3としては、内蔵型のハードディスクや装置に組み込まれたフレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、DVD−ROMドライブ等が挙げられ、外部記憶装置としては、外付けハードディスクや外付け型の上記各種ディスクドライブ等が挙げられる。
【0050】
入力部4は、疲労度評価装置1の動作に関わる情報を入力可能とするものであれば特に限定されるものではなく、キーボードやタブレット、あるいはスキャナー等従来公知の入力手段を好適に用いることができる。
【0051】
出力部5は、測定部1が測定したアミノ酸濃度や、評価部2が出力した評価結果等を含む、疲労度評価装置10の動作に関わる情報や結果等の各種情報を表示する表示手段である。具体的には、公知のCRTディスプレイや、液晶ディスプレイ等といった各種表示装置が好適に用いられるが特に限定されるものではない。
【0052】
また、出力部5は、表示手段で表示可能な各種情報をPPC用紙等の記録材に記録(印刷・画像形成)するものであってもよい。具体的には、公知のインクジェットプリンタやレーザープリンタ等の画像形成装置が好適に用いられるが特に限定されるものではない。すなわち、出力部5は、各種情報をソフトコピーで出力する手段であり、及び/又は、各種情報をハードコピーで出力する手段である。なお、本発明で用いられる出力手段としては、上記表示手段や印刷手段に限定されるものではなく、その他の出力手段を備えていてもよい。
【0053】
次に、本発明の特徴的な部分である評価部2の具体的な機能・動作について説明する。例えば、評価部2は、測定部1の測定結果におけるアミノ酸の濃度が所定の値より低い場合、疲労度が高いと評価するものである。ここで所定の値としては、例えば、複数の被験者での実験を通じて得られた“疲労の指標”となり得る閾値やリラックス状態(疲労状態と相対する状態)における体液中のアミノ酸濃度の数値等を挙げることができる。なお、「所定の値」は、例えば、記憶部3に記憶させておき、評価の度に呼び出す構成とすることができる。
【0054】
また、評価部2は、測定部1の測定結果におけるアミノ酸の濃度が所定の値より低い場合、日常生活で生じる生理的急性疲労の蓄積による過労状態であると評価するものであることが好ましい。また、上記疲労度の評価対象が、日常生活で生じる生理学的急性疲労であって、精神疲労であることが好ましい。
【0055】
なお、上述したように、上記体液は、生物個体から分離した血液、唾液、脳脊髄液及び尿からなる群より選ばれる少なくとも1種であればよい。また、上記アミノ酸は、総アミノ酸、分岐鎖アミノ酸、芳香族アミノ酸、システイン、メチオニン、リジン、アルギニン及びヒスチジンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアミノ酸であればよい。
【0056】
さらにいえば、測定部1は、解析対象の被験者に対して疲労を負荷する前及び疲労を負荷した後のそれぞれにおける体液中のアミノ酸の濃度を測定するものであって、評価部2は、測定部1の測定結果から、疲労負荷前と疲労負荷後との体液中のアミノ酸濃度の変化量を指標として、疲労度を評価するものであることが好ましい。すなわち、評価部2は、疲労負荷前の体液中のアミノ酸濃度に比べて疲労負荷後の体液中のアミノ酸濃度が低下した場合、若しくは、疲労負荷前の体液中のアミノ酸濃度と疲労負荷後の体液中のアミノ酸濃度との変化量が所定の値より少ない場合、疲労していると評価する。ここでの所定の値とは、例えば、疲労していない場合(リラックス状態)の変化量を基準として算出した閾値等を挙げることができる。
【0057】
以上、説明したように、本実施の形態に係る疲労度評価装置によれば、上述した疲労度評価方法を簡便かつ正確に実施することができる。
【0058】
(4)本発明の利用
以上のように、本発明にかかる疲労度評価装置、疲労度評価方法、疲労度評価キットによれば、被験者が抗疲労物質を摂取する前後において、被験者の体液中のアミノ酸の濃度を測定するだけで、当該抗疲労物質の被験者生体内における抗疲労力を定量的に測定・評価することができる。さらに、かかる方法、キットはいずれも簡便であるだけでなく、大掛かりな装置や長時間における拘束が必要ないため、被験者及び実施者の両者にとって非常に取り扱いやすいものであるという利点がある。
【0059】
このため、本発明にかかる疲労度評価方法、疲労度評価キットのいずれかを用いて、抗疲労物質の抗疲労力を測定する抗疲労力物質の抗疲労力測定方法も本発明に含まれる。また、かかる抗疲労力物質の抗疲労力測定方法は、例えば、被験者が抗疲労物質を摂取する前に、当該被験者の体液を採取し、体液中のアミノ酸の濃度を測定する摂取前アミノ酸濃度測定工程と、被験者が抗疲労物質を摂取した後に、当該被験者の体液を採取し、体液中のアミノ酸濃度を測定する摂取後アミノ酸濃度測定工程と、上記摂取前アミノ酸濃度測定工程及び摂取後アミノ酸濃度測定工程によって得られた、当該抗疲労物質の摂取前後におけるアミノ酸濃度の変化の測定結果に基づき、当該抗疲労物質の摂取前後における体液中のアミノ酸濃度の変化を算出する濃度変化算出工程と、上記濃度変化算出工程によって得られた当該抗疲労物質の摂取前後における体液中のアミノ酸濃度変化に基づき、当該抗疲労物質の生体における抗疲労力を測定する抗疲労力測定工程と、を含む方法と換言することもできる。さらに、かかる抗疲労力物質を投与した被験者(投与群)と非投与群において、上記抗疲労力測定方法を実施する方法でもよい。
【0060】
なお、上記抗疲労とは、疲労の回復及び抑制効果を意味する。
【0061】
また、本発明にかかる疲労度評価方法、疲労度評価キットは、例えば、抗疲労物質のスクリーニング方法に利用することができる。すなわち、本発明にかかる抗疲労物質のスクリーニング方法は、上記疲労度評価方法、疲労度評価キットのいずれかを利用して、抗疲労物質をスクリーニングする方法であればよく、その具体的な方法、条件などは特に限定されるものではない。
【0062】
上記スクリーニング方法によれば、例えば、抗疲労食品として利用可能と思われる食品群を被験者に経口摂取させて、実際にin vivoで優れた抗疲労能を示す食品を簡便かつ客観的に選択することができる。したがって、上記スクリーニング方法により得られた抗疲労物質や抗疲労食品は、生体における効果が証明されたものであり、市場において高い評価を獲得することができる。
【0063】
なお、上記のスクリーニング方法により取得された抗疲労物質も本発明に含まれる。すなわち、本発明にかかる新規抗疲労物質は、上記スクリーニング方法により取得されたものであればよい。
【0064】
また、疲労が社会問題化されるにつれて、抗疲労機能を謳った抗疲労物質、抗疲労食品が種類、数量とともに増加してきており、これらの食品の抗疲労力を適切に評価する方法の開発も強く求められているが、本発明にかかる疲労度評価方法、疲労度評価キットおよびその利用法によれば、この要求にも応えることができる。
【0065】
本発明に係る疲労度評価装置等の利用の具体例として、例えば、抗疲労物質の抗疲労力を評価する方法、抗疲労力評価システム、及び抗疲労物質の候補物質をスクリーニングする方法を挙げることができる。
【0066】
まず、抗疲労物質の抗疲労力を評価する方法は、疲労状態の被験者に上記抗疲労物質を与える過程と、上述の(1)〜(3)欄のいずれかに記載の疲労度評価装置、疲労度評価方法又は疲労度評価キットにより、上記被験者の疲労が改善されたか否かを判断する過程と、上記被験者の疲労の改善の程度を指標として、上記抗疲労物質の抗疲労力を評価する過程と、を含んでいればよく、その他の具体的な構成、使用機器、条件等は特に限定されるものではない。上記の方法によれば、簡便かつ正確に抗疲労物質の抗疲労力を評価することができる。
【0067】
また、抗疲労力評価システムは、上述の(1)欄に記載のに記載の疲労度評価装置であって、抗疲労物質を与えられた被験者の疲労度を評価する疲労度評価装置と、上記疲労度評価装置の評価結果における、上記被験者の疲労の改善の程度を指標として、上記抗疲労物質の抗疲労力を評価する疲労度評価装置と、を備えるものであればよく、その他の具体的な構成等は特に限定されるものではない。上記の抗疲労力評価システムによれば、簡便かつ正確に抗疲労物質の抗疲労力を評価する方法を実行できる。
【0068】
また、抗疲労物質の候補物質をスクリーニングする方法は、疲労状態のモデル動物に被験物質を与える過程と、上述の(1)〜(3)欄のいずれかに記載の疲労度評価装置、疲労度評価方法又は疲労度評価キットにより、上記モデル動物の疲労が改善されたか否かを判断する過程と、上記モデル動物の疲労が改善していることを指標として、上記被検物質が抗疲労物質の候補物質であると判定する過程と、を含んでいればよく、その他の具体的な構成、使用機器、条件等は特に限定されるものではない。上記の方法によれば、簡便かつ正確に抗疲労物質をスクリーニングすることができる。
【0069】
最後に、疲労度評価装置10の各ブロック、特に測定部1又は評価部2は、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにCPUを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0070】
すなわち、疲労度評価装置10は、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである疲労度評価装置10の制御プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、上記疲労度評価装置10に供給し、そのコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
【0071】
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
【0072】
また、疲労度評価装置10を通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態でも実現され得る。
【0073】
以下、添付した図面に沿って実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0074】
なお、本発明は文部科学省科学技術振興調整費生活者ニーズ対応研究「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究」の成果である。
【実施例】
【0075】
[実施例1]
本実施例では、リラックス状態と精神疲労負荷試験を行い、それぞれ試験当日の朝、夜および翌朝の3ポイントで主観的疲労感の測定と血液中アミノ酸濃度測定を行った。
【0076】
[1]疲労度評価方法
[1−1]被験者
健常男性5名及び健常女性4名(平均年齢27.6±5.5)を被験者とした。全例に本試験に対する同意書を取得し、関西福祉科学大学倫理委員会の承認を得た(承認番号1)。
【0077】
[1−2]実験スケジュール
被験者の血液を採取する時間、疲労負荷を与える時間、休憩時間など、実施例で行った実験のスケジュールを表1に示す。
【0078】

【0079】
[1−3]精神疲労負荷方法
表2に示す方法で精神疲労負荷をおこなった。
【0080】

【0081】
[1−3−1]ATMT
ATMTとは、本来、加齢現象の評価と初期痴呆のスクリーニングに活用されていたが、疲労測定機器として利用できることが期待されている精神神経学的機器であり、タッチパネルディスプレイ上に提示された1〜25までの数字をすばやく押す視覚探索反応課題である。従来、A4紙で行っていたTMT(ランダムに配置された1〜25の数字を一筆書きの要領で線を引く課題)とは異なり、targetごとの探索反応時間が測定でき、また、反応ごとに全てのtargetを再配置させたり、反応ずみtargetを消して新規にtargetを追加発生させることが可能である。そのことにより、課題遂行中にみられる精神疲労の増大、探索効率を高めるためのワーキングメモリー活用度などの評価が可能である。パソコンのタッチパネル上に提示された1〜25までの数字のうちターゲットの数字を押すと、その数字が消えて新たな数字が任意の位置に出現する(1を押すと1が消えて26が出現、2を押すと2が消えて27が出現…)。
【0082】
画面上に出てくる数字の配置には3パターンある。Aパターンでは、ターゲットボタンを押すとボタンの数字の色が変わり、他のボタンと区別される。Bパターンはターゲットボタンを押すと、そのボタンは消えて、ほかの数字が出現、画面上に25個の数字が並ぶようになる。Cパターンでは、ターゲットボタンを押すと、その数字は消えるが、次の画面のほかの数字が出現して25個となるとともに、数字の配置も毎回ランダムに変化する。この3パターンで全ての数字をタッチし終わると、作業は終了し作業にかかった時間をコンピュータが計算する。これを1セットとする。
【0083】
今回の実施例では、現行のATMTを精神作業負荷に採用するために、一部改良し(標的数字を1−25の25個の数字を用いる)、表2に示す所定の時間にわたりA課題、B課題及びC課題を連続的に反復して行った。
【0084】
[1−3−2]かなひろい
所定の読本の文章中にある母音(あ、い、う、え及びお、の5種類)にのみ○印をつける動作を25分間持続して行った後、5分間、読み終わった上記文章の内容関する簡単な質問に回答する精神疲労負荷方法である。
【0085】
[1−3−3]鏡像模写
鏡像模写とは、鏡に映し出された文字を鏡に映し出された象形と同様に手元の紙に写し出す動作を表2に示す所定の時間、持続して行う精神疲労負荷方法である(図1参照)。
【0086】
[1−4]VAS検査
VASとは、線分の両端に基準となる表現を記した紙を見せ、被験者は測りたい内容が、その線分のどのあたりに相当するかをチェックする評価方法である。線分の左端からの長さを測定することにより、質問項目に対して定量的に結果が出て、多くの人の結果を平均するなどの処理ができるという利点を持つ方法である。実施例で使用したVAS試験用紙を図2に示す(結果は図3に示す)。
【0087】
[1−5]血液中アミノ酸濃度の測定
被験者の血液を表1に示すスケジュールで採血し、血液中のアミノ酸濃度を測定した。アミノ酸濃度のうち、総アミノ酸濃度の結果を図4、分岐鎖アミノ酸濃度の結果を図5、芳香族アミノ酸濃度の結果を図6、システイン濃度の結果を図7、メチオニン濃度の結果を図8、リジン濃度の結果を図9、アルギニン濃度の結果を図10及びヒスチジン濃度の結果を図11に示す。
【0088】
[2]結果
通常ストレスや運動負荷により増加する唾液中コルチゾールが、精神疲労負荷状態においてリラックス状態に比べ優位に減少していた(データは示さず)。つまり、上記[1]に示す精神疲労負荷が単なるストレスや運動負荷とは異なることを示唆している。
【0089】
[2−1]VAS検査
VASの線分長さの測定をしたところ、リラックス状態と精神疲労負荷状態との間に有意な差を認めた。リラックス状態のVASの線分長さは、朝;4.42(cm)、夜;4.78(cm)で、精神疲労負荷状態のVASの線分長さは、朝;2.75(cm)、夜;7.49(cm)を示した。リラックス状態における変化量(夜−朝)は+0.36(cm)であるが、精神疲労負荷状態では+4.74(cm)と、上記精神疲労負荷により疲労度が高まったことが確認された。
【0090】
[2−2]血液中総アミノ酸濃度の測定
血液中総アミノ酸の濃度はリラックス状態では朝;2613(μmol/L)、夜;3189(μmol/L)で、精神疲労負荷状態では朝;2685(μmol/L)、夜;2782(μmol/L)を示した。リラックス状態における変化量(夜−朝)は+576(μmol/L)であるが、精神疲労負荷状態では+97(μmol/L)と、相対的に479(μmol/L)減少していることが分かった。上記[1−4]の検査によって、上記精神疲労負荷により被験者の疲労度は高まっていることが確認されていることから、血液中の総アミノ酸濃度が減少すれば被験者の疲労度が高いと評価できることが明らかにされた。
【0091】
[2−3]血液中分岐鎖アミノ酸濃度の測定
血液中分枝鎖アミノ酸の濃度はリラックス状態では朝;384(μmol/L)、夜;526(μmol/L)で、精神疲労負荷状態では朝;414(μmol/L)、夜;431(μmol/L)を示した。リラックス状態における変化量(夜−朝)は+142(μmol/L)であるが、精神疲労負荷状態では+17(μmol/L)と、相対的に125(μmol/L)減少していることが分かった。上記[1−4]の検査によって、上記精神疲労負荷により被験者の疲労度は高まっていることが確認されていることから、血液中の分岐鎖アミノ酸濃度が減少すれば被験者の疲労度が高いと評価できることが明らかにされた。
【0092】
[2−4]血液中芳香族アミノ酸濃度の測定
血液中芳香族アミノ酸の濃度はリラックス状態では朝;171(μmol/L)、夜;206(μmol/L)で、精神疲労負荷状態では朝;174(μmol/L)、夜;169(μmol/L)を示した。リラックス状態における変化量(夜−朝)は+35(μmol/L)であるが、精神疲労負荷状態では−5(μmol/L)と、相対的に40(μmol/L)減少していることが分かった。上記[1−4]の検査によって、上記精神疲労負荷により被験者の疲労度は高まっていることが確認されていることから、血液中の芳香族アミノ酸濃度が減少すれば被験者の疲労度が高いと評価できることが明らかにされた。
【0093】
[2−5]血液中システイン濃度の測定
血液中システインの濃度はリラックス状態では朝;31(μmol/L)、夜;34(μmol/L)で、精神疲労負荷状態では朝;41(μmol/L)、夜;37(μmol/L)を示した。リラックス状態における変化量(夜−朝)は+3(μmol/L)であるが、精神疲労負荷状態では−4(μmol/L)と、相対的に7(μmol/L)減少していることが分かった。上記[1−4]の検査によって、上記精神疲労負荷により被験者の疲労度は高まっていることが確認されていることから、血液中のシステイン濃度が減少すれば被験者の疲労度が高いと評価できることが明らかにされた。
【0094】
[2−6]血液中メチオニン濃度の測定
血液中メチオニンの濃度はリラックス状態では朝;24(μmol/L)、夜;37(μmol/L)で、精神疲労負荷状態では朝;28(μmol/L)、夜;25(μmol/L)を示した。リラックス状態における変化量(夜−朝)は+13(μmol/L)であるが、精神疲労負荷状態では−3(μmol/L)と、相対的に16(μmol/L)減少していることが分かった。上記[1−4]の検査によって、上記精神疲労負荷により被験者の疲労度は高まっていることが確認されていることから、血液中のメチオニン濃度が減少すれば被験者の疲労度が高いと評価できることが明らかにされた。
【0095】
[2−7]血液中リジン濃度の測定
血液中リジンの濃度はリラックス状態では朝;167(μmol/L)、夜;226(μmol/L)で、精神疲労負荷状態では朝;190(μmol/L)、夜;191(μmol/L)を示した。リラックス状態における変化量(夜−朝)は+59(μmol/L)であるが、精神疲労負荷状態では+1(μmol/L)と、相対的に58(μmol/L)減少していることが分かった。上記[1−4]の検査によって、上記精神疲労負荷により被験者の疲労度は高まっていることが確認されていることから、血液中のリジン濃度が減少すれば被験者の疲労度が高いと評価できることが明らかにされた。
【0096】
[2−8]血液中アルギニン濃度の測定
血液中アルギニンの濃度はリラックス状態では朝;69(μmol/L)、夜;105(μmol/L)で、精神疲労負荷状態では朝;77(μmol/L)、夜;84(μmol/L)を示した。リラックス状態における変化量(夜−朝)は+36(μmol/L)であるが、精神疲労負荷状態では+7(μmol/L)と、相対的に29(μmol/L)減少していることが分かった。上記[1−4]の検査によって、上記精神疲労負荷により被験者の疲労度は高まっていることが確認されていることから、血液中のアルギニン濃度が減少すれば被験者の疲労度が高いと評価できることが明らかにされた。
【0097】
[2−9]血液中ヒスチジン濃度の測定
血液中ヒスチジンの濃度はリラックス状態では朝;71(μmol/L)、夜;79(μmol/L)で、精神疲労負荷状態では朝;78(μmol/L)、夜;78(μmol/L)を示した。リラックス状態における変化量(夜−朝)は+8(μmol/L)であるが、精神疲労負荷状態では0(μmol/L)と、相対的に8(μmol/L)減少していることが分かった。上記[1−4]の検査によって、上記精神疲労負荷により被験者の疲労度は高まっていることが確認されていることから、血液中のヒスチジン濃度が減少すれば被験者の疲労度が高いと評価できることが明らかにされた。
【0098】
[実施例2]
[3]疲労度評価方法2
[3−1]被験者
健常男性23名及び健常女性24名(平均年齢39.9±11.1)を被験者とした。試験の実施に際しては、総合医科学研究所及び総医研クリニック合同審査委員会(委員長 井上昌治弁護士)の承認のもとに行われ、ヘルシンキ宣言(1964採択
,’75,’83,’89,’96,2000修正)の主旨に従い、被験者に対しては研究内容、方法などについて医師より十分な説明を行い文書による同意を得て実施した。
【0099】
[3−2]実験スケジュール
被験者の血液を採取する時間、疲労負荷を与える時間、休憩時間など、実施例で行った実験のスケジュールを表3に示す。
【0100】


【0101】
[3−3]試験デザイン
試験は、無負荷対照群、精神作業負荷群、身体作業負荷群の3試験区クロスオーバー試験とした。
【0102】
[3−4]疲労負荷方法
疲労負荷は、(1)精神疲労負荷、(2)身体疲労負荷、の2種類を行った。
【0103】
[3−4−1]精神作業による疲労負荷の方法
精神疲労負荷の方法は次の3種類とした。作業は、試験スケジュールに従い、かなひろいテスト(30分)→ATMT(45分)→内田クレペリン検査(30分)を1ターム(2時間)とし、2ターム実施した。
【0104】
(a)かなひろいテスト
方法は実施例1と同じである。本試験では各被験者に連続で30分間の精神作業負荷を与えた。
【0105】
(b)ATMT(Advanced Trail Making Test)
方法は実施例1と同じである。本試験では各被験者に連続で約30分間の精神作業負荷を与えた。
【0106】
[3−4−2]身体作業による疲労負荷の方法
身体作業負荷は、エルゴメーターを試験スケジュールに従い漕ぐことにより与えた。負荷強度はAT(anaerobic threshold)における心拍数の80%となる負荷強度(WattAT80%)とした。試験日前日にエルゴメーター(コンビ(株)エアロバイク75XL ME)および呼吸代謝測定システム(ミナト医科学(株)エアロモニタAE−300S)を用いてAT時のVO2、心拍数を測定し負荷強度を算出した。試験日にはWattAT80%の負荷強度で、2時間×2タームの身体作業を負荷した。
【0107】
[3−5]VAS検査
実施例1と同じ検査をスケジュールに従って行った。結果を図12に示す。
【0108】
[3−6]血液中アミノ酸濃度の測定
被験者の血液を表3に示すスケジュールで採血し、血液中のアミノ酸濃度を測定した。アミノ酸濃度のうち、精神作業負荷群の分岐鎖アミノ酸のバリン、ロイシン、イソロイシン濃度の結果をそれぞれ図13、図14、図15に、また、身体作業負荷群のグリシン、プロリン、アラニン、アスパラギン、リジン、ヒスチジン濃度の結果をそれぞれ図16、図17、図18、図19、図20、図21に示す。
【0109】
[4]結果
[4−1]VAS検査
VASの疲労感に関する評価において、疲労負荷4時間中の変化量は、精神作業負荷群、身体作業負荷群のいずれにおいても無負荷群と比較して有意に大きかった。被験者の主観的疲労感が高まっていることから、当該試験方法において疲労が負荷されていることが確認された。
【0110】
[4−2]血液中アミノ酸濃度の変化量
[4−2−1]精神作業負荷における血液中バリン濃度の変化量
疲労負荷前と疲労負荷4時間後における血液中のバリン濃度の変化量(減少量)は、無負荷群では−43±20(μmol/L)であるのに対し、精神作業負荷群では、−51±15(μmol/L)であり、精神作業により血液中のバリンの変化量は有意に大きくなっていた。上記[3−5]の検査によって、上記精神疲労負荷により被験者の疲労度は高まっていることが確認されていることから、血液中のバリン濃度の変化量が大きくなれば被験者の疲労度が高いと評価できることが明らかにされた。
【0111】
[4−2−2]精神作業負荷における血液中ロイシン濃度の変化量
疲労負荷前と疲労負荷4時間後における血液中のロイシン濃度の変化量(減少量)は、無負荷群では−29±18(μmol/L)であるのに対し、精神作業負荷群では、−33±16(μmol/L)であり、精神作業により血液中のバリンの変化量は有意に大きくなっていた。上記[3−5]の検査によって、上記精神疲労負荷により被験者の疲労度は高まっていることが確認されていることから、血液中のロイシン濃度の変化量が大きくなれば被験者の疲労度が高いと評価できることが明らかにされた。
【0112】
[4−2−3]精神作業負荷における血液中イソロイシン濃度の変化量
疲労負荷前と疲労負荷4時間後における血液中のイソロイシン濃度の変化量(減少量)は、無負荷群では−18±11(μmol/L)であるのに対し、精神作業負荷群では、−21±10(μmol/L)であり、精神作業により血液中のイソロイシン濃度の変化量は有意に大きくなっていた。上記[3−5]の検査によって、上記精神疲労負荷により被験者の疲労度は高まっていることが確認されていることから、血液中のイソロイシン濃度の変化量が大きくなれば被験者の疲労度が高いと評価できることが明らかにされた。
【0113】
[4−2−4]身体作業負荷における血液中グリシン濃度の変化量
疲労負荷前と疲労負荷4時間後における血液中のグリシン濃度の変化量(減少量)は、無負荷群では−30±21(μmol/L)であるのに対し、身体作業負荷群では、−62±26(μmol/L)であり、身体作業により血液中のグリシン濃度の変化量は有意に大きくなっていた。上記[3−5]の検査によって、上記疲労負荷により被験者の疲労度は高まっていることが確認されていることから、血液中のグリシン濃度の変化量が大きくなれば被験者の疲労度が高いと評価できることが明らかにされた。
【0114】
[4−2−5]身体作業負荷における血液中プロリン濃度の変化量
疲労負荷前と疲労負荷4時間後における血液中のプロリン濃度の変化量(減少量)は、無負荷群では−36±14(μmol/L)であるのに対し、身体作業負荷群では、−47±18(μmol/L)であり、身体作業により血液中のプロリン濃度の変化量は有意に大きくなっていた。上記[3−5]の検査によって、上記疲労負荷により被験者の疲労度は高まっていることが確認されていることから、血液中のプロリン濃度の変化量が大きくなれば被験者の疲労度が高いと評価できることが明らかにされた。
【0115】
[4−2−6]身体作業負荷における血液中アラニン濃度の変化量
疲労負荷前と疲労負荷4時間後における血液中のアラニン濃度の変化量(減少量)は、無負荷群では−37±62(μmol/L)であるのに対し、身体作業負荷群では、−105±82(μmol/L)であり、身体作業により血液中のアラニン濃度の変化量は有意に大きくなっていた。上記[3−5]の検査によって、上記疲労負荷により被験者の疲労度は高まっていることが確認されていることから、血液中のアラニン濃度の変化量が大きくなれば被験者の疲労度が高いと評価できることが明らかにされた。
【0116】
[4−2−7]身体作業負荷における血液中アスパラギン濃度の変化量
疲労負荷前と疲労負荷4時間後における血液中のアスパラギン濃度の変化量(減少量)は、無負荷群では−5±2(μmol/L)であるのに対し、身体作業負荷群では、−7±3(μmol/L)であり、身体作業により血液中のアスパラギン濃度の変化量は有意に大きくなっていた。上記[3−5]の検査によって、上記疲労負荷により被験者の疲労度は高まっていることが確認されていることから、血液中のアスパラギン濃度の変化量が大きくなれば被験者の疲労度が高いと評価できることが明らかにされた。
【0117】
[4−2−8]身体作業負荷における血液中リジン濃度の変化量
疲労負荷前と疲労負荷4時間後における血液中のリジン濃度の変化量(減少量)は、無負荷群では−30±16(μmol/L)であるのに対し、身体作業負荷群では、−42±19(μmol/L)であり、身体作業により血液中のリジン濃度の変化量は有意に大きくなっていた。上記[3−5]の検査によって、上記疲労負荷により被験者の疲労度は高まっていることが確認されていることから、血液中のリジン濃度の変化量が大きくなれば被験者の疲労度が高いと評価できることが明らかにされた。
【0118】
[4−2−9]身体作業負荷における血液中ヒスチジン濃度の変化量
疲労負荷前と疲労負荷4時間後における血液中のヒスチジン濃度の変化量(減少量)は、無負荷群では−6±6(μmol/L)であるのに対し、身体作業負荷群では、−11±9(μmol/L)であり、身体作業により血液中のヒスチジン濃度の変化量は有意に大きくなっていた。上記[3−5]の検査によって、上記疲労負荷により被験者の疲労度は高まっていることが確認されていることから、血液中のヒスチジン濃度の変化量が大きくなれば被験者の疲労度が高いと評価できることが明らかにされた。
【0119】
[実施例3]
[5]疲労度評価方法3
[5−1]被験者
被験者である20歳代男性健常者12名を被験者とした。被験者は、右利きで、運転免許取得後1年以上経過し、週に1回以上普通自動車を運転している者に限定した。また、鼻症状を有するもの、喫煙者、カフェインや香料入り食品・抗アレルギー剤等の中枢神経系に影響を与える薬剤の使用者は除外した。
【0120】
[5−2]実験スケジュール
被験者の血液を採取する時間、疲労負荷を与える時間、休憩時間など、実施例で行った実験のスケジュールを表4に示す。
【0121】


【0122】
[5−3]複合的疲労負荷方法
運転シミュレーター装置(ACCESS MASTER AM2330,タスクネット)を用いて運転作業負荷を与えた。
【0123】
トリプトファン補給により疲労に与える影響を調べるため、負荷前にトリプトファン及びプラセボを補給した後で、4時間連続のシミュレーター運転を行った。同一被験者について1週間以上の間隔でトリプトファン又はプラセボ(ショ糖)を5mg/kg補給する実験を行った。
【0124】
シミュレーターでの運転は、高速道路での普通自動車の運転を想定したものである。上限速度を120km/時とし、また、追い越しや危険な運転を禁止した。画面上、緑丸が呈示された時は、なるべく早くブレーキを踏み、赤丸が呈示された時は、なるべく早くパッシングをし、黄丸が呈示された時は、なるべく早く右ウィンカーをするように指示した。いずれかの刺激が、平均すると1分間に1回の割合でランダムに出現するように設定した。刺激が出現してから被験者がブレーキ、パッシングおよび右のウィンカーに反応するまでの時間を反応時間として、運転中の作業効率を評価するための指標とした(図22)。
【0125】
[5−4]複合的疲労負荷における血中アミノ酸濃度の変化
被験者の血液を表4に示すスケジュールで採血し、血液中のアミノ酸濃度を測定した。アミノ酸濃度のうち、トリプトファン濃度の結果を図23に示す。
【0126】
[5−5]結果
プラセボを摂取した群における疲労負荷前の血中のトリプトファン濃度は45(μmol/l)であったが、疲労負荷後は31(μmol/l)と、有意に減少するこがわかった。しかしながら、トリプトファンを摂取した群における疲労負荷前の血中のトリプトファン濃度は43(μmol/l)で、疲労負荷後も39(μmol/l)と疲労負荷前後における有意な差はみられず、疲労負荷後も血液中のトリプトファン濃度が維持されていることがわかった。長時間の運転作業により、被験者の疲労度は高まっていると考えられることから、血液中のトリプトファン濃度が減少すれば、被験者の疲労度が高いと評価できることが明らかにされた。
産業上の利用の可能性
【0127】
以上のように、本発明にかかる疲労度評価方法、疲労度評価キット、その利用方法によれば、被験者の血液を採取するだけで、被験者の当該疲労度が定量的に評価できるという効果を奏する。さらに、かかる方法及びキットは、いずれも簡便であるだけでなく、長時間にわたる拘束も必要としないため、被験者にとっては苦痛やわずらわしさを感じさせることがなく、また、方法等も実施者にとっても簡便であり、被験者及び実施者の両者にとって非常に取り扱いやすいものであるという効果を奏する。それゆえ、抗疲労物質のスクリーニング方法や、抗疲労能を謳った食品等のin vivo評価に利用することができ、非常に有用な技術である。
【0128】
すなわち、本発明にかかる疲労度評価方法は、ストレスや疲労メカニズムの解明に利用することができ、ストレス解消方法の開発、疲労の程度評価をすることができる。また、本発明を利用することにより、市場に出回る抗疲労を謳う健康食品、特定保健用食品、栄養ドリンクなどの効果の定量化(評価)が可能になる。よって本発明は、医療業、製薬業、健康食品産業、健康機器産業等の広範な分野に利用が可能である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図23】

【図24】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液中のアミノ酸の濃度を測定する測定手段と、
上記測定手段の測定結果を指標として疲労度を評価する評価手段と、を備えることを特徴とする疲労度評価装置。
【請求項2】
上記評価手段は、上記測定結果におけるアミノ酸の濃度が所定の値より低い場合、疲労度が高いと評価するものであることを特徴とする請求項1に記載の疲労度評価装置。
【請求項3】
上記評価手段は、上記測定結果におけるアミノ酸の濃度が所定の値より低い場合、日常生活で生じる生理的急性疲労の蓄積による過労状態であると評価するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の疲労度評価装置。
【請求項4】
上記体液は、生物個体から分離した血液、唾液、脳脊髄液及び尿からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の疲労度評価装置。
【請求項5】
上記アミノ酸は、総アミノ酸、分岐鎖アミノ酸、芳香族アミノ酸、システイン、メチオニン、リジン、アルギニン及びヒスチジンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアミノ酸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の疲労度評価装置。
【請求項6】
上記疲労度の評価対象が、日常生活で生じる生理学的急性疲労であって、精神疲労であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の疲労度評価装置。
【請求項7】
上記測定手段は、被験者に対して疲労を負荷する前及び疲労を負荷した後のそれぞれにおける体液中のアミノ酸の濃度を測定するものであって、
上記評価手段は、上記測定手段の測定結果から、疲労負荷前と疲労負荷後との体液中のアミノ酸濃度の変化量を指標として、疲労度を評価するものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の疲労度評価装置。
【請求項8】
体液中のアミノ酸の濃度を指標として疲労度を評価することを特徴とする疲労度評価方法。
【請求項9】
上記アミノ酸の濃度が低ければ、疲労度が高いと評価することを特徴とする請求項8に記載の疲労度評価方法。
【請求項10】
上記アミノ酸の濃度が低ければ、日常生活で生じる生理的急性疲労の蓄積による過労状態であると評価することを特徴とする請求項8又は9に記載の疲労度評価方法。
【請求項11】
上記体液は、血液、唾液、脳脊髄液及び尿から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の疲労度評価方法。
【請求項12】
上記アミノ酸は、総アミノ酸、分岐鎖アミノ酸、芳香族アミノ酸、システイン、メチオニン、リジン、アルギニン及びヒスチジンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項に記載の疲労度評価方法。
【請求項13】
上記疲労度の対象が、日常生活で生じる生理学的急性疲労であって、精神疲労であることを特徴とする請求項8〜12のいずれか1項に記載の疲労度評価方法。
【請求項14】
疲労負荷前及び疲労負荷後のそれぞれにおける体液中のアミノ酸の濃度の変化量を指標として疲労度を評価することを特徴とする請求項8に記載の疲労度評価方法。
【請求項15】
請求項8〜14のいずれか1項に記載の疲労度評価方法を実施するための疲労度評価キット。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の疲労度評価装置、疲労度評価方法又は疲労度評価キットを用いて、抗疲労物質の抗疲労力を測定することを特徴とする抗疲労物質の抗疲労力測定方法。
【請求項17】
抗疲労物質の抗疲労力を評価する方法であって、
疲労状態の被験者に上記抗疲労物質を与える過程と、
請求項1〜15のいずれか1項に記載の疲労度評価装置、疲労度評価方法又は疲労度評価キットにより、上記被験者の疲労が改善されたか否かを判断する過程と、
上記被験者の疲労の改善の程度を指標として、上記抗疲労物質の抗疲労力を評価する過程と、を含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の疲労度評価装置であって、抗疲労物質を与えられた被験者の疲労度を評価する疲労度評価装置と、
上記疲労度評価装置の評価結果における、上記被験者の疲労の改善の程度を指標として、上記抗疲労物質の抗疲労力を評価する疲労度評価装置と、を備えることを特徴とする抗疲労力評価システム。
【請求項19】
抗疲労物質の候補物質をスクリーニングする方法であって、
疲労状態のモデル動物に被験物質を与える過程と、
請求項1〜15のいずれか1項に記載の疲労度評価装置、疲労度評価方法又は疲労度評価キットにより、上記モデル動物の疲労が改善されたか否かを判断する過程と、
上記モデル動物の疲労が改善していることを指標として、上記被検物質が抗疲労物質の候補物質であると判定する過程と、を含むことを特徴とする方法。

【国際公開番号】WO2005/078448
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【発行日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517935(P2005−517935)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001790
【国際出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【特許番号】特許第3923507号(P3923507)
【特許公報発行日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【出願人】(303030922)株式会社総合医科学研究所 (12)
【出願人】(596037367)
【出願人】(500210855)
【Fターム(参考)】