説明

疲労軽減剤

【課題】食品由来の成分を有効成分とし、身体疲労のみならず、精神疲労を効果的に軽減できる疲労軽減剤を提供する。
【解決手段】酒粕、米焼酎粕、味醂粕、加熱米、及び糠からなる群より選ばれる少なくとも1種の米原料をタンパク質分解酵素処理して得られるペプチド混合物を含む疲労軽減剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品由来の成分を有効成分とする疲労軽減剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会において、「疲労」は深刻な疾患の1つである。1985年の国民意識調査では、疲労感を訴える人が調査対象の66%であった。その後、1999年に15〜65歳の男女3,000名以上に対して行なった疫学調査では、疲労感を感じている人の割合は全体の約60%であり、その過半数が、半年以上持続する慢性疲労を患っていることが明らかになっている。
疲労とは「精神的または身体的に活動した後に続く、仕事量の減少、遂行の非能率化などを特徴とする状態」あるいは「身体的または精神的活動の結果として生じる機能的な能力の低下した一時的な状態」と定義されており、一般的には精神的疲労、及び身体的疲労に分類されている。また疲労は、通常ならば休息又は睡眠などにより回復するとされているが、精神的または身体的な活動の程度、疲労状態の遷延、ストレスなど他の要因が加わることによる疲労の慢性化や、疲れやすくなる易疲労性、更には疲労からの回復の困難性が引き起こされる。
【0003】
このように疲労は、精神的、身体的な不快により生活の質を低下させるだけでなく、内分泌系、中枢神経系及び末梢神経系に影響を与えたり、免疫力の低下などを引き起こすことがある。また、社会の高齢化が進行するにつれて、疲労が老化による病態、脳神経機能、知的能力、又は免疫機能の低下などと絡み合い、疲労の問題の重要性がさらに増すことが予想されている。
従来、知られている抗疲労用組成物では、身体的疲労のうち特定の疲労、例えば筋肉疲労にしか効果が認められなかったり、慢性的な疲労や、ストレスなど他の要因にも起因する複合的な疲労には十分な抗疲労効果が得られない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、食品由来の成分を有効成分とし、身体疲労のみならず、精神疲労を効果的に軽減できる疲労軽減剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために研究を行ない、酒粕、米焼酎粕、味醂粕、加熱米、及び糠からなる群より選ばれる少なくとも1種の米原料をタンパク質分解酵素処理して得られる処理物を摂取することにより、長時間の思考、コンピューター作業、細かいデスクワーク、計算、文筆活動、議論などの精神的活動に起因する精神疲労又は脳疲労、自覚的なストレスによる疲労などが緩和されることを見出した。
【0006】
本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下の疲労軽減剤を提供する。
項1. 酒粕、米焼酎粕、味醂粕、加熱米、及び糠からなる群より選ばれる少なくとも1種の米原料をタンパク質分解酵素処理して得られるペプチド混合物を含む疲労軽減剤。
項2. タンパク質分解酵素が、コウジカビ属由来のタンパク質分解酵素、バチルス属由来のタンパク質分解酵素、及びペプシンからなる群より選ばれる少なくとも1種である項1に記載の疲労軽減剤。
項3. ペプチド混合物が、タンパク質分解酵素処理物の液体画分又はその乾固物である項1又は2に記載の疲労軽減剤。
項4. 疲労が、精神疲労、脳疲労、自覚的ストレス疲労、又は身体疲労である項1〜3のいずれかに記載の疲労軽減剤。
項5. 酒粕、米焼酎粕、味醂粕、加熱米、及び糠からなる群より選ばれる少なくとも1種の米原料にセルラーゼを作用させる第1工程と、第1工程により得られる混合物から液体画分を除去する第2工程と、第2工程により得られる固形分にタンパク質分解酵素を作用させる第3工程とを含む方法により得られるペプチド混合物を含む、疲労軽減剤。
項6. タンパク質分解酵素が、コウジカビ属由来のタンパク質分解酵素、バチルス属由来のタンパク質分解酵素、及びペプシンからなる群より選ばれる少なくとも1種である項5に記載の疲労軽減剤。
項7. ペプチド混合物が、さらに、第3工程により得られる混合物から液体画分を採取し、又はさらに液体画分を乾燥させる第4工程を含む方法により得られるものである項5又は6に記載の疲労軽減剤。
項8. 疲労が、精神疲労、脳疲労、自覚的ストレス疲労、又は身体疲労である項5〜7のいずれかに記載の疲労軽減剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明の疲労軽減剤は、身体疲労の他、長時間の思考、コンピューター作業、細かい事務作業、計算、文筆活動、議論などの精神的活動による精神疲労又は脳疲労や、自覚的なストレスによる疲労などを緩和することができる。また、これらの疲労により低下した集中力を回復させることができる。
本発明で使用するペプチド混合物は米由来であるため、風味が良好で、摂取しすぎても人体に害はなく、また長期継続摂取による副作用の心配もない。よって、このペプチド混合物は副作用や過剰摂取を気にすることなく安心して長期間服用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
(I)ペプチド混合物
米原料
米原料としては、酒粕、米焼酎粕、味醂粕、加熱米及び/又は精米するときに出る糠が使用される。中でも、夾雑物である糖質が少なくタンパク質が多く含まれる点や、酒類製造の副産物であり入手し易い点で、酒粕、米焼酎粕、及び味醂粕が好ましく、酒粕がより好ましい。酒粕は、蒸米、米麹から醸造した場合の酒粕でも、液化酒粕でもどちらでもよい。液化酒粕は、原料米を水に浸漬した状態で粉砕し、この粉砕物に耐熱性α−アミラーゼなどの糖質分解酵素を作用させることにより液化し、これを常法によりアルコール発酵させて清酒を製造する場合の粕である。液化酒粕は、夾雑物である糖質が一部分解されてタンパク質含有量が多いために好ましい。
液化酒粕の成分組成の一例を下記に示す。
粗タンパク質:65〜75%
粗脂質:5〜6%
灰分:1〜2%
その他成分:17〜29%
【0009】
タンパク質分解酵素処理
本発明で用いるタンパク質分解酵素としては、pH2〜9においてタンパク質の加水分解を行う酵素であれば特に制限なく用いることができる。タンパク質分解酵素としては、例えば、ペプシン、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ等の動物消化器系由来のタンパク質分解酵素(消化酵素);コウジカビ(Aspergillus)属由来のタンパク質分解酵素、バチルス(Bacillus)属由来のタンパク質分解酵素、クモノスカビ(Rhizopus)属由来のタンパク質分解酵素、アオカビ(Penicillium)属由来のタンパク質分解酵素、ケカビ(Mucor)属由来のタンパク質分解酵素等の微生物由来のタンパク質分解酵素;パパイン、ブロメレイン、フィシン等の植物由来のタンパク質分解酵素等が挙げられる。タンパク質分解酵素としては微生物由来のタンパク質分解酵素、動物性由来のタンパク質分解酵素が好ましく、コウジカビ属由来のタンパク質分解酵素、バチルス属由来のタンパク質分解酵素、ペプシンがより好ましい。これらのタンパク質加水分解酵素は市販されている。タンパク質加水分解酵素は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
タンパク質分解酵素の使用量は、米原料に対して、約0.1〜0.8重量%が好ましい。2種以上のタンパク質分解酵素を併用する場合は、各タンパク質分解酵素の使用量を、米原料に対して、約0.1〜0.8重量%とするのが好ましい。上記範囲であれば、実用的な時間内に原料中のタンパク質を、疲労軽減活性を有するペプチドにまで分解できる。
【0010】
反応温度と反応時間は使用する酵素の種類によって異なるが、反応温度は約40〜60℃が好ましく、反応時間は約2〜20時間が好ましい。タンパク質分解酵素による反応は、反応混合物を例えば約80〜100℃で約10〜30分間加熱することにより停止させればよい。タンパク質分解酵素による反応を停止させることにより、切り出されたペプチドがさらに分解されて、活性が低下することが回避される。また、目的ペプチド以外の夾雑ペプチドが切り出されることによる、目的ペプチドの純度の低下を防止できる。
【0011】
このようにして得られるタンパク質分解酵素処理物は目的とするペプチド混合物を高濃度に含むため、そのまま製剤化することができる。また、酸又はアルカリ処理することにより可溶性のペプチドの存在割合が高くなり、原材料あたりのペプチド収量が増加するだけでなく、摂取した際に体内に取り込まれるペプチド量も増加するという効果がある。
さらに、ペプチド混合物を含むペプチダーゼ処理物から固形分を除去して得られる液体画分や、その濃縮物や乾固物(乾燥粉末)を製剤化してもよい。固形分の除去は、例えば圧搾、ろ過、遠心分離等により行うことができる。
【0012】
セルラーゼ処理
米原料をタンパク質分解酵素処理する前に、セルラーゼ処理することにより、夾雑糖質を除去することが好ましい。
セルラーゼは公知のセルラーゼを制限なく使用できる。セルラーゼには、セルロース鎖をランダムに切断するエンドグルカナーゼと、セルロースの還元末端から切断してセロビオースを生成するセロビオヒドロラーゼとが含まれる。いずれを使用してもよいが両者を併用することにより、効率よくセルロースを分解することができる。セルラーゼは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
また、セルラーゼの由来は特に限定されないが、本発明方法の原料に対して機能し易い点で、トリコデルマ属菌あるいはアスペルギルス属菌由来のセルラーゼが好ましい。
【0013】
セルラーゼの使用量は、原料(酒粕、米焼酎粕、味醂粕、加熱米、及び/又は糠)に対して約0.005〜0.2重量%が好ましい。上記範囲であれば、実用的な時間内にセルロースが十分に分解されて液体画分に可溶化される。また、反応温度と反応時間は使用する原料とセルラーゼの種類によって異なるが、反応温度は約40〜60℃が好ましく、反応時間は約2〜20時間が好ましい。また、反応時のpHは酵素が機能し易い約3.5〜6が好ましい。上記範囲であれば、セルラーゼが失活することなく、かつその機能を十分に発揮できる。セルラーゼによる反応は、必ずしも停止させなくてもよいが、反応混合物を例えば約80〜90℃で約30〜60分間加熱することにより停止させることができる。
【0014】
アミラーゼ処理
糖質を分解するために、セルラーゼに加えて、アミラーゼを使用することができる。アミラーゼとはデンプンを加水分解する酵素の総称であり、アミラーゼとしては、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、α−グルコシダーゼ、プルラナーゼ、イソアミラーゼなどが挙げられる。アミラーゼは、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。中でも、β−アミラーゼ、α−アミラーゼ、及びα−グルコシダーゼが好ましく、β−アミラーゼがより好ましく、小麦由来のβ−アミラーゼがさらにより好ましい。
【0015】
アミラーゼの使用量は、原料(酒粕、米焼酎粕、味醂粕、加熱米、及び/又は糠)に対して約0.005〜0.2重量%が好ましい。上記範囲であれば、実用的な時間内に糖質が十分に可溶化される。反応温度と反応時間は使用する原料及び酵素の種類によって異なるが、反応温度は約50〜60℃が好ましく、反応時間は約5〜20時間が好ましい。アミラーゼによる反応は、必ずしも停止させなくてもよいが、反応混合物を例えば約80〜90℃で約30〜60分間加熱することにより停止させることができる。反応時のpHは酵素が機能し易い約5〜6が好ましい。
糖質分解酵素により分解された糖質は液体画分に存在するため、糖質分解酵素処理物から液体画分を除去すればよい。固液分離の方法としては、圧搾、ろ過、遠心分離などが挙げられるが、ある程度の水分が除去できればよい。この工程により米由来のタンパク質を多く含む固形分が得られる。これを前述したタンパク質分解酵素処理に供すればよい。
【0016】
(II)ペプチド混合物の用途
上記のようにして得られるペプチド混合物は、高い疲労軽減活性を有し、夾雑物が少ないため、疲労軽減剤の有効成分として好適に使用できる。疲労軽減剤には、医薬品、医薬部外品などが含まれる。
製剤
製剤形態は特に限定されず、例えば錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、シロップ剤などの経口剤が挙げられる。本発明で使用するペプチド混合物は、消化管から吸収されるため、使用が簡単な経口剤にすることができるのも特長である。
これらの製剤には、ペプチド混合物の他に製剤の分野で通常使用される賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤などが含まれていても良い。これら添加剤の種類は、特に限定されず、通常の錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、注射剤等に用いられるものを使用することができる。具体的には、賦形剤としては、例えば結晶セルロースなどの糖類、マンニトールなどの糖アルコール類、デンプン類、無水リン酸カルシウムなどが挙げられる。結合剤としては、例えばデンプン類、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどが挙げられる。滑沢剤としては、例えばステアリン酸およびその塩、タルク、ワックスなどが挙げられる。崩壊剤としては、例えばカルボキシメチルセルロースおよびそのカリウム塩類などが挙げられる。
【0017】
製剤中のペプチド混合物の含有量は、固形またはゲル状経口剤の場合は、乾燥重量に換算して、20〜80重量%程度が好ましく、30〜60重量%程度がより好ましい。液体状又は流動状経口剤の場合は、乾燥重量に換算して、1〜10w/v%程度が好ましく、2.5〜5w/v%程度がより好ましい。上記範囲であれば、無理なく摂取できる量の中に疲労を効果的に軽減できるだけのペプチド混合物が含まれることになる。
【0018】
使用方法
精神疲労軽減剤の用法用量は、患者の症状、年齢、体重などによって異なるが、成人1日当たり、ペプチド混合物の乾燥重量に換算して約0.1〜20gとなる量が好ましい。上記範囲内であれば、十分な疲労軽減効果が得られる。
本発明の疲労軽減剤は、常時精神活動を行っている人では、毎日摂取してもよい。また、疲労を感じたときに摂取してもよい。さらに、精神疲労又は脳疲労を誘う作業を行う前に摂取するのが効果的である。
本発明の疲労軽減剤は、特に、精神疲労又は脳疲労している人、精神疲労又は脳疲労するような作業を日常的に行う人、ストレスにより疲労している人などが好適な使用対象となる。
【0019】
実施例
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)ペプチド混合物の製造
液化法による清酒醸造法(特公平2-38195号、特許第2662977号)により米から清酒を醸造する方法において得られた酒粕(水分36%)10gを0.2リットルの水に懸濁し、大和化成社製タンパク分解酵素(サモアーゼ;Bacillus stearothermophilus由来のエンド型プロテアーゼ(EC 3.4.24.27))を0.2g加え、37℃で1時間反応させた。その後沸騰水浴中で10分間加熱した後5000回転10分間の遠心分離により液体画分を得、凍結乾燥により乾燥ペプチド画分を得た。
【0020】
(2)投与方法
対象
35歳以下の若年健常者7名(男性6名、女性1名)を被験者として試験を行った(平均年齢29.1±3.9歳)。本疲労負荷試験は、ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則を遵守して実施した。試験開始前に本試験への参加について説明するとともに、自由意思による文書による同意を得た。
被験試料
試験食品としては、上記のようにして調製した乾燥ペプチド3g(10.8kcal相当)を非透明の0号サイズのカプセル(小林カプセル株式会社製)に詰め込んだ。また、プラセボ食品としては、上記ペプチドとほぼ同等のカロリーである市販片栗粉3g(10.4kcal相当)を非透明の0号サイズのカプセル(小林カプセル株式会社)に詰め込んだ。カプセル化した両食品は、味、香り、見た目上、その違いを判別することはできない。
【0021】
投与方法
後述する各試験は、試験食品(ペプチドカプセル)とプラセボ食品(プラセボカプセル)の摂取順序による評価結果の偏りを無くすために、試験食品とプラセボ食品とを、筆記負荷試験前に単回摂取するクロスオーバー試験とした。また、被験者は非透明のカプセル内にどちらの食品が含有されているかを知らず、試験担当者が各カプセルに本発明のペプチド混合物、又は片栗粉の何れが含まれるかを把握している単盲検試験とした。
クロスオーバー試験のデザインは、以下の通りとした。即ち、7名の被験者は、同じ試験を、1週間のウォッシュアウト期間を設けて2回行った。7名を無作為に3名と4名とに割付け、3名は1回目の試験ではプラセボ食品を単回摂取し、2回目の試験ではペプチド食品を単回摂取した。また、残り4名は1回目の試験ではペプチド食品を単回摂取し、2回目の試験ではプラセボ食品を単回摂取した。
また、単回摂取方法について説明すると、後述する各疲労状態評価試験は、120分間の筆記作業により疲労負荷する前後で行ったが、筆記負荷5分前に、カプセル(ペプチドカプセル又はプラセボカプセル)のそれぞれ3gのペプチド又はプラセボ食品粉末を含有するカプセルを、200ml程度の水で内服した。
【0022】
(3)疲労負荷方法
精神疲労を負荷するために、各被験者に筆記を行わせた。即ち、各被験者は、30行40文字のレイアウトの文面を、横長のA4用紙に、2頁分割り付けたものを用意し、その行間に同じ文章をボールペンを用いて手書きで記入した。この筆記試験は、30分間を1サイクルとして、計4回合計120分間行った。各サイクル間に、7分間づつ休憩時間を取った。
【0023】
(4)精神疲労状態の評価試験
加速度脈波試験
加速度脈波は、脈波の解析を補助する目的で、指尖容積脈波の波形の一次微分波形をさらに微分したものである(佐野祐司、片岡幸雄、生山匡、和田光明、今野廣隆、川村協平、渡辺剛、西田明子、および小山内博:加速度脈波による血液循環の評価とその応用、労働科学、61(3)、129−143(1985)を参照のこと)。加速度脈波は、脈波を2回微分することによって、変曲点を強調して波形の評価を容易にし、その結果、血液循環動態を示すと考えられている。原波形の変曲点が鋭角であればあるほど、二次微分波形の変曲点の振幅も大きくなる(鈴木明祐:生理機能検査法脈波、加速度脈波、現代医療、23(1)、61−65(1991)を参照のこと)。よって、加速度脈波は、変曲点による波形のパターンの認識や測定が容易であり、そのため、生理機能との関連や血行動態の研究に適していると考えられている。
加速度脈波形は心臓の収縮期の波形であり、a波、b波、c波、d波、およびe波の5つの成分波が観察される(図1)。図1の横軸は時間(秒)であり、縦軸は波高(振幅(mV))を表す。波高は、疲労またはストレスを負荷することにより変化すると考えられている。この加速度脈波の成分のうち、特にa波の波高は、精神作業負荷に伴う疲労により有意に減少することが知られている(参考文献:特許第3790266号)。
【0024】
加速度脈波は、加速度脈波測定システムアルテットC(株式会社ユメディカ社製)を用いて、右手人差し指について、2分間測定した。このシステムを用いれば、a波高及びd/aが測定される。
筆記試験開始前と120分筆記後にa波高及びd/a値を測定した。結果を図2(a波高)及び図3(d/a値)に示す。筆記作業はa波高及びd/a値を有意に減少させた。このことから、筆記作業は精神疲労を負荷誘発することが分る。
また、ペプチドカプセルを内服した場合とプラセボカプセルを内服した場合との間で、筆記作業前から作業開始120分間後までのa波高の減少量を比較した結果を、図4に示す。本発明のペプチドは、プラセボに比較して、a波高の減少量を有意に低減させた。よって、本発明のペプチドは、精神疲労を有意に低減させることが明らかと成った。
【0025】
心拍数
テルモ社製ES-P2000Aを用いて、1分間の心拍数を測定した。心拍数は疲労により眠くなるために低下すると考えられている。
筆記試験開始前と120分筆記後に心拍数を測定した。結果を図5に示す。筆記作業は心拍数を有意に減少させた。一般に、心拍数の低下と疲労に相関があることが報告されている(平成15年度日本大学理工学部交通土木工学科 卒業論文概要集、p111-112)。このことから、筆記作業は精神疲労を負荷誘発することが分る。
また、ペプチドカプセルを内服した場合とプラセボカプセルを内服した場合との間で、筆記作業前から作業開始120分間後までの心拍数の減少量を比較した結果を、図6に示す。本発明のペプチドは、プラセボと比較して、心拍数の減少を低減させた。
【0026】
POMS試験
生活の質(QOL)またはストレスの度合いを数値化することを目的として、不安、緊張などの情動(感情・気分)を評価するための様々な評価試験が開発されている。なかでも、気分プロフィール試験(Profile of Mood States: POMS)は、ストレス反応の結果惹起されるほぼ全ての感情又は気分を総合評価するのに非常に有用である。
POMSは、McNairら(1971)によって開発され、65項目の質問に答えることによって、6つの尺度、すなわち、緊張と不安(Tension-Anxiety: T-A)、抑うつと落胆(Depression-Dejection:D)、怒りと敵意(Anger-Hostility: A-H)、活気(Vigor: V)、疲労(Fatigue: F)、混乱(Confusion: C)から構成される一時的な感情又は気分の状態を同時に測定することができる評価試験である。POMSは、スポーツ選手の心身チェックやコンディション調整、介護や福祉の分野での気分、疲労度の状態チェックや環境改善のために利用され、種々の実験的研究の効果判定に信頼性が高く非常に敏感な尺度であることが実証されている。上記の6つの尺度のうち、緊張−不安(T−A)、抑うつ−落胆(D)、怒り−敵意(A−H)、疲労(F)、混乱(C)は陰性の感情因子であり、活気(V)は陽性の感情因子である。
【0027】
本試験では、日本版POMS(金子書房)における疲労(F)のT得点を評価した。POMSにおける疲労(F)のT得点の増加は、主観的疲労度の増加を意味する。
筆記試験開始前と120分筆記後に疲労(F)のT得点を測定した。結果を図7に示す。筆記作業は疲労(F)のT得点を増大させた。このことから、筆記作業は精神疲労を負荷誘発することが分る。
また、ペプチドカプセルを内服した場合とプラセボカプセルを内服した場合との間で、筆記作業前から作業開始120分間後までのT得点の増加量を比較した結果を、図8に示す。本発明のペプチドは、プラセボに比較して、T得点の増加量を低減させた。
【0028】
VAS試験
VAS試験は、主観的な疲労度を評価する方法である。この試験は、全体的疲労感、精神的疲労感、身体的疲労感、及び自覚的ストレスの4項目について、10cmの横書き線分を作製し、左端を全く無し、右端を経験しうる最大とし、被験者の現在の自覚症状の度合いを自分で線分に×印で記載することにより評価する。線分の左端からの長さが質問項目に対する定量的結果を表す。
【0029】
筆記試験開始前と120分筆記後にVAS試験を行った。結果を図9に示す。筆記作業はVASの各疲労項目を増大させた。このことから、筆記作業は精神疲労、身体的疲労、自覚的ストレスを負荷誘発することが分る。
また、ペプチドカプセルを内服した場合とプラセボカプセルを内服した場合との間で、筆記作業前から作業開始120分間後までのVASの各疲労項目の増加量を比較した結果を、図10に示す。本発明のペプチドは、プラセボに比較して、各疲労項目の増加量を低減させた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】加速度脈波の波形を示す図である。
【図2】筆記作業前後のa波の高さを示す図である。
【図3】筆記作業前後のd/a値を示す図である。
【図4】ペプチドとプラセボとの間で、筆記作業前から作業後のa波の高さの減少量を比較した図である。
【図5】筆記作業前後の心拍数を示す図である。
【図6】ペプチドとプラセボとの間で、筆記作業前後の心拍数の減少量を比較した図である。
【図7】筆記作業前後のPOMS試験のF(疲労)のT得点を示す図である。
【図8】ペプチドとプラセボとの間で、筆記作業前後のPOMS試験のF(疲労)のT得点の増加量を比較した図である。
【図9】筆記作業前後のVAS試験の各項目を示す図である。
【図10】ペプチドとプラセボとの間で、筆記作業前後のVAS試験の各項目を比較した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酒粕、米焼酎粕、味醂粕、加熱米、及び糠からなる群より選ばれる少なくとも1種の米原料をタンパク質分解酵素処理して得られるペプチド混合物を含む疲労軽減剤。
【請求項2】
タンパク質分解酵素が、コウジカビ属由来のタンパク質分解酵素、バチルス属由来のタンパク質分解酵素、及びペプシンからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の疲労軽減剤。
【請求項3】
ペプチド混合物が、タンパク質分解酵素処理物の液体画分又はその乾固物である請求項1又は2に記載の疲労軽減剤。
【請求項4】
疲労が、精神疲労、脳疲労、自覚的ストレス疲労、又は身体疲労である請求項1〜3のいずれかに記載の疲労軽減剤。
【請求項5】
酒粕、米焼酎粕、味醂粕、加熱米、及び糠からなる群より選ばれる少なくとも1種の米原料にセルラーゼを作用させる第1工程と、第1工程により得られる混合物から液体画分を除去する第2工程と、第2工程により得られる固形分にタンパク質分解酵素を作用させる第3工程とを含む方法により得られるペプチド混合物を含む、疲労軽減剤。
【請求項6】
タンパク質分解酵素が、コウジカビ属由来のタンパク質分解酵素、バチルス属由来のタンパク質分解酵素、及びペプシンからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項5に記載の疲労軽減剤。
【請求項7】
ペプチド混合物が、さらに、第3工程により得られる混合物から液体画分を採取し、又はさらに液体画分を乾燥させる第4工程を含む方法により得られるものである請求項5又は6に記載の疲労軽減剤。
【請求項8】
疲労が、精神疲労、脳疲労、自覚的ストレス疲労、又は身体疲労である請求項5〜7のいずれかに記載の疲労軽減剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−221135(P2009−221135A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66576(P2008−66576)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000165251)月桂冠株式会社 (88)
【Fターム(参考)】