説明

疲労限度特定システムおよび疲労限度特定方法

【課題】散逸エネルギー測定の測定条件を明確にすると共に、適正に疲労限応力を特定可能な疲労限度特定システムを提供する。
【解決手段】疲労限度特定システムにおいて、情報処理装置は、測定対象物の応力集中係数を評価する工程と、散逸エネルギーを測定する工程と、応力集中係数を評価する工程で得られた応力集中係数の値と散逸エネルギーを測定する工程から得られた測定結果から疲労限度を特定する工程を有する。散逸エネルギーを測定する工程は、一定の繰返し外力を作用させた場合に、主応力和が最大を示す領域において、ひずみ量に対する温度変化量の関係が閉じたヒステリシスループ状態でかつ前記ヒステリシスループの面積が一定状態になるまで繰返し加振させた安定状態で、散逸エネルギーを測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繰り返し応力を測定対象物に加えて、材料内部のエネルギー散逸によって生じる平均温度上昇量、もしくは発生応力振幅の1、2、3倍の周波数成分の一定領域内における分布を赤外線サーモグラフィ装置によって測定する散逸エネルギー測定手段を用いた疲労限度特定システムおよび疲労限度特定方法である。
【背景技術】
【0002】
従来、疲労限度や疲労破壊箇所の特定方法としては、例えば、非特許文献1〜4に記載されているようなものが報告されている。図30(a)は、非特許文献1に記載された従来の疲労箇所の特定方法について、赤外線サーモグラフィ装置で測定されたXC55(カーボン量0.55%含有の炭素鋼)スチール試験片の温度上昇量の分布を示した画像である。図30(a)に示す画像より、XC55スチール試験片の温度上昇箇所を知ることができる。非特許文献1では、XC55スチール試験片に100Hzで周期的に引張−圧縮荷重を加え、測定された温度上昇箇所で疲労破壊が生じることが述べられている。
【0003】
また、図30(b)は、非特許文献1に示された疲労限界応力値の特定方法を示している。図30(b)には、図30(a)で用いた赤外線サーモグラフィ装置でXC55スチール試験片に加えられる周期的な引張−圧縮荷重を段階的に変化させて温度上昇量を測定した結果を示す。図30(b)では、応力380MPa付近で、応力に対する温度上昇量の傾きが変化する様子を示している。非特許文献1では、この傾きが変化する点(すなわち、2つの直線が交差する点)がXC55スチール試験片の疲労限度とほぼ一致することを述べている。
【0004】
非特許文献2では、クランクシャフトなど自動車部品への適応例が示され、非特許文献1と同様に荷重に対する温度上昇量の傾きが変化する様子を示している。非特許文献2でも、この傾きが変化する点(すなわち、2つの直線が交差する点)がクランクシャフトの疲労限度とほぼ一致することを述べている。
【0005】
非特許文献3では、自動車の部品に幅広く用いられるXC55スチールについて回転曲げ試験で非特許文献1と同様に応力に対する温度上昇量の傾きが変化する様子を示し、2つの直線が交差する点が疲労限度とほぼ一致することを述べている。
【0006】
非特許文献4では、切り欠き試験片を用いて非特許文献1と同様に応力に対する温度上昇量の傾きが変化する点をプロットし、2つの直線が交差する点の応力と一方の直線が応力軸と交わる点の応力の差が最小になる交点を疲労限度とする疲労限応力の特定方法が述べられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M.P. Luong、“Fatigue limit evaluation of metals using an infrared thermographic technique”、Mechanics of Materials 28、1998年、 p.155−163
【非特許文献2】矢尾板達也、「赤外線サーモグラフィによる応力画像と散逸エネルギー測定による疲労限界予測」、非破壊検査、2002年、第51巻、第6号、p.333−337
【非特許文献3】M.P.Luong 、“Infrared thermographic scanning of fatigue in metals”、Nuclear Engineering and Design,158:p.363−376,1995
【非特許文献4】F.Cira,G.Curti,R.Sesana、“A new iteration method for the thermographic determination of fatigue limit in steels”、International Journal of Fatigue ,27:p.453−459,2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、散逸エネルギー計測による疲労限度の特定方法および特定システムについては、以前から多くの報告がなされているものの散逸エネルギー測定を行う上での適正条件や2直線の引き方、疲労限度に相当する2直線の交点の適正な求め方など、研究者によってそれぞれの方法で行われていた。そのため、散逸エネルギー計測による疲労限応力の特定方法については、測定対象物の形状や材質、加工処理などに大きく影響を受けるほか、標準的な特定方法の判断方法がないことから大きな測定誤差を生じることがあった。
【0009】
これらの理由として、散逸エネルギー計測による疲労限界応力値の特定方法については、どのような条件で測定し、測定値から疲労限応力をどのように求めれば適正な値が得られるかなど適正な測定、解析を行う上でのパラメータなど不明な点が多いことが挙げられる。
【0010】
それ故に、本発明の目的は、上記課題を解決するものであり、散逸エネルギー測定の測定条件を明確にすると共に、適正に疲労限応力を特定可能な疲労限度特定システム、および疲労限度特定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、疲労限度特定システムおよび疲労限度特定方法に向けられている。そして、上記目的を達成するために、本発明の疲労限度特定システムは、測定対象物に対して応力を繰り返し加える加振機と、測定対象物の微小な温度変化を測定し、測定対象物の温度画像を得る赤外線サーモグラフィ装置と、赤外線サーモグラフィ装置から得た測定対象物の温度画像を処理する情報処理装置とを備える。情報処理装置は、測定対象物の散逸エネルギーを測定する工程と、測定対象物の応力集中係数を評価する工程と、応力集中係数を評価する工程から得られた応力集中係数の値と、散逸エネルギーを測定する工程から得られた測定結果から疲労限度を特定する工程とを有する。散逸エネルギーを測定する工程は、一定の繰返し外力を作用させた場合に、ひずみ量に対する温度変化量の関係が閉じたヒステリシスループ状態でかつヒステリシスループの面積が一定状態になるまで繰返し加振させた安定状態で、散逸エネルギーを測定する。
【0012】
疲労限度特定システムおよび疲労限度特定方法の概要を図1(a)に示す。図1(a)を参照して、本発明の疲労限度特定システムおよび疲労限度特定方法における散逸エネルギーを測定する工程は、負荷を徐々に増加させながら画像を取り込む工程と、更に、取り込んだ画像について特定の周波数で高速フーリエ変換による画像処理を行う工程と、画像相関法によりピクセルのズレ量からひずみ変化量を測定する工程とに分かれる。また、高速フーリエ変換による画像処理を行う工程で得られた温度画像は、次の主応力和の最大ピクセル範囲aを検出する工程で、図1(b)に示される主応力和画像の中で主応力和の最大ピクセル範囲aを検出される。そして、検出された最大ピクセル範囲aにおいて、ひずみ変化量を測定する工程で別途求められたひずみ変化量と、高速フーリエ変換による画像処理を行う工程で求められた温度変化量とを抽出し、ひずみ変化量に対する温度変化量の
グラフを作成する工程でひずみ変化量−温度変化量曲線(図1(c))を作成する。
【0013】
図1(c)に示されるひずみ変化量−温度変化量曲線は、次の工程でひずみ変化量−温度変化量曲線が閉じたヒステリシスループ状態でかつヒステリシスループの面積が一定状態であるかどうかを判断され、ヒステリシスループの面積が繰り返し数に関係なく一定状態であれば適応範囲と判断される。高速フーリエ変換により得られた画像から主応力和の最大ピクセル範囲aについて、測定対象物に対して与えられる荷重の増加、もしくは応力振幅の増加にともなって得られる散逸エネルギーは、図1(d)に示されるようにプロットされる。
【0014】
一方、ひずみ変化量−温度変化量曲線が閉じたヒステリシスループでもなくその面積が安定していない場合には非適応範囲と判断され、画像を取り込む工程へ戻り、ひずみ変化量−温度変化量曲線がヒステリシスループ状態でかつヒステリシスループの面積が一定状態になる条件を繰り返し求める。このように、ひずみ変化量−温度変化量曲線が閉じたヒステリシスループ状態でかつヒステリシスループの面積が一定状態であれば、次の統計処理&交点抽出工程へ進む。統計処理&交点抽出工程では、図1(d)に示されるグラフ中の少なくとも3点以上を用いて最小二乗法による統計処理を行うことで、数本の近似直線B、Cが引かれる。最も散逸エネルギーが低い状態を示す近似直線Aを基準とすると、引かれた数本の近似直線が近似直線Aとそれぞれ交わる交点A1、A2から疲労限度に相当する荷重A1’、A2’が得られる。
【0015】
本発明は、疲労限度特定システムおよび疲労限度特定方法に向けられている。そして、上記目的を達成するために、本発明の疲労限度特定システムは、測定対象物に対して荷重もしくは応力を繰り返し加える加振機と、測定対象物の微小な温度変化を測定し、測定対象物の温度画像を得る赤外線サーモグラフィ装置と、赤外線サーモグラフィ装置から得た測定対象物の温度画像を処理する情報処理装置とを備える。情報処理装置は、測定対象物の散逸エネルギーを測定する工程と、測定対象物の応力集中係数を評価する工程と、応力集中係数を評価する工程から得られた応力集中係数の値と、散逸エネルギーを測定する工程から得られた測定結果から疲労限度を特定する工程を有する。散逸エネルギーを測定する工程は、一定の繰返し外力を作用させた場合に、発生応力振幅の2倍の繰返し周波数成分が一定変化量になるまで繰返し加振させた安定状態で、散逸エネルギーを測定する。
【0016】
疲労限度特定システムおよび疲労限度特定方法の概要を図2(a)に示す。図2(a)を参照して、本発明の疲労限度特定システムおよび疲労限度特定方法における散逸エネルギーを測定する工程は、負荷を徐々に増加させながら画像を取り込む工程と、取り込んだ画像について発生応力振幅の2倍の周波数で特定サイクル毎に高速フーリエ変換による画像処理を行う工程と、主応力和の最大ピクセル範囲aを検出する工程と、サイクル数に対する特定サイクル毎に高速フーリエ変換による画像処理を行う工程によって得られた温度変化量をグラフ化する工程と、図2(b)に示されるサイクル数に対する温度変化量のグラフから温度変化量が一定変化する適応サイクル範囲bを特定する工程と、特定されたサイクル範囲で高速フーリエ変換による画像処理を行う工程と、散逸エネルギーをグラフ化する工程と、グラフ中の少なくとも3点以上を用いて最小二乗法による統計処理および交点を抽出する工程から構成される。
【0017】
特定サイクル毎に高速フーリエ変換による画像処理を行う工程によって得られた温度変化量をグラフ化すると図2(b)のように示される。図2(b)で示されるように、負荷される応力の繰返し回数が少ない範囲では2倍の周波数成分である温度変化量が指数関数的に減少する。一方、繰返し回数が多い範囲では温度変化量がほぼ一定で安定状態になる(すなわち、温度変化量の傾きが所定範囲に収まる)。このように、一定の繰返し外力を作用させた場合に、発生応力振幅の2倍の繰返し周波数成分が安定状態で測定することで
、疲労限度に相当する負荷荷重A1’、A2’を適正に求めることが可能になる。例えば、図2(b)のグラフでは400サイクル以上で温度変化量が一定状態になるため、適応範囲サイクル数は400サイクル以上と特定される。次に、特定された400サイクル以上の範囲の画像を用いて、応力周波数成分の2倍の周波数で高速フーリエ変換による画像処理が行われる。高速フーリエ変換により処理されたデータは図1(d)と同様に示され、グラフ中の少なくとも3点以上を用いて最小二乗法による統計処理を行うことで数本の近似直線B、Cが引かれる。最も散逸エネルギーが低い状態を示す近似直線Aを基準とすると、引かれた数本の近似直線が近似直線Aとそれぞれ交わる交点A1、A2から疲労限度に相当する負荷荷重A1’、A2’が得られる。
【0018】
本発明は、疲労限度特定システムおよび疲労限度特定方法に向けられている。そして、上記目的を達成するために、本発明の疲労限度特定システムは、測定対象物に対して応力を繰り返し加える加振機と、測定対象物の微小な温度変化を測定し、測定対象物の温度画像を得る赤外線サーモグラフィ装置と、赤外線サーモグラフィ装置から得た測定対象物の温度画像を処理する情報処理装置とを備える。情報処理装置は、測定対象物の散逸エネルギーを測定する工程と、測定対象物の応力集中係数を評価する工程と、応力集中係数を評価する工程から得られた応力集中係数の値と、散逸エネルギーを測定する工程から得られた測定結果から疲労限度を特定する工程とを有し、散逸エネルギーを測定する工程は、一定の繰返し外力を作用させた場合に、発生応力振幅の1倍もしくは3倍の繰返し周波数成分が一定変化量になるまで繰返し加振させた安定状態で、散逸エネルギーを測定する。
【0019】
疲労限度特定システムおよび疲労限度特定方法の概要は図2(a)と同様な構成からなる。図2(a)を参照して、本発明の疲労限度特定システムおよび疲労限度特定方法における散逸エネルギーを測定する工程は、負荷を徐々に増加させながら画像を取り込む工程と、取り込んだ画像について発生応力振幅の1倍もしくは3倍の周波数で特定サイクル毎に高速フーリエ変換による画像処理を行う工程と、主応力和の最大ピクセル範囲を検出する工程と、サイクル数に対する特定サイクル毎に高速フーリエ変換による画像処理を行う工程によって得られた温度変化量をグラフ化する工程と、図3(a)に示されるサイクル数に対する温度変化量のグラフから温度変化量が一定変化する適応サイクル範囲bを特定する工程と、特定されたサイクル範囲で高速フーリエ変換による画像処理を行う工程と、散逸エネルギーをグラフ化する工程と、グラフ中の少なくとも3点以上を用いて最小二乗法による統計処理および交点を抽出する工程から構成される。特定サイクル毎に高速フーリエ変換による画像処理を行う工程によって発生応力振幅の1倍の高速フーリエ変換で得られた温度変化量をグラフ化すると図3(a)のように示される。また、発生応力振幅の3倍の高速フーリエ変換で得られた温度変化量をグラフ化すると図3(b)のように示される。
【0020】
図3(a)、(b)で示されるように、負荷される応力の繰返し回数が少ない範囲では1倍もしくは3倍の周波数成分である温度変化量が指数関数的に増加する。一方、繰返し回数が多い範囲では温度変化量がほぼ一定で安定状態になる(すなわち、温度変化量の傾きが所定範囲に収まる)。このように、一定の繰返し外力を作用させた場合に、発生応力振幅の1倍もしくは3倍の繰返し周波数成分が安定状態で測定することで疲労限度に相当する負荷荷重A1’、A2’を適正に求めることが可能になる。例えば図3(a)、(b)のグラフでは400サイクル以上で温度変化量が一定状態になるため、適応範囲サイクル数は400サイクル以上と特定される。次に、特定された400サイクル以上の範囲の画像を用いて、応力周波数成分の12倍もしくは3倍の周波数で高速フーリエ変換による画像処理が行われる。高速フーリエ変換により処理されたデータは図1(d)と同様に示され、グラフ中の少なくとも3点以上を用いて最小二乗法による統計処理を行うことで数本の近似直線B、Cが引かれる。最も散逸エネルギーが低い状態を示す近似直線Aを基準とすると、引かれた数本の近似直線が近似直線Aとそれぞれ交わる交点A1、A2から疲
労限度に相当する負荷荷重A1’、A2’が得られる。
【0021】
本発明の散逸エネルギーを測定する工程は、得られた温度画像を情報処理装置により繰返し応力周波数の2倍もしくは3倍の周波数成分で高速フーリエ変換を行い、高速フーリエ変換された温度画像の温度変化量分布が最大を示す領域において、温度変化量を抽出することを特徴とする。
【0022】
散逸エネルギーを測定する工程で情報処理装置により、発生応力振幅の2倍もしくは3倍の周波数成分で高速フーリエ変換を行い、高速フーリエ変換された温度画像の温度変化量分布が最大を示す領域を図4に示す。図4の四角で囲った範囲の色が白くなっている領域が温度変化量の最大部分である。この最大部分の温度を負荷荷重ごとにプロットすることにより図1(d)に示されるようなグラフが得られ、このグラフから疲労限度を求めることができる。
【0023】
本発明の散逸エネルギーを測定する工程は、情報処理装置により、測定対象物に対して繰返し加えられる応力によって発生する主応力和が最大を示す領域において、特定時間に対する温度上昇量を抽出することを特徴とする。
【0024】
散逸エネルギーを測定する工程における測定対象物に対して繰返し加えられる応力によって発生する主応力和が最大を示す領域において、特定時間に対する温度上昇量を表す図を図5に示す。ある特定時間の間、測定対象物に対して応力を繰返し加え、主応力和が最大を示す領域において、特定時間に対する温度をプロットすると図5に示すように温度が上昇する。この温度変動の上昇を最小二乗法により一次近似を行い,一次近似した直線の最後と最初のフレームにおける値の差を平均温度差ΔTとして定義する。この平均温度差ΔTを荷重ごとに求め、横軸に荷重、縦軸にΔTをプロットすると図1(d)と同様なグラフが得られ、このグラフから疲労限度を求めることができる。
【0025】
本発明の疲労限度を特定する工程は、高サイクル疲労に相当する応力範囲のデータを主に用いることを特徴とする。
【0026】
ここで、高サイクル疲労に相当する応力範囲について図6を用いて説明する。図6は、横軸が繰り返し回数、縦軸が応力振幅である完全疲労曲線を示した図である。この図で、σは引張り強さ、σPBは上部不連続応力、σPHは下部不連続応力、σは臨界応力、σは疲労限度、Nは臨界繰返し数である。図6で高サイクル疲労に相当する応力範囲σは、σ≦σ≦σである。
【0027】
本発明の疲労限度を特定する工程は、測定対象物に対して加えられる応力の繰返し周波数の1倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量を算出し、試験機荷重に対する温度変化量もしくは主応力和が急激な増減を伴わない荷重または応力範囲を主に用いることを特徴とする。図7(a)および図7(b)は、横軸に試験機荷重、縦軸に主応力和をプロットしたものである。
【0028】
ここで、試験機荷重に対する温度変化量もしくは主応力和が急激な増減を伴わない範囲とは、図7(a)もしくは図7(b)で示される適応荷重範囲αの範囲である。
【0029】
本発明の疲労限度を特定する工程は、測定対象物に対して加えられる応力の繰返し周波数の2倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量を算出し、主応力和もしくは繰返し周波数の1倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量に対する2倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量が急激な増減を伴わない荷重または応力範囲を主に用いることを特徴とする。
【0030】
ここで、主応力和もしくは繰返し周波数の1倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量に対する2倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量が急激な増減を伴わない範囲とは、図8(a)もしくは図8(b)で示される適応応力範囲αの範囲である。
【0031】
なお、試験機荷重に対する温度変化量もしくは主応力和である繰返し周波数の1倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量に対する2倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量で特定しなくとも図9(a)、図9(b)に示される試験機荷重に対する2倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量をプロットしたグラフで、温度変化量が急激な増減を伴わない範囲を特定できる場合には、試験機荷重に対する2倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量をプロットしたグラフで判断してもよい。
【0032】
本発明の散逸エネルギーを測定する工程は、散逸エネルギーを測定する工程で処理された温度画像の温度変化量が最大を示す領域の応力に対する温度変化量をプロットしたグラフにおいて、全データ数をNとして、N−n>1のデータ範囲で最小二乗法により統計処理された近似線Aおよび近似線BN−nの分散をそれぞれA’、B’N−nとし、分散A’と分散B’N−nの和が最小を満たすnによって決定される少なくとも2本以上の近似線の交点により、疲労限度を求めることを特徴とする。
【0033】
図10は、3≦n≦N−nの範囲でnを一つずつ増やしながら求めた近似線An、N−nの交点に相当する荷重もしくは応力振幅を横軸に、各近似線An、N−nの分散A’とB’N−nの和が最小になるときの近似線を引いた図である。このときの分散A’とB’N−nは各々式(1)で示される。
【0034】
【数1】

【0035】
ただし、n:最小荷重からの数、N:適応荷重または応力範囲α内の測定点
図10に示されるように、分散A’と分散B’N−nの和が最小を満たすnによって決定される少なくとも2本以上の近似線の交点により疲労限度を精度よく求めることができる。
【発明の効果】
【0036】
以上のように、本発明の疲労限度特定システムおよび疲労限度特定方法は、プロセスとして応力集中係数を評価する工程と、散逸エネルギーを測定する工程と、応力集中係数を評価する工程で得られた応力集中係数の値と散逸エネルギーを測定する工程から得られた測定結果から疲労限度を特定する工程とを有する。これにより、測定対象物の疲労進行状態の測定を可能にし、疲労に関係するエネルギーを適切に測定することで疲労限度の推定精度を向上する。更に、散逸エネルギー測定による疲労限度特定に必要なデータをシステム的に解析、処理することで疲労限度特定法として適応可能な範囲を明確にすることができる。
【0037】
また、散逸エネルギー測定手段および測定した画素毎の温度データについて、ある特定周波数成分について画像処理し、また疲労限度を特定する工程では適切な統計処理適応範囲を限定することで、統計処理手法により散逸エネルギーによる疲労限度特定システムおよび疲労限度特定方法を高精度に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】(a)本発明の疲労限度特定システムのアルゴリズムの概要を示す図 (b)本発明の主応力和画像の中で主応力和の最大ピクセル範囲aを示す図 (c)本発明のひずみ変化量−温度変化量曲線を示す図 (d)本発明の測定対象物に対して与えられる負荷の増加、もしくは応力振幅の増加にともなって得られる散逸エネルギーを示す図
【図2】(a)本発明の疲労限度特定システムのアルゴリズムの概要を示す図 (b)本発明の特定サイクル毎の2f成分の温度変化量を示す図
【図3】(a)本発明の特定サイクル毎の1f成分の温度変化量を示す図 (b)本発明の特定サイクル毎の3f成分の温度変化量を示す図
【図4】本発明のフーリエ変換された温度画像の温度変化量分布を示す図
【図5】本発明の特定時間に対する温度上昇量を表す図
【図6】本発明の完全疲労曲線を示す図
【図7】(a)本発明の主応力和が急激な増減を伴わない範囲を示す図 (b)本発明の主応力和が急激な増減を伴わない範囲を示す図
【図8】(a)本発明の2倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量が急激な増減を伴わない範囲を示す図 (b)本発明の2倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量が急激な増減を伴わない範囲を示す図
【図9】(a)本発明の2倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量を示す (b)本発明の2倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量を示す図
【図10】本発明の近似線An、N−nの分散A’とB’N−nの和が最小になるときの近似線を示す図
【図11】本発明の疲労限度特定システム概要を示す図
【図12】本発明の実施の形態1における測定対象物1bを疲労試験機1aに固定した状態を示す図
【図13】本発明の実施の形態1における曲率半径rhを有する測定対象物1bである試験片の形状及び寸評を示す図
【図14】本発明の散逸エネルギー測定の原理を説明する図
【図15】(a)本発明の実施の形態1におけるひずみ量に対する散逸エネルギーを試験片に加えられる応力振幅の繰返し回数ごとにプロットした図 (b)本発明の実施の形態1における荷重に対する散逸エネルギーを特定サイクル毎にプロットした図 (c)本発明の実施の形態1におけるひずみ量に対する温度変化量のヒステリシスループの面積変化率に対する疲労限度をプロットした結果を示す図 (d)本発明の実施の形態1における適応サイクル数の範囲を示した図 (e)本発明の実施の形態1における荷重に対する2倍の繰返し加振周波数成分(2f)で信号処理した値を特定サイクル毎にプロットした図 (f)本発明の実施の形態1における繰り返し回数に対する弾性変形範囲および塑性変形範囲の温度変化波形をプロットした図
【図16】(a)本発明の実施の形態2における試験片に加えられる応力振幅の繰返し回数に対する2f成分をプロットした図 (b)本発明の実施の形態2における応力振幅の繰返し回数に対する2f成分をプロットした図 (c)本発明の実施の形態2における2倍の繰返し加振周波数成分(2f)に対する疲労限度をプロットした結果を示す図 (d)本発明の実施の形態2における適応サイクル数の範囲を示した図 (e)本発明の実施の形態2における荷重に対する2倍の繰返し加振周波数成分(2f)で信号処理した値を特定サイクル毎にプロットした図
【図17】(a)本発明の実施の形態3における応力振幅の繰返し回数に対する1f成分をプロットした図 (b)本発明の実施の形態3における応力振幅の繰返し回数に対する3f成分をプロットした図 (c)本発明の実施の形態3における測定対象物に加えられる繰返し回数に対する1fおよび3f成分をプロットした図 (d)本発明の実施の形態3における1f成分の適応サイクル数の範囲を示した図 (e)本発明の実施の形態3における3f成分の適応サイクル数の範囲を示した図 (f)本発明の実施の形態3における荷重に対する2倍の繰返し加振周波数成分(2f)で信号処理した値を特定サイクル毎にプロットした図
【図18】(a)本発明の実施の形態4における2f成分を高速フーリエ変換することにより抽出した散逸エネルギー画像を示す図 (b)本発明の実施の形態4における荷重に対する2f成分をプロットした図
【図19】(a)本発明の実施の形態4における3f成分を高速フーリエ変換することにより抽出した散逸エネルギー画像を示す図 (b)本発明の実施の形態4における荷重に対する3f成分をプロットした図
【図20】(a)本発明の実施の形態5における特定サイクル間のピクセル毎に平均した画像を引いた平均温度差画像を示す図 (b)本発明の実施の形態5における荷重に対する平均温度差をプロットした図
【図21】(a)本発明の実施の形態6における荷重に対する2f成分をプロットした図で、高サイクル疲労範囲内外でどのように疲労限度が変わるかを示す図 (b)本発明の実施の形態6における荷重に対する2f成分をプロットした図で高サイクル疲労範囲内外でどのように疲労限度が変わるかを示す図
【図22】(a)本発明の実施の形態7における荷重に対する2f成分をプロットした図で、急激に主応力和が増加する場合の適応範囲内外でどのように疲労限度が変わるかを示した図 (b)本発明の実施の形態7における荷重に対する2f成分をプロットした図で、主応力和が急激に低下、または荷重を増加させても比例して増加しない場合の適応範囲外でどのように疲労限度が変わるかを示した図
【図23】(a)本発明の実施の形態8における主応力和に対する2f成分をプロットした図で、2f成分の温度変化量が急激に増加する場合の適応範囲内外でどのように疲労限度が変わるかを示した図 (b)本発明の実施の形態8における荷重に対する2f成分をプロットした図で、2f成分の温度変化量が急激に低下、または、主応力和を増加させても比例して増加しない場合の適応範囲内外でどのように疲労限度が変わるかを示した図
【図24】(a)本発明の実施の形態9における試験機荷重に対する散逸エネルギーをプロットした図 (b)本発明の実施の形態9における最小二乗法より引かれる近似線An、N−nの分散A’とB’N−nの和を縦軸にプロットした図 (c)本発明の実施の形態9における近似線An、N−nの交点に相当する荷重を横軸に、各近似線An、N−nの分散A’とB’N−nの和を縦軸にプロットした図 (d)本発明の試験機荷重に対する散逸エネルギーをプロットした図
【図25】(a)本発明の実施の形態10における切欠きの曲率半径と1画素の面積の関係を示した図 (b)本発明の実施の形態10における切欠きの曲率半径および塑性範囲と1画素の相対比に対する疲労限度を示した図 (c)本発明の実施の形態10における塑性範囲と1画素の相対比に対する疲労限度を示した図
【図26】(a)本発明の各実施の形態において、切欠き部の曲率半径が2.0mmの試験片を用いて散逸エネルギーを測定した結果を示す図 (b)本発明の各実施の形態において、切欠き部の曲率半径が1.0mmの試験片を用いて散逸エネルギーを測定した結果を示す図 (c)本発明の各実施の形態において、切欠き部の曲率半径が0.6mmの試験片を用いて散逸エネルギーを測定した結果を示す図 (d)本発明の各実施の形態において、切欠き部の曲率半径が0.2mmの試験片を用いて散逸エネルギーを測定した結果を示す図
【図27】(a)本発明の各実施の形態において、切欠き部の曲率半径が2.0mmの試験片を用いて求めた疲労SN曲線を示す図 (b)本発明の各実施の形態において、切欠き部の曲率半径が2.0mmの試験片を用いて求めた疲労SN曲線を示す図 (c)本発明の各実施の形態において、切欠き部の曲率半径が2.0mmの試験片を用いて求めた疲労SN曲線を示す図 (d)本発明の各実施の形態において、切欠き部の曲率半径が2.0mmの試験片を用いて求めた疲労SN曲線を示す図
【図28】本発明の各実施の形態における散逸エネルギー測定の結果および疲労試験による疲労SN曲線から求めた疲労限界荷重振幅の結果を示す図
【図29】本発明の各実施の形態における測定対象物として適応可能な材料について説明する図
【図30】(a)従来の疲労限界応力値の特定方法にて求めたスチール試験片の温度上昇量の分布を示す図 (b)従来の疲労限界応力値の特定方法を示す図
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に、本発明の各実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1における疲労限度特定システムおよび疲労限度特定方法を説明する。図11は、本発明の実施の形態1に係る疲労限度特定システムを示す図である。図11において、高精度赤外線カメラ(以下、単に赤外線カメラと記す)1cは、疲労試験器1aに固定した測定対象物1bの温度を測定する。なお、赤外線カメラ1cとしては、Cedip社のSilver 480Mを用いた。赤外線カメラ1cで測定した温度画像は、高速フーリエ変換手段を有する情報処理装置1dでデータ処理される。情報処理装置1dには、モニタ1eが接続されている。また、疲労試験機1aとしては、油圧サーボ疲労試験機(島津製作所,サーボパルサ,10kN)を用いた。疲労試験機1aの荷重振幅は、荷重制御により0kN〜8.5kNまで0.5kN毎に引張荷重を変えて測定した。測定周波数は25Hz一定とした。また、図12に測定対象物1bである試験片を疲労試験機1aに固定した状態を示す。図13は、曲率半径rhを有する測定対象物1bである試験片の形状及び寸を示す図である。図13において、Bは試験片の幅、dは切欠き深さ(ノッチ)、bは応力集中部の最小断面の幅の半分、tは厚みである。
【0040】
次に、散逸エネルギー測定の原理について図14を用いて説明する。繰り返し負荷を受けた試験片は、熱弾性効果によって、加振機による加振周波数と同一周波数の繰り返し温度変化2aを生じるが、それに加えて材料内部のエネルギー散逸によって平均温度上昇2cを生じる。ただし、熱弾性効果による温度変化2aおよび散逸エネルギーによる平均温度上昇2cは、外乱の温度変化2bに比べて小さい。このため、試験片の温度変化量ΔTを(式2)で表すと以下のようになる。
【0041】
ΔT=2b−T+2c+2a ・・・・・・(式2)
ΔT:温度変化量
2b:外的要因(風や周囲の温度変化)
:熱の伝導(温度の高い箇所と低い箇所が均一化を図る働き)
2c:散逸エネルギー(繰り返しサイクルにおける温度上昇量)
2a:熱弾性効果
【0042】
実際の散逸エネルギーの測定では、赤外線サーモグラフィ装置で試験片の温度測定を行うと同時に、疲労試験機1aからの制御信号である同期入力信号を取り込み、同期入力信号に基づく特定の周波数成分について高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform)による赤外線応力画像処理を行うことで外乱の影響を除外して、試験片の熱弾性効果による温度変化だけを測定する。熱弾性効果による温度上昇・下降から、更に小さな繰り返しサイクル毎の機械的現象に基づく材料内部の散逸エネルギーによる温度上昇量を分離して測定することにより、繰り返しサイクルにおける温度上昇量(2c)の散逸エネルギー測定画像が描くことができる。なお、情報処理装置1dは、予め取得しておいた温度画像を用いて、散逸エネルギー測定画像を描くことも可能である。
【0043】
図4は、2倍の周波数成分で高速フーリエ変換することにより求めた散逸エネルギー画像である。また、疲労限度5.7kN付近で主応力和が最大を示す領域において、散逸エネルギーは最も大きく発生し、この領域内のひずみ量に対する散逸エネルギーを試験片に加えられる応力振幅の繰返し回数ごとにプロットした結果を図15(a)に示す。図15(a)の結果から、ひずみ量に対する温度変化量の関係が閉じたヒステリシスループ状態でかつヒステリシスループの面積が繰り返し回数に係わらずほぼ一定状態になっていることが分かる。
【0044】
しかしながら、図15(a)に示されるひずみ量に対する温度変化量の関係が閉じたヒステリシスループ状態でかつヒステリシスループの面積が繰り返し回数に係わらずほぼ一定状態について、どの程度一定であれば正確な疲労限度を求めることが可能か不明である。そこで、ヒステリシスループの面積がどの程度一定であれば疲労限度を正確に求めることが可能かを調べるために、図15(b)に試験片に加える応力または荷重の繰返しサイクル数に対する面積変化率を求め試験片に加える荷重ごとにプロットした結果を示す。ただし、ここで示される面積変化率は、100サイクル毎に10サイクルのヒステリシスループの平均面積を計算し、前100サイクルで得られた平均面積を次の100サイクルで得られる平均面積で割った値である。
【0045】
図15(b)の結果から試験片に加える応力または荷重が低い6.0kN未満の場合は、弾性範囲の変形であり、ひずみ量に対する温度変化量の関係が殆ど比例し線形になる。そのため、疲労によるダメージが殆ど蓄積せず、疲労が進展しないため面積変化率はサイクル数を変えても殆ど変化しない。この結果から、ひずみ量に対する温度変化量が閉じたヒステリシスループを示し、ヒステリシスループの面積が試験片に加えられる応力または荷重の繰り返し回数に係わらずほぼ一定状態になったかどうかを判断する方法としては、ヒステリシスループの面積変化率が試験片に加える応力または荷重の繰返し回数に依存して変化する状態をともなう応力または荷重範囲内(疲労進展応力または荷重範囲)で判断する必要があることがわかった。すなわち、図15(b)の場合には、6.0kN〜8.5kNの範囲内の面積変化率に着目する必要があることが確認できた。
【0046】
次に、ひずみ量に対する温度変化量のヒステリシスループの面積の変化率がどの程度まで一定であれば疲労限度を精度よく特定できるかを確かめた。図15(b)で求めた面積変化率に対する疲労限度をプロットした結果を図15(c)に示す。図15(c)の結果
は、ヒステリシスループの面積変化率が試験片に加える応力または荷重の繰返し数に依存して変化する荷重範囲(ここでは6.0kN〜8.5kNの範囲)でプロットしたものである。図15(c)の結果から、ヒステリシスループの面積変化率が10%を超えると、推定される疲労限度が減少し、安全面から考えると危険側の推定になること確認された。従って、正しい疲労限度5.7kNを精度よく求めることができるのは、ヒステリシスループの面積変化率が10%以下のときである。
【0047】
以上の結果から、疲労限度を高精度で特定するためには、ひずみ量に対する温度変化量のヒステリシスループの面積変化が、試験片に加える応力または荷重の繰返し回数に依存して変化する状態をともなう応力または荷重範囲内であり、その面積変化率が10%以下(すなわち、安定状態)になるまで試験片に応力または荷重を繰返し加え、測定あるいは測定されたデータを用いて信号処理すればよいことがわかった。上述した適応範囲を図15(d)の斜線で示す。図15(d)の斜線範囲から判断すると400サイクル以上のサイクル数で測定もしくは測定したデータを用いて信号処理を行えばよいことは明らかである。
【0048】
図15(e)は、以上の結果をもとに求めた測定条件が正しいかどうか確認するために、横軸に荷重、縦軸に散逸エネルギーに相当する試験片に加えられる応力振幅周波数の2倍の繰返し加振周波数成分(2f)で信号処理した値を特定サイクル毎にプロットしたものである。適正条件としては、ひずみ量に対する温度変化量のヒステリシスループの面積変化が、試験片に加える応力または荷重の繰返し回数に依存して変化する状態をともなう応力または荷重範囲内で、その面積変化率が10%以下になるような条件を満たす繰返し回数範囲である400サイクル以上で測定されたデータをもとに信号処理を行い求めた散逸エネルギーを荷重ごとにプロットしたものである。また、図15(e)には、参考のため適正測定条件範囲である400サイクル未満の結果もプロットしている。以上の結果から400サイクル未満では、ひずみ量に対する温度変化量が安定した状態で測定できていないため、実際の疲労限度よりも低い荷重として推定されている。一方、400サイクル以上では、ひずみ量に対する温度変化量が安定した状態で測定できているため、2倍の周波数成分でFFT処理して得られる散逸エネルギー(2f成分)の曲線も重なり、実際の疲労限度に近い値が推定されている。
【0049】
以上の結果から、ひずみ量に対する温度変化量のヒステリシスループの面積変化が、試験片に加える応力または荷重の繰返し回数に依存して変化する状態をともなう応力または荷重範囲内で、その面積変化率が10%以下になるような条件を満たす繰返し回数以上で測定または測定したデータを用いて信号処理することで、疲労限度が高精度で推定可能である。ただし、面積変化率が10%以上の場合であっても、推定される疲労限度が20%で1割程度の低下と緩やかなので、高精度な測定を必要としない場合には、面積変化率が10%以下になるような条件を満たす繰返し回数以上でなくともおおよその疲労限度は推定可能である。
【0050】
なお、適正測定条件を求める方法として、ひずみ量に対する温度変化量のヒステリシスループの面積変化率をモニタリングする方法以外に簡易的に見極める方法として図15(f)に示されるような繰り返し回数に対する温度変化波形のプロットを利用してもよい。図15(f)で、弾性変形しか起こらない低い荷重または応力の場合には熱弾性効果による温度変化のみであるため点線で示したような正弦波になる。一方、高い荷重または応力(疲労限度以上)になると熱弾性効果による温度変化と塑性変形によるエネルギーが発生するため、その発生したエネルギー分だけ温度変化が追加され、実線で描かれる波形のようになる。図15(a)で示したヒステリシス曲線の縦軸である温度変化量が塑性変形による温度変化量に相当するため、この塑性変形による温度変化をモニタリングすることで塑性シェークダウンの安定状態を見つけ出し、高精度で疲労限度を推定できる適正測定状
態を見つけることができる。すなわち、疲労限度以上の荷重または応力で繰り返し数が少ないときには実線で示す波形の形状が変化する。一方、繰り返し数が増加し、塑性シェークダウン状態の安定状態になると実線で示す波形の形状が繰り返し回数に係わらず一定になる。この波形の形状をモニタリングし、数百サイクル毎に波形形状の相関係数を求め、相関係数が0.7以上になれば測定可能サイクル数として使用可能と判断できる。更に高精度で測定するためには、この相関係数を高く設定すればよいことは明らかである。
【0051】
この疲労限度特定方法で求められた適正条件をもとに測定精度を向上させるため、ひずみ量に対する温度変化量が安定した状態で測定できているかどうかを判別するためのシステムを図1(a)で示されるアルゴリズムを用いてシステムを構築した。その結果、ひずみ量に対する温度変化量の関係が閉じたヒステリシスループ状態であるかを判別することが可能となり、常に適正な状態での測定をすることによって、疲労限度特定方法の精度を向上することができた。なお、この結果は切欠き部の曲率半径をrh=5.0mm、1.0mm、0.6mm、0.2mm、0.1mmと変化させた応力集中係数の異なる試験片を疲労試験機1aに取付け、荷重を徐々に上げながら散逸エネルギー測定を行った場合にも、曲率半径2.0mmの場合と同様にひずみ量に対する温度変化量が安定した状態で測定することで疲労限度が精度良く推定できた。
【0052】
以上の結果から、ひずみ量に対する温度変化量の関係が閉じたヒステリシスループ状態でかつヒステリシスループの面積が繰り返し回数に係わらず一定状態で測定する疲労限度特定方法を用いることで、精度良く疲労限度を推定でき、更に疲労限度特定方法で重要な判断基準となるひずみ量に対する温度変化量の関係が閉じたヒステリシスループ状態でかつヒステリシスループの面積が繰り返し回数に係わらず一定状態で測定するための判断システムを構築することで、常に精度よく疲労限度を求めることが可能になる。
【0053】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2における疲労限度特定システムおよび疲労限度特定方法の概要を説明する。図11は、本発明の実施の形態2に係る疲労限度特定システムを示す図である。疲労限度特定システムの構成は、実施の形態1と同様である。図11において、高精度赤外線カメラ(以下、単に赤外線カメラと記す)1cは、疲労試験器1aに固定した測定対象物1bの温度を測定する。なお、赤外線カメラ1cとしては、Cedip社のSilver 480Mを用いた。赤外線カメラ1cで測定した温度画像は、高速フーリエ変換手段を有する情報処理装置1dでデータ処理される。情報処理装置1dには、モニタ1eが接続されている。また、疲労試験機1aとしては、油圧サーボ疲労試験機(島津製作所,サーボパルサ,10 kN)を用いた。疲労試験機1aの荷重振幅は、荷重制御により0kN〜8.5kNまで0.5kN毎に引張荷重を変えて測定した。測定周波数は25Hz一定とした。また、図12に測定対象物1bである試験片を疲労試験機1aに固定した状態を示す。図13は、曲率半径rhを有する測定対象物1bである試験片の形状及び寸を示す図である。図13において、Bは試験片の幅、dは切欠き深さ(ノッチ)、bは応力集中部の最小断面の幅の半分、tは厚みである。
【0054】
実際の散逸エネルギーの測定では、赤外線サーモグラフィ装置で試験片の温度測定を行うと同時に、疲労試験機1aからの制御信号である同期入力信号を取り込み、同期入力信号に基づく特定の周波数成分について高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform)による赤外線応力画像処理を行うことで外乱の影響を除外して、試験片の熱弾性効果による温度変化だけを測定する。熱弾性効果による温度上昇・下降から、更に小さな繰り返しサイクル毎の機械的現象に基づく材料内部の散逸エネルギーによる温度上昇量を分離して測定することにより、繰り返しサイクルにおける温度上昇量(2c)の散逸エネルギー測定画像を描くことができる。
【0055】
測定対象物1bとしては、図13に示した曲率半径2.0mmの試験片を用いた。測定した画像から散逸エネルギーを抽出する範囲としては、主応力和が最大を示す領域であり、図4で示した2倍の周波数成分で高速フーリエ変換した画像の温度変化量が最も大きく出ている範囲である。図16(a)は、横軸に試験片に加えられる応力振幅の繰返し回数、縦軸に応力振幅周波数の2倍の繰返し加振周波数成分(2f成分)で高速フーリエ変換したものをプロットした図である。図16(a)の結果から、測定対象物1bに加えられる応力振幅の繰返し数が少ない範囲では2f成分が安定しないため、適切な値を得ることが出来ないことがわかる。
【0056】
しかしながら、図16(a)に示される2f成分が安定なサイクル数範囲において、どの程度一定状態であれば正確な疲労限度を求めることが可能か不明である。そこで、どの程度一定であれば疲労限度を正確に求めることが可能かを調べるために、試験片に加える応力または荷重の繰返しサイクル数に対する2f成分の変化率を求め、試験片に加える荷重ごとにプロットした結果を図16(b)に示す。ただし、ここで示される2f成分の変化率は、100サイクル毎に10サイクルの2f成分の平均値を計算し、前100サイクルで得られた10サイクルの平均値を次の100サイクルで得られる10サイクルの平均値で割った値である。
【0057】
図16(b)の結果から試験片に加える応力または荷重が低い6.0kN未満の場合は、弾性範囲の変形であるため、疲労によるダメージが殆ど蓄積せず、疲労が進展しないため2f成分の変化率はサイクル数を変えても殆ど変化しない。この結果から、2f成分で信号処理された値が試験片に加える応力または荷重の繰り返し回数に係わらずほぼ一定状態になったかどうかを判断する方法としては、2f成分が試験片に加えられる応力または荷重の繰返し回数に依存して変化する状態をともなう応力または荷重範囲内(疲労進展応力または荷重範囲)で判断する必要があることがわかった。すなわち、図16(b)の場合には、6.0kN〜8.5kNの範囲内の2f成分の変化率に着目する必要があることが確認できた。
【0058】
次に、2f成分の変化率がどの程度まで一定であれば疲労限度を精度よく特定できるかを確かめた。図16(b)で求めた2f成分の変化率に対する疲労限度をプロットした結果を図16(c)に示す。図16(c)の結果は、2f成分の変化率が試験片に加える応力または荷重の繰返し数に依存して変化する荷重範囲(ここでは6.0kN〜8.5kNの範囲)でプロットしたものである。図16(c)の結果から、2f成分の変化率が10%を超えると推定される疲労限度が減少し、安全面から考えると危険側の推定になること確認された。従って、正しい疲労限度5.7kNを精度よく求めることができるのは、2f成分の変化率が10%以下になる繰返し回数である。
【0059】
以上の結果から、疲労限度を高精度で特定するためには、2f成分の変化が試験片に加える応力または荷重の繰返し回数に依存して変化する状態をともなう応力または荷重範囲内で、2f成分の変化率が10%以下になるような条件を満たすサイクル数以上で測定するか、あるいは測定されたデータを用いて信号処理すればよいことがわかった。上述した適応範囲を図16(d)の斜線で示す。図16(d)の斜線範囲から判断すると、400サイクル以上のサイクル数で測定もしくは測定したデータを用いて信号処理を行えばよいことは明らかである。
【0060】
図16(e)は、以上の結果をもとに求めた測定条件が正しいかどうか確認するために、横軸に荷重、縦軸に散逸エネルギーに相当する試験片に加えられる応力振幅周波数の2倍の繰返し加振周波数成分(2f)で信号処理した値を特定サイクル毎にプロットしたものである。適正条件としては、試験片に加える応力または荷重の繰返し回数に依存して変化する状態をともなう応力または荷重範囲内で、2f成分の変化率が10%以下になるよ
うな条件を満たす400サイクル以上で測定されたデータをもとに信号処理によって求められる散逸エネルギーを荷重ごとにプロットしたものである。また、図16(e)には、参考のため適正測定条件範囲である400サイクル未満の結果もプロットしている。
【0061】
図16(e)において、400サイクル未満では、試験片に加えられる応力振幅の繰返し回数に対する2f成分が安定した状態で測定できていないため、低い荷重から散逸エネルギーが必要以上に発生し、実際の疲労限度よりも低い荷重として推定されている。一方、400サイクル以上では、2f成分が安定した状態で測定できているため2倍の周波数成分でFFT処理して得られる散逸エネルギー(2f成分)の曲線も重なり、実際の疲労限度とほぼ同じ値が推定されている。以上の結果から、2倍の周波数成分(2f成分)が一定変化量になる繰り返し回数以上で測定または測定したデータを用いて信号処理することで、疲労限度が高精度で推定可能であることは明らかである。
【0062】
ただし、2倍の周波数成分(2f成分)の変化率が10%以上の場合であっても、推定される疲労限度が変化率20%で1割程度の低下と緩やかなので、高精度な測定を必要としない場合には、面積変化率が10%以下になるような条件を満たす繰返し回数以上でなくともおおよその疲労限度は推定可能である。
【0063】
なお、適正測定条件を求める方法として、荷重もしくは応力の繰り返しサイクル数に対する2倍の周波数成分(2f成分)をモニタリングする方法以外に簡易的に見極める方法として図15(f)に示されるような繰り返し回数に対する温度変化波形のプロットを利用してもよい。図15(f)で、弾性変形しか起こらない低い荷重または応力の場合には熱弾性効果による温度変化のみであるため点線で示したような正弦波になる。一方、高い荷重または応力(疲労限度以上)になると熱弾性効果による温度変化と塑性変形によるエネルギーが発生するため、その発生したエネルギー分だけ温度変化が追加され、実線で描かれる波形のようになる。図16(a)で示した2f成分の縦軸である温度変化量が塑性変形による温度変化量に相当するため、この塑性変形による温度変化をモニタリングすることで塑性シェークダウンの安定状態を見つけ出し、高精度で疲労限度を推定できる適正測定状態を見つけることができる。すなわち、疲労限度以上の荷重または応力で繰り返し数が少ないときには実線で示す波形の形状が変化する。一方、繰り返し数が増加し、塑性シェークダウン状態の安定状態になると実線で示す波形の形状が一定になる。この波形の形状をモニタリングし、数百サイクル毎に波形形状の相関係数を求め、相関係数が0.7以上になれば測定可能サイクル数として使用可能と判断できる。更に高精度で測定するためには、この相関係数を高く設定すればよいことは明らかである。
【0064】
この疲労限度特定方法の測定精度を更に向上させるため、図2(a)で示されるアルゴリズムを用いてシステムを構築した。その結果、発生応力の2倍の繰返し周波数成分が一定の変化量で発生している安定した状態であるかを判別することが可能となり、常に適正な状態で測定でき、疲労限度特定方法の精度を向上することができた。なお、この結果は切欠き部の曲率半径をrh=5mm、1.0mm、0.6mm、0.2mm、0.1mmと変化させた応力集中係数が異なる試験片を用いて疲労試験機1aに取付け、荷重を徐々に上げながら散逸エネルギー測定を行った場合にも、曲率半径2.0mmの場合と同様に発生応力振幅の2倍の繰返し周波数成分が一定の変化量である状態で測定することで疲労限度が精度良く推定できた。
【0065】
以上の結果から、発生応力の2倍の繰返し周波数成分が一定変化量になるまで繰返し加振させて測定する疲労限度特定方法を用いることで精度良く疲労限度を推定でき、更に疲労限度特定方法で重要な判断基準となる発生応力の2倍の繰返し周波数成分が一定変化量で測定するための判断アルゴリズムを用いてシステムを構築することで、常に精度よく疲労限度を求めることが可能になる。
【0066】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3における疲労限度特定システムおよび疲労限度特定方法の概要を説明する。図11は、本発明の実施の形態3に係る疲労限度特定システムを示す図である。疲労限度特定システムの構成は、実施の形態1と同様である。図11において、高精度赤外線カメラ(以下、単に赤外線カメラと記す)1cは、疲労試験器1aに固定した測定対象物1bの温度を測定する。なお、赤外線カメラ1cとしては、Cedip社のSilver 480Mを用いた。赤外線カメラ1cで測定した温度画像は、高速フーリエ変換手段を有する情報処理装置1dでデータ処理される。情報処理装置1dには、モニタ1eが接続されている。また、疲労試験機1aとしては、油圧サーボ疲労試験機(島津製作所,サーボパルサ,10 kN)を用いた。疲労試験機1aの荷重振幅は、荷重制御により0kN〜8.5kNまで0.5kN毎に引張荷重を変えて測定した。測定周波数は25Hz一定とした。また、図12に測定対象物1bである試験片を疲労試験機1aに固定した状態を示す。図13は、曲率半径rhを有する測定対象物1bである試験片の形状及び寸を示す図である。図13において、Bは試験片の幅、dは切欠き深さ(ノッチ)、bは応力集中部の最小断面の幅の半分、tは厚みである。
【0067】
実際の散逸エネルギーの測定では、赤外線サーモグラフィ装置で試験片の温度測定を行うと同時に、疲労試験機1aからの制御信号である同期入力信号を取り込み、同期入力信号に基づく特定の周波数成分について高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform)による赤外線応力画像処理を行うことで外乱の影響を除外して、試験片の熱弾性効果による温度変化だけを測定する。熱弾性効果による温度上昇・下降から、更に小さな繰り返しサイクル毎の機械的現象に基づく材料内部の散逸エネルギーによる温度上昇量を分離して測定することにより、繰り返しサイクルにおける温度上昇量(2c)の散逸エネルギー測定画像を得ることができる。
【0068】
測定対象物1bとしては、図13に示した曲率半径2.0mmの試験片を用いた。測定した画像から散逸エネルギーを抽出する範囲としては、主応力和が最大を示す領域であり、図4で示した2倍の周波数成分で高速フーリエ変換した画像の温度変化量が最も大きく出ている範囲である。図17(a)は、横軸に試験片に加えられる応力振幅の繰返し回数、縦軸に応力周波数の1倍の繰返し加振周波数成分(1f成分)で高速フーリエ変換したものをプロットした図である。図17(a)の結果から、測定対象物1bに加えられる応力振幅の繰返し数が少ない範囲では1f成分が安定しないため、適切な値を得ることが出来ないことがわかる。図17(b)は、横軸に試験片に加えられる応力振幅の繰返し回数、縦軸に応力周波数の3倍の繰返し加振周波数成分(3f成分)で高速フーリエ変換したものをプロットした図である。図17(b)の結果から、測定対象物1bに加えられる応力振幅の繰返し数が少ない範囲では1f成分と同様に3f成分も安定しないため、適切な値を得ることが出来ないことがわかる。
【0069】
なお、1f成分および3f成分は、2f成分で見られるような低荷重での極端な減少が見られない。そのため、2fで信号処理された値が試験片に加える応力または荷重の繰り返し回数に係わらずほぼ一定状態になったかどうかを判断する方法としては、2f成分が試験片に加えられる応力または荷重の繰返し回数に依存して変化する応力または荷重範囲内(疲労進展応力または荷重範囲)で判断することが可能であったが、1f成分および3f成分ではその手法が使えない。そこで、1f成分および3f成分においては、一般的な疲労強度の考え方で引張り強さの1/2に相当する荷重または応力を目安とし、それ以上の荷重または応力で1f成分もしくは3f成分が荷重の繰り返し回数に係わらずほぼ一定状態と見なせる範囲を明確にすることによって疲労限度を高精度に特定できる条件を求めた。
【0070】
図17(c)の結果は、1f成分および3f成分の繰返しサイクルごとの変化率について、引張り強さの1/2に相当する荷重5.5kN以上の範囲で検討した結果である。なお、ここで示す変化率は、100サイクル毎に10サイクルの1f成分または3f成分の平均値を計算し、前100サイクルで得られる平均値を次の100サイクルで得られる1f成分もしくは3f成分の平均値で割った値である。図17(c)の結果から、変化率が10%以下の範囲であれば、正確に疲労限度を推定できることがわかった。すなわち、疲労限度を高精度で特定するためには、引張り強さの1/2に相当する荷重または応力以上の範囲で、1f成分または3f成分の変化率が10%以下になるような条件を満たすサイクル数以上で測定あるいは測定されたデータを用いて信号処理すればよいことがわかった。上記条件を満たす1f成分および3f成分のサイクル数の範囲は、図17(d)、図17(e)に示される斜線範囲で、400サイクル以上で測定もしくは測定したデータを用いて信号処理を行えばよい。
【0071】
図17(f)は、以上の結果をもとに求めた適正測定条件が正しいかどうか確認するために、疲労限度5.7kN付近で、この領域内の試験片に加えられる応力振幅の繰返し回数に対する2f成分を負荷荷重ごとにプロットした結果である。図17(d)、図17(e)の結果から、1f成分および3f成分が一定変化量になる繰り返し回数はともに400サイクル以上であった。
【0072】
以上の結果から、1f成分もしくは3f成分が一定変化量になる繰り返し回数以上で測定または測定したデータを用いて信号処理することで、疲労限度が高精度で推定可能であることが確認された。400サイクル未満では、試験片に加えられる応力振幅の繰返し回数に対する2f成分が安定した状態で測定できていないため、低い荷重から散逸エネルギーが必要以上に発生し、実際の疲労限度よりも低い荷重として推定されている。一方、400サイクル以上では、2f成分が安定した状態で測定できているため、2倍の周波数成分でFFT処理して得られる散逸エネルギー(2f成分)の曲線も重なり、実際の疲労限度にほぼ一致する値が推定されている。
【0073】
ただし、1倍の周波数成分(1f成分)または3倍の周波数成分(3f成分)変化率が10%以上の場合であっても、推定される疲労限度が変化率20%で1割程度の低下と低下傾向が緩やかなので、高精度な測定を必要としない場合には、面積変化率が10%以下になるような条件を満たす繰返し回数以上でなくともおおよその疲労限度は推定可能である。
【0074】
なお、適正測定条件を求める方法として、荷重もしくは応力の繰り返しサイクル数に対する1f成分もしくは3f成分をモニタリングする方法以外に簡易的に見極める方法として図15(f)に示されるような繰り返し回数に対する温度変化波形のプロットを利用してもよい。図15(f)で、弾性変形しか起こらない低い荷重または応力の場合には熱弾性効果による温度変化のみであるため点線で示したような正弦波になる。一方、高い荷重または応力(疲労限度以上)になると熱弾性効果による温度変化と塑性変形によるエネルギーが発生するため、その発生したエネルギー分だけ温度変化が追加され、実線で描かれる波形のようになる。図17(a)、図17(b)で示した1f、2f成分の縦軸である温度変化量が塑性変形による温度変化量に比例するため、この塑性変形による温度変化をモニタリングすることで塑性シェークダウンの安定状態を見つけ出し、高精度で疲労限度を推定できる適正測定状態を見つけることができる。すなわち、疲労限度以上の荷重または応力で繰り返し数が少ないときには実線で示す波形の形状が変化する。一方、繰り返し数が増加し、塑性シェークダウン状態の安定状態になると実線で示す波形の形状が一定になる。この波形の形状をモニタリングし、数百サイクル毎に波形形状の相関係数を求め、相関係数が0.7以上になれば測定可能サイクル数として使用可能と判断できる。更に高精度で測定するためには、この相関係数を高く設定すればよいことは明らかである。
【0075】
この疲労限度特定方法の測定精度を更に向上させるため、図2(a)で示されるアルゴリズムを用いてシステムを構築した。その結果、発生応力振幅の1倍もしくは3倍の繰返し周波数成分が一定変化量になるまで繰返し加振させて安定状態であるかを判別することが可能となり、常に適正な状態での測定でき、疲労限度特定方法の精度を向上することができた。なお、この結果は切欠き部の曲率半径をrh=5.0mm、1.0mm、0.6mm、0.2mm、0.1mmと変化させた応力集中係数が異なる試験片を用いて疲労試験機1aに取付け、荷重を徐々に上げながら散逸エネルギー測定を行った場合にも、曲率半径2.0mmの場合と同様に発生応力振幅の1倍(1f成分)もしくは3倍(3f成分)の繰返し周波数成分が一定変化量で発生している状態で測定することで疲労限度が精度良く推定できた。
【0076】
以上の結果から、発生応力振幅の1倍もしくは3倍の繰返し周波数成分が一定変化量になるまで繰返し加振させて測定する疲労限度特定方法を用いることで精度良く疲労限度を推定でき、更に疲労限度特定方法で重要な判断基準となる発生応力振幅の1倍もしくは3倍の繰返し周波数成分が一定変化量で測定するための判断アルゴリズムを用いてシステムを構築することで、常に精度よく疲労限度を求めることが可能になる。
【0077】
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4における疲労限度特定システムおよび疲労限度特定方法の概要を説明する。実施の形態4の疲労限度特定システムとしては、図11を用いて、図12に示されるように疲労試験機1aに測定対象物1bを固定して行った。疲労試験機1aの荷重振幅は、荷重制御により0kN〜8.0kNまで0.5kN毎に引張荷重を変えて測定した。測定周波数は25Hz一定とした。また、測定対象物1bとしては、図13に示される形状の曲率半径rh=2.0mm、試験片の幅B=15mm、切欠き深さ(ノッチ)d=2.5mm、応力集中部の最小断面の幅2b=6.0mm、厚み3.0mmの切欠きを有するSUS304の試験片を使用した。
【0078】
測定を高精度に行うための条件である繰返し回数については、実施の形態1で検討したひずみ量に対する温度変化量の関係が閉じたヒステリシスループ状態でかつヒステリシスループの面積が繰り返し回数に係わらず一定状態である条件を満たす範囲と、実施の形態2で検討した発生応力の2倍の繰返し周波数成分が一定変化量になる条件を満たす範囲と、実施の形態3で検討した発生応力振幅の1倍もしくは3倍の繰返し周波数成分が一定変化量になる条件を満たす範囲が繰返し回数400サイクル以上と同じ条件であったので、繰返し数としては400サイクル以上で検討した。
【0079】
図18(a)は、発生応力振幅の2倍の繰返し周波数成分(2f成分)を高速フーリエ変換することにより抽出した散逸エネルギー画像である。図18(a)の白四角で示される領域が温度変化量の最も高い領域(すなわち、散逸エネルギーの最も高い領域)を示し、切欠き底から0.5mmの位置に相当する。散逸エネルギーの温度変化分布は、切り欠き底近傍の白四角が最も高く、切り欠き底から離れるに従って低下する。抽出する位置によって散逸エネルギーによる疲労限度特定精度にどのような影響を与えるかを調べるために、散逸エネルギーの抽出位置を切欠き底からの位置0.5mm、1.0mm、2.0mmで、荷重を増加させながら発生応力の2倍の周波数成分で高速フーリエ変換による画像を撮影し解析した。図18(b)は、横軸に荷重、縦軸に2f成分をプロットした図である。図18(b)の結果からも明確なように、切り欠き底の散逸エネルギーが最も高い0.5mmの位置から、1.0mm、1.5mmと離れるに従って推定される疲労限度も高くなる傾向がみられ、疲労強度上危険側に推移する。
【0080】
更に、図19(a)は、発生応力振幅の3倍の繰返し周波数成分(3f成分)を高速フ
ーリエ変換することにより抽出した散逸エネルギー画像である。図18(a)と同様に、図19(a)の白四角で示される領域の温度変化量が最も高い領域(すなわち、散逸エネルギーの最も高い領域)を示し、切欠き底から0.5mmの位置に相当する。散逸エネルギーの温度変化分布は、切り欠き底近傍の白四角が最も高く、切り欠き底から離れるに従って低下する。抽出する位置によって散逸エネルギーによる疲労限度特定精度にどのような影響を与えるかを調べるために、散逸エネルギーの抽出位置を切欠き底からの位置0.5mm、1.0mm、2.0mmで、荷重を増加させながら発生応力の3倍の周波数成分で高速フーリエ変換による画像を撮影し解析した。
【0081】
図19(b)は、横軸に荷重、縦軸に3f成分をプロットした図である。図19(b)の結果からも明確なように、切り欠き底の散逸エネルギーが最も高い0.5mmの位置から1.0mm、1.5mmと離れるに従って推定される疲労限度も高くなる傾向がみられ、疲労強度上危険側に推移する。なお、これら図18(b)、19(b)の結果は、切欠き部の曲率半径をrh=5.0mm、1.0mm、0.6mm、0.2mm、0.1mmと変化させた応力集中係数が異なる試験片を用いて疲労試験機1aに取付け、荷重を徐々に上げながら散逸エネルギー測定を行った場合にも、曲率半径2.0mmの場合と同様に発生応力振幅の2倍もしくは3倍の繰返し周波数成分が一定変化量で発生している状態で測定された画像を2倍もしくは3倍の繰返し周波数成分でFFT処理し、得られた温度変化画像の最大を示す領域のデータを抽出することで疲労限度が精度良く推定できた。
【0082】
以上の結果から測定対象物に負荷される応力周波数の2倍もしくは3倍の周波数成分で高速フーリエ変換を行い、高速フーリエ変換された温度画像の温度変化量分布が最大を示す領域において、温度変化量を抽出することによって、精度よく疲労限度を推定でき、更に疲労限度特定方法で重要な判断基準となる発生応力振幅の2倍もしくは3倍の繰返し周波数成分の温度変化量分布が最大を示す領域において、温度変化量を抽出するシステムを構築することで、常に精度よく疲労限度を求めることが可能になることは明らかである。
【0083】
(実施の形態5)
本発明の実施の形態5における疲労限度特定システムおよび疲労限度特定方法の概要を説明する。実施の形態5の疲労限度特定システムとしては、図11を用いて、図12に示されるように疲労試験機1aに測定対象物1bを固定して行った。疲労試験機1aの荷重振幅は、荷重制御により0kN〜8.0kNまで0.5kN毎に引張荷重を変えて測定した。測定周波数は25Hz一定とした。また、測定対象物1bとしては、図13に示される形状の曲率半径rh=2.0mm、試験片の幅B=15mm、切欠き深さ(ノッチ)d=2.5mm、応力集中部の最小断面の幅2b=6.0mm、厚み3.0mmの切欠きを有するSUS304の試験片を使用した。
【0084】
測定を高精度に行うための条件である繰返し回数については、実施の形態1で検討したひずみ量に対する温度変化量の関係が閉じたヒステリシスループ状態でかつヒステリシスループの面積が繰り返し回数に係わらず一定状態である条件を満たす範囲と、実施の形態2で検討した発生応力の2倍の繰返し周波数成分が一定変化量になる条件を満たす範囲と、実施の形態3で検討した発生応力振幅の1倍もしくは3倍の繰返し周波数成分が一定変化量になる条件を満たす範囲が繰返し回数400サイクル以上と同じ条件であったので、繰返し数としては400サイクル以上で検討した。
【0085】
図20(a)は、測定対象物1bに加えられる応力振幅の900サイクルから1000サイクルの温度画像をピクセル毎に平均した画像からから400サイクルから600サイクルの温度画像をピクセル毎に平均した画像を引いた平均温度の差を示した図である。図18(a)、図19(a)と同様に、図20(a)の白四角で示される領域の温度変化量が最も高い領域(すなわち、散逸エネルギーの最も高い領域)を示し、切欠き底から0.
5mmの位置に相当する。散逸エネルギーの温度変化分布は、切り欠き底近傍の白四角が最も高く、切り欠き底から離れるに従って低下する。図20(b)は、横軸に荷重、縦軸に温度差をプロットした図である。図20(b)のデータで、白丸は散逸エネルギーが最も高い範囲である切り欠き底近傍0.5mmの位置の平均温度の差をプロットした結果である。この結果から疲労限度を推定すると、疲労試験から求めた疲労限度である5.7kNと一致し、平均温度の差を用いても疲労限度が推定できることが証明された。
【0086】
更に、平均温度の差から求めた散逸エネルギーを抽出する位置によって散逸エネルギーによる疲労限度特定精度にどのような影響を与えるかを調べるために、散逸エネルギーの抽出位置を切欠き底からの位置0.5mm、1.0mm、2.0mmで、荷重を増加させながら平均温度の差を計算し、解析した。図20(b)の結果から、切り欠き底の散逸エネルギーが最も高い0.5mmの位置から1.0mm、1.5mmと離れるに従って推定される疲労限度も高くなる傾向がみられ、疲労限度上危険側に推移する。なお、これら図20(b)の結果は、切欠き部の曲率半径をrh=5mm、1.0mm、0.6mm、0.2mm、0.1mmと変化させた応力集中係数が異なる試験片を用いて疲労試験機1aに取付け、荷重を徐々に上げながら散逸エネルギー測定を行った場合にも、曲率半径2.0mmの場合と同様に平均温度の差を抽出して求められた散逸エネルギー画像の最大温度差を示す値を用いることで疲労限度を精度良く推定できることを示したものである。
【0087】
以上の結果から測定対象物に対して繰返し加えられる応力によって発生する温度変化量が最大を示す領域において、特定時間に対する温度上昇量(すなわち、平均温度の差)を抽出することによっても、精度よく疲労限度を推定でき、更に平均温度の差を抽出するシステムを構築することで、常に精度よく疲労限度を求めることが可能になる。
【0088】
(実施の形態6)
本発明の実施の形態6における疲労限度特定システムおよび疲労限度特定方法の概要を説明する。実施の形態6の疲労限度特定システムとしては、図11を用いて、図12に示されるように疲労試験機1aに測定対象物1bを固定して行った。疲労試験機1aの荷重振幅は、荷重制御により0kN〜8.0kNまで0.5kN毎に引張荷重を変えて測定した。測定周波数は25Hz一定とした。また、測定対象物1bとしては、図13に示される形状の曲率半径rh=2.0mm、5.0mm、試験片の幅B=15mm、切欠き深さ(ノッチ)d=2.5mm、2.0mm、応力集中部の最小断面の幅2b=6.0mm、厚み3.0mmの切欠きを有するSUS304の試験片を使用した。
【0089】
測定を高精度に行うための条件である繰返し回数については、実施の形態1で検討したひずみ量に対する温度変化量の関係が閉じたヒステリシスループ状態でかつヒステリシスループの面積が繰り返し回数に係わらず一定状態である条件を満たす範囲と、実施の形態2で検討した発生応力の2倍の繰返し周波数成分が一定変化量になる条件を満たす範囲と、実施の形態3で検討した発生応力振幅の1倍もしくは3倍の繰返し周波数成分が一定変化量になる条件を満たす範囲が繰返し回数400サイクル以上と同じ条件であったので、繰返し数としては400サイクル以上で検討した。
【0090】
図21(a)は、横軸に荷重、縦軸に2f成分をプロットした図である。実線で示される近似線は、高サイクル疲労の応力振幅範囲のデータを用いて、最小二乗法により引いた線である。また、破線で示される近似線は、高サイクル疲労の応力振幅以上の範囲である低サイクル疲労の応力振幅範囲のデータまで用いて、最小二乗法により引いた線である。この結果からも明らかなように、高サイクル疲労の疲労振幅範囲のデータを用いると、疲労試験から求めた疲労限度と一致するが、低サイクル疲労の範囲のデータも含めると疲労限度が疲労試験から求めた疲労限度より高く推定され、疲労強度上危険側に推移する。
【0091】
更に、図21(b)は、横軸に荷重、縦軸に平均温度の差をプロットした図である。実線で示される近似線は、高サイクル疲労の応力振幅範囲のデータを用いて、最小二乗法により引いた線である。また、破線で示される近似線は、高サイクル疲労の応力振幅以上の範囲である低サイクル疲労の応力振幅範囲のデータまで用いて、最小二乗法により引いた線である。この結果も図21(a)の結果と同様に、高サイクル疲労の疲労振幅範囲のデータを用いると、疲労試験から求めた疲労限度と一致するが、低サイクル疲労の範囲のデータも含めると疲労限度が疲労試験から求めた疲労限度より高く推定される。
【0092】
以上の結果から、散逸エネルギーを測定する工程で抽出された結果から疲労限度を特定する工程は高サイクル疲労に相当する応力範囲のデータを主に用いることにより、疲労限度を精度よく測定できることは明らかである。更に、高サイクル疲労の疲労振幅範囲でデータ検出するシステムを構築することで、常に精度よく疲労限度を求めることが可能になる。
【0093】
(実施の形態7)
本発明の実施の形態7における疲労限度特定システムおよび疲労限度特定方法の概要を説明する。実施の形態7の疲労限度特定システムとしては、図11を用いて、図12に示されるように疲労試験機1aに測定対象物1bを固定して行った。疲労試験機1aの荷重振幅は、荷重制御により0kN〜8.0kNまで0.5kN毎に引張荷重を変えて測定した。測定周波数は25Hz一定とした。また、測定対象物1bとしては、図13に示される形状の曲率半径rh=2.0mm、試験片の幅B=15mm、切欠き深さ(ノッチ)d=2.5mm、応力集中部の最小断面の幅2b=6.0mm、厚み3.0mmの切欠きを有するSUS304の試験片を使用した。
【0094】
測定を高精度に行うための条件である繰返し回数については、実施の形態1で検討したひずみ量に対する温度変化量の関係が閉じたヒステリシスループ状態でかつヒステリシスループの面積が繰り返し回数に係わらず一定状態である条件を満たす範囲と、実施の形態2で検討した発生応力の2倍の繰返し周波数成分が一定変化量になる条件を満たす範囲と、実施の形態3で検討した発生応力振幅の1倍もしくは3倍の繰返し周波数成分が一定変化量になる条件を満たす範囲が繰返し回数400サイクル以上と同じ条件であったので、繰返し数としては400サイクル以上で検討した。
【0095】
図22(a)は横軸に荷重、縦軸に散逸エネルギーである2f成分をプロットした図であり、急激に主応力和が増加する場合である。主応力和が急激な増減を伴わない範囲(適応範囲α)のデータを用いて近似線を引いた場合と、主応力和が急激な増減を伴う範囲(適応範囲外)のデータも含めて近似線を引いた場合に、疲労限度の値がどのように変わるかを示した図である。主応力和が急激な増減を伴わない範囲(適応範囲α)は、横軸に試験機荷重、縦軸に主応力和をプロットした図7(a)から判断され、主応力和823MPaで試験機荷重は8.2kNに相当する。図22(a)の適応範囲内のデータを用いて推定した疲労限度は5.7kN、疲労試験から求めた疲労限度5.7kNと一致する。一方、適応範囲外から推定した疲労限度は7.0kNとなり、疲労限度がかなり危険側へシフトする。
【0096】
また、図22(b)は、横軸に荷重、縦軸に散逸エネルギーである2f成分をプロットした図であり、主応力和が急激に低下、または荷重を増加させても比例して増加しない場合の図である。主応力和が急激な増減を伴わない範囲(適応範囲α)のデータを用いて近似線を引いた場合と、主応力和が急激な増減を伴う範囲(適応範囲外)のデータも含めて近似線を引いた場合に、疲労限度の値がどのように変わるかを比較した。主応力和が急激な増減を伴わない範囲(適応範囲α)は横軸に試験機荷重、縦軸に主応力和をプロットした図7(b)から判断され、図7(b)から主応力和840MPaで試験機荷重は8.3
kNに相当する。図22(b)の適応範囲内のデータを用いて推定した疲労限度は6.4kN、疲労試験から求めた疲労限度6.4kNと一致する。
【0097】
一方、適応範囲外を含むデータから推定した疲労限度は6.7kNとなり、疲労限度が危険側へシフトする。なお、これら図22(a)、(b)の結果は、切欠き部の曲率半径をrh=1.0mm、0.6mm、0.2mm、0.1mmと変化させた応力集中係数が異なる試験片を用いて疲労試験機1aに取付け、荷重を徐々に上げながら散逸エネルギー測定を行った場合にも、曲率半径5.0mm、2.0mmの場合と同様に試験機荷重に対する温度変化量もしくは主応力和が急激な増減を伴わない範囲を主に用いることで疲労限度を精度良く推定できることを示したものである。
【0098】
以上の結果から測定対象物に対して加えられる応力の繰返し周波数の2倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量を算出し、試験機荷重に対する温度変化量もしくは主応力和が急激な増減を伴わない範囲を主に用いることで精度よく疲労限度を推定できることは明らかである。更に、測定対象物に対して加えられる応力の繰返し周波数の2倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量を算出し、試験機荷重に対する温度変化量もしくは主応力和が急激な増減を伴わない範囲を検出し、適正範囲での解析を行うシステムを構築することで、常に精度よく疲労限度を求めることが可能になる。
【0099】
(実施の形態8)
本発明の実施の形態8における疲労限度特定システムおよび疲労限度特定方法の概要を説明する。実施の形態8の疲労限度特定システムとしては、図11を用いて、図12に示されるように疲労試験機1aに測定対象物1bを固定して行った。疲労試験機1aの荷重振幅は、荷重制御により0kN〜8.0kNまで0.5kN毎に引張荷重を変えて測定した。測定周波数は25Hz一定とした。また、測定対象物1bとしては、図13に示される形状の曲率半径rh=2.0mm、試験片の幅B=15mm、切欠き深さ(ノッチ)d=2.5mm、応力集中部の最小断面の幅2b=6.0mm、厚み3.0mmの切欠きを有するSUS304の試験片を使用した。
【0100】
測定を高精度に行うための条件である繰返し回数については、実施の形態1で検討したひずみ量に対する温度変化量の関係が閉じたヒステリシスループ状態でかつヒステリシスループの面積が繰り返し回数に係わらず一定状態である条件を満たす範囲と、実施の形態2で検討した発生応力の2倍の繰返し周波数成分が一定変化量になる条件を満たす範囲と、実施の形態3で検討した発生応力振幅の1倍もしくは3倍の繰返し周波数成分が一定変化量になる条件を満たす範囲が繰返し回数400サイクル以上と同じ条件であったので、繰返し数としては400サイクル以上で検討した。
【0101】
図23(a)は横軸に主応力和である繰返し周波数の1倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量、縦軸に散逸エネルギーである2f成分をプロットした図であり、急激に主応力和が増加する場合である。主応力和が急激な増減を伴わない範囲(適応範囲α)のデータを用いて近似線を引いた場合と、主応力和が急激な増減を伴う範囲(適応範囲外)のデータも含めて近似線を引いた場合に、疲労限度の値がどのように変わるかを示した図である。2倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量が急激な増減を伴わない範囲(適応範囲α)は、横軸に主応力和、縦軸に散逸エネルギーをプロットした図8(a)から判断され、主応力和823MPaであり、8.2kNの試験機荷重に相当する。図23(a)の適応範囲内のデータを用いて推定した疲労限度は5.7kN、疲労試験から求めた疲労限度5.7kNと一致する。一方、適応範囲外から推定した疲労限度は応力667MPaで荷重7.0kNとなり、疲労限度がかなり危険側へシフトする。
【0102】
また、図23(b)は、横軸に荷重、縦軸に散逸エネルギーである2f成分をプロット
した図であり、2倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量が急激に低下、または荷重を増加させても比例して増加しない場合の図である。2倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量が急激な増減を伴わない範囲(適応範囲α)のデータを用いて近似線を引いた場合と、2倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量が急激な増減を伴う範囲(適応範囲外)のデータも含めて近似線を引いた場合に、疲労限度の値がどのように変わるかを比較した。2倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量が急激な増減を伴わない範囲(適応範囲α)は横軸に主応力和、縦軸に散逸エネルギーをプロットした図8(b)から判断され、主応力和825MPaで図23(b)の8.3kNの試験機荷重に相当する。図23(b)の適応範囲内のデータを用いて推定した疲労限度は応力597MPa、荷重6.4kNとなり、疲労試験から求めた疲労限度6.4kNと一致する。
【0103】
なお、これら図23(a)、(b)の結果は、切欠き部の曲率半径をrh=1.0mm、0.6mm、0.2mm、0.1mmと変化させた応力集中係数が異なる試験片を用いて疲労試験機1aに取付け、荷重を徐々に上げながら散逸エネルギー測定を行った場合にも、曲率半径2.0mmの場合と同様に試験機荷重に対する2倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量が急激な増減を伴わない範囲を主に用いることで疲労限度を精度良く推定できることを示したものである。
【0104】
以上の結果から測定対象物に対して加えられる応力の繰返し周波数の2倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量を算出し、主応力和である繰返し周波数の1倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量に対する2倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量が急激な増減を伴わない範囲を主に用いることで精度よく疲労限度を推定できることは明らかである。更に、主応力和である繰返し周波数の1倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量に対する2倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量が急激な増減を伴わない範囲を検出し、適正範囲での解析を行うシステムを構築することで、常に精度よく疲労限度を求めることが可能になる。
【0105】
(実施の形態9)
本発明の実施の形態9における疲労限度特定システムおよび疲労限度特定方法の概要を説明する。実施の形態9の疲労限度特定システムとしては、図11を用いて、図12に示されるように疲労試験機1aに測定対象物1bを固定して行った。疲労試験機1aの荷重振幅は、荷重制御により0kN〜8.0kNまで0.5kN毎に引張荷重を変えて測定した。測定周波数は25Hz一定とした。また、測定対象物1bとしては、図13に示される形状の曲率半径rh=2.0mm、試験片の幅B=15mm、切欠き深さ(ノッチ)d=2.5mm、応力集中部の最小断面の幅2b=6.0mm、厚み3.0mmの切欠きを有するSUS304の試験片を使用した。
【0106】
測定を高精度に行うための条件である繰返し回数については、実施の形態1で検討したひずみ量に対する温度変化量の関係が閉じたヒステリシスループ状態でかつヒステリシスループの面積が繰り返し回数に係わらず一定状態である条件を満たす範囲と、実施の形態2で検討した発生応力の2倍の繰返し周波数成分が一定変化量になる条件を満たす範囲と、実施の形態3で検討した発生応力振幅の1倍もしくは3倍の繰返し周波数成分が一定変化量になる条件を満たす範囲が繰返し回数400サイクル以上と同じ条件であったので、繰返し数としては400サイクル以上で検討した。
【0107】
図24(a)横軸に試験機荷重、縦軸に散逸エネルギーをプロットした図である。図24(a)の近似曲線1および近似曲線2は、n=3のときに引かれた2本の近似曲線である。例えばn=2のとき最小荷重から2点を用いて最小二乗法により近似線Aを、最初の3点を除く残りの点を用いて最小二乗法により近似曲線BN−3を求め、2つの近似曲線の交点を求めることができる。このように3≦n≦N−nの範囲でnを一つずつ増やし
ながら求めた近似線An、N−nの交点に相当する荷重を横軸に、各近似線An、N−nの分散A’とB’N−nの和を縦軸にプロットすると図24(b)のように描くことができる。このときの分散A’とB’N−nは、各々式(1)で計算される。
【0108】
図24(b)は、実施の形態7で示した主応力和が急激な増減を伴わない範囲あるいは実施の形態8で示した2倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量が急激な増減を伴わない範囲に関係なく、プロットされたデータ全てを用いて最小二乗法により求められた2本の近似線である近似線1と近似線2の分散の和である。図24(b)の結果から、2本の近似線の分散の和が最小になる交点は7.3kNであり、疲労試験から求められた疲労限度5.7kNと比較すると一致しない。そこで、実施の形態7で示した主応力和が急激な増減を伴わない範囲あるいは実施の形態8で示した2倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量が急激な増減を伴わない範囲のデータだけを用いて最小二乗法により求められた2本の近似線である近似線1と近似線2の分散の和を求めた。
【0109】
図24(c)は、図24(b)と同様に、近似線An、N−nの交点に相当する荷重を横軸に、各近似線An、N−nの分散A’とB’N−nの和を縦軸にプロットしたものである。図24(c)の結果から、2本の近似線の分散の和が最小になる交点は5.7kNである。また、図24(d)は、横軸に試験機荷重、縦軸に散逸エネルギーをプロットした図であり、2本の近似線1、近似線2の分散の和が最小になるときの近似線1および近似線2を示したものである。図24(c)および図24(d)から求めることができた交点5.7kNは、疲労試験から求められた疲労限度5.7kNと一致し、疲労限度を精度よく求めることができる。
【0110】
なお、これら図24(a)、(b)の結果は、切欠き部の曲率半径をrh=5.0mm、1.0mm、0.6mm、0.2mm、0.1mmと変化させた応力集中係数が異なる試験片を用いて疲労試験機1aに取付け、荷重を徐々に上げながら散逸エネルギー測定を行った場合にも、曲率半径2.0mmの場合と同様に試験機荷重に対する2倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量が急激な増減を伴わない範囲もしくは主応力和が急激な増減を伴わない範囲の全データ数をNとして、N−n>1のデータ範囲で最小二乗法により統計処理された近似線Aおよび近似線BN−nの分散をそれぞれA’、B’N−nとし、分散A’と分散B’N−nの和が最小を満たすnによって決定される少なくとも2本以上の近似線の交点により求められることで疲労限度を精度良く推定できることは明らかである。
【0111】
(実施の形態10)
本発明の実施の形態10における疲労限度特定システムおよび疲労限度特定方法の概要を説明する。実施の形態10の疲労限度特定システムとしては、図11を用いて、図12に示されるように疲労試験機1aに測定対象物1bを固定して行った。疲労試験機1aの荷重振幅は、荷重制御により0kN〜8.0kNまで0.5kN毎に引張荷重を変えて測定した。測定周波数は25Hz一定とした。また、測定対象物1bとしては、図13に示される形状の曲率半径rhを0.1mm〜5.0mmまで変化させ、試験片の幅B=15mm、切欠き深さ(ノッチ)d=2.5mm、応力集中部の最小断面の幅2b=6.0mm、厚み3.0mmは一定として、切欠き深さ(ノッチ)dは曲率半径の寸法に合わせて変えたSUS304の試験片を使用した。図13に示される形状の曲率半径rhを0.1mm〜5.0mmまで変化させることにより塑性範囲を変化させ、塑性範囲にあたる面積と赤外線カメラの1画素の大きさがどのように影響するかを検討した。図25(a)に、試験片の切欠き部分の塑性範囲と赤外線カメラの1画素の大きさの関係を示す。なお、塑性範囲および1画素の大きさについては、試験片の切欠き部分の曲率半径を基準として求めた。
【0112】
測定を高精度に行うための条件である繰返し回数については、実施の形態2で検討した2倍の繰返し加振周波数成分(2f成分)で高速フーリエ変換したが、繰り返し回数に係わらず一定状態である条件を満たす範囲と、実施の形態2で検討した発生応力の2倍の繰返し周波数成分が一定変化量になる条件を満たす範囲と、実施の形態3で検討した発生応力振幅の1倍もしくは3倍の繰返し周波数成分が一定変化量になる条件を満たす範囲で検討した。
【0113】
図25(b)は、横軸に試験片の切欠きの曲率半径と塑性範囲である面積を赤外線カメラの1画素に相当する面積で割った相対比、縦軸に散逸エネルギーである2f成分から求めた疲労限度と疲労試験から求めた疲労限度をプロットした図である。試験片の切欠きの曲率半径の大きさが小さくなるに従い、応力集中による塑性範囲も小さくなる。その塑性範囲が赤外線カメラの1画素当たりの空間分解能にあたる面積に対して小さくなるに従い疲労試験から求めた疲労限度と赤外線から求めた疲労限度がズレを生じる傾向が見られた。これは、赤外線カメラの疲労限度を推定する上での測定限界を示す結果であると考えられる。この結果から、赤外線カメラの1画素当たりの空間分解能に相当する面積に対して塑性範囲の面積が約7倍以上あれば、疲労限度を正確に測定可能であることがわかった。また、今回用いた赤外線カメラの空間分解能は0.35μm×0.35μmであり、切り欠きの幅(曲率半径2倍=直径)と比較すると物理的に1画素の長さの3倍以上(2.0mm以上)であれば、疲労限度を正確に測定可能であることがわかった。
【0114】
更に、今度は測定する試験片の曲率半径rhを2.0mmとして、赤外線カメラの1画素を見かけ上大きくするために1画素、2画素×2画素、3画素×3画素と測定対象画素の面積を増やし平均化することにより、塑性範囲の面積と測定対象画素の面積比率を変え検討を行った。図25(c)は、横軸に塑性範囲である面積を赤外線カメラの1画素に相当する面積で割った相対比、縦軸に散逸エネルギーである2f成分から求めた疲労限度と疲労試験から求めた疲労限度をプロットした図である。この結果からも、塑性範囲である面積を赤外線カメラの1画素に相当する面積で割った相対比が7倍以上であれば、疲労限度を正確に測定可能であることがわかった。以上の結果から塑性範囲に対して赤外線カメラの1画素が約1/7以下であれば、疲労限度を高精度で測定できることは明らかである。
【0115】
次に、上述した各実施の形態における応力集中係数Kを評価する工程と、疲労限度を特定する工程の一例について簡単に説明する。本発明の各実施の形態における応力集中係数Kを評価する工程は、応力集中係数Kが所定の値未満であるか否かを特定する。応力集中係数を評価する工程に関して以下に説明する。応力集中係数Kは以下の(式3)で表される。
K=σ/σ ・・・・・・・・・・・(式3)
σ:最大応力(切欠き底) σ:公称応力(切欠きの無い場合の応力)
【0116】
試験片のような切欠き形状が明確で、過去の検討からデータの蓄積があるような場合には、形状から応力集中係数Kをある程度推測することも可能であるが、基本的には実験的力学手法を用いて実測する必要がある。非破壊で応力集中係数Kを評価する方法としては、有限要素法のようなシミュレーションを用いた数学的解析手法や光弾性法・モアレ法といった実験力学的手法が一般的に用いられる。また、非破壊で実測から評価する方法としては、ひずみゲージを可能な限り貼り、応力分布による測定から最大応力σと公称応力σを求め、(式3)から計算する方法や、高精度な赤外線カメラを用いて熱弾性効果から主応力和の二次元応力分布を測定し、最大応力σと公称応力σを求め、(式3)から計算する方法等がある。
【0117】
有限要素法のようなシミュレーション解析的手法や光弾性法・モアレ法は、測定のため
に特別なモデルを用意する必要があるため溶接や締結部のように個体差が大きいものを忠実にモデル化するのに適していない。ひずみゲージ法による測定は、簡易かつ高精度に評価可能だが応力分布を求めるために測定点数を多くする必要があり計測器など大掛かりな測定になる。一方、赤外線応力測定法は、特別なモデルを用意する必要もなく、材質に関係なく非接触で測定できるため製品や部品など実稼動状態で実用的な測定が可能であるが、切欠きの曲率半径の小さなものに対しては熱弾性効果を適応できる断熱条件が成立する範囲が狭くなるために最大応力が低く測定され、応力集中係数も低くなる。
【0118】
以上の結果、応力集中係数を求める方法としては、高精度な赤外線カメラを用いて熱弾性効果を利用した応力測定から主応力和の応力分布を求め、簡易的な値を確認した後に、散逸エネルギー測定による疲労限度の特定を行うことが望ましい。また、赤外線応力測定による応力集中係数が所定の値(例えば、3)に近い場合や、応力集中部が端に近く赤外線カメラによるエッジ効果で測定精度が低下するような場合には、赤外線応力測定から得られた応力分布の応力集中部に数箇所ひずみゲージを貼って測定を行うことで応力集中係数を正確に求めることが望ましい。
【0119】
試験片のように形状が明確で単純なものに対しては、過去のデータから導き出された関係式やシミュレーション解析から応力集中係数を推定し、散逸エネルギー測定による疲労限度の特定を行うことが望ましい。
【0120】
例えば、図13に示されるような切欠き形状を有する試験片の切欠き部の曲率半径rhを0.1mm〜5mmと変えることで応力集中係数を7種類変えた試験片を用いた。なお、試験片の幅B、切欠き深さ(ノッチ)d、応力集中部の最小断面の幅の半分b、厚みtはそれぞれ3mm一定とした。
【0121】
それらの試験片に対して、荷重振幅を変化させて測定を行った散逸エネルギーの測定結果から求めた変曲点と、同様の試験片を用いて機械的疲労試験から求めた疲労限度荷重を応力集中係数ごとに比較した結果の一例を図26及び図27に示す。図26(a)〜(d)は、切欠き部の曲率半径をrh=2.0mm、1.0mm、0.6mm、0.2mmと変化させた試験片を疲労試験機1aに取付け、荷重を徐々に上げながら散逸エネルギー測定を行った結果を示す。一方、図27(a)〜(d)は、切欠き部の曲率半径をrh=2.0mm、1.0mm、0.6mm、0.2mmと変化させた試験片を疲労試験機1aに取付け、求めた疲労SN曲線である。
【0122】
更に、切欠き部の曲率半径をrh=5mm、0.5mm、0.1mmの3種類追加して検討を行った散逸エネルギー測定の結果および疲労試験による疲労SN曲線から求めた疲労限界荷重振幅の結果を図28に示す。図28に示されるように、応力集中係数が3を境界として、応力集中係数が3以上では、散逸エネルギー測定から求めた初段の変曲点にあたる荷重振幅値と疲労SN曲線から求めた疲労限界荷重振幅値とが一致する。また、応力集中係数が3未満では散逸エネルギー測定から求めた初段以降の変曲点にあたる荷重振幅値と疲労SN曲線から求めた疲労限界荷重振幅値とが一致する。このことから、荷重振幅値と、疲労SN曲線から求めた疲労限界荷重振幅値とが一致することは明らかである。
【0123】
また、本発明の疲労限度特定システムおよび疲労限度特定方法における疲労限度を特定する工程は、応力集中係数を評価する工程で求められた応力集中係数が所定の値以上の場合には、散逸エネルギー測定の工程で求められる交点の初段を用い、所定の値未満の場合は初段以降を用いる。このようなシステム的にデータ処理を行うことで、適切な疲労限度の特定をすることが可能となる。
【0124】
また、本発明の各実施の形態における疲労限度特定システムにおいて、測定対象物とし
て適応可能な材料について説明する。図29は、測定対象物の主成分が鉄であって、特に炭素鋼(SPCC)、オーステナイト系ステンレス鋼である材料から構成される測定対象物についての測定結果を示す図である。図29を用いて、各材料について、赤外線カメラによる散逸エネルギーの変曲点と、疲労試験による疲労SN曲線から求めた疲労限界荷重とを比較した。各実施の形態に係る疲労限度特定システムでは、赤外線カメラ1c(Cedip社のSilver 480M)を用い、得られた画像を高速フーリエ変換(FFT)を使用して画像処理を行った。また、疲労試験機1aとしては、油圧サーボ疲労試験機(島津製作所,サーボパルサ,10 kN)を用いた。なお、このとき用いた測定対象物1bである試験片の切り欠き部分の曲率半径と応力集中係数とは、図29に示す通りである。
【0125】
図29の結果からも明らかなように、炭素鋼、オーステナイト系ステンレス材料であれば、SUS304の結果と同様に、応力集中係数が3以上では、散逸エネルギー測定から求めた初段の変曲点にあたる荷重振幅値と疲労SN曲線から求めた疲労限界荷重振幅値とが一致し、応力集中係数3未満では散逸エネルギー測定から求めた初段以降の変曲点にあたる荷重振幅値と疲労SN曲線から求めた疲労限界荷重振幅値とが一致する。従って、疲労限度特定方法として適応可能であることは明らかである。また、疲労試験により破断した場所と、赤外線カメラで散逸エネルギー測定から特定される最も温度が高い場所が一致することを確認した。
【0126】
更に、試験機荷重を主応力和に変換することにより、SUS304の結果と同様に散逸エネルギー発生場所が複数存在する場合でも相対比較が可能となり、疲労破断箇所として特定可能であることも確認した。以上の結果から、本発明の各実施の形態に係る疲労限度特定システムは、疲労限度を特定する方法とて主成分が鉄であり、特に炭素鋼、オーステナイト系ステンレス鋼である材料から構成ざれる材料に適応可能であり、また疲労破壊箇所特定方法としても有効であることは明らかである。
【0127】
なお、本発明の各実施の形態で述べた情報処理装置が行うそれぞれの処理手順は、記憶装置(ROM、RAM、ハードディスク等)に格納された上述した処理手順を実行可能な所定のプログラムデータが、CPUによって解釈実行されることで実現されてもよい。この場合、プログラムデータは、記憶媒体を介して記憶装置内に導入されてもよいし、記憶媒体上から直接実行されてもよい。なお、記憶媒体は、ROMやRAMやフラッシュメモリ等の半導体メモリ、フレキシブルディスクやハードディスク等の磁気ディスクメモリ、CD−ROMやDVDやBD等の光ディスクメモリ、及びメモリカード等をいう。また、記憶媒体は、電話回線や搬送路等の通信媒体を含む概念である。
【0128】
また、本発明の各実施の形態において、情報処理装置を構成する各機能ブロックは、典型的には、CPU(又はプロセッサ)上で動作するプログラムとして実現されるが、その機能の一部または全部を集積回路であるLSIとして実現してもよい。これらのLSIは、個別に1チップ化されても良いし、一部又は全てを含むように1チップ化されても良い。ここでは、LSIとしたが、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。
【0129】
また、集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路又は汎用プロセッサで実現してもよい。LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(FIELD PROGRAMMABLE GATE ARRAY)や、LSI内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサーを利用しても良い。
【0130】
さらには、半導体技術の進歩又は派生する別技術によりLSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて機能ブロックの集積化を行ってもよい。バ
イオ技術の適応等が可能性としてありえる。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明は、適正条件での測定と、取得したデータの適正範囲による統計処理を可能にするための適正測定条件および適正処理範囲を抽出するためアルゴリズムを備えた疲労限度特定システム等を構築することに有用であり、高精度な疲労限度の特定を提供し、製品や部品の安全性や寿命予測を短時間で判断し、不安全事象を未然に防止すること等に利用できる。
【符号の説明】
【0132】
a 主応力和の最大ピクセル範囲
1a 油圧サーボ疲労試験機
1b 試験片
1c 赤外線カメラ
1d 情報処理装置(画像処理用PC)
1e モニタ
2a 加振周波数と同一周波数の繰り返し温度変化
2b 外乱の温度変化
2c 材料内部のエネルギー散逸によって平均温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疲労限度特定システムであって、
測定対象物に対して応力を繰り返し加える加振機と、
前記測定対象物の微小な温度変化を測定し、前記測定対象物の温度画像を得る赤外線サーモグラフィ装置と、
前記赤外線サーモグラフィ装置から得た前記測定対象物の温度画像を処理する情報処理装置とを備え、
前記情報処理装置は、
前記測定対象部の散逸エネルギーを測定する工程と、前記測定対象物の応力集中係数を評価する工程と、前記応力集中係数を評価する工程から得られた応力集中係数の値と、前記散逸エネルギーを測定する工程から得られた測定結果から疲労限度を特定する工程とを有し、
前記散逸エネルギーを測定する工程は、前記測定対象物に対して一定の繰返し外力を作用させた場合に、主応力和が最大を示す領域において、ひずみ量に対する温度変化量の関係が閉じたヒステリシスループ状態でかつ前記ヒステリシスループの面積が一定状態になるまで繰返し加振させた安定状態で、前記散逸エネルギーを測定する、疲労限度特定システム。
【請求項2】
疲労限度特定システムであって、
測定対象物に対して応力を繰り返し加える加振機と、
前記測定対象物の微小な温度変化を測定し、前記測定対象物の温度画像を得る赤外線サーモグラフィ装置と、
前記赤外線サーモグラフィ装置から得た前記測定対象物の温度画像を処理する情報処理装置とを備え、
前記情報処理装置は、
前記測定対象物の散逸エネルギーを測定する工程と、前記測定対象物の応力集中係数を評価する工程と、前記応力集中係数を評価する工程から得られた応力集中係数の値と、前記散逸エネルギーを測定する工程から得られた測定結果から疲労限度を特定する工程とを有し、
前記散逸エネルギーを測定する工程は、前記測定対象物に対して一定の繰返し外力を作用させた場合に、主応力和が最大を示す領域において、発生応力範囲の2倍の繰返し周波数成分が一定変化量になるまで繰返し加振させた安定状態で、前記散逸エネルギーを測定する、疲労限度特定システム。
【請求項3】
疲労限度特定システムであって、
測定対象物に対して応力を繰り返し加える加振機と、
前記測定対象物の微小な温度変化を測定し、前記測定対象物の温度画像を得る赤外線サーモグラフィ装置と、
前記赤外線サーモグラフィ装置から得た前記測定対象物の温度画像を処理する情報処理装置とを備え、
前記情報処理装置は、
前記測定対象物の散逸エネルギーを測定する工程と、前記測定対象物の応力集中係数を評価する工程と、前記応力集中係数を評価する工程から得られた応力集中係数の値と、前記散逸エネルギーを測定する工程から得られた測定結果から疲労限度を特定する工程とを有し、
前記散逸エネルギーを測定する工程は、前記測定対象物に対して一定の繰返し外力を作用させた場合に、主応力和が最大を示す領域において、発生応力範囲の1倍もしくは3倍の繰返し周波数成分が一定変化量になるまで繰返し加振させた安定状態で、前記散逸エネルギーを測定する、疲労限度特定システム。
【請求項4】
前記散逸エネルギーを測定する工程は、得られた温度画像を前記情報処理装置により発生応力範囲の2倍もしくは3倍の周波数成分で高速フーリエ変換を行い、前記高速フーリエ変換された温度画像の温度変化量分布が最大を示す領域において、前記温度変化量を抽出することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の疲労限度特定システム。
【請求項5】
前記散逸エネルギーを測定する工程は、前記情報処理装置により、前記測定対象物に対して繰返し加えられる応力によって発生する温度変化量が最大を示す領域において、特定時間に対する温度上昇量を抽出することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の疲労限度特定システム。
【請求項6】
前記疲労限度を特定する工程は、高サイクル疲労に相当する応力範囲のデータを用いることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の疲労限度特定システム。
【請求項7】
前記疲労限度を特定する工程は、前記測定対象物に対して加えられる応力の繰返し周波数の1倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量を算出し、試験機荷重に対する前記温度変化量もしくは主応力和が急激な増減を伴わない範囲を用いることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の疲労限度特定システム。
【請求項8】
前記疲労限度を特定する工程は、前記測定対象物に対して加えられる応力の繰返し周波数の2倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量を算出し、主応力和である繰返し周波数の1倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量に対する前記2倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量が急激な増減を伴わない範囲を用いることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の疲労限度特定システム。
【請求項9】
前記疲労限度を特定する工程は、前記散逸エネルギーを測定する工程で処理された温度画像の温度変化量が最大を示す領域の応力に対する温度変化量をプロットしたグラフにおいて、全データ数をNとして、N−n>1のデータ範囲で最小二乗法により統計処理された近似線Aおよび近似線BN−nの分散をそれぞれA’、B’N−nとし、前記分散A’と前記分散B’N−nの和が最小を満たすnによって決定される少なくとも2本以上の近似線の交点により、前記疲労限度を求めることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の疲労限度特定システム。
ただし、n=3、4、・・・・、N−n>1である。
【請求項10】
赤外線サーモグラフィ装置から得た測定対象物の温度画像を処理する情報処理装置が実施する方法であって、
前記測定対象物の散逸エネルギーを測定する工程と、前記測定対象物の応力集中係数を評価する工程と、前記応力集中係数を評価する工程から得られた応力集中係数の値と、前記散逸エネルギーを測定する工程から得られた測定結果から疲労限度を特定する工程とを有し、
前記散逸エネルギーを測定する工程は、前記測定対象物に対して一定の繰返し外力を作用させた場合に、主応力和が最大を示す領域において、ひずみ量に対する温度変化量の関係が閉じたヒステリシスループ状態でかつ前記ヒステリシスループの面積が一定状態になるまで繰返し加振させた安定状態で、前記散逸エネルギーを測定する、疲労限度特定方法。
【請求項11】
赤外線サーモグラフィ装置から得た測定対象物の温度画像を処理する情報処理装置が実施する方法であって、
前記測定対象物の散逸エネルギーを測定する工程と、前記測定対象物の応力集中係数を評価する工程と、前記応力集中係数を評価する工程から得られた応力集中係数の値と、前
記散逸エネルギーを測定する工程から得られた測定結果から疲労限度を特定する工程とを有し、
前記散逸エネルギーを測定する工程は、前記測定対象物に対して一定の繰返し外力を作用させた場合に、主応力和が最大を示す領域において、発生応力範囲の2倍の繰返し周波数成分が一定変化量になるまで繰返し加振させた安定状態で、前記散逸エネルギーを測定する、疲労限度特定方法。
【請求項12】
赤外線サーモグラフィ装置から得た測定対象物の温度画像を処理する情報処理装置が実施する方法であって、
前記測定対象物の散逸エネルギーを測定する工程と、前記測定対象物の応力集中係数を評価する工程と、前記応力集中係数を評価する工程から得られた応力集中係数の値と、前記散逸エネルギーを測定する工程から得られた測定結果から疲労限度を特定する工程とを有し、
前記散逸エネルギーを測定する工程は、前記測定対象物に対して一定の繰返し外力を作用させた場合に、主応力和が最大を示す領域において、発生応力範囲の1倍もしくは3倍の繰返し周波数成分が一定変化量になるまで繰返し加振させた安定状態で、前記散逸エネルギーを測定する、疲労限度特定方法。
【請求項13】
前記散逸エネルギーを測定する工程は、得られた温度画像を前記情報処理装置により発生応力範囲の2倍もしくは3倍の周波数成分で高速フーリエ変換を行い、前記高速フーリエ変換された温度画像の温度変化量分布が最大を示す領域において、前記温度変化量を抽出することを特徴とする、請求項10〜12のいずれかに記載の疲労限度特定方法。
【請求項14】
前記散逸エネルギーを測定する工程は、前記情報処理装置により、前記測定対象物に対して繰返し加えられる応力によって発生する温度変化量が最大を示す領域において、特定時間に対する温度上昇量を抽出することを特徴とする、請求項10〜13のいずれかに記載の疲労限度特定方法。
【請求項15】
前記疲労限度を特定する工程は、高サイクル疲労に相当する応力範囲のデータを用いることを特徴とする、請求項10〜14のいずれかに記載の疲労限度特定方法。
【請求項16】
前記疲労限度を特定する工程は、前記測定対象物に対して加えられる応力の繰返し周波数の1倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量を算出し、試験機荷重に対する前記温度変化量もしくは主応力和が急激な増減を伴わない範囲を用いることを特徴とする、請求項10〜14のいずれかに記載の疲労限度特定方法。
【請求項17】
前記疲労限度を特定する工程は、前記測定対象物に対して加えられる応力の繰返し周波数の2倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量を算出し、主応力和もしくは繰返し周波数の1倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量に対する前記2倍の周波数で高速フーリエ変換した温度変化量が急激な増減を伴わない範囲を用いることを特徴とする、請求項10〜16のいずれかに記載の疲労限度特定方法。
【請求項18】
前記疲労限度を特定する工程は、前記散逸エネルギーを測定する工程で処理された温度画像の温度変化量が最大を示す領域の応力に対する温度変化量をプロットしたグラフにおいて、全データ数をNとして、N−n>1のデータ範囲で最小二乗法により統計処理された近似線Aおよび近似線BN−nの分散をそれぞれA’、B’N−nとし、前記分散A’と前記分散B’N−nの和が最小を満たすnによって決定される少なくとも2本以上の近似線の交点により、前記疲労限度を求めることを特徴とする、請求項10〜17のいずれかに記載の疲労限度特定方法。
ただし、n=3、4、・・・・、N‐n>1である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2012−163420(P2012−163420A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23382(P2011−23382)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名:東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム専攻、主催者名:国立大学法人東京工業大学、開催日:2011年1月6日
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】