説明

疼痛に影響を及ぼす化合物の同定、さらには痛覚過敏を診断する方法に関連する方法及び使用

本発明は、疼痛に影響を及ぼす化合物を同定する方法、疼痛に影響を及ぼす化合物を同定するためのLrrfip1核酸又はLrrfip1タンパク質の使用、さらにはそれらを含む痛覚過敏を診断する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疼痛に影響を及ぼす化合物を同定する方法、疼痛に影響を及ぼす化合物を同定するためのLrrfip1核酸又はLrrfip1タンパク質の使用、さらにはそれらを含む痛覚過敏(algesia)を診断する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
身体的疼痛は、侵害性刺激又は身体的危害の不快な自覚として説明され得る典型的な感覚の経験である。個体は様々な日々の傷及び痛みにより、そして時にはより深刻な傷害又は疾病により疼痛を経験する。科学的及び臨床上の目的のために、疼痛は、国際疼痛学会(International Association for the Study of Pain)(IASP)により「実質的若しくは潜在的な組織損傷に結びつく、又はこのような損傷を表す言葉で述べられる不快な感覚的及び情動的体験」と定義される。
【0003】
いずれかの型の疼痛が、米国において医師を受診する最も一般的な理由であり、毎年全ての米国人の半分が診療を求めようとする。これは多くの医学的状態において主要な症状であり、人のクオリティオブライフ及び全身の機能にかなり干渉する。診断は、期間、強度、型(鈍痛、灼熱痛、拍動痛又は刺痛)、発生源、又は身体における位置にしたがって様々な方法で疼痛を特徴付けることに基づく。通常、疼痛は処置せずに止まるか、又は安静若しくは鎮痛剤の服用のような単純な処置に反応し、その結果これは「急性」痛と呼ばれる。しかし難治性にもなり得、そして慢性痛と呼ばれる状態に発展し得、この場合、疼痛はもはや症状ではなくそれ自体が疾病とみなされる。近年、疼痛の研究は、薬理学、神経生物学、看護、歯科学、理学療法、及び心理学のような多くの様々な分野で注目を集めている。
【0004】
疼痛は身体の防御系の一部であり、痛刺激からの後退のための反射刺激を引き起こし、そして未来のその特定の有害な状況の回避を増大させるために行動を調節するのに役立つ。
【0005】
疼痛の医学的管理は、急性痛と慢性痛との区別を生じた。急性痛は「通常の」疼痛であり、これは足指を傷つけるが、骨折するか、歯痛を有するか、又は大規模な外科手術後に歩く場合に感じられる。慢性痛は、「疼痛疾患」であり、これは来る月も来る月も毎日感じられ、そして治癒が不可能のように思える。
【0006】
一般に、医師は急性痛の方をより容易に処置し、急性痛は通常、数ある原因の中でも軟組織損傷、感染及び/又は炎症により引き起こされる。これは通常、医薬(通常は鎮痛薬)、又は原因を除去し、痛覚を制御するための適切な技術と同時に処置される。急性痛処置の失敗は、いくつかの場合に慢性痛をもたらし得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
疼痛の処置のための一連の薬剤が公知である。しかし、副作用及び抵抗性は、公知の鎮痛薬に付随する一般的な問題である。従って、補足的及び代替の医薬を人々が使用する最も一般的な理由が疼痛であるということが米国人成人の調査で分かったことは驚くにあたらない。
【0008】
これにより、疼痛治療のための新しいアプローチ及び標的がまだ必要とされていることが分かった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
驚くべきことに、Lrrfip1が疼痛に影響を及ぼすということが今や見出された。疼痛に影響を及ぼす遺伝子の同定のためのスクリーニングアッセイにおいて、それらの痛覚感受性が異なる3つの異なる近交系マウス系統を調べた。種々の遺伝子の発現は、マウス系統の痛覚感受性と相関していた。疼痛感受性と発現との間に最も高い相関を示す遺伝子の中にLrrfip1があった(実施例を参照のこと)。従って、Lrrfip1は疼痛に影響を及ぼす化合物の同定のため、及び痛覚過敏の診断のための興味深い標的である。
【0010】
従って、本発明は、第一及び第二の局面において、疼痛に影響を及ぼす化合物を同定する方法を提供し、該方法は:
a) Lrrfip1核酸又はLrrfip1タンパク質若しくはその機能的に活性な変異体を含む試験系を備える工程、
b) 試験系を試験化合物と接触させる工程、及び
c) 試験系に対する試験化合物の効果を決定する工程
を含み、ここで試験化合物は、コントロールと比較して試験系に対する試験化合物の有意な効果が検出される場合に、疼痛に影響を及ぼす化合物であると同定される。
【0011】
本発明の第一の局面は、Lrrfip1核酸を含む試験系に関し、そして第二の局面は、Lrrfip1タンパク質又はその機能的に活性な変異体を含む試験系に関する。
【0012】
本発明の試験系は、疼痛に影響を及ぼす機構を解明するために使用され得る。特に、本試験系は、疼痛に影響を及ぼす薬剤を開発、同定及び/又は特徴付けするために使用され得、これらはLrrfip1核酸又はタンパク質と相互作用し、特にそれらを活性化又は不活化する。同定された薬剤は、疼痛、特に神経障害性疼痛の処置において使用され得る興味深い治療薬であるかもしれない。あるいは、Lrrfip1は痛覚過敏の診断において使用され得る。
【0013】
様々な試験設計が当該分野で知られており、本発明の試験系はこれらに適応され得る。例となる試験に関するさらなる詳細は、本発明の方法において示される。試験系は、試験化合物の試験系に対する効果を決定するために使用され得る。当業者は、例えば意図される特定の試験方法に適した、広く行われている方法に関連して必要とされるさらなる薬剤を加えることにより、試験系を設計することができるだろう。
【0014】
Lrrfip1核酸又はタンパク質若しくはその機能的に活性な変異体に加えて、本発明の試験系は1つ又はそれ以上のさらなる構成要素を含み得る。試験設計及び検出方法に依存して、試験系は、例えば公知のLrrfip1リガンド、Lrrfip1シグナル伝達の構成要素、検出手段などを含み得る。当業者は、研究設計に試験系を適応させること、すなわち適切な緩衝液、補因子、基質、1つ若しくはそれ以上の異なる抗体、マーカー、酵素又はいずれかの他の必要な薬剤を選択することができるだろう。試験系は、一般的な条件下で、必要に応じて細胞系でも無細胞系でもよい。
【0015】
本発明の方法の第一の工程において、Lrrfip1核酸、例えばLrrfip1遺伝子又はLrrfip1 cDNA若しくはLrrfip1mRNA若しくはLrrfip1プロモーター、又はタンパク質を含む試験系を備える。
【0016】
Lrrfip1遺伝子又は同意語としてGCF2、TRIP若しくはFlap遺伝子は、転写抑制因子Lrrfip1をコードする。Lrrfip1はまた、ロイシンリッチ反復flightless相互作用タンパク質1、LRR FLII相互作用タンパク質1、TAR RNA相互作用タンパク質、GC結合因子2、GCリッチ配列DNA結合因子、FLI−LRR関連タンパク質1又は短いFlap−1、H186 FLAP、tcf−9、tcf9、転写因子9又はNEDD8結合酵素とも呼ばれる。
【0017】
Lrrfip1タンパク質はLRRFIPファミリーに属する。認識されている転写因子ファミリーにほとんど相同性のない、十分に理解されていないタンパク質である。これは以前に、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)のFlightless−Iのヒトオルソログと相互作用するタンパク質として同定された。このタンパク質は、GCリッチコンセンサス配列5'−AGCCCCCGGCG−3'(配列番号7)に優先的に結合する転写抑制因子として作用する。これは、TNF、EGFR及びPDGFAの発現を調節することが示されている。それにより、Lrrfip1は、TNF−αを産生しない細胞においてヌクレオチド308においてTNT−αプロモーターの多型プロモーター部位を占めるTNF−α抑制因子であると報告されている。TNF−α 308プロモーター多型は、統計的に様々な自己免疫障害と関連するGからAへの転移である。いくつかの研究は、ある状況ではこれが直接的にTNF−αの増加した転移を媒介し得るということを見出した。さらに、Lrrfip1タンパク質は、NF−カッパB活性の正の調節因子である。これは、動脈損傷後にPDGFA抑制により平滑筋細胞増殖を制御し、そして二本鎖RNAに結合するということも示されてきた。これはFLIIとも相互作用し得る。Lrrfip1と乳房腫瘍及び神経繆芽腫との間に関係があるように思われる。Lrrfip1は広範に発現され、そして細胞質及び核に位置する。
【0018】
ヒトLrrfip1は808個のアミノ酸から構成される(UniProtKB/Swiss−Prot Q32MZ4 (LRRF1_HUMAN;配列番号1を参照のこと)。アミノ酸配列485〜584はDNA結合ドメインを構成し、アミノ酸128〜250はコイルドコイルドメインを構成し、そしてアミノ酸567〜593はLysリッチドメインを表す。
【0019】
【表1】

【0020】
このタンパク質内にはいくつかのアミノ酸修飾が存在する。アミノ酸16、115、116、120、124、521、581、618、638、713、714及び733はホスホセリン残基であり、そしてアミノ酸123、295、676及び711はホスホスレオニン残基である。
【0021】
選択的スプライシングにより産生される3つのアイソフォームが報告されている。配列番号1で示されるアイソフォーム1(識別子:Q32MZ4−1)、アミノ酸137〜160が欠けている点でアイソフォーム1と異なるアイソフォーム2(識別子:Q32MZ4−2)、並びにアミノ酸52〜83及び137−160が欠けている点でアイソフォーム1と異なるアイソフォーム3(識別子:Q32MZ4−3)。
【0022】
一連の天然変異体が報告されている、すなわち乳癌サンプルにおける68S→C(VAR_036037)、275 Q→R(VAR_027291) dbSNP、418N→S(VAR_027292) dbSNP、609E→K(VAR_027293) dbSNP、633K→E(VAR_056111) dbSNP、645P→L(VAR_027294) dbSNP、779R→G(VAR_027295) dbSNP及び783H→D(VAR_027296) dbSNP。
【0023】
ヒト遺伝子Lrrfip1は第2染色体上の2q37.3に位置する。
【0024】
マウスLrrfip1は729個のアミノ酸から構成される(UniProtKB/Swiss−Prot Q3UZ39 (LRRF1_Mouse;配列番号2)を参照のこと)。アミノ酸配列465〜567はDNA結合ドメインを構成し、アミノ酸94〜194はコイルドコイルドメインを構成し、そしてアミノ酸530〜563はLysリッチドメインを表す。
【0025】
【表2】

【0026】
このタンパク質内にはいくつかのアミノ酸修飾が存在する。アミノ酸16、83、84、88、92、302、501、614及び658はホスホセリン残基であり、そしてアミノ酸91及び239はホスホスレオニン残基である。
【0027】
選択的スプライシングにより産生される3つのアイソフォームが報告されている:配列番号2で示されるアイソフォーム1(識別子:Q3UZ39−1)、
− アミノ酸51(E)が
EIYQVQKKYYGLDTKWGDIEQWMEDSERYSRRFRRNTSASDEDERLSVGSRGSLRTNGYDGDYCGSQSLSRRSGRGLSCSNLGLPSSGLASKPLSTQNGSRASMLDESSLYGARRGSACGSRAPSEYGSHLNSSSRASSRASSARASPV 配列番号3
により置き換えられている
− アミノ酸104(I)が
IKELNELKDQIQDVEGKYMQGLKEM 配列番号4
により置き換えられている
− アミノ酸193(E)が
EEIRQLQQKQAGFIREISDLQETIEWKDKKIGALERQKEFFDSIRSERDDLREETVKLKEELK 配列番号5
により置き換えられている
− アミノ酸241〜394(GKA...IDK)が
DVRLKKLIDERECLLEQIKKLKGQLEGRQKNNKLDLLRAEDGILENGTDAHVMDLQRDANRQISDLKFKLAKSEQEITALEQNVIRLESQVTRYRSAAENAEKIEDELKAEKRKLQRELRSALDKTEELEVSNGHLVKRLEKMKANRSALLSQQ 配列番号6により置き換えられている
− そしてアミノ酸395〜729が欠けている
という点においてアイソフォーム1と異なるアイソフォーム2(識別子:Q3UZ39−2)。
【0028】
アイソフォーム3(識別子:Q3UZ39−3)は、アミノ酸1〜239が欠けており、そしてアミノ酸240(L)がMで置き換えられているという点においてアイソフォーム1と異なる。
【0029】
Lrrfip1タンパク質のさらなるアイソフォームも公知であり、これは受入番号NP_001104782.1でNCBI(National Centre for Biotechnology Information; National Library of Medicine 38A,Bethesda, MD20894,USA; www.ncbi.nih.gov;対応する核酸配列:NM_001111312.1)から入手可能である。このアイソフォームは実施例において同定されており、それ故マウスに関して好ましい。
【0030】
さらに、以下の種変異体が例示される:
【表3】

【0031】
従って、用語Lrrfip1は天然に存在する変異体も包含する。
【0032】
天然に存在しない変異体は、限定された数のアミノ酸欠失、挿入及び/又は置換、特に多くとも10、9、8、7、6、5、4、3、2又は1つのアミノ酸の欠失、挿入及び/又は置換により得られ得る。
【0033】
変異体がその生物学的機能、例えばその疼痛(例えば疼痛表現型「機械性痛覚過敏(mechanic hyperalgesia)」の発現として)又は補体古典経路への関与を維持するという点において、本発明のLrrfip1変異体は機能的に活性な変異体であることに留意するべきである。好ましくは、生物学的機能の維持は、天然に存在するLrrfip1の活性の少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、80%又は90%、なおより好ましくは95%を有することと定義される。生物学的活性は、当業者に知られているように決定され得る。例えば、疼痛表現型「機械性痛覚過敏」の発現は、実施例及びPersson et al.,2009,Molecular Pain5:7に詳述されるように決定され得る。
【0034】
変異体はさらなる構成要素を含むように改変され得る。従って変異体は、天然に存在するLrrfip1タンパク質又は本明細書において詳述されるその変異体、及び少なくとも1つのさらなる構成要素から構成されるドメインを有する分子であり得る。1つの好ましい実施態様において、変異体は、(i)Lrrfip1タンパク質又はその機能的に活性な変異体、及び(ii)さらなるタンパク質構成要素を含む融合タンパク質であり得る。例えば、タンパク質は、マーカー、例えば精製目的で使用されるタグ(例えば6His(又はHexaHis)タグ、Strepタグ、HAタグ、c−mycタグ又はグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)タグ)とカップリングされ得る。例えば高度に精製されたLrrfip1タンパク質又は変異体が必要とされる場合、二重又は多重マーカー(例えば上記のマーカー又はタグの組み合わせ)が使用され得る。この場合、タンパク質は2つ又はそれ以上の分離クロマトグラフィー工程で精製され、各場合において、第一のタグ、次いで第二のタグの親和性を利用する。このような二重又はタンデムタグの例は、GST−His−タグ(ポリヒスチジン−タグに融合されたグルタチオン−S−トランスフェラーゼ)、6xHis−Strep−タグ(Strep−タグに融合された6つのヒスチジン残基)、6xHis−tag100−タグ(哺乳動物MAPキナーゼ2の12アミノ酸のタンパク質に融合された6つのヒスチジン残基)、8xHis−HA−タグ(赤血球凝集素−エピトープ−タグに融合された8つのヒスチジン残基)、His−MBP(マルトース結合タンパク質に融合されたHis−タグ)、FLAG−HA−タグ(赤血球凝集素−エピトープ−タグに融合されたFLAG−タグ)、及びFLAG−Strep−タグである。タグ化タンパク質を検出するためにマーカーを使用することができ、ここで特異的抗体が使用され得る。適切な抗体としては、抗HA(例えば12CA5又は3F10)、抗6His、抗c−myc及び抗GSTが挙げられる。さらに、Lrrfip1タンパク質は、異なる分類のマーカー、例えば蛍光マーカー又は放射性マーカーに連結され得、これによりLrrfip1の検出が可能となる。さらなる実施態様において、Lrrfip1は融合タンパク質の一部であり得、ここで酵素活性を有するタンパク質構成要素のような第二の部分が検出のために使用され得る。
【0035】
本発明の別の実施態様において、Lrrfip1変異体はLrrfip1フラグメントであり得、ここでこのフラグメントはなお機能的に活性である。これには、短い内部及び/又はC末端及び/又はN末端の欠失(例えば、多くとも20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、又は1つのアミノ酸の欠失)を有するLrrfip1タンパク質が含まれ得る。さらに、Lrrfip1フラグメントは、Lrrfip1タンパク質について上で詳述されるようにさらに改変され得る。
【0036】
あるいは、又はさらに、Lrrfip1タンパク質又は上記のようなその変異体は、1つ又はそれ以上のアミノ酸置換を含み得る。しかし、半保存的及び特に保存的なアミノ酸置換(ここではアミノ酸は化学的に関連したアミノ酸で置換される)が好ましい。典型的な置換は、脂肪族アミノ酸間、脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸間、酸性残基を有するアミノ酸間、アミド誘導体間、塩基性残基を有するアミノ酸間、又は芳香族残基を有するアミノ酸間である。典型的な半保存的及び保存的置換は:
【表4】

である。
【0037】
A、F、H、I、L、M、P、V、W又はYからCへの変更は、新しいシステインが遊離チオールのままである場合は半保存的である。さらに当業者は、立体的に厳しい位置のグリシンは置換されるべきではなく、そしてPはアルファヘリックス構造又はベータシート構造を有するタンパク質の部分に導入されるべきではないということを理解するだろう。
【0038】
置換を有するLrrfip1タンパク質又はフラグメント又は変異体は、Lrrfip1タンパク質又はフラグメント又は変異体について上で詳述したように改変され得る。以下の本発明の説明において、Lrrfip1タンパク質に関して示される全ての詳細は、別の記載がなければ、その機能的に活性な変異体にも関連する。
【0039】
Lrrfip1タンパク質の上記の改変を組み合わせてもよいということに留意する。本発明の変異体は、例えばそれに融合されたマーカーを有するLrrfip1のフラグメント、又は1つ若しくはそれ以上のアミノ酸置換を含むLrrfip1タンパク質フラグメントであり得る。
【0040】
しかし、最も好ましくは、Lrrfip1タンパク質は、上で詳述したように天然に存在するLrrfip1タンパク質であり、なおより好ましくは、天然に存在するヒトLrrfip1タンパク質(例えば配列番号1)である。
【0041】
用語Lrrfip1核酸は、上記のLrrfip1タンパク質、さらにはその天然に存在する変異体及び天然に存在しない変異体(本明細書で定義されるとおり)をコードする核酸を包含する。好ましくは、この用語はLrrfip1遺伝子のコード領域又は非コード領域に関し、ここでこれらの部分はその遺伝子に対して特異的であるように関連するサイズのものである。そのような領域の例は、イントロン、エキソン又はLrrfip1プロモーターのような調節エレメントである。
【0042】
最も好ましいLrrfip1核酸は、上で詳述したように天然に存在するLrrfip1タンパク質をコードし、なおより好ましくは、天然に存在するヒトLrrfip1タンパク質(例えば配列番号1)をコードする。核酸は、遺伝情報を保有する、単量体ヌクレオチドの鎖から構成されるいずれかの高分子であり得、又は細胞内で構造を形成し得る。最も一般的な(それ故好ましい)核酸はデオキシリボ核酸(DNA)及びリボ核酸(RNA)である。最も好ましくは、用語Lrrfip1核酸はLrrfip1遺伝子、プロモーター、DNA、cDNA又はmRNAに関する。
【0043】
人工核酸としては、ペプチド核酸(PNA)、モルホリノ及びロックド(locked)核酸(LNA)、さらにはグリコール核酸(GNA)及びトレオース核酸(TNA)が挙げられる。これらはそれぞれ、分子の骨格に対する変更により天然に存在するDNA又はRNAと区別される。
【0044】
本発明の方法の第二の工程において、Lrrfip1核酸又はタンパク質若しくはその機能的に活性な変異体を含む試験系を、薬剤又は試験化合物と一定時間、試験系に対する効果を有しそれを検出するために適した条件下で接触させる。
【0045】
適切な条件としては、例えば含まれるタンパク質の変性を回避するため、又は存在する場合は生存可能な細胞を維持するために適切な温度及び溶液が挙げられる。適切な条件は、選択された特定の試験系に依存し、そして当業者は当業者の一般的な知識に基づいてそれを選択することができる。インキュベーション工程は約5秒から数時間まで、好ましくは約5分から約24時間まで変化し得る。しかし、インキュベーション時間は、アッセイ形式、マーカー、溶液の体積、濃度などに依存する。通常は、アッセイは周囲温度で行われるが、それらは10℃〜40℃のようなある範囲の温度にわたって行われ得る。
【0046】
本発明の試験系を用いて試験される薬剤は、いずれかの化学的性質の試験物質又は試験化合物であり得る。これは疾患のための薬物又は医薬として既に公知であってもよい。あるいは、別の実施態様において治療効果を有することが未だ公知ではない公知の化学化合物であってもよく、そしてこの化合物は新規であってもそれまでに未知の化学化合物であってもよい。薬剤は試験物質又は試験化合物の混合物であってもよい。
【0047】
本発明のスクリーニング方法の一実施態様において、試験物質は化学化合物ライブラリーの形態で提供される。化学化合物ライブラリーは複数の化学化合物を含み、そして化学的な合成分子若しくは天然産物を含む多数の供給源のいずれかから集められたものであるか、又はコンビナトリアルケミストリー技術により生成されたものである。これらはハイスループットスクリーニングに特に適しており、そして特定の構造の化学化合物又は植物のような特定の生物からの化合物から構成され得る。本発明の状況において、化学化合物ライブラリーは好ましくはタンパク質及びポリペプチド又は小有機分子を含むライブラリーである。好ましくは、小有機分子は500ダルトン未満のサイズであり、特に可溶性の非オリゴマー有機化合物である。
【0048】
本発明の方法の第三の工程において、試験系に対する試験化合物の効果が検出される。以下において、一連の様々な検出系がより詳細に記載される。しかし当然のことながら、これらは例示であり、他の試験系及び方法も適切であり得る。
【0049】
試験化合物が試験系に対して特異的で有意な効果を有する場合、その試験化合物は疼痛に影響を及ぼす化合物として同定される。このために、試験化合物の効果をコントロール、特にネガティブコントロールと比較する。
【0050】
コントロールは意図されない影響(例えばバックグラウンドシグナル)を排除又は最少にすることができるので、試験方法の一部である。特定の系に対する変数の効果を調べるために対照実験を使用する。対照実験において、一組のサンプルは改変されており(又は改変されると考えられる)、他の組のサンプルは変化を示さないと期待されるか(ネガティブコントロール)又は明確な変化を示すと期待される(ポジティブコントロール)。コントロールは、試験物質と一緒に行われる1つの試験において決定され得る。それは試験化合物の効果を決定する前に決定されても後に(before of after)決定されてもよく、又は既知の値であり得る。
【0051】
試験系に対する効果を有する試験化合物は、試験系のシグナルの変化、増加又は減少を生じ得る。本発明の状況において、試験化合物と接触された試験系がコントロール(例えば、試験化合物と接触されていない試験系)より有意に低いか又は高いシグナルを生じる場合に、試験化合物はコントロールと比較して効果を有する。当業者は、2つの値が互いに有意に異なるか否かを評価するための統計的手順、例えばスチューデントt検定又はカイ二乗試験を知っている。さらに、当業者は、適切なコントロールを選択する方法を知っている。
【0052】
好ましい実施態様において、試験系のシグナルは、試験化合物によりコントロール(ポジティブ又はネガティブのいずれか)の少なくとも10%、好ましくは少なくとも25%、より好ましくは少なくとも50%、なおより好ましくは少なくとも75%、そして最も好ましくは少なくとも90%だけ変更される。
【0053】
本発明の方法のために、いずれかの適切な検出方法が使用され得る。適切な方法は、試験しようとする試験系及び薬剤の特徴に依存して選択され得る。
【0054】
本方法は、不均一アッセイでも均一アッセイでもよい。本明細書で使用される不均一アッセイは、1つ又はそれ以上の洗浄工程を含むアッセイであり、一方、均一アッセイは、このような洗浄工程を必要としない。試薬及び化合物は単に混合されて測定される。
【0055】
試験方法は連続アッセイでも不連続アッセイでもよい。連続アッセイにより、さらなる作業の必要なく反応速度が得られる。多くの様々な型の連続アッセイがある。分光光度計アッセイにおいて、反応過程は吸光度の変化を測定することにより追跡される。蛍光は、分子がある波長の光を吸収した後に異なる波長の光を放射する場合である。蛍光測定アッセイは、基質の蛍光の生成物との差異を使用して酵素反応を測定する。これらのアッセイは、一般的に分光光度アッセイよりもかなり高感度であるが、不純物により生じる干渉、及び露光された場合の多くの蛍光性化合物の不安定性に悩まされ得る。熱量測定は、化学反応により放出又は吸収された熱の測定である。多くの反応はいくらかの熱の変化を含み、マイクロ熱量計を用いて多くの酵素又は基質を必要としないので、これらのアッセイは非常に一般的である。これらのアッセイを、他のいずれの方法でもアッセイを行うことが不可能である反応を測定するために使用することができる。化学発光は、化学反応による光の放射である。いくつかの酵素反応は光を生じ、そしてこれを、生成物の形成を検出するために測定することができる。生じる光は数日又は数週にわたって写真フィルムにより捕捉され得るので、これらの型のアッセイは非常に高感度であり得るが、反応により放出される全ての光が検出されるわけではないので定量は困難であり得る。静的光散乱は、質量平均モル質量と溶液中の高分子の濃度の積を測定する。測定時間の間の1つ又はそれ以上の種の固定された総濃度を仮定して、散乱シグナルは溶液の質量平均モル質量の直接的尺度であり、これは複合体形態か解離するかによって変化する。従って、測定は複合体の化学量論、さらには速度論を定量化する。タンパク質動力学光散乱アッセイは、酵素を必要としない非常に一般的な技術である。
【0056】
不連続アッセイは、サンプルが間隔を置いて酵素反応から取られる場合であり、生成物の産生又は基質の消費の量はこれらのサンプルにおいて測定される。放射測定アッセイは、基質中への放射能の取り込み、又は基質からのその放出を測定する。これらのアッセイにおいて最も頻繁に使用される放射性同位体は、14C、32P、35S及び125Iである。放射性同位体は基質の単一の原子の特異的標識を可能にし得るので、これらのアッセイは非常に高感度及び特異的の両方である。これらは生化学において頻繁に使用され、そしてしばしば粗製抽出物において特定の反応を測定する唯一の方法である。クロマトグラフィーアッセイは、クロマトグラフィーにより反応混合物をその構成成分に分離することにより生成物形成を測定する。これは通常、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により行われるが、より単純な技術の薄層クロマトグラフィーを使用することもできる。このアプローチは多くの材料を必要とし得、その感受性は基質/生成物を放射能又は蛍光タグで標識することにより増加させることができる。
【0057】
本発明によれば、試験化合物の効果は、Lrrfip1核酸又はタンパク質との相互作用によるものであり得る。従って、Lrrfip1核酸又はタンパク質に対する試験化合物の相互作用/結合は、(i)Lrrfip1核酸又はタンパク質、及び(ii)試験化合物の複合体を検出することにより決定され得る。2つ又はそれ以上の構成要素の複合体を検出する適切な方法を以下に詳述する。
【0058】
あるいは、試験化合物の効果、例えば結合、及びLrrfip1核酸又はタンパク質の影響は間接的に検出され得る。このために、Lrrfip1核酸又はタンパク質の下流での効果が検出され得る。例えば、Lrrfip1に関連する転写及び翻訳に対する効果が決定され得る。一実施態様において、Lrrfip1mRNA又はLrrfip1タンパク質の量が検出される。
【0059】
特定のタンパク質又は他の核酸の存在又は量を測定するために設計された多くの公知の検出方法は、タグ、マーカー又は標識の使用に依存する。試験系の構成要素又は試験化合物は、十分な検出又は精製を可能にするために様々な方法で標識され得る。1つの好ましい実施態様において、検出可能なマーカーは、試験系に対する効果を検出するために使用される。このために、(i)核酸若しくはLrrfip1タンパク質、(ii)試験化合物、及び/又は(iii)試験系のさらなる構成要素が少なくとも1つの検出可能なマーカーで標識され得る。
【0060】
一般的な標識方法が、構成要素の1つ又はそれ以上の官能基の標識のために使用され得る。タンパク質については、これらは例えば、各ポリペプチド鎖のN末端及びリジン残基の側鎖に存在する、第一級アミノ基;ジスルフィド結合を還元剤で処理するか若しくはリジン残基をスクシンイミジル−S−アセチルチオアセテート(SATA)のような試薬で修飾することにより利用可能にされたシステイン残基に存在するスルフヒドリル基;又は通常は抗体のFc領域に存在する炭水化物基(酸化されてカップリングのために活性なアルデヒドを生じ得る)であり得る。構成要素又は化合物は、一連の様々な薬剤、例えばビオチン(アビジン−ビオチン化学のため)、酵素、例えばFITC、フルオレセイン、ローダミン、Cy色素若しくはAlexa fluosでアミン、スルフヒドリル又は他の官能基を標識するための活性化蛍光色素で標識され得る。3H、32P、35S、125I又は14Cのような放射性標識、さらにはペニシリナーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ及びアルカリホスファターゼを含む一般的な酵素標識も使用され得る。
【0061】
本発明の実施態様において、マーカーは放射標識、特に3H、32P、33P、35S、125I、又は14Cである。
【0062】
別の実施態様において、マーカーは1つ又はそれ以上の蛍光マーカーである。適切な蛍光マーカーは、本発明の方法の文脈において記載される。
【0063】
その化学的タグ、マーカー又は標識を介して検出可能である標的特異的プローブの使用はこれらの方法において特に有用である。抗体は最も一般的な型のプローブであり;特定の抗原に対するそれらの結合親和性により、それらの標的が複雑なサンプル中で「発見され」そして検出されることが可能となる。しかし、抗体はそれ自体タンパク質であり、そしてそれらは、それらが可視化のために標識されなければ、又は標識される別の分子で二次的にプローブ化(probed)されなければ、アッセイ系において特異的に検出可能でない。
【0064】
マーカー(又はタグ又は標識)は、別の物質又は物質の複合体の存在を示すことができるいずれかの種類の物質である。マーカーは、検出しようとする物質に連結されるか導入される物質であり得る。検出可能なマーカーは、例えばタンパク質、酵素反応の生成物、二次メッセンジャー、DNA、分子の相互作用などを検出するために分子生物学及び生物工学において使用される。適切なマーカー又は標識の例としては、フルオロフォア、発色団、放射標識、金属コロイド、酵素、又は化学発光若しくは生物発光分子が挙げられる。フルオロフォアの例としては、フルオレセイン、ローダミン、及びスルホインドシアニン色素Cy5が挙げられる。放射標識の例としては、3H、14C、32P、33P、35S、99mTc又は125Iが挙げられる。酵素の例としては、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ及びウレアーゼが挙げられる。さらなる例及び好ましい実施態様は本明細書において詳述される。
【0065】
様々な型の化学的標識又はタグを、種々の方法によるそれらの可視化(すなわち、検出及び測定)を容易にするために、二次又は一次抗体及び他の分子に結合させることができる。放射性同位体は過去に広く使用されたが、それらは費用が高く、保存可能期間が短く、シグナル対ノイズ比を改善せず、そして特別な取り扱い及び廃棄を必要とする。酵素及びフルオロフォアは、アッセイのための検出可能タグとして放射性同位体に大部分取って代わった。試薬及び機器における多数の利点は、これらのより新しい技術を多用途で強力にする。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)のような酵素タグは、ブロット法、イムノアッセイ及び免疫組織化学的方法のために最も一般的に使用される。蛍光タグは、主に細胞画像化、核酸増幅及び配列決定並びにマイクロアレイのために使用されるが;しかし、蛍光技術は全ての型のアッセイにおける適用について急速に発展している。
【0066】
タンパク質の検出はしばしば特異的抗体の使用を含む。従って、Lrrfip1タンパク質又はその変異体の検出は、特異的Lrrfip1抗体を含み得る。Lrrfip1に対する抗体は商業的供給源(例えば、Santa Cruz Biotechnology, Inc., Santa Cruz, CA, USAからカタログ番号:sc−66677若しくはsc−66677 P;又はAbcam Inc., Cambridge, MA, USAからカタログ番号:ab77598)から入手可能である。あるいは、準備された形態の抗原を用いて動物を免疫するための十分に確立された技術を使用して抗体を産生させることができる。抗体産生及び精製において補助するための様々な試薬が入手可能であり、そして様々な企業が抗体産生サービスを専門とする。行われる適用に依存して、様々なレベルの純度及び特異性の型が、供給される一次抗体において必要とされる。少しパラメーターを挙げると、抗体はモノクローナル又はポリクローナルであり得、抗血清又は親和性精製溶液として供給され得、そしてネイティブタンパク質又は変性タンパク質検出について検証され得る。
【0067】
標的抗原(ここではLrrfip1又はそのフラグメント)を認識する抗体は、「一次抗体」と呼ばれる。この抗体がタグで標識される場合、抗原の直接的な検出が可能である。しかし通常は、一次抗体は直接検出のために標識されない。代わりに、検出可能なタグで標識されている「二次抗体」が、標的抗原に結合している一次抗体を調べるために第二の工程で利用される。従って、抗原は間接的に検出される。間接的な検出の別の形態は、ビオチンのようなアフィニティータグで標識された一次又は二次抗体を使用することを含む。次いで、検出可能な酵素又はフルオロフォアタグで標識された、ストレプトアビジンのような二次(又は三次)プローブを使用して、検出可能なシグナルを得るためにビオチンタグについて調べることができる。これらの調査及び検出方針のいくつかの変形が存在する。しかし、その存在が直接的又は間接的にある種の測定可能なタグ(例えばその活性がその基質との反応の際に着色生成物を生じ得る酵素)に関連付けられる特異的プローブ(例えば一次抗体)にそれぞれが依存する。
【0068】
通常、検出可能な標識のない一次抗体及びある種の二次(間接的)検出方法がアッセイ方法において必要とされる。それでもなお、ほとんどどの抗体もビオチン、HRP酵素又はいくつかのフルオロフォアのうちの1つで必要な場合は標識され得る。大部分の一次抗体はマウス、ウサギ、又はいくつかの他の種のうちの1つで産生される。これらのほとんど全てがIgGクラスの抗体である。従って、製造業者が大部分の適用及び検出系のためのすぐに使える標識された二次抗体を製造及び供給することは比較的容易で経済的である。それでも、純度のレベル、IgG特異性及び種特異性、並びに検出標識において異なる数百の選択肢が利用可能である。二次抗体の選択は、一次抗体が産生された動物種(宿主種)に依存する。例えば、一次抗体がマウスモノクローナル抗体である場合、二次抗体はマウス以外の宿主から得られた抗マウス抗体でなければならない。
【0069】
ビオチン結合タンパク質をプローブとして用いて、ビオチンとアビジン又はストレプトアビジンタンパク質との間の高度に特異的な親和性相互作用は、多くの種類の検出方法及びアフィニティー精製方法の基礎である。ビオチンは非常に小さい(244ダルトン)ので、抗体又は他のプローブへのその共有結合がそれらの機能を妨げることはほとんどない。けれども、プローブ上の標識としてのその存在は、アビジン又はストレプトアビジンのいずれかを用いた効率的で特異的な二次検出を可能にする。両方の種類のビオチン結合タンパク質が、多くの種類のアッセイ系で検出を可能にする酵素タグ又は蛍光タグで標識された精製形態で入手可能である。
【0070】
酵素標識は、ブロット法及びイムノアッセイにおける検出のための二次抗体(又はストレプトアビジン)タグとして最も一般的に使用される。酵素はそれらの活性を介して検出可能なシグナルを生じ;特定の基質化学物質との反応により着色しているか、発光するか又は蛍光性の生成物を生じる。ベータ−ガラクトシダーゼ及びルシフェラーゼのようなレポーター酵素はプローブを作製するために首尾よく使用されてきたが、アルカリホスファターゼ(AP)及び西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)は、タンパク質検出のための標識として最も広く使用される2つの酵素である。数々の発色性、蛍光性及び化学発光性の基質がいずれかの酵素との使用のために利用可能である。
【0071】
通常は仔ウシ腸から単離されるアルカリホスファターゼは、基質分子由来のホスフェート基の加水分解を触媒して、反応の副生成物として着色若しくは蛍光性の生成物を生じるか又は光を放出する大きな(140kDa)タンパク質である。APは塩基性pH(pH8〜10)で最適な酵素活性を有し、そしてシアニド、ヒ酸塩、無機リン酸塩及び二価カチオンキレート剤、例えばEDTAにより阻害され得る。ウェスタンブロット法のための標識として、APは他の酵素に勝る独特の利点を提供する。その反応速度は線形のままであるので、検出感度は単により長い時間反応を進行させることにより改善され得る。
【0072】
西洋ワサビペルオキシダーゼは40kDaタンパク質であり、過酸化水素による基質の酸化を触媒し、反応の副生成物として着色若しくは蛍光性の生成物又は光の放出を生じる。HRPは中性付近のpHで最適に機能し、そしてシアニド、スルフィド及びアジドにより阻害され得る。抗体−HRP結合体は、酵素及び抗体の両方の特異的活性に関して抗体−AP結合体より優れている。さらに、その高い代謝回転速度、良好な安定性、低い費用、及び基質の広い入手可能性は、大部分の適用についてHRPを最適な酵素にしている。HRP酵素の小さいサイズのために、感度のさらなる増加が、ポリ−HRP結合体化二次抗体を使用することにより達成され得、そして一部の研究者らについてABC型増幅システムを使用する必要性を排除し得る。
【0073】
検出のための蛍光標識は、フローサイトメトリー(FC)、蛍光活性化細胞分類(FACS)及び蛍光顕微鏡を使用する免疫組織化学(IHC)のような少数の細胞生物学の適用において歴史的に使用された。最近まで、プローブを標識するための2つの最も一般的なフルオロフォアはフルオレセイン(フルオレセインイソチオシアネート、FITC)及びローダミン(テトラメチルローダミンイソチオシアネート、TRITC)であった。他の標識としては、蛍光性タンパク質、例えば種々の形態の緑色蛍光タンパク質(GFP)及びフィコビリタンパク質(アロフィコシアニン、フィコシアニン、フィコエリトリン及びフィコエリトロシアニン)が挙げられる。検出のための強い蛍光シグナルを生じる能力を有するが、蛍光性タンパク質は結合目的のために最適化することが困難であり得、そして結合アッセイにおいて立体障害又はバックグラウンドシグナルの問題を生じ得る。
【0074】
ブロット法及びイムノアッセイにおけるフルオロフォア結合プローブの使用は、基質生成工程を行う必要がないために、酵素標識の使用と比較してより少ない工程しか必要としない。プロトコルはより短いが、蛍光検出は特別な装置を必要とし、そして感度は酵素化学発光系で得られ得る感度ほど高くない。酵素検出ほど高感度ではないが、蛍光検出方法は化学廃棄物を減少させ、そしてマルチプレックス適合性(1つより多くのフルオロフォアを同じ実験で使用する)という追加の利点を有する。
【0075】
あるいは、又はさらに、2つの物質、例えば試験化合物又は既知のLrrfip1リガンド及びLrrfip1タンパク質が近接していることを検出するために2つのマーカーが使用され得る。これらのマーカーは、例えば1つの放射性若しくは蛍光マーカー及び1つのシンチレーター(例えばシンチレーション近接アッセイのため)であり得、又は2つの蛍光マーカーが使用され得る(例えばFRETのため)。一例において、Lrrfip1タンパク質及び試験物質は第一のマーカー及び第二のマーカーで標識され得る。試験物質がタンパク質に結合され、それ故、標識が近接している場合、エネルギーは第一の標識から第二の標識に移動され得、それ故Lrrfip1タンパク質と試験物質との相互作用を検出する。この試験は競合結合試験として設計され得、ここで既知のLrrfip1リガンドは標識のうちの1つを有する。
【0076】
適切なマーカーの組み合わせの例としては、
− 例えば微粒子に分けられたケイ酸イットリウム若しくはポリビニル−トルエンのようなシンチレータと組み合わされた、放射標識3H、33P、35S若しくは14C、125I又は
− アクセプター蛍光マーカー、例えばLC−Red 610、LC−Red 640、LC−Red 670、LC−Red 705、Cy5、Cy5.5、リサミンローダミンBスルホニルクロリド、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、ローダミンxイソチオシアネート、エリスロシンイソチオシアネート、フルオレセイン、ジエチレントリアミン五酢酸又はランタニドイオン(例えばユーロピウム、又はテルビウム)の他のキレートと組み合わされた、ドナー蛍光マーカー、例えばフルオレセイン、ルシファーイエロー、B−フィコエリトリン、9−アクリジンイソチオシアネート、ルシファーイエローVS、4−アセトアミド−4'−イソチオシアナトスチルベン−2,2'−ジスルホン酸、7−ジエチルアミノ−3−(4'−イソチオシアナトフェニル)−4−メチルクマリン、1−ピレン酪酸スクシンイミジル、及び4−アセトアミド−4'−イソチオシアナトスチルベン−2,2'−ジスルホン酸誘導体
が挙げられる。
【0077】
抗体による検出の代替として、本発明の方法は競合結合実験として設計され得、ここで、試験物質によるLrrfip1からの既知のLrrfip1リガンドの結合の置き換えが調べられる。タンパク質からの既知のリガンドの成功した置き換えは、タンパク質に対する試験物質の結合の指標である。このアプローチにおいて、(例えばライブラリーの)複数の試験化合物の簡便な試験を可能にする既知のLrrfip1リガンドを標識することは有利であり、それにより、試験化合物のそれぞれを標識する必要はない。
【0078】
リガンドは、生体分子、本明細書では例えばLrrfip1タンパク質又は核酸に結合してそれと複合体を形成することができる物質である。それはイオン結合、水素結合及びファン・デル・ワールス力のような分子間力による、生体分子上の部位への分子の結合である。ドッキング(結合)は通常可逆的(解離)である。リガンドとその標的分子との間の実際に不可逆的な共有結合は生体系では稀である。生体分子に対するリガンド結合はその活性、例えば下流シグナル伝達を活性化するその能力を変更し得る。リガンドには阻害剤及び活性化因子が含まれる。
【0079】
阻害剤は、酵素に結合してそれらの活性を減少させる分子である。酵素の活性をブロックすることは代謝不均衡を補正し得るので、多くの薬物は酵素阻害剤である。酵素に結合する分子が全て阻害剤であるわけではなく;酵素活性化因子は酵素に結合してそれらの酵素活性を増加させる。
【0080】
阻害剤の結合は、結合パートナーが生体分子と相互作用するのを止めることができ、かつ/又は生体分子が活性であること若しくは活性化されることを妨害し得る。阻害剤の結合は可逆的又は非可逆的のいずれかである。非可逆的阻害剤は、通常、生体分子と反応してそれを化学的に変更する。これらの阻害剤は、例えば活性に必要な鍵となるアミノ酸残基を修飾し得る。対照的に、可逆的阻害剤は非共有結合で結合し、そしてこれらの阻害剤が生体分子に結合しているか否かによって異なる型の阻害を生じる。
【0081】
選択的リガンドは、酵素のような非常に限られた型の標的(生体分子)に結合する傾向を有するが、非選択的リガンドはいくつかの型の標的に結合する。これは薬理学において重要な役割を果たし、この場合、非選択的である薬物は、望ましい効果を生じる生体分子に加えていくつかの他の生体分子に結合するので、より有害な効果を有する傾向がある。
【0082】
競合結合実験のために、既知のリガンドを少なくとも1つの検出可能なマーカーで標識し、b)のインキュベーション工程に加える。工程b)の後、結合した標識リガンドを非結合リガンドと分離する。この分離は、ろ過、遠心分離、固定化、相分離及び液体の除去などのような一般的な分離工程により行われ得る。標識により生じるシグナルの量は、結合したリガンドの量の指標であり、リガンド及び試験化合物は生体分子への結合について競合するので、従って、生体分子に結合した試験化合物の量についての指標でもある。
【0083】
一実施態様において、試験化合物の効果を検出するためのアッセイは、SPA (シンチレーション近接アッセイ)、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)アッセイ、TR−FRET(時間分解蛍光共鳴エネルギー移動)アッセイ又はFP(蛍光偏光)アッセイである。
【0084】
SPA(シンチレーション近接アッセイ)は、均一系における広範囲の生物学的プロセスの迅速で高感度な測定を可能にする生化学的スクリーニングのために使用される技術の種類である。SPAに含まれるビーズの種類は、微視的サイズであり、そしてビーズ自体の中に、刺激された場合に光を放射するシンチラントが存在する。刺激は放射標識分子がそのビーズと相互作用した場合に起こる。この相互作用がビーズの発光を引き起こし、これがシンチレーションカウンターを使用して検出され得る。
【0085】
より詳細には、放射標識分子が結合するか、又はビーズに近接する場合、発光が刺激される。しかし、ビーズが放射標識分子に結合しないままである場合、ビーズは発光するように刺激されない。このことは、SPAビーズから離れ過ぎている場合に非結合放射能から放出されるエネルギーが放埒(dissolute)過ぎるということに起因し、それ故ビーズはシグナルを生じるように刺激されない。
【0086】
トリチウムはSPAに非常によく適しているので強く推奨される。これは、非常に短い1.5μmの水を通る経路長のためである。従って、β粒子がシンチラントビーズの1.5μmという特定の範囲内にある場合、シンチラントビーズが光を放射するように刺激するために十分なエネルギーが存在する。間の距離が1.5μmより大きい場合、十分なエネルギーがないのでβ粒子はビーズを刺激するために必要な距離を移動することができない。この方法を広範な適用、例えば酵素アッセイ及びラジオイムノアッセイに適用させることを可能にする一式のビーズコーティングも利用可能である。
【0087】
蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)は、2つの発色団間の無放射エネルギー移動を表す。ドナー発色団はその励起状態で無放射長距離双極子−双極子カップリング機構により、近接している(典型的には<10nm)アクセプターフルオロフォアにエネルギーを移動させることができる。両方の分子が蛍光性であるので、このエネルギー移動はしばしば「蛍光共鳴エネルギー移動」と呼ばれるが、エネルギーは実際には蛍光により移動されるのではない。FRETは、タンパク質−薬剤相互作用、タンパク質−タンパク質相互作用、タンパク質−DNA相互作用、及びタンパク質コンホメーション変化を検出及び定量するために有用なツールである。タンパク質の薬剤に対する結合、1つのタンパク質の別のタンパク質に対する結合、又はタンパク質のDNAに対する結合をモニタリングするために、分子の一方をドナーで標識し、そして他方をアクセプターで標識し、そしてこれらのフルオロフォア標識分子を混合する。それらが非結合状態で存在する場合、ドナー励起の際にドナーの発光が検出される。分子が結合すると、ドナー及びアクセプターは近接するようになり、そしてドナーからアクセプターへの分子間FRETのためにアクセプターの発光が主に観測される。FRETに適した隣接物(neighbors)は当該分野で公知であり、そして当業者は両方の抗体の標識の適切な組み合わせを選択することができるだろう。ドナー及び対応するアクセプターに関して本明細書で使用される「対応する」は、ドナーの励起スペクトルと重なる発光スペクトルを有するアクセプター蛍光部分を指す。しかし、両方のシグナルは互いに分離可能であるべきである。従って、アクセプターの発光スペクトルの極大波長は、好ましくはドナーの励起スペクトルの極大波長よりも少なくとも30nm、より好ましくは少なくとも50nm、例えば少なくとも80nm、少なくとも100nm又は少なくとも150nm大きいものであるべきである。
【0088】
FRET技術において種々のアクセプター蛍光部分と共に使用され得る代表的なドナー蛍光部分としては、フルオレセイン、ルシファーイエロー、B−フィコエリトリン、9−アクリジンイソチオシアネート、ルシファーイエローVS、4−アセトアミド−4'−イ
ソチオシアナトスチルベン−2,2'−ジスルホン酸、7−ジエチルアミノ−3−(4'−イソチオシアナトフェニル)−4−メチルクマリン、1−ピレン酪酸スクシンイミジル、及び4−アセトアミド−4'−イソチオシアナトスチルベン−2,2'−ジスルホン酸誘導体が挙げられる。代表的なアクセプター蛍光部分としては、使用されるドナー蛍光部分に依存して、LC−Red 610、LC−Red 640、LC−Red 670、LC−Red 705、Cy5、Cy5.5、リサミンローダミンBスルホニルクロリド、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、ローダミンxイソチオシアネート、エリスロシンイソチオシアネート、フルオレセイン、ジエチレントリアミン五酢酸又は他のランタニドイオン(例えばユーロピウム又はテルビウム)のキレートが挙げられる。ドナー及びアクセプター蛍光部分は、例えばMolecular Probes(Junction City,OR)又はSigma Chemical Co.(St.Louis,MO)から入手することができる。
【0089】
あるいは、時間分解蛍光共鳴エネルギー移動(TR−FRET)が、本発明の試験系に使用され得る。TR−FRETはTRF(時間分解蛍光)とFRETの原理を兼ね備える。この組み合わせは、TRFの低バックグラウンドの利点とFRETの均一アッセイ形式の利点とを組み合わせる。FRETは既に上で記載したが、TRFは、長い半減期を有するランタニド又はいずれかの他のドナーの独特の特性を利用する。TR−FRETの適切なドナーとしては、とりわけ、ランタニドキレート(クリプテート)及びいくつかの他の金属リガンド錯体が挙げられ、これらはマイクロ秒からミリ秒の時間範囲の蛍光半減期を有し得、従ってマイクロ秒からミリ秒の測定でエネルギー移動が起きることも可能にする。蛍光ランタニドキレートは70年代後半にエネルギードナーとして使用されていた。一般に使用されるランタニドとしては、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)及びジスプロシウム(Dy)が挙げられる。それらの特異的な光物理的及びスペクトルの特性のために、ランタニドの錯体は生物学における蛍光適用に関して多くの興味が持たれている。具体的には、より伝統的なフルオロフォアと比較した場合、それらは大きなストークスシフト(stroke’s shift)及び非常に長い発光半減期(マイクロ秒からミリ秒)を有する。
【0090】
通常は、有機発色団がアクセプターとして使用される。これらとしてはアロフィコシアニン(APC)が挙げられる。TR−FRETに関する適切な詳細、さらにはアクセプターはWO98/15830に記載される。
【0091】
蛍光偏光(FP)ベースのアッセイは、溶液中の蛍光性基質を励起するために偏光を使用するアッセイである。これらの蛍光性基質は溶液中で自由で回転しており、放射光は偏光解消になる。基質がより大きな分子(すなわちアシル基)に結合する場合、その回転速度は大きく減少し、そして放射光は高度に偏光されたままである。
【0092】
あるいは、質量分析法が使用され得る。用語「質量分析法」は、表面上のサンプルから気相イオンを生成させるためにイオン化源を使用し、そして質量分析計を用いて気相イオンを検出することを指す。用語「レーザー脱離質量分析法」は、表面上のサンプルから気相イオンを生成するためのイオン化源としてレーザーを使用し、そして質量分析計を用いて気相イオンを検出することを指す。アシル化アシル受容体のような生体分子のための質量分析法の好ましい方法は、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化質量分析法又はMALDIである。MALDIにおいて、検体は典型的にはマトリックス物質と混合され、これが乾燥すると検体と共結晶化する。マトリックス物質はエネルギー源からエネルギーを吸収し、そうでなければ不安定な生体分子又は検体は断片化されるだろう。別の好ましい方法は、表面増強レーザー脱離/イオン化質量分析法すなわちSELDIである。SELDIでは、検体が付着された表面が、検体捕捉及び/又は脱離において能動的役割を果たす。本発明の状況において、サンプルは、クロマトグラフィー又は他の化学的処理を受けていてもよい生物学的サンプル及び適切なマトリックス物質を含む。
【0093】
質量分析法において、「見掛けの分子量」は、検出されたイオンの分子量(ダルトン)−対−電荷値(m/z)を指す。見掛けの分子量がどのように誘導されるかは、使用される質量分析計の型に依存する。飛行時間型質量分析計では、見掛けの分子量はイオン化から検出までの時間の関数である。用語「シグナル」は、調べている生体分子により生成されるいずかの応答を指す。例えば、シグナルという用語は、質量分析計の検出器に衝突する生体分子により生成される応答を指す。シグナル強度は、生体分子の量又は濃度と相関する。シグナルは2つの値により定義される:見掛けの分子量値、及び記載されるように生成された強度値。質量値は、生体分子の生体分子の基本的特徴であるが、一方で強度値は、対応する見掛けの分子量値を有する生体分子の特定の量又は濃度に一致する。従って、「シグナル」は常に、生体分子の特性を指す。
【0094】
上で詳述したように、第一の局面において、疼痛に影響を及ぼす化合物を同定する方法、該方法は:
a) Lrrfip1核酸を含む試験系を備える工程、
b) 試験系を試験化合物と接触させる工程、及び
c) 試験系に対する試験化合物の効果を決定する工程
を含み、ここで試験化合物は、コントロールと比較して試験系に対する試験化合物の有意な効果が検出される場合に、疼痛に影響を及ぼす化合物であると同定される。
【0095】
核酸に対する試験化合物の効果は、様々な発現又はシグナル伝達レベルで決定され得る。
【0096】
試験化合物は、Lrrfip1遺伝子の調節配列又はLrrfip1遺伝子自体に結合するように設計され得る。それにより、試験化合物は遺伝子の発現に対する影響を有し得る。
【0097】
従って、調節配列に対する試験化合物の結合は、(i)調節配列又は遺伝子と、(ii)試験化合物との複合体を検出することにより決定され得る。2つ又はそれ以上の構成要素の複合体を検出する適切な方法は本明細書において詳述される。
【0098】
調節配列は、転写因子のような調節タンパク質が優先的に結合するDNAの部分である。これらの調節タンパク質は、調節領域と呼ばれるDNAの短い範囲に結合し、これはゲノムにおいて適切に位置づけられており、通常は調節される遺伝子から少し離れた「上流」である。そうすることによって、これらの調節タンパク質は、RNAポリメラーゼと呼ばれる別のタンパク質複合体を補充し得る。このようにして、それらは遺伝子発現を制御する。調節配列は、所定の遺伝子の転写レベルを方向づけるように、通常は他の調節領域(エンハンサー、サイレンサー、境界エレメント(boundary elements)/インスレーター)と協調して作用するプロモーター領域を含む。
【0099】
あるいは、試験化合物の効果、例えば結合及び遺伝子転写に対する影響は、間接的に検出され得る。このために、Lrrfip1遺伝子の下流の効果が検出され得る。例えば、Lrrfip1に関連する転写及び翻訳に対する影響が決定され得る。一実施態様において、Lrrfip1 mRNA又はLrrfip1タンパク質の量が検出される。あるいは、TNF、EGFR若しくはPDGFAの発現又はNF−カッパBシグナル伝達に対するGCリッチコンセンサス配列への結合の効果が決定され得る。
【0100】
mRNAを検出する適切な方法は本明細書において記載され、そしてこれらとしては、例えばノーザンブロット分析、ヌクレアーゼプロテクションアッセイ(NPA)、インサイチュハイブリダイゼーション、及び逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)が挙げられる。
【0101】
ノーザンブロット手順のために、RNAサンプルを最初にアガロースゲルでの電気泳動で変性条件下にてサイズにより分離し得る。次いでRNAをメンブレンに移し、架橋して標識プローブとハイブリダイズさせる。ランダムプライム、ニック翻訳、又はPCR生成DNAプローブ、インビトロ転写RNAプローブ、及びオリゴヌクレオチドを含む、非同位体又は高特異的活性放射標識プローブが使用され得る。さらに、部分的な相同性しか有していない配列(例えば、異なる種由来のcDNA又はエキソンを含有し得るゲノムDNAフラグメント)をプローブとして使用し得る。
【0102】
ヌクレアーゼプロテクションアッセイ(NPA)は、特定のmRNAの検出及び定量のための非常に高感度な方法である。NPAの基礎は、アンチセンスプローブ(放射標識されているか又は非同位体)のRNAサンプルへの溶液ハイブリダイゼーションである。ハイブリダイゼーション後、一本鎖非ハイブリダイズプローブ及びRNAはヌクレアーゼにより分解される。残った保護されたフラグメントを、例えばアクリルアミドゲルで分離する。溶液ハイブリダイゼーションは、典型的にはメンブレンベースのハイブリダイゼーションよりも効率的であり、そして最大で20−30μgのブロットハイブリダイゼーションと比較して、100μgまでのサンプルRNAに適応し得る。切断がプローブとの重なった領域においてのみ検出されるので(プローブは通常約100〜400塩基長である)、NPAはまた、ノーザン分析よりもRNAサンプル分解に対する感受性が低い。
【0103】
RT−PCRにおいて、RNAテンプレートは、レトロウイルス逆転写酵素を使用して相補DNA(cDNA)にコピーされる。次いでcDNAはPCRにより指数関数的に増幅される。相対定量RT−PCRは、目的の遺伝子と同時に内部コントロールを増幅することを含む。内部コントロールはサンプルを正規化するために使用される。一旦正規化されると、特定のmRNAの相対的存在量の直接比較をサンプル間で行うことができる。競合RT−PCRは絶対定量のために使用される。この技術は、サイズ又は配列の小さな差異により内在性標的と区別され得る競争的RNAを設計すること、合成すること、及び正確に定量することを含む。既知の量の競争的RNAを実験サンプルに加え、そしてRT−PCRを行う。内在性標的からのシグナルを競争相手からのシグナルと比較してサンプル中に存在する標的の量を決定する。
【0104】
上記の方法は核酸標識を含み得る。DNA、RNA又はオリゴヌクレオチドの標識を可能にする一連の技術が当業者に公知である。これらとしては、例えばニック翻訳標識、ランダムプライムDNA標識、DNAプローブのPCR標識、並びにオリゴヌクレオチド3'/5'末端標識、RNAプローブの転写標識、オリゴヌクレオチド3'/5'末端標識及びオリゴヌクレオチドテーリング(tailing)が挙げられる。
【0105】
ニック翻訳法は、DNase IがDNA中に無作為に分布したニックを導入する能力に基づく。DNAポリメラーゼIは、ニックの3'−OH末端をプライマーとして使用して5'→3'方向でインタクトな鎖に相補的なDNAを合成する。DNAポリメラーゼIの5'→3'エキソヌクレアーゼ活性は、合成の方向でヌクレオチドを同時に除去する。ポリメラーゼ活性は、除去されたヌクレオチドを同位体標識又はハプテン標識デオキシリボヌクレオシド三リン酸と連続的に置き換える。従って低温(15℃)では、反応中の未標識DNAは新しく合成された標識DNAと置き換えられる。一般的な標識としては、ジゴキシゲニン−、ビオチン−、又は蛍光色素、例えばフルオレセイン又はテトラメチルローダミンが挙げられる。
【0106】
「ランダムプライム」DNA標識の方法は、全ての可能なヘキサヌクレオチドの混合物の、標識しようとするDNAへのハイブリダイゼーションに基づく。全ての配列組み合わせがヘキサヌクレオチドプライマー混合物で示され、これがプライマーのテンプレートDNAへの統計的様式での結合をもたらす。従って、テンプレートDNAの長さ全体に沿って同程度の標識が保証される。相補鎖は、ランダムヘキサヌクレオチドプライマーの3'OH末端からクレノウ酵素(標識等級)を使用して合成される。反応中に存在する修飾されたデオキシリボヌクレオシド三リン酸(例えば[32P]−、[35S]−、[3H]−、[125I]−、ジゴキシゲニン−又はビオチン−で標識された)は、新しく合成された相補DNA鎖中に組込まれる。
【0107】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、微量のDNAの増幅を可能にする。唯一の要件は、標的配列のいくらかの配列情報が適切なプライマーを合成するために既知であることである。標識とPCRの組み合わせはPCR産物の分析のため、そしてまた少量の個別の標的配列から標識されたプローブを製造するために強力なツールである。例えば、ジゴキシゲニン(ステロイドハプテン)は、ハイブリダイゼーションのためにDNA、RNA又はオリゴヌクレオチドを標識するため、及びその後の色検出又は発光検出のために使用され得る。ジゴキシゲニンは、通常、アルカリに不安定なエステル結合を介してdUTPとカップリングされる。標識されたdUTPはDNAポリメラーゼを使用して酵素的核酸合成により容易に組み込まれ得る。
【0108】
オリゴヌクレオチドは、それらの3’末端においてターミナルトランスフェラーゼを用いて、単一ジゴキシゲニン標識ジデオキシウリジン三リン酸(DIG−ddUTP)のような標識の組み込みにより、又はより長いヌクレオチドテイルの付加のいずれかにより、酵素的に標識され得る。ターミナルトランスフェラーゼは、二本鎖及び一本鎖のDNAフラグメント及びオリゴヌクレオチドの3’OH末端へのデオキシ−及びジデオキシヌクレオシド三リン酸のテンプレート非依存性付加を触媒する。ターミナルトランスフェラーゼは、ジゴキシゲニン、ビオチン及び蛍光色素で標識されたデオキシ−及びジデオキシヌクレオチド、さらには放射標識されたデオキシ−及びジデオキシヌクレオチドを組み込む。あるいは、又はさらに、オリゴヌクレオチドは、5’末端において、例えば伝統的な固相ホスホラミダイト合成方法にしたがって最終工程でホスホラミダイトと反応させることにょり標識され得る。このプロセスにより、5’末端アミノ官能基が生成される。アンモニアでの処理は、支持体からオリゴヌクレオチドを放出させ、そして保護基を切断する。その後の工程において、ジゴキシゲニン部分は5’位に導入される。
【0109】
上記の標識方法において使用され得る様々な標識が公知である。それらの検出を含めてそれらのうちいくつかを以下に例示的に記載する:
ビオチン標識化合物は、例えば抗ビオチン抗体により、又はストレプトアビジン結合体により検出され得る。抗ビオチン抗体(例えば、アルカリホスファターゼ(AP)と結合された、モノクローナル抗ビオチン抗体又はFabフラグメント)は、ナイロンメンブレン上の発光を用いる酵素イムノアッセイによるビオチン標識核酸の検出において使用され得る。この検出方法は、メンブレン上(例えばサザンブロット、ドットブロット)、細胞及び組織において(例えばインサイチュハイブリダイゼーション)、免疫ブロット法、免疫組織化学又はELISAにおけるビオチン標識核酸の検出のために使用され得る。ストレプトアビジン結合体は、いくつかの免疫学的検出系のために使用され得るビオチン標識物質(例えばビオチニル化抗体)の検出のために使用される。このために、例えばストレプトマイセス・アビジニイ(Streptomyces avidinii)由来のストレプトアビジンを、アルカリホスファターゼ又はβ−ペルオキシダーゼにカップリングし得る。この検出方法は、免疫ブロット法、免疫組織化学又はELISAと共に使用され得る。
【0110】
プローブ−標的ハイブリッドは、酵素結合免疫測定法を用いて検出され得る。この免疫化学的検出工程は、通常は放射能検出手順よりも高感度である。このアッセイにおいて、メンブレンは抗体とフィルターとの非特異的相互作用を防止するためにブロックされ得る。ジゴキシゲニンに特異的な、アルカリホスファターゼ結合抗体は、標識されたハイブリッド上のジゴキシゲニン(digoxigenein)分子を認識する。アルカリホスファターゼ基質の添加により、ハイブリッドの可視化が可能になる。
【0111】
化学発光検出について、アルカリホスファターゼに適した基質、例えば3−(4−メトキシスピロ{1,2−ジオキセタン−3,2−(5−クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン}−4−イル)フェニルリン酸二ナトリウム又は4−クロロ−3−(メトキシスピロ{1,2−ジオキセタン−3,2−(5−クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン}−4−イル)フェニルリン酸二ナトリウムは、ジオキセタンフェニルリン酸塩のグループに属する。アルカリホスファターゼにより脱リン酸の際に、中間体が形成され、その分解は発光を生じ、これを例えばX線フィルムで記録することができる。
【0112】
DIG−標識プローブの比色検出は、酸化還元系を形成する無色基質を用いて通常行われる。例は、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−ホスフェート及び4−ニトロ−ブルー−テトラゾリウム−クロリドのようなものである。5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−ホスフェートは、アルカリホスファターゼにより酸化されて、ホスフェート基の放出により藍色になる。並行して、4−ニトロ−ブルー−テトラゾリウム−クロリドはジホルマザンへと還元される。反応生成物は、メンブレンの種類によって水に不溶性の暗青色から褐色がかった沈殿物を形成する。
【0113】
特異的プローブ−標的ハイブリダイゼーションを可視化するために、様々なレポーター分子が検出抗体にカップリングされ得、これらとしては酵素結合抗体、蛍光色素標識抗体(蛍光顕微鏡、及び蛍光色素により放出される波長の可視化を可能にする特異的フィルターによる検出)及びコロイド金に結合された抗体(クライオスタット切片での電子顕微鏡による検出)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0114】
ジゴキシゲニン、ビオチン及び蛍光色素で標識されたプローブの組み合わせを使用して、1つの調製で異なる染色体領域又は異なるRNA配列の位置を特定することにより、多重同時ハイブリダイゼーションを行うことができる。このようなマルチプローブ実験は、抗体にカップリングされた異なる蛍光色素の利用可能性により可能となる。これらとしては、フルオレセイン又はFITC(フルオレセインイソチオシアネート;黄色)、ローダミン又はTRITC(テトラメチルローダミンイソチオシアネート;赤色)及びAMCA(アミノ−メチルクマリン酢酸;青色)が挙げられる。
【0115】
調節配列に対する効果はまた、調節因子配列をレポーター遺伝子に付着させ、そして生じたDNA構築物を細胞又は生物に導入することにより、検出され(by detected)得る。培養中の細菌又は真核細胞については、これは通常プラスミドと呼ばれる環状DNA分子の形態である。レポーターの発現は目的の遺伝子の成功した取り込みについてのマーカーとして使用されているので、研究中の細胞又は生物において天然では発現されないレポーター遺伝子を使用することが重要である。視覚的に同定可能な特徴を誘導する一般的に使用されるレポーター遺伝子は、通常、蛍光性及び発光性のタンパク質を含み;例としては、クラゲ緑色蛍光タンパク質(GFP)(それを発現して青色光下で緑色に光る細胞を生じる)、酵素ルシフェラーゼ(ルシフェリンとの反応を触媒して光を生じる)、及び遺伝子dsRedからの赤色蛍光タンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。細菌における別の一般的なレポーターはlacZ遺伝子であり、これはタンパク質β−ガラクトシダーゼをコードする。この酵素は、遺伝子を発現して、基質アナログX−galを含有する(IPTGのような誘導因子分子もまた天然のプロモーター下で必要とされる)培地で増殖した場合に青色に見える細菌を生じる。細菌における選択可能マーカーレポーターの例は、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子であり、これは抗菌薬クロラムフェニコールに対する抵抗性を与える。試験化合物の影響は、上記のコントロールと比較したシグナルの量を決定することにより検出され得る。
【0116】
上で詳述したように、第二の局面において、疼痛に影響を及ぼす化合物を同定する方法、該方法は:
a) Lrrfip1タンパク質又はその機能的に活性な変異体を含む試験系を備える工程、
b) 試験系を試験化合物と接触させる工程、及び
c) 試験系に対する試験化合物の効果を決定する工程
を含み、ここで試験化合物は、コントロールと比較して試験系に対する試験化合物の有意な効果が検出される場合に、疼痛に影響を及ぼす化合物であると同定される。
【0117】
従って、Lrrfip1タンパク質又はその変異体に対する試験化合物の結合は、(i)Lrrfip1タンパク質又はその変異体と、(ii)試験化合物との複合体を検出することにより決定され得る。2つ又はそれ以上の構成要素の複合体を検出する適切な方法は上で詳述されており、そして以下で詳述される。
【0118】
タンパク質を検出するために適した方法は本明細書に記載されており、そしてこれらとしては、例えば標識されたタンパク質(例えば検出可能なマーカー、タグ又は酵素成分を含む融合タンパク質)の検出、タンパク質免疫染色、タンパク質免疫沈降、免疫電気泳動法、免疫ブロット法、ウェスタンブロット法、分光測光法、酵素アッセイなどが挙げられる。この方法は、検出前にタンパク質の精製を必要とし得、これにはタンパク質単離(例えば、クロマトグラフィー法、タンパク質抽出、タンパク質可溶化、ゲル電気泳動、及び焦点電気泳動)が含まれ得る。
【0119】
タンパク質免疫染色は、サンプル中の特定のタンパク質を検出するための抗体ベースの方法である。用語免疫染色は、元々は組織切片の免疫組織化学的染色のことをいうために使用された。しかし現在では、免疫染色は、抗体ベースの染色方法を利用する組織学、細胞生物学、及び分子生物学において使用される広範な技術を包含する。固定により保存される組織切片又は細胞の免疫組織−又は−細胞化学。
【0120】
IHC染色の最初のケースは蛍光色素を使用したが、ペルオキシダーゼ及びアルカリホスファターゼのような酵素を使用する他の非蛍光性の方法が今ではより頻繁に使用される。これらの酵素は、光学顕微鏡で容易に検出可能な着色した生成物を生じる反応を触媒することができる。あるいは、放射性元素を標識として使用することができ、そして免疫反応はオートラジオグラフィーにより可視化され得る。組織調製又は固定は、細胞形態及び組織構造の保存のために必須である。不適切又は長期の固定は、抗体結合能を有意に減少させ得る。多くの抗原は、ホルマリン固定パラフィン包埋組織切片において首尾よく実証され得る。固定方法及び時間、ブロッキング剤での前処理、高塩濃度での抗体のインキュベート、並びに抗体後(post−antibody)洗浄緩衝液及び洗浄回数の最適化は、高品質の免疫染色を得るために重要であり得る。
【0121】
ウェスタンブロット法は、任意の精製工程の前又は後に、細胞又は組織から作製された抽出物からの特定のタンパク質(天然又は変性)の検出を可能にする。タンパク質は、一般的にはゲル電気泳動を使用してサイズにより分離され、その後乾式、半乾式又は湿式ブロット法により合成メンブレン(典型的にはニトロセルロース又はPVDF)に移される。次いでメンブレンを、免疫組織化学と類似するが固定の必要はない方法を使用して、抗体を使用して調べることができる。検出は典型的には化学発光反応を触媒するためにペルオキシダーゼに連結された抗体を使用して行われる。ウェスタンブロット法は、慣用の分子生物学の方法であり、これは抽出物間のタンパク質レベルを半定量的又は定量的に比較するために使用され得る。ブロッティングの前のサイズ分離は、既知の分子量のマーカーと比較してタンパク質の分子量を計測することを可能にする。ウェスタンブロット法は、組織ホモジネート又は抽出物の所定のサンプル中の特定のタンパク質を検出するために使用される分析技術である。これはポリペプチドの長さ(変性条件)により、又はタンパク質の3D構造(天然/非変性条件)によりタンパク質を分離するためにゲル電気泳動を使用する。
【0122】
酵素結合イムノソルベントアッセイ又はELISAは、マルチウェルプレート形式(通常は1プレートあたり96ウェル)で血漿、血清又は細胞/組織抽出物からタンパク質濃度を定量的又は半定量的に決定するための診断法である。概して、溶液中のタンパク質はELISAプレートに吸着される。目的のタンパク質に特異的な抗体を使用してプレートを調べる。バックグラウンドはブロッキング方法及び洗浄方法(IHCに関して)を最適化することにより最少にされ、そして特異性はポジティブコントロール及びネガティブコントロールの存在により確実にされる。検出方法は、通常、比色分析ベースであるか又は化学発光ベースである。
【0123】
電子顕微鏡検査法又はEMは、組織又は細胞の詳細な微小構造を研究するために使用され得る。免疫−EMは、超薄組織切片における特定のタンパク質の検出を可能にする。重金属粒子(例えば金)で標識された抗体は、透過型電子顕微鏡法を使用して直接可視化され得る。タンパク質の細胞内局在化の検出では強力であるが、免疫−EMは技術的に困難であり、高価であり、そして組織固定及び処理方法の厳格な最適化を必要とし得る。
【0124】
あるいは、試験化合物の効果、例えば結合及びLrrfip1タンパク質に対する影響は、間接的に検出され得る。このために、Lrrfip1タンパク質の下流の効果が検出され得る。例えば、表現型に対する効果、例えば痛覚過敏表現型の発現が決定され得る。
【0125】
本発明の好ましい実施態様において、疼痛に影響を及ぼす化合物は、Lrrfip1遺伝子及び/又はLrrfip1タンパク質のシグナル伝達経路に天然で関係する細胞性化合物である。
【0126】
上で詳述したように、Lrrfip1は、GCリッチコンセンサス配列に優先的に結合する転写抑制因子として作用し、そしてTNF、EGFR及びPDGFAの発現を調節することが示されている。
【0127】
しかし、疼痛におけるLrrfip1のシグナル伝達経路についてはわずかしか知られていない。従って、シグナル伝達経路の構成要素を同定することは望ましいだろう。このために、場合によりLrrfip1のシグナル伝達に関与していると疑われる細胞成分が検出され得る。これらは疼痛に影響を及ぼす薬物に関するさらなる標的であり得る。
【0128】
本発明の好ましい実施態様において、疼痛に影響を及ぼす化合物は、Lrrfip1タンパク質の上流又は下流でシグナル伝達を変化させる。さらに、またあるいは、疼痛に影響を及ぼす化合物は、Lrrfip1遺伝子の上流又は下流でシグナル伝達を変化させ、特にここでは該化合物はLrrfip1遺伝子の発現を変化させる。
【0129】
既に上で詳述したように、効果は、Lrrfip1タンパク質又は遺伝子のレベルに関してだけではなく、上流又は下流でのシグナル伝達又は発現レベルに関して決定されてもよい。例としては、Lrrfip1遺伝子レベル(Lrrfip1タンパク質の上流)、mRNAレベル(Lrrfip1タンパク質の上流及びLrrfip1遺伝子の下流)、タンパク質レベル(Lrrfip1遺伝子の下流)及び表現型レベル(Lrrfip1遺伝子及びタンパク質の下流)が挙げられる。
【0130】
本発明の好ましい実施態様において、疼痛に影響を及ぼす化合物は、Lrrfip1遺伝子及び/又はLrrfip1タンパク質のシグナル伝達経路に天然で関係する細胞性化合物に結合し、特にここで疼痛に影響を及ぼす化合物は、Lrrfip1遺伝子又はLrrfip1タンパク質、特にLrrfip1タンパク質に結合する。
【0131】
明らかに、Lrrfip1遺伝子及び/又はLrrfip1タンパク質のシグナル伝達経路に天然で関係する細胞性化合物に対する化合物の結合は、シグナル伝達に対する効果を有する可能性が最も高い。しばしば、シグナル伝達経路に天然で関係する細胞性化合物に対する人工の化合物の結合は、その経路の阻害をもたらす。しかし、人工の化合物は、その経路を活性化するように設計され得る。両方の場合において、結合は経路に対して効果を有し、その結果、疼痛感受性が変更される可能性がある。
【0132】
本発明の好ましい実施態様において、疼痛に影響を及ぼす化合物は、Lrrfip1遺伝子の上流又は下流でシグナル伝達を阻害し、特にここで該化合物は、Lrrfip1遺伝子の発現を阻害する。疼痛に影響を及ぼす化合物がLrrfip1タンパク質の上流又は下流でシグナル伝達を阻害する本発明の好ましい実施態様において、特にここで該化合物はLrrfip1タンパク質に結合する。実施例の結果に基づいて、それらの化合物は疼痛を抑制又は減少させることができると期待される。従ってそれらは好ましい。
【0133】
本発明の別の好ましい実施態様において、試験系は細胞、例えば動物細胞、特に哺乳動物細胞、特にヒト細胞におけるものである。
【0134】
細胞及び細胞機構、例えばインスリンの下流又はLrrfip1タンパク質若しくは遺伝子の下流若しくは上流のシグナル伝達構成要素(これらは細胞の変更されたグルコース取り込みの指標となるシグナルを検出するために使用され得るので)を増殖させることによる試験系の容易な増幅を可能にするので、細胞ベースの系は有利である。
【0135】
本発明の状況において適した細胞の例としては、限定することなく、L6細胞、3T3脂肪細胞、HEK 293、745−A、A−431、心房筋細胞、BxPC3、C5N、Caco−2、Capan−1、CC531、CFPAC、CHO、CHO K1、COS−1、COS−7、CV−1、EAHY、EAHY 926、F98、GH3、GP&envAM12、H−295 R、H−4−II−E、HACAT、HACAT A131、HEK、HEL、HeLa、Hep G2、High Five、Hs 766T、HT29、HUV−EC R24、HUV−EC−C、IEC 17、IEC 18、Jurkat、K 562、KARPAS−299、L 929、LIN 175、MAt−LYLU、MCF−7、MNEL、MRC−5、MT4、N64、NCTC 2544、NDCK II、Neuro 2A、NIH 3T3、NT2/D1、P19、初代神経細胞、初代樹状細胞、初代ヒト筋芽細胞、初代角化細胞、SF9、SK−UT−1、ST、SW 480、SWU−2 OS、U−373、U−937、及びY−1が挙げられる。他の適切な細胞は当業者に公知である。
【0136】
動物又はヒトから直接培養された細胞は初代細胞として知られる。腫瘍由来のいくつかの細胞株を除いて、大部分の初代細胞培養は限られた寿命を有する。特定数の集団倍加後、細胞は、概して生存能を保持しながら、老化及び分裂停止のプロセスを受ける。
【0137】
確立された又は不死化された細胞株は、ランダム変異又は計画的改変のいずれかにより、例えばテロメラーゼ遺伝子の人為的発現により無制限に増殖する能力を獲得している。特定の細胞型を代表する多数の十分に確立された細胞株があり、適切な細胞株を選択することは当業者の知識の範囲内である。
【0138】
従って、本発明の好ましい実施態様において、細胞は細胞株である。細胞株は、単一で共通の原細胞に由来し、従って遺伝的に同一である、培養で増殖された細胞の集団である。好ましい細胞株は、HEK293細胞(初代ヒト胚腎臓)、3T3細胞(マウス胚線維芽細胞)、CHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣)、COS−7細胞(アフリカミドリザル細胞株)、HeLa細胞(ヒト類上皮子宮頸癌)、JURKAT細胞(ヒトT細胞白血病)、BHK21細胞(ハムスター正常腎臓、線維芽細胞)、及びMCF−7細胞(ヒト乳癌)である。
【0139】
細胞又は細胞株は、Lrrfip1又は効果の検出に必要とされる構成要素を含むように遺伝的に改変されていてもよい。特に好ましい細胞株は、公知のプロモーター系の制御下にあるLrrfip1をコードする遺伝子を含む。プロモーター系は、制御可能、例えば化学物質により誘導可能であっても、構造的に活性であってもよい。それらのプロモーター系は当業者に周知である。
【0140】
あるいは、細胞溶解物(粗製であるか、分画されている又は精製されている)が使用され得る。これらを製造するための例となる方法は当業者に公知であり、そしてこれらには、断片化、遠心分離及び再懸濁が含まれ得る。
【0141】
本発明の好ましい実施態様において、本方法はハイスループットスクリーニング法である。
【0142】
ハイスループットスクリーニング(HTS)は、特に薬物発見において使用され、そして生物学及び化学の分野に関連する科学的実験のための方法である。例えば、ロボット工学、データ処理及び制御ソフトウエア、液体取り扱い装置、並びに高感度検出器を使用して、ハイスループットスクリーニング又はHTSは、研究者が数千又は数百万もの生化学的、遺伝子的又は薬理学的な試験を迅速に実行することを可能にする。この方法により、特定の生体分子経路を調節する活性化合物、抗体又は遺伝子を迅速に同定することができる。
【0143】
通常は、HTSは、候補化合物のライブラリーに対してアッセイスクリーニングを行うために自動化を利用する。典型的なHTSスクリーニングライブラリー又は「デッキ」は、100,000から2,000,000より多くの化合物を含有し得る。
【0144】
最も頻繁には、HTSの鍵となる試験容器はマルチウェルプレート又はマイクロプレートである。HTSのための現在のマイクロプレートは、一般的に96、384、1536、又は3456ウェルのいずれかを有する。これらは全て96の倍数であり、8x12の9mm間隔のウェルを有する元の96ウェルマイクロプレートを反映している。ウェルの大部分は実験的に有用な物質、しばしばジメチルスルホキシド(DMSO)の水溶液及びいくつかの他の化学化合物を含有し、その後者はプレート全体にわたって各ウェルで異なる。他のウェルは空でもよく、任意の実験コントロールとしての使用を意図される。
【0145】
アッセイの準備をするために、研究者はプレートの各ウェルを、彼又は彼女が実験を実施しようと望むいくつかの生物学的実体で満たす。本発明の場合において、Lrrfip1核酸又はタンパク質を含む試験系が中に満たされるべきものである。生物学的物質がウェル中の化合物を吸収するか、それに結合するか、又はそうでなければ反応する(又は反応しない)ことを可能にするためにいくらかのインキュベーション時間が経過した後に、プレートの全てのウェルにわたって、手動又は機械により測定を行う。特殊化した自動化分析機械は、ウェルにおいて多数の実験を行うことができる(例えば、偏光をそれらに当て、そして反射性を測定する(これはタンパク質結合の指標となり得る))。この場合、機械は、単一のウェルから得られた値に対するそれぞれの番号マッピングと共に、数値のグリッドとして各実験の結果を出力し得る。大容量分析機械は、このように数分の間で数十のプレートを測定することができ、数千の実験データ点を非常に速く生成する。
【0146】
本発明の好ましい実施態様において、疼痛は神経障害性疼痛である。神経痛又は神経障害性疼痛は、非侵害受容性疼痛として定義することができ、又は言い換えれば、身体のいずれの部分での痛覚受容器細胞の活性化にも関連しない疼痛である。神経痛は、神経構造又は機能の変化により生じる疼痛であると考えられる。侵害受容性疼痛と異なり、神経痛は持続的な侵害受容性入力がなくても存在する。神経痛は2つのカテゴリに分類される:中枢性神経痛及び末梢性神経痛。この異常な疼痛は、4つの可能な機構に関連付けられると考えられる:イオンゲート機能不全;神経が機械的に感受性になり、そして異所性のシグナルを生じる;大径線維と小径線維との間の交差シグナル(cross signals);及び中枢プロセッサ(central processor)の損傷に起因する機能不全。
【0147】
神経痛は、しばしば診断が困難であり、そして大部分の処置はほとんど有効性を示さないか、全く示さない。診断は、典型的には失われた感覚又は運動機能を同定することにより損傷した神経を見つけることを含む。これはEMG試験又は神経伝導試験のような試験を含み得る。神経痛は、通常の疼痛薬物療法に十分に反応しないので、他の型の疼痛よりも処置が困難である。これにより、この疼痛を診断及び処置する新しい方法を開発する必要性が存在しているということが分かり、従ってLrrfip1核酸及びタンパク質は興味深い標的を提供する。
【0148】
第三の局面において、本発明は、疼痛に影響を及ぼす化合物を同定するためのLrrfip1核酸の使用を提供し、そして第四の局面において、本発明は、疼痛に影響を及ぼす化合物を同定するためのLrrfip1タンパク質の使用を提供する。
【0149】
用語「Lrrfip1核酸」、「Lrrfip1タンパク質」及び「疼痛に影響を及ぼす化合物を同定すること」に関して、本発明の方法の文脈において提供される定義が参照される。上記の方法は同定に使用され得るということに留意。
【0150】
本発明の第三又は第四の局面の好ましい実施態様において、化合物及び/又は疼痛は、本発明の方法の好ましい実施態様の文脈において上で定義されたとおりである。
【0151】
本発明にしたがって同定された疼痛に影響を及ぼす化合物は、薬物として使用され得る。薬物の製造のために、同定された標的又はその薬学的に許容しうる塩は、一般に、望ましい特徴を生じるように混合された薬学的に許容しうる担体又は補助物質のような成分の混合物からなる医薬投薬形態中になければならない。
【0152】
製剤は、少なくとも1つの適切な薬学的に許容しうる担体又は補助物質を含む。このような物質の例は、脱塩水、等張食塩水、リンゲル液、緩衝液、有機酸又は無機酸及び塩基、さらにはそれらの塩、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸ナトリウム又はリン酸二カルシウム、ポリエチレングリコールのようなグリコール類、オレイン酸エチル及びラウリン酸エチルのようなエステル、グルコース、スクロース及びラクトースのような糖類、コーンスターチ及びジャガイモデンプンのようなデンプン、可溶化剤、並びにエチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジメチルホルムアミドのような乳化剤、落花生油、綿実油、トウモロコシ油、大豆油、ひまし油(caster oil)のような油脂、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピルのような合成脂肪酸エステル、ゼラチン、デキストラン、セルロース及びその誘導体、アルブミンのようなポリマーアジュバント、有機溶媒、クエン酸塩及びウレアのような錯化剤、安定剤、例えばプロテアーゼ又はヌクレアーゼ阻害剤、好ましくはアプロチニン、ε−アミノカプロン酸又はペプスタチンA、ベンジルアルコールのような保存料、亜硫酸ナトリウムのような酸化防止剤、ロウ及びEDTAのような安定剤である。着色剤、離型剤、コーティング剤、甘味料、矯味矯臭剤、及び芳香剤、保存料及び抗酸化剤も組成物中に存在し得る。生理緩衝液は、好ましくは約6.0〜8.0のpH、特に約6.8〜7.8のpH、特に約7.4のpH、かつ/又は約200〜400ミリオスモル/リットル、好ましくは約290〜310ミリオスモル/リットルの容量オスモル濃度を有する。薬物のpHは、一般的には適切な有機又は無機緩衝液、例えば好ましくはリン酸緩衝液、tris緩衝液(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、HEPES緩衝液([4−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジノ]エタンスルホン酸)又はMOPS緩衝液(3−モルホリノ−1−プロパンスルホン酸)を使用して調整される。それぞれの緩衝液の選択は、一般的に望まれる緩衝液モル濃度に依存する。リン酸緩衝液は、例えば注射液剤及び輸液に適している。薬物を製剤化するための方法、さらには適切な薬学的に許容しうる担体又は補助物質は、当業者に周知である。薬学的に許容しうる担体及び補助物質、並びにとりわけ(a.o.)、一般的な投薬形態及び同定された化合物にしたがって選択される。
【0153】
医薬組成物は、経口、鼻腔、直腸、非経口、膣、局所又は膣投与のために製造され得る。非経口投与としては、皮下、皮内、筋内、静脈内又は腹腔内投与が挙げられる。
【0154】
薬物は、様々な投薬形態として製剤化され得、これらとしては、カプセル剤、錠剤、丸剤、散剤及び顆粒剤のような経口投与のための固形投薬形態、薬学的に許容しうる乳剤、マイクロエマルション、液剤、懸濁剤、シロップ剤及びエリキシル剤のような経口投与のための液体投薬形態、注射用製剤、例えば、滅菌注射用水性又は油性懸濁剤、直腸又は膣投与用の組成物、好ましくは坐剤、並びに軟膏、ペースト剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル、散剤、液剤、スプレー、吸入剤又はパッチのような局所又は経皮投与のための投薬形態が挙げられる。
【0155】
いずれかの特定の患者についての具体的な治療的に有効な用量レベルは、同定された化合物の活性、投薬形態、患者の年齢、体重及び性別、処置期間及び医療技術分野で周知の同様の因子を含む様々な因子に依存する。
【0156】
ヒト又は他の哺乳動物に単回又は分割された用量で投与される本発明の化合物の合計日用量は、例えば約0.01〜約50mg/体重1kg又はより好ましくは約0.1〜約25mg/体重1kgの量であり得る。単回用量組成物は、日用量を構成するような量又はその約数を含有し得る。一般に、本発明に従う処置計画は、このような処置を必要とする患者に、本発明の化合物の化合物(the compound(s) of the compounds)を1日あたり約10mg〜約1000mg、単回用量又は複数回用量で投与することを含む。
【0157】
第五の局面において、本発明は痛覚過敏を診断する方法を提供し、該方法は
a) 対象(subject)のサンプルにおけるLrrfip1遺伝子の発現レベルを決定する工程、及び
b) 対象のサンプルにおけるLrrfip1遺伝子の発現レベルがコントロールと比較して増加している場合に該対象を痛覚過敏と同定する工程
を含む。
【0158】
実施例において示されるように、Lrrfip1遺伝子の発現レベルは痛覚過敏と相関性がある。従って、この発現レベルは、Lrrfip1関連痛覚過敏において、又はLrrfip1関連痛覚過敏を診断するために使用され得る。遺伝子の発現レベルは、遺伝子レベル、mRNAレベル又はタンパク質レベルで検出され得る。
【0159】
増加した発現レベルは、Lrrfip1遺伝子のコピー数の増加に起因するものであり得る。遺伝子のコピー数の増加に起因する一連の疾患が知られている。例えば、乳癌の1つの原因はHER−2増幅であり得る。遺伝子増幅は、免疫組織化学(IHC)及び銀、発色又は蛍光のいずれかのインサイチュハイブリダイゼーション(SISH/CISH/FISH)により決定され得る。
【0160】
プローブのインサイチュハイブリダイゼーション(ISH)は細胞又は組織内で起こる。細胞構造は手順の間中維持されているので、ISHは組織サンプル内のmRNAの位置についての情報を提供する。手順はサンプルを例えば中性緩衝化ホルマリンで固定し、そして組織をパラフィン中に包埋することから始める。次いでサンプルを薄い切片にスライスして顕微鏡スライド上に載せる。(あるいは、組織を凍結して薄片化し、パラホルムアルデヒド中で後固定(post−fixed)してもよい。) 切片を脱ろう及び再水和するための一連の洗浄後に、プローブ接近性(accessibility)を増大させるためにプロテイナーゼK消化を行い、次いで標識したプローブをサンプル切片にハイブリダイズさせた。放射標識プローブを、スライド上で乾燥させた液膜で可視化し、一方で非同位体標識プローブを比色分析試薬又は蛍光試薬を用いて都合よく検出する。
【0161】
あるいは、遺伝子増幅は、仮想核型分析又は比較ゲノムハイブリダイゼーションにより検出され得る。アレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション(アレイCGH)及びSNPアレイのような、分裂した(disrupted)DNAから高分解能核型をインシリコで生成させるためのプラットフォームが現れた。概念的には、これらのアレイは、ゲノムの目的の領域に対して相補的な数百から数百万のプローブで構成される。試験サンプルからの分裂したDNAを断片化し、標識し、そしてアレイにハイブリダイズさせる。各プローブについてのハイブリダイゼーションシグナル強度は、アレイ上の各プローブについて試験/通常のlog2比を生成するように専門化されたソフトウェアにより使用される。アレイ上の各プローブのアドレス及びゲノム中の各プローブのアドレスがわかると、このソフトウェアは染色体順にプローブを並べ、そしてインシリコでゲノムを再構築する。
【0162】
さらに、多数のPCRベースの方法論も上で記載されてきた。
【0163】
あるいは、又はさらに、Lrrfip1発現レベルは、mRNA又はタンパク質レベルでも検出され得る。この場合、mRNA又はLrrfip1タンパク質の量が検出される。mRNA又はタンパク質を検出するための適切な方法は上で詳述される。
【0164】
方法論、プロトコール、及び試薬は変更され得るので、本発明は本明細書に記載される特定の方法論、プロトコール、及び試薬に限定されない。さらに、本明細書において使用される専門用語は、特定の実施態様を説明する目的のみのためであり、本発明の範囲を限定することを意図されない。本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈が明確にそうではないと指示していなければ複数形を含む。同様に、語句「含む」、「含有する」及び「包含する」は、排他的ではなく包括的と解釈されるべきである。
【0165】
別の定義がなければ、本明細書において使用される全ての技術的及び科学的用語並びに頭字語は、本発明の分野の当業者により一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似するか同等であるいずれの方法及び材料も本発明の実施において使用され得るが、好ましい方法及び材料を本明細書に記載する。
【0166】
本発明はさらに以下の図面及び実施例により説明されるが、当然のことながら、実施例は単に説明の目的のためだけに含まれるのであり、そうではないと具体的に示されなければ本発明の範囲を限定することは意図されない。
【図面の簡単な説明】
【0167】
【図1】個々のマウス全てについてのその神経障害性疼痛表現型スコア(機械的過敏性、X軸)及びL5 DRGにおけるLrrfip1の対応する遺伝子調節(log比(Chung対Shamコントロール)、Y軸)を示す。マウスデータは使用した系統によって記号で符号化されている。ピアソン相関分析を行い、そして2つのパラメーター、疼痛表現型及びlog比遺伝子調節の有意な負相関を明らかにした。これは、個々のマウスについて、Chung手術をした神経障害マウスにおいてLrrfip1のL5 DRG発現が低いほど、行動試験において示される機械的痛覚過敏(hyperalgesia)がより顕著であったということを意味する。この有意な相関は、神経障害性疼痛表現型の誘導に関するLrrfip1遺伝子発現の因果関係を示す。(R(ピアソン)=−0.684;p値=0.00012;FDR=0.026)
【図2】L5 DRGのLrrfip1についての例となる強度データを示す(術後(p.o.)3日)。
【実施例】
【0168】
痛覚過敏に関与するタンパク質としてのLrrfip1の同定
疼痛治療の新しい標的を同定するために、その調節が慢性神経障害性疼痛に寄与する遺伝子を同定するための相関分析を行った(Persson et al.、2009、Molecular Pain 5:7も参照のこと)。要約すれば、近交系マウス系統AKR/J(AKR)、C57BL/6J(C57/B6)及びCBA/J(CBA)の後根神経節(DRG)のRNAサンプルを試験した。近交系マウス系統はThe Jackson Laboratory(Bar Harbor,ME,USA)から入手した。Chung手術(神経障害性疼痛のChungモデル(Kim and Chung、1992、Pain 50:355−363)及び対応するsham手術を行ったコントロール動物のL5の位置における脊髄神経に軸索切断を行った。サンプルをAffymetrixマイクロアレイ(MOE430 2.0)を用いてプロファイリングした(profiled)。各グループの少なくとも5匹の動物を試験した。疼痛表現型「機械的痛覚過敏」の発現を、全てののマウスにおいてDRGの除去の前に決定した(Perssonら、前出、特に「Behavioral testing」の項)。3つのマウス系統はそれらの表現型において異なる。CBAマウス、C57/B6マウス及びAKRマウスにおいて、表現型はそれぞれ低レベル、中程度のレベル、及び高レベルで発現した。
【0169】
遺伝子発現実験を行うために、マウスDRGの全RNAを単離するための方法が開発されており(Perssonら、前出、特に「RNA extraction for TaqMan and microarray analysis」の項)、ここでこの方法により十分な量(>300ng)及び品質のRNAが得られた。3つのマウス系統(Chung手術又はsham手術のいずれかを行ったコントロール動物)のL5 DRGからRNAを抽出した後、RNAプローブをAffymetrixマイクロアレイ(MOE430 2.0)でハイブリダイズさせた。
【0170】
Affymetrix遺伝子発現データを統計的に分析し、そして相関分析の前にフィルターをかけた。以下のフィルター基準を使用した:
− 全てのChung手術を行った動物の少なくとも60%において絶対(Abs.)fold−change ≧1.5、又は
− 全てのChung手術を行った動物の少なくとも20%において ≧2.0(それぞれ全てのsham手術を行ったコントロール動物の平均値に対して)、かつ
− 少なくとも5匹の動物において遺伝子発現強度 >50(バックグラウンドレベル)。
【0171】
3つの系統の個々のマウスの表現型データ及びそれらの遺伝子発現データ(log比(Chung手術対sham手術)で表される)又はChung手術した動物の発現強度を相関分析に使用した。
【0172】
上記のフィルター基準を満たした各遺伝について、遺伝子発現データ及び表現型データ(機械的過敏性)のピアソン相関係数を計算した(Perssonら、前出、特に「Correlational analysis」の項)。単一の遺伝子の相関係数の有意性を決定するために、「偽発見率(false discovery rate)」(FDR)を導入した(Storey,J.D.(2002)J.R.Statist.Soc.64,part3,479−498)。FDR>0.05である遺伝子のピアソン相関係数を有意とみなした。log比データ(Chung手術対sham手術)及び発現強度を使用して、74の配列及び114の遺伝子をそれぞれ同定した。これらの配列/遺伝子についてのデータは、遺伝子発現と表現型データの有意な相関(FDR<0.05)を示し、そしてこれらは疼痛及び痛覚過敏に関与することが公知ではなかった。
【0173】
遺伝子の中で発現と疼痛表現型との最高の相関を有するLrrfip1遺伝子について、log比データ及び機械的過敏性の相関分析により、ピアソン相関係数−0.684 (p値0.00012)及びFDR 0.026が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疼痛に影響を及ぼす化合物を同定する方法であって:
a) Lrrfip1核酸を含む試験系を備える工程、
b) 試験系を試験化合物と接触させる工程、及び
c) 試験系に対する試験化合物の効果を決定する工程
を含み、ここで試験化合物は、コントロールと比較して試験系に対する試験化合物の有意な効果が検出される場合に、疼痛に影響を及ぼす化合物であると同定される、上記方法。
【請求項2】
疼痛に影響を及ぼす化合物を同定する方法であって:
a) Lrrfip1タンパク質又はその機能的に活性な変異体を含む試験系を備える工程、
b) 試験系を試験化合物と接触させる工程、及び
c) 試験系に対する試験化合物の効果を決定する工程
を含み、ここで試験化合物は、コントロールと比較して試験系に対する試験化合物の有意な効果が検出される場合に、疼痛に影響を及ぼす化合物であると同定される、上記方法。
【請求項3】
疼痛に影響を及ぼす化合物は、Lrrfip1遺伝子及び/又はLrrfip1タンパク質のシグナル伝達経路に天然で関係する細胞性化合物である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
疼痛に影響を及ぼす化合物は、Lrrfip1タンパク質の上流又は下流でシグナル伝達を変化させる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
疼痛に影響を及ぼす化合物は、Lrrfip1遺伝子の上流又は下流でシグナル伝達を変化させ、特に該化合物はLrrfip1遺伝子の発現を変化させる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
疼痛に影響を及ぼす化合物は、Lrrfip1遺伝子及び/又はLrrfip1タンパク質のシグナル伝達経路に天然で関係する細胞性化合物に結合し、特にここで疼痛に影響を及ぼす化合物は、Lrrfip1核酸又はLrrfip1タンパク質、特にLrrfip1タンパク質に結合する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
疼痛に影響を及ぼす化合物は、Lrrfip1遺伝子の上流又は下流でシグナル伝達を阻害し、特にここで該化合物はLrrfip1遺伝子の発現を阻害する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
疼痛に影響を及ぼす化合物は、Lrrfip1タンパク質の上流又は下流でシグナル伝達を阻害し、特にここで該化合物はLrrfip1タンパク質に結合する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
試験系が細胞内にある、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ハイスループット法である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
疼痛は神経障害性疼痛である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
疼痛に影響を及ぼす化合物を同定するための、Lrrfip1核酸の使用。
【請求項13】
疼痛に影響を及ぼす化合物を同定するための、Lrrfip1タンパク質の使用。
【請求項14】
請求項3〜8及び11のいずれか1項において定義されたとおりにさらに定義される、請求項12又は13に記載の使用。
【請求項15】
痛覚過敏を診断する方法であって、
a)対象のサンプルにおけるLrrfip1遺伝子の発現レベルを決定する工程、及び
b)対象のサンプルにおけるLrrfip1遺伝子の発現レベルがコントロールと比較して増加している場合に該対象を痛覚過敏と同定する工程
を含む、上記方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2013−517760(P2013−517760A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549357(P2012−549357)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際出願番号】PCT/EP2011/050780
【国際公開番号】WO2011/089194
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(504456798)サノフイ (433)
【Fターム(参考)】