説明

疼痛に関与する化合物の同定に関する方法及び使用並びに痛覚過敏の診断方法

本発明は、疼痛に関与する化合物の同定方法、疼痛に関与する化合物を同定するためのC1qb核酸又はC1qbタンパク質の使用並びにそれを含む痛覚過敏の診断方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疼痛に関与する化合物の同定方法、疼痛に関与する化合物を同定するためのC1qb核酸又はC1qbタンパク質の使用並びにそれを含む痛覚過敏の診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
身体的痛みは、有害刺激又は身体傷害の不快な認識として記載されうる典型的な感覚的経験である。人は、日々のさまざまな怪我や痛み、そしてしばしばより重篤な損傷又は疾病を通して疼痛を経験する。科学的及び臨床的目的では、疼痛は、国際疼痛研究学会(International Association for the Study of Pain)(IASP)によって「実際の又は潜在的な組織損傷に伴う、又はこのような損傷に関して記載される不快な感覚及び情動の経験」として定義される。
【0003】
あらゆるタイプの疼痛は、米国における医師の診察で、全米国人の半数に毎年、医療的ケアを捜すように促している最もよくみられる原因である。それは、人の生活の質及び全身機能を著しく妨げる、多くの医学的状態における主要な症状である。診断は、持続期間、強度、タイプ(鈍い、焼けるような、ズキズキする又は刺すような)、原因、又は身体の部位に応じてさまざまなやり方で疼痛を特徴づけることに基づく。通常、疼痛は、治療なしに終わるか又は休憩する若しくは鎮痛剤を服用するといったような単純な手段に反応し、そしてその場合、『急性』疼痛と称する。しかし、それは、難治性になって慢性疼痛と称する状態に進展することもあり、その場合、疼痛はもはや症状ではなく、それ自体が疾病であると考えられる。近年、疼痛研究は、薬理学、神経生物学、看護、歯学、理学療法及び心理学といったような多くの異なる領域から関心を持たれている。
【0004】
疼痛は、反射反応を引き起こして痛みを伴う刺激から後退し、そして調整行動を助けて将来的にその特定の有害状況の回避を高める身体の防御系の要素である。
【0005】
疼痛の医学的管理は、急性疼痛と慢性疼痛の間で違いが生じている。急性疼痛は、指を傷つけたとき、骨折したとき、歯痛のあるとき、又は広範な外科手術後に歩くときに感知される『通常の』痛みである。慢性疼痛は、『痛みの疾病』であり、それは、毎日毎日、何カ月も感知され、そして治癒が不可能であるとみられている。
【0006】
一般に、医師は、通常、他の原因の中でも軟組織損傷、感染症及び/又は炎症によって生じる急性疼痛をより十分に治療している。急性疼痛は、通常、原因を除去するため、そして痛覚を抑制するため医薬、一般に鎮痛剤又は適当な技術を用いて同時に治療される。急性疼痛の適切な治療に失敗すると、場合によっては慢性疼痛に至ることがありうる。
【0007】
疼痛治療のための一連の医薬は、知られている。しかし、副作用及び耐性は、知られている鎮痛剤に関連する共通の問題である。従って、疼痛が認められた米国成人の調査では、人々が補完代替医療を用いる最も多くみられる理由であったのは驚くべきことではない。
【0008】
このことから、疼痛治療にとって新たなアプローチ及び標的がなお必要とされていることがわかる。
【0009】
ここで、驚くべきことに、C1qbが疼痛に関与することが見出された。疼痛に関与する遺伝子を同定するためのスクリーニングアッセイにおいて、疼痛感受性において異なる3種の異なる近交系マウス株を試験した。さまざまな遺伝子の発現は、マウス株の疼痛感受性と相関していた。疼痛感受性と発現の間で最良の相関性を示す遺伝子の中にC1qbがあった(実施例を参照のこと)。従って、C1qbは、疼痛及び痛覚過敏の診断に関与する化合物の同定にとって興味深い標的である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
従って、本発明は、第1及び2の態様において、疼痛に関与する化合物の同定方法であって、方法は、
(a)C1qb核酸若しくはC1qbタンパク質又はその機能的に活性な変異体を含む試験系を準備する工程、
(b)試験系を試験化合物と接触させる工程、及び
(c)試験系における試験化合物の効果を測定する工程、
を含み、
ここで、試験化合物は、対照と比較して試験系における試験化合物の有意な効果が検出されたときに疼痛に関与する化合物として同定される、前記方法を提供する。
【0011】
本発明の第1の態様は、C1qb核酸を含む試験系に関し、そして第2の態様は、C1qbタンパク質又はその機能的に活性な変異体を含む系を試験系に関する。
【0012】
本発明の試験系は、疼痛に関与する機構を解明するために用いてもよい。特に、試験系は、C1qb核酸又はタンパク質と相互作用し、特にそれを活性化する又は不活性化する疼痛に関与する薬剤の開発、同定及び/又は特徴づけに用いてもよい。同定された薬剤は、疼痛、特に神経障害性疼痛の治療に用いることができる興味深い治療薬物でありうる。別法として、C1bqは痛覚過敏の診断に用いることができる。
【0013】
本発明による試験系を適合させることができるさまざまな試験設計は、当分野で知られている。典型的な試験におけるさらなる詳細を、本発明の方法に記載する。試験系は、試験系における試験化合物の効果を測定するために用いてもよい。当業者は、例えば、目的とする特定の試験方法に適した一般的な方法に関して必要なさらなる薬剤を加えることによって試験系を設計することができる。
【0014】
C1qb核酸若しくはタンパク質又はその機能的に活性な変異体に加えて、本発明の試験系は、1つ又はそれ以上のさらなる成分を含んでもよい。試験設計及び検出方法に応じて、試験系は、例えば知られているC1qbリガンド、C1qbシグナル伝達成分、検出手段などを含んでもよい。当業者は、試験系を研究設計に適合させることができ、すなわち、適した緩衝液、補因子、基質、1つ若しくはそれ以上の異なる抗体、マーカー、酵素又は他のいずれか必要な薬剤が選ばれる。試験系は、一般的な条件下で必要に応じて細胞系又は無細胞系であってもよい。
【0015】
本発明の方法の第1の工程において、C1qb核酸、例えば、C1qb遺伝子又はC1qb cDNA又はC1qb mRNA又はC1qbプロモーター、又はタンパク質を含む試験系が提供される。
【0016】
C1qb遺伝子は、ヒト補体亜成分C1qの主要成分をコードしている。また、C1qbは、補体成分1、q亜成分、B鎖補体成分1、q亜成分、ベータポリペプチド補体成分C1q、B鎖補体亜成分C1q鎖Bと称することもある。
【0017】
C1q亜成分は、9つのサブユニットで構成されており、そのうちの6つは、A及びB鎖のジスルフィド結合した二量体であり、そしてそのうちの3つは、C鎖のジスルフィド結合した二量体である。各鎖は、N末端及びC末端の球状領域の近くにあるコラーゲン様領域を含む。A鎖、B鎖及びC鎖は、染色体1においてA−C−Bの順で配置される。C1qは、プロ酵素C1r及びC1と結合して血清補体系の第1成分、C1のカルシウム依存性三分子複合体を生成する。C1qのコラーゲン様領域は、カルシウム依存性C1r2C1s2プロ酵素複合体と相互作用し、そしてC1の効率的活性化によりC1qの球状頭部と免疫複合体中に存在するIgG又はIgM抗体のFc領域との相互作用が起こる。C1qbにおける欠損は、C1q欠損の原因である。それは、再発性の感染症及びエリテマトーデス様の症状の高い有病率と関連する珍しい遺伝的障害である。それは、古典経路の補体活性化の喪失を特徴としている。
【0018】
ヒトC1qbタンパク質は、251個のアミノ酸で構成される(UniProtKB/Swiss-Prot
P02746; C1QB _HUMAN参照)。アミノ酸1〜25はシグナルペプチドであり、そしてアミノ酸26〜251は、26〜251個の補体C1q亜成分サブユニットBの成熟形態である(PRO_0000003521参照)。タンパク質は、コラーゲン様領域(アミノ酸29〜112)及びC1q領域(アミノ酸115〜251)を含む:
【0019】
10 20 30
MKIPWGSIPV LMLLLLLGLI DISQAQLSCT
40 50 60
GPPAIPGIPG IPGTPGPDGQ PGTPGIKGEK
70 80 90
GLPGLAGDHG EFGEKGDPGI PGNPGKVGPK
100 110 120
GPMGPKGGPG APGAPGPKGE SGDYKATQKI
130 140 150
AFSATRTINV PLRRDQTIRF DHVITNMNNN
160 170 180
YEPRSGKFTC KVPGLYYFTY HASSRGNLCV
190 200 210
NLMRGRERAQ KVVTFCDYAY NTFQVTTGGM
220 230 240
VLKLEQGENV FLQATDKNSL LGMEGANSIF
250
SGFLLFPDME A
(配列番号:1)
【0020】
2つの自然変異体、すなわち、C1q欠損において40G→D(VAR_008541)そして体細胞突然変異として乳癌サンプルにおいて121A→T(VAR_035551)が報告されている。
【0021】
さらに、例えば、下に詳述するように以下のアミノ酸を置換することによって一連のアミノ酸修飾が記載されている:
26→ピロリドンカルボン酸
33、36、39、42、51、54、63、81、84、99、102又は105→4−ヒドロキシプロリン
57、60、75、90、96又は108→5−ヒドロキシリシン
【0022】
さらにまた、以下の種において、変異体を例示する:
生物 ヒト類似性(%) NCBI受け入れ
イヌ(Canis familiaris) 84.93(核酸) XM_544507.2
84(アミノ酸) XP_544507.2
チンパンジー(Pan troglodytes) 98.08(核酸) XM_524599.2
96.87(アミノ酸) XP_524599.2
ウシ(Bos Taurus) 80.7(核酸) NM_001046599.1
74.49(アミノ酸) NP_001040064.1
ドブネズミ(Rattus norvegicus) 78.8(核酸) NM_019262.1
78.8(アミノ酸) NP_062135.1
ハツカネズミ(Mus musculus) 78.88(核酸) NM_009777.2
80.08(アミノ酸) NP_033907.1
ニワトリ(Gallus gallus) 63.88(核酸) XM_425756.2
56.9(アミノ酸) XP_425756.2
アフリカツメガエル(Xenopus laevis)71.06(核酸) CB197048.2
【0023】
従って、C1qbタンパク質という用語は、自然発生変異体も包含する。非自然発生変異体は、限定数のアミノ酸の欠失、挿入及び/又は置換、特に多くとも10、9、8、7、6、5、4、3、2又は1個のアミノ酸の欠失、挿入及び/又は置換によって得ることができる。本発明のC1qb変異体は、変異体がその生物学的機能、例えば疼痛におけるその関与(例えば疼痛表現型「機械的痛覚過敏」の発現として)又は補体古典経路を維持するという点で機能的に活性な変異体であることに留意する必要がある。好ましくは、生物学的機能の維持は、自然発生C1bq活性の少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、80%又は90%、なおより好ましくは95%を有することとして定義される。生物活性は、当業者に知られているように測定してもよい。例えば、疼痛表現型「機械的痛覚過敏」の発現は、実施例及びPersson et al., 2009, Molecular Pain 5:7に詳述されたように測定することができる。
【0024】
変異体は、さらなる成分を含むために改変してもよい。従って、変異体は、自然発生C1bqタンパク質で構成された領域を有する分子又は本明細書に詳述されたその変異体及び少なくとも1つのさらなる成分であってもよい。1つの好ましい実施態様において、変異体は、(i)C1qbタンパク質又は機能的に活性な変異体及び(ii)さらなるタンパク質成分を含む融合タンパク質であってもよい。例えば、タンパク質は、精製目的で用いられるタグ(例えば6His(又はHexaHis)タグ、Strepタグ、HAタグ、c−mycタグ又はS−トランスフェラーゼ(GST)タグ)のようなマーカーに結合させてもよい。例えば、高度に精製されたC1bqタンパク質又は変異体を必要とすべき場合、ダブル又はマルチプルマーカー(例えば上のマーカー又はタグの組み合わせ)を用いてもよい。この場合、タンパク質を、2つ又はそれ以上の分離クロマトグラフィー工程で精製し、各場合、第1の及び次いで第2のタグのアフィニティーを用いる。このようなダブル又はタンデムタグの例は、GST−His−タグ(ポリヒスチジンタグに融合したグルタチオン−S−トランスフェラーゼ)、6xHis−Strep−タグ(Strep−タグに融合した6個のヒスチジン残基)、6xHis−タグ100−タグ(哺乳動物MAP−キナーゼ2の12−アミノ酸タンパク質に融合した6個のヒスチジン残基)、8xHis−HA−タグ(ヘムアグルチニン−エピトープ−タグに融合した8個のヒスチジン残基)、His−MBP(マルトース−結合タンパク質に融合したHisタグ縮合、FLAG−HA−タグ(赤血球凝集素−エピトープ−タグに融合したFLAG−タグ)、及びFLAG−Strep−タグである。マーカーは、タグ付けされたタンパク質を検出するために用いることができ、ここでは、特異的な抗体を用いることができる。適した抗体としては、anti−HA(例えば12CA5又は3F10)、anti−6His、anti−c−myc及びanti−GSTが含まれる。さらにまた、C1bqタンパク質は、C1bqの検出を可能にする蛍光マーカー又は放射性マーカーのような異なるカテゴリーのマーカーに結合することができる。さらなる実施態様において、C1bqは、融合タンパク質の一部であることができ、その際、酵素活性を有するタンパク質成分のような第2の部分は、検出に用いることができる。
【0025】
本発明の別の実施態様において、C1bq変異体は、C1bq断片であることができ、その際、断片はなお機能的に活性である。これには、短い内部の及び/又はC末端及び/又はN末端の欠失(例えば、多くとも20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2又は1個のアミノ酸の欠失)を有するC1bqタンパク質が含まれうる。さらに、C1bq断片は、C1bqタンパク質について上に詳述されたようにさらに改変してもよい。
【0026】
別法として又はさらに、上記のようなC1bqタンパク質又はその変異体は、1つ又はそれ以上のアミノ酸置換を含んでもよい。しかし、アミノ酸が化学的に関連したアミノ酸で置換された半保存的及び特に保存的アミノ酸置換が好ましい。典型的な置換は、脂肪族アミノ酸の間、脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸の間、酸性残基を有するアミノ酸の間、アミド誘導体の間、塩基性残基を有するアミノ酸、又は芳香族残基を有するアミノ酸の間である。典型的な半保存的及び保存的置換は、以下の通りである:
【0027】
アミノ酸 保存的置換 半保存的置換
A G;S;T N;V;C
C A;V;L M;I;F;G
D E;N;Q A;S;T;K;R;H
E D;Q;N A;S;T;K;R;H
F W;Y;L;M;H I;V;A
G A S;N;T;D;E;N;Q
H Y;F;K;R L;M;A
I V;L;M;A F;Y;W;G
K R;H D;E;N;Q;S;T;A
L M;I;V;A F;Y;W;H;C
M L;I;V;A F;Y;W;C;
N Q D;E;S;T;A;G;K;R
P V;I L;A;M;W;Y;S;T;C;F
Q N D;E;A;S;T;L;M;K;R
R K;H N;Q;S;T;D;E;A
S A;T;G;N D;E;R;K
T A;S;G;N;V D;E;R;K;I
V A;L;I M;T;C;N
W F;Y;H L;M;I;V;C
Y F;W;H L;M;I;V;C
【0028】
A、F、H、I、L、M、P、V、W又はYからCへの変化は、新たなシステインが遊離チオールとして残る場合、半保存的である。さらにまた、立体的に困難な位置のグリシンを置換すべきではなく、そしてアルファヘリックス又はベータシート構造を有するタンパク質部分にPを導入すべきではないことは、当業者にとって明らかである。
【0029】
C1bqタンパク質又は断片又は置換を伴った変異体は、C1bqタンパク質又は断片又は変異体について上に詳述されたように改変してもよい。本発明の以下の説明において、C1bqタンパク質に関して記載されたすべての詳細は、特に明記しない限り、その機能的に活性な変異体にもあてはまる。
【0030】
なお、C1qbタンパク質の上の改変は、組み合わせてもよい。本発明の変異体は、例えば、それに融合したマーカーを有すC1qbの断片、又は1つ若しくはそれ以上のアミノ酸置換を含むC1qbタンパク質断片であってもよい。
【0031】
しかし、最も好ましくは、C1bqタンパク質は、上に詳述した自然発生C1bqタンパク質、なおより好ましくは、自然発生ヒトC1bqタンパク質(例えば配列番号:1)である。
【0032】
C1qb核酸という用語は、上のC1qbタンパク質をコードする核酸並びにその自然発生及び非自然発生変異体(本明細書に定義されるような)を包含する。好ましくは、用語は、C1qb遺伝子のコード又は非コード領域のことであり、ここにおいて、これらのセクションは、その遺伝子にとって特異的であるために意味のあるサイズである。それらの領域の例は、イントロン、エクソン又は調節要素、例えばC1qbプロモーターである。
【0033】
最も好ましいC1bq核酸は、上に詳述された自然発生C1bqタンパク質、なおより好ましくは、自然発生ヒトC1bqタンパク質(例えば配列番号:1)をコードしている。核酸は、細胞内に遺伝情報又は形状構造物を担持している単量体ヌクレオチドの鎖で構成されたなんらかの巨大分子であってもよい。最も一般的な(そして、従って好ましい)核酸は、デオキシリボ核酸(DNA)及びリボヌクレイン酸(RNA)である。最も好ましくは、C1qb核酸という用語は、C1qb遺伝子、プロモーター、DNA、cDNA又はmRNAのことである。人工核酸には、ペプチド核酸(PNA)、モルホリノ及びロックド核酸(locked nucleic acid)(LNA)、並びにグリコール核酸(GNA)及びトレオース核酸(TNA)が含まれる。これらのそれぞれは、分子の骨格鎖に対する変化によって自然発生DNA又はRNAと区別される。
【0034】
本発明の方法の第2の工程において、C1qb核酸又はタンパク質又はその機能的に活性な変異体を含む試験系を、試験系において効果を有し、かつそれを検出するのに適した時間及び条件下で薬剤又は試験化合物と接触させる。
【0035】
適した条件としては、例えば、含有タンパク質の変性を回避する又は存在する場合、生細胞を維持する適当な温度及び溶液が含まれる。適した条件は、選ばれた特定の試験系に左右され、そして当業者は、一般的な知識に基づいてそれらを選ぶことができる。インキュベーション工程は、約5秒から数時間まで、好ましくは約5分から約24時間まで変化することができる。しかしながら、インキュベーション時間は、アッセイフォーマット、マーカー、溶液の容積、濃度などに左右される。通常、アッセイは周囲温度で実施されるが、10℃〜40℃のような温度範囲より上で実施することができる。
【0036】
本発明の試験系で試験する薬剤は、あらゆる化学的性質のあらゆる試験物質又は試験化合物であってもよい。それは、疾患のための薬物又は薬剤としてすでに知られていてもよい。別法として、それは、別の実施態様において治療効果を有することがまだ知られていない既知の化学化合物であってもよく、そして化合物は、新規な又はこれまで未知の化学化合物であってもよい。薬剤は試験物質又は試験化合物の混合物であってもよい。
【0037】
本発明のスクリーニング方法の一実施態様において、試験物質は、化学化合物ライブラリーの形態で提供される。化学化合物ライブラリーは、複数の化学化合物を包含し、そして化学合成された分子若しくは天然生成物を含むあらゆる多様な供給源から集められるか、又はコンビナトリアル化学技術によって生成される。それは、特に高処理スクリーニングに適しており、そして特定構造の化学化合物又は植物のような特定生物の化合物を含んでもよい。本発明に関して、化学化合物ライブラリーは、好ましくはタンパク質及びポリペプチド又は小さな有機分子を含むライブラリーである。好ましくは、小さな有機分子は、大きさが500ダルトン未満の、特に可溶性の非オリゴマー性有機化合物である。
【0038】
本発明の方法の第3の工程では、試験系における試験化合物の効果を検出する。以下において、一連の異なる検出系を、より詳細に説明する。しかしながら、それらは例示的なものであって、他の試験系及び方法も適当でありうることを理解しなければならない。
【0039】
試験化合物が試験系において特異的な及び有意な効果を有する場合、試験化合物は、疼痛に関与する化合物として同定される。このために、試験化合物の効果を、対照、特に陰性対照と比較する。
【0040】
対照は、意図しない影響(例えばバックグラウンドシグナル)を排除する又は最小限にすることができるため、試験方法の一部である。対照実験は、特定の系における可変部分の効果を研究するのに用いられる。対照実験では、一方の組のサンプルは、改変されており(又はされたと考えられ)そしてもう一方の組のサンプルは、変化を示さないことが期待される(陰性対照)又は明確な変化を示すことが期待される(陽性対照)のいずれかである。対照は、試験物質と共に実施された1つの試験で決定することができる。それは、試験化合物の効果を測定する前若しくは後に決定することができ、又は既知の値であってもよい。
【0041】
試験系において効果を有する試験化合物は、試験系のシグナルを変化させる、増加させる又は減少させることがある。本発明に関して、試験化合物と接触させた試験系が対照(例えば、試験化合物と接触しない試験系)のそれより有意に低い又は高いシグナルを生じた場合、試験化合物は、対照との比較において効果を有する。スチューデントt検定又はカイ二乗検定のような2つの値が互いに有意に異なるかどうかを評価するための統計的方法は当業者に知られている。さらにまた、適した対照を選択するための方法は、当業者に知られている。
【0042】
好ましい実施態様において、試験系のシグナルは、試験化合物によって陽性又は陰性のいずれかの対照の少なくとも10%、好ましくは少なくとも25%、より好ましくは少なくとも50%、なおより好ましくは少なくとも75%、そして最も好ましくは少なくとも90%ほど変化する。
【0043】
本発明の方法について、あらゆる適した検出方法を用いてもよい。適した方法は、試験系の特徴及び試験する薬剤に応じて選択してもよい。
【0044】
方法は、不均一又は均一アッセイでもあってよい。本明細書に用いられるように、不均一アッセイは、1つ又はそれ以上の洗浄工程を含むアッセイであるのに対して、均一アッセイでは、このような洗浄工程は必要ない。試薬及び化合物を混合し、そして測定するだけである。
【0045】
試験法は、連続アッセイ又は非連続アッセイであってもよい。連続アッセイでは、さらに手間をかける必要なしに反応速度が得られる。多くの異なるタイプの連続アッセイがある。分光光度計アッセイでは、吸光度における変化を測定することによって反応の経過を追跡する。蛍光は、異なる波長の光を吸収した後、分子が1つの波長の光を放出する時に存在する。蛍光定量的アッセイでは、基質と生成物の蛍光における違いを用いて酵素反応を測定する。これらのアッセイは、一般に分光光度的アッセイよりも非常に高感度であるが、光に露光されたときに不純物及び多くの蛍光化合物の不安定性により生じる干渉を受けることがある。熱量測定は、化学反応によって放出された又は吸収された熱の測定である。これらのアッセイは非常に一般的であり、多くの反応は、熱においてマイクロ熱量計の使用による若干の変化を含んでいるため、多くの酵素又は基質を必要としない。これらのアッセイは、他のいずれのやり方でも検定することができない反応の測定に用いることができる。化学発光は、化学反応による光の放出である。いくつかの酵素反応は光を生じ、そしてこれは、生成物形成を検出するために測定することができる。生じた光は、数日又は数週間にわたって感光性フィルムによって捕捉することができるが、反応によって放出されたすべての光が検出されるわけではないので、定量化するのが困難でありうるため、これらのタイプのアッセイは、極めてセンシティブでありうる。静的光散乱では、生成物の質量平均モル質量及び溶液中の巨大分子の濃度を測定する。測定時間にわたって1つ又はそれ以上の種の全濃度を固定した場合、散乱シグナルは、溶液の質量平均モル質量の直接的な尺度であり、それは複合体の形成又は解離により変化する。したがって、測定により、複合体の化学量論並びに動態が定量化される。タンパク質動態の光散乱アッセイは、酵素を必要としない非常に一般的な技術である。
【0046】
非連続アッセイでは、間隔をおいて酵素反応からサンプルを採取し、そしてこれらのサンプルにおいて生成物産生又は基質消費の量を測定する。放射分析アッセイは、基質中への放射活性の取り込み又は基質からのその放出を測定する。これらのアッセイにおいて最も頻繁に用いられる放射性同位体は、14C、32P、35S及び125Iである。放射性同位体は、基質の1つの原子を特異的に標識化することができるため、これらのアッセイは極めて高感度でありかつ特異的である。それらは、生化学において頻繁に用いられ、そしてしばしば、粗抽出物中の特異的反応を測定する唯一のやり方である。クロマトグラフィーアッセイは、クロマトグラフィーによって反応混合物をその成分に分離することにより生成物形成を測定する。これは、通常、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)によって行われるが、より簡単な薄層クロマトグラフィー技術を用いることもできる。このアプローチは多くの物質を必要としないが、基質/生成物を放射性又は蛍光性タグで標識化することによりその感度を高めることができる。
【0047】
本発明によれば、試験化合物の効果は、C1qb核酸又はタンパク質との相互作用によるものでありうる。従って、C1qb核酸又はタンパク質に対する試験化合物の相互作用/結合は、(i)C1qb核酸又はタンパク質及び(ii)試験化合物の複合体を検出することによって測定することができる。2つ又はそれ以上の成分の複合体の検出に適した方法を、下に詳述する。
【0048】
別法として、試験化合物の効果、例えば結合及びC1qb核酸又はタンパク質の影響を、間接的に検出することができる。このために、C1qb核酸又はタンパク質の下流の効果を検出することができる。例えば、C1qbに関連する転写及び翻訳における効果を測定することができる。一実施態様において、C1qb mRNA又はC1qbタンパク質の量が検出される。
【0049】
特異的なタンパク質又は他の核酸の存在又は量を測定するように設計された多くの知られている検出方法は、タグ、マーカー又は標識の使用に左右される。試験系又は試験化合物の成分は、十分な検出又は精製を可能にするさまざまなやり方で標識化してもよい。1つの好ましい実施態様において、検出可能なマーカーは、試験系において効果を検出するために用いられる。このために、(i)核酸又はC1qbタンパク質、(ii)試験化合物及び/又は(iii)試験系のさらなる成分を少なくとも1つの検出可能なマーカーで標識化してもよい。
【0050】
成分の1つ又はそれ以上の官能基の標識化には、一般的な標識化方法を用いてもよい。タンパク質について、これらは、例えば各ポリペプチド鎖のN末端及びリシン残基の側鎖に存在する第一級アミノ基;ジスルフィド結合を還元剤で処理するによって又はリシン残基をスクシンイミジル−S−アセチルチオアセテート(SATA)のような試薬で修飾することによって入手可能なシステイン残基上に存在するSH基;又は酸化してカップリングのための活性アルデヒドを生成しうる、通常、抗体のFc領域に存在する炭水化物基であることができる。アミン、スルフヒドリル又は他の官能基を例えばFITCで、フルオレセイン、ローダミン、Cy色素又はAlexa fluosで標識化するため、ビオチン(アビジン−ビオチン化学用)、酵素、活性化蛍光色素のような一連のさまざまな薬剤で成分又は化合物を標識化してもよい。3H、32P、35S、125I又は14Cのような放射性標識並びにペニシリナーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ及びアルカリホスファターゼを含む一般的な酵素標識を、同様に用いてもよい。
【0051】
本発明の実施態様においてマーカーは、放射性標識、特に3H、32P、33P、35S、125I又は14Cである。
【0052】
別の実施態様において、マーカーは、1つ又はそれ以上の蛍光マーカーである。適した蛍光マーカーは、本発明の方法の説明に記載されている。
【0053】
これらの方法に特に有用なのは、化学的なタグ、マーカー又は標識を介して検出可能な標的特異性プローブの使用である。抗体は、プローブの最も一般的なタイプであり、特定の抗原に対するその結合親和性により、複合体サンプル中でのその標的の「発見」及び検出が可能となる。しかし、抗体は、それ自体タンパク質であり、そして可視化のために標識化されなければ、又は標識化された別の分子で二次的に調べなければアッセイ系において特異的に検出することができない。
【0054】
マーカー(又はタグ若しくは標識)は、別の物質又は物質の複合体の存在を示すことができるあらゆる種類の物質である。
【0055】
マーカーは、検出すべき物質に結合されるか又はその中に導入される物質であることができる。分子生物学及びバイオテクノロジーでは、例えばタンパク質、酵素反応の生成物、セカンドメッセンジャー、DNA、分子の相互作用などを検出するために検出可能なマーカーが用いられる。適したマーカー又は標識の例としては、フルオロフォア、クロモホア、放射性標識、金属コロイド、酵素又は化学発光若しくは生物発光分子が含まれる。フルオロフォアの例としては、フルオレセイン、ローダミン及びスルホインドシアニン色素Cy5が含まれる。放射性標識の例としては、3H、14C、32P、33P、35S、99mTc又は125Iが含まれる。酵素の例としては、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、及びウレアーゼが含まれる。さらなる例及び好ましい実施態様は、本明細書に詳述されている。
【0056】
さまざまな方法によって異なるタイプの化学標識又はタグを一次又は二次抗体及び他の分子に結合してそれらの可視化(すなわち、検出及び測定)を促進することができる。放射性同位体は、過去に広く用いられたが、高価であり、保存寿命が短く、信号雑音比が改善されておらず、そして特別な取扱い及び処理を必要とする。酵素及びフルオロフォアは、アッセイのために検出可能なタグとして放射性同位体にほとんど取って代わった。試薬及び器具使用における多くの進歩により、これらのより新しい技術は、より用途が広く、有力になっている。ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)のような酵素タグは、ブロット法、免疫測定法及び免疫組織化学方法に最も一般的に使用される。蛍光タグは、主に細胞画像化、核酸増幅及び配列決定及びマイクロアレイに用いられるが、しかしながら、蛍光技術は、すべてのタイプのアッセイの用途に対して急速に向上している。
【0057】
タンパク質の検出は、しばしば特異的抗体の使用を含む。従って、C1qbタンパク質又はその変異体の検出は、特異的C1qb抗体を含んでもよい。C1qbに対する抗体は、商業的な供給者から入手可能である(例えば、カタログ番号:Acris Antibodies GmbH, Herford, ドイツからARP44297_P050、H00000713−B01又はPAB3523;又はカタログ番号:Abcam Inc., Cambridge, MA, 米国からab67812)。別法として、抗体は、調製形態の抗原で動物を免疫化するための確立された技術を用いて高めることができる。抗体産生及び精製を助けるためにさまざまな試薬が入手可能であり、そしてさまざまな会社が抗体産生におけるサービスを専門に扱っている。実施すべき用途に応じて、供給された一次抗体において異なる純度レベル及び特異性のタイプが必要である。いくつかパラメーターを挙げてみると、抗体はモノクローナル又はポリクローナルであってもよく、抗血清又はアフィニティー精製された溶液として供給され、そして天然タンパク質又は変性タンパク質の検出に有効である。
【0058】
標的抗原を認識する抗体、ここではC1qb又はその断片を、「一次抗体」と称する。この抗体がタグで標識化される場合、抗原の直接検出が可能である。しかしながら、通常、一次抗体は、直接検出のために標識化されない。その代わりに、検出可能なタグで標識化された「二次抗体」を第2工程で適用して標的抗原に結合する一次抗体を調べる。従って、抗原は間接的に検出される。間接検出の別の形態としては、ビオチンのようなアフィニティータグで標識化された一次又は二次抗体の使用が含まれる。次いで、検出可能な酵素又はフルオロフォアタグで標識化されたストレプトアビジンのような二次(又は三次)プローブを用いてビオチンタグを調べて検出可能なシグナルを得ることができる。これらの調査及び検出戦略のいくつかの別法が存在する。しかし、それぞれのものは、その存在が、いくつかの種類の測定可能なタグ(例えば、その活性が基質と反応して着色生成物を生成することができる酵素)に直接又は間接的に結合される特異的なプローブ(例えば、一次抗体)によって決まる。
【0059】
通常、アッセイ方法では、検出可能な標識のない一次抗体及びある種の二次的(間接的な)検出方法が必要とされている。それでも、ほとんどあらゆる抗体は必要に応じて、ビオチン、HRP酵素又はいくつかのフルオロフォアの1つで標識化することができる。ほとんどの一次抗体は、マウス、ウサギ又はいくつかの他の種のものにおいて産生される。これらのほぼすべては、IgGクラスの抗体である。従って、製造者にとって、ほとんどの用途及び検出系にすぐに使用できる標識化二次抗体を生産及び供給することは比較的容易でありかつ経済的である。それでも、純度のレベル、IgG−及び種−特異性並びに検出標識が異なる数百の選択肢が入手可能である。二次抗体の選択は、一次抗体が増加した動物種(宿主種)に左右される。例えば、一次抗体がマウスモノクローナル抗体である場合、二次抗体はマウス以外の宿主から得た抗マウス抗体でなければならない。
【0060】
プローブとしてビオチン−結合タンパク質を用いた、ビオチンとアビジン又はストレプトアビジンタンパク質との間の高度に特異的なアフィニティー相互作用は、多くの種類の検出及びアフィニティー精製方法にとっての基準である。ビオチンは非常に小さい(244ダルトン)ので、抗体又は他のプローブに対するその共有結合的結合は、めったにそれらの機能を妨げることはない。それでも、プローブ上の標識としてその存在は、アビジン又はストレプトアビジンのいずれかによる効率的かつ特異的な二次検出を可能にする。両種類のビオチン−結合タンパク質は、多くの種類のアッセイ系において検出を可能にする酵素又は蛍光タグで標識化された精製形態で入手可能である。
【0061】
酵素標識は、最も一般的にはブロット法及び免疫測定法における検出のための二次抗体(又はストレプトアビジン)タグとして用いられる。酵素は、その活性を経て検出可能なシグナルを提供し、特異的な基質化学物質との反応により着色された、光を放出する又は蛍光生成物を提供する。ベータ−ガラクトシダーゼ及びルシフェラーゼのようなレポーター酵素を用いてプローブを作ることに成功しているが、アルカリホスファターゼ(AP)及びホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)は、タンパク質検出のために標識として最も広く用いられる2つの酵素である。発色性、蛍光発生及び化学発光基質のアレイは、いずれの酵素の用途にも入手可能である。
【0062】
通常、仔ウシ腸から単離されたアルカリホスファターゼは、着色若しくは蛍光生成物を生じるか又は反応の副生物として光を放出する基質分子のリン酸基の加水分解に触媒作用を及ぼす大きな(140kDa)タンパク質である。APは、塩基性pH(pH8〜10)で最適な酵素活性を有し、シアニド、アルセナート、無機リン酸塩及び二価陽イオンキレート剤、例えばEDTAによって阻害することができる。ウエスタンブロット法のための標識として、APは他の酵素とは異なる利点を提供する。その反応速度は線形のままであるため、単純に反応をより長い期間、進行させることによって検出感度を改善することができる。
【0063】
ホースラディッシュペルオキシダーゼは、過酸化水素による基質の酸化に触媒作用を及ぼし、着色若しくは蛍光生成物又は反応の副生物として光の放出を生じる40kDaのタンパク質である。HRPは、中性付近のpHで最適に機能し、そしてシアニド、スルフィド及びアジドによって阻害することができる。抗体−HRP複合体は、酵素及び抗体の両方の特異的活性に関して抗体−AP複合体よりも優れている。さらに、その高代謝回転速度、良好な安定性、低コスト及び基質の広い入手可能性は、HRPをほとんどの用途に選択される酵素にしている。HRP酵素は小さなサイズであるため、感度におけるさらなる上昇は、ポリ−HRP結合二次抗体を用いることによって達成してもよく、そして研究者によってはABCタイプ増幅系を使用する必要がなくなるかもしれない。
【0064】
検出用の蛍光標識は、フローサイトメトリー(FC)、蛍光活性化細胞分類(FACS)及び蛍光顕微鏡検査を用いた免疫組織化学(IHC)のような少数の細胞生物学用途で従来から用いられた。最近まで、プローブを標識化するための最も一般的な2つのフルオロフォアは、フルオレセイン(フルオレセインイソチオシアネート、FITC)及びローダミン(テトラメチルローダミンイソチオシアネート、TRITC)であった。他の標識としては、さまざまな形態の緑色蛍光タンパク質(GFP)及びフィコビリタンパク質(アロフィコシアニン、フィコシアニン、フィコエリトリン及びフィコエリトロシアニン)のような蛍光タンパク質が含まれる。検出のための強い蛍光シグナルを生じる能力を有しているが、蛍光タンパク質は、結合目的のために最適化するのが困難である場合があり、そして結合アッセイにおいて立体障害又はバックグラウンドシグナルの問題を生じることがある。
【0065】
ブロット法及び免疫測定法におけるフルオロフォア結合プローブの使用は、実施すべき基質発現工程がないため、酵素標識の使用と比較して必要な工程がより少ない。プロトコールはより短いが、蛍光検出には特別な装置が必要であり、そして感度は酵素化学発光系で得ることができるものほど高くない。酵素検出ほどの感度ではないが、蛍光検出方法は、化学廃棄物を減らし、そして多重適合性(multiplex compatibility)(同じ実験で1つを超えるフルオロフォアを用いる)の付加的な利点を有する。
【0066】
別法として又はさらに、2つの物質、例えば試験化合物又は既知のC1qbリガンド及びC1qbタンパク質の近接性を検出するために2つのマーカーを使用してもよい。マーカーは、例えば1つの放射性又は蛍光マーカー及び1つのシンチレーター(例えばシンチレーション近接アッセイ用)であってもよいし、又は2つの蛍光マーカー(例えばFRET用)を用いてもよい。1つの例において、C1qbタンパク質及び試験物質を、第1及び第2のマーカーで標識化することができる。試験物質がタンパク質に結合し、そのため標識がごく接近している場合、エネルギーは第1の標識から第2の標識に移り、それによりC1qbタンパク質及び試験物質の相互作用を検出することができる。この試験は、競合的結合試験として設計することができ、ここでは、既知のC1qbリガンドが標識の1つを担持する。
【0067】
適したマーカー組み合わせの例としては、
・例えば、微粒子中で区画に分けられたケイ酸イットリウム又はポリビニル−トルエンのようなシンチレーターと組み合わせた放射性標識3H、33P、35S又は14C、125I、又は
・受容体蛍光マーカー、例えばLC−RED 610、LC−RED 640、LC−RED 670、LC−RED 705、Cy5、Cy5.5、リサミンローダミンBスルホニルクロリド、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、ローダミンxイソチオシアネート、エリスロシンイソチオシアネート、フルオレセイン、ジエチレントリアミン五酢酸又はランタニドイオンの他のキレート(例えば、ユウロピウム又はテルビウム)と組み合わせた供与体蛍光マーカー、例えばフルオレセイン、ルシファーイエロー、B−フィコエリトリン、9−アクリジンイソチオシアネート、ルシファーイエローVS、4−アセトアミド−4'−イソチオシアナトスチルベン−2,2'−二スルホン酸、7−ジエチルアミノ−3−(4'−イソチオシアナトフェニル)−4−メチルクマリン、スクシンイミジル1−ピレンブチレート、及び4−アセトアミド−4'−イソチオシアナトスチルベン−2,2'−二スルホン酸誘導体が含まれる。
【0068】
抗体による検出の代替物として、本発明の方法は、競合結合実験として設計することができ、ここでは、試験物質によるC1qbからの既知C1qbリガンドの結合の置換が研究される。タンパク質からの既知リガンドの成功した置換は、タンパク質に対する試験物質の結合についての指標である。このアプローチでは、多数の試験化合物(例えばライブラリーの)を都合よく試験することができる既知のC1bqリガンドを標識化するのが好都合であり、それによって試験化合物のそれぞれを標識化する必要がない。
【0069】
リガンドは、生体分子、ここでは、例えばC1qbタンパク質又は核酸に結合して複合体を形成することができる物質である。それは、イオン結合、水素結合及びファンデルワールス力のような分子間力によって生体分子上の部位に結合する分子である。ドッキング(結合)は、通常、可逆的(解離)である。リガンドとその標的分子との間の実際の不可逆的な共有結合的結合は、生体系においてはまれである。生体分子に対するリガンド結合は、その活性、例えば、下流のシグナル伝達を活性化するその能力を変化させることがある。リガンドには、阻害剤及び活性化剤が含まれる。
【0070】
阻害剤は、酵素に結合してその活性を低下させる分子である。酵素活性を阻止することで代謝的不均衡を修正することができるため、多くの薬物は、酵素阻害剤である。酵素と結合するすべての分子が、阻害剤であるというわけではなく、酵素活性化剤は、酵素に結合してその酵素活性を高める。
【0071】
阻害剤の結合により、結合パートナーが生体分子と相互作用するのを停止させることができ及び/又は生体分子が活性である又は活性化されるのを妨げることができる。阻害剤結合は可逆的又は不可逆的である。不可逆的阻害剤は、通常、生体分子と反応してそれを化学的に変化させる。これらの阻害剤は、例えば活性に必要な鍵となるアミノ酸残基を修飾してもよい。対照的に、可逆的阻害剤は、非共有結合的に結合し、そしてこれらの阻害剤が生体分子を結合するかどうかに応じて異なるタイプの阻害を生じる。
【0072】
選択的リガンドは、酵素のような非常に限られたタイプの標的(生体分子)に結合する傾向があるのに対して、非選択的リガンドは、幾つかのタイプの標的に結合する。これは、薬理学において重要な役割を果たしており、ここで、非選択的薬物は、所望の効果を生じるものに加えていくつかの他の生体分子に結合するため、より有害効果を有する傾向がある。
【0073】
競合結合実験では、既知リガンドを少なくとも1つの検出可能なマーカーで標識化し、そしてb)のインキュベーション工程に加える。工程b)の後、結合した標識化リガンドを、非結合リガンドから分離する。分離は、濾過、遠心分離、固定化(immobilization)、相分離及び液体の除去などのような一般的な分離工程によって行ってもよい。リガンド及び試験化合物は、生体分子への結合について競合しているため、標識によって得られるシグナルの量は、結合したリガンドの量、従ってまた生体分子に結合した試験化合物の量を示している。
【0074】
実施態様において、試験化合物の効果を検出するためのアッセイは、SPA(シンチレーション近接アッセイ)、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)アッセイ、TR−FRET(時間分解蛍光共鳴エネルギー移動)アッセイ又はFP(蛍光偏光)アッセイである。
【0075】
SPA(シンチレーション近接アッセイ)は、均一系において生物学的に広範囲の過程の迅速かつ高感度の測定を可能にする生化学的スクリーニングに用いられるタイプの技術である。SPAに含まれるビーズのタイプは、微視的サイズであり、そしてビーズそれ自体の中に、それが刺激されたときに光を放出するシンチラントがある。放射性標識化分子がビーズと相互作用するときに刺激が生じる。この相互作用はビーズに光の放出を誘発し、それはシンチレーションカウンターを用いて検出することができる。
【0076】
より詳細には、放射性標識化分子が結合するか又はビーズにごく接近しているときに、光の放出が刺激される。しかし、ビーズが放射性標識化分子に結合していない場合、ビーズは光の放出を刺激されない。これは、SPAビーズからあまりに遠いときは非結合の放射活性から放出されるエネルギーが弱過ぎて、そのため、ビーズがシグナルを生成するように刺激されないためである。
【0077】
トリチウムは、SPAに大変適しているため、大いに推奨される。それは水を通した路程が1.5μmと非常に短いためである。そのため、β粒子が、シンチラントビーズとその特定範囲1.5μm以内にあるときは、シンチラントビーズを刺激して光を放出するのに十分なエネルギーがある。距離が1.5μmを超える場合、β粒子はエネルギーが不十分であるためビーズを刺激するために必要な距離を移動することができない。また、この方法を酵素アッセイ及びラジオイムノアッセイのような広範囲の用途への適用を可能にする、利用可能なビーズコーティングの組み合わせがある。
【0078】
蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)は、2つのクロモホア間の放射線によらないエネルギー移動のことである。その励起状態の供与体クロモホアは、非放射性長距離双極子−双極子カップリング機構(non-radiative long-range dipole-dipole coupling mechanism)によって、接近した(典型的に<10nm)受容体フルオロフォアにエネルギーを移すことができる。両分子が蛍光性であるため、エネルギー移動は、しばしば「蛍光共鳴エネルギー移動」と呼ばれるが、蛍光によってエネルギーが実際に移動されるわけではない。FRETは、タンパク質−薬剤相互作用、タンパク質−タンパク質相互作用、タンパク質−DNA相互作用及びタンパク質立体配置的変化を検出及び定量化する有用な手段である。薬剤に対するタンパク質、一方のタンパク質に対するもう一方のタンパク質又はDNAに対するタンパク質の結合をモニタリングするには、分子の一方を供与体で、そしてもう一方を受容体で標識化し、そしてこれらのフルオロフォア標識化分子を混合する。それらが非結合状態で存在するとき、供与体励起により供与体放出が検出される。分子が結合すると、供与体と受容体が接近するようになり、そして供与体から受容体への分子間FRETのため、受容体放出が主に観察される。FRETに適した隣接物(neighbors)は当分野で知られており、そして熟練従事者は、両抗体に適した標識の組み合わせを選ぶことができる。供与体及び対応する受容体に関して本明細書に用いられるように、「対応する」とは、供与体の励起スペクトルと重なる放出スペクトルを有する受容体蛍光部分のことである。しかしながら、両方のシグナルは、互いに区別できなければならない。従って、受容体の放出スペクトルの最大波長は、供与体の励起スペクトルの最大波長より大きく、好ましくは少なくとも30nm、より好ましくは少なくとも50nm、例えば少なくとも80nm、少なくとも100nm又は少なくとも150nmでなければならない。
【0079】
FRET技術においてさまざまな受容体蛍光部分と共に用いることができる代表的な供与体蛍光部分としては、フルオレセイン、ルシファーイエロー、B−フィコエリトリン、9−アクリジンイソチオシアネート、ルシファーイエローVS、4−アセトアミド−4'−イソチオシアナトスチルベン−2,2'−二スルホン酸、7−ジエチルアミノ−3−(4'−イソチオシアナトフェニル)−4−メチルクマリン、スクシンイミジル1−ピレンブチレート、及び4−アセトアミド−4'−イソチオシアナトスチルベン−2,2'−二スルホン酸誘導体が含まれる。代表的な受容体蛍光部分は、使用した供与体蛍光部分に応じて、LC−RED610、LC−RED640、LC−RED670、LC−RED705、Cy5、Cy5.5、リサミンローダミンBスルホニルクロリド、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、ローダミンxイソチオシアネート、エリスロシンイソチオシアネート、フルオレセイン、ジエチレントリアミン五酢酸又はランタニドイオン(例えば、ユウロピウム又はテルビウム)の他のキレートが含まれる。供与体及び受容体蛍光部分は、例えばMolecular Probes (Junction City, OR)又はSigma Chemical Co. (St. Louis, MO)から入手することができる。
【0080】
別法として、時間分解蛍光共鳴エネルギー移動(TR−FRET)を本発明の試験系に用いてもよい。TR−FRETは、TRF(時間分解蛍光)及びFRETの原理を合体させている。この組み合わせは、TRFの低いバックグラウンドの利点とFRETの均一アッセイフォーマットとを組み合わせている。FRETはすでに記載されているが、TRFは、ランタニド又は長い半減期を有する他のすべての供与体の独特の性質を利用する。TR−FRETに適した供与体としては、とりわけ、ランタニドキレート(クリプテート)及びいくつかの他の金属リガンド複合体が含まれ、それらはマイクロ秒からミリ秒の時間範囲の蛍光半減期を有することができ、従って、また、マイクロ秒からミリ秒の測定でエネルギー移動が起こるのを可能にする。蛍光ランタニドキレートは、70年代後期にエネルギー供与体として用いられていた。一般に使用されるランタニドには、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)及びジスプロシウム(Dy)が含まれる。それらの特異的な光物理的及び分光特性のため、ランタニドの複合体は、生物学における蛍光用途に大きな興味がもたれている。具体的に、それらは、より従来のフルオロフォアと比較したときに、大きなストロークシフト(stroke's shift)及び極めて長い放出半減期(マイクロ秒からミリ秒まで)を有する。
【0081】
通常、有機クロモホアは、受容体として用いられる。これにはアロフィコシアニン(APC)が含まれる。TR−FRET及び受容体における適当な詳細は、WO 98/15830に記載されている。
【0082】
蛍光偏光(FP)ベースのアッセイは、溶液中で蛍光基質を励起するために偏光を用いるアッセイである。これらの蛍光基質は、溶液中で遊離し、そして回転しており(tumble)、放出された光に偏光解消を生じさせている。基質がより大きな分子、すなわちアシル基に結合するとき、その回転速度は大きく低下し、そして放出された光は、高度に偏光したままとなる。
【0083】
別法として、質量分析を用いてもよい。「質量分析」という用語は、イオン化源を使用して表面上のサンプルからガス相イオンを生成し、そして質量分析計を用いてガス相イオンを検出することである。「レーザー脱離質量分析」という用語は、イオン化源としてレーザー装置を使用し、表面上のサンプルからガス相イオンを生成し、そして質量分析計を用いてガス相イオンを検出することである。アシル化されたアシル受容体のような生体分子にとって好ましい質量分析方法は、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化質量分析又はMALDIである。MALDIでは、典型的に検体をマトリックス物質と混合し、乾燥させて検体と共に共結晶化する。マトリックス物質はエネルギー源からエネルギーを吸収し、そうでない場合、エネルギー源は不安定な生体分子又は検体を分解する。別の好ましい方法は、表面増強レーザー脱離/イオン化質量分析又はSELDIである。SELDIでは、検体が適用される表面が、検体の捕捉及び/又は脱離において活性な役割を果たす。本発明に関して、サンプルには、クロマトグラフィー又は他の化学処理を受けことがありうる生物学的サンプル及び適したマトリックス基質が含まれる。
【0084】
質量分析において、「みかけの分子量」は、検出されたイオンの分子量(ダルトン)対電荷値、m/zのことである。みかけの分子量をどのように誘導するかは、使用する質量分析計のタイプによる。飛行時間型質量分析計では、みかけの分子量は、イオン化から検出までの時間の関数である。「シグナル」という用語は、研究下で生体分子によって生成されるすべての反応のことである。例えば、シグナルという用語は、質量分析計の検出器に衝突する生体分子によって生成される反応のことである。シグナル強度は、生体分子の量又は濃度に相関している。シグナルは、2つの値:記載されたように生成されるみかけの分子量値及び強度値によって定義される。質量値は、生体分子の基本的特徴であるが、強度値は、対応するみかけの分子量値を有する生体分子の特定の量又は濃度に一致する。従って、「シグナル」は、常に、生体分子の性質に関連する。
【0085】
上に詳述したように、第1の態様において、疼痛に関与する化合物を同定する方法であって、方法は、
(a)C1qb核酸を含む試験系を準備する工程、
(b)試験系を試験化合物と接触させる工程、及び
(c)試験系において試験化合物の効果を測定する工程、
を含み、
ここで、試験化合物は、対照と比較して試験系において試験化合物の有意な効果が検出されたときに、疼痛に関与する化合物として同定される前記方法。
【0086】
核酸における試験化合物の効果は、さまざまな発現又はシグナル伝達レベルにおいて測定してもよい。
【0087】
試験化合物は、C1qb遺伝子の調節配列又はC1qb遺伝子それ自体を結合するようにすることができる。それによって、試験化合物は、遺伝子の発現において影響を有することができる。
【0088】
従って、調節配列に対する試験化合物の結合は、(i)調節配列又は遺伝子及び(ii)試験化合物の複合体を検出することによって測定することができる。2つ又はそれ以上の成分の複合体を検出するのに適した方法は、本明細書に詳述されている。
【0089】
調節配列は、転写因子のような調節タンパク質が優先して結合するDNAの断片である。これらの調節タンパク質は、調節領域と称するDNAのショートストレッチ(short stretches)に結合し、それはゲノム中に適当に配置され、通常、遺伝子の『上流で』短い距離を調節する。そうすることによって、これらの調節タンパク質は、RNAポリメラーゼと称する別のタンパク質複合体を補充することができる。このようにして、それらは、遺伝子発現を制御する。調節配列は、通常、他の調節領域(エンハンサー、サイレンサー、境界要素/絶縁体(insulators))と協力して作用して所定の遺伝子の転写レベルを導くプロモーター領域を含む。
【0090】
別法として、試験化合物の効果、例えば結合及び遺伝子転写における影響は、間接的に検出することができる。このために、C1qb遺伝子下流の効果を検出することができる。例えば、C1qbに関連する転写及び翻訳における効果を測定することができる。一実施態様において、C1qb mRNA又はC1qbタンパク質の量が、検出される。
【0091】
mRNAの検出に適した方法は、本明細書に記載されており、そして、例えばノーザンブロット分析、ヌクレアーゼ保護アッセイ(NPA)、in situハイブリダイゼーション、及び逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)が含まれる。
【0092】
ノーザンブロット法では、最初に、RNAサンプルを変性条件下でアガロースゲル中、電気泳動によりサイズによって分離してもよい。次いで、RNAを膜に移し、架橋し、そして標識化プローブでハイブリダイズする。ランダムプライムド(random-primed)、ニックトランスレーションされた(nick-translated)、又はPCR生成されたDNAプローブ、インビトロ転写されたRNAプローブ、及びオリゴヌクレオチドを含む、非同位体の又は高度に特異的な活性の放射性標識化プローブを用いることができる。さらに、部分的な相同性のみを有する配列(例えば、異なる種からのcDNA又はエクソンを含みうるゲノムDNA断片)をプローブとして用いてもよい。
【0093】
ヌクレアーゼ保護アッセイ(NPA)は、特異的mRNAの検出及び定量化のための極めて高感度の方法である。NPAの基本は、RNAサンプルに対するアンチセンスプローブ(放射性標識化された又は非同位体の)の溶液ハイブリダイゼーションである。ハイブリダイゼーション後、一本鎖のハイブリダイズしなかったプローブ及びRNAをヌクレアーゼによって分解する。残っている保護された断片を、例えばアクリルアミドゲル上で分離する。溶液ハイブリダイゼーションは、典型的に膜ベースのハイブリダイゼーションより効率的であり、そしてブロットハイブリダイゼーションの最大20〜30μgと比較して100μgまでのサンプルRNAに適応することができる。また、NPAは、切断がプローブ(プローブは、通常、約100〜400塩基の長さである)との重複領域においてしか検出されないので、ノーザン分析よりもRNAサンプル分解に対してあまり感度が高くない。
【0094】
RT−PCRでは、レトロウイルスの逆転写酵素を用いて、RNAテンプレートを相補的DNA(cDNA)に複製する。次いで、cDNAは、PCRによって指数関数的に増幅される。相対定量的RT−PCRには、興味の遺伝子と同時に内部対照を増幅することが含まれる。内部対照は、サンプルを標準化するために用いられる。一旦、標準化したら、サンプル全体で特定のmRNAの相対的存在比を直接比較することができる。競合的RT−PCRは、絶対定量に用いられる。この技術には、サイズ又は配列における小さな違いによって内因性標的を区別することができるコンペティターRNA(competitor RNA)を設計し、合成し、そして正確に数量化することが含まれる。既知量のコンペティターRNAを実験サンプルに加え、そしてRT−PCRを実施する。内因性標的からのシグナルをコンペティターからのシグナルと比較してサンプル中に存在する標的の量を測定する。
【0095】
上の方法には、核酸標識化が含まれることがある。一連の技術は、当業者に知られており、DNA、RNA又はオリゴヌクレオチドの標識化が可能である。これらには、例えば、ニックトランスレーション標識化、ランダムプライムドDNA標識化、DNAプローブのPCR標識化及びオリゴヌクレオチド3'/5'末端標識化、RNAプローブの転写標識化、オリゴヌクレオチド3'/5'末端標識化及びオリゴヌクレオチドテーリングが含まれる。
【0096】
ニックトランスレーション法は、DNA中にランダムに分配されたニックを導入するDNaseIの能力に基づく。DNAポリメラーゼIは、プライマーとしてニックの3'−OH末端を用いて5'→3'方向において無傷の鎖に相補的なDNAを合成する。同時に、DNAポリメラーゼIの5'→3'ヌクレオチド鎖分解活性は、合成の方向においてヌクレオチドを除去する。ポリメラーゼ活性は、除去されたヌクレオチドを同位体標識化又はハプテン標識化デオキシリボヌクレオシド三リン酸で連続して置換する。従って、低い温度(15℃)で、反応中の非標識化DNAは、新たに合成された標識化DNAによって置換される。一般的な標識としては、ジゴキシゲニン−、ビオチン−、又は蛍光色素、例えばフルオレセイン又はテトラメチルローダミンが含まれる。
【0097】
「ランダムプライムド」DNA標識化の方法は、標識化されるDNAに対するすべての可能なヘキサヌクレオチドの混合物のハイブリダイゼーションに基づく。すべての配列の組み合わせは、ヘキサヌクレオチドプライマー混合物で表されそれにより統計学的手法でプライマーとテンプレートDNAの結合を導く。従って、テンプレートDNAの全体の長さに沿って等しい標識化度が保証される。相補鎖は、クレノウ酵素、標識化グレードを用いてランダムヘキサヌクレオチドプライマーの3'OH末端から合成される。反応中に存在する修飾デオキシリボヌクレオシド三リン酸(例えば[32P]−、[35S]−、[3H]−、[125I]−、ジゴキシゲニン又はビオチン標識化)は、新たに合成された相補的DNA鎖に組み込まれる。
【0098】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、微量のDNAの増幅が可能である。唯一の必要条件は、適当なプライマーを合成するために、標的配列のいくつかの配列情報が知られていることである。PCRで標識化する組み合わせは、PCR生成物の分析するための、そしてまた少量の各標的配列から標識化プローブを調製するための有効な手段である。ハイブリダイゼーション、そしてその後の着色又は発光検出用にDNA、RNA又はオリゴヌクレオチドを標識化するために、例えばジゴキシゲニン、ステロイドハプテンを用いてもよい。ジゴキシゲニンは、通常、アルカリ不安定なエステル結合を介してdUTPに結合される。標識化dUTPは、DNAポリメラーゼを用いた酵素的核酸合成によって容易に組み込むことができる。
【0099】
オリゴヌクレオチドは、末端トランスフェラーゼを有するその3'−末端で単一のジゴキシゲニン標識化ジデオキシウリジン−三リン酸(DIG−ddUTP)のような標識の組み込み又はより長いヌクレオチドテイル(nucleotide tail)の付加のいずれかによって酵素的に標識化してもよい。末端トランスフェラーゼは、二本鎖及び一本鎖DNA断片及びオリゴヌクレオチドの3'OH末端へのデオキシ−及びジデオキシヌクレオシド三リン酸のテンプレート非依存性付加(template independent addition)に触媒作用を及ぼす。末端トランスフェラーゼは、ジゴキシゲニン−、ビオチン−及び蛍光色素−標識化デオキシ−及びジデオキシヌクレオチド並びに放射性標識化デオキシ−そしてジデオキシヌクレオチドを組み込む。別法として又はさらに、オリゴヌクレオチドは、例えば、古典的な固相ホスホラミダイト合成方法に従って最終工程においてホスホラミダイトと反応させることによって5'末端で標識化してもよい。この方法によって5'末端アミノ官能基が作られる。アンモニアによる処理は、支持体からオリゴヌクレオチドを解放し、そして保護基を切断する。その後の工程で、ジゴキシゲニン部分が5'位に導入される。
【0100】
上の標識化方法に用いることができるさまざまな標識が知られている。それらの検出を含むそれらのいくつかを以下において例として説明する:
ビオチン標識化化合物は、例えば抗ビオチン抗体又はストレプトアビジン複合体によって検出することができる。抗ビオチン抗体(例えばアルカリホスファターゼ(AP)に結合された、モノクローナル抗ビオチン抗体又はFab−断片)は、ナイロン膜上の発光による酵素免疫測定法によってビオチン標識化核酸の検出に用いてもよい。この検出方法は、膜上でビオチン標識化核酸の検出(例えばサザンブロット、ドットブロット)のため、細胞及び組織(例えばin situハイブリダイゼーション)、免疫ブロット法、免疫組織化学又はELISAにおいて用いてもよい。ストレプトアビジン複合体は、いくつかの免疫学的検出系に用いることができるビオチン標識化物質(例えば、ビオチン化抗体)の検出に用いられる。このために、例えばStreptomyces avidiniiからのストレプトアビジンをアルカリホスファターゼ又はβペルオキシダーゼに結合することができる。この検出方法は、免疫ブロット法、免疫組織化学又はELISAで用いてもよい。
【0101】
プローブ−標的ハイブリッド(probe-target hybrid)は、酵素結合免疫測定法で検出してもよい。この免疫化学的検出工程は、通常、放射性検出方法より高感度である。このアッセイでは、抗体とフィルターとの非特異的相互作用を防止するため膜を遮断してもよい。ジゴキシゲニンに特異的なアルカリホスファターゼ結合抗体は、標識化ハイブリッド上のジゴキシゲニン分子を認識する。アルカリホスファターゼ基質の添加によりハイブリッドの可視化が可能である。
【0102】
化学発光検出では、アルカリホスファターゼに適した基質、例えば3−(4−メトキシスピロ{1,2−ジオキセタン−3,2−(5−クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン}−4−イル)フェニルリン酸二ナトリウム又は二ナトリウム4−クロロ−3−(メトキシスピロ{1,2−ジオキセタン−3,2−(5−クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン}−4−イル)フェニルリン酸は、ジオキセタンフェニルホスフェートのグループに属する。アルカリホスファターゼにより脱リン酸化すると、中間体が形成され、その分解により光の放出が起こり、それは例えばX線フィルム上に記録することができる。
【0103】
DIG−標識化プローブの比色検出は、通常、レドックス系を形成する無色の基質を用いて実施される。例は、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−ホスフェート及び4−ニトロ−ブルー−テトラゾリウム−クロリドのようなものである。5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−ホスフェートは、アルカリホスファターゼによってリン酸基の放出により藍色に酸化される。同時に、4−ニトロ−ブルー−テトラゾリウム−クロリドは、ジホルマザンに還元される。反応生成物は、膜のタイプに応じて、紺青色から褐色がかった水不溶性沈殿を形成する。
【0104】
さまざまなレポーター分子は、酵素結合抗体、蛍光色素標識化抗体(蛍光顕微鏡及び蛍光色素によって放出される波長の可視化が可能な特殊なフィルターによる検出)及びコロイド状金結合抗体(低温槽区画における電子顕微鏡による検出)を含むが、それらに限定されるわけではない特異的プローブ−標的ハイブリダイゼーションを視覚化するために検出抗体に結合することができる。
【0105】
ジゴキシゲニン、ビオチン及び蛍光色素標識化プローブの組み合わせを用いることによって同時に複数のハイブリダイゼーションを実施して1つの製剤中に異なる染色体領域又は異なるRNA配列を局在化することができる。このようなマルチプローブ実験は、抗体に結合した異なる蛍光色素の有用性によって可能となる。これらには、フルオレセイン又はFITC(フルオレッセインイソチオシアネート;黄色)、ローダミン又はTRITC(テトラメチルローダミンイソチオシアネート;赤色)及びAMCA(アミノメチルクマリン酢酸;青色)が含まれる。
【0106】
また、調節配列における効果は、調節因子配列をレポーター遺伝子に結合し、そして生成したDNA構築物を細胞又は生物中に導入することによって検出することができる。培養における細菌又は真核細胞では、これは、通常、プラスミドと称する環状DNA分子の形態にある。レポーターの発現が、興味の遺伝子の取り込み成功のマーカーとして用いられるため、研究下において細胞又は生物中で自然に発現されないレポーター遺伝子を用いることは重要である。視覚的に同定可能な特性を誘導する一般的に用いられるレポーター遺伝子には、通常、蛍光及び発光タンパク質が含まれ;例としては、発現して青色光下で緑に輝く細胞を生じるクラゲ緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子、ルシフェリンとの反応に触媒作用を及ぼして光を生成する酵素ルシフェラーゼ、及び遺伝子dsRedからの赤色蛍光タンパク質が含まれる。細菌中の別の一般的なレポーターは、タンパク質β−ガラクトシダーゼをコードするlacZ遺伝子である。この酵素は、基質類似体X−galを含む培地上で増殖させたときに青色を呈する遺伝子を発現する細菌を生じる。細菌中の選択可能なマーカーレポーターの例は、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子であり、それは抗生物質クロラムフェニコールに対する耐性を与える。試験化合物の影響は、対照に相対的な上のシグナル量を測定することによって検出することができる。
【0107】
上に詳述したように、第2の態様において、疼痛に関与する化合物を同定する方法であって、方法は、
(a)C1qbタンパク質又はその機能的に活性な変異体を含む試験系を準備する工程、(b)試験系を試験化合物と接触させる工程、及び
(c)試験系において試験化合物の効果を測定する工程、
を含み、
ここで、試験化合物は、対照と比較して試験系において試験化合物の有意な効果が検出されたときに疼痛に関与する化合物として同定される前記方法。
【0108】
従って、C1qbタンパク質又はその変異体に対する試験化合物の結合は、(i)C1qbタンパク質又はその変異体及び(ii)試験化合物の複合体を検出することによって測定することができる。
【0109】
2つ又はそれ以上の成分の複合体を検出するのに適した方法は、上に、そして以下に詳述された通りである。タンパク質の検出に適した方法は、本明細書に記載されており、そして例えば標識化タンパク質(例えば検出可能なマーカー、タグ又は酵素成分を含む融合タンパク質)の検出、タンパク質免疫染色、タンパク質免疫沈降、免疫電気泳動、免疫ブロット法、ウエスタンブロット法、分光光度法、酵素アッセイなどが含まれる。方法は、検出前にタンパク質精製を必要とすることがあり、それには、タンパク質単離(例えばクロマトグラフィー方法、タンパク質抽出、タンパク質可溶化、ゲル電気泳動及び等電点電気泳動による)が含まれうる。
【0110】
タンパク質免疫染色は、サンプル中の特定のタンパク質を検出するための抗体ベースの方法である。当初、免疫染色という用語は、組織切片の免疫組織化学的染色に相当するものとして用いられた。しかしながら、現在では、免疫染色は、抗体ベースの染色方法を利用する組織学、細胞生物学及び分子生物学に用いられる広範囲の技術を包含する。免疫組織−又は−細胞化学の組織切片又は細胞は、固定によって保存される。
【0111】
IHC染色の最初のケースでは蛍光色素を用いたが、現在では、ペルオキシダーゼ及びアルカリホスファターゼのような酵素を用いた他の非蛍光性の方法がより多く用いられる。これらの酵素は、光学顕微鏡によって容易に検出可能な着色された生成物を得る反応に触媒作用を及ぼすことができる。別法として、放射性元素を標識として用いることができ、そして免疫反応をオートラジオグラフィーによって視覚化することができる。組織標本又は固定は、細胞形態及び組織構造の保存に必須である。不適当な又は長期にわたる固定は、抗体結合能力を著しく低下させることがある。多くの抗原は、ホルマリン固定パラフィン包埋組織切片において良好に示すことができる。固定方法及び時間の最適化、ブロッキング剤による前処理、高塩分(high salt)を用いた抗体のインキュベーション、並びにポスト−抗体洗浄緩衝液(post-antibody wash buffers)及び洗浄回数の最適化は、高品質の免疫染色を得るために重要でありうる。
【0112】
ウエスタンブロット法は、あらゆる精製工程の前又は後に細胞又は組織でできた抽出物から特異的タンパク質(天然又は変性)を検出するのを可能にする。タンパク質は、一般にドライ式、セミドライ式又はウェット式ブロット法により合成膜(典型的にニトロセルロース又はPVDF)に移す前に、ゲル電気泳動を用いてサイズによって分離される。次いで、免疫組織化学と類似しているが、固定を必要としない方法を用い、抗体を用いて膜を精査することができる。検出は、典型的に化学発光反応に触媒作用を及ぼすペルオキシダーゼ結合抗体を用いて実施される。ウエスタンブロット法は、抽出物間でタンパク質レベルを半定量的に又は定量的に比較するのに用いることができる常用の分子生物学的方法である。ブロッティング前のサイズ分離は、既知の分子量マーカーと比較してタンパク質分子量の測定を可能にする。ウエスタンブロット法は、組織ホモジネート又は抽出物の所定のサンプル中の特異的タンパク質を検出するために用いられる分析技術である。それは、ゲル電気泳動を用いてポリペプチド(変性状態)の長さ又はタンパク質(天然/非変性状態)の三次元構造によってタンパク質を分離する。
【0113】
酵素結合イムノソルベント検定法又はELISAは、マルチウェルプレートフォーマット(通常、プレート当たり96ウェル)中で血漿、血清又は細胞/組織抽出物からタンパク質濃度を定量的に又は半定量的に測定するための診断方法である。大まかには、溶液中のタンパク質がELISAプレートに吸着される。興味のタンパク質に特異的な抗体を用いてプレートを精査する。バックグラウンドは、ブロッキング及び洗浄方法(IHC用のように)を最適化することによって最小限にされ、そして特異性は、陽性及び陰性対照の存在により保証される。検出方法は、通常、比色法又は化学発光に基づく。
【0114】
電子顕微鏡法又はEMは、組織又は細胞の詳細な微細構造(microarchitecture)を研究するために用いることができる。イムノ−EMは、超薄組織切片中の特異的タンパク質の検出を可能にする。重金属粒子(例えば金)で標識化された抗体は、透過電子顕微鏡法を用いて直接視覚化することができる。タンパク質の細胞内局在の検出において有力であるが、イムノ−EMは、技術的に難しく、高価になりことがあり、そして組織固定及び処理方法の厳密な最適化を必要とする。
【0115】
別法として、試験化合物の効果、例えば結合及びC1qbタンパク質における影響は、間接的に検出することができる。このために、C1qbタンパク質の下流の効果を検出することができる。例えば、表現型、例えば痛覚過敏表現型の発現における効果を測定することができる。
【0116】
本発明の好ましい実施態様において、疼痛に関与する化合物は、C1qb遺伝子及び/又はC1qbタンパク質のシグナル伝達経路に天然に関与する細胞化合物である。
【0117】
上に詳述したように、C1qbは、ヒト補体亜成分C1qの主な成分である。C1qは、プロ酵素C1r及びC1と結合して血清補体系第1成分、C1を生じる。C1q領域様のコラーゲンは、Ca(2+)依存性C1r(2)C1(2)プロ酵素複合体と相互作用し、そしてC1の効率的活性化は、C1qの球状頭部と免疫複合体中に存在するIgG又はIgM抗体のFc領域との相互作用を生じる。
【0118】
しかし、疼痛におけるC1qbのシグナル伝達経路については、ほとんど詳細が知られていない。従って、シグナル伝達経路の成分を同定することが望ましい。このために、場合により、C1qbのシグナル伝達中に関与することが疑われる細胞成分を、検出することができる。これらは、疼痛に関与する薬剤にとってのさらなる標的になることができる。
【0119】
本発明の好ましい実施態様において、疼痛に関与する化合物は、C1qbタンパク質の上流又は下流のシグナル伝達を変化させる。さらに又は代わりに、疼痛に関与する化合物は、C1qb遺伝子の上流又は下流のシグナル伝達を変化させ、特にここにおいて、化合物はC1qb遺伝子の発現を変化させる。
【0120】
すでに上に詳述したように、効果は、C1qbタンパク質又は遺伝子のレベルにおいてだけでなく、また上流又は下流のシグナル伝達又は発現レベルにおいても測定することができる。例としては、C1qb遺伝子レベル(C1qbタンパク質の上流)、mRNAレベル(C1qbタンパク質の上流及びC1qb遺伝子の下流)、タンパク質レベル(C1qb遺伝子の下流)及び表現型レベル(C1qb遺伝子及びタンパク質の下流)が含まれる。
【0121】
本発明の好ましい実施態様において、疼痛に関与する化合物は、C1qb遺伝子及び/又はC1qbタンパク質のシグナル伝達経路に天然に関与する細胞化合物に結合し、特にここにおいて、疼痛に関与する化合物は、C1qb遺伝子又はC1qbにタンパク質、特にC1qbタンパク質を結合する。
【0122】
明らかに、C1qb遺伝子及び/又はC1qbタンパク質のシグナル伝達経路に天然に関与する細胞化合物に対する化合物の結合は、おそらくシグナル伝達における効果を有する。多くの場合、シグナル伝達経路に天然に関与する細胞化合物に対する人工化合物の結合は、経路の阻害に至る。しかし、人工化合物は、その経路を活性化するように設計してもよい。いずれの場合も、疼痛感受性が変化する見込みがあるように、結合は経路における効果を有する。
【0123】
本発明の好ましい実施態様において、疼痛に関与する化合物は、C1qb遺伝子の上流又は下流のシグナル伝達を阻害し、特にここにおいて、化合物はC1qb遺伝子の発現を阻害する。本発明の好ましい実施態様において、疼痛に関与する化合物は、C1qbタンパク質の上流又は下流のシグナル伝達を阻害し、特にここにおいて、化合物はC1qbにタンパク質に結合する。実施例の結果に基づいて、それらの化合物は、疼痛を抑制又は軽減できることが期待される。従って、それらは好ましい。
【0124】
本発明の別の好ましい実施態様において試験系は、細胞、例えば動物細胞、特に哺乳動物細胞、特にヒト細胞中にある。
【0125】
細胞ベースの系は、細胞の増殖及び細胞機構、例えば細胞の変化したグルコース取り込みを示すシグナルを検出するために用いることができる、インスリンの下流の又はC1qbタンパク質若しくは遺伝子の下流若しくは上流のシグナル伝達成分によって試験系の容易な増幅が可能であるため、好都合である。
【0126】
本発明に関して適した細胞の例としては、L6細胞、3T3脂肪細胞、HEK293、745−A、A−431、心房筋細胞、BxPC3、C5N、Caco−2、Capan−1、CC531、CFPAC、CHO、CHO K1、COS−1、COS−7、CV−1、EAHY、EAHY 926、F98、GH3、GP&envAM12、H−295 R、H−4−II−E、HACAT、HACAT A131、HEK、HEL、HeLa、hep G2、High Five、Hs 766 T、HT29、HUV−EC R24、HUV−ECC、IEC 17、IEC 18、Jurkat、K 562、KARPAS−299、L 929、LIN 175、MAt−LYLU、MCF−7、MNEL、MRC−5、MT4、N64、NCTC 2544、NDCK II、Neuro 2A、NIH 3T3、NT2/D1、P19、初代神経細胞、初代樹状細胞、初代ヒト筋芽細胞、初代角化細胞、SF9、SK−UT−1、ST、SW 480、SWU−2 OS、U−373、U−937、及びY−1が含まれるが、それらに限定されるわけではない。他の適した細胞は、当業者に知られている。
【0127】
動物又は人から直接培養される細胞は、初代細胞として知られている。腫瘍から誘導されるいくつかの細胞株を除いて、ほとんどの初代細胞培養は、限られた寿命を有する。一定数の集団倍加(population doublings)後、細胞は、一般に生存能力を保持しながら老化及び分裂停止の過程を受ける。
【0128】
樹立又は不死化細胞株は、ランダム突然変異又はテロメラーゼ遺伝子の人工発現のような周到な改変のいずれかを通して無制限に増殖する能力を獲得している。特定の細胞タイプの代表的な多くの十分な樹立細胞株があり、そして適した細胞株の選択は、当業者の知識の範囲内にある。
【0129】
従って、本発明の好ましい実施態様において、細胞は細胞株である。細胞株は、一般的な単一の母細胞から誘導して培養下で増殖された細胞集団であり、そのため、一般的な単一の母細胞と遺伝的に同一である。好ましい細胞株は、HEK 293細胞(初代ヒト胎生腎)、3T3細胞(マウス胎児線維芽細胞)、CHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣)、COS−7細胞(アフリカミドリザル細胞株)、HeLa細胞(ヒト類上皮子宮頸癌)、JURKAT細胞(ヒトT細胞白血病)、BHK 21細胞(ハムスター正常腎臓、線維芽細胞)、及びMCF−7細胞(ヒト乳癌)である。
【0130】
細胞又は細胞株は、C1qb又は効果の検出に必要な成分を含むように遺伝子操作してもよい。特に好ましい細胞株は、既知のプロモーター系の制御下でC1qbの遺伝子コーディングを包含する。プロモーター系は、制御可能、例えば化学的、又は構成的活性物質によって誘導可能であってもよい。それらのプロモーター系は、当業者によく知られている。
【0131】
別法として、細胞溶解物(粗製の、分別された又は精製された)を用いてもよい。これらを生成する例となる方法は、当業者に知られており、そして断片化、遠心分離及び再懸濁が含まれうる。
【0132】
本発明の好ましい実施態様において、方法は、高処理スクリーニング法である。
【0133】
高処理スクリーニング(HTS)は、特に薬物発見に用いられ、そして生物学及び化学の分野に関連した科学実験の方法である。例えばロボット工学、データ処理及び制御ソフトウェア、液体取扱い機器及び高感度検出器を用いて、高処理スクリーニング又はHTSでは、研究者は、数千又はさらに数百万の生化学的、遺伝的又は薬理学的試験を素早く実施することが可能である。この方法によって特定の生体分子の経路を調節する活性化合物、抗体又は遺伝子速やかに同定することができる。
【0134】
通常、HTSは、候補物質化合物のライブラリーに対してアッセイのスクリーンを実行するため自動操作を用いる。典型的なHTSスクリーニングライブラリー又は「デッキ」は、100,000から2,000,000を超える化合物を含むことができる。
【0135】
最も多くの場合、HTSの基本的な試験容器は、マルチウェルプレート又はマイクロプレートである。HTSについて最新のマイクロプレートは、一般に96、384、1536又は3456ウェルを有する。これらは、すべて96の倍数であり、8×12の9mm間隔のウェルを有する最初の96ウェルマイクロプレートを反映している。ほとんどのウェルは、実験的に有用な物質、多くの場合、ジメチルスルホキシド(DMSO)の水溶液及びいくつかの他の化学化合物を含み、それらのうちの後者は、プレート全体で各ウェルによって異なる。他のウェルは、場合による実験的対照としての使用を目的として空でもよい。
【0136】
アッセイの準備をするため、研究者は、プレートの各ウェルを、実験を実施したいと望むいくつかの生物学的存在で満たす。この場合は、C1qb核酸又はタンパク質を含む試験系を充填することになっている。いくらかのインキュベーション時間が過ぎて生物学的物質をウェル中の化合物に吸収、結合、又は別途、反応させた(又は反応に失敗する)後、手動又は装置のいずれかによってすべてのプレートのウェル全体で測定を行う。特別に自動化された分析装置は、ウェル上の多くの実験を実行することができる(例えばウェル上の偏光の輝き及び反射率測定、それらは、タンパク質結合の指標となりうる)。この場合、装置は、各実験の結果を数値のグリッドとして出力することができ、それぞれの数は1つのウェルから得られた値に位置している。大容量の分析装置は、このように数分間隔で多くのプレートを測定して何千もの実験データポイントを極めて迅速に生成することができる。
【0137】
本発明の好ましい実施態様において、疼痛は、神経障害性疼痛である。神経痛又は神経障害性疼痛は、非侵害受容性疼痛、又は換言すれば、体のあらゆる部分における疼痛受容体細胞の活性化に関連しない疼痛として定義することができる。神経痛は神経学的構造又は機能における変化によって生じる疼痛であると考えられる。侵害受容性疼痛と異なり、連続的な侵害受容なしに神経痛が存在する。神経痛は、2つのカテゴリー:中枢神経痛及び末梢神経痛に分類される。この独特の疼痛は、4つの起こりうる機構:イオンゲート機能不全;神経が無意識に敏感になりそして異所性シグナル(ectopic signal)を生じる;大径線維と小径線維の間のクロスシグナル;及び中枢処理系の損傷による機能不全に結びついていると考えられる。
【0138】
神経痛は、多くの場合、診断するのが困難であり、そしてほとんどの治療は、少ししか又は全く有効性を示さない。典型的に、診断には感覚又は運動機能の喪失を同定することによって損傷を受けた神経を位置づけることが含まれる。これには、EMG試験又は神経伝導試験のような試験が含まれることがある。神経痛は、通常の疼痛薬物適用に反応しないため、他のタイプの疼痛よりも治療するのが困難である。このことから、この疼痛を診断及び治療する新たな方法を開発する必要があり、そのためC1qb核酸及びタンパク質は興味深い標的を提供していることがわかる。
【0139】
第3の態様において、本発明は、疼痛に関与する化合物を同定するためのC1qb核酸の使用を提供し、そして第4の態様において、本発明は、疼痛に関与する化合物を同定するためのC1qbタンパク質の使用を提供する。
【0140】
「C1qb核酸」、「C1qbタンパク質」及び、「疼痛に関与する化合物を同定すること」という用語については、本発明の方法に関して記載された定義に相当する。上記の方法は同定に用いてもよいことに留意する。
【0141】
本発明の第3又は第4の態様の好ましい実施態様において、化合物及び/又は疼痛は、本発明の方法の好ましい実施態様に関して上に定義された通りである。本発明により同定される疼痛に関与する化合物は、薬剤として用いることができる。薬剤を製造するには、同定された標的又はその薬学的に許容しうる塩を、一般に望ましい特性を得るべく配合された薬学的に許容しうる担体又は補助物質のような成分の混合物からなる医薬剤形にしなければならない。
【0142】
製剤は、少なくとも1つの適した薬学的に許容しうる担体又は補助物質を含む。このような物質の例は、脱塩水、等張性生理食塩水、リンゲル液、緩衝液、有機又は無機酸及び塩基並びにそれらの塩、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸ナトリウム又はリン酸二カルシウム、グリコール、例えばプロピレングリコール、エステル、例えばオレイン酸エチル及びラウリン酸エチル、糖、例えばグルコース、スクロース及びラクトース、デンプン、例えばコーンスターチ及びジャガイモデンプン、可溶化剤及び乳化剤、例えばエチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油、例えばラッカセイ油、綿実油、トウモロコシ油、ダイズ油、キャスター油、合成脂肪酸エステル、例えばオレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、ポリマー補助剤、例えばゼラチン、デキストラン、セルロース及びその誘導体、アルブミン、有機溶媒、錯化剤、例えばクエン酸塩及び尿素、安定剤、例えばプロテアーゼ又はヌクレアーゼ阻害剤、好ましくはアプロチニン−アミノカプロン酸又はペプスタチンA、防腐剤、例えばベンジルアルコール、酸化防止剤、例えば亜硫酸ナトリウム、ロウ及び安定剤、例えばEDTAである。また、着色剤、離型剤、コーティング剤、甘味料、香味料及び芳香剤、防腐剤及び抗酸化剤も組成物中に存在することができる。生理学的緩衝溶液は、好ましくはpH約6.0〜8.0、特にpH約6.8〜7.8、特にpH約7.4、及び/又はモル浸透圧濃度約200〜400ミリオスモル/リットル、好ましくは約290〜310ミリオスモル/リットルを有する。薬剤のpHは、一般に適した有機又は無機緩衝液を用いて、例えば、好ましくはリン酸緩衝液、トリス緩衝液(トリスヒドロキシメチルアミノメタン)、HEPES緩衝液([4−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジノ]エタンスルホン酸)又はMOPS緩衝液(3−モルホリノ−1−プロパンスルホン酸)を用いて調整される。それぞれの緩衝液の選択は、一般に、所望の緩衝液のモル濃度に左右される。リン酸緩衝液は、例えば、注射液及び輸液に適している。薬剤を処方するための方法と同様に適した薬学的に許容しうる担体又は補助物質は、当業者によく知られている。薬学的に許容しうる担体及び補助物質は、普及した剤形及び同定された化合物に従って選ばれる。
【0143】
医薬組成物は、経口、経鼻、直腸、非経口、膣内、局所又は膣内投与用に製造することができる。非経口投与には、皮下、皮内、筋肉内、静脈内又は腹腔内投与が含まれる。
【0144】
薬剤は、経口投与のための固体剤形、例えばカプセル剤、錠剤、丸剤、散剤及び顆粒剤、経口投与のための液体剤形、例えば薬学的に許容しうる乳剤、マイクロエマルジョン、液剤、懸濁剤、シロップ剤及びエリキシル剤、注射用製剤、例えば、滅菌注射用水性又は油性懸濁剤、直腸又は膣内投与のための組成物、好ましくは坐剤、並びに局所又は経皮的投与のための剤形、例えば軟膏剤、ペースト剤、乳剤、ローション剤、ゲル剤、パウダー剤、液剤、スプレー剤、吸入剤又はパッチ剤を含むさまざまな剤形として処方することができる。
【0145】
あらゆる個々の患者にとっての具体的な治療有効な用量レベルは、同定された化合物の活性、剤形、患者の年齢、体重及び性別、治療期間及び医学分野でよく知られた要因などを含むさまざまな要因に左右される。
【0146】
単回又は分割投与でヒト又は他の哺乳動物に投与される本発明の化合物の1日の総用量は、例えば、約0.01〜約50mg/kg体重又はより好ましくは約0.1〜約25mg/kg体重の量であることができる。単回投与組成物は、このような量又は日用量を構成するその約数を含みうる。一般に、本発明による治療計画は、このような治療を必要とする患者に1日当たり本発明の化合物のうちの化合物約10mg〜約1000mgを単回又は反復投与で投与することを含む。
【0147】
第5の態様において、本発明は、
(a)対象のサンプル中のC1qb遺伝子の発現レベルを測定する工程、及び
(b)対照と比較して対象のサンプル中のC1qb遺伝子の発現レベルが上昇している場合、対象を痛覚過敏と同定する工程、
を含む痛覚過敏の診断方法を提供する。
【0148】
実施例に示すように、C1qb遺伝子の発現レベルは、痛覚過敏と関連がある。従って、発現レベルは、C1qb関連の痛覚過敏の診断において又は診断に対して用いることができる。遺伝子の発現レベルは、遺伝子レベル、mRNAレベル又はタンパク質レベルで検出することができる。
【0149】
発現レベルの上昇は、C1qb遺伝子のコピー数の増加のためでありうる。一連の疾患が知られており、それらは遺伝子のコピー数の増加のためである。例えば、乳癌の1つの原因は、Her−2増幅でありうる。遺伝子増幅は、免疫組織化学(IHC)及び銀、発色性又は蛍光性のいずれかのin situハイブリダイゼーション(SISH/CISH/FISH)によって測定することができる。
【0150】
プローブのin situハイブリダイゼーション(ISH)は、細胞又は組織内で行われる。細胞構造は方法を通じて維持されるので、ISHは組織サンプル内のmRNAの位置に関する情報を提供する。方法は、例えば中性緩衝ホルマリン中に組織を固定し、そしてパラフィン中に包埋することによって開始する。次いで、サンプルを薄い切片にスライスし、そして顕微鏡スライドに取り付ける(別法として、組織を凍結切断し(sectioned frozen)、そしてパラホルムアルデヒド中に後固定する(post-fixed)ことができる)。脱ろうし(dewax)、そして切片を再水和する一連の洗浄後、プロテイナーゼK消化を行なってプローブアクセシビリティ(accessibility)を高め、次いで標識化プローブをサンプル切片にハイブリダイズする。放射性標識化プローブは、スライドガラス上に乾燥された液体膜により視覚化され、非同位体的標識化プローブは、比色又は蛍光試薬により都合よく検出される。
【0151】
別法として、遺伝子増幅は、仮想核型分類(virtual karyotyping)又は比較ゲノムハイブリダイゼーションによって検出することができる。アレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション(アレイCGH)及びSNPアレイのような、離断されたDNAからコンピューター上で高解像度の核型を生成するためのプラットフォームが現れた。概念的に、アレイはゲノム中の関心領域に相補的な何百から何百万ものプローブで構成されている。試験サンプルから離断されたDNAを断片化し、標識化し、そしてアレイにハイブリダイズする。各プローブについてのハイブリダイゼーションシグナル強度は、アレイ上の各プローブについての試験/標準のlog2比率を生成する専門のソフトウェアによって用いられる。アレイ上の各プローブのアドレス及びゲノム中の各プローブのアドレスを知り、ソフトウェアによって染色体の順序にプローブを並べ、そしてコンピューター上でゲノムを再現する。
【0152】
さらに、多くのPCRベースの方法論も、上に記載されている。
【0153】
別法として又はさらに、C1qb発現レベルは、mRNA又はタンパク質レベルにおいても検出されうる。この場合、mRNA又はC1qbタンパク質の量が検出される。mRNA又はタンパク質に適した検出方法は、上に詳述されている。
【0154】
本明細書に記載された特定の方法論、プロトコール及び試薬は変化することがあるため、本発明は、それらに限定されるわけではない。さらに、本明細書に用いられる用語は、特定の実施態様を説明するためだけのものであって、そして本発明の範囲を限定しようとするものではない。本明細書において、そして特許請求の範囲に用いられるように、説明が明らかに別のことを示していなければ、単数形は、複数形のものを含む。同様に、「含む」、「含有する」及び「包含する」は、排他的よりもむしろ包括的に解釈すべきである。
【0155】
特に明記しない限り、本明細書に用いられるすべての技術及び科学用語及びあらゆる頭字語は、本発明の分野の当業者よって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似の又は同等のあらゆる方法及び物質は、本発明の実施に用いることができるが、好ましい方法及び物質は、本明細書に記載されている。
【0156】
本発明を、以下の図面及び実施例によってさらに説明するが、実施例は単に例証のために含まれるのであって、特に明記しない限り、本発明の範囲を限定することを意図しないことが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】それぞれ個々のマウスについてのその神経障害性疼痛表現型スコア(機械的過敏症、X軸)及びL5 DRGにおけるC1qbの対応する遺伝子調節(log比率(Chung 対疑似対照)、Y軸)を示す。マウスデータは、使用した株に応じて記号コード化されている。ピアソン相関分析を実施し、そして2つのパラメーター疼痛表現型及びlog比率遺伝子調節の有意なプラスの相関性を示した。これは、個々のマウスについて、Chung手術した(Chung-operated)神経障害性マウスにおけるC1qbのL5 DRG発現がより高いほど、行動試験で示された機械的痛覚過敏がより顕著であったことを意味する。 この有意な相関性は、神経障害性疼痛表現型の誘導の際に、C1qb遺伝子発現の原因の関連性を示している(R(ピアソン)=0.67;p値=0.00018;FDR=0.027)。
【図2】L5 DRGのC1qb(3d p.o.)について、例となる強度データを示す。
【0158】
実施例:
痛覚過敏に関与するタンパク質としてC1qbの同定
疼痛治療の新たな標的を同定するため、その調節が慢性神経障害性疼痛に寄与する遺伝子を同定するための相関分析を実施した(また、Persson et al., 2009, Molecular Pain
5:7を参照のこと)。要約すれば、近交系マウス株AKR/J(AKR)、C57BL/6J(C57/B6)及びCBA/J(CBA)の脊髄神経節(DRG)のRNAサンプルを試験した。近交系マウス株は、ジャクソン研究所(Jackson Laboratory)(Bar Harbor, ME, 米国)から入手した。Chung手術した(Chung-operated)(神経障害性疼痛のChungモデル(Kim and Chung, 1992, Pain 50: 355-363)及び対応する偽手術した(sham-operated)対照動物のL5位の脊椎神経を軸索切断にかけた。サンプルは、アフィメトリクス(Affymetrix)マイクロアレイ(MOE430 2.0)でプロファイリングした。少なくとも各群5匹の動物を試験した。DRGの除去前にすべてのマウスで疼痛表現型「機械的痛覚過敏」の発現を測定した(Persson et al., supra, particularly section “Behavioral testing”)。3種のマウス株は、それらの表現型において異なる。CBAマウス、C57/B6マウス及びAKRマウスでは、表現型は、それぞれ低、中及び高レベルで発現される。
【0159】
遺伝子発現実験を実施するため、マウスDRGの全RNAを単離する方法が開発され(Persson et al., supra, particularly section “RNA extraction for TaqMan and microarray analysis”)、ここでは、方法により十分な量(>300ng)及び品質でRNAが提供される。3種のマウス株、Chung手術した又は偽手術した対照動物のいずれかのL5 DRGからRNAを抽出した後、RNAプローブをアフィメトリクスマイクロアレイ(MOE430 2.0)においてハイブリダイズした。
【0160】
アフィメトリクス遺伝子発現データを統計学的に分析し、そして相関分析前にフィルターにかけた。以下のフィルター基準を用いた:すべてのChung手術した動物の少なくとも60%における絶対倍率変化(abs. fold-change)≧1.5又はすべてのChung手術した動物の少なくとも20%において≧2.0(それぞれすべての偽手術した対照動物の平均値に対して)そして少なくとも5匹の動物における遺伝子発現強度≧50(バックグラウンドレベル)。
【0161】
3種の株について個々のマウスの表現型データ及びそれらの遺伝子発現データ(log比率として表わした(Chung手術したもの対偽手術したもの))又はChung手術した動物の発現強度を相関分析に用いた。
【0162】
上のフィルター基準を満たしたそれぞれの遺伝子について、遺伝子発現データ及び表現型データ(機械的過敏症)のピアソン相関係数を算出した(Persson et al., supra, particularly section “Correlational analysis”)。単一遺伝子の相関係数の有意性を測定するため、「偽発見率(false discovery)」(FDR)を導入した
(Storey, J.D. (2002) J. R. Statist. Soc. 64, part 3, 479-498)。FDR>0.05を有する遺伝子のピアソン相関係数は、有意であるとみなした。log比率データ(Chung手術したもの対偽手術したもの)を用い、そして発現強度74配列及び114遺伝子を、それぞれ、同定した。これらの配列/遺伝子についてのデータは、遺伝子発現及び表現型データ(FDR<0.05)の有意な相関を示し、そして疼痛及び痛覚過敏に関与することは知られていなかった。
【0163】
発現及び疼痛表現型の最良の相関性を有する遺伝子の中にあるC1qb遺伝子について、log比率データ及び機械的過敏症の相関分析により、ピアソン相関係数0.67(p値0.00018)及びFDR0.027を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疼痛に関与する化合物の同定方法であって、
(a)C1qb核酸を含む試験系を準備する工程、
(b)試験系を試験化合物と接触させる工程、及び
(c)試験系における試験化合物の効果を測定する工程、
を含み、
ここで、試験化合物は、対照と比較して試験系における試験化合物の有意な効果が検出されたときに疼痛に関与する化合物として同定される、上記方法。
【請求項2】
疼痛に関与する化合物の同定方法であって、
(a)C1qbタンパク質又はその機能的に活性な変異体を含む試験系を準備する工程、
(b)試験系を試験化合物と接触させる工程、及び
(c)試験系における試験化合物の効果を測定する工程、
を含み、
ここで、試験化合物は、対照と比較して試験系における試験化合物の有意な効果が検出されたときに疼痛に関与する化合物として同定される、上記方法。
【請求項3】
疼痛に関与する化合物がC1qb遺伝子及び/又はC1qbタンパク質のシグナル伝達経路に天然に関与する細胞化合物である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
疼痛に関与する化合物がC1qbタンパク質の上流又は下流のシグナル伝達を変化させる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
疼痛に関与する化合物がC1qb遺伝子の上流又は下流のシグナル伝達を変化させ、特に化合物がC1qb遺伝子の発現を変化させる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
疼痛に関与する化合物がC1qb遺伝子及び/又はC1qbタンパク質のシグナル伝達経路に天然に関与する細胞化合物に結合し、特に疼痛に関与する化合物がC1qb核酸又はC1qbタンパク質、とりわけC1qbタンパク質に結合する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
疼痛に関与する化合物がC1qb遺伝子の上流又は下流のシグナル伝達を阻害し、特に化合物がC1qb遺伝子の発現を阻害する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
疼痛に関与する化合物がC1qbタンパク質の上流の又は下流のシグナル伝達を阻害し、特に化合物がC1qbタンパク質に結合する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
試験系が細胞中にある、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
方法がハイスループット法である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
疼痛が神経障害性疼痛である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
疼痛に関与する化合物を同定するためのC1qb C1qb核酸の使用。
【請求項13】
疼痛に関与する化合物を同定するためのC1qb C1qbタンパク質の使用。
【請求項14】
使用が請求項3〜8及び11のいずれか1項に定義された通りにさらに定義される、請求項12又は13に記載の使用。
【請求項15】
痛覚過敏の診断方法であって、
(a)対象のサンプル中のC1qb遺伝子の発現レベルを測定する工程、及び
(b)C1qb遺伝子の発現レベルが、対照と比較して対象のサンプル中で上昇している場合、対象を痛覚過敏であると同定する工程、
を含む、上記方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−510304(P2013−510304A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537398(P2012−537398)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066808
【国際公開番号】WO2011/054900
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(504456798)サノフイ (433)
【Fターム(参考)】