説明

疼痛制御及び脱髄損傷の回復におけるN−2−ヒドロキシ−エチル−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)の役割

がんに関連する疼痛及び化学療法後の認知機能障害を含む副作用の治療における、HEPES及び誘導体の組成物並びに治療的使用が、本明細書において開示されている。HEPESはまた、神経変性疾患及び神経系疾患、脱髄損傷、並びにベンゾジアゼピン、抗うつ剤及び他の神経系薬剤に関連する副作用及び退薬症状を治療するために使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、化学療法後の疼痛制御の分野、より詳細には、疼痛制御剤としての及び脱髄損傷を回復させるための、N−2−ヒドロキシ−エチル−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES、N-2-hydroxy-ethyl-piperazine-N’-2-ethane sulfonic acid)の組成物及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の範囲を限定することなく、本発明の背景を、ピペラジンをベースとする化合物及びそれらの誘導体の組成物及び治療的使用に関連して記載する。
【0003】
Bloomfieldに付与された米国特許第5,248,680号明細書(1993年)は、タウリン(2−アミノエタンスルホン酸)、2(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、N−(2−アセトアミド)イミノ二酢酸(ADA)、ピペラジン−N,N’ビス(2−エタンスルホン酸(PIPES)、N−(2−アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸(ACES)、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸(BES)、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、N−N[トリス(ヒドロキシメチル)−メチル]−2−アミノエタンスルホン酸(TES)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’3−プロパンスルホン酸(H)EPPS)、2−(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸(CHES)又は3−(シクロヘキシルアミノ)プロパンスルホン酸(CAPS)及びそれらのN−ハロ誘導体から選択される両性イオン化合物が、ミエロペルオキシダーゼ活性を刺激し、これが次に、インビボでの次亜塩素酸生成を刺激し、とりわけロイコトリエン不活性化の増強をもたらすことによって、関係のある臨床状態の治療に、別々に又は組み合わせて使用することができることを記載している。
【0004】
Theodore及びVan Zandtに付与された米国特許第5,716,959号明細書(1998年)は、例えば、活性成分としてHEPES(N−2ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2エタンスルホン酸)を含有する、置換されたピペラジン両性イオン組成物並びにがん、自己免疫疾患、関節炎及び他の哺乳動物の疾患の治療に有用な方法を開示している。
【0005】
米国特許出願第20090149464号(Sergeant et al., 2009)は、神経変性疾患、関係のある神経変性疾患、発育異常疾患又はがんの治療用の医薬組成物の製造のための、1,4−ビス(3−アミノアルキル)ピペラジン誘導体の使用を記載している。この発明はまた、いくつかの特定の1,4−ビス(3−アミノアルキル)ピペラジン誘導体及びそれらを含む医薬組成物に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,248,680号明細書
【特許文献2】米国特許第5,716,959号明細書
【特許文献3】米国特許出願第20090149464号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、細胞膜、特に神経膜の安定化のための及び脱髄損傷の回復のための、鎮痛剤、抗腫瘍剤としての、HEPES及びその誘導体の使用を記載する。本発明の別の実施形態は、神経変性、脱髄、神経系疾患を治療する際の、さらにはトゥレット症候群のような神経精神障害を治療するための、HEPESの使用を詳述する。本明細書において記載されているHEPESの組成物はまた、抗うつ剤及び選択的セロトニン阻害剤(SSRI、selective serotonin inhibitor)での治療後に生じる退薬症状、副作用又は両方を治療するために使用される。HEPESはまた、1又は2以上のがんに関連する疼痛を治療するための鎮痛剤として使用され、化学療法後の認知機能障害を含む化学療法後の副作用のために使用される。
【0008】
一実施形態では、本発明は、対象において、抗うつ剤、選択的セロトニン阻害剤(SSRI)又は他の神経系薬剤での治療後の、退薬症状、副作用又は両方を治療するための医薬組成物であって、1若しくは2以上の抗うつ剤、1若しくは2以上の選択的セロトニン阻害剤(SSRI)又は他の神経系薬剤での治療後の、退薬症状、副作用又は両方を治療するのに十分な量で、滅菌水、緩衝液、生理食塩水又は他の薬学的に許容される担体中に溶解しているN−2−ヒドロキシ−エチル−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)及びその誘導体を含む医薬組成物を開示する。本発明の組成物は、1若しくは2以上の賦形剤、希釈剤、徐放剤若しくは制御放出剤、着色剤、保存剤又はそれらの任意の組合せを含有してもよい。一態様では、HEPESは、経口、皮下、非経口、静脈内、腹膜内又は筋肉内投与のための注射用の滅菌水中に溶解しており、1日1回、体重を基準として10〜100mg/kgで投与される。別の態様では、抗うつ剤は、ベンゾジアゼピン、SSRI、セロトニン−ノルエピネフリン再取込み阻害剤(SNRI、Serotonin-norepinephrine reuptake inhibitor)、ノルアドレナリン作動性特異的セロトニン作動性抗うつ剤(NaSSA、Noradrenergic and specific serotonergic antidepressant)、ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)再取込み阻害剤(NRI、Norepinephrine(noradrenaline)reuptake inhibitor)、ノルエピネフリン−ドーパミン再取込み阻害剤(NDRI、Norepinephrine-dopamine reuptake inhibitor)、選択的セロトニン再取込み促進剤(SSRE、Selective serotonin reuptake enhancer)、メラトニン作動性アゴニスト、三環系抗うつ剤(TCA、Tricyclic antidepressant)及びモノアミンオキシダーゼ阻害剤(MAOI、Monoamine oxidase inhibitor)からなる群から選択され、SSRIは、シタロプラム、エシタロプラム、フルオキセチン、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、ジメリジン又はそれらの任意の組合せを含む。
【0009】
関係のある実施形態では、本発明は、対象において、ヒト対象において、抗うつ剤、選択的セロトニン阻害剤(SSRI)又は他の神経系薬剤での治療後の、退薬症状、副作用又は両方を治療する方法であって、抗うつ剤、選択的セロトニン阻害剤(SSRI)又は他の神経系薬剤での治療後の、退薬症状、副作用又は両方に対する治療を必要とする対象を特定するステップと、滅菌水、緩衝液、生理食塩水又は他の薬学的に許容される担体中に溶解しているN−2−ヒドロキシ−エチル−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)及びその誘導体を含む医薬組成物を、1日1回、体重1kg当たり10〜100mgの投与量で、経口、皮下、非経口、静脈内、腹膜内又は筋肉内投与するステップとを含む方法を記載する。一態様では、抗うつ剤は、ベンゾジアゼピン又はその誘導体を含む。
【0010】
別の実施形態では、本発明は、対象において、1若しくは2以上の神経変性疾患、1若しくは2以上の脱髄性疾患又は両方を治療するための医薬組成物であって、1若しくは2以上の神経変性疾患、1若しくは2以上の脱髄性疾患又は両方を治療するのに十分な量で、滅菌水、緩衝液、生理食塩水又は他の薬学的に許容される担体中に溶解しているN−2−ヒドロキシ−エチル−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)及びその誘導体並びに1若しくは2以上の任意選択の賦形剤、希釈剤、徐放剤若しくは制御放出剤、着色剤、保存剤又はそれらの任意の組合せを含む医薬組成物を記載する。一態様では、1又は2以上の脱髄性疾患は、多発性硬化症、横断性脊髄炎、デビック病、進行性多病巣性白質脳症、視神経炎、白質ジストロフィー、ギラン−バレー症候群、シャルコー−マリー−ツース病又はそれらの任意の組合せを含む。別の態様では、1又は2以上の神経変性疾患は、パーキンソン病、アルパース病、アルツハイマー病、ルーゲーリッグ病大脳皮質基底核変性症、クロイツフェルト−ヤコブ病、前頭側頭葉変性症ハンチントン病、クラッベ病、多系統萎縮症、多発性硬化症、ピック病、原発性側索硬化症、進行性核上性麻痺、レフサム病、サンドホフ病、シルダー病、脊髄性筋萎縮症、スティール−リチャードソン−オルスゼフスキー病又はそれらの任意の組合せを含む。特定の態様では、脱髄性疾患は、多発性硬化症であり、神経変性疾患は、パーキンソン病である。さらに別の態様では、HEPESは、経口、皮下、非経口、静脈内、腹膜内又は筋肉内投与のための注射用の滅菌水中に溶解しており、組成物は、1日1回、体重を基準として10〜100mg/kgで投与され、ミエリン鞘を復元、修復及び/又は再生させることによって、1又は2以上の脱髄性疾患を治療する。
【0011】
さらに別の実施形態では、本発明は、ヒト対象において、1若しくは2以上の神経変性疾患を治療する、1若しくは2以上の脱髄性疾患を治療する又は両方を治療する方法であって、(i)1若しくは2以上の神経変性疾患に対する治療、1若しくは2以上の脱髄性疾患の治療又は両方を必要とする対象を特定するステップと、(ii)滅菌水、緩衝液、生理食塩水又は他の薬学的に許容される担体中に溶解しているN−2−ヒドロキシ−エチル−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)及びその誘導体を含む医薬組成物を、1日1回、体重1kg当たり10〜100mgの投与量で、経口、皮下、非経口、静脈内、腹膜内又は筋肉内投与するステップとを含む方法を記載する。本発明の方法の特定の態様では、脱髄性疾患は、多発性硬化症であり、神経変性疾患は、パーキンソン病であり、組成物は、ミエリン鞘を復元、修復及び/又は再生させることによって、1又は2以上の脱髄性疾患を治療する。
【0012】
本発明の別の実施形態は、対象において、1若しくは2以上の神経系疾患、1若しくは2以上の神経精神障害又は両方に関連する症状を治療するための医薬組成物であって、1若しくは2以上の神経変性疾患、1若しくは2以上の脱髄性疾患又は両方を治療するのに十分な量で、滅菌水、緩衝液、生理食塩水又は他の薬学的に許容される担体中に溶解しているN−2−ヒドロキシ−エチル−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)及びその誘導体を含む医薬組成物に関する。本発明において記載されている組成物は、1又は2以上の賦形剤、希釈剤、徐放剤若しくは制御放出剤、着色剤、保存剤又はそれらの任意の組合せを含有してもよい。一態様では、1又は2以上の神経系又は神経精神障害は、脳性麻痺、トゥレット症候群、舞踏病(choreia)、アテトーシス、双極性障害、統合失調症又はそれらの任意の組合せを含む。別の態様では、HEPESは、経口、皮下、非経口、静脈内、腹膜内又は筋肉内投与のための注射用の滅菌水中に溶解している。さらに別の態様では、組成物は、1日1回、体重を基準として10〜100mg/kgで投与される。
【0013】
一実施形態では、本発明は、ヒト対象において、1若しくは2以上の神経系疾患、1若しくは2以上の神経精神障害又は両方に関連する症状を治療するための方法であって、1若しくは2以上の神経系疾患、1若しくは2以上の神経精神障害又は両方に関連する症状に対する治療を必要とする対象を特定するステップと、滅菌水、緩衝液、生理食塩水又は他の薬学的に許容される担体中に溶解しているN−2−ヒドロキシ−エチル−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)及びその誘導体を含む医薬組成物を、1日1回、体重1kg当たり10〜100mgの投与量で、経口、皮下、非経口、静脈内、腹膜内又は筋肉内投与するステップとを含む方法を詳述する。本発明の方法の一態様では、神経系疾患は、脳性麻痺、舞踏病又はアテトーシスであり、神経精神障害は、トゥレット症候群である。
【0014】
本発明の一実施形態は、対象において、がんに関連する疼痛、化学療法後の認知機能障害を含むがん治療後の副作用又は両方を治療するための医薬組成物であって、がんに関連する疼痛、化学療法後の認知機能障害を含むがん治療後の副作用又は両方を治療するのに十分な量で、滅菌水、緩衝液、生理食塩水又は他の薬学的に許容される担体中に溶解しているN−2−ヒドロキシ−エチル−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)及びその誘導体並びに1若しくは2以上の任意選択の賦形剤、希釈剤、徐放剤若しくは制御放出剤、着色剤、保存剤又はそれらの任意の組合せを含む医薬組成物を開示する。一態様では、組成物は、膵臓がん、乳がん、結腸直腸がん、卵巣がん、肺がん、子宮頚がん、胃がん、肝臓がん、黒色腫、脳腫瘍、多発性骨髄腫、前立腺がん及び膀胱がんに関連する疼痛を治療するために使用される。別の態様では、組成物は、乳がん治療後に、化学療法後の認知機能障害を治療するために使用される。さらに別の態様では、HEPESは、経口、皮下、非経口、静脈内、腹膜内又は筋肉内投与のための注射用の滅菌水中に溶解しており、1日1回、体重を基準として10〜100mg/kgで投与される。
【0015】
関係のある実施形態では、本発明は、ヒト対象において、がんに関連する疼痛、化学療法後の認知機能障害を含むがん治療後の副作用又は両方を治療する方法であって、(i)がんに関連する疼痛、化学療法後の認知機能障害を含むがん治療後の副作用又は両方に対する治療を必要とする対象を特定するステップと、(ii)滅菌水、緩衝液、生理食塩水又は他の薬学的に許容される担体中に溶解しているN−2−ヒドロキシ−エチル−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)及びその誘導体を含む医薬組成物を、1日1回、体重1kg当たり10〜100mgの投与量で、経口、皮下、非経口、静脈内、腹膜内又は筋肉内投与するステップとを含む方法を開示する。特定の態様では、組成物は、膵臓がんに関連する疼痛に使用され、乳がん治療後に生じる、化学療法後の認知機能障害を治療するために使用される。
【0016】
一実施形態では、本発明は、対象において膵臓がんを治療するための医薬組成物であって、膵臓がんを治療するのに十分な量で、滅菌水、緩衝液、生理食塩水又は他の薬学的に許容される担体中に溶解しているN−2−ヒドロキシ−エチル−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)及びその誘導体並びに1若しくは2以上の任意選択の賦形剤、希釈剤、徐放剤若しくは制御放出剤、着色剤、保存剤又はそれらの任意の組合せを含む医薬組成物を記載する。
【0017】
別の実施形態では、本発明は、ヒト対象において膵臓がんを治療する方法であって、膵臓がんに対する治療を必要とする対象を特定するステップと、滅菌水、緩衝液、生理食塩水又は他の薬学的に許容される担体中に溶解しているN−2−ヒドロキシ−エチル−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)及びその誘導体を含む医薬組成物を、1日1回、体重1kg当たり10〜100mgの投与量で、経口、皮下、非経口、静脈内、腹膜内又は筋肉内投与するステップとを含む方法である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
なし。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の種々の実施形態の作製及び使用を以下に詳しく論じるが、本発明は、多種多様な特定の状況において具現化され得る多くの適用可能な発明概念を提供することが認識されるべきである。本明細書において論じられる特定の実施形態は、本発明を作製及び使用するための特定の方法を単に説明するだけのものであり、本発明の範囲を定めるものではない。
【0020】
本発明の理解を容易にするために、いくつかの用語を以下に定義する。本明細書において定義されている用語は、本発明に関係のある分野の当業者によって共通に理解されているような意味を有する。単数で表記した用語は、単数の物のみに言及することを意図するものではなく、特定の例が説明のために使用され得る一般的なクラスを含む。本明細書における専門用語は、本発明の特定の実施形態を記載するために使用されるが、それらの用法は、特許請求の範囲において概略を述べているもの以外は、本発明の範囲を定めるものではない。
【0021】
本発明の種々の実施形態において使用される「HEPES」という用語は、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(C18S)を指す。
【0022】
本明細書において使用される「退薬症状」という用語は、麻薬物質又は薬物の摂取の強制的な中止に伴う、当業者に知られている症状を含むことが意図され、嘔吐、重度の筋痙縮、動揺、鼻及び眼からの流涙(lacramation)、制御不能の排尿、悪心並びに重症例では、痙攣、呼吸不全及び心停止を含む。
【0023】
本明細書において使用される「神経変性疾患」(又は「神経系疾患」)という用語は、特に脳に影響を与え、例えば、短期又は長期の記憶喪失又は記憶障害、認知症、認知障害、平衡及び協調問題並びに感情及び行動の欠陥などの、脳又は神経の機能障害に特有の症状が現れる、神経系の疾患又は障害を指す。
【0024】
「脱髄性疾患」という用語は、軸索の周囲にあるミエリン鞘の退化又は損失を引き起こす、任意の病理学的過程を指し、これには多発性硬化症及びギラン−バレー症候群が含まれるが、これらに限定されない。本明細書において使用される場合、「多発性硬化症」という用語は、解剖学的には、脳及び脊髄における硬化性プラークを特徴とし、視力喪失、複視、眼振、構音障害、衰弱、感覚異常及び膀胱の異常を含む(ただし、これらに限定されない)症状を呈する、中枢神経系の脱髄性障害を指す。
【0025】
本明細書において使用される場合、「神経精神障害」という用語は、NMDA受容体を介した神経伝達の減弱という病態生理学的要素を有する疾患を指す。そのような障害の例には、統合失調症、アルツハイマー病、自閉症、抑うつ症、良性健忘、小児期学習障害、非開放性頭部損傷及び注意欠陥障害が含まれる。
【0026】
本明細書において使用される「がん」という用語は、制御されない又は調節されない細胞増殖、細胞分化の減少、周囲組織を侵す不適切な能力及び/又は異所性部位において新生物を定着させる能力を特徴とする、細胞の障害を指す。この用語はまた、充実性腫瘍及び血液由来腫瘍を含むが、これらに限定されない。「がん」という用語は、皮膚、組織、器官、骨、軟骨、血液及び脈管の疾患を包含し、原発性及び転移性のがんを含む。本明細書において使用される「化学療法」という用語は、化学物質を用いる疾患の治療と定義される。本明細書において使用される化学療法は、がんを有する個体に抗新生物薬を適用することを指す。化学療法の目的は、がん細胞に対する選択毒性である。
【0027】
本明細書において使用される場合、化合物「の投与」又は化合物「を投与すること」という用語は、本発明の化合物を、治療的に有用な形及び治療的に有用な量で個体の体内に導入することができる形で、治療を必要とする個体に供与することを指し、そのような形には、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、懸濁剤などの経口剤形;IV、IM又はIPなどの注射剤形;クリーム剤、ゼリー剤、散剤又は貼付剤を含む経皮剤形;経頬剤形;吸入用散剤、スプレー剤、懸濁剤など;及び直腸用坐剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0028】
「有効量」又は「治療有効量」という用語は、研究者、獣医師、医師又は他の臨床医によって求められている、組織、系、動物又はヒトの生物学的応答又は医学的応答を惹起する、対象化合物の量を示す。本明細書において使用される場合、「治療」という用語は、言及されている状態の、特に、疾患又は障害の症状を明示している患者における治療を指す。
【0029】
「賦形剤」という用語は、本明細書において使用される場合、ヒト対象への投与に適した、1又は2以上の適合性の固体又は液体充填希釈剤又はカプセル化物質を含むことが意図される。賦形剤として役立つ可能性のある物質のいくつかの例は、乳糖、グルコース及びショ糖などの糖類;トウモロコシデンプン及びジャガイモデンプンなどのデンプン;カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース及び酢酸セルロースなどのセルロース及びその誘導体;トラガカント末;麦芽;ゼラチン;タルク;ステアリン酸;ステアリン酸マグネシウム;硫酸カルシウム;ピーナッツ油、綿実油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油及びカカオ脂などの植物油;プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコールなどのポリオール;寒天;及びアルギン酸;並びに医薬製剤に使用される他の非毒性の適合性物質を含む。ラウリル硫酸ナトリウムなどの湿潤剤及び滑沢剤並びに着色剤、着香剤、甘味剤(アスパルテーム及びサッカリンなどの非栄養甘味剤を含む)、錠剤成形剤(tableting agent)、安定化剤、酸化防止剤、冷却剤及び保存剤も存在し得る。
【0030】
「薬学的に許容される」とは、担体、希釈剤又は賦形剤が、製剤の他の成分と適合し且つそのレシピエントに有害でないものでなければならないということが理解されるべきである。
【0031】
本発明は、動物及びヒトの両方由来の細胞培養において、緩衝液として一般に広く使用されている両性イオン分子である「HEPES」として商業的に知られているN−2−ヒドロキシ−エチル−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸を使用する。複数の研究が、HEPESが、知られている全ての緩衝液のうちで、最も少ない細胞毒性を有することを実証している。HEPESは、ピペラジンをベースとする両性イオン分子である。ピペラジン化合物は、フェノチアジンから誘導される。フェノチアジンは、FDAによって、抗不安剤及び抗精神病剤として承認されている。非両性イオンピペラジン化合物は、FDAによって、抗寄生虫剤として承認されている。ピペラジンをベースとする他の分子は、食品添加物として承認されている。HEPESの作用機序は、以下の
(i)持続性の抗アナンダミド作用に関係している可能性があり、アヘン剤とは対照的に、顕著な副作用が見られない鎮痛活性;
(ii)プロメタジンについて以前に見出された機序に関係している可能性がある抗腫瘍活性;
(iii)種々のイオンチャネルの調節による可能性がある、細胞膜、特に神経膜の安定化;及び
(iv)脱髄損傷の回復
を含む。
【0032】
製品であるHEPESは、超高純度の形で製造され、GIBCOL Technologies, Inc.社から入手可能である。この製品は、体重を基準として、決定された最小有効量70〜75mg/kgを1日投与量として投与される。この物質は、経口経路又は非経口経路によって、安全に投与され得る。本発明の発明者らは、薬物治療(medication)を両方の経路によって行うことができ、顕著な副作用が見られないことを、幾度も観察してきた。投与される製品は、調剤薬剤師によって調製され、各患者レシピエントの投与量が個別に調節される。
【0033】
種々の神経障害の臨床例
脱髄性疾患:多くの神経線維を覆っているミエリン鞘は、若年期に形成されるリポタンパク質層からなる。CNSにおける希突起膠細胞によって形成されるミエリンは、末梢においてシュワン細胞によって形成されるものとは化学的に及び免疫学的に異なるが、両方のタイプは、神経インパルスが軸索に沿って伝達されるのを促進する同一の機能を果たす。
【0034】
1.多発性硬化症:多くの先天性代謝障害は、ミエリン鞘形成に欠陥を引き起こし得る。晩年期の脱髄は、多くの神経障害の特徴であり、多くの原因、例えば、局所損傷からのダメージ、虚血、毒性薬剤又は代謝障害から生じ得る。広範なミエリン損失に続いて、しばしば軸索変性としばしば細胞体変性とが起こり、その両方は不可逆的であり得る。
【0035】
幸いにも、多くの場合、自発的なミエリン再形成が生じることがあり、いくつかの症例では、神経機能が急速に復元するとともに、修復、再生及び完全な回復が生じることがあるが、他の症例では、進行が治まることはなく、神経損傷が悪化し、生理学的な機能を完全に失う。中枢性脱髄(すなわち、脊髄、脳又は視神経の脱髄)は、原発性脱髄性疾患における主な所見であり、これについては病因が知られていない。最もよく知られている状態は、多発性硬化症(MS、Multiple Sclerosis)である。MSの症状の増悪及び寛解は、損傷及び回復の最重要な例となる。MSの症状は、極めて変化に富み、多様であり、いくつかのカテゴリーの中で考慮され得る:(i)精神面−無感動、判断力の欠如、抑うつ、情動不安定、(ii)脳神経の機能障害−疲労を伴う軽度の眼振に関連することが多い、第3、第4及び第6脳神経の問題、(iii)感覚神経機能−位置覚の低下、特に四肢、体幹側面及び顔の両側を含む、複数の感覚異常(iv)運動神経機能−表在反射の低下、深部腱反射及びバビンスキーのしばしば顕著な亢進、企図振戦並びに全身性筋衰弱、(iv)自律神経機能−尿意切迫及び排尿躊躇、しばしば軽度の失禁、便秘。
【実施例1】
【0036】
B.F.は、42歳の公立小学校教師であり、B.F.が35歳の時にMSと診断された。4〜6カ月毎に、異なる症状プロフィールを伴う顕著な再発性の総体的症状を有し、様々な部位の関与が示唆された。
【0037】
精神的には、集中力が欠如する期間、直近の計画の遂行が不十分、全身性筋硬直並びによろめきながらの歩行及び平衡失調の症状発現を伴う、細かい協調運動の欠如を頻繁に経験した。非常に厄介なのが、手の協調不能であり、黒板に書くことに悪影響を及ぼしていた。実際に、症状が非常に頻繁であったため、指導契約は更新されなかった。その後、学問的に優秀な小規模の監督教会派の学校に雇用を得た。その学校はクラスが少なく、公立学校の体制と比較して、ストレスレベルがかなり少なかった。
【0038】
このような職場の変更にもかかわらず、より頻繁に増悪と寛解とを繰り返すようになり、B.F.について非常に憂慮する神経科医による複数の薬物治療プログラムを経験した。B.F.は、生徒とコミュニケーションを取る形態として、筆記体の板書ではなく黒板にブロック体を使用し続けた。
【0039】
問題の特に重度の症状発現後、手の感覚機能の喪失及び随伴性運動性行動(erratic motor movements)のために、書く能力(例えば、支払請求書を書くことなど)を完全に失った。本発明者らは、B.F.の仲間であり親友である学校管理者に、B.F.に会うよう依頼された。B.F.は、HEPESを1日5,000mg(ティースプーン5杯)−朝食時に2杯、午後の中頃に1杯及び就寝前に2杯の投与量で開始した。治療からわずか3日後に、判読可能なように、筆記体で書く能力及び署名する能力を取り戻した。B.F.は、経口薬物治療を継続しており、運動機能を維持し、新たな増悪が見られない状態である。
【0040】
2.脳性麻痺:脳性麻痺(CP、cerebral palsy)という用語は、非進行性の痙直、運動失調又は不随意運動を有する小児を特定する。小児の0.1〜0.2%がCP症状を有するが、早産新生児又は妊娠週齢の割に小さい小児では最大1%が罹患する。原因を明らかにすることは困難であるが、未熟児、子宮内障害、新生児黄疸及び周産期仮死は、出産時外傷及び周産期仮死又は特定の所望の核黄疸とともに役割を果たしていると考えられる。CP症候群は、痙性型、アテトーゼ型、失調型及び混合型の4つの主なカテゴリーに分類される。痙性対麻痺は、早産後に特によく見られ、痙性四肢麻痺は、周産期敗血症後に、アテトーゼ型及びジストニア型は、周産期仮死又は核黄疸後によく見られる。痙性の症例は、症例の約70%に生じる。痙直は、軽度から重度の運動機能障害、例えば、片麻痺、対麻痺、四肢麻痺又は両麻痺と関係している上位運動ニューロンによるものである。CPのタイプの確定的な診断を下すには、最大2年かかり得る。治療は、理学療法、作業療法、装具固定、整形外科手術及び発音矯正練習を含む。慢性的に障害を有する全ての小児が援助及び指導を必要とするのと同様に、親は、小児の現状及び可能性を理解し、自分自身の感情を和らげるのに援助及び指導を必要とする。
【実施例2】
【0041】
M.S.は、17歳の中国系少年であり、M.S.の出産は極めて困難で、ある程度の新生児仮死を伴った可能性が非常に高いが、このことは、アプガースコアに深刻には反映されていなかった。M.S.は、推奨される治療法を提供することができる、愛情深く協力的な両親の下で、生まれて以来ずっと高度医療を受けていた。
【0042】
多数の治療プログラムにもかかわらず、M.S.は、助けなしでゆっくりと歩けるようになるのに5年近くを必要とした。驚いたことに、話し方及び知的能力は、著しく機能していた。主要な問題は、手の運動技能による顕著な機能障害であった。M.S.は、HEPESを1日5,000mg(朝食時にティースプーン2杯、午後の中頃に1杯及び就寝前に2杯)の投与量で、経口投与された。3週間後、歩き方にかなりの改善が見られ、失調性は顕著に軽減され、手、特に指の運動及び制御は、コンピュータ上の正確なキーを選択的に(口頭による命令の下で)押すことができるところまで改善した。治療から8カ月後、歩行及び手の技能は、健常者の85%まで改善した。毎日数時間をコンピュータの前で過ごすことに専心するようになり、M.S.が獲得し保持している知識の量は、実際に驚異的である。この青年の変化は顕著であり、M.S.の両親、兄弟姉妹、特に主治医にとって非常に満足のいくものであった。
【0043】
3.化学療法後の認知機能障害(PCCI、Post Chemotherapy Cognitive Impairment):化学療法後の認知機能障害(化学療法誘発性認知機能障害、ケモブレイン又はケモブレインフォッグとしても知られている)は、化学療法による治療に起因し得る認知機能障害を意味する。化学療法を受けた人のおよそ30〜40%が、あるレベルのPCCIを経験する。その現象が最初に明らかになったのは、多数の乳がん生存者が、記憶力、流暢さ及び他の認知的責任において、化学療法前に有していたような機能的能力が妨げられていると不満を訴えたためである。多くの場合、タキサン、サリドマイド及び白金ベースの化合物に関連する化学療法剤の影響を低減する方法は知られていないが、神経がそれ自体を少なくともある程度修復する生来の能力、これらの化合物を代謝及び排泄する生来の能力、血液脳関門の透過性を変化させる生来の能力、テロメアの短縮及び細胞の酸化的ストレスを含むDNAへのダメージを回復させる生来の能力を認識する必要がある。他の理論は、血管損傷、炎症、自己免疫、貧血及びアポリポタンパク質−E遺伝子のε4型の存在を示唆している。化学療法薬の影響を最も受けた比較系は、視覚的記憶及び意味記憶、注意及び協調運動を含む。これらの影響は、治療、学校又は仕事での業績について、理知的に理解し決定する患者の能力を損ない、生活の質を著しく落とす可能性がある。
【0044】
認知機能障害(又はブレインフォッグ)は、通常、特に概念、言葉、記憶についての精神機能不良を伴い、混乱、健忘、集中及び焦点の維持が困難であることを特徴とする。睡眠パターンを乱すことが多く、REM(夢)睡眠の欠陥は、重篤な抑うつ障害を引き起こし得る。一看護師の体験:何かおかしいと最初に気付かされたことの1つは、以前行ったようなことを知的に行うことができないことである。疼痛の増大、筋肉のけいれん、不眠を表面上受け入れるが、自分の電話番号を忘れ続ける時には注意を要する。物を無くす、他の物の置き場所を誤る−知っている道で迷う−行き先を忘れる−買い物リストは、持っていることを忘れ続けるために、その重要性を失う−駐車場で自分の車を何度も見失う−買い物から帰宅して、前日に全く同じものを買ったことに気付く。友人の名前を忘れる。話していたことについて忘れてしまうため、会話の途中で中断する。通常のto−doリストを管理するために、ガジェットやデートブック(date book)を使用し始める。自分の小切手帳を扱っているなら、そのことで徐々にますます苦労する。髪からシャンプーを洗い流したかどうかを覚えていない−浴用タオルを無くす−何もかも落とす−手の届きにくい場所を全て洗い流したかどうかを忘れるので、シャワーを浴びることさえも、大変な作業である。無意識に扱っていた物の以前の機能は何だったのか、今度は、それが起こる前の過程のあらゆる面を意識して見直さなければならない。そのことを笑う。笑いはしゃいでその誤りを「隠す」ことを学ぶ。けれども恥ずかしいと思い、自分自身の正気を黙って疑う。その問題が他の人々が理解しているよりもはるかに多大であることを知っているため、脳腫瘍やアルツハイマーを心配する。1人の同僚が言ったように、「もう自分を信用することができない!」。そのように、互いにそのことについて冗談を言い合う。これは、誰もが時々経験するありふれた健忘ではない。これは、24時間、週に7日、継続的に正常に見られよう、普通に振る舞おうとする苦闘である。これは、脳のSPECT及びPETスキャンによって証明されている。これは全て、本当に頭の中に存在する−そしてそれは現実である。」ブレインフォッグの「治療」の多様性は、医療専門家が有する情報が不足していることを示している。提案されている治療法には、酸化防止剤、認知行動修正、エリスロポエチン注射、興奮薬、催眠、甲状腺補充療法、ニューロフィードバック治療が含まれる。
【実施例3】
【0045】
KLは、45歳女性、乳がんと診断される前に、家業を任されており、財務記録及び納税額の管理を含む多くの必要な業務に関わっている。
【0046】
化学療法後、何曜日であるか、何時であるか、朝の入浴はしたか、いずれかの食事に何を調理すべきかを覚えていることが深刻なほど困難になった。毎日の仕事について忘れたり、学校主催の行事に子供たちを送っていくことを忘れたり、心配した母親との電話での会話を突然切ってしまい、その行動についてまったく思い出せない。
【0047】
ビジネスに関して主要な障害は、簡単な数字の計算を行うことができないことであった。これらの欠点は納税額に影響し、KLはそれに全く気付かなかった。慢性の治まることがない身体的疲労は家族、特にKLの夫にとって深刻な障害となった。夫は、何が起こっているのかを理解していなかった。夫は、KLは「気が狂っている」と思った。
【0048】
KLの母は、急速に悪化していく家族の問題を多少とも解決するために、できることについて尋ねた。症状が、少なくとも部分的に脱髄に関係していたので、HEPESを用いた試験が推奨された。KLは、経口HEPES、1日5,000mgを分割した用量で開始した。3日以内に、KLは「雲」が「浮かび上がった」と言った。雲は依然として存在したが、特に現在起きている物事及び目標を達成する際の義務についての認知能力は改善された。さらに2、3日のうちに、雲は、より高く昇っており、1カ月後「雲」は過ぎ去った。彼女の状態は改善し続けており、これは満足のいくものである。
【0049】
パーキンソン病:パーキンソン病は、高齢者の第4番目に多く見られる神経変性障害であり、65歳以上の人々の約1%,40歳以上の人々の0.4%が罹患する。平均発症年齢は57歳であるが、小児期や青年期に起こることもある(若年性パーキンソン症候群)。毎年およそ50,000の新症例が診断される。不明確な原因のために、黒質、青斑及び他の脳幹ドーパミン作動性細胞群の色素性ニューロンが消失する。
【0050】
患者の50〜80%において、症状としてのパーキンソン病の始まりは、いつの間にか安静時に片手が4〜8Hzで丸薬丸め振戦(pill-rolling tremor)することから始まる。振戦は安静時に最大となり、運動とともに減少し、睡眠中は消失する;振戦は、情緒的緊張及び疲労とともに著しく増大する場合がある。通常は、手、腕、脚が最も冒されやすく、この順に冒されるが、顎、舌及び額及び瞼も同様に冒されることがある一方で、声は影響を受けないままである。
【0051】
多くの患者では、固縮が生じるだけであり、明らかな振戦は見られない。固縮が進行するにつれて動きが緩徐になり、減少し、始動困難になり、筋肉痛及び疲労感が顕著に増大する。顔貌は、口を開けたままで瞬き(clinking)が減る仮面様となる。姿勢は前かがみになる。患者は、歩行を開始することが困難になり、小股で足を引きずって歩くようになり、腕は腰の方へ屈曲し、歩きながら腕を振らなくなる。足取りが不意に速くなり、患者は、倒れないようにするために急に走り出すことがある(加速歩行)。種々の方向に倒れるのは、姿勢反射異常に起因する。言語が発声不全になり、単調で吃音調の構音障害が見られる。抑うつがよくみられる。
【0052】
レボドパは、ドーパミンの代謝前駆物質であり、脳血流関門を通過して基底核に入り、そこで脱炭酸化されて、不足した神経伝達物質を代償するドーパミンを形成する。この薬物治療で2〜5年治療した後、50%を超える患者でレボドパの応答に変動がみられるようになる。アマンタジンは、レボドパ及びドーパミンアゴニスト(ブロモクリプチン及びペルゴリド)の効果を増強し、基底核におけるドーパミン受容体を直接刺激し得る。この疾患の前兆となる3つの徴候、抗パーキンソン薬の副作用及び不活動が、顕著な程度の便秘を引き起こし、これは、繊維の大量摂取、オオバコ及び便軟化剤にもかかわらず治まることがない。
【実施例4】
【0053】
F.S.は、45歳の造園技師であり、30代後半よりパーキンソン症状を有していた。家族歴は陽性である。F.S.は、種々のパーキンソン病薬物治療を試してきたが、その有益な作用は、2、3カ月以内に消失するように思われる。
【0054】
主訴は、顕著な筋衰弱及び筋硬直であり、苗床/園芸活動に著しく支障を来たす程度まで現れた。手の振戦は、わずかな程度のみ現れたが、頭部の振戦及びチックは、1点を凝視し続けるなら吐き気を催すようになるほど非常に顕著であった。
【0055】
F.S.は1日5,000mgのHEPESを分割した用量で投与され(placed on)、筋疲労、筋硬直及びチックは全て、3週間以内に消失した。さらに2週間後、F.S.は、診断が下される前の状態のような感覚になり、顧客の芝地/庭の手入れを全て、期限内に完遂できると言った。
【実施例5】
【0056】
B.S.は、83歳男性であり、75歳よりパーキンソン症状を有していた。レボドパを1日6回に漸増しながら、高用量のミラペックス及び便秘の問題のためのポリエチレングリコールと一緒に投与されていた。便秘は、腹部の膨張及び突出、悪心及び嘔吐を伴い、実際にかなり難治性であった。また非常に心配なのが、嚥下活動の減少及び口内出血を伴う咬舌であった。援助なしでは立つことができず、ためらいがちな歩行は、加速歩行の様相に似ていた。疾患の重大さのために、B.S.は1日6,000mgのHEPESを分割した用量で投与され、3日以内に嚥下困難を回避し、咬舌が止まった。時間をかけて、レボドパの1日投与量を、処方されていた1日6回から1日2回まで減らし、これに小用量のドーパミンアゴニストであるブロモクリプチンを加えると、並はずれて有益な結果が得られた。B.S.の状態は、再び店に自分で運転して行き、ガソリンを購入したり外食したりすることができる程度に改善し、非常に満足している。
【0057】
積極的な排便治療プログラムを施し、良好な結果を得、必要な場合には、1日1回浣腸を補充投与した。B.S.を厳密にモニターし続けた。活力レベルは著しく改善し、仮面様顔貌は完全に消失し、生活の質は大いに改善した。
【0058】
HEPESの作用機序に基づく臨床例。HEPESの鎮痛活性及び抗腫瘍活性−膵臓がん
【実施例6】
【0059】
JWHは、68歳白人男性、商業用冷暖房空調会社を所有及び運営しており、2005年9月までは良好な健康状態を享受していたが、その頃、易疲労感の症状及び上腹部から背部にかけて間欠性の疼痛症状を発現し、膵臓に問題があることが示唆された。疼痛は、便通を促すこと又は他のいかなる手段によっても緩和されなかった。かかりつけ医による診察では、II型糖尿病と診断された。JWHは、抗糖尿病薬物治療及び食事療法を施された。腹部疼痛に関係する追加の検査は、糖尿病を有する患者には特有であるにもかかわらず、全く行われなかった。糖尿病の状態は、2、3週間で満足のいく制御下にあったが、腹部疼痛の問題は持続した。
【0060】
腹部疼痛がひどくなり、背面中央の胸椎に新たな重度の疼痛を伴った。2005年12月末に、脊髄領域における突然の非常に激しい疼痛症状に見舞われ、緊急治療室に運ばれた。そこで診察されたところ、脊髄疼痛の起源が骨転移に付随するものであると判明した。精密検査のために入院したところ、原発性膵臓がんを有し、肝臓、肺、肩及び胸部脊柱に転移が見られることが判明した。胸部病巣に対する放射線治療を受け、この領域における疼痛が限定的に和らいだ。
【0061】
Houston, TexasにあるM. D. AndersonHospitalで、患者行政監察グループと協議したところ、広範囲に及ぶ転移を伴う膵臓がんの現状及びそのような進行疾患に対して、現在の研究プロトコルはいずれも適切でないとこのグループは言った。JWHは、余命が2〜4カ月であった。Dallas-Fort Worth地域の地元の機関によって、疼痛プロトコルで治療することが推奨された。JWHは、かかりつけ医によって治療され、疼痛制御のためにアヘン系鎮痛剤を投与された。
【0062】
2006年2月に、JWHのかかりつけ医が、HEPESを追加する可能性に関して、本発明者らに連絡を取ってきた。最大レベルのアヘン剤薬物治療を受けていたが、この治療では患者が経験している疼痛が制御されなかったためである。2006年3月に、JWHは、最大量のアヘン系鎮痛剤による薬物治療を継続しながら、1日投与量のHEPESを、静脈注入によって投与された。HEPESを追加してから5日後、疼痛は完全に制御された。2006年4月、5月及び6月中に、過度の麻薬関連の副作用(表1)のため、麻薬性薬物治療を緩徐に減らし、最大用量の約25%のアヘン系鎮痛剤を使用して、良好に疼痛が制御された。
【0063】
JWHの生活の質は、この時点で著しく改善した。2006年7月に、著しい食欲不振を発現した。これは、恐らく内因性TNF−αのレベルの亢進(悪液質の因子)に付随するものであった。ドロナビノールを推奨したが、この薬物がマリファナから誘導されているため、患者に拒絶された。その後、悪液質の因子の天然源の阻害剤(表2)を推奨したが、患者は、これらが疼痛制御を妨げ得ると感じたため、これらのいずれも摂取することを拒絶し、このことは許容された。その後、JWHは非経口栄養補給を提供され、拒否した。
【0064】
JWHの生活の質は、適度に良好であり、状態は、モールで毎日30分の散歩を行うことができ、2006年9月には高校の50周年同窓会に出席することができ、2006年10月には、高校のVIP対応駐車場がJWHに捧げられたために出席し、2006年11月初旬には、妻とダンスに行き、さらに高校のフットボールの試合に行き、家族全員と69回目の誕生日を祝うというようなものであった。
【0065】
2006年11月中旬から、継続的な体重減少を伴う衰弱を発現し、11月下旬から寝たきりになった。JWHは、サイトカイン誘発性(悪液質の因子/TNF−α)食欲不振に見舞われ続け、ほとんど完全な飢餓性衰弱を引き起こし、2006年12月19日に死亡した。死亡診断書には、死因を膵臓がんとして記入しているが、実際のところ、死因は末期の食欲不振、飢餓性衰弱及び栄養失調であり、体重減少は65ポンドを超えた。
【0066】
しかし、HEPES投与は、疼痛制御の改善、必要とするアヘン系麻薬鎮痛剤(analgesia)の量の低減、アヘン系副作用の除去、さらなる数カ月の生活の質を有する顕著な抗腫瘍作用に関連しており、家族によって深く感謝された。
【0067】
神経膜の安定化。小児自己免疫性溶連菌関連性神経系疾患(PANDAS、Pediatric Autoimmune Neurological Disease Associated with Strep)
【実施例7】
【0068】
HSWは、8歳の男児であり、本発明者らの小児神経科医の1人によって紹介された。病歴としては、この男児は3歳時に、非常に有毒な連鎖球菌微生物によって引き起こされる感染症にかかった。3クールの抗生物質治療を必要とし、その後、症状は治まり、明らかな回復が起こった。約6週間後、不随意のチックを有するようになり、頭部、頸部及び肩に生じ、しばしば動揺腕を伴った。最初は、これらの運動は1日当たり10〜15回であった。次の3カ月にかけて、アテトーシス運動が、1日当たり1,300〜1,500回に増加した。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
多数の医療センターの小児神経科医に相談し、様々な薬剤が処方された。これらの薬剤はせいぜい上記運動の頻度を最小の程度に減少させるだけであったが、これらに付随して、多くの望ましくない副作用が起きた。次の5年にかけて、両親は、スカンジナビア、ドイツ、スイス、イスラエル及びイギリスの様々な有名な医療センターの内科医に相談したが、顕著な改善は何もなかった。本発明者らにHSWが紹介される直前に、HSWはNIHで診察された。そこでは非常に徹底的な精密検査が行われたが、両親に与えられた忠告は、世界中で利用できる薬物治療のほとんどを試してきて成功しなかったのだから、できること、又は期待できることはほとんどないというものだった。
【0072】
驚くほどの1,300〜1,500回のアテトーシス運動が存在するため、HEPESをこの少年に、段階的用量で静脈内に、毎日慎重に投与した。第1週目の終了時には、70〜75mg/kgレベルのHEPES投与を実現し、アテトーシス運動の頻度が、1日当たり10〜15回に減少していた。HEPESの静脈内投与第2週目の終わりには、アテトーシスがさらに減少し、1日当たり2〜3回の運動になった。
【0073】
次いでこの少年に、同じ1日投与量で、経口薬物治療を施した。次の3週間では、感情的な環境又はストレスの多い環境によって、不随意アテトーゼ運動が稀に誘発された。次いでHEPESを漸減し、現在、少年はチックが見られず、まったくHEPESを投与されていない。問題の再発があるかどうかは議論の余地が残っているが、本発明者らは、HEPES部分(HEPES moiety)によって誘導された安定化が、永続的な治療効果を有することに望みを抱いている。HEPESへのこの応答は、HSWの両親及び他の家族、HSWを紹介した神経科医並びに本発明者らによって、非常に奇跡的であると考えられている。
【0074】
ベンゾジアゼピン退薬症状。
【実施例8】
【0075】
MSは、48歳男性であり、11歳の時に現れたパニック発作に対して、最初にベンゾジアゼピン薬物治療を施された。MSは、30年を超える間に、この群を構成する種々の形の薬物治療を受けていた。存在するジレンマは、多くの場合ジアゼピンが処方される病態がもともと、実際は精神障害であると考えられることである。退薬に関連して疼痛及び神経症状が現れると、かかる症状は誤診され、問題を悪化させる追加の薬物を投与されることが多い。これらの薬物治療は、短期治療(4〜6週)にのみ推奨されるが、この患者の場合、使用は数年にわたる。これらの薬物からの退薬に関連する疼痛の発現を、表3に示す。主要な退薬症状の1つは、激しく反復される「チック」を含み、これは、感情的状況及び他のストレス因子とともに、かなり悪化する。超自我の機能が著しく損なわれるため、異常な観念形成は、奇異な思考の形をとることが多い。したがって、これらの患者は、正常な状態の下では決して考えない、ましてや行動で表現などしないことを行う。これらの要因の結果として、本発明者らの患者は、仕事の成功、自分の家並びに妻と、14歳、11歳及び7歳になる3人の美しい娘たちとからなる家族を失った。MSは、肩及び腕の奇異な動揺運動を伴う、飛び跳ねる動きで歩く。インターネット上には、300を超える退薬症状の一覧表が存在する。本発明者らはこの患者について、極度の疼痛問題を改善することができるかどうか見るよう相談された。MSの神経学的検査は、実に奇妙であった。1つの顕著な特徴は、右足を4+インチ持ち上げて背屈させる完全に正常な能力があるのに、左足はわずか1インチしか持ち上がらず、緊張した足底屈も示したことである。
【0076】
MSは、経口経路によって、HEPESを開始した。HEPESを受けてから4日後に再度行った神経学的検査では左足が右足と同等に正常に背屈し、非常に驚くべき観測結果であった。HEPESを75mg/kgの投与量で毎日継続したところ、アテトーゼ運動の著しい減少、歩行の改善、より説得力のある観念化並びに顎及び歯、肩関節及び筋肉の激痛、前胸部痛並びに両方のこめかみの鋭痛からなる疼痛の著しい緩和として現れる、緩徐な改善を示した。追加の治療をしながら、MSの状態についてしっかりとモニターすることになっている。
【0077】
米国では、同様の病歴を有する人々が5〜6百万人、英国ではさらに2百万人いると推定されている。HEPES製品は、副作用を全く示さないという、羨望に価する地位を享受しているため、HEPESの使用が、これらの恐ろしい退薬症状を改善することができるならば、それは、これらの患者が継続的に受けている苦しみを和らげることに対する意義深い貢献であることを証明する。
【0078】
【表3】

【0079】
脱髄過程の回復
慢性炎症性脱髄性多発根神経障害(CIDP、Chronic Inflammatory Demyelinating Polyradiculoneuropathy)
CIDPは、末梢運動及び感覚神経を冒す自己免疫神経障害である。症状は、緩徐進行性のしびれ及び刺痛であり、通常、両足に始まるが、後に両脚及び両手に広がる。患者はまた、いくらかの衰弱を訴え、この場合も通常、下肢に始まるが、間もなく同様に上肢を含む。感覚系のさらなる関与で、バランスなどの他の種類の感覚が冒され、患者は、暗所において歩く又はバランスを維持することができないと訴える。通常、腸又は膀胱の関与はない。稀に、脳神経に影響を及ぼし、次いで症状は、嚥下困難から顔に生じるしびれを伴う複視にまで及ぶ。認知技能は、CIDPの影響を受けない。
【0080】
CIDPの診断は、進行性感覚運動性神経障害の病歴により疑われる。上肢及び下肢の遠位感覚喪失に一致した理学的検査は、遠位よりも近位であり得る運動衰弱と併せて、臨床診断を裏付ける。
【0081】
患者は、疼痛、しびれ又は衰弱を呈することがある。初期の徴候の1つは、患者が、階段を昇る又はしゃがみこみ姿勢から立ち上がるのに両手を使わなければならないことである。血圧を維持するのが困難であるような血管運動性症状、反射性交感神経性ジストロフィーと誤診される灼熱感を有する者もいる。複合領域の疼痛症候群でさえも、CIDPである可能性が高い。
【0082】
診断が確定すると、免疫抑制剤での投薬治療を開始することができる。第一選択治療は、依然として高用量免疫グロブリンであり、これを静脈内に注入し改善された患者の総体的症状に応じて、時間をかけて次第に減らしていく。多数の研究において、免疫グロブリンの静脈内投与でCIDPの症状を改善することが示されている。
【実施例9】
【0083】
MVは、43歳男性であり、複数のアレルギー、感染症(ウイルス性髄膜炎/無菌性脳炎を含む)、抗生物質による治療等に由来する複数の症状発現という病歴を有している。MVは、自分の身体状態を病歴的に以下のように記載している:「1991年以来、進行性神経欠陥という深刻な病気にかかっている。1993年には、結果的に運動制御を著しく失ってしまった。状態は、多発性硬化症と誤診され、MRIに関しては陰性所見であった。」最初は、杖を使用してゆっくりと移動した。1994年に、頸部から下が麻痺した。Igを静脈内投与され、数週間かけて回復した。5カ月後、同様の症状発現を経験した。この時は、Ig療法はわずかに役立ったに過ぎず、2週間毎に治療的血漿交換法を受けた。
【0084】
最近では、四肢に著しい疼痛を経験しており、疼痛制御及び任意のミエリン形成欠陥を可能な限り補強することの両方のために、HEPESを経口で開始した。本発明者らのオランダの同僚医師が、脱髄過程の回復に著しく成功していたからである。毎日の経口製品の3週間後、疼痛は完全に制御され、下肢の衰弱は、ほとんど完全に解決し、ここ数年間の状態に比べて良くなったと感じると述べた。
【0085】
本明細書中に論じられている任意の実施形態は、任意の方法、キット、試薬又は本発明の組成物に関して実行することができ、その逆もまた同様であることが企図される。その上、本発明の組成物は、本発明の方法を達成するために使用することができる。
【0086】
本明細書に記載されている特定の実施形態は、実例として示されており、本発明の限定として示されているのではないことが理解される。本発明の主な特徴は、本発明の範囲から逸脱することなく、種々の実施形態で用いることができる。当業者であれば、単なる通常の研究手順を使用するだけで、本明細書に記載されている特定の手順に対して非常に多くの相当物を認識するか、又は確認することができる。そのような相当物は、本発明の範囲内であると考えられ、特許請求の範囲によって保護される。
【0087】
本明細書において言及されている出版物及び特許出願は全て、本発明が関係する当業者の熟練度を示している。個々の出版物又は特許出願の各々が、参照によって組み込まれることを明確に及び個々に示された場合と同程度に、出版物及び特許出願は全て、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0088】
単数表記の使用は、特許請求の範囲及び/又は本明細書において、「含む(comprising)」という用語と併せて使用される場合、「1つの(one)」を意味し得るが、「1又は2以上の」、「少なくとも1つの」及び「1又は1を超える」の意味と一致することもある。特許請求の範囲において、「又は」という用語の使用は、本開示が、代替物のみ及び「及び/又は」を指す定義を裏付けるが、代替物のみを指すこと又は代替物が相互に排他的であることを明確に指示されない限り、「及び/又は」を意味するために使用される。本出願全体にわたって、「約」という用語は、デバイスについての誤差の固有変動、値を決定するために用いられる方法の固有変動又は研究課題の中に存在する変動を含む値を示すために使用される。
【0089】
本明細書及び特許請求の範囲において使用される場合、語「含む(comprising)」(並びに「含む(comprise)」及び「含む(comprises)」などのcomprisingの任意の形)、「有する(having)」(並びに「有する(have)」及び「有する(has)」などのhavingの任意の形)、「含む(including)」(並びに「含む(includes)」及び「含む(include)」などのincludingの任意の形)又は「含有する(containing)」(並びに「含有する(contains)」及び「含有する(contain)」などのcontainingの任意の形)は、包括的であるか又は無制限であり、追加の、列挙されていない要素又は方法ステップを除外しない。
【0090】
本明細書に使用されている「又はその組合せ」という用語は、この用語に先立つ掲載品目の全ての順列及び組合せを指す。例えば、「A、B、C又はその組合せ」は、A、B、C、AB、AC、BC又はABCのうちの少なくとも1つを含むことが意図されており、特定の状況において順序が重要である場合には、BA、CA、CB、CBA、BCA、ACB、BAC又はCABのうちからも少なくとも1つを含むことが意図されている。この例を続けると、BB、AAA、MB、BBC、AAABCCCC、CBBAAA、CABABBなどの1又は2以上の品目又は用語の反復を含有する組合せが、明示的に含まれる。当業者であれば、他に状況から明らかでない限り、任意の組合せの中の品目又は用語の数に、典型的に制限は全くないことを理解する。
【0091】
本明細書に開示及び特許請求されている組成物及び/又は方法は全て、本開示に照らし合わせると、不適当な実験をせずに作製及び実行することができる。本発明の組成物及び方法は、好ましい実施形態という言葉で記載されているが、本発明の概念、精神及び範囲から逸脱することなく、改変が、本明細書に記載されている組成物及び/又は方法に並びにステップに又は方法の一連のステップに適用され得ることは、当業者には明らかである。当業者には明らかな、そのような類似の全ての代用例及び変更例が、添付の特許請求の範囲によって定義されている本発明の精神、範囲及び概念の範囲内であるものと見なされる。
【0092】
(参考文献)
米国特許第5,248,680号明細書:臨床状態の治療に使用するための両性イオン化合物及びそれらのN−ハロ誘導体。
米国特許第5,716,959号明細書:疾患をピペラジン両性イオン化合物で治療する方法。
米国特許出願第20090149464号:神経変性疾患の治療における1,4−ビス(3−アミノアルキル)ピペラジン誘導体の使用。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において、抗うつ剤、選択的セロトニン阻害剤(SSRI、selective serotonin inhibitor)又は他の神経系薬剤での治療後の、退薬症状、副作用又は両方を治療するための医薬組成物であって、
1若しくは2種以上の抗うつ剤、1若しくは2種以上の選択的セロトニン阻害剤(SSRI)又は他の神経系薬剤での治療後の、退薬症状、副作用又は両方を治療するのに十分な量で、滅菌水、緩衝液、生理食塩水又は他の薬学的に許容される担体中に溶解しているN−2−ヒドロキシ−エチル−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES、N-2-hydroxy-ethyl-piperazine-N'-2-ethane sulfonic acid)及びその誘導体;並びに
1若しくは2種以上の任意選択の賦形剤、希釈剤、徐放剤若しくは制御放出剤、着色剤、保存剤又はそれらの任意の組合せ
を含む医薬組成物。
【請求項2】
HEPESが、経口、皮下、非経口、静脈内、腹膜内又は筋肉内投与のための注射用の滅菌水中に溶解している、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
1日1回、体重を基準として10〜100mg/kgで投与される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
抗うつ剤が、ベンゾジアゼピン、SSRI、セロトニン−ノルエピネフリン再取込み阻害剤(SNRI、Serotonin-norepinephrine reuptake inhibitor)、ノルアドレナリン作動性特異的セロトニン作動性抗うつ剤(NaSSA、Noradrenergic and specific serotonergic antidepressant)、ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)再取込み阻害剤(NRI、Norepinephrine(noradrenaline)reuptake inhibitor)、ノルエピネフリン−ドーパミン再取込み阻害剤(NDRI、Norepinephrine-dopamine reuptake inhibitor)、選択的セロトニン再取込み促進剤(SSRE、Selective serotonin reuptake enhancer)、メラトニン作動性アゴニスト、三環系抗うつ剤(TCA、Tricyclic antidepressant)及びモノアミンオキシダーゼ阻害剤(MAOI、Monoamine oxidase inhibitor)からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
SSRIが、シタロプラム、エシタロプラム、フルオキセチン、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、ジメリジン又はそれらの任意の組合せを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
対象において、ヒト対象において、抗うつ剤、選択的セロトニン阻害剤(SSRI)又は他の神経系薬剤での治療後の、退薬症状、副作用又は両方を治療する方法であって、
抗うつ剤、選択的セロトニン阻害剤(SSRI)又は他の神経系薬剤での治療後の、退薬症状、副作用又は両方に対する治療を必要とする対象を特定するステップと;
滅菌水、緩衝液、生理食塩水又は他の薬学的に許容される担体中に溶解しているN−2−ヒドロキシ−エチル−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)及びその誘導体を含む医薬組成物を、1日1回、体重1kg当たり10〜100mgの投与量で、経口、皮下、非経口、静脈内、腹膜内又は筋肉内投与するステップと
を含む方法。
【請求項7】
抗うつ剤が、ベンゾジアゼピン又はその誘導体を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
対象において、1若しくは2種以上の神経変性疾患、1若しくは2種以上の脱髄性疾患又は両方を治療するための医薬組成物であって、
前記1若しくは2種以上の神経変性疾患、前記1若しくは2種以上の脱髄性疾患又は両方を治療するのに十分な量で、滅菌水、緩衝液、生理食塩水又は他の薬学的に許容される担体中に溶解しているN−2−ヒドロキシ−エチル−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)及びその誘導体;並びに
1若しくは2種以上の任意選択の賦形剤、希釈剤、徐放剤若しくは制御放出剤、着色剤、保存剤又はそれらの任意の組合せ
を含む医薬組成物。
【請求項9】
1又は2種以上の脱髄性疾患が、多発性硬化症、横断性脊髄炎、デビック病、進行性多病巣性白質脳症、視神経炎、白質ジストロフィー、ギラン−バレー症候群、シャルコー−マリー−ツース病又はそれらの任意の組合せを含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
1又は2種以上の神経変性疾患が、パーキンソン病、アルパース病、アルツハイマー病、ルーゲーリッグ病、大脳皮質基底核変性症、クロイツフェルト−ヤコブ病、前頭側頭葉変性症、ハンチントン病、クラッベ病、多系統萎縮症、多発性硬化症、ピック病、原発性側索硬化症、進行性核上性麻痺、レフサム病、サンドホフ病、シルダー病、脊髄性筋萎縮症、スティール−リチャードソン−オルスゼフスキー病又はそれらの任意の組合せを含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
脱髄性疾患が、多発性硬化症である、請求項8に記載の組成物。
【請求項12】
神経変性疾患が、パーキンソン病である、請求項8に記載の組成物。
【請求項13】
HEPESが、経口、皮下、非経口、静脈内、腹膜内又は筋肉内投与のための注射用の滅菌水中に溶解している、請求項8に記載の組成物。
【請求項14】
1日1回、体重を基準として10〜100mg/kgで投与される、請求項8に記載の組成物。
【請求項15】
ミエリン鞘を復元、修復及び/又は再生させることによって、1又は2種以上の脱髄性疾患を治療する、請求項8に記載の組成物。
【請求項16】
ヒト対象において、1若しくは2種以上の神経変性疾患、1若しくは2種以上の脱髄性疾患又は両方を治療する方法であって、
前記1若しくは2種以上の神経変性疾患に対する治療、前記1若しくは2種以上の脱髄性疾患の治療又は両方を必要とする対象を特定するステップと;
滅菌水、緩衝液、生理食塩水又は他の薬学的に許容される担体中に溶解しているN−2−ヒドロキシ−エチル−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)及びその誘導体を含む医薬組成物を、1日1回、体重1kg当たり10〜100mgの投与量で、経口、皮下、非経口、静脈内、腹膜内又は筋肉内投与するステップと
を含む方法。
【請求項17】
脱髄性疾患が、多発性硬化症である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
神経変性疾患が、パーキンソン病である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
組成物が、ミエリン鞘を復元、修復及び/又は再生させることによって、1又は2以上の脱髄性疾患を治療する、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
対象において、1若しくは2種以上の神経系疾患、1若しくは2種以上の神経精神障害又は両方に関連する症状を治療するための医薬組成物であって、
1若しくは2種以上の神経変性疾患、1若しくは2種以上の脱髄性疾患又は両方を治療するのに十分な量で、滅菌水、緩衝液、生理食塩水又は他の薬学的に許容される担体中に溶解しているN−2−ヒドロキシ−エチル−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)及びその誘導体;並びに
1若しくは2種以上の任意選択の賦形剤、希釈剤、徐放剤若しくは制御放出剤、着色剤、保存剤又はそれらの任意の組合せ
を含む医薬組成物。
【請求項21】
1又は2種以上の神経系又は神経精神障害が、脳性麻痺、トゥレット症候群、舞踏病、アテトーシス、双極性障害、統合失調症又はそれらの任意の組合せを含む、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
HEPESが、経口、皮下、非経口、静脈内、腹膜内又は筋肉内投与のための注射用の滅菌水中に溶解している、請求項20に記載の組成物。
【請求項23】
1日1回、体重を基準として10〜100mg/kgで投与される、請求項20に記載の組成物。
【請求項24】
ヒト対象において、1若しくは2種以上の神経系疾患、1若しくは2種以上の神経精神障害又は両方に関連する症状を治療するための方法であって、
前記1若しくは2種以上の神経系疾患、前記1若しくは2種以上の神経精神障害又は両方に関連する前記症状に対する治療を必要とする対象を特定するステップと;
滅菌水、緩衝液、生理食塩水又は他の薬学的に許容される担体中に溶解しているN−2−ヒドロキシ−エチル−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)及びその誘導体を含む医薬組成物を、1日1回、体重1kg当たり10〜100mgの投与量で、経口、皮下、非経口、静脈内、腹膜内又は筋肉内投与するステップと
を含む方法。
【請求項25】
神経系疾患が、脳性麻痺、舞踏病又はアテトーシスである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
神経精神障害が、トゥレット症候群である、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
対象において、がんに関連する疼痛、化学療法後の認知機能障害を含むがん治療後の副作用、又は両方を治療するための医薬組成物であって、
前記がんに関連する前記疼痛、化学療法後の認知機能障害を含む前記がん治療後の副作用、又は両方を治療するのに十分な量で、滅菌水、緩衝液、生理食塩水又は他の薬学的に許容される担体中に溶解しているN−2−ヒドロキシ−エチル−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)及びその誘導体;並びに
1若しくは2以上の任意選択の賦形剤、希釈剤、徐放剤若しくは制御放出剤、着色剤、保存剤又はそれらの任意の組合せ
を含む医薬組成物。
【請求項28】
膵臓がん、乳がん、結腸直腸がん、卵巣がん、肺がん、子宮頚がん、胃がん、肝臓がん、黒色腫、脳腫瘍、多発性骨髄腫、前立腺がん及び膀胱がんに関連する疼痛を治療するために使用される、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
乳がん治療後に生じる、化学療法後の認知機能障害を治療するために使用される、請求項27に記載の組成物。
【請求項30】
HEPESが、経口、皮下、非経口、静脈内、腹膜内又は筋肉内投与のための注射用の滅菌水中に溶解している、請求項27に記載の組成物。
【請求項31】
1日1回、体重を基準として10〜100mg/kgで投与される、請求項27に記載の組成物。
【請求項32】
ヒト対象において、がんに関連する疼痛、化学療法後の認知機能障害を含むがん治療後の副作用、又は両方を治療する方法であって、
前記がんに関連する前記疼痛、化学療法後の認知機能障害を含むがん治療後の副作用、又は両方に対する治療を必要とする対象を特定するステップと;
滅菌水、緩衝液、生理食塩水又は他の薬学的に許容される担体中に溶解しているN−2−ヒドロキシ−エチル−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)及びその誘導体を含む医薬組成物を、1日1回、体重1kg当たり10〜100mgの投与量で、経口、皮下、非経口、静脈内、腹膜内又は筋肉内投与するステップと
を含む方法。
【請求項33】
組成物が、膵臓がんに関連する疼痛に使用される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
組成物が、乳がん治療後に生じる、化学療法後の認知機能障害を治療するために使用される、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
対象において膵臓がんを治療するための医薬組成物であって、
前記膵臓がんを治療するのに十分な量で、滅菌水、緩衝液、生理食塩水又は他の薬学的に許容される担体中に溶解しているN−2−ヒドロキシ−エチル−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)及びその誘導体;並びに
1若しくは2以上の任意選択の賦形剤、希釈剤、徐放剤若しくは制御放出剤、着色剤、保存剤又はそれらの任意の組合せ
を含む医薬組成物。
【請求項36】
ヒト対象において膵臓がんを治療する方法であって、
前記膵臓がんに対する治療を必要とする対象を特定するステップと;
滅菌水、緩衝液、生理食塩水又は他の薬学的に許容される担体中に溶解しているN−2−ヒドロキシ−エチル−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)及びその誘導体を含む医薬組成物を、1日1回、体重1kg当たり10〜100mgの投与量で、経口、皮下、非経口、静脈内、腹膜内又は筋肉内投与するステップと
を含む方法。

【公表番号】特表2013−505264(P2013−505264A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529955(P2012−529955)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【国際出願番号】PCT/US2010/049405
【国際公開番号】WO2011/035212
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(512069566)ノース テキサス メディカル アソシエイツ (1)
【氏名又は名称原語表記】NORTH TEXAS MEDICAL ASSOCIATES
【Fターム(参考)】