説明

疾患、障害または症状を患っている個体を治療するための臍帯血の使用

本発明は、臍帯血および臍帯血由来の幹細胞を高用量で用いて様々な症状、疾患および障害を治療する方法を提供する。高用量の臍帯血および臍帯血由来の幹細胞は、非限定的に移植、疾患の治療および予防のための治療用途、ならびに診断および研究用途を含む多くの使用および用途を有する。特に、臍帯血または臍帯血由来の幹細胞は高用量、例えば処置あたり少なくとも30億個の有核細胞を送達し、処置は単回のまたは複数回の注入を含んでもよい。本発明はまた、HLAタイピングの必要のない、複数のドナー由来の幹細胞または臍帯血由来の幹細胞の使用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.序
本発明は大用量でかつ注入前のHLAタイピングを伴わない臍帯血組成物の使用に関する。臍帯血は、非限定的に移植のための治療用途、診断および研究用途を含む多数の使用および用途を有する。特に、臍帯血は疾患または障害の治療に有用であり、これには血管系疾患、神経学的疾患または障害、自己免疫疾患または障害、および炎症に関与する疾患または障害が含まれる。
【背景技術】
【0002】
2.発明の背景
ヒト幹細胞の同定、単離および生成に相当な関心が向けられている。ヒト幹細胞は様々な成熟ヒト細胞系統を生成することが可能な全能性または多能性前駆細胞である。この能力は、器官および組織の発生に必要な細胞の分化の基礎として役立つ。
【0003】
このような幹細胞移植の最近の成功例は、疾患、毒性化学物質および/または放射線への暴露に起因する脊髄損傷(myeloablation)後に骨髄を再構成および/または補足するための新規臨床ツールを与えてきた。幹細胞が全てではないが多くの組織を再形成(repopulate)させ、生理学的および解剖学的機能を回復させることに使用することができることを実証する更なる証拠が存在する。組織工学、遺伝子治療送達(gene therapy delivery)および細胞治療における幹細胞の用途も急速に進展している。
【0004】
多くの異なる種類の哺乳動物幹細胞が特徴付けられている。例えば、胚性幹細胞、胚性生殖細胞、成熟幹細胞あるいは他の委託された幹細胞または前駆細胞が知られている。特定の幹細胞は単離されかつ特徴付けられているだけでなく、限られた程度まで分化することを可能とする条件下での培養もなされている。しかし、依然として全ての細胞型に分化することが可能なヒト幹細胞の十分な量および集団を得ることが不可能に近いという基本的な問題がある。十分な量および質の適合幹細胞の供給は、これらが悪性腫瘍、代謝の先天的な欠陥、異常ヘモグロビン症、および免疫不全を含む、広範囲の疾患の治療に重要であるという事実にも関わらず難題を残している。
【0005】
臍帯血(umbilical cord bloodまたはcord blood)は造血系前駆幹細胞の代替的な供給源として知られている。臍帯血由来の幹細胞は通常、骨髄および他の関連移植において使用される造血系の再構成、広く使用される治療処置において使用するために低温保存される(例えばBoyseら, U.S.5,004,681,「Preservation of Fetal and Neonatal Hematopoietin Stem and Progenitor Cells of the Blood」、Boyseら,米国特許第5,192,553,「Isolation and preservation of fetal and neonatal hematopoietic stem and progenitor cells of the blood and methods of therapeutic use」(1993年3月9日発行)を参照されたい)。臍帯血収集のための従来技術は針またはカニューレの使用を基礎とし、針またはカニューレは重力によって胎盤から臍帯血を排出させる(すなわち放血させる)ために使用される(Boyseら,米国特許第5,192,553(1993年3月9日発行); Boyseら,米国特許第5,004,681(1991年4月2日発行); Anderson,米国特許第5,372,581,「Method and apparatus for placental blood collection」(1994年12月13日発行); Hesselら,米国特許第5,415,665,「Umbilical cord clamping, cutting, and blood collecting device and method」(1995年3月16日発行))。針またはカニューレは通常、臍静脈に留置され、胎盤が穏やかに按摩されることにより胎盤からの臍帯血の排出を助ける。しかしその後、排出された後の胎盤は更なる用途を有さないものとみなされ、典型的には廃棄されている。さらに、臍帯血からの幹細胞の調達における主な制限は、取得される臍帯血量がしばしば不十分であることであり、その結果、移植後に骨髄を有効に再構成するのに不十分な細胞数となる。
【0006】
Naughtonら(米国特許第5,962,325,「Three-dimensional stromal tissue cultures」(1999年10月5日発行))は、繊維芽細胞様細胞および軟骨細胞前駆細胞(chondrocyte-progenitors)を含む胎児細胞を、臍帯組織または胎盤組織あるいは臍帯血から得ることができることを開示している。
【0007】
細胞集団のex vivo増幅のために現在利用可能な方法も大きな労力を要する。例えばEmersonら(米国特許第6,326,198,「Methods and compositions for the ex vivo replication of stem cells, for the optimization of hematopoietic progenitor cell cultures, and for increasing the metabolism, GM-CSF secretion and/or IL-6 secretion of human stromal cells」(2001年12月4日発行))は、ヒト幹細胞分裂のex vivo培養および/またはヒト造血系前駆幹細胞の最適化のための方法および培養培地条件を開示している。開示された方法によれば、骨髄に由来するヒト幹細胞または始原細胞は液体培地中で培養され、液体培地は約24〜約48時間ごとに培養物1mlあたり1mlの培地の割合で、連続的にまたは周期的に交換される(好ましくは灌流される)。代謝産物は除かれ、枯渇した栄養物は補充されるが、培養は生理学的に許容し得る条件下に維持される。
【0008】
Krausら(米国特許第6,338,942,「Selective expansion of target cell populations」(2002年1月15日発行))は、臍帯血または末梢血に由来する細胞の出発サンプルを増殖培地に導入して標的細胞集団の細胞を分裂させ、増殖培地中の細胞を予め決定した細胞(CD34細胞など)の集団に特異的な親和性を備えた結合分子(CD34に対するモノクローナル抗体など)を含む選択要素と接触させて、増殖培地中で他の細胞から予め決定した標的集団の細胞を選択することによって、予め決定した細胞の標的集団を選択的に増殖させることができることを開示している。
【0009】
Rodgersら(米国特許第6,335,195,「Method for promoting hematopoietic and mesenchymal cell proliferation and differentiation」(2002年1月1日発行))は、造血幹細胞および間葉幹細胞のex vivo培養方法、およびアンギオテンシノーゲン、アンギオテンシンI(AI)、AI類似体、AIフラグメントおよびその類似体、アンギオテンシンII(AII)、AII類似体、AIIフラグメントもしくはその類似体、またはAII AT22型レセプターアゴニストの存在下での(単独あるいは成長因子およびサイトカインとの組合せでの)生育による、系統特異的な細胞増殖および細胞分化の誘導方法を開示している。幹細胞は骨髄、末梢血または臍帯血からもたらされる。しかし、そのような方法の欠点は、幹細胞の増殖および分化を誘導するex vivo方法は時間が掛かり、上で議論されているように幹細胞の低収量をももたらすことである。
【0010】
Naughtonら(米国特許第6,022,743,「Three-dimensional culture of pancreatic parenchymal cells cultured living stromal tissue prepared in vitro」(2000年2月8日発行))は、幹細胞または始原細胞(例えば、臍帯血細胞、胎盤細胞、間葉幹細胞または胎児細胞などに由来する間質細胞)が、例えばフラスコまたはディッシュなどの培養容器における二次元の単層としてではなく三次元の支持体上で増殖される組織培養系を開示している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
幹細胞の収集および使用における制限、および臍帯血から典型的に収集される細胞の不十分な数により、幹細胞はたいへんな供給不足にある。幹細胞は悪性腫瘍、代謝の先天的な欠陥、異常ヘモグロビン症および免疫不全を含む広範囲の疾患の治療に使用される可能性を有する。様々な治療および他の医学的に関連する目的のために、多数のヒト幹細胞が容易に利用可能な供給源に対する重大なニーズが存在する。本発明はそのニーズおよびその他の目的を解決しようとするものである。
【0012】
さらに、本発明の組成物は筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経学的症状の治療に有用であることが期待される。一般的ではない形態のALSである家族性ALSの放射線照射マウスモデルを用いた最近の幾つかの研究は、臍帯血がこの疾患の治療に有用であり得ることを示唆している。Endeら, Life Sci. 67:53059 (2000)を参照されたい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
3.発明の概要
本発明は個体を治療する方法であって、臍帯血またはそれらに由来する細胞画分を単独でまたは胎盤を含む他の起源に由来する細胞と組合せて該個体に投与することを含む、上記方法を提供する。臍帯血は個体に高用量、すなわち投与あたり個体につき5〜25x109個の総有核細胞の用量で提供される。本発明の方法はまた、レシピエントとドナーとの間でHLAタイプを適合させる特別な必要性がなく、臍帯血を複数の異なる起源からプールし得ることも特定的に示す。
【0014】
本発明は、疾患、障害または症状を治療するための、臍帯血組成物あるいはそれらに由来する幹細胞または始原細胞の使用に関する。このような疾患、障害または症状は本質的に自己免疫疾患であるか、または兆候として炎症を含んでもよく、身体のあらゆる器官または組織、特に神経系または血管系に影響してもよい。
【0015】
一実施形態では、本発明は複数の臍帯血細胞を投与することを含む、それを必要とする患者を治療する方法を提供する。具体的な実施形態では、前記患者は神経系の疾患、障害または症状を患っているかまたはこれらに罹患している。より具体的な実施形態では、前記疾患、障害または症状は中枢神経系に影響するものである。さらにより具体的な実施形態では、前記疾患、障害または症状は筋萎縮性側索硬化症である。さらに別のより具体的な実施形態では、前記疾患、障害または症状は多発性硬化症である。別のより具体的な実施形態では、前記疾患、障害または症状は末梢神経系に影響するものである。別のより具体的な実施形態では、前記疾患、障害または症状は血管系に影響するものである。別のより具体的な実施形態では、前記疾患、障害または症状は炎症に関与するかまたは炎症が原因となるものである。別のより具体的な実施形態では、前記疾患、障害または症状は自己免疫性の疾患、障害または症状である。
【0016】
別の実施形態では、本発明は臍帯血細胞(またはそこから単離した幹細胞)をそれを必要とする患者に投与することを含む脊髄形成異常症を治療する方法を提供する。
【0017】
3.1.定義
本明細書で用いられる「同種異系の細胞」という用語は「外来」細胞、すなわち胎盤以外の器官または組織に由来する異種細胞(すなわち、胎盤ドナー以外の起源に由来する「非自己」細胞)または自己由来の細胞(すなわち胎盤ドナーに由来する「自己」細胞)をいう。
【0018】
本明細書で用いられる「始原細胞」という用語は、特定の型の細胞へ分化すること、または特定の型の組織を形成することが約束されている細胞をいう。
【0019】
本明細書で用いられる「幹細胞」という用語は、無制限に分化して組織および器官の分化細胞を形成することができる原(master)細胞をいう。幹細胞は発生上、全能性細胞または多能性細胞である。幹細胞は分裂して2つの娘幹細胞、または1つの娘幹細胞と1つの始原(「トランジット」)細胞を産生することができ、その後、組織の成熟した完全形態の細胞に増殖する。
【0020】
本明細書で用いられる「臍帯血由来の幹細胞」という用語には、特記しない限り臍帯血に由来する始原細胞が含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
4.発明の詳細な説明
本発明は、一部には、臍帯血を高用量でかつHLAタイピングの必要性なく個体に投与し得るという本発明者の予期せぬ発見に基づいている。これは、レシピエントにおいて同種異系の細胞の永続的な生着(engraftment)を成功させ、かつ移植片対宿主病(GvHD)の発生率を低下させるべく、組織移植体が典型的にドナーとレシピエントの組織タイプの注意深い適合の照合を伴うため驚きである。これは単一の個体に投与するための多数のドナーからの臍帯血の収集を非常に容易にする。高用量での投与は、臍帯血由来の幹細胞が投与細胞の長期にわたる生着の高い可能性を与えるのに十分な供給を見込んでのことである。本発明に基づき、高用量の臍帯血は、非限定的に移植、疾患の治療および予防のための治療用途、ならびに診断および研究用途を含む、多くの使用および用途を有する。
【0022】
本発明はまた、臍帯血を増殖因子(例えばサイトカインおよび/またはインターロイキン)で処理して細胞分化を誘導する方法を提供する。
【0023】
本発明は、臍帯血を単独でまたは胎盤由来の細胞との組合せで含む医薬組成物を提供する。本発明によれば、臍帯血由来の幹細胞の集団は、治療および診断用途を含む多くの用途を有する。幹細胞は、移植あるいは疾患の治療または予防に使用することができる。本発明の一実施形態では、臍帯血または臍帯血由来の幹細胞を使用して組織および器官を修復および再形成させて、疾患組織、器官またはその一部を置換または修復させる。別の実施形態では、臍帯血または臍帯血由来の幹細胞を、遺伝病あるいは特定の疾患または障害の素因をスクリーニングするための診断薬として使用することができる。
【0024】
本発明はまた、臍帯血または臍帯血由来の幹細胞の投与により、それを必要とする患者を治療する方法を提供する。
【0025】
4.1.臍帯血の収集
臍帯血はいかなる医学上または製薬上許容し得る手法で収集してもよい。臍帯血を収集するための様々な方法が記載されている。例えばCoe,米国特許第6,102,871; Haswell,米国特許第6,179,819 Blを参照されたい。臍帯血は、例えば血液バッグ、輸送バッグまたは滅菌のプラスチックチューブ中に収集してもよい。臍帯血またはそれらに由来する幹細胞は、投与のために単一の個体から収集されたものとして(すなわち単一ユニットとして)保管してもよいし、または後に投与するために別のユニットととしてプールしてもよい。
【0026】
4.2.臍帯血由来の幹細胞
本発明の方法に従って得られる臍帯血由来の幹細胞には、全能性細胞、すなわち自己再生する完全な分化多能性を有し、かつ組織内で休止状態または静止状態を維持することができる細胞が含まれ得る。臍帯血は優性CD34+およびCD38+造血始原細胞、ならびにより未分化のまたは原始的な幹細胞のより小さな集団を含む。
【0027】
本発明の方法によって得られる臍帯血由来の幹細胞は、誘導されて、造血系、血管系、神経系および肝系を含む特定の細胞系統に沿って分化し得る。特定の実施形態では、臍帯血由来の幹細胞は、誘導されて、移植およびex vivo処置プロトコールでの使用のために分化することができる。特定の実施形態では、本発明の方法によって得られる臍帯血由来の幹細胞は、誘導されて特定の細胞型へ分化し、かつ遺伝子工学的に処理されて治療上の遺伝子産物を与える。
【0028】
臍帯血由来の幹細胞はまた、長期にわたって連続的な培養物を得るために、当業界で周知の方法、例えば、放射線照射した繊維芽細胞などのフィーダー細胞上で、またはそのようなフィーダー細胞の培養物から得た調整培地中で培養することにより、収集後にさらに培養することもできる。幹細胞はまた、収集前にまたは収集後in vitroで増殖させることもできる。特定の実施形態では、増殖させるべき幹細胞は細胞分化を抑制する剤に暴露されるか、該剤の存在下で培養される。そのような剤は当業界で周知であり、非限定的にヒトδ−1およびヒトセレート−1ポリペプチド(Sakanoら,米国特許第6,337,387、「Differentiation-suppressive polypeptide」,(2002年1月8日発行)を参照のこと)、白血病抑制因子(LIF)および幹細胞因子が含まれる。細胞集団の増殖方法も当業界で公知である(Emersonら,米国特許第6,326,198、「Methods and compositions for the ex vivo replication of stem cells, for the optimization of hematopoietic progenitor cell cultures, and for increasing the metabolism, GM-CSF secretion and/or IL-6 secretion of human stromal cells」(2001年12月4日発行); Krausら,米国特許第6,338,942、「Selective expansion of target cell populations」(2002年1月15日発行)を参照のこと)。
【0029】
臍帯血由来の幹細胞は、(生存を評価するための)トリパンブルー排除アッセイ、フルオレセインジアセテート取り込みアッセイ、ヨウ化プロピジウム取り込みアッセイ;ならびに(増殖を評価するための)チミジン取り込みアッセイ、MTT細胞増殖アッセイなどの当業界で公知の標準技術を用いて、生存、増殖および寿命について評価することもできる。寿命は、増殖した培養物において集団倍化の最大数を決定することなど、当業界で周知の方法によって決定してもよい。
【0030】
幹細胞または始原細胞の分化を誘導することができる剤は当業界で周知であり、非限定的にCa2+、EGF、α−FGF、β−FGF、PDGF、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、TGF-β、サイトカイン(例えば、IL-1α、IL-1β、IFN-γ、TFN)、レチノイン酸、トランスフェリン、ホルモン(例えば、アンドロゲン、エストロゲン、インシュリン、プロラクチン、トリヨードサイロニン、ヒドロコルチゾン、デキサメサゾン)、酪酸ナトリウム、TPA、DMSO、NMF、DMF、マトリックス(matrix)要素(例えば、コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸、MatrigelTM)、またはこれらの組合せが含まれる。特定の実施形態では、臍帯血由来の幹細胞または始原細胞は、当業界で周知の方法に従って、増殖因子に暴露されることによって、特定の細胞型への分化が誘導される。具体的な実施形態では、増殖因子はGM-CSF、IL-4、Flt3L、CD40L、IFN-α、TNF-α、IFN-γ、IL-2、IL-6、レチノイン酸、塩基性繊維芽細胞成長因子、TGF-β-1、TGF-β-3、肝細胞成長因子、表皮成長因子、カルジオトロピン-1、アンギオテンシノーゲン、アンギオテンシン I(AI)、アンギオテンシン II(AII)、AII AT22型レセプターアゴニスト、あるいはそのアナログまたはフラグメントである。
【0031】
細胞分化を抑制する剤も当業界で周知であり、非限定的にヒトδ−1およびヒトセレート−1ポリペプチド(Sakanoら,米国特許第6,337,387,「Differentiation - suppressive polypeptide」 (2002年1月8日発行)を参照のこと)、白血病抑制因子(LIF)、および幹細胞因子が含まれる。
【0032】
幹細胞が特定の細胞型へ分化したことの判定は、当業界で周知の方法、例えば、フローサイトメトリーまたは免疫細胞化学(例えば、組織特異的または細胞マーカー特異的抗体を用いた細胞の染色)などの技術を用いた細胞表面マーカーおよびに形態おける変化の測定、光学顕微鏡または共焦点顕微鏡を用いた細胞形態の調査、あるいはPCRおよび遺伝子発現プロファイリングなどの当業界で周知の技術を用いた遺伝子発現における変化の測定によって達成してもよい。
【0033】
一実施形態では、臍帯血由来の幹細胞または始原細胞は、当業界で周知の方法、例えば、5.1.1節に開示される方法によるβ−メルカプトエタノールまたはDMSO/ブチルヒドロキシアニソールへの暴露によって、ニューロンへの分化が誘導される。
【0034】
別の実施形態では、幹細胞または始原細胞は、当業界で周知の方法、例えば5.1.2節に開示される方法によるデキサメサゾン、インドメタシン、インシュリンおよびIBMXへの暴露によって、脂肪細胞への分化が誘導される。
【0035】
別の実施形態では、幹細胞または始原細胞は、当業界で周知の方法、例えば5.1.3節に開示される方法によるTGF−β−3への暴露によって、軟骨細胞への分化が誘導される。
【0036】
別の実施形態では、幹細胞または始原細胞は、当業界で周知の方法、例えば5.1.4節に開示される方法による、デキサメサゾン、アスコルビン酸−2−リン酸およびβ−グリセロリン酸への暴露によって、骨細胞への分化が誘導される。
【0037】
別の実施形態では、幹細胞または始原細胞は、当業界で周知の方法、例えば5.1.5節に開示される方法によるIL-6+/−IL-15への暴露によって、肝細胞への分化が誘導される。
【0038】
別の実施形態では、幹細胞または始原細胞は、当業界で周知の方法、例えば5.1.6節に開示される方法による塩基性繊維芽細胞成長因子、および形質転換成長因子β−1への暴露によって、脾臓細胞への分化が誘導される。
【0039】
別の実施形態では、幹細胞または始原細胞は、当業界で周知の方法、例えば5.1.7節に開示される方法による、レチノイン酸、塩基性繊維芽細胞成長因子、TGF-β-1および表皮成長因子への暴露、カルジオトロピン−1への暴露あるいはヒト心筋エキスへの暴露によって、心臓細胞への分化が誘導される。
【0040】
別の実施形態では、幹細胞は、例えばエリスロポエチン、サイトカイン、リンホカイン、インターフェロン、コロニー刺激因子(CSF)、インターフェロン、ケモカイン、インターロイキン、組換えヒト造血系成長因子(リガンド、幹細胞因子、トロンボポエチン(Tpo)、インターロイキン、および顆粒球コロニー刺激因子(G-GSF)を含む)または他の成長因子の投与によって増殖が刺激される。
【0041】
当業界で周知の方法、例えばトランスフェクション、形質転換、形質導入、エレクトロポレーション、感染、マイクロインジェクション、細胞融合、DEAEデキストラン、リン酸カルシウム沈殿、リポソーム、LIPOFECTINTM、リソソーム融合、合成カチオン脂質、遺伝子銃またはDNAベクター輸送体の使用によって、導入遺伝子を含むベクターを目的の幹細胞に導入して、導入細胞を娘細胞に伝達することができる。哺乳動物細胞の形質転換またはトランスフェクションのための様々な技術については、Keownら, 1990, Methods Enzymol. 185: 527-37; Sambrookら, 2001, Molecular Cloning, A Laboratory Manual,第3版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, N. Yを参照されたい。
【0042】
好ましくは、導入遺伝子は、細胞の核膜あるいは他の既存の細胞または遺伝子構造を破壊しない限りにおいて、あらゆる技術を用いて導入される。特定の実施形態では、導入遺伝子はマイクロインジェクションによって核の遺伝物質に挿入される。細胞および細胞構造のマイクロインジェクションは当業界で一般的に知られ、かつ実施されている。
【0043】
培養した哺乳動物細胞の安定なトランスフェクションのために、細胞の小画分のみが外来DNAをそれらのゲノム内に組み込んでもよい。組込みの効率は使用されるベクターとトランスフェクション技術に依存する。組込み要素(integrant)を同定しかつ選択するために、一般的には(例えば、抗生物質耐性の)選択可能なマーカーをコードする遺伝子が目的の遺伝子配列と共に幹細胞内に導入される。好適な選択可能なマーカーには、G418、ハイグロマイシンおよびメトトレキセートなどの薬剤に対する耐性を与えるマーカーである。導入された核酸で安定的にトランスフェクトされた細胞は薬剤選択によって同定することができる(例えば、選択可能なマーカー遺伝子が組み込まれている細胞は生存するが、他の細胞は死滅するであろう)。そのような方法は、組換え細胞を被検体または患者に導入または移植する前に、哺乳動物細胞における相同組換えに関与する方法に特に有用である。
【0044】
多くの選択系を使用して形質転換した臍帯血由来の幹細胞を選択してもよい。特に、ベクターは特定の検出可能なまたは選択可能なマーカーを含んでもよい。他の選択の方法は、非限定的に、例えば単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(Wiglerら, 1977, Cell 11: 223)、ヒポキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(SzybalskaおよびSzybalski, 1962, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 48: 2026)、およびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Lowyら, 1980, Cell 22: 817)などの他のマーカーについて選択することを含み、これらはそれぞれtk-、hgprt-またはaprt−細胞に使用することができる。また、代謝拮抗物質耐性を以下の遺伝子:メトトレキセートに対する耐性を付与するdhfr(Wiglerら, 1980, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77: 3567; O'Hareら, 1981, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78: 1527);ミコフェノール酸に対する耐性を付与するgpt(MulliganおよびBerg,1981, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78: 2072);アミノグリコシドG-418に対する耐性を付与するneo(Colberre-Garapinら, 1981, J. Mol. Biol. 150:1);およびハイグロマイシンに対する耐性を付与するhygro(Santerreら, 1984, Gene 30: 147)についての選択の基礎として使用することもできる。
【0045】
導入遺伝子は、好ましくはランダムな組込みによって、目的の細胞のゲノム内に組込むこともできる。別の実施形態において導入遺伝子は、直接的な方法、例えば直接的な相同的組換え(すなわち、目的の細胞のゲノムにおける目的の遺伝子の「ノックイン」または「ノックアウト」(Chappel,米国特許第5,272,071;およびPCT国際公開第91/06667(1991年5月16日公開);米国特許5,464,764; Capecchiら(1995年11月7日発行);米国特許5,627,059,Capecchiら(1997年5月6日発行);米国特許5,487,992, Capecchiら(1996年1月30日発行)))によって組込むこともできる。
【0046】
相同的組換えを介した標的遺伝子の改変を有する細胞を作製する方法は当業界で公知である。構築物は所望の遺伝子改変を伴う目的の遺伝子の少なくとも一部を含み、標的遺伝子座と相同な領域、すなわち宿主ゲノムにおける標的遺伝子の内因性コピーを含むであろう。相同的組換えに使用されるものとは対照的に、ランダムな組換みのためのDNA構築物は、組換えを仲介するための相同的な領域を含む必要がない。マーカーは、導入遺伝子の挿入について正および負の選択をなすために、標的とする構築物またはランダムな構築物中に含むことができる。
【0047】
相同的組換え細胞、例えば相同的組換えの臍帯血由来の幹細胞を作製するために、相同的組換えベクターが調製され、このベクターにおいては、目的の遺伝子が標的細胞のゲノムに内生的である遺伝子配列をその5'および3'末端にフランキングすることにより、ベクターが保有する目的の遺伝子と、標的細胞のゲノム中の内生的遺伝子との間での相同的組換えを可能にする。付加的なフランキングする核酸配列は、標的細胞のゲノムにおいて内生遺伝子との相同的組換えを成功させるのに十分な長さのものである。典型的に、数キロベースのフランキングDNA(5'および3'末端の両方)がベクターに含まれる。組換え幹細胞由来の相同的組換え動物および相同的組換えベクターを構築する方法は、当業界で一般的に知られている(例えばThomasおよびCapecchi, 1987,Cell 51 : 503; Bradley, 1991, Curr. Opin. Bio/Technol. 2: 823-29 ;ならびにPCT公開第90/11354, WO91/01140,およびWO 93/04169を参照のこと)。
【0048】
特定の実施形態では、Bonadioらの方法(米国特許第5,942,496、「Methods and compositions for multiple gene transfer into bone cells」(1999年8月24日発行);およびPCT W095/22611、「Methods and compositions for stimulating bone cells」(1995年8月24日公開))を用いて、胎盤で培養された幹細胞、始原細胞または外生細胞、例えば骨組織細胞などの目的の細胞に核酸が導入される。
【0049】
特定の実施形態において、臍帯血由来の幹細胞を、自己由来のまたは異種の酵素置換療法において用いて、非限定的にテイ−サックス病、ニーマン−ピック病、ファブリー病、ゴシェ症候群、ハンター症候群、およびフルラー症候群などのリソソーム蓄積(lysosomal storage)病、ならびにその他、ガングリオシドーシス、ムコ多糖症、および糖原病を含む特定の疾患または症状を治療することもできる。
【0050】
別の実施形態では、この細胞を、遺伝子治療において自己由来のまたは異種の導入遺伝子運搬体として用いて、代謝の先天的欠陥(inborn errors)、副腎脳白質ジストロフィー、嚢胞性繊維症、グリコーゲン蓄積病、甲状腺機能低下症、鎌形赤血球貧血症、ピアーソン症候群、ポーンプ病、フェニルケトン尿症(PKU)、ポルフィリン症、メープルシロップ尿症、ホモシスチン尿症、ムコ多糖病、慢性筋芽腫症、チロシン血症およびテイ−サックス病を治すか、あるいは癌、腫瘍または他の病理学的症状を治療することもできる。
【0051】
別の実施形態では、この細胞を、自己由来または異種組織の組織再生あるいは置換療法またはプロトコールにおいて使用してもよく、これには、非限定的に角膜上皮欠損の治療、軟骨の修復、顔面皮削術、粘膜、鼓膜、腸の内層、神経学的構造(例えば、網膜、基底膜中の聴覚ニューロン、嗅上皮中の嗅覚ニューロン)、皮膚の外傷のための、あるいはその他損傷したもしくは疾患の器官または組織のための、熱傷および創傷の修復が含まれる。
【0052】
本発明の方法に使用される多数の臍帯血由来の幹細胞および/または始原細胞は、特定の実施形態において、多量の骨髄供与の必要性を減少させるであろう。患者の体重1kgあたり約1x108〜2x108個の骨髄単核細胞(すなわち、70kgのドナーについては約70mlの骨髄)を骨髄移植における生着のために注入されねばならない。70mlを得るために供与プロセスにおいて集中的な供与およびかなりの血液の消失を伴う。特定の実施形態では、少量の骨髄供与(例えば7〜10ml)由来の細胞は、レシピエントへの注入前に胎盤バイオリアクター中での増殖によって増幅することができる。
【0053】
さらに、通常、少数の幹細胞および始原細胞は血流中で循環している。別の実施形態では、このような外生幹細胞または外生始原細胞はアフェレーシス(血液が採血され、1以上の成分が選択的に除去され、血液の残部をドナーに再注入する手順)によって収集される。
【0054】
別の実施形態では、高用量の臍帯血または臍帯血由来の幹細胞の投与は、化学療法に加えた補足的な療法として使用される。癌細胞を標的化し、破壊するために使用される大部分の化学療法薬は、全ての増殖性細胞、すなわち細胞分裂中の細胞を殺すことにより作用する。骨髄は身体の中で最も活発に増殖する組織の一つであるため、造血幹細胞は化学療法薬によって頻繁に損傷または破壊され、その結果、血液細胞の産生が減少するかまたは停止する。化学療法は、患者の造血系が化学療法の再開前に血液細胞供給を元に戻すことを可能にするように、間隔を置いて中止する必要がある。先の静止期幹細胞が増殖し、白血球数が許容されるレベルまで増殖することにより、化学療法を再開し得る(その時再び骨髄幹細胞は破壊される)までは1ヶ月以上掛かるかもしれない。
【0055】
化学療法の処置の間で血液細胞は再生されるが、癌は増殖するための時間を有し、かつ自然選択によって化学療法薬に対してより耐性となるかもしれない。したがって、より長く化学療法が行われ、処置間の期間がより短いほど、癌をうまく殺す可能性が大きくなる。化学療法の処置間の時間を短くするため、臍帯血または臍帯血由来の幹細胞を患者に導入することができる。このような処置は、患者が低い血液細胞数を示す時間を減少させ、したがって化学療法の処置の早期再開を可能にするであろう。
【0056】
4.3.臍帯血および臍帯血由来の幹細胞の使用
臍帯血および臍帯血由来の幹細胞は、身体の組織または器官が幹細胞または始原細胞集団などの所望の細胞集団の生着、移植、または注入によって増大、修復あるいは置換される、多種多様な治療プロトコールに使用することができる。
【0057】
本発明の好適な実施形態において、臍帯血または臍帯血由来の幹細胞は、同種異系および異種のもの(適合および不適合のHLAタイプの造血系移植体を含む)として使用されてもよい。しかし、異種の造血系移植体としての臍帯血または臍帯血由来の幹細胞の使用に基づいて、一つは米国特許第5,800,539(1998年9月1日発行);および米国特許第5,806,529(1998年9月15日発行)(いずれも参照により本明細書に組入れる)に記載されるように宿主を処理してドナー細胞の免疫拒絶反応を低減させる。
【0058】
臍帯血または臍帯血由来の幹細胞を使用することにより疾患の結果生じる組織および器官の損傷を修復することができる。そのような実施形態において、患者に臍帯血または臍帯血由来の幹細胞を投与することにより、疾患の結果として損傷した組織または器官を再生あるいは回復する(例えば、化学療法または放射線照射後に免疫系を強化し、心筋梗塞後に心臓組織を修復する)ことができる。
【0059】
臍帯血または臍帯血由来の幹細胞を用いて、骨髄移植において骨髄細胞を増加または置換することができる。ヒトの自己由来および同種異系の骨髄の移植は、現在、白血病、リンパ腫、および他の命にかかわる障害などの疾患の治療として用いられている。しかし、これらの処置の欠点は、生着に十分な細胞があることを保証するために多数のドナー骨髄を取り出す必要があることである。
【0060】
臍帯血または臍帯血由来の幹細胞は幹細胞および始原細胞を供給することができ、多量の骨髄供与の必要性を減らすであろう。また、本発明の方法によれば、少量の骨髄供与を得て、その後レシピエントへの注入または移植前に胎盤中で培養および増殖して幹細胞と始原細胞の数を増大させるであろう。
【0061】
特定の実施形態では、臍帯血または臍帯血由来の幹細胞を自己由来または異種の酵素置換療法において使用して、非限定的にテイ−サックス病、ニーマン−ピック病、ファブリー症候群、ゴシェ症候群、ハンター症候群、およびフルラー症候群などのリソソーム蓄積病、ならびにその他、ガングリオシドーシス、ムコ多糖症、および糖原病を含む特定の疾患または症状を治療し得る。
【0062】
別の実施形態では、細胞を遺伝子療法における自己由来または異種の導入遺伝子運搬体として使用して、副腎脳白質ジストロフィー、嚢胞性繊維症、グリコーゲン蓄積病、甲状腺機能低下症、鎌形赤血球貧血症、ピアーソン症候群、ポーンプ病、フェニルケトン尿症(PKU)などの代謝の先天的欠陥、およびテイ−サックス病、ポルフィリン症、メープルシロップ尿症、ホモシスチン尿症、ムコ多糖病、慢性筋芽腫症、およびチロシン血症を治すか、あるいは癌、腫瘍または他の病理学的症状を治療し得る。
【0063】
別の実施形態では、細胞を自己由来あるいは異種組織の再生または置換療法もしくはプロトコールにおいて使用してもよく、これには、非限定的に角膜上皮欠損の治療、軟骨の修復、顔面皮削術、粘膜、鼓膜、腸の内層、神経学的構造(例えば、網膜、基底膜中の聴覚ニューロン、嗅上皮中の嗅覚ニューロン)、皮膚の外傷、頭皮(髪)移植、あるいは他の損傷したまたは疾患の器官もしくは組織の再生のための熱傷および創傷修復が含まれる。
【0064】
大量の臍帯血、あるいは多数の臍帯血または臍帯血由来の幹細胞は、特定の実施形態において、多量の骨髄供与の必要性を減少させるであろう。患者の体重1キログラムあたり約1x108〜2x108個の骨髄単核細胞(すなわち70kgのドナーについては約70mlの骨髄)を骨髄移植における生着のために注入する必要がある。70mlを得るために、供与プロセスにおいて集中的な供与およびかなりの血液の消失を伴う。特定の実施形態では、少量の骨髄供与(例えば7〜10ml)由来の細胞は、レシピエントへの注入前に胎盤バイオリアクター中での増殖によって増大することができる。
【0065】
別の実施形態では、臍帯血または臍帯血由来の幹細胞は、化学療法に加えた補足的な療法として使用することができる。癌細胞を標的化しかつ破壊するために使用される大部分の化学療法薬は、全ての増殖性細胞、すなわち細胞分裂中の細胞を殺すことにより作用する。骨髄は身体の中で最も活発に増殖する組織の一つであるため、造血幹細胞は化学療法薬によって頻繁に損傷または破壊され、その結果、血液細胞の再生が減少するかまたは停止する。化学療法は、患者の造血系が化学療法の再開前に血液細胞供給を元に戻すことを可能にするように、間隔を置いて中止する必要がある。先の静止期幹細胞が増殖し、白血球数が許容されるレベルまで増殖することにより、化学療法を再開し得る(その時再び骨髄幹細胞は破壊される)までは1ヶ月以上掛かるかも知れない。
【0066】
化学療法の処置の間で血液細胞は再生されるが、癌は増殖するための時間を有し、かつ自然選択によって化学療法剤に対してより耐性になるかもしれない。したがって、より長く化学療法が行われ、処置間の期間が短いほど、癌をうまく殺す可能性が大きくなる。化学療法処置間の時間を短くするために、臍帯血または臍帯血由来の幹細胞を患者に導入することができる。このような処置は、患者が低い血液細胞数を示す時間を減少させ、これにより化学療法処置のより早期の再開を可能にするだろう。
【0067】
別の実施形態では、ヒトの胎盤幹細胞を使用して、慢性肉芽腫症などの遺伝子疾患を治療または予防することができる。
【0068】
4.4.医薬組成物
本発明は、調整(conditioned)または未調整のヒト始原幹細胞の移植前または移植後に、胎盤起源の全能性および多能性のヒト始原幹細胞の中胚葉および/または造血系細胞への分化を抑制、モジュレートおよび/または調節するのに十分な効果を果たす、単回または複数回投与に有効な用量を含む医薬組成物を含む。
【0069】
一実施形態では、本発明は、高濃度の(または大集団の)同種造血幹細胞(非限定的にCD34+/CD38-細胞;およびCD34-/CD38-細胞を含む)を含む医薬組成物を提供する。移植および他の用途における使用のために、これらの細胞集団の1以上は、他の幹細胞と共に、または他の幹細胞との混合物として使用することができる。
【0070】
特定の実施形態では、臍帯血または臍帯血由来の幹細胞はバッグに含まれる。別の実施形態では、本発明は凍結前に「調整」された臍帯血または臍帯血由来の幹細胞を提供する。
【0071】
別の実施形態では、臍帯血または臍帯血由来の幹細胞は、標準方法に従って赤血球および/または顆粒球の除去によって調整することもでき、それにより幹細胞について富化されている有核細胞の集団が残る。そのような幹細胞の富化集団は、凍結されずに、または凍結されて後の使用に用いられてもよい。細胞集団が凍結される場合、凍結される前に、標準的な低温保存剤(例えば、DMSO、グリセロール、EpilifeTM Cell Freezing Medium(Cascade Biologics))が細胞の富化集団に加えられる。
【0072】
別の実施形態では、臍帯血または臍帯血由来の幹細胞は、凍結および解凍した後に、赤血球および/または顆粒球の除去によって調整することもできる。
【0073】
本発明によれば、細胞分化を誘導する剤を使用して臍帯血または臍帯血由来の幹細胞を調整してもよい。特定の実施形態では、分化を誘導する剤を容器内の細胞集団に加えることができ、これには非限定的に、Ca2+、EGF、α-FGF、β-FGF、PDGF、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、TGF-β、サイトカイン(例えば、IL-1α、IL-1β、IFN-γ、TFN)、レチノイン酸、トランスフェリン、ホルモン(例えば、アンドロゲン、エストロゲン、インシュリン、プロラクチン、トリヨードサイロニン、ヒドロコルチゾン、デキサメサゾン)、酪酸ナトリウム、TPA、DMSO、NMF、DMF、マトリックス要素(例えば、コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸、MatrigelTM)、またはそれらの組合せが含まれる。
【0074】
別の実施形態では、細胞分化を抑制する剤を臍帯血または臍帯血由来の幹細胞に加えることができる。特定の実施形態では、分化を抑制する剤を容器内の細胞集団に加えることができ、これには非限定的に、ヒトδ−1およびヒトセレート−1ポリペプチド(Sakanoら,米国特許第6,337,387,「Differentiation-suppressive polypeptide」(2002年1月8日発行))、白血病阻害因子(LIF)および幹細胞因子、またはそれらの組合せが含まれる。
【0075】
特定の実施形態では、臍帯血または臍帯血由来の幹細胞の1以上の集団がそれを必要とする患者に送達される。特定の実施形態では、新鮮な(凍結されていない)細胞の2以上の集団が単一の容器または単一の送達システムから送達される。
【0076】
別の実施形態では、凍結されかつ解凍された細胞の2以上の集団が単一の容器または単一の送達システムから送達される。
【0077】
別の実施形態では、新鮮な(凍結されていない)細胞の2以上の集団のそれぞれが単一の容器または単一の送達システムに移され、これらから送達される。別の実施形態では、凍結されかつ解凍された細胞の2以上の集団のそれぞれが単一の容器または単一の送達システムに移され、これらから送達される。これらの実施形態の別の態様では、各集団は異なる(例えば、Baxter, Becton-Dickinson, Medcep, National Hospital ProductsまたはTerumoからの)注入バッグIVから送達される。各容器(例えば注入バッグIV)の内容物は異なる送達システムを介して送達されてもよいし、あるいは各容器を「抱き合わせる」ことにより、これらの内容物を単一の送達システムからの送達前に組合せるかまたは混合してもよい。例えば、細胞の2以上の集団を共通の流路(例えば管)に注入および/または共通の流路内で混合してもよく、あるいはこれらを共通の容器(例えば室またはバッグ)に注入および/または共通の容器内で混合してもよい。
【0078】
本発明によれば、細胞の2以上の集団を投与前、投与の間または投与時に組み合わせてもよいし、あるいは同時に送達してもよい。
【0079】
一実施形態では、最小1.7x107有核細胞/kgがそれを必要とする患者に送達される。少なくとも2.5x107有核細胞/kgがそれを必要とする患者に送達されることが好ましい。
【0080】
4.5.治療方法
一実施形態では、本発明は、被検体における疾患または障害の治療または予防方法であって、そのような治療または予防が望まれる被検体に本発明の幹細胞の治療上有効量を投与することを含む、上記方法を提供する。
【0081】
別の実施形態では、本発明は被検体における疾患または障害の治療または予防方法であって、そのような治療または予防が望まれる被検体に臍帯血または臍帯血由来の幹細胞の治療上有効量を投与することを含む、上記方法を提供する。
【0082】
臍帯血または臍帯血由来の幹細胞は、炎症を患っている個体に投与される際に抗炎症効果を有することが期待される。好適な実施形態では、臍帯血または臍帯血由来の幹細胞を使用して、炎症から生じるか、または炎症に関連するあらゆる疾患、症状または障害を治療することもできる。炎症は、いかなる器官または組織(例えば筋肉;脳、脊髄および末梢神経系を含む神経系;心臓組織を含む血管組織;膵臓;腸または他の消化器官;肺;腎臓;肝臓;生殖器官;内皮組織;あるいは内胚葉組織)中に存在してもよい。
【0083】
臍帯血または臍帯血由来の幹細胞を使用して、免疫関連障害、特に自己免疫障害(炎症に関連するものを含む)を治療することもできる。したがって、特定の実施形態では、本発明は自己免疫性の疾患または症状を患っている個体を治療する方法であって、そのような個体に臍帯血または臍帯血由来の幹細胞の治療上有効量を投与することを含む、上記方法を提供する。ここで前記疾患または障害は、非限定的に糖尿病、筋萎縮性側索硬化症、重症筋無力症、糖尿病ニューロパシーまたは狼瘡であり得る。臍帯血または臍帯血由来の幹細胞を使用して急性または慢性アレルギー(例えば、季節性アレルギー、食物アレルギー、自己抗原に対するアレルギーなど)を治療することもできる。
【0084】
特定の実施形態では、疾患または障害には、非限定的に本明細書に開示される疾患または障害(非限定的に、無形成貧血、脊髄形成異常、心筋梗塞、発作性障害、多発性硬化症、発作、低血圧、心停止、虚血、炎症、認知機能の加齢性喪失、放射線損傷、脳性麻痺、神経変性疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、リー病、AIDS痴呆、記憶喪失、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、虚血性腎疾患、脳または脊髄損傷、心肺バイパス、緑内障、網膜虚血、網膜損傷、テイ−サックス病、ニーマン−ピック病、ファブリー病、ゴシェ症候群、ハンター症候群、およびフルラー症候群などのリソソーム蓄積症、ならびにその他、ガングリオシドーシス、ムコ多糖症、糖原病、代謝の先天的な欠陥、副腎脳白質ジストロフィー、嚢胞性繊維症、グリコーゲン蓄積病、甲状腺機能低下症、鎌形赤血球貧血、ピアーソン症候群、ポーンプ病、フェニルケトン尿症(PKU)、ポルフィリン症、メープルシロップ尿病、ホモシスチン症、ムコ多糖症、慢性筋芽腫症、チロシン血症、テイ−サックス病、癌、腫瘍あるいは他の病理学的なまたは新生物性の症状)のいずれかが含まれる。
【0085】
別の実施形態では、細胞を外傷(特に炎症に関わる外傷)に起因するあらゆる種類の損傷の治療に用いてもよい。そのような外傷に関連する症状の例として、脳、脊髄または中枢神経系(CNS)を取り巻く組織に対する損傷を含む中枢神経系損傷、末梢神経系(PNS)に対する損傷;あるいは身体の別のあらゆる部位に対する損傷が含まれる。そのような外傷は事故を原因としてもよいし、あるいは手術または血管形成術などの医療処置の通常または異常な結果であってもよい。外傷は、発作または静脈炎等における血管の裂傷、欠損または閉塞の結果であってもよい。特定の実施形態では、細胞を自己由来のあるいは異種の組織の再生または置換療法もしくはプロトコールにおいて使用してもよく、これには、非限定的に角膜上皮の欠損の治療、軟骨の修復、顔面皮削術、粘膜、鼓膜、腸の内層、神経学的構造(例えば、網膜、基底膜中の聴覚ニューロン、嗅上皮中の嗅覚ニューロン)、皮膚の外傷のための、あるいは他の損傷したまたは疾患した器官もしくは組織の再生のための熱傷および創傷修復が含まれる。
【0086】
特定の実施形態では、疾患または障害は、無形成貧血、脊髄形成異常症、白血病、骨髄障害あるいは造血疾患または造血障害である。別の具体的な実施形態では、被検体はヒトである。
【0087】
別の実施形態では、本発明は、炎症に関連するかまたは炎症から生じる疾患、障害あるいは症状を患っている個体を治療する方法を提供する。特定の実施形態では、前記疾患、障害または症状は神経学的疾患、障害または症状である。より具体的な実施形態では、前記神経学的疾患は筋萎縮性側索硬化症(ALS)である。より具体的な別の実施形態では、前記神経疾患はパーキンソン病である。別の具体的な実施形態では、前記疾患は血管または心臓血管疾患である。別の具体的な実施形態では、前記疾患はアテローム性動脈硬化症である。別の具体的な実施形態では、前記疾患は糖尿病である。
【0088】
臍帯血または臍帯血由来の幹細胞の特に有用な態様は、投与前に細胞をHLAタイピングする必要がないことである。言い換えれば、臍帯血または臍帯血由来の幹細胞は異種ドナー、または複数の異種ドナーから得て、そのような細胞を必要とする個体に移植してもよく、移植された細胞は宿主内で際限なく維持されるだろう。このHLAタイピングの必要性の排除は、移植処置それ自体および移植用のドナーの同定のいずれをも非常に容易にする。しかし、臍帯血または臍帯血由来の幹細胞は投与前にHLAタイピングされてもよい。
【0089】
本発明者らは、臍帯血または臍帯血由来の幹細胞が前調整(preconditioned)される場合に、それらを用いた個体の治療の有効性が高められることを見出した。前調整にはガス透過性容器内で一定期間、約−5〜23℃、0〜10℃、または好ましくは4〜5℃で細胞を貯蔵することが含まれる。期間は18時間〜21日、48時間〜10日、好ましくは3〜5日間であり得る。細胞は前調整の前に低温保存してもよく、または投与直前に前調整されることが好ましい。
【0090】
したがって、一実施形態では、本発明は個体を治療する方法であって、該個体に少なくとも1個体のドナーから収集した臍帯血または臍帯血由来の幹細胞を投与することを含む、上記方法を提供する。本文において「ドナー」は、成人、子供、幼児または好ましくは胎盤を意味する。その他、好適な実施形態では、この方法は前記個体に複数のドナーから収集され、かつプールされる臍帯血または臍帯血由来の幹細胞を投与することを含む。あるいは、臍帯血または臍帯血由来の幹細胞は多数のドナーから別々に得て、別々に(例えば逐次的に)投与されてもよい。特定の実施形態では、臍帯血または臍帯血由来の幹細胞は複数のドナーから得られ、収集した量(ユニット)が異なる日に投与される。
【0091】
本発明の特に有用な態様は、個体へ高用量の幹細胞を投与することであり、そのような数の細胞はそれらが由来する物質(例えば、骨髄または臍帯血)よりも有意に効果的である。本文において「高用量」とは、例えば骨髄移植で投与される総有核細胞数(幹細胞、特に臍帯血由来の幹細胞を含む)の5、10、15または20倍を示す。典型的に、例えば骨髄移植のために幹細胞注入を受ける患者は、ユニットが約1x109個の有核細胞(1〜2 X 108個の幹細胞に相当する)である場合に、細胞の一ユニットを受け取る。したがって、高用量療法のために、患者は少なくとも30億、50億、100億、150億、200億、300億、400億、500億またはそれ以上の総有核細胞、または代替的に、少なくとも3ユニット、5ユニット、10ユニット、20ユニット、30ユニット、40ユニット、50ユニットまたはそれ以上で投与される。したがって、一実施形態では、個体に投与される臍帯血の量または臍帯血由来の幹細胞の数は、骨髄置換で通常投与される総有核細胞数の少なくとも5倍に相当する。この方法の別の具体的な実施形態では、個体に投与される臍帯血の量または臍帯血由来の幹細胞の数は、骨髄置換で通常投与される総有核細胞数の少なくとも10倍に相当する。この方法の別の具体的な実施形態では、個体に投与される臍帯血の量または臍帯血由来の幹細胞の数は、骨髄置換で通常投与される総有核細胞数の少なくとも15倍に相当する。この方法の別の実施形態では、個体に投与される、幹細胞を含む総有核細胞の総数は、体重1キログラムあたり1〜100x108個である。別の実施形態では、投与される総有核細胞数は少なくとも50億個の細胞である。別の実施形態では、投与される総有核細胞数は少なくとも150億個の細胞である。
【0092】
別の実施形態では、前記臍帯血または臍帯血由来の幹細胞が1回以上投与されてもよい。別の実施形態では、前記臍帯血または臍帯血由来の幹細胞は、投与前18時間〜21日間の貯蔵により前調整される。より具体的な実施形態では、細胞は投与前48時間〜10日間の間前調整される。好ましい具体的な実施形態では、前記細胞は移植前3〜5日間の間前調整される。本明細書の方法のあらゆる好適な実施形態において、前記臍帯血または臍帯血由来の幹細胞は、個体への投与前にHLAタイピングされない。
【0093】
臍帯血または臍帯血由来の幹細胞を用いた個体の治療は、疾患、障害または症状がいずれにせよ測定可能に改善される場合に有効であると認めることができる。そのような改善は多くの指標によって示され得る。測定可能な指標には、例えば、特定の疾患、障害または症状(非限定的に血圧、心拍数、呼吸数、種々の血液細胞型の数、特定のタンパク質、炭水化物、脂質またはサイトカインの血中レベル、あるいは疾患、障害または症状に関連する遺伝子マーカーのモジュレーション発現)に関連する生理学的症状または生理学的症状のセットにおける検出可能な変化が含まれる。本発明の幹細胞または補足的細胞集団を用いた個体の治療は、そのような指標のいずれか一つが正常値内、または正常値に近い値に変化することによってそのような治療に応答する場合に有効であると認めることができるだろう。正常値は、様々な指標について当業界で公知である正常の範囲、または対照におけるそのような値との比較によって確立してもよい。医学において、治療の有効性は、個体の健康状態についての個体の印象および主観的な感覚においてもしばしば特徴付けられる。したがって改善は、本発明の幹細胞または補足的細胞集団の投与後の、改善、健康の増進、健康状態の増進、活力レベルの改善などについての個体の主観的感覚によって特徴付けられてもよい。
【0094】
臍帯血または臍帯血由来の幹細胞は、注射または輸血によることを含む、あらゆる製薬上または医学上許容される手法で患者に投与されてもよい。細胞または補足的細胞集団はあらゆる製薬上許容される担体を含んでもよいし、またはこれに含まれてもよい。臍帯血または臍帯血由来の幹細胞は、例えば血液バッグ、輸送バッグ、プラスチックチューブまたは小瓶など、あらゆる製薬上または医学上許容される容器中で収容され、貯蔵され、または輸送されてもよい。
【0095】
4.6.キット
本発明はまた、本発明の医薬組成物の1以上の成分で満たされた1以上の容器を含んでなる医薬パックまたは医薬キットを提供する。そのような容器は、任意に細胞培養のための装置、細胞培養培地または細胞培養培地の1以上の成分で満たされた1以上の容器、本発明の組成物の送達に使用するための装置(例えば、本発明の組成物の静脈注射用の装置)、および/または医薬品もしくは生物学的製剤の製造、使用または販売を取り締まる政府機関による定められた形式の通知(通知はヒトへの投与のための製造、使用もしくは販売についての、政府機関による承認を反映する)と一体とすることができる。
【0096】
以下の実験的な実施例は説明の目的で提供され、かつ限定を目的とするものではない。
【実施例】
【0097】
5.実施例
5.1 実施例1:特定の細胞型への分化の誘導
臍帯血細胞は増殖因子への暴露により、特定の細胞型への分化が誘導される。該誘導を誘導するために使用される増殖因子は、非限定的にGM-CSF、IL-4、Flt3L、CD40L、IFN-α、TNF-α、IFN-γ、IL-2、IL-6、レチノイン酸、塩基性繊維芽細胞成長因子、TGF-β−1、TGF-β−3、肝細胞成長因子、表皮成長因子、カルジオトロピン−1、アンギオテンシノーゲン、アンギオテンシン I(AI)、アンギオテンシン II(AII)、AII AT22型レセプターアゴニスト、あるいはそのアナログまたはフラグメントを含む。
【0098】
5.1.1 ニューロンへの分化の誘導
この実施例は、臍帯血細胞のニューロンへの分化の誘導を記載する。以下のプロトコールを採用してニューロン分化を誘導する。
【0099】
1.幹細胞をDMEM/20% FBSおよび1mM βメルカプトエタノールからなる前誘導培地中で24時間増殖する。
【0100】
2.前誘導培地を除去し、細胞をPBSで洗浄する。
【0101】
3.DMEMおよび1〜10mM βメルカプトエタノールからなるニューロン誘導培地を添加する。あるいは、DMEM/2% DMSO/200 μMブチル化ヒドロキシアニソールからなる誘導培地を用いてニューロン分化効率を高めてもよい。
【0102】
4.特定の実施形態では、無血清培地およびβメルカプトエタノールへの暴露後、早くも60分で形態的または分子的変化が起こり得る(Woodburyら, J. Neurosci. Res. , 61: 364-370)。RT/PCRを用いて、例えば神経成長因子レセプターおよび神経フィラメント重鎖遺伝子の発現を評価してもよい。
【0103】
5.1.2 脂肪細胞への分化の誘導
この実施例は、臍帯血細胞の脂肪細胞への分化の誘導を記載する。以下のプロトコールを採用して脂肪細胞分化を誘導する。
【0104】
1.幹細胞を15%の臍帯血血清を補充したMSCGM(Bio Whittaker)またはDMEM中で増殖する。
【0105】
2.3サイクルの誘導/維持を用いる。各サイクルは、Adipogenesis Induction Medium (Bio Whittaker)による胎盤幹細胞への栄養供給、および3日間の細胞培養(37℃、5%CO2)に続くAdipogenesis Induction Medium (Bio Whittaker)中での1〜3日間の培養からなる。1μM デキサメサゾン、0.2mM インドメタシン、0.01mg/ml インシュリン、0.5mM IBMX、DMEM-高グルコース、FBS、および抗生物質を含む誘導培地が用いられる。
【0106】
3.誘導/維持の完全な3サイクル後、細胞をさらに7日間、脂肪生成維持培地中で2〜3日ごとに培地を交換しながら培養する。
【0107】
4.脂肪生成を、脂肪親和性染色オイルレッド0を用いて容易に観察することができる多数の細胞内脂質小胞の発生によって判断してもよい。RT/PCRアッセイを用いてリパーゼおよび脂肪酸結合性タンパク質遺伝子の発現を調べる。
【0108】
5.1.3 軟骨細胞への分化の誘導
この実施例は、臍帯血細胞の軟骨細胞への分化の誘導を記載する。以下のプロトコールを採用して軟骨細胞分化を誘導する。
【0109】
1.幹細胞を15%の臍帯血血清を補充したMSCGM(Bio Whittaker)またはDMEM中で維持する。
【0110】
2.幹細胞を滅菌のポリプロピレンチューブにアリコートする。細胞を遠心分離し(150xgで5分間)、Incomplete Chondrogenesis Medium(Bio Whittaker)中で2回洗浄する。
【0111】
3.最後の洗浄後、細胞を0.01μg/mlのTGF-β-3を含むComplete Chondrogenesis Medium(Bio Whittaker)中で、5x105細胞/mlの濃度で再懸濁する。
【0112】
4.0.5mlの細胞を15mlのポリプロピレン培養チューブにアリコートする。細胞を150xg、5分間でペレット化する。ペレットを培地中でそのままの状態にする。
【0113】
5.ゆるくキャップしたチューブを37℃、5%CO2で24時間インキュベートする。
【0114】
6.2〜3日毎に、細胞ペレットに新たに調製した完全軟骨形成培地を与える。
【0115】
7.低速ボルテックスを用いて絶え間なく攪拌することによって培地中でのペレットの再懸濁を維持する。
【0116】
8.軟骨形生細胞ペレットを14〜28日間培養した後に収穫する。
【0117】
9.軟骨形成は、例えば、エソイノフィリック(esoinophilic)基質の産生の観察、細胞形態の評価、および/または2型コラーゲンおよび9型コラーゲン遺伝子発現を調べるためのRT/PCRによって特徴付けられてもよい。
【0118】
5.1.4 骨細胞への分化の誘導
この実施例は、臍帯血細胞の骨細胞への分化の誘導を記載する。以下のプロトコールを採用して骨細胞分化を誘導する。
【0119】
1.臍帯血由来の幹細胞の付着性培養物を15%の臍帯血血清を補充したMSCGM(Bio Whittaker)またはDMEM中で培養する。
【0120】
2.培養を組織培養フラスコ中で24時間休止する。
【0121】
3.骨細胞分化を、MSCGMを0.1μM デキサメサゾン、0.05mM アスコルビン酸-2-リン酸、10mM βグリセロリン酸を含むOsteogenic Induction Medium(Bio Whittaker)と取り換えることによって誘導する。
【0122】
4.2〜3週間の間、細胞にOsteogenic Induction Mediumを3〜4日毎に与える。
【0123】
5.分化を、カルシウム特異的染色、ならびにアルカリホスファターゼおよびオステオポニン遺伝子発現についてのRT/PCRを用いてアッセイする。
【0124】
5.1.5 肝細胞への分化の誘導
この実施例は、臍帯血細胞の肝細胞への分化の誘導を記載する。以下のプロトコールを採用して肝細胞分化を誘導する。
【0125】
1.臍帯血由来の幹細胞を、20ng/mlの肝細胞成長因子;および100ng/mlの表皮成長因子を補充したDMEM/20% CBS中で培養する。FBSの代わりにKnockOut Serum Replacementを用いてもよい。
【0126】
2.50ng/mlのIL-6を誘導フラスコに添加する。
【0127】
5.1.6 膵細胞への分化の誘導
この実施例は、臍帯血細胞の膵細胞への分化の誘導を記載する。以下のプロトコールを使用して膵分化を誘導する。
【0128】
1.臍帯血由来の幹細胞を、10ng/mlの塩基性繊維芽細胞成長因子;および2ng/mlの形質転換成長因子β-1を補充したDMEM/20% CBS中で培養する。CBSの代わりにKnockOut Serum Replacementを用いてもよい。
【0129】
2.ネスチン陽性ニューロン細胞培養物からの調整培地を、50/50の濃度で培地に添加する。
【0130】
3.細胞を14〜28日間、3〜4日毎に再供給しながら培養する。
【0131】
4.分化を、インシュリンタンパク質についてアッセイするか、またはRT/PCRによってインシュリン遺伝子発現についてアッセイすることにより特徴付ける。
【0132】
5.1.7 心臓細胞への分化の誘導
この実施例は、臍帯血細胞の心臓細胞への分化の誘導を記載する。以下のプロトコールを採用して筋分化を誘導する。
【0133】
1.臍帯血由来の幹細胞を、1μMのレチノイン酸;10ng/mlの塩基性繊維芽細胞成長因子;2ng/mlの形質転換成長因子β-1;および100ng/mlの表皮成長因子を補充したDMEM/20% CBS中で培養する。CBSの代わりにKnockOut Serum Replacementを用いてもよい。
【0134】
2.あるいは、幹細胞を50ng/ml カルジオトロピン-1を補充したDMEM/20% CBS中で24時間培養する。
【0135】
3.あるいは、幹細胞を無タンパク質培地中で5〜7日間維持し、その後ヒト心筋エキスで刺激する(用量増大分析(escalating dose analysis))。心筋エキスは、1mgのヒト心筋を1% 臍帯血血清を補充した1% HEPESバッファー中でホモジナイズすることによって作られる。懸濁液を60分間インキュベートし、その後遠心分離して上清を集める。
【0136】
4.細胞を10〜14日間、3〜4日毎に再供給しながら培養する。
【0137】
5.分化を、心臓アクチンRT/PCR遺伝子発現アッセイを用いて評価する。
【0138】
5.1.8 分化前および/または分化後の臍帯血細胞の特徴付け
臍帯血細胞は、分化前および/または分化後に、フローサイトメトリーおよび免疫細胞化学などの技術を用いた形態および細胞表面マーカーにおける変化の測定、ならびにPCRなどの技術を用いた遺伝子発現における変化の測定によって特徴付けられる。増殖因子に暴露されている細胞および/または分化している細胞は、以下の細胞表面マーカー;CD10+、CD29+、CD34-、CD38-、CD44+、CD45-、CD54+、CD90+、SH2+、SH3+、SH4+、SSEA3-、SSEA4-、OCT-4+、およびABC-p+の存在または不在によって特徴付けられる。臍帯血由来の幹細胞が、細胞表面マーカー OCT-4+、APC-p+、CD34-およびCD38-の存在によって分化前に特徴付けられることが好ましい。これらのマーカーをもつ幹細胞は、ヒト胚性幹細胞と同様に万能(例えば、全能性)である。臍帯血細胞は、細胞表面マーカーCD34+およびCD38+の存在によって分化前に特徴付けられる。臍帯血細胞に由来する分化細胞がこれらのマーカーを発現しないことが好ましい。
【0139】
5.2 実施例2:臍帯血または臍帯血由来の幹細胞を用いた筋萎縮性側索硬化症を患っている個体の治療
ルー・ゲーリグ病とも称される筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、皮質、脳幹および脊髄の運動ニューロンに影響する致命的な神経変性疾患である。ALSは20,000人ほどのアメリカ人に影響を及ぼし、アメリカでは毎年5000件の新規症例の発生を伴っている。ALS症例の大部分は散在性である(S-ALS)が、約5〜10%は遺伝性である(家族性-F-ALS)。随意運動を制御する脳または脊髄中の特定の神経細胞がしだいに変性する際にALSが生じる。ALSの主な特徴は脊髄運動ニューロンの消失であり、これは、これらの制御下の筋肉を弱め、かつ消耗させて麻痺状態へと導く原因となる。ALSはそれ自体、どの筋肉が最初に弱められるかに依存して様々な様式で現れる。ALSは中年に襲われ、男性は女性の1.5倍以上この疾患に罹り易い。ALSは通常、診断後5年以内に死に至らしめる。
【0140】
ALSは家族性および散在性の両方の形態を採り、家族性形態はいくつかの別個の遺伝子座と関係している。ALS症例の約5〜10%のみが家族性である。それらの15〜20%がCu/Znスーパーオキシド・ジスムターゼ1(SOD1)をコードする遺伝子中の突然変異を原因としている。これらは酵素に毒性性質を与える「機能獲得型」突然変異のようである。ALSの原因としてのSOD突然変異の発見は、この疾患の理解をいくらか深める道筋を敷き、この疾患の動物モデルの入手を今や可能にし、さらに、細胞死に導く分子事象について仮説が立てられかつ試験されている。
【0141】
下記にALSを患っている個体を臍帯血または臍帯血由来の幹細胞を用いて治療する方法の例を提供する。この方法は、末梢性、一過性血管カーテルを介した静脈内注射を含む。
【0142】
ALSを患っている個体は、まず初めに標準的な実験室分析の実施によって評価される。そのような分析は、代謝プロファイル;示差的なCDC;脂質プロファイル;フィブリノーゲンレベル;血液のABOrHタイピング;肝機能試験;およびBUN/クレアチンレベルの測定を含み得る。個体は移植の前日に以下の薬剤:25mgのジフェンヒドラミン(BenadrylTM)を1日3回、および10mgのプレドニゾンを服用するよう指示される。
【0143】
臍帯血または臍帯血由来の幹細胞は、低温保存され、解凍され、移植前約2日間の間、約5℃で維持されてから得られる。
【0144】
個体は、静脈内注射、生理学的モニタリングおよび身体観察に必要な全ての設備を有する外来患者診療センターで移植される。移植の約1時間前に、個体は25mgx1 P.O.のジフェンヒドラミン(BenadrylTM)、および10mgx1 P.Oのプレドニゾンを与えられる。これは予防であり、急性アレルギー反応の可能性を低減させることが意図されている。注入時に18G留置性末梢静脈ラインが個体の4肢の一つに取り付けられ、D5 1/2通常生理食塩水と20mEq KClの注入によりTKO速度で開放が維持される。個体を移植前に、特に心拍数、呼吸数、体温に注目して検査する。心電図および血圧測定など、他のモニタリングを行ってもよい。
【0145】
その後、臍帯血または臍帯血由来の幹細胞は、1時間あたり1ユニット(60ml総送達流量)の速度で注入される。ここで1ユニットは約1〜2x109総有核細胞である。あるいは、臍帯血または臍帯血由来の幹細胞のユニットは、60mlの総送達流量で送達される。マウスにおける前臨床研究からのデータに基づき、体重1キログラムあたり合計2.0〜2.5x108個の細胞を投与すべきである。例えば70キログラムの個体は約14〜18x109個の総有核細胞を受け取るであろう。個体はアレルギー反応または高感受性の徴候についてモニターされるべきであり、これらは注入の即時停止の合図である。
【0146】
注入後、個体を少なくとも60分の間横にした姿勢でモニタリングすべきであり、その結果、彼らは正常な活動を再開するかもしれない。
【0147】
5.3 アテローム性動脈硬化症を患っている個体の臍帯血または臍帯血由来の幹細胞を用いた治療
実施例2に概説される注入プロトコールを用いて、アテローム性動脈硬化症を患っている患者に臍帯血または臍帯血由来の幹細胞を投与してもよい。臍帯血または臍帯血由来の幹細胞を、無症候性の個体、血管形成術の候補者である個体、または、最近(1週間以内)心臓手術を受けた患者に投与してもよい。
【0148】
本発明は、本明細書に記載した具体的な実施形態によってその範囲を制限されることはない。実際、以上の説明から、当業者には、本明細書に記載したものに加えて、本発明の様々な改変が明らかになるであろう。このような改変は、添付の特許請求の範囲に含まれるものとする。
【0149】
本明細書中に引用した参考文献は全て、個々の刊行物、特許または特許出願が具体的かつ個別に、あらゆる目的のためにその全文を参考として組み入れるように示されているのと同程度に、あらゆる目的のためにその全文を参考として本明細書に組み入れるものとする。
【0150】
あらゆる刊行物の引用はそれが出願日前に開示されたためで、先行特許のために、本発明がこのような刊行物に先行する資格がないと認めたと解釈すべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
臍帯血または臍帯血由来の幹細胞を含む組成物を投与することを含むそれを必要とする患者を治療する方法であって、該投与が少なくとも5x109個の総有核細胞を送達する上記方法。
【請求項2】
臍帯血または臍帯血由来の幹細胞が骨髄移植に適している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
臍帯血または臍帯血由来の幹細胞がヒトにおける投与に適している、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
複数の臍帯血由来の幹細胞が細胞表面マーカーCD34+およびCD38−を発現する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
複数の臍帯血幹細胞が細胞表面マーカーCD34+およびCD38+を発現する、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
臍帯血または臍帯血由来の幹細胞を増殖因子で処理する、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
増殖因子がサイトカイン、リンホカイン、インターフェロン、コロニー刺激因子(CSF)、インターフェロン、ケモカイン、インターロイキン、ヒト造血成長因子、造血成長因子リガンド、幹細胞因子、トロンボポエチン(Tpo)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、白血病抑制因子、塩基性繊維芽細胞成長因子、胎盤由来成長因子または表皮成長因子である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
臍帯血または臍帯血由来の幹細胞を増殖因子で処理して複数の細胞型への分化を誘導する、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
臍帯血または臍帯血由来の幹細胞を増殖因子で処理して特定の細胞型への分化を防止または抑制する、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
臍帯血または臍帯血由来の幹細胞をそれを必要とする患者に投与することを含んでなる、脊髄形成異常症の治療方法。
【請求項11】
前記投与が少なくとも5x109個の総有核細胞を送達する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記投与が少なくとも10x109個の総有核細胞を送達する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記投与が少なくとも20x109個の総有核細胞を送達する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記患者が炎症成分を含む疾患、障害または症状を患う、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記患者が血管系の疾患、障害または症状を患う、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記疾患、障害または症状がアテローム性動脈硬化症である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記疾患、障害または症状が神経学的疾患、障害または症状である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記疾患、障害または症状が、筋萎縮性側索硬化症および多発性硬化症よりなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記患者が自己免疫疾患を患う請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記自己免疫疾患が、糖尿病および筋萎縮性側索硬化症よりなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記症状が、外傷または損傷によって引き起こされるかあるいは外傷または損傷に関連する、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記外傷または損傷が、中枢神経系に対する外傷または損傷である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記外傷または損傷が、末梢神経系に対する外傷または損傷である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記少なくとも5x109個の総有核細胞が複数のドナーに由来する細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記組成物中の前記細胞の全てを前記投与前にHLAタイピングしない、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記組成物が前記投与の18時間〜21日前に前調整される、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記組成物が前記投与の48時間〜10日前に前調整される、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記組成物が前記投与の3〜5日前に前調整される、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2006−517975(P2006−517975A)
【公表日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−503587(P2006−503587)
【出願日】平成16年2月13日(2004.2.13)
【国際出願番号】PCT/US2004/004388
【国際公開番号】WO2004/071283
【国際公開日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(503291462)アンスロジェネシス コーポレーション (5)
【Fターム(参考)】