説明

疾患における免疫学的介入のための合成多糖抗原

その構造に応じて、抗炎症または炎症免疫調節特性をもつ合成多糖抗原(SPA)を提供する。適当なSPAを用いることによる、炎症病変または炎症調節モジュレーターで治療しうる疾患もしくは身体状態を予防または治療するための、これらのSPAを含む組成物およびこれらのSPAおよび組成物の使用方法を提供する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫学の分野に関し、特に免疫調整薬に関する。本発明は、免疫調整薬の特性を有する合成多糖抗原(SPA)を使用して疾患を免疫学的に調整するための新規化合物および方法を提供するものである。SPAを人やその他の動物に使用して、炎症病変から保護し且つ/または炎症病変を治療することができ、あるいは炎症応答が治療上効果的な病状または体調を治療するために、例えば、抗ウイルス療法で、抗癌療法で、またはワクチン補助剤として、調整された免疫応答を誘導することができる。
【背景技術】
【0002】
従来より、微生物抗原は最も強力な免疫調整薬として公知である。最も一般的な例として、グラム陰性菌由来のリポ多糖(LPS)、グラム陰性菌およびグラム陽性菌由来のムレインまたはペプチドグリカン(PG)としても知られる微生物細胞壁のグリコペプチドが挙げられる。微生物PGは強力な炎症薬として確立されている(Wahl等(1986)J.Exp.Med.165:884)。
【0003】
PGを含む多くの微生物抗原は、Toll様レセプターとして知られる哺乳動物の細胞表面レセプターの1つを活性化することにより前炎症作用に影響を及ぼすと考えられている。TLRの活性化は、転写因子NF−κBを誘導する細胞内シグナル経路の引き金となり、NF−κBは次に炎症メディエーター(ケモカインおよび特定のサイトカイン)をコードする遺伝子の発現を誘起する。PG自体はTLR2を介して活性化されると考えられている(Takeuchi等(1999)Immunity11:443)。
【0004】
最近のcDNA配列技術は、PGにより誘導される前炎症メディエーターの理解をより深いものにしている(Wang等(2000)J.Biol.Chem.275:20260)。最もよく活性化される遺伝子は、ケモカイン(IL−8およびMIP−1β)を発現する遺伝子であり、2番目によく活性化される遺伝子は、サイトカイン(TNF−α、IL1およびIL6)を発現する遺伝子である。作用機序の詳細に関係なく、宿主に対する微生物PGの下流作用は炎症応答に強い影響を及ぼす。実際、PGは動物モデルにおける関節炎の誘導に使用されてきた(Cromartie等(1971)J.Exp.Med146:1585)。特に微生物Streptococcus pygenes由来の純粋なPGは、現在、そのような目的で商業的に入手が可能である。(Lee Laboratories、アトランタ、GA)
【0005】
ムロペプチドと総じて知られるPGの低分子量フラグメントも動物において炎症作用を示し、この作用はムロペプチドの構造に依存する(Tuomanen等(1993)J.Clin.Invest.92:297)。ムラミルジペプチド(MDP)と称されるPGの最小フラグメントならびにグルコサミニルMFP(GMFP)でさえも、動物において炎症作用を示す(Kohashi等(1980)Infect.Immun.29:70)。高分子量PGが細胞表面に存在するTLR2を介して前炎症応答を誘導するのに対し、PGの低分子量フラグメントはNod1およびNod2として知られる細胞内レセプターを介して前炎症活性を誘導する(Girardin等、ウェブ上に開示、2003年7月18日、J.Biol.Chem、原稿M307198200)。
【0006】
KasperおよびTzianabosは、微生物細胞表面から精製された特定の多糖が、腹腔内膿瘍、腹腔内敗血症および術後癒着のような炎症モデルを用いた検証で、in vivoにおいて、保護作用を示すことを実証している(米国特許明細書第5,679,654号および第5,700,787号;PCT国際公開WO96/07427、WO00/59515およびWO02/45708)。研究者等は、全莢膜から精製した場合に、Bacteroides fragilis、Staphylococcus aureusおよびStreptococcus pneumoniaeに由来する特定の多糖が、他の多くの多糖抗原と区別される特殊な性質を有することを実証した。先の分子は高分子量で、らせん状で、天然では両性イオンである(Wang等(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA97:13478〜13481および参考文献5〜9)。多くの微生物多糖は中性であるか陰性であり、T細胞非依存性抗原であると考えられる(Abbas等(2000)Cellular and Molecular Immunobiology,W.B.サンダース、フィラデルフィア)。KasperおよびTzianabosは、これらの多糖が持つ両性イオンの性質がCD4+T細胞との相互作用に重要な役割を果たすことを示唆している(Tzianabos等(1993)Science262:416〜419;Tzianabos等(2001)Proc,Natl.Acad.Sci.USA98:9365〜9370)。この研究グループの最新の報告によれば、これらの分子の幾つかはその両性イオンの特性により抗原提示細胞と相互作用し、更に、多糖抗原によるCD4+T細胞の刺激はMHC−II保持APCに依存することが示唆されている(Kalka−Moll等(2002)J.Immunol.169:6149〜6153)。両性イオン多糖とAPCとの相互作用がどのようにしてCD4+T細胞を刺激するのか正確なことはいまだに分かっていない。研究者等は、in vitroにおける両性イオン多糖のCD4+T細胞の活性化について、増殖刺激ならびにサイトカインIL2、INFγおよびIL10の産生を証拠として挙げ、in vivoにおいて、保護作用が多糖刺激T細胞により選択的に伝達されることを示している(PCT国際公開WO00/59515;Kalka−Moll等(2000)J.Immunol.164:719〜724;Tzianabos等(2000)J.Biol.Chem.275:6733〜6738)。このグループの初期の研究によれば、CD4+細胞の刺激はAPCの存在を特に必要とせず、ラットおよびマウス種に由来するT細胞上のこれらの分子の分裂促進性は異なっており:ラット脾細胞はCP1処理に応じて増殖したが、マウス脾細胞はしなかった(Tzianabos等(1995)J.Clin.Invest.96:2727〜2731;Brubaker等(1999)J.Immunol.162:2235〜2242)。
【0007】
しかし全体としてこの研究グループはその研究結果から、多糖によるCD4+T細胞の活性化がIL2またはIL10のような炎症応答を防御するサイトカインの産生を誘導するという仮説を立てている(PCT国際公開WO00/59515;Kalka−Moll等(2000)J.Immunol.164:719〜724;Tzianabos等(2000)J.Biol.Chem.275:6733〜6738;Tzianabos等(1999)J.Immunol.163:893〜897)。しかし、これらの分子がいかにしてT細胞を活性化するかまたはこれらの分子がいかにして保護作用を示すかということの詳細はいまだに不明である。更に多糖についての理解は混乱を来たしており、この研究グループは別の試験で、多糖の保護作用が認められたのと同じin vivoモデルを用いた際に、同一の両性イオン多糖が膿瘍の形成を誘導し得ると報告している(Tzianabos等(1993)Science262:416〜419);Tzianabos等(1994)Infect.Immun.62:3590〜3593)。従って、この文献から、両性多糖がin vivoで免疫系の抑制性調整物質として機能するメカニズムを把握することは困難である。
【0008】
別の研究グループは、オリーブ粉砕時の廃水から単離されたグラム陽性桿菌Paenibacillus jamilaeのエキソ多糖(莢膜様)が免疫調整作用を示すことを記載している(Ruiz−Bravo等(2001)Clin.Diag.Lab.Immunol.8:706〜710)。研究者等はこの多糖の構造特性を記載していないが、その結果は前記のKasperおよびTzianabos等の研究と類似している。CP−7と称される分子は培養液中のリンパ球の増殖を刺激し、同時にIFNγおよびGMCSFを顕著に発現させる。更に、この研究グループは、この化合物がマウスのListeria monocytogenes菌の感染に対し耐性をもたらすことを報告している。研究者等は、その作用機序が炎症性Th1応答の刺激を介するものであることを示唆している。
【0009】
前述の研究結果から、構造特性に応じて多糖抗原が前炎症応答または抗炎症応答を引き起こすと結論付けることが可能であるが、構造特性はいまだ完全に判明してはいない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
様々な免疫調整多糖に関する文献に報告される内容が混同していたり矛盾した効果を記載していたりすることから考えて、従来技術において、多糖がもたらす炎症調整、すなわち前炎症および抗炎症の根底をなす構造上の原理を理解する必要がある。更に前炎症および抗炎症の両方で、安全且つ有効に免疫応答を調整する治療用の特殊分子が必要とされている。このような洞察および特殊分子は、疾患の予防および治療により有効な免疫療法の発展を促進すると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、式Iの化合物を見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、式I:

式I
で表される、直鎖で非−架橋性の免疫調整高分子化合物またはその製薬学的に入手可能な塩を提供し、
式中、
下付文字nは、ポリマー中の式Ymで表されるモノマー単位の数を意味し、2〜375の範囲の1つの整数であり;
上付文字mは、ポリマー中の式Ymで表される特定のモノマー単位の位置を意味し、左から右へ逐次的に、1〜nの連続した整数であり;
1およびX2は、独立して、Hまたは末端基であり;
式Ymで表される各モノマー単位は独立して:
(a)YmがYnでない場合、式IIa:

式IIa
で表される基であり、または、
(b)YmがYnである場合、式IIb:

式IIb
で表される基であり、
ここで、
各R11、R1、...、Rn-11およびRn1は、独立して、Hまたは低分子アルキルであり;
各R12、R2、...、Rn-12およびRn2は、独立して、−OH、−NH2、アミノ酸基、または2〜10個のアミノ酸基を含むペプチドであり;ここで:
(a)各アミノ酸基は、独立して、DまたはLの立体配置を示し;
(b)各アミノ酸基は、非置換であるかまたはハロ、アルキル、ヒドロキシ、アルコキシ、フェノキシ、CF3、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、−C(O)Oアルキルおよび−NO2から成る群より選択される1つ以上の基で置換されており;
(a)アミノ基は、独立して、γカルボキシル基のα位ならびにαまたはεアミノ基で結合しているか、またはそれらの組合せである、
ただし、直鎖ポリマーは以下のものではない:
(a)以下の式で示されるホモポリマー(ここでnは、75〜375):

または
(b)以下の式で示されるモノマー単位を含むホモポリマー:

【0012】
以下、本発明の実施形態について、1つの形態では、R11、R1、...、Rn-11およびRn1の1つ以上がメチルである。各R11、R1、...、Rn-11およびRn1がメチルであるのが好ましい。
【0013】
別の態様では、各X1およびX2がHである。
【0014】
別の態様では、nが75〜375であるかまたは2〜10、または2〜3である。
【0015】
別の態様では、R12、R2、...、Rn-12およびRn2の1つ以上がジペプチド、トリペプチド、テトラペプチドまたはペンタペプチドである。各R12、R2、...、Rn-12およびRn2が、ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチドまたはペンタペプチドであるのが好ましい。
【0016】
別の態様では、式Ymで表されるモノマー単位の1つ以上が:
(a)YmがYnでない場合、式IIIa:

式IIIa
で表される基であるか;または
(b)YmがYnである場合、式IIIb:

式IIIb
で表される基であり、
ここで、
各R13、R3、...、Rn-13およびRn3が、独立して、−OHまたは−NH2であり;
各R14、R4、...、Rn-14およびRn4が、独立して、−OHまたは−NH2、アミノ酸基、または2〜8個のアミノ酸基を含むペプチドであり、ここで:
(a)各アミノ酸基は、独立して、DまたはLの立体配置を示し;
(b)各アミノ酸基は、非置換であるかまたはハロ、アルキル、ヒドロキシ、アルコキシ、フェノキシ、CF3、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、−C(O)Oアルキルおよび−NO2から成る群より選択される1つ以上の基で置換されており;
(c)アミノ酸基は、独立して、γカルボキシル基のα位、αまたはεアミノ基で結合しているかまたはそれらの組合せである。
【0017】
式Ymで表される各モノマー単位が、Yと異なり、式IIIaの基であり、Yが式IIIbの基であるのが好ましい。このような化合物をここで式Vと称する。このような化合物は実質的に純粋であることが好ましい。
【0018】
別の態様では、式Yで表されるモノマー単位が以下のものでない:
(a)YmがYnでない場合、式IIIa:

式IIIa
で表される基であるか;または
(b)YmがYnである場合、式IIIb:

式IIIb
で表される基であり、
ここで、
各R13、R3、...、Rn-13およびRn3が、独立して、−OHまたは−NH2であり;
各R14、R4、...、Rn-14およびRn4が、独立して、−OHまたは−NH2、アミノ酸基、または2〜8個のアミノ酸基を含むペプチドであり、ここで:
(c)各アミノ酸基は、独立して、DまたはLの立体配置を示し;
(d)各アミノ酸基は、非置換であるかまたはハロ、アルキル、ヒドロキシ、アルコキシ、フェノキシ、CF3、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、−C(O)Oアルキルおよび−NO2から成る群より選択される1つ以上の基で置換されており;
(e)アミノ酸基は、独立して、γカルボキシル基のα位、αまたはεアミノ基で結合しているかまたはそれらの組合せである。
【0019】
このような化合物をここで式VIと称する。
【0020】
別の態様では、R12、R2、...、Rn-12およびRn2の1つ以上が正味荷電を有し、正味の負電荷であるのが好ましい。各R12、R2、...、Rn-12およびRn2が正味荷電を有するのが好ましく、正味の負電荷であることが更に好ましい。
【0021】
別の態様では、R12、R2、...、Rn-12およびRn2の1つ以上が、中性正味荷電を有する。各R12、R2、...、Rn-12およびRn2が中性正味荷電を有するのが好ましい。
【0022】
別の態様では、直鎖ポリマーはホモポリマーである。
【0023】
別の態様では、直鎖ポリマーはランダム共重合体、交互共重合体またはブロック共重合体である。直鎖ポリマーはランダム共重合体であるのが好ましい。直鎖コポリマーは2〜375個の異なるモノマー単位を含んでよい。
【0024】
別の態様で本発明は、前記した任意の化合物またはその塩を、バッファー、希釈剤、医薬品添加物またはキャリアーと一緒に含有する組成物を提供する。この組成物は更にポリエチレングリコール、グリセロールまたはスクロースのような分散剤を含有してよい。
【0025】
別の態様で本発明は、前記した任意の化合物またはその製薬学的に入手可能な塩を、製薬学的に使用可能なバッファー、希釈剤、医薬品添加物またはキャリアーと一緒に含有する医薬品を提供する。この医薬品は更にポリエチレングリコール、グリセロールまたはスクロースのような分散剤を含有してよい。
【0026】
別の態様で本発明は、免疫調整薬による治療が有効な疾患または障害を治療するための薬剤を製造する際の、式Iの化合物またはその製薬学的に入手可能な塩の使用を提案する。
【0027】
別の態様で本発明は、ワクチン補助剤を製造する際の、式Vの化合物またはその製薬学的に入手可能な塩の使用を提案する。
【0028】
別の態様で本発明は、免疫調整薬による治療が有効な疾患または障害を治療する際の、式Iの化合物またはその製薬学的に入手可能な塩の使用を提案する。
【0029】
別の態様で本発明は、哺乳動物に免疫応答を誘起する方法を提供し、該方法は式Iの化合物またはその製薬学的に入手可能な塩を有効量で哺乳動物に投与することを含む。
【0030】
別の態様では、免疫応答は炎症性であり、化合物は式Vの化合物またはその製薬学的に入手可能な塩である。
【0031】
別の態様では、免疫応答は抗−炎症性であり、化合物は式VIの化合物またはその製薬学的に入手可能な塩である。
【0032】
別の態様で本発明は、抗原提示細胞の成熟を阻止する方法を提供し、該方法は抗原提示細胞と有効量の式VIの化合物またはその製薬学的に入手可能な塩とを、in vitroで、一定時間且つ抗原提示細胞の成熟を阻止できる条件下に接触させることを含む。
【0033】
別の態様で本発明は、哺乳動物における抗原提示細胞の成熟を阻止する方法を提供し、該方法は式VIの化合物またはその製薬学的に入手可能な塩を有効量で哺乳動物に投与し、抗原提示細胞の成熟を阻止することを含む。
【0034】
別の態様で本発明は、炎症応答を阻害する必要のある哺乳動物で、炎症応答を阻止する方法を提供し、該方法は以下の工程、
(a)抹消血単核細胞または単核細胞を含む単核細胞分画を哺乳動物から単離し、
(b)in vitroにおいて、単離した抹消血単核細胞または単核細胞と、単核細胞を未熟樹状細胞へ分化させ得るサイトカインを有効量で含有する組成物とを、一定時間且つ単核細胞由来の未熟樹状細胞を十分に産生できる条件で接触させ、
(c)in vitroにおいて、単核細胞由来の未熟樹状細胞と有効量の式VIの化合物またはその製薬学的に入手可能な塩とを、一定時間且つ単核細胞由来の未熟樹状細胞が成熟するのを阻止できる条件で接触させ、
(d)単核細胞由来の未熟樹状細胞を哺乳動物に投与し、哺乳動物樹状細胞が有するT細胞のコグネイト相互作用を促進する能力を減じ、哺乳動物における炎症応答を阻止する、
を含む。
【0035】
このような方法ならびにここに記載する別のex vivoにおける方法では、処理細胞の投与を、静脈内、腹腔内または心臓内の経路で実施できる。
【0036】
上記および下記の方法で治療できる炎症応答には、膿瘍および術後癒着、敗血症;慢性関節リウマチ;重症筋無力症;炎症性腸疾患;大腸炎;全身性エリテマトーデス;多発性硬化症;虚血性心疾患;糖尿病;肝線維症;乾癬;湿疹;急性呼吸窮迫症候群;急性炎症性膵炎;内視鏡的逆行性胆道膵管造影で引き起こされる膵炎;熱傷;冠状動脈、大脳、抹消動脈におけるアテローム発生;虫垂炎;胆嚢炎;憩室炎;内臓の繊維化障害;創傷治癒;皮膚の瘢痕化障害;肉芽腫性疾患;喘息;壊疽性膿皮症;スィート症候群;ベーチェット病;原発性硬化性胆管炎;細胞、組織または器官の移植が含まれる。
【0037】
更に別の態様で本発明は、炎症応答を阻害する必要のある哺乳動物で、炎症応答を阻止する方法を提供し、該方法は以下の工程:
哺乳動物の樹状細胞またはその他の抗原提示細胞が成熟するのを妨げてT細胞の活性化を刺激できなくするために、式VIの化合物またはその製薬学的に入手可能な塩を有効量で哺乳動物に投与し、
それにより哺乳動物の炎症応答を抑制する、
を含む。
【0038】
別の態様で本発明は、炎症応答を阻害する必要のある哺乳動物で、炎症応答を阻止する方法を提供し、該方法は以下の工程:
(a)抹消血単核細胞または単核細胞を含む単核細胞分画を哺乳動物から単離し、
(b)in vitroにおいて、単離した抹消血単核細胞または単核細胞と、単核細胞を未熟樹状細胞へ分化させ得るサイトカインを有効量で含有する組成物とを、一定時間且つ単核細胞由来の未熟樹状細胞が十分に産生される条件で接触させ、
(c)in vitroにおいて、単核細胞由来の未熟樹状細胞と有効量の式VIの化合物またはその製薬学的に入手可能な塩とを、一定時間且つ単核細胞由来の未熟樹状細胞が成熟するのを十分に阻止できる条件で接触させ、
(d)in vitroにおいて、未熟樹状細胞とナイーブT細胞とを接触させて制御性T細胞を産生し、
(e)エフェクターT細胞を抑制する制御性T細胞を哺乳動物に投与し、炎症応答を抑制する
を含む。
【0039】
別の態様で本発明は、炎症応答を阻害する必要のある哺乳動物で、炎症応答を阻止する方法を提供し、該方法は以下の工程:
式VIの化合物またはその製薬学的に入手可能な塩を有効量で哺乳動物に投与し、
エフェクターT細胞を抑制し且つ炎症応答を阻止する制御性T細胞を産生する、
を含む。
【0040】
別の態様で本発明は、式VIの化合物またはその製薬学的に入手可能な塩の免疫学的活性を測定する方法を提供し、該方法は以下の工程:
化合物を哺乳動物に投与し、
Candinを哺乳動物に投与し、
Candinが惹起する遅延型過敏性皮膚外傷の阻害度を測定する、
を含み、
この際、哺乳動物の外傷寸法が、化合物を投与されていない未処理のコントロール哺乳動物の外傷寸法と比べて減少していれば、前記化合物が限局的な炎症応答の阻止に有効なことが明白である。
【0041】
別の態様で本発明は、抗原提示細胞のToll様レセプターを活性化する方法を提供し、この方法は、抗原提示細胞と有効量の式Vの化合物またはその製薬学的に入手可能な塩とを、一定時間且つToll様レセプターを活性化できる条件で接触させることを含む。Toll様レセプターはToll様レセプター2であってよい。
【0042】
別の態様で本発明は、ウイルス感染または癌の予防または治療を必要とする哺乳動物のウイルス感染または癌を予防または治療する方法を提供し、この方法は、式Vの化合物またはその製薬学的に入手可能な塩を有効量で哺乳動物に投与することを含む。
【0043】
別の態様で本発明は、哺乳動物に免疫応答を惹起する方法を提供し、該方法は、以下の式で表される(nは2〜375)直鎖ホモポリマーを有効量で哺乳動物に投与することを含む:

【0044】
本発明はここに記載する態様の全ての組合せを包括する。
【0045】
本発明の更なる応用範囲は以下の詳細な説明の内容から明らかであると考える。しかし、詳細な説明および図面は本発明の好ましい態様を単に例証して示すものであり、本発明の精神および意図の範囲内での種々の変更および修飾は当業者にとって詳細な説明から明らかなことである。
図面の詳細な説明
本発明の前記したまたはその他の側面、態様、特徴および利点は、添付の図面と共に記される以下の詳細な説明により詳しく理解されるが、全ての図面は単に例証するものであって本発明を制限するものではない。
【0046】
本発明の詳細な説明
本発明の以下の詳細な説明は当業者が本発明を実施する際の助けとなるよう提供されるものである。従って、当業者が本発明の精神または目的から外れることなくここに記載の態様を修飾および変化させることができ、その際、以下の詳細な説明は本発明を不当に制限するものと解釈されてはならない。
【0047】
ここに引用する各参考文献の内容は、参照によりその全文をここに組み込まれたものとする。
【0048】
本明細書中、略号“h”または“hr”は時間を意味する。略語“min”は分を意味する。
【0049】
本明細書中、特に記載のない限り、以下の記述は以下に記載する意味を有する:
“Ac”はCH3C(O)−を意味する、
“アルキル”は、鎖中に炭素原子約1〜約20個を有する直鎖または分枝鎖であってよい脂肪族炭化水素である。好ましいアルキル基は鎖中に炭素原子を約1〜約12個含有し、より好ましくは本明細書で定義される低分子アルキルである。分枝とは、1つ以上の低分子アルキル、例えばメチル、エチルまたはプロピルが直鎖アルキル鎖に結合していることを意味する。“低分子アルキル”は、鎖中に炭素原子を約1〜約4個含有するアルキルで、直鎖または分枝鎖であってよい。
【0050】
“アミノ酸”は、本明細書で定義される天然および非天然アミノ酸から成る群より選択される。アミノ酸はまた、α−炭素がLまたはD立体化学を示すアミノ酸を含む。好ましいアミノ酸はα−アミノ基を有するものである。アミノ酸は、側鎖の置換基に応じて中性、正または負であってよい。“中性アミノ酸”は非電荷の側鎖置換基を有するアミノ酸である。中性アミノ酸の例として、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、グリシン、セリン、スレオニンおよびシステインが挙げられる。“正のアミノ酸”は、側鎖置換基が生理学的pHで正に荷電しているアミノ酸を意味する。正のアミノ酸の例として、リジン、アルギニンおよびヒスチジンが挙げられる。“負のアミノ酸”は側鎖置換基が生理学的pHで負の正味荷電を有するアミノ酸を意味する。負のアミノ酸の例として、アスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられる。好ましいアミノ酸はα−アミノ酸である。天然アミノ酸の例として、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられる。“非天然アミノ酸”は核酸コドンの存在しないアミノ酸を意味する。非天然アミノ酸の例として、前記した天然α−アミノ酸のD−異性体;Aib(アミノ酪酸);β−Aib(3−アミノ−イソ酪酸)、Nva(ノルバリン)、β−Ala、Aad(2−アミノアジピン酸)、βAad(3−アミノアジピン酸)、Abu(2−アミノ酪酸)、Gaba(γ−アミノ酪酸)、Acp(6−アミノカプロン酸)、Dbu(2,4−ジアミノ酪酸)、α−アミノピメリン酸、TMSA(トリメチルシリル−Ala)、aIle(アロ−イソロイシン)、Nle(ノルロイシン)、tert−Leu,Cit(シトルリン)、Orn、Dpm(2,2’−ジアミノピメリン酸)、Dpr(2,3−ジアミノプロピオン酸)、α−またはβ−Nal,Cha(シクロヘキシル−Ala)、ヒドロキシプロリン、Sar(サルコシン)およびその類似物;環状アミノ酸;N−アルキル化アミノ酸、例えば、MeGly(N−メチルグリシン)、EtGly(N−エチルグリシン)およびEtAsn(N−エチルアスパラギン);α−炭素が2つの側鎖置換基を有するアミノ酸が挙げられる。本明細書中に記載される天然アミノ酸、非天然アミノ酸およびその残基の名称は、IUPAC委員会が有機化学の命名法(Nomenclature of Organic Dhemistry)として提唱する命名規約およびIUPAC−IUB委員会が“アミノ酸の命名法(Nomenclature of a−Amino Acids)(勧告、1974)”Biochemistry,14(2),(1975)において生化学命名法(Biochemical Nomenclature)として提唱する命名規約に従う。明細書および請求項で使用されるアミノ酸およびその残基の名称ならびに略号が記載のものと異なる場合、異なる名称および略号についても明らかにする。
【0051】
“アミノ酸残基”は、ペプチドまたは分子のペプチド部分にアミド結合を介して結合している各アミノ酸単位を意味する。
【0052】
“バイオマーカー”とは、薬剤の投与に相関して特異活性を示すマーカーを意味する。バイオマーカーの例として、細胞表面レセプター、可溶性メディエーター、mRNAメッセージ、または調整され且つ測定可能なin vivo応答が挙げられるが、これに限定しない。
【0053】
“有効量”とは、本発明の化合物または組成物が、所望のまたは記載の免疫学的効果あるいは治療上の効果をもたらす量を意味する。
【0054】
“IL10”は、多くの場合、炎症応答の下流で調整に関わる内在性のメディエーターである。IL10の直接的な内生産生は効力を最大化し毒性作用を最小化すると考えられる。
【0055】
“免疫細胞”とは、宿主免疫系全体の応答を進行させるか停止させるかすることが可能な任意の細胞を意味する。一般的にこれらの細胞は“白血球”と称されるが、この範疇に限る必要はない。免疫細胞の例として、T細胞およびB細胞、単核細胞、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞、抗原提示細胞、および多形核白血球が挙げられる。
【0056】
用語“炎症”“炎症応答”“前炎症応答”またはそれに類する表現は、内因的または外因的な組織損傷により引き起こされる複雑な身体過程を意味する。そのような損傷に対する免疫応答にはサイトカイン、例えばインターロイキン(IL−)1、IL−6および腫瘍壊死因子(TNF)−α(これに限定はしない)ならびにケモカイン、例えばIL−8、インターフェロンγおよびマクロファージ誘導たんぱく質(MIP)−1β(これに限定しない)のような可溶性因子の誘導が関与する。更に数種の免疫細胞群も免疫応答に関与し、例えば好中球、マクロファージおよびリンパ球が挙げられるが、これに限定しない。炎症は保護機能として進化するあるいは誘導されると考えられる反面、炎症病変の多くの例はそれと相対する(例えば炎症性腸疾患、過度の術後癒着形成、膿瘍形成、その他多くの疾患)。
【0057】
用語“抗−炎症”“抗−炎症性”またはそれに類する表現は、それにより免疫応答が減弱または逆転するような任意のプロセスを意味する。このようなプロセスには、IL10のような可溶性メディエーターの誘導、あるいは制御性T細胞(Treg)のような細胞群の誘導が含まれるが、これに限定しない。
【0058】
“免疫応答”とは、免疫系の前−炎症応答または抗−炎症応答のいずれかを意味する。
【0059】
用語“調整する”“調整”またはそれに類する表現は、選択されたパラメーターの増加または減少のいずれかを意味する。
【0060】
“正味荷電”とは、イオン種の有する電荷の算術和を意味し、例えば電荷(−)を示すペプチドは正味の負電荷であり;電荷(+、−、−)を示すペプチドは正味の負電荷であり;電荷(+、+、−)を示すペプチドは正味の正電荷であり;電荷(−、−)を示すペプチドは正味の負電荷であり;電荷(+)を示すペプチドは正味の正電荷である、等。特記すべきは、電荷(+、−)を示すペプチドは正味荷電を有さないことである。
【0061】
“非−免疫細胞”とは、通常は免疫応答に関与しないが、免疫系の産物により調整され得る細胞を意味する。
【0062】
用語“患者”または“被験体”は、人やその他の霊長類を含む哺乳動物およびその他の動物を意味する;伴生種、動物園や農場の動物、例えば猫、犬、げっ歯類、馬、牛、羊、豚、山羊;家禽;等が含まれるが、これに限定しない。
【0063】
“ペプチド”とは、アミド結合により連結されたアミノ酸残基を含むポリマーを意味する。
【0064】
“製薬学的に入手可能な塩”とは、本発明の化合物の、無機および有機の、比較的無毒な酸付加塩および塩基付加塩を意味する。これらの塩は、化合物の最終的な単離精製段階で、in situで製造できる。特に酸付加塩は、遊離塩基の形の精製化合物と好適な有機酸または無機酸とを反応させ、形成された塩を単離することにより、個々に製造できる。酸付加塩の例として、ヒドロブロミド、ヒドロクロリド、スルファート、ビスルファート、ホスファート、ニトラート、アセタート、オキサラート、バレラート、オレアート、パルミタート、ステアラート、ラウラート、ボラート、ベンゾアート、ラクタート、ホスファート、トシラート、シトラート、マレアート、フマラート、サクシナート、タルトラート、ナフチラート、メシラート、グルコヘプトナート、ラクチオビオナート、スルファマート、マロナート、サリチラート、プロピオナート、メチレン−ビス−β−ヒドロキシナフトアート、ゲンチサート、イセチオナート、ジ−p−トルオイルタルトラート、メタンスルホナート、エタンスルホナート、ベンゼンスルホナート、p−トルエンスルホナート、シクロヘキシルスルファマート、キナーテスラウリルスルホナート塩および類似物が挙げられる。例えばS.M.Berge等による“Pharmaceutical Salts”J.Pharm.Sci.,66.1〜19(1977)を参照のこと、参照により本明細書にその内容が組み込まれたものとする。塩基付加塩も、酸の形をした精製化合物と好適な有機塩基または無機塩基とを反応させ、形成される塩を単離することにより個々に製造できる。塩基付加塩は、製薬学的に入手可能な金属塩およびアミン塩を含む。好ましい金属塩には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、マグネシウムおよびアルミニウム塩が含まれる。ナトリウム塩およびカリウム塩が好ましい。好ましい無機塩基付加塩は金属塩基から製造され、例えばナトリウムヒドリド、ナトリウムヒドロキシド、カリウムヒドロキシド、カルシウムヒドロキシド、アルミニウムヒドロキシド、リチウムヒドロキシド、マグネシウムヒドロキシド、亜鉛ヒドロキシドが含まれる。好ましいアミン塩基付加塩は安定な塩を形成するのに十分な塩基度を示すアミンから製造され、中でも好ましいのは、毒性が低く医療分野での使用が可能なことから薬化学において汎用されるアミンであり、例えばアンモニア、エチレンジアミン、N−メチル−グルカミン、リジン、アルギニン、オルニチン、クロリン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、ジエタノールアミン、プロカイン、N−ベンジルフェネチルアミン、ジエチルアミン、ピペラジン、トリス(ヒドロキシメチル)−アミノメタン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルアミン、ジベンジルアミン、エフェナミン、デヒドロアビエチルアミン、N−エチルピペリジン、ベンジルアミン、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミン、塩基性アミノ酸、例えばリジンおよびアルギニン、ジシクロヘキシルアミン、および類似物である。
【0065】
“実質的に純粋”とは、約90%〜約100%、好ましくは約95%〜約100%、より好ましくは約97%〜約100%の範囲の純度を意味し、個々の値90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%および100%あるいはその中の任意の範囲を含む。本発明の化合物は、実質的に純粋な形または単離した形で得られ、生物学的不純物を多くは含まず、免疫調整活性を有する別の分子を含有し、この分子は天然細菌源からペプチドグリカンを単離獲得する際に常在する分子である。
【0066】
本明細書で定義する“合成多糖抗原”または“SPA”は、合成された、実質的に純粋な直鎖で非架橋性の、N−アシルグルコサミニル−β−[1,4]−N−アシルムラミル−ペプチドのポリマーである。このペプチドは2つ以上のアミノ酸を有しており、天然または非天然構造で、DまたはL立体配置を示す。本明細書に記載される純粋な合成多糖抗原は、細菌細胞壁から本来生じるはずの不純物を殆ど完全に排除している。このような抗原は任意且つ公知の化学的方法または酵素学的方法で天然源から入手できるものではない。この定義に含まれるのは、未変性で非架橋性の細菌ペプチド配列であるが、これに限定しない。本明細書に記載される化合物1および2は合成ペプチドグリカン(PG)であり、特にSPAである。SPAは全合成により製造できる。
【0067】
“末端基”:本発明の合成ポリマーは、遊離還元アノマーアルコールを有するムラミン酸残基で終結している。グリコピラノシル構造を有するN−アセチルムラミル末端をアリールアミンで処理するとC−1N−アリール誘導体を形成し、アリールヒドラジンで処理するとC−1ヒドラゾンを形成することは、当業者の知るところである。更に、溶菌性トランスグリコシラーゼ(例えばDijkstra等(1994)Curr.Opin.Struct.Biol.4:810)によって合成ポリマーを特定の酵素で切断するとムラミル−[1,6]−アンヒドロ結合を有する末端が生じ、これは得られるアノマー炭素の化学修飾に使用できる。
【0068】
“制御性T細胞”または“Treg”は、in vitroおよびin vivoで炎症性エフェクターT細胞を抑制することのできる免疫制御性T細胞の特殊系統を意味する。Tregは、CD4およびCD25(CD4+/CD25+)のような特定の細胞表面マーカーを発現することに特徴を有する。
【0069】
“両性イオン”とは、多糖反復単位毎あたりの単分子双極子イオン、または多極子イオンを意味し、例えば電荷(+、−)、(+、−、−)を有する分子等である。
【0070】
本発明の免疫調整薬
本発明の式Iの化合物は直鎖で非架橋性のポリマーであり、これには種々のホモポリマーおよびコポリマーが含まれる。このようなポリマーは例えばN−アセチルグルコサミンから化学的酵素学的に全合成して製造できる。更にその構造によって、本発明の化合物は炎症性または抗−炎症性のいずれかを示すことができる。
【0071】
以下に示す化合物1は、式VIの化合物であり、抗−炎症性免疫調整薬の例である。化合物1は記載の反復単位を有するホモポリマーであり、分子量は150kDa付近に分布する。このポリマーは吸湿性を有する白色粉末で水または生理食塩水に可溶性である。

化合物1
【0072】
細菌細胞壁の天然ペプチドグリカンは単一共有結合閉環型高分子であり、細胞周期に亘って細菌細胞の形状を精密に規定するものである。ペプチドグリカンは、高分子ペプチドグリカンのグリカン鎖の厳密に平行な軸により構成され、反復単位はβ−[1,4]−結合N−アセチルグルコサミニル−β−[1,4]−N−アセチルムラミルペンタペプチドである。グリカン鎖はらせん状で、らせんが完全に一回転する間に反復単位は約4個含まれる。より柔軟なペンタペプチド軸はムラミン酸残基のラクチルカルボキシルを発端にNからCへ伸長する。ペプチドは一般的にH2N−Ala−D−iso−Glu(またはiso−Gln)−Lys(またはジアミノピム−エラート、DAP)−D−Ala−D−Ala−COOHである。ペプチドは供与鎖のLys(またはDAP)と受容鎖の末端から2番目のD−Alaのカルボニルの間で架橋されていてよい。生存細胞の実際の架橋率は属によって変化し、常に100%を下回る。これに対し本発明の化合物は直鎖である、すなわちペプチド内に架橋は存在しない。
【0073】
以下に示すように化合物1は、腹腔内膿瘍および術後癒着モデルにおける炎症の誘導に対し保護に働く。下記の実施例で例証するように、この分子が誘起する保護機能のメカニズムに関する調査から、本発明の化合物が免疫細胞群の中で最も強力な抗原提示細胞(APC)である樹状細胞の成熟を阻害するであろうことが明らかになる。未熟APCは共刺激によりT細胞に信号を送ることができないので、T細胞を活性化できない。ヒトPBMCに化合物1を処理してもT細胞の活性化または増殖を促進できない。ヒトPBMCに式VIで示される別の化合物を処理してもT細胞の活性化または増殖を促進できない。このことは、これまで議論されてきた両性イオン性多糖および天然ペプチドグリカンのいずれに関する文献見地からも全く予期できないことである。両性イオン性多糖および天然ペプチドグリカンの両者ともT細胞の活性化に係るマイトジェンとして報告されてきた(PCT国際公開WO00/59515;Kalka−Moll等(2000)J.Immunol.164:719〜724;Tzianabos等(2000)J.Biol.Chem.275:6733〜6738;Levinson等(1983)Infect.Immun.39:290〜296)。更に、化合物1はin vitroにおいてレポーター細胞のToll様レセプターを刺激できない、あるいはPBMC培養液中で炎症性サイトカインの発現を促進することができない、即ちTLR2またはその他のTLR(Schwander等(1999)J.Biol.Chem.274:17406〜17409;Medzhitov等(2001)Nat.Rev.Immunol.6:135〜145)が刺激されてAPCが成熟し、その後、抗原の存在下に2種類の細胞間で期待されるコグネイト相互作用が起こり、それによりT細胞が活性化される場合に生じると思われる事象が実現できない。式VIの別の化合物はTLR2または別のTLRのリガンドではないと考えられる。発明者等は、式VIの分子で処理後、PBMC培養液中に存在するCD4+CD25+細胞の数が増加するとも予測し、このような分子の処理が培養液中の制御性T細胞を刺激する未熟APC群を生じると仮定した。この仮説は、化合物1で処理した後に抗−CD3抗体で刺激したPBMC培養液中でT細胞の増殖が抑制されるという機能上の所見からも支持される。
【0074】
最後に、発明者等は、ヒトPBMCをin vitroにおいて化合物1で処理した際に、応答としてはIL10の発現が最も顕著であるという意外な発見をした。IL2、IFN−γ、TNF−α、IL6またはIL12の発現はほとんど観察されない。IL10は様々な形態の効果を有するII型サイトカインである(Moore等(2001)Annu.Rev.Immunol.19:683〜765)。エフェクターT細胞(Morel等(2002)Immunol.106:229〜236)、樹状細胞(Martin等(2003)Immunity18:155〜167)および他の抗原提示細胞(Williams等(2002)J.Leuko.Biol.72:800〜809)が強力な抗−炎症活性、下流調整型の炎症応答を示すことが知られている。IL10はT細胞、樹状細胞、単核細胞(Moore等(2001)Annu.Rev.Immunol.19:683〜765)および制御性T細胞(Treg)(Suri−Payor等(2001)、J.Autoimmun.16:115〜123)として知られるT細胞の特殊なサブセットを含む種々の細胞から産生される。多くの場合、このサイトカインは免疫系の機能的釣り合いの維持に助力する。IL10は宿主に有害であると考えられる歯止めのない炎症応答を抑制する働きを持つ(Moore等(2001)Annu.Rev.Immunol.19:683〜765)。
【0075】
これらの結果は、免疫系による細菌ペプチドグリカンの認識を掲げた文献の内容に真っ向から対するものである。更に、本明細書に記載する式VIの化合物が抗−炎症応答を刺激することは全く新規の内容であり、前記の天然ペプチドグリカンに関して近年の明らかにされてきた内容、即ち細菌ペプチドグリカンが有力な炎症薬であるという見地から予期できぬことである。従って、天然ペプチドグリカン強い炎症性を示すのに対し、本発明の式VIの化合物は抗−炎症性を示す。式VIの化合物がin vitroで抗炎症活性を示すという発明者等の意外な発見は、細菌の精製ペプチドグリカンの活性に関してこれまで掲載された結果と明らかに異なるので、炎症動物モデルでの化合物1の活性の試験に着手することとなった。以下に記載するように、この合成ペプチドグリカンは病理学的炎症動物モデルにおいて保護的な治療効果をもたらす。
【0076】
化合物2は、本発明の式Vの化合物の代表例であり、炎症性免疫調整薬の例である。

化合物2
【0077】
この分子はTLR2を活性化し(データ無し)、以下に示すように、ヒトPBMCにより前−炎症性サイトカインTNF−αの僅かな産生を誘導する。化合物2の僅かな前−炎症活性は、細菌を原料として単離した天然ペプチドグリカンの強力な炎症活性と異なる。この相違は、細菌から単離された異質材料中に存在する多くの生物学的不純物の存在および活性が最大の原因であると考えられる。
【0078】
直鎖で非架橋性の式Iのポリマー:

式I
は、n個のYmで示される独立したモノマー単位を含む。下付き文字nはポリマー中の式Ymで表されるモノマー単位の数を示し、2〜375の範囲の1つの整数である。例えばn=2のときは2個のモノマー単位:Y1およびY2が存在する。n=3のときは3個のモノマー単位:Y1、Y2およびY3が存在する。n=375のときは375個のモノマー単位:Y1、Y2、…、Y374およびY375が存在する。
【0079】
上付き文字mは左から右へ並ぶポリマー中の特定のモノマー単位Ymの位置を示し、1〜nの連続した整数である。Y1はX1に直結し、YnはX2に直結する。配列を以下に例証する:
【表1】

【0080】
各モノマー単位Ym(すなわち、各Y1、Y2、…、Yn-1およびYn)は独立して選択され、全て同一でも、全て異なっていても、その任意の組合せでもよい。従って本発明はホモポリマー(即ち全て同一のモノマー)およびコポリマー(即ち2種類以上の異なるモノマー)を含む。コポリマーは、ランダム共重合体、ブロック共重合体または交互共重合体であってよい。例えば、Y1およびY2が2種類の異なる式Ymモノマー単位である場合、ポリマーの型は以下に例証されるものであり得る:
【表2】

【0081】
式Iのポリマーで、式Ymで表される各モノマー単位は独立して:
(a)YmがYnでない場合、式IIaの基であるか;または

式IIa
(b)YmがYnである場合、式IIbの基である:

式IIb
【0082】
式Ymで表される各モノマー単位は独立した一組の変数:Rm1およびRm2含み、以下に例を示す:
【表3】

【0083】
従って、n個のモノマー単位Ym(即ちY1、Y2、…、Yn-1およびYn)を含むポリマーは二組の変数を有する。
一組目:R11、R21、R31、…、Rn-11、Rn1
二組目:R12、R22、R32、…、Rn-12、Rn2
【0084】
各組合せにおいて、変数は独立して選択され、全て同一であるか、全て異なるか、その任意の組合せである。即ち、R11、R21、R31、…、Rn-11、Rn1は独立して選択される。同様に、R12、R22、R32、…、Rn-12、Rn2は独立して選択される。
【0085】
n=2である式Iのポリマーの例を以下に示す:

式中、R11およびR21は独立して選択され、R12およびR22も独立して選択される。
【0086】
同様に、n=3である式Iのポリマーの例を以下に示す:

式中、R11、R21およびR31は独立して選択され、R12、R22およびR32も独立して選択される。
【0087】
以下の構造を有する二糖類モノマーGMDP(N−アセチルグルコサミニル−N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン)およびGMDP−A(N−アセチルグルコサミニル−N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−グルタミン酸):

GMDP


GMDP-A
は炎症応答を誘導すると報告されている(米国特許明細書第4,395,399号参照)。同様に、高分子細菌ペプチドグリカンの購買入手可能なサンプル(Staphylococcus aureus,Sigma;Streptococcus pyogenes,Lee Laboratories)は、強力な炎症作用を示す(Staophylococcus属>Streptococcus属)。これらの物質が組成物中で不均質である間に、より小さな二糖類断片(そのうちの幾つかはペプチド架橋されている)をHPLCで精製して特徴づけたが、これも炎症性である。これらの物質の炎症能はその構造に依存すると報告されている(Tuomanen等(1993)J.Clin.Invest.92:297)。生物学的活性を有することが報告されている中で最小のペプチドグリカン断片はムラミルジペプチド(またはMDP)であり、その生物学的活性は自然界で炎症性である(Chedid(1983)Microbio.Immunol.27:723)。実際、以下に示すMDPおよびMDP−Aのモチーフは公知の炎症性化合物の一般的特徴である:

MDPモチーフ


MDP−Aモチーフ
【0088】
発明者等は、炎症応答を誘導するには、式Iの化合物が最低でも以下のモチーフの1つを有さなければならないことを発見した:

GMPDモチーフ


GMDPモチーフ
【0089】
これらのモチーフが存在しないか修飾されている場合、ポリマーは抗−炎症応答を誘導すると考えられる。2番目のアミノ酸(D−iso−GluまたはD−iso−Gln)が側基のカルボキシルを欠如している場合あるいは側基のカルボキシルがL立体配置である場合、炎症活性は完全に抑制される(Girardin等(2003)J.Biol.Chem.278:8869)。残りの3つのアミノ酸(Lys−D−Ala−D−Ala)を1つ以上付加することにより活性は保持される。化合物2がヒト抹消血単核細胞から前−炎症応答を引き出すことを以下に示す。この高分子の構造は−[NAG−NAM]n−トリペプチドであり、ここでnはその分布が約135付近に集中する整数であって、トリペプチドは未変性の細菌配列である(Ala−D−iso−Glu−Lys)。更に、化合物1が種々の生物学的系で抗−炎症応答を引き出すことを以下に示す。この分子は2つ目のアミノ酸がその側基カルボキシルを欠如している以外、化合物2と同じである。
【0090】
式Iの化合物の幾つかは炎症応答も誘導し、例えば、式Ymで表されるモノマー単位の1つ以上が:
(a)YmがYnでない場合、式IIIa:

式IIIa
で表される基であるか;または
(b)YmがYnである場合、式IIIb:

式IIIb
で表される基であり、
ここで、
各R13、R3、...、Rn-13およびRn3が、独立して、−OHまたは−NH2であり;
各R14、R4、...、Rn-14およびRn4が、独立して、−OHまたは−NH2、アミノ酸基、または2〜8個のアミノ酸基を含むペプチドであり、ここで:
(f)各アミノ酸基は、独立して、DまたはLの立体配置を示し;
(g)各アミノ酸基は、非置換であるかまたはハロ、アルキル、ヒドロキシ、アルコキシ、フェノキシ、CF3、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、−C(O)Oアルキルおよび−NO2から成る群より選択される1つ以上の基で置換されており;
(b)アミノ酸基は、独立して、γカルボキシル基のα位、ならびにαまたはεアミノ基で結合しているかまたはそれらの組合せである。
【0091】
これらの炎症性化合物を本明細書中では式Vの化合物と称する。その例は本明細書に記載される化合物2とGMDPおよびGMDP−Aのポリマーである。
【0092】
これに対し、式Iの化合物の幾つかは抗−炎症応答を誘導し、例えば式Ymで表されるモノマー単位は以下のものでない:
(a)YmがYnでない場合、式IIIa:

式IIIa
で表される基;または
(b)YmがYnである場合、式IIIb:

式IIIb
で表される基、
ここで、
各R13、R3、...、Rn-13およびRn3が、独立して、−OHまたは−NH2であり;
各R14、R4、...、Rn-14およびRn4が、独立して、−OHまたは−NH2、アミノ酸基、または2〜8個のアミノ酸基を含むペプチドであり、ここで:
(h)各アミノ酸基は、独立して、DまたはLの立体配置を示し;
(i)各アミノ酸基は、非置換であるかまたはハロ、アルキル、ヒドロキシ、アルコキシ、フェノキシ、CF3、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、−C(O)Oアルキルおよび−NO2から成る群より選択される1つ以上の基で置換されており;
(c)アミノ酸基は、独立して、γカルボキシル基のα位、ならびにαまたはεアミノ基で結合しているかまたはそれらの組合せである。
【0093】
これらの抗−炎症性化合物を本明細書中で式VIの化合物と称する。本発明の化合物ではないが、式IIIaおよびIIIbの基を有する化合物1は抗−炎症性化合物の一例である。
【0094】
先の例は例証を目的とするだけで、本発明の範囲を狭めるものではないことを明確にしておく。
【0095】
細菌ペプチドグリカンおよび合成多糖抗原の樹状細胞との相互作用
多くの細菌抗原は病原体関連微生物パターン(pathogen−associated microbial patterns、PAMP)と称される高度に保存された構造モチーフを介して免疫系に信号を送っている(Medzhitoz(2001)Nat.Rev.Immunol.135〜145)。PAMPは種々の抗原提示細胞に存在するToll様レセプター(TLR)と相互に作用してシグナルカスケードを開始し、その結果IL12およびIL6のような前−炎症性サイトカインならびに種々のケモカインが発現される(Janeway等(2002)Annu.Rev.Immunol.20:197〜216)。TLRを介した抗原提示細胞、特に樹状細胞の活性化は、成熟過程を導き、この過程は表面MHCII分子ならびにCD80およびCD86のような共−刺激分子の発現増加により特徴付けられる(Chakraborty等(2000)Clin.Immunol.94:88〜98)。このカスケードは生得的免疫系の初期防御分子を秩序立って配列しているので侵入に迅速な応答ができ、長い期間を経て獲得された適応免疫(T細胞への抗原提示を介する)へ繋ぐための基礎を形成している(Keller(2001)Immunol.Lett.78:113〜122)(図1参照)。化合物1は天然細菌細胞壁由来のペプチドグリカンを模倣したものであるが一本鎖であるので、このポリマーが、TLRを介して信号を送ることのできるPAMPを有していると考えられる。実際、天然のペプチドグリカンはTLR2のリガンドである(Schwandner等(1999)J.Biol.Chem.274:17406〜17409)。意外にも、本明細書に記載するように、式VIの化合物の代表例である化合物1は、ヒトまたはその他のげっ歯類細胞のいずれで試験してもTLR2またはその他のTLRを活性化しない。このことは、化合物1で刺激するとPBMC培養液中でIL12、IL6またはその他の前−炎症性サイトカインが発現しないことからも明らかである。更に、ヒト単核細胞誘導樹状細胞はこの化合物の刺激で成熟しない。樹状細胞が最も強力な抗原提示細胞であり、分子を多く取り込んで細胞内空砲へ集結させるにもかかわらず、化合物1で処理した後、未熟樹状細胞はその表面に存在するMHCII、CD80またはCD86による特徴的なアップレギュレーションを起こさない。
【0096】
細菌のリポ多糖(LPS)は強力なTLR4作用物質であり(Beulter(2002)Curr.Top Microbiol.Immunol.270:109〜120)、未熟樹状細胞への成熟シグナルとして一般的に使用される(Ardavin等(2001)Trends Immunol.22:691〜700)。LPSは特に樹状細胞上のCD80およびCD86のような共−刺激分子をアップレギュレートする(Michelsen等(2001)J.Biol.Chem.276:25680〜25686)。これらの表面分子はT細胞にシグナルを送って炎症応答のようなエフェクター機能を補助するのに必須のものである。未熟樹状細胞が化合物1およびLPSで共−刺激されてもCD80およびCD86はアップレギュレートされず、このことは式VIの化合物が樹状細胞の成熟を阻止することを示唆している。
【0097】
樹状細胞
樹状細胞(DC)は、殆ど全ての器官で見出される抗原提示細胞の主要なファミリーである。樹状細胞のサブタイプは明確に定義されており、これらの細胞種がその寿命の間に幾つかのレベルの分化および成熟を通して進化することが証明されている(Jonuleit等(2001)Trends in Immunol.22:394〜400)。未熟樹状細胞は、MHCII分子を僅かしか発現せず、同様に共−刺激分子CD80およびCD86も限られた発現しか示さないことに特徴を有する。これらの表面分子の発現は、INFγのような炎症刺激に対する応答または細胞抗原との相互作用を介したTLRの活性化に対する応答において、劇的にアップレギュレートされている。機能上、抹消の未熟DCは特に抗原の捕捉および処理に精通している。成熟DCはこのような活性をダウンレギュレートし、MHCIIによる抗原提示ならびにCD80およびCD86による共−刺激を介してナイーブT細胞を刺激する能力を強くアップレギュレートする(Banchereau等(2000)Annu.Rev.Immunol.18:767〜811)。図1に要約を示す。
【0098】
炎症が起きていない場合、多くの抹消DCは未熟状態で、この細胞が抹消T細胞の寛容性(自己認識)の維持、T細胞のアネルギー化の誘導、自己免疫からの保護に重要な役割を果たしていると考えられる(Jonuleit等(2001)Trends in Immunol.22:394〜400)。
【0099】
本明細書に記載するように、未熟樹状細胞に化合物1を処理すると、強力な炎症刺激(LPS)が存在しても、その成熟能が阻害される。未熟または半−成熟(CD80およびCD86が僅かしか発現していない)樹状細胞による免疫調整の結果は十分に把握されていない(Lutz等(2002)Trends Immunol.23:445〜449)。炎症の許容または抑制に対し適応免疫が誘導されるかどうかは、抹消に存在する完全に成熟したDCに対する未熟または半−成熟DCの割合によって決定されるであろうことが示唆されている(Jonuleit等(2001)Trend in Immunol.22:394〜400);Garza等(2000)J.Exp.Med.191:2021〜2028)。式VIの化合物を処理して未熟DC群を化学療法的に維持すると、T細胞とDC間のコグネイト相互作用が阻害され、それにより炎症刺激に応答する抗原−特異的エフェクターT細胞のクローン性増殖が妨害される。しかし、本明細書に記載する内容全体の所見からは、式VIの化合物の処理により産生された未熟DCが炎症性エフェクターT細胞の活性を直接阻害する制御性T細胞群を誘導し、それにより炎症病変に対する保護機能が働くと考えるのがより賢明と思われる。その証拠は文献にも記載されており、未熟DCはin vivoで制御性T細胞を誘導する、更に言えば、未熟DCが制御性T細胞を誘導して動物を特にインフルエンザウイルスの感染から防御したり、移植モデルにおける拒絶反応を回避したりする(Jonuleit等(2001)Trend in Immunol.22:394〜400);Dhodapkar等(2001)J.Esp.Med.193:233〜238;Thomson等(1999)Transplant.Proc.31:2738〜2739)。これらの試験では、未熟DCをex vivoで増殖させて動物に投与している。式VIの化合物は特殊な治療を可能にし、自己由来DCまたは免疫適合性DCをex vivoで処理して長期間未熟な状態を保ち、その後、改めて被験体へ導入しT細胞の制御能を刺激する。
【0100】
制御性T細胞
幾つかの研究室が行った最新の研究から、未熟樹状細胞が制御性T細胞産生に関わる重要な成分であることが証明された(Jonuleit等(2001)Trend Immunol.22:394〜400)。制御性T細胞は、抹消の寛容を維持し、自己免疫から保護し、微生物の侵入または組織損傷に対して適切な応答ができるように炎症を調整し、同時に第三者による有害な作用から宿主を保護している(Maloy等(2001)Nat.Immunol.2:816〜822)。
【0101】
最もよく研究されているTregの表現型は、表面マーカーであるCD4およびCD25の構成的発現を特徴とする(Shevach(2002)Nat.Rev.Immunol.2:389〜400)。この表現型の制御性T細胞はげっ歯類(Taylor等(2001)J.Exp.Med.193:1311〜1317)および人間(Jonuleit等(2001)J.Exp.Med.193:1285〜1294の両方で、in vitroおよびin vivoのいずれでも同定されている。CD4+CD25+T細胞は抹消循環中に約2〜10%の割合で自然発生する(Shevach(2002)Nat.Rev.Immunol.2:389〜400)。CD4+CD25−標的細胞とCD4+CD25+制御性T細胞とを共培養すると、抗CD3抗体または同種異型APCのような強力な増殖シグナルが存在しても、制御性T細胞はCD4+CD25−標的細胞の増殖を阻害する(Pasare等(2003)Science299:1033〜1036)。制御性T細胞をin vivoで産生するための確立した化学的手段を記載した報告書はこれまで存在しない。文献で報告されている最近の研究は、CD4+CD25+Treg細胞がin vitroでIL10を発現することを示している(Shevach(2002)Nat.Rev.Immuno.2:389〜400)。更に炎症モデルにおいては、IL10ノックアウト動物でCD4+CD25+細胞は炎症を阻害できなかった(Shevach(2002)Nat.Rev.Immuno.2:389〜400)。これらの研究は、制御性T細胞の抗−炎症活性のメカニズムがIL10の発現を介するものであるという所見を強く支持するものである。幾つかの研究室で実施された精密且つ簡潔な研究(Jonuleit等(2001)J.Exp.Med.193:1285〜1294;Levings等(2001)J.Exp.Med.193:1295〜1302;Dieckman等(2001)J.Exp.Med.193:1303〜1310)は、CD4+CD25+T細胞が確かにIL10および/または他のサイトカインを発現する一方、CD4+CD25+T細胞が炎症性T細胞を抑制するメカニズムは細胞−細胞接触に依存することを示している。CD4+CD25+T細胞とその標的との最初の相互作用ではサイトカイン発現の果たす役割はない。最近、この一見矛盾しているように思われる2つの所見がディックマン等の研究により明らかにされた(Diekman等(2002)J.Exp.Med.196:247〜253)。この研究グループはまた、CD4+CD25+T細胞が細胞−細胞接触を介して炎症性T細胞と相互作用することを記載している。この接触により変換されるシグナルの厳密な性質はまだ知られていないが、研究者等は接触の重要な結果の1つとして、標的細胞(即ちCD4+CD25+T細胞)がアネルギー化され、IL10の高レベルな発現が開始されることを記載している。制御性T細胞が免疫系全体では比較的稀有であるので、制御性T細胞は抗−炎症作用を増幅するメカニズムを提供すると考えられ、このことはCD4+CD25+T細胞に関わる全身性の抗−炎症作用においてIL10が果たす役割を示すデータの内容を説明するものである。
【0102】
以下に記載するように、化合物1を処理したヒトPBMC培養液は、フィトヘマグルチニン(PHA)のようなポリクローナルマイトジェンまたはStaphylococcus aureusエントロトキシンA(SEA)のような超抗原を処理したコントロール培養液と比べ、増殖応答を起こさない。更に、化合物1を処理したPBMC培養液を抗−CD3抗体で刺激した場合、未処理のコントロールと比べて培養液の増殖能が強く抑制される。更にマイクロアレイ分析から、化合物1と抗−CD3抗体とを処理したPBMC培養液が、CD3+T細胞群でIL10およびIL19(IL10パラログ)メッセージの発現を選択的にアップレギュレートする一方、IL17およびTNFβのような数種の炎症性サイトカインをダウンレギュレートすることが分かった。
【0103】
これらを考え合わせると、データは、化合物1に代表される式VIの化合物が樹状細胞の成熟を阻止することを示唆している。未熟樹状細胞は制御性T細胞を増殖させる特殊能力を有している。Treg細胞は、その後、細胞−細胞シグナリングならびに炎症部位でのアネルギー化T細胞からのIL10の発現を刺激することにより炎症応答を妨害する。
【0104】
IL10の治療的実用性
免疫療法として組み換えIL10を使用するという発想は広く受け入れられている(Madsen(2002)Gastroenterl.123:2140〜2144);Barnes(2001)Curr.Opin.Allergy.Clin.Immunol.1:555〜560;Bremeanu等(2001)Int.Rev.Immunol.20:301〜331;St.Clair(2000)Curr.Cir.Autoimmun.2:126〜149)。IL10が効果を有することを示す、例えば炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、慢性関節リウマチ、自己免疫性糖尿病およびアレルギー性疾患等の動物炎症モデルが多数存在する(Madsen(2002)Gastroenterol.123:2140〜2144;Barnes(2001)Curr.Opin.Allergy Clin.Immunol.1:555〜560;Bremeanu等(2001)Int.Rev.Immunol.20:301〜331;St.Clair(2000)Curr.Dir.Autoimmun.2:126〜149)。しかし、炎症性腸疾患の治療に組み換えIL10を用いた臨床試験では雑多な結果となった。繰り返し多量投与する条件では、数例で毒性を示し、効果を発揮できなかった。制御性T細胞の活性を介して内在IL10を選択的に産生する個体免疫系を利用すれば、より好ましい免疫療法手段になると思われる。宿主の免疫系の範囲で調整して内在IL10を発現させれば、反復投与の条件またはサイトカイン毒性の問題が回避され、好ましい形で効果が得られると考えられる。更に、ある細胞群を選択的に強化すれば、強力なサイトカイン等の理想的な輸送系が確立できると考えられる。免疫細胞群の本来の性質は、体内の炎症部位への輸送能である。式VIの化合物を処理した樹状細胞を介する特別な輸送シグナルを受けた免疫細胞群は、特定部位に集積して、局部的にIL10の発現を誘導すると考えられる。このような治療的アプローチは、強力なサイトカインを全身投与した際に生じる問題を回避し、免疫メディエーターが有する元来の局部的作用をより好ましい形で擬態すると考えられる。
【0105】
腹腔内膿瘍
腹腔内膿瘍は、腹腔が結腸細菌に汚染された結果形成される。腹腔内膿瘍は一般的に外傷または外科的処置により生じるものである。細菌は様々な炎症応答を刺激し、結果、マクロファージ、多形核白血球(PMN)、リンパ球を動員し、IL1β、TNFα、TNFβ、IL17のような種々の炎症性メディエーターおよび多数のサイトカインを放出させる(Whal等(1986)J.Exp.Med.163:884〜891;Tzianabos等(2002)Curr.Opin.Micro.5:92〜95)。この応答が誘導し得る1つの結果は、フィブリン層で織編された種々の免疫細胞による侵入細菌の封入である。一度形成されると、膿瘍は抗生物質療法にかなりの耐性を示し、患者はしばしば膿瘍を取り出すために外科的処置を求める。危険を承知で予防のために抗生物質を投与しても、この処置は必ずしも好結果に至らない。制御性T細胞の活性およびIL10の発現を介して宿主の応答を調整することで膿瘍の形成を初期の段階で食い止めるという方法がより好ましい治療形態であり、危険な外科的処置に変わって一般的治療法と成り得ると考えられる。
【0106】
術後癒着
術後癒着は、腹部の手術、婦人家系の手術、整形外科系の手術および心胸部の手術で生じる重篤な合併症である。腹腔および骨盤腔では高い罹患率を示し致命傷となることもある。症状発現前のモデルでは、IL10を外から投与することで癒着の形成が抑制された(Laan等(1999)J.Immunol.162:2347〜2352;Chung等(2002)J.Exp.Med.195:1471〜1476)。しかし、人間医学における最新治療では手術で傷ができた後に癒着が形成されるのを抑制することが求められる。その方法として術部へのジェルまたはバリア製品の導入が含まれる。これらの製品は感染速度を速め、十分な効力がなく、医療分野では使用頻度が比較的低いため、好ましい結果はあまり得られない。
【0107】
膿瘍の形成と同様に、最近の研究は癒着の形成が炎症過程の活性化にも関与していることを示唆しており、特記すべきは、炎症性メディエーターIL17の一貫した発現、フィブリンおよびその他のマトリクスたんぱく質の沈着である。これらのプロセスを考えあわせると、免疫系および線維素形成経路と創傷回復との特殊な係わり合いが明確になる。
【0108】
臨床試験バイオマーカーとして使用する遅延型過敏症のアッセイ
化合物1が炎症刺激に対する制御性T細胞群の応答を介してその保護作用を惹起するという仮説の立場から、臨床試験で活性を測定するために特別な方法を開発する必要がある。臨床実験の初期のフェーズでは一般的に健康なボランティアを対象として安全性と用量応答性を評価するので、その内容に、特異的炎症病変の誘導または測定が含まれるとは限らない。従って、この化合物の活性を測定するには、代用物としてバイオマーカーを開発する必要がある。皮膚の遅延型過敏症(DTH)反応はこの数十年の間、人がMycobaterium tuberculosis(TB)に曝露されたかを判断するために使用されており、近年では、免疫無防備状態に対するT細胞の応答性を測定するために使用されている(Anderson等(1968)Immunology15:405〜409;Gray等(1994)Curr.Opin.Immunol.6:425〜437;Kuby等(2000)Immunology,W.H.Freeman and Co.)文献に記載される実験は、DTH応答が主にT細胞によって仲介され、炎症活性はDTH細胞によってのみナイーブ動物へ選択的に伝達されることを証明している(Elices等(1993)Clin.Exp.Rheumatol.11:s77〜s80)。本明細書に記載するようにして、式VIの化合物が有する皮膚における限局的な炎症反応を制限する能力を評価するために、モルモットのDTHモデルを開発した。DTH応答の直接測定は人間およびモルモットで容易に実施および評価できる。発赤、じんま疹および/または硬化を発見でき、皮膚表面上で容易に定量測定できる。このアッセイで炎症性T細胞の活性を惹起するために使用される抗原は、Candida albicans(Candin)由来であり、昨今では移植治療を受けた患者またはAIDに罹患している患者の免疫応答能を測定するために臨床的に使用されている。また、この抗原は一般的個体群にとってTB抗原よりも安全である。CD4+CD25+制御性T細胞がC.Albucabsに対する記憶と防御免疫とに必須の成分であることが文献に報告されたが(Montagnoli等(2002)J.Immunol.169:6298〜6308)、これらの結果は、式VIの化合物の保護作用が制御性T細胞活性に由来するものであることを更に明確にしている。
【0109】
式VIの合成多糖抗原の作用機序:制御性T細胞に関する仮説
以下に記載するのは、合成多糖抗原(化合物1)のような免疫調整分子が哺乳動物において抗−炎症作用を指示および惹起するメカニズムの詳細な研究についてであり、これには制御性T細胞群の誘導も含まれる。これらの研究から以下の図式が明らかになり、図2にその要約を示している。
【0110】
図2に記載するように、式VIの免疫調整性合成多糖抗原(代表例は化合物1)は、樹状細胞の成熟を阻害する。未熟樹状細胞(iDC)は、CD80およびCD86共−刺激分子を僅かしか発現していない。この状態でiDCはナイーブT細胞と相互作用する特殊能を有し、CD4+CD25+制御性T細胞の産生を誘導する(経路B)。炎症応答に直面すると、制御性T細胞は細胞−細胞接触を介してエフェクターT細胞と相互作用し、炎症性エフェクターT細胞の増殖能を阻害する。更に、制御性T細胞とエフェクターT細胞との接触は、エフェクターをアネルギー化し、これらの細胞を刺激して多量のIL10を発現させる。前記した炎症性エフェクターT細胞に係るIL10発現の誘発は、制御性T細胞の直接的な接触がもたらす抑制作用を増幅し、進行中の炎症過程に対する保護作用を拡大する。本研究で観察された樹状細胞成熟の阻害はまた、2種類の細胞間で起こるはずのコグネイト相互作用(経路A)を欠如させて、エフェクターT細胞のクローン性増殖を阻害できる。すなわち本明細書に開示するデータは、本発明の式VIの合成多糖抗原により制御性T細胞が最終的に産生され炎症病変に対して保護的に作用するという仮説を強く支持するものである。
【0111】
式Vの合成多糖抗原の作用機序:炎症仮説
化合物2に代表される式Vの化合物は、TNF−αが産生される炎症応答を刺激する。化合物2は、細菌全体または細菌細胞壁抗原と同様の方法で、おそらくはTLR2を介して、免疫細胞と相互作用すると考えられる。この場合、式Vの化合物とTLR2−保持細胞との相互作用が炎症に特徴的なマーカーを刺激する。これは、場合によって、侵入した病原体を検出した後に炎症細胞が作用を開始することを示唆している。この考えは図8に要約されている。
【0112】
医薬品およびその処方
本明細書に記載される式Iの化合物は、その構造に応じて、炎症病変を予防または治療したりあるいは炎症が人間およびその他の動物に有益な治療効果または予防効果をもたらす病状または容態に関連して炎症を誘導したりできる。従って、本発明は1つの側面として、式Iの化合物またはその製薬学的に入手可能な塩を、製薬学的または生理学的に使用可能なバッファー、キャリアー、医薬品添加物または希釈剤ならびに任意の別の治療薬と一緒に含有する、人および獣に臨床使用できる医薬品を提供する。特記すべきは、本発明の化合物が個々に投与することも、2種類以上の化合物を含む混合物として投与することも可能な点である。本発明はまた、式Iの化合物またはその製薬学的に入手可能な塩を、炎症病変あるいは炎症免疫応答が有益な病状または容態の予防用または治療用薬剤の製造に使用することを含む。そのような使用において化合物VまたはVIのいずれを使用するかは、どのような免疫応答が治療に望ましいかによって判断される。
【0113】
本発明の化合物は製薬学的または生理学的に使用可能な溶液の形で投与でき、該溶液は塩、緩衝剤、保存剤、適合キャリアー、希釈剤、医薬品添加物、分散剤等、ならびに任意の他の治療成分を、製薬学的にまたは生理学的に許容される濃度で含有してよい。本明細書に記載の化合物1は、中性pHで水に約20mg/mLまで溶解する。更に、本化合物の水溶液は少ない質量パーセントで(約0.5〜5)、グリセロール、スクロースおよび他の製薬学的に使用可能な医薬品添加物を含有してよい。本明細書に記載の化合物1ならびに本発明の別の化合物は、従って、標準的で製薬学的に使用可能な種々の非経口製剤として処方できる。
【0114】
正味荷電および凝集
反復単位に正および負の電荷を等しく有して平衡した電荷を示す本発明の両性イオン分子は、時間が経つにつれ、相互に凝集し且つ/または電荷−電荷引力により分子内に圧縮される。本明細書に記載の化合物1は、代表的な平衡電荷両性イオン分子であり、以下に示すように、望ましい抗−炎症活性を示す。医薬品中に含まれるこの種の分子により炎症の免疫調整活性はしだいに停滞するが、表面活性剤または分散剤、例えばポリエチレングリコール、グリセロール、スクロース等を含有させて凝集を最小に留める製造技術により最適化できる。
【0115】
本発明の直鎖高分子のペプチド部位が電荷−電荷反発作用を示すため、好都合なことに、本発明の直鎖高分子は生理学的pHにおいて反復単位毎に正味の正電荷または正味の負電荷を有する。このような分子は理想的な溶液挙動を示す、即ち分子内凝集または分子間凝集を最小限に留めた広い意味での溶液となり、分子内凝集または分子間凝集といった事象は特に低いイオン強度で徐々に免疫活性を低下させると考えられる。従って、反復単位毎に正味の正電荷または正味の負電荷を有する本発明の分子は、高分子電解質と同様の挙動を示すと考えられ、向上した溶液挙動、すなわち保存が可能という利点を有することとなる。高分子電解質の電荷−電荷反発現象は、ポリ(2−ビニルピリジン)関して原子力間顕微鏡(AFM)を用いて調べることにより直接観察される(Minko等(2002)J.Am.Chem.Soc.124:3218)。更に、反復単位毎に正味の正電荷または正味の負電荷を有する式Vおよび式VIの合成多糖抗原の免疫調整活性は、分子内および分子間の電荷−電荷反発力により顕著に増加し、この反発力により分子は凝集を回避でき、細胞レセプターに対するその構造特性を厳密に保持できる。
【0116】
本発明の医薬品は、現在開示されている化合物を有効量で含有してよく、製薬学的または生理学的に使用可能なバッファー、キャリアー、医薬品添加剤または希釈剤を任意に含有する。用語“製薬学的または生理学的に使用可能なバッファー、キャリアー、医薬品添加剤または希釈剤”は、人間またはその他の動物に投与するのに適した1種類以上の相溶性の固体または液体充填剤、希釈剤、または封入材料を意味する。用語“キャリアー”は、有機成分または無機成分で、天然物または合成物であり、組み合わせることで活性成分の利用が容易になる成分を意味する。医薬品成分は、相互に、活性化合物の望ましい薬理作用が大きく損なわれる相互作用を伴わない方法で、本発明のポリマーと混合されてよい。
【0117】
非経口投与に適する組成物には、通常、滅菌水性製剤が含まれ、これは受容者の血液で等張化できる。使用可能な媒介剤および溶剤には、水、リンガー液、生理食塩水が含まれる。更に、滅菌済みの不揮発性油を溶剤または懸濁剤として使用するのが一般的である。この目的のために無刺激性不揮発性油を使用でき、これには合成モノグリセリドまたはジグリセリドが含まれる。また、オレイン酸のような脂肪酸も注射薬に有用である。皮下、筋肉内、腹腔内、静脈内等の投与に適したキャリアー成分は書籍Remington:The Science and Practice of Pharmacy、第19版、A.R.Gennaro編集、Mack Publishing Co.,Easton,Pa.,(1995)に見出すことができる。
【0118】
組成物は、単位投与量を含む形または投与単位を含む形であるのが好ましく、薬剤学で公知の任意の方法により製造できる。全ての方法には、1種類以上の補助成分から成るキャリアーに化合物を付随させる工程が含まれる。一般的に、化合物を液体キャリアーまたは超微粒子状固体キャリアー、あるいはその両方に、均一且つ完全に付随させ、その後、必要であれば製品を成形することにより、医薬品を製造する。本発明の化合物は凍結乾燥による保存が可能である。
【0119】
その他の輸送系には、定時−放出、遅延−放出または持続−放出による輸送系が含まれる。このような系であれば、抗−炎症薬または炎症薬を反復投与しなくてよく、被験者および医師の便宜も図れる。様々な種類の放出輸送系が利用でき、これらの系は当業者にも公知であり、例えばポリ(ラクチド−グリコシド)、コポリオキサラート、ポリカプロラクトン、ポリエステルアミド、ポリオルソエステル、ポリヒドロキシ酪酸、およびポリアンヒドリドのようなポリマーをベースとする系も含まれる。
【0120】
薬剤を含む前記ポリマーのマイクロカプセルは例えば米国特許明細書第5,075,109に記載される。輸送系には非−ポリマーの系、例えば:脂質、これにはステロールが含まれ、ステロールは例えばコレステロールエステル、および脂肪酸または天然脂肪であり、例えば、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリドであり;ヒドロゲル放出系;シラスチック系;ペプチドをベースとする系;ワックスコーティング;一般的な結合剤と賦形剤を用いた圧縮錠剤;部分融合した移植片;等が含まれる。特殊な例は以下のものであるが、これに限定はしない:(a)本発明の薬剤をマトリクスに内包した形で含有する侵食系、例えば米国特許明細書第4,452,775号、第4,675,189号および第5,736,152号に記載される(b)活性成分が制限された速度でポリマーから透過する拡散系、米国特許明細書第3,854,480号、第5,133,974号および第5,407,686号に記載される。更に、ポンプ型のハードウェア輸送系も利用でき、その幾つかは移植の際に採用される。
【0121】
本発明の医薬品は、現在記載されている免疫調整ポリマーを、抗生物質またはその他の治療薬、製薬学的に使用可能なバッファー、キャリアー、医薬品添加剤または希釈剤と組み合わせて含有する。本発明の免疫調整ポリマーは他の抗菌性の抗生物質と別個に輸送してもよく、あるいは抗菌性の抗生物質と混合したカクテル状の形態で輸送してもよい。抗菌性の抗生物質カクテルは本発明の分子と抗菌性抗生物質および/または補助的な薬効強化剤の混合物である。この実施態様として、一般的な投与形態(例えば錠剤、移植片、注射液等)に、天然または合成の多糖抗原および抗菌性抗生物質および/または補助的な薬効強化剤の両方を含有させてよい。また、抗菌性抗生物質を別個に投与してもよい。
【0122】
本発明に有用な抗菌性抗生物質の例を以下に挙げるがこれに限定しない:ペニシリンG,ペニシリンV、アンピシリン、アルノキシシリン、バカンピシリン、シクラシリン、エピシリン、ヘクタシリン、ピバンピシリン、メチシリン、ナフシリン、オキサシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、カルベニシリン、チカルシリン、アブロシリン、メズロシリン、ピペラシリン、アンジノシリン、セファレキシン、セファラジン、セファドキシル、セファクロール、セファゾリン、セフロキシムアクセチル、セファマンドール、セフォニシド、セフォキシチン、セフォタキシム、セフチゾキシム、セフメノキシン、セフトリアキソン、モキサラクタン、セフォテタン、セフォペラゾン、セフタジジム、イミペナム、カルブラナート、チメンチン、スルバクタム、ネオマイシン、オリタバンシン、エリスロマイシン、メトロニダゾール、クロラムフェニコール、クリンダマイシン、リンコマイシン、バンコマイシン、トリメトプリム−スルファメトキサゾール、アミノグリコシド、キノロン、トテラサイクリンおよびリファンピシン。これに関しては、Goodman&Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics,第9版、Hardman等編集、McGrrawHill,New York(1996)に留意すること。本発明の免疫調整ポリマーと組み合わせて使用する治療薬の厳密な量は種々のファクターに作用され、ファクターとしてはポリマー自体、選択された投与量および投与時期、投与法、意図される外科的手術の性質、被験者の特性が含まれる。局所投与される場合、必要とされるのはほんの僅かな量であることが分かる(ナノグラム、また可能であればピコグラム)。特に、限界量が所望の免疫応答を好ましく増大させる量であるので、過度な実験を実施しなくても厳密な量を選択できる。輸送系によっては、約1ピコグラム〜約1ミリグラムの範囲の投薬量が効果的であると考えられる;約1ナノグラム〜約1マイクログラムの範囲の投薬量も有用であると考えられる。
【0123】
投薬量、治療形式、投与
適切に選択された本発明の化合物を、術後癒着および細菌感染による腹腔内膿瘍を含む種々の炎症病変に対する保護作用を誘導するためまたは炎症が有益な治療効果または予防効果をもたらす様々な病状または障害に関連する炎症を誘導するためのいずれかの目的に有効な量で投与してよい。このような目的での有効量とは、本発明の抗−炎症性または炎症性化合物が、それぞれ、単独でまたは更なる投与であるいは付加的な治療用化合物と一緒に、炎症病変を阻害、改善または予防するかあるいは治療上有効な炎症応答を刺激するかのいずかを可能にする量である。投与量は約1ピコグラム/体重1キログラム〜約1ミリグラム/体重1キログラム、あるいは約1ナノグラム/体重1キログラム〜約1マイクログラム/体重1キログラムの範囲であってよい。絶対量は、治療すべき疾患または障害の性質がどんなものか、予定手術での投与か緊急手術での投与か、併用療法なのか、投与回数は何回か、年齢、身体条件、身長および体重を含む患者の個人的パラメーターがどんなものか、治療する疾患または障害の重症度はどの程度か、等の様々なファクターに依存し、更に決まりきった実験を行わなくても開業医が決定できる値である。極量で用いるのが一般的に好ましく、極量とは信頼に値する医学的判断に即した最大安全薬剤量である。本発明の医薬品を複数回投与することも検討されている。
【0124】
炎症病変の予防または治療を必要とする人または動物へあるいは免疫系の刺激が効果的な疾患または障害へ投与すべき化合物の至的量の決定ならびにこのような化合物を含む治療薬または医薬品の投与法の決定については、薬学、医学および獣医学に関わる当業者が熟知している。人および動物患者への投薬量は、治療すべき炎症病変あるいは他の疾患または障害、患者の状態、体重、健康状態、性別、食生活、投与時間、投与期間、投与経路、化合物の吸収速度、分布、代謝および排泄、他剤との組合せ、治療すべき炎症病変あるいは他の疾患または障害の重症度、病理学的応答性または治療すべき疾患の状態に応じて決定され、所望の有効水準を得るために容易に最適化できる。治療過程は、数日から数週間または数ヶ月に亘って、あるいは治療が効果を表すまでまたは病状が許容できる程度に軽減されるか予防されるまで継続できる。至的な投薬スケジュールは、治療の有効性に関連して患者の体内に蓄積する薬剤を測定することにより算出できる。一般的な技術を有する者であれば容易に至的投薬量、投与法および反復率を決定できる。至的投薬量は免疫調整ポリマー化合物の効力に応じて変化でき、in vitroおよびin vivo動物モデルにおいて効果的であるとされるED50に基づいて概算できる。治療すべき炎症病変または他の疾患または障害を治療または予防するための本発明の化合物の有効量、このような化合物を含む輸送媒介体、アゴニスト、および治療用プロトコールは通常の方法で決定できる。例えば医師または獣医師は、化合物の投与を要する被験体または患者に低用量で化合物を投与して治療を開始し後から投与量を増加させるかあるいは投与計画を意図的に変化させるかして、患者または被験体に及ぼす効果を監視し、所望の治療効果が最大となるように投与量または治療計画を調整することができる。投与量および治療計画の至的化に関する更なる議論についてはベネット等の著書(Benet等、Goodman&Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics,第9版、Hardman等編集、McGrawHill,New York(1996)、第1章、3〜27頁)、およびバウアーの著書(L.A.Bauer、Pharmacotherapy、A Pathophysiologic Approach、第4版、DiPiro等編集、Appleton&Lange、Stamford、Connecticut,(1999)第3章、21〜43頁)ならびに読者が参照する文献中に引用された参考文献に見出せる。
【0125】
種々の投与経路が利用できる。選択される特定の投与法は、どのような化合物が選択されるか、治療すべき特定の症状、治療効果が期待できる投与量によって変化する。一般的に、本発明の方法は医学的に許容される任意の投与法で実施でき、即ち、臨床的に望ましくない副作用を生じることなく有効レベルの免疫応答を誘発する任意の投与法である。経口投与も可能であるが、非経口経路での投与法が好ましい。用語“非経口”には皮下、静脈内、筋肉内または腹腔内の注射または輸注技術が含まれる。
【0126】
本発明に関し、ここで使用される用語“治療”、“治療上の使用”、“治療計画”は本発明の免疫調整ポリマーの投与による、予防療法、姑息療法および理学療法を含み、治療すべき炎症病変あるいは他の疾患または障害が引き起こす病状、容態、症状、徴候または障害を軽減するあるいはそのような症状、徴候、容態または障害の進行を予防、阻止、抑制または逆転させる、本発明で請求された化合物の任意且つ全ての使用を含む。従って、体の免疫応答刺激が有効な炎症病変あるいはその他の疾患または障害に関わる望ましくない病状、症状、容態、徴候または障害の任意の予防、改善、緩和、逆転または完全な排除が本発明に含まれる。
【0127】
個々の治療計画は一定時間継続でき、治療すべき個々の炎症病変あるいはその他の疾患または障害の性質、重症度、患者の総合的容態に応じて変更でき、化合物−含有組成物を1日1回から複数回で、数日、数週間、数ヶ月またはそれ以上の期間に亘って投与することが含まれる。治療の後に患者は容態の変化を監視され、障害または疾患の症状、徴候または状態の緩和について調査される。現行の投与量では患者が十分に応答しない場合には増量し、障害または疾患の症状の緩和が見られる場合あるいは障害部または疾患部を切除する場合には減量することができる。
【0128】
至的な投与スケジュールを用い、本発明の化合物を治療上有効な量で輸送する。本発明において、本明細書の化合物に関する用語“有効量”または“治療上有効な量”とは、意図した目的を達成するのに効果的な化合物の量を意味し、不所望な副作用、例えば毒性、過敏性またはアレルギー応答を生じさせないのが好ましい。患者によって必要度は異なるとはいえ、医薬品の有効量の至的範囲の決定に当業者は精通している。人−投与量の関係は、動物実験から推定できる(A.S.Katocs,Remington:The Science and Practice of Pharmacy,第19版、A.R.Gennaro編集、Mack Publising Co.、Easton、Pa(1995)第30章)。一般的に、投与量は医薬品の治療上有効な量であることが求められ、この量は当業者が調整でき、年齢、健康状態、身体条件、体重、医薬品受容者の疾患または障害の種類および程度、治療頻度、(実施していれば)併用療法の性質、および所望される効果の性質および意図に応じて変化する(Nies等、Goodman&Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics,第9版、Hardman等編集、McGraw−Hill、New York, N.Y.、1996、第3章)。
【0129】
危険度の高い個体に対する予防的理学療法も本発明に含まれる。記載するように、用語“危険度の高い個体”とは、例えば個人または家族の病歴あるいは遺伝に関する試験、生活環境または生活習慣、労働環境または労働条件等を通して、炎症病変に罹患する確率が通常よりも高いかあるいは関連疾患または障害あるいは体の炎症応答を刺激することが有効な疾患/障害の発症または再発の確率が通常よりも高い個人を意味する。患者は例えば個人および/または家族の病歴において特定の疾患または障害を頻発している可能性がある。別の例を挙げれば、患者が、当業者に公知の技術に従う遺伝子スクリーニングで明かにされるような予想外の罹病性を有する可能性がある(U.S.Congress、Office of Technology Assessment、第5章:Genetic Monitoring and Screening in the Workplace.OTA−BA−455,U.S.Government Printing Office、Wahington、D.C.(1990)75〜99頁を参照のこと)。ウイルス性疾患の場合、環境が素因と成り得る。危険度の高い個体への治療計画の一環として個体を予防的に治療し、炎症病変の発生を防いだり、または疾患、障害、徴候、症状または容態あるいは免疫応答を強化することが有効な疾患/障害の発症または再発を回避したりできる。用語“予防に有効な量”とは、感染または炎症を予防したり、あるいは炎症性の疾患、症状、徴候、容態または障害、あるいは体の免疫応答を刺激することが有効な疾患/障害を回避したりする効果をもたらす本発明の医薬品の量を意味する。予防に有効な医薬品の量は、医薬品がもたらす効果を、活性成分を含まない二次的医薬品を同条件の個体へ投与する際に観察される効果と比較して決定するのが一般的である。
【0130】
治療への使用に際し、本明細書に記載の免疫調整化合物は、炎症病変に罹患している疑いのある患者に、疾患、症状、徴候、容態または障害の総体的症状を緩和させるのに有効な量で投与でき、あるいは免疫応答を強化することが効果的な疾患または障害に罹患している疑いのある患者に投与できる。当業者は、一般的な治療計画における至的投与量および治療スケジュールを決定できる。
【0131】
手術または外傷が原因の膿瘍および癒着では、本発明の方法を手術前3週間にわたって、手術前2週間にわたって、手術前1週間にわたって複数回投与することにより実施できるし、最初の投与を手術の24時間前にのみ行う場合、さらに細菌に曝露後にのみ投与する場合にも実施できる。術後でも投与は可能である。至的な投与量および投与法であれば膿瘍および/または癒着の形成の進行が阻止できるだけでなく、特定の細菌または複数の細菌による膿瘍または癒着の形成から完全に保護できるが、細菌感染/細菌汚染とその後の膿瘍/癒着形成に対する免疫応答を強化する任意の治療計画を実施してよい。特定のポリマーを複数回投与する場合の望ましい投与間隔を当業者が決定できるが、その際に常用の実験を更に実施する必要はない。
【0132】
従って、人または動物患者に細菌性の膿瘍または癒着が形成されるのを阻止するのが望ましい場合には本発明が有効である。本発明には、予定手術ならびに緊急を要する状況での、このような容態の回避を目的とする予防的治療が含まれる。予定手術には以下の腹腔内手術が含まれる:右半結腸切除術;左半結腸切除術;S字結腸切除術;部分切除術;全切除術;腹腔鏡によるまたは開腹による胆嚢切除術;胃切除術;帝王切開等が含まれる。緊急手術には以下の症状を治癒するための手術が含まれる:穿孔性潰瘍(十二指腸または胃);穿孔性憩室炎;閉塞性憩室炎;急性虫垂炎;穿孔性虫垂炎;腹部鈍的外傷;腹部穿孔性外傷;膿瘍を排出するための二次的手術等。本発明の方法には、馬の結腸手術、任意の随伴動物の手術、例えば一般的な不妊手術、胃腸観血法等が含まれる。本発明の方法は腹腔内以外の手術、例えば心臓手術および創傷感染を治癒するための手術にも有用である。本発明の方法は、患者に膿瘍が形成されやすくなる疾患、例えば骨盤炎症性疾患、炎症性腸疾患、尿路感染症、大腸癌にも有効である。従って本発明の方法は殆ど全ての任意の組織または器官に生じる膿瘍に有効であり、特に、にきびのような皮膚の膿瘍に有効であるが、これに限定しない。本発明に係る当業者は、本発明を適用できる症状および方法の範囲を容易に見極めることができる。
【0133】
別の側面として、本発明は多くの一般的な手術に伴う術後癒着の形成から保護する方法を含む。この方法は、そのような保護を必要とする患者へ、本発明の免疫調整ポリマーを術後癒着の形成を減少させることが可能な有効量で含有する医薬品を投与する工程を含む。1種類以上の前記ポリマーの術部以外の部位への投与が術後癒着の形成に対する保護作用を誘導することが十分に予想される。前述したように、このことはこれまでの研究結果から特に意外である。
【0134】
PCT国際公開WO00/59515号は、特定のポリマーの術部への局所投与が、術後癒着の発生を減少させるのに有効であることを記載している。本発明によれば、術部とは異なる癒着を生じやすい部位に皮下投与する場合にも免疫調整ポリマーは有効である。
【0135】
本明細書に記載の化合物を術後癒着の形成から保護するのに有効な量で投与できる。ここで使用される術後癒着形成に対する保護作用を誘導するのに有効な量とは、本発明の免疫調整ポリマーが、単独でまたは更なる投与であるいは付加的な治療用化合物と一緒に、術後癒着の形成を回避できる量を意味する。投与量の範囲は約1ピコグラム/体重1キログラム〜約1ミリグラム/体重1キログラム、あるいは約1ナノグラム/体重1キログラム〜約1マイクログラム/体重1キログラムであるのが効果的であると考えられ、投与法により変動する。絶対量は様々なファクターに依存し(投与が予定手術で行われるのかまたは緊急手術で行われるのか、併用療法であるかどうか、投与回数は何回か、年齢、身体条件、身長および体重を含む患者の個人的パラメーターがどんなものか)、常用の実験で決定できる。極量で用いるのが一般的に好ましく、極量とは信頼に値する医学的判断に即した最大安全薬剤量である。
【0136】
術後癒着の形成からの保護を誘導するために本発明の医薬品を複数回投与することが検討されている。このような複数回投与は手術前日を起点に3日間行い得る。術後に更に投与することも可能である。至的な投与量および投与計画であれば術後癒着形成の進行を阻止するだけでなく術後癒着形成から完全に保護できるが、術後癒着の形成を減少できる任意の治療計画を実施してよい。本発明の免疫調整ポリマーの1つを複数回投与する場合の望ましい投与間隔を当業者が決定できるが、その際に常用の実験を更に実施する必要はない。
【0137】
従って、人または動物被験体の術後癒着の形成を回避するのが望ましい場合には本発明が有効である。方法には、予定手術後のおよび緊急手術後の癒着形成を回避するための予防的治療も含まれる。予定手術には以下のものが含まれる:右半結腸切除術;左半結腸切除術;S字結腸切除術;部分切除術;全切除術;腹腔鏡によるまたは開腹による胆嚢切除術;胃切除術;膵切除術;脾切除術;肝臓、膵臓、小腸または腎臓の移植術;癒着の剥離;等。緊急腹腔内手術には以下の症状を治癒するための手術が含まれる:穿孔性潰瘍(十二指腸または胃);穿孔性憩室炎;閉塞性憩室炎;腸閉塞;急性虫垂炎;穿孔性虫垂炎;腹部鈍的外傷;腹部穿孔性外傷;膿瘍を排出するための二次的手術;破裂した腹部大動脈瘤等。本発明の方法には、本発明の方法は腹腔内以外の手術、例えば心臓手術、開腹によるおよび内視鏡による整形手術、神経外科手術、婦人科手術および骨盤手術、および創傷感染を治癒するための手術にも有効である。本発明の方法は、患者に自然癒着が形成されやすくなる疾患、例えば骨盤炎症性疾患、炎症性腸疾患、尿路感染症、大腸癌にも有効である。従って本発明の方法は殆ど全ての任意の組織または器官の炎症過程に有効である。
【0138】
術後癒着の形成を阻止するための投与では、本発明の化合物を術部以外に投与しても(全身投与を含む)術後癒着形成の可能性を減少させるべき術部へ局所投与してもよい。本発明の化合物は、水溶液として、架橋性ゲルとして、または水溶液と架橋性ゲルを一時的にまたは物理的に組み合わせた任意の形態として投与することができる。
【0139】
本発明の製剤は感染と“同時に”投与でき、この場合、手術を行う時間、外傷を受けた時間または宿主に膿瘍または癒着を形成しやすい疾患に罹患した時間と非常に近いので、膿瘍または癒着形成に対する保護作用が獲得される。予定手術の場合、手術実施のかなり以前から製剤を投与でき(即ち数週間または数ヶ月)、手術に近い時期(術後でもよい)にブースター投与するのが好ましい。特に緊急の場合には、外傷を受けたまたは手術を行う直前および/または直後(数分〜数時間)に製剤を投与してよい。手術に近い時間に製剤を投与すれば患者の細菌感染/細菌汚染に対する免疫応答が強化され、それにより宿主の応答の成功率が増加し、膿瘍または癒着の形成の可能性が減少する。
【0140】
本発明が属する分野に係る当業者は、本発明を広範囲の疾患、症状、容態、徴候、障害および処置に利用できることを明確に認識している。膿瘍および癒着に加えて、本発明の式VIの抗−炎症化合物、組成物、ならびに方法が適用できる別の炎症過程および炎症病変には以下のものが含まれる。
【0141】
アレルギー疾患、例えば(全身)アナフィラキシー、血清病、全身性薬剤反応、食物アレルギー、昆虫毒アレルギー、および肥満細胞症;気道のアレルギー、例えばアレルギー性鼻炎、喘息および過敏性肺臓炎;皮膚のアレルギー、例えばじんま疹、血管浮腫、湿疹、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎、伝染性皮膚炎、多形性紅斑およびステーヴンズ−ジョンソン症候群;および眼のアレルギー、例えばアレルギー性結膜炎、アトピー性角結膜炎、性病性角結膜炎、巨大乳頭結膜炎、および接触アレルギー。
【0142】
器官特異的な自己免疫疾患の例:
内分泌系:(甲状腺)橋本甲状腺炎、グレーブス病、甲状腺機能亢進による甲状腺炎;I型多腺性自己免疫症候群、II型多腺性自己免疫症候群、インシュリン−依存性真性糖尿病、免疫の関与した不妊症、および自己免疫アジソン病。
【0143】
皮膚:尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡、腫瘍随伴性天疱瘡、水疱性類天疱瘡、疱疹状皮膚炎、線状IgA病、後天性表皮水疱症、自己免疫型脱毛症、結節性紅斑、妊娠性類天疱瘡、瘢痕性類天疱瘡および小児期の慢性水疱性疾患。
【0144】
血液系:自己免疫型溶血性貧血、自己免疫型血小板減少性紫斑病(特発性および薬剤誘発性)、自己免疫型好中球減少症。
【0145】
筋神経系:重症筋無力症、イートン・ランバート症候群、スティフマン症候群、急性散在性脳脊髄炎、多発性硬化症、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経根ニューロパシー、伝導ブロックを伴う多巣性運動ニューロパシー、単クローン性免疫グロブリン血症を伴う慢性ニューロパシー。
【0146】
腫瘍随伴性神経疾患:眼球クローヌス−筋クローヌス症候群、小脳変性症、脳脊髄炎、 網膜症。
【0147】
肝胆道系:自己免疫性慢性活動性肝炎、原発性胆汁性硬化症、硬化性胆管炎。
【0148】
胃腸管:グルテン感受性腸症、悪性貧血、炎症性腸疾患。
【0149】
器官非特異的な自己免疫疾患の例:
結合組織疾患、例えば全身性エリテマトーデス、慢性関節リウマチ、全身性硬化症(強皮症)、強直性脊椎炎、反応性関節炎、タハツセイ筋炎/皮膚筋炎、シェーグレン症候群、混合型結合組織病、ベーチェット病、乾癬。
【0150】
脈管症候群:全身性壊死性脈管炎、これには典型的な結節性多発動脈炎、アレルギー性脈管炎、アレルギー性肉芽腫症(チャーグ・ストラウス症候群)および多発性血管炎重複症候群が含まれ;過敏性脈管炎、ウェゲナー肉芽腫症、側頭動脈炎、高安動脈炎、川崎病、中枢神経形の孤立性脈管炎、閉塞性血栓脈管炎およびその他の脈管炎;サルコイドーシス、移植片対宿主疾患および寒冷症。
【0151】
本発明の抗−炎症性化合物が有効なその他の疾患および症状には以下のものが含まれる;敗血症;大腸炎;虚血性心疾患;肝線維症;急性呼吸器疾患症候群;急性炎症性膵炎;内視鏡的逆行性胆道膵管造影で引き起こされる膵炎;熱傷;冠状動脈、大脳、末梢動脈のアテローム発生;虫垂炎;胆嚢炎;憩室炎;内臓の繊維化障害(肝臓、肺臓、腸管)、創傷治癒;皮膚の瘢痕化障害(ケロイド、化膿性汗腺炎);肉芽腫性障害(サルコイドーシス、原発性胆汁性肝硬変);壊疽性膿皮症;スイート症候群、細胞、組織または器官の移植;アルツハイマー病;パーキンソン病;アテローム動脈硬化症;肥満症;および癌。
【0152】
本発明の炎症性化合物、その組成物、ならびにそのような化合物および組成物を使用する方法を適用できる疾患および病変に関し、該適用には、抗ウイルス療法(例えばA型肝炎ウイルスおよびC型肝炎ウイルス感染の治療または予防);抗癌療法;およびワクチン補助物質としての使用が含まれる。
【実施例】
【0153】
これまでの記載は本発明の数多くの側面を総括して示したものである。以下の実施例は種々の側面を例証するものであり、本発明の制限を意図するものではなく、本発明の制限と解釈されることもあってはならない。
<実施例1>
式Iの化合物の一般的調製
式Iの化合物は、例えば式IV:

式IV
の脂質II基質を重合して製造でき、この際、R5は脂質キャリアーであり、その他の変数は本明細書に記載した通りである。好適な脂質キャリアーには例えば1つ以上の炭素を有する飽和および不飽和の炭化水素鎖が含まれる。この鎖は直鎖または分枝鎖であってよい。この炭化水素はまた置換(例えば過フッ素化)されていても非置換でもよい。この炭化水素鎖は5〜55個の炭素と1〜11個のプレニル単位を有するのが好ましく、25〜55個の炭素と5〜11個のプレニル単位を有するのが更に好ましく、40〜55個の炭素と8〜11個のプレニル単位を有するのが最も好ましい。式IVの脂質II基質は例えば国際公開WO01/79242A3、WO02/085929A1および米国特許明細書第6,461,829号に記載される方法に従って製造できる。例えば本明細書に記載される方法に従い、単官能トランスグリコシラーゼMgtAを使用するかまたは米国特許明細書第6,461,829号に記載される任意の単官能またはニ官能トランスグリコシラーゼを使用し、脂質II基質を重合することにより式Iの化合物を製造することができる。
【0154】
式Iのホモポリマーの調製:一般的方法
本明細書に記載される式IVの脂質II基質分子の20mM原液を準備する。PEG8000(水中に50%で貯蔵)を水で希釈し約20%(w/w)にする。PEG溶液へpH7.0の0.5M HEPESバッファー、1M 塩化マグネシウム水溶液および脂質II基質を添加し、それぞれ終濃度を20mM、25mMおよび2mMとする。得られた溶液を混合して均質にする。Staphylococcus aureus MtgA酵素原液を約120μMで添加して反応を開始するので、酵素の終モル濃度は10μMである(約200:1=基質:酵素)。反応溶液をしっかり混合し、24hr静かに放置する。
【0155】
反応混合物をHCl水溶液で約0.5Mにする。酸の添加後、系は均質化する。酸性水溶液を37℃で4時間インキュベートし、その後、5MのNaOH水溶液で溶液をpH7〜8に中和する。pH7に近い時点で均質溶液は混濁する。混濁溶液を遠心分離する(1700×g、20分)。沈殿物を水で洗浄し、上清を合わせる。5MのNaOH水溶液を添加して終濃度を0.5Mとする。この溶液を室温で2時間放置し、次に5MのHCl水溶液でpH7に中和し、この時点で溶液は混濁する。混濁溶液を遠心分離する(1700×g、20分)。沈殿物を水で洗浄し、上清を合わせ、水で2倍に希釈し、PEGが消滅するまでクロロホルムで抽出する(Nag等(1996)Anal Biochem.237:224)。僅かに乳化した水層を遠心分離し(1700×g、20分)、透明な水層を回収する。最終的に得られた水溶液をAmicon細胞撹拌濃縮機に入れ(10K NMWCO再生セルロース)、流出液の伝導度がゼロに近づくまで濃縮/希釈サイクルを実施する。溶液をできる限り濃縮し、Millipore Steriflipフィルター(0.2μ)を通して濾過し、サイズ排除クロマトグラフィーにより式Iの化合物の濃度を推定する(206nmでの紫外線吸収)。
【0156】
式Inoコポリマーの調製:一般的製法
式IVの様々な脂質II基質分子の重合速度は大して変動しない。結果的に、式IVの異なる脂質II基質分子を含む混合物が重合してコポリマーが生じる。当業者は、公知の方法を用い、異質モノマー単位の数およびそのような単位が生じる頻度の両方を変化させてコポリマーを製造できることを正しく認識している。コポリマーを調製するにあたり、原液は、全脂質II基質分子を約20mMの濃度で含むのが好ましい。
【0157】
例えば、式IVで表される2種類の異なる脂質II基質分子混合物に酵素(例えばMtgA)を作用させることにより式Iの化合物を製造できる。コポリマーに含まれる2種類の異なるモノマー単位が出現する相対的な比率は、第1に、溶液中での相対的な濃度に依存し、第2に、相対的な重合速度に依存する。同様に、式IVで表される375種類までの異なる脂質II基質分子混合物に酵素(例えばMtgA)を作用させて式Iの化合物を製造できる。同様に、コポリマーに含まれる375種類の異なるモノマー単位のうちの任意の1種類が出現する相対的な比率は、第1に、溶液中のその他の異なる成分に対する当該モノマー単位の濃度に依存し、第2に、溶液中のその他の異なる成分の重合速度に対する当該モノマー単位の重合速度に依存する。
【0158】
酵素(例えばMtgA)を用いて、式IVの単一の脂質II基質分子を一定時間重合させ;反応を終了または停止させ;または形成されたポリマーを反応混合物から取り出し;式IVの別の単一の脂質II基質分子を含む第2酵素溶液中にポリマーを一定時間装入する;等により、式Iのブロック共重合体を製造でき、このことは当業者に明らかなことである。
【0159】
例えば、式IVの単一の脂質II基質分子溶液に酵素(例えばMtgA)を作用させることにより式Iのブロック共重合体を製造できる。コポリマー中の2種類の異なるモノマー単位が出現する相対的な比率は、第1に、溶液中での相対的な濃度に依存し、第2に、相対的な重合速度に依存する。同様に、式IVで表される375種類までの異なる脂質II基質分子の混合物に酵素(例えばMtgA)を作用させて式Iの化合物を製造できる。同様に、コポリマーに含まれる375種類の異なるモノマー単位のうちの任意の1種類が出現する相対的な比率は、第1に、溶液中のその他の異なる成分に対する当該モノマー単位の濃度に依存し、第2に、溶液中のその他の異なる成分の重合速度に対する当該モノマー単位の重合速度に依存する。
【0160】
式Iの化合物の構造確認:一般的方法
式Iの化合物の構造確認は、デキストランを標準物質とするサイズ排除クロマトグラフィーとD2O/CD3CN中での1Hnmr分光光度分析により実施される。材料をリゾチームで分解し、リゾチームによる二糖−ペプチド分解産物はES/MSで分析できる。
【0161】
化合物1の調製

化合物3


化合物1
白色粉末(370mg)を水(14.5mL)に溶解することにより、化合物3の20mM原液を調製する。水へPEG8000(28.8mL、水中の50%貯蔵溶液)を添加する。この溶液へpH7の0.5Mリン酸ナトリウムバッファー(5.8mL)と1M塩化マグネシウム水溶液(3.6mL)を添加する。得られた溶液を3つのコニカルチューブへ等量に分配し、それぞれに化合物3の原液(4.8mL)を混合しながら添加する。Staphylococcus aureus MtgA酵素の原液(米国特許明細書第5,922,540号(123μM;3.9mL))を添加して重合反応を開始する。反応溶液をしっかりと混合し、24hr静かに放置する。
【0162】
ポリマーは形成されると凝集してチューブの底に沈殿する。上清を取り出し、遠心分離して(3500rpm、20分)上清と共に偶然に除去された任意のポリマーを回収する。沈殿物を0.2MのHCl水溶液(5mL)に溶解し、この状態で次の工程に用いる。
【0163】
上清のデカント後に残留する粗ポリマーの各懸濁液に5MのHCl水溶液を添加する(2×100mL、それぞれ添加後に混合する)。系は酸の添加後に均質化する。得られた黄色溶液へ、最初の上清を処理して得られた酸性化沈殿物溶液(上記参照)を添加する。この酸性水溶液を37℃で一晩インキュベートし、その後、チューブの中身を終体積約30mLで貯めておく。5MのNaOH水溶液約1.2mLを用いてpH7〜8に中和し、その時点で均質化溶液は混濁する。この混濁溶液を2回遠心分離し(3500rpm、20分)、その都度、沈殿物を水で洗浄し、その後除去する(残留した上清の終体積=36mL)。
【0164】
5MのNaOH水溶液(3.6mL)を添加して、終濃度を0.5Mとする。この溶液を室温で2hr放置し、次に5MのHCl水溶液でpH6に中和する。この溶液を8つのアリコットに分割し(8×5mL、1×3mL)、それぞれ50mLのコニカルチューブに入れる。エタノール9体積を各チューブに添加し、溶液を一晩−20℃のフリーザーで保存する。チューブを遠心分離し(3500rpm、20分)、上清を注意深く除く。真空で短時間乾燥させた後、沈殿物を少量のNaCl(100mM)に溶解し、終体積16mLで貯めておく。エタノール9体積を再添加し、沈殿過程を繰り返し実施する。最終的に沈殿過程を3回繰り返し実施する。
【0165】
最終沈殿物を水(40mL)に溶解し、Amicon Model 8050細胞撹拌濃縮機に入れ、流出液の伝導度がゼロに近づくまで濃縮/希釈サイクルを実施する。溶液をできる限り濃縮し、Millipore Steriflipフィルターを通して濾過し、凍結乾燥させる。化合物1を白色個体(144mg、66%)として単離する。
【0166】
化合物1の構造確認
化合物1の構造確認はサイズ排除クロマトグラフィー、1H NMR分光法、酵素感受性および質量分析により実施される。サイズ排除クロマトグラフィー(3.2mm×30mm Pharmacia Superose6カラム、pH=7の20mMリン酸ナトリウムバッファー)は、デキストランを標準物質として約150kDのサイズ分布中点を示す(範囲は約75kD〜約375kD)。
1H NMR(400MHz、D2O)δ4.45(br s,1H)、4.32(br s,1H)、3.50(br m,13H)、2.90(m,2H)、2.26(M,2H)、1.95(s,3H)、1.89(s,3H)、1.75(m,3H)、1.62(m,3H)、1.31(m,6H)。
【0167】
化合物1をリゾチームで速やかに分解する。細菌細胞壁グリカンポリマー(ペプチドグリカンの下部構造)はリゾチームの天然基質である。即ち、リゾチーム感受性は、化合物1がグリカンの下部構造であることの明白な証拠である。最後に、化合物1のリゾチーム加水分解産物、N−アセチルグリコサミニル−β−[1,4]−N−アセチルムラミル−[Ala−GABA−Lys]−ペプチドをES/MSにより確認する(m/z781.6[M+H]+、779.5[M−H]-)。
【0168】
化合物2の調製

化合物4 化合物2
化合物4の20mM原液を調製する。PEG8000(水中の50%貯蔵溶液)を水で希釈して約20%(w/w)とする。PEG溶液へpH=7.0の0.5M HEPESバッファー、1M塩化マグネシウム水溶液および化合物4を添加し、それぞれ終濃度を20mM、25mMおよび2mMとする。得られた溶液を混合して均質化する。Staphylococcus aureus MtgA酵素原液を約120μMで添加することにより反応を開始するので、酵素の終モル濃度は10μMである(約200:1=基質:酵素)。反応溶液をしっかり混合し、24hr静かに放置する。
【0169】
反応混合物をHCl水溶液で約0.5Mにする。酸の添加後、系は均質化する。酸性水溶液を37℃で4hrインキュベートし、その後、5MのNaOH水溶液で溶液をpH7〜8に中和する。pH8に近い時点で均質溶液は混濁する。混濁溶液を遠心分離する(1700×g、20分)。沈殿物を水で洗浄し、上清を合わせる。混濁溶液を遠心分離する(1700×g、20分)。沈殿物を水で洗浄し、上清を合わせ、水で2倍に希釈し、クロロホルムで8回抽出する。比色分析でPEGは見られない。僅かに乳化した水層を遠心分離し(1700×g、20分)、透明な水層を除去する。最終的に得られた水溶液をAmicon細胞撹拌濃縮機に入れ(10K NMWCO再生セルロース)、流出液の伝導度がゼロに近づくまで濃縮/希釈サイクルを実施する。溶液をできる限り濃縮し、Millipore Steriflipフィルター(0.2μ)を通して濾過し、化合物2の濃度は2.6mg/mLと推定される(サイズ排除クロマトグラフィー、206nmでのUV吸収)。
【0170】
化合物2の構造確認
分析用クロマトグラフィーカラムSuperose6(3.2mm×30cm)を用いたサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)(25μL注入;20mMリン酸ナトリウムの移動相、pH7、流速50μL/分、60分間実施(定組成))および206nmでのUV検出により化合物2を分析した。25〜270kDのデキストランを標準物質として検量に使用した。
【0171】
得られたクロマトグラムは、中央値が約30分(80〜150kD)の正規で、左右対称で、ベル−型の曲線を示し、約20分(>270kD)および約40分(<23.8kD)に突出部位がある。
化合物4の質量スペクトル分析:
ES/MS m/z=1264.1(M−H)、642.8[(M−2+Na)/2]、631.5[(M−2)/2]、1265.7(M+H)、807.4(グリコシルカチオン)、644.4[(M+H+Na)/2]、655.4[(M+2Na)/2]、633.5[(M+2)/2]。
【0172】
<実施例2>
ヒト末梢血単核細胞での式VIの化合物によるIL10発現の刺激
天然ペプチドグリカンおよび細菌莢膜抗原がin vitroおよびin vivoで炎症性サイトカインを刺激することが知られているので、我々は式VIの化合物(例えば化合物1)に曝露したヒト末梢血単核細胞(PBMC)から誘導されるサイトカインの概要の決定を試みた。
【0173】
Eli Lilly and Companyのドナープログラムを通じて匿名のドナーからヒトPBMCを得る。Ficoll−hypaque(Stem Cell Technologies、バンクーバー、カナダ)を用いた沈殿法で赤血球と多形核白血球を除き、単核細胞を分離する。T細胞、B細胞および単核細胞を含む単核層を、10%のウシ胎児血清を含むRPMI1640培地(Gibco、BRL、カールズバッド CA)で培養する。PBMC(2×10細胞/ウェル)を種々の濃度の化合物1と一緒に培養し、至的応答を決定する。通常、化合物1に対する応答はドナーとなる人間によって異なるが、化合物1の濃度が0.6μg/mLの場合は再現性を有する一貫した結果が得られるので、実験に使用する(図3)。単離後、ヒトPBMCを化合物1(0.6μg/ml)で処理し、8日間培養を続ける。上清を日毎にサンプリングし、複合酵素結合免疫吸着検定法(multiplex Enzyme Linked Immunosorbent Assay、Luminex、Linco Research、セントチャールズ、MO;カタログ番号HCYTO−60K)を用いてサイトカインの発現を分析する。この実験で使用したヒト複合サイトカインキットは、IL1、IL2、IL4、IL6、IL8、IL10、TNFαおよびINFγを測定する。付加的な実験として、特注のIL12特異抗原ビーズ複合体を添加して、サイトカイン応答を更に定義づける(Luminex、Linco Research、セントチャールズ、MO)。全てのアッセイで、未処理培地コントロールに対して結果を標準化する。データは代表的なサイトカインの濃度の3つのウェルの平均値±標準誤差で表される。データは少なくとも3度の実験から得られた一般的結果である。
【0174】
図3に示すように、数回の実験で得られた結果データは、ヒトPBMCを化合物1で処理するとキットに存在するほとんどの炎症性サイトカインの発現がほぼ最小に抑えられることを示している。意外にも最も強い応答を示したのは抗−炎症性サイトカインIL10の発現である。IL10の発現はタイムコースの遅い時期に起こり、5日目に検出が可能となり、8日目に約80pg/mlの濃度になるまで上昇を続ける。IL2およびINFγはタイムコースの早い時期に僅かに検出されるが、IL4、IL6、IL12またはTNFはいずれの時間にも検出されない。
【0175】
これらの結果は、式VIの化合物(例えば化合物1)がPBMC細胞培養液においてIL10の発現を選択的に誘導するであろうこと、動物炎症モデルで効力を発揮するであろうこと、様々な炎症病変を治療できるであろうことを示唆する。
【0176】
<実施例3>
式VIの化合物とToll様レセプター2(TLR2)の相互作用
Toll様レセプター(Toll−like―receptors(TLR))は、体内の微生物の存在を感知することにより、侵入した病原に対する初期先天免疫に重要な役割を果たす(Akira等(2001)Nature Immunol.2:675〜680)。このレセプターは病原菌によってのみ発現される高度に保存された構造モチーフを認識し、病原体関連微生物パターン(PAMP)と称される(Medzhitov(2001)Nat.Rev.Immunol.135〜145)。PAMPには様々な細菌細胞壁成分、例えばリポポリサッカライド(LPS)、ペプチドグリカンおよびリポペプチド、ならびにフラジェリン、細菌DNAおよびウイルス二本鎖RNAが含まれる。PAMPでTLRを刺激するとシグナルカスケードが開始し、転写因子NF−κBの活性化が誘導され、NF−κBは前炎症性サイトカインおよびエフェクターサイトカインの分泌を誘導し、これが適応免疫応答を指示する(Janeway等(2002)Annu.Rev.Immunol.20:197〜216)。天然ペプチドグリカンはTLR−2を介して細胞を活性化するPAMPであるので(Iwaki等(2002)J.Biol.Chem.277:24315〜24320)、式VIの化合物(例えば化合物1)もin vitroでNF−κBを活性化できるかどうか試験した。
【0177】
この実験では、HEK293細胞(American Type Culture Collection、マナッサス、VA)に2つのプラスミドDNAをトランスフェクトする。1つ目のプラスミドpcDNA3.1/Hygro(Invitrogen)はヒトTLR−2遺伝子を含む。2つ目のプラスミドpNF−κB−luc(Stratagene、ラホーヤ、CA)はルシフェラーゼレポーター遺伝子に連結したNF−κB遺伝子をコードしており、NF−κBのin vitroでの活性を直接測定するためにルシフェラーゼレポーター遺伝子産物を追跡すればよい。細胞にトランスフェクションするDNAを準備するために、Fugene6(Roche、バーゼル、スイス)トランスフェクト試薬をOPTI−MEM増殖培地(Invitrogen、カールズバッド、CA)で1:6に希釈する。次にpNF−κB−luc75ngおよびpcDNA3.1/HygroDNA300ngを希釈したFugene6へ添加し、混合物を37℃で30分インキュベートする。106細胞/mlの濃度のHEK293細胞をDNA/Fugene6混合物へ添加する。静かに混合した後、細胞/DNA混合物を96穴組織培養プレートに濃度が105細胞/mlになるように分配し、5%CO2の環境中で、37℃で24hインキュベートする。インキュベート後、様々な濃度の試験化合物を細胞に添加し、更に24hインキュベートを続ける。細胞から増殖培地を除き、代わりにRLB細胞溶解液(Promega、マディソン、WI)100μlを添加することにより、化合物とインキュベートして生じたルシフェラーゼ活性の量を測定する。−80℃での凍結/解凍サイクルを1回行うことで細胞溶解は完了する。説明書に即してVictor Luminometer(Perkin Elmer Life Sciences、シェルトン、CT)を使用し、細胞溶解物の25μlアリコットで各細胞培養物のルシフェラーゼ活性を測定する。HEK293細胞でのNFκB活性を調べる際のポジティブコントロールは、TNFα(Pharmingen、パロアルト、CA)を濃度1ng/mlでトランスフェクトした細胞をインキュベートしたものである。
【0178】
表1は、Staphylococcus aureusから単離した市販の天然ペプチドグリカン(Fluka、セントルイス、MO)を様々な濃度で使用した実験結果であり、刺激を与えない培養液と比べてNFκB活性が54.5倍にまで誘導されることを示している。別の市販のペプチドグリカンと多糖との混合物製品(PG/PS;Lee Labs Inc、グレーソン、GA)は、HEK293細胞におけるNF−κBの誘導を33.7倍にまで刺激する。表1のデータは、500μg/mlまでの濃度の化合物1ではNF−κB活性が現れないことを示している。
【0179】
表1:HEK293細胞におけるTLR活性を測定するためのルシフェラーゼアッセイ
【表4】

刺激のポジティブコントロール:TNFα 1ng/mlと一緒にインキュベートした培養液、この培養液では未刺激培養液と比べてルシフェラーゼ活性が22.5倍に増加する。
【0180】
これらの結果から、天然ペプチドグリカン(例えばPAMP)と異なり、式VIの化合物の代表例である化合物1はTLR2を介してNFκBの活性化を誘導しない。
【0181】
<実施例4>
式VIの化合物とその他のToll様レセプター(TLR)の相互作用
化合物1とTLR2の相互作用を調べる実験と同時に、前記実施例1に記載されるのと同じNFκBレセプターアッセイ(表1)を用いて、化合物1とより広い範囲のTLRの相互作用についても試験した。結果を表2に示す。
【0182】
表2:種々の化合物を用いたNFκBを介するTLR活性化1の概要
【表5】

1NFκBの相対的な正の活性度は“+”の数で示され、活性がない場合は“−”で示される。
【0183】
表2に示すように、0.001〜100μg/mlの濃度では化合物1はその他の任意のTLRレセプターであってもNF−κBシグナリングを誘導しない。全ての実験において、LPSはTLR4活性のポジティブコントロールであり、天然PGはTLR2活性のポジティブコントロールである。
【0184】
この実験により、必須のアダプター分子CD14(Janeway等(2002)Annu.Rev.Immunol。20:197〜216)が存在したとしても、化合物1はTLR2を活性化しないという前記結果(実施例3)が証明され、さらに別の5種類のTLRに対しても同様の結論に至る。
【0185】
<実施例5>
式VIの化合物はヒト樹状細胞(DC)の成熟を刺激しない
DCは抗原提示を専門に行う細胞であり、免疫系の歩哨である(Banchereau等(2000)Annu.Rev.Immunol.18:767〜811)。DCは殆ど全ての末梢組織に未熟状態(iDC)で存在し、抗原を貪食(または封入)して処理し、特にナイーブT細胞のような免疫系に提示する(Shortman等(2002)Nat.Rev.Immunol.2:151〜161)。処理抗原という積荷と共に、樹状細胞は、血液およびリンパ液の循環を介してリンパ節、脾臓および他のリンパ組織へ移行する。この移動の間に樹状細胞は成熟し、抗原を取り込んで処理する能力を失い、抗原をその表面に提示し始める。目的の場所に到達するまでに、樹状細胞はT細胞の強力な刺激物質となり、多触手状(樹状)形状のおかげで多くのT細胞との細胞−細胞接触を進行させる(Banchereau等(2000)Annu.Rev.Immunol.18:767〜811)。
【0186】
表面に露出したたんぱく質および糖たんぱく質である特定のCD(cluster of differentiationの略)マーカーを樹状細胞の成熟状態を追跡するために使用する(Chakraborty等(2000)Clin.Immunol.94:88〜98)。表3はこの目的のために一般的に使用されるCDマーカーとその単核細胞、未熟樹状細胞(iDC)、成熟樹状細胞(mDC)上の相対的発現レベルを記載する(Chakraborty等(2000)Clin.Immunol.94:88〜98)。
【0187】
表3:CD(cluster of differentiationの略)マーカーによる単核細胞(MO)、未熟樹状細胞(iDC)および成熟樹状細胞(mDC)の識別
【表6】

1表では各細胞表面マーカーの相対量を“+”の数で表し、細胞表面マーカー不在を“−”で表す。
【0188】
蛍光物質の結合した抗−CD抗体を有する標識細胞を用い、細胞群の表面上に存在するマーカーの平均蛍光強度(MFI)を測定することにより、樹状細胞の成熟状態の分析が可能になる。フローサイトメトリーを使用し、細胞表面マーカーが存在するために大きくなっている細胞のサンプルを分析する。in vitroの場合、iDCはヒト血液から単離されたCD14(+)単核細胞から産生され、これを2種類のサイトカインカクテル(顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)およびインターロイキン−4(IL−4))と共に4日間培養する。数種の細菌分子、例えばLPS(Matsunaga等(2002)Scand.J.Immunol.56:593〜601)およびペプチドグリカン(Michelsen等(2001)J.Biol.Chem.276:25680〜25686)がiDCをmDC表現型へ分化誘導するので(先天免疫が活性化される間に起きる)、式VIの化合物がヒト単核細胞由来樹状細胞を成熟させる能力を有するかを調べることにした。
【0189】
Eli Lilly and Companyドナープログラムを通じて匿名のドナーからヒトPBMCを得る。Ficoll−hypaque(Stem Cell Technologies、バンクーバー、カナダ)を用いた沈殿により赤血球および多形核白血球を除き、単核細胞を分離する。CD14(+)単核細胞分画は、CD14(+)−結合磁気ビーズ(Miltenyi Biotech Inc.、オーバーン、CA)と一緒にインキュベートすることによりPBMCから分離され、その後、自動MACS装置(Miltenyi Biotech,Inc.、オーバーン、CA)を用いて磁場により物理的に分離される。単離後、10%の加熱非働化オーストラリア産ウシ胎児血清(FBS)、可欠アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、2−メルカプトエタノール、ペニシリン−ストレプトマイシン(1×溶液、全てGibco BRL、カールズバッド、CA)を含むRPMI1640の完全DC培地中で、CD14(+)単核細胞をインキュベートする。更に、IL−4(Sigma、セントルイス、MO)20ng/mlおよびGM−CSF(Pharmingen、パロアルト、CA)40ng/mlを含む完全DC培地を使用して、幾つかの培養液を、5%CO2環境で37℃で4日間インキュベートして、iDCへ分化させる。4日間のインキュベート後、細胞を化合物1またはLPSと更に24hrインキュベートし、その後、フローサイトメトリーによるCDマーカー分析用に染色を行う。フローサイトメトリー用の一般的な染色プロトコールは、加熱非働化FBS2%(GibcoBLR、カールズバッド、CA)およびアジ化ナトリウム0.05%(Sigma、セントルイス、MO)を含むダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS、GibcoBRL、カールズバッド、CA)で細胞を2回洗浄する工程を含み、以後“フロー洗浄溶液”と称する。洗浄後、105細胞/サンプルをフロー洗浄溶液100μlおよび予−希釈フィコエリトリン−結合第1抗−CDマーカー抗体(使用する全ての抗体はPharmingen、パロアルト、CAから入手)20μlを用い、氷上で15分、再懸濁する。全ての分析には同様に結合したイソタイプコントロール抗体が含まれる。インキュベーション後、細胞をフロー洗浄溶液で3回洗浄する。最終洗浄後、パラホルムアルデヒド(Becton Dickinson、パロアルト、CA)1%を含むフロー洗浄溶液に再懸濁して細胞を固定する。FC500フローサイトメトリー(Beckman Coulter、マイアミ、FL)を用いた分析を行うまで、細胞サンプルを4℃で遮光保存する。前方および側方散乱プロファイルに即して細胞がゲートを正確に通過すると、10,000細胞/サンプルあたりの平均蛍光強度(細胞表面のマーカー量)が測定される。
【0190】
実験結果を表4に示す。
表4:化合物1またはLPSとインキュベートした後の単核細胞−由来樹状細胞のフローサイトメトリー分析
【表7】

1数値は10,000細胞/サンプルにおける細胞表面マーカーの平均蛍光強度を示す。
【0191】
表4が示すように、この実験で使用する表面マーカーの項目から、GM−DSFおよびIL−4と一緒にCD14(+)単核細胞を4日間インキュベートすると単核細胞が未熟樹状細胞へ分化誘導されることが確認される(表4の結果を表3から予測される表現型を比べる)。表4から分かるように、単核細胞をE.Coli LPS(成熟のポジティブコントロール)とインキュベートすることにより細胞表面上のCD−83、CD−86およびHLA−DRの染色が著しく増加し、これにより成熟DCの表現型が予測されるので、未熟樹状細胞は機能的に成熟状態へ到達できている。表4のデータは、化合物1とのインキュベーションで染色プロファイルはiDC状態から変化せず、この化合物(式VIの化合物の代表例)が樹状細胞の成熟に影響を及ぼし得ることを示している。
【0192】
<実施例6>
未熟ヒト樹状細胞(iDC)による式VI化合物の取り込み
化合物1によるDC成熟の阻害は、化合物1のような分子を樹状細胞が内部処理できないためと考えられる。抗原の取り込みおよび処理(分解)はAPCの2つの基本特性である(Banchereau等(2000)Annu.Rev.Immunol.18:767〜811)。DCはその強力なエンドサイトーシス能から免疫系である意味最も強力なAPCであり、あるいはその環境を映す最も有効な実験材料である(Shortman等(2002)Nat.Rev.Immunol.2:151〜161)。iDCが、化合物1に代表される式VIの化合物のような高分子量免疫調整多糖抗原をエンドサイトーシスにより取り込むことができるかどうかを調べるために、共焦点顕微鏡を使用した取り込み試験に用いる化合物1の蛍光誘導体を調製する。この画像技術を利用することで、蛍光プローブ、例えばオレゴングリーン標識した本明細書の化合物の細胞内での存在箇所を突き止めることができる。この実験ではコントロール分子として蛍光標識(FITC)デキストランポリマーを使用する。デキストラン(40kDaの大きさ)は、エンドサイトーシスの実験に常用される高分子である(Sallusto等(1995)J.Exp.Med.182:389〜400)。デキストランは高分子量炭化水素ポリマーであるので、化合物1の有用な比較物質となる。
【0193】
オレゴングリーン標識化合物1はPCT国際公開WO01/79242の記載に従って調製される。簡潔に説明すると、オレゴングリーン(Molecular Probes、ユージーン、OR)の結合した脂質IIを非標識脂質IIと1:4の割合でMtgA重合反応に使用し、25%のオレゴングリーン標識ポリマーを製造する。ポリマー材料を精製し、前述のように処理する。取り込み試験のために、蛍光化合物1を終濃度50μg/mlで、またはリジン固定可能なFITC−結合デキストラン(40kDa、Molecular Probes、ユージーン、OR)1mg/mlで、実施例5の記載に従って調製されたヒト単核細胞−誘導iDCと共に37℃で2分インキュベートする。インキュベーション後、氷冷した完全DC培地(実施例5)で細胞を4回洗浄することにより細胞外プローブを除去する。洗浄した細胞を次いで37℃でインキュベートし、フロー洗浄溶液(この溶液は代謝毒であるアジ化ナトリウムも含む;実施例5に記載のプロトコール)で希釈した1%パラホルムアルデヒドフィックスを用いて洗浄することにより、2分間隔で染色を停止させる。各時間間隔でガラススライドサンプルを作り、透明のマニキュアでシールする。サンプルは、Radiance2100共焦点顕微鏡(BioRad Laboratories、ヘラクレス、CA)で分析するまで、−20℃で遮光保存する。
【0194】
図4は、FITC−デキストラン(40kDaの大きさ)(パネルA)またはオレゴングリーン標識化合物1(約150kDaの大きさ)(パネルB)のいずれかを2分間処理したヒトiDCの共焦点白黒画像である。ポリマーとインキュベートした後、細胞をしっかりと洗浄して外部ポリマーを除き、取り込まれた材料を2分間隔で追跡する。
【0195】
FITC−デキストランまたは化合物1のいずれかの細胞内局在は、ポリマーとの2分間のインキュベートの後、細胞の黒色領域内の白色部分として視覚化される(図4、それぞれパネルAおよびB)。更に、細胞内に取り込まれたポリマーは細胞質全体に拡散しないが、飛び飛びの小塊または小胞状に局在し、これは細胞内空胞の存在場所と一致する。
【0196】
この結果は、iDCが式VIの化合物、即ち化合物1を細胞内へ取り込めることを証明する。
【0197】
<実施例7>
ヒト未熟樹状細胞(iDC)による式VIの化合物の取り込み動態
化合物1がiDCにより強力に取り込まれると考えられることから(図4)、蛍光標識した化合物1を使用し、ポリマーの取り込み動態をフローサイトメトリーで視覚化する。
【0198】
この実験では、ヒト単核細胞−誘導樹状細胞を実施例5に記載されるようにして調製する。樹状細胞を5×105細胞/サンプルとして再懸濁し、氷上で、37℃でインキュベートする。各タイムコースの開始時に細胞を終濃度50μg/mlの蛍光化合物1または1mg/mlのリジン−固定可能FITC−結合デキストラン(40kDa、Molecular Probes、ユージーン、OR)のいずれかと一緒にインキュベートする。インキュベート開始0、2、10、20、30、40および50分後に、氷冷したフロー洗浄バッファー(実施例5)で4回細胞を洗浄することにより、取り込みを停止させる。洗浄した細胞を実施例5に記載されるようにしてパラホルムアルデヒドで固定する。FC500フローサイトメーター(Beckman Coulter、マイアミ、FL)で分析するまで、染色し固定した細胞を4℃で遮光保存する。前方および側方散乱プロファイルに即して細胞がゲートを正確に通過すると、10,000細胞/サンプルあたりの細胞群の平均蛍光密度が測定される。
【0199】
図5(パネルB)は、オレゴングリーン標識化合物1がiDCの細胞質に徐々に蓄積することを示している。コントロール分子FITC−デキストランでも同様である(図5、パネルA)。細胞表面への分子の非特異的な結合(このアッセイではポジティブな結果として読み取られる)を制御するため、細胞を蛍光ポリマーと0℃で再度インキュベートする。この温度ではiDCは生存しているもののまだ物質を細胞内に取り込むことができない、すなわちiDCは代謝不活性化されている(Sallusto等(1995)J.Exp.Med.182:389〜400)。実験時間中、この温度では、コントロール分子(FITC−デキストラン)または化合物1のいずれのシグナルも増加しない(図5、それぞれパネルAおよびB)。このことは、37℃で観られる取り込みが細胞エンドサイトーシスの結果であることを示している。
【0200】
これらの結果は、蛍光標識された式VIの化合物(代表例は化合物1)をiDCが速やかに取り込むことを示しており、式VIの分子がDCを成熟させる能力を持たないのはエンドサイトーシスによる取り込みに対する抵抗が原因ではないことを証明している。
【0201】
<実施例8>
LPSが誘導するiDCの成熟に対する式VIの化合物の阻害作用
表4(実施例5)に示すように、50μg/mlでLPSはiDCをmDC表現型へ変化させることができ、この変化は共−刺激マーカー(CD83およびCD86)ならびにクラスII主要組織適合複合体(MHC)マーカー(HLA−DR)の増加により特徴付けられる(Chakraborty等(2000)Clin.Immunol.94:88〜98)。次に式VIの化合物(代表例は化合物1)がiDCからmDCへの変化を阻害できるかどうか調査した。結果を表5に示す。
【0202】
表5:E.ColiLPSで成熟する単核細胞由来樹状細胞の式VIの化合物の存在下でのフローサイトメトリー分析
【表8】

1数値は10,000細胞/サンプルの平均蛍光強度を表す。
【0203】
この実験では、実施例5に記載されるようにして、ヒトPBMCからCD14(+)単核細胞を単離し、iDCへ分化させる。分化後、細胞を成熟させることが知られている2種類のインデューサー:E.ColiLPS(Matsunaga等(2002)Scand.J.Immunol.56:593〜601)または腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、インターロイキン−1β(IL−1β)、プロスタグランジンE2、およびIL−6を含むサイトカインカクテル(Dieckman等(2002)J.Exp.Med.196:247〜253)と一緒に細胞を24hインキュベートする。幾つかの誘導培養液へ化合物100μg/mlを添加し、同時にLPSまたはサイトカインを添加する。インキュベート後、実施例5に記載するようにして、CD1a、CD14、CD83、CD86およびHLA−DRの発現について細胞をフローサイトメトリーで調べる。
【0204】
サイトカインで成熟するiDCの場合、フローサイトメーターの結果からサイトカインカクテルとのインキュベートで成熟が起きていることが確認され、化合物1とのインキュベーションでは、表面マーカー分析で判断した場合に、成熟表現型に対する影響は認められない(データ無し)。これに対し、表5は、化合物1がLPSの誘導するiDCの成熟を阻害できることを示している。特に、この分子が存在すると共−刺激マーカーCD86の表面発現が減少するが、調査した他のマーカーにはほとんど変化がない。別の実験で別の共−刺激マーカーCD80も減少していることが確認された(データ無し)。
【0205】
DCの強力なT細胞活性能は、MHCおよび共−刺激マーカー(例えばB7マーカーファミリー、即ちCD80およびCD86)の両方の構成発現に結びつく(Banchereau等(2000)Annu.Rev.Immunol.18:767〜811)。これらの分子がDC細胞表面で減少または消滅すれば、DCのT細胞との刺激性コグネイト相互作用は不可能となる。シュバルツ(Schwartz(1990)Science248:1349〜1356)は、共刺激分子の存在しない状態でMHC分子により抗原を提示するとT細胞のアネルギー化が誘導されることを最初に見出した。従って、DCは免疫反応の刺激(APCの特性)およびシグナルのダウンレギュレートの両方に関与できる。
【0206】
前記の発見の重要性をしっかりと理解するためには、免疫寛容におけるDCの役割を理解する必要がある。寛容は、自己抗原が免疫応答を引き起こさないための免疫系の基本特性である(Belz等(2002)Immunol.Cell.Biol.80:463〜468)。DCの成熟が不完全な場合(CD80および/またはCD86が低レベルである場合)、またはDCが共刺激マーカーのB7ファミリーを阻害する抗体を処理された場合、DCはin vitroで抗原特異的不応答を、in vivoでT細胞アネルギー化を誘導することが分かっている(Lu等(1996)J.Immunol.157:3577〜3586;Gao等(1999)Immunology98:159〜170)。未熟DCは今のところヒト制御性T細胞の分化を誘導して末梢寛容に寄与すると考えられており(Jonuleit等(2000)J.Exp.Med.192:1213〜1222)、ここで制御性T細胞とはin vitroおよびin vivoで制御的機能を示す細胞群を意味する。活性化された制御性T細胞は更にエフェクターT細胞の自己分泌発現または誘導を介してIL−10および抗−炎症性サイトカインの産生を惹起する(Dieckmann等(2002)J.Exp.Med.196:247〜253)。従って化合物1(式VIの分子の代表例)がDC表面の共刺激マーカーの発現に影響を及ぼすという事実は、免疫寛容性DCが誘導される際のこの種の分子の作用機序を示唆している。このようなアネルギー化DCはT細胞のアネルギー化を直接誘導するかまたは制御性T細胞群の活性を介して誘導する。
【0207】
<実施例9>
式VIの分子はポリクーナルなマイトジェンではなく、ヒトPBMC培養液中のリンパ球の増殖を刺激しない
マイトジェンは、DNA合成およびリンパ球の細胞分裂を非特異的に誘導する物質である。LPSはB−細胞に特異的なマイトジェンであるが(Moller等(1973)J.Infect.Dis.128:52〜56)、フィトヘマグルチニン(PHA)は特異的にT細胞の分裂を誘導する(Boldt等(1975)J.Immunol.114:1532〜1536)。ペプチドグリカンは別のT細胞マイトジェンである(Levinson等(1983)Infect.Immun.32:290〜296)。従って、式VIの化合物(代表例は化合物1)に関し、特に化合物1が完全に合成されたペプチドグリカンである場合、ヒト末梢血単核リンパ球(PBMC)を刺激して培養物を分裂させられるかどうか調査した。この実験では、放射線標識ヌクレオチド塩基の増殖細胞DNAへの取り込みにより細胞分裂を確認する。培養物の放射能の計数毎分(cpm)は細胞増殖を直接測定する方法であり、シンチレーションカウンターで測定される。
【0208】
この実験で、PBMCは実施例2に記載するように健康なボランティアから単離する。単離したPBMCを丸底96穴組織培養プレート(Falcon Brand、Becton Dickinson、パロアルト、CA)へ105細胞/ウェルとなるように分配する。幾つかの細胞を、化合物1 100μg/mlまたはT細胞増殖のポジティブコントロール用にPHA(Sigma、セントルイス、MO)25μg/mlと一緒にインキュベートする。細胞を5%CO2雰囲気で37℃で4日目までインキュベートする。接種30、54および78時間後に、幾つかの培養物に[3H]−チミジン1μCi/ウェル(特異活性6.7Ci/mmol;ICN Inc.コスタメーサ、CA)を適用し、更に18時間37℃でインキュベートし、その後、Filtermate回収装置(Packard Instruments、シェルトン、CT)を用いてフィルタープレート(Packard Instruments、シェルトン、CT)に回収する。回収後フィルタープレートを乾燥し、その後Microscint−Oシンチレーションカクテル(Packard Instruments、シェルトン、CT)20μl/ウェル添加する。シンチレーションの計数は、MicroBeta Trilux液体シンチレーションカウンター(Perkin Elmer、Sシェルトン、CT)を用いて行う。
【0209】
図6は、ポリクローナルT細胞活性化体であるPHAに対するヒトPBMCの一般的な増殖応答を示す。PHA−処理細胞への[3H]−チミジンの取り込みは、2日間の暴露後に、未処理細胞の100,000倍に近く、増殖速度は4日目まで増加する。これに対し、化合物1を処理した細胞はDNAの増殖および拡大の応答をしない(図6)。従って、式VIの代表分子であるこの化合物は、ヒトPBMC培養液でポリクローナルなマイトジェンのような挙動をしない。
【0210】
<実施例10>
式VIの化合物は抗−CD3抗体の誘導するヒトPBMCリンパ球の増殖を抑制する
抗体(Ag)が抗原提示細胞(APC)の表面のMHCIIをナイーブT細胞に提示する時、MHC−Ag複合体とT細胞表面上のT細胞レセプター(TCR)/CD3複合体が接触する(Weiss等(1986)Annu.Rev.Immunol.4:593〜619)。これら2種類の細胞上のCD28−B7(CD80、CD86)相互作用により生じる増幅シグナルと一緒になって、前記相互作用はT細胞活性化、サイトカイン刺激および細胞分裂を誘導する(Weiss等(1986)Annu.Rev.Immunol.4:593〜619)。AgまたはAPCが存在しなくてもTリンパ球はプレートに結合させた抗−CD抗体とのインキュベーションでin vitroにおいて活性化され増殖し得る(van Lier等(1989)Immunol.68:45〜50)。抗体による活性化を模倣し、T細胞にCD3抗体を結合させると、チロシンキナーゼが活性化され、細胞内カルシウム濃度が上昇し、ジアシルグリセロールが産生され、プロテインキナーゼCが活性化される。カルシウムおよびプロテインキナーゼCのいずれも遺伝子活性化を誘導する細胞内メッセンジャーとして働く(van Lier等(1989)Immunol.68:45〜50)。図6に例示するように、抗−CD3抗体−関連T細胞増殖も、分裂細胞のDNAへの[3H]−チミジンの取り込みにより測定できる。
【0211】
化合物1の処理後にPMBCの増殖が観察されないことから(図6)、この種の分子が制御性T細胞を刺激するのではないかと仮定した。この実験で、化合物1がリンパ球の増殖を抑制するかどうかを調べる。
【0212】
この実験では、実施例2に記載するようにしてヒトPBMCを単離培養し、T−25組織培養フラスコ(Corning Inc.、コーニング、NY)に106細胞/mlとなるように装入し、5%CO2雰囲気で、37℃で24時間培養する。培養中、培養液を化合物1 100μg/mlに曝露する。抗体被覆プレートで細胞をインキュベートする1日前に、ヒト抗−CD3抗体(Clone UCHT1、Pharmingen、パロアルト、CA)またはイソタイプ−合致コントロール抗体(Pharmingen、パロアルト、CA)をダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)(Gibco、BRL、カールズバッド、CA)で希釈し、96穴組織培養プレートのウェルを希釈抗体の100μlアリコットで被覆する。プレートを4℃で一晩被覆し、使用前にDPBSで3回洗浄する。化合物1に曝露した、または化合物1に暴露しない、ヒトPBMCを105細胞/ウェルの密度で抗体被覆ウェルへ接種する。組織培養プレートを5%CO2雰囲気で、37℃で30時間または54時間インキュベートし、その後、[3H]−チミジン(特異活性6.7Ci/mmol;ICN Inc、コスタメーサ、CA)1μCi/ウェルを各ウェルに添加する。次に細胞を37℃で更に18hインキュベートし、その後、細胞を実施例9に記載するようにして回収する。液体シンチレーション計数法も実施例9に記載する通りである。実験データは放射能の計数毎分生データ(cpm)および刺激指数(SI)(データ無し)として算出され、刺激指数はイソタイプ(コントロール)抗体被覆ウェル中の細胞のcpmに対する抗−CD3抗体被覆ウェル中の細胞のcpmの比である。
【0213】
図7は、抗−CD3抗体に48時間曝露した場合も72時間曝露した場合もヒトPBMCが増殖していることを示しており、PBMCの増殖は[3H]−チミジンの取り込みにより確認される(図7、黒丸)。さらに、増殖量はウェル中の抗−CD3抗体の量と直接の相関を示し、最も増殖が多いのは抗−CD3抗体0.4μg/mlに曝露した細胞である。図7はまた、ヒトPBMCを、抗−CD3抗体とインキュベートする前に、化合物1 100μg/mlと24hプレインキュベートすると、その後の増殖量が低下することを示している(図7、白丸)。
【0214】
これらの結果は、化合物1(式VIの化合物の代表例)が、抗−CD3抗体の誘導するリンパ球の増殖を阻害することを示している。
【0215】
<実施例11>
式VIの化合物および抗−CD3抗体で処理した後のヒトCD3+細胞のマイクロアレイ分析
マイクロアレイテクノロジーを用いてサイトカイン調整を測定することにより、図3に示すサイトカイン発現の結果を再確認し評価する。
【0216】
PBMCを実施例2に記載するようにして単離し、10%の牛胎児血清(Gibco BRL、カールズバッド、CA)、50μM β−メルカプトエタノールおよびペニシリン/ストレプトマイシン500μg/mlを含むRPMI培地(完全培地)と一緒に6穴組織培養プレートに添加する。T細胞密度はウェルあたり2.5×106細胞である。化合物1 100μg/mlまたは完全培地のいずれかをプレートの各ウェルに添加する。37℃で24時間インキュベートする。同時に、6穴組織培養プレートを、滅菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS、Gibco BRL、カールズバッド、CA)中の0.2μg/mlの抗−CD3抗体5ml/ウェルで処理するか、または同体積の滅菌PBSで処理する。未接種のプレートを4℃で一晩インキュベートする。インキュベート後、化合物1で処理した細胞または未処理のコントロール細胞を静かに再懸濁し、抗−CD3抗体で被覆しているかまたはしていないプレートへ添加し、37℃で更に48時間インキュベートを続ける。
【0217】
Pan T Cell Isolation Kit(Miltenyi Biotec、カタログ番号130−053−001;オーバーン、CA)を用い、説明書の指示にほぼ即すようにして、PBMCを処理する。このキットは、末梢血から非−活性T細胞を単離するよう設計された磁気標識システムである。T細胞以外の細胞は自動MACS(Miltenyi Biotec Inc、オーバーン、CA)を用いて非標識CD3+細胞から磁気分離することにより除去される。単離されたT細胞を−80℃で保存する。
【0218】
Trizol(GibcoBRL、カールズバッド、CA)を用い、製造元の指定する方法に従って、全RNAを細胞から単離し、クロロホルム抽出し、その後アルコール沈殿させる。分光光度分析によりRNAを定量化し、ゲル分析によりその完全性を評価する。全てのRNA調製物は必要になるまで−80℃で保存する。
【0219】
全RNAはビオチン標識cDNA合成のためのテンプレートとして使用される。次に標識cDNAを、市販の直接マイクロアレイ法のプローブとして使用する。特に限定して、GRArray Q Series Human Common Cytokine Kit(カタログ番号HS−003N)(SuperArray Bioscience Corporation、Fredrick、MD)を使用する。プローブ合成およびマイクロアレイ処理は、説明書に従って実施する。Typhoon8600Imager(Amersham Pharmacia Biotech、ピスカタウェイ、NJ)を化学発光モードで使用して画像を収集保存し、次にImageQuantソフトウェア(Amersham Pharmacia Biotech、ピスカタウェイ、NJ)を用いて分析する。データをMicrosoft Excelへエクスポートし、GEArray Analyzerソフトウェア(SuperArray Bioscience Corporation、フレデリック、MD)を用いて画像強度をバックグラウンドに対して修正し実験結果を比較して標準化する。
【0220】
データ分析によりサイトカインの調整パターンが明らかになり、これは図3に示す複合酵素結合免疫吸着検定法による結果と一致する。抗−CD3抗体に曝露した細胞は活性化され、IL17、TNF−βおよび炎症過程に関わることが知られている他のサイトカインをアップレギュレートする。IL17は活性化T細胞により主に発現されると考えられ、免疫応答の開始および維持の役割を有する。抗−CD3抗体処理細胞はまたIL10およびIL19の両者を減少させる。化合物1を細胞に添加し、その後、抗−CD3抗体に曝露した場合、IL10の量は劇的に増加する。
【0221】
マイクロアレイ実験で化合物1により誘導されたCD3+T細胞におけるIL10発現のアップレギュレーションは、実施例2の動物モデルの結果に確証を与え、このサイトカインが式VIの分子(代表例は化合物1)の生物学的/免疫学的活性をin vitroおよびin vivoで監視するための生物学的マーカーとして使用できることを示唆している。データはまた、直接マイクロアレイ法が、本発明の化合物の生物学的活性だけでなく誘導化合物の生物学的活性も監視でき、構造上の違いが免疫調整能に及ぼす影響を調査できることを示唆している。
【0222】
<実施例12>
式VIの化合物による腹腔内膿瘍形成からの保護
化合物1が、in vitroで抑制機能を示す制御性T細胞を誘導し、同時にヒトPBMCからのIL10の遅い時期の産生を誘導するので(それぞれ実施例10および実施例2)、in vivoにおいてこの合成ポリマー抗原が炎症性の膿瘍形成から動物を守ることができるかその能力を評価することにした。この疑問に取り組むためにラットの腹腔内膿瘍モデルを使用する。
【0223】
この実験で使用される膿瘍形成モデルラットは、オンデルドンク等(Onderdonk等(1977)J.Infect.Dis.136:82〜87)およびチアナボス(Tzianaboss等(1993)Science262:416〜419)が記載する改良種である。135〜175gの体重を示す雄のルイスラット(Charles River Laboratories、ウィルミントン、MA)を全ての実験で使用する。ラットをマイクロアイソレーターケージに収容し、固形飼料(Ralston Purina、セントルイス、MO)および水を無制限に与える。到着と同時に動物を新環境に24時間順応させる。Bacteroides fragilois(ATCC 23745:American Type Culture Collection、マナッサス、VA)(動物毎に108のコロニー形成単位)をラットの滅菌盲腸内容物を含むアジュバント溶液で1:6に希釈して含有する調製接種物を腹腔内に単回投与し、腹腔内膿瘍を誘導する。B.fragilisは脳−心臓浸出物液体培地中に−80℃で維持される。培養物は脳−心臓浸出物液体培地中で嫌気的に対数増殖し、ラットの滅菌盲腸内容物(rSCC)で希釈してから使用する。rSCCはラットの盲腸ペレットから調製され、これを脳−心臓浸出物液体培地に溶解し、オートクレーブにかけ、濾過する。動物は接種後6日目に安楽死させ、膿瘍の形成を調べる。1つ以上の膿瘍が完全に形成されている動物にプラスの評点を下す。膿瘍の形成されていない動物は−の評点となる。それぞれの評点の結果は、各実験グループの同一性を保つために公表しない。
【0224】
動物(ラット10匹/グループ)に化合物1を24時間間隔、即ちB.fragilis/rSCC(Tzianabos等、J.Clin.Invest.96:2727(1995))で攻撃する日の前日、当日、後日に分けて、3回皮下投与する。接種物による攻撃は腹腔内経路で行う。動物には化合物1を対数希釈したものを投与する、即ち100μg、10μg、1μg(×3)/動物で投与する。結果は防御率で表わされ(膿瘍の形成されていない動物の数/処理群)、フィッシャーの正確確率検定(Fishers Exact Probability Test)を用いて統計的有意性を計算する。
【0225】
表6に記載するように、生理食塩水コントロールと比較して、投与量100μgおよび10μgの両方で化合物1は膿瘍形成に対して顕著な防御を示している。1つ以上の膿瘍の生じているコントロール動物群と比べ、膿瘍が全く形成されていない場合を防御が確立したと評価する。防御の確立した動物は抗原を投与しても有害な作用を示さず、示したとしても、炎症の一般的症状とされる発熱または傾眠の徴候が僅かに見られる程度である。これらの動物は敗血症の症状も示さない。
【0226】
表6:ラット膿瘍モデルにおける化合物1の活性
【表9】

【0227】
実施例2〜11のデータを考え合わせると、このモデルにおける細菌感染に対する応答として膿瘍を形成するのに必要な炎症過程に対する防御が、未熟樹状細胞の存在で阻害され、未熟樹状細胞はT細胞の活性化を直接阻害するかまたは制御性T細胞群の産生を誘導できることが示唆される。制御性T細胞による炎症細胞の直接と該は更にIL−10の発現を刺激できる。全体で、これらの事象の1つ以上が組織立って、in vivo膿瘍モデルに見られる炎症を阻害していると考えられる。
【0228】
<実施例13>
式VIの化合物による術後癒着の発生率および重傷度の低減
外因性IL10は術後癒着の形成を制限することが知られている(Holschneider等(1997)J.Surg.Research70:138〜143)。更に、制御性T細胞は強力な抗−炎症活性を有し、in vivoモデルで炎症を抑制することが知られている(Maloy等(2001)Nat.Immunol.2:816〜822;Shevach(2002)Nat.Rev.Immunol.2389〜400)。制御性T細胞はその標的である炎症性T細胞からIL10の産生を惹起することも知られている(Diekman等(2002)J.Exp.Med.196:247〜253)。上記の実施例2、10、11および12で多角的に示されるように、化合物1はPBMCからのIL10の産生を刺激し、in vitroでは制御性T細胞の数および作用を増強し、in vivoでは膿瘍形成から防御する。線維素沈着を起こし膿瘍を形成する炎症応答が、癒着の形成の病理学的性質に類似するので、癒着モデルに化合物1を処理すると、同じように制御性T細胞の活性が刺激され、最終的にIL10が内部産生され、その結果、術後癒着の形成が減少するという仮説を立てた。
【0229】
この仮説を証明するために、雄のルイスラット(Charles River Laboratories、ウィルミントン、MA)に化合物1を24時間間隔、即ち手術により癒着を誘導する日の前日、当日、後日に分けて、3回皮下投与する(Tzianabos等(1995)J.Clin.Invest.96:2727〜2731)。この化合物を対数希釈し、生理食塩水0.2ml中100μg、10μgおよび1μg(×3)/動物として投与する。コントロール群には0.2ml体積の生理食塩水を同じ投与スケジュールで投与する。ケネディー等(Kennedy等(1996)Surgery120:866〜871)およびチアナボス等(Tzianabos等(PCT国際公開WO00/59515)に記載される方法に僅かな修正を加えて腹膜癒着を誘導する。簡潔に説明すると、酸素中の2〜5%イソフランを用い、麻酔の手術基準に至るまでラットに麻酔をかける。腹腔正中部に1〜2cmの切開を施し、盲腸をむき出しにする。盲腸を無菌状態で腹腔から取り出し、手術用ゲージで剥離し、肉眼で見える僅かな出血を誘導する。その後、盲腸を腹腔に戻す。左右の側腹壁を無菌状態で裏返し、上記の方法で剥離する。その後、実施例12の記載に従って調製された滅菌盲腸内容物(rSCC)0.2〜0.3mlを炎症性アジュバントとして腹腔内に添加する(Onderdonk等(1982)J.Clin.Invest.69:9〜14)。腹膜を3〜0シルクで閉じ、その後、皮膚の傷は組織癒着が起こる(3M Animal Care Products、セントポール、MN)。動物を外科的処置の1週間後に死亡させ、癒着の形成を調査する。癒着はケネディー等(Kennedy等(1996)Surgery120:866〜871)の記載する方法に従い0〜5段階で評価される:0=癒着無し、1=薄膜状癒着、2=1つ以上の薄い癒着、3=部分的に集中した厚い癒着、4=平面的に接着した厚い癒着、5=非常に厚い血管新生化した癒着または1つ以上の平面的な癒着。この評点システムは人医学で使用するシステムと類似しており、存在する癒着を計数し、癒着の重症度を示す;評点が高いほど炎症および癒着形成の重症度は高い。結果を表7に示す。
【0230】
表7:ラットの癒着モデルにおける化合物1の活性
【表10】

【0231】
表7に示すデータは、化合物1を100μg処理したラットにおける癒着形成(中央値=2.0)が、生理食塩水コントロール(中央値=4.0)と比較して顕著に抑制されることを実証している。このデータは、多糖抗原が手術に起因する深刻な癒着形成からラットを効果的に保護することを示しており、式VIの化合物がin vivoで抗−炎症作用を誘導することを示唆している。
【0232】
実施例14
モルモットモデルで式VIの化合物がもたらす遅延型過敏反応に対する阻害作用
式VIの化合物(代表例は化合物1)のような免疫調整薬の安全性および有効性を臨床評価するには、手頃なバイオマーカーが必要である。安全性および投与量は一般的に健康なボランティアで決定され、その場合、特定の炎症過程を調査することはできないので、バイオマーカーは必須である。さらに、膿瘍および/または癒着はすぐに生じるわけではないので、このようなバイオマーカーは実験の後半で役に立ち、免疫調整薬を用いた治療後に非−侵入的なやり方で治療効果を格付けできる。それ故、遅延型過敏症(DTH)動物モデルを開発した(Gray等(1994)Curr.Opin.Immunol.6:425〜437)。このアッセイは、現存する免疫調整薬を用いた臨床効果試験用のバイオマーカーとして人間にも使用できる。臨床上、DTH皮膚試験は人の免疫適格性の総体的評価に非常に有用である(Gray等(1994)Curr.Opin.Immunol.6:425〜437;Kuby等(2000)Immunology、W.H.Freeman and Co)。この試験には、下記に記載するCnadinの投与が含まれ、この薬剤はAIDS患者の免疫適格性を調べるのに常用されるものである。
【0233】
モルモットモデルを使用してバイオマーカーとしてのDTH応答の有用性を検証する。動物モデルの限局したDTH応答はT細胞の作用に関する重要は情報源となる。DTH応答の直接測定は人間および動物で容易に実施および評価できる。発赤、じんま疹および/または硬化を発見でき、皮膚表面上で容易に定量測定できる。
【0234】
この目的のために、体重250〜299gの雌のハートレーモルモット(Charles River Laboratories、ウィルミントン、MA)を全てのDTH実験で使用する。モルモットをマイクロアイソレーターケージに収容し、固形飼料(Ralston Purina、セントルイス、MO)および水を無制限に与える。到着と同時に動物を新環境に24時間順応させる。動物の背中の体毛を2×2インチの面積で刈り取る。その場所をポビドン−ヨード(H&P Industries/Triad Medical Inc.、ムクウォナーゴ、WI)で洗浄し、次にアルコールで洗浄する。その後、Candida albicansA26(ATCC90234)の生理食塩水懸濁液0.2mlを首の背中側に皮内注射して、動物をCandida albicans抗原に感作する。Candida albicansA26の培養物はグリセロールとラクトースとから成る凍結溶液中で−80℃で維持され、サブロー寒天とデキストロース寒天とから成る傾斜培地(DIFCO、デトロイト、MI)上で、35℃で24時間かけて好気的に増殖させる。次に培養物を滅菌生理食塩水に懸濁し、使用前に、分光光度計で所定の至的密度(約2.0×107細胞/ml)に調整する。
【0235】
感作3日後に、注射用滅菌水(Abbott Laboratories、ノースシカゴ、IL)を配合した化合物1を100ng、10ngおよび1.0ng/0.2mlで動物に処理する。動物の首の背中側に0.2mlを皮下注射する。水を投与する3番目の動物群はポジティブコントロール群である。
【0236】
感作4日後に、動物を前記のように毛刈りし洗浄する。毛刈りした領域内の4つの等しい面積部分にCandin(Allermed Laboratories、Inc.、サンディエゴ、CA)0.1mlを皮内注射するが、ここで、CandinはT細胞に対する抗原をリコールするためのものであり、この抗原は予めC.Albicansで感作されている。紅斑、じんま疹および硬化が4箇所に出現していないか調べるために、動物を3日間に亘って毎日観察する。発赤部位の2つの交差する直径(垂直および水平)を各箇所で記録する。記録を平均し、発赤面積(mm2)の平均を求める。治療効果を評価するために処理動物を未処理コントロールと比較する。
【0237】
化合物1を処理した動物の発赤面積がコントロール動物と比べて減少していることから、DTH皮膚アッセイが、臨床においても式VIの化合物のような多糖免疫調整剤の評価においても好ましいバイオマーカーであることが分かる。
【0238】
<実施例15>
式VおよびVIの化合物によるヒトPBMCのTNF−αの分化誘導
式VおよびVIの化合物が、ヒト末梢血単核細胞による前−炎症性サイトカインTNF−αお産生を誘導する能力を有するかを以下のようにして調査する。
【0239】
10%FBSを含むRPMI培地(いずれもInvitrogen Coporation、カールズバッド、CA)中で1.0×106細胞/mlとなるように培養し、Ficollを用いて密度勾配遠心分離して、人のドナーからPBMCを単離し、化合物1および化合物2の存在または不在下に、それぞれ、5%CO2の雰囲気で、37℃で18hインキュベートする。別のコントロール細胞を、S.aureusのペプチドグリカン(Sigma)10ng/ml(これは強力な炎症性ペプチドグリカンである)を用いて、前記と同一の条件でインキュベートする。インキュベーション後、組織培養培地を種々の細胞からピペットを用いて取り出し、そこに存在するTNF−αの量を市販のサンドウィッチELISAキットを用いて測定する(このキットはTNF−αに対するモノクローナル抗体を使用したものである(BD OptELATM Set Human TNF、カタログ番号555212、Pharmingen、Inc.))。このELISAアッセイにおけるTNF−αの検出限界は7.8pg/mlである。
【0240】
ドナー細胞を用い、化合物2 500μg/ml、100μg/mlおよび1μg/mlと一緒に18hインキュベートすると、それぞれTNF−αが64.0pg/ml、17.6pg/mlおよび1.82pg/ml誘導されるが、化合物1を同濃度で使用した場合にはTNF−αが検出されない。S.aureusペプチドグリカン10ng/mlとインキュベートするとドナー細胞でTNF−αは26pg/ml誘導される。
【0241】
これらの結果は、ヒトPBMCが化合物2(式Vの化合物の代表例)を認識し、使用濃度に応じて前−炎症性サイトカインを産生することを示している。これに対して、化合物1(式VIの化合物の代表例)はPBMCでTNF−αを誘導しない。この結果は実施例15の記載と一致する。
【0242】
ここに記載する発明を様々に変化させることが可能である。その変化を本発明の精神および目的から逸脱していると見なしてはならず、当業者に明らかな変化修飾についても本発明の請求の範囲に含むものと考える。
【図面の簡単な説明】
【0243】
【図1】樹状細胞とT細胞との相互作用が炎症または適応免疫を誘導する際に一通常生じる事象を概略的に示す図である。
【図2】制御性T細胞に関する本発明の仮説を示す概略図である。
【図3】化合物1を処理したヒト抹消血単核細胞(PBMC)由来のサイトカインの概要を示す図である。培養液中のヒトPBMCを化合物1 0.6μg/mlで処理し、サイトカインの発現を8日間に亘って測定する。結果を未処理培地コントロールに対して標準化する。データは、代表的なサイトカインの濃度の3つのウェルの平均値3±標準誤差で表される。結果は、化合物1の処理に対する一次応答がIL10の発現であることを示している。
【図4】FITC−デキストラン(FITC−Dx、大きさ40kDa;パネルA)またはオレゴングリーン標識化合物1(OG−Cpd1、大きさ150kDa;パネルB)のいずれかで2分間処理したヒトiDCの共焦点顕微鏡画像を示す図である。ポリマーと一緒にインキュベートした後、細胞をしっかりと洗浄して外部ポリマーを除き、取り込んだ材料を2分間隔で追跡した。いずれの化合物を使用した場合にもポリマーの細胞内空胞への局在が見られ、蛍光により画像中の細胞の黒色領域内の白色点として視覚化される。
【図5】それぞれ37℃または0℃で、ヒト単核細胞由来樹状細胞よるFITC−デキストラン(パネルA)またはオレゴングリーン標識化合物1(パネルB)の取り込みをフローサイトメトリーで分析した図である。各ヒストグラムは、記載の時間間隔で、蛍光シグナルの平均蛍光強度対細胞数を示した図である。結果から、各分子の取り込みは同様に起こり、この取り込みは細胞を0℃で代謝阻害した際に阻害されることが分かる。
【図6】化合物1が培養液中でPBMCの分化を誘導しないことを示す図である。単離したPBMCを、化合物1 100μg/ml(▽)またはフィトヘマグルチニン(PHA)25μg/ml(□)と一緒にあるいは未処理(□)の状態で、記載された日数インキュベートする。放射性チミジン[3H]−Thyを、各時点の18時間前に培養液へ添加し、細胞が取り込んだ放射性標識物質の量をシンチレーションカウンターで計数する。放射活性は1分あたりのカウント数で評価する。
【図7】化合物1が抗−CD3抗体の媒介するヒトPBMCの増殖を阻害することを示す図である。PMBCを化合物1 100μg/mlと一緒に24時間プレインキュベートし、その後、種々の濃度の抗−CD3抗体で被覆した組織培養プレートを用いて48時間インキュベートするか(パネルA)または72時間インキュベートする(パネルB)。3H−チミジン取り込みアッセイとその後の液体シンチレーションカウンターによる計数で細胞増殖を評価する。
【図8】化合物2、樹状細胞ならびにT細胞が相互作用して炎症または適応免疫を誘導する際に生じる事象の概略を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:

式I
で表される、直鎖で非−架橋性の免疫調整高分子化合物であり、
式中、
下付文字nは、ポリマー中の式Ymで表されるモノマー単位の数を意味し、2〜375の範囲の1つの整数であり;
上付文字mは、ポリマー中の式Ymで表される特定のモノマー単位の位置を意味し、左から右へ逐次的に、1〜nの連続した整数であり;
1およびX2は、独立して、Hまたは末端基であり;
式Ymで表される各モノマー単位は独立して:
(a)YmがYnでない場合、式IIa:

式IIa
で表される基であり、または
(b)YmがYnである場合、式IIb:

式IIb
で表される基であり、
ここで、
各R11、R1、...、Rn-11およびRn1は、独立して、Hまたは低分子アルキルであり;
各R12、R2、...、Rn-12およびRn2は、独立して、−OH、−NH2、アミノ酸基、または2〜10個のアミノ酸基を含むペプチドであり;ここで:
(j)各アミノ酸基は、独立して、DまたはLの立体配座を示し;
(k)各アミノ酸基は、非置換であるかまたはハロ、アルキル、ヒドロキシ、アルコキシ、フェノキシ、CF3、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、−C(O)Oアルキルおよび−NO2から成る群より選択される1つ以上の基で置換されており;
(d)アミノ基は、独立して、γカルボキシル基のα位ならびにαまたはεアミノ基で結合しているか、またはそれらの組合せである、
ことを特徴とする、直鎖で非−架橋性の免疫調整高分子化合物、またはその製薬学的に入手可能な塩、ただし、直鎖ポリマーは以下のものではない:
(a)以下の式で示されるホモポリマー(ここでnは、75〜375):

または
(b)以下の式で示されるモノマー単位を含むホモポリマー:

【請求項2】
11、R1、...、Rn-11およびRn1の1つ以上がメチルであることを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
各R11、R1、...、Rn-11およびRn1がメチルであることを特徴とする、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
各X1およびX2がHであることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
nが、75〜375であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の化物。
【請求項6】
nが、2〜10であることを特徴とする、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
nが、2または3であることを特徴とする、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
12、R2、...、Rn-12およびRn2の1つ以上がジペプチドであることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の化合物。
【請求項9】
各R12、R2、...、Rn-12およびRn2がジペプチドであることを特徴とする、請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
12、R2、...、Rn-12およびRn2の1つ以上がトリペプチドであることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の化合物。
【請求項11】
各R12、R2、...、Rn-12およびRn2がトリペプチドであることを特徴とする、請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
12、R2、...、Rn-12およびRn2の1つ以上がテトラペプチドであることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の化合物。
【請求項13】
各R12、R2、...、Rn-12およびRn2がテトラペプチドであることを特徴とする、請求項12に記載の化合物。
【請求項14】
12、R2、...、Rn-12およびRn2の1つ以上がペンタペプチドであることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の化合物。
【請求項15】
各R12、R2、...、Rn-12およびRn2がペンタペプチドであることを特徴とする、請求項14に記載の化合物。
【請求項16】
式Ymで表されるモノマー単位の1つ以上が:
(a)YmがYnでない場合、式IIIa:

式IIIa
で表される基であるか;または
(b)YmがYnである場合、式IIIb:

式IIIb
で表される基であり、
ここで、
各R13、R3、...、Rn-13およびRn3が、独立して、−OHまたは−NH2であり;
各R14、R4、...、Rn-14およびRn4が、独立して、−OHまたは−NH2、アミノ酸基、または2〜8個のアミノ酸基を含むペプチドであり、ここで:
(d)各アミノ酸基は、独立して、DまたはLの立体配座を示し;
(e)各アミノ酸基は、非置換であるかまたはハロ、アルキル、ヒドロキシ、アルコキシ、フェノキシ、CF3、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、−C(O)Oアルキルおよび−NO2から成る群より選択される1つ以上の基で置換されており;
(f)アミノ酸基は、独立して、γカルボキシル基のα位、αまたはεアミノ基で結合しているかまたはそれらの組合せである、
ことを特徴とする、請求項1から15までのいずれか1項に記載の化合物。
【請求項17】
(a)式Ymで示される各モノマー単位は、Ynと異なり、式IIIaで表される基であり;且つ
(b)Ynが式IIIbで表される基であることを特徴とする、請求項16に記載の化合物。
【請求項18】
前記化合物が、実質的に、純粋な形であることを特徴とする、請求項16または17に記載の化合物。
【請求項19】
式Ymで表されるモノマー単位が以下の基でない:
(a)YmがYnでない場合、式IIIa:

式IIIa
で表される基;または
(b)YmがYnである場合、式IIIb:

式IIIb
で表される基、
ここで、
各R13、R3、...、Rn-13およびRn3が、独立して、−OHまたは−NH2であり;
各R14、R4、...、Rn-14およびRn4が、独立して、−OHまたは−NH2、アミノ酸基、または2〜8個のアミノ酸基を含むペプチドであり、ここで:
(d)各アミノ酸基は、独立して、DまたはLの立体配座を示し;
(e)各アミノ酸基は、非置換であるかまたはハロ、アルキル、ヒドロキシ、アルコキシ、フェノキシ、CF3、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、−C(O)Oアルキルおよび−NO2から成る群より選択される1つ以上の基で置換されており;
(f)アミノ酸基は、独立して、γカルボキシル基のα位、αまたはεアミノ基で結合しているかまたはそれらの組合せである、
ことを特徴とする、請求項1から15までのいずれか1項に記載の化合物。
【請求項20】
12、R2、...、Rn-12およびRn2の1つ以上が正味荷電を有することを特徴とする、請求項1から19までのいずれか1項に記載の化合物。
【請求項21】
各R12、R2、...、Rn-12およびRn2が正味荷電を有することを特徴とする、請求項20に記載の化合物。
【請求項22】
正味荷電が負であることを特徴とする、請求項20または21に記載の化合物。
【請求項23】
12、R2、...、Rn-12およびRn2の1つ以上が、中性正味荷電を有することを特徴とする、請求項1から19までのいずれか1項に記載の化合物。
【請求項24】
各R12、R2、...、Rn-12およびRn2が中性正味荷電を有することを特徴とする、請求項23に記載の化合物。
【請求項25】
直鎖ポリマーがホモポリマーであることを特徴とする、請求項1から24までのいずれか1項に記載の化合物。
【請求項26】
直鎖ポリマーが、ランダム共重合体、交互共重合体、またはブロック共重合体であることを特徴とする、請求項1から24までのいずれか1項に記載の化合物。
【請求項27】
直鎖ポリマーがランダム共重合体であることを特徴とする、請求項26に記載の化合物。
【請求項28】
直鎖ポリマーが、2種類のモノマー単位を含むことを特徴とする、請求項26または27に記載の化合物。
【請求項29】
直鎖ポリマーが、2種類を越えるモノマー単位を含むことを特徴とする、請求項26または27に記載の化合物。
【請求項30】
製薬学的に使用可能な希釈剤、医薬品添加物またはキャリアと一緒に請求項1から29までのいずれか1項に記載の化合物を含む医薬品、またはその製薬学的に入手可能な塩。
【請求項31】
さらに分散剤を含むこと特徴とする、請求項30に記載の医薬品。
【請求項32】
分散剤が、ポリエチレングリコール、グリセロールまたはスクロースであることを特徴とする、請求項31に記載の医薬品。
【請求項33】
免疫調整薬による治療が可能な疾患または障害の予防用あるいは治療用の薬剤を製造するための、請求項1から29までのいずれか1項に記載の化合物またはその製薬学的に入手可能な塩の使用。
【請求項34】
ワクチン補助剤を製造するための、請求項16、17または18に記載の化合物、あるいはその製薬学的に入手可能な塩の使用。
【請求項35】
免疫調整薬による治療が可能な疾患または障害の予防あるいは治療のための、請求項1から29までのいずれか1項に記載の化合物またはその製薬学的に入手可能な塩の使用。
【請求項36】
請求項1から29までのいずれか1項に記載の化合物の哺乳動物への有効量投与を含む、哺乳動物に免疫応答を誘起する方法。
【請求項37】
前記免疫応答が炎症性であり、前記化合物が請求項16、17または18に記載の化合物であることを特徴とする、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記免疫応答が非−炎症性であり、前記化合物が請求項19に記載の化合物であることを特徴とする、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
請求項19に記載の化合物の哺乳動物への有効量投与を含む、予防または治療を必要とする哺乳動物の炎症性の疾患、症状または障害の予防法あるいは治療法。
【請求項40】
請求項16、17または18に記載の化合物の哺乳動物への有効量投与を含む、予防または治療を必要とする哺乳動物に炎症性の免疫応答を誘起する免疫調整薬が有効な疾患、症状または障害の予防法あるいは治療法。
【請求項41】
以下の式:

で表される直鎖ホモポリマー(nは2〜375)の哺乳動物への有効量投与を含む、哺乳動物に免疫応答を引き起こす方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−505905(P2007−505905A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526901(P2006−526901)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【国際出願番号】PCT/US2004/026737
【国際公開番号】WO2005/035588
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(594197872)イーライ リリー アンド カンパニー (301)
【Fターム(参考)】