疾患のバイオマーカーとしてのアルブミン結合性タンパク質/ペプチド複合体
【課題】アルブミン結合性タンパク質/ペプチド複合体(ABPPC)のレベルを測定する疾患又は障害を診断する方法を提供する。
【解決手段】特定の疾患又は障害を有する患者集団(心筋虚血、心筋梗塞、又は血管炎)において血清ABPPCをスクリーニングするステップと、同定されたABPPCと、正常な対象集団におけるABPPCとを比較するステップとを含む。バイオマーカーは、例えばタンパク質アッセイ、結合アッセイ、又は免疫アッセイを用いて検出することができる。バイオマーカーはまた、場合によっては試料の適切な最初の処理の後に、質量分析を用いてピークとして同定し得るか、又は、例えばサイズ排除クロマトグラフィーを用いてゲルのバンドとして同定し得る。
【解決手段】特定の疾患又は障害を有する患者集団(心筋虚血、心筋梗塞、又は血管炎)において血清ABPPCをスクリーニングするステップと、同定されたABPPCと、正常な対象集団におけるABPPCとを比較するステップとを含む。バイオマーカーは、例えばタンパク質アッセイ、結合アッセイ、又は免疫アッセイを用いて検出することができる。バイオマーカーはまた、場合によっては試料の適切な最初の処理の後に、質量分析を用いてピークとして同定し得るか、又は、例えばサイズ排除クロマトグラフィーを用いてゲルのバンドとして同定し得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米国政府機関NIH N01−HV28−180との契約に基づく基金でなされた。米国政府は本発明に関して一定の権利を有する。
本発明は、アルブミン結合性タンパク質/ペプチド複合体(ABPPC、albumin-bound protein/peptide complex)を含むバイオマーカーを用いた診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血清アルブミンは血清中で最も豊富なタンパク質であり、典型的には45〜50mg/mlで存在する。アルブミンは、細胞内の空間におけるタンパク質、脂質、及び小分子を結合する「分子スポンジ(molecular sponge)」として機能し(Millea, K.; Krull, I. Journal of Liquid Chromatography and Related Technologies 2003, 26, 2195-2224、Anderson, N. L.; Anderson, N. G. Mol Cell Proteomics 2002, 1, 845-867、Carter, D. C.; Ho, J. X. Adv Protein Chem 1994, 45, 153-203)、ペプチドホルモン、血清アミロイドA、インターフェロン、グルカゴン、ブラジキニン、インスリン、及び連鎖球菌(Streptococcal)プロテインGと会合体を形成することが見出されているが(Peters, T., Jr. All About Albumin; Academic Press: San Diego, 1996、Baczynskyj, L.; Bronson, G.E.; Kubiak, T. M. Rapid CommunMass Spectrom 1994, 8, 280-286、Carter, W. A. Methods Enzymol 1981, 78, 576-582、Sjobring, U.; Bjorck, L.; Kastern, W. J Biol Chem 1991, 266, 399-405)、結合パートナーの広範なリスト、及びこれらのパートナーが疾患によって変化するかどうかについては調査されていない。これまでの研究により、変性条件下において高分子量の種が除去されると低分子量の種がより多く回収されることが示されており、このことは、アルブミンのような大きなタンパク質が結合ペプチドであるということをさらに裏付けるものである(Tirumalai, R. S.; Chan, K. C.; Prieto, D. A.; Issaq, H. J.; Conrads, T. P.; Veenstra, T. D. Mol Cell Proteomics 2003, 2, 1096-1103)。さらに、アルブミンは少数の特異的タンパク質、例えばパラオキソナーゼ1(Ortigoza-Ferado, J.; Richter, R. J.; Hornung, S. K.; Motulsky, A. G.; Furlong, C. E. Am J Hum Genet 1984, 36, 295-305)、α−1−酸性糖タンパク質(Krauss, E.; Polnaszek, C. F.; Scheeler, D. A.; Halsall, H. B.; Eckfeldt, J. H.; Holtzman, J. L. J PharmacolExp Ther 1986, 239, 754-759)、並びに血清中のクラステリン(Kelso, G. J.; Stuart, W. D.; Richter, R. J.; Furlong, C. E.; Jordan-Starck, T. C.; Harmony, J. A. Biochemistry 1994, 33, 832-839)(パラオキソナーゼ1を介した間接的な相互作用)及びアポリポプロテインE(Dergunov, A. D.; Vorotnikova, Y. Y. Int JBiochem 1994, 26, 933-942)に結合することが報告されている。血清中のアルブミン結合ペプチド(30kDa未満)は研究されているものの、それらの結合の程度は現在分かっていない(Zhou, M.; Lucas, D. A.; Chan, K. C; Issaq, H. J.; Petricoin, E. F., 3rd; Liotta, L. A.; Veenstra, T. D.; Conrads, T. P. Electrophoresis 2004, 25, 1289-1298)。今までのところ、アルブミンに結合しているタンパク質全体についての包括的な研究は行われていない。加えて、アルブミンに結合しているタンパク質/ペプチドの、タンパク質/ペプチドの組成、比率、又はPTMの状態における何らかの変化についての文献は存在しない。
【0003】
アルブミンは、金属へのアルブミンの結合を変化させる疾患によって変化するということが見出されており、現在のところ、虚血のバイオマーカーとして機能している。心筋虚血のバイオマーカーであるとこれまでに同定されているアルブミンの修飾は、アルブミンのN末端のN−アセチル化であり、これはコバルト及びニッケルへのアルブミンの結合親和性を低下させる(Bar-Or, D.; Curtis, G.; Rao, N.; Bampos, N.; Lau, E. Eur J Biochem 2001, 268, 42-47、Takahashi, N.; Takahashi, Y.; Putnam, F. W. Proc Natl Acad Sci USA1987, 84, 7403-7407、Chan, B.; Dodsworth, N.; Woodrow, J.; Tucker, A.; Harris, R. Eur J Biochem1995, 227, 524-528)。最新の特許(Crosby, P. A. M., Deborah L In PCT Int. Appl.: USA, 2002、Bar-or, D. L., Edward; Winkler, James V In PCT Int: US, 2004)は、虚血へのアルブミンのこのN末端の修飾の使用を対象としており、アルブミンとコバルトとの結合に対する臨床的アッセイ(ACB(albumin cobalt binding)アッセイ)をもたらしている。N末端の修飾に加え、アルブミンの酸化が、酸化ストレスに対するマーカーとして提案されている(Mera, K.; Anraku, M.; Kitamura, K.; Nakajou, K.; Maruyama, T.; Tomita, K.; Otagiri, M. Hypertens Res 2005, 28, 973-980)。腎臓障害及び末期の腎疾患を有する患者におけるアルブミンのMALDI−TOF(マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型、Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization Time-of-Flight)分析では、疾患によるアルブミンの分子量の増加が示される(Thornalley, P. J.; Argirova, M.; Ahmed, N.; Mann, V. M.; Argirov, O.; Dawnay, A. Kidney Int 2000, 58, 2228-2234)。最後に、アルブミンの脂肪酸運搬機能が、アテローム性動脈硬化症及び糖尿病において修飾される(Muravskaya, E. V.; Lapko, A. G.; Muravskii, V. A. Bull Exp Biol Med 2003, 135, 433-435)。糖尿病を有する患者において、脂肪酸に対するアルブミンの結合能力は上昇し、アテローム性動脈硬化症を有する患者において、その能力は低下する。結論として、アルブミンが疾患によって変化することの証拠は明らかである。血清中のアルブミンに対するタンパク質及び/又はペプチドの結合の変化は、これまでに調査も記載もされていない。本研究は、いかなる質量の範囲も排除することなく、完全なタンパク質、分解したタンパク質、及びペプチドの分析を含むという理由から、特有のものである。さらに、本研究は、これまでのいかなる文献でも取り扱われていない特徴である、アルブミンに結合するタンパク質及びペプチドにおける変化に焦点を当てたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】Crosby, P. A. M., Deborah L In PCT Int. Appl.: USA, 2002
【特許文献2】Bar-or, D. L., Edward; Winkler, James V In PCT Int: US, 2004
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Millea, K.; Krull, I. Journal of Liquid Chromatography and Related Technologies 2003, 26, 2195-2224
【非特許文献2】Anderson, N. L.; Anderson, N. G. Mol Cell Proteomics 2002, 1, 845-867
【非特許文献3】Carter, D. C.; Ho, J. X. Adv Protein Chem 1994, 45, 153-203
【非特許文献4】Peters, T., Jr. All About Albumin; Academic Press: San Diego, 1996
【非特許文献5】Baczynskyj, L.; Bronson, G.E.; Kubiak, T. M. Rapid Commun Mass Spectrom 1994, 8, 280-286
【非特許文献6】Carter, W. A. Methods Enzymol1981, 78, 576-582
【非特許文献7】Sjobring, U.; Bjorck, L.; Kastern, W. J Biol Chem 1991, 266, 399-405
【非特許文献8】Tirumalai, R. S.; Chan, K. C.; Prieto, D. A.; Issaq, H. J.; Conrads, T. P.; Veenstra, T. D. Mol Cell Proteomics 2003, 2, 1096-1103
【非特許文献9】Ortigoza-Ferado, J.; Richter, R. J.; Hornung, S. K.; Motulsky, A. G.; Furlong, C. E. Am J Hum Genet 1984, 36, 295-305
【非特許文献10】Krauss, E.; Polnaszek, C. F.; Scheeler, D. A.; Halsall, H. B.; Eckfeldt, J. H.; Holtzman, J. L. J Pharmacol Exp Ther1986, 239, 754-759
【非特許文献11】Kelso, G. J.; Stuart, W. D.; Richter, R. J.; Furlong, C. E.; Jordan-Starck, T. C.; Harmony, J. A. Biochemistry 1994, 33, 832-839
【非特許文献12】Dergunov, A. D.; Vorotnikova, Y. Y. Int JBiochem 1994, 26, 933-942
【非特許文献13】Zhou, M.; Lucas, D. A.; Chan, K. C; Issaq, H. J.; Petricoin, E. F., 3rd; Liotta, L. A.; Veenstra, T. D.; Conrads, T. P. Electrophoresis 2004, 25, 1289-1298
【非特許文献14】Bar-Or, D.; Curtis, G.; Rao, N.; Bampos, N.; Lau, E. EurJ Biochem 2001, 268, 42-47
【非特許文献15】Takahashi, N.; Takahashi, Y.; Putnam, F. W. Proc Natl Acad Sci USA 1987, 84, 7403-7407
【非特許文献16】Chan, B.; Dodsworth, N.; Woodrow, J.; Tucker, A.; Harris, R. Eur J Biochem 1995, 227, 524-528
【非特許文献17】Mera, K.; Anraku, M.; Kitamura, K.; Nakajou, K.; Maruyama, T.; Tomita, K.; Otagiri, M. Hypertens Res 2005, 28, 973-980
【非特許文献18】Thornalley, P. J.; Argirova, M.; Ahmed, N.; Mann, V. M.; Argirov, O.; Dawnay, A. Kidney Int 2000, 58, 2228-2234
【非特許文献19】Muravskaya, E. V.; Lapko, A. G.; Muravskii, V. A. Bull Exp Biol Med 2003, 135, 433-435
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、ヒト血清の、アルブミンを濃縮した画分を試験して、健康な個体におけるあらゆるアルブミン結合タンパク質を決定し、さらに、アルブミンに結合するタンパク質が疾患によって変化するかどうかを決定した。研究には、アルブミン並びにあらゆる(修飾された、及び修飾されていない)結合性タンパク質/ペプチド(アルブミン結合性タンパク質/ペプチド複合体、ABPPC)の単離のための、複数の独立した方法が含まれる(図1)。結果は、ABPPCが疾患に対する有用なバイオマーカーであることを示す。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、対象における特定の(1又は複数の)アルブミン結合性タンパク質/ペプチド複合体(ABPPC)のレベルを測定するステップと、そのレベルを、正常な対象集団の対照レベルとを比較するステップとを含む、疾患又は障害を診断する方法が提供される。特定のABPPCのレベルの変動及びABPPCのプロフィールの変動は、特定の疾患及び障害の指標であることが見出されている。
【0008】
目的は、疾患を有する患者及び健康な患者においてアルブミンに特異的に結合しているタンパク質を、現在の採血手順に適合する、経済的で、迅速で、且つ精度の高い方法で特徴付けることである。本発明者はいかなる特定の仮説にもとらわれないが、これは、アルブミンが疾患によって変化し、ひいてはアルブミンとアルブミン結合性のタンパク質及びペプチドとの複合体が変化するという仮説に基づいている。ABPPCアッセイはアルブミンの修飾、又はABPPCの組成における変化(即ち、1つ又は複数のタンパク質の有無、1つ又は複数のタンパク質の変化した濃度(又は化学量論又はモル濃度の比率)、タンパク質のPTMにおける変化(例えば、タンパク質分解断片対アルブミンを含む完全なタンパク質))を測定し得る。
【0009】
本方法は単独で、又は、診断の精度及び特異性を向上させるために他の診断試験と共に用いることができる。本方法はまた、この手段又は他の手段によってさらに試験するための、「危険性がある」と思われる個体を同定するためのスクリーニングの目的でも用い得る。
【0010】
したがって、一態様において、本方法は、(a)前記対象から得た生体試料における少なくとも1つのバイオマーカーのレベルを測定するステップであって、前記バイオマーカーがアルブミン結合性タンパク質/ペプチド複合体(ABPPC)を含むステップと、(b)生体試料において測定されたレベルを、正常な対象集団における対照レベルと比較するステップであって、対照レベルと比較したレベルの上昇又は低下が前記疾患又は障害の指標であるステップとを含む。
【0011】
別の態様において、本方法は、アルブミン結合性タンパク質/ペプチド複合体(ABPPC)を含む少なくとも1つのバイオマーカーの存在について、対象の試料をアッセイするステップを含み、ここで、前記(1又は複数の)バイオマーカーの検出は疾患又は障害の診断と相関するものであり、この相関は、正常な対象と比較した、対象の試料における(1又は複数の)バイオマーカーの存在及びレベルを考慮するものである。
【0012】
バイオマーカーは、例えばタンパク質アッセイ、結合アッセイ、又は免疫アッセイを用いて、当業者に知られているあらゆる適切な手段によって検出することができる。バイオマーカーはまた、場合によっては試料の適切な最初の処理の後に、質量分析を用いてピークとして同定し得るか、又は、例えばサイズ排除クロマトグラフィー(SEC、size exclusion chromatography)を用いてゲルのバンドとして同定し得る。典型的なアッセイは以下の実施例に詳細に記載する。陽性診断では、バイオマーカーは、正常な健康な対照における値と比較して、上昇するか又は低下する。
【0013】
対象の試料は、例えば、血液、血漿、血清からなる群から選択してもよい。好ましくは、試料はアルブミンを濃縮した血清である。
【0014】
診断アッセイは、例えば、緊急治療室を受診している患者を評価するために、又は病院内若しくは医師の診療室において進行中の処置のために用いることができる。アルブミンは血清中に非常に富んでいるため(40〜50mg/ml)、このアッセイは、個体から容易に且つ再現可能に得られ得るという利点を有する。アルブミンに対する特異的抗体が利用可能であり、複雑なアッセイを行うことなく容易にABPPCを捕捉することができる。また、液体クロマトグラフィー及びゲルベースの方法を含む、他の生化学的方法も用いることができる。ABPPCの捕捉はアルブミンを標的とすることに基づいているため、特定の疾患において変化するタンパク質(又はPTM若しくは他の修飾)を事前に知る必要はないが、それは、ABPPCの捕捉の手順がすべての疾患に共通しているためである。このように、ABPPCは、様々な潜在的な標的を広く網羅する単純な標的アッセイであり、したがって、非常に経済的である。例えば、少量のタンパク質を検出するための複数の特異的抗体を開発する必要はない。さらに、この天然のサブプロテオームの捕捉により、試料の複雑さが軽減し、低濃度のタンパク質でのアッセイの感度に関連する問題が回避される。ABPPCにおけるいくつかのタンパク質が、アルブミンが枯渇した血清において観察されていないため、いくつかのバイオマーカーがABPPCに特有であると思われる。
【0015】
目的のタンパク質を同定した後、以降の臨床的アッセイで、アルブミンに対する1つの捕捉抗体を、目的のタンパク質に対する異なる検出抗体に容易に結びつけることができる。
【0016】
本明細書に記載される方法を実施するためのキットもまた提供される。一実施形態において、キットは、例えば、内因性アルブミンを特異的に捕捉し又は濃縮する抗体(又は化学的部分)と、アルブミンに結合した1つ又は複数の特異的タンパク質(又はペプチド又は修飾タンパク質)に対する二次抗体(又は化学的部分)と、結合した二次抗体の量の検出及び/又は定量のための構成要素のいずれかを含み得る。一実施形態において、二次抗体は、特異的なタンパク質によって変化する(1又は複数の)タンパク質に対するものであり、それにより、ABPPCのタンパク質含有量における変化を定量する。
【0017】
代替の形態は、完全なタンパク質又は酵素分解したタンパク質の質量分析を用いた、目的の(1又は複数の)タンパク質の直接的な検出での内因性ABPPCの(抗体又は化学的部分での)捕捉である。この実施形態において、キットは、(例えば、小さなカラム内の、又はピペットの先端の末端に詰められた)マトリックスと結合した抗アルブミン抗体を含み得、前記マトリックスにおいて、ABPPCは、完全な質量についてのMSへの溶出後に濃縮され、又は((1又は複数の)分析物のすべてのペプチド若しくは特定のシグネチャーペプチドの)消化及びそれに続くMS分析のために溶出される。本発明のキットは複数の抗体を含み得、それによりABPPCの2つ以上の構成要素を同時に評価することができる。
【0018】
遊離(循環)ABPPCに対する結合性ABPPCの比率が重要であり得るとも考えられている。方法及びキットは、特定のタンパク質を血清アルブミンに結合した形又は遊離した形として測定するために変更し得る。例えば、現在の研究では、多くのタンパク質がアルブミンに結合することが観察されているが、それらはアルブミンが枯渇した血清画分においても観察されており、このことは、前記タンパク質が遊離形態で存在し得ることを示している。これらのタンパク質の例には、例えば、アンチトロンビンIII、アポリポプロテインAII、AIV、CII、クラステリン、トランスサイレチン、及びビタミンD結合タンパク質が含まれる。専門家は通常の実験を通して、比率が特定の疾患状態においていかに変化するかを決定することができよう。
【0019】
疾患又は障害を有する患者集団を血清ABPPCについてスクリーニングし、こうして得られたABPPCを正常な対象集団のABPPCと比較することにより、特定の疾患及び障害についての、ABPPCを含むバイオマーカーを同定する方法を提供することもさらなる目的である。そのようなスクリーニングは、本明細書において上述した診断アッセイで行ったものと同様の方法で実施することができる。例えば、ABPPCのプロフィールを決定するために質量分析又はSECといった方法を用いることができ、差異が見られれば、バイオマーカーとして有用である特定のABPPCが、例えばタンパク質アッセイ、結合アッセイ、又は免疫アッセイを用いて同定される。さらに、タンパク質の消化を実施することができ、1つ又は複数の得られたペプチドがモニターされる。そのようにして同定されたバイオマーカーは、本明細書に記載する診断方法において使用し得る。
【0020】
本発明の方法及び組成物が有用であると期待される疾患又は障害には、血管炎、心筋梗塞、心不全、敗血症、癌、及び糖尿病が含まれる。本明細書に詳述する方法を用いて、当業者は、ABPPCが変化している他の疾患及び障害を、必要以上の実験を行うことなく決定することができよう。
【0021】
本願は、2007年6月14日に出願された米国仮出願第60/813761号、及び2007年6月15日に出願された米国仮出願第60/813825号に対する優先権を主張するものであり、これらは参照により本明細書に組み込まれる。本明細書において引用する参考文献及び特許は参照により本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】アルブミンを濃縮した画分を分離しABPPCを特徴付けるために用いる方法及び対応する対象を示す図である。
【図2】正常なプール血清のアルブミンを濃縮した画分の、一次元SDS−PAGE(AI、BI)及びアルブミンについての対応するウェスタンブロット(AII、BII)を示す図である。
【図3】SECクロマトグラムである。(A)分子量標準物質(A)分子量標準物質上に重ね合わせた、アルブミンを濃縮した画分。
【図4】健康な個体からアルブミンを濃縮した画分の8回の連続注入のSECクロマトグラム(280nm)である。
【図5】加熱及び非加熱SEC画分、抗ヒト血清アルブミン(HSA、human serum albumin)残留物、並びに正常なプール血清からアルブミンを濃縮した画分の全体の、一次元SDS−PAGEを示す図である。
【図6】正常なプール血清からアルブミンを濃縮した画分のSECクロマトグラムの3つの画分(A〜C)のRP−HPLCを示す図である。
【図7】正常なプール血清からアルブミンを濃縮した画分の抗HSA残留物 のRP−HPLCクロマトグラムである。
【図8】20人の健康な対照及び5人の疾患を有する患者のMALDI−TOFスペクトルである。差異は黄色で示している。
【図9】バルーン血管形成を受けた5人の患者(3人のMI、2人のSA)から得た、3つの時点のアルブミンを濃縮した画分のSECクロマトグラムである。
【図10A】パネルAは、図9の高分子量のSEC画分のRP−BPLCクロマトグラム(210nm)を示す。黄色のバーは3つの時点の間の差異を示す。
【図10B】パネルBは、同一の画分の一次元SDS−PAGEを示す。
【図10C】パネルCは、パネルBにおけるゲルのアルブミンについてのウェスタンブロットを示す。
【図11】ABPPCを含むSEC画分のRP−HPLCクロマトグラム(図10A)の一部分の拡大図である。
【図12】2人の健康な対照及び1人の心筋梗塞を有する患者のSECクロマトグラム(280nm)である(A)。パネルBは、パネルAの試料から得た高分子量のSEC画分のRP−HPLCクロマトグラムを示す。
【図13】2人の健康な対照、2人のAMIの患者、及び2人の血管炎の患者の、アルブミンを濃縮した画分の一次元SDS−PAGEを示す図である。
【図14】アルブミンのピークを示すために拡大した、図10Aの高分子量のSEC画分のRP−HPLCクロマトグラムである。矢印は、2人のMI患者及び1人のSA患者での時点8におけるアルブミンの保持時間における変化を示す。赤い丸は、同一の試料で時点8においてのみ見られたピークを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
定義
以下の用語は、別段の指示がない限り、本願を通して以下に定義されるように用いられる。
【0024】
「マーカー」又は「バイオマーカー」は本明細書において同様の意味で用いられ、本発明の下では、特定の疾患又は障害を有する患者から得た試料において、対照の値と比較して異なって存在する(特定の特異的同一性又は明らかな分子量の)ABPPCを言い、前記対照の値は、例えば、対照の対象(例えば、陰性診断の人、正常な又は健康な対象)から得た同等の試料における平均値からなる。バイオマーカーは、アルブミンに結合しているか若しくはアルブミンから切断されている特異的なペプチド若しくはタンパク質として、或いは質量分析、SEC、又は他の分離プロセス若しくは抗体検出における特定のピーク、バンド、画分などとして同定され得る。いくつかの応用において、例えば、質量分析、又は他のプロフィール若しくは複数の抗体を複数のバイオマーカーの同定に用いることができ、且つ個々のバイオマーカー及び/又は部分的な若しくは完全なプロフィールの間の差異を診断に用いることができる。
【0025】
「異なって存在する(differentially present)」という表現は、特定の疾患又は障害を有する患者から得た試料に存在するマーカーの量及び/又は頻度における、対照の対象と比較した差異を言う。例えば、マーカーは、疾患又は障害を有する患者の試料において、(例えば対照の対象の試料から決定する)対照の値と比較して高いレベル又は低いレベルで存在するABPPCであり得る。或いは、マーカーは、患者の試料において、対照の対象の試料と比較して高い頻度又は低い頻度で検出されるABPPCであり得る。マーカーは、量、頻度、又はその両方に関して異なって存在し得る。それはまた、存在量/検出量の単なる増加又は減少ではなく、マーカーであるタンパク質の物理的変化/修飾でもあり得る。例えば、変化しているものは、タンパク質の翻訳後修飾、切断、又はアイソフォームであり得、この変化がアッセイにより検出される。これは疾患を有する人と対照との対比における、異なる量の測定とは別のものである。
【0026】
ある試料におけるマーカー、化合物、組成物、若しくは物質の量が、別の試料におけるマーカー、化合物、組成物、若しくは物質の量と、又は対照の値と統計上有意に異なる場合、マーカー、化合物、組成物、若しくは物質は試料において異なって存在する。例えば、化合物が他の試料(例えば対照)におけるよりも少なくともおよそ120%、少なくともおよそ130%、少なくともおよそ150%、少なくともおよそ180%、少なくともおよそ200%、少なくともおよそ300%、少なくともおよそ500%、少なくともおよそ700%、少なくともおよそ900%、若しくは少なくともおよそ1000%多く若しくは少なく存在する場合、又は化合物が1つの試料において検出可能であり他の試料においては検出されない場合、化合物は異なって存在する。
【0027】
或いは、又はそれに加えて、特定の疾患又は障害に罹患している患者の試料におけるマーカー等の検出頻度が、健康な個体から得た対照の試料又は対照の値におけるよりも統計上有意に高いか又は低い場合、マーカー、化合物、組成物、又は物質は、試料間で異なって存在する。例えば、バイオマーカーが1組の試料において他の組の試料よりも少なくともおよそ120%、少なくともおよそ130%、少なくともおよそ150%、少なくともおよそ180%、少なくともおよそ200%、少なくともおよそ300%、少なくともおよそ500%、少なくともおよそ700%、少なくともおよそ900%、又は少なくともおよそ1000%高い頻度で又は低い頻度で見られて検出される場合、バイオマーカーは2組の試料の間で異なって存在する。これらの典型的な値はあるものの、熟練した専門家であれば、マーカーが異なって存在するかどうかを決定するための統計上有意な差異を表すカットオフポイント等を決定することができると予想される。
【0028】
「診断」は、病態の存在又は性質を同定することを意味し、特定の疾患又は障害を発症する危険性がある患者を同定することを含む。診断方法は感度及び特異性が異なる。診断アッセイの「感度」は、陽性反応を示す、疾患を有する個体のパーセンテージである(「真陽性」のパーセント)。アッセイによって検出されない、疾患を有する個体は、「偽陰性」である。疾患を有しておらず且つアッセイにおいて陰性反応を示す対象は「真陰性」と呼ばれる。診断アッセイの「特異性」は1から偽陽性の比率を差し引いたものであり、「偽陽性」の比率は、疾患を有しておらず陽性反応を示す人の割合として定義される。特定の診断方法によっては状態の確定診断が得られない可能性があるが、診断に役立つ陽性の兆候が前記方法により得られる場合には、前記診断は満足なものである。
【0029】
「検出」、「検出する」等の用語は、バイオマーカーの検出、又は疾患若しくは障害の検出(例えば、アッセイの陽性の結果が得られた場合)との関連で用い得る。後者の場合、「検出」及び「診断」は同義的であると考えられる。
【0030】
「危険性がある」とは、正常な対象と比較して、又は対照群と比較して、例えば患者集団のリスクが上昇していることを意味するものである。したがって、特定のマーカーを有する対象は特定の疾患又は障害に対する増大したリスクを有し得、さらなる試験が必要であると同定される。「増大したリスク」又は「高いリスク」は、可能性の、例えば対象が障害を有している可能性の、あらゆる統計上有意な増大を意味する。リスクは、比較対象である対照群よりも、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、さらに好ましくは少なくとも50%増大している。
【0031】
マーカーの「試験量(test amount)」は、試験対象の試料において存在するマーカーの量を言う。試験量は、絶対的な量(例えばμg/ml)又は相対的な量(例えばシグナルの相対強度)のいずれであってもよい。
【0032】
マーカーの「診断量」は、特定の疾患又は障害の診断と一致する、対象の試料におけるマーカーの量を言う。診断量は、絶対的な量(例えばμg/ml)又は相対的な量(例えばシグナルの相対強度)のいずれであってもよい。
【0033】
マーカーの「対照量」は、マーカーの試験量と比較されるあらゆる量又は量の範囲であり得る。例えば、マーカーの対照量は、診断しようとする疾患又は障害に罹患していない人におけるマーカーの量であり得る。対照量は、絶対的な量(例えばμg/ml)又は相対的な量(例えばシグナルの相対強度)のいずれであってもよい。
【0034】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、及び「タンパク質」は本明細書において同様の意味で用いられ、α−アミノ酸残基の重合体、とりわけ天然のα−アミノ酸の重合体を言う。前記用語は、1つ又は複数のアミノ酸残基が、対応する天然のアミノ酸の類似体又は模倣物である、アミノ酸の重合体に適用され、また、天然のアミノ酸の重合体にも適用される。ポリペプチドは、例えば、糖タンパク質を形成する炭水化物残基の付加、リンタンパク質を形成するリン酸化、及び多くの化学的修飾(例えば、酸化、脱アミド、アミド化、メチル化、ホルミル化、ヒドロキシメチル化、グアニジン化)によって修飾され得、また、分解、還元、又は架橋され得る。「ポリペプチド」、「ペプチド」、及び「タンパク質」という用語には、タンパク質の、あらゆる修飾されていない形態及び修飾された形態が含まれる。
【0035】
「検出可能な部分」又は「標識」は、分光学的手段、光化学的手段、生化学的手段、免疫化学的手段、及び化学的手段により検出可能な組成物を言う。例えば、有用な標識には、32P、35S、蛍光染料、高電子密度試薬、(例えば、ELISAにおいて一般に用いられるような)酵素、ビオチン−ストレプトアビジン、ジオキシゲニン、抗血清若しくはモノクローナル抗体が利用可能なハプテン及びタンパク質、又は標的に対して相補的な配列を有する核酸分子が含まれる。検出可能な部分は、試料における結合性の検出可能部分の量を定量するために用い得る、放射性シグナル、発色性シグナル、又は蛍光シグナルなどの測定可能なシグナルを多くの場合生じさせる。シグナルの定量は、例えばシンチレーション計数、濃度測定、フローサイトメトリー、又は完全なペプチド若しくは続いて消化されたペプチドの質量分析(1つ又は複数のペプチドを評価することができる)による直接的な分析によって行われる。
【0036】
「抗体」は、エピトープ(例えば抗原)を特異的に結合し認識する、1つ若しくは複数の免疫グロブリン遺伝子に実質的にコードされているポリペプチドリガンド、又はその断片を言う。認識される免疫グロブリン遺伝子には、κ及びλ軽鎖の定常領域の遺伝子、α、γ、δ、ε、及びμ重鎖の定常領域の遺伝子、並びに無数の免疫グロブリンの可変領域の遺伝子が含まれる。抗体は、例えば完全な免疫グロブリンとして、又は様々なペプチダーゼでの消化により生じる多くのよく特徴付けられた断片として存在する。これには例えばFab’断片及びF(ab)’2断片が含まれる。本明細書で用いる「抗体」という用語にはまた、抗体全体の修飾により生じる抗体断片、又は組換えDNAの手法を用いてデノボ合成された抗体断片が含まれる。また、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、又は一本鎖抗体も含まれる。抗体の「Fc」部分は、1つ又は複数の重鎖の定常領域のドメインCH1、CH2、及びCH3を含むが重鎖の可変領域は含まない、免疫グロブリンの重鎖の部分を言う。
【0037】
「結合アッセイ」は、抗体などの作用物質への結合によってバイオマーカーが検出される生化学的アッセイであって、それを介して検出プロセスが実施される生化学的アッセイを意味する。検出プロセスは、放射性標識又は蛍光標識などを伴い得る。このアッセイはバイオマーカーの固定を伴い得るか、又は溶液中で実施され得る。
【0038】
「免疫アッセイ」は、抗原(例えばマーカー)を特異的に結合するための抗体を用いるアッセイである。免疫アッセイは、抗原の単離、標的化、及び/又は定量のために特定の抗体の特異的な結合特性を用いることを特徴とする。
【0039】
タンパク質又はペプチドに関して言う場合、抗体に「特異的に(若しくは選択的に)結合する」という表現、又は「特異的に(若しくは選択的に)免疫反応性である」という表現は、タンパク質及び他の生体由来物質の不均質な集団におけるタンパク質の存在の決定要因である結合反応を言う。したがって、指定された免疫アッセイ条件の下では、特定の抗体は、特定のタンパク質にバックグラウンドの少なくとも2倍結合し、試料内に存在する他のタンパク質には実質的には有意な量で結合しない。そのような条件下での抗体への特異的な結合には、特定のタンパク質に対する特異性について選択された抗体が必要であり得る。特定のタンパク質と特異的に免疫反応性である抗体を選択するために、様々な免疫アッセイフォーマットを用いることができる。例えば、タンパク質と特異的に免疫反応性である抗体を選択するために、固相ELISA免疫アッセイが通常用いられる(特異的な免疫反応性の決定に用い得る免疫アッセイのフォーマット及び条件の記載については、例えばHarlow & Lane, Antibodies, A Laboratory Manual (1988)を参照。)
【0040】
アルブミンは種間で同種であるため、本発明の方法はヒトに限定されたものではなく、他の動物(例えば、鳥、爬虫類、両生類、哺乳類)において、特に哺乳類において有用であるが、「対象」、「患者」、又は「個体」という用語は通常、ヒトを言う。
【0041】
「試料」は本明細書において、その最も広い意味で用いられる。試料は、血液、血清、血漿、涙、房水、硝子体液、髄液を含む体液と、細胞若しくは組織の調製物の、又は細胞が増殖した培地の可溶性画分と、細胞又は組織から単離又は抽出された細胞小器官又は膜と、溶液内の、又は基質に結合したポリペプチド又はペプチドと、細胞と、組織と、組織プリントと、指紋、皮膚、又は毛髪と、それらの断片及び誘導体とを含み得る。対象の試料は通常、血液、血漿、及び血清を含めた、血液由来物質の誘導体を含む。
【0042】
「アルブミンを濃縮した血清又は血漿」は、アルブミン並びにアルブミンに結合している会合ペプチド及び会合タンパク質以外の構成要素を減少させるか又は除去するための処理をした血清又は血漿を意味する。
[実施例]
【0043】
血清又は血漿からアルブミンを単離するために利用可能な2つの主要な方法があり、それらは、親和性に基づく方法(例えば抗体、チバクロンブルー)、及び化学に基づく方法(例えばNaCl/EtOH[Fu, Q., Garnham, C. P., Elliott, S. T., Bovenkamp, D. E. et al., Proteomics 2005, 5, 2656-2664、Colantonio, D. A., Dunkinson, C., Bovenkamp, D. E., Van Eyk, J. E., Proteomics 2005, 5, 3831-3835]、TCA/アセトン[Chen, Y. Y., Lin, S. Y., Yeh, Y. Y., Hsiao, H. H. et al., Electrophoresis 2005, 26, 2117-2127])である。親和性に基づく方法の多くは、比較され、効果的にアルブミンを除去することが示されている[Zolotarjova, N., Martosella, J., Nicol, G., Bailey, J. et al., Proteomics 2005, 5, 3304-3313、Bjorhall, K., Miliotis, T., Davidsson, P., Proteomics 2005, 5, 307-317、Chromy, B. A., Gonzales, A. D., Perkins, J., Choi, M. W. et al., J. Proteome Res. 2004, 3, 1120-1127]。しかし、これらの方法は、リガンド及びカラム物質、並びにLCカラムの場合の実験間でのキャリーオーバーに対する、タンパク質/ペプチドの非特異的な結合に対して脆弱である[Zolotarjova, N., Martosella, J., Nicol, G., Bailey, J. et al., Proteomics 2005, 5, 3304-3313、Colantonio, D. A., Dunkinson, C., Bovenkamp, D. E., Van Eyk, J. E., Proteomics 2005, 5, 3831-3835、Bjorhall, K., Miliotis, T., Davidsson, P., Proteomics 2005, 5, 307-317、Chromy, B. A., Gonzales, A. D., Perkins, J., Choi, M. W. et al., J. Proteome Res. 2004, 3, 1120-1127、Steel, L. F., Trotter, M. G., Nakajima, P. B., Mattu, T. S. et al., Mol. Cell. Proteomics 2003, 2, 262-270、Stanley, B. A., Gundry, R. L., Cotter, R. J., Van Eyk, J. E., Dis. Markers 2004, 20, 167-178]。或いは、アルブミンは、1940年代からNaCl/EtOHを用いて精製されており[Cohn, E. J., Strong, L. E., Hughes, W. L., Mulford, D. J. et al., J. Am. Chem. Soc. 1946, 68, 459-475]、この方法は医薬品等級のアルブミンを単離するために通常用いられるものである。近年では、このプロセスはプロテオミクス分野に最適化され、アルブミンの効果的な精製及び除去に必要なステップが最小限となったが[Fu, Q., Garnham, C. P., Elliott, S. T., Bovenkamp, D. E. et al., Proteomics 2005, 5, 2656-2664]、他のタンパク質の同時精製は依然として問題となる可能性がある。
【実施例1】
【0044】
ヒト血清のアルブミンを濃縮した画分の単離
化学抽出によるアルブミンの枯渇を、Fu et al.により記載されているように実施した[Fu, Q., Garnham, C. P., Elliott, S. T., Bovenkamp, D. E. et al., Proteomics 2005, 5, 2656-2664]。簡潔に説明すると、遠心分離により100μLの正常なヒトの血清の脂質を枯渇させ、その後、プロテインGアフィニティーカラム(Amersham Biosciences社製、ピスカタウェイ、ニュージャージー州、アメリカ)を用いてIgGを枯渇させた。IgGを枯渇させた血清を42%エタノール/100mM NaClに入れ、4℃で1時間インキュベートし、その後、16000×gで45分間遠心分離した。上清(アルブミンを濃縮した画分)を回収し、以下に記載する研究に用いた。
【実施例2】
【0045】
ABPPCの単離及び特徴付け
アルブミンを濃縮した画分全体の処理を図1に概略的に示す。この研究は、アルブミン並びにあらゆる(修飾された、及び修飾されていない)結合性タンパク質/ペプチド(アルブミン結合性タンパク質/ペプチド複合体、ABPPC)の単離のための複数の独立した方法を含むものであった。
【0046】
最初の分析は、加熱した、及び加熱していない試料の一次元SDS−PAGE、並びにアルブミンについてのウェスタンブロットを含むものであった(図2)。一次元SDS−PAGEでは、アルブミンを含む116kDaのバンドの消失、及び重度の変性(即ち、加熱及び8Mの尿素での処理)の後にのみ生じるいくつかのバンドの出現により、アルブミンを濃縮した画分におけるタンパク質/ペプチドの多くが、アルブミン又は他のタンパク質と会合していたということが示される(図2AI、BI)。重要なことには、これらの結果は、ゲルへの添加量が過剰であった場合(6〜12μg/レーン)にのみ見られた。低分子量のバンドの存在は、加熱していない試料の添加量が少ない場合は視覚化されなかった。ウェスタンブロットでは、アルブミンは、加熱していない試料において116kDaのバンドに存在し、予想された分子量である66kDaよりも遠くへ泳動した(図2AII)。しかし加熱すると、このバンドは消失し、いくつかがアルブミンを含む小さな分子量のバンドが出現する(図2BII)。したがって、アルブミンは、二量体を形成しているか、又は、1つ若しくは複数の他のタンパク質/ペプチドに結合しているため、高分子量で出現することが可能であり、重度の変性条件下においてのみ、これらのタンパク質/ペプチドは放出される。このことと一致するものとして、セルロプラスミン、ハプトグロビン、及びα−1B−糖タンパク質を含む、アルブミン以外のタンパク質のペプチドが、この116kDaのバンドにおいて同定されたという事実がある。非加熱条件においては、アルブミンが低分子量で泳動するということが認められる。これは、ジスルフィドの不完全な還元によるものであり得、それにより、アルブミンがSDSで十分に飽和されず移動に影響するか、又はアルブミンに結合している別のタンパク質若しくはペプチドが、ゲルにおけるアルブミンの移動を変化させる。さらに、加熱後に複数のアルブミン断片が存在することは(図2BII)、アルブミンの広範なタンパク質分解が生じたことを示す。結論として、一次元SDS−PAGEの結果はアルブミンへのタンパク質の結合の確実な証拠ではないが、これらの予備的な結果により、SEC及び免疫アフィニティークロマトグラフィーによる、より精密な分析が促される。
【0047】
従来のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いて、アルブミンを濃縮した画分をサイズによって分離し、自然条件において存在するあらゆるタンパク質複合体を単離した。SECの選択は、それが、自然条件下において、非特異的な結合が最小であり、且つサイズによってタンパク質複合体を区別する能力を有するためである。抗HSAスピンカラムによる免疫親和性をヒトアルブミンに対する特異性について選択したが、マトリックスによる非特異的結合が欠点として認められた。抗アルブミン抗体アフィニティーカラム(抗HSA)を用いて、アルブミン及びあらゆる結合性タンパク質/ペプチドを結合した。その後、カラムに結合したタンパク質をカラムから溶出し(抗HSA残留物)、さらなる分析に付した。抗HSA残留物及び高分子量のSEC画分を一次元SDS−PAGE及び逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC、reversed phase high performance liquid chromatography)により分離して、それによりさらにアルブミンから結合性タンパク質/ペプチドを分離し、その後、トリプシン消化及びタンデム質量分析(MS/MS)を行ってタンパク質/ペプチドを同定した。
【0048】
大きなタンパク質は小さなタンパク質及びペプチドよりもカラム上にある時間が短く、より早く溶出されるため、従来のSECを用いて、アルブミンを濃縮した画分をサイズによって分離した。自然条件下において、アルブミンに結合したタンパク質及びペプチドが、アルブミンを含む(1又は複数の)画分内に溶出する一方で、結合していないタンパク質及びペプチドは、それらの自然の分子量と一致して、アルブミンとは別に溶出することが予想される。図3Aにおいて良好に分離したピークにより示されているように、SECでは、広範なタンパク質(29〜205kDa)を良好な分離能で分離することができた。アルブミンを濃縮した画分はSECによって4つの領域(A〜D)に分離し、その時点で溶出する主なピークは、66kDaの標準的なタンパク質よりもわずかに大きな質量と一致していた(図3B)。SECの利点は、図4において見られるように、再現性が高いことである。
【0049】
SEC−Aは116kDa付近で溶出する画分を含み、SEC−BはSEC−Aのすそ及びSEC−Cの勾配部分の画分を含み、SEC−Cは、66kDaよりもわずかに上を溶出する画分を含み、そしてSEC−Dは低分子量領域の試料を含む。次に、各画分(A〜D)をさらに分離及び脱塩し、その後、質量分析によって分析した。SEC画分を、一次元SDS−PAGE(図5)及びRP−HPLC(図6)の2つの方法により分離し、その後、MALDI−TOF MS及びLC−MS/MSに付した。
【実施例3】
【0050】
ABPPCにおいて同定されたタンパク質
一次元SDS−PAGE及びRP−HPLCによるSEC画分の分析により、画分A、B、及びCに溶出しているアルブミンに加え、複数の種の存在が明らかになる。興味深いことに、高分子量のSEC画分におけるこれらのタンパク質の多くは66kDaよりかなり低い分子量を有し、それらのタンパク質を表1に列挙する。
【0051】
【表1−1】
【表1−2】
【表1−3】
【表1−4】
【0052】
116kDa付近を溶出すると、SEC−Aは、一次元SDS−PAGEにおいて116kDaで視覚化されたバンドと分子量が同様であった。予想された通り、この画分は分子量が100kDaより大きいタンパク質を含む(n=6)。加えて、この画分はまた、分子量が100kDaをはるかに下回る26個のタンパク質も含み、このことは、それらがいくつかの他の(1又は複数の)タンパク質と会合し、それにより自然条件下において高分子量で溶出するということを示している。ゲルによって明らかに分かるように(図5)、SEC−Aにおけるいくつかのバンドは90℃で10分間の加熱の後に存在するのみであり、レチノール結合タンパク質、クラステリン、及びパラオキソナーゼ1を含む。100kDa付近で溶出する画分を含むSEC−Bは、SEC−A及びSEC−Cで見られるタンパク質の混合物であると予想されるが、それはこれらのピークのすその末端がSEC−Bと重複しているからであり、この重複しているバンドは図5で明らかである。SEC−Cは66kDa付近で溶出する画分を含む。SEC−Aの場合のように、多くのバンドはこの試料の加熱の後にのみ存在し、画分は、α−1−酸性糖タンパク質1、α−2HS−糖タンパク質、及び亜鉛α2糖タンパク質を含む、分子量が66kDaよりはるかに低い多くのタンパク質を含む。要約すると、SECの結果は、自然条件下において予想される分子量よりもはるかに大きい分子量で溶出する多くのタンパク質を示し、このことは、それらが、潜在的にはアルブミンである他のタンパク質と会合して、高分子量の複合体を形成していることを示唆している。アルブミンは各SEC画分において見られ、このことは、異なるタンパク質を含む様々な複合体においてアルブミンが存在している可能性があることを示唆している。換言すれば、アルブミン複合体は不均質であり得る。したがって、SECの結果は、自然条件下においてアルブミン−タンパク質/ペプチド複合体が存在するという結論を支持するものである。
【0053】
抗HSA免疫アフィニティーカラムを用いて、SECの結果を裏付け、且つアルブミンとのタンパク質の相互作用をさらに特異的に調べた。抗HSAキットを、他の血清タンパク質に対する交差反応を有することなくヒト血清からアルブミンの95%超を特異的に除去するように設計する。したがって、アルブミンを濃縮した画分を抗HSAカラムに通すと、アルブミンに結合していないタンパク質及びペプチドは通過し、アルブミンに結合しているものはアルブミンに結合したままカラムに結合すると予測される。抗HSAカラムに結合しているタンパク質及びペプチド(即ち残留物)を、MALDI−TOF MS、一次元SDS−PAGEにより直接的に分析し(図5)、RP−HPLCによりさらに分離し(図7)、その後、MALDI−TOF MS/MS及びLC−MS/MSに付した。これらの各技術により、残留物に存在するアルブミンに加えて多くの他のタンパク質が明らかになった(表1)。抗HSA残留物において同定された49個のタンパク質のうち34個はまた、SEC画分A〜Cにおいても見られ、このことは、これらが実際に直接的又は間接的にアルブミンと会合しているということを裏付けるものである。
【0054】
15個のタンパク質が抗HSA残留物において見られたが、それらはSEC画分のいずれにおいても見られず、結合していることを確認することができなかったが、結合している可能性のあるものとして表1に記載する。同様に、7個のタンパク質がSEC−Aにおいて見られたが、それらは抗HSAにおいては見られず、したがって、アルブミンに結合していることを確認することができなかった。しかし、SEC画分におけるこれらの7個のタンパク質のうち4個(アトラクチン、α2マクログロブリン、プレグナンシーゾーンタンパク質、及び補体成分4A)は100kDaを超える分子量を有し、したがって、他のタンパク質と会合していなくてもSEC−Aにおいて溶出すると予想される。アクチン及び単球分化抗原CD14は100kDaより小さい分子量を有するが、アルブミンを濃縮した画分において見られる他のタンパク質と会合することが知られており、したがって、これらのタンパク質は複合体を形成し得、その結果、高分子量で溶出する。1つのタンパク質、即ちレチノール結合タンパク質のみがSEC−Aにおいて見られ、前記タンパク質はアルブミンに結合することが知られているため抗HSA残留物において見られると予想されたが、抗HSA残留物においては見られなかった。要約すると、34個のタンパク質がアルブミンに結合していることが確認され、16個のさらなるタンパク質が結合している可能性がある。正常な血清において、最も少量のアルブミン結合タンパク質は1.0E+1〜1.0E+3pg/mlの範囲であった(炭酸脱水素酵素I、フィブリノゲンα鎖、βトロンボグロブリン)。したがって、結合したタンパク質の範囲が広いこと(即ち、豊富なタンパク質のみではない)、アルブミン−タンパク質/ペプチド複合体が堅固な結合を示すという事実(即ち、SDSの存在下で見られ、したがって非特異的な複合体)、及び、ペプチドだけではなくタンパク質全体が結合しているという事実は、総合すると、アルブミンが特異的にタンパク質を結合していることを示す。最後に、MALDI−TOF MSによって見られる分子量、一次元SDS−PAGEでの位置、及び観察された配列の範囲を組み合わせることで、本発明者は、結合した、及び結合している可能性のある50個のタンパク質のうち27個で、完全な又はほぼ完全な形(ペプチドだけではない)が存在し、分子量が8.7〜119kDaの範囲であることを確認することができる。
【0055】
本明細書において同定されるタンパク質の一覧を、Anderson, et al(Anderson, L. J Physiol 2005, 563, 23-60)及びBerhane, et al(Berhane, B. T.; Zong, C; Liem, D. A.; Huang, A.; Le, S.; Edmondson, R. D.; Jones, R. C.; Qiao, X.; Whitelegge, J. P.; Ping, P.; Vondriska, T. M. Proteomics 2005, 5, 3520-3530)がまとめた心血管のバイオマーカーの総合的な一覧と比較した。さらに、他のタイプのバイオマーカーについての文献調査も実施した(Anderson, L. J Physiol 2005, 563, 23-60、Berhane, B. T.; Zong, C; Liem, D. A.; Huang, A.; Le, S.; Edmondson, R. D.; Jones, R. C.; Qiao, X.; Whitelegge, J. P.; Ping, P.; Vondriska, T. M. Proteomics 2005, 5, 3520-3530、Gonzalez-Conejero, R.; Lozano, M. L.; Rivera, J.; Corral, J.; Iniesta, J. A.; Moraleda, J. M.; Vicente, V. Blood 1998, 92, 2771-2776、Fujita, Y.; Ezura, Y.; Emi, M.; Sato, K.; Takada, D.; Eno, Y.; Katayama, Y.; Takahashi, K.; Kamimura, K.; Bujo, H.; Saito, Y. J Hum Gen 2004, 49, 24-28、Rampazzo, A.; Nava, A.; Malacrida, S.; Beffagna, G.; Bauce, B.; Rossi, V.; Zimbello, R.; Simionati, B.; Basso, C.; Thiene, G.; Tobwin, J.; Danieli, G. Am J Hum Genet 2002, 71, 1200-1206、Shigeldyo, T.; Yoshida, H.; Matsumoto, K.; Azuma, H.; Wakabayashi, S.; Saito, S.; Fujikawa, K.; Koide, T. Blood 1998, 91, 128-133、Rosales, F.; Ritter, S.; Zolfaghari, R.; Smith, J.; Ross, A. J. Lipid Res. 1996, 37, 962-971)。これらの調査の結果の要約を表1に示す。興味深いことに、ABPPCにおける39個のタンパク質は潜在的なバイオマーカーであることがこれまでに報告されており、これらのほとんどは心血管疾患に関連するものであった。恐らく、ABPPCにおける最も興味深い潜在的なバイオマーカーは、アルブミンが枯渇した画分では見られなかったタンパク質である。このカテゴリーのタンパク質は、α−2HS−糖タンパク質、アポリポプロテインAI、セルロプラスミン、インターαトリプシンインヒビターH4、キニノゲン、アポリポプロテインCIII、カルボキシペプチドB2、フィブノリゲン、プロトロンビン、血清アミロイドA4、及びβトロンボグロブリンである。興味深いことに、βトロンボグロブリン以外のこれらのタンパク質のすべては、心血管の潜在的なバイオマーカーであることが報告されている。βトロンボグロブリンは、血清中に低レベルで通常存在するケモカインであり、免疫応答に関与する。さらに興味深いことに、α−2HS−糖タンパク質、アポリポプロテインAI、アポリポプロテインCIII、及びセルロプラスミンは完全な形態で見られた。
【実施例4】
【0056】
心筋梗塞におけるABPPCのバイオマーカーの同定
健康な個体及び疾患を有する個体のアルブミンを濃縮した画分を、いくつかの方法によって比較し、疾患に典型的な、又は疾患に相関する、何らかの変化が検出され得るかどうかを決定した。20人の健康な対照の、アルブミンを濃縮した画分の全体のMALDI−TOFスペクトルを、5人の疾患を有する患者(2人の血管炎、3人の急性心筋梗塞(AMI、acute myocardial infarction))と比較すると、5つの興味深い差異が明らかになった(図8)。これらのピークは疾患を有する試料においてのみ存在し、それは、重篤なAMIにおいて、他の疾患を有する患者よりも強度の高いものであった。
【0057】
アルブミンを濃縮した画分の全体に加え、ERを受診し、バルーン血管形成としても知られる経皮的冠動脈形成術(PTCA、percutaneous transluminal coronary angioplasty)を受けた、心筋梗塞(MI、myocardial infarction)及び安定狭心症(SA、stable angina)と診断された患者の間でABPPCを比較した。3つの時点(#1=基準、#7=手順の1時間後(虚血)、及び#8=手順の24時間後(壊死))をSECにより分析し、その後、RP−HPLC及び一次元SDS−PAGEを行った。各試料のSECクロマトグラム(図9)は、すべての試料で同様のパターンを示し、アルブミンを濃縮した画分及びSECの再現性を示している。しかし、個体における、時間の間での明らかな差異が確認できる。4つの試料の時点1及び7において、また1つの試料においてのみ時点7で、大きなピーク(黄色の矢印)を66kDaより下で見ることができる。このピークはすべての試料において時点8で著しく減少する。高分子量の範囲(66kDaより大きい)の3つのピークも、SECクロマトグラムにおいて確認される。SAを有する患者において、3つのピークはすべての時点間で同様であると思われる。しかし、MIの患者においては、中央のピークは、時点1及び7で、時点8よりも低い強度で現れる。同様に、1つの試料において(MI、男性、51歳)、4つ目のピークは、時点8で高分子量の領域に現れる(緑色の矢印)。SECの分解能は限界があるため、より詳細を知るためには、RP−HPLC及び一次元SDS−PAGEによるABPPCのさらなる分離が必要であった。
【0058】
RP−HPLC及び一次元SDS−PAGEの両方によってさらに分離すると、ABPPCのさらなる詳細が現れる。ここでも同様に、RP−HPLCのプロフィールはすべての試料間で同様のパターンを有し、再現性を示す。しかし、差異は明らかである(図10Aで示され、図11で拡大されている)。すべての試料で、時点1と時点7及び8との対比で複数の差異が存在する。時点7及び8と比較して、時点1においては、ABPPCに含まれているタンパク質はより少ないと思われる。一次元SDS−PAGEによって、さらに、各試料内での時点間の差異、及び試料間での差異も明らかになる。興味深いことに、MIの患者は、高分子量のSECにおいて、SAの試料が有していない複数の低分子量のバンド(31kDa未満)を含む。これらの特定の試料についてタンパク質のIDは得られていないが、同様のバンドパターンを有するゲルの低分子量のバンドに含まれるタンパク質は、アポリポプロテインAI、ハプトグロビン、レチノール結合タンパク質、及びトランスサイレチンである。また、116kDaよりわずかに大きいバンドは、MIの試料(51歳、65歳)においてより暗く現れる。先のゲルにおいて、このバンドはセルロプラスミンと同定された。高分子量のSEC画分のゲルのウェスタンブロット分析(図10C)により、断片のバンドであると推定される複数の低分子量のバンドに加え、116kDa付近のバンドに存在するアルブミンが示された。完全な形態(66kDa)で存在するアルブミンと、ウェスタンブロットで得られた低分子量の断片で存在するアルブミンとの対比における定量分析により、興味深い傾向が明らかになった。MIの試料における、アルブミン全体対アルブミン断片の比率は平均で1.47であったが、SAの試料における比率は4.57であり、そのt検定スコアは0.01であった。したがって、MIとSAとの対比における、アルブミンの選択的及び特異的なタンパク質分解、又はアルブミンにおける、アルブミンを熱分解しやすくする変化は、有用なバイオマーカーである。
【0059】
異なる組の試料、即ち2人の健康な対照及び1人のMIを有する患者で、より詳細な分析を行った。ABPPCをSECにより単離し、SECA*及びSECB*の2つの画分に分けた(図12A)。疾患を有する人と対照との間の差異は、2つの高分子量のピークの高さが減少することで明らかに確認することができる。次に、SECA*をRP−HPLCで分離した(図12B)。MIの試料は、50〜64分の保持時間でピーク強度が有意に低下した。画分を58〜61分間トリプシン消化した後にLC−MS/MSによりさらに分析したところ、健康な対照には存在しMIの試料には存在しない、7個のタンパク質が明らかになった。このことは、健康な人よりも、疾患を有する人においてABPPCが含むタンパク質が少ないことを示す。この試料の組は、SECによる分析の前に、タンパク質濃度ではなく全容量により標準化したことが認められる。
【実施例5】
【0060】
血管炎におけるバイオマーカーの同定
MIを有する患者に加え、血管炎を有する患者からアルブミンを濃縮した画分も試験した。一次元SDS−PAGEによる、AMIを有する患者及び血管炎を有する患者からアルブミンを濃縮した画分の比較は興味深いものである(図13)。疾患を有する人において複数の高分子量のバンドが現れたが、それは対照では存在しなかった。
【実施例6】
【0061】
今までのところ、データは、ABPPCが存在し、この複合体が疾患において変化することの証拠を提供する。ABPPCのこの変化は、疾患を有する人と健康な人との対比において、血清における特定のタンパク質の利用可能性が変化することによる可能性がある。一方、いくつかの証拠により、アルブミン自体における変化が指摘される(図14)。高分子量のSEC画分のRP−HPLCにおけるアルブミンの保持時間は、MIを有する2人の患者及びSAを有する高齢の患者において、時点8で変化する(図14、黒の矢印)。また興味深いことに、同じ試料で、時点8においてクロマトグラムの初期に小さなピークが現れる(図14における赤い丸)。
【0062】
考察
ABPPC及びアルブミン自体が疾患によって変化するというこれらの所見は、アルブミンの生物学的役割に関する重要な生物学的な懸念をもたらす。変化の原因及び性質は不明であるが、本明細書において示される結果は、検出し得る以上にABPPCにおいて変化が存在するということの十分な証拠を提供する。ABPPCが特に様々な疾患の診断指標として役立つ機会は、ABPPCを再現可能に得ることが容易であり、ABPPCが完全なタンパク質及びペプチドに結合し、且つタンパク質を特異的に結合するという事実により高められる。1つの捕捉試薬のみが必要であることから、ABPPCアッセイはハイスループットの分析に適している。したがって、1回のアッセイが複数の疾患の潜在的なバイオマーカーを広く網羅し得るため、ABPPCアッセイは安価であり、且つ効果的なものである。さらに、アルブミンはヒト血清において最も豊富なタンパク質であるため、ABPPCアッセイに必要な血液の全容量は少ない。これは侵襲が最小であるということであり、それは、新生児医学、小児医学において、及び失血が重篤である患者にとって重要である。診断指標としてのABPPCの応用には複数の場合が含まれる。同一の捕捉試薬を用いることができるため、ABPPCは、単一の疾患については単一の診断指標として用いることができ、又は複数の疾患については多重診断指標として用いることができる。この特徴により容易性が増し、それにより臨床アッセイを展開し得る。これに加えて、血清におけるABPPCの利用可能性があり、したがってこれは市販の製品の頑健性に役立つ。単純なイエス/ノーの診断に加え、ABPPCは、疾患のステージ、進行、又は治療計画の識別といった、より高度な分析にも拡張し得る。疾患の特異的マーカーは、アルブミンにおける変化、アルブミンの変化したタンパク質分解、熱分解に対するアルブミンの脆弱性に影響するアルブミンにおける変化、アルブミンに結合したタンパク質における変化、ABPPCの化学量論における変化、ABPPCにおける結合性タンパク質に対する遊離タンパク質の比率、ABPPCにおける完全なタンパク質対タンパク質断片の対比の比率、又は上述したあらゆるものの組合せであり得る。商業的応用には、ABPPCを捕捉する方法、目的の特異的なタンパク質/ペプチドを検出する方法、目的のタンパク質の修飾を検出する方法、遊離タンパク質対結合性タンパク質の比率を測定する方法、完全対ペプチド断片の比率を測定する方法、又はABPPCにおける化学量論の変化を測定する方法が含まれ得る。検出方法には、質量分析又は抗体系が含まれ得る。
【0063】
本発明者は、以上に、疾患の進行の間にABPPCがどのように修飾されるかについていくつかの実施例を示した。したがって、アルブミン及びABPPCの修飾は、疾患の状態(1つの状態若しくは2つの状態の間)又は疾患の一連の経過を診断するために用い得る。1つの実施例において、患者は、血管形成の際のバルーン拡張によって、誘発性の心筋虚血及び心筋梗塞を有していた。この実験条件は、胸の痛みを訴えて救急科を受診している心臓病の患者における病気の推移を模倣するものである。心筋虚血(心筋スタニングの潜在的な形態)は、心臓の領域への血流が減少するか又はなくなると生じる。心臓はこの制限された血流を補うが、虚血が(程度及び/又は期間の両方で)かなり重篤である場合、最終的には筋細胞はアポトーシス及び/又は壊死する(心筋梗塞)。したがって、心筋虚血の検出により、AMIを発症する恐れのある患者の初期の診断が可能になる。その結果、これらの患者は、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA、tissue-type plasminogen activator)、血管形成術、若しくは他の血栓減少剤及び保護剤を用いた治療を初期に受け得るか、又は処置及びモニタリングを増やすべく状態を高め得る。初期の再潅流療法が心筋を助けるということはよく記載されている。したがって、弱い心筋の初期の検出は有利である。現在では、初期の検出のための診断には2つのアプローチがあり、それらは、i)初期の検出のための、より感度の高い心筋壊死のマーカーの開発、又はii)虚血特異的マーカーの開発である。提供されている虚血のマーカーはわずかであり、FDAの認可を受けているものは1つしかない。これは、AMIを阻止するために不在壊死マーカーと共に用いられる、修飾されたアルブミン(修飾された金属結合)である。本願では、本発明者は、アルブミン及びその結合複合体(ABPPC)が虚血によって変化し、そしてさらにAMI(細胞壊死)によって変化するという、特有のプロフィールを概説する。したがって、ABPPCにより、基準となる健康な個体(及び安定狭心症を有する個体)と、虚血及びAMIによる侵害とを区別することができる。第2のケースにおいて、本発明者は、血管炎であると既に診断されている患者によるABPPCにおける変化を示す。血管炎を有する患者の大部分は治療の後に寛解へ向かうが、ほとんどが再燃し、続いて治療の再開を必要とする。したがって、血管炎についての有益な診断は、個体がいつ再燃を生じるかを予測する能力を有するものである。寛解期にある血管炎の患者と、その後の再燃を生じている患者との間の比較において、アルブミン及びABPPCの特有のプロフィールが得られた。したがって、ABPPCは、基準となる健康な個体と、寛解期にある血管炎を有する個体と、再燃している血管炎を有する個体とを区別するために用い得る。
【0064】
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【技術分野】
【0001】
本発明は、米国政府機関NIH N01−HV28−180との契約に基づく基金でなされた。米国政府は本発明に関して一定の権利を有する。
本発明は、アルブミン結合性タンパク質/ペプチド複合体(ABPPC、albumin-bound protein/peptide complex)を含むバイオマーカーを用いた診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血清アルブミンは血清中で最も豊富なタンパク質であり、典型的には45〜50mg/mlで存在する。アルブミンは、細胞内の空間におけるタンパク質、脂質、及び小分子を結合する「分子スポンジ(molecular sponge)」として機能し(Millea, K.; Krull, I. Journal of Liquid Chromatography and Related Technologies 2003, 26, 2195-2224、Anderson, N. L.; Anderson, N. G. Mol Cell Proteomics 2002, 1, 845-867、Carter, D. C.; Ho, J. X. Adv Protein Chem 1994, 45, 153-203)、ペプチドホルモン、血清アミロイドA、インターフェロン、グルカゴン、ブラジキニン、インスリン、及び連鎖球菌(Streptococcal)プロテインGと会合体を形成することが見出されているが(Peters, T., Jr. All About Albumin; Academic Press: San Diego, 1996、Baczynskyj, L.; Bronson, G.E.; Kubiak, T. M. Rapid CommunMass Spectrom 1994, 8, 280-286、Carter, W. A. Methods Enzymol 1981, 78, 576-582、Sjobring, U.; Bjorck, L.; Kastern, W. J Biol Chem 1991, 266, 399-405)、結合パートナーの広範なリスト、及びこれらのパートナーが疾患によって変化するかどうかについては調査されていない。これまでの研究により、変性条件下において高分子量の種が除去されると低分子量の種がより多く回収されることが示されており、このことは、アルブミンのような大きなタンパク質が結合ペプチドであるということをさらに裏付けるものである(Tirumalai, R. S.; Chan, K. C.; Prieto, D. A.; Issaq, H. J.; Conrads, T. P.; Veenstra, T. D. Mol Cell Proteomics 2003, 2, 1096-1103)。さらに、アルブミンは少数の特異的タンパク質、例えばパラオキソナーゼ1(Ortigoza-Ferado, J.; Richter, R. J.; Hornung, S. K.; Motulsky, A. G.; Furlong, C. E. Am J Hum Genet 1984, 36, 295-305)、α−1−酸性糖タンパク質(Krauss, E.; Polnaszek, C. F.; Scheeler, D. A.; Halsall, H. B.; Eckfeldt, J. H.; Holtzman, J. L. J PharmacolExp Ther 1986, 239, 754-759)、並びに血清中のクラステリン(Kelso, G. J.; Stuart, W. D.; Richter, R. J.; Furlong, C. E.; Jordan-Starck, T. C.; Harmony, J. A. Biochemistry 1994, 33, 832-839)(パラオキソナーゼ1を介した間接的な相互作用)及びアポリポプロテインE(Dergunov, A. D.; Vorotnikova, Y. Y. Int JBiochem 1994, 26, 933-942)に結合することが報告されている。血清中のアルブミン結合ペプチド(30kDa未満)は研究されているものの、それらの結合の程度は現在分かっていない(Zhou, M.; Lucas, D. A.; Chan, K. C; Issaq, H. J.; Petricoin, E. F., 3rd; Liotta, L. A.; Veenstra, T. D.; Conrads, T. P. Electrophoresis 2004, 25, 1289-1298)。今までのところ、アルブミンに結合しているタンパク質全体についての包括的な研究は行われていない。加えて、アルブミンに結合しているタンパク質/ペプチドの、タンパク質/ペプチドの組成、比率、又はPTMの状態における何らかの変化についての文献は存在しない。
【0003】
アルブミンは、金属へのアルブミンの結合を変化させる疾患によって変化するということが見出されており、現在のところ、虚血のバイオマーカーとして機能している。心筋虚血のバイオマーカーであるとこれまでに同定されているアルブミンの修飾は、アルブミンのN末端のN−アセチル化であり、これはコバルト及びニッケルへのアルブミンの結合親和性を低下させる(Bar-Or, D.; Curtis, G.; Rao, N.; Bampos, N.; Lau, E. Eur J Biochem 2001, 268, 42-47、Takahashi, N.; Takahashi, Y.; Putnam, F. W. Proc Natl Acad Sci USA1987, 84, 7403-7407、Chan, B.; Dodsworth, N.; Woodrow, J.; Tucker, A.; Harris, R. Eur J Biochem1995, 227, 524-528)。最新の特許(Crosby, P. A. M., Deborah L In PCT Int. Appl.: USA, 2002、Bar-or, D. L., Edward; Winkler, James V In PCT Int: US, 2004)は、虚血へのアルブミンのこのN末端の修飾の使用を対象としており、アルブミンとコバルトとの結合に対する臨床的アッセイ(ACB(albumin cobalt binding)アッセイ)をもたらしている。N末端の修飾に加え、アルブミンの酸化が、酸化ストレスに対するマーカーとして提案されている(Mera, K.; Anraku, M.; Kitamura, K.; Nakajou, K.; Maruyama, T.; Tomita, K.; Otagiri, M. Hypertens Res 2005, 28, 973-980)。腎臓障害及び末期の腎疾患を有する患者におけるアルブミンのMALDI−TOF(マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型、Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization Time-of-Flight)分析では、疾患によるアルブミンの分子量の増加が示される(Thornalley, P. J.; Argirova, M.; Ahmed, N.; Mann, V. M.; Argirov, O.; Dawnay, A. Kidney Int 2000, 58, 2228-2234)。最後に、アルブミンの脂肪酸運搬機能が、アテローム性動脈硬化症及び糖尿病において修飾される(Muravskaya, E. V.; Lapko, A. G.; Muravskii, V. A. Bull Exp Biol Med 2003, 135, 433-435)。糖尿病を有する患者において、脂肪酸に対するアルブミンの結合能力は上昇し、アテローム性動脈硬化症を有する患者において、その能力は低下する。結論として、アルブミンが疾患によって変化することの証拠は明らかである。血清中のアルブミンに対するタンパク質及び/又はペプチドの結合の変化は、これまでに調査も記載もされていない。本研究は、いかなる質量の範囲も排除することなく、完全なタンパク質、分解したタンパク質、及びペプチドの分析を含むという理由から、特有のものである。さらに、本研究は、これまでのいかなる文献でも取り扱われていない特徴である、アルブミンに結合するタンパク質及びペプチドにおける変化に焦点を当てたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】Crosby, P. A. M., Deborah L In PCT Int. Appl.: USA, 2002
【特許文献2】Bar-or, D. L., Edward; Winkler, James V In PCT Int: US, 2004
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Millea, K.; Krull, I. Journal of Liquid Chromatography and Related Technologies 2003, 26, 2195-2224
【非特許文献2】Anderson, N. L.; Anderson, N. G. Mol Cell Proteomics 2002, 1, 845-867
【非特許文献3】Carter, D. C.; Ho, J. X. Adv Protein Chem 1994, 45, 153-203
【非特許文献4】Peters, T., Jr. All About Albumin; Academic Press: San Diego, 1996
【非特許文献5】Baczynskyj, L.; Bronson, G.E.; Kubiak, T. M. Rapid Commun Mass Spectrom 1994, 8, 280-286
【非特許文献6】Carter, W. A. Methods Enzymol1981, 78, 576-582
【非特許文献7】Sjobring, U.; Bjorck, L.; Kastern, W. J Biol Chem 1991, 266, 399-405
【非特許文献8】Tirumalai, R. S.; Chan, K. C.; Prieto, D. A.; Issaq, H. J.; Conrads, T. P.; Veenstra, T. D. Mol Cell Proteomics 2003, 2, 1096-1103
【非特許文献9】Ortigoza-Ferado, J.; Richter, R. J.; Hornung, S. K.; Motulsky, A. G.; Furlong, C. E. Am J Hum Genet 1984, 36, 295-305
【非特許文献10】Krauss, E.; Polnaszek, C. F.; Scheeler, D. A.; Halsall, H. B.; Eckfeldt, J. H.; Holtzman, J. L. J Pharmacol Exp Ther1986, 239, 754-759
【非特許文献11】Kelso, G. J.; Stuart, W. D.; Richter, R. J.; Furlong, C. E.; Jordan-Starck, T. C.; Harmony, J. A. Biochemistry 1994, 33, 832-839
【非特許文献12】Dergunov, A. D.; Vorotnikova, Y. Y. Int JBiochem 1994, 26, 933-942
【非特許文献13】Zhou, M.; Lucas, D. A.; Chan, K. C; Issaq, H. J.; Petricoin, E. F., 3rd; Liotta, L. A.; Veenstra, T. D.; Conrads, T. P. Electrophoresis 2004, 25, 1289-1298
【非特許文献14】Bar-Or, D.; Curtis, G.; Rao, N.; Bampos, N.; Lau, E. EurJ Biochem 2001, 268, 42-47
【非特許文献15】Takahashi, N.; Takahashi, Y.; Putnam, F. W. Proc Natl Acad Sci USA 1987, 84, 7403-7407
【非特許文献16】Chan, B.; Dodsworth, N.; Woodrow, J.; Tucker, A.; Harris, R. Eur J Biochem 1995, 227, 524-528
【非特許文献17】Mera, K.; Anraku, M.; Kitamura, K.; Nakajou, K.; Maruyama, T.; Tomita, K.; Otagiri, M. Hypertens Res 2005, 28, 973-980
【非特許文献18】Thornalley, P. J.; Argirova, M.; Ahmed, N.; Mann, V. M.; Argirov, O.; Dawnay, A. Kidney Int 2000, 58, 2228-2234
【非特許文献19】Muravskaya, E. V.; Lapko, A. G.; Muravskii, V. A. Bull Exp Biol Med 2003, 135, 433-435
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、ヒト血清の、アルブミンを濃縮した画分を試験して、健康な個体におけるあらゆるアルブミン結合タンパク質を決定し、さらに、アルブミンに結合するタンパク質が疾患によって変化するかどうかを決定した。研究には、アルブミン並びにあらゆる(修飾された、及び修飾されていない)結合性タンパク質/ペプチド(アルブミン結合性タンパク質/ペプチド複合体、ABPPC)の単離のための、複数の独立した方法が含まれる(図1)。結果は、ABPPCが疾患に対する有用なバイオマーカーであることを示す。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、対象における特定の(1又は複数の)アルブミン結合性タンパク質/ペプチド複合体(ABPPC)のレベルを測定するステップと、そのレベルを、正常な対象集団の対照レベルとを比較するステップとを含む、疾患又は障害を診断する方法が提供される。特定のABPPCのレベルの変動及びABPPCのプロフィールの変動は、特定の疾患及び障害の指標であることが見出されている。
【0008】
目的は、疾患を有する患者及び健康な患者においてアルブミンに特異的に結合しているタンパク質を、現在の採血手順に適合する、経済的で、迅速で、且つ精度の高い方法で特徴付けることである。本発明者はいかなる特定の仮説にもとらわれないが、これは、アルブミンが疾患によって変化し、ひいてはアルブミンとアルブミン結合性のタンパク質及びペプチドとの複合体が変化するという仮説に基づいている。ABPPCアッセイはアルブミンの修飾、又はABPPCの組成における変化(即ち、1つ又は複数のタンパク質の有無、1つ又は複数のタンパク質の変化した濃度(又は化学量論又はモル濃度の比率)、タンパク質のPTMにおける変化(例えば、タンパク質分解断片対アルブミンを含む完全なタンパク質))を測定し得る。
【0009】
本方法は単独で、又は、診断の精度及び特異性を向上させるために他の診断試験と共に用いることができる。本方法はまた、この手段又は他の手段によってさらに試験するための、「危険性がある」と思われる個体を同定するためのスクリーニングの目的でも用い得る。
【0010】
したがって、一態様において、本方法は、(a)前記対象から得た生体試料における少なくとも1つのバイオマーカーのレベルを測定するステップであって、前記バイオマーカーがアルブミン結合性タンパク質/ペプチド複合体(ABPPC)を含むステップと、(b)生体試料において測定されたレベルを、正常な対象集団における対照レベルと比較するステップであって、対照レベルと比較したレベルの上昇又は低下が前記疾患又は障害の指標であるステップとを含む。
【0011】
別の態様において、本方法は、アルブミン結合性タンパク質/ペプチド複合体(ABPPC)を含む少なくとも1つのバイオマーカーの存在について、対象の試料をアッセイするステップを含み、ここで、前記(1又は複数の)バイオマーカーの検出は疾患又は障害の診断と相関するものであり、この相関は、正常な対象と比較した、対象の試料における(1又は複数の)バイオマーカーの存在及びレベルを考慮するものである。
【0012】
バイオマーカーは、例えばタンパク質アッセイ、結合アッセイ、又は免疫アッセイを用いて、当業者に知られているあらゆる適切な手段によって検出することができる。バイオマーカーはまた、場合によっては試料の適切な最初の処理の後に、質量分析を用いてピークとして同定し得るか、又は、例えばサイズ排除クロマトグラフィー(SEC、size exclusion chromatography)を用いてゲルのバンドとして同定し得る。典型的なアッセイは以下の実施例に詳細に記載する。陽性診断では、バイオマーカーは、正常な健康な対照における値と比較して、上昇するか又は低下する。
【0013】
対象の試料は、例えば、血液、血漿、血清からなる群から選択してもよい。好ましくは、試料はアルブミンを濃縮した血清である。
【0014】
診断アッセイは、例えば、緊急治療室を受診している患者を評価するために、又は病院内若しくは医師の診療室において進行中の処置のために用いることができる。アルブミンは血清中に非常に富んでいるため(40〜50mg/ml)、このアッセイは、個体から容易に且つ再現可能に得られ得るという利点を有する。アルブミンに対する特異的抗体が利用可能であり、複雑なアッセイを行うことなく容易にABPPCを捕捉することができる。また、液体クロマトグラフィー及びゲルベースの方法を含む、他の生化学的方法も用いることができる。ABPPCの捕捉はアルブミンを標的とすることに基づいているため、特定の疾患において変化するタンパク質(又はPTM若しくは他の修飾)を事前に知る必要はないが、それは、ABPPCの捕捉の手順がすべての疾患に共通しているためである。このように、ABPPCは、様々な潜在的な標的を広く網羅する単純な標的アッセイであり、したがって、非常に経済的である。例えば、少量のタンパク質を検出するための複数の特異的抗体を開発する必要はない。さらに、この天然のサブプロテオームの捕捉により、試料の複雑さが軽減し、低濃度のタンパク質でのアッセイの感度に関連する問題が回避される。ABPPCにおけるいくつかのタンパク質が、アルブミンが枯渇した血清において観察されていないため、いくつかのバイオマーカーがABPPCに特有であると思われる。
【0015】
目的のタンパク質を同定した後、以降の臨床的アッセイで、アルブミンに対する1つの捕捉抗体を、目的のタンパク質に対する異なる検出抗体に容易に結びつけることができる。
【0016】
本明細書に記載される方法を実施するためのキットもまた提供される。一実施形態において、キットは、例えば、内因性アルブミンを特異的に捕捉し又は濃縮する抗体(又は化学的部分)と、アルブミンに結合した1つ又は複数の特異的タンパク質(又はペプチド又は修飾タンパク質)に対する二次抗体(又は化学的部分)と、結合した二次抗体の量の検出及び/又は定量のための構成要素のいずれかを含み得る。一実施形態において、二次抗体は、特異的なタンパク質によって変化する(1又は複数の)タンパク質に対するものであり、それにより、ABPPCのタンパク質含有量における変化を定量する。
【0017】
代替の形態は、完全なタンパク質又は酵素分解したタンパク質の質量分析を用いた、目的の(1又は複数の)タンパク質の直接的な検出での内因性ABPPCの(抗体又は化学的部分での)捕捉である。この実施形態において、キットは、(例えば、小さなカラム内の、又はピペットの先端の末端に詰められた)マトリックスと結合した抗アルブミン抗体を含み得、前記マトリックスにおいて、ABPPCは、完全な質量についてのMSへの溶出後に濃縮され、又は((1又は複数の)分析物のすべてのペプチド若しくは特定のシグネチャーペプチドの)消化及びそれに続くMS分析のために溶出される。本発明のキットは複数の抗体を含み得、それによりABPPCの2つ以上の構成要素を同時に評価することができる。
【0018】
遊離(循環)ABPPCに対する結合性ABPPCの比率が重要であり得るとも考えられている。方法及びキットは、特定のタンパク質を血清アルブミンに結合した形又は遊離した形として測定するために変更し得る。例えば、現在の研究では、多くのタンパク質がアルブミンに結合することが観察されているが、それらはアルブミンが枯渇した血清画分においても観察されており、このことは、前記タンパク質が遊離形態で存在し得ることを示している。これらのタンパク質の例には、例えば、アンチトロンビンIII、アポリポプロテインAII、AIV、CII、クラステリン、トランスサイレチン、及びビタミンD結合タンパク質が含まれる。専門家は通常の実験を通して、比率が特定の疾患状態においていかに変化するかを決定することができよう。
【0019】
疾患又は障害を有する患者集団を血清ABPPCについてスクリーニングし、こうして得られたABPPCを正常な対象集団のABPPCと比較することにより、特定の疾患及び障害についての、ABPPCを含むバイオマーカーを同定する方法を提供することもさらなる目的である。そのようなスクリーニングは、本明細書において上述した診断アッセイで行ったものと同様の方法で実施することができる。例えば、ABPPCのプロフィールを決定するために質量分析又はSECといった方法を用いることができ、差異が見られれば、バイオマーカーとして有用である特定のABPPCが、例えばタンパク質アッセイ、結合アッセイ、又は免疫アッセイを用いて同定される。さらに、タンパク質の消化を実施することができ、1つ又は複数の得られたペプチドがモニターされる。そのようにして同定されたバイオマーカーは、本明細書に記載する診断方法において使用し得る。
【0020】
本発明の方法及び組成物が有用であると期待される疾患又は障害には、血管炎、心筋梗塞、心不全、敗血症、癌、及び糖尿病が含まれる。本明細書に詳述する方法を用いて、当業者は、ABPPCが変化している他の疾患及び障害を、必要以上の実験を行うことなく決定することができよう。
【0021】
本願は、2007年6月14日に出願された米国仮出願第60/813761号、及び2007年6月15日に出願された米国仮出願第60/813825号に対する優先権を主張するものであり、これらは参照により本明細書に組み込まれる。本明細書において引用する参考文献及び特許は参照により本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】アルブミンを濃縮した画分を分離しABPPCを特徴付けるために用いる方法及び対応する対象を示す図である。
【図2】正常なプール血清のアルブミンを濃縮した画分の、一次元SDS−PAGE(AI、BI)及びアルブミンについての対応するウェスタンブロット(AII、BII)を示す図である。
【図3】SECクロマトグラムである。(A)分子量標準物質(A)分子量標準物質上に重ね合わせた、アルブミンを濃縮した画分。
【図4】健康な個体からアルブミンを濃縮した画分の8回の連続注入のSECクロマトグラム(280nm)である。
【図5】加熱及び非加熱SEC画分、抗ヒト血清アルブミン(HSA、human serum albumin)残留物、並びに正常なプール血清からアルブミンを濃縮した画分の全体の、一次元SDS−PAGEを示す図である。
【図6】正常なプール血清からアルブミンを濃縮した画分のSECクロマトグラムの3つの画分(A〜C)のRP−HPLCを示す図である。
【図7】正常なプール血清からアルブミンを濃縮した画分の抗HSA残留物 のRP−HPLCクロマトグラムである。
【図8】20人の健康な対照及び5人の疾患を有する患者のMALDI−TOFスペクトルである。差異は黄色で示している。
【図9】バルーン血管形成を受けた5人の患者(3人のMI、2人のSA)から得た、3つの時点のアルブミンを濃縮した画分のSECクロマトグラムである。
【図10A】パネルAは、図9の高分子量のSEC画分のRP−BPLCクロマトグラム(210nm)を示す。黄色のバーは3つの時点の間の差異を示す。
【図10B】パネルBは、同一の画分の一次元SDS−PAGEを示す。
【図10C】パネルCは、パネルBにおけるゲルのアルブミンについてのウェスタンブロットを示す。
【図11】ABPPCを含むSEC画分のRP−HPLCクロマトグラム(図10A)の一部分の拡大図である。
【図12】2人の健康な対照及び1人の心筋梗塞を有する患者のSECクロマトグラム(280nm)である(A)。パネルBは、パネルAの試料から得た高分子量のSEC画分のRP−HPLCクロマトグラムを示す。
【図13】2人の健康な対照、2人のAMIの患者、及び2人の血管炎の患者の、アルブミンを濃縮した画分の一次元SDS−PAGEを示す図である。
【図14】アルブミンのピークを示すために拡大した、図10Aの高分子量のSEC画分のRP−HPLCクロマトグラムである。矢印は、2人のMI患者及び1人のSA患者での時点8におけるアルブミンの保持時間における変化を示す。赤い丸は、同一の試料で時点8においてのみ見られたピークを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
定義
以下の用語は、別段の指示がない限り、本願を通して以下に定義されるように用いられる。
【0024】
「マーカー」又は「バイオマーカー」は本明細書において同様の意味で用いられ、本発明の下では、特定の疾患又は障害を有する患者から得た試料において、対照の値と比較して異なって存在する(特定の特異的同一性又は明らかな分子量の)ABPPCを言い、前記対照の値は、例えば、対照の対象(例えば、陰性診断の人、正常な又は健康な対象)から得た同等の試料における平均値からなる。バイオマーカーは、アルブミンに結合しているか若しくはアルブミンから切断されている特異的なペプチド若しくはタンパク質として、或いは質量分析、SEC、又は他の分離プロセス若しくは抗体検出における特定のピーク、バンド、画分などとして同定され得る。いくつかの応用において、例えば、質量分析、又は他のプロフィール若しくは複数の抗体を複数のバイオマーカーの同定に用いることができ、且つ個々のバイオマーカー及び/又は部分的な若しくは完全なプロフィールの間の差異を診断に用いることができる。
【0025】
「異なって存在する(differentially present)」という表現は、特定の疾患又は障害を有する患者から得た試料に存在するマーカーの量及び/又は頻度における、対照の対象と比較した差異を言う。例えば、マーカーは、疾患又は障害を有する患者の試料において、(例えば対照の対象の試料から決定する)対照の値と比較して高いレベル又は低いレベルで存在するABPPCであり得る。或いは、マーカーは、患者の試料において、対照の対象の試料と比較して高い頻度又は低い頻度で検出されるABPPCであり得る。マーカーは、量、頻度、又はその両方に関して異なって存在し得る。それはまた、存在量/検出量の単なる増加又は減少ではなく、マーカーであるタンパク質の物理的変化/修飾でもあり得る。例えば、変化しているものは、タンパク質の翻訳後修飾、切断、又はアイソフォームであり得、この変化がアッセイにより検出される。これは疾患を有する人と対照との対比における、異なる量の測定とは別のものである。
【0026】
ある試料におけるマーカー、化合物、組成物、若しくは物質の量が、別の試料におけるマーカー、化合物、組成物、若しくは物質の量と、又は対照の値と統計上有意に異なる場合、マーカー、化合物、組成物、若しくは物質は試料において異なって存在する。例えば、化合物が他の試料(例えば対照)におけるよりも少なくともおよそ120%、少なくともおよそ130%、少なくともおよそ150%、少なくともおよそ180%、少なくともおよそ200%、少なくともおよそ300%、少なくともおよそ500%、少なくともおよそ700%、少なくともおよそ900%、若しくは少なくともおよそ1000%多く若しくは少なく存在する場合、又は化合物が1つの試料において検出可能であり他の試料においては検出されない場合、化合物は異なって存在する。
【0027】
或いは、又はそれに加えて、特定の疾患又は障害に罹患している患者の試料におけるマーカー等の検出頻度が、健康な個体から得た対照の試料又は対照の値におけるよりも統計上有意に高いか又は低い場合、マーカー、化合物、組成物、又は物質は、試料間で異なって存在する。例えば、バイオマーカーが1組の試料において他の組の試料よりも少なくともおよそ120%、少なくともおよそ130%、少なくともおよそ150%、少なくともおよそ180%、少なくともおよそ200%、少なくともおよそ300%、少なくともおよそ500%、少なくともおよそ700%、少なくともおよそ900%、又は少なくともおよそ1000%高い頻度で又は低い頻度で見られて検出される場合、バイオマーカーは2組の試料の間で異なって存在する。これらの典型的な値はあるものの、熟練した専門家であれば、マーカーが異なって存在するかどうかを決定するための統計上有意な差異を表すカットオフポイント等を決定することができると予想される。
【0028】
「診断」は、病態の存在又は性質を同定することを意味し、特定の疾患又は障害を発症する危険性がある患者を同定することを含む。診断方法は感度及び特異性が異なる。診断アッセイの「感度」は、陽性反応を示す、疾患を有する個体のパーセンテージである(「真陽性」のパーセント)。アッセイによって検出されない、疾患を有する個体は、「偽陰性」である。疾患を有しておらず且つアッセイにおいて陰性反応を示す対象は「真陰性」と呼ばれる。診断アッセイの「特異性」は1から偽陽性の比率を差し引いたものであり、「偽陽性」の比率は、疾患を有しておらず陽性反応を示す人の割合として定義される。特定の診断方法によっては状態の確定診断が得られない可能性があるが、診断に役立つ陽性の兆候が前記方法により得られる場合には、前記診断は満足なものである。
【0029】
「検出」、「検出する」等の用語は、バイオマーカーの検出、又は疾患若しくは障害の検出(例えば、アッセイの陽性の結果が得られた場合)との関連で用い得る。後者の場合、「検出」及び「診断」は同義的であると考えられる。
【0030】
「危険性がある」とは、正常な対象と比較して、又は対照群と比較して、例えば患者集団のリスクが上昇していることを意味するものである。したがって、特定のマーカーを有する対象は特定の疾患又は障害に対する増大したリスクを有し得、さらなる試験が必要であると同定される。「増大したリスク」又は「高いリスク」は、可能性の、例えば対象が障害を有している可能性の、あらゆる統計上有意な増大を意味する。リスクは、比較対象である対照群よりも、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、さらに好ましくは少なくとも50%増大している。
【0031】
マーカーの「試験量(test amount)」は、試験対象の試料において存在するマーカーの量を言う。試験量は、絶対的な量(例えばμg/ml)又は相対的な量(例えばシグナルの相対強度)のいずれであってもよい。
【0032】
マーカーの「診断量」は、特定の疾患又は障害の診断と一致する、対象の試料におけるマーカーの量を言う。診断量は、絶対的な量(例えばμg/ml)又は相対的な量(例えばシグナルの相対強度)のいずれであってもよい。
【0033】
マーカーの「対照量」は、マーカーの試験量と比較されるあらゆる量又は量の範囲であり得る。例えば、マーカーの対照量は、診断しようとする疾患又は障害に罹患していない人におけるマーカーの量であり得る。対照量は、絶対的な量(例えばμg/ml)又は相対的な量(例えばシグナルの相対強度)のいずれであってもよい。
【0034】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、及び「タンパク質」は本明細書において同様の意味で用いられ、α−アミノ酸残基の重合体、とりわけ天然のα−アミノ酸の重合体を言う。前記用語は、1つ又は複数のアミノ酸残基が、対応する天然のアミノ酸の類似体又は模倣物である、アミノ酸の重合体に適用され、また、天然のアミノ酸の重合体にも適用される。ポリペプチドは、例えば、糖タンパク質を形成する炭水化物残基の付加、リンタンパク質を形成するリン酸化、及び多くの化学的修飾(例えば、酸化、脱アミド、アミド化、メチル化、ホルミル化、ヒドロキシメチル化、グアニジン化)によって修飾され得、また、分解、還元、又は架橋され得る。「ポリペプチド」、「ペプチド」、及び「タンパク質」という用語には、タンパク質の、あらゆる修飾されていない形態及び修飾された形態が含まれる。
【0035】
「検出可能な部分」又は「標識」は、分光学的手段、光化学的手段、生化学的手段、免疫化学的手段、及び化学的手段により検出可能な組成物を言う。例えば、有用な標識には、32P、35S、蛍光染料、高電子密度試薬、(例えば、ELISAにおいて一般に用いられるような)酵素、ビオチン−ストレプトアビジン、ジオキシゲニン、抗血清若しくはモノクローナル抗体が利用可能なハプテン及びタンパク質、又は標的に対して相補的な配列を有する核酸分子が含まれる。検出可能な部分は、試料における結合性の検出可能部分の量を定量するために用い得る、放射性シグナル、発色性シグナル、又は蛍光シグナルなどの測定可能なシグナルを多くの場合生じさせる。シグナルの定量は、例えばシンチレーション計数、濃度測定、フローサイトメトリー、又は完全なペプチド若しくは続いて消化されたペプチドの質量分析(1つ又は複数のペプチドを評価することができる)による直接的な分析によって行われる。
【0036】
「抗体」は、エピトープ(例えば抗原)を特異的に結合し認識する、1つ若しくは複数の免疫グロブリン遺伝子に実質的にコードされているポリペプチドリガンド、又はその断片を言う。認識される免疫グロブリン遺伝子には、κ及びλ軽鎖の定常領域の遺伝子、α、γ、δ、ε、及びμ重鎖の定常領域の遺伝子、並びに無数の免疫グロブリンの可変領域の遺伝子が含まれる。抗体は、例えば完全な免疫グロブリンとして、又は様々なペプチダーゼでの消化により生じる多くのよく特徴付けられた断片として存在する。これには例えばFab’断片及びF(ab)’2断片が含まれる。本明細書で用いる「抗体」という用語にはまた、抗体全体の修飾により生じる抗体断片、又は組換えDNAの手法を用いてデノボ合成された抗体断片が含まれる。また、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、又は一本鎖抗体も含まれる。抗体の「Fc」部分は、1つ又は複数の重鎖の定常領域のドメインCH1、CH2、及びCH3を含むが重鎖の可変領域は含まない、免疫グロブリンの重鎖の部分を言う。
【0037】
「結合アッセイ」は、抗体などの作用物質への結合によってバイオマーカーが検出される生化学的アッセイであって、それを介して検出プロセスが実施される生化学的アッセイを意味する。検出プロセスは、放射性標識又は蛍光標識などを伴い得る。このアッセイはバイオマーカーの固定を伴い得るか、又は溶液中で実施され得る。
【0038】
「免疫アッセイ」は、抗原(例えばマーカー)を特異的に結合するための抗体を用いるアッセイである。免疫アッセイは、抗原の単離、標的化、及び/又は定量のために特定の抗体の特異的な結合特性を用いることを特徴とする。
【0039】
タンパク質又はペプチドに関して言う場合、抗体に「特異的に(若しくは選択的に)結合する」という表現、又は「特異的に(若しくは選択的に)免疫反応性である」という表現は、タンパク質及び他の生体由来物質の不均質な集団におけるタンパク質の存在の決定要因である結合反応を言う。したがって、指定された免疫アッセイ条件の下では、特定の抗体は、特定のタンパク質にバックグラウンドの少なくとも2倍結合し、試料内に存在する他のタンパク質には実質的には有意な量で結合しない。そのような条件下での抗体への特異的な結合には、特定のタンパク質に対する特異性について選択された抗体が必要であり得る。特定のタンパク質と特異的に免疫反応性である抗体を選択するために、様々な免疫アッセイフォーマットを用いることができる。例えば、タンパク質と特異的に免疫反応性である抗体を選択するために、固相ELISA免疫アッセイが通常用いられる(特異的な免疫反応性の決定に用い得る免疫アッセイのフォーマット及び条件の記載については、例えばHarlow & Lane, Antibodies, A Laboratory Manual (1988)を参照。)
【0040】
アルブミンは種間で同種であるため、本発明の方法はヒトに限定されたものではなく、他の動物(例えば、鳥、爬虫類、両生類、哺乳類)において、特に哺乳類において有用であるが、「対象」、「患者」、又は「個体」という用語は通常、ヒトを言う。
【0041】
「試料」は本明細書において、その最も広い意味で用いられる。試料は、血液、血清、血漿、涙、房水、硝子体液、髄液を含む体液と、細胞若しくは組織の調製物の、又は細胞が増殖した培地の可溶性画分と、細胞又は組織から単離又は抽出された細胞小器官又は膜と、溶液内の、又は基質に結合したポリペプチド又はペプチドと、細胞と、組織と、組織プリントと、指紋、皮膚、又は毛髪と、それらの断片及び誘導体とを含み得る。対象の試料は通常、血液、血漿、及び血清を含めた、血液由来物質の誘導体を含む。
【0042】
「アルブミンを濃縮した血清又は血漿」は、アルブミン並びにアルブミンに結合している会合ペプチド及び会合タンパク質以外の構成要素を減少させるか又は除去するための処理をした血清又は血漿を意味する。
[実施例]
【0043】
血清又は血漿からアルブミンを単離するために利用可能な2つの主要な方法があり、それらは、親和性に基づく方法(例えば抗体、チバクロンブルー)、及び化学に基づく方法(例えばNaCl/EtOH[Fu, Q., Garnham, C. P., Elliott, S. T., Bovenkamp, D. E. et al., Proteomics 2005, 5, 2656-2664、Colantonio, D. A., Dunkinson, C., Bovenkamp, D. E., Van Eyk, J. E., Proteomics 2005, 5, 3831-3835]、TCA/アセトン[Chen, Y. Y., Lin, S. Y., Yeh, Y. Y., Hsiao, H. H. et al., Electrophoresis 2005, 26, 2117-2127])である。親和性に基づく方法の多くは、比較され、効果的にアルブミンを除去することが示されている[Zolotarjova, N., Martosella, J., Nicol, G., Bailey, J. et al., Proteomics 2005, 5, 3304-3313、Bjorhall, K., Miliotis, T., Davidsson, P., Proteomics 2005, 5, 307-317、Chromy, B. A., Gonzales, A. D., Perkins, J., Choi, M. W. et al., J. Proteome Res. 2004, 3, 1120-1127]。しかし、これらの方法は、リガンド及びカラム物質、並びにLCカラムの場合の実験間でのキャリーオーバーに対する、タンパク質/ペプチドの非特異的な結合に対して脆弱である[Zolotarjova, N., Martosella, J., Nicol, G., Bailey, J. et al., Proteomics 2005, 5, 3304-3313、Colantonio, D. A., Dunkinson, C., Bovenkamp, D. E., Van Eyk, J. E., Proteomics 2005, 5, 3831-3835、Bjorhall, K., Miliotis, T., Davidsson, P., Proteomics 2005, 5, 307-317、Chromy, B. A., Gonzales, A. D., Perkins, J., Choi, M. W. et al., J. Proteome Res. 2004, 3, 1120-1127、Steel, L. F., Trotter, M. G., Nakajima, P. B., Mattu, T. S. et al., Mol. Cell. Proteomics 2003, 2, 262-270、Stanley, B. A., Gundry, R. L., Cotter, R. J., Van Eyk, J. E., Dis. Markers 2004, 20, 167-178]。或いは、アルブミンは、1940年代からNaCl/EtOHを用いて精製されており[Cohn, E. J., Strong, L. E., Hughes, W. L., Mulford, D. J. et al., J. Am. Chem. Soc. 1946, 68, 459-475]、この方法は医薬品等級のアルブミンを単離するために通常用いられるものである。近年では、このプロセスはプロテオミクス分野に最適化され、アルブミンの効果的な精製及び除去に必要なステップが最小限となったが[Fu, Q., Garnham, C. P., Elliott, S. T., Bovenkamp, D. E. et al., Proteomics 2005, 5, 2656-2664]、他のタンパク質の同時精製は依然として問題となる可能性がある。
【実施例1】
【0044】
ヒト血清のアルブミンを濃縮した画分の単離
化学抽出によるアルブミンの枯渇を、Fu et al.により記載されているように実施した[Fu, Q., Garnham, C. P., Elliott, S. T., Bovenkamp, D. E. et al., Proteomics 2005, 5, 2656-2664]。簡潔に説明すると、遠心分離により100μLの正常なヒトの血清の脂質を枯渇させ、その後、プロテインGアフィニティーカラム(Amersham Biosciences社製、ピスカタウェイ、ニュージャージー州、アメリカ)を用いてIgGを枯渇させた。IgGを枯渇させた血清を42%エタノール/100mM NaClに入れ、4℃で1時間インキュベートし、その後、16000×gで45分間遠心分離した。上清(アルブミンを濃縮した画分)を回収し、以下に記載する研究に用いた。
【実施例2】
【0045】
ABPPCの単離及び特徴付け
アルブミンを濃縮した画分全体の処理を図1に概略的に示す。この研究は、アルブミン並びにあらゆる(修飾された、及び修飾されていない)結合性タンパク質/ペプチド(アルブミン結合性タンパク質/ペプチド複合体、ABPPC)の単離のための複数の独立した方法を含むものであった。
【0046】
最初の分析は、加熱した、及び加熱していない試料の一次元SDS−PAGE、並びにアルブミンについてのウェスタンブロットを含むものであった(図2)。一次元SDS−PAGEでは、アルブミンを含む116kDaのバンドの消失、及び重度の変性(即ち、加熱及び8Mの尿素での処理)の後にのみ生じるいくつかのバンドの出現により、アルブミンを濃縮した画分におけるタンパク質/ペプチドの多くが、アルブミン又は他のタンパク質と会合していたということが示される(図2AI、BI)。重要なことには、これらの結果は、ゲルへの添加量が過剰であった場合(6〜12μg/レーン)にのみ見られた。低分子量のバンドの存在は、加熱していない試料の添加量が少ない場合は視覚化されなかった。ウェスタンブロットでは、アルブミンは、加熱していない試料において116kDaのバンドに存在し、予想された分子量である66kDaよりも遠くへ泳動した(図2AII)。しかし加熱すると、このバンドは消失し、いくつかがアルブミンを含む小さな分子量のバンドが出現する(図2BII)。したがって、アルブミンは、二量体を形成しているか、又は、1つ若しくは複数の他のタンパク質/ペプチドに結合しているため、高分子量で出現することが可能であり、重度の変性条件下においてのみ、これらのタンパク質/ペプチドは放出される。このことと一致するものとして、セルロプラスミン、ハプトグロビン、及びα−1B−糖タンパク質を含む、アルブミン以外のタンパク質のペプチドが、この116kDaのバンドにおいて同定されたという事実がある。非加熱条件においては、アルブミンが低分子量で泳動するということが認められる。これは、ジスルフィドの不完全な還元によるものであり得、それにより、アルブミンがSDSで十分に飽和されず移動に影響するか、又はアルブミンに結合している別のタンパク質若しくはペプチドが、ゲルにおけるアルブミンの移動を変化させる。さらに、加熱後に複数のアルブミン断片が存在することは(図2BII)、アルブミンの広範なタンパク質分解が生じたことを示す。結論として、一次元SDS−PAGEの結果はアルブミンへのタンパク質の結合の確実な証拠ではないが、これらの予備的な結果により、SEC及び免疫アフィニティークロマトグラフィーによる、より精密な分析が促される。
【0047】
従来のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いて、アルブミンを濃縮した画分をサイズによって分離し、自然条件において存在するあらゆるタンパク質複合体を単離した。SECの選択は、それが、自然条件下において、非特異的な結合が最小であり、且つサイズによってタンパク質複合体を区別する能力を有するためである。抗HSAスピンカラムによる免疫親和性をヒトアルブミンに対する特異性について選択したが、マトリックスによる非特異的結合が欠点として認められた。抗アルブミン抗体アフィニティーカラム(抗HSA)を用いて、アルブミン及びあらゆる結合性タンパク質/ペプチドを結合した。その後、カラムに結合したタンパク質をカラムから溶出し(抗HSA残留物)、さらなる分析に付した。抗HSA残留物及び高分子量のSEC画分を一次元SDS−PAGE及び逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC、reversed phase high performance liquid chromatography)により分離して、それによりさらにアルブミンから結合性タンパク質/ペプチドを分離し、その後、トリプシン消化及びタンデム質量分析(MS/MS)を行ってタンパク質/ペプチドを同定した。
【0048】
大きなタンパク質は小さなタンパク質及びペプチドよりもカラム上にある時間が短く、より早く溶出されるため、従来のSECを用いて、アルブミンを濃縮した画分をサイズによって分離した。自然条件下において、アルブミンに結合したタンパク質及びペプチドが、アルブミンを含む(1又は複数の)画分内に溶出する一方で、結合していないタンパク質及びペプチドは、それらの自然の分子量と一致して、アルブミンとは別に溶出することが予想される。図3Aにおいて良好に分離したピークにより示されているように、SECでは、広範なタンパク質(29〜205kDa)を良好な分離能で分離することができた。アルブミンを濃縮した画分はSECによって4つの領域(A〜D)に分離し、その時点で溶出する主なピークは、66kDaの標準的なタンパク質よりもわずかに大きな質量と一致していた(図3B)。SECの利点は、図4において見られるように、再現性が高いことである。
【0049】
SEC−Aは116kDa付近で溶出する画分を含み、SEC−BはSEC−Aのすそ及びSEC−Cの勾配部分の画分を含み、SEC−Cは、66kDaよりもわずかに上を溶出する画分を含み、そしてSEC−Dは低分子量領域の試料を含む。次に、各画分(A〜D)をさらに分離及び脱塩し、その後、質量分析によって分析した。SEC画分を、一次元SDS−PAGE(図5)及びRP−HPLC(図6)の2つの方法により分離し、その後、MALDI−TOF MS及びLC−MS/MSに付した。
【実施例3】
【0050】
ABPPCにおいて同定されたタンパク質
一次元SDS−PAGE及びRP−HPLCによるSEC画分の分析により、画分A、B、及びCに溶出しているアルブミンに加え、複数の種の存在が明らかになる。興味深いことに、高分子量のSEC画分におけるこれらのタンパク質の多くは66kDaよりかなり低い分子量を有し、それらのタンパク質を表1に列挙する。
【0051】
【表1−1】
【表1−2】
【表1−3】
【表1−4】
【0052】
116kDa付近を溶出すると、SEC−Aは、一次元SDS−PAGEにおいて116kDaで視覚化されたバンドと分子量が同様であった。予想された通り、この画分は分子量が100kDaより大きいタンパク質を含む(n=6)。加えて、この画分はまた、分子量が100kDaをはるかに下回る26個のタンパク質も含み、このことは、それらがいくつかの他の(1又は複数の)タンパク質と会合し、それにより自然条件下において高分子量で溶出するということを示している。ゲルによって明らかに分かるように(図5)、SEC−Aにおけるいくつかのバンドは90℃で10分間の加熱の後に存在するのみであり、レチノール結合タンパク質、クラステリン、及びパラオキソナーゼ1を含む。100kDa付近で溶出する画分を含むSEC−Bは、SEC−A及びSEC−Cで見られるタンパク質の混合物であると予想されるが、それはこれらのピークのすその末端がSEC−Bと重複しているからであり、この重複しているバンドは図5で明らかである。SEC−Cは66kDa付近で溶出する画分を含む。SEC−Aの場合のように、多くのバンドはこの試料の加熱の後にのみ存在し、画分は、α−1−酸性糖タンパク質1、α−2HS−糖タンパク質、及び亜鉛α2糖タンパク質を含む、分子量が66kDaよりはるかに低い多くのタンパク質を含む。要約すると、SECの結果は、自然条件下において予想される分子量よりもはるかに大きい分子量で溶出する多くのタンパク質を示し、このことは、それらが、潜在的にはアルブミンである他のタンパク質と会合して、高分子量の複合体を形成していることを示唆している。アルブミンは各SEC画分において見られ、このことは、異なるタンパク質を含む様々な複合体においてアルブミンが存在している可能性があることを示唆している。換言すれば、アルブミン複合体は不均質であり得る。したがって、SECの結果は、自然条件下においてアルブミン−タンパク質/ペプチド複合体が存在するという結論を支持するものである。
【0053】
抗HSA免疫アフィニティーカラムを用いて、SECの結果を裏付け、且つアルブミンとのタンパク質の相互作用をさらに特異的に調べた。抗HSAキットを、他の血清タンパク質に対する交差反応を有することなくヒト血清からアルブミンの95%超を特異的に除去するように設計する。したがって、アルブミンを濃縮した画分を抗HSAカラムに通すと、アルブミンに結合していないタンパク質及びペプチドは通過し、アルブミンに結合しているものはアルブミンに結合したままカラムに結合すると予測される。抗HSAカラムに結合しているタンパク質及びペプチド(即ち残留物)を、MALDI−TOF MS、一次元SDS−PAGEにより直接的に分析し(図5)、RP−HPLCによりさらに分離し(図7)、その後、MALDI−TOF MS/MS及びLC−MS/MSに付した。これらの各技術により、残留物に存在するアルブミンに加えて多くの他のタンパク質が明らかになった(表1)。抗HSA残留物において同定された49個のタンパク質のうち34個はまた、SEC画分A〜Cにおいても見られ、このことは、これらが実際に直接的又は間接的にアルブミンと会合しているということを裏付けるものである。
【0054】
15個のタンパク質が抗HSA残留物において見られたが、それらはSEC画分のいずれにおいても見られず、結合していることを確認することができなかったが、結合している可能性のあるものとして表1に記載する。同様に、7個のタンパク質がSEC−Aにおいて見られたが、それらは抗HSAにおいては見られず、したがって、アルブミンに結合していることを確認することができなかった。しかし、SEC画分におけるこれらの7個のタンパク質のうち4個(アトラクチン、α2マクログロブリン、プレグナンシーゾーンタンパク質、及び補体成分4A)は100kDaを超える分子量を有し、したがって、他のタンパク質と会合していなくてもSEC−Aにおいて溶出すると予想される。アクチン及び単球分化抗原CD14は100kDaより小さい分子量を有するが、アルブミンを濃縮した画分において見られる他のタンパク質と会合することが知られており、したがって、これらのタンパク質は複合体を形成し得、その結果、高分子量で溶出する。1つのタンパク質、即ちレチノール結合タンパク質のみがSEC−Aにおいて見られ、前記タンパク質はアルブミンに結合することが知られているため抗HSA残留物において見られると予想されたが、抗HSA残留物においては見られなかった。要約すると、34個のタンパク質がアルブミンに結合していることが確認され、16個のさらなるタンパク質が結合している可能性がある。正常な血清において、最も少量のアルブミン結合タンパク質は1.0E+1〜1.0E+3pg/mlの範囲であった(炭酸脱水素酵素I、フィブリノゲンα鎖、βトロンボグロブリン)。したがって、結合したタンパク質の範囲が広いこと(即ち、豊富なタンパク質のみではない)、アルブミン−タンパク質/ペプチド複合体が堅固な結合を示すという事実(即ち、SDSの存在下で見られ、したがって非特異的な複合体)、及び、ペプチドだけではなくタンパク質全体が結合しているという事実は、総合すると、アルブミンが特異的にタンパク質を結合していることを示す。最後に、MALDI−TOF MSによって見られる分子量、一次元SDS−PAGEでの位置、及び観察された配列の範囲を組み合わせることで、本発明者は、結合した、及び結合している可能性のある50個のタンパク質のうち27個で、完全な又はほぼ完全な形(ペプチドだけではない)が存在し、分子量が8.7〜119kDaの範囲であることを確認することができる。
【0055】
本明細書において同定されるタンパク質の一覧を、Anderson, et al(Anderson, L. J Physiol 2005, 563, 23-60)及びBerhane, et al(Berhane, B. T.; Zong, C; Liem, D. A.; Huang, A.; Le, S.; Edmondson, R. D.; Jones, R. C.; Qiao, X.; Whitelegge, J. P.; Ping, P.; Vondriska, T. M. Proteomics 2005, 5, 3520-3530)がまとめた心血管のバイオマーカーの総合的な一覧と比較した。さらに、他のタイプのバイオマーカーについての文献調査も実施した(Anderson, L. J Physiol 2005, 563, 23-60、Berhane, B. T.; Zong, C; Liem, D. A.; Huang, A.; Le, S.; Edmondson, R. D.; Jones, R. C.; Qiao, X.; Whitelegge, J. P.; Ping, P.; Vondriska, T. M. Proteomics 2005, 5, 3520-3530、Gonzalez-Conejero, R.; Lozano, M. L.; Rivera, J.; Corral, J.; Iniesta, J. A.; Moraleda, J. M.; Vicente, V. Blood 1998, 92, 2771-2776、Fujita, Y.; Ezura, Y.; Emi, M.; Sato, K.; Takada, D.; Eno, Y.; Katayama, Y.; Takahashi, K.; Kamimura, K.; Bujo, H.; Saito, Y. J Hum Gen 2004, 49, 24-28、Rampazzo, A.; Nava, A.; Malacrida, S.; Beffagna, G.; Bauce, B.; Rossi, V.; Zimbello, R.; Simionati, B.; Basso, C.; Thiene, G.; Tobwin, J.; Danieli, G. Am J Hum Genet 2002, 71, 1200-1206、Shigeldyo, T.; Yoshida, H.; Matsumoto, K.; Azuma, H.; Wakabayashi, S.; Saito, S.; Fujikawa, K.; Koide, T. Blood 1998, 91, 128-133、Rosales, F.; Ritter, S.; Zolfaghari, R.; Smith, J.; Ross, A. J. Lipid Res. 1996, 37, 962-971)。これらの調査の結果の要約を表1に示す。興味深いことに、ABPPCにおける39個のタンパク質は潜在的なバイオマーカーであることがこれまでに報告されており、これらのほとんどは心血管疾患に関連するものであった。恐らく、ABPPCにおける最も興味深い潜在的なバイオマーカーは、アルブミンが枯渇した画分では見られなかったタンパク質である。このカテゴリーのタンパク質は、α−2HS−糖タンパク質、アポリポプロテインAI、セルロプラスミン、インターαトリプシンインヒビターH4、キニノゲン、アポリポプロテインCIII、カルボキシペプチドB2、フィブノリゲン、プロトロンビン、血清アミロイドA4、及びβトロンボグロブリンである。興味深いことに、βトロンボグロブリン以外のこれらのタンパク質のすべては、心血管の潜在的なバイオマーカーであることが報告されている。βトロンボグロブリンは、血清中に低レベルで通常存在するケモカインであり、免疫応答に関与する。さらに興味深いことに、α−2HS−糖タンパク質、アポリポプロテインAI、アポリポプロテインCIII、及びセルロプラスミンは完全な形態で見られた。
【実施例4】
【0056】
心筋梗塞におけるABPPCのバイオマーカーの同定
健康な個体及び疾患を有する個体のアルブミンを濃縮した画分を、いくつかの方法によって比較し、疾患に典型的な、又は疾患に相関する、何らかの変化が検出され得るかどうかを決定した。20人の健康な対照の、アルブミンを濃縮した画分の全体のMALDI−TOFスペクトルを、5人の疾患を有する患者(2人の血管炎、3人の急性心筋梗塞(AMI、acute myocardial infarction))と比較すると、5つの興味深い差異が明らかになった(図8)。これらのピークは疾患を有する試料においてのみ存在し、それは、重篤なAMIにおいて、他の疾患を有する患者よりも強度の高いものであった。
【0057】
アルブミンを濃縮した画分の全体に加え、ERを受診し、バルーン血管形成としても知られる経皮的冠動脈形成術(PTCA、percutaneous transluminal coronary angioplasty)を受けた、心筋梗塞(MI、myocardial infarction)及び安定狭心症(SA、stable angina)と診断された患者の間でABPPCを比較した。3つの時点(#1=基準、#7=手順の1時間後(虚血)、及び#8=手順の24時間後(壊死))をSECにより分析し、その後、RP−HPLC及び一次元SDS−PAGEを行った。各試料のSECクロマトグラム(図9)は、すべての試料で同様のパターンを示し、アルブミンを濃縮した画分及びSECの再現性を示している。しかし、個体における、時間の間での明らかな差異が確認できる。4つの試料の時点1及び7において、また1つの試料においてのみ時点7で、大きなピーク(黄色の矢印)を66kDaより下で見ることができる。このピークはすべての試料において時点8で著しく減少する。高分子量の範囲(66kDaより大きい)の3つのピークも、SECクロマトグラムにおいて確認される。SAを有する患者において、3つのピークはすべての時点間で同様であると思われる。しかし、MIの患者においては、中央のピークは、時点1及び7で、時点8よりも低い強度で現れる。同様に、1つの試料において(MI、男性、51歳)、4つ目のピークは、時点8で高分子量の領域に現れる(緑色の矢印)。SECの分解能は限界があるため、より詳細を知るためには、RP−HPLC及び一次元SDS−PAGEによるABPPCのさらなる分離が必要であった。
【0058】
RP−HPLC及び一次元SDS−PAGEの両方によってさらに分離すると、ABPPCのさらなる詳細が現れる。ここでも同様に、RP−HPLCのプロフィールはすべての試料間で同様のパターンを有し、再現性を示す。しかし、差異は明らかである(図10Aで示され、図11で拡大されている)。すべての試料で、時点1と時点7及び8との対比で複数の差異が存在する。時点7及び8と比較して、時点1においては、ABPPCに含まれているタンパク質はより少ないと思われる。一次元SDS−PAGEによって、さらに、各試料内での時点間の差異、及び試料間での差異も明らかになる。興味深いことに、MIの患者は、高分子量のSECにおいて、SAの試料が有していない複数の低分子量のバンド(31kDa未満)を含む。これらの特定の試料についてタンパク質のIDは得られていないが、同様のバンドパターンを有するゲルの低分子量のバンドに含まれるタンパク質は、アポリポプロテインAI、ハプトグロビン、レチノール結合タンパク質、及びトランスサイレチンである。また、116kDaよりわずかに大きいバンドは、MIの試料(51歳、65歳)においてより暗く現れる。先のゲルにおいて、このバンドはセルロプラスミンと同定された。高分子量のSEC画分のゲルのウェスタンブロット分析(図10C)により、断片のバンドであると推定される複数の低分子量のバンドに加え、116kDa付近のバンドに存在するアルブミンが示された。完全な形態(66kDa)で存在するアルブミンと、ウェスタンブロットで得られた低分子量の断片で存在するアルブミンとの対比における定量分析により、興味深い傾向が明らかになった。MIの試料における、アルブミン全体対アルブミン断片の比率は平均で1.47であったが、SAの試料における比率は4.57であり、そのt検定スコアは0.01であった。したがって、MIとSAとの対比における、アルブミンの選択的及び特異的なタンパク質分解、又はアルブミンにおける、アルブミンを熱分解しやすくする変化は、有用なバイオマーカーである。
【0059】
異なる組の試料、即ち2人の健康な対照及び1人のMIを有する患者で、より詳細な分析を行った。ABPPCをSECにより単離し、SECA*及びSECB*の2つの画分に分けた(図12A)。疾患を有する人と対照との間の差異は、2つの高分子量のピークの高さが減少することで明らかに確認することができる。次に、SECA*をRP−HPLCで分離した(図12B)。MIの試料は、50〜64分の保持時間でピーク強度が有意に低下した。画分を58〜61分間トリプシン消化した後にLC−MS/MSによりさらに分析したところ、健康な対照には存在しMIの試料には存在しない、7個のタンパク質が明らかになった。このことは、健康な人よりも、疾患を有する人においてABPPCが含むタンパク質が少ないことを示す。この試料の組は、SECによる分析の前に、タンパク質濃度ではなく全容量により標準化したことが認められる。
【実施例5】
【0060】
血管炎におけるバイオマーカーの同定
MIを有する患者に加え、血管炎を有する患者からアルブミンを濃縮した画分も試験した。一次元SDS−PAGEによる、AMIを有する患者及び血管炎を有する患者からアルブミンを濃縮した画分の比較は興味深いものである(図13)。疾患を有する人において複数の高分子量のバンドが現れたが、それは対照では存在しなかった。
【実施例6】
【0061】
今までのところ、データは、ABPPCが存在し、この複合体が疾患において変化することの証拠を提供する。ABPPCのこの変化は、疾患を有する人と健康な人との対比において、血清における特定のタンパク質の利用可能性が変化することによる可能性がある。一方、いくつかの証拠により、アルブミン自体における変化が指摘される(図14)。高分子量のSEC画分のRP−HPLCにおけるアルブミンの保持時間は、MIを有する2人の患者及びSAを有する高齢の患者において、時点8で変化する(図14、黒の矢印)。また興味深いことに、同じ試料で、時点8においてクロマトグラムの初期に小さなピークが現れる(図14における赤い丸)。
【0062】
考察
ABPPC及びアルブミン自体が疾患によって変化するというこれらの所見は、アルブミンの生物学的役割に関する重要な生物学的な懸念をもたらす。変化の原因及び性質は不明であるが、本明細書において示される結果は、検出し得る以上にABPPCにおいて変化が存在するということの十分な証拠を提供する。ABPPCが特に様々な疾患の診断指標として役立つ機会は、ABPPCを再現可能に得ることが容易であり、ABPPCが完全なタンパク質及びペプチドに結合し、且つタンパク質を特異的に結合するという事実により高められる。1つの捕捉試薬のみが必要であることから、ABPPCアッセイはハイスループットの分析に適している。したがって、1回のアッセイが複数の疾患の潜在的なバイオマーカーを広く網羅し得るため、ABPPCアッセイは安価であり、且つ効果的なものである。さらに、アルブミンはヒト血清において最も豊富なタンパク質であるため、ABPPCアッセイに必要な血液の全容量は少ない。これは侵襲が最小であるということであり、それは、新生児医学、小児医学において、及び失血が重篤である患者にとって重要である。診断指標としてのABPPCの応用には複数の場合が含まれる。同一の捕捉試薬を用いることができるため、ABPPCは、単一の疾患については単一の診断指標として用いることができ、又は複数の疾患については多重診断指標として用いることができる。この特徴により容易性が増し、それにより臨床アッセイを展開し得る。これに加えて、血清におけるABPPCの利用可能性があり、したがってこれは市販の製品の頑健性に役立つ。単純なイエス/ノーの診断に加え、ABPPCは、疾患のステージ、進行、又は治療計画の識別といった、より高度な分析にも拡張し得る。疾患の特異的マーカーは、アルブミンにおける変化、アルブミンの変化したタンパク質分解、熱分解に対するアルブミンの脆弱性に影響するアルブミンにおける変化、アルブミンに結合したタンパク質における変化、ABPPCの化学量論における変化、ABPPCにおける結合性タンパク質に対する遊離タンパク質の比率、ABPPCにおける完全なタンパク質対タンパク質断片の対比の比率、又は上述したあらゆるものの組合せであり得る。商業的応用には、ABPPCを捕捉する方法、目的の特異的なタンパク質/ペプチドを検出する方法、目的のタンパク質の修飾を検出する方法、遊離タンパク質対結合性タンパク質の比率を測定する方法、完全対ペプチド断片の比率を測定する方法、又はABPPCにおける化学量論の変化を測定する方法が含まれ得る。検出方法には、質量分析又は抗体系が含まれ得る。
【0063】
本発明者は、以上に、疾患の進行の間にABPPCがどのように修飾されるかについていくつかの実施例を示した。したがって、アルブミン及びABPPCの修飾は、疾患の状態(1つの状態若しくは2つの状態の間)又は疾患の一連の経過を診断するために用い得る。1つの実施例において、患者は、血管形成の際のバルーン拡張によって、誘発性の心筋虚血及び心筋梗塞を有していた。この実験条件は、胸の痛みを訴えて救急科を受診している心臓病の患者における病気の推移を模倣するものである。心筋虚血(心筋スタニングの潜在的な形態)は、心臓の領域への血流が減少するか又はなくなると生じる。心臓はこの制限された血流を補うが、虚血が(程度及び/又は期間の両方で)かなり重篤である場合、最終的には筋細胞はアポトーシス及び/又は壊死する(心筋梗塞)。したがって、心筋虚血の検出により、AMIを発症する恐れのある患者の初期の診断が可能になる。その結果、これらの患者は、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA、tissue-type plasminogen activator)、血管形成術、若しくは他の血栓減少剤及び保護剤を用いた治療を初期に受け得るか、又は処置及びモニタリングを増やすべく状態を高め得る。初期の再潅流療法が心筋を助けるということはよく記載されている。したがって、弱い心筋の初期の検出は有利である。現在では、初期の検出のための診断には2つのアプローチがあり、それらは、i)初期の検出のための、より感度の高い心筋壊死のマーカーの開発、又はii)虚血特異的マーカーの開発である。提供されている虚血のマーカーはわずかであり、FDAの認可を受けているものは1つしかない。これは、AMIを阻止するために不在壊死マーカーと共に用いられる、修飾されたアルブミン(修飾された金属結合)である。本願では、本発明者は、アルブミン及びその結合複合体(ABPPC)が虚血によって変化し、そしてさらにAMI(細胞壊死)によって変化するという、特有のプロフィールを概説する。したがって、ABPPCにより、基準となる健康な個体(及び安定狭心症を有する個体)と、虚血及びAMIによる侵害とを区別することができる。第2のケースにおいて、本発明者は、血管炎であると既に診断されている患者によるABPPCにおける変化を示す。血管炎を有する患者の大部分は治療の後に寛解へ向かうが、ほとんどが再燃し、続いて治療の再開を必要とする。したがって、血管炎についての有益な診断は、個体がいつ再燃を生じるかを予測する能力を有するものである。寛解期にある血管炎の患者と、その後の再燃を生じている患者との間の比較において、アルブミン及びABPPCの特有のプロフィールが得られた。したがって、ABPPCは、基準となる健康な個体と、寛解期にある血管炎を有する個体と、再燃している血管炎を有する個体とを区別するために用い得る。
【0064】
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[37] Cohn, E. J., Strong, L. E., Hughes, W. L., Mulford, D. J. et al., J. Am. Chem. Soc. 1946, 68, 459-475.
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の疾患又は障害についての、アルブミン結合性タンパク質/ペプチド複合体(ABPPC)を含むバイオマーカーを同定する方法であって、特定の疾患又は障害を有する患者集団において血清ABPPCをスクリーニングするステップと、同定された前記ABPPCと、正常な対象集団におけるABPPCとを比較するステップとを含み、患者集団において異なって発現するABPPCが前記疾患又は障害についてのバイオマーカーである方法。
【請求項2】
特定の疾患又は障害についてのアルブミン結合性タンパク質/ペプチド複合体(ABPPC)バイオマーカーのプロフィールを同定する方法であって、特定の疾患又は障害を有する患者集団における複数の血清ABPPCを測定し、それによりABPPCバイオマーカーのプロフィールを得るステップを含む方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法により得られる、ABPPCバイオマーカーのプロフィール。
【請求項4】
心筋虚血、心筋梗塞、又は血管炎についての、請求項3に記載のABPPCバイオマーカーのプロフィール。
【請求項1】
特定の疾患又は障害についての、アルブミン結合性タンパク質/ペプチド複合体(ABPPC)を含むバイオマーカーを同定する方法であって、特定の疾患又は障害を有する患者集団において血清ABPPCをスクリーニングするステップと、同定された前記ABPPCと、正常な対象集団におけるABPPCとを比較するステップとを含み、患者集団において異なって発現するABPPCが前記疾患又は障害についてのバイオマーカーである方法。
【請求項2】
特定の疾患又は障害についてのアルブミン結合性タンパク質/ペプチド複合体(ABPPC)バイオマーカーのプロフィールを同定する方法であって、特定の疾患又は障害を有する患者集団における複数の血清ABPPCを測定し、それによりABPPCバイオマーカーのプロフィールを得るステップを含む方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法により得られる、ABPPCバイオマーカーのプロフィール。
【請求項4】
心筋虚血、心筋梗塞、又は血管炎についての、請求項3に記載のABPPCバイオマーカーのプロフィール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−233907(P2012−233907A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−151290(P2012−151290)
【出願日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【分割の表示】特願2009−515494(P2009−515494)の分割
【原出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(508367706)ジョンズ ホプキンズ ユニバーシティー (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【分割の表示】特願2009−515494(P2009−515494)の分割
【原出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(508367706)ジョンズ ホプキンズ ユニバーシティー (2)
【Fターム(参考)】
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