説明

疾患指標としての免疫グロブリンの開裂片及びその検出と結合の組成物

本発明は、プロテアーゼの上昇に関連する疾患経過を検出する抗体組成物及び組成物の使用に関する。試薬は、このようなタンパク分解性回裂の結果であるIgG分解産物の評価を目的とする。本発明は更に抗原結合を保持するがエフェクター機能を失うIgG分解産物の治療用免疫特異性の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断及び予後指標、及びその検出のための方法と試薬に関する。本発明は更に、患者の疾患の自然史をモニタリングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(関連技術の説明)
医学の分野で、バイオマーカーは、疾患の進行又は治療効果を測定するために使用することができる生化学的物質、すなわち診断又は予後指標である。疾患の自然史及び疾患管理を効果的に反映するバイオマーカーの1つに、糖尿病患者における血糖管理用のヘモグロビンA1cがある。血清中のHbA1cは半減期が長いため、理想レベルから離れている血糖の偏り、並びにこのような偏りの持続時間の最新記録としての機能を果たす。現在使用されている全身炎症性疾患のバイオマークは、C反応性タンパク質(CRP)(Pepys MBら J.Clin.Invest.111、1805〜1812、2003)である。CRPは、様々な急性炎症性疾患状態に反応して作り出される急性期反応体である。CRPは、肝臓内で、遠隔炎症部位から移動するTNF及びIL−6を含むサイトカインシグナルに反応して合成される。血清CRPの上昇は、感染、脳卒中、血管疾患、心筋梗塞、及びその他の急性炎症性疾患を引き起こす。
【0003】
免疫グロブリン、及び特にIgGクラスの抗体を循環させるのは、主要血清タンパク質である。ヒトプロテアーゼが炎症疾患、増殖性疾患、転移性疾患、及び感染性疾患と関連していることは既知である。マトリクス・メタロプロテイナーゼ(MMPs)及び好中球エラスターゼのようなヒトプロテアーゼは、グルタミルエンドペプチダーゼ(黄色ブドウ球菌(Staph.aureus.))又は免疫グロブリンを分解する連鎖球菌(Strep. pyogenes)の酵素のような細菌プロテアーゼと同様に、IgGs重鎖ポリペプチドを、それぞれのプロテアーゼに特有の残基で開裂する。重鎖の開裂部位は、2つの重鎖に鎖間ジスルフィド結合が発生するヒンジ領域と呼ばれる領域に群生する。ヒンジの下の領域は、Fc領域を構成し、IgGのエフェクター機能に関与する結合部位を含む。微生物の場合、プロテアーゼ発現は、さもなければ病的細胞を標的化し破壊することにつながる働きを効果的に中和するヒンジの下の開裂によって放出されるFc領域のタンパク質分解において、微生物のオプソニン化(Rooijakkersら、微生物と感染(Microbes and Infection)7:476〜484、2005)を回避させる潜在的な補助的毒性経路である。したがって、特定のプロテアーゼの詳細は、がん、炎症及び感染性疾患を含む無数の疾患状態を代表することができる。
【0004】
そのIgG分解は、病理学的生体内環境において、開裂ヒンジ領域に結合する天然IgG自己抗体の存在(Knightら、1995、Nasuら、1980、Persselin及びStevens、1985、Ternessら1995 J Imunol.154:6446〜6452)によって増進されることが証明されている。これらの自己抗体はまた、F(ab’)2分子のC末端残基として残存する下部ヒンジ領域への特に強い反応性(Ternessら、1995)と共に、複数のプロテイナーゼ(パパイン及びペプシンを含む)によって生成されたFab断片及びF(ab’)2断片を結合する。実際の開裂産物の検出が報告されている(Fickら、1985、Goldberg及びWhitehouse、1970、Walter、1974)が、おそらく様々な断片の迅速除去に起因する血清の低濃度、又は血液及び組織内の多量無傷免疫グロブリンの中に断片を検出する上での技術的問題が原因で、これらの断片がバイオマーカーとして役立つことを可能にするロバスト分析が進展していない。ヒト好中球エラスターゼ開裂Fc領域の検出には、特定の抗体が準備され(Eckleら1988.Adv.Exp.Med.Biol.240:531〜534)、そのFc領域は、直接に関節リウマチ患者の滑液に中央値濃度の0.62μg/mLでFcを検出したが、他の種類の関節疾患患者の滑液には検出しなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、対象の体液又は血液中のIgG開裂産物(単数又は複数)の種類と量を評価する能力は、特定の疾患活動のバイオマーカーとして利用し得る。このような判定のための特定の試薬及び方法は、診断及び予後の医療分析に役立つ道具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、プロテアーゼの生産に関連する疾患経過を検出するための試薬及び試薬使用に関し、そのプロテアーゼは疾患病状の兆候、並びに宿主免疫防御を制限する作用因子である。本発明の一態様において、分析における試薬及び試薬の使用は、抗疾患抗体を検出し、その抗体は、疾患病状に関連する対象に対して特異的である。試薬は、このようなタンパク質分解開裂の結果であるIgG分解産物を評価するように導かれる。
【0007】
本発明の他の実施形態において、本発明の方法は、IgG開裂産物の検出に導向けられ、IgG開裂産物は、1)生理学的条件下での分子量が無傷哺乳類IgGに相当することと、2)変性だが非還元条件下で、抗原結合断片及び32kDa断片を含む2つの断片に分離可能であることと、3)インビトロ分析でADCC活動を示さないことと、によって特徴付けられる。本発明のIgG開裂産物の検出方法の一態様において、開裂産物を検出することができる特定の試薬が提供され、その試薬は前記開裂産物に結合することができる少なくとも1つの抗体である。
【0008】
本発明の他の実施形態において、IgG開裂産物の検出に役立つ試薬生産の配列が提供され、それは抗体付与、パンニング、及び本発明の抗IgG開裂産物の試薬選択に役立つ。一態様において、配列は、プロテアーゼ開裂部位のアミノ末端側のヒトIgGヒンジ領域の配列SEQ ID No:1、2、3、又は4から選択される少なくとも5つの連続するアミノ酸からなる群から選択される。一実施形態において、配列はSEQ ID NOs.5〜11及びそのN末端切断の中から選択される。他の態様において、ヒトIgG分子のタンパク質分解開裂部位に基づいたペプチド免疫原のデザイン方法が提供される。
【0009】
本発明の他の実施形態において、核酸配列、ベクトル、及び抗IgG開裂産物抗体の組み換え生産のための宿主細胞を含めた、本発明の抗IgG開裂産物抗体の生成方法が提供される。抗IgG開裂産物抗体の生産方法における他の態様において、免疫宿主動物から提供される本発明の抗体の源となる動物の血清から、記述された方法又は当該技術分野において既知の方法によって試薬が調剤される。
【0010】
本発明の他の実施形態において、本発明の抗IgG開裂産物抗体を含む抗IgG開裂産物の検出キットが提供される。
【0011】
本発明の更なる実施形態は、IgG開裂産物にエフェクター機能を回復するために、抗IgG開裂に特定した抗体を患者の治療に投与する方法である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】典型的な哺乳類のIgGクラス抗体の様々な領域を、Fab、F(ab’)2、及びFcとして定義される、ヒンジとの、及びペプシンとパパイン開裂産物との関係を示しながら例示。
【図2】ヒトIgG1κ抗体、Mab1、1%w/wヒトMMP−3(A)、連鎖球菌IdeS(B)、ブドウ球菌グルタミルエンドペプチダーゼI(C)、及び37℃でのヒト好中球エラスターゼ(D)それぞれのプロテイナーゼ分解中の4つの個別のアジレント社(Agilent)のBiosizing微小毛細血管の電気泳動分析をゲル画像として示す。それぞれのゲル(レーン1)の基準は、無傷ヒト/マウスキメラIgG1及び既知の開裂片に対応。
【図3】ヒンジ領域の周辺のヒトIgG1重鎖配列を例示し、主なタンパク質分解開裂の位置は矢印によって示されている。
【図4】傷からの滲出液による経時的なビオチン化マウス/ヒトIgG分解を示すウエスタンブロット法。
【図5】3つの異なるプロテアーゼからのF(ab’)2分解生産物を共役したものに免疫を有するウサギによって生成された抗血清の相対的特異性。MMP−3、V8、及びIdeS TCPPCPAP、MMP−3開裂部位、TCPPCPAPEに一致するSEQ ID No:1の残基7〜14、グルタミルエンドペプチダーゼ部位、及びTCPPCPAPELLGに一致するSEQ ID No:1の残基7〜15、IdeS部位に一致するSEQ ID No:1の残基7〜18を示すグラフである。Mab3IgG1κのF(ab’)2断片κを用いる3つの個別のウサギポリクローナル抗ヒンジペプチド抗体調製のELISA反応性。F(ab’)2断片は、ヒト組み換えMMP−3、ブドウ球菌グルタミルエンドペプチダーゼI、及びStrep.pyogenesからの組み換えIdeSを用いて作り出された。ウサギ抗体調製の混合プールは、Mab3F(ab’)2断片のそれぞれとほとんど同等の反応性を証明した。バーは、3つの複製ウェルの平均値±の標準偏差に一致。
【図6】抗体消化物を用いたウサギポリクローナル抗体調製のウェスタンブロット反応性。無傷又は部分的にMMP−3で分解されたMab3ヒトIgG1、グルタミルエンドペプチダーゼ(V8)又はIdeSは、SDS−PAGE後の免疫ブロットによって分離された。(A)抗ヒトIgG(H+L)[レーン1〜4]又は抗...LLGウサギポリクローナル[レーン6〜10]でブロットした。(B)抗...PAP[レーン2〜5]又は抗...APE[レーン7〜10]でブロットした。ブロットは、個別の抗血清を用いての検出ができるように、パネルAのレーン5及びパネルBのレーン6を介して抗体との培養前に切り取られた。
【図7】RA患者5人の滑液中のIgG分解分析からの試料上にRAH−1試薬を使用して展開され、MMP−3、グルタミルエンドペプチダーゼ(V8)及びIdeSを用いたモノクローナルIgG1のインビトロタンパク質分解消化物からの試料と比較されたウェスタンブロット像。
【図8】特定の精製断片をヤギ抗ヒトIgG(H+L)を用いて測定したマウスに注射した後の、様々なタンパク質分解開裂片、無傷IgG、scIgG、及びF(ab’)2の経時的な血清濃度。
【図9】表示されたように疾患と診断された患者からのヒト血清試料内の試薬RAH−1によって検出されたscIgGの個別値を、正常ヒト血清試料の群のそれと比較したドットプロットであり、線はそれぞれの群の平均値。
【図10】リウマチ様関節炎(RA)患者10人の希釈血清中、及びELISAの改善されたバージョンを用いてRAH−1試薬によって検出された同数の健常対照中のscIgG濃度を示し、RA群の「(2)」は、個別の2患者において同一値が得られたことを示す。
【図11】ペプチド類似体としてのヒトIgG1ヒンジから特定した残基で終結する抗体断片まで(図3参照)の開裂片を対象とする、ウサギモノクローナル抗体の相対反応性。
【図12】補体依存性の細胞溶解(CDC)をIgG1を分解することによって作成されたIdeSを有するF(ab’)2に回復させる上で、ヒトIgG1ヒンジの開裂片を対象とする3つの異なるウサギモノクローナル抗体の濃度依存性を、ペプチド類似体の開裂(rbポリ)に準備されたウサギポリクローナルと比較して表示。
【0013】
【表1】

【発明を実施するための形態】
【0014】
略語
Abs=抗体類、ADCC=抗体依存性細胞傷害、CDC=補体依存性細胞傷害、HNE=ヒト好中球エラスターゼ、IdeS=S.pyrogenesの免疫グロブリン分解酵素、Ig=免疫グロブリン、Mab=モノクローナル抗体、MMP=マトリックスメタロプロテアーゼ、scIgG=単一IgG開裂、SA=ストレプトアビジン、V8=黄色ブドウ球菌(Staph. aureus.)からのグルタミルエンドペプチダーゼI。
【0015】
定義
抗体断片、Fab、F(ab’)2、及びFcは、重鎖間のジスルフィド結合の還元(コアヒンジ領域)によって更に解離している可能性のあるIgG抗体のタンパク質分解開裂産物を説明する用語である。典型的なタンパク質分解的に生成された抗体断片は以下を含み、鎖間結合を形成するシステイン残基間のジスルフィド結合を還元が除去する(図1参照):Fab(例:パパイン消化による)、Fab’(例:ペプシン消化及び部分的還元)及びF(ab’)2(例:ペプシン消化による)、facb(例:プラスミン消化による)、pFc’(例:ペプシン又はプラスミン消化による)、Fd(例:ペプシン消化、部分的還元、及び再集合による)。Fc断片は、ヒトIgG1をヒンジのN末端である残基224(EU番号)で開裂するパパイン開裂断片であると述べたように、Fc断片はヒンジ及び重鎖間のジスルフィド結合を保持すると考えられているが、抗体のCH2−CH3重鎖二量体間の高い会合度により、二量体構造はジスルフィド(ヒンジ)結合がない場合でも保持される。したがって、本発明で使用するとき、「Fc」は、共有結合性を問わず、重鎖CH2−CH3部分の会合により形成された二量体構造を指す。洗剤のような変性剤の存在下でCH2−CH3モノマーへの解離を起こすその能力によって、ジスルフィド結合Fcは非共有で会合されたFcと区別されることが理解されよう。
【0016】
「タンパク質分解」、「タンパク質分解開裂」、「プロテアーゼ」、及び「タンパク質分解酵素」という用語は、ほとんど同じ意味で用いられ、酵素が作用する標準温度下、生理条件下、又は生理学的互換条件下で、酵素のような、ポリペプチド鎖を開裂し2以上の断片を生成することができる化学物質を意味する。生理条件は、健常か疾患かを問わず、生きている哺乳動物の体内に自然に発見される任意の温度、緩衝材、カチオン、アニオン、基質、触媒、pH、補助因子等を含む。しかしながら、プロテアーゼは、いかなる生命体でもあり得る病原体のような非哺乳類源から得ることができる。
【0017】
「scIgG」又は「単一IgG開裂」は、2つの重鎖及び2つの軽鎖を含み、重鎖のうち1つが単一重鎖のタンパク質分解開裂を受け、2番目の重鎖が原型を保つヘテロ二量体性構造を有する全ての免疫グロブリンG分子を意味する。
【0018】
「上流」は、アミノ酸配列に対してN末端残基からC末端残基まで記述された所定の残基からN末端へ向かう配列の残基を意味する。反対に、「下流」は、アミノ酸配列に対して所定の残基からC末端方向へ向かう配列の残基を意味する。
【0019】
部分構造による抗体作用
一般に、免疫グロブリン、抗体は、約100の特徴的に折りたたまれた球状ドメインを示し、構造の異なる要素を表すアミノ酸を含む連続ポリペプチド鎖の領域からなる。100のアミノ酸領域はそれぞれ、約10〜11kDaの球状ドメインを表す。免疫ガンマグロブリン(IgGs)については、これらの領域は部分別にグループ化され、Fab部分は、軽鎖定常領域に単鎖でジスルフィド結合を介して重鎖可変領域に近接する重鎖の第一定常領域(CH1)に連結する軽鎖可変を含み、Fcは、ヒンジ領域の2つ又は3つのジスルフィド結合を介して隣接する2つの重鎖可変領域(CH2及びCH3)を含む。研究によって、パパイン及びペプシンのようなプロテアーゼは、部分間のような部位で優先的に抗体を開裂することが報告されてきた。2つの同一Fab部分は、ヒンジ領域を介して1つのFc部分に接続されており、したがって150kDa構造(図1参照)のY字構造を形成する。パパインを用いて生成したFab部分は典型的には46kDaの分子量、非還元性F(ab’)2は典型的には90〜100kDaの分子量、及び非グリコシル化、非還元性Fcは約50〜60kDaの見掛けの分子量を有する。しかしながら、それぞれの抗体種、及びそれぞれの抗体種内のそれぞれの抗体サブクラスはわずかに異なり、開裂又は開裂産物の厳密な性質及び位置は異なる。
【0020】
抗原は、それぞれの対の軽鎖と重鎖の可変領域で抗原結合部位を介して抗体に結合する(図1)。エフェクター分子又は細胞として知られるその他の分子は、例えば抗原結合部位以外のような分子残部のその他の部位に結合し、この抗体部分は更なる免疫グロブリン不変配列を含み、抗体の「普遍部分」のような部位は、特に軽鎖の末端を越えて広がる重鎖の部分で構成されるFc領域に位置する。
【0021】
抗体は、エフェクター分子の結合を介して様々なエフェクター機能を有する。例えば、C1補体成分の抗体への結合は、補体系を活性化する。補体の活性化は、オプソニン化及び病原体細胞の溶解(補体媒介性細胞障害又はCDCと呼ばれる過程)において重要である。補体の活性化は、炎症反応を刺激し、自己免疫過敏症にも関係する可能性がある。更に、抗体は、抗体Fc領域上のFc受容体部位を細胞上のFc受容体(FcR)に結合した状態で、Fc領域を介して細胞と結合する。IgG(ガンマ受容体)、IgE(エータ受容体)、IgA(アルファ受容体)及びIgM(ミュー受容体)を含めて、異なるクラスの抗体に特異的な多数のFc受容体が存在する。細胞表面のFc受容体と抗体との結合は、例えば抗体被覆粒子の貪食及び破壊、免疫複合体の除去、キラー細胞による抗体被覆標的細胞の溶解(抗体依存性細胞媒介性細胞傷害、又はADCCと呼ぶ)、炎症性メディエーターの放出、免疫グロブリン生成の胎盤通過及び制御を含む、多数の重要な及び多様な生物学的応答を誘発する。
【0022】
ヒンジ領域周辺の配列は、通常、IgGアイソタイプ間(SEQ ID NO:1〜4)及び哺乳類種間で保存される。IgG1(SEQ ID NO:1)及びIgG3(SEQ ID NO:1)アイソタイプは、Fcγ受容体結合(単数又は複数)及びFcエフェクター機能の構造モチーフであるロイシン−ロイシンのペアを含む。典型的には少なくとも2つの非システイン残基で分離されたシステインを含む「ヒンジコア」の下流のその他の残基もまた保存される。
【0023】
本出願人らは、ヒトIgG1の開裂産物、scIgGは、IgGを含む2つの重鎖ポリペプチドのうち1つにタンパク質分解が起こる際に、ヘテロ二量体分子の全体組成を分裂させることなしに、ヒト及び細菌プロテアーゼによって生成されることを発見した。次に、本出願人らは、gG分子を含むヒト重鎖定常領域におけるタンパク質分解攻撃の動態解析を介して、scIgGは生体中のタンパク質分解の豊富な生産物であり得ることを決定した。IgGのタンパク質分解中のsclgGのF(ab’)2につながるタンパク質分解中間体としての存在については、MMP−3酵素に関して前述された(Gearing AJHら、Immunol.Lett.81:41〜48、2000)。連鎖球菌プロテアーゼ、IdeSによるIgG開裂はまた、サイズ排除クロマトグラフィーによって無傷IgGに類似の物質を生成すると述べられている(Vincents Bら、Biochemistry 43:15540〜15549、2004)。しかしながら、この中間体の機能的特性化、又は提供された生物学的試料中のScIgGを検出する方法はどちらも報告されなかった。
【0024】
本出願人らは更に、生体内、scIgGは、数日間から数ヶ月間の疾患活動の評価と互換性のある血清半減期を提示し、したがってscIgGを潜在的な又は抑制された疾患経過のマーカーとして使用すること、又は最近の自然史及び反応、若しくは疾患からの回復を理解するために使用することが可能であることを示している。
【0025】
簡単に述べると、本出願人らは、生理学的条件下でのタンパク質分解切断の動態が、F(ab’)2のような乗加開裂事象の生成物である種よりも、より多くのscIgG構造にあるタンパク質分解的に切断されたIgGの部分につながるのを発見した。(図1参照)。数多くのプロテアーゼを検査する過程において、無傷IgG内の重鎖定常領域の第1開裂は、第2開裂に比べてより急速に進行することが決定され、この順序は単一開裂種の一時的蓄積をもたらす。この単一開裂種のIgG分子は、その未変化の親と多くの点で区別ができない(例:分子の大きさ、抗原結合、タンパク質A/Gによって認識される能力)。
【0026】
本発明に従って、本出願人らは、F(ab’)2及びscIgGを含むタンパク質分解切断産物の検出に適する試薬を作成した。本発明の試薬は、本発明の開裂部位類似体ペプチドを使用して作成され、ヒトIgG1開裂産物を認識するが、無傷IgGは認識しない。
【0027】
本出願人らは、更に、抗原結合特異性を保持するIgG開裂産物を認識する抗体は、CDC及びADCCのようなエフェクター機能を開裂IgGに回復することができることを証明した。
【0028】
タンパク質分解酵素と疾患関連性
本出願人らは、インビトロ酵素パネルで作成されたものと同等の大きさのscIgGsを含む抗体開裂産物は、リウマチ性関節炎患者の滑液のような炎症性滲出液に検出可能であることを証明する。更にscIgGは、局部的タンパク質分解活動が既知の病理特性である数多くの疾患を有する患者の血清中に検出可能である。これらの疾患状態のscIgGは、健常ボランティアと比較して高濃度にあり、比較的軽度の炎症疾患患者の血清と比較しても高度である。
【0029】
scIgGの検出は、ヒンジジスルフィドの又はその周辺の開裂重鎖の新たに露出したエピトープに特異的に結合したアフィニティー精製ポリクローナル抗体(ウサギ)の生成によって可能になった。血清中のscIgG検出の確証は、無傷IgGと同様の持続性循環寿命である。scIgGを疾患患者の体液又は血液中に検出する能力は、新規バイオマーカー戦略となる可能性がある。ウサギ以外の他の種の抗体(マウス、ラット、及びラクダ等)が使用されてもよく、例えばポリクローナル及びモノクローナル抗体がヒトIgG1開裂産物を結合する能力を保持するが、無傷IgGは本発明の試薬として包括されていることを認識しない特定の抗体結合配列領域の抗体遺伝子コードをクローン化することにより、モノクローナル抗体が生産される可能性があることが理解されよう。その他の抗体生産方法は、例えば抗体ドメインライブラリーからの選択により、当該技術分野における技術者に周知であって、本発明の抗体の原料として使用することができる。
【0030】
抗体試薬
本発明の抗体は、本出願人らによって設計された評価基準及び免疫原を用いて、本発明の実施に際して役立つ抗体を作製又は選択するために、当該技術分野において既知のいくつかの方法で作成することができる。
【0031】
一態様では、抗体は、動物に観察した開裂片又はそれに由来する開裂部位類似体ペプチドで免疫を与えることにより作製されたハイブリドーマから容易に入手することができる。したがって、抗体は、F(ab’)2及びscIgGを含む抗体開裂片、又はN末端切断、若しくは構造類似によって動物に免疫を与えること又は抗体ライブラリーをスクリーニングすることにより得ることができる。一実施態様において、抗体を作製するために用いられるペプチドは、SEQ ID NO:5〜11に示すIgG1の14−merペプチド片から選択され、ここでポリペプチド又はペプチドのC末端残基が、残基開裂ペアの表1に示されるように、開裂部位の残基上流(N末端側)を示す。IgG1の−T−C−P−P−C−(SEQ ID NO:1の残基7〜11)のようなヒンジモチーフを含む断片は、システイン残基(C)が例えばアラニン(A)残基と交換されていない限り、ジスルフィド結合形成によって多重結合となる。
【0032】
特定の実施形態において、抗体は、MMP−3開裂部位のアミノ末端側のアミノ酸配列に対応する(TCPPCPAP、SEQ ID NO:1の残基7〜14)8−merペプチドを用いて、又はグルタミルエンドペプチダーゼ部位(TCPPCPAPE、SEQ ID NO:1の残基7〜15)に対応する伸張ペプチド、又はIdeS部位(TCPPCPAPELLG、SEQ ID NO:1の残基7〜18)を用いて生成される。免疫原として使用されるとき、ペプチドは、容易に共有結合によってキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)にN末端を介して、又は追加したリンカー残基若しくはペプチドを通して付着させることができる。
【0033】
したがって抗体は、当該技術分野において周知のハイブリドーマ技術いずれによっても取得することができる。Ausubelら、ed.、「分子生物学の最新プロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ社(John Wiley & Sons、 Inc.)、ニューヨーク、ニューヨーク(1987〜2001)、Sambrookら、「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)」、第2編、コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor)、ニューヨーク(1989);「ハーローとレーン、抗体、実験マニュアル(Harlow and Lane、antibodies、 a Laboratory Manual)」、コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor)、ニューヨーク(1989)、Colliganら編、「免疫学の最新プロトコル(Current Protocols in Immunology)」、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ社(John Wiley & Sons、 Inc.)、ニューヨーク(1994〜2001);Colliganら、「タンパク質科学の最新プロトコル(Current Protocols in Protein Science)」、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ社(John Wiley & Sons)、ニューヨーク、ニューヨーク、(1997〜2001)を参照のこと。これらはそれぞれ本明細書に参照として組み込まれる。本発明の抗体は、例えばヒト、マウス、ウサギ、ラット、げっ歯類、霊長類、又はこれらのいかなる組み合せ、及び単離ヒト、霊長類、げっ歯類、哺乳類、キメラ、ヒト化及び/又はCDRグラフト化抗インテグリン抗体、免疫グロブリン、開裂産物、及びその他の特定したその部分と変異であるがこれに限らない、いかなる哺乳類をも含む又はいかなる哺乳類からでも得ることができる。
【0034】
ファージディスプレイシステムを用いた抗体ライブラリーはまた、scIgG及びその他の抗体断片の希望する特異性をもって、新規結合領域を特定するために使用することができる。
【0035】
本発明に役立つ抗体又はその他のバインダーを作製又は選択する上で、この目的に使用された特定の試薬は、本発明の更なる態様である。この目的のために開発された特定の免疫原又は試験試薬は、図3に例示するように、残基SCDKTHTCPP CPAPELLGGP SVFLFP(SEQ ID NO:1)を含むがこれに限らない、IgG1のヒンジコア周囲の残基を含むことを特徴とする。タンパク質分解酵素に触れると抗体断片を作製するその他のヒトアイソタイプ抗体のヒンジ領域はまた、抗体又はその他の酵素開裂産物に結合するその他の分子の作製、選択、又は検査を目的として類似体の源としての機能を果たすことができる。ヒトIgG4重鎖の類似した領域は、それぞれ残基TCNVDHKPSN TKVDKRVESK YGPPCPSCPA PEFLGGPSVF LF(SEQ ID NO:2)及びそれぞれSEQ ID NOS:3及び4に示すIgG2とIgG3用を含む。それぞれの場合において、ペプチドは、プロテアーゼ開裂部位のアミノ末端側のヒトIgGヒンジ領域配列SEQ ID NO:1、2、3、又は4から選択される少なくとも5つの切れ目がなく連続するアミノ酸から成る。一態様では、抗体作製に使用される特定の免疫原又はペプチドは、残基−T−C−P−P−C−として定義される、IgG1の少なくともヒンジコアを含む。特定の実施形態において、ペプチドは、ヒトIgG1下方ヒンジの12−merペプチド類似体で、配列TCPPCPAPELLG(SEQ ID NO:1の残基7〜18)を有する隣接するCH2領域である。
【0036】
抗体又はその他の酵素開裂産物に結合するその他の分子の作製、選択、又は検査をする上で役立つペプチド断片を作製する一般的な方法は、a)実施例1及び表1の特定のプロテアーゼによって例示されたプロテーゼで開裂された抗体重鎖残基対のN末端残基を特定し、b)N末端残基が定義された配列のC末端になる開裂部位からの5〜14又はそれ以上の上流残基から定義され、c)希望する目的(単数又は複数)に十分な量のペプチドを作製する。詳述したようなペプチドは、SEQ ID NO:5〜11、又はそのN末端切断から選択されるものである。ペプチドは、標識され、接合され、架橋化され、他のものと混合して、又は結合を検査するためのアジュバント、免疫原として、例えばファージディスプレイライブラリーから結合を選択するためのパニング対象として使用することができる。
【0037】
本発明は更に、一態様において、少なくとも1つの特定の配列、ドメイン、部分又はその変異体を含む、前記の特定のペプチド又はその抗体をコードするポリヌクレオチドを含むか、これに対し相補的か、又はこれに対しハイブリッド形成する単離核酸分子を提供している。本発明は、ここで説明されるように、scIgG特異性を有する少なくとも1つの単離モノクローナル抗体をコードする単離核酸及び単離核酸を含む核酸ベクトル、及び/又は単離核酸を含む原核又は真核宿主細胞を包含する。宿主細胞は、Eから任意的に選択される少なくとも1つのものであり得る。Coli、COS−1、COS−7、HEK293、BHK21、CHO、BSC−1、Hep G2、653、SP2/0、293、Hela、骨髄腫、リンパ腫、酵母、昆虫又は植物細胞、全ての誘導体、不死化又はその形質転換細胞。同様に提供されているのは、ペプチド及び抗体が検出可能な又は回収可能な量で発現されるようにインビトロ、生体内又はその場で核酸をコードする抗体を翻訳する工程を含む、少なくとも1つの本発明の抗体の生産方法である。
【0038】
使用方法
本発明の試薬は、疾患経過がタンパク質分解活動及びタンパク質分解酵素、プロテアーゼを発生、その結果、それを引き起こす、又はさもなければそれと関連する時、疾患病状の検出に役立つ。このような疾患と経過は、感染、ストローク、血管疾患、心筋梗塞、及び数多くのその他の即時的及び長期にわたる炎症性疾患の増悪及び悪化、それらによって生じる、又はそれらに起因するものを含む。本出願人らは、特に役立つタンパク質分解活動の1つのバイオマーカーは、いくつかの前述した疾患において増量したレベルで検出されるscIgGであることを立証した。scIgGは、病変の又は病理過程の又は病理感染の部位で通常局所的に生成され、scIgGは、特異及び特定の疾患部位の特異組織又は細胞型の関与評価のような過程のマーカーを提供する。
【0039】
本発明の方法の一実施形態において、プロテアーゼ上昇を特徴とする疾患がある、疾患があった、又は疾患の治療を受けたという疑いのある対象から試料が収集される。試料を、疾患刺激プロテアーゼと血清IgG群との接触に起因することが既知のIgG開裂片に対して特異性を持つ、抗体調製等の結合剤と接触させる。
【0040】
本発明方法は、疾患又は症状の診断を過去に受けた患者が進行疾患(例:がん転移、侵襲性腫瘍増殖、持続感染等)のリスクを持つか否かの評価に利用できる。
【0041】
ある場合は、例えばがん患者の場合、scIgGの検出は、タンパク質分解酵素、特にMMPsの生産に関連することが既知である転移拡散を含む進行疾患経過の指摘に役立つ可能性がある。ある態様において、腫瘍性疾患は、通常、炎症過程、組織修復、及び治癒(Coussens、L.M. and Werb、Z. 2002. Nature 420(19):860−867)とこれらの機構を共有する。その他の研究によると、例えば、脂質低下は、例えば血栓症のような心臓と血管事象のリスク低下、及びMMP−2とMMP−9のようなMMPsの低下の両方と相互に関連があり、これらの酵素は動脈硬化プラークによって生産されることが示された。(Deguchi、J、Maanori、A.、Ching−Hsuan、T.ら、2006 Circulation 114:552〜62)。したがって、本発明方法は、重度の関節炎症候群(RA、強直性脊椎炎)を持つ患者、特定のがん(特に炎症性乳がん)、重度の冠状動脈異常状態(心筋梗塞及びうっ血性心不全)及び喘息のようなその他の疾患を持つ患者に特に適用するがこれらに限定されない。本発明方法は、病態生理学がIgGに作用することが可能なプロテアーゼを伴う及び誘発するこれらの疾患及び症状を、分泌プロテアーゼ上昇の増進を特徴としない又はプロテアーゼがIgGを開裂しないその他の病理学から区別するために使用することができる。
【0042】
したがって、ここで説明した試薬の使用方法は、開裂片の検出に特異的である一方で、開裂片の更なる特異的な分析は、開裂抗体の様々な領域における結合特異性の分析を含むことができる。例えば、抗原結合選択度と抗体断片検出を合わせた固相分析は、対象において特定の抗原及びプロテアーゼが共局在化され、したがってタンパク質分解活動部位での組織、疾患、又は病理学的性質についての情報を提供しているかどうかを決定するために使用することができる。
【0043】
採血は、最も頻繁に実行される健康な又は病気の対象、ヒト、又は動物からの組織標本採取の実施形態である。scIgGは全身において体系的に発見され、形成部位、すなわちプロテアーゼ活動部位に限定されず、特定の部分で局在化する可能性のある疾患活動のレポーターマーカーである。このような部分の1つは、滑液である。したがって、血液又は血清採取は、本発明が提供する試薬及び方法を使用して、初期疾患を検出するための容易で実行可能な供給源を提供する。別の方法としては、RA滑液、肺滲出液、生検等の局所設定の標本採取も、診断を含むどの時期の患者にも、又は進行疾患を持つ患者にも適用することができる。抗体開裂片は、直接染色法(免疫組織化学法)を適用したこのような組織内に、又は試料から得られる断片試料中に検出されることがある。
【0044】
血液を含む組織試料は、プロテアーゼ活性物質の残留物を阻害するように扱われなければならない。金属のキレート化(例:EDTA)は効果的にMMPsを抑制する。ヨードアセトアミドは、システインプロテアーゼ(例:IdeS)をブロックし、セリンプロテアーゼは、DEP及び類似合成物によってブロックされ得る。活性プロテアーゼは、滑液に存在し、それに応じて処理されるべきである。試料は、分析時まで冷凍管理してもよい。試料が適切に処理された時点で、本発明のscIgG特異試薬は、ELISA、ビーズに基づく形式、RIAs、当業者には周知である又はまだ開発されていない、いかなる抗体に基づいた技術に用いられてもよい。
【0045】
本発明の抗IgGタンパク質分解開裂片試薬は、研究又は診断用途として、又は緩衝液のような他の試薬及び測定と共に無傷ヒトIgG及び既知重量のIgG開裂のような標準物質及び、必要に応じて、対象から得た組織試料のIgGタンパク質分解切断片の定量化と共に販売用途としてのキットにパッケージ化されてもよい。
【0046】
ヒンジペプチド開裂断片に免疫特異的な本発明の抗体は、例えばFab、F(ab’)2、scIgGのような抗原結合領域を保持する酵素開裂IgGの残留を結合することができ、したがって無傷のFc領域を提供することで、Fcに関連する結合特性を回復し、エフェクター機能を付随する。したがって、ここで指導された方法で作製された、又は生体内の酵素的に生成された抗体断片の結合特性を持つ抗体は、治療用分子として役立つ可能性がある。本発明の抗IgG開裂断片抗体は、疾患によるIgGのタンパク質分解開裂を特徴とする疾患を持つ患者を治療するために使用することができる。一態様において、抗IgG開裂断片抗体は、標的特異性の結合能力を保持する抗体断片にエフェクター機能を回復する。
【0047】
本発明は一般的な用語で説明したが、本発明の実施形態は、以下の実施例において更に開示される。
【実施例】
【0048】
実施例1:ヒトIgG重鎖の切断解析
マトリックスメタロプロテイナーゼ、カテプシン、ヒト好中球エラスターゼ(HNE)、及びブドウ球菌グルタミルエンドペプチダーゼ(V8プロテアーゼ)のような選択病原体酵素、及び連鎖球菌の免疫グロブリン分解性酵素(IdeS)によるヒトIgG重鎖のタンパク質分解が研究された。
【0049】
ヒトIgG重鎖を含む精製モノクローナル抗体を、上述したプロテアーゼと接触させ、接触の様々な期間に渡って標本採取を行った。試料中の断片は、インビトロbiosizing用のアジレント社(Agilent)顕微溶液の「チップ上のラボ」技術を用いて評価された(Goetz Hら、Biochemical and Biophysical Methods 60;281〜293、2004)。
【0050】
抗体基質.モノクローナル抗体は、ヒト定常領域及びヒンジ領域IgG1カッパクラス/サブクラス及び種を有する、完全なヒト、組み換えヒト化マウス、あるいはヒト/マウスキメラ抗体であった。Mab1は、病原体を結合するヒトIgG1、Mab2(抗サイトカイン)は、ヒト定常領域とヒンジ領域を処理するヒト/マウスキメラIgG1抗体、及びMab3は、CDRグラフト化ヒト化IgG1。全ての抗体は、カッパ軽鎖を含む。
【0051】
タンパク質分解酵素と試験方法.ヒトプロMMP−2、MMP−7及びプロMMP−9は、Chemicon International(Temecula、 CA)より入手され、使用前に1mM p−アミノフェニル酢酸第二水銀アセテート(APMA、 CalBiochem、 San Diego、 CA)で16時間37℃で培養し、活性化された(Marchら、1991)。組み換えヒト活性MMP−12は、R&D Systemsから入手した。組み換えMMP−1は、Dr.Hideaki Nagaseからの寛大な贈り物であった。ヒトプロMMP−3は、ヒンジ及びヘモペキシン領域の代わりにヒスチジンタグ付きHEK細胞に一時的に発現した。プロMMP−3変異型は、記載されたように、25分間55℃で培養し、活性化された(Koklitisら、1991)。カテプシンB、D、G、S、及びプロテイナーゼ3は、Athens Research&Technology(Athens、 GA)より入手した。凝固酵素トロンビン、F.Xa、F.lXa、F.Xlla、及びカリクレイン、並びにプラスミン及びプラスミノーゲン、はEnzyme Research Laboratories(South Bend、 IN)から購入した。組織プラスミノーゲンアクチベーター(アクチバーゼ)は、Genentech(South San Francisco、 CA)の製品であった。ストレプトキナーゼ及び活性化したタンパク質Cは、Sigma(St.Louis、 MO)より入手した。スタフィロキナーゼは、Affinity BioReagents(Golden、 CO)より入手した。黄色ブドウ球菌(Staph. aureus.)V8グルタミルエンドペプチダーゼIは、Pierce Biotechnology(Rockville、 IL)より入手した。化膿連鎖球菌(IdeS)の組み換え免疫グロブリン分解酵素は、University of Lund(Lund、 Sweden)のDr.Lars Bjorckより提供された。
【0052】
精製IgGsのプロテイナーゼ消化は、pH7.5でリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で、又はメタロプロテイナーゼは、37℃のトリス緩衝食塩水で実施された。塩化カルシウムは、メタロプロテイナーゼ反応に含まれ、MMP−12には1mMで、MMP−3には10mMで、さもなければ添加剤は使用されなかった。抗体濃度は、典型的には1又は2mg/mL及び反応は、IgGに対する1%(w/w)の割合で酵素添加によって引き起こされた。アリコット(10〜20μL)は、表示した時間に取り除かれ、20mMEDTA(メタロプロテイナーゼ培養)又は1mMヨードアセトアミド(システインプロテイナーゼ)へ調製することにより、又は急速凍結により反応を停止した。
【0053】
IgG1ヒンジの主要なタンパク質分解切断位置は、酵素生成断片に対して、精製Fc断片(MMP−3及びMMP−12)及び/又は精製Fab(好中球エラスターゼ、プラスミン)及びF(ab’)2(カテプシンG、グルタミルエンドペプチダーゼ、及びIdeS)断片の高分解能質量分光分析のN末端配列によって特定された。断片は、アジレント社(Agilent)顕微溶液の「チップ上のラボ」技術を用いて評価された。
【0054】
結果.検査したプロテイナーゼのリスト及びヒトIgG1のタンパク質分解開裂の一次産物の分析結果は、表1に表示されている。いくつかの酵素は、使用された条件下でIgG1を破砕しなかった。活性プロテイナーゼの中で、説明した条件下での比較的特異的な活動は次の通りである:IdeS>MMP−12>MMP−3、グルタミルエンドペプチダーゼ>好中球エラスターゼ>カテプシンG、プラスミン>MMP−2、MMP−9>MMP−7。
【0055】
図2は、タンパク質分解酵素処置前と処置中のIgGのbiosizig分析を示す。MMP−3、グルタミルエンドペプチダーゼI及びIdeSはそれぞれ、IgG1を段階的に開裂するために観察された(それぞれ図2A、2B及び2C)。それぞれにおいて、約135,000Daの初期中間体が生成され、続いて約100,000Daの種に変換された。これらの反応の間、Fcモノマーと思われる約35kDaの断片が形成される。ゲル移動によって測定される分子量(35kDa)は、重鎖断片アミノ酸配列による予想される211〜215残基(重鎖のC末端の残基232と237の間から447番目)よりも大きいが、CH2領域のグリコシル化部位を含む断片と一致する。無傷IgG(160,000Da)の消滅は、これらの条件下で、MMP−3及びグルタミルエンドペプチダーゼIとは数時間にわたって、IdeSとは1分以内又はそれよりも早く生じた。全ての消化は、記載されているように同等の条件下で実施された。
【0056】
135kDa中間体は、下部ヒンジ領域の重鎖の1つにおいて単一タンパク質分解開裂に起因することが発見された。非変性状態下で、中間体は、サイズ排除クロマトグラフィーの拡散移動のような特定の物理的特性の無傷IgGから区別することができない(データは示されず)。しかしながら、SDSゲル及び現在の微小毛細血管電気泳動システムの中で、Fc領域の開裂断片(重鎖のCH2−CH3領域)は、サイズが縮小した中間体(135kDa)を示すために、残りの構造から分離する。この種のサイズは、Gearingによって報告されたように(2002 supra)、単一開裂IgGと一致する.3つの酵素を用いたIgG1の延長培養は、scIgG中間体をF(ab’)2断片及びFcに変換する結果となる。
【0057】
検査済みの異なるモノクローナルIgG1ベース基質のIgG1を開裂する能力を提示する酵素の中で、単一開裂中間体への第一開裂が比較的速く、F(ab’)2への第二開裂には長い時間を要したことが、一貫性のある結果である。また、図2Dは、Mab1にヒト好中球エラスターゼ(HNE)を付加した概要である。HNEは、上記の3つの酵素において、Fab断片及び一致するジスルフィド結合Fc二量体を生産するためにIgGを上部ヒンジで開裂した点で異なった。
【0058】
IgG1ヒンジの主要なタンパク質分解開裂位置は、精製Fc断片(MMP−3及びMMP−12)及び/又は精製Fab(好中球エラスターゼ、プラスミン)及びF(ab’)2(カテプシンG、グルタミルエンドペプチダーゼ、及びIdeS)断片の高分解能質量分光分析のために特定された。ヒトIgG1ヒンジ領域のアミノ酸配列は、酵素的開列の特定位置を示して図3に提示されている。上部ヒンジで開裂したプロテイナーゼを用いた延長消化は、2つのFab断片を生産し、下部ヒンジで開裂した酵素(コアヒンジジスルフィド結合の下)は、F(ab’)2Sを生産した。
【0059】
ヒトMMP−3及び−12、ヒトカテプシンG、ヒトHNE、ブドウ球菌グルタミルエンドペプチダーゼI、及びF(ab’)2又はFc断片それぞれのカルボキシ末端残基及びアミノ末端残基両方の分析に基づいた連鎖球菌IdeSを含む酵素それぞれについて、酵素開裂の優性部位が特定又は確認された(表1)。次に、開裂部位はある場合は延長培養中に(例:カテプシンG及びHNE)観察され、これらが指示されるプロテイナーゼの別の開裂部位であるか又はこれらの酵素調合物中の少量のプロテイナーゼ混入物質が原因であるかは不確実だった。IgGのMMP−12及びHNE開裂部位は、過去に報告されていない。その他のプロテイナーゼについては、特定された腫瘍IgG開裂位置は既に報告されている結果と一致した(Chuba、1994;Diemelら、2005;Gearingら、2002;Vincentsら、2004;Yamaguchi、1995)。
【0060】
酵素の中で、開裂位置はわずかに異なった。MMP−3、V8及びIdeSについて、タンパク質分解は、それぞれプロライン−245に続いて、グルタミン酸−246、グリシン−249の順で起こった。マイクロキャピラリー電気泳動biosizingシステム(Agilent Technologies)を使用して、感知可能な開列位置におけるこれらの相違点は、分子量に影響を与えない。MMP−3、V8及びIdeSとの長い培養時間は、F(ab’)2への完全的な変換を可能にする。HNEによるIgG1の消化は、Fab生産物及びジスフィルド結合Fc(図2Dを参照)を生産するために(図2Dを参照)ヒスチジン236のコアヒンジジスフィルドの前で開裂するため(システイン238及び241)その他のプロテアーゼから異なる。
【0061】
開裂部位は、EU番号に基づき、図3及びヒトIgG1クラス抗体のSer219−Phe243を包括するSEQ ID NO:1に示した残基に関連する。いくつかのプロテイナーゼは、ヒンジ領域下でIgG1を開裂し、わずかに長さが異なる(全長Ala231−Gly237)F(ab’)2断片を生産した。本発明に特異の多くのIgG分解プロテイナーゼは、腫瘍又は創傷治癒環境の(MMP−2、MMP−3、MMP−7、MMP−9、プラスミン)炎症部位(HNE、カテプシンG、MMP−12)、及び感染部位で(グルタミルエンドペプチダーゼ、IdeS)発現される又は遺棄されることが報告されている(Dolleryら、2003;Kilianら、1996;Rooijakkersら、2005;Shonbeckら、1999;Shapiro、1999;Sukhovaら、1998;van Kempenら、2006;Vincentsら、2004))。多くの場合、特定のプロテイナーゼの細胞外発現が主として宿主IgGに向けて導かれることはまれであり、むしろその生成は、疾患の生理学(例:腫瘍環境のマトリックスメタロプロテイナーゼ)と関連する。それにもかかわらず、これらのインビトロ精製酵素/モノクローナル抗体の分解研究は、ヒトIgGsはヒト疾患と潜在的関連性を持つ数多くのプロテイナーゼに耐性が無いことを示唆した。
【0062】
IgG1をF(ab’)2(大多数)に変換した酵素にとって、開裂は非常に特異的で自己限定的(Fc領域を小さなペプチドに減少させるペプシン消化とは異なる)であった。IdeSを除いて、これらの細胞外プロテイナーゼの多くとのIgG1開裂の割合は、適条件下のペプシンとで見られたそれと比べて概して遅かった(例:pH4.0)。F(ab’)2に対するタンパク質分解断片化は、単一開裂中間体を介した2段階過程で進行した。IgG1の単一開裂中間体は、過去にMMP−3を用いた(Gearingら、2002)、及びIdeSを用いた(Vencentsら、2004)IgGsの消化中に可能な中間体として提案された。現在の研究において、F(ab’)2を生産する2番目の遅い開裂に比べて、単一開裂中間体への最初の開列は比較的速く発生したことが常に観察された。ここで報告する研究は、IgG1はヒト循環においてIgGの優性アイソタイプであるため、焦点を当てた。MMP−3及びIdeSに対する相対的感受性を究明するために、限定された数のその他のヒトアイソタイプ実験が行われた。これらの中で、IgG4は感受性においてIgG1に匹敵することが観察され、ここでIgG2及びIgG3はこれらの条件下で耐性を増した(データは示されず)。IgA、IgM、IgE、IgD分解に関する類似の調査はなされていない。
【0063】
表1において全情報は要約されており、そこで「凝固プロテイナーゼ」はF.XIIa、FIXa、F.Xa、トロンビン及び活性化タンパク質Cを含み、プラスミンはプラスミノーゲンをプラスミノーゲン活性剤と共培養したもの、tPA、ストレプトキナーゼ及びスタフィロキナーゼ、「プラスミノーゲン活性剤のみ」は、プラスミノーゲンがないこと、MMPsは材料に詳述するように組み換えプロテイナーゼ活性型として又はプロ酵素として入手したもの、及び「なし」は24時間以内に検出可能な開裂を示す。別途記載されている場合を除いて全ての酵素はヒト酵素であった。残基番号は、IgG1抗体重鎖用のEU番号付けシステムで、SEQ ID NO:1の25残基は、完全成熟重鎖の残基219〜243と一致する。
【0064】
【表2】

(1)Barrett A.J.、Rawlings N.D.及びBarrettA.J.、Rawlings N.D.及びWoessner J.F.(Eds.)、「タンパク質分解酵素のハンドブック第1巻(Handbook of Proteolytic Enzymes Vol.1)」、エルザビア(Elsevier)、アムステルダム、2004。
(2)Barrett A.J.、Rawlings N.D.and Woessner J.F.(Eds.)、「タンパク質分解酵素のハンドブック第2巻(Handbook of Proteolytic Enzymes Vol.2)」、エルザビア(Elsevier)、アムステルダム、2004。
(3)Powers、JC..「タンパク質分解酵素と疾患治療(Proteolytic Enzymes and Disease Treatment)」1982.In:フィーニーとウィタカー(Feeney and Whitaker)(eds)。「タンパク質の修飾:食物的、栄養的及び薬理学的観点(Modification of Proteins:Food,Nutritional, and Pharmacological Aspects)」。「化学の進歩シリーズ198(Advances in Chemistry Series 198)」。ACS、ワシントンD.C.、1982 pp347〜367。
(4)Tchetverikov I.、Ronday H.K.、van EIB.、Kiers G.H.、Verzijl N.,TeKoppele J.M.、Huizinga T.W.J.、DeGroot J.及びHannemaaijer R.、2004。「リウマチ性関節炎患者の血清と滑液の一組の試料におけるMMPプロファイル(MMP Profile in paired serum and synovial fluid samples of patients with rheumatoid arthritis.)」Ann.Rheum.Dis.63、881〜883。
(5)Vincents B.、von Pawel−Rammingen U.、Bjorck L.及びAbrahamson M.、2004. 「(連鎖球菌エンドペプチダーゼ、IdeSの酵素的特性解析は、エキソサイト結合によるIgG開裂に対して厳密特異性を持つシステインプロテアーゼであることを示す。(Enzymatic characterization of the streptococcal endopeptidase、IdeS、reveals that it is a cysteine protease with strict specificity for IgG cleavage due to exosite binding.)」。Biochemistry43、15540〜15549。
(6)Sun H.、Ringdahl U.、Homeister J.W.、Fay W.P.、Engleberg N.C.、Yang A.Y.、Rozek L.S.、Wang X.、Sjobring U.、Ginsburg D.、2004。「プラスミノーゲンはA群連鎖球菌感染の必須宿主病原性因子である。(Plasminogen is a critical host pathogenicity factor for group A streptococcal infection.)」Science.305、1283〜1286。
【0065】
実施例2:炎症性滲出物中のIGGの開裂
炎症性滲出物及びその他のそのような液体は、炎症及び創傷治癒に関連するタンパク質分解酵素を所有するはずである。この目的のために、創傷液の試料をEthicon Inc.より入手した。
【0066】
最初に、ヒト重鎖定常領域を含む抗体基質を無作為にビオチン化した。10マイクロリットルのビオチン化基質抗体を190μLの創傷液に加え、37℃で8〜24時間培養した。特定の時間に、試料を取り出した。出発IgG及び様々な時間での試料が、別々のウェルで4〜12%Bis−Trisゲルに適用され、SDS PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)を受ける。別々のバンドは、ニトロセルロース膜に移動し、0.1%ツイーン20及び10%ブロッキンググレードの牛乳(「ブロット」)を含む0.1Mトリス緩衝食塩水でブロッキングし、AVIDIN−D西洋ワサビペルオキシダーゼ試薬に続いてTMB(膜)基質を用いてブロットを展開させた。
【0067】
図4に示すゲル画像から明らかであるように、無傷IgGが8時間で消失し、F(ab’)2及びFab標準のサイズに類似したバンドが出現した。この実験結果は、炎症性液体における酵素によるIgGのタンパク質分解は、数時間にわたって起こり、精製酵素を用いたインビトロタンパク質分解によって作製される断片に一致する断片を生産することを示唆した。
【0068】
実施例3:試薬の調製
内因性プロテアーゼによって作製される宿主(患者)抗体断片の存在の確認は、開裂IgGに選択的に結合するが無傷IgGには結合しない試薬を必要とする。開裂成分の認識及び正常集団と比較した疾患患者からの試料の断片量間の定量的差はどちらも、試薬を用いて評価できるはずである。
【0069】
比較的高濃度の無傷IgGを含む未知だが恐らく少量のIgGと思われる断片を液体中に検出することは難しい。scIgGはIgG開裂断片(Gearing 2002 supra)の可能性があると記載されているが、ヒト試料の定量化は過去に行われていない。このため、必要な特異性を持つ試薬が、開裂IgGに高い特異性を持つが、無傷IgGには持たないウサギに作製された。
【0070】
ヒトIgG1ヒンジの3つの結合、及び徐々に長くなる単一鎖ペプチド類似体が免疫付与に用いられた(Invitrogen Corporationにおいて)。MMP−3開裂部位のアミノ末端側のアミノ酸配列に対応する8−merペプチドは、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)にN−末端(TCPPCPAP、SEQ ID NO:1の残基7〜14)を介して共有結合された。グルタミルエンドペプチダーゼ部位(TCPPCPAPE、SEQ ID NO:1の残基7〜15)及びIdeS部位(TCPPCPAPELLG、SEQ ID NO:1の残基7〜18)に対応する延長ペプチドは、免疫原として別々に準備された。ニュージーランドウサギ(1免疫原につき2匹)は、完全フロインドアジュバントの0.2mg共役ペプチドの皮下注射により免疫を与えられ、フロイント不完全アジュバントの0.1mg抗原で更に3回、14日、42日、及び56日に追加免疫を与えられた。4週間、8週間及び10週間で血清が収集され、免疫原毎に抗体精製のためにプールした。免疫タイターは、固相抗原ペプチドに基づくELISAによってモニターされた。
【0071】
抗体の親和性精製は、活性化支持体で固定化したそれぞれのペプチド抗原を利用した。同一抗原で免疫付与された2匹のウサギからの抗血清は、プールされ、抗原カラムを完全に洗浄した後で抗原カラムを通された。特定の抗体は、それぞれ3M KSCN及び0.1Mグリシン、pH2.5を使用して低親和性及び高親和性プールとして溶出された。2つのプールは、区別のできない結合特性を生み出し、交互に用いられた又は/及びプールされた。3つの結合抗体の溶解プールは、次に、ヒトIgG1重鎖定常領域(Mab3)から成る無傷抗体を含むカラム上の2番目の親和性吸着段階の対象となった。2番目の親和性色層分析段階の意図は無傷IgGを認識し得る望ましくない抗体を除去することであった。しかしながら、IgGカラムが吸収したウサギ抗体はほとんど又は全くなく、抗体群は、カルボキシ基末端が露出した「開裂した」配列とのみ反作用を示すことを示唆した。
【0072】
個々のアフィニティー精製したウサギ抗ペプチド抗体は、ヒトIgGの酵素的生成断片並びにELISAによる無傷IgGへの結合能力を検査された(図5)。SEQ ID NO:1の残基7〜14(MMP−3部位類似体)に共役するKLHに免疫を持つウサギからの精製抗体は、無傷IgGに結合せず、MMP−3を用いたIgGの消化によって生成されたscIgG及びF(ab’)2への特異性が高かった。この抗体調製は、V8プロテアーゼ及びIdeSで製作されたscIgG及びF(ab’)2に対して最小の反作用を示した。対照的に、V8開裂部位ヒンジペプチド類似体(SEQ ID NO:1の残基7〜15)及びIdeS開裂部位ヒンジペプチド類似体(SEQ ID NO:1の残基7〜18)に免疫を持つウサギから得られた抗体は、これら2つの酵素のうちいずれかで生成されたscIgGs及びF(ab’)2に対して交差反応性結合プロファイルを示した。しかしながら、これらの調製は、MMP−3消化産物に対して最小の反応性を示した。抗体調製で無傷IgGと結合するものは無く、抗体調製で図6に示されるように、3つの異なる酵素で生成されたF(ab’)2及びscIgGを含む断片と同等の反作用を示すものは無かった。
【0073】
抗ヒンジ試薬の使用目的は、複雑な生体内設定で疾患特異的な組織に存在する酵素によって、又は例えば浸潤性マクロファージ又は好中球のような、疾患特異的な細胞型若しくは細胞集団によって生成されたscIgGs及びF(ab’)2(及びその他の潜在的断片)の検出である。潜在的IgG断片の最適包括域に関して、開裂部位認識のプロファイルは出来る限り広いことが望ましいと考えられた。このため、後に続くウエスタンブロット法及び血清ベースのELISA検査での使用のために、3匹のウサギ抗体プールを混合したものが、それぞれの成分の0.33mg/mLで調製され(合計=1mg/mL)。この試薬プールは、RAH−1と呼ばれる。
【0074】
実施例4:単鎖開裂免疫グロブリン分析
捕獲試薬として、開裂ヒトIgGを結合可能だが、無傷ヒトIgGは結合できないRAH−1を使用する血清にscIgGを検出するために用いられた新しい分析は以下で詳細に説明される。
【0075】
化学ルミネッセンスELISAを使用して、Nunc社化学ルミネッセンス96ウェルプレートの領域が、PBSで10mg/mLのRAH−1でコーティングされた。残りのプレートはコーティングせずにそのままの状態であった(1X PBSのみ)。プレートを、4℃で一晩培養した。プレートを洗浄し、200mL/ウェルのChemicon InternationalのChemiBLOCKER(C#2160)をプレートに添加し、37℃で30分間培養した。ブロッキング緩衝液は、ウェルから吸引され、標準と試料がプレートに加えられた。標準のMab3、V8で消化されたscIgGは、1%カゼイン及び3%BSAを含むPBSで50mg/mLで開始し、4倍連続希釈法を用いて複製に添加された。疾患血清試料は、1:50希釈で同じ緩衝液に添加された。プレートを洗浄し、ウサギを含む様々な動物に対して最小限の交差反応を持つ1:6000希釈Jackson Immuno ResearchのHRP共役AffiniPureF(ab’)2Fragment Donkey抗ヒトIgG(H+L)が全ウェルに添加された。これは、1%カゼイン及び3%BSAを含むPBS希釈に添加され、37℃で1時間培養した。プレートを十分に洗浄し、発光リーダーでプレートを読み取った数秒後に、100mL/ウェルのHRP基質(Roche’s BM Chemiluminescence POD、582 950)を加えた。
【0076】
RAH−1コートにさらされた全てのウェルから、スタンダード曲線の0ng/mL scIgGウェルからの平均発光値を差し引いた。差し引くことで、RAH−1との2次抗体の非特異性反応が制御される。次に、前もって調整したRAHコーティングウェルの値から、非RAHコーティングウェルのそれぞれのドナーの値を差し引いた。これは、プレートへの血清の非特異性反応を説明する。
【0077】
実施例5:疾患に関連するタンパク質分解活動を検出するための試薬の使用
RAH−1試薬は、IgG断片を他の炎症液体、関節リウマチ(RA)患者の滑液内に検出するその能力を検査された。
【0078】
RA患者からの滑液試料の収集は、Bioreclamationから購入した。試料は、LDS試料緩衝液で1:5に希釈され、それぞれの試料の10mciroLを4〜12%のビス−トリスゲルに載せた。RAH−1反応性のコントロールとして、無傷IgG(Mab3)、プロテアーゼ消化IgG(MMP−3でのMab3の部分消化、グルタミルエンドペプチダーゼ及びIdeS)もまたゲルに載せた。SDS PAGEに続いて、ゲルをニトロセルロース膜に移動し、Blottoでブロックした。次に膜をblottoのRAH−1の1:2,500希釈で培養し、0.1%ツイーン20を含むpH7.5の0.1Mトリス緩衝食塩水で洗浄し、1:5,000希釈のヤギ抗ウサギIgG(H&L)西洋ワサビペルオキシダーゼ共役で培養した。次にTMB膜を使用してブロットを展開した。図7に示すように、RAH−1調製は無傷IgGと反応しなかったが、3つのプロテアーゼ全てからscIgG、F(ab’)2恐らくFab’を検出した。5つのRA患者の滑液試料全てにおいて、scIgG、F(ab’)2及びFab’とおよそ同じサイズのバンドが検出され、3つのタンパク質分解断片はそれぞれのRA患者の滑液に存在したことを示唆した。
【0079】
実施例6:疾患をモニターするための試薬の使用
血漿及び血清は、バイオマーカー検査において、滑液のような生体液又は組織抽出物よりも便宜性が高い。しかしながら、滑液の利点は、内蔵型であることと、プロテアーゼを活性化し、実施例2で述べたようにIgG断片が蓄積することが期待される局所環境であることである。それにもかかわらず、検査用血清の容易さと普及が、IgG分解産物を含むバイオマーカー用試料組織としての可能性をかなり高めている。
【0080】
異なる種と血清源のIgG断片の検査を初期化する前に、任意のタンパク分解IgG断片が、その蓄積及び数量化を可能にするために十分な期間中循環するかを定めることが好ましい。これに応答して、比較薬物動態学的研究が計画された。以下のマウスにおけるPK実験は、ヒトIgGsが一般に10〜20日の終末半減期を示した過去のいくつかの同様な研究報告をモデルとした。
【0081】
断片化したタンパク質分解産物、MMP−3によって生成されたMab2 IgG1、scIgG及びF(ab’)2は、以下のように調製された。20ミリグラム量のMab2 IgGは、実施例1で述べたように、加熱によって活性化するMMP−3で分解された。酵素を10mM CaCl2、pH7.5、37℃のトリス緩衝食塩水を含むMab2の4mg/mL溶液に添加することにより、消化が開始した。EDTAを20mMの最終濃度に48時間目で添加することにより反応を終了した。無傷IgG残留物は無く、アジレント社のbio−sizing解析に基づいた(8826−67)scIgG、F(ab)2及びFcの割合はそれぞれ、24%、41%、36%であった。終了した消化は、Fc断片を除去し、精製scIgG及びF(ab)2を分離するために2段階精製を受けた。第1段階では、消化はタンパク質Aセファロースを用いた色層分析を受けた。カラムからの非結合材料は、F(ab)2断片を含み、検出可能な無傷IgG又はscIgG含まなかった。pH3.5の0.1Mクエン酸ナトリウムでのカラムの処置は、Fcを含む成分、Fc断片、及びscIgGの混合物の溶出をもたらした。断片は、体積の1/10の2Mトリス、pH7.0を加えることにより直ちにpH7に中和された。中和された物質は、約1mLに濃縮され、pH7.5のリン酸緩衝生理食塩水に透析された。Fc断片は、Superdex200(カラム体積=100mL)のサイズ排除クロマトグラフィーによってscIgGから分離された。135kDaとして前述したアジレント社(Agilent)のbiosizing技術を使用して後に認識された、カラムから溶出した2つのピークは、ゲルバンド位置及び約35kDaのFcモノマー断片によって確認されたより低い分子量のピークと一致した。マウスにおける許容静脈内注射(<40EU/kg)のAALAC特異性に対する内毒素を低減するために、精製scIgG及びF(ab)2の成分は、アクティクリーン・イートックス(ActiCleanEtox)(それぞれの5mLのプロテイン溶液につき0.5mLのゲル)と接触した。
【0082】
この研究のために、無傷マウス−ヒトキメラモノクローナル抗体の等価ミリグラム量(1.9mg/kg)、Mab2 IgG1、MMP−3によって生成されたscIgG及びF(ab’)2は、下記のように検査された。
【0083】
21匹のメスBalb/cマウス群(エース・アニマルズ(Ace Animals))がpK研究に使用された。終末血は、心穿刺を介して実験前に無作為に対象基準として選択されたマウス3匹から採集された。残りの18匹のメスBalb/cマウスは、秤量され、同等の6つのグループに配置された。2つのグループには無傷Mab2 IgG1、2つのグループにはMMP−3で生成したMab2 scIgG1、2つのグループにはMMP−3で生成したMab2 F(ab’)2が注射された。全ての注射は、それぞれの動物の体重0.19mg/mLに基づいた、一定投与量10mL/kgでの腹腔内投与であった。したがって、それぞれの動物は、第0日に1.9mg/kgの投与量を与えられた。約80μLの血液が2つのグループのうち最初のグループから1時間、24時間、7日、21日、35日、2番目のグループからは5時間、48時間、14日、28日に採血された。血清試料は、検査時まで20℃で保管された。
【0084】
採集した血清のIgG及びIgG断片濃度は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって定量化された。Jackson Immuno−researchのPBSの0.5μg/mL稀釈:ヤギ抗ヒトIgG、F(ab’)2断片特異性(ウシ、ウマ、及びマウス血清タンパク質に対する最小交差反応)を用いてCostar 3369プレートをコーティングした。プレートは、PBS/カゼイン/BSAでブロックされた。ブロッキングに続いて、標準と試料をPBS/1%カゼイン/3%BSAに加えた。標準は、以下の連続希釈を含んだ:マウス/ヒトIgG1、マウス/ヒトscIgG1 MMP−3又はマウス/ヒト1000ng/mLから開始するヒトF(ab’)2 MMP−3。それぞれの時点での試料はPBSの1:10から1:163,840まで連続的に希釈された/1%カゼイン/3%BSA。抗ヒト捕獲抗体でコーティングされたプレートに結合したヒトIgGsは、Jackson Immuno−researchの:ヤギ抗ヒトIgG(H+L)(ウシ、ウマ、及びマウス血清タンパク質に対する最小交差反応、109−035−083)50μL/wellと検出され、RTで1時間培養された。プレートを十分に洗浄し、50μL/well O−フェニレンジアミン基質に約10分さらし、50μL/well3M HCLで終了し、490〜650nmで読み取った。結果を図8に示す。
【0085】
マウスPKの実験結果は、scIgGは延長した循環生存期間を持つが、F(ab’)2は持たないことを示した。マウスにおけるF(ab’)2の非常に急速な排除は、ヒトにおけるこの断片の急速な消失と一致する(Roskos LKら、Drug Dev.Res.61:108〜120、2004)。これらの結果は、バイオマークとしての目的には、scIgGが最も豊富な、生存期間の長い、実用的なIgGのタンパク質分解成分であることを示した。
【0086】
実施例7:疾患におけるタンパク質分解酵素
scIgGが実用的な疾患バイオマークとなるためには、定義された疾患分類から入手された試料における健常者と比較した差分量を示さなければならない。
【0087】
疾患個人からの血清の商業的供給源は、Genomics Collaborative(現Sera Care Life Sciences Inc.)と特定した。異なる10人8疾患からの少量(300μL)の血清が購入された。疾患分類は、関節リウマチ、変形性関節症、ぜんそく、1型糖尿病、乳がん、肺がん、心筋梗塞、及びうっ血性心不全であった。更に、血清年齢適合及び性別適合の28人の健常者ボランティアからの血清をこの業者から対照群として入手した。
【0088】
実施例4に詳述したように分析を用いて、試料が分析され、その結果は図9に示されている。RAH−1試薬の選択性に基づく分析は、既知の特定のプロテアーゼによって生成されたものと同等であるIgG開裂産物は、明らかに検出可能で、炎症性自己免疫疾患、関節リウマチに関して健常ドナーではレベルを超えて維持されたことを証明した。対照的に、変形性関節症患者のレベルは、健常者の試料と同様のレベル及び健常者のレベルの範囲内を示した。
【0089】
実施例8:修飾単鎖開裂IGG分析
血清中のscIgG検出のために試薬RAH−1を用いる固相分析、ELISAについては、実施例4において詳述した。scIgG濃度血清試料の検出範囲を最大化するために、特定の変更を加えた。
【0090】
使用されたプレートは、プレートを封着し1時間室温で培養することにより、濃度5μg/mLのPBSpH7.2(ウェルにつき100μL)ウサギポリクローナル抗体(RAH−1)でコーティングされたImmulon 4HBXプレート(VWR)。次に、プレートをPBS、0.05%ツイーン(Sigma社)で3回自動プレート洗浄器で洗浄した。全ての試料と標準は、1%BSA、0.05%ツイーンを含むPBSで希釈された。抗IgG Fc−ビオチン(US Blologicals、 Swampscott、 MA)は、血清希釈のscIgG標準及びscIgG不明検出の方法である。
【0091】
プレートを、200μLのSuperBlock(Pierce)を使用してブロックし、15分間室温(RT)で振盪し、その後プレートをPBS、0.05%ツイーンで3回自動プレート洗浄器で洗浄した。
【0092】
標準材料、Mab1プロテアーゼ消化産物は、複製ウェルに600ng/mLから開始して添加された(ウェルにつき100μL、3倍数希釈)。血清試料は、1:100、1:200、1:400等で必要に応じて希釈された)。試料は、複製に同時に添加され、振とう器にて室温で1時間培養し、続いてPBS、0.05%ツイーンで3回自動プレート洗浄器で洗浄した。
【0093】
1:20,000のIgGFcビオチン希釈(分析緩衝液で希釈された)をすべてのウェルに加え(ウェルにつき100μL、振とう器にて室温で1時間培養し、続いてPBS、0.05%ツイーンで3回自動プレート洗浄器で洗浄した)。
【0094】
SA−HRP(PBS、0.05%ツイーン、1%BSAで1:30,000に希釈して使用した西洋ワサビペルオキシダーゼ、Sigma、と共役なストレプトアビジン)がすべてのウェルに添加された(ウェルにつき100μL、振とう器にて室温で1時間培養し、続いてPBS、0.05%ツイーンで3回自動プレート洗浄器で洗浄した。
【0095】
最後に、業者(Sigma)によって提供されたままの100μLのTMB(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン、ペルオキシダーゼ基質)をそれぞれのウェルに加え、色反応のため約10分間培養した。反応は、75μLの1N H2S04で終了させ、プレートを450nmで読んだ。
【0096】
上記のELISA形式を用いて、分析は、健常血清におけるscIgGの大幅に改善された直線性及びスパイク回復を立証した。分析の稀釈の直線性は、2つの血清プールにおいて決定され、1:100に希釈され、濃度150ng/mL及び300ng/mLのMab1が添加され、更に濃度0、25、75、及び100%の血清に希釈された。試料希釈のそれぞれは、3重で分析され、中間分析物回復が算出された。直線性は、それぞれの試料プールの観察値(y軸)対分析物回復結果の期待値(x軸)の関係を示す図からのR2相関係数を計算して評価された。R2値は:試料1低0.9983、試料1高0.9913、試料2低0.9852、試料2高0.973、及び稀釈の直線性は全ての希釈において100%であった。
【0097】
実施例9:血清における単鎖開裂IGGの検出
RA患者からの血清は、この患者のグループからのいくつかの血清試料が対照と比べて著しく高いscIgGを示した実施例4の結果を更に研究するために排他的に使用された。
【0098】
関節リウマチ(RA)を持つ対象10人及び年齢及び性別適合の健常者10人からの血清試料をGenomics Collaborative社より入手した。実施例8で述べた修正分析を使用して、試料を分析し、その結果を図10に示す。結果は、RAを持つ対象10人のうち4人が血清scIgGの濃度>60μg/mLを明示した。健常な対照群では、scIgG濃度は、<8.2μg/mL〜52.7μg/mLに及んだ。この比較のための試料は、疾患過程、治療計画等に厳密に選択されなかった。したがって、健常及び疾患に関連する血清scIgGの更なる弁別が、よくコントロールされ、前向きにデザインされた臨床試験の患者の縦断的解析において起こり得ることが期待できる。しかしながら、現在のこれらの商業試料の分析は、上昇したscIgG濃度が疾患患者に検出されることを示唆した。
【0099】
実施例10:抗ヒンジIGGモノクローナル抗体の調製
製造及びヒト患者における潜在的使用のために、開裂IgGを結合し、無傷IgGを結合しないクローナル抗体のような、定義された分子を生産することが理想的である。以下の手順は、このような分子生産の方法を示す。
【0100】
ヒトIgG1下部ヒンジの12−merペプチド類似体及び隣接するCH2領域は、免疫原である:TCPPCPAPELLG(SEQ ID NO:1の残基7〜18)。自然発生的なシステインは、変異型TAPPAPAPELLGを与えるためにアラニンによって置き換えられた。キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)への結合を可能にするため、遊離スルフヒドリルに対する反応の標準化学手法によって、N末端システインを追加した。最終免疫原は、KLH−CTAPPAPAPELLGである。
【0101】
ニュージーランドシロウサギ(3)に頻回皮下部位(5)を使用して完全フロインドアジュバントの0.5mgKLHペプチドで免疫付与した。動物は、フロイント不完全アジュバントの0.25mg免疫原で3週間毎、計4回の追加免疫を与えられた。
【0102】
同一ペプチドのBSA−結合異型の血清抗体滴定濃度は、標準ELISA法によって、免疫付与の過程においてモニターされた。動物(2)は、滴定濃度データに基づき、脾臓摘出に選ばれた。ウサギハイブリドーマは、ウサギ溶融パートナー細胞と融合した脾臓誘導のリンパ球から生成された(Spieker-Polet、 1995 PNAS USA 92:9348-9352)。複数のプレートでの溶融2〜3週間後、細胞増殖を観察した。
【0103】
陽性ハイブリドーマをBSA免疫原ペプチド結合でコーティングされたプレート上のELISAを介してスクリーニングした。それぞれの溶融から複数の陽性クローンが確認された。更なるスクリーニングには、無傷IgG1及びIgG1の様々な酵素生成F(ab’)2断片への結合を含んだ。これらのスクリーニング又はカウンタースクリーニング策には、免疫原ペプチドへの及び免疫原ペプチドの末端又は近くの末端、及び無傷IgG1との最小結合を持つF(ab’)2断片への結合の強い選択性に基づいて、3つのクローンが選択された。陽性ハイブリドーマは、サブクローンされ、拡大された。
【0104】
ウサギIgGは、固定化タンパク質Aの色層分析を含む標準方法によって個別セル浮遊物から精製された。精製されたウサギIgGsのヒトIgG1ヒンジのペプチド類似体への結合の特異性、並びにIdeS及びMMP−3酵素を使用した単一又は二重開裂Mabsを使用して形成された無傷IgGと精製IgGF(ab’)2断片は、標準ELISA手順で検査された。簡単には、標準ペプチド化学によって合成され、N末端ビオチン化したペプチドは、ストレプトアビジンでコーティングされたウェルに捕捉された。IgG及び断片は、直接10μg/mLでコーティングされた。ウサギmAbsの結合は、よく特徴づけられたヤギ抗ウサギIgG Fc−西洋ワサビペルオキシダーゼ及びOPD基質システムによって検出された。
【0105】
ウサギmAb 91〜2のELISA結果は、図11に示されている。SEQ ID NO:1の残基16〜22(L−L−G−G−P−S−V−F)で終結する下部ヒンジペプチドへの明らかな結合選択性があった。SEQ ID NO:1の3〜16(D−K−T−H−T−C−P−P−C−P−A−P−E−L−)に包括される上部ヒンジ、コアヒンジ、又は初期下部ヒンジのこれらの部位に一致する上流残基への結合はほとんどなし又はなしであった。MMP−3に生成されたF(ab’)2断片及びscIgG断片へのごくわずかな結合があった(SEQ ID NO:1の残基14と15(P−A−P*E−L−L)との間のMMP−3開裂部位でのペプチド類似体への結合不足と一致する)。対照的に、IdeSによって生成されたF(ab’)2断片及びscIgGへのかなりの結合が見られた。したがって、ウサギmAb結合特異性は、それを引き起こした免疫原によく適合した。直接コーティングされたrb(ウサギ)IgGは、陽性対照であった。
【0106】
補体測定
WIL2−S細胞、CD20(ATCC)を抽出するリンパ芽球様B細胞株は、CDC分析の標的細胞として使用された。50μLの細胞が、96ウェルプレートのウェルに添加され、RPMI、5%加熱不活性化したFBS、0.1mMの非必須アミノ酸、1mMのピルビン酸ナトリウム、ペニシリン(500U/mL)、ストレプトマイシン(500U/mL)、2mMLグルタミンのウェルにつき最終濃度8×104の細胞を得た。様々な濃度の抗体と共に又は抗体なしで付加的50μLをウェルに添加し、プレートを、室温で2時間培養した。50μLの10%ウサギ補体(Invitrogen)をウェルに添加し、プレートを20分、37℃で培養した。全ての試料は、3重で実行された。プレートは、200gで3分間遠心分離され、プレートを分離するために、50μLの上澄みを除き、CDCをLDH細胞毒性探知キット(Roche)を使用して測定した。吸収度をSpectra max Plus 384(PerkinElmer)を使用して測定した。データを、Triton X−100(Sigma Aldrich)及び細胞と補体のみを含む最小コントロールで最高細胞毒性に正規化した。
【0107】
図12は、3つのウサギ抗ヒンジmAbsがCD20を結合する抗体のF(ab’)2断片の固定濃度の存在下で滴定される時に、補体依存細胞溶解を標的細胞に回復させることができたことを示す。ウサギmAbsは、ポリクローナルウサギ抗ヒンジmAb調製(上記で述べた同一の血清scIgG検出システムの成分)よりも低い濃度でより効果的であった。CD20の無傷抗体は予想したとおり活性であったが、そのF(ab’)2断片及びscIgG種類のみは、活性ではなかった。ウサギ抗ヒンジmAbsは、細胞を結合するF(ab’)2断片が無いときは細胞溶解を誘導することができなかった。これらの結果は、モノクローナル抗ヒンジ抗体は、補体媒介エフェクター機能をさもなければ不活性のタンパク質分解開裂産物IgG1に再構築することが可能であることを実証した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IgGプロテアーゼ開裂産物に特異的に結合する少なくとも1つの抗体を含む抗体組成物であって、a)非変性条件下で無傷哺乳類IgGと同等の分子量を持ち、b)変性だが非還元条件下で2断片に分離可能で、135kDa及びCH2包括断片を含む抗原結合断片であり、c)試薬が無傷IgGと反応しないということによって特徴付けられる、抗体組成物。
【請求項2】
ポリクローナル抗血清を含む、請求項1に記載の抗体組成物。
【請求項3】
少なくとも1つのモノクローナル抗体を含む、請求項1に記載の抗体組成物。
【請求項4】
MMP−3、MMP−7、MMP−12、HNE、プラスミン、カテプシンG、ペプシン、IdeS、又は黄色ブドウ球菌(Staph. aureus.)からのグルタミルエンドペプチダーゼIよりなる群から選択されたプロテアーゼにより生成されるヒトIgG1のプロテアーゼ特異性開裂部位に特異的に結合する、請求項1に記載の抗体組成物。
【請求項5】
開裂産物類似体ペプチドを含むポリペプチドを用いた動物への免疫付与によって生成された抗体、又は抗体ライブラリーのスクリーニングを含む、請求項1に記載の抗体組成物であって、前記開裂産物類似体ペプチドは、
a)プロテアーゼによって開裂された抗体の重鎖の残基ペアのN末端残基の特定と、
b)プロテアーゼ開裂部位のN末端残基が、定義された配列のC末端となるプロテアーゼ開裂部位の上流の少なくとも5つの切れ目がなく連続するアミノ酸残基を含むペプチド配列の特定と、
c)免疫付与又はスクリーニングに十分な量のペプチド溶液の作製と、によって準備される、上記抗体組成物。
【請求項6】
アミノ末端側のプロテアーゼ開裂部位から上流のヒトIgGヒンジ領域の配列SEQ ID NO:1、2、3、又は4から選択される、少なくとも5つの切れ目がなく連続するアミノ酸を含む、ポリペプチドに特異的に結合する、少なくとも1つの抗体を含む、請求項1に記載の抗体組成物。
【請求項7】
前記ポリペプチドが、少なくとも残基−T−C−P−P−C−(SEQ ID NO:1の残基7〜11)で定義されるIgG1のヒンジコアを含む、請求項6に記載の抗体組成物。
【請求項8】
前記ペプチドが、ヒトIgG1下部ヒンジの12−merペプチド類似体で、配列TCPPCPAPELLG(SEQ ID NO:1の残基7〜18)を持つCH2領域に隣接する、請求項6に記載の抗体組成物。
【請求項9】
少なくとも5つのアミノ酸から成り、IgGプロテアーゼ開裂部位のN末端側の上流のアミノ酸配列を含むSEQ ID NO:5〜11及びそのN末端切断から選択される、アミノ酸配列を持つペプチドを含む開裂産物ペプチド類似体に特異的に結合する、請求項1に記載の抗体組成物。
【請求項10】
SEQ ID NO:5〜11から選択するアミノ酸配列を持つポリペプチドに特異的に結合する、請求項1に記載の抗体組成物。
【請求項11】
(a)IgG1MMP−3開裂部位(TCPPCPAP、SEQ ID NO:1の残基7〜14)のアミノ末端側のアミノ酸配列を含むペプチド、(b)又はグルタミルエンドペプチダーゼIgG1開裂部位(TCPPCPAPE、SEQ ID NO:1の残基7〜15)を含むペプチド、又は(c)IdeS IgG1開裂部位(TCPPCPAPELLG,SEQ ID NO:1の残基7〜18)を含むペプチド、から選択されるアミノ酸配列を持つポリペプチドに特異的に結合する、請求項1に記載の抗体組成物。
【請求項12】
SEQ ID NO:5〜11からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むヒトIgGプロテアーゼ開裂部位ペプチド類似体。
【請求項13】
N末端を介してキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)に共有結合する、請求項12に記載のペプチド。
【請求項14】
前記ペプチド類似体で免疫を付与された、請求項12に記載の動物。
【請求項15】
前記動物はウサギである、請求項14に記載の動物。
【請求項16】
請求項15に記載の免疫を与えられた動物を使用して、ヒトIgG親和性マトリックスの事前吸収により試薬が前記動物の血清から精製される、請求項1に記載の抗体組成物の調剤方法。
【請求項17】
対象からの組織試料の分析により前記対象の疾患過程を検出する方法であって、前記方法がタンパク分解性に開裂したIgGの検出を含み、前記IgGは、a)生理学的条件下で無傷哺乳類IgGと同等の分子量を有していることと、b)変性だが非還元条件下で135kDa及び25kDa断片を結合する抗原を含む2つの断片に分離可能であること、によって特徴付けられる、上記方法。
【請求項18】
前記疾患が、関節炎疾患、悪性疾患、感染病、及び血管疾患から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記疾患が、関節リウマチである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記疾患が、関節リウマチで、試料が滑液である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記試料が血液又は断片産物である、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記検知が生体外で実行される、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記検知過程が、ELISA、免疫組織化学的染色、及びウエスタンブロット法よりなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記検知が、血液分画以外の組織試料で実行される、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
対象の組織に疾患マーカーを検出する試薬を含むキットであって、前記試薬は開裂IgGに特異的に結合する少なくとも1つの抗体を含み、該抗体は、a)非変性状態下で、無傷哺乳類IgGと同等の分子量を有することと、b)変性だが非還元条件下で、抗原結合断片135kDa及びCH2包括断片を含む2つの断片に分離可能であることと、c)試薬が無傷IgGと反応しないこと、によって特徴付けられるIgG開裂産物を検知することができる、上記キット。
【請求項26】
IgG開裂産物を生産することができるプロテアーゼを放出することによって特徴付けられる病的状態を持つ対象の治療のための、請求項1に記載の抗体組成物の使用方法。
【請求項27】
MMP−3、MMP−7、MMP−12、HNE、プラスミン、カテプシンG、ペプシン、IdeS、又はStaph.aureus.からのグルタミルエンドペプチダーゼIのから成るグループから選択されたプロテアーゼによって生成されたヒトIgG1のプロテアーゼ特異性開裂部位を抗体が認識する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
病的状態の処置に使用される抗体のエフェクター機能を回復するための請求項1に記載の抗体組成物の使用であって、1又は複数のプロテアーゼによって病的状態を処置する抗体が開裂を受ける、上記使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2010−536037(P2010−536037A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520241(P2010−520241)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【国際出願番号】PCT/US2008/072083
【国際公開番号】WO2009/023457
【国際公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(509087759)セントコア・オーソ・バイオテツク・インコーポレーテツド (77)
【Fターム(参考)】