説明

疾患治療用のカプセルで包んだ生物材料の移植

本発明は、治療を必要とする患者にカプセルで包んだ生物材料を移植することによって、糖尿病等の疾患治療のための組成物に関する。複数の異なるタイプの生物材料をコーティングするために、いくつかの方法が提供される。コーティングは、生物材料の表面上へ直接または生物材料を保持する他のコーティング材料の表面上へ設けられる。コーティングを形成する重合反応の構成要素には、天然ポリマー、合成ポリマー、マクロマー、促進剤、共触媒、光重合開始剤および放射線を含めることができる。これらのカプセルで包んだ生物材料は、皮下その他、体のいくつかの部位に移植することによって、ヒトおよび動物の種々の異なる病気や不具合の治療に使用される。長期間の抗炎症治療または免疫抑制治療を施すことなく、患者(生体)の炎症・免疫防御機構による破壊からカプセルで包んだ生物材料を保護し、かつ、移植部位から標的部位への生物材料の運搬を最適化するために、コーティング材料は、異なる程度の生体適合性、タンパク質拡散特性、強度、そして生分解性を供給するように作製することができる。

【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は、2002年10月11日出願の米国仮出願第60/419,015号の優先権を主張し、その全体が引用により本願明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、治療を必要とする患者に対してカプセルで包んだ生物材料を移植することによって、糖尿病等の疾患を治療するための組成物および方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
糖尿病(diabetes mellitus)は、インスリン産生の欠如または減弱したインスリン反応のため、生体の各細胞にグルコースを移送する能力を欠くことによって引き起こされる疾患である。健常者では、血中グルコースが少しでも上昇するとインスリンの産生と分泌が誘導され、それによって各細胞へのグルコースの取り込みが上昇し、最適なレベルにまで血中グルコースが戻される。インスリンは、肝臓と骨格筋の細胞を刺激して血中からグルコースを取り込ませ、これをエネルギ貯蔵分子であるグリコーゲンに変換させる。インスリンはまた、骨格筋繊維を刺激して血中からアミノ酸を取り込ませ、これをタンパク質に変換させる。さらに、脂肪(fat)細胞に作用して脂肪の合成を誘導する。糖尿病においては、グルコースは血流に飽和し、それを必要とし利用しようとする細胞に供給することができない。そのため、生体の各細胞では必要なエネルギが不足し、インスリンを制御できないインスリン依存性糖尿病患者の多くは衰弱した症状を呈することになる。
【0004】
インスリンが発見され、糖尿病の治療に用いられる以前は、唯一の可能な治療は死に至ることが予測される食事制限だった。死は今日でもインスリンの過剰投与から引き起こされる。それは、患者にグルコースを迅速に取り込ませることができるものに転換されない限り、最悪の事態である低血糖症と昏睡をもたらし、死に至る。また、死はインスリンの適用量以下の投与でも引き起こされる。そして、もし誤って、緊急処置された場合、昏睡および死に至ることがありえる高血糖とケトアシドーシスを引き起こす。
【0005】
今日糖尿病が、糖尿病患者が利用できる治療のおかげで、一般的に致命的な病気でなくなったと同時に、一方で、スタンダードな治療では何も、インスリン産生とグルコース代謝の正確なコントロールをminute-to-minuteする体に置き換えることができない。それゆえ、糖尿病患者の平均血糖値は、概ね非常に高いままである。慢性的な高血糖値は、いくつかの長期的な合併症を引き起こす。糖尿病は、失明、腎不全、心臓病または脳卒中、壊疽および切断、生殖不能を増進する現代的主要原因となる。それは、1〜20年にわたって、闘病する患者全体の寿命をも縮める。
【0006】
糖尿病は、世界においても最も一般的な慢性疾患のうちの1つである。米国においては、糖尿病は、およそ1600万人 ― 45歳以上の成人の12%以上、に影響を及ぼしている。新事例の数は、1年に約150,000件の割合で増加している。それらの臨床治療中の糖尿病患者に加えて、異常なグルコース耐性の症状を発症している人々が、およそ2000万人いる。これらの人々は、正常である人々および明らかに糖尿病患者である人々の中間にいる、境界線糖尿病患者である。彼らの多くは、将来的には糖尿病になる、そして、糖尿病患者の潜在的数の推定は3600万人、すなわち、45歳以上の成人の人口の25−30%以上と同じくらいになる。
【0007】
糖尿病およびその合併症は、現代の社会に大きな社会経済的影響を及ぼしている。今日、米国の健康管理に使われる約7000億ドル中、およそ1000億ドルは、糖尿病およびその合併症を治療するために費やされている。糖尿病の発生率が上がっているため、糖尿病治療の費用は、その難題に対する処置がすぐにとられない限り、総合健康管理支出中、常に増大する割合を占める。糖尿病の医学的、精神的、経済的犠牲者数は莫大であり、糖尿病を患っている人々の数は増大する一方である。
【0008】
糖尿病は、2つの異なったタイプに分けられる:1型糖尿病および2型糖尿病。1型糖尿病は、ほとんどインスリンの循環によって特徴づけられない、それは最も一般的には幼児期または思春期に現れる。1型糖尿病には遺伝的素因がある。それは、ランゲルハンス島のインスリン産生β細胞の破壊に起因する。; そしてそれは胃の後に横に位置する細長い腺、膵臓を通して散らばっている。β細胞は、いくつかの、いまだ未知の環境事象によって生じた自己免疫反応によって攻撃される。おそらく、ウイルス感染または非感染性媒介物(毒素または食物)は、膵臓で患者のβ細胞に反応して、破壊する免疫系を起動させる。1型糖尿病に導いている事象の病原性シークエンスは、いくつかのプロセスから成ると考えられる。第1に、遺伝性要因が発病を進行させる最初の内在的必要条件であると考えられる。第2に、食物でウイルスまたは非感染性病原体によって仲介される環境破壊は、第3ステップの膵島(膵炎)の刺激的な反応を誘発する。第4のステップは、それらが免疫系によって「自己」とはもはや認められず、他の細胞または「非自己」とむしろみなされるような、β細胞の変質または形質転換である。最後のステップは、「ターゲット」β細胞に対する十分に発達した免疫反応の発現である。そして、その間、細胞媒介免疫メカニズムがインスリン産生β細胞の破壊において細胞障害性抗体と協力する。この免疫性発病にもかかわらず、一定期間、新規β細胞の産生量は免疫系によって破壊される以前に急速に戻り、充分な数のβ細胞は血糖値をコントロールするためにある。しかしながら、β細胞の数は、段階的に減少する。β細胞数が臨界レベル(標準の10%)まで減少したとき、血糖値はもはやコントロールできず、インスリン産生の完全な失敗に対する進行はほぼ必然的である。機能的なインスリン産生終了後、それらが成熟まで発現して、もし細胞が破壊されなければ、β細胞の再生が2、3年間続くと考えられる。
【0009】
急性および慢性糖尿病の合併症で、感染症があるために、1型糖尿病患者は、毎日複数のインスリン注射をし続けなければならず、血液採取のために指を刺して、1日に複数回の血糖試験をしなければならない。彼らは、それから、摂取可能な食品、身体活動のレベル、ストレスの量および今後数時間にわたる疾患の存在に基づいてどれくらいのインスリンを摂取すべきかについて決定しなければならない。インスリンの日々の複数回の注射は、体のminute-to-minuteインスリン産生と糖代謝の正確なコントロールを適切には模倣しない。血糖値は通常、普通より高く、そして、失明、心臓発作、腎不全、脳卒中、神経障害および切断を含む合併症を引き起こす。インスリン治療を施していても、糖尿病患者の平均寿命は、健常者より15−20年少ない。
【0010】
2型糖尿病は、通常中高年またはそれ以後に現れて、特に肥満の人々に影響を及ぼす。しかしながら、ここ数年にわたって、若年成人の2型糖尿病の発病率は、劇的に増加している。この数年において、肥満の人々のこの2つの糖尿病の発病年令は、40歳から30歳にまで下がった。この病気の新しいより若い犠牲者が存在する。2型糖尿病において、通常インスリンを必要とする体の細胞は、それらの感度を失って、通常インスリンに反応することができない。このインスリン耐性は、膵臓β細胞による余分なインスリン産生によって長年に渡って克服されることができるかもしれない。しかしながら、結局、β細胞は、それらが高い血糖値による大量の過剰なインスリンを生じなければならないので、徐々に使い果たされていく。最終的に、使い過ぎたβ細胞は、外因性インスリン注射によってコントロールされることができるだけである充分な血糖レベルに付随して上昇をもたらし、細胞死が生じ、インスリン分泌は失敗する。高血圧症および異常なコレステロール値は、通常2型糖尿病と同時に起こる。これらの容態は、高い血糖と共に、心臓発作、脳卒中および切断している脚の循環障害の危険度を増す。2型糖尿病治療薬は、腸からのグルコース吸収または肝臓でのグルコース生産を減らすいくつかの行為と、他の肝臓および筋細胞においては、より多くのグルコースの形成を減らして、他のβ細胞を直接刺激して、より多くのインスリン生産をするのを含む。しかし、グルコースの高水準値は、機能と細胞死の漸進性低下を引き起こしてβ細胞に有毒である。従って、多くの2型糖尿病患者は、結局、外因性インスリンを必要とする。
【0011】
糖尿病の他の型は、若年発症成人型糖尿病(MODY)と呼ばれている。糖尿病のこの型は、特別なグルコース受容体によるグルコースを加工する能力を制限するインスリン産生細胞における、いくつかの遺伝子のエラーのうちの1つによる。MODY患者のβ細胞はグルコースに正しく反応してインスリンを生産することができない。その結果として高血糖になる。患者の治療は、結局インスリン注射が必要になる。
【0012】
インスリン依存性糖尿病のために、現在施術可能な治療は、インスリン投与、全部の膵臓および部分的な膵臓のいずれかの膵臓移植に限られている。
【0013】
インスリン治療は、膵臓移植よりも非常に一般的である。インスリン投与は、従来は、数回の血糖値測定と皮下注射の両方により行われ、集中的には、複数回の血糖値測定とインスリンの複数回の皮下注射、またはポンプによるインスリンの持続的な皮下注射による。従来のインスリン治療は、一定のインスリンの少量の追加の有無にかかわらず、中間型インスリンを1日に、1回または2回、注射により投与する必要があった。集中的なインスリン治療は、各々の食事前に規則的に、速効型インスリンと併用して、1日を通して、中間型または持続型インスリンを複数回投与することが必要であった。持続的皮下インスリン点滴は、通常、27−ゲージ蝶針により、腹壁の皮下にインスリンを運搬する小型バッテリーポンプの使用を必要とする。本療法様式は、インスリンを、食事前にプログラムされた増加した割合で、日中および夜を通して連続的な基礎量で投与する。これらの方法の各々において、患者は、しばしば自身の血糖値をモニタして、必要に応じて、インスリン施用量を調整することを必要とする。しかしながら、血糖コントロールは、簡単ではない。健康的な食事療法、運動療法を維持して、常にインスリンの適当な量を放出するよう厳重な注意をしているにもかかわらず、ストレス、ホルモンの変化、成長の段階、病気、感染および疲労を含む多くの他の要因が、人の血糖に悪影響を与える。1型糖尿病患者は、低血糖(low blood sugar)と高血糖(high blood sugar)反応の兆候を生命維持のために絶えず監視しなければならない。インスリン依存性糖尿病は、決して終わりのない警戒を必要とする、生命に脅威となる疾患である。
【0014】
インスリン投与とは対照的に、膵臓全部の移植あるいは部分的な膵臓移植は、糖尿病患者の新しい膵臓からインスリン放出を調整することによって高血糖値を除去することが知られている。組織学的に、膵臓は、3種類の機能細胞から成る
a)小さな管にそれらの酵素を分泌する外分泌性の細胞、
b)酵素を腸へ運ぶ管細胞、
c)血流にそれらのホルモン類を分泌する内分泌細胞、
外分泌性の部分は、腺房細胞のように知られているピラミッド状の上皮細胞の円柱に含む多数の小さな腺(粒状果)に組織される。腺房細胞は、膵臓細胞のおよそ80%から成り、膵管系に消化酵素(例えばアミラーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、トリプシン、キモトリプシン、アミノペプチダーゼ、エラスターゼおよびさまざまな他のタンパク質)を分泌する。1日に約1.5および3リットルのアルカリ流体が、消化を補助するために、総胆管に放出される。
【0015】
膵管系は、複雑な、各々の分泌顆粒の水分を排出するダクトを相互に接続する支脈のようなネットワークからなる。そして、次第により大きなダクトへ流れ出て、主膵管へ最終的に流れ出る。膵管系の内壁上皮には導管細胞を含む。膵細胞のほぼ10%は、導管細胞である。導管細胞形態学では、主管システムにおいて、高い、円柱の、粘液分泌細胞で、分泌顆粒の水分を排出する微細な小根が立方状に広がる。
【0016】
ホルモンを生産している膵島は、膵臓の全体にわたって点在し、ダクトよりむしろ血流に、それらのホルモン類を分泌する。膵島は、vascularizedで満たされる。膵島は、膵臓の1−2%だけ含まれるが、膵臓血流の約10〜15%を受容する。膵島には、それぞれが異なる内分泌生成物を生産する3つの主要細胞型がある。:α細胞は、ホルモングルカゴン(グルコース放出)を分泌する;β細胞は、インスリン(グルコース使用と貯蔵)を生産して、膵島細胞で最も豊富である;そして、δ細胞は、ホルモンソマトスタチン(他のホルモン類の放出を阻止する)を分泌する。これらの細胞型は、膵島の中に無作為に分布されない。β細胞は、膵島の中心部に位置し、αおよびδ細胞の外側の層に囲まれる。インスリン、グルカゴンおよびソマトスタチンの他に、ガストリンおよび血管作動性小腸ペプチド(VIP)が、膵島細胞の生成物として確認された。
【0017】
腎臓移植が必要なときに、膵臓移植が行われることがあるが、膵臓のみの移植はまれである。膵臓移植が、インスリン依存性糖尿病患者がインスリン注射を必要とすることなく、血糖のコントロールを改善し、彼らの長期に渡る合併症を減少するのを助けることに非常に成功するにもかかわらず、全部の膵臓移植に対しては多くの欠点がある。最も重要なことは、膵臓移植を受けることは、大手術であり、体の免疫系が膵臓を破壊するのを防ぐために、生涯、免疫抑制剤の使用が必要であるということを意味する。これらの免疫抑制剤の摂取に伴う若干の危険は、自身の健康な生命を脅かす、感染症と腫瘍の発病率の増加である。手術の手法独特の危険、移植の拒絶反応を防ぐための患者の生涯の免疫抑制の必要性、この侵襲的手順と関連する病的状態と死亡率は、糖尿病の治療のために全部の膵臓移植と関連する深刻な問題を示す。このように、インスリン注射または膵臓移植に代替するものは、公衆衛生の大きな需要を満たすだろう。
【0018】
膵島移植は、全部の膵臓移植より非常に簡単な(そして、より安全な)手順であって、破壊されたβ細胞を交換することによって、同じ効果を成し遂げることができる。上記のように、不十分なβ細胞数または不十分なインスリン分泌があるときに、根底にある理由に関係なく、糖尿病は発症する。通常のグルコースに反応するインスリン産生を元に戻すのに、糖尿病患者に十分な数の膵島β細胞を再構成することは、インスリン注射および主要臓器移植と関連する課題を解決する。糖尿病患者への膵島細胞のマイクロカプセル化および移植は、糖尿病患者の治療に明るい展望を期待させる。
【0019】
多くの疾患および不具合を治療することが可能な細胞のカプセル化は、論文発表され議論されたことがある。構想は100年前という早い時期に提案されたが、免疫学者が免疫系の異なる形態をよく理解するために、細胞をホストから切り離す、膜機構を有するカプセル化の細胞を使用し始めるまでの作業は、ほとんど1950年代以前にはされなかった。移植の研究は、1984年に書かれた第1の論文で、1970年代および1980年代においては継続中だった。いくつかの付加的な論文は、研究中に異なるアプローチと機構のタイプを説明して書かれた。細胞をカプセルで包む技術は、医学の多くの領域の潜在的可能性を有する。例えば、若干の重要な潜在的可能性は糖尿病の治療であり(Goosen, M. F. A., et al. (1985) Biotechnology and Bioengineering, 27:146)、生物学上重要な薬剤の生産であり(Omata, T., et al. (1979) "Transformation of Steroids by Gel-Entrapped Nacardia rhodocrous Cells in Organic Solvent" Eur. J. Appl. Microbiol. Biotechnol. 8:143-155)、そして、抗ヒト免疫不全ウイルス薬の判定・解析である (McMahon, J., et al. (1990) J. Nat. Cancer Inst., 82(22) 1761-1765)。
【0020】
3種類の主要なカプセル化機構が存在する。そして、それはカプセル化形状を説明することによって最もわかりやすく分類することができる。3つの分類は、(a)マクロ機構(b)マイクロカプセル、そして、(c)コンフォーマルコーティングである。
【0021】
マクロ機構は、選択透過性のシートまたは管状の膜を含み、通常構造をサポートしている、より大きな機構である。それらは、カプセル化細胞のため、1つまたはいくつかの隔室を含んでいる。それらは、脈管・リンパ管外または脈管・リンパ管部位に、移植用に設計される。いくつかは、これらの大きな機構に、酸素拡散を増やすホストになるように設計されている。他はホストに無反応なように設計されていて、異なる部位からの切除を容易にさせる。開発された2種類の主要なマクロ機構がある(a)フラット・シート、そして、(b)中空繊維。
【0022】
フラット・シート機構の中で、1つのタイプ(バクスター社、Theracyte)は、強度のためにいくつかの層から成り、細胞を交換するための装填口を有するサポート構造間に拡散膜を有する。他のタイプは、設計がより単純である。機構は、アルギナートベース膜および他の、シート間のアルギン酸塩マトリクスの中で膵島をカプセル化するためのサポート膜を使用する。複合機構は、体内で酸素の拡散を増やして成長するように設計されている。比較的大きいサイズであるために、糖尿病のような疾患の治療用として、体内に、それに適合可能なサイトが、ほとんどない。体内で成長する含有細胞は、2、3年以上の生存を期待できず、複数の細胞移動、そして、新規な細胞の再充填は、この機構を長期間使用するためには必要である。酸素拡散のための細胞コンパートメント距離を維持すると同時に、この種の機構をflushし、再充填することは、全く難しいことがわかった。
【0023】
機構の第2のフラット・シート・スタイルは、ホストのわずかな相互作用を有する「全部中/全部外」の機構で設計されている。糖尿病製品のために、その完全性を維持しつつ、大きな動物の腹腔内の空洞にこの機構を据え付けることはかなり困難であった(その一方で、その完全性を維持した。)これは、腸の運動と、しわが寄る原因になることがないように、腹部においてそれを確保すること、機構を損傷または破壊を与えるかもしれないという困難によった。
【0024】
他の主要なマクロデバイスタイプは中身のない中空繊維であり、中身のない中空繊維に熱可塑材料を押出加工することによって作られる。これらの中空繊維は、血液導管として作用するのに十分なように大きく作ることが可能である。1つのモデルはホストの大きな血管に固定されるように設計され、カプセル化細胞機構の範囲内で選択透過性膜の後にある。このタイプは、大きい動物の糖尿病治験で有効性を示したが、血管部位へのアクセスにおいて、難題に苦しめられた。血栓症および出血の両方が、現在、臨床的に関連した製品として、放棄されたそれを有するこの方法の開発を難しくした。中空繊維を使用している他のモデルが、直径において非常により小さく、リンパ管外の機構として使われるために設計されている。低い包装密度のために、カプセル化のための必須の細胞集合体は、このタイプの中空の長さが多くのメーターに接近する原因になる。従って、それが臨床的に関連しなかった時から、この方法は糖尿病治療としては断念された。加えて、繊維の開いた端に封をすることは些細ではない、そして、強度はリンパ管外のサイトによって、難題であった。
【0025】
マイクロカプセルは、潜在的臨床有効性を提供する最初の方法の1つであった。アルギン酸塩マイクロカプセルは膵島をカプセル化するために用いられ、腹膜内に移植されたときに、齧歯動物では糖尿病を除去した。しかしながら、臨床有効性を示さない、これらの最初の論文から、約25年が経過した。特に糖尿病治療のために、マイクロカプセルと関連する課題のうちの1つは、細胞の低い嵩密度と結合するそれらの、比較的大きいサイズである。もう1つは、アルギナートの使用である;イオンは交差結合するその度合いのためのカルシウム濃度に依存しているヒドロゲルによって交差結合された。純粋なアルギナート皮膜の選択透過性は、分子量調節に関して全開であり膨大に大量で、コントロールが困難であった。例えばポリリジンのような、正に荷電する交差結合剤の種類は、皮膜に選択透過性を供給するために、第2のコーティングとして加えられた。しかしながら、ポリリジンおよび大部分の他の類似した分子は、カプセル化のために、ホストの反応を下げることを、アルギナートの付加的な第3のコーティングに要求して、刺激的な反応を招く。それに加えて、移植後、ホストの範囲内で反動的でない、非常に純粋なアルギン酸塩を生産することは、難しかった。アルギン酸塩マイクロカプセルのサイズを減らそうとすることは、2つの重大な課題を引き起こす。第1に、 いかなる細胞なしでも空の皮膜の非常に多量の生産。第2に、 より小さい皮膜の形成は、結果として、十分に被覆されていない細胞になる。マイクロカプセルの中心の中で含まれた細胞を保つための力がなく、それは不完全コーティングの危険性がカプセルのサイズの減少とともに指数的に上がる原因になる。コンフォーマルコーティングの生産は、アルギン酸塩マイクロカプセルでは示されなかった。
【0026】
カプセル化細胞の最後のカテゴリは、コンフォーマルコーティングである。コンフォーマルコーティング細胞集合体は、凝集物のサイズまたは形状を問わず細胞集合体のまわりにかなり均一な細胞コーティングを有するものである。このコーティングは厚み幅において均一なだけでなく、均一の免疫保護を提供するコーティングの保護選択透過特質においても均一であるであろう。さらにまた、それは強度および安定性においても均一であり、このように、被覆材料がホストの免疫系によって妨害されるのを防止する。
【0027】
これらのさまざまな方法を使用し、実現可能にする重要な形態は、関連したサイズであり、体内移植部位は15,000 IEQ/kg-BWの生理的結果を得ることを必要とした。静脈の門脈への膵島注射は、パック細胞の2−3ml 量を必要とした。マクロ機構は、米国の2ドル紙幣と等面積の表面積を必要とし、1膵島の厚さが(〜500μm)である、フラット・シートからなる。5%の装填密度を有する中空繊維からなるマクロ機構は、30メートルの繊維を必要とする。400−600μmの平均直径を有するアルギナート・マイクロカプセルは、50−170ml量を必要とする。しかしながら、25−50μmの厚さで被覆された膵島のPEGコンフォーマルコーティングは、6−12ml量だけを必要とし、体のほとんどいかなる部分にも注入することができた。
【0028】
生体適合性、化学的安定性、免疫保護と細胞過成長に対抗するための重合体カプセル化の厳しい必要条件は、細胞と他の生物材料をカプセル化する先行技術の方法の適用性を制限する。膜は、選択透過性で、化学的に安定していて、非常に高度な生体適合性の特性を持ち、細胞の面前で非中毒的・無毒に生産されなければならない。
【0029】
体液または組織にさらされている合成または天然材料は、生体適合材料として広く分類される。これらの生体適合材料は、それらが体内で最小または不都合のない反応をもたらすならば、生体適合性であると考えられる。生体適合材料を多くの使うために、生理的環境と材料間の相互作用が最小化されることは、望ましい。これらの用途のために、もし、移植、最小の刺激的反応に続いて、その表面に、最小の細胞成長があるならば、材料は「生体適合性である」とみなされる。そして、使用中にはアナフィラキシー・過敏症の所見はない。このように、材料は特定の体液でもなく、細胞免疫反応も非特異性の異物反応も全く誘発しないべきである。
【0030】
上記の反応の全てを防ぐことに成功する材料は、かなり珍しい。生体適合性は、より絶対的な状態よりむしろ程度の問題です。体液を包囲することに関連する、いかなる体内移植のインターフェイスで起る最初の事象は、タンパク質吸着である(Andrade, J. D. et al. (1986) V. Adv. Polym. Sci., 79:1-63)。天然材料の場合、材料がホストの免疫防衛機構の範ちゅうに存在する、特定の抗体が考えられる。この場合、強い免疫反応は起こるかもしれない。しかしながら、大部分の合成材料は、この種の反応を誘発しない。それらは、補体活性化経路を起動させ、血清タンパク質、例えば細胞接着性をもつ細胞接着分子(CAMs)を吸着することができる(Buck, C. A. et al. (1987) Ann. Rev. Cell Biol., 3:179-205)。
【0031】
タンパク質は、ほとんどいかなる種類の材料に吸着することができる。それらは、親水性と疎水性と同様に、陽性および/または陰性に荷電される領域がある。このように、それらはこれらのいろいろな領域のどれを通してでも移植された材料と相互に作用することができ、結果として移植表面で細胞増殖がなされる。C3bのような補足断片は、移植面で固定されることができて、化学誘引物質として作用することができる。それらは、順番に、例えばマクロファージと好中球のような刺激的な細胞を起動させることができ、移植において、それらの粘着作用と活性化を引き起こすことができる。これらの細胞は、外来物質を分解させて、消化しようとする。
【0032】
移植組織が非分解性で、摂取されるにはあまりに大きい、一つの活性化マクロファージである場合には、炎症性の細胞は貧食能に失敗する可能性があるかもしれない。そのような細胞のいくつかは、異物巨細胞を作り、結合することができる。この方法では、これらの細胞はインターロイキンのようなペルオキシド、加水分解酵素および化学誘引物質およびアナフィラキシー性剤を放出し、それは反応の過酷・厳格さを増大させる。それらはまた、外部の表層上の繊維芽細胞の激増を誘発する。
【0033】
材料の生体適合性を強化する過去の方法は、材料とその水環境間で界面エネルギの最小化の試みから始めた。固体および液体の類似した界面張力は、タンパク質吸着のために駆動力を最小化すると思われた。これは表面の減少した細胞粘着力と血栓形成に至ると考えられた。例えば、Amudeshwariらは、HEMAとMMAのそばで交差結合されるコラーゲンゲル類を使った(Amudeswari, S., et al. (1986) J. Biomed. Mater. Res. 20:1103-1109)。DesaiおよびHubbellは,ポリ(HEMA)-MMAコポリマーがいくらか非血栓遺伝子であることを示した(Desai, N. P. et al. (1989) J. Biomaterials Sci., Polym. Ed., 1:123-146; Desai, N. P. et al. (1989) Polym. Materials Sci. Eng., 62:731)。
【0034】
Hubbellらは(米国特許5,529,914および関連特許)、水溶性分子の光重合を使用している生物材料周辺で、生体適合性膜の形成のための方法を開示する。これらの方法の各々は、水溶性マクロマーを含んでいる重合系光重合開始剤(例えば染料)を使用している重合および可視または長い波長紫外線の形の放射線を利用する。
【0035】
当業者は、成功した細胞カプセル化の一つ以上の重要な特性を提供することができず、従来のカプセル技術は臨床利用に結びつかなかった。これらの特性は、以下のカテゴリに分類されることができる。
【0036】
生体適合性(Biocompatibility)―カプセル化機構を製造するのに用いられる材料は、ホスト反応を誘発してはならず、単独でこれらの材料によって免疫系の非特異性の起動を引き起こす可能性がある。免疫単離を考慮するとき、1つは、それが材料にホスト免疫細胞の非活性化状況において作用するだけであると認識しなければならない。もし、材料によってホスト免疫細胞の活性化がある場合、反応している免疫細胞は機構を包囲して、それを破壊しようと試みる。この一連の作用は、確かにカプセルによって広まって、おそらくカプセル化された細胞を破壊する多くのサイトカインを生産する。現在までテストされた大部分の機構は、ホストにおいて生体適合性の欠如によって、いくらかは破壊された。
【0037】
選択透過性(Permselectivity)−そこに重要なバランスが存在する。最も望ましい生存と機能を可能にし、全ての栄養分と廃棄物がカプセルの中を通ることを可能にし、カプセル化された細胞を囲んでいるカプセルにおいて可能であり、最大の気孔を有すること、と同時に、細胞分解を防ぐためにカプセル化された細胞から免疫系の全ての要素を遠ざけることがカプセルにおいて可能であり、最も小さい気孔を有すること。免疫サイトカインも中に入れないことが可能な小さい孔によって、栄養的な要素と廃棄物の拡散の不足から、カプセル化された細胞の死を引き起こす。最適な細胞カプセル化は、正確で一貫した選択透過性を有し、それはホスト免疫反応から単離を提供すると同様に、最大限の細胞生存および機能を認める。理想的には、このカプセル化技術は、細胞が同種異系移植か異種移植細胞であるかどうかに基づく孔サイズ変更と同様に、カプセル化細胞とそれらの機能によって、必要に応じて孔サイズを選んで、変更する能力を提供しなければならない。
【0038】
カプセル化細胞臓器活性度および機能(Encapsulated Cell Viability and Function)−カプセル化材料は、コーティング形成の間、形成中の基底上で、細胞毒性をカプセル化された細胞に示してはならない。さもないと、カプセル化された細胞の数は、減少して、病気または不具合の治療上効果的治療のために必要な数に達しない危険がある。
【0039】
関連サイズ(Relevant Size)−多くの構造物は、ホストの実際的な移植部位の箇所が制限されるような、かなりのサイズである。他の因子は、カプセル化細胞およびホスト間の相対的な拡散距離である。細胞生存のために最も重要な拡散性剤は、酸素である。これらの拡散距離は、酸素分圧の開始が体内の組織レベルで30−40mm Hg の範囲にある時から最小限でなければならない。初めに低い酸素分圧によるために、拡散性距離の減少に対する耐性がほとんどない。これは、細胞が適切に機能することができないか、または生存することができない程度まで、酸素濃度をさらに下げる。
【0040】
細胞検索または置換(Cell Retrieval or Replacement)−カプセル化構造物は、細胞の置換または補充を考慮に入れて、検索可能で、補充可能で、生物分解可能でなければならない。多くの構造物のデザインは、カプセル化細胞がホストで限られた生存期間があって、定期的な置換を必要とするという事実を考慮しなかった。
【0041】
治療的効果(Therapeutic Effect)−移植は、ホストにおいて疾患アプリケーションのための治療的効果を有し、機能細胞の充分な数を含まなければならない。
【0042】
臨床治療関連(Clinical Relevance)−カプセル化細胞構造物は、それが機能に最も少ない侵入か、最も生理学的部位に移植されることが可能である、総ボリュームまたはサイズを持たなければならない。それは現在病気または不具合を有するホストに直面した危険/利点の割合がある。
【0043】
商業的関連(Commercial Relevance)−カプセル化細胞構造物は、それが予定された疾患プロセスの長期治療継続中の基底上で生産され、上記の必要条件を満たされなければならない。
【0044】
糖尿病の影響を軽減するために膵島移植に使用する、特定の技術、方法または製品を評価するとき、上記の要因の全ては考慮に入れられなければならない。
【0045】
免疫抑制によるヒト膵島移植は、肋骨、肝臓、門脈に、経皮的直接注射によって非カプセル化膵島を注入することによってされる。基本的に、静脈切開術を経て臍静脈注射によってされる最初のものを除いて、ヒト膵島移植の全ては、この技術によって施されてきた。この手順の主な危険性は、膵島の門脈への注入が、注入率に従い増大した入口の静脈圧につながるという事実と注入される量である。もう一つの危険は、十分に浄化されないで注射された膵島組織のかなりの量の投与による高い入口静脈圧であった。これは、手順を複雑化し、門脈の静脈血栓症に至る。循環器系放射線医がカテーテルを引き下げる準備をして、ゼラチンのボーラス・大量瞬時投与は、注射部位から大量出血するのを妨げるために残される。残念なことに、数人の患者は、この手順に従って出血性発症した。
【0046】
門脈に膵島を注入することに加えて、いく人かの患者は、体内の脾臓に膵島を注入された。脾臓は、これらの注射が、脾臓への注射が切開手順によってなされたどの時点でも、腎臓移植時に実行されたように、肝臓より壊れやすい。自由に腹腔に膵島を注入することは、造作なくマウス移植において実行された。より大きな動物またはヒトでこのサイトを使う際に、門脈移植において必要とされるより、膵島の数が2倍、腹腔において必要であることが分かった。拒絶反応または炎症反応が起こるならば、その時癒着が腹膜のひだと同様に、腸の輪の間に組織する傾向がある。この反応は、例えば腸閉塞のような付加的な長期課題に誘導される。このように、皮下部位へのカプセル化膵島移植を実行する手法は、これらの他のサイトと関連する複雑化をかなり減少させる。
【0047】
カプセル化膵島の皮下移植の試みは、おそらく上記で記載されている一部または全てにおける化学的チャレンジによって、糖尿病治療の持続可能な成果をもたらすことができなかった。Tatarkiewiczら(Transplantation Proceedings 1998, 30, 479-480)は、マウス膵島の移植を開示して、マウスの皮下において拡散組織が構造物に運ぶことを含んだ。Kawakamiら(Cell Transplantation 1997 6, 5:541-545)は、ラットの皮下に、アガロース-PSSaでカプセル化した膵臓β細胞を移植した。移植後、細胞からのインスリン分泌は維持されたが、しかしこの研究は、単に1週間にわたりカプセル化した膵島細胞の皮下移植を観察しただけだった。細胞のインスリン分泌反応が皮下移植において長期間維持されたという証拠は、提供されなかった。Kawakamiら(Transplantation 2002, 73,122-129)は、ラット膵島をアガロース/ポリ(スチレンスルホン酸)混合ゲルに入れて、カプセル化細胞をprevascularizedされた皮下部位に移植した。Stockleyら(J. Lab. Clin. Med. 135:484-492)は、カプセル化同種MDCK細胞が、アルギナート-ポリL-リジン-アルギン酸塩(alginate-poly-L-lysine-alginate)のヒト成長ホルモンを分泌することを巧みに処置して、皮下にそれらを移植した。Stockleyらのカプセル化細胞は、ほぼ1.5mmの直径を有すると推定される。もしそれが、そうであるならば、使われるカプセル容量は100μlで、そして、この容量はカプセル化された細胞以外の構成要素を含まない。Stockleyは、適用されるカプセル化細胞の実際の量に関する情報を提供していない。当業者は、個体に実施するために必要なカプセル化細胞の望ましい量を測定することができない。
【発明の開示】
【0048】
実施の一形態では、本発明は、約900ダルトンから約3,000ダルトンの間の分子量を有するポリエチレングリコール(PEG)コーティングを有する複数のカプセル状構造物と、当該カプセル状構造物でカプセル化された複数の細胞とを含み、少なくとも約100,000 cells/mlの細胞密度を有する細胞治療用組成物に係るものである。好ましい実施形態では、上記カプセル状構造物はマイクロカプセルであり、更に好ましい実施形態では、上記マイクロカプセルはコンフォーマルコーティングされた細胞集合体である。また好ましくは、上記細胞集合体は膵島であり、その細胞密度は少なくとも約6,000,000 cells/ml である。
【0049】
好ましい実施形態では、細胞は、神経、心血管、肝臓、内分泌、皮膚、造血、免疫、神経分泌、代謝的、組織的、又は遺伝的な細胞である。また好ましくは、細胞は、自己由来(自家)、同種異系、異種、又は遺伝的に改変されたものであり、更に好ましい実施形態では、細胞はインスリン産生細胞である。
【0050】
他の態様では、本発明は、平均直径400μm未満の複数のカプセル状構造物を含み、当該カプセル状構造物はカプセル化のための材料でカプセル化された細胞を含むものであって、少なくとも約500,000 cells/mlの細胞密度を有する治療上有効な組成物に係るものである。好ましい実施形態では、カプセル状構造物の平均直径は300ミクロン未満であり、更に好ましい実施形態では、カプセル状構造物の平均直径は200ミクロン未満、より好ましくは100ミクロン未満、更に好ましくは50ミクロン未満である。
【0051】
更に他の実施形態では、本発明は、平均直径400μm未満の複数のカプセル状構造物を含み、当該カプセル状構造物はカプセル化の材料でカプセル化された細胞を含むものであって、細胞容量に対するカプセル状構造物の容量の比率が約20:1より少ない治療上有効な組成物に係るものである。好ましい実施形態では、細胞容量に対するカプセル状構造物の容量の比率が約10:1より少なく、更に好ましくは約2:1より少ない。
【0052】
他の実施形態では、本発明は、ここで説明する治療用組成物の使用法であって、疾患または不具合に対する治療を必要とする動物の移植部位に当該組成物を移植するステップを含む方法に係るものである。
【0053】
好ましい実施形態では、本発明は、900ダルトンから3,000ダルトンの間の分子量を有するポリエチレングリコール(PEG)コーティングを有するカプセル状構造物を含み、細胞密度が少なくとも約100,000 cells/mlである治療用組成物の使用法であって、疾患または不具合に対する治療を必要とする動物の移植部位に当該組成物を移植するステップを含む方法に係るものであり、好ましくは、当該移植は注射による。
【0054】
好ましい実施形態では、疾患または不具合は、神経、心血管、肝臓、内分泌、皮膚、造血、免疫、神経分泌のもの、代謝的、組織的、又は遺伝的なものである。より好ましくは、疾患は内分泌性疾患であり、更に好ましくは糖尿病である。
【0055】
好ましい実施形態では、動物は、偶蹄目、食肉目、クジラ目、奇蹄目、霊長類、ゾウ目、又はウサギ目の獣類亜綱目であり、より好ましくは、ヒトである。
【0056】
好ましい実施形態では、移植部位は、皮下、筋肉内、臓器内、器官の動脈/静脈血管内、脳脊髄液、又はリンパ液であり、好ましくは、皮下である。更に好ましい方法は、皮下の移植部位にカプセルで包んだ膵島を移植する工程を含む。
【0057】
好ましい実施形態では、疾患または不具合に対する治療を必要とする動物の移植部位に組成物を移植する方法はまた、免疫抑制剤または抗炎症剤を投与するステップを含む。好ましくは、免疫抑制剤または抗炎症剤の投与期間は6月未満であり、より好ましくは、1月未満である。
【0058】
他の好ましい実施形態では、本発明は、平均直径400μm未満の複数のカプセル状構造物を含み、当該カプセル状構造物はカプセル化のための材料でカプセル化された細胞を含み、細胞密度が少なくとも約500,000 cells/mlである治療用組成物の使用法であって、疾患または不具合に対する治療を必要とする動物の移植部位に当該組成物を移植するステップを含む方法に係るものであり、好ましくは、当該移植は注射による。
【0059】
好ましくは、疾患または不具合は、神経、心血管、肝臓、内分泌、皮膚、造血、免疫、神経分泌のもの、代謝的、組織的、又は遺伝的なものである。より好ましくは、疾患は糖尿病である。
【0060】
好ましくは、動物は、偶蹄目、食肉目、クジラ目、奇蹄目、霊長類、ゾウ目、又はウサギ目の獣類亜綱目であり、より好ましくは、ヒトである。
【0061】
好ましくは、移植部位は、皮下、筋肉内、臓器内、器官の動脈/静脈血管内、脳脊髄液、又はリンパ液であり、より好ましくは、皮下である。更に好ましい方法は、皮下の移植部位にカプセルで包んだ膵島を移植する工程を含む。
【0062】
好ましい実施形態では、疾患または不具合に対する治療を必要とする動物の移植部位に組成物を移植する方法はまた、免疫抑制剤または抗炎症剤を投与するステップを含む。好ましくは、免疫抑制剤または抗炎症剤の投与期間は6月未満であり、より好ましくは、1月未満である。
【0063】
他の実施形態では、本発明は、以下のステップを含む生物材料をカプセルで包む方法に係るものである:
生物材料に第1のバッファーを含む溶液を添加する工程;
ペレット状の生物材料を形成するために、生物材料を遠心分離する工程;
上澄みを除去する工程;
ペレット状の生物材料に、細胞吸着材料と結合した光重合開始剤染料を含む溶液を添加する工程;
効果的な時間、細胞吸着材料と結合した光重合開始剤染料を含む溶液に、ペレット状の生物材料を再懸濁させ、インキュベートする工程;
混合物を遠心分離する工程;
細胞吸着材料と結合した光重合開始剤染料を含む溶液を除去する工程;
第2のバッファーを含む第2溶液でペレット状の生物材料を再懸濁する工程;
第2のバッファーを遠心分離し除去する工程;
光学活性ポリマー溶液に生物材料を再懸濁させ、混合する工程;及び
カプセル化した生物材料を形成するために、光学活性ポリマー溶液で再懸濁された生物材料に対し、エネルギ源を用いて照射する工程。
好ましくは、カプセル化した生物材料は、PEGでコンフォーマルコーティングされた膵島の同種移植である。
【0064】
好ましくは、細胞吸着材料は、ポリカチオン性ポリマーである。好ましい実施形態では、ポリカチオン性ポリマーは、PAMAMデンドリマー、又はポリ(エチレンイミン)である。
【0065】
好ましくは、生物材料は、器官、組織または細胞であり、より好ましくは、組織は、一群のインスリン産生細胞であり、細胞は、インスリン産生細胞である。
【0066】
好ましい実施形態では、第1及び第2のバッファーは、1〜200mMであり、より好ましくは、10〜50mM、更に好ましくは、20mMである。
【0067】
好ましい実施形態では、光重合開始剤は、カルボキシエオシン、エチルエオシン、エオシンY、フルオレセイン、2,2-ジメトキシ, 2-フェニルアセトフェノン、2-メトキシ, 2-フェニルアセトフェノン、カンホルキノン、ローズベンガル、メチレンブルー、エリトロシン、フロキシン、チオニン、リボフラビン、またはメチレングリーンであり、より好ましくは、カルボキシエオシンである。
【0068】
好ましい実施形態では、光学活性ポリマー溶液は、重合可能で高密度に不飽和化したPEGおよびスルホン化コモノマーを含む。より好ましくは、重合可能で高密度に不飽和化したPEGは、高密度にアクリル酸化したPEGである。また好ましくは、重合可能で高密度にアクリル酸化したPEGは、1.1kDの分子量を有する。
【0069】
好ましい実施形態では、スルホン化コモノマーは、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、4-スチレンスルホン酸、3-スルホプロピルアクリル酸、3-スルホプロピルメタクリル酸、または、n-ビニルマレイミドスルホン酸であり、より好ましくは、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸である。
【0070】
好ましい実施形態では、光学活性ポリマー溶液は、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、ジベンジルアミノN-ベンジルエタノールアミン、N-イソプロピルベンジルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、過硫酸カリウム、テトラメチルエチレンジアミン、リジン、オルニチン、ヒスチジン、又はアルギニンである共触媒をさらに含む。共触媒は、より好ましくは、トリエタノールアミンである。
【0071】
好ましい実施形態では、光学活性ポリマー溶液は、N-ビニルピロリジノン、2-ビニルピリジン、1-ビニルイミダゾール、9-ビニルカルバゾン、9-ビニルカルバゾール、アクリル酸、n-ビニルカルポラクタム、2-アリル-2-メチル-1,3-シクロペンタンジオン、又は2-ヒドロキシエチルアクリル酸である促進剤をさらに含む。促進剤は、より好ましくは、N-ビニルピロリジノンである。
【0072】
好ましい実施形態では、光学活性ポリマー溶液は、天然ポリマー及び合成ポリマーなどから選択される粘度増強剤をさらに含む。より好ましくは、粘度増強剤は、3.5kD PEG-トリオールまたは4kD PEG-ジオールである。
【0073】
好ましい実施形態では、光学活性ポリマー溶液は、密度調整剤をさらに含む。より好ましくは、密度調整剤は、ナイコデンツまたはフィコールである。
【0074】
好ましい実施形態では、光学活性ポリマー溶液は、“Good”バッファーをさらに含む。より好ましくは、“Good”バッファーは、HEPESまたはMOPSであり、更に好ましくは、“Good”バッファーは、MOPSである。
【0075】
好ましい実施形態では、エネルギ源は、アルゴンレーザである。
【0076】
好ましい実施形態では、カプセルで包む方法のための生物材料は、神経、心血管、肝臓、内分泌、皮膚、造血、免疫、神経分泌のもの、代謝的、組織的、または遺伝的なものである。
【0077】
好ましい実施形態では、生物材料は、哺乳綱の獣類亜綱目の動物のものである。より好ましくは、動物は、偶蹄目、食肉目、クジラ目、奇蹄目、霊長類、ゾウ目、またはウサギ目の獣類亜綱目であり、更に好ましくは、ヒトである。
【0078】
他の実施形態では、本発明は、900ダルトンから3,000ダルトンの間の分子量を有し、重合可能で高密度に不飽和したPEG、およびスルホン化コモノマーを含む、生物材料をカプセル化するための組成物に係る。好ましい実施形態では、重合可能で高密度に不飽和化したPEGは、重合可能で高密度にアクリル酸化したPEGであり、更に好ましくは、重合可能で高密度にアクリル酸化したPEGは、1.1kDの分子量を有する。
【0079】
好ましい実施形態では、スルホン化コモノマーは、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、4-スチレンスルホン酸、3-スルホプロピルアクリル酸、3-スルホプロピルメタクリル酸、又は、n-ビニルマレイミドスルホン酸であり、より好ましくは、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸である。
【0080】
好ましい実施形態では、生物材料をカプセル化するための組成物は、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、ジベンジルアミノN-ベンジルエタノールアミン、N-イソプロピルベンジルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、過硫酸カリウム、テトラメチルエチレンジアミン、リジン、オルニチン、ヒスチジン又はアルギニンである共触媒をさらに含む。共触媒は、より好ましくは、トリエタノールアミンである。
【0081】
好ましい実施形態では、生物材料をカプセル化するための組成物は、N-ビニルピロリジノン、2-ビニルピリジン、1-ビニルイミダゾール、9-ビニルカルバゾン、9-ビニルカルバゾール、アクリル酸、n-ビニルカルポラクタム、2-アリル-2-メチル-1,3-シクロペンタンジオン、又は、2-ヒドロキシエチルアクリル酸である促進剤をさらに含む。促進剤は、より好ましくは、N-ビニルピロリジノンである。
【0082】
好ましい実施形態では、生物材料をカプセル化するための組成物は、少なくともスコア約「2」で生体適合性である。組成物は、好ましくは哺乳類、より好ましくは亜人霊長類、更に好ましくはヒトにおいて、少なくともスコア約「2」で生体適合性である。
【0083】
好ましい実施形態では、生物材料をカプセル化するための組成物は、選択透過性を有する。より好ましくは、選択透過性は、組成物を加工することによって得ることができる。
【0084】
好ましい実施形態では、生物材料をカプセル化するための組成物は、少なくともスコア約「2」で細胞機能許容性を有する。組成物は、好ましくは哺乳類、より好ましくは亜人霊長類、更に好ましくはヒトにおいて、少なくともスコア約「2」で細胞機能許容性を有する。
【0085】
好ましい実施形態では、生物材料をカプセル化するための組成物は、生分解性である。組成物は、好ましくは哺乳類、より好ましくは亜人霊長類、更に好ましくはヒトにおいて、生分解性である。
【0086】
本発明の更なる態様、特徴および利点は、以下の好ましい実施形態に関する詳細な説明から明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0087】
図1Aは、単離された霊長類カニクイザル膵島の写真である。
【0088】
図1Bは、PEGでコンフォーマルコーティングされた霊長類カニクイザル膵島の写真である。
【0089】
図2は、デンドリマーエオシンY結合体の合成を示す。
【0090】
図3は、第2世代のデンドリマーを示す。実施例では、第4世代のデンドリマーが使われる。それは、例示の第2世代のデンドリマーよりもかなり分枝したものになっている。
【0091】
図4は、FDA/EBテストにより1、2および4のスコアで測定された、カプセル化された細胞の生存能力を示す。
【0092】
図5は、PEGコーティングの形成に関与する変量を変えることによって、アルギン酸塩/PEGマイクロカプセルの選択透過性プロファイルを変える能力を示す。アルギン酸塩/PEGでカプセル化された膵島がインキュベートされ、細胞から放出されたタンパク質の分子量が測定された。非カプセル化膵島から放出されたタンパク質は、最も左側の列に示される。隣は、分子量マーカーの列である。その次の列は、アルギン酸塩/PEGでカプセル化された膵島から放出されたタンパク質を示す。該膵島は、それぞれ、100kD以上、100kD、60kD未満、30kD未満および0kDのタンパク質を放出した。
【0093】
図6は、静的グルコース刺激試験(Static Glucose Stimulation test)によるカプセル化された膵島の機能を示す。異なる代表的なタンパク質拡散プロファイルが、オープンコーティング(>200kD)を「1」で、中間(100−200kD)を「2」で、タイト(<100kD)を「3」で、スコアされている。
【0094】
図7は、コンフォーマルコーティングされたマウス膵島が腹腔内移植された無胸腺マウスにて測定された血糖値のグラフである。
【0095】
図8は、コンフォーマルコーティングされたマウス膵島が皮下移植された無胸腺マウスにて測定された血糖値のグラフである。
【0096】
図9は、コンフォーマルコーティングされたマウス同種移植膵島が腹腔内移植されたCD1マウスにて測定された血糖値のグラフである。
【0097】
図10は、コンフォーマルコーティングされたマウス同種移植膵島が高用量皮下移植されたCD1マウスにて測定された血糖値のグラフである。
【0098】
図11は、PEGでコンフォーマルコーティングされたマウス同種移植膵島が移植された2匹の糖尿病NODマウスにて測定された血糖値のグラフである。
【0099】
図12は、コンフォーマルコーティングされた亜人霊長類膵島が皮下移植された糖尿病無胸腺マウスにて測定された血糖値のグラフである。
【0100】
図13は、コンフォーマルコーティングされたヒト膵島が腹腔内移植された糖尿病無胸腺マウスにて測定された血糖値のグラフである。
【0101】
図14は、コンフォーマルコーティングされたヒト膵島が皮下移植された糖尿病無胸腺マウスにて測定された血糖値のグラフである。
【0102】
図15は、PEGでコンフォーマルコーティングされた同種移植膵島の皮下移植後、部分的に膵臓切除された霊長類カニクイザルの血糖値およびインスリン必要量のグラフである。
【0103】
図16Aは、カプセル化された同種移植膵島の皮下移植100日後に、組織を抗インスリン染色した写真である。
【0104】
図16Bは、カプセル化された同種移植膵島の皮下移植100日後に、組織を抗インスリン染色した写真である。
【0105】
図16Cは、部分的に膵臓切除された霊長類カニクイザルの残存膵臓組織を抗グルカゴン染色した写真である。
【0106】
図16Dは、部分的に膵臓切除された霊長類カニクイザルの残存膵臓組織を抗グルカゴン染色した写真である。
【0107】
図17は、ストレプトゾトシンで誘発された糖尿病の霊長類カニクイザルに対し、免疫抑制薬の投与なしに、カプセル化された同種移植膵島を皮下移植した場合の血糖値(mg/dL)およびインスリン必要量を示すグラフである。[■=血糖値、●=インスリン]
【0108】
図18は、ストレプトゾトシンで誘発された糖尿病の霊長類カニクイザルに対し、30日間低用量のシクロスポリンとメトホルミン投与と共に、カプセル化された同種移植膵島を皮下移植した場合の血糖値(mg/dL)およびインスリン必要量を示すグラフである。[■=血糖値、●=インスリン]
【0109】
図19は、ストレプトゾトシンで誘発された糖尿病の霊長類カニクイザルに対し、30日間低用量のシクロスポリンとメトホルミン投与と共に、カプセル化された同種移植膵島を皮下移植し、285日後の組織を示す写真である。
【0110】
図20は、ストレプトゾトシンで誘発された糖尿病の霊長類カニクイザルに対し、30日間低用量のシクロスポリンとメトホルミン投与と共に、カプセル化された同種移植膵島を皮下移植し、248日後に抗インスリン染色した組織を示す写真である。
【0111】
図21は、糖尿病の誘導前(ベースライン、n = 4)、および移植後85日(n = 3)、114日(n = 1)の霊長類カニクイザルの糖化ヘモグロビン値を示すグラフ図である。
【0112】
図22は、ストレプトゾトシンで誘発された糖尿病ヒヒに対し、30日間低用量のシクロスポリンとメトホルミン投与と共に、カプセル化された同種移植膵島を皮下移植した場合の血糖値(mg/dL)およびインスリン必要量を示すグラフである。[◆=血糖値、●=インスリン]
【0113】
図23は、ストレプトゾトシンで誘発された糖尿病ヒヒに対し、30日間低用量のシクロスポリンとメトホルミン投与と共に、カプセル化された同種移植膵島を皮下移植した場合の糖化ヘモグロビンA1cを示すグラフである。
【0114】
図24は、ストレプトゾトシンで誘発された糖尿病ヒヒに対し、30日間低用量のシクロスポリン投与と共に、カプセル化された同種移植膵島を皮下移植した場合の血糖値(mg/dL)およびインスリン必要量を示すグラフである。[◆=血糖値、●=インスリン]
【0115】
図25は、ストレプトゾトシンで誘発された糖尿病ヒヒに対し、30日間低用量のシクロスポリンと共に、カプセル化された同種移植膵島を皮下移植した場合の糖化ヘモグロビンA1cを示すグラフである。
【0116】
図26は、アルギン酸塩のみ、及び、異なる組成のアルギン酸塩/PEGマイクロカプセルでカプセル化され、異なる選択透過性プロファイルのコーティングを有するブタ膵島を、正常な霊長類カニクイザルに7日間移植した後の該膵島の生存割合を示す。異なる選択透過性の値は、0kD、30−60kD、100kDおよび200kD超であった。
【0117】
図27は、アルギン酸塩/PEGマイクロカプセルでカプセル化されたブタ膵島を、あわせて30日間抗CD154抗体処理を施した糖尿病カニクイザルの腹膜腔に移植した結果を示す。
【0118】
図28A及びBは、異なるインシュリノーマ腫瘍細胞系統(NIT)を凝集しコートするためのPEGコンフォーマルコーティング技術の使用、及び、これにより2週間組織培養において生存が保たれることを示す。コートされた細胞は、通常光の下で(図26A)、及び、FDA/EB染色した蛍光の下で(図26B)示される。
【0119】
図29A及びBは、他の細胞系統であり、カプセル化した後に生存能力を維持するサル胎児肺細胞をPEGでコンフォーマルコーティングした結果を示す。図88Aは通常光の下での細胞、図88BはFDA/EB染色した蛍光の下での細胞を示す。
【0120】
図30A−Dは、ヒト及びマウス由来の初代肝細胞(肝細胞)から生産された細胞集合体をPEGでコンフォーマルコーティングし、2週間の培養で生存が維持されたことを示す。図28Aは、FDA/EB染色した蛍光の下で、2週間培養後のヒト細胞を示す。図28Bは、通常光の下で、2週間培養後のヒト細胞を示す。図28C及び28Dは、FDA/EB染色した蛍光下(89C)及び通常光下(89D)でのマウス細胞を示す。
【0121】
図31A−Dは、異なる部位に移植された空のアルギン酸塩/PEGマイクロカプセルを有する4つの異なる種(91A−マウスIP、91B− ブタPV、91C−イヌPVおよび91D−霊長類PV)における生体適合性反応を示す。本図は、1.1kD PEGトリアクリレートでコーティングされた空のアルギン酸塩マイクロカプセルを肝臓門脈に注入した結果を示す。
【0122】
図32は、スコア値1、2および3で、代表的組織での小動物におけるカプセル化された細胞の生体適合性を示す。
【0123】
図33は、スコア値1、2および4で、代表的組織での大動物におけるカプセル化された細胞の生体適合性を示す。
【0124】
図34は、スコア値1、2および3で、ストレプトゾトシンで誘発された糖尿病無胸腺マウスに移植されたカプセル化膵島の機能性を示す。
【発明の詳細な説明】
【0125】
本発明の1つの好ましい実施形態は、治療を必要とする個体(患者)に対して、神経(例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、多発性硬化症、失明、末梢性神経損傷、脊髄損傷、苦痛および中毒)、心血管(例えば、冠状動脈、脈管形成移植、弁および細血管)、肝臓(例えば、急性肝不全、慢性肝不全および肝臓に影響を与える遺伝疾患)、内分泌(例えば、糖尿病、肥満、ストレス、副腎、副甲状腺、精巣、及び卵巣の疾患)、皮膚(例えば、慢性潰瘍、真皮及び毛幹細胞の疾患)、造血(例えば、第VIII因子およびエリスロポエチン)、または免疫(例えば、免疫不全や自己免疫疾患)などにおける、1以上の疾患または不具合を治療する組成物および方法に関し、以下の事柄を含む。
例えば、膵島、肝組織、内分泌組織、皮膚細胞、造血細胞、骨髄幹細胞、腎組織、筋細胞、神経細胞、幹細胞、胚性幹細胞、器官特異的前駆(始原)細胞などの細胞や組織、あるいは、特定因子を生産するよう遺伝子工学的に改変された細胞や組織を提供すること。さらに、次のような由来の細胞や組織を提供すること、
アルギン酸塩、アガロース、キトサン、ポリ(アミノ酸)、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デキストラン、デキストラン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸、ヘパラン硫酸、ジェランガム、キサンタンガム、グアーガム、水溶性セルロース誘導体、カラゲナンなどの多糖類、ゼラチン、コラーゲン、アルブミンなどのタンパク質、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリル酸)(PHEMA)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(酸化エチレン)(PEO)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)、ポリ(thyloxazoline)(PEOX)、又はこれらの組み合わせ(例えば、PEGとアルギン酸塩との混合物)などの、不飽和の官能基または誘導体を有する水溶性合成ポリマー、あるいは、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(乳酸)(PLA)、これらの共重合体(PLA-GA)、又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの、より疎水性又は不溶性ポリマーといった、物理的または化学的に架橋可能なポリマーからなる、ヒドロゲルなどの少なくとも1つのカプセル化のための材料内に細胞や組織を包むこと、及び
治療を必要とする個体に対して、皮下注射または移植、あるいは器官実質への直接注射、又は器官の血管系を介した注射によって器官へ直接、カプセル化した細胞または組織を治療上効果量投与すること。
【0126】
器官は、限定されるものではないが、肝臓、脾臓、腎、肺、心臓、脳、脊髄、筋肉および骨髄から選択することができる。治療を必要とする動物種は、限定されるものではないが、ヒト、亜人霊長類、ウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ウサギなどの哺乳類、及びニワトリ、七面鳥、魚などの他の動物から選択することができる。
【0127】
本発明の他の実施形態では、カプセル化した細胞または組織は、免疫抑制剤および/または抗炎症剤と組み合わせて、治療を必要とする個体に投与される。免疫抑制剤は、特に制限されないが、シクロスポリン、シロリムス、ラパマイシンまたはタクロリムスから選ぶことができる。抗炎症剤は、特に制限されないが、アスピリン、イブプロフェン、ステロイドおよび非ステロイド系抗炎症剤から選ぶことができる。好ましくは、免疫抑制剤および/または抗炎症薬剤は、カプセル化した細胞や組織の移植または注入後6月間(より好ましくは1月間)投与される。
【0128】
好ましい実施形態において、カプセル化した膵島は、皮下または肝臓や脾臓に移植あるいは注射される。本発明の一態様では、コンフォーマルコーティングされた膵島が、皮下に投与される。
【0129】
好ましくは、カプセル化の材料は、アクリル酸化したPEGと、N-ビニルピロリジノン、2-ビニルピリジン、1-ビニルイミダゾール、9-ビニルカルバゾン、アクリル酸、2-アリル-2-メチル-1,3-シクロペンタンジオン、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、3-スルホプロピルアクリル酸、3-スルホプロピルメタクリル酸、及び2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸などの、少なくとも1つのコモノマーを含んでいる。より好ましくは、カプセル化の材料は、アクリル酸化したPEGと、コモノマーとして2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(AMPS)および/またはN-ビニルピロリジノン(NVP)を含み、界面光重合プロセスなどの工程によるコンフォーマルコーティングでカプセル化された細胞または組織を形成する。
【0130】
本発明のいくつかの実施形態では、カプセル化のための溶液の原料および組成物の濃度は、変更可能である。好ましい濃度範囲は、以下のとおりである。
【0131】
バッファー溶液の好ましい濃度は、1〜200mM、より好ましくは5〜100mM、更に好ましくは10〜50mMである。
【0132】
CaCl2の好ましい濃度は、0.1〜40mM、より好ましくは0.5〜20mM、更に好ましくは1〜5mMである。
【0133】
マニトールの好ましい濃度は、10mM〜6M、より好ましくは50mM〜3M、更に好ましくは100mM〜1M、より一層好ましくは200〜300mMである。
【0134】
CaCl2/マニトール溶液の好ましいpH値は、6〜8、より好ましくは6.4〜7.6、更に好ましくは6.6〜 7.4である。
【0135】
DEN-EYの好ましい濃度は、0.005 〜 8 mg/ml、より好ましくは0.01 〜 4 mg/ml、更に好ましくは0.05〜 2 mg/mlである。
【0136】
DEN-EYの好ましい結合レベルは、0.15 〜 68、より好ましくは1 〜 34、更に好ましくは1.5 〜 15である。
【0137】
マクロマー溶液の好ましいpH値は、6.5 〜 9.5、より好ましくは7〜9、更に好ましくは7.5〜 8.5である。
【0138】
PEG TAの好ましい濃度は、0.1〜100%、より好ましくは0.2〜 50%、更に好ましくは1 〜25%である。
【0139】
PEG TAの好ましい密度は、0.05 〜 20 K、より好ましくは0.1 〜10 K、更に好ましくは0.5 〜5 K、より一層好ましくは0.8 〜 2.5 Kである。
【0140】
PEG-triolの好ましい濃度は、0.1〜100%、より好ましくは1〜75%、更に好ましくは2 〜 50%である。
【0141】
PEG-triolの好ましい密度は、0.15 〜70 K、より好ましくは0.3 〜 35 K、更に好ましくは1.5〜15 K、より一層好ましくは2.3 〜7.5 Kである。
【0142】
PEG-diolの好ましい濃度は、0.1〜100%、より好ましくは1〜75%、更に好ましくは2 〜 50%である。
【0143】
PEG-diolの好ましい密度は、0.2〜 80 K、より好ましくは0.5 〜 40 K、更に好ましくは1〜 20 K、より一層好ましくは2 〜10 Kである。
【0144】
TEoAの好ましい濃度は、5 mM 〜 2 M、より好ましくは10 mM 〜 1M、更に好ましくは50〜500 mM、より一層好ましくは75 〜 125 mMである。
【0145】
AMPSの好ましい濃度は、2 〜640 mg/ml、より好ましくは5 〜300 mg/ml、更に好ましくは10〜150 mg/mlである。
【0146】
NVPの好ましい濃度は、0.01 〜40 μl/ml、より好ましくは0.1 〜 20 μl/ml、更に好ましくは0.5〜 10 μl/mlである。
【0147】
ナイコデンツの好ましい濃度は、0.1 〜100%、より好ましくは1 〜50%、更に好ましくは5〜 25%である。
【0148】
レーザの好ましい強度は、10 mW/cm2 〜 4 W/cm2、より好ましくは25 mW/cm2 〜 2 W/cm2、更に好ましくは75 mW/cm2 〜 1 W/cm2である。
【0149】
光源の好ましい時間は、3秒〜20分、より好ましくは6秒 〜10分、更に好ましくは12秒〜3分である。
【0150】
一実施形態において、カプセル化の材料は、少なくとも一つの細胞または組織を球形に包むヒドロゲルを含む。他の実施形態では、カプセル化の材料は、アクリル酸PEGを含む他のカプセル化の材料でコンフォーマルコーティングされたアルギン酸塩マイクロカプセルである。また一実施形態では、細胞または組織は、生体適合性アルギン酸塩マイクロカプセルでカプセル化され、該アルギン酸塩は、PEGまたはヒアルロン酸などの生体適合材料でコーティングし、アルギン酸塩を精製し、および/または、ポリリシンを除去しPEGと置換することによって生体適合性とされる。
【0151】
より好ましくは、治療対象の疾患は糖尿病であり、細胞または組織には、インスリン産生細胞または組織、膵細胞または組織に由来する細胞または組織、あるいは、インスリン産生細胞に分化する前駆(始原)細胞や幹細胞に由来する細胞または組織が含まれる。また、カプセルで包んだ細胞や組織は、皮下や肝臓への注射、移植により、治療を必要とする個体に投与される。
【0152】
本発明の一実施形態によれば、インスリン産生細胞または組織をカプセル化したマイクロカプセルの好ましい平均直径は、10 μm 〜 1000 μm 、より好ましくは100 μm 〜 600 μm、更に好ましくは150 μm〜 500 μm、より一層好ましくは200 μm 〜 300 μmである。 本発明の他の実施形態では、マイクロカプセルでカプセル化されたインスリン産生細胞または組織は、少なくとも2,000 IEQ (islet equivalents)/ml、好ましくは少なくとも9,000 IEQ/ml、更に好ましくは少なくとも200,000 IEQ/mlの濃度である。本発明の他の実施形態では、マイクロカプセルでカプセル化されたインスリン産生細胞または組織の投与量は、個体のキログラム体重あたり、0.001 ml 〜 10 ml 、好ましくは0.01 ml 〜 7 ml、より好ましくは0.05 ml 〜 2 mlである。本発明の更に他の実施形態では、インスリン産生細胞または組織量に対するマイクロカプセル量の割合は、300未満対1、好ましくは100未満対1、より好ましくは50未満対1、更に好ましくは20未満対1である。
【0153】
本発明の一実施形態によれば、コンフォーマルコーティングされているインスリン産生細胞または組織の平均膜厚は、1〜400 μm、好ましくは10〜200 μm 、より好ましくは10〜100 μmである。本発明の他の実施形態では、コンフォーマルコーティングされているインスリン産生細胞または組織は、少なくとも10,000 IEQ/ml、好ましくは少なくとも70,000 IEQ/ml、更に好ましくは少なくとも125,000 IEQ/ml、より一層好ましくは少なくとも200,000 IEQ/mlの濃度である。本発明の一実施形態によれば、コンフォーマルコーティングされているインスリン産生細胞または組織の投与量は、個体のキログラム体重あたり、0.01 〜 7 ml、好ましくは0.01〜2 ml、より好ましくは0.04〜 0.5 mlである。本発明の他の実施形態では、インスリン産生細胞または組織の量に対するコンフォーマルコーティング量の割合は、13未満対1、好ましくは8未満対1、より好ましくは5未満対1、更に好ましくは2.5未満対1である。
【0154】
本発明の一実施形態によれば、カプセル化した細胞または組織のマイクロカプセルは、10 μm 〜 1000 μm 、好ましくは100 μm 〜 600 μm、より好ましくは、150 μm〜 500 μm、更に好ましくは200 μm 〜 300 μmの平均直径を有する。本発明の他の実施形態では、インスリン産生細胞または組織の量に対するマイクロカプセル量の割合は、300未満対1、好ましくは100未満対1、より好ましくは50未満対1、更に好ましくは20未満対1である。
【0155】
本発明の一実施形態によれば、コンフォーマルコーティングされている細胞または組織の平均膜厚は、1〜400 μm、好ましくは10〜200 μm 、より好ましくは10〜100 μmである。本発明の他の実施形態では、細胞または組織の量に対するコンフォーマルコーティング量の割合は、13未満対1、好ましくは8未満対1、より好ましくは5未満対1、更に好ましくは2.5未満対1である。
【0156】
本発明の一実施形態は、細胞密度が少なくとも約100,000 cells/mlであるカプセル状の細胞または組織に関する。好ましくは、カプセル状の細胞は、コンフォーマルコーティングされている。より好ましくは、細胞は、アクリル酸PEGを含むカプセル化の材料でコンフォーマルコーティングされている。他の実施形態では、本発明は、細胞密度が少なくとも約6,000,000 cells/mlであり、好ましくは治効量が個体のキログラム体重あたり約2ml未満である、カプセル状の膵島を投与することを含む、個体の糖尿病の治療方法に関する。
【0157】
本発明の他の実施形態は、ウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、ニワトリ、七面鳥、ウサギ、魚、イヌ、ネコなどの農業上の動物またはペットに関し、動物の成長速度や状態を変更し(例えば、肉や乳の生産を増やす)、あるいは、種々の疾患から動物を予防、治療する。本実施形態では、農業上の動物に以下のように細胞や組織を提供する方法を含む。
a)細胞または組織を提供すること、
b)前記細胞または組織について、アルギン酸塩、アガロース、キトサン、ポリ(アミノ酸)、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デキストラン、デキストラン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸、ヘパラン硫酸、ジェランガム、キサンタンガム、グアーガム、水溶性セルロース誘導体、カラゲナンなどの多糖類、ゼラチン、コラーゲン、アルブミンなどのタンパク質、メタクリル酸メチル(MMA)、2-ヒドロキシエチルメタクリル酸(HEMA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(酸化エチレン)(PEO)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)、ポリ(thyloxazoline)(PEOX)、又はこれらの組み合わせ(例えば、PEGとアルギン酸塩との混合物)などの、水溶性合成ポリマー又はその誘導体、あるいは、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(乳酸)(PLA)、これらの共重合体(PLA-GA)、又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの、より疎水性又は不溶性ポリマーといった、物理的または化学的に架橋可能なポリマーからなる、ヒドロゲルなどの少なくとも1つのカプセル化のための材料内に細胞や組織を包むこと、及び
c)治療を必要とする個体に対して、皮下注射または移植、あるいは器官実質への直接注射、又は器官の血管系を介した注射によって器官へ直接、カプセル化した細胞または組織を投与すること。

定義
【0158】
本願において用いられている用語について、以下説明する。
【0159】
同種移植(Allografts): (通常組織適合性部位に関する)1又はそれ以上の部位を構成する異なるHLA又はBLC免疫抗原を持つ、2又はそれ以上の個体間の移植。
【0160】
無胸腺マウス(Athymic mice): 不完全な免疫系を有する。
【0161】
自家移植(Autograft): 個体の一部から取り出され、同じ個体に戻す移植。
【0162】
ApoE2: 脂質の体内輸送に関与するタンパク質。
【0163】
生体適合性(Biocompatibility): 生体を害することなく、共に生存する能力。
【0164】
細胞集合体(Cell aggregate): 物質、マトリックス又は構造を結びつけることによって、塊、単位、小器官へと共に保持される1まとまりの細胞。
【0165】
臨床的関連および臨床関連性(Clinically relevant and Clinical relevance): 細胞や組織をカプセル化した構造物は、現在疾患や不具合に直面するホスト(患者)が有するよりも低い危険率/利点で、機能上最も非侵襲的かつ生理的部位に移植可能な量とサイズを有するものでなければならない。
【0166】
CMRL(コノート医学研究所(Connaught Medical Research Labs))培地: ウマまたはウシ血清が多いときには、クローニングしたサル腎培養細胞の成長、および、他の哺乳類の細胞系統の成長のためによく適している。特に、ヌクレオシドおよび複数のビタミンが豊富である。
【0167】
商業的関連および商業関連性(Commercially relevant and Commercial relevance): 細胞をカプセル化した構造物は、市場で成功した製品として受け入れられるよう設定された、疾患治療プロセスに基づいて生産できるように、生体適合性、選択透過性、カプセル化した細胞の生存能力及び機能、サイズ、細胞の回復又は交代、治療効果などの要件を満たすことができなければならない。
【0168】
コンフォーマルコーティング(Conformal Coating): 被覆分子の形状および大きさに従った比較的薄いポリマーコーティング。
【0169】
C−ペプチド(C-peptide): 活性インスリンのα鎖及びβ鎖に結合するプロインスリンのポリペプチド鎖。インスリンはまずプロインスリンの形で合成される。血中の各インスリン分子には1つのC−ペプチド分子が存在する。血中のC−ペプチド量は、(注射による)外因性インスリンが存在し、(体内で産生される)内因性インスリンと混合しているときに、インスリン生産の指標として測定され、使用される。C−ペプチド試験はまた、高血糖がインスリン産生の減少によるものか、あるいは細胞によるグルコースの取り込みが減少したことによるものか評価するために使用することができる。1型糖尿病は、血中に殆ど、又はまったくC−ペプチドを持たない。一方、2型糖尿病は減少した、又は正常なC−ペプチドレベルを有する。糖尿病でない場合のC−ペプチド濃度は、0.5 〜3.0ng/ml である。
【0170】
霊長類カニクイザル(Cynomolgus primate): カニクイザル(Macaca fascicularis)は、東南アジア原産である。
【0171】
Cytodexビーズ(Cytodex beads): 表面に陽性のトリメチル-2-ヒドロキシアミノプロピル基をもったデキストランのマイクロキャリアビーズ。
【0172】
デンドリマー(Dendrimer): モノマーと呼ばれる分枝単位から構築され、人工的に製造又は合成されたポリマー分子。規則正しく、数多く分枝したモノマーにより、単分散した、樹状、又は世代的構造である。ある時点での1つのモノマー層、又は「世代(generation)」の上にデンドリマーを構築し、段階的反応により合成される。各デンドリマーは、各機能部位と結合した樹状楔状部をもつ多機能コア分子からなる。コア分子は、「世代0(generation 0)」と呼称される。すべての枝に沿って各連続繰り返し単位が次の世代、即ち「世代1(generation 1)」「世代2(generation 2)」そして最後の世代まで形成する。
【0173】
糖尿病(Diabetes): 遺伝的および環境要因の組合せによって生じる炭水化物代謝の多様な不具合 。通常、インスリンの不十分な分泌または利用、過度の尿生産、血中および尿中の過量の糖、渇き、空腹感および体重減少を特徴とする。
【0174】
DTZ(ジフェニルチオカルバゾン(diphenylthiocarbazone)): インスリン顆粒内の亜鉛に結合する染料。
【0175】
エオシンY(Eosin Y): C20H6O5Br4Na2 [MW 691.914]。水(40%)に溶解し、強蛍光性の赤色染料。エオシンY ws、エチルエオシン、エオシンB、フロキシン、エリスロシンB、フルオレセイン、ローズベンガル、及びマーキュロクロムと構造が類似している。
【0176】
エヴァンブルー染色(Evan’s blue staining): 色素希釈法による血液量および拍出量の測定に使用されるアゾ染料。非常に可溶で、血漿アルブミンに強く結合し、大変ゆっくりと消失する。
【0177】
フィコール(FicollTM): 細胞分離用の高分子量スクロースポリマー。
【0178】
FDA/EB(フルオレセインジアセテート/臭化エチジウム)染色: 染色すると、生細胞は緑色で示される一方、細胞毒性をもった細胞や細胞膜機能に障害をもつ細胞は、核が赤色を示す。
【0179】
“Good”バッファー(“Good” buffer): N. E. Good と S. Izawa(Hydrogen ion buffers, Methods Enzymol (1972) 24, 53-68)によって開発された1群のバッファー。
【0180】
HbA1c[ヘモグロビンA1C;糖化ヘモグロビン(Hemoglobin A1C; Glycated hemoglobin)と同義]試験: 試験は、糖尿病における長期間の糖調節を評価するために用いられる。この試験は、グリコシル化ヘモグロビン(glycosylated hemoglobin)又はHgb、糖化ヘモグロビン(hemoglobin glycated)又はグリコシル化タンパク質(glycosylated protein)、フルクトサミンの試験とも称される。HbA1cは、赤血球に存在するすべての糖化ヘモグロビンをいう。糖は細胞の生存期間(約3月)結合した状態にあるため、試験は4〜8週間にわたる人の平均血糖値を示す。これは、長期間の安定した調節を維持することができる患者をモニタする、より適切な検査である。試験結果はパーセンテージで示され、4〜6%は正常とされる。HbA1cの「大枠(big picture)」と、血糖値(mg/dL)の自動モニタリングから得られる日々の「結果(snapshots)」を補足的に用いる。そして、2つの試験は次の変換方程式「HbA1c=(血漿血糖値+77.3)/35.6」に使用できる。血清/血漿の糖化タンパク質は、1〜2週間にわたる血糖コントロールを評価する。正常な試験値以下であれば、患者は低血糖状態ということになる。
【0181】
HEMA(メタクリル酸2‐ヒドロキシエチル(2-hydroxyethyl methacrylate)): 傷、溶剤および風化に対して高光沢を保つための光硬化ポリマー系および高性能コーティングにおいて用いられる。また、架橋型塗料用樹脂およびエマルジョン、繊維および紙用のバインダ、及び、金属コーティング用の付着促進剤として使用される。
【0182】
IBMX: 強力なサイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ阻害剤;この働きにより、化合物は、組織のサイクリックAMPおよびサイクリックGMPを増やし、複数の細胞プロセスを活性化させる。
【0183】
IP(腹腔内の(Intraperitoneal)): 腹膜腔内(腹部器官を含む領域)。
【0184】
IEQ(Islet equivalent): インスリン量と形態/大きさに基づく値。ジフェニルチオカルバゾン(DTZ)などのインスリン分子結合染料が、β細胞を同定するために通常使用される。β細胞は、他のいくつかの種類の細胞のうち膵島を構成する唯一のものであることから、平均直径150μmに基づく形態学的評価が、DTZによる染色に加えて、IEQ(Islet equivalent)を定めるために使用される。
【0185】
M199: 鶏胚繊維芽細胞の栄養学的研究のために当初規定された。Earle塩(Earle’s salts)、L-グルタミン、及び2,200 mg/Lの重炭酸ナトリウムを含む。
【0186】
若年発症成人型糖尿病(MODY): 若年時に発症(通常25歳未満)することを特徴とする糖尿病。常染色体優性遺伝(即ち、子供の50%に受け継がれる)であり、少なくとも患者の家族2世代で糖尿病となる。少なくとも初期の糖尿病では、食事療法または糖尿病薬(diabetes pills)によって、MODY糖尿病をコントロールできる場合がある。患者はインスリン分泌または糖代謝に異常があり、インスリン抵抗性ではないという点で、2型糖尿病とは異なる。MODYは、世界的に約2%の糖尿病を占め、現在までに6つの原因遺伝子が発見されているが、すべてのMODY患者でこれらの遺伝子の1つが原因というわけではない。MODYは家族で代々起こるので、糖尿病遺伝子の研究に役立っており、インスリンが膵臓により産生され、調節される仕組みに関する有用な情報を研究者に与えてきた。
【0187】
MDCK(イヌ腎上皮(Madin-Darby canine kidney))細胞: イヌ正常腎から確立された上皮様細胞系統。多くのウイルス種に影響を受けやすい。
【0188】
マイクロカプセル(Microcapsules): コーティングまたはシェルによって覆われた活性剤又はコア材料を含む小粒子。
【0189】
MMA(メタクリル酸メチル(methyl methacrylate)): アクリルモノマー。微刺激臭を有する無色液体。
【0190】
NIT(NODインシュリノーマ腫瘍(NOD insulinoma tumor))細胞系統: トランスジェニックNODマウスの膵臓β細胞から得られた細胞系統。
【0191】
NVP(N-ビニルピロリジノン(N-vinyl pyrrolidinone)): アセチレンと2‐ピロリドンの反応から得られるモノマー。種々のアプリケーションで反応希釈剤として役立つ。
【0192】
ナイコデンツ(NycodenzTM)(Nycomed Pharma社、オスロ、ノルウェー): 密度勾配を作るために使用される非イオン性X線造影剤であるジアトリゾイック酸(Diatrizoic acid)。ナイコデンツ溶液の有利な性質は、浸透圧および密度が幅広い範囲で容易に変更できる点である。脊髄造影、関節腔造影、腎血管造影、動脈造影および他のX線撮影で用いられる効果的な非イオン性の水溶性造影剤である。その低い組織毒性は、低化学毒性と低浸透圧の複合結果である。
【0193】
経口ブドウ糖負荷試験(OGTT): 75グラムの糖含有液を飲用後、被験者の血漿中の血糖値検査を含む糖尿病のスクリーニング試験。現在は、被験者の血漿中の血糖値が、糖の摂取2時間後で200mg/dL以上である場合に、糖尿病と診断される。血漿中の血糖値が200mg/dL未満であるが、140mg/dL以上の場合は、糖耐性に異常ある状態と診断される。この状態の人は糖代謝に異常があるが、糖尿病と診断するほどに重篤とはみなされていない。糖耐性に異常ある人は、高血圧、血中脂質異常および2型糖尿病に発展する危険性がある。
【0194】
選択透過性(Permselectivity): 特定イオン種の膜選択的透過性。
【0195】
PoERV(ブタ内因性レトロウイルス(porcine endogenous retrovirus)): 全哺乳類のDNAの一部として存在し、世代間で子孫に受け継がれる内因性レトロウイルス。
【0196】
食後(postprandial): 食後、起こること。
【0197】
プロインスリン(Proinsulin): 膵臓β細胞によって作られ、C−ペプチド、α鎖およびβ鎖の3ユニットに分割されるタンパク質。α鎖およびβ鎖は、インスリンの機能単位である。
【0198】
SGS(静的グルコース刺激(Static glucose stimulation)): 静的グルコース誘発試験。異なるグルコース濃度に応じた膵島のインスリン分泌能力を評価する。
【0199】
ストレプトゾトシン(Streptozotocin): 放線菌(Streptomyces achromogenes)によって生産される抗生物質(C8H15N3O7)。腫瘍に対して活性があるが、インスリン産生細胞にダメージを与え、現在では発癌物質と考えられている。
【0200】
テオフィリン(Theophylline): カテコールアミンの放出を誘発し、脳血流量を減少させ、血糖値の低下に対するより強い代謝反応とより迅速な認識を容易にする。
【0201】
治療上有効量(Therapeutically effective amount): 必要とする個体に投与されたときに、疾患または不具合の治療を効果的にし、又は、動物の成長速度や状態を効果的に変更するのに十分である、細胞または組織によって産生される治療剤の量。「治療上有効量」に対応するカプセル化した細胞または組織の量は、疾患の状態および重篤度、治療を必要とする個体のタイプ、病気や不具合に対して細胞または組織により送出される治療剤のタイプなどの要因によって変わってくるが、当業者は容易に決定することができる。
【0202】
治療および処置(Treating and Treatment): 皮下注射または移植、あるいは器官実質への直接注射、又は器官の血管系を介した注射によって器官へ直接、カプセル化した細胞または組織を投与することによって、治療を必要とするヒトなどの個体の疾患または不具合を軽減することであり、以下の事柄を含む。
(a) 個体の予防的治療。特に疾患または不具合の素因をもつことがわかったが、まだ疾患とは診断されていない場合。
(b) 疾患または不具合を阻害すること。及び/又は、
(c) 疾患または不具合を、全部又は一部除去すること。及び/又は、
(d) 個体の健康および安寧を改善すること。
【0203】
1型糖尿病(又は、インスリン依存型糖尿病(insulin-dependent diabetes, insulin-dependent diabetes mellitus)): 通常幼少期または青春期に発症し、ランゲルハンス島の萎縮から生ずるインスリン分泌の重篤な不足や、高血糖およびケトアシドーシスへの著明な傾向を引き起こすことを特徴とする糖尿病。
【0204】
2型糖尿病(又は、非インスリン依存型糖尿病(non-insulin-dependent diabetes, non-insulin-dependent diabetes mellitus)): 特に成人、そして多くの場合肥満者において発症し、インスリンの利用がうまくいかず、体内でインスリン産生量を増加して補うこともできないため生ずる高血糖を特徴とする一般的な糖尿病。
【0205】
異種移植(Xenografts): ある種から、他の種、属または家系の個体への組織の外科移植。「異種移植(heteroplastic graft)」としても知られている。

本発明の好ましい実施形態
【0206】
本発明は、治療を必要とする患者にカプセル化された生物材料を移植することによって病気や不具合を治療する方法に関する。本発明は、糖尿病に特に有用である。何故なら、インスリンを必要とする糖尿病において、良好な血糖調節を欠くことに関連した合併症を防止する方法が求められているからである。具体的には、糖尿病の霊長類にPEGでコンフォーマルコーティングされた膵島同種移植を注射により皮下に首尾よく行い、移植220日後、ほぼ正常な血糖値を達成しうることを本明細書において示す。現在の複雑な臨床膵島移植、および免疫抑制剤の連続投与による重大な危険と不快感は、インスリンを必要とする糖尿病患者に本明細書記載の方法を適用することによって取り除くことが可能である。さらに、カプセル状の膵島移植は、インスリンを必要とする糖尿病患者を保護し、外因性インスリン治療にもかかわらず血糖調節が十分でないことに関連した合併症への進展を防止することが期待できる。
【0207】
本発明に係る方法は、糖尿病のほか、種々の疾患および不具合に対して治療効果をもたらすことができ、疾患および不具合により欠如した重要な細胞内の生産物は、体内に細胞または組織を移植することによって代替することができる。本発明の好ましい実施形態は、インスリンを必要とする患者の皮下移植用の細胞集合体としてカプセル化された、膵臓からのヒトインスリン産生細胞、又は、膵臓からのヒトインスリン産生細胞由来の細胞の使用である。カプセル化された生物材料を用いた疾患治療は、材料に生体適合性のあるコーティングを施すことによりカプセル化し、治療効果が実現する前に、治療を受けている患者の免疫系によって材料が破壊されないようにする。
【0208】
コーティングの選択透過性は、本治療の効果において重要である。何故なら、これにより細胞または組織への栄養分の利用を調節し、生物材料の拒絶を防止する役割を果たすからである。コーティングの選択透過性は、カプセル状の細胞または組織に利用可能な栄養分、及び、該細胞または組織の機能に影響を及ぼす。選択透過性は、生体適合性コーティングの構成成分を変化させることによって、又は細胞をコーティングするために構成成分を使用する方法を変化させることによって調節することができる。本発明によるカプセル化された生物材料の注射による治療は、安定した安全な治療法を提供する。移植のサイズと移植部位、並びに、カプセル化された材料の補充および/または置換はまた、本発明に係る方法の考慮事項である。これらの方法は、種々の移植部位において疾患治療の広範な適用範囲を有する治療方法を提供し、他の治療方法と関係する複雑さを回避する。
【0209】
ここで説明するコンフォーマルコーティングは、種々の孔サイズで生産することができ、これにより抗体の排除など、広く様々な分子量のタンパク質による細胞への接近を制限することができる。この調節は、カプセル化された材料の生存と機能維持を可能とし、一方、ホスト免疫系の成分を除外する。コンフォーマルコーティングの適当な孔サイズは、各細胞または組織の種類および治療対象の病気や不具合に対する通常の実験で決定することができる。ここで説明するコンフォーマルコーティングは、最小量のコーティング材料で小カプセル化された細胞生産物を提供し、該コーティング物質は、肝臓、脾臓、筋肉その他の器官への直接注射、器官へ達する脈管を介した注入、腹腔内注射、および皮下移植など、体の様々な部位に移植することができる。
【0210】
カプセル状の細胞治療を首尾よく行う重要な要素は、細胞をカプセル化するのに用いられる選択透過性コーティングが、ホスト(患者)の炎症反応を引き起こさないようにすることである。多くの以前のカプセル化材料は、完全に生体適合性ではなかった。いくつかの構造物では、大きな傷害を作らなければ充分であるが、カプセル化された細胞とホスト免疫系との間に選択透過的保護用のコーティングを使用する場合は、ホストの補体系やマクロファージへのいかなる非特異的炎症反応もあるべきではない。もしこれが起こると、炎症および/または免疫反応はサイトカインを放出し、容易に膜を横断し、カプセル状の細胞に損失をもたらす可能性がある。多くの膵島カプセル化技術は適切に行うことが困難であったが、それは、コーティング物質への生体適合性反応による非特異的炎症反応を有したためである。
【0211】
慢性炎症などの問題は、本明細書記載の方法で使用する細胞および組織を包むのに用いられる生体適合性コンフォーマルコーティングへのホスト反応が殆どないため、かなり軽減される。本明細書記載のコンフォーマルコーティング生産用の構成成分は、げっ歯類、イヌ、ブタおよび霊長類などの動物に注入した場合に、完全に生体適合性を示した。
【0212】
われわれは、高アクリル酸化されたPEGから合成されるヒドロゲルの生体適合性が良好であること、また適度にアクリル酸化されたPEGを用いた場合よりもずっと良いことを発見した。高アクリル酸化されたPEG、市販のもの、又は、対応するPEGをアクリル酸化することによって自ら製造した。高アクリル酸化されたPEGを有するヒドロゲルは、界面光重合技術を用いてアルギン酸マイクロビーズの表面に、コンフォーマルコーティングされた。この発見もまた、構造物または製剤の生体適合性が重要である他の生医学的、生物工学的、製薬領域まで応用可能である。
【0213】
ここで説明するPEGでコンフォーマルコーティングされたもののいくつかは時間の経過と共に生分解可能である。したがって、時間の経過と共に生体は安全に物質を分解することができ、他の治療では必要な、カプセル化された材料を回収する必要がない。細胞の置換は、以前投与されたカプセル化物質が機能を失い始めたときいつでも行うことができる。カプセル化された膵島は、2〜5年以上もつと考えられる。皮下注射の場合、カプセル化された物質の置換は、単に以前の投与の効果がなくなる前に、患者の異なる部位に新たな物質を皮下注射すればよい。カプセル化された膵島の場合、この置換は、血糖値を低下させることなく、最初の膵島投与の機能消失の前に行うことができる。何故なら、カプセル化された膵島は低血糖を防ぐため自己調節するからである。生成物の放出を自己調節しない細胞または組織を使用して病気および不具合を治療する場合には、移植時期を異なる方法で決定しなければならないかもしれない。
【0214】
カプセル化された細胞生成物を生産する要素は、細胞の種類起源(source)である。細胞は、プライマリー細胞、成長(expanded)した細胞、分化した細胞、細胞系統または遺伝子工学的に改変された細胞のいずれでもよい。ヒト膵島の場合、一次膵島は、死後提供を受けた膵臓から単離できるが、膵島単離に利用できるヒト膵臓の数は非常に限られている。そこで、カプセル化し注入するための細胞として、代わりの細胞起源(cell sources)を用いてもよい。
【0215】
代わりの細胞起源の1つは、特にインスリン産生細胞では、胚性幹(ES)細胞である。ヒトES細胞は、非常に早期の胚から得られ、体外受精に成功し、不要となったヒト凍結受精卵を用いて作製可能である。ES細胞は無限に成長する能力を有し、潜在的には移植のために必要な大量の組織を必要としない。臨床的にES細胞をインスリン産生細胞に分化させるのに一連のステップが必要である。マウスおよびヒトのES細胞を種々の因子と組織培養することでインスリンを産生することが従来の研究で示されている。ES細胞から得られるインスリン産生細胞は、移植用の細胞起源として用いてもよいし、カプセル化された細胞または組織の移植用に用いてもよい。

細胞起源
【0216】
他の細胞起源として、脳、肝臓および腸からの器官特異的な前駆(始原)細胞が、インスリンを産生することが示されている。インスリンを産生させるため、これら各々の器官特異的な前駆細胞は、種々の成長因子、分化誘導因子と共に組織培養される。さらに、骨髄、腎、脾臓、筋肉、骨、軟骨、血管および他の内分泌器官など多くの他の器官からの器官特異的な前駆細胞が、インスリン産生細胞の提供に有用である。
【0217】
本発明の方法において、膵臓の前駆細胞を使用してもよい。膵臓は、通常の状態で生体内に3種類の膵細胞を作り出す器官特異的幹細胞を有していると考えられる。膵島細胞は、各々の膵島を形成するために導管細胞(duct cells)から作り出されると考えられている。他のホルモン産生細胞と同様に、インスリンを産生するβ細胞は、導管細胞が直接分化して形成される場合と、導管細胞の間に存在する膵臓の前駆細胞から形成される場合とがある。これらの前駆細胞は、本明細書記載の方法に従ってカプセル化し、移植するインスリン産生細胞として利用することができる。
【0218】
非インスリン産生細胞に遺伝子工学的にインスリン遺伝子を導入し、インスリンを産生させる多くの研究が報告されている。これら遺伝子工学的に改変され、インスリンを産生する細胞は、本明細書記載の方法に従ってカプセル化し、移植する細胞として利用することができる。
【0219】
糖尿病患者への移植用の膵島細胞として、ブタ細胞の使用が一般に考えられてきた。米国単独で、1年間に9000万匹以上のブタが肉生産のために供される。したがって、インスリンを必要とする何百万もの糖尿病患者の治療に必要な膵島は、成体ブタ膵島を大規模処理し、カプセル化のために単離されたブタ膵島とすることにより、容易に入手可能である。この選択を制限している1つの理由は、ブタが内因性のレトロウイルス(PoERV)を有する点である。そこで、ブタからPoERVを除去する努力がなされてきた。ウイルスをもたないブタ異種移植膵島は、ヒト糖尿病の治療の好ましい細胞起源として利用し、カプセル化することができる。
【0220】
ヒト移植用の他の異種移植用細胞は、ブタ以外の種のプライマリー細胞から得ることができる。これらの他の種は、例えばウシ、ヒツジなどの農業上関連した動物、および魚でさえ利用しうる。膵臓起源または他の幹細胞、前駆細胞からインスリン産生細胞へと成長、分化できるかについては、霊長類、げっ歯類、ウサギ、魚、有袋類、有蹄類などの多くの他の異種移植用細胞起源からのインスリン産生細胞を用いて予測することができる。

疾患治療
【0221】
糖尿病、および局所因子や循環因子が不十分または不存在である他の疾患は、本明細書記載の方法に従って治療することができる。カプセル化細胞治療は、神経、心血管、肝臓、内分泌、皮膚、造血性および免疫の各疾患および不具合の治療に適用することができる。パーキンソン病、アルツハイマー、ハンチントン病、多発性硬化症、失明、脊髄損傷、末梢性神経損傷、苦痛および中毒などの神経疾患および損傷は、病気の治療に必要な局所因子及び/又は循環因子を放出可能なカプセル化した細胞によって治療することができる。冠状動脈などの心血管組織、および、虚血性の心筋、弁および細血管への血液供給の回復に使用される血管新生成長因子放出細胞についても、治療可能である。また、急性肝不全、慢性肝不全および肝臓に影響を与える遺伝疾患も治療可能である。糖尿病、肥満、ストレス、副腎、副甲状腺、精巣、卵巣などの内分泌障害および疾患、慢性潰瘍のような皮膚の障害、真皮および毛幹細胞の疾患も治療可能である。第8因子およびエリスロポエチンなどの造血因子は、患者の造血反応を誘導刺激可能な細胞を投与することによって調節することができる。カプセル状の生物材料は、骨髄幹細胞の生産にも有用である。カプセル状の生物材料(プライマリー細胞や遺伝的に改変された細胞からの抗原など)は、免疫耐性の付与または自己免疫疾患の防止に有用である。また、これらの材料をワクチンに使用することができる。

コンフォーマルコーティング成分
【0222】
コーティング成分は、細胞の種類や所望の選択透過性に応じて変更すればよい。種々の重合用モノマーやマクロマー、光重合開始用染料、共触媒および促進剤を、コンフォーマルコーティングされた細胞および組織の生産に使用することができる。

モノマーまたはマクロマー
【0223】
モノマーまたはマクロマーは、生体適合性コーティングを重合するための構成単位として本発明の方法に使用される。モノマーは小ポリマー分子であり、本発明の大きなポリマー膜への重合に適している。マクロマーは、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリ酸(ethacrylate)、2-フェニルアクリル酸、2-クロロアクリル酸、2-ブロモアクリル酸、イタコネート、アクリルアミド、メタクリルアミドおよびスチレン化合物などの炭素−炭素二重結合を含み、重合可能である。モノマーまたはマクロマーは、重合前後で生物材料に対して非毒性である。
【0224】
モノマーとしては、メタクリル酸メチル(MMA)およびメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)が例示される。マクロマーとしては、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)、ポリ(thyloxazoline)(PEOX)、ポリ(アミノ酸)などの不飽和の誘導体、アルギン酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デキストラン、デキストラン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸、ヘパラン硫酸、キトサン、ジェランガム、キサンタンガム、グアーガム、水溶性セルロース誘導体およびカラゲナンなどの多糖類、並びにゼラチン、コラーゲンおよびアルブミンなどのタンパク質が例示される。これらのマクロマーは、用法に従い、分子量および分岐の数を変更することができる。組織反応を最小限に抑えるよう細胞および組織をカプセル化するため、好ましい開始マクロマーは、1.1K MW のPEG-トリアクリル酸 である。ここでの分子量は、混合した長さのポリマーの平均分子量である。

光重合開始用染料
【0225】
光重合開始用染料は、光エネルギを捕獲して、マクロマーおよびモノマーの重合を開始させる。320 nmから900 nmの間の周波数を有する光を吸収するいかなる染料も使用可能であり、フリーラジカルを形成し、少なくとも一部水溶性で、重合用の濃度で生物材料に対して非毒性である。適切な染料としては、エチルエオシン、エオシンY、フルオレセイン、2,2-ジメトキシ, 2-フェニルアセトフェノン、2-メトキシ, 2-フェニルアセトフェノン、カンホルキノン、ローズベンガル、メチレンブルー、エリトロシン、フロキシン、チオニン、リボフラビン、及びメチレングリーンが例示される。染料−細胞表面の結合を高めるため、ここで使用する染料は、ポリカチオン性ポリマー、多数のフェニルホウ酸基がついたポリマーなどの細胞表面と強い相互作用を有するポリマーと結合される。ポリカチオン性ポリマーとしては、PAMAMデンドリマー、鎖状、分枝状または樹状のポリ(エチレンイミン)(PEI)、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリリジン、キトサン、及びポリヒスチジンが例示される。好ましい開始用染料は、PAMAM デンドリマー Generation 4と結合したカルボキシエオシンである。

共触媒またはラジカル発生剤
【0226】
共触媒は、フリーラジカル反応を刺激誘導可能な窒素ベースの化合物である。第1、第2、第3、第4のアミンは適切な共触媒であり、電子の豊富な分子を含む窒素原子であればよい。共触媒としては、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、ジベンジルアミノ、N-ベンジルエタノールアミン、N-イソプロピルベンジルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、過硫酸カリウム、テトラメチルエチレンジアミン、リジン、オルニチン、ヒスチジンおよびアルギニンが挙げられるが、これに限定されるものではない。好ましい共触媒は、トリエタノールアミンである。

促進剤またはコモノマー
【0227】
重合混合物に任意的に含まれる促進剤は、アリル基、ビニル基またはアクリル酸基を含む小分子であり、フリーラジカル反応の速度を高めることができる。促進剤にスルホン酸基を組み込むことは、最終生産物の生体適合性を高めることができる。促進剤としては、N-ビニルピロリジノン、2-ビニルピリジン、1-ビニルイミダゾール、9-ビニルカルバゾン、9-ビニルカルバゾール、アクリル酸、2-アリル-2-メチル-1,3-シクロペンタンジオン、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、4-スチレンスルホン酸、3-スルホプロピルアクリル酸、3-スルホプロピルメタクリル酸、n-ビニルカルポラクタムおよびn-ビニルマレイミドスルホン酸(SurModicsから)が挙げられるが、これに限定されるものではない。2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸およびN-ビニルピロリジノンが、促進剤の好ましい組合せである。

粘度増強剤
【0228】
細胞集合体上のコンフォーマルコーティングでテールを短くするために、マクロマー溶液の粘性を最適化することができる。これは、マクロマー溶液に添加される粘性増強剤によって達成することができる。好ましい粘性増強剤は、MW 3.5kDの PEG-トリオール、および4kD PEG-ジオールである。

密度調整剤
【0229】
細胞集合体上のコンフォーマルコーティングでテールを短くするために、マクロマー溶液の密度を最適化することができる。これは、マクロマー溶液に密度調整剤を添加することによって達成することができる。好ましい密度調整剤は、NycodenzTMおよびFicollTMである。

放射線波長
【0230】
重合を開始するのに使用される放射線は、波長320 〜 900nm の範囲の長波UVか可視光である。好ましくは、350 〜 700nmの範囲、より好ましくは365〜550nmの範囲の光が使われる。この光は、望ましい放射線(例えば水銀灯、長波UVランプ、ヘリウムネオンレーザ、アルゴンイオンレーザ、又は適切なフィルタに通したキセノン光源などの所望の放射線を生成可能な適切な光源によって提供することができる。
【0231】
以下の実施例は、単に本発明を例示する目的で提供されるものであり、本発明の保護範囲を制限するよう解釈されてはならない。
【実施例】
【0232】
実施例1
マウス膵島細胞の単離
18週齢で33グラムの平均的な大きさのドナーマウス[C57BL/6]が供給者から得られ、使用された。膵臓は、安楽死後の開腹手術によって摘出された。膵臓は、Sigma社のコラゲナーゼ(Type V)によって処理された。膵臓は、取り除かれ、単離場所の研究所に輸送される間、冷コラゲナーゼ中に保持された。単離プロセスは、消化処理のために30の膵臓片を組み合わせた。消化物は、10%ウシ胎児血清を含むRPMIによって洗浄され、遠心分離された。COBEが精製のため調製され、勾配密度を作るために連続的な勾配マーカーが使用された。精製プロセスを行うため、まずCOBEに勾配(gradient)が加えられ、膵臓の消化物が上部に乗せられた。精製した膵島は回収され、RPMI溶媒で洗浄された。膵島は、カプセル化の準備ができるまで、T75フラスコにおいて10%ウシ胎児血清を含む改変ICM培地で培養された。

霊長類膵島細胞の単離
【0233】
体重2.5 〜4.5kgの若いカニクイザル霊長類(オナガザル科)と体重10〜30kgの成体ヒヒ(Papio anubis)が膵臓片のドナーとして使用された(表1)。膵臓片は、死後取り除き、カニューレを入れ、冷UW溶液で膨らませ、含気泡酸素パーフルオロカーボンを含むUW溶液内に置かれ、その後、膵島単離のための設備へ搬送された。ヒトリベラーゼ(Liberase)を用いた改変霊長類膵島単離手順(O’Neil, J, Cell Transplantation 10: 539, 2001)が使用され、機械的損傷を最小にしつつCOBEの連続的密度勾配を使用して膵島を単離した。精製した膵島は、プロセス上のダメージからの回復を促進するため、カプセル化の前に、3〜7日の間、37℃で10%胎児ウシ血清を含む改変CMRL培地で、T75フラスコにおいて培養された。図1Aは、ドナーの膵臓から単離された霊長類カニクイザル膵島の典型的な歩留まりを示す。
【表1】


実施例2
コンフォーマルコーティング材料の調製
【0234】
カプセル化される細胞の種類に応じて、細胞はコンフォーマルコーティングによって直接コーティングされ、あるいはアルギン酸塩などのマトリックスで封入され、その後選択透過的なPEGカプセルでコーティングされた。図2はデンドリマーエオジンY結合体であるDendrimer-EYの合成と、このコーティングの好ましい形態を示している。これについて以下説明する。
【0235】
カプセル化のために使用するデンドリマーは、Dendritech 社から購入したPAMAM Dendrimer generation 4であった(図3)。5(6)-Carboxyeosinは、5(6)-Carboxyfluoresceinのブロム化によって作られた。ヒドロキシル基および1-カルボキシル基は、その後、アセテートを形成することによって保護された。保護された5(6)-Carboxyeosinは、N,N,N’N’-テトラメチル-O-(N-スクシノイミジル)ウラニウムテトラフルオロホウ酸塩(TSTU)によって活性化された。更なる精製をすることなく、活性化した5(6)-Carboxyeosinジアセテートは、Dendrimer- EY結合体を形成するために、PAMAM デンドリマーと混合された。保護基は、その後、アンモニア水と反応させることによって取り除かれた。最終生産物は、5K MWCO膜および洗浄バッファーとして50mMの(NH4)2CO3を使用して精製された。 EYとデンドリマーの化学量論的な比率を変えることによって、異なる結合レベルを有するDendrimer-EYを得ることができる。膵島カプセル化のために使用される最適な結合レベルは、3.4のEY/Dendrimerであった。
【0236】
Dendrimer-EYの結合レベルは、UV-Visで決定された。50mM (NH4)2CO3のDendrimer-EY溶液中で、523 nmの最大吸収が測定され、結合レベルは、5(6)-Carboxyeosin(Σ= 8.4 x 104)の吸光係数を使用して算出された。
【0237】
トリエタノールアミン(TEoA)、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(AMPS)およびN-ビニルピロリジノン(NVP)は、Aldrich社から購入し、更なる精製はしなかった。
【0238】
トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート(PEG 1.1K-TA)を、Sartomer社から購入し、更なる精製はしなかった。アクリル化のレベルは60後半から80後半まで変化し、分子量は1100〜1300の間であった。
【0239】
エトキシ化したトリメチロールプロパン(PEG 3.5K-Triol)は、Carbotech社によって合成された。ポリ(エチレングリコール)3400(PEG 4K-Diol)はUnion Carbide社から購入した。PEG 3.5K-トリオールおよびPEG 4K-ジオールは、注射用蒸留水に溶解され、使用まで凍結乾燥された。

実施例3
膵島のカプセル化
マウス膵島のカプセル化
【0240】
マウスの膵島をコーティングする好ましい方法は、以下のとおりである。20mM低イオンHEPESバッファー(1.8mM CaCl2および260mM Manitolを含む、pH = 7.0)15ミリリットルを、膵島10μlを含む15mlの円錐管に加えた。遠心分離後、上澄みを取り除き、Den-EY溶液(低イオンHEPESバッファー中0.1mg/ml〜0.4mg/ml)15mlをペレットに加え、室温で10〜30分間水平に保たれた。染色された膵島は、低イオン20mM HEPESバッファーで2度洗浄された。そして、それは少なくとも30分間アルゴンでスパージ(sparge)された。染色された膵島ペレットは、10mlの光学活性ポリマー溶液と混合され、またアルゴンでスパージ(sparge)され、少なくとも30分間8℃のウオーターバスで予め平衡化された。光学活性ポリマー溶液は、20% PEG、100mM TEoA、32mg/ml AMPS、2μl/ml NVPおよび13% Nycodenzを含む、20mM HEPESバッファー(pH = 8.0)で調製された。懸濁液はペトリ皿に移され、溶液は1分間に照射密度200 mW/cm2のアルゴンレーザで照射された。重合は、ペトリ皿に1〜2mlのM199を加えることによって停止された。ペトリ皿の内容物を、M199 40mlを含む50mlの円錐管に移した。M199で洗浄後、カプセル化された膵島は、培養に戻された。

霊長類膵島のカプセル化
【0241】
膵島に光重合開始剤(エオシンY)が加えられ、アクリル酸PEGモノマー、TEoAおよびNVPを含むPEGカプセル化溶液に浸された。アルゴンレーザで膵島が照射されると、結合したエオシンYは、フリーラジカルを作るTEoAによって捕えられ、高エネルギ状態に励起された。これらのTEoAラジカルは、膵島の表面に拡散し、アクリル酸間の炭素―炭素二重結合(C=C)を破壊し、アクリル酸PEG同士を共有結合させ、各膵島の周囲に直接PEGコンフォーマルコーティングを形成させる。カプセル化された膵島は、その後、移植前4〜21日間、10%の熱不活化カニクイザル霊長類同種移植血清を添加したCMRLにて37℃で培養された。
【0242】
カニクイザル霊長類の単離膵島は、その形状、大きさサイズを問わず、膵島表面すべてを覆うコンフォーマルな方法で容易にカプセル化することができた。図1Aは、カニクイザル霊長類からの非カプセル化単離膵島を示す。図1Bは、カニクイザル霊長類からのPEGカプセル化単離膵島を示す。位相差顕微鏡により、膵島が均一にコンフォーマルコーティングされていることがわかる。

実施例4
カプセル化膵島のin vitroでの特徴
【0243】
カプセル化膵島のコーティンング効率は、Evan’s blue染色によって評価された。0.008%のEvan’s blueを含むM199 15ミリリットルを、0.5mlのカプセル化膵島懸濁液に加え、3分間培養後、遠心分離および吸入によって上澄みを除去した。膵島をM199で3回洗浄し、(M199内の)膵島懸濁液を顕微鏡で観察した。PEGヒドロゲルは淡青色に染色されている。
【0244】
カプセル化膵島の生存能力は、フルオレセイン二酢酸(FDA)/臭化エチジウム(EB)染色によって評価された。(50ml PBS内に1mgの)EB原液2.5mlおよび(アセトン内に5mg/mlの)FDA原液12.5μlを、無血清培地内のカプセル化膵島懸濁液0.5mlに添加した。染色液を添加して10分後に、サンプルを、フルオレセイン用のフィールドブロック(field block)を用いた蛍光顕微鏡で観察した。死細胞は赤色に染色され、生細胞は緑色に染色された。生存していた膵島細胞の割合が評価された。実施結果が図4に示される。
【0245】
カプセル化膵島の透過性は、SDS-PAGEによって評価された。血清含有培地に入れる前に、少量のカプセル化膵島がSDS-PAGE分析に供された。平均サイズの1又は2の膵島を、顕微鏡下取り出し、96穴培養プレートにおいて、室温で約14〜-16時間、0.1%のSDS溶液で別々にインキュベートした。通常、最低8セットの膵島が取り出され、インキュベートされた。加えて、膵島10個が取り出され、同時にインキュベートされた。インキュベート後、上澄みが取り出され、5分間、100℃でインキュベートされた。冷却後、9つの上澄みを各々、ポリアクリルアミドゲルで電気泳動した。最後のウエルは、標準分子量マーカー混合物を電気泳動した。各ウエルで電気泳動後、ゲルを固定し、所定期間、銀染色した。各セットのカプセル化膵島におけるPEGゲルの分画分子量は、標準分子量マーカーと比較して決定した。実施結果が図5に示される。
【0246】
カプセル化膵島の機能は、静的グルコース刺激(SGS)またはperfusion studyによって評価された。静的グルコース刺激のため、20個の膵島を4つ分取り出し、12ウエルプレートの4ウエル中に置いた。膵島は2度洗浄され、45分間、G50基底溶液(グルコース濃度−50mg/DL)によってインキュベートされ、続いて、45分間、G300刺激溶液(グルコース濃度−300mg/DL)、45分間、IBMX溶液、さらに45分間、G50基底溶液の順にインキュベートされた。上澄みのサンプル0.5mlが、各インキュベーション終了後回収された。膵島は、インキュベーションの間、2度洗浄された。最後の基底サンプルを回収後、すべての膵島は、インスリン抽出のために一晩中、酸性アルコールによってインキュベートされた。上澄みのサンプル0.5 mlが、インスリン抽出後に回収された。回収された全サンプルについて、適切なインスリンRIA又はELISAキットを使用してインスリン濃度が測定された。カプセル化膵島のいくつかでは、インスリン放出は遅発性で、G300刺激培地で45分間培養後、極少量のインスリンのみが検出された。膵島はG300刺激培地で延長して培養され、上澄みのサンプルは、インスリン放出kinetics後1時間、2時間、3時間といった種々の時点で回収された。実施結果が図6に示される。
【0247】
perfusion studyのために、調製膵島はかん流システムのフィルター上に置かれ、最初に40分間、G50基底溶液にさらされ、その後、40分間、G300刺激溶液による刺激、G300プラステオフィリン又はIBMXによる付加的な刺激が続いた。膵島のかん流は、グルコースの基底レベルへの回復で終了された。サンプルは、5分間のインターバルで回収され、適切なRIA又はELISAキットによってインスリン濃度を評価した。

実施例5
コンフォーマルコーティングされた膵島のマウスへの移植
【0248】
マウス膵島は、実施例2と同様の方法でコンフォーマルコーティングされた。カプセル化膵島は、無胸腺マウスの腹腔内(IP)および皮下(SQ)に移植され、移植前後の血糖値がモニターされた。
【0249】
図7は、コンフォーマルコーティングされたマウス膵島[2805 IEQ] が腹腔内移植された2匹の無胸腺マウスの血糖値を示したものである。移植された膵島は、移植後130日間まで、血糖値をほぼ正常な範囲に調節することができた。
【0250】
図8は、コンフォーマルコーティングされたマウス膵島[3300 IEQ] が皮下移植された2匹の無胸腺マウスの血糖値を示したものである。両方のマウスは、移植後20〜30日間、2,3のスパイク(上昇)が見られたものの、血糖値は移植後減少した。マウスのうち1匹は、移植後145日まで安定してほぼ正常な血糖値であった。他のマウスは、血糖値にいくつかのスパイク(上昇)が見られたが、移植された膵島は、30日後ほぼ正常なレベルに減少させることができた。
【0251】
コンフォーマルコーティングにより、IP部位で膵島の長期生存を可能にした。また、コーティングされた膵島は、膵島投与量に応じて、SQ移植でもよく機能した。SQ部位は、無胸腺マウスで優れた生体適合性を示した。
【0252】
コンフォーマルコーティングされたマウス膵島同種移植はまた、CD1マウスのIPとSQにそれぞれ移植された。図9は、コンフォーマルコーティングされたマウス膵島[3300 IEQ 及び 2160 IEQ]が腹腔内移植された2匹のCD1マウスの血糖値を示したものである。3300 IEQの移植では、血糖値は正常レベルまで急速に回復し、移植後90日間まで正常レベルを維持することができた。2160 IEQの移植では、日々のレベルで緩慢な変動がみられたが、600mg/dLから100―300mg/dL まで血糖値を減少させた。
【0253】
図10は、コンフォーマルコーティングされたマウス膵島同種移植が高用量[3623 IEQ及び 2000 IEQ]で皮下移植された2匹のCD1マウスの血糖値を示したものである。3623 IEQ移植では、血糖値をほぼ正常レベルに減少させ、移植後35日間まで正常レベルを維持することができた。2000 IEQ移植では、血糖値をほぼ正常レベルに減少させ、移植後30日間まで正常レベルを維持することができた。
【0254】
コンフォーマルコーティングは、IP部位およびSQ部位の両方で、同種移植の免疫拒否反応から保護した。一様に最小機能をもつカプセル化膵島の用量は、SQ部位で、〜1500 IEQ/マウスであることがわかった。同種移植用非カプセル化マウス膵島は、SQ部位において生存しなかった。PEGコンフォーマルコーティングされた同種移植用マウス膵島が、NODマウスに移植された(レシピエントにつき600〜700膵島)。コンフォーマルコーティングは、同種移植の免疫拒否反応から保護するだけでなく、ヒトType I糖尿病のマウスモデルにおいて、糖尿病の自己免疫再発からも保護した。図11は、PEGコンフォーマルコーティングされた同種移植用マウス膵島が移植された糖尿病NODマウスの血糖値を示したものである。
【0255】
図12は、コンフォーマルコーティングされた亜人霊長類膵島[5,000 IEQ]が皮下移植された無胸腺マウスの血糖値を示したものである。移植後15日から105日まで、600mg/dL以上から〜35 mg/dLへと血糖値を迅速に減少させることができた。
【0256】
図13は、コンフォーマルコーティングされたヒト膵島[11,573 IEQ 及び 14, 688 IEQ]がIP部位に移植された2匹の無胸腺マウスの血糖値を示したものである。移植は、血糖値を正常レベルに減少させ、移植後110日間まで正常レベルを維持することができた。
【0257】
図14は、コンフォーマルコーティングされたヒト膵島[10,000 IEQ]がSQ部位に移植された無胸腺マウスの血糖値を示したものである。移植は、血糖値を正常レベルに減少させ、移植後40日間まで正常レベルを維持することができた。
【0258】
以上の結果は、コンフォーマルコーティングされた亜人霊長類およびヒト由来のいずれの膵島とも、無胸腺マウスのIP部位およびSQ部位で膵島が生存できることを示すものである。

実施例6
霊長類カニクイザルでのカプセル化膵島の皮下移植
レシピエント霊長類
【0259】
正常なカニクイザル霊長類は、コンフォーマルコーティングされた同種移植用膵島の皮下移植前に、部分的に膵切除された(95%)。図15は、PEGコンフォーマルコーティングされた同種移植用膵島の皮下移植10日前から105日後までの、部分的に膵切除されたカニクイザルの血糖値およびインスリン要求性を示すものである。動物は、補助的なインスリンを必要としない正常な血糖値から始めた。部分的な膵切除の数日後に、血糖値は300mg/dLへ増加し、正常レベルに下げるためインスリンが必要になった。PEGコンフォーマルコーティング同種移植用膵島の皮下移植によって、血糖値レベルは減少した(以前の正常レベルまでではないが)。インスリンは移植後、数日間必要であった。しかし、必要量は移植後55日までゆっくりと減少し、その後は血糖値を維持するためにもはやインスリン注射を必要としなくなった。移植後55日〜105日間では、霊長類の血糖値は、部分的な膵切除前のベースラインレベルよりわずかに高かったが、そのレベルは、インスリン注射を必要とすることなく、移植されたPEGコーティングされた膵島によって維持された。
【0260】
剖検により、粒状のカプセル化膵島が、最小のホスト反応で皮下部位において見つかった。グルコースおよびインスリン染色は、膵島組織を含むカプセル内で示された(図16A−D)。膵島組織を欠くカプセル化膵島も多かったが、これはおそらく移植後に破壊されたと考えられる。外科的挿入および同種移植反応からの炎症性サイトカインは、ホストによるカプセルの破壊に関与する。若い霊長類での部分的膵切除された糖尿病モデルの限界の1つが、残存する膵島組織の拡がりによって残余の膵臓が糖尿病を回復させる可能性であったが、残余の膵臓において膵島が拡大した形で膵島が拡がる証拠はほとんどなかった。
【0261】
部分的膵切除は、残余の膵臓内の膵島から自然回復の可能性を有し、霊長類の糖尿病モデルとして多様なものになってしまうため、糖尿病を誘発するためにストレプトゾトシンを使用した。以下の4レシピエントは、すべてストレプトゾトシンを静脈注射することによって、糖尿病を誘発させた。
【0262】
他の移植された動物における糖尿病の誘導は、150 mg/kgの用量で生理食塩水に溶解したストレプトゾトシンの静脈注射によって実現された。ストレプトゾトシン注射による糖尿病の誘導前に、正常なカニクイザルが1週間のグルコース耐性検査によってモニターされた。糖尿病の3〜4週間後、グルコース耐性検査は、膵島移植前に再び行われた。2匹の糖尿病カニクイザルは、コントロールとしてカプセル化膵島を投与せず、糖尿病状態に保たれた。500 mg/dLに達するレベルまでに血糖値ホメオスタシスは急速に失われた。血糖値をほぼ正常な値に減少させるため、高用量のインスリンを必要とした。血糖値は、インスリン注射と共に大きく変動した。著しい低血糖値または低血糖症(hypoglycemia)のときも何度かあった。日々のインスリン注射によっても、動物は正常な一定の血糖値を維持することができなかった。ストレプトゾトシンの注射によってβ膵島が急速に破壊され、動物は血糖値ホメオスタシスを維持することができなかった。


膵島移植
【0263】
ケタミン、zylozineおよびアトロピン注射の後、滅菌済み注射のため、カニクイザルの腹部が剃られ準備され、ドレープされた。14-ゲージカテーテルが皮下に挿入された。ニードルを取り除き、トロカールと置換された。トロカールを皮下組織に押しつけることによって放射状に挿入部から側方向に4〜5のポケット(pockets)が作られた。ポケットが作られた後、カテーテルはそのままにトロカールが取り除かれた。カプセル化膵島がフラスコから、皮下挿入されたカテーテルに取り付けられた10mlの注射器に充填された。皮下に形成されたポケットには複数の経路が作られ、各スペースにカテーテルを移動することによって、カプセル化膵島をこれらの皮下部位に注入した。その後、4-0 prolene糸で purse string sutureを置き、皮膚の注入部位を閉じた。このカプセル化膵島注入手順は、すべてのカプセル化膵島が両側に完全に注入されるまで、各レシピエントに対し、必要に応じて繰り返された。レシピエントは、回復後、更なるグルコース検査のためケージに戻された。

薬物治療
【0264】
部分的膵切除されたレシピエント、およびストレプトゾトシンレシピエントの1レシピエントには、薬は与えられなかった。同種移植用カプセル化膵島の4ストレプトゾトシンレシピエントのうち3レシピエントには、移植7日前から移植30日後まで低用量のシクロスポリンが与えられた。低用量Neoralシクロスポリン(10−30 mg/kg/日)が、給餌時間に1日2回カニクイザルに経口投与された。12時間のトラフレベル(trough level)は、ELISAにより25〜100ng/mlの範囲に保たれた。この用量は、カニクイザルの腎臓の同種移植拒絶反応を防止できないため決定された。

代謝試験
【0265】
1日の午前空腹時血糖値および午後食後2時間の血糖値が、Accucheckモニターを使用して測定され、1日の値を平均化した。OGTTは、ケタミン、zylazineおよびアトロピン麻酔下の強制投与により、7 kcal/kgのBoost及び2 gm/kgのグルコースを用いて実行された。サンプルは、グルコースおよびC−ペプチド測定のため、0、30、60、90及び120分に採られた。

部検
【0266】
部分的膵切除された動物は、移植後100日目に部検に供された。主要組織はすべて取り出され、組織学的評価が行われた。

検査分析
【0267】
日々の血糖値を調べるため、Accucheckグルコースモニターを使用した。C−ペプチドは、Linco社のELISA分析によって測定された。ヒトC−ペプチド抗体は100%レベルでカニクイザルのC−ペプチドと交差反応することが確認された。糖化ヘモグロビンの判定は標識免疫検定法によって行われた。通常の血液検査が規則的なインターバルですべての糖尿病レシピエントに対して行われた。カプセル化膵島の生存試験は、フルオロセインジアセテート/エチジウムブロマイド(FDA/EB)分析によって行われた。

薬物治療なしのストレプトゾトシン誘発糖尿病レシピエント
【0268】
ストレプトゾトシン誘発された糖尿病カニクイザルレシピエントは、重篤な糖尿病(グルコース:150−350 mg/dL)であり、移植前に1日16-18 Uのインスリンを必要とし、これは部分的膵切除されたレシピエント以上であった。血糖値は、低血糖状態もみられるなど、典型的な広範囲の変動があった。グルコース耐性検査からこれらの糖尿調節において観察されるC-ペプチド値は、非常に低く、グルコースチャレンジへの反応なしであった。カプセル化膵島は、免疫抑制剤なしに皮下移植された。このカニクイザルの結果が図17に示される。
【0269】
皮下移植後、インスリン要求性は50%減少し、これは80〜90日間観察され、その後、膵島機能は若干低下した。インスリン非依存性ではなかったが、OGTTからのC-ペプチド結果は移植後、糖尿病前または正常値と同様であり、移植膵島が機能的であることを示した。この結果から、今日進行中の臨床試験での十分な免疫抑制の下で、膵島移植後に、部分的な移植片機能を有する糖尿病患者がみられると考えられる。
【0270】
レシピエントの皮下移植の組織学的評価の結果、インスリンとグルカゴンをもち染色されたカプセル化膵島が、移植部位において多くの空のカプセルの間に散らばってみられた。多くのカプセル化膵島が失われた理由の1つとして、ホストのマクロファージによってカプセル化膵島が破られ、この侵されたカプセル周囲にfocalな同種移植の免疫反応が生じ、その結果、マクロファージによって破られなかった周囲の膵島も破壊された可能性がある。あるいは、カプセル化膵島は、壊れたカプセルに反応した免疫細胞から生じた局所サイトカインによって殺されたかもしれない。他の可能性として、移植部位での血管新生が充分でなく、多くの膵島が酸素低下で移植後まもなく死んだことが考えられる。第3の可能性として、若いドナー由来であったため、カプセル化カニクイザル膵島の質が低く、インビボで生存し、機能することができなかったことが考えられる。これらの問題に答えるため種々のアプローチが採られ、機能の改善が図られた。

ストレプトゾトシン誘発糖尿病レシピエントへの30日間の低用量シクロスポリン投与
【0271】
次のストレプトゾトシン誘発糖尿病動物は、前と同様、重篤な糖尿病であった。すべての動物の前腹壁皮下に、約45,000 IEQ のPEGコンフォーマルコーティング膵島が移植された。壊れたカプセル周辺で起こるfocalな同種移植の免疫反応を減らし、膵島機能が改善されるかどうか決定するため、低用量のシクロスポリンが、移植7日前から移植後30日まで投与された。低用量のシクロスポリンとは、100-300 ng/mlの免疫抑制剤治療量の下、24時間でトラフ血液レベルがシクロスポリン50〜90ng/mlとなる用量として定義された。移植30日後、低用量のシクロスポリンは、(術後の鎮痛剤、必要なインスリン、および試験手順用のケタミンカクテルを除いて)レシピエントに与えられる唯一の薬として取りやめられた。
【0272】
第1レシピエントは、皮下移植後最初の10日間、血糖値およびインスリン投薬量は50%減少した。これらの値は、移植後30日(シクロスポリンを止めたとき)にインスリンをやめるまで減少を続け、220日まで75〜150mg/dL の間で血糖値が維持された。血糖値の結果およびインスリン要求性が、図18に示される。
【0273】
移植後120日でいくつかの高血糖値がみられ、メトホルミン投与を始めると、高血糖値はほぼ正常な範囲に戻った。メトホルミンは、Type II糖尿病患者に通常使用されるType II糖尿病薬で、肝および筋肉の糖新生を減少させる。それはまた、膵島移植のため免疫抑制されるType I患者の血糖値を改善するためにも使われる。移植された膵島は量が減少し、機能はゆっくり失っていた。
【0274】
第2の同種移植用カプセル化膵島は皮下移植され、その後30日間低用量のシクロスポリンが投与された。動物は120日間で正常血糖に戻った。最初の移植から235日経つと、血糖調節が弱くなり、高血糖値が観察され、低用量のインスリン投与が再開された。次の2月以上の間、膵島はゆっくりと機能を失い、完全なインスリン治療を必要とした。生存膵島量が、この糖尿病レシピエントを長期間、維持していることを想像し、第2のカプセル化移植が、移植後80日目に皮下に行われ、第2の30日間治療のために低用量のシクロスポリンが投与された。血糖値は、第2の移植および低用量シクロスポリン投与によって、150〜225mg/dLにとどまった。OGTTの結果、インスリン治療への復帰後でさえ、移植膵島からC-ペプチドが放出されると評価された。
【0275】
動物は、図19に示される組織学評価のため、285日目に安楽死させた。この動物からの組織サンプルは、皮下部位に多くの生存膵島を呈した。幾つかの膵島の周囲にはfocalなリンパ球が存在したが、壊れたカプセルの形跡はなかった。その理由は不明であったが、これらのカプセルは移植後9ヵ月で生分解され始めることが考えられる。また、多くの細血管のはっきりした形跡が、カプセル近傍にみられた。カプセル化膵島は、皮下のトロカールによるポケット内に並んでいるが、カプセル化膵島に対して、異物巨大細胞、あるいは進行中の炎症といった他の形跡は観察されなかった。
【0276】
第3の糖尿病カニクイザルは、カプセル化膵島を移植され、30日間低用量のシクロスポリンを投与された。
【0277】
この動物において、低用量でシクロスポリンを24時間トラフレベルで維持するのは困難だった。第1の移植後、膵島に対するシクロスポリン毒性の形跡が観察された。シクロスポリンが一旦+30日目で止められると、インスリン要求性は急速に低レベルに減少し、正常な血糖値が短期間観察された。120日目にインスリン要求性が増加し始めたので、低用量シクロスポリンと共に第2の移植が実行されると、移植前の50%のインスリン要求性で安定した。インスリン要求性は、血糖調節が減弱する約230日目で増加し始めた。インスリン治療への復帰にかかわらず、C-ペプチド反応は、カプセル化膵島移植の機能を示した。この動物は248日で安楽死された。組織学的所見は図20に示される。
【0278】
低倍率で、カプセル化膵島は、挿入され、トロカールによって作られたマイクロポケットに並んでいた。多くの同種移植用生存カプセル化膵島が、空のカプセルと共にこれらの部位に存在した。ホストのリンパ球およびマクロファージに囲まれたカプセル化膵島も、時折観察された。高倍率では、膵島の強いインスリン染色を含み、膵島の多くの組織が明瞭に観察された。幾つかのカプセルは、空に見え、膵島細胞がなくなっていた。移植部位の高倍率では、カプセル化膵島周囲の移植部位に高密度に細管の遍在する形跡が示された。これらの細管は、周囲の非移植皮下部位の細管と比較して、著しく増加した密度でPEGコーティング外側を包囲した。カプセル化膵島と関連する新規な細管は刺激を受け、カプセル化膵島移植から生じたシグナルに応答して形成され、これらのカプセル化膵島が長期間膵島機能を維持できることもこれにより説明できるかもしれない。空のカプセルは、おそらく、膵島移植後の最初の数週間で血管新生前に膵島が自らを維持することができなかったためと考えられる。また、最初の免疫反応からホストによるカプセルの破壊まで、これらのカプセルの極近傍でサイトカインの損傷があったかもしれない。
【0279】
第4のストレプトゾトシン糖尿病カニクイザルも皮下移植され、低用量シクロスポリンが使用された。2つの異なる皮下移植(2週置いて)は、最初にこの動物をインスリン非依存性にするため実行され、それは30日で達成された。移植後ほぼ115日で、血糖値の上昇のためにインスリン投与が再開された。他の皮下移植は、低用量シクロスポリンの下で実行された。一時的な改善の後、高血糖が戻り、インスリン要求性が増加した。C-ペプチド反応は、インスリン非依存性の期間、及び部分的な膵島機能の復帰後に行われたOGTTの間、観察された。このレシピエントの組織は、健康な膵島などを含む多くのカプセルと類似していた。幾つかのカプセルはリンパ球で取り囲まれていた。

経口ブドウ糖負荷試験の結果
【0280】
4匹のカニクイザルのC-ペプチド値が、異なる時期、即ち(a) 糖尿病の誘導前(ベースライン)(b)糖尿病の誘導後(前移植)(c)カプセル化膵島移植後30日(d)カプセル化膵島移植後60日、および(e)カプセル化膵島移植後90日、に測定された。Boostおよびグルコースの強制投与前に、C-ペプチドの前用量(pre-dose)は〜2.5 ng/mlであり、ケタミンなしのレシピエントへの前用量サンプルの値と比較して高かった。強制投与後、平均値は基本的に同じままだったが、何匹かの動物では末しょう血のC-ペプチド反応が上昇し始めた。強制投与後120分後までに、平均値はほぼ4ng/mlまで増加した。ストレプトゾトシン後少なくとも3週間は、4匹の糖尿病カニクイザルのいずれも、OGTTチャレンジに応答してC-ペプチドを増やさなかった。糖尿病状態の間のグルコースチャレンジからの非常に狭い範囲の標準偏差は、C-ペプチド反応を欠くことを確認するものである。糖尿病状態の間のC-ペプチドの絶対値は、文献の幾つかの報告で相違していた。これは、異なる製造業者からの6つの利用可能なC-ペプチドキットが存在し、カニクイザルC-ペプチドとヒトC-ペプチドとの交差反応において、30%の交差反応から100%の交差反応まで変化するためと考えられる。Linco社使用の抗体は、100%の交差反応であることが示された。全4匹の糖尿病レシピエントでの皮下膵島移植後、30日目にインスリン要求性が異なるにもかかわらず、C-ペプチド濃度は、糖尿病状態と比較して各時点で増加した。これは、移植後60日目でもそうであった。通常のベースラインC-ペプチド反応を、その後の皮下膵島移植に対する移植後30日目および60日目におけるC-ペプチド反応と比較すると、4レシピエントで実質的な差異はなかった。

糖化ヘモグロビンの結果
【0281】
図21は、糖尿病の誘導前に、カニクイザルの糖化ヘモグロビン値を示すものである(ベースライン(n=4);85日後、n=3;114日後、n=1)。糖化ヘモグロビン値は、90日持続するタンパク質を測定するので、その日前の検査ではほとんど情報は得られなかった。3.0 HbgA1cのベースライン値が、糖尿病の誘導前に、4匹の霊長類において得られた。移植後85日目に、糖化ヘモグロビン値は3.8までわずかに上昇したが、増加は実質的ではなかった。114日目に1匹の動物において、4.1でわずかに高くなった。カニクイザルの糖化ヘモグロビン値はほとんどわかっていなかったが、85日間の結果は、血糖値が実質的に上昇した30日の糖尿病値を含むだけでなく、移植後85日でベースライン値から実質的な上昇がないことを含むものである。これは、日々の血糖値にみられる若干の高血糖の形跡にもかかわらずそうであった。

カニクイザルでのカプセル化膵島の皮下移植のまとめ
【0282】
同種移植用PEGコンフォーマルコーティング膵島を4匹のストレプトゾトシン-糖尿病カニクイザルに皮下移植することによって、ほぼ正常な血糖値が得られ、長期間の免疫抑制を要することなく、120日までインスリン治療を不要とすることができた。移植後、最初の30日間の低用量シクロスポリンの使用は、全3レシピエントにおいて皮下部位でのカプセル化膵島の生存率を増加させた。シクロスポリンが投与されなかった1レシピエントでは、移植膵島は部分的な機能しか持たなかった。同種移植用カプセル化膵島の皮下移植後、レシピエントのOGTTチャレンジによる代謝検査の結果、糖尿病値と比較して強制投与後の全時点でC-ペプチド反応が実質的に増加すること、および、同種移植用膵島の皮下移植後のC-ペプチド反応は糖尿病の誘導前の正常な反応と統計的に異ならなかったことが示された。カニクイザル移植研究の結果が表2にまとめられる。
【表2】


実施例7
ヒヒへのカプセル化膵島の皮下移植
外科的手法
【0283】
ヒヒ膵島がドナーから取り除かれ、カニューレを入れ、膵保存液によって保たれ、膵島の調製とカプセル化のため、Novocell社に運ばれた。ヒヒ膵島はその後培養され、移植用施設に送られ、その後、ヒト膵島の調製用プロトコルと同様に、培養培地の懸濁により外科移植用に調製された。ヒヒは麻酔され、16ゲージカテーテルが前腹部皮下に配置された。カテーテルを介してトロカールが挿入され、腹部皮下に5つの皮下トラクト(長さ各〜3“)の「fan shaped」な領域を形成した。試験材料(〜2.5mLボリュームの全膵島移植の〜17%)が穏やかに懸濁され、5ccの注射器に入れられ、皮下トラクト(または「ポケット」)に沿って、ポケット全体に均一なパターンで配置された。ニードル挿入部位は、挿入部位から漏れが生じないよう、4-0 purse string sutureを置いて閉じられた。この結果、試験材料およびバッファーの長いlow lying areasが生じた。液部は急速に吸収され、わずかに粒状の表面組織を残した。合計6つの部位が、完全な移植手順のために使われた。注射位置を記録するために領域を刻した。炎症などの局所反応は認められなかった。

薬物治療
【0284】
(24時間のトラフレベルが50〜95ng/mlからである半免疫抑制量で)シクロスポリンは、移植前7日〜移植後30日まで投与された。シクロスポリンは、移植した若干の脆弱のカプセル化膵島に対する迅速かつfocalな同種移植の免疫応答によるカプセル化膵島の付随的な損失を防止するために投与された。さらに、臨床的な混合薬物と同様に、メトホルミンが、移植後1日目から試験継続中にわたり投与された。糖尿病を誘発するためにストレプトゾトシン投与し、少なくとも4週間後に投与されたコーティング膵島の用量は、ほぼ40K IEQ/kg体重であった。本研究の間使用された効果的膵島量と現在のヒトの研究(15K IEQ/kg)で使用される量との相違は、移植部位(皮下対門脈)と移植後の膵島の損失によるものと考えられる。

モニタリング
【0285】
モニタリングの目的は、糖尿病管理および移植活動を追跡するために必要な情報の包括的な評価、および全体的な健康/安全性評価の地域許容の標準指標と世界的指標を提供することである。各グループは、プレ糖尿病期間(ベースライン)、糖尿病期間および移植後期間においてモニタリングされた。測定には、OGTTおよびAST(アルギニン刺激試験)(血糖値、インスリンおよびC-ペプチド解析など)およびヘモグロビンA1c解析が含まれる。糖尿病期間および移植後期間の日々のモニタリングには、血糖値(断食時、食後2時間、食前)、尿糖値およびケトン(朝絶食時および食前)、摂食内容(炭水化物、脂肪およびタンパク質の量)、インスリン注射量(糖尿病処置)、および他の薬物投与量が含まれる。毎週の検査には、体重および臨床診察が含まれる。

部検
【0286】
皮下移植部位および非移植コントロール部位の組織病理検査は、ヘマトキシリンエオジン(H&E)染色および免疫組織化学染色(インスリン、グルカゴン、血管由来のアクチン、マクロファージ、及び、リンパ球、CD3、CD4、CD8)を使用して行われた。標準的な器官および組織の組織病理検査は、H&E染色を使用して行われ、委員会認定の獣医病理学者によって評価された。膵臓の免疫組織学的染色は、インスリンおよびグルカゴンの存在を評価するために行われた。

ストレプトゾトシン糖尿病ヒヒの同種移植用カプセル化膵島
【0287】
図22は、同種移植用カプセル化膵島を移植した第1の糖尿病ヒヒの早い段階の結果を示す。この糖尿病ヒヒレシピエントは、同種移植用カプセル化膵島の皮下移植後17日以内にインスリン非依存性を達成する能力を示した。これは、膵島移植後30日前にはインスリン非依存性を達成しなかったカニクイザル糖尿病とは対照的であった。ヒヒ糖尿病モデルは、カニクイザルでのような、経口注入されたシクロスポリン投与を用いたものから、大ヒヒでのIM注射へ変化した。これは、24時間のトラフレベルのカニクイザルモデルにおいて観察される変化を除去した。図23は、このレシピエントが移植後60日間正常なHemoglobin A1cレベルであったこと、インスリンを続けずに180日間正常レベルのままだったことを示す。
【0288】
OGTTおよびASTの結果は、投与後の全ての時点での実質的なC-ペプチド放出を示した。正常な反応は、30分の時間枠でC-ペプチドのピークを示し、値はその後減少し、全ての時間枠で正常な血糖値となる。糖尿病の期間中、血糖値は、グルコースチャレンジに応答しなかったC-ペプチドの極低レベルのために、上がり続けた。投与後、グルコースチャレンジに対するC-ペプチドの強い反応があったが、これらの反応は遅く、チャレンジ後60分および90分で生じていた。血糖値を検査すると、30分および60分の値は、C-ペプチド反応のこの遅れにより、正常値より高かった。しかし、90分および120分までに、血糖値は正常近くに戻った。このときに、C-ペプチド反応の遅れは、移植が皮下部位だったからか、膵島のカプセル化によるものかはわかっていない。これらの結果は、免疫抑制下でのヒト糖尿病への門脈での膵島移植に非常に類似していた。
【0289】
第2のヒヒは、再び低用量シクロスポリンと共に皮下部位に移植された。血糖値の低下が生じ、ほとんど同じインスリン要求性を維持した。インスリン要求性は100日までゆっくり低下したが、200日の期間まではゆっくり上昇した。一方、血糖値は低下したままだった。ヘモグロビンA1c値の検査の結果、90日までは12%から8.0%まで値が実質的に低下し、120日目に正常レベルになることによって、部分的な機能が明確に達成されていることを示した。値は180日目までゆっくり8%のレベルまで上昇した。これらの値は、インスリン非依存性ではないが、移植後正常近いヘモグロビンA1cレベルを維持する膵島移植レシピエントにおいて達成されているものとコンパチブルな部分的な機能を示した。
【0290】
OGTTおよびAST検査の結果、第1のレシピエントと比較して、移植後の期間にわたって低C-ペプチド値と高血糖値を示した。しかし、C-ペプチド反応は、糖尿病のとき得られた値より実質的に高かった。
【0291】
第3のレシピエントも、低用量シクロスポリン(図24)と共に同種移植用カプセル化膵島が皮下移植された。このレシピエントも、糖尿病の期間と比較して、グルコースおよびインスリン値は50%以上減少し、移植後の部分的な反応を示した。これらの値は、移植後140日目にも維持された。
【0292】
このレシピエントのヘモグロビンA1c値(図25)は、移植後60日目までは正常な範囲であったが、120日目までに糖尿病レベルまで上昇した。これは90日間の部分的な膵島機能を示すものであり、その時間後は応答性が減少した。
【0293】
OGTTおよびASTの応答は、部分的に機能しているレシピエントのために以前観察されたものと類似しており、C-ペプチド値は移植後上昇し、60〜90分の時間枠においてピークに達した。
【0294】
1の通常の膵島移植レシピエントおよび2の部分的なレシピエントを用いて、これらの結果が糖尿病レシピエントの門脈への移植後のものと比較した場合どのようなものかを理解することが重要であった。この作業を実現するため、ヒヒ膵島単離結果が許容レベルを達成する前の時点で、最初にカプセル化膵島が皮下移植された前研究(pre-study)用のヒヒレシピエントが、この研究のために使われた。このレシピエントは、膵臓の運搬および移植用膵島のカプセル化を実践するために用いられた。2箇所の皮下にカプセル化膵島が移植されたが、良い結果は期待されなかった。レシピエントは研究におかれ、最初の3レシピエントで使用されたのと同様の条件で単離されカプセル化された同種移植用カプセル化膵島の門脈内注射の可能性を試験するために用いられた。
【0295】
最初の2箇所の移植は、0日および110日で行われた。両方ともに一時的に好転したが、周縁部での移植から予想されるように持続しなかった。しかし、第1の移植後240日で、同種移植用カプセル化膵島の門脈内注射が行われ、外科的手技として門脈への直接注入によって、肝臓機能検査では門脈圧の上昇も他の変化もなかった。一方、移植により劇的な反応があり、2、3日内にインスリン要求性が50%以上低下した。移植後30日でシクロスポリン投与を止めた後、このレシピエントはインスリン治療なく移植後290日まで血糖値は正常であった。このレシピエントのヘモグロビンA1c値を調べると、周縁部への皮下移植に従って減少したが、正常レベルまでではなかった。門脈移植後得られた唯一の値は、移植後30日目のものであったが、早すぎたため期待される改善はみられなかった。ヘモグロビンA1c値は、ヒヒでは臨床結果より約30日遅れる。
【0296】
周縁部での皮下移植後、C-ペプチドは、糖尿病の値より高かったが、低レベルのままであった。この応答は、ヘモグロビンA1cレベルを減少させたが、正常化できなかった。門脈移植後30日の値のみが利用可能である。グルコース反応を調べると、C-ペプチドの上昇と関係した著明な低下があった。最初の門脈移植での実質的な改善は、皮下部位を、改善結果を得るまでに高める可能性を示唆した。

実施例8
PEG付およびPEGなしアルギン酸塩マイクロカプセルでカプセル化された細胞
【0297】
細胞および組織は、アルギン酸または他のヒドロゲルを含むマトリックスでコーティングすることができる。アルギン酸マイクロカプセルで膵島をコーティングする好ましい方法は、以下述べるように、PEGを用いる場合と用いない場合がある。

アルギン酸塩マイクロカプセルでの膵島のコーティング
【0298】
100μlの培養膵島は、10mM HEPESバッファー内の1.6 %アルギン酸ナトリウム溶液1.25mlに、均一に懸濁された。膵島を含むアルギン酸マイクロカプセルが、10.5 PSI [72,394.95 Pa (N/m2)]に設定されたアルゴン圧と21-ゲージニードルを介したシリンジポンプ/アルゴンジェット押出処理によって作られ、10mM HEPES溶液内の80 mM calcium chloride 100mlにて回収された。アルギン酸マイクロカプセルは、gravity15分およびデカンテーションで設定して、M199を用いて3度洗浄された。アルギン酸マイクロカプセルは、250〜350μMのサイズ分布を有した。

PEGを用いたアルギン酸塩マイクロカプセル膵島のコーティング
【0299】
20mMの低イオンHEPESバッファー(1.8mMのCaCl2および260mMのManitolを含む(pH = 7.0))15ミリリットルを、マイクロカプセルを含む100 μlの膵島が入った15mlの円錐管に添加された。管はペレットを形成するために遠心分離され、上澄みが取り除かれた。Den-EY溶液(低イオンHEPESバッファー0.1mg/ml)15mlがペレットに加えられ、管は室温で10分間水平に保たれた。染色された膵島は低イオン20mMのHEPESバッファーで洗浄され、少なくとも30分間、アルゴンによってspargedされた。染色された膵島は20mlの光学活性ポリマー溶液と混合され、アルゴンによってspargedされ、ウオーターバスに少なくとも30分間、80℃までpre-equilibratedされた。光学活性ポリマー溶液は、20mMのHEPESバッファー(pH = 8.0)で作られ、5%のPEG 1.1K-TA、10%のPEG 3.5K-TriolまたはPEG 4K-Diol、100mMのTEoA、32mg/mlのAMPSおよび2μl/mlのNVPおよび13%のNycodenzを含むものである。懸濁液は10mlのビーカーに移され、ビーカーは1分間200 mW/cm2の照射密度でアルゴンレーザによって照射された。重合反応はシャーレへM199、1〜2mlを加えることによって停止され、ビーカーの内容物はM199、40mlを含む50mlの円錐管に移し換えられた。M199で3回洗浄後に、カプセル化膵島は培養に戻された。

アルギン酸マイクロカプセルおよび非糖尿病霊長類皮下への異種移植としてブタ膵島を含むアルギン酸/PEGマイクロカプセルの移植
【0300】
霊長類研究において、アルギン酸およびアルギン酸/PEGコートマイクロカプセルは、3例(糖尿病にかかっていないカニクイザル)に移植された。PEGコートマイクロカプセルは、選択透過性を変えた複数の条件で作られた。移植されたマイクロカプセル(アルギン酸単独及びアルギン酸/PEG)の全ては、霊長類への異種移植としてブタ膵島を含むものであった。これらのレシピエントは、抗CD 154モノクローナル抗体で処理され、皮下移植7日後に切除され、これらの異なるマイクロカプセルにおいて生存しているカプセル化ブタ膵島のパーセンテージが評価された。
【0301】
図26は、異なる選択透過性プロファイルのコーティングを有する、アルギン酸のみ、および、異なる構成のアルギン酸塩/PEGマイクロカプセルが、正常なカニクイザル霊長類に7日間移植された後のカプセル化ブタ膵島の生存割合を示す。異なる選択透過性の値は、0 kD, 30 - 60 kD, 100 kDおよび200kD以上である。アルギン酸塩のみのカプセルでのブタ膵島の生存率は、55%だった。アルギン酸塩/PEGに覆われたマイクロカプセルの間で膵島の生存率に違いがあった。24時間の生存は、非常にタイトな選択透過性(0kDまたは<30kDサイズのタンパク質)拡散を有するものでは37%であった。24時間の生存は、30 - 60 kDサイズのタンパク質の選択透過性拡散を有するものでは、70%に増加した。<100kDサイズのタンパク質の拡散を許容するマイクロカプセルでは、24時間の生存は58%であった。ワイドオープン(>200kDサイズのタンパク質の拡散)のマイクロカプセルでは、24時間の膵島生存は32%に減少した。
【0302】
正常なカニクイザル霊長類の皮下部位に、アルギン酸塩/PEGでカプセル化した新生ブタ膵島組織を7日間移植した後、インスリンおよびグルカゴンを染色することで、低用量シクロスポリンのsystemicな運搬と共に、アルギン酸塩/ PEGマイクロカプセルによってカプセル化新生ブタ膵島組織が7日間生存できることが示された。

糖尿病霊長類の腹腔へのアルギン酸塩/PEGマイクロカプセルでカプセル化したブタ膵島の異種移植
【0303】
糖尿病霊長類への追跡調査の結果、アルギン酸塩/PEGマイクロカプセルに包まれたブタ膵島は、抗CD154 systemic治療との併用で30日間、インスリン要求性を軽減した。図27は、30日間の抗CD154抗体治療を受けた糖尿病カニクイザルの腹腔に、アルギン酸塩/PEGマイクロカプセルでカプセル化したブタ膵島を移植した結果である。移植された膵島は、インスリン注射なしで正常な血糖値を維持することができた。

異なるタンパク質選択透過性の膵島含有アルギン酸塩/PEGコートマイクロカプセルの生産
【0304】
膵島は、コーティング内の孔サイズを変えるために異なるカプセル化の条件下、アルギン酸塩/PEGマイクロカプセルでカプセル化され、組織培養に置かれた。カプセル化膵島は、カプセル化細胞を殺傷し、蛋白質を溶解する界面活性剤(SDS)で処理された。これら処理されたマイクロカプセルは、蛋白質のない培養培地に置かれ、培地は異なる時期に集めた。タンパク質サイズは、ポリアクリルアミドゲル上にdiffusatesを置いて、PAGE電気泳動で異なる大きさのタンパク質を分離することで決定された。その結果、PEG濃度、PEGサイズ、コモノマー濃度、レーザ強度および膵島露光時間などを変えることによってPEGコーティングの選択透過性を変更できることがわかった。
【0305】
図5は、PEGコーティングの形成に関係する変数を変えることによってアルギン酸塩/PEGマイクロカプセルの選択透過性プロファイルを変更できることを示す。アルギン酸塩/PEGカプセル化膵島は培養され、経時的に細胞から放出された蛋白質の分子量が測定された。非カプセル化膵島から放出されたタンパク質は一番左の列に示される。隣は分子量マーカーであり、その次は、アルギン酸塩/PEGカプセル化膵島から放出された蛋白質を示す。放出された蛋白質は、それぞれ、100kD以上、100kD、60kD未満、30kD未満および0kDであった。

実施例9
膵島以外の細胞種類のアルギン酸塩/PEGコーティング
【0306】
膵島のほかに、同様の集合した細胞が、実施例3と類似の方法で、アルギン酸塩マイクロカプセルにカプセル化された。但し、異なる大きさのアルギン酸塩マイクロカプセルで膵島をカプセル化する前記技術を使用する前に、細胞をクラスタ(clusters)にした。これらの方法により、インスリン産生腫瘍細胞系統、BHC8マウスインスリノーマ細胞をPEGでコンフォーマルコーティングすることができた。また、容易に凝集しない種類の細胞を使用して、それらがcell clustersへと凝集しなくても、細胞は最初にアルギン酸カプセルでカプセル化された。この方法で、インスリン産生腫瘍細胞系統、ラットインスリノーマ(RIN)をPEGでコンフォーマルコーティングすることができた。
【0307】
ApoE2を生産するよう改変された、C-127細胞系統からの細胞は、クラスタというよりむしろアルギン酸マトリックスで成長した。その後、PEGコーティングが、アルギン酸マトリックスで成長したこれらの細胞に適用された。また、アルギン酸マイクロカプセルで非凝集細胞(CHO)を捕えることが可能であった。そのため、該細胞を培養においてアルギン酸球状内に拡げることができ、これをPEGコーティングでコートすることにより、アルギン酸/PEGコーティングを完成させた。

実施例10
アルギン酸塩とPEGポリマー混合物の共押出の使用による、膵島または他の細胞上でのアルギン酸/PEGコーティングの形成
【0308】
細胞集合体または単一細胞が、シリンジポンプ/アルゴンジェットシステムで1つのシリンジに充填されたアルギン酸溶液に混合された。このシリンジの出力は、3つのニードルを含む同軸ニードルシステムの内部#21-ゲージニードルに接続されていた。第2のシリンジは、PEGカプセル化混合物のみ含み、同軸ニードルシステムの中間#18ゲージニードルに接続されていた。アルゴンガスは、外側#16-ゲージニードルに接続されていた。細胞およびPEGシリンジを含むアルギン酸シリンジは、同じポンプに接続していたので、流出速度は2つのシリンジと同一だった。液滴を形成する気体量は、液滴の大きさを調節するよう設定された。この2つのシリンジ/アルゴン気流から生じる液滴は、上部3/4にオイルなどの不溶剤、管の底1/4にカルシウムまたはバリウム含有(80mM)溶液を含む長形ガラス管に回収された。アルゴンレーザ光は回収した管の不溶部分を介して照射され、回収した管の不溶部分を介してカプセルが落下する前にPEG外側コーティングを架橋結合した。細胞を含むPEG架橋結合カプセルが回収した管の底1/4に達したときに、コアのアルギン酸が架橋結合した。架橋結合アルギン酸コア/PEGコートカプセルは、管の底から回収され、不溶剤を除去するために洗浄された。必要に応じて、付加的なエオシンYが存在する場合に、これらのカプセルを水層で付加的なアルゴンレーザ光に曝露することによって、付加的なPEG架橋結合が得られた。この実施例の結果、(1)単一細胞をカプセル化することができ、(2)カプセル化される新規な細胞の成長が可能なようにPEGカプセル内に成長中心を設けることを示した。この種のコーティングを使用した実施例は、赤血球(RBC)でなされた。

PEGマイクロカプセルでの膵島のカプセル化
【0309】
10%のウシ胎児血清を含むM199培地に懸濁されている500膵島は、3分100gで遠心分離されペレット状にされた。ペレットは、エオシンY(1mg/ml)、ビニルピロリドン(16mg/ml)及びトリエタノールアミン(100mM)を含むM199培地での、PEG 3.5KDトリアクリレートマクロマー10% w/v溶液1mlで再懸濁された。その後、ミネラルオイル(20ml)は、大きさ200-500 umの液滴の分散を形成するために強く攪拌された管に添加された。この分散は、その後60秒間、強さ200mW/cm2、514ナノメートルのアルゴンイオンレーザに曝露された。ミネラルオイルはその後分離され、マイクロカプセルの定着を可能にした。得られたマイクロカプセルは、PBSで二回、ヘキサンで1回、最後に培地で3回洗浄された。

実施例11
マイクロビーズ上での膵島細胞または他の細胞のコンフォーマルコーティング
【0310】
凝集せず、コンフォーマルコーティングの形成が妨げられる細胞をカプセル化する1つの方法は、マイクロキャリアビーズ上で成長させることである。この成長後、単離された膵島について実施例2で説明したのと同様のPEGコンフォーマルコーティング技術が、腫瘍細胞の外層を含むマイクロキャリアビーズのPEGコンフォーマルコーティングを設置するために用いられた。コンフォーマルコーティングは、この方法を使用して生産され、許容される生存能力を有することが示された。表面上に種々の異なる細胞を成長させるために使用するマイクロキャリアビーズの異なる種類によって、ここで説明するコンフォーマルコーティングの成否が決まると考えられる。
【0311】
表面上で成長する細胞のために多くの異なる種類のマイクロキャリアビーズが生産されている。(先に実施例7で提示した)ApoE2を作る為に改変されたC-127細胞系統は、凝集せずに、Cytodexビーズ上で成長した。マイクロキャリアビーズを含むこれらの細胞は、キャリアビーズおよび結合した細胞の外層上での直接のPEGコンフォーマルコーティングを使用して、容易にカプセル化された。

実施例12
PEGコンフォーマルコーティングによってカプセル化される他の細胞種類
【0312】
凝集され、PEGでコンフォーマルコーティングできる他の細胞種類は、NIT、マウスインスリノーマ、細胞系統を含む。この結果は図28に示される。上記技術により、薄いコンフォーマルコーティングが膵島細胞集合体のために適用され、2週間の組織培養において生存可能に維持された。1週間の培養後、カプセル化細胞は、臭化エチジウム/フルオレセイン2酢酸染色によって、明らかに生存可能であった。被覆細胞は、通常光下(図28A)、およびFDA/EB染色での蛍光下(図28B)で示される。
【0313】
サル腎細胞系統は、組織培養において凝集され、PEGでコンフォーマルコーティングされた。図29Aは通常光下での細胞を示す。図29BはFDA/EB染色での蛍光下での細胞を示す。また、これらのカプセル化腫瘍細胞の生存能力が、FDA/EB染色によって示される。
【0314】
他の例では、膵島細胞以外のプライマリー細胞は、凝集され、PEGでコンフォーマルコーティングされた。図30は、ヒトおよびマウス起源のプライマリー肝細胞(hepatocytes)から作り出され、培養2週間生存能力を維持する細胞集合体のPEGコンフォーマルコーティングを示す。図30Aは、通常光下で2週間培養後のヒト細胞を示す。図30Bは、FDA/EB染色での蛍光下で、2週間培養後のヒト細胞を示す。図30Cは、通常光下でマウス細胞を示し、図30Dは、FDA/EB染色での蛍光下で細胞を示す。ヒトおよびマウス肝細胞集合体は、首尾よくPEGコンフォーマルコーティングされて、2週間の培養後でさえ生存した細胞であった。

実施例13
マイクロカプセル又はコンフォーマルコーティングでカプセル化された膵島治癒量の評価
【0315】
表3および4は、個体に対する膵島の治癒量を決定するために当業者の参考となるデータを提供する。下記のデータは、以下の仮定に基づいて算出された。即ち、(a)全てのマイクロカプセルは球形である、(b)膵島につき1,500個の細胞、(c)最小限の治癒量は体重あたり15,000IEQ/kgである、(d)5%の空のマイクロカプセルまたは0%の空のコンフォーマルコーティングカプセルが存在する、(e)マイクロカプセル/コンフォーマルコーティングカプセルでパックされている最大量は全量の75%である、(f)各々のマイクロカプセル/コンフォーマルコーティングカプセルは150μmの直径を有し、1つの膵島を含む。最大密度の細胞(8.2×108 cells/ml)は、1μmのカプセルで膵島をコンフォーマルコーティングすることによって得られる。
【0316】
体積は、懸濁液またはマトリックスの量を説明しない。当業者であれば、下記のデータが治癒量を算出する際の参考として利用できること、しかし、下記の数値は使用可能な膵島の数および濃度の範囲を制限するものではないことがわかるであろう。これらの計算を行う為になされた仮定は、本発明を制限するものではない。これらの数値は、単に本発明の実施形態に関連するものである。( V膵島(ml)=0.0264938)
【表3】


【表4】


マイクロカプセル又はコンフォーマルコーティングでカプセル化された細胞数の評価
【0317】
表5および6は、さまざまな病気や不具合をもつ個体に必要な細胞の治癒量を決定するために当業者に参考となるデータを提供する。下記のデータは、幾つかの仮説に基づいて算出された。即ち、(a)カプセル化またはコンフォーマルコーティングされている細胞は平均直径50μmである、(b)各々のマイクロカプセルの細胞集合体の全ボリュームは1.77×10-6mlである、(c)5%の空のマイクロカプセルまたは0%のコンフォーマルコーティングされたカプセルが存在する、(d)マイクロカプセル/コンフォーマルコーティングされたカプセルでパックされている最大量は全量の75%である、(e)各々のマイクロカプセル/コンフォーマルコーティングカプセルは150μmの直径を有し、1つの膵島を含む。細胞の最大密度(1.36×107 cells/ml)は、1μmのカプセルで膵島をコンフォーマルコーティングすることによって得られる。
【0318】
体積は、懸濁液またはマトリックスの量を説明しない。当業者であれば、下記のデータが治癒量を算出する際の参考として利用できること、しかし、下記の数値は使用可能な細胞の数および濃度の範囲を制限するものではないことがわかるであろう。これらの計算を行う為になされた仮定は、本発明を制限するものではない。これらの数値は、単に本発明の実施形態に関連するものである。
【表5】


【表6】


実施例14
アルギン酸塩/PEGマイクロカプセルの特性
【0319】
PEGアクリレートの多くの異なる種類、長さおよび大きさが動物でテストされ、組成物の生体適合性および選択透過性、カプセル化後のカプセル化細胞の機能性と生存能力が決定された。アクリレートPEGコーティングの1つは、1.1kD PEGトリアクリレートであった。この短いPEGアクリレートは架橋結合されるとユニークな生体適合性を有する。
【0320】
ヒドロゲルカプセル化アルギン酸ビーズは、14日間、小動物および大動物の両方に移植され、その間、免疫抑制は使用されなかった。カプセルはその後取り出され、これらのカプセルに対する組織反応の性質および範囲が組織学的に評価された。検査したサンプルでは、目立った組織反応はなく、このことはヒドロゲル組成物が生体内で非常に良好な生体適合性を有することを示すものである。
【0321】
図31は、空のアルギン酸塩/PEGマイクロカプセルが異なる部位に移植されたマウス、ブタ、イヌおよび霊長類の生体適合性反応を示す。1.1kD PEGトリアクリレートで被覆された空のアルギン酸マイクロカプセルが、肝門脈に注入された。ブタおよび霊長類において、これらの空のPEGマイクロカプセルに対する反応は、移植後2週間なかった。イヌは、PEGが注入された全ての中で最大の反応性を示したが、それでもわずかの細胞でしか反応性を示さなかった。
【0322】
カプセル化物質の組成物が評価され、生体適合性、選択透過性、機能性および生存能力を評価するために保存された。スコアリングシステム(1〜4)が、カプセル化細胞の移植に対する動物の反応性を定量化するために用いられた。
【0323】
表7は、マクロファージ、FB巨細胞、炎症反応、リンパ球および好酸球の存在についてのスコアリング値を示す。生体適合性についての全体のスコアは、これら5つのカテゴリの平均スコアである。図32は、小動物でのカプセル化細胞の生体適合性をスコア値1、2および3の代表的な組織で示す。図33は、大動物でのカプセル化細胞の生体適合性をスコア値1、2および4の代表的な組織で示す。
【表7】

【0324】
表8は、組成物の成分および成分割合を変えることによって選択透過性がどのように変更できるかを示す。10%の3.5K-TAおよび10%の10K-TAの組合せは、ゲル構造を非常にタイトにし、血液とカプセル化細胞との間のほとんどすべてのタンパク質の通過を防止する。組成物が5%の3.5K-TAおよび5%の8K-DAに変更されると、ゲル構造は、大きさ中程度(100〜60kD)のタンパク質を血液とカプセル化細胞との間で通過させることができる。20%の10K-TAの組成物は、大きな分子量(>100kD)のタンパク質が血液とカプセル化細胞との間を通過することができるゲルを生産する。
【表8】

【0325】
カプセル化物質の組成物は、カプセル化細胞の機能性および生存能力に重大な影響を及ぼす。ゲルを作るために使用する化学物質および方法は、細胞毒性または細胞障害性を有する場合がある。図34は、ストレプトゾトシン誘発糖尿病無胸腺マウスに、カプセル化膵島を移植した結果である。スコア「1」は、カプセル化細胞が糖尿病を除去し、血糖値が< 150ng/mlのものを示す。「2」は、糖尿病を減少させるが、日々のホメオスタシスを維持できず、血糖値を150と300ng/mlとの間にするカプセル化細胞を示す。「3」は、糖尿病をコントロールできず、血糖値を>300 ng/m にするカプセル化細胞を示す。
【0326】
カプセル化細胞の機能性も、静的グルコース刺激試験によって評価されることができる。テストは、低濃度グルコースでのBasalなインスリン生産と、高血糖(Stimulation)およびIBMXによる高血糖でのインスリン生産とを比較する。図6は、静的グルコース刺激試験のスコアである。スコア「1」は、刺激(Stimulation)インスリン生産がBasal の>2倍、IBMXインスリン生産がBasalの>10倍を示す。スコア「2」は、刺激(Stimulation)インスリン生産がBasal の1.5〜2倍、IBMXインスリン生産がBasalの5〜10倍を示す。スコア「3」は、刺激(Stimulation)インスリン生産がBasal の<1.5倍、IBMXインスリン生産がBasalの<5倍を示す。
【0327】
細胞の生存能力は、カプセル化プロセスで評価された。スコアリングシステムは、「1」= >90%、「2」=<90%〜75%、「3」=<75%〜50%、「3」=<50%〜25%および「4」=<25%として生存能力をランクした。図4は、1、2および4のスコアを有するカプセル化細胞の生存能力および組織を示す。

実施例15
PEGコーティングでコンフォーマルコーティングされ、血管由来成長因子を産生する遺伝子改変された細胞を用いた虚血性筋肉移植
【0328】
多くの異なる細胞種類は、異なる血管由来成長因子を産生する遺伝子改変された細胞であってもよい。これらの細胞は、ヒト又は動物の繊維芽細胞、血管細胞または種々の非腫瘍細胞系統である。血管由来成長因子(例えばVEGF、bFGFおよびPDGF)の選択は、カプセル化のため遺伝子改変された細胞系統として使用するためになされる。虚血性筋肉を有する動物モデルに移植を考慮する前に必要な測定は、虚血性筋肉の微小環境での臨床効果を提供するために推定されるレベルでの選択した血管由来成長因子の放出である。細胞が凝集される場合、これらの細胞集合体のコンフォーマルコーティングは実施例2記載と同様の条件でなされた。これらのカプセル化した血管由来成長因子産生細胞の移植は、虚血性心筋を実験的に誘発された、または虚血肢筋肉を実験的に誘発された、齧歯目モデルでなされた。測定の結果、増加した筋肉量が組織学的に示され、心筋を含む選択した虚血性筋肉の運動増加の機能的な証拠がみられた。ヒトを含む大動物での血管由来成長因子産生細胞の移植は、例えば、openな外科的手技を必要とせず、血管アクセスおよび心筋への直接注射を可能とするfluoroscopicな調節で達成された。

実施例16
種々の疾患治療のための、PEGコンフォーマルコーティング膵島、肝細胞又は遺伝子改変細胞の脾臓移植、
【0329】
膵島の場合、非カプセル化膵島は、糖尿病のヒトと同様に、糖尿病イヌの脾臓に移植され、肝臓内の非カプセル化膵島移植と比較して、同様の方法で糖尿病を好転させた。一方、カプセル化膵島は、脾臓と皮下において、うまく機能する。同様に、遺伝子改変された細胞(例えば肝細胞)を脾臓に移植することは、遺伝子改変された産物が肝臓に最初に放出されるのと同様に、細胞によくvascularizedされた部位を提供する。これは、脾臓に移植されている遺伝子改変された細胞産物を扱うか利用する際に肝臓が主要な役割を果たす疾患において重要である。脾臓への容易なアクセスと大量の細胞を持つ能力(capacity)は、カプセル化細胞療法の魅力的な部位である。

実施例17
疾患または不具合の治療のための、CNS 剤運搬用カプセル化細胞の包膜内注入
【0330】
多くの異なる中枢神経疾患(CNS疾患)は、カプセル化細胞によって治療される。例えばパーキンソン病患者の黒質にカプセル化ドーパミン産生細胞を注入するなど、疾患脳の特定位置に直接注入が必要な疾患もあるが、多くの中枢神経疾患または障害は、単に脊髄に沿って髄液に必要なCNS因子を産生するカプセル化細胞を注入し、カプセル化細胞産物の放出を可能とするによって、治療することができる。髄液の循環は、産物を関係する脳または脊髄の所望の位置へ搬送する。この方法の更なる例は、転移性癌患者などの慢性の痛みの治療のために、腰部の脊柱管に挿入された中空糸にドーパミン産生細胞をカプセル化することによって示される。これらのコンフォーマルコーティングを使用することで、大量の細胞をデリバリーすることができる。他の応用は、外側につながれた中空チューブ内にこれらのカプセル化された細胞を含むことである(免疫保護はこれらのチューブに頼らない)。そのような疾患の1つは多発性硬化症(Multiple Sclerosis)である。それは、疾患からのミエリン損傷を修復するために必要な物質を作ることが知られている他の因子を作るoligodendricytesまたは他の細胞をカプセル化することによって治療される。他の例は、このカプセル化の形態がドーパミン産生細胞量を増加させる痛みの治療である。ドーパミンの使用はまた、薬物中毒およびアルコール中毒の治療に有効であり、依存性患者の脊髄液を循環するドーパミンのレベルを増加させることによって可能である。NGF(神経成長因子)および他の薬剤を使うことは、脊髄損傷の治療に有効である。NGFまたは他の薬剤は、脊柱管の脊髄液のカプセル化細胞から放出される。

実施例18
疾患、または実際の腫瘍や潜在的腫瘍の危険から外科的に除去され、副甲状腺または副腎細胞の機能を自らは持たない患者の筋肉、脾臓または肝臓へのカプセル化副甲状腺または副腎細胞の移植
【0331】
実際の腫瘍のために副甲状腺や副腎が取り除かれた患者が多く存在する。また、遺伝病などによって将来の腫瘍形成の危険のためこれらの器官が取り除かれた第2グループの患者が存在する。死後の臓器提供者からの正常ヒト副甲状腺又は副腎細胞を、器官提供時にこれら組織を取り除き、PEGカプセル化する。これらの器官からは試験研究のために数多くの細胞が調製される。当業者は、これらの器官から細胞を容易に調製することができる。PEGカプセル化は、実際の腫瘍または潜在的腫瘍の危険に起因して器官の機能を失った患者にカプセル化細胞を移植するためのコンフォーマルコーティング、またはアルギン酸塩ベースPEGコーティングによって達成される。

実施例19
遺伝疾患治療用のカプセル化細胞の移植
【0332】
遺伝的な障害に起因する多くのヒトおよび動物の疾患がある。体の異なる組織に直接これらの遺伝子を注入する遺伝子治療は、現時点では未だ安全性に課題がある。これらの遺伝疾患の多くは、欠落する遺伝子産物を生産するカプセル化細胞を、該産物を作るプライマリー細胞または遺伝的に改変した細胞を使用して作製することによって治療可能である。これらの細胞のカプセル化は、本明細書記載の方法によって行うことができる。カプセル化細胞の移植は、産物を特定部位に投与する必要がなければ、いずれの部位に行ってもよい。このように、カプセル化された細胞は、皮下、門脈注射または直接注射による肝臓、血管または直接注射による脾臓、血管または直接注射による筋肉、血管または直接注射による腎臓、血管または直接注射による心臓、血管または直接注射による脊髄、血管または直接注射による脳、血管または直接注射による目、血管または直接注射による肺、血管または直接注射による甲状腺、血管または直接注射による骨髄、直接注射による関節、または傷など疾患部での直接注射、塗布などによって投与することができる。

実施例20
成長率または乳生産を増加させるため、農場または動物生産での成長ホルモン産生カプセル化細胞の使用
【0333】
乳生産を増加させるために、成長ホルモンが乳牛において使われている。ブタの離乳期に成長ホルモンを注入することは、肉の生産量を増加させ、市場までの期間を短縮するのに有用であることが示唆されている。成長ホルモン産生細胞をカプセル化し、該細胞を生産動物に移植することによって、日々の高価な注入を必要とすることなく同じ結果を達成できる。ブタのような品種の場合、PEGコーティングは6週間で生分解するような方法で作られてもよく、これにより、屠殺期とヒトの肉消費時には動物の成長ホルモンがなくなる。選択的に、カプセル化細胞は、成長ホルモンの生産を除去するために、容易に取り外し可能な挿入コンテナに含まれる。
【0334】
以上の記載は、単に本発明およびその好ましい実施形態を例示し説明することを目的としたものと理解されるべきであり、当業者は、通常の研究活動により、本発明の精神から逸脱しない範囲で、種々の改変や変更が可能である。このように、本発明の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の範囲を制限する意図で解釈されてはならない。本願明細書における全ての引用文献は、ここで引用により明示的に本願明細書に組み込まれる。

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図23】

【図24】

【図25】

【図26】

【図27】

【図28】

【図29】

【図30】

【図31】

【図32】

【図33】

【図34】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
約900ダルトンから約3,000ダルトンの間の分子量を有するポリエチレングリコール(PEG)コーティングを有する複数のカプセル状構造物と、
上記カプセル状構造物でカプセル化された複数の細胞とを含み、少なくとも約100,000 cells/mlの細胞密度を有する、細胞治療用組成物。
【請求項2】
上記カプセル状構造物は、マイクロカプセルである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
上記マイクロカプセルは、コンフォーマルコーティングされた細胞集合体である、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
上記細胞集合体は、膵島である、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
細胞密度は、少なくとも約6,000,000 cells/ml である、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
細胞は、神経、心血管、肝臓、内分泌、皮膚、造血、免疫、神経分泌の各細胞、代謝的、組織的、および遺伝的な細胞からなる群から選ばれる、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
細胞は、自己由来、同種異系、異種、および遺伝的に改変されたものからなる群から選ばれる、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
内分泌細胞は、インスリン産生細胞である、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
平均直径400μm未満の複数のカプセル状構造物を含み、当該カプセル状構造物はカプセル化のための材料でカプセル化された細胞を含むものであって、少なくとも約500,000 cells/mlの細胞密度を有する、治療上有効な組成物。
【請求項10】
カプセル状構造物の平均直径は300ミクロン未満である、請求項9の治療上有効な組成物。
【請求項11】
カプセル状構造物の平均直径は200ミクロン未満である、請求項9の治療上有効な組成物。
【請求項12】
カプセル状構造物の平均直径は100ミクロン未満である、請求項9の治療上有効な組成物。
【請求項13】
カプセル状構造物の平均直径は50ミクロン未満である、請求項9の治療上有効な組成物。
【請求項14】
平均直径400μm未満の複数のカプセル状構造物を含み、当該カプセル状構造物はカプセル化の材料でカプセル化された細胞を含むものであって、細胞容量に対するカプセル状構造物の容量の比率が約20:1より少ない、治療上有効な組成物。
【請求項15】
細胞容量に対するカプセル状構造物の容量の比率が約10:1より少ない、請求項14の治療上有効な組成物。
【請求項16】
細胞容量に対するカプセル状構造物の容量の比率が約2:1より少ない、請求項14の治療上有効な組成物。
【請求項17】
疾患または不具合に対する動物の治療に用いられる、請求項1〜16のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
疾患または不具合は、神経、心血管、肝臓、内分泌、皮膚、造血、免疫、神経分泌のもの、代謝的、組織的、および遺伝的なものからなる群から選択される、請求項17記載の組成物。
【請求項19】
内分泌性疾患は、糖尿病である、請求項18記載の組成物。
【請求項20】
動物は、偶蹄目、食肉目、クジラ目、奇蹄目、霊長類、ゾウ目、およびウサギ目からなる群から選択される獣類亜綱目である、請求項17記載の組成物。
【請求項21】
動物は、ヒトである、請求項20記載の組成物。
【請求項22】
注射可能な組成物として用いられる、 請求項17記載の組成物。
【請求項23】
皮下、筋肉内、臓器内、器官の動脈/静脈血管内、脳脊髄液、及びリンパ液からなる群から選択される移植部位で用いられる、請求項20記載の組成物。
【請求項24】
移植部位は、皮下である、請求項23記載の組成物。
【請求項25】
シリンジ内の注射可能な組成物である、請求項22記載の組成物。
【請求項26】
免疫抑制剤または抗炎症剤と併用される、請求項17記載の組成物。
【請求項27】
免疫抑制剤または抗炎症剤の投与期間は、6月未満である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
免疫抑制剤または抗炎症剤の投与期間は、1月未満である、請求項27記載の方法。
【請求項29】
疾患または不具合の治療のための移植可能な薬剤の調製における、請求項1〜16のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項30】
疾患または不具合は、神経、心血管、肝臓、内分泌、皮膚、造血、免疫、神経分泌のもの、代謝的、組織的、および遺伝的なものからなる群から選択される、請求項29記載の使用。
【請求項31】
内分泌性疾患は、糖尿病である、請求項30記載の使用。
【請求項32】
動物は、偶蹄目、食肉目、クジラ目、奇蹄目、霊長類、ゾウ目、およびウサギ目からなる群から選択される獣類亜綱目である、請求項29記載の使用。
【請求項33】
動物は、ヒトである、請求項32記載の使用。
【請求項34】
薬剤は、注射可能な組成物である、請求項29記載の使用。
【請求項35】
薬剤は、皮下、筋肉内、臓器内、器官の動脈/静脈血管内、脳脊髄液、及びリンパ液からなる群から選択される移植部位で用いられる、請求項29記載の使用。
【請求項36】
移植部位は、皮下である、請求項35記載の使用。
【請求項37】
薬剤は、シリンジ内の注射可能な組成物である、請求項34記載の使用。
【請求項38】
薬剤は、免疫抑制剤または抗炎症剤と併用される、請求項29記載の使用。
【請求項39】
免疫抑制剤または抗炎症剤の併用投与は、6月未満である、請求項38記載の使用。
【請求項40】
免疫抑制剤または抗炎症剤の併用投与は、1月未満である、請求項39記載の方法。
【請求項46】
組織は、一群のインスリン産生細胞である、請求項45記載の方法。
【請求項47】
細胞は、インスリン産生細胞である、請求項46記載の方法。
【請求項48】
カプセルで包んだ生物材料は、PEGでコンフォーマルコーティングされた膵島の同種移植である、請求項41記載の方法。
【請求項49】
第1及び第2のバッファーは、1〜200mMである、請求項41記載の方法。
【請求項50】
第1及び第2のバッファーは、10〜50mMである、請求項49記載の方法。
【請求項51】
第1及び第2のバッファーは、20mMである、請求項50記載の方法。
【請求項52】
光重合開始剤は、カルボキシエオシン、エチルエオシン、エオシンY、フルオレセイン、2,2-ジメトキシ, 2-フェニルアセトフェノン、2-メトキシ, 2-フェニルアセトフェノン、カンホルキノン、ローズベンガル、メチレンブルー、エリトロシン、フロキシン、チオニン、リボフラビン、及びメチレングリーンからなる群から選択される、請求項41記載の方法。
【請求項53】
光重合開始剤は、カルボキシエオシンである、請求項52記載の方法。
【請求項54】
光学活性ポリマー溶液は、重合可能で高密度に不飽和化したPEGおよびスルホン化コモノマーを含む、請求項41記載の方法。
【請求項55】
重合可能で高密度に不飽和化したPEGは、重合可能で高密度にアクリル酸化したPEGである、請求項54記載の方法。
【請求項56】
重合可能で高密度にアクリル酸化したPEGは、1.1kDの分子量を有する、請求項55記載の方法。
【請求項57】
スルホン化コモノマーは、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、4-スチレンスルホン酸、3-スルホプロピルアクリル酸、3-スルホプロピルメタクリル酸、及び、n-ビニルマレイミドスルホン酸からなる群から選択される、請求項54記載の方法。
【請求項58】
スルホン化コモノマーは、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸である、請求項57記載の方法。
【請求項59】
光学活性ポリマー溶液は、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、ジベンジルアミノN-ベンジルエタノールアミン、N-イソプロピルベンジルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、過硫酸カリウム、テトラメチルエチレンジアミン、リジン、オルニチン、ヒスチジン及びアルギニンからなる群から選択される共触媒をさらに含む、請求項54記載の方法。
【請求項60】
共触媒は、トリエタノールアミンである、請求項59記載の方法。
【請求項61】
光学活性ポリマー溶液は、N-ビニルピロリジノン、2-ビニルピリジン、1-ビニルイミダゾール、9-ビニルカルバゾン、9-ビニルカルバゾール、アクリル酸、n-ビニルカルポラクタム、2-アリル-2-メチル-1,3-シクロペンタンジオン、及び、2-ヒドロキシエチルアクリル酸からなる群から選択される促進剤をさらに含む、請求項54記載の方法。
【請求項62】
促進剤は、N-ビニルピロリジノンである、請求項61記載の方法。
【請求項63】
光学活性ポリマー溶液は、天然ポリマー及び合成ポリマーからなる群から選択される粘度増強剤をさらに含む、請求項54記載の方法。
【請求項64】
粘度増強剤は、3.5kD PEG-トリオールおよび4kD PEG-ジオールからなる群から選択される、請求項63記載の方法。
【請求項65】
光学活性ポリマー溶液は、密度調整剤をさらに含む、請求項54記載の方法。
【請求項66】
密度調整剤は、ナイコデンツ及びフィコールからなる群から選択される、請求項65記載の方法。
【請求項67】
光学活性ポリマー溶液は、“Good”バッファーをさらに含む、請求項54記載の方法。
【請求項68】
“Good”バッファーは、HEPES及びMOPSからなる群から選択される、請求項67記載の方法。
【請求項69】
“Good”バッファーは、MOPSである、請求項68記載の方法。
【請求項70】
エネルギ源は、アルゴンレーザである、請求項54記載の方法。
【請求項71】
生物材料は、神経、心血管、肝臓、内分泌、皮膚、造血、免疫、神経分泌のもの、代謝的、組織的、および遺伝的なものからなる群から選択される、請求項41記載の方法。
【請求項72】
生物材料は、哺乳綱の獣類亜綱目の動物のものである、請求項41記載の方法。
【請求項73】
動物は、偶蹄目、食肉目、クジラ目、奇蹄目、霊長類、ゾウ目、およびウサギ目からなる群から選択される獣類亜綱目である、請求項72記載の方法。
【請求項74】
霊長類は、ヒトである、請求項73記載の方法。
【請求項75】
900ダルトンから3,000ダルトンの間の分子量を有し、重合可能で高密度に不飽和したPEG、およびスルホン化コモノマーを含む、生物材料をカプセル化するための組成物。
【請求項76】
重合可能で高密度に不飽和化したPEGは、高密度にアクリル酸化したPEGである、請求項75記載の組成物。
【請求項77】
重合可能で高密度にアクリル酸化したPEGは、1.1kDの分子量を有する、請求項76記載の組成物。
【請求項78】
スルホン化コモノマーは、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、4-スチレンスルホン酸、3-スルホプロピルアクリル酸、3-スルホプロピルメタクリル酸、及び、n-ビニルマレイミドスルホン酸からなる群から選択される、請求項75記載の組成物。
【請求項79】
スルホン化コモノマーは、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸である、請求項78記載の組成物。
【請求項80】
トリエタノールアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、ジベンジルアミノN-ベンジルエタノールアミン、N-イソプロピルベンジルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、過硫酸カリウム、テトラメチルエチレンジアミン、リジン、オルニチン、ヒスチジン及びアルギニンからなる群から選択される共触媒をさらに含む、請求項75記載の組成物。
【請求項81】
共触媒は、トリエタノールアミンである、請求項80記載の組成物。
【請求項82】
N-ビニルピロリジノン、2-ビニルピリジン、1-ビニルイミダゾール、9-ビニルカルバゾン、9-ビニルカルバゾール、アクリル酸、n-ビニルカルポラクタム、2-アリル-2-メチル-1,3-シクロペンタンジオン、及び、2-ヒドロキシエチルアクリル酸からなる群から選択される促進剤をさらに含む、請求項75記載の組成物。
【請求項83】
促進剤は、N-ビニルピロリジノンである、請求項82記載の組成物。
【請求項84】
組成物は、少なくともスコア約「2」で生体適合性である、請求項75記載の組成物。
【請求項85】
組成物は、哺乳類に生体適合性である、請求項84記載の組成物。
【請求項86】
組成物は、亜人霊長類に生体適合性である、請求項85記載の組成物。
【請求項87】
組成物は、ヒトに生体適合性である、請求項86記載の組成物。
【請求項88】
組成物は、選択透過性を有する、請求項75記載の組成物。
【請求項89】
選択透過性は、組成物を加工することによって得ることができる、請求項88記載の組成物。
【請求項90】
組成物は、少なくともスコア約「2」で細胞機能許容性を有する、請求項75記載の組成物。
【請求項91】
組成物は、哺乳類で細胞機能許容性を有する、請求項90記載の組成物。
【請求項92】
組成物は、亜人霊長類で細胞機能許容性を有する、請求項91記載の組成物。
【請求項93】
組成物は、ヒトで細胞機能許容性を有する、請求項92記載の組成物。
【請求項94】
生分解性である、請求項75記載の組成物。
【請求項95】
哺乳類で生分解性である、請求項94記載の組成物。
【請求項96】
亜人霊長類で生分解性である、請求項95記載の組成物。
【請求項97】
ヒトで生分解性である、請求項96記載の組成物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
約900ダルトンから約3,000ダルトンの間の分子量を有するポリエチレングリコール(PEG)コーティングを有する複数のカプセル状構造物と、
上記カプセル状構造物でカプセル化された複数の細胞とを含み、少なくとも約100,000 cells/mlの細胞密度を有する、細胞治療用組成物。
【請求項2】
上記カプセル状構造物は、マイクロカプセルである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
上記マイクロカプセルは、コンフォーマルコーティングされた細胞集合体である、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
上記細胞集合体は、膵島である、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
細胞密度は、少なくとも約6,000,000 cells/ml である、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
細胞は、神経、心血管、肝臓、内分泌、皮膚、造血、免疫、神経分泌の各細胞、代謝的、組織的、および遺伝的な細胞からなる群から選ばれる、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
細胞は、自己由来、同種異系、異種、および遺伝的に改変されたものからなる群から選ばれる、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
内分泌細胞は、インスリン産生細胞である、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
平均直径400μm未満の複数のカプセル状構造物を含み、当該カプセル状構造物はカプセル化のための材料でカプセル化された細胞を含むものであって、少なくとも約500,000 cells/mlの細胞密度を有する、治療上有効な組成物。
【請求項10】
カプセル状構造物の平均直径は300ミクロン未満である、請求項9の治療上有効な組成物。
【請求項11】
カプセル状構造物の平均直径は200ミクロン未満である、請求項9の治療上有効な組成物。
【請求項12】
カプセル状構造物の平均直径は100ミクロン未満である、請求項9の治療上有効な組成物。
【請求項13】
カプセル状構造物の平均直径は50ミクロン未満である、請求項9の治療上有効な組成物。
【請求項14】
平均直径400μm未満の複数のカプセル状構造物を含み、当該カプセル状構造物はカプセル化の材料でカプセル化された細胞を含むものであって、細胞容量に対するカプセル状構造物の容量の比率が約20:1より少ない、治療上有効な組成物。
【請求項15】
細胞容量に対するカプセル状構造物の容量の比率が約10:1より少ない、請求項14の治療上有効な組成物。
【請求項16】
細胞容量に対するカプセル状構造物の容量の比率が約2:1より少ない、請求項14の治療上有効な組成物。
【請求項17】
疾患または不具合に対する動物の治療に用いられる、請求項1〜16のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
疾患または不具合は、神経、心血管、肝臓、内分泌、皮膚、造血、免疫、神経分泌のもの、代謝的、組織的、および遺伝的なものからなる群から選択される、請求項17記載の組成物。
【請求項19】
内分泌性疾患は、糖尿病である、請求項18記載の組成物。
【請求項20】
動物は、偶蹄目、食肉目、クジラ目、奇蹄目、霊長類、ゾウ目、およびウサギ目からなる群から選択される獣類亜綱目である、請求項17記載の組成物。
【請求項21】
動物は、ヒトである、請求項20記載の組成物。
【請求項22】
注射可能な組成物として用いられる、 請求項17記載の組成物。
【請求項23】
皮下、筋肉内、臓器内、器官の動脈/静脈血管内、脳脊髄液、及びリンパ液からなる群から選択される移植部位で用いられる、請求項20記載の組成物。
【請求項24】
移植部位は、皮下である、請求項23記載の組成物。
【請求項25】
シリンジ内の注射可能な組成物である、請求項22記載の組成物。
【請求項26】
免疫抑制剤または抗炎症剤と併用される、請求項17記載の組成物。
【請求項27】
免疫抑制剤または抗炎症剤の投与期間は、6月未満である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
免疫抑制剤または抗炎症剤の投与期間は、1月未満である、請求項27記載の方法。
【請求項29】
疾患または不具合の治療のための移植可能な薬剤の調製における、請求項1〜16のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項30】
疾患または不具合は、神経、心血管、肝臓、内分泌、皮膚、造血、免疫、神経分泌のもの、代謝的、組織的、および遺伝的なものからなる群から選択される、請求項29記載の使用。
【請求項31】
内分泌性疾患は、糖尿病である、請求項30記載の使用。
【請求項32】
動物は、偶蹄目、食肉目、クジラ目、奇蹄目、霊長類、ゾウ目、およびウサギ目からなる群から選択される獣類亜綱目である、請求項29記載の使用。
【請求項33】
動物は、ヒトである、請求項32記載の使用。
【請求項34】
薬剤は、注射可能な組成物である、請求項29記載の使用。
【請求項35】
薬剤は、皮下、筋肉内、臓器内、器官の動脈/静脈血管内、脳脊髄液、及びリンパ液からなる群から選択される移植部位で用いられる、請求項29記載の使用。
【請求項36】
移植部位は、皮下である、請求項35記載の使用。
【請求項37】
薬剤は、シリンジ内の注射可能な組成物である、請求項34記載の使用。
【請求項38】
薬剤は、免疫抑制剤または抗炎症剤と併用される、請求項29記載の使用。
【請求項39】
免疫抑制剤または抗炎症剤の併用投与は、6月未満である、請求項38記載の使用。
【請求項40】
免疫抑制剤または抗炎症剤の併用投与は、1月未満である、請求項39記載の方法。
【請求項41】
以下の工程を含む、生物材料をカプセルで包む方法:
(a) 生物材料に第1のバッファーを含む溶液を添加する工程;
(b) ペレット状の生物材料を形成するために、生物材料を遠心分離する工程;
(c) 上澄みを除去する工程;
(d) ペレット状の生物材料に、細胞吸着材料と結合した光重合開始剤染料を含む溶液を添加する工程;
(e) 効果的な時間、細胞吸着材料と結合した光重合開始剤染料を含む溶液に、ペレット状の生物材料を再懸濁させ、インキュベートする工程;
(f) 混合物を遠心分離する工程;
(g) 細胞吸着材料と結合した光重合開始剤染料を含む溶液を除去する工程;
(h) 第2のバッファーを含む第2溶液でペレット状の生物材料を再懸濁する工程;
(i) 第2のバッファーを遠心分離し除去する工程;
(j) 光学活性ポリマー溶液に生物材料を再懸濁させ、混合する工程;及び
(k) カプセル化した生物材料を形成するために、光学活性ポリマー溶液で再懸濁された生物材料に対し、エネルギ源を用いて照射する工程。
【請求項42】
細胞吸着材料は、ポリカチオン性ポリマーである、請求項41記載の方法。
【請求項43】
ポリカチオン性ポリマーは、PAMAMデンドリマーである、請求項42記載の方法。
【請求項44】
ポリカチオン性ポリマーは、ポリ(エチレンイミン)である、請求項42記載の方法。
【請求項45】
生物材料は、器官、組織または細胞である、請求項41記載の方法。
【請求項46】
組織は、一群のインスリン産生細胞である、請求項45記載の方法。
【請求項47】
細胞は、インスリン産生細胞である、請求項46記載の方法。
【請求項48】
カプセルで包んだ生物材料は、PEGでコンフォーマルコーティングされた膵島の同種移植である、請求項41記載の方法。
【請求項49】
第1及び第2のバッファーは、1〜200mMである、請求項41記載の方法。
【請求項50】
第1及び第2のバッファーは、10〜50mMである、請求項49記載の方法。
【請求項51】
第1及び第2のバッファーは、20mMである、請求項50記載の方法。
【請求項52】
光重合開始剤は、カルボキシエオシン、エチルエオシン、エオシンY、フルオレセイン、2,2-ジメトキシ, 2-フェニルアセトフェノン、2-メトキシ, 2-フェニルアセトフェノン、カンホルキノン、ローズベンガル、メチレンブルー、エリトロシン、フロキシン、チオニン、リボフラビン、及びメチレングリーンからなる群から選択される、請求項41記載の方法。
【請求項53】
光重合開始剤は、カルボキシエオシンである、請求項52記載の方法。
【請求項54】
光学活性ポリマー溶液は、重合可能で高密度に不飽和化したPEGおよびスルホン化コモノマーを含む、請求項41記載の方法。
【請求項55】
重合可能で高密度に不飽和化したPEGは、重合可能で高密度にアクリル酸化したPEGである、請求項54記載の方法。
【請求項56】
重合可能で高密度にアクリル酸化したPEGは、1.1kDの分子量を有する、請求項55記載の方法。
【請求項57】
スルホン化コモノマーは、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、4-スチレンスルホン酸、3-スルホプロピルアクリル酸、3-スルホプロピルメタクリル酸、及び、n-ビニルマレイミドスルホン酸からなる群から選択される、請求項54記載の方法。
【請求項58】
スルホン化コモノマーは、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸である、請求項57記載の方法。
【請求項59】
光学活性ポリマー溶液は、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、ジベンジルアミノN-ベンジルエタノールアミン、N-イソプロピルベンジルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、過硫酸カリウム、テトラメチルエチレンジアミン、リジン、オルニチン、ヒスチジン及びアルギニンからなる群から選択される共触媒をさらに含む、請求項54記載の方法。
【請求項60】
共触媒は、トリエタノールアミンである、請求項59記載の方法。
【請求項61】
光学活性ポリマー溶液は、N-ビニルピロリジノン、2-ビニルピリジン、1-ビニルイミダゾール、9-ビニルカルバゾン、9-ビニルカルバゾール、アクリル酸、n-ビニルカルポラクタム、2-アリル-2-メチル-1,3-シクロペンタンジオン、及び、2-ヒドロキシエチルアクリル酸からなる群から選択される促進剤をさらに含む、請求項54記載の方法。
【請求項62】
促進剤は、N-ビニルピロリジノンである、請求項61記載の方法。
【請求項63】
光学活性ポリマー溶液は、天然ポリマー及び合成ポリマーからなる群から選択される粘度増強剤をさらに含む、請求項54記載の方法。
【請求項64】
粘度増強剤は、3.5kD PEG-トリオールおよび4kD PEG-ジオールからなる群から選択される、請求項63記載の方法。
【請求項65】
光学活性ポリマー溶液は、密度調整剤をさらに含む、請求項54記載の方法。
【請求項66】
密度調整剤は、ナイコデンツ及びフィコールからなる群から選択される、請求項65記載の方法。
【請求項67】
光学活性ポリマー溶液は、“Good”バッファーをさらに含む、請求項54記載の方法。
【請求項68】
“Good”バッファーは、HEPES及びMOPSからなる群から選択される、請求項67記載の方法。
【請求項69】
“Good”バッファーは、MOPSである、請求項68記載の方法。
【請求項70】
エネルギ源は、アルゴンレーザである、請求項54記載の方法。
【請求項71】
生物材料は、神経、心血管、肝臓、内分泌、皮膚、造血、免疫、神経分泌のもの、代謝的、組織的、および遺伝的なものからなる群から選択される、請求項41記載の方法。
【請求項72】
生物材料は、哺乳綱の獣類亜綱目の動物のものである、請求項41記載の方法。
【請求項73】
動物は、偶蹄目、食肉目、クジラ目、奇蹄目、霊長類、ゾウ目、およびウサギ目からなる群から選択される獣類亜綱目である、請求項72記載の方法。
【請求項74】
霊長類は、ヒトである、請求項73記載の方法。
【請求項75】
900ダルトンから3,000ダルトンの間の分子量を有し、重合可能で高密度に不飽和したPEG、およびスルホン化コモノマーを含む、生物材料をカプセル化するための組成物。
【請求項76】
重合可能で高密度に不飽和化したPEGは、高密度にアクリル酸化したPEGである、請求項75記載の組成物。
【請求項77】
重合可能で高密度にアクリル酸化したPEGは、1.1kDの分子量を有する、請求項76記載の組成物。
【請求項78】
スルホン化コモノマーは、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、4-スチレンスルホン酸、3-スルホプロピルアクリル酸、3-スルホプロピルメタクリル酸、及び、n-ビニルマレイミドスルホン酸からなる群から選択される、請求項75記載の組成物。
【請求項79】
スルホン化コモノマーは、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸である、請求項78記載の組成物。
【請求項80】
トリエタノールアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、ジベンジルアミノN-ベンジルエタノールアミン、N-イソプロピルベンジルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、過硫酸カリウム、テトラメチルエチレンジアミン、リジン、オルニチン、ヒスチジン及びアルギニンからなる群から選択される共触媒をさらに含む、請求項75記載の組成物。
【請求項81】
共触媒は、トリエタノールアミンである、請求項80記載の組成物。
【請求項82】
N-ビニルピロリジノン、2-ビニルピリジン、1-ビニルイミダゾール、9-ビニルカルバゾン、9-ビニルカルバゾール、アクリル酸、n-ビニルカルポラクタム、2-アリル-2-メチル-1,3-シクロペンタンジオン、及び、2-ヒドロキシエチルアクリル酸からなる群から選択される促進剤をさらに含む、請求項75記載の組成物。
【請求項83】
促進剤は、N-ビニルピロリジノンである、請求項82記載の組成物。
【請求項84】
組成物は、少なくともスコア約「2」で生体適合性である、請求項75記載の組成物。
【請求項85】
組成物は、哺乳類に生体適合性である、請求項84記載の組成物。
【請求項86】
組成物は、亜人霊長類に生体適合性である、請求項85記載の組成物。
【請求項87】
組成物は、ヒトに生体適合性である、請求項86記載の組成物。
【請求項88】
組成物は、選択透過性を有する、請求項75記載の組成物。
【請求項89】
選択透過性は、組成物を加工することによって得ることができる、請求項88記載の組成物。
【請求項90】
組成物は、少なくともスコア約「2」で細胞機能許容性を有する、請求項75記載の組成物。
【請求項91】
組成物は、哺乳類で細胞機能許容性を有する、請求項90記載の組成物。
【請求項92】
組成物は、亜人霊長類で細胞機能許容性を有する、請求項91記載の組成物。
【請求項93】
組成物は、ヒトで細胞機能許容性を有する、請求項92記載の組成物。
【請求項94】
生分解性である、請求項75記載の組成物。
【請求項95】
哺乳類で生分解性である、請求項94記載の組成物。
【請求項96】
亜人霊長類で生分解性である、請求項95記載の組成物。
【請求項97】
ヒトで生分解性である、請求項96記載の組成物。

【公表番号】特表2006−503080(P2006−503080A)
【公表日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−543792(P2004−543792)
【出願日】平成15年10月14日(2003.10.14)
【国際出願番号】PCT/US2003/032842
【国際公開番号】WO2004/032881
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【出願人】(504438772)ノボセル インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】