説明

病原体の同定のための標的全ゲノム増幅方法

本明細書に開示した方法は、核酸配列を増幅するための、より具体的には、標的全ゲノム増幅により病原体の核酸配列から核酸配列を増幅するための、方法および組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2006年9月14日に出願された米国仮特許出願第60/825,703号、および2007年6月26日に出願された第60/946,367号の優先権を主張するものであり、それぞれの開示は、参照することによりそれら全体が本願明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本明細書に開示した方法は、核酸配列を増幅するための、方法および組成物に関し、より具体的には、病原体の特異的核酸配列からの、方法および組成物に関する。
【0003】
政府支援の言明
本発明は、HSARPA W81XWH−05−C−0116の下に米国政府の支援を得てなされた。米国政府は、本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
遺伝子診断、癌研究または法医学等の研究の多くの分野において、ゲノムDNAの欠乏は、試料上で実施することができる遺伝子検査の種類および量への大幅な限定因子であり得る。この問題を克服するように設計された一アプローチが、全ゲノム増幅である。課題は、元のものとは区別ができないが、より高いDNA濃度を有する新しい試料を産生するために、非特異的に制限されたDNA試料を増幅することである。典型的な全ゲノム増幅技術の目標は、本来の配列表現を尊重しながら、最大マイクログラムレベルまで試料を増幅することであろう。
【0005】
最初の全ゲノム増幅方法は1992年に記述され、ポリメラーゼ連鎖反応の原理に基づいていた。Zhangおよび共働者(Zhang,L.,et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1992,89:5847−5851(非特許文献1))は、プライマ伸長PCR技術(Primer Extension PCR:PEP)を開発し、Teleniusおよび協力者(Telenius et al.,Genomics.1992,13(3):718−25(非特許文献2))は、縮重オリゴヌクレオチドプライムドPCR方法(Degenerate Oligonucleotide−Primed PCR:DOP−PCR)Zhang et al.,1992(非特許文献1))を設計した。
【0006】
PEPは、Taqポリメラーゼおよび低厳密性温度でアニールする15塩基ランダムプライマを使用して、高いPCRサイクル数を要する。PEPプロトコルは、様々な方法で改善されているが、依然として不完全なゲノムカバー率をもたらし、反復等の特定の配列を増幅することができない。反復を含有する領域をプライムおよび増幅できないことは、ゲノムの全長にわたる一貫したプライマカバー率がゲノムの最適な表現を提供するために、全ゲノムの不完全な表現に繋がり得る。この方法は、非常に小さな試料(単一細胞等)への効率の制限もまた有する。さらに、Taqポリメラーゼの使用は、産物の最長が約3kbであることを含意する。
【0007】
DOP−PCRは、ヒトゲノム中の約100万部位で、低アニーリング温度で結合するTaqポリメラーゼおよび半縮重オリゴヌクレオチド(例えば、CGACTCGAGNNNNNNATGTGG(配列番号:1)等、ここでN=A、T、CまたはGである)を使用する方法である。最初のサイクルの後に、より高いアニーリング温度での多数のサイクルが続き、第1の段階においてタグを付けられた断片の増幅のみが可能となる。このことは、全ゲノムの不完全の表現に繋がる。PEPと同様に、DOP−PCRは、最大10kbの断片が報告されてはいるが、最大サイズが3kbの平均400〜500bpである断片を産生する。一方、PEPに関して上述したように、低投入量のゲノムDNA(1ng未満)は、忠実度およびゲノムカバー率を減少させる(Kittler et al.,Anal.Biochem.2002,300(2),237−44(非特許文献3))。
【0008】
多置換増幅(Multiple Displacement Amplification:MDA、また、鎖置換増幅(Strand Displacement Amplification:SDA)としても知られる)は、変性DNAへのランダム6量体のアニーリングと、それに続く一定温度での鎖置換合成に基づいた非PCRベースの等温方法である(Blanco et al.,1989,J.Biol.Chem.264:8935−40(非特許文献4))。これは、小さいゲノムDNA試料に適用され、制限された配列表現バイアスを持つ高分子量DNAの合成をもたらした(Lizardi et al.,Nature Genetics1998,19,225−232(非特許文献5);Dean et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.2002,99,5261−5266(非特許文献6))。DNAが鎖置換により合成されるにつれて、漸増傾向にある数のプライミング現象が生じ、超分岐DNA構造のネットワークを形成する。反応は、Phi29DNAポリメラーゼによって、またはBstDNAポリメラーゼの大きい断片によって触媒することができる。Phi29DNAポリメラーゼは、Taqポリメラーゼよりも100倍低いエラー発生率をもたらす校正活性を持つ。
【0009】
上記の方法は、概して、所与の試料中の核酸の全てが無差別に増幅される、全ゲノムの増幅を生成する。これらの方法は、背景または汚染ゲノムが存在する場合に、標的ゲノムを選択的に増幅することはできない。したがって、これらの方法から得られた結果は、問題のある高量の汚染背景核酸を有する。標的ゲノムを単離させ、バックグラウンドゲノム(backgrouund genome)を除去するために、収集した試料を精製することは、すでに乏しい量の標的ゲノムのさらなる減少に繋がる。
【0010】
背景または汚染ゲノムに関連して、標的全ゲノムの増幅方法に対しては長年にわたる必要性が存在する。少量の核酸試料のみが所与の標的核酸配列の存在に関して検査される特定の場合において、特定の標的ゲノムが、所与の試料内に存在する他のゲノムに対して選択的に増幅されるように、全ゲノムの増幅に特異性を導入することは有利となろう。例えば、微生物法医学または臨床診断の場合において、少量の総核酸を含有する試料中にもまた存在する生物のゲノムに対して、病原体のゲノムまたは病原体のクラスを選択的に増幅することは有用であろう。これは、病原体を同定するのに必要な量の病原体の核酸を提供するであろう。本明細書に開示した方法は、この長期にわたる必要性を充足させる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Zhang,L.,et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1992,89:5847−5851
【非特許文献2】Telenius et al.,Genomics.1992,13(3):718−25
【非特許文献3】Kittler et al.,Anal.Biochem.2002,300(2),237−44
【非特許文献4】Blanco et al.,1989,J.Biol.Chem.264:8935−40
【非特許文献5】Lizardi et al.,Nature Genetics1998,19,225−232
【非特許文献6】Dean et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.2002,99,5261−5266
【発明の概要】
【0012】
本明細書に開示した方法は、血液およびその画分または成分、痰、尿、大脳髄液、肝細胞、ならびに組織生検等の一般的な診断試料であってもよい所与の試料において病原体ゲノムを表す核酸の量を増加させるために、試料の選択的な全ゲノム増幅反応下において、標的全ゲノム増幅プライマを設計し、該標的全ゲノム増幅プライマを使用する方法を含む。
【0013】
標的全ゲノム増幅プライマの設計は、少なくとも1つの関心病原体ゲノムを同定すること、および該関心病原体ゲノムを含有する試料中に存在すると考えられるバイオエージェント(bioagent)の少なくとも1つのバックグラウンドゲノムを同定することによって実現される。次の段階は、病原体ゲノム配列内の指定の長さの全ての固有のゲノム配列セグメントを同定すること、および該病原体ゲノムおよび該バックグラウンドゲノム中のこれらのゲノム配列セグメントの出現頻度を決定することである。次の段階は、該病原体ゲノム配列内の該出現頻度を、該バックグラウンドゲノム配列内の該複数のゲノム配列セグメントの該出現頻度で除算することによって、該ゲノム配列セグメントへの選択性比率を計算することである。選択性比率閾値は、該選択性比率閾値以上の選択性比率を有する第1のサブセットの該ゲノム配列セグメントに対して選択される。この第1のサブセットのゲノム配列セグメントは、該病原体ゲノムに沿った該ゲノム配列セグメントの分離範囲を決定するために、該病原体ゲノムに関して分析される。第2のサブセットのゲノム配列セグメントは、該第2のサブセットの該ゲノム配列セグメントが、選択された核酸塩基長未満の平均分離距離を有するように、該第1のサブセットから選択される。次に、標的全ゲノム増幅プライマは、全ゲノム増幅条件にある時に、該病原体ゲノムが、該バックグラウンドゲノムよりも選択的に増幅されるように、該第2のサブセットの該ゲノム配列セグメントとハイブリダイズするように選択される。
【0014】
該標的全ゲノム増幅プライマで得た病原体ゲノムを表す増加した量の核酸は、次いで、バイオエージェントを同定する単位複製配列に対応する増幅産物を生成することによって、該病原体を同定するために、その後の詳細な分析用の鋳型DNAとして使用されてもよい。該バイオエージェントを同定する単位複製配列の分子量は、例えばエレクトロスプレー飛行時間型質量分析等の質量分析方法によって測定される。該バイオエージェントを同定する単位複製配列の塩基組成は、該分子量から計算される。該分子量および/または塩基組成は、次いで、該試料中の該病原体を同定するために、特異的に設計されたプライマ対によって定義される既知のバイオエージェントのバイオエージェントを同定する単位複製配列の分子量および/または塩基組成のデータベースと比較される。特定の態様において、バイオエージェントを同定する単位複製配列に対応する該増幅産物は、1つより多いプライマ対が、単一反応混合物に含まれる多重反応下で行われる。
【0015】
また、以下の成分をいずれかまたは全てを含む診断キットも開示する。標的全ゲノム増幅プライマ、全ゲノム増幅反応を触媒するのに好適な高度にプロセッシブなポリメラーゼ、デオキシヌクレオチド三リン酸塩およびバイオエージェントを同定する単位複製配列に対応する増幅産物を生成するためのプライマ対。また、キットは、緩衝液成分または添加物、および、例えば、反応を多重化するためのプライマ対の特定の組み合わせの指標等、増幅反応を行うための説明書を含んでもよい。
【0016】
敗血症(septicecmia)およびセプシス(sepsis)に関わる病原体の同定に使用される方法および関連キットを本明細書に開示する。そのような方法およびキットは、プライマ対番号346(配列番号:594:602)、348(配列番号:595:603)、349(配列番号:596:604)、354(配列番号:597:605)、358(配列番号:598:606)、359(配列番号:599:607)、3346(配列番号:616:631)、449(配列番号:600:608)、3350(配列番号:614:629)、2249(配列番号:601:609)、336(配列番号:620:635)、および3360(配列番号:612:627)のプライマ対のいずれかを含んでもよい。これらのプライマ対は、敗血症またはセプシスを引き起こす病原体を同定するために使用される、バイオエージェントを同定する単位複製配列に対応する増幅産物を得るために有用である。これらの病原体は、大腸菌(Escherichia coil)、クレブシエラニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、クレブシエラオキシトカ(Klebsiella oxytoca)、セラチアマルセセンス(Serratia marcescens)、エンテロバクタークロアカ(Enterobacter cloacae)、エンテロバクターエロゲネス(Enterobacter aerogenes)、プロテウスミラビリス(Proteus mirabilis)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、アシネトバクターバウマンニ(Acinetobacter baumannii)、ステノトロホモナスマルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、スタフィロコッカスヘモリチカス(Staphylococcus haemolyticus)、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカスアガラクチア(Streptococcus agalactiae)、ストレプトコッカスミティス(Streptococcus mitis)、エンテロコッカスフェシウム(Enterococcus faecium)、エンテロコッカスフェカリス(Enterococcus faecalis)、カンジダアルビカンス(Candida albicans)、カンジダトロピカリス(Candida tropicalis)、カンジダパラプローシス(Candida parapsilosis)、カンジダクルセイ(Candida krusei)、カンジダグラブラタ(Candida glabrata)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、およびアスペルギルスフミガーツス(Aspergillus fumigatus)を含むが、これらに限定されない細菌である。セプシスおよび敗血症に関わる上記のものを含むがこれらに限定されない任意のゲノムの基準配列への、適切な標的全ゲノム増幅プライマを選択した後、属、種または亜種レベルでセプシスまたは敗血症に関わる細菌の同定が、セプシスまたは敗血症に関わる細菌の同定に適切である上記のプライマ対の組み合わせを使用して迅速に確認できるように、標的全ゲノム増幅反応を、十分な量の核酸を得るために行うことができる。一部の例において、上記のものから選択された単一プライマ対は、属、種または亜種レベルでセプシスまたは敗血症に関わる細菌の同定に十分であり得る。
【0017】
また、結核菌およびその薬剤耐性菌株を同定するための方法およびキットも本明細書に開示する。そのような方法およびキットは、任意のプライマ対番号3600(配列番号:692:715)、3546(配列番号:670:694)、3547(配列番号:671:695)、3548(配列番号:672:696)、3550(配列番号:673:697)、3551(配列番号:674:698)、3552(配列番号:675:699)、3553(配列番号:676:700)、3554(配列番号:677:701)、3555(配列番号:678:702)、3556(配列番号:679:702)、3557(配列番号:680:703)、3558(配列番号:681:704)、3559(配列番号:682:705)、3560(配列番号:683:706)、3561(配列番号:684:707)、3581(配列番号:685:708)、3582(配列番号:686:709)、3583(配列番号:687:710)、3584(配列番号:688:711)、3586(配列番号:689:712)、3587(配列番号:690:713)、3599(配列番号:691:714)、および3601(配列番号:692:715)を含んでもよい。結核菌の基準配列への適切な標的全ゲノム増幅プライマを選択した後、薬剤耐性菌株等の結核菌の個々の菌株または亜種の同定が、例えば、上記の該プライマ対の適切な組み合わせを使用して迅速に確認できるように、標的全ゲノム増幅反応を、十分な量の核酸を得るために行うことができる。一部の例において、上記のものから選択された単一プライマ対は、結核菌の個々の菌株または亜種の同定に適切であり得る。
【0018】
また、黄色ブドウ球菌、およびその薬剤耐性菌株を同定するための方法およびキットも本明細書に開示する。そのような方法およびキットは、任意のプライマ対番号879(配列番号:717:727)、2056(配列番号:718:728)、2081(配列番号:719:729)、2086(配列番号:720:730)、2095(配列番号:721:731)、2256(配列番号:722:732)、2313配列番号:723:733)、3005(配列番号:724:734)、3016(配列番号:725:735)、3106(配列番号:726:736)、2738(配列番号:737:740)、2739(配列番号:738:741)、2740(配列番号:738:742)および2741(配列番号:739:740)を含んでもよい。結核菌の基準配列への適切な標的全ゲノム増幅プライマを選択した後、薬剤耐性菌株等の黄色ブドウ球菌の個々の菌株または亜種の同定が、例えば、上記の該プライマ対の適切な組み合わせを使用して迅速に確認できるように、標的全ゲノム増幅反応を、十分な量の核酸を得るために行うことができる。一部の例において、上記のものから選択された単一プライマ対は、黄色ブドウ球菌の個々の菌株または亜種の同定に適切であり得る。
【0019】
また、インフルエンザウイルス、およびその薬剤耐性菌株を同定するための方法およびキットも本明細書に開示する。そのような方法およびキットは、任意のプライマ対番号1261(配列番号:639:647)、1266(配列番号:640:648)、1275(配列番号:641:649)、1279(配列番号:642:650)、1287(配列番号:643:651)、2775(配列番号:644:652)、2777(配列番号:645:653)、および2798(配列番号:646:654)を含んでもよい。インフルエンザウイルスの基準配列への適切な標的全ゲノム増幅プライマを選択した後、薬剤耐性菌株等のインフルエンザウイルスの個々の菌株または亜種の同定が、例えば、上記の該プライマ対の適切な組み合わせを使用して迅速に確認できるように、標的全ゲノム増幅反応を、十分な量の核酸を得るために行うことができる。一部の例において、上記のものから選択された単一プライマ対は、インフルエンザウイルスの個々の菌株または亜種の同定に適切であり得る。
【0020】
また、C型肝炎ウイルス、およびその薬剤耐性菌株を同定するための方法およびキットも本明細書に開示する。そのような方法およびキットは、任意のプライマ対番号3682(配列番号:655:662)、3683(配列番号:656:663)、3684(配列番号:657:664)、3685(配列番号:658:665)、3686(配列番号:658:666)、3687(配列番号:659:667)、3688(配列番号:660:667)、3689(配列番号:660:668)および3691(配列番号:661:669)を含んでもよい。C型肝炎ウイルスの基準配列への適切な標的全ゲノム増幅プライマを選択した後、薬剤耐性菌株等のC型肝炎ウイルスの個々の菌株または亜種の同定が、例えば、上記の該プライマ対の適切な組み合わせを使用して迅速に確認できるように、標的全ゲノム増幅反応を、十分な量の核酸を得るために行うことができる。一部の例において、上記のものから選択された単一プライマ対は、C型肝炎ウイルスの個々の菌株または亜種の同定に適切であり得る。
【0021】
例えば、一部の態様において、本発明は、複数の標的全ゲノム増幅プライマを使用して、少なくとも1つの病原体ゲノムおよび少なくとも1つのバックグラウンドゲノムを含むと考えられる試料から少なくとも1つの病原体ゲノムを増幅し、それによって、該少なくとも1つのバックグラウンドゲノムに相当する核酸の量に対して、該少なくとも1つの病原体ゲノムに相当する核酸の量を増加させる段階を含み、該複数の標的全ゲノム増幅プライマは、
i.少なくとも1つの病原体ゲノムを同定する段階と、
ii.少なくとも1つのバックグラウンドゲノムを同定する段階と、
iii.該病原体ゲノム配列内に固有の配列を有する複数のゲノム配列セグメントを同定する段階と、
iv.該病原体ゲノム配列内の該複数のゲノム配列セグメントのメンバーの出現頻度を決定する段階、および該バックグラウンドゲノム配列内の該複数のゲノム配列セグメントの出現頻度を決定する段階と、
v.該病原体ゲノム配列内の該出現頻度を、該バックグラウンドゲノム配列内の該複数のゲノム配列セグメントの該出現頻度で除算することによって、該メンバーへの選択性比率を計算する段階と、
vi.該選択性比率閾値を選択し、それによって、該選択性比率閾値以上の選択性比率を有する該複数のゲノム配列セグメントの第1のサブセットを定義する段階と、
vii.該第1のサブセットのゲノム配列セグメント間で出現する病原体ゲノム配列の長さを決定する段階と、
viii.該第1のサブセットから、第2のサブセットのゲノム配列セグメントを選択する段階であって、該第2のサブセットのメンバーは、選択された核酸塩基長未満の平均分離距離を有する、段階と、
ix.全ゲノム増幅条件下で、該少なくとも1つの病原体ゲノムが、該少なくとも1つのバックグラウンドゲノムよりも選択的に増幅されるように、該第2のサブセットのゲノム配列セグメントのメンバーとハイブリダイズする標的全ゲノム増幅プライマを選択する段階
とのうちの1つ以上またはそれぞれによって選択される、
段階を含む方法を提供する。
【0022】
一部の態様において、該方法は、1つ以上のプライマ対を使用して、該増幅された病原体ゲノムからバイオエージェントを同定する単位複製配列を表す1つ以上の増幅産物を生成する段階をさらに含む。一部の態様において、該方法は、質量分析によって該増幅産物の分子量を測定する段階をさらに含む。一部の態様においては、該質量分析は、エレクトロスプレー飛行時間型質量分析である。一部の態様において、該方法は、該分子量を、該プライマ対で生成された病原体のバイオエージェントを同定する単位複製配列の分子量を含むデータベースと比較し、それによって、該試料中の該病原体を同定する段階をさらに含む。一部の態様において、該方法は、該分子量から該増幅産物の塩基組成を計算する段階をさらに含む。一部の態様において、該方法は、該塩基組成を、該プライマ対で生成された病原体のバイオエージェントを同定する単位複製配列の塩基組成を含むデータベースと比較し、それによって、該試料中の該病原体を同定する段階をさらに含む。
【0023】
一部の態様において、該増幅産物は、バイオエージェントを同定する単位複製配列を定義する複数のプライマ対を使用して産生される。一部の態様において、該複数のプライマ対は、複数の増幅産物を産生するために、多重反応で使用される。一部の態様において、該複数のプライマ対は、プライマ対番号:346(配列番号:594:602)、348(配列番号:595:603)、349(配列番号:596:604)、354(配列番号:597:605)、358(配列番号:598:606)、359(配列番号:599:607)、3346(配列番号:616:631)、449(配列番号:600:608)、3350(配列番号:614:629)、2249(配列番号:601:609)、3361(配列番号:620:635)、および3360(配列番号:612:627)からなる群より少なくとも2つのプライマ対を含む。一部の態様において、該複数のプライマ対は、プライマ対番号:346(配列番号:594:602)、348(配列番号:595:603)、349(配列番号:596:604)、3346(配列番号:616:631)を含む。一部の態様において、該複数のプライマ対は、プライマ対番号:346(配列番号:594:602)、348(配列番号:595:603)、349(配列番号:596:604)、および3361(配列番号:620:635)を含む。一部の態様において、該複数のプライマ対は、プライマ対番号346(配列番号:594:602)、348(配列番号:595:603)、349(配列番号:596:604)ならびに354 358(配列番号:598:606)、359(配列番号:599:607)、3346(配列番号:616:631)、449(配列番号:600:608)、3350(配列番号:614:629)、3361(配列番号:620:635)、および3360(配列番号:612:627)からなる群より選択される少なくとも1つのプライマ対を含む。
【0024】
一部の態様において、高処理能力(processivity)ポリメラーゼ酵素は、該増幅する段階で使用される。一部の態様において、該高処理能力ポリメラーゼ酵素は、組み換えポリメラーゼ酵素である。一部の態様において、該高処理能力ポリメラーゼ酵素は、遺伝子操作されたポリメラーゼ酵素である。一部の態様において、該高処理能力ポリメラーゼ酵素は、phi29である。
【0025】
一部の態様において、該試料は、ヒト全血を含む。一部の態様において、該方法は、該増幅する段階を行う前に、該試料から総核酸を抽出する段階をさらに含む。一部の態様において、該試料は、ヒトバフィーコートを含む。一部の態様において、該方法は、該増幅する段階を行う前に、該試料から総核酸を抽出する段階をさらに含む。一部の態様において、該試料は、ヒト血清を含む。一部の態様において、該方法は、該増幅する段階を行う前に、該試料から総核酸を抽出する段階をさらに含む。一部の態様において、該試料は、ヒト肝細胞を含む。一部の態様において、該方法は、該増幅する段階を行う前に、試料から総核酸を抽出する段階をさらに含む。一部の態様において、該試料は、痰を含む。一部の態様において、該方法は、該増幅する段階を行う前に、試料から総核酸を抽出する段階をさらに含む。一部の態様において、該試料は、尿を含む。一部の態様において、該方法は、該増幅する段階を行う前に、試料から総核酸を抽出する段階をさらに含む。一部の態様において、該試料は、生検組織を含む。一部の態様において、該方法は、該増幅する段階を行う前に、試料から総核酸を抽出する段階をさらに含む。
【0026】
一部の態様において、該少なくとも1つの病原体は、細菌である。一部の態様において、該細菌は、大腸菌、クレブシエラニューモニエ、クレブシエラオキシトカ、セラチアマルセセンス、エンテロバクタークロアカ、エンテロバクターエロゲネス、プロテウスミラビリス、緑膿菌、アシネトバクターバウマンニ、ステノトロホモナスマルトフィリア、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、スタフィロコッカスヘモリチカス、肺炎球菌、化膿性連鎖球菌、ストレプトコッカスアガラクチア、ストレプトコッカスミティス、エンテロコッカスフェシウム、エンテロコッカスフェカリス、カンジダアルビカンス、カンジダトロピカリス,カンジダパラプローシス、カンジダクルセイ、カンジダグラブラタ,結核菌、およびアスペルギルスフミガーツスのうちの1つ以上(例えば、それらからなる群より選択される)である。
【0027】
一部の態様において、該少なくとも1つのバックグラウンドゲノムは、ヒト核酸を含む。一部の態様において、該同定する段階は、ヒト患者における細菌性セプシスの存在を示す。一部の態様において、該同定する段階は、ヒト患者における菌血症の存在を示す。
【0028】
一部の態様において、該少なくとも1つの病原体は、ウイルスである。一部の態様において、該ウイルスは、HIVである。一部の態様において、該ウイルスは、HCVである。一部の態様において、該ウイルスは、インフルエンザウイルスである。
【0029】
また、本発明は、以下の段階の1つもしくは複数、またはそれぞれを含む方法を提供する:
a.試料から核酸を抽出する段階と、
b.複数の標的全ゲノム増幅プライマの該核酸を、高処理能力ポリメラーゼ酵素と混合し、増幅混合物を生成する段階であって、該複数の標的全ゲノム増幅プライマは、
i.該試料中に存在すると考えられる少なくとも1つの標的ゲノムを同定する段階と、
ii.該試料中に存在すると考えられる少なくとも1つのバックグラウンドゲノムを同定する段階と、
iii.該標的ゲノム配列内に固有の配列を有する複数のゲノム配列セグメントを同定する段階と、
iv.該標的ゲノム配列内および該バックグラウンドゲノム配列内の該複数のゲノム配列セグメントのメンバーの出現頻度を決定する段階と、
v.該標的ゲノム内の該出現頻度を、該バックグラウンドゲノム配列内の該複数のゲノム配列セグメントの該出現頻度で除算することによって、該メンバーへの選択性比率を計算する段階と、
vi.選択性比率閾値を選択し、それによって、該選択性比率閾値以上の選択性比率を有する該複数のゲノム配列セグメントの第1のサブセットを定義する段階と、
vii.該第1のサブセットのゲノム配列セグメント間で出現する標的ゲノム配列の長さを決定する段階と、
viii.該第1のサブセットから、第2のサブセットのゲノム配列セグメントを選択する段階であって、該第2のサブセットのメンバーは、選択された核酸塩基長未満の平均分離を有する、段階と、
ix.該少なくとも1つの病原体ゲノムが、該少なくとも1つのバックグラウンドゲノムよりも選択的に増幅されるように、該第2のサブセットのゲノム配列セグメントのメンバーとハイブリダイズする標的全ゲノム増幅プライマを選択する段階
により選択される。
【0030】
一部の態様において、該方法は、段階bの該混合物において、1つ以上の該抽出された核酸を増幅する段階をさらに含む。一部の態様において、該増幅する段階は、標的全ゲノム増幅反応である。一部の態様において、該方法は、少なくとも第2の増幅産物を得るために、バイオエージェントを同定する単位複製配列を定義する少なくとも1つのプライマ対を使用して、第2の増幅する段階を実施する段階をさらに含む。一部の態様において、該方法は、質量分析によって、該第2の増幅産物の分子量を測定する段階をさらに含む。一部の態様において、該質量分析は、エレクトロスプレー飛行時間型質量分析である。
【0031】
一部の態様において、該方法は、該分子量を、該プライマ対で生成された病原体のバイオエージェントを同定する単位複製配列の分子量を含むデータベースと比較し、それによって、該試料中の該病原体を同定する段階をさらに含む。一部の態様において、該方法は、該分子量から、該増幅産物の塩基組成を計算する段階をさらに含む。一部の態様において、該方法は、該塩基組成を、該プライマ対で生成された病原体のバイオエージェントを同定する単位複製配列の塩基組成を含むデータベースと比較し、それによって、該試料中の該病原体を同定する段階をさらに含む。
【0032】
一部の態様において、該第2の増幅する段階は、バイオエージェントを同定する単位複製配列を定義する複数のプライマ対を使用して産生された複数の増幅産物を得る段階を含む。一部の態様において、該複数のプライマ対は、複数の増幅産物を産生するために、1つ以上の多重反応で使用される。一部の態様において、該複数のプライマ対は、プライマ対番号:346(配列番号:594:602)、348(配列番号:595:603)、349(配列番号:596:604)、354(配列番号:597:605)、358(配列番号:598:606)、359(配列番号:599:607)、3346(配列番号:616:631)、449(配列番号:600:608)、3350(配列番号:614:629)、2249(配列番号:601:609)、3361(配列番号:620:635)、および3360(配列番号:612:627)からなる群より少なくとも2つのプライマ対を含む。一部の態様において、該複数のプライマ対は、プライマ対番号:346(配列番号:594:602)、348(配列番号:595:603)、349(配列番号:596:604)、3346(配列番号:616:631)を含む。一部の態様において、該複数のプライマ対は、プライマ対番号:346(配列番号:594:602)、348(配列番号:595:603)、349(配列番号:596:604)、および3361(配列番号:620:635)を含む。一部の態様において、該複数のプライマ対は、プライマ対番号346(配列番号:594:602)、348(配列番号:595:603)、349(配列番号:596:604)ならびに354 358(配列番号:598:606)、359(配列番号:599:607)、3346(配列番号:616:631)、449(配列番号:600:608)、3350(配列番号:614:629)、3361(配列番号:620:635)、および3360(配列番号:612:627)からなる群より選択される少なくとも1つのプライマ対を含む。
【0033】
一部の態様において、高処理能力ポリメラーゼ酵素は、該増幅する段階で使用される。一部の態様において、該高処理能力ポリメラーゼ酵素は、組み換えポリメラーゼ酵素である。一部の態様において、該高処理能力ポリメラーゼ酵素は、遺伝子操作されたポリメラーゼ酵素である一部の態様において、該高処理能力ポリメラーゼ酵素は、phi29である。
【0034】
一部の態様において、該試料は、ヒト全血を含む。一部の態様において、該方法は、該増幅する段階を行う前に、該試料から総核酸を抽出する段階をさらに含む。一部の態様において、該試料は、ヒトバフィーコートを含む。一部の態様において、該方法は、該増幅する段階を行う前に、該試料から総核酸を抽出する段階をさらに含む。一部の態様において、該試料は、ヒト血清を含む。一部の態様において、該方法は、該増幅する段階を行う前に、該試料から総核酸を抽出する段階をさらに含む。一部の態様において、該試料は、ヒト肝細胞を含む。一部の態様において、該方法は、該増幅する段階を行う前に、試料から総核酸を抽出する段階をさらに含む。一部の態様において、該試料は、痰を含む。一部の態様において、該方法は、該増幅する段階を行う前に、試料から総核酸を抽出する段階をさらに含む。一部の態様において、該試料は、尿を含む。一部の態様において、該方法は、該増幅する段階を行う前に、試料から総核酸を抽出する段階をさらに含む。一部の態様において、該試料は、生検組織を含む。一部の態様において、該方法は、該増幅する段階を行う前に、試料から総核酸を抽出する段階をさらに含む。
【0035】
一部の態様において、該少なくとも1つの病原体は、細菌である。一部の態様において、該細菌は、大腸菌、クレブシエラニューモニエ、クレブシエラオキシトカ、セラチアマルセセンス、エンテロバクタークロアカ、エンテロバクターエロゲネス、プロテウスミラビリス、緑膿菌、アシネトバクターバウマンニ,ステノトロホモナスマルトフィリア、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、スタフィロコッカスヘモリチカス、肺炎球菌、化膿性連鎖球菌、ストレプトコッカスアガラクチア、ストレプトコッカスミティス、エンテロコッカスフェシウム、エンテロコッカスフェカリス、カンジダアルビカンス、カンジダトロピカリス、カンジダパラプローシス、カンジダクルセイ、カンジダグラブラタ,結核菌、およびアスペルギルスフミガーツスのうちの1つ以上(例えば、それらからなる群より選択される)。
【0036】
一部の態様において、該少なくとも1つのバックグラウンドゲノムは、ヒト核酸を含む。一部の態様において、該同定する段階は、ヒト患者における細菌性セプシスの存在を示す。一部の態様において、該同定する段階は、ヒト患者における菌血症の存在を示す。
【0037】
一部の態様において、該少なくとも1つの病原体は、ウイルスである。一部の態様において、該ウイルスは、HIVである。一部の態様において、該ウイルスは、HCVである。一部の態様において、該ウイルスは、インフルエンザウイルスである。
【0038】
本発明は、また、上記のまたは本明細書の他の部分に記載した方法のいずれかを実施するのに必要、有用、または十分である、1つ以上の成分を含有するキットもまた提供する。一部の態様において、該キットは、高処理能力ポリメラーゼ酵素および複数の精製された標的全ゲノム増幅プライマを含む。一部の態様において、該キットは、バイオエージェントを同定する単位複製配列を定義する少なくとも1つのプライマ対をさらに含む。一部の態様において、該複数のプライマ対は、プライマ対番号:346(配列番号:594:602)、348(配列番号:595:603)、349(配列番号:596:604)、354(配列番号:597:605)、358(配列番号:598:606)、359(配列番号:599:607)、3346(配列番号:616:631)、449(配列番号:600:608)、3350(配列番号:614:629)、2249(配列番号:601:609)、3361(配列番号:620:635)、および3360(配列番号:612:627)からなる群より少なくとも2つのプライマ対を含む。一部の態様において、該複数のプライマ対は、プライマ対番号:346(配列番号:594:602)、348(配列番号:595:603)、349(配列番号:596:604)、3346(配列番号:616:631)を含む。一部の態様において、該複数のプライマ対は、プライマ対番号:346(配列番号:594:602)、348(配列番号:595:603)、349(配列番号:596:604)、および3361(配列番号:620:635)を含む。一部の態様において、該複数のプライマ対は、プライマ対番号346(配列番号:594:602)、348(配列番号:595:603)、349(配列番号:596:604)ならびに354 358(配列番号:598:606)、359(配列番号:599:607)、3346(配列番号:616:631)、449(配列番号:600:608)、3350(配列番号:614:629)、3361(配列番号:620:635)、および3360(配列番号:612:627)からなる群より選択される少なくとも1つのプライマ対を含む。一部の態様において、該高処理能力酵素は、phi29である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】ゲノム配列セグメントおよびそれとハイブリダイズするプライマの感受性、選択性および長さ間の関係を示す図である。
【図2】ゲノム配列セグメントおよびそれとハイブリダイズするプライマを選択するための工程段階を示す工程図である。
【図3A】ランダム6量体プライマ(中実ダイアモンド)および表3のプライマ(透明の円)を使用する標的全ゲノム増幅(Targeted Whole Genome Amplification:TWGA)方法で実施した全ゲノム増幅(Whole Genome Amplification:WGA)反応から得られたヒトDNAの量を示す図である。
【図3B】ランダム6量体プライマ(中実ダイアモンド)および表3のプライマ(透明の円)を使用する標的全ゲノム増幅(Targeted Whole Genome Amplification:TWGA)方法で実施した全ゲノム増幅(Whole Genome Amplification:WGA)反応から得られた炭疽菌(Bacillus anthracis)DNAの量を示す図である。
【図4】(A)ランダム6量体プライマ(中実ダイアモンド)および表3の第1の産生プライマ(透明の円)を使用する標的全ゲノム増幅(Targeted Whole Genome Amplification:TWGA)方法ならびに表4の第2の産生プライマ(透明の四角形)で実施した全ゲノム増幅(Whole Genome Amplification:WGA)反応から得られたヒトDNAの量を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階をを含む方法:
複数の標的全ゲノム増幅プライマを使用して、少なくとも1つの病原体ゲノムおよび少なくとも1つのバックグラウンドゲノム(backgrouund genome)を含むと考えられる試料から少なくとも1つの病原体ゲノムを増幅し、それによって、該少なくとも1つのバックグラウンドゲノムに相当する核酸の量に対して、該少なくとも1つの病原体ゲノムに相当する核酸の量を増加させる段階であって、
該複数の標的全ゲノム増幅プライマが
i.少なくとも1つの病原体ゲノムを同定する段階、
ii.少なくとも1つのバックグラウンドゲノムを同定する段階、
iii.該病原体ゲノム配列内に固有の配列を有する複数のゲノム配列セグメントを同定する段階、
iv.該病原体ゲノム配列内の該複数のゲノム配列セグメントのメンバーの出現頻度を決定し、かつバックグラウンドゲノム配列内の該複数のゲノム配列セグメントの出現頻度を決定する段階、
v.該病原体ゲノム配列内の該出現頻度を、該バックグラウンドゲノム配列内の該複数のゲノム配列セグメントの該出現頻度で除算することによって、該メンバーの選択性比率を計算する段階、
vi.選択性比率閾値を選択し、それによって、該選択性比率閾値と同じかまたはそれ以上の選択性比率を有する該複数のゲノム配列セグメントの第1のサブセットを定義する段階、
vii.該第1のサブセットのゲノム配列セグメント間に出現する病原体ゲノム配列の長さを決定する段階、
viii.該第1のサブセットから、第2のサブセットのゲノム配列セグメントを選択する段階であって、該第2のサブセットのメンバーは、選択された核酸塩基長未満の平均分離距離を有する段階、および
ix.全ゲノム増幅条件下で、該少なくとも1つの病原体ゲノムが、該少なくとも1つのバックグラウンドゲノムよりも選択的に増幅されるように、該第2のサブセットのゲノム配列セグメントのメンバーとハイブリダイズする標的全ゲノム増幅プライマを選択する段階
により選択される、段階。
【請求項2】
1つまたは複数のプライマ対を使用して、増幅された病原体ゲノムから、バイオエージェント(bioagent)を同定する単位複製配列に相当する1つまたは複数の増幅産物を生成する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
質量分析によって増幅産物の分子量を測定する段階をさらに含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
質量分析がエレクトロスプレー飛行時間型質量分析である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
分子量を、プライマ対で生成された、病原体のバイオエージェントを同定する単位複製配列の分子量を含むデータベースと比較し、それによって、試料中の病原体を同定する段階をさらに含む、請求項3記載の方法。
【請求項6】
分子量から増幅産物の塩基組成を計算する段階をさらに含む、請求項3記載の方法。
【請求項7】
塩基組成を、プライマ対で生成された、病原体のバイオエージェントを同定する単位複製配列の塩基組成を含むデータベースと比較し、それによって、試料中の病原体を同定する段階をさらに含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
増幅産物が、バイオエージェントを同定する単位複製配列を定義する複数のプライマ対を使用して産生される、請求項2記載の方法。
【請求項9】
複数のプライマ対が、複数の増幅産物を産生するために、多重反応で使用される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
複数のプライマ対が、プライマ対番号:346(配列番号:594:602)、348(配列番号:595:603)、349(配列番号:596:604)、354(配列番号:597:605)、358(配列番号:598:606)、359(配列番号:599:607)、3346(配列番号:616:631)、449(配列番号:600:608)、3350(配列番号:614:629)、2249(配列番号:601:609)、3361(配列番号:620:635)、および3360(配列番号:612:627)からなる群より、少なくとも2つのプライマ対を含む、請求項8記載の方法。
【請求項11】
複数のプライマ対が、プライマ対番号:346(配列番号:594:602)、348(配列番号:595:603)、349(配列番号:596:604)、3346(配列番号:616:631)を含む、請求項8記載の方法。
【請求項12】
複数のプライマ対が、プライマ対番号:346(配列番号:594:602)、348(配列番号:595:603)、349(配列番号:596:604)、および3361(配列番号:620:635)を含む、請求項8記載の方法。
【請求項13】
複数のプライマ対が、プライマ対番号346(配列番号:594:602)、348(配列番号:595:603)、349(配列番号:596:604)、ならびに、354 358(配列番号:598:606)、359(配列番号:599:607)、3346(配列番号:616:631)、449(配列番号:600:608)、3350(配列番号:614:629)、3361(配列番号:620:635)、および3360(配列番号:612:627)からなる群より選択される少なくとも1つのプライマ対を含む、請求項8記載の方法。
【請求項14】
高処理能力(processivity)ポリメラーゼ酵素が増幅段階で使用される、請求項1記載の方法。
【請求項15】
高処理能力ポリメラーゼ酵素が組み換えポリメラーゼ酵素である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
高処理能力ポリメラーゼ酵素が遺伝子操作されたポリメラーゼ酵素である、請求項14記載の方法。
【請求項17】
高処理能力ポリメラーゼ酵素がphi29である、請求項14記載の方法。
【請求項18】
試料がヒト全血を含む、請求項1記載の方法。
【請求項19】
増幅する段階を行う前に、試料から総核酸を抽出する段階をさらに含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
試料がヒトバフィーコートを含む、請求項1記載の方法。
【請求項21】
増幅する段階を行う前に、試料から総核酸を抽出する段階をさらに含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
試料がヒト血清を含む、請求項1記載の方法。
【請求項23】
増幅する段階を行う前に、試料から総核酸を抽出する段階をさらに含む、請求項22記載の方法。
【請求項24】
試料がヒト肝細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項25】
増幅する段階を行う前に、試料から総核酸を抽出する段階をさらに含む、請求項24記載の方法。
【請求項26】
試料が痰を含む、請求項1記載の方法。
【請求項27】
増幅する段階を行う前に、試料から総核酸を抽出する段階をさらに含む、請求項26記載の方法。
【請求項28】
試料が尿を含む、請求項1記載の方法。
【請求項29】
増幅する段階を行う前に、試料から総核酸を抽出する段階をさらに含む、請求項28記載の方法。
【請求項30】
試料が生検組織を含む、請求項1記載の方法。
【請求項31】
増幅する段階を行う前に、試料から総核酸を抽出する段階をさらに含む、請求項30記載の方法。
【請求項32】
少なくとも1つの病原体が細菌である、請求項1記載の方法。
【請求項33】
細菌が、大腸菌(Escherichia coil)、クレブシエラニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、クレブシエラオキシトカ(Klebsiella oxytoca)、セラチアマルセセンス(Serratia marcescens)、エンテロバクタークロアカ(Enterobacter cloacae)、エンテロバクターエロゲネス(Enterobacter aerogenes)、プロテウスミラビリス(Proteus mirabilis)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、アシネトバクターバウマンニ(Acinetobacter baumannii)、ステノトロホモナスマルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、スタフィロコッカスヘモリチカス(Staphylococcus haemolyticus)、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカスアガラクチア(Streptococcus agalactiae)、ストレプトコッカスミティス(Streptococcus mitis)、エンテロコッカスフェシウム(Enterococcus faecium)、エンテロコッカスフェカリス(Enterococcus faecalis)、カンジダアルビカンス(Candida albicans)、カンジダトロピカリス(Candida tropicalis)、カンジダパラプローシス(Candida parapsilosis)、カンジダクルセイ(Candida krusei)、カンジダグラブラタ(Candida glabrata)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、およびアスペルギルスフミガーツス(Aspergillus fumigatus)からなる群より選択される、請求項32記載の方法。
【請求項34】
少なくとも1つのバックグラウンドゲノムがヒト核酸を含む、請求項1記載の方法。
【請求項35】
同定する段階が、ヒト患者における細菌性セプシス(sepsis)の存在を示す、請求項5または7記載の方法。
【請求項36】
同定する段階が、ヒト患者における菌血症の存在を示す、請求項5または7記載の方法。
【請求項37】
病原体がウイルスである、請求項1記載の方法。
【請求項38】
ウイルスがHIVである、請求項37記載の方法。
【請求項39】
ウイルスがHCVである、請求項37記載の方法。
【請求項40】
ウイルスがインフルエンザウイルスである、請求項37記載の方法。
【請求項41】
請求項1、5、7、32、33、および37〜41のいずれか一項記載の方法のいずれかを実施するための、診断キット。
【請求項42】
高処理能力ポリメラーゼ酵素および複数の精製標的全ゲノム増幅プライマを含む、診断キット。
【請求項43】
バイオエージェントを同定する単位複製配列を定義する少なくとも1つのプライマ対をさらに含む、請求項42記載のキット。
【請求項44】
複数のプライマ対が、プライマ対番号:346(配列番号:594:602)、348(配列番号:595:603)、349(配列番号:596:604)、354(配列番号:597:605)、358(配列番号:598:606)、359(配列番号:599:607)、3346(配列番号:616:631)、449(配列番号:600:608)、3350(配列番号:614:629)、2249(配列番号:601:609)、3361(配列番号:620:635)、および3360(配列番号:612:627)からなる群より、少なくとも2つのプライマ対を含む、請求項43記載のキット。
【請求項45】
複数のプライマ対が、プライマ対番号:346(配列番号:594:602)、348(配列番号:595:603)、349(配列番号:596:604)、3346(配列番号:616:631)を含む、請求項43記載のキット。
【請求項46】
複数のプライマ対が、プライマ対番号:346(配列番号:594:602)、348(配列番号:595:603)、349(配列番号:596:604)、および3361(配列番号:620:635)を含む、請求項43記載のキット。
【請求項47】
複数のプライマ対が、プライマ対番号346(配列番号:594:602)、348(配列番号:595:603)、349(配列番号:596:604)、ならびに、354 358(配列番号:598:606)、359(配列番号:599:607)、3346(配列番号:616:631)、449(配列番号:600:608)、3350(配列番号:614:629)、3361(配列番号:620:635)、および3360(配列番号:612:627)からなる群より選択される少なくとも1つのプライマ対を含む、請求項43記載のキット。
【請求項48】
高処理能力酵素がphi29である、請求項43記載のキット。
【請求項49】
以下の段階を含む方法:
a.試料から核酸を抽出する段階、および
b.複数の標的全ゲノム増幅プライマを伴う該核酸を、高処理能力ポリメラーゼ酵素と混合し、増幅混合物を生成する段階であって、
該複数の標的全ゲノム増幅プライマが
i.該試料中に存在すると考えられる少なくとも1つの標的ゲノムを同定する段階、
ii.該試料中に存在すると考えられる少なくとも1つのバックグラウンドゲノムを同定する段階、
iii.該標的ゲノム配列内に固有の配列を有する複数のゲノム配列セグメントを同定する段階、
iv.該標的ゲノム配列内およびバックグラウンドゲノム配列内の該複数のゲノム配列セグメントのメンバーの出現頻度を決定する段階、
v.該標的ゲノム内の該出現頻度を、該バックグラウンドゲノム配列内の該複数のゲノム配列セグメントの該出現頻度で除算することによって、該メンバーの選択性比率を計算する段階、
vi.選択性比率閾値を選択し、それによって、該選択性比率閾値と同じかまたはそれ以上の選択性比率を有する該複数のゲノム配列セグメントの第1のサブセットを定義する段階、
vii.該第1のサブセットのゲノム配列セグメント間に出現する標的ゲノム配列の長さを決定する段階、
viii.該第1のサブセットから、第2のサブセットのゲノム配列セグメントを選択する段階であって、該第2のサブセットのメンバーは、選択された核酸塩基長未満の平均分離を有する、段階、および
ix.該少なくとも1つの標的ゲノムが、該少なくとも1つのバックグラウンドゲノムよりも選択的に増幅されるように、該第2のサブセットのゲノム配列セグメントのメンバーとハイブリダイズする標的全ゲノム増幅プライマを選択する段階
により選択される、段階。
【請求項50】
段階bの混合物において1つまたは複数の抽出された核酸を増幅する段階をさらに含む、請求項49記載の方法。
【請求項51】
増幅する段階が、標的全ゲノム増幅反応である、請求項49記載の方法。
【請求項52】
少なくとも第2の増幅産物を得るために、バイオエージェントを同定する単位複製配列を定義する少なくとも1つのプライマ対を使用して、第2の増幅段階を実施する段階をさらに含む、請求項51記載の方法。
【請求項53】
質量分析によって、第2の増幅産物の分子量を測定する段階をさらに含む、請求項52記載の方法。
【請求項54】
質量分析がエレクトロスプレー飛行時間型質量分析である、請求項53記載の方法。
【請求項55】
分子量を、プライマ対で生成された、病原体のバイオエージェントを同定する単位複製配列の分子量を含むデータベースと比較し、それによって、試料中の病原体を同定する段階をさらに含む、請求項52記載の方法。
【請求項56】
分子量から増幅産物の塩基組成を計算する段階をさらに含む、請求項53記載の方法。
【請求項57】
塩基組成を、プライマ対で生成された、病原体のバイオエージェントを同定する単位複製配列の塩基組成を含むデータベースと比較し、それによって、試料中の病原体を同定する段階をさらに含む、請求項56記載の方法。
【請求項58】
第2の増幅する段階が、バイオエージェントを同定する単位複製配列を定義する複数のプライマ対を使用して産生された複数の増幅産物を得る段階を含む、請求項52記載の方法。
【請求項59】
複数のプライマ対が、複数の増幅産物を産生するために、1つまたは複数の多重反応で使用される、請求項58記載の方法。
【請求項60】
複数のプライマ対が、プライマ対番号:346(配列番号:594:602)、348(配列番号:595:603)、349(配列番号:596:604)、354(配列番号:597:605)、358(配列番号:598:606)、359(配列番号:599:607)、3346(配列番号:616:631)、449(配列番号:600:608)、3350(配列番号:614:629)、2249(配列番号:601:609)、3361(配列番号:620:635)、および3360(配列番号:612:627)からなる群より、少なくとも2つのプライマ対を含む、請求項58または59記載の方法。
【請求項61】
複数のプライマ対が、プライマ対番号:346(配列番号:594:602)、348(配列番号:595:603)、349(配列番号:596:604)、3346(配列番号:616:631)を含む、請求項58または59記載の方法。
【請求項62】
複数のプライマ対が、プライマ対番号:346(配列番号:594:602)、348(配列番号:595:603)、349(配列番号:596:604)、および3361(配列番号:620:635)を含む、請求項58または59記載の方法。
【請求項63】
複数のプライマ対が、プライマ対番号346(配列番号:594:602)、348(配列番号:595:603)、349(配列番号:596:604)、ならびに、354 358(配列番号:598:606)、359(配列番号:599:607)、3346(配列番号:616:631)、449(配列番号:600:608)、3350(配列番号:614:629)、3361(配列番号:620:635)、および3360(配列番号:612:627)からなる群より選択される少なくとも1つのプライマ対を含む、請求項58または59記載の方法。
【請求項64】
高処理能力ポリメラーゼ酵素が組み換えポリメラーゼ酵素である、請求項49記載の方法。
【請求項65】
高処理能力ポリメラーゼ酵素が遺伝子操作されたポリメラーゼ酵素である、請求項49記載の方法。
【請求項66】
高処理能力ポリメラーゼ酵素がphi29である、請求項49記載の方法。
【請求項67】
試料がヒト全血を含む、請求項49記載の方法。
【請求項68】
増幅する段階を行う前に、試料から総核酸を抽出する段階をさらに含む、請求項67記載の方法。
【請求項69】
試料がヒトバフィーコートを含む、請求項49記載の方法。
【請求項70】
増幅する段階を行う前に、試料から総核酸を抽出する段階をさらに含む、請求項69記載の方法。
【請求項71】
試料がヒト血清を含む、請求項49記載の方法。
【請求項72】
増幅する段階を行う前に試料から総核酸を抽出する段階をさらに含む、請求項71記載の方法。
【請求項73】
試料がヒト肝細胞を含む、請求項49記載の方法。
【請求項74】
増幅する段階を行う前に、試料から総核酸を抽出する段階をさらに含む、請求項73記載の方法。
【請求項75】
試料が痰を含む、請求項49記載の方法。
【請求項76】
増幅する段階を行う前に、試料から総核酸を抽出する段階をさらに含む、請求項75記載の方法。
【請求項77】
試料が尿を含む、請求項49記載の方法。
【請求項78】
増幅する段階を行う前に、試料から総核酸を抽出する段階をさらに含む、請求項77記載の方法。
【請求項79】
試料が生検組織を含む、請求項49記載の方法。
【請求項80】
増幅する段階を行う前に、試料から総核酸を抽出する段階をさらに含む、請求項79記載の方法。
【請求項81】
試料が細菌を含む、請求項49記載の方法。
【請求項82】
細菌が、大腸菌、クレブシエラニューモニエ、クレブシエラオキシトカ、セラチアマルセセンス、エンテロバクタークロアカ、エンテロバクターエロゲネス、プロテウスミラビリス、緑膿菌、アシネトバクターバウマンニ、ステノトロホモナスマルトフィリア、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、スタフィロコッカスヘモリチカス、肺炎球菌、化膿性連鎖球菌、ストレプトコッカスアガラクチア、ストレプトコッカスミティス、エンテロコッカスフェシウム、エンテロコッカスフェカリス、カンジダアルビカンス、カンジダトロピカリス、カンジダパラプローシス、カンジダクルセイ、カンジダグラブラタおよびアスペルギルスフミガーツスからなる群より選択される、請求項81記載の方法。
【請求項83】
少なくとも1つのバックグラウンドゲノムがヒト核酸を含む、請求項49記載の方法。
【請求項84】
同定する段階が、ヒトにおける細菌性セプシスの存在を示す、請求項56または57記載の方法。
【請求項85】
病原体がウイルスである、請求項56または57記載の方法。
【請求項86】
ウイルスがHIVである、請求項85記載の方法。
【請求項87】
ウイルスがHCVである、請求項85記載の方法。
【請求項88】
ウイルスがインフルエンザウイルスである、請求項85記載の方法。
【請求項89】
複数の標的全ゲノム増幅プライマを含む、請求項49、81、82、および85〜88のいずれか一項記載の方法のいずれかを実施する診断キット。

【図4】(B)ランダム6量体プライマ(中実ダイアモンド)および表3のプライマ(透明の円)を使用する標的全ゲノム増幅(Targeted Whole Genome Amplification:TWGA)方法ならびに表4の第2の産生プライマ(透明の四角形)で実施した全ゲノム増幅(Whole Genome Amplification:WGA)反応から得られた炭疽菌DNAの量を示す図である。
【図5】(A)および(B)背景DNAの量および200フェムトグラム(fg)の炭疽菌DNAを示すと共に、標的全ゲノム増幅反応下で得られた炭疽菌DNA(標的ゲノム)およびホモサピエンス(Homo sapiens)DNA(バックグラウンドゲノム)の量を示す図である。
【図6】標的全ゲノム増幅反応(A)対従来の全ゲノム増幅反応(B)下で得られた炭疽菌DNA(標的ゲノム)およびホモサピエンスDNA(バックグラウンドゲノム)の量を比較する図である。
【図7】定濃度のホモサピエンスDNA(バックグラウンドゲノム)と共に、炭疽菌DNA(標的ゲノム)の濃度範囲内で得られた増幅DNAの量を示す図である。図7Aは、2つの異なる標的全ゲノム増幅反応および従来の全ゲノム増幅反応下で得られた炭疽菌DNAの量を示す。図7Bは、同じ3つの反応下のホモサピエンスDNAの量を示す。
【図8】代表的なプライマ対選択工程を例証する工程図である。
【図9】較正方法の態様を例証する工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
定義
本明細書に開示の方法の理解を容易にするために、多くの用語と語句を以下に定義する。
【0041】
本明細書において、「存在量」という用語は、量に言及する。該量は、当業者に既知である、「コピー数」、「プレート形成単位(PFU)」等の、分子生物学において一般的な濃度に関して記載されてもよい。濃度は、既知の標準濃度、または絶対濃度との相対であってもよい。
【0042】
「増幅」という用語は、本明細書において、大量の元の核酸を得るために、核酸鋳型の元の個数を増殖する工程に言及する。
【0043】
本明細書において、「増幅可能な核酸」という用語は、あらゆる増幅方法により増幅されてもよい核酸への言及に使用される。「増幅可能な核酸」は、「試料鋳型」という用語へも適用されることが想定される。
【0044】
本明細書において、「増幅試薬」という用語は、プライマ、核酸鋳型、及び増幅酵素を除き、増幅に必要なこれらの試薬(デオキシリボヌクレオチド三リン酸、バッファ等)に言及する。一般的に、他の反応成分と共に増幅試薬は反応槽(試験管、マイクロウェル、または他の槽)に置かれたものが含まれる。
【0045】
本明細書において、「類似する」という用語は、バイオエージェントを同定する単位複製配列の比較の文脈で使用される際、比較されるバイオエージェントを同定する単位複製配列がプライマの同じ組で生成されることを示す。例えば、プライマの同じ組で生成されたバイオエージェントを同定する単位複製配列「A」とバイオエージェントを同定する単位複製配列「B」とは、互いに類似している。プライマの異なる組で生成されたバイオエージェントを同定する単位複製配列「C」は、バイオエージェントを同定する単位複製配列「A」またはバイオエージェントを同定する単位複製配列「B」のいずれに対しても類似していない。
【0046】
本明細書において、「アニオン交換官能基」という用語は、静電気的相互作用を通じてアニオンを結合する能力がある正電気を帯びた官能基に言及する。最も既知のアニオン交換官能基は、第1級、第2級、第3級、第4級アミンを含むアミンである。
【0047】
「背景生物」という用語は、本明細書において、関心対象ではないため、汚染物質と見なされる所与の試料に一般的に存在する生物に言及する。
【0048】
「バックグラウンドゲノム」という用語は、本明細書において、背景生物のゲノムに言及する。背景生物は、試料源により様々であり得る。非限定的な例において、土質試料における土壌のバイオレメディエーション細菌の標的全ゲノム増幅について、バックグラウンドゲノムとして線虫等の土壌種の生物のゲノムを同定することが有利であろう。別の非限定的な例においては、ヒト組織試料の標的病原体に属するゲノムの全ゲノム増幅について、バックグラウンドゲノムとしてヒトのDNAを同定することが有利であろう。
【0049】
「細菌」という用語は、真性細菌および古細菌の群のあらゆるメンバーに言及する。
【0050】
「菌血症」という用語は、血流における細菌の存在に言及する。これは、「血液中毒」または「毒血症」という関連用語としても知られる。病院では、留置カテーテルが、通常皮膚上に見られる細菌が血流に入ることができる手段となるため、菌血症、およびその結果による院内感染の原因となることが多い。菌血症の他の原因は、歯科処置(時には、単に歯磨きを含む)、疱疹(疱疹性ひょう疽を含む)、尿路感染症、静脈薬物使用、および結腸直腸癌を含む。また菌血症は、口腔咽頭、胃腸、または泌尿生殖器の手術もしくは調査において見られる場合がある。
【0051】
本明細書において、「塩基組成」は、核酸のセグメントにおける各核酸塩基(例えば、A、T、C、およびG)の正確な数である。例えば、プライマ対番号3550(配列番号:673:697)を使用した、結核菌の菌株5170の核酸の増幅により、A21 G37 C44 T27の塩基組成(慣例により、増幅産物のセンス鎖を基準)を有するembB遺伝子の核酸から、長さが129核酸塩基の増幅産物を生成する。それぞれの4つの天然ヌクレオチドおよびこれらの化学修飾の分子量は既知であるため(該当する場合)、測定された分子量は、可能な塩基組成の一覧に逆重畳積分される。塩基組成に関して対応するアンチセンス鎖の補足的であるセンス鎖の塩基組成の同定により、未知の増幅産物の正確な塩基組成を確認できる。例えば、上記に説明の129核酸塩基増幅産物のアンチセンス鎖の塩基組成は、A27 G44 C37 T21である。
【0052】
本明細書において、「塩基組成確率群」は、所与の種の異なる分離株間で発現する配列の変異の結果による塩基組成の多様性を表す。「塩基組成確率群」はそれぞれの種について制限される塩基組成を表し、擬似四次元プロットを使用し、一般的に視覚化される。
【0053】
本明細書において、「バイオエージェント」とは、生死に関わらず、あらゆる生物、細胞、またはウイルスであるか、これらの生物、細胞、またはウイルスに由来する核酸である。バイオエージェントの例は、細胞(ヒト臨床試料、細菌性細胞、および他の病原体を含むがこれらに限定されない)、ウイルス、真菌、原生生物、寄生体、および病原性マーカー(病原性島、抗生物質耐性遺伝子、毒性因子、毒素遺伝子、および他の生体制御組成を含むがこれらに限定されない)を含むがこれらに限定されない。試料は、生存もしくは死滅しているか、植物状態(例えば、増殖性細菌または胞子)であってもよく、被嚢性であるかバイオ工学処理されていてもよい。本明細書において、「病原体」は、疾病または疾患を引き起こすバイオエージェントである。ヒトに感染するバイオエージェントは、「ヒトバイオエージェント」として知られる。非ヒトバイオエージェントは、ヒトではない特定の動物に感染する場合がある。ヒトバイオエージェントは、臨床理由のための関心対象であり、非ヒトバイオエージェント同定は、本明細書に開示されている方法の獣医学への適用における関心対象である。
【0054】
本明細書において、「バイオエージェント区分」とは、種レベル以上のバイオエージェントの群として定義され、目、科、綱、クレード、属、または種レベル以上のバイオエージェントの他のこのような分類を含むが、これらに限定されない。
【0055】
本明細書において、「バイオエージェントを同定する単位複製配列」という用語は、増幅反応においてバイオエージェントの核酸から増幅されるポリヌクレオチドに言及し、1)バイオエージェントを同定する単位複製配列が生成される核酸からのバイオエージェントから区別するために十分な可変性を提供し、2)その分子量は、例えば、質量分析等の高速で使用しやすい分子量決定様式に従う。バイオエージェントを同定する単位複製配列のインシリコ表現は、バイオエージェントの同定のために使用されるデータベースに含まれると特に有用である。バイオエージェントを同定する単位複製配列は、所与のバイオエージェントの核酸の領域とハイブリダイズする一対のプライマによって定義される。
【0056】
本明細書において、「生物由来物質」という用語は、生物由来のあらゆる産物に言及する。生物由来物質は、しばしば生命工学の工程の産物である。生物由来物質の例は、培養細胞株、細胞成分、抗体、タンパク質、および他の細胞由来の生体分子、培養基、培養採取流体、天然産物、および生物製剤産物を含むが、これらに限定されない。
【0057】
「生物戦剤」および「生物兵器」という用語は類義語であり、個体に対し、身体的危害を生じる兵器として配備され得る細菌、ウイルス、真菌、または原生動物に言及する。軍隊またはテロリストグループは、生物戦用の薬剤の配備に関わる場合がある。
【0058】
本明細書において、「広範囲調査プライマ対」という用語は、バイオエージェントの異なる広範囲分類にわたるバイオエージェントを同定する単位複製配列を生成するように設計されたプライマ対に言及する。例えば、リボソームRNA標的プライマは、本質的に全て既知の細菌の、細菌バイオエージェントを同定する単位複製配列を生成する能力を有する広範囲調査プライマ対である。細菌の識別のために採用される広範囲調査プライマ対に関して、例えば、16S rRNAプライマ対番号346(配列番号:594:602)等の細菌に対する広範囲調査プライマ対は、本質的に全て既知の細菌のバイオエージェントを同定する単位複製配列を生成する。
【0059】
「較正単位複製配列」という用語は、バイオエージェントを同定する単位複製配列を生成するように設計されたプライマの一対を伴う較正配列の増幅によって得られた、増幅産物を表す核酸のセグメントに言及する。
【0060】
「較正配列」という用語は、試料におけるバイオエージェントの量を決定するのに使用するための、内部(すなわち、反応に含まれる)較正基準増幅産物を生産する目的のために所与の対のプライマがハイブリダイズする、ポリヌクレオチド配列に言及する。較正配列は、増幅反応へ明白に添加されてもよいか、分析の前に試料にすでに存在する場合がある。
【0061】
「クレードプライマ対」という用語は、クレード群に所属する種に対する増幅バイオエージェントを同定する単位複製配列を生成するように設計されたプライマ対に言及する。クレードプライマ対は、密接に関係する種間を区別するのに有用である、「新種を形成する」プライマとして見なされ得る。
【0062】
「コドン」という用語は、アミノ酸または終止シグナルに対してコードする、3つの隣接するヌクレオチド(トリプレット)の一組に言及する。
【0063】
本明細書において、「コドンベース組成分析」とは、コドンを含む、バイオエージェントを同定する単位複製配列を得ることによる個々のコドンの塩基組成の決定に言及する。バイオエージェントを同定する単位複製配列は、バイオエージェントを同定する単位複製配列を作るためにプライマがハイブリダイズし、コドンが分析され、2つのプライマハイブリダイゼーション領域間に位置付けられる、標的核酸配列の領域を少なくとも含む。
【0064】
本明細書において、「相補的」または「相補性」という用語は、塩基対合規則に関係するポリヌクレオチド(すなわち、オリゴヌクレオチドまたは標的核酸等のヌクレオチドの配列)への言及に使用される。例えば、配列5´−A−G−T−3´は、配列3´−T−C−A−5´に対して相補的である。相補性は、塩基対合規則に従い、核酸基のいくつかのみが一致する「部分的」であり得る。あるいは、核酸間において、「完全な」または「全」相補性であってもよい。核酸鎖間の相補性の程度は、核酸鎖間のハイブリダイゼーションの効率および強度に深刻な影響を与える。これは増幅反応、ならびに核酸間の結合に左右される検出法において特に重要である。特にポリヌクレオチドの文脈内において、いずれの用語も個々のヌクレオチドに関して使用されてもよい。例えば、オリゴヌクレオチド内の特定のヌクレオチドは、残りのオリゴヌクレオチドおよび核酸鎖間の相補性とは対照的に、またはそれに比較して、別の核酸鎖内のヌクレオチドに対し、その相補性において注目されるか、またはそれらを欠く場合がある。しかしこの意義において、相補性は存在するか、あるいは存在しない。すなわち、部分的な相補性はない。
【0065】
本明細書において「核酸配列の相補体」という用語は、5´末端が他の3´末端と対になるように核酸配列と配列する場合、「逆平行会合」であるオリゴヌクレオチドに言及する。天然の核酸に通常見られる特定の塩基は、本明細書に開示の核酸に含まれ、例えば、イニシンおよび7−デアザグアニンを含んでもよい。相補性は完全である必要はなく、安定した二本鎖は、不適合の塩基対または不一致の塩基を含有してもよい。核酸技術における当業者は、例えば、オリゴヌクレオチドの長さ、オリゴヌクレオチドの塩基組成ならびに配列、不適合の塩基対のイオン強度ならびに発生率を含む、多くの変数を経験的に考慮し、安定した二本鎖を決定することが可能である。第1のオリゴヌクレオチドが標的核酸の一領域に対して相補的であり、第2のオリゴヌクレオチドが同じ領域(または、該領域の一部分)に対して相補的である場合、「重複する領域」が標的核酸に沿って存在する。重複の程度は相補性の範囲によって様々である。
【0066】
「縮重プライマ」という用語は、本明細書において、混合において、他のプライマに対し、1つ以上の残基を置換された、同一ではないが、類似のプライマの混合に言及する。縮重ヌクレオチドコードは、R、K、S、Y、M、W、B、H、N、D、VおよびIを含む。対応する組み合わせは米国特許施行規則(37CFR)§1.821に記載される。例えば、配列AAATTTCCCGGG(配列番号:2)は、以下の配列を有するプライマの組み合わせに実際に言及し、R=AまたはGであるため、AAATTTCCCGGG(配列番号:3)、およびAAATTTCCCGGG(配列番号:4)である。
【0067】
本明細書において、「部門全体のプライマ対」という用語は、バイオエージェントの広範囲の区分内でバイオエージェントを同定する単位複製配列を生成するように設計されたプライマ対に言及する。例えば、プライマ対番号354(配列番号:597:605)である部門全体のプライマ対は、例えば、連鎖球菌属、エンテロコッカス属、および、ブドウ球菌属のメンバー等を含むバシラス属群の細菌のメンバーに対する細菌性バイオエージェントを同定する単位複製配列を生成するように設計される。他の部門全体のプライマ対は、細菌性バイオエージェントの他の群のための細菌性バイオエージェントを同定する単位複製配列を生成するのに使用されてもよい。
【0068】
本明細書において、「同時に増幅する」という用語は、単一反応混合における1つより多い核酸を同時に増幅する働きに言及する1つより多い増幅反応について使用される。
【0069】
本明細書において、「ドリルダウンプライマ対」という用語とは、亜種特徴の識別、または種割り当ての確認のためのバイオエージェントを同定する単位複製配列を生成するように設計されるプライマ対に言及する。例えば、プライマ対番号897(配列番号:717:727)であるドリルダウン黄色ブドウ球菌遺伝子型プライマ対は、黄色ブドウ球菌遺伝子型単位複製配列を生成するように設計される。他のドリルダウンプライマ対は、黄色ブドウ球菌および他の細菌種のバイオエージェントを同定する単位複製配列を生成するために使用されてもよい。
【0070】
「二本鎖」という用語は、1つの鎖上のヌクレオチドの塩基部分が、第2の鎖上に配列された相補的塩基を結合する水素を通じて結合される核酸の状態に言及する。二本鎖形状にある状態は、核酸の塩基の状態に反映する。塩基対により、核酸の鎖は一般的に、大きいまたは小さい溝を有する二重螺旋の三次構造をとる。螺旋形状をとることは、二重となる働きを潜在的に示す。
【0071】
本明細書において、「病因学」という用語は、病気または異常な生理学的状態の要因、または原因に言及する。
【0072】
本明細書において、「出現頻度」という用語は、所与のゲノム配列セグメントが所与のゲノム内で出現する、異なる座標の数に言及する。所与のゲノム配列セグメントの出現頻度は、該ゲノム配列セグメントとハイブリダイズするように設計されたプライマの感受性を定義する手段を提供する。所与のゲノム配列セグメントの出現頻度は、選択性比率の計算においても使用される。
【0073】
「遺伝子」という用語は、非コーディング機能(例えば、リボソームまたはトランスファーRNA)、ポリペプチド、または前駆体を有するRNAの生成に必要な制御およびコーディング配列を含むDNA配列に言及する。RNAまたはポリペプチドは、所望の働きまたは機能が保たれる限りは、全長コーディング配列、またはあらゆる部分のコーディング配列によってコードされることが可能である。
【0074】
「ゲノム」という用語は、本明細書において、文字列、またはこれらのインシリコ表現を含む、1つ以上の核酸配列の形状における遺伝子的情報の完全な組に一般的に言及する。ゲノムは、その生物の起源に応じて、DNAまたはRNAのいずれかを含んでもよい。大部分の生物はDNAゲノムを有するが、ウイルスRNAゲノムを有するウイルスもある。本明細書において、「ゲノム」という用語は、遺伝子情報の完全な組を備える必要はない。また、該用語は、少なくとも50%から100%のゲノム全体、またはこれらの間の全割合またはごく少数の割合等のゲノムの、少なくとも主要な部分に言及し得る。
【0075】
「ゲノム配列セグメント」という用語は、本明細書において、本明細書に開示の標的全ゲノム増幅の目的のためのプライマハイブリダイゼーション候補として、最初に同定されるゲノム配列の一部分に言及する。「固有のゲノム配列セグメント」という関連用語は、所与のゲノムにおいて少なくとも一度発現するゲノム配列に言及する。例えば、簡易化された仮想8核酸塩基ゲノムは以下の配列から成る。aattccgg(配列番号:5)は、5つの核酸塩基長の4つの固有の配列セグメント(aattc(配列番号:6)、attcc(配列番号:7)、ttccg(配列番号:8)、およびtccgg(配列番号:9))を有する。この同じ簡易化された仮想8核酸塩基ゲノムは、6つの核酸塩基長の3つの固有のゲノム配列セグメントを有する(aattcc(配列番号:10)、attccg(配列番号:11)、およびttccgg(配列番号:12))。また、この同じ簡易化された仮想8核酸塩基ゲノムは、7つの核酸塩基長の2つの固有のゲノム配列をする(aattccg(配列番号:13)、およびattccgg(配列番号:14))。また、この同じ簡易化された仮想8核酸塩基ゲノムは、長さが8核酸塩基である、1つの固有のゲノム配列セグメントを有する(aattccgg(配列番号:5)。別の例において、簡易化された仮想8核酸塩基ゲノムは、以下の配列aaaaaaaa(配列番号:15)から成り、言うまでもなく、長さが5つの核酸塩基である単一の固有のゲノム配列セグメントを有する(4回発現)のみならず、長さが6つの核酸塩基である単一の固有のゲノム配列セグメント(3回発現)、長さが7つの核酸塩基である単一の固有のゲノム配列セグメント(2回発現)、および長さが8つの核酸塩基である単一の固有のゲノム配列セグメント(1回発現)を有する。
【0076】
本明細書において「遺伝子型」という用語は、生物の遺伝子構造を意味する。同種の生物のメンバーで遺伝的相違を持つものは、異なる遺伝子型を有すると言われる。
【0077】
「相同性」、「相同の」および「配列同一性」という用語は、同一性の程度を意味する。部分的な相同性または完全な相同性である可能性がある。部分的に相同である配列は、もう一方の配列と100%同一ではないものを指す。配列同一性の決定を、以下の例において説明する:ともするともう一方の20核酸塩基プライマと同一であるが、2つの非同一残基を有する長さ20核酸塩基のプライマは、20のうち18の同一残基を有する(18/20=0.9または90%配列同一性)。別の例において、全ての残基が長さ20核酸塩基のプライマの15核酸塩基セグメントと同一である長さ15核酸塩基のプライマは、該20核酸塩基のプライマと15/20=0.75または75%の配列同一性を有する。本明細書において、配列同一性は、クエリー配列と対象配列の両方が記述され、5´から3´の方向に整列している場合に適切に決定される。BLAST等の配列アラインメントアルゴリズムは、2つの異なる整列配向で結果を返す。プラス/プラス配向(Plus/Plus orientation)では、クエリー配列と対象配列の両方が5´から3´の方向に整列している。反対に、プラス/マイナス配向(Plus/Minus orientation)では、クエリー配列は5´から3´の方向であるのに対し、対象配列は3´から5´の方向である。本明細書に開示されるプライマに関しては、整列がプラス/プラスと表される場合に配列同一性が適切に決定されることを理解されたい。配列同一性は、ハイブリダイゼーションおよび増幅反応におけるプライマ伸長について、規則的な核酸塩基であるアデニン、チミン、グアニン、およびシトシンと機能的に同様に機能する代替または修飾された核酸塩基を包含してもよい。非限定例において、5−プロピニルピリミジンプロピンCおよび/またはプロピンTが、別のプライマと配列および長さにおいて、ともすれば同一である1つのプライマ中に存在する1つ以上のCまたはT残基を置換する場合、2つのプライマは互いに100%の配列同一性を有する。別の非限定例において、イノシン(I)がGまたはTの代わりとして用いられてもよく、効率的にC、A、またはU(ウラシル)にハイブリダイズしてもよい。よって、イノシンが、別のプライマと配列および長さにおいてともすれば同一である1つのプライマ中に存在する1つ以上のC、A、またはU残基を置換する場合、2つのプライマは互いに100%の配列同一性を有する。ハイブリダイゼーションおよび増幅反応について機能的に同様に機能する、他の当該修飾されたまたは汎用性の塩基が存在してもよく、配列同一性の本定義内に含まれることを理解されたい。
【0078】
本明細書において、「ハウスキーピング遺伝子」とは、バイオエージェントの生存および繁殖に必要な基本機能に関与するタンパク質またはRNAをコードする遺伝子を意味する。ハウスキーピング遺伝子には、翻訳、複製、組み換えおよび修復、転写、ヌクレオチド代謝、アミノ酸代謝、脂質代謝、エネルギー産生、取り込み、分泌等に関与するRNAまたはタンパク質をコードする遺伝子を含むが、これらに限定されない。
【0079】
本明細書における「ハイブリダイゼーション」という用語は、二本鎖分子を形成するためにDNAの2本の相補鎖またはDNAとRNA各1本ずつを結ぶプロセスを意味する。
【0080】
「インシリコ」という用語は、コンピュータ計算を介して行うプロセスを意味する。例えば、電子PCR(ePCR)は、普通のPCRと類似するプロセスであるが、コンピュータ形式の媒体に保存された核酸配列およびプライマ対配列を用いて実行される。
【0081】
「インビトロ方法」という用語は、本明細書において、試験管または他の実験器具内で行われる生化学的プロセスを表す。ミクロチューブまたはマルチウェルプレートのウェル内における核酸試料の増幅反応は、インビトロ方法の一例である。
【0082】
Barany,Proc.Natl.Acad.Sci.,88:189(1991);Barany,PCR Methods and Applic.,1:5(1991);およびWu and Wallace,Genomics 4:560 (1989)に記載される「リガーゼ連鎖反応」(LCR、時に「リガーゼ増幅反応」(LAR)と称される)は、核酸を増幅させるためのよく認識された代替方法へと発展してきた。LCRでは、4つのオリゴヌクレオチド、標的DNAの1本の鎖と一意的にハイブリダイズする隣り合う2つのオリゴヌクレオチド、および逆鎖とハイブリタイズする相補的な1組の隣り合うオリゴヌクレオチドが混合され、DNAリガーゼが該混合物に加えられる。完全な相補性を有する接合の場合、リガーゼは共有結合的に各組のハイブリダイズされた分子を結合させる。重要なのは、LCRでは、標的試料中の配列と隙間または不整合なく塩基対形成した場合のみ、2つのプローブが連結されることである。変性、ハイブリダイゼーションおよびライゲーションの反復周期が、DNAの短いセグメントを増幅する。またLCRは、一塩基変化の高度な検出を実現するために、PCRと組み合わせて用いられてきた。しかしながら、本アッセイにおいて用いられる4つのオリゴヌクレオチドは、連結可能な2つの短い断片を形成するために対形成することができるので、標的に依存しない背景シグナルを産生する潜在性がある。変異体のスクリーニングのためのLCRの使用は、特異的核酸の位置を調べることに限られている。
【0083】
「ロックド核酸」または「LNA」という用語は、糖の立体構造を模倣するRNA中に1つ以上の2´−O,4´−C−メチレン−β−D−リボフラノシルヌクレオチドモノマーを含有する核酸類似体を意味する。LNAオリゴヌクレオチドは、相補的な一本鎖RNAおよび相補的な一本鎖または二本鎖DNAに対して、他に例を見ないハイブリダイゼーション親和性を示す。LNAオリゴヌクレオチドは、A型(RNA様)の二重立体構造を含む。本明細書に開示されるプライマは、LNA修飾を含んでもよい。
【0084】
本明細書において、「質量修飾タグ」という用語は、類似性の非質量修飾ヌクレオチドと比較して質量の増加をもたらす所与のヌクレオチドに対するいずれの修飾をも意味する。質量修飾タグは、例えば炭素13等のヌクレオチドに含まれる1つ以上の要素の重同位体を含んでもよい。他の可能な修飾は、例えば核酸塩基の5位でのヨードまたは臭素等の置換基の追加を含む。
【0085】
「質量分析」という用語は、原子または分子の質量の測定を意味する。分子は最初にイオンに変換され、質量対電荷の比に応じて電場または磁場を用いて分離される。測定された質量は、分子を同定するために用いられる。
【0086】
本明細書における「平均値」という用語は、算術平均、すなわち試料の大きさで除算したデータの合計を意味する。
【0087】
本明細書における「微生物」という用語は、肉眼で観察するには小さすぎる生物を意味し、細菌、ウイルス、原生動物、真菌および繊毛虫類を含むがこれらに限定されない。
【0088】
「多剤耐性(multi−drug resistant)」または「多剤耐性(multiple−drug resistant)」という用語は、微生物の治療において用いられる抗生物質または抗菌剤のうちの1つより多くに耐性を持つ該微生物を意味する。
【0089】
「多重PCR」という用語は、1つより多くのプライマセットが反応プール内に含まれ、単一の反応管内で2つ以上の異なるDNA標的がPCRによって増幅されることを可能にするPCR反応を意味する。
【0090】
「非鋳型タグ」という用語は、鋳型に相補的ではないバイオエージェントを同定する単位複製配列を生成するために用いられるプライマの、少なくとも3つのグアニンまたはシトシン核酸塩基の伸長部を意味する。非鋳型タグは、後の増幅サイクルのプライマ−二重鎖の安定性を増加させる目的で、A‐T対と比較するとそれぞれが付加的な水素結合を1つ含む過剰なG‐C対の組込みによって、プライマに組み込まれる。
【0091】
本明細書における「核酸配列」という用語は、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、またはポリヌクレオチド、およびそれらの断片もしくは部分内の、核酸配列残基A、T、C、もしくはG、またはそれらのいずれかの修飾の直線的な組成ならびに一本鎖または二本鎖であってもよく、センスまたはアンチセンスの鎖を表してもよい、ゲノム起源または合成起源のDNAまたはRNAを意味する。
【0092】
本明細書において「核酸塩基」という用語は、「ヌクレオチド」、「デオキシヌクレオチド」、「ヌクレオチド残基」、「デオキシヌクレオチド残基」、「ヌクレオチド三リン酸(NTP)」、または「デオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)を含む、当該技術分野において用いられる他の用語と同義である。
【0093】
本明細書における「ヌクレオチド類似体」という用語は、5−プロピニルピリミジン(すなわち、5‐プロピニル‐dTTPおよび5‐プロピニル‐dTCP)、7‐デアザプリン(すなわち、7‐デアザ‐dATPおよび7‐デアザ‐dGTP)等の、修飾されたまたは非自然的に発生するヌクレオチドを意味する。ヌクレオチド類似体は塩基類似体を含み、デオキシリボヌクレオチドおよびリボヌクレオチドの修飾された形態を有する。
【0094】
本明細書における「オリゴヌクレオチド」という用語は、2つ以上のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド、好ましくは少なくとも5つのヌクレオチド、より好ましくは少なくとも約13〜35のヌクレオチドを有する分子として定義付けられる。正確な大きさは様々な要因に依存し、そして該要因はオリゴヌクレオチドの最終機能または用途に依存する。オリゴヌクレオチドは、化学合成、DNA複製、逆転写、PCR、またはそれらの組み合わせを含むいずれの方法で産生されてもよい。モノヌクレオチドは、ホスホジエステル結合を介して、1つのモノヌクレオチドのペントース環の5´リン酸塩がその一方向に隣接する3´酸素に付着されるような様式でオリゴヌクレオチドを作るように反応するため、オリゴヌクレオチドの末端は、その5´リン酸塩がモノヌクレオチドのペントース環の3´酸素に結合していない場合は「5´末端」、その3´酸素が後に続くモノヌクレオチドのペントース環の5´リン酸塩に結合していない場合は「3´末端」と称される。本明細書において、核酸配列は、たとえより大きなオリゴヌクレオチドの内側にあっても、5´末端および3´末端を有すると言えるかもしれない。核酸鎖に沿った第1の領域は、核酸の鎖を5´から3´の方向に沿って見た時に、第1の領域の3´末端が第2の領域の5´末端よりも前にある場合は、他方の領域の上流であると言われている。本明細書に開示される全てのオリゴヌクレオチドプライマは、左から右に読んだ時に5´から3´の方向に表されることを理解されたい。重複していない2つの異なるオリゴヌクレオチドが、同一の直鎖の相補的核酸配列の異なる領域にアニーリングし、1つのヌクレオチドの3´末端が他方のヌクレオチドの5´末端の方向を向いている場合には、前者は「上流の」オリゴヌクレオチドおよび後者は「下流の」オリゴヌクレオチドと称されてもよい。同様に、重複する2つのオリゴヌクレオチドが、同一の直鎖の相補核酸配列にハイブリダイズされ、第1のオリゴヌクレオチドが、その5´末端が第2のオリゴヌクレオチドの5´末端の上流になるように位置する場合、該第1のオリゴヌクレオチドは「上流の」オリゴヌクレオチド、該第2のオリゴヌクレオチドは「下流の」オリゴヌクレオチドと称されてもよい。
【0095】
本明細書において「生物」という用語は、ヒト、動物、植物、原生動物、細菌、真菌およびウイルスを意味する。
【0096】
本明細書において、「病原体」とは、疾病または疾患を引き起こすバイオエージェントである。
【0097】
本明細書において、「PCR産物」、「PCR断片」、および「増幅産物」という用語は、変性、アニーリング、および伸長からなるPCR段階が2サイクル以上終了した後に得られる化合物の混合物を意味する。これらの用語は、1つ以上の標的配列の1つ以上のセグメントが増幅された場合も包含する。
【0098】
本明細書における「ペプチド核酸」(「PNA」)という用語は、天然の核酸中に見られるような塩基または塩基類似体を有する分子であるが、核酸において典型的な糖リン酸骨格ではなく、ペプチド骨格に付着されている分子を意味する。塩基のペプチドへの付着は、オリゴヌクレオチドの場合と同様に、塩基が核酸の相補的塩基と塩基対形成することができるようになっている。これらの小分子は、遺伝子制御物質(anti gene agent)としても指定されており、それらの相補的な核酸鎖に結合することにより転写伸長を中断する(Nielsen, et al.Anticancer Drug Des.1993,8,53−63)。本明細書に開示されるプライマは、PNAを有してもよい。
【0099】
「ポリメラーゼ」という用語は、開始鋳型の核酸鎖および遊離したdNTPから核酸の相補的鎖を合成する能力を有する酵素を意味する。
【0100】
本明細書において「ポリメラーゼ連鎖反応」(「PCR」)という用語は、DNAクローン化または精製を行うことなく、ゲノムDNAの混合物中で標的配列のセグメントの濃度を上昇させるための方法を記載する、参照することにより本明細書に組み込まれる、K.B.Mullisの米国特許第4,683,195号、第4,683,202号、および第4,965,188号の方法を意味する。標的配列を増幅するための本プロセスは、大過剰の2つのオリゴヌクレオチドプライマを、所望の標的配列を含有するDNA混合物に導入することと、それに続いてDNAポリメラーゼの存在下において正確な順序の温度サイクルにかけることから成る。2つのプライマは、二本鎖標的配列のそれぞれの鎖に相補的である。増幅を行うためには、混合物を変性させ、その後プライマをそれらの標的分子内の相補的配列にアニーリングさせる。アニーリングの後で、プライマをポリメラーゼで伸長し、新しく相補的鎖の対を形成する。変性、プライマのアニーリング、およびポリメラーゼ伸長の段階は、所望の標的配列の増幅されたセグメントを高濃度で得るために、何回繰り返してもよい(すなわち、変性、アニーリングおよび伸長は、1つの「サイクル」を構成しており、多数の「サイクル」が存在してもよい)。所望の標的配列の増幅されたセグメントの長さは、互いに対するプライマの相対的な位置によって決定され、したがって、この長さは調節可能なパラメータである。該プロセスを繰り返すという側面から、該方法は「ポリメラーゼ連鎖反応」(これ以降「PCR」)と称される。標的配列の所望の増幅されたセグメントは、混合物中で優勢な配列になるため(濃度の面で)、それらは「PCR増幅」されていると言われる。PCRを用いると、いくつかの異なる方法(例えば、標識プローブを用いたハイブリダイゼーション、ビオチン化プライマの組込みおよびそれに続くアビジン−酵素複合体の検出、dCTPまたはdATP等の32P−標識化デオキシヌクレオチド三リン酸、の増幅したセグメントへの取り込み)を用いて検出可能なレベルまで、ゲノムDNA中の特異的標的配列の単一のコピーを増幅させることが可能である。ゲノムDNA以外にも、いずれのオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド配列が、適切なプライマ分子のセットを用いて増幅され得る。とりわけ、PCRプロセス自体によって作製された増幅セグメントは、それら自体が後のPCR増幅に対する効率的な鋳型となる。
【0101】
「重合手段」または「重合剤」という用語は、ヌクレオシド三リン酸のオリゴヌクレオチドへの添加を容易にすることが可能ないかなる薬剤も意味する。好ましい重合手段は、DNAおよびRNAポリメラーゼを含む。
【0102】
本明細書において、「プライマ」という用語は、核酸鎖に相補的であるプライマ伸長産物の合成が誘発される条件下に置かれた(すなわち、好適な温度およびpHで、ヌクレオチドおよびDNAポリメラーゼ等の誘発剤の存在下にある)場合に、合成の開始点としての役割を果たすことが可能な、精製された制限消化中に自然に発生するか、または合成的に生成される、オリゴヌクレオチドを意味する。プライマは、好ましくは、増幅における最大効率のために一本鎖であるが、代替として二本鎖であってもよい。二本鎖である場合は、伸長産物を調製するために用いる前に、まずプライマを処理してその鎖を分離する。好ましくは、プライマはオリゴデオキシリボヌクレオチドである。プライマは、誘発剤の存在下において伸長産物の合成をプライミングするために十分長くなければならない。プライマの正確な長さは、本明細書に開示されるように、温度、プライマ源、方法の使用、およびプライマ設計に用いられるパラメータを含む、多くの要素に依存する。本明細書に開示されるプライマは、大きく次の2つのカテゴリーに分類される:(i)概して約12〜約35核酸塩基の長さであり、バイオエージェントを同定する単位複製配列に対応する増幅産物を調製するために有用なバイオエージェントを同定する単位複製配列を定義するプライマ対、(ii)関心バイオエージェントの実質的に全ゲノムにおよぶ位置でハイブリダイズするように設計された、標的全ゲノム増幅プライマ。標的全ゲノム増幅プライマは、対になっておらず、典型的には約5〜約13核酸塩基の長さである。
【0103】
本明細書において、「一対のプライマ」、または「プライマ対」という用語は同義語である。プライマ対は、核酸配列の増幅に用いられる。一対のプライマは、順方向プライマおよび逆方向プライマを含む。順方向プライマは、増幅される標的遺伝子配列のセンス鎖にハイブリタイズして、標的配列を鋳型として用いてアンチセンス鎖(センス鎖に相補的である)の合成をプライミングする。逆方向プライマは、増幅される標的遺伝子配列のアンチセンス鎖にハイブリタイズして、標的配列を鋳型として用いてセンス鎖(アンチセンス鎖に相補的である)の合成をプライミングする。
【0104】
プライマ対は、介在可変領域に隣接し、理想的にはそれぞれ別個のバイオエージェントを区別するために十分な可変性を提供し、分子質量分析に用いることが可能である増幅産物をもたらすバイオエージェントを同定する単位複製配列の、高度に保存された配列領域に結合するように設計される。一部の態様において、高度に保存された配列領域は、約80〜100%、または約90〜100%、または約95〜100%の同一性、または約99〜100%の同一性を示す。所与の増幅産物の分子質量は、可変領域の可変性により、それが得られたバイオエージェントを同定する手段を提供する。よって、プライマの設計には、所与のバイオエージェントの同一性を解明するための適切な可変性を有する可変領域の選択が必要である。バイオエージェントを同定する単位複製配列は、理想的にはバイオエージェントの同一性に特異的である。
【0105】
プライマの特性は、近接(共に結合)または非近接(例えば、リンカーまたはループ部分によって連結された2つ以上の近接するセグメント)であってもよい核酸塩基長、修飾されたまたは汎用性の核酸塩基(例えば、ハイブリダイゼーション親和性を増加、非鋳型のアデニル化防止、および分子質量の修飾等の特異的な目的のために用いられる)、所与の標的配列に対する相補性パーセントを含むが、これらに限定されない、構造に関連する特性をいくつ含んでもよい。
【0106】
プライマの特性は、核酸鋳型に対するハイブリダイゼーション(順方向または逆方向)の配向を含む機能的特長も含むが、これに限定されない。コード鎖またはセンス鎖は、順方向にプライミングするプライマがハイブリダイズする(順方向にプライミングするように配向)鎖であるのに対し、逆方向にプライミングするプライマは、非コード鎖またはアンチセンス鎖(逆方向にプライミングするように配向)にハイブリダイズする。所与のプライマ対の機能特性も、プライマ対がハイブリダイズする汎用鋳型核酸を含んでもよい。例えば、プライマ対の場合、バイオエージェントの同定は、それぞれ個別の同定レベルの分解能に適したプライマを用いて、異なるレベルで実現することができる。広範囲調査プライマ(broad range survey primers)は、特定の門(例えば、目、科、属、またはバイオエージェントの種レベル以上のバイオエージェントの他のかかる分類)のメンバーとしてバイオエージェントを同定することを目的として設計される。一部の態様において、広範囲調査高度プライマ(broad range survey intelligent primers)は、種レベルまたは亜種レベルでバイオエージェントを認識する能力がある。他のプライマは、所与の分類学的な属、クレード、種、亜種、または遺伝子型(病原性遺伝子または抗生物質耐性遺伝子または突然変異の存在を含んでもよい遺伝的変異体を含む)のメンバーについてバイオエージェントを同定する単位複製配列を生成する機能性を有してもよい。プライマ対の付加的な機能特性には、単独で(増幅反応容器当たり単一のプライマ対)または多重様式において(単一の反応容器内における複数のプライマ対および複数の増幅反応)増幅を行う機能性を含む。
【0107】
本明細書において「処理能力」という用語は、その基質から分離することなく触媒機能を繰り返し持続する酵素の能力を意味する。例えば、Phi29ポリメラーゼは、鋳型DNA基質の強固な結合により高度な処理能力を持つポリメラーゼである。
【0108】
本明細書において「精製された」または「実質的に精製された」という用語は、自然の環境から除去された、単離もしくは分離された、およびそれらが自然に結合する他の成分から少なくとも60%遊離した、好ましくは75%遊離した、最も好ましくは90%遊離した、核酸またはアミノ酸配列のいずれかの分子を意味する。「単離されたポリヌクレオチド」または「単離されたオリゴヌクレオチド」は、したがって、実質的に精製されたポリヌクレオチドである。
【0109】
「逆転写酵素」という用語は、RNA鋳型からDNAを転写する能力を有する酵素を意味する。この酵素活性は、逆転写酵素活性として知られている。逆転写酵素活性は、本明細書に開示される方法により増幅および分析することができるDNAをRNAウイルスから取得するために望ましい。
【0110】
「リボソームRNA」または「rRNA」という用語は、リボソームの主要なリボ核酸の構成成分を意味する。リボソームは、タンパク質を製造する細胞小器官であり、細胞質内に存在する。リボソームRNAは、それらをコードするDNA遺伝子から転写される。
【0111】
本発明の明細書および特許請求の範囲における「試料」という用語は、最も広義に使用される。一方では、検体または培養物(例えば、微生物学的培養物)を含むことを意味する。他方では、生物学的試料および環境試料の両方を含むことを意味する。試料は、合成起源の検体を含んでもよい。生物学的試料は、ヒトを含む動物、液体、固体(例えば便)または組織、液体や固体の食物および飼料、ならびに乳製品、野菜、肉および肉副製品等の原材料、廃棄物であってもよい。生物学的試料は、有蹄動物、クマ、魚、ウサギ目、げっ歯類等を含む様々な科の全ての家畜や野生化した動物または野生動物から取得されてもよいが、これらに限定されない。環境試料は、表面物質(surface matter)、土壌、水、空気および工業試料等の環境物質、ならびに食物および乳加工用の機器、装置、器具、道具、使い捨ておよび非使い捨ての物品等から得られる試料を含む。これらの例は、本明細書で開示される方法に適用可能な試料の種類を制限すると解釈されるものではない。「標的核酸の源」という用語は、核酸(RNAまたはDNA)を含有するいずれの試料をも意味する。特に好ましい核酸の源は、これらに限定されないが、血液、唾液、尿、脳脊髄液、胸膜液、乳、リンパ液、痰および精液を含む生物学的試料である。具体的には、血清または血漿(様々な重要なタンパク質を含有する血液の液体成分)、およびバフィーコート(白血球および血小板を含有する血液の遠心分画)等、血液試料の異なる分画が存在する。他の好ましい核酸の源は、例えば肝細胞等の特定の細胞型である。他の好ましい核酸の源は、組織生検である。かかる試料の取り扱い方法は、十分に当業者の技能の範囲内である。
【0112】
本明細書において、「試料鋳型」という用語は、「標的」(以下に定義される)の存在について分析される試料に由来する核酸を意味する。反対に、「背景鋳型」は、試料中に存在するかもしれないしまたは存在しないかもしれない試料鋳型以外の核酸について用いられる。背景鋳型は混入物であることが多い。それは持ち越しの結果であるかもしれないし、または精製することにより試料から除去しようとした核酸混入物の存在によるものであるかもしれない。例えば、検出されるべき核酸以外の生物由来の核酸は、試験試料中に背景として存在する可能性がある。
【0113】
本明細書における「セグメント」とは、核酸配列中の核酸の領域として定義される。
【0114】
本明細書における「選択性」という用語は、バックグラウンドゲノム内の同じゲノム配列セグメントの出現頻度と比較して、標的内の所与のゲノム配列セグメントの出現頻度を示す尺度である。本明細書における「選択性比率」という関連用語は、標的ゲノム内の所与のゲノム配列セグメントの出現頻度を、そのバックグラウンドゲノム内の出現頻度で除算することにより算出される数値である。
【0115】
「自家持続配列複製反応」(3SR)(Guatelli et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.1990,87:1874−1878,Proc.Natl.Acad.Sci.1990,87:7797(正誤表付き))は、均一温度で指数関数的RNA配列を増幅することができる、転写ベースのインビトロでの増幅系である(Kwok et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.1989,86:1173−1177)。増幅されたRNAは、突然変異の検出に用いることができる(Fahy et al.,1991,PCR Meth.Appl.,1:25−33)。この方法では、関心配列の5´末端にファージRNAポリメラーゼプロモータを加えるために、オリゴヌクレオチドプライマが用いられる。第2のプライマ、逆転写酵素、RNase H、RNAポリメラーゼ、ならびにリボヌクレオシドおよびデオキシリボヌクレオシド三リン酸を含む酵素と基質の混合物において、標的配列は、転写、cDNA合成、および第2の鎖合成を繰り返して関心領域を増幅する。突然変異を検出するための3SRの使用は、DNAの小断片(例えば200〜300の塩基対)のスクリーニングでは動態学的に制限される。
【0116】
本明細書において、「配列アラインメント」という用語は、複数のDNAまたはアミノ酸配列の羅列であり、それらの類似性を強調するために整列することを意味する。羅列は、バイオインフォマティクスのコンピュータプログラムを用いて作成することができる。
【0117】
本明細書における「感受性」という用語は、標的ゲノム内の所与のゲノム配列セグメントの出現頻度を示す尺度である。
【0118】
本明細書における「分離距離」という用語は、プライマのハイブリダイゼーション部位として選択された2つのゲノム配列セグメントの間の、所与のゲノム配列に沿って介在する距離を意味する。例えば、ゲノム座標100〜107を有する第1のゲノム配列セグメントと、ゲノム座標200〜207を有する第2のゲノム配列セグメントとの分離距離は、92核酸塩基(ゲノム座標108から199)である。
【0119】
本明細書における「セプシス」という用語は、重度の感染に対する免疫応答がもたらす深刻な病状である。関連用語である「敗血症(septicemia)」は、菌血症(血流中に細菌が存在すること)によって引き起こされる血流のセプシスである。それと関連した用語である「セプシスの原因となる生物」とは、セプシスの状態にある場合に、血中に頻繁に見られる生物を意味する。セプシスの原因となる生物の大半は細菌であるが、真菌もセプシスを罹患する個体の血中に認められている。
【0120】
本明細書において、「種分化するプライマ対」という用語は、バイオエージェントの一群の属または特定の属の種のメンバーを同定する診断能力を持つ、バイオエージェントを同定する単位複製配列を生成するために設計されるプライマ対を意味する。例えば、プライマ対番号2249(配列番号:601:609)は、黄色ブドウ球菌を他のブドウ球菌属から区別するために用いられる種分化するプライマ対である。
【0121】
「中止基準」という用語は、プライマが設計されるであろう選択されたゲノム配列セグメントのセットへの組み入れのために、ゲノム配列セグメントの集合に関して選択された最低受け入れ基準を意味する。中止基準の例には、これらに限定されないが、平均分離距離または最大分離距離を反映する値を含む。これらの中止基準は、標的全ゲノム増幅に有用なプライマのプライマ設計方法における最終段階としての役割を果たすように選択されてもよい。
【0122】
本明細書において、「亜種の特徴」とは、同種のバイオエージェントの2つのメンバーを区別するための手段を提供する遺伝的特徴である。例えば、あるウイルス株は、RNA依存RNAポリメラーゼ等のウイルス遺伝子の1つにおける遺伝子変化(例えば、ヌクレオチドの欠失、追加または置換)を有することにより、同種の別のウイルス株と区別することができる。病原性遺伝子および薬剤等の亜種の特徴は、異なる菌株の細菌における表現型の相違に関与している。
【0123】
本明細書における「標的ゲノム」という用語は、本明細書において開示される方法の分析対象としての役割を果たす関心ゲノムを意味する。例えば、「バックグラウンドゲノム」の生成を最小限に抑えながら大量の「標的ゲノム」を生成することが望ましい。
【0124】
本明細書における「閾値基準」という用語は、ゲノム配列セグメントの数多くのサブセットが作られるゲノム配列セグメントの特徴を反映する値を意味する。例えば、ゲノム配列セグメントのサブセットは、平均選択性比率かまたはそれを上回る選択性比率の閾値基準を用いて選択されてもよい。
【0125】
本明細書において、「標的全ゲノム増幅プライマ」という用語は、1つ以上のバックグラウンドゲノムに対して1つ以上の標的ゲノムを増幅する選択性に有用なセットにおいて収集されるプライマを意味する。標的全ゲノム増幅プライマは、本明細書に開示される方法に従って設計される。
【0126】
本明細書において、「標的ゲノム配列セグメント」という用語は、1つ以上のバックグラウンドゲノムに対して選択的に増幅されることが所望されるゲノムの特定の長さ(典型的には約6〜約12核酸塩基長)の一部を意味する。プライマは、1つ以上のバックグラウンドゲノムに対するハイブリダイゼーションを最小限に抑える一方で、標的ゲノム配列セグメントに対してできる限り選択的にハイブリダイズするように選択される。
【0127】
「鋳型」という用語は、相補的なコピーが、鋳型依存性の核酸ポリメラーゼの活性を通してヌクレオチド三リン酸から構築される核酸の鎖を意味する。二重鎖内では、鋳型の鎖は、慣例により「下の」鎖と描写および記載される。同様に、非鋳型鎖は「上の」鎖と描写および記載される。
【0128】
「三角測量遺伝子型分析」という用語は、バイオエージェントを同定する単位複製配列に対応して、1つより多い遺伝子の領域を増幅することによって得られる増幅産物の分子量または塩基組成の測定により、バイオエージェントの遺伝子型決定を行う方法を意味する。この意味において、「三角測量」という用語は、同一所見について3つ以上の独立した見解を比較することにより、情報の正確性を確立する方法を意味する。複数の三角測量遺伝子型分析プライマを用いて実行される三角測量遺伝子型分析は、後に種型を割り当てることができる、パターンまたは「バーコード」を提供する複数の塩基組成を生じる。種型は、事前に既知である亜種または菌株を表してもよいか、またはこれまで未知であった遺伝子型の存在を示唆する特異的かつこれまで未確認であった塩基組成バーコードを有する、これまで未知であった菌株であってもよい。
【0129】
本明細書における「三角測量遺伝子型分析プライマ対」という用語は、三角測量遺伝子型分析において種型を決定するために、バイオエージェントを同定する単位複製配列を生成するように設計されるプライマ対である。
【0130】
バイオエージェントの同定のために、1つより多くのバイオエージェントを同定する単位複製配列を用いることは、本明細書において「三角測量同定」を意味する。三角測量同定は、異なるプライマ対により生成される複数のバイオエージェントを同定する単位複製配列を分析することにより行われる。このプロセスは、偽陰性および偽陽性シグナルを減少し、ハイブリッド起源ないしは操作されたバイオエージェントの再構築を可能にするために用いられる。例えば、炭疽菌からの予期される特徴なしに、炭疽菌に典型的な3つの毒素遺伝子の同定(Bowen et al.,J.Appl.Microbiol.,1999,87,270−278)を行うことは、遺伝子操作イベントを提案するものであろう。
【0131】
本明細書において、「未知のバイオエージェント」という用語は、次のいずれかを意味しても良い:(i)その存在は知られているが(例えば、周知の細菌種である黄色ブドウ球菌等)、分析されるべき試料中に存在することは知られていないバイオエージェント(ii)その存在が知られていないバイオエージェント(例えば、SARSコロナウイルスは2003年4月以前は知られていなかった)。例えば、所有者共通の米国特許第10/829,826号(参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる)に開示されるコロナウイルスの同定方法が、臨床試料中のSARSコロナウイルスを同定するために2003年4月以前に用いられていた場合は、コロナウイルスは2003年4月以前には科学にとって未知であり、バイオエージェント(この場合はコロナウイルス)が試料中に存在することが知られていなかったのであるから、「未知の」バイオエージェントの持つ両方の意味が当てはまる。反対に、米国特許第10/829,826号の方法が、2003年4月以降に臨床試料中のSARSコロナウイルスを同定するために用いられるようになった場合には、SARSコロナウイルスは2003年4月以降に知られるようになり、何のバイオエージェントが試料中に存在するのかは知られていなかったのであるから、「未知」のバイオエージェントの前者の意味(i)のみが当てはまる。
【0132】
本明細書における「可変配列」という用語は、2つの核酸の間の核酸配列における相違を意味する。例えば、2つの異なる細菌種の遺伝子は、単一の塩基置換および/または1つ以上のヌクレオチドの欠失もしくは挿入の存在によって、配列が変化する可能性がある。これら2つの構造遺伝子の形態は、配列において互いに異なるといわれている。本明細書において「ウイルス核酸」という用語は、これらに限定されないが、DNA、RNA、または、例えば逆転写反応を行うことにより、ウイルスRNAから得られたDNAを含む。ウイルスRNAは、一本鎖(陽性もしくは陰性の)であっても、または二本鎖であってもよい。
【0133】
「ウイルス」という用語は、自律的複製のできない(すなわち、複製には宿主細胞の機構を用いる必要がある)偏性で超微細の寄生体を意味する。ウイルスは宿主細胞の外で生存することができるが、複製することはできない。
【0134】
「ウイルス血症」という用語は、ウイルスが血流に侵入する状態を意味する。これは、細菌が血流に侵入する「菌血症」、および敗血症と似ている。活動性ウイルス血症は、血中で複製するウイルスの能力を意味する。ウイルス血症には、血中における最初のウイルスの拡散である一次ウイルス血症と、一次ウイルス血症が他の組織の炎症を引き起こし、該ウイルスが複製して再度循環に侵入した二次ウイルス血症の2種類がある。
【0135】
「野生型」という用語は、自然に発生した源から単離された場合に、その遺伝子または遺伝子産物の特徴を有する遺伝子または遺伝子産物を意味する。野生型遺伝子は集団で最もよく観察されるため、「正常」または「野生型」の形態の遺伝子であるかどうかは任意に指定される。反対に、「修飾された」、「変異体」、または「多形」という用語は、野生型遺伝子または遺伝子産物と比較した場合に、配列および/または機能特性において変更(すなわち、改変された特徴)を示す遺伝子または遺伝子産物を意味する。自然に発生する変異体は単離することが可能であることに注目されたい。これらは、野生型遺伝子または遺伝子産物と比較した場合に、改変された特徴を有するということによって同定される。
【0136】
本明細書において「ゆらぎ塩基」とは、DNAトリプレットの3番目のヌクレオチドの位置に見られるコドンの変化である。配列の保存された領域における変化は、アミノ酸コードの重複性のために、3番目のヌクレオチドの位置に多く見られる。
【0137】
態様の説明
概要
バックグラウンドゲノムの存在下において関心標的ゲノムを増幅するための方法および組成物を本明細書に開示する。1つ以上の標的ゲノムが、バックグラウンドゲノムを含有する試料から増幅されるように選択されるという意味において、該方法は、「標的全ゲノム増幅」のための方法として考えられ得る。開示した組成物および方法を使用して解決される問題は、背景生物に由来するゲノムまたは他の核酸よりも多い量の関心生物のゲノム核酸の生成である。
【0138】
関心生物に相当する、より多い量の核酸は、例えば、所与の微生物の遺伝子型を決定するために行われる解析等の、さらなる解析のために利用可能である。そのような分析は、リアルタイムPCR、マイクロアレイ解析、配列解析によるプローブ検出解析、またはバイオエージェントを同定する単位複製配列に対応する増幅産物の分子量および/または塩基組成を決定することを含む本明細書に開示した方法による解析等の、任意の種類の核酸特徴付けを包含してもよい。該方法は、血液ならびに血清およびバフィーコートを含むその画分、肝細胞、痰、尿ならびに組織生検等のヒト試料中に存在する病原体の増加量の核酸を得るために特に有用である。そのような試料中で同定され得る病原体は、菌血症、敗血症およびセプシスならびにウイルス血症に関わる。
【0139】
標的全ゲノム増幅プライマの設計のための標的ゲノム
一部の好適な態様において、1つ以上の標的ゲノムを選択する。標的ゲノムの選択は、分析の目的により決められる。例えば、標的全ゲノム増幅工程の所望の結果が、生物戦攻撃の場で土質試料中に存在すると考えられる、炭疽菌等の生物戦生物のゲノムを表す核酸を得ることであるならば、1つのまたは唯一の標的ゲノムとして炭疽菌のゲノムを選択してもよい。一方で、標的全ゲノム増幅工程の所望の結果が、一群の潜在的な生物戦剤等の一群の細菌を表す核酸を得ることであるならば、以下の細菌のいずれかまたは全てを含む群等の1つ以上の標的ゲノムを選択してもよい。炭疽菌、野兎病菌(Francisella tularensis)、ペスト菌(Yersinia pestis)、ブルセラ菌(Brucella sp.)、鼻疽菌(Burkholderia mallei)、発疹チフスリケッチア(Rickettsia prowazekii)、および大腸菌O157。同様に、異なるゲノムまたは一群のゲノムは、他の目的のために標的ゲノムとして選択され得る。例えば、ヒトゲノムまたはミトコンドリアDNAは、犯罪が起こり得る土質試料または他の試料環境において発見される一般的なゲノムに対する標的であってもよい。したがって、本発明の方法および組成物をバックグラウンドゲノム上に適用することができ、ヒトゲノム(標的)はバックグラウンドゲノム上に選択的に増幅されることができる。他の例は、呼吸器疾患の原因となるウイルスの群、セプシスの原因となる病原体、または住居を汚染することが知られる一群の真菌のゲノムを含み得る。
【0140】
標的全ゲノム増幅プライマの設計のためのバックグラウンドゲノム
バックグラウンドゲノムは、存在する特定の生物の核酸の可能性に基づいて選択されてもよい。例えば、ヒトによって処理された土質試料は、ホモサピエンス、ニワトリ(Gallus gallus)、ギラルディアシータ(Guillardia theta)、イネ(Oryza sativa)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、ヤロイアリポリチカ(Yarrowia lipolytica)、サッカロマイセスセレヴィシエ(Saccharomyces cerevisae)、デバリオマイセスハンセニイ(Debaryomyces hansenii)、クルイベロミセスラクチス(Kluyveromyces lactis)、分裂酵母(Schizosaccharomyces pom)、アスペルギルスフミガーツス、クリプトコッカスネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)、エンセファリトゾーンクニクリ(Encephalitozoon cuniculi)、エレモテシウムゴシッピ(Eremothecium gossypii)、カンジダグラブラタ、セイヨウミツバチ(Apis mellifera)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)、コクヌストモドキ(Tribolium castaneum)、ガンビアハマダラカ(Anopheles gambiae)、および線虫(Caenorhabditis elegans)を含むが、これらに限定されない生物のゲノムを表す特定の核酸であることが予測されるであろう。これらのゲノムのいずれかまたは全ては、試料中のバックグラウンドゲノムとして推定することが適切である。任意の特定の試料中に実際に存在する生物は、源および/または環境に基づいて、試料ごとに異なる。したがって、バックグラウンドゲノムは、試料中に実際に存在する生物の同定に基づいて選択されてもよい。試料の組成物は、当業者に既知の任意の数の技術を使用して決定することができる。さらなる態様において、プライマは、試料中の1つ以上の背景生物の実際の同定に基づいて、および試料中に存在するさらなる1つ以上の背景生物の可能性に基づいて設計することができる。
【0141】
プライマハイブリダイゼーション部位としての固有のゲノム配列の同定
試料の標的およびバックグラウンドゲノムが決定されると、次の段階は、プライマハイブリダイゼーション部位として有用である標的ゲノム内のゲノム配列セグメントを同定することである。所与の標的全ゲノム増幅の効率は、プライマの効果的使用に依存する。全ゲノムを代表する増幅産物を生成するためには、プライマハイブリダイゼーション部位は、ゲノムの全長にわたって適切に分離されるべきである。好ましくは、プライマハイブリダイゼーション部位間の平均分離距離は、約1000核酸塩基未満である。より好ましくは、平均分離は、長さ約800核酸塩基未満である。さらにより好ましくは、平均分離は、長さ約600核酸塩基未満である。最も好ましくは、プライマハイブリダイゼーション部位間の平均分離は、長さ約500核酸塩基未満である。
【0142】
当業者は、全ゲノム増幅のための有効なプライミングは、プライマ伸長に使用されるポリメラーゼ酵素の忠実度および処理能力等のいくつかの要因に依存することを認識されたい。プライマハイブリダイゼーション部位間のより長い平均分離距離は、ポリメラーゼ酵素が高処理能力を有する場合により許容可能となる。このことは、ポリメラーゼが核酸鋳型に密接に結合することを示す。これは、ポリメラーゼが鋳型核酸に結合したままとどまり、合成される相補的核酸鎖を伸長し続けることを可能にするという理由で、標的全ゲノム増幅に対する所望の特徴である。高処理能力を有するポリメラーゼ酵素の例は、Phi29ポリメラーゼおよびTaqポリメラーゼを含むが、これらに限定されない。タンパク質工学戦略は、例えば、DNA結合タンパク質とのポリメラーゼの共有結合によって、高処理能力ポリメラーゼ酵素を生成するために使用されている(Wang et al.,Nucl.Acids Res.,2004,32(3)1197−1207)。向上された処理能力を持つポリメラーゼが利用可能となると、より長い平均分離距離、さらには1000を大いに上回る核酸塩基が、標的全ゲノム増幅に許容可能となり得る。
【0143】
ハイブリダイゼーション感受性および選択性
標的全ゲノム増幅の目的のために、プライマハイブリダイゼーション部位(ゲノム配列セグメント)の長さと、それとハイブリダイズする対応するプライマとの選択は、好ましくは、以下の2つの要因において均衡を保つ。(1)標的ゲノムとの、所与のプライマの結合の頻度を示す感受性、および(2)特定のプライマが、バックグラウンドゲノムとハイブリダイズするよりも多い頻度で、標的ゲノムとハイブリダイズする程度を示す選択性。一般的に、より長いプライマは、より多い選択性およびより少ない感受性の傾向があり、短いプライマはその逆である。プライマの長さ、選択性および感受性の関係を、図1に図示する。好ましくは、長さ約5から約13核酸塩基のプライマが、標的全ゲノム増幅に有用である、しかしながら、この範囲外のプライマの長さも使用することができる。当業者は、この範囲が、5、6、7、8、9、10、11、12および13核酸塩基の長さを有するプライマを含むことを認識されたい。プライマのサイズは、プライマの選択性とプライマの感受性との間の均衡に影響を与える。最適なプライマの長さは、この均衡を考慮して試料ごとに決定される。また、5核酸塩基未満または13核酸塩基を超える長さを有するプライマも、選択性および感受性がその試料に対して最適に維持することができる場合に有用である。種々の長さを有する複数のプライマを選択することによって、標的ゲノム配列全体に広範なプライミングが提供され、一方、バックグラウンドゲノム配列に対する標的ゲノム配列とのプライマの選択的結合もまた提供される。
【0144】
選択閾値基準
一部の態様において、標的全ゲノム増幅においてプライマの合計数を減少させ、プライマセットの費用および複雑性を減少させるために、固有の総ゲノム配列セグメントの好適なサブセットを決定することが好ましい。一部の態様において、固有のゲノム配列セグメントの好適なサブセットの決定は、所与のゲノム配列セグメントの感受性および/または選択性に対する有用かつ実用的なカットオフ点を示す1つ以上の閾値基準を選択することを含む。そのような基準の例は、選択した出現頻度閾値(出現頻度閾値)、および選択した選択性比率(選択性比率閾値)を含むが、これらに限定されない。
【0145】
一部の態様において、基準に従って、固有の総ゲノム配列セグメント全体を順位付けすることが有用である。例えば、固有の総ゲノム配列セグメントは、出現の最大頻度を示す最高位および出現の最小頻度を示す最下位での出現頻度に従って順位付けされる。出現頻度閾値は、次いで、順位から選択することができる。出現頻度閾値は、さらなる解析のために選択されるサブセットのメンバーと、さらに解析されないメンバーとの間の境界線として機能する。
【0146】
限定されない例において、平均「出現頻度」は、総ゲノム配列セグメントの出現頻度から計算することができ、この平均出現頻度は、閾値基準として選択することができる。「出現頻度」は、「定義」項目において定義し、また、実施例1において詳述する。一態様において、解析される全ゲノム配列に対する平均出現頻度以上の出現頻度を有するゲノム配列セグメントを、さらなる解析のためにサブセットとして選択する。他の例において、出現頻度閾値基準は、平均出現頻度を超えてまたは平均出現頻度を下回って選択することができる。他の例において、サブセットは、80%、70%、60%または50%の固有の総ゲノム配列セグメントまたはそれらの間の任意の整数または少数から成るサブセットを定義する出現頻度閾値基準を用いて選択される。
【0147】
別の限定されない例において、「選択性比率」を閾値基準として選択する。選択性比率は、「定義」項目において定義し、実施例1においても詳述する。一態様において、平均選択性比率以上の選択性比率を有する全てのゲノム配列セグメントを、さらなる解析のためにサブセットとして選択する。他の例において、選択性比率限界基準は、平均選択性比率を超えて、または平均選択性比率を下回って選択することができる。他の例において、サブセットは、80%、70%、60%または50%の固有の総ゲノム配列セグメントまたはそれらの間の任意の整数または少数から成るサブセットを定義する選択性比率閾値基準を用いて選択される。
【0148】
一部の態様において、プライマハイブリダイゼーション部位として有用な標的ゲノム配列セグメントを選択することは、プライマハイブリダイゼーション部位が選択される5、6、7、8、9、10、11、12および13核酸塩基の長さを有する、全部ではないがほとんどの固有のゲノム配列セグメントの同定によって促進される。ゲノム配列自体内の固有の配列セグメントの同定は、生物情報学において当業者には既知の手順である。さらに、所与のゲノム配列セグメントの出現頻度の決定は、BLASTプログラム(Basic Local Alignment Search Tool:BLAST)および当技術分野において既知のPowerBLASTプログラムを使用して定期的に決定することができる(Altschul et al.,J.Mol.Biol.,1990,215,403−410;Zhang and Madden,Genome Res.,1997,7,649−656)。当業者は、処理能力の向上を有するポリメラーゼが、より短いプライマへのハイブリダイゼーション部位としての役割を果たす短いゲノム配列セグメントの高出現頻度の必要性なく、より長い一続きのプライマ伸長産物を合成することができるので、例えば、タンパク質工学を介したポリメラーゼ処理能力の向上、新しいポリメラーゼの発見、または増幅試薬および方法の改善により、選択性と感受性間の均衡を選択性に移行することが可能となることを認識されたい。したがって、13核酸塩基を超えるプライマの長さもまた、標的全ゲノム増幅での使用に実用的である。
【0149】
実施例1は、標的ゲノム内の固有のゲノム配列セグメントの同定の実証、標的ゲノム配列内のゲノム配列セグメントの出現頻度の決定、およびバックグラウンドゲノム配列内のゲノム配列セグメントの出現頻度の決定を提供する。実施例では、標的ゲノム内およびバックグラウンドゲノム内のゲノム配列セグメント出現頻度を使用した、選択性比率の計算および順位付けに関してもさらに説明する。すなわち、選択性比率によって、バックグラウンドゲノムに対して標的ゲノム(単数または複数)に向けられる所与のゲノム配列セグメントの選択性が説明される。所与のゲノム配列セグメントに対する選択性比率は、単に、標的ゲノム内のゲノム配列セグメントの出現頻度を、バックグラウンドゲノム内のゲノム配列セグメントの出現頻度で除算することによって計算される。所与のゲノム配列セグメントに対する高選択性比率は、ゲノム配列セグメントとハイブリダイズするように設計されたプライマが、バックグラウンドゲノムとハイブリダイズよりも、より頻繁に標的ゲノムとハイブリダイズし、それによって、複数の標的ゲノムの選択的プライミングへの一課題を達成することを示すので有益である。択性比率は、単一標的ゲノムまたは複数の標的ゲノムのいずれかに対して計算することができる。有用な選択性比率を得るためには、選択した全てのバックグラウンドゲノムセグメント内の全てのゲノム配列セグメントの出現頻度を考慮することが有利である、しかし、標的全ゲノム増幅の課題次第では、選択性比率の計算において、全ての可能な標的ゲノムを考慮することは典型的には必要ではない。例えば、2つの標的ゲノム(標的ゲノムAおよび標的ゲノムB)ならびに3つのバックグラウンドゲノム(バックグラウンドゲノムC、DおよびE)から成る簡易化システムにおいて、A、B、C、DおよびEにおいて1度出現する(出現頻度=1)ゲノム配列セグメントXに対する選択性比率、標的ゲノムA選択性比率は、以下の通りに計算される。
1(A)/(1(C)+1(D)+1(E))=0.333
その一方、総標的ゲノム(A+B)選択性比率は、以下の通りに計算される。
1(A)+1(B)/(1(C)+1(D)+1(E)=0.667
【0150】
プライマの設計
選択されたゲノム配列セグメントとハイブリダイズするように設計されたプライマは、ゲノム配列セグメントと好ましくは100%相補的である。他の態様において、選択されたゲノム配列セグメントとハイブリダイズするように設計されたプライマは、ゲノム配列セグメントと少なくとも約70%から約100%相補的であり、またはそれらの間の任意の整数もしくは分数である。一般論として、選択された核酸配列とのハイブリダイゼーションのためのプライマの設計は、当業者には既知であり、市販のコンピュータプログラムによって促進することができる。一般的に、プライマハイブリダイゼーション部位として解析および選択されたゲノム配列セグメントと同じ長さとなるように、所与のプライマを設計することが好ましい。しかしながら、一部の場合においては、プライマハイブリダイゼーション部位に対してプライマの長さを変化させることが有利な場合がある。例えば、プライマが解析され、好ましくない融解温度を有することが分かったならば、標的ゲノム配列に対して向上した親和性を有するプライマを生成するために、5´または3´末端での伸長によって利益を受けるであろう。プライマの長さは、増加または減少させることができる。プライマの長さの変化は、元々選択されたゲノム配列セグメントともはや同一ではなくなるように、プライマハイブリダイゼーション部位もまた変化させることを当業者は認識されたい。一部の場合において、所与の長さが変化したプライマのハイブリダイゼーション部位に対応するゲノム配列セグメントを解析することは有益であり得る。この解析は、出現頻度および選択性比率を含むが、これらに限定されないデータの検討によって行われてもよく、また、長さが変化したプライマの実際のインビトロ検査によって行われてもよい。
【0151】
一部の態様において、プライマを、対応するゲノム配列セグメントと100%未満相補的であるように設計することが有意であり得る場合において、その対応する本来のゲノム配列セグメントと100%未満相補的であるプライマと100%相補的な仮定上のゲノム配列セグメントに対して、再計算選択基準(出現頻度および選択性比率等)を補うことを検討することもまた有利である。選択基準が好ましくないのであれば、向上した選択基準を有する代替的なプライマ配列の設計を検討することが有利であろう。
【0152】
一部の態様において、縮重プライマは、ゲノム配列に多義性がある場合、または単一ヌクレオチド多型の出現の可能性がある場合において設計される。
【0153】
一部の態様において、1つ以上のホスホロチオエート結合は、プライマをヌクレアーゼ活性に対してより耐性を持たせる目的により、3´末端でプライマに取り込まれる。
【0154】
一部の態様において、プライマは、ハイブリダイゼーションの親和性を増強させ、増幅効率を促進する化学修飾した核酸塩基を含む。そのような化学修飾は、5−プロピニルピリミジン、フェノキサジン、G−クランプ、2,6−ジアミノプリン等を含むが、これらに限定されない。ヌクレオチド修飾を作る当業者は、本明細書に開示した方法により設計されたプライマの親和性を増強させるために、適切な修飾を生成することが可能である。
【0155】
一部の態様において、プライマは、本明細書に開示した方法に基づいて設計され、標的全ゲノム増幅の効率を、バックグラウンドゲノムに関して標的ゲノムの効率および/またはバイアスに対して評価することができるインビトロ条件下で、標的全ゲノム増幅において合成および検査される。効率および/またはバイアスが最適でないことが分かった場合は、選択されたプライマの再設計は、鋳型核酸の弱い親和性、2次的構造の出現およびプライマ2量体の形成などの潜在的欠陥を訂正するために、それらを修飾することによってなされ得る。一部の態様において、再設計したプライマには、バックグラウンドゲノムに対して標的ゲノムに向けられた集合的な効率および/またはバイアスを確認するために、標的全ゲノム増幅反応下で、付加的な1回以上のインビトロ検査を行う。一部の態様において、効率および/またはバイアスが、一連のインビトロ検査後に最適でないことが分かった場合は、より高い選択性比率閾値を有し得る変化された選択基準を使用するか、または平均分離距離もしくは最大分離距離への変化された値を含みうる1つ以上の変化された中止基準値を使用して、プライマの選択工程が繰り返される。当業者は、選択性比率閾値および中止基準の変化によって、結果的に異なる一連のプライマが選択されることを認識されたい。選択性比率閾値および/または中止基準の変化の結果として選択された異なる一連のプライマは、次いで、インビトロ検査、ならびに必要に応じて、向上した一連のプライマの選択に対する選択基準の付加的な回数の変更を行い得る。
【0156】
標的全ゲノム増幅プライマキット
また、一部の態様は、本明細書に開示した方法に従って設計された標的全ゲノム増幅プライマを含むキットも含む。一部の態様において、キットは、バックグラウンドゲノムの1つ以上の収集物からの細菌の一般的な標的全ゲノム増幅向けに設計されたプライマを含む。例えば、土壌中の細菌を同定するための標的全ゲノム増幅キットは、土壌中で発見された典型的な背景生物のゲノムに基づいて選択されたプライマを有する。別の例において、呼吸器疾患を引き起こすウイルスを遺伝子型同定するための標的全ゲノム増幅キットは、呼吸器病原体の標的ゲノムと、ヒトゲノムおよびヒト粘液もしくは他の流体内に発見される共生生物のゲノムを含むバックグラウンドゲノムとに基づいて選択されたプライマと共に構築される場合がある。別の例において、セプシスを引き起こす細菌を遺伝子型同定するための標的全ゲノム増幅キットは、セプシスを引き起こす細菌の標的ゲノムと、ヒトゲノムを含むバックグラウンドゲノムとに基づいて選択されたプライマと共に構築される場合がある。ヒト血液は、一般的に、サブシスでない状態下において有意な量の細菌を含有しないため、細菌ゲノムは、このキットへのプライマ選択工程に一般的には含まれない。
【0157】
一部の態様において、キットは、高処理能力を有する十分な量のポリメラーゼ酵素を含む。一部の態様において、高処理能力ポリメラーゼは、Phi29ポリメラーゼまたはTaqポリメラーゼである。他の態様において、高処理能力ポリメラーゼは、天然ポリメラーゼから構成され、該天然ポリメラーゼ対して処理能力が増加する遺伝子操作をされたポリメラーゼである。
【0158】
一部の態様において、キットは、標的全ゲノム増幅のために最適化された濃度で、デオキシヌクレオチド三リン酸、緩衝液、マグネシウム塩等の緩衝液添加物、トレハロースおよびベタインをさらに含む。
【0159】
一部の態様において、キットは、標的全ゲノム増幅反応を行うための説明書をさらに含む。
【0160】
一態様において、キットは、配列番号:203−402から成る群の少なくとも過半数のプライマ(表3参照)、あるいは好ましくは、配列番号:204:593から成る群の少なくとも過半数のプライマ(表4参照)を含む。
【0161】
バイオエージェントを同定する単位複製配列
バイオエージェントを同定する単位複製配列を使用して、未知のバイオエージェントを検出および同定するための方法を本明細書に開示する。プライマは、バイオエージェントに由来する核酸の保存配列領域とハイブリダイズするように選択され、ならびに可変配列領域をひとくくりにして、増幅されることが可能であり、かつ分子量決定の影響を受けやすいバイオエージェントを同定する単位複製配列を産出する。次いで、分子量は、バイオエージェントの可能性のある同一性の予備知識を必要とせずに、バイオエージェントを一意的に同定する手段を提供する。増幅産物の分子量または対応する塩基組成特徴は、次いで、分子量または塩基組成特徴のデータベースと比べて適合される。適合は、解析した増幅産物の実験的に決定した分子量または塩基組成が、既知のバイオエージェントを同定する単位複製配列の既知の分子量または塩基組成と比較した場合に、あるいは実験的に決定した分子量または塩基組成が、バイオエージェントを同定する単位複製配列のうちの1つの分子量または塩基組成と同じ時に適合する。ならびに、実験的に決定した分子量または塩基組成は、既知のバイオエージェントを同定する単位複製配列の分子量または塩基組成の実験誤差の範囲内であってもよく、さらに適合するとして分類されてもよい。また、一部の場合において、適合は、共同所有され、参照することによりその全体が本願明細書に組み込まれる米国特許出願第11/073,362号に記載されるモデル等の適合モデルの確率を使用して分類されてもよい。さらに、該方法は、迅速平行多重に適用することができ、その結果は、三角測量同定戦略に採用することができる。本発明の方法は、迅速なスループットを提供し、バイオエージェント検出および同定に対して、増幅した標的配列の核酸配列決定を必要としない。
【0162】
膨大な生物学的多様性にも関わらず、地球上の生命の全ての形態は、それらのゲノムにおいて、一連の必須かつ共通の特徴を共有する。遺伝的データは、本明細書に開示した方法によって、バイオエージェントを同定するための基礎的根拠を提供するので、各個々のバイオエージェントを区別するのに十分な可変性を理想的には提供し、それらの分子量が分子量決定の影響を受けやすい核酸のセグメントを選択することが必要である。
【0163】
生物を問わず大量の遺伝子(すなわち、ハウスキーピング遺伝子)の保存を示す細菌ゲノムとは異なり、ウイルスは、必須であり、全てのウイルスファミリーの間で保存される遺伝子を共有しない。したがって、ウイルス同定は、特定のウイルスファミリーまたは属のメンバー等の、関連ウイルスのより小さい群内において達成される。例えば、RNA依存のRNAポリメラーゼは、全ての一本鎖RNAウイルス内に存在し、広範なプライミングならびにウイルスファミリー内の分解能のために使用することができる。
【0164】
一部の態様において、少なくとも1つの細菌核酸セグメントは、細菌バイオエージェントを同定する工程において増幅される。したがって、本明細書に開示したプライマによって増幅することができ、各個々のバイオエージェントを区別するのに十分な可変性を提供し、その分子量が分子量決定に影響を受けやすい核酸セグメントを、バイオエージェントを同定する単位複製配列として本明細書に記述する。
【0165】
一部の態様において、バイオエージェントを同定する単位複製配列は、より長いおよび短い領域の両方が使用されてもよいが、約27から約200核酸塩基(すなわち、約39から約200の連結ヌクレオシド)を含む。当業者は、これらの態様が、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199または200核酸塩基の長さ、またはこれらの範囲内の任意の範囲の化合物を含むことを理解されたい。
【0166】
プライマがハイブリダイズする(ハイブリダイゼーション部位)バイオエージェント核酸セグメントの部分の組み合わせと、プライマハイブリダイゼーション部位間の可変領域とは、バイオエージェントを同定する単位複製配列を含む。したがって、所与のバイオエージェントを同定する単位複製配列は、所与の対のプライマ「によって定義される」と言うことができる。
【0167】
一部の態様において、本明細書に開示したプライマによって生成される分子量決定の影響を受けやすいバイオエージェントを同定する単位複製配列には、分子量決定の特定のモードと、長さ、サイズまたは質量適合性であるか、または分子量決定の特定のモードとの長さ適合性の予測可能な断片を得るために、予測可能な断片化パターンを提供する手段と適合性がある。そのような増幅産物の予測可能な断片化パターンを提供する手段は、例えば、化学試薬を用いる切断、制限酵素または切断プライマを含むが、これらに限定されない。したがって、一部の態様において、バイオエージェントを同定する単位複製配列は、200核酸塩基より大きく、制限消化後の分子量決定の影響を受けやすい。制限酵素および切断プライマを使用する方法は、当業者には既知である。
【0168】
一部の態様において、バイオエージェントを同定する単位複製配列に対応する増幅産物は、分子生物学の技術分野において当業者には既知のありふれた方法であるポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction:PCR)を使用して得られる。リガーゼ連鎖反応(Ligase Chain Reaction:LCR)、低厳密性単一プライマPCR、および多重鎖置換増幅(Multiple Displacement Amplification:MDA)等の他の増幅方法を使用してもよい。これらの方法もまた当業者には既知である。
【0169】
バイオエージェントを同定する単位複製配列を定義するプライマ対
一部の態様において、プライマは、介在可変領域に隣接し、各個々のバイオエージェントを区別するのに十分な可変性を提供し、分子量解析の影響を受けやすいバイオエージェントを同定する単位複製配列の保存配列領域と結合するように設計される。一部の態様において、高度に保存された配列領域は、約80から100%、または約90から100%、約95から100%の同一性、または約99から100%の同一性を呈する。所与の増幅産物の分子量は、可変領域の可変性に起因して、それが得られたバイオエージェントを同定する手段を提供する。したがって、プライマの設計は、所与のバイオエージェントの同一性を分解するのに十分な可変性を有する可変領域の選択を伴う。一部の態様において、バイオエージェントを同定する単位複製配列は、バイオエージェントの同一性に特異的である。
【0170】
一部の態様において、バイオエージェントの同定は、各個々のレベルの同定の分解能に適したプライマを使用して、異なるレベルで達成される。広範囲調査プライマは、特定の区画(例えば、順序、ファミリー、属またはバイオエージェントの種レベルを超えるバイオエージェントの他のそのような分類)のメンバーとしてバイオエージェントを同定する目的で設計される。一部の態様において、広範囲調査高度プライマは、種または亜種レベルでバイオエージェントを同定することが可能である。広範囲調査プライマの例は、16S rRNAをコードするDNAを標的とする、プライマ対番号346(配列番号:594:602)、および348(配列番号:595:603)ならびに23SrRNAをコードするDNAを標的とする、プライマ対番号349(配列番号:596:604)を含むがこれらに限定されない。付加的な広範囲調査プライマ対は、米国特許出願第11/409,535号に開示され、参照することによりその全体が本願明細書に組み込まれる。
【0171】
一部の態様において、ドリルダウンプライマは、例えば、単一ヌクレオチド多型(Single Nucleotide Polymorphism:SNP)、タンデム反復数(Variable Number Tandem Repeat:VNTR)、欠失、薬剤耐性変異または異なる亜種特徴を有する種の他のメンバーに対するバイオエージェントの核酸配列の修飾を含む、亜種特徴に基づいて亜種レベル(菌株、サブタイプ、変異形および分離株を含む)でバイオエージェントを同定する目的で設計される。ドリルダウン高度プライマは、広範囲調査高度プライマが、一部の場合において、この同定課題を達成するのに十分な同定分解能を提供し得るため、亜種レベルでの同定に必ずしも必要ではない。ドリルダウンプライマの例は、米国特許出願第11/409,535号に開示され、参照することによりその全体が本願明細書に組み込まれる。
【0172】
プライマ選択および検証工程に使用する代表的な工程フロー図を図8に概説する。生物の各群に対して、候補標的配列が同定され(200)、そこからヌクレオチドアライメントが生成され(210)、解析される(220)。次いで、プライマは、候補プライマ対の選択(240)を促進させるために、適切なプライミング領域を選択することによって設計される(230)。次いで、プライマ対は、電子PCR(Electronic PCR:ePCR)によってインシリコ解析を行い(300)、ここで、バイオエージェントを同定する単位複製配列は、GenBankまたは他の配列収集物等の配列データベースから得られ(310)、インシリコの特異性が確認される(320)。GenBank配列から得られたバイオエージェントを同定する単位複製配列(310)は、有利な確立スコアを有する単位複製配列の塩基組成が、塩基組成データベース内に保存されるように(325)、未知のバイオエージェントを同定するために、所与の単位複製配列の可能性を予測する確立モデルによって解析することもできる。あるいは、プライマおよびGenBank配列から得られたバイオエージェントを同定する単位複製配列の塩基組成は、塩基組成データベースに直接入力することができる(330)。候補プライマ対(240)は、生物の収集物(410)からの核酸のPCR解析(400)等の方法によって、インビトロ増幅により標的核酸とハイブリダイズするそれらの能力を検査することによって検証される。したがって、得られた増幅産物は、増幅産物を得るために使用されるプライマの感受性、特異性および再現性を確認(420)するために、ゲル電気泳動によって、または質量分析によって解析される。
【0173】
生物戦剤として最大の関心を集めている生物を含む重要な病原体の多くは、完全に配列決定されている。この努力は、未知のバイオエージェントを検出するためのプライマの設計を大いに促進させた。部門全体およびドリルダウンのプライミングとの、広範囲なプライミングの組み合わせは、生物兵器脅威バイオエージェントのための環境監視ならびに医学的に重要な細菌のための臨床試料解析を含む、技術のいくつかの応用において非常に良好に使用されている。
【0174】
プライマの合成は既知であり、当技術分野においてありふれたものである。プライマは、固相合成の既知の技術を介して都合良くおよび規定通りに作られてもよい。そのような合成のための機器は、例えば、Applied Biosystems(Foster City,CA)を含むいくつかのベンダーによって販売されている。当技術分野において既知のそのような合成のための任意の他の手段は、付加的にまたは代替的に採用されてもよい。しかしながら、プライマの「合成」は、プライマの「設計」と同等に扱わないことに留意すべきである。本明細書に開示したプライマは、本明細書に開示した方法によって設計され、次いで既知の方法によって合成されている。
【0175】
一部の態様において、プライマは、以下の通りに、細菌バイオエージェントを同定するための方法において用いる組成物として採用される。プライマ対組成物は、未知の細菌バイオエージェントの核酸(例えば、細菌DNAまたはrRNAからのDNA逆転写等)と接触する。次いで、核酸は、例えば、バイオエージェントを同定する単位複製配列を表す増幅産物を得るために、PCR等の核酸増幅技術によって増幅される。二本鎖増幅産物の各鎖の分子量は、例えば質量分析等の分子量測定技術によって決定され、二本鎖増幅産物の2つの鎖は、イオン化工程時に分離される。一部の態様において、質量分析は、エレクトロスプレーフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析(Electrospray Fourier Eransform Ion Cyclotron Resonance Mass Spectrometry:ESI−FTICR−MS)またはエレクトロスプレー飛行時間型質量分析(Electrospray Time Of Flight Mass Spectrometry:ESI−TOF−MS)である。可能な塩基組成のリストは、鎖ごとに得られた分子量値に対して産生することができ、リストからの正確な塩基組成の選択は、一方の鎖の塩基組成を、他方の鎖の相補的塩基組成と適合させることによって促進される。したがって、分子量または塩基組成は、次いで、既知の細菌バイオエージェントへの類似バイオエージェントを同定する単位複製配列の分子量または塩基組成のデータベースと比較される。既知のウイルスバイオエージェントへの増幅産物の分子量または塩基組成と、類似バイオエージェントを同定する単位複製配列の分子量または塩基組成との間の適合は、未知の細菌バイオエージェントの同一性を示す。一部の態様において、該方法は、同定工程における多義性を解決するために、または同定割当への信頼レベルを向上させるために、1つ以上の異なるプライマ対を使用して繰り返される。
【0176】
一部の態様において、バイオエージェントを同定する単位複製配列は、例えば、低厳密性単一プライマPCR(Low Stringency Single Primer:LSSP−PCR)等の適切な増幅方法が選択されたならば、単一プライマ(任意の所与のプライマ対の順方向または逆方向プライマのいずれか一方)のみを使用して生成されてもよい。バイオエージェントを同定する単位複製配列を生成するためのこの増幅方法の適用は、過度の実験を行うことなく当業者によって達成され得る。
【0177】
一部の場合において、広範囲調査プライマ対によって定義される細菌バイオエージェントを同定する単位複製配列の分子量または塩基組成は、種レベル以下で細菌バイオエージェントを明確に同定するの十分な分解能を提供しない。これらの例は、少なくとも1つのさらなる広範囲調査プライマ対から、または少なくとも1つのさらなる部門全体のプライマ対から産生された1つ以上の細菌バイオエージェントを同定する単位複製配列のさらなる解析によって恩恵を享受する。バイオエージェントの同定のために、1つより多いバイオエージェントを同定する単位複製配列を採用することを、本明細書において三角測量同定と称する。
【0178】
他の態様において、オリゴヌクレオチドプライマは、細菌の属内において種の遺伝子をコードする核酸とハイブリダイズする部門全体のプライマである。他の態様において、オリゴヌクレオチドプライマは、亜種特徴の同定を可能にするドリルダウンプライマである。ドリルダウンプライマは、増幅条件下で核酸と接触する時に、菌株タイピング等のドリルダウン解析のためにバイオエージェントを同定する単位複製配列を生成する機能性を提供する。そのような亜種特徴の同定は、ウイルス感染の適切な臨床治療を決定するために重要であることが多い。一部の態様において、亜種特徴は、広範囲調査プライマのみを使用して同定し、部門全体およびドリルダウンプライマは使用しない。
【0179】
一部の態様において、増幅に使用するプライマは、ゲノムDNAおよび細菌プラスミドのDNAとハイブリダイズし、それらを増幅する。
【0180】
一部の態様において、種々のコンピュータソフトウェアプログラムは、Primer Premier 5(Premier Biosoft,Palo Alto,CA)またはOLIGO Primer Analysis Software(Molecular Biology Insights,Cascade,CO)等の増幅反応のためのプライマ設計に役立つように使用されてもよい。これらのプログラムは、例えば、プライマ鋳型二重鎖の融解温度等の所望のハイブリダイゼーション条件を、ユーザが入力できるようにする。一部の態様において、(ePCR)等のインシリコPCR探索アルゴリズムは、例えば、GenBank等の公開配列データベースから容易に取得することができる複数の鋳型配列全体にわたってプライマ特異性を解析するために使用される。既存のRNA構造探索アルゴリズム(Macke et al.,Nucl.Acids Res.,2001,29,4724−4735、参照することによりその全体が本願明細書に組み込まれる)は、ハイブリダイゼーション条件、ミスマッチ、および熱力学計算(SantaLucia,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,1998,95,1460−1465、参照することによりその全体が本願明細書に組み込まれる)等のPCRパラメータを含むように修飾されている。また、これは、選択したプライマ対のプライマ特異性に関する情報も提供する。一部の態様において、アルゴリズムに適用されたハイブリダイゼーション条件は、アルゴリズムから得られるプライマ特異性の結果を制限することができる。一部の態様において、プライマ鋳型二重鎖の融解温度閾値は、35℃またはそれより高い温度に指定される。一部の態様において、許容可能なミスマッチの数は、7ミスマッチ以下に指定される。一部の態様において、緩衝液成分および濃度ならびにプライマ濃度は、指定されてもよく、アルゴリズムに組み込まれてもよく、例えば、適切なプライマ濃度は約250nMであり、適切な緩衝液成分は、50mMナトリウムまたはカリウムおよび1.5mM Mg2+である。
【0181】
増幅プライマを設計する当業者は、所与のプライマが、増幅反応下で相補的核酸鎖の合成を効果的にプライマするために、100%相補性でハイブリダイズする必要はないことを認識されたい。さらに、プライマは、介在または隣接セグメントが、ハイブリダイゼーション減少(例えば、ループ構造またはヘアピン構造)に関与しないように、1つ以上のセグメント上でハイブリダイズしてもよい。プライマは、参照することによりその全体が本願明細書に組み込まれる米国特許出願第11/409,535号の表2に記載されるプライマのいずれかとの、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%の配列同一性を含んでもよい。したがって、一部の態様において、配列同一性の70%から100%間の違いの度合い、またはそれらの間の範囲が、本明細書に開示した特異的プライマ配列に対して可能である。配列同一性の決定に関しては、以下の例で説明する。2つの非同一の残基を有する別の20核酸塩基プライマと同一である長さ20核酸塩基のプライマは、20のうち18が同一(18/20=0.9または90%配列同一性)の残基を有する。別の例において、長さ20核酸塩基のプライマの15核酸塩基セグメントと同一な全ての残基を有する長さ15核酸塩基のプライマは、20核酸塩基プライマとの15/20=0.75または75%配列同一性を有するであろう。
【0182】
パーセント相同性、配列同一性または相補性は、SmithおよびWaterman(Adv.Appl.Math.,1981,2,482−489)のアルゴリズムを使用する初期設定を用いて、例えば、Gapプログラム(Wisconsin Sequence Analysis Package,Version 8 for UNIX,Genetics Computer Group,University Research Park,Madison WI)によって決定することができる。一部の態様において、ウイルス核酸の保存プライミング領域に関するプライマの相補性は、約70%から約75%80%である。他の態様において、相同性、配列同一性または相補性は、約75%から約80%である。さらに他の態様において、相同性、配列同一性または相補性は、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%であり、または100%である。
【0183】
一部の態様において、本明細書に開示したプライマは、本明細書に特に開示したプライマ配列との、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%、または100%(あるいはそれらの間のあらゆる範囲)の配列同一性を含む。
【0184】
当業者は、パーセント配列同一性またはパーセント配列相同性を計算することができ、過度の実験を行うことなく、対応するバイオエージェントを同定する単位複製配列の増幅産物を生成するための核酸の相補鎖の合成をプライムするその役割におけるプライマの機能への、プライマ配列同一性の変動の効果を決定することができる。
【0185】
一態様において、プライマは、長さが少なくとも13核酸塩基である。別の態様において、プライマは、長さが36核酸塩基未満である。
【0186】
一部の態様において、オリゴヌクレオチドプライマは、長さが13から35核酸塩基(13から35連結ヌクレオチド残基)である。これらの態様は、オリゴヌクレオチドプライマ13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34もしくは35核酸塩基、またはそれらの間の任意の範囲の長さを含む。本明細書に開示した方法は、より長いまたは短いプライマの両方の使用を検討する。またさらに、プライマは、親和性群、リガンド、増幅される核酸と相補的でない核酸の領域、レベル等を含むがこれらに限定されない1つ以上の他の所望の部分に連結されてもよい。また、プライマは、ヘアピン構造を形成してもよい。例えば、ヘアピンプライマは、短い標的核酸分子を増幅するために使用されてもよい。ヘアピンの存在は、増幅複合体を安定させ得る(例えば、TAQMAN MicroRNA Assays,Applied Biosystems,Foster City,Californiaを参照)。
【0187】
一部の態様において、任意のオリゴヌクレオチドプライマ対は、プライマ対が、バイオエージェントを同定する単位複製配列に対応する増幅産物を生成する能力を有するのであれば、米国特許出願第11/409,535号の表2の任意のプライマ対の対応するメンバーと、70%未満の配列相同性を有する一方または両方のプライマを有してもよい。他の態様において、任意のオリゴヌクレオチドプライマ対は、プライマ対が、バイオエージェントを同定する単位複製配列に対応する増幅産物を生成する能力を有するのであれば、35核酸塩基より多い長さを有する一方または両方のプライマを有してもよい。
【0188】
一部の態様において、所与のプライマの機能は、お互いに隣接してハイブリダイズする、または増幅反応下において、ポリメラーゼが2つ以上のプライマを伸長させることを可能にする核酸ループ構造またはリンカーによって連結される、2つ以上のプライマセグメントの組み合わせによって置換されてもよい。
【0189】
一部の態様において、バイオエージェントを同定する単位複製配列を得るために使用されるプライマ対は、米国特許出願第11/409,535号の表2のプライマ対である。他の態様において、プライマ対の他の組み合わせは、特定数の順方向プライマを、特定数の逆方向プライマと組み合わせることによって可能である。順方向プライマ16S_EC_789_810_Fと、逆方向プライマ16S_EC_880_894_Rまたは16S_EC_882_899_Rの2つのプライマ対の組み合わせの例は、米国特許出願第11/409,535号の表2に見られる。プライマ対において、プライマの有利かつ代替的な組み合わせへに到達することは、プライマ対の特性に依存し、とりわけ、長さが好ましくは約39から約200核酸塩基であるプライマ対によって定義されるバイオエージェントを同定する単位複製配列のサイズに依存する。あるいは、長さが200核酸塩基よりも長いバイオエージェントを同定する単位複製配列は、例えば、化学試薬等の切断試薬または制限酵素によって、より小さいセグメントに切断され得る。
【0190】
一部の態様において、プライマは、質量分析によって測定することができ、分子量候補塩基組成を容易に計算することができる増幅産物を生成するために、バイオエージェントの核酸を増幅するように構成される。
【0191】
一部の態様において、任意の所与のプライマは、プライマの5´末端に非鋳型のT残基を付加することを含む修飾を含む(すなわち、付加されたT残基は、増幅される核酸と必ずしもハイブリダイズしない)。非鋳型のT残基の付加は、Taqポリメラーゼ(Magnuson et al.,Biotechniques,1996,21,700−709)の非特異的酵素活性の結果として、非鋳型のアデノシン残基の付加を最小化する効果を有し、その出現は分子量解析から生じるあいまいな結果をもたらし得る。
【0192】
一部の態様において、プライマは、1つ以上の普遍的塩基を含有してもよい。種間の保存領域における任意の変動(第3の位置におけるコドンゆらぎに起因)は、DNA(またはRNA)トリプレットの第3の位置で発生する可能性が高いため、この位置に対応するヌクレオチドが、本明細書において「普遍的核酸塩基」と称される1つより多いヌクレオチドに結合することができる塩基となるように、オリゴヌクレオチドプライマを設計することができる。例えば、この「ゆらぎ」対形成下で、イノシン(I)は、U、CまたはAに結合し、グアニン(G)は、UまたはCに結合し、ウリジン(U)は、UまたはCに結合する。普遍的核酸塩基の他の例は、5−ニトロインドールまたは3−ニトロインドールピロール等のニトロインドール(Loakes et al.,Nucleosides and Nucleotides,1995,14,1001−1003)、縮重ヌクレオチドdPまたはdK(Hill et al.)、5−ニトロインダゾールを含有する非環式ヌクレオシド類似体(Van Aerschot et al.,Nucleosides and Nucleotides,1995,14,1053−1056)またはプリン類似体1−(2−デオキシ−β−D−リボフラノシル)−イミダゾール−4−カルボキサミド(Sala et al.,Nucl.Acids Res.,1996,24,3302−3306)を含む。
【0193】
一部の態様において、ゆらぎ塩基による多少弱い結合を補正するために、各トリプレットの第1および第2の位置が、非修飾ヌクレオチドよりも大きい親和性で結合するヌクレオチド類似体によって占有されるように、オリゴヌクレオチドプライマを設計する。これらの類似体の例は、チミンに結合する2,6−ジアミノプリン、アデニンおよび5−プロピニルシトシンに結合する5−プロピニルウラシル(プロピニル化チミンとしても知られる)ならびにGに結合するG−クランプを含むフェノキサジンを含むが、これらに限定されない。プロピニル化ピリミジンは、米国特許第5,645,985号、第5,830,653号および第5,484,908号に記載され、それぞれが共同所有され、参照することによりそれら全体が本願明細書に組み込まれる。プロピニル化プライマは、米国特許付与前公開第2003−0170682号に記載され、これもまた共同所有され、参照することによりその全体が本願明細書に組み込まれる。フェノキサジンは、米国特許第5,502,177号、第5,763,588号、および第6,005,096号に記載され、それぞれは、参照することによりその全体が本願明細書に組み込まれる。G−クランプは、米国特許第6,007,992号および第6,028,183号に記載され、それぞれは参照によりその全体が本願明細書に組み込まれる。
【0194】
一部の態様において、プライマハイブリダイゼーションは、5−プロピニルデオキシシチジンおよびデオキシチミジンヌクレオチドを含有するプライマを使用して増強される。これらの修飾プライマは、親和性の増強および塩基対形成選択性をもたらす。
【0195】
一部の態様において、非鋳型プライマタグは、増幅効率を向上させるために、プライマ鋳型二重鎖の融解温度(Tm)を増加させるように使用される。非鋳型タグは、鋳型に相補的でないプライマ上の少なくとも3つの連続したAまたはTヌクレオチド残基である。所与の非鋳型タグにおいて、Aは、CまたはGに置換することができ、またTは、CまたはGに置換することができる。ワトソンクリックハイブリダイゼーションは、鋳型と比べて、非鋳型タグに対して生じるとは予測されないが、A−T対と比べてG−C対中の余分な水素結合は、プライマ鋳型二重鎖の安定性の増加をもたらし、プライマが、前回サイクル中に合成された鎖とハイブリダイズする場合に、その後のサイクルの増幅に対する増幅効率を向上させる。
【0196】
他の態様において、プロピニル化タグは、非鋳型タグと同様の方法で使用されてもよく、2つ以上の5−プロピニルシチジンまたは5−プロピニルウリジン残基は、プライマ上の残基に適合する鋳型を置換する。他の態様において、プライマは、例えば、ホスホロチオエート結合等の修飾ヌクレオシド間結合を含有する。
【0197】
一部の態様において、プライマは、質量修飾タグを含有する。特定の分子量の核酸の可能な塩基組成の総数を減少させることによって、増幅産物の塩基組成の決定における多義性の持続的な原因を回避する手段が提供される。質量修飾タグを所与のプライマの特定の核酸塩基に付加することによって、その分子量からの所与のバイオエージェントを同定する単位複製配列の塩基組成の新規決定を単純化させる。
【0198】
一部の態様において、質量修飾核酸塩基は、以下の1つ以上を含む。例えば、7−デアザ−2´−デオキシアデノシン−5−三リン酸エステル、5−ヨード−2´−デオキシウリジン−5´−三リン酸エステル、5−ブロモ−2´−デオキシウリジン−5´−三リン酸エステル、5−ブロモ−2´−デオキシシチジン−5´−三リン酸エステル、5−ヨード−2´−デオキシシチジン−5´−三リン酸エステル、5−ヒドロキシ−2´−デオキシウリジン−5´−三リン酸エステル、4−チオチミジン−5´−三リン酸エステル、5−アザ−2´−デオキシウリジン−5´−三リン酸エステル、5−フルオロ−2´−デオキシウリジン−5´−三リン酸エステル、O6−メチル−2´−デオキシグアノシン−5´−三リン酸エステル、N2−メチル−2´−デオキシグアノシン−5´−三リン酸エステル、8−オキソ−2´−デオキシグアノシン−5´−三リン酸エステルまたはチオチミジン−5´−三リン酸エステル。一部の態様において、質量修飾核酸塩基は、15Nもしくは13Cまたは15Nおよび13Cの両方を含む。
【0199】
一部の態様において、多重増幅が行われ、多数のバイオエージェントを同定する単位複製配列は、複数のプライマ対で増幅される。多重化の利点は、付加的なバイオエージェント同定データが単一解析内で得ることができるので、少ない数の反応容器(例えば、96または384ウェルプレートのウェル)が各分子量測定に必要とされ、時間、資源および経費の節約をもたらすことである。多重増幅方法は、当業者には既知である、過度の実験を行うことなく開発することができる。しかしながら、一部の態様において、多重増幅のために、バイオエージェントを同定する複数の候補単位複製配列を選択するのに有用かつ非明白な一段階は、各増幅産物の各鎖が、質量スペクトル信号が重複せず、あいまいな解析結果を導かない分子量において、十分に異なることを確実にすることである。一部の態様において、1つ以上の増幅産物の2つの鎖質量における10Da差異は、質量スペクトルピークの重複を回避するのに十分な差異である。
【0200】
一部の態様において、多重増幅の代替として、単一増幅反応を質量分析による解析の前にプールすることができる。これらの態様において、多重増幅の態様に関しては、各増幅産物の各鎖が、質量スペクトル信号が重複せず、あいまいな解析結果を導かない分子量において、十分に異なることを確実にするために、バイオエージェントを同定する複数の候補単位複製配列を選択するのに有用である。
【0201】
バイオエージェントを同定する単位複製配列の分子量の決定
一部の態様において、所与のバイオエージェントを同定する単位複製配列の分子量は、質量分析によって決定される。質量分析にはいくつかの利点があり、それらは、広範囲の質量対電荷比(m/z)にわたる分子ピークの多くを分離(および単離)させる能力によって特徴付けられる高帯域幅ではない。したがって、質量分析は、あらゆる増幅産物がその分子量によって同定されるので、放射性または蛍光標識を必要としない本質的な並列検出スキームである。質量分析における現在の最先端技術は、試料の分子含有量に関する情報を提供するために、フェムトモル量未満の材料を容易に解析できるほどである。材料の分子量の正確な評価は、試料の分子量が、数百、または10万を超える原子質量単位(Atomic Mass Unit:amu)またはダルトンであるかどうかに関わらず迅速に得ることができる。
【0202】
一部の態様において、無傷の分子イオンは、試料を気相に変換する様々なイオン化技術のうちの1つを使用して増幅産物から産生される。これらのイオン化方法は、エレクトロスプレーイオン化(Electrospray Ionization:ES)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(Matrix−Assisted Laser Desorption Ionization:MALDI)および高速原子衝撃(Fast Atom Bombardment:FAB)を含むが、これらに限定されない。イオン化されると、異なる電荷を有するイオンの形成に起因して、いくつかのピークが1つの試料から得られる。単一質量スペクトルから得られた分子量の多数の読み出しを平均することによって、バイオエージェントを同定する単位複製配列の分子量を推定できる。エレクトロスプレーイオン化質量分析(Electrospray Ionization Mass Spectrometry:ESI−MS)は、相当量の断片化を生じさせることなく、試料の多価分子の分布を産出するために、10kDaを超える分子量を有するタンパク質または核酸等の非常に高い分子量ポリマーに特に有用である。
【0203】
本明細書に開示した方法に使用される質量検出器は、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析(Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance Mass Spectrometry:FT−ICR−MS)、飛行時間型(Time Of Flight:TOF)、イオントラップ、四重極、磁場型、Q−TOF、および三連四重極を含むが、これらに限定されない。
【0204】
バイオエージェントを同定する単位複製配列の塩基組成
高度プライマを使用して得られた増幅産物の分子量は、バイオエージェントを同定するための手段を提供するが、分子量データを塩基組成特徴に変換することは、特定の解析に有用である。本明細書では、「塩基組成」は、バイオエージェントを同定する単位複製配列の分子量から決定された各核酸塩基(A、T、CおよびG)の正確な数である。一部の態様において、塩基組成は、特定の生物の指標を提供する。塩基組成は、既知のバイオエージェントを同定する単位複製配列の既知の配列から計算することができ、所与のバイオエージェントを同定する単位複製配列の分子量を測定することによって実験的に決定することができ、続いて、許容可能な実験誤差範囲内の測定された分子量と一致する、全ての可能な塩基組成を決定することができる。以下の例は、炭疽菌の16S rRNAの位置1337で生じる実験的に得られた46塩基長増幅産物からの、塩基組成の決定を例証する。増幅産物の順方向および逆方向鎖は、それぞれ14208および14079 Daの測定分子量を有する。炭疽菌産物への順方向および逆方向鎖の分子量に由来する可能な塩基組成を、表1に記載する。
【0205】
(表1)炭疽菌6塩基長増幅産物に可能な塩基組成
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【0206】
計算された順方向鎖に対する16の可能な塩基組成および逆方向鎖に対する18の可能な塩基組成のうち、一対のみ(太字)が、増幅産物の真の塩基組成を示す相補塩基組成である。この論理は、対応する増幅産物が得られたバイオエージェントのクラスに関わらず、任意のバイオエージェントを同定する単位複製配列の塩基組成の決定に許容可能であることを認識すべきである。
【0207】
一部の態様において、所与の系統発生への、以前に観察されていない塩基組成(「真の未知の塩基組成」としても知られる)の割当は、パターン分類器モデルアルゴリズムを使用して達成することができる。配列等の塩基組成は、例えば、種内の菌株によって僅かに異なる。一部の態様において、パターン分類器モデルは、変異確率モデルである。他の態様において、パターン分類器は、多面体モデルである。変異確率モデルおよび多面体モデルは、どちらも共同所有され、参照することによりその全体が本願明細書に組み込まれる米国特許出願第11/073,362号に記載される。
【0208】
一態様において、各種ごとに制限される組成の周囲に「塩基組成確率群」を構築することによって、この多様性を管理することが可能である。これは、配列解析と同様の方法で生物を同定することを可能にする。「擬似四次元プロット」は、塩基組成確率群の概念を視覚化するために使用することができる。最適なプライマ設計は、バイオエージェントを同定する単位複製配列の最適な選択を必要とし、個々のバイオエージェントの塩基組成特徴間における分離を最大化させる。群が重複する領域は、誤分類に繋がり得る領域を示し、この問題は、塩基組成確率群の重複に影響されないバイオエージェントを同定する単位複製配列を使用する三角測量同定工程によって克服される。
【0209】
一部の態様において、塩基組成確率群は、塩基組成の潜在的な誤分類を回避するために、潜在的なプライマ対をスクリーニングする手段を提供する。他の態様において、塩基組成確率群は、割り当てられた塩基組成が、その核酸配列における進化的変遷のために、バイオエージェントを同定する単位複製配列塩基組成データベースにおいて以前に観察されていない、および/または指標付けされていないバイオエージェントの同一性を予測する手段を提供する。したがって、プローブベースの技術とは対照的に、塩基組成の質量分析決定は、測定を行うための組成または配列の予備知識を必要としない。
【0210】
本明細書に開示した方法は、所与のバイオエージェントを同定するのに十分なレベルで、DNA配列決定および系統発生解析と同様のバイオエージェント分類情報を提供する。さらに、(例えば、配列情報が利用不可能な場合)所与のバイオエージェントのこれまで未知の塩基組成を決定する工程は、付加的なバイオエージェント指標付け情報を提供し、それと共に塩基組成データベースを投入することによって、下流の有用性を有する。したがって、今後のバイオエージェント同定の工程は、より多くの塩基組成指標が塩基組成データベースにおいて利用可能になるにつれて、さらに向上する。
【0211】
三角測量同定
一部の例において、単一のバイオエージェントを同定する単位複製配列単独の分子量は、所与のバイオエージェントを明確に同定するのに十分な分解能を提供しない。バイオエージェントを同定するために、1つより多いバイオエージェントを同定する単位複製配列を用いることを、本明細書において「三角測量同定」と称する。三角測量同定は、複数のハウスキーピング遺伝子内で選択された複数のバイオエージェントを同定する単位複製配列の分子量を決定することによって行われる。この工程は、偽陰性および偽陽性信号を減少させ、ハイブリッド起源あるいはその他操作されたバイオエージェントの再構築を可能にするために使用される。例えば、炭疽菌からの予想される特徴が存在しない場合における、炭疽菌に典型的な3部構成の毒素遺伝子の同定(Bowen et al.,J.Appl.Microbiol.,1999,87,270−278)は、遺伝子操作現象を示唆するであろう。
【0212】
一部の態様において、三角測量同定工程は、多数のプライマが同じ増幅反応物中で用いられる多重PCR、またはマルチウェルプレートにおけるPCR等のポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction:PCR)を使用する超並列方法で、バイオエージェントを同定する単位複製配列の特徴付けによって行うことができ、異なるおよび固有の対のプライマは、その他同一の反応混合物を含有する多数のウェル中で使用される。そのような多重およびマルチウェルPCR方法は、核酸の急速スループット増幅に関する当業者には既知である。他の関連する態様において、ウェルまたは容器当たり1つのPCR反応が行われてもよく、続いて、単位複製配列プール段階が行われてもよく、異なるウェルの増幅産物は、次いで、分子量解析を行う単一ウェルまたは容器中で組み合わせられる。プールした単位複製配列の組み合わせは、予想範囲の分子量の個々の単位複製配列が重複せず、したがって、信号の同定が複雑化しないように選択することができる。
【0213】
コドン塩基組成解析
一部の態様において、感染性生物の遺伝子のコドン内における1つ以上のヌクレオチド置換は、コドン塩基組成解析によって決定することができる生物に薬剤耐性を与える。生物は、細菌、ウイルス、真菌または原虫であることができる。
【0214】
一部の態様において、解析されるコドンを含有する増幅産物は、長さ約39から約200核酸塩基である。増幅産物を得るために用いられるプライマは、コドンに直接隣接する上流および下流配列とハイブリダイズすることができ、またはコドンから離れた1つ以上の配列位置である上流および下流配列とハイブリダイズすることができる。プライマは、解析されるコドンを含有する遺伝子の配列との、約70%から100%配列相補性を有してもよい。
【0215】
一部の態様において、コドン解析は、個体における遺伝性疾患を調査する目的で行われる。他の態様において、コドン解析は、細菌、ウイルス、真菌または原虫等の感染性生物における薬剤耐性突然変異または任意の他の有害突然変異を調査する目的で行われる。一部の態様において、バイオエージェントは、生物由来物質中で同定された細菌である。
【0216】
一部の態様において、解析されるコドンを含有する増幅産物の分子量は、質量分析によって測定される。質量分析は、エレクトロスプレー(Electrospray:ESI)質量分析またはマトリックス支援レーザー脱離イオン化(Matrix−Assisted Laser Desorption Ionization:MALDI)質量分析のいずれか一方であることができる。飛行時間型(Time−Of−Flight:TOF)は、本明細書に開示した方法に適合する質量分析の一様式の例である。
【0217】
また、本明細書に開示した方法は、解析される生物の薬剤耐性菌株の相対存在量を決定するためにも用いることができる。相対存在量は、内部カリブラント(calibrant)と関係する質量スペクトル信号の振幅から計算することができる。一部の態様において、既知の量の内部増幅カリブラントは、既知の量のカリブラントとの関連で推定された被分析増幅産物の増幅反応および存在量に含めることができる。
【0218】
一部の態様において、個体を感染させる感染性生物の1つ以上の薬剤耐性菌株の同定後、個体を治療するために、1つ以上の代替的な治療を考案することができる。
【0219】
較正単位複製配列を使用したバイオエージェントの量の決定
一部の態様において、未知のバイオエージェントの同一性および量は、図9に例証した工程を使用して決定することができる。プライマ(500)および既知の量の較正ポリヌクレオチド(505)を、未知のバイオエージェントの核酸を含有する試料に添加する。次いで、試料中の総核酸は、増幅産物を得るために、増幅反応(510)を施す。増幅産物(515)の分子量が決定され、それから分子量および存在量データが得られる。バイオエージェントを同定する単位複製配列の分子量(520)は、その同定手段(525)を提供し、較正ポリヌクレオチド(530)から得られた較正単位複製配列の分子量は、その同定手段(535)を提供する。バイオエージェントを同定する単位複製配列の存在量データ(540)を記録し、較正データに対する存在量データ(545)を記録し、その両方を、試料中の未知のバイオエージェントの量を決定する計算(550)に使用する。
【0220】
未知のバイオエージェントを含む試料は、バイオエージェントから核酸を、ならびに較正配列を含む既知の量のポリヌクレオチドを増幅するための手段を提供する一対のプライマと接触する。バイオエージェントおよび較正配列の核酸が増幅され、増幅の速度は、バイオエージェントおよび較正配列の核酸と同様であることが合理的に想定される。次いで、増幅反応は、バイオエージェントを同定する単位複製配列および較正単位複製配列の2つの増幅産物を生成する。バイオエージェントを同定する単位複製配列および較正単位複製配列は、基本的に同じ速度で増幅される一方で、分子量によって識別可能であるべきである。効果的な差別的分子量は、較正配列、代表的なバイオエージェントを同定する単位複製配列(バイオエージェントの特異的な種から)として選択することによって、ならびに、例えば、2つのプライミング部位間の可変領域における2−8核酸塩基欠失または挿入を行うことによって達成することができる。次いで、バイオエージェントを同定する単位複製配列および較正単位複製配列を含有する増幅した試料は、例えば、質量分析による分子量解析を行う。バイオエージェントおよび較正配列の核酸の結果として生じる分子量解析は、バイオエージェントおよび較正配列の核酸に対する分子量データおよび存在量データを提供する。試料と接触する較正ポリヌクレオチドの量の知識に基づいて、バイオエージェントの核酸に対して得られた分子量データは、未知のバイオエージェントの同定を可能にし、存在量データは、バイオエージェントの量の計算を可能にする。
【0221】
一部の態様において、試料中にスパイクされた較正ポリヌクレオチドの量が異なる標準曲線の構造は、試料中のバイオエージェントの量を決定するために、付加的な分解能および向上された信頼度を提供する。分子量の分析判断に対する標準曲線の使用は、当業者には既知である、過度の実験なく行うことができる。
【0222】
一部の態様において、多数のバイオエージェントを同定する単位複製配列が、対応する標準較正配列もまた増幅する多数のプライマ対で増幅される多重増幅を行う。このまたは他の態様において、標準較正配列は、較正ポリヌクレオチドとして機能する単一ベクター内に任意で含むことができる。多重増幅方法は当業者に既知であり、過度の実験をすることなく行うことができる。
【0223】
一部の態様において、カリブラントポリヌクレオチドは、増幅条件およびその後の解析段階が、測定可能な単位複製配列を生成するために良好であるかを確認するため、内部陽性対照として使用する。バイオエージェントのゲノムのコピーが存在しない場合でさえも、較正ポリヌクレオチドは、較正単位複製配列を生じさせるはずである。測定可能な較正単位複製配列を生成できないことは、単位複製配列精製または分子量決定等の増幅またはその後の解析段階の失敗を示す。そのような失敗が生じたという結論を下すことそれ自体は、有用な現象である。
【0224】
一部の態様において、較正配列は、DNAから成る。一部の態様において、較正配列は、RNAから成る。
【0225】
一部の態様において、較正配列を、それ自体が較正ポリヌクレオチドとして機能するベクターに挿入する。一部の態様において、1つより多い較正配列を、較正ポリヌクレオチドとして機能するベクターに挿入する。そのような較正ポリヌクレオチドは、「組み合わせ較正ポリヌクレオチド」と本明細書において称する。ポリヌクレオチドをベクターに挿入する工程は、当業者にはありふれたものであり、過度の実験を行うことなく達成することができる。したがって、較正方法は、本明細書に記述した態様に限定されるべきではないことを認識すべきである。較正方法は、適切な標準カリブラントポリヌクレオチド配列が設計および使用される時に、任意のバイオエージェントを同定する単位複製配列の量を決定するために適用することができる。また、カリブラントの挿入に適切なベクターを選択する工程は、過度の実験を行うことなく当業者により達成されることができるありふれた操作である。
【0226】
バイオエージェントを同定する単位複製配列を使用する細菌の同定
他の態様において、プライマ対は、細菌の核酸の安定かつ高度な保存領域で、プライミング領域により定義されるバイオエージェントを同定する単位複製配列を生成する。高度な保存領域の範囲内に入るプライミング領域によって定義される単位複製配列の特徴付けの利点は、領域が、プライマ認識の時点を過ぎて進化する可能性が低いことであり、この場合において、増幅段階のプライマハイブリダイゼーションは失敗するであろう。したがって、このようなプライマ対は、広範囲調査型プライマ対として有用である。別の態様において、高度プライマは、上記の安定領域よりもより迅速に進化する領域を含むバイオエージェントを同定する単位複製配列を生成する。進化するゲノム領域に対応するバイオエージェントを同定する単位複製配列の特徴付けの利点は、新興菌株変異形または薬剤耐性を誘発する病原性遺伝子、薬剤耐性遺伝子、またはコドン突然変異の存在を識別するのに有用なことである。
【0227】
本明細書に開示した方法は、例えば、黄色ブドウ球菌の薬剤耐性菌株等の新興細菌菌株によって生じる疾患を同定するためのプラットホームとして有意な利点を有する。本明細書に開示した方法は、ハイブリダイゼーションプローブを産生するために、バイオエージェント配列に関する予備知識の必要性を排除する。これは、バイオエージェントを同定する単位複製配列の生成のために鋳型として機能する配列中で発生する自然発生の進化的変動に、方法が影響されないために可能である。分子量の測定および塩基組成の決定は、配列偏見のない公平な方法で達成される。
【0228】
また、別の態様は、異なる位置から得られた複数の試料を、疫学的状況において上記の方法によって解析した場合に、特定の薬剤耐性菌株等の細菌の伝播を追跡する手段もまた提供する。一態様において、複数の異なる位置からの複数の試料は、バイオエージェントを同定する単位複製配列を生成するプライマ対で解析され、そのサブセットは、特定の薬剤耐性の細菌菌株を含有する。薬剤耐性菌株サブセットのメンバーの対応する位置は、対応する位置への特定の薬剤耐性菌株の伝播を示す。
【0229】
別の態様は、セプシスを誘発する細菌を同定する手段を提供する。セプシスを誘発する細菌は、血液およびその画分(血清およびバフィーコートを含むがこれらに限定されない)、痰、尿、肝細胞を含むがこれに限定されない特異的細胞型、および種々の組織生検を含むがこれらに限定されない試料中で同定される。
【0230】
セプシスを誘発する細菌は、以下の細菌を含むがこれらに限定されない。プレボテラデンティコラ(Prevotella denticola)、ポルフィロモナスジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、ボレリアブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)、結核菌、マイコバクテリウムフォーチュイタム(Mycobacterium fortuitum)、コリネバクテリウムジェイケイウム(Corynebacterium jeikeium)、プロピオニバクテリウムアクネス(Propionibacterium acnes)、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)、ストレプトコッカスアガラクチア、肺炎球菌、ストレプトコッカスミティス、化膿性連鎖球菌、リステリア菌、エンテロコッカスフェカリス、エンテロコッカスフェシウム、黄色ブドウ球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、溶血性ブドウ球菌(Staphylococcus hemolyticus)、カンピロバクタージェジュニ(Campylobacter jejuni)、百日咳菌(Bordetella pertussis)、セパシア菌(Burkholderia cepacia)、レジオネラニューモフィラ(Legionella pneumophila)、アシネトバクターバウマンニ、アシネトバクターカルコアセティカス(Acinetobacter calcoaceticus)、緑膿菌、エロモナスハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)、エンテロバクターエロゲネス、エンテロバクタークロアカ、クレブシエラニューモニエ、モキサレラカタラーリス(Moxarella catarrhalis)、モルガン菌(Morganella morganii)、プロテウスミラビリス、プロテウスブルガリス(Proteus vulgaris)、パントエアアグロメランス(Pantoea agglomerans)、ヘンセラ菌(Bartonella henselae)、ステノトロホモナスマルトフィリア、アクチノバチルスアクチノミセタムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)、インフルエンザ菌、大腸菌、クレブシエラオキシトカ、セラチアマルセセンス、およびエンテロコリチカ菌(Yersinia enterocolitica)。
【0231】
一部の態様において、セプシスを誘発する細菌の同定は、セプシスを誘発する細菌に感染した個体を治療するための抗生物質を選択し、抗生物質で個体を治療するのに必要な情報を提供する。抗生物質でのヒトの治療は、医療施術者には既知である。
【0232】
バイオエージェントを同定する単位複製配列を生成するためのキット
本明細書に開示した方法を行うためのキットもまた提供する。一部の態様において、キットは、バイオエージェントを同定する単位複製配列を形成するために、バイオエージェントからの標的ポリヌクレオチドに対する増幅反応を行うのに十分な量の1つ以上のプライマ対を含んでもよい。一部の態様において、キットは、1から50のプライマ対、1から20のプライマ対、1から10のプライマ対、または2から5のプライマ対を含んでもよい。一部の態様において、キットは、米国特許出願第11/409,535号の表2に記載される1つ以上のプライマ対を含んでもよい。
【0233】
一部の態様において、キットは、1つ以上の広範囲調査プライマ、部門全体のプライマ、もしくはドリルダウンプライマ、またはそれらの任意の組み合わせを含む。所与の問題が、特定のバイオエージェントの同定を伴うのであれば、問題への解決策は、問題への解決策を提供するために、プライマの特定の組み合わせを選択する必要があり得る。キットは、特定のバイオエージェントの同定のために、特定のプライマ対を含むことができるように設計されてもよい。ドリルダウンキットは、例えば、異なる遺伝子型もしくは菌株、薬剤耐性、あるいはその他を識別するために使用されてもよい。一部の態様において、これらのキットのいずれからのプライマ対成分は、細菌を同定することができるように、広範囲調査プライマと部門全体のプライマとの付加的な組み合わせを含むようにさらに組み合わされてもよい。
【0234】
一部の態様において、キットは、内部増幅カリブラントとして使用するための標準較正ポリヌクレオチドを含有する。内部カリブラントは、共同所有のPCT公開番号WO第2005/098047号に記載され、参照することによりその全体が本願明細書に組み込まれる。
【0235】
一部の態様において、キットは、上記の増幅工程のために、十分な量の逆方向転写酵素(例えば、RNAが解析される場合)、DNAポリメラーゼ、好適なヌクレオシド三リン酸塩(イノシン等の代替的なdNTPまたは5−プロピニルピリミジン等の修飾dNTPあるいは上記のもの等の分子量修飾タグを含有する任意のdNTPを含む)、DNAリガーゼ、および/または反応緩衝液、またはそれらの任意の組み合わせを含む。キットは、キットの特定の態様に適切な説明書をさらに含んでもよく、そのような説明書は、該方法の操作に必要なプライマ対および増幅条件を説明する。また、キットは、微小遠心管等の増幅反応容器を含んでもよい。また、キットは、例えば、電磁ビーズに連結され得る洗剤、溶剤、またはイオン交換樹脂を含む、バイオエージェント核酸またはバイオエージェントを同定する単位複製配列を増幅から単離するための試薬または他の材料も含んでよい。また、キットは、キットのプライマ対を使用して、測定または計算されたバイオエージェントの分子量および/または塩基組成の表を含んでもよい。
【0236】
一部の態様は、プライマ対組成物によって表される1つ以上の調査細菌プライマ対を含有するキットであり、プライマの各対の各メンバーは、米国特許出願第11/409,535号の表2のプライマ対のいずれかによって表されるプライマ対のグループからの対応するメンバーと、70%から100%配列同一性を有する。調査プライマ対は、リボソームRNAとハイブリダイズする広範囲プライマ対を含んでもよく、また、例えば、rplB、tufB、rpoB、rpoC、valS、およびinfB等のハウスキーピング遺伝子とハイブリダイズする部門全体のプライマ対を含んでもよい。
【0237】
一部の態様において、キットは、米国特許出願第11/409,535号の表8、12、14、19、21、23、または24のプライマ対等の1つ以上の調査細菌プライマ対および1つ以上の三角測量遺伝子型分析プライマ対を含有してもよい。一部の態様において、キットは、拡張性が低い遺伝子型分析を表し得るが、しかし、細菌の1つより多い属または種に対する三角測量遺伝子型分析プライマ対を含み得る。例えば、医療施設での院内感染を調査するためのキットは、例えば、1つ以上の広範囲調査プライマ対、1つ以上の部門全体のプライマ対、1つ以上のアシネトバクターバウマンニ三角測量遺伝子型分析プライマ対および1つ以上の黄色ブドウ球菌三角測量遺伝子型分析プライマ対を含んでもよい。当業者は、どのプライマ対が、関心細菌バイオエージェントに最適な同定分解能を提供することができるかを決定するために、インシリコ増幅データを解析することが可能である。
【0238】
一部の態様において、キットは、セプシスを誘発する細菌を同定するために構築されてもよい。そのようなキット態様の例は、セプシスを誘発する細菌の広範囲調査を提供する米国特許出願第11/409,535号の表25のプライマ対の1つ以上を含む。
【0239】
キットの一部の態様は、dNTP、緩衝液塩、Mg2+、ベタイン、およびプライマ対の成分のいずれかまたは全てを含有する複数のウェルを有する96ウェルまたは384ウェルプレートである。一部の態様において、また、ポリメラーゼは、96ウェルまたは384ウェルプレートの複数のウェルにも含まれる。
【0240】
キットの一部の態様は、キットのプライマ対を使用して得られた増幅産物のPCRおよび質量分析解析に対する説明書を含有する。
【0241】
キットの一部の態様は、キットを独自に同定するバーコードと生産ロットに従ってその中に含有される成分とを含み、また、濃度、保存温度等の成分に関する任意の他の情報を含んでもよい。また、バーコードは、任意のバーコードリーダーによって読み込まれ、コンピュータ制御の増幅、精製および質量分析測定に送信される解析情報を含んでもよい。一部の態様において、バーコードは、所与のキットからのプライマ対で測定された塩基組成を、そのキットのプライマ対によって定義されるバイオエージェントを同定する単位複製配列の既知の塩基組成と比較することができるように、塩基組成解析ソフトウェアとデジタル通信している塩基組成データベース中の塩基組成のサブセットへのアクセスを提供する。
【0242】
一部の態様において、キットは、キットのプライマ対によって定義されるバイオエージェントを同定する単位複製配列の塩基組成のデータベースを含有する。データベースは、例えば、コンパクトディスクまたはUSBドライブ等の便利なコンピュータに読み取り可能な媒体に保存される。
【0243】
一部の態様において、キットは、工程を指導するまたは本明細書に開示したプライマ対の使用から得たデータを解析するための説明書を含む、コンピュータフォーマット済みの媒体(例えば、コンパクトディスクまたは携帯用USBディスクドライブ)を含む。ソフトウェアの説明書は、増幅産物に関連するデータを、バイオエージェントの同定および/または分類において使用される有用な具体的かつ明確な結果である分子量または塩基組成に変換する。一部の態様において、キットは、本明細書に開示した1つ以上の方法を行うのに十分な全ての試薬を含有する。
【0244】
バイオエージェントを同定する単位複製配列を得るための標的全ゲノム増幅プライマおよびプライマ対を含む組み合わせキット
一部の態様において、バイオエージェントを同定する単位複製配列の生成のために、標的全ゲノム増幅プライマおよびプライマ対を含むキットを提供する。これらのキットは、例えば、ヒト病原体等の病原体が、ヒト臨床試料において少量のみ存在する用途において使用するためのものである。そのようなキットの例は、敗血症に関わる細菌を選択的に増幅するための一連の標的全ゲノム増幅プライマを含み得る。標的全ゲノム増幅プライマは、炭疽菌を持つ個体の感染を検出する目的で、バックグラウンドゲノムとして選択されたヒトゲノムDNAを用いて設計される。また、キットは、細菌を同定するためのバイオエージェントを同定する単位複製配列に対応する増幅産物を生成するための1つ以上の広範囲調査プライマ対および/または部門全体のプライマ対も含むであろう。任意で、1つ以上のドリルダウンプライマ対は、付加的なバイオエージェントを同定する単位複製配列の解析によって、敗血症の亜種特徴を決定するためのキットに含まれる。
【0245】
また、これらの組み合わせキットは、例えば、バイオエージェントを同定する単位複製配列に対応する増幅産物を得るためのTaqポリメラーゼ等の、ならびに関心標的ゲノムの量を増加させるために行われる標的全ゲノム増幅反応に対する多置換増幅反応の触媒作用に好適な高処理能力ポリメラーゼであるPhi29ポリメラーゼ等の、メンバーがPCRタイプ増幅反応に特化した複数のポリメラーゼ酵素を含んでもよい。
【0246】
また、組み合わせキットは、デオキシヌクレオチド三リン酸塩、ベタインおよびトレハロース等の適合溶質、緩衝液成分、ならびに塩化マグネシウム等の塩を含むが、これらに限定されない増幅試薬を含んでもよい。
【0247】
本発明は、その態様の確信に従って特異性と共に説明したが、以下の例は、本発明を例証する目的のみであり、本発明を制限するものではない。本明細書に開示した本発明がより効率的に理解され得るように、例を以下に提供する。これらの例は、例証目定のみであり、どのような方法であっても本発明を制限するものと解釈されないことを理解すべきである。
【0248】
実施例1:ゲノム配列セグメントの同定および順位
この実施例は、長さが6から12核酸塩基の固有のゲノム配列セグメントを同定し、ならびに、配列aaaaaaaattttttttccccccccgggggggg((配列番号:17)Bkg1:A8 T8 C8 G8の塩基組成)およびaaaaaaaaaatttttttttt((配列番号:18)Bkg2:A10 T10 C0 G0の塩基組成)を有する2つのバックグラウンドゲノムをともなう配列aaaaaaaaaattttttttttccccccccccgggggggggg((配列番号:16)A10 T10 C10およびG10の塩基組成)を有する単一標的ゲノムから成る単純化された仮定上のゲノムモデルシステムへの出現頻度および選択性比率値を決定する工程を例証する。表2は、標的ゲノムへの全ての固有のゲノム配列セグメントのリストを提供し、標的ゲノムにおけるおよびバックグラウンドゲノムにおける各ゲノム配列セグメンの出現頻度を示す。例えば、8つの連続的c残基cccccccc(配列番号:445)を有するゲノム配列セグメントは、単純化された仮定上の標的ゲノムにおいて、c残基の10核酸塩基伸長内で3回(太字)出現するが、
aaaaaaaaaattttttttttccccccccccgggggggggg(配列番号:16)、aaaaaaaaaattttttttttccccccccccgggggggggg(配列番号:16)、aaaaaaaaaattttttttttccccccccccgggggggggg(配列番号:16)、(下線のc残基伸長)しかし、バックグラウンドゲノム(ゲノム配列セグメントは、Bkg1内で1回出現し、Bkg2内で出現しない)内では1回のみである。このゲノム配列セグメントへの選択性比率は、標的ゲノム中の出現頻度を、バックグラウンドゲノム中の出現頻度で除算することによって決定されるように、3.00である。表2のデータは、選択性比率順位に従って分類される。無限大の選択性比率(∞)は、ゲノム配列セグメントがバックグラウンドゲノム(Bkg1およびBkg2)内で発生しないことを示す。標的ゲノム内のゲノム配列セグメントの平均出現頻度は、1.22となるように計算され、平均選択性比率は、0.76となるように計算された。所望される場合、これらの値は、例えば、図2に示す工程等の工程によってさらに特徴付けるために、ゲノム配列セグメントの1つ以上のサブセットを選択するための閾値として使用され得る。あるいは、平均出現頻度または平均選択性比率より大きいまたは未満の閾値が選択され得る。
【0249】
(表2)仮定上の標的ゲノムおよび2つの仮定上のバックグラウンドゲノムにおけるゲノム配列セグメントの出現頻度
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【0250】
実施例2:標的全ゲノム増幅に対するプライマの設計のためのインシリコ方法
本明細書に開示した方法の一部の態様は、標的全ゲノム増幅のためにプライマを選択するインシリコ方法である。プライマは、標的ゲノムおよびバックグラウンドゲノムを最初に定義することによって選択する。標的ゲノムに対して、長さが約5から約13核酸塩基の長さの全ての固有のゲノム配列セグメントを、コンピュータに読み取り可能な媒体に保存された一連のコンピュータが実行可能な命令によって決定する。
【0251】
一部の態様において、標的およびバックグラウンドゲノムセグメントは、例えば、GenBank等の公開データベースから得られる。標的ゲノムおよびバックグラウンドゲノム内のメンバーの出現頻度値を、例えば、BLASTアルゴリズム等のコンピュータが実行可能な命令によって決定する。ゲノム配列セグメントのメンバーの選択性比率値は、コンピュータが実行可能な数学的命令によって決定する。一部の態様において、インシリコ方法は、出現頻度および/または選択性比率に従ってゲノム配列セグメントを順位付ける。一部の態様において、出現頻度閾値は、前進させるようにゲノム配列セグメントのサブセットを定義するために選択される。
【0252】
一部の態様において、選択性比率閾値は、前進させるようにゲノム配列セグメントのサブセットを定義するために選択される。一部の態様において、選択性比率閾値は、平均選択性比率の約25%超または約25%未満の間の任意の整数または分数の割合である。例えば、平均選択性比率が55である場合、選択した選択性比率閾値は、約41.25から約68.75の間の任意の整数または分数であってもよい。他の態様において、出現頻度閾値および選択性比率閾値の両方が選択され、これらの閾値のどちらもが、前進させるようにゲノム配列セグメントのサブセットを定義するために使用される。ゲノム配列セグメントは、選択した閾値に従って順位付けされる。
【0253】
この時点で、図2に概説された工程等の工程を行い、上位のゲノム配列セグメントを選択し(1000)、ゲノム配列セグメントのサブセットに付加する。次いで、次に最も高い順位のゲノム配列セグメントを選択し(2000)、次に高い順位のゲノム配列セグメントが、最大残余分離距離(選択したゲノム配列セグメントを有していないゲノムの残余部分)内から生じるかどうかを決定する第1のコンピュータが実行可能なクエリー(3000)を行う。次に最も高い順位のゲノム配列セグメントが、最大分離距離内から生じないのであれば、省略し(しかし任意抽出のゲノム配列セグメントのグループにおいて同じ順位を維持する)、工程は、段階2000に戻る。次に最も高い順位のゲノム配列セグメントが、最大分離距離内から生じるのであれば、選択され、プライマが設計される一連のゲノム配列セグメントに付加される(4000)。図2の段階1000から5000(段階2000と5000との間のサイクルを含む)の操作の実施例は、以下の通りである。上位のゲノム配列セグメント(1位)を、段階1000において初期設定で選択する。ゲノム配列セグメント1位の選択の結果として、2つの分離距離のみが標的ゲノム上に残る。2つの分離距離のうちの一方が、1位ゲノム配列セグメントの5´末端からゲノムの5´末端に伸展し、2つの分離距離のうちの他方が、1位ゲノム配列セグメントの3´末端からゲノムの5´末端に伸展する。この実施例において、ゲノムの5´末端から1位ゲノム配列セグメントの5´末端までが最長の分離距離を有すると推定される。段階2000において、次に最も高い順位のゲノム配列セグメント(この例においては2位)を選択する。段階3000(クエリー1)では、第2位のゲノム配列セグメントが、ゲノムの5´末端と1位ゲノム配列セグメントの5´末端との間のこの最長の分離距離内に位置するかどうかを決定する。第2位のゲノム配列セグメントが、この最長の分離距離内に位置しないのであれば、選択されずに任意抽出のグループに残り、一方、工程は、次に最も高い順位のゲノム配列セグメント(3位)が、順位付けされたゲノム配列セグメントのリストから選択される段階2000に戻る。ゲノム配列セグメント3位に関して段階3000を行う時に、このゲノム配列セグメントが最大分離距離内に位置していることが決定される。したがって、ゲノム配列セグメント3位は、段階4000においてサブセットに付加される。この時点で、ゲノム配列セグメント1位および3位のみがサブセットに付加されている。段階5000において、所定の量のゲノム配列セグメント(例えば、200ゲノム配列セグメント)が得られていないことが確認される(2つのゲノム配列セグメントのみがこれまで選択されていたため)。クエリー2(5000)への回答は、「いいえ」であり、工程サイクルは、次の順位のゲノム配列セグメントが選択される段階2000に戻る。この実施例において、次の順位のゲノム配列セグメントは、先のサイクルにおいてそれが省略されたために2位である。段階3000において、クエリー1は、ゲノム配列セグメントが現在最大分離距離の範囲内に入ることを決定する(先のサイクルにおける最大分離距離は、ゲノム配列セグメント3位の出現のために現在のサイクルにおいてもはや最大ではないため)。したがって、ゲノム配列セグメント2位は、段階4000においてサブセットに付加される。次いで、段階5000を行い、クエリー2への回答は、これまで3つのゲノム配列セグメントのみが選択されていたために「いいえ」である。再び、工程サイクルは、段階2000に戻り、段階2000と5000との間でサイクルを継続し、各サイクルにおいて次に最も高い順位のゲノム配列セグメントを選択し、所定量のゲノム配列セグメントが得られるまで、段階3000と段階5000のクエリーを行う。
【0254】
一部の態様において、所定数のゲノム配列セグメントは、選択したゲノム配列セグメントとハイブリダイズするプライマによるゲノムの一貫して分散されたカバー率を提供するのに十分である。一部の態様において、この所定数のゲノム配列セグメントは、それらの間の任意の数を含む約100から約300のゲノム配列セグメントである。
【0255】
所定数は、標的ゲノムの長さに依存する。例えば、より長いゲノムは、さらなるプライマカバー率を必要とする場合があり、従って、プライマハイブリダイゼーション部位として機能するように、より多い所定数のゲノム配列セグメントを選択することが有利となり得る。一部の態様において、一群のゲノム配列セグメントが選択された後、表5に示されたもの等の統計的尺度は、ゲノム配列セグメントとハイブリダイズするように設計された一群のプライマが、関心標的ゲノムの効率的且つ偏った増幅を生成する可能性を評価するために使用され得る。統計が不十分であると見なされた場合、標的ゲノムのより大きなカバー率を提供するために、所定数のゲノム配列セグメントを、より大きな数に修正することを検討することが有利であり得る。この統計的評価工程は、プライマの全グループのインビトロ検査の不必要な費用を回避するために有用である。
【0256】
ここで図2の工程を継続すると、第2のクエリー(5000)への回答が「はい」である場合、所定量のゲノム配列セグメントが得られた。この時点で、「中止基準/基準」が満たされているかどうかを決定するために、第3のコンピュータが実行可能なクエリー(6000)を行う。「中止基準/基準」は、方法命令およびインシリコのクエリーが終了(7000)する前に、インシリコ方法が経過しなければならないゲノム配列セグメントカバー率に関する最終閾値を表す。中止基準が満たされなかった場合、工程は、必要に応じて選択性閾値の調整をし、段階2000に戻る(6500)。
【0257】
一部の態様において、単一中止基準を使用する。他の態様において、1つより多い中止基準を使用する。一態様において、1つの中止基準は、標的ゲノム配列内のゲノム配列セグメント間の平均分離距離を反映する値である。例えば、ゲノム配列セグメント間の平均距離は、約500、600、700、900、もしくは1000核酸塩基またはその間の任意の整数もしくは分数の核酸塩基以下の整数もしくは分数である。他の態様において、中止基準は、標的ゲノム配列内のゲノム配列セグメント間の平均距離であるか、または標的ゲノム配列内のゲノム配列セグメント間の平均距離を上回るもしくは下回る値である。
【0258】
他の態様において、中止基準は、標的ゲノム配列内の任意の2つの選択したゲノム配列セグメント間の最大距離である。例えば、任意の2つのゲノム配列セグメント間の適切な最大距離は、約5,000、6,000、7,000、8,000、9,000もしくは10,000核酸塩基またはそれらの間の任意の数字以下であり得る。
【0259】
一部の態様において、中止基準もしくは基準が満たされ、コンピュータが実行可能な命令が完了した後、インシリコ方法は、ゲノム配列セグメントのリストを含む出力報告を生成する。報告は、印刷されてもよく、グラフィカルインターフェース上に表示されてもよく、または選択工程の結果を表示するための任意の他の手段で表示されてもよい。また、インシリコ方法は、ゲノム配列セグメントとハイブリダイズするプライマを設計するための手段を提供してもよい。
【0260】
実施例3:標的全ゲノム増幅に対するプライマセットの選択
標的全ゲノム増幅への第1の例において、炭疽菌エイムスを、単一標的ゲノムとして選択した。バックグラウンドゲノムのセットは、ホモサピエンス、ニワトリ、ギラルディアシータ、イネ、シロイヌナズナ、ヤロイアリポリチカ、サッカロマイセスセレヴィシエ、デバリオマイセスハンセニイ、クルイベロミセスラクチス、分裂酵母、アスペルギルスフミガーツス、クリプトコッカスネオフォルマンス、エンセファリトゾーンクニクリ、エレモテシウムゴシッピ,カンジダグラブラタ、セイヨウミツバチ、キイロショウジョウバエ、コクヌストモドキ、ガンビアハマダラカ、および線虫のゲノムを含んだ。これらのバックグラウンドゲノムは、ヒトによって処理された典型的な土質試料中に存在することが予期されるために選択された。
【0261】
長さが7から12核酸塩基の固有のゲノム配列セグメントを同定した。出現頻度および選択性比率値を決定した。その結果として、200ゲノム配列セグメントを同定した。多くの例において、プライマは、その対応するゲノム配列セグメントと100%相補性でハイブリダイズするように設計した。他のいくつかの例では、縮重プライマを調製した。プライマの縮重塩基は、標的炭疽菌ゲノム内の多義性を有する位置と相補的な位置で、または単一ヌクレオチド多型の影響を受けやすいと知られるまたは考えられる位置と相補的な位置で生じる。ゲノム配列セグメントとハイブリダイズするように設計された200プライマ(表3)は、組み合わされた合計12822のハイブリダイゼーション部位を有することが分かった。ゲノム配列セグメントと、それとハイブリダイズするプライマの平均分離距離は、長さが815核酸塩基であることが分かった。ゲノム配列セグメントと、それとハイブリダイズするプライマとの間の最大距離は、長さが5420核酸塩基であることが分かった。バックグラウンドゲノムと比べた標的ゲノムへのプライマのハイブリダイゼーションの平均「頻度バイアス」は、3.31となるように計算し、平均プライマは、バックグラウンドゲノム配列とハイブリダイズする1つ1つの位置に対する標的ゲノム配列上の3.31の異なる位置でハイブリダイズすることを示す。
【0262】
標的全ゲノム増幅反応対従来の全ゲノム増幅の効率を検査するように設計された実験において、反応は、100ナノグラムのヒトゲノムDNAの存在下で、50、100、200、および400フェムトグラムの炭疽菌SterneゲノムDNAを使用して行った。増幅した量のDNAを決定し、標的全ゲノム増幅反応は、ヒトゲノムDNAよりも、炭疽菌SterneゲノムDNAの増幅に向けて、はるかに大きい特異性をもたらしたことが分かった。図3Aは、上記の条件下で、長さが6核酸塩基のランダムプライマを使用した通常の全ゲノム増幅が、期待されるように、より多量のヒトゲノムDNAの生成をもたらすことを示す。一方で、図3Bは、炭疽菌SterneゲノムDNAの量が、ヒトゲノムDNAよりもはるかに低量だったにも関わらず、上記の200プライマは、ヒトDNAと比べて、炭疽菌SterneゲノムDNAを選択的に増幅することを示す。
【0263】
さらなる標的ゲノムをプライマ設計工程に対して選択した第2の実験を行った。総標的ゲノムのグループは、以下の潜在的な生物戦剤のゲノムを含んだ。炭疽菌、野兎病菌、ペスト菌、ブルセラ菌、鼻疽菌、発疹チフスリケッチア、および大腸菌O157。バックグラウンドゲノムのグループを伸長した。バックグラウンドゲノム中のゲノム配列セグメントの出現頻度を決定するために、完全一致BLASTを使用した。より多数のゲノム配列セグメントを解析し、クエリー3(図2−6000)を自動化した。
【0264】
第1の実験において設計した200プライマを表3に示し、第2の実験において設計した191プライマを表4に示す。表3および4において、星印(*)は、ホスホロチオエート結合を示し、縮重核酸塩基コードは以下の通りである。r=aまたはg、k=gまたはt、s=gまたはc、y=cまたはt、m=aまたはc、およびw=aまたはt。
【0265】
(表3)第1の産生標的全ゲノム増幅プライマセット
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【0266】
(表4)第2の産生標的全ゲノム増幅プライマセット
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【0267】
表5は、第1および第2の実験から得た統計の比較を示す。統計は、第2の産生実証実験の条件下で、標的炭疽菌ゲノムのより選択的および効率的なプライミングが予期される可能性を示す。
【0268】
(表5)第1および第2の実験の統計比較
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【0269】
第2の産生実験の結果を図4Aおよび4Bに示す。第2の実験結果に加えられた選択工程への修正は、炭疽菌標的ゲノムの増幅に偏るさらに効率的な標的全ゲノム増幅反応をもたらすことが明白である。表4のプライマは、従来の全ゲノム増幅(WGA)および第1の産生プライマセット(表3)よりも、ヒトDNAをあまり生成せず、炭疽菌DNAをさらに生成する。さらに、頻度バイアスは、表6に示すように、残存標的ゲノムに対してさらに高かったことが分かった。
【0270】
(表6)第2の実験の標的ゲノムに対するゲノム配列セグメントの統計比較
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【0271】
実施例4:標的全ゲノム増幅プロトコル
標的全ゲノム増幅反応混合物は、5マイクロリットルの鋳型DNA、および0.04025M TRIS HCl、0.00975M TRIS塩基、0.012M MgCl、0.01M(NHSO、0.8Mベタイン、0.8Mトレハロース、25mMの各デオキシヌクレオチド三リン酸塩(Bioline,Randolph,MA,U.S.A)、0.004Mジチオスレイトール、選択したプライマセットの0.05mMのプライマ、ならびに反応混合物のマイクロリットル当たり0.5単位のPhi29ポリメラーゼ酵素で構成した。
【0272】
増幅反応への熱サイクル条件は、以下の通りであった:
1.30℃で4分間
2.15℃で15秒間
3.段階1および2×150繰り返す
4.95℃で10分間保持
5.解析可能な状態となるまで4℃で保持。
【0273】
実施例5:セプシスを誘発する微生物の標的全ゲノム増幅
この実施例は、セプシスを誘発することで知られる生物の標的全ゲノム増幅に対するキットの設計に関する。血流感染を誘発することで知られる以下の微生物のゲノムを含む、標的ゲノムの収集物を構築する。大腸菌、クレブシエラニューモニエ、クレブシエラオキシトカ、セラチアマルセセンス、エンテロバクタークロアカ、エンテロバクターエロゲネス、プロテウスミラビリス、緑膿菌、アシネトバクターバウマンニ、ステノトロホモナスマルトフィリア、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、スタフィロコッカスヘモリチカス、肺炎球菌、化膿性連鎖球菌、ストレプトコッカスアガラクチア、ストレプトコッカスミティス、エンテロコッカスフェシウム、エンテロコッカスフェカリス、カンジダアルビカンス、カンジダトロピカリス、カンジダパラプローシス、カンジダクルセイ、カンジダグラブラタおよびアスペルギルスフミガーツス。健康なヒトの血流は、概して微生物または寄生体を含有しないので、ヒトゲノムのみを単一バックグラウンドゲノムとして選択する。あるいは、ヒトが、例えばHIVまたはHCV等のウイルスに感染していることが既知であったならば、プライマ設計工程時に、HIVまたはHCVのゲノムを、バックグラウンドゲノムとして含めることが可能である。ヒト血流中に一般的に発見されるゲノムは、バックグラウンドゲノムと見なされる。
【0274】
標的およびバックグラウンドゲノムは、GenBank等のゲノムデータベースから得る。標的ゲノムは、長さが5から13核酸塩基の全ての固有のゲノム配列セグメントを同定するために、コンピュータプログラムでスキャンする。コンピュータプログラムは、各標的ゲノム内の固有のゲノム配列セグメントそれぞれの出現頻度をさらに決定および記録する。
【0275】
次いで、ゲノム配列セグメントの出現頻度を決定するために、ヒトゲノムをスキャンする。任意で、例えば、平均出現頻度、あるいは平均出現頻度を25%上回るもしくは下回るまたはその間の任意の整数もしくは分数の割合の出現頻度等の任意の出現頻度閾値基準を選択することによって、低い出現頻度を有するゲノム配列セグメントを除去することで、ゲノム配列セグメントのリスト全体を減少する。例えば、平均出現頻度は、100であり、100を25%上回る125に相当し、100を25%下回る75に相当し、ならびに出現頻度閾値基準は、約75から約125の間の任意の整数または分数であってもよい。この段階が完了した時に、固有のゲノム配列セグメントの本来のリストのサブセットが残る。この時点で、ゲノム配列サブセットのサブセットは、ヒトゲノム内のゲノム配列セグメントそれぞれの出現頻度を決定するために、コンピュータプログラムで解析する。この段階の完了後、サブセットのゲノム配列セグメントは、以下のデータと関連している。各標的ゲノム内の出現頻度およびヒトゲノム内の出現頻度である。値は、総標的出現頻度が、各標的ゲノム内にゲノム配列セグメントの出現頻度を加算することによって計算されることを示す。
【0276】
選択性比率は、総標的出現頻度を背景出現頻度で除算することによって、サブセットのゲノム配列セグメントに対してコンピュータプログラムで計算する。一連の選択性比率計算が完了した時に、ゲノム配列セグメントは、最も高い選択性比率が最も高い順位を受け取ることができるように、それらの選択性比率値によって順位付けられる。次いで、順位付けられたゲノム配列セグメントは、実施例2で説明し、図2で例証した工程に従う。
【0277】
実施例2および図2の工程は、所定量の200ゲノム配列セグメントが到達された時ならびに中止基準が満たされた時に終了する。中止基準は、以下の通りである。標的ゲノム上の選択したゲノム配列セグメント間の平均距離は、500核酸塩基未満であり、標的ゲノム上の選択したゲノム配列セグメント間の最大距離は、5000核酸塩基未満である。これらの値は、標的ゲノムおよび選択したゲノム配列セグメントの既知の配位から、コンピュータプログラムで計算する。
【0278】
プライマ設計段階は、ゲノム配列セグメントの選択工程が完了した後に開始する。ゲノム配列セグメントは、プライマハイブリダイゼーション部位を表し、プライマを、選択したゲノム配列セグメントのそれぞれに結合するように設計する。プライマ設計および検査の初回では、プライマを、選択したゲノム配列セグメントのそれぞれと100%相補的となるように設計する。任意で、プライマに、それらが好ましくない特徴であるかどうかを決定するために、インシリコ解析を行うことができる。好ましくない特徴は、それらの対応する標的ゲノム配列セグメントへの弱い親和性(融解温度によって測定されるような)、プライマ2量体形成、または2次構造の存在を含み得る。所与のプライマにおける好ましくない特徴の同定後、長さを変化させることによって、または修飾核酸塩基を取り込むことによって、プライマを再設計する。
【0279】
プライマ設計(および必要に応じて再設計)が完了次第、標的ゲノムへの増幅効率とバイアスを決定するために、ヒトDNA(背景ヒトゲノムを表す)の存在下で、プライマを合成し、標的ゲノムの増幅によるインビトロ検査を行う。図3および図4に示すもの等の解析は、これらの測定を決定するのに有用である。さらに、表6に示すもの等の統計の解析は、背景ヒトゲノムと比べた標的ゲノムへのバイアスの推定を得るために有用である。
【0280】
プライマ設計および検査が完了した時に、キットを構築する。キットは、増幅したゲノムの収率を向上するために有用な、プライマ、デオキシヌクレオチド三リン酸塩、プロセッシブなポリメラーゼ、緩衝液および添加物を含有する。これらのキットは、セプシスの症状を呈する個体の血液試料から、セプシスを誘発する生物のゲノムDNAを増幅するために使用される。次いで、増幅したDNAは、遺伝子型同定の目的でさらに試験することができる。そのような試験は、本明細書に記述したような(実施例6〜12)リアルタイムPCR、マイクロアレイ解析およびバイオエージェントを同定する単位複製配列の質量分析による三角測量遺伝子型分析を含む。さらに、セプシスを誘発する生物の遺伝子型同定は、抗生物質を用いた治療の適切な経過を決定するのに、ならびにセプシスを誘発する生物の潜在的な薬剤耐性菌株の存在の権限を変更するのに有用である。そのような遺伝子型同定解析は、本明細書に開示した方法、ならびに参照することによりその全体が本願明細書に組み込まれる、共同所有の米国特許出願第11/409,535号に開示される方法を使用して発展させることができる。
【0281】
実施例6:細菌の同定のためのバイオエージェントを同定する単位複製配列を定義するプライマ対の設計および検証
細菌バイオエージェントを同定する単位複製配列を定義するプライマを設計するため、一連の細菌ゲノムセグメント配列を得て、配列し、ならびに、PCRプライマの対が長さ約39から約200ヌクレオチドの産物を増幅し、それらの分子量または塩基組成によってお互いからサブグループおよび/または個々の菌株を識別する領域に対してスキャンする。図8に示す典型的な工程をこのタイプの解析に用いる。
【0282】
各プライマ領域に対して予期される塩基組成のデータベースを、(ePCR)等のインシリコPCR検索アルゴリズムを使用して産生する。既存のRNA構造検索アルゴリズム(Macke et al.,Nucl.Acids Res.,2001,29,4724−4735、これは、参照することによりその全体が本願明細書に組み込まれる)は、ハイブリダイゼーション条件、ミスマッチ、および熱力学計算(Santa Lucia,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,1998,95,1460−1465、これは、参照することによりその全体が本願明細書に組み込まれる)等のPCRパラメータを含めるように変更した。これは、選択したプライマ対のプライマ特異性に関する情報もまた提供する。そのようなプライマ対の収集の実施例は、参照することによりその全体が本願明細書に組み込まれる米国特許出願第11/409,535号に開示される。
【0283】
実施例7:試料調製およびPCR
ゲノムDNAidは、製造業者のプロトコルに従って、DNeasy Tissue Kit(Qiagen,Valencia,CA)を使用して試料から調製した。
【0284】
PCR反応は、Packard MPII 液体処理ロボットプラットフォームおよびM.J.Dyadサーモサイクラー(MJ research,Waltham,MA)またはEppendorf Mastercyclerサーモサイクラー(Eppendorf,Westbury,NY)を使用して、96ウェルマイクロタイタープレートフォーマットにおいて50μL反応体積中で構築した。PCR反応混合物は、4ユニットのAmplitaq Gold、1x緩衝液II(Applied Biosystems,Foster City,CA)、1.5mM MgCl、0.4Mベタイン、800μM dNTP混合物および250nMの各プライマを含む。以下の典型的なPCR条件を使用する。95℃で10分間、続いて、8サイクルのそれぞれで0.9℃増加する48℃アニーリング温度を用いて、95℃で30秒間、48℃で30秒間、および72℃で30秒間を8サイクル行う。PCR反応は、次いで、95℃で15秒間、56℃で20秒間、および72℃で20秒間のさらなる37サイクル継続する。
【0285】
実施例8:イオン交換樹脂電磁ビーズを用いた質量分析に対するPCR産物の精製
電磁ビーズに連結されたイオン交換樹脂での核酸の溶液捕獲のために、BioCloneアミン終端超常磁性ビーズの25μlの2.5mg/mL懸濁液を、約10pMの典型的なPCR増幅産物を含有する25から50μlのPCR(またはRT−PCR)反応に加えた。上記の懸濁液を、ボルテックスまたはピペットを操作することによって約5分間混合させ、その後、磁性分離器を使用して液体を除去する。次いで、結合PCR増幅産物を含有するビーズを、50mM重炭酸アンモニウム/50%MeOHまたは100mM重炭酸アンモニウム/50%MeOHで3回洗浄し、続いて、50%MeOHでさらに3回洗浄する。結合PCR増幅産物を、ペプチド較正標準を含む25mMピペリジン、25mMイミダゾール、35%MeOHの溶液で溶出する。
【0286】
実施例9:質量分析および塩基組成解析
ESI−FTICR質量分析計は、活発に遮蔽された7Tesla超電導磁石を用いたBruker Daltonics(Billerica,MA)Apex II 70eエレクトロスプレーイオン化フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計に基づいている。活発な遮蔽は、超電導磁石から比較的小さな量まで付随的磁場の大部分を制約する。したがって、CRTモニタ、ロボット構成部品、および他のエレクトロニクス等の漂遊磁場によって悪影響を受け得る構成部品は、FTICRスペクトロメータにごく近接させて操作することができる。パルス配列制御およびデータ収集の全ての側面は、Windows NT4.0オペレーティングシステム下でBrukerのXmassソフトウェアを搭載する600MHz Pentium IIデータステーションで行った。試料一定分量、典型的に15μlを、FTICRデータステーションによって誘発されるCTC HTS PAL自動サンプラー(LEAP Technologies,Carrboro,NC)を使用して、96ウェルマイクロタイタープレートから直接抽出する。試料を、ESI源に100μl/時間流量を供給する流体工学ハンドリングシステムと統合された10μl試料ループに直接注入する。イオンは、ガラス脱溶媒和毛管の金属化終端から約1.5cmに位置付けられた軸外の接地エレクトロスプレープローブを用いる変更したAnalytica(Branford,CT)源においてエレクトロスプレーイオン化によって形成する。ガラス毛管の大気圧端は、データ収集時にESI針に対して6000Vでバイアスされる。乾性Nの向流フローは、脱溶媒和工程に役立つように採用する。イオンは、質量分析されるトラップ内のイオンセルへの注入の前に、rf専用6重局、スキマーコーン、および補助ゲート電極で構成される外部イオン貯蔵所に蓄積される。99%を上回るイオン化デューティサイクルは、イオン検出時に外部イオン貯蔵所中のイオンを同時に蓄積することによって達成される。各検出事象には、2.3s(秒)にわたってデジタル化された1Mのデータポイントが含まれる。信号対雑音比(S/N)を向上させるために、総データ収集時間74s(秒)の間に32スキャンを同時付加する。
【0287】
ESI−TOF質量分析計は、Bruker Daltonics MicroTOF(登録商標)に基づいている。ESI源からのイオンには、直交イオン抽出を行い、検出前にリフレクトロンに集中される。TOFおよびFTICRは、上述した同じ自動試料処理および流体工学を装備する。イオンは、FTICR ESI源と同じ軸外噴霧器およびガラス毛管を装備する標準MicroTOF(登録商標)ESI源において形成される。このため、源条件は、上記のものと同じであった。また、外部イオン蓄積は、データ収集時のイオン化デューティサイクルを向上させるために採用する。TOFへの各検出事象は、75μsにわたってデジタル化された75,000データポイントを含む。
【0288】
試料送達スキームは、試料の一定分量を、高流量でエレクトロスプレー源に早急に注入し、その後、ESI感受性を向上させるために、さらに低い流量でエレクトロスプレーすることを可能にする。試料を注入する前に、試料汚染/キャリーオーバを回避するため、移動ラインおよびスプレー針をリンスするために高流量で大量瞬時投与の緩衝液を注入する。リンス段階に続いて、自動サンプラーにより次の試料を注入し、流量を低流動性に切り替える。短時間の平衡遅延に続いて、データ収集を開始する。スペクトルが同時付加されるにつれて、自動サンプラーは、注射器をリンスし、注入器および試料移動ラインをリンスするために、緩衝液を採取し続けた。一般的に、2回の注射器リンスおよび1回の注入器リンスが、試料のキャリーオーバを最小化するために必要とされる。通例のスクリーニングプロトコル中、新しい試料混合物を106秒ごとに注入した。最近になって、注射器針用の高速洗浄ステーションが履行されており、これは、より短い収集時間と組み合わせた時に、1スペクトル/分を少し下回る速度での質量スペクトルの収集を促進させる。
【0289】
粗質量スペクトルは、内部質量基準で事後較正し、モノアイソトピック分子量にデコンボリュートする。明確な塩基組成は、相補的一本鎖オリゴヌクレオチドの正確な質量測定に由来する。定量的結果は、ウェル当たり500分子であらゆるPCRウェル中に存在する内部PCR較正基準と、ピーク高さを比較することによって得る。較正方法は、共同所有され、参照によりその全体が本願明細書組み込まれるPCT公開番号WO2005/098047号に開示される。
【0290】
実施例10:分子量修飾デオキシヌクレオチド三リン酸塩を使用した増幅産物の塩基組成の新規決定
4つの天然核酸塩基の分子量は、比較的狭い分子量範囲(A=313.058、G=329.052、C=289.046、T=304.046−表7参照)を有するため、塩基組成の割合における多義性の持続的な源は、以下の通りに生じることができる。異なる塩基組成を有する2つの核酸鎖は、2つの鎖間の塩基組成差が、C←→T(+15.000)との組み合わせでG←→A(−15.994)である時に、約1Daの差を有してもよい。例えば、A27302121の塩基組成を有するある99塩基長核酸鎖は、30779.058の理論的分子量を有し、一方で、A26312220の塩基組成を有する別の99塩基長核酸鎖は、30780.052の理論的分子量を有する。分子量の1Da差は、分子量測定の実験誤差内であってもよく、したがって、4つの天然核酸塩基の比較的狭い量の分離量範囲が、不確実性因子を生じさせる。
【0291】
該方法は、1つの質量でタグ付けされた核酸塩基と3つの天然核酸塩基を有する核酸の増幅を介して、この理論的1Da不確実性因子を除去する手段を提供する。本明細書において、「核酸塩基」という用語は、「ヌクレオチド」、「デオキシヌクレオチド」、「ヌクレオチド残基」、「デオキシヌクレオチド残基」、「ヌクレオチド三リン酸塩(NTP)」、または「デオキシヌクレオチド三リン酸塩(dNTP)」を含む当技術分野において使用される他の用語と同義である。
【0292】
増幅反応における、またはプライマ自体における、4核酸塩基(dNTP)のうちの1つに有効質量を加えることは、C←→T事象(表7)と組み合わせられたG←→Aから生じる多義性に起因する結果として生じる増幅産物(1Daよりも有意に大きい)の質量に有意差をもたらす。したがって、5−ヨード−C←→T(−110.900)事象と組み合わされた同じG←→A(−15.994)事象は、126.894の分子量差につながるであろう。塩基組成A27305−ヨード−C2121(33422.958)の分子量を、A26315−ヨード−C2220(33549.852)と比較した場合、理論的分子量差は、+126.894である。分子量測定の実験誤差は、この分子量差に関しては有意ではない。さらに、99塩基長核酸の測定分子量と一致する塩基組成のみが、A27305−ヨード−C2121である。対照的に、質量タグなしの類似増幅は、18の可能な塩基組成を有する。
【0293】
(表7)天然核酸塩基および質量修飾核酸塩基5−ヨード−Cの分子量ならびに移行に起因する分子量差
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【0294】
バイオエージェントを同定する単位複製配列の質量スペクトルは、レーダー信号処理で広く使用されているもの等の最尤プロセッサを使用して独立して解析される。GenXと称されるこのプロセッサは、入力データ上の各塩基組成凝集体に対して整合フィルタを走行させることによって、プライマごとの質量分析計への入力の最尤推定値をまず作り出す。これは、プライマごとのカリブラントに対するGenX応答を含む。
【0295】
アルゴリズムは、自然発生の生物および環境汚染物の複合体バックグランドに関与する条件に対する検出確率対誤警報プロット確率となる、性能予測を重視する。整合フィルタは、バイオエージェントのそれぞれに使用されるプライマのセットに与えられる信号値の先験的な予想から成る。ゲノム配列データベースは、質量塩基数整合フィルタを定義するために使用される。データベースは、既知の細菌バイオエージェントの配列を含有し、脅威生物および良性背景生物を含む。後者は、背景生物によって生成される分光的特徴を予測およびサブトラクトするために使用される。既知の背景生物の最大尤度検出は、整合フィルタおよび雑音共分散のランニング合計推定値を使用して行う。背景信号強度は、次いでサブトラクトされる特徴を形成するために、整合フィルタと一緒に推定および使用する。最大尤度工程は、生物のための整合フィルタおよびクリーンアップデータのための雑音共分散のランニング合計推定値を用いるのと同様の方法で、この「クリーンアップ」データに適用する。
【0296】
各プライマに対するバイオエージェントを同定する単位複製配列の全ての塩基組成の振幅を較正し、複数の単一プライマ推定値に基づいて、生物ごとの最終的な最大尤度振幅推定値を作る。全てのシステム雑音のモデルを、この2段階最大尤度計算の要素に入れる。プロセッサは、スペクトル中に含有される各塩基組成の分子の数を報告する。適切なプライマセットに対応する増幅産物の量は、増幅反応の完了後に残るプライマの量と共に報告される。
【0297】
塩基数の不鮮明は、以下の通りに行うことができる。「電子PCR」は、各プライマ対に対して得られ得る予期される異なる塩基数を得るために、所望のバイオエージェントのヌクレオチド配列上で行うことができる。例えば、ncbi.nlm.nih.gov/sutils/e−pcr/;Schuler,Genome Res.7:541−50,1997を参照。例証的な一態様において、Microsoft Excelワークブック等の1つ以上のスプレッドシートは、複数のワークシートを含有する。まず、この実施例において、ワークブック名と同様の名前を持つワークシートがある。このワークシートは、未加工電子PCRデータを含有する。第2に、バイオエージェント名および塩基数を含有する「フィルタバイオエージェント塩基数」と名前を付けたワークシートがある。属および種で同定されていない配列を除去し、10菌株未満を有するバイオエージェントへの全ての配列を除去した後、各株菌に対する別の記録がある。第3に、このプライマ対に対する置換、挿入、または欠失の頻度を含有するワークシートがある。このデータは、「フィルタバイオエージェント塩基数」ワークシート中のデータからピボットテーブルを最初に作成し、次いで、Excel VBAマクロを実行することによって産生される。マクロは、同じ種であるが、異なる菌株のバイオエージェントに対する塩基数の差分表を作成する。当業者は、過度の実験を行うことなく、同様の差分表を得るための付加的な経路を理解し得る。
【0298】
例示的なスクリプトの適用は、各バイオエージェントに対する塩基数の参照セットによって表される菌株の画分を指定する閾値を定義するユーザを含む。各バイオエージェントに対する塩基数の参照セットは、閾値を満たすまたは超えるのに必要とするだけの数の異なる塩基数を含有してもよい。参照塩基数のセットは、最も豊富な菌株の塩基型組成を取り、それを参照セットに加えることによって定義され、次いで、次に最も豊富な菌株の塩基型組成を、閾値を満たすまたは超えるまで加える。データの現在のセットは、実験的に得られた55%の閾値を使用して得たものである。
【0299】
次いで、そのバイオエージェントに対する参照塩基数セットには含まれない各塩基数に対して、スクリプトは現在の塩基数が参照セット内の塩基数のそれぞれと異なる方法を決定する。この差は置換、Si=Xi、および挿入、Ii=Yi、または欠失、Di=Ziの組み合わせとして表され得る。1つより多い参照塩基数が存在するのであれば、変化数を最小化し、同じ変化数との場合においては、挿入または欠失数を最小化する目的の規則を使用して、報告された差を選択する。したがって、主要な規則は、例えば、2つの置換よりもむしろ1つの挿入等の最小和(Xi+Yi)または(Xi+Zi)との差を同定することである。最小和との2つ以上の差が存在する場合に、報告されるものが最も多い置換を含有するものである。
【0300】
塩基数と参照組成との間の差は、1つ、2つ、またはそれ以上の置換、1つ、2つ、またはそれ以上の挿入、1つ、2つ、またはそれ以上の欠失、ならびに置換および挿入もしくは欠失の組み合わせとして分類される。核酸塩基の異なるクラスは変化し、それらの出現の確率は、参照することによりその全体が本願明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2004209260号に詳しく説明されている。
【0301】
実施例11:セプシスに関与する細菌の種を同定するためのプライマ対の選択および使用
この実施例において、セプシスを誘発することが知られる細菌の同定は、特にこれらの細菌(表8)を同定する目的で選択されたプライマ対のパネルを使用して達成した。この本発明の実施例において、セプシスを誘発することが知られる細菌のより特異的なグループを調査する。したがって、プライマ対のこの本発明のパネルの開発において、米国特許出願第11/409,535号の確立された特定の監視プライマ対を、付加的なプライマ対であるプライマ対番号2249と組み合わせた。プライマ対2249のプライマメンバーは、tufB遺伝子とハイブリダイズし、ブドウ球菌属を含むスタフィロコッカス科ファミリーのメンバーに対するバイオエージェントを同定する単位複製配列を生成する。
【0302】
(表8)敗血症病原体を特徴付けるための、パネル内のプライマ対名
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【0303】
本発明のアッセイを用いて、ヒトDNAの潜在的な干渉を検査するために、大腸菌O157および大腸菌K−12から、様々な量の細菌DNAを、種々の濃度レベルでヒトDNAの試料中にスパイクした。増幅は、プライマ対346、348、349、354、358および359を使用して行い、増幅した試料にはゲル電気泳動を施した。ゲル上にスメアは存在せず、これは、プライマ対が細菌DNAの増幅に特異的であり、プライマ対の性能が、血液試料中で予期されるような高レベルのヒトDNAの存在下で、認め得るほどに影響を受けないことを示す。増幅産物の測定は、大腸菌O157が、プライマ対358および359の増幅産物の塩基組成によって、大腸菌K−12と区別され得ることを示す。これは、大腸菌O157がセプシス病原体であるために、ならびに大腸菌K−12が、増幅反応に使用される市販の低レベル汚染のTaqポリメラーゼであるために有用な結果である。
【0304】
細菌が皮膚を介して導入される、または口腔細菌叢汚染がセプシス病原体の検出を混乱させ得る潜在的な臨床状況をシミュレートするように設計された実験として、9つのブラインド混合試料の試験を行った。試料は、異なる濃度でのセプシス関連の細菌の混合物を含有し、それらの同一性は、測定前に既知ではなかった。表9Aおよび9Bは、各試料中の細菌を同定するために使用した表8のプライマ対によって生成された、増幅産物の観察された塩基組成の結果を示す。提供された9つの試料中に含まれる細菌の予備知識を持たなくとも、試料1−5は、表9Aおよび9Bに示すような可変濃度レベルで、プロテウスミラビリス、黄色ブドウ球菌、および肺炎球菌を含有することが分かった。試料6は、黄色ブドウ球菌のみを含有した。試料7は、肺炎球菌のみを含有した。試料8は、プロテウスミラビリスのみを含有した。試料9は、ブランクであった。
【0305】
細菌の3つの種の定量を、本明細書に記述した較正ポリヌクレオチドを使用して行った。各試料に対して定量化した各細菌のレベルは、予期されたレベルと一致することが分かった。
【0306】
本例は、表8に示すプライマ対のパネルが、セプシスを誘発する細菌を同定するのに有用であることを示す。
【0307】
別の実験において、2つのブラインド試料を提供した。「病原体A」と標識した第1の試料は、エンテロコッカスフェカリスを含有し、「病原体B」と標識した第2の試料は、他のクレブシエラニューモニエを含有した。「病原体A」に対して、表8のプライマ対のパネルは、細菌DNAからの4つのバイオエージェントを同定する単位複製配列ならびにそれらの塩基組成がエンテロコッカスフェカリスとしての「病原体A」の同一性を示すプライマ対番号347、348、349および449を生成した。「病原体B」に対して、表8のプライマ対のパネルは、細菌DNAからの6つのバイオエージェントを同定する単位複製配列ならびにそれらの塩基組成がクレブシエラニューモニエとして「病原体B」の同一性を示すプライマ対番号347、348、349、358、359および354を生成した。
【0308】
当業者は、細菌およびその菌株の異なる種に対する細菌同定分解能を提供する、付加的なバイオエージェントを同定する単位複製配列の利益を享受できるように、解析に修正が必要とされるのであれば、表8の1つ以上のプライマ対は、1つ以上の異なるプライマ対で置換され得ることを認識されたい。
【0309】
(表9A)プライマ対番号346、348、349および449で生成された増幅産物のブラインド試料の観察された塩基組成
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【0310】
(表9B)プライマ対番号358、359、354および2249で生成された増幅産物のブラインド試料の観察された塩基組成
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【0311】
実施例12:セプシスを誘発する細菌のDNAから増幅産物を生成するように設計されたプライマ対の設計および検証
表10の以下のプライマ対は、セプシスを誘発する細菌を同定する目的で、バイオエージェントを同定する単位複製配列の収集の向上を提供するように設計した。
【0312】
(表10)セプシスを誘発する細菌のバイオエージェントを同定する単位複製配を生成するためのプライマ対
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【0313】
プライマ対番号3346〜3349、および3356〜3359は、セプシスを誘発する細菌のrpoB遺伝子とハイブリダイズする順方向および逆方向プライマを有する。これらのプライマ対の設計に使用される参照遺伝子配列は、大腸菌K12(GenBankアクセス番号NC_000913.2、gi番号49175990)のゲノム配列からのヌクレオチド残基4179268から4183296の抽出である。プライマ名に示される全ての配位は、この配列抽出に関する。例えば、プライマ対番号3346の順方向プライマは、RPOB_NC000913_3704_3731_F(配列番号:616)と名前を付けられる。このプライマは、抽出の位置3704から3731またはゲノム配列の位置4182972から4182999とハイブリダイズする。プライマ対のこのグループのうち、プライマ対番号3346〜3349は、セプシスを誘発するγプロテオ細菌のrpoB遺伝子と好ましくはハイブリダイズするように設計した。プライマ対3356および3357は、ナイセリア属のメンバーを含むセプシスを誘発するβプロテオ細菌のrpoB遺伝子と好ましくはハイブリダイズするように設計した。プライマ対3358および3359は、コリネバクテリアおよびマイコバクテリウム属のメンバーのrpoB遺伝子と好ましくはハイブリダイズするように設計した。
【0314】
プライマ対番号3350〜3355は、グラム陽性のセプシスを誘発する細菌のrplB遺伝子とハイブリダイズする順方向および逆方向プライマを有する。プライマ対番号3350、3351および3354の順方向プライマは、RPLB_EC_690_710_F(配列番号:614)である。この順方向プライマは、GenBankアクセス番号NC_000913.1、gi番号16127994とハイブリダイズするように以前に設計されている。プライマ対番号3350−3355の残りのプライマを設計するために使用される参照遺伝子配列は、大腸菌K12(GenBankアクセス番号NC_000913.2、gi番号49175990)のゲノム配列からのヌクレオチド残基3448565から3449386の抽出の逆方向相補体である。プライマ名に示される全ての配位は、この配列抽出の逆方向相補体に関する。例えば、プライマ対番号3352の順方向プライマは、RPLB_NC000913_674_698_F(配列番号:634)と名前を付けられる。このプライマは、抽出の逆方向相補体位置674〜698またはゲノム配列の逆方向相補体の位置3449239から3449263とハイブリダイズする。このプライマ対設計の実施例は、以前の既存の順方向または逆方向プライマを使用して、プライマ対の新しい組み合わせを調製するのに有用であり得ることを実証する。
【0315】
プライマ対番号3360は、セプシスを誘発する細菌、好ましくは連鎖球菌属のメンバーのgyrB遺伝子とどちらもハイブリダイズする順方向プライマおよび逆方向プライマを有する。これらのプライマ対の設計に使用される参照遺伝子配列は、化膿性連鎖球菌M1GAS(GenBankアクセス番号NC_002737.1、gi番号15674250)のゲノム配列からのヌクレオチド残基581680から583632の抽出である。プライマ名に示される全ての配位は、この配列抽出に関する。例えば、プライマ対番号3360の順方向プライマは、GYRB_NC002737_852_879_F(配列番号:612)と名前を付けられる。このプライマは、抽出の位置852から879とハイブリダイズする。
【0316】
プライマ対番号3361は、セプシスを誘発する細菌、好ましくはグラム陽性の細菌のtufB遺伝子とどちらもハイブリダイズする順方向プライマおよび逆方向プライマを有する。これらのプライマ対の設計に使用される参照遺伝子配列は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus subsp.aureus)Mu50(GenBankアクセス番号NC_002758.2、gi番号57634611)のゲノム配列からのヌクレオチド残基615036...616220の抽出である。プライマ名に示される全ての配位は、この配列抽出に関する。例えば、プライマ対番号3361の順方向プライマは、TUFB_NC002758_275_298_F(配列番号:612)と名前を付けられる。このプライマは、抽出の位置275から298とハイブリダイズする。
【0317】
プライマ対番号3362および3363は、好ましくはクレブシエラニューモニエおよびその菌株を含む、セプシスを誘発する細菌のvalS遺伝子とハイブリダイズする順方向および逆方向プライマを有する。これらのプライマ対の設計に使用される参照遺伝子配列は、大腸菌K12(GenBankアクセス番号NC_000913.2、gi番号49175990)のゲノム配列からのヌクレオチド残基4479005から4481860の抽出の逆方向相補体である。プライマ名に示される全ての配位は、この配列抽出の逆方向相補体に関する。例えば、プライマ対番号3362の順方向プライマは、VALS_NC000913_1098_1115_F(配列番号:621)と名前を付けられる。このプライマは、抽出の逆方向相補体の位置1098から1115とハイブリダイズする。
【0318】
検証実験において、既知の量の既知のセプシスを誘発する細菌を含有する試料を調製した。総DNAを抽出し、試料中で精製し、実施例2に従ったPCRによって、および本実施例で説明されるプライマ対を使用して増幅を施した。この実験のために選択した3つのセプシスを誘発する細菌は、エンテロコッカスフェカリス、クレブシエラニューモニエ、および黄色ブドウ球菌であった。増幅後、増幅した混合物の試料は、実施例4で説明したような分子量および塩基組成解析を行った、実施例3に記載の方法によって精製した。
【0319】
エンテロコッカスフェカリスに対するバイオエージェントを同定する単位複製配列に対応する増幅産物は、プライマ対番号3346〜3355、3360および3361に対して予想された。増幅産物が得られ、これらのプライマ対の全てに対して検出された。
【0320】
クレブシエラニューモニエに対するバイオエージェントを同定する単位複製配列に対応する増幅産物は、プライマ対番号3346〜3349、3356、3358、3359、3362および3363に対して予想および検出された。クレブシエラニューモニエに対するバイオエージェントを同定する単位複製配列に対応する増幅産物は、プライマ対番号3346〜3349および3358に対して検出された。
【0321】
黄色ブドウ球菌に対するバイオエージェントを同定する単位複製配列に対応する増幅産物は、プライマ対番号3348、3350〜3355、3360、および3361に対して予想および検出された。クレブシエラニューモニエに対するバイオエージェントを同定する単位複製配列に対応する増幅産物は、プライマ対番号3350〜3355および3361に対して検出された。
【0322】
実施例13:細菌属マイコバクテリウムのメンバーを遺伝子型同定し、結核菌の薬剤耐性菌株を同定するためのプライマ対の選択
バイオエージェントを同定する単位複製配列のハイスループット質量分光分析の能力を、遺伝子型分析およびコドン塩基組成解析により提供される亜種特性分解能力と組み合わせるために、24の遺伝子型分析プライマ対のパネルを選択した。プライマ対は、表11のプライマ名コードrpoB、embB、fabG−inhA、katG、gyrA、rpsL、pncA、rv2109c、rv2348c、rv3815c、rv0041、rv00147、rv1814、rv0005gyrB、およびrv0260c示す16の異なるハウスキーピング遺伝子内にバイオエージェントを同定する単位複製配列を生成するように設計する。プライマ配列は、表11に記載する。
【0323】
結核菌において、薬剤耐性の獲得は、本明細書に開示した方法を使用して明らかに決定することができる離散的主要突然変異の出現と主に関連する。
【0324】
結核菌ゲノムの進化は、本質的にクローンであり、したがって、系譜特異的であり、垂直方向にのみ遺伝する固有のゲノムマーカーのクエリーを介する菌株タイピングを可能にする。結核菌の遺伝子型の混合群の重感染は、表11のプライマを使用して生成される増幅産物の質量スペクトルにおいて同時に明らかにすることができる。高G+C含有量および結核菌ゲノムそれ自体は、多重化(各増幅反応混合物における複数のプライマを含む)に適切な短い効率的プライマの開発を大いに容易にする。
【0325】
(表11)遺伝子型同定および結核菌の菌株の薬剤耐性の決定のためのプライマ対
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【0326】
24のプライマ対のパネルは、8つの増幅反応に多重化するように設計する。13のプライマ対は、リファンピン(プライマ対番号3546、3547および3548)、エタンブトール(プライマ対番号3550および3551)、イソニアジド(プライマ対番号3353および3354)、フルオロキノロン(プライマ対番号3556)、ストレプトマイシン(プライマ対番号3557)およびピラジンアミド(プライマ対番号3558、3558、3560および3561)を含む薬物への耐性と関連する突然変異を同定する目的で設計した。これらの13のうち4つのプライマ対は、単一コドン(プライマ対番号3547(rpoBコドンD526)、3548(rpoBコドンH516)、3551(embBコドンM306)、および3553(katGコドンS315))の塩基組成解析のために、バイオエージェントを同定する単位複製配列を提供するように特に設計した。塩基組成解析に使用される任意のこれらのバイオエージェントを同定する単位複製配列において、突然変異の検出により、結核菌の薬剤耐性菌株が同定される。残りの9つのプライマ対は、上記の4つのコドンよりもさらに希少な2次薬剤耐性を与える部位を含有するより大きいバイオエージェントを同定する単位複製配列を定義するが、しかし、ある特定のこれらの9つのプライマ対は、これらの4つのコドン(例えば、プライマ対3546は、2つのrpoBコドンD526およびH516を含有する)の一部も含有するバイオエージェントを同定する単位複製配列を定義する。
【0327】
主な遺伝群(PGG、プライマ対番号XおよびXを使用して決定)に従った細菌属マイコバクテリウムのメンバーの分類、マイコバクテリウム属(プライマ対番号X、Y、Zを使用して決定)の選択された他のメンバーの結核菌、または種の遺伝子型、ならびにリファンピン、エタンブトール、イソニアジド、フルオロキノロン、ストレプトマイシン、およびピラジンアミドへの薬剤耐性を表12に示す。各PPG群、遺伝子型または薬剤耐性菌株に対してバイオエージェントを同定する単位複製配列を定義するために使用されるプライマ対を欄見出しに示す。薬剤耐性欄では、コドン突然変異は、アミノ酸一文字コードおよび当業者には既知であるコドン位置コンベンションで示される。例えば、結核菌株13599の核酸が、プライマ対番号3555を使用して増幅され、分子量および塩基組成が決定される場合、アラニン(A)からバリン(V)までのコドン90の突然変異が示され、菌株13599は薬物フルオロキノロンに耐性があるという結論に達する。
【0328】
プライマ対番号3600は、結核菌PPG1(遺伝子型I、IIおよびIIAを含む)をマイコバクテリウム属(例えば、マイコバクテリウムアフリカヌム、マイコバクテリウムボビス、マイコバクテリウムミクロティ、およびマイコバクテリウムカネッティ等)の他の種から区別するために有用なスペシエーションプライマ対である。
【0329】
(表12)結核菌のマイコバクテリウム属および遺伝子型のメンバーの菌株の分類および薬剤耐性プロファイル
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【0330】
実施例14:24のプライマ対のパネルの検証
参照結核菌株H37Rvを使用して、各プライマ対を個々に検証した。希釈〜消滅(DTE)実験は、予想塩基組成をウェル当たり16のゲノムコピーに減らして産出した。次いで、異なるウェル内に同じ遺伝子を標的するプライマ対を拡散させ、単一ウェル内に予想単位複製配列質量を拡散させ、そしてプライマ二重鎖の交差形成を回避するために、多重化スキームを決定する。多重化増幅反応にAからHの番号を付けて見出しに示した多重化スキームを表13に示し、各反応に利用したプライマ対を以下に示す。
【0331】
(表13)24のプライマ対のパネルに対する多重化スキーム
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【0332】
塩基組成の実験的に決定された表の例を表14に示す。表13に示したプライマ対多重反応を使用して、結核菌株5170から単離された核酸から得られた増幅産物の塩基組成を示す。増幅産物の分子量は、塩基組成を計算するために、エレクトロスプレー飛行時間質量分析で測定した。各反応混合物内の増幅産物の長さは、測定時の分子量の重複を避けるために、長さが大いに異なることを留意すべきである。例えば、反応Aは、46(A13 T11 C15 G07)、68(A14 T18 C21 G15)および129(A21 T37 C44 G27)の長さを有する3つの増幅産物を有する。
【0333】
(表14)結核菌株5170の核酸の多重増幅反応において得られた塩基組成
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【0334】
次いで、多重条件下においてプライマ対の選択したトリプレットを用いて、希釈〜消滅実験を行った。参照菌株の既知の配列に基づいて予想された塩基組成は、平均でウェル当たり32ゲノムコピーまでに減って観察された。Public Health Research Instituteからの36の種々の菌株の収集物を使用して、アッセイを最終的に検査した。予想された通り、塩基組成結果は、これらの参照菌株に対してすでに決定されていた遺伝子型同定および薬剤耐性プロファイルに合致していた。
【0335】
実施例15:C型肝炎ウイルスに対してバイオエージェントを同定する単位複製配列を決定するプライマ対
C型肝炎ウイルス菌株を同定する単位複製配列を定義するプライマを設計するために、一対のPCRプライマが、長さ約27から約200ヌクレオチドの産物を増幅し、それらの分子量または塩基組成によってお互いから菌株および準種を区別する領域に対して、一連のC型肝炎ウイルスゲノム配列を取得、配列、およびスキャンした。
【0336】
表15は、本明細書に開示した方法を使用して、C型肝炎ウイルスを同定するように設計されたプライマの収集物(プライマ対番号別に分類)を表す。プライマ対番号は、社内データベース指数である。表15に示す順方向または逆方向プライマ名は、プライマが基準配列に関連してハイブリダイズするウイルスゲノムの遺伝子領域を示す。表15において、例えば、順方向プライマ名HCVUTR5_NC001433−1−9616_9250_9273_Fは、順方向プライマ(_F)が、GenBankアクセス番号NC_001433.1のヌクレオチド1から9616の抽出によって表されるC型肝炎ウイルス基準配列のUTR(非翻訳領域)の残基9250〜9275とハイブリダイズすることを示す。当業者は、個々の遺伝子配列またはそれらの部分をGenBankに存在するゲノム配列からどのように得るかを把握されたい。
【0337】
(表15)C型肝炎ウイルスの菌株を同定するためのプライマ対
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【0338】
実施例16:インフルエンザウイルスの菌株を同定するためのバイオエージェントを同定する単位複製配列を定義するプライマ対
インフルエンザウイルスの菌株を同定するためのバイオエージェントを同定する単位複製配列を定義するプライマを設計するために、一対のPCRプライマが、長さ約27から約200ヌクレオチドの産物を増幅し、それらの分子量または塩基組成によってお互いからのインフルエンザウイルス菌株を区別する領域に対して、一連のインフルエンザウイルスゲノム配列を取得、配列、およびスキャンした。
【0339】
表16は、本明細書に開示した方法を使用してC型肝炎ウイルスを同定するように設計されたプライマの収集物(プライマ対番号別に分類)を表す。プライマ対番号は、社内データベース指数である。表16に示す順方向または逆方向プライマ名は、プライマが基準配列に関連してハイブリダイズするインフルエンザウイルスゲノムの遺伝子領域を示す。表16において、例えば、順方向プライマ名FLUBPB2_NC002205_603_629_Fは、順方向プライマ(_F)が、GenBankアクセス番号NC_002205からのヌクレオチドの抽出によって表されるインフルエンザ基準配列の残基603〜629とハイブリダイズすることを示す。当業者は、個々の遺伝子配列またはそれらの部分をGenBankに存在するゲノム配列からどのように得るかを把握されたい。
【0340】
(表16)インフルエンザウイルスの菌株を同定するためのプライマ対
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【0341】
実施例17:黄色ブドウ球菌の菌株を同定するためのバイオエージェントを同定する単位複製配列を定義するプライマ対
黄色ブドウ球菌の菌株を同定するためのバイオエージェントを同定する単位複製配列を定義するプライマを設計するために、一対のPCRプライマが、長さ約27から約200ヌクレオチドの産物を増幅し、それらの分子量または塩基組成によってお互いからの黄色ブドウ球菌菌株を区別する領域に対して、一連の黄色ブドウ球菌ウイルスゲノム配列を取得、配列、およびスキャンした。
【0342】
表17は、本明細書に開示した方法を使用して黄色ブドウ球菌菌株を同定するように設計されたプライマの収集物(プライマ対番号別に分類)を表す。プライマ対番号は、社内データベース指数である。表17に示す順方向または逆方向プライマ名は、プライマが基準配列に関連してハイブリダイズするインフルエンザウイルスゲノムの遺伝子領域を示す。表17において、例えば、順方向プライマ名MECA_Y14051_4507_4530_Fは、順方向プライマ(_F)が、GenBankアクセス番号Y14051によって表される黄色ブドウ球菌配列のmecA遺伝子の残基4507〜4530とハイブリダイズすることを示す。当業者は、個々の遺伝子配列またはそれらの部分をGenBankに存在するゲノム配列からどのように得るかを把握されたい。
【0343】
(表17)黄色ブドウ球菌の菌株を同定するためのプライマ対
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【0344】
実施例18:不偏全ゲノム増幅方法との標的全ゲノム増幅方法の比較
実施例2で説明したようなDNA混合物からの標的DNAの増幅を支持するTWGAプライマセットを設計するために、一連のアルゴリズムを開発した。検査例として、約200プライマから成るTWGAプライマセットを、バックグラウンドゲノムの混合物からの炭疽菌ゲノムDNAの優先増幅のために設計した。プライマセットは、炭疽菌ゲノムの高発現量および哺乳動物、虫、植物、鳥、および線虫から選択される真核生物ゲノムのパネルにおける発現量不足を示した。プライマセットは、炭疽菌ゲノムに沿ったプライマの一貫した結合を用いて設計し、増幅時にゲノム全体にわたる発現量を維持した。DNA混合物からの標的DNAの優先増幅を実証するために、炭疽菌Sterne DNAとヒトDNAとの混合物を、標的全ゲノム増幅を使用して増幅し、結果として生じる産物を、特徴的ゲノム配列の定量的リアルタイムPCRベースの検出によって定量化した。図5Aに示すように、炭疽菌DNAの175倍増幅は、背景DNA自体の最小限の増幅と共に、1000万倍過度のヒト背景DNAの存在下で観察された。標的DNAの3000倍増幅は、再び背景DNAの最小限の増幅と共に、標的DNAレベルに対して100万倍過度まで背景が僅かに減少した時に観察された(図5B)。
【0345】
標的全ゲノム増幅反応から得られた結果を、図6の不偏全ゲノム増幅反応の結果と対比する。標的ゲノムは、100万倍過度の背景DNAにおいて調製し、標的全ゲノム増幅でまたは不偏全ゲノム増幅で増幅した。標的全ゲノム増幅とは対照的に、不偏全ゲノム増幅は、標的DNAと背景DNA両方に同様の増幅をもたらすべきランダムプライミングを使用する。図6Aにおいて、標的全ゲノム増幅は、標的DNAの増幅を支持したことが分かる。対照的に、全ゲノム増幅は、DNA混合物の両成分の同レベルの増幅をもたらした(図6B)。
【0346】
図7において、標的全ゲノム増幅は、不偏全ゲノム増幅と比較して、混合物からの標的DNAの検出の感受性を増加させることが明らかである。反応は、反応当たり0.1マイクログラムで存在するヒトDNAと、50から400フェムトグラムに値が増加される炭疽菌ゲノムDNAとで調製した。ランダム不偏全ゲノム増幅プライマを使用して、標的全ゲノム増幅プライマを用いた優先増幅を不偏増幅と比較した。上記のように、標的全ゲノム増幅は、不偏全ゲノム増幅よりも高収率の炭疽菌DNAおよび低収率のヒトDNAを生じさせた(図7Aおよび図7B)。有意に、標的全ゲノム増幅は、50フェムトグラムの出発材料で、検出可能な炭疽菌産物を生じさせ、一方、不偏全ゲノム増幅は生じさせなかった。
【0347】
標的全ゲノム増幅プライマセットは6つの付加的な標的生物に対して開発し、プライマセットの混合物は標的全ゲノム増幅反応において展開した。同様の結果は、標的全ゲノム増幅が、このプールのプライマセットを用いて、または炭疽菌特異的な標的全ゲノム増幅プライマセットを用いて考案された時に得られ、標的全ゲノム増幅が多重化(標的全ゲノム増幅7セットプライマ対TWGA単一セットプライマ、図7)され得ることを示した。
【0348】
結びの説明
本発明は、一般的開示の範囲に入る種々の種および亜属の分類の任意の組み合わせを含む。したがって、本発明は、削除された材料が、本明細書に具体的に挙げられているかどうかにかかわらず、その属由来の任意の対象物を除くという条件または消極的な限定を伴う本発明の一般的な記述を含む。
【0349】
特許法に従いながら、種々の態様および実施例の説明を提供したが、本発明の範囲はそれに限定されるものではなく、またはそれによって限定されるものでもない。本発明の修正または変更は、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、当業者には明らかであろう。
【0350】
したがって、本発明の範囲は、例として提示された特定の実施例よりもむしろ、添付の特許請求の範囲によって画定されるものであることを理解されたい。
【0351】
本出願に挙げられた各参考文献(学術論文、米国および米国以外の特許、特許出願公開、国際特許出願公開、遺伝子バンクgiまたはアクセス番号、インターネットウェブサイト等を含むが、これらに限定されない)は、参照することによりそれら全体が本願明細書に組み込まれる。
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−503399(P2010−503399A)
【公表日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−528314(P2009−528314)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【国際出願番号】PCT/US2007/020045
【国際公開番号】WO2008/143627
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.WINDOWS
2.PENTIUM
【出願人】(508266579)アイビス バイオサイエンシズ インコーポレイティッド (4)
【Fターム(参考)】