説明

病原微生物および抗微生物剤の検出法、抗微生物剤の薬効評価法ならびに抗微生物剤

【課題】残留する該抗微生物剤の影響を受けず正確に該抗微生物剤の薬効を評価できる抗微生物剤の新規な薬効評価法を提供する。
【解決手段】動物または生体試料に病原微生物を感染させ、該感染の前または後に、抗微生物作用を有する化合物またはそれを含有する組成物からなる抗微生物剤を投与し、ついで前記抗微生物剤を除去したのち、病原微生物被感染部位に生存する病原微生物を検出する病原微生物の検出法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病原微生物の検出法、病原微生物に対する抗微生物剤の薬効評価法、および抗微生物剤の検出法に関する。また本発明は、前記薬効評価法に基づいて得られる抗微生物剤および爪真菌症治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
新規な抗微生物剤(以下、薬剤ともいう)を探索するためには、動物モデルを用いた薬効評価法が必要であり、また、臨床上の治療効果を予知する上でも極めて重要であるため、薬効を正確に評価できる方法が必要である。
【0003】
従来、白癬に対する抗真菌剤の薬効評価にはモルモットの背部、足底または趾間部にトリコフィトン メンタグロフィテス(Trichophyton mentagrophytes)を感染させる実験的白癬モデルが使用されている。これらの動物モデルはすでにいくつかの抗真菌剤の開発に用いられてきた。これら抗真菌剤の薬効評価は、感染動物に抗真菌剤を塗布し、一定期間経過後に皮膚を採取、裁断し複数の小断片に切り分け、この皮膚片を培地上で培養し、菌の発育が見られない断片の数またはすべての皮膚片で菌の発育が見られない動物または足の数を指標として行なわれている(Antimicrobial Agents and Chemotherapy、36:2523−2525,1992,39:2353−2355,1995)。以下、従来の薬効評価法を従来法という。
【0004】
近年、白癬菌に対して強力なインビトロ活性を有しているラノコナゾール、アモロルフィンなどの薬剤が上市されたにも関わらず、臨床における治癒率の向上はあまり認められていない。その主な原因として、治療後に皮膚内の菌が完全に死滅していないために再び菌が増殖する再燃が指摘されている。
【0005】
動物実験においても従来法でラノコナゾールのモルモット足白癬モデルにおける効果を評価すると、最終治療2日後では、20足中全足に菌の陰性化が観察されたが、最終治療30日後では20足中11足に再燃が観察され、最終治療2日後の効果と最終治療30日後の効果とのあいだに相関性が認められなかった(36th Interscience Conference on Antimicrobial Agents and Chemotherapy,New Orleans,Louisiana,1996,Abstr.F80)。
【0006】
この原因としては、ラノコナゾールは極めて強いインビトロ抗白癬活性を有しており、最終治療2日後では皮膚に殺菌作用を示す濃度の該薬剤がまだ残留しており、その皮膚を採取して菌の検出のために培地上で培養した際に、皮膚に残留する該薬剤が培地中に混入し、採取した皮膚内に菌が生存しているにもかかわらず培地上で菌の発育が阻止され菌が検出されなかったが、一方、最終治療30日後では皮膚内に残留する該薬剤の濃度が低下し、皮膚内の菌は再増殖することができ、それゆえ菌が検出されたと考えた。
【0007】
この仮説をもとに、あらかじめ菌を含有させた培地上にラノコナゾールによる治療後の皮膚片を置き培養した結果、皮膚片の周囲で菌の発育は完全に阻止され、皮膚内に該薬剤が残留していることが確認された。
【0008】
したがって、従来法では皮膚内に残留する薬剤により見かけ上治療効果があるように評価されてしまい、薬効を正確に評価できないという問題点があることが明らかになった。
【0009】
一方、真菌症の1種である白癬は皮膚糸状菌が皮膚(角質層)、爪および毛髪などのケラチン質に寄生することによって引き起こされる表在性の皮膚疾患であるが、とくに、爪に生じる爪白癬は、白癬による皮膚疾患の中でも難治性の疾患として知られ、爪甲の混濁、肥厚、破壊、変形などの症状を伴う。現在、この爪白癬の治療には経口剤(グリセオフルビン、タービナフィンなど)が用いられている。しかしながら、爪白癬を完全に治癒させるためには、半年以上という長期間服用しなければ治療効果が得られず、患者自身が服用を中断したり、または不規則な服用を行なうケースが多い。このことが爪白癬を完治することが難しい主な原因になっていると考えられている。また、長期間の服用によりグリセオフルビンでは内臓に対する副作用(胃腸障害、肝毒性)が問題となっており、タービナフィンについても副作用として肝毒性が報告されている。よって、患者のコンプライアンスを向上させるため、短期間で爪白癬を治癒させかつ経口剤と比較し全身性の副作用が少ない外用剤の開発が切望されている。
【0010】
しかし、現在の外用抗真菌剤を爪甲に単純塗布した場合では薬剤が爪甲の厚い角質に充分に浸透できず、爪内の真菌に対して抗真菌効果を発揮することはできなかった。(Markus Niewerth and Hans C. Korting, Management of Onychomycoses, Drugs, 58: 283-296 1999)
【0011】
さらに、外用抗真菌剤の実験的白癬モデルにおける治療効果は、前述したように従来法では評価できない。このことが、現在までモルモットの爪白癬モデルに対する薬効の報告が極めて少なかった原因と考えられる。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、抗微生物剤、とくに抗真菌剤などの薬効を評価する場合、治療後の皮膚など動物または生体試料の病原微生物被感染部位に残留する薬剤を除いた上で評価するのが望ましいとの知見に基づき完成されたものであり、抗微生物剤の新規な薬効評価法および該薬効評価法に基づいて得られる抗微生物剤を提供することを目的とする。詳しくは、本発明は、動物または生体試料に抗微生物剤を投与し、ついで該抗微生物剤を除去したのち、前記動物または生体試料の病原微生物被感染部位に生存する病原微生物を検出する方法および動物または生体試料の病原微生物被感染部位に残留する抗微生物剤の影響を受けず、正確に該抗微生物剤の薬効を評価できる抗微生物剤の薬効評価法を提供するものである。また本発明は、前記薬効評価法に基づいて得られる抗微生物剤、および抗微生物剤を投与した動物または生体試料の病原微生物被感染部位に存在する該抗微生物剤を検出する抗微生物剤の検出法を提供するものである。
【0013】
より具体的には、本発明によれば、病原微生物の検出および抗微生物剤の薬効評価は、動物または生体試料に病原微生物を感染させ、該感染の前または後に、抗微生物作用を有する化合物またはそれを含有する組成物からなる抗微生物剤を投与し、ついで前記抗微生物剤を除去したのち、病原微生物被感染部位に生存する病原微生物を検出することにより、実施することができる。
【0014】
また本発明によれば、病原微生物感染部位に存在する抗微生物剤の検出は、動物または生体試料に病原微生物を感染させ、該感染の前または後に、抗微生物作用を有する化合物またはそれを含有する組成物からなる抗微生物剤を投与し、ついで病原微生物被感染部位を採取し、それを病原微生物を含む寒天培地上に置き培養後、前記病原微生物被感染部位の周囲における病原微生物の発育阻止を観察することにより実施することができる。
【0015】
さらに、本発明はモルモット爪白癬モデルにおける抗真菌剤の正確な薬効評価を可能とする薬効評価法を提供することを目的とするものであり、また当該薬効評価法をもとに強力な抗真菌活性に加え、爪甲において良好な浸透性と貯留性、高い活性を保持することで、外用塗布で爪白癬に効果を発揮し、市販の経口剤と比較しても短期間で爪白癬を治癒することができる爪真菌症治療剤を提供することを目的とする。さらに、本発明は、治療上必要な量を充分に投与しても副作用を発現することのない効果的な爪真菌症治療剤を提供することを目的とする。
【0016】
より具体的には、本発明は前記薬効評価法に基づき、
式(I):
【化1】

(式中、R1およびR2は、同一または異なって水素原子、C1~6アルキル基、無置換またはハロゲン原子、トリフルオロメチル基、ニトロ基およびC1~6アルキル基から選ばれた置換基1〜3個で置換されたアリール基、C2~8アルケニル基、C2~6アルキニル基、またはC7~12アラルキル基を示し、mは2または3を示し、nは1または2を示す)で表される基を有する抗真菌化合物またはその塩を有効成分として含有する爪真菌症治療剤を提供するものである。
【0017】
なお、「存在」には「残留」の意を含むものとする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の抗微生物剤の検出法による従来法で最終治療5日後に評価したあとの皮膚における残留薬剤の確認のための写真である。(a)は感染対照群を、(b)はKP−103治療群を、(c)はラノコナゾール治療群を示す。
【図2】本発明の抗微生物剤の検出法による最終治療5日後の皮膚からの薬剤除去後における残留薬剤の確認のための写真である。(a)は感染対照群を、(b)はKP−103治療群を、(c)はラノコナゾール治療群を示す。
【図3】本発明の薬効評価法によるモルモット爪白癬モデルにおける各処置群の爪内菌数の分布を示す図である。
【図4】本発明の薬効評価法によるモルモット足白癬モデルにおける各処置群の皮膚内菌数の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に用いられる動物としては、哺乳類、たとえばマウス、ラット、モルモット、ウサギなどがあげられる。生体試料としては、これら動物から採取した背部または足裏部皮膚、爪などがあげられる。
【0020】
これら動物または生体試料への病原微生物の感染方法としては、経皮、経口、経静脈、経気道、経鼻、腹腔内などの接種があげられる。とくに皮膚の場合、皮膚上に塗布する方法、真皮を露出させて該真皮上に塗布する方法、クローズドパッチ法、皮内注射法などがあげられる。また、爪の場合は、爪上に塗布する方法、前記皮膚への感染方法で動物の足皮膚に感染させた後、数ヵ月放置して感染を爪へ移行させる方法などがあげられる。
【0021】
皮膚という語は、表皮、真皮および皮下組織の3層を含み、付属器官として毛、爪、脂腺、汗腺、乳腺などを伴う組織を意味する。表皮は表面から順に角質層、淡明層、顆粒層、有棘層、および基底層の5層に区別され、角質層、淡明層および顆粒層は広義の角質層とされる。本明細書における角質とは、前記角質層の一部を表わすものとする。
【0022】
爪という語は、爪甲、爪床、爪母を含み、その周囲の組織の側爪郭、後爪郭、爪上皮、爪下皮までを意味する。
【0023】
本発明で病原微生物という語は、何らかの形で人や動物に疾病を起こす微生物をいう。病原微生物(以下、微生物という)として具体的に、細菌としては、シュードモナス属(Pseudomonas)、ナイセリア属(Neisseriaceae)などの好気性グラム陰性桿菌および球菌、大腸菌(Escherichia)、サルモネラ属(Salmonella)、エンテロバクター属(Enterobacter)などの通性嫌気性グラム陰性桿菌、ブドウ球菌(Staphylococcus)、連鎖球菌(Streptococcus)などのグラム陽性球菌などが例示できる。真菌としては、トリコフィトン属(Trichophyton)、ミクロスポーラム属(Microsporum)、エピデルモフィトン属(Epidermophyton)などの不完全糸状菌やカンジダ属(Candida)、マラセチア属(Malassezia)などの不完全酵母、アスペルギルス属(Aspergillus)の子嚢菌類、ムコール属(Mucor)の接合菌類およびこれらの変異株があげられる。これらの変異株としては、自然に薬剤に対して耐性を獲得した耐性株、栄養依存性を有するようになった栄養依存性変異株、変異原処理などを行ない人為的に変異させた人工変異株などが例示できる。
【0024】
真菌症とは、真菌が人や動物の組織内に侵入し増殖して発症にいたった疾患群をいい、通常、表在性真菌症と深在性真菌症に大別され、前者では、皮膚と可視粘膜に病巣があり、後者では、内臓、中枢神経系、皮下組織、筋肉、骨、関節が侵される。とくに表在性真菌症の主なものとしては、トリコフィトン属、ミクロスポーラム属およびエピデルモフィトン属などの皮膚糸状菌の感染によって起こされる皮膚糸状菌症があり、白癬、黄癬および渦状癬の3疾患が含まれる。白癬は慣例的に皮膚糸状菌症と同義語的に用いられることがある。また、通常トリコフィトン属の皮膚糸状菌を白癬菌という。
【0025】
本発明において、抗微生物剤とは、抗微生物作用を有する化合物、または、その化合物を含む組成物を意味し、組成物には人為的な組成物である剤形と天然抽出物などの人為的でない組成物とが含まれる。
【0026】
本発明における抗微生物剤の投与は、その種類によって異なり、外用塗布、経皮投与、経口投与または静脈内投与などがあげられる。
【0027】
本発明にかかる病原微生物検出法、薬効評価法および抗微生物剤検出法を実施するに際し、微生物の感染と抗微生物剤の投与とは、いずれを先に行なってもよい。とくに本発明の薬効評価法(以下、本評価法という)においては、微生物の感染後に抗微生物剤の投与を行なえば抗微生物剤の治療効果を評価でき、一方、抗微生物剤の投与を行なったあと微生物を感染させる場合は抗微生物剤の感染予防作用およびその貯留性を評価することができる。抗微生物剤の貯留性を評価する場合には、抗微生物剤投与後、微生物感染までの期間を変化させて評価すればよい。
【0028】
本発明において、抗微生物剤の除去には、検出対象となる微生物ないし本評価法などに用いられる微生物に影響を与えなければとくに限定されるものではないが、簡便性の点で透析または限外ろ過が好適に使用される。
【0029】
透析には市販のセルロース製の透析膜が便利であるが、その他の材質であっても検出対象となる微生物ないし本評価法などに用いられる微生物が通過せず、抗微生物剤が透過できる膜であれば問題なく使用できる。大部分の真菌および細菌の大きさは0.2μm以上であることから、孔径が0.2μm未満の膜が望ましく、とくに、分画分子量1000〜50000の透析膜が好適に使用できる。
【0030】
透析に用いる外液は、生理食塩水、蒸留水、リン酸緩衝化生理食塩液および他の緩衝液などがあげられる。
【0031】
本発明における抗微生物剤の除去では、微生物被感染部位が皮膚のみならず爪や臓器などの場合でも該抗微生物剤を効率良く除去することができる。通常、皮膚に比べ爪からの抗微生物剤除去には長期間の透析を必要とする場合があり、除去効果を高めるには後述の消化酵素処理を除去前に行なってもよい。
【0032】
透析条件は該抗微生物剤の種類、投与濃度、投与期間および休薬期間(最終治療日から評価までの期間)によって異なるため、後述する本発明の微生物被感染部位に存在する抗微生物剤の検出法(以下、本薬剤検出法という)などにより、事前に治療後の皮膚から該抗微生物剤を除去できる透析条件を個々の場合について調べ、適宜調整すればよい。
【0033】
抗微生物剤が除去されていることを確認するには以下の方法により容易に行なうことができる。
【0034】
本薬剤検出法は、前記抗微生物剤の除去方法により処理した微生物被感染部位、たとえば皮膚片など、または、後述する該皮膚片などからの微生物の抽出操作にしたがって得た懸濁液を、該皮膚片などの感染に使用した微生物を含む寒天培地上に置き、培養後、それらの周囲に観察される微生物の発育阻止を観察することにより行なう。残留抗微生物剤が存在する場合、微生物の発育阻止が観察されることになる。
【0035】
本評価法は、とくに、適切な抗微生物剤の除去が行なわれたあと前記本薬剤検出法により抗微生物剤の除去が確認された皮膚片などを培地上に置いて培養し、微生物の発育の有無を観察したり、または該皮膚片などから微生物の抽出操作によって得られた懸濁液を寒天培地に塗抹して培養し、培養後、微生物の発育の有無を観察したり、培地上に出現したコロニー数を計測することにより行なうことができる。
【0036】
皮膚および爪などの生体試料から微生物を効率良く抽出するためにトリプシン処理を行なうことができるがとくに限定されるものではなく、トリプシン以外のプロナーゼ、ケラチナーゼ等の消化酵素や尿素などの角質溶解剤も抽出効果が確認されれば使用可能である。ただし、トリプシンなどの消化酵素や角質溶解剤の処理濃度および反応時間は微生物への影響の無い範囲で設定する必要がある。トリプシンなどの消化酵素の処理は透析の前および後のいずれに行なってもよい。ただし、透析前にトリプシン処理を行なった場合は透析の際には微生物への影響を無くすために消化酵素を充分に除去しておかなければならない。
【0037】
本発明において、微生物の培養に用いる培地としては、通常、培養や菌分離などに用いているものであれば問題はなく、たとえば、真菌ではサブロー培地、改変サブロー培地、ツアペック寒天培地、ポテトデキストロース寒天培地などが例示できる。一方、細菌については、ミュラー・ヒントン培地、改変ミュラー・ヒントン培地、ハート・インヒュージョン寒天培地、ブレイン・ハート・インヒュージョン寒天培地、普通寒天培地などが例示できる。
【0038】
微生物の培養温度は、10〜40℃、好ましくは20〜40℃で微生物が生育するのに充分な時間、たとえば真菌では1〜20日間、細菌では1〜5日間静置培養すれば良い。
【0039】
本評価法は、動物の生体から摘出した皮膚、爪などに微生物を感染させたあと、被検体として抗微生物剤を投与し、しかるあとに該抗微生物剤を除き、試料内の微生物を検出し定量するエキソビボでの薬効評価法としても利用できる。
【0040】
また、本評価法は、表在性真菌症治療剤の薬効評価のみならず、深在性真菌症治療剤、抗細菌剤などの抗微生物剤の評価にも応用できる。すなわち、動物に経皮、経口、経静脈、経気道、経鼻、腹腔内などの接種により真菌、細菌などの微生物を感染させたあと、抗微生物剤を投与し、しかるのちに皮膚、腎臓、肺、脳などの生体試料を採取し、該生体試料に残留している該抗微生物剤を除いたあとに該生体試料に生存する微生物を検出することで、深在性真菌症治療剤や抗細菌剤の薬効評価が可能である。
【0041】
さらに、本評価法では、治療した生体試料中の生存微生物数を測定することで、抗微生物作用の定量的な比較が可能となる。
【0042】
すなわち、薬剤治療群および感染対照群における微生物被感染部位での微生物数を、クラスカル−ワーリス検定(Kruskal-Wallis Test)などの統計学的方法を用いて有意差検定を行なった上で、チューキー(Tukey)法などの多重比較を行ない、群間の定量的な比較ができる。
【0043】
また、本発明は、真菌が感染した真菌症患者に抗真菌剤を投与したのちに、その薬効を評価する方法として、あるいは角質または爪に存在する抗真菌剤を検出する方法としても有用である。たとえば、本発明によれば、真菌が皮膚または爪に感染した患者に、抗真菌剤を投与し、そののち角質または爪を採取し、ついで前記抗真菌剤を除去したのち、角質または爪に生存する真菌を検出することにより抗真菌剤の薬効を評価することができる。また、本発明によれば、真菌が皮膚または爪に感染した患者に、抗真菌剤を投与し、そののち角質または爪を採取し、それを真菌を含む寒天培地上に置き培養後、前記角質または爪の周囲に観察される真菌の発育阻止により前記角質または爪に存在する抗真菌剤を検出することにより、抗真菌剤の検出を行なうことができる。このような、真菌症患者に投与した抗真菌剤の薬効評価および角質または爪からの該抗真菌剤の検出は、前述した動物または生体試料に投与した抗微生物剤の薬効評価法および検出法を用いて同様に行なうことができる。
【0044】
さらに、本発明によれば、本評価法に基づき、各種の有用な抗微生物剤が提供される。本評価法に基づいて得られる抗微生物剤としては、生体内での除菌効果を有する化合物またはそれを含有する表在性真菌症、深在性真菌症または細菌感染症の治療のための組成物からなる抗微生物剤であり、統計学的に有意な効果を示し選択される真の薬効を持った抗微生物剤、さらには、本評価法によりその薬剤の純粋な抗微生物活性が明らかにされて選択される生体内での除菌効果に優れる抗微生物剤または再燃を起こさない完治型の抗微生物剤をあげることができる。具体例としては、前記式(I)で表わされる基を有する化合物からなる爪真菌症治療剤があげられ、このうち、より好ましい具体例としては、式(II):
【化2】

(式中、Arは無置換またはハロゲン原子およびトリフルオロメチルから選ばれた置換基1〜3個で置換されたフェニル基を示し、R1およびR2は、同一または異なって水素原子、C1~6アルキル基、無置換またはハロゲン原子、トリフルオロメチル基、ニトロ基およびC1~6アルキル基から選ばれた置換基1〜3個で置換されたアリール基、C2~8アルケニル基、C2~6アルキニル基、またはC7~12アラルキル基を示し、mは2または3を示し、nは1または2を示し、Xは窒素原子またはCHを示し、*1、*2は不斉炭素を示す)で表される化合物からなる爪真菌症治療剤があげられる。
【0045】
当該式(I)および(II)において、置換されたフェニル基としてはハロゲン原子およびトリフルオロメチルから選ばれた1〜3個の置換基を有するフェニル基であり、たとえば2,4−ジフルオロフェニル、2,4−ジクロロフェニル、4−フルオロフェニル、4−クロロフェニル、2−クロロフェニル、4−トリフルオロメチルフェニル、2−クロロ−4−フルオロフェニルまたは4−ブロモフェニルなどがあげられ、C1~6アルキル基としてはたとえばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert−ペンチル、シクロヘキシルなどの炭素数1〜6の直鎖、分岐鎖または環状アルキル基があげられ、無置換アリール基としては、たとえばフェニル、ナフチルまたはビフェニルなどがあげられ、置換アリ−ル基としては、たとえば2,4−ジフルオロフェニル、2,4−ジクロロフェニル、4−フルオロフェニル、4−クロロフェニル、2−クロロフェニル、4−トリフルオロメチルフェニル、2−クロロ−4−フルオロフェニル、4−ブロモフェニル、4−tert−ブチルフェニルまたは4−ニトロフェニルなどがあげられ、C2~8アルケニル基としては、たとえばビニル、1−プロペニルまたはスチリルなどがあげられ、C2~6アルキニル基としては、たとえばエチニルなどがあげられ、C7~12アラキル基としては、たとえばベンジル、ナフチルメチルまたは4−ニトロベンジルなどがあげられる。
【0046】
また前記抗微生物剤のうち、とりわけ好ましい化合物としては、後述するKP−103のような薬効を示す化合物があげられる。
【0047】
前記KP−103は、化学名:(2R,3R)−2−(2,4−ジフルオロフェニル)−3−(4−メチレンピペリジン−1−イル)−1−(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イル)ブタン−2−オールで表わされる抗真菌剤を意味する。当該化合物は、たとえば国際公開公報WO94/26734明細書(実施例1)に基づき、(2R,3S)−2−(2,4−ジフルオロフェニル)−3−メチル−2−[(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イル)メチル]オキシランと4−メチレンピペリジンとを反応させ、製造することができる。
【0048】
また、本発明で爪真菌症治療剤として使用するKP−103はこれまでに抗真菌活性が知られている(国際公開公報WO94/26734)が、爪真菌症への効果は確認されていない。
【0049】
そのようにして得られた抗微生物剤は、薬剤組成物として用いることもでき、微生物を殺菌するための薬剤組成物として用いることができる。したがって、真菌症などの疾患を完全に治療し再燃を防止する薬剤組成物ともなる。
【0050】
爪真菌症とは、前記表在性真菌症の一種であり、真菌が人や動物の爪に侵入し増殖して発症にいたった疾患群をいい、人の爪真菌症の主な原因菌はトリコフィトン属のトリコフィトン ルブルム(Trichophyton rubrum)およびトリコフィトン メンタグロフィテス(Trichophyton mentagrophytes)である。希にミクロスポーラム属、エピデルモフィトン属、カンジダ属、アスペルギルス属、フザリウム属などが原因菌となることがある。
【0051】
本発明の爪真菌症治療剤の適応症としては、原因菌がトリコフィトン属の場合の爪白癬、カンジダ属の場合の爪カンジダ症、そのほかの真菌の場合の爪真菌症(狭義)があげられる。
【0052】
本発明における抗微生物剤の一種である爪真菌症治療剤は、外用剤として投与する場合、液剤、クリーム剤、軟膏剤、マニキュア製剤などの剤形が考えられる。これら製剤を調製するにあたっては、油性基剤または乳剤性基剤など用いて調製することができ、有効成分として好ましい含量は0.1〜10重量%である。投与量は患部の広さおよび症状によって適宜調節すればよい。
【0053】
経口剤の場合、粉末、錠剤、顆粒剤、カプセル剤またはシロップとして使用され、さらには皮下、筋肉内または静脈内注射剤などの注射剤としても使用される。
【0054】
本発明において、爪真菌症治療剤の投与量は患者の年齢、体重および個々の条件により異なるが、成人1日当たり有効成分として10mg〜10g、好ましくは50mg〜5g程度であり、投与方法としては上記1日当たりの投与量を1回ないし数回に分けて投与する。
【実施例】
【0055】
以下に実施例をあげてさらに詳しく本発明について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0056】
[比較例1および実施例1〜3の前処理]
[1] 菌液の調製とモルモット趾間型足白癬モデルの作成
ブレインハートインヒュージョン寒天培地(日水製薬(株)製)上にミリポアフィルター(HA、直径47mm、0.45μm、Millipore 社製)を乗せ、その上にトリコフィトン メンタグロフィテス KD−04株(Trichophyton mentagrophytes KD−04)の小分生子106個を塗抹したあと、17%CO2存在下、30℃で7日間培養した。培養後、フィルター上に0.05%ツイン(Tween)80添加生理食塩水を適量滴下し、白金耳を用いて分節胞子を回収した。菌糸塊を滅菌ガーゼでろ過し除去後、ろ液中の分節胞子数を血球計算盤で算定し、1×108分節胞子/mlの濃度に調整し、接種菌液とした。
【0057】
有可らの方法(Antimicrobial Agents and Chemotherapy,36:2523−2525,1992)に準じてモルモット趾間型足白癬モデルを作成した。すなわち、Hartley系7週齢雄性モルモットの後足2足の趾間部皮膚を軽くサンドペーパーで擦過したあと、趾間部に前記接種菌液に浸漬したペーパーディスク(Whatman社製のAAdiskを8×4mmに切断)を挿入したあと、Self−adhering−Foam Pad(Restone 1560M、3M社製)および粘着性布伸縮包帯(エラストポア、ニチバン(株)製)で固定した。感染7日後にペーパーディスクおよび包帯を除去した。
【0058】
[2] 液剤の調製およびモルモット趾間型足白癬に対する塗布治療
被検体としては市販の1%ラノコナゾール液剤(商品名:アスタット液)およびKP−103をポリエチレングリコ−ル#400:エタノ−ル(75:25v/v)混液に1%濃度で溶解した液剤を用いた。感染10日後から1日1回、10日間、0.1mlを足裏皮膚に塗布治療した。
【0059】
比較例1 従来の薬効評価法
以下に、従来法を記述する。薬剤の塗布を行なっていない感染対照群、KP−103治療群およびラノコナゾール治療群の各群につきモルモット(以下、動物という)10匹とし、最終治療の2日後および30日後にそれぞれの群の動物を安楽死させたあと後足2足を採取し酒精綿で充分に清拭したあと、足裏皮膚を切り出し、足底部から12個および足指部から3個の計15個の皮膚片に切り分けた。皮膚片をクロラムフェニコ−ル(和光純薬工業(株)製)50μg/ml、ゲンタマイシン(シェ−リング・プラウ)100μg/ml、5−フルオロシトシン(和光純薬工業(株)製)50μg/ml、シクロヘキシミド(ナカライテスク(株)製)1mg/mlを含むサブローデキストロースアガー(Difco社製)培地(20ml)の上に乗せた。培地に添加した抗生物質は細菌を生育させない一方、真菌の生育には支障の無い条件で設定した。30℃で10日間培養したあと、すべての皮膚片に菌の発育が観察されない場合を菌陰性化とし菌陰性化足数を求めた。最終治療30日後の薬効評価においては、再感染防止のために最終治療の2日後に治療足を酒精綿で清拭したあと足を包帯で固定し、包帯を1週間毎に交換した。最終治療2日後と30日後のKP−103およびラノコナゾールの治療効果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1からわかるように、KP−103治療群では最終治療2日後において全足で菌の陰性化が観察され、最終治療30日後においても20足中16足で菌の陰性化が観察された。一方、ラノコナゾール治療群では最終治療2日後においては全足で菌の陰性化が観察されたが、最終治療30日後では9足で菌の陰性化が観察されたに過ぎず、最終治療2日後と30日後で治療効果に相関性が認められなかった。ラノコナゾールは白癬菌に対して強力なインビトロ活性を有しており、本試験菌株に対するインビトロ抗真菌活性もKP−103と比較し8倍強く、15.6ng/mlで菌の発育を阻止するにもかかわらず、最終治療30日後での菌の陰性化足数が減少してしまうのは、最終治療2日後に認められたラノコナゾールの治療効果は治療後の皮膚に残留した薬剤が培養系に混入し皮膚中の菌の発育が阻止されたことによるものと推測し、残留薬剤の確認試験を行なった。
【0062】
実施例1 従来法で最終治療5日後に評価したあとの皮膚における残留薬剤の確認
比較例1に準じてモデルを作成し、被検体のラノコナゾールはKP−103と同一の基剤を用いて1%液剤を調製し治療実験に供した。薬剤の塗布を行なっていない感染対照群、KP−103治療群およびラノコナゾール治療群の各群につき動物20匹とし、最終治療5日後に比較例1と同様にして各動物から後足2足ずつを採取し、左足計20足を従来法での評価に用い、右足計20足を本評価法での評価に用いた。
【0063】
最終治療5日後に比較例1と同様に菌の生育を観察し薬効評価を行なったあとの左足の皮膚片を、トリコフィトン メンタグロフィテス KD−04株(2×104個/ml)および比較例1に記載の抗生物質を含むサブローデキストロースアガー培地(20ml)上に移し、30℃で3日間培養した。培養後、皮膚の周囲に出現した菌の発育阻止円を観察し20足中10足について写真撮影を行なった。図1は、前記条件で培養したあとの写真を電子化したものである。(a)は薬剤を塗布していない感染対照群、(b)はKP−103治療群、および(c)はラノコナゾール治療群を示す。(a)感染対照群の各動物それぞれに対応する10個のシャーレの内1つを代表して説明するが、図1中、Sは動物に由来する15個の足裏皮膚片の内の1つを、Mは前記培地を示す。(b)KP−103治療群および(c)ラノコナゾール治療群に記載のSおよびMも同様である。培地において白く見られる部分では菌の発育が生じており、一方、黒く見られる部分では菌の発育が阻止されている。
【0064】
図1からわかるように、薬剤を塗布していない感染対照群の皮膚片の周囲においては良好な菌の発育が見られた。KP−103治療群の皮膚片の周囲においては菌の発育は感染対照群と比較し若干阻害されたものの、すべての皮膚片において菌の増殖が観察された。一方、ラノコナゾール治療後の皮膚片の周囲において菌の発育は完全に阻止された。これらの結果から、表1で示した従来法でのラノコナゾールの治療効果は皮膚に残留した薬剤が培養系に混入し菌の発育を阻止し、見かけ上治療効果を示していたと考えられた。
【0065】
したがって、従来法では薬効を正確に評価できないことが明らかとなった。
【0066】
実施例2 皮膚からの薬剤除去後における残留薬剤の確認
実施例1において最終治療5日後に各動物から右足20足を採取したあと、酒精綿で充分に清拭し足裏皮膚を切り取った。皮膚をハサミで充分に切り刻んだあとに、透析膜(分画分子量:12000〜14000、セルロース製、VISKASE SALES社製)に入れ、蒸留水4mlを加え、蒸留水3L中で4℃で2日間透析した。透析水は1日2回合計4回交換した。内容物をガラスホモジナイザーに移し、4%ブタ膵臓由来トリプシン(BIOZYME社製)を含む2倍濃度のリン酸緩衝化生理食塩液4mlを加え、ホモジナイズした。37℃で1時間放置した。2枚重ねのガーゼでろ過し、ろ液を遠心分離した。上清を除去した沈澱物に2%トリプシンを含むリン酸緩衝化生理食塩液8mlを加え、さらに37℃で1時間振盪して反応させた。遠心分離後、上清を除去した沈澱をリン酸緩衝化生理食塩液で遠心分離にて3回洗浄しトリプシンを除去した。沈澱物に同生理食塩液2mlを加え懸濁液とした。
【0067】
なお、本実施例で使用したのと同じ菌を用いて、透析操作およびトリプシン処理を実施したが、該菌の生存率に対しこれら操作による影響は全く見られなかった。
【0068】
あらかじめ、トリコフィトン メンタグロフィテス KD−04株(2×104個/ml)および比較例1に記載の抗生物質を含むサブローデキストロースアガー培地(20ml)の中央にウエルを作成した。ウエルの中に前記懸濁液100μlを添加し、30℃で3日間培養した。培養後、出現した菌の発育阻止円を観察したあと20足中10足について写真撮影を行なった。図2は、前記条件で培養したあとの写真を電子化したものである。(a)は薬剤を塗布していない感染対照群、(b)はKP−103治療群、および(c)はラノコナゾール治療群を示す。(a)感染対照群の各動物それぞれに対応する10個のシャーレの内1つを代表して説明するが、図2中、Eは動物の足裏皮膚から調製した懸濁液を、Mは前記培地を示す。(b)KP−103治療群および(c)ラノコナゾール治療群に記載のEおよびMも同様である。培地全体において白く見られる部分では菌の発育が生じており、一方、ウエルの周辺の黒く見られる部分では菌の発育が阻止されている。
【0069】
図1において従来法ではラノコナゾール治療群の最終治療5日後の皮膚の周辺には菌の発育が全く見られず、皮膚における薬剤の残留が確認された。これに対して、図2ではラノコナゾール治療群の最終治療5日後の皮膚を本発明における透析処理による薬剤の除去を行なったのち得た懸濁液では10足中2足で菌の発育阻止円が若干観察されたものの、残り8足では菌の発育阻止円はほとんど観察されなかった。
【0070】
これより、本発明における透析処理により、治療後の皮膚に残留する薬剤は充分に除けることが明らかとなり、したがって薬剤の薬効評価の際には残留薬剤の影響を受けないことが確認できた。
【0071】
実施例3 皮膚内生存菌の検出および薬効評価
比較例1に記載の抗生物質を含むサブローデキストロースアガー培地(20ml)2枚ずつに前記実施例2で得た各動物の右足1足の懸濁液をそれぞれ100μlずつ塗布し、30℃で10日間培養した。培養後、培地2枚に菌のコロニーが観察されない場合を菌陰性化とし(検出限界:10個/足)菌陰性化足数を求めた。一方、左足20足については比較例1と同様の方法により評価した。従来法と本評価法での治療効果の比較の結果を表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
表2に示すように、KP−103治療群では従来法および本評価法のいずれで評価しても菌陰性化足数に大きな差は認められず、本評価法での該薬剤の菌陰性化足の割合は85%であることがわかった。一方、ラノコナゾール治療群では従来法において全足で菌の陰性化が観察されたが、本評価法では3足で菌陰性化が観察されたに過ぎなかった。
【0074】
以上より、本評価法は治療後の残留薬剤の影響を受けず真の薬効を評価できることが明らかとなった。
【0075】
さらに、本評価法での結果は比較例1に記載の従来法での最終治療30日後に評価した時の結果と相関していたことから、本評価法では治療後の早い時期の評価により抗微生物剤の再燃防止効果の予測が可能であることが明らかとなり、それゆえ、本評価法により、再燃を起こさない完治型の抗微生物剤を得ることが可能である。
【0076】
[実施例4および5の前処理]
[1] 菌液の調製とモルモット爪および足白癬モデルの作成
前記比較例1の前処理の菌液の調製において、菌株トリコフィトン メンタグロフィテス KD−04株を、トリコフィトン メンタグロフィテス SM−110株とし、そのほかは同一の方法で菌液を調製した。
【0077】
前記モルモット趾間型足白癬モデルの作成において、Hartley系7週齢雄性モルモットを、Hartley系5週齢雄性モルモットとし、感染7日後にペーパーディスクおよび包帯を除去したところを、感染21日後とし、その他は同一の方法でモルモット爪および足白癬モデルを作成した。感染60日後において足裏皮膚および爪甲内への白癬菌の感染が確認された。
【0078】
[2] 被検物質の調製およびモルモット爪および足白癬に対する治療
被検物質として液剤はKP−103、アモロルフィンおよびタービナフィン原末をそれぞれポリエチレングリコ−ル#400:エタノ−ル(75:25v/v)混液に1%濃度で溶解し調製した。タービナフィンのカプセル剤は市販の錠剤を破砕したのち、ミグリオール812(ミツバ貿易(株))に100mg/mlになるようにガラスホモジナイザーを用いて均一に懸濁させ、投与当日に体重を測定し、40mg/kgになるようにカプセルに分注し調製した。感染60日目から1日1回、連日30日間、KP−103、アモロルフィンおよびタービナフィンの液剤0.1mlを1足の足裏皮膚および爪に塗布し、タービナフィンのカプセル剤は1カプセル(40mg/kg)を経口投与した。
【0079】
実施例4 爪白癬に対する薬効評価
爪白癬に対する効果は以下の方法で評価した。
【0080】
最終治療の2日後に動物を安楽死させたのちに各動物の後足を採取し酒精綿で充分に清拭した。後足1足分の爪(計3個)を切り出し、ハサミで充分に切り刻んだのちに、ガラスホモジナイーザーに移し、2%ブタ膵臓由来トリプシン(BIOZYME社製)を含むリン酸緩衝化生理食塩液(Phosphate Buffered Salts、宝酒造株式会 社製)4mlを加え、ホモジナイズした。37℃で1時間振盪して反応させた。遠心分離した後、沈澱をリン酸緩衝化生理食塩液で3回遠心洗浄することでトリプシンを除去した。沈澱物に滅菌蒸留水4mlを加え、懸濁したのち、透析膜(分画分子量:12000〜14000、セルロース製、VISKASE SALES社製)に入れ、蒸留水3L中、4℃で14日間透析した。透析水は1日2回合計28回交換した。遠心分離後、上清を除去した沈殿に生理食塩液1mlを加え懸濁液とした。これを原液として10倍ずつ希釈した。原液または希釈液100μlを比較例1記載の抗生物質を含むサブローデキストロースアガー(Difco社製)培地(20ml)に塗布し、30℃で10日間培養した。培養後、すべての培地に菌のコロニーが観察されない場合を菌陰性化とし(検出限界:10個/足)爪内菌陰性化足数を求めた。培地上にコロニーが出現した場合はそのコロニー数(CFU)を計測し、希釈率を乗じて1足あたりの爪内菌数を算出した。爪内菌数はクラスカル−ワーリス検定を行なった上で、チューキー法に基づく多重比較を行ない群間の有意差を解析した。それらの結果を図3に示し、それを表3にまとめた。図3においては、各処置群の爪内菌数をプロットし、それらの平均菌数を横線および数値で表わした。
【0081】
前記懸濁液を用い実施例2と同様に本薬剤検出法により残留薬剤の確認を行ない、残留薬剤が充分に除去できていることを確認した。
【0082】
実施例5 足白癬に対する薬効評価
実施例4に記載した各動物から、後足の足裏皮膚を切り取り、前記実施例2の薬剤除去および残留薬剤の確認において、残留薬剤除去のための透析期間を3日間、透析水の交換を合計6回とし、そのほかは同一の方法で薬剤除去および残留薬剤の確認を行ない、残留薬剤が充分に除去できていることを確認した。
【0083】
ついで、実施例4と同様の方法で薬効評価を行なった(検出限界:20個/足)。それらの結果を図4に示し、それを表4にまとめた。図4においては、各処置群の皮膚内菌数をプロットし、それらの平均菌数を横線および数値で表わした。
【0084】
【表3】

【0085】
図3および表3に示すように、いずれの群においても30日間治療では爪内菌陰性化足は観察されなかった。しかし、KP−103は外用基剤と比較して有意に爪内菌数を減少させ、その治療効果は経口タービナフィンと比較し有意に優れていた。一方、アモロルフィンおよびタービナフィン(外用、経口)では基剤と比較して有意な殺菌効果は認められず、治療効果を発揮することはできなかった。以上より、KP−103は外用塗布で爪白癬に対して効果を発揮し、経口タービナフィンと比較し早期に爪白癬を治癒できることが示唆された。
【0086】
【表4】

【0087】
図4および表4に示すように、KP−103、タービナフィン、アモロルフィンのいずれの薬剤も足白癬に対して菌陰性化足の割合および皮膚内菌数のいずれで評価しても優れた治療効果を示した。一方、図3および表3で示したようにタービナフィンおよびアモロルフィンは爪白癬には治療効果を示さなかったが、KP−103は爪白癬に対しても優れた殺菌効果を示すことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
前記のとおり、最近開発されたラノコナゾールのような白癬菌に対して極めて強力なインビトロ活性を有する薬剤は従来法で評価すると治療後の皮膚に残留する薬剤により、皮膚内の菌の発育が阻止され、皮膚内に治療されなかった菌が存在しているにも関わらず菌陰性と判定されている。
【0089】
これに対して本発明は、治療後の皮膚などの動物または生体試料の微生物被感染部位を透析膜などを用いて透析することにより残留する抗微生物剤を除けるため、正確に抗微生物剤の薬効を評価することができる。さらには、従来法では抗真菌作用などの抗微生物作用の定量的な比較は困難であったが、本評価法では皮膚などの動物または生体試料の微生物被感染部位に生存する微生物数が正確に定量できるため抗微生物作用の定量的な比較も出来る。また、本評価法での治療効果は従来法での再燃の結果を反映しており、本評価法により治療後の早い時期の評価により再燃の防止効果を予測することができる。したがって、本評価法では、抗微生物剤の真の薬効を評価でき、さらには生体内での除菌効果に優れる抗微生物剤または再燃を起こさない完治型の抗微生物剤を選択することが可能となる。以上のことから、本評価法は抗微生物剤の評価法として非常に有用性が高い。
【0090】
また、爪真菌症においては、本評価法により爪白癬モデルにおける爪真菌症治療効果を正確に評価することが初めて可能となった。
【0091】
本評価法により爪真菌症治療効果を評価した結果、KP−103は、従来の外用抗真菌剤では効果が得られなかった爪真菌症に対して単純塗布で優れた治療効果を発揮することが明らかとなった。外用塗布であるため、経口剤に見られる全身性の副作用が無く、さらには、臨床使用されている経口剤と比較しても短期間で爪真菌症を治癒させるために患者のコンプライアンスの向上も期待できる。したがって、爪真菌症治療剤として産業上大変有益である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物または生体試料に病原微生物を感染させ、該感染の前または後に、抗微生物作用を有する化合物またはそれを含有する組成物からなる抗微生物剤を投与し、ついで前記抗微生物剤を除去したのち、病原微生物被感染部位に生存する病原微生物を検出する病原微生物の検出法。
【請求項2】
前記病原微生物が細菌または真菌である請求項1記載の病原微生物の検出法。
【請求項3】
前記真菌が表在性真菌症または深在性真菌症の原因菌である請求項2記載の病原微生物の検出法。
【請求項4】
前記抗微生物剤が表在性真菌症治療剤、深在性真菌症治療剤または抗細菌剤である請求項1記載の病原微生物の検出法。
【請求項5】
前記抗微生物剤を透析または限外ろ過により除去する請求項1記載の病原微生物の検出法。
【請求項6】
前記病原微生物被感染部位が皮膚または爪である請求項1記載の病原微生物の検出法。
【請求項7】
前記抗微生物剤の投与を経皮投与、経口投与または静脈内投与により行なう請求項1記載の病原微生物の検出法。
【請求項8】
病原微生物の検出のため病原微生物被感染部位を消化酵素処理する請求項1記載の病原微生物の検出法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の病原微生物の検出法により病原微生物を検出することからなる抗微生物剤の薬効評価法。
【請求項10】
動物または生体試料に病原微生物を感染させ、該感染の前または後に、抗微生物作用を有する化合物またはそれを含有する組成物からなる抗微生物剤を投与し、ついで病原微生物被感染部位を採取し、それを病原微生物を含む寒天培地上に置き培養後、前記病原微生物被感染部位の周囲に観察される病原微生物の発育阻止により前記病原微生物被感染部位に存在する抗微生物剤を検出する抗微生物剤の検出法。
【請求項11】
真菌が皮膚または爪に感染した患者に抗真菌剤を投与し、そののち角質または爪を採取し、ついで該抗真菌剤を除去したのち、角質または爪に生存する真菌を検出することからなる抗真菌剤の薬効評価法。
【請求項12】
真菌が皮膚または爪に感染した患者に、抗真菌剤を投与し、そののち角質または爪を採取し、それを真菌を含む寒天培地上に置き培養後、前記角質または爪の周囲に観察される真菌の発育阻止により前記角質または爪に存在する抗真菌剤を検出する抗真菌剤の検出方法。

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−4893(P2010−4893A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233792(P2009−233792)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【分割の表示】特願2001−512909(P2001−512909)の分割
【原出願日】平成12年7月11日(2000.7.11)
【出願人】(000124269)科研製薬株式会社 (18)
【Fターム(参考)】