説明

病理的瘢痕の高色素沈着を治療することを意図する、ヒドロキノン、フルオシノロンアセトニド、およびトレチノインの組み合わせを含む皮膚科学組成物の使用

本発明は、病理的瘢痕の高色素沈着を治療することを意図する、ヒドロキノン、フルオシノロンアセトニド、およびトレチノインの組み合わせを含む皮膚科学組成物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病理的瘢痕(pathological scar)の高色素沈着を治療することを意図する、ヒドロキノン、フルオシノロンアセトニド、およびトレチノインの組み合わせを含む皮膚科学組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
傷の治療は、修復および再生過程により、外傷を修復することを可能にする、天然の生物的現象である。
【0003】
傷を治療する速さおよび質は、冒された個体の一般的な条件、傷の原因論、傷の条件および部位、ならびに感染の発生または非発生に依存し、ならびにまた治療の不調に至る素因を引き起こす、または引き起こさない遺伝的因子にも依存する。
【0004】
治療は、瘢痕に至る過程である。この過程はまた、炎症性の病巣の結合性(または繊維性)組織としても知られている。細胞性または体液性機構による炎症反応は、炎症性肉芽腫の形成を誘導し、その肉芽腫は、治療の第一段階を構成する再生芽(または肉芽組織)に徐々に変形する。肉芽組織は一時的に新しい結合組織を形成し、結合組織は、瘢痕性繊維組織に変形することを確実にする顕著な変形を行うであろう。
【0005】
炎症は、原因(感染性、物理的、化学的、または虚血性)が何であれ、いずれかの組織外傷により引き起こされる、血管、細胞および体液性反応の組あわせからなる動的過程である。これにより、攻撃的薬剤および細胞破片の除去、ならびに損傷組織の回復が可能となる。
【0006】
治療過程は、主に4つのフェーズで発生する。
- 血管のうっ血、浮腫、および炎症部位に向かう白血球の移動を含む、最初の血管性/滲出性フェーズ、
- 肉芽組織としても知られる再生芽に転換する、炎症性肉芽腫を形成するフェーズ、
- 清掃(すなわち、壊死組織、微小器官、可能性のある異物および浮腫液の除去)、炎症、ならびに炎症および上皮形成(すなわち、外脾細胞の増加および治療の終了)のフェーズ、
- 肉芽組織から瘢痕性繊維組織(または瘢痕)に変化することを可能とする、適切な治療フェーズ。
【0007】
通常、傷は10日後に完治する。60日目から始まって、瘢痕は生理学的異常肥大フェーズを経て、そのフェーズの間、瘢痕は厚くなり、結合性となり、近辺組織は退縮するであろう。この異常肥大フェーズは実質的に1年後に完了する。その後、瘢痕はもはや赤かったり、または堅くなっていたりせず、痛みを引き起こさず;それは平坦になる。
【0008】
【特許文献1】WO2004/037201
【非特許文献1】Topiramate and scars, Bharti RakeshとAngarwal Lovedhi, Dermatology Online Journal, 11 (3), 42
【非特許文献2】Treatment of scars: a review, Alsterら, Ann. Plast. Surg., 1997, Oct, 39(4), 418-32
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしある場合、治療が十分に実行されず、病理的瘢痕が形成される。そのとき「治療不調」の語が使用される。この治療不調は、伝統的に治療の破壊と定義され;以下の2つの現象を同時に引き起こす:
- 傷が穴になり、肉芽組織が再構成されない治療の異常である、潰瘍。外傷だけでなく、尋常性座瘡または水疱瘡のような皮膚病より特に生ずる発育不全または萎縮性瘢痕は、空洞領域またはアイスピック(ice-pick)瘢痕である;それらの形状もまた、治療の異常による(Topiramate and scars, Bharti RakeshとAngarwal Lovedhi, Dermatology Online Journal, 11 (3), 42; Treatment of scars: a review, Alsterら, Ann. Plast. Surg., 1997, Oct, 39(4), 418-32;
- 異常な過程で肉芽組織が過剰増殖する過程である、肥厚性瘢痕(hypertrophic scar)およびケロイド(または「ケロイド状瘢痕(keloidal scar)」)(Treatment of scars: a review, Alsterら, Ann. Plast. Surg., 1997, Oct, 39(4), 418-32)。
【0010】
そして治療不調は、通常の治療過程とは非常に異なる病状を同時にもたらす。
【0011】
本発明は、2つのタイプの病理的瘢痕:「肥厚性」瘢痕および「ケロイド」または「ケロイド状」瘢痕に関するものである。
【0012】
肥厚性であれケロイド状であれ、共通の起源としてこれらの瘢痕は、強度の高いおよび/または持続性が長い、最初の肥厚フェーズを有する。前記フェーズは、過剰に濃密な繊維組織を真皮にもたらす。病理的瘢痕は巨大で、腫れており、赤くて固く、そしてかゆい。
【0013】
これらの瘢痕を時間をかけて変化させることにより、肥厚性瘢痕をケロイド状瘢痕と区別することが可能となる。なぜなら
- 肥厚性瘢痕は、時間をかけて自発的に改善する(平均2または3年)。肥厚性瘢痕は、瘢痕の元の位置に制限されたままでいる
- 一方でケロイド状瘢痕は、自発的に改善する、および安定したままでいる傾向をまったく有さず、実際時間がたつと共に悪化しさえする。さらに、この型の瘢痕は、瘢痕の元の位置を離れて広がり、近辺の健康な組織を病変する
ためである。
【0014】
これらの病理的瘢痕を形成する根本にある原因または原因群は、いまだほとんどわかっていないが、その発病を引き起こしやすい複数の因子が存在する。
【0015】
病理的瘢痕を形成する危険因子の中で、以下のものが言及されてよい:
- 人種:黒人種またはアジア系人種は、白人種よりもはるかにケロイドを被りやすい;
- 年齢:肥厚性瘢痕は、子供に多く、年取った患者にはまれである;
- 体上の部位:例えば、胸骨、首、耳たぶ、または顔面の下半分のような、体のいくつかの部分は病理的瘢痕をより悪化させる傾向がある。
【0016】
ケロイドの病巣内切除または切除治療が、(再び病変を誘導しないために、)これらの病理的瘢痕を治療するために特に存在する。
【0017】
肥厚性およびケロイド状瘢痕の治療が、外科的なもののみではないことは明白である。肥厚性瘢痕の原因は不明であるため、瘢痕に対する単純な外科的改変後には、再発する危険が存在する。瘢痕の大きさが非常に大きい際には、外科手術によりある程度その大きさを小さくすることができるが、できるだけ速やかに、以下の2つの方法の単独または組み合わせにより、瘢痕を追跡することが必要である:
- 特注の圧迫弾性衣料と、または圧迫を伴うシリコーン衣料と実行される「圧力療法」。常に達成されるわけではないが、およそ6ヶ月の間、(昼夜)継続的に適用されれば非常に効果的である。
- 長期的に有効なコルチゾン製品を瘢痕の内側に注入する「皮質療法(corticotherapy)」。これらの瘢痕は通常非常に固いために、瘢痕中へ製品を圧力下で注入する方法は、無針デバイス(「ダーモジェット(Dermo Jet)」)を使用する。
【0018】
インターフェロンを使用する方法もまた存在するが、現在、どのような治療法を用いても、外傷の完全な消滅はまれに達成されるに過ぎない。
【0019】
さらに、大きさ、形状、痛みおよびかゆみの問題に加えて、肥厚性瘢痕にかかっている患者に、肥厚性瘢痕は現実的な問題を提示する。これらの瘢痕は、その形状のみならず周辺組織に対して高色素沈着を起こしていることが多い。これら種々の兆候は、そのような瘢痕にかかっている患者に心理的苦痛を引き起こす可能性があり、真の治療が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0020】
驚くべきことに、発明者はヒドロキノン、トレチノイン、およびフルオシノロンアセトニドを組み合わせることにより、効率的に高色素沈着を治療し、病理的瘢痕および高色素沈着瘢痕の柔軟性を改善することが可能となることを発見した。
【0021】
そして、本発明の主題は、病理的瘢痕の高色素沈着を治療することを意図する医薬の調製において、ヒドロキノン、トレチノイン、およびフルオシノロンアセトニドを組み合わせて使用することである。
【0022】
なぜなら、周辺組織とほとんど同質な色素である瘢痕を取得するためには、そのような組み合わせにより病理的瘢痕を特に脱色素化することができるためである。
【0023】
本発明によれば、「病理的瘢痕」の語は、肥厚性瘢痕およびケロイド状瘢痕を意味すると理解される。
【0024】
「高色素沈着瘢痕」の語は、過剰の色素とともに形成される瘢痕を意味すると理解される。
【0025】
有利には、本発明による医薬は、局所塗布が意図される。
【0026】
本発明による医薬はまた、生理学的に許容しうる媒体、すなわち、頭皮、粘膜、髪、体毛および/または目を含む皮膚と両立し、皮膚科学組成物を構成することができる媒体も含む。
【0027】
本発明の他の主題は、病理的瘢痕の、特に肥厚性およびケロイド状瘢痕を脱色素化することを意図する化粧用組成物の調製において、ヒドロキノン、トレチノイン、およびフルオシノロンアセトニドを組み合わせて使用することである。
【0028】
ヒドロキノンは脱色素化剤として知られている。それは亜硫酸水素ナトリウムでp-ベンゾキノンを還元することにより調製される。ヒドロキノンの化学名は1,4-ベンゼンジオールである。
【0029】
有利には、ヒドロキノンは、医薬の総重量に対して1重量%と10重量%との間、有利には2重量%と7重量%との間、より有利にはおよそ4重量%の濃度で、本発明による医薬中に存在する。
【0030】
トレチノインの化学名は、(all-E)-3,7-ジメチル-9-(2,6,6-トリメチル-1-シクロヘキセン-1-イル)-2,4,6,8-ノナ-テトラエン酸である。これは、カルボキシル基を与えるレチネンのアルデヒド基を酸化することにより形成される全トランス-レチノイン酸であり、これは、光および湿度に対して高反応性である。それは角質溶解薬である。
【0031】
特定の実施態様において、トレチノインは、医薬の総重量に対して0.025重量%と2重量%との間、有利には0.025重量%と1重量%との間、より有利にはおよそ0.05重量%の濃度で、本発明による医薬中に存在する。
【0032】
フルオシノロンアセトニドの化学名は、(6,11,16)-6,9-ジフルオロ-11,21-ジヒドロキシ-16,17-[(1-メチルエチリデン)ビス(オキシ)]プレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオンである。それは、結晶性白色粉末であり、無臭で、光に対して安定である。フルオシノロンアセトニドは、局所的皮膚科学使用が意図される、合成フッ素化コルチコステロイドであり、抗炎症剤として使用される。
【0033】
特定の実施態様において、フルオシノロンアセトニドは、医薬の総重量に対して0.005重量%と0.1重量%との間、有利には0.005重量%と0.05重量%との間、より有利にはおよそ0.01重量%の濃度で、本発明による医薬中に存在する。
【0034】
有利には、本発明による医薬は、ヒドロキノンの酸化を防ぐために、メタ重亜硫酸ナトリウムを含む。
【0035】
さらに、上記の組成物は、予想される適用型において通常存在するすべての構成成分を含む。
【0036】
本発明による医薬は、広範な種類の付加成分を含むことができる;
特にそれらは、吸収剤、研磨剤、にきび抑制剤、消泡剤、抗微生物剤、抗酸化剤、結合剤、生物学的添加物、緩衝剤、キレート剤、着色剤、化粧用収斂剤、化粧用バイオサイド(biocide)、外用鎮痛薬、膜形成剤、芳香成分、乳白剤、可塑剤、保存剤、他の脱色素化剤、皮膚軟化剤、皮膚保護剤、溶媒、可溶化剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、日焼け防止剤、増粘剤(水性または非水性)、保湿剤、金属イオン封鎖剤などであってよい。
【0037】
これらの付加成分は、医薬の総重量に対して0.001重量%と20重量%との間の量で、本発明による医薬中に存在する。
【0038】
当業者は、可能性のある付加化合物および/またはその量を、本発明による医薬の有利な特性が、予想される添加により完全に、または実質的に軽減しないように、注意して選択するであろうことは明白である。
【0039】
本発明による医薬は、皮膚科学の分野で通常使用される薬剤投与形態で提供される。好ましくは、医薬はクリームの形態で提供される。「クリーム」の語は、局所塗布のための、水ベースの調製物を意味する。それはエマルジョンに相当する、すなわち、少なくとも1つの脂溶相、およびすなわち少なくとも1つの親水相を含む。
【0040】
有利には、前記クリーム形態を、特許出願WO2004/037201に示されるように、以下の段階を含む方法により調製することができる:
a) 水相または親水相を形成するために、水と親水性化合物を混合する段階;
b) 疎水相を形成するために、疎水性化合物を混合する段階;
c) 二相混合物を形成するために、親水相と疎水相を混合する段階;
d) エマルションを形成するために、二相混合物に乳化剤を添加する段階。
【0041】
さらに、それらはクリームの他の通常成分を含み、当業者に既知の方法で製造されることが可能である。
【0042】
有利には、本発明による医薬は、ブチル化ヒドロキシトルエン、セチルアルコール、クエン酸、グリセロール、グリセリルステアレート、マグネシウムアルミニウムシリケート、メチルグルセス-10 (methyl gluteth-10)、メチルパラベン、PEG-100ステアレート、プロピルパラベン、精製水、メタ重亜硫酸ナトリウム、ステアリン酸、およびステアリルアルコールより選択される少なくとも1つの不活性成分を含む。
【0043】
有利には、本発明による医薬は、実施例1で提示されている、Galdermaより販売されているクリームTri-Luma(登録商標)に相当する。
【0044】
<実施例1:クリームTri-Luma(登録商標)の組成物>
前記クリームは、総重量に対する重量%で、以下の配合物を有する。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
肥厚性瘢痕およびケロイド状瘢痕より選択される病理的瘢痕の高色素沈着を治療することを意図する医薬の調製における、ヒドロキノン、トレチノイン、およびフルオシノロンアセトニドを組み合わせる使用。
【請求項2】
前記医薬が、局所塗布に適する組成物の形態であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記ヒドロキノンが、前記医薬の総重量に対して1重量%と10重量%との間、有利には2重量%と7重量%との間、より有利にはおよそ4重量%の濃度で存在することを特徴とする、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記トレチノインが、前記医薬の総重量に対して0.025重量%と2重量%との間、有利には0.025重量%と1重量%との間、より有利にはおよそ0.05重量%の濃度で存在することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記フルオシノロンアセトニドが、前記医薬の総重量に対して0.005重量%と0.1重量%との間、有利には0.005重量%と0.05重量%との間、より有利にはおよそ0.01重量%の濃度で存在することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記医薬がクリーム形態であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記医薬が、総重量に対する重量%として以下の組成物:
【表1】

を含む組成物の形態であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
肥厚性瘢痕およびケロイド状瘢痕より選択される病理的瘢痕の高色素沈着を治療することを意図する化粧用組成物の調製における、ヒドロキノン、トレチノイン、およびフルオシノロンアセトニドを組み合わせる使用。

【公表番号】特表2009−535322(P2009−535322A)
【公表日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−507134(P2009−507134)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【国際出願番号】PCT/FR2007/051193
【国際公開番号】WO2007/125262
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(500247183)ガルデルマ・ソシエテ・アノニム (29)
【Fターム(参考)】