説明

痛覚神経刺激装置

【課題】電気的刺激によってC線維のみを効率良く刺激する。
【解決手段】先端を皮膚内に僅かに刺して用いる第1電極31と、前記第1電極の周囲に導通せずに配置され、皮膚に接触させて用いる少なくとも一つ以上の第2電極2とから構成される電極部と、記第1電極と前記第2電極間に、前記第1電極においてマイナス側に凸となる第1の波形信号と、前記第1電極においてプラス側に凸となる第2の波形信号との組み合わせにより成る刺激信号を供給する刺激信号供給手段11とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、Aδ線維の刺激により生じる一次痛覚と、C線維の刺激により生じる二次痛覚とについて、C線維の刺激のみを行うことが可能な痛覚神経刺激装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電気刺激により痛覚のみを刺激するために、特許文献1に記載の電極が開発された。この電極によれば、Aδ線維の刺激が可能なものであった(特許文献1の図3参照)。
【0003】
上記に対し、特に糖尿病の三大合併症の一つである末梢神経障害の早期発見のためにC線維のみを刺激して、これに対する反応を診る要望が高い。これは、C線維の太さが0.4〜1.2μm、Aδ線維の太さが2〜5μm、触覚や圧覚といった機械的受容体に接続されるAβ線維の太さが5〜12μmであり、神経障害が細径線維から始まることに因っている。従って、特許文献1で刺激可能なAδ線維よりさらに細いC線維を刺激できれば、より早期に神経障害の発生を把握することが可能となり、糖尿病性神経障害の進行の把握や適切なコントロールに大いに寄与する。C線維のみを刺激するため一般的に行われている手法としては、レーザ装置を用いるものがある。しかし、レーザ装置を用いる場合には検査機器や設備が大掛かりになり、装置の大型化、高額化、複雑化に伴い、汎用性の面でも問題があった。しかもレーザ光線によるC線維刺激はまだ十分な精度に達しておらず、C線維刺激の確率は低く、臨床応用には至っていない。
【0004】
上記に示した特許文献1においても、刺激電極の針端子を−極とし、その周囲の電極を+極として刺激を与えることによりAδ線維を選択的に刺激可能であるが、C線維を選択的に刺激できなかった。
【0005】
ところで、当該分野では、所望の刺激箇所に装着する刺激目的電極に−極の電気刺激を印加し、末端電極に+極を印加する手法が一般的に採用されている。これは、末梢神経の興奮(発火)は、−極の刺激電極の直下で発生するからである。上記に示した特許文献1においても、刺激電極の針端子を−極とし、その周囲の電極を+極として刺激を与えることによりAδ線維を選択的に刺激可能であると記載されている。しかし、例えば体性感覚誘発電位SEPの測定(図9参照)で用いられるような皮膚表面からの神経刺激では、電気的極性を反転させてもその効果や影響がないことは、この分野において広く知られている。
【0006】
更に、電流知覚閾値と疼痛耐性閾値を電気生理学的ないし定量的に自動測定する装置が知られている(特許文献2参照)。しかし、この装置では、正弦波を用いた刺激を与えるものであり、C線維、Aδ線維、Aβ線維について周波数がそれぞれ、5Hz、250Hz、2000Hzの刺激に対して最も反応するというものであり、C線維、Aδ線維、Aβ線維について独立して単独で刺激可能となる手法を提供するものではない。また正弦波での刺激を要する為、矩形波に代表されるパルス波での刺激と比べ、刺激の生成や制御する上で装置が複雑となる。
【0007】
また特許文献2に係る発明は表面電極を用いている為、電極を皮膚内に刺した場合と比して、与える刺激強度が大きくなる。つまりC線維のような細径線維を刺激する際に、触覚など他の神経線維をも刺激する可能性が高く、C線維のみを選択的に刺激するのは困難と考えられる。
【0008】
特許文献3に係る発明は表面電極を用いて痛覚を刺激することなく特定の触覚受容器を選択的に刺激するものである。これも触覚を刺激するには有用であるが、既述のとおり表面電極を用いるため刺激強度が2mA程度と大きくなる。また痛覚に関するAδ線維やC線維は細径線維であるため刺激が難しく、特許文献3に係る発明ではAδ線維やC線維を選択的に刺激できなかった。更に、特許文献3に係る発明は受容器を選択的に刺激するにあたり、重み付け変化などの複雑な処理を必要とする問題があった。
【0009】
一般的な電気刺激による興奮し易さはAβ線維、Aδ線維、C線維の順となり、軸索を有する有髄かつ太径線維ほど電気刺激がし易い。つまり、細径線維でありかつ軸索の無い無髄線維であるC線維は電気刺激による興奮が最も発生させにくく、他の線維を刺激せずにC線維のみを選択的に刺激するのは極めて困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2006−59430号公報
【特許文献2】米国特許第5806522号明細書
【特許文献3】特許第3543097号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、以上述べたような痛覚神経刺激装置の現状に鑑み、新たな発想の刺激手法の発想に基づいてなされたもので、その目的は、操作者の手技に依存せず、極めて高い確率で、電気的刺激によってC線維のみを的確に刺激することが可能な簡便な痛覚神経刺激装置を提供することである。更に、個人差に応じて適切にC線維を独立して刺激可能な痛覚神経刺激装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る痛覚神経刺激装置は、先端を皮膚内に僅かに刺して用いる第1電極と、前記第1電極の周囲に導通せずに配置され、皮膚に接触させて用いる少なくとも一つ以上の第2電極と、から構成される電極部と前記第1電極と前記第2電極間に、前記第1電極においてマイナス側に凸となる第1の波形信号と、前記第1電極においてプラス側に凸となる第2の波形信号との組み合わせにより成る双極性刺激信号を供給する刺激信号供給手段とを具備することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る痛覚神経刺激装置は、前記波形信号の立上り時間と立下り時間との少なくとも一方を変化させる立上・立下制御手段を具備することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る痛覚神経刺激装置では、前記波形信号の立上り及び/又は立下りを直線的に変化可能であることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る痛覚神経刺激装置では、前記波形信号の立上り及び/又は立下りの傾斜を指数関数的に変化可能であることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る痛覚神経刺激装置では、前記波形信号の電流と電圧の少なくとも一方を変化させる刺激強度制御手段を具備することを特徴とする。
【0017】
本発明に係る痛覚神経刺激装置では、前記波形信号の波形幅・波形間隔・波形数を変化させる波形制御手段を具備することを特徴とする。
【0018】
本発明に係る痛覚神経刺激装置では、前記刺激信号は、前記第1の波形信号の供給後に、前記第2の波形信号が連続して供給されることを特徴とする。
【0019】
本発明に係る痛覚神経刺激装置では、前記第1の波形信号と、前記第2の波形信号とは異なる波高値を有することを特徴とする。
【0020】
本発明に係る痛覚神経刺激装置では、前記第2の波形信号の波高値は、前記第1の波形信号の波高値より高いことを特徴とする。
【0021】
本発明に係る痛覚神経刺激装置では、前記双極性刺激信号の波形幅が0.1〜100msであることを特徴とする。
【0022】
本発明に係る痛覚神経刺激装置では、前記第2の波形信号の波高値が前記第1の波形信号の波高値の5倍以上であることを特徴とする。
【0023】
本発明に係る痛覚神経刺激装置では、前記第1の波形信号の立上り時間及び立下り時間と、前記第2の波形信号の立上り時間及び立下り時間とが同一時間であることを特徴とする。
【0024】
本発明に係る痛覚神経刺激装置では、前記第2電極は前記第1電極の周囲に環状に配置されることを特徴とする。
【0025】
本発明に係る痛覚神経刺激装置では、前記電極部が複数存在することを特徴とする。
【0026】
本発明に係る痛覚神経刺激装置では、前記刺激信号供給手段は前記双極性刺激信号を複数回連続して供給可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明では、第1電極においてマイナス側に凸となる第1の波形信号と、前記第1電極においてプラス側に凸となる第2の波形信号との組み合わせにより成る双極性刺激信号を供給することにより、線維の太さが最も細いC線維のみを刺激することができた。ここに、第1電極は針状であるため、生体との接触面積が第2電極と比べ極めて小さい。それ故、Aδ線維より細いC線維を適切に発火できない可能性がある。これは主に、細い線維ほど電気刺激に対する閾値が低いことによっている。逆に、C線維の物理的特性として利用できる可能性のあるものとして、Aδ線維よりも分布密度が高い、皮膚表面に垂直に走行している、機械受容器の末端と比べて表層部まで線維を伸ばしている、などが挙げられる。本発明によって、炎症に代表される如くの燃えるような痛み感覚を惹起したと応えた被験者が、本発明者らが先に出願した特願2008−264298号に記載の手法を含め、従来のいかなる手法による場合に比べて極めて多く、他の神経線維にほとんど影響を及ぼさずC線維のみの刺激を行うことが可能であることが分った。これは本発明に係る装置は、操作者の手技に依存せず、高い確率でC線維のみを刺激できることを意味する。
【0028】
本発明では、波形信号の立上り時間と立下り時間との少なくとも一方を変化させる立上・立下制御手段を具備するので、波形信号について、その立上り時間と立下り時間との少なくとも一方を変化させて、他の線維にほとんど影響を及ぼさずに線維の太さが最も細いC線維のみを刺激する刺激信号の供給を図ることができる。
【0029】
本発明では刺激信号供給手段が供給する刺激信号の電流と電圧の少なくとも一方を変化させる刺激強度制御手段が具備されているので、刺激強度を変化させることでより太い神経線維であるAδ線維やAβ線維をも刺激可能である。
【0030】
さらに本発明では、刺激強度を変化させることで、一般的な電気刺激での興奮しやすさの順序(Aβ、Aδ、C)とは逆の順でそれぞれの神経線維を刺激可能である。特にC線維を選択的にしかも弱い刺激強度で刺激が可能である。
【0031】
本発明では、刺激信号供給手段が供給する刺激信号の波形幅・波形間隔・波形数を変化させる波形制御手段が具備されているので、C線維のみの刺激を行うことが可能となる波形幅・波形間隔・波形数を探しながら、また個人差を吸収する測定を行うことが可能である。
【0032】
神経線維はどこか一部が刺激されれば刺激により得られる効果や反応は同じである。このため、複数の電極部を用いたり、双極性刺激信号を複数回連続して供給することで操作者の熟練度に依存することなく、より高い確率でC線維のみ刺激可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る痛覚神経刺激装置の実施例の構成を示すブロック図。
【図2(a)】本発明に係る痛覚神経刺激装置の実施例に用いた電極の構成を示す断面図。
【図2(b)】本発明に係る痛覚神経刺激装置の実施例に用いた電極の一例を示す断面図。
【図3】本発明に係る痛覚神経刺激装置の実施例により供給される、刺激信号の波形を示す図。
【図4】図3に示された刺激信号について、時間のスケールを狭くして示した図。
【図5】本発明に係る痛覚神経刺激装置の実施例により供給される刺激信号を構成する1の波形信号と第2の波形信号を解説するための図。
【図6】本発明に係る痛覚神経刺激装置の実施例により供給される刺激信号を構成する1の波形信号と第2の波形信号の各種波形を示す図。
【図7】本発明に係る痛覚神経刺激装置の実施例により供給される、立上り時間と立下り時間を異ならせた刺激信号の波形を示す図。
【図8】本発明に係る痛覚神経刺激装置の実施例により供給される、第1の波形信号と第2の波形信号の波高値を異ならせた刺激信号の波形を示す図。
【図9】体性感覚誘発電位SEPの測定における生体に対する電極配置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、添付図面を参照して本発明に係る痛覚神経刺激装置およびその使用方法の実施例を説明する。痛覚神経刺激装置は、図1に示されるように、信号発生本体部10に、電流/電圧制御部21、電源部22、表示部23及び操作部24が接続された構成を備える。更に、電流/電圧制御部21には極性切換部25が接続されており、極性切換部25には、表皮内刺激電極部30が接続されている。
【0035】
表皮内刺激電極部30は、特許文献1に記載された電極とほぼ同様の構造であり、その断面図を図2(a)に示す。表皮内刺激電極部30は、先端が皮膚内に僅か(一例として、皮膚表面から乳頭まで)に刺せる形状を有した第1電極である針状電極31と、皮膚に接触させて用いる第2電極である接触電極32とを備える。図2より明らかなように、針状電極31は接触電極32より突出(突起)している。また、針状電極31の先端は必ずしも尖っている必要はなく、球状や棒状等であってもよい。接触電極32は、針状電極31を中心として針状電極31を取り囲む円筒状をなしても良いし、複数の接触電極32が針状電極31を中心に円筒状に位置するように配置されても良く、その内径は例えば1mmである。また、接触電極32の一部は図2(b)に示すように皮膚内に僅かに刺せるように尖鋭な形状を有していてもよい。
【0036】
接触電極32と針状電極31の間隙には、絶縁材料により構成されるスペーサ33が埋設されていてもよい。また、接触電極32の周囲には、接触電極32を芯として円柱状に形成され、絶縁材料により構成される外装部34が備えられている。
【0037】
信号発生本体部10は、アナログ/ディジタルマイクロプロセッサにより構成され、刺激信号を発生して供給する刺激信号供給手段11と、この他に、立上・立下制御手段12、波形制御手段13を備える。刺激信号供給手段11は、上記針状電極31と接触電極32間に、針状電極31においてマイナス側に凸となる第1の波形信号P1と、針状電極31においてプラス側に凸となる第2の波形信号P2との組み合わせにより成る双極性刺激信号を供給するものである。本実施形態においては、第2の波形信号P2は上記第1の波形信号P1と異なる波高値を有するように波形が構成されている。具体的には双極性刺激信号は例えば、図3に拡大図を示すようである。
【0038】
また刺激信号供給手段11は、双極性刺激信号を図4に示すように複数回(例えば100回)連続して供給可能とする。刺激信号を分解して示すと図5のように、第1の波形信号P1としての鋸歯状波と、第2の波形信号P2としての鋸歯状波とが組み合わされて構成されている。上記双極性刺激信号は、第1の波形信号P1と第2の波形信号P2とを交互に連続させて(波形信号間隙なく)配置して、パルス状の刺激信号としたものである。
【0039】
刺激信号供給手段11により供給される刺激信号は、第1の波形信号P1と第2の波形信号P2との波高値とが異なることが好適であり、また波形信号の凸方向の向きが逆であるものであれば、図6のa欄に示すような立上り立下りの傾斜部分が直線的である波形信号を用いたものでも良く、またb欄に示すような指数関数的であっても良く、更にc欄に示すように、緩やかに上に凸の曲線(放物線形状等)であっても良い。また、通常のパルスであっても良い。
【0040】
上記第1の波形信号P1と第2の波形信号P2とを組み合わせる場合に、同じ方向に凸の波形を5波形程度であれば複数回連続させても良く、また、第1の波形信号P1と第2の波形信号P2とを規則的に同数並ばせたものでなくとも良い。第1の波形信号P1と第2の波形信号P2との間に間隔(平坦部)を設けても良い。
【0041】
立上・立下制御手段12は、刺激信号供給手段11が供給する刺激信号における波形信号の立上り時間と立下り時間との少なくとも一方を変化させるものである。指示入力部を構成する操作部24は、ダイヤルやボタンやキーボードやタッチパネルなどにより構成されてもよく、操作部24には立上・立下時間指示手段が備えられている。この立上・立下時間指示手段により、立上・立下制御手段12に対し所望の立上り時間と立下り時間を有する波形信号の組合せからなる刺激信号に変化させる指示入力を与えることができる。更に、立上・立下制御手段12は、波形信号の立上り又は立下りの形状を、直線的に立上げ又は立下げる直線モードか、指数関数的に立上げる又は立下げる指数関数モード等の選択も可能とし、既述の図6に示した如くの複数形状から選択された一形状を有する波形信号を上に凸形状及び下に凸形状として組み合わせた刺激信号を生成可能とする。
【0042】
上記立上・立下時間指示手段からの指示入力では、立上り時間と立下り時間を指定可能とする。例えば、立上り時間及び立下り時間は0ms〜15ms程度から所望の値を選択することができる。図7には、直線モードにおいて、立下り時間を1msとし、立上り時間をそれぞれ、1ms、2ms、3msとした3種類のプラス側に凸の第2の波形信号P21〜P23を示している。
【0043】
信号発生本体部10に備えられている波形制御手段13は、刺激信号供給手段11が供給する刺激信号の波形幅・波形間隔・波形数を変化させるものである。操作部24には、波形指示手段が備えられている。この波形指示手段により、波形制御手段13に対し所望の波形幅・波形間隔・波形数の波形からなる刺激信号に変化させる指示を与えることができる。
【0044】
波形幅・波形間隔・波形数により選択するようになっており、波形幅は0.5〜30msを例えば0.1ms刻みで選択可能とし、波形間隔は1〜100msを例えば1ms刻みで、波形数を例えば1回刻みで選択可能とする。
【0045】
信号発生本体部10に接続されている電流/電圧制御部21は、刺激信号供給手段11が供給する刺激信号における第1の波形信号P1と第2の波形信号P2と電流と電圧の少なくとも一方を変化させる刺激強度制御手段である。これら電流と電圧は、第1の波形信号P1と第2の波形信号P2の波高値である。操作部24には、刺激強度指示手段が備えられており、この刺激強度指示手段により刺激強度制御手段である電流/電圧制御部21に対し第1の波形信号P1と第2の波形信号P2の波高値を、所望の電流或いは電圧に変化させる指示を与えることが可能である。
【0046】
例えば、電流制御の場合に、0.0mAから0.01mA刻みで所定値まで電流の上昇を可能(所望値からの下降も可能)に構成されている。勿論、針状電極31と接触電極32を装着した後には、電極間インピーダンスが一定と考えられるから、電圧値を所定値(例えば、0V)から0.2V刻みで所定値まで上昇を可能(所望値からの下降も可能)に構成しても良い。また、第1の波形信号P1の波高値を数値入力し、第2の波形信号P2の波高値を第1の波形信号P1の何倍(実際は何分の1)と入力できる構成としても良く、また、逆に、第2の波形信号P2の波高値を数値入力し、第1の波形信号P1の波高値を第2の波形信号P2の何倍と入力できる構成としても良い。図8の例では、マイナス側に0.1mAである第1の波形信号P1に対し、第2の波形信号P2の波高値をプラス側に4倍、8倍、10倍とした波形信号P2(a)、P2(b)、P2(c)を示している。
【0047】
電流/電圧制御部21に接続されている極性切換部25は、針状電極31の電気的極性と接触電極32の電気的極性とを変換する電気的極性変換手段として機能する。操作部24には、極性変換指示手段が備えられており、この極性変換指示手段により電気的極性変換手段である極性切換部25に対し電気的極性の変換を指示することができる。これにより針状電極31の電気的極性を+極にして接触電極32の電気的極性を−極にすることができる。この状態において、図3或いは図4の刺激信号を供給すると、第1の波形信号P1において針状電極31がマイナス側に凸となった第1の反転波形信号と、第2の波形信号P2において針状電極31がプラス側に凸となった第2の反転波形信号との組み合わせにより成る双極性刺激信号が供給される。これと逆に、針状電極31の電気的極性を−極にして接触電極32の電気的極性を+極にすることができる。この場合には、図3或いは図4の刺激信号を供給すると、第1の波形信号P1において針状電極31がプラス側に凸となった第1の反転波形信号と、第2の波形信号P2において針状電極31がマイナス側に凸となった第2の反転波形信号との組み合わせにより成る双極性刺激信号が供給される。
【0048】
表示部23には、信号発生本体部10が作成した現状の刺激強度(mA)、波形信号の立上り時間、立下り時間、波形幅・波形間隔・波形数、電極極性などの文字情報等が表示される。
【0049】
以上の通りに構成された痛覚神経刺激装置は次のようにして用いられる。まず、表皮内刺激電極部30を被験者の検査部位における皮膚に接触させて、針状電極31が皮膚に刺さるように固定する。この時、針状電極31は0.01mm〜0.3mm程度皮膚内に刺さる。次に、操作部24を操作して、図3或いは図4の刺激信号を供給すると、第1の波形信号P1において針状電極31がマイナス側となって陰極刺激が行われ、第2の波形信号P2において針状電極31がプラス側となって陽極刺激が行われるように電流路の接続制御がなされる。
【0050】
更に、操作部24を操作して、立上・立下時間指示手段により、立上・立下制御手段12に対し所望の立上り時間と立下り時間の刺激信号に変化させる指示入力を与え、波形指示手段により、波形制御手段13に対し所望の波形幅・波形間隔・波形数の刺激信号に変化させる指示を与え、刺激強度指示手段により刺激強度制御手段である電流/電圧制御部21に対し所望の電流或いは電圧の刺激信号に変化させる指示を与える。表示部23の表示により、上記操作部24から所望の設定がなされたかを確認して、刺激開始の操作を行う。
【0051】
以上により、針状電極31と接触電極32との間に、図3或いは図4に示した如くの刺激信号が印加されて刺激がなされる。この状態において、操作部24を操作して、被験者が痛みを感じるまで電流値(或いは電圧値)を徐々に上昇させる。また、立上り時間と立下り時間を変更して測定を行い、波形幅・波形間隔・波形数を変更して測定を行ってもよい。被験者に神経障害があれば、被験者は痛みを感じない、若しくは痛みを感じても高い強度の刺激を要することから判断できる。更に、表皮内刺激電極部30を被験者の別の(或いは同一の)検査部位における皮膚に接触させて、刺激位置による違いや左右差などを確認できる。さらに操作部24を操作して針状電極31と接触電極32の電気的極性を変換して、上記と同様に測定を行えば、糖尿病性神経障害の進行の把握や適切なコントロールをも確認できる。
【0052】
当該分野において、C線維侵害受容器は炎症に代表させるようなじりじりとして焼け付くような痛みや灼熱痛に関わり、一方Aδ侵害受容器は鋭い痛みを担当すると言われている。本発明に係る刺激装置により被験者へ刺激をすることで、施術者による手技の習熟度に依存することなく、被験者はじりじりとして焼け付くような痛みを感じるケースが従来に比べて増加した。これは、Aδ線維ではなく、C線維が的確に刺激できていることを意味する。
【0053】
上記において、第2の波形信号の波高値が第1の波形信号の波高値の5倍以上である場合に顕著な結果を得ることができた。また、上記双極性刺激信号を複数回連続して供給した場合に顕著な結果を得ることができた。
【0054】
なお、以上の実施例及び測定例においては、複数個の表皮内刺激電極部30が備えられた構成を採用し、使用するようにしても良いことは勿論である。
【符号の説明】
【0055】
10 信号発生本体部
11 刺激信号供給手段
12 立上・立下制御手段
13 波形制御手段
21 電圧制御部
22 電源部
23 表示部
24 操作部
24 指示入力部
25 極性切換部
30 表皮内刺激電極部
31 針状電極(第1電極)
32 接触電極(第2電極)
33 スペーサ
34 外装部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端を皮膚内に僅かに刺して用いる第1電極と、
前記第1電極の周囲に導通せずに配置され、皮膚に接触させて用いる少なくとも一つ以上の第2電極と、
から構成される電極部と
前記第1電極と前記第2電極間に、前記第1電極においてマイナス側に凸となる第1の波形信号と、前記第1電極においてプラス側に凸となる第2の波形信号との組み合わせにより成る双極性刺激信号を供給する刺激信号供給手段と
を具備することを特徴とする痛覚神経刺激装置。
【請求項2】
前記波形信号の立上り時間と立下り時間との少なくとも一方を変化させる立上・立下制御手段
を具備することを特徴とする請求項1に記載の痛覚神経刺激装置。
【請求項3】
前記波形信号の立上り及び/又は立下りを直線的に変化可能であること
を特徴とする請求項2に記載の痛覚神経刺激装置。
【請求項4】
前記波形信号の立上り及び/又は立下りの傾斜を指数関数的に変化可能であること
を特徴とする請求項2または3に記載の痛覚神経刺激装置。
【請求項5】
前記波形信号の電流と電圧の少なくとも一方を変化させる刺激強度制御手段
を具備することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の痛覚神経刺激装置。
【請求項6】
前記波形信号の波形幅・波形間隔・波形数を変化させる波形制御手段
を具備することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の痛覚神経刺激装置。
【請求項7】
前記刺激信号は、前記第1の波形信号の供給後に、前記第2の波形信号が連続して供給されること
を特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の痛覚神経刺激装置。
【請求項8】
前記第1の波形信号と、前記第2の波形信号とは異なる波高値を有すること
を特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の痛覚神経刺激装置。
【請求項9】
前記第2の波形信号の波高値は、前記第1の波形信号の波高値より高いこと
を特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の痛覚神経刺激装置。
【請求項10】
前記双極性刺激信号の波形幅が0.1〜100msであること
を特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の痛覚神経刺激装置。
【請求項11】
前記第2の波形信号の波高値が前記第1の波形信号の波高値の5倍以上であること
を特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の痛覚神経刺激装置。
【請求項12】
前記第1の波形信号の立上り時間及び立下り時間と、前記第2の波形信号の立上り時間及び立下り時間とが同一時間であること
を特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の痛覚神経刺激装置。
【請求項13】
前記第2電極は前記第1電極の周囲に環状に配置されること
を特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の痛覚神経刺激装置。
【請求項14】
前記電極部が複数存在すること
を特徴とする請求項1乃至13のいずれか1項に記載の痛覚神経刺激装置。
【請求項15】
前記刺激信号供給手段は
前記双極性刺激信号を複数回連続して供給可能であること
を特徴とする請求項1乃至14のいずれか1項に記載の痛覚神経刺激装置。

【図1】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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