説明

痛覚過敏を処置するための方法および組成物

本発明は、TRPA1を選択的に阻害するが、他の熱TRPイオンチャネルファミリーのメンバーを阻害しない化合物を提供する。また、本発明において、有害機械的感覚によって介在される疼痛を処置または緩解するための、TRPA−1特異的阻害剤を用いる方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この特許出願は、合衆国法典35巻、119条(e)により、米国仮出願第60/775,519(2006年2月21日出願)に基づく優先権の利益を主張する。優先権出願の開示を、その全体において、あらゆる目的のために、本明細書の一部とする。
【0002】
政府の補助に関する陳述
本発明は、National Institutes of Healthによって授与されたNINDS Grant Nos. NS42822およびNS046303に基づく政府の補助を一部において受けた。したがって、合衆国政府は本発明において一定の権利を有し得る。
【0003】
発明の分野
本発明は、一般的に、有害な化学感覚、熱感覚および機械的感覚に関与するイオンチャネルと拮抗する方法および組成物に関する。より具体的には、本発明は、TRPA1によって介在される機械的刺激変換(mechanotransduction)を選択的に阻害する化合物、および機械的痛覚過敏の処置のためのかかる化合物の使用法に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
後根神経節(DRG)の感覚ニューロンは、皮膚の投射を通じて環境変化を検出することができる。有害受容(nociception)は、熱および接触のような有害な刺激が皮膚の感覚ニューロン(有害受容器)にシグナルを中枢神経系に送信させる過程である。これらのニューロンのいくつかは、機械的感受性(高または低閾値)または熱感受性(熱、暖または冷応答)である。多様(polymodal)有害受容器と呼ばれるさらなる他のニューロンは、有害な熱(冷および熱)および機械的刺激の両方を感知する。
【0005】
イオンチャネルは、イオンの流入を制御する膜貫通タンパク質として神経生物学において中心的役割を担っている。ゲート機構によって分類すると、イオンチャネルは特定のリガンド、電位または機械力のようなシグナルによって活性化され得る。熱TRPと呼ばれるカチオンチャネルの一過性受容器電位(TRP)ファミリーのサブセット、例えばTRPM8およびTRPA1は、熱感覚に関与する。TRPM8は25℃で活性化される。これは化合物メンソールの受容体でもある。このことは、ミント風味が典型的に爽快な冷たさとして受容される理由についての分子的説明を提供する。ANKTM1とも呼ばれるTRPA1は、17℃で活性化される。これは多様感覚ニューロンにおいて発現するイオンチャネルであり、有害な冷感覚および火傷/疼痛感覚を引き起こす様々な天然辛味化合物(pungent compound)によって活性化される。例えば、Patapoutian et al., Nat. Rev. Neurosci. 4:529-539, 2003; Story et al., Cell 112: 819-829, 2003;およびBandell et al., Neuron. 41:849-57, 2004参照。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
機械的感覚(mechanical sensation)は、多くの疾患および病状における疼痛状態と密接に関連している。例えば、機械的変換は、関節炎および神経因性疼痛に関連する疼痛感覚の重要な要素である。しかし、有害な熱感覚についてのものとは異なり、疼痛に関与する有害な機械力の感覚受容に関与する機械的変換チャネルの分子そのものは知られていない。本発明は、この点および当該技術分野で充足されていない他のニーズに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の要約
1つの局面において、本発明は、対象における痛覚過敏の処置法を提供する。方法は、対象に、有効量のTRPA1アンタゴニストを含む医薬組成物を投与して、TRPA1活性を選択的に阻害し、それによって対象における有害な化学的感覚、熱感覚および機械的感覚を抑制または阻害することを含んで成る方法を提供する。いくつかの方法において、使用するTRPA1アンタゴニストは、TRPV1、TRPV2、TRPV3、TRPV4およびTRPM8から成る群から選択される1種以上の他の熱TRPの活性化を阻害しない。いくつかの方法において、使用されるTRPA1アンタゴニストは、(Z)−4−(4−クロロフィニル)−3−メチルブタ−3−エン−2−オキシムである。いくつかの他の方法において、使用されるTRPA1アンタゴニストは、N,N’−ビス−(2−ヒドロキシベンジル)−2,5−ジアミノ−2,5−ジメチルヘキサンである。いくつかの他の方法において、TRPA1アンタゴニスト抗体を使用する。
【0008】
本発明の治療法のいくつかは、炎症性状態または神経因性疼痛を有する対象の処置に関する。いくつかの方法において、処置する対象は機械的または熱痛覚過敏を有する。いくつかの方法において、処置する対象はヒトである。TRPA1アンタゴニストに加えて、いくつかの治療法において対象に第2の疼痛減少薬剤を投与する。例えば、第2の疼痛減少薬剤は、アセトアミノフェン、イブプロフェンおよびインドメタシンならびにオピオイドから成る群から選択される鎮痛剤であり得る。第2の疼痛減少薬剤は、モルヒネおよびモキソニジンから成る群から選択される鎮痛剤でもあり得る。
【0009】
他の局面において、本発明は、有害な機械的感覚を阻害または抑制する薬剤を同定するための方法を提供する。これらの方法には、(a)試験化合物を一過性受容器電位イオンチャネルTRPA1を発現する細胞に接触させ、そして(b)機械的刺激に応答して活性化した細胞のTRPA1のシグナル活性を阻害する化合物を同定することを含む。これらの方法のいくつかでは、同定した化合物をさらに、TRPV1、TRPV2、TRPV3、TRPV4およびTRPM8から成る群から選択される1種以上の他の熱TRPの活性化またはシグナル活性に対する効果について試験する。いくつかの方法において、同定した化合物は、当該化合物の非存在下でのTRPA1イオンチャネルのシグナル活性と比較して、活性化TRPA1イオンチャネルのシグナル活性を抑制または減少する。いくつか脳胞法において、同定した化合物は、TRPV1、TRPV2、TRPV3、TRPV4およびTRPM8から成る群から選択される1種以上の他の熱TRPの活性を阻害しない。
【0010】
いくつかのこれらのスクリーニング法において、TRPA1イオンチャネルは、シンナモアルデヒド、オイゲノール、ジンジェロール、サリチル酸メチルおよびアリシンから成る群から選択されるTRPA1アゴニストによって活性化される。これらの方法において使用され得る細胞の例には、TRPA1発現CHO細胞、TRPA1発現アフリカツメガエル卵母細胞、または培養DRGニューロンが含まれる。方法においてモニターされるシグナル活性は、例えば、TRPA1誘導性細胞膜電流または細胞へのカルシウム流入である。スクリーニングにおいて使用される機械的刺激は、例えば、吸引圧または超浸透ストレスであり得る。
【0011】
本発明はさらに、対象における熱または機械的痛覚過敏の処置用医薬の製造におけるTRPA1特異的阻害剤の使用を提供する。使用するTRPA1特異的阻害剤は、例えば、(Z)−4−(4−クロロフィニル)−3−メチルブタ−3−エン−2−オキシムまたはN,N’−ビス−(2−ヒドロキシベンジル)−2,5−ジアミノ−2,5−ジメチルヘキサンである。これらのTRPA1特異的阻害剤を含む医薬組成物はまた、本発明において提供される。
【0012】
本発明の性質および利点についてのさらなる理解は、本明細書の下記部分および請求の範囲の記載によって理解され得る。
【0013】
図面の説明
図1A−1Dは、TRPA1が機械的刺激によって活性化されることを示す。記録ピペットから適用した(A)冷温(右、n=62)、高張モル浸透圧濃度(中央、n=8)および(−)圧(左、n=10)に応答するTRPA1発現細胞から記録した電流;(B)TRPA1を活性化する異なる刺激に応答する代表的な電流−電圧相関。(C)TRPA1細胞は、−90mmHgまたはそれ以上の陰圧に強い電流応答を示す。塗りつぶしバーの値は、それぞれの圧力に対して、全ての試験したパッチの内、応答したものの数を示す。(D)閾値未満冷温前兆パルス(pre-pulse)は、TRPA1細胞の低閾値機械的刺激に対する応答に反応するように感作する(n=5)。
【0014】
図2A−2Dは、TRPA1の機械的応答が様々な既知の薬剤によって阻害されることを示す。(A)Gd3+は、5μMのルテニウムレッドがそうであるように、高モル浸透圧濃度に対してTRPA1の電流活性化を完全に阻害する(n=5細胞中5)((−)圧について、n=5細胞中5、高モル浸透圧濃度について、n=6細胞中6)。(B)シンナモアルデヒド感受性DRGニューロンは、−200mmHgおよびカプサイシンに応答する。陰圧に応答する電流−電圧相関(トレースのアスタリスクの位置から収集)を示す。(C)2mMカンフルは、CHO細胞における(−)圧によるTRPA1の電流活性化を完全に阻害する(n=5)。(D)2mMカンフルは、DRGニューロンの(−)圧に応答する電流を完全に阻害する(n=(−)圧で試験した18細胞中15)。15細胞中12で、500μMのシンナモアルデヒドでも電流が活性化された。
【0015】
図3A−3Dは、化合物18がTRPA1活性化を阻害することを示す。(A)化合物18(上)およびシンナモアルデヒド(下)の化学構造。(B)50μMのシンナモアルデヒドによって誘導されるマウスおよびヒトTRPA1発現CHO細胞への、化合物18によるカルシウム流入の阻害についての用量応答相関(左パネル)。カルシウム流入を、標準的なFLIPRアッセイを用いて測定した。データ点は4ウェル(〜8,000細胞/ウェル)の平均であり、エラーバーは標準誤差を示す。値は最大応答(化合物18の非存在下で観察される)に正規化する。IC50値は、ヒトおよびマウスについてそれぞれ、3.1μMおよび4.5μMである。化合物18は、マウスTRPA1に対するシンナモアルデヒドのEC50を、濃度応答法において右側にシフトする(右パネル)。データを、FLIPRカルシウム流入アッセイ、n=3ウェル(〜8,000細胞/ウェル)を用いて作成し、最大応答に正規化した。バーは標準誤差を示し、実曲線はEC50値を導くヒル等式(hill equation)適合である。シンナモアルデヒドのEC50値は、50μM(対照)、111μM(10μMの化合物18)、および220μM(25μMの化合物18)である。最大応答は、全てのケースにおいて同適度であった。(C)TRPA1の電流−電圧相関。TRPA1発現アフリカツメガエル卵母細胞の裏返しマクロパッチにおいてシンナモアルデヒドによって誘導される外向き整流電流(左パネル)は、化合物18の共適用によって抑制された(右パネル)。(D)化合物18は、シンナモアルデヒドによる急性侵害行動を抑制するが、カプサイシンによるものはしない。シンナモアルデヒド(16.4mM)またはカプサイシン(0.328mM)を注射した後肢舐めおよび跳ね時間を5分間測定し、化合物18(1mM)と共に注射した他の動物の後肢と比較する。各実験の症例数は、左からそれぞれ、8、8、6および6である(***p<0.001、*p<0.05、両側Student T検定)。
【0016】
図4A−4Dは、TRPA1が機械的および冷温炎症下過敏症を仲介することを示す(A−B)。新規TRPA1ブロッカーである化合物18は、マウスにおいて、CFA−(n=8)またはBK−誘導性(n=12)侵害機械的行動を逆転するが、熱(高温)行動についてはそうではない(CFAおよびBKの各々について、n=8)。赤い記号はCFA−注射(A)、またはBK−注射(B)後肢からの応答を意味するが、青い記号は同じ動物の他の非注射後肢を意味する。丸は、化合物18処置に対する応答を意味するが、三角はビークル処置に対する応答を意味する(A−C)。フォンフレイ(Von Frey)閾値を測定し、平均化する。(***p<0.001、*p<0.05、両側Student T検定)。(C)化合物18は、CFAを注射したラットの冷温行動を逆転する。赤い記号はCFA注射後肢からの応答を意味するが、青い記号は同じ動物の他の非注射後肢を意味する。各時点で10分間に起こった跳ね、舐め、引っ掻き回数を数え、平均化する(n=8、*p<0.05、両側Student T検定)。(D)1nMのBK前兆パルスは、B2受容体を共に発現するTRPA1 CHO細胞の低閾値機械的刺激に対する応答に感受性である。2mMのカンフルをBKパルスの間インキュベートして、軽度の活性化および続くBKによるTRPA1の脱感作を保護する。この結果は、細胞の機械的閾値が−60mmHgに下がったことを示している。
【発明の効果】
【0017】
詳細な説明
I.概要
本発明は、有害な冷温をシグナル伝達する疼痛感覚の重要な要素であるTRPA1が、有害な機械的刺激についてのセンサーでもあるという本発明者らの知見に、一部予期されている。本発明者らはまた、TRPA1の活性化を特異的に阻害するが、Trpファミリーの他のイオンチャネルを阻害しない化合物を同定した。下記実施例に記載するとおり、本発明者らは、TRPA1が有害な機械力によって活性化され、そしてこの活性化が炎症性状態下で改善されることを見出した。さらに、TRPA1の小分子阻害剤が、マウスにおいて、シンナモアルデヒドに応答する侵害行動を顕著に減少し得るが、カテプシンではそうではないことを発見した。さらにまた、阻害剤は機械的および冷温痛覚過敏を阻害するが、熱痛覚過敏はそうではない。
【0018】
これらの知見に基づき、本発明は、有害な機械的感覚を抑制または阻害するために使用し得る治療薬剤をスクリーニングするための方法を提供する。また、本発明において、様々な疾患および状態において有害な機械的刺激に関連する疼痛を緩解するためにTRPA1特異的阻害剤を用いる方法を提供する。下記項目は、本発明の組成物を製造および使用するための、そして本発明の方法を実施するための指標を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
II.定義
特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者によって一般的に理解される通りの意味を有する。下記文献は、本発明において使用される多くの用語の一般的な定義を提供する:Singleton et al., DICTIONARY OF MICROBIOLOGY AND MOLECULAR BIOLOGY (2d ed. 1994); THE CAMBRIDGE DICTIONARY OF SCIENCE AND TECHNOLOGY (Walker ed., 1988);およびHale & Marham, THE HARPER COLLINS DICTIONARY OF BIOLOGY (1991)。さらに、下記定義を、本発明を実施する読者を補助するために提供する。
【0020】
「薬剤」または「試験薬剤」なる用語には、あらゆる物質、分子、要素、化合物、実体、またはそれらの組合せが含まれる。これらに限定されないが、例えばタンパク質、ポリペプチド、小有機分子、ポリサッカリド、ポリヌクレオチド等が含まれる。天然生成物、合成化合物または化学化合物、あるいは1種以上の物質の組合せであり得る。特に記載がない限り、「薬剤」、「物質」および「化合物」は、本明細書において互いに交換可能なように使用する。
【0021】
「アナログ」なる用語は、本明細書において、対照分子と構造的に類似し、対照分子のある置換基が標的化されかつ制御された方法で他の置換基で置換されることにより修飾されている分子を意味する。対照分子と比較して、アナログは同じ、類似の、改善された有用性を示すと、当業者に予期される。改善された特徴(例えば標的分子に対する高結合親和性)を有する既知の化合物の変形を同定するための、アナログの合成およびスクリーニングは、医薬化学の分野において既知である。
【0022】
本明細書において使用するとき、「接触」なる用語は、通常の意味を有し、そして1種以上の薬剤(例えばポリペプチドまたは小分子化合物)または薬剤の組合せと細胞の組み合わせを意味する。接触は、インビトロで起こり得て、例えば2種以上の薬剤または試験薬剤と細胞または細胞溶解物が試験管または他の容器内で組み合わせられる。接触はまた、細胞中またはインサイチュで起こり得て、例えば2種のポリペプチドを細胞中で、当該2種のポリペプチドをコード化する組換えポリヌクレオチドの細胞中または細胞溶解物中で接触させることができる。
【0023】
本明細書において使用するとき、「痛覚過敏」または「痛覚過敏状態」は、温血動物が、当該状態なしには無疼痛である機械的、化学または熱刺激に極めて過敏性である状態を意味する。痛覚過敏は、体の物理的傷害、例えば手術によって不可避的に引き起こされる傷害に伴うことが知られている。痛覚過敏はまた、ヒトの炎症性状態、例えば間接性およびリウマチ性疾患に伴うことが知られている。したがって、痛覚過敏は、軽度乃至中程度の疼痛、乃至重度の疼痛、例えばこれらに限定されないが、炎症性状態(例えばリウマチ性関節炎および骨関節炎)、術後疼痛、外傷後疼痛、歯の状態に関連する疼痛(例えば虫歯および歯肉炎)、これらに限定されないが日焼け、剥離、打撲傷等に関連する疼痛を含む火傷に関連する疼痛、スポーツ傷害および捻挫に関連する疼痛、これらに限定されないがツタウルシおよびアレルギー性発疹ならびに皮膚炎を含む炎症性皮膚状態、ならびに軽度の刺激、例えば有害な冷温に対して感受性を上昇させる他の疼痛を意味する。
【0024】
タンパク質(例えばTRPA1)への言及に関連する「調節」なる用語は、言及したタンパク質の生物学的活性(例えばTRPA1の疼痛シグナル関連活性)の阻害または活性化を意味する。調節は、上方制御(すなわち、活性化または刺激)または下方制御(すなわち、阻害または抑制)であり得る。作用形態は、直接、例えばリガンドとして言及したタンパク質と結合することであり得る。調節はまた、間接、例えば、言及したタンパク質と結合または調節する他の分子と結合および/または調節することであり得る。
【0025】
「神経因性疼痛」には、神経損傷をもたらす状態または事象から引き起こされる疼痛を含む。「ニューロパシー」は、神経の損傷をもたらす疾患プロセスを意味する。「灼熱痛」は、神経傷害または言及した疼痛を引き起こす状態もしくは事象、例えば心筋梗塞後の慢性疼痛状態を意味する。「異痛」は、通常無疼痛刺激、例えば優しい接触に応答する疼痛を有するヒトにおける状態を含む。「鎮痛剤」は、疼痛の減少を引き起こす分子または分子の組合せである。鎮痛剤は、その作用機構がTRPA1との直接(電気的または化学的相互作用を介して)結合およびその機能の減少を含まないとき、TRPA1の阻害以外の作用機構を用いる。
【0026】
「ポリヌクレオチド」または「核酸配列」は、ヌクレオチドのポリマー形態(ポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチド)を意味する。いくつかの例において、ポリヌクレオチドは、それが由来する生物の天然に生じるゲノムに直接結合しているコーディング配列(一方が5’末端で、一方が3’末端)のいずれかと直接結合していない配列を意味する。したがって、当該用語は、例えば、ベクター;自己複製プラスミドまたはウィルス;または真核生物もしくは原核生物のゲノムDNAに組み込まれる組換えDNAを含み、あるいはそれは、他の配列と独立した個別の分子(例えばcDNA)として存在する。ポリヌクレオチドは、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチドまたはヌクレオチドの修飾形態であってもよい。
【0027】
ポリペプチドまたはタンパク質(例えばTRPA1)は、モノマーがアミノ酸残基である、アミド結合を介して互いに結合しているポリマーを意味する。アミノ酸がアルファアミノ酸であるとき、L−光学異性体またはD−光学異性体を使用することができ、L−異性体が典型的である。ポリペプチドまたはタンパク質(例えばTRPA1の)フラグメントは、天然に生じるタンパク質と同じまたは実質的に同一のアミノ酸配列を有していてもよい。実質的に同一の配列を有するポリペプチドまたはペプチドは、アミノ酸配列が全体ではないが大部分同一であり、それが関係する配列の機能活性を保持していることを意味する。
【0028】
ポリペプチドは、保存的置換のため、TRPA1およびかかる置換を含むTRPA1変形に実質的に関し得る。保存的変形は、他の、生物学的に類似の残基によるアミノ酸残基の置換を意味する。保存的変形の例には、イソロイシン、バリン、ロイシンまたはメチオニンのような疎水性残基の、他のものによる置換、または極性残基の他のものによる置換、例えばアルギニンのリシンによる、グルタミン酸のアルパラギン酸による、あるいはグルタミンのアスパラギンによる等の置換が含まれる。他の保存的置換の説明的例示には、アラニンからセリン;アルギニンからリシン;アスパラギンからグルタミンもしくはヒスチジン;アルパラギン酸からグルタミン酸;グリシンからプロリン;ヒスチジンからアスパラギンもしくはグルタミン;イソロイシンからロイシンもしくはバリン;ロイシンからイソロイシンもしくはバリン;リシンからアルギニン、グルタミンもしくはグルタミン酸;メチオニンからロイシンもしくはメチオニン;フェニルアラニンからチロシン、ロイシンもしくはメチオニン;セリンからスレオニン;スレオニンからセリン;トリプトファンからチロシン;チロシンからトリプトファンもしくはフェニルアラニン;バリンからイソロイシンもしくはロイシンが含まれる。
【0029】
「対象」なる用語は、哺乳類、とりわけヒト、ならびに他のヒト以外の動物、例えばウマ、イヌおよびネコを含む。
【0030】
分子(例えばTRPA1ポリペプチドまたはTRPA1調節剤)に関する「変形」なる用語は、完全な言及した分子と構造および生物学的活性において実質的に類似の分子、またはそのフラグメントを意味する。したがって、2種の分子が類似の活性を有するとき、一方の分子の構成または2次、3次もしくは4次構造が他方のものと同一でなくとも、あるいはアミノ酸残基配列が同一でなくとも、それらは本明細書で用いられる用語として変形と考えられる。
【0031】
III.TRPA1特異的阻害剤
TRPA1は有害な化学的、熱および機械的刺激に対する受容体であるので、TRPA1アンタゴニスト化合物は、機械的感覚を含む疼痛に関連する疼痛、例えば機械的痛覚過敏および異痛の減少に有用である。TRPA1によって介在される機械的感覚を特異的に阻害または抑制する化合物は、様々な治療的または予防的(例えば抗侵害受容的)適用を有し得る。TRPA1イオンチャネルを阻害するあらゆる分子は、有害な刺激、例えば機械的感覚によって介在される疼痛を減少させることができる。しかし、TRPA1に加えて他の熱TRP(例えば、TRPV1、TRPV2、TRPV3およびTRPM8)を阻害することができる分子は、それらの分子によって行われる様々な機能に干渉し得る。かかるTRPA1の非選択的阻害剤は、疼痛を減少することができるが、多くの望ましくない副作用を有する可能性がある。したがって、TRPA1イオンチャネルを選択的に阻害する分子が、かかる治療的適用において好ましい。他の熱TRPのシグナル伝達に効果を及ぼさないがTRPA1介在性シグナル伝達を特異的に阻害することによって、機械的知覚過敏を有する対象の症状を減少または阻害することができる。
【0032】
本発明の実施に用いることができるTRPA1阻害剤には、TRPA1の発現、修飾、制御または活性化に干渉する化合物、またはTRPA1(例えばそのイオンチャネル)の正常生物学的活性の1種以上を下方制御する化合物が含まれる。TRPA1の選択的阻害剤は、TRPA1活性化を顕著にブロックするか、またはTRPA1シグナル伝達活性を他の熱TRP(例えば、TRPV1、TRPV2、TRPV3、TRPV4およびまたはTRPM8)の活性化またはシグナル伝達活性が顕著に作用されない濃度で阻害する。様々なTRPA1特異的アンタゴニストを本発明において用いることができる。これらのTRPA1特異的阻害剤のいくつかは、下記実施例に記載の通り、本発明によって同定される。これらの化合物は、商業的に入手可能であるか、または文献に記載されている。かかる化合物の1つは、化合物18、(Z)−4−(4−クロロフィニル)−3−メチルブタ−3−エン−2−オキシムである。この化合物は、Maybridge(Cornwall, UK)から商業的に入手可能である。他の例は、化合物40、N,N’−ビス−(2−ヒドロキシベンジル)−2,5−ジアミノ−2,5−ジメチルヘキサンであり、これは米国特許第4,129,556号に記載されている。下記実施例に示すとおり、これらの2つの化合物はTRPA1活性化または機能を選択的に阻害することができ、それによってTRPA1介在性機械的痛覚を抑制する。それらは他の熱TRP、例えばTRPV1、TRPV2、TRPV3、TRPV4、またはTRPM8の活性化または活性にほとんどまたは全く影響がない。したがって、これら2つの化合物は、以下に詳細に記載するとおり、機械的痛覚過敏を処置または緩解するために容易に用いることができる。
【0033】
これらの例示されたTRPA1特異的アンタゴニスト以外に、さらなるTRPA1特異的阻害剤を、本明細書に記載された方法または文献に記載された方法を用いて、容易に同定することができる。これらのスクリーニング法によって同定することができる新規なTRPA1アンタゴニストには、小分子有機化合物および機械的刺激の感知におけるTRPA1活性を特異的に阻害するアンタゴニスト抗体が含まれる。TRPA1のアンタゴニスト抗体、好ましくはモノクローナル抗体は、当該技術分野で周知の方法を用いて製造することができる。例えば、非ヒト、例えばマウスもしくはラットモノクローナル抗体の製造を、例えば当該動物をTRPA1ポリペプチドまたはそのフラグメントで免疫化することによって行うことができる(Harlow & Lane, Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 1988参照)。かかる免疫源を、天然ソースから、ペプチド合成または組換え発現によって得ることができる。
【0034】
新規小分子TRPA1を、試験化合物をTRPA1イオンチャネル活性の阻害能についてスクリーニングすることによって、同定することができる。TRPA1のシグナル伝達活性と拮抗する化合物をスクリーニングするために、TRPA1を最初に活性化させなければならない。これを行うための1つの方法は、冷温を適用することである。しかし、このアプローチは、ハイスルーアウトスクリーニングフォーマットにおいて実際的ではない。PCT出願WO05/089206に記載の方法において、TRPA1アゴニスト化合物、例えばブラジキニン、オイゲノール、ギンゲロール、サリチル酸メチル、アリシン、およびシンナモアルデヒドを、TRPA1を活性化するために用いる。これらのTRPA1アゴニストのいずれかによるTRPA1の活性化をブロックする能力、または活性化TRPA1イオンチャネルのシグナル伝達活性を阻害する能力について、試験化合物をスクリーニングすることができる。
【0035】
実施例の方法によって、本発明のスクリーニング法は、典型的にはTRPA1発現細胞を試験化合物と接触させ、そして細胞の活性化TRPA1の生物学的もしくはシグナル伝達活性を機械的刺激に応答して抑制または阻害する化合物を同定することが含まれる。細胞のTRPA1を、細胞を試験化合物と接触させる前、同時、または後に上記TRPA1アゴニスト化合物の1種を加えることによって活性化することができる。化合物を、TRPA1発現細胞または培養DRGニューロンの機械的刺激に応答したカルシウム流入または細胞内遊離カルシウムレベルを調節する能力についてスクリーニングすることができる。本明細書の実施例に記載の通り、試験化合物のTRPA1介在性機械的感覚調節効果を、TRPA1発現CHO細胞または培養ラットDRGを用いて、機械的圧力機械的圧力(例えば吸引)または超浸透ストレスに応答するFLIPRアッセイによって試験することができる。それらはまた、TRPA1発現細胞の全細胞膜電流を調節する活性について、例えばアフリカツメガエル卵母細胞の切除パッチにおけるシンナモアルデヒド誘導性TRPA1電流を記録することによってアッセイすることができる。好ましくは、これらのスクリーニング法は、ハイスループットフォーマットで行う。例えば、各試験化合物をマイクロタイタープレートの異なるウェルでTRPA1発現細胞と接触させることができる。TRPA1アゴニストは、TRPA1を活性化させるため、これらの各ウェルに存在する。
【0036】
試験化合物が活性化TRPA1の活性(例えば、イオンチャネル活性)を抑制または阻害するとき、候補TRPA1アンタゴニストまたは阻害剤と同定される。対照として、候補TRPA1アンタゴニストを、下記実施例に記載のとおり、他の熱TRPチャネルの1種以上のシグナル伝達またはイオンチャネル活性に対する効果について試験をする。これによって、他の熱TRPチャネルの正常な機能に影響しないTRPA1特異的阻害剤を同定することができる。いくつかの態様において、同定されたTRPA1特異的アンタゴニストをさらに、適当な動物試験モデルでインビボで、例えば下記実施例に記載の通り、ラットまたはマウスの行動アッセイ(脚引っ込めアッセイ)によって試験することができる。痛覚過敏アッセイを行うためのさらなる指標は、文献、例えばMorqrich et al., Science 307:1468, 2005;およびCaterina et al., Science 288:306, 2000に記載されている。対照として、同様の動物モデルを用いて候補TRPA1特異的アンタゴニストが、他の熱TRPに対してインビボで顕著な効果を有さないことを確認することもできる。
【0037】
TRPA1調節剤(例えば、阻害剤)についてスクリーニングすることができる新規試験化合物には、ポリペプチド、ベータターン模倣物、多糖、リン脂質、ホルモン、プロスタグランジン、ステロイド、芳香族性化合物、ヘテロ環式化合物、ベンゾジアゼピン、オリゴマーN置換グリシン、オリゴカルバメート、ポリヌクレオチド(例えば、siRNAのような阻害性核酸)、ポリペプチド、サッカリド、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、その誘導体、構造アナログまたは組合せが含まれる。試験薬剤は合成分子であることがあり、天然分子であることもある。いくつかの好ましい方法において、試験薬剤は小有機分子(例えば、分子量約500または1,000未満の分子)である。好ましくは、ハイスループットアッセイを採用し、かかる小分子をスクリーニングするために用いる。いくつかの方法において、小分子試験薬剤のコンビナトリアルライブラリーを用いて、TRPA1の小分子調節剤を容易にスクリーニングすることができる。当該技術分野で知られている多くのアッセイを、本発明のスクリーニング方の実施に、例えばSchultz et al., Bioorg Med Chem Lett 8: 2409-2414, 1998; Weller et al., Mol Divers. 3: 61-70, 1997; Fernandes et al., Curr Opin Chem Biol 2: 597-603, 1998;および Sittampalam et al., Curr Opin Chem Biol 1: 384-91, 1997に記載の通りに、容易に修飾または採用することができる。
【0038】
IV.TRPA1特異的阻害剤による機械的痛覚過敏の処置
本発明は、生理的および病態生理学的状態(例えば、異痛および痛覚過敏)、とりわけ機械的感覚によってTRPA1を介して関連するまたは介在される疼痛知覚下で、疼痛間隔を減少するための方法を提供する。例えば、機械的痛覚過敏は多くの医学的障害において存在する。例えば、炎症は痛覚過敏を誘導し得る。炎症性状態の例には、骨関節炎、大腸炎、心臓炎、皮膚炎、筋炎、神経炎、コラーゲン血管疾患、例えばリウマチ性関節炎および狼瘡が含まれる。これらの状態のいずれかを有する対象は、しばしば機械的痛覚過敏が1つの構成要素である疼痛の増大した感覚を有する。過剰な疼痛を引き起こし得る他の医学的状態または治療には、外傷、手術、切断術、膿傷、灼熱痛、脱髄疾患、三叉神経痛、慢性アルコール依存症、卒中、視床疾患症候群、糖尿病、がん、ウィルス感染、および化学療法が含まれる。機械的感覚は、これらの状態のいずれかの痛覚に深く関与し得る。
【0039】
典型的に、当該方法は、処置を必要とする対象に本発明のTRPA1特異的阻害剤を含む医薬組成物を投与することを含んで成る。TRPA1特異的阻害剤を単独で、または対象の疼痛を緩解するための他の既知の鎮痛剤と共に、使用することができる。かかる既知の鎮痛剤の例には、モルヒネおよびモキソニジン(米国特許第6,117,879号)が含まれる。本発明の方法で処置するのに適した対象は、機械的知覚過敏(とりわけ痛覚過敏)を有するもの、または有害な機械的感覚が関与する医学的状態または障害を有するものである。それらには、ヒト対象、非ヒト哺乳類、およびTRPA1を発現する他の対象または生物が含まれる。当該対象は、疼痛が現在起こっているおよび疼痛が起こる可能性が継続している状態を有し得る。それらはまた、通常痛みを伴う結果を有する治療または事象に耐えているまたは耐える予定であり得る。例えば、対象は慢性疼痛状態、例えば糖尿病性神経因性痛覚過敏またはコラーゲン血管疾患を有し得る。当該対象はまた、炎症神経損傷または毒曝露(化学療法剤への曝露を含む)を有し得る。処置または診療は、対象の疼痛を減少または軽減して、対象が受容している疼痛のレベルを、当該処置がない場合に対象が受容するであろう疼痛のレベルと比較して減少させることを意図している。
【0040】
一般的に、当該処置は所望の薬学的および/または生理学的効果を得るために対象、組織または細胞に作用するべきである。効果は、疾患またはその徴候もしくは症状を完全に、または部分的に予防するという意味で予防的であってもよい。それは、障害および/または障害に寄与し得る有害効果(例えば疼痛)に関連する痛覚過敏および侵害性疼痛を部分的にまたは完全に治療するという意味で治療的であってもよい。対象がヒトであるとき、ヒトが受容している疼痛のレベルを、彼または彼女に疼痛を説明するか、または他の疼痛経験と比較するよう依頼することによって評価することができる。あるいは、疼痛レベルを、痛覚に対する対象の身体的応答、例えばストレス関連因子の放出または末梢神経系もしくはCNSにおける疼痛伝達神経の活性を測定することによって、測定することができる。疼痛が存在しないとヒトが報告するために、または対象が疼痛症状を示さなくなるために必要な、十分特徴付けられた鎮痛剤の量を測定することによって、疼痛レベルを測定することもできる。
【0041】
好ましくは、当該方法は、機械的知覚過敏要素を有する急性または慢性疼痛を軽減することに関する。「急性」疼痛と「慢性」疼痛の違いは、タイミングのものである:急性疼痛はかかる疼痛を導く事象(例えば炎症または神経性傷害)の発生後すぐ(好ましくは約48時間以内、より好ましくは24時間以内、最も好ましくは12時間以内)に発症する。逆に、慢性疼痛とかかる疼痛を導く事象の発生の間には顕著な時間間隔が存在する。かかる時間間隔は、事象後少なくとも約48時間、好ましくは事象後少なくとも約96時間、より好ましくは事象後少なくとも約1週間である。本発明のいくつかの態様において、TRPA1特異的阻害剤を用いて炎症性疼痛を有する対象を処置する。かかる炎症性疼痛は、急性または慢性であってよく、そしてこれらに限定されないが、日焼け、リウマチ性関節炎、骨関節炎、大腸炎、心臓炎、皮膚炎、筋炎、神経炎およびコラーゲン血管疾患を含む炎症によって特徴付けられる様々な状態に起因し得る。
【0042】
他の態様において、神経因性疼痛を有する対象の処置が意図される。これらの対象は、神経根障害、単発神経炎、多発性単ニューロパシー、多発性神経障害または神経叢障害として分類される神経障害を有し得る。これらのクラスの疾患は、これらに限定されないが、外傷、卒中、脱髄疾患、膿傷、手術、切断術、神経の炎症性疾患、灼熱痛、糖尿病、コラーゲン血管疾患、三叉神経痛、リウマチ性関節炎、毒、がん(直接または間接的に引き起こされ得る(例えば腫瘍随伴性)神経損傷)、慢性アルコール依存症、ヘルペス感染、AIDS、および化学療法を含む様々な神経損傷状態または治療によって引き起こされ得る。痛覚過敏を引き起こす神経損傷は、末梢またはCNS神経であり得る。この本発明の態様は、TRPA1阻害剤の投与が糖尿病、化学療法または外傷性神経傷害のための痛覚過敏を顕著に減少するという実験に基づいている。
【0043】
本発明のいくつかの態様において、機械的痛覚過敏の処置または軽減を必要とする対象は、TRPA1の阻害剤と1種以上のさらなる疼痛減少薬剤を組み合わせた組成物を投与される。これは、1種類の疼痛治療がしばしば、多くの中の1種の疼痛誘導経路のみと干渉するので部分的にのみ有効な疼痛緩和をもたらすためである。しかし、疾患または医学的状態に関連する疼痛は、しばしば複数の感覚受容器および異なるシグナル伝達経路、例えば機械的感覚および熱感覚の両方を含む。したがって、1種以上の疼痛減少薬剤が、これらの状況において痛覚を緩解するために、通常必要とされる。他の適用において、TRPA1阻害剤を疼痛受容プロセスの異なるポイントで作用する鎮痛剤と組み合わせて投与することができる。例えば、鎮痛剤の1つのクラス、例えばNSAID(例えばアセトアミノフェン、イブプロフェンおよびインドメタシン)は、侵害受容器によって検出される刺激の化学的メッセンジャーを下方制御する。他のクラスの薬剤、例えばオピオイドは、CNSにおける侵害情報の処理を変化させる。他の鎮痛剤、例えば抗けいれん剤および抗うつ剤を含む局部麻酔薬も含まれ得る。TRPA1阻害剤に加えて1種以上のクラスの薬剤を投与することによって、疼痛のより効果的な緩解を提供することができる。
【0044】
V.医薬組成物および投与
有害な機械的感覚によって介在される疼痛の処置または軽減が必要な対象に、TRPA1特異的阻害化合物を単独で投与することができる。しかし、TRPA1特異的阻害剤を含む医薬組成物の投与がより好ましい。医薬組成物に使用することができるTRPA1特異的阻害剤の例には、下記実施例に記載の化合物18または化合物40が含まれる。本発明のスクリーニング方によって同定することができる新規TRPA1阻害剤も用いることができる。本発明はまた、医薬組合せ剤、例えばキットを提供する。かかる医薬組合せ剤は、遊離形または組成物の、本明細書に記載のTRPA1阻害化合物である活性薬剤、少なくとも1種の共薬剤、ならびに薬剤の投与のための指示書を含んでいてもよい。
【0045】
TRPA1阻害化合物を含む医薬組成物を、様々な形態で製造することができる。適当な固体または液体医薬製剤形態は、例えば顆粒、粉末、錠剤、コーティング錠剤、(マイクロ)カプセル剤、座薬、シロップ、エマルジョン、懸濁液、クリーム、エアロゾル、ドロップまたはアンプル形態の注射溶液、および活性化合物の長期放出製剤である。それらは、当該技術分野で周知の標準的なプロトコル、例えばRemington: The Science and Practice of Pharmacy, Gennaro, ed., Lippincott Williams & Wilkins (20Pth ed., 2003) にしたがって製造され得る。医薬組成物は典型的には、TRPA1に関連するまたはそれによって介在される疼痛を減少または軽減するのに十分であるTRPA1阻害化合物の有効量を含む。TRPA1阻害化合物に加えて、医薬組成物はまた、組成物を亢進もしくは安定化する、または組成物の製造を容易にする担体を含んでいてもよい。例えば、TRPA1阻害化合物をオブアルブミンまたは血清アルブミンのような担体タンパク質と、それらの投与の前に、安定性または薬理学的特性を向上させるために混合することができる。様々な形態の医薬組成物はまた、賦形剤および添加剤および/または助剤、例えば崩壊剤、結合剤、コーティング剤、膨潤剤、滑沢剤、芳香剤、甘味剤を含んでいてもよく、そしてエリキシル剤は精製水のような当該技術分野で一般的に用いられる不活性希釈剤を含んでいてもよい。
【0046】
薬学的に許容される担体は、投与される特定の組成物によって、そして組成物の投与に用いられる具体的な方法によって、一部が投与される。それらはまた、他の成分と適合性であり、対象に為害性でないという意味で、薬学的かつ生理的に許容されるべきである。担体は、投与に望まれる製剤の形態、例えば、経口、舌下、直腸、経鼻、静脈内、または非経腸に基づく様々な形態を取り得る。例えば、非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、例えばオリーブ油、および注射用有機エステル、例えばオレイン酸エチルである。閉鎖包帯のための担体を、皮膚浸透性を増大し、そして抗原吸収を向上させるために用いることができる。経口投与のための液体投与形態は、一般的に、液体投与形態を含むリポソーム溶液を含んでいてもよい。
【0047】
TRPA1阻害化合物を含む医薬組成物を、局所的または全身的に、治療上有効量または投与量で投与することができる。それらを、非経腸的に、経腸的に、注射によって、急速注入、鼻咽頭吸収、皮膚吸収、直腸的および経口的に投与することができる。有効量は、対象における侵害の疼痛または侵害応答を減少または阻害するのに十分である量を意味する。かかる有効量は、対象の疼痛に対する通常の感受性、身長、体重、年齢および健康、疼痛の原因、TRPA1阻害剤を投与する形態、投与する具体的な阻害剤、および他の要因に依存して、対象によって変化する。結果として、具体的な状況下で具体的な対象の有効量を経験的に決定することが可能である。
【0048】
所与のTRPA1阻害化合物について、当業者は通常行われる薬学的方法によって侵害応答を調節する薬剤の有効量を容易に同定することができる。典型的には、インビトロで用いる投与量が、医薬組成物のインサイチュ投与に有用な量の有用な指標を提供し、そして動物モデルを用いて具体的な障害の処置に有効な投与量を決定することができる。より頻繁には、適当な治療用量を、最大耐用量を決定するための哺乳類種の、および安全投与量を決定するための正常ヒト対象の臨床試験によって決定され得る。特定の状況を除き、高用量が必要であり得るとき、TRPA1特異的阻害剤の好ましい投与量は、1日あたり通常約0.001〜約1000mg、より通常約0.01〜約500mgの範囲内である。一般的な法則として、投与するTRPA1特異的阻害剤の量は、対象の状態を有効にそして確実に予防または減少する最小の投与量である。したがって、上記投与量範囲は、本明細書の教示のための一般的な指標および補助を提供することを意図しており、本発明の範囲を限定することを意図していない。本発明の医薬組成物の製造および投与のためのさらなる指標は、文献にも記載されている。例えば、Goodman & Gilman’s The Pharmacological Bases of Therapeutics, Hardman et al., eds., McGraw-Hill Professional (10th ed., 2001); Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Gennaro, ed., Lippincott Williams & Wilkins (20th ed., 2003);および Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems, Ansel et al. (eds.), Lippincott Williams & Wilkins (7th ed., 1999)参照。
【実施例】
【0049】
実施例
下記実施例を説明のために提供するが、本発明を限定しない。
【0050】
実施例1.TRPA1は有害な機械的および熱刺激の多モードセンサーである
本発明者らは、TRPA1が機械的力によって活性化されるかについて試験した。熱TRP発現チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の電気生理的挙動を、記録ピペットおよび外部浸透月の変化を用いた機械的ストレス−圧力適用の2種の異なるアッセイで調査した。全細胞記録において、TRPA1発現細胞は、細胞縮小(−100mmHgの吸引(n=10)または超浸透450mOsm溶液の適用(n=8))(図1A)を引き起こすが、細胞膨潤[+100mmHg(n=11)または220mOsm(n=8)]を引き起こさない刺激に対する強い電流応答を示した。圧力、高浸透圧および冷温(n=62)によって引き起こされる電流は、同様の脱感作を示し、そして同様の逆電位および整流特性を有しており、これは機械感受性電流がTRPA1活性化によるものであることを示唆している(図1B)。未トランスフェクト対照CHO細胞およびCHO細胞で発現される他の熱TRP(TRPV1、TRPV2、TRPV3、TRPM8)は、機械的刺激に応答せず(データは示さず)、TRPA1応答が特異的であることが確認された。
【0051】
TRPV4および他のショウジョウバエTRPVファミリーメンバーが高浸透圧溶液に応答すること、そしてTRPV4ノックアウト試験によってこのチャネルが正常尾圧力応答に必要であることが示されることが知られている。機械的感覚の神経は、しばしば、それぞれ疼痛および接触に対する応答を特徴とする高または低閾値として分類さる。本発明者らは、広い範囲の負のピペット圧力を適用することによってTRPA1の機械的閾値を試験した(図1C)。TRPA1発現CHO細胞は、−90mmHg以上で活性化され、疼痛知覚に関与する負の高閾値機械的受容体と一致する(Cho et al., J Neurosci 22:1238, 2002)。興味深いことに、20℃の冷温前パルスが−30mmHg(n=5)の低機械的閾値に応答するTRPA1を感作し、これはTRPA1の活性化閾値が調節され得ることを示す(図1D)。本発明者らは、5μMの既知のTRPA1ブロッカーであるルテニウムレッドが、TRPA1に由来する機械的応答と一致する機械感受性電流を完全にブロックした(−100mmHgについて、n=8;450mOsmについて、n=5、データは示さず)。ガドリニウム(Gd3+)は動物組織における天然機械的ゲートイオンチャネルのブロッカーと考えられる(Martinac et al., Physiol Rev 81:685, 2001)。本発明者らは、10μM Gd3+の適用が完全にかつ可逆的に、450mOsmの2分刺激(n=5)(図2A)または−100mmHg(n=6)に応答するTRPA1電流をブロックすることを見出した。FM1−43は、オープン伝達チャネルを通じて侵入することによって感覚細胞を特異的に染色するスチリル色素である。本発明者らは、FM1−43処置がTRPA1でトランスフェクトし、シンナモアルデヒドで処置したCHO細胞を標識することを見出した。逆に、シンナモアルデヒドで活性化しなかったTRPA1発現細胞は、色素を取り込まなかった(データは示さず)。さらに、10μMのFM1−43がTRPA1発現CHO細胞のシンナモアルデヒド誘導性電流をブロックすることができることが観察された(n=8)。これらの結果は、感覚伝達チャネルであるTRPA1と一致する。
【0052】
本発明者らが観察した機械的応答が異種発現系の所産ではないことを確認するため、本発明者らは、天然TRPA1発現ニューロンもかかる刺激に応答するかを試験した。5/6シンナモアルデヒド感受性(仮TRPA1発現)DRGニューロンは、−200mmHgの吸引の適用に応答したが、0/21シンナモアルデヒド非感受性ニューロンが応答した(21中16かカプサイシン感受性であった)(図2B)。ミリモルのカンフルが基礎電流およびTRPA1のコルドール(coldor)アゴニスト活性化を阻害することが、最近報告された。本発明者らは、2mM カンフルがCHO細胞において−100mmHgの機械的応答を完全に阻害することができることを見出した(n=5、図2C)。常に、−150mmHgに応答するDRGニューロンの電流が、同じ濃度のカンフルの適用によって十分に阻害された(図2D)(n=15、15中12がシンナモアルデヒド感受性であった)。このデータは、天然TRPA1発現DRGニューロンが、機械感受性であり、CHO細胞のTRPA1の機械感受性と同等の性質を示すことを強く裏付ける。
【0053】
実施例2.TRPA1はインビボで機械的疼痛感覚に深く関与する
本発明者らは、次に、TRPA1の急性ブロックが疼痛感覚に何らかの生理的結果を有するかを試験した。RR、Gd3+またはカンフルは特異的な化合物ではなく、インビボでは使用することができない。FLIPRカルシウム流入アッセイを用いて、本発明者らは、43,648の小分子を、CHO細胞系におけるヒトTRPA1のシンナモアルデヒド活性化の阻害能についてスクリーニングした。いくつかのヒットが現れ、これらはシンナモアルデヒドの構造的アナログであった。本発明者らは、これらのアナログの1つである化合物18、(Z)−4−(4−クロロフィニル)−3−メチルブタ−3−エン−2−オキシム(Maybridge, Cornwall, UK)について綿密な分析を行った。化合物18は、CHO細胞FLIPRアッセイにおいて、50μMのシンナモアルデヒドによるTRPA1の活性化を、ヒトおよびマウスクローンについてそれぞれIC50 3.1μMおよび4.5μMでブロックした(図3B)。逆に、それはTRPV1、TRPV3、TRPV4、およびTRPM8を50μMでブロックしなかった(データは示さず)。化合物18は、濃度依存的方法でシンナモアルデヒドのEC50を50μM(対照)から220μM(25μMの化合物18)にシフトさせ、このことは2種の構造アナログが同じ結合部位に競合するが、チャネル活性に対して逆の効果を有することを示唆している(図3B)。化合物18は、アフリカツメガエル卵母細胞の切除パッチにおいてシンナモアルデヒド誘導性TRPA1電流を(図3C)、および冷温または圧力によって誘導されるCHO細胞のTRPA1応答を(データは示さず)ブロックした。インビボでの化合物18の硬化および選択性を試験するために、本発明者らは、シンナモアルデヒドと化合物18をマウスの後肢に共注射した。1−10mMの化合物18は、行動応答を引き起こさなかった(データは示さず)。しかし、化合物18は、シンナモアルデヒド誘導性侵害受容事象を顕著にブロックするが、カプサイシン誘導性侵害受容事象をブロックせず、このことは侵害受容のブロックにおけるこの化合物の効果および特異性を示唆している(図3D)。
【0054】
痛覚過敏は、傷害または炎症のため疼痛刺激(熱および/または機械的)への応答の増大として定義される。本発明者らは、脚の急性熱または圧力への侵害受容応答が化合物18によって影響されないことを観察した(データは示さず)。しかし、化合物18は、後肢への完全フロインドアジュバント(CFA)注射によって誘導される機械的痛覚過敏を、CFAの後24時間注射したとき、軽減した(図4A)。機械的侵害受容行動における同様の減少が、短期痛覚過敏モデル(ブラジキニン注射)で観察された(図4B)。重要なことに、本発明者らは、化合物18がCFAまたはブラジキニン(BK)誘導性熱痛覚過敏をブロックしないことを見出し(データは示さず)、当該化合物の特異性のさらなる証拠を提供する。これらの本明細書に記載の行動アッセイは、構造的に関連しない、TRPA1をブロックする化合物(化合物40;N,N’−ビス−(2−ヒドロキシベンジル)−2,5−ジアミノ−2,5−ジメチルヘキサン)で、極めて同様の結果で行われた。同時に、これらのインビボデータは、TRPA1のブロックは機械的痛覚過敏を緩和するが、熱痛覚過敏を緩和しないことを示している。
【0055】
実施例3.機械的および冷温痛覚過敏におけるTRPA1作用のさらなる証拠
マウスの有害な冷温応答について本発明者らの手でアッセイすることは不可能である。例えば、マウスは0℃程度の冷温には侵害受容応答を示さず、そしてCFAへの応答で冷温異痛を示さない。TRPA1の冷温活性化が議論されているが、ラットの冷温痛覚過敏のインビボでの役割が最近提案されている(Jordt et al., Nature 427:260, 2004; and Obata et al., J Clin Invest 115:2393, 2005)。したがって本発明者らは、ラットを用いて化合物18を使用してTRPA1の役割を研究した。本発明者らは、ラットTRPA1がヒトおよびマウスTRPA1と同様に化合物18によってブロックされることを見出した(データは示さず)。本発明者らは、5℃プレート上で、ラットの化合物18でのCFA誘導性冷温痛覚過敏の強いブロックを観察した(図4C)。合計すると、データは、炎症または傷害シグナルによる感作の後にのみ、TRPA1がインビボで冷温受容体および機械的受容体の両方として作用することを示している。一貫して、TRPV1なしのマウスは強い熱痛覚過敏表現型を示すが、それらは急性熱感覚の表現型を示さないか軽度を示すことを見出した(Davis et al., Nature 405:183, 2000;および Caterina et al., Science 288:306, 2000)。機械的痛覚過敏におけるTRPA1の役割を、炎症への応答における機械的閾値を低下させる応答にTRPA1が感受性であるかによって説明することができる。これは、TRPV1の熱感受性の調節と同様である。TRPV1は通常、43℃の活性化閾値を有するが、様々な炎症性シグナルがTRPAV1を感作して、より低い温度で活性化させる。
【0056】
この可能性を試験するために、本発明者らは、BKシグナル伝達がTRPA1の機械的閾値を減少させることができるかを試験した。1nMのBKで3分間前処理した後、CHO細胞をブラジキニンB2受容体でコトランスフェクトしたところ、TRPA1は−60mmHgの圧力刺激に機械的応答を示した(図4D)。TRPA1の感作応答は、機械的痛覚過敏におけるTRPA1の生理的役割についての潜在的な分子メカニズムを提供する。CHO細胞において、TRPA1の圧力に対する応答は瞬間的ではなく(発症時間が病の単位で変化する)、これは、TRPA1が引張によって直接活性化されず、おそらく第二のメッセージを介して活性化されることを示唆している。興味深いことに、BK適用によって活性化閾値が減少し、遅延が短縮される。
【0057】
実施例4.一般的な材料および方法
哺乳類細胞電気生理学:熱TRP発現CHO細胞(ラットTRPV1、ラットTRPV2、マウスTRPV3、ラットTRPV4、マウスTRPM8、およびマウスTRPA1)、対照CHO細胞および培養ラットDRGニューロンを、Story et al., Cell 112:819, 2003;およびBandell et al., Neuron 41:849, 2004に記載の通りに製造した。電気生理的記録をBandell et al., Neuron 41:849, 2004に記載の通りに行った。簡単に説明すると、CHO細胞を−60mVでクランプし、そして−80mVから+80mVに0.8秒ランプを、4秒ごとに行った。DRGニューロンからの電流を−60mVで記録し、それらの電流−電圧曲線について、−80mVから+80mVへの800msランプの前に、+20mVで300ms電圧ステップを40ms用いて電圧ゲートのNaまたはCa2+電流の汚染を最小にした。温度および超浸透圧実験のためのピペット溶液は、(mMで)140 CsCl、5 EGTA、10 HEPES、2 MgATP、0.2 NaGTPを含み、CsOHでpH 7.4に滴定した。これらの実験のためのベース外部溶液は、(mMで)140 NaCl、5 KCl、10 HEPES、2 CaCl、1 MgClを含み、NaOHでpH 7.4に滴定した。マンニトールを用いて高浸透圧溶液の浸透圧を調節した。マウスTRPV3およびラットTRPV2について、外部カルシウムを5mM EGTAで置換した。グルコネートを塩素で、(+)圧で置換し、低張実験で内因性膨潤活性化塩素電流の電位を排除した。これらの実験について、ピペット溶液(295mOsm)は、(mMで)125 Cs−グルコネート、15 CsCl、5 EGTA、10 HEPES、2 MgATP、0.2 NaGTPを含み、CsOHでpH 7.4に滴定した。外部溶液は、(mMで)90 Na−グルコネート、10 NaCl、5 K−グルコネート、10 HEPES、2 CaCl、1 MgClを含み、NaOHでpH 7.4に滴定した。浸透圧をマンニトールで220mOsm(低張)または298mOsm 15(等張)に調節した。(±)圧を水静的に記録ピペットによって、シリンジポンプによって送達し(Hamill et al., Annu Rev Physiol 59:621, 1997)、そして圧力モニター(World Precision Instruments)でモニターした。Warner温度管理装置(TC-324BおよびCL-100)を灌流バス溶液を加熱または冷却するために用いた。接合部電位/アクセス抵抗が顕著に変化するか、またはいかなる刺激もなく−60mVで−100mA以上の定常電流を発生する実験は考慮に入れなかった。試験したTRPA1以外の全ての熱TRPは、機械的刺激に応答しなかった。−100mmHg〜−300mmHg、〜+100mmHg、450mOsm、および220mOsmで試験した細胞数(n)は、それぞれ:CHO細胞、n=7、14、5、12;TRPV1、n=6、5、7、5;TRPV2、n=4、5、3、5;TRPV3、n=3、2、3、0;TRPM8、n=12、4、10、0であった。TRPV3およびTRPM8は低張溶液に応答しないことが知られていた。
【0058】
FM1−43実験:mTRPA1をトランスフェクトしたCHO細胞のFM1−43ラベリングを、記載の通りに行った(Meyers et al., J Neurosci 23:4054, 2003)。簡単に説明すると、CHO細胞をFugene(Roche)を用いてmTRPA1−pCDNA5でトランスフェクトした。偽トランスフェクションCHO細胞を、プラスミドDNAなしで、Fugeneで処理した。トランスフェクションの24時間後、細胞を5分間、200μMの生理バッファー((mMで)130 NaCl、3 KCl、2 MgCl、2 CaCl、10 HEPES、10 グルコースを含む)中シンナモアルデヒドで、室温で処理し、その後3分間、10μMのFM1−43で処理した。細胞を十分に洗浄し、画像化した。mTRPA1およびhTRPA1−発現CHO細胞を全細胞パッチクランプ立体配置で、PatchXpress(Axon Instruments)を用いて、FM1−43色素のTRPA1活性化に対する効果を試験した。細胞を試験の前日に播種し、Story et al., Cell 112:819, 2003に記載の通りに0.5μg/ml テトラサイクリンで誘導した。試験の直前に細胞をトリプシン処理し、カルシウムを含まないDMEM培地(Invitrogen)に再懸濁した。記録を、(mMで)2.67 KCl、1.47 KH2PO4、0.5 MgCl、138 NaCl、8 Na2HPO4、5.6 グルコースを含む細胞外溶液中で行った。細胞内用液は、(mMで)140 KCl、10 HEPES、20 グルコース、10 HEDTAおよび1μM 緩衝化遊離カルシウムを含む。−80mVの保持電流を、TRPA1活性化および阻害の定量的分析のために用いた。実験は、細胞の電流を励起するために100μMのシンナモアルデヒドを第1に適用し、次にシンナモアルデヒドおよび10μM FM1−43を第2に添加することを含む。電流の阻害は、mTRPA1を発現する7/8細胞で、そしてhTRPA1を発現する3/4細胞で観察された。平均として、電流の50%ブロックが観察された。
【0059】
FLIPRスクリーン:ヒトTRPA1を発現するCHO細胞を384ウェルプレートに、〜8,000細胞/ウェルの濃度で播種した。細胞をリン酸緩衝化食塩水(PBS)に移し、カルシウム感受性色素FLUO−4を、FLIPRカルシウム3アッセイキット(Molecular Devices, Sunnyvale, CA)を用いて、アッセイの1時間前にロードした。アッセイを、FLIPR2(Molecular Devices, Sunnyvale, CA)を用いて行った。全ての化合物を、PBSで高濃度DMSOベース原液から希釈し、FLIPR2内部ピペットヘッドでデータ収集の間加えた。最終DMSO濃度は0.5%を決して超えることがなかった。
【0060】
アフリカツメガエル卵母細胞切除パッチ:ヒトTRPA1をpOX発現ベクター(Jegla et al., J Neurosci 17:32, 1997)にクローン化し、cRNA転写産物をT3 mMessage Machineキット(Ambion, TX)を用いて製造した。成熟した17個の脱小胞化(defolliculated)アフリカツメガエル卵母細胞に50nlのヒトTRPA1 cRNAを〜1μg/μlで注射した。卵母細胞をND96(96mM NaCl、2mM KCl、1mM MgCl2、1.8mM CaCl2、5mM HEPES、pH7.4、Na−ピルベート(2.5mM)、ペニシリン(100u/ml)およびストレプトマイシン(100μg/ml)を補った)で、3−5日インキュベートして、確実に発現させる。記録の前に黄包を機械的に除去した。記録を電圧クランプ下で、切除パッチから、裏返し形態(inside-out configuration)で室温で、1−1.5MΩピペットで行った。バスグラウンドを、寒天ブリッジを用いて単離した。カプサイシンおよびセリン抵抗性は補正され、天然カルシウム活性化クロライド電流を削除する溶液を用いた(パッチ電極(mMで):140 NaMES、4 NaCl、1 EGTA、10 HEPES、pH7.2;バス溶液:140 KMES、4 KCl、1 EGTA、10 HEPES、pH7.2)。化合物をバス溶液に加えた。電流を、Multiclamp 700B増幅装置およびpCLAMP捕捉セットを用いて記録した。
【0061】
行動アッセイ:8−10週齢および150−250gのマウス(C57Bl6 Mus musculus)Sprague Dawleyラットを、全ての行動アッセイについて用いた。動物を、全ての実験の前に試験環境に20−60分間慣らした。全統計的計算のためにスチューデントT試験を用いた。全てのエラーバーは平均の標準誤差(SEM)を示す。熱プレート、ハーグリーブス法(Plantar Analgesiaメーター)およびフォン・フライ装置(Dynamic Plantar Aesthesiometer)は、UGO BasileおよびColumbus instruments由来である。機械的または熱痛覚過敏アッセイを、Morqrich et al., Science 307:1468, 2005;およびCaterina et al., Science 288:306, 2000に記載の通りに行った。簡単に説明すると、マウスを全試験前に試験環境に60分間慣らした。ベースライン応答を最初に測定し、次に10nM BKを左後肢の皮膚に注射した。フォン・フライ閾値または脚引っ込め潜時を注射後5、15および30分後に測定した。1mMの化合物18を左後肢に時々注射して、その鎮痛作用を試験した。CFA誘導性痛覚過敏試験のために、10μL中5μgのCFAをマウスに注射し(Caterina et al., Science 288:306, 2000;およびCao et al., Nature 392:390, 1998)、そして100μL中50μg(1:1 鉱油および食塩水のエマルジョン; Obata et al., J Clin Invest 115:2393, 2005)をラットに注射し、24時間で測定を行った。測定の前に、動物を環境に20−60分慣らした。CFA注射用動物での実験のために異なる時点を用いた(化合物18の注射後、30分、1、1と1/2、2および4時間)。
【0062】
化合物:全化学物質を、特に記載がない限り、Sigma-Aldrichから購入した。カプサイシンをFlukaから購入した。ルテニウムレッド(10mM)またはガドリニウムクロライド(100mM)の原液を、水を用いて製造し、使用前に試験溶液で希釈した。
【0063】
本明細書に記載の実施例および態様は、説明のみを目的としており、その範囲内での様々な修正および変形が当業者によって提案され、本願の精神および範囲、ならびに添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれることが理解される。本明細書に記載のものと類似または均等の方法および物質を、本発明の実施または試験において用いることができるが、好ましい方法および物質が記載されている。
【0064】
本明細書で言及したあらゆる公報、GenBank配列、ATCC寄託番号、特許および特許出願は、それらが個々に記載されているかのように、それらの全体について、あらゆる目的のために、参照により明示的に本明細書の一部とする。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1A−1Dは、TRPA1が機械的刺激によって活性化されることを示す。記録ピペットから適用した(A)冷温(右、n=62)、高張モル浸透圧濃度(中央、n=8)および(−)圧(左、n=10)に応答するTRPA1発現細胞から記録した電流;(B)TRPA1を活性化する異なる刺激に応答する代表的な電流−電圧相関。(C)TRPA1細胞は、−90mmHgまたはそれ以上の陰圧に強い電流応答を示す。塗りつぶしバーの値は、それぞれの圧力に対して、全ての試験したパッチの内、応答したものの数を示す。(D)閾値未満冷温前兆パルス(pre-pulse)は、TRPA1細胞の低閾値機械的刺激に対する応答に反応するように感作する(n=5)。
【図2】図2A−2Dは、TRPA1の機械的応答が様々な既知の薬剤によって阻害されることを示す。(A)Gd3+は、5μMのルテニウムレッドがそうであるように、高モル浸透圧濃度に対してTRPA1の電流活性化を完全に阻害する(n=5細胞中5)((−)圧について、n=5細胞中5、高モル浸透圧濃度について、n=6細胞中6)。(B)シンナモアルデヒド感受性DRGニューロンは、−200mmHgおよびカプサイシンに応答する。陰圧に応答する電流−電圧相関(トレースのアスタリスクの位置から収集)を示す。(C)2mMカンフルは、CHO細胞における(−)圧によるTRPA1の電流活性化を完全に阻害する(n=5)。(D)2mMカンフルは、DRGニューロンの(−)圧に応答する電流を完全に阻害する(n=(−)圧で試験した18細胞中15)。15細胞中12で、500μMのシンナモアルデヒドでも電流が活性化された。
【図3】図3A−3Dは、化合物18がTRPA1活性化を阻害することを示す。(A)化合物18(上)およびシンナモアルデヒド(下)の化学構造。(B)50μMのシンナモアルデヒドによって誘導されるマウスおよびヒトTRPA1発現CHO細胞への、化合物18によるカルシウム流入の阻害についての用量応答相関(左パネル)。カルシウム流入を、標準的なFLIPRアッセイを用いて測定した。データ点は4ウェル(〜8,000細胞/ウェル)の平均であり、エラーバーは標準誤差を示す。値は最大応答(化合物18の非存在下で観察される)に正規化する。IC50値は、ヒトおよびマウスについてそれぞれ、3.1μMおよび4.5μMである。化合物18は、マウスTRPA1に対するシンナモアルデヒドのEC50を、濃度応答法において右側にシフトする(右パネル)。データを、FLIPRカルシウム流入アッセイ、n=3ウェル(〜8,000細胞/ウェル)を用いて作成し、最大応答に正規化した。バーは標準誤差を示し、実曲線はEC50値を導くヒル等式(hill equation)適合である。シンナモアルデヒドのEC50値は、50μM(対照)、111μM(10μMの化合物18)、および220μM(25μMの化合物18)である。最大応答は、全てのケースにおいて同適度であった。(C)TRPA1の電流−電圧相関。TRPA1発現アフリカツメガエル卵母細胞の裏返しマクロパッチにおいてシンナモアルデヒドによって誘導される外向き整流電流(左パネル)は、化合物18の共適用によって抑制された(右パネル)。(D)化合物18は、シンナモアルデヒドによる急性侵害行動を抑制するが、カプサイシンによるものはしない。シンナモアルデヒド(16.4mM)またはカプサイシン(0.328mM)を注射した後肢舐めおよび跳ね時間を5分間測定し、化合物18(1mM)と共に注射した他の動物の後肢と比較する。各実験の症例数は、左からそれぞれ、8、8、6および6である(***p<0.001、*p<0.05、両側Student T検定)。
【図4】図4A−4Dは、TRPA1が機械的および冷温炎症下過敏症を仲介することを示す(A−B)。新規TRPA1ブロッカーである化合物18は、マウスにおいて、CFA−(n=8)またはBK−誘導性(n=12)侵害機械的行動を逆転するが、熱(高温)行動についてはそうではない(CFAおよびBKの各々について、n=8)。赤い記号はCFA−注射(A)、またはBK−注射(B)後肢からの応答を意味するが、青い記号は同じ動物の他の非注射後肢を意味する。丸は、化合物18処置に対する応答を意味するが、三角はビークル処置に対する応答を意味する(A−C)。フォンフレイ(Von Frey)閾値を測定し、平均化する。(***p<0.001、*p<0.05、両側Student T検定)。(C)化合物18は、CFAを注射したラットの冷温行動を逆転する。赤い記号はCFA注射後肢からの応答を意味するが、青い記号は同じ動物の他の非注射後肢を意味する。各時点で10分間に起こった跳ね、舐め、引っ掻き回数を数え、平均化する(n=8、*p<0.05、両側Student T検定)。(D)1nMのBK前兆パルスは、B2受容体を共に発現するTRPA1 CHO細胞の低閾値機械的刺激に対する応答に感受性である。2mMのカンフルをBKパルスの間インキュベートして、軽度の活性化および続くBKによるTRPA1の脱感作を保護する。この結果は、細胞の機械的閾値が−60mmHgに下がったことを示している。
【図1a】

【図1b】

【図1c】

【図1d】

【図2a】

【図2b】

【図2c】

【図2d】

【図3a】

【図3b】

【図3c】

【図3d】

【図4a】

【図4b】

【図4c】

【図4d】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における痛覚過敏の処置法であって、対象に有効量のTRPA1アンタゴニストを含む医薬組成物を投与することを含んで成る方法であって、ここで前記TRPA1アンタゴニストは、TRPA1活性を選択的に阻害し、それによって対象における有害な化学的感覚、熱感覚および機械的感覚を抑制または阻害するものである、方法。
【請求項2】
TRPA1アンタゴニストが、TRPV1、TRPV2、TRPV3、TRPV4およびTRPM8から成る群から選択される1種以上の他の熱TRPの活性化を阻害しない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
TRPA1アンタゴニストが(Z)−4−(4−クロロフィニル)−3−メチルブタ−3−エン−2−オキシムである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
TRPA1アンタゴニストがN,N’−ビス−(2−ヒドロキシベンジル)−2,5−ジアミノ−2,5−ジメチルヘキサンである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
TRPA1アンタゴニストがTRPA1アンタゴニスト抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
対象が炎症性状態または神経因性疼痛を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
対象が機械的または熱痛覚過敏を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
対象がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
さらに対象に第2の疼痛減少薬剤を投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
第2の疼痛減少薬剤がアセトアミノフェン、イブプロフェンおよびインドメタシンならびにオピオイドから成る群から選択される鎮痛剤である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
第2の疼痛減少薬剤がモルヒネおよびモキソニジンから成る群から選択される鎮痛剤である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
有害な機械的感覚を阻害または抑制する薬剤を同定するための方法であって、(a)試験化合物を一過性受容器電位イオンチャネルTRPA1を発現する細胞に接触させ、そして(b)機械的刺激に応答して活性化した細胞のTRPA1のシグナル活性を阻害する化合物を同定し;それによって有害な機械的感覚を阻害または抑制する薬剤を同定することを含んで成る方法。
【請求項13】
さらに、同定した化合物を、TRPV1、TRPV2、TRPV3、TRPV4およびTRPM8から成る群から選択される1種以上の他の熱TRPの活性化またはシグナル活性に対する効果について試験することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
同定した化合物が、当該化合物の非存在下でのTRPA1イオンチャネルのシグナル活性と比較して、活性化TRPA1イオンチャネルのシグナル活性を抑制または減少する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
同定した化合物が、TRPV1、TRPV2、TRPV3、TRPV4およびTRPM8から成る群から選択される1種以上の他の熱TRPの活性の活性を阻害しない、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
活性化TRPA1イオンチャネルが、シンナモアルデヒド、オイゲノール、ジンジェロール、サリチル酸メチルおよびアリシンから成る群から選択されるTRPA1アゴニストによって活性化される、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
細胞が、TRPA1発現CHO細胞、TRPA1発現アフリカツメガエル卵母細胞、または培養DRGニューロンである、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
シグナル活性がTRPA1誘導性細胞膜通過電流または細胞へのカルシウム流入である、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
機械的刺激が吸引圧または超浸透ストレスである、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
対象における熱または機械的痛覚過敏の処置用医薬の製造におけるTRPA1特異的阻害剤の使用であって、TRPA1特異的阻害剤が(Z)−4−(4−クロロフィニル)−3−メチルブタ−3−エン−2−オキシムまたはN,N’−ビス−(2−ヒドロキシベンジル)−2,5−ジアミノ−2,5−ジメチルヘキサンである、使用。

【公表番号】特表2009−528998(P2009−528998A)
【公表日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−556423(P2008−556423)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【国際出願番号】PCT/US2007/004640
【国際公開番号】WO2007/098252
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(503261524)アイアールエム・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (158)
【氏名又は名称原語表記】IRM,LLC
【出願人】(593052785)ザ スクリップス リサーチ インスティテュート (91)
【Fターム(参考)】