説明

痛風治療薬

【課題】抗痛風薬、高尿酸血症治療薬として用いる事が可能である植物活性成分の提供。
【解決手段】キサンチンオキシダーゼ阻害活性を指標として植物より活性成分を探索し、その結果、コショウ科キンマ葉抽出物より、hydroxychavicolを主有効成分として、単離構造決定した。hydroxychavicolは従来の医薬品に比べIC50が低く、非常に有効な抗痛風薬、高尿酸血症治療薬として用いる事が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キサンチンオキシダーゼ阻害活性を有する化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
痛風は、関節において激しい痛みと発熱を伴う病気で、「風が吹いても痛む」と言われる事から、その名前で呼ばれる。日本において第2次世界大戦以前には痛風は非常に稀な疾患とされ、1950年代には100例にも満たないと報告されていた。その後、高度成長期に伴い日本人の食生活に急激な変化が起こり欧米並みになったことや痛風の疫学調査が盛んになったことなどから痛風患者の数は著しく増加し、現在は59万人を超えるともいわれている。
【0003】
痛風と尿酸の関係は、痛風患者に広く高尿酸血症や尿路結石患者が存在する事などから推察されていたが、高尿酸血症患者においても必ずしも関節炎が起きない事や、高尿酸血症が持続している痛風患者においても炎症が短期間に収束する事例などから、尿酸が痛風の直接的な原因ではないという考えもあった。しかし、McCartyによって提唱されたcrystal
induced arthritisの概念が多くの研究者に支持され、現在では、血清尿酸値が高いほど急性関節炎発作を発症する頻度が高い事、血清尿酸値を正常域まで低下させると大部分で関節炎が起こらなくなる事がわかり、尿酸と痛風の関係が明らかにに認められるようになった。高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第1版(日本痛風・核酸代謝学会)によると、血清尿酸値7.0mg/dlを越える者を高尿酸血症と定義づけられている。
【0004】
痛風は尿酸生成過剰が主なものと尿酸排泄低下が主なもの、両者が混在するなど種々あるが、多くは生成過剰が主要因とされている。排泄低下により生じるのは種々の腎障害とされている。尿酸の大部分は細胞崩壊時核酸の分解で生じたプリン体の最終分解産物であり、腎尿路系を介して体外に排泄される。通常の場合、体内の尿酸は合成(産出)と排泄のバランスが保たれている。このバランスが崩れて生じる高尿酸血症を生じる原因としては遺伝的要因、過食、動物性タンパク質の摂りすぎ、アルコール多飲、ストレスといわれているが、必ずしも明確にはなっていない。
【0005】
とはいえ、高尿酸血症が是正されずに、持続されれば、痛風の発作が繰り返され、疼痛や慢性痛風性関節炎状態となる。慢性痛風では、関節障害だけにとどまらず、結局腎障害や心疾患を合併することがあり、尿酸の沈着による痛風結節に到る場合もある。治療の基本は、基礎疾患である高尿酸血症に対する原因療法であり、まず尿酸の代謝動態、すなわち血清尿酸値等を明確に把握したうえで、尿酸正常域排泄型や尿酸排泄低下型には(1)尿酸排泄促進剤(プロベネシド、ベンズブロマロンなど)が用いられ、尿酸過剰産生型には(2)尿酸生成抑制剤、すなわちキサンチンオキシダーゼ阻害剤(アロプリノール)が用いられる。
【0006】
痛風の治療法として、食事療法と薬物療法が挙げられる。食事療法は、尿酸の原料となるプリン体の摂取を抑える事を目的としているが、日々の過食、動物性タンパク質の摂り過ぎ、アルコールの多飲は別にして通常これらから体内に入るプリン体の量は、体内で合成されるプリン体の約5分の1にしか過ぎないので最近は食事を節制することによる効果は期待されなくなった。薬物療法は、(1)尿酸排泄促進剤、(2)尿酸生成抑制剤、(3)尿酸分解酵素、(4)尿アルカリ剤、(5)痛風発作の治療薬、が用いられる。
【0007】
キサンチンオキシダーゼは、プリン体化合物分解経路の最終段階で、ヒポキサンチンからキサンチンを生成し、さらにキサンチンの8、9位を酸化して尿酸を生成する酵素であり、原因療法として現在最もよく使われているキサンチンオキシダーゼ阻害剤のアロプリノールは構造的にキサンチンの類似体であり、キサンチンと競合的に拮抗することによって尿酸の生合成を抑制し、結果的に血中の尿酸値および尿中の尿酸値を低下させる薬剤である。アロプリノールは40年以上にわたって使用されているが肝炎、ネフローゼやアレルギー反応などの副作用を誘発することも知られており、これに代わる効果が高く、副作用の少ないキサンチンオキシダーゼ阻害剤の開発が望まれている。
【0008】
特開2007−45784ではエラグ酸誘導体、特開2006−265174ではウイスキー中に含まれる8種類の化合物が、特開2006−36787、特開2003−252776では植物の抽出物にキサンチンオキシダーゼ阻害活性があるとされているが、その主有効成分については何も明らかにされていない。
【特許文献1】特開2007−45784
【特許文献2】特開2006−265174
【特許文献3】特開2006−36787
【特許文献4】特開2003−252776
【非特許文献1】日本臨床 第66巻 第4号 2008年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは痛風の原因療法に使用される高尿酸血症改善剤が、副作用の誘発が避けられないアロプリノールに限られている現状に鑑み、副作用が少なく有効性の高い痛風、高尿酸血症治療剤の開発を広く天然素材に求めた。
【0010】
本発明はPiper属植物の抽出物についてキサンチンオキシダーゼ阻害活性を指標に主有効成分の探索を行い、主有効成分がhydroxychavicolであることをつきとめ、その効率的抽出製造方法およびその活性が現有医薬品の2倍であることを発見することによって完成された。すなわち、hydroxychavicolおよびその類似体を含む、医薬品または食品の提供に関する。
【発明の効果】
【0011】
カテコール骨格をもつhydroxychavicolまたはその類縁体を医薬品に用いれば、アロプリノールで懸念される副作用は考えられず、従来の医薬品以上の有効性と安全性を持つ抗高尿酸血症薬、痛風治療薬の提供が可能になる。
【0012】
また請求項2にかかるhydroxychavicolおよびこれを高濃度に含む抽出物の抽出製造方法は、粉末にしたPiper属植物の乾燥葉、果実,茎をn-ヘキサンで前処理して、脂溶性の成分を完全に除去した後、粉末をクロロホルム、ジクロロメタン、酢酸エチル、アセトン、エーテルなどの溶剤、望ましくはエーテルで抽出し、エーテル溶液中の水に不溶のhydroxychavicolなどのカテコール類のみを0.1〜1%の水酸化ナトリウム、1〜10%の重炭酸ソーダ、1〜10%の炭酸ソーダ、1〜5%の水酸化カルシウム、1〜10%のアンモニウム溶液、望ましくは0.5%水酸化ナトリウム液に転溶させ、これを希鉱酸で酸性にした後エーテルと振とうすれば、アルカリ性溶液に溶けていたカテコール類のみが、エーテル層に転溶してくる。エーテル留去後得られた残渣を通常のシリカゲルカラムクロマト処理することによって主有効成分のhydroxychavicolを高濃度に含む抽出物を得ることができる。この方法によればhydroxychavicolをはじめとするカテコール類以外の脂溶性の高い成分をカラムクロマトグラフィーにかけることなく容易に取り除くことができる。
【0013】
hydroxychavicolをさらに精製する方法として、該カテコール類抽出物をアセトン、アルコールのような親水性溶剤、望ましくはアセトンに溶解し、希アンモニア水を加え、次いでアセトン・メタノール混液に溶解した塩化カルシウム溶液を加え、最初の沈殿をろ別し、ろ液にアセトンを加えて放置すれば淡褐色の沈殿が生じる。沈殿を集めて、希鉱酸とエーテルと振とうし、静置後上層エーテルをとり、エーテルを留去すればさらに高濃度のhydroxychavicolが得られる。
【発明を実施するための最良の形態および方法】
【0014】
hydroxychavicolを体内に取り込める方法ならば何でも良く、hydroxychavicolは一般的な賦形剤と共に、顆粒状、粒状、タブレット状、カプセル状、ゼリー状に加工し、経口的に摂取する事も可能である。また、hydroxychavicolを含む植物および植物抽出物およびそれらを含有する食品を摂取することでも、同様の効果が得られる。hydroxychavicolを含む植物としては、Piper属植物のキンマP. betle、P. taiwanense、その他等が挙げられる。
【実施例1】
【0015】
以下に、本発明に関する実施例として、hydroxychavicolの抽出と同定に関する実験を詳細に示すが、これはhydroxychavicolが痛風の治療薬として有効である事を示す為の実験であり、本発明のhydroxychavicolはこれらの方法で得られるものに限定されない。hydroxychavicolの効率的単離・抽出については実施例2および実施例3に示した。また、ここではhydroxychavicol抽出原料としてキンマP. betleを用いたが、hydroxychavicolを含む植物であるならば、同様の方法で抽出することが可能であり、キンマP. betleに限定されるものではない。
【0016】
キサンチンオキシダーゼ阻害活性測定方法は、各試料とも以下の方法で行った。

0.1
M PBS溶液(pH 7.8)にキサンチンを溶解させ、200 μM キサンチン緩衝液を作成した。キサンチン緩衝液に、任意の濃度に調整した被検溶液10 μL(PBSあるいはDMSO溶液で溶解)を加えた。これにキサンチンオキシダーゼ緩衝液(0.1
M PBS溶液(pH 7.8)にて調整、20units/mL)2 μLを加え、室温、4分間反応させた後、吸光波長295 nmにおける吸光度を測定(UV-2450PC、Shimadzu、Kyoto)した。陽性対照薬としてアロプリノールを用い、活性強度の指標とした。
【0017】
キンマP. betle葉からの有効成分の同定
キンマ葉からのキサンチンオキシダーゼ阻害作用を有する有効成分の分離・精製を行った。分離・精製チャートを図1に示した。
【0018】
乾燥させたキンマ葉100gを粉末にし、n-ヘキサン1Lに浸漬した。室温(25〜30℃)で24時間抽出を行った後、濾過によりn-ヘキサンをキンマ葉と分離し、n-ヘキサン抽出物を得た。次いでキンマ葉をクロロホルムに浸漬し、室温(25〜30℃)で24時間抽出作業を行った後、濾過によりクロロホルムをキンマ葉と分離し、クロロホルム抽出物を得た。次いでキンマ葉をメタノールに浸漬し、同様の抽出操作を行い、メタノール抽出物を得た。
【0019】
得られた各抽出物を減圧下で乾固させ、各抽出物を所定の濃度に調整し、キサンチンオキシダーゼ活性阻害試験を行った。結果は表1に示すように、クロロホルム抽出物に強い活性を見いだし、以降、クロロホルム抽出物からの分離と精製を行った。
【0020】
(表1) キンマ葉各溶媒抽出物のキサンチンオキシダーゼ阻害活性試験


【0021】
キンマ葉クロロホルム抽出物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて精製した。カラムに吸着させた後、クロロホルム−メタノール系で溶出させ、図1のフローチャートに示すAからHの8画分を得た。各画分のキサンチンオキシダーゼ阻害活性試験を行った結果、Fr.Eに強い活性を見いだした。
【0022】
得られたFr.Eを、再度シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて精製し、Fr.E−Eを得た。
【0023】
HPLCを用いてFr.E-Eを分析したところ、24分付近に主要成分と思われる単一のピークが見られたので(図2)、これを分取し、IRおよびNMRで構造を解析した結果、hydroxychavicolであると同定した。
【0024】
hydroxychavicolのキサンチンオキシダーゼに対するIC50を測定したところ、現在キサンチンオキシダーゼ阻害剤として最もよく使われている医薬品のアロプリノールに比べ約2倍キサンチンオキシダーゼ阻害活性が強いことが証明された。hydroxychavicol、アロプリノールのIC50測定結果を表2に示す。キサンチンオキシダーゼに対するIC50とはキサンチンオキシダーゼの活性を50%に抑えるために必要な物質の濃度を示している。
【0025】
(表2) キサンチンオキシダーゼに対するIC50値の比較


【実施例2】
【0026】
キンマの乾燥粉末100gをn-ヘキサン500mLに浸漬し、ときどき振りまぜながら室温で3時間放置後、ろ過、粉末を再度n-ヘキサン300mLに浸漬し、先と同様に処理した。粉末を200mLのn-ヘキサンと振りまぜろ過した。次いでn-ヘキサン処理後の粉末をエーテル300mLに浸漬して、室温(25〜30℃)で1時間ときどき振りまぜながら抽出した。ろ過後の粉末をエーテル300mLに浸漬し、先と同様に処理した。エーテル抽出液を集め、常温で約1/3液量まで濃縮した。エーテル濃縮液を1%水酸化ナトリウム液100mLと冷暗所で分液ロート中で振りまぜ、10分間静置した。下層の水性部をとり、これに1%塩酸溶液を加えてPH6以下の酸性液とし、エーテル100mLと50mLで2回振りまぜ、各10分間静置後、上層のエーテル溶液を集め、分液ロート中、水50mLで3回振りまぜ、各10分間静置した。エーテル溶液は無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エーテルを留去し褐色の残渣1.5gを得た。これをシリカゲルカラム(シリカゲル200g、湿式法(クロロホルム:メタノール、99:1)、径3cm)にかけた。クロロホルム:メタノール、99:1で、1フラクション10mLとして、フラクションコレクターCHF161RA(アドバンテック東洋(株))を用いて溶出液を各フラクションに分けて集めた。各フラクションをTLCでモニターしながら,TLC上hydroxychavicolに相当するスポットの部分のフラクションを集めて、溶媒を減圧下に留去してhydroxychavicolを高濃度(50%)に含む抽出物0.7gを得た。
【実施例3】
【0027】
実施例2で得られた最終抽出物10mgをアセトン50mLに溶かし、アンモニア水0.5mLを加え、これに塩化カルシウム/メタノール溶液(200mg/3mL)の数滴を加えた。生じた白い沈殿物をろ別し、ろ液を冷暗所に2時間放置、生じた青褐色の析出物を遠心分離して集め、1%塩酸20mL中に懸濁させ、分液ロート中エーテル20mLと振りまぜ、上層のエーテル層を分け、20mLの水で2回振りまぜ、エーテル溶液部を少量の無水硫酸ナトリウムで乾燥後、エーテルを留去し、hydroxychavicolをさらに高濃度に含む抽出物を得た。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明により、キンマP. betle葉より抽出されるカテコール骨格を持つ非プリン体物質hydroxychavicolが従来医薬品として用いられてきたプリン体物質アロプリノールで予期される副作用の恐れなく、さらにアロプリノールの半分量で有効性が示されるキサンチンオキシダーゼ阻害剤として極めて安全で、有効性の高い痛風および高尿酸血症の予防および治療薬として医薬品、食品素材の提供が可能になり、有用性が高いと考えられる。
【0029】
(図1)キンマP. betle葉からの有効成分の分離・精製チャート




(図2)Fr.E-EのHPLCクロマトグラム



【特許請求の範囲】
【請求項1】
コショウ科Piper属から抽出した高いキサンチンオキシダーゼ阻害作用を有する主有効成分が以下の式で示されるhydroxychavicol(別名allylpyrocatechol、4-allylcatecholなど)、またはその類縁体に関する。
【化1】

【請求項2】
請求項1記載のhydroxychavicolおよびそれを高濃度に含む抽出物の抽出製造に関する。
【請求項3】
請求項1記載のhydroxychavicolおよびそれを高濃度に含む抽出物の高尿酸血症改善薬および予防剤としての活用に関する。

【公開番号】特開2010−37201(P2010−37201A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−197900(P2008−197900)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年3月5日 日本薬学会第128年会組織委員会発行の「日本薬学会第128年会講演要旨集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年3月26日 社団法人日本薬学会主催の「日本薬学会第128年会」に発表
【出願人】(591246849)ニチニチ製薬株式会社 (3)
【Fターム(参考)】