説明

瘻孔カテーテル

【課題】 体内固定部を内側バルーンと外側バルーンとで構成して、外側バルーンが萎んでも内側バルーンによって瘻孔から外れることを防止できる瘻孔カテーテルを提供すること。
【解決手段】 瘻孔38における腹壁36の表面側に設置される体外固定部10と、主腔21と副腔22とを備えた供給チューブ20と、供給チューブ20の先端側外周に設けられ副腔22から蒸留水が送り込まれることにより膨張する体内固定部30とで瘻孔カテーテルAを構成した。体内固定部30を、供給チューブ20の周面に設けられた注入口22a,22bを介して副腔22と連通する内側バルーン31と、外側バルーン32とで構成した。そして、注入口22a,22bにそれぞれ一方弁23,24を設け、副腔22から一方弁23,24を介して内側バルーン31と外側バルーン32とに蒸留水を充填できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の内臓内に流動食や栄養剤等の流体物を供給するために用いられる瘻孔カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高齢や疾病により自力で口から食べ物を摂取する機能が低下した人(以下、患者と記す。)に対して、瘻孔カテーテルを用いて流動食や栄養剤等の流体物を供給することが行われている。この瘻孔カテーテルは、患者の体に設けられた摂取用の穴部(瘻孔)に挿通される供給チューブと、供給チューブの先端部に取り付けられて内臓壁の内部側に挿入される体内固定部と、供給チューブの基端部または中間部に取り付けられて体の皮膚面側に設置される体外固定部とで構成されている。このような瘻孔カテーテルの中に、体内固定部をバルーンで構成し、バルーン内に水を入れることによりバルーンを膨張させて瘻孔から瘻孔カテーテルが外れることを防止するものがある。
【0003】
このバルーンを用いた瘻孔カテーテルでは、例えば、水を用いた場合に、バルーンに入れた水が自然に外部に浸み出てバルーンが小さくなったり、体液や内臓内への供給物等との接触によりバルーンが劣化して破裂したりして、瘻孔カテーテルが瘻孔から抜けることがある。このような場合、瘻孔は数時間で塞がってしまうことが多く、瘻孔カテーテルの再挿入ができなくなることがある。このため、再度瘻孔を形成する必要が生じる。このようなことを防止するために、バルーンの内部に補強材を埋め込んでバルーンの劣化や破裂が生じにくくなるようにしたものも開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第2008/0119793 A1号明細書
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、前述した従来の瘻孔カテーテルでは、膜状のバルーン内に補強材を埋め込むため製造が難しいという問題がある。また、バルーンの本体部分の強度は向上できるが、バルーンと供給チューブとの接続部の強度までは向上させることができない。このため、劣化によりこのような部分から水が抜けた場合には、前述した問題が生じる。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みなされたもので、その目的は、体内固定部を内側バルーンと外側バルーンとで構成することにより、外側バルーンが萎んでも内側バルーンによって瘻孔から外れることを防止できる瘻孔カテーテルを提供することにある。なお、下記本発明の各構成要件の記載においては、本発明の理解を容易にするために、実施形態の対応箇所の符号を括弧内に記載しているが、本発明の構成要件は、実施形態の符号によって示された対応箇所の構成に限定解釈されるべきものではない。
【0007】
前述した目的を達成するため、本発明に係る瘻孔カテーテルの構成上の特徴は、患者の腹壁(36)と内臓壁(37)とに形成された瘻孔(38)における腹壁の表面側に設置される体外固定部(10)と、体外固定部に連結され先端側部分が瘻孔から内臓内にかけて延びるようにして設置される管状体からなり、内部に主腔(21)が形成され周壁部内に副腔(22,41,42)が形成された供給チューブ(20,40)と、供給チューブの先端側外周に設けられ副腔を介して流体が送り込まれることにより内臓内で膨張する体内固定部(30)とを備えた瘻孔カテーテル(A)において、体内固定部を、それぞれ供給チューブの周面に設けられた注入口(22a,22b,41a,42a)を介して副腔と連通する内側バルーン(31,43)と内側バルーンの外周側に設けられた外側バルーン(32,44)とで構成して、膨張時の内側バルーンと外側バルーンとの間に空間が形成されるようにし、副腔と内側バルーンとを連通する注入口(22a,41a)と、副腔と外側バルーンとを連通する注入口(22b,42a)とにそれぞれ一方弁(23,24,45,46)を設け、副腔からそれぞれの一方弁を介して内側バルーンと外側バルーンとに流体を充填できるようにしたことにある。
【0008】
本発明に係る瘻孔カテーテルでは、体内固定部を、内側バルーンと、外側バルーンとからなる二重のバルーンで構成している。そして、副腔と、内側バルーンおよび外側バルーンをそれぞれ供給チューブの周面に設けた注入口を介して連通し、それぞれの注入口に副腔から内側バルーンや外側バルーンには流体を送り込めるが逆方向への流れは防止する一方弁が設けられている。このため、流体が充填された内側バルーンと外側バルーンとの一方から流体が抜けたり、内側バルーンと外側バルーンとの一方が破裂により萎んだりした場合でも他方が膨張した状態を維持できるため、瘻孔カテーテルが瘻孔から外れることを防止できる。なお、内側バルーンの膨張時の大きさは、瘻孔カテーテルが瘻孔から外れることを防止できる大きさに設定しておく。
【0009】
この場合、内側バルーンが破裂しても、内側バルーン内に充填された流体は、外側バルーン内に保持されたままであるから外側バルーンが膨張した状態に変化は殆ど生じない。さらに、体内固定部を、二重のバルーンで構成したため、内部に充填された流体が自然に外部に抜けていくことを遅らせることができる。なお、内側バルーンと外側バルーンとに充填される流体とは液体または気体であり、この流体としては、人体に害のないものであれば用いることができるが、蒸留水を用いることが好ましい。また、内側バルーンの容量は、外側バルーンの容量よりも大きくすることが好ましい。
【0010】
本発明に係る瘻孔カテーテルの他の構成上の特徴は、副腔と内側バルーンとを連通する注入口に設けられた一方弁(23,45)を、副腔と外側バルーンとを連通する注入口(24,46)に設けられた一方弁よりも流体を通過させやすくしたことにある。
【0011】
本発明によると、外側バルーンよりも内側バルーンに優先的に流体が充填されるため、外側バルーンが先に膨張し、その膨張した外側バルーンに規制されて内側バルーンが十分に膨張できなくなるといったことが生じなくなる。このため、内側バルーン、外側バルーンともに適正な大きさまで膨張させることができる。例えば、一方弁を、注入口から内側バルーン内や外側バルーン内に向かって突出する膜状部の中央にスリットを設けた弁で構成して、副腔から内側バルーン内や外側バルーン内には、流体が通過できるが、その逆方向には流体が通過できないようにすることができる。
【0012】
この場合、内側バルーン側の一方弁を外側バルーン側の一方弁よりも軟質の材料で構成したり、内側バルーン側の一方弁を外側バルーン側の一方弁よりも大きくしたりすることにより、内側バルーン側の一方弁が、外側バルーン側の一方弁よりも流体を通過させやすくなるようにすることができる。すなわち、内側バルーン側の一方弁を外側バルーン側の一方弁よりも軟質の材料で構成することにより、内側バルーン側の一方弁が外側バルーン側の一方弁よりも小さな圧力で開くようになる。また、内側バルーン側の一方弁を外側バルーン側の一方弁よりも大きくすることにより、内側バルーン側の一方弁が外側バルーン側の一方弁よりも小さな圧力で開くとともに、多量の流体を通過させることができるようになる。
【0013】
本発明に係る瘻孔カテーテルのさらに他の構成上の特徴は、内側バルーンを伸縮性の小さな材料で構成し、外側バルーンを内側バルーンよりも伸縮性の大きな材料で構成したことにある。
【0014】
本発明によると、内側バルーン内に、流体が充填され、内側バルーンが所定の大きさに膨張したのちも、外側バルーン内に流体が充填されると、外側バルーンは内側バルーンの外側でさらに膨張することができる。このため、内側バルーンと、外側バルーンとの双方を、十分な大きさに膨張させることができる。
【0015】
本発明に係る瘻孔カテーテルのさらに他の構成上の特徴は、内側バルーンの膨張時の大きさが一定になるようにしたことにある。本発明では、膨張時の内側バルーンの一定の大きさを、例えば、瘻孔カテーテルが瘻孔から外れることを防止できる最少の大きさとすることができる。これによると、外側バルーンが破裂しても、瘻孔カテーテルが瘻孔から外れることを確実に防止できる。このため、体内固定部を、必要かつ十分な大きさに膨張させることができる。
【0016】
また、本発明に係る瘻孔カテーテルのさらに他の構成上の特徴は、内側バルーンと、外側バルーンとをそれぞれ接着により供給チューブに固定し、供給チューブに対する内側バルーンの接着部(31a,31b)と外側バルーンの接着部(32a,32b)との供給チューブが延びる方向に沿った位置をずらしたことにある。
【0017】
本発明によると、供給チューブと内側バルーンとの接着部と、供給チューブと外側バルーンとの接着部とが重なった状態で供給チューブの外周側に突出することがなくなる。このため、体内固定部を、内側バルーンと、外側バルーンとからなる二重のバルーンで構成しても、体内固定部を供給チューブとともに、瘻孔に差し込む際の抵抗が大きくなることを極力防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る瘻孔カテーテルを示した側面図である。
【図2】図1に示した瘻孔カテーテルの体内固定部を膨張させた状態を示した側面図である。
【図3】図1に示した瘻孔カテーテルの断面図である。
【図4】図2に示した瘻孔カテーテルを示した断面図である。
【図5】供給チューブと体内固定部の上部との接着部を拡大した断面図である。
【図6】瘻孔カテーテルを瘻孔に差し込んだ状態を示した断面図である。
【図7】図6に示した瘻孔カテーテルの体内固定部を膨張させた状態を示した断面図である。
【図8】本発明の他の実施形態に係る瘻孔カテーテルの供給チューブと体内固定部の上部との接着部を拡大した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る瘻孔カテーテルの一実施形態を図面を用いて詳しく説明する。図1および図2は、同実施形態に係る瘻孔カテーテルAを示している。この瘻孔カテーテルAは、体外固定部10と、体外固定部10の下端に連結された供給チューブ20と、供給チューブ20の下部に取り付けられた体内固定部30とで構成されている。体外固定部10はポリウレタンやシリコーンゴムからなり、供給チューブ20はシリコーンゴムからなり、体内固定部30はポリウレタンやシリコーンゴムからなっている。以下の説明において、前後方向、左右方向および上下方向は、図1および図2に基づいて記載する。
【0020】
体外固定部10は、図3および図4に示したように、やや肉厚のリング状に形成された保持部本体11と、保持部本体11の左側部から左水平方向に突出した側部ポート12と、保持部本体11の右側部の下部から右方向に突出した細長い蓋部13とで構成されている。そして、保持部本体11の中央に、上下に貫通する開口部14が形成され、その開口部14の周面における上下方向の中央には、係合用の溝部14aが円周に沿って形成されている。また、開口部14の上部は、上部から下部に向かって大径になった傾斜部14bで構成され、開口部14の下部には、下方に突出する一方弁14cが形成されている。この一方弁14cはスリット(図示せず)を備えた弁で構成されており、保持部本体11内で上方から下方に流動食、栄養剤、薬液および水分等の流体物を通すが、その流動食、栄養剤、薬液および水分等の流体物が逆流することは防止する。
【0021】
側部ポート12は、円筒状に形成されており、その保持部本体11側部分の上部は右側が下方に向かって延びる傾斜部で構成されている。また、側部ポート12の内周面の直径は、左側部分よりも右側部分の方が少し長くなっており、その境界部に段部12aが形成されている。そして、側部ポート12の内部に、注入用バルブ15が左右に移動可能に設置されている。注入用バルブ15は、左側部分よりも右側部分の方が大径になった段違いの円柱状の弁体で構成されており、その境界部に段部15aが形成されている。
【0022】
そして、小径部分を側部ポート12内の左側に位置させ、大径部分を側部ポート12内の右側に位置させて、注入用バルブ15は、側部ポート12内に移動可能に配置されている。また、注入用バルブ15は、左側に位置して、段部15aを側部ポート12の内周面の段部12aに当接させたときに、側部ポート12を閉塞し、その状態から右側に移動したときに、側部ポート12の内周面との間に隙間を形成して側部ポート12を開く。また、図示は省略しているが、側部ポート12内における保持部本体11の側部と注入用バルブ15との間にはばね部材が設置されており、このばね部材によって、注入用バルブ15は、側部ポート12を閉塞する左側に付勢されている。
【0023】
蓋部13は、保持部本体11の右側部から右水平方向に向って延びる連結片13aと、連結片13aの先端に連結された帯状連結部13bと、帯状連結部13bの先端側に設けられた栓部13cとで構成されている。連結片13aは、帯状連結部13bを保持部本体11の側部に連結する変形しにくい板状部分で構成されており、保持部本体11とともに、内臓内に瘻孔カテーテルAが引き込まれることを防止する機能を有する。帯状連結部13bは可撓性を有しており、連結片13aとの接続部を中心として、上下方向に回転するように曲がったり、急な角度で屈曲したりすることができる。そして、帯状連結部13bの先端側部分に栓部13cが設けられている。
【0024】
栓部13cは、帯状連結部13bを折り曲げてその先端側部分を保持部本体11の上面に位置させたときに、開口部14と対向するようにして帯状連結部13bに設けられている。この栓部13cは、開口部14に嵌合できる長さの短い有底円筒状の突起で構成され、その外周面には、開口部14の溝部14aと着脱可能に係合できる突部13dが円周に沿って設けられている。したがって、帯状連結部13bを折り曲げて栓部13cを開口部14に押し付けることにより溝部14aと突部13dとを係合させることができ、これによって保持部本体11の開口部14を閉塞することができる。また、帯状連結部13bの先端側部分を引っ張って栓部13cと開口部14との係合を解除することにより保持部本体11の開口部14を開くことができる。
【0025】
供給チューブ20は、患者の胃内に流動食、栄養剤、薬液および水分等の流体物を供給するための主腔21が内部に形成され、体内固定部30に蒸留水や空気等の流体を供給するための副腔22が壁部に形成されたチューブ状部材で構成されている。主腔21の上端は、体外固定部10の一方弁14cを介して開口部14に連通し、主腔21の下端は供給チューブ20の下端で開口して外部に連通している。また、副腔22の上端は側部ポート12内の右側下部に連通し、副腔22の下端は、供給チューブ20の外周面における上下方向の中央よりも少し下部側部分で外周面に向かって屈曲して開口している。この開口で注入口22aが、図5に示したように、構成される。また、副腔22の下端の注入口22aよりも少し上の部分にも外周面に向かって屈曲して外部に連通する注入口22bが形成されている。注入口22aの直径は、注入口22bの直径よりも長く設定されている。
【0026】
そして、注入口22a,22bにそれぞれ、一方弁23,24が形成されている。一方弁23,24は、それぞれ外部側に突出する口ばし状の突起の先端部にスリット23a,24aを設けた構造をしており、副腔22内から外部に向かっては流体を通過させるが、外部側から副腔22内に向かって流体が通過することは防止する。また、一方弁23,24は、ともにシリコーンゴムで構成されているが、下方に位置する一方弁23は、上方に位置する一方弁24よりも大きく形成され、小さな圧力で開くようになっている。このため、一方弁23は、一方弁24よりも早くかつ、多量の流体を通過させることができる。
【0027】
体内固定部30は、供給チューブ20の外周面における一方弁24が設けられた部分よりもやや上方の部分と供給チューブ20の下端部との間に設けられている。この体内固定部30は、内側バルーン31と外側バルーン32とからなっており、内側バルーン31は、ポリウレタンで構成され、外側バルーン32は、シリコーンゴムで構成されている。なお、ポリウレタンやシリコーンゴムは、成形性、耐薬剤性、生体適合性に優れるとともに、比較的抜水(抜気)し難い性質を備えているため、体内固定部30を構成する材料として選択されている。内側バルーン31は、供給チューブ20の外周面における一方弁23が設けられた部分と一方弁24が設けられた部分との間の部分と供給チューブ20の下端部よりもやや上方の部分との間に設けられており、僅かな伸縮性を備え上下に穴部が形成された略袋状体で構成されている。
【0028】
また、内側バルーン31は、供給チューブ20の外周面を覆い、内周面の上端部と下端部とを接着剤により供給チューブ20の外周面に接着することにより供給チューブ20に固定されており、注入口22aおよび一方弁23を介して副腔22から流体を充填することにより、図4に示したように膨張する。このとき、内側バルーン31は、上下方向よりも左右方向や前後方向の方が長くなった略球形に膨らみ、内側バルーン31における供給チューブ20との接着部31a,31bは、膨張した内側バルーン31の上部と下部によって埋もれた状態になる。また、内側バルーン31は、一定の大きさ、例えば、瘻孔カテーテルAを瘻孔に留置した状態に維持させるための最少程度の大きさまで膨張させることができる。
【0029】
外側バルーン32は、供給チューブ20の外周面における一方弁24が設けられた部分よりもやや上方の部分と供給チューブ20の下端部との間に設けられており、内側バルーン31よりも大きな伸縮性を備えた筒状体で構成されている。外側バルーン32は、内側バルーン31を覆い、内側バルーン31の上方と下方の部分で、内周面の上端部と下端部とを供給チューブ20の外周面に接着することにより供給チューブ20に固定されている。
【0030】
外側バルーン32における供給チューブ20との上方の接着部32aは、内側バルーン31の接着部31aよりも上方に位置し、外側バルーン32における供給チューブ20との下方の接着部32bは、内側バルーン31の接着部31bよりも下方に位置している。そして、膨張する前の外側バルーン32が萎んでいるときには、内側バルーン31を供給チューブ20の外周面に押圧することにより押し潰して、図1および図3に示したように、外側バルーン32は円筒形の状態を維持する。また、外側バルーン32は、注入口22bおよび一方弁24を介して副腔22から流体を充填することにより、図2および図4に示したように、膨張する。このとき、外側バルーン32は、上下方向よりも左右方向や前後方向の方が長くなった略球形に膨らみ、外側バルーン32の接着部32a,32bは、膨張した外側バルーン32の上部と下部によって埋もれた状態になる。
【0031】
この構成において、瘻孔カテーテルAを使用する場合には、まず、体内固定部30が萎んだ状態の瘻孔カテーテルAを、図6に示したように、患者の腹壁36と胃壁37とに形成された瘻孔38に通す。この場合、外側バルーン32が内側バルーン31を押し潰して円筒状になり、外側バルーン32の接着部32a,32bと、内側バルーン31の接着部31a,31bとは、供給チューブ20の外周面における異なる位置にある。このため、体内固定部30は全体として嵩張ることがなく、供給チューブ20の外周面に密着した状態になり、供給チューブ20と体内固定部30とをスムーズに瘻孔38内に通すことができる。
【0032】
そして、体内固定部30が胃壁37の内部側に入ったところで、側部ポート12に、流体の一つである蒸留水を注入するための注入器(図示せず)の注入口を差し込み、注入器から、蒸留水を副腔22を介して内側バルーン31と外側バルーン32との内部に注入する。このとき、注入用バルブ15は、注入器の注入口に押圧さればね部材に抗して保持部本体11側に移動し、注入器から供給される蒸留水は、側部ポート12と注入用バルブ15との間の隙間を通過して副腔22内に入っていく。そして、蒸留水は、一方弁23,24を通過して、内側バルーン31と外側バルーン32との内部に入っていく。
【0033】
この内側バルーン31と外側バルーン32とに蒸留水が充填されるときには、まず、注入器から副腔22に送られる蒸留水の大部分は、一方弁23から内側バルーン31内に供給され、内側バルーン31が所定の大きさまで膨張する。そして、内側バルーン31内の水圧が上昇し、さらに、副腔22内の水圧が上昇してくると一方弁24から外側バルーン32内にも蒸留水が供給され、外側バルーン32も膨張する。これによって、内側バルーン31は、瘻孔カテーテルAが瘻孔38から抜け出ることを防止できる大きさに膨張し、さらに、内側バルーン31と間隔を保って外側バルーン32が膨張する。
【0034】
これによって、図7に示したように、外側バルーン32の上面が胃壁37の内面に接触する。この結果、瘻孔カテーテルAは瘻孔38から抜け出ることを防止されて患者の腹部に取り付けられた状態を維持する。この場合、外側バルーン32の接着部32aは、胃壁37に接触せず、外側バルーン32の上部の曲面部分だけが胃壁37に接触する。
【0035】
瘻孔カテーテルAが瘻孔38に留置されると、側部ポート12から注入器を引き抜く。これによって、ばね部材の弾性により注入用バルブ15が、側部ポート12の開口側に移動して側部ポート12を閉塞する。この注入用バルブ15による側部ポート12の閉塞と、一方弁23,24による内側バルーン31および外側バルーン32からの副腔22への蒸留水の逆流の防止作用によって、内側バルーン31と外側バルーン32とは膨張した状態を維持する。この場合、胃のぜん動運動による胃壁37の外側バルーン32への接触などで外力が外側バルーン32に加わっても、内側バルーン31と外側バルーン32とは膨張した状態を維持する。
【0036】
そして、患者に流動食、栄養剤、薬液および水分等の流体物を摂取させる際には、体外固定部10の開口部14を開いた状態で、開口部14に流体供給用チューブ(図示せず)を接続する。その状態で、流体供給用チューブの端部開口から流体供給用チューブ内に流体物を入れる。これによって、流体物は流体供給用チューブから開口部14内に入り、一方弁14cを通過したのちに主腔21を介して患者の胃内に供給される。また、流体物の供給後は、体外固定部10から流体供給用チューブを外し、体外固定部10の開口部14を蓋部13の栓部13cで閉じておく。これによって、胃内に供給された流体物は、一方弁14cと栓部13cとによって逆流を防止される。
【0037】
このようにして、瘻孔カテーテルAが瘻孔38に留置されている間、外側バルーン32の接着部32aは、胃壁37に接触せず、外側バルーン32の上部の曲面部分だけが胃壁37に接触するため、外側バルーン32が胃壁37を刺激して潰瘍が生じたり、胃壁37が傷ついたりすることを防止できる。また、空腹時に、胃が小さくなって、胃の下部側の胃壁37が外側バルーン32に接触する場合にも、接着部32bは、胃壁37に接触せず、外側バルーン32の下部の曲面部分だけが胃壁37に接触するため、外側バルーン32が胃壁37を刺激して潰瘍が生じたり、胃壁37が傷ついたりすることを防止できる。
【0038】
以上のようにして、瘻孔カテーテルAの使用が行われ、その使用期間中に、外側バルーン32が劣化して破裂することもある。このような場合でも、内側バルーン31は、膨張した状態を維持するため、瘻孔カテーテルAは、瘻孔38から外れることなく、使用可能な状態に維持される。また、破裂した外側バルーン32内から溢れるのは蒸留水であるため、胃の中に入っても害はない。また、内側バルーン31が破裂したり、内側バルーン31に漏れが生じたりした場合には、内側バルーン31内の蒸留水は、そのまま外側バルーン32内に保持されるため、特に問題は生じない。
【0039】
このように、本実施形態に係る瘻孔カテーテルAでは、体内固定部30を、内側バルーン31と、外側バルーン32とからなる二重のバルーンで構成している。このため、少なくとも、内側バルーン31から外部への自然抜水が生じにくくなって、内側バルーン31が膨張した状態が維持され、瘻孔カテーテルAが瘻孔38から外れることを防止できる。また、副腔22における内側バルーン31と外側バルーン32との境界部にそれぞれ一方弁23,24が設けられているため、例え、内側バルーン31と外側バルーン32の一方が抜水や破裂により萎んだ場合でも他方が膨張した状態を維持できるため、瘻孔カテーテルAが瘻孔38から外れることを防止できる。
【0040】
また、一方弁23を一方弁24よりも大きくすることによって、一方弁23が一方弁24よりも小さな圧力で蒸留水を通過させるようにしている。このため、外側バルーン32よりも内側バルーン31に優先的に蒸留水が充填される。これによって、外側バルーン32が先に膨張し、その膨張した外側バルーン32に規制されて内側バルーン31が十分に膨張できなくなるといったことが生じなくなる。この結果、内側バルーン31、外側バルーン32ともに適正な大きさまで膨張させることができる。このように、一つの副腔22に二つの注入口22a,22bを連通させても、内側バルーン31、外側バルーン32ともに適正な大きさまで膨張させることができる。
【0041】
さらに、内側バルーン31を伸縮性の小さなポリウレタンで構成し、外側バルーン32を伸縮性の大きなシリコーンゴムで構成したため、内側バルーン31内に、蒸留水が充填され、内側バルーン31が所定の大きさに膨張したのちに、外側バルーン32内に蒸留水が充填されると、外側バルーン32は内側バルーン31の外側でさらに膨張する。このため、内側バルーン31と、外側バルーン32との双方を、十分な大きさに膨張させることができる。
【0042】
また、内側バルーン31の膨張時の大きさが一定になるようにしたため、内側バルーン31を、必要かつ十分な大きさに膨張させることができる。さらに、内側バルーン31の接着部31a,31bと、外側バルーン32の接着部32a,32bとを、それぞれ供給チューブ20の外周面における異なる位置に設けたため、接着部31aと接着部32aや、接着部31bと接着部32bが重なって嵩張ることがなくなり、供給チューブ20と体内固定部30とをスムーズに瘻孔38内に通すことができる。
【0043】
図8は、本発明の他の実施形態に係る瘻孔カテーテルの要部を示している。この瘻孔カテーテルでは、供給チューブ40に二つの副腔41,42が形成されている。副腔41は供給チューブ40の左側部分に設けられており、その下端部は注入口41aを介して内側バルーン43の内部に連通している。また、副腔42は供給チューブ40の右側部分に設けられており、その下端部は注入口42aを介して外側バルーン44の内部に連通している。そして、副腔41の下端の注入口41aと、副腔42の下端の注入口42aとは同じ大きさに形成されている。
【0044】
また、注入口41aに設けられた一方弁45と、注入口42aに設けられた一方弁46も同じ大きさに形成されている。この一方弁45,46は、ともにシリコーンゴムで構成されているが、一方弁45は、一方弁46よりも軟質のシリコーンゴムで構成されている。このため、一方弁45は、一方弁46よりも小さな圧力で、蒸留水や空気等からなる流体を通過させる。また、副腔42の上端部は、供給チューブ40の上端部で副腔41と連通している。この瘻孔カテーテルのそれ以外の部分の構成は、前述した瘻孔カテーテルAと同一である。したがって、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。
【0045】
この瘻孔カテーテルによると、二つの副腔41,42にそれぞれ注入口41aまたは42aを連通させても、内側バルーン43、外側バルーン44ともに適正な大きさまで膨張させることができる。この瘻孔カテーテルのそれ以外の作用効果は、前述した瘻孔カテーテルAの作用効果と同様である。
【0046】
また、本発明に係る瘻孔カテーテルは、前述した各実施形態に限定するものでなく、適宜変更して実施することができる。例えば、前述した実施形態では、内側バルーン31,43と外側バルーン32,44とを膨張させるために、蒸留水を用いているが、蒸留水に代えて空気を用いてもよいし、人体に害のない他の液体や気体を用いてもよい。また、瘻孔カテーテルとしては、供給チューブ20,40の上端に体外固定部10を連結したものに限らず、長い供給チューブの中間部にフランジ状の体外固定部を連結したものであってもよい。さらに、前述した実施形態では、内蔵を胃としているが、この内臓は胃に限らず、腎臓や膀胱等であってもよい。また、瘻孔カテーテルA等に備わった各部分を構成する材質についても適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0047】
10…体外固定部、20,40…供給チューブ、21…主腔、22,41,42…副腔、22a,22b,41a,42a…注入口、23,24,45,46…一方弁、30…体内固定部、31,43…内側バルーン、31a,31b,32a,32b…接着部、32,44…外側バルーン、36…腹壁、37…胃壁、38…瘻孔、A…瘻孔カテーテル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の腹壁と内臓壁とに形成された瘻孔における前記腹壁の表面側に設置される体外固定部と、
前記体外固定部に連結され先端側部分が前記瘻孔から内臓内にかけて延びるようにして設置される管状体からなり、内部に主腔が形成され周壁部内に副腔が形成された供給チューブと、
前記供給チューブの先端側外周に設けられ前記副腔を介して流体が送り込まれることにより前記内臓内で膨張する体内固定部と
を備えた瘻孔カテーテルにおいて、
前記体内固定部を、それぞれ前記供給チューブの周面に設けられた注入口を介して前記副腔と連通する内側バルーンと前記内側バルーンの外周側に設けられた外側バルーンとで構成して、膨張時の前記内側バルーンと前記外側バルーンとの間に空間が形成されるようにし、
前記副腔と前記内側バルーンとを連通する注入口と、前記副腔と前記外側バルーンとを連通する注入口とにそれぞれ一方弁を設け、前記副腔からそれぞれの一方弁を介して前記内側バルーンと前記外側バルーンとに前記流体を充填できるようにしたことを特徴とする瘻孔カテーテル。
【請求項2】
前記副腔と前記内側バルーンとを連通する注入口に設けられた一方弁を、前記副腔と前記外側バルーンとを連通する注入口に設けられた一方弁よりも前記流体を通過させやすくした請求項1に記載の瘻孔カテーテル。
【請求項3】
前記内側バルーンを伸縮性の小さな材料で構成し、前記外側バルーンを前記内側バルーンよりも伸縮性の大きな材料で構成した請求項1または2に記載の瘻孔カテーテル。
【請求項4】
前記内側バルーンの膨張時の大きさが一定になるようにした請求項1ないし3のうちのいずれか一つに記載の瘻孔カテーテル。
【請求項5】
前記内側バルーンと、前記外側バルーンとをそれぞれ接着により前記供給チューブに固定し、前記供給チューブに対する前記内側バルーンの接着部と前記外側バルーンの接着部との前記供給チューブが延びる方向に沿った位置をずらした請求項1ないし4のうちのいずれか一つに記載の瘻孔カテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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