癌の治療に寄与する方法、組成物および製造物品
固形腫瘍を含めた癌の治療に寄与する方法、組成物および製造物品を開示する。前記方法、組成物および製造物品は、化学療法薬の送達とそれによる効果を向上させるためにエンドセリンB作動薬(ETB)を使用することができる。腫瘍は、結合時に血管拡張を引き起こす増加したETB受容体を含む特有の血管系を有する。ETB受容体は血管拡張剤であることから、ETB受容体作動薬は、化学療法薬と組み合わせると、乳癌で見られるような固形腫瘍の治療に有用である。ETB受容体作動薬は、化学療法薬をより効果的に腫瘍に送達して、治療を向上させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願への相互参照
本願は、2006年8月2日に出願された米国特許出願第11/461,961号に対する優先権を主張する。米国特許出願第11/461,961号は、2006年2月22日に出願された米国特許出願第11/360,236号の一部において継続であり、米国特許出願第11/360,236号は、(全て2005年2月22日に出願された米国仮特許出願第60/655,656号、同第60/655,654号、および同第60/655,643号の利益を主張し、)2003年10月23日に出願された米国特許出願第10/691,915号の一部において継続である。米国特許出願第10/691,915号は、2002年10月24日に出願された米国仮特許出願第60/420,960号の利益を主張する。これら全ての出願の内容は、その全体が本明細書中に参照として援用される。
【0002】
本発明は、エンドセリン作動薬および化学療法薬を投与することにより、固形腫瘍を含めた癌の治療に寄与する方法、組成物および製造物品に関する。
【背景技術】
【0003】
腫瘍細胞の分子生物学への理解が深まり、より多くの可能性のある治療薬が得られやすくなったにもかかわらず、固形腫瘍を含めた癌の治療に成功するという医学目標は、依然として達成されていない。例えば、米国では乳癌の発生率が過去10年間で著しく上昇しており、40〜49歳の女性の1つの主要な死因となっている。
【0004】
癌治療における1つの問題は、可能性のある広範な化学療法薬が正常組織に対して非選択的にきわめて毒性の高い作用を及ぼすために、それらの薬剤の有効量を制限されている点である。その結果、多くの患者が、治療の恩恵を受けることなく、化学療法の副作用に苦しんでいる。例えば、化学療法薬であるパクリタキセルは、細胞増殖を阻害し、腫瘍細胞のアポトーシスを誘導するが、過敏症、好中球減少症、および末梢神経障害を含めた投与量の制限を招く毒性によって、パクリタキセルの臨床的有用性は阻害されてきた。そのため、より特異的で毒性の低い癌療法を開発することが必要とされている。
【0005】
化学療法薬の腫瘍への標的送達は、薬剤の全身性毒性作用を最小限に低減しながら化学療法薬の有益性を増強する利点を有すると考えられる。このような標的送達はまた、化学療法薬の必要量を低下させるのにも役立ち、それによってこれらの薬剤の許容されない副作用を低減する可能性があると考えられる。化学療法薬の標的送達を達成する可能性を持つ1つの方法は、腫瘍血管系の特異的な特徴を活用する方法である。
【0006】
大きさが数ミリメートルを超える腫瘍は、継続的な栄養供給を必要とするため、独自の血管床と血流を発達させる(非特許文献1)。発達中の血管から継続的に栄養が供給されないと、腫瘍は低酸素状態となり、その結果死亡する。既存の血管からの新規の血管系を補充することを、「血管新生」と呼ぶ。
【0007】
血管新生時に、腫瘍血管は、正常な血管系とは実質的に異なる方法で発達し、異なる特性を有する。単層の上皮細胞は、最初に急速に形成される腫瘍血管である。新規に形成される腫瘍血管は、平滑筋層や神経支配を有していない。また、腫瘍は、すべての自己調節機能を有する成熟した血管も組み込む(非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4)。
【0008】
血管緊張(血管が拡張または収縮する程度)は、H+、K+、Ca2+、pO2、PCO2、および一酸化窒素(NO)を含めた多くの内生要因、ならびにエンドセリン(ET‐1)などのその他の調整物質により支配される(非特許文献5;非特許文献6)。ET‐1は、血管緊張を調節するのに大いに寄与しており(非特許文献7)、試験者等は、乳癌を含めた固形腫瘍におけるET1およびETB受容体の発現の増大を明らかにしている(非特許文献8;非特許文献9;非特許文献10;非特許文献11;非特許文献12;非特許文献13)。さらに、ETB受容体の刺激は、腫瘍血管の血管拡張によって腫瘍への血液供給量の増加をもたらす。本発明は、化学療法薬の標的送達を増大させるために、腫瘍への血流を選択的に増加させるETB受容体作動薬を使用することによって、この事実を活用している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Folkman,Cancer Res,46:467(1986)
【非特許文献2】Mattsson et al.,Tumor Blood Circulation,CRC Press,Boca Raton,pg. 129(1979)
【非特許文献3】Reinhold,Tumor Blood Circulation,CRC Press,Boca Raton,pg.115(1979)
【非特許文献4】Warren,Tumor Blood Circulation,CRC Press,Boca Raton,pg.26(1979)
【非特許文献5】Secombe et al.,Landes,Austin,pg.40(1994)
【非特許文献6】Luscher et al.,The endothelium:modulator of cardiovascular function,CRC Press,Boca Raton,pg.61(1990)
【非特許文献7】Yanagisawa et al.,Nature,332:411(1988)
【非特許文献8】Alanen et al.,Histopathology,36:161(2000)
【非特許文献9】Nelson et al.,Cancer Res,56:663(1996)
【非特許文献10】Kar et al.,Biochem Biophys Res Commun 216:514(1995)
【非特許文献11】Pagotto et al.,J Clin Invest,96:2017(1995)
【非特許文献12】Yamashita et al.,Cancer Res,52:4046(1992)
【非特許文献13】Yamashita et al.,Res Commun Chem Pathol Pharmacol,74:363(1991)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、固形腫瘍を含めた癌の治療に寄与するエンドセリン作動薬および化学療法薬の投与を対象とする。特に、腫瘍は、結合時に血管拡張を引き起こす増加したETB受容体を含めた特有の血管系を有する。ETB受容体は血管拡張剤であることから、ETB受容体作動薬は、化学療法薬と組み合わせると、乳癌で見られるような固形腫瘍の治療に有用である。ETB受容体作動薬は、化学療法薬をより効果的に腫瘍に送達して、治療を向上させることができる。
【0011】
具体的に、本発明に基づく一実施形態は、癌の治療に寄与する方法であって、ETB作動薬および化学療法薬を投与することを含む、方法を含む。本発明に基づく方法の種々の実施形態において、ETB作動薬および化学療法薬は、実質的に同時に投与することができるか、または連続して投与する(化学療法薬をETB作動薬より前に投与するか、またはETB作動薬を化学療法薬より前に投与する)ことができる。本発明に基づく特定の実施形態において、ETB作動薬および化学療法薬が実質的に同時に投与される場合、これらは単一の組成物として投与することができる。
【0012】
本発明に基づく別の実施形態は、化学療法薬、ETB作動薬、および任意の補形剤を含む組成物を含む。本発明に基づく別の実施形態は、ETB作動薬を含む組成物、および固形腫瘍を治療するために前記組成物を化学療法薬とともに投与する方法を指示する取扱い情報を含む製造物品を含む。さらに、本発明に基づく製造物品は、1つ以上の化学療法薬を含んでもよい。本発明に基づく製造物品が1つ以上の化学療法薬を含む場合、ETB作動薬および化学療法薬は、同じ組成物の一部であってもよければ、個別の組成物として提供してもよければ、あるいはそれらのいずれであってもよい。
【0013】
本発明に基づく方法、組成物または製造物品で治療される癌には、卵巣腫瘍、結腸腫瘍、カポジ肉腫、乳房腫瘍、黒色腫、前立腺腫瘍、髄膜腫、肝臓腫瘍、乳房葉状腫瘍、およびそれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない固形腫瘍が含まれてよい。
【0014】
本発明の方法、組成物または製造物品に基づいて使用されるエンドセリンB作動薬は、固形腫瘍への血液供給量を選択的に増加させ、それによって化学療法薬の固形腫瘍への送達を増加させることができる。本発明に基づいて使用することができるエンドセリンB作動薬には、ET‐1、ET‐2、ET‐3、BQ3020、IRL1620(N‐suc‐[Glu9,Ala11,15]ET‐1(8‐21))、sarafotoxin 56c、[Ala1,3,11,15]ET‐1の1つ以上、およびそれらの組み合わせが含まれてよいが、これらに限定されない。化学療法薬には、アドリアマイシン、カンプトセシン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、アルファインターフェロン、ベータインターフェロン、ガンマインターフェロン、インターロイキン2、イリノテカン、ドセタセル、パクリタキセル、トポテカン、5‐フルオロウラシルの1つ以上、およびそれらの組み合わせが含まれてよいが、これらに限定されない。本発明に基づく特定の方法、組成物または製造物品は、パクリタキセル、ドキソルビシン、5‐フルオロウラシル、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される化学療法薬とともに、ETB作動薬としてIRL1620を含むと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】パクリタキセルにより誘導された腫瘍灌流の変化に対するIRL1620の効果を示す。
【図2】図2A〜2Eは、癌を保有しないラットと乳房腫瘍保有ラットの全身血液動態に対するET‐1の効果を示す。
【図3】図3A〜3Bは、癌を保有しないラットと乳房腫瘍保有ラットの乳房組織における血流および局所血管抵抗に対するET‐1の効果を示す。
【図4】図4A〜4Cは、癌を保有しないラットと乳房腫瘍保有ラットの乳房組織における灌流、流動する血球濃度(CMBC)、および血球速度に対するET‐1の効果を示す。
【図5】図5A〜5Cは、癌を保有しないラットと乳房腫瘍保有ラットの乳房組織における血液灌流、CMBCおよび血球速度の、ET‐1により誘導される変化に対するBQ788の効果を示す。
【図6】HPLCで測定した、正常ラットと腫瘍保有ラットにおけるパクリタキセル分析の血漿薬物動態に対するビヒクルまたはIRL1620の効果を示す。
【図7】液体シンチレーション計数で測定した、[3H]‐パクリタキセルの血漿薬物動態に対するビヒクルまたはIRL1620の効果を示す。
【図8】液体シンチレーション計数で測定した、[3H]‐パクリタキセルの血漿薬物動態に対するビヒクルまたはIRL1620の効果を示す。
【図9】図9Aおよび9Bは、レーザードップラー流量計で測定した、乳房腫瘍灌流に対するIRL1620の効果を示す。
【図10】乳房腫瘍保有ラットの腫瘍および主要組織中の[3H]パクリタキセルの濃度に対するIRL1620投与の時間依存的効果を示す。
【図11】治療開始時と比較した、乳房腫瘍保有ラットの体重差の割合を示す。
【図12】乳房腫瘍保有ラットの腫瘍容積に対するIRL1620投与の効果を示す。
【図13】乳房腫瘍保有ラットにおける腫瘍の進行、静止および退縮に対するIRL1620投与の効果を示す。
【図14】図14Aおよび図14Bは、レーザードップラー流量計で測定した、前立腺腫瘍の灌流に対する種々の投与量のIRL1620の効果(図14A)、およびIRL1620投与後の前立腺腫瘍の灌流におけるベースラインからの変化率(図14B)を示す。
【図15】前立腺腫瘍保有ラットの腫瘍および他の主要組織中の[14C]‐ドキソルビシン(DOX)の濃度に対するIRL1620の効果を示す。
【図16A】IRL1620およびDOXの投与後の前立腺腫瘍保有ラットの体重を示す。
【図16B】IRL1620およびDOXの投与後の前立腺腫瘍保有ラットの腫瘍容積を示す。
【図16C】IRL1620およびDOXの投与後の前立腺腫瘍保有ラットの腫瘍重量を示す。
【図17A】IRL1620および5‐フルオロウラシル(5‐FU)の投与後の前立腺腫瘍保有ラットの体重を示す。
【図17B】IRL1620および5‐フルオロウラシル(5‐FU)の投与後の前立腺腫瘍保有ラットの腫瘍容積を示す。
【図17C】IRL1620および5‐フルオロウラシル(5‐FU)の投与後の前立腺腫瘍保有ラットの腫瘍重量を示す。
【図18】レーザードップラー流量計で測定した、黒色腫腫瘍の灌流に対するIRL1620の効果(図18A)、およびIRL1620投与後の黒色腫腫瘍の灌流におけるベースラインからの変化率(図18B)を示す。
【図19】黒色腫腫瘍保有ラットの腫瘍および他の主要組織中の[3H]‐パクリタキセルの濃度に対するIRL1620の効果を示す。
【図20】腫瘍容積に対する放射線を照射した場合と放射線を照射しない場合の種々の濃度のIRL1620の経時的な効果を示す。比較のため、生理食塩水と放射線を使用した場合の効果と、腫瘍容積への治療を行わない場合の効果も示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
I.定義
「取扱い情報」:本明細書で使用される「取扱い情報」という用語は、製品の使用に関して医師、薬剤師および患者が詳細な説明を受けた上で決断を下すことができるようにするために必要とされる安全性および有効性データとともに、製品を投与する方法に関する説明を提供する、医薬品に添付される資料を意味するものとする。一般的に、本取扱い情報は医薬品の「ラベル」と見なされる。取扱い情報は、紙の添付文書、CD‐ROM、または医薬品に関連する情報を掲載したウェブサイトへの指示を含むがこれらに限定されない多くの形態をとることができる。
【0017】
「プロドラッグ」:本明細書で使用される「プロドラッグ」という用語は、例えば、加水分解によって本発明に有用な化合物にin vivoで急速に変換される化合物を意味するものとする。プロドラッグの詳細な考察については、Higuchi et al.,Prodrugs as Novel Delivery Systems,Vol.14,of the A.C.S.D.Symposium Series,and in Roche(ed.),Bioreversible Carriers in Drug Design,American Pharmaceutical Association and Pergamon Press,1987に示される。
【0018】
「治療する、治療、または〜の治療に寄与する」:本明細書で使用される「治療する」、「治療」、および「〜の治療に寄与する」という用語は、固形腫瘍を含めた癌の進行もしくは増殖を予防・遅延する、癌を縮小する、または癌を排除することを意味するものとする。そのため、これらの用語は、治療投与および/または予防的投与を適宜包含する。
【0019】
「実質的に同時に」:本明細書で使用される「実質的に同時に」という用語は、2つの医薬製剤(すなわち、ETB作動薬および化学療法薬)が同時に投与されることを意味するものとする。この定義によると、「同時」とは、まさに同時だけでなく、約10分以内も含むものとして解釈されるべきである。
【0020】
ほとんどの化学療法薬は、癌細胞を破壊することを標的とする細胞毒性作用を有するが、このプロセスでは生体の正常な生理学系に対しても多大な損傷を与える。そのため、固形腫瘍に化学療法薬を選択的に送達することは大変有益であり、それによってこうした癌治療の負の作用を回避するのに役立つと考えられる。
【0021】
腫瘍血管の脈管構造は、正常な血管の脈管構造と異なる(Carmeliet&Jain,Nature,407:249(2000))。そのため、腫瘍の血管反応性は、正常組織の血管反応性と異なる。例えば、一酸化窒素供与体、ニコチンアミド、およびブラジキニン作動薬の投与により、腫瘍への血流が調節される(Jordan et al.,Int J Radiat Oncol Biol Phys,48:565(2000);Fukumura et al.,Am J Pathol,150:713(1997);Hirst et al.,Br J Radiol,67:795(1994))。
【0022】
エンドセリンは、血流を調節する血管作動性物質であり、正常な乳房組織に比べて乳癌組織に高濃度で存在する(具体的に、エンドセリンは、正常な乳房組織に約0.12pg/mgの量が存在するのに対して、乳癌組織には約12pg/mgの量が存在する)(Kojima et al.,Surg Oncol,4(6):309(1995);Kurbel et al.,Med Hypotheses,52(4):329(1999);Patel et al.,Mol Cell Endocrinol,126(2):143(1997);Yamashita et al.,Cancer Res,52(14):4046(1992);Yamashita et al.,Res Commun Chem Pathol Pharmacol,74(3):363(1991))。エンドセリンは、21個のアミノ酸を有する環状ペプチドのファミリーであり、哺乳動物ではET‐1、ET‐2およびET‐3の3個のアイソフォームを含む(Inoue et al.,Proc Natl Acad Sci USA 86:2863(1989);Yanagisawa et al.,Nature,332:411(1988))。エンドセリンは、2つの異なる細胞表面受容体であるETAおよびETBに結合することによって効果を発揮する。ETB受容体は、等しい親和性を有する3個のペプチドアイソタイプを結合するのに対して、ETA受容体は、その他のアイソフォームよりも高い親和性を有するET‐1を結合する。いずれの受容体も、Gタンパク質共役受容体系に属し、成長因子、血管作動性ポリペプチド、神経伝達物質、およびホルモンを含めた種々の刺激からの生体応答を媒介する(Masaki,J Cardiovasc Pharmacol,35:S3(2000);Gulati,Preface.Adv Drug Deliv Rev,40:129(2000);Gulati et al.,Am J Physiol,273:H827(1997);Levin,N Engl J Med,333:356(1995))。正常な乳房組織に比べると、本発明の対象であるETB受容体は、内皮細胞(EC)と血管平滑筋細胞(VSMC)の両方で存在し、乳癌組織(ヒトでは、侵襲性乳癌組織ならびに乳管および小葉乳癌組織を含む)で増加する(Wulfing et al.,Oncol Rep,11:791(2004);Wulfing et al.,Clin Cancer Res,9:4125(2003);Alanen et al.,Histopathology,36(2):161(2000))。エンドセリンは、ETB受容体に作用して、血管拡張を引き起こし、乳房腫瘍組織への血流を増加させる。ECで優位に存在するETB受容体は、プロスタシクリンおよび一酸化窒素などの因子を放出することにより血管拡張を引き起こす(de Nucci et al.,Proc Natl Acad Sci USA,85:9797(1988))。ET‐1は、ETB受容体を刺激することにより腫瘍への血流を増加させることから、ETB受容体作動薬を使用することで、腫瘍への血液供給量を選択的に増加させ、それによって化学療法薬の標的送達とそれによる効果を増加させることができる。
【0023】
ETB受容体は、例えば以下に限定されないが、卵巣癌、筋線維芽細胞、カポジ肉腫および腫瘍内血管、乳癌、および黒色腫などにおいて認められている(Bagnato et al.,Am J Pathol,158:841(2001);Alanen et al.,Histopathology,36(2):161(2000);Bagnato et al.,Cancer Res,59:720(1999);Kikuchi et al.,Biochem Biophys Res Comm,219:734(1996))。そのため、ETB受容体作動薬と化学療法薬の併用投与を使用することで、卵巣癌、結腸癌、カポジ肉腫、乳癌、および黒色腫を含むがこれらに限定されない固形腫瘍の治療に寄与することができる。
【0024】
本発明に基づき有用であるETB作動薬には、ET‐1、ET‐2、ET‐3、BQ3020、IRL1620(N‐suc‐[Glu9,Ala11,15]ET‐1(8‐21))、sarafotoxin 56c、[Ala1,3,11,15]ET‐1、およびそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。[Ala1,3,11,15]ET‐1は、Cys残基の代わりにAla残基を代用することによってジスルフィド架橋が除去された、ET‐1の直鎖類似体である(Saeki et al.,Biochem Biophys Res Commun,179:286(1991))。BQ3020およびIRL1620は、ET‐1の切断された直鎖合成類似体であり、最も広く使用されている選択的合成作動薬である。IRL1620は、構造がET‐1のカルボキシ端末に基づく直鎖ET類似体であり、ETB受容体に対して120,000倍の選択性を有する(Okada&Nishikibe,Cardiovasc Drug Rev,20:53(2002);Douglas et al.,Br J Pharmacol,114:1529(1995))。IRL1620は、きわめて選択性が高く強力なETB作動薬であり、ETB2受容体サブタイプよりも優先的にETB1受容体サブタイプへの選択性を有する証拠が報告されている(Brooks et al.,J Cardiovasc Pharmacol,26 Suppl 3:S322(1995))。
【0025】
本発明に基づき有用である化学療法薬には、例えば、アルキル化剤、代謝拮抗剤、ホルモンおよびその拮抗薬、放射性同位元素、抗体、および天然産物、ならびにそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。例えば、ETB作動薬は、ドキソルビシンおよびその他のアントラサイクリン類似体などの抗生物質、シクロホスファミドなどがあるがこれに限定されないナイトロジェンマスタード、5‐フルオロウラシル、シスプラチン、ヒドロキシウレアなどがあるがこれらに限定されないピリミジン類似体、ならびにその天然および合成誘導体などとともに投与することができる。別の例として、腫瘍がゴナドトロピン依存性およびゴナドトロピン非依存性細胞を含む乳腺腺癌などの混合腫瘍の場合、ETB作動薬は、以下に限定されないが、ロイプロリドまたはゴセレリン(LH‐RHの合成ペプチド類似体)などとともに投与することができる。本発明とともに使用することができる化学療法薬のさらなる非限定的な例には、アドリアマイシン、カンプトテシン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、インターフェロン(アルファ、ベータおよび/またはガンマ)、インターロイキン2、イリノテカン、ドセタキセル、パクリタキセル、トポテカン、ならびに治療効果のある類似体およびそれらの誘導体が含まれる。
【0026】
本発明の一実施形態において、エンドセリン作動薬は、固形腫瘍の治療に寄与するために、化学療法薬とともに使用される。本方法において、エンドセリン作動薬、特にETB作動薬は、ETB受容体に豊富に存在する腫瘍への血流を増加させる。そのため、ETB作動薬は、化学療法薬に対してより選択的な標的を提供し、前記薬剤の化学治療効果を改善する。
【0027】
エンドセリン作動薬はETB受容体を刺激して、腫瘍血管を拡張し、それによって腫瘍への化学療法薬の血流とそれによる送達を増加させることが理論付けられているが、本明細書ではこれに依拠していない。また、エンドセリン作動薬によって引き起こされる腫瘍の血液灌流の増加によって、組織の酸素化も増大する。酸素化を改善することで、化学療法薬の治療的作用を向上させることができる。また、エンドセリンは有糸裂誘発性を有することができる。エンドセリンの線維芽細胞増殖作用は、エンドセリンと化学療法薬とを一緒に投与した場合に、化学療法薬の作用を増加させる助けとなる。エンドセリン作動薬の線維芽細胞増殖作用は、分割細胞への化学療法薬の組み込みを改善し、それによって化学療法薬の作用を増加させることによって、化学療法薬の作用を増加させることができる。
【0028】
化学療法は、しばしば癌治療における手術の補助療法として適応されることが多い。補助療法における化学療法の目的は、原発性腫瘍が制御された場合に再発の危険性を低減し、無病生存率を高めることである。化学療法は、しばしば疾患が転移性の場合に、癌の補助療法として使用される。そのため、ETB作動薬は、化学療法と組み合わせて固形腫瘍の治療において手術を行う前または行った後に特に有用である。
【実施例】
【0029】
乳房腫瘍モデル
(実施例1) 乳房腫瘍の灌流に対するIRL1620およびパクリタキセルの効果
正常ラットと乳房腫瘍保有ラットにおける全身血液動態とET‐1の局所回路作用を検証するために、以下の試験を実施した。
【0030】
広範な試験を行った乳房腫瘍モデルは、化学的に誘導されたラットの乳癌発症モデルである(van Zwieten,The rat as animal model in breast cancer research.Martinus Nijhoff Publishers,Boston,pg.206(1984);Dao et al.,J Natl Cancer Inst,71:201(1983);Russo et al.,J Natl Cancer Inst,61:1439(1978);Huggins et al.,Science,137(1962);Huggins et al.,Proc Natl Acad Sci USA,45:1294(1959))。ラットにおいて化学的に誘導された乳腺腫瘍形成は、ヒトの癌に最も類似したモデルである(Russo et al.,Lab Invest,62:244(1990))。組織構造の点で、ラットの乳腺は、ヒトの女性の乳腺と類似している。乳腺は、乳管および乳腺房、ならびにこの臓器の足場を形成する結合組織である基質を覆う上皮組織で形成される。これらの2つの区画は、胚発育時のほか、成年期を通して継続的に相互作用している。そのため、この自発性試験モデルが最もヒトの癌に類似していることから、このモデルを現在説明している試験のモデルとして選択した(前掲)。
【0031】
通常、化学的に誘導されたラットの乳癌形成は、7,12‐ジメチルベンゼン(a)アントラセン(DMBA)またはN‐メチルニトロソウレア(MNU)の投与により達成される(Rogers et al.,Chemically induced mammary gland tumors in rats:modulation by dietary fat.Alan R.Liss,Inc.,New York 255(1996))。DMBAまたはMNUによって誘導された腫瘍は、異なる形態学的特徴を有する。特に、MNUによって誘導された腫瘍は、乳房でより局所的に認められ、転移する可能性が低い(Macejova et al.,Endocr Regul,35:53(2001))。そのため、MNUはしばしば、ラットにおいて乳房腫瘍を特異的に誘導するための化学物質として選択される。これらの乳房腫瘍は、線維腺癌および乳頭腫とともに良性であることもあれば、悪性であることもある(van Zwieten,Martinus Nijhoff Publishers,Boston,pg.206(1984))。ラットは6組の乳腺を有し、1組は頸部に、2組は胸郭に、1組は腹部に、そして2組は鼠径部に有する(前掲;Astwood et al.,Am J Anat,61(1937))。MNUで治療したバージンラットは、腹部よりも胸郭に腫瘍を発症した(Russo et al.,Lab Invest,57:112(1987))。
【0032】
体重180〜200グラム(g)の雌のSprague Dawleyラット(Harlan Co.、米国ウィスコンシン州マディソン)を使用した。すべての動物を、温度(23±1℃)および湿度(50±10%)が制御され、人工光(6時〜18時)を照射したかごに3匹ずつ収容した。動物には適宜食料と水を与えた。試験は、少なくとも4日間動物を環境に順応させてから実施した。
【0033】
N‐メチルニトロソウレア(MNU)は、Ash Stevens Inc.(米国ミシガン州デトロイト)から購入した。IRL1620およびエンドセリン‐1(ET‐1)は、American Peptide Company Inc.(米国カリフォルニア州サニーベール)から入手した。ET‐1を0.1%のアルブミンに溶解させた。
【0034】
MNU(50mg/kg)または生理食塩水(1mL/kg)を、雌のSprague Dawleyラットに腹腔内(i.p.)投与した。腫瘍が直径約2〜4cmに達した後、血流試験を行った。
【0035】
血流試験時には、ウレタン(1.5g/kg、腹腔内)(Sigma Chemicals、米国ミズーリ州セントルイス)でラットを麻酔し、薬剤投与のために左大腿静脈にカニューレ(PE50チューブ、Clay Adams、米国ニュージャージー州パーシッパニー)を挿入した。
【0036】
動物は以下の群に分けた:
第I群:正常ラット(4匹)における生理食塩水+パクリタキセル(タキソル;3mg/kg;生理食塩水の投与から15分後)の投与;
第II群:正常ラット(4匹)におけるIRL1620(3nmol/kg)+パクリタキセル(3mg/kg;IRL1620の投与から15分後)の投与;
第III群:腫瘍保有ラット(4匹)における生理食塩水+パクリタキセル(3mg/kg;生理食塩水の投与から15分後)の投与;および
第IV群:腫瘍保有ラット(4匹)におけるIRL1620(3nmol/kg)+パクリタキセル(3mg/kg;IRL1620の投与から15分後)の投与。
【0037】
ラットの乳腺への血液灌流は、レーザードップラー流量計を使用して測定した。Song et al.,Int J Radiat Oncol Biol Phys,18:903(1990);Song et al.,Int J Radiat Oncol Biol Phys,17:1041(1989)を参照されたい。この手順で、動物の乳首周辺を除毛し、乳腺周囲の皮膚を切開した。標準モデルの光ファイバープローブを乳腺動脈に固定し、Periflux PF2b 4000レーザードップラー流量計に接続した(Perimed KB、スウェーデン ストックホルム)。時定数を1.5秒に設定し、帯域幅を4KHzに設定した。分散分析(ANOVA)を使用してデータを分析した後、Duncan試験を行い、p<0.05のレベルを有意と見なした。
【0038】
生理食塩水またはIRL1620およびパクリタキセルの投与後に、正常ラットの乳房組織への血流に変化は見られなかった。IRL1620注入後の腫瘍組織における血流(36.3%、p<0.05)と、IRL1620の後にパクリタキセルを投与した後の血流(51.9%、p<0.05)との間には、ベースラインからの有意差が認められた(図1を参照)。したがって、本試験は、IRL1620が化学療法薬の投与を含めた癌治療の重要な補助療法となり得ることを証明している。
【0039】
(実施例2) 正常ラットおよび腫瘍保有ラットの全身血液動態ならびに乳房組織への血流に対するET‐1注入の効果
試験の3ヵ月前に、MNUおよび生理食塩水の治療を腹腔内注入として行った。治療から4週間後よりラットを定期的に触診した。腫瘍が直径約4〜8mmに達したら、試験を開始した。
【0040】
ラットをウレタン(1.5g/kg、腹腔内)(Sigma Chemicals、米国ミズーリ州セントルイス)で麻酔し、すべての手術部位を除毛して、アルコールスワブで洗浄した。薬剤投与のために左大腿静脈にカニューレ(PE50チューブ、Clay Adams、米国ニュージャージー州パーシッパニー)を挿入した。左大腿動脈にカニューレ(PE50チューブ)を挿入し、採取ポンプ(モデル22、Harvard Apparatus、米国マサチューセッツ州サウスナチック)を使用して、ミクロスフェア試験での基準血液試料の採取に使用した。右大腿動脈にカニューレ(PE50チューブ)を挿入し、7PIプリアンプを介してGrassP7Dポリグラフ(Grass Instrument Co.、米国マサチューセッツ州クインシー)で血圧を記録するために、Gould P23 ID圧力変換器に接続した。血圧信号から発生した7P4B Grassタコグラフ(Grass Instrument Co.、米国マサチューセッツ州クインシー)を介して、心拍数(HR)を記録した。右頚動脈を露出させ、PE 50チューブを総頸動脈を介して左心室に誘導した。Statham P23DC圧力変換器(Grass Instrument Co.、米国マサチューセッツ州クインシー)を使用してGrassポリグラフで圧力を記録することにより、左心室におけるカニューレの存在を確認した。カニューレが左心室に達すると、拡張期血圧はゼロに下降した。血液のpO2、pCO2およびpHを一定に維持するため、かつ血圧およびHRに対する呼吸の影響を回避するため、齧歯類用人工呼吸器(モデル683、Harvard Apparatus Inc.、米国マサチューセッツ州サウスナチック)に接続した気管内カニューレを挿入することによって、動物を一定速度の人工呼吸で維持した。
【0041】
最初にラットを以下の2つの群に分け、それぞれが以下の治療の1つを受けた:
第I群:生理食塩水で治療したラット(正常ラット)(6匹)においてET‐1(50ng/kg/分)を30分間注入;および
第II群:MNUで治療したラット(50mg/kg、腹腔内;腫瘍ラット)(6匹)においてET‐1(50ng/kg/分)を30分間注入。
【0042】
ベースライン時、ならびにET‐1(50ng/kg/分)の注入を開始してから30分後、60分後および120分後に、全身血液動態および局所循環パラメータを測定した。ET‐1の注入が30分間行われたことから、30分間のデータはET‐1の効果を示し、60分間および120分間のデータはET‐1効果の持続期間を示す。
【0043】
全身血液動態および局所血液循環は、文献に記載された手順を使用して測定した。Gulati et al.,J Lab Clin Med,126:559(1995);Gulati et al.,Life Sci.,55:827(1994);Sharma et al.,Artif Cells Blood Substit Immobil Biotechnol,22:593(1994)を参照されたい。各測定時に、46Sc(スカンジウム)、113Sn(スズ)、141Ce(セリウム)、または95Nb(ニオブ)(New England Nuclear Corporation、米国マサチューセッツ州ボストン)で標識した約100,000個のミクロスフェア(直径15±1μm)を0.2mLの生理食塩水中で完全に混合した懸濁液を左心室に注入し、0.3mLの生理食塩水で15秒間洗浄した。血流を算出するため、右大腿動脈を介して0.5mL/分の速度で動脈血を採取した。ミクロスフェアを注入する約5〜10秒前より90秒間血液を採取した。
【0044】
ラットの乳腺への血液灌流は、レーザードップラー流量計を使用して測定した。Song et al.,Int J Radiat Oncol Biol Phys,18:903(1990);Song et al.,Int J Radiat Oncol Biol Phys,17:1041(1989)を参照されたい。動物の乳首周辺を除毛し、乳腺周囲の皮膚を幅約6cm×長さ約4cmの皮弁として切開した。標準モデルの光ファイバープローブを皮弁の表面に設置し、両面テープで組織に固定した。皮弁を金属ホルダーに配置し、動かないようにテープで留めた後、Periflux PF2b 4000レーザードップラー流量計(Perimed KB、スウェーデン ストックホルム)に接続した。時定数を1.5秒に設定し、帯域幅を4kHzに設定した。分散分析を使用してデータを分析した後、Duncan試験を行い、p<0.05のレベルを有意と見なした。
【0045】
試験の最後に、ペントバルビタールナトリウムを過剰投与して動物を屠殺した。すべての組織および臓器を解剖、計量し、バイアルに入れた。標準試料、血液試料および組織試料の放射能を、アイソトープエネルギーを識別する事前設定ウィンドウを備えたPackard Minaxi Auto‐Gamma 5000シリーズガンマカウンター(Packard Instruments Co.,Downers Grove,III.)で計数した。以下のパラメータを算出した:(1)心拍出量(CO)((注入した放射能×動脈血の採取率)/試料採取した動脈血の放射能)、(2)拍出量(SV)(CO/HR)、(3)全末梢血管抵抗(TPR)(平均動脈圧(MAP)/CO)、(4)局所血流((組織の放射能×動脈血の採取率)/試料採取した動脈血の放射能)、および(5)局所血管抵抗(MAP/局所血流)。データの算出には、文献に記載したコンピュータプログラムを使用した(Saxena et al.,Comput Programs Biomed,12:63(1980))。
【0046】
正常(生理食塩水で治療した)ラットのベースライン時の全身血液動態パラメータは、MAP:111.1±4.8mmHg;CO:268.6±17.6mL/分;SV:0.87±0.06mL;TPR:419.6±.24.37mmHg.分/mL;およびHR:312.5±20.2脈拍/分であった。正常ラットでは、ET‐1注入から30分後(14.5%;p<0.05)にMAPの有意な増加が認められ、120分後(17.8%;p<0.05)に減少が認められた。TPRは120分後に増加し(49.2%;p<0.05)、COは、ET‐1注入から60分後および120分後に減少し(それぞれ22.9%および42.5%;p<0.05)、SVは60分後および120分後に減少した(それぞれ20.9%および36%;p<0.05)。HRの有意な変化は認められなかった(図2A〜2E)。
【0047】
腫瘍保有(MNUで治療した)ラットのベースライン時の全身血液動態パラメータは、正常ラットのパラメータと類似していた。腫瘍ラットでは、ET‐1注入から30分後(19.1%;p<0.05)および60分後(15.3%;p<0.05)にMAPの有意な増加が認められた。TPRは、ET‐1投与から30分後(73.9%;p<0.05)、60分後(39.7%;p<0.05)、および120分後(71.4%;p<0.05)に増加した。COは、30分後、60分後および120分後に減少した(それぞれ29.4%、16.7%および36.1%;p<0.05)。SVは、30分後、60分後および120分後に有意に減少した(それぞれ31.1%、17.9%および32.1%;p<0.05)。HRの変化は認められなかった(図2A〜2E)。
【0048】
ET‐1投与後に、生理食塩水で治療した正常ラットの乳房組織への血流にも、血管抵抗にもなかった。正常(生理食塩水で治療した)ラットに比べると、腫瘍(MNUで治療した)ラットの乳房組織への血流と局所血管抵抗には有意差が認められた。正常ラットに比べると、腫瘍保有ラットの乳房組織への血流には、ET‐1投与から60分後に有意な増加(153%;p<0.05)が認められた。また、正常ラットに比べると、腫瘍保有ラットの血管抵抗は、ベースライン時(102%;p<0.05)、およびET‐1投与から60分後(147%;p<0、05)に有意差が見られた(図3A〜3B)。
【0049】
図4A〜4Cは、腫瘍保有ラットおよび正常ラットの乳房組織における灌流、流動する血球濃度(CMBC)、および赤血球(RBC)の速度の変化を示す。正常ラットの乳房組織における血液灌流は、ET‐1投与後に有意に変化しなかった。正常ラットに比べると、腫瘍ラットの乳房組織における灌流は、ET‐1投与から30分後に有意に増加した(176%;p<0.05)。腫瘍ラットの場合、この灌流の増加は、ET‐1投与から60分後および120分後にベースラインに戻った。
【0050】
正常ラットに比べると、腫瘍保有ラットのCMBCは、ET‐1投与から60分後に有意に増加した(54%;p<0.05)。CMBCは、ET‐1投与から120分後にベースラインに戻った。正常ラットに比べると、RBCの速度は、ET‐1投与から30分後に有意に増加した(252%;p<0.05)。腫瘍ラットのRBCの速度は、ET‐1投与から2時間(120分)後にベースラインに戻った(図4A〜4C)。
【0051】
別の試験では、正常ラットおよび乳房腫瘍ラットの全身血液動態ならびに乳房組織への血流における、ET‐1注入により誘導された変化に対するETB受容体の役割を評価した。BQ788(すなわち、N‐シス‐2,6‐ジメチルピペリジノカルボニル‐L‐ガンマ‐メチル‐ロイシル‐D‐1‐メトキシカルボニルトリプトファニル‐D‐ノルロイシン)は、IC50値が1.2nMであるETB受容体への結合を阻害する特異的なETB受容体拮抗薬である。そのため、BQ788を、乳房腫瘍でET‐1により誘導される血管拡張におけるETB受容体の役割を判定するのに使用した。本試験では、動物を以下の群に分けた点を除いて、先の試験で説明した方法を使用した。
第I群:生理食塩水で治療した正常ラット(5匹)においてBQ788(American Peptide Company Inc.(米国カリフォルニア州サニーベール)、0.5pmol/kgにて生理食塩水に溶解)を20分間注入した後、ET‐1(50ng/kg/分)を30分間注入;および
第II群:MNUで治療した腫瘍保有ラット(50mg/kg、腹腔内)(5匹)においてBQ788(0.5pmol/kg)を20分間注入した後、ET‐1(50ng/kg/分)を30分間注入。
【0052】
図5A〜5Cはそれぞれ、腫瘍保有ラットおよび正常ラットにおける血液灌流、CMBC、およびRBCの速度における、ET‐1により誘導された変化に対するBQ788の効果を示す。正常ラットの乳房組織における血液灌流は、BQ788の投与後にもET‐1の注入後にも有意に変化しなかった。しかし、BQ788で事前に治療したラットの場合、腫瘍保有ラットの乳房腫瘍組織における灌流は、ET‐1注入から30分後(25.25±5.7%;P<0.05)および60分後(25.17±2.8%;P<0.05)に有意に減少した。BQ788で事前に治療すると、腫瘍保有ラットにおいてET‐1により誘導される灌流の増加が緩和された。BQ788で事前に治療したラットでは、ET‐1の投与後に、腫瘍ラットと正常ラットの乳房組織における灌流の間に差が認められなかった。この結果は、ET‐1により誘導される血管拡張反応がETB受容体により媒介されることを示唆している。
【0053】
腫瘍保有ラットのベースライン時のCMBCは、正常ラットの乳房組織のベースライン時のCMBCよりも有意に高かった(42.4%;P<0.05)が、BQ788の注入後には、腫瘍保有ラットと正常ラットのCMBCの間に差が認められなかった。さらに、2群間のRBCの速度にも差は認められなかった(図5A〜5C)。
【0054】
上述の試験は、生理食塩水で治療した正常ラットとMNUで治療した腫瘍保有ラットの全身血液動態ならびに乳房組織への血流に対するET‐1の効果を示す。ET‐1は、VEGFの産生を促進することにより血管新生を刺激することが知られている。ET‐1は、乳癌(Yamashita et al.,Res Commun Chem Pathol Pharmacol,74:363(1991))、乳房葉状腫瘍(Yamashita et al.,Cancer Res,52:4046(1992))、前立腺癌(Nelson et al.,Cancer Res,56:663(1996))、肝癌(Kar et al.,Biochem Biophys Res Commun 216:514(1995))、およびいくつかの髄膜腫(Pagotto et al.,J Clin Invest,96:2017(1995))などの多くの癌組織で増加することが、試験で明らかにされている。上述の試験は、乳房腫瘍でET‐1により誘導される血管反応の変化を示す。これらの試験で使用した方法は、全身血液動態および局所血液循環を試験するために十分に確立された放射性ミクロスフェア法であった(Gulati et al.,Am J Physiol,273:H827(1997);Gulati et al.,Crit Care Med,24:137(1996);Gulati et al.,J Lab Clin Med,126:559(1995);Gulati et al.,Life Sci,55:827(1994))。
【0055】
(実施例3) パクリタキセルの薬物動態に対するIRL1620の効果
生体内の血流力学を変化させることにより、治療成分の薬物動態に有意な作用を及ぼすことができ、パクリタキセルは複雑な薬物動態学的特性を有することが知られている。例えば、Sparreboom et al.,Cancer Res 56:2112(1996a);Gianni et al.,J Natl Cancer Inst 87:1169(1995b);Sonnichsen&Relling,Clin Pharmacokinet 27:256(1994);Huizing et al.,J Clin Oncol 11:2127(1993);Brown et al.,J Clin Oncol 9:1261(1991);Longnecker et al.,Cancer Treat Rep 71:53(1987);Wiemik et al.,Cancer Res 47:2486(1987b)を参照されたい。そのため、パクリタキセルの血漿薬物動態に対するIRL1620の影響を理解することが重要である。そのため、現在説明している試験は、選択的なETB受容体作動薬であるIRL1620が、乳房腫瘍保有ラットにおけるパクリタキセルの薬物動態を変化させるか否かを判定するために実施した。
【0056】
本試験には48日齢(120〜140g)の雌のSprague Dawleyバージンラット(Harlan Co.、米国ウィスコンシン州マディソン)を使用した。到着後すぐに、すべてのラットを、温度(23±1℃)および湿度(50±10%)が制御され、人工光(6時〜18時)を照射したかごに3匹ずつ収容した。動物には適宜食料と水を与えた。試験は、少なくとも4日間動物を環境に順応させてから実施した。
【0057】
IRL1620は、Sigma‐Aldrich(米国ミズーリ州セントルイス)から購入し、パクリタキセル(6mg/mL溶液)は、Ben Venue Laboratories Inc.(米国オハイオ州ベッドフォード)から購入し、ケタミンおよびキシラジンは、Phoenix Scientific,Inc.(米国ミズーリ州セントジョセフ)から購入し、[3H]‐パクリタキセル(ImCi、6.4Ci/mmol、比放射能)は、Moravek Biochemicals(Moravek Biochemicals、米国カリフォルニア州)から購入し、ウレタンは、Sigma Aldrich(Sigma Chemicals、米国ミズーリ州セントルイス)から購入した。
【0058】
N‐メチル‐n‐ニトロソウレア(MNU)を50mg/kg腹腔内投与し、ラットを週2回触診した。腫瘍が約75〜100mm3に達したら、薬物動態試験を行った。
【0059】
HPLC‐UV試験:ウレタン(1.5mg/kg)(Sigma Chemicals、米国ミズーリ州セントルイス)を単回腹腔内注入して、ラットを麻酔した。右大腿部を除毛し、外科用消毒剤とアルコールで洗浄した。右大腿動脈と静脈を露出させ、滅菌したPE‐50チューブを挿入した。首を除毛し、外科用消毒剤とアルコールで洗浄した。頸部周辺で正中切開を行い、気管に挿管し、齧歯類用人工呼吸器(モデル683、Harvard Apparatus Inc.、米国マサチューセッツ州サウスナチック)に接続した。すべての手術は無菌条件下で実施した。感染を予防するため、ネオスポリン抗生物質クリーム(Pfizer、米国ニュージャージー州モリスプレーンズ)を創傷部に塗布した。薬剤を投与する前に45分間の回復期間を与えた。
【0060】
ラットは、正常(生理食塩水で治療した)ラットと腫瘍保有(MNUで治療した)ラットを使用した。IRL1620(3nmol/kg)または賦形剤(生理食塩水、3mL/kg)を投与してから15分後に、パクリタキセル(3mg/kg)を静脈内投与した。IRL1620の投与前に血液を収集し、ベースライン値を得た。ベースライン時、ならびにパクリタキセル投与から5分後、30分後、ならびに2時間後、6時間後および10時間後に、ラットから0.5mLの血液をヘパリンシリンジで採取した。試料を遠心分離して、血漿を採取し、分析まで−80℃で保存した。
【0061】
血漿試料中のパクリタキセルは、HPLCシステムを使用して分析した。簡潔に言うと、血漿を解凍し、13×100のガラス培養チューブで50μLの内部標準N‐シクロヘキシルベンズアミド(3mM(低検量線)、および30mM(高検量線))および3mLのエチルエーテル(Fisher Scientific、米国イリノイ州シカゴ)と混合した。この混合物を、往復式振盪培養機を使用して5分間振盪させた後、4℃、3,000rpmで5分間遠心分離した。得られた上清を13×100のホウケイ酸ガラス培養チューブに移して、湯浴(37℃)中の窒素流下で蒸発させた。残留物を移動相A(50%の脱イオン水、50%のアセトニトリル)200μLで再構成した。再構成した物質のアリコート100μL(低検量線、および静脈内投与後に収集した試料)を、227nmに設定したWaters 2487吸光度検出器に接続したWaters 2695分離モジュールを使用して、4mmのNovaPak 20×3.9mmのC18プレカラムに注入した後、4mmのNovaPak 150×3.9mmのC18カラム(Waters Associates、米国マサチューセッツ州ミルフォード)に注入した。1mL/分の流速で送出する100%の移動相Aで線形グラジエントを開始した。次いで、次の注入前にカラムから緩徐に溶出している物質を除去するため、10分〜11分後の間に移動相Aを70%まで減少させ、11分〜16分後の間に移動相Aを70%に維持した。その後、16分〜17分後まで移動相Aを100%に増加させ、3分間移動相Aを100%に維持し、合計の実行時間を20分とした。血漿中のパクリタキセルの濃度は、最小二乗線形回帰および1/xによる重み付けを使用して、N‐シクロヘキシルベンズアミドのピーク面積に対するパクリタキセルのピーク面積の比率から算出した。変動係数で測定した1日以内および数日間の変動性は10%未満であった。正常ラットと腫瘍保有ラットの血漿濃度プロファイルを比較した。
【0062】
液体シンチレーション計数試験:ケタミン(100mg/kg)とキシラジン(2mg/kg)の組み合わせを単回腹腔内注入して、ラットを麻酔した。首を除毛し、外科用消毒剤とアルコールで洗浄した。右頚動脈を露出させ、滅菌したPE‐50チューブを挿入した。頸部周辺で正中切開を行い、血液試料を採取するために左頚動脈にPE50チューブを挿入した。カテーテルの皮下トンネルを形成し、首の付け根で体外に露出させた後、外科用ステープルを使用して切開部を閉鎖した(Buehler et al.,Free Radic Biol Med 37:124(2004))。開放型チューブに釣り糸で栓をした。すべての手術は無菌条件下で実施した。感染を予防するため、ネオスポリン抗生物質クリーム(Pfizer、米国ニュージャージー州モリスプレーンズ)を創傷部に塗布した。薬剤を投与する前に45分間の回復期間を与えた。
【0063】
IRL1620を腫瘍動物に3nmol/kg静脈内投与した。[3H]‐パクリタキセル(160uCi/kg)を非標識パクリタキセルと混合した。ビヒクルまたはIRL1620を投与してから15分後に、パクリタキセルを静脈内投与した。
【0064】
ビヒクルまたはIRL1620の投与前に血漿を収集し、ベースライン値を得た。ベースライン時、1分後、5分後、15分後および30分後、ならびに1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、8時間後、12時間後および24時間後に、ラットから約0.2mLの血液をヘパリンシリンジで採取した。試料を遠心分離して、血漿を分離し、分析まで−80℃で保存した。
【0065】
血漿試料中の[3H]‐パクリタキセルの濃度は、Beckman Coulter液体シンチレーションカウンター(モデルLS6500)を使用して測定した。簡潔に言うと、血漿を解凍し、20mLの液体シンチレーションカクテルと混合して、試料を計数し、以下の公式を使用して、この数を「dpm」単位から「fmol/mL」に変換した:
fmol/mL=dpm値×崩壊因子×2.2×10‐12/10‐12×試料容量(mL)。
【0066】
fmol/mLへの変換後、非標識パクリタキセルに対する[3H]‐パクリタキセルの比率を使用して、全パクリタキセルの薬物動態を算出した。WinNonlin Pro 4.1(Pharsight Corp、米国カリフォルニア州マウンテンビュー)で実施した非コンパートメント解析とコンパートメント解析の両方を使用して、血漿中のパクリタキセルの薬物動態の推定値を測定した。
【0067】
非コンパートメント解析では、最後の測定可能濃度(Clast)の台形公式を使用して曲線下領域(AUC0‐∞)を予測し、対数線形血漿濃度対時間曲線の末端傾斜(λ)の負数でClastを除算することにより、無限大に外挿した。また、以下のパラメータも算出した。平均滞留時間(MRTiv)をλの逆数として算出し、全身クリアランス(CL)をAUC0‐∞に対する投与量の比率として算出し、見かけ上の体積分布をCLとλの比率として算出した。血漿の半減期は0.693(自然対数2)とMRTivの積として算出した。
【0068】
コンパートメント解析では、一連の非線形コンパートメントモデルを、血漿濃度対時間曲線データに適合させた。具体的には、1コンパートメントモデルと2コンパートメントモデルと3コンパートメントモデルとを比較し、統一データと予測データに基づく重み付けを試験した。モデルの最終選択は、診断プロット(実測値対予測値、および残りのプロット)であるAkaike情報基準(AIC)とSchwartz情報基準(SC)に基づいて行い、AICとSCが低いモデルを最終モデルと見なした。
【0069】
データは、一元配置分散分析(One Way ANOVA)を行った後、HPLC‐UV試験の場合はDuncan検定を、液体シンチレーション試験の場合はt検定を行うことにより分析し、p<0.05を有意と見なした。これらの薬理反応試験で測定した主な結果は、血漿中のパクリタキセルの濃度差であった。
【0070】
正常ラットまたは腫瘍保有ラットのいずれにおいても、パクリタキセルの薬物動態プロファイルは、IRL1620の投与(図6および図7)による影響を受けなかった。血漿の薬物動態プロファイルのHPLC分析は、放射性パクリタキセルのより広範囲なプロファイルと類似している。図7は、ビヒクルで治療した腫瘍保有ラットとIRL1620で治療した腫瘍保有ラットにおけるパクリタキセル放射能の薬物動態プロファイルを示す。薬物動態プロファイルは、非コンパートメント解析法とコンパートメント解析法によって分析した。
【0071】
非コンパートメント解析では、ビヒクル+パクリタキセル群の算出したAUCが、9433.53±1465.00ng*時間/mLであり、IRL1620で治療した腫瘍ラットのAUCと類似していた(p>0.05)。排出半減期は0.14±0.08時間として算出した。投与量/AUCとして算出したクリアランスは、0.56±0.07L/時/kgと推定された。クリアランス/Kelとして算出した分布容積は、10.11±4.17L/kgであった。全体としては、以下の表から分かるように、IRL1620は、パクリタキセルの薬物動態プロファイルに影響を及ぼさなかった。
【0072】
【化1】
血漿中のパクリタキセルの濃度は、血漿試料中のdpm数から算出した。3コンパートメントモデルが、パクリタキセルの薬物動態を最も良く示した。図8は、ビヒクルで治療したラットとIRL1620で治療したラットの両方について観察した薬物動態と予測した薬物動態のプロットを示す。ビヒクルで治療したラットにおけるパクリタキセルのAUCは、9.42±3.18μg‐時/mLであった。定常分布容積(Vss)は、10.31±4.54L/Kgであった。クリアランスは、0.69±0.17L/時/Kgと推定した。αt1/2、βt1/2、γt1/2は、それぞれ0.03±0.01時間、1.0±0.32時間、および25.87+17.81時間であった。平均滞留時間は、27.92±19.84時間であった。以下の表から分かるように、IRL1620治療群で推定されたこれらのパラメータは、ビヒクル治療群のパラメータとの有意な差は見られなかった。
【0073】
【化2】
本試験では、3コンパートメントモデルが、血漿中のパクリタキセルの薬物動態を最も良く示した。このモデルは、臓器中の血液灌流が高いか、中程度であるか、低いかにかかわらず、パクリタキセルが種々の臓器に分布することを示唆している。IRL1620の投与によって、パクリタキセルの分布が変化することはなかった。3コンパートメントモデルで生成した血漿の薬物動態パラメータは、ビヒクル治療群とIRL1620治療群で同等のクリアランス、分布容積および吸収体積、ならびに分布半減期および排出半減期を示した。しかし、IRL1620は、腫瘍の血液灌流と腫瘍のパクリタキセル濃度を増加させる(Rai et al.,American Association of Pharmaceutical Scientists,Pharmaceutics and Drug Delivery Conference.Philadelphia,PA(2004);Rai&Gulati,Cancer Chemother Pharmacol,51:21(2003))。そのため、IRL1620は、パクリタキセルの薬物動態プロファイルを大きく変化させることなく、腫瘍の灌流を選択的に増加させる。
【0074】
これらの試験は、IRL1620を使用してもパクリタキセルの薬物動態に影響を及ぼすことがないことを示している。多くの場合、薬物動態は、化合物の安全性の代わりになるものと考えることができる。そのため、これらの結果はまた、IRL1620の投与によってパクリタキセルの安全性が変化することがないことも示唆している。この結果、IRL1620を使用することで、パクリタキセルの有効性を改善し、重度の毒性を最小限に低減するために適切な用量を滴定することができると考えられる。
【0075】
(実施例4) IRL1620の用量応答効果、主要組織および腫瘍組織における[3H]パクリタキセルの生体内分布に対するIRL1620の効果、ならびに腫瘍状態でのパクリタキセルの有効性に対するIRL1620の効果
本実施例で説明する試験は、(a)正常ラットと腫瘍保有ラットの乳房灌流に対するETB受容体作動薬IRL1620の用量応答効果、(b)主要組織および腫瘍組織における[3H]パクリタキセルの生体内分布に対するIRL1620の効果、ならびに(3)MNUにより誘導された乳房腫瘍保有ラットの腫瘍状態でのパクリタキセルの有効性に対するIRL1620の効果を詳細に評価するために設計した。
【0076】
40日齢の雌のSprague Dawleyバージンラット(Harlan Company、米国ウィスコンシン州マディソン)を購入し、温度を23±1℃に制御したかごに2匹ずつ収容し、12時間間隔の明暗スケジュールで維持した。これらのラットには適宜水と標準の齧歯類用食料を与えた。
【0077】
IRL1620は、Sigma Chemical Co.(米国ミズーリ州セントルイス)から入手した。[3H]パクリタキセルは、Moravek Biochemicals(米国カリフォルニア州ブレア)から購入し、パクリタキセル(6mg/mL溶液)は、Ben Venue Laboratories Inc.(米国オハイオ州ベッドフォード)から購入し、ケタミンおよびキシラジンは、Phoenix Scientific,Inc.(米国ミズーリ州セントジョセフ)から購入し、組織可溶化剤(TS‐2)は、RPI Corp.(米国イリノイ州シカゴ)から購入した。
【0078】
生後48日に、各動物に50mg/kgの用量のN‐メチルニトロソウレア(MNU、Ash Stevens、米国ミシガン州デトロイト)を単回腹腔内注入した。MNUを3%の酢酸に溶解して、0.9%のNaClに希釈し(最終濃度12.5mg/mL)、調製から30分内に投与した。この治療により、発癌物質治療を行ってから約100日目に、ラットにおけるほぼ100%の乳腺腺癌の発症率が引き起こされる(Mehta,Eur J Cancer,36:1275(2000))。腫瘍の出現および箇所を、乳腺触診によって監視し、デジタルカリパスで腫瘍表面を測定した。本試験では、500〜800mm3の腫瘍を有するラットを選択した。
【0079】
灌流試験:ラットの乳房組織および腫瘍への灌流は、記述の通り、Periflux PF2b 4000レーザードップラー流量計(Perimed、スウェーデン ストックホルム)を使用して測定した。簡潔に言うと、ケタミン(100mg/kg)とキシラジン(2mg/kg)を単回腹腔内併用注入薬として使用し、ラットを麻酔した。乳首周辺の体毛を除毛し、温度変化を最小限にするために、動物を加温パッド(37℃)の上に置いた。乳腺周囲の皮膚を幅約6mm×長さ約4mmに切開した。標準モデルの光ファイバープローブ(MP3流量プローブ、Moors Instruments、英国デボン州)を露出した組織の表面に設置した後、これをPeriflux PF2b 4000レーザードップラー流量計に接続した。時定数を1.5秒に設定し、帯域幅を4kHzに設定した。本方法によりレーザー光(束)におけるドップラー偏移が測定されるが、これは、赤血球の数と速度によって決定され、所与の組織容積における総血流に比例する。流束値はPolyviewソフトウェアを使用して得た。生理食塩水またはIRL1620の投与前に、安定した記録による15分間のベースラインを得た。動物に1nmol/kg、3nmol/kgまたは9nmol/kgのIRL1620を投与し、灌流を3時間記録した。各投与量を少なくとも4匹の動物に投与した。
【0080】
腫瘍灌流に対するIRL1620の投与の効果は、一時的なものであり、投与量と関連があることが明らかになった(図9A)。3nmol/kgのIRL1620を投与してから30分後に、ベースラインから最大244.0%(p<0.001)の腫瘍灌流の増加が認められた。ベースライン時、ならびに生理食塩水で治療したラットに比べると、15分後、30分後および60分後における灌流の増加は有意であった(図9Aおよび9B)。また、ベースライン時の灌流、ならびに生理食塩水で治療したラットの灌流に比べると、1nmol/kgおよび9nmol/kgのIRL1620を投与しても、乳房腫瘍の灌流にはわずかな増加しか生じなかった。1nmol/kgおよび9nmol/kgのIRL1620を投与してからそれぞれ120分後および30分後には、最大の灌流増加(60.9%および63.3%)が記録された。しかし、生理食塩水で治療したラットに比べると、9nmol/kgのIRL1620で治療した動物では、15分後、30分後および60分後に灌流の増加が有意なものであった(図9A)。ベースライン時に比べると、腫瘍保有ラットに生理食塩水を投与しても、血液灌流の有意な変化は全く生じなかった(図9A)。また、生理食塩水、または1nmol/kg、3nmol/kgもしくは9nmol/kgのIRL1620を投与しても、雌の正常ラットにおける乳房灌流には有意な変化が全く生じなかった。(データ図示なし)。
【0081】
これらの結果は、ベースライン時ならびにビヒクルで治療したラットに比べると、3nmol/kgまたは9nmol/kgのIRL1620を投与することで、腫瘍灌流が増加することを示している。1nmol/kg、3nmol/kgおよび9nmol/kgのIRL1620のいずれを投与しても腫瘍灌流はいくらか増加するが、3nmol/kgを投与した場合に最大の効果が生じる。
【0082】
生体内分布試験:既述のように腫瘍が形成された後に、ケタミン(100mg/kg)とキシラジン(2mg/kg)を腹腔内併用注入薬として使用し、ラットを麻酔した。ラットの体重、腫瘍箇所および腫瘍容積を記録した後、動物を無作為にグループ分けし、生理食塩水またはIRL1620(3nmol/kg)のいずれかを最終容積0.2mLにて尾静脈を介して投与した。次いで、IRL1620を投与してから15分後、120分後および240分後に、[3H]パクリタキセル(50:50のCremophor EL:エタノール中40μCi/匹)を最終容積1.0mLにて各群のラットに投与した。各時点で6匹のラットを試験し、合計36匹のラットを使用した。[3H]パクリタキセルを投与してから3時間後に、動物を屠殺し、腫瘍組織、腎臓、肝臓、肺および脾臓における[3H]パクリタキセルの濃度を測定した。具体的には、腫瘍および臓器を小片にスライスし、約500mgの組織または腫瘍を、組織可溶化剤(6mL)を含有する個別のバイアルに入れて、50℃の水浴中でインキュベートした。組織または腫瘍が溶解したら、水浴からバイアルを取り出し、10%の氷酢酸1.2mLを添加した。バイアルの内容物を3つのバイアルに均等に分け、15mLの液体シンチレーションカクテル(Safety Solve、RPI Corp、米国イリノイ州シカゴ)を各バイアルに添加し、一晩平衡状態に維持した。そしてチューブ内の放射能を、液体シンチレーションカウンター(Beckman Coulter、LS 6500)を使用して計数した。
【0083】
生理食塩水で治療したラットに比べると、IRL1620(3nmol/kg)で治療したラットにおいて、腫瘍中の[3H]パクリタキセルの濃度が有意に増加した。パクリタキセル投与群では、IRL1620を投与してから15分後に最大の効果が認められた。IRL1620を投与してから15分後、120分後および240分後にパクリタキセルを投与すると、腫瘍中のパクリタキセルの濃度がそれぞれ277.1%、151.9%および34.7%増加した(図10)。対照動物に比べると、IRL1620を投与しても、肝臓、肺、腎臓および脾臓におけるパクリタキセルの蓄積が有意に変化することはなかった(図10)。
【0084】
有効性試験:腫瘍保有(MNUで治療した)動物を以下の7群に無作為にグループ分けした(1群当たり12匹):
第I群:生理食塩水;
第II群:IRL1620(3nmol/kg);
第III群:Cremophor EL:エタノール;
第IV群:ビヒクル(生理食塩水)+パクリタキセル(1mg/kg);
第V群:ビヒクル(生理食塩水)+パクリタキセル(5mg/kg);
第VI群:IRL1620(3nmol/kg)+パクリタキセル(1mg/kg);および
第VII群:IRL1620(3nmol/kg)+パクリタキセル(5mg/kg)。
【0085】
投与スケジュールは、3日に1回、合計5回の投与であった。最後の投与を行ってから3日毎に合計30日間、体重、腫瘍サイズおよび腫瘍箇所を監視した。スコアリングには以下のカテゴリーを使用した:「進行」:治療開始時に比べて腫瘍の面積が40%超増大している;「静止」:治療過程全体を通して腫瘍が初発時の面積から40%を超えて変動していない;「部分再生」:腫瘍が初発時の面積から40%を超えて退縮した;「完全寛解」:腫瘍がもはや触知または測定できない;「腫瘍多発」:治療中および30日間の観察期間中に新規腫瘍が発生する。最後(5回目)の投与から30日後に、動物を屠殺した。分散分析を使用してデータを分析した後、Duncan試験を行い、P<0.05レベルを有意と見なした。
【0086】
体重:図11には、ベースライン(治療開始前)から最後の投与より30日後までの動物の体重差の割合を示す。生理食塩水で治療した対照ラットの試験終了時点における体重の増加率は、ベースライン時の体重に比べて7.2±1.7%であった。ビヒクル+パクリタキセル(1mg/kg)、ビヒクル+パクリタキセル(5mg/kg)、IRL1620+パクリタキセル(1mg/kg)、およびIRL1620+パクリタキセル(5mg/kg)で治療した動物群では、それぞれ5.1±3.6%、9.4±2.4%、14.3±3.1%、および13.1±1.8%の体重増加が見られた(図11)。Cremophor EL:エタノールおよびIRL1620を投与された動物の体重の、ベースライン時と比較した増加率は、10%未満であった(データ図示なし)。
【0087】
腫瘍容積:種々の群の腫瘍サイズは、治療開始時点では互いに類似しており、有意差がなかった(図12)。対照ラットの腫瘍容積は急速かつ可変速度で増加した。腫瘍増殖の大きな変動は、特発的に増殖する腫瘍の不規則な増殖パターンに起因する可能性がある。30日間の観察期間が終了した時点で、対照腫瘍は、2693.4±790.9mm3の腫瘍容積を有していた。IRL1620で治療したラットも、最終腫瘍容積が2560.5±844.4mm3となる類似の発症パターンを有していた。また、Cremophor EL:エタノールで治療した場合も、最終腫瘍容積が2338±1329mm3となる類似の増殖パターンを生じた。そのため、IRL1620を投与しても、Cremophor El:エタノールを投与しても、それ自体がMNUにより誘導された乳房腫瘍の増殖に対して有意な効果を示すことはなかった(データ図示なし)。ビヒクル+パクリタキセル(1mg/kg)で治療したラットは、腫瘍サイズの拡大にわずかな減少を示した(1960.8±611.9mm3)。ビヒクル+パクリタキセル(5mg/kg)群は、対照ラットに比べて大幅な腫瘍容積の減少(1682.7±497.3mm3)を示した。また、IRL1620+パクリタキセル(1mg/kg)で治療したラットも、腫瘍サイズの減少を示した(1707.2±621.1mm3)。それに対し、IRL1620+パクリタキセル(5mg/kg)で治療した動物群では、平均腫瘍サイズの最低の減少(730.1±219.4mm3)が認められた。IRL1620の投与後に5mg/kgのパクリタキセルを3日毎に合計5回投与すると、生理食塩水+パクリタキセル(5mg/kg)を投与したラットに比べて、腫瘍容積が有意に(p<0.05)減少した(図12)。また、IRL1620+パクリタキセル(5mg/kg)投与群では、IRL1620またはCremophor EL:エタノールのいずれかで治療したラットに比べて、腫瘍容積が少ないことが明らかになった(データ図示なし)。
【0088】
腫瘍多発:すべての治療群の動物は、30日間の観察期間が終了した時点までに新規腫瘍を発生した。生理食塩水、Cremophor EL:エタノール、およびIRL1620で治療した動物では、新規腫瘍出現がそれぞれ58.4%、57.1%および60.8%増加した。ビヒクル+パクリタキセル(1mg/kgおよび5mg/kg)を投与された両動物における新規腫瘍発生率は、それぞれ78.3%および41%であった。それに対し、IRL1620+パクリタキセル(1mg/kgおよび5mg/kg)の両投与群の新規腫瘍率は、それぞれ69.2%および44.8%であった(データ図示なし)。
【0089】
腫瘍進行:進行、静止、退縮または消滅した腫瘍の割合を、既述の通りに算出した。生理食塩水治療群の腫瘍の73.5%が、初発時の腫瘍サイズから40%を超えて進行した。IRL1620(82.7%)およびCremophor EL:エタノール(80.4%)治療群では、初発時の腫瘍サイズから40%を超えて進行した腫瘍の割合が類似していた。ビヒクル+パクリタキセル(5mg/kg)群(71.4%)、ビヒクル+パクリタキセル(1mg/kg)群(61.1%)、およびIRL1620+パクリタキセル(1mg/kg)群(69%)では、進行した腫瘍の割合が前述の治療群よりも低かったが、割合が最低(40%)であったのは、IRL1620+パクリタキセル(5mg/kg)群であった(図13)。
【0090】
腫瘍静止:生理食塩水で治療したラットの腫瘍の16.9%が、静止状態を維持し、30日間が終了する時点までに40%の範囲を超えて増殖することがなかった。その他の対照群では、静止状態を維持した腫瘍の割合がこれよりも若干低かった:IRL1620(13.7%)、Cremophor EL:エタノール(15.2%)。ビヒクル+パクリタキセル(1mg/kg)(22.2%)およびビヒクル+パクリタキセル(5mg/kg)(19.5%)で治療したラットでは、静止状態を維持した腫瘍の割合が高かった。IRL1620+パクリタキセル(1mg/kg)(23.8%)およびIRL1620+パクリタキセル(5mg/kg)(26.6%)で治療したラットで、静止状態を維持した腫瘍の割合が最も高かった(図13)。
【0091】
腫瘍退縮:5mg/kgのパクリタキセルの前にIRL1620を投与すると、対照動物に比べて腫瘍の進行が有意に減少した。生理食塩水で治療したラットでは、9.2%の腫瘍が初発時の腫瘍容積から退縮した。Cremophor EL:エタノール(4.3%)、IRL1620(3.4%)、およびビヒクル+パクリタキセル(1mg/kg)(9.5%)で治療したラットは、退縮した腫瘍の割合において対照群との有意差が見られなかった。IRL1620+パクリタキセル(5mg/kg)およびビヒクル+パクリタキセル(5mg/kg)で治療したラットでは、対照ラットに比べて、5回目の投与の終了時点で腫瘍がそれぞれ76.1±10.5%および45.9±11.5%退縮した。IRL1620+パクリタキセル(5mg/kg)およびビヒクル+パクリタキセル(5mg/kg)で治療した動物では、それぞれ80.2±6.9%(p<0.05)および33.8±19.4%の退縮が見られた(図13)。IRL1620+パクリタキセル(1mg/kg)およびビヒクル+パクリタキセル(1mg/kg)群の腫瘍退縮率は、それぞれ47.1±15.4%および37.7±16.2%であることが明らかになった。IRL1620を投与してから15分後にパクリタキセル(5mg/kg)を投与すると、生理食塩水を投与してから15分後にパクリタキセル(5mg/kg)を投与した場合に比べて、より有意な腫瘍退縮が生じた。いずれの時においても、Cremophor El:エタノールおよびIRL1620治療群では、対照ラットに比べて腫瘍退縮に有意差が見られなかった(データ図示なし)。
【0092】
腫瘍寛解:腫瘍が完全に消滅した完全退縮は、IRL1620+パクリタキセル(1mg/kg)(2.3%)およびIRL1620+パクリタキセル(5mg/kg)(15%)で治療したラットの2つの群でしか認められなかった(図13)。
【0093】
これらの有効性試験の結果は、IRL1620を投与すると、生理食塩水で治療したラットにパクリタキセルを投与した場合に比べて、パクリタキセルにより誘導された腫瘍容積の減少が有意に増大することを示している。5mg/kgのパクリタキセルの投与で見られる治療効果の増大は、最後の投与を行ってから30日後まで維持された。このことは、腫瘍容積増大の再発がなく、パクリタキセルの有効性を増強するIRL1620の効果が、試験の終了まで一定に維持されたことを示している。しかし、生理食塩水で治療した後にパクリタキセル(1mg/kgおよび5mg/kg)で治療すると、このような腫瘍増殖の有意な変化が生じなかった。さらに、IRL1620で治療した後にパクリタキセル(5mg/kg)で治療したラット群では、腫瘍多発が減少した。そのため、パクリタキセル(5mg/kg)の前にIRL1620を投与すると、パクリタキセルの有効性に対する有意な効果が認められる。このことは、腫瘍量、腫瘍退縮の割合、変化のない体重および多発の減少により例証される。さらに、IRL1620で治療した後にパクリタキセル1mg/kgおよび5mg/kgで治療した動物群では、その他いずれの群と比べても、それぞれ2.3%および15%の初発時の腫瘍の完全寛解が見られた。
【0094】
これらの実施例で説明した乳房腫瘍モデルの試験では、ETB受容体作動薬であるIRL1620が腫瘍の血流を有意に増加させることが明確に示されている。IRL1620を投与することにより、腫瘍の血流が増加したのに対して、対照の正常組織の灌流は変化しなかった。腫瘍灌流の増加は3時間持続した。高灌流期間中に[3H]パクリタキセルを投与すると、[3H]パクリタキセルの濃度が腫瘍組織でのみ有意に増加するが、他の臓器では増加しなかった。さらに、本実施例で説明した試験の結果からは、IRL1620を投与するとパクリタキセルの制癌効果が促進される証拠が得られている。対照ラットに比べると、パクリタキセル(5mg/kg)を3日毎に合計5回投与することにより治療したラットの腫瘍容積は、60.0%減少した。しかし、パクリタキセルを最後に投与してから1ヵ月間記録を取った結果、IRL1620を投与してから15分後にパクリタキセルを投与すると、対照ラットに比べて腫瘍容積が268.9%減少した。IRL1620を投与したラットでは、パクリタキセルのみで治療したラットに比べて、腫瘍容積が130.4%減少した。腫瘍の灌流が増加すると、栄養物質が入手しやすくなり、これらの栄養物質が腫瘍の増殖を促進する可能性がある。こうした結果は、IRL1620で治療したラットの腫瘍容積と腫瘍多発には、生理食塩水で治療したラットに比べて有意な増加が見られず、IRL1620のみを投与しても腫瘍容積と腫瘍多発に効果がもたらされなかったことを示している。
前立腺腫瘍モデル
(実施例5) 前立腺腫瘍の灌流、生体内分布、ならびにドキソルビシンおよび5‐フルオロウラシルの有効性に対するIRL1620の効果
IRL1620が乳房腫瘍モデルでパクリタキセルの有効性を増強できることを実証したことを受けて、前立腺腫瘍モデルにおけるIRL1620の効果も検証した。具体的には、IRL1620が前立腺癌腫瘍モデルでドキソルビシン(DOX)および5‐フルオロウラシル(5‐FU)の制癌効果を増強できるかどうかを検証した。
【0095】
以下に説明する前立腺腫瘍モデル試験では、体重100〜120グラムの5週齢の前立腺腫瘍保有コペンハーゲンラット(Harlan、米国インディアナ州インディアナポリス)を選択した。動物施設は、温度(23±1℃)および湿度(50±10%)の制御下にて、12時間間隔の明暗スケジュール(照明6時〜18時)で維持した。ラットをおりに3匹ずつ収容し、適宜食料と水を与えた。動物試験および試験開始前にラットが少なくとも1週間環境に順応するようにした。すべての手術および動物の管理は、イリノイ大学シカゴ校の動物ケア委員会が設定したガイドライン基づいて行った。動物施設は連邦規制に基づいて維持し、米国実験動物管理認定協会の認定を受けた。
【0096】
IRL1620は、American Peptide(米国カリフォルニア州サニーベール)から購入し、[14C]塩酸ドキソルビシン([14C]アドリアマイシン)は、GE Healthcare(英国バッキンガムシャー州)から購入し、ケタミンおよびキシラジンは、Phoenix Scientific,Inc.(米国ミズーリ州セントジョセフ)から購入した。組織可溶化剤(TS‐2)は、RPI Corp.(米国イリノイ州シカゴ)から入手した。
【0097】
ATCC(米国バージニア州マナッサス)から入手したJHU‐4(MAT‐LyLu)細胞を使用して、雄コペンハーゲンラットで前立腺腫瘍を誘導した。参考として本明細書で援用されるGaddipati et al.,J Exp Ther Oncol,4(3):203‐12(2004)を参照されたい。これらの細胞を、37℃にて5%のCO2を含有する加湿インキュベーターで、ウシ胎仔血清(10%)を補充したRPMI1640培地中に維持した。首の背側から体毛を除毛し、100μLのリン酸緩衝生理食塩水中の10,000個のJHU‐4(MAT‐LyLu)細胞を、動物に皮下(s.c.)注入して接種した。腫瘍の出現と箇所を触診により監視し、デジタルカリパスで腫瘍直径を測定した。腫瘍サイズが約200mm3に達したら、試験手順を開始した。
【0098】
灌流試験:ケタミン(100mg/kg)およびキシラジン(2mg/kg)を腹腔内(i.p.)併用注入薬として使用して、ラットを麻酔した。腫瘍部位周辺の体毛を除毛し、温度変化を最小限にするために、動物を加温パッド(37℃)の上に置いた。腫瘍組織周囲の皮膚を幅約3mm、長さ約3mm切り離し、腫瘍を露出させた。Periflux PF2b 4000レーザードップラー流量計(MP3流量プローブ、Moors Instruments、英国デボン州)に接続した標準モデルの光ファイバープローブを、露出した腫瘍の表面に設置した。時定数を1.5秒に設定し、帯域幅を4kHzに設定した。本方法によりレーザー光(束)におけるドップラー偏移が測定されるが、これは、赤血球の数と速度によって決定され、所与の組織容積における総血流に比例する。流束値はPolyviewソフトウェアを使用して得た。生理食塩水またはIRL1620の投与前に、安定した記録による15分間のベースラインを得た。動物にIRL1620(1nmol/kg、3nmol/kgまたは6nmol/kg)を最終容積0.2mLにて尾静脈を介して投与し、灌流を3時間記録した。
【0099】
図14Aおよび図14Bから分かるように、生理食塩水または1nmol/kgのIRL1620を投与しても、腫瘍保有ラットの腫瘍の血液灌流に有意な変化は全く生じなかった。3nmol/kgまたは6nmol/kgのIRL1620を投与すると、ベースラインからそれぞれ102.8%および79.12%という腫瘍血液灌流の最大の増加が生じた。この灌流の増加は、ベースライン時および生理食塩水で治療したラットに比べて15分後、30分後および60分後に有意であった(p<0.005)。そのため、IRL1620を適切に投与すると、前立腺癌動物モデルの腫瘍の血液灌流が一時的に増加する。
【0100】
生体内分布試験:腫瘍保有ラットを無作為にグループ分けし(1群当たり6匹)、生理食塩水またはIRL1620(1nmol/kg、3nmol/kgまたは6nmol/kg)を最終容積0.2mLにて尾静脈を介して投与した。次いで、生理食塩水またはIRL1620を投与してから15分後に、[14C]ドキソルビシン(1μCi/匹)を最終容積1.0mLにて各群のラットに静脈内投与した。次いで、[14C]ドキソルビシンを投与してから3時間後に、動物を屠殺し、腫瘍、心臓、脳、腎臓、肝臓、肺、骨髄、前立腺、骨格筋および脾臓における[14C]ドキソルビシンの濃度を検証した。具体的には、腫瘍および臓器を小片にスライスし、両脚の大腿骨を分離して計量し、組織可溶化剤を含有するシリンジを使用して骨髄を洗浄した。約500mgの組織または腫瘍を、組織可溶化剤(6mL)を含有する個別のバイアルに入れて、50℃の水浴中でインキュベートした。組織または腫瘍が溶解したら、水浴からバイアルを取り出し、10%の氷酢酸1.2mLを添加した。次いで、バイアルの内容物を3つのバイアルに均等に分け、15mLの液体シンチレーションカクテル(Safety Solve,RPI Corp、米国イリノイ州シカゴ)を各バイアルに添加し、一晩平衡状態に維持した。そしてチューブ内の放射能を、液体シンチレーションカウンター(Beckman Coulter、LS 6500)を使用して計数した。
【0101】
図15から分かるように、1nmol/kgのIRL1620を投与しても、腫瘍またはその他の組織における[14C]ドキソルビシンの摂取量が有意に変化することはなかった。しかし、3nmol/kgのIRL1620(増加率115.85%;p<0.01)または6nmol/kgのIRL1620(増加率80.02%;p<0.05)を投与したラットでは、生理食塩水で治療したラットに比べて、腫瘍中の[14C]ドキソルビシンの濃度が有意に増加した。IRL1620を投与しない場合には、対照動物に比べて、心臓、脳、腎臓、肝臓、肺、骨髄、前立腺、骨格筋または脾臓における[14C]ドキソルビシンの蓄積が有意に増加しなかった。そのため、IRL1620は、腫瘍組織への化学療法薬の送達を選択的に増加させることができる。
【0102】
有効性試験:ドキソルビシン(DOX)の有効性に対するIRL1620の効果
本試験では、IRL1620(N‐スクシニル‐[Glu9,Ala11,15]エンドセリンフラグメント8〜21)を、American Peptides(米国カリフォルニア州サニーベール)から入手した。塩酸ドキソルビシン(アドリアマイシン、2mg/mL溶液)は、Ben Venue Laboratories Inc.(米国オハイオ州ベッドフォード)から購入し、5‐フルオロウラシル(50mg/mL)は、Cadlia Pharmaceuticals(インド アーメダバード)から購入し、ケタミンおよびキシラジンは、Phoenix Scientific,Inc.(米国ミズーリ州セントジョセフ)から購入した。
【0103】
既述の通りに、5週齢の雄コペンハーゲンラット(Harlan、米国インディアナ州インディアナポリス)で前立腺腫瘍を誘導した。腫瘍サイズが200mm3に達したら、試験手順を開始した。腫瘍保有動物を以下の6群に無作為にグループ分けした(1群当たり8匹):
第I群:生理食塩水;
第II群:IRL1620(3nmol/kg);
第III群:ビヒクル(生理食塩水)+DOX(2.5mg/kg);
第IV群:ビヒクル(生理食塩水)+DOX(5mg/kg);
第V群:IRL1620(3nmol/kg)+DOX(2.5mg/kg);および
第VI群:IRL1620(3nmol/kg)+DOX(5mg/kg)。
【0104】
DOXを最終容積1.0mLにて生理食塩水中に希釈し、生理食塩水またはIRL1620を投与してから15分後に尾静脈を介して注入した。投与スケジュールは、3日に1回、合計4回であった。最後の投与を行ってから12日後まで3日毎に体重および腫瘍サイズを監視した。最後(4回目)の投与から12日後に、動物を屠殺し、腫瘍を分離して計量し、全体に転移がないか組織を観察した。組織および腫瘍を病理組織学分析のために10%の緩衝ホルマリン中に保存した。
【0105】
体重:生理食塩水またはIRL1620のみで治療したラット群では、体重の増加が見られた。生理食塩水またはIRL1620のみで治療した動物の試験開始始時の体重は、それぞれ152±6.97gおよび148.8±2.52gであり、試験19日目にはこれらがそれぞれ178.8±4.7gおよび175.72±2.35gに増加した。生理食塩水およびDOX、またはIRL1620およびDOXを投与したラットでは、体重の減少が見られた。最も体重が減少したのは、生理食塩水+DOX(5mg/kg)およびIRL1620+DOX(5mg/kg)で治療したラット群であり、それぞれ13日目に−8.46±3.88gおよび−10.03±2.12gであることが明らかになった。しかし、治療開始からDOXを投与された群ではすべて、いずれの時点においても体重の減少が有意でないことが明らかになった(図16A)。
【0106】
腫瘍容積:生理食塩水またはIRL1620で治療したラットの腫瘍容積は急速に増加し、これらの群のラットはすべて腫瘍量の増大により19日目に屠殺した。その他の群はすべて22日目に屠殺した。生理食塩水またはIRL1620で治療したラットは、屠殺時の腫瘍容積がそれぞれ10166±957mm3および11033±873mm3であった。生理食塩水+DOX(2.5mg/kg)および生理食塩水+DOX(5mg/kg)で治療したラットの腫瘍容積は、それぞれ9102±1442mm3および4204±299mm3であることが明らかになった。IRL1620+DOX(2.5mg/kg)で治療したラットは、5544±845mm3の腫瘍容積を記録した。最低の腫瘍容積(1965±332mm3)は、IRL1620+DOX(5mg/kg)で治療したラット群で認められた。IRL1620+DOX(5mg/kg)で治療したラットでは、生理食塩水+DOX(5mg/kg)で治療したラットに比べて、10日目、13日目、16日目、19日目および22日目における腫瘍容積の減少が有意であることが明らかになった(図16B)。
【0107】
腫瘍重量:生理食塩水、IRL1620、および生理食塩水+DOX(2.5mg/kg)で治療したラットは、屠殺時の腫瘍重量が類似していた(それぞれ19.14±1.8g、20.77±1.64g、および17.14±2.42g)。生理食塩水+DOX(5mg/kg)、IRL1620+DOX(2.5mg/kg)、およびIRL1620+DOX(5mg/kg)で治療したラットの腫瘍重量は、22日目の屠殺時にそれぞれ7.19±0.56g、10.44±1.42g、および3.31±1.64gに減少した。生理食塩水+DOX(5mg/kg)で治療したラットとIRL1620+DOX(5mg/kg)で治療したラットの間では、腫瘍重量に有意差が見られた(p<0.005)。これらの試験は、IRL1620がDOXの制癌効果を有意に増加させたことを示している(図16C)。
【0108】
有効性試験:5‐フルオロウラシル(5‐FU)の有効性に対するIRL1620の効果
追跡調査では、5‐FUの有効性に対するIRL1620の効果を検証するために、同じ手順を使用したが、但し、腫瘍保有ラットは以下の6群に無作為に割り付けた(1群当たり6匹):
第I群:生理食塩水;
第II群:IRL1620(3nmol/kg);
第III群:ビヒクル(生理食塩水)+5‐FU(25mg/kg);
第IV群:ビヒクル(生理食塩水)+5‐FU(50mg/kg);
第V群:IRL1620(3nmol/kg)+5‐FU(25mg/kg);および
第VI群:IRL1620(3nmol/kg)+5‐FU(50mg/kg)。
【0109】
5‐FUを最終容積1.0mLにて生理食塩水中に希釈し、生理食塩水またはIRL1620を投与してから15分後に尾静脈を介して注入した。投与スケジュールおよび手順は、前述のDOX試験と同じであった。
【0110】
体重:生理食塩水またはIRL1620で治療した動物の試験開始時の体重は、それぞれ172±4.87gおよび176.9±6.19gであり、16日目にはこれらがそれぞれ200.3±2.57gおよび202.2±7.28gに増加した。生理食塩水またはIRL1620で治療した動物の試験開始から16日目における体重増加率の差は、それぞれ16.17±1.64および14.19±1.66であることが明らかになった。その他の群のラットの体重は、治療開始時に類似しており、生理食塩水+5‐FU(25mg/kg)投与群が170.38±2.61g、生理食塩水+5‐FU(50mg/kg)投与群が174.6±3.45g、IRL1620+5‐FU(25mg/kg)投与群が174.7±5.78g、IRL1620+5‐FU(50mg/kg)投与群が179.45±2.53gであった。しかし、治療期間中に体重は以下の量減少した:生理食塩水+5‐FU(25mg/kg)投与群:−5.46±3.39g、生理食塩水+5‐FU(50mg/kg):−10.97±2.18g、IRL1620+5‐FU(25mg/kg)投与群:−8.27±2.31g、およびIRL1620+5‐FU(50mg/kg)投与群:−11.20±2.41g(図17A)。
【0111】
腫瘍容積:生理食塩水またはIRL1620で治療したラットでは、腫瘍サイズが急速かつ漸進的に増大し、これら群のラットはすべて腫瘍量の増大により16日目に屠殺した。生理食塩水+5‐FU(25mg/kg)を投与したラットとIRL1620+5‐FU(25mg/kg)を投与したラットの間では、腫瘍サイズに有意差が見られなかった。しかし、IRL1620+5‐FU(50mg/kg)で治療したラットでは、生理食塩水+5‐FU(50mg/kg)で治療したラットに比べて、13日目、16日目、19日目および22日目に腫瘍容積の一定の有意な減少が見られた(図17B)。
【0112】
腫瘍重量:生理食塩水またはIRL1620を投与したラットでは、16日目の屠殺時に腫瘍重量の有意差が見られなかった(重量はそれぞれ17.92±2.01gおよび19.50±2.37g)。IRL1620+5‐FU(25mg/kg)で治療したラットでは、生理食塩水+5‐FU(25mg/kg)で治療した動物に比べて、腫瘍重量が38.18%減少した。さらに、IRL1620+5‐FU(50mg/kg)で治療したラットと生理食塩水+5‐FU(50mg/kg)で治療したラットの間では、腫瘍重量に167.19%の差があった(p<0.01)(図17C)。これらの結果は、腫瘍容積と腫瘍重量を減少させる5‐FUの効果をIRL1620が有意に増加させることを示している。
【0113】
これらの試験は、IRL1620が、前立腺癌動物モデルにおいて腫瘍の血液灌流を増強し、腫瘍への化学療法薬の送達を増加させ、化学療法薬の有効性を増強するのに有効であることを総合的に実証している。
黒色腫モデル
(実施例6) 腫瘍灌流およびパクリタキセルの生体内分布に対するIRL1620の効果
以下に説明する黒色腫モデル試験では、雄のヌードマウスを使用した。すべての手術および動物の管理は、イリノイ大学シカゴ校の動物ケア委員会が設定したガイドライン基づいて行った。動物施設は、温度(23±1℃)および湿度(50±10%)の制御下にて、人工光(照明6時〜18時)を照射して維持した。動物施設は連邦規制に基づいて維持し、米国実験動物管理認定協会の認定を受けた。
【0114】
IRL1620(N‐スクシニル‐[Glu9、Ala11,15]エンドセリンフラグメント8〜21)は、Sigma Chemical Co.(米国ミズーリ州セントルイス)から入手した。[3H]パクリタキセルは、Moravek Biochemicals(米国カリフォルニア州ブレア)から購入し、パクリタキセル(6mg/mL溶液)は、Ben Venue Laboratories Inc.(米国オハイオ州ベッドフォード)から購入し、ケタミンおよびキシラジンは、Phoenix Scientific,Inc.(米国ミズーリ州セントジョセフ)から購入した。組織可溶化剤(TS‐2)は、RPI Corp.(米国イリノイ州シカゴ)から入手した。
【0115】
本試験では、細胞株を接種した移植黒色腫モデルを使用した。マウスは100万個のヒトメラノーマ細胞(UISO‐MEL‐2)を皮下接種した。本試験には、腫瘍容積が200〜400mm3であるマウスを選択した。
【0116】
灌流試験:ケタミン(150mg/kg)およびキシラジン(2mg/kg)を腹腔内併用注入薬として使用して、マウスを麻酔した(1群当たり4匹)。温度変化を最小限にするために、動物を加温パッド(37℃)の上に置いた。腫瘍周囲の皮膚を長さ10mmに切開した。Periflux PF2b 4000レーザードップラー流量計(MP3流量プローブ、Moors Instruments、英国デボン州)に接続した標準モデルの光ファイバープローブを、露出した腫瘍の表面に設置した。時定数を1.5秒に設定し、帯域幅を4kHzに設定した。流束値はPolyviewソフトウェアを使用して得た。安定した記録による15分間のベースラインを得てから、生理食塩水またはIRL1620(3nmol/kg)を尾静脈を介して投与し、灌流を3時間記録した。
【0117】
生理食塩水を投与しても、黒色腫マウスの腫瘍の血液灌流に有意な変化は全く生じなかった。IRL1620を投与してから30分後、60分後、90分後、120分後および150分後に、ベースラインからそれぞれ154.4%、189.0%、198.1%、172.8%および94.07.12%の腫瘍灌流の増加が認められた。そのため、IRL1620は、生理食塩水で治療した対照に比べて、黒色腫マウスの腫瘍の血液灌流を有意に増加させた。この効果は一時的なものであり、約2時間持続した(図18Aおよび図18B)。
【0118】
生体内分布試験:ケタミン(150mg/kg)およびキシラジン(2mg/kg)を腹腔内併用注入薬として使用して、腫瘍保有マウスを麻酔した。これらの動物を無作為にグループ分けし(1群当たり4匹)、生理食塩水またはIRL1620(3nmol/kg)を最終容積0.1mLにて尾静脈を介して投与した。また、生理食塩水またはIRL1620を投与してから15分後に、20:80の[3H]パクリタキセル:生理食塩水の濃度に希釈した[3H]パクリタキセル(50:50のCremophor ELとエタノール中で10μCi/匹)を最終容積1.0mLにて各群のマウスに(静脈内)投与した。[3H]パクリタキセルを投与してから3時間後に、動物を屠殺し、腫瘍、心臓、腎臓、肝臓、肺および脾臓で[3H]パクリタキセルの濃度を測定した。腫瘍および臓器を小片にスライスし、500mgの組織または腫瘍を、組織可溶化剤(6mL)を含有する個別のバイアルに入れて、50℃の水浴中でインキュベートした。組織または腫瘍が溶解したら、水浴からバイアルを取り出し、10%の氷酢酸1.2mLを添加した。バイアルの内容物を3つのバイアルに均等に分け、15mLの液体シンチレーションカクテル(Safety Solve、RPI Corp、米国イリノイ州シカゴ)を各バイアルに添加し、一晩平衡状態に維持した。そしてチューブ内の放射能を、液体シンチレーションカウンター(Beckman Coulter、LS6500)を使用して計数した。
【0119】
図19に示す通り、IRL1620で治療したマウスでは、生理食塩水で治療したマウスに比べて、腫瘍中の[3H]パクリタキセルの濃度が有意に増加した。生理食塩水またはIRL1620を注入した動物では、[3H]パクリタキセルを投与する15分前の腫瘍中の[3H]パクリタキセルの濃度が、それぞれ40.77nmol/g組織および274.28nmol/g組織であることが明らかになった。IRL1620で治療した動物では、ビヒクルで治療したマウスに比べて、腫瘍中の[3H]パクリタキセルの濃度が572.99%増加した。しかし、生理食塩水で治療した動物に比べると、IRL1620を投与しても、心臓、腎臓、肝臓、肺または脾臓における[3H]パクリタキセルの蓄積が有意に増加することはなかった。そのため、IRL1620は、他の臓器への送達に影響を及ぼすことなく、腫瘍組織におけるパクリタキセルの摂取量と腫瘍組織へのパクリタキセルの送達を有意に増強することができる。
【0120】
結論として、IRL1620は、腫瘍選択的な血管拡張剤として使用することができ、化学療法薬の送達および有効性を選択的に増強させるのに使用することができる。本試験では、この治療戦略を採用することによって、腫瘍組織における何十倍もの薬物濃度を達成できることが明確に示されている。最後に、ETA受容体拮抗薬はまた、腫瘍の血流を改善することも提言されており(Sonveaux et al.,Cancer Res,64:3209(2004))、本発明に基づいて腫瘍への抗癌剤の送達を増強させるのに使用することができる。
【0121】
記載の有効成分を含有する医薬組成物は、ヒトまたはその他の哺乳動物への投与に適している。通常、医薬組成物は滅菌されており、投与時に副作用を生じる毒性、発癌性または突然変異誘発性の化合物を含有しない。医薬組成物は、固形腫瘍の増殖の発症前、発症時または発症後に投与することができる。
【0122】
本発明の方法は、上述の有効成分、またはそれらの生理学的に許容される塩、誘導体、プロドラッグもしくは溶媒和物を使用して達成することができる。有効成分は、純粋な化合物、または一方もしくは両方の要素を含有する医薬組成物として投与することができる。
【0123】
医薬組成物は、有効成分が所期の目的を達成するのに有効な量投与されるものを含む。より具体的には、「治療有効量」とは、固形腫瘍の発症を予防する、固形腫瘍を除去する、固形腫瘍の進行を遅らせる、または固形腫瘍のサイズを縮小させるのに有効な量を意味する。治療有効量の決定は、特に本明細書に提供される詳細な開示内容に鑑みれば、当業者の能力の範囲に十分含まれる。
【0124】
「治療に有効な投与量」とは、所望の効果の達成をもたらす有効成分の量を指す。このような有効成分の毒性および治療効果は、細胞培養物または試験動物での標準的な薬学手順(例えば、LD50(母集団の50%が致死する投与量)およびED50(母集団の50%での治療に有効な投与量)の測定)によって測定することができる。毒性と治療効果の間の用量比は治療指数であり、LD50とED50の間の比率として表される。より高い治療指数が好ましい。得られたデータは、ヒトに使用する広範な投与量を配合するのに使用することができる。有効成分の投与量は、好ましくは毒性がほとんどまたは全くないED50を含む広範な血中濃度内に含まれる。投与量は、使用する投与形態および使用する投与経路に応じて、この範囲内で変動することがある。
【0125】
正確な配合および投与量は、患者の病態に鑑みて、個々の医師により決定される。投与量および投与間隔は、治療効果または予防効果を維持するのに十分な有効成分の濃度が得られるように、個別に調節することができる。
【0126】
投与する医薬組成物量は、治療中の被験体、被験体の体重、苦痛の重症度、投与様式、および処方医師の判断により異なる。
【0127】
有効成分は、単独で投与することもできれば、所期の投与経路および標準的な薬務を考慮して選択される医薬担体と混合して投与することもできる。そのため、本発明に基づいて使用する医薬組成物は、薬学で使用することのできる製剤への有効成分の加工を促進する補形剤および補助剤を含む1つ以上の生理学的に許容される担体を使用して、従来の方法で配合することができる。
【0128】
治療有効量の有効成分を投与すると、組成物は、ピロゲンを含まない非経口的に許容される水溶液の形態をとることができる。pH、等張性、安定性などが十分に考慮されたこのような非経口的に許容される溶液の製剤は、当該技術分野の技術範囲内に含まれる。通常、静脈注射に好ましい組成物は、等張性ビヒクルを含有するが、この特性は必ずしも必要なわけではない。
【0129】
動物に使用する場合、有効成分は、通常の獣医学診療に基づいて、適切に許容される製剤として投与される。獣医師は、特定の動物に最も適切な投与レジメンを容易に決定することができる。
【0130】
前記実施形態の種々の適応および改変は、本発明の適用範囲および趣旨から逸脱することなく実施および使用することができ、これは本明細書に具体的に記載した方法で実施することができる。上述の説明は、例示的なものとして意図され、限定的なものとして意図されない。本発明の適用範囲は、特許請求の範囲によってのみ決定されるものとする。
【0131】
本明細書で使用した用語および表現は、説明する用語として使用され、限定する用語としては使用されず、このような用語および表現の使用においては、図示および説明した特徴の等価物またはその一部を除外する意図がなく、請求される本発明の適用範囲内で種々の改変が可能であることが認められる。さらに、本発明の適用範囲を逸脱することなく、本発明のいずれかの実施形態のいずれか1つ以上の特徴を、本発明のその他いずれかの実施形態のその他いずれか1つ以上の特徴と組み合わせることができる。
【0132】
特に記載がない限り、本明細書および特許請求の範囲で使用される、成分量、特性(例えば、分子量)、反応条件などを表すすべての数値は、いずれの場合も「約」という用語によって修正されるものとして理解されるものとする。そのため、特に相反する記載がない限り、以下の明細書および添付の特許請求の範囲に示される数値パラメータは、本発明によって得ようとする所望の特性に応じて変動する場合がある近似値である。少なくとも、特許請求の範囲への均等論の適用を限定しようとすることなく、それぞれの数値パラメータは、少なくとも、報告された有効桁数に鑑みて、一般的な丸め法を適用することによって解釈されなければならない。本発明の広範な適用範囲を示す数値範囲およびパラメータは近似値であるものの、特定の実施例に示す数値は可能な限り正確に報告する。しかし、いずれの数値も、それぞれの試験測定で見られる標準偏差により必然的に生じる特定の誤差を本質的に含有する。
【0133】
本発明を説明する文脈で(特に以下の特許請求の範囲の文脈で)使用される「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「この/その/前記(the)」という用語、ならびに同様の指示語は、特に本明細書に記載がない限り、または文脈上明確に否定されない限り、単数と複数の両方を網羅するものとして解釈されるものとする。本明細書の値の範囲に関する記載は、その範囲内に含まれる個々の値を個別に言及する簡略的な方法として単に使用されることを意図するものである。特に本明細書に記載がない限り、それぞれの個々の値は、あたかも本明細書に個別に記載されているかのように、本明細書に組み込まれる。本明細書に記載の方法はすべて、特に本明細書に記載がない限り、または文脈上明確に否定されない限り、いずれの適切な手順でも実施することができる。本明細書に示すあらゆる実施例または例示的言語(例えば、「〜など」)の使用は、特に請求がない限り、単に本発明をより詳細に例示するものとして意図され、本発明の適用範囲に限定をもたらすものではない。本明細書中のいずれの言語も、請求されていないいずれかの構成要素が本発明の実施に必須のものであることを示すものとして解釈されることはない。
【0134】
本明細書に開示する本発明の他の要素または実施形態の分類は、限定として解釈されないものとする。各群の構成要素は、個々に言及および請求される場合もあれば、前記群の他の構成要素または本明細書に記載のその他の要素とのいずれかの組み合わせとして言及および請求される場合もある。一群の1つ以上の構成要素が、便宜上および/または特許上の理由で、一群に包含される場合もあれば、一群から削除される場合もあることが予想される。このような包含または削除が生じる場合、本明細書は改変された群を含有し、それによって添付の特許請求の範囲で使用されるすべてのMarkush群の書面の説明を果たすものとして見なされる。
【0135】
本明細書には、本発明者等に既知である本発明を実施するための最良形態を含めた、本発明の特定の実施形態が記載されている。当然ながら、前述の説明を一読すれば、これらの特定の実施形態における変形が当業者に明らかになるであろう。本発明者等は、このような変形を当業者が適宜使用することを予想しており、本明細書に具体的に記載した以外の方法で本発明が実施されることを意図している。そのため、本発明は、適用法で許容される本明細書に添付される特許請求の範囲に記載した主題の改変および等価物をすべて包含する。さらに、特に本明細書に記載がない限り、または文脈上明確に否定されない限り、すべての可能な変形における前述の要素の組み合わせもまたいずれも本発明に包含される。
【0136】
さらに、本明細書全体では、特許および刊行物を多数参照した。上述の参考文献および刊行物はすべて、全体が参考として本明細書で個別に援用される。
【0137】
最後に、本明細書に開示する本発明の実施形態は本発明の原理を例示するものであることが理解されるものとする。使用される場合があるその他の改変は、本発明の適用範囲内に含まれる。そのため、本発明の他の構成が、一例として限定されることなく、本明細書の教示内容に基づいて使用される場合がある。したがって、本発明は、まさに図示および記載されたものに限定されるわけではない。
【技術分野】
【0001】
関連する出願への相互参照
本願は、2006年8月2日に出願された米国特許出願第11/461,961号に対する優先権を主張する。米国特許出願第11/461,961号は、2006年2月22日に出願された米国特許出願第11/360,236号の一部において継続であり、米国特許出願第11/360,236号は、(全て2005年2月22日に出願された米国仮特許出願第60/655,656号、同第60/655,654号、および同第60/655,643号の利益を主張し、)2003年10月23日に出願された米国特許出願第10/691,915号の一部において継続である。米国特許出願第10/691,915号は、2002年10月24日に出願された米国仮特許出願第60/420,960号の利益を主張する。これら全ての出願の内容は、その全体が本明細書中に参照として援用される。
【0002】
本発明は、エンドセリン作動薬および化学療法薬を投与することにより、固形腫瘍を含めた癌の治療に寄与する方法、組成物および製造物品に関する。
【背景技術】
【0003】
腫瘍細胞の分子生物学への理解が深まり、より多くの可能性のある治療薬が得られやすくなったにもかかわらず、固形腫瘍を含めた癌の治療に成功するという医学目標は、依然として達成されていない。例えば、米国では乳癌の発生率が過去10年間で著しく上昇しており、40〜49歳の女性の1つの主要な死因となっている。
【0004】
癌治療における1つの問題は、可能性のある広範な化学療法薬が正常組織に対して非選択的にきわめて毒性の高い作用を及ぼすために、それらの薬剤の有効量を制限されている点である。その結果、多くの患者が、治療の恩恵を受けることなく、化学療法の副作用に苦しんでいる。例えば、化学療法薬であるパクリタキセルは、細胞増殖を阻害し、腫瘍細胞のアポトーシスを誘導するが、過敏症、好中球減少症、および末梢神経障害を含めた投与量の制限を招く毒性によって、パクリタキセルの臨床的有用性は阻害されてきた。そのため、より特異的で毒性の低い癌療法を開発することが必要とされている。
【0005】
化学療法薬の腫瘍への標的送達は、薬剤の全身性毒性作用を最小限に低減しながら化学療法薬の有益性を増強する利点を有すると考えられる。このような標的送達はまた、化学療法薬の必要量を低下させるのにも役立ち、それによってこれらの薬剤の許容されない副作用を低減する可能性があると考えられる。化学療法薬の標的送達を達成する可能性を持つ1つの方法は、腫瘍血管系の特異的な特徴を活用する方法である。
【0006】
大きさが数ミリメートルを超える腫瘍は、継続的な栄養供給を必要とするため、独自の血管床と血流を発達させる(非特許文献1)。発達中の血管から継続的に栄養が供給されないと、腫瘍は低酸素状態となり、その結果死亡する。既存の血管からの新規の血管系を補充することを、「血管新生」と呼ぶ。
【0007】
血管新生時に、腫瘍血管は、正常な血管系とは実質的に異なる方法で発達し、異なる特性を有する。単層の上皮細胞は、最初に急速に形成される腫瘍血管である。新規に形成される腫瘍血管は、平滑筋層や神経支配を有していない。また、腫瘍は、すべての自己調節機能を有する成熟した血管も組み込む(非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4)。
【0008】
血管緊張(血管が拡張または収縮する程度)は、H+、K+、Ca2+、pO2、PCO2、および一酸化窒素(NO)を含めた多くの内生要因、ならびにエンドセリン(ET‐1)などのその他の調整物質により支配される(非特許文献5;非特許文献6)。ET‐1は、血管緊張を調節するのに大いに寄与しており(非特許文献7)、試験者等は、乳癌を含めた固形腫瘍におけるET1およびETB受容体の発現の増大を明らかにしている(非特許文献8;非特許文献9;非特許文献10;非特許文献11;非特許文献12;非特許文献13)。さらに、ETB受容体の刺激は、腫瘍血管の血管拡張によって腫瘍への血液供給量の増加をもたらす。本発明は、化学療法薬の標的送達を増大させるために、腫瘍への血流を選択的に増加させるETB受容体作動薬を使用することによって、この事実を活用している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Folkman,Cancer Res,46:467(1986)
【非特許文献2】Mattsson et al.,Tumor Blood Circulation,CRC Press,Boca Raton,pg. 129(1979)
【非特許文献3】Reinhold,Tumor Blood Circulation,CRC Press,Boca Raton,pg.115(1979)
【非特許文献4】Warren,Tumor Blood Circulation,CRC Press,Boca Raton,pg.26(1979)
【非特許文献5】Secombe et al.,Landes,Austin,pg.40(1994)
【非特許文献6】Luscher et al.,The endothelium:modulator of cardiovascular function,CRC Press,Boca Raton,pg.61(1990)
【非特許文献7】Yanagisawa et al.,Nature,332:411(1988)
【非特許文献8】Alanen et al.,Histopathology,36:161(2000)
【非特許文献9】Nelson et al.,Cancer Res,56:663(1996)
【非特許文献10】Kar et al.,Biochem Biophys Res Commun 216:514(1995)
【非特許文献11】Pagotto et al.,J Clin Invest,96:2017(1995)
【非特許文献12】Yamashita et al.,Cancer Res,52:4046(1992)
【非特許文献13】Yamashita et al.,Res Commun Chem Pathol Pharmacol,74:363(1991)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、固形腫瘍を含めた癌の治療に寄与するエンドセリン作動薬および化学療法薬の投与を対象とする。特に、腫瘍は、結合時に血管拡張を引き起こす増加したETB受容体を含めた特有の血管系を有する。ETB受容体は血管拡張剤であることから、ETB受容体作動薬は、化学療法薬と組み合わせると、乳癌で見られるような固形腫瘍の治療に有用である。ETB受容体作動薬は、化学療法薬をより効果的に腫瘍に送達して、治療を向上させることができる。
【0011】
具体的に、本発明に基づく一実施形態は、癌の治療に寄与する方法であって、ETB作動薬および化学療法薬を投与することを含む、方法を含む。本発明に基づく方法の種々の実施形態において、ETB作動薬および化学療法薬は、実質的に同時に投与することができるか、または連続して投与する(化学療法薬をETB作動薬より前に投与するか、またはETB作動薬を化学療法薬より前に投与する)ことができる。本発明に基づく特定の実施形態において、ETB作動薬および化学療法薬が実質的に同時に投与される場合、これらは単一の組成物として投与することができる。
【0012】
本発明に基づく別の実施形態は、化学療法薬、ETB作動薬、および任意の補形剤を含む組成物を含む。本発明に基づく別の実施形態は、ETB作動薬を含む組成物、および固形腫瘍を治療するために前記組成物を化学療法薬とともに投与する方法を指示する取扱い情報を含む製造物品を含む。さらに、本発明に基づく製造物品は、1つ以上の化学療法薬を含んでもよい。本発明に基づく製造物品が1つ以上の化学療法薬を含む場合、ETB作動薬および化学療法薬は、同じ組成物の一部であってもよければ、個別の組成物として提供してもよければ、あるいはそれらのいずれであってもよい。
【0013】
本発明に基づく方法、組成物または製造物品で治療される癌には、卵巣腫瘍、結腸腫瘍、カポジ肉腫、乳房腫瘍、黒色腫、前立腺腫瘍、髄膜腫、肝臓腫瘍、乳房葉状腫瘍、およびそれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない固形腫瘍が含まれてよい。
【0014】
本発明の方法、組成物または製造物品に基づいて使用されるエンドセリンB作動薬は、固形腫瘍への血液供給量を選択的に増加させ、それによって化学療法薬の固形腫瘍への送達を増加させることができる。本発明に基づいて使用することができるエンドセリンB作動薬には、ET‐1、ET‐2、ET‐3、BQ3020、IRL1620(N‐suc‐[Glu9,Ala11,15]ET‐1(8‐21))、sarafotoxin 56c、[Ala1,3,11,15]ET‐1の1つ以上、およびそれらの組み合わせが含まれてよいが、これらに限定されない。化学療法薬には、アドリアマイシン、カンプトセシン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、アルファインターフェロン、ベータインターフェロン、ガンマインターフェロン、インターロイキン2、イリノテカン、ドセタセル、パクリタキセル、トポテカン、5‐フルオロウラシルの1つ以上、およびそれらの組み合わせが含まれてよいが、これらに限定されない。本発明に基づく特定の方法、組成物または製造物品は、パクリタキセル、ドキソルビシン、5‐フルオロウラシル、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される化学療法薬とともに、ETB作動薬としてIRL1620を含むと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】パクリタキセルにより誘導された腫瘍灌流の変化に対するIRL1620の効果を示す。
【図2】図2A〜2Eは、癌を保有しないラットと乳房腫瘍保有ラットの全身血液動態に対するET‐1の効果を示す。
【図3】図3A〜3Bは、癌を保有しないラットと乳房腫瘍保有ラットの乳房組織における血流および局所血管抵抗に対するET‐1の効果を示す。
【図4】図4A〜4Cは、癌を保有しないラットと乳房腫瘍保有ラットの乳房組織における灌流、流動する血球濃度(CMBC)、および血球速度に対するET‐1の効果を示す。
【図5】図5A〜5Cは、癌を保有しないラットと乳房腫瘍保有ラットの乳房組織における血液灌流、CMBCおよび血球速度の、ET‐1により誘導される変化に対するBQ788の効果を示す。
【図6】HPLCで測定した、正常ラットと腫瘍保有ラットにおけるパクリタキセル分析の血漿薬物動態に対するビヒクルまたはIRL1620の効果を示す。
【図7】液体シンチレーション計数で測定した、[3H]‐パクリタキセルの血漿薬物動態に対するビヒクルまたはIRL1620の効果を示す。
【図8】液体シンチレーション計数で測定した、[3H]‐パクリタキセルの血漿薬物動態に対するビヒクルまたはIRL1620の効果を示す。
【図9】図9Aおよび9Bは、レーザードップラー流量計で測定した、乳房腫瘍灌流に対するIRL1620の効果を示す。
【図10】乳房腫瘍保有ラットの腫瘍および主要組織中の[3H]パクリタキセルの濃度に対するIRL1620投与の時間依存的効果を示す。
【図11】治療開始時と比較した、乳房腫瘍保有ラットの体重差の割合を示す。
【図12】乳房腫瘍保有ラットの腫瘍容積に対するIRL1620投与の効果を示す。
【図13】乳房腫瘍保有ラットにおける腫瘍の進行、静止および退縮に対するIRL1620投与の効果を示す。
【図14】図14Aおよび図14Bは、レーザードップラー流量計で測定した、前立腺腫瘍の灌流に対する種々の投与量のIRL1620の効果(図14A)、およびIRL1620投与後の前立腺腫瘍の灌流におけるベースラインからの変化率(図14B)を示す。
【図15】前立腺腫瘍保有ラットの腫瘍および他の主要組織中の[14C]‐ドキソルビシン(DOX)の濃度に対するIRL1620の効果を示す。
【図16A】IRL1620およびDOXの投与後の前立腺腫瘍保有ラットの体重を示す。
【図16B】IRL1620およびDOXの投与後の前立腺腫瘍保有ラットの腫瘍容積を示す。
【図16C】IRL1620およびDOXの投与後の前立腺腫瘍保有ラットの腫瘍重量を示す。
【図17A】IRL1620および5‐フルオロウラシル(5‐FU)の投与後の前立腺腫瘍保有ラットの体重を示す。
【図17B】IRL1620および5‐フルオロウラシル(5‐FU)の投与後の前立腺腫瘍保有ラットの腫瘍容積を示す。
【図17C】IRL1620および5‐フルオロウラシル(5‐FU)の投与後の前立腺腫瘍保有ラットの腫瘍重量を示す。
【図18】レーザードップラー流量計で測定した、黒色腫腫瘍の灌流に対するIRL1620の効果(図18A)、およびIRL1620投与後の黒色腫腫瘍の灌流におけるベースラインからの変化率(図18B)を示す。
【図19】黒色腫腫瘍保有ラットの腫瘍および他の主要組織中の[3H]‐パクリタキセルの濃度に対するIRL1620の効果を示す。
【図20】腫瘍容積に対する放射線を照射した場合と放射線を照射しない場合の種々の濃度のIRL1620の経時的な効果を示す。比較のため、生理食塩水と放射線を使用した場合の効果と、腫瘍容積への治療を行わない場合の効果も示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
I.定義
「取扱い情報」:本明細書で使用される「取扱い情報」という用語は、製品の使用に関して医師、薬剤師および患者が詳細な説明を受けた上で決断を下すことができるようにするために必要とされる安全性および有効性データとともに、製品を投与する方法に関する説明を提供する、医薬品に添付される資料を意味するものとする。一般的に、本取扱い情報は医薬品の「ラベル」と見なされる。取扱い情報は、紙の添付文書、CD‐ROM、または医薬品に関連する情報を掲載したウェブサイトへの指示を含むがこれらに限定されない多くの形態をとることができる。
【0017】
「プロドラッグ」:本明細書で使用される「プロドラッグ」という用語は、例えば、加水分解によって本発明に有用な化合物にin vivoで急速に変換される化合物を意味するものとする。プロドラッグの詳細な考察については、Higuchi et al.,Prodrugs as Novel Delivery Systems,Vol.14,of the A.C.S.D.Symposium Series,and in Roche(ed.),Bioreversible Carriers in Drug Design,American Pharmaceutical Association and Pergamon Press,1987に示される。
【0018】
「治療する、治療、または〜の治療に寄与する」:本明細書で使用される「治療する」、「治療」、および「〜の治療に寄与する」という用語は、固形腫瘍を含めた癌の進行もしくは増殖を予防・遅延する、癌を縮小する、または癌を排除することを意味するものとする。そのため、これらの用語は、治療投与および/または予防的投与を適宜包含する。
【0019】
「実質的に同時に」:本明細書で使用される「実質的に同時に」という用語は、2つの医薬製剤(すなわち、ETB作動薬および化学療法薬)が同時に投与されることを意味するものとする。この定義によると、「同時」とは、まさに同時だけでなく、約10分以内も含むものとして解釈されるべきである。
【0020】
ほとんどの化学療法薬は、癌細胞を破壊することを標的とする細胞毒性作用を有するが、このプロセスでは生体の正常な生理学系に対しても多大な損傷を与える。そのため、固形腫瘍に化学療法薬を選択的に送達することは大変有益であり、それによってこうした癌治療の負の作用を回避するのに役立つと考えられる。
【0021】
腫瘍血管の脈管構造は、正常な血管の脈管構造と異なる(Carmeliet&Jain,Nature,407:249(2000))。そのため、腫瘍の血管反応性は、正常組織の血管反応性と異なる。例えば、一酸化窒素供与体、ニコチンアミド、およびブラジキニン作動薬の投与により、腫瘍への血流が調節される(Jordan et al.,Int J Radiat Oncol Biol Phys,48:565(2000);Fukumura et al.,Am J Pathol,150:713(1997);Hirst et al.,Br J Radiol,67:795(1994))。
【0022】
エンドセリンは、血流を調節する血管作動性物質であり、正常な乳房組織に比べて乳癌組織に高濃度で存在する(具体的に、エンドセリンは、正常な乳房組織に約0.12pg/mgの量が存在するのに対して、乳癌組織には約12pg/mgの量が存在する)(Kojima et al.,Surg Oncol,4(6):309(1995);Kurbel et al.,Med Hypotheses,52(4):329(1999);Patel et al.,Mol Cell Endocrinol,126(2):143(1997);Yamashita et al.,Cancer Res,52(14):4046(1992);Yamashita et al.,Res Commun Chem Pathol Pharmacol,74(3):363(1991))。エンドセリンは、21個のアミノ酸を有する環状ペプチドのファミリーであり、哺乳動物ではET‐1、ET‐2およびET‐3の3個のアイソフォームを含む(Inoue et al.,Proc Natl Acad Sci USA 86:2863(1989);Yanagisawa et al.,Nature,332:411(1988))。エンドセリンは、2つの異なる細胞表面受容体であるETAおよびETBに結合することによって効果を発揮する。ETB受容体は、等しい親和性を有する3個のペプチドアイソタイプを結合するのに対して、ETA受容体は、その他のアイソフォームよりも高い親和性を有するET‐1を結合する。いずれの受容体も、Gタンパク質共役受容体系に属し、成長因子、血管作動性ポリペプチド、神経伝達物質、およびホルモンを含めた種々の刺激からの生体応答を媒介する(Masaki,J Cardiovasc Pharmacol,35:S3(2000);Gulati,Preface.Adv Drug Deliv Rev,40:129(2000);Gulati et al.,Am J Physiol,273:H827(1997);Levin,N Engl J Med,333:356(1995))。正常な乳房組織に比べると、本発明の対象であるETB受容体は、内皮細胞(EC)と血管平滑筋細胞(VSMC)の両方で存在し、乳癌組織(ヒトでは、侵襲性乳癌組織ならびに乳管および小葉乳癌組織を含む)で増加する(Wulfing et al.,Oncol Rep,11:791(2004);Wulfing et al.,Clin Cancer Res,9:4125(2003);Alanen et al.,Histopathology,36(2):161(2000))。エンドセリンは、ETB受容体に作用して、血管拡張を引き起こし、乳房腫瘍組織への血流を増加させる。ECで優位に存在するETB受容体は、プロスタシクリンおよび一酸化窒素などの因子を放出することにより血管拡張を引き起こす(de Nucci et al.,Proc Natl Acad Sci USA,85:9797(1988))。ET‐1は、ETB受容体を刺激することにより腫瘍への血流を増加させることから、ETB受容体作動薬を使用することで、腫瘍への血液供給量を選択的に増加させ、それによって化学療法薬の標的送達とそれによる効果を増加させることができる。
【0023】
ETB受容体は、例えば以下に限定されないが、卵巣癌、筋線維芽細胞、カポジ肉腫および腫瘍内血管、乳癌、および黒色腫などにおいて認められている(Bagnato et al.,Am J Pathol,158:841(2001);Alanen et al.,Histopathology,36(2):161(2000);Bagnato et al.,Cancer Res,59:720(1999);Kikuchi et al.,Biochem Biophys Res Comm,219:734(1996))。そのため、ETB受容体作動薬と化学療法薬の併用投与を使用することで、卵巣癌、結腸癌、カポジ肉腫、乳癌、および黒色腫を含むがこれらに限定されない固形腫瘍の治療に寄与することができる。
【0024】
本発明に基づき有用であるETB作動薬には、ET‐1、ET‐2、ET‐3、BQ3020、IRL1620(N‐suc‐[Glu9,Ala11,15]ET‐1(8‐21))、sarafotoxin 56c、[Ala1,3,11,15]ET‐1、およびそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。[Ala1,3,11,15]ET‐1は、Cys残基の代わりにAla残基を代用することによってジスルフィド架橋が除去された、ET‐1の直鎖類似体である(Saeki et al.,Biochem Biophys Res Commun,179:286(1991))。BQ3020およびIRL1620は、ET‐1の切断された直鎖合成類似体であり、最も広く使用されている選択的合成作動薬である。IRL1620は、構造がET‐1のカルボキシ端末に基づく直鎖ET類似体であり、ETB受容体に対して120,000倍の選択性を有する(Okada&Nishikibe,Cardiovasc Drug Rev,20:53(2002);Douglas et al.,Br J Pharmacol,114:1529(1995))。IRL1620は、きわめて選択性が高く強力なETB作動薬であり、ETB2受容体サブタイプよりも優先的にETB1受容体サブタイプへの選択性を有する証拠が報告されている(Brooks et al.,J Cardiovasc Pharmacol,26 Suppl 3:S322(1995))。
【0025】
本発明に基づき有用である化学療法薬には、例えば、アルキル化剤、代謝拮抗剤、ホルモンおよびその拮抗薬、放射性同位元素、抗体、および天然産物、ならびにそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。例えば、ETB作動薬は、ドキソルビシンおよびその他のアントラサイクリン類似体などの抗生物質、シクロホスファミドなどがあるがこれに限定されないナイトロジェンマスタード、5‐フルオロウラシル、シスプラチン、ヒドロキシウレアなどがあるがこれらに限定されないピリミジン類似体、ならびにその天然および合成誘導体などとともに投与することができる。別の例として、腫瘍がゴナドトロピン依存性およびゴナドトロピン非依存性細胞を含む乳腺腺癌などの混合腫瘍の場合、ETB作動薬は、以下に限定されないが、ロイプロリドまたはゴセレリン(LH‐RHの合成ペプチド類似体)などとともに投与することができる。本発明とともに使用することができる化学療法薬のさらなる非限定的な例には、アドリアマイシン、カンプトテシン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、インターフェロン(アルファ、ベータおよび/またはガンマ)、インターロイキン2、イリノテカン、ドセタキセル、パクリタキセル、トポテカン、ならびに治療効果のある類似体およびそれらの誘導体が含まれる。
【0026】
本発明の一実施形態において、エンドセリン作動薬は、固形腫瘍の治療に寄与するために、化学療法薬とともに使用される。本方法において、エンドセリン作動薬、特にETB作動薬は、ETB受容体に豊富に存在する腫瘍への血流を増加させる。そのため、ETB作動薬は、化学療法薬に対してより選択的な標的を提供し、前記薬剤の化学治療効果を改善する。
【0027】
エンドセリン作動薬はETB受容体を刺激して、腫瘍血管を拡張し、それによって腫瘍への化学療法薬の血流とそれによる送達を増加させることが理論付けられているが、本明細書ではこれに依拠していない。また、エンドセリン作動薬によって引き起こされる腫瘍の血液灌流の増加によって、組織の酸素化も増大する。酸素化を改善することで、化学療法薬の治療的作用を向上させることができる。また、エンドセリンは有糸裂誘発性を有することができる。エンドセリンの線維芽細胞増殖作用は、エンドセリンと化学療法薬とを一緒に投与した場合に、化学療法薬の作用を増加させる助けとなる。エンドセリン作動薬の線維芽細胞増殖作用は、分割細胞への化学療法薬の組み込みを改善し、それによって化学療法薬の作用を増加させることによって、化学療法薬の作用を増加させることができる。
【0028】
化学療法は、しばしば癌治療における手術の補助療法として適応されることが多い。補助療法における化学療法の目的は、原発性腫瘍が制御された場合に再発の危険性を低減し、無病生存率を高めることである。化学療法は、しばしば疾患が転移性の場合に、癌の補助療法として使用される。そのため、ETB作動薬は、化学療法と組み合わせて固形腫瘍の治療において手術を行う前または行った後に特に有用である。
【実施例】
【0029】
乳房腫瘍モデル
(実施例1) 乳房腫瘍の灌流に対するIRL1620およびパクリタキセルの効果
正常ラットと乳房腫瘍保有ラットにおける全身血液動態とET‐1の局所回路作用を検証するために、以下の試験を実施した。
【0030】
広範な試験を行った乳房腫瘍モデルは、化学的に誘導されたラットの乳癌発症モデルである(van Zwieten,The rat as animal model in breast cancer research.Martinus Nijhoff Publishers,Boston,pg.206(1984);Dao et al.,J Natl Cancer Inst,71:201(1983);Russo et al.,J Natl Cancer Inst,61:1439(1978);Huggins et al.,Science,137(1962);Huggins et al.,Proc Natl Acad Sci USA,45:1294(1959))。ラットにおいて化学的に誘導された乳腺腫瘍形成は、ヒトの癌に最も類似したモデルである(Russo et al.,Lab Invest,62:244(1990))。組織構造の点で、ラットの乳腺は、ヒトの女性の乳腺と類似している。乳腺は、乳管および乳腺房、ならびにこの臓器の足場を形成する結合組織である基質を覆う上皮組織で形成される。これらの2つの区画は、胚発育時のほか、成年期を通して継続的に相互作用している。そのため、この自発性試験モデルが最もヒトの癌に類似していることから、このモデルを現在説明している試験のモデルとして選択した(前掲)。
【0031】
通常、化学的に誘導されたラットの乳癌形成は、7,12‐ジメチルベンゼン(a)アントラセン(DMBA)またはN‐メチルニトロソウレア(MNU)の投与により達成される(Rogers et al.,Chemically induced mammary gland tumors in rats:modulation by dietary fat.Alan R.Liss,Inc.,New York 255(1996))。DMBAまたはMNUによって誘導された腫瘍は、異なる形態学的特徴を有する。特に、MNUによって誘導された腫瘍は、乳房でより局所的に認められ、転移する可能性が低い(Macejova et al.,Endocr Regul,35:53(2001))。そのため、MNUはしばしば、ラットにおいて乳房腫瘍を特異的に誘導するための化学物質として選択される。これらの乳房腫瘍は、線維腺癌および乳頭腫とともに良性であることもあれば、悪性であることもある(van Zwieten,Martinus Nijhoff Publishers,Boston,pg.206(1984))。ラットは6組の乳腺を有し、1組は頸部に、2組は胸郭に、1組は腹部に、そして2組は鼠径部に有する(前掲;Astwood et al.,Am J Anat,61(1937))。MNUで治療したバージンラットは、腹部よりも胸郭に腫瘍を発症した(Russo et al.,Lab Invest,57:112(1987))。
【0032】
体重180〜200グラム(g)の雌のSprague Dawleyラット(Harlan Co.、米国ウィスコンシン州マディソン)を使用した。すべての動物を、温度(23±1℃)および湿度(50±10%)が制御され、人工光(6時〜18時)を照射したかごに3匹ずつ収容した。動物には適宜食料と水を与えた。試験は、少なくとも4日間動物を環境に順応させてから実施した。
【0033】
N‐メチルニトロソウレア(MNU)は、Ash Stevens Inc.(米国ミシガン州デトロイト)から購入した。IRL1620およびエンドセリン‐1(ET‐1)は、American Peptide Company Inc.(米国カリフォルニア州サニーベール)から入手した。ET‐1を0.1%のアルブミンに溶解させた。
【0034】
MNU(50mg/kg)または生理食塩水(1mL/kg)を、雌のSprague Dawleyラットに腹腔内(i.p.)投与した。腫瘍が直径約2〜4cmに達した後、血流試験を行った。
【0035】
血流試験時には、ウレタン(1.5g/kg、腹腔内)(Sigma Chemicals、米国ミズーリ州セントルイス)でラットを麻酔し、薬剤投与のために左大腿静脈にカニューレ(PE50チューブ、Clay Adams、米国ニュージャージー州パーシッパニー)を挿入した。
【0036】
動物は以下の群に分けた:
第I群:正常ラット(4匹)における生理食塩水+パクリタキセル(タキソル;3mg/kg;生理食塩水の投与から15分後)の投与;
第II群:正常ラット(4匹)におけるIRL1620(3nmol/kg)+パクリタキセル(3mg/kg;IRL1620の投与から15分後)の投与;
第III群:腫瘍保有ラット(4匹)における生理食塩水+パクリタキセル(3mg/kg;生理食塩水の投与から15分後)の投与;および
第IV群:腫瘍保有ラット(4匹)におけるIRL1620(3nmol/kg)+パクリタキセル(3mg/kg;IRL1620の投与から15分後)の投与。
【0037】
ラットの乳腺への血液灌流は、レーザードップラー流量計を使用して測定した。Song et al.,Int J Radiat Oncol Biol Phys,18:903(1990);Song et al.,Int J Radiat Oncol Biol Phys,17:1041(1989)を参照されたい。この手順で、動物の乳首周辺を除毛し、乳腺周囲の皮膚を切開した。標準モデルの光ファイバープローブを乳腺動脈に固定し、Periflux PF2b 4000レーザードップラー流量計に接続した(Perimed KB、スウェーデン ストックホルム)。時定数を1.5秒に設定し、帯域幅を4KHzに設定した。分散分析(ANOVA)を使用してデータを分析した後、Duncan試験を行い、p<0.05のレベルを有意と見なした。
【0038】
生理食塩水またはIRL1620およびパクリタキセルの投与後に、正常ラットの乳房組織への血流に変化は見られなかった。IRL1620注入後の腫瘍組織における血流(36.3%、p<0.05)と、IRL1620の後にパクリタキセルを投与した後の血流(51.9%、p<0.05)との間には、ベースラインからの有意差が認められた(図1を参照)。したがって、本試験は、IRL1620が化学療法薬の投与を含めた癌治療の重要な補助療法となり得ることを証明している。
【0039】
(実施例2) 正常ラットおよび腫瘍保有ラットの全身血液動態ならびに乳房組織への血流に対するET‐1注入の効果
試験の3ヵ月前に、MNUおよび生理食塩水の治療を腹腔内注入として行った。治療から4週間後よりラットを定期的に触診した。腫瘍が直径約4〜8mmに達したら、試験を開始した。
【0040】
ラットをウレタン(1.5g/kg、腹腔内)(Sigma Chemicals、米国ミズーリ州セントルイス)で麻酔し、すべての手術部位を除毛して、アルコールスワブで洗浄した。薬剤投与のために左大腿静脈にカニューレ(PE50チューブ、Clay Adams、米国ニュージャージー州パーシッパニー)を挿入した。左大腿動脈にカニューレ(PE50チューブ)を挿入し、採取ポンプ(モデル22、Harvard Apparatus、米国マサチューセッツ州サウスナチック)を使用して、ミクロスフェア試験での基準血液試料の採取に使用した。右大腿動脈にカニューレ(PE50チューブ)を挿入し、7PIプリアンプを介してGrassP7Dポリグラフ(Grass Instrument Co.、米国マサチューセッツ州クインシー)で血圧を記録するために、Gould P23 ID圧力変換器に接続した。血圧信号から発生した7P4B Grassタコグラフ(Grass Instrument Co.、米国マサチューセッツ州クインシー)を介して、心拍数(HR)を記録した。右頚動脈を露出させ、PE 50チューブを総頸動脈を介して左心室に誘導した。Statham P23DC圧力変換器(Grass Instrument Co.、米国マサチューセッツ州クインシー)を使用してGrassポリグラフで圧力を記録することにより、左心室におけるカニューレの存在を確認した。カニューレが左心室に達すると、拡張期血圧はゼロに下降した。血液のpO2、pCO2およびpHを一定に維持するため、かつ血圧およびHRに対する呼吸の影響を回避するため、齧歯類用人工呼吸器(モデル683、Harvard Apparatus Inc.、米国マサチューセッツ州サウスナチック)に接続した気管内カニューレを挿入することによって、動物を一定速度の人工呼吸で維持した。
【0041】
最初にラットを以下の2つの群に分け、それぞれが以下の治療の1つを受けた:
第I群:生理食塩水で治療したラット(正常ラット)(6匹)においてET‐1(50ng/kg/分)を30分間注入;および
第II群:MNUで治療したラット(50mg/kg、腹腔内;腫瘍ラット)(6匹)においてET‐1(50ng/kg/分)を30分間注入。
【0042】
ベースライン時、ならびにET‐1(50ng/kg/分)の注入を開始してから30分後、60分後および120分後に、全身血液動態および局所循環パラメータを測定した。ET‐1の注入が30分間行われたことから、30分間のデータはET‐1の効果を示し、60分間および120分間のデータはET‐1効果の持続期間を示す。
【0043】
全身血液動態および局所血液循環は、文献に記載された手順を使用して測定した。Gulati et al.,J Lab Clin Med,126:559(1995);Gulati et al.,Life Sci.,55:827(1994);Sharma et al.,Artif Cells Blood Substit Immobil Biotechnol,22:593(1994)を参照されたい。各測定時に、46Sc(スカンジウム)、113Sn(スズ)、141Ce(セリウム)、または95Nb(ニオブ)(New England Nuclear Corporation、米国マサチューセッツ州ボストン)で標識した約100,000個のミクロスフェア(直径15±1μm)を0.2mLの生理食塩水中で完全に混合した懸濁液を左心室に注入し、0.3mLの生理食塩水で15秒間洗浄した。血流を算出するため、右大腿動脈を介して0.5mL/分の速度で動脈血を採取した。ミクロスフェアを注入する約5〜10秒前より90秒間血液を採取した。
【0044】
ラットの乳腺への血液灌流は、レーザードップラー流量計を使用して測定した。Song et al.,Int J Radiat Oncol Biol Phys,18:903(1990);Song et al.,Int J Radiat Oncol Biol Phys,17:1041(1989)を参照されたい。動物の乳首周辺を除毛し、乳腺周囲の皮膚を幅約6cm×長さ約4cmの皮弁として切開した。標準モデルの光ファイバープローブを皮弁の表面に設置し、両面テープで組織に固定した。皮弁を金属ホルダーに配置し、動かないようにテープで留めた後、Periflux PF2b 4000レーザードップラー流量計(Perimed KB、スウェーデン ストックホルム)に接続した。時定数を1.5秒に設定し、帯域幅を4kHzに設定した。分散分析を使用してデータを分析した後、Duncan試験を行い、p<0.05のレベルを有意と見なした。
【0045】
試験の最後に、ペントバルビタールナトリウムを過剰投与して動物を屠殺した。すべての組織および臓器を解剖、計量し、バイアルに入れた。標準試料、血液試料および組織試料の放射能を、アイソトープエネルギーを識別する事前設定ウィンドウを備えたPackard Minaxi Auto‐Gamma 5000シリーズガンマカウンター(Packard Instruments Co.,Downers Grove,III.)で計数した。以下のパラメータを算出した:(1)心拍出量(CO)((注入した放射能×動脈血の採取率)/試料採取した動脈血の放射能)、(2)拍出量(SV)(CO/HR)、(3)全末梢血管抵抗(TPR)(平均動脈圧(MAP)/CO)、(4)局所血流((組織の放射能×動脈血の採取率)/試料採取した動脈血の放射能)、および(5)局所血管抵抗(MAP/局所血流)。データの算出には、文献に記載したコンピュータプログラムを使用した(Saxena et al.,Comput Programs Biomed,12:63(1980))。
【0046】
正常(生理食塩水で治療した)ラットのベースライン時の全身血液動態パラメータは、MAP:111.1±4.8mmHg;CO:268.6±17.6mL/分;SV:0.87±0.06mL;TPR:419.6±.24.37mmHg.分/mL;およびHR:312.5±20.2脈拍/分であった。正常ラットでは、ET‐1注入から30分後(14.5%;p<0.05)にMAPの有意な増加が認められ、120分後(17.8%;p<0.05)に減少が認められた。TPRは120分後に増加し(49.2%;p<0.05)、COは、ET‐1注入から60分後および120分後に減少し(それぞれ22.9%および42.5%;p<0.05)、SVは60分後および120分後に減少した(それぞれ20.9%および36%;p<0.05)。HRの有意な変化は認められなかった(図2A〜2E)。
【0047】
腫瘍保有(MNUで治療した)ラットのベースライン時の全身血液動態パラメータは、正常ラットのパラメータと類似していた。腫瘍ラットでは、ET‐1注入から30分後(19.1%;p<0.05)および60分後(15.3%;p<0.05)にMAPの有意な増加が認められた。TPRは、ET‐1投与から30分後(73.9%;p<0.05)、60分後(39.7%;p<0.05)、および120分後(71.4%;p<0.05)に増加した。COは、30分後、60分後および120分後に減少した(それぞれ29.4%、16.7%および36.1%;p<0.05)。SVは、30分後、60分後および120分後に有意に減少した(それぞれ31.1%、17.9%および32.1%;p<0.05)。HRの変化は認められなかった(図2A〜2E)。
【0048】
ET‐1投与後に、生理食塩水で治療した正常ラットの乳房組織への血流にも、血管抵抗にもなかった。正常(生理食塩水で治療した)ラットに比べると、腫瘍(MNUで治療した)ラットの乳房組織への血流と局所血管抵抗には有意差が認められた。正常ラットに比べると、腫瘍保有ラットの乳房組織への血流には、ET‐1投与から60分後に有意な増加(153%;p<0.05)が認められた。また、正常ラットに比べると、腫瘍保有ラットの血管抵抗は、ベースライン時(102%;p<0.05)、およびET‐1投与から60分後(147%;p<0、05)に有意差が見られた(図3A〜3B)。
【0049】
図4A〜4Cは、腫瘍保有ラットおよび正常ラットの乳房組織における灌流、流動する血球濃度(CMBC)、および赤血球(RBC)の速度の変化を示す。正常ラットの乳房組織における血液灌流は、ET‐1投与後に有意に変化しなかった。正常ラットに比べると、腫瘍ラットの乳房組織における灌流は、ET‐1投与から30分後に有意に増加した(176%;p<0.05)。腫瘍ラットの場合、この灌流の増加は、ET‐1投与から60分後および120分後にベースラインに戻った。
【0050】
正常ラットに比べると、腫瘍保有ラットのCMBCは、ET‐1投与から60分後に有意に増加した(54%;p<0.05)。CMBCは、ET‐1投与から120分後にベースラインに戻った。正常ラットに比べると、RBCの速度は、ET‐1投与から30分後に有意に増加した(252%;p<0.05)。腫瘍ラットのRBCの速度は、ET‐1投与から2時間(120分)後にベースラインに戻った(図4A〜4C)。
【0051】
別の試験では、正常ラットおよび乳房腫瘍ラットの全身血液動態ならびに乳房組織への血流における、ET‐1注入により誘導された変化に対するETB受容体の役割を評価した。BQ788(すなわち、N‐シス‐2,6‐ジメチルピペリジノカルボニル‐L‐ガンマ‐メチル‐ロイシル‐D‐1‐メトキシカルボニルトリプトファニル‐D‐ノルロイシン)は、IC50値が1.2nMであるETB受容体への結合を阻害する特異的なETB受容体拮抗薬である。そのため、BQ788を、乳房腫瘍でET‐1により誘導される血管拡張におけるETB受容体の役割を判定するのに使用した。本試験では、動物を以下の群に分けた点を除いて、先の試験で説明した方法を使用した。
第I群:生理食塩水で治療した正常ラット(5匹)においてBQ788(American Peptide Company Inc.(米国カリフォルニア州サニーベール)、0.5pmol/kgにて生理食塩水に溶解)を20分間注入した後、ET‐1(50ng/kg/分)を30分間注入;および
第II群:MNUで治療した腫瘍保有ラット(50mg/kg、腹腔内)(5匹)においてBQ788(0.5pmol/kg)を20分間注入した後、ET‐1(50ng/kg/分)を30分間注入。
【0052】
図5A〜5Cはそれぞれ、腫瘍保有ラットおよび正常ラットにおける血液灌流、CMBC、およびRBCの速度における、ET‐1により誘導された変化に対するBQ788の効果を示す。正常ラットの乳房組織における血液灌流は、BQ788の投与後にもET‐1の注入後にも有意に変化しなかった。しかし、BQ788で事前に治療したラットの場合、腫瘍保有ラットの乳房腫瘍組織における灌流は、ET‐1注入から30分後(25.25±5.7%;P<0.05)および60分後(25.17±2.8%;P<0.05)に有意に減少した。BQ788で事前に治療すると、腫瘍保有ラットにおいてET‐1により誘導される灌流の増加が緩和された。BQ788で事前に治療したラットでは、ET‐1の投与後に、腫瘍ラットと正常ラットの乳房組織における灌流の間に差が認められなかった。この結果は、ET‐1により誘導される血管拡張反応がETB受容体により媒介されることを示唆している。
【0053】
腫瘍保有ラットのベースライン時のCMBCは、正常ラットの乳房組織のベースライン時のCMBCよりも有意に高かった(42.4%;P<0.05)が、BQ788の注入後には、腫瘍保有ラットと正常ラットのCMBCの間に差が認められなかった。さらに、2群間のRBCの速度にも差は認められなかった(図5A〜5C)。
【0054】
上述の試験は、生理食塩水で治療した正常ラットとMNUで治療した腫瘍保有ラットの全身血液動態ならびに乳房組織への血流に対するET‐1の効果を示す。ET‐1は、VEGFの産生を促進することにより血管新生を刺激することが知られている。ET‐1は、乳癌(Yamashita et al.,Res Commun Chem Pathol Pharmacol,74:363(1991))、乳房葉状腫瘍(Yamashita et al.,Cancer Res,52:4046(1992))、前立腺癌(Nelson et al.,Cancer Res,56:663(1996))、肝癌(Kar et al.,Biochem Biophys Res Commun 216:514(1995))、およびいくつかの髄膜腫(Pagotto et al.,J Clin Invest,96:2017(1995))などの多くの癌組織で増加することが、試験で明らかにされている。上述の試験は、乳房腫瘍でET‐1により誘導される血管反応の変化を示す。これらの試験で使用した方法は、全身血液動態および局所血液循環を試験するために十分に確立された放射性ミクロスフェア法であった(Gulati et al.,Am J Physiol,273:H827(1997);Gulati et al.,Crit Care Med,24:137(1996);Gulati et al.,J Lab Clin Med,126:559(1995);Gulati et al.,Life Sci,55:827(1994))。
【0055】
(実施例3) パクリタキセルの薬物動態に対するIRL1620の効果
生体内の血流力学を変化させることにより、治療成分の薬物動態に有意な作用を及ぼすことができ、パクリタキセルは複雑な薬物動態学的特性を有することが知られている。例えば、Sparreboom et al.,Cancer Res 56:2112(1996a);Gianni et al.,J Natl Cancer Inst 87:1169(1995b);Sonnichsen&Relling,Clin Pharmacokinet 27:256(1994);Huizing et al.,J Clin Oncol 11:2127(1993);Brown et al.,J Clin Oncol 9:1261(1991);Longnecker et al.,Cancer Treat Rep 71:53(1987);Wiemik et al.,Cancer Res 47:2486(1987b)を参照されたい。そのため、パクリタキセルの血漿薬物動態に対するIRL1620の影響を理解することが重要である。そのため、現在説明している試験は、選択的なETB受容体作動薬であるIRL1620が、乳房腫瘍保有ラットにおけるパクリタキセルの薬物動態を変化させるか否かを判定するために実施した。
【0056】
本試験には48日齢(120〜140g)の雌のSprague Dawleyバージンラット(Harlan Co.、米国ウィスコンシン州マディソン)を使用した。到着後すぐに、すべてのラットを、温度(23±1℃)および湿度(50±10%)が制御され、人工光(6時〜18時)を照射したかごに3匹ずつ収容した。動物には適宜食料と水を与えた。試験は、少なくとも4日間動物を環境に順応させてから実施した。
【0057】
IRL1620は、Sigma‐Aldrich(米国ミズーリ州セントルイス)から購入し、パクリタキセル(6mg/mL溶液)は、Ben Venue Laboratories Inc.(米国オハイオ州ベッドフォード)から購入し、ケタミンおよびキシラジンは、Phoenix Scientific,Inc.(米国ミズーリ州セントジョセフ)から購入し、[3H]‐パクリタキセル(ImCi、6.4Ci/mmol、比放射能)は、Moravek Biochemicals(Moravek Biochemicals、米国カリフォルニア州)から購入し、ウレタンは、Sigma Aldrich(Sigma Chemicals、米国ミズーリ州セントルイス)から購入した。
【0058】
N‐メチル‐n‐ニトロソウレア(MNU)を50mg/kg腹腔内投与し、ラットを週2回触診した。腫瘍が約75〜100mm3に達したら、薬物動態試験を行った。
【0059】
HPLC‐UV試験:ウレタン(1.5mg/kg)(Sigma Chemicals、米国ミズーリ州セントルイス)を単回腹腔内注入して、ラットを麻酔した。右大腿部を除毛し、外科用消毒剤とアルコールで洗浄した。右大腿動脈と静脈を露出させ、滅菌したPE‐50チューブを挿入した。首を除毛し、外科用消毒剤とアルコールで洗浄した。頸部周辺で正中切開を行い、気管に挿管し、齧歯類用人工呼吸器(モデル683、Harvard Apparatus Inc.、米国マサチューセッツ州サウスナチック)に接続した。すべての手術は無菌条件下で実施した。感染を予防するため、ネオスポリン抗生物質クリーム(Pfizer、米国ニュージャージー州モリスプレーンズ)を創傷部に塗布した。薬剤を投与する前に45分間の回復期間を与えた。
【0060】
ラットは、正常(生理食塩水で治療した)ラットと腫瘍保有(MNUで治療した)ラットを使用した。IRL1620(3nmol/kg)または賦形剤(生理食塩水、3mL/kg)を投与してから15分後に、パクリタキセル(3mg/kg)を静脈内投与した。IRL1620の投与前に血液を収集し、ベースライン値を得た。ベースライン時、ならびにパクリタキセル投与から5分後、30分後、ならびに2時間後、6時間後および10時間後に、ラットから0.5mLの血液をヘパリンシリンジで採取した。試料を遠心分離して、血漿を採取し、分析まで−80℃で保存した。
【0061】
血漿試料中のパクリタキセルは、HPLCシステムを使用して分析した。簡潔に言うと、血漿を解凍し、13×100のガラス培養チューブで50μLの内部標準N‐シクロヘキシルベンズアミド(3mM(低検量線)、および30mM(高検量線))および3mLのエチルエーテル(Fisher Scientific、米国イリノイ州シカゴ)と混合した。この混合物を、往復式振盪培養機を使用して5分間振盪させた後、4℃、3,000rpmで5分間遠心分離した。得られた上清を13×100のホウケイ酸ガラス培養チューブに移して、湯浴(37℃)中の窒素流下で蒸発させた。残留物を移動相A(50%の脱イオン水、50%のアセトニトリル)200μLで再構成した。再構成した物質のアリコート100μL(低検量線、および静脈内投与後に収集した試料)を、227nmに設定したWaters 2487吸光度検出器に接続したWaters 2695分離モジュールを使用して、4mmのNovaPak 20×3.9mmのC18プレカラムに注入した後、4mmのNovaPak 150×3.9mmのC18カラム(Waters Associates、米国マサチューセッツ州ミルフォード)に注入した。1mL/分の流速で送出する100%の移動相Aで線形グラジエントを開始した。次いで、次の注入前にカラムから緩徐に溶出している物質を除去するため、10分〜11分後の間に移動相Aを70%まで減少させ、11分〜16分後の間に移動相Aを70%に維持した。その後、16分〜17分後まで移動相Aを100%に増加させ、3分間移動相Aを100%に維持し、合計の実行時間を20分とした。血漿中のパクリタキセルの濃度は、最小二乗線形回帰および1/xによる重み付けを使用して、N‐シクロヘキシルベンズアミドのピーク面積に対するパクリタキセルのピーク面積の比率から算出した。変動係数で測定した1日以内および数日間の変動性は10%未満であった。正常ラットと腫瘍保有ラットの血漿濃度プロファイルを比較した。
【0062】
液体シンチレーション計数試験:ケタミン(100mg/kg)とキシラジン(2mg/kg)の組み合わせを単回腹腔内注入して、ラットを麻酔した。首を除毛し、外科用消毒剤とアルコールで洗浄した。右頚動脈を露出させ、滅菌したPE‐50チューブを挿入した。頸部周辺で正中切開を行い、血液試料を採取するために左頚動脈にPE50チューブを挿入した。カテーテルの皮下トンネルを形成し、首の付け根で体外に露出させた後、外科用ステープルを使用して切開部を閉鎖した(Buehler et al.,Free Radic Biol Med 37:124(2004))。開放型チューブに釣り糸で栓をした。すべての手術は無菌条件下で実施した。感染を予防するため、ネオスポリン抗生物質クリーム(Pfizer、米国ニュージャージー州モリスプレーンズ)を創傷部に塗布した。薬剤を投与する前に45分間の回復期間を与えた。
【0063】
IRL1620を腫瘍動物に3nmol/kg静脈内投与した。[3H]‐パクリタキセル(160uCi/kg)を非標識パクリタキセルと混合した。ビヒクルまたはIRL1620を投与してから15分後に、パクリタキセルを静脈内投与した。
【0064】
ビヒクルまたはIRL1620の投与前に血漿を収集し、ベースライン値を得た。ベースライン時、1分後、5分後、15分後および30分後、ならびに1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、8時間後、12時間後および24時間後に、ラットから約0.2mLの血液をヘパリンシリンジで採取した。試料を遠心分離して、血漿を分離し、分析まで−80℃で保存した。
【0065】
血漿試料中の[3H]‐パクリタキセルの濃度は、Beckman Coulter液体シンチレーションカウンター(モデルLS6500)を使用して測定した。簡潔に言うと、血漿を解凍し、20mLの液体シンチレーションカクテルと混合して、試料を計数し、以下の公式を使用して、この数を「dpm」単位から「fmol/mL」に変換した:
fmol/mL=dpm値×崩壊因子×2.2×10‐12/10‐12×試料容量(mL)。
【0066】
fmol/mLへの変換後、非標識パクリタキセルに対する[3H]‐パクリタキセルの比率を使用して、全パクリタキセルの薬物動態を算出した。WinNonlin Pro 4.1(Pharsight Corp、米国カリフォルニア州マウンテンビュー)で実施した非コンパートメント解析とコンパートメント解析の両方を使用して、血漿中のパクリタキセルの薬物動態の推定値を測定した。
【0067】
非コンパートメント解析では、最後の測定可能濃度(Clast)の台形公式を使用して曲線下領域(AUC0‐∞)を予測し、対数線形血漿濃度対時間曲線の末端傾斜(λ)の負数でClastを除算することにより、無限大に外挿した。また、以下のパラメータも算出した。平均滞留時間(MRTiv)をλの逆数として算出し、全身クリアランス(CL)をAUC0‐∞に対する投与量の比率として算出し、見かけ上の体積分布をCLとλの比率として算出した。血漿の半減期は0.693(自然対数2)とMRTivの積として算出した。
【0068】
コンパートメント解析では、一連の非線形コンパートメントモデルを、血漿濃度対時間曲線データに適合させた。具体的には、1コンパートメントモデルと2コンパートメントモデルと3コンパートメントモデルとを比較し、統一データと予測データに基づく重み付けを試験した。モデルの最終選択は、診断プロット(実測値対予測値、および残りのプロット)であるAkaike情報基準(AIC)とSchwartz情報基準(SC)に基づいて行い、AICとSCが低いモデルを最終モデルと見なした。
【0069】
データは、一元配置分散分析(One Way ANOVA)を行った後、HPLC‐UV試験の場合はDuncan検定を、液体シンチレーション試験の場合はt検定を行うことにより分析し、p<0.05を有意と見なした。これらの薬理反応試験で測定した主な結果は、血漿中のパクリタキセルの濃度差であった。
【0070】
正常ラットまたは腫瘍保有ラットのいずれにおいても、パクリタキセルの薬物動態プロファイルは、IRL1620の投与(図6および図7)による影響を受けなかった。血漿の薬物動態プロファイルのHPLC分析は、放射性パクリタキセルのより広範囲なプロファイルと類似している。図7は、ビヒクルで治療した腫瘍保有ラットとIRL1620で治療した腫瘍保有ラットにおけるパクリタキセル放射能の薬物動態プロファイルを示す。薬物動態プロファイルは、非コンパートメント解析法とコンパートメント解析法によって分析した。
【0071】
非コンパートメント解析では、ビヒクル+パクリタキセル群の算出したAUCが、9433.53±1465.00ng*時間/mLであり、IRL1620で治療した腫瘍ラットのAUCと類似していた(p>0.05)。排出半減期は0.14±0.08時間として算出した。投与量/AUCとして算出したクリアランスは、0.56±0.07L/時/kgと推定された。クリアランス/Kelとして算出した分布容積は、10.11±4.17L/kgであった。全体としては、以下の表から分かるように、IRL1620は、パクリタキセルの薬物動態プロファイルに影響を及ぼさなかった。
【0072】
【化1】
血漿中のパクリタキセルの濃度は、血漿試料中のdpm数から算出した。3コンパートメントモデルが、パクリタキセルの薬物動態を最も良く示した。図8は、ビヒクルで治療したラットとIRL1620で治療したラットの両方について観察した薬物動態と予測した薬物動態のプロットを示す。ビヒクルで治療したラットにおけるパクリタキセルのAUCは、9.42±3.18μg‐時/mLであった。定常分布容積(Vss)は、10.31±4.54L/Kgであった。クリアランスは、0.69±0.17L/時/Kgと推定した。αt1/2、βt1/2、γt1/2は、それぞれ0.03±0.01時間、1.0±0.32時間、および25.87+17.81時間であった。平均滞留時間は、27.92±19.84時間であった。以下の表から分かるように、IRL1620治療群で推定されたこれらのパラメータは、ビヒクル治療群のパラメータとの有意な差は見られなかった。
【0073】
【化2】
本試験では、3コンパートメントモデルが、血漿中のパクリタキセルの薬物動態を最も良く示した。このモデルは、臓器中の血液灌流が高いか、中程度であるか、低いかにかかわらず、パクリタキセルが種々の臓器に分布することを示唆している。IRL1620の投与によって、パクリタキセルの分布が変化することはなかった。3コンパートメントモデルで生成した血漿の薬物動態パラメータは、ビヒクル治療群とIRL1620治療群で同等のクリアランス、分布容積および吸収体積、ならびに分布半減期および排出半減期を示した。しかし、IRL1620は、腫瘍の血液灌流と腫瘍のパクリタキセル濃度を増加させる(Rai et al.,American Association of Pharmaceutical Scientists,Pharmaceutics and Drug Delivery Conference.Philadelphia,PA(2004);Rai&Gulati,Cancer Chemother Pharmacol,51:21(2003))。そのため、IRL1620は、パクリタキセルの薬物動態プロファイルを大きく変化させることなく、腫瘍の灌流を選択的に増加させる。
【0074】
これらの試験は、IRL1620を使用してもパクリタキセルの薬物動態に影響を及ぼすことがないことを示している。多くの場合、薬物動態は、化合物の安全性の代わりになるものと考えることができる。そのため、これらの結果はまた、IRL1620の投与によってパクリタキセルの安全性が変化することがないことも示唆している。この結果、IRL1620を使用することで、パクリタキセルの有効性を改善し、重度の毒性を最小限に低減するために適切な用量を滴定することができると考えられる。
【0075】
(実施例4) IRL1620の用量応答効果、主要組織および腫瘍組織における[3H]パクリタキセルの生体内分布に対するIRL1620の効果、ならびに腫瘍状態でのパクリタキセルの有効性に対するIRL1620の効果
本実施例で説明する試験は、(a)正常ラットと腫瘍保有ラットの乳房灌流に対するETB受容体作動薬IRL1620の用量応答効果、(b)主要組織および腫瘍組織における[3H]パクリタキセルの生体内分布に対するIRL1620の効果、ならびに(3)MNUにより誘導された乳房腫瘍保有ラットの腫瘍状態でのパクリタキセルの有効性に対するIRL1620の効果を詳細に評価するために設計した。
【0076】
40日齢の雌のSprague Dawleyバージンラット(Harlan Company、米国ウィスコンシン州マディソン)を購入し、温度を23±1℃に制御したかごに2匹ずつ収容し、12時間間隔の明暗スケジュールで維持した。これらのラットには適宜水と標準の齧歯類用食料を与えた。
【0077】
IRL1620は、Sigma Chemical Co.(米国ミズーリ州セントルイス)から入手した。[3H]パクリタキセルは、Moravek Biochemicals(米国カリフォルニア州ブレア)から購入し、パクリタキセル(6mg/mL溶液)は、Ben Venue Laboratories Inc.(米国オハイオ州ベッドフォード)から購入し、ケタミンおよびキシラジンは、Phoenix Scientific,Inc.(米国ミズーリ州セントジョセフ)から購入し、組織可溶化剤(TS‐2)は、RPI Corp.(米国イリノイ州シカゴ)から購入した。
【0078】
生後48日に、各動物に50mg/kgの用量のN‐メチルニトロソウレア(MNU、Ash Stevens、米国ミシガン州デトロイト)を単回腹腔内注入した。MNUを3%の酢酸に溶解して、0.9%のNaClに希釈し(最終濃度12.5mg/mL)、調製から30分内に投与した。この治療により、発癌物質治療を行ってから約100日目に、ラットにおけるほぼ100%の乳腺腺癌の発症率が引き起こされる(Mehta,Eur J Cancer,36:1275(2000))。腫瘍の出現および箇所を、乳腺触診によって監視し、デジタルカリパスで腫瘍表面を測定した。本試験では、500〜800mm3の腫瘍を有するラットを選択した。
【0079】
灌流試験:ラットの乳房組織および腫瘍への灌流は、記述の通り、Periflux PF2b 4000レーザードップラー流量計(Perimed、スウェーデン ストックホルム)を使用して測定した。簡潔に言うと、ケタミン(100mg/kg)とキシラジン(2mg/kg)を単回腹腔内併用注入薬として使用し、ラットを麻酔した。乳首周辺の体毛を除毛し、温度変化を最小限にするために、動物を加温パッド(37℃)の上に置いた。乳腺周囲の皮膚を幅約6mm×長さ約4mmに切開した。標準モデルの光ファイバープローブ(MP3流量プローブ、Moors Instruments、英国デボン州)を露出した組織の表面に設置した後、これをPeriflux PF2b 4000レーザードップラー流量計に接続した。時定数を1.5秒に設定し、帯域幅を4kHzに設定した。本方法によりレーザー光(束)におけるドップラー偏移が測定されるが、これは、赤血球の数と速度によって決定され、所与の組織容積における総血流に比例する。流束値はPolyviewソフトウェアを使用して得た。生理食塩水またはIRL1620の投与前に、安定した記録による15分間のベースラインを得た。動物に1nmol/kg、3nmol/kgまたは9nmol/kgのIRL1620を投与し、灌流を3時間記録した。各投与量を少なくとも4匹の動物に投与した。
【0080】
腫瘍灌流に対するIRL1620の投与の効果は、一時的なものであり、投与量と関連があることが明らかになった(図9A)。3nmol/kgのIRL1620を投与してから30分後に、ベースラインから最大244.0%(p<0.001)の腫瘍灌流の増加が認められた。ベースライン時、ならびに生理食塩水で治療したラットに比べると、15分後、30分後および60分後における灌流の増加は有意であった(図9Aおよび9B)。また、ベースライン時の灌流、ならびに生理食塩水で治療したラットの灌流に比べると、1nmol/kgおよび9nmol/kgのIRL1620を投与しても、乳房腫瘍の灌流にはわずかな増加しか生じなかった。1nmol/kgおよび9nmol/kgのIRL1620を投与してからそれぞれ120分後および30分後には、最大の灌流増加(60.9%および63.3%)が記録された。しかし、生理食塩水で治療したラットに比べると、9nmol/kgのIRL1620で治療した動物では、15分後、30分後および60分後に灌流の増加が有意なものであった(図9A)。ベースライン時に比べると、腫瘍保有ラットに生理食塩水を投与しても、血液灌流の有意な変化は全く生じなかった(図9A)。また、生理食塩水、または1nmol/kg、3nmol/kgもしくは9nmol/kgのIRL1620を投与しても、雌の正常ラットにおける乳房灌流には有意な変化が全く生じなかった。(データ図示なし)。
【0081】
これらの結果は、ベースライン時ならびにビヒクルで治療したラットに比べると、3nmol/kgまたは9nmol/kgのIRL1620を投与することで、腫瘍灌流が増加することを示している。1nmol/kg、3nmol/kgおよび9nmol/kgのIRL1620のいずれを投与しても腫瘍灌流はいくらか増加するが、3nmol/kgを投与した場合に最大の効果が生じる。
【0082】
生体内分布試験:既述のように腫瘍が形成された後に、ケタミン(100mg/kg)とキシラジン(2mg/kg)を腹腔内併用注入薬として使用し、ラットを麻酔した。ラットの体重、腫瘍箇所および腫瘍容積を記録した後、動物を無作為にグループ分けし、生理食塩水またはIRL1620(3nmol/kg)のいずれかを最終容積0.2mLにて尾静脈を介して投与した。次いで、IRL1620を投与してから15分後、120分後および240分後に、[3H]パクリタキセル(50:50のCremophor EL:エタノール中40μCi/匹)を最終容積1.0mLにて各群のラットに投与した。各時点で6匹のラットを試験し、合計36匹のラットを使用した。[3H]パクリタキセルを投与してから3時間後に、動物を屠殺し、腫瘍組織、腎臓、肝臓、肺および脾臓における[3H]パクリタキセルの濃度を測定した。具体的には、腫瘍および臓器を小片にスライスし、約500mgの組織または腫瘍を、組織可溶化剤(6mL)を含有する個別のバイアルに入れて、50℃の水浴中でインキュベートした。組織または腫瘍が溶解したら、水浴からバイアルを取り出し、10%の氷酢酸1.2mLを添加した。バイアルの内容物を3つのバイアルに均等に分け、15mLの液体シンチレーションカクテル(Safety Solve、RPI Corp、米国イリノイ州シカゴ)を各バイアルに添加し、一晩平衡状態に維持した。そしてチューブ内の放射能を、液体シンチレーションカウンター(Beckman Coulter、LS 6500)を使用して計数した。
【0083】
生理食塩水で治療したラットに比べると、IRL1620(3nmol/kg)で治療したラットにおいて、腫瘍中の[3H]パクリタキセルの濃度が有意に増加した。パクリタキセル投与群では、IRL1620を投与してから15分後に最大の効果が認められた。IRL1620を投与してから15分後、120分後および240分後にパクリタキセルを投与すると、腫瘍中のパクリタキセルの濃度がそれぞれ277.1%、151.9%および34.7%増加した(図10)。対照動物に比べると、IRL1620を投与しても、肝臓、肺、腎臓および脾臓におけるパクリタキセルの蓄積が有意に変化することはなかった(図10)。
【0084】
有効性試験:腫瘍保有(MNUで治療した)動物を以下の7群に無作為にグループ分けした(1群当たり12匹):
第I群:生理食塩水;
第II群:IRL1620(3nmol/kg);
第III群:Cremophor EL:エタノール;
第IV群:ビヒクル(生理食塩水)+パクリタキセル(1mg/kg);
第V群:ビヒクル(生理食塩水)+パクリタキセル(5mg/kg);
第VI群:IRL1620(3nmol/kg)+パクリタキセル(1mg/kg);および
第VII群:IRL1620(3nmol/kg)+パクリタキセル(5mg/kg)。
【0085】
投与スケジュールは、3日に1回、合計5回の投与であった。最後の投与を行ってから3日毎に合計30日間、体重、腫瘍サイズおよび腫瘍箇所を監視した。スコアリングには以下のカテゴリーを使用した:「進行」:治療開始時に比べて腫瘍の面積が40%超増大している;「静止」:治療過程全体を通して腫瘍が初発時の面積から40%を超えて変動していない;「部分再生」:腫瘍が初発時の面積から40%を超えて退縮した;「完全寛解」:腫瘍がもはや触知または測定できない;「腫瘍多発」:治療中および30日間の観察期間中に新規腫瘍が発生する。最後(5回目)の投与から30日後に、動物を屠殺した。分散分析を使用してデータを分析した後、Duncan試験を行い、P<0.05レベルを有意と見なした。
【0086】
体重:図11には、ベースライン(治療開始前)から最後の投与より30日後までの動物の体重差の割合を示す。生理食塩水で治療した対照ラットの試験終了時点における体重の増加率は、ベースライン時の体重に比べて7.2±1.7%であった。ビヒクル+パクリタキセル(1mg/kg)、ビヒクル+パクリタキセル(5mg/kg)、IRL1620+パクリタキセル(1mg/kg)、およびIRL1620+パクリタキセル(5mg/kg)で治療した動物群では、それぞれ5.1±3.6%、9.4±2.4%、14.3±3.1%、および13.1±1.8%の体重増加が見られた(図11)。Cremophor EL:エタノールおよびIRL1620を投与された動物の体重の、ベースライン時と比較した増加率は、10%未満であった(データ図示なし)。
【0087】
腫瘍容積:種々の群の腫瘍サイズは、治療開始時点では互いに類似しており、有意差がなかった(図12)。対照ラットの腫瘍容積は急速かつ可変速度で増加した。腫瘍増殖の大きな変動は、特発的に増殖する腫瘍の不規則な増殖パターンに起因する可能性がある。30日間の観察期間が終了した時点で、対照腫瘍は、2693.4±790.9mm3の腫瘍容積を有していた。IRL1620で治療したラットも、最終腫瘍容積が2560.5±844.4mm3となる類似の発症パターンを有していた。また、Cremophor EL:エタノールで治療した場合も、最終腫瘍容積が2338±1329mm3となる類似の増殖パターンを生じた。そのため、IRL1620を投与しても、Cremophor El:エタノールを投与しても、それ自体がMNUにより誘導された乳房腫瘍の増殖に対して有意な効果を示すことはなかった(データ図示なし)。ビヒクル+パクリタキセル(1mg/kg)で治療したラットは、腫瘍サイズの拡大にわずかな減少を示した(1960.8±611.9mm3)。ビヒクル+パクリタキセル(5mg/kg)群は、対照ラットに比べて大幅な腫瘍容積の減少(1682.7±497.3mm3)を示した。また、IRL1620+パクリタキセル(1mg/kg)で治療したラットも、腫瘍サイズの減少を示した(1707.2±621.1mm3)。それに対し、IRL1620+パクリタキセル(5mg/kg)で治療した動物群では、平均腫瘍サイズの最低の減少(730.1±219.4mm3)が認められた。IRL1620の投与後に5mg/kgのパクリタキセルを3日毎に合計5回投与すると、生理食塩水+パクリタキセル(5mg/kg)を投与したラットに比べて、腫瘍容積が有意に(p<0.05)減少した(図12)。また、IRL1620+パクリタキセル(5mg/kg)投与群では、IRL1620またはCremophor EL:エタノールのいずれかで治療したラットに比べて、腫瘍容積が少ないことが明らかになった(データ図示なし)。
【0088】
腫瘍多発:すべての治療群の動物は、30日間の観察期間が終了した時点までに新規腫瘍を発生した。生理食塩水、Cremophor EL:エタノール、およびIRL1620で治療した動物では、新規腫瘍出現がそれぞれ58.4%、57.1%および60.8%増加した。ビヒクル+パクリタキセル(1mg/kgおよび5mg/kg)を投与された両動物における新規腫瘍発生率は、それぞれ78.3%および41%であった。それに対し、IRL1620+パクリタキセル(1mg/kgおよび5mg/kg)の両投与群の新規腫瘍率は、それぞれ69.2%および44.8%であった(データ図示なし)。
【0089】
腫瘍進行:進行、静止、退縮または消滅した腫瘍の割合を、既述の通りに算出した。生理食塩水治療群の腫瘍の73.5%が、初発時の腫瘍サイズから40%を超えて進行した。IRL1620(82.7%)およびCremophor EL:エタノール(80.4%)治療群では、初発時の腫瘍サイズから40%を超えて進行した腫瘍の割合が類似していた。ビヒクル+パクリタキセル(5mg/kg)群(71.4%)、ビヒクル+パクリタキセル(1mg/kg)群(61.1%)、およびIRL1620+パクリタキセル(1mg/kg)群(69%)では、進行した腫瘍の割合が前述の治療群よりも低かったが、割合が最低(40%)であったのは、IRL1620+パクリタキセル(5mg/kg)群であった(図13)。
【0090】
腫瘍静止:生理食塩水で治療したラットの腫瘍の16.9%が、静止状態を維持し、30日間が終了する時点までに40%の範囲を超えて増殖することがなかった。その他の対照群では、静止状態を維持した腫瘍の割合がこれよりも若干低かった:IRL1620(13.7%)、Cremophor EL:エタノール(15.2%)。ビヒクル+パクリタキセル(1mg/kg)(22.2%)およびビヒクル+パクリタキセル(5mg/kg)(19.5%)で治療したラットでは、静止状態を維持した腫瘍の割合が高かった。IRL1620+パクリタキセル(1mg/kg)(23.8%)およびIRL1620+パクリタキセル(5mg/kg)(26.6%)で治療したラットで、静止状態を維持した腫瘍の割合が最も高かった(図13)。
【0091】
腫瘍退縮:5mg/kgのパクリタキセルの前にIRL1620を投与すると、対照動物に比べて腫瘍の進行が有意に減少した。生理食塩水で治療したラットでは、9.2%の腫瘍が初発時の腫瘍容積から退縮した。Cremophor EL:エタノール(4.3%)、IRL1620(3.4%)、およびビヒクル+パクリタキセル(1mg/kg)(9.5%)で治療したラットは、退縮した腫瘍の割合において対照群との有意差が見られなかった。IRL1620+パクリタキセル(5mg/kg)およびビヒクル+パクリタキセル(5mg/kg)で治療したラットでは、対照ラットに比べて、5回目の投与の終了時点で腫瘍がそれぞれ76.1±10.5%および45.9±11.5%退縮した。IRL1620+パクリタキセル(5mg/kg)およびビヒクル+パクリタキセル(5mg/kg)で治療した動物では、それぞれ80.2±6.9%(p<0.05)および33.8±19.4%の退縮が見られた(図13)。IRL1620+パクリタキセル(1mg/kg)およびビヒクル+パクリタキセル(1mg/kg)群の腫瘍退縮率は、それぞれ47.1±15.4%および37.7±16.2%であることが明らかになった。IRL1620を投与してから15分後にパクリタキセル(5mg/kg)を投与すると、生理食塩水を投与してから15分後にパクリタキセル(5mg/kg)を投与した場合に比べて、より有意な腫瘍退縮が生じた。いずれの時においても、Cremophor El:エタノールおよびIRL1620治療群では、対照ラットに比べて腫瘍退縮に有意差が見られなかった(データ図示なし)。
【0092】
腫瘍寛解:腫瘍が完全に消滅した完全退縮は、IRL1620+パクリタキセル(1mg/kg)(2.3%)およびIRL1620+パクリタキセル(5mg/kg)(15%)で治療したラットの2つの群でしか認められなかった(図13)。
【0093】
これらの有効性試験の結果は、IRL1620を投与すると、生理食塩水で治療したラットにパクリタキセルを投与した場合に比べて、パクリタキセルにより誘導された腫瘍容積の減少が有意に増大することを示している。5mg/kgのパクリタキセルの投与で見られる治療効果の増大は、最後の投与を行ってから30日後まで維持された。このことは、腫瘍容積増大の再発がなく、パクリタキセルの有効性を増強するIRL1620の効果が、試験の終了まで一定に維持されたことを示している。しかし、生理食塩水で治療した後にパクリタキセル(1mg/kgおよび5mg/kg)で治療すると、このような腫瘍増殖の有意な変化が生じなかった。さらに、IRL1620で治療した後にパクリタキセル(5mg/kg)で治療したラット群では、腫瘍多発が減少した。そのため、パクリタキセル(5mg/kg)の前にIRL1620を投与すると、パクリタキセルの有効性に対する有意な効果が認められる。このことは、腫瘍量、腫瘍退縮の割合、変化のない体重および多発の減少により例証される。さらに、IRL1620で治療した後にパクリタキセル1mg/kgおよび5mg/kgで治療した動物群では、その他いずれの群と比べても、それぞれ2.3%および15%の初発時の腫瘍の完全寛解が見られた。
【0094】
これらの実施例で説明した乳房腫瘍モデルの試験では、ETB受容体作動薬であるIRL1620が腫瘍の血流を有意に増加させることが明確に示されている。IRL1620を投与することにより、腫瘍の血流が増加したのに対して、対照の正常組織の灌流は変化しなかった。腫瘍灌流の増加は3時間持続した。高灌流期間中に[3H]パクリタキセルを投与すると、[3H]パクリタキセルの濃度が腫瘍組織でのみ有意に増加するが、他の臓器では増加しなかった。さらに、本実施例で説明した試験の結果からは、IRL1620を投与するとパクリタキセルの制癌効果が促進される証拠が得られている。対照ラットに比べると、パクリタキセル(5mg/kg)を3日毎に合計5回投与することにより治療したラットの腫瘍容積は、60.0%減少した。しかし、パクリタキセルを最後に投与してから1ヵ月間記録を取った結果、IRL1620を投与してから15分後にパクリタキセルを投与すると、対照ラットに比べて腫瘍容積が268.9%減少した。IRL1620を投与したラットでは、パクリタキセルのみで治療したラットに比べて、腫瘍容積が130.4%減少した。腫瘍の灌流が増加すると、栄養物質が入手しやすくなり、これらの栄養物質が腫瘍の増殖を促進する可能性がある。こうした結果は、IRL1620で治療したラットの腫瘍容積と腫瘍多発には、生理食塩水で治療したラットに比べて有意な増加が見られず、IRL1620のみを投与しても腫瘍容積と腫瘍多発に効果がもたらされなかったことを示している。
前立腺腫瘍モデル
(実施例5) 前立腺腫瘍の灌流、生体内分布、ならびにドキソルビシンおよび5‐フルオロウラシルの有効性に対するIRL1620の効果
IRL1620が乳房腫瘍モデルでパクリタキセルの有効性を増強できることを実証したことを受けて、前立腺腫瘍モデルにおけるIRL1620の効果も検証した。具体的には、IRL1620が前立腺癌腫瘍モデルでドキソルビシン(DOX)および5‐フルオロウラシル(5‐FU)の制癌効果を増強できるかどうかを検証した。
【0095】
以下に説明する前立腺腫瘍モデル試験では、体重100〜120グラムの5週齢の前立腺腫瘍保有コペンハーゲンラット(Harlan、米国インディアナ州インディアナポリス)を選択した。動物施設は、温度(23±1℃)および湿度(50±10%)の制御下にて、12時間間隔の明暗スケジュール(照明6時〜18時)で維持した。ラットをおりに3匹ずつ収容し、適宜食料と水を与えた。動物試験および試験開始前にラットが少なくとも1週間環境に順応するようにした。すべての手術および動物の管理は、イリノイ大学シカゴ校の動物ケア委員会が設定したガイドライン基づいて行った。動物施設は連邦規制に基づいて維持し、米国実験動物管理認定協会の認定を受けた。
【0096】
IRL1620は、American Peptide(米国カリフォルニア州サニーベール)から購入し、[14C]塩酸ドキソルビシン([14C]アドリアマイシン)は、GE Healthcare(英国バッキンガムシャー州)から購入し、ケタミンおよびキシラジンは、Phoenix Scientific,Inc.(米国ミズーリ州セントジョセフ)から購入した。組織可溶化剤(TS‐2)は、RPI Corp.(米国イリノイ州シカゴ)から入手した。
【0097】
ATCC(米国バージニア州マナッサス)から入手したJHU‐4(MAT‐LyLu)細胞を使用して、雄コペンハーゲンラットで前立腺腫瘍を誘導した。参考として本明細書で援用されるGaddipati et al.,J Exp Ther Oncol,4(3):203‐12(2004)を参照されたい。これらの細胞を、37℃にて5%のCO2を含有する加湿インキュベーターで、ウシ胎仔血清(10%)を補充したRPMI1640培地中に維持した。首の背側から体毛を除毛し、100μLのリン酸緩衝生理食塩水中の10,000個のJHU‐4(MAT‐LyLu)細胞を、動物に皮下(s.c.)注入して接種した。腫瘍の出現と箇所を触診により監視し、デジタルカリパスで腫瘍直径を測定した。腫瘍サイズが約200mm3に達したら、試験手順を開始した。
【0098】
灌流試験:ケタミン(100mg/kg)およびキシラジン(2mg/kg)を腹腔内(i.p.)併用注入薬として使用して、ラットを麻酔した。腫瘍部位周辺の体毛を除毛し、温度変化を最小限にするために、動物を加温パッド(37℃)の上に置いた。腫瘍組織周囲の皮膚を幅約3mm、長さ約3mm切り離し、腫瘍を露出させた。Periflux PF2b 4000レーザードップラー流量計(MP3流量プローブ、Moors Instruments、英国デボン州)に接続した標準モデルの光ファイバープローブを、露出した腫瘍の表面に設置した。時定数を1.5秒に設定し、帯域幅を4kHzに設定した。本方法によりレーザー光(束)におけるドップラー偏移が測定されるが、これは、赤血球の数と速度によって決定され、所与の組織容積における総血流に比例する。流束値はPolyviewソフトウェアを使用して得た。生理食塩水またはIRL1620の投与前に、安定した記録による15分間のベースラインを得た。動物にIRL1620(1nmol/kg、3nmol/kgまたは6nmol/kg)を最終容積0.2mLにて尾静脈を介して投与し、灌流を3時間記録した。
【0099】
図14Aおよび図14Bから分かるように、生理食塩水または1nmol/kgのIRL1620を投与しても、腫瘍保有ラットの腫瘍の血液灌流に有意な変化は全く生じなかった。3nmol/kgまたは6nmol/kgのIRL1620を投与すると、ベースラインからそれぞれ102.8%および79.12%という腫瘍血液灌流の最大の増加が生じた。この灌流の増加は、ベースライン時および生理食塩水で治療したラットに比べて15分後、30分後および60分後に有意であった(p<0.005)。そのため、IRL1620を適切に投与すると、前立腺癌動物モデルの腫瘍の血液灌流が一時的に増加する。
【0100】
生体内分布試験:腫瘍保有ラットを無作為にグループ分けし(1群当たり6匹)、生理食塩水またはIRL1620(1nmol/kg、3nmol/kgまたは6nmol/kg)を最終容積0.2mLにて尾静脈を介して投与した。次いで、生理食塩水またはIRL1620を投与してから15分後に、[14C]ドキソルビシン(1μCi/匹)を最終容積1.0mLにて各群のラットに静脈内投与した。次いで、[14C]ドキソルビシンを投与してから3時間後に、動物を屠殺し、腫瘍、心臓、脳、腎臓、肝臓、肺、骨髄、前立腺、骨格筋および脾臓における[14C]ドキソルビシンの濃度を検証した。具体的には、腫瘍および臓器を小片にスライスし、両脚の大腿骨を分離して計量し、組織可溶化剤を含有するシリンジを使用して骨髄を洗浄した。約500mgの組織または腫瘍を、組織可溶化剤(6mL)を含有する個別のバイアルに入れて、50℃の水浴中でインキュベートした。組織または腫瘍が溶解したら、水浴からバイアルを取り出し、10%の氷酢酸1.2mLを添加した。次いで、バイアルの内容物を3つのバイアルに均等に分け、15mLの液体シンチレーションカクテル(Safety Solve,RPI Corp、米国イリノイ州シカゴ)を各バイアルに添加し、一晩平衡状態に維持した。そしてチューブ内の放射能を、液体シンチレーションカウンター(Beckman Coulter、LS 6500)を使用して計数した。
【0101】
図15から分かるように、1nmol/kgのIRL1620を投与しても、腫瘍またはその他の組織における[14C]ドキソルビシンの摂取量が有意に変化することはなかった。しかし、3nmol/kgのIRL1620(増加率115.85%;p<0.01)または6nmol/kgのIRL1620(増加率80.02%;p<0.05)を投与したラットでは、生理食塩水で治療したラットに比べて、腫瘍中の[14C]ドキソルビシンの濃度が有意に増加した。IRL1620を投与しない場合には、対照動物に比べて、心臓、脳、腎臓、肝臓、肺、骨髄、前立腺、骨格筋または脾臓における[14C]ドキソルビシンの蓄積が有意に増加しなかった。そのため、IRL1620は、腫瘍組織への化学療法薬の送達を選択的に増加させることができる。
【0102】
有効性試験:ドキソルビシン(DOX)の有効性に対するIRL1620の効果
本試験では、IRL1620(N‐スクシニル‐[Glu9,Ala11,15]エンドセリンフラグメント8〜21)を、American Peptides(米国カリフォルニア州サニーベール)から入手した。塩酸ドキソルビシン(アドリアマイシン、2mg/mL溶液)は、Ben Venue Laboratories Inc.(米国オハイオ州ベッドフォード)から購入し、5‐フルオロウラシル(50mg/mL)は、Cadlia Pharmaceuticals(インド アーメダバード)から購入し、ケタミンおよびキシラジンは、Phoenix Scientific,Inc.(米国ミズーリ州セントジョセフ)から購入した。
【0103】
既述の通りに、5週齢の雄コペンハーゲンラット(Harlan、米国インディアナ州インディアナポリス)で前立腺腫瘍を誘導した。腫瘍サイズが200mm3に達したら、試験手順を開始した。腫瘍保有動物を以下の6群に無作為にグループ分けした(1群当たり8匹):
第I群:生理食塩水;
第II群:IRL1620(3nmol/kg);
第III群:ビヒクル(生理食塩水)+DOX(2.5mg/kg);
第IV群:ビヒクル(生理食塩水)+DOX(5mg/kg);
第V群:IRL1620(3nmol/kg)+DOX(2.5mg/kg);および
第VI群:IRL1620(3nmol/kg)+DOX(5mg/kg)。
【0104】
DOXを最終容積1.0mLにて生理食塩水中に希釈し、生理食塩水またはIRL1620を投与してから15分後に尾静脈を介して注入した。投与スケジュールは、3日に1回、合計4回であった。最後の投与を行ってから12日後まで3日毎に体重および腫瘍サイズを監視した。最後(4回目)の投与から12日後に、動物を屠殺し、腫瘍を分離して計量し、全体に転移がないか組織を観察した。組織および腫瘍を病理組織学分析のために10%の緩衝ホルマリン中に保存した。
【0105】
体重:生理食塩水またはIRL1620のみで治療したラット群では、体重の増加が見られた。生理食塩水またはIRL1620のみで治療した動物の試験開始始時の体重は、それぞれ152±6.97gおよび148.8±2.52gであり、試験19日目にはこれらがそれぞれ178.8±4.7gおよび175.72±2.35gに増加した。生理食塩水およびDOX、またはIRL1620およびDOXを投与したラットでは、体重の減少が見られた。最も体重が減少したのは、生理食塩水+DOX(5mg/kg)およびIRL1620+DOX(5mg/kg)で治療したラット群であり、それぞれ13日目に−8.46±3.88gおよび−10.03±2.12gであることが明らかになった。しかし、治療開始からDOXを投与された群ではすべて、いずれの時点においても体重の減少が有意でないことが明らかになった(図16A)。
【0106】
腫瘍容積:生理食塩水またはIRL1620で治療したラットの腫瘍容積は急速に増加し、これらの群のラットはすべて腫瘍量の増大により19日目に屠殺した。その他の群はすべて22日目に屠殺した。生理食塩水またはIRL1620で治療したラットは、屠殺時の腫瘍容積がそれぞれ10166±957mm3および11033±873mm3であった。生理食塩水+DOX(2.5mg/kg)および生理食塩水+DOX(5mg/kg)で治療したラットの腫瘍容積は、それぞれ9102±1442mm3および4204±299mm3であることが明らかになった。IRL1620+DOX(2.5mg/kg)で治療したラットは、5544±845mm3の腫瘍容積を記録した。最低の腫瘍容積(1965±332mm3)は、IRL1620+DOX(5mg/kg)で治療したラット群で認められた。IRL1620+DOX(5mg/kg)で治療したラットでは、生理食塩水+DOX(5mg/kg)で治療したラットに比べて、10日目、13日目、16日目、19日目および22日目における腫瘍容積の減少が有意であることが明らかになった(図16B)。
【0107】
腫瘍重量:生理食塩水、IRL1620、および生理食塩水+DOX(2.5mg/kg)で治療したラットは、屠殺時の腫瘍重量が類似していた(それぞれ19.14±1.8g、20.77±1.64g、および17.14±2.42g)。生理食塩水+DOX(5mg/kg)、IRL1620+DOX(2.5mg/kg)、およびIRL1620+DOX(5mg/kg)で治療したラットの腫瘍重量は、22日目の屠殺時にそれぞれ7.19±0.56g、10.44±1.42g、および3.31±1.64gに減少した。生理食塩水+DOX(5mg/kg)で治療したラットとIRL1620+DOX(5mg/kg)で治療したラットの間では、腫瘍重量に有意差が見られた(p<0.005)。これらの試験は、IRL1620がDOXの制癌効果を有意に増加させたことを示している(図16C)。
【0108】
有効性試験:5‐フルオロウラシル(5‐FU)の有効性に対するIRL1620の効果
追跡調査では、5‐FUの有効性に対するIRL1620の効果を検証するために、同じ手順を使用したが、但し、腫瘍保有ラットは以下の6群に無作為に割り付けた(1群当たり6匹):
第I群:生理食塩水;
第II群:IRL1620(3nmol/kg);
第III群:ビヒクル(生理食塩水)+5‐FU(25mg/kg);
第IV群:ビヒクル(生理食塩水)+5‐FU(50mg/kg);
第V群:IRL1620(3nmol/kg)+5‐FU(25mg/kg);および
第VI群:IRL1620(3nmol/kg)+5‐FU(50mg/kg)。
【0109】
5‐FUを最終容積1.0mLにて生理食塩水中に希釈し、生理食塩水またはIRL1620を投与してから15分後に尾静脈を介して注入した。投与スケジュールおよび手順は、前述のDOX試験と同じであった。
【0110】
体重:生理食塩水またはIRL1620で治療した動物の試験開始時の体重は、それぞれ172±4.87gおよび176.9±6.19gであり、16日目にはこれらがそれぞれ200.3±2.57gおよび202.2±7.28gに増加した。生理食塩水またはIRL1620で治療した動物の試験開始から16日目における体重増加率の差は、それぞれ16.17±1.64および14.19±1.66であることが明らかになった。その他の群のラットの体重は、治療開始時に類似しており、生理食塩水+5‐FU(25mg/kg)投与群が170.38±2.61g、生理食塩水+5‐FU(50mg/kg)投与群が174.6±3.45g、IRL1620+5‐FU(25mg/kg)投与群が174.7±5.78g、IRL1620+5‐FU(50mg/kg)投与群が179.45±2.53gであった。しかし、治療期間中に体重は以下の量減少した:生理食塩水+5‐FU(25mg/kg)投与群:−5.46±3.39g、生理食塩水+5‐FU(50mg/kg):−10.97±2.18g、IRL1620+5‐FU(25mg/kg)投与群:−8.27±2.31g、およびIRL1620+5‐FU(50mg/kg)投与群:−11.20±2.41g(図17A)。
【0111】
腫瘍容積:生理食塩水またはIRL1620で治療したラットでは、腫瘍サイズが急速かつ漸進的に増大し、これら群のラットはすべて腫瘍量の増大により16日目に屠殺した。生理食塩水+5‐FU(25mg/kg)を投与したラットとIRL1620+5‐FU(25mg/kg)を投与したラットの間では、腫瘍サイズに有意差が見られなかった。しかし、IRL1620+5‐FU(50mg/kg)で治療したラットでは、生理食塩水+5‐FU(50mg/kg)で治療したラットに比べて、13日目、16日目、19日目および22日目に腫瘍容積の一定の有意な減少が見られた(図17B)。
【0112】
腫瘍重量:生理食塩水またはIRL1620を投与したラットでは、16日目の屠殺時に腫瘍重量の有意差が見られなかった(重量はそれぞれ17.92±2.01gおよび19.50±2.37g)。IRL1620+5‐FU(25mg/kg)で治療したラットでは、生理食塩水+5‐FU(25mg/kg)で治療した動物に比べて、腫瘍重量が38.18%減少した。さらに、IRL1620+5‐FU(50mg/kg)で治療したラットと生理食塩水+5‐FU(50mg/kg)で治療したラットの間では、腫瘍重量に167.19%の差があった(p<0.01)(図17C)。これらの結果は、腫瘍容積と腫瘍重量を減少させる5‐FUの効果をIRL1620が有意に増加させることを示している。
【0113】
これらの試験は、IRL1620が、前立腺癌動物モデルにおいて腫瘍の血液灌流を増強し、腫瘍への化学療法薬の送達を増加させ、化学療法薬の有効性を増強するのに有効であることを総合的に実証している。
黒色腫モデル
(実施例6) 腫瘍灌流およびパクリタキセルの生体内分布に対するIRL1620の効果
以下に説明する黒色腫モデル試験では、雄のヌードマウスを使用した。すべての手術および動物の管理は、イリノイ大学シカゴ校の動物ケア委員会が設定したガイドライン基づいて行った。動物施設は、温度(23±1℃)および湿度(50±10%)の制御下にて、人工光(照明6時〜18時)を照射して維持した。動物施設は連邦規制に基づいて維持し、米国実験動物管理認定協会の認定を受けた。
【0114】
IRL1620(N‐スクシニル‐[Glu9、Ala11,15]エンドセリンフラグメント8〜21)は、Sigma Chemical Co.(米国ミズーリ州セントルイス)から入手した。[3H]パクリタキセルは、Moravek Biochemicals(米国カリフォルニア州ブレア)から購入し、パクリタキセル(6mg/mL溶液)は、Ben Venue Laboratories Inc.(米国オハイオ州ベッドフォード)から購入し、ケタミンおよびキシラジンは、Phoenix Scientific,Inc.(米国ミズーリ州セントジョセフ)から購入した。組織可溶化剤(TS‐2)は、RPI Corp.(米国イリノイ州シカゴ)から入手した。
【0115】
本試験では、細胞株を接種した移植黒色腫モデルを使用した。マウスは100万個のヒトメラノーマ細胞(UISO‐MEL‐2)を皮下接種した。本試験には、腫瘍容積が200〜400mm3であるマウスを選択した。
【0116】
灌流試験:ケタミン(150mg/kg)およびキシラジン(2mg/kg)を腹腔内併用注入薬として使用して、マウスを麻酔した(1群当たり4匹)。温度変化を最小限にするために、動物を加温パッド(37℃)の上に置いた。腫瘍周囲の皮膚を長さ10mmに切開した。Periflux PF2b 4000レーザードップラー流量計(MP3流量プローブ、Moors Instruments、英国デボン州)に接続した標準モデルの光ファイバープローブを、露出した腫瘍の表面に設置した。時定数を1.5秒に設定し、帯域幅を4kHzに設定した。流束値はPolyviewソフトウェアを使用して得た。安定した記録による15分間のベースラインを得てから、生理食塩水またはIRL1620(3nmol/kg)を尾静脈を介して投与し、灌流を3時間記録した。
【0117】
生理食塩水を投与しても、黒色腫マウスの腫瘍の血液灌流に有意な変化は全く生じなかった。IRL1620を投与してから30分後、60分後、90分後、120分後および150分後に、ベースラインからそれぞれ154.4%、189.0%、198.1%、172.8%および94.07.12%の腫瘍灌流の増加が認められた。そのため、IRL1620は、生理食塩水で治療した対照に比べて、黒色腫マウスの腫瘍の血液灌流を有意に増加させた。この効果は一時的なものであり、約2時間持続した(図18Aおよび図18B)。
【0118】
生体内分布試験:ケタミン(150mg/kg)およびキシラジン(2mg/kg)を腹腔内併用注入薬として使用して、腫瘍保有マウスを麻酔した。これらの動物を無作為にグループ分けし(1群当たり4匹)、生理食塩水またはIRL1620(3nmol/kg)を最終容積0.1mLにて尾静脈を介して投与した。また、生理食塩水またはIRL1620を投与してから15分後に、20:80の[3H]パクリタキセル:生理食塩水の濃度に希釈した[3H]パクリタキセル(50:50のCremophor ELとエタノール中で10μCi/匹)を最終容積1.0mLにて各群のマウスに(静脈内)投与した。[3H]パクリタキセルを投与してから3時間後に、動物を屠殺し、腫瘍、心臓、腎臓、肝臓、肺および脾臓で[3H]パクリタキセルの濃度を測定した。腫瘍および臓器を小片にスライスし、500mgの組織または腫瘍を、組織可溶化剤(6mL)を含有する個別のバイアルに入れて、50℃の水浴中でインキュベートした。組織または腫瘍が溶解したら、水浴からバイアルを取り出し、10%の氷酢酸1.2mLを添加した。バイアルの内容物を3つのバイアルに均等に分け、15mLの液体シンチレーションカクテル(Safety Solve、RPI Corp、米国イリノイ州シカゴ)を各バイアルに添加し、一晩平衡状態に維持した。そしてチューブ内の放射能を、液体シンチレーションカウンター(Beckman Coulter、LS6500)を使用して計数した。
【0119】
図19に示す通り、IRL1620で治療したマウスでは、生理食塩水で治療したマウスに比べて、腫瘍中の[3H]パクリタキセルの濃度が有意に増加した。生理食塩水またはIRL1620を注入した動物では、[3H]パクリタキセルを投与する15分前の腫瘍中の[3H]パクリタキセルの濃度が、それぞれ40.77nmol/g組織および274.28nmol/g組織であることが明らかになった。IRL1620で治療した動物では、ビヒクルで治療したマウスに比べて、腫瘍中の[3H]パクリタキセルの濃度が572.99%増加した。しかし、生理食塩水で治療した動物に比べると、IRL1620を投与しても、心臓、腎臓、肝臓、肺または脾臓における[3H]パクリタキセルの蓄積が有意に増加することはなかった。そのため、IRL1620は、他の臓器への送達に影響を及ぼすことなく、腫瘍組織におけるパクリタキセルの摂取量と腫瘍組織へのパクリタキセルの送達を有意に増強することができる。
【0120】
結論として、IRL1620は、腫瘍選択的な血管拡張剤として使用することができ、化学療法薬の送達および有効性を選択的に増強させるのに使用することができる。本試験では、この治療戦略を採用することによって、腫瘍組織における何十倍もの薬物濃度を達成できることが明確に示されている。最後に、ETA受容体拮抗薬はまた、腫瘍の血流を改善することも提言されており(Sonveaux et al.,Cancer Res,64:3209(2004))、本発明に基づいて腫瘍への抗癌剤の送達を増強させるのに使用することができる。
【0121】
記載の有効成分を含有する医薬組成物は、ヒトまたはその他の哺乳動物への投与に適している。通常、医薬組成物は滅菌されており、投与時に副作用を生じる毒性、発癌性または突然変異誘発性の化合物を含有しない。医薬組成物は、固形腫瘍の増殖の発症前、発症時または発症後に投与することができる。
【0122】
本発明の方法は、上述の有効成分、またはそれらの生理学的に許容される塩、誘導体、プロドラッグもしくは溶媒和物を使用して達成することができる。有効成分は、純粋な化合物、または一方もしくは両方の要素を含有する医薬組成物として投与することができる。
【0123】
医薬組成物は、有効成分が所期の目的を達成するのに有効な量投与されるものを含む。より具体的には、「治療有効量」とは、固形腫瘍の発症を予防する、固形腫瘍を除去する、固形腫瘍の進行を遅らせる、または固形腫瘍のサイズを縮小させるのに有効な量を意味する。治療有効量の決定は、特に本明細書に提供される詳細な開示内容に鑑みれば、当業者の能力の範囲に十分含まれる。
【0124】
「治療に有効な投与量」とは、所望の効果の達成をもたらす有効成分の量を指す。このような有効成分の毒性および治療効果は、細胞培養物または試験動物での標準的な薬学手順(例えば、LD50(母集団の50%が致死する投与量)およびED50(母集団の50%での治療に有効な投与量)の測定)によって測定することができる。毒性と治療効果の間の用量比は治療指数であり、LD50とED50の間の比率として表される。より高い治療指数が好ましい。得られたデータは、ヒトに使用する広範な投与量を配合するのに使用することができる。有効成分の投与量は、好ましくは毒性がほとんどまたは全くないED50を含む広範な血中濃度内に含まれる。投与量は、使用する投与形態および使用する投与経路に応じて、この範囲内で変動することがある。
【0125】
正確な配合および投与量は、患者の病態に鑑みて、個々の医師により決定される。投与量および投与間隔は、治療効果または予防効果を維持するのに十分な有効成分の濃度が得られるように、個別に調節することができる。
【0126】
投与する医薬組成物量は、治療中の被験体、被験体の体重、苦痛の重症度、投与様式、および処方医師の判断により異なる。
【0127】
有効成分は、単独で投与することもできれば、所期の投与経路および標準的な薬務を考慮して選択される医薬担体と混合して投与することもできる。そのため、本発明に基づいて使用する医薬組成物は、薬学で使用することのできる製剤への有効成分の加工を促進する補形剤および補助剤を含む1つ以上の生理学的に許容される担体を使用して、従来の方法で配合することができる。
【0128】
治療有効量の有効成分を投与すると、組成物は、ピロゲンを含まない非経口的に許容される水溶液の形態をとることができる。pH、等張性、安定性などが十分に考慮されたこのような非経口的に許容される溶液の製剤は、当該技術分野の技術範囲内に含まれる。通常、静脈注射に好ましい組成物は、等張性ビヒクルを含有するが、この特性は必ずしも必要なわけではない。
【0129】
動物に使用する場合、有効成分は、通常の獣医学診療に基づいて、適切に許容される製剤として投与される。獣医師は、特定の動物に最も適切な投与レジメンを容易に決定することができる。
【0130】
前記実施形態の種々の適応および改変は、本発明の適用範囲および趣旨から逸脱することなく実施および使用することができ、これは本明細書に具体的に記載した方法で実施することができる。上述の説明は、例示的なものとして意図され、限定的なものとして意図されない。本発明の適用範囲は、特許請求の範囲によってのみ決定されるものとする。
【0131】
本明細書で使用した用語および表現は、説明する用語として使用され、限定する用語としては使用されず、このような用語および表現の使用においては、図示および説明した特徴の等価物またはその一部を除外する意図がなく、請求される本発明の適用範囲内で種々の改変が可能であることが認められる。さらに、本発明の適用範囲を逸脱することなく、本発明のいずれかの実施形態のいずれか1つ以上の特徴を、本発明のその他いずれかの実施形態のその他いずれか1つ以上の特徴と組み合わせることができる。
【0132】
特に記載がない限り、本明細書および特許請求の範囲で使用される、成分量、特性(例えば、分子量)、反応条件などを表すすべての数値は、いずれの場合も「約」という用語によって修正されるものとして理解されるものとする。そのため、特に相反する記載がない限り、以下の明細書および添付の特許請求の範囲に示される数値パラメータは、本発明によって得ようとする所望の特性に応じて変動する場合がある近似値である。少なくとも、特許請求の範囲への均等論の適用を限定しようとすることなく、それぞれの数値パラメータは、少なくとも、報告された有効桁数に鑑みて、一般的な丸め法を適用することによって解釈されなければならない。本発明の広範な適用範囲を示す数値範囲およびパラメータは近似値であるものの、特定の実施例に示す数値は可能な限り正確に報告する。しかし、いずれの数値も、それぞれの試験測定で見られる標準偏差により必然的に生じる特定の誤差を本質的に含有する。
【0133】
本発明を説明する文脈で(特に以下の特許請求の範囲の文脈で)使用される「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「この/その/前記(the)」という用語、ならびに同様の指示語は、特に本明細書に記載がない限り、または文脈上明確に否定されない限り、単数と複数の両方を網羅するものとして解釈されるものとする。本明細書の値の範囲に関する記載は、その範囲内に含まれる個々の値を個別に言及する簡略的な方法として単に使用されることを意図するものである。特に本明細書に記載がない限り、それぞれの個々の値は、あたかも本明細書に個別に記載されているかのように、本明細書に組み込まれる。本明細書に記載の方法はすべて、特に本明細書に記載がない限り、または文脈上明確に否定されない限り、いずれの適切な手順でも実施することができる。本明細書に示すあらゆる実施例または例示的言語(例えば、「〜など」)の使用は、特に請求がない限り、単に本発明をより詳細に例示するものとして意図され、本発明の適用範囲に限定をもたらすものではない。本明細書中のいずれの言語も、請求されていないいずれかの構成要素が本発明の実施に必須のものであることを示すものとして解釈されることはない。
【0134】
本明細書に開示する本発明の他の要素または実施形態の分類は、限定として解釈されないものとする。各群の構成要素は、個々に言及および請求される場合もあれば、前記群の他の構成要素または本明細書に記載のその他の要素とのいずれかの組み合わせとして言及および請求される場合もある。一群の1つ以上の構成要素が、便宜上および/または特許上の理由で、一群に包含される場合もあれば、一群から削除される場合もあることが予想される。このような包含または削除が生じる場合、本明細書は改変された群を含有し、それによって添付の特許請求の範囲で使用されるすべてのMarkush群の書面の説明を果たすものとして見なされる。
【0135】
本明細書には、本発明者等に既知である本発明を実施するための最良形態を含めた、本発明の特定の実施形態が記載されている。当然ながら、前述の説明を一読すれば、これらの特定の実施形態における変形が当業者に明らかになるであろう。本発明者等は、このような変形を当業者が適宜使用することを予想しており、本明細書に具体的に記載した以外の方法で本発明が実施されることを意図している。そのため、本発明は、適用法で許容される本明細書に添付される特許請求の範囲に記載した主題の改変および等価物をすべて包含する。さらに、特に本明細書に記載がない限り、または文脈上明確に否定されない限り、すべての可能な変形における前述の要素の組み合わせもまたいずれも本発明に包含される。
【0136】
さらに、本明細書全体では、特許および刊行物を多数参照した。上述の参考文献および刊行物はすべて、全体が参考として本明細書で個別に援用される。
【0137】
最後に、本明細書に開示する本発明の実施形態は本発明の原理を例示するものであることが理解されるものとする。使用される場合があるその他の改変は、本発明の適用範囲内に含まれる。そのため、本発明の他の構成が、一例として限定されることなく、本明細書の教示内容に基づいて使用される場合がある。したがって、本発明は、まさに図示および記載されたものに限定されるわけではない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌の治療に寄与する方法であって、エンドセリンB(ETB)作動薬および化学療法薬を投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記癌が固形腫瘍である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固形腫瘍が、卵巣腫瘍、結腸腫瘍、カポジ肉腫、乳房腫瘍、黒色腫、前立腺腫瘍、髄膜腫、肝臓腫瘍、乳房葉状腫瘍、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ETB作動薬が、ET‐1、ET‐2、ET‐3、BQ3020、IRL1620(N‐suc‐[Glu9,Ala11,15]ET‐1(8‐21))、sarafotoxin 56c、[Ala1,3,11,15]ET‐1、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記化学療法薬が、アドリアマイシン、カンプトテシン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、アルファインターフェロン、ベータインターフェロン、ガンマインターフェロン、インターロイキン2、イリノテカン、ドセタキセル、パクリタキセル、トポテカン、5‐フルオロウラシル、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ETB作動薬が前記固形腫瘍への血液供給量を選択的に増加させる、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記腫瘍への前記血液供給量の増加が、前記固形腫瘍への前記化学療法薬の送達を増加させる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ETB作動薬および前記化学療法薬が実質的に同時に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ETB作動薬および前記化学療法薬が単一の組成物として投与される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ETB作動薬および前記化学療法薬が連続して投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記化学療法薬が前記ETB作動薬の前に投与されるか、または前記ETB作動薬が前記化学療法薬の前に投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
化学療法薬、ETB作動薬、および任意の補形剤を含む組成物。
【請求項13】
ETB作動薬を含む組成物、および固形腫瘍を治療するために前記組成物を化学療法薬とともに投与する方法を指示する取扱い情報を含む、製造物品。
【請求項14】
前記化学療法薬もさらに含む、請求項13に記載の製造物品。
【請求項15】
前記ETB作動薬および前記化学療法薬が同じ組成物の一部であるか、別の組成物として提供されるかのいずれか、またはそれらの両方である、請求項14に記載の製造物品。
【請求項16】
前記ETB作動薬が、ET‐1、ET‐2、ET‐3、BQ3020、IRL1620(N‐suc‐[Glu9,Ala11,15]ET‐1(8‐21))、sarafotoxin 56c、[Ala1,3,11,15]ET‐1、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項14に記載の製造物品。
【請求項17】
前記ETB作動薬がIRL1620である、請求項14に記載の製造物品。
【請求項18】
前記化学療法薬が、アドリアマイシン、カンプトテシン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、アルファインターフェロン、ベータインターフェロン、ガンマインターフェロン、インターロイキン2、イリノテカン、ドセタキセル、パクリタキセル、トポテカン、5‐フルオロウラシル、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項14に記載の製造物品。
【請求項19】
前記化学療法薬がパクリタキセルである、請求項14に記載の製造物品。
【請求項20】
前記ETB作動薬がIRL1620であり、前記化学療法薬がパクリタキセル、ドキソルビシン、5‐フルオロウラシル、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項14に記載の製造物品。
【請求項1】
癌の治療に寄与する方法であって、エンドセリンB(ETB)作動薬および化学療法薬を投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記癌が固形腫瘍である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固形腫瘍が、卵巣腫瘍、結腸腫瘍、カポジ肉腫、乳房腫瘍、黒色腫、前立腺腫瘍、髄膜腫、肝臓腫瘍、乳房葉状腫瘍、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ETB作動薬が、ET‐1、ET‐2、ET‐3、BQ3020、IRL1620(N‐suc‐[Glu9,Ala11,15]ET‐1(8‐21))、sarafotoxin 56c、[Ala1,3,11,15]ET‐1、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記化学療法薬が、アドリアマイシン、カンプトテシン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、アルファインターフェロン、ベータインターフェロン、ガンマインターフェロン、インターロイキン2、イリノテカン、ドセタキセル、パクリタキセル、トポテカン、5‐フルオロウラシル、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ETB作動薬が前記固形腫瘍への血液供給量を選択的に増加させる、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記腫瘍への前記血液供給量の増加が、前記固形腫瘍への前記化学療法薬の送達を増加させる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ETB作動薬および前記化学療法薬が実質的に同時に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ETB作動薬および前記化学療法薬が単一の組成物として投与される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ETB作動薬および前記化学療法薬が連続して投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記化学療法薬が前記ETB作動薬の前に投与されるか、または前記ETB作動薬が前記化学療法薬の前に投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
化学療法薬、ETB作動薬、および任意の補形剤を含む組成物。
【請求項13】
ETB作動薬を含む組成物、および固形腫瘍を治療するために前記組成物を化学療法薬とともに投与する方法を指示する取扱い情報を含む、製造物品。
【請求項14】
前記化学療法薬もさらに含む、請求項13に記載の製造物品。
【請求項15】
前記ETB作動薬および前記化学療法薬が同じ組成物の一部であるか、別の組成物として提供されるかのいずれか、またはそれらの両方である、請求項14に記載の製造物品。
【請求項16】
前記ETB作動薬が、ET‐1、ET‐2、ET‐3、BQ3020、IRL1620(N‐suc‐[Glu9,Ala11,15]ET‐1(8‐21))、sarafotoxin 56c、[Ala1,3,11,15]ET‐1、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項14に記載の製造物品。
【請求項17】
前記ETB作動薬がIRL1620である、請求項14に記載の製造物品。
【請求項18】
前記化学療法薬が、アドリアマイシン、カンプトテシン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、アルファインターフェロン、ベータインターフェロン、ガンマインターフェロン、インターロイキン2、イリノテカン、ドセタキセル、パクリタキセル、トポテカン、5‐フルオロウラシル、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項14に記載の製造物品。
【請求項19】
前記化学療法薬がパクリタキセルである、請求項14に記載の製造物品。
【請求項20】
前記ETB作動薬がIRL1620であり、前記化学療法薬がパクリタキセル、ドキソルビシン、5‐フルオロウラシル、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項14に記載の製造物品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図16C】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図16C】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【図18】
【図19】
【図20】
【公表番号】特表2009−545609(P2009−545609A)
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−522936(P2009−522936)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【国際出願番号】PCT/US2007/074036
【国際公開番号】WO2008/016793
【国際公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(506311677)スペクトラム ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド (8)
【出願人】(503060525)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ イリノイ (25)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【国際出願番号】PCT/US2007/074036
【国際公開番号】WO2008/016793
【国際公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(506311677)スペクトラム ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド (8)
【出願人】(503060525)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ イリノイ (25)
【Fターム(参考)】
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