説明

癌の診断および治療のための方法および組成物

本発明は、結腸直腸腫瘍組織、特に大腸および胃腫瘍組織、ならびに結腸直腸組織、特に大腸および胃組織の特徴を示し、被験者におけるそのような腫瘍性疾患の治療または診断のための標的である、核酸およびアミノ酸配列の同定に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の診断および治療のための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
消化器癌(消化器系の癌)は、食道、胆嚢、肝臓、膵臓、胃、小腸、大腸(結腸)および直腸の癌を含む。いくつかの形態の消化器癌は、毎年新たに診断されるすべての癌の約20%にのぼる。
【0003】
結腸直腸癌は、結腸、直腸および虫垂における癌性増殖物を含む。結腸直腸癌は3番目に典型的な形態の癌であり、西欧諸国における癌関連死亡の2番目の主要原因である。合わせると、結腸および直腸癌は男性における癌の10%および女性における癌の11%を占める。男性と女性の両方が罹患する2番目に多い部位特異的癌である。多くの結腸直腸癌は大腸における腺腫様ポリープから生じると考えられる。これらのキノコ様新生物は通常良性であるが、一部は時間をかけて癌へと成長し得る。結腸直腸癌はしばしば、根治目的の手術を妨げる転移性疾患として現れる。患者の20%超は診断の時点で転移性(IV期)結腸直腸癌を呈しており、この群の25%までが、潜在的に切除可能な孤立性肝転移を有する。
【0004】
結腸の癌または結腸癌は、大腸の最初の最も長い部分の内層または上皮における悪性細胞の発現を特徴とする疾患である。悪性細胞は、増殖を支配する正常な制御機構を喪失している。これらの細胞は周囲の局所組織に浸潤し得るか、または身体全体に広がって他の器官系を浸潤し得る。大腸癌は、この疾患を発症する人々の約80%において散発的に生じると考えられる。20%の人々は遺伝的素因を有すると考えられ、これは、彼らの遺伝子が疾患の要因を担持することを意味する。若齢でもしくは多数の部位での大腸癌の発症、または再発性大腸癌は、散発性形態と異なり、遺伝的に伝播された形態の疾患を示唆する。
【0005】
結腸直腸癌のスクリーニングは、理学的検査、簡単な臨床検査、および大腸の内層の視覚化を含む。大腸上皮を視覚化するために、臨床医はX線(間接視覚化)および内視鏡検査(直接視覚化)を用いる。
【0006】
タンパク質が時として癌によって産生され、それらは患者の血液中で上昇し得る。これが起こる場合、産生されるタンパク質は腫瘍マーカーとして知られる。いくつかの大腸癌について腫瘍マーカーが存在する;これは癌胎児性抗原またはCEAとして知られる。残念ながら、このタンパク質は他の腺癌によっても生成され得るか、または特定の大腸癌によって産生されない可能性がある。そのため、CEAについての化学的分析によるスクリーニングは有用ではなかった。CEAは、患者の腫瘍がタンパク質を生成する場合に、結腸癌を治療された患者についてのフォローアップの役割で使用されたとき有用であった。
【0007】
結腸直腸癌の治療は癌の病期分類に依存する。大腸癌は、以下の一般的判定基準に基づいてI期からIV期に割り当てられる。I期:腫瘍が上皮に限局されるかまたは腸壁の筋の第一層を貫通していない;II期:腫瘍が大腸の外壁を貫通しているかまたはそれを越えており、場合により他の局所組織に浸潤している;III期:所属リンパ節転移を伴うあらゆる深さまたは大きさの腫瘍;IV期:遠隔転移を伴う先の基準のいずれか。
【0008】
結腸直腸癌が早期に発見された場合は(ほとんど拡散なし)治癒可能であり得る。しかし、後期に検出された場合は(遠隔転移が存在する場合)、治癒の可能性は低くなる。個々の患者の病期および他の医学的因子に依存して化学療法および/または放射線療法が推奨され得るが、手術は依然として第一の治療である。
【0009】
手術は、進行したIII期腫瘍で起こり得るように、局所浸潤のために腫瘍の完全な除去が不可能である徴候がない限り、I期からIII期の大腸癌のための一次治療として使用される。しかし、この状況はまれであり、すべての大腸癌症例の2%未満でしか発生しない。
【0010】
大腸癌の外科治療は、通常、大腸の関与する区域をその血液供給および所属リンパ節と共に切除すること(大腸切除術)を含む。通常、部分的大腸切除術は、血液供給に基づき右、左、横行またはS状大腸切開に分けられる。血液供給をその起始部で、それに付随する所属リンパ節と共に切除することは、原発腫瘍の両側に正常な大腸の適切な境界を確保する。癌が、血液供給とリンパドレナージが主要脈管の2つの間にあるような位置に存在する場合は、完全な根治的切除または除去(拡大根治的右または左大腸切除術)を確実にするために両方の脈管を取り除く。原発腫瘍が腸壁を貫通している場合は、腫瘍浸潤に隣接するいかなる組織も、実施可能であれば、同時に切除する。
【0011】
化学療法は、すべての同定可能な腫瘍を除去されており、再発の危険性がある患者のために有用である(補助化学療法)。化学療法はまた、癌がIV期であり、局所治療の範囲を超えている場合にも使用され得るが、この使用はまれである。
【0012】
補助療法は、深部貫通を有するII期疾患またはIII期患者において考慮される。標準的な療法は、ロイコボリンと組み合わせた5−フルオロウラシル(5FU)による6〜12か月間の治療である。5FUは代謝拮抗剤であり、ロイコボリンは応答率を改善する(応答は、化学療法による癌の一次的な退縮である)。もう1つの薬剤、レバミゾール(免疫系を刺激すると思われる)をロイコボリンの代わりに使用してもよい。これらのプロトコールは、再発率を約15%低下させ、死亡率を約10%低下させる。このレジメンは多少の毒性を有するが、通常はかなり良好に耐容される。
【0013】
同様の化学療法は、IV期疾患に対してまたは患者が進行し、転移を発現した場合に投与され得る。結果は約20%の応答率を示す。残念ながら、これらの患者は最終的には疾患のために死亡に至り、この化学療法はIV期患者における生存を延長させない、またはクオリティ・オブ・ライフを改善しないと考えられる。臨床試験は、現在、このレジメンにもう1つ別の薬剤を追加することによって結果が改善され得ることを示している。イリノテカンは毒性を上昇させないと思われるが、応答率を39%に改善し、疾患のない生存期間を2〜3か月間追加し、全体的な生存期間を2か月強延長させた。
【0014】
放射線療法は、術後に局所的な再発の潜在的可能性が懸念され、懸念される領域が放射線に耐える場合に手術の補助治療として使用される。例えば、腫瘍が腹壁の筋を浸潤しているが、完全には除去されなかった場合、この領域は放射線が考慮される。小腸および大腸はあまり放射線を耐容しないので、残存する腸が暴露される場合は放射線に重要な線量限度が課せられる。
【0015】
放射線はまた、転移性疾患を有する患者の治療においても使用される。脳への転移性結腸癌を収縮させるのに特に有用である。
【0016】
非結腸直腸消化器癌は、膵癌、肝胆管癌、胃癌、小腸癌および食道癌を含む。非結腸直腸消化器癌の治療は、多くの場合、手術、放射線療法および化学療法を組み合わせた集約的アプローチを含む。
【0017】
胃癌または胃癌腫とも呼ばれる、胃の癌は、局所段階で発見され治療された場合は、しばしば治癒し得る治療可能な疾患である。胃癌は、どのような種類の組織で始まったかによって分類される。最も典型的なタイプは、胃の内側を覆う腺組織において発生する。これらの腫瘍は腺癌と呼ばれ、すべての胃腫瘍の95%超を占める。血流を介した転移は、肝臓、肺、骨および脳に広がり得る。転移はまた、腹腔(腹膜)の内層および直腸の周囲でも認められる。
【0018】
胃癌の理想的な治療は根治手術であり、胃の大部分または全部を、周囲のリンパ節と共に切除すること(胃部分切除術または胃全切除術)を意味する。根治手術は治癒を導くことができる唯一の治療であるが、より小さな外科手術も、症状を緩和するために設計された療法において重要な役割を果たし得る。放射線および化学療法も治療の選択肢である。
【0019】
免疫系は、2つの別個の様式:自然免疫と獲得免疫を介して細胞を認識し、破壊する能力を有する。自然免疫の成分は、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球および顆粒球から成る。これらの細胞は、細胞形質転換に関与する分子パターンを同定し、様々なサイトカインおよび炎症メディエーターを放出する。自然応答は、獲得免疫応答に存在する特徴である、外来性抗原についての記憶能力を欠く。免疫系のこの後者の成分はまた、リンパ球上の受容体の存在によって与えられる、外来性抗原に対する特異性を特徴とする。抗原提示細胞(APCs)も獲得応答において役割を果たす−それらは外来性抗原を取り込み、主要組織適合遺伝子複合体に関連してリンパ球にそれらを提示する。CD4+T細胞は、MHCクラスII分子に関連して抗原を認識する受容体を担持し、前記分子はその後、細胞がサイトカインを放出し、さらにCD8+リンパ球(CTLs)またはB細胞を活性化することを可能にする。CTLsは細胞媒介性免疫の一部であり、MHCクラスI分子に関連して提示される細胞を、アポトーシスまたはパーフォリン媒介性細胞溶解を介して排除することができる。T細胞媒介性免疫が抗腫瘍応答において極めて重要な役割を果たすことは広く認められている。
【0020】
B細胞は免疫グロブリンの放出に関与し、それ自体、体液性免疫系の一部である。
【0021】
正しい方向に向けられ、増強された場合、免疫機能は、悪性病変を制御し、さらには根絶するために治療的に利用できる。発癌に関与する遺伝的および後成的変化は、微生物抗原に対するのと類似の方法で免疫系によって認識される抗原を生成する。
【0022】
樹状細胞(DCs)による能動免疫、腫瘍細胞へのサイトカインの遺伝子導入または免疫刺激性モノクローナル抗体の投与などの、結腸直腸癌の治療のための新規戦略は前臨床試験において評価されており、早期臨床開発段階にある。重要な点として、化学療法と免疫療法を、結腸直腸癌を有する一部の症例の治療において組み合わせることができ、樹状細胞によって交差提示される抗原および/または競合性もしくは抑制性Tリンパ球集団(調節性T細胞)の排除の結果として相乗的増強作用を生じることの証拠が蓄積しつつある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
結腸直腸腫瘍、特に大腸腫瘍および胃腫瘍ならびにそれらに由来する転移性腫瘍の、遺伝子マーカーおよび標的に関する必要性において、これらの特異的で信頼できる、感受性の高い診断および治療アプローチの設計を可能にすることが必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、結腸直腸腫瘍、特に大腸腫瘍および胃腫瘍ならびにそれらに由来する転移性腫瘍の治療および診断に関する。特に、本発明は、結腸直腸腫瘍および胃腫瘍上に存在し、これらの疾患の診断および治療アプローチのための標的として機能することができる分子構造体の同定に関する。
【0025】
本発明は、結腸直腸腫瘍組織、特に大腸および胃腫瘍組織、ならびに結腸直腸組織、特に結腸および胃組織の特徴を示し、被験者におけるそのような腫瘍性疾患の治療または診断のための標的である、核酸およびアミノ酸配列の同定に関する。
【0026】
これらの配列は、それらの配列が予防および治療用ワクチンを含む腫瘍ワクチンの調製において有用であり得るために、細胞の形質膜中に存在することが同定され、細胞外領域でアクセス可能なタンパク質を包含する。
【0027】
腫瘍細胞において発現されることが本発明によって同定される核酸は、配列表の配列番号:1に従った核酸配列または前記核酸配列の変異体を含む。好ましくは、腫瘍細胞において発現されることが本発明によって同定される核酸は、配列表の配列番号:2に従ったアミノ酸配列または前記アミノ酸配列の変異体を含むペプチドをコードする。これらの核酸はまた、本明細書では「腫瘍関連核酸」または単に「腫瘍核酸」とも称される。
【0028】
もう1つの態様において本発明は、本明細書では「腫瘍関連抗原」または単に「腫瘍抗原」とも称される、本発明によって同定される腫瘍核酸によってコードされるペプチドに関する。従って、本発明によって同定される腫瘍抗原は、配列表の配列番号:1に従った核酸配列または前記核酸配列の変異体を含む核酸によってコードされるアミノ酸配列を含む。好ましくは、本発明によって同定される腫瘍抗原は、配列表の配列番号:2に従ったアミノ酸配列または前記アミノ酸配列の変異体を含む。
【0029】
1つの態様において本発明は、本明細書では「腫瘍抗原ペプチド」とも称される、本発明によって同定される腫瘍抗原の配列に由来するアミノ酸配列を含むペプチドを提供する。好ましくは、本発明の腫瘍抗原ペプチドは、MHCクラスIと共に本発明によって同定される腫瘍抗原を提示する性質を有する細胞に対する細胞応答を刺激することができる、および/またはそれ自体でもしくは免疫原性担体に結合して使用された場合、本発明によって同定される腫瘍抗原に特異的に結合する抗体を惹起することができる。好ましい腫瘍抗原ペプチドは、直接または処理後に、MHCクラスI分子と共に提示され得る。好ましくは、本発明による腫瘍抗原ペプチドは、MHCクラスIおよび/もしくはクラスII提示ペプチドであるか、またはプロセッシングされてMHCクラスIおよび/もしくはクラスII提示ペプチドを生じ得る。好ましくは、本発明による腫瘍抗原ペプチドは、本発明によって同定される腫瘍抗原のフラグメントのアミノ酸配列に実質的に対応するアミノ酸配列を含む。好ましくは、本発明によって同定される腫瘍抗原の前記フラグメントは、MHCクラスIおよび/もしくはクラスII提示ペプチドであるか、または前記フラグメントに結合する抗体を惹起することができる免疫原である。好ましくは本発明による腫瘍抗原ペプチドは、そのようなフラグメントのアミノ酸配列に実質的に対応するアミノ酸配列を含み、そのようなフラグメント、すなわち本発明によって同定される腫瘍抗原に由来するMHCクラスIおよび/もしくはクラスII提示ペプチド、または前記フラグメントに結合する抗体を惹起することができる本発明によって同定される腫瘍抗原に由来する免疫原を生じるように処理される。従って、本発明による腫瘍抗原ペプチドは、配列表の配列番号:1に従った核酸配列または前記核酸配列の変異体を含む核酸によってコードされるアミノ酸配列を含む腫瘍抗原のフラグメントのアミノ酸配列に実質的に対応するアミノ酸配列を含み、好ましくは配列表の配列番号:2に従ったアミノ酸配列または前記アミノ酸配列の変異体を含む腫瘍抗原のフラグメントのアミノ酸配列に実質的に対応するアミノ酸配列を含む。
【0030】
本発明は、一般に、腫瘍核酸または腫瘍抗原を標的することによる腫瘍性疾患の治療および/または診断を包含する。これらの方法は、そのような腫瘍核酸および/または腫瘍抗原を発現する細胞の選択的検出および/または前記細胞の根絶を提供し、それによってそのような腫瘍核酸および/または腫瘍抗原を発現しない正常細胞への有害作用を最小限に抑える。従って、治療または診断のための好ましい疾患は、腫瘍性疾患、特に本明細書で述べるような癌疾患などの、本発明によって同定される腫瘍核酸および/または腫瘍抗原の1またはそれ以上が発現される疾患である。
【0031】
本発明によれば、本発明によって同定される腫瘍抗原を標的するのに特に適するのは、腫瘍抗原の非膜貫通部分、特に細胞外部分に対応するまたはそれから構成される、腫瘍抗原の一部である。それ故、本発明によって同定される腫瘍抗原に結合することができる、本発明によって使用される構成要素は、好ましくは、腫瘍抗原の非膜貫通部分、特に細胞外部分に対応するまたはそれから構成される、本発明によって同定される腫瘍抗原の一部に結合することができる。同様に、本発明によって同定される腫瘍抗原に特異性を有する免疫応答を誘導するために本発明によって使用されるペプチドおよび核酸は、好ましくは、腫瘍抗原の非膜貫通部分、特に細胞外部分に対応するまたはそれから構成される、本発明によって同定される腫瘍抗原の一部に対する特異性を誘導する。好ましくは、前記ペプチドは、腫瘍抗原の非膜貫通部分、特に細胞外部分に対応するまたはそれから構成される、本発明によって同定される腫瘍抗原の一部に実質的に対応する配列を含み、前記核酸はそのようなペプチドをコードする。
【0032】
本発明の1つの態様は、本発明によって同定される腫瘍抗原の発現および/または活性の阻害剤の投与を含む、腫瘍性疾患、特に大腸腫瘍および胃腫瘍などの結腸直腸腫瘍の治療のための療法に関する。
【0033】
この態様において本発明は、本発明によって同定される腫瘍抗原の発現および/または活性の阻害剤を含有する医薬組成物に関する。1つの実施形態では、前記阻害剤は本発明によって同定される腫瘍核酸に特異的である。もう1つの実施形態では、前記阻害剤は本発明によって同定される腫瘍抗原に特異的である。本発明によれば、「発現および/または活性を阻害する」という語句は、発現および/または活性の完全なまたは基本的に完全な阻害ならびに発現および/または活性の低減を含む。好ましくは、本発明によって同定される腫瘍抗原の発現の前記阻害は、本発明によって同定される腫瘍抗原をコードする転写産物、すなわちmRNAの産生を阻害するもしくはそのレベルを低下させることによって、例えば転写を阻害するもしくは転写産物の分解を誘導することによって、および/または本発明によって同定される腫瘍抗原の産生を阻害することによって、例えば本発明によって同定される腫瘍抗原をコードする転写産物の翻訳を阻害することによって起こり得る。好ましくは、本発明によって同定される腫瘍抗原の発現および/または活性の前記阻害は、腫瘍細胞増殖を低減し、および/または腫瘍細胞死を誘導し、従って腫瘍阻害作用または腫瘍破壊作用を有する。
【0034】
特定の実施形態では、本発明によって同定される腫瘍抗原の発現の阻害剤は、本発明によって同定される腫瘍核酸に選択的にハイブリダイズし、それに対して特異的であって、それによりその転写および/または翻訳を阻害する(例えば低減する)、阻害性核酸(例えばアンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、iRNA、siRNAまたはそれらをコードするDNA)である。
【0035】
本発明の阻害性核酸は、標的核酸に対してアンチセンス方向の配列を有するオリゴヌクレオチドを含む。適切な阻害性オリゴヌクレオチドは、典型的には5〜数百ヌクレオチドの長さ、より典型的には約20〜70ヌクレオチド長またはそれ以下、さらに一層典型的には約10〜30ヌクレオチド長にわたる。これらの阻害性オリゴヌクレオチドは、遊離(ありのままの)核酸としてまたは保護された形態で、例えばリポソームに封入されて投与され得る。リポソームまたは他の保護された形態の使用は、インビボでの安定性を高めることができ、従って標的部位への送達を促進し得るので、好都合であり得る。
【0036】
また、標的腫瘍核酸は、腫瘍細胞中の対応するmRNAの切断を標的するリボザイムを設計するためにも使用し得る。同様に、これらのリボザイムは、遊離(ありのままの)形態でまたは安定性および/もしくは標的化を増強する送達システム、例えばリポソームを使用して投与し得る。
【0037】
また、標的腫瘍核酸は、腫瘍核酸の発現を阻害する(例えば低減する)ことができるsiRNAを設計するためにも使用し得る。siRNAは、遊離(ありのままの)形態でまたは安定性および/もしくは標的化を増強する送達システム、例えばリポソームを使用して投与し得る。それらはまた、それらの前駆体またはそれらをコードするDNAの形態でも投与し得る。
【0038】
siRNAは、好ましくはセンスRNA鎖とアンチセンスRNA鎖を含み、センスRNA鎖とアンチセンスRNA鎖はRNA二本鎖を形成し、センスRNA鎖は、本発明によって同定される腫瘍核酸中の約19〜約25の連続するヌクレオチドの標的配列と実質的に同一のヌクレオチド配列、好ましくは標的腫瘍抗原をコードするmRNAを含む。
【0039】
さらなる実施形態では、本発明によって同定される腫瘍抗原の活性の阻害剤は、前記腫瘍抗原に特異的に結合する抗体である。腫瘍抗原への抗体の結合は、例えば結合活性または触媒活性を阻害することによって、腫瘍抗原の機能を妨げることができる。
【0040】
また、本発明は、もう1つの態様では、標的分子、すなわち本発明によって同定される腫瘍核酸または腫瘍抗原のリガンドの投与を含む、腫瘍性疾患の治療のための療法に関する。これに関して、これらの標的を発現する細胞、例えば腫瘍細胞を選択的に標的し、死滅させるために、治療エフェクター部分、例えば放射性標識、細胞毒、細胞傷害性酵素等に結合した、標的核酸に選択的にハイブリダイズする核酸を投与し得るか、または標的抗原に特異的に結合する抗体を投与し得る。
【0041】
この態様では、本発明は、1またはそれ以上の治療エフェクター部分に結合している、本発明によって同定される腫瘍核酸または腫瘍抗原のリガンドを含有する医薬組成物に関する。好ましくは、前記リガンドは前記腫瘍核酸または腫瘍抗原に特異的である。1つの実施形態では、腫瘍核酸または腫瘍抗原の前記リガンドは、腫瘍細胞増殖を低減し、および/または腫瘍細胞死を誘導し、従って腫瘍阻害作用または腫瘍破壊作用を有する。
【0042】
本発明のさらなる態様によれば、腫瘍核酸および腫瘍抗原の同定は、同定された抗原を担持する腫瘍細胞を攻撃し、それによって腫瘍性疾患の発症を遅延させるもしくは防止するまたは腫瘍細胞を根絶することに基づく特異的免疫療法を開発することを可能にする。免疫療法は、腫瘍細胞破壊性免疫応答を惹起するという共通の目標を有する様々な介入処置および技術を包含する。以下で概説するようにこれらの核酸および抗原を利用した様々な臨床アプローチが可能である。癌免疫療法へのアプローチは能動と受動のカテゴリーに分類することができる。能動免疫療法は、腫瘍に対する免疫応答を強化するために抗原またはそのような抗原をコードする核酸で患者を直接免疫することを含み得る。受動免疫療法は、抗腫瘍応答を直接媒介することを目的とした免疫試薬の投与を指す。本発明は両方のアプローチを企図する。
【0043】
この態様において本発明は、(i)本発明によって同定される腫瘍抗原もしくは前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチド、または前記ペプチドの誘導体、(ii)本発明によって同定される腫瘍抗原もしくは前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドをコードする核酸、または前記核酸の誘導体、(iii)本発明によって同定される腫瘍抗原または前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドをコードする宿主細胞、(iv)本発明によって同定される腫瘍抗原または前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドをコードするウイルス、(v)本発明によって同定される腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドまたは前記ペプチドの誘導体を提示する細胞、(vi)本発明によって同定される腫瘍抗原または前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドに結合する抗体またはT細胞受容体、(vii)本発明によって同定される腫瘍抗原または前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドを認識するようにインビトロで感作された免疫反応性細胞、および(viii)本発明によって同定される腫瘍抗原または前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドを認識するT細胞受容体をコードする核酸で形質導入されたエフェクター細胞(または幹細胞)、から成る群より選択される1またはそれ以上の物質を含有する医薬組成物に関する。
【0044】
1つの実施形態では、(i)に従ったペプチドは、プロセッシングされて腫瘍抗原特異的MHCクラスIもしくはクラスII提示ペプチドであるか、または腫瘍抗原特異的MHCクラスIもしくはクラスII提示ペプチド、好ましくは腫瘍抗原特異的MHCクラスI提示ペプチドを生じ得る。好ましくは、前記ペプチドは、MHCクラスIもしくはクラスII、好ましくはMHCクラスI、本発明によって同定される提示される腫瘍抗原のフラグメントに実質的に対応する配列を有するか、またはプロセッシングされてそのような配列を有するペプチドフラグメントを生じ得る。好ましくは、前記ペプチドは、本発明によって同定される腫瘍抗原をMHCクラスIと共に提示する性質を有する腫瘍に対する細胞応答を刺激することができる、および/または本発明によって同定される腫瘍抗原の発現を特徴とする腫瘍に対する体液性免疫応答を刺激することができる。
【0045】
1つの実施形態では、(ii)に従った核酸は、腫瘍抗原特異的MHCクラスIもしくはクラスII提示ペプチドをコードするか、または腫瘍抗原特異的MHCクラスIもしくはクラスII提示ペプチド、好ましくはプロセッシングされて腫瘍抗原特異的MHCクラスI提示ペプチドを生じ得るペプチドをコードする。好ましくは、前記ペプチドは、MHCクラスIもしくはクラスII、好ましくはMHCクラスI、本発明によって同定される提示される腫瘍抗原のフラグメントに実質的に対応する配列を有するか、またはそのような配列を有するペプチドフラグメントをプロセッシングされて生じ得る。好ましくは、前記ペプチドは、本発明によって同定される腫瘍抗原をMHCクラスIと共に提示する性質を有する腫瘍に対する細胞応答を刺激することができる、および/または本発明によって同定される腫瘍抗原の発現を特徴とする腫瘍に対する体液性免疫応答を刺激することができる。そのような核酸はプラスミドまたは発現ベクター中に存在することができ、プロモーターに機能的に連結され得る。
【0046】
1つの実施形態では、(iii)に従った宿主細胞は、腫瘍抗原特異的MHCクラスIもしくはクラスII提示ペプチドをコードするか、または腫瘍抗原特異的MHCクラスIもしくはクラスII提示ペプチド、好ましくは腫瘍抗原特異的MHCクラスI提示ペプチドを生じるようにプロセシングされ得るペプチドをコードする。好ましくは、前記ペプチドは、MHCクラスIもしくはクラスII、好ましくはMHCクラスI、本発明によって同定される提示される腫瘍抗原のフラグメントに実質的に対応する配列を有するか、またはそのような配列を有するペプチドフラグメントをプロセッシングされて生じ得る。好ましくは、前記ペプチドは、本発明によって同定される腫瘍抗原をクラスI MHCと共に提示する性質を有する腫瘍に対する細胞応答を刺激することができる、および/または本発明によって同定される腫瘍抗原の発現を特徴とする腫瘍に対する体液性免疫応答を刺激することができる。宿主細胞は組換え細胞であり得、コードされるペプチドまたはその処理産物を分泌することができ、表面にそれを発現することができ、好ましくは、前記ペプチドまたはその処理産物に結合して、好ましくは前記ペプチドまたはその処理産物を細胞表面に提示するMHC分子を付加的に発現し得る。1つの実施形態では、宿主細胞はMHC分子を内因性に発現する。さらなる実施形態では、宿主細胞は、MHC分子および/またはペプチドもしくはその処理産物を組換えによって発現する。宿主細胞は、好ましくは非増殖性である。好ましい実施形態では、宿主細胞は、抗原提示細胞、特に樹状細胞、単球またはマクロファージである。
【0047】
1つの実施形態では、(iv)に従ったウイルスは、腫瘍抗原特異的MHCクラスIもしくはクラスII提示ペプチドをコードするか、または腫瘍抗原特異的MHCクラスIもしくはクラスII提示ペプチド、好ましくは腫瘍抗原特異的MHCクラスI提示ペプチドをプロセッシングされて生じ得るペプチドをコードする。好ましくは、前記ペプチドは、MHCクラスIもしくはクラスII、好ましくはMHCクラスI、本発明によって同定される提示される腫瘍抗原のフラグメントに実質的に対応する配列を有するか、またはそのような配列を有するペプチドフラグメントをプロセッシングされて生じ得る。好ましくは、前記ペプチドは、本発明によって同定される腫瘍抗原をMHCクラスIと共に提示する性質を有する腫瘍に対する細胞応答を刺激することができる、および/または本発明によって同定される腫瘍抗原の発現を特徴とする腫瘍に対する体液性免疫応答を刺激することができる。
【0048】
1つの実施形態では、(v)に従った細胞はMHC分子を内因性に発現する。さらなる実施形態では、細胞は、MHC分子および/または本発明によって同定される腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドを組換え技術によって発現する。好ましくは、細胞は、本発明によって同定される腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドまたは前記ペプチドの誘導体を、MHC分子によってその表面に提示する。好ましくは、提示されるペプチドは、MHCクラスIまたはクラスII、好ましくはMHCクラスI、本発明によって同定される提示される腫瘍抗原のフラグメントに実質的に対応する配列を有するペプチドである。細胞は、好ましくは非増殖性である。好ましい実施形態では、細胞は、樹状細胞、単球またはマクロファージなどの抗原提示細胞である。従って、好ましい実施形態では、(v)に従った細胞は、MHCクラスIと共に提示される本明細書で述べる腫瘍抗原ペプチドを含む抗原提示細胞である。
【0049】
1つの実施形態では、(vi)に従った抗体はモノクローナル抗体である。さらなる実施形態では、抗体は、キメラ、ヒトもしくはヒト化抗体であるか、または抗体のフラグメントもしくは合成抗体である。抗体は、治療エフェクター部分または検出可能な標識に結合され得る。好ましくは、(vi)に従った抗体またはT細胞受容体は、本発明によって同定される腫瘍抗原のフラグメントに実質的に対応するペプチド中の配列に結合する。
【0050】
好ましくは、(vii)に従った細胞は、好ましくはMHCクラスIまたはクラスII、好ましくはMHCクラスI、本発明によって同定される提示される腫瘍抗原のフラグメントに実質的に対応するペプチド中の配列に結合する。1つの実施形態では、(vii)に従った細胞は、(a)患者から、または同じ種の別の個体、特に健常個体、または異なる種の個体から得た、免疫反応性細胞を含有する試料を提供する、(b)前記試料を、本発明によって同定される腫瘍抗原のフラグメントに実質的に対応するアミノ酸配列を含むペプチドまたは前記ペプチドの誘導体を提示する細胞と、前記ペプチドに対するCTLsの産生を促進する条件下で接触させる、および(c)CTLsを、腫瘍細胞などの、腫瘍抗原を発現し、好ましくはそれをMHCクラスIと共に提示する細胞を溶解するのに適した量で患者に導入する、工程を含む方法によって入手できる。
【0051】
1つの実施形態において前記方法は、得られたCTLsのT細胞受容体をクローニングすること、およびT細胞受容体をコードする核酸を、前記患者から、または同じ種の別の個体、特に健常個体、または異なる種の個体から得た、CTLsまたは未熟CTLsなどのエフェクター細胞に導入することを含み、エフェクター細胞は、従って、所望の特異性を受け取り、患者に導入され得る。(viii)に従ったエフェクター細胞はこのようにして作製することができる。
【0052】
上述した物質を使用したワクチン接種は、特に腫瘍細胞などの細胞において発現された場合、本発明によって同定される腫瘍抗原に対するCD4+ヘルパーT細胞応答および/またはCD8+T細胞応答を惹起することができるMHCクラスII提示エピトープを提供し得る。あるいはまたは付加的に、上述した物質を使用したワクチン接種は、特に腫瘍細胞などの細胞において発現された場合、本発明によって同定される腫瘍抗原に対するCD8+T細胞応答を惹起することができるMHCクラスI提示エピトープを提供し得る。さらに、上述した物質を使用したワクチン接種は、本発明によって同定される腫瘍抗原に特異的な抗体を生じさせる。
【0053】
1つの実施形態において本発明の医薬組成物は、好ましくは免疫調節剤またはそれをコードする核酸をさらに含有する治療用または予防用抗腫瘍ワクチンである。1つの実施形態では、免疫調節剤は正の共刺激分子の作用物質、例えばCTLの共刺激を生じさせることができるIg融合タンパク質である。もう1つの実施形態では、共刺激剤は負の共刺激分子のアンタゴニスト、例えばCTLの共刺激の阻害を低減することができる抗体である。好ましい実施形態では、免疫調節剤は抗CTLA4抗体である。
【0054】
本発明の医薬組成物は、医薬的に許容される担体を含んでよく、場合により1またはそれ以上の補助薬、安定剤等を含み得る。
【0055】
本発明のもう1つの態様は、腫瘍性疾患の予防および/または治療処置のための本明細書で述べる物質および組成物の使用を含む。
【0056】
本発明の1つの態様では、腫瘍性疾患を有するまたは腫瘍性疾患を発症する危険性がある患者を処置する治療および予防方法を提供する。本発明の1つの態様では、腫瘍増殖を阻害するための方法を提供する。本発明の1つの態様では、腫瘍細胞死を誘導するための方法を提供する。
【0057】
好ましくは、腫瘍性疾患は、癌疾患であり、好ましくは結腸直腸癌、特に大腸癌、胃癌、転移性結腸直腸癌、特に大腸癌、および転移性胃癌から成る群より選択される。1つの実施形態では、腫瘍細胞はそのような癌の細胞である。
【0058】
様々な実施形態によれば、本発明の方法は、本発明によって同定される腫瘍抗原の発現および/もしくは活性の阻害剤、本発明によって同定される腫瘍核酸もしくは腫瘍抗原のリガンド、ならびに/または本明細書で述べる1もしくはそれ以上の免疫治療薬の投与を含む。1つの実施形態では、前記方法は、本明細書で述べる医薬組成物を患者に投与すること、好ましくは本明細書で述べる抗腫瘍ワクチンで患者をワクチン接種することを含む。当技術分野で公知の多種多様なワクチン接種方法のいずれかを本発明に従って使用し得る。本発明の抗腫瘍ワクチンは、好ましくは、本発明によって同定される腫瘍抗原をMHCクラスIと共に提示する性質を有する腫瘍に対するCTL活性を誘導するまたは促進することができる。これらは、直接またはAPCsを介してT細胞に作用することによって免疫系の刺激を促進する、補助薬と組み合わせて使用し得る。補助薬は、本明細書で述べるような、正の免疫調節作用を有する免疫調節物質を含む。
【0059】
様々な実施形態において、本発明の方法は、本発明によって同定される腫瘍抗原を発現し、好ましくは本発明によって同定される腫瘍抗原をMHCクラスIと共に提示する腫瘍細胞に対する抗腫瘍CTL応答の刺激、本発明によって同定される腫瘍抗原を発現し、好ましくは本発明によって同定される腫瘍抗原をMHCクラスIと共に提示する腫瘍細胞の増殖の阻害、および/または本発明によって同定される腫瘍抗原を発現し、好ましくは本発明によって同定される腫瘍抗原をMHCクラスIと共に提示する細胞の死滅の誘導を含む。
【0060】
本発明の1つの態様では、本明細書で述べる治療の方法における使用のための、本発明によって同定される腫瘍抗原の発現および/もしくは活性の阻害剤、本発明によって同定される腫瘍核酸もしくは腫瘍抗原のリガンド、ならびに/または本明細書で述べる1もしくはそれ以上の免疫治療薬を提供する。本発明の1つの実施形態では、本明細書で述べる治療の方法における使用のための、本明細書で述べる医薬組成物を提供する。
【0061】
本明細書で述べる免疫療法のような、腫瘍核酸または腫瘍抗原を標的することに基づく治療は、外科的切除術および/または放射線および/または伝統的化学療法と組み合わせることができる。
【0062】
本発明のもう1つの目的は、腫瘍性疾患の診断、検出または観測、すなわち腫瘍性疾患の退縮、進行、経過および/または発症の測定のための方法を提供することである。好ましくは、前記方法は、標的分子に特異的に結合するモノクローナル抗体および核酸プローブなどのリガンドの使用を含む。適切な標的分子は、(i)本発明によって同定される腫瘍核酸、(ii)本発明によって同定される腫瘍抗原もしくはそれに由来する腫瘍抗原ペプチド、(iii)本発明によって同定される腫瘍抗原もしくはそれに由来する腫瘍抗原ペプチドに対する抗体、(iv)本発明によって同定される腫瘍抗原もしくはそれに由来する腫瘍抗原ペプチドを認識するT細胞、および/または(v)本発明によって同定される腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドをMHCクラスIもしくはクラスII、好ましくはMHCクラスIと共に提示する細胞、である。そのような方法は、被験者が腫瘍性疾患を有するまたは腫瘍性疾患を発症する(高い)危険性があるかどうか、または、例えば治療計画が効率的であるかどうかを検出するために使用し得る。
【0063】
従って、本発明は、患者から、好ましくは腫瘍性疾患を有する、腫瘍性疾患を有するもしくは発症することが疑われる、または腫瘍性疾患の潜在的可能性を有する患者から単離された生物学的試料において、(i)本発明によって同定される腫瘍核酸の核酸配列を含む核酸であり、その核酸は、本発明によって同定される腫瘍抗原のアミノ酸配列を含むペプチドをコードする核酸、(ii)本発明によって同定される腫瘍抗原もしくは前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチド、(iii)本発明によって同定される腫瘍抗原もしくは前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドに結合する抗体、(iv)本発明によって同定される腫瘍抗原もしくは前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドを認識するT細胞、および/または(v)本発明によって同定される腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドをMHCクラスIもしくはクラスII、好ましくはMHCクラスIと共に提示する細胞、から成る群より選択される1またはそれ以上のパラメータを検出するおよび/またはその量を測定することを含む、腫瘍性疾患の診断、検出または観測のための方法に関する。
【0064】
1つの実施形態では、(i)に従った核酸は、腫瘍抗原特異的MHCクラスIまたはクラスII提示ペプチド、好ましくは腫瘍抗原特異的MHCクラスI提示ペプチドを生じるように処理されるペプチドをコードする。
【0065】
1つの実施形態では、(ii)に従ったペプチドは、腫瘍抗原特異的MHCクラスIもしくはクラスII提示ペプチドであるか、または腫瘍抗原特異的MHCクラスIもしくはクラスII提示ペプチド、好ましくは腫瘍抗原特異的MHCクラスI提示ペプチドをプロセッシングされて生じ得る。
【0066】
好ましくは、(iv)に従ったT細胞は、MHCクラスIまたはクラスII、好ましくはMHCクラスI、本発明によって同定される提示される腫瘍抗原のフラグメントに実質的に対応するペプチド中の配列を認識する。
【0067】
1つの実施形態では、(v)に従った細胞は、MHCクラスIまたはクラスII、好ましくはMHCクラスIによってペプチドをその表面に提示する。前記細胞は、好ましくは非増殖性である。好ましい実施形態では、細胞は、樹状細胞、単球またはマクロファージなどの抗原提示細胞である。従って、好ましい実施形態では、(v)に従った細胞は、クラスI MHCと共に提示される本明細書で述べる腫瘍抗原ペプチドを含む抗原提示細胞である。もう1つの実施形態では、細胞は腫瘍細胞である。
【0068】
1つの実施形態では、(i)に従った核酸または(ii)に従ったペプチドは、細胞、好ましくは腫瘍細胞においてインサイチュー(in situ)で検出されるまたはその量を測定される。1つの実施形態では、(ii)に従ったペプチドは、形質膜に組み込まれてまたはMHCクラスIもしくはクラスII、好ましくはMHCクラスIとの複合体として、細胞の表面にてインサイチューで検出されるまたはその量を測定される。
【0069】
組織または器官に由来する生物学的試料である、腫瘍性疾患の診断、検出または観測のための方法の1つの実施形態では、前記組織または器官が腫瘍を含まない場合、その細胞は本発明によって同定される腫瘍抗原および/または本発明によって同定される腫瘍核酸を実質的に発現しない。好ましくは、前記組織は、大腸組織または胃組織以外の組織である。好ましくは、前記組織は、小腸、脳、乳房、肝臓、肺、膵臓、腎臓、前立腺、脾臓、リンパ節、子宮内膜、食道、胎盤、卵巣、精巣、子宮、皮膚、胸腺、膀胱、筋肉および子宮頸の組織である。
【0070】
本発明によれば、腫瘍抗原および/または腫瘍核酸は、発現のレベルが結腸細胞および/もしくは胃細胞または大腸組織および/もしくは胃組織における発現と比較してより低い場合、実質的に発現されない。好ましくは、発現のレベルは、大腸細胞および/もしくは胃細胞または大腸組織および/もしくは胃組織と比較して10%未満、好ましくは5%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%または0.05%未満またはさらに一層低い。好ましくは、腫瘍抗原および/または核酸は、発現のレベルが検出限界より低い場合、実質的に発現されない。
【0071】
診断、検出または観測のための方法は、定量的および/または定性的評価、例えば標的分子、例えば腫瘍核酸または腫瘍抗原の発現レベルの絶対的および/または相対的測定を可能にする。
【0072】
前記検出および/または量の測定を達成するための手段は本明細書で説明され、当業者に明らかになる。
【0073】
好ましくは、本発明の方法における検出および/または量の測定は、(i)生物学的試料を、検出されるべきおよび/またはその量が測定されるべき核酸、ペプチド、抗体、T細胞または細胞に特異的に結合する物質と接触させること、ならびに(ii)前記物質と、検出されるべきまたはその量が測定されるべき核酸、ペプチド、抗体、T細胞または細胞との間の複合体の形成を検出するおよび/または複合体の量を測定することを含む。
【0074】
典型的には、生物学的試料中の標的分子のレベルを参照レベルと比較し、前記参照レベルからの逸脱が、被験者における腫瘍性疾患の存在および/または病期を示す。参照レベルは、対照試料(例えば健常組織または健常被験者からの)中で測定されたレベルまたは健常被験者からの平均レベルであり得る。前記参照レベルからの「逸脱」は、少なくとも10%、20%または30%、好ましくは少なくとも40%または50%、またはそれ以上の上昇または低下のような、何らかの有意の変化を表す。好ましくは、前記生物学的試料中の核酸、ペプチド、抗体、T細胞および/もしくは細胞の存在、または参照レベルと比較して増大している、生物学的試料中の核酸、ペプチド、抗体、T細胞および/もしくは細胞の量は、腫瘍性疾患の存在を示す。
【0075】
典型的には、本発明の方法における検出および/または量の測定は、標的分子に特異的に結合する標識リガンド、例えば標的核酸にハイブリダイズする標識核酸プローブおよび/または標的ペプチドに特異的に結合する標識抗体またはそのフラグメント/誘導体の使用を含む。
【0076】
本発明によれば、核酸の検出または核酸の量の測定は、ハイブリダイゼーションまたは核酸増幅技術を含む方法などの公知の核酸検出方法を用いて実施し得る。1つの実施形態では、RT−PCRまたはノーザンブロット分析を用いてmRNA転写産物を検出するまたはその量を測定する。
【0077】
そのような核酸検出方法は、標的核酸にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドの使用を含み得る。適切なオリゴヌクレオチドは、典型的には5〜数百ヌクレオチドの長さ、より典型的には約20〜70ヌクレオチド長またはそれ以下、さらに一層典型的には約10〜30ヌクレオチド長にわたる。
【0078】
本発明によれば、ペプチドの検出またはペプチドの量の測定は、前記ペプチドに特異的に結合する抗体を使用した免疫検出を含むがこれに限定されない、多くの方法で実施し得る。好ましくは、抗体は、本発明によって同定される腫瘍抗原のフラグメントに実質的に対応する配列に結合する。
【0079】
ペプチドを検出するために抗体を使用する方法は周知であり、ELISA、競合的結合アッセイ等を含む。一般に、そのような分析法は、標的ペプチドに特異的に結合する抗体または抗体フラグメントを直接使用するか、または間接的に、検出を提供する標識、例えば指標酵素、放射性標識、発蛍光団もしくは常磁性粒子に結合した前記抗体または抗体フラグメントを使用する。
【0080】
本発明によれば、抗体の検出または抗体の量の測定は、前記抗体に特異的に結合するペプチドを使用して実施し得る。
【0081】
T細胞は、患者の末梢血、リンパ節、生検および切除術に由来するような組織試料、または他のソースから単離し得る。反応性アッセイは、一次T細胞または他の適切な誘導体に関して実施し得る。例えば、T細胞を融合してハイブリドーマを作製し得る。T細胞の応答性を測定するための分析法は当技術分野において公知であり、増殖分析およびサイトカイン放出分析を含む。
【0082】
1つの実施形態では、本発明によって同定される腫瘍抗原または前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドを認識するT細胞は、腫瘍抗原応答性CTLである。
【0083】
CTLは、以下の好ましい実施形態を含むがこれらに限定されない、多くの方法で検出し、その量を測定し得る。1つの実施形態では、適切な蛍光腫瘍抗原ペプチド/MHC四量体を用いてCTLsを直接染色する。もう1つの実施形態では、「TRAP」分析(「タンパク質転移によるAPCのT細胞認識」)を使用する(例えば、Beadling et al.Nature Medicine 12:1208(2006)参照)。もう1つの実施形態では、Yuan et al.(Cytotherapy 8:498,2006)によって概説された方法を用いて血液試料中のT細胞の検出を実施する。反応性T細胞を検出するための分析法および指標は公知であり、IFN−γ ELISPOTおよびIFN−γ細胞内サイトカイン染色の使用を含むが、これらに限定されない。
【0084】
T細胞クローンが特定の抗原性ペプチドに応答するかどうかを測定するための他の様々な方法が当技術分野において公知である。典型的には、ペプチドをT細胞の懸濁液に1〜3日間添加する。T細胞の応答は、増殖、例えば標識されたチミジンの取込みによって、または、例えばIL−2のようなサイトカインの放出によって測定し得る。放出されたサイトカインの存在を検出するために様々な分析法が利用可能である。
【0085】
T細胞細胞毒性分析は、腫瘍抗原に特異性を有する細胞傷害性T細胞を検出するために使用できる。1つの実施形態では、細胞傷害性T細胞を、腫瘍抗原ペプチドをMHCクラスI分子と共に提示する標的細胞を死滅させる能力に関して試験する。腫瘍抗原ペプチドを提示する標的細胞を標識し、患者試料からのT細胞の懸濁液に添加し得る。溶解細胞からの標識の放出を定量することによって細胞毒性を測定し得る。自発的放出および総放出についての対照を分析法に含めてもよい。
【0086】
細胞応答を誘導する、例えばT細胞を活性化する能力を試験することによって、またはそのような細胞に特異性を有するCTLsによる細胞の溶解を測定することによってペプチドを提示する細胞を検出し、その量を測定し得る。
【0087】
検出されるべきおよび/もしくはその量が測定されるべき前記核酸、前記ペプチド、前記抗体、前記T細胞および/もしくは前記細胞の存在、ならびに/または参照レベルと比較して、例えば腫瘍性疾患のない患者と比較して増大している前記核酸、前記ペプチド、前記抗体、前記T細胞および/もしくは前記細胞の量は、前記患者における腫瘍性疾患の存在またはその危険性(すなわち腫瘍性疾患を発症する潜在的可能性)を示し得る。1つの実施形態では、検出されるべきおよび/もしくはその量が測定されるべき前記核酸、前記ペプチド、前記抗体、前記T細胞および/もしくは前記細胞の存在、ならびに/または参照レベルと比較して、例えば腫瘍性疾患のない患者と比較して増大している前記核酸、前記ペプチド、前記抗体、前記T細胞および/もしくは前記細胞の量は、前記患者における転移性結腸直腸癌、特に転移性結腸癌または転移性胃癌の存在またはその危険性を示し得る。
【0088】
1つの実施形態では、生物学的試料は組織または器官に由来し、前記組織または器官が腫瘍を含まない場合、その細胞は本発明によって同定される腫瘍抗原および/または本発明によって同定される腫瘍核酸を実質的に発現しない。本発明の方法による、患者における腫瘍性疾患の存在またはその危険性の指示は、腫瘍性疾患が前記組織もしくは器官に存在すること、または前記組織もしくは器官が前記腫瘍性疾患の危険性があることを示し得る。
【0089】
1つの実施形態では、生物学的試料は組織または器官に由来し、前記組織または器官が腫瘍を含まない場合、その細胞は本発明によって同定される腫瘍抗原および/または本発明によって同定される腫瘍核酸を実質的に発現せず、前記組織または器官は、例えば目視検査または前記組織もしくは器官の細胞の培養試験によって、腫瘍性疾患に罹患していると既に診断されている。この実施形態では、検出されるべきおよび/もしくはその量が測定されるべき前記核酸、前記ペプチド、前記抗体、前記T細胞および/もしくは前記細胞の存在、ならびに/または参照レベルと比較して、例えば腫瘍性疾患のない患者と比較して増大している前記核酸、前記ペプチド、前記抗体、前記T細胞および/もしくは前記細胞の量は、腫瘍性疾患が転移性結腸直腸癌、特に転移性大腸癌または転移性胃癌であることを示し得る。
【0090】
本発明の方法による、患者における転移性結腸直腸癌、特に転移性大腸癌または転移性胃癌の存在またはその危険性の兆候はまた、前記患者における結腸直腸癌、特に大腸癌および胃癌の存在またはその危険性を示し得る。
【0091】
本発明の腫瘍性疾患の診断、検出または観測のための方法はまた、前記核酸、前記ペプチド、前記抗体、前記T細胞および/または前記細胞の検出またはその量の測定によって腫瘍性疾患の転移挙動を評価するおよび/または予後判定することが可能であり、好ましくは、前記核酸、前記ペプチド、前記抗体、前記T細胞および/もしくは前記細胞の存在、ならびに/または参照レベルと比較して、例えば前記疾患のないもしくは前記疾患の転移のない患者と比較して増大している前記核酸、前記ペプチド、前記抗体、前記T細胞および/もしくは前記細胞の量が、腫瘍性疾患の転移挙動または腫瘍性疾患の転移挙動の危険性を示し得る実施形態を包含する。
【0092】
1つの実施形態では、生物学的試料は組織または器官に由来し、前記組織または器官が腫瘍を含まない場合、その細胞は本発明によって同定される腫瘍抗原および/または本発明によって同定される腫瘍核酸を実質的に発現しない。1つの実施形態では、腫瘍性疾患は前記組織または器官中に存在する。
【0093】
本発明による観測の方法は、好ましくは、最初の時点での第一試料におけるおよび2番目の時点でのさらなる試料における前記に挙げたパラメータの1またはそれ以上の検出および/またはその量の測定を含み、2つの試料を比較することによって腫瘍性疾患の退縮、進行、経過および/または発症を測定し得る。
【0094】
患者から以前に採取した生物学的試料と比較して、生物学試料中で減少している前記核酸、前記ペプチド、前記抗体、前記T細胞および/または前記細胞の量は、前記患者における腫瘍性疾患、例えば転移性結腸直腸癌、特に転移性大腸癌または転移性胃癌の退縮、良好な経過、例えば治療の成功または発症の危険性の低下を示し得る。
【0095】
1つの実施形態では、生物学的試料は組織または器官に由来し、前記組織または器官が腫瘍を含まない場合、その細胞は本発明によって同定される腫瘍抗原および/または本発明によって同定される腫瘍核酸を実質的に発現しない。1つの実施形態では、腫瘍性疾患は前記組織または器官中に存在する。
【0096】
患者から以前に採取した生物学的試料と比較して、生物学試料中で増大している前記核酸、前記ペプチド、前記抗体、前記T細胞および/または前記細胞の量は、前記患者における腫瘍性疾患、例えば転移性結腸直腸癌、特に転移性大腸癌または転移性胃癌の進行、好ましくない経過、例えば治療の失敗、再発または転移挙動、発症または発症の危険性を示し得る。
【0097】
1つの実施形態では、生物学的試料は組織または器官に由来し、前記組織または器官が腫瘍を含まない場合、その細胞は本発明によって同定される腫瘍抗原および/または本発明によって同定される腫瘍核酸を実質的に発現しない。1つの実施形態では、腫瘍性疾患は前記組織または器官中に存在する。
【0098】
特定の態様では、本発明は、腫瘍性疾患の検出のため、すなわち腫瘍性疾患の位置または部位、例えば特定の組織または器官を決定するための方法に関する。1つの実施形態において前記方法は、本発明によって同定される腫瘍抗原に結合する、検出可能な標識に連結された抗体を患者に投与することを含む。抗体はモノクローナル抗体であり得る。さらなる実施形態では、抗体は、キメラ、ヒトもしくはヒト化抗体、抗体のフラグメントまたは合成抗体である。
【0099】
前記患者における組織または器官の標識化は、前記組織または器官における腫瘍性疾患、例えば転移性結腸直腸癌、特に転移性大腸癌または転移性胃癌の存在またはその危険性を示し得る。
【0100】
1つの実施形態では、組織または器官は、組織または器官が腫瘍を含まない場合、その細胞が本発明によって同定される腫瘍抗原および/または本発明によって同定される腫瘍核酸を実質的に発現しない組織または器官である。
【0101】
1つの実施形態では、組織または器官は、組織または器官が腫瘍を含まない場合、その細胞が本発明によって同定される腫瘍抗原および/または本発明によって同定される腫瘍核酸を実質的に発現しない組織または器官であり、前記組織または器官は、例えば目視検査または前記組織もしくは器官の細胞の培養試験によって、腫瘍性疾患に罹患していると既に診断されている。この実施形態では、組織または器官の標識化は、腫瘍性疾患が転移性結腸直腸癌、特に転移性大腸癌または転移性胃癌であることを示し得る。
【0102】
本発明の方法による、組織または器官における転移性結腸直腸癌、特に転移性大腸癌または転移性胃癌の存在またはその危険性の指示はまた、患者における結腸直腸癌、特に大腸癌および胃癌の存在またはその危険性を示し得る。
【0103】
好ましくは、本発明の腫瘍性疾患の診断、検出または観測のための方法における腫瘍性疾患は、大腸組織または胃組織以外の組織の腫瘍性疾患である。好ましくは、前記組織は、小腸組織、脳、乳房、肝臓、肺、膵臓、腎臓、前立腺、脾臓、リンパ節、子宮内膜、食道、胎盤、卵巣、精巣、子宮、皮膚、胸腺、膀胱、筋肉および子宮頸の組織である。さらなる態様では、腫瘍性疾患は、転移性大腸癌および転移性胃癌から成る群より選択される。
【0104】
本発明の方法を用いた、上述したような腫瘍性疾患および/または転移性腫瘍性疾患および/または腫瘍性疾患の再発の確定診断は、本明細書で述べる治療の方法に適する腫瘍性疾患および/または転移性腫瘍性疾患および/または腫瘍性疾患の再発を示し得る。
【0105】
循環腫瘍細胞(CTCs)は、上皮由来癌を有する患者の末梢血において超低濃度で認められた。これらの細胞の数は、試料採取時点で進行性疾患を有する転移性癌患者のコホートについての転帰と相関することが示されている。一部の報告は、大腸癌に罹患した患者における循環腫瘍細胞の予後的役割を示唆する。従って、循環腫瘍細胞を測定するための装置は有用な診断ツールであり得る。
【0106】
本発明は、上皮細胞特異的マーカー、すなわち本発明によって同定される腫瘍核酸および腫瘍抗原を提供することによってこの必要性を満たす。この上皮細胞特異的マーカーは、患者の循環腫瘍細胞を検出するための方法において有用である。方法は、転移性癌または早期癌の存在を示し得る。方法の1つの態様では、標本中の循環腫瘍細胞の存在は、哺乳動物被験者における癌再発の可能性を示す。前記方法のさらなる態様では、標本中の循環腫瘍細胞の存在は、哺乳動物被験者における癌寛解状態を示す。
【0107】
従って、本発明は、患者において循環腫瘍細胞を検出するための方法であって、前記患者から単離された播種性もしくは循環腫瘍細胞または転移性腫瘍細胞を含有するまたは含有することが疑われる生物学的試料において、(i)本発明によって同定される腫瘍核酸の核酸配列を含む核酸/本発明によって同定される腫瘍抗原のアミノ酸配列を含むペプチドをコードする核酸、および/または(ii)本発明によって同定される腫瘍抗原もしくは前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチド、を検出するおよび/またはその量を測定することを含む方法に関する。好ましくは、患者は、腫瘍性疾患を有する、腫瘍性疾患を有するもしくは発症することが疑われる、または腫瘍性疾患の潜在的可能性を有する患者である。
【0108】
このように、本発明の循環腫瘍細胞を検出するための方法では、本発明によって同定される腫瘍核酸および/または本発明によって同定される腫瘍抗原もしくはそれに由来する腫瘍抗原ペプチドを標的分子として使用して、前記標的分子の存在を特徴とする細胞を同定する。これらの細胞は循環腫瘍細胞である可能性が高い。
【0109】
1つの実施形態では、核酸またはペプチドは、細胞、好ましくは腫瘍細胞においてインサイチューで検出されるまたはその量を測定される。1つの実施形態では、ペプチドは、形質膜に組み込まれてまたはMHCクラスIもしくはクラスII、好ましくはMHCクラスIとの複合体として、細胞の表面にてインサイチューで検出されるまたはその量を測定される。そのような標的分子の前記検出および/または量の測定を達成するための手段は本明細書で説明され、当業者に明らかになる。
【0110】
播種性もしくは循環腫瘍細胞または転移性腫瘍細胞を含有するまたは含有することが疑われる生物学的試料は、例えば血液、血清、骨髄、痰、気管支吸引液および/または気管支洗浄液を含む。
【0111】
上記方法の1つの態様では、前記生物学的試料中の(i)に従った前記核酸および/もしくは(ii)に従った前記ペプチドの存在、または参照レベルと比較して増大している前記生物学的試料中の前記核酸および/もしくは前記ペプチドの量は、前記患者における循環腫瘍細胞の存在を示す。
【0112】
上記方法の1つの態様では、試料中の循環腫瘍細胞の存在は、患者における腫瘍性疾患、特に転移性腫瘍性疾患の存在またはその危険性を示し得る。さらなる態様では、試料中の循環腫瘍細胞の存在は、患者における早期腫瘍性疾患の存在またはその危険性を示し得る。さらなる態様では、前記患者における循環腫瘍細胞の存在は、結腸直腸癌、特に大腸癌、胃癌、転移性結腸直腸癌、特に転移性大腸癌および転移性胃癌から構成される群より選択される腫瘍性疾患の存在またはその危険性を示し得る。
【0113】
特定の実施形態において本発明の方法は、投与されたまたは今後投与される癌療法の成功を評価するおよび/または予後判定することを可能にする。上記方法の1つの態様では、試料中の循環腫瘍細胞の存在は、患者における腫瘍転移または腫瘍再発の存在またはその危険性を示し得る。前記方法のさらなる態様では、試料中の循環腫瘍細胞の存在は、患者における腫瘍寛解状態を示し得る。
【0114】
本発明の循環腫瘍細胞を検出するための方法を使用した腫瘍循環細胞の検出は、本明細書で述べる治療方法に適する腫瘍性疾患および/または腫瘍性疾患の転移および/または腫瘍性疾患の再発を示し得る。
【0115】
詳細な態様において試料中の循環腫瘍細胞の存在は、リンパ腫、骨髄腫、神経芽細胞腫、乳癌、卵巣癌、肺癌、横紋筋肉腫、小細胞肺腫瘍、原発性脳腫瘍、胃癌、大腸癌、膵癌、膀胱癌、精巣癌、甲状腺癌、神経芽細胞腫、食道癌、尿生殖器官癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、副腎皮質癌または前立腺癌を含むが、これらに限定されない癌の存在またはその危険性を示し得る。
【0116】
好ましくは、循環腫瘍細胞についてのそのような分析法は、検出可能に標識された、標的ペプチドに対する抗体を使用して実施される。1つの特定の実施形態では、循環腫瘍細胞についてのそのような分析法は、標的ペプチドに対するモノクローナル抗体による免疫蛍光分析を用いて実施され、好ましくは患者の末梢血に関して実施される。
【0117】
血液中の循環腫瘍細胞の存在は、転移性腫瘍性疾患または転移性腫瘍性疾患の危険性、ならびに転帰不良およびより低い生存率と相関し得る。
【0118】
CTC検出のために現在使用可能な最も信頼できる方法は、免疫細胞化学的に標識された腫瘍細胞の認識のために画像解析を用いる自動デジタル顕微鏡検査(ADM)である。ADMは、しかし、800細胞/秒というその非常に遅い走査速度が難点である。Kraeft et al.,Clin Cancer Res 10:3020−8,2004。ADMの走査速度は、視野が限られているため試料を何度もステッピングすることに付随する待ち時間に制約される。
【0119】
この速度制約を回避するため、走査を必要とする細胞の総数を低減するいくつかのCTC濃縮技術が開発されている。これまでにこれらの濃縮アプローチの中で最も成功を収めたのは免疫磁気濃縮(IME)である。Smirnov et al.,Cancer Res 65:4993−7,2005;Allard et al.,Clin Cancer Res 10:6897−904,2004;Cristofanilli et al.,N EnglJ Med 351:781−91,2004。IMEの大部分の実施においては、小型磁気ビーズに結合されたモノクローナル抗体が上皮細胞接着分子、EpCAMを標的する。ビーズは、次に、富化のために磁界で操作される。
【0120】
本発明のさらなる態様は、患者において転移性大腸癌細胞または転移性胃癌細胞を検出する方法であって、(i)本発明によって同定される腫瘍核酸の核酸配列を含む核酸/本発明によって同定される腫瘍抗原のアミノ酸配列を含むペプチドをコードする核酸、および/または(ii)本発明によって同定される腫瘍抗原もしくは前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドを、組織または器官が腫瘍を含まない場合、その細胞が前記核酸またはペプチドを実質的に発現しない、腫瘍を有する前記患者の組織または器官から単離された生物学的試料において検出するおよび/またはその量を測定することを含む方法に関する。
【0121】
このように、転移性大腸癌細胞または転移性胃癌細胞を検出する方法では、本発明によって同定される腫瘍核酸および/または本発明によって同定される腫瘍抗原もしくはそれに由来する腫瘍抗原ペプチドを標的分子として使用して、前記標的分子の存在を特徴とする腫瘍細胞を同定する。これらの細胞は、転移性大腸癌細胞または転移性胃癌細胞である可能性が高い。1つの実施形態では、前記核酸またはペプチドは、細胞、好ましくは腫瘍細胞においてインサイチューで検出されるまたはその量を測定される。
【0122】
1つの実施形態において前記ペプチドは、原形質膜に組み込まれてまたはMHCクラスIもしくはクラスII、好ましくはMHCクラスIとの複合体として、細胞の表面にてインサイチューで検出されるまたはその量を測定される。そのような標的分子の前記検出および/または量の測定を達成するための手段は本明細書で説明され、当業者に明らかになる。
【0123】
本発明によれば、核酸および/またはペプチドは、発現のレベルが結腸細胞および/もしくは胃細胞または大腸組織および/もしくは胃組織における発現と比較してより低い場合、実質的に発現されない。好ましくは、発現のレベルは、大腸細胞および/もしくは胃細胞または大腸組織および/もしくは胃組織と比較して10%未満、好ましくは5%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%または0.05%未満またはさらに一層低い。好ましくは、核酸および/またはペプチドは、発現のレベルが検出限界より低い場合、実質的に発現されない。
【0124】
好ましくは、組織は、大腸組織または胃組織以外の組織である。好ましくは、前記組織は、小腸、脳、乳房、肝臓、肺、膵臓、腎臓、前立腺、脾臓、リンパ節、子宮内膜、食道、胎盤、卵巣、精巣、子宮、皮膚、胸腺、膀胱、筋肉および子宮頸の組織である。
【0125】
好ましくは、組織または器官は、目視検査または前記組織もしくは器官の細胞の培養試験によって腫瘍性疾患に罹患していると既に診断されている。
【0126】
上記方法の1つの態様において前記生物学的試料中の(i)に従った前記核酸および/もしくは(ii)に従った前記ペプチドの存在、または参照レベルと比較して増大している前記生物学的試料中の前記核酸および/もしくはペプチドの量は、前記組織または器官における転移性大腸癌細胞または転移性胃癌細胞の存在またはその危険性を示す。前記組織または器官における転移性大腸癌細胞または転移性胃癌細胞の存在はまた、前記患者における結腸直腸癌、特に大腸癌および胃癌の存在またはその危険性を示し得る。
【0127】
転移性大腸癌細胞または転移性胃癌細胞の確定診断は、生物学的試料が単離された組織または器官の腫瘍が本明細書で述べる治療方法に適することを示し得る。
【0128】
本発明のさらなる目的は、本発明の診断、検出または観測のための方法において、および循環腫瘍細胞を検出するための方法において、および/または転移性大腸癌細胞もしくは転移性胃癌細胞を検出する方法において有用な診断試験キットに関する。1つの実施形態においてこれらのキットは、上記で定義した標的分子に特異的に結合するリガンドおよび、場合により、検出可能な標識、例えば指標酵素、放射性標識、発蛍光団または常磁性粒子を含む。特定の実施形態では、リガンドは、上述した標的核酸分子に特異的な核酸プライマーもしくはプローブ、または上述した標的ペプチドに特異的な抗体もしくはその誘導体を含む。キットは、情報を提供するパンフレット、例えば本明細書で開示する方法を実施するために試薬をどのように使用するかを知らせるパンフレットを含み得る。
【0129】
さらなる態様では、本発明は、腫瘍抗原または前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドをコードする核酸を含む、組換え核酸分子、特にDNAまたはRNA分子に関する。
【0130】
本発明はまた、本発明の組換え核酸分子を含む宿主細胞に関する。好ましくは、そのような宿主細胞は、コードされるペプチドを発現する。
【0131】
宿主細胞は組換え細胞であり得、コードされるペプチドを分泌することができ、それを表面に発現することができ、好ましくは前記ペプチドまたはその処理産物に結合するMHC分子を付加的に発現し得る。1つの実施形態では、宿主細胞はMHC分子を内因性に発現する。さらなる実施形態では、宿主細胞は、MHC分子および/またはペプチドもしくはその処理産物を組換えによって発現する。宿主細胞は、好ましくは非増殖性である。好ましい実施形態では、宿主細胞は、抗原提示細胞、特に樹状細胞、単球またはマクロファージである。
【0132】
さらなる態様では、本発明は、本発明によって同定される腫瘍抗原もしくは前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチド、または前記ペプチドの誘導体に関する。
【0133】
さらなる態様では、本発明は、本発明によって同定される腫瘍抗原もしくは前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチド、または前記ペプチドの誘導体に結合する物質に関する。好ましい実施形態では、前記物質は、タンパク質またはペプチド、特に抗体、T細胞受容体またはMHC分子である。さらなる実施形態では、抗体は、モノクローナル、キメラ、ヒトもしくはヒト化抗体、結合性技術によって作製される抗体、抗体のフラグメント、または合成抗体である。
【0134】
本発明はさらに、本発明によって同定される腫瘍抗原もしくは前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチド、または前記ペプチドの誘導体に結合する本発明の物質と、治療エフェクター部分または検出可能標識との間の複合体に関する。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1ABC】配列番号:1に従った核酸は、正常組織ならびに癌性の大腸組織および胃組織において発現され、そのような組織の上皮細胞中に存在する原形質膜タンパク質をコードする。A)正常組織および大腸癌における35サイクルのエンドポイントRT−PCR。B)正常組織における40サイクルの定量的リアルタイムRT−PCR。C)大腸癌および胃癌における40サイクルの定量的リアルタイムRT−PCR。各々の正常組織について、2つの個別組織試料の平均発現値を示す。誤差バー、STD;点線、発現カットオフ値。
【図1DE】配列番号:1に従った核酸は、正常組織ならびに癌性の大腸組織および胃組織において発現され、そのような組織の上皮細胞中に存在する原形質膜タンパク質をコードする。D)配列番号:2に蛍光マーカーを導入し、抗配列番号:2のポリクローナル抗体で着色したCHO細胞のIF顕微鏡分析。E)正常大腸および大腸癌における配列番号:2に従ったタンパク質の発現のIHC検出。
【図2】配列番号:2に従ったタンパク質は原形質膜タンパク質である。配列番号:2に従ったタンパク質の予測される原形質膜トポロジーおよび構造特徴。
【発明を実施するための形態】
【0136】
本発明の一部の態様は、以下のように要約できる能動または受動免疫治療アプローチを用いて、本発明によって同定される腫瘍核酸および腫瘍抗原を利用した腫瘍性疾患、特に癌疾患の免疫療法を想定する。
【0137】
免疫療法
I.能動免疫療法(「癌ワクチン」)
免疫:
i)抗原またはペプチド(天然または修飾)
ii)抗原またはペプチドをコードする核酸
iii)抗原またはペプチドをコードする組換え細胞
iv)抗原またはペプチドをコードする組換えウイルス
v)抗原もしくはペプチド(天然もしくは修飾)でパルスした、または抗原もしくはペプチドをコードする核酸を導入した抗原提示細胞
II.受動免疫療法(「養子(獲得)免疫療法」)
vi)抗原を認識する抗体またはT細胞受容体の移入
vii)抗原(バルクまたはクローン化集団)に対してインビトロで感作された細胞の導入
viii)抗原を認識し、好ましくは腫瘍特異的MHCクラスI提示ペプチドに対して応答性であるT細胞受容体をコードする核酸を形質導入したエフェクター細胞(または幹細胞)の移入。
【0138】
ここ数年、腫瘍免疫におけるCD8+T細胞の役割が注目を集めてきた。腫瘍特異的CD8+CTLsは、動物モデルにおいてインビボで腫瘍細胞を直接溶解し、腫瘍塊を根絶できることが示されている。しかし、CD4+T細胞も重要な役割を果たすと考えられ、最適な癌ワクチンは、CD4+およびCD8+T細胞の両方の関与を必要とすると考えられる。
【0139】
無傷または実質的に無傷の腫瘍抗原での免疫は、クラスIおよびクラスIIの両方の抗原決定基に対して同時に免疫するという潜在的利点を有するが、大量の腫瘍抗原を精製するには多大の労力と時間が必要である。腫瘍抗原内のMHCクラスIおよびクラスIIペプチドの同定は、高レベルの純粋な合成ペプチドで免疫することを可能にする。ペプチドアプローチはまた、どの抗原決定基を用いるかを選択することによってMHCクラスIおよびクラスII型応答(または混合型)を選択できるという利点もある。ペプチドでの免疫はまた、異なるサブセットのT細胞を刺激するためにサブドミナントおよび/または潜在性エピトープを選択できる(抗原処理の必要性を回避し得るまたは「トリミング」の役割に低減し得るため)ことも意味する。また、ペプチドを、その免疫原性を高めるように修飾し得る(例えばそのHLAクラスIまたはIIアンカー部位で)。
【0140】
本発明は、腫瘍特異的MHCクラスI提示ペプチドおよびそれらを使用する方法、ならびに腫瘍特異的MHCクラスI提示ペプチドに対して応答性の細胞傷害性Tリンパ球(CTLs)およびそれらを使用する方法に関する。
【0141】
1つの態様において本発明は、本発明によって同定される腫瘍抗原をMHCクラスIと共に提示する性質を有する腫瘍に対する細胞応答を刺激することができる抗腫瘍ワクチンを提供する。本発明の抗腫瘍ワクチンは、好ましくは腫瘍抗原ペプチドまたは腫瘍抗原ペプチド核酸を含有する。
【0142】
本発明はまた、本発明によって同定される腫瘍抗原の1もしくはそれ以上またはそれに由来する1もしくはそれ以上の腫瘍抗原ペプチドをコードする核酸の使用を包含する。そのようにコードされる抗原またはペプチドは、治療用または予防用抗腫瘍ワクチンとして有効であると予測される。例えば、これらの核酸の特定の企図される適用は、そのような抗原に対するCTL応答などの細胞応答および/または体液性免疫応答の誘導を含む。
【0143】
プラスミドDNAでの免疫は、CD8+T細胞、CD4+T細胞および抗体から成る抗原特異的免疫応答を惹起することができる。DNAは、遺伝子銃法の免疫によって投与できる。遺伝子銃免疫では、プラスミドDNAを金粒子に被覆し、続いてDNA被覆した粒子を高圧のヘリウム駆動遺伝子銃によって皮膚内に送達し得る。
【0144】
分子生物学の進歩により、本明細書で述べる腫瘍抗原または腫瘍抗原ペプチドをコードする組換えウイルスを構築することが可能となった。これまでにいくつかの組換えウイルスワクチンが使用されてきた。
【0145】
いくつかのウイルスベクターは、悪性疾患の免疫療法を増強する潜在的可能性に関して有望な結果を示している。複製可能および複製欠損ウイルスが使用でき、後者の群が好ましい。ヘルペスウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、レオウイルスおよびニューカッスル病ウイルスは、本発明に従って有用な好ましいウイルスの例である。
【0146】
樹状細胞(DCs)などの抗原提示細胞(APC)は、MHCクラスI提示ペプチドもしくは腫瘍溶解産物のいずれかを負荷する、または腫瘍抗原をコードするアデノウイルスを用いた形質導入などによって核酸を形質導入することができる。
【0147】
好ましい実施形態では、本発明の抗腫瘍ワクチンは、腫瘍抗原ペプチドを負荷したAPCを含有する。これに関して、プロトコールは、人為的に腫瘍抗原ペプチドを提示するように操作されたDCsのインビトロ培養/分化に基づき得る。遺伝的に操作されたDCsの作製は、腫瘍抗原または腫瘍抗原ペプチドをコードする核酸をDCsに導入することを含み得る。mRNAでのDCsのトランスフェクションは、強力な抗腫瘍免疫を刺激する有望な抗原負荷技術である。
【0148】
樹状細胞(DCs)は、末梢組織で捕捉された抗原を、MHCクラスIIおよびクラスIの両抗原提示経路を介してT細胞に提示する白血球集団である。DCsが免疫応答の強力な誘導物質であり、これらの細胞の活性化が抗腫瘍免疫の誘導のために必須の工程であることは周知である。DCsの成熟は、そのような抗原提示DCがT細胞のプライミングを導くDC活性化状態と称され、一方未熟DCによるその提示は寛容をもたらす。DC成熟は、主として生来の受容体によって検出される細菌特徴を有する生体分子(細菌DNA、ウイルスRNA、内毒素等)、プロ炎症性サイトカイン(TNF、IL−1、IFN)、CD40LによるDC表面でのCD40の連結、およびストレスによる細胞死を受けた細胞から放出される物質によって引き起こされる。DCは、骨髄細胞を顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)および腫瘍壊死因子αなどのサイトカインと共にインビトロで培養することによって誘導できる。
【0149】
本発明のさらにもう1つの実施形態は、前記で定義した標的抗原に対する抗体、好ましくはモノクローナル抗体の調製を含む。そのようなモノクローナル抗体は、従来の方法によって作製でき、限定されることなく、ヒトモノクローナル抗体、ヒト化モノクローナル抗体、キメラモノクローナル抗体、一本鎖抗体、例えばscFv's、ならびにFabおよびFab'フラグメントなどの抗原結合抗体フラグメントを含む、そのフラグメントまたは誘導体を包含する。モノクローナル抗体の調製のための方法は当技術分野において公知である。一般に、モノクローナル抗体の調製は、対象抗原での適切な宿主の免疫、宿主からの免疫細胞の単離、モノクローナル抗体を単離するためのそのような免疫細胞の使用、およびそのような抗原のいずれかに特異的に結合するモノクローナル抗体についてのスクリーニングを含む。抗体フラグメントは、公知の方法、例えばモノクローナル抗体の酵素的切断によって調製し得る。
【0150】
これらのモノクローナル抗体およびフラグメントは、受動抗腫瘍免疫療法のために有用であるか、または標的化細胞毒性、すなわち腫瘍細胞の死滅を提供するために治療エフェクター部分、例えば放射性標識、細胞毒、治療酵素、アポトーシスを誘導する物質等に結合し得る。本発明の1つの実施形態では、そのような抗体またはフラグメントを、標識または非標識形態で、単独でまたは他の治療薬、例えば癌治療に適するシスプラチン、メトトレキサート、アドリアマイシン等のような化学療法剤と共に投与する。
【0151】
受動抗腫瘍免疫療法のために使用される場合、抗体は、治療エフェクター部分に結合されてもよくまたは結合されなくてもよい。好ましくは、本明細書で述べる抗体は、補体依存性細胞傷害(CDC)媒介性溶解、抗体依存性細胞傷害(ADCC)媒介性溶解、アポトーシス、同型接着、および/または食作用を誘導することによって、好ましくはCDC媒介性溶解および/またはADCC媒介性溶解を誘導することによって細胞の死滅を媒介する。本明細書で述べる抗体は、好ましくは免疫系の成分と、好ましくはADCCまたはCDCを介して相互作用する。しかし、本発明の抗体はまた、単に細胞表面の腫瘍抗原と結合することによって、従って、例えば細胞の増殖をブロックすることによって作用を及ぼし得る。
【0152】
ADCCは、好ましくは標的細胞が抗体によってマークされることを必要とする、本明細書で述べるエフェクター細胞、特にリンパ球の細胞死滅能力を表す。
【0153】
ADCCは、好ましくは、抗体が腫瘍細胞上の抗原に結合し、抗体Fcドメインが免疫エフェクター細胞の表面のFc受容体(FcR)に係合するときに起こる。Fc受容体のいくつかのファミリーが同定されており、特定細胞集団は定められたFc受容体を特徴的に発現する。ADCCは、様々な程度の即時腫瘍破壊を直接誘導する機構とみなすことができ、前記機構はまた、抗原提示および腫瘍に対するT細胞応答の誘導も導く。好ましくは、ADCCのインビボでの誘導は、抗腫瘍T細胞応答および宿主由来の抗体応答を導く。
【0154】
CDCは、抗体によって指令され得るもう1つの細胞死滅方法である。IgMは補体活性化のために最も有効なアイソタイプである。IgG1およびIgG3も、古典的補体活性化経路を介してCDCを指令するうえで非常に有効である。好ましくは、このカスケードにおいて、抗原−抗体複合体の形成は、IgG分子などの関与抗体分子のC2ドメイン上のごく近接する多数のC1q結合部位の暴露を生じさせる(C1qは補体C1の3つのサブ成分の1つである)。好ましくは、これらの暴露されたC1q結合部位は、それまでの低親和性C1q−IgG相互作用を高い親和性の相互作用へと変換し、それが、一連の他の補体タンパク質を含む事象のカスケードを引き起こし、エフェクター細胞化学走性/活性化物質C3aおよびC5aのタンパク質分解性放出を導く。好ましくは、補体カスケードは、細胞内および細胞外への水と溶質の自由な通過を促進し、アポトーシスへと導き得る細胞膜の孔を作り出す、膜傷害性複合体の形成で終了する。
【0155】
腫瘍抗原を認識できる免疫細胞(場合により遺伝的に修飾された)での受動免疫療法は、選択された患者において癌の退縮を媒介するのに有効である。これらの技術は、腫瘍反応性T細胞のクローン化またはポリクローナル培養物のエクスビボ(ex vivo)での再活性化と増殖に基づき得る。培養後、T細胞をIL−2と共に患者に再注入し得る。ヒトリンパ球を、抗原提示細胞上に提示される腫瘍抗原ペプチドに対してインビトロ(in vitro)で感作するインビトロ技術が開発されている。インビトロでの反復刺激によって、ヒト腫瘍抗原を認識する大きな能力を備えた細胞を誘導することができる。これらの細胞の養子移入は、通常どおりに増殖した細胞よりもインビボ(in vivo)で腫瘍退縮を媒介するのにより有効であり得る。
【0156】
1つの実施形態では、自己細胞傷害性リンパ球または腫瘍浸潤リンパ球を、癌を有する患者から入手し得る。リンパ球を培養で増殖させ、腫瘍抗原応答性CTLを、単独でまたは少なくとも1つの免疫調節剤と組み合わせて、好ましくは付加的にサイトカインと組み合わせて、MHCクラスIと共に提示される腫瘍抗原ペプチドの存在下で培養することによって増殖させ得る。腫瘍抗原応答性CTLを、次に、患者における腫瘍を低減するまたは排除するのに有効な量で患者に注入して戻す。
【0157】
既存の応答が不十分である場合は、リンパ球の採取の前に抗腫瘍ペプチドワクチンで患者を予備刺激することができる。養子移入されたCTLsは、低用量から中用量のIL−2注入で最も良好に生存すると予想される。
【0158】
「腫瘍抗原応答性CTL」とは、例えば腫瘍細胞の表面に、MHCクラスIと共に提示される、前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドに対して応答性であるCD8+T細胞を意味する。
【0159】
本発明によれば、CTLの応答性は、持続的カルシウム溶剤、細胞分裂、IFN−γおよびTNF−αなどのサイトカインの産生、CD44およびCD69などの活性化マーカーの上方調節、ならびに標的細胞を発現する腫瘍抗原の特異的細胞溶解死滅を含み得る。CTLの応答性はまた、CTLの応答性を正確に示す人工レポーターを使用して測定し得る。
【0160】
「腫瘍抗原ペプチド」または「腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチド」とは、本発明によって同定される腫瘍抗原のフラグメントまたはペプチドのアミノ酸配列に実質的に対応するアミノ酸配列を含むオリゴペプチドまたはポリペプチドを意味する。好ましくは、腫瘍抗原ペプチドは、本明細書で同定される腫瘍抗原をMHCクラスIと共に提示する性質を有する腫瘍に対する細胞応答、好ましくは腫瘍抗原応答性CTLを刺激することができる、ならびに/またはそれ自体でもしくは免疫原性担体に結合して使用された場合、本発明によって同定される腫瘍抗原に特異的に結合する抗体を惹起することができる。本発明による腫瘍抗原ペプチドは、配列表の配列番号:2に従ったアミノ酸配列のフラグメントの配列に実質的に対応する配列を含むペプチドであるか、または前記ペプチドの誘導体である。腫瘍抗原ペプチドは任意の長さであり得る。
【0161】
腫瘍抗原ペプチドが直接、すなわち未処理の状態で、特に切断されずに提示される場合、腫瘍抗原ペプチドは、MHC分子、特にMHCクラスI分子に結合するのに適した長さを有し、好ましくは7〜20アミノ酸長、より好ましくは7〜12アミノ酸長、より好ましくは8〜11アミノ酸長、特に9または10アミノ酸長である。好ましくは、直接提示される腫瘍抗原ペプチドの配列は、本発明によって同定される腫瘍抗原のアミノ酸配列に由来する、すなわちその配列は本発明によって同定される腫瘍抗原のフラグメントに実質的に対応し、好ましくは完全に同一である。腫瘍抗原ペプチドが処理された後に、特に切断後に提示される場合、プロセシングによって生成されるペプチドは、MHC分子、特にMHCクラスI分子に結合するのに適した長さを有し、好ましくは7〜20アミノ酸長、より好ましくは7〜12アミノ酸長、より好ましくは8〜11アミノ酸長、特に9または10アミノ酸長である。好ましくは、処理後に提示されるペプチドの配列は、本発明によって同定される腫瘍抗原のアミノ酸配列に由来する、すなわちその配列は本発明によって同定される腫瘍抗原のフラグメントに実質的に対応し、好ましくは完全に同一である。従って、1つの実施形態での本発明による腫瘍抗原ペプチドは、本発明によって同定される腫瘍抗原のフラグメントに実質的に対応し、好ましくは完全に同一である、7〜20アミノ酸長、より好ましくは7〜12アミノ酸長、より好ましくは8〜11アミノ酸長、特に9または10アミノ酸長の配列を含み、腫瘍抗原ペプチドの処理後に提示ペプチドを形成する。しかし、腫瘍抗原ペプチドはまた、上記で述べた配列よりもさらに一層長い、本発明によって同定される腫瘍抗原のフラグメントに実質的に対応し、好ましくは完全に同一である配列を含み得る。1つの実施形態では、腫瘍抗原ペプチドは、本発明によって同定される腫瘍抗原の配列全体を含み得る。
【0162】
好ましくは、腫瘍抗原ペプチドは、直接または処理された後に、MHCクラスI分子と共に提示され得、そのように提示された場合、腫瘍抗原応答性CTLを刺激することができる。MHCクラスIによって提示されるペプチドの配列に実質的に対応するアミノ酸配列を有するペプチドは、MHCクラスIによって提示されるペプチドのTCR認識のため、またはMHCへのペプチドの結合のために必須ではない1またはそれ以上の残基において異なり得る。そのような実質的に対応するペプチドも、腫瘍抗原応答性CTLを刺激することができる。TCR認識に影響を及ぼさないが、MHCへの結合の安定性を改善する残基において提示ペプチドと異なるアミノ酸配列を有するペプチドは、腫瘍抗原ペプチドの免疫原性を改善することができ、本明細書では「最適化ペプチド」と称され得る。これらの残基のいずれがMHCまたはTCRのどちらかへの結合に影響を及ぼす可能性がより高いと考えられるかについての既存の知識を利用して、実質的に対応するペプチドの設計への合理的なアプローチを使用し得る。機能性である生じたペプチドは、腫瘍抗原ペプチドとして考慮される。
【0163】
「免疫反応性細胞」とは、適切な刺激後に免疫細胞(B細胞、ヘルパーT細胞またはCTLなど)へと成熟することができる細胞を意味する。つまり、免疫反応性細胞は、CD34+造血幹細胞、未熟T細胞および未熟B細胞を含む。腫瘍抗原を認識するCTLsを生成することを所望する場合は、免疫反応性細胞を、CTLsの産生、分化および/または選択を促進する条件下で腫瘍抗原または前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドを提示する細胞と接触させる。
【0164】
「腫瘍抗原をMHCクラスIと共に提示する性質を有する細胞」または「腫瘍抗原をMHCクラスIと共に提示する細胞」または同様の表現は、腫瘍細胞、またはMHCクラスI分子に関連して、それが発現する腫瘍抗原もしくは、例えば腫瘍抗原のプロセシングによる、前記腫瘍抗原に由来するフラグメントを提示する抗原提示細胞などの細胞を意味する。同様に、「腫瘍抗原をMHCクラスIと共に提示する性質を有する腫瘍」という用語は、腫瘍抗原をMHCクラスIと共に提示する性質を有する細胞を含む腫瘍を表す。
【0165】
「本発明によって同定される提示される腫瘍抗原のフラグメント」または同様の表現は、フラグメントが、例えば抗原提示細胞に直接添加された場合、MHCクラスIまたはクラスII、好ましくはMHCクラスIによって提示され得ることを意味する。1つの実施形態では、フラグメントは、本発明によって同定される腫瘍抗原を発現する細胞、例えば腫瘍細胞によって天然に提示されるフラグメントである。
【0166】
「腫瘍抗原または前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドを認識する細胞」または「腫瘍抗原または前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドを認識する免疫反応性細胞」または同様の表現は、特に抗原提示細胞または腫瘍細胞の表面上のようにMHC分子に関連して提示された場合、前記腫瘍抗原または前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドをある程度の特異性で認識することができる細胞を意味する。好ましくは、前記認識は、腫瘍抗原または前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドを認識する細胞が応答性であることを可能にする。細胞が、MHCクラスII分子に関連して腫瘍抗原または前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドを認識する受容体を担持するヘルパーT細胞(CD4+T細胞)である場合、そのような応答性は、サイトカインの放出ならびに/またはCD8+リンパ球(CTLs)および/もしくはB細胞の活性化を含み得る。細胞がCTLである場合、そのような応答性は、例えばアポトーシスまたはパーフォリン媒介性細胞溶解を介した、MHCクラスI分子に関連して提示される細胞、すなわち腫瘍抗原をMHCクラスIと共に提示する性質を有する細胞の除去を含み得る。腫瘍抗原または前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドを認識し、応答性であるそのようなCTLはまた、本明細書では「腫瘍抗原応答性CTL」とも称される。細胞がB細胞である場合、そのような免疫応答性は免疫グロブリンの放出を含み得る。
【0167】
「腫瘍抗原または前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドを認識するT細胞受容体」とは、特にMHC分子に関連して提示された場合、前記腫瘍抗原または前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドをある程度の特異性で認識することができるT細胞受容体を意味する。好ましくは、前記認識は、上記で概説したように腫瘍抗原または前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドを認識するT細胞受容体を担持する細胞が応答性であることを可能にする。
【0168】
「腫瘍抗原に対する細胞応答」は、腫瘍抗原をMHCクラスIまたはクラスIIと共に提示する性質を有する細胞に対する細胞応答を含むことが意図されている。細胞応答は、「ヘルパー」または「キラー」のいずれかとして働くT細胞またはTリンパ球と呼ばれる細胞に関する。ヘルパーT細胞(CD4+T細胞とも称される)は、免疫応答を調節することによって中心的役割を果たし、キラー細胞(細胞傷害性T細胞、細胞溶解性T細胞、CD8+T細胞またはCTLsとも称される)は、腫瘍細胞を死滅させ、より多くの腫瘍細胞の産生を阻止する。両方の免疫応答が必要であると考えられるが、癌を制御するためにはCTL応答がより重要であると考えられる。
【0169】
本発明によれば、参照試料または参照生物などの「参照品」は、試験試料または試験生物、すなわち患者から本発明の方法で得られる結果を関連付け、比較するために使用され得る。典型的には、参照生物は健常生物、特に腫瘍性疾患に罹患していない生物である。
【0170】
「参照値」または「参照レベル」は、十分に大きな数の参照品を測定することによって参照品から経験的に決定され得る。好ましくは、参照値は、少なくとも2、好ましくは少なくとも3、好ましくは少なくとも5、好ましくは少なくとも8、好ましくは少なくとも12、好ましくは少なくとも20、好ましくは少なくとも30、好ましくは少なくとも50、または好ましくは少なくとも100の参照品を測定することによって決定される。
【0171】
本発明によれば、「結合」という用語は、好ましくは特異的結合に関する。「特異的結合」は、抗体などの物質が、それが特異的である抗原決定基などの標的に対して、別の標的への結合と比較してより強く結合することを意味する。ある物質は、第二標的に対する解離定数(K)より低い解離定数で第一標的に結合する場合、第二標的に比べて第一標的により強く結合する。好ましくは、物質が特異的に結合する標的に対する解離定数(K)は、その物質が特異的に結合しない標的に対する解離定数(K)よりも10倍、10倍、10倍、10倍、10倍、10倍、10倍、10倍または1010倍以上低い。
【0172】
本発明によれば、核酸は、好ましくはデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)である。核酸は、本発明によれば、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、組換え生産されたおよび化学合成された分子を含む。本発明によれば、核酸は、一本鎖または二本鎖としておよび直鎖状または共有結合閉環状分子として存在し得る。
【0173】
「本発明によって同定される腫瘍核酸」および「本発明によって同定される腫瘍抗原をコードする核酸」という用語は、同様の意味を有する。
【0174】
本明細書で使用される、「RNA」という用語は、少なくとも1つのリボヌクレオチド残基を含む分子を意味する。「リボヌクレオチド」とは、β−D−リボ−フラノース部分の2'位にヒドロキシル基を有するヌクレオチドを意味する。この用語は、二本鎖RNA、一本鎖RNA、部分的に精製されたRNAなどの単離RNA、基本的に純粋なRNA、合成RNA、組換え生産されたRNA、ならびに1またはそれ以上のヌクレオチドの付加、欠損、置換および/または改変によって天然に生じるRNAとは異なる改変RNAを包含する。そのような改変は、RNAの末端または内部などへの、例えばRNAの1またはそれ以上のヌクレオチドにおける、非ヌクレオチド物質の付加を含み得る。RNA分子内のヌクレオチドはまた、天然では生じないヌクレオチドまたは化学合成されたヌクレオチドまたはデオキシヌクレオチドのような非標準ヌクレオチドも含み得る。これらの改変されたRNAは、類似体または天然に生じるRNAの類似体と称され得る。
【0175】
本明細書において核酸の検出または核酸の量の測定に言及する場合、実際に検出されるべきであるまたはその量が実際に測定されるべきである核酸は、好ましくはmRNAである。しかし、これはまた、mRNAが間接的に検出されるまたはmRNAの量が間接的に測定される実施形態を含み得ることが了解されるべきである。例えば、mRNAがcDNAに変換されて、そのcDNAが検出されてもよく、またはその量が測定されてもよい。mRNAは、本明細書ではcDNAの等価物とみなされる。当業者は、cDNA配列がmRNA配列と等価であり、本明細書では同じ目的のため、例えば検出されるべき核酸にハイブリダイズするプローブの作製のために使用できることを理解する。従って、本明細書において配列表に示す配列に言及する場合、これはまた、前記配列のRNA等価物も包含するものとする。
【0176】
本発明に従って述べる核酸は、好ましく単離されている。「単離核酸」という用語は、本発明によれば、核酸が、(i)例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、インビトロで増幅された、(ii)クローニングによって組換え生産された、(iii)例えば切断とゲル電気泳動による分画によって、精製された、または(iv)例えば化学合成によって、合成されたことを意味する。単離核酸は、組換えDNA技術による操作のために使用可能な核酸である。
【0177】
例えば核酸およびアミノ酸配列に関して「変異体」という用語は、本発明によれば、任意の変異体、特に突然変異体、スプライス変異体、立体配座変異体、アイソフォーム、対立遺伝子変異体、種変異体および種ホモログ、特に天然に存在するものを包含する。対立遺伝子変異体は、遺伝子の正常な配列の変化に関するが、その重要性はしばしば不明確である。完全な遺伝子配列決定は、多くの場合、所与の配列に対する多数の対立遺伝子変異体を同定する。種ホモログは、所与の核酸またはアミノ酸配列のものとは異なる種を起源とする核酸またはアミノ酸配列である。
【0178】
核酸分子に関して、「変異体」という用語は、縮重核酸配列を包含し、本発明による縮重核酸は、遺伝暗号の縮重のためにコドン配列が参照の核酸とは異なる核酸である。
【0179】
さらに、本発明による特定核酸配列の「変異体」は、単一または、少なくとも2、少なくとも4、または少なくとも6、好ましくは3まで、4まで、5まで、6まで、10まで、15まで、または20までのような複数のヌクレオチド置換、欠層および/または付加を含む核酸配列を包含する。
【0180】
好ましくは、所与の核酸配列と前記所与の核酸配列の変異体である核酸配列との間の相同性は、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、さらに一層好ましくは少なくとも90%、または最も好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%または99%である。相同性は、好ましくは、少なくとも約30、少なくとも約50、少なくとも約70、少なくとも約90、少なくとも約100、少なくとも約150、少なくとも約200、少なくとも約250、少なくとも約300、または少なくとも約400ヌクレオチドの領域に対して与えられる。好ましい実施形態では、相同性は、参照の核酸配列の全長に対して与えられる。
【0181】
「配列類似性」は、同一であるかまたは保存的アミノ酸置換であるアミノ酸のパーセンテージを示す。2つのポリペプチドまたは核酸配列の間の「配列同一性」は、配列間で同一であるアミノ酸またはヌクレオチドのパーセンテージを示す。
【0182】
「同一性割合」という用語は、最良のアラインメント後に得られた、比較する2つの配列の間で同一であるヌクレオチドまたはアミノ酸残基の割合を表すことが意図されており、この割合は純粋に統計的であって、2つの配列の間の相違は、ランダムにおよびそれらの全長にわたって分布する。2つのヌクレオチドまたはアミノ酸配列の間の配列比較は、従来、これらの配列を最適に整列した後に比較することによって実施され、前記比較は、配列類似性の局所領域を同定し、比較するためにセグメントごとにまたは「比較ウインドウ」ごとに実施される。比較のための配列の最適アラインメントは、手操作による以外に、Smith and Waterman,1981,Ads App.Math.2,482の局所相同性アルゴリズムによって、Neddleman and Wunsch,1970,J.Mol.Biol.48,443の局所相同性アルゴリズムによって、Pearson and Lipman,1988,Proc.Natl Acad.Sci.USA 85,2444の類似性検索法によって、またはこれらのアルゴリズムを使用したコンピュータプログラム(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Drive,Madison,Wis.におけるGAP、BESTFIT、FASTA、BLAST P、BLAST NおよびTFASTA)によって作成され得る。
【0183】
同一性割合は、比較する2つの配列の間で同一の位置の数を決定し、これら2つの配列間の同一性割合を得るために、この数を比較する位置の数で除して、得られた結果に100を乗じることによって計算される。
【0184】
核酸は、2つの配列が互いに相補的である場合、もう1つの核酸に「ハイブリダイズすることができる」または「ハイブリダイズする」。核酸は、2つの配列が互いと安定な二本鎖を形成することができる場合、もう1つの核酸に「相補的」である。本発明によれば、ハイブリダイゼーションは、好ましくはポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを許容する条件(ストリンジェントな条件)下で実施される。ストリンジェントな条件は、例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,J.Sambrook et al.,Editors,2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory press,Cold Spring Harbor,New York,1989またはCurrent Protocols in Molecular Biology,F.M.Ausubel et al.,Editors,John Wiley & Sons,Inc.,New Yorkに記載されており、例えば、ハイブリダイゼーション緩衝液(3.5×SSC、0.02%Ficoll、0.02%ポリビニルピロリドン、0.02%ウシ血清アルブミン、2.5mM NaHPO(pH7)、0.5%SDS、2mM EDTA)中65℃でのハイブリダイゼーションを参照されたい。SSCは、0.15M塩化ナトリウム/0.15Mクエン酸ナトリウム、pH7である。ハイブリダイゼーション後、DNAが導入された膜を、例えば2×SSC中室温で、次に0.1〜0.5×SSC/0.1×SDS中68℃までの温度で洗浄する。
【0185】
相補性割合は、第二の核酸配列と水素結合(例えばワトソン−クリック塩基対合)を形成することができる核酸分子内の連続する残基のパーセンテージを示す(例えば、10個のうち5、6、7、8、9、10個は50%、60%、70%、80%、90%、および100%相補的である)。「完全に相補的(perfectly complementary、fully complementary)」は、核酸配列のすべての連続する残基が第二核酸配列内の同じ数の連続する残基と水素結合することを意味する。好ましくは、本発明による相補性の程度は、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、さらに一層好ましくは少なくとも90%、または最も好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%または99%である。最も好ましくは、本発明による相補性の程度は100%である。
【0186】
「誘導体」という用語は、ヌクレオチド塩基、糖またはリン酸塩上の核酸の任意の化学的誘導体化を含む。「誘導体」という用語はまた、天然には生じないヌクレオチドおよびヌクレオチド類似体を含む核酸を包含する。好ましくは、核酸の誘導体化はその安定性を高める。
【0187】
腫瘍抗原または腫瘍抗原ペプチドをコードする核酸は、本発明によれば、単独でまたは他の核酸、特に異種核酸との組合せで存在し得る。好ましくは、腫瘍抗原または腫瘍抗原ペプチドをコードする核酸は、前記腫瘍抗原または腫瘍抗原ペプチドを発現する。好ましい実施形態では、核酸は、前記核酸に関して同種または異種であってよい発現制御配列または調節配列に機能的に連結されている。コード配列と調節配列は、それらが、前記コード配列の発現または転写が前記調節配列の制御下または影響下にあるように互いに共有結合で連結されている場合、互いに「機能的に」連結されている。コード配列が機能的タンパク質に翻訳される場合、調節配列が前記コード配列に機能的に連結されていれば、前記調節配列の誘導は、コード配列内にフレームシフトを引き起こすことなくまたは前記コード配列が所望タンパク質もしくはペプチドに翻訳されるのを不可能にすることなく、前記コード配列の転写を生じさせる。
【0188】
「発現制御配列」または「調節配列」という用語は、本発明の、他の制御エレメントによれば、プロモーター、エンハンサーおよび遺伝子の発現を調節することが出来る。本発明の特定の実施形態では、発現制御配列を調節することができる。調節配列の正確な構造は、種または細胞型に応じて異なり得るが、一般には、TATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列等のような、それぞれ転写および翻訳の開始に関与する5'非転写配列および5'非翻訳配列を含む。より詳細には、5'非転写調節配列は、機能的に連結された遺伝子の転写制御のためのプロモーター配列を含有するプロモーター領域を含む。調節配列はまた、エンハンサー配列または上流活性化配列も含み得る。
【0189】
本発明によれば、核酸はさらに、前記核酸によってコードされるタンパク質またはペプチドの宿主細胞からの分泌を制御するペプチドをコードする別の核酸と組み合わせて存在し得る。本発明によれば、核酸はまた、コードされるタンパク質またはペプチドが宿主細胞の細胞膜に固定されるまたは前記細胞の特定小器官に分画されることを生じさせるペプチドをコードする別の核酸と組み合わせて存在し得る。同様に、レポーター遺伝子または任意の「タグ」である核酸との組合せが可能である。
【0190】
好ましい実施形態では、組換え核酸分子は、本発明によれば、核酸、例えば本発明によって同定される腫瘍抗原をコードする核酸の発現を制御する、適切な場合にはプロモーターを有する、ベクターである。「ベクター」という用語は、本明細書ではその最も典型的な意味で使用され、核酸が、例えば原核細胞および/または真核細胞に導入されて、適切な場合には、ゲノムに組み込まれることを可能にする、前記核酸のための任意の中間ビヒクルを含む。この種のベクターは、好ましくは細胞内で複製および/または発現される。中間ビヒクルは、例えば、電気穿孔法、微粒子銃、リポソーム投与、アグロバクテリアを用いた導入、またはDNAもしくはRNAウイルスを介した挿入における使用に適合させ得る。ベクターは、プラスミド、ファージミド、バクテリオファージまたはウイルスゲノムを含む。
【0191】
本発明によって同定される腫瘍抗原をコードする核酸は、宿主細胞のトランスフェクションのために使用し得る。本明細書における核酸は、組換えDNAおよびRNAの両方を意味する。組換えRNAは、DNA鋳型のインビトロ転写によって作製し得る。さらに、適用の前に配列の安定化、キャップ形成およびポリアデニル化によって修飾してもよい。
【0192】
本発明によれば、「宿主細胞」という用語は、外来性の核酸を形質転換またはトランスフェクトすることができる任意の細胞に関する。「宿主細胞」という用語は、本発明によれば、原核細胞(例えば大腸菌(E.coli))または真核細胞(例えば樹状細胞、B細胞、CHO細胞、COS細胞、K562細胞、酵母細胞および昆虫細胞)を含む。ヒト、マウス、ハムスター、ブタ、ヤギ、霊長動物からの細胞などの哺乳動物細胞が特に好ましい。細胞は様々な組織型に由来してよく、一次細胞および細胞株を含み得る。具体的な例は、ケラチノサイト、末梢血白血球、骨髄の幹細胞および胚性幹細胞を含む。さらなる実施形態では、宿主細胞は、抗原提示細胞、特に樹状細胞、単球またはマクロファージである。核酸は、単一コピーまたは2もしくはそれ以上のコピーの形態で宿主細胞内に存在してよく、1つの実施形態では、宿主細胞において発現される。
【0193】
本発明によれば、「発現」という用語は、その最も典型的な意味で使用され、RNAの産生またはRNAとタンパク質の産生を含む。この用語はまた、核酸の部分的発現を含む。さらに、発現は一過性にまたは安定に実施され得る。哺乳動物細胞における好ましい発現系は、G418に対する耐性を付与する遺伝子のような選択マーカー(従って安定にトランスフェクトされた細胞株を選択することを可能にする)およびサイトメガロウイルス(CMV)のエンハンサー−プロモーター配列を含有する、pcDNA3.1、pcDNA3.3およびpRc/CMV(Invitrogen,Carlsbad,CA)を含む。
【0194】
MHC分子が腫瘍抗原または腫瘍抗原ペプチドを提示する本発明の場合、発現ベクターはまた、前記MHC分子をコードする核酸配列を含み得る。MHC分子をコードする核酸配列は、腫瘍抗原または腫瘍抗原ペプチドをコードする核酸と同じ発現ベクターに存在してもよく、または2つの核酸が異なる発現ベクターに存在してもよい。後者の場合、2つの発現ベクターを細胞に同時に形質転換し得る。宿主細胞が腫瘍抗原もしくは腫瘍抗原ペプチドまたはMHC分子のどちらも発現しない場合、それぞれをコードする2つの核酸を、同じ発現ベクターまたは異なる発現ベクターで細胞に導入し得る。細胞が既にMHC分子を発現する場合は、腫瘍抗原または腫瘍抗原ペプチドをコードする核酸配列だけを細胞にトランスフェクトすることができる。
【0195】
「アンチセンス分子」または「アンチセンス核酸」は、核酸の発現を調節する、特に低下させるために使用し得る。「アンチセンス分子」または「アンチセンス核酸」という用語は、本発明によれば、オリゴリボヌクレオチド、オリゴデオキシリボヌクレオチド、修飾オリゴリボヌクレオチドまたは修飾オリゴデオキシリボヌクレオチドであって、特定遺伝子を含むDNAまたは前記遺伝子のmRNAに生理的条件下でハイブリダイズし、それにより前記遺伝子の転写および/または前記mRNAの翻訳を阻害するオリゴヌクレオチドを指す。本発明によれば、「アンチセンス分子」はまた、その天然プロモーターに対して逆方向に核酸またはその一部を含む構築物を包含する。核酸またはその一部のアンチセンス転写産物は、天然に生じるmRNAと二本鎖を形成することができ、従ってmRNAの蓄積または翻訳を妨げ得る。もう1つの可能性は、核酸を不活性化するためのリボザイムの使用である。
【0196】
好ましい実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、N末端または翻訳開始部位、転写開始部位もしくはプロモーター部位などの5'上流部位とハイブリダイズする。さらなる実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、3'非翻訳領域またはmRNAスプライシング部位とハイブリダイズする。
【0197】
1つの実施形態では、本発明のオリゴヌクレオチドは、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチドまたはその組合せから成り、1つのヌクレオチドの5'末端ともう1つのヌクレオチドの3'末端がホスホジエステル結合によって互いに連結されている。これらのオリゴヌクレオチドは、従来の方法で合成され得るかまたは組換えによって生産され得る。
【0198】
好ましい実施形態では、本発明のオリゴヌクレオチドは「修飾」オリゴヌクレオチドである。オリゴヌクレオチドは、例えばその安定性または治療効果を高めるために、その標的に結合する能力を損なわずに多種多様な方法で修飾し得る。本発明によれば、「修飾オリゴヌクレオチド」という用語は、(i)そのヌクレオチドの少なくとも2個が合成ヌクレオシド間結合(すなわちホスホジエステル結合ではないヌクレオシド間結合)によって互いに連結されている、および/または(ii)通常は核酸内で認められない化学基がオリゴヌクレオチドに共有結合で連結されている、オリゴヌクレオチドを意味する。好ましい合成ヌクレオシド間結合は、ホスホロチオエート、アルキルホスホネート、ホスホロジチオエート、リン酸エステル、アルキルホスホノチオエート、ホスホルアミデート、カルバメート、カルボネート、リン酸トリエステル、アセトアミデート、カルボキシメチルエステルおよびペプチドである。
【0199】
「修飾オリゴヌクレオチド」という用語はまた、共有結合で修飾された塩基および/または糖を有するオリゴヌクレオチドを含む。「修飾オリゴヌクレオチド」は、例えば、3'位のヒドロキシル基および5'位のリン酸基以外の低分子量有機基に共有結合した糖残基を有するオリゴヌクレオチドを含む。修飾オリゴヌクレオチドは、例えば2'−O−アルキル化リボース残基またはリボースの代わりにアラビノースのような別の糖を含有し得る。
【0200】
オリゴヌクレオチドに関して上述したすべての実施形態はポリヌクレオチドにも適用され得ることが了解されるべきである。
【0201】
本明細書で使用される「低分子干渉RNA」または「siRNA」とは、標的遺伝子または分解されるべきmRNAを同定するために使用される、好ましくは10ヌクレオチド長より大きい、より好ましくは15ヌクレオチド長より大きい、最も好ましくは18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30ヌクレオチド長の単離RNA分子を意味する。19〜25ヌクレオチドの範囲がsiRNAについての最も好ましい大きさである。
【0202】
本発明によるsiRNAは、部分精製されたRNA、実質的に純粋なRNA、合成RNA、または組換え生産されたRNA、ならびに1もしくはそれ以上のヌクレオチドの付加、欠損、置換および/もしくは改変によって天然に生じるRNAとは異なる改変されたRNAを含み得る。そのような改変は、siRNAの末端またはsiRNAの1もしくはそれ以上の内部ヌクレオチドなどへの、非ヌクレオチド物質の付加;siRNAをヌクレアーゼ消化に対して抵抗性にする修飾(例えば2'置換リボヌクレオチドの使用もしくは糖−リン酸骨格への修飾);またはデオキシリボヌクレオチドによるsiRNA内の1もしくはそれ以上のヌクレオチドの置換を含み得る。さらに、siRNAは、修飾オリゴヌクレオチドに関して上述したようにその安定性を高めるために、特に1またはそれ以上のホスホロチオエート結合を導入することによって修飾し得る。
【0203】
siRNAの一方の鎖または両方の鎖はまた、3'突出部を含み得る。本明細書で使用される、「3'突出部」は、RNA鎖の3'末端から伸長している少なくとも1つの不対ヌクレオチドを指す。従って1つの実施形態では、siRNAは、1〜約6ヌクレオチド(リボヌクレオチドまたはデオキシヌクレオチドを含む)長、好ましくは1〜約5ヌクレオチド長、より好ましくは1〜約4ヌクレオチド長、特に好ましくは約2〜約4ヌクレオチド長の少なくとも1つの3'突出部を含む。siRNA分子の両方の鎖が3'突出部を含む実施形態では、突出部の長さは各々の鎖について同じであってもよくまたは異なってもよい。最も好ましい実施形態では、3'突出部はsiRNAの両方の鎖に存在し、2ヌクレオチド長である。例えば、本発明のsiRNAの各々の鎖は、ジデオキシチミジル酸(「TT」)またはジウリジル酸(「uu」)の3'突出部を含み得る。
【0204】
siRNAの安定性を高めるために、3'突出部を分解に対して安定化することもできる。1つの実施形態では、突出部は、アデノシンまたはグアノシンヌクレオチドなどのプリンヌクレオチドを含むことによって安定化される。あるいは、修飾類似体によるピリミジンヌクレオチドの置換、例えば2'−デオキシチミジンによる3'突出部内のウリジンヌクレオチドの置換は耐容され、RNAi分解の効率に影響を及ぼさない。特に、2'−デオキシチミジン内に2'−ヒドロキシルが存在しないことは、組織培養培地における3'突出部のヌクレアーゼ耐性を有意に増強する。
【0205】
siRNAのセンス鎖とアンチセンス鎖は、2つの相補的な一本鎖RNA分子を含み得るか、または2つの相補的な部分が塩基対合し、一本鎖「ヘアピン」領域によって共有結合で連結されている単一分子を含み得る。すなわち、センス領域とアンチセンス領域はリンカー分子を介して共有結合で連結され得る。リンカー分子は、ポリヌクレオチドまたは非ヌクレオチドリンカーであり得る。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、後者のタイプのsiRNA分子のヘアピン領域は、「ダイサー」タンパク質(またはその等価物)によって細胞内で切断され、2つの個別の塩基対合RNA分子のsiRNAを形成すると考えられる。
【0206】
本明細書で使用される、「標的mRNA」は、下方調節のための標的であるRNA分子を指す。
【0207】
pol IIIプロモーターからのRNAの発現は、最初の転写ヌクレオチドがプリンである場合にのみ効率的であると考えられるので、標的する部位を変化させずにpol III発現ベクターからsiRNAを発現させることができる。
【0208】
本発明によるsiRNAは、標的mRNA配列(「標的配列」)のいずれかにおいて任意の一続きの約19〜25個の連続するヌクレオチドを標的できる。siRNAについての標的配列を選択するための技術は、例えば、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる、2002年10月11日に改訂された、Tuschl T.et al.,「The siRNA User Guide」に示されている。「The siRNA User Guide」は、ワールドワイドウエブ上のDr.Thomas Tuschl,Laboratory of RNA Molecular Biology,Rockefeller University,New York,USAによって運営されているウエブサイトで入手可能であり、the Rockefeller Universityのウエブサイトにアクセスして、「siRNA」のキーワードで検索することによって見出される。従って、本発明のsiRNAのセンス鎖は、標的mRNA内の任意の連続する一続きの約19〜約25ヌクレオチドと実質的に同一のヌクレオチド配列を含む。
【0209】
一般に、標的mRNA上の標的配列は、好ましくは開始コドンから50〜100ヌクレオチド下流(すなわち、3'方向)から始まる、標的mRNAに対応する所与のcDNA配列から選択できる。標的配列は、しかし、5'もしくは3'非翻訳領域、または開始コドンに近接する領域に位置し得る。
【0210】
siRNAは、当業者の公知の多くの技術を用いて入手できる。例えば、siRNAは、化学合成することができるかまたは、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる、Tuschl et al.の米国特許出願公開第2002/0086356号に記載されているショウジョウバエ(Drosophila)インビトロ系のような、当技術分野で公知の方法を用いて組換え生産することができる。
【0211】
好ましくは、siRNAは、適切に保護されたリボヌクレオシドホスホルアミダイトおよび従来のDNA/RNA合成装置を用いて化学合成される。siRNAは、2個の別々の相補的なRNA分子として、または2つの相補的な領域を有する1個のRNA分子として合成することができる。
【0212】
あるいは、siRNAはまた、任意の適切なプロモーターを使用して組換え環状または直鎖状DNAプラスミドから発現させることができる。そのような実施形態は、本明細書でsiRNAの投与または医薬組成物へのsiRNAの組込みに言及する場合に、本発明に従って包含される。プラスミドから本発明のsiRNAを発現するための適切なプロモーターは、例えばU6またはH1 RNA pol IIIプロモーター配列およびサイトメガロウイルスプロモーターを含む。
【0213】
他の適切なプロモーターの選択は当技術分野の技術範囲内である。本発明の組換えプラスミドはまた、特定組織または特定細胞内環境におけるsiRNAの発現のために誘導的または調節性プロモーターを含み得る。
【0214】
組換えプラスミドから発現されるsiRNAは、培養細胞発現系から標準的な技術によって単離され得るか、または細胞内で発現され得る。インビボでsiRNAを細胞に送達するための組換えプラスミドの使用は、以下でより詳細に論じる。siRNAは、2個の別々の相補的なRNA分子として、または2つの相補的な領域を有する1個のRNA分子として組換えプラスミドから発現され得る。
【0215】
siRNAを発現するのに適したプラスミドの選択、siRNAを発現するための核酸配列をプラスミドに挿入するための方法、および対象とする細胞に組換えプラスミドを送達する方法は、当技術分野の技術範囲内である。
【0216】
siRNAはまた、インビボで組換えウイルスベクターから細胞内で発現され得る。組換えウイルスベクターは、siRNAをコードする配列およびsiRNA配列を発現するための任意の適切なプロモーターを含む。組換えウイルスベクターはまた、特定組織または特定細胞内環境におけるsiRNAの発現のための誘導的または調節性プロモーターを含み得る。siRNAは、2個の別々の相補的なRNA分子として、または2つの相補的な領域を有する1個のRNA分子として組換えウイルスベクターから発現され得る。
【0217】
「ペプチド」という用語は、オリゴペプチドおよびポリペプチドを含み、ペプチド結合によって共有結合で連結された2またはそれ以上、好ましくは3またはそれ以上、好ましくは4またはそれ以上、好ましくは6またはそれ以上、好ましくは8またはそれ以上、好ましくは10またはそれ以上、好ましくは13またはそれ以上、好ましくは16またはそれ以上、好ましくは21またはそれ以上、および好ましくは8、10、20、30、40または50まで、特に100までのアミノ酸を含む物質を指す。「タンパク質」という用語は、大きなペプチド、好ましくは100を超えるアミノ酸残基を有するペプチドを指すが、一般に「ペプチド」と「タンパク質」という用語は同義語であり、本明細書では交換可能に使用される。
【0218】
好ましくは、本発明に従って述べるタンパク質およびペプチドは単離されている。「単離タンパク質」または「単離ペプチド」という用語は、タンパク質またはペプチドがその天然環境から分離されていることを意味する。単離タンパク質またはペプチドは、基本的に精製された状態であり得る。「基本的に精製された」という用語は、タンパク質またはペプチドが、自然界でまたはインビボで結合している他の物質を基本的に含まないことを意味する。
【0219】
そのようなタンパク質およびペプチドは、例えば抗体の作製において、および免疫学的アッセイもしくは診断アッセイにおいて、または治療薬として使用し得る。本発明に従って述べるタンパク質およびペプチドは、組織または細胞ホモジネートなどの生物学的試料から単離され得、また、多種多様な原核生物または真核生物発現系において組換え発現され得る。
【0220】
本発明に関して、タンパク質もしくはペプチドまたはアミノ酸配列の「変異体」は、アミノ酸挿入変異体、アミノ酸欠失変異体および/またはアミノ酸置換変異体を含む。
【0221】
アミノ酸挿入変異体は、アミノ末端および/またはカルボキシ末端融合、ならびに特定アミノ酸配列における単一アミノ酸または2もしくはそれ以上のアミノ酸の挿入を含む。挿入を有するアミノ酸配列変異体の場合は、1またはそれ以上のアミノ酸残基がアミノ酸配列内の特定部位に挿入されるが、生じる産物の適切なスクリーニングを伴うランダム挿入も可能である。
【0222】
アミノ酸欠失変異体は、配列からの1またはそれ以上のアミノ酸の除去を特徴とする。
【0223】
アミノ酸置換変異体は、配列内の少なくとも1個の残基が除去され、別の残基がその位置に挿入されていることを特徴とする。相同なタンパク質またはペプチドの間で保存されていないアミノ酸配列内の位置に修飾が存在することおよび/またはアミノ酸を類似の性質を有する他のアミノ酸で置換することが好ましい。
【0224】
好ましくは、タンパク質変異体におけるアミノ酸変化は、保存的アミノ酸変化、すなわち類似の荷電または非荷電アミノ酸の置換である。保存的アミノ酸変化は、その側鎖が関連するアミノ酸のファミリーの1つの置換を含む。天然に生じるアミノ酸は一般に4つのファミリーに分けられる:酸性アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)、塩基性アミノ酸(リシン、アルギニン、ヒスチジン)、非極性アミノ酸(アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、および非荷電極性アミノ酸(グリシン、アスパラギン、グルタミン、シスチン、セリン、トレオニン、チロシン)アミノ酸。フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンは、時として芳香族アミノ酸として一緒に分類される。
【0225】
好ましくは、所与のアミノ酸配列と前記所与のアミノ酸配列の変異体であるアミノ酸配列との間の類似性の程度、好ましい相同性は、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、さらに一層好ましくは少なくとも90%、または最も好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%または99%である。類似性または相同性は、好ましくは、少なくとも約20、少なくとも約40、少なくとも約60、少なくとも約80、少なくとも約100、少なくとも約120、少なくとも約140、少なくとも約160、少なくとも約200または250アミノ酸の領域に対して与えられる。好ましい実施形態では、類似性または相同性は、参照のアミノ酸配列の全長に対して与えられる。
【0226】
本明細書で述べるペプチドおよびアミノ酸変異体は、例えば固相合成(Merrifield,1964)および類似の方法または組換えDNA操作などの公知のペプチド合成技術を用いて容易に作製し得る。置換、挿入または欠損を有するタンパク質およびペプチドを作製するためのDNA配列の操作は、例えばSambrook et al.(1989)の中で詳細に説明されている。
【0227】
本発明によれば、タンパク質およびペプチドの「誘導体」は、タンパク質およびペプチドの修飾形態である。そのような修飾は、任意の化学修飾を含み、炭水化物、脂質および/またはタンパク質もしくはペプチドなどの、タンパク質またはペプチドに関連する任意の分子の単一または複数の置換、欠失および/または付加を含む。「誘導体」という用語はまた、前記タンパク質およびペプチドのすべての機能性の化学的等価物に及ぶ。好ましくは、修飾ペプチドは高い安定性および/または高い免疫原性を有する。
【0228】
本発明によれば、核酸もしくはアミノ酸配列の変異体、実質的に対応するアミノ酸配列またはペプチドのフラグメントもしくは誘導体は、好ましくは、それぞれ、それが由来する核酸もしくはアミノ酸配列、アミノ酸配列またはペプチドの機能的特性を有する。そのような機能的特性は、抗体との相互作用、他のペプチドまたはタンパク質との相互作用、核酸の選択的結合および酵素活性を含む。1つの実施形態では、核酸もしくはアミノ酸配列の変異体、実質的に対応するアミノ酸配列またはペプチドのフラグメントもしくは誘導体は、それぞれ、それが由来する核酸もしくはアミノ酸配列、アミノ酸配列またはペプチドと免疫学的に等価である。1つの実施形態では、機能的特性は免疫学的特性である。特定の特性は、MHC分子と複合体を形成し、適切な場合、好ましくは細胞傷害性細胞またはTヘルパー細胞を刺激することによって、免疫応答を生じる能力である。腫瘍抗原のフラグメントは、好ましくは腫瘍抗原の少なくとも6、特に少なくとも8、少なくとも10、少なくとも12、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも30または少なくとも50の連続するアミノ酸の配列を含む。腫瘍抗原のフラグメントは、好ましくは腫瘍抗原の8まで、特に10まで、12まで、15まで、20まで、30までまたは55までの連続するアミノ酸の配列を含む。腫瘍抗原のフラグメントは、好ましくは、MHC分子と共に提示され得、そのように提示された場合、細胞応答を刺激することができる腫瘍抗原の一部である。
【0229】
腫瘍抗原の好ましいフラグメントは、インビボでの細胞傷害性Tリンパ球の刺激に適するが、エクスビボでの治療的養子移入のための、増殖され、刺激されたTリンパ球の生産にも適する。
【0230】
標的タンパク質に特異的に結合する特異的抗体を含有する抗血清は、様々な標準的工程によって調製できる;例えば、「Monoclonal Antibodies:A Practical Approach」by Philip Shepherd,Christopher Dean ISBN 0−19−963722−9;「Antibodies:A Laboratory Manual」by Ed Harlow,David Lane,ISBN:0879693142および「Using Antibodies:A Laboratory Manual:Portable Protocol NO」by Edward Harlow,David Lane,Ed Harlow ISBN 0879695447参照。それにより、複合体膜タンパク質をそれらの天然形態で認識するアフィン(affine)および特異的抗体を作製することも可能である(Azorsa et al.,J.Immunol.Methods 229:35−48,1999;Anderson et al.,J.Immunol.143:1899−1904,1989;Gardsvoll,J.Immunol.Methods 234:107−116,2000)。これは、治療的に使用される予定の抗体の作製のために特に適切であるが、多くの診断適用にも適切である。これに関して、全タンパク質、細胞外部分配列ならびに生理的に折りたたまれた形態で標的分子を発現する細胞で免疫することが可能である。
【0231】
モノクローナル抗体は、伝統的にハイブリドーマ技術を用いて作製される(技術的詳細については:「Monoclonal Antibodies:A Practical Approach」by Philip Shepherd,Christopher Dean ISBN 0−19−963722−9;「Antibodies:A Laboratory Manual」by Ed Harlow,David Lane,ISBN:0879693142;「Using Antibodies:A Laboratory Manual:Portable Protocol NO」by Edward Harlow,David Lane,Ed Harlow ISBN:0879695447参照)。
【0232】
抗体分子の小さな部分であるパラトープだけが、抗体がその抗原決定基に結合することに関与することは公知である(Clark,W.R.(1986),The Experimental Foundations of Modern Immunology,Wiley & Sons,Inc.,New York;Roitt,I.(1991),Essential Immunology,7th Edition,Blackwell Scientific Publications,Oxford参照)。pFc'およびFc領域は、例えば、補体カスケードのエフェクターであるが、抗原結合には関与しない。F(ab')フラグメントと称される、pFc'領域が酵素的に除去されたまたはpFc'領域なしで生成された抗体は、完全抗体の両方の抗原結合部位を担持する。同様に、Fabフラグメントと称される、Fc領域が酵素的に除去されたまたは前記Fc領域なしで生成された抗体は、無傷抗体分子の一方の抗原結合部位を担持する。さらに、Fabフラグメントは、共有結合で連結された抗体の軽鎖および、Fdと称される前記抗体の重鎖の一部から成る。Fdフラグメントは抗体特異性の主要決定基であり(1つのFdフラグメントは、抗体の特異性を変化させずに10までの異なる軽鎖と結合できる)、Fdフラグメントは、単離された場合、抗原決定基に結合する能力を保持する。
【0233】
抗体の抗原結合部分内に位置するのは、抗原エピトープと直接相互作用する相補性決定領域(CDRs)およびパラトープの三次構造を維持するフレームワーク領域(FRs)である。IgG免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の両方のFdフラグメントが、各々の場合に3つの相補性決定領域(CDR1〜CDR3)によって分けられた4つのフレームワーク領域(FR1〜FR4)を含む。CDRs、特にCDR3領域、より詳細には、重鎖のCDR3領域は、抗体特異性に大きく関与する。
【0234】
哺乳動物抗体の非CDR領域は、もとの抗体の抗原決定基に対する特異性を保持しつつ、同じかまたは異なる特異性を有する抗体の類似領域によって置換され得ることが公知である。これにより、機能的抗体を生産するための、非ヒトCDRがヒトFRおよび/またはFc/pFc'領域に共有結合で連結された「ヒト化」抗体の開発が可能となった。
【0235】
もう1つの例として、国際公開公報第WO92/04381号は、マウスFR領域の少なくとも一部がヒト起源のFR領域で置換されたヒト化マウスRSV抗体の生産とその使用を述べている。抗原結合能力を有する無傷抗体のフラグメントを含む、この種の抗体は、しばしば「キメラ」抗体と称される。
【0236】
本発明によれば、「抗体」という用語はまた、抗体のF(ab')、Fab、FvおよびFdフラグメント、Fcおよび/またはFRおよび/またはCDR1および/またはCDR2および/または軽鎖CDR3領域が相同なヒトまたは非ヒト配列で置換されているキメラ抗体、FRおよび/またはCDR1および/またはCDR2および/または軽鎖CDR3領域が相同なヒトまたは非ヒト配列で置換されているキメラF(ab')フラグメント抗体、FRおよび/またはCDR1および/またはCDR2および/または軽鎖CDR3領域が相同なヒトまたは非ヒト配列で置換されているキメラFabフラグメント抗体、ならびにFRおよび/またはCDR1および/またはCDR2領域が相同なヒトまたは非ヒト配列で置換されているキメラFdフラグメント抗体を包含する。「抗体」という用語はまた、「一本鎖」抗体を含む。
【0237】
腫瘍抗原に特異的に結合する非抗体タンパク質およびペプチドは、本発明に従って使用された場合、抗体を置換し得る。この種の結合物質は、例えば、単に溶液中にて固定化形態でまたはファージディスプレイライブラリーとして作製され得る縮重ペプチドライブラリーによって提供され得る。同様に1またはそれ以上のアミノ酸を有するペプチドのコンビナトリアルライブラリーを作製することが可能である。ペプトイドおよび非ペプチド合成残基のライブラリーも作製し得る。
【0238】
抗体はまた、腫瘍抗原を発現する細胞および組織を提示するための治療標識に連結し得る。それらはまた、治療エフェクター部分にも連結し得る。
【0239】
検出可能標識は、(i)検出可能なシグナルを提供する;(ii)第一もしくは第二の標識によって提供される検出可能なシグナルを修飾するように第二の標識と相互作用する、例えばFRET(蛍光共鳴エネルギー転移);(iii)電荷、疎水性、形状もしくは他の物理的パラメータによって移動度、例えば電気泳動移動度に影響を及ぼす;または(iv)捕捉箇所、例えば親和性、抗体/抗原もしくはイオン錯体形成を提供する、ように機能する任意の標識を含む。標識として適切であるのは、蛍光標識、発光標識、発色団標識、放射性同位体標識、同位体標識、好ましくは安定な同位体標識、同重体標識、酵素標識、粒子標識、特に金属粒子標識、磁性粒子標識、ポリマー粒子標識、ビオチンなどの有機低分子、受容体のリガンドまたは細胞接着タンパク質もしくはレクチンなどの結合分子、結合物質の使用によって検出できる核酸および/またはアミノ酸残基を含む標識配列等のような構造体である。検出可能標識は、非限定的に、硫酸バリウム、イオセタム酸、イオパノ酸、カルシウムイポデート、ジアトリゾ酸ナトリウム、ジアトリゾ酸メグルミン、メトリザミド、チロパノ酸ナトリウム、ならびにフッ素−18および炭素−11などの陽電子放射体、ヨウ素−123、テクネチウム−99m、ヨウ素−131およびインジウム−111などのγ放射体、フッ素およびガドリニウムなどの核磁気共鳴のための核種を含む放射性診断物質を包含する。
【0240】
本発明によれば、「治療エフェクター分子」という用語は、治療作用を及ぼし得る任意の分子を意味する。本発明によれば、治療エフェクター分子は、好ましくは1またはそれ以上の腫瘍抗原を発現する細胞へと選択的に導かれ、抗癌剤、放射性ヨウ素標識化合物、毒素、細胞増殖抑制性または細胞溶解性薬剤等を含む。抗癌剤は、例えばアミノグルテチミド、アザチオプリン、硫酸ブレオマイシン、ブスルファン、カルムスチン、クロラムブシル、シスプラチン、シクロホスファミド、シクロスポリン、シタラビジン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビン、ドキソルビシン、タキソール、エトポシド、フルオロウラシル、インターフェロンα、ロムスチン、メルカプトプリン、メソトレキサート、ミトタン、塩酸プロカルバジン、チオグアニン、硫酸ビンブラスチンおよび硫酸ビンクリスチンを含む。他の抗癌剤は、例えば、Goodman and Gilman,「The Pharmacological Basis of Therapeutics」,8th Edition,1990,McGraw−Hill,Inc.、特にChapter 52(Antineoplastic Agents(Paul Calabresi and Bruce A.Chabner)に記載されている。毒素は、ヤマゴボウ(pokeweed)抗ウイルスタンパク質などのタンパク質、コレラ毒素、百日咳毒素、リシン、ゲロニン、アブリン、ジフテリア外毒素またはシュードモナス(Pseudomonas)外毒素であり得る。毒素残基はまた、コバルト−60などの高エネルギーを放出する放射性核種であり得る。
【0241】
「主要組織適合遺伝子複合体」または「MHC」という用語は、MHCクラスIおよびクラスIIを含み、すべての脊椎動物に存在する遺伝子の複合体に関する。MHCタンパク質または分子は、ペプチドに結合し、T細胞受容体(TCR)による認識のためにそれらを提示することにより、正常免疫反応におけるリンパ球と抗原提示細胞の間のシグナル伝達に関与する。MHC分子は、細胞内プロセシング画分内でペプチドに結合し、これらのペプチドをT細胞による認識のために抗原提示細胞の表面に提示する。HLAとも称されるヒトMHC領域は、第6番染色体上に位置し、クラスIおよびクラスII領域を含む。本発明のすべての態様の1つの好ましい実施形態では、MHC分子はHLA分子である。
【0242】
本明細書で使用される「低減する」または「阻害する」は、参照試料(例えばsiRNAで処理されていない試料)と比較してレベル、例えばタンパク質またはmRNAのレベルの全体的低下、好ましくは20%またはそれ以上、より好ましくは50%またはそれ以上、最も好ましくは75%またはそれ以上の全体的低下を生じさせる能力を意味する。RNAまたはタンパク質発現のこの低減または阻害は、標的mRNAの切断または分解を介して起こり得る。タンパク質発現または核酸発現に関する分析法は当技術分野において公知であり、例えば、タンパク質発現についてはELISA、ウエスタンブロット分析、RNAについてはノーザンブロット法またはRNaseプロテクション分析を含む。
【0243】
本発明によれば、「患者」という用語は、ヒト、非ヒト霊長動物または別の動物、特にウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、またはマウスおよびラットなどのげっ歯動物のような哺乳動物を意味する。特に好ましい実施形態では、患者はヒトである。
【0244】
本発明によれば、「増大している」または「増大している量」という用語は、好ましくは少なくとも10%、特に少なくとも20%、少なくとも50%または少なくとも100%の増大を指す。物質の量はまた、試験試料では検出可能であるが参照試料中には存在しないまたは検出不能である場合も、参照試料と比較して生物学的試料などの試験試料において増大している。
【0245】
本発明によれば、「腫瘍」または「腫瘍性疾患」という用語は、細胞(新生細胞または腫瘍細胞と呼ばれる)の異常増殖によって形成される腫脹または病変を指す。「腫瘍細胞」とは、急速で制御されない細胞増殖によって成長し、新たな増殖を開始させた刺激が停止した後も成長し続ける異常細胞を意味する。腫瘍は、構造機構および正常組織との機能的協調の部分的または完全な欠如を示し、通常、良性、前悪性または悪性であり得る明確な組織塊を形成する。
【0246】
好ましくは、本発明による腫瘍性疾患は、癌疾患、すなわち悪性疾患であり、腫瘍細胞は癌細胞である。好ましくは、腫瘍性疾患は、本発明によって同定される腫瘍核酸および/または腫瘍抗原が発現されるまたは異常発現される細胞を特徴とし、腫瘍細胞または循環もしくは転移性腫瘍細胞は、本発明によって同定される腫瘍核酸および/または腫瘍抗原の発現または異常発現を特徴とする。好ましくは、腫瘍性疾患、腫瘍細胞または循環もしくは転移性腫瘍細胞は、本発明によって同定される腫瘍抗原をMHCクラスIと共に提示する。
【0247】
「異常発現」は、本発明によれば、健常個体における状態と比較して、発現が変化している、好ましくは増大していることを意味する。発現の増大は、少なくとも10%、特に少なくとも20%、少なくとも50%または少なくとも100%の増加を指す。1つの実施形態では、発現は疾患組織においてのみ認められ、健常組織における発現は抑制されている。
【0248】
好ましくは、本発明による腫瘍性疾患は癌であり、本発明による「癌」という用語は、白血病、精上皮腫、黒色腫、奇形腫、リンパ腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、直腸癌、子宮内膜癌、腎癌、副腎癌、甲状腺癌、血液癌、皮膚癌、脳の癌、子宮頸癌、腸癌、肝癌、大腸癌、胃癌、腸癌、頭頸部癌、消化器癌、リンパ節癌、食道癌、結腸直腸癌、膵癌、耳鼻咽喉(ENT)癌、乳癌、前立腺癌、子宮の癌、卵巣癌および肺癌ならびにそれらの転移を含む。それらの例は、肺癌腫、乳癌腫、前立腺癌腫、大腸癌腫、腎細胞癌腫、子宮頸癌腫、または上述した癌型または腫瘍の転移である。本発明による癌という用語はまた、癌の転移を包含する。
【0249】
本発明による特に好ましい腫瘍性疾患または癌は、結腸直腸癌、特に大腸癌、胃癌、転移性結腸直腸癌、特に転移性大腸癌および転移性胃癌から成る群より選択される。
【0250】
「転移」とは、そのもとの部位から身体の別の部分への癌細胞の広がりを意味する。転移の形成は非常に複雑な過程であり、原発腫瘍からの悪性細胞の分離、細胞外マトリックスの侵襲、体腔および脈管に入るための内皮基底膜の貫入、そして次に、血液によって輸送された後、標的器官の浸潤に依存する。最後に、標的部位における新たな腫瘍の成長、すなわち続発性腫瘍または転移性腫瘍は血管新生に依存する。腫瘍転移は、しばしば原発腫瘍が除去された後でも起こり、これは、腫瘍細胞または成分が残存し、転移能を発現し得るからである。1つの実施形態では、本発明による「転移」という用語は、原発腫瘍および所属リンパ節系から離れた転移に関連する「遠隔転移」に関する。
【0251】
続発性または転移性腫瘍の細胞は、もとの腫瘍における細胞に類似する。これは、例えば、大腸癌が肝臓に転移した場合、続発性腫瘍は異常な肝細胞ではなく異常大腸細胞によって構成されることを意味する。そこで、肝臓における腫瘍は、肝癌ではなく転移性大腸癌と呼ばれる。本発明によれば、転移性大腸癌は、リンパ節における癌、肝臓における癌、肺における癌、骨における癌および脳における癌を含む。同様に、転移性胃癌は、胃から体内の遠隔部位および/またはいくつかの部位に広がった癌を指し、リンパ節における癌、肝臓における癌、肺における癌、骨における癌、脳における癌、腹膜における癌および直腸における癌を含む。
【0252】
回帰または再発は、ヒトが過去に罹患した状態に再び罹患する場合に起こる。例えば、患者が腫瘍性疾患に罹患したことがあり、前記疾患の治療を受けて成功したが、再び前記疾患を発症した場合、前記の新たに発症した疾患は回帰または再発とみなされ得る。しかし、本発明によれば、腫瘍性疾患の回帰または再発は、もとの腫瘍性疾患の部位でも起こり得るが、必ずしももとの部位で起こるとは限らない。従って、例えば、患者が大腸腫瘍に罹患し、治療を受けて成功したことがある場合、回帰または再発は、大腸腫瘍の発生または大腸とは異なる部位での腫瘍の発生であり得る。腫瘍の回帰または再発はまた、腫瘍が、もとの腫瘍の部位とは異なる部位でならびにもとの腫瘍の部位で生じる状況を包含する。好ましくは、患者が治療を受けたもとの腫瘍は原発腫瘍であり、もとの腫瘍の部位とは異なる部位の腫瘍は続発性または転移性腫瘍である。
【0253】
本発明によれば、生物学的試料は、体液を含む組織試料および/または細胞試料であり得、パンチ生検を含む組織生検、および血液、気管支吸引液、痰、尿、糞便または他の体液を採取することなどの従来の方法で入手し得る。本発明によれば、「生物学的試料」という用語はまた、生物学的試料の画分または単離物、例えば核酸およびペプチド/タンパク質単離物のような加工された生物学的試料を包含する。
【0254】
本発明によれば、「免疫反応性細胞」という用語は、適切な刺激によって免疫細胞(B細胞、Tヘルパー細胞または細胞傷害性T細胞など)へと成熟することができる細胞を意味する。免疫反応性細胞は、CD34造血幹細胞、未熟および成熟T細胞ならびに未熟および成熟B細胞を含む。腫瘍抗原を認識する細胞溶解性細胞またはTヘルパー細胞の生産を所望する場合は、免疫反応性細胞を、細胞溶解性T細胞およびTヘルパー細胞の産生、分化および/または選択を促進する条件下で、腫瘍抗原を発現する細胞と接触させる。T細胞前駆体の細胞溶解性T細胞への分化は、抗原に暴露された場合、免疫系のクローン選択に類似する。
【0255】
「T細胞」および「Tリンパ球」という用語は、本明細書では交換可能に使用され、Tヘルパー細胞(CD4+T細胞)および細胞溶解性T細胞を含む細胞傷害性T細胞(CTLs、CD8+T細胞)を含む。
【0256】
いくつかの治療方法は、腫瘍抗原をMHCクラスIと共に提示する癌細胞などの疾患細胞の溶解を生じさせる、患者の免疫系の反応に基づく。これに関連して、例えば腫瘍抗原ペプチドとMHC分子との複合体に特異的な自己細胞傷害性Tリンパ球を、腫瘍性疾患を有する患者に投与し得る。インビトロでのそのような細胞傷害性Tリンパ球の産生は公知である。T細胞を分化させる方法の一例は、国際公開公報第WO−A−9633265号に見出される。一般に、血液細胞などの細胞を含有する試料を患者から採取し、その細胞を、前記複合体を提示し、細胞傷害性Tリンパ球(例えば樹状細胞)の増殖を生じさせることができる細胞と接触させる。標的細胞は、COS細胞などの形質転換体であり得る。これらの形質転換体は、所望複合体をそれらの表面に提示し、細胞傷害性Tリンパ球と接触した場合、後者の増殖を刺激する。次に、クローン増殖させた自己細胞傷害性Tリンパ球を患者に投与する。
【0257】
細胞傷害性Tリンパ球を選択するもう1つの方法では、細胞傷害性Tリンパ球の特異的クローンを得るためにMHCクラスI分子/ペプチド複合体の蛍光性四量体を使用する(Altman et al.,Science 274:94−96,1996;Dunbar et al.,Curr.Biol.8:413−416,1998)。
【0258】
さらに、所望複合体を提示する細胞(例えば樹状細胞)は、高い親和性で特異的細胞傷害性Tリンパ球の増殖を生じさせ得る健常個体または別の種(例えばマウス)の細胞傷害性Tリンパ球と組み合わせ得る。これらの増殖した特異的Tリンパ球の高親和性T細胞受容体をクローニングし、場合により種々の程度にヒト化して、このようにして得られたT細胞受容体を、次に、例えばレトロウイルスベクターを使用して、遺伝子導入を介して患者のT細胞に形質導入し得る。その後、これらの遺伝的に改変されたTリンパ球を使用して養子移入を実施し得る(Stanislawski et al.,Nat Immunol.2:962−70,2001;Kessels et al.,Nat Immunol.2:957−61,2001)。
【0259】
細胞傷害性Tリンパ球はまた、それ自体が公知の方法であり、インビボで作製し得る。1つの方法は、MHCクラスI/ペプチド複合体を発現する非増殖性細胞を使用する。本明細書で使用する細胞は、照射された腫瘍細胞または複合体の提示のために必要な一方もしくは両方の遺伝子(すなわち抗原性ペプチドと提示MHC分子)を形質転換した細胞のような、通常は複合体を発現する細胞である。もう1つの好ましい形態は、例えばリポソーム移入または電気穿孔法によって細胞に導入し得る、組換えRNAの形態での腫瘍抗原の導入である。生じる細胞は、対象とする複合体を提示し、自己細胞傷害性Tリンパ球によって認識されて、その後増殖する。
【0260】
同様の作用は、抗原提示細胞への組込みをインビボで可能にするために、腫瘍抗原または腫瘍抗原ペプチドを補助薬と組み合わせることによって達成できる。腫瘍抗原または腫瘍抗原ペプチドは、タンパク質として、DNA(例えばベクター内の)としてまたはRNAとしてであり得る。腫瘍抗原は、処理されてMHC分子のためのペプチドパートナーを産生し得るが、一方そのフラグメントは、さらなる処理を必要とせずに提示され得る。後者は特に、これらがMHC分子に結合できる場合に該当する。完全な抗原がインビボで樹状細胞によって処理される投与形態が好ましく、というのはこれが、有効な免疫応答のために必要とされるTヘルパー細胞応答も生じさせ得るからである(Ossendorp et al.,Immunol Lett.74:75−9,2000;Ossendorp et al.,J.Exp.Med.187:693−702,1998)。一般に、例えば皮内注射によって、有効量の腫瘍抗原を患者に投与することが可能である。しかし、注射はまた、リンパ節内にも実施し得る(Maloy et al.,Proc Natl Acad Sci USA 98:3299−303,2001)。
【0261】
本発明に従って述べる医薬組成物および治療方法はまた、本明細書で述べる疾患を治療的に処置するまたは予防する免疫またはワクチン接種のためにも使用し得る。本発明によれば、「免疫」または「ワクチン接種」という用語は、好ましくは抗原に対する免疫応答の増大または活性化に関する。癌への免疫効果を試験するために動物モデルを使用することが可能である。例えば、腫瘍を生じさせるためにヒト癌細胞をマウスに導入し得る。癌細胞への効果(例えば腫瘍径の縮小)を、動物に投与された物質による免疫の有効性についての指標として測定し得る。
【0262】
免疫またはワクチン接種のための組成物の一部として、好ましくは本明細書で述べる1またはそれ以上の物質を、免疫応答を誘導するためまたは免疫応答を増大させるために1またはそれ以上の補助薬と共に投与する。補助薬は免疫応答を増強する物質である。補助薬は、抗原貯蔵所を提供し(細胞外にまたはマクロファージ中に)、マクロファージを活性化するおよび/または特定リンパ球を刺激することによって免疫応答を増強し得る。補助薬は公知であり、非限定的に、モノホスホリル脂質A(MPL,SmithKline Beecham)、QS21(SmithKline Beecham)、DQS21(SmithKline Beecham;国際公開公報第WO96/33739号)、QS7、QS17、QS18およびQS−L1などのサポニン(So et al.,Mol.Cells 7:178−186,1997)、フロインド不完全アジュバント、完全フロインドアジュバント、ビタミンE、モンタニド、ミョウバン、CpGオリゴヌクレオチド(Kreig et al.,Nature 374:546−9,1995参照)ならびにスクアランおよび/またはトコフェロールなどの生分解性油から調製される様々な油中水型エマルションを含む。好ましくは、本発明によれば、ペプチドをDQS21/MPLとの混合物中で投与する。DQS21対MPLの比率は、典型的には約1:10〜10:1、好ましくは約1:5〜5:1、特に約1:1である。ヒトへの投与のためには、ワクチン製剤は、典型的には約1μg〜約100μgの範囲内のDQS21およびMPLを含有する。
【0263】
患者の免疫応答を刺激する他の物質も投与し得る。例えば、リンパ球へのそれらの調節特性により、サイトカインをワクチン接種において使用することが可能である。そのようなサイトカインは、例えば、ワクチンの防御作用を高めることが示されたインターロイキン12(IL−12)(Science 268:1432−1434,1995参照)、GM−CSFおよびIL−18を含む。
【0264】
免疫応答を増強し、それ故ワクチン接種において使用し得る多くの化合物が存在する。前記化合物は、B7−1およびB7−2(それぞれCD80およびCD86)などのタンパク質または核酸の形態で提供される共刺激分子を含む。
【0265】
ペプチドは、それ自体が公知の方法で投与し得る。1つの実施形態では、核酸をエクスビボ法によって、すなわち患者から細胞を取り出し、核酸を組み込むために前記細胞を遺伝的に修飾して、改変された細胞を患者に再導入することによって投与する。これは一般に、遺伝子の機能的コピーをインビトロで患者の細胞に導入することおよび遺伝的に改変された細胞を患者に再導入することを含む。遺伝子の機能的コピーは、遺伝的に改変された細胞において遺伝子が発現されることを可能にする調節エレメントの機能的制御下にある。核酸導入および形質導入の方法は当業者に公知である。
【0266】
本発明はまた、例えばウイルスおよび標的制御リポソームなどのベクターを使用することによって、インビボで核酸を投与することを提供する。
【0267】
好ましい実施形態では、核酸を投与するためのウイルスまたはウイルスベクターは、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ワクシニアウイルスおよび弱毒化ポックスウイルスを含むポックスウイルス、セムリキ森林ウイルス、レトロウイルス、シンドビスウイルスおよびTyウイルス様粒子から成る群より選択される。アデノウイルスおよびレトロウイルスが特に好ましい。レトロウイルスは、典型的には複製欠損型である(すなわち感染性粒子を生成することができない)。
【0268】
インビトロまたはインビボで核酸を細胞に導入する方法は、核酸のリン酸カルシウム沈殿物を導入、DEAEと結合した核酸を導入、対象核酸を担持する前記ウイルスへの導入または感染、リポソームを介した核酸導入等を含む。特定の実施形態では、核酸を特定細胞に指向させることが好ましい。そのような実施形態では、核酸を細胞に投与するために使用される担体(例えばレトロウイルスまたはリポソーム)は、結合した標的制御分子を有し得る。例えば、標的細胞上の表面膜タンパク質に特異的な抗体または標的細胞上の受容体に対するリガンドなどの分子を、核酸担体に組み込み得るまたは結合し得る。好ましい抗体は、腫瘍抗原に選択的に結合する抗体を含む。リポソームを介した核酸の投与を所望する場合は、標的の制御および/または取込みを可能にするために、エンドサイトーシスに関連する表面膜タンパク質に結合するタンパク質をリポソーム製剤に組み込み得る。そのようなタンパク質は、特定細胞型に特異的なキャプシドタンパク質またはそのフラグメント、インターナライズされるタンパク質に対する抗体、細胞内部位を指向するタンパク質等を含む。
【0269】
本発明の治療的に活性な化合物は、注射または注入を含む、任意の従来経路によって投与し得る。投与は、例えば経口的、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下的または経皮的に実施し得る。好ましくは、抗体は、肺エアロゾルとして治療的に投与される。アンチセンス核酸は、好ましくは徐放性静脈内投与によって投与される。
【0270】
本発明の組成物は有効量で投与される。「有効量」は、単独でまたはさらなる投与物と共に所望反応または所望効果を達成する量を指す。特定疾患または特定状態の治療の場合、所望反応は、好ましくは疾患の経過の阻止に関する。これは、疾患の進行を緩慢にすること、特に疾患の進行を妨げるまたは逆転させることを含む。疾患または状態の治療における所望反応はまた、前記疾患または前記状態の発症の遅延または発症の防止であり得る。本発明によれば、癌の診断または治療は、既に形成されたまたは今後形成される癌転移の診断または治療も含み得る。本発明によれば、「治療」という用語は、治療的処置および予防的処置、すなわち予防を含む。
【0271】
本発明の組成物の有効量は、治療される状態、疾患の重症度、患者の年齢、生理的状態、大きさおよび体重を含む患者の個体別パラメータ、治療の期間、付随する治療の種類(存在する場合)、特定投与経路および同様の因子に依存する。従って、投与される本発明の組成物の用量は、そのような様々なパラメータに依存し得る。患者における反応が初期用量で不十分である場合は、より高用量(または異なる、より限局された投与経路によって達成される効果的により高い用量)を使用し得る。
【0272】
本発明の医薬組成物は、好ましくは無菌であり、所望反応または所望効果を生じさせるための治療的に活性な物質の有効量を含有する。
【0273】
一般に、1ng〜1mg、好ましくは10ng〜100μgのペプチドの用量を製剤し、投与する。核酸(DNAおよびRNA)の投与を所望する場合は、1ng〜0.1mgの用量を製剤し、投与し得る。
【0274】
本発明の医薬組成物は、一般に医薬的に適合性の量でおよび医薬的に適合性の製剤中で投与される。「医薬的に適合性」という用語は、医薬組成物の活性成分の作用と相互作用しない非毒性物質を指す。この種の製剤は、通常、塩、緩衝物質、防腐剤、担体、補助薬などの補足的免疫増強物質、例えばCpGオリゴヌクレオチド、サイトカイン、ケモカイン、サポニン、GM−CSFおよび/またはRNAならびに、適切な場合は、他の治療的に活性な化合物を含有し得る。薬剤中で使用される場合、塩は医薬的に適合性であるべきである。しかし、医薬的に適合性ではない塩も、医薬的に適合性の塩を調製するために使用してもよく、本発明に包含される。この種の薬理的および医薬的に適合性の塩は、非限定的に、以下の酸から調製されるものを含む:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、クエン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸等。医薬的に適合性の塩はまた、ナトリウム塩、カリウム塩またはカルシウム塩などの、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩としても調製され得る。
【0275】
本発明の医薬組成物は、医薬的に適合性の担体を含有し得る。「担体」という用語は、適用を容易にするために活性成分に組み合わされる、天然または合成の有機または無機成分を指す。本発明によれば、「医薬的に適合性の担体」という用語は、患者への投与に適する、1またはそれ以上の適合性の固体または液体充填剤、希釈剤または被包物質を含む。本発明の医薬組成物の成分は、通常、所望の医薬効果を実質的に損なう相互作用が生じない成分である。
【0276】
本発明の医薬組成物は、塩中の酢酸、塩中のクエン酸、塩中のホウ酸および塩中のリン酸などの適切な緩衝物質を含有し得る。
【0277】
医薬組成物はまた、適切な場合は、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラベンおよびチメロサールなどの適切な防腐剤を含有し得る。
【0278】
医薬組成物は、通常、均一投与形態で提供され、それ自体が公知の方法で調製され得る。本発明の医薬組成物は、例えばカプセル、錠剤、ロゼンジ、溶液、懸濁液、シロップ、エリキシルの形態、またはエマルションの形態であり得る。
【0279】
非経口投与に適する組成物は、通常、好ましくは受容者の血液と等張である、活性化合物の滅菌水性または非水性製剤を含む。適合性の担体および溶媒の例は、リンガー液および等張塩化ナトリウム溶液である。加えて、通常は滅菌固定油が溶液または懸濁液の媒質として使用される。
【0280】
本明細書で使用される場合「含む」という用語は、記述される特徴、整数、工程または成分の存在を特定すると解釈されるが、1またはそれ以上の他の特徴、整数、工程、成分またはその群の存在または追加を排除しないことが強調されるべきである。特定の手段が相互に異なる従属請求項で言及されるまたは異なる実施形態で記述されるという単なる事実は、これらの手段の組合せが好都合に利用できないことを指示するものではない。しかし、「含む」という用語はまた、記述される特徴、整数、工程または成分から成る実施形態も包含する。
【0281】
本発明を以下の図面および実施例によって詳細に説明するが、それらは例示のためにのみ使用されるものであり、限定を意図されない。図面の説明および実施例により、同様に本発明に包含されるさらなる実施形態が当業者にアクセス可能である。
【0282】
実施例
本明細書で使用される技術および方法は、本明細書で説明されるかまたはそれ自体が公知の方法でおよび、例えばSambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Edition(1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.に記載されている技術および方法で実施される。キットおよび試薬の使用を含むすべての方法は、特に指示されない限り製造者の情報に従って実施される。
【0283】
実施例1:実験材料および方法
データ検索方法
【0284】
第一段階として、dbESTレポートファイル(ftp://ncbi.nlm.nih.gov/repository/dbEST)の生物分野において「ヒト(Homo sapiens)」のキーワードを含むすべての利用可能なライブラリーから典型的なヒト発現配列タグ(EST)ファイルを作製した。アプローチの複雑さを低減するために、100を超えるESTを示すライブラリーだけおよび公知の完全長遺伝子をコードするESTだけを検討した。次に、ライブラリー名、生物、組織型、器官または細胞株の分野において「大腸」および「腸」の語を含む一般ファイルからそれらのESTすべてを抽出することにより、大腸/腸組織の特異的サブファイルを作製した。いくつかのESTが同じ遺伝子に由来し得るという事実を説明するため、大腸/腸組織ESTを、高い配列同一性の1またはそれ以上のストレッチを共有するESTを集めたクラスターに分類した。配列相同性検索プログラム、blastn(www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST)を、一般リスト中のヒトESTすべてに対して、大腸/腸組織ESTサブファイルに登録された各々の配列について相同性ストリンジェンシーをS=300;V=300;B=300;n=−20に設定して連続的に実施した。大腸/腸組織サブファイルからの各問い合わせESTについて、検索によって一般ESTファイルからEST登録(ヒット)のリストを抽出し、それらの各々をその組織起源で注釈づけ、「電子ノーザン」を提供した。そのようなヒットリストに示された異なる非大腸/腸組織の数の測定を、各個別ESTの大腸/腸組織特異性の程度についての尺度として使用した。この手順によって得たすべての候補をSMART(http://smart.embl.de/smart)によるモチーフおよび構造解析に供し、潜在的表面分子を同定した(最小必要条件:TMHMM膜貫通予測サーバー(www.cbs.dtu.dk/services/TMHMM−2.0)により膜貫通ドメインとみなされる少なくとも1つの疎水性領域、および少なくとも1つの細胞外ドメインの予測)。
【0285】
RNAの単離、RT−PCRおよびリアルタイムRT−PCR
【0286】
RNAの抽出、一本鎖cDNA合成、RT−PCRおよび定量的リアルタイムRT−PCRは先に記述されているように実施した(Koslowski et al.,Cancer Res.64:5988−93,2004)。簡単に述べると、RNeasy Mini Kit(Qiagen)を使用して凍結組織標本から全細胞RNAを抽出し、dT18オリゴヌクレオチドでプライミングして、製造者の指示に従ってSuperscript II(Invitrogen)で逆転写した。得られたcDNAの完全性を30サイクルPCR(順方向、5'−CGT GAG CGC TTC GAG ATG TTC CG−3'(配列番号:4);逆方向、5'−CCT AAC CAG CTG CCC AAC TGT AG−3'(配列番号:5);アニーリング温度67℃)におけるp53転写産物の増幅によって実施した。
【0287】
エンドポイント分析のために、配列番号:1の特異的オリゴヌクレオチド(順方向、5'−ACT CTG CCT GTC CTC AGG CTG−3'(配列番号:6);逆方向5'−GTG CTT TCT TCT CCA GTC CAG−3'(配列番号:7);アニーリング温度60℃)を35サイクルRT−PCRにおいて使用した。リアルタイム定量的発現分析は、40サイクルRT−PCRにおいて三回で実施した。HPRT(順方向5'−TGA CAC TGG CAA AAC AAT GCA−3'(配列番号:8);逆方向5'−GGT CCT TTT CAC CAG CAA GCT−3'(配列番号:9);アニーリング温度62℃)への基準化後、腫瘍試料中の標的転写産物を、ΔΔCT計算を用いて正常組織に対して定量化した。PCR反応の特異性は、任意に選択した試料からの増幅産物のクローニングと配列決定によって確認した。
【0288】
抗血清、免疫蛍光および免疫化学
【0289】
ポリクローナル抗血清は、配列番号:2のアミノ酸120〜132を含むKLH結合合成ペプチド(配列番号:3)に対して惹起し、カスタム抗体サービス(Charles River)によってアフィニティー精製した。VECTOR NovaRED Substrate Kit(Vector)を製造者の指示に従って使用して、パラフィン包埋組織切片に関して免疫組織化学を実施した。
【0290】
実施例2:大腸上皮細胞の特異的な標的のスクリーニング
【0291】
ゲノム規模でのデータ検索法を大腸癌のモノクローナル抗体療法の標的に関する検索に適用した。このアプローチは、膜貫通ドメインとみなされる少なくとも1つの疎水性領域を含む大腸上皮細胞に対して特異性を有する分化遺伝子を発見するためのデジタルcDNAライブラリーサブトラクション法に基づいた。そのような候補物を、その後、この細胞系譜に由来する癌における保存された発現に関して試験した。検索基準に適合するコンピュータスクリーニングのヒットの1つが配列番号:1に従った配列であった。
【0292】
コンピュータで予測された前記配列の大腸の特異的発現を実験的に確認するため、最初に、正常組織と大腸癌試料の小さなセットを特異的な35サイクルのエンドポイントRT−PCRによって試験した(図1A)。配列の発現は、大腸を除くいずれの正常組織においても検出されず、5/7の大腸癌試料において維持された。次に、23の異なる正常ヒト組織のセットにおける配列のより包括的で感度の高い発現分析を、40サイクルの定量的リアルタイムRT−PCRによって実施した(図1B)。やはり、配列は正常大腸において高発現されることが認められた。エンドポイントRT−PCRの結果に加えて、発現は、大腸よりも100倍低いレベルであるが、胃でも検出された。他のすべての正常組織では、転写産物は検出できないかまたは微量の転写産物だけが検出できた。発現カットオフ値(すべての正常非大腸および非胃組織試料における平均発現+3標準偏差(99%パーセンタイル))を超えないすべての組織を陰性に分類した(表1)。
【0293】
表1.定量的リアルタイムRT−PCRによって分類した組織における配列番号:1の発現。2〜5名の異なる個体から得た試料を正常組織型ごとに検討した。正常組織についてのカットオフ値は、大腸および胃を除く正常組織における平均発現+3標準偏差に設定した。腫瘍組織では、正常組織での発現カットオフ値より少なくとも10倍高い発現値だけを陽性と評価した。
【0294】
【表1】

【0295】
腫瘍標本のプロファイリングは、17/20(85%)の大腸癌および9/15(60%)の胃癌が前記配列を発現することを明らかにした(図1c)。癌試料においてリアルタイムRT−PCRによって測定した発現頻度を過大評価しないために、正常組織発現カットオフ値の少なくとも10倍の転写産物レベルだけを陽性と分類した。
【0296】
配列番号:1に従った配列によってコードされるタンパク質(配列番号:2)の分析のために、前記アミノ酸配列(アミノ酸120〜132)(配列番号:3)に特異的なペプチドの抗原決定基に対するポリクローナルウサギ抗体を惹起した。抗体の特異性を、配列番号:2のC末端を蛍光マーカー標識した構築物を形質転換したCHO細胞の免疫蛍光染色によって実験的に確認した(図1D)。抗配列番号:2は、形質転換体の原形質膜において配列番号:2−蛍光マーカー融合タンパク質の明確な染色を示し、非形質転換体の対照細胞では反応性がなかった。正常大腸組織からの切片に関する抗配列番号:2の抗体での免疫組織化学は、大腸粘膜における上皮細胞の明らかで特異的な膜染色を示し(図1E)、隣接間質細胞および非上皮細胞では染色を認めなかった。大腸癌切片において、腫瘍細胞集団の特異的で均一な染色を認めた。付加的な細胞質免疫染色を認めたが、腫瘍細胞の染色は原形質膜において明らかに際立っており、配列番号:2が細胞表面タンパク質であるという免疫蛍光結果を実証した。
【0297】
配列番号:2の予測上の全体構造および膜トポロジーは、内在性タンパク質として膜に組み込まれる上皮細胞の表面で発現されるタンパク質のものと完全に酷似する(図2)。切断可能なシグナルペプチドの後には、大きな細胞外領域内の2つの免疫グロブリン(Ig)フォールド、より大きな可変(V)様ドメインおよびより小さな定常(C)様ドメインが続く。1つの膜貫通ドメインの後に、PRYおよびSPRYサブドメインから構成される細胞質B30.2ドメインが続く。SPRYドメインは進化的に古く、一方B30.2ドメインは、PRYドメインとSPRYの組合せを含む、より新しい進化適応である。B30.2ドメインは、様々な機能を有する様々な細胞タンパク質において生じ、タンパク質間相互作用を媒介する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍抗原の発現および/または活性の阻害剤を含有する医薬組成物であって、前記腫瘍抗原が、配列表の配列番号:1に従った核酸配列または前記核酸配列の変異体を含む核酸によってコードされるアミノ酸配列を含む、医薬組成物。
【請求項2】
(i)腫瘍抗原の発現の前記阻害剤が、配列表の配列番号:1に従った核酸配列もしくは前記核酸配列の変異体を含む核酸に対して選択的にハイブリダイズする阻害性核酸であり、前記阻害性核酸が、好ましくはアンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、iRNA、siRNAもしくはそれらをコードするDNAから成る群より選択されるか、または(ii)腫瘍抗原の活性の前記阻害剤が、前記腫瘍抗原に特異的に結合する抗体である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
腫瘍抗原のリガンドまたは腫瘍抗原をコードする核酸のリガンドを含有する医薬組成物であって、前記腫瘍抗原が、配列表の配列番号:1に従った核酸配列または前記核酸配列の変異体を含む核酸によってコードされるアミノ酸配列を含み、前記腫瘍抗原のリガンドまたは腫瘍抗原をコードする核酸のリガンドが1またはそれ以上の治療効果分子に結合しており、前記治療効果分子が、好ましくは放射性標識、細胞毒または細胞毒性酵素である、医薬組成物。
【請求項4】
腫瘍抗原の前記リガンドが前記腫瘍抗原に特異的に結合する抗体を含むか、または腫瘍抗原をコードする核酸のリガンドが前記核酸に選択的にハイブリダイズする核酸である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
(i)腫瘍抗原もしくは前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチド、または前記ペプチドの誘導体、
(ii)腫瘍抗原もしくは前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドをコードする核酸、または前記核酸の誘導体、
(iii)腫瘍抗原または前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドをコードする宿主細胞、
(iv)腫瘍抗原または前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドをコードするウイルス、
(v)腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドまたは前記ペプチドの誘導体を提示する細胞、
(vi)腫瘍抗原または前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドに結合する抗体またはT細胞受容体、
(vii)腫瘍抗原または前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドを認識するようにインビトロで感作された免疫反応性細胞、および
(viii)腫瘍抗原または前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドを認識するT細胞受容体をコードする核酸を形質導入したエフェクター細胞または幹細胞
から成る群より選択される1またはそれ以上の物質を含有する医薬組成物であって、前記腫瘍抗原が、配列表の配列番号:1に従った核酸配列または前記核酸配列の変異体を含む核酸によってコードされるアミノ酸配列を含み、前記腫瘍抗原ペプチドが、前記腫瘍抗原のフラグメントのアミノ酸配列に実質的に対応するアミノ酸配列を含む、医薬組成物。
【請求項6】
ペプチドが、MHCクラスIもしくはクラスII提示ペプチドであるか、またはMHCクラスIもしくはクラスII提示ペプチドをプロセッシングされて生じ得る、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記宿主細胞が、コードされるペプチドまたはその処理産物に結合するMHC分子を発現する、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記抗体が、モノクローナル、キメラ、ヒトもしくはヒト化抗体であるか、または抗体のフラグメントもしくは合成抗体である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項9】
治療用または予防用腫瘍ワクチンの形態である、請求項5乃至8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
腫瘍性疾患を治療するまたは予防するうえでの使用のための、請求項5乃至9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の医薬組成物を患者に投与することを含む、腫瘍性疾患を有するまたは腫瘍性疾患を発症する危険性がある患者を治療する方法であって、前記投与が、好ましくは、配列表の配列番号:1に従った核酸配列または前記核酸配列の変異体を含む核酸によってコードされるアミノ酸配列を含む腫瘍抗原をMHCクラスIと共に提示する性質を有する腫瘍に対するCTL活性を誘導するまたは促進する、方法。
【請求項12】
患者から単離された生物学的試料において、
(i)腫瘍抗原のアミノ酸配列を含むペプチドをコードする核酸、
(ii)腫瘍抗原もしくは前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチド、
(iii)腫瘍抗原もしくは前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドに結合する抗体、
(iv)腫瘍抗原もしくは前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドを認識するT細胞、および/または
(v)腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドを提示する細胞
から成る群より選択される1またはそれ以上のパラメータを検出するおよび/またはその量を測定することを含む、腫瘍性疾患の診断、検出または観測のための方法であって、前記腫瘍抗原が、配列表の配列番号:1に従った核酸配列または前記核酸配列の変異体を含む核酸によってコードされるアミノ酸配列を含み、前記腫瘍抗原ペプチドが、前記腫瘍抗原のフラグメントのアミノ酸配列に実質的に対応するアミノ酸配列を含む、方法。
【請求項13】
患者から単離された播種性もしくは循環腫瘍細胞または転移性腫瘍細胞を含有するまたは含有することが疑われる生物学的試料において、(i)腫瘍抗原のアミノ酸配列を含むペプチドをコードする核酸、および/または(ii)腫瘍抗原もしくは前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチド、を検出するおよび/またはその量を測定することを含む、前記患者において循環腫瘍細胞を検出するための方法であって、前記腫瘍抗原が、配列表の配列番号:1に従った核酸配列または前記核酸配列の変異体を含む核酸によってコードされるアミノ酸配列を含み、前記腫瘍抗原ペプチドが、前記腫瘍抗原のフラグメントのアミノ酸配列に実質的に対応するアミノ酸配列を含む、方法。
【請求項14】
腫瘍を有する患者の組織または器官から単離された生物学的試料において、(i)腫瘍抗原のアミノ酸配列を含むペプチドをコードする核酸、および/または(ii)腫瘍抗原もしくは前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチド、を検出するおよび/またはその量を測定することを含む、前記患者において転移性結腸癌細胞または転移性胃癌細胞を検出する方法であって、前記組織または器官が腫瘍を含まない場合、その細胞が前記核酸またはペプチドを実質的に発現せず、前記腫瘍抗原が、配列表の配列番号:1に従った核酸配列または前記核酸配列の変異体を含む核酸によってコードされるアミノ酸配列を含み、前記腫瘍抗原ペプチドが、前記腫瘍抗原のフラグメントのアミノ酸配列に実質的に対応するアミノ酸配列を含む、方法。
【請求項15】
生物学的試料が組織または器官に由来し、前記組織または器官が腫瘍を含まない場合、その細胞が前記腫瘍抗原および/または前記腫瘍抗原をコードする核酸を実質的に発現しない、請求項12乃至14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
検出および/または量の測定が、
(i)生物学的試料を、検出されるべきおよび/またはその量が測定されるべき核酸、ペプチド、抗体、T細胞または細胞に特異的に結合する物質と接触させること、ならびに
(ii)前記物質と、検出されるべきおよび/またはその量が測定されるべき核酸、ペプチド、抗体、T細胞または細胞との間の複合体の形成を検出するおよび/または複合体の量を測定すること
を含む、請求項12乃至15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
(i)核酸に特異的に結合する物質が、前記核酸に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含む、(ii)ペプチドに特異的に結合する物質が、前記ペプチドに特異的に結合する抗体を含む、(iii)抗体に特異的に結合する物質が、前記抗体に特異的に結合するペプチドを含む、または(iv)T細胞に特異的に結合する物質が、MHC分子と前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドとの間の複合体を提示する細胞を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記物質が検出可能な標識をさらに含む、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
(i)腫瘍抗原のアミノ酸配列を含むペプチドをコードする核酸、
(ii)腫瘍抗原もしくは前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチド、
(iii)腫瘍抗原もしくは前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドに結合する抗体、
(iv)腫瘍抗原もしくは前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドを認識するT細胞、および/または
(v)腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドを含む細胞
に特異的に結合する物質を含む診断試験キットであって、前記腫瘍抗原が、配列表の配列番号:1に従った核酸配列または前記核酸配列の変異体を含む核酸によってコードされるアミノ酸配列を含み、前記腫瘍抗原ペプチドが、前記腫瘍抗原のフラグメントのアミノ酸配列に実質的に対応するアミノ酸配列を含み、前記物質が、好ましくは検出可能な標識をさらに含む、診断試験キット。
【請求項20】
腫瘍抗原または前記腫瘍抗原に由来する腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドに結合する物質であって、前記腫瘍抗原が、配列表の配列番号:1に従った核酸配列または前記核酸配列の変異体を含む核酸によってコードされるアミノ酸配列を含み、前記腫瘍抗原ペプチドが、前記腫瘍抗原のフラグメントのアミノ酸配列に実質的に対応するアミノ酸配列を含み、前記物質が、好ましくは抗体、より好ましくはモノクローナル、キメラ、ヒトもしくはヒト化抗体、抗体のフラグメントまたは合成抗体である、物質。
【請求項21】
請求項20に記載の物質と治療効果分子または検出可能標識との間の複合体。
【請求項22】
腫瘍抗原が、配列表の配列番号:2に従ったアミノ酸配列または前記アミノ酸配列の変異体を含む、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の医薬組成物、請求項11乃至18のいずれか一項に記載の方法、請求項19に記載の診断試験キット、請求項20に記載の物質、または請求項21に記載の複合体。
【請求項23】
腫瘍性疾患が、大腸癌、胃癌、転移性大腸癌および転移性胃癌から成る群より選択される、請求項10もしくは22に記載の医薬組成物、または請求項11から12、14乃至18および22のいずれか一項に記載の方法。

【図1ABC】
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【図1DE】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−518608(P2012−518608A)
【公表日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−550479(P2011−550479)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際出願番号】PCT/EP2010/001035
【国際公開番号】WO2010/094490
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(504346260)ガニメド ファーマシューティカルズ アーゲー (21)
【出願人】(509256849)
【氏名又は名称原語表記】JOHANNES GUTENBERG−UNIVERSITAET MAINZ
【住所又は居所原語表記】Saarstrasse 21, 55122 Mainz, Germany
【Fターム(参考)】