癌を処置するための方法および組成物
本発明は、ヘッジホッグシグナリング経路のアンタゴニストとBCR−ABL阻害剤の組み合わせ剤を提供する。本発明の組み合わせ剤は、例えば、Src、BCR−ABLおよびc−kitのようなタンパク質チロシンキナーゼとの関連が既知の癌の処置に使用し得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2007年8月16日に出願の米国仮出願番号60/956,295の利益を手中し、その出願はその全体を引用により本明細書に包含させる。
【0002】
技術分野
本発明は、一般に、腫瘍細胞増殖を阻害する、および癌を処置する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景技術
Hhシグナリング経路は当分野で十分に特徴付けされている(例えば、Nybakken et al., Curr. Opin. Genet. Dev. 2002, 12:503-511; およびLum et al., Science 2003, 299: 2039-2045参照)。簡単に言うと、ヘッジホッグリガンドの非存在下で、経膜受容体、パッチド(Ptch)は、スムーズンド(Smoothened)(Smo)に結合し、Smoの機能を遮断する。この阻害はリガンド存在下で軽減され、これはSmoがシグナリングカスケードを開始することを可能にし、それは、細胞質タンパク質フューズド(Fu)およびサプレッサー・オブ・フューズド(SuFu)からの転写因子Glisの遊離をもたらす。不活性な状況では、SuFuはGlisが核に移動するのを妨げる。活性な状況では、FuはSuFuおよびGlisが遊離されるのを阻害する。Gliタンパク質は核に移動し、標的遺伝子転写を制御する。
【0004】
BCR−ABL癌遺伝子はフィラデルフィア染色体(Ph)22qの産物であり、構成的に活性化されたABLチロシンキナーゼ活性を有するキメラBCR−ABLタンパク質をコードする(Lugo et al., Science 1990, 247:1079-1082)。BCR−ABLは、慢性骨髄性白血病の根底をなす原因である。210kDa BCR−ABLタンパク質はCML患者で発現されるが、BCR遺伝子の別のブレークポイントに由来する190kDa BCR−ABLタンパク質は、Ph陽性(Ph+)急性リンパ芽球性白血病(ALL)患者で発現される。(Bartram et al., Nature 1983, 306:277-280; Chan et al., Nature 1987, 325:635-637)。
【0005】
BCR−ABLは、関係する骨髄性またはリンパ系前駆細胞または3T3線維芽細胞において種々の機構を介して増殖および抗アポトーシスを誘発することが示されている。(Pendergast et al., Cell 1993, 75:175-85; Ilaria et al., J. Biol. Chem. 1996, 271:31704-10; Chai et al., J. Immunol. 1997, 159:4720-8; and Skorski et al., EMBO J. 1997, 16:6151-61)。しかしながら、造血幹細胞(HSC)集団におけるBCR−ABLの作用はほとんど知られていない。最近の文献は、Wntシグナリング経路のような発育経路またはPolycomb遺伝子BMI1が白血病幹細胞の制御および拡大に関与しているはずであることを示唆する(Mohty et al., Blood, 2007; Hosen et al., Stem Cells, 2007)。BMI1およびベータ−カテニンは両方ともCML急性転化期において上方制御され、それらの発現は疾患の進行と関連する。後天性β−カテニン発現を有するBCR−ABL陽性顆粒球−マクロファージ前駆細胞は、急性転化期CMLにおける候補白血病幹細胞である。悪性クローンの最初の拡大に至る、慢性期の間のBCR−ABL陽性白血病幹細胞の拡大に関与する自己再生経路は現在ほとんど理解されていない。
【発明の概要】
【0006】
発明の開示
本発明は、腫瘍細胞増殖阻害に、および多様な癌の処置に有用であり得る混合物およびその医薬組成物に関する。
【0007】
一つの局面において、本発明は、ヘッジホッグシグナリング経路を阻害する第一剤およびBCR−ABLを阻害する第二剤を含む組成物を提供する。他の局面において、本発明は、治療的有効量のヘッジホッグシグナリング経路を阻害する第一剤、BCR−ABLを阻害する第二剤、および薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物を提供する。
【0008】
本発明はまた、癌、特にBCR−ABL陽性白血病の処置方法であって、系または対象に、治療的有効量のヘッジホッグシグナリング経路を阻害する第一剤およびBCR−ABLを阻害する第二剤をまたはその薬学的に許容される塩を含む混合物、またはその医薬組成物を投与し、それにより該BCR−ABL陽性白血病を処置する、方法も提供する。例えば、本発明の組成物は慢性骨髄性白血病または急性リンパ球性白血病の処置に使用し得る。
【0009】
さらに、本発明は、治療的有効量のヘッジホッグシグナリング経路を阻害する第一剤およびBCR−ABLを阻害する第二剤をまたはその薬学的に許容される塩を含む混合物、またはその医薬組成物の、細胞増殖性障害、特にBCR−ABL陽性白血病処置用医薬の製造における使用を提供する。
【0010】
上記組成物および本発明の組成物の使用方法において、本発明の組成物の第一剤はSmoに結合し得る。具体例では、第一剤はシクロパミンまたはフォルスコリンである。他の態様において、本発明の組成物の第二剤はABL阻害剤、ABL/Scr阻害剤、オーロラキナーゼ阻害剤、またはBCR−ABLの非ATP競合阻害剤である。例えば、第二剤は、次のものから成る群から選択し得る。
【化1】
【0011】
上記組成物および本発明の組成物を使用する方法において、本発明の組成物を細胞または組織を含む系に投与してよい。ある態様において、本発明の組成物をヒトまたは動物対象に投与してよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】健康患者および慢性期または急性転化期のCML患者からの精製CD34+細胞におけるGli1およびPtch1の転写レベルを示す(値はCD34+細胞に対して標準化)。
【図1B】BCR−ABL陽性対陰性全骨髄または幹細胞におけるGli1およびPtch1転写レベルの発現を示す。
【図2A】混合骨髄培養をシクロパミンで72時間処置後のBCR−ABL(GFP)陽性骨髄性前駆細胞(Lin−、Kit+、Sca−)およびHSCs(Lin−、Kit+、Sca+)のパーセンテージを示す。
【図2B】白血病マウス骨髄のシクロパミン処置後のGli1発現を示す。
【図2C】シクロパミン処置混合骨髄培養の平板培養10日後に計測したコロニーの全数を示す。
【図3A】PepC−Ly5.1マウス移植後の末梢血におけるLy5.2(胚)陽性細胞を示す。
【図3B】末梢血における移植10週後のLy5.2陽性細胞における細胞型分布を示す。
【図3C】5−FU処置(150mg/kg)後の末梢血におけるLy5.2陽性細胞の再生を示す。
【図3D】60週間にわたり10%GFP陽性細胞、10%Smo GFP陽性細胞または10%SMOW535E GFP陽性細胞を含む骨髄を移植したマウス末梢血におけるGFP陽性細胞のパーセンテージを示す。
【図3E】pMSCVコントロールベクターまたはSmo GFPまたはSMOW535E GFPベクターのいずれかを感染させた骨髄の相対的GLI1転写レベルを示す。
【図4A】移植(Tx)20日後の移植マウスの末梢血におけるBCR−ABL陽性細胞数を示す。
【図4B】Tx28日後の移植マウスの脾臓重量を示す。
【図4C】BCR−ABL感染胎児肝臓細胞を移植したマウスの生存を示す。
【図4D】2×10E5 BCR−ABL(GFP)陽性骨髄細胞を再移植後のマウスの生存を示す。
【図5A】AMN107またはAMN107とシクロパミンの組み合わせのいずれかで処置したBCR−ABL+マウスにおける1個の大腿のGFP陽性骨髄コロニーの相対的量を示す。
【図5B】8日間処置終了後の脾臓および肝臓重量を示す。
【図5C】AMN107単独またはAMN107とシクロパミンの組み合わせいずれかで処置終了後の生存日間を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
定義
他に定義しない限り、ここで使用する全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者により共通して理解されるものと同じ意味を有する。次の文献は、本明細書において使用される用語の多くの一般的な定義を当業者に提供する:Oxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology, Smith et al. (eds.), Oxford University Press(revised ed., 2000); Dictionary of Microbiology and Molecular Biology, Singleton et al. (eds.), John Wiley & Sons(3rd ed., 2002); およびA Dictionary of Biology(Oxford Paperback Reference), Martin and Hine(Eds.), Oxford University Press(4th ed., 2000)。加えて、次の定義を読者が本発明を実施する際の助けとして提供する。
【0014】
用語“薬剤”または“試験薬”は任意の物質、分子、要素、化合物、物、またはそれらの組み合わせを含む。それは、例えば、タンパク質、ポリペプチド、小有機分子、ポリサッカライド、ポリヌクレオチドなどを含み、これに限定されない。それは、天然産物、合成化合物、化学化合物、または2種以上の物質の組み合わせであり得る。特記されない限り、用語“薬剤”、“物質”、および“化合物”は交換可能に使用できる。
【0015】
用語“アナログ”は、本明細書で、参照分子に構造的に似ているが、目標を定めたまたは制御された方法で、参照分子の特異的置換基を別の置換基に置き換えることにより修飾されている、分子を意味することを言うために使用する。参照分子と比較して、当業者は、アナログが同一の、類似した、または改善された有用性を示すことを期待する。合成および改善された性質(例えば標的分子への高い結合親和性)を有する既知化合物のバリアントを同定するためのアナログのスクリーニングは、薬化学において既知の方法である。
【0016】
ここで使用する“接触させる”は、その言葉通りの意味を有し、2個以上の分子(例えば、小分子有機化合物およびポリペプチド)を組み合わせるか、分子と細胞(例えば、化合物および細胞)を組み合わせることを意味する。接触は、インビトロで、例えば、2個以上の薬剤を組み合わせて、または化合物と細胞または細胞ライセートを試験管または他の容器中で組み合わせて行い得る。接触はまた、細胞でまたはインサイチュで、例えば、2個のポリペプチドを、細胞内でその2個のポリペプチドをコードする組み換えポリヌクレオチドを細胞内で発現させることにより、または細胞ライセート内で接触させて行い得る。
【0017】
用語“ヘッジホッグ”は、一般に、ソニック、インディアン、デザートおよびティギーウィンクルを含む、ヘッジホッグファミリーの任意のメンバーを言うために使用する。本用語はタンパク質または遺伝子を示すために使用し得る。本用語はまた異なる動物種のホモログ/オルソログ配列を述べるために使用する。
【0018】
用語“ヘッジホッグ(Hh)シグナリング経路”および“ヘッジホッグ(Hh)シグナリング”は交換可能に使用でき、通常、ヘッジホッグ、パッチド(Ptch)、スムーズンド(Smo)、およびGliのようなシグナリングカスケードの種々のメンバーが仲介する一連の事象を言う。ヘッジホッグ経路は、下流成分の活性化により、ヘッジホッグタンパク質非存在化でさえ活性化され得る。例えば、Smoの過発現は、ヘッジホッグ非存在下でこの経路を活性化する。
【0019】
Hhシグナリング成分またはHhシグナリング経路のメンバーは、Hhシグナリング経路に参加する遺伝子産物を意味する。An Hhシグナリング成分は、細胞/組織におけるHhシグナルの伝達にしばしば作用を及ぼし、典型的に下流遺伝子発現レベルの程度の変化および/または表現型変化に至る。Hhシグナリング成分は、その生物学的機能および下流遺伝子活性化/発現の最終結果に対する効果によって、正および負のレギュレーターに分類され得る。正のレギュレーターは、Hhシグナルの伝達に正に作用する、すなわち、Hhが存在するとき下流生物学的事象を刺激する、Hhシグナリング成分である。例はヘッジホッグ、Smo、およびGliを含む。負のレギュレーターは、Hhシグナルの伝達に負に作用する、すなわち、Hhが存在するとき下流生物学的事象を阻害する、Hhシグナリング成分である。例は(限定しないが)PtchおよびSuFuを含む。
【0020】
ヘッジホッグシグナリングアンタゴニスト、HhシグナリングのアンタゴニストまたはHhシグナリング経路の阻害剤は、正のHhシグナリング成分(例えばヘッジホッグ、Ptch、またはGli)の生理活性を阻害するか、またはHhシグナリング成分の発現を下方制御する薬剤を言う。それらはまた、Hhシグナリング成分の負のレギュレーターを情報制御する薬剤も含む。ヘッジホッグシグナリングアンタゴニストは、ソニック、インディアンまたはデザートヘッジホッグ、スムーゼンド、ptch−1、ptch−2、gli−1、gli−2、gli−3などを含む(しかしこれらに限定されない)ヘッジホッグ経路の任意の遺伝子によりコードされるタンパク質に向けられ得る。
【0021】
ここで使用する“異種配列”または“異種核酸”は、特定の宿主細胞に対して外来の源に由来するか、または、同じ源であれば、その元の形から修飾されているものを含む。故に、宿主細胞内の異種遺伝子は、特定の宿主細胞に内因性であるが、修飾されている遺伝子を含む。異種配列の修飾は、例えば、DNAを制限酵素で処理して、プロモーターと操作可能に結合できるDNAフラグメントを産生することにより行い得る。部位特異的変異誘発のような技術が異種核酸の修飾にも有用である。
【0022】
用語“相同”は、タンパク質および/またはタンパク質配列に言及するとき、それらが、天然であれ人工的であれ、共通の祖先タンパク質またはタンパク質配列に由来することを示す。同様に、核酸および/または核酸配列は、それらが、天然であれ人工的であれ、共通の祖先核酸または核酸配列に由来するとき、相同である。相同性は、一般に2個以上の核酸またはタンパク質(またはその配列)の配列類似性から推断される。相同性を証明するのに有用な複数配列間の類似性のパーセンテージは、問題の核酸およびタンパク質によって変わるが、ほんの25%の配列類似性が相同性を証明するために日常的に使用される。より高いレベルの配列類似性、例えば、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%またはそれ以上も相同性の証明に使用できる。
【0023】
“宿主細胞”は、異種ポリヌクレオチドを挿入できる原核または真核細胞を言う。ポリヌクレオチは、細胞に任意の手段で、例えば、電気穿孔、リン酸カルシウム沈殿、マイクロインジェクション、形質転換、ウイルス感染などにより挿入できる。
【0024】
腫瘍増殖または腫瘍細胞増殖の文脈での用語“阻害する”または“阻害”は、原発性または二次性腫瘍の出現遅延、原発性または二次性腫瘍の成長遅延、原発性または二次性腫瘍発生率減少、疾患の二次的影響の遅延または重症度の軽減、または腫瘍増殖停止および腫瘍緩解を言う。用語“予防する”または“予防”は、原発性または二次性腫瘍の成長または疾患の何らかの二次的影響の完全な阻害を言う。酵素活性の調節の文脈では、阻害は、競合的、不競合的(uncompetitive)、および非競合的(noncompetitive)阻害を含む、酵素活性の可逆性抑制または減少を意味する。これは、基本的ミカエリス・メンテン速度式の点で分析し得る、酵素の反応速度論に対する阻害剤の効果により実験的に区別できる。競合的阻害は、阻害剤が、遊離酵素と、それが活性部位で通常基質と結合について競合するように結合できるときに起こる。競合阻害剤は、酵素−基質複合体に類似して、酵素と可逆性に反応して酵素−阻害剤複合体[EI]を形成する。
【0025】
2個の核酸配列またはアミノ酸配列の文脈での用語“配列同一性”は、特定比較ウィンドウにわたり最大一致となるように配置したとき、同じである2個の配列の残基を言う。“比較ウィンドウ”は、2個の配列を最適に整列した後に、参照配列の同じ数の連続位置と配列を比較し得る、少なくとも約20、通常約50〜約200、より一般的には約100〜約150の連続した位置のセグメントを言う。比較のために配列を整列させる方法は当分野で既知である。比較のための配列の最適整列は、Smith and Waterman, Adv. Appl. Math. 1981, 2:482の局所相同性アルゴリズムにより;Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol. 1970, 48:443の整列アルゴリズムにより;Pearson and Lipman, Proc. Nat. Acad. Sci U.S.A. 1988, 85:2444の類似性検索法により;またはこれらのアルゴリズムのコンピューター化された実施(Intelligentics, Mountain View, CAによるPC/GeneプログラムのCLUSTAL; およびWisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Dr., Madison, Wis., U.S.A.のGAP、BESTFIT、BLAST、FASTAまたはTFASTAを含み、これに限定されない)により行い得る。CLUSTALプログラムは、Higgins and Sharp, Gene 1988, 73:237-244; Higgins and Sharp, CABIOS 1989, 5:151-153; Corpet et al., Nucleic Acids Res. 1988, 16:10881-10890; Huang et al, Computer Applications in the Biosciences 1992, 8:155-165; およびPearson et al., Methods in Molecular Biology 1994, 24:307-331により十分に記載されている。整列はまた視察および手動整列によってもしばしば行われる。一クラスの態様において、ポリペプチドは、少なくとも70%、一般に少なくとも75%、所望により少なくとも80%、85%、90%、95%または99%またはそれ以上参照ポリペプチド(例えば、ヘッジホッグ分子、例えば、BLASTPまたはCLUSTAL、または任意の他の利用可能な整列ソフトウェアでデフォルトパラメータを使用して測定して)と同一である。同様に、核酸もまた出発核酸に関して記載でき、例えば、それらは、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%またはそれ以上参照核酸と同一である(例えば、BLASTNまたはCLUSTAL、または任意の他の利用可能な整列ソフトウェアでデフォルトパラメータを使用して測定して)。
【0026】
“実質的に同一”な核酸またはアミノ酸配列は、上記プログラム(好ましくはBLAST)を標準パラメータで使用して、参照配列に少なくとも90%配列同一性を有する配列を含む核酸またはアミノ酸配列である。配列同一性は、少なくとも95%、より具体的に少なくとも98%、およびある例では、少なくとも99%であり得る。例えば、BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列について)は、デフォルトとして11のワード長(W)、10の期待値(E)、M=5、N=−4、および両鎖の比較を使用する。アミノ酸配列について、BLASTPプログラムは、デフォルトとして3のワード長(W)、10の期待値(E)、およびBLOSUM62スコアリング・マトリックスを使用する(Henikoff & Henikoff, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1989, 89:10915参照)。配列同一性のパーセンテージは、2個の比較ウィンドウにわたり最適に整列させた配列を比較することにより決定され、ここで、比較ウィンドウ内のポリヌクレオチド配列の位置は、2個の配列の最適整列のために参照配列(付加または欠失を含まない)と比較して、付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含んでよい。パーセンテージは同一核酸塩基またはアミノ酸残基が、両方の配列に存在する位置の数を決定してマッチ位置の数を得て、そのマッチ位置の数をウィンドウ内の位置の全数で割り、その結果を100倍して配列同一性のパーセンテージを得ることにより計算する。実質的同一性は、少なくとも約50残基長である配列の領域、より具体的に少なくとも約100残基である領域にわたり存在し得る。ある例では、配列は少なくとも約150残基実質的に同一であってよく、または配列は、コード領域の全長にわたり実質的に同一であってよい。
【0027】
参照タンパク質(例えば、ヘッジホッグ経路メンバー)またはそのフラグメントの生物学的活性に関連する用語“調節”は、発現レベルまたはそのタンパク質の他の生物学的活性の変化を言う。例えば、調節は、参照タンパク質の発現レベルの増加または減少、タンパク質の酵素的修飾(例えば、リン酸化)、結合特性(例えば、他の分子への結合)、または参照タンパク質の何らかの他の生物学的(例えば、酵素的)、機能的、または免疫学的特性をもたらし得る。活性の変化は、例えば、参照タンパク質をコードする1種以上の遺伝子の発現、タンパク質をコードするmRNAの安定性、翻訳効率の増加または減少、または参照タンパク質の他の生物学的活性の変化に起因し得る。この変化は、参照タンパク質を調節する他の分子(例えば、参照タンパク質をリン酸化するキナーゼ)の活性によるものでもあり得る。
【0028】
参照タンパク質の調節は、上方制御(すなわち、活性化または刺激)でも下方制御(すなわち阻害または抑制)でもよい。参照タンパク質のモジュレーターの作用機序は、例えば、タンパク質またはタンパク質をコードする遺伝子への結合を介して直接的でも、例えば、他の方法で参照タンパク質を調節する他の分子への結合および/または調節(例えば、酵素的)を介して間接的でもよい。
【0029】
用語“対象”は哺乳動物、特にヒトを含む。それはまた、他の非ヒト動物、例えばウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ネコ、イヌ、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、サルも含む。
【0030】
用語“処置する”または“処置”は、腫瘍増殖停止、および腫瘍の部分的なまたは完全な緩解を意味する。用語“処置する”は、症状、合併症、または疾患の生化学的徴候(例えば、白血病)の予防または発生遅延、症状の軽減、または疾患、状態、または障害のさらなる進展を停止または阻止するための化合物または薬剤の投与を含む。処置は予防的(疾患の予防または発生遅延のため、またはその臨床的または亜臨床的症状の顕在化の予防のため)または疾患顕在化後の治療的抑制または症状の軽減のためであり得る。
【0031】
参照分子の“変異体”は、完全な参照分子、またはそのフラグメントに構造および生物学的活性が実質的に類似する分子を言う。故に、2個の分子が類似の活性を有する限り、それらは、その分子の一方の組成または二次的、三次的、または四次的構造が他方で見られるものと同一でなくてさえ、または、アミノ酸残基の配列が同一でなくてさえ、本明細書で使用される用語、変異体と見なす。
【0032】
発明を実施する方法
本発明は、腫瘍細胞増殖を阻害するおよび多様な癌を処置するために有用であり得る、組成物およびその医薬組成物に関する。
【0033】
より具体的に、本発明は、ヘッジホッグシグナリング経路を阻害する第一剤およびBCR−ABLを阻害する第二剤を含む組成物を提供する。本組成物は、リンパ系および骨髄の造血腫瘍の成長および増殖の阻害、および例えば、Src、BCR−ABLおよびc−kitのようなタンパク質チロシンキナーゼとの関連が既知の癌の処置に使用し得る。具体的な態様において、本組成物は、BCR−ABL陽性慢性骨髄性白血病(CML)および急性リンパ球性白血病(ALL)の処置に使用し得る。
【0034】
慢性骨髄性白血病は、非悪性造血幹細胞より大きくなるフィラデルフィア転座を担持する白血病幹細胞クローンの拡大により特徴付けられる。本発明は、一部、BCR−ABLがSmoの上方制御を介してヘッジホッグシグナリング経路を活性化することにより、造血幹および前駆細胞の自己再生を直接亢進するとの発見に基づく。BCR−ABLはマウスおよびヒトHSCでSmo発現を上方制御し、ヘッジホッグシグナリング経路を活性化する。
【0035】
BCR−ABL陽性骨髄培養におけるSmo活性の薬理学的阻害は、インビトロでBCR−ABL陽性自己再生細胞のコロニー形成能を阻害する。白血病マウスのAMN107(Abl阻害剤)およびシクロパミン(Smo阻害剤)での組み合わせ処置は、AMN107単独で処置したマウスと比較して、インビボでBCR−ABL陽性自己再生細胞の減少と、再発までの期間の3倍を超える延長をもたらした。故に、BCR−ABLは、Smoの上方制御により、ヘッジホッグシグナリングの内因性活性化を介して、白血病幹細胞の自己再生を亢進する。それ故に、Hh経路阻害のみまたはAbl阻害剤との組み合わせは、BCR−ABL陽性白血病における悪性幹細胞プールの減少のための有効な治療ストラテジーとして働き得る。
【0036】
本発明の治療方法は、癌細胞、特に白血病および骨髄腫のような血液およびリンパ系の癌の成長および増殖を阻害するために、ヘッジホッグシグナリング経路を阻害する薬剤を、BCR−ABLを阻害する薬剤と組み合わせて用いる。これらの方法はこのような腫瘍細胞(インビトロまたはインビボ)と、Hhシグナリング経路の阻害剤およびBCR−ABLの阻害剤を含む組成物を接触させることを含む。
【0037】
A. ヘッジホッグシグナリングを阻害する薬剤
当分野で既知のヘッジホッグシグナリング経路を阻害することが既知の種々の薬剤を、本発明の実施に使用してよい。これらは、ヘッジホッグシグナリング経路のメンバーの生物学的活性(例えば、酵素的活性)を直接的または間接的に調節する有機化合物を含む。それらはまた、ヘッジホッグシグナリング経路のメンバーをコードする遺伝子またはmRNAを特異的に標的とする薬剤も含む。ヘッジホッグシグナリング経路のメンバー(例えば、経膜受容体)を標的にする抗体または他の結合剤のような、ヘッジホッグシグナリング経路の他のアンタゴニストも本方法の実施に用い得る。
【0038】
Hhシグナリング経路は、胎児および成体造血幹細胞(HSC)で役割を示す発達的経路である。(Trowbridge et al., Proc Natl Acad Sci USA 2006, 103:14134-9)。間質細胞により産生されたヘッジホッグリガンド(Shh、IhhおよびDhh)は7回膜貫通受容体Ptchに結合する。Ptchに結合するリガンドは、第二の7回膜貫通受容体であるSmoに結合する、Ptchを放出する。これはSmoの立体構造変化と、下流シグナリング経路の活性化を、Gli転写因子(Gli1、Gli2、Gli3)の誘導およびGli1、Ptch1、サイクリンD1およびBcl2のような標的遺伝子の転写と共にもたらす(Duman-Scheel et al., Nature 2002, 417:299-304)。初期胚形成中、内臓内胚葉によるインディアンヘッジホッグの分泌は、マウス胚の卵黄嚢において原始的造血細胞の形成を誘発する。Smoに欠損変異を有するまたはHhシグナリング阻害剤シクロパミンで処置したゼブラフィッシュ胚は、不完全な成体HSC形成を示す(Gering et al., Dev. Cell. 2005, 8:389-400)。最近の文献は、成体HSCの細胞サイクル制御におけるヘッジホッグシグナリングの役割を示す(Trowbridge et al., supra)。
【0039】
本発明の治療方法を実施するために、多くのHhシグナリング経路成分を調節してよい。これらは、アンタゴナイズし得るHhシグナリングの正のレギュレーターおよびアゴナイズし得るHhシグナリングの負のレギュレーターを含む。ヘッジホッグ(Hh)(例えば、Ihh、Shh、およびDhhを含む)、スムーズンド(Smo)、およびGliは正のレギュレーターの例であり、一方パッチド(Ptch)およびサプレッサー・オブ・フューズド(Fu)は負のレギュレーターである。様々な種における全てのHhシグナリング経路遺伝子を、GenBank、EMBL、またはFlyBaseのような公的に容易に入手でき、占有のデータベースの配列に基づき、早期にクローン化してよい。
【0040】
ヘッジホッグシグナリング経路の多くの阻害剤が本分野で既知であり、ヘッジホッグシグナリング経路の実施に際に容易に用いられ得る。幾つかのHhシグナリングアンタゴニストは、SmoのようなHh経路の重要なメンバーを標的にする小分子化合物、例えば、シクロパミン、SANT1およびCur61414である(Katoh et al., Maycer Biol Ther.2005, 4:1050-4; およびWilliams et al., Proc Natl Acad Sci USA. 2003, 100:4616-21)。例えば、シクロパミンは、Smoに直接結合することによりヘッジホッグシグナリング経路を阻害する。Hhシグナリングの他のアンタゴニストは、他の分子に作用し、それが続いてHhシグナリングに影響することにより、間接的にHh経路を阻害する。例えば、フォルスコリンはタンパク質キナーゼAを活性化し、それが次にSmoの下流のHhシグナリングを遮断する(例えば、Yao et al., Dev Biol. 2002, 246:356-65参照)。Hhシグナリングのさらなる有機化合物阻害剤は、例えば、US特許出願US20060063779(Gunzner et al., 2006)、US20050222087(Beachy, 2005)およびUS20010034337(Dudek et al., 2001)に記載されている。これらのHhシグナリングアンタゴニストの何れも、本発明の治療方法の実施に際し用いてよい。この化合物の幾つかは商業的に入手し得る(例えば、シクロパミンまたはSANT−1)。他のものは、有機化学の分野で日常的に行われる方法を使用して容易に合成し得る。
【0041】
ある態様において、用いるHhシグナリングのアンタゴニストは、Hhシグナリング経路の活性化を特異的に阻害する結合剤である。例えば、そのリガンドが結合しないとき、経膜受容体PtchはSmoに結合し、その機能を遮断する。故に、ヘッジホッグのPtchへの結合を阻害し、または遮断し得る結合剤をHhシグナリングのアンタゴナイズに使用し得る。アンタゴニスト抗体または抗体ホモログならびにヘッジホッグに対する天然の結合タンパク質の可溶性形態のような他の分子が有用である。例えば、抗ヘッジホッグまたは抗パッチド抗体ホモログのようなモノクローナル抗体を本発明の方法の実施に際し使用し得る。これらの抗体は、ヘッジホッグのPtchへの結合を遮断できなければならないが、Hhシグナリングを活性化しない。
【0042】
幾つかの方法において、ヘッジホッグポリペプチドに特異的に結合する抗体を使用し得る。Hhシグナリング阻害のためのヘッジホッグに対する中和抗体の使用は既知であり、当分野において日常的に実施されている。例えば, Ahlgren et al., Curr Biol. 1999, 9:1304-14; Cobourne et al., J Dent Res. 2001, 80:1974-9; Hall et al., Dev Biol. 2003, 255:263-77; およびBerman et al., Nature 2003, 425:846-51参照。かかるヘッジホッグ中和抗体の例は、モノクローナル抗体クローン5E1である。この抗体は、Developmental Studies Hybridoma Bank, University of Iowaから得ることができる。
【0043】
幾つかの他の態様において、Ptch由来の結合剤の可溶性形態を使用し得る。これらは、可溶性Ptchペプチド、Ptch融合タンパク質、または二機能性Ptch/Ig融合タンパク質を含む。これらの可溶性薬剤の幾つかは、Ptchフラグメントのポリペプチドフラグメントと同一または実質的に同一の配列を有するポリペプチドフラグメントを含み、それはそのリガンド結合部位に抱えられる。例えば、ヘッジホッグに結合するPtchまたはそのフラグメントの可溶性形態を使用して、細胞上でヘッジホッグとの結合についてPtchと競合させ、それによりHhシグナリングの活性化を遮断し得る。加えて、Ptchに結合するが、ヘッジホッグ依存性シグナリングを誘発しない可溶性ヘッジホッグ突然変異体もまた本発明の実施において使用してよい。
【0044】
ヒト対象に対する治療的適用のいくつかは、ヒト起源であるHh経路の抗体アンタゴニストを用いる。これらはヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、Fab、Fab'、F(ab')2またはF(v)抗体フラグメント、ならびに抗体重または軽鎖のモノマーまたはダイマーまたはそれらの混合物を含む。キメラ抗体は、免疫グロブリン軽鎖、重鎖、または両方のヒンジおよび定常領域の全てまたは一部がヒト免疫グロブリン軽鎖または重鎖由来の対応する領域で置換されている、抗体ホモログである。ヒト化抗体は、ヒト定常領域配列を有するのに加えて、可変領域におけるその非CDRアミノ酸残基の幾つかまたは全てがヒト免疫グロブリン由来の対応するアミノ酸で置換されている、抗体ホモログである。ヒト抗体は、免疫グロブリン軽および重鎖のアミノ酸全てがヒト源由来である、抗体ホモログである。
【0045】
抗体ホモログは、ジスルフィド結合を介して結合した免疫グロブリン軽および重鎖から成る完全抗体を含む。それはまた、免疫グロブリン軽鎖、免疫グロブリン重鎖および1個以上の抗原(すなわち、ヘッジホッグまたはパッチド)と結合できるその抗原結合フラグメントから選択される1個以上のポリペプチドを含むタンパク質も含む。1個以上のポリペプチドから成る抗体ホモログの成分ポリペプチドは、所望によりジスルフィド結合しているか、または他の方法で共有結合的に結合している。抗体ホモログはまた、抗原結合特異性を保持する完全抗体の一部、例えば、Fabフラグメント、Fab'フラグメント、F(ab')2フラグメント、F(v)フラグメント、重鎖モノマーまたはダイマー、軽鎖モノマーまたはダイマー、1個の重鎖と1個の軽鎖から成るダイマーなども含む。故に、上記抗体由来の抗原結合フラグメント、ならびに完全長二量体または三量体ポリペプチドも本発明の実施に有用である。
【0046】
抗ヘッジホッグおよび抗パッチド抗体ホモログは、当分野で既知の、例えば、Monoclonal Antibodies-Production, Engineering And Clinical Applications, Ritter et al., Eds., Cambridge University Press, Cambridge, UK, 1995; およびHarlow and Lane, Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, 3rd ed., 2000の方法を使用して製造できる。ヘッジホッグまたはパッチドに対するヒトモノクローナル抗体ホモログは、Boemer et al., J. Immunol. 1991, 147:86-95により記載された通り、インビトロで刺激されたヒト脾細胞を使用して製造し得る。あるいは、それらを、例えば、Persson et al., Proc. Nat. Acad. Sci. USA 1991, 88: 2432-2436; Huang and Stollar, J. Immunol. Methods 1991, 141: 227-236;米国特許出願番号10/778,726(公開番号20050008625);および米国特許番号5,798,230および5,789,650に記載の方法により製造し得る。ヘッジホッグまたはパッチドタンパク質に結合する能力を有するヒト化組み換え抗体ホモログは、例えば、Riechmann et al., Nature 1988, 332: 323-327; Verhoeyen et al., Science1988, 239: 1534-1536; Queen et al., Proc. Nat. Acad. Sci. USA 1989, 86:10029; およびOrlandi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1989, 86:3833に記載の方法を使用して産生し得る。
【0047】
本発明の治療方法の幾つかは、ヘッジホッグシグナリング経路をアンタゴナイズする核酸薬剤を用いる。典型的に、これらの薬剤は、ヘッジホッグ、SmoまたはGliのような正のHhシグナリング成分をコードする1種以上の遺伝子の発現を下方制御する。これらは、低分子干渉RNA(siRNA)および低分子ヘアピン型RNA(shRNA)、マイクロRNA(miRNA)、アンチセンス核酸、および相補DNA(cDNA)のような二本鎖RNAを含む。二本鎖RNAによる内因性遺伝子の機能および発現の妨害は、例えば、Fire et al., Nature 1998, 391:806-811に記載の通り、線虫;例えば、Kennerdell et al., Cell 1998, 95:1017-1026に記載の通り、ショウジョウバエ;および例えば、Wianni et al., Nat. Cell Biol. 2000, 2:70-75に記載の通り、マウス胚のような種々の生物で示されている。かかる二本鎖RNAは、鋳型の両方向から読んだ一本鎖RNAのインビトロ転写と、センスおよびアンチセンスRNA鎖のインビトロアニーリングにより合成し得る。二本鎖RNAはまた、標的遺伝子が逆方向反復により分けられた逆方法でクローン化されている、cDNAベクター構築物からも合成し得る。細胞トランスフェクションに続き、RNAを転写し、相補鎖を再アニーリングする。本発明においてHhシグナリングをアンタゴナイズするために、Hhシグナリング経路の正のレギュレーターを標的とする二本鎖RNAを、適当な構築物のトランスフェクションにより細胞(例えば、リンパ腫細胞)に挿入し得る。
【0048】
ある態様において、HhシグナリングのsiRNAアンタゴニストを用いて、本発明を実施してよい。siRNAアンタゴニストは、ヘッジホッグシグナリング経路の任意の点でヘッジホッグシグナリングを調節し得る。例えば、それらは、Hhシグナリングをヘッジホッグ自体の、またはSmoまたはGliのような何らかの他の正のHhシグナリング成分のアンタゴナイズにより制御し得る。SiRNAは、典型的に約19−30ヌクレオチド長、および好ましくは21−23ヌクレオチド長である。それらは二本鎖であり、各末端に短オーバーハングを含んでよい。SiRNAは、当分野で既知の方法を使用して、化学的に合成しても、組み換え的に産生させてもよい。siRNAの組み換え産生は、一般的に細胞内で効率的に処理されてsiRNAを産生する低分子ヘアピン型RNA(shRNA)の転写を含む。例えば、Paddison et al. Proc Natl Acad Sci USA 2002, 99:1443-1448; Paddison et al. Genes & Dev. 2002, 16:948-958; Sui et al. Proc Natl Acad Sci USA 2002, 8:5515-5520; Brummelkamp et al. Science 2002, 296:550-553; Caplen et al., Proc Natl Acad Sci USA 2001, 98:9742-9747; およびElbashir et al., EMBO J. 2001, 20:6877-88参照。
【0049】
ある態様において、Hhシグナリングの核酸アンタゴニストは、二本鎖ヘアピンRNAであり得る。ヘアピンRNAは外因的に合成してよく、またはインビボでRNAポリメラーゼIIIプロモーターからの転写により形成させてよい。哺乳動物細胞における遺伝子サイレンシングのためのかかるヘアピンRNAの製造および使用例は、例えば、Paddison et al., Genes Dev. 2002, 16:948-58; McCaffrey et al., Nature 2002, 418:38-9; McManus et al., RNA 2002, 8:842-50; およびYu et al., Proc Natl Acad Sci USA 2002, 99:6047-52に記載されている。好ましくは、かかるヘアピンRNAは、所望の遺伝子の連続的かつ安定的な抑制を確実にするために細胞または動物において操作する。siRNAを、細胞内でヘアピンRNAを処理することにより産生し得ることは当分野で既知である。
【0050】
B. BCR−ABLを阻害する薬剤
ABL阻害剤、ABLおよびSrc−ファミリーキナーゼ両方の阻害剤、オーロラキナーゼ阻害剤、およびBCR−ABLの非ATP競合阻害剤を含み、これらに限定されない、当分野で既知の種々のBCR−ABL阻害剤を、本発明の実施に際し用いてよい。
【0051】
チロシンキナーゼのSrcファミリーは、細胞増殖、分化、移動および生存に関与する多数の細胞内シグナル伝達経路を調節し、その多くは発癌、腫瘍転移および血管形成に関与する。(Weisberg et al., Nat. Rev. Cancer 2007, 7:345-356)。Srcファミリー由来の多くのキナーゼが造血細胞において発現されている(Blk、Fgr、Fyn、Hck、Lck、Lyn、c−SrcおよびYes)。加えて、BCR−ABLは、リン酸化を介して、および単にSrcタンパク質に結合することによっての両方によりSrcキナーゼを活性化できることが示されている。さらに、イマチニブ耐性患者からの細胞ライセートは、Lynキナーゼを過発現し、イマチニブに対する耐性について選択されたヒトCML K562細胞(これもLynを過発現する)の増殖は、Abl/Src阻害剤、PD180970により阻害されることが判明した。SrcファミリーキナーゼがBCR−ABLシグナリングカスケードの下流要素を阻害するため、これらの酵素の阻害は、故に、BCR−ABL阻害と相乗性を提供し、BCR−ABL阻害に直面したCML細胞が利用し得る別の生存経路の利用可能性を妨げる可能性がある。それ故、BCR−ABLおよびSrc−ファミリーキナーゼ阻害剤の組み合わせでの治療は、CMLおよび/またはALLにおけるBCR−ABLの薬剤耐性突然変異体の発癌性能を妨げるはずである。(Manley et al., Biochim. Biophys. Acta 2005, 1754:3-13)。ダサチニブ(BMS−354825)、ボスチニブ(SKI−606)、INNO−404(NS−187)およびAZD05030はデュアルABL−Src阻害剤の例である。
【0052】
セリン/スレオニンキナーゼのオーロラファミリーは、有糸分裂進行に重要である。オーロラAは種々のヒト癌で過発現し、その過発現は培養ヒトおよび齧歯類細胞において異数性、中心体複製および腫瘍原性形質転換を誘発することが報告されている。(Zhang et al., Oncogene 2004, 23:8720-30)。ナノモル濃度範囲で全3種のオーロラキナーゼおよびFLT3の強力な阻害剤であるMK−0457(Merck;元々はVertex PharmaceuticalsによりVX-680として開発)は、一定範囲の骨髄増殖性障害について適切な標的であるABLおよびJAK2の中程度乃至強力な阻害剤である。MK−0457はまた、形質転換Ba/F3細胞において、T315I突然変異体BCR−ABLの自己リン酸化を〜5μMのIC50で阻害するが、それは細胞増殖をマイクロモル濃度以下(submicromolar concentrations)で阻害する。
【0053】
ATP−競合的BCR−ABL阻害に対する別の可能性のある方法は、非ATP競合アロステリック機構によりまたは基質のキナーゼへの結合の阻害を防止することによりキナーゼ活性を阻害する分子の使用である。この戦略は、種々の結合部位によって、イマチニブ耐性突然変異体が、本阻害剤に対する耐性を獲得しそうにない点で有利である。BCR−ABL依存性細胞増殖の阻害剤についてのハイスループットスクリーニングは、3−[6−[[4−(トリフルオロメトキシ)フェニル]アミノ]−4−ピリミジニル]ベンズアミド(GNF−2)の基本型阻害剤の同定をもたらし、これは、BCR−ABLのミリストイル結合部位に結合し、ABLチロシンキナーゼ活性のアロステリック阻害をもたらす。GNF−2は、本酵素のp210非突然変異BCR−ABL、ならびにE255VおよびM351T突然変異体形態でトランスフェクトしたBa/F3細胞の増殖を阻害する。(Weisberg et al., Nat. Rev. Cancer 2007, supra)。
【0054】
表1は、ニロチニブ(AMN107)、イマチニブ(STI571)、2,6,9−三置換プリンアナログ(例えば、AP23464)、AZD−0530、ボスチニブ、CPG070603、ピリド[2,3−d]ピリミジン化合物(例えば、ダサチニブ)、PD166326、PD173955、PD180970)、ON012380、3−置換ベンズアミド誘導体(例えば、INNO−406)、MK−0457、PHA−739358およびGNF−2を含む、本発明の実施に使用し得る例示的BCR−ABL阻害剤を示す。(例えば、各々を引用により本明細書に包含させるWeisberg et al., Nat. Rev. Cancer 2007, supra; Tauchi et al., Int. J. Hematology 2006, 83:294-300; Manley et al., Biochim. Biophys. Acta 2005, supra; Ge et al., J. Med. Chem. 2006, 49:4606-4615; Adrian et al., Nat. Chem. Biol. 2006, 2:95-102; Asaki et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 2006, 16:1421-1425を参照)。
【表1】
【0055】
C. 処置する疾患および状態
本発明の組み合わせ剤は、多様な癌の処置に使用し得る。一つの態様において、本発明は、白血病、急性リンパ球性白血病(ALL)、急性リンパ芽球性白血病、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、ヘアリー細胞リンパ腫、組織球性リンパ腫、およびバーキットリンパ腫を含むリンパ系造血性腫瘍;および急性および慢性骨髄性白血病(CML)、骨髄異形成症候群、骨髄白血病、および前骨髄球性白血病を含む骨髄系造血性腫瘍の成長および増殖阻害のための、BCR−ABLを阻害する薬剤と組み合わせたヘッジホッグシグナリング経路を阻害する薬剤を提供する。
【0056】
本発明の組み合わせ剤はまた、例えば、Src、BCR−ABLおよびc−kitのようなタンパク質チロシンキナーゼとの関連が既知の癌の処置にも有用である。具体的な態様において、本発明の組み合わせ剤は、BCR−ABLおよびc−kitを標的とする化学療法剤に感受性および耐性の癌の処置に有用である。具体的な態様において、本発明の組み合わせ剤は、BCR−ABL陽性CMLおよびALLの処置に使用してよい。
【0057】
慢性骨髄性白血病(CML)は、主に骨髄における骨髄性細胞の増加したおよび未制御のクローン増殖により特徴付けられる骨髄の癌である。その年間発生率は1−2人/100,000人であり、女性よりもわずかに多く男性を襲う。CMLは、西洋諸国の成人白血病の全症例の約15−20%を占め、米国または欧州では、毎年約4,500の新症例がある。(Faderl et al., N. Engl. J. Med. 1999, 341: 164-72)。
【0058】
CMLは、フィラデルフィア転座t(9/22)を保持する一形質転換造血幹細胞(HSC)または多能性前駆細胞(MPP)に由来するクローン性疾患である。この転座の遺伝子産物、融合癌遺伝子BCR−ABLの発現が、分子変化をもたらし、それは白血病幹細胞(LSC)プールおよび派生物を含む悪性造血の拡大および非悪性造血の抑制をもたらす(Stam et al., Mol Cell Biol. 1987, 7:1955-60)。骨髄細胞(顆粒球、単球、巨核球、赤血球)だけでなく、BおよびT細胞もBCR−ABLを発現し、MPPまたはHSCが疾患の開始点であることを示す。(Fialkow et al., J. Clin. Invest. 1978, 62:815-23; Takahashi et al., Blood 1998, 92:4758-63)。MOZ−TIF2またはMLL−ENLのようなAMLを引き起こす癌遺伝子とは対照的に、BCR−ABLは関係する前駆細胞に自己再生特性を与えず、むしろHSCまたはMPPのような存在する自己再生細胞の自己再生特性を利用し、増強する。疾患経過中、白血病幹細胞プールは拡大し、最終段階、急性転化期において、ほぼ全てのCD34+CD38−細胞はフィラデルフィア転座を担持する。
【0059】
メシル酸イマチニブ(STI571、GLEEVEC(登録商標))は、96%を超える応答率で、BCR−ABLの活性を阻害することにより働く、CMLの標準治療となってきている。しかしながら、最初に成功したにもかかわらず、BCR−ABLにおける点突然変異の獲得により、患者は最終的にメシル酸イマチニブに耐性となる。メシル酸イマチニブの限界の観点から、CMLの改善された処置方法に対する要求が存在する。
【0060】
加えて、本発明の組み合わせ剤は、膀胱(急速進行性(accelerated)および転移膀胱癌を含む)、乳房、結腸(結腸直腸癌を含む)、腎臓、肝臓、肺(小および非小細胞肺癌および肺腺癌を含む)、卵巣、前立腺、精巣、尿生殖器管、リンパ系、直腸、喉頭、膵臓(膵外分泌癌腫を含む)、食道、胃、胆嚢、頸、甲状腺、および皮膚(扁平細胞癌腫を含む)の癌腫;星状細胞腫、神経芽腫、神経膠腫、およびシュワン腫を含む中枢および末梢神経系の腫瘍;線維肉腫、横紋筋肉腫、および骨肉腫を含む間葉起源の腫瘍;および黒色腫、色素性乾皮症、角化棘細胞腫、精上皮腫、甲状腺濾胞癌、および奇形癌腫を含む他の腫瘍の処置に使用し得ることが考慮される。本発明の組み合わせ剤は肥満細胞症、生殖細胞腫瘍、小児科肉腫、および他の癌の処置に使用し得ることも考慮される。
【0061】
ここに記載の治療方法は、他の癌治療と組み合わせて使用してよい。例えば、BCR−ABL阻害剤と組み合わせたHhアンタゴニストは、化学療法、放射線照射、および/または手術のような任意の処置モダリティーに補助的に投与してよい。例えば、それらを1種以上の化学療法剤または免疫療法剤と組み合わせて使用できる;そして、他の処置レジメンが終了した後に投与して良い。本発明の組成物および方法において使用し得る化学療法剤の例は、アントラサイクリン類、アルキル化剤(例えば、マイトマイシンC)、アルキルスルホネート類、アジリジン類、エチレンイミン類、メチルメラミン類、窒素マスタード類、ニトロソウレア類、抗生物質、代謝拮抗剤、葉酸アナログ(例えば、メトトレキサートのようなジヒドロフォレートレダクターゼ阻害剤)、プリンアナログ、ピリミジンアナログ、酵素、ポドフィロトキシン類、白金含有薬剤、インターフェロン類、およびインターロイキン類を含み、これらに限定されない。
【0062】
本発明の組成物および方法において使用し得る既知化学療法剤の具体例は、ブスルファン、インプロスルファン、ピポスルファン、ベンゾデパ(benzodepa)、カルボコン、メツレデパ(meturedepa)、ウレデパ、アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド、トリメチロールメラミン(trimethylolomelamine)、クロラムブシル、クロルナファジン、シクロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシドヒドロクロライド、メルファラン、ノベンビチン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン(prednimustine)、トロフォスファミド(trofosfamide)、ウラシルマスタード、カルムスチン、クロロゾトシン(chlorozotocin)、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチン、ダカルバジン、マンノムスチン(mannomustine)、ミトブロニトール、ミトラクトール(mitolactol)、ピポブロマン(pipobroman)、アクラシノマイシン類、アクチノマイシンF(1)、アントラマイシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン(cactinomycin)、カルビシン(carubicin)、カルチノフィリン(carzinophilin)、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ダウノマイシン、6−ジアゾ−5−オキソ−1−ノルロイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、マイトマイシンC、ミコフェノール酸、ノガラマイシン(nogalamycin)、オリボマイシン(olivomycin)、ペプロマイシン、プリカマイシン、ポルフィロマイシン(porfiromycin)、ピューロマイシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン、デノプテリン(denopterin)、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサート、フルダラビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン、アンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン、フルオロウラシル、テガフール、L−アスパラギナーゼ、パルモザイム、アセグラトン、アルドホスファミド・グリコシド(aldophosphamide glycoside)、アミノレブリン酸、アムサクリン、ベストラブシル(bestrabucil)、ビサントレン(bisantrene)、カルボプラチン、シスプラチン、デフォファミド(defofamide)、デメコルチン、ジアジクオン(diaziquone)、エフロールニチン(elfornithine)、酢酸エリプチニウム(elliptinium acetate)、エトグルシド、エトポシド、フルタミド、硝酸ガリウム、ヒドロキシウレア、インターフェロン−アルファ、インターフェロン−ベータ、インターフェロン−ガンマ、インターロイキン−2、レンチナン、ロニダミン、プレドニゾン、デキサメサゾン、ロイコボリン、ミトグアゾン、ミトキサントロン、モピダモール、ニトラクリン、ペントスタチン、フェナメット(phenamet)、ピラルビシン、ポドフィリン酸(podophyllinic acid)、2−エチルヒドラジド、プロカルバジン、ラゾキサン、シゾフィラン、スピロゲルマニウム(spirogermanium)、パクリタキセル、タモキシフェン、テニポシド、テヌアゾン酸、トリアジコン、2,2',2”−トリクロロトリエチルアミン、ウレタン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、およびビンデシンを含み、これらに限定されない。
【0063】
本方法は、癌の原発形態、再発形態、形質転換形態または難治性形態の処置に使用し得る。しばしば、癌が再発した患者は、化学療法、放射線照射治療、骨髄移植、ホルモン治療、手術などを含む、1種以上の処置を受けている。かかる処置に応答する患者には、安定な疾患、部分的(すなわち、少なくとも50%減少した腫瘍または癌マーカーレベル)、または完全な応答(すなわち、腫瘍ならびにマーカーが検出不可能になった)を示し得る者がいる。これらのシナリオの何れでも、癌は実質的に再出現し、癌の再発を示し得る。
【0064】
D. 医薬組成物および投与
本発明の組成物は、係る処置を必要とする対象に滅菌条件下単独で投与し得る。具体的な態様において、それらを医薬組成物の活性成分として投与する。本発明の医薬組成物は、有効量のBCR−ABLを阻害する薬剤と組み合わせたヘッジホッグシグナリング経路を阻害する薬剤を、1種以上の許容される担体と共に含む。本組成物または、上記の第三の治療剤、例えば、化学療法剤または他の抗癌剤も含み得る。
【0065】
医薬担体は本組成物を増強または安定化し、または本組成物の調製を容易にする。薬学的に許容される担体は、一部、投与する特定の組成物(例えば、核酸、タンパク質、または他のタイプの化合物)により、ならびに組成物の投与に使用する特定の方法により決定される。それらはまた、他の成分と適合性であり、対象に有害ではないとの観点で、薬学的にかつ生理学的に許容されなければならない。それらは、投与、例えば、経口、舌下、直腸、経鼻、または非経腸投与について望まれる形態によって広範な形を取り得る。例えば、抗腫瘍化合物を、安定性または薬理学的特性を増強するために、投与前にオブアルブミンまたは血清アルブミンのような担体タンパク質と複合体化させてよい。
【0066】
本発明の医薬組成物の種々の適当な製剤が存在する(例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Mack Publishing Co., 20th ed., 2000参照)。限定はしないが、薬学的に許容される担体は、とりわけ、シロップ、水、等張性食塩溶液、水または緩衝化酢酸ナトリウムまたは酢酸アンモニウム溶液中の5%デキストロース、油、グリセリン、アルコール類、香味薬剤、防腐剤、着色剤、デンプン、糖類、希釈剤、造粒剤、平滑剤、および結合剤を含む。担体はまたモノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン産グリセリルのような持続性放出物質を単独でまたは蝋と共に含んでもよい。
【0067】
本医薬組成物は、顆粒剤、錠剤、ピル剤、坐薬、カプセル剤、懸濁液、膏薬、ローション剤などのような種々の形態に製造してよい。製剤中の治療的活性化合物の濃度は約0.1−100重量%で変わり得る。治療的製剤は、薬学の分野で既知の任意の方法により製造する。例えば、Gilman et al., eds., Goodman and Gilman's: The Pharmacological Bases of Therapeutics , 8th ed., Pergamon Press, 1990; Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Mack Publishing Co., 20th ed., 2000; Avis et al., eds., Pharmaceutical Dosage Forms: Parenteral Medications, published by Marcel Dekker, Inc., N.Y., 1993; Lieberman et al., eds., Pharmaceutical Dosage Forms: Tablets, published by Marcel Dekker, Inc., N.Y., 1990; およびLieberman et al., eds., Pharmaceutical Dosage Forms: Disperse Systems, published by Marcel Dekker, Inc., N.Y., 1990参照。
【0068】
治療的製剤は、処置に使用し得る任意の有効な手段により送達してよい。投与する具体的抗腫瘍剤によって、適当な手段は経口、経鼻、肺投与、または血流への非経腸(皮下、筋肉内、静脈内および経皮を含む)注入を含む。非経腸投与について、本発明の抗腫瘍剤を多様な方法で製剤し得る。モジュレーターの水性溶液をポリマービーズ、リポソーム、ナノ粒子または他の当業者に既知の他の注射可能デポ製剤にカプセル封入してよい。加えて、本発明の化合物をリポソームにカプセル封入して投与してもよい。本組成物は、その溶解性によって、水性層および脂肪層の両方に、または一般的にリポソーム懸濁液と呼ばれるものに存在し得る。疎水性層は、一般に、しかし排他的ではなく、レシチンおよびスフィンゴミエリンのようなリン脂質、コレステロールのようなステロイド、ジアセチルホスフェート、ステアリルアミン、またはホスファチジン酸のような多かれ少なかれイオン性の界面活性剤、および/または他の疎水性性質の物質を含む。
【0069】
治療的製剤は、簡便には単位投与形態で提供され、適当な治療用量で投与され得る。適当な治療用量は、最大耐容量を決定するための種々の哺乳動物種でのおよび安全投与量を決定するための正常ヒト対象での臨床試験のような任意の既知の方法により決定し得る。高用量が必要であり得るある種の状況下以外、本発明の抗腫瘍剤の投与量は、通常1日あたり約0.001〜約1000mg、より一般には約0.01〜約500mgの範囲内に入る。抗腫瘍剤の投与量および投与方式は、処置すべき1種または多種の状態、特定の抗腫瘍剤を含む投与する組成物の選択、個々の対象の年齢、体重および応答、対象の症状の重症度、および選択した投与経路のような、処置医により個々に検討され得る因子により、対象毎に代わり得る。一般的原則として、投与する抗腫瘍剤の量は、対象の状態を有効にそして確実に予防または最小化する、最小投与量である。それ故に、上記の投与量の範囲はここに記載の教示の一般的な指針および支持を提供することを意図するものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0070】
次の実施例を本発明を説明するために、しかし、本発明を限定するためではなく、提供する。全ての動物実験は、US National Institutes of Health Statement of Compliance with Standards for Humane Care and Use of Laboratory Animalsに従う。
【0071】
実施例1
一般的材料および方法
マウス実験
Ptch+/−マウス(Jackson Laboratory)、Smo−/−マウス(Deltagene)、C57BL/6マウス(Jackson laboratory)およびB6−Pep3b−Ly5.1(Pep)マウスを、記載の通り、維持し、遺伝子型同定した。骨髄移植実験について、C57BL/6の雄に5−FU(150mg/kg)を腹腔内注射し、4日後に殺す。骨髄単核細胞を足骨から洗い出し、赤血球細胞を塩化アンモニウムで溶解し、骨髄細胞を10%FBS、SCF、IL−6およびIL−3含有DMEMで培養する。細胞にpMSCV/BCR−ABL/IRES/GFPレトロウイルスを感染させ、5×105単核細胞を致死量の放射線照射したC57BL/6マウスに移植する。AMN107 50mg/kg bid(Novartis, Basel)およびシクロパミン25mg/kg bid(Novartis, Cambridge)での処置を移植7日目に開始し、14日間行う。
【0072】
PtchおよびSmo造血細胞での移植実験について、妊娠期間14.5日の胚を使用する。胚を氷上で凍らせ、断頭する。胚肝臓を摘出し、肝臓細胞を細胞ストレイナー(BD Bioscience)を通して濾過する。胚肝臓細胞を、再増殖実験のために致死量以下の放射線照射したB6−Pep3b−Ly5.1(Pep)マウスに直接移植するか、または刺激培地で培養し、次いでpMSCV/BCR−ABL/IRES/GFPレトロウイルスに感染させる。GFP陽性細胞の数を、BCR−ABL陽性細胞の拡大を評価するために、感染率を4−6%に維持しながら、フロー・サイトメトリーにより感染24時間後に計数する。次いで、胎児肝臓細胞を致死量を放射線照射したレシピエントに移植する。疾患の進展を、毎週の体重測定、末梢血における2週間毎の血液細胞計数およびGFP陽性細胞の検出によりモニターする。
【0073】
細胞培養実験
疾患マウスからの骨髄細胞を、10%FBS(Gibco)、SCF(RDI)、IL−3およびIL−6(R&D systems)含有DMEM培地で培養する。インビトロ処置実験のために、4×106骨髄または脾臓細胞を、6ウェルプレートの1ウェルに播種する。シクロパミン−KAAD(Toronto Research Chemicalsから得る)をDMSO中に×1,000ストックとして溶解する。処置72時間後、細胞を、stem cell technologiesからのSCF、IL−6、IL−3およびインスリン含有メチルセルロース培地(M3434)で、製造者の指示に従い平板培養する。コロニーを平板培養5日および10日後に計数する。12日後、細胞をプレートから落とし、PBSで洗浄し、次いで種々の細胞型の分析用に染色するか、第二または第三回目の平板培養を繰り返す。
【0074】
免疫組織化学
マウス組織を少なくとも24時間固定し、パラフィン包埋組織を標準法に従い作製する。一色DAB−免疫ペルオキシダーゼ染色を、製造者の推奨に従いGli1(N-16, Santa Cruz Biotechnology)、Smo(H-300, Santa Cruz Biotechnology)およびHh(H-160, Santa Cruz Biotechnology)に対する抗体を使用してパラフィン切片で行う。
【0075】
RT−PCRおよび定量的PCR
疾患の慢性期または急性転化期にあるCML患者からのCD34+細胞からRNAを、全骨髄からまたはソートしたLin−Kit+Sca+陽性細胞から、製造者の推奨に従い、Qiagen RNA抽出キットを使用して抽出する。定量的PCRを、Taqman PCRにより評価する。プライマーおよびプローブをApplied Biosystemsから得る。
【0076】
細胞染色およびソーティング
血液学的細胞型の分析のためのフロー・サイトメトリー染色を、BD Pharmingenからの抗体Sca−PE、Kit−APC、LinマーカーCD3、Gr−1、CD11b、CD19、Ter119全PE−Cy7陽性、CD4−PE、CD8−APCを製造者の指示に従い使用して行う。幹細胞の細胞サイクル分析のために、細胞をシクロパミンで48時間処理し、次いでLinマーカー、Kit−APCおよびSca−PEで染色する。次いで、染色した骨髄を2%ホルマリンで固定する。細胞を70%冷エタノールで少なくとも1時間透過性にし、次いでヨウ化プロピジウム(5mg/ml)で少なくとも30分間処理する。細胞を、Coulterからのフロー・サイトメーターを使用して分析する。アネキシン染色を、混合した骨髄とシクロパミンの24時間、48時間および72時間のインキュベーション後に行う。細胞をアネキシン−PE抗体および7−AAD(BD Bioscience)で製造者の指示に従い染色する。
【0077】
実施例2
BCR−ABLによるヘッジホッグシグナリング経路活性化
本実施例に示す通り、BCR−ABLは白血病幹細胞におけるヘッジホッグシグナリング経路を、Smoの上方制御を介して活性化する。正常HSCに対するBCR−ABL陽性LSCのヘッジホッグシグナリング経路における活性化状態を評価するために、健康ドナー由来のヒトCD34+細胞および慢性期または急性転化期のCML患者から単離したCD34+細胞における2個のHh経路標的遺伝子Gli1およびPtch1の転写レベルを比較する。全CML症例では、Gli1およびPtch1の転写レベルの4倍を超える誘発が観察され、疾患の期に無関係なCMLにおけるこの経路の活性化を示す(図1A)。Gli1およびPtch1転写レベルを、CML急性転化期と慢性期の患者で評価する。
【0078】
ヘッジホッグ経路活性化に対するBCR−ABLの作用をさらに評価するために、CML様症候群をマウスで誘発させる。pMSCV/BCR−ABL/GFPウイルスに感染させた骨髄を、放射線照射したレシピエントマウスに移植する。疾患マウスから得たBCR−ABL陽性LSC(Lin−Kit+Sca+GFP+)は、正常マウスHSC(Lin−Kit+Sca+)と比較して増強されたGli1およびPtch1転写レベルを示す。BCR−ABLレトロウイルス(pMSCV)で感染させたマウス骨髄におけるヘッジホッグ経路の活性化は幹細胞集団に限定されず、全てのBCR−ABL過発現細胞において存在する(図1B)。
【0079】
経膜受容体Smoの上方制御が、同じマウスにおけるBCR−ABL陰性集団のSmoレベルと比較して、BCR−ABL/GFP陽性骨髄細胞で見られる。BCR−ABL陽性集団におけるSmoの上方制御は、フロー・サイトメトリー、ならびに免疫組織化学により検出される。疾患マウスの脾臓および骨髄からのSmo特異的抗体でのIHC染色は、BCR−ABL陽性集団におけるSmo発現の強い誘発を示した。ヒトCML症例でのSmoおよびGli1についてのIHC染色もまた、骨髄の対応領域、特にBLAST細胞集団における両方の遺伝子の上方制御を確認した(図1C)。さらに、リンパ腫細胞におけるSmoのレトロウイルス発現は、皮膚のような非リンパ系臓器におけるEμ−Myc陽性リンパ腫異種移植片の増殖を促進し、リガンド刺激の非存在下でさえGli1レベルを高めることが示されている。
【0080】
実施例3
インビトロでのヘッジホッグシグナリング阻害
この実施例は、インビトロでのヘッジホッグシグナリング阻害が、BCR−ABL陽性細胞でアポトーシスを誘発し、白血病幹細胞数を減らすことを示す。インビトロでのBCR−ABL陽性骨髄細胞および白血病幹細胞におけるヘッジホッグ経路を調べるために、ヘッジホッグシグナリングを、Smoをその不活性立体配置に固定するアルカロイドであるKAAD−シクロパミンを使用して阻害する。約50%BCR−ABL GFP陽性細胞と50%正常骨髄細胞を含むCML様症候群のマウスからの骨髄を使用する。3日間の混合骨髄培養のシクロパミン処理は、GFP陰性集団に比較して、GFP/BCR−ABL陽性集団の用量依存的減少をもたらす。シクロパミン(2μMまたは5μM)でのインビトロ処理後のGFP陽性細胞を、フロー・サイトメトリー分析により検出できる。
【0081】
種々の細胞サブセットのさらなる特徴付けは、BCR−ABL陽性骨髄性前駆細胞(Lin−Kit+Sca−)の80%を超える減少、およびLin−Kit+Sca+白血病幹細胞集団の約70%の減少を示した(図2A)。BCR−ABL陽性骨髄細胞に対するシクロパミン阻害の主作用は、アネキシンV染色で測定して、24時間以内のアポトーシス誘発である。完全な骨髄におけるS期やG2期に比したG1期の相対的増加を伴う細胞サイクル変化も検出される。白血病幹細胞集団の細胞サイクル分析は、Hh経路阻害後のこれらの細胞におけるG2期の完全な喪失を示した。骨髄のGli1転写レベルはシクロパミン処理後に減少し、これらの細胞における本化合物によるヘッジホッグシグナリング経路の阻害を確認する(図2B)。図2Bにおいて、骨髄培養をDMSO単独または種々の濃度のシクロパミン(2μMまたは5μM)で6時間処理する。RNAを処理培養から抽出し、Gli1転写レベルをTaqman PCTにより測定し、GAPDHに対して標準化する。アッセイをトリプリケートで行う。
【0082】
自己再生前駆細胞および白血病幹細胞集団におけるヘッジホッグ経路阻害の効果をさらに確認するために、混合骨髄および脾臓培養を種々の濃度のシクロパミン−KAAD(10、5、2.5、1および0μM)で48時間処理する。次いで、細胞を、BCR−ABL陽性細胞のみが生存できるように、サイトカイン類の追加無しのメチルセルロースプレートで平板培養する。コロニーを平板培養10日後に計数する。シクロパミンで前処理した骨髄および脾臓培養はBCR−ABL陽性コロニーの用量依存的減少を示し、BCR−ABL陽性細胞のコロニー形成能がヘッジホッグ経路活性化に依存することを示す(図2C)。
【0083】
実施例4
ヘッジホッグ経路活性化
ヘッジホッグ経路活性化は、造血前駆細胞および幹細胞のコロニー形成能および再生潜在能を高める。正常造血におけるヘッジホッグシグナリングの役割を評価するために、胎児HSCを妊娠期間14.5日の胚の肝臓から単離する。Smo−/−、Smo+/−、Smo+/+、Ptch+/+およびPtch+/−胚からの胎児肝臓細胞を、胎児HSCの数、分化した造血細胞型の数ならびに移植実験においてコロニー形成能および再増殖潜在能に関して分析する。異なる遺伝子型の間で胎児HSC数の差異は見られない。B細胞(B220)、骨髄細胞(CD11b)および赤血球前駆細胞(Ter119))およびCD3陽性T細胞にも有意差は見られない。
【0084】
サイトカイン類(IL−3、IL−6、SCF)を追加したメチルセルロース寒天への細胞の平板培養は、平板培養10日後にフロー・サイトメトリーで分析して、コロニー数、コロニータイプまたは異なる細胞型の割合のいずれにも差が生じなかった。最初の平板培養の回とは対照的に、2回目の平板培養においてコロニー形成潜在能に大きな差が観察される。PtchおよびSmo wt造血細胞の再培養は2回目の平板培養でも非常にわずかなコロニー形成潜在能しか示さず、Smo−/−造血細胞はコロニー形成潜在能を完全に消失していた。対照的に、Ptch+/−造血細胞はそのコロニーを形成する能力を3回の平板培養中維持し、ヘッジホッグ経路活性化がPtch+/−造血集団における再生細胞の量を高めることを示す(表2)。
【表2】
【0085】
第2の実験で、Smo−/−、Smo+/−、Smo+/+、Ptch+/+およびPtch+/−胎児肝臓細胞(Ly−5.2陽性)を、致死量以下の放射線照射したC57BL/6−Ly5.1−Pep 3b(B6 Ly−5.1)マウスに移植する。末梢血のLy5.2陽性造血再生は、他の移植胎児肝臓遺伝子型と比較して、Ptch+/−胎児肝臓細胞を移植したマウスで顕著な優位を示した。末梢血におけるLy5.2陽性細胞数は、3ヶ月を超える期間にわたりwtおよびSmo−/−と比較して約2倍である(図3A)。Smo−/−骨髄の再生はwtと顕著に異なり、Smo−/−対Smo wt HSCで再生能に大きな差がないことが示される。末梢血における細胞型のさらなる分析は、Smo−/−を移植したマウスとSmo wt胎児肝臓細胞を移植したマウスの間の細胞分布の差異を示した。Smo−/−は、CD8陽性T細胞の90%を超える減少を示したのに対し、CD4+T細胞の数は30%までしか減少しない。これらの結果は、ヘッジホッグシグナリングがT細胞発達のために重要であり、そして、CD8+T細胞の産生が完全ヘッジホッグシグナリングに依存することを示す(図3B)。
【0086】
HSCにおけるヘッジホッグシグナリングの役割をさらに調べるために、最初に胎児肝臓細胞を移植したマウスの骨髄の再生能を、これらのマウスに5−フルオロウラシル(5−FU)を注射することにより調べる。短期間再生能は、Smoを欠く骨髄で顕著に減少する。5−FU注射10日後、Smo−/−胎児肝臓細胞を最初に移植したマウスにおけるLy5.2陽性細胞の数は、他の遺伝子型と比較して70%低く、短期間再増殖細胞におけるヘッジホッグシグナリング経路の役割を示す(図3C)。これらの結果は、Ptch+/−マウスが、短期間再増殖細胞における早い再生能を示し、そして、顕著に増加された幹細胞プールを有することを示す。この結果は、長期間再増殖細胞が、Ptch+/−マウスにおけるLy5.2陽性細胞数が3ヶ月を超えて他の遺伝子型よりも顕著に高いままであるため、ヘッジホッグ経路活性化から利益を受けることを示す。2歳齢Ptch+/−マウスからの血液細胞計数は、Ptch wtマウスと比較して末梢血細胞の数に差異を示さず、長期間後でさえこれらのマウスにおける血液細胞の産生に顕著な欠損がないことを示す。
【0087】
造血におけるSmoの上方制御の役割をさらに確認するため、GFPコントロールベクター、Smo wtおよび活性化された突然変異体SmoW535Eを、5−FU前処置マウスの骨髄において過発現させる。放射線照射されたドナーマウスに、90%GFP陰性骨髄細胞と混合した10%のGFP陽性骨髄細胞を移植する。造血の再生を血液細胞計数および末梢血におけるGFP陽性細胞の評価によりモニターする。Smo wtまたはSmoW535Eを過発現する骨髄細胞は、対照骨髄細胞と比較して有意に上昇したGli1レベルを有した(図3D)。GFPコントロールベクターを発現する骨髄を移植したマウスにおけるGFP陽性細胞inマウスの割合は10−12%に維持された。対照的に、Smo wtまたはSmoW535Tを感染させた骨髄を移植したマウスは、1年間にわたり最大で30%のGFP陽性細胞の数の有意な増加を示した。GFP陽性細胞型に有意差はない(図3E)。これらのデータは、Smoの過発現によるヘッジホッグシグナリングの活性化が幹細胞プールを拡大でき、そして、経時的に再増殖細胞の数を顕著に高めることを示す。
【0088】
実施例5
インビボでのSmo−/−によるBCR−ABL陽性白血病幹細胞の阻害
本実施例で示す通り、Smo−/−は、BCR−ABL陽性白血病幹細胞の拡大を阻止し、本疾患の再移植可能性(retransplantability)を無くす。インビボでのBCR−ABL陽性白血病の進展におけるヘッジホッグ経路の役割を調べるために、BCR−ABLを、pMSCV/BCR−ABL/IRES/GFPレトロウイルスベクターを使用してSmo−/−、Smo+/−、Smo+/+、Ptch+/+およびPtch+/−胚肝臓細胞に過発現させる。感染率は、試験した全ての胚造血細胞で3−4%である。感染細胞を、放射線照射したレシピエントC57/Bl6マウスに移植する。GFP陽性細胞および血液細胞計数を移植20日後に測定する。Ptch+/−/BCR−ABL/GFP胎児肝臓細胞を移植したマウスは、pMSCV/BCR−ABL/GFPで感染させたPtch wtまたはSmo wt骨髄を移植したマウスより3倍高いGFPレベルを示した。Smo−/−/BCR−ABL/GFP陽性細胞はこの時間では拡大せず、元の感染率より低くさえある数を示した(図4A)。移植28日後、3匹のマウスを各移植群から取り、群間の脾臓重量差を比較する。
【0089】
Ptch+/−、Ptch wt、Smo wtまたはSmo+/−/BCR−ABL/GFP胎児肝臓細胞を移植した全てのマウスは、顕著なCML進展開始の徴候として、40%を超える脾臓増加があり、一方で、Smo−/−胚肝臓細胞を移植された全てのマウスは正常な脾臓サイズであり、SmoがBCR−ABL陽性細胞の拡大に重要であることを示す(図4B)。Ptch+/−胚肝臓細胞を移植した全てのマウスは、移植後38日以内に致死的白血病を発症し、Ptch wt、Smo wtまたはSmo+/−胎児肝臓細胞を移植したマウスが続いた(図4C)。Ptch+/−胎児肝臓細胞を移植したマウスはBCR−ABL陽性ALL(80%)を発症する確率がCML(20%)を発症する確率より高く、一方Smo+/−胎児肝臓細胞は、CMLを発症する確率がALLを発症する確率より高い。Smo−/−BCR−ABL陽性胎児肝臓細胞を移植したマウスの60%のみが移植後3ヶ月より後に致死的疾患を発症し、これは脾臓重量の増加により特徴付けられたが、いずれのマウスも、末梢血で白血球細胞数増加を示さなかった。Smo−/−/BCR−ABL/GFP移植マウスの40%が、移植12ヶ月後でさえ、疾患の徴候を何等示さなかった。
【0090】
白血病幹細胞集団におけるヘッジホッグシグナリング経路の活性化状態をさらに調べるために、骨髄および脾臓細胞を、感染第1回目の疾患マウスから集め、2E5 GFP陽性細胞を放射線照射した二次レシピエントに移植する。Ptch+/−、Ptch wt、Smo wtおよびSmo+/−BCR−ABL陽性骨髄を移植されたマウスからの全ての二次レシピエントは、移植2ヶ月後に白血病を発症したのに対し、Smo−/−BCR−ABL wt骨髄を移植したマウスの何れも、移植4ヶ月後でさえ、疾患の徴候を何等示さなかった(図4D)。これらの結果は、BCR−ABL陽性白血病幹細胞の拡大がヘッジホッグ経路活性化に依存し、そしてSmoがCMLにおける白血病幹細胞に対する標的であり得ることを示す。
【0091】
実施例6
インビボでのAbl阻害とSmo阻害の組み合わせ
本実施例において示す通り、CML様疾患のマウスにおけるAbl阻害(例えば、AMN107)およびSmo阻害(例えば、シクロパミン)の組み合わせは、コロニー形成単位の量を減らし、再発までの時間を延ばし、そしてAMN107とシクロパミンの組み合わせがCMLの処置に有益であることを示す。
【0092】
BCR−ABL陽性骨髄を移植したマウスを、最適以下の量のABL阻害剤AMN107、またはAMN107(50mg/kg qd)とSmoアンタゴニストシクロパミン(25mg/kg bid)の組合せのいずれかで処置する。処置を移植7日後に開始し、合計14日間続ける。処置の最後に、各群から3匹のマウスを殺し、1つの大腿からの骨髄を、BCR−ABL陽性コロニーのみを検出するためにサイトカイン添加なしのメチルセルロースコロニーアッセイに平板培養する。AMN107とシクロパミンの組み合わせで処置されたマウスで検出されたコロニーの平均数は、AMN107のみで処置された群と比較して40%を超えて減少し、組み合わせ処置がBCR−ABL陽性コロニー形成単位を減少できることを示す(図5A)。末梢血細胞計数、脾臓および肝臓重量はその時点で正常であり、GFP陽性細胞の数は5%より少ない。
【0093】
処置8日後、群あたりさらに3匹のマウスを殺し、肝臓および脾臓重量の比較により再発の徴候を試験する。正常マウスと比較して増加した肝臓および脾臓重量が全てのマウスで見られたが、AMN107のみで処置したマウスは、AMN107とシクロパミンの組み合わせで処置されたマウスと比較して、平均脾臓サイズが約2倍であり、より重い肝臓重量であった(図4B)。各群で残った5匹のマウスを疾患の徴候についてモニタリングし、瀕死のときに殺す。AMN107単独群での処置後の平均生存が8日間であったのに対し、AMN107およびシクロパミン処置群は24日間である(図5C)。
【0094】
ここに記載の実施例および態様は説明目的のためだけであり、それに照らした多くの修飾または変化が、当業者には示唆され、本出願の範囲内および添付の特許請求の範囲内の範囲内に包含されることは理解すべきである。
【0095】
ここに引用する全ての刊行物、特許、特許出願、ポリヌクレオチドおよびポリペプチド配列受託番号および他の文献は、その全体をそして全ての目的で、これらの文献が個々にそのように記載されているのと同定度に引用により本明細書に包含させる。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2007年8月16日に出願の米国仮出願番号60/956,295の利益を手中し、その出願はその全体を引用により本明細書に包含させる。
【0002】
技術分野
本発明は、一般に、腫瘍細胞増殖を阻害する、および癌を処置する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景技術
Hhシグナリング経路は当分野で十分に特徴付けされている(例えば、Nybakken et al., Curr. Opin. Genet. Dev. 2002, 12:503-511; およびLum et al., Science 2003, 299: 2039-2045参照)。簡単に言うと、ヘッジホッグリガンドの非存在下で、経膜受容体、パッチド(Ptch)は、スムーズンド(Smoothened)(Smo)に結合し、Smoの機能を遮断する。この阻害はリガンド存在下で軽減され、これはSmoがシグナリングカスケードを開始することを可能にし、それは、細胞質タンパク質フューズド(Fu)およびサプレッサー・オブ・フューズド(SuFu)からの転写因子Glisの遊離をもたらす。不活性な状況では、SuFuはGlisが核に移動するのを妨げる。活性な状況では、FuはSuFuおよびGlisが遊離されるのを阻害する。Gliタンパク質は核に移動し、標的遺伝子転写を制御する。
【0004】
BCR−ABL癌遺伝子はフィラデルフィア染色体(Ph)22qの産物であり、構成的に活性化されたABLチロシンキナーゼ活性を有するキメラBCR−ABLタンパク質をコードする(Lugo et al., Science 1990, 247:1079-1082)。BCR−ABLは、慢性骨髄性白血病の根底をなす原因である。210kDa BCR−ABLタンパク質はCML患者で発現されるが、BCR遺伝子の別のブレークポイントに由来する190kDa BCR−ABLタンパク質は、Ph陽性(Ph+)急性リンパ芽球性白血病(ALL)患者で発現される。(Bartram et al., Nature 1983, 306:277-280; Chan et al., Nature 1987, 325:635-637)。
【0005】
BCR−ABLは、関係する骨髄性またはリンパ系前駆細胞または3T3線維芽細胞において種々の機構を介して増殖および抗アポトーシスを誘発することが示されている。(Pendergast et al., Cell 1993, 75:175-85; Ilaria et al., J. Biol. Chem. 1996, 271:31704-10; Chai et al., J. Immunol. 1997, 159:4720-8; and Skorski et al., EMBO J. 1997, 16:6151-61)。しかしながら、造血幹細胞(HSC)集団におけるBCR−ABLの作用はほとんど知られていない。最近の文献は、Wntシグナリング経路のような発育経路またはPolycomb遺伝子BMI1が白血病幹細胞の制御および拡大に関与しているはずであることを示唆する(Mohty et al., Blood, 2007; Hosen et al., Stem Cells, 2007)。BMI1およびベータ−カテニンは両方ともCML急性転化期において上方制御され、それらの発現は疾患の進行と関連する。後天性β−カテニン発現を有するBCR−ABL陽性顆粒球−マクロファージ前駆細胞は、急性転化期CMLにおける候補白血病幹細胞である。悪性クローンの最初の拡大に至る、慢性期の間のBCR−ABL陽性白血病幹細胞の拡大に関与する自己再生経路は現在ほとんど理解されていない。
【発明の概要】
【0006】
発明の開示
本発明は、腫瘍細胞増殖阻害に、および多様な癌の処置に有用であり得る混合物およびその医薬組成物に関する。
【0007】
一つの局面において、本発明は、ヘッジホッグシグナリング経路を阻害する第一剤およびBCR−ABLを阻害する第二剤を含む組成物を提供する。他の局面において、本発明は、治療的有効量のヘッジホッグシグナリング経路を阻害する第一剤、BCR−ABLを阻害する第二剤、および薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物を提供する。
【0008】
本発明はまた、癌、特にBCR−ABL陽性白血病の処置方法であって、系または対象に、治療的有効量のヘッジホッグシグナリング経路を阻害する第一剤およびBCR−ABLを阻害する第二剤をまたはその薬学的に許容される塩を含む混合物、またはその医薬組成物を投与し、それにより該BCR−ABL陽性白血病を処置する、方法も提供する。例えば、本発明の組成物は慢性骨髄性白血病または急性リンパ球性白血病の処置に使用し得る。
【0009】
さらに、本発明は、治療的有効量のヘッジホッグシグナリング経路を阻害する第一剤およびBCR−ABLを阻害する第二剤をまたはその薬学的に許容される塩を含む混合物、またはその医薬組成物の、細胞増殖性障害、特にBCR−ABL陽性白血病処置用医薬の製造における使用を提供する。
【0010】
上記組成物および本発明の組成物の使用方法において、本発明の組成物の第一剤はSmoに結合し得る。具体例では、第一剤はシクロパミンまたはフォルスコリンである。他の態様において、本発明の組成物の第二剤はABL阻害剤、ABL/Scr阻害剤、オーロラキナーゼ阻害剤、またはBCR−ABLの非ATP競合阻害剤である。例えば、第二剤は、次のものから成る群から選択し得る。
【化1】
【0011】
上記組成物および本発明の組成物を使用する方法において、本発明の組成物を細胞または組織を含む系に投与してよい。ある態様において、本発明の組成物をヒトまたは動物対象に投与してよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】健康患者および慢性期または急性転化期のCML患者からの精製CD34+細胞におけるGli1およびPtch1の転写レベルを示す(値はCD34+細胞に対して標準化)。
【図1B】BCR−ABL陽性対陰性全骨髄または幹細胞におけるGli1およびPtch1転写レベルの発現を示す。
【図2A】混合骨髄培養をシクロパミンで72時間処置後のBCR−ABL(GFP)陽性骨髄性前駆細胞(Lin−、Kit+、Sca−)およびHSCs(Lin−、Kit+、Sca+)のパーセンテージを示す。
【図2B】白血病マウス骨髄のシクロパミン処置後のGli1発現を示す。
【図2C】シクロパミン処置混合骨髄培養の平板培養10日後に計測したコロニーの全数を示す。
【図3A】PepC−Ly5.1マウス移植後の末梢血におけるLy5.2(胚)陽性細胞を示す。
【図3B】末梢血における移植10週後のLy5.2陽性細胞における細胞型分布を示す。
【図3C】5−FU処置(150mg/kg)後の末梢血におけるLy5.2陽性細胞の再生を示す。
【図3D】60週間にわたり10%GFP陽性細胞、10%Smo GFP陽性細胞または10%SMOW535E GFP陽性細胞を含む骨髄を移植したマウス末梢血におけるGFP陽性細胞のパーセンテージを示す。
【図3E】pMSCVコントロールベクターまたはSmo GFPまたはSMOW535E GFPベクターのいずれかを感染させた骨髄の相対的GLI1転写レベルを示す。
【図4A】移植(Tx)20日後の移植マウスの末梢血におけるBCR−ABL陽性細胞数を示す。
【図4B】Tx28日後の移植マウスの脾臓重量を示す。
【図4C】BCR−ABL感染胎児肝臓細胞を移植したマウスの生存を示す。
【図4D】2×10E5 BCR−ABL(GFP)陽性骨髄細胞を再移植後のマウスの生存を示す。
【図5A】AMN107またはAMN107とシクロパミンの組み合わせのいずれかで処置したBCR−ABL+マウスにおける1個の大腿のGFP陽性骨髄コロニーの相対的量を示す。
【図5B】8日間処置終了後の脾臓および肝臓重量を示す。
【図5C】AMN107単独またはAMN107とシクロパミンの組み合わせいずれかで処置終了後の生存日間を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
定義
他に定義しない限り、ここで使用する全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者により共通して理解されるものと同じ意味を有する。次の文献は、本明細書において使用される用語の多くの一般的な定義を当業者に提供する:Oxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology, Smith et al. (eds.), Oxford University Press(revised ed., 2000); Dictionary of Microbiology and Molecular Biology, Singleton et al. (eds.), John Wiley & Sons(3rd ed., 2002); およびA Dictionary of Biology(Oxford Paperback Reference), Martin and Hine(Eds.), Oxford University Press(4th ed., 2000)。加えて、次の定義を読者が本発明を実施する際の助けとして提供する。
【0014】
用語“薬剤”または“試験薬”は任意の物質、分子、要素、化合物、物、またはそれらの組み合わせを含む。それは、例えば、タンパク質、ポリペプチド、小有機分子、ポリサッカライド、ポリヌクレオチドなどを含み、これに限定されない。それは、天然産物、合成化合物、化学化合物、または2種以上の物質の組み合わせであり得る。特記されない限り、用語“薬剤”、“物質”、および“化合物”は交換可能に使用できる。
【0015】
用語“アナログ”は、本明細書で、参照分子に構造的に似ているが、目標を定めたまたは制御された方法で、参照分子の特異的置換基を別の置換基に置き換えることにより修飾されている、分子を意味することを言うために使用する。参照分子と比較して、当業者は、アナログが同一の、類似した、または改善された有用性を示すことを期待する。合成および改善された性質(例えば標的分子への高い結合親和性)を有する既知化合物のバリアントを同定するためのアナログのスクリーニングは、薬化学において既知の方法である。
【0016】
ここで使用する“接触させる”は、その言葉通りの意味を有し、2個以上の分子(例えば、小分子有機化合物およびポリペプチド)を組み合わせるか、分子と細胞(例えば、化合物および細胞)を組み合わせることを意味する。接触は、インビトロで、例えば、2個以上の薬剤を組み合わせて、または化合物と細胞または細胞ライセートを試験管または他の容器中で組み合わせて行い得る。接触はまた、細胞でまたはインサイチュで、例えば、2個のポリペプチドを、細胞内でその2個のポリペプチドをコードする組み換えポリヌクレオチドを細胞内で発現させることにより、または細胞ライセート内で接触させて行い得る。
【0017】
用語“ヘッジホッグ”は、一般に、ソニック、インディアン、デザートおよびティギーウィンクルを含む、ヘッジホッグファミリーの任意のメンバーを言うために使用する。本用語はタンパク質または遺伝子を示すために使用し得る。本用語はまた異なる動物種のホモログ/オルソログ配列を述べるために使用する。
【0018】
用語“ヘッジホッグ(Hh)シグナリング経路”および“ヘッジホッグ(Hh)シグナリング”は交換可能に使用でき、通常、ヘッジホッグ、パッチド(Ptch)、スムーズンド(Smo)、およびGliのようなシグナリングカスケードの種々のメンバーが仲介する一連の事象を言う。ヘッジホッグ経路は、下流成分の活性化により、ヘッジホッグタンパク質非存在化でさえ活性化され得る。例えば、Smoの過発現は、ヘッジホッグ非存在下でこの経路を活性化する。
【0019】
Hhシグナリング成分またはHhシグナリング経路のメンバーは、Hhシグナリング経路に参加する遺伝子産物を意味する。An Hhシグナリング成分は、細胞/組織におけるHhシグナルの伝達にしばしば作用を及ぼし、典型的に下流遺伝子発現レベルの程度の変化および/または表現型変化に至る。Hhシグナリング成分は、その生物学的機能および下流遺伝子活性化/発現の最終結果に対する効果によって、正および負のレギュレーターに分類され得る。正のレギュレーターは、Hhシグナルの伝達に正に作用する、すなわち、Hhが存在するとき下流生物学的事象を刺激する、Hhシグナリング成分である。例はヘッジホッグ、Smo、およびGliを含む。負のレギュレーターは、Hhシグナルの伝達に負に作用する、すなわち、Hhが存在するとき下流生物学的事象を阻害する、Hhシグナリング成分である。例は(限定しないが)PtchおよびSuFuを含む。
【0020】
ヘッジホッグシグナリングアンタゴニスト、HhシグナリングのアンタゴニストまたはHhシグナリング経路の阻害剤は、正のHhシグナリング成分(例えばヘッジホッグ、Ptch、またはGli)の生理活性を阻害するか、またはHhシグナリング成分の発現を下方制御する薬剤を言う。それらはまた、Hhシグナリング成分の負のレギュレーターを情報制御する薬剤も含む。ヘッジホッグシグナリングアンタゴニストは、ソニック、インディアンまたはデザートヘッジホッグ、スムーゼンド、ptch−1、ptch−2、gli−1、gli−2、gli−3などを含む(しかしこれらに限定されない)ヘッジホッグ経路の任意の遺伝子によりコードされるタンパク質に向けられ得る。
【0021】
ここで使用する“異種配列”または“異種核酸”は、特定の宿主細胞に対して外来の源に由来するか、または、同じ源であれば、その元の形から修飾されているものを含む。故に、宿主細胞内の異種遺伝子は、特定の宿主細胞に内因性であるが、修飾されている遺伝子を含む。異種配列の修飾は、例えば、DNAを制限酵素で処理して、プロモーターと操作可能に結合できるDNAフラグメントを産生することにより行い得る。部位特異的変異誘発のような技術が異種核酸の修飾にも有用である。
【0022】
用語“相同”は、タンパク質および/またはタンパク質配列に言及するとき、それらが、天然であれ人工的であれ、共通の祖先タンパク質またはタンパク質配列に由来することを示す。同様に、核酸および/または核酸配列は、それらが、天然であれ人工的であれ、共通の祖先核酸または核酸配列に由来するとき、相同である。相同性は、一般に2個以上の核酸またはタンパク質(またはその配列)の配列類似性から推断される。相同性を証明するのに有用な複数配列間の類似性のパーセンテージは、問題の核酸およびタンパク質によって変わるが、ほんの25%の配列類似性が相同性を証明するために日常的に使用される。より高いレベルの配列類似性、例えば、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%またはそれ以上も相同性の証明に使用できる。
【0023】
“宿主細胞”は、異種ポリヌクレオチドを挿入できる原核または真核細胞を言う。ポリヌクレオチは、細胞に任意の手段で、例えば、電気穿孔、リン酸カルシウム沈殿、マイクロインジェクション、形質転換、ウイルス感染などにより挿入できる。
【0024】
腫瘍増殖または腫瘍細胞増殖の文脈での用語“阻害する”または“阻害”は、原発性または二次性腫瘍の出現遅延、原発性または二次性腫瘍の成長遅延、原発性または二次性腫瘍発生率減少、疾患の二次的影響の遅延または重症度の軽減、または腫瘍増殖停止および腫瘍緩解を言う。用語“予防する”または“予防”は、原発性または二次性腫瘍の成長または疾患の何らかの二次的影響の完全な阻害を言う。酵素活性の調節の文脈では、阻害は、競合的、不競合的(uncompetitive)、および非競合的(noncompetitive)阻害を含む、酵素活性の可逆性抑制または減少を意味する。これは、基本的ミカエリス・メンテン速度式の点で分析し得る、酵素の反応速度論に対する阻害剤の効果により実験的に区別できる。競合的阻害は、阻害剤が、遊離酵素と、それが活性部位で通常基質と結合について競合するように結合できるときに起こる。競合阻害剤は、酵素−基質複合体に類似して、酵素と可逆性に反応して酵素−阻害剤複合体[EI]を形成する。
【0025】
2個の核酸配列またはアミノ酸配列の文脈での用語“配列同一性”は、特定比較ウィンドウにわたり最大一致となるように配置したとき、同じである2個の配列の残基を言う。“比較ウィンドウ”は、2個の配列を最適に整列した後に、参照配列の同じ数の連続位置と配列を比較し得る、少なくとも約20、通常約50〜約200、より一般的には約100〜約150の連続した位置のセグメントを言う。比較のために配列を整列させる方法は当分野で既知である。比較のための配列の最適整列は、Smith and Waterman, Adv. Appl. Math. 1981, 2:482の局所相同性アルゴリズムにより;Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol. 1970, 48:443の整列アルゴリズムにより;Pearson and Lipman, Proc. Nat. Acad. Sci U.S.A. 1988, 85:2444の類似性検索法により;またはこれらのアルゴリズムのコンピューター化された実施(Intelligentics, Mountain View, CAによるPC/GeneプログラムのCLUSTAL; およびWisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Dr., Madison, Wis., U.S.A.のGAP、BESTFIT、BLAST、FASTAまたはTFASTAを含み、これに限定されない)により行い得る。CLUSTALプログラムは、Higgins and Sharp, Gene 1988, 73:237-244; Higgins and Sharp, CABIOS 1989, 5:151-153; Corpet et al., Nucleic Acids Res. 1988, 16:10881-10890; Huang et al, Computer Applications in the Biosciences 1992, 8:155-165; およびPearson et al., Methods in Molecular Biology 1994, 24:307-331により十分に記載されている。整列はまた視察および手動整列によってもしばしば行われる。一クラスの態様において、ポリペプチドは、少なくとも70%、一般に少なくとも75%、所望により少なくとも80%、85%、90%、95%または99%またはそれ以上参照ポリペプチド(例えば、ヘッジホッグ分子、例えば、BLASTPまたはCLUSTAL、または任意の他の利用可能な整列ソフトウェアでデフォルトパラメータを使用して測定して)と同一である。同様に、核酸もまた出発核酸に関して記載でき、例えば、それらは、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%またはそれ以上参照核酸と同一である(例えば、BLASTNまたはCLUSTAL、または任意の他の利用可能な整列ソフトウェアでデフォルトパラメータを使用して測定して)。
【0026】
“実質的に同一”な核酸またはアミノ酸配列は、上記プログラム(好ましくはBLAST)を標準パラメータで使用して、参照配列に少なくとも90%配列同一性を有する配列を含む核酸またはアミノ酸配列である。配列同一性は、少なくとも95%、より具体的に少なくとも98%、およびある例では、少なくとも99%であり得る。例えば、BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列について)は、デフォルトとして11のワード長(W)、10の期待値(E)、M=5、N=−4、および両鎖の比較を使用する。アミノ酸配列について、BLASTPプログラムは、デフォルトとして3のワード長(W)、10の期待値(E)、およびBLOSUM62スコアリング・マトリックスを使用する(Henikoff & Henikoff, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1989, 89:10915参照)。配列同一性のパーセンテージは、2個の比較ウィンドウにわたり最適に整列させた配列を比較することにより決定され、ここで、比較ウィンドウ内のポリヌクレオチド配列の位置は、2個の配列の最適整列のために参照配列(付加または欠失を含まない)と比較して、付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含んでよい。パーセンテージは同一核酸塩基またはアミノ酸残基が、両方の配列に存在する位置の数を決定してマッチ位置の数を得て、そのマッチ位置の数をウィンドウ内の位置の全数で割り、その結果を100倍して配列同一性のパーセンテージを得ることにより計算する。実質的同一性は、少なくとも約50残基長である配列の領域、より具体的に少なくとも約100残基である領域にわたり存在し得る。ある例では、配列は少なくとも約150残基実質的に同一であってよく、または配列は、コード領域の全長にわたり実質的に同一であってよい。
【0027】
参照タンパク質(例えば、ヘッジホッグ経路メンバー)またはそのフラグメントの生物学的活性に関連する用語“調節”は、発現レベルまたはそのタンパク質の他の生物学的活性の変化を言う。例えば、調節は、参照タンパク質の発現レベルの増加または減少、タンパク質の酵素的修飾(例えば、リン酸化)、結合特性(例えば、他の分子への結合)、または参照タンパク質の何らかの他の生物学的(例えば、酵素的)、機能的、または免疫学的特性をもたらし得る。活性の変化は、例えば、参照タンパク質をコードする1種以上の遺伝子の発現、タンパク質をコードするmRNAの安定性、翻訳効率の増加または減少、または参照タンパク質の他の生物学的活性の変化に起因し得る。この変化は、参照タンパク質を調節する他の分子(例えば、参照タンパク質をリン酸化するキナーゼ)の活性によるものでもあり得る。
【0028】
参照タンパク質の調節は、上方制御(すなわち、活性化または刺激)でも下方制御(すなわち阻害または抑制)でもよい。参照タンパク質のモジュレーターの作用機序は、例えば、タンパク質またはタンパク質をコードする遺伝子への結合を介して直接的でも、例えば、他の方法で参照タンパク質を調節する他の分子への結合および/または調節(例えば、酵素的)を介して間接的でもよい。
【0029】
用語“対象”は哺乳動物、特にヒトを含む。それはまた、他の非ヒト動物、例えばウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ネコ、イヌ、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、サルも含む。
【0030】
用語“処置する”または“処置”は、腫瘍増殖停止、および腫瘍の部分的なまたは完全な緩解を意味する。用語“処置する”は、症状、合併症、または疾患の生化学的徴候(例えば、白血病)の予防または発生遅延、症状の軽減、または疾患、状態、または障害のさらなる進展を停止または阻止するための化合物または薬剤の投与を含む。処置は予防的(疾患の予防または発生遅延のため、またはその臨床的または亜臨床的症状の顕在化の予防のため)または疾患顕在化後の治療的抑制または症状の軽減のためであり得る。
【0031】
参照分子の“変異体”は、完全な参照分子、またはそのフラグメントに構造および生物学的活性が実質的に類似する分子を言う。故に、2個の分子が類似の活性を有する限り、それらは、その分子の一方の組成または二次的、三次的、または四次的構造が他方で見られるものと同一でなくてさえ、または、アミノ酸残基の配列が同一でなくてさえ、本明細書で使用される用語、変異体と見なす。
【0032】
発明を実施する方法
本発明は、腫瘍細胞増殖を阻害するおよび多様な癌を処置するために有用であり得る、組成物およびその医薬組成物に関する。
【0033】
より具体的に、本発明は、ヘッジホッグシグナリング経路を阻害する第一剤およびBCR−ABLを阻害する第二剤を含む組成物を提供する。本組成物は、リンパ系および骨髄の造血腫瘍の成長および増殖の阻害、および例えば、Src、BCR−ABLおよびc−kitのようなタンパク質チロシンキナーゼとの関連が既知の癌の処置に使用し得る。具体的な態様において、本組成物は、BCR−ABL陽性慢性骨髄性白血病(CML)および急性リンパ球性白血病(ALL)の処置に使用し得る。
【0034】
慢性骨髄性白血病は、非悪性造血幹細胞より大きくなるフィラデルフィア転座を担持する白血病幹細胞クローンの拡大により特徴付けられる。本発明は、一部、BCR−ABLがSmoの上方制御を介してヘッジホッグシグナリング経路を活性化することにより、造血幹および前駆細胞の自己再生を直接亢進するとの発見に基づく。BCR−ABLはマウスおよびヒトHSCでSmo発現を上方制御し、ヘッジホッグシグナリング経路を活性化する。
【0035】
BCR−ABL陽性骨髄培養におけるSmo活性の薬理学的阻害は、インビトロでBCR−ABL陽性自己再生細胞のコロニー形成能を阻害する。白血病マウスのAMN107(Abl阻害剤)およびシクロパミン(Smo阻害剤)での組み合わせ処置は、AMN107単独で処置したマウスと比較して、インビボでBCR−ABL陽性自己再生細胞の減少と、再発までの期間の3倍を超える延長をもたらした。故に、BCR−ABLは、Smoの上方制御により、ヘッジホッグシグナリングの内因性活性化を介して、白血病幹細胞の自己再生を亢進する。それ故に、Hh経路阻害のみまたはAbl阻害剤との組み合わせは、BCR−ABL陽性白血病における悪性幹細胞プールの減少のための有効な治療ストラテジーとして働き得る。
【0036】
本発明の治療方法は、癌細胞、特に白血病および骨髄腫のような血液およびリンパ系の癌の成長および増殖を阻害するために、ヘッジホッグシグナリング経路を阻害する薬剤を、BCR−ABLを阻害する薬剤と組み合わせて用いる。これらの方法はこのような腫瘍細胞(インビトロまたはインビボ)と、Hhシグナリング経路の阻害剤およびBCR−ABLの阻害剤を含む組成物を接触させることを含む。
【0037】
A. ヘッジホッグシグナリングを阻害する薬剤
当分野で既知のヘッジホッグシグナリング経路を阻害することが既知の種々の薬剤を、本発明の実施に使用してよい。これらは、ヘッジホッグシグナリング経路のメンバーの生物学的活性(例えば、酵素的活性)を直接的または間接的に調節する有機化合物を含む。それらはまた、ヘッジホッグシグナリング経路のメンバーをコードする遺伝子またはmRNAを特異的に標的とする薬剤も含む。ヘッジホッグシグナリング経路のメンバー(例えば、経膜受容体)を標的にする抗体または他の結合剤のような、ヘッジホッグシグナリング経路の他のアンタゴニストも本方法の実施に用い得る。
【0038】
Hhシグナリング経路は、胎児および成体造血幹細胞(HSC)で役割を示す発達的経路である。(Trowbridge et al., Proc Natl Acad Sci USA 2006, 103:14134-9)。間質細胞により産生されたヘッジホッグリガンド(Shh、IhhおよびDhh)は7回膜貫通受容体Ptchに結合する。Ptchに結合するリガンドは、第二の7回膜貫通受容体であるSmoに結合する、Ptchを放出する。これはSmoの立体構造変化と、下流シグナリング経路の活性化を、Gli転写因子(Gli1、Gli2、Gli3)の誘導およびGli1、Ptch1、サイクリンD1およびBcl2のような標的遺伝子の転写と共にもたらす(Duman-Scheel et al., Nature 2002, 417:299-304)。初期胚形成中、内臓内胚葉によるインディアンヘッジホッグの分泌は、マウス胚の卵黄嚢において原始的造血細胞の形成を誘発する。Smoに欠損変異を有するまたはHhシグナリング阻害剤シクロパミンで処置したゼブラフィッシュ胚は、不完全な成体HSC形成を示す(Gering et al., Dev. Cell. 2005, 8:389-400)。最近の文献は、成体HSCの細胞サイクル制御におけるヘッジホッグシグナリングの役割を示す(Trowbridge et al., supra)。
【0039】
本発明の治療方法を実施するために、多くのHhシグナリング経路成分を調節してよい。これらは、アンタゴナイズし得るHhシグナリングの正のレギュレーターおよびアゴナイズし得るHhシグナリングの負のレギュレーターを含む。ヘッジホッグ(Hh)(例えば、Ihh、Shh、およびDhhを含む)、スムーズンド(Smo)、およびGliは正のレギュレーターの例であり、一方パッチド(Ptch)およびサプレッサー・オブ・フューズド(Fu)は負のレギュレーターである。様々な種における全てのHhシグナリング経路遺伝子を、GenBank、EMBL、またはFlyBaseのような公的に容易に入手でき、占有のデータベースの配列に基づき、早期にクローン化してよい。
【0040】
ヘッジホッグシグナリング経路の多くの阻害剤が本分野で既知であり、ヘッジホッグシグナリング経路の実施に際に容易に用いられ得る。幾つかのHhシグナリングアンタゴニストは、SmoのようなHh経路の重要なメンバーを標的にする小分子化合物、例えば、シクロパミン、SANT1およびCur61414である(Katoh et al., Maycer Biol Ther.2005, 4:1050-4; およびWilliams et al., Proc Natl Acad Sci USA. 2003, 100:4616-21)。例えば、シクロパミンは、Smoに直接結合することによりヘッジホッグシグナリング経路を阻害する。Hhシグナリングの他のアンタゴニストは、他の分子に作用し、それが続いてHhシグナリングに影響することにより、間接的にHh経路を阻害する。例えば、フォルスコリンはタンパク質キナーゼAを活性化し、それが次にSmoの下流のHhシグナリングを遮断する(例えば、Yao et al., Dev Biol. 2002, 246:356-65参照)。Hhシグナリングのさらなる有機化合物阻害剤は、例えば、US特許出願US20060063779(Gunzner et al., 2006)、US20050222087(Beachy, 2005)およびUS20010034337(Dudek et al., 2001)に記載されている。これらのHhシグナリングアンタゴニストの何れも、本発明の治療方法の実施に際し用いてよい。この化合物の幾つかは商業的に入手し得る(例えば、シクロパミンまたはSANT−1)。他のものは、有機化学の分野で日常的に行われる方法を使用して容易に合成し得る。
【0041】
ある態様において、用いるHhシグナリングのアンタゴニストは、Hhシグナリング経路の活性化を特異的に阻害する結合剤である。例えば、そのリガンドが結合しないとき、経膜受容体PtchはSmoに結合し、その機能を遮断する。故に、ヘッジホッグのPtchへの結合を阻害し、または遮断し得る結合剤をHhシグナリングのアンタゴナイズに使用し得る。アンタゴニスト抗体または抗体ホモログならびにヘッジホッグに対する天然の結合タンパク質の可溶性形態のような他の分子が有用である。例えば、抗ヘッジホッグまたは抗パッチド抗体ホモログのようなモノクローナル抗体を本発明の方法の実施に際し使用し得る。これらの抗体は、ヘッジホッグのPtchへの結合を遮断できなければならないが、Hhシグナリングを活性化しない。
【0042】
幾つかの方法において、ヘッジホッグポリペプチドに特異的に結合する抗体を使用し得る。Hhシグナリング阻害のためのヘッジホッグに対する中和抗体の使用は既知であり、当分野において日常的に実施されている。例えば, Ahlgren et al., Curr Biol. 1999, 9:1304-14; Cobourne et al., J Dent Res. 2001, 80:1974-9; Hall et al., Dev Biol. 2003, 255:263-77; およびBerman et al., Nature 2003, 425:846-51参照。かかるヘッジホッグ中和抗体の例は、モノクローナル抗体クローン5E1である。この抗体は、Developmental Studies Hybridoma Bank, University of Iowaから得ることができる。
【0043】
幾つかの他の態様において、Ptch由来の結合剤の可溶性形態を使用し得る。これらは、可溶性Ptchペプチド、Ptch融合タンパク質、または二機能性Ptch/Ig融合タンパク質を含む。これらの可溶性薬剤の幾つかは、Ptchフラグメントのポリペプチドフラグメントと同一または実質的に同一の配列を有するポリペプチドフラグメントを含み、それはそのリガンド結合部位に抱えられる。例えば、ヘッジホッグに結合するPtchまたはそのフラグメントの可溶性形態を使用して、細胞上でヘッジホッグとの結合についてPtchと競合させ、それによりHhシグナリングの活性化を遮断し得る。加えて、Ptchに結合するが、ヘッジホッグ依存性シグナリングを誘発しない可溶性ヘッジホッグ突然変異体もまた本発明の実施において使用してよい。
【0044】
ヒト対象に対する治療的適用のいくつかは、ヒト起源であるHh経路の抗体アンタゴニストを用いる。これらはヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、Fab、Fab'、F(ab')2またはF(v)抗体フラグメント、ならびに抗体重または軽鎖のモノマーまたはダイマーまたはそれらの混合物を含む。キメラ抗体は、免疫グロブリン軽鎖、重鎖、または両方のヒンジおよび定常領域の全てまたは一部がヒト免疫グロブリン軽鎖または重鎖由来の対応する領域で置換されている、抗体ホモログである。ヒト化抗体は、ヒト定常領域配列を有するのに加えて、可変領域におけるその非CDRアミノ酸残基の幾つかまたは全てがヒト免疫グロブリン由来の対応するアミノ酸で置換されている、抗体ホモログである。ヒト抗体は、免疫グロブリン軽および重鎖のアミノ酸全てがヒト源由来である、抗体ホモログである。
【0045】
抗体ホモログは、ジスルフィド結合を介して結合した免疫グロブリン軽および重鎖から成る完全抗体を含む。それはまた、免疫グロブリン軽鎖、免疫グロブリン重鎖および1個以上の抗原(すなわち、ヘッジホッグまたはパッチド)と結合できるその抗原結合フラグメントから選択される1個以上のポリペプチドを含むタンパク質も含む。1個以上のポリペプチドから成る抗体ホモログの成分ポリペプチドは、所望によりジスルフィド結合しているか、または他の方法で共有結合的に結合している。抗体ホモログはまた、抗原結合特異性を保持する完全抗体の一部、例えば、Fabフラグメント、Fab'フラグメント、F(ab')2フラグメント、F(v)フラグメント、重鎖モノマーまたはダイマー、軽鎖モノマーまたはダイマー、1個の重鎖と1個の軽鎖から成るダイマーなども含む。故に、上記抗体由来の抗原結合フラグメント、ならびに完全長二量体または三量体ポリペプチドも本発明の実施に有用である。
【0046】
抗ヘッジホッグおよび抗パッチド抗体ホモログは、当分野で既知の、例えば、Monoclonal Antibodies-Production, Engineering And Clinical Applications, Ritter et al., Eds., Cambridge University Press, Cambridge, UK, 1995; およびHarlow and Lane, Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, 3rd ed., 2000の方法を使用して製造できる。ヘッジホッグまたはパッチドに対するヒトモノクローナル抗体ホモログは、Boemer et al., J. Immunol. 1991, 147:86-95により記載された通り、インビトロで刺激されたヒト脾細胞を使用して製造し得る。あるいは、それらを、例えば、Persson et al., Proc. Nat. Acad. Sci. USA 1991, 88: 2432-2436; Huang and Stollar, J. Immunol. Methods 1991, 141: 227-236;米国特許出願番号10/778,726(公開番号20050008625);および米国特許番号5,798,230および5,789,650に記載の方法により製造し得る。ヘッジホッグまたはパッチドタンパク質に結合する能力を有するヒト化組み換え抗体ホモログは、例えば、Riechmann et al., Nature 1988, 332: 323-327; Verhoeyen et al., Science1988, 239: 1534-1536; Queen et al., Proc. Nat. Acad. Sci. USA 1989, 86:10029; およびOrlandi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1989, 86:3833に記載の方法を使用して産生し得る。
【0047】
本発明の治療方法の幾つかは、ヘッジホッグシグナリング経路をアンタゴナイズする核酸薬剤を用いる。典型的に、これらの薬剤は、ヘッジホッグ、SmoまたはGliのような正のHhシグナリング成分をコードする1種以上の遺伝子の発現を下方制御する。これらは、低分子干渉RNA(siRNA)および低分子ヘアピン型RNA(shRNA)、マイクロRNA(miRNA)、アンチセンス核酸、および相補DNA(cDNA)のような二本鎖RNAを含む。二本鎖RNAによる内因性遺伝子の機能および発現の妨害は、例えば、Fire et al., Nature 1998, 391:806-811に記載の通り、線虫;例えば、Kennerdell et al., Cell 1998, 95:1017-1026に記載の通り、ショウジョウバエ;および例えば、Wianni et al., Nat. Cell Biol. 2000, 2:70-75に記載の通り、マウス胚のような種々の生物で示されている。かかる二本鎖RNAは、鋳型の両方向から読んだ一本鎖RNAのインビトロ転写と、センスおよびアンチセンスRNA鎖のインビトロアニーリングにより合成し得る。二本鎖RNAはまた、標的遺伝子が逆方向反復により分けられた逆方法でクローン化されている、cDNAベクター構築物からも合成し得る。細胞トランスフェクションに続き、RNAを転写し、相補鎖を再アニーリングする。本発明においてHhシグナリングをアンタゴナイズするために、Hhシグナリング経路の正のレギュレーターを標的とする二本鎖RNAを、適当な構築物のトランスフェクションにより細胞(例えば、リンパ腫細胞)に挿入し得る。
【0048】
ある態様において、HhシグナリングのsiRNAアンタゴニストを用いて、本発明を実施してよい。siRNAアンタゴニストは、ヘッジホッグシグナリング経路の任意の点でヘッジホッグシグナリングを調節し得る。例えば、それらは、Hhシグナリングをヘッジホッグ自体の、またはSmoまたはGliのような何らかの他の正のHhシグナリング成分のアンタゴナイズにより制御し得る。SiRNAは、典型的に約19−30ヌクレオチド長、および好ましくは21−23ヌクレオチド長である。それらは二本鎖であり、各末端に短オーバーハングを含んでよい。SiRNAは、当分野で既知の方法を使用して、化学的に合成しても、組み換え的に産生させてもよい。siRNAの組み換え産生は、一般的に細胞内で効率的に処理されてsiRNAを産生する低分子ヘアピン型RNA(shRNA)の転写を含む。例えば、Paddison et al. Proc Natl Acad Sci USA 2002, 99:1443-1448; Paddison et al. Genes & Dev. 2002, 16:948-958; Sui et al. Proc Natl Acad Sci USA 2002, 8:5515-5520; Brummelkamp et al. Science 2002, 296:550-553; Caplen et al., Proc Natl Acad Sci USA 2001, 98:9742-9747; およびElbashir et al., EMBO J. 2001, 20:6877-88参照。
【0049】
ある態様において、Hhシグナリングの核酸アンタゴニストは、二本鎖ヘアピンRNAであり得る。ヘアピンRNAは外因的に合成してよく、またはインビボでRNAポリメラーゼIIIプロモーターからの転写により形成させてよい。哺乳動物細胞における遺伝子サイレンシングのためのかかるヘアピンRNAの製造および使用例は、例えば、Paddison et al., Genes Dev. 2002, 16:948-58; McCaffrey et al., Nature 2002, 418:38-9; McManus et al., RNA 2002, 8:842-50; およびYu et al., Proc Natl Acad Sci USA 2002, 99:6047-52に記載されている。好ましくは、かかるヘアピンRNAは、所望の遺伝子の連続的かつ安定的な抑制を確実にするために細胞または動物において操作する。siRNAを、細胞内でヘアピンRNAを処理することにより産生し得ることは当分野で既知である。
【0050】
B. BCR−ABLを阻害する薬剤
ABL阻害剤、ABLおよびSrc−ファミリーキナーゼ両方の阻害剤、オーロラキナーゼ阻害剤、およびBCR−ABLの非ATP競合阻害剤を含み、これらに限定されない、当分野で既知の種々のBCR−ABL阻害剤を、本発明の実施に際し用いてよい。
【0051】
チロシンキナーゼのSrcファミリーは、細胞増殖、分化、移動および生存に関与する多数の細胞内シグナル伝達経路を調節し、その多くは発癌、腫瘍転移および血管形成に関与する。(Weisberg et al., Nat. Rev. Cancer 2007, 7:345-356)。Srcファミリー由来の多くのキナーゼが造血細胞において発現されている(Blk、Fgr、Fyn、Hck、Lck、Lyn、c−SrcおよびYes)。加えて、BCR−ABLは、リン酸化を介して、および単にSrcタンパク質に結合することによっての両方によりSrcキナーゼを活性化できることが示されている。さらに、イマチニブ耐性患者からの細胞ライセートは、Lynキナーゼを過発現し、イマチニブに対する耐性について選択されたヒトCML K562細胞(これもLynを過発現する)の増殖は、Abl/Src阻害剤、PD180970により阻害されることが判明した。SrcファミリーキナーゼがBCR−ABLシグナリングカスケードの下流要素を阻害するため、これらの酵素の阻害は、故に、BCR−ABL阻害と相乗性を提供し、BCR−ABL阻害に直面したCML細胞が利用し得る別の生存経路の利用可能性を妨げる可能性がある。それ故、BCR−ABLおよびSrc−ファミリーキナーゼ阻害剤の組み合わせでの治療は、CMLおよび/またはALLにおけるBCR−ABLの薬剤耐性突然変異体の発癌性能を妨げるはずである。(Manley et al., Biochim. Biophys. Acta 2005, 1754:3-13)。ダサチニブ(BMS−354825)、ボスチニブ(SKI−606)、INNO−404(NS−187)およびAZD05030はデュアルABL−Src阻害剤の例である。
【0052】
セリン/スレオニンキナーゼのオーロラファミリーは、有糸分裂進行に重要である。オーロラAは種々のヒト癌で過発現し、その過発現は培養ヒトおよび齧歯類細胞において異数性、中心体複製および腫瘍原性形質転換を誘発することが報告されている。(Zhang et al., Oncogene 2004, 23:8720-30)。ナノモル濃度範囲で全3種のオーロラキナーゼおよびFLT3の強力な阻害剤であるMK−0457(Merck;元々はVertex PharmaceuticalsによりVX-680として開発)は、一定範囲の骨髄増殖性障害について適切な標的であるABLおよびJAK2の中程度乃至強力な阻害剤である。MK−0457はまた、形質転換Ba/F3細胞において、T315I突然変異体BCR−ABLの自己リン酸化を〜5μMのIC50で阻害するが、それは細胞増殖をマイクロモル濃度以下(submicromolar concentrations)で阻害する。
【0053】
ATP−競合的BCR−ABL阻害に対する別の可能性のある方法は、非ATP競合アロステリック機構によりまたは基質のキナーゼへの結合の阻害を防止することによりキナーゼ活性を阻害する分子の使用である。この戦略は、種々の結合部位によって、イマチニブ耐性突然変異体が、本阻害剤に対する耐性を獲得しそうにない点で有利である。BCR−ABL依存性細胞増殖の阻害剤についてのハイスループットスクリーニングは、3−[6−[[4−(トリフルオロメトキシ)フェニル]アミノ]−4−ピリミジニル]ベンズアミド(GNF−2)の基本型阻害剤の同定をもたらし、これは、BCR−ABLのミリストイル結合部位に結合し、ABLチロシンキナーゼ活性のアロステリック阻害をもたらす。GNF−2は、本酵素のp210非突然変異BCR−ABL、ならびにE255VおよびM351T突然変異体形態でトランスフェクトしたBa/F3細胞の増殖を阻害する。(Weisberg et al., Nat. Rev. Cancer 2007, supra)。
【0054】
表1は、ニロチニブ(AMN107)、イマチニブ(STI571)、2,6,9−三置換プリンアナログ(例えば、AP23464)、AZD−0530、ボスチニブ、CPG070603、ピリド[2,3−d]ピリミジン化合物(例えば、ダサチニブ)、PD166326、PD173955、PD180970)、ON012380、3−置換ベンズアミド誘導体(例えば、INNO−406)、MK−0457、PHA−739358およびGNF−2を含む、本発明の実施に使用し得る例示的BCR−ABL阻害剤を示す。(例えば、各々を引用により本明細書に包含させるWeisberg et al., Nat. Rev. Cancer 2007, supra; Tauchi et al., Int. J. Hematology 2006, 83:294-300; Manley et al., Biochim. Biophys. Acta 2005, supra; Ge et al., J. Med. Chem. 2006, 49:4606-4615; Adrian et al., Nat. Chem. Biol. 2006, 2:95-102; Asaki et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 2006, 16:1421-1425を参照)。
【表1】
【0055】
C. 処置する疾患および状態
本発明の組み合わせ剤は、多様な癌の処置に使用し得る。一つの態様において、本発明は、白血病、急性リンパ球性白血病(ALL)、急性リンパ芽球性白血病、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、ヘアリー細胞リンパ腫、組織球性リンパ腫、およびバーキットリンパ腫を含むリンパ系造血性腫瘍;および急性および慢性骨髄性白血病(CML)、骨髄異形成症候群、骨髄白血病、および前骨髄球性白血病を含む骨髄系造血性腫瘍の成長および増殖阻害のための、BCR−ABLを阻害する薬剤と組み合わせたヘッジホッグシグナリング経路を阻害する薬剤を提供する。
【0056】
本発明の組み合わせ剤はまた、例えば、Src、BCR−ABLおよびc−kitのようなタンパク質チロシンキナーゼとの関連が既知の癌の処置にも有用である。具体的な態様において、本発明の組み合わせ剤は、BCR−ABLおよびc−kitを標的とする化学療法剤に感受性および耐性の癌の処置に有用である。具体的な態様において、本発明の組み合わせ剤は、BCR−ABL陽性CMLおよびALLの処置に使用してよい。
【0057】
慢性骨髄性白血病(CML)は、主に骨髄における骨髄性細胞の増加したおよび未制御のクローン増殖により特徴付けられる骨髄の癌である。その年間発生率は1−2人/100,000人であり、女性よりもわずかに多く男性を襲う。CMLは、西洋諸国の成人白血病の全症例の約15−20%を占め、米国または欧州では、毎年約4,500の新症例がある。(Faderl et al., N. Engl. J. Med. 1999, 341: 164-72)。
【0058】
CMLは、フィラデルフィア転座t(9/22)を保持する一形質転換造血幹細胞(HSC)または多能性前駆細胞(MPP)に由来するクローン性疾患である。この転座の遺伝子産物、融合癌遺伝子BCR−ABLの発現が、分子変化をもたらし、それは白血病幹細胞(LSC)プールおよび派生物を含む悪性造血の拡大および非悪性造血の抑制をもたらす(Stam et al., Mol Cell Biol. 1987, 7:1955-60)。骨髄細胞(顆粒球、単球、巨核球、赤血球)だけでなく、BおよびT細胞もBCR−ABLを発現し、MPPまたはHSCが疾患の開始点であることを示す。(Fialkow et al., J. Clin. Invest. 1978, 62:815-23; Takahashi et al., Blood 1998, 92:4758-63)。MOZ−TIF2またはMLL−ENLのようなAMLを引き起こす癌遺伝子とは対照的に、BCR−ABLは関係する前駆細胞に自己再生特性を与えず、むしろHSCまたはMPPのような存在する自己再生細胞の自己再生特性を利用し、増強する。疾患経過中、白血病幹細胞プールは拡大し、最終段階、急性転化期において、ほぼ全てのCD34+CD38−細胞はフィラデルフィア転座を担持する。
【0059】
メシル酸イマチニブ(STI571、GLEEVEC(登録商標))は、96%を超える応答率で、BCR−ABLの活性を阻害することにより働く、CMLの標準治療となってきている。しかしながら、最初に成功したにもかかわらず、BCR−ABLにおける点突然変異の獲得により、患者は最終的にメシル酸イマチニブに耐性となる。メシル酸イマチニブの限界の観点から、CMLの改善された処置方法に対する要求が存在する。
【0060】
加えて、本発明の組み合わせ剤は、膀胱(急速進行性(accelerated)および転移膀胱癌を含む)、乳房、結腸(結腸直腸癌を含む)、腎臓、肝臓、肺(小および非小細胞肺癌および肺腺癌を含む)、卵巣、前立腺、精巣、尿生殖器管、リンパ系、直腸、喉頭、膵臓(膵外分泌癌腫を含む)、食道、胃、胆嚢、頸、甲状腺、および皮膚(扁平細胞癌腫を含む)の癌腫;星状細胞腫、神経芽腫、神経膠腫、およびシュワン腫を含む中枢および末梢神経系の腫瘍;線維肉腫、横紋筋肉腫、および骨肉腫を含む間葉起源の腫瘍;および黒色腫、色素性乾皮症、角化棘細胞腫、精上皮腫、甲状腺濾胞癌、および奇形癌腫を含む他の腫瘍の処置に使用し得ることが考慮される。本発明の組み合わせ剤は肥満細胞症、生殖細胞腫瘍、小児科肉腫、および他の癌の処置に使用し得ることも考慮される。
【0061】
ここに記載の治療方法は、他の癌治療と組み合わせて使用してよい。例えば、BCR−ABL阻害剤と組み合わせたHhアンタゴニストは、化学療法、放射線照射、および/または手術のような任意の処置モダリティーに補助的に投与してよい。例えば、それらを1種以上の化学療法剤または免疫療法剤と組み合わせて使用できる;そして、他の処置レジメンが終了した後に投与して良い。本発明の組成物および方法において使用し得る化学療法剤の例は、アントラサイクリン類、アルキル化剤(例えば、マイトマイシンC)、アルキルスルホネート類、アジリジン類、エチレンイミン類、メチルメラミン類、窒素マスタード類、ニトロソウレア類、抗生物質、代謝拮抗剤、葉酸アナログ(例えば、メトトレキサートのようなジヒドロフォレートレダクターゼ阻害剤)、プリンアナログ、ピリミジンアナログ、酵素、ポドフィロトキシン類、白金含有薬剤、インターフェロン類、およびインターロイキン類を含み、これらに限定されない。
【0062】
本発明の組成物および方法において使用し得る既知化学療法剤の具体例は、ブスルファン、インプロスルファン、ピポスルファン、ベンゾデパ(benzodepa)、カルボコン、メツレデパ(meturedepa)、ウレデパ、アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド、トリメチロールメラミン(trimethylolomelamine)、クロラムブシル、クロルナファジン、シクロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシドヒドロクロライド、メルファラン、ノベンビチン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン(prednimustine)、トロフォスファミド(trofosfamide)、ウラシルマスタード、カルムスチン、クロロゾトシン(chlorozotocin)、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチン、ダカルバジン、マンノムスチン(mannomustine)、ミトブロニトール、ミトラクトール(mitolactol)、ピポブロマン(pipobroman)、アクラシノマイシン類、アクチノマイシンF(1)、アントラマイシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン(cactinomycin)、カルビシン(carubicin)、カルチノフィリン(carzinophilin)、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ダウノマイシン、6−ジアゾ−5−オキソ−1−ノルロイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、マイトマイシンC、ミコフェノール酸、ノガラマイシン(nogalamycin)、オリボマイシン(olivomycin)、ペプロマイシン、プリカマイシン、ポルフィロマイシン(porfiromycin)、ピューロマイシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン、デノプテリン(denopterin)、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサート、フルダラビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン、アンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン、フルオロウラシル、テガフール、L−アスパラギナーゼ、パルモザイム、アセグラトン、アルドホスファミド・グリコシド(aldophosphamide glycoside)、アミノレブリン酸、アムサクリン、ベストラブシル(bestrabucil)、ビサントレン(bisantrene)、カルボプラチン、シスプラチン、デフォファミド(defofamide)、デメコルチン、ジアジクオン(diaziquone)、エフロールニチン(elfornithine)、酢酸エリプチニウム(elliptinium acetate)、エトグルシド、エトポシド、フルタミド、硝酸ガリウム、ヒドロキシウレア、インターフェロン−アルファ、インターフェロン−ベータ、インターフェロン−ガンマ、インターロイキン−2、レンチナン、ロニダミン、プレドニゾン、デキサメサゾン、ロイコボリン、ミトグアゾン、ミトキサントロン、モピダモール、ニトラクリン、ペントスタチン、フェナメット(phenamet)、ピラルビシン、ポドフィリン酸(podophyllinic acid)、2−エチルヒドラジド、プロカルバジン、ラゾキサン、シゾフィラン、スピロゲルマニウム(spirogermanium)、パクリタキセル、タモキシフェン、テニポシド、テヌアゾン酸、トリアジコン、2,2',2”−トリクロロトリエチルアミン、ウレタン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、およびビンデシンを含み、これらに限定されない。
【0063】
本方法は、癌の原発形態、再発形態、形質転換形態または難治性形態の処置に使用し得る。しばしば、癌が再発した患者は、化学療法、放射線照射治療、骨髄移植、ホルモン治療、手術などを含む、1種以上の処置を受けている。かかる処置に応答する患者には、安定な疾患、部分的(すなわち、少なくとも50%減少した腫瘍または癌マーカーレベル)、または完全な応答(すなわち、腫瘍ならびにマーカーが検出不可能になった)を示し得る者がいる。これらのシナリオの何れでも、癌は実質的に再出現し、癌の再発を示し得る。
【0064】
D. 医薬組成物および投与
本発明の組成物は、係る処置を必要とする対象に滅菌条件下単独で投与し得る。具体的な態様において、それらを医薬組成物の活性成分として投与する。本発明の医薬組成物は、有効量のBCR−ABLを阻害する薬剤と組み合わせたヘッジホッグシグナリング経路を阻害する薬剤を、1種以上の許容される担体と共に含む。本組成物または、上記の第三の治療剤、例えば、化学療法剤または他の抗癌剤も含み得る。
【0065】
医薬担体は本組成物を増強または安定化し、または本組成物の調製を容易にする。薬学的に許容される担体は、一部、投与する特定の組成物(例えば、核酸、タンパク質、または他のタイプの化合物)により、ならびに組成物の投与に使用する特定の方法により決定される。それらはまた、他の成分と適合性であり、対象に有害ではないとの観点で、薬学的にかつ生理学的に許容されなければならない。それらは、投与、例えば、経口、舌下、直腸、経鼻、または非経腸投与について望まれる形態によって広範な形を取り得る。例えば、抗腫瘍化合物を、安定性または薬理学的特性を増強するために、投与前にオブアルブミンまたは血清アルブミンのような担体タンパク質と複合体化させてよい。
【0066】
本発明の医薬組成物の種々の適当な製剤が存在する(例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Mack Publishing Co., 20th ed., 2000参照)。限定はしないが、薬学的に許容される担体は、とりわけ、シロップ、水、等張性食塩溶液、水または緩衝化酢酸ナトリウムまたは酢酸アンモニウム溶液中の5%デキストロース、油、グリセリン、アルコール類、香味薬剤、防腐剤、着色剤、デンプン、糖類、希釈剤、造粒剤、平滑剤、および結合剤を含む。担体はまたモノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン産グリセリルのような持続性放出物質を単独でまたは蝋と共に含んでもよい。
【0067】
本医薬組成物は、顆粒剤、錠剤、ピル剤、坐薬、カプセル剤、懸濁液、膏薬、ローション剤などのような種々の形態に製造してよい。製剤中の治療的活性化合物の濃度は約0.1−100重量%で変わり得る。治療的製剤は、薬学の分野で既知の任意の方法により製造する。例えば、Gilman et al., eds., Goodman and Gilman's: The Pharmacological Bases of Therapeutics , 8th ed., Pergamon Press, 1990; Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Mack Publishing Co., 20th ed., 2000; Avis et al., eds., Pharmaceutical Dosage Forms: Parenteral Medications, published by Marcel Dekker, Inc., N.Y., 1993; Lieberman et al., eds., Pharmaceutical Dosage Forms: Tablets, published by Marcel Dekker, Inc., N.Y., 1990; およびLieberman et al., eds., Pharmaceutical Dosage Forms: Disperse Systems, published by Marcel Dekker, Inc., N.Y., 1990参照。
【0068】
治療的製剤は、処置に使用し得る任意の有効な手段により送達してよい。投与する具体的抗腫瘍剤によって、適当な手段は経口、経鼻、肺投与、または血流への非経腸(皮下、筋肉内、静脈内および経皮を含む)注入を含む。非経腸投与について、本発明の抗腫瘍剤を多様な方法で製剤し得る。モジュレーターの水性溶液をポリマービーズ、リポソーム、ナノ粒子または他の当業者に既知の他の注射可能デポ製剤にカプセル封入してよい。加えて、本発明の化合物をリポソームにカプセル封入して投与してもよい。本組成物は、その溶解性によって、水性層および脂肪層の両方に、または一般的にリポソーム懸濁液と呼ばれるものに存在し得る。疎水性層は、一般に、しかし排他的ではなく、レシチンおよびスフィンゴミエリンのようなリン脂質、コレステロールのようなステロイド、ジアセチルホスフェート、ステアリルアミン、またはホスファチジン酸のような多かれ少なかれイオン性の界面活性剤、および/または他の疎水性性質の物質を含む。
【0069】
治療的製剤は、簡便には単位投与形態で提供され、適当な治療用量で投与され得る。適当な治療用量は、最大耐容量を決定するための種々の哺乳動物種でのおよび安全投与量を決定するための正常ヒト対象での臨床試験のような任意の既知の方法により決定し得る。高用量が必要であり得るある種の状況下以外、本発明の抗腫瘍剤の投与量は、通常1日あたり約0.001〜約1000mg、より一般には約0.01〜約500mgの範囲内に入る。抗腫瘍剤の投与量および投与方式は、処置すべき1種または多種の状態、特定の抗腫瘍剤を含む投与する組成物の選択、個々の対象の年齢、体重および応答、対象の症状の重症度、および選択した投与経路のような、処置医により個々に検討され得る因子により、対象毎に代わり得る。一般的原則として、投与する抗腫瘍剤の量は、対象の状態を有効にそして確実に予防または最小化する、最小投与量である。それ故に、上記の投与量の範囲はここに記載の教示の一般的な指針および支持を提供することを意図するものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0070】
次の実施例を本発明を説明するために、しかし、本発明を限定するためではなく、提供する。全ての動物実験は、US National Institutes of Health Statement of Compliance with Standards for Humane Care and Use of Laboratory Animalsに従う。
【0071】
実施例1
一般的材料および方法
マウス実験
Ptch+/−マウス(Jackson Laboratory)、Smo−/−マウス(Deltagene)、C57BL/6マウス(Jackson laboratory)およびB6−Pep3b−Ly5.1(Pep)マウスを、記載の通り、維持し、遺伝子型同定した。骨髄移植実験について、C57BL/6の雄に5−FU(150mg/kg)を腹腔内注射し、4日後に殺す。骨髄単核細胞を足骨から洗い出し、赤血球細胞を塩化アンモニウムで溶解し、骨髄細胞を10%FBS、SCF、IL−6およびIL−3含有DMEMで培養する。細胞にpMSCV/BCR−ABL/IRES/GFPレトロウイルスを感染させ、5×105単核細胞を致死量の放射線照射したC57BL/6マウスに移植する。AMN107 50mg/kg bid(Novartis, Basel)およびシクロパミン25mg/kg bid(Novartis, Cambridge)での処置を移植7日目に開始し、14日間行う。
【0072】
PtchおよびSmo造血細胞での移植実験について、妊娠期間14.5日の胚を使用する。胚を氷上で凍らせ、断頭する。胚肝臓を摘出し、肝臓細胞を細胞ストレイナー(BD Bioscience)を通して濾過する。胚肝臓細胞を、再増殖実験のために致死量以下の放射線照射したB6−Pep3b−Ly5.1(Pep)マウスに直接移植するか、または刺激培地で培養し、次いでpMSCV/BCR−ABL/IRES/GFPレトロウイルスに感染させる。GFP陽性細胞の数を、BCR−ABL陽性細胞の拡大を評価するために、感染率を4−6%に維持しながら、フロー・サイトメトリーにより感染24時間後に計数する。次いで、胎児肝臓細胞を致死量を放射線照射したレシピエントに移植する。疾患の進展を、毎週の体重測定、末梢血における2週間毎の血液細胞計数およびGFP陽性細胞の検出によりモニターする。
【0073】
細胞培養実験
疾患マウスからの骨髄細胞を、10%FBS(Gibco)、SCF(RDI)、IL−3およびIL−6(R&D systems)含有DMEM培地で培養する。インビトロ処置実験のために、4×106骨髄または脾臓細胞を、6ウェルプレートの1ウェルに播種する。シクロパミン−KAAD(Toronto Research Chemicalsから得る)をDMSO中に×1,000ストックとして溶解する。処置72時間後、細胞を、stem cell technologiesからのSCF、IL−6、IL−3およびインスリン含有メチルセルロース培地(M3434)で、製造者の指示に従い平板培養する。コロニーを平板培養5日および10日後に計数する。12日後、細胞をプレートから落とし、PBSで洗浄し、次いで種々の細胞型の分析用に染色するか、第二または第三回目の平板培養を繰り返す。
【0074】
免疫組織化学
マウス組織を少なくとも24時間固定し、パラフィン包埋組織を標準法に従い作製する。一色DAB−免疫ペルオキシダーゼ染色を、製造者の推奨に従いGli1(N-16, Santa Cruz Biotechnology)、Smo(H-300, Santa Cruz Biotechnology)およびHh(H-160, Santa Cruz Biotechnology)に対する抗体を使用してパラフィン切片で行う。
【0075】
RT−PCRおよび定量的PCR
疾患の慢性期または急性転化期にあるCML患者からのCD34+細胞からRNAを、全骨髄からまたはソートしたLin−Kit+Sca+陽性細胞から、製造者の推奨に従い、Qiagen RNA抽出キットを使用して抽出する。定量的PCRを、Taqman PCRにより評価する。プライマーおよびプローブをApplied Biosystemsから得る。
【0076】
細胞染色およびソーティング
血液学的細胞型の分析のためのフロー・サイトメトリー染色を、BD Pharmingenからの抗体Sca−PE、Kit−APC、LinマーカーCD3、Gr−1、CD11b、CD19、Ter119全PE−Cy7陽性、CD4−PE、CD8−APCを製造者の指示に従い使用して行う。幹細胞の細胞サイクル分析のために、細胞をシクロパミンで48時間処理し、次いでLinマーカー、Kit−APCおよびSca−PEで染色する。次いで、染色した骨髄を2%ホルマリンで固定する。細胞を70%冷エタノールで少なくとも1時間透過性にし、次いでヨウ化プロピジウム(5mg/ml)で少なくとも30分間処理する。細胞を、Coulterからのフロー・サイトメーターを使用して分析する。アネキシン染色を、混合した骨髄とシクロパミンの24時間、48時間および72時間のインキュベーション後に行う。細胞をアネキシン−PE抗体および7−AAD(BD Bioscience)で製造者の指示に従い染色する。
【0077】
実施例2
BCR−ABLによるヘッジホッグシグナリング経路活性化
本実施例に示す通り、BCR−ABLは白血病幹細胞におけるヘッジホッグシグナリング経路を、Smoの上方制御を介して活性化する。正常HSCに対するBCR−ABL陽性LSCのヘッジホッグシグナリング経路における活性化状態を評価するために、健康ドナー由来のヒトCD34+細胞および慢性期または急性転化期のCML患者から単離したCD34+細胞における2個のHh経路標的遺伝子Gli1およびPtch1の転写レベルを比較する。全CML症例では、Gli1およびPtch1の転写レベルの4倍を超える誘発が観察され、疾患の期に無関係なCMLにおけるこの経路の活性化を示す(図1A)。Gli1およびPtch1転写レベルを、CML急性転化期と慢性期の患者で評価する。
【0078】
ヘッジホッグ経路活性化に対するBCR−ABLの作用をさらに評価するために、CML様症候群をマウスで誘発させる。pMSCV/BCR−ABL/GFPウイルスに感染させた骨髄を、放射線照射したレシピエントマウスに移植する。疾患マウスから得たBCR−ABL陽性LSC(Lin−Kit+Sca+GFP+)は、正常マウスHSC(Lin−Kit+Sca+)と比較して増強されたGli1およびPtch1転写レベルを示す。BCR−ABLレトロウイルス(pMSCV)で感染させたマウス骨髄におけるヘッジホッグ経路の活性化は幹細胞集団に限定されず、全てのBCR−ABL過発現細胞において存在する(図1B)。
【0079】
経膜受容体Smoの上方制御が、同じマウスにおけるBCR−ABL陰性集団のSmoレベルと比較して、BCR−ABL/GFP陽性骨髄細胞で見られる。BCR−ABL陽性集団におけるSmoの上方制御は、フロー・サイトメトリー、ならびに免疫組織化学により検出される。疾患マウスの脾臓および骨髄からのSmo特異的抗体でのIHC染色は、BCR−ABL陽性集団におけるSmo発現の強い誘発を示した。ヒトCML症例でのSmoおよびGli1についてのIHC染色もまた、骨髄の対応領域、特にBLAST細胞集団における両方の遺伝子の上方制御を確認した(図1C)。さらに、リンパ腫細胞におけるSmoのレトロウイルス発現は、皮膚のような非リンパ系臓器におけるEμ−Myc陽性リンパ腫異種移植片の増殖を促進し、リガンド刺激の非存在下でさえGli1レベルを高めることが示されている。
【0080】
実施例3
インビトロでのヘッジホッグシグナリング阻害
この実施例は、インビトロでのヘッジホッグシグナリング阻害が、BCR−ABL陽性細胞でアポトーシスを誘発し、白血病幹細胞数を減らすことを示す。インビトロでのBCR−ABL陽性骨髄細胞および白血病幹細胞におけるヘッジホッグ経路を調べるために、ヘッジホッグシグナリングを、Smoをその不活性立体配置に固定するアルカロイドであるKAAD−シクロパミンを使用して阻害する。約50%BCR−ABL GFP陽性細胞と50%正常骨髄細胞を含むCML様症候群のマウスからの骨髄を使用する。3日間の混合骨髄培養のシクロパミン処理は、GFP陰性集団に比較して、GFP/BCR−ABL陽性集団の用量依存的減少をもたらす。シクロパミン(2μMまたは5μM)でのインビトロ処理後のGFP陽性細胞を、フロー・サイトメトリー分析により検出できる。
【0081】
種々の細胞サブセットのさらなる特徴付けは、BCR−ABL陽性骨髄性前駆細胞(Lin−Kit+Sca−)の80%を超える減少、およびLin−Kit+Sca+白血病幹細胞集団の約70%の減少を示した(図2A)。BCR−ABL陽性骨髄細胞に対するシクロパミン阻害の主作用は、アネキシンV染色で測定して、24時間以内のアポトーシス誘発である。完全な骨髄におけるS期やG2期に比したG1期の相対的増加を伴う細胞サイクル変化も検出される。白血病幹細胞集団の細胞サイクル分析は、Hh経路阻害後のこれらの細胞におけるG2期の完全な喪失を示した。骨髄のGli1転写レベルはシクロパミン処理後に減少し、これらの細胞における本化合物によるヘッジホッグシグナリング経路の阻害を確認する(図2B)。図2Bにおいて、骨髄培養をDMSO単独または種々の濃度のシクロパミン(2μMまたは5μM)で6時間処理する。RNAを処理培養から抽出し、Gli1転写レベルをTaqman PCTにより測定し、GAPDHに対して標準化する。アッセイをトリプリケートで行う。
【0082】
自己再生前駆細胞および白血病幹細胞集団におけるヘッジホッグ経路阻害の効果をさらに確認するために、混合骨髄および脾臓培養を種々の濃度のシクロパミン−KAAD(10、5、2.5、1および0μM)で48時間処理する。次いで、細胞を、BCR−ABL陽性細胞のみが生存できるように、サイトカイン類の追加無しのメチルセルロースプレートで平板培養する。コロニーを平板培養10日後に計数する。シクロパミンで前処理した骨髄および脾臓培養はBCR−ABL陽性コロニーの用量依存的減少を示し、BCR−ABL陽性細胞のコロニー形成能がヘッジホッグ経路活性化に依存することを示す(図2C)。
【0083】
実施例4
ヘッジホッグ経路活性化
ヘッジホッグ経路活性化は、造血前駆細胞および幹細胞のコロニー形成能および再生潜在能を高める。正常造血におけるヘッジホッグシグナリングの役割を評価するために、胎児HSCを妊娠期間14.5日の胚の肝臓から単離する。Smo−/−、Smo+/−、Smo+/+、Ptch+/+およびPtch+/−胚からの胎児肝臓細胞を、胎児HSCの数、分化した造血細胞型の数ならびに移植実験においてコロニー形成能および再増殖潜在能に関して分析する。異なる遺伝子型の間で胎児HSC数の差異は見られない。B細胞(B220)、骨髄細胞(CD11b)および赤血球前駆細胞(Ter119))およびCD3陽性T細胞にも有意差は見られない。
【0084】
サイトカイン類(IL−3、IL−6、SCF)を追加したメチルセルロース寒天への細胞の平板培養は、平板培養10日後にフロー・サイトメトリーで分析して、コロニー数、コロニータイプまたは異なる細胞型の割合のいずれにも差が生じなかった。最初の平板培養の回とは対照的に、2回目の平板培養においてコロニー形成潜在能に大きな差が観察される。PtchおよびSmo wt造血細胞の再培養は2回目の平板培養でも非常にわずかなコロニー形成潜在能しか示さず、Smo−/−造血細胞はコロニー形成潜在能を完全に消失していた。対照的に、Ptch+/−造血細胞はそのコロニーを形成する能力を3回の平板培養中維持し、ヘッジホッグ経路活性化がPtch+/−造血集団における再生細胞の量を高めることを示す(表2)。
【表2】
【0085】
第2の実験で、Smo−/−、Smo+/−、Smo+/+、Ptch+/+およびPtch+/−胎児肝臓細胞(Ly−5.2陽性)を、致死量以下の放射線照射したC57BL/6−Ly5.1−Pep 3b(B6 Ly−5.1)マウスに移植する。末梢血のLy5.2陽性造血再生は、他の移植胎児肝臓遺伝子型と比較して、Ptch+/−胎児肝臓細胞を移植したマウスで顕著な優位を示した。末梢血におけるLy5.2陽性細胞数は、3ヶ月を超える期間にわたりwtおよびSmo−/−と比較して約2倍である(図3A)。Smo−/−骨髄の再生はwtと顕著に異なり、Smo−/−対Smo wt HSCで再生能に大きな差がないことが示される。末梢血における細胞型のさらなる分析は、Smo−/−を移植したマウスとSmo wt胎児肝臓細胞を移植したマウスの間の細胞分布の差異を示した。Smo−/−は、CD8陽性T細胞の90%を超える減少を示したのに対し、CD4+T細胞の数は30%までしか減少しない。これらの結果は、ヘッジホッグシグナリングがT細胞発達のために重要であり、そして、CD8+T細胞の産生が完全ヘッジホッグシグナリングに依存することを示す(図3B)。
【0086】
HSCにおけるヘッジホッグシグナリングの役割をさらに調べるために、最初に胎児肝臓細胞を移植したマウスの骨髄の再生能を、これらのマウスに5−フルオロウラシル(5−FU)を注射することにより調べる。短期間再生能は、Smoを欠く骨髄で顕著に減少する。5−FU注射10日後、Smo−/−胎児肝臓細胞を最初に移植したマウスにおけるLy5.2陽性細胞の数は、他の遺伝子型と比較して70%低く、短期間再増殖細胞におけるヘッジホッグシグナリング経路の役割を示す(図3C)。これらの結果は、Ptch+/−マウスが、短期間再増殖細胞における早い再生能を示し、そして、顕著に増加された幹細胞プールを有することを示す。この結果は、長期間再増殖細胞が、Ptch+/−マウスにおけるLy5.2陽性細胞数が3ヶ月を超えて他の遺伝子型よりも顕著に高いままであるため、ヘッジホッグ経路活性化から利益を受けることを示す。2歳齢Ptch+/−マウスからの血液細胞計数は、Ptch wtマウスと比較して末梢血細胞の数に差異を示さず、長期間後でさえこれらのマウスにおける血液細胞の産生に顕著な欠損がないことを示す。
【0087】
造血におけるSmoの上方制御の役割をさらに確認するため、GFPコントロールベクター、Smo wtおよび活性化された突然変異体SmoW535Eを、5−FU前処置マウスの骨髄において過発現させる。放射線照射されたドナーマウスに、90%GFP陰性骨髄細胞と混合した10%のGFP陽性骨髄細胞を移植する。造血の再生を血液細胞計数および末梢血におけるGFP陽性細胞の評価によりモニターする。Smo wtまたはSmoW535Eを過発現する骨髄細胞は、対照骨髄細胞と比較して有意に上昇したGli1レベルを有した(図3D)。GFPコントロールベクターを発現する骨髄を移植したマウスにおけるGFP陽性細胞inマウスの割合は10−12%に維持された。対照的に、Smo wtまたはSmoW535Tを感染させた骨髄を移植したマウスは、1年間にわたり最大で30%のGFP陽性細胞の数の有意な増加を示した。GFP陽性細胞型に有意差はない(図3E)。これらのデータは、Smoの過発現によるヘッジホッグシグナリングの活性化が幹細胞プールを拡大でき、そして、経時的に再増殖細胞の数を顕著に高めることを示す。
【0088】
実施例5
インビボでのSmo−/−によるBCR−ABL陽性白血病幹細胞の阻害
本実施例で示す通り、Smo−/−は、BCR−ABL陽性白血病幹細胞の拡大を阻止し、本疾患の再移植可能性(retransplantability)を無くす。インビボでのBCR−ABL陽性白血病の進展におけるヘッジホッグ経路の役割を調べるために、BCR−ABLを、pMSCV/BCR−ABL/IRES/GFPレトロウイルスベクターを使用してSmo−/−、Smo+/−、Smo+/+、Ptch+/+およびPtch+/−胚肝臓細胞に過発現させる。感染率は、試験した全ての胚造血細胞で3−4%である。感染細胞を、放射線照射したレシピエントC57/Bl6マウスに移植する。GFP陽性細胞および血液細胞計数を移植20日後に測定する。Ptch+/−/BCR−ABL/GFP胎児肝臓細胞を移植したマウスは、pMSCV/BCR−ABL/GFPで感染させたPtch wtまたはSmo wt骨髄を移植したマウスより3倍高いGFPレベルを示した。Smo−/−/BCR−ABL/GFP陽性細胞はこの時間では拡大せず、元の感染率より低くさえある数を示した(図4A)。移植28日後、3匹のマウスを各移植群から取り、群間の脾臓重量差を比較する。
【0089】
Ptch+/−、Ptch wt、Smo wtまたはSmo+/−/BCR−ABL/GFP胎児肝臓細胞を移植した全てのマウスは、顕著なCML進展開始の徴候として、40%を超える脾臓増加があり、一方で、Smo−/−胚肝臓細胞を移植された全てのマウスは正常な脾臓サイズであり、SmoがBCR−ABL陽性細胞の拡大に重要であることを示す(図4B)。Ptch+/−胚肝臓細胞を移植した全てのマウスは、移植後38日以内に致死的白血病を発症し、Ptch wt、Smo wtまたはSmo+/−胎児肝臓細胞を移植したマウスが続いた(図4C)。Ptch+/−胎児肝臓細胞を移植したマウスはBCR−ABL陽性ALL(80%)を発症する確率がCML(20%)を発症する確率より高く、一方Smo+/−胎児肝臓細胞は、CMLを発症する確率がALLを発症する確率より高い。Smo−/−BCR−ABL陽性胎児肝臓細胞を移植したマウスの60%のみが移植後3ヶ月より後に致死的疾患を発症し、これは脾臓重量の増加により特徴付けられたが、いずれのマウスも、末梢血で白血球細胞数増加を示さなかった。Smo−/−/BCR−ABL/GFP移植マウスの40%が、移植12ヶ月後でさえ、疾患の徴候を何等示さなかった。
【0090】
白血病幹細胞集団におけるヘッジホッグシグナリング経路の活性化状態をさらに調べるために、骨髄および脾臓細胞を、感染第1回目の疾患マウスから集め、2E5 GFP陽性細胞を放射線照射した二次レシピエントに移植する。Ptch+/−、Ptch wt、Smo wtおよびSmo+/−BCR−ABL陽性骨髄を移植されたマウスからの全ての二次レシピエントは、移植2ヶ月後に白血病を発症したのに対し、Smo−/−BCR−ABL wt骨髄を移植したマウスの何れも、移植4ヶ月後でさえ、疾患の徴候を何等示さなかった(図4D)。これらの結果は、BCR−ABL陽性白血病幹細胞の拡大がヘッジホッグ経路活性化に依存し、そしてSmoがCMLにおける白血病幹細胞に対する標的であり得ることを示す。
【0091】
実施例6
インビボでのAbl阻害とSmo阻害の組み合わせ
本実施例において示す通り、CML様疾患のマウスにおけるAbl阻害(例えば、AMN107)およびSmo阻害(例えば、シクロパミン)の組み合わせは、コロニー形成単位の量を減らし、再発までの時間を延ばし、そしてAMN107とシクロパミンの組み合わせがCMLの処置に有益であることを示す。
【0092】
BCR−ABL陽性骨髄を移植したマウスを、最適以下の量のABL阻害剤AMN107、またはAMN107(50mg/kg qd)とSmoアンタゴニストシクロパミン(25mg/kg bid)の組合せのいずれかで処置する。処置を移植7日後に開始し、合計14日間続ける。処置の最後に、各群から3匹のマウスを殺し、1つの大腿からの骨髄を、BCR−ABL陽性コロニーのみを検出するためにサイトカイン添加なしのメチルセルロースコロニーアッセイに平板培養する。AMN107とシクロパミンの組み合わせで処置されたマウスで検出されたコロニーの平均数は、AMN107のみで処置された群と比較して40%を超えて減少し、組み合わせ処置がBCR−ABL陽性コロニー形成単位を減少できることを示す(図5A)。末梢血細胞計数、脾臓および肝臓重量はその時点で正常であり、GFP陽性細胞の数は5%より少ない。
【0093】
処置8日後、群あたりさらに3匹のマウスを殺し、肝臓および脾臓重量の比較により再発の徴候を試験する。正常マウスと比較して増加した肝臓および脾臓重量が全てのマウスで見られたが、AMN107のみで処置したマウスは、AMN107とシクロパミンの組み合わせで処置されたマウスと比較して、平均脾臓サイズが約2倍であり、より重い肝臓重量であった(図4B)。各群で残った5匹のマウスを疾患の徴候についてモニタリングし、瀕死のときに殺す。AMN107単独群での処置後の平均生存が8日間であったのに対し、AMN107およびシクロパミン処置群は24日間である(図5C)。
【0094】
ここに記載の実施例および態様は説明目的のためだけであり、それに照らした多くの修飾または変化が、当業者には示唆され、本出願の範囲内および添付の特許請求の範囲内の範囲内に包含されることは理解すべきである。
【0095】
ここに引用する全ての刊行物、特許、特許出願、ポリヌクレオチドおよびポリペプチド配列受託番号および他の文献は、その全体をそして全ての目的で、これらの文献が個々にそのように記載されているのと同定度に引用により本明細書に包含させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッジホッグシグナリング経路を阻害する第一剤およびBCR−ABLを阻害する第二剤を含む組成物。
【請求項2】
該第一剤がSmoに結合する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
該第一剤がシクロパミンまたはフォルスコリンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
該第二剤がABL阻害剤、ABL/Scr阻害剤、オーロラキナーゼ阻害剤、またはBCR−ABLの非ATP競合阻害剤である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
該第二剤が
【化1】
から成る群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
治療的有効量のヘッジホッグシグナリング経路を阻害する第一剤、BCR−ABLを阻害する第二剤、および薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項7】
BCR−ABL陽性白血病の処置用医薬の製造のための、請求項1−6のいずれかに記載の組成物の使用。
【請求項8】
該BCR−ABL陽性白血病が慢性骨髄性白血病または急性リンパ球性白血病である、請求項7に記載の使用。
【請求項1】
ヘッジホッグシグナリング経路を阻害する第一剤およびBCR−ABLを阻害する第二剤を含む組成物。
【請求項2】
該第一剤がSmoに結合する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
該第一剤がシクロパミンまたはフォルスコリンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
該第二剤がABL阻害剤、ABL/Scr阻害剤、オーロラキナーゼ阻害剤、またはBCR−ABLの非ATP競合阻害剤である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
該第二剤が
【化1】
から成る群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
治療的有効量のヘッジホッグシグナリング経路を阻害する第一剤、BCR−ABLを阻害する第二剤、および薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項7】
BCR−ABL陽性白血病の処置用医薬の製造のための、請求項1−6のいずれかに記載の組成物の使用。
【請求項8】
該BCR−ABL陽性白血病が慢性骨髄性白血病または急性リンパ球性白血病である、請求項7に記載の使用。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【公表番号】特表2010−536775(P2010−536775A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−521142(P2010−521142)
【出願日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【国際出願番号】PCT/US2008/073049
【国際公開番号】WO2009/026075
【国際公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(503261524)アイアールエム・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (158)
【氏名又は名称原語表記】IRM,LLC
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【国際出願番号】PCT/US2008/073049
【国際公開番号】WO2009/026075
【国際公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(503261524)アイアールエム・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (158)
【氏名又は名称原語表記】IRM,LLC
【Fターム(参考)】
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