説明

癌を治療するための材料および方法

13q31において染色体内増幅を示さない腫瘍を含む癌細胞の増殖に、グリピカン5(GPC5)が役割を果たすことを初めて示す。グリピカン5アンタゴニストおよび結合物質の、癌、特に横紋筋肉腫および乳癌を治療するための使用を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は癌の治療、特に癌を治療するためのグリピカン5(GPC5)アンタゴニストおよび結合物質の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲノム領域の増幅はヒト腫瘍においてしばしば観察されており、細胞挙動に重要な影響を与えかつ腫瘍進行を駆動しうる遺伝子のアップレギュレーションをもたらす1つのメカニズムである。それ故に、増幅イベントに関わる遺伝子を特定することは、腫瘍形成過程の理解を進めるための有用なアプローチであり、それにより臨床的に有用なマーカーを提供することができる。
【0003】
横紋筋肉腫(RMS)は最も一般的な小児の軟組織肉腫であって、全小児期癌のほぼ5%に当たる。RMSには2つの主な組織学的サブタイプ、すなわち、胞巣型(alvelor)(ARMS)および胎児型(embryonal)(ERMS)がある。両方のサブタイプは類似する細胞から成り、発生中の骨格筋のマーカーを有する。胞巣型サブタイプは一般的にERMSより予後不良であり、それぞれPAX3またはPAX7遺伝子をFOXO1Aと融合するt(2;13)(q35;q14)またはt(1;13)(p36;q14)転座を有する(1〜3)。これらの転座だけでなく、ゲノム増幅の領域を含むいくつもの他の異常が明らかにされている(4〜10)。治療に対して応答不良を示す小さいが重要なERMSのグループが存在するが、このグループの遺伝学的特徴は十分解明されていない。
【0004】
本発明者らのRMSに対する今までの研究結果は、研究したARMSのほぼ20%において13q31−q32染色体領域の増幅を明らかにした(4)。さらに、他の肉腫(平滑筋肉腫(11)、悪性線維性組織球腫(12)、リンパ腫(13)、乳癌(14)、小細胞性肺癌および様々な神経学的腫瘍(15〜17))を含む、多数の他の腫瘍タイプからのサンプルが13q31−32領域の増幅を有することが報告されている。また、広く利用される白血病細胞株K562も、BCR−ABL融合遺伝子に関連する転座に加えて13q31−32領域の増幅を有することが示されている(18)。色々な型のリンパ腫由来の少数のリンパ腫細胞株の最近の研究結果は、13q31−32における増幅の最小領域が約4メガ塩基の領域であることを明らかにした(13)。この領域はグリピカン5遺伝子(GPC5)を含有し、これは発現することが示され、そしてリンパ腫での増幅イベントに対する標的としての可能性が示唆された。この遺伝子がリンパ腫に機能的役割を果たすかどうか、および同じ遺伝子がこの領域にゲノム異常を有する他の腫瘍タイプに関わるかどうかは、確認されていない。
【0005】
以前のRMSサンプルの分析において、本発明者らは、比較発現配列ハイブリダイゼーション(CESH)と呼ばれる染色体を標的とする示差的発現の全体的な変化をプロファイル化することを特徴とする新規なアプローチを用いた(19)。45事例からのデータを研究に用いてこれらのプロファイルの分類可能性を調べた(20)。本明細書において本発明者らは、13q31−32領域に対する染色体レベルの遺伝学的データと発現データを比較し、増幅だけがこの領域からの遺伝子発現を増大させるメカニズムでないことを提案する。増幅に加えて13q31−32領域からの頻発する示差的発現を考慮して、本発明者らはこの領域由来の遺伝子をRMSの発生と関連付けようと試みてきた。この結果は、上記、および潜在的には他の腫瘍を治療する治療上のアプローチに対する標的を提供しうるであろう。
【非特許文献1】Galili, N., Davis, R. J., Fredericks, W. J., Mukhopadhyay, S., Rauscher, F. J., 3rd, Emanuel, B. S., Rovera, G., and Barr, F. G., Nat Genet, 5: 230-235, 1993.
【非特許文献2】Shapiro, D. N., Sublett, J. E., Li, B., Downing, J. R., and Naeve, C. W., Cancer Res, 53: 5108-5112, 1993.
【非特許文献3】Davis, R. J., D'Cruz, C. M., Lovell, M. A., Biegel, J. A., and Barr, F. G., Cancer Res, 54: 2869-2872, 1994.
【非特許文献4】Gordon, A. T., Brinkschmidt, C., Anderson, J., Coleman, N., Dockhorn-Dworniczak, B., Pritchard-Jones, K., and Shipley, J., Genes Chromosomes.Cancer, 28: 220-226, 2000.
【非特許文献5】Bridge, J. A., Liu, J., Qualman, S. J., Suijkerbuijk, R., Wenger, G., Zhang, J., Wan, X., Baker, K. S., Sorensen, P., and Barr, F. G., Genes Chromosomes Cancer, 33: 310-321, 2002.
【非特許文献6】Menghi-Sartorio, S., Mandahl, N., Mertens, F., Picci, P., and Knuutila, S., Cytometry, 46: 79-84, 2001.
【非特許文献7】Pandita, A., Zielenska, M., Thorner, P., Bayani, J., Godbout, R., Greenberg, M., and Squire, J. A., Neoplasia, 1: 262-275, 1999.
【非特許文献8】Bridge, J. A., Liu, J., Weibolt, V., Baker, K. S., Perry, D., Kruger, R., Qualman, S., Barr, F., Sorensen, P., Triche, T., and Suijkerbuijk, R., Genes Chromosomes.Cancer, 27: 337-344, 2000.
【非特許文献9】Weber-Hall, S., Anderson, J., McManus, A., Abe, S., Nojima, T., Pinkerton, R., Pritchard-Jones, K., and Shipley, J., Cancer Res, 56: 3220-3224, 1996.
【非特許文献10】Roberts, I., Gordon, A., Wang, R., Pritchard-Jones, K., Shipley, J., and Coleman, N., Cytogenet Cell Genet, 95: 134-142, 2001.
【非特許文献11】Wang, R., Titley, J. C., Lu, Y. J., Summersgill, B. M., Bridge, J. A., Fisher, C., and Shipley, J., Mod Pathol, 16: 778-785, 2003.
【非特許文献12】Larramendy, M. L., Tarkkanen, M., Blomqvist, C., Virolainen, M., Wiklund, T., Asko-Seljavaara, S., Elomaa, I., and Knuutila, S., Am J Pathol, 151: 1153-1161, 1997.
【非特許文献13】Yu, W., Inoue, J., Imoto, I., Matsuo, Y., Karpas, A., and Inazawa, J., J Hum Genet, 48: 331-335, 2003.
【非特許文献14】Ojopi, E. P., Rogatto, S. R., Caldeira, J. R., Barbieri-Neto, J., and Squire, J. A., Genes Chromosomes Cancer, 30: 25-31, 2001.
【非特許文献15】Schmidt, H., Wurl, P., Taubert, H., Meye, A., Bache, M., Holzhausen, H. J., and Hinze, R., Genes Chromosomes Cancer, 25: 205-211, 1999.
【非特許文献16】Weber, R. G., Sabel, M., Reifenberger, J., Sommer, C., Oberstrass, J., Reifenberger, G., Kiessling, M., and Cremer, T., Oncogene, 13: 983-994, 1996.
【非特許文献17】Reardon, D. A., Jenkins, J. J., Sublett, J. E., Burger, P. C., and Kun, L. K., Pediatr Neurosurg, 32: 187-191, 2000.
【非特許文献18】Naumann, S., Reutzel, D., Speicher, M., and Decker, H. J., Leuk Res, 25: 313-322, 2001.
【非特許文献19】Lu, Y. J., Williamson, D., Clark, J., Wang, R., Tiffin, N., Skelton, L., Gordon, T., Williams, R., Allan, B., Jackman, A., Cooper, C., Pritchard-Jones, K., and Shipley, J., Proc Natl Acad Sci U S A, 98: 9197-9202, 2001.
【非特許文献20】Lu, Y. J., Williamson, D., Wang, R., Summersgill, B., Rodriguez, S., Rogers, S., Pritchard-Jones, K., Campbell, C., and Shipley, J., Genes Chromosomes Cancer, 38: 207-214, 2003.
【発明の開示】
【0006】
発明の概要
上記のように、胞巣型RMSおよび多数の他の癌タイプにおいて13q31の増幅が観察されている。Yuら(13)はさらに、GPC5遺伝子が、13q31−32のアンプリコンを有するリンパ腫細胞株において、該アンプリコンを欠く細胞株と比較して過剰発現していることを示している。この著者らは、GPC5が、13q31−32の増幅されたリンパ腫の病原性にある役割を果たしうると予想したが、これについての何の証拠も与えなかった。腫瘍細胞が遺伝的に不安定であることは周知であり、形質転換後に染色体内増幅などの遺伝的異常を獲得しがちである。それ故に、観察された増幅を形質転換後に獲得したか、または、形質転換過程に単純に関わらないものである可能性がある。従って、今までの文献にはGPC5が正常または異常な細胞増殖に何らかの役割を果たすという証明はない。
【0007】
本発明者らは、GPC5を過剰発現する細胞におけるGPC5発現のダウンレギュレーションはこれらの細胞がin vitroでコロニーを形成する能力を低下することを実証した。本発明者らはそれ故に、GPC5発現が細胞増殖に直接的に関係し、従って新規の治療標的を提供することを初めて示した。
【0008】
本発明者らはさらに、GPC5が、13q31の染色体内増幅を示さない腫瘍において過剰発現されることを見出した。
【0009】
本発明者らはまた、GPC5が、ウィルムス腫瘍(WT1)遺伝子産物により調節されていることを示唆する証拠も見出した。WT1はジンクフィンガー転写因子であって、白血病および広範囲の固形腫瘍、例えば前立腺、乳房、肺、甲状腺、精巣、卵巣癌、メラノーマおよび中皮腫において、不適当におよび/または過剰に発現することが示されている(総説として、Reddy, J. C.,およびLicht, J. D. (1996) Biochim Biophys Acta 1287, 1-28;Scharnhorst, V., van der Eb, A. J.,およびJochemsen, A. G. (2001) Gene 273, 141-161を参照)。GPC5が腫瘍に重要な公知の遺伝子であるMYCNおよびWT1に関連するという事実は、GPC5自体が腫瘍形成に重要であるということと一致する。
【0010】
in vitro又はin vivoで増殖した腫瘍細胞において、WT1のダウンレギュレーションはGPC5の同時ダウンレギュレーションをもたらす。逆に、WT1のアップレギュレーションはGPC5のアップレギュレーションをもたらす。WT1によるGPC5の直接的な転写調節は、GPC5がそのプロモーター領域に2つのWT1コンセンサス結合部位を有するので起こりうることである。それ故に、WT1の過剰発現は、染色体13q31−32アンプリコンを保持しない腫瘍においてGPC5の過剰発現を駆動することができ、そしてGPC5発現は、WT1の発現を標的化することにより間接的にモジュレートすることができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いるWT1のダウンレギュレーションは細胞増殖の阻害およびアポトーシスの誘導をもたらす(Algar, E. M., Khromykh, T., Smith, S. I., Blackburn, D. M., Bryson, G. J.,およびSmith, P. J. (1996) Oncogene 12, 1005-1014)。いくつかの細胞タイプにおいて、GPC5のダウンレギュレーションにより、増殖の阻害を全部または部分的に媒介することができる。
【0011】
高レベルのWT1の発現は白血病および乳癌における予後不良に関連する。文献中の証拠は、WT1が細胞チェックポイント制御およびアポトーシス経路の干渉を介して薬物耐性メカニズムに影響を与えうることを示唆する。しかし決定的な証拠は欠いている。本発明者らは、細胞毒性薬物を用いて処理した化学療法耐性の腫瘍細胞株におけるWT1のアップレギュレーションを実証したが、これは感受性細胞株に見られない現象である。関連するGPC5のアップレギュレーションも実証されている。GPC5のアップレギュレーションはWT1のアップレギュレーションの効果のいくつかを媒介し、かつ化学療法耐性メカニズムに影響を与えうる。同様に、最近、GPC3の過剰発現が、細胞株モデルにおけるミトキサントロンおよびエトポシドに対する耐性と関係付けられている(Wichertら, Oncogene 23: 945-955 2004)。発現の直接的または間接的なダウンレギュレーションによるか、またはその活性をブロックすることによるGPC5活性の阻害は、特にWT1を不適当に発現しているかまたは過剰発現している癌において、いくつかのクラスの細胞毒性薬物の効力を増大させる可能性がある。
【0012】
それ故に、本発明者らの研究結果はGPC5を治療上の標的とすることができるいくつもの方法を示唆する。GPC5は細胞表面分子であり;それ故に、GPC5と結合できる作用物質を利用して治療薬を標的細胞に到達させることができる。さらに、またはその代わりに、細胞表面におけるGPC5の発現または機能を阻害するアンタゴニストを利用して、細胞増殖を直接的に阻害することができる。さらに、かかるGPC5アンタゴニストは、他の化学治療薬に対する標的細胞の感受性を増大させるために用いることができるので、治療法に耐性を生じた腫瘍を治療するために重要でありうる。
【0013】
従って本発明者らの発見の治療上の応用は、染色体13q31アンプリコンを保持する少数の癌だけでなくもっと広いものである。
【0014】
従って、第1の態様において、本発明は細胞をGPC5アンタゴニストまたはGPC5結合物質と接触させるステップを含む、標的細胞の増殖を阻害する方法を提供する。
【0015】
本発明のこの態様において、GPC5結合物質は典型的にはGPC5タンパク質、すなわち、GPC5コアタンパク質および/またはそれに随伴するヘパラン硫酸鎖と結合することができる作用物質である。好ましいGPC5結合物質は抗体であるが、ペプチドおよび小分子結合物質も好適でありうる。
【0016】
GPC5結合物質を用いて、標的細胞の増殖を阻害できる治療薬を適当な細胞タイプに到達させることができる。従って本方法は、細胞を治療薬と接触させるステップを含むことができる。
【0017】
治療薬は結合物質の一部分であるか、または結合物質と随伴(共有結合もしくは非共有結合または別の様式で連結)していてもよい。あるいは結合物質を用いて標的細胞を標識して、それにより、次いで好適な治療薬が非標識細胞より優先的に該細胞に到達するか、または該細胞の近傍で活性化されるようにすることができる。かかる実施形態においては、治療薬はGPC5結合物質と結合することができるものとしてもよい。
【0018】
当業者であれば、好適な治療薬をGPC5結合物質を介して標的細胞に到達させることができる多数の考えられるメカニズムに気付くであろう。
【0019】
治療薬は免疫系の細胞または分子を含みうる。例えば、標的細胞と結合した抗GPC5抗体は、免疫系の様々なエフェクター機構を動員して細胞を攻撃することができる。これには、多形核細胞、単核細胞およびK細胞が介在する抗体依存性の細胞介在細胞毒性などの細胞性メカニズム、ならびに補体カスケードなどの分子性メカニズムが含まれる。
【0020】
あるいは、治療薬は、毒素または薬物などの、細胞を直接死滅させるかまたは増殖を阻害することができる分子を含むことができる。このアプローチには、該細胞により発現されるかまたはGPC5結合物質と関連している酵素の作用により毒素または薬物分子に変換されうる前駆体分子の使用が含まれる。かかる方法の一例はしばしばADEPT療法と呼ばれる(下記参照)。
【0021】
さらなる別の実施形態においては、治療薬は、細胞内で合成される毒素または阻害剤をコードする核酸を含有するウイルスベクターなどのベクターを含みうる。かかる場合、該ベクターがコードする作用物質は、それ自体が本明細書の他の箇所に記載されるGPC5アンタゴニストであってもよい。
【0022】
これらのアプローチは個々にまたは組合わせて用いることができる。その他の好適な実施形態は当業者に明白であろう。
【0023】
GPC5結合物質は、それ自体がGPC5アンタゴニスト活性を有してもよい(但し必ずしもそうである必要はない)。
【0024】
GPC5アンタゴニストは、細胞表面上のGPC5の活性または機能的GPC5の発現を阻害する作用物質である。従って、GPC5アンタゴニストは、GPC5の増殖効果を直接的にブロックすることにより細胞増殖を阻害することができる。
【0025】
GPC5活性(発現よりも)に影響を与えるGPC5アンタゴニストは、典型的には、例えば、GPC5の、リガンド、受容体、および/または共受容体との結合をブロックすることにより、GPC5タンパク質がその生理学的活性を発揮することを防止または阻害するGPC5結合物質である。これらの機能のいずれか1つを遂行する、例えば、抗体、ペプチド、小分子などは、GPC5アンタゴニストならびにGPC5結合物質とみなすことができる。
【0026】
GPC5発現を阻害するGPC5アンタゴニストは、成熟GPC5タンパク質生成におけるいくつもの段階のいずれか1つに作用するものであってもよい。例えば、アンタゴニストはGPC5遺伝子の転写、GPC5プレmRNAのプロセシング、GPC5 mRNAのタンパク質への翻訳、GPC5の糖鎖形成(すなわち、糖残基のGPC5コアタンパク質への付加)または糖鎖の成熟ヘパラン硫酸(HS)鎖へのプロセシングを阻害するものであってもよい。
【0027】
好ましいGPC5発現のアンタゴニストは、GPC5 mRNAまたはプレmRNAの配列と相補的な核酸配列を含む。これにはアンチセンスRNA、dsRNA分子(RNAiおよびsiRNAを含む)、およびリボザイムが含まれる。
【0028】
上記のように、GPC5アンタゴニストは標的細胞を細胞毒性物質に感作させることができる。従って該方法は、細胞を細胞毒性物質と接触させるさらなるステップを含むことができ、ここで、GPC5アンタゴニストは細胞の細胞毒性物質に対する感受性を増大させる。これは特に、その細胞が化学治療薬に耐性を有している癌患者の治療に有用であり;化学治療薬の効力を増大させるためにGPC5アンタゴニストを化学療法と組合わせて用いることができる。
【0029】
本発明の方法はin vitroおよびin vivoの両方で応用できるが、以上から明白なように、好ましい態様は、癌細胞の増殖を阻害するための、癌患者に対するGPC5アンタゴニストまたは結合物質の投与を含む。
【0030】
従って、本発明はさらに、GPC5アンタゴニストまたはGPC5結合物質を癌患者に投与するステップを含む、癌を治療する方法を提供する。
【0031】
本発明はさらに、医療の方法に使用するための本明細書に記載したGPC5アンタゴニストまたはGPC5結合物質を提供する。
【0032】
また、癌を治療するための医薬の製造における、本明細書に記載したGPC5アンタゴニストまたはGPC5結合物質の使用も提供する。
【0033】
本明細書に記載した治療方法および組成物の全てにおいて、GPC5アンタゴニストおよび結合物質を単独で、または細胞毒性物質を含む他の治療剤(上記参照)と組合わせて用いることができる。
【0034】
さらなる態様において、本発明は、GPC5アンタゴニストまたは結合物質を用いる治療に対する癌の感受性を測定する方法であって、上記癌由来の細胞におけるGPC5発現の存在、非存在またはレベルを測定するステップを含む上記方法を提供する。さらに、またはその代わりに、該方法は13q31における染色体内増幅の存在、非存在または程度を決定するステップ、例えばGPC5遺伝子のゲノムコピー数を測定するステップを含むことができる。さらに、またはその代わりに、該方法は細胞におけるWT1発現の存在、非存在または発現レベルを測定するステップを含むことができる。細胞は、前もって、WT1を不適当に発現するかまたはWT1を過剰発現することがわかっていてもよい。測定は定性的、定量的または半定量的であってもよい。
【0035】
該方法は典型的には、問題の癌を患う被験体から単離したサンプルを用いてin vitroで実施されるであろう。サンプルは全細胞または細胞抽出物を含むものであってもよく、かつ1以上の癌細胞を含有することが疑われるかまたはわかっている生検サンプル、血液などの体液サンプル、またはいずれか他の好適なサンプル由来のものであってもよい。該方法は被験体由来のサンプルを単離するステップを含むものであってもよい。
【0036】
該方法は典型的には、サンプルを本発明のこの態様においてGPC5タンパク質、DNAまたはRNAと結合することができるGPC5結合物質と接触させるステップを含むであろう。該方法は、GPC5と結合した結合物質の量を測定するステップと、得られた結果を、癌がGPC5アンタゴニストまたは結合物質を用いる治療に感受性を有しうる確率と相関させるステップとをさらに含むものであってもよい。
【0037】
遊離の循環GPC5(すなわち、GPIアンカーを介して細胞表面と結合していないGPC5タンパク質)の存在またはレベルも、GPC5を過剰発現する癌に対するマーカーとしての役割を果たしうる。従って、さらなる態様において、本発明は患者における癌の存在をスクリーニングする方法であって、患者由来のサンプルをGPC5結合物質と接触させるステップを含む上記方法を提供する。好ましくは、該サンプルは全血、血清、血漿、尿などの体液のサンプルである。
【0038】
該方法は、GPC5と結合した結合物質の量を測定するステップと、得られた結果を、患者が癌を有する確率と相関させるステップとをさらに含むものであってもよい。
【0039】
本発明者らはまた、乳癌サンプルにおけるGPC5の過剰発現が当該癌のステージと良く相関することを見出した。特に、GPC5を発現する腫瘍は、ステージ1またはステージ2の腫瘍よりもステージ3の腫瘍である場合が顕著に多い。この結果はGPC5を乳癌の予後マーカーとして利用できることを示唆する。
【0040】
それ故に、本発明は乳癌の患者に対する予後を確認する方法であって、該患者の乳房腫瘍中のGPC5の発現レベルに基づいて患者の予後を診断するステップを含む上記方法を提供する。
【0041】
該方法は典型的には、乳癌細胞を含有するサンプル中のGPC5の発現の存在、非存在または程度を測定することを含む。該方法は典型的には、患者から単離したサンプルを用いてin vitroで実施するが、in vivoの方法も予想される。該サンプルを、GPC5 mRNAまたはタンパク質と結合できるGPC5結合物質と接触させてもよい。
【0042】
「予後」とはその最も一般的な意味で意図され、定量的であっても定性的であってもよい。予後は、予後「良好」または「不良」などの一般的な用語で、および/または無病生存期間(DFS)、一定期間の生存確率、および/または一定期間内の遠隔転移の確率などの適当な臨床転帰を表す用語で表現することができる。予後の定量的な尺度は一般に確率で表現される。さらに、またはその代わりに、そしてとりわけ、予後を医師にまたは医師間で連絡するために、予後をNPIスケールのような、他の予後指標の用語で表現してもよい。
【0043】
一般的に、「予後良好」の腫瘍を有する患者は恐らく通常の治療計画で治療されるであろう。「予後不良」の腫瘍を有する患者は、代わりの、またはより侵襲性の高い治療計画で治療される場合がある。「予後不良」の患者は通常、慣用的な治療計画が失敗するのを待った後に、より侵襲的な治療計画に移行する必要はない。さらに、当該疾患についてのあり得そうな臨床経過を理解していれば、患者は将来に対する現実的な計画に備えることが可能となり、この事は癌治療の重要な社会的側面である。
【0044】
疑念を避けるために、用語「決定すること」は予後の絶対的確実性を意味する訳ではない。むしろ、腫瘍中のGPC5の発現レベルは一般的に、患者についてのあり得そうな予後を示すものであろう。
【0045】
腫瘍がGPC5を過剰発現していることがわかっている患者は恐らくステージ3の腫瘍を有するので、予後不良に該当するであろう。しかし、GPC5が必ずしも予後の決定に用いられる唯一のマーカーでないことは理解されよう。むしろGPC5を他の予後マーカーと組合わせて使用し、詳細な予後診断の決定を助けることができる。
【0046】
本発明者らは、GPC5発現はまた、予めGPC5を発現することがわかっている癌に対して治療の進行(例えば成功または失敗)をモニターするために利用することもできると予想する。かかる方法は、典型的には癌細胞におけるGPC5発現をモニターするステップを含む。これは癌細胞内のGPC5の発現レベルを測定するステップを含む。経時的なGPC5の発現レベルの低下は、治療が有効であることの指標と受け取ることができる。さらに、またはその代わりに、該方法はGPC5を発現もしくは過剰発現する所与のサンプル中の細胞の数または密度を測定するステップを含むことができる。このステップは、腫瘍のサイズが縮小したかどうかの決定を助けるので、治療が腫瘍サイズを縮小させる所望の効果を有するかどうかの指標を与える。
【0047】
該方法は典型的には、得られた結果を、治療前および/または治療の初期段階の同じ患者について行った同等のアッセイの結果と比較するステップを含む。
【0048】
該方法は典型的には、患者由来の乳癌細胞を含有するサンプル中のGPC5の発現の存在、非存在または程度、あるいはGPC5を発現もしくは過剰発現する細胞の数または密度を測定することを含む。本明細書に記載の他の方法と同様に、該方法は典型的には、患者から単離したサンプルを用いてin vitroで実施するが、in vivoの方法も予想される。該サンプルを、典型的にはGPC5 mRNAまたはタンパク質と結合できるGPC5結合物質と接触させる。
【0049】
さらなる態様において、本発明はさらに治療薬を特定するために用いることができるスクリーニング方法を提供する。特に本発明は、標的細胞を死滅させるかまたはその増殖を阻害することができる作用物質をスクリーニングする方法であって、以下のステップ:
(i) GPC5タンパク質を1種以上の候補物質と接触させるステップ;
(ii) GPC5タンパク質と結合する能力に基づいて1種以上の候補物質を選択するステップ;
(iii)1種以上の選択された該候補物質を標的細胞と接触させるステップ;および
(iv) 選択された該候補物質の該細胞の増殖に対する効果を測定するステップ
を含む、上記方法を提供する。
【0050】
該細胞は典型的にはGPC5を発現し、そして好ましくはGPC5を不適当に発現しているかまたは過剰発現している。該細胞は天然にGPC5を発現してもよく(例えば、GPC5を発現しているかまたは過剰発現している癌由来であってもよく)、または該細胞は、例えば、GPC5をコードする核酸を含むベクターを用いた形質転換により、GPC5を発現するように遺伝子操作されたものであってもよい。該細胞は予めWT1を不適当に発現しているかまたは過剰発現していることがわかっていてもよい。
【0051】
該方法は、標的細胞の増殖を阻害することが見出された1種以上の物質をさらに選択するステップを含むことができる。選択された物質に1回以上の修飾処理を行って活性および/またはin vivo投与に対する適性を増加させ、そして細胞増殖を阻害する能力について再試験することができる。好適な物質を、治療投与用に、例えば医薬組成物として製剤化することができる。
【0052】
上記の様々な方法において、標的細胞または癌細胞は典型的には、GPC5 mRNAおよび/またはGPC5タンパク質を過剰発現している。該細胞はまた、13q31領域の一部分もしくは全部を含む染色体アンプリコンを保持してもよい;すなわち、該細胞は正常な2個より多くのGPC5遺伝子のゲノムコピーを保持してもよい。好ましい実施形態においては、該細胞はGPC5を過剰発現するがその染色体領域の増幅を保持しない。該標的細胞は典型的には、癌細胞、そして好ましくはGPC5を過剰発現する癌細胞である。
【0053】
13q31−32アンプリコンを保持することが予めわかっている癌としては、横紋筋肉腫(胎児型および胞巣型RMSの両方を含む)、リンパ腫(濾胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫および原発性皮膚B細胞リンパ腫を含む)、非小細胞性肺癌、膀胱癌、乳癌の一部、神経グリア腫瘍(悪性末梢神経鞘腫を含む)、頭頸部の扁平上皮癌、慢性骨髄性白血病、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、骨もしくは軟組織の悪性線維性組織球腫の例が挙げられる(Gordonら、2000;Yuら、2003およびそれらの引用文献を参照)。
【0054】
GPC5過剰発現がRMS、前立腺癌および乳癌において染色体内増幅の非存在のもとで起こるという知見に基づけば、上記の癌タイプの例も13q31の増幅無しにGPC5を過剰発現するであろうし、従って、上記のいずれの癌タイプも本明細書に記載の方法および組成物による治療に好適であると考えられる。
【0055】
GPC5発現はWT1により(少なくとも部分的に)調節されるようである。従って、WT1の不適当な発現(例えば、過剰発現)を示す癌も、記載する方法による治療に好適でありうる。これらの癌としては、白血病ならびに前立腺、乳房および肺、さらに甲状腺、精巣および卵巣癌、メラノーマおよび中皮腫を含む広範囲の固形腫瘍が挙げられる(Scharnhorst, V., van der Eb, A. J.,およびJochemsen, A. G. (2001) Gene 273, 141-161)。
【0056】
WT1発現はまた、化学治療剤に対する癌細胞の耐性に関係があるとされている。従って、1種以上の細胞毒性物質による治療に耐性の癌も、本発明による治療に好適でありうる。該細胞は初めから耐性を有していてもよく、または治療の経過にわたって耐性を発達させていてもよい。典型的には、かかる細胞はWT1およびGPC5の過剰発現により特徴付けられるであろう。
【0057】
加えて、化学感受性の増大におけるGPC5アンタゴニストの有効性の改善は、WT1アンタゴニストを用いたWT1の同時ダウンレギュレーションにより達成することができる。好ましいWT1アンタゴニストは、WT1 mRNAまたはプレmRNAの配列と相補的な核酸配列を含んでなる。これらのアンタゴニストにはアンチセンスRNA、dsRNA分子(RNAiおよびsiRNAを含む)およびリボザイムが含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
図面の説明
図1:2種類の原発性RMSサンプルおよび細胞株K562中の増幅された13q31−q32領域にわたるBACを用いたFISHの結果である。増幅の最小限領域は、セントロメア末端のRP11-51a2により、および増幅を示さないテロメア末端のGPC6 Taqmanにより規定される。それ故に、最小限増幅の領域はGPC5遺伝子の両側にはみ出すが、隣接するテロメア遺伝子GPC6まで到達していない。GPC5のセントロメア側の近位に位置する遺伝子C13ORF25Aは、リンパ腫に関係があると示唆されている(33)。
図2A:正常な筋肉と比較してのGPC5発現の対数分布である;左(胎児型)、右(胞巣型)。
図2B:正常な筋肉と比較した横紋筋肉腫でのC13ORF25Aの発現を示す。「A」とマークしたバーはC13ORF25Aのゲノム増幅を示すサンプルである。
図3は、K562細胞における、GPC5 mRNAレベルおよび細胞生存に対するGPC5アンチセンスオリゴヌクレオチドの効果を示す。パネルAは13種の代表的なGPC5標的化オリゴヌクレオチドについてのデータを、対照オリゴヌクレオチド15770と比較して示す。パネルBおよびCは活性オリゴヌクレオチドの1つ(276107)についての用量−反応曲線を、276124と称する別の対照オリゴヌクレオチドと比較して示す。
図4Aは、18件の前立腺癌サンプルおよび6件の良性前立腺過形成サンプルにおけるGPC5 mRNA発現のレベルを、正常前立腺と比較して示す。図4Bは、前立腺癌と良性前立腺過形成との間のGPC5発現の全体的相違を示す。
図5Aは、乳癌サンプルにおけるGPC5 mRNA発現を、正常な乳房生検組織と比較して示す。図5Bは、44件の乳房腫瘍のサンプル中のGPC5を過剰発現するステージ1、2または3の腫瘍の数を、正常乳房組織と比較して示す。
図6は、K562細胞において、処理後24時間および48時間両方の、WT1およびGPC5 mRNAレベルに対するWT1アンチセンスオリゴヌクレオチドの効果を示し、WT1がGPC5発現を調節することを示唆している。
図7は、ドセタキソールを用いて処理したPC3M腫瘍における、WT1およびGPC5 mRNA両者のアップレギュレーションを示す。
図8は、RMS細胞株T91−95におけるGPC5過剰発現の効果を示す。A:5種類のGPC5過剰発現コロニーと5種類の模擬トランスフェクション対照コロニーとの間の増殖の差。B:GPC5過剰発現コロニーと対照コロニーとの間のTaqManアッセイにより測定したGPC5発現の差。C:In vitro翻訳についてのウェスタンブロット;レーン1:水(陰性対照)、レーン2:pCMV−TNT−GPC5(63Kda)、レーン3:ルシフェラーゼ(61Kda陽性対照)。タンパク質はビオチン標識リジン残基を取り込むように翻訳させた。ストレプトアビジン−アルカリホスファターゼおよび適当な比色試薬を用いて発色した。
【0059】
発明の詳細な説明
グリピカン
グリピカンは細胞表面ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)分子であって、該分子はヘパラン硫酸(HS)グリコサミノグリカン鎖を保持し、かつGPIアンカーを介して細胞膜に連結されたタンパク質コアから構成される。総説については、PerrimonおよびBernfield (2000) Nature 404: 725-728ならびにSelleck (1999) Am J Hum Genet 64: 372-377を参照されたい。
【0060】
HS鎖自体はコンセンサスSGXG「糖付加(glycanation)」部位のセリン残基と結合している。HS鎖はそれぞれ四糖リンカー(-GlcA-Gal-Gal-Xyl)から成り、それにGlcNacおよびGlcAで作られた反復二糖単位の線形ポリマーが付加されている。HS鎖が合成された後に、これらはゴルジ装置で酵素N-デアセチラーゼ/N-スルホトランスフェラーゼ(NDST)、ウロノシルC5-エピメラーゼ、2-O-スルホトランスフェラーゼ(2-OST)、6-O-スルホトランスフェラーゼ(6-OST)および3-O-スルホトランスフェラーゼ(3-OST)によるプロセシングを受ける。
【0061】
HSPGは細胞シグナル伝達において特異な役割を果たすと考えられるようになっている。いくつかのHSPGは増殖因子シグナル伝達に対する共受容体として作用するようである(PerrimonおよびBernfield、ならびにSelleckによる上記総説を参照)。グリピカン−3はFGF2およびBMP-7と免疫共沈降することが示されており(Int J Cancer 2003 103:455-65)、一方でグリピカン−1はFGF2およびHB-EGFと免疫共沈降してこれらの増殖因子の成長刺激作用を増進することが示されている(J Clin Invest 1998 102(9) 1662-73)。グリピカン-4はFGF2の機能を、その増殖刺激特性を抑制することによりモジュレートする(Dev Dyn 219(3):353-67)。
【0062】
ヒトGPC5のmRNAおよびタンパク質配列は、Veugelersら「グリピカン5の特徴付けとヒトグリピカン5の染色体内局在;グリピカン遺伝子ファミリーの新しいメンバー(Characterization of Glypican-5 and Chromosomal localization of human Glypican-5; new member of glypican gene family)」 Genomics 1997 40(1):24-30に記載されている。該遺伝子のゲノム構造は、Veugelersら「4MB BAC/PACコンティグおよび染色体13q32上のGPC5/GPC6遺伝子クラスターの完全ゲノム構造(A 4MB BAC/PAC contig + complete genomic structure of the GPC5/GPC6 gene cluster on chromosome 13q32)」 Matrix Biol 2001 20(5-6):375-85に記載されている。GenBank参照配列の登録番号は、mRNAがAF001462(gi:3015541)であり、タンパク質がNP004457である。相同的なタンパク質はまた、マウス(NP780709)およびラット(XP224489)においても見出され、ヒト配列に対してそれぞれ82%および87%のタンパク質配列同一性を有する。これはヒトゲノム内で次に最も相同的であるGPC3(NP004475)(ヒトGPC5と46%のタンパク質配列同一性を有する)よりも大きな値である。
【0063】
本明細書では「GPC5タンパク質」を、コアタンパク質および/またはそれと結合したヘパラン硫酸鎖の両方を含む広い用語として使用する。タンパク質への言及は適宜解釈すべきである。
【0064】
細胞
用語「癌細胞」は、本明細書を通して、in vivoで生じた癌および腫瘍由来の細胞ならびに連続培養に適合させた実験用細胞株をはじめとするいずれかの形質転換細胞を意味するために使用される。かかる細胞株は典型的には、無限のin vitro複製能力、接触阻害の消失、動物において腫瘍を形成する能力などの特徴を示す。これらの細胞株は元々は癌に由来するものでも、または実験室で形質転換されたものでもよい。
【0065】
該細胞はいずれの好適な種のものであってもよいが、哺乳動物の細胞が好ましい。特にヒトおよびげっ歯類(例えば、マウスまたはラット)の細胞が好ましい。
【0066】
記載した様々な方法の標的細胞は典型的にはGPC5を過剰発現している。該細胞は、GPC5を過剰発現するために、例えばGPC5をコードする核酸を含むベクターを用いた形質転換により遺伝子操作したものでもよいし、または、故意に操作せずにGPC5を過剰発現する、天然にGPC5を過剰発現するものであってもよい。
【0067】
細胞は、その細胞タイプに通常見出されるレベルより高いレベルのRNAまたはタンパク質を示す場合、GPC5を過剰発現するとみなされる。腫瘍細胞は、その腫瘍細胞が由来すると思われる対応する細胞タイプにおいて見出されるより高い発現レベルを示す場合、GPC5を過剰発現するとみなされる。例えば、RMS細胞を正常な筋肉細胞もしくは筋肉前駆細胞と、乳癌細胞を健康な乳房組織もしくは正常な乳房上皮細胞と、そして前立腺癌細胞を健康な前立腺組織もしくは正常な前立腺上皮と比較することができる。
【0068】
例えば、通常はGPC5を発現しない細胞タイプは、それが検出可能なレベルのGPC5発現を示す場合、GPC5を過剰発現しているかまたは不適当に発現しているとみなされる。通常も検出可能なGPC5発現を示すであろう細胞は、該細胞がRNAまたはタンパク質についてその細胞タイプの正常レベルの2倍を示す場合、さらに好ましくはその細胞タイプの正常レベルの5倍、10倍、50倍または100倍を示す場合、GPC5を過剰発現しているとみなされる。脳は、GPC5の検出可能な発現を示すと報告されている唯一の正常なヒト成体組織である。
【0069】
上記考察は、全組織、体液などがGPC5レベルの上昇を示すかどうかを決定する際に準用される。
【0070】
WT1は、通常は、腎臓、生殖腺、造血系および神経系ならびに中皮の特定の細胞タイプにおいてのみ発現される(Reddy, J. C.,およびLicht, J. D. (1996) Biochim Biophys Acta 1287, 1-28)。これらの組織またはそれに由来する癌におけるWT1の過剰発現は、GPC5について上記で記載したのと同様に決定することができる。その他の細胞タイプにおける発現は不適当であるとみなすことができる。
【0071】
アンタゴニスト
用語「GPC5アンタゴニスト」は2種の異なるクラスの作用物質を包含する。
【0072】
「GPC5活性のアンタゴニスト」は、成熟GPC5タンパク質が細胞表面に発現したときの、その正常機能の発揮を阻止する作用物質である。これらは、典型的にはGPC5タンパク質(コアタンパク質および/またはHSPG鎖)と結合してそのプロ増殖(pro-proliferative)機能を阻害する、GPC5タンパク質に対する結合物質であろう。
【0073】
「GPC5発現のアンタゴニスト」は、細胞表面における成熟タンパク質の発現を阻害またはブロックすることができる作用物質であるが、かかる作用物質の最終的な効果はGPC5の機能または活性も阻害することであることは理解されるであろう。
【0074】
GPC5アンタゴニストはそれ故に、候補化合物または物質をGPC5と結合する能力についてスクリーニングすることにより特定することができる。好適なアッセイ方法を以下に記載する。
【0075】
それらの好適な結合を示す候補化合物を、GPC5を過剰発現する細胞の増殖を阻害するそれらの能力について(続いてまたは並行して)スクリーニングすることができる。好適な細胞としては、天然にGPC5を過剰発現する細胞(GPC5過剰発現性の癌由来の細胞など)ならびにGPC5を過剰発現するように遺伝子操作した細胞(例えば、GPC5をコードするベクターを用いた形質転換による)が挙げられる。
【0076】
一方で、GPC5発現のアンタゴニストは、典型的にはGPC5ゲノムDNA、前駆体mRNA、mRNA、またはcDNAとハイブリダイズできる核酸分子を含んでなり、これは1本鎖または2本鎖であってよい。かかるモジュレーターとしては、アンチセンスRNAまたはDNA、三重らせん形成分子、RNAi、siRNAおよびリボザイムが挙げられる(かかるアンタゴニストは下記のようにGPC5結合物質であるとみなすこともできる)。化学的に修飾されたヌクレオチドを含んでなる核酸(例えば、ロックド核酸、またはプロピニル、メチルもしくはG−クランプトピリミジンヌクレオチド)ならびに修飾された糖残基(例えば、2’-O-メチルおよび2’-メトキシエチル修飾)またはバックボーン構造(例えば、ホスホルアミダイトもしくはモルホリノ結合、またはペプチド核酸(PNA)の取り込みによる)を有してなる核酸類似体もこの定義に含まれる。これらの修飾およびアンチセンス技術全体のさらなる詳細については、DeanおよびBennett (2003) Oncogene 22: 9087-9096およびそこに引用されている参照文献を参照されたい。
【0077】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは一般的に、ワトソン・クリック塩基対合によりRNAの相補配列とハイブリダイズする。得られる2本鎖複合体は、メッセージのタンパク質産物への翻訳を、リボソームにおける立体ブロッキングまたはRNA二重鎖を切断するRNase Hの活性化により阻止する。アンチセンスDNAについては、翻訳開始部位、例えば目的の標的遺伝子ヌクレオチド配列の−10〜+10領域由来のオリゴデオキシリボヌクレオチドが好ましい。
【0078】
遺伝子発現をダウンレギュレーションするためにアンチセンス遺伝子または部分的な遺伝子配列を使用するときに、ヌクレオチド配列を「逆方向」でプロモーターの制御下に配置し、転写によって、標的遺伝子の「センス」鎖から転写された通常のmRNAと相補的なRNAが得られるようにする。
【0079】
コード配列に対応する完全な配列を使用する必要はない。例えば、十分な長さの断片を使用してもよい。当業者にとって、様々なサイズの断片、およびコード配列の様々な部分からの断片をスクリーニングしてアンチセンス阻害のレベルを最適化することは、日常行われる手法である。開始メチオニンATGコドン、および恐らく開始コドンの上流の1以上のヌクレオチドを含むことは好都合である。さらに、遺伝子の保存配列、例えば調節配列などの、1以上の遺伝子の特徴である配列を標的化することも可能である。
【0080】
採用する配列は、500ヌクレオチド以下、あるいは約400ヌクレオチド、約300ヌクレオチド、約200ヌクレオチド、または約100ヌクレオチドであってもよい。さらに短い長さ、14〜23ヌクレオチドのオリゴヌクレオチドを用いることもできるが、可能であれば、より長い断片、一般的には500ヌクレオチドよりさらに長いことが好ましい。
【0081】
標的配列発現のダウンレギュレーションに使用する配列と標的配列との間に完全な配列同一性が存在することは好ましいが、配列の完全な相補性または類似性は必須でない。使用する配列は、標的遺伝子と1個以上のヌクレオチドが異なっていてもよい。例えば、本発明による遺伝子発現のダウンレギュレーションに使用する配列は、利用しうる配列から選択した野生型配列(例えば、遺伝子)、またはかかる配列の1個または数個のヌクレオチドの挿入、付加、欠失または置換によって得た突然変異体、誘導体、変異体または対立遺伝子であってもよい。該配列は、オープンリーディングフレームを含むことも、または翻訳可能であるRNAに特定される必要もない。ハイブリダイズするそれぞれのアンチセンスとセンスRNA分子の間には十分な相同性のあることが好ましい。使用する配列と標的遺伝子との間に約5%、10%、15%または20%またはそれ以上のミスマッチが存在する場合でも遺伝子発現のダウンレギュレーションは起こりうる。
【0082】
2本鎖RNA(dsRNA)はアンチセンス鎖単独よりも遺伝子サイレンシングに有効であることが見出されている(Fire A.ら Nature, Vol 391, (1998))。dsRNAが媒介するサイレンシングは遺伝子特異的であり、しばしばRNA干渉(RNAi)と称される。RNA干渉は2段階プロセスである。最初にdsRNAが細胞内で切断され、5’末端リン酸および3’の短いオーバーハング(〜2nt)を伴う短い約21〜23nt長の短い干渉RNA(siRNA)を生じる。siRNAは対応するmRNA配列を特異的に標的化して破壊する(Zamore P.D. Nature Structural Biology, 8, 9, 746-750, (2001))。
【0083】
RNAiはまた、3’-オーバーハング末端を有する同じ構造の化学的に合成したsiRNA二重鎖を用いても効率的に誘導することができる(Zamore PDら Cell, 101, 25-33, (2000))。合成siRNA二重鎖は、広範囲の哺乳動物細胞株において内在性および異種遺伝子の発現を特異的に抑制することが示されている(Elbashir SM.ら Nature, 411, 494-498, (2001))。Fire (1999) Trends Genet. 15: 358-363、Sharp (2001) Genes Dev. 15: 485-490、Hammond ら (2001) Nature Rev. Genes 2: 1110-1119、およびTuschl (2001) Chem. Biochem. 2: 239-245も参照されたい。
【0084】
リボザイムはRNAの特異的切断を触媒することができる酵素性RNA分子である(総説として、Rossi, J., 1994, Current Biology 4: 469-471を参照)。リボザイム作用のメカニズムは、標的RNAに対して相補的なリボザイム分子の配列特異的ハイブリダイゼーションとそれに続くヌクレオチド鎖内切断を含む。リボザイム分子の構造は、標的タンパク質mRNAに対して相補的な1以上の配列を含まなければならず、またmRNA切断に関わる周知の触媒配列を含まなければならない。この配列については、米国特許第5,093,246号(参照によりその全体が本明細書中に組み入れられる)を参照されたい。同様に、標的タンパク質をコードするRNA配列のヌクレオチド鎖内切断を特異的かつ効率的に触媒する、遺伝子操作されたハンマーヘッドモチーフリボザイム分子は本発明の範囲内に含まれる。
【0085】
最初に、目的とする分子を次の配列:GUA、GUUおよびGUCを含むリボザイム切断部位についてスキャンすることにより、潜在的なRNA標的内の特定のリボザイム切断部位を明らかにする。それを明らかにしたら、切断部位を含有する標的タンパク質遺伝子の領域に対応する15〜20個のリボヌクレオチドの短い配列を、オリゴヌクレオチド配列を不適当にしうる二次構造などの予想される構造的特徴について評価することができる。候補配列の好適性はまた、リボヌクレアーゼ保護アッセイを用いて、相補性オリゴヌクレオチドとハイブリダイズするためのそれらのアクセスしやすさを試験することにより評価することもできる。
【0086】
転写を阻害するための三重らせん形成に用いる核酸分子は、1本鎖であってデオキシヌクレオチドで構成されなければならない。これらのオリゴヌクレオチドの塩基組成は、Hoogsteen塩基対合ルールによる三重らせん形成を促進するように設計しなければならないので、一般的に二重鎖の一方の鎖上に存在する相当長いプリンまたはピリミジンの伸展部を必要とする。ヌクレオチド配列はピリミジンを基礎とするものであってもよく、この場合、得られる三重らせんの3本の会合鎖を横切るTATおよびCGCトリプレットを生じるであろう。高ピリミジン含量分子は、その鎖と平行な方向の二重鎖の片方の鎖の高プリン含量領域に相補的な塩基となる。さらに、核酸分子を高プリン含量であるように、例えばG残基の伸展部を含有するように選ぶことができる。これらの分子はGC対に富むDNA二重鎖との三重らせんを形成するであろうが、その場合、プリン残基の大部分は標的化した二重鎖の片方の鎖上に位置し、三重鎖中の3本鎖を横切るGGCトリプレットを生じる。
【0087】
あるいは、三重らせん形成の標的とすることができる潜在的配列は、いわゆる「スイッチバック」核酸分子を作製することにより増加させることができる。スイッチバック分子を交互に5’-3’、3’-5’との様式で合成し、それらがまず二重鎖の一方の鎖と塩基対を形成し、次いで他方の鎖と塩基対を形成するようにして、二重鎖の一方の鎖上に存在すべき相当な長さのプリンまたはピリミジンの伸展部の必要性をなくす。
【0088】
WT1アンタゴニストは、WT1が転写因子としてのその機能を発揮するのを阻止する作用物質である。WT1は細胞内タンパク質であるので、好ましいWT1アンタゴニストはWT1発現を妨害するものである。特に好ましいWT1アンタゴニストはWT1 mRNAまたはプレmRNAの配列と相補的な核酸配列を含んでなる。これらには、アンチセンスRNA、dsRNA分子(RNAiおよびsiRNAを含む)、およびリボザイムが含まれる。WT1配列の例については、GenBank登録番号NM_000378.2、同NM_024426.2、同NM_024425.1、同NM_024424.1を参照されたい。本出願に引用した全ての登録番号は、2004年2月20日に更新されたGenBank公報140.0から得たものである。
【0089】
結合物質
本発明のほとんどの態様において、GPC5結合物質とは、GPC5コアタンパク質および/またはそれに関連するヘパラン硫酸鎖と結合することができる作用物質を意味する。しかし、本発明のいくつかの態様、例えば、以下に記載の診断方法においては、GPC5をコードする核酸、および特にはGPC5プレmRNA、mRNA、またはそれらに由来するcDNAと結合することができる作用物質もまた、GPC5結合物質であるとみなすことができる。
【0090】
好ましい実施形態においては、使用する結合物質はGPC5と特異的な結合対を構成すると考えられる。用語「特異的な結合対」は特異的な結合メンバー(sbm)と結合パートナー(bp)からなる1対の分子を記載するのに使用することができ、従って、該分子対は互いに特別な特異性を有し、かつ通常の条件ではその他の分子と結合するより優先して互いと結合する。特異的な結合対の例は、抗原と抗体、リガンド(ホルモンなど)と受容体、アビジン/ストレプトアビジンとビオチン、レクチンと炭水化物、および相補的なヌクレオチド配列である。
【0091】
「特異的」との語により、GPC5と相互作用する作用物質の特定結合部位は、該結合物質が遭遇すると思われるGPC5以外の分子(例えば、アッセイ中または所与の細胞表面上の他の分子)とは顕著な結合を示さないであろうことを意味する。例えば、該結合物質とGPC5との間の相互作用は10-6〜10-9-1以下のオーダーのKを有しうる。
【0092】
結合物質は、GPC5分子のタンパク質コアまたはHS鎖と結合するものでありうるが、好ましい実施形態においては、タンパク質コア、好ましくは該コアの親水性領域、例えば配列CKSYTQRVVGNGIKAQの一部分または全部と結合する。
【0093】
結合物質はサイズが50アミノ酸以上のタンパク質もしくはポリペプチド、または50アミノ酸長までのペプチドであってもよい。典型的にはペプチドは5〜50アミノ酸長、さらに典型的には10〜20アミノ酸長である。あるいは、結合物質は例えば1000Da以下、好ましくは750Da以下、好ましくは500Da以下の小分子であってもよい。
【0094】
抗体は好ましい結合物質の例である。従って、診断用の好ましいアッセイ形式は免疫学的アッセイであり、該アッセイとしては、ELISAアッセイ、および全細胞もしくは組織切片について行うことができる免疫組織化学、単一細胞もしくは分散した細胞の集団について行うことができるFACS分析、共焦点顕微鏡などのための他の免疫染色の形態、ならびに細胞抽出物の分析に好適なイムノブロットが挙げられる。
【0095】
抗体全体のうちの各フラグメントが抗原と結合する機能を発揮できることが明らかになっている。用語「抗体」は、それ故に、本明細書において抗体の結合フラグメントを含むいかなる分子をも包含するものとして使用する。結合フラグメントの例は、(i)VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなるFabフラグメント;(ii)VHおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント;(iii)単一抗体のVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント;(iv)VHドメインからなるdAbフラグメント(Ward, E.S.ら、Nature 341、544-546 (1989));(v)単離されたCDR領域;(vi)F(ab’)2フラグメント(2つの連結したFabフラグメントを含む二価フラグメント);(vii)単鎖Fv分子(scFv)(VHドメインおよびVLドメインがペプチドリンカーにより連結し、それにより2つのドメインが結合して抗原結合メンバーを形成することができる(Birdら, Science, 242, 423-426, 1988;Hustonら, PNAS USA, 85, 5879-5883, 1988))。
【0096】
診断方法と他のアッセイ
GPC5の結合物質は、GPC5アンタゴニストおよび標的化物質として有用であるとともに、生物学的サンプル中のGPC5の存在を検出するためにも用いることができる。これには本発明の範囲内でいくつもの応用がある。
【0097】
GPC5アンタゴニストまたは結合物質による治療に対する特定の癌の感受性は、本明細書に記載した結合物質を用いて上記癌におけるGPC5の発現レベルを試験することにより、評価することができる。GPC5を過剰発現するかまたは高いGPC5レベルを有することが見出された癌は、本明細書に記載の方法と組成物を用いて治療可能である場合がある。
【0098】
該方法は典型的には、当該癌を患う被験体から単離しておいたサンプルをGPC5結合物質と接触させるステップを含む。該サンプルは1以上の全細胞または細胞抽出物を含んでもよく、かつ1以上の癌細胞を含有することが疑われるかまたはわかっているいずれかの好適な生物学的サンプルに由来するものでもよい。例としては、組織サンプル(例えば、生検サンプル)および体液、例えば血液、血清または血漿のサンプルが挙げられる。
【0099】
結合物質はGPC5タンパク質またはmRNAのいずれかの発現を検出することができる。
【0100】
好ましい実施形態においては、該方法はさらに、GPC5の発現レベルを、1以上の参照サンプル中に見出されるものと比較するステップを含み、ここで参照サンプル中の発現レベルは予め測定されていてもよい。好適な参照サンプルとしては、癌または疑わしい癌が由来する組織タイプと同じ組織タイプ、または比較しうる組織タイプのサンプルが挙げられる。参照サンプルは、試験サンプルと同じ個体から、または異なる個体から得ることができる。参照サンプルとしては、場合によっては、陽性対照の役割を果たしうる既知のGPC5発現レベルの、既知のタイプの癌細胞のサンプルも挙げられる。
【0101】
サンプルは、WT1を不適当に発現するかまたは過剰発現することが予め明らかになっている癌由来であってもよい。あるいは、該方法は、WT1の発現レベルを測定して、1以上のWT1アンタゴニストによる併用療法が有益であるかどうかを確認するステップをさらに含んでもよい。
【0102】
本発明はまた、被験体がGPC5の過剰発現により特徴付けられる癌を患っているかどうかを決定する方法であって、被験体からのサンプルをGPC5結合物質と接触させるステップを含む方法も提供する。好ましくは、該方法は、循環中の遊離の(すなわち細胞と連結していない)GPC5のレベルを測定するステップを含む。かかる場合、サンプルは好ましくは血液、血清または血漿であり、そして結合物質はGPC5タンパク質を検出するものである。
【0103】
また、得られた結果を好適な陽性および/または陰性対照サンプルと比較して、被験体の臨床状態の示唆を得ることができる。
【0104】
個体から得たサンプル中のアナライトの濃度を測定する方法は当該技術分野では周知であり、本発明においてGPC5タンパク質または、適宜、mRNAの発現を測定するように当業者により容易に適合させられる。かかるアッセイによって医師は障害の治療を最適化することが可能になり、従って、記載した方法によって適当な治療法の計画が可能になり、最も有益と思われるものを目的とすることによって治療法の合理化を可能にする。
【0105】
タンパク質マーカーの濃度を測定するアッセイ方法は、典型的には、他の分子に優先して、タンパク質マーカー、またはその断片と特異的に結合できる結合部位を有する結合物質、または抗体を用いる。結合物質の例としては、目的のアナライトと特異的に結合できる抗体、受容体および他の分子が挙げられる。好都合には、結合物質を固体支持体上の、例えば所定の空間的に分離した位置に固定して、アッセイ中の操作を容易にする。
【0106】
サンプルは一般的に、サンプル中のアナライトが結合物質と結合することができる適当な条件下で、結合物質と接触させる。次に、アナライトを直接的もしくは間接的に標識することによって、またはサンプル中のアナライトの存在または量の示唆を与える発色剤を用いることによって、結合物質の結合部位の占有率を測定することができる。典型的には、発色剤を直接的または間接的に標識して(例えば、放射、蛍光または西洋わさびペルオキシダーゼなどの酵素標識を用いて)、それらの標識を当該技術分野で周知の技法を用いて検出できるようにする。直接標識した発色剤は、該発色剤と連結しているかまたはカップリングしている標識を有する。間接的に標識した発色剤は標識した分子種(例えば、発色剤と結合できる標識抗体)と結合できるか、または別の分子種に作用して検出可能な結果をもたらすことができる。例えば、放射標識は、シンチレーションカウンターまたは他の放射計測装置を用いて検出することができ、蛍光標識はレーザーおよび共焦点顕微鏡を用いて、そして酵素標識は基質に対する、典型的には色変を生じる酵素標識の作用によって検出することができる。さらなる実施形態においては、発色剤またはアナライトにタグを付けて、例えばPCR反応で増幅してアナライトを検出できるヌクレオチド配列と連結させて、その検出を可能にする。当業者に公知である他の標識を以下に論じる。発色剤は、発色剤とアナライトが結合物質の結合部位の占有について競合する競合的な方法で、または、標識した発色剤が結合物質と結合したアナライトまたは占有された結合部位と結合する非競合的な方法で用いることができる。両方法は共に、例えば、既知の濃度のアナライトを含有するサンプルを用いて得た標準との比較によって、アナライトが占有した結合部位の数、従って、サンプル中のアナライトの濃度についての示唆を与える。
【0107】
別の実施形態においては、アナライトにタグを付けた後に、それを結合物質を含む支持体に加えることができる。
【0108】
好ましい形式はELISAアッセイおよび免疫染色(例えば、免疫組織化学)である。
【0109】
診断分野においてはまた、かかるアッセイのミニチュア化が増す傾向にあり、例えば(抗体または核酸配列などの)結合物質を、小さな区切られた位置(マイクロスポット)に固定し、かつ/または固体支持体もしくは診断チップ上のアレイとして用いる。これらのアプローチは、(特に蛍光標識した試薬を使用して)優れた感度を得ることができ、試験対象の個体からのごく少量の生物学的サンプルしか必要とせず、しかも様々な別々のアッセイを同時に行うことができるので特に価値がある。最後に挙げた利点は、複数のアナライトを扱い単一サンプルを用いて行うアッセイを提供するので有用でありうる。このミニチュア化技術を可能にする技法の例は、WO84/01031、WO88/1058、WO89/01157、WO93/8472、WO95/18376、WO95/18377、WO95/24649およびEP 0 373 203Aに記載されている。例えば、さらなる態様において、本発明は、種々のタンパク質マーカーと特異的に結合できる複数の結合物質または抗体を、場合によっては、アッセイを行うために必要な他の試薬(標識した発色剤など)と組合わせて固定した支持体または診断チップを含むキットを提供する。この関係では、支持体は、例えば米国特許第5,716,787号に開示されたビメンチンなどのアナライトに特異的な結合物質であってもよい。
【0110】
かかるアッセイ方法はまた、GPC5タンパク質と結合できる結合物質をスクリーニングするために利用することもできる。改善された特性を有するさらなる作用物質を特定するために、かかるスクリーニングにより特定した候補作用物質を1回以上修飾して再試験を行うことができる。当業者であれば、多数の好適なスクリーニング方法に気付くであろうし、また候補結合物質を特定するための適当なプロトコールを設計することができるであろう。
【0111】
あるいは、結合物質はmRNAまたは前駆体mRNAと結合できる核酸分子であってもよい。例えば、GPC5をコードするmRNAまたは前駆体mRNAを、好適な相補性配列を有するプローブとのハイブリダイゼーション(例えばノーザンブロットまたはin situハイブリダイゼーション)により検出することができる。かかるプロトコールでは、少なくとも約20〜80塩基長のプローブを用いることができる。プローブは100、200、300、400または500塩基長以上であってもよい。結合アッセイは、Sambrookら, Molecular Cloning A Laboratory Manual(New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989またはその後の新版)に記載のものなどの標準的手順を用いて実施することができる。
【0112】
あるいは、通常のRT−PCR法(定量的PCR法を含む)を用いて、所与のサンプル中のmRNAもしくは前駆体mRNAの存在または量を分析することができる。典型的には、GPC5のmRNAまたは前駆体mRNA配列と相補的な少なくとも15〜20塩基を有する好適なプライマーをcDNA合成を開始するために利用しうる。その後、cDNAのセグメントを1対の核酸プライマーを用いてPCR反応で増幅する。当業者であれば、GPC5に対する公に利用可能な配列データに基づいて、プローブまたはプライマーを設計することができるであろう(上記参照)。
【0113】
タンパク質、ペプチド、小分子または核酸であるか否かにかかわらず、該結合物質はGPC5のアンタゴニストとしても機能しうる。
【0114】
医薬組成物
GPC5アンタゴニストおよび結合物質は医薬組成物に製剤化することができる。これらの組成物は、上記物質のうちの1つに加えて、当業者に周知の製薬上許容される賦形剤、担体、バッファー、安定化剤またはその他の材料を含んでもよい。かかる材料は無毒でなければならず、また活性成分の有効性を妨害してはならない。担体その他の材料の厳密な性質は、投与経路(例えば経口、静脈内、皮膚または皮下、経鼻、筋肉内、腹腔内経路または局所適用)に依存しうる。
【0115】
経口投与用の医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、粉末剤または液体剤形であってもよい。錠剤はゼラチンなどの固体担体またはアジュバントを含んでもよい。液体医薬組成物は一般的に、水、石油、動物もしくは植物油、鉱油または合成油などの液体担体を含む。生理食塩水、ブドウ糖その他の糖溶液またはエチレングリコール、プロピレングリコールもしくはポリエチレングリコールなどのグリコールを含んでもよい。
【0116】
静脈内、皮膚もしくは皮下注射、または患部における注射用には、活性成分はパイロジェンフリーで、かつ好適なpH、等張性および安定性を有する非経口的に許容可能な水溶液の形態であろう。当業者は好適な溶液を、例えば塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、乳酸リンゲル注射液などの等張性ビヒクルを用いて調製することが十分にできる。必要に応じて、保存剤、安定化剤、バッファー、酸化防止剤および/またはその他の添加剤を含んでもよい。
【0117】
ポリペプチド、抗体、ペプチド、核酸分子、小分子または個体に与えるための本発明による製薬上有用な他の化合物のいずれであるか否かにかかわらず、投与は好ましくは「予防上有効な量」または「治療上有効な量」(但し、場合によっては予防は治療とみなすことができる)であり、これは個体に利益をもたらすのに十分な量である。投与する実際の量、および投与の速度と時間経過は治療対象の性質と重篤度に依存しうる。治療の処方、例えば、用量の決定は、一般開業医その他の医師の責任の範囲内であり、典型的には、治療対象の障害、個々の患者の症状、送達部位、投与方法および臨床医師にわかっているその他の因子が考慮される。好適な担体、アジュバント、賦形剤などは標準の薬学の教科書、例えばRemington's Pharmaceutical Sciences, 第20版, 2000, pub. Lippincott, Williams & Wilkins;およびHandbook of Pharmaceutical Excipients, 第2版, 1994に記載されている。
【0118】
あるいは、標的化療法を利用して、抗体または細胞特異的リガンドなどの標的化システムの使用により、活性物質をより特異的にある特定のタイプの細胞に送達することができる。標的化は様々な理由から望ましい;例えば、該作用物質が許容されない毒性を有するか、またはそうしないと過剰に高い用量を必要とする、またはそうしないと標的細胞に進入することができないといった場合である。
【0119】
これらの薬剤を直接投与する代わりに、例えばウイルスベクターで細胞中に導入したコード遺伝子からの発現により、それらを標的細胞中で産生させることができる(VDEPT技法の変法、下記参照)。該ベクターは治療対象の特定の細胞を標的化することができ、またはベクターが標的細胞により多かれ少なかれ選択的にスイッチオンされる調節エレメントを含有することができる。標的化方法それ自体は、標的細胞の表面上のGPC5の発現を利用することができる。
【0120】
あるいは、作用物質を前駆体形態で投与し、治療対象の細胞内で産生させるか、またはそこに標的化された活性化剤により活性型に変換することができる。このタイプのアプローチは、時に、ADEPTまたはVDEPTとして知られている;前者は細胞特異的抗体とのコンジュゲーションにより活性化剤を細胞に標的化することを含み、後者はベクター中の活性化剤、例えば酵素を、ウイルスベクター中のコードDNAからの発現により産生することを含む(例えば、EP-A-415731およびWO90/07936を参照)。
【0121】
組成物は単独で、または他の治療と組合わせて、治療対象の症状に応じて同時または逐次的に投与することができる。
【0122】
健康な成体ヒト組織におけるGPC5の発現はほとんど脳に限られている。それ故に、本発明によるin vivo投与用の医薬組成物その他の組成物を設計する場合、血液脳関門を通過しにくい成分(特に活性成分)の利用が所望される。
【0123】
血液脳関門は、水、二酸化炭素、酸素および麻酔性分子などの小分子(最大約700Da)および/または親油性分子に対して最も透過性がある一方、血漿タンパク質および非脂溶性の高分子有機分子に対してほとんど透過性がない。それ故に、本発明の組成物は、比較的親水性であり、かつ/または少なくとも1kDaを超えるGPC5アンタゴニストおよび/または結合物質を含むことが好ましい。ペプチドおよびタンパク質が好ましい。これに従って、GPC5結合物質およびアンタゴニストをスクリーニングならびに設計するための計画を立てることができる。
【0124】
遺伝子治療
GPC5発現(例えば、アンチセンス、RNAi、siRNAまたはリボザイム分子)のモジュレーター(アンタゴニスト)をコードする核酸は遺伝子治療の方法に利用することができる。かかる核酸を発現できる構築物をレシピエントの細胞中にいずれかの好適な方法により導入して、対応する配列を細胞内に発現させることができる。
【0125】
構築物を裸のDNAの形態で導入して、哺乳動物の筋肉細胞をはじめとする動物被験体の細胞の一部により取り込まれるようにすることができる。本発明のこの態様において、一般的に該構築物は製薬上許容される担体だけで運ばれるであろう。該構築物を、上記のようにリポソーム粒子中に製剤化することもできる。
【0126】
かかる遺伝子治療の方法にはさらに、本発明のポリペプチドを発現できる構築物を含むアデノウイルスまたはレトロウイルスベクターなどの組換えウイルスベクターの使用が含まれる。かかるウイルスベクターは、パッケージングしたウイルス粒子の形態で身体に送達することができる。ウイルスベクター自体を、GPC5結合物質を介して適当な細胞に対して標的化することができる。
【0127】
本発明の構築物は、どのように製剤化し送達するとしても、治療法と併用して腫瘍の治療に使用されるであろう。構築物は、標的細胞内でそれを発現できるプロモーターと連結した対応する核酸を含みうる。構築物をヒトまたは非ヒト哺乳動物レシピエントの細胞中にin situまたはex vivoで導入し、そして身体中への再移植することができる。in situで送達する場合、例えば、標的組織中への注入により、またはリポソームの場合は吸入により、これを行うことができる。
【0128】
遺伝子療法は当該技術分野では広く報告されており、所要の配列の発現に用いるために適合させることができる。
【実施例】
【0129】
材料と方法
患者サンプルおよび細胞株
サンプルは、RMSと診断されたthe Royal Marsden NHS Trustからの患者、または最初の診断の時点でUKCCSG(United Kingdom Children's Cancer Study Group)センターに参加している患者から収集した。さらに、22件のサンプルをthe University hospital in Leuven、Belgiumで収集し、また2件のサンプルをUniversity hospital Dusseldorfから収集した。サンプルを瞬間凍結し、サンプルに近接して採取した材料について高い腫瘍含量を確認した。RMSの病理学的診断は、大多数の事例でMMT研究の病理学評価委員会(the pathological review committee of the MMT studies)により行った。病理学の中央評価が得られない事例では、形態学および免疫組織化学を試験してRMSの病理学的特徴を確認した。ARMSの診断は、いずれかの胞巣型病巣がARMS分類するのに十分であるという現行の組織病理学的判定基準と一致するものとした。大多数の腫瘍の臨床データはUKCCSGデータセンター(Leicester, UK)から取得し、その他のデータは参加病院から直接収集した。21歳未満の患者だけを生存分析に用いた。大多数の患者は、SIOP(Societe Internationale de Oncologie Paediatrique)MMT89(悪性間葉腫瘍)プロトコールまたは密接に関連したMMT95およびMMT98プロトコールを用いて治療した。数人の患者は、MMTプロトコールと比較しうる局所的治療プロトコールを用いて治療した。乳癌および前立腺癌患者由来の腫瘍サンプルは、取り出した後に瞬間凍結した。DNAとRNAを以前に記載されているようにサンプルから抽出した(20)。K562 c1.6細胞(親の赤白血病のサブクローン)は、Adrian Newland教授およびDr Xu-Rong Jiang(The London Hospital Medical College, UK)から好意の提供を受け、そしてトランスフェクション研究に用いたRMS細胞株T91-95は、Jaclyn Biegel(Children's Hospital of Philadelphia)からの寄贈品であった。
【0130】
遺伝的不均衡と示差的発現についての染色体レベルのデータ
以前のRMSに関する研究からのデータには、ゲノム不均衡に対する比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)分析(n=127)(4〜10)(未発表データ)および染色体レベルの示差的発現についての比較発現配列ハイブリダイゼーション(CESH)データ(n=45)(19、20)が含まれる。これらのデータを本明細書で用いて、13q31−q32における、筋肉と比較して示差的発現を伴うゲノム変化を比較した。
【0131】
蛍光in situハイブリダイゼーション−FISH
間期蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)を以前に記載されている通り実施した(21)。本発明者らは、2つのARMS原発性サンプルおよび13q31−32アンプリコンを有するK562細胞株からのタッチプレップ(touch preps)を用いた。13q31−32領域にまたがるBAC(細菌人工染色体)クローンはSanger Centreから入手したが、これにはRP11-51a2、RP11-16n13、RP11-121J7、RP11-215m7、RP11-57f10、RP11-169i15、RP11-210-3が含まれた。
【0132】
GPC5/6 DNAおよびRNAレベルのリアルタイム定量
GPC5およびGPC6のゲノムおよびmRNAコピーの量を測定するために、5セットのプライマーとプローブを設計した(表1を参照)。全てのプライマーとプローブは、Applied BiosystemsのTaqMan(登録商標)標準条件に従って設計した。プライマーとプローブは、GPC5のゲノムコピーを検出するために、GPC5遺伝子のイントロン2内に設計した。GPC6のコピーを検出するために、プライマーとプローブをエクソン3内に設計した。異数性を補正するために遺伝子GJB2を内在性対照として選んだ。GJB2は腫瘍形成に関わることはないと考えられ、かつRMSにおいて改変されることが少ない13番染色体の領域(13q11)に位置する遺伝子である。プライマーとプローブをエクソン1内に設計した。
【0133】
GPC5とGPC6の成熟mRNAコピーの量を測定するために、エクソン1−エクソン2境界およびエクソン7−8境界をそれぞれ横切るプローブを設計した。Applied BiosystemsのPredeveloped GAPDH(グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ)を内在性対照として用いた。25μLの多重PCR反応を、2×Universal TaqMan(登録商標)Master Mix(Applied Biosystems Pt No. 4304437)、表1に示した濃度のプライマーとプローブおよび10ngのDNAまたはcDNAを用いて行った。これらのサンプルを標準的な実施条件下でABI7700 SDS TaqMan(登録商標)Machine(Applied Biosystems, CA)を用いて3回行った。制限的なプライマー条件を設定すると、テンプレート力価測定により比較方法がゲノムおよび発現反応の両方に対して適当であることが示された(データは示していない)。このようにして、GPC5とGPC6の量を、ゲノム測定の場合には正常なゲノムDNAと、そして発現測定の場合には正常な筋肉と比較して測定した。正常なゲノムDNAを健康なドナーの血液から抽出し、正常な筋肉cDNAは11件の正常な筋肉生検サンプルのプールから抽出したRNAから生成した。
【0134】
統計学
全ての統計学的検定は、SPSS10.0パッケージを用いて実施し、かつ5%有意水準で検定した。無病生存期間(failure free survival)は、診断から再発、進行、死亡またはもし問題がなければ最後の接触の日までの期間として定義した。死亡までの期間は、診断から死亡まで、またはもし問題がなければ最後の接触の日までの期間として定義した。
【0135】
WT1 mRNAレベルのリアルタイム定量
WT1を定量するためのプライマー対とプローブを、Primer Expressプログラム(Applied Biosystems)を用いて、推奨されたガイドラインに従い、上記の通り設計した:WT1-フォワードプライマー、5’-TACCCAGGCTGCAATAAGAGATATTTTAAG-3’、リバースプライマー、5’-CCTTTGGTGTCTTTTGAGCTGGTC-3’、およびプローブ、5’-CACTGGTGAGAAACCATACCAGTGTGACTTCAAGGACT-3’。それぞれのアッセイサンプルを3回ずつ上記のように分析し、そして遺伝子発現レベルの測定を促進するために多重化したが、ここで該測定は、GAPDH(in vivo腫瘍サンプル)または18sリボソームRNA発現(リボソームRNA対照試薬、Applied Biosystems)(in vitro細胞株サンプル)との比較において、標準曲線法を用いて行った。
【0136】
ポリクローナル抗体生成、精製およびウェスタンブロット
GPC5に対する市販抗体が存在しないので、特注のポリクローナル抗体をエピトープペプチドH2N−CKSYTQRVVGNGIKAQ−COOH(16aa)に対して、2匹のウサギを免疫感作することにより生起した(Eurogentec, Belgiumが実施した)。5mgのエピトープペプチドを8mlのSulfoLinkカップリングゲル(Pierce Biotechnology, IL)に固定し、これを用いて最高抗体力価を有するウサギからの最終採血血清をアフィニティー精製した。抗体特異性はウェスタンブロットにより確認し、これは、2μLのGPC5 in vitro翻訳反応および対照として2μLのルシフェラーゼin vitro翻訳反応を用いて以前に記載されたように実施した(22)。正しいサイズの単一の明確なバンドをGPC5に対して得た。細胞株から、MEM-PER抽出試薬(Pierce Biotechnology, IL)を用いて膜タンパク質を抽出し、YM-30フィルター(Millipore)を用いて限外濾過して界面活性剤を除き、そしてタンパク質濃度をBCAアッセイキット(Pierce Biotechnology, IL)を用いて測定した。
【表1】

【0137】
GPC5およびWT1を標的化するアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)
2’-O-メトキシエチル(2’-MOE)領域につないだ8個の2’-デオキシ無修飾糖残基の中央ウインドウと、完全にチオアート化された骨格から成る20merの2’-MOEキメラオリゴヌクレオチドを、Isis Pharmaceuticals Inc.によって以前に記載のように合成した(Baker, B. F., Lot, S. S., Condon, T. P., Cheng-Flournoy, S., Lesnik, E. A., Sasmor, H. M.,およびBennett, C. F. (1997) J Biol Chem 272, 11994-12000)。全長mRNA産物全体にわたり予想されるアクセス可能なGPC5 mRNA配列を標的化する20種のアンチセンスオリゴヌクレオチドを得て、K562細胞において活性についてスクリーニングした。マウスc-rafキナーゼを標的化するISIS 15770、配列5’-ATGCATTCTGCCCCCAAGGA-3’、5-10-5ギャップマー(gapmer)をこのスクリーニングの対照に用いた。特定した2種の活性化合物はISIS 276107、配列5’-CAGCCCCCTGACAGCTCCCA-3’およびISIS 276119 配列5’-CCATCTGCAGCAGCTAATTC-3’であった。また、対照としてISIS 276124、配列5’-TGGATTTGCTTTACATCACT-3’も用いた。
【0138】
以前に特定されたWT1 ASOは、WT1エクソン5を標的化するISIS 16609、配列5’-GCCCTTCTGTCCATTTCACT-3’(ASWT1エクソン5)、およびWT1の3’-UTR領域を標的化するISIS 16601、配列5’-CACATACACATGCCCTGGCC-3’(ASWT1 3’UTR)であった。対照ASOはISIS 105730、配列5’−CCATCGACCTGCACCGATCA−3’、ASWT1 3’UTRのスクランブル配列(ASWT1scram)とした。
【0139】
GPC5およびWT1アンチセンス活性の評価
アンチセンスまたは対照オリゴヌクレオチドをPBSに溶解し、低電圧エレクトロポレーションによりK562細胞中に導入した:40μlの適当に希釈したASOを360μlの細胞懸濁液(2×10細胞/ml)と併せ、そして細胞をPulse Controller Plusキャパシタンスエクステンダー・アクセサリーモジュールを備えたBio-Rad Gene Pulser(登録商標)IIエレクトロポレーションシステム(Bio-Rad Laboratories Ltd, Hemel Hempstead, Herts, UK)により300Vおよび静電容量値1000μFにてエレクトロポレーションし、そして完全培地を用いて10mlに希釈した。それぞれのサンプルから、細胞の適当な重複アリコートを完全培地で連続希釈して細胞毒性の評価を行う一方、残りの細胞を37℃にて24時間インキュベートし、RNAを抽出してGPC5および/またはWT1発現レベルを定量した。
【0140】
クローン原性細胞生存アッセイ
本アッセイにおいては、処理後に細胞を軟寒天中の懸濁状態で低密度にて増殖させる。形成される各コロニーは単一生存細胞に由来する。希釈した細胞の2mlアリコートを、20%FCSおよび0.2%Noble寒天(DIFCO Laboratories, Detroit, Michigan)を添加した3mlの培地を含有するポリスチレンチューブ(Elkay Products (UK) Ltd., Basingstoke, Hampshire, UK)に加え、そして37℃にてインキュベートし、14日後に32個以上の細胞を含有するコロニーを数えた。薬物処理後に形成されたコロニーの数を、模擬(sham)エレクトロポレーション後に得た数または対照スクランブルオリゴヌクレオチドと比較し、対照処理%として表した。複数の別々の実験において、対照プレーティング効率は、典型的にはプレーティングした800〜1600個の細胞について22〜38%の範囲にあった。さらに、希釈系列(約10〜10細胞/ml)からの細胞を平行して3〜5日間、懸濁培養液中で増殖させて細胞毒性を確認した。
【0141】
GPC5構築物の生成とトランスフェクション
ヒトGPC5の全コード領域を含有するImageクローン5744533を、ATCC(American Type Culture Collection at LGC Promochem, UK)から得た。コード領域をXpand高フィデリティーPCRキット(Roche, Switzerland)およびプライマーを用いて増幅し、インフレームのkozak配列を5’末端に含有する産物を生成した(表1を参照)。この産物をベクターpCR4-TOPO(Invitrogen, CA)中にTAクローニングし、配列をApplied Biosystems Big Dye配列決定キットバージョン1および377 ABI Prism配列決定マシンを用いて確認した。該インサートをEcoRIを用いて制限消化し、EcoRI消化したベクターpCMV-TnT(Promega, UK)中にT4 DNAリガーゼ(Invitrogen, CA)を用いて再ライゲーションした。精製したpCMV-TnT-GPC5と対照であるT7-ルシフェラーゼプラスミドを、ビオチン標識したリジンを含むPromegaのQuick coupled TnT T7 in vitro翻訳システム(Promega, UK)を用いて製造業者の指示書に従いin vitro翻訳した。産物をSDS-PAGEにより分離し、Immoblion-P PVDF膜(Millipore, UK)上にブロットし、そしてストレプトアビジン-アルカリホスファターゼおよびウェスタンブルー比色基質(Promega, UK)を用いて製造業者の指示書に従い発色させた。
【0142】
Wizard Purefectionキット(Promega, UK)によるプラスミドのクリーンアップ後に、プラスミドを約75%コンフルエンスのT91-95 RMS細胞株中にFuGene6トランスフェクション試薬(Roche, Switzerland)を3μl FuGene:1μg DNAの比で用いてトランスフェクトした。pCMV-TnT-GPC5を、10:1のモル比でpTK−Hyg(Clontech, CA)と共に同時トランスフェクションした。空pCMV-TnTベクターを10:1モル比でpTK-Hygと共に用いた対照トランスフェクションも実施した。細胞をDulbecco改変Eagle培地(DMEM)および10%胎児ウシ血清中で増殖した。安定なコロニーを得るためにトランスフェクション48時間に200μg/mlのハイグロマイシン(Clontech, CA)を加えた。2週間後、健常で安定なコロニーを選択して増殖させた。GPC5の過剰発現は、DNase処理cDNA(DNA Free, Ambion, TX)を用いるTaqMan RT-PCRにより確認し、増加したタンパク質をウェスタンブロット分析により確認した。
【0143】
細胞増殖アッセイ
安定してトランスフェクトした細胞の増殖特性を評価するために、代謝酵素であるヘキソサミニダーゼの、p−ニトロフェノール−N−アセチル−β−D−グルコサミニドを分解して着色産物を生成する能力に基づく方法を、以前に記載された通り使用して細胞数を測定した(23)。
【0144】
結果
CGHデータとCESHデータとの比較
文献で利用しうる全てのCGHデータのメタ分析は、領域13q31−32がARMSの21/87(25%)およびERMSの9/40(22%)で増加していることを示した。ARMSの5/87(6%)がこの領域を増幅していることが明らかになった(4〜10)(未発表データ)。ある領域の総体的な示差的発現を領域基準で検出するCESH分析は、ARMSの7/27(26%)およびERMSの4/19(21%)が、正常筋肉と比較して13q31−32からの過剰発現を示すことを明らかにした。CGHデータとCESHデータが同じサンプルから利用しうる場合では、13q31−32に増加のあるサンプルの大部分(7/8(88%))は領域13q31−32からの過剰発現をも示していた。さらに、3件のサンプルは、CGHによる明らかな増加なしに該領域からの過剰発現を示した。
【0145】
13q31−32アンプリコンの間期FISH分析
13q31−32にマッピングされるBACを用いて、2つの原発性RMSサンプルおよび細胞株K562での増幅領域を、13番染色体の物理的マップ(32で構築された)における約3.8Mb長(約88,200K〜約91,900K)の13q31−32の領域に位置付けることが可能であった(図1参照)。この増幅領域のうちの2Mbは両方のRMSサンプルにおいて最高コピー数を有し、かつこの2Mb区間は遺伝子GPC5(グリピカン5)を含有する。約2Mb長のGPC5は、ヒトゲノムにおいて現在のところ2番目に大きい遺伝子である(24)。K562での増幅レベルは、GPC5のテロメア側にある次のアノテーション付き遺伝子であるGPC6の手前で低くなりそして停止するようである。GPC5に加えて、この増幅領域内の唯一の他のキュレートされた(curated)遺伝子は偽遺伝子であり(www.ncbi.nlm.nih.gov/locuslink)、最近同定されたC13ORF25である(33)。Yuらによる5件のリンパ腫サンプルにおける13q31−q32増幅のFISHマッピングは、同じ領域にわたるがGPC5のセントロメア側に余分な1Mbがつながった最小限の増幅を明らかにした(13)。
【0146】
GPC5/GPC6ゲノムコピー数と発現の定量
RMSと診断された102個体(そのうち45人はARMS、51人はERMS、そして5人は特定できないRMS(RMS−NOS)であった)から採取した原発性腫瘍サンプルにおいてGPC5のゲノム数を測定した。102人のRMSのうちの13人(13%)、サブタイプ別ではARMSの7/45(16%)、ERMSの6/51(12%)は正常DNAと比較して1.5倍を越えるGPC5コピーの増加を示す。最大の増幅は、正常なゲノムDNAより約90倍大きいゲノムコピーを示す。このデータは、データを利用しうるサンプルに対するCGHおよびFISHデータと一致した(4)。ARMSとERMSにおけるゲノムコピー数の間に有意差はなかった。GPC5コピーの増加した全サンプルのGPC6コピー数を測定し、ゲノムコピー数の増加がないことを示した。
【0147】
GPC5の発現を85個体(そのうち42人はARMSと診断され、39人はERMSと診断され、そして4人はRMS-NOSと診断された)について測定した。GPC5の発現は一致して正常な筋肉より大きく、数桁の量の範囲にあり;中央値は正常な筋肉より83.5倍大きかった(図2Aを参照)。GPC5増幅の有るサンプルにおける発現は常に上位4分の1に入っているものの、GPC5増幅の無いいくつかのサンプルにおいても過剰発現が明らかである。従って、コピー数と発現の間に有意な相関はない。さらに、ERMSとARMSの間でGPC5発現に有意差はなく;ARMS中央値は正常な筋肉と比較して80.5倍大きく、ERMS中央値は正常な筋肉と比較して126倍大きい。GPC6発現は、1件を除く全ての試験したRMSサンプルにおいて実質的に検出されなかった。
【0148】
同じセットの横紋筋肉腫cDNAサンプルについて、C13ORF25の発現も測定した。結果を図2Bに示す。ゲノム増幅を有する大多数のサンプルも比較的高いC13ORF25の発現を示す一方、重要なこととして、ゲノム増加を示すが発現を示さない2つのサンプルがある。このようなことはGPC5にはない。さらに、おおよそ半分のサンプルは検出しうるC13ORF25の発現を示さない、この事は、多くのサンプルが筋肉中に見られるよりも遥かに高い発現レベルを示すGPC5と対照的である。これらのデータは、C13ORF25Aの発現がゲノム増加の影響を受けることを示唆する一方、その横紋筋肉腫形成に対する影響は(もし有るとしても)恐らくGPC5のそれより顕著に小さいと思われる。
【0149】
臨床と病理学の相関
GPC5コピーのゲノム増加は主に、より年少の小児で発生するようである。21歳未満の付随年齢データを有する83件のサンプルのうち、増幅のある13件の全サンプルは0〜10歳齢であったが、増幅のないサンプルのうち42件が0〜10歳齢で、残りの28件は10〜21歳齢であった。GPC5のゲノムコピーの増加がある患者と腫瘍のゲノムコピーの増加のない患者の診断時年齢には、有意な不均一性が存在する:尤度比=8.332、n=83、p=0.0038。GPC5発現またはGPC5増幅と、進行度、ステージ、致死期間または無病生存期間との間に有意差は観察されない。
【0150】
GPC5ダウンレギュレーションと細胞増殖
20種のGPC5を標的化したアンチセンスオリゴヌクレオチドを、GPC5レベルおよび細胞生存の両方を有意に低下させる能力についてスクリーニングした。2種の活性化合物、ISIS 276107およびISIS 276119をこの一次スクリーニングにおいて特定した;これらはGPC5レベルを対照レベルの30%未満に低下させ、かつ細胞生存を80%より大きく低下させた(図3A)。これらの結果を、このスクリーニングからのGPC5レベルと細胞生存の両方に影響を与えない2種の他の典型的なASOと比較した。予備的なものであるが、これらのデータはGPC5発現のダウンレギュレーションと細胞生存度の低下との相関を示唆する。
【0151】
図3BおよびCは、同じアッセイにおける様々な濃度でのISIS 276107と対照化合物(ISIS 276124)の効果を示す。パネルBでは、活性化合物ISIS 107と、細胞生存度またはGPC5発現に影響を与えないことがわかっている(データは示していない)対照化合物ISIS 276124による処理後の軟寒天クローン形成アッセイにおける、模擬処理レベルと比較してのコロニーのパーセンテージを示している。HL-60(GPC5を発現しない対照白血病細胞株)は、活性ISIS 107または対照ISIS 124化合物を用いた処理後にコロニー数の減少を示さない。パネルCは、処理後24時間の模擬(sham)処理したレベルと比較したGPC5の発現割合を示す。
【0152】
前立腺および乳癌におけるGPC5発現
上記の横紋筋肉腫サンプルに対するのと同じアッセイを、前立腺サンプルに対して行った;但し、発現は正常な筋肉cDNAの代わりに、市販の正常な前立腺RNAプールから合成した正常な前立腺cDNAと比較して測定した。
【0153】
図4Aでは、複数の個体のサンプル中のGPC5の発現レベルを示す。いくつかのサンプルは正常な前立腺より高い発現を示す。さらに、前立腺癌においては良性前立腺過形成(BPH)と比較して有意に高い発現が見られる;マン・ホイットニーU=16、p=0.011、N=24。しかし、6件のBPHサンプルしかないことから、結果の有意性は慎重に解釈する必要がある。併せて考えると、このデータは前立腺癌の発生におけるGPC5過剰発現の潜在的役割を示唆するものである。
【0154】
図4Bでは、正常な前立腺組織と比較した、前立腺腺癌(n=45)および良性前立腺過形成(n=25)の、さらに大きいサンプルにおける全GPC5発現を示す。ここで使用したサンプルには、図4Aで結果を示したサンプルが含まれる。
【0155】
図5Aに示した乳癌サンプルについては、正常筋肉cDNAでなく、正常乳房cDNA生検組織と比較して測定を実施し、そして3回ではなく2回実施した。
【0156】
データはいくつかのサンプル中のGPC5の相対的な過剰発現を示す。最高値は、転移を有するリンパ節から採取した生検に見られた。これは、これらのサンプル中の腫瘍形成におけるGPC5の潜在的関与を示唆する。
【0157】
次いでGPC5の発現を、TaqMan分析により7件の正常な乳房サンプルと44件の乳癌サンプルについて測定した。正常乳房の平均GPC5発現および95%信頼区間を計算した。GPC5発現が正常サンプルに対する上方信頼区間を越える腫瘍サンプルは、GPC5を過剰発現していると考えられる。サンプルを疾患のステージ(ステージ1、2または3)に従ってグループ化した。6件のサンプルのうちの過剰発現を示す5件はステージ3である。GPC5を過剰発現するこれらのサンプルのステージには有意差がある;Fisherの正確確率検定:p=0.017、n=44(図5B)。
【0158】
MYCN発現との相関
いくつかのサンプルに対して、本発明者らは既に以前のTaqMan研究から得たMYCNの発現についての情報を有していた(データは示していない)。PAX/FOXO1A転座が確認されたERMSおよびARMSにおいて、GPC5の発現はMYCNの発現と有意な相関のあることを見出した:それぞれSpearmanのρ=0.497、n=38、p=0.002およびSpearmanのρ=0.399、n=26、p=0.043。
【0159】
ウィルムス腫瘍遺伝子(WT1)産物によるGPC5発現の調節
以前に行ったWT1に対するASOを用いたK562細胞処理後の遺伝子プロファイル研究により、GPC5を推定上にWT1標的遺伝子として同定した(原稿作成中)。WT1アンチセンス処理後と、WT1発現低下と相関するGPC5発現のダウンレギュレーションを独立した実験で確認した(図6を参照)。同様に、予備的なin vivo研究により、WT1アンチセンスを用いて処理した胸腺欠損ヌードマウスにおいて、皮下移植片として増殖させたPC3M前立腺癌細胞におけるGPC5のダウンレギュレーションを実証した:ASWT1エクソン5マウス中のWT1発現レベルの50%減少はGPC5発現の30%減少に反映された(データは示していない)。GPC5はそのプロモーター領域に2つのWT1コンセンサス結合部位を有するので、GPC5のWT1による直接転写調節は起こりうる。
【0160】
同じin vivoモデル系を用いて、本発明者らはマウスのドセタキソール(15mg/kg)処理後のPC3M腫瘍におけるWT1とGPC5発現の両者のアップレギュレーションの予備的な証拠を得た:WT1発現の9倍増加がGPC5発現の5倍増加に反映された。これらの研究結果は、GPC5過剰発現が癌化学療法により誘導される可能性を生じさせる。該PC3M腫瘍モデルは細胞毒性薬物治療に対して比較的耐性があるので、GPC5発現のアップレギュレーションが治療法に対する応答不良の原因でありうるという予想をもたらす。
【0161】
GPC5過剰発現と細胞増殖
GPC5の過剰発現が発癌性を与えうるかを試験する目的で、GPC5を構成的に発現させるためにGPC5構築物をCMV(サイトメガロウイルス)プロモーターの制御下においた。この構築物をin vitro翻訳により試験して、適当なサイズのタンパク質(63Kd)を産生することがわかった(図8Cを参照)。RMS細胞株T91-95を安定的にトランスフェクトし、健常なコロニーを拾った。T91-95は、GPC5とMYCNの両方を正常な筋肉と同様なレベルで発現するRMS細胞株である。GPC5をトランスフェクトしたコロニー5個と空ベクター対照をトランスフェクトしたコロニー5個を無作為に選択して細胞増殖アッセイを行った。
【0162】
細胞を、24ウェルプレート当たり7500細胞にて3回反復してプレーティングした。細胞が回復しかつプレーティング効率および細胞計数誤差の潜在的変動を標準化することができるように、最初の測定は16時間に行った。増殖アッセイは、吸収が細胞数と比例する比色PNNAGアッセイを用いる。対数標準化増殖を、(64時間における三重測定の吸収の平均自然対数−16時間における三重測定の吸収の平均自然対数)として計算する。GPC5過剰発現コロニーの対数標準化増殖は対照コロニーと比較して有意差がある:p=0.027、t=2.70、n=10(図8A)。
【0163】
図8Bは、GPC5過剰発現コロニーおよび対照コロニーにおけるTaqManアッセイにより測定したGPC5の発現レベルを、正常な筋肉組織と比較して示す。
【0164】
考察
本発明者らのデータは、RMSの発生におけるGPC5遺伝子(細胞表面ヘパラン硫酸プロテオグリカン)の潜在的役割を支持しかつ特徴付けるものである。従来のデータの分析によって、GPC5遺伝子を保持する13q31−32領域に対応する示差的過剰発現は、胞巣型および胎児型サブタイプの両方で、該領域を増幅する事例においておよび増幅がないいくつかの事例においても見出されることが示された。このデータはGPC5コピー数および発現の定量分析結果に反映されており、併せて、GPC5の過剰発現が両方のサブタイプのRMSの病原性に重要であることを示唆する。該データはまた、ゲノム増幅以外のメカニズムによりアップレギュレーションされる遺伝子発現とも矛盾しない。
【0165】
グリピカンは、保存された細胞表面ヘパラン硫酸プロテオグリカンのファミリーであって、FGF(線維芽細胞増殖因子)およびWntなどのヘパラン結合増殖因子の活性をモジュレートすると考えられている(25)。他のグリピカンファミリーのメンバーの脱調節がいくつもの腫瘍の発生と関連付けられている。GPC1(グリピカン-1)はヒト膵臓癌で過剰発現すること、ならびにHB-EGF(ヘパラン結合上皮増殖因子)およびFGF2(線維芽細胞増殖因子2)の作用をポジティブに調節することが示されている(26)。さらに、GPC1を過剰発現している膵臓癌細胞株PANC-1におけるGPC1アンチセンス構築物の安定なトランスフェクションは、腫瘍形成性を低下させた(27)。GPC1は同様に乳癌において過剰発現され、かついくつものヘパラン結合増殖因子の活性をモジュレートする(28)。GPC3は7/10の神経芽細胞腫細胞株、4/4の原発性神経芽細胞腫サンプルおよび7/7の原発性ウィルムス腫瘍サンプルにおいて異常に過剰発現することが示されている(29)。これらの腫瘍での発現は、RMSにおいてしばしば過剰発現される遺伝子であるIGF2(インスリン様増殖因子II)の発現と相関があることが示されている(30)。
【0166】
13q31領域におけるわずか2つのアノテーション付きの遺伝子の試験結果は、RMSにおける13q31増幅は遺伝子GPC5を含むがGPC6を含まないことを実証した。該領域から他の配列が発現されないことは示されているが、それでもなお特徴付けられていない遺伝子が効果を及ぼす可能性は残る。Yuらと対比して、本発明者らの増幅は遺伝子GPC5にピークの中心があるようである。本発明者らがRMS細胞中のGPC5のタンパク質レベル上昇の機能的結果を実証したように、リンパ腫細胞株での増幅に付随したこの遺伝子の過剰発現は同様の効果をもたらすと思われる。さらに、本発明者らは、他の型の軟組織肉腫、すなわち平滑筋組織に似ている平滑筋肉腫における13q31−32からの増幅および/または過剰発現に注目する(11、20)(未発表データ)。他の肉腫タイプでもこの領域の増幅が報告されており、それ故に、この遺伝子のアップレギュレーションは軟組織肉腫のさらに一般的な特徴である可能性がある。これは、この領域の増幅について記載された他の腫瘍タイプ、例えば、乳癌、小細胞性肺癌、髄芽腫およびグリア芽細胞腫に拡張することができる(11〜17)。対応する正常組織と比較した前立腺癌および乳癌におけるGPC5の発現レベルについての予備的データは、これらの腫瘍のいくつかがこの遺伝子を異常に過剰発現することを示唆する。
【0167】
GPC5の増幅および/または過剰発現はRMSでしばしば起こるが、本発明者らはこれらが予後診断の臨床的マーカーとして有用でありそうだという証拠は有していない。研究したシリーズにおいて、GPC5を増幅するかまたは過剰発現する腫瘍を有する患者の、そうでない患者と比較した生存特性に有意差は存在しないようである。さらに、増幅は0〜10歳の患者に支配的であるように思われ;これらの患者は一般的に予後の改善がみられるグループである(31)。恐らく組織アレイを用いる、より大きいコホートのサンプルのさらなる分析をすれば、GPC5の脱調節が臨床的に重要な横紋筋肉腫のサブグループを特定することができよう。他の可能性は、患者の血液血清中のGPC5タンパク質の検出が、血清中のGPC1タンパク質が肝細胞癌の患者を特定するのと同じ様にRMSまたは他の癌のマーカーとしての役割を果たしうることである(32)。
【0168】
GPC5の発現が発癌遺伝子MYCNの発現と相関があるという事実はさらに、RMSの腫瘍形成におけるGPC5の役割を支持する証拠となる。この関係が因果関係を有するかどうかはこの研究からは明らかでない。確かに本発明者らのin vitroモデルにおいてGPC5過剰発現はMYCNの過剰発現を生起しない。しかし、GPC5転写開始位置の上流近くの配列はE−ボックス(MYCトランス活性化部位)コンセンサス配列を含有し、MYCNによるGPC5の直接的トランス活性化の可能性を示唆することは注目に価する。
【0169】
可能性として重要なことは、WT1遺伝子産物によるGPC5の明らかな調節である。発癌性であると証明されていないが、WT1はその発現が脱調節されている白血病および広範囲の固形腫瘍における悪性表現型の維持に寄与しうる。さらに、WT1は薬物耐性メカニズムと関係があるとされていて、癌療法の潜在的な標的として研究されている。これまでの本発明者らの研究はGPC5がWT1発現の下流の生物学的効果の少なくともいくつかを十分媒介できることを示し、可能性として、GPC5は治療介入のより有効な標的となりうることを示す。
【0170】
結論として、本発明者らは、GPC5はRMSにおいて増幅および/または過剰発現されること、ならびにGPC5が新規の発癌遺伝子であることを立証した。GPC5はいくつもの理由により、新規療法に対する特に魅力的な標的である。第1に、GPC5は細胞表面タンパク質であるので、いくつもの考えられる抗GPC5療法にとって物理的にアクセス可能であるからである。第2に、GPC5は潜在的に複数の増殖因子のモジュレーターとして作用するので、GPC5の機能を低下する療法は複数の腫瘍形成経路に影響を与えうるからである。第3に、GPC5はいくつもの他の癌タイプの腫瘍形成において重要であると思われるからである。
【0171】
参考文献





【0172】
本明細書に引用した全ての参考文献の開示は、当業者が本発明を実施するために使用しうる限りにおいて、これにより明確に相互参照によって本明細書中に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0173】
【図1】2種類の原発性RMSサンプルおよび細胞株K562中の増幅された13q31−q32領域にわたるBACを用いたFISHの結果である。
【図2−1】A:正常な筋肉と比較してのGPC5発現の対数分布を示すグラフである;左(胎児型)、右(胞巣型)。
【図2−2】B:正常な筋肉と比較した横紋筋肉腫でのC13ORF25Aの発現を示すグラフである。
【図3−1】K562細胞における、GPC5 mRNAレベルおよび細胞生存に対するGPC5アンチセンスオリゴヌクレオチドの効果を示すグラフである。パネルAは13種の代表的なGPC5標的化オリゴヌクレオチドについてのデータを、対照オリゴヌクレオチド15770と比較して示す。
【図3−2】K562細胞における、GPC5 mRNAレベルおよび細胞生存に対するGPC5アンチセンスオリゴヌクレオチドの効果を示すグラフである。パネルBおよびCは活性オリゴヌクレオチドの1つ(276107)についての用量−反応曲線を、276124と称する別の対照オリゴヌクレオチドと比較して示す。
【図4】A:18件の前立腺癌サンプルおよび6件の良性前立腺過形成サンプルにおけるGPC5 mRNA発現のレベルを、正常前立腺と比較して示すグラフである。B:前立腺癌と良性前立腺過形成との間のGPC5発現の全体的相違を示すグラフである。
【図5】A:乳癌サンプルにおけるGPC5 mRNA発現を、正常な乳房生検組織と比較して示すグラフである。B:44件の乳房腫瘍のサンプル中のGPC5を発現するステージ1、2または3の腫瘍の数を、正常乳房組織と比較して示すグラフである。
【図6−1】K562細胞において、処理後24時間および48時間両方の、WT1およびGPC5 mRNAレベルに対するWT1アンチセンスオリゴヌクレオチドの効果を示し、WT1がGPC5発現を調節することを示唆する棒グラフである。
【図6−2】K562細胞において、処理後24時間および48時間両方の、WT1およびGPC5 mRNAレベルに対するWT1アンチセンスオリゴヌクレオチドの効果を示し、WT1がGPC5発現を調節することを示唆する棒グラフである。
【図7】ドセタキソールを用いて処理したPC3M腫瘍における、WT1およびGPC5 mRNA両者のアップレギュレーションを示す棒グラフである。
【図8】RMS細胞株T91−95におけるGPC5過剰発現の効果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞をGPC5アンタゴニストまたはGPC5結合物質と接触させるステップを含む、標的細胞の増殖を阻害する方法。
【請求項2】
前記標的細胞がGPC5を不適当に発現しているか、または過剰発現している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞がWT1を不適当に発現しているか、または過剰発現している、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞が癌細胞である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記癌が、横紋筋肉腫、リンパ腫、非小細胞性肺癌、膀胱癌、乳癌、前立腺癌、神経グリア腫瘍、頭頸部の扁平上皮癌、白血病、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、骨もしくは軟組織の悪性線維性組織球腫、メラノーマ、中皮腫、甲状腺癌、肺癌、精巣癌または卵巣癌である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞が、13q31での染色体内アンプリコンを有していない、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記結合物質が、GPC5コアタンパク質および/またはそれに随伴するヘパラン硫酸鎖に結合するものである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記結合物質が抗体またはペプチドである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
細胞を治療薬と接触させるステップをさらに含む、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記治療薬が結合物質に随伴しているものである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記治療薬が結合物質に結合することができるものである、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記治療薬が、細胞毒性分子、酵素作用により細胞毒性分子へと変換可能な前駆体分子、免疫系の細胞もしくは分子、またはウイルスベクターを含んでなる、請求項9〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記GPC5アンタゴニストが、細胞表面で機能的GPC5の発現を阻害するものである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記GPC5アンタゴニストが、GPC5 mRNAまたはプレmRNAの配列に相補的な核酸配列を含んでなる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記GPC5アンタゴニストが、アンチセンスRNA、RNAiもしくはsiRNAのようなdsRNA、またはリボザイムを含んでなる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記GPC5アンタゴニストがGPC5タンパク質の活性を阻害するものである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記GPC5アンタゴニストが抗体またはペプチドである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
細胞を治療薬と接触させるステップをさらに含んでなる、請求項13〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記GPC5アンタゴニストが、治療薬に対する細胞の感受性を増大させるものである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
GPC5アンタゴニストもしくは結合物質を用いた治療に対する癌の感受性を測定するための方法であって、該癌由来の細胞でのGPC5および/もしくはWT1の発現の存在、非存在またはレベルを決定するステップを含む、上記方法。
【請求項21】
前記癌由来の細胞における13q31での染色体内増幅の存在、非存在または程度を決定するステップをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
GPC5アンタゴニストもしくは結合物質を用いた治療に対する癌の感受性を測定するための方法であって、13q31での染色体内増幅の存在、非存在または程度を決定するステップを含む、上記方法。
【請求項23】
前記癌由来の細胞でのGPC5および/もしくはWT1の発現の存在、非存在またはレベルを決定するステップをさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記癌が、横紋筋肉腫、リンパ腫、非小細胞性肺癌、膀胱癌、乳癌、前立腺癌、神経グリア腫瘍、頭頸部の扁平上皮癌、白血病、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、骨もしくは軟組織の悪性線維性組織球腫、メラノーマ、中皮腫、甲状腺癌、肺癌、精巣癌または卵巣癌である、請求項20〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
患者体内で循環中のGPC5の存在、非存在またはレベルを決定するステップを含む、患者における癌の存在のスクリーニング方法。
【請求項26】
患者由来のサンプルにおいて循環中のGPC5の存在、非存在またはレベルを決定するステップを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記サンプルが血液、血清または血漿である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記サンプルをGPC5結合物質と接触させるステップを含む、請求項26または27に記載の方法。
【請求項29】
前記癌が、横紋筋肉腫、リンパ腫、非小細胞性肺癌、膀胱癌、乳癌、前立腺癌、神経グリア腫瘍、頭頸部の扁平上皮癌、白血病、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、骨もしくは軟組織の悪性線維性組織球腫、メラノーマ、中皮腫、甲状腺癌、肺癌、精巣癌または卵巣癌である、請求項25〜28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
標的細胞の増殖を阻害することが可能な作用物質のスクリーニング方法であって、以下のステップ:
(i) GPC5タンパク質を1種以上の候補物質と接触させるステップ;
(ii) GPC5タンパク質に結合する能力に基づいて1種以上の候補物質を選択するステップ;
(iii) 1種以上の選択された該候補物質を標的細胞と接触させるステップ;および
(iv) 選択された該物質の、該細胞の増殖に対する効果を測定するステップ
を含む、上記方法。
【請求項31】
前記細胞がGPC5を不適当に発現しているか、または過剰発現している、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記細胞が癌細胞である、請求項30または31に記載の方法。
【請求項33】
前記癌が、横紋筋肉腫、リンパ腫、非小細胞性肺癌、膀胱癌、乳癌、前立腺癌、神経グリア腫瘍、頭頸部の扁平上皮癌、白血病、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、骨もしくは軟組織の悪性線維性組織球腫、メラノーマ、中皮腫、甲状腺癌、肺癌、精巣癌または卵巣癌である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
患者由来の乳房腫瘍でのGPC5発現レベルに基づいて該患者に対する予後診断をするステップを含む、乳癌患者の予後を決定する方法。
【請求項35】
患者由来の乳癌細胞を含有するサンプルを用いてin vitroでGPC5の発現の存在、非存在または程度を決定するステップを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記サンプルをGPC5結合物質と接触させることを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
癌の細胞でのGPC5発現を測定するステップを含む、GPC5を発現することが予め明らかになっている癌に対する治療の成功をモニタリングするための方法。
【請求項38】
前記癌の細胞をGPC5結合物質と接触させるステップを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
患者由来の癌細胞を含有するサンプルを用いてin vitroで行うものである、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
得られた結果を、治療前および/または治療の初期段階で同一患者について行った同等なアッセイの結果と比較するステップを含む、請求項37〜39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記癌の細胞中のGPC5発現レベルを測定するステップ、あるいはGPC5を発現もしくは過剰発現している細胞の数または密度を測定するステップを含む、請求項37〜40のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−530519(P2007−530519A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−504468(P2007−504468)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【国際出願番号】PCT/GB2005/001085
【国際公開番号】WO2005/092379
【国際公開日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(504052958)ザ インスティチュート オブ キャンサー リサーチ,ロイヤル キャンサー ホスピタル (7)
【Fターム(参考)】