説明

癌を治療するための細菌組成物

【課題】細菌組成物を使用して癌を治療する方法の提供。
【解決手段】1種又は複数の病原細菌種の抗原(スーパー抗原を除く)を有効量含む、患者の特定の器官又は組織の癌の治療用組成物であって、前記病原細菌種が、前記特定の器官又は組織において病原性の種であり、前記抗原が、前記病原細菌種の弱毒化した細菌の死滅細胞全体を含む、前記治療用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は総じて、癌の治療法を提供する。より詳細には本発明は、細菌組成物を使用して癌を治療する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
先進国においては3人に1人以上が癌と診断され、4人に1人以上が癌で死亡している。癌の治療は主に、手術、化学療法及び放射線などの治療による。しかしながら、これらの手法は、癌のいくつかのタイプ及びステージにおいては有効であるが、癌の多くの一般的なタイプ及びステージにおいては限られた効力しか有さないことが証明されている。例えば、腫瘍の外科的治療は、再発を予防するために癌組織を完全に除去することを必要とする。同様に、放射線治療は、癌細胞の完全な破壊を必要とする。理論的には、たった1つの悪性細胞でも、癌の再発をもたらすに十分なほど増殖しうるために、癌細胞を完全に破壊することは困難である。さらに、外科的治療も放射線治療も、癌の局所領域を対象としており、癌が転移する場合には相対的に無効である。往々にして、手術又は放射線或いは両方は、化学療法などの全身的手法と組み合わせて使用される。しかしながら、化学療法は、非選択性の問題と共に、有害な副作用という付随する問題を有し、さらに、癌細胞が薬物に対して耐性を発揮する可能性を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
癌を治療するための別の手法には、サイトカイン治療(例えば腎臓癌での組換えインターロイキン2及びガンマインターフェロン)、樹状細胞治療、自己腫瘍ワクチン治療、遺伝子改変ワクチン治療、リンパ球治療及び細菌ワクチン治療などの免疫系の刺激に関する治療が含まれる。前記の治療は全て、使用に限界があることが証明されている:サイトカイン治療は、数少ないケースでのみ有効であり、樹状細胞治療も同様であり、後者は、時間と費用もかかる。種々のワクチン治療が、かなり多様な効力を示しており、細菌ワクチンのケースでは、様々な癌において無効であることが判明している。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は一部では、特定の器官、組織又は細胞において病原性である1種又は複数の病原細菌種(pathogenic bacterial species)の抗原を投与することにより、患者の特定の器官、組織又は細胞の癌を治療する方法を提供する。
【0005】
一態様では、本発明は、1種又は複数の病原細菌種の抗原を有効量で患者に投与することにより、患者の特定の器官、組織又は細胞の癌を治療する方法を提供するが、この際、病原細菌種は、その特定の器官、組織又は細胞において病原性の細菌種である。
【0006】
癌が肺癌である場合には、病原細菌種は、ストレプトコッカス・ニューモニエ、モラクセラ・カタラーリス、マイコプラズマ・ニューモニエ、クレブシエラ・ニューモニエ、ヘモフィルス・インフルエンゼ、スタヒロコッカス・アウレウス、クラミジア・ニューモニエ又はレジオネラ・ニューモフィラであってよい。
【0007】
癌が大腸癌である場合には、病原細菌種は、バクテロイデス・フラギリス、バクテロイデス・ブルガタス、バクテロイデス・シータイオタオミクロン、クロストリジウム・パーフリンジェンス、クロストリジウム・ディフィシレ、大腸菌、サルモネラ・エンテリティディス、エルシニア・エンテロコリチカ又はシゲラ・フレクスネリであってよい。
【0008】
癌が腎臓癌である場合、病原細菌種は、大腸菌、プロテウス・ミラビリス、プロテウス・ブルガタス、プロビデンチア(Providentia)種、モルガネラ種又はエンテロコッカス・フェカーリスであってよい。
【0009】
癌が前立腺癌である場合、病原細菌種は、大腸菌、コリネバクテリウム種、エンテロコッカス・フェカーリス又はナイセリア・ゴノロエエであってよい。
【0010】
癌が皮膚癌である場合、病原細菌種は、スタヒロコッカス・アウレウス、ストレプトコッカス・ピオゲネス、コリネバクテリウム・ジフセリエ、コリネバクテリウム・ウルセラン(ulcerans)又はシュードモナス・アエルギノーザであってよい。
【0011】
癌が骨癌である場合、病原細菌種は、スタヒロコッカス・アウレウスであってよい。
【0012】
癌が口腔癌である場合、病原細菌種は、プレボテラ・メラニノゲニク(melaninogenicus)、嫌気性連鎖球菌、ビリダンス連鎖球菌(例えばストレプトコッカス・サリバリウス、ストレプトコッカス・サングイス又はストレプトコッカス・ミュータンス)又はアクチノミセス種であってよい。
【0013】
癌が精巣癌である場合、病原細菌種は、大腸菌、サルモネラ・エンテリティディス又はスタヒロコッカス・アウレウスであってよい。
【0014】
癌が子宮癌である場合、病原細菌種は、バクテロイデス・フラギリス、大腸菌、ナイセリア・ゴノロエエ又はクラミジア・トラコマチスであってよい。
【0015】
癌が卵巣癌である場合、病原細菌種は、バクテロイデス・フラジリス、大腸菌、ナイセリア・ゴノロエエ又はクラミジア・トラコマチスであってよい。
【0016】
癌が膣癌である場合、病原細菌種は、バクテロイデス・フラジリス又は大腸菌であってよい。
【0017】
癌が乳癌である場合、病原細菌種は、スタヒロコッカス・アウレウス又はストレプトコッカス・ピオゲネスであってよい。
【0018】
癌が胆嚢癌である場合、病原細菌種は、バクテロイデス・フラギリス、バクテロイデス・ブルガタス、バクテロイデス・シータイオタオミクロン、クロストリジウム・パーフリンジェンス、クロストリジウム・ディフィシレ、大腸菌、サルモネラ・エンテリティディス、エルシニア・エンテロコリチカ又はシゲラ・フレクスネリであってよい。
【0019】
癌が膀胱癌である場合、病原細菌種は、大腸菌であってよい。
【0020】
癌が頭及び首のリンパ腫である場合、病原細菌種は、ストレプトコッカス・ピオゲネス、コリネバクテリウム・ジフセリエ、コリネバクテリウム・ウルセラン、アルカノバクテリウム・ヘモリチクム(haemolyticum)、スタヒロコッカス・アウレウス、シュードモナス・アエルギノーザ、プレボテラ・メラニノゲニク、嫌気性連鎖球菌、ビリダンス連鎖球菌又はアクチノミセス種であってよい。
【0021】
癌が胸部のリンパ腫である場合、病原細菌種は、ストレプトコッカス・ニューモニエ、モラクセラ・カタラーリス、マイコプラズマ・ニューモニエ、クレブシエラ・ニューモニエ、ヘモフィルス・インフルエンゼ、スタヒロコッカス・アウレウス、クラミジア・ニューモニエ又はレジオネラ・ニューモフィラであってよい。
【0022】
癌が腹腔のリンパ腫である場合、病原細菌種は、バクテロイデス・フラギリス、バクテロイデス・ブルガタス、バクテロイデス・シータイオタオミクロン、クロストリジウム・パーフリンジェンス、クロストリジウム・ディフィシレ、大腸菌、サルモネラ・エンテリティディス、エルシニア・エンテロコリチカ、シゲラ・フレクスネリ、プロテウス・ミラビリス、プロテウス・ブルガタス、プロビデンチア種、モルガネラ種又はエンテロコッカス・フェカーリスであってよい。
【0023】
癌が腋窩及び鼠径部領域のリンパ腫である場合、病原細菌種は、スタヒロコッカス・アウレウス、ストレプトコッカス・ピオゲネス、コリネバクテリウム・ジフセリエ、コリネバクテリウム・ウルセラン又はシュードモナス・アエルギノーザであってよい。
【0024】
別の実施形態では、病原細菌種は、健康な被験者の特定の器官、組織又は細胞に存在すると感染をもたらしうるか、健康な被験者の特定の器官、組織又は細胞に感染をもたらしている。別の実施形態では、抗原を、細菌種全体を投与することにより投与することができる。別の実施形態では、方法は、少なくとも2以上の細菌種を投与すること、又は少なくとも3以上の細菌種を投与することを含んでよい。別の実施形態では、方法は、サプリメント又はアジュバントを投与することをさらに含んでよい。別の実施形態では、投与は、前記の被験者において免疫応答を誘発しうる。
【0025】
本願明細書で使用する場合、「癌」又は「新生物(neoplasm)」は、生理学的機能に役立たない望ましくない何らかの細胞成長である。通常、癌細胞は、その正常細胞の分化制御から逸脱している、即ち、その成長が、細胞環境内での正常な生化学的及び生理学的影響に制御されていない細胞である。したがって「癌」は、制御されていない異常な細胞成長により特徴付けられる疾患のための一般名である。多くの場合、癌細胞は増殖して、良性又は悪性であるクローン細胞を形成する。生じた塊又は細胞塊、「新生物」又は「腫瘍」は通常、周囲の正常組織を浸潤及び破壊しうる。「悪性腫瘍(malignancy)」とは、異常な成長を示す生物に有害な作用を有する何らかの細胞種又は組織の異常な成長を意味している。「悪性腫瘍」又は「癌」との用語には、技術的には良性であるが、悪性になる危険性を有する細胞成長も含まれる。癌細胞は、「転移」として知られているプロセスでリンパ系又は血流を介して、元々の位置から体の他の部位へと伝播しうる。多くの癌は、治療に耐性を示し、致命的であることが判明している。癌又は新生物の例には、限定ではないが、本願明細書に記載されているか、当技術分野の専門家に知られているような様々な器官及び組織の形質転換及び不死化細胞、腫瘍、癌腫が含まれる。
【0026】
「細胞」は、生体生物の基本的な構造的及び機能的単位である。高等生物、例えば、動物では、同様の構造及び機能を有する細胞が通常は凝集して、特定の機能を果たす組織になっている。したがって、組織は、同様の細胞と周囲細胞間物質、例えば上皮組織、結合組織、筋肉、神経との集合を含む。「器官」は、高等生物においては十分に分化した構造的及び機能的単位であり、これは、様々なタイプの組織からなり、例えば、腎臓、心臓、脳、肝臓など、いくつかの特定の機能のために特化されている。したがって「特定の器官、組織又は細胞」とは本願明細書では、ある特別な器官を含み、その器官に存在する細胞及び組織を含むことを意味している。
【0027】
「感染」は、体又はその一部が、都合のよい条件下で増殖し、有害な作用をもたらす病原体(例えば細菌などの微生物)に侵入されている状態又は状況である(Taber's Cyclopedic Medical Dictionary,14th Ed.,C.L.Thomas,Ed.,F.A.Davis Company,PA,USA)。感染は臨床的には、常に明らかであるとは限らないか、局所的な細胞損傷をもたらしうる。体の防御メカニズムが有効である場合には、感染は、局所的、無症状及び一時的であるに留まりうる。局所的な感染が持続し、伝播して、急性、亜急性又は慢性臨床感染又は疾患状態になることもある。病原体がリンパ又は血管系にアクセスすると、局所感染が全身性になることもある(On-Line Medical Dictionary,http://cancerweb.ncl.ac.uk/omd/)。局所感染は通常炎症を伴うが、炎症は感染を伴わなくても生じうる。
【0028】
「炎症」は、損傷に対する特徴的な組織反応であり(膨潤、発赤、熱及び疼痛により特徴付けられる)、生体組織が損傷を受けた場合に、生体組織で生じる連続的な変化が含まれる。一方が他方をもたらしうるが、感染と炎症とは、異なる状況である(Taber's Cyclopedic Medical Dictionary,上記)。したがって、炎症は、感染を伴わなくても起こりうるし、感染は、炎症を伴わなくても起こりうる(炎症は通常、病原細菌による感染から生じるが)。
【0029】
「被験者(subject)」は、本発明の特定の病原細菌、細菌抗原又はその組成物を投与することができる動物、例えば哺乳動物である。したがって、被験者は、癌を患っているか、癌を有すると考えられるか、癌を発症するリスクを有する患者、例えば、ヒトであってよい。被験者は、実験動物、例えば、癌のモデル動物であってもよい。いくつかの実施形態では、「被験者」及び「患者」との用語を互換的に使用することができ、ヒト、非ヒト哺乳動物、非ヒト霊長類、ラット、マウス、イヌなどが含まれうる。健康な被験者は、癌を患ってなく、癌を有すると考えられないか、慢性障害又は症状を患っていないヒトであってよい。「健康な被験者」は、免疫無防備状態ではない被験者であってもよい。免疫無防備状態とは、免疫系が異常又は不完全に機能している状態、例えば、十分且つ正常な免疫応答が防止又は低減されているか、免疫無防備状態の被験者が微生物(例えば細菌)感染にさらに罹りやすくなっている状態を意味している。免疫無防備状態は、疾患、一定の投薬又は出生時に存在する状態によるものであってよい。免疫無防備状態の被験者は、乳児、小児、老齢者、広範な薬物又は放射線治療を受けている個人に多く存在しうる。
【0030】
「免疫応答」には、これらに限られないが、哺乳動物における次の応答の内の1つ又は複数が含まれる:組成物又はワクチンを投与した後の、組成物又はワクチン中の抗原を特異的に対象とする抗体、B細胞、T細胞(ヘルパーT細胞、サプレッサーT細胞、細胞障害性T細胞、γδT細胞)の誘発。したがって組成物又はワクチンに対する免疫応答は通常、該当する組成物又はワクチンに対する細胞及び/又は抗体仲介応答のホスト動物における発生が含まれる。通常、免疫応答は、動物における癌の進行を遅延又は停止させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明は一部では、癌の治療のために細菌種全体、さらにその成分を含む組成物及びこれを使用する方法を提供する。本発明者らは意外にも、特定の細胞、組織又は器官において病原性である病原細菌種の投与は、その特定の細胞、組織又は器官の癌を治療する際に有効であることを発見した。
【0032】
患者の治療からの観察に基づき、肺及び上気道感染をもたらす最も一般的な病原細菌の多くを含むか、及び/又は皮膚感染の最も一般的な原因の1つであるスタヒロコッカス・アウレウスを含む組成物の投与は意外にも予期せず、肺癌、リンパ腫(リンパ腺の癌)及び悪性メラノーマ(皮膚癌の1種)の臨床経過を改善する際に有効であることが判明した。同様に、大腸、腎臓、膀胱、前立腺、子宮及び卵巣感染の一般的な原因である病原性大腸菌を含む組成物の投与は、大腸、卵巣、腎臓及び前立腺癌の臨床経過を改善する際に有効であることが意外にも予期せず判明した。
【0033】
これらの結果は、特定の細胞、組織又は器官における感染を最も一般的にもたらす病原細菌種の抗原を含む細菌組成物は、特定の癌を治療するために最も有効な処方物であるということを示している。例えば、肺癌は、下部気道感染を一般にもたらす病原細菌種を含む細菌組成物で最も有効に治療される一方で、腎臓癌は、腎臓感染を一般にもたらす病原細菌種を含む細菌組成物で最も有効に治療される。
【0034】
いくつかの実施形態では、病原細菌組成物を、原発癌部位及び/又は転移部位の治療のために使用することができる。したがって例えば、病原細菌組成物を、原発癌及び転移部位の両方を治療するために使用することができる。組成物は、これらの部位のそれぞれの治療を対象としていてもよいし、原発癌と転移部位との両方のための組合せ組成物であってもよい。例えば、肺及び骨に転移している腎臓癌を治療するために、腎臓、肺及び骨において病原性である病原細菌種を含むそれぞれ異なる3種の組成物又はそれらの組合せ組成物を使用することができる。実施形態では、組成物を、異なる位置に同時に又は別々に投与することができる。
【0035】
例えば、骨への転移を伴う肺癌では、別の実施形態で、肺感染を一般にもたらす細菌を含む病原細菌組成物と骨感染を一般にもたらす細菌を含む病原細菌組成物の両方を使用することができる。同様に、肺への転移を伴う大腸癌では、大腸感染を一般にもたらす細菌を含む病原細菌組成物と肺感染を一般にもたらす細菌を含む病原細菌組成物の両方を使用することができる。骨への転移を伴う前立腺癌では、前立腺感染を一般にもたらす細菌を含む病原細菌組成物と骨感染を一般にもたらす細菌を含む病原細菌組成物の両方を使用することができる。
【0036】
次のリストは、原発癌とそれが二次的に播種(spread)(転移)する一般的な部位とのいくつかの非限定的例を示している。
原発癌 転移する一般的な部位
前立腺 骨
乳房 骨、肺、皮膚
肺 骨
大腸 肝臓、肺、骨
腎臓 肺、骨
膵臓 肝臓、肺、骨
黒色腫 肺
子宮 肺、骨、卵巣
卵巣 肝臓、肺
膀胱 骨、肺
【0037】
いくつかの実施形態では、病原細菌組成物を、原発部位での癌の治療又は予防或いは転移の予防のために使用することができる。例えば、長期喫煙者では、肺癌ワクチン(肺感染を一般にもたらす細菌を含む)を使用して、肺組織内での癌の発生に対して防御する免疫系を適切に刺激することができる。他の例として、乳癌ワクチンを(乳房感染を一般にもたらす細菌を含む)を使用して、乳癌の強い家族歴又は遺伝的素因を有する女性での乳癌を予防することができる。別の実施形態では、骨感染を一般にもたらす細菌を含むワクチンを使用して、前立腺癌を伴う患者での骨転移を予防することができる。さらに他の実施形態では、肺感染を一般にもたらす細菌を含むワクチンを使用して、悪性黒色腫を伴う患者での肺転移を予防することができる。
【0038】
本発明の様々な別の実施形態及び実施例を本願明細書に記載する。これらの実施形態及び実施例は、例であって、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0039】

多くの癌は、おおざっぱには3種の組織学的分類に該当する。主な癌であり、内皮細胞或いは器官、腺又は他の体構造(例えば皮膚、子宮、肺、乳房、前立腺、胃、腸)の外表面又は内表面をカバーする細胞の癌であり、転移する傾向を有する癌腫;結合又は支持組織(例えば骨、軟骨、腱、靱帯、脂肪、筋肉)に由来する肉腫;及び骨髄及びリンパ組織に由来する血液腫瘍。癌腫は腺癌(分泌しうる器官又は腺、例えば乳、肺房、大腸、前立腺又は膀胱に通常は発生する)であってもよいし、扁平上皮細胞癌腫(扁平上皮細胞に由来し、体の大抵の部位で発生)であってもよい。肉腫は、骨肉腫又は骨原性肉腫(骨)、軟骨肉腫(軟骨)、平滑筋肉腫(平滑筋)、横紋筋肉腫(骨格筋)、悪性中皮腫又は中皮腫(体腔の膜裏層)、線維肉腫(線維組織)、血管肉腫又は血管内皮種(血管)、脂肪肉腫(脂肪組織)、膠腫又は星状細胞腫(脳に存在する神経原性結合組織)、粘液肉腫(一次胚結合組織)又は間葉腫又は混合性中胚葉腫瘍(混合性結合組織型)であってよい。血液腫瘍は、骨髄の血漿細胞に由来する骨髄腫;「血液癌」であり、骨髄の癌であり、骨髄性又は顆粒球性白血病(骨髄性及び顆粒球性白血球)、リンパ性、リンパ球性又はリンパ芽急性白血病(リンパ球様及びリンパ球細胞)であってよい白血病又は真性多血症又は赤血病(様々な血球産物、但し赤血球が圧倒的);又は充実性腫瘍であってよく、リンパ系の腺又は節で発生し、ホジキン又は非ホジキンリンパ腫であってよいリンパ腫であってよい。加えて、腺扁平上皮癌、混合性中胚葉腫瘍、癌肉腫又は奇形癌などの混合性癌も存在する。
【0040】
癌は、それが由来する器官、即ち「原発部位」に基づき、例えば、乳癌、脳癌、肺癌、肝臓癌、皮膚癌、前立腺癌、睾丸癌、膀胱癌、大腸癌及び直腸癌、子宮頸癌、子宮癌などと名付けられる。この名称は、癌が、原発部位とは異なる他の体の部位に転移しても、存続する。
【0041】
原発部位に基づき名付けられた癌は、組織学的分類に関係しうる。例えば、肺癌は通常、小細胞肺癌であるか、扁平上皮細胞癌、腺癌又は大細胞癌である非小細胞肺癌であり、皮膚癌は通常、基底細胞癌、扁平上皮細胞癌又は黒色腫である。リンパ腫は、頭、首及び胸部に伴うリンパ節で、さらに腹腔リンパ節或いは腋窩又は鼠径部リンパ節で生じうる。癌のタイプ及びステージの同定及び分類を、例えば米国における癌の発生率及び生存率に関する権威ある情報源であり、世界で認められているSurveillance,Epidemiology,and End Results(SEER)Program of the National Cancer Institute(http://seer.cancer.gov/publicdata/access/html)が提供している情報を使用して行うことができる。SEERプログラムは現在、米国人口の約26パーセントをカバーする14の集団をベースとした癌登録及び3つの補足的登録からの癌発生率及び生存データを集め、刊行している。プログラムは通常、患者の人口統計、原発腫瘍部位、形態学、診断時のステージ、治療の第1経過、生存状態の追跡に関するデータを集めており、診断時の癌のステージ及び各ステージでの生存率を含む米国における人口ベースの情報の唯一の包括的な源である。300万を上回る原発及び浸潤癌ケースに関する情報が、SEERデータベースには含まれ、約170000の新たなケースが毎年、SEERカバー地域内で加わる。SEERプログラムの発生率及び生存率を使用して、特定の癌部位及びステージに関する標準的な生存率を得ることができる。例えば、最適な比較群を保証するために、診断及び正確なステージのデータを含むデータベースから、特定の基準を選択することもできる(例えばこの場合、肺癌のケースでは、遡及的レビューの時間枠に合わせるために年数を選択し、ステージ3B及び4の肺癌を選択した)。
【0042】
細菌並びに細菌のコロニー形成及び感染
大抵の動物は、宿主動物と共生又は偏共生関係で通常は存在する細菌などの外因生物にある程度はコロニー形成されている。したがって、通常は無害な細菌のうちの多くの種が、健康な動物に普通に存在し、特定の器官及び組織に通常は局在している。往々にして、これらの細菌は、体の正常な機能を補助する。例えばヒトでは、共生的なラクトバシリ・アシドフィルスが腸に存在することがあり、そこで、食物消化を促進している。
【0043】
感染性細菌(病原細菌)は通常、宿主動物と寄生関係を有し、健康な被験者に疾患をもたらし、軽い感染から死に至る深刻な感染までの範囲の結果をもたらす。しかしながら、細菌が病原性である(即ち感染をもたらす)かどうかは、侵入経路及び特定の宿主細胞、組織又は器官へのアクセス;細菌固有の菌力;感染を起こし得る部位に存在する細菌の量;又は宿主動物の免疫状態(例えば健康又は免疫無防備状態)にある程度左右される。したがって、通常は無害な細菌も、感染に好ましい条件が与えられれば病原となり得るが、大抵の毒性細菌でさえ、感染をもたらす特定の環境を必要とする。例えば、皮膚に存在する細菌種は、皮膚の上では無害なままであるが、関節膜又は腹膜などの通常は無菌の領域に存在すると、感染をもたらすであろう。通常は無害な細菌(例えば共生又は偏共生細菌)も、普通はそれが存在しない細胞、組織又は器官に存在する場合には感染をもたらすことができるが、いくつかの実施形態では、このような細菌は、「感染をもたらす」又は「病原」とは見なされず、限られた異常な環境下で、感染をもたらしうるとしても、本発明方法及び組成物からは特に除外されることは、医学分野の専門家であれば理解するであろう。いくつかの実施形態では、健康な被験者においては通常は感染をもたらさない細菌を特に、本発明の方法及び組成物から除外する。
【0044】
宿主動物に普通に存在する細菌のうちの数種は、感染はもたらさないが、炎症はもたらしうる。例えば、通常は皮膚に生息しているプロピオニバクテリウム・アクネ(P.アクネ;以前はコリネバクテリウム・パルブム又はC.パルブムとして知られていた)は、詰まった毛髪濾胞で成長し、ざ瘡をもたらしうる。ざ瘡は、感染疾患とは考えられず、P.アクネが産生する酵素及び炎症性仲介物質が周辺皮膚に広まり、炎症をもたらすと考えられている。
【0045】
病原細菌は通常、その他の点では健康な被験者において、特定の細胞、組織又は器官で感染をもたらす(例えば局所感染)。体の様々な部位で一般に感染をもたらす病原細菌の例を下記に挙げる。これらの例は、制限を意図したものではなく、当業者であれば、例えば次の刊行物に示されている分野の知識に基づき、健康な成人において様々な器官及び組織での感染をもたらす感染性又は病原細菌を容易に認識及び同定する(さらに、各細菌種での感染の相対的頻度を認める)ことができるであろう:Manual of Clinical Microbiology 8th Edition,PatrickMurray,Ed.,2003,ASM Press American Society for Microbiology,WashingtonDC,USA:Chapter 42,Escerichia,Shigella and Salmonella,C.A.Bopp,F.R.Brenner,P.J.Fields,J.G.Wells,N.A.Strockbine,pp:654-670;Mandell,Douglas,and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 5th Edition,G.L.Mandell,J.E.Bennett,R.Dolin,Eds.,2000,Churchill Livingstone,Philadelphia,PA,USA:Chapter71,Acute Meningitis,A.R.Turkel.Pp:959-995;Chapter 62,Urinary Tract Infections J.D.Sobel,D.Kaye Pp:773-805:Chapter 57,Acute Pneumonia G.R.Donowitz,G.L.Mandell Pp:717-742:Chapter 81 Principles and Syndromes of Enteric Infection R.L.Guerrant,T.S.SteinerPp:1076-1093(これらは全て、参照により本願明細書に援用される)。
【0046】
肺感染(例えば肺炎)は通常、肺炎のケースの90%以上を通常は占めているストレプトコッカス・ニューモニエ、モラクセラ・カタラーリス(以前はカタル球菌と称されていた)又はマイコプラズマ・ニューモニエにより引き起こされる。肺感染は、クレブシエラ・ニューモニエ、ヘモフィルス・インフルエンゼ、スタヒロコッカス・アウレウス、クラミジア・ニューモニエ又はレジオネラ・ニューモフィラによっても引き起こされうる。
【0047】
腸感染は通常、正常な防御機構の故障の結果であり、通常は混合性嫌気性グラム陰性桿菌、例えばバクテロイデス・フラジリス、バクテロイデス・ブルガタス又はバクテロイデス・シータイオタオミクロンを通常は含む混合感染をもたらす。腸感染に伴う他の嫌気性菌には、クロストリジウム・パーフリンジェンス及びクロストリジウム・ディフィシレが含まれ、これらはいずれも、腸フローラには通常は定住していない。ヒトの腸フローラに存在するクロストリジウムの最も一般的な種は通常、クロストリジウム・イノキューム及びクロストリジウム・ラモーサムである。腸感染は、常にではないが通常、空気中でも存在しうる腸細菌、例えば、大腸菌も含む。腸感染に関与しうるさらなる細菌には、サルモネラ・エンテリティディス、エルシニア・エンテロコリチカ、シゲラ・フレクスネリ、エンテロコッカス・フェカーリス(混合感染で往々にして存在する低病原性のグラム陽性細菌)又はカンピロバクター・ジェジュニ(ニワトリ及びある種のイヌでは正常なフローラ細菌であるが、ヒトでは腸感染をもたらしうる)が含まれる。
【0048】
通常、膀胱、腎臓、睾丸又は前立腺の細菌感染は、大腸菌によりもたらされる。腎臓感染に関与する他の細菌には、プロテウス・ミラビリス、プロテウス・ブルガタス、プロビデンチア種、モルガネラ種又はエンテロコッカス・フェカーリスが含まれる。睾丸感染はさらに、サルモネラ・エンテリティディス又はスタヒロコッカス・アウレウスによりもたらされうる。前立腺感染は、コリネバクテリウム種又はエンテロコッカス・フェカーリスを含む正常な尿フローラに伴う細菌による。前立腺感染は、ナイセリア・ゴノロエエによる直接的な侵襲にもよりうる。
【0049】
通常、皮膚感染には、スタヒロコッカス・アウレウス又はストレプトコッカス・ピオゲネスが関与している。皮膚感染はさらに、コリネバクテリウム・ジフセリエ、コリネバクテリウム・ウルセラン又はシュードモナス・アエルギノーザ(例えば火傷で)からも生じうる。骨感染は通常、スタヒロコッカス・アウレウスによりもたらされる。
【0050】
口腔及び大腸は、最も強くコロニー形成される2つの体の部分である。口感染には通常、内生「正常フローラ」が関与している。主な口中の嫌気性細菌は、プレボテラ・メラニノゲニク及び嫌気性連鎖球菌である。口感染はさらに、アクチノミセス種又はビリダンス連鎖球菌、ストレプトコッカス・サングイス(往々にして心内膜炎に伴う)、ストレプトコッカス・サリバリウス又はストレプトコッカス・ミュータンス(う食の主な原因)とも関連している。
【0051】
子宮、卵巣及び膣の細菌感染は通常、バクテロイデス・フラジリス及び大腸菌による。子宮又は卵巣感染はさらに、ナイセリア・ゴノロエエ又はクラミジア・トラコマチスにもよりうる。
【0052】
乳房感染は通常、スタヒロコッカス・アウレウス又はストレプトコッカス・ピオゲネスによる。
【0053】
胆嚢感染は通常、大腸菌又は口内連鎖球菌(口中感染では)による。
【0054】
細菌種は、同じ株のコレクション(生理学的ではあるが、通常は形態学的ではない同定可能な特徴を有する推定上共通の祖先からなる群を通常は指していて、細菌表面抗原に対して血清学的技術を使用して同定することができる)として操作上は分類されることを、当業者であれば理解するであろう。したがって、各細菌種(例えばストレプトコッカス・ニューモニエ)は、感染をもたらすその能力において異なるか、特定の器官/部位において感染をもたらす能力において異なる多数の株(又は血清型)を有する。例えば、少なくとも90種の血清型がストレプトコッカス・ニューモニエにはあるが、血清型1、3、4、7、8及び12が、ヒトでの肺炎球菌疾患に最もよくある原因である。この原理を説明するための第2の例としては、大腸及び尿路(腎臓及び膀胱)感染の最も一般的な原因である大腸菌には多くの血清型が存在する。大腸感染を一般にもたらす大腸菌血清型には、06:H16、08:H9、015:H22、025:H−、028ac:H−、0136:H−、0157:H7、051:H11及び077:H18が含まれる。他方で、尿路感染をもたらす最も一般的な大腸菌血清型は、O群1、2、4、6、7、18、25、50及び75である(Infectious Diseases:A Treatise of Infectious Diseases;Editors:P.Hoeprich,M.C.Jordan,A.Ronald(1994)J.B.Lippincott Company:PhilidelphiaP.602)。
【0055】
細菌組成物、用量及び投与
本発明の組成物は、特定の細胞、組織又は器官において病原性である病原細菌種の抗原を含む。組成物は、細菌種全体を含んでもよいし、細胞壁又は細胞膜抽出物又は全細胞抽出物などの本発明の病原細菌種の抽出物又は製剤を含んでもよい。組成物は、本発明の1種又は複数の病原細菌種から単離された1種又は複数の抗原を含んでもよく、いくつかの実施形態では、このような組成物は、特定の用量の特定の抗原を正確に投与することが必要である状況で使用することもできるし、細菌種全体又はその成分(例えば毒素)を投与することが有害でありうる場合にも有用である。病原細菌種は、市場で入手することもできるし(例えば、ATCC(Manassas,VA,USA))、細胞、組織又は器官の細菌感染を有する被験者から臨床単離することもできる(例えば、ニューモニエ)。
【0056】
本発明の細菌組成物は、単独で、又は他の化合物(例えば、核酸分子、小分子、ペプチド又はペプチド類似体)と組み合わせて、リポソーム、アジュバント又は薬学的に許容できる担体の存在下に、哺乳動物、例えばヒトに投与するために適した形態で提供することができる。本願明細書で使用する場合、「薬学的に許容できる担体」又は「賦形剤」には、生理学的に相容性である溶剤、分散媒体、コーティング剤、抗菌剤、抗カビ剤、等張剤及び吸収遅延剤などが含まれる。担体は、皮下、静脈内、非経口、腹腔内、筋肉内、舌下、吸入又は経口投与を含む適切な投与形態に適していてよい。薬学的に許容できる担体には、無菌水溶液又は分散液並びに無菌の注射可能な溶液又は分散液の即時製剤のための無菌粉末が含まれる。薬学的に活性な物質のためのこのような媒体及び薬剤の使用は、当技術分野ではよく知られている。慣用の媒体又は薬剤が活性化合物(即ち、本発明の特定の細菌、細菌抗原又はその組成物)と非相容性でない限り、本発明の薬剤組成物でのその使用が考えられる。補足的に活性な化合物を、組成物に導入することもできる。
【0057】
望ましい場合には、本発明による細菌抗原での治療を、化学療法、放射線治療、外科などの癌のためのより慣用の既存の治療と、又は免疫系を刺激することを意図しているか、さもなければ被験者に役立つ他の治療、例えば栄養素、ビタミン及びサプリメントと組み合わせることもできる。例えば、抗酸化剤、ビタミンA、D、E、C及びB複合体;セレニウム;亜鉛;補酵素Q10、粉砕亜麻仁;ニンニク;リコピン;ノゲシ(Milk Thistle);メラトニン;シメチジン;インドメタシン;又はCOX−2阻害剤(例えばCelebrex(セレコキシブ)又はVioxx(ロフェコキシブ)を被験者に投与することもできる。
【0058】
慣用の薬学的実施を使用して、癌を患っている患者に化合物を投与するための適切な処方物又は組成物を提供することもできる。適切な投与経路を使用することができる;例えば、非経口、静脈内、皮下、筋肉内、頭蓋内、眼窩内、眼内、心室内、嚢内、脊髄内、くも膜下、槽内、腹腔内、鼻腔内、吸入、エアロゾル、局所又は経口投与。治療用処方物は、液体溶液又は懸濁液の形態であってよく;経口投与では、処方物は、錠剤又はカプセルの形態であってもよく;鼻腔内処方物では、粉末、点鼻液又はエアロゾルの形態であってもよい。
【0059】
処方物を製造するために当技術分野でよく知られている方法は、例えば、「Remington's Pharmaceutical Sciences」(20版)、A.Gennaro編,2000,Mack Publishing Company,Eastonで見られる。非経口投与用の処方物は例えば、賦形剤、無菌水又は生理食塩水、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコール、植物由来のオイル又は硬化ナフタレンを含んでもよい。生体親和性、生分解性ラクチドポリマー、ラクチド/グリコリドコポリマー又はポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンコポリマーを使用して、化合物の放出を制御することもできる。他の有用であろう非経口輸送系には、エチレン−酢酸ビニルコポリマー粒子、浸透圧ポンプ、インプラント可能な注入系及びリポソームが含まれる。吸入のための処方物は、賦形剤、例えば、ラクトースを含有してもよいし、例えばポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル、グリココレート及びデオキシコレートを含む水溶液であってもよいし、点鼻液の形態か、ゲルとして投与するための油性溶液であってもよい。治療用又は予防用組成物では、病原細菌種を、癌の進行又は転移を止めるか遅らせるためか、障害に応じて患者の生存率(例えばSEERデータベースに由来する予測に対して)を高めるために有効な量で個人に投与する。
【0060】
本発明による病原細菌種又はその抗原の「有効量」には、治療的有効量又は予防的有効量が含まれる。「治療的有効量」とは、癌細胞、組織、器官又は腫瘍の低減又は排除或いは例えばSEERデータベースを使用して予測された生存期間を上回る生存期間の上昇などの所望の治療結果を達成するために必要な投与時及び期間での有効な量を指している。病原細菌種又はその抗原の治療的有効量は、個人の疾患状態、年齢、性別及び体重などの要素並びに個人で所望の応答を誘発する化合物の能力によって変動しうる。投与計画を調節して、最適な治療応答を得ることができる。治療的有効量は、病原細菌種又はその抗原の毒性又は有害作用よりも治療的に有利な作用が上回る量であってもよい。「予防的有効量」は、癌細胞、組織、器官又は腫瘍の低減又は排除或いは例えばSEERデータベースを使用して予測された生存期間を上回る生存期間の上昇などの所望の予防結果を達成するために必要な投与時及び期間での有効な量を指している。通常、予防的用量を、癌の初期ステージの前又はその段階で被験者に使用するので、予防的有効量は、治療的有効量よりも少なくなりうる。1種又は複数の病原細菌種の治療的又は予防的有効量に関する例示的範囲は、1ml当たり微生物約100万から80億個であってもよいし、1ml当たり微生物1億から70億個であってもよいし、1ml当たり微生物5億から60億個であってもよいし、1ml当たり微生物10億から50億個であってもよいし、1ml当たり微生物20億から40億個或いはこれらの範囲内の整数であってもよい。1ml当たりの細菌の全濃度は、1ml当たり微生物2千万から80億個であってもよいし、1ml当たり微生物5千万から70億個であってもよいし、1ml当たり微生物1億から60億個であってもよいし、1ml当たり微生物5億から50億個であってもよいし、1ml当たり微生物10億から40億個或いはこれらの範囲内の整数であってもよい。病原細菌種の抗原の治療的又は予防的有効量の範囲は、0.1nM〜0.1M、0.1nM〜0.05M、0.05nM〜15μM又は0.01nM〜10μMの整数であってよい。
【0061】
投与濃度及び範囲は、緩和されるべき状態の重症度と共に変動しうるか、患者の免疫応答と共に変動しうることを特記する。通常、目標は、適切な免疫応答に達成することである(例えば、例えば1インチから3インチの局所皮膚反応;又は全身性熱応答免疫応答(例えば熱及び汗の全身症状)。適切な免疫応答を達成するために必要な用量は個人(及びその免疫系)及び所望の応答に応じて変動する。例えば、目標が2インチの局所皮膚反応を達成することであったら、全細菌組成物用量は、細菌2千万個(即ち、1ml当たり生物20億個の濃度を伴うワクチン0.01ml)から細菌8億個以上(即ち、1ml当たり生物20億個の濃度を伴うワクチン0.40ml)の範囲であってよい。個人は、様々な細菌種に対する応答において変動しうるので、組成物内の個々の細菌種又はその抗原の濃度を考慮することもできる。例えば、1個の特定の病原細菌種又はその抗原の濃度が、ワクチン中の他の病原細菌種の濃度よりもかなり高い場合には、個人の局所皮膚反応は、この特定の細菌種に対する応答によるものであり得る。いくつかの実施形態では、個人の免疫系は、組成物内の1種の細菌種に、他の細菌種よりも強く応答するので、用量又は組成物を、その個人に応じて調節することもできる。
【0062】
特定の被験者では、個人的な必要性並びに組成物を投与するか組成物の投与を管理するヒトの専門的な判断に応じて、具体的な用量計画を一定期間(例えば毎日、毎週、毎月)にわたって調節することができる。例えば、組成物を1日おき又は1週間に3回投与することもできる。他の例では、当初の予防的用量0.05mlを皮下で投与し、続いて、4から7日間隔で0.05〜0.1ml増やして、0.5〜1.0mlの最大用量まで増やすことができる。急性症状では例えば、当初用量0.02mlを投与し、続いて、3から5日間隔で0.02〜0.05ml増やすこともできる。個人の敏感度の変化によって、用量を、種々の個人のために異なる割合で増やすこともできる。0.5mlの維持用量を適切な間隔(例えば毎週)で投与することもできる。
【0063】
前記の用量範囲は単なる例示であって、開業医が選択することができる用量範囲を限るものではない。組成物中の活性化合物(例えば病原細菌種又はその抗原)の量は、個人の疾患状態、年齢、性別及び体重などの要素によって変動しうる。用量計画を調節して、最適な治療応答を得ることができる。例えば、単一ボーラスを投与することもできるし、いくつかの分割用量を一定期間にわたって投与することもできるし、治療状況の急迫によって示されるように、用量を比例して低減又は増加させることもできる。非経口組成物を、投与を簡単にし、用量を均一にするために単位剤形に処方することが有利である。
【0064】
ワクチン処方物のケースでは、免疫原性有効量の本発明の化合物を単独で、又は他の化合物と、免疫学的アジュバントと組み合わせて提供することができる。化合物をさらに、ウシ血清アルブミン又はキーホールリンペットヘモシアニンなどの担体分子と結合させて、免疫原性を増強することもできる。「ワクチン」は、所望の免疫応答を誘発する物質を含む組成物である。ワクチンは、免疫系の記憶B及びT細胞を選択、活性化又は拡張させて、例えば、癌細胞又は組織の成長又は増殖を低減又は除去することができる。いくつかの実施形態では、本発明の特定の病原細菌、細菌抗原又はその組成物は、他の薬剤の不在下でも所望の免疫応答を誘発することができるので、「ワクチン」と見なすことができる。いくつかの実施形態では、ワクチンは、非特異的に特定の抗原又は抗原群に対する免疫応答を増やす役割を有するので、所定のワクチン用量での抗原の量を低減しうるか、所望の免疫応答を生じさせるために必要な投与頻度を低減しうる薬剤であるアジュバントなどの適切な担体を含む。本願明細書で使用される「細菌ワクチン」は、ワクチン中の細菌により通常はもたらされる疾患又は感染に対して免疫応答を誘発しうる弱化(弱毒化)又は死滅細菌を通常は含むワクチンである。いくつかの実施形態では、細菌ワクチンは、低毒性株であるので、あまり深刻でない感染をもたらす生体細菌を含んでもよい。
【0065】
死滅した細菌ワクチン組成物は次のように製造することができる。細菌を適切な培地中で成長させ、生理学的食塩水で洗浄する。次いで細菌を遠心分離し、食塩水に再懸濁させ、フェノールで死滅させる。懸濁液を、直接的な顕微鏡によるカウントにより標準化し、必要量に混合し、適切な容器中で貯蔵し、これを安全性、貯蔵寿命及び無菌性に関して適切な方法で試験する。病原細菌種及び/又はその抗原に加えて、ヒトに投与するために適した死滅細菌ワクチンは、防腐剤フェノール0.4%、塩化ナトリウム0.9%を含んでもよい。任意選択で、細菌ワクチンはさらに、痕跡量の脳−心臓浸出物(ウシ)、ペプトン、酵母抽出物、寒天、ヒツジ血液、デキストロース、及び/又はリン酸ナトリウムを含んでもよい。細菌ワクチンは皮下注射のために使用することができる。
【0066】
例えば細菌ワクチン(例えば死滅細菌ワクチン)では、特定の細菌種の濃度は、1ml当たり微生物約100万から80億個であってもよいし、1ml当たり微生物1億から70億個であってもよいし、1ml当たり微生物5億から60億個であってもよいし、1ml当たり微生物10億から50億個であってもよいし、1ml当たり微生物20億から40億個或いはこれらの範囲内の整数であってもよい。1ml当たりの細菌の全濃度は、1ml当たり微生物2千万から80億個であってもよいし、1ml当たり微生物5千万から70億個であってもよいし、1ml当たり微生物1億から60億個であってもよいし、1ml当たり微生物5億から50億個であってもよいし、1ml当たり微生物10億から40億個或いはこれらの範囲内の整数であってもよい。
【0067】
いくつかの実施形態では、肺癌用の最適な死滅細菌ワクチンは、次の通りとすることができる。
1ml当たりの細菌
ストレプトコッカス・ニューモニエ 6億個
モラクセラ・カタラーリス 4億個
マイコプラズマ・ニューモニエ 4億個
クレブシエラ・ニューモニエ 2億個
ヘモフィルス・インフルエンゼ 2億個
スタヒロコッカス・アウレウス 2億個
総計 20億個
【0068】
いくつかの実施形態では、特定の癌(例えば肺癌)を治療するための細菌ワクチンは、その組織、細胞又は器官中で感染を最も一般的にもたらす特定の株又は血清型(例えばニューモニエ)を含んでもよい。
【0069】
通常、本発明の病原細菌種及びその抗原を、重大な毒性をもたらすことなく使用しなければならない。本発明の化合物の毒性は、標準的な技術を使用して、例えば、細胞培養又は実験動物で試験し、治療指数、即ち、LD50(集団の50%までの致死用量)とLD100(集団の100%までの致死用量)との比を決定することにより決定することができる。しかしながら場合によっては、例えば、重大な疾患状態では、組成物をかなりの過剰量で投与することが必要なこともある。
【実施例1】
【0070】
細菌組成物
あらゆる癌タイプ及びステージの約750人の癌患者を、患者がワクチン組成物に気づいていない盲検で混合細菌ワクチンで治療した。次の3種の混合細菌ワクチンを使用した:
1.下記の細菌種を含むBayer Corporation社製MRV(商標)「Bayer MRV」(Hollister-SteirLaboratories,Spokane,WA,U.S.A):
1ml当たりの生物
スタヒロコッカス・アウレウス 12億個
ビリダンス及び非溶血性連鎖球菌 2億個
ストレプトコッカス・ニューモニエ 1億5千万個
モラクセラ(ナイセリア)・カタラーリス 1億5千万個
クレブシエラ・ニューモニエ 1億5千万個
ヘモフィルス・インフルエンゼ 1億5千万個
【0071】
次の適応症:鼻炎、感染性喘息、慢性副鼻腔炎、鼻ポリープ及び慢性漿液性中耳炎のために、このワクチンは製造された。癌治療は、このワクチンでの所定の用途としては明示されていなかった。
【0072】
2.下記を含有するStallergenes社製MRV「Stallergenes MRV」(Laboratories des Stallergenes,S.A.,Fresnes,フランス:
1ml当たりの生物
スタヒロコッカス・アウレウス 6億個
スタヒロコッカス・アルブス 6億個
非溶血性連鎖球菌 2億個
ストレプトコッカス・ニューモニエ 1億5千万個
モラクセラ(ナイセリア)・カタラーリス 1億5千万個
クレブシエラ・ニューモニエ 1億5千万個
ヘモフィルス・インフルエンゼ 1億5千万個
【0073】
このワクチンは、MRVワクチン、即ち再発性気道感染と同じ適応症のために製造され、癌を禁忌症として挙げている。
【0074】
3.下記を含有するPolyvaccinum Forte(Biomed S.A.社製,Krakow,ポーランド):
1ml当たりの生物
スタヒロコッカス・アウレウス 5億個
スタヒロコッカス・エピデルミディス 5億個
大腸菌 2億個
コリネバクテリウム・シュードジフテリティクム 2億個
ストレプトコッカス・ピオゲネス 1億個
ストレプトコッカス・サリバリウス(ビリダンス連鎖球菌) 1億個
ストレプトコッカス・ニューモニエ 1億個
モラクセラ(ナイセリア)・カタラーリス 1億個
クレブシエラ・ニューモニエ 1億個
ヘモフィルス・インフルエンゼ 1億個
【0075】
このワクチンは、鼻咽炎、再発性喉頭炎、気管炎、気管支炎を含む上部及び下部気道の慢性及び再発性炎症症状、中耳炎、三叉神経及び後頭神経の慢性及び再発性神経痛、座骨神経痛、腕神経叢炎及び肋間神経痛、さらに慢性膀胱尿道炎、膣炎、付属器炎及び子宮内膜炎症のために製造された。癌治療は、このワクチンのための所定の使用としては明示されていなかった。
【0076】
投与
細菌組成物(ワクチン)は、死滅細菌細胞の懸濁液であったので、バイアルから用量を取り出す前に均一な分布が保証されるように、懸濁液を使用前に穏やかに振り、月曜、水曜及び金曜の週3回の皮下投与を少なくとも6カ月行った。必要なワクチンの用量を、ワクチンに対する免疫反応の妥当性により決定した。ごく少量の用量(0.05cc)で始め、適切な免疫反応が達成されるまで、用量を徐々に増やした(各回0.01〜0.02cc)。目標は、適切な免疫刺激を示す、注射部位がピンク色/赤色の直径1から2インチの丸形パッチに達成することであった。この反応が達成されたら、用量を、この反応を達成するために必要なレベルで維持した。反応が2インチよりもかなり少ない(例えば半インチ)場合には、用量を増やし、2インチよりもかなり大きい(例えば3インチ)場合には、用量を減らした。この局所反応は通常、注射後の24時間以内に生じる。患者は、この反応をチェックするように指示され、反応が表れた場合には、それを測定又はマーキングした。適切な免疫反応を達成するために必要な維持用量は、個々の免疫応答に応じて、ヒトによって低ければ0.01cc、他の人では高ければ0.40ccとかなり変動する。所定の最大容量は、0.40ccである。ワクチンは、冷蔵庫(2から8℃)に貯蔵すべきである。通常の注射部位は、上腕部、大腿部又は腹部である。各注射の正確な部位を変動させて、ピンク色/赤色がまだ残っている部位には投与しなかった。ワクチンに対する禁忌症は知られていない。
【0077】
肺癌
ステージ3B又は4の肺(手術不可能)癌と当初診断された場合、患者は、肺癌研究に適格である。肺癌ステージングを、例えばAJCC:Cancer Staging Handbook(sixth edition)2002;Springer-Verlag New York:Editors:Fredrick Greene,DavidPage and Irvin Fleming又はInternational Union Against Cancer:TNM Classification of Malignant Tumors(sixth edition)2002;Wiley-Liss Geneva Switzerland:Editors:L.H.Sobinand C.H.Wittekindに記載されているような標準的な方法を使用して行った。例えば、肺癌を次のように分類することができる。
TNM肺臨床的及び病理学的分類:
T 初期腫瘍
TX 初期腫瘍と決定できないか、痰又は気管支洗浄液中の悪性細胞の存在により証明されるが、画像又は気管支鏡により可視化することができない腫瘍
Tis 原位置癌種
T0 初期腫瘍の証拠なし
T1 最大直径が3cm以下で、肺又は臓側胸膜に囲まれていて、葉気管支よりも近い侵襲の気管支形跡のない腫瘍
T2 サイズ又は規模に関する次の形態のいずれかを伴う腫瘍:主な気管支での最大直径が3cmを上回る;気管分岐部から2cm又はそれ以上遠位が、臓側胸膜を侵襲している;肺門領域に達してはいるが肺全体には関していない肺拡張不全又は閉塞性肺炎を伴う
T3 次のいずれかを直接的に侵襲しているサイズの腫瘍:胸壁(上肺溝腫瘍を含む)、横隔膜、縦隔胸膜、壁側心膜;又は気管分岐部から2cm未満遠位の主な気管支に位置するが、気管分岐部には関していない腫瘍;又は肺全体の随伴肺拡張不全又は閉塞性肺炎を伴う
T4 次のいずれかを侵襲しているサイズの腫瘍:中隔膜、心臓、大血管、気管、食道、つい体、気管分岐部;又は悪性胸水又は心外膜液を伴うか;肺の同側原発腫瘍葉内に別の腫瘍結節を伴う腫瘍、
N 局所リンパ節
NX 局所リンパ節と決定できない
N0 局所リンパ節転移はない
N1 同側気管支周囲及び/又は同側肺門リンパ節及び肺内リンパ節への転移、直接的な拡張による併発を含む
N2 同側縦隔及び/又は主静脈下(subcarinal)リンパ節への転移
N3 対側縦隔膜、対側肺門、同側又は対側三角筋又は鎖骨上窩リンパ節への転移
M 遠隔転移
MX 遠隔転移と決定できない
M0 遠隔転移はない
M1 遠隔転移:非原発腫瘍葉(同側又は対側)での別の腫瘍節を含む
TNMサブセットのステージグルーピング:
【0078】
【表1】

【0079】
診断コード162.9(肺癌)及び197(転移癌)を伴う病歴を手動及び電子的に集めた。この情報をBCCancer Registryに提出して、診断日、死亡日及び癌ステージなどの情報を集めた。BC Cancer Agency(BCCA)で治療された患者の病歴を次いで求め、診断日及び癌ステージを確認するために概観した。情報を、この目的のために作られたExcelスプレッドシートに入力した。患者を次の理由から研究から外した:1)ステージの誤り;2)データの紛失;3)BCCAチャートがない又は4)データ分析の時点までにBCCAチャートが届かなかった。20人の患者をこの研究から外したが、それというのも、そのチャートが、まだ届かなかったか、情報が不十分で、そのうちの6人はMRV使用者であったためであった。研究群は、全部で108人の患者を含んだ:MRVワクチンを受けたのは50人及びMRVワクチンを受けなかったのは58人。研究員は、この研究に対する倫理的賛成を、Gunn博士が臨床学部にいるUniversity of British Columbia Ethics Review Boardに求め、得られた。
【0080】
当初はステージ3B及び4の肺癌と診断されていたMRVを受けた患者と、MRVを受けなかった患者と、当初は3B及び4の肺癌と診断されていた患者でのSEER標準生存率データとの生存率の比較(図1)は次の通りであった。
【0081】
【表2】

【0082】
少なくとも2カ月間MRVを受けた患者のみを含む生存率(前記)の比較(図2)は、次の通りである。
平均生存率: 16.5カ月
1年時での生存率: 70%
3年時での生存率: 27%
5年時での生存率: 15%
【0083】
平均生存率及び1年、3年及び5年時での生存率は、MRV(肺感染を一般にもたらす細菌を含む)で治療された群ではかなり良好であり、肺癌の治療でのこのワクチンの有効性の証拠であった。2カ月よりも長くMRVワクチンで治療された患者は、最も高い生存率を示し、肺癌の治療でのこのワクチンの有効性のさらなる証拠であった。
【0084】
悪性黒色腫
I.N.(1924年生まれ)は、以前に診断された悪性黒色腫の転移播種と診断され、肝臓に2つの非常に大きな転移を伴った。癌のこのタイプ及びステージ(ステージ4の悪性黒色腫、遠位播種)での予後は、SEER生存率曲線を元にすると、非常に不良である。I.N.は、化学療法を拒絶したが、それというのも、このタイプの癌での慣用の治療の利点は、非常に限られるためである。腹腔鏡検査により、非常に広い腹膜転移に加えて、広い肝臓転移が証明され;生検は、悪性黒色腫陽性であり、したがって、彼の状態は手術不可能と決定された。I.N.は、転移疾患と診断された6週後にMRVを開始した。
【0085】
I.N.は、多発性の大きな肝臓転移を伴う転移性悪性黒色腫と診断された後、6.5年健康でいる。彼は、その時点まで(即ち6.5年間)、一定ベース(週に1〜3回)でMRV、さらに複合ビタミン/サプリメントレジーム、健康な食事及び他の免疫増強治療を受け続けている。非常に不良な予後にもかかわらず、転移性悪性黒色腫と診断された後6.5年間、I.N.はかなり健康に感じている。彼のエネルギー及び食欲は優れていて、安定な体重を有し、悪心も疼痛もない。彼は自転車に毎日乗り、非常に活発な生活を維持している。彼は、3カ月毎に腹部に超音波を当てていて、大きな肝臓転移は、約3カ月毎にサイズを増しているが、彼の状態は総じて、転移性疾患と診断されてからの時間の長さ及び疾患の通常の予後を考慮すると、かなり安定している。彼の最近の腹部超音波によると、いくつかの肝臓転移に若干の進行が見られたが、総じて、転移の大部分には変化がほとんどない。彼の肝臓機能テストは、正常かほぼ正常なままであり、大きな肝臓転移にもかかわらず優れた健康を維持している。この81才の老患者は、非常に活発な生活を維持しており、末期癌と診断されてからの時間の長さ及び癌のこのタイプ及びステージに関する通常の予後を考慮するとかなり健康である。
【0086】
皮膚感染の最も一般的な原因の1つであるスタヒロコッカス・アウレウスが、I.N.が使用したワクチンの全3種の主な成分である(前記参照)。加えて、Polyvaccinum Forteは、皮膚感染を一般にもたらす他の細菌、ストレプトコッカス・ピオゲネスを含む。したがって、皮膚感染をもたらす病原細菌を含むワクチンは、通常は速やかに死に至る皮膚癌である進行した悪性黒色腫を治療する際に有効であった。
【0087】
濾胞状非ホジキンリンパ腫
D.W.(1945年生まれ)は、広くマーキングされているリンパ節炎(即ち肥大リンパ腺)を伴うステージ4Aの濾胞状非ホジキンリンパ腫と診断された。彼は、全ての慣用の治療を拒否した。D.W.は、Bayer MRVワクチンでの治療、さらに複合ビタミン/サプリメントレジーム、健康な食事及び他の免疫増強治療を始めた。彼は、3年以上このワクチンの定期使用を続け、この時点で、彼のリンパ節の大きさがかなり小さくなり始め、健康と感じるようになった。リンパ節炎のこの消炎は続き、画像により、以前の激しいリンパ節炎のほぼ完全な消炎が示された。D.W.は気分がよく、明白なリンパ節炎は存在しない:明らかに顕著な回復。ステージ4Aの濾胞状非ホジキンリンパ腫との当初の診断の後5年間、D.W.は再発の徴候を有さず、活発で健康な生活を続けている。MRVワクチンでの治療は、彼のステージ4Aの濾胞状非ホジキンリンパ腫の完全な寛解をもたらした。
【0088】
大腸癌
S.C.(1942年生まれ)は、以前治療した大腸癌の転移性播種、肝臓への転移及び両方の腎臓への推定可能な他の転移と診断された。肝臓転移は、切除された。大腸癌のこの段階(即ちステージ4)での予後は不良であり、さらなる慣用的治療(即ち化学療法)の利点は限られている。S.C.は当初は化学療法を拒絶した。転移性大腸癌と診断された3カ月後に、S.C.はPolyvaccinum Forteでの治療、さらに複合ビタミン/サプリメントレジーム及び健康な食事を開始した。彼は、このワクチン及びビタミン/サプリメントレジームの定期使用を続け、化学療法を開始した。彼の疾患の全期間は、肺転移の発生及び肝臓転移の再発を伴いながら非常にゆっくりと進行したが、転移性疾患の当初診断の28カ月後に、彼の体重は安定し、エネルギーレベルは良好であった。ステージ4の大腸癌の診断の3年(36カ月)後に、S.C.は、化学療法による悪心及び若干の体重低下を除き、気分が良かった。腫瘍マーカーの上昇にもかかわらず、彼は、気分が依然としてよく、フルタイムで働き続けている。
【0089】
転移性大腸癌に関する標準的SEER生存率データColon & Rectum Stage 4,Survival,distant spreadは、ステージ4の大腸癌と診断された後28カ月目では、患者の僅か16%のみが生存していることを示している。臨床実験により、大腸菌を含む組成物は、臨床経過を改善して、疾患の進行を遅らせる。
【0090】
腎臓癌
骨及び肺への転移を伴う腎臓癌と当初診断されたR.N.(1940年生まれ)は、脳転移を有することが判明した。脳転移は、手術可能である唯一の病変であるという事実にもかかわらず、彼の予後は非常に暗かった。彼は、脳転移を切除するために神経手術を受け、Polyvaccinum Forteワクチンを開始した。彼の最近のフォローアップ予約では、再発性転移疾患と彼が診断された6カ月後には、彼は、非常に良好な気分で、良好なエネルギーを有し、症状はなかった。脳への転移を伴う再発性転移性腎臓癌での標準的な生存率データは存在しないが、前記で検討したように、予後は非常に暗い。我々の臨床的経験によると、Polyvaccinum Forteはこのケースでの臨床的経過を改善するようである。R.N.の生存及び最近の良好な健康は、予期できなかったものであり、腎臓癌を治療するために大腸菌を含む細菌ワクチンを使用することの価値を示している。非常に暗い予後にもかかわらず、R.N.は、脳転移と診断され外科的に切除された後18カ月間なお生存しており、非常に気分が良く、健康であると報告している。大腸菌を含む細菌ワクチンをちょうど1年間接種した後、R.Nは治療を中断した。その後(約4カ月後)、彼は、弱い悪心及び頭痛を発症し、他の脳転移、おそらく再発を、元々の転移部位に有すると診断された。彼は、大腸菌を含むワクチンでの治療を再び開始し、もう一度手術を受ける予定である。
【0091】
したがって、臨床経験により、肺、皮膚及びリンパ腫で病原性である細菌を含むので、Bayer及びStallergenesワクチンは、肺癌、リンパ腫及び悪性黒色腫の経過を改善する際に有効であるが、例えば、これらのワクチン中の細菌は、大腸では病原性ではないので、大腸癌を治療する際には有効ではなかった。他方で、Polyvaccinum Forteは、大腸、腎臓、膀胱、前立腺、子宮及び卵巣では病原性である大腸菌を含み、大腸、卵巣、腎臓及び前立腺癌を治療する際に有効であった。
【0092】
大腸癌
T.B.(1935年生まれ)は、肝臓、肝門リンパ節及び肺に転移を伴う転移性大腸癌と診断された。大腸癌のこの段階(即ちステージ4)での予後は非常に不良であり(即ち「末期」癌)、慣用の治療(即ち化学療法)の利点は限られる。T.B.は化学療法を開始したが、副作用により診断の約5カ月後に治療を中断し、この時点で、Polyvaccinum Forte(大腸菌含有)での治療を1日おきに、さらに複合ビタミン/サプリメントレジーム及び健康な食事を開始した。
【0093】
Polyvaccinum Forteは、大腸及び腹部リンパ系(例えば肝門リンパ節)での感染の最も一般的な原因である大腸菌、さらに肺での感染の最も一般的な原因であるストレプトコッカス・ニューモニエ、モラクセラ・カタラーリス、クレブシエラ・ニューモニエ及びヘモフィルス・インフルエンゼを含有する。T.B.の最近のCTスキャンにより、2個の肝臓転移は若干サイズにおいて成長していたが(3.4cmから4.5cm、1.2cmから3.0cm)、診断時点から、壊死肝門リンパ節はサイズが変わらず、肺転移のサイズも変わらないことが証明された。非常に不良な予後にもかかわらず、T.B.は、末期癌と診断されてからほぼ1年経っても非常に良好であると感じ続けている。
【0094】
膵臓癌
A.M.(1933年生まれ)は、膵臓癌と診断され、この時点で、膵臓を除去する手術を受けた(即ちホイップル手術)。しかしながら、彼は、膵臓癌と診断されてから約1年後に、両側で肺に転移を発症した。肺転移の診断は、非常に不良な予後を伴う末期診断である。A.M.は、過去3年間にわたって断続的に姑息的化学療法を受け、膵臓癌の診断の後ほぼ3年弱後にPolyvaccinum Forteを開始した。Polyvaccinum Forteは、膵臓領域での感染の最も一般的な原因である大腸菌、さらに肺での感染の最も一般的な原因であるストレプトコッカス・ニューモニエ、モラクセラ・カタラーリス、クレブシエラ・ニューモニエ及びヘモフィルス・インフルエンゼを含有する。非常に不良な予後にもかかわらず、A.M.は、極めて不良な予後を示す再発性転移性膵臓癌と診断されてほぼ3年であることを考慮すると、非常に良好であると感じ続けている。
【0095】
他の実施形態
本発明の様々な実施形態を本願明細書に開示したが、当技術分野の専門家に共通する一般的な知識に従い、本発明の範囲内で、多くの適合及び変更を行うことができる。このような変更には、本発明の態様を既知の同等物に代えて、実質的に同じ方法で同じ結果を達成することが含まれる。数値的範囲は、その範囲を定義する数を含む。詳しくは、「含んでいる」との語は、オープンエンドの用語として使用されており、「包含するが、限られない」との語句に等しく、「含む」との語は、対応する意味を有する。本願明細書での参考文献の引用は、このような参照文献が本発明の先行文献であることを認めるものとして解釈されるべきではない。各個々の刊行物が、本願明細書に参照により援用されると明確に個々に示されているかのように、さらに、本願明細書で十分に述べられているように、刊行物は全て参照により本願明細書に援用される。本発明は、前記実施例及び図面を参照しつつ十分に記載されている全ての実施形態及びバリエーションを含む。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】ステージ3B又は4の手術不能の肺癌(患者全員)と当初は診断されていた患者の生存曲線を示すグラフである。
【図2】ステージ3B又は4の手術不能の肺癌(MRVにより2カ月以上治療された患者)と当初は診断されていた患者の生存曲線を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種又は複数の病原細菌種の抗原(スーパー抗原を除く)を有効量含む、患者の特定の器官又は組織の癌の治療用組成物であって、前記病原細菌種が、前記特定の器官又は組織において病原性の種であり、前記抗原が、前記病原細菌種の弱毒化した細菌の死滅細胞全体を含む、前記治療用組成物。
【請求項2】
特定の器官又は組織の癌が、肺癌であり、病原細菌種が、ストレプトコッカス・ニューモニエ、モラクセラ・カタラーリス、マイコプラズマ・ニューモニエ、クレブシエラ・ニューモニエ、ヘモフィルス・インフルエンゼ、スタヒロコッカス・アウレウス、クラミジア・ニューモニエ又はレジオネラ・ニューモフィラである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
病原細菌種が、ストレプトコッカス・ニューモニエ、モラクセラ・カタラーリス又はマイコプラズマ・ニューモニエである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
特定の器官又は組織の癌が、大腸癌であり、病原細菌種が、大腸菌、バクテロイデス・フラギリス、バクテロイデス・ブルガタス、バクテロイデス・シータイオタオミクロン、クロストリジウム・パーフリンジェンス、クロストリジウム・ディフィシレ、サルモネラ・エンテリティディス、エルシニア・エンテロコリチカ又はシゲラ・フレクスネリである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
特定の器官又は組織の癌が、腎臓癌であり、病原細菌種が、大腸菌、プロテウス・ミラビリス、プロテウス・ブルガタス、プロビデンチア種、モルガネラ種又はエンテロコッカス・フェカーリスである、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
特定の器官又は組織の癌が、前立腺癌であり、病原細菌種が、大腸菌、コリネバクテリウム種、エンテロコッカス・フェカーリス又はナイセリア・ゴノロエエである、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
特定の器官又は組織の癌が、皮膚癌であり、病原細菌種が、スタヒロコッカス・アウレウス、ストレプトコッカス・ピオゲネス、コリネバクテリウム・ジフセリエ、コリネバクテリウム・ウルセラン又はシュードモナス・アエルギノーザである、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
特定の器官又は組織の癌が、骨癌であり、病原細菌種が、スタヒロコッカス・アウレウスである、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
特定の器官又は組織の癌が、口腔癌であり、病原細菌種が、プレボテラ・メラニノゲニク、嫌気性連鎖球菌、ビリダンス連鎖球菌又はアクチノミセス種である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
ビリダンス連鎖球菌が、ストレプトコッカス・サリバリウス、ストレプトコッカス・サングイス又はストレプトコッカス・ミュータンスである、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
特定の器官又は組織の癌が、精巣癌であり、病原細菌種が、大腸菌、サルモネラ・エンテリティディス又はスタヒロコッカス・アウレウスである、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
特定の器官又は組織の癌が、子宮癌であり、病原細菌種が、バクテロイデス・フラギリス、大腸菌、ナイセリア・ゴノロエエ又はクラミジア・トラコマチスである、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
特定の器官又は組織の癌が、卵巣癌であり、病原細菌種が、バクテロイデス・フラジリス、大腸菌、ナイセリア・ゴノロエエ又はクラミジア・トラコマチスである、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
特定の器官又は組織の癌が、膣癌であり、病原細菌種が、バクテロイデス・フラジリス又は大腸菌である、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
特定の器官又は組織の癌が、乳癌であり、病原細菌種が、スタヒロコッカス・アウレウス又はストレプトコッカス・ピオゲネスである、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
特定の器官又は組織の癌が、胆嚢癌であり、病原細菌種が、バクテロイデス・フラギリス、バクテロイデス・ブルガタス、バクテロイデス・シータイオタオミクロン、クロストリジウム・パーフリンジェンス、クロストリジウム・ディフィシレ、大腸菌、サルモネラ・エンテリティディス、エルシニア・エンテロコリチカ又はシゲラ・フレクスネリである、請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
特定の器官又は組織の癌が、膀胱癌であり、病原細菌種が、大腸菌である、請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
特定の器官又は組織の癌が、頭及び首のリンパ腫であり、病原細菌種が、ストレプトコッカス・ピオゲネス、コリネバクテリウム・ジフセリエ、コリネバクテリウム・ウルセラン、アルカノバクテリウム・ヘモリチクム、スタヒロコッカス・アウレウス、シュードモナス・アエルギノーザ、プレボテラ・メラニノゲニク、嫌気性連鎖球菌、ビリダンス連鎖球菌又はアクチノミセス種である、請求項1に記載の組成物。
【請求項19】
特定の器官又は組織の癌が、胸部のリンパ腫であり、病原細菌種は、ストレプトコッカス・ニューモニエ、モラクセラ・カタラーリス、マイコプラズマ・ニューモニエ、クレブシエラ・ニューモニエ、ヘモフィルス・インフルエンゼ、スタヒロコッカス・アウレウス、クラミジア・ニューモニエ又はレジオネラ・ニューモフィラである、請求項1に記載の組成物。
【請求項20】
特定の器官又は組織の癌が、腹腔のリンパ腫であり、病原細菌種が、バクテロイデス・フラギリス、バクテロイデス・ブルガタス、バクテロイデス・シータイオタオミクロン、クロストリジウム・パーフリンジェンス、クロストリジウム・ディフィシレ、大腸菌、サルモネラ・エンテリティディス、エルシニア・エンテロコリチカ、シゲラ・フレクスネリ、プロテウス・ミラビリス、プロテウス・ブルガタス、プロビデンチア種、モルガネラ種又はエンテロコッカス・フェカーリスである、請求項1に記載の組成物。
【請求項21】
特定の器官又は組織の癌が、腋窩及び鼠径部領域のリンパ腫であり、病原細菌種が、スタヒロコッカス・アウレウス、ストレプトコッカス・ピオゲネス、コリネバクテリウム・ジフセリエ、コリネバクテリウム・ウルセラン又はシュードモナス・アエルギノーザである、請求項1に記載の組成物。
【請求項22】
病原細菌種が、健康な被験者の特定の器官又は組織に存在するときに感染をもたらしうる、請求項1〜21のいずれかに記載の組成物。
【請求項23】
病原細菌種が、健康な被験者の特定の器官又は組織に感染をもたらしている、請求項1〜22のいずれかに記載の組成物。
【請求項24】
少なくとも2種以上の細菌種を含む、請求項1〜23のいずれかに記載の組成物。
【請求項25】
少なくとも3種以上の細菌種を含む、請求項1〜24のいずれかに記載の組成物。
【請求項26】
サプリメントをさらに含む、請求項1〜25のいずれかに記載の組成物。
【請求項27】
アジュバントをさらに含む、請求項1〜26のいずれかに記載の組成物。
【請求項28】
投与が被験者における免疫応答を誘発する、請求項1〜27のいずれかに記載の組成物。
【請求項29】
抗原が、病原細菌種の弱毒化した細菌の死滅細胞全体である、請求項1〜28のいずれかに記載の組成物。
【請求項30】
1又は複数の病原細菌種の抗原(スーパー抗原を除く)を有効量含む、患者の肺癌の治療用組成物であって、前記抗原が、前記病原細菌種の弱毒化した細菌の死滅細胞全体を含み、前記病原細菌種が、ストレプトコッカス・ニューモニエ、モラクセラ・カタラーリス、クレブシエラ・ニューモニエ、ヘモフィルス・インフルエンゼ又はスタヒロコッカス・アウレウスである、前記治療用組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−97112(P2012−97112A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−2606(P2012−2606)
【出願日】平成24年1月10日(2012.1.10)
【分割の表示】特願2007−526137(P2007−526137)の分割
【原出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(511173619)クー バイオロジックス インク. (1)
【氏名又は名称原語表記】QU BIOLOGICS INC.
【Fターム(参考)】