説明

癌性疼痛の治療のための麻薬性エマルション製剤

癌性疼痛に対して対象を治療する方法および組成物を提供する。本発明の方法では、対象に有効量の麻薬性エマルション、例えばフェンタニルエマルションの製剤を投与することによって、対象の癌性疼痛を治療する。ある実施態様では、これらのエマルション製剤には、麻薬活性剤、油、水、および界面活性剤が含まれる。本発明のエマルション製剤を作製する方法、ならびに前記エマルション製剤を含むキットも提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
米国特許法119(e)条に従って、本出願は、2009年2月26日に出願された米国仮特許出願第61/155,853号の出願日に対して優先権を主張するものであって、その出願の開示は参照することにより本明細書に組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
疼痛は、実在のまたは潜在的な組織損傷に伴う不快な感覚的および精神的経験と定義することができる。それは、生理的および心理的因子の両方によって影響を受ける複雑なプロセスである。疼痛は典型的には主観的なものであり、多くの医療専門家は疼痛を効果的に判定または治療するための訓練を受けていない。
【0003】
癌性疼痛は、疾患自体によってまたは治療によって引き起こされ得るものであり、癌を患っている人々に非常によく見られる。癌を患っている多くの人々は治療を受けている間に疼痛を経験し、癌の進行した段階にいるほぼすべての人々は疼痛を経験する。
【0004】
癌性疼痛は、様々な因子、例えば癌の種類、疾患の段階、疾患の位置、および患者の疼痛耐性などに依存し得る。癌性疼痛は、原発性癌自体からまたは癌が広がっている身体の他の領域(転移)から生じ得る。腫瘍が成長するにつれて、それは神経、骨、または他の器官を圧迫し、疼痛を引き起こし得る。疼痛は、当該疾患に伴う骨折、感染、または炎症によってももたらされ得る。癌性疼痛は、単に身体部位上にある癌の物理的影響に起因するだけでなく、癌性細胞および/または組織から分泌され得る化学物質によっても引き起こされ得る。癌性疼痛の種類は変化もし得る。例えば、それは急性、慢性、または突出性の疼痛であり得る。癌性疼痛は、各疼痛発作の持続時間、その重症度、およびその発生頻度の点でも変化し得る。
【0005】
癌性疼痛を治療するのに用いられる医薬品の2つの主要な部類は、オピオイド鎮痛薬および非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)である。これらの部類の薬は、典型的には全身に投与される。癌性疼痛を緩和するための薬の全身投与は、不適切であることが多い。例えば、癌性疼痛のためのオピオイドの全身投与は、吐き気、腸機能の阻害、尿閉、肺機能の阻害、心血管系への影響、および鎮静作用を引き起こし得る。
【0006】
癌性疼痛の治療のために利用されている1つのオピオイド鎮痛薬はフェンタニルである。フェンタニルは、有用な注射可能な鎮痛薬である化合物N−(1−フェネチル−4−ピペリジル)プロピオンアニリドの一般名である。米国特許第3,164,600号を参照されたい。フェンタニルは、オピオイドアゴニストであり、例えばモルヒネおよびメペリジンなどのオピオイドの薬力学的効果の多くを共有している。しかしながら、これらのオピオイドと比較して、フェンタニルは、睡眠活性をほとんど示さず、ヒスタミン放出をめったに誘発せず、かつ呼吸抑制はより短い。フェンタニルは、静脈内投与、口腔内(ドロップによる経粘膜)投与、および経皮投与用に市販されている。
【0007】
種々の注射可能なフェンタニル製剤がこれまでに開発されている。1つのそのような製剤は、クエン酸フェンタニル、注射用のUSP水、およびpHを6.5に引き上げるのに十分な水酸化ナトリウムを含む、米国でSUBLIMAZE(商標)というブランド名で販売されているクエン酸フェンタニル組成物である。任意の意図的なpH調整をされていない、フェンタニルおよび注射用のUSP水のみからなる、異なるクエン酸フェンタニル組成物がヨーロッパでFENTANEST(商標)というブランド名で販売されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
注射可能なフェンタニル製剤の有用性にもかかわらず、そのような製剤にはある欠点が存在する。例えば、注射可能なフェンタニル製剤は、呼吸抑制、鎮静作用、およびめまいなどの望ましくない中枢神経系を介した副作用を引き起こし得る。
【課題を解決するための手段】
【0009】
癌性疼痛に対して対象を治療するための方法および組成物を提供する。本発明の方法では、対象に有効量の麻薬性エマルション、例えばフェンタニルエマルションの製剤を投与することによって、癌性疼痛に対して対象を治療する。ある実施態様では、このエマルション製剤には、麻薬活性剤、油、水、および界面活性剤が含まれる。対象エマルション製剤を作製する方法、ならびに前記エマルション製剤を含むキットも提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、マウスにおけるメラノーマ細胞接種後の日数対癌性疼痛の日々の変化を示す。
【図2】図2は、マウスにおける疼痛関連スコア対時間に対するFENTANEST(商標)クエン酸フェンタニル注射液製剤の効果を示す。
【図3】図3は、マウスにおける疼痛関連スコア対時間に対するフェンタニルエマルションAの効果を示す。
【図4】図4は、FENTANEST(商標)クエン酸フェンタニル注射液製剤およびフェンタニルエマルションAによって誘発されたストラウブ挙尾反応の持続時間を示す。調製物を0.10mlの容量で静脈内投与した。投与後1時間の間、ストラウブ挙尾反応を観察し、反応の持続時間を合計した。示された結果は、反応を示した動物の平均±SEMである。動物の数を縦棒グラフ内に示す。
【図5】図5は、FENTANEST(商標)クエン酸フェンタニル注射液製剤によって誘発された一方向性の自発運動活性を示す。FENTANEST(商標)クエン酸フェンタニル注射液製剤および媒剤を0.10mlの容量で静脈内投与した。示された結果は、6匹の動物の平均±SEMである。p<0.05(Dunnettの多重比較)。
【図6】図6は、フェンタニルエマルションAによって誘発された一方向性の自発運動活性を示す。フェンタニルエマルションAおよび媒剤を0.10mlの容量で静脈内投与した。示された結果は、6匹の動物の平均±SEMである。p<0.05(Dunnettの多重比較)。
【図7】図7は、FENTANEST(商標)クエン酸フェンタニル注射液製剤およびフェンタニルエマルションAによって誘発された一方向性の自発運動活性の比較を示す。示された結果は、6匹の動物の平均±SEMである。p<0.05(Dunnettの多重比較)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
定義
前記化合物、そのような化合物を含有する医薬組成物、ならびにそのような化合物および組成物を用いる方法を記載する場合、他に指示のない限り、以下の用語は以下の意味を有する。以下に定義した任意の構成部分を種々の置換基で置換することができること、かつそれぞれの定義はそのような置換された構成部分をその範囲内に含むことを意図されることも理解すべきである。
【0012】
「アルキル」とは、10個までの炭素原子、または9個までの炭素原子、8個までの炭素原子、または3個までの炭素原子を有する一価の飽和脂肪族ヒドロカルビル基を表す。炭化水素鎖は、直鎖または分枝鎖のいずれであってもよい。この用語は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ヘキシル、n−オクチル、tert−オクチル等の基によって例示される。「アルキル」という用語には、本明細書で定義される「シクロアルキル」も含まれる。
【0013】
「シクロアルキル」とは、3〜10個の炭素原子を有し、かつ単一の環状環、または縮合環系および架橋環系を含む複数の縮合環を有し、場合によっては1〜3個のアルキル基で置換されていてもよい環状ヒドロカルビル基を表す。そのようなシクロアルキル基には、例として、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロオクチル、1−メチルシクロプロピル、2−メチルシクロペンチル、2−メチルシクロオクチル等の単環構造が含まれる。
【0014】
「ヘテロシクロアルキル」とは、N、O、およびSから独立して選択される1個もしくは複数個のヘテロ原子を含有する、安定な複素環式非芳香環および縮合環を表す。縮合複素環式環系には炭素環が含まれていてよく、かつ1個の複素環が含まれてさえいればよい。そのような複素環式非芳香環の例には、アジリジニル、アゼチジニル、ピペラジニル、およびピペリジニルが含まれるが、これらに制限されない。
【0015】
「ヘテロアリール」とは、N、O、およびSから独立して選択される1個もしくは複数個のヘテロ原子を含有する、安定な複素環式芳香環および縮合環を表す。縮合複素環式環系には炭素環が含まれていてよく、かつ1個の複素環が含まれてさえいればよい。そのような複素環式芳香環の例には、ピリジン、ピリミジン、およびピラジニルが含まれるが、これに制限されない。
【0016】
「アリール」とは、親芳香環系の単一の炭素原子から1個の水素原子を取り除くことによって得られる一価の芳香族炭化水素基を表す。典型的なアリール基には、ベンゼン、エチルベンゼン、メシチレン、トルエン、キシレン、アニリン、クロロベンゼン、ニトロベンゼン等に由来する基が含まれるが、これらに制限されない。
【0017】
「アラルキル」または「アリールアルキル」とは、上に定義したような1個もしくは複数個のアリール基で置換された、上に定義したようなアルキル基を表す。
【0018】
「ハロゲン」とは、フルオロ、クロロ、ブロモ、およびヨードを表す。いくつかの実施態様では、ハロゲンはフルオロまたはクロロである。
【0019】
「置換された」とは、1個もしくは複数個の水素原子がそれぞれ独立して同じまたは異なる置換基と交換されている基を表す。「置換された」基とは、特に、アミノ、置換アミノ、アミノカルボニル、アミノカルボニルアミノ、アミノカルボニルオキシ、アリール、アリールオキシ、アジド、カルボキシル、シアノ、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ハロゲン、ヒドロキシル、ケト、ニトロ、チオアルコキシ、置換チオアルコキシ、チオアリール、置換チオアリール、チオケト、チオール、アルキル−S(O)−、アリール−S(O)−、アルキル−S(O)−、およびアリール−S(O)−からなる群から選択される1個もしくは複数個の置換基、例えば1〜5個の置換基、とりわけ1〜3個の置換基を有する基を表す。
【0020】
詳細な説明
癌性疼痛に対して対象を治療する方法および組成物を提供する。本発明の方法では、対象に有効量の麻薬性エマルション、例えばフェンタニルエマルションの製剤を投与することによって、癌性疼痛に対して対象を治療する。ある実施態様では、これらのエマルション製剤には、麻薬活性剤、油、水、および界面活性剤が含まれる。対象エマルション製剤を作製する方法、ならびに前記エマルション製剤を含むキットも提供する。
【0021】
本発明をより詳細に記載する前に、本発明は、当然変化し得るため、記載されている特定の実施態様に制限されないことを理解すべきである。また、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ制限されるため、本明細書で用いられる用語は、特定の実施態様のみを記載するためのものであり、制限することを意図されるものではないことも理解すべきである。
【0022】
値の範囲が提示されている場合、他に文脈ではっきりと別様に指示されていない限り下限の単位の10分の1まで、その範囲の上限および下限の間にあるそれぞれの介在値、ならびにその規定範囲にある任意の他の規定値または介在値は、本発明の範囲内に包含されると理解される。これらのより小さな範囲の上限および下限は、規定範囲にある具体的に除外された任意の限度に従って、当該より小さな範囲に独立して含まれてよく、かつ本発明の範囲内に包含もされる。規定範囲が限度の一方または両方を含む場合、その含まれた限度のいずれかまたは両方を除外した範囲も本発明に含まれる。
【0023】
ある範囲は、本明細書において、「約」という用語を前に付けた数値で示される。「約」という用語は、本明細書において、それを前に付けた正確な数、ならびに当該用語を前に付けた数の付近にある数または近似に対して的確な支持を提供するために用いられる。数が具体的に挙げられている数の付近にあるまたは近似であるかどうかを決定する際、付近のまたは近似の挙げられていない数は、それを示した文脈において、具体的に挙げられている数と実質的に等価なものを提供する数であり得る。
【0024】
異なる旨を定義しない限り、本明細書で用いられるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されたものと同様のまたは同等の任意の方法および材料も、本発明の実践または試験に用いることができるが、代表的な実例となる方法および材料をここで記載する。
【0025】
本明細書において引用されるすべての刊行物および特許は、それぞれ個々の刊行物または特許が、具体的かつ個々に、参照することにより組み入れられることが示されているかのように、参照することにより本明細書に組み入れられており、かつそれらの刊行物が引用されているものに関連した方法および/または材料を開示かつ記載するために、参照することにより本明細書に組み入れられている。任意の刊行物の引用は、出願日前のその開示に対するものであって、本発明には先願発明のためにそのような刊行物に先行する権利がないことを承認するものとして解釈されるべきでない。さらに、提示された刊行物の日付は、独立して確認される必要があり得る、実際の刊行日とは異なる可能性がある。
【0026】
留意すべきは、本明細書および添付の特許請求の範囲において使用するとき、単数形には、他に文脈ではっきりと指示されていない限り、複数の指示対象が含まれることである。さらに留意すべきは、特許請求の範囲は任意の選択的要素を除外するように作成され得ることである。そのため、この記述は、特許請求の範囲の要素の列挙に関連した、「単に」、「のみ」等の排他的用語の使用のための、または「否定的」制限の使用のための先行詞としての役割を果たすことを意図する。
【0027】
本開示を読むと当業者に明白であるように、本明細書に記載かつ例証されている個々の実施態様のそれぞれは、本発明の範囲または趣旨から逸脱することなく、他のいくつかの実施態様のいずれかの特徴と容易に区別し得るまたは組み合わせ得る、別個の構成要素および特徴を有する。任意の挙げられている方法を、挙げられている事象の順序で、または論理的に可能である任意の他の順序で実施することができる。
【0028】
対象発明をさらに記載することにおいて、そこで利用される方法およびエマルション製剤をまずより詳細に記載し、続いて当該製剤を調製するための方法および当該製剤を含み得るキットについて概説する。
【0029】
麻薬性エマルション製剤を用いた癌性疼痛を治療する方法
上に要約したように、本発明は、癌性疼痛に対して対象を治療する方法を提供する。「癌性疼痛」とは、癌、癌またはその転移に伴う任意の部位における組織の破壊、癌によって引き起こされる骨、器官、または神経に対する圧迫、当該疾患によってならびに癌性細胞および/または組織から分泌される化学物質によって引き起こされる感染または炎症に起因するまたはそれによってもたらされる疼痛を表す。癌とは、固形腫瘍を伴う癌、および固形腫瘍を伴わないもの(例えば、白血病)の両方を含む新生物を伴う疾患の部類を意味する。癌性疼痛は、当該疾患を治療するのに用いられる臨床的手法(例えば、放射線療法、化学療法、外科的介入)によってももたらされ得る。本明細書において使用するとき、「癌性疼痛」には、癌なしに、癌または癌を治療するのに利用される治療に起因する合併症なしに生じる疼痛は含まれない。いくつかの実施態様では、癌性疼痛は体内または外部の疼痛である。本明細書において使用するとき、「疼痛」には、痛覚および疼痛の感覚が含まれ、かつ疼痛は、疼痛スコアおよび例えば当該技術分野において周知のプロトコールを用いた他の方法を用いることによって、客観的かつ主観的に判定することができる。本明細書において使用するとき、癌性疼痛には、同様に本来は熱的または機械的な(触覚的な)ものであり得る、異痛(すなわち、通常、疼痛を誘発しない刺激による疼痛)および痛覚過敏(すなわち、通常、痛みを伴う刺激に対する応答の増大)が含まれる。いくつかの実施態様では、疼痛は、熱感度、機械的感度、および/または安静時疼痛によって特徴付けされる。いくつかの実施態様では、癌性疼痛には、機械的に誘発された疼痛または安静時疼痛が含まれる。他の実施態様では、癌性疼痛には、安静時疼痛が含まれる。疼痛は、当該技術分野において周知であるように、一次痛または二次痛であり得る。
【0030】
本発明の方法を実践することにおいて、麻薬性エマルション製剤を対象に非経口的に投与する。「非経口投与」とは、消化管以外の経路、例えば筋肉内注射を介して、静脈内送達を介して、等々によって、対象、例えば癌性疼痛を患っている患者に多少の麻薬性エマルション製剤を送達するプロトコールによる送達を意味する。ある実施態様では、非経口投与は、注射液送達装置を用いた注射によるものである。対象に投与される本発明の麻薬性エマルション製剤の量は、多くの因子、例えば患者の詳細、以前のオピエート治療、疼痛の性質、等々に依存して変化し得る。ある実施態様では、1回の投薬事象につき投与される投薬量は、例えば10〜150μg/用量など、25〜100μg/用量を含む、10〜250μg/用量に及んでよい。すでに開発され、かつ当業者が従っている麻薬性エマルション製剤のための投薬ガイドラインは、対象製剤に関して利用することができる。
【0031】
本発明の麻薬性エマルション製剤には、麻薬活性剤が含まれる。対象となる麻薬活性剤は、オピオイド受容体アゴニストである。オピオイド受容体アゴニストには、オピエートおよびオピオイドが含まれる。「オピエート」および「オピオイド」は、モルヒネと類似した依存症形成または依存症維持の特性を有すること、あるいはそのような依存症形成または依存症維持の特性を有する薬への変換能を有することを特徴とする、麻薬性化合物の部類を総称的に表すおおむね同義語である。具体的には、「オピエート」という用語は、基本的なモルヒネまたはテバイン構造を含有し、かつオピオイド受容体サブタイプのいずれかまたはすべてに対していくらかの親和性を有する化合物を表す。オピエートの例としては、ヘロイン、ブプレノルフィン、およびナルトレキソンである。「オピオイド」とは、基本的なモルヒネまたはテバイン構造を含有していないが、オピオイド受容体サブタイプのいずれかまたはすべてに対していくらかの親和性を有する、任意の化合物、ペプチド、または他のものである。オピエートおよびオピオイドの非排他的リストには、モルヒネ(mophine)、ヘロイン、アヘン、コカイン、フェンタニル、エクゴニン、テバインが含まれる。市販のオピエートおよびオピオイド(ならびに、入手可能な場合には例示的な商標名)には、:アルフェンタニル(例えば、ALFENTA(商標)塩酸アルフェンタニル注射液)、ブプレノルフィン(例えば、SUBUTEX(商標)ブプレノルフィン六角形オレンジ舌下錠)、カーフェンタニル、コデイン、ジヒドロコデイン、ジプレノルフィン、エトルフィン、フェンタニル(例えば、FENTANEST(商標)クエン酸フェンタニル注射液)、ヘロイン、ヒドロコドン(例えば、VICODIN(商標)酒石酸水素ヒドロコドン錠)、ヒドロモルフォン(例えば、DILAUDID(商標)塩酸ヒドロモルフォン経口液剤)、LAAM(例えば、ORLAAM(商標)酢酸レボメタジル経口液剤)、レボルファノール(例えば、LEVO−DROMORAN(商標)酒石酸レボルファノール)、メペリジン(例えば、DEMEROL(商標)塩酸メペリジン)、メタドン(DOLOPHINE(商標)塩酸メタドン錠)、モルヒネ、ナロキソン(NARCAN(商標)塩酸ナロキソン注射液)、ナルトレキソン(例えば、REVIA(商標)塩酸ナルトレキソン錠)、β−ヒドロキシ−3−メチルフェンタニル、オキシコドン(PERCODAN(商標)塩酸オキシコドン錠)、オキシモルフォン(例えば、NUMORPHAN(商標)塩酸オキシモルフォン注射液およびNUMORPHAN(商標)塩酸オキシモルフォン座剤)、プロポキシフェン(DARVON(商標)塩酸プロポキシフェンカプセルおよびPULVULES(商標)塩酸プロポキシフェンカプセル)、レミフェンタニル(ULTIVA(商標)塩酸レミフェンタニル注射液)、スフェンタニル(例えば、SUFENTA(商標)クエン酸スフェンタニル注射液)、チリジン、ならびにトラマドール(ULTRAM(商標)塩酸トラマドール錠)が含まれる。前記定義には、天然由来の化合物、合成化合物、および半合成化合物を含む任意の供給源からのすべてのオピエートおよびオピオイドが含まれる。前記定義には、すべての異性体、立体異性体、エステル、エーテル、塩、ならびにそのような異性体、立体異性体、エステル、およびエーテルの存在が、特定の化学名称の範囲内にあり得る場合には、必ずそのような異性体、立体異性体、エステル、およびエーテルの塩も含まれる。
【0032】
本発明の方法に利用される麻薬製剤はエマルションであるため、これらの製剤は、第一の液体が混合することのない第二の液体中における1種の液体の微小球の懸濁液である液体調製物である。本発明に従ったエマルションには、麻薬活性剤、油、水、および界面活性剤が含まれる。
【0033】
本発明の方法に利用されるエマルションの形態は、エマルションに有効量の麻薬活性剤が含まれているというものである。エマルション中の麻薬活性剤の量は、変化してよく、ある実施態様では、例えば0.1〜50mg/mlなど、0.1〜10mg/mlを含む、0.01〜100mg/mlに及ぶ。ある実施態様では、本発明の方法に利用されるエマルション製剤には、有効量のフェンタニル、すなわちN−(1−フェネチル−4−ピペリジル)プロピオンアニリドが含まれる。フェンタニルは、遊離塩基または生理学的に許容可能なその塩、またはその水和物として製剤中に存在し得る。ある実施態様では、フェンタニルは、0.1mg/ml以上を含む、0.05mg/ml以上の濃度で、ある実施態様では、例えば0.1〜2mg/mlなど、0.1〜1mg/mlを含む、0.1〜10mg/mlに及ぶ濃度で組成物中に存在する。
【0034】
本発明のエマルション製剤は、水と油のエマルションである。当該製剤はエマルションであるため、それは一方の流体(油または水)(分散相)がもう一方の流体(油または水)(連続相)中に分散している、2種の不混和(immiscible)(混和しない)流体の混合物である。本発明における油と界面活性剤の配合率は、脂肪エマルションを得ることができる限り、特に制限されない。エマルション中に存在する水は、脱イオン水(deinionized water)、注射用水(WFI)、等々を含む任意の好都合な水であってよい。
【0035】
対象エマルション製剤中には、油相も存在する。対象となる油は、生理学的に許容可能なものであって、天然の植物油脂、動物油脂、および鉱油に由来する単純脂質、誘導脂質、複合脂質、またはそれらの混合物を含むが、これらに制限されない。ある実施態様では、油は、大豆油、オリーブ油、ゴマ油、ヒマシ油、コーン油、ピーナッツ油、サフラワー油、グレープシード油、ユーカリ油、中鎖脂肪酸エステル、および短鎖脂肪酸エステル(low−chain ester)から選択される。対象となる動物油脂には、タラ肝油、アザラシ油、イワシ油、ドコサヘキサエン酸(docosahexiaenoic acid)、およびエイコサペンタエン酸が含まれるが、これらに制限されない。対象となる鉱油には、流動パラフィン類が含まれるが、これらに制限されない。これらのうちの1種または2種以上の組み合わせを用いることができる。ある実施態様では、大豆油、オリーブ油、およびゴマ油を利用する。ある実施態様では、高度に精製した油脂を利用する。ある実施態様では、大豆油およびオリーブ油を利用する。一般に、製剤組成物中の油の量は、例えば1〜200mg/mlなど、10〜100mg/mlを含む、0.05〜200mg/mlであるべきである。
【0036】
対象エマルション製剤中には、界面活性剤も存在する。本発明に用いられ得る界面活性剤には、リン脂質、非イオン性界面活性剤、またはそのような薬剤の混合物を含む、医薬製剤に用いられている任意の種類の界面活性剤が含まれる。ある実施態様では、例えば卵黄レシチンおよび大豆レシチンなどの精製リン脂質を利用する。精製リン脂質には、ホスファチジルイノシトール(phosphatidylinocytol)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、およびホスファチジルコリンを主成分とするスフィンゴミエリン(sphingomyeline)が含まれていてよい。対象となる非イオン性界面活性剤には、ポリエチレングリコール、ポリオキシアルキレンコポリマー、およびソルビタン脂肪酸エステルが含まれるが、これらに制限されない。これらの界面活性剤のうちの1種または2種以上の組み合わせを用いることができる。ある実施態様では、精製界面活性剤を利用する。ある実施態様では、ホスファチジルコリンを主成分とする、卵黄または大豆由来の精製または水素化したリン脂質を利用する。界面活性剤の量は、変化してよく、ある実施態様では、例えば0.1〜25mg/mlなど、0.1〜50mg/mlに及ぶ。
【0037】
前記製剤のある実施態様には、1種もしくは複数種の乳化促進剤も含まれる。医薬製剤に用いられている任意の種類の脂肪酸を乳化促進剤として用いることができる。天然または合成のいずれかの、6〜22個の炭素数を有する脂肪酸を対象とするものであって、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸、リノレン酸、およびミリスチン酸を含むが、これらに制限されない飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸のいずれかを用いることができる。ある実施態様では、精製脂肪酸、例えばオレイン酸を利用する。ある実施態様では、乳化促進剤の量は、例えば1〜5mg/mlなど、0.1〜10mg/mlに及ぶ。
【0038】
前記エマルション製剤は、生理学的に許容可能なpHを有する。ある実施態様では、該製剤のpHは、例えば5〜7.5など、3〜8に及ぶ。ある実施態様では、pH調整剤も存在する。対象となるpH調整剤には、水酸化ナトリウム、塩酸、リン酸緩衝液、およびクエン酸緩衝液が含まれるが、これらに制限されない。本発明のエマルションのpHを、pH調整剤を用いることによって、およそ5.5〜7.5に調整することができる。
【0039】
所望に応じて、製剤中に存在し得る他の添加物(例えば、安定剤)には、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(主に平均分子量400未満)、D−グルコース、およびマルトースが含まれるが、これらに制限されない。存在する場合、そのような薬剤は、例えば1〜25mg/mlなど、0.1〜50mg/mlに及ぶ量で存在し得る。
【0040】
本発明のエマルション製剤を含有するフェンタニルは、以下の実験のセクションで報告されているフェンタニルエマルションAによって例証されているように、FENTANEST(商標)クエン酸フェンタニル注射液製剤0.1mg/2ml(三共株式会社から入手可能である,東京,日本)と比較して、有効性の増大を示す。ある実施態様では、図2および3で例証されているように、FENTANEST(商標)クエン酸フェンタニル注射液製剤および本発明のエマルション、例えばフェンタニルエマルションAの15分後に、48μg/kgの用量において、それぞれ疼痛強度(疼痛関連スコア)が61%および68%抑制されることが判明した場合、FENTANEST(商標)クエン酸フェンタニル注射液製剤より高い有効性を示すと見なされる、例えばフェンタニルエマルションAなどのエマルションを対象とする。
【0041】
本発明のエマルション製剤は、FENTANEST(商標)クエン酸フェンタニル注射液製剤と比較して、中枢神経系を介した副作用の軽減を示す。以下の表3で例証されているように、30μg/ml用量の投与後、少なくとも6匹のマウスの集団において、脊髄に対するフェンタニルの作用によってもたらされるストラウブ挙尾の発生率が、以下の実験のセクションで報告されているアッセイプロトコールを用いることによって決定されるように、例えば33%未満など、50%未満である場合、製剤は、FENTANEST(商標)クエン酸フェンタニル注射液製剤と比較して、中枢神経系を介した副作用の軽減を示すと見なされる。30μg/ml用量の後にストラウブ挙尾反応を示すマウスにおいて、フェンタニルエマルションAの投与後の反応持続時間は、図4で例証されているように、FENTANEST(商標)クエン酸フェンタニル注射液製剤のものの36%である。
【0042】
製剤は、FENTANEST(商標)クエン酸フェンタニル注射液製剤と比較して、脳を介した副作用の軽減を示し、自発運動活性を亢進させるとも見なされる。30μg/ml用量の投与後の回転行動の持続時間は、図7で例証されているように、FENTANEST(商標)クエン酸フェンタニル注射液製剤およびフェンタニルエマルションAの群で、以下の実験のセクションで報告されているアッセイプロトコールを用いることによって決定されるように、それぞれ40分間および27分間である。
【0043】
ある実施態様では、前記製剤は保存安定性である。保存安定性とは、顕著な相分離および/または前記活性剤の活性の顕著な低下なしに、組成物を長期間保存し得ることを意味する。ある実施態様では、対象組成物は、25℃で維持した場合、3年以上等々、安定である。「活性剤の活性を実質的に減少させることなく」という語句は、保存期間の終了の時点で、保存期間の開始と比較して、活性剤の活性の低下が約10%未満であることを意味する。
【0044】
対象製剤および方法は、癌性疼痛の予防または治療を含む様々な応用に用途を見出している。治療とは、改善が広い意味で用いられて、パラメーター、例えば治療されている状態を伴う疼痛などの症状の大きさの少なくとも軽減を表す場合、対象を苦しめている状態を伴う症状の少なくとも改善を達成することを意味する。そのため、治療には、病的状態または少なくともそれに伴う症状を完全に阻害し、例えば発生するのを予防し、または阻止し、例えば終結させ、それによって対象が当該状態または少なくとも当該状態を特徴付ける症状をもはや患うことがない状況も含まれる。
【0045】
したがって、本発明は、ヒトおよびヒト以外の動物のどちらも、肉食動物(例えば、イヌおよびネコ)、齧歯目(例えば、マウス、モルモット、およびラット)、ウサギ目(例えば、ウサギ)、および霊長類(例えば、ヒト、チンパンジー、およびサル)の分類目を含む、すべての哺乳動物を含む個体における癌性疼痛を治療する、その発症を遅らせる、および/または予防するのに有用である。ある実施態様では、対象、例えば患者は、ヒトである。さらに、本発明は、癌、癌またはその転移に伴う任意の部位における組織の破壊、癌によって引き起こされる骨、器官、または神経に対する圧迫、当該疾患によってならびに癌性細胞および/または組織から分泌される化学物質によって引き起こされる感染または炎症に伴う疼痛を有する個体において有用である。癌とは、固形腫瘍を伴う癌、および固形腫瘍を伴わないもの(例えば、白血病)を含む新生物を伴う疾患の部類を意味する。
【0046】
したがって、一実施形態において、本発明は、有効量の麻薬活性剤のエマルションを投与する工程を含む、個体における癌性疼痛を治療する方法を提供する。いくつかの実施態様では、癌性疼痛には、異痛、痛覚過敏、機械的に誘発された疼痛、熱的に誘発された疼痛、熱的に誘発された疼痛、機械的に誘発された疼痛、または安静時疼痛のうちの1つもしくは複数が含まれる。いくつかの実施態様では、癌性疼痛には、機械的に誘発された疼痛および安静時疼痛が含まれる。他の実施態様では、癌性疼痛には、安静時疼痛が含まれる。疼痛は、一次痛および/または二次痛であり得る。他の実施態様では、異痛が抑制、改善、および/または予防され、またいくつかの実施態様では、痛覚過敏が抑制、改善、および/または予防される。なおさらなる実施態様では、異痛および/または痛覚過敏は、本来は熱的または機械的な(触覚的な)もの(または両方)、あるいは安静時疼痛である。いくつかの実施態様では、疼痛は慢性疼痛である。他の実施態様では、疼痛は突出性の癌性疼痛である。
【0047】
別の実施形態において、本発明は、癌性疼痛の発症または進行を改善および/または予防する方法を提供する。いくつかの実施態様では、癌性疼痛の発現の間および/または後にエマルションを投与する。一実施態様では、癌性疼痛の発現の1時間、2時間、3時間、4時間、6時間、8時間、12時間、24時間、30時間、36時間、またはそれ以上後にエマルションを投与する。
【0048】
別の実施形態において、本発明は、疼痛閾値を増大させる方法を提供する。本明細書において使用するとき、「疼痛閾値を増大させる」とは、癌、癌またはその転移に伴う任意の部位における組織の破壊、癌によって引き起こされる骨、器官、または神経に対する圧迫、当該疾患によってならびに癌性細胞および/または組織から分泌される化学物質によって引き起こされる感染または炎症に伴う疼痛の軽減、減衰、および/または最小化(疼痛の主観的知覚の軽減、減衰、および/または最小化を含む)を表す。癌とは、固形腫瘍を伴う癌、および固形腫瘍を伴わないもの(例えば、白血病)を含む新生物を伴う疾患の部類を意味する。さらに別の実施形態において、本発明は、各癌性疼痛発作からの回復を促進するための方法を提供する。
【0049】
ある実施態様では、本発明の方法には診断工程が含まれる。個体は、任意の簡便なプロトコールを用いた本発明の方法を必要としていると診断されてもよく、かつ本発明の方法を必要としていることが一般に知られており、例えば、それらは、標的疾患状態を患っている、または本発明の方法を実践する前に標的疾患状態を患う危険性があると判断されている。
【0050】
疼痛の診断または判定は、当該技術分野において十分に確立されている。判定は、例えば刺激に対する反応、表情等の行動を観察するなどの客観的測定に基づいて行うことができる。判定は、例えば種々の疼痛尺度を用いた患者による疼痛の特徴付けなどの主観的測定に基づいてもよい。例えば、Katzら,Surg Clin North Am.(1999)79(2):231−52;Caraceniら,J Pain Symptom Manage(2002)23(3):239−55を参照されたい。
【0051】
疼痛緩和は、緩和の時間的経過によって特徴付けしてもよい。したがって、いくつかの実施態様では、疼痛緩和は、1時間、2時間、または数時間後に主観的または客観的に観察される(またいくつかの実施態様では、約12〜18時間の時点でピークに達する)。別の実施態様では、疼痛緩和は、癌性疼痛に伴う事象の後、24、36、48、60、72時間、またはそれ以降の時点で主観的または客観的に観察される。
【0052】
調製方法
本発明のエマルション製剤を、任意の簡便なプロトコールを用いることによって調製することができる。一実施態様では、注射用溶媒、例えばWFIを適切な油の滑らかな混合物に添加する。この混合物が粗く乳化した後、次いで、それを例えば高圧乳化装置を用いることによって微細に乳化させる。粗い乳化には、ホモミキサー(みづほ工業株式会社)またはハイフレックスディスパーサー(SMT)を用いることができる。微細な乳化には、高圧ホモジナイザー、例えばガウリンホモジナイザー(APV−SMT)およびマイクロフルイダイザー(Microfluidics)などを用いることができる。高圧ホモジナイザーを用いる場合には、エマルションを、およそ500〜850kg/cmの圧力をかけて、例えば5〜20回など、2〜50回通過させてもよい。混合および乳化の手順は、室温または室温より低い温度で行うことができる。ある実施態様では、窒素ガスを用いて前記調製を実施する。
【0053】
キット
前述のように、本発明の方法を実践することに用途を見出しているキットも提供する。例えば、本発明の方法を実践するためのキットには、単位用量、例えばアンプル、または複数回用量の形式で存在している、多少のエマルション組成物が含まれていてよい。そのため、ある実施態様では、これらのキットには、1回もしくは複数回の単位用量(例えば、アンプル)のエマルション製剤が含まれていてよい。さらに他の実施態様では、これらのキットには、単一量の複数回用量のエマルション製剤が含まれていてよい。
【0054】
前記構成要素に加えて、対象キットには、さらに、本発明の方法を実践するための使用説明書が含まれていてよい。これらの使用説明書は、種々の形態で対象キットに存在してよく、そのうちの1つもしくは複数がキットに存在してよい。これらの使用説明書が存在し得る一形態は、キットのパッケージ内に、添付文書で、等々、適切な媒体または基板、例えば情報が印刷されている1枚または複数枚の紙上に印刷された情報としてである。さらに別の手段は、情報が記録されている、コンピューターによって読み取り可能な媒体、例えばディスケット、CD、等々であろう。存在し得るさらに別の手段は、削除されたサイトの情報にアクセスするために、インターネットを介して用いることができるウェブサイトのアドレスである。任意の簡便な手段がこれらのキットに存在してよい。
【0055】
以下の実施例は、本発明をどのように作製および使用するかについての完全な開示および記載を当業者に提供するために提示されるものであって、本発明者らが本発明者らの発明と見なすものの範囲を制限することを意図するものではなく、それらは、以下の実験がすべてであるまたは実施された唯一の実験であると意味することを意図するものでもない。用いた数(例えば、量、温度、等々)に関する正確性を確保するための努力はなされているが、いくらかの実験誤差および偏差は考慮されるべきである。他に指示のない限り、割合は重量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏温度であり、かつ圧力は大気圧におけるまたはその付近の圧力である。
【実施例】
【0056】
実験
I.フェンタニルエマルション製剤および調製
A.製剤
(エマルション 250ml)
【表1】

【表2】

【0057】
B.手順
油相の成分をビーカーに入れ、7,000rpmで撹拌しながら60℃に加熱して、該成分を溶解した。25mgのフェンタニルを加え、撹拌した。(当該プロセスは、およそ10分間要した。)この混合物中に50mlのグリセリン溶液を滴下して加え、10,000rpmで10分間撹拌した。この溶液を分離可能なフラスコに移した。残りのグリセリン溶液を、エマルション装置内で12,000rpmで30分間撹拌しながら加えた。精製水を加えて、エマルションの全容積を250mlにした。このエマルションを、高圧エマルション装置LAB−1000(APV,デンマーク)を用いて、650barの圧力で混合物を冷却しながら、20回乳化した。(エマルションのpHが6〜7の間にある場合には、pHの調整は必要なかった。pHが6〜7の間になかった場合には、塩酸溶液または水酸化ナトリウム溶液でpHを調整した。本実験では、pHが6.3〜6.7の間にあったため、調整を行わなかった。)高圧乳化の後、エマルションを濾過し(孔径0.4μm)、Nガスを加えながら、エマルションをアンプル内に入れた。これらのアンプルをオートクレーブ滅菌(121℃で10分間)によって滅菌した。滅菌後、これらのアンプルを冷却し、保存した。
【0058】
II.フェンタニル製剤の癌性疼痛アッセイ
FENTANEST(商標)クエン酸フェンタニル注射液製剤および(前記I.に記載したとおりに作製された)フェンタニルエマルションAの鎮痛効果を、マウスにおける癌性疼痛について検査した。
【0059】
A.材料および方法
動物
雄のC57BL/6Crマウスを用いた。
【0060】
試験調製物
1)FENTANEST(商標)クエン酸フェンタニル注射液製剤(クエン酸フェンタニル,0.1mg/2mlのフェンタニル)
2)フェンタニルエマルションA(0.1mg/mlのフェンタニル;平均粒径=181nm)
【0061】
投与
それぞれの製剤を、適切な溶媒を用いて調製した。それぞれの製剤を、10gの体重あたり0.05mlの量で静脈内投与した。
【0062】
癌性疼痛モデルの調製
B16−BL6メラノーマ細胞を実験に用いた。10%ウシ胎仔血清を含有する変法イーグル最小必須培地(MEM)中で該細胞を培養した。2×10個/20μlを有するように該細胞を調製し、それを、29G針(Becton,Dickinson and Company)を付けた低用量注シリンジを用いることによって、マウスの後肢の裏面に足底内注射(i.pl.)した。
【0063】
鎮痛検査
後肢への機械的刺激に対する反応を、指標として用いた。0.16mNの強度を有するフォン・フライ・フィラメント(North Coast Medical,San Jose,USA)を測定に用いた。後肢の裏面にフォン・フライ・フィラメントを適用した後、反応を3段階(0=反応なし;1=刺激から遠ざかる;2=後肢の即座のたじろぎまたは舌なめずり)に分類した。本手順を6回繰り返し、平均スコアを鎮痛反応スコアとして用いた。
【0064】
この鎮痛検査をブラインド法で行った。この実験を行った人物は、FENTANEST(商標)クエン酸フェンタニル注射液製剤をそれぞれのエマルションと視覚的に区別することができたが、彼はそれぞれの製剤に対するエマルションの種類を知ることなく実験を行った。図1は、後肢の足底へのメラノーマ細胞の接種後20日間の、疼痛関連スコアおよび肢体積の日々の変化を示す。メラノーマ細胞を接種した後肢(ipsi)は、接種後9日目から始まる疼痛関連スコアの増大を示し始めた。疼痛関連スコアは10日目に大幅に増大し、15日目にプラトーが生じるまで続いた。メラノーマ細胞の接種後16日目に、本鎮痛検査を行った。疼痛関連スコアの増大は、接種後9日目から始まる着実な増大を示した肢体積の増大とよく相関した。コントロールとして、接種されていない後肢(コントロール)は、接種後20日間の期間を通して、疼痛関連スコアの増大を示さず、および肢体積は一定のままであった。図1には、日別の測定に伴うエラーバーも示されている。
【0065】
B.結果
要旨
メラノーマ細胞を接種した後肢(ipsi.)は、FENTANEST(商標)クエン酸フェンタニル注射液製剤(図2)およびフェンタニルエマルションA(図3)の静脈内投与の15分後にピークに達した疼痛関連スコアの用量依存的減少を示し、この効果は約60分間観察された。16μg/kgおよび48μg/kg用量で有意な阻害が観察され、かつ48μg/kg用量の群で十分な効果が観察された。4.8μg/kg用量を用いた群では、30分間のみ持続する効果を有する有意でない阻害が観察された(図2および3)。反対側の後肢(コントロール)は、すべての用量で注射による効果を示さなかった(図2)。フェンタニルを欠く注射(媒剤のみ)も、疼痛関連スコアに対して効果を示さなかった(図3)。疼痛関連スコアについての測定は、6回の独立試行からの平均であった。
【0066】
フェンタニル(Fentanvl)または製剤を投与した後の阻害効果の比較
投与の15分後に阻害効果を比較すると、有意な差は観察されなかった(図2および3)。しかしながら、参照標準と比較すると、フェンタニルエマルションA製剤について、実質的な阻害効果が観察された(図3)。
【0067】
投与の30分後に阻害効果を比較すると、有意な差は観察されなかった(図2および3)。しかしながら、参照標準と比較すると、フェンタニルエマルションA製剤について、持続効果が観察された(図3)。
【0068】
III.フェンタニルエマルション製剤の中枢神経系を介した副作用の判定
A.ストラウブ挙尾反応
マウスにオピオイドを与えた場合、それらの尻尾は立ち上がって吻側に向く。この反応は、ストラウブ挙尾と呼ばれ、中枢神経系、特に脊髄によって仲介され得る。FENTANEST(商標)クエン酸フェンタニル注射液製剤は、試験したすべてのマウスにおいて、より高い用量でストラウブ挙尾反応を誘発した(表3)。ストラウブ挙尾反応の発生率は、フェンタニルエマルションAの注射後では比較的低かった(表3)。同様の結果が、ストラウブ挙尾反応の持続時間において観察された(図4)。
【表3】

【0069】
B.自発運動活性効果
マウスに高用量のオピオイドを与えた場合、中枢神経系に対する作用を介して自発運動活性が亢進する。FENTANEST(商標)クエン酸フェンタニル注射液製剤は、30および50μg/mlの高濃度で自発運動活性を顕著に亢進させたが、10μg/mlの濃度では効果がなかった(図5)。フェンタニルエマルションAの後の自発運動活性の亢進は、FENTANEST(商標)クエン酸フェンタニル注射液製剤のものよりも低かった(図6)。図7に示されているように、FENTANEST(商標)クエン酸フェンタニル注射液製剤およびフェンタニルエマルションAの効果を比較した。FENTANEST(商標)クエン酸フェンタニル注射液製剤と比較した場合、フェンタニルエマルションAは、30および50μg/mlの濃度で有意に低い自発運動活性をもたらした。
【0070】
C.考察
ストラウブ挙尾反応および自発運動活性の亢進は、主に中枢神経系によって仲介され得るものであるため、前記結果からフェンタニル調製物の中枢神経系を介した副作用を考慮した。FENTANEST(商標)クエン酸フェンタニル注射液製剤と比較して、フェンタニルエマルションAの中枢神経系を介した副作用は、FENTANEST(商標)クエン酸フェンタニル注射液製剤のものよりも軽症であった。
【0071】
明確な理解のために、前述の発明は、図解および実施例によって多少詳しく記載されているが、本発明の教示に照らして、添付の特許請求の範囲の趣旨または範囲から逸脱することなく、それにある程度の変化および修正がなされ得ることは当業者に容易に明白である。
【0072】
したがって、前述のものは、本発明の原理を単に例証するものである。当業者であれば、本明細書に明確に記載または示されてはいないが、本発明の原理を具体化するものであって、かつその趣旨および範囲内に含まれる様々なアレンジを考案し得るであろうことは十分理解されるであろう。さらに、本明細書に挙げられているすべての実施例および条件付きの言語は、原則的に、本発明の原理、および本発明者によって当該技術分野を進展させることに付与された概念を理解する際に読者を手助けすることを意図するものであり、具体的に挙げられているそのような実施例および条件に制限されないと解釈されるべきである。さらには、本明細書における本発明の原理、実施形態、および実施態様、ならびにその特定の実施例を挙げているすべての記述は、その構造的および機能的同等物の両方を包含することを意図する。加えて、そのような同等物には、現在公知の同等物および将来開発される同等物、すなわち構造にかかわらず同じ機能を果たす任意の開発される要素の両方が含まれることを意図する。本発明の範囲は、それゆえ、本明細書に示されているかつ記載されている例示的実施態様に制限されることを意図されるものではない。むしろ、本発明の範囲および趣旨は、添付の特許請求の範囲によって具体化されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌性疼痛に対する対象の治療における使用に有効である、麻薬性エマルション製剤。
【請求項2】
前記麻薬性エマルション製剤がオピオイドを含む、請求項1に記載のエマルション製剤。
【請求項3】
前記オピオイドがフェンタニルである、請求項2に記載のエマルション製剤。
【請求項4】
前記エマルション製剤がフェンタニル;油;水:および界面活性剤を含む、請求項3に記載のエマルション製剤。
【請求項5】
前記フェンタニルが0.1〜10mg/mlに及ぶ量で存在している、請求項4に記載のエマルション製剤。
【請求項6】
前記油が0.05〜200mg/mlに及ぶ量で存在している、請求項4または5に記載のエマルション製剤。
【請求項7】
前記界面活性剤が卵黄リン脂質または大豆リン脂質から選択される、請求項4、5、または6に記載のエマルション製剤。
【請求項8】
前記エマルション製剤が乳化促進剤をさらに含む、請求項4〜7のいずれかに記載のエマルション製剤。
【請求項9】
前記乳化促進剤がオレイン酸である、請求項4〜8のいずれかに記載のエマルション製剤。
【請求項10】
前記エマルション製剤がグリセリンをさらに含む、請求項4〜9のいずれかに記載のエマルション製剤。
【請求項11】
前記エマルション製剤が、FENTANEST(商標)クエン酸フェンタニル注射液製剤と比較して同程度の有効性を示す、請求項4〜10のいずれかに記載のエマルション製剤。
【請求項12】
前記エマルション製剤が、FENTANEST(商標)クエン酸フェンタニル注射液製剤と比較して中枢神経系を介した副作用の軽減を示す、請求項4〜11のいずれかに記載のエマルション製剤。
【請求項13】
癌性疼痛に対して対象を治療する方法であって、癌性疼痛に対して前記対象を治療するのに、請求項1〜12のいずれかに記載の麻薬性エマルション製剤の有効量を前記対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項14】
フェンタニル、油、水、および界面活性剤を含むエマルション製剤を含む、キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−519167(P2012−519167A)
【公表日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552037(P2011−552037)
【出願日】平成22年1月11日(2010.1.11)
【国際出願番号】PCT/US2010/020645
【国際公開番号】WO2010/098897
【国際公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(502346286)テイコク ファーマ ユーエスエー インコーポレーテッド (26)
【出願人】(300025767)テクノガード株式会社 (7)
【Fターム(参考)】