癌細胞移植動物、製造方法及びその利用方法
【課題】癌組織特有の構造を有したヒト以外の免疫正常動物を提供する。
【解決手段】0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した細胞培養支持体上で、ポリマーの水和力の弱い温度域で癌細胞を培養し、その後、培養液をポリマーの水和力の強い状態となる温度に変化させることで培養した癌細胞を剥離させ、移植対象となる動物の所定部位に移植した、癌組織特有の構造を有したヒト以外の免疫正常動物。
【解決手段】0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した細胞培養支持体上で、ポリマーの水和力の弱い温度域で癌細胞を培養し、その後、培養液をポリマーの水和力の強い状態となる温度に変化させることで培養した癌細胞を剥離させ、移植対象となる動物の所定部位に移植した、癌組織特有の構造を有したヒト以外の免疫正常動物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学、医学等の分野において有用な免疫系を有する癌細胞移植動物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
癌は日本の死因のトップであり、約30%の人が癌で死亡するといわれている。近年、ゲノム情報によるオーダーメイド医療が進みつつあるが、肝心の癌に有効な治療薬は依然、見つかっていないのが現状である。その抗癌剤の開発に必須なのが適切な担癌動物であり、現在、その開発が待たれている。
【0003】
癌細胞移植動物としては、APCやp53等の癌抑制遺伝子ノックアウトマウス、或いは化学物質等の発癌剤を用いる方法、対象とする癌細胞を直接移植する方法などにより発現させた動物などが挙げられる。これらのうち、癌抑制遺伝子ノックアウトマウスは、比較的短期間に製造できるが、比較的高価であり、製造委託先のいろいろな制約を受けるなど、容易に使用できる方法ではなかった。また、化学物質による発癌方法では、癌を発生させるために長期間を必要とするため、結論を得るまでに時間を費やさねばならないという問題があった。
【0004】
癌細胞の移植方法は、短期間で実験結果が得られるという利点を有する。しかしながら、移植した癌細胞の生着率が悪いこと、動物ごとの移植癌組織の大きさや重量のばらつきが大きく、抗癌剤を評価する際、その効果の優位な差が見えづらい欠点があった。その理由に、移植した癌細胞の生着率の低さ、移植部位からの癌細胞懸濁液の漏出などが挙げられ、移植する細胞自身の機能を改善する必要性があった。
【0005】
このような背景のもと、特許文献1には、水に対する上限若しくは下限臨界溶解温度が0〜80℃であるポリマーで基材表面を被覆した細胞培養支持体上にて、細胞を上限臨界溶解温度以下または下限臨界溶解温度以上で培養し、その後上限臨界溶解温度以上または下限臨界溶解温度以下にすることにより酵素処理なくして培養細胞を剥離させる新規な細胞培養法が示されている。また、特許文献2には、この温度応答性細胞培養基材を利用して皮膚細胞を上限臨界溶解温度以下或いは下限臨界溶解温度以上で培養し、その後上限臨界溶解温度以上或いは下限臨界溶解温度以下にすることにより培養皮膚細胞を低損傷でシート状に剥離させることが記載されている。温度応答性細胞培養基材を利用することにより、従来の培養技術に対しさまざまな新規な展開をはかれるようになってきた。特許文献3には、この方法を利用して癌細胞シートを作製し、ヒト以外の動物へ移植することで効率良く担癌動物を作製することができるようになった。しかしながら、ここでの技術は主に免疫不全動物を用いた担癌動物の作製を対象にしたもので、生体内の癌組織を実験動物に再現するには、免疫正常動物を利用して、対象とする癌細胞も本来、存在すべき臓器を癌化させる必要性がある。抗腫瘍剤を開発する上でのスクリーニング、癌化メカニズム等の研究開発を進める上で生体内に発現する癌を実験動物内に再現することは同領域において強く求められている技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平02−211865号公報
【特許文献2】特開平05−192138号公報
【特許文献3】再表2005−084429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決することを意図してなされたものである。すなわち、本発明は、従来技術と全く異なった発想からの新規な免疫機能を有する動物を使った癌細胞移植動物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の角度から検討を加えて、研究開発を行った。その結果、驚くべくことに、0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した細胞培養支持体上で、ポリマーの水和力の弱い温度域で癌細胞を培養し、その後、培養液をポリマーの水和力の強い状態となる温度に変化させることで培養した癌細胞を剥離させ、免疫正常動物の所定部位に移植すると効率良く癌細胞を生着させられ、生体内の免疫機構に攻撃を受けながら、より生体内の癌組織様の構造の癌が形成されることが分かった。しかも、その癌細胞をシート状とし、その癌細胞シートを所定の大きさを有する所定の形状とすることで、当該動物の癌組織の大きさ、及びまたは形状を制御しうることが判明した。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、癌細胞シートの移植により当該癌組織特有の構造を有したヒト以外の免疫正常動物を提供する。
また、本発明は、0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した細胞培養支持体上で、ポリマーの水和力の弱い温度域で癌細胞を培養し、その後、培養液をポリマーの水和力の強い状態となる温度に変化させることで培養した癌細胞を蛋白質分解酵素による処理を施すことなく細胞培養支持体からシート状に剥離させ、ヒト以外の免疫正常動物の所定部位に移植することを特徴とするヒト以外の免疫正常動物の製造方法を提供する。
加えて、本発明は、上記癌細胞移植動物を利用した腫瘍形成能評価方法、腫瘍転移能評価方法、抗腫瘍剤の選別方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に記載される免疫正常癌細胞移植動物であれば、移植した癌細胞を効率良く癌化させられるだけでなく、癌組織をより本来あるべき形態で実験動物内に再現されており、従って、抗腫瘍剤を開発する上でのスクリーニング、癌化メカニズム等の研究開発を進められるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】 実施例1の免疫正常マウスへマウス肺扁平上皮癌細胞シートを移植し、移植5日後(図中のD5)と14日後(図中のD14)のようすを示す図である。
【図2】 実施例1の免疫正常マウスヘルシフェラーゼ発光能を有するマウス肺扁平上皮癌細胞シートを移植し、移植1日後(図中のD1)、移植3日後(図中のD3)、移植7日後(図中のD7)、移植14日後(図中のD14)のヘルシフェラーゼ発光のようすを示す図である。
【図3】 実施例1の免疫正常マウスへマウス肺扁平上皮癌細胞シートを移植した1日後の移植部のようすを示す図である。図3−1及び図3−2は移植部をHE染色、図3−3はサイトケラチン5を染色した時のようすを示す。癌細胞が好中球に攻撃されているようすが分かる。
【図4】 実施例1の免疫正常マウスへマウス肺扁平上皮癌細胞シートを移植した5日後の移植部のようすを示す図である。図4−1は移植部をHE染色、図4−2はサイトケラチン5を染色した時のようすを示す。炎症系の細胞が減り、癌組織が形成されつつあることが分かる。
【図5】 実施例1の免疫正常マウスへマウス肺扁平上皮癌細胞シートを移植した14日後の移植部のようすを示す図である。図5−1、図5−3(右図、左図)は移植部をHE染色、図5−2はサイトケラチン5を染色した時のようすを示す。癌細胞と線維系の細胞が混在し、癌組織中に上皮性の構造、並びに血管様の空隙が形成されているようすが分かる。
【図6】 比較例1の免疫正常マウスへマウス肺扁平上皮癌細胞(細胞懸濁液)を注入移植し、移植5日後(図中のD5)と14日後(図中のD14)のようすを示す図である。
【図7】 比較例1の免疫正常マウスヘルシフェラーゼ発光能を有するマウス肺扁平上皮癌細胞シートを移植し、移植1日後(図中のD1)、移植3日後(図中のD3)、移植7日後(図中のD7)、移植14日後(図中のD14)のヘルシフェラーゼ発光のようすを示す図である。
【図8】 比較例1の免疫正常マウスへマウス肺扁平上皮癌細胞シートを移植した1日後の移植部のようすをHE染色して示した図である。癌細胞が好中球に攻撃されているようすが分かる。
【図9】 比較例1の免疫正常マウスへマウス肺扁平上皮癌細胞シートを移植した7日後の移植部のようすをHE染色して示した図である。炎症系の細胞が隔離され、肉芽組織が形成されつつあることが分かる。
【図10】 比較例2の免疫正常マウスへリン酸緩衝液だけを注入したときの1日後(図中のD1)、7日後(図中のD7)の移植部のようすをHE染色して示した図である。1日後では炎症反応が認められるが、7日後にはそれがおさまっていることが分かる。
【図11】 実施例1、比較例1、比較例2において、形成された腫瘍の体積を計測し、結果をまとめた図である。
【図12】 実施例1、比較例1、比較例2において、ルシフェリン発光量を計測し、結果をまとめた図である。
【図13】 比較例3の免疫不全マウスへマウス肺扁平上皮癌細胞、並びにマウス肺扁平上皮癌細胞シートを移植し、移植5日後(図中のD5)と14日後(図中のD14)のようすを示す図である。
【図14】 比較例3の免疫不全マウスヘルシフェラーゼ発光能を有するマウス肺扁平上皮癌細胞、並びにマウス肺扁平上皮癌細胞シートを移植し、移植1日後(図中のD1)、移植3日後(図中のD3)、移植7日後(図中のD7)、移植14日後(図中のD14)のヘルシフェラーゼ発光のようすを示す図である。
【図15】 比較例3において、形成された腫瘍の体積を計測し、結果をまとめた図である。
【図16】 比較例3において、ルシフェリン発光量を計測し、結果をまとめた図である。
【図17】 実施例2の免疫正常マウスへマウス乳癌細胞シートを移植し、移植1日後(図中のD1)、移植7日後(図中のD7)と14日後(図中のD14)のようすを示す図である。
【図18】 実施例2の免疫正常マウスへマウス乳癌細胞シートを移植し、14日後の移植部のようすをHE染色して示した図である。粘液癌特有の構造を示し、癌細胞が筋組織に浸食しているようす、並びに血管周囲に赤血球が漏出しているようすが分かる。
【図19】 比較例4の免疫正常マウスへマウス乳癌細胞(細胞懸濁液)を注入移植し、移植1日後(図中のD1)、移植7日後(図中のD7)、並びに14日後(図中のD14)のようすを示す図である。
【図20】 比較例4の免疫正常マウスへマウス乳癌細胞シートを移植し、14日後の移植部のようすをHE染色して示した図である。腫瘍様組織と多数の炎症系の細胞が混在しているようすが分かる。
【図21】 実施例2、比較例4において、形成された腫瘍の体積を計測し、結果をまとめた図である。
【図22】 実施例2、比較例4において、ルシフェリン発光量を計測し、結果をまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、免疫正常動物に癌組織を形成させたものである。本発明に使用される癌細胞は特に限定されないが、例えば、肺扁平上皮癌、乳癌、食道癌、肝癌等の癌組織のいずれかから直接採取して得られた細胞、或いはそれらの混合物、或いは、例えば、KLN−205、Luc2−4T1、HBC−4、BSY−1、HBC−5、MCF−5、MCF−7、MDA−MB−231、U251、SF−268、SF−295、SF−539、SNB−75、SNB−78、HCC2998、KM−12、HT−29、WiDr、HCT−15、HCT−116、NCI−H23、NCI−H226、NCI−H522、NCI−H460、A549、DMS273、DMS114、LOX−IMVI、OVCAR−3、OVCAR−4、OVCAR−5、OVCAR−8、SK−OV−3、RXF−631L、ACHN、St−4、MKN1、MKN7、MKN28、MKN45、MKN74などの細胞株、及びそれらの混合物等が挙げられる。また、いわゆる移植不能な細胞株として知られる例えばMGT−40、MGT−90、CS−C9、CS−C20などの細胞株も本発明で示すところの技術であれば、その高い生着率により移植できるようになる。これらの細胞の由来は特に制約されるものではないが、たとえばヒト、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス、モルモット、ブタ、ヒツジ、ヤギ、サル等が挙げられる。本発明における細胞培養のための培地は培養される細胞に対し通常用いられるものを用いれば特に制約されるものではない。
【0013】
本発明において移植される動物としては、生体内に形成される癌組織をより本来の形態で発現させるために免疫が正常な動物を利用する。そのような動物としては、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、サル等が挙げられるが、本発明は免疫が正常なヒト以外の動物であれば特に限定されるものではない。本発明によれば、上述した癌細胞は以下に示すような技術等で癌細胞シート化され、免疫正常動物へ移植される。移植された癌細胞シートは、本来、生体が有している免疫機構で攻撃を受け、その後、生体の免疫機構に打ち勝って、生体内で癌組織を形成していくこととなる。例えば、肺扁平上皮癌であれば、肺扁平上皮癌特有の上皮組織等が形成され、乳癌であれば乳癌特有の粘液癌組織、腺上皮組織、小葉組織等が形成される。また、食道癌であれば、食道癌特有の扁平上皮癌組織や腺癌様組織が形成され、肝癌であれば、肝癌特有の上皮組織、超音波検査において特徴的なモザイクパターン様の構造を有する肝癌組織を作製できる。本発明とは、このような過程を経て形成された癌組織を有する免疫正常動物を示すものである。こうして得られた癌組織は生体内に長期に安定に存在し、癌組織の構造も癌組織本来の形態に近く、例えば、血管網が密に形成され、他組織への侵潤も発現させられることを見出した。また、本発明の動物であれば、生体内で形成された癌組織へ攻撃する免疫関連細胞の動向も観察できることも分かった。さらに、本発明であれば、癌細胞シートを当該癌細胞が存在していた癌組織の場所へ移植すれば、そのものが原発癌のモデルとなり、その原発癌を成育させ転移させれば転移癌のモデルとなる。このように、本発明とは対象とする癌細胞をシート化し、その癌が本来存在していた場所へ移植し、生体内で本来、起こっている現象を忠実に再現することを目的とした技術を示すものである。
【0014】
本発明における癌細胞シートの製造方法は特に限定されないが、例えば、上記癌細胞を0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した細胞培養支持体上で、ポリマーの水和力の弱い温度域で培養し、剥離させることで作製できる。その際、培養温度としては通常、細胞を培養する温度である37℃が好ましい。本発明に用いる温度応答性高分子はホモポリマー、コポリマーのいずれであってもよい。このような高分子としては、例えば、特開平2−211865号公報に記載されているポリマーが挙げられる。具体的には、例えば、以下のモノマーの単独重合または共重合によって得られる。使用し得るモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、またはビニルエーテル誘導体が挙げられ、コポリマーの場合は、これらの中で任意の2種以上を使用することができる。更には、上記モノマー以外のモノマー類との共重合、ポリマー同士のグラフトまたは共重合、あるいはポリマー、コポリマーの混合物を用いてもよい。また、ポリマー本来の性質を損なわない範囲で架橋することも可能である。その際、培養、剥離されるものが細胞であることから、分離が5℃〜50℃の範囲で行われるため、温度応答性ポリマーとしては、ポリ−N−n−プロピルアクリルアミド(単独重合体の下限臨界溶解温度21℃)、ポリ−N−n−プロピルメタクリルアミド(同27℃)、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(同32℃)、ポリ−N−イソプロピルメタクリルアミド(同43℃)、ポリ−N−シクロプロピルアクリルアミド(同45℃)、ポリ−N−エトキシエチルアクリルアミド(同約35℃)、ポリ−N−エトキシエチルメタクリルアミド(同約45℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(同約28℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(同約35℃)、ポリ−N,N−エチルメチルアクリルアミド(同56℃)、ポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド(同32℃)などが挙げられる。本発明に用いられる共重合のためのモノマーとしては、ポリアクリルアミド、ポリ−N、N−ジエチルアクリルアミド、ポリ−N、N−ジメチルアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸及びその塩、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース、カルボキシメチルセルロースなどの含水ポリマーなどが挙げられるが、特に制約されるものではない。これらのポリマーは、ポリマー特有の温度を境に、それまで脱水和された状態が急激に水和された状態へ変化する。このものが細胞培養支持体材料表面に被覆されていれば、材料は癌細胞が付着、増殖する表面から細胞が付着できないような表面へ変化し、培養していた癌細胞を剥離させられるようになる。その温度域とは0℃〜80℃、好ましくは10℃〜50℃、さらに好ましくは20℃〜45℃であることが判明した。80℃を越えると癌細胞が死滅する可能性があるので好ましくない。また、0℃より低いと一般に細胞増殖速度が極度に低下するか、または癌細胞が死滅してしまうため、やはり好ましくない。本発明とはトリプシンのような酵素を全く使用せずに、培養温度を変化させるだけで、培養していた癌細胞を剥離させられ、従って剥離した癌細胞シートもトリプシンなどによる障害を受けておらず、低損傷なものとなる。培養した癌細胞を剥離させる際、酵素処理を伴わないため接着性蛋白質が破壊されずに残っているため移植後の生着性が良く、さらにその癌細胞がシート状である場合、移植時における移植部位からの漏出も抑えられ効率良く癌細胞移植動物を製造できるようになる。各種ポリマーの基材表面への被覆方法は、特に制限されないが、例えば、特開平2−211865号公報に記載されている方法に従ってよい。すなわち、かかる被覆は、基材と上記モノマーまたはポリマーを、電子線照射(EB)、γ線照射、紫外線照射、プラズマ処理、コロナ処理、有機重合反応のいずれかにより、または塗布、混練等の物理的吸着等により行うことができる。細胞付着部における親水性ポリマーの固定化量は移動させたい細胞を付着させられるに十分な量が固定化されていれば良く特に限定されるものではないが、その固定化量は使用する細胞が癌細胞であるため0.4μg/cm2以上、好ましくは0.8μg/cm2以上、さらに好ましくは1.2μg/cm2以上である。ポリマーの固定化量の測定は常法に従えば良く、例えばFT−IR−ATRを用いて細胞付着部を直接測る方法、あらかじめラベル化したポリマーを同様な方法で固定化し細胞付着部に固定化されたラベル化ポリマー量より推測する方法などが挙げられるがいずれの方法を用いても良い。
【0015】
本発明における培養基材の形状は特に制約されるものではないが、例えばディッシュ、マルチプレート、フラスコ、セルインサートのような形態のもの、或いは平膜状のものなどが挙げられる。被覆を施される基材としては、通常細胞培養に用いられるガラス、改質ガラス、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等の化合物を初めとして、一般に形態付与が可能である物質、例えば、上記以外の高分子化合物、セラミックス類など全て用いることができる。
【0016】
本発明における培養癌細胞は培養時にディスパーゼ、トリプシン等で代表される蛋白質分解酵素による損傷を受けていないものである。そのため、基材から剥離された癌細胞は接着性蛋白質を有し、癌細胞をシート状に剥離させた際には細胞−細胞間のデスモソーム構造がある程度保持されたものとなる。このことにより、移植時において患部組織と良好に接着することができ、効率良い移植を実施することができるようになる。一般に蛋白質分解酵素であるディスパーゼに関しては、細胞−細胞間のデスモソーム構造については10〜60%保持した状態で剥離させることができることで知られているが、細胞−基材間の基底膜様蛋白質等を殆ど破壊してしまうため、得られる細胞シートは強度の弱いものとなる。これに対して、本発明の癌細胞シートは、デスモソーム構造、基底膜様蛋白質共に80%以上残存された状態のものであり、上述したような種々の効果を得ることができる。さらに、本発明のように、免疫が正常な動物において癌細胞は異物として認識され免疫担当細胞等に攻撃を受ける。このような免疫正常動物へ従来のような個々の癌細胞を注入しても、注入された癌細胞のほとんどが死滅し、炎症が起こり、肉芽組織となり、効率良く癌組織を有する担癌動物を作製することができない。しかしながら、本発明のような癌細胞シートを使用すれば、移植された癌細胞シートは速やかに被移植部位へ付着し、生体側の免疫担当細胞の攻撃を受けつつも耐えることができ、その後、生体内の免疫機構に打ち勝ち、癌組織を形成していくこととなる。本発明における癌細胞シートであれば、免疫正常動物内においても効率良く癌組織を形成させられることが分かった。
【0017】
以上のことを温度応答性ポリマーとしてポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)を例にとり説明する。ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)は31℃に下限臨界溶解温度を有するポリマーとして知られ、遊離状態であれば、水中で31℃以上の温度で脱水和を起こしポリマー鎖が凝集し、白濁する。逆に31℃以下の温度ではポリマー鎖は水和し、水に溶解した状態となる。本発明では、このポリマーがシャーレなどの基材表面に被覆、固定されたものである。したがって、31℃以上の温度であれば、基材表面のポリマーも同じように脱水和するが、ポリマー鎖が基材表面に被覆、固定されているため、基材表面が疎水性を示すようになる。逆に、31℃以下の温度では、基材表面のポリマーは水和するが、ポリマー鎖が基材表面に被覆、固定されているため、基材表面が親水性を示すようになる。このときの疎水的な表面は癌細胞が付着、増殖できる適度な表面であり、また、親水的な表面は癌細胞が付着できないほどの表面となり、培養中の癌細胞、もしくは癌細胞シートも冷却するだけで剥離させられることになる。
【0018】
本発明の方法において、培養した癌細胞を支持体材料から剥離回収するには、培養された癌細胞を必要に応じてキャリアに密着させ、癌細胞の付着した支持体材料の温度を支持体基材の被覆ポリマーの水和する温度にすることによって、そのままキャリアとともに剥離することができる。その際に、癌細胞シートと支持体の間に水流を当て剥離を円滑に行っても良い。なお、シートを剥離することは細胞を培養していた培養液中において行うことも、その他の等張液中において行うことも可能であり、目的に合わせて選択することができる。癌細胞、及び癌細胞シートを密着させる際に使用するキャリアは、本発明の細胞を保持するための構造物であり、例えば高分子膜または高分子膜から成型された構造物、金属性治具などを使用することができる。例えば、キャリアの材質として高分子を使用する場合、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロース及びその誘導体、紙類、キチン、キトサン、コラーゲン、ウレタン、ゼラチン、フィブリングルー等の材料を膜状、多孔膜状、不織布状、織布状を挙げることができる。キャリアの形状は、特に限定されるものではない。
【0019】
本発明において移植される癌細胞は、生着性が良好なため総数にして1×105個以下で良く、好ましくは5×105個以下、さらには8×105個以下であることが好ましい。本発明の場合、8×105個以上にすると大きな癌組織が得られることなり好都合であるが、一回に使用する細胞数が多くなり好ましくない。移植される場所は、皮下であってもそれぞれの癌細胞由来の組織に直接移植しても良く、何ら制約されるものではない。
【0020】
本発明の免疫正常癌細胞移植動物であれば、移植した癌細胞を効率良く癌化させられるだけでなく、癌組織をより本来あるべき形態で実験動物内に再現されており、従って、抗腫瘍剤を開発する上でのスクリーニング、癌化メカニズム等の研究開発を進められるようになる。具体的には、本発明の免疫正常癌細胞移植動物をCT、MRI、超音波、PET等の画像診断を利用することで腫瘍形成能を評価することができる。また、本発明の免疫正常動物を利用し、CT、MRI、超音波、PET等の画像診断、発光イメージングや腫瘍マーカーを測定することで腫瘍転移能を評価することができるようになる。さらに、本発明の免疫正常動物に対して、被検物質を投与し、当該被検物質の腫瘍形成能への影響を判定することで有効な抗腫瘍剤を選別することができるようになる。また、逆に、本発明の免疫正常動物に対して、既存の抗腫瘍剤、ワクチン、丸山ワクチン等の治療薬を投与し癌組織の形態を観察することで、既存の治療薬の効能を検討することができるようになる。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【実施例1】
【0022】
マウス肺扁平上皮癌(KLN−205)を24wellデッシュに播種し、コンフルエントの70%になるまで培養した。この癌細胞に対して、ルシフェラーゼ遺伝子をもつレンチウイルスに感染させ、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した。この細胞を1wellに1細胞となるように、96well播種し、2週間培養した。その後、ルシフェリンを添加して、IVISを用いて発光している細胞を確認し、その細胞を継代培養してルシフェラーゼ遺伝子をもつ細胞を得た。次に、市販の細胞培養器材に温度応答性ポリマーであるポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)を1.9μg/cm2被覆し、癌細胞培養領域周囲をポリアクリルアミドで固定化し癌細胞を付着させないようにし、癌細胞接着領域をφ15mmとした温度応答性培養基材を作製した。このものの表面へルシフェラーゼ遺伝子をコートしたKLN−205を1.0x106cells播種し、37°Cでインキュベーションした。24時間後、コンフルエントになったことを確認後、培地を37℃に温めた培養液に交換し、さらに3日間培養した。その後、培養皿を20°Cのインキュベーターに移し、2時間低温処理を施した。この細胞をピペッティングにより培養基材から剥離させた。得られた癌細胞シートをBDF1マウスに移植した(φ:15mm、5.0x105cells)(この作業を本発明ではCell Sheetと表記する場合がある。)。移植後マウスの腫瘍体積を計測するために、移植部周辺の隆起部分をノギスを用いて計測した。また、ルシフェリンを腹腔内投与して、IVISを用いて腫瘍細胞の発光量を計測した。図1に移植5日後(図中のD5)と14日後(図中のD14)のようすを示す。移植した癌細胞シートが肥大化しているようすが分かる。図2に移植1日後(図中のD1)、移植3日後(図中のD3)、移植7日後(図中のD7)、移植14日後(図中のD14)のヘルシフェラーゼ発光のようすを示す。移植後、長期わたって癌細胞シートが存在していることが分かる。マウスを犠死させ、移植部位の組織片を回収した。組織片は固定処理後、組織切片を作製後、HE染色し、癌細胞シートの様子を観察した。移植1日後の移植部のようすを図3に示す。図3−1及び図3−2は移植部をHE染色、図3−3はサイトケラチン5を染色した時のようすを示す。癌細胞が好中球に攻撃されているようすが分かる。移植5日後のようすを示す図4に示す。図4−1は移植部をHE染色、図4−2はサイトケラチン5を染色した時のようすを示す。炎症系の細胞が減り、癌組織が形成されつつあることが分かる。移植14日後の移植部のようすを図5に示す。図5−1、図5−3(右図、左図)は移植部をHE染色、図5−2はサイトケラチン5を染色した時のようすを示す。癌細胞と線維系の細胞が混在し、癌組織中に上皮性の構造、並びに血管様の空隙が形成されているようすが分かる。HE染色像より、移植初期では、核の異型や細胞に対する核の割合が高い細胞が観察されたことから、この細胞が移植した癌細胞であることが確認された。これらの細胞は上皮状に配列しており、空洞を形成し筋肉側と皮膚側の両面に生着していることが確認された。また、扁平上皮癌のマーカーに対して陽性であることから、移植した細胞が扁平上皮癌であることがわかった。この腫瘍組織は、移植5日後から間質系の細胞が観察された。
【比較例1】
【0023】
移植する癌細胞をシート化せず、個々の癌細胞として5.0x105cells注入(この作業を本発明ではインジェクション、INJ、Suspensionと表記する場合がある。)する以外は実施例1と同様な方法で癌細胞を移植した。図6に移植5日後(図中のD5)と14日後(図中のD14)のようすを示す。実施例1に比べ、癌細胞が肥大化していないことが分かった。同様に、移植1日後(図中のD1)、移植3日後(図中のD3)、移植7日後(図中のD7)、移植14日後(図中のD14)のヘルシフェラーゼ発光のようすを示す結果からも、移植した癌細胞が消失しつつあることを確認することができた。また、移植1日後の移植部のようすをHE染色して示したからは、癌細胞が好中球に攻撃されているようすが分かった(図8)。移植7日後の移植部のHE染色像からは、炎症系の細胞が隔離され、肉芽組織が形成されつつあることが分かった(図9)。投与5日後に全てのマウスの皮下で腫大が確認された。しかし、以下に示すルシフェリン発光量側定より、発光が観察されなかった。この腫大の組織像を観察したところ、腫大部は炎症系の細胞が集まっていることが確認され、さらにサイトケラチン5に対して陰性であったことから、この組織は、炎症反応により肉芽組織であることがわかった。以上より、免疫正常動物への癌細胞の移植は癌細胞をシート化する方が好ましいことが分かる。
【比較例2】
【0024】
100uLのPBSのみを左背部皮下に注入する以外は実施例1と同様な方法で検討を行った。注入1日後(図中のD1)、7日後(図中のD7)の移植部をHE染色した結果を図10に示す。1日後では炎症反応が認められるが、7日後にはそれがおさまっていることが分かる。
【0025】
(腫瘍体積の計測結果まとめ)
実施例1、比較例1、比較例2において、形成された腫瘍の体積を計測し、結果を図11にまとめる。免疫正常動物へ個々の細胞を注入した群(比較例1)では、3日後に腫瘤状の塊が現れたが、時間経過と共にその大きさは小さくなる傾向が見られた。細胞シート移植群(実施例1)では、7日目後から腫瘤が観察され、その組織は時間と共に増大していくことが確認された。
【0026】
(ルシフェリン発光量の計測結果まとめ)
実施例1、比較例1、比較例2において、ルシフェリン発光量を計測し、結果を図12まとめる。ルシフェリン発光量は、個々の細胞を注入した群は時間とともに小さくなり、その発光量は、腫瘤が観察されるにも関わらず、ほとんどPBSだけを注入した比較例2と変わらなくなった。一方、癌細胞シート移植群(実施例1)では、3日後から腫瘤が観察され、その大きさは、時間経過にともない増加していく傾向が見られた。
【比較例3】
【0027】
被移植動物を免疫不全マウスBALB/c Nu−Nuに移植する以外は、実施例1と同様な方法で癌細胞シート(図13〜16において、Cell Sheetと表記する。)、比較例1と同様な方法で個々の癌細胞を移植した(図13〜16において、Suspensionと表記する。)。図13にそれぞれの移植5日後(図中のD5)と14日後(図中のD14)のようすを示す。癌細胞シートを移植した群においては免疫不全マウス内でも移植後肥大化したが、個々の癌細胞を移植した群は癌組織の肥大化は認められなかった。また、図14にそれぞれの移植1日後(図中のD1)、移植3日後(図中のD3)、移植7日後(図中のD7)、移植14日後(図中のD14)のヘルシフェラーゼ発光のようすを示すが、その傾向は同様であった。
【0028】
(腫瘍体積の計測結果まとめ)
得られた結果を図15に示す。個々の癌細胞を移植した群では、腫瘤が移植後から観察されたが、この大きさは2週間後もほとんど変わらなかった。一方、癌細胞シート移植群では、3日後から腫瘤が観察され、その大きさは、時間経過にともない増加していく傾向が見られた。
【0029】
(ルシフェリン発光量の計測結果まとめ)
得られた結果を図16に示す。ルシフェリン発光では、個々の癌細胞を移植した群では、腫瘤の形成が見られその大きさはほとんど変わらないのにも関わらず、発光強度は著しく減少してゆき、10日後にはほとんど発光が観察されなくなった。これに対して、癌細胞シート移植群では発光強度が時間経過に伴い増大していった。
【0030】
今回の検討により、免疫不全マウスでは高い腫瘍生着が観察されたのに対して、免疫正常マウスでは腫瘍が生着しにくいことが明らかとなった。発光測定より、腫瘤が観察されたのに発光が観察されない現象が観察された。これにより、個々の癌細胞を移植した群では、癌細胞を注射したことにより、炎症反応が起こり、それが肉芽組織になったものと考えられる。
【実施例2】
【0031】
実施例1と同様に、細胞接着領域をφ:15mmに制御したポリアクリルアミドパターン化音頭応答性細胞培養基材(ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドを2.0μg/cm2被覆)を作製し、Luc2−4T1(マウス乳癌細胞)を1.0x106cells播種し、37℃でインキュベーションした。24時間後、コンフルエントになったことを確認後、培地を37℃に温めた培養液に交換し、さらに2日間培養した。その後、温度応答性培養基材を20℃のインキュベーターに移し、2時間低温処理を施した。この細胞をピペッティングにより基材から剥離した。得られた癌細胞シートをBALB/cマウスに移植した。マウスの腫瘍体積を計測するために、移植部周辺の隆起部分をノギスを用いて計測した。また、ルシフェリンを腹腔内投与して、IVISを用いて腫瘍細胞の発光量を計測した。図17に移植1日後(図中のD1)、移植7日後(図中のD7)と14日後(図中のD14)のようすを示す。また、移植14日後の移植部のようすをHE染色して結果を図18に示す。粘液癌特有の構造を示し、癌細胞が筋組織に浸食しているようす、並びに血管周囲に赤血球が漏出しているようすが分かる。
【比較例4】
【0032】
移植する癌細胞をシート化せず、個々の癌細胞として1.0x106cells注入(この作業を本発明ではインジェクション、INJ、Suspensionと表記する場合がある。)する以外は実施例2と同様な方法で癌細胞を移植した。図19に、移植1日後(図中のD1)、移植7日後(図中のD7)、並びに14日後(図中のD14)のようすを示す。移植14日後の移植部のようすをHE染色した結果を図20に示す。腫瘍様組織と多数の炎症系の細胞が混在しているようすが分かる。
【0033】
(腫瘍体積の計測結果まとめ)
実施例2、比較例4において、形成された腫瘍の体積を計測し、結果を図21にまとめる。個々の癌細胞を移植した群(比較例4)では、移植後1日に腫瘤状の塊が発現した(n=7/8)。そのうち、5匹(初日に腫瘤が出来なかったものも含む)は時間経過と共にその大きさが大きくなったが、3匹はその腫瘤の大きさにほとんど変化が観察されなかった。一方、癌細胞シート移植群(実施例2)では移植5日目から腫大が観察された。Day5で腫大部が515mm3までなるマウスが一匹いた。Day7で全てのマウスで腫大部体積が100mm3を超えた。皮下の状態を観察すると、細胞懸濁液は皮下に癌が生着しているのに対して、癌細胞シートは皮膚、筋層側ともに生着していた。このため細胞シートでは急激な腫瘍増殖が観察されたものと考えられる。また、腫瘍の内部には粘液癌と思われる液状の組織が観察された。腫瘍が大きくなったためにできたものかわからないが移植方法で腫瘍の状態が異なる可能性が考えられる。個々の癌細胞移植群(比較例4)では、14日後、6匹中1匹が腫瘍の大きさが100mm3を超えた。これに対して、癌細胞シート移植群(実施例2)では移植7日後に全てのマウスで腫瘍の大きさが100mm3を超えた。
【0034】
(ルシフェリン発光量の計測結果まとめ)
実施例2、比較例4において、ルシフェリン発光量を計測し、結果を図22まとめる。個々の癌細胞移植群(比較例4)、癌細胞シート移植群(実施例2)ともに同様の発光の増加傾向が観察された。しかし、Day7においては発光量が飽和してしまったために実測値より低く見積もられていると考えられる。体積の増加量と比較してルシフェリン発光の増加量が大きく異なる原因として、癌細胞シート移植群(実施例2)では腫瘍内部に粘液癌と思われるものができている可能性がある。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に記載される免疫正常癌細胞移植動物であれば、移植した癌細胞を効率良く癌化させられるだけでなく、癌組織をより本来あるべき形態で実験動物内に再現されており、従って、抗腫瘍剤を開発する上でのスクリーニング、癌化メカニズム等の研究開発を進められ、同領域において極めて重要な発明と考えられる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学、医学等の分野において有用な免疫系を有する癌細胞移植動物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
癌は日本の死因のトップであり、約30%の人が癌で死亡するといわれている。近年、ゲノム情報によるオーダーメイド医療が進みつつあるが、肝心の癌に有効な治療薬は依然、見つかっていないのが現状である。その抗癌剤の開発に必須なのが適切な担癌動物であり、現在、その開発が待たれている。
【0003】
癌細胞移植動物としては、APCやp53等の癌抑制遺伝子ノックアウトマウス、或いは化学物質等の発癌剤を用いる方法、対象とする癌細胞を直接移植する方法などにより発現させた動物などが挙げられる。これらのうち、癌抑制遺伝子ノックアウトマウスは、比較的短期間に製造できるが、比較的高価であり、製造委託先のいろいろな制約を受けるなど、容易に使用できる方法ではなかった。また、化学物質による発癌方法では、癌を発生させるために長期間を必要とするため、結論を得るまでに時間を費やさねばならないという問題があった。
【0004】
癌細胞の移植方法は、短期間で実験結果が得られるという利点を有する。しかしながら、移植した癌細胞の生着率が悪いこと、動物ごとの移植癌組織の大きさや重量のばらつきが大きく、抗癌剤を評価する際、その効果の優位な差が見えづらい欠点があった。その理由に、移植した癌細胞の生着率の低さ、移植部位からの癌細胞懸濁液の漏出などが挙げられ、移植する細胞自身の機能を改善する必要性があった。
【0005】
このような背景のもと、特許文献1には、水に対する上限若しくは下限臨界溶解温度が0〜80℃であるポリマーで基材表面を被覆した細胞培養支持体上にて、細胞を上限臨界溶解温度以下または下限臨界溶解温度以上で培養し、その後上限臨界溶解温度以上または下限臨界溶解温度以下にすることにより酵素処理なくして培養細胞を剥離させる新規な細胞培養法が示されている。また、特許文献2には、この温度応答性細胞培養基材を利用して皮膚細胞を上限臨界溶解温度以下或いは下限臨界溶解温度以上で培養し、その後上限臨界溶解温度以上或いは下限臨界溶解温度以下にすることにより培養皮膚細胞を低損傷でシート状に剥離させることが記載されている。温度応答性細胞培養基材を利用することにより、従来の培養技術に対しさまざまな新規な展開をはかれるようになってきた。特許文献3には、この方法を利用して癌細胞シートを作製し、ヒト以外の動物へ移植することで効率良く担癌動物を作製することができるようになった。しかしながら、ここでの技術は主に免疫不全動物を用いた担癌動物の作製を対象にしたもので、生体内の癌組織を実験動物に再現するには、免疫正常動物を利用して、対象とする癌細胞も本来、存在すべき臓器を癌化させる必要性がある。抗腫瘍剤を開発する上でのスクリーニング、癌化メカニズム等の研究開発を進める上で生体内に発現する癌を実験動物内に再現することは同領域において強く求められている技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平02−211865号公報
【特許文献2】特開平05−192138号公報
【特許文献3】再表2005−084429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決することを意図してなされたものである。すなわち、本発明は、従来技術と全く異なった発想からの新規な免疫機能を有する動物を使った癌細胞移植動物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の角度から検討を加えて、研究開発を行った。その結果、驚くべくことに、0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した細胞培養支持体上で、ポリマーの水和力の弱い温度域で癌細胞を培養し、その後、培養液をポリマーの水和力の強い状態となる温度に変化させることで培養した癌細胞を剥離させ、免疫正常動物の所定部位に移植すると効率良く癌細胞を生着させられ、生体内の免疫機構に攻撃を受けながら、より生体内の癌組織様の構造の癌が形成されることが分かった。しかも、その癌細胞をシート状とし、その癌細胞シートを所定の大きさを有する所定の形状とすることで、当該動物の癌組織の大きさ、及びまたは形状を制御しうることが判明した。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、癌細胞シートの移植により当該癌組織特有の構造を有したヒト以外の免疫正常動物を提供する。
また、本発明は、0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した細胞培養支持体上で、ポリマーの水和力の弱い温度域で癌細胞を培養し、その後、培養液をポリマーの水和力の強い状態となる温度に変化させることで培養した癌細胞を蛋白質分解酵素による処理を施すことなく細胞培養支持体からシート状に剥離させ、ヒト以外の免疫正常動物の所定部位に移植することを特徴とするヒト以外の免疫正常動物の製造方法を提供する。
加えて、本発明は、上記癌細胞移植動物を利用した腫瘍形成能評価方法、腫瘍転移能評価方法、抗腫瘍剤の選別方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に記載される免疫正常癌細胞移植動物であれば、移植した癌細胞を効率良く癌化させられるだけでなく、癌組織をより本来あるべき形態で実験動物内に再現されており、従って、抗腫瘍剤を開発する上でのスクリーニング、癌化メカニズム等の研究開発を進められるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】 実施例1の免疫正常マウスへマウス肺扁平上皮癌細胞シートを移植し、移植5日後(図中のD5)と14日後(図中のD14)のようすを示す図である。
【図2】 実施例1の免疫正常マウスヘルシフェラーゼ発光能を有するマウス肺扁平上皮癌細胞シートを移植し、移植1日後(図中のD1)、移植3日後(図中のD3)、移植7日後(図中のD7)、移植14日後(図中のD14)のヘルシフェラーゼ発光のようすを示す図である。
【図3】 実施例1の免疫正常マウスへマウス肺扁平上皮癌細胞シートを移植した1日後の移植部のようすを示す図である。図3−1及び図3−2は移植部をHE染色、図3−3はサイトケラチン5を染色した時のようすを示す。癌細胞が好中球に攻撃されているようすが分かる。
【図4】 実施例1の免疫正常マウスへマウス肺扁平上皮癌細胞シートを移植した5日後の移植部のようすを示す図である。図4−1は移植部をHE染色、図4−2はサイトケラチン5を染色した時のようすを示す。炎症系の細胞が減り、癌組織が形成されつつあることが分かる。
【図5】 実施例1の免疫正常マウスへマウス肺扁平上皮癌細胞シートを移植した14日後の移植部のようすを示す図である。図5−1、図5−3(右図、左図)は移植部をHE染色、図5−2はサイトケラチン5を染色した時のようすを示す。癌細胞と線維系の細胞が混在し、癌組織中に上皮性の構造、並びに血管様の空隙が形成されているようすが分かる。
【図6】 比較例1の免疫正常マウスへマウス肺扁平上皮癌細胞(細胞懸濁液)を注入移植し、移植5日後(図中のD5)と14日後(図中のD14)のようすを示す図である。
【図7】 比較例1の免疫正常マウスヘルシフェラーゼ発光能を有するマウス肺扁平上皮癌細胞シートを移植し、移植1日後(図中のD1)、移植3日後(図中のD3)、移植7日後(図中のD7)、移植14日後(図中のD14)のヘルシフェラーゼ発光のようすを示す図である。
【図8】 比較例1の免疫正常マウスへマウス肺扁平上皮癌細胞シートを移植した1日後の移植部のようすをHE染色して示した図である。癌細胞が好中球に攻撃されているようすが分かる。
【図9】 比較例1の免疫正常マウスへマウス肺扁平上皮癌細胞シートを移植した7日後の移植部のようすをHE染色して示した図である。炎症系の細胞が隔離され、肉芽組織が形成されつつあることが分かる。
【図10】 比較例2の免疫正常マウスへリン酸緩衝液だけを注入したときの1日後(図中のD1)、7日後(図中のD7)の移植部のようすをHE染色して示した図である。1日後では炎症反応が認められるが、7日後にはそれがおさまっていることが分かる。
【図11】 実施例1、比較例1、比較例2において、形成された腫瘍の体積を計測し、結果をまとめた図である。
【図12】 実施例1、比較例1、比較例2において、ルシフェリン発光量を計測し、結果をまとめた図である。
【図13】 比較例3の免疫不全マウスへマウス肺扁平上皮癌細胞、並びにマウス肺扁平上皮癌細胞シートを移植し、移植5日後(図中のD5)と14日後(図中のD14)のようすを示す図である。
【図14】 比較例3の免疫不全マウスヘルシフェラーゼ発光能を有するマウス肺扁平上皮癌細胞、並びにマウス肺扁平上皮癌細胞シートを移植し、移植1日後(図中のD1)、移植3日後(図中のD3)、移植7日後(図中のD7)、移植14日後(図中のD14)のヘルシフェラーゼ発光のようすを示す図である。
【図15】 比較例3において、形成された腫瘍の体積を計測し、結果をまとめた図である。
【図16】 比較例3において、ルシフェリン発光量を計測し、結果をまとめた図である。
【図17】 実施例2の免疫正常マウスへマウス乳癌細胞シートを移植し、移植1日後(図中のD1)、移植7日後(図中のD7)と14日後(図中のD14)のようすを示す図である。
【図18】 実施例2の免疫正常マウスへマウス乳癌細胞シートを移植し、14日後の移植部のようすをHE染色して示した図である。粘液癌特有の構造を示し、癌細胞が筋組織に浸食しているようす、並びに血管周囲に赤血球が漏出しているようすが分かる。
【図19】 比較例4の免疫正常マウスへマウス乳癌細胞(細胞懸濁液)を注入移植し、移植1日後(図中のD1)、移植7日後(図中のD7)、並びに14日後(図中のD14)のようすを示す図である。
【図20】 比較例4の免疫正常マウスへマウス乳癌細胞シートを移植し、14日後の移植部のようすをHE染色して示した図である。腫瘍様組織と多数の炎症系の細胞が混在しているようすが分かる。
【図21】 実施例2、比較例4において、形成された腫瘍の体積を計測し、結果をまとめた図である。
【図22】 実施例2、比較例4において、ルシフェリン発光量を計測し、結果をまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、免疫正常動物に癌組織を形成させたものである。本発明に使用される癌細胞は特に限定されないが、例えば、肺扁平上皮癌、乳癌、食道癌、肝癌等の癌組織のいずれかから直接採取して得られた細胞、或いはそれらの混合物、或いは、例えば、KLN−205、Luc2−4T1、HBC−4、BSY−1、HBC−5、MCF−5、MCF−7、MDA−MB−231、U251、SF−268、SF−295、SF−539、SNB−75、SNB−78、HCC2998、KM−12、HT−29、WiDr、HCT−15、HCT−116、NCI−H23、NCI−H226、NCI−H522、NCI−H460、A549、DMS273、DMS114、LOX−IMVI、OVCAR−3、OVCAR−4、OVCAR−5、OVCAR−8、SK−OV−3、RXF−631L、ACHN、St−4、MKN1、MKN7、MKN28、MKN45、MKN74などの細胞株、及びそれらの混合物等が挙げられる。また、いわゆる移植不能な細胞株として知られる例えばMGT−40、MGT−90、CS−C9、CS−C20などの細胞株も本発明で示すところの技術であれば、その高い生着率により移植できるようになる。これらの細胞の由来は特に制約されるものではないが、たとえばヒト、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス、モルモット、ブタ、ヒツジ、ヤギ、サル等が挙げられる。本発明における細胞培養のための培地は培養される細胞に対し通常用いられるものを用いれば特に制約されるものではない。
【0013】
本発明において移植される動物としては、生体内に形成される癌組織をより本来の形態で発現させるために免疫が正常な動物を利用する。そのような動物としては、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、サル等が挙げられるが、本発明は免疫が正常なヒト以外の動物であれば特に限定されるものではない。本発明によれば、上述した癌細胞は以下に示すような技術等で癌細胞シート化され、免疫正常動物へ移植される。移植された癌細胞シートは、本来、生体が有している免疫機構で攻撃を受け、その後、生体の免疫機構に打ち勝って、生体内で癌組織を形成していくこととなる。例えば、肺扁平上皮癌であれば、肺扁平上皮癌特有の上皮組織等が形成され、乳癌であれば乳癌特有の粘液癌組織、腺上皮組織、小葉組織等が形成される。また、食道癌であれば、食道癌特有の扁平上皮癌組織や腺癌様組織が形成され、肝癌であれば、肝癌特有の上皮組織、超音波検査において特徴的なモザイクパターン様の構造を有する肝癌組織を作製できる。本発明とは、このような過程を経て形成された癌組織を有する免疫正常動物を示すものである。こうして得られた癌組織は生体内に長期に安定に存在し、癌組織の構造も癌組織本来の形態に近く、例えば、血管網が密に形成され、他組織への侵潤も発現させられることを見出した。また、本発明の動物であれば、生体内で形成された癌組織へ攻撃する免疫関連細胞の動向も観察できることも分かった。さらに、本発明であれば、癌細胞シートを当該癌細胞が存在していた癌組織の場所へ移植すれば、そのものが原発癌のモデルとなり、その原発癌を成育させ転移させれば転移癌のモデルとなる。このように、本発明とは対象とする癌細胞をシート化し、その癌が本来存在していた場所へ移植し、生体内で本来、起こっている現象を忠実に再現することを目的とした技術を示すものである。
【0014】
本発明における癌細胞シートの製造方法は特に限定されないが、例えば、上記癌細胞を0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した細胞培養支持体上で、ポリマーの水和力の弱い温度域で培養し、剥離させることで作製できる。その際、培養温度としては通常、細胞を培養する温度である37℃が好ましい。本発明に用いる温度応答性高分子はホモポリマー、コポリマーのいずれであってもよい。このような高分子としては、例えば、特開平2−211865号公報に記載されているポリマーが挙げられる。具体的には、例えば、以下のモノマーの単独重合または共重合によって得られる。使用し得るモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、またはビニルエーテル誘導体が挙げられ、コポリマーの場合は、これらの中で任意の2種以上を使用することができる。更には、上記モノマー以外のモノマー類との共重合、ポリマー同士のグラフトまたは共重合、あるいはポリマー、コポリマーの混合物を用いてもよい。また、ポリマー本来の性質を損なわない範囲で架橋することも可能である。その際、培養、剥離されるものが細胞であることから、分離が5℃〜50℃の範囲で行われるため、温度応答性ポリマーとしては、ポリ−N−n−プロピルアクリルアミド(単独重合体の下限臨界溶解温度21℃)、ポリ−N−n−プロピルメタクリルアミド(同27℃)、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(同32℃)、ポリ−N−イソプロピルメタクリルアミド(同43℃)、ポリ−N−シクロプロピルアクリルアミド(同45℃)、ポリ−N−エトキシエチルアクリルアミド(同約35℃)、ポリ−N−エトキシエチルメタクリルアミド(同約45℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(同約28℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(同約35℃)、ポリ−N,N−エチルメチルアクリルアミド(同56℃)、ポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド(同32℃)などが挙げられる。本発明に用いられる共重合のためのモノマーとしては、ポリアクリルアミド、ポリ−N、N−ジエチルアクリルアミド、ポリ−N、N−ジメチルアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸及びその塩、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース、カルボキシメチルセルロースなどの含水ポリマーなどが挙げられるが、特に制約されるものではない。これらのポリマーは、ポリマー特有の温度を境に、それまで脱水和された状態が急激に水和された状態へ変化する。このものが細胞培養支持体材料表面に被覆されていれば、材料は癌細胞が付着、増殖する表面から細胞が付着できないような表面へ変化し、培養していた癌細胞を剥離させられるようになる。その温度域とは0℃〜80℃、好ましくは10℃〜50℃、さらに好ましくは20℃〜45℃であることが判明した。80℃を越えると癌細胞が死滅する可能性があるので好ましくない。また、0℃より低いと一般に細胞増殖速度が極度に低下するか、または癌細胞が死滅してしまうため、やはり好ましくない。本発明とはトリプシンのような酵素を全く使用せずに、培養温度を変化させるだけで、培養していた癌細胞を剥離させられ、従って剥離した癌細胞シートもトリプシンなどによる障害を受けておらず、低損傷なものとなる。培養した癌細胞を剥離させる際、酵素処理を伴わないため接着性蛋白質が破壊されずに残っているため移植後の生着性が良く、さらにその癌細胞がシート状である場合、移植時における移植部位からの漏出も抑えられ効率良く癌細胞移植動物を製造できるようになる。各種ポリマーの基材表面への被覆方法は、特に制限されないが、例えば、特開平2−211865号公報に記載されている方法に従ってよい。すなわち、かかる被覆は、基材と上記モノマーまたはポリマーを、電子線照射(EB)、γ線照射、紫外線照射、プラズマ処理、コロナ処理、有機重合反応のいずれかにより、または塗布、混練等の物理的吸着等により行うことができる。細胞付着部における親水性ポリマーの固定化量は移動させたい細胞を付着させられるに十分な量が固定化されていれば良く特に限定されるものではないが、その固定化量は使用する細胞が癌細胞であるため0.4μg/cm2以上、好ましくは0.8μg/cm2以上、さらに好ましくは1.2μg/cm2以上である。ポリマーの固定化量の測定は常法に従えば良く、例えばFT−IR−ATRを用いて細胞付着部を直接測る方法、あらかじめラベル化したポリマーを同様な方法で固定化し細胞付着部に固定化されたラベル化ポリマー量より推測する方法などが挙げられるがいずれの方法を用いても良い。
【0015】
本発明における培養基材の形状は特に制約されるものではないが、例えばディッシュ、マルチプレート、フラスコ、セルインサートのような形態のもの、或いは平膜状のものなどが挙げられる。被覆を施される基材としては、通常細胞培養に用いられるガラス、改質ガラス、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等の化合物を初めとして、一般に形態付与が可能である物質、例えば、上記以外の高分子化合物、セラミックス類など全て用いることができる。
【0016】
本発明における培養癌細胞は培養時にディスパーゼ、トリプシン等で代表される蛋白質分解酵素による損傷を受けていないものである。そのため、基材から剥離された癌細胞は接着性蛋白質を有し、癌細胞をシート状に剥離させた際には細胞−細胞間のデスモソーム構造がある程度保持されたものとなる。このことにより、移植時において患部組織と良好に接着することができ、効率良い移植を実施することができるようになる。一般に蛋白質分解酵素であるディスパーゼに関しては、細胞−細胞間のデスモソーム構造については10〜60%保持した状態で剥離させることができることで知られているが、細胞−基材間の基底膜様蛋白質等を殆ど破壊してしまうため、得られる細胞シートは強度の弱いものとなる。これに対して、本発明の癌細胞シートは、デスモソーム構造、基底膜様蛋白質共に80%以上残存された状態のものであり、上述したような種々の効果を得ることができる。さらに、本発明のように、免疫が正常な動物において癌細胞は異物として認識され免疫担当細胞等に攻撃を受ける。このような免疫正常動物へ従来のような個々の癌細胞を注入しても、注入された癌細胞のほとんどが死滅し、炎症が起こり、肉芽組織となり、効率良く癌組織を有する担癌動物を作製することができない。しかしながら、本発明のような癌細胞シートを使用すれば、移植された癌細胞シートは速やかに被移植部位へ付着し、生体側の免疫担当細胞の攻撃を受けつつも耐えることができ、その後、生体内の免疫機構に打ち勝ち、癌組織を形成していくこととなる。本発明における癌細胞シートであれば、免疫正常動物内においても効率良く癌組織を形成させられることが分かった。
【0017】
以上のことを温度応答性ポリマーとしてポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)を例にとり説明する。ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)は31℃に下限臨界溶解温度を有するポリマーとして知られ、遊離状態であれば、水中で31℃以上の温度で脱水和を起こしポリマー鎖が凝集し、白濁する。逆に31℃以下の温度ではポリマー鎖は水和し、水に溶解した状態となる。本発明では、このポリマーがシャーレなどの基材表面に被覆、固定されたものである。したがって、31℃以上の温度であれば、基材表面のポリマーも同じように脱水和するが、ポリマー鎖が基材表面に被覆、固定されているため、基材表面が疎水性を示すようになる。逆に、31℃以下の温度では、基材表面のポリマーは水和するが、ポリマー鎖が基材表面に被覆、固定されているため、基材表面が親水性を示すようになる。このときの疎水的な表面は癌細胞が付着、増殖できる適度な表面であり、また、親水的な表面は癌細胞が付着できないほどの表面となり、培養中の癌細胞、もしくは癌細胞シートも冷却するだけで剥離させられることになる。
【0018】
本発明の方法において、培養した癌細胞を支持体材料から剥離回収するには、培養された癌細胞を必要に応じてキャリアに密着させ、癌細胞の付着した支持体材料の温度を支持体基材の被覆ポリマーの水和する温度にすることによって、そのままキャリアとともに剥離することができる。その際に、癌細胞シートと支持体の間に水流を当て剥離を円滑に行っても良い。なお、シートを剥離することは細胞を培養していた培養液中において行うことも、その他の等張液中において行うことも可能であり、目的に合わせて選択することができる。癌細胞、及び癌細胞シートを密着させる際に使用するキャリアは、本発明の細胞を保持するための構造物であり、例えば高分子膜または高分子膜から成型された構造物、金属性治具などを使用することができる。例えば、キャリアの材質として高分子を使用する場合、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロース及びその誘導体、紙類、キチン、キトサン、コラーゲン、ウレタン、ゼラチン、フィブリングルー等の材料を膜状、多孔膜状、不織布状、織布状を挙げることができる。キャリアの形状は、特に限定されるものではない。
【0019】
本発明において移植される癌細胞は、生着性が良好なため総数にして1×105個以下で良く、好ましくは5×105個以下、さらには8×105個以下であることが好ましい。本発明の場合、8×105個以上にすると大きな癌組織が得られることなり好都合であるが、一回に使用する細胞数が多くなり好ましくない。移植される場所は、皮下であってもそれぞれの癌細胞由来の組織に直接移植しても良く、何ら制約されるものではない。
【0020】
本発明の免疫正常癌細胞移植動物であれば、移植した癌細胞を効率良く癌化させられるだけでなく、癌組織をより本来あるべき形態で実験動物内に再現されており、従って、抗腫瘍剤を開発する上でのスクリーニング、癌化メカニズム等の研究開発を進められるようになる。具体的には、本発明の免疫正常癌細胞移植動物をCT、MRI、超音波、PET等の画像診断を利用することで腫瘍形成能を評価することができる。また、本発明の免疫正常動物を利用し、CT、MRI、超音波、PET等の画像診断、発光イメージングや腫瘍マーカーを測定することで腫瘍転移能を評価することができるようになる。さらに、本発明の免疫正常動物に対して、被検物質を投与し、当該被検物質の腫瘍形成能への影響を判定することで有効な抗腫瘍剤を選別することができるようになる。また、逆に、本発明の免疫正常動物に対して、既存の抗腫瘍剤、ワクチン、丸山ワクチン等の治療薬を投与し癌組織の形態を観察することで、既存の治療薬の効能を検討することができるようになる。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【実施例1】
【0022】
マウス肺扁平上皮癌(KLN−205)を24wellデッシュに播種し、コンフルエントの70%になるまで培養した。この癌細胞に対して、ルシフェラーゼ遺伝子をもつレンチウイルスに感染させ、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した。この細胞を1wellに1細胞となるように、96well播種し、2週間培養した。その後、ルシフェリンを添加して、IVISを用いて発光している細胞を確認し、その細胞を継代培養してルシフェラーゼ遺伝子をもつ細胞を得た。次に、市販の細胞培養器材に温度応答性ポリマーであるポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)を1.9μg/cm2被覆し、癌細胞培養領域周囲をポリアクリルアミドで固定化し癌細胞を付着させないようにし、癌細胞接着領域をφ15mmとした温度応答性培養基材を作製した。このものの表面へルシフェラーゼ遺伝子をコートしたKLN−205を1.0x106cells播種し、37°Cでインキュベーションした。24時間後、コンフルエントになったことを確認後、培地を37℃に温めた培養液に交換し、さらに3日間培養した。その後、培養皿を20°Cのインキュベーターに移し、2時間低温処理を施した。この細胞をピペッティングにより培養基材から剥離させた。得られた癌細胞シートをBDF1マウスに移植した(φ:15mm、5.0x105cells)(この作業を本発明ではCell Sheetと表記する場合がある。)。移植後マウスの腫瘍体積を計測するために、移植部周辺の隆起部分をノギスを用いて計測した。また、ルシフェリンを腹腔内投与して、IVISを用いて腫瘍細胞の発光量を計測した。図1に移植5日後(図中のD5)と14日後(図中のD14)のようすを示す。移植した癌細胞シートが肥大化しているようすが分かる。図2に移植1日後(図中のD1)、移植3日後(図中のD3)、移植7日後(図中のD7)、移植14日後(図中のD14)のヘルシフェラーゼ発光のようすを示す。移植後、長期わたって癌細胞シートが存在していることが分かる。マウスを犠死させ、移植部位の組織片を回収した。組織片は固定処理後、組織切片を作製後、HE染色し、癌細胞シートの様子を観察した。移植1日後の移植部のようすを図3に示す。図3−1及び図3−2は移植部をHE染色、図3−3はサイトケラチン5を染色した時のようすを示す。癌細胞が好中球に攻撃されているようすが分かる。移植5日後のようすを示す図4に示す。図4−1は移植部をHE染色、図4−2はサイトケラチン5を染色した時のようすを示す。炎症系の細胞が減り、癌組織が形成されつつあることが分かる。移植14日後の移植部のようすを図5に示す。図5−1、図5−3(右図、左図)は移植部をHE染色、図5−2はサイトケラチン5を染色した時のようすを示す。癌細胞と線維系の細胞が混在し、癌組織中に上皮性の構造、並びに血管様の空隙が形成されているようすが分かる。HE染色像より、移植初期では、核の異型や細胞に対する核の割合が高い細胞が観察されたことから、この細胞が移植した癌細胞であることが確認された。これらの細胞は上皮状に配列しており、空洞を形成し筋肉側と皮膚側の両面に生着していることが確認された。また、扁平上皮癌のマーカーに対して陽性であることから、移植した細胞が扁平上皮癌であることがわかった。この腫瘍組織は、移植5日後から間質系の細胞が観察された。
【比較例1】
【0023】
移植する癌細胞をシート化せず、個々の癌細胞として5.0x105cells注入(この作業を本発明ではインジェクション、INJ、Suspensionと表記する場合がある。)する以外は実施例1と同様な方法で癌細胞を移植した。図6に移植5日後(図中のD5)と14日後(図中のD14)のようすを示す。実施例1に比べ、癌細胞が肥大化していないことが分かった。同様に、移植1日後(図中のD1)、移植3日後(図中のD3)、移植7日後(図中のD7)、移植14日後(図中のD14)のヘルシフェラーゼ発光のようすを示す結果からも、移植した癌細胞が消失しつつあることを確認することができた。また、移植1日後の移植部のようすをHE染色して示したからは、癌細胞が好中球に攻撃されているようすが分かった(図8)。移植7日後の移植部のHE染色像からは、炎症系の細胞が隔離され、肉芽組織が形成されつつあることが分かった(図9)。投与5日後に全てのマウスの皮下で腫大が確認された。しかし、以下に示すルシフェリン発光量側定より、発光が観察されなかった。この腫大の組織像を観察したところ、腫大部は炎症系の細胞が集まっていることが確認され、さらにサイトケラチン5に対して陰性であったことから、この組織は、炎症反応により肉芽組織であることがわかった。以上より、免疫正常動物への癌細胞の移植は癌細胞をシート化する方が好ましいことが分かる。
【比較例2】
【0024】
100uLのPBSのみを左背部皮下に注入する以外は実施例1と同様な方法で検討を行った。注入1日後(図中のD1)、7日後(図中のD7)の移植部をHE染色した結果を図10に示す。1日後では炎症反応が認められるが、7日後にはそれがおさまっていることが分かる。
【0025】
(腫瘍体積の計測結果まとめ)
実施例1、比較例1、比較例2において、形成された腫瘍の体積を計測し、結果を図11にまとめる。免疫正常動物へ個々の細胞を注入した群(比較例1)では、3日後に腫瘤状の塊が現れたが、時間経過と共にその大きさは小さくなる傾向が見られた。細胞シート移植群(実施例1)では、7日目後から腫瘤が観察され、その組織は時間と共に増大していくことが確認された。
【0026】
(ルシフェリン発光量の計測結果まとめ)
実施例1、比較例1、比較例2において、ルシフェリン発光量を計測し、結果を図12まとめる。ルシフェリン発光量は、個々の細胞を注入した群は時間とともに小さくなり、その発光量は、腫瘤が観察されるにも関わらず、ほとんどPBSだけを注入した比較例2と変わらなくなった。一方、癌細胞シート移植群(実施例1)では、3日後から腫瘤が観察され、その大きさは、時間経過にともない増加していく傾向が見られた。
【比較例3】
【0027】
被移植動物を免疫不全マウスBALB/c Nu−Nuに移植する以外は、実施例1と同様な方法で癌細胞シート(図13〜16において、Cell Sheetと表記する。)、比較例1と同様な方法で個々の癌細胞を移植した(図13〜16において、Suspensionと表記する。)。図13にそれぞれの移植5日後(図中のD5)と14日後(図中のD14)のようすを示す。癌細胞シートを移植した群においては免疫不全マウス内でも移植後肥大化したが、個々の癌細胞を移植した群は癌組織の肥大化は認められなかった。また、図14にそれぞれの移植1日後(図中のD1)、移植3日後(図中のD3)、移植7日後(図中のD7)、移植14日後(図中のD14)のヘルシフェラーゼ発光のようすを示すが、その傾向は同様であった。
【0028】
(腫瘍体積の計測結果まとめ)
得られた結果を図15に示す。個々の癌細胞を移植した群では、腫瘤が移植後から観察されたが、この大きさは2週間後もほとんど変わらなかった。一方、癌細胞シート移植群では、3日後から腫瘤が観察され、その大きさは、時間経過にともない増加していく傾向が見られた。
【0029】
(ルシフェリン発光量の計測結果まとめ)
得られた結果を図16に示す。ルシフェリン発光では、個々の癌細胞を移植した群では、腫瘤の形成が見られその大きさはほとんど変わらないのにも関わらず、発光強度は著しく減少してゆき、10日後にはほとんど発光が観察されなくなった。これに対して、癌細胞シート移植群では発光強度が時間経過に伴い増大していった。
【0030】
今回の検討により、免疫不全マウスでは高い腫瘍生着が観察されたのに対して、免疫正常マウスでは腫瘍が生着しにくいことが明らかとなった。発光測定より、腫瘤が観察されたのに発光が観察されない現象が観察された。これにより、個々の癌細胞を移植した群では、癌細胞を注射したことにより、炎症反応が起こり、それが肉芽組織になったものと考えられる。
【実施例2】
【0031】
実施例1と同様に、細胞接着領域をφ:15mmに制御したポリアクリルアミドパターン化音頭応答性細胞培養基材(ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドを2.0μg/cm2被覆)を作製し、Luc2−4T1(マウス乳癌細胞)を1.0x106cells播種し、37℃でインキュベーションした。24時間後、コンフルエントになったことを確認後、培地を37℃に温めた培養液に交換し、さらに2日間培養した。その後、温度応答性培養基材を20℃のインキュベーターに移し、2時間低温処理を施した。この細胞をピペッティングにより基材から剥離した。得られた癌細胞シートをBALB/cマウスに移植した。マウスの腫瘍体積を計測するために、移植部周辺の隆起部分をノギスを用いて計測した。また、ルシフェリンを腹腔内投与して、IVISを用いて腫瘍細胞の発光量を計測した。図17に移植1日後(図中のD1)、移植7日後(図中のD7)と14日後(図中のD14)のようすを示す。また、移植14日後の移植部のようすをHE染色して結果を図18に示す。粘液癌特有の構造を示し、癌細胞が筋組織に浸食しているようす、並びに血管周囲に赤血球が漏出しているようすが分かる。
【比較例4】
【0032】
移植する癌細胞をシート化せず、個々の癌細胞として1.0x106cells注入(この作業を本発明ではインジェクション、INJ、Suspensionと表記する場合がある。)する以外は実施例2と同様な方法で癌細胞を移植した。図19に、移植1日後(図中のD1)、移植7日後(図中のD7)、並びに14日後(図中のD14)のようすを示す。移植14日後の移植部のようすをHE染色した結果を図20に示す。腫瘍様組織と多数の炎症系の細胞が混在しているようすが分かる。
【0033】
(腫瘍体積の計測結果まとめ)
実施例2、比較例4において、形成された腫瘍の体積を計測し、結果を図21にまとめる。個々の癌細胞を移植した群(比較例4)では、移植後1日に腫瘤状の塊が発現した(n=7/8)。そのうち、5匹(初日に腫瘤が出来なかったものも含む)は時間経過と共にその大きさが大きくなったが、3匹はその腫瘤の大きさにほとんど変化が観察されなかった。一方、癌細胞シート移植群(実施例2)では移植5日目から腫大が観察された。Day5で腫大部が515mm3までなるマウスが一匹いた。Day7で全てのマウスで腫大部体積が100mm3を超えた。皮下の状態を観察すると、細胞懸濁液は皮下に癌が生着しているのに対して、癌細胞シートは皮膚、筋層側ともに生着していた。このため細胞シートでは急激な腫瘍増殖が観察されたものと考えられる。また、腫瘍の内部には粘液癌と思われる液状の組織が観察された。腫瘍が大きくなったためにできたものかわからないが移植方法で腫瘍の状態が異なる可能性が考えられる。個々の癌細胞移植群(比較例4)では、14日後、6匹中1匹が腫瘍の大きさが100mm3を超えた。これに対して、癌細胞シート移植群(実施例2)では移植7日後に全てのマウスで腫瘍の大きさが100mm3を超えた。
【0034】
(ルシフェリン発光量の計測結果まとめ)
実施例2、比較例4において、ルシフェリン発光量を計測し、結果を図22まとめる。個々の癌細胞移植群(比較例4)、癌細胞シート移植群(実施例2)ともに同様の発光の増加傾向が観察された。しかし、Day7においては発光量が飽和してしまったために実測値より低く見積もられていると考えられる。体積の増加量と比較してルシフェリン発光の増加量が大きく異なる原因として、癌細胞シート移植群(実施例2)では腫瘍内部に粘液癌と思われるものができている可能性がある。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に記載される免疫正常癌細胞移植動物であれば、移植した癌細胞を効率良く癌化させられるだけでなく、癌組織をより本来あるべき形態で実験動物内に再現されており、従って、抗腫瘍剤を開発する上でのスクリーニング、癌化メカニズム等の研究開発を進められ、同領域において極めて重要な発明と考えられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌細胞シートの移植により当該癌組織特有の構造を有した、ヒト以外の免疫正常動物。
【請求項2】
癌細胞が肺扁平上皮癌、乳癌、食道癌、肝癌のいずれか、もしくは2つ以上の癌組織由来の細胞である、請求項1記載のヒト以外の免疫正常動物。
【請求項3】
癌組織特有の構造が上皮性組織である、請求項1、2のいずれか1項記載のヒト以外の免疫正常動物。
【請求項4】
癌組織特有の構造が生体内の当該癌由来の組織の場所に作製された、請求項1〜3のいずれか1項記載のヒト以外の免疫正常動物。
【請求項5】
ヒト以外の免疫正常動物がラット、マウス、モルモット、ウサギ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、サルであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項記載のヒト以外の免疫正常動物。
【請求項6】
0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した細胞培養支持体上で、ポリマーの水和力の弱い温度域で癌細胞を培養し、その後、培養液をポリマーの水和力の強い状態となる温度に変化させることで培養した癌細胞を蛋白質分解酵素による処理を施すことなく細胞培養支持体からシート状に剥離させ、ヒト以外の免疫正常動物の所定部位に移植することを特徴とするヒト以外の免疫正常動物の製造方法。
【請求項7】
移植する癌細胞シートを所定の大きさを有する所定の形状とすることで、当該動物の癌組織の大きさ、及びまたは形状を制御する、請求項6記載のヒト以外の免疫正常動物の製造方法。
【請求項8】
剥離方法が培養終了時に培養細胞上にキャリアを密着させ、そのままキャリアと共に剥離する方法である、請求項6、7のいずれか1項記載のヒト以外の免疫正常動物の製造方法。
【請求項9】
移植される場所が使用する癌細胞由来の組織である、請求項6〜8のいずれか1項記載のヒト以外の免疫正常動物の製造方法。
【請求項10】
癌細胞が生体組織から採取されたものである、請求項6〜9のいずれか1項記載のヒト以外の免疫正常動物の製造方法。
【請求項11】
癌細胞がヒト由来のものである、請求項6〜10のいずれか1項記載のヒト以外の免疫正常動物の製造方法。
【請求項12】
0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーがポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)である、請求項6〜11のいずれか1項記載のヒト以外の免疫正常動物の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜5のいずれか1項記載のヒト以外の免疫正常動物を利用した腫瘍形成能評価方法。
【請求項14】
請求項1〜5のいずれか1項記載のヒト以外の免疫正常動物を利用した腫瘍転移能評価方法。
【請求項15】
請求項1〜5のいずれか1項記載のヒト以外の免疫正常動物に対して被検物質を投与し、当該被検物質の腫瘍形成能への影響を判定することを特徴とする抗腫瘍剤の選別方法。
【請求項1】
癌細胞シートの移植により当該癌組織特有の構造を有した、ヒト以外の免疫正常動物。
【請求項2】
癌細胞が肺扁平上皮癌、乳癌、食道癌、肝癌のいずれか、もしくは2つ以上の癌組織由来の細胞である、請求項1記載のヒト以外の免疫正常動物。
【請求項3】
癌組織特有の構造が上皮性組織である、請求項1、2のいずれか1項記載のヒト以外の免疫正常動物。
【請求項4】
癌組織特有の構造が生体内の当該癌由来の組織の場所に作製された、請求項1〜3のいずれか1項記載のヒト以外の免疫正常動物。
【請求項5】
ヒト以外の免疫正常動物がラット、マウス、モルモット、ウサギ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、サルであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項記載のヒト以外の免疫正常動物。
【請求項6】
0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した細胞培養支持体上で、ポリマーの水和力の弱い温度域で癌細胞を培養し、その後、培養液をポリマーの水和力の強い状態となる温度に変化させることで培養した癌細胞を蛋白質分解酵素による処理を施すことなく細胞培養支持体からシート状に剥離させ、ヒト以外の免疫正常動物の所定部位に移植することを特徴とするヒト以外の免疫正常動物の製造方法。
【請求項7】
移植する癌細胞シートを所定の大きさを有する所定の形状とすることで、当該動物の癌組織の大きさ、及びまたは形状を制御する、請求項6記載のヒト以外の免疫正常動物の製造方法。
【請求項8】
剥離方法が培養終了時に培養細胞上にキャリアを密着させ、そのままキャリアと共に剥離する方法である、請求項6、7のいずれか1項記載のヒト以外の免疫正常動物の製造方法。
【請求項9】
移植される場所が使用する癌細胞由来の組織である、請求項6〜8のいずれか1項記載のヒト以外の免疫正常動物の製造方法。
【請求項10】
癌細胞が生体組織から採取されたものである、請求項6〜9のいずれか1項記載のヒト以外の免疫正常動物の製造方法。
【請求項11】
癌細胞がヒト由来のものである、請求項6〜10のいずれか1項記載のヒト以外の免疫正常動物の製造方法。
【請求項12】
0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーがポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)である、請求項6〜11のいずれか1項記載のヒト以外の免疫正常動物の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜5のいずれか1項記載のヒト以外の免疫正常動物を利用した腫瘍形成能評価方法。
【請求項14】
請求項1〜5のいずれか1項記載のヒト以外の免疫正常動物を利用した腫瘍転移能評価方法。
【請求項15】
請求項1〜5のいずれか1項記載のヒト以外の免疫正常動物に対して被検物質を投与し、当該被検物質の腫瘍形成能への影響を判定することを特徴とする抗腫瘍剤の選別方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
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【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2013−94160(P2013−94160A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251086(P2011−251086)
【出願日】平成23年10月30日(2011.10.30)
【出願人】(591173198)学校法人東京女子医科大学 (48)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月30日(2011.10.30)
【出願人】(591173198)学校法人東京女子医科大学 (48)
【Fターム(参考)】
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