説明

癌診断用抗体

【課題】転移性疾患の検出及び診断のための方法及びキットを提供する。
【解決手段】細胞集団内の転移性又は潜在的転移性細胞の存在のin vitro検出方法であって、以下の(a)細胞を、(i)細胞膜チロシンキナーゼ、エフリン(Eph)A2に特異的に結合可能な試薬;又は(ii)EphA2タンパク質の少なくとも一部をコードする核酸と特異的に結合可能な試薬とインキュベートして、該試薬とEphA2又は該核酸とを結合させ、(b)EphA2又は該核酸と結合する試薬を検出する、ただし試薬の結合は細胞集団内の転移性又は潜在的転移性細胞の存在を示すものとする、ステップを含む上記検出方法。および、EphA2の細胞内エピトープに特異的に結合する抗体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転移性疾患の診断に関する。より特に、本願発明は、転移性癌細胞内に過剰発現される特定の上皮細胞チロシン・キナーゼを検出しうる試薬に関する。最も特に、本願発明は、上皮細胞チロシン・キナーゼの細胞内エピトープに結合する試薬、及び癌診断へのそれら試薬の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
癌細胞の転移は、1)原発腫瘍から分離し、2)局所組織中を遊走及び浸潤し、3)(リンパ液又は血液を介して)体内の遠位に場所を移し、4)異質な部位にコロニー形成し、そして5)この異質な環境の中で増幅及び生き残る、細胞の能力を必要とする。これらの性質の全てが細胞接着に関係している。細胞接着は、細胞とその微小環境との物理的相互作用を制御する。細胞接着は、腫瘍細胞の増殖、死、及び分化を命令するシグナルをも惹起する。
【0003】
乳癌細胞を含む、さまざまな癌細胞は、変更された細胞接着を示すことが知られている。正常乳房上皮と比較して、形質転換ヒト乳房上皮細胞は、細胞−細胞接触が減少し、そして周囲の細胞外マトリックスとの相互作用が増加している。これらの変化は、細胞コロニーを離れた癌細胞の分離及び遊走の増加を促進し、そして細胞膜タンパク質のチロシン・リン酸化における変化に直接関係している。チロシン・リン酸化は、細胞シグナル伝達の有効な形態であり、そしてチロシン・リン酸化のレベルの変化は腫瘍細胞の侵襲力にとって重要であると考えられている。したがって、チロシン・リン酸化の制御は、転移性癌に対する治療処置に関する前途有望な標的を提示する。チロシン・リン酸化は、細胞膜チロシン・キナーゼにより制御され、そしてチロシン・キナーゼの発現増加は転移性癌細胞において発生することが知られている。
【0004】
細胞膜チロシン・キナーゼ発現増加の同定は、転移性疾患の診断及び治療の助けとなるであろう。こうしたチロシン・キナーゼの1つがEphA2である。エフリン(Ephrins)として知られるチロシン・キナーゼのEphファミリーの仲間であるEphA2は、細胞結合リガンドをもつ膜貫通受容体チロシン・キナーゼである。10年前にクローニングされたが(非特許文献1を参照のこと)、EphA2の機能についてごくわずかしか知られていない、なぜなら主としてEphA2特異的抗体が以前は製造することが困難であったからである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Lindberg, R.A. and Hunter, T.,“cDNA Cloning and Characterization of Eck, an Epithelial Cell Receptor Protein-tyrosine Kinase in the Eph/elk Family of Protein Kinases”, Mol.Cell.Biol. 10 (12), 6316-6324 (1990)
【発明の開示】
【0006】
EphA2研究を容易にするために、チロシン・リン酸化したタンパク質に特異的なモノクローナル抗体の一団を製造する改良された方法を開発した。この方法の使用により、EphA2の多様性を認識するモノクローナル抗体を作製した。これらの抗体を用いて、EphA2が転移性乳房、肺、大腸、及び前立腺細胞において過剰発現していることが示された。EphA2が正常細胞と転移性細胞では異って発現されるため、EphA2特異的抗体は、転移性疾患の診断に有効である。1の特定のハイブリドーマより製造された抗体は、EphA2の細胞内エピトープを認識し、EphA2に対する結合において高い特異性を示した。
【0007】
したがって、本願発明の1の側面は、EphA2の細胞内エピトープに特異的に結合する化合物である。好ましい態様において、前記化合物は、EphA2タンパク質のドメインに特異的な抗体である。他方において、EphA2を特異的に標的化しうる天然又は人工的なリガンド、ペプチド、アンチセンス、ATP類似物、若しくは他の低分子が利用されうる。本願発明の2の側面は、EphA2細胞内エピトープを認識する抗体の製法である。本願発明の他の側面は、転移性疾患の診断におけるEphA2特異的抗体の使用である。本願発明の付加的な側面は、EphA2、その断片のいずれか又はEphA2タンパク質をコードするDNA若しくはRNAを検出するための特異的な診断用試薬である。本願発明のさらなる側面は、EphA2のエピトープに特異的に結合しうる抗体及び抗体−EphA2結合を検出するための手段を含むキットである。
【0008】
本発明のさらなる特徴は、目下わかっているところの本発明実施のベスト・モードを具体化する以下の好ましい態様の詳細な記載を考慮して、当業者に対して明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1A〜Cは、ヒト前立腺細胞から得られた細胞株におけるEphA2発現を示す一連のウエスタン・ブロットを示す。図1Aは、さまざまなヒト前立腺癌細胞株におけるEphA2発現を示すウエスタン・ブロットである;図1Bは、ヒト前立腺上皮細胞株MLCにおけるEphA2発現及び癌遺伝子K−Ras又はX線照射による形質転換後の上記細胞株におけるEphA2発現を示すウエスタン・ブロットである;図1Cは、ヒト前立腺上皮細胞株267B1における発現及び癌遺伝子K−Ras又はX線照射による形質転換後の上記細胞株における発現を示すことを除いて、図1Bと類似している。
【図2】図2は、さまざまなヒト乳房上皮細胞株におけるEphA2発現を示すウエスタン・ブロットである。
【図3】図3A及びBは、免疫蛍光発光の顕微鏡検査により観察された、さまざまな乳房上皮細胞株の細胞膜におけるEphA2の局在を示す。図3Aは、正常なMCF−10A細胞の細胞接着部位におけるEphA2の局在を示す;図3Bは、悪性細胞におけるEphA2の再分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
EphA2に特異的な抗体は、改良された方法により単離した。使用した方法は、応答性ハイブリドーマの感受性及び多様性を向上させるために設計されている。この方法により、Ras形質転換ヒト上皮細胞からのチロシン・リン酸化タンパク質が既存のリン酸化チロシン特異的抗体を用いたアフィニティー・クロマトグラフィーにより単離される。そのチロシン・リン酸化タンパク質は、次にモノクローナル抗体製造のための免疫原として使用される。低用量のチロシン・リン酸化タンパク質を、1日おきに10日間にわたりリンパ節近位に注射する(RIMMS法)。はれた(engorged)リンパ節からのB細胞をその後単離し、そしてBcl−2過剰発現ミエローマと融合し、融合後のアポトーシスを最小限に抑える。この方法は、ハイブリドーマ製造の多様性、特異性、及び費用効率の増加をもたらす。ハイブリドーマは、通常の癌細胞と悪性の癌細胞を区別しうる抗体を産生するハイブリドーマを同定するためにまずスクリーニングされる。現在まで、少なくとも450株のこうしたハイブリドーマを同定した。
【0011】
EphA2に特異的なハイブリドーマを選択した。RIMMS法の使用によって、EphA2に特異的に結合するさまざまなモノクローナル抗体の作製に到った。性状解析した最初の4つのハイブリドーマのうち、2つがEphA2上の独立したエピトープを認識する。1つ目のD7は、細胞内エピトープを認識する。2つ目のB2D6は、細胞外エピトープに結合する。D7はEphA2の細胞内エピトープに高度に特異的であることが判明し、この特異性は、転移性腫瘍の診断に最新の基礎の多くを提供する。
【0012】
特定のタンパク質の存在又は過剰発現を検出するために抗体を使用することは本技術分野で知られる。EphA2は転移性細胞において過剰発現されるため、本発明のEphA2特異的抗体を、この過剰発現の検出に使用し、そして、それにより転移性疾患を検出しうる。こうした技術は、制限されるものではないが、さまざまな組織又は体液におけるウエスタン・ブロッティング、ドット・ブロッティング、沈殿、凝集、ELISAアッセイ、免疫組織化学、インサイチュー・ハイブリダイゼーション、フロー・サイトメトリー、及びさまざまなサンドイッチ・アッセイを含む。これらの技術は、本技術分野で周知である。例えば米国特許第5,876,949号(本明細書に援用)を参照のこと。EphA2の細胞内エピトープに特異的な抗体を使用する場合は、細胞を溶解し、そしてその抗体と一緒にインキュベートする必要がある。上述の技術は全細胞溶解物に対して行っても良く、又はEphA2の試験のために例えば免疫沈殿により分離しても良い。本願発明のD7抗体は、EphA2の細胞内エピトープに対して高度に特異的であり、そして転移性細胞におけるEphA2の特異な発現に感受性であることが判明した。他の技術、例えば免疫組織学的染色は、細胞全体を必要とし、そして特定の細胞密度の細胞層をさらに必要とし得る。こうした試験は、EphA2の細胞外エピトープに特異的な抗体を必要とする。
【0013】
本願発明の抗体は、広くさまざまな組織サンプルにおいて転移性疾患を検出するために使用されうる。例えば、EphA2特異的抗体を用いた調査によって、乳房、腎臓、前立腺、肺、及び大腸において変更されたEphA2発現が生じることが明らかになっており、また変更されたEphA2発現は他の種類の細胞転移、特に上皮悪性腫瘍において生じると考えられている。EphA2特異的抗体は、生検により採取された腫瘍組織における転移の検出に使用されうる。さまざまな体液のサンプル、例えば血液、血漿、髄液、唾液、及び尿も本発明の抗体により検査されうる。これらのサンプル中の変更されたEphA2発現は、転移性疾患の存在を示す。
【0014】
さらに、他の抗体が、転移性疾患の状態についてさらなる情報を提供するために本発明の抗体と組み合わせて使用されうる。例えば転移性細胞のEphA2は、変更されたチロシン・リン酸化を示す。正常な乳房上皮細胞において、EphA2は発現され、そしてチロシン・リン酸化されている。しかしながら、転移性乳房上皮細胞において、EphA2は過剰発現され、そしてそのEphA2はチロシン・リン酸化されていない。EphA2発現を定量化する検査は時にあいまいな結果を導くために、EphA2発現の規模と同様にチロシン・リン酸化を測定することが望ましい。要するに、本願発明の抗体をリン酸化チロシン特異的抗体と組み合わせて用いる診断方法は、転移性疾患の状態を決定するためのデータを提供する。
【0015】
その上、本願発明のEphA2特異的抗体は、転移と関連するEphA2局在性の変化を検出するために利用されうる。正常な乳房及び前立腺上皮細胞において、EphA2は細胞接着部位に濃縮される。逆に、転移性前立腺細胞において、EphA2は拡散性に分布し、そして転移性乳癌細胞において、EphA2は膜のひだに再分布する。免疫組織学的染色又は免疫蛍光顕微鏡検査等の技術は、本技術分野で周知であり、EphA2分布を視覚化するために使用されうる。例えば米国特許第5,514,554号(本明細書に援用)を参照のこと。EphA2発現は、EphA2全体又はEphA2タンパク質の断片を検出しうる抗体を使用することにより検出されうる。変更されたEphA2発現の他の検出方法は、EphA2タンパク質をコードするDNA又はRNA配列の検出を含む。
【0016】
EphA2の過剰発現又は変更された分布を検出するために、EphA2特異的抗体は、たくさんの知られた検出可能な標識、すなわち本願技術分野で知られるような蛍光、放射性又は酵素物質のいずれかにより、共有結合的又は非共有結合的に標識されうる。あるいは、本願発明の抗体に特異的な2次抗体を、公知の検出可能な標識により標識し、そして上記技術においてEphA2特異的抗体を検出するために使用する。
【0017】
好ましい標識はクロモゲン色素を含む。最も一般的に使用されているものは、3−アミノ−9−エチルカルバゾール(AEC)及び3,3′−ジアミノベンジジン・テトラヒドロクロライド(DAB)である。これらは光学顕微鏡検査を用いて検出されうる。さらに好ましくは蛍光標識である。最も一般的に使用されている蛍光標識化合物は、フルオレッセイン・イソチオシアネート、ローダミン、フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o−フタルアルデヒド(phthaldehyde)、及びフルオレスカミンである。化学発光及び生物発光化合物、例えばルミノール、イソルミノール、セロマティックアクリジニウム・エステル(theromatic acridinium ester)、イミダゾール、アクリジニウム塩、シュウ酸エステル、ルシフェリン、ルシフェラーゼ、及びエクオリンも使用されうる。蛍光標識抗体が適切な波長の光に晒されると、その存在は蛍光により検出されうる。さらに好ましくは放射性標識である。本発明の抗体の標識に特に有用な放射性同位体は、 3H, 125I, 131I,35S,32P、及び14Cを含む。放射性同位体はガンマ・カウンター、シンチレーション・カウンター又はオートラジオグラフィーを用いるような方法により検出されうる。
【0018】
抗体を検出できるように標識しうる他の方法は、抗体を酵素に連結し、引き続いてその抗体を酵素免疫測定法(EIA)又は酵素結合免疫測定法(ELISA)に使用することによる。その酵素は、次にその基質に触れたとき、その基質と反応し、そして、例えば分光光度的、蛍光光度的又は視覚的方法により検出されうる化学成分を生じる。抗体を検出可能な状態に標識するために使用されうる酵素は、制限されるものではないが、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ブドウ球菌ヌクレアーゼ、デルタ−5−ステロイド・イソメラーゼ、酵母アルコール・デヒドロゲナーゼ、アルファ−グリセロリン酸デヒドロゲナーゼ、トリオース・リン酸イソメラーゼ、ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ、アルカリ・ホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコース・オキシダーゼ、ベータ−ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼ、及びアセチルコリンエステラーゼを含む。抗体を標識及び検出する他の方法は、本技術分野で知られ、そして本願発明の範囲の中にある。
【実施例】
【0019】
実施例1
D7ハイブリドーマにより産生された抗体を、正常な前立腺上皮細胞と転移性細胞の間のEphA2発現の差異を検出するために使用した。図1は、さまざまなヒト前立腺細胞株におけるEphA2発現を示す。まず図1Aに触れると、3つの転移性細胞株、LNCAP,DU145、及びPC3をEphA2発現のレベルについて試験する。これら3つの細胞株について、LNCAPは侵襲性が最も少なく、DU145はいくらかより侵襲性であり、そしてPC3は最も侵襲性であることが知られている。EphA2発現を、D7抗体によるウエスタン・ブロッティングによって測定する。図1Aで理解されうるように、EphA2発現は、侵襲性と正に相関する。
【0020】
図1Bにおいて、D7抗体を、形質転換細胞における発現と比較した、正常MLC細胞におけるEphA2発現の試験に使用する。正常MLC細胞、K−Rasにより形質転換されたMLC細胞、及びX線照射により形質転換されたMLC細胞を試験した。図1Bで理解されうるように、EphA2は、両形質転換細胞株において過剰発現されている。図1Cは、正常細胞株が267B1であることを除いて、図1Bに類似した結果を示す。図1Bと同様に、図1Cは、EphA2が形質転換細胞において過剰発現されていることを示す。つまり図1は、EphA2特異的抗体が転移性細胞における変化を検出し、そしてそれらの抗体を用いた試験が転移の侵襲性のレベルを示すことを証明する。
【0021】
実施例2
EphA2抗体を、転移性乳房細胞における変更されたEphA2発現を検出するために使用する。EphA2は正常乳房上皮細胞において発現される。図2は、乳癌細胞株における変更されたEphA2発現を説明する。図2で理解されるように、D7抗体を用いた全細胞溶解物からのウエスタン・ブロットによって、非転移性乳房腫瘍から得られた細胞(ZR75−1,BT474,SKBR3)においてEphA2発現が全く存在しないことが明らかである。それに反して、EphA2は、転移性乳癌細胞株(MDA−MB−435,MDA−MB−231)において過剰発現されている。したがってEphA2抗体は、乳癌細胞における変更されたEphA2発現を検出し、これは転移の診断に使用しうる。さらに、非転移性乳房上皮細胞において、EphA2の欠損が疾患の早期に発生し、そのため、他の知られたマーカーが正常である場合でも、EphA2特異的抗体による検査によって、侵襲性に関する情報が提供される。したがって、D7抗体は、疾患の早期段階であっても、診断薬として有効である。
【0022】
実施例3
EphA2抗体は、他の抗体と組合わせて、EphA2発現におけるさらなる変化の検出に使用される。実施例2において先に述べたとおり、D7を用いたウエスタン・ブロットは、非転移性腫瘍がEphA2の発現を欠き、そして転移性細胞がEphA2を過剰発現していることにより、非転移性と転移性腫瘍を識別しうる。しかしながら、チロシン・リン酸化を調べると、異なる結果が見出された。リン酸化チロシン特異的抗体を用いることで、EphA2は正常細胞においてリン酸化されているが、しかし転移性細胞ではリン酸化されていないことが発見された。したがって、EphA2特異的抗体が転移性と非転移性乳房腫瘍細胞の差異を質的に検出できるのに対して、EphA2特異的抗体及びリン酸化チロシン特異的抗体の両方を組込んだ診断薬は、正常、非転移性、及び転移性乳房細胞を識別するための高感度の検査を提供する。
【0023】
実施例4
免疫蛍光標識されたEphA2特異的抗体は、形質転換細胞におけるEphA2発現の再分布を検出する。この実施例で使用したEphA2特異的抗体は、B2D6として知られる細胞株により産生され、そしてこれらの抗体は、EphA2の細胞外エピトープに特異的である。図3Aで見られるように、B2D6による免疫蛍光発光は、EphA2が正常細胞において細胞−細胞接触部位に見出されることを証明する。しかしながら、図3Bに示される形質転換細胞においては、EphA2は、再分布されている。さらに、転移性細胞において、EphA2は、膜のひだに見出される。同様に、正常な前立腺上皮細胞において、EphA2は細胞−細胞接着部位に見出されるが、しかし転移性前立腺上皮細胞において、EphA2は過剰発現され、その発現は拡散性に分布している。したがって、EphA2特異的抗体を用いた免疫蛍光発光は、形質転換及び腫瘍細胞の転移の状態を診断するためのさらなる方法を提供する。
【0024】
実施例1〜4に示すとおり、転移性細胞におけるEphA2の過剰発現、再分布、及びリン酸化は、EphA2特異的抗体を用いた、転移性腫瘍の診断のためのさまざまな基礎を提供する。免疫組織化学又はウエスタン・ブロッティングは、患者の乳房組織、前立腺組織又は他の腫瘍からの組織の生検サンプルにおけるEphA2発現の変化を観察するために使用されうる。さらに、D7及び他のEphA2特異的抗体は、転移性の徴候であろうところの、EphA2の変更された発現を検出するために、血漿、尿、及び他の体液の測定に使用されうる。EphA2の変更されたチロシン・リン酸化の検出は、EphA2発現の変化に関する情報と組合わせて、転移性疾患の診断をさらに助ける。
【0025】
本発明は、好ましい態様に対する言及によって詳細に記載されているが、そのバリエーション及び変更は特許請求の範囲に記載され、そして定められた本発明の範囲及び精神の中に存在する。
【受託番号】
【0026】
PTA 2754
PTA 2755
【表1】

【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞集団内の転移性又は潜在的転移性細胞の存在のin vitro検出方法であって、以下の
(a)細胞を、(i)EphA2に特異的に結合可能な試薬;又は(ii)EphA2タンパク質の少なくとも一部をコードする核酸と特異的に結合可能な試薬とインキュベートして、該試薬とEphA2又は該核酸とを結合させ、
(b)EphA2又は該核酸と結合する試薬を検出する、ただし試薬の結合は細胞集団内の転移性又は潜在的転移性細胞の存在を示すものとする、
ステップを含む上記検出方法。
【請求項2】
前記試薬とのインキュベーション前に前記細胞集団の少なくとも一部を溶解することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試薬が抗体である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗体が、EphA2の細胞内エピトープに特異的に結合可能である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記抗体が、ハイブリドーマ細胞株D7により産生される、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記抗体が、EphA2の細胞外エピトープに特異的に結合可能である、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記抗体が、ハイブリドーマ細胞株B2D6により産生される、請求項3又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記試薬を少なくとも1種の検出可能な標識により標識し、かつ、前記検出ステップがその標識の検出を含む、請求項3〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
検出可能な標識が、蛍光標識、化学発光標識、生物発光標識、酵素標識、クロモゲン標識、及び放射性標識からなる群から選ばれる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記検出ステップがELISAアッセイ及びフロー・サイトメトリーから成る群から選ばれる診断法を含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記インキュベート及び検出ステップがウエスタン・ブロッティング方法論を含む、請求項3〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
以下の
リン酸化チロシン特異性を有する2次抗体を準備し、そして
その2次抗体によりウエスタン・ブロッティングする、
ステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
試薬の結合が、全細胞を含む結合複合体を生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
試薬の結合の検出が、前記結合複合体を免疫組織化学染色に供することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
細胞をスライド上に固定するステップをさらに含み、かつ、検出ステップが免疫蛍光染色を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
細胞集団が、乳房細胞、腎臓細胞、前立腺細胞、肺細胞、及び大腸細胞から成る群から選ばれる細胞を含む、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞集団が、上皮細胞を含む、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞集団が、乳癌細胞、腎臓癌細胞、前立腺癌細胞、肺癌細胞、及び大腸癌細胞から成る群から選ばれる細胞を含む、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記細胞集団が、上皮癌細胞を含む、請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記転移性又は潜在的転移性癌細胞が、乳癌細胞、腎臓癌細胞、前立腺癌細胞、肺癌細胞、及び大腸癌細胞から成る群から選ばれる細胞を含む、請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記転移性又は潜在的転移性癌細胞が、上皮癌細胞を含む、請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞集団が、組織生検からの細胞を含む、請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記細胞集団が、乳房組織又は前立腺組織生検からの細胞を含む、請求項1〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞集団が、体液からの細胞を含む、請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記細胞が、血液、血漿、髄液、唾液、及び尿から成る群から選ばれる体液から採取される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
選ばれた細胞集団内の癌細胞の存在のin vitro検出方法であって、以下の:
相似の正常細胞集団におけるEphA2発現レベル、局在パターン、及びリン酸化量と比較される、
(i)EphA2発現レベルの変化;
(ii)EphA2局在パターンの変化;及び
(iii)EphA2リン酸化量の変化
の少なくとも1つについて選ばれた細胞集団の少なくとも一部をアッセイすること、ここで上記変化が、上記選ばれた細胞集団内の癌細胞の存在を示すものとする、
を含む上記検出方法。
【請求項27】
EphA2の発現レベル、局在パターン又はリン酸化量の変化が、前記細胞集団内の転移性癌細胞の存在を示す、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
EphA2の発現レベルの変化が、前記細胞集団内の非転移性癌細胞の存在を示す、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
癌細胞を含む細胞集団内における疾患ステージのin vitro決定方法であって、
(a)(i)EphA2発現レベル;
(ii)EphA2局在性;及び
(iii)EphA2リン酸化量
の少なくとも1つについて細胞集団の少なくとも一部をアッセイし;そして
(b)上記癌細胞の疾患ステージを決定する、
ことを含む上記決定方法。
【請求項30】
前記細胞集団のアッセイが、癌細胞集団の少なくとも一部をEphA2に結合可能な試薬と一緒にインキュベートして、該試薬とEphA2とを結合させ;そして試薬の結合を検出することを含む、請求項26〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記試薬が、抗体である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記抗体が、ハイブリドーマD7又はB2D6により産生される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
EphA2の細胞内エピトープに特異的に結合する抗体。
【請求項34】
モノクローナル抗体である、請求項33に記載の抗体。
【請求項35】
検出可能な標識に結合した、請求項33又は34に記載の抗体。
【請求項36】
ハイブリドーマ細胞株D7により産生された請求項35に記載の抗体。
【請求項37】
EphA2の細胞内エピトープに特異的に結合する単離された抗体。
【請求項38】
モノクローナル抗体である、請求項37に記載の単離された抗体。
【請求項39】
細胞集団内の転移性細胞の存在の検出キットであって、以下の、
(a)EphA2のエピトープに特異的に結合可能な抗体、及び
(b)抗体-エピトープ結合の検出手段
を含む、上記検出キット。
【請求項40】
抗体-エピトープ結合の検出手段が抗体に結合させた標識である、請求項39に記載のキット。
【請求項41】
リン酸化チロシン特異性を有する抗体をさらに含む、請求項39又は40に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−103264(P2012−103264A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−287158(P2011−287158)
【出願日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【分割の表示】特願2001−516927(P2001−516927)の分割
【原出願日】平成12年8月17日(2000.8.17)
【出願人】(598063203)パーデュー・リサーチ・ファウンデーション (59)
【氏名又は名称原語表記】PURDUE RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】