説明

癌診断用試薬

【課題】癌患者の体液に含まれる前立腺特異抗原(PSA)等のマーカーの特定や追跡をしなくても、被験者の尿や血漿等の体液を接触させて活性測定を行い、体液の酵素活性全体を一括して評価するという簡単な操作で、癌かどうか、また癌の進行度や広がりを判別することができ、治療効果や経過観察にも役立てることができる癌診断用試薬を提供する。
【解決手段】本発明の癌診断用試薬は、Gln-Gly-Arg, Leu-Arg-Asn, Glu-Lys-Lys, Lys-Arg-Ser, Pro-Leu-Gly, Ala-Pro-Ala, Glu-Gly-Arg, Gly-Arg-Arg, Gly-Lys-Lys 等の3個のアミノ酸が結合した基質ペプチドが4種以上組み合わせられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前立腺癌等の癌の早期発見のためのスクリーニング検査、進行癌の診断や治療経過の観察に有効な癌診断用試薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
胃がん、肺がん、子宮がん、前立腺癌等の癌の早期発見のため、種々のスクリーニング検査やマーカーの研究が行われている。例えば、前立腺癌のスクリーニング検査のマーカーとして、前立腺特異抗原(PSA)が知られている。PSAは、前立腺腺細胞及び導管上皮細胞に局在するタンパク質の一種(セリンプロテアーゼ)であり、血清中のPSAの濃度は、前立腺疾患において特異的に上昇する。このため、PSAは前立腺癌の発見や診断等の有効な指標とされている。
血清中のPSAの濃度の測定は、モノクローナル抗体を利用したPSA測定試薬を用いて行うのが一般的である。これは、試薬を血清中のPSAと反応させて免疫複合体を形成させ、形成された免疫複合体の量からPSA濃度を測定するものである。
また、PSAがセリンプロテアーゼの一種であることに着目して、PSAによって選択的に分解切断される又はPSAが選択的に結合する新規なペプチドを、PSA測定試薬として用いる研究も行われている。このような技術としては、例えば、(特許文献1)、(特許文献2)、(特許文献3)に開示されたものが知られている。
【特許文献1】特表2004−509976号公報
【特許文献2】特表平10−502619号公報
【特許文献3】特表平10−512588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上記従来の技術においては、以下のような課題を有していた。
(1)血清中のPSAの濃度測定は前立腺癌のスクリーニングとして有効な方法ではあるが、PSAは前立腺癌のみに特異的なマーカーではなく、前立腺肥大症や前立腺炎でも上昇してしまうという問題がある。そこで、PSAによる前立腺癌の診断精度の向上のために、例えば、2種類のモノクローナル抗体を用いて、複合体を形成していない遊離型PSA(フリーPSA)の濃度と、血清中のPSA(トータルPSA:主にアンチキモトリプシンと結合した結合型PSA及びフリーPSA)の濃度とを測定し、フリーPSAとトータルPSAの比(F/T比)を求める方法等が開発されている。(特許文献1)、(特許文献2)、(特許文献3)においても、フリーPSAに特異的なペプチドが開示されており、診断にはF/T比を使うことが示唆されている。このように、PSAは前立腺癌のみに特異的なマーカーではないため、前立腺癌の診断精度を上げるための検査方法の開発が不可欠であり、PSA値によるスクリーニングは診断方法として完成されているわけではない。
(2)また、フィナステリドを有効成分とする特定の抜け毛防止薬を服用すると、PSA値が約半分に低下することが知られている。従って、被験者がこの抜け毛防止薬を服用しているときは、PSAをマーカーとするスクリーニングでは前立腺癌の発見が遅れる可能性があるという課題を有していた。
(3)前立腺癌が転移すると、転移した癌によって免疫反応性PSAを分泌することが知られている。血清中のPSA濃度の測定では、前立腺が分泌したPSAと転移癌が分泌した免疫反応性PSAとを区別せずに測定してしまうため、癌の進行度や広がりを診断することができないという課題を有していた。
(4)尿や血漿中にはタンパク質分解酵素活性を示す物質(以下、酵素という。)が含まれていることが以前から良く知られている。また、尿や血漿等の体液に存在する酵素と、生体組織に存在する酵素とが異なることも知られている。癌の進行や転移によって生体組織が破壊されると、生体組織に含まれる酵素が体液に漏出することが考えられるため、酵素を種々の癌のマーカーとして利用できる可能性がある。しかし、生体組織には多くの酵素が存在し、その中には未知の酵素も存在するため、個々の酵素の活性や存在量、安定性等を個別に解析することは困難である。そのため、これらの酵素を癌のマーカーとして捉えることはできなかった。
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、癌患者の体液に含まれるマーカーの特定や追跡をしなくても、被験者の尿や血液等の体液を接触させて活性測定を行い、体液の酵素活性全体を一括して評価するという簡単な操作で、癌かどうか、また癌の進行度や広がりを判別することができ、治療効果や経過観察にも役立てることができる癌診断用試薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記従来の課題を解決するために本発明の癌診断用試薬は、以下の構成を有している。
本発明の請求項1に記載の癌診断用試薬は、3個のアミノ酸が結合した基質ペプチドが4種以上組み合わせられた構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)尿や血液等の体液には各種の酵素が分泌されており、体液に分泌される酵素の量や種類は、癌の進行によって常に変化している。本発明者らは、個々の酵素の活性や存在量、安定性等を個別に解析することなく、複数の基質を用いて体液の酵素活性全体を一括して評価し、それを癌症例と関連付けることにより、マーカーを特定しなくても、体液中に存在する酵素の種類,個々の存在量や活性強度に関わらず、腺疾患の良性及び悪性(癌)を効率的に識別でき、癌の検出や進行度、広がりを判別できることを見出した。これにより、被験者の尿や血液等の体液を接触させて活性測定を行うという簡単な操作で、癌かどうか、また癌の進行度や広がりを判別することができ、治療効果や経過観察にも役立てることができる。
(2)アミノ酸配列の組合せの選択やアミノ酸配列の数を調整することによって、診断可能な癌を増やし、また診断精度を高めることができる。
(3)基質ペプチドはペプチド合成機等を用いて容易に製造できるため、生産性に優れる。
【0006】
ここで、アミノ酸としては、天然に存在するタンパク質中に通常見出されるL−アミノ酸を用いることができる。
基質ペプチドは、固相法や液相法の通常のペプチド合成法を用いて合成することができる。また、目的とするアミノ酸配列のC末端側からN末端側へ逐次伸長していく逐次伸長法や、複数の短いペプチド断片を合成しペプチド断片間のカップリングにより伸長させる断片縮合法等を用いることができる。また、ペプチド合成機を用いて9−フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)アミノ酸やt−ブチルオキシカルボニル(Boc)アミノ酸等を導入して合成することもできる。さらに、プロテアーゼを用いてペプチド結合を生成したり、遺伝子工学を利用したりして合成することもできる。
【0007】
癌の診断を行う際には、基質ペプチドの各々に被験者の血液(血漿)や尿等の体液や、体液の培養液等の検体液を接触させ、検体液中の酵素と反応させることにより酵素の活性測定を行う。検体液は生体試料をそのまま、あるいはフィルタや遠心分離等で血球成分等を除去したものを用いることができる。また、生体試料を基に酵素が活性を発現するような条件設定(pH調整、活性剤導入など)を行ったものを使用することもできる。pH調整剤としては、Tris−HCl,Hepes−KOH等の緩衝剤を反応バッファーとして添加することができる。また、酵素活性の発現に必要な塩類や活性保護剤を添加することもできる。
【0008】
活性測定の方法としては、公知の種々の方法を用いることができる。例えば、基質ペプチドの減少量を特定波長の吸光度で測定する方法、基質ペプチドや反応生成物を化学試薬で発色させて測定する方法、その他放射能、比色、蛍光、発光等を利用して測定する方法を用いることもできる。
酵素活性の測定は、反応の時間経過を追跡し反応初速度や変化量を求めるのが好ましい。反応時間の経過につれて反応速度が漸減するからである。
【0009】
癌の早期発見のためのスクリーニング検査、進行癌の診断や治療経過の観察は、始めに、癌でない健常者(前立腺癌の場合であれば、前立腺肥大症や前立腺炎の患者は含む)の検体液、癌患者の検体液を、複数種の基質ペプチドの各々と反応させて酵素活性を測定し、判別分析等の公知の手法によって、癌症例のグループと非癌症例のグループに判別する基準(判別関数)を予め設定しておく。判別関数を得るには、線形手法、非線形手法のいずれも用いることができる。
次に、未知の被験者の検体液を、判別関数を設定したときに用いたのと同じ種類の基質ペプチドの各々と反応させて酵素活性を測定し、未知の被験者が、予め設定したグループのいずれに属するのかを判別することで、癌か否か、その進行度や広がりを診断することができる。
また、データをSOM(自己組織化マップ)解析により二次元マップ化すると視覚化し易くなり、マップ上に癌の進行度に応じて複数のグループに分類できるため、未知の被験者が病状の進行度や治療経過を把握し易くなる。
なお、得られた酵素活性データは、SOM以外の種々の非線形分類法や非線形要因解析法により解析し、癌を診断することができる。
【0010】
基質ペプチドの組み合わせとしては、4種以上8種以下が好適に用いられる。酵素活性の測定や解析を比較的容易に行うことができ、さらに判別精度に優れるからである。組み合わせが4種より少なくなるにつれ、判別精度が低下する傾向がみられ、8種を超えると酵素活性の測定や解析が煩雑になる傾向がみられる。
【0011】
本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の癌診断用試薬であって、前記基質ペプチドの組み合わせが、(a) Gln-Gly-Arg, Leu-Arg-Asn, Glu-Lys-Lys及び/又はLys-Arg-Ser, (b) Pro-Leu-Gly, Ala-Pro-Ala, Gln-Gly-Arg, Glu-Gly-Arg, Gly-Arg-Arg, Gly-Lys-Lysのいずれかを含む構成を有している。
この構成により、請求項1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)(a) Gln-Gly-Arg, Leu-Arg-Asn, Glu-Lys-Lys及び/又はLys-Arg-Ser, (b) Pro-Leu-Gly, Ala-Pro-Ala, Gln-Gly-Arg, Glu-Gly-Arg, Gly-Arg-Arg, Gly-Lys-Lysのいずれかを含む基質ペプチドの組み合わせを、前立腺癌患者の尿又は血漿より得た検体液と接触させ、検体液の酵素活性を測定して得られた計測データを解析することにより、約90〜100%の正判別率が得られることがわかった。これにより、癌の検体をほぼ正確にグループ分けできることがわかった。従って、未知の被験者から採取した尿又は血漿の酵素活性を、これらの基質ペプチドを用いて測定し、設定された判別式を適用することにより癌かどうかを判別することができる。
【0012】
癌診断用試薬は、(a)又は(b)の配列を含む基質ペプチドを、別々の化合物としたものを用いることができる。また、基質ペプチドを伸長させた化合物としたものも用いることができる。なお、(a)又は(b)の配列を含む基質ペプチドを別々の化合物としたものが好適である。測定結果の解析が容易で、精度も向上させることができるからである。なお、尿を検体液とする場合には、(a)の配列を含む基質ペプチドが適している。また、血液(血漿)を検体液とする場合には、(b)の配列を含む基質ペプチドが適している。
基質ペプチドは、酵素特異性を有しない任意のペプチド又はその他の化合物や分子を結合させることもできる。また、一端を不溶性の担体に結合させたものを用いることもできる。
【0013】
本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の癌診断用試薬であって、前記基質ペプチドの一方の末端に結合した第1蛍光基を備えた構成を有している。
この構成により、請求項1又は2で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)尿中や血中の酵素によって基質ペプチドが切断されると、その前後において第1蛍光基の性質が変わり、蛍光波長や蛍光強度が変化するので、これを指標として酵素活性を検出することができる。
(2)尿や血液の検体液を接触反応させた後、検体液の蛍光強度等を測定するだけで酵素活性を検出することができるので、測定時間を短縮化することができ作業性を高め測定効率を高めることができ、また検出感度と測定精度を高めることができる。
【0014】
ここで、第1蛍光基としては、酵素によって基質ペプチドが切断される前後において蛍光基の性質が変わり、蛍光波長や蛍光強度に変化が生じるものが用いられる。基質ペプチドが不溶性の担体に結合している場合は、濃度消光現象に由来して蛍光波長や蛍光強度の変化が生じる蛍光基も用いられる。濃度消光現象とは、蛍光基が担体上で互いに近接しているときと尿や血液の検体液中に遊離して蛍光基間の距離が離れているときとで蛍光波長や蛍光強度が変化する現象をいう。
このような第1蛍光基としては、例えば、4−メチルクマリル−7−アミド(MCA)、7−アミノ−4−カルボキシメチルクマリン(ACC)、α−ナフチルアミド、α−ナフチルエステル、フルオレセイン、希土類錯体又はそれらの誘導体等が用いられる。
これにより、担体から遊離した第1蛍光基の蛍光波長や蛍光強度は、遊離前の第1蛍光基のものとは異なるので、特定波長領域における蛍光強度を指標として、酵素による切断量を測定することができる。
【0015】
なお、第1蛍光基は、フルオレセイン又はフルオレセインイソチオシアネート(FITC)等のフルオレセイン誘導体を用いるのが好ましい。フルオレセインは525nm前後の蛍光を発するので、薬等に含まれる蛍光物質の蛍光波長と区別することができ、薬やビタミン剤等を服用している被験者の尿もそのまま検体液として用いることができ汎用性に優れるからである。薬やビタミン剤等を服用している被験者の尿中には薬等に含まれる雑多な蛍光物質が出るが、これらの蛍光物質は蛍光波長が400nm付近のものが多いため、尿を検体液としてそのまま用いる場合、薬等に含まれる蛍光物質の蛍光と酵素活性によって検体液内に遊離した第1蛍光基の蛍光とを区別できないのである。
【0016】
検体液の蛍光測定は、蛍光分光光度計を用いる方法の他、発光ダイオード等の発光素子からの光を蛍光基の励起波長を通過するフィルタを通して検体液に照射し、検体液の蛍光を検出することができる位置に配置したCCD等の受光素子で蛍光強度等を測定する方法を用いることもできる。
【0017】
本発明の請求項4に記載の発明は、請求項1又は2に記載の癌診断用試薬であって、前記基質ペプチドの一方の末端に結合した第2蛍光基と、前記基質ペプチドの他方の末端に結合した消光基と、を備えた構成を有している。
この構成により、請求項1又は2で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)酵素によって基質ペプチドが切断されると、消光基と第2蛍光基との距離が離れることによって第2蛍光基の蛍光スペクトルが変化するので、このスペクトル変化を酵素活性の測定指標にすることができ、これにより、蛍光強度等の変化を指標として酵素活性を検出することができる。
(2)尿や血液の検体液を接触反応させた後、検体液の蛍光強度等を測定するだけで酵素活性を検出することができるので、測定時間を短縮化することができ作業性を高め測定効率を高めることができ、また検出感度と測定精度を高めることができる。
【0018】
ここで、消光基としては、第2蛍光基の蛍光励起波長に相当する光を吸収する物質、第2蛍光基との間のゆるい結合により無発光複合体を形成する物質、第2蛍光基と蛍光共鳴エネルギー移動が起こる物質等が用いられる。
蛍光共鳴エネルギー移動とは、第2蛍光基と消光基が距離的に近い位置に存在するとき、消光基(アクセプター)の励起スペクトルと第2蛍光基(ドナー)の蛍光スペクトルとが重なりをもつ場合、第2蛍光基の励起波長のエネルギーを当てると消光基が励起エネルギーを奪い、本来観察されるはずの第2蛍光基の蛍光が減衰する現象をいう。
【0019】
第2蛍光基や消光基としては、蛍光共鳴エネルギー移動が起こるドナーとアクセプターの組合せを用いることができる。例えば、第2蛍光基の蛍光波長と重なる波長域に吸収帯をもつ原子団である消光基等が用いられる。具体的には、(7−メトキシクマリン−4−イル)アセチル(MOAc),アントラニロイルベンジル(ABz),N−メチルアントラニル酸(Nma)等とジニトロフェニル(Dnp)の組合せ、DabsylとEDANS(5−(2'-アミノエチル)アミノナフタレン−1−スルホン酸)の組合せ、トリプトファン(Trp)と5−ジメチルアミノ−1−ナフタレンスルホン酸(Dns)の組合せ、カルボキシジクロロフルオレセイン(CDCF)とカルボキシメチルローダミン(CTMR)の組合せ、カルボキシジクロロフルオレセイン(CDCF)とカルボキシX−ローダミン(CXR)の組合せ、ルシファーイエロー(LY)とカルボキシメチルローダミン(CTMR)の組合せ等が用いられる。
【0020】
消光基は、基質ペプチドと直接結合させてもよいし、ペプチド又はその他の化合物や分子が結合した原子団を介して基質ペプチドと結合させてもよい。
なお、基質ペプチドと原子団の結合、原子団と消光基との結合は、酵素によって切断されないアミド結合,エステル結合,エーテル結合,チオエーテル結合,ウレタン結合等が用いられる。消光基が酵素によって切断されて基質ペプチドから遊離することでも第2蛍光基の蛍光スペクトルに変化が生じるが、基質ペプチドのアミノ酸配列に依存した酵素活性は検出できないからである。
【0021】
基質ペプチドに結合した第2蛍光基と消光基の結合部間の長さは、100Å以下であることが望ましい。第2蛍光基と消光基との結合部間の距離が長くなるにつれ蛍光強度等の変化が小さくなる傾向がみられ、100Åより長くなるとこの傾向が著しく蛍光強度の変化が著しく小さくなり感度が低下するからである。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明の癌診断用試薬によれば、以下のような有利な効果が得られる。
請求項1に記載の発明によれば、
(1)被験者の尿や血液等の体液を接触させて活性測定を行うという簡単な操作で、癌かどうか、また癌の進行度や広がりを判別することができ、治療効果や経過観察にも役立てることができる癌診断用試薬を提供できる。
(2)アミノ酸配列の組合せの選択やアミノ酸配列の数を調整することによって、診断可能な癌の種類を増やし、診断精度を高めることができる応用性に優れた癌診断用試薬を提供できる。
(3)基質ペプチドはペプチド合成機等を用いて容易に製造できるため、生産性に優れた癌診断用試薬を提供できる。
【0023】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加え、
(1)前立腺癌患者の尿又は血漿より得た検体液と接触させ、検体液の酵素活性を測定して得られた計測データを解析することにより、前立腺癌の検体をほぼ正確にグループ分けできるので、未知の被験者から採取した尿又は血漿の酵素活性を、これらの基質ペプチドを用いて測定し、設定された判別式を適用することにより前立腺癌かどうかを判別できる癌診断用試薬を提供できる。
【0024】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加え、
(1)尿や血液の検体液を接触反応させた後、検体液の蛍光強度等を測定するだけで酵素活性を検出することができるので、測定時間を短縮化することができ作業性を高め測定効率を高めることができるとともに、検出感度と測定精度に優れた癌診断用試薬を提供できる。
【0025】
請求項4の発明によれば、請求項1又は2の効果に加え、
(1)尿や血液の検体液を接触反応させた後、検体液の蛍光強度等を測定するだけで酵素活性を検出することができるので、測定時間を短縮化することができ作業性を高め測定効率を高めることができるとともに、検出感度と測定精度に優れた癌診断用試薬を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における癌診断用試薬の酵素活性検出原理を示す模式図である。
図中、1は実施の形態1における癌診断用試薬、2はハロゲン化炭化水素類,エステル類等の溶媒に不溶性の合成樹脂(ポリスチレン等)製(PEGA等)やガラス製等で略球状や多面体状等に形成された担体、Xは担体2に結合された酵素特異性を有しない化合物、3は化合物Xに結合したAA−AA−AAのアミノ酸配列を有する基質ペプチド、4は基質ペプチド3に結合し基質ペプチド3が後述する酵素5によって切断される前後において、蛍光波長や蛍光強度に変化が生じる蛍光基の1種である4−メチルクマリル−7−アミド(MCA),フルオレセインイソチオシアネート(FITC)等の第1蛍光基、5は第1蛍光基4と基質ペプチド3とのペプチド結合や基質ペプチド3を特定の切断部位で選択的に切断する検体液中の基質特異性を有する酵素、6は酵素5によって基質ペプチド3が切断されたことにより遊離し蛍光波長等が変化した第1蛍光基である。
【0027】
以上のように構成された癌診断用試薬1は、基質ペプチド3をC末端から伸長していく固相法等の通常のペプチド合成法、目的とするアミノ酸配列のC末端側からN末端側へ逐次伸長していく逐次伸長法、複数の短いペプチド断片を合成しペプチド断片間のカップリングにより伸長させる断片縮合法、ペプチド合成機を用いてFmoc法、Boc法等を導入して合成する方法等を用いて合成することができる。
【0028】
以上のように構成された実施の形態1における癌診断用試薬について、以下その酵素活性の検出原理を説明する。
図1(a)に示す癌診断用試薬1の4−メチルクマリル−7−アミド(MCA),フルオレセインイソチオシアネート(FITC)等の第1蛍光基4は特定波長領域において非蛍光物質であり、また担体2の表面に高密度に存在しているときは濃度消光により蛍光強度が弱い。この癌診断用試薬1に酵素5を含む検体液を接触させ反応させると、第1蛍光基4と基質ペプチド3との間のペプチド結合や基質ペプチド3を特定の切断部位で選択的に切断する。
基質ペプチド3と遊離した第1蛍光基6は7−アミノ−メチルクマリン(AMC)等の蛍光物質となったり、担体2から離れることで濃度消光の効果が減少し、第1蛍光基6の蛍光波長又は該特定波長領域における蛍光強度は、基質ペプチド3と結合した第1蛍光基4とは異なるので、検体液の蛍光強度等の変化を指標として酵素活性を検出することができる(図1(b)参照)。
【0029】
癌の早期発見スクリーニング検査や治療観察は、始めに、癌の患者の尿や血液(血漿)等の体液、健常者(前立腺癌の場合であれば直腸診正常者)の体液を、アミノ酸配列が異なる4種類以上の基質ペプチド3が組み合わせられた癌診断用試薬1の各々と反応させて酵素活性を測定し、判別分析等の公知の手法によって、体液の酵素活性全体を一括して評価し、癌症例のグループと非癌症例のグループに判別する基準(判別関数)をマハラノビスの距離をベースとした非線形手法等によって予め設定しておく。転移の有無や転移箇所で判別する各々の判別関数を、予めデータベース化して設定しておくこともできる。
次に、未知の被験者の体液を、判別関数を設定したときと同じ種類の基質ペプチド3が組み合わせられた癌診断用試薬1の各々と反応させて酵素活性を測定し、未知の被験者が、予め設定したグループのいずれに属するのかを判別することで、被験者が癌か否か、進行度を簡便に診断することができる。
【0030】
以上のように、実施の形態1における癌診断用試薬は構成されているので、以下のような作用が得られる。
(1)被験者の体液を接触させて活性測定を行うという簡単な操作で、癌かどうか、また癌の進行度や広がりを判別することができ、治療効果や経過観察にも役立てることができる。
(2)アミノ酸配列の組合せの選択や、アミノ酸配列の数を調整することによって、診断精度を高めることができる。
(3)基質ペプチドはペプチド合成機等を用いて容易に製造できるため、生産性に優れる。また、担体2に結合しているので、保存性に優れる。
【0031】
なお、本実施の形態においては、基質ペプチド3が担体2に結合した癌診断用試薬1を説明したが、担体2に結合したものを必ずしも用いる必要はなく、特定のアミノ酸配列を有する基質ペプチドが含まれていれば、凍結乾燥された粉末の状態や溶液の状態で供給されるものを用いることもできる。
また、癌診断用試薬1が基質ペプチド3を1種類ずつ有し、それを4以上組み合わせた場合について説明したが、基質ペプチド3の2種類以上を組み合わせて結合して伸長させた基質ペプチドを用いる場合もある。この場合も、癌診断用試薬の蛍光測定により酵素活性を評価し、癌症例、非癌症例、転移の有無等を判別する各々の判別関数によりグループ化することで、同様の作用が得られる。
【0032】
(実施の形態2)
図2は本発明の実施の形態2における癌診断用試薬の酵素活性検出原理を示す模式図である。なお、実施の形態1と同様のものは、同じ符号を付して説明を省略する。
図中、10は実施の形態2における癌診断用試薬、11は後述する検体液中の酵素14の切断部位を含むAA−AA−AAのアミノ酸配列を有する基質ペプチドである。Y,Zは任意のアミノ酸残基等の原子団を示しており、端部の原子団Yが担体2と結合している。
12は基質ペプチド11に結合した原子団Yと結合するジニトロフェニル(Dnp),5−ジメチルアミノ−1−ナフタレンスルホン酸(Dns)等の消光基、13は基質ペプチド11の他端に導入され消光基12と蛍光共鳴エネルギー移動がみられる(7−メトキシクマリン−4−イル)アセチル(MOAc),トリプトファン(Trp)等の第2蛍光基である。消光基12と第2蛍光基13は互いに蛍光に影響を及ぼす相互作用がみられる距離(100Å以下)で結合している。14は検体液中に存在する酵素、15は基質ペプチド11が酵素14の基質特異性によって特定の切断部位で切断され遊離されたことにより蛍光波長等が変化した第2蛍光基である。
【0033】
以上のように構成された実施の形態2における癌診断用試薬について、以下その酵素活性の検出原理を説明する。
図2(a)に示す癌診断用試薬10の消光基12と第2蛍光基13は、互いに蛍光に影響を及ぼす相互作用がみられる距離で結合しているので、消光基12の吸収スペクトルと第2蛍光基13の蛍光スペクトルとが重なりをもち、第2蛍光基13の励起波長のエネルギーを当てると本来観察されるはずの第2蛍光基13の蛍光の減衰が観察される。
癌診断用試薬10に酵素14を含む検体液を接触させ反応させると、基質特異性を有する酵素14は、基質ペプチド11を切断する。
第2蛍光基13が担体2から遊離すると、第2蛍光基13と消光基12との間で蛍光に影響を及ぼす相互作用がみられなくなるので、検体液に第2蛍光基13の励起波長のエネルギーを当てると、検体液との接触前には観察されなかった第2蛍光基15の蛍光波長が観察されるようになり、酵素14の反応前の蛍光波長とは異なるため、蛍光強度等の変化を指標として酵素活性を検出することができる(図2(b)参照)。
なお、癌の診断方法は、実施の形態1で説明したものと同様なので説明を省略する。
【0034】
以上のように実施の形態2における癌診断用試薬は構成されているので、実施の形態1に記載の作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)消光基12と第2蛍光基13を選択することにより、第2蛍光基13の蛍光波長を可視部領域に設定することが可能になるので、市販のCCDカメラ等の可視光検出装置を用いて測定することが可能になり汎用性に優れる。
【0035】
本実施の形態においても、必ずしも基質ペプチド11を担体2に結合させる必要はなく、特定のアミノ酸配列を有する基質ペプチド11が含まれていれば、凍結乾燥された粉末の状態や溶液の状態で供給されるものを用いることもできる。
また、癌診断用試薬10が基質ペプチド11を1種類ずつ有し、それを4以上組み合わせた場合について説明したが、基質ペプチド11の2種類以上を組み合わせて結合して伸長させた基質ペプチドを用いる場合もある。この場合も、癌診断用試薬の蛍光測定により酵素活性を評価し、癌症例、非癌症例、転移の有無等を判別する各々の判別関数によりグループ化することで、同様の作用が得られる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、本実施例で説明するアミノ酸、ペプチド、保護基、溶媒等は、当該技術分野で慣用されている略号又はIUPAC-IUBの命名委員会で採用された略号を使用している。例えば、以下の略号を使用している。例えば、FITC:Fluorescein-4-isothiocyanate isomer-I(フルオレセインイソチオシアネート) 、DMF:N,N−ジメチルホルムアミド、DIEA:N,N−ジイソプロピルエチルアミン、DCM:ジクロロメタン、i-PrOH:2-プロパノール、MeOH:メタノール、Lys(Dnp):(2S)-2-amino-6-(2,4-dinitrophenylamino)hexanoic acid、TFA:トリフルオロ酢酸。
(実施例1)
癌診断用試薬を合成し、次に尿より得た検体液の活性測定を行った。以下、その方法について説明する。
<癌診断用試薬の合成>
担体としては球状の市販のNH2-PEGA-resin(渡辺化学工業製、粒径約0.1mm)を用いた。Peptide synthesizer (Model 433A, Applied Biosystems) を用いてNH2-PEGA Resin (0.5 g, 25μmol) に、Lys(Dnp)、AA、AA、AA、βAlaの5つのアミノ酸を順に導入した。なお、AA、AA、AAは表1に示すアミノ酸である。その後、プラスチックベッセルに担体を入れ、DMFを加えて担体を膨潤させた。DMFを吸引除去した後、少量のDMFに溶解させた FITC (30μmol, 12 mg), DMF (2 ml) 及びDIEA (25μmol, 4.4μl) を加え、室温で3時間振とうした。反応液を吸引除去した後、DMF (2 ml, 2回)、 DCM (2 ml, 2回)、i-PrOH (2 ml, 2回)、DMF (2 ml, 2回)、MeOH (2 ml, 2回)、エーテル (2 ml, 2回) の順で担体を洗浄した。その後、フェノール (75 mg)、1,2-エタンジチオール (25μl)、チオアニソール(50μl)、蒸留水(50μl) 及びTFA (2 ml) の混合溶液と3時間反応させた。反応液を吸引除去後、DCM (2 ml, 2回)、 DMF (2 ml, 2回)、20%ピペリジン / DMF (2 ml, 2回)、DMF (2 ml, 2回)、i-PrOH (2 ml, 2回)、DMF (2 ml, 2回)、蒸留水(2 ml, 2回)、エーテル (2 ml,1回) の順で担体を洗浄し減圧乾燥することによって、FITCからなる第2蛍光基が一端のβアラニンに結合し、ジニトロフェニル(Dnp)からなる消光基が他端のリジンに結合したβAla-AA-AA-AA-Lysからなる基質ペプチド(表1のNo8,No9,No12,No18)を有する癌診断用試薬(配列表の配列番号8,9,12,18)を得た。
【0037】
【表1】

【0038】
<酵素活性の測定>
癌診断用試薬の各々1 mg に、0.01% Tween 20を含有する20 mM Tris-HCl buffer(pH 8.0, NaCl 100mM, CaCl2 50 mM) 190 μl を加え、前立腺癌症例(A群)9名並びに非癌症例(B群)9名の尿より得た検体液を同量ずつ加え、測定時間ごとにサンプルから10 μlとり、bufferを190 μl加えて96ウェルプレートに移し、蛍光値をPerkin Elmer社製Wallac 1420 ARVO sx プレートリーダーにより測定した(測定時間0.1秒)。検体液を加えてから10分後の蛍光値の変化量(検体液を加える前の蛍光値と検体液を加えてから10分後の蛍光値との差) (励起波長485 nm、蛍光波長535 nm)を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
まず、表2に示すA群、B群の分散共分散行列の等質性について解析したところ、等質とはみなされないことがわかった。そこで、マハラノビスの距離をベースとした非線形(二次)判別分析法を用いて解析した。解析結果より得られた判別得点を表3に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
表3に示す判別得点から、表4に示すように正判別率100%を得た。
【0043】
【表4】

【0044】
以上の計測データを解析し2次判別関数を求め、判別式を作成した。
以上説明したように、本実施例の癌診断用試薬を尿より得た検体液と接触させ、検体液の酵素活性を測定して得られた計測データを解析した結果、正判別率は約90%以上と極めて高いことが確認された。このことは、本実施例の癌診断用試薬を用いることにより、癌症例と非癌症例の検体を正確にグループ分けできることを示している。
従って、未知の被験者から採取した検体液の酵素活性を、本実施例の癌診断用試薬を用いて測定し、設定された判別式を適用することにより、未知の被験者の癌の有無や進行度を判別可能であることが明らかである。
【0045】
(実施例2)
表5に示すAA、AA、AAのアミノ酸を順に導入した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の前立腺診断用試薬(配列表の配列番号8,9,12,13,18)を得た。
【0046】
【表5】

【0047】
次に、実施例1と同様にして、前立腺癌症例(A群)9名並びに非癌症例(B群)9名の尿より得た検体液による蛍光値の変化量を測定した。測定した変化量を表6に示す。
【0048】
【表6】

【0049】
次に、マハラノビスの距離をベースとした非線形(二次)判別分析法を用いて解析した。解析結果より得られた判別得点を表7に示す。
【0050】
【表7】

【0051】
表7に示す判別得点から、表8に示すように正判別率100%を得た。
【0052】
【表8】

【0053】
以上の計測データを解析し2次判別関数を求め、判別式を作成した。
本実施例からも、癌症例と非癌症例の検体を極めて正確にグループ分けできることが明らかである。
【0054】
(実施例3)
表9に示すAA、AA、AAのアミノ酸を順に導入した以外は、実施例1と同様にして、実施例3の前立腺診断用試薬(配列表の配列番号8,9,12,13,18,19)を得た。
【0055】
【表9】

【0056】
次に、実施例1と同様にして、前立腺癌症例(A群)9名並びに非癌症例(B群)9名の尿より得た検体液による蛍光値の変化量を測定した。測定した変化量を表10に示す。
【0057】
【表10】

【0058】
実施例1と同様にして、マハラノビスの距離をベースとした非線形(二次)判別分析法を用いて解析し、解析結果より得られた判別得点を表11に示した。この判別得点から求められる正判別率は、表12に示すように100%であった。
【0059】
【表11】

【0060】
【表12】

【0061】
本実施例からも、癌症例と非癌症例の検体を正確にグループ分けできることが明らかである。
【0062】
(実施例4)
表13に示すAA、AA、AAのアミノ酸を順に導入した以外は、実施例1と同様にして、実施例4の前立腺診断用試薬(配列表の配列番号3,6,8,9,12,13,18,19)を得た。
【0063】
【表13】

【0064】
次に、実施例1と同様にして、前立腺癌症例(A群)9名並びに非癌症例(B群)9名の尿より得た検体液による蛍光値の変化量を測定した。測定した変化量を表14に示す。
【0065】
【表14】

【0066】
実施例1と同様にして、マハラノビスの距離をベースとした非線形(二次)判別分析法を用いて解析し、解析結果より得られた判別得点を表15に示した。この判別得点から求められる正判別率は、表16に示すように100%であった。
【0067】
【表15】

【0068】
【表16】

【0069】
本実施例からも、癌症例と非癌症例の検体を正確にグループ分けできることが明らかである。
【0070】
(実施例5)
表17に示すAA、AA、AAのアミノ酸を順に導入した以外は、実施例1と同様にして、実施例5の前立腺診断用試薬(配列表の配列番号3,6,8,9,13,18,19,20)を得た。
【0071】
【表17】

【0072】
次に、実施例1と同様にして、前立腺癌症例(A群)10名並びに非癌症例(B群)10名の尿より得た検体液による蛍光値の変化量を測定した。測定した変化量を表18に示す。
【0073】
【表18】

【0074】
実施例1と同様にして、マハラノビスの距離をベースとした非線形(二次)判別分析法を用いて解析し、解析結果より得られた判別得点を表19に示した。この判別得点から求められる正判別率は、表20に示すように、癌あり、癌なしについて、90%、100%であった。
【0075】
【表19】

【0076】
【表20】

【0077】
本実施例からも、癌症例と非癌症例の検体を正確にグループ分けできることが明らかである。
【0078】
(実施例6)
表21に示すAA、AA、AAのアミノ酸を順に導入した以外は、実施例1と同様にして、実施例6の前立腺診断用試薬(配列表の配列番号6,9,12,13,14,16,18,19)を得た。
【0079】
【表21】

【0080】
次に、実施例1と同様にして、前立腺癌症例(A群)9名並びに非癌症例(B群)9名の尿より得た検体液による蛍光値の変化量を測定した。測定した変化量を表22に示す。
【0081】
【表22】

【0082】
実施例1と同様にして、マハラノビスの距離をベースとした非線形(二次)判別分析法を用いて解析し、解析結果より得られた判別得点を表23に示した。この判別得点から求められる正判別率は、表24に示すように100%であった。
【0083】
【表23】

【0084】
【表24】

【0085】
本実施例からも、癌症例と非癌症例の検体を正確にグループ分けできることが明らかである。
【0086】
(実施例7)
表25に示すAA、AA、AAのアミノ酸を順に導入した以外は、実施例1と同様にして、実施例7の前立腺診断用試薬(配列表の配列番号1,2,4,7,9,10,11,15)を得た。
【0087】
【表25】

【0088】
次に、実施例1と同様にして、前立腺癌症例(A群)10名並びに非癌症例(B群)10名の血漿より得た検体液による蛍光値の変化量を測定した。測定した変化量を表26に示す。
【0089】
【表26】

【0090】
実施例1と同様にして、マハラノビスの距離をベースとした非線形(二次)判別分析法を用いて解析し、解析結果より得られた判別得点を表27に示した。この判別得点から求められる正判別率は、表28に示すように100%であった。
【0091】
【表27】

【0092】
【表28】

【0093】
本実施例から、血漿より得た検体液を用いた場合も、癌症例と非癌症例の検体を正確にグループ分けできることが明らかである。
【0094】
(実施例8)
表29に示すAA、AA、AAのアミノ酸を順に導入した以外は、実施例1と同様にして、実施例8の前立腺診断用試薬(配列表の配列番号1,2,5,9,10,11,15,17)を得た。
【0095】
【表29】

【0096】
次に、実施例1と同様にして、前立腺癌症例(A群)9名並びに非癌症例(B群)10名の血漿より得た検体液による蛍光値の変化量を測定した。測定した変化量を表30に示す。
【0097】
【表30】

【0098】
実施例1と同様にして、マハラノビスの距離をベースとした非線形(二次)判別分析法を用いて解析し、解析結果より得られた判別得点を表31に示した。この判別得点から求められる正判別率は、表32に示すように100%であった。
【0099】
【表31】

【0100】
【表32】

【0101】
本実施例からも、癌症例と非癌症例の検体を正確にグループ分けできることが明らかである。
以上の実施例から、未知の被験者から採取した尿や血漿より得た検体液の酵素活性を、本実施例の癌診断用試薬を用いて測定し、設定された判別式を適用することにより、未知の被験者の癌の有無や進行度を判別可能であることが明らかである。
また、本実施例では前立腺癌の診断について説明したが、基質ペプチドの組み合わせを変えた癌診断用試薬を合成し、この癌診断用試薬に体液から得た検体液を接触させることにより、胃がん、肺がん、子宮がん、すい臓がん、乳がん、膀胱がん等についても、同様に診断が可能である。
【0102】
なお、本実施例においては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)からなる第2蛍光基が一端に結合し、ジニトロフェニル(Dnp)からなる消光基が他端のリジンに結合した基質ペプチドを有する癌診断用試薬を合成して、これと接触させた検体液の蛍光変化を測定した場合について説明したが、第2蛍光基として(7−メトキシクマリン−4−イル)アセチル(MOAc)等を用いた場合も、同様の結果が得られることを確認した。
また、PEGA resin等の担体が一端に、FITC等の第1蛍光基が他端に結合した基質ペプチドを有する癌診断用試薬を用いた場合も、これと接触させた検体液の蛍光変化を測定し酵素活性を検出することで、癌の診断に利用できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、癌の早期発見のためのスクリーニング検査、進行癌の診断や治療経過の観察に有効な癌診断用試薬に関し、癌患者の体液に含まれるマーカーの特定や追跡をしなくても、被験者の尿や血液等の体液を接触させて活性測定を行うという簡単な操作で、癌かどうか、また癌の進行度や広がりを判別することができ、治療効果や経過観察にも役立つ癌診断用試薬を提供できる。データを蓄積し、症例に応じた判別関数を設定しておけば、癌の転移箇所を推定することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】実施の形態1における癌診断用試薬の酵素活性検出原理を示す模式図
【図2】実施の形態2における癌診断用試薬の酵素活性検出原理を示す模式図
【符号の説明】
【0105】
1 癌診断用試薬
2 担体
3 基質ペプチド
4,6 第1蛍光基
5 酵素
10 癌診断用試薬
11 基質ペプチド
12 消光基
13,15 第2蛍光基
14 酵素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3個のアミノ酸が結合した基質ペプチドが4種以上組み合わせられていることを特徴とする癌診断用試薬。
【請求項2】
前記基質ペプチドの組み合わせが、(a) Gln-Gly-Arg, Leu-Arg-Asn, Glu-Lys-Lys及び/又はLys-Arg-Ser, (b) Pro-Leu-Gly, Ala-Pro-Ala, Gln-Gly-Arg, Glu-Gly-Arg, Gly-Arg-Arg, Gly-Lys-Lysのいずれかを含むことを特徴とする請求項1に記載の癌診断用試薬。
【請求項3】
前記基質ペプチドの一方の末端に結合した第1蛍光基を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の癌診断用試薬。
【請求項4】
前記基質ペプチドの一方の末端に結合した第2蛍光基と、前記基質ペプチドの他方の末端に結合した消光基と、を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の癌診断用試薬。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−276202(P2009−276202A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127601(P2008−127601)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【Fターム(参考)】