説明

癌転移の活性な特異的免疫治療法

本発明は潜在的な脳転移を有する被験体の処置を提供する。この処置は免疫調節性ポリペプチドおよびバキュロウイルス-昆虫細胞調製物を含む組成物を被験体に投与することに依存する。この組成物は、血液脳関門を通過することができる抗腫瘍免疫応答を生成する独特な能力を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
政府は以下の助成金番号に従って本発明における権利を所有する:National Cancer Institute, National Institutes of HealthからのCancer Center Support Core grant CA16672、Prostate Cancer grant CA90270、Ovarian Cancer grant CA93639、およびHead and Neck Cancer grant CA37007、ならびにAmerican Cancer Societyからのgrant RPG-98-332(Z.D.)。
【0002】
本願は、2002年10月22日に出願された米国特許仮出願第60/420,209号、および2003年3月10日に出願された米国特許仮出願第60/453,330号(これらの両方の全体の内容は参照として本明細書に組み入れられる)に対する優先権の利益を主張する。
【0003】
A. 発明の分野
本発明は、全体として免疫学および癌生物学の分野に関する。より詳細には、本発明は、脳における転移癌を予防および処置するための昆虫細胞-免疫調節性組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0004】
B. 関連技術の説明
米国において、年間170,000例より多くの患者が脳転移を発症している(Posner, 1992; Loeffler et al., 1997)。脳転移の診断および処置における近年の進歩にも関わらず、これらの患者の平均生存は1年未満である(Lewis, 1988; Zucker et al., 1978; Fidler et al., 1999)。明らかに、癌のこの致命的な局面を処置するための新規なアプローチが緊急に必要とされている。
【0005】
免疫治療は癌の処置のための魅力的かつ将来性のあるストラテジーである(Rosenberg, 1997; Ostrand-Rosenberg et al., 1999)。活性な特異的免疫治療の目的は、原発腫瘍と転移病巣の両方において癌細胞を破壊するために(Jaffee, 1999; Galea-Lauri et al., 1996)、腫瘍特異的T細胞および腫瘍浸潤マクロファージを活性化すること(Ostrand-Rosenberg et al., 1999; Rosenberg, 2001)である。中枢神経系(CNS)は免疫学的寛容部位であると見なされている(Shirai, 1921; MurphyおよびSturm, 1923; Grooms et al., 1977; Mitchell, 1989)が、最近の研究は、CNSにおける腫瘍が活性な免疫治療によって部分的または完全に抑制され得ることを示す(Sampson et al., 1996; Fakhrai et al., 1996; Ashley et al., 1997; Okada et al., 1998; Visse et al., 1999)。
【0006】
本発明者らは、IFN-β(H5BVIFN-β)をコードする組換えバキュロウイルス発現ベクターからなる新規な活性な免疫治療系を以前に確立した(KiddおよびEmery, 1993; Possee, 1997; Lu et al., 2002)。これらの研究において、本発明者らは凍結乾燥されたH5BVIFN-βの調製物を、皮下(s.c.)マウスUV-2237M線維肉腫およびK-1735M2メラノーマに注射した。強力な全身性免疫応答が誘導され、注射された原発腫瘍と注射されていない肺転移の両方の、免疫学的に特異的な根絶をもたらした(Lu et al., 2002)。しかし、この型の治療の、脳における転移性腫瘍に到達する能力は評価されていなかった。
【発明の開示】
【0007】
発明の要旨
こうして、本発明に従って、被験体における潜在的な(occult)脳転移を予防するため、または潜在的な脳転移を有する被験体を処置するための、免疫調節性ポリペプチドおよびバキュロウイルス-昆虫細胞調製物を含む組成物を被験体に投与する段階を含む方法が提供される。この組成物は、脳に局在していない腫瘍または腫瘍血管系に直接的に注射され得る。潜在的な脳転移は、被験体の骨、肝臓、脾臓、膵臓、肺、結腸、精巣、卵巣、胸部、子宮頸部、前立腺、および子宮における原発腫瘍に由来し得る。この方法は、組成物の第2の投与または第3の投与をさらに含み得る。この被験体はヒトであり得る。この方法は、第2の抗癌治療(例えば放射線治療、化学療法、遺伝子治療、または外科治療など)をさらに含み得る。この被験体は、以前に癌治療を受けていてもよい。
【0008】
この組成物は約105と約107の間の昆虫細胞を含み得る。この組成物はインタクトな昆虫細胞または破壊された昆虫細胞を含み得る。この組成物は凍結乾燥されてもよく、および/または凍結/融解されていてもよい。この免疫調節性ポリペプチドは昆虫細胞中の組換えバキュロウイルスベクターから発現され得る。この免疫調節性ポリペプチドはIFN-α、IFN-β、IFN-γ、IL-1、IL-2、IL-6、IL-7、IL-12、IL-15、IL-16、またはGM-CSFであり得る。この組成物は炎症刺激剤もまた含み得る。この炎症刺激剤は、細菌全体、内毒素、またはメチル化されていないDNAであり得る。この組成物は、SpodopteraもしくはTrichoplusiaの細胞、またはこれらの破壊から得られるこれらの細胞の生成物を含み得る。この組成物は、腫瘍抗原、例えば、MAGE-1、MAGE-3、Melan-A、P198、P1A、gp100、TAG-72、p185HER2、ミルクムチンコアタンパク質、癌胎児性抗原(CEA)、P91A、p53、p21ras、P210、BTA、またはチロシナーゼなどをさらに含み得る。この腫瘍抗原は、昆虫細胞中で組換えバキュロウイルスベクターから発現され得る。
【0009】
本発明に従って、被験体における潜在的な脳転移を予防するため、または潜在的な脳転移を有する被験体を処置するための、免疫調節性ポリペプチドおよび炎症刺激剤を含む組成物を被験体に投与する段階を含む方法がまた提供される。この組成物は、脳に局在していない腫瘍または腫瘍血管系に直接的に注射され得る。潜在的な脳転移は、被験体の骨、肝臓、脾臓、膵臓、肺、結腸、精巣、卵巣、胸部、子宮頸部、前立腺、および子宮における原発腫瘍に由来し得る。この方法は、組成物の第2の投与または第3の投与をさらに含み得る。この被験体はヒトであり得る。この方法は、第2の抗癌治療(例えば放射線治療、化学療法、遺伝子治療、または外科治療など)をさらに含み得る。この被験体は、以前に癌治療を受けていてもよい。
【0010】
この組成物は凍結乾燥されてもよく、および/または凍結/融解されていてもよい。この免疫調節性ポリペプチドは昆虫細胞中の組換えバキュロウイルスベクターから発現され得る。この免疫調節性ポリペプチドはIFN-α、IFN-β、IFN-γ、IL-1、IL-2、IL-6、IL-7、IL-12、IL-15、IL-16、またはGM-CSFであり得る。この炎症刺激剤は、細菌全体、内毒素、またはメチル化されていないDNAであり得る。この組成物は、SpodopteraもしくはTrichoplusiaの細胞、またはこれらの破壊から得られるこれらの細胞の生成物を含み得る。この組成物は、腫瘍抗原、例えば、MAGE-1、MAGE-3、Melan-A、P198、P1A、gp100、TAG-72、p185HER2、ミルクムチンコアタンパク質、癌胎児性抗原(CEA)、P91A、p53、p21ras、P210、BTA、またはチロシナーゼなどをさらに含み得る。この腫瘍抗原は、昆虫細胞中で組換えバキュロウイルスベクターから発現され得る。
【0011】
被験体における潜在的な脳転移の発症を予防するための、免疫調節性ポリペプチドおよび炎症刺激剤を含む組成物をその被験体に投与する段階を含む方法もまた提供される。被験体における潜在的な脳転移の発生を予防するための、免疫調節性ポリペプチドおよびバキュロウイルス-昆虫細胞調製物を含む組成物をその被験体に投与する段階を含む方法もまた提供される。
【0012】
例示的な態様の説明
以前の研究において、本発明者らは、昆虫細胞調製物がアジュバント特性を有することを報告した。さらに、特定の免疫調節剤との昆虫細胞組成物の組み合わせは、相乗的な抗癌効果を生じた。2つの代替的な態様が記載された。第1のものは、単独で、または細胞組成物に加えられた免疫調節剤、抗原、もしくは抗原調製物と組み合わせた、昆虫細胞または昆虫細胞組成物の使用を含む。第2の態様は、バキュロウイルスを使用する昆虫細胞中の免疫調節剤または抗原の発現に依存する。両方の場合において、昆虫細胞組成物との免疫刺激分子の組み合わせは驚くべき結果を提供した。本発明は、昆虫細胞組成物を脳転移の処置に応用することによって、この初期の研究を拡張する。
【0013】
伝統的に、脳は免疫学的寛容部位であるとみなされてきたが(Shirai, 1921; MurphyおよびSturm, 1923; Grooms et al., 1977; Mitchell, 1989)、しかし、脳腫瘍を扱ういくつかの最近の研究は、血液脳関門がリンパ球およびマクロファージについての絶対的な障壁ではないことを示唆する(Sampson et al., 1996; Okada et al., 1998)。実際、全身性の循環における活性化されたT細胞は、この障壁を自由に横切ることが示されている(Wekerle et al., 1987)。さらに、IFN-γ、インターロイキン-7(IL-7)、またはB7-1遺伝子でトランスフェクトされたラット神経膠腫細胞の皮下注射は、潜在的な脳内神経膠腫同系移植片の退縮をもたらすことが示されている(Visse et al., 1999)。同様に、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)について遺伝子操作された腫瘍細胞を用いる皮下免疫は、末梢および脳に移植された腫瘍による2回目のチャレンジからマウスを保護する免疫応答を誘導することが示された(Sampson et al. 1996)。GM-CSF研究と同様に、IFN-βを発現するように操作された昆虫細胞が、特定の癌細胞型に特異的な免疫学的記憶を誘導する能力を示した本発明者らの以前の知見は、特に興味深い。
【0014】
本発明者らは、IFN-β/昆虫細胞組成物が潜在的な脳転移に効果をもたらし得るか否かを決定することを試みた。H5昆虫細胞の凍結乾燥調製物の病巣内注射に続いて、血液脳関門を通過し転移に浸潤して破壊する活性な特異的T細胞(CD4+、CD8+)によって皮下腫瘍の退縮が開始される。CD4抗原および/またはCD8抗原に対する抗体の全身性投与は、皮下腫瘍(Lu et al., 2002)と脳転移(本研究)の両方において活性な特異的治療効果を無効にする。これらのデータは、肺転移の退縮についての研究からのデータ(Lu et al., 2002)と一致し、脳における腫瘍を根絶するために必要とされるT細胞のサブセットは治療を開始するために使用されるサイトカイン(Sampson et al, , 1996)および脳において増殖している腫瘍の型に伴って変化し得ることを示唆する。
【0015】
個々の成分(H5細胞またはIFN-β)ではなく、H5BVIFN-βの凍結乾燥調製物を使用する治療が、頭蓋内チャレンジに対する免疫保護を誘導するために必要であった。これは、免疫保護の誘導が皮下腫瘍の除去に依存し、H5細胞でもIFN-βでもなくH5BVIFN-βを用いる処理のみが皮下腫瘍を根絶することができるという観察に基づく(22)。しかし、IFN-βの免疫刺激効果を増強したH5BVIFN-βの調製物中の正確な成分は未知のままである。最近の研究は、病原体に対する生得的な免疫応答が抗原提示細胞上のパターン認識レセプターに依存していることを実証している(30-33)。これらのレセプターは、通常の宿主細胞上には提示されない細菌またはウイルスによって共有される共通のパターンを認識する。パターン認識レセプターの誘発は、抗原特異的T細胞を刺激し活性化する高レベルの同時刺激分子(例えばCD80およびCD86など)の発現、ならびに炎症誘発性サイトカイン(例えば、IL-1、IL-6、IL-12、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、GM-CSF、およびI型IFN)の分泌をもたらし得る(30-33)。
【0016】
いくつかの最近の研究は、昆虫細胞DNAにおけるメチル化されていないCpGモチーフが、I型インターフェロン産生を誘発することによって、特異的抗原に対するT細胞応答を増強し得ることを示す(34-36)。しかし、本研究において、H5細胞の腫瘍内注射は、または他の研究において、GM-CSFを発現するバキュロウイルスベクターを用いて形質導入されたH5細胞は(データ示さず)、UV-2237M腫瘍に対して最小限の治療的効果を有した。これらのデータは、H5細胞における他の成分が腫瘍細胞に対する特異的免疫応答を増強するためのアジュバントとして働くことを示唆する。現在のデータは、IFN-βと組み合わせた他の炎症刺激(例えば細菌全体、内毒素、またはメチル化されていないDNA)が、腫瘍を根絶する際に昆虫細胞と同程度に有効であり得ることを可能性を除外するものではない。さらに、本研究においては、腫瘍根絶における昆虫細胞およびIFN-βの役割のみが調べられた。IFN-βおよびIFN-αはI型IFNレセプターを共有するので、IFN-αをIFN-βの代わりに置き換え得ることが可能である。
【0017】
要約すると、本発明者らは、確立された皮下腫瘍への昆虫細胞/IFN-βの注射が原発皮膚腫瘍および関連する潜在的な脳転移の両方を根絶し得ることを示した。遺伝的に改変された腫瘍細胞を使用する以前の研究とは異なって、この治療の成功は、腫瘍細胞のトランスフェクションまたは腫瘍抗原の使用を必要としない。昆虫細胞/IFN-β治療による脳転移の根絶は、処置された腫瘍を有するマウスにおいて、どのような検出可能な行動変化とも関連しなかった。10回の連続的な毎週の20単位のH5BVIFN-βの皮下注射でさえ、実証可能な毒性をもたらさなかった。従ってこれは、この組成物を用いる初期の研究の有用性を驚くほど拡張する。
【0018】
A. 抗腫瘍ワクチン接種
新生物細胞または腫瘍細胞は一般的に、それらの表面上に、免疫系によって外来性であると検出されて免疫応答の誘導をもたらす可能性がある、MHCクラスIに関して変化したタンパク質を発現する。多くの場合、抗腫瘍応答を誘導する際の困難さは、腫瘍抗原が存在し、免疫監視によって検出可能であることを確立する際にはない。むしろ問題は、その領域に必要な細胞を補充すること、および効率的な免疫応答の発生のために必要である適切な二次的シグナルを細胞に提供することに集中している。本発明のアジュバント特性は腫瘍への免疫細胞の補充を開始し、最終的な腫瘍の退縮を一般的にもたらす腫瘍抗原の認識を提供する。さらなる利点は、リンパ球による腫瘍浸潤が記憶細胞の作製を容易にすることである。従って、腫瘍細胞が転移した場合、または腫瘍が再発した場合、リンパ球のサブ集団が、引き続くチャレンジまたは転移細胞に対処するために容易に送られ得る。特に、本発明は、転移細胞が脳内に局在する状況に取り組む。
【0019】
開示されるシステムのさらなる利点は、調製物が昆虫細胞組成物中に組換えタンパク質を含むように操作され得ることである。それゆえに、本発明の特定の態様において、昆虫細胞調製物が発現ベクター、すなわち、ヒトIFN-βについての遺伝子を含むバキュロウイルスで形質転換される。これらの細胞の調製物は、腫瘍に直接的に導入され得、従って、アジュバントによる免疫細胞の補充および活性化をもたらすのみならず、加えて、調製物中に第2の薬剤を含むことによって与えられるさらなる利点をもたらす。他の免疫原性分子(例えば腫瘍抗原)は昆虫細胞組成物中に含まれ得る。
【0020】
抗腫瘍ワクチン投与は種々の経路によって行われ得ることが意図される。本発明の1つの態様において、昆虫細胞組成物は免疫細胞の補充を誘導するために腫瘍に直接的に注射される。処方物は、免疫細胞の補充、活性化、または増殖を増強することができる免疫調節性タンパク質と混合される形質転換されていない細胞を含み得ること、または昆虫細胞はまた外因性DNAを含み得、従って免疫調節剤を発現することができることが想定される。このアプローチは、当初は転移性疾患に対して限られた価値しかないと考えられていたが、現在では遠隔の(例えば転移)癌に対して、血液脳関門の他の側においてさえ、全身性応答を誘導することが示された。
【0021】
関連する米国特許第6,342,216号および米国特許出願第09/872,162号は共にその全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【0022】
B. 昆虫細胞
用語「昆虫細胞」は、宿主生物に導入されたとき、または免疫細胞によって接触されたときにアジュバント特性を示す昆虫種からの昆虫細胞を意味する。本発明の特定の態様において、昆虫細胞はバキュロウイルス感染に供される細胞を含むことが意図される。例えば:Autographa californica, Bombyx mori, Spodoptera frugiperda, Choristoneura fumiferana, Heliothis virescens, Heliothis zea, Orgyia pseudotsugata, Lymantira dispar, Plutelia xylostella, Malacostoma disstria, Trichoplusia ni, Pieris rapae, Mamestra configurata, およびHyalophora cecropia。米国特許第5,498,540号および第5,759,809号(これらは参照として本明細書に組み入れられる)を参照されたい。特定の態様において、昆虫細胞は、Trichoplusia ni由来のH5昆虫細胞(Invitrogen, Sorrento, CA)である。このような昆虫細胞はインタクトなまま使用してもよく、凍結乾燥もしくは凍結/融解サイクル後に使用してもよい。
【0023】
多くの昆虫の種が、哺乳動物宿主に導入される場合に古典的なアジュバント特性を示す細胞または細胞抽出物を含むことが想定される。このような特性について本明細書中には明白に開示されていない代替的な種をスクリーニングすることは当業者の能力の範囲内にあることがさらに意図される。
【0024】
昆虫細胞は標準的な技術(例えば、米国特許第5,759,809号において記載されているように、10%ウシ胎仔血清(Hyclone Laboratories, Inc.)を有するかまたは有しないIPL-41培地(JRH Biosciences, Inc.)中で)培養され得る。H5細胞の懸濁細胞培養のための例示的な手順は、手短に言えば以下の通りである。接着H5細胞を組織培養フラスコからスピナー(spinner)フラスコに移す。ヘパリンを補充した無血清培地(JRH BioSciencesからのExcell 400培地)を使用して細胞凝集を減少させる。細胞を、それらが>95%生存度でありかつ18時間と24時間の間の倍加時間を有するまで、数世代増殖させる。この時点で、細胞をヘパリンから引き離す。細胞がヘパリンの付加なしで懸濁物中で増殖を続けるならば、これらは形質転換まで、懸濁物として無限に維持され得る。魚血清を含む培地中で昆虫細胞を培養するための代替的な手順が最近記述されている。米国特許第5,498,540号(参照として本明細書に組み入れられる)を参照されたい。形質転換された細胞を必要とする態様については、培養された昆虫細胞は、標準的プロトコールによって組換えバキュロウイルスまたは他の発現ベクターでトランスフェクトされ得る。例えば、米国特許第5,759,809号(参照として本明細書に組み入れられる)を参照されたい。
【0025】
C. バキュロウイルス発現ベクター
技術が比較的単純なこと、大きな挿入物を収容する能力、生物学的に機能的な組換えタンパク質の高い発現レベル、および精製の容易さのために、バキュロウイルス発現系(BEVS)は、最も強力かつ多目的である利用可能な真核生物発現系の1つである。他の高等真核生物発現系と比較して、BEVSの最も際だった特徴は、クローニングされた遺伝子の高レベルの発現を達成するその潜在能力である。結果として、免疫調節サイトカイン遺伝子や抗原をコードする組換えバキュロウイルスで感染された昆虫細胞を腫瘍にインサイチュー接種することは、腫瘍細胞を殺傷するため、および免疫応答を誘発するために高い局所的濃度のサイトカインを供給するはずであり、また、昆虫細胞は哺乳動物宿主に対して異種であることから、それ自体免疫を増強するはずである。
【0026】
1. バキュロウイルスベクターを用いる感染
本発明の特定の態様において、選択された非表面発現タンパク質またはペプチドをコードする核酸がバキュロウイルス発現ベクターに組み込まれ得る。このようなベクターは種々の応用のためのタンパク質の産生のための有用なツールである(SummersおよびSmith, 1987; O'Reilly et al., 1992; また米国特許第4,745,051号(SmithおよびSummers), 第4,879,236号(SmithおよびSummers), 第5,077,214号(GuarinoおよびJarvis), 第5,155,037号(Summers), 第5,162,222号(GuarinoおよびJarvis), 第5,169,784号(SummersおよびOker-Blom)および第5,278,050号(Summers)、各々は参照として本明細書に組み入れられる)。バキュロウイルス発現ベクターは、関心対象の特定の遺伝子のコード領域が、必須でないバキュロウイルス遺伝子の代わりにプロモーターの後ろに配置されている組換え昆虫ベクターである。組換えバキュロウイルス発現ベクターを単離するために使用される古典的なアプローチは、関心対象の外来性遺伝子がポリヘドリンプロモーターの下流に位置しているプラスミドを構築することである。次いで、相同組換えを介して、そのプラスミドを、野生型ポリヘドリン遺伝子の代わりにウイルスゲノムに新しい遺伝子を移動させるために使用し得る(SummersおよびSmith, 1987; O'Reilly et al., 1992)。
【0027】
得られる組換えウイルスは培養された昆虫細胞を感染し、ポリヘドリンプロモーターの制御下で外来性遺伝子を発現し得る。このプロモーターは強力であり、感染の最後期の間に非常に高レベルの転写を提供する。ポリヘドリンプロモーターの強さは、組換えバキュロウイルスの発現ベクターとしての使用の利点である。なぜなら、これは通常、感染の間に大量の外来性遺伝子産物の合成をもたらすからである。
【0028】
Autographa californica多ヌクレオカプシド核多角体病ウイルス(AcMNPV)はバキュロウイルスの間で普通ではない。なぜなら、これは大部分のバキュロウイルスよりも広い宿主範囲を示すからである(Martignoni et al. 1982)。AcMNPVは最も広範に研究されているバキュロウイルスであり、そのゲノム配列は知られている(Ayres et al. 1994)。これは、その鱗翅目宿主昆虫において独特な二相性の生活環によって区別される(BlissardおよびRohrmann, 1990において概説される)。感染により、高力価の2つの型の子孫ウイルス、出芽(budded)ウイルス(BV)およびオカルジョン(occlusion)由来ウイルス(ODV)が生じる。
【0029】
2つの経路、吸着性エンドサイトーシス(またはウイルス定着)および原形質膜とのBVエンベロープの直接的融合が、培養細胞へのBVの侵入について提案されている。BVは融合によって細胞に入り得るが(Volkman et al., 1986)、データの大部分は、主要な経路は吸着性エンドサイトーシスによることを示す(CharltonおよびVolkman, 1993)。
【0030】
2. バキュロウイルスプロモーターおよびエンハンサーからのクローニングされた遺伝子の発現
本発明の特定の局面において、所望の遺伝子の発現のために設計されるバキュロウイルスベクターが必要とされる。従って、特定の態様は、制御配列(例えばプロモーターおよびエンハンサー)に機能的に連結された選択された核酸セグメントを必要とし得る。核酸セグメントおよび配列領域を組み合わせて位置付けるという意味において、用語「機能的に連結される」とは、プロモーター、エンハンサー、および他の制御配列が、遺伝子の最適な発現を提供するような様式で配置および配向される、単一の連続的な核酸配列を形成するように接続されることを意味すると理解される。プロモーターは、遺伝子の上流に機能的に配置された場合にその遺伝子の発現をもたらすDNAエレメントであることが理解される。本発明のベクター中の各異種遺伝子は、プロモーターエレメントの下流に機能的に配置されている。
【0031】
一過性の系において、関心対象の遺伝子は組換えウイルス、例えばバキュロウイルスを用いる感染によって細胞に導入される。最も広範に使用されるバキュロウイルス系において、関心対象の遺伝子はポリヘドリンプロモーターの制御下にある。ポリヘドリンプロモーターは最後期プロモーターであり、これは、関心対象の遺伝子の発現がバキュロウイルス感染の後期相まで開始しないことを意味する。発現レベルは高いが、バキュロウイルス感染は最終的には細胞死をもたらすので一過性である。
【0032】
3. バキュロウイルスプロモーターおよびエンハンサー
バキュロウイルス感染の4つの識別できる相が存在し、最初期、遅延初期、後期、および最後期と呼ばれる。それゆえに、異なるバキュロウイルス遺伝子は、それらが発現される間のウイルス感染の相に従って分類され得る。初期遺伝子として規定され、最初期または遅延初期のいずれにも下位分類されない遺伝子のクラスも存在する。異なるクラスのプロモーターが各クラスの遺伝子を制御する。
【0033】
最初期プロモーターは、発現を駆動するために宿主細胞因子のみを必要とすることによって区別される。例はie1プロモーター(GuarinoおよびSummers, 1987)、ieN ie2プロモーター(Carson et al., 1991)、およびie0プロモーターである。遅延初期プロモーターは、発現を駆動するために宿主細胞因子に加えて、最初期遺伝子の産物のみを必要とすることによって区別される。例は39Kプロモーター(GuarinoおよびSmith, 1991)およびgp64プロモーター(BlissardおよびRohrmann, 1989; Whitford et al., 1989)である。初期プロモーターは遅延型初期クラスの特定の最初期に配置されていない。例にはDA26、ETL、および35Kプロモーターが含まれる。
【0034】
後期プロモーターは、発現を駆動するために、遅延初期遺伝子および最初期遺伝子の産物、ならびに他の宿主細胞因子を必要とする。例はgp64プロモーター(BlissardおよびRohrmann, 1989; Whitford et al., 1989)、およびカプシドプロモーター(p39; ThiemおよびMiller, 1989)である。最後期プロモーターは、発現を駆動するために、他の宿主細胞因子に加えて、多数のバキュロウイルス遺伝子産物を必要とする。このクラスからのプロモーターの例は、ポリヘドリンプロモーター(Hooft van Iddekinge et al., 1983)およびp10プロモーター(Kuzio et al., 1984)である。最もよく特徴付けられ、かつ最も頻繁に使用されているバキュロウイルスプロモーターはポリヘドリンプロモーターである。ポリヘドリンプロモーターを使用することが本発明の好ましい態様である。
【0035】
エンハンサーは、所定のプロモーターからの転写を増強するために位置的に配置され得るDNAエレメントである。転写を駆動するために昆虫細胞において活性であるエンハンサーは本発明において好ましい。好ましいものはウイルスエンハンサーであり、最も好ましいものはバキュロウイルスエンハンサーである。バキュロウイルスエンハンサーの例には、hr1、hr2、hr3、hr4、およびhr5が含まれる(Guarino et al., 1986)。
【0036】
4. マーカー遺伝子およびスクリーニング
本発明の特定の局面において、感染され、形質導入され、または形質転換した細胞についての情報を提供するために、特定の細胞が特異的遺伝子マーカーでタグ化され得る。それゆえに、本発明はまた、全細胞アッセイに基づき、好ましくは、レポーター遺伝子の上流に配置された一般的なDNAプロモーターが機能的である条件下のみで出現する容易に検出可能な表現型をその組換え宿主上に付与するレポーター遺伝子を利用する、組換え候補スクリーニング方法および選択方法を提供する。一般的には、レポーター遺伝子は、細胞培養物の分析によって、例えば、細胞培養物の蛍光分析、放射性同位元素分析、または分光学的分析によって検出可能な、その他の場合には宿主細胞によって産生されないポリペプチド(マーカータンパク質)をコードする。
【0037】
本発明の他の局面において、標準的な遺伝子分析技術、例えば、PCR(商標)によるDNA増幅、または蛍光プローブ、放射性同位元素プローブ、もしくは分光学的プローブを使用するハイブリダイゼーションによって検出可能である遺伝子マーカーが提供される。
【0038】
例示的なマーカー遺伝子は、当業者に知られているように、酵素、例えば、エステラーゼ、ホスファターゼ、プロテアーゼ(組織プラスミノーゲン活性化因子またはウロキナーゼ)、およびそれらの活性によって検出可能である他の酵素をコードする。本発明における使用のために意図されるものは、導入遺伝子発現のためのマーカーとしての緑色蛍光タンパク質(GFP)である(Chalfie et al., 1994)。GFPの使用は外因性に加える基質を必要とせず、近紫外光または青色光による放射のみが必要であって、生細胞における遺伝子発現をモニターする際の使用に顕著な潜在能力を有する。
【0039】
他の例は、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)であり、これは、放射性標識された基質、ホタルおよび細菌のルシフェラーゼ、ならびに細菌酵素であるβ-ガラクトシダーゼおよびβ-グルクロニダーゼとともに利用され得る。このクラス中の他のマーカー遺伝子は当業者に周知であり、本発明における使用に適している。
【0040】
宿主細胞上に検出可能な特徴を付与するマーカー遺伝子の別のクラスは、それらの形質転換体を毒素に対して耐性にするポリペプチド、一般的には酵素をコードするものである。このクラスのマーカー遺伝子の例は、抗生物質G418の毒性レベルに対して保護するneo遺伝子 (Colberre-Garapin et al., 1981)、ストレプトマイシン耐性を付与する遺伝子(米国特許第4,430,434号)、ハイグロマイシンB耐性を付与する遺伝子(Santerre et al., 1984; 米国特許第4,727,028号、第4,960,704号、および第4,559,302号)、メトトレキサートに対する耐性を付与するジヒドロ葉酸レダクターゼをコードする遺伝子(Alt et al., 1978)および酵素HPRTであり、さらに当該分野において周知の多くの他の遺伝子(Kaufman, 1990)がある。
【0041】
D. 炎症刺激
1. 細菌全体および内毒素
内毒素はグラム陰性細菌の細胞壁の外膜の一部である。内毒素は、生物が病原体であるか否かに関わらず、不変的にグラム陰性細菌と関連する。用語「内毒素」は時折、細胞結合細菌毒素をいうために使用されるが、正しくはグラム陰性細菌(例えば、E. coli、Salmonella、Shigella、Pseudomonas、Neisseria、Haemophilus、および他の主要な病原体)の外膜に結合するリポポリサッカリド複合体を指すことに限定される。
【0042】
内毒素の生物学的活性はリポポリサッカリド(LPS)と関連する。毒性は脂質成分(リピドA)と関連し、免疫原性はポリサッカリド成分と関連する。グラム陰性細菌の細胞壁抗原(O抗原)はLPSの成分である。LPSは動物における種々の炎症性応答を誘発する。これは代替的な(プロパージン)経路によって補体を活性化するので、グラム陰性細菌感染の病理発生の一因であることが多い。
【0043】
インビボでは、グラム陰性細菌は、増殖する間におそらくわずかな量の内毒素を放出する。少量の内毒素は、特に若い培養物によって、可溶型で放出され得ることが知られている。しかし大部分において、内毒素は細菌が崩壊するまで細胞壁に結合したままである。インビボにおいて、これは、細菌の自己分解、補体およびリゾチームによって媒介される外部溶解、ならびに細菌細胞の食作用性消化から生じる。
【0044】
細菌の古典的な外毒素と比較して、内毒素は酵素的に作用しないため、作用が弱く特異的でない。内毒素は熱安定性であるが(30分間の煮沸では内毒素は不安定化しない)、特定の強力な酸化剤(例えばスーパーオキシド、パーオキシド、および次亜塩素酸塩)はこれらを分解する。内毒素は、抗原性であるが、類毒素に転換できない。
【0045】
2. 非メチル化DNA
細菌DNAは哺乳動物の免疫応答を刺激することが報告されている(例えば、Krieg et al., 1995)。強力な免疫刺激効果を有する細菌DNAと、そのような効果を有しない脊椎動物DNAとの間の主要な違いの1つは、細菌DNAが脊椎動物DNAよりも高い頻度でメチル化されていないCpGジヌクレオチドを含むことである。メチル化されていないCpGモチーフ(CpG ODN)を含む選択された合成オリゴデオキシヌクレオチド(ODN)は、免疫学的効果を有することが示されており、かつ、B細胞、NK細胞、および抗原提示細胞(APC)(例えば単球およびマクロファージ)の活性化を誘導し得る(Krieg A.M., et al., 1995)。これはまた、活性な免疫応答の発生に関与することが知られているサイトカイン(腫瘍壊死因子α、IL-12、およびIL-6を含む)の産生を増強する(例えば、Klinman D.M., et al., 1996)。
【0046】
CpG DNAは、ほとんどすべての(>95%)B細胞の増殖を誘導し、免疫グロブリン(Ig)分泌を増加させる。CpG DNAによるこのB細胞活性化は、T細胞非依存性でありかつ抗原非特異的である。しかし、低濃度のCpG DNAによるB細胞活性化は、B細胞増殖およびIg分泌の両方についてB細胞抗原レセプターを通して送達されるシグナルと強力な相乗効果を有する(Krieg et al., 1995)。B細胞抗原レセプターを通して引き起こされるB細胞シグナリング経路と、CpG DNAによって引き起こされるB細胞シグナリング経路との間のこの強力な相乗効果は、抗原特異的な免疫応答を促進する。B細胞に対するその直接的な効果に加えて、CpG DNAはまた、単球、マクロファージ、および樹状細胞を直接的に活性化して、高レベルのIL-12を含む種々のサイトカインを分泌させる(Klinman et al., 1996; Halpern et al., 1996; Cowdery et al., 1996)。これらのサイトカインは、ナチュラルキラー(NK)細胞を刺激してγ-インターフェロン(IFN-γ)を分泌させ、溶解活性を増加させる(Klinman et al., 1996; Cowdery et al., 1996; Yamamoto et al., 1992; Ballas et al., 1996)。全体として、CpG DNAは、IL-12およびIFN-γによって占められるサイトカイン産生のTh1様パターンを誘導し、Th2サイトカインの分泌はほとんどない(Klinman et al., 1996)。
【0047】
細胞へのDNAの結合は、リガンドレセプター相互作用と類似することが示されている:結合は飽和性であり、競合的であり、DNAのエンドサイトーシスおよびオリゴヌクレオチドへの分解をもたらす(Benne, R.M., et al., 1995)。DNAと同様に、オリゴデオキシリボヌクレオチドは、配列、温度、およびエネルギーに依存しないプロセスで細胞に入ることができる(JaroszewskiおよびCohen, 1991)。リンパ球のオリゴデオキシリボヌクレオチドの取り込みは、細胞活性化によって調節されることが示されている(Krieg et al., 1991)
【0048】
メチル化されていないCpGオリゴヌクレオチドによって誘導されるサイトカインは、主に「Th1」と呼ばれるクラスのものであり、これは、細胞免疫応答によって最も際だっており、かつIL-12およびIFN-γならびにIgG2a抗体の産生と関連している。他の主要な型の免疫応答はTh2免疫応答と呼ばれ、これは、より多くのIgG1抗体免疫応答、ならびにIL4、IL-5、およびIL-10の産生と関連している。一般的に、アレルギー性疾患はTh2型免疫応答によって媒介され、自己免疫疾患はTh1免疫応答によって媒介されるようである。CpGオリゴヌクレオチドおよび免疫増強サイトカインの組み合わせの、被験体における免疫応答をTh2(これはIgE抗体の産生およびアレルギーに関連し、GM-CSF単独に応答して産生される)からTh1応答(これはアレルギー反応に対して防御的である)に切り換える能力に基づいて、有効な用量のCpGオリゴヌクレオチドおよび免疫増強サイトカインがアレルギーを処置または予防するために被験体に投与され得る。
【0049】
脊椎動物DNAではなく、細菌DNAは、インビトロで末梢血単球細胞(PBMC)に直接的な免疫刺激効果を有する(Messina et al., 1991; Tokanuga et al., 1994)。これらの効果には、ほとんどすべて(>95%)のB細胞の増殖および免疫グロブリン(Ig)分泌の増加が含まれる(Krieg et al., 1995)。B細胞に対するその直接的な効果に加えて、CpG DNAはまた、単球、マクロファージ、および樹状細胞を直接的に活性化して、高レベルのIL-12を含むTh1サイトカインを主に分泌させる(Klinman et al., 1996; Halpern et al., 1996; Cowdery et al., 1996)。これらのサイトカインは、ナチュラルキラー(NK)細胞を刺激してγ-インターフェロン(IFN-γ)を分泌させ、溶解活性を増加させる(Klinman et al., 1996; Cowdery et al., 1996; Yamamoto et al., 1992; Ballas et al., 1996)。これらの刺激効果は、特定の配列に関する場合(CpG-Sモチーフ)、メチル化されていないCpGジヌクレオチドの存在に起因することが見い出されている(Krieg et al., 1995)。活性化はまた、CpG-Sモチーフを含む合成オリゴデオキシヌクレオチド(ODN)の付加によって誘発され得る(Tokunaga et al., 1988; Yi et al., 1996; Davis et al., 1998)。
【0050】
E. 免疫応答
本発明の対象の主要な役割は、有効な予防的免疫応答、特に血液脳関門を通過することができるものの誘導である。特許請求される組成物の重要な要素は、免疫細胞の増殖および/または補充を優先的に活性化および誘導する、その組成物の能力である。サイトカインを含む昆虫細胞または昆虫細胞抽出物組成物のアジュバント特性は、このような免疫学的応答のみを容易にする。さらに、本発明の組成物が、抗原性成分をさらに含み得ることが想定される。昆虫細胞または昆虫細胞抽出物組成物および免疫調節剤の組み合わせ (任意に、抗原性薬剤をさらに含む) は、所望の免疫学的応答の確立を容易にし、免疫学的記憶の作製を可能にする。
【0051】
1. 抗原
1つの局面において、本発明は、抗原性または免疫原性エピトープを含む分子または化合物を提供する。免疫原性エピトープを含む化合物または分子は、免疫応答を誘導することができる薬剤である。「免疫学的エピトープ」は、薬剤全体が免疫原である場合に免疫応答を誘発する薬剤の一部として定義される。これらの免疫学的エピトープは、一般的には、分子上のいくつかの座位に制限される。本発明の目的に関しては、用語「免疫原」または「免疫原性エピトープ」は、単に体液性または単に細胞応答の誘導に制限されない。むしろ、この用語は、細胞性および体液性免疫応答のいずれかまたは両方を誘導する、化合物、分子、または薬剤の能力を示すために使用される。
【0052】
免疫原性エピトープを有する分子、化合物、または薬剤の選択に関して、特定のコンホメーションが優先的に特定の型の免疫応答の誘導をもたらすことが当該分野において周知である。例えば、タンパク質の一次配列に頻繁に提示されるようなタンパク質反応性血清を誘発することができるペプチドは、一連の単純な化学的規則によって特徴付けることができ、インタクトなタンパク質の免疫優性領域(すなわち、免疫原性エピトープ)にも、またはアミノ末端もしくはカルボキシル末端にも制限されない。例えば、これらのガイドラインに従って設計された20ペプチドのうちの18ペプチドは、インフルエンザウイルスヘマグルチニンHA1ポリペプチド鎖の75%を網羅する8-39残基を含み、HA1タンパク質またはインタクトなウイルスと反応する抗体を誘導し;ならびにMuLVポリメラーゼからの12ペプチドのうちの12ペプチド、および狂犬病糖タンパク質からの18ペプチドのうちの18ペプチドが、それぞれのタンパク質を沈殿させる抗体を誘導した。
【0053】
米国特許第4,554,101号(Hopp)(参照として本明細書に組み入れられる)は、親水性に基づく一次アミノ酸配列からのエピトープの同定および/または調製を教示する。Hoppにおいて開示される方法を通して、当業者は、アミノ酸配列の中からエピトープを同定することができる。
【0054】
多数の科学的文献がまた、アミノ酸配列の分析からエピトープの二次構造の予測および/またはエピトープの同定に向けられてきた(Chou and Fasman, 1974a,b; 1978a,b; 1979)。望ましい場合、これらのいずれかが米国特許第4,554,101号におけるHoppの教示を補足するために使用され得る。
【0055】
さらに、コンピュータプログラムが、免疫原性部分および/またはタンパク質のエピトープ性コア領域を予測することを補助するために現在利用可能である。例としては、Jameson-Wolf分析(Jameson and Wolf, 1988; Wolf et al., 1988)に基づくプログラム、プログラムPepPlot(登録商標)(Brutlag et al., 1990; Weinberger et al., 1985)、および/またはタンパク質三次構造予測のための他の新しいプログラム(Fetrow and Bryant, 1993)が挙げられる。このような分析を実行することができる別の市販のソフトウェアプログラムはMacVector(IBI, New Haven, CT)である。
【0056】
本発明の昆虫細胞のタンパク質発現能力のために、昆虫細胞が発現ベクターという脈絡において発現されるタンパク質をも含む組成物を提供することが望ましいことが多い。このような態様において、上記のガイドラインに従って設計された本発明の免疫原性エピトープ保有ペプチドおよびポリペプチドは、好ましくは、少なくとも7、より好ましくは少なくとも9、および最も好ましくは約15アミノ酸と約30アミノ酸との間の配列を含む。しかし、約30アミノ酸から約50アミノ酸を含むか、または機能的タンパク質の完全アミノ酸配列までの任意の長さ、およびその完全アミノ酸配列を含む、本発明のポリペプチドのアミノ酸配列のより長い部分を含むペプチドまたはポリペプチドもまた、本発明のエピトープ保有ペプチドまたはポリペプチドとみなされ、かつ所望の免疫応答を誘導するために有用である。好ましくは、エピトープ保有ペプチドのアミノ酸配列は、水性溶媒中で実質的な溶解性を提供するように選択される(すなわち、その配列は比較的親水性の残基を含み、高度に疎水的な配列は好ましくは回避される);プロリン残基を含む配列が特に好ましい。
【0057】
本発明の好ましい態様において、タンパク質は昆虫細胞組成物中の形質転換された細胞によって発現されるのに対して、ネイティブなタンパク質、または他の手段によって産生されたペプチドもしくはタンパク質が昆虫細胞組成物と合わせられ得ることもまた意図される。従って、本発明のエピトープ保有ペプチドおよびポリペプチドは、組換え体を含むペプチドまたはポリペプチドを作製するための任意の従来的な手段によって作製され得る。例えば、短いエピトープ保有アミノ酸は、組換え体産生および精製の間のキャリアとして働くより大きなポリペプチドに融合され得る。エピトープ保有ペプチドはまた、公知の化学合成の方法を使用して合成され得る。例えば、Houghten et al.(1985)は、多数のペプチド、例えば、4週間未満で調製および特徴付けされる(ELISA型結合研究によって)、HA1ポリペプチドのセグメントの単一のアミノ酸改変体を表す10〜20mgの248の異なる13残基ペプチドの合成のための単純な方法を記載している。この「同時多数ペプチド合成(Simultaneous Multiple Peptide Synthesis)(SMPS)」プロセスは、Houghten et al.(1986)への米国特許第4,631,211号にさらに記載されている。この手順においては、種々のペプチドの固相合成のための個々のレジンが別々の溶媒浸透性パケット中に含まれ、固相方法に含まれる多くの同一の反復する段階の最適な使用を可能にする。完全に手動の手順は、500〜1000またはそれ以上の合成を同時に実行することを可能にする(Houghten et al., 1986)。
【0058】
免疫原性エピトープ保有ペプチドは当該分野において公知の方法に従って同定される。Geysen et al.(1984)は、酵素結合免疫吸着アッセイにおいて反応するように十分な純度の数百のペプチドの固体支持体上での迅速な同時合成のための手順を開示する。次いで、抗体との合成されたペプチドの相互作用が、それらを支持体から取り出すことなく検出される。この様式において、所望のタンパク質の免疫原性エピトープを有するペプチドは、当業者によって日常的に同定され得る。例えば、口蹄疫ウイルスのコートタンパク質における免疫学的に重要なエピトープは、Geysen et al.(1984)によって、そのタンパク質の全体の213アミノ酸配列を網羅するすべての208の可能なヘキサペプチドの重複セットの合成によって、7アミノ酸の分解能で位置決めされた。次いで、20すべてのアミノ酸がエピトープ中のすべての位置で順番に置換された、ペプチドの完全な置換セットを合成し、抗体との反応のための特異性を付与する特定のアミノ酸が決定された。従って、本発明のエピトープ保有ペプチドのペプチドアナログがこの方法によって日常的に作製され得る。米国特許第4,708,781号およびGeysen(1987)はさらに、所望のタンパク質の免疫原性エピトープを有するペプチドを同定するこの方法を記載する。
【0059】
本発明の免疫原または抗原性薬剤は、宿主に対して、損傷、傷害、被害、罹患、または死亡のある型を引き起こす薬剤または病原体であるか、またはそれに由来することが意図される。結果として、免疫原は外因性の薬剤である必要はないが、形質転換細胞または新生物細胞のいずれかであり得る。さらに、免疫原または抗原性薬剤は生きている病原体である必要はない。それゆえに、免疫原または薬剤は明らかに、細菌、リケッチア、真菌、藻類、原生動物、後生動物、蠕虫、他の病原性生物またはその誘導体を構成する一方、この用語は、任意の毒素、毒、ウイルス、ビリオン、ビリオイド、プリオン、または宿主もしくはそれに対して免疫応答を指向させることが所望されるものに損害を与えることができる化合物を含むことを想定する。
【0060】
本発明は、当業者が任意の数の癌に適用可能であると認識するアジュバント処方物を提供する。このアジュバント組成物は、腫瘍抗原が昆虫細胞もしくは昆虫細胞組成物のいずれかと混合されるか、または腫瘍抗原が、投与される昆虫細胞によって発現される処方物中で供給され得る。本発明の状況における使用のために特に意図される腫瘍抗原の例には、MAGE-1、MAGE-3、Melan-A、P198、P1A、gp100、TAG-72、p185HER2、ミルクムチンコアタンパク質、癌胎児性抗原(CEA)、P91A、p53、p21ras、P210、BTA、およびチロシナーゼが含まれる。表1は、本発明の状況において利用され得る腫瘍抗原のより広範な例示的なリストを示す。
【0061】
(表1)固形腫瘍のマーカー抗原





【0062】
2. 免疫調節剤
本発明の別の局面において、昆虫細胞組成物が治療的に有効な免疫調節剤の組成物をさらに含み得ることが意図される。免疫調節剤は、サイトカイン、造血素、コロニー刺激因子、インターロイキン、インターフェロン、増殖因子、またはそれらの組み合わせを構成することが想定される。本明細書中の特定の態様で使用される場合、用語「サイトカイン」は米国特許第5,851,984号(その全体が参照として本明細書に組み入れられ、関連する部分において読まれる)において記載されるものと同じである。
【0063】
用語サイトカインは、細胞内メディエーターとして別の細胞に対して働く1つの細胞集団によって放出されるタンパク質に対する一般的な用語である。これらのタンパク質はまた、自己分泌様式で細胞を産生する際に作用し得る。このようなサイトカインの例は、リンホカイン、モノカイン、増殖因子、および伝統的なポリペプチドホルモンである。以下がサイトカインの中に含まれる:成長ホルモン(例えばヒト成長ホルモン、N-メチオニルヒト成長ホルモン、およびウシ成長ホルモンなど);副甲状腺ホルモン;チロキシン;インスリン;プロインスリン;リラキシン;プロリラキシン;糖タンパク質ホルモン(例えば濾胞刺激ホルモン(FSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、および黄体形成ホルモン(LH));肝増殖因子;プロスタグランジン、線維芽細胞増殖因子;プロラクチン;胎盤性ラクトゲン、OBタンパク質;腫瘍壊死因子αおよびβ;ミューラー阻害物質;マウスゴナドトロピン結合ペプチド;インヒビン;アクチビン;血管内皮増殖因子;インテグリン;トロンボポエチン(TPO);神経増殖因子(例えばNGF-β);血小板増殖因子;トランスフォーミング成長因子(TGF)(例えばTGFαおよびTGFβ);インスリン様成長因子-Iおよび-II;エリスロポエチン(EPO);骨誘導性因子;インターフェロン(例えばインターフェロン-α、-β、および-γ);コロニー刺激因子(CSF)、例えばマクロファージ-CSF(M-CSF);顆粒球-マクロファージ-CSF(GM-CSF);および顆粒球-CSF(G-CSF)、インターロイキン(IL)(例えばIL-1、IL-1α、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、LIF、G-CSF、GM-CSF、M-CSF、EPO、kit-リガンドまたはFLT-3)。本明細書中で使用される場合、用語サイトカインには、天然の供給源からのタンパク質、または組換え細胞培養からのタンパク質、およびネイティブな配列のサイトカインの生物学的に活性な等価物が含まれる。
【0064】
a. β-インターフェロン
β-インターフェロン(IFN-β)は、上皮細胞、線維芽細胞、およびマクロファージを含む多くの細胞型によって産生される低分子量タンパク質である。内因性IFN-βを発現する細胞はウイルス感染および複製に対して抵抗性である。マウス(GenBankアクセッション番号X14455、X14029)およびヒト(GenBankアクセッション番号J00218、K00616およびM11029)からのβ-インターフェロン遺伝子が単離および配列決定されている。IFN-βは、細胞複製を抑制することおよび分化またはアポトーシスを誘導することによって直接的に、ならびに、マクロファージおよびNK細胞の殺腫瘍性特性を活性化することによって、腫瘍血管形成を抑制することによって、および特異的免疫応答を刺激することによって間接的の両方で、腫瘍増殖を阻害することができる多機能糖タンパク質である。
【0065】
b. インターロイキン-2
インターロイキン-2(IL-2)は、もともとT細胞増殖因子Iと呼ばれ、T細胞増殖の高度に熟達したインデューサーであり、T-リンパ球のすべてのサブ集団についての増殖因子である。IL-2は、休止細胞における細胞周期進行を誘導する抗原非依存性増殖因子であり、従って、活性化Tリンパ球のクローン性拡大を可能にする。新たに単離した白血病細胞もまたIL-2を分泌しかつそれに応答するので、IL-2は、ATLを悪化させることができるこれらの細胞についての自己分泌増殖調節因子として機能し得る。IL-2はまた、活性化B細胞の増殖を促進するが、これは、さらなる因子、例えばIL4を必要とする。インビトロでIL-2はまた、稀突起神経膠細胞の増殖を刺激する。T細胞およびB細胞に対するその効果により、IL-2は免疫応答の中心的な調節因子である。これはまた、抗炎症性反応、造血、および腫瘍監視において役割を果たす。IL-2は、末梢リンパ球におけるIFN-γの合成を刺激し、また、IL-1、TNF-α、およびTNF-βの分泌を誘導する。殺腫瘍性サイトカインの分泌の誘導は、LAK細胞の拡大における活性は別として(リンホカイン活性化キラー細胞)、おそらくIL-2の抗腫瘍活性の原因である主要な因子である。
【0066】
c. GM-CSF
GM-CSFは、好中球、好酸球、および単球の系統の増殖および分化を刺激する。これはまた、対応する成熟型を機能的に活性化し、例えば、特定の細胞表面接着因子タンパク質(CD-11A、CD-11C)の発現を増強する。これらのタンパク質の過剰発現は、炎症の部位において観察される顆粒球の局所的蓄積の1つの説明であり得る。さらに、GM-CSFはまた、好中球活性の刺激因子であるfMLP(ホルミル-Met-Leu-Phe)についてのレセプターの発現を増強する。
【0067】
F. 薬学的に許容されるキャリア
本発明の水性組成物は、薬学的に許容されるキャリアまたは水性媒体中に溶解したかまたは分散させた、有効量の昆虫細胞または昆虫細胞抽出物および免疫調節タンパク質を含む。語句「薬学的におよび薬理学的に許容される」は、動物またはヒトに適切に投与したときに、副作用、アレルギー反応、または他の有害な反応を生じない、分子的実体または組成物をいう。
【0068】
本明細書中で使用される場合、「薬学的に許容されるキャリア」には、任意のおよびすべての、溶媒、分散媒体、被覆剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤、および吸収遅延剤などが含まれる。薬学的に活性な物質のためのこのような媒体および薬剤の使用は当該分野において周知である。任意の従来的な媒体および薬剤が活性成分と不適合性である場合を除いて、治療組成物中でのその使用が意図される。補足的な活性成分もまた、その組成物に取り込まれ得る。ヒト投与のために、調製物は、FDA生物製剤局標準に必要とされる無菌性、発熱性、一般的な安全性、および純度の標準に合致するべきである。
【0069】
活性化合物は、原発腫瘍部位への投与のために一般的には処方され得、例えば、注射のために処方され得る。活性な要素または成分として、有効量の昆虫細胞または昆虫細胞抽出物を含む水性組成物の調製は、本開示に鑑みて当業者には公知である。代表的には、このような組成物は、液体溶液または懸濁液として調製され得;注射の前に液体を付加して溶液または懸濁液を調製するために使用するために適切な固体形態もまた、調製され得;調製物はまた、乳化され得る。
【0070】
注射用途に適する薬学的形態には、滅菌水溶液もしくは分散液;ゴマ油、ピーナッツ油、もしくは水溶性プロピレングリコールを含む処方物;または滅菌注射可能溶液もしくは分散液の即席調製のための滅菌粉末が含まれる。すべての場合において、形態は滅菌でなければならず、容易なシリンジ動作が存在する程度に流動性でなければならない。これは製造および保存の条件下で安定でなければならず、および微生物(例えば細菌および真菌)の汚染作用に対して保護されなければならない。
【0071】
遊離の塩または薬学的に許容される塩としての活性化合物の溶液は、界面活性剤(例えばヒドロキシプロピルセルロース)と適切に混合された水中で調製され得る。分散剤はまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、またはその混合物中で、および油中で調製され得る。保存および使用の通常の条件下では、これらの調製物は微生物の増殖を妨害するための保存剤を含む。
【0072】
本発明の昆虫細胞または昆虫細胞抽出物は、中性および/または塩の形態で組成物に処方され得る。薬学的に許容される塩には、無機酸(例えば、塩酸またはリン酸)および有機酸(例えば酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸)などとともに形成される酸付加塩(タンパク質の遊離のアミノ基と形成される)が含まれる。遊離のカルボキシル基とともに形成される塩はまた、無機塩基(例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第2鉄)または有機塩基(例えばイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカイン)などに由来し得る。活性成分としてペプチドを使用することに関して、米国特許第4,608,251号;第4,601,903号;第4,599,231号;第4,599,230号;第4,596,792号;および第4,578,770号(各々参照として本明細書に組み入れられる)の技術が使用され得る。
【0073】
キャリアはまた、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、それらの適切な混合物、または植物油を含む溶媒または分散媒体であり得る。適切な流動性が、例えば、被覆剤(例えばレシチン)の使用によって、分散の場合には必要とされる粒子サイズの維持によって、または界面活性剤の使用によって維持され得る。微生物の作用の妨害は、種々の抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらされ得る。多くの場合において、等張剤、例えば、糖および塩化ナトリウムを含めることが好ましい。注射可能組成物の延長された吸収は、吸収遅延薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物中に使用することによってもたらされ得る。
【0074】
水性溶液中での非経口投与のために、例えば、溶液は、必要な場合、適切に緩衝化されるべきであり、液体希釈剤は、十分な生理食塩水またはグルコースで等張にされるべきである。これに関して、利用され得る滅菌水溶性媒体は、本開示に鑑みて当業者には公知である。例えば、1つの投薬量は、1mlの等張性NaCl溶液中で溶解され得、または1000mlの皮下注入液に加えられ得、そして提案された注入の部位に注射される(例えば、「Remington's Pharmaceutical Sciences」、第15版、1035-1038頁および/または1570-1580頁を参照されたい)。投薬量におけるある程度のバリエーションが、処置される被験体の状態に依存して必然的に存在する。投与責任者は、いずれの場合でも、個々の被験体のために適切な用量を決定する。
【0075】
昆虫細胞または昆虫細胞抽出物は、用量あたり約0.0001から1.0ミリグラム、約0.001から0.1ミリグラム、約0.1から1.0、またはさらに約10ミリグラム程度を含む治療混合物中で処方され得る。複数用量もまた投与され得る。
【0076】
本発明の特定の態様において、昆虫細胞または昆虫細胞抽出物組成物は脂質と結合され得る。脂質と結合された昆虫細胞または昆虫細胞抽出物組成物は、リポソームの水性の内部にカプセル化され得、リポソームの脂質二重層に分散され得、リポソームとオリゴヌクレオチドの両方と結合している連結分子を介してリポソームに結合され得、リポソーム中にトラップされ得、リポソームと複合体形成され得、脂質を含む溶液中に分散され得、脂質と混合され得、脂質と合わされ得、脂質中に懸濁物として含まれ得、ミセルを含むかもしくはミセルと複合体形成され得、またはさもなくば脂質と結合され得る。本発明の昆虫細胞または昆虫細胞抽出物組成物と結合された組成物は、溶液中における任意の特定の構造に制限されない。例えば、これらは脂質二重層中に、ミセルとして、または「崩壊した」構造を伴って存在し得る。これらはまた、溶液中に単に分散して存在し得、おそらく、サイズまたは形状のいずれにおいても均一ではない凝集物を形成する。
【0077】
脂質は、天然に存在する脂肪または合成の脂肪であり得る脂肪性物質である。例えば、脂質は、細胞質に天然に存在する脂肪滴、ならびに当業者に周知であり、長鎖脂肪族炭化水素およびそれらの誘導体(例えば脂肪酸、アルコール、アミン、アミノアルコール、およびアルデヒドなど)を含む化合物のクラスを含む。
【0078】
リン脂質は本発明に従うリポソームを調製するために使用され得、これは正味の正電荷、負電荷、または中性の電荷を有し得る。ジアセチルホスフェートがリポソーム上に負電荷を付与するために利用され得、ステアリルアミンがリポソーム上に正電荷を付与するために使用され得る。リポソームは、1種またはそれ以上のリン脂質から構成され得る。
【0079】
中性に荷電した脂質は、電荷を有しないか、実質的に荷電しない脂質を有するか、または等しい数の正電荷および負電荷を有する脂質の混合物を含み得る。適切なリン脂質には、ホスファチジルコリンおよび当業者に周知である他の脂質が含まれる。
【0080】
本発明に従う使用のために適切な脂質は市販の供給源から得ることができる。例えば、ジミリスチルホスファチジルコリン(「DMPC」)は、Sigma Chemical Co.から入手でき、ジセチルホスフェート(「DCP」)はK&K Laboratories(Plainview, NY)から入手され;コレステロール(「Chol」)はCalbiochem-Behringから入手され;ジミリスチルホスファチジルグリセロール(「DMPG」)および他の脂質はAvanti Polar Lipids, Inc.(Birmingham, Ala.)から入手され得る。クロロホルムまたはクロロホルム/メタノール中の脂質のストック溶液は約-20℃で保存され得る。好ましくは、メタノールよりも容易に蒸発させられることから、クロロホルムが唯一の溶媒として使用される。
【0081】
天然の供給源からのリン脂質(例えば卵またはダイズのホスファチジルコリン、脳のホスファチジン酸、脳または植物のホスファチジルイノシトール、心臓のカルジオリピン、および植物または細菌のホスファチジルエタノールアミン)は、得られるリポソームの不安定性および漏出性のために、好ましくは、主要なホスファチド(すなわち、全体のホスファチド組成物の50%以上を構成する)として使用されない。
【0082】
「リポソーム」は、閉じた脂質二重層または凝集体の生成によって形成される種々の単一のおよび多重膜の脂質ビヒクルを含む一般的な用語である。リポソームは、リン脂質二重膜および内部の水性媒体を有するベシクル構造を有すると特徴付けられ得る。多重膜リポソームは水性媒体によって分けられた多数の二重膜を有する。これらは、リン脂質が過剰の水溶液中に懸濁されるときに自発的に形成される。脂質成分は、閉じた構造の形成前に自己再配列を受け、水および脂質二重層間に溶解した溶質を取り込む(Ghosh and Bachhawat, 1991)。しかし、本発明はまた、通常のベシクル構造以外の溶液中での異なる構造を有する組成物を含む。例えば、脂質は、ミセル構造であると想定され得るか、または単に脂質分子の不均一な凝集物として存在する。リポフェクタミン-核酸複合体もまた意図される。
【0083】
リン脂質が、水中に分散されるときに、脂質対水のモル比に依存して、リポソーム以外の種々の構造を形成し得る。低い比率では、リポソームが好ましい形態である。リポソームの物理的特性は、pH、イオン強度、および二価カチオンの存在に依存する。リポソームはイオン性物質および極性物質に対して低い透過性を示し得るが、高い温度においては、相転移を受け、これがリポソームの透過性を顕著に変化させる。この相転移は、ゲル状態として知られる、密に充填された秩序立った構造から、液体状態として知られる、ゆるく充填されたより低い秩序の構造までの変化を含む。このことは、特徴的な相転移温度で起こり、イオン、糖、および薬物に対する透過性の増加を生じる。
【0084】
リポソームは、4つの異なる機構を介して細胞と相互作用する:細網内皮系の食作用性細胞(例えばマクロファージおよび好中球)によるエンドサイトーシス;非特異的な弱い疎水性力もしくは静電気力によるか、または細胞表面成分との特異的相互作用によるかのいずれかの細胞表面への吸着;細胞質へのリポソーム内容物の同時放出を伴う、原形質膜へのリポソームの脂質二重膜の挿入による原形質細胞膜との融合;あるいは、リポソーム内容物とのいかなる結合もなしで、細胞または細胞下の膜へのリポソーム脂質の移動、またはその逆。リポソーム形成を変化させることは、どの機構が作用するかを変化させ得るが、1つより多くの機構が同時に作用し得る。
【0085】
本発明の特定の態様において、脂質は、血球凝集性ウイルス(HVJ)と結合し得る。これは、細胞膜との融合を容易にし、かつリポソームカプセル化DNAの細胞エントリーを促進することが示されている(Kaneda et al., 1989)。他の態様において、脂質は、核非ヒストン性染色体タンパク質(HMG-1)(Kato et al., 1991)と組み合わせて複合体化または利用され得る。なおさらなる態様において、脂質はHVJおよびHMG-1の両方と組み合わせて複合体化または利用され得る。
【0086】
本発明に従って使用されるリポソームは、異なる方法によって作製され得る。リポソームのサイズは合成の方法に依存して変化する。水溶液中に懸濁されるリポソームは、一般的には、球形ベシクルの形状であり、脂質二重層分子の1つまたはそれ以上の同心性の層を有する。各層は式XYで表される分子の平行アレイからなり、ここでXは親水性部分であり、Yは疎水性部分である。水性懸濁液中で、同心性層は、親水性部分が水相と接触したままである傾向があり、かつ疎水性領域は自己結合する傾向があるように配列される。例えば、水相がリポソーム中およびリポソームの外側の両方に存在する場合、脂質分子は、配置XY-YXの、ラメラとして知られる二重層を形成し得る。脂質の凝集物は、1つより多くの脂質分子が親水性部分および疎水性部分が互いに結合する場合に形成され得る。これらの凝集物のサイズおよび形状は、多くの変数、例えば、溶媒の性質および溶液中の他の化合物の存在などに依存する。
【0087】
本発明の範囲内のリポソームは、公知の実験室的技術に従って調製され得る。1つの態様において、リポソームは、リポソーム脂質を、容器(例えばガラス、ナシ型フラスコ)中の溶媒中で混合することによって調製される。容器は、予測されるリポソームの懸濁物の体積よりも10倍大きな容積を有するべきである。回転エバポレーターを使用して、減圧下で溶媒を約40℃で除去する。溶媒はリポソームの所望の体積に依存して、通常約5分間から約2時間以内に除去される。組成物は、さらに減圧下デシケーター中で乾燥させることができる。乾燥した脂質は、時間とともに変質する傾向があるため、一般的に約1週間後に廃棄する。
【0088】
乾燥した脂質は、滅菌した発熱物質を含まない水中に約25〜50mMリン脂質で、すべての脂質フィルムが再懸濁されるまで振盪することによって水和され得る。次いで、水性リポソームはアリコートに分けられ、各々はバイアル中に配置され、凍結乾燥され、減圧下でシールすることができる。
【0089】
代替としては、リポソームは、以下の他の公知の実験室的手順に従って調製され得る:Bangham et al., (1965)の方法、この内容は参照として本明細書に組み入れられる;DRUG CARRIERS IN BIOLOGY AND MEDICINE, G. Gregoriadis 編(1979)287-341頁に記載されるGregoriadisの方法、この内容は参照として本明細書に組み入れられる;DeamerおよびUster(1983)の方法、この内容は参照として本明細書に組み入れられる;およびSzoka and Papahadjopoulos (1978)によって記載される逆相エバポレーション方法。上述の方法はそれらのそれぞれの水性物質をトラップする能力およびそれらのそれぞれの水性空間対脂質比が異なる。
【0090】
上記のように調製した乾燥した脂質または凍結乾燥したリポソームは、阻害ペプチドの溶液中で脱水および再構成し、適切な溶媒(例えばDPBS)を用いて適切な濃度に希釈しうる。次いで、この混合物をボルテックスミキサー中で強く振盪させる。カプセル化されていない核酸は29,000×gでの遠心分離によって除去し、リポソームペレットを洗浄する。洗浄したリポソームを適切な総リン脂質濃度、例えば約50〜200mMに再懸濁する。カプセル化された核酸の量は標準的な方法に従って決定され得る。リポソーム調製物中にカプセル化された核酸の量の決定後、リポソームは、適切な濃度まで希釈され得、そして使用するまで4℃で保存され得る。
【0091】
リポソームを含む薬学的組成物は通常、滅菌した薬学的に許容されるキャリアまたは希釈剤(例えば水または生理食塩水)を含む。
【0092】
G. 治療
1. 非脳腫瘍の処置
本発明に従って、特許請求される方法の1つの局面は、腫瘍部位への本発明の昆虫細胞-免疫調節剤の投与を含む。この投与の方法は、腫瘍の型ならびに他の器官および組織に関するその位置に依存して変化し得る。当業者は、適切な接触を達成するための種々の技術を知っている。
【0093】
例として、以下の方法が利用され得る。第1に、組成物を送達するために腫瘍の血管系を利用し得る。組成物の動脈内または静脈内投与は、腫瘍の種々の部分を標的化し得、これには、接近できる部位から遠隔であり得るものが含まれる。第2に、腫瘍の直接的注射を利用し得る。腫瘍の端の周囲(周辺)の複数注射もまた使用され得る。腫瘍本体への複数回深部注射もまた使用され得る。第3に、腫瘍の種々の部分を露出するため、および組成物が導入され得る「ポケット」を作製するために、部分的な切除を利用し得る。特定の態様において、腫瘍または腫瘍ベッドの連続的な灌流/注入を使用する。これは、免疫細胞に対する露出の増加のさらなる利点を有し得る。時間をかける複数回注射は同じ効果を達成し得る。第4に、化学療法剤または他のエキソビボ操作を用いて処置した、照射されたかまたは照射されていない、切除した腫瘍組織と組成物を混合し得る。次いで、皮下組織または他の組織に、腫瘍ワクチンとして混合物を注射し得る。
【0094】
2. 組み合わせ治療
癌治療の効力を増加させるために、過剰増殖性疾患の処置において、1つより多くの治療的アプローチを組み合わせることが所望される場合がある。より一般的には、これらの他の組成物は、細胞を殺傷するために、または細胞の増殖を阻害するために有効な組み合わせ量で提供される。このプロセスは、被験体を同時に両方の治療に供することを含み得る。代替として、1つの治療が、数分間から数週間の範囲の間隔で、他の治療に先行するかまたは他の治療の後で行われる。一般的に、両方の治療がなお細胞に対して有利に組み合わされた効果を発揮することがきるように、有意な時間が各治療間に過ぎないようにする。このような例において、両方の様式が互いに約12〜24時間以内で、より好ましくは、互いに約6〜12時間以内で細胞を接触させることが意図される。ある状況において、処置のための時間の期間を顕著に延長することが所望され得、ここで、数日(2、3、4、5、6、または7日間)から数週間(1、2、3、4、5、6、7または8週間)がそれぞれの投与の間に経過する。種々の組み合わせが利用され得、ここで昆虫細胞治療-免疫調節剤は「A」であり、第2の薬剤(例えば放射線治療、化学療法、遺伝子治療、または外科治療)が「B」である。

【0095】
a. 化学療法
癌治療は、化学および放射線に基づく治療の両方との種々の組み合わせ治療を含む。組み合わせ化学療法には、例えば以下が含まれる:シスプラチン(CDDP)、カルボプラチン、プロカルバジン、メクロレタミン、シクロホスファミド、カンプトテシン、イホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、ブスルファン、ニトロソウレア、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリコマイシン、マイトマイシン、エトポシド(VP16)、タモキシフェン、ラロキシフェン、エストロゲンレセプター結合剤、タキソール、ゲムシタビン、ナベルビン、ファルネシル-タンパク質トランスフェラーゼインヒビター、トランスプラチン、5-フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、およびメトトレキサート、または上記の任意のアナログもしくは誘導体改変体。
【0096】
b. 放射線治療
DNA損傷を引き起こし、かつ広範に使用されてきた他の因子には、γ線、X線、および/または腫瘍細胞に指向された放射性同位元素の送達として一般的に知られているものが含まれる。例えばマイクロ波およびUV照射などの他の形態のDNA損傷因子もまた意図される。これらの因子のすべてが、DNA、DNAの前駆体、DNAの複製および修復、ならびに染色体の集合および維持に対して広範な損害をもたらす可能性が非常に高い。X線の線量範囲は、長期間(3〜4週間)の1日線量50〜200レントゲンから、2000〜6000レントゲンの単回線量までの範囲である。放射性同位元素の投与線量範囲は広範に変化し、同位元素の半減期、放射される放射線の強度および型、ならびに新生物細胞による取り込みに依存する。
【0097】
用語「接触した」および「露出した」は、細胞に適用される場合、治療構築物および化学療法剤もしくは放射線治療剤が、それによって標的細胞に送達されるか、または標的細胞と直に並列して配置されているプロセスを記載するために本明細書中で使用される。細胞の殺傷または静止を達成するために、両方の薬剤が、細胞を殺傷するか、または細胞が分裂することを妨害するために有効な組み合わせ量で細胞に送達される。
【0098】
C. 遺伝子
なお別の態様において、第2の処置は第2の遺伝子治療であり、ここで第2の治療ポリヌクレオチドは、MDA-7ポリペプチドのすべてまたは一部をコードする第1の治療ポリヌクレオチドの前に、その後に、またはそれと同時に投与される。全長または短縮型のいずれかのMDA-7をコードするベクターの送達は、以下の遺伝子産物の1つをコードする第2のベクターと組み合わせて、標的組織に組み合わせ抗過剰増殖効果を有する。あるいは、両方の遺伝子をコードする単一のベクターが使用され得る。種々のタンパク質が本発明に含まれ、それらのいくつかが以下に記載される。
【0099】
i. 細胞増殖の誘導因子
細胞増殖を誘導するタンパク質はさらに、機能に依存して種々のカテゴリーに分類される。これらのタンパク質のすべての共通点は、細胞増殖を調節するそれらの能力である。例えば、PDGFの1つの型であるsis癌遺伝子は、分泌性増殖因子である。癌遺伝子が増殖因子をコードする遺伝子から生じることは稀であり、現在では、sisは唯一の知られている天然に存在する癌遺伝子増殖因子である、本発明の1つの態様において、細胞増殖の特定の誘導因子に指向されたアンチセンスmRNAが細胞増殖の誘導因子の発現を妨害するために使用されることが意図される。
【0100】
タンパク質FMS、ErbA、ErbB、およびneuは増殖因子レセプターである。これらのレセプターへの変異は調節可能機能の損失を生じる。例えば、Neuレセプタータンパク質の膜貫通ドメインに影響を与える点変異はneu癌遺伝子を生じる。erbA癌遺伝子は甲状腺ホルモンについて細胞内レセプターに由来する。修飾された癌遺伝子ErbAレセプターは内因性甲状腺ホルモンレセプターと競合し、制御できない増殖を引き起こすと考えられている。
【0101】
癌遺伝子の最も大きいクラスはシグナル伝達タンパク質(例えばSrc、Abl、およびRas)を含む。タンパク質Srcは細胞質性タンパク質チロシンキナーゼであり、原癌遺伝子から癌遺伝子へのその転換は、いくつかの場合において、チロシン残基527での変異を介して生じる。対照的に、GTPaseタンパク質rasの原癌遺伝子から癌遺伝子への転換は、1つの例において、配列中のアミノ酸12でのバリンからグリシンへの変異から生じ、rasのGTPase活性を減少させる。
【0102】
タンパク質Jun、Fos、およびMycは転写因子として核機能にそれらの効果を直接的に発揮するタンパク質である。
【0103】
ii. 細胞増殖のインヒビター
腫瘍サプレッサー癌遺伝子は過度の細胞増殖を阻害するように機能する。これらの遺伝子の不活性化は、それらの阻害活性を破壊し、調節されない増殖を生じる。腫瘍サプレッサーp53、p16、およびC-CAMについて以下に述べる。
【0104】
高レベルの変異体p53が、化学発癌、紫外線照射、およびいくつかのウイルスによって形質転換された多くの細胞中で見い出されている。p53遺伝子は、広範な種々のヒト腫瘍における変異的不活性化の頻繁な標的であり、一般的なヒトの癌において最も頻繁に変異している遺伝子であるとすでに文献に記載されている。これは、ヒトNSCLCの50%を超えて(Hollstein et al., 1991)および広いスペクトルの他の癌において変異している。
【0105】
p53遺伝子は、ラージT抗原およびE1Bなどのような宿主タンパク質と複合体を形成し得る393アミノ酸のリンタンパク質をコードする。このタンパク質は、正常組織および細胞において見い出されるが、形質転換された細胞または腫瘍組織と比較するとわずかな濃度である。
【0106】
野生型p53は多くの細胞型において重要な増殖調節因子として認識されている。ミスセンス変異はp53遺伝子について一般的であり、癌遺伝子の形質転換能力のために必須である。点変異によって促進される単一の遺伝的変化は発癌性p53を生じ得る。しかし、他の癌遺伝子とは異なり、p53点変異は少なくとも30の異なったコドンにおいて生じることが知られており、しばしば、ホモ接合性への減少なしに、細胞表現型の変化を生じる優性対立遺伝子を作り出す。さらに、これらのドミナントネガティブ対立遺伝子は、生物において許容され、かつ生殖系列に伝わるようである。種々の変異体対立遺伝子が最小限の機能障害性から、強力に浸透性であるドミナントネガティブ対立遺伝子までの範囲であるらしい(Weinberg, 1991)。
【0107】
細胞増殖の別のインヒビターはp16である。真核生物細胞周期の主要な移行はサイクリン依存性キナーゼ、すなわちCDKによって引き起こされる。CDKの1種である、サイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)は、G1を通じて進行を調節する。この酵素の活性は、後期G1においてRbをリン酸化することであろう。CDK4の活性は、活性化サブユニット、D型サイクリン、および阻害サブユニットによって制御され、p16INK4は、CDK4に特異的に結合して阻害し、Rbリン酸化を調節し得るタンパク質として生化学的に特徴付けられている(Serrano et al., 1993; Serrano et al., 1995)。p16INK4タンパク質はCDK4インヒビターであり(Serrano, 1993)、この遺伝子が欠失するとCDK4の活性を増大してRbタンパク質の過度のリン酸化を生じうる。p16はまた、CDK6の機能を調節することが知られている。
【0108】
p16INK4は、新しく述べられたCDK阻害タンパク質のクラスに属し、このクラスはまた、p16B、p19、p21WAF1、およびp27KIP1を含む。p16INK4遺伝子は9p21にマッピングされ、これは多くの腫瘍型において頻繁に欠失している染色体領域である。p16INK4遺伝子のホモ接合性欠失および変異はヒト腫瘍細胞株において頻度が高い。この事実は、p16INK4遺伝子が腫瘍サプレッサー遺伝子であることを示唆する。しかし、この解釈は、p16INK4遺伝子変化の頻度が培養細胞株よりも原発性の培養されていない腫瘍においてはるかに低いという観察によって疑われてきた(Caldas et al., 1994; Cheng et al., 1994; Hussussian et al., 1994; Kamb et al., 1994; Kamb et al., 1994; Mori et al., 1994; Okamoto et al., 1994; Nobori et al., 1995; Orlow et al., 1994; Arap et al., 1995)。プラスミド発現ベクターでのトランスフェクションによる野生型p16INK4機能の回復は、いくつかのヒト癌細胞株によるコロニー形成を減少した(Okamoto, 1994; Arap, 1995)。
【0109】
本発明に従って利用され得る他の遺伝子には以下が含まれる:Rb、APC、DCC、NF-1、NF-2、WT-1、MEN-I、MEN-II、zac1、p73、VHL、MMAC1/PTEN、DBCCR-1、FCC、rsk-3、p27、p27/p16融合物、p21/p27融合物、抗血栓性遺伝子(例えばCOX-1、TFPI)、PGS、Dp、E2F、ras、myc、neu、raf、erb、fms、trk、ret、gsp、hst、abl、E1A、p300、血管形成に関与する遺伝子(例えば、VEGF、FGF、トロンボスポンジン、BAI-1、GDAIF、またはそれらのレセプター)、およびMCC。
【0110】
iii. プログラムされた細胞死の調節因子
アポトーシスすなわちプログラムされた細胞死は、正常な胚発生、成体組織におけるホメオスタシスの維持、および発癌の抑制のために必須のプロセスである(Kerr et al., 1972)。Bcl-2タンパク質ファミリーおよびICE様プロテアーゼは、他の系においてアポトーシスの重要な調節因子およびエフェクターであることが実証されてきた。濾胞性リンパ腫との関連で発見されたこのBcl-2タンパク質は、アポトーシスを制御する際に、および多様なアポトーシス刺激に応答して細胞の生存を増強する際に卓越した役割を果たす(Bakhshi et al., 1985; Cleary and Sklar, 1985; Cleary et al., 1986; Tsujimoto et al., 1985; Tsujimoto and Croce, 1986)。進化的に保存されたBcl-2タンパク質は、現在、関連するタンパク質のファミリーのメンバーとして認識されており、これは、デスアゴニストまたはデスアンタゴニストとして分類され得る。
【0111】
その発見に続いて、Bcl-2は種々の刺激によって誘発される細胞死を抑制するように作用することが示された。また、現在、共通の構造的および配列の相同性を共有するBcl-2細胞死調節タンパク質のファミリーが存在することが明白である。これらの異なるファミリーのメンバーは、Bcl-2と同様の機能を有するか(例えば、BclXL、Bclw、Bcls、Mcl-1、A1、Bfl-1)、またはBcl-2機能と反対に作用して細胞死を促進する(例えば、Bax、Bak、Bik、Bim、Bid、Bad、Harakiri)。
【0112】
e. 外科治療
癌を有する約60%の人が何らかの外科治療を受け、これには、予防的、診断的または段階的、治療的および緩和的な外科手術が含まれる。治療的外科手術は他の治療、例えば本発明の治療、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子治療、免疫治療、および/または代替的な治療と組み合わせて使用され得る癌治療である。
【0113】
治療的外科療法は、すべてまたは一部の癌性組織が物理的に除去され、切除され、および/または破壊される切除を含む。腫瘍切除とは、少なくとも一部の腫瘍の物理的除去をいう。腫瘍切除に加えて、外科治療による処置は、レーザー外科療法、凍結外科療法、電気外科療法、および顕微鏡制御された外科療法(モース氏手術)が含まれる。本発明は、表在性の癌、前癌、または付随して起こる量の正常組織の除去と組み合わせて使用され得ることがさらに意図される。
【0114】
癌性の細胞、組織、または腫瘍の一部またはすべての切除に際して、腔が身体中に形成され得る。処置は、さらなる抗癌治療で、灌流、直接的注射、または領域の局所的適用によって達成され得る。このような処置は、例えば、1、2、3、4、5、6、もしくは7日毎、または1、2、3、4、および5週間毎、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12ヶ月毎に反復され得る。これらの処置はまた、様々な投薬量であり得る。
【0115】
f. ホルモン治療
ホルモン治療もまた、本発明と組み合わせて、または以前に記載された任意の他の癌治療と組み合わせて使用され得る。ホルモンの使用は、特定の癌(例えば乳癌、前立腺癌、卵巣癌、または子宮頸部癌)の治療において、特定のホルモン(例えばテストステロンまたはエストロゲン)のレベルを低くするか、またはその効果をブロックするために利用され得る。この処置は、しばしば、治療オプションとして、または転移のリスクを減少させるために、少なくとも1種の他の癌治療と組み合わせて使用される。
【0116】
3. キット
本発明の治療的または予防的キットは、免疫調節性タンパク質を含む、昆虫細胞または昆虫細胞組成物を含むキットである。このようなキットは、一般的に、適切な容器手段中に、昆虫細胞の薬学的に許容される処方物、または薬学的に許容される処方物中の昆虫細胞抽出物を含む。このキットは、単一の容器手段を有してもよく、各化合物について個別の容器手段を有してもよい。
【0117】
キットの成分が1つまたはそれ以上の液体溶液中で提供される場合、液体溶液は水溶液であり、滅菌水溶液が特に好ましい。昆虫細胞または昆虫細胞抽出物組成物がまた、シリンジ動作可能な組成物に処方され得る。いずれの場合においても、容器手段はそれ自体、シリンジ、ピペット、または他のそのような同様の器具であり得、そこから処方物が身体の感染した領域に適用され得、動物に適用され得、およびそのキットの他の成分とともに適用されるかまたはそれと混合さえされ得る。
【0118】
しかし、このキットの成分は、乾燥した粉末として提供されてもよい。試薬または成分が乾燥粉末として提供される場合、その粉末は適切な溶媒の付加によって再構築され得る。その溶媒もまた別の容器手段中に提供され得ることが想定される。
【0119】
この容器手段は、一般的に、少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、シリンジ、または他の容器手段を含み、そこに昆虫細胞または昆虫細胞抽出組成処方物が配置され、好ましくは、適切に割り当てられる。このキットはまた、滅菌した薬学的に許容される緩衝剤または他の希釈剤を含む第2の容器手段を含み得る。
【0120】
本発明のキットはまた典型的には、委託販売のために厳重に密封したバイアルを含むための手段、例えば、そこに所望のバイアルが保持される、射出成形または中空成形されたプラスチック容器を含む。
【0121】
容器の数または型に関わりなく、本発明のキットはまた、最終的な昆虫細胞または昆虫細胞抽出物組成物の動物の身体への注射/投与または配置を補助するための器具を含むか、またはそれとともにパッケージされ得る。このような器具は、シリンジ、ピペット、ピンセット、および任意のこのような医学的に認可された送達ビヒクルであり得る。
【0122】
H. 実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を実証するために含められる。以下の実施例において開示される技術は、本発明の実施において良好に機能することが本発明者らによって発見された技術であり、従って、その実施のための好ましい態様を構成すると見なされ得ることが当業者によって理解されるべきである。しかし当業者は、本開示に鑑みて本発明の精神および範囲から逸脱することなく、開示された特定の態様において多くの変更がなされ得なお同様のまたは類似の結果が得られることを理解すべきである。
【0123】
実施例1-材料および方法
マウス
特定の病原体を有しない雌性C3H/HeNマウスをAnimal Production Area of the National Cancer Institute-Frederick Cancer Research Facility (Frederick, MD)。動物は、American Association for Accreditation of Laboratory Animal Careによって認可された施設において、United States Department of Agriculture, Department of Health and Human Services, and National Institutes of Healthの現在の規則および基準に従って維持された。特に示す場合以外は、マウスを6〜8週齢のときに施設のガイドラインに従って使用した。
【0124】
バキュロウイルス、昆虫細胞、および培養条件
Grace's培地、野生型バキュロウイルス、pBlueBacHis2Aバキュロウイルス移入ベクター、リポソーム媒介トランスフェクションキット、ならびにSf9およびHigh Five(H5)昆虫細胞をInvitrogen Corporation(Carlsbad, CA)から購入した。ウシ胎仔血清(FBS)をM.A.Bioproducts(Walkersville, MD)から購入し、EXCELL-400培地をJRH Biosciences(Denver, CO)から購入した。Sf9細胞およびH5細胞をそれぞれ、完全TNM-FH培地(10% FBSおよびGrace's培地補充物を補充したGrace's培地)および無血清培地EXCELL 400中で、27℃にて加湿しないチャンバー中で単層培養として維持した。昆虫細胞、ならびにH5細胞、バキュロウイルス、および/またはIFN-βを含む調製物は、Limulusアメーバ状細胞溶解物アッセイ(Associates of Cape Cod, Woods Hole, MA)によって決定したところ、内毒素を含まなかった。
【0125】
H5昆虫細胞におけるIFN-βの発現
本発明者らの以前の研究において詳述されるように(Lu et al., 2002)、Invitrogenからのキットを使用して、製造業者の指示書に従ってベクターを構築し、IFN-βの発現を誘導した。手短に述べると、マウスIFN-β cDNAの完全なコード配列をバキュロウイルス移入ベクターpBlueBacHis2Aにサブクローニングし、組換えベクターpHis2AIFN-βを誘導した。IFN-β遺伝子をコードする組換えバキュロウイルス(BVIFN-β)を、SF9細胞にpHis2AIFN-βを用いて同時トランスフェクトすることによって産生し、リポソームに基づくトランスフェクションキットを使用することによってBac-N-BlueバキュロウイルスDNAを線状化した。組換えウイルスをSF9細胞中で増殖させ、5×108PFU/mlを達成した。H5BVIFN-βを調製するために、H5細胞を3感染多重度(MOI)のBVIFN-βで48時間感染させ、H5細胞106あたり2×104単位のIFN-βの蓄積をもたらした(Access Biomedical Research Laboratories, Inc., San Diego, CAによって決定)。1単位のH5BVIFN-βは2×104単位のIFN-β、1×106 H5細胞、および2×107PFUのBVを含んだ。
【0126】
腫瘍モデルおよび免疫治療
UV-2237腫瘍細胞株は、もともとC3H/HeNマウスにおいて紫外線(UV)-B照射によって誘導された親のUV-2237線維肉腫によって産生された自発的な肺転移から誘導された(Raz, et al., 1981)。K-1735M2メラノーマ細胞株は、もともとC3H/HeNマウスにおいてUV-B照射、次にクロトン油塗布によって誘導された親のK-1735メラノーマ細胞によって産生された自発的な肺転移から誘導された(Kripke, et al., 1979; Talmadge and Fidler, 1982)。UV-2237M細胞またはK-1735M2細胞(他に示さない限り、2×105細胞)を同系C3H/HeNマウスに皮下接種した。腫瘍が直径4〜5mmに達したときに、病巣にリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)またはH5BVIFN-βを注射した。2箇所の直交する直径の腫瘍サイズを、カリパーを用いて5〜7日毎に測定した。明白でない(non-palpable)病巣を根絶されたものとみなした。
【0127】
実験的脳転移
UV-2237M細胞またはK-1735M2細胞の懸濁液を、以前に記載された技術(Schackert and Fidler, 1988)を使用してC3H/HeNマウスの内頸動脈に注射した。マウスは瀕死のときに、または腫瘍細胞の注射後180日になったときに屠殺した。脳を取り出し、10%緩衝化ホルマリン溶液中で固定した。各脳を連続的に切片化した。組織をヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、転移の存在について試験した。
【0128】
長期的腫瘍特異的免疫の誘導および頸動脈内チャレンジ
皮下UV-2237M腫瘍またはK-1735M2腫瘍の根絶(H5BVIFN-βの病巣内注射による)の6週間後、C3H/HeNマウスを2群に分けた。マウスに、UV-2237M細胞またはK-1735M2細胞を用いる頸動脈内注射によってチャレンジを行った。いずれかの細胞株を注射した未処置のC3Hマウスを対照とした。マウスを、それらが瀕死であったときに屠殺し、脳を組織学的試験のために収集した。C3H/HeNマウスに、UV-2237M細胞またはK-1735M2細胞を皮下接種した。2週間後、すべてのマウスは、平均直径7〜8mmの皮下腫瘍を発症した。マウスをネンブタールで麻酔し、皮下腫瘍を切除した。マウスはUV-2237M細胞またはK-1735M2細胞のいずれかの頸動脈内注射を受容した。頸動脈内に腫瘍細胞を注射された未処置のC3H/HeNマウスを対照とした。マウスを、それらが瀕死になったときに屠殺し、脳を組織学的試験のために収集した。
【0129】
潜在的な脳転移の治療
本発明者らは、皮下UV-2237M腫瘍へのH5BVIFN-βの注射が脳転移の免疫拒絶を生じたか否かを決定した。マウスに、右の脇腹に2×105UV-2237M細胞を皮下移植した。皮下腫瘍が直径3〜5mmに達したとき(7日目)、マウスを2群に分け、2×104UV-2237M細胞または2×104K-1735M細胞の内頸動脈注射を受容させた。2日後、UV-2237皮下腫瘍に、100μl PBS中の凍結乾燥したH5BVIFN-βまたは100μl PBSのいずれかを注射した。マウスを毎日観察した。直径15mmを超える皮下腫瘍を切除した。マウスを、瀕死になったときに屠殺し、検死解剖を行った。脳を10%ホルマリン中で固定し、脳転移の存在について組織学的に調べた。
【0130】
T細胞の枯渇
H5BVIFN-βの腫瘍内注射の1日前、ならびにその1日後および2日後に、マウスにCD4(GK1.5mAb, American Type Culture Collection, 200μg/マウス)、CD8(GK1.5mAb, American Type Culture Collection, 200μg/マウス)、またはCD4およびCD8に対するラットモノクローナル抗体(mAb)を腹腔内注射した。対照マウスは、ラットIgG(200μg/マウス)の3回の腹腔内注射を受容した。対照実験において、抗CD4mAbおよび抗CD8mAbの3回の腹腔内注射は、フローサイトメトリー分析によって示されるように、脾臓においてそれぞれCD4+T細胞およびCD8+T細胞の75%および90%の減少を生じた。この枯渇は5週間まで持続した。
【0131】
免疫組織化学
腫瘍組織の免疫組織化学分析を以前に記載されたように実行した(Lu et al., 1999)。手短に述べると、剖検において、腫瘍組織を5mm小片に切断し、OCT化合物(Miles Laboratories, Elkhart, IN)中に配置し、そして液体窒素中で手早く凍結させた。凍結した切片(8〜10μm)を冷アセトン中で固定し、エタノール中の3%過酸化水素(v/v)で処理した。処理したスライドを、5%正常ウマ血清/1%正常ヤギ血清を含むPBS中でブロックし、CD4抗原(American Type Culture Collection)、またはCD8抗原(PharMingen, San Diego, CA)に対する抗体とともに、4℃で18時間、加湿チャンバー中でインキュベートした。切片をすすぎ、ペルオキシダーゼ結合体化二次抗体とともにインキュベートした。ポジティブな反応は、安定なDAB(Research Genetics, Huntsville, AL)とともにスライドをインキュベートすることによって可視化され、Mayer'sヘマトキシリン(Research Genetics)を用いて対比染色した。スライドを乾燥させ、Universal mount(Research Genetics)とともにマウントした。画像をSony 3CDカラービデオカメラ(Sony Corporation, Tokyo, Japan)およびOptimas image analysis software(Optimas Corporation, Bothell, WA)を備えるパーソナルコンピュータを使用してデジタル化した。増殖している細胞核抗原(PCNA)に対する抗体を使用する免疫組織化学染色のために、腫瘍試料のパラフィン切片(3〜5μm)をProbeOnスライド(Fischer Scientific)上に配置し、パラフィン除去および再水和後に凍結切片について記載されるように染色した。
【0132】
統計学的分析
生存の見積もりおよび平均生存をKaplanおよびMeierの方法(Kaplan and Meier, 1958)を使用して決定した。生存データを、ログランク検定を使用して有意性について検定した。腫瘍の発生および腫瘍サイズの有意差はχ2検定およびANOVAによってそれぞれ分析した。
【0133】
実施例2-結果(脳転移)
H5BVIFN-βによる皮下腫瘍の根絶は脳転移に対する腫瘍特異的免疫防御を付与する
C3H/HeNマウスにUV-2237M細胞またはK-1735M2細胞のいずれかを皮下移植し、7日目に、生じた腫瘍にH5BVIFN-βを注射した。UV-2237M線維肉腫またはK-1735M2メラノーマの完全な退行の6週間後(これは注射の9〜10週間後であった)、マウスを、UV-2237M細胞またはK-1735M2細胞のいずれかの頸動脈内注射を受容するようにランダム化した。未処置(対照)マウスにおいて、9/10マウスおよび9/9マウスにおいて脳転移が発症し、それぞれ平均生存は27日間および23日間であった(表1)。H5BVIFN-βの病巣内注射によって皮下UV-2237M腫瘍を治癒したマウスは、UV-2237M脳転移を発症しなかったが、K-1735M2脳転移を発症した。マウスのこれらの2つの群の平均生存は、それぞれ>180日間および18日間であった(P<0.001)。同様に、皮下K-1735M2メラノーマを治癒した7マウス中5マウスはK-1735M2細胞の脳転移を発症しなかったが、UV-2237M線維肉腫の脳転移を発症した(7マウス中6マウス)。これらのマウスの平均生存は、それぞれ>180日間および30日間であった(P<0.001)。
【0134】
皮下組織における腫瘍の増殖だけでは、全身性免疫を付与しなかった。その皮下腫瘍が外科的に切除されたマウス(H5BVIFN-βで処置されたのではなく)は、内頸動脈に注射された腫瘍細胞でチャレンジされた。UV-2237M細胞またはK-1735M2細胞の脳転移は、もともとUV-2237M腫瘍を皮下移植された10マウスのうちの8マウス、5マウスのうちの5マウスで発症した。これらのマウスの平均生存は、それぞれ31日間および22日間であった(表2)。同様に、皮下K-1735M2腫瘍の外科的除去は、UV-2237M細胞またはK-1735M2細胞による脳転移の発症を有意に変化させなかった(表2)。UV-2237M腫瘍またはK-1735M2腫瘍の増殖は、組織学的分析によって確認された。代表的な組織学的染色の画像を図1に示す。これはUV-2237M細胞またはK-1735M2細胞の頸動脈内注射が対照マウスにおいて腫瘍を生じたが、H5BVIFN-βの注射によって皮下UV-2237M腫瘍または皮下K-1735M2腫瘍が治癒したマウスにおいては腫瘍を生じなかったことを示す。
【0135】
(表2)皮下増殖新生物へのH5BVIFN-βの注射による脳転移の特異的阻害

C3H/HeNマウスにUV-2237M細胞またはK-1375M2細胞を皮下注射した。H5BVIFN-β調製物を7日目(腫瘍が直径4〜5mmのサイズに達したとき)に腫瘍に注射した。あるマウスにおいては、注射していない腫瘍は12日目に切除した(腫瘍が直径7〜8mmに達したとき)。皮下腫瘍の退行(H5BVIFN-β)または切除の6週間後、マウスにUV-2237M細胞またはK-1735M2細胞のいずれかを内頸動脈注射した。マウスをそれらが瀕死であったときに屠殺した。生存していたマウスは≧180日に屠殺した。脳を組織学的試験のために収集した。*P<0.001。
【0136】
H5BVIFN-β治療による、確立された皮下腫瘍および潜在的な脳転移の根絶
次に、本発明者らは、皮下腫瘍へのH5BVIFN-βの注射が、すでに存在している潜在的な脳転移を根絶し得るか否かを決定した。最初に、UV-2237M細胞を同系C3H/HeNマウスに皮下接種した。腫瘍が直径3〜5mmに達したときに、マウスにUV-2237M細胞またはK-1735M2細胞を内頸動脈注射した。2日後、皮下腫瘍にPBSまたは2単位のH5BVIFN-βを注射した。図2A〜Eに要約したデータは、皮下UV-2237M腫瘍へのH5BVIFN-βの単回注射が、60〜80%のマウスにおいて皮下腫瘍の完全な退行(図2Aおよび図2C)をもたらし、UV-2237M脳転移を有するマウスの生存を延長(P<0.05、図2B)させたが、K-1735M2脳転移を有するマウスの生存は延長させない(図2D)ことを示す。脳の組織学的検査により、皮下腫瘍へのH5BVIFN-βの注射がUV-2237Mを根絶したがK-1735M2腫瘍は根絶しなかったことが確認された(図2E)。
【0137】
脳転移の根絶はCD4+およびCD8+細胞の両方によって媒介される
本発明者らは、H5BVIFN-β治療による皮下腫瘍の根絶はCD4+およびCD8+細胞の両方を必要とすることを実証していることから(Lu et al., 2002)、本発明者らは、これらのTリンパ球サブセットがUV-2237M脳転移の破壊にも関与したか否かを決定した。C3H/HeNマウスにUV-2237M細胞を皮下注射した。得られた腫瘍が直径5〜6mmに達したときに(7日目)、マウスにUV-2237M細胞を頸動脈内注射した。2日後(9日目)、マウスに200μg/マウスの抗CD4抗体および/または抗CD8抗体を腹腔内注射した。この腹腔内注射を、11日目および13日目に反復した。10日目に、皮下腫瘍にH5BVIFN-β調製物を1回注射した。その皮下腫瘍がPBSで処理された対照マウスは36日間(29〜56日間)の平均生存を有した。PBSおよびH5BVIFN-β、またはIgGおよびH5BVIFN-βを腹腔内注射されたマウスは、それぞれ115日間(33〜180日間)および180日間(33〜180日間)の平均生存を有した。
【0138】
生存していたマウスを180日目に屠殺した。PBSおよびH5BVIFN-βで処理したマウス(Fidler et al. 1999)、および対照IgGおよびH5BVIFN-βを有する6マウスのうちの5マウスは、いかなる脳転移も組織学的に存在しなかった(P<0.001)。非常に対照的に、抗CD4抗体を注射したマウスの平均生存は37日間(31〜51日間);抗CD8抗体を注射したマウスの平均生存は33日間(27〜61日間);抗CD4抗体および抗CD8抗体を注射したマウスの平均生存は33日間(25〜49日間)であった(P<0.001)。図3A〜B。これらのデータは、マウスの脳において、CD4+T細胞およびCD8+T細胞の両方が、UV-2237M腫瘍に対するH5BVIFN-β活性に関与することを示唆する。脳転移の免疫組織化学的分析はこの示唆を強化する。脳転移がCD4+細胞および/またはCD8+細胞によって浸潤されるか否かを決定するために、マウスを実験の17日目(すなわち、皮下腫瘍へのH5BVIFN-β調製物の注射の7日後)に屠殺した。脳を凍結し、組織学的に試験した(図4A〜B)。対照マウスにおいては、脳転移は多数のCD4+細胞およびCD8+細胞を含んでいた。H5BVIFN-βおよびIgGを注射したマウスにおいては、脳転移はCD4+細胞およびCD8+細胞によって高密度に浸潤された。これらの転移は最終的には退行した。H5BVIFN-βならびにCD4および/またはCD8抗原に対する抗体を注射したマウスにおいては、浸潤しているCD4+細胞およびCD8+細胞の数は有意に減少した。抗CD4抗体および/または抗CD8抗体を与えたマウスの平均生存は、H5BVIFN-β処置を受けなかったマウスのそれを超えなかった。
【0139】
実施例3-結果(肺転移)
方法:皮下腫瘍を外科的に除去したマウスにおいて存在している肺転移の増殖に対する、H5BVIFN-βおよび照射したUV-2237m腫瘍調製物の混合物の皮下注射の効果を調べた。UV-2237m細胞(2×105/マウス)を20匹のC3H/HeNマウスに皮下注射した。腫瘍細胞接種後18日目に、この腫瘍を有するマウスに、5×104/マウスのUV-2237m細胞を静脈内注射した。5匹の未処置マウスに、対照としてUV-2237m細胞を静脈内注射した。1日後、皮下腫瘍を外科的に切除して酵素的に解離させ、照射した(セシウム137線源から2,000ラド)。21日目に、皮下腫瘍が外科的に除去されているマウスを4群にランダム化し、PBS、2×106凍結乾燥H5BVIFN-β、UV-2237m腫瘍からの5×106照射細胞、またはH5BVIFN-βおよび5×106照射細胞の混合物を皮下注射した。処置は、皮下腫瘍細胞接種の28日後および35日後に反復した。マウスを65日目に屠殺した(図5)。
【0140】
(表3)

【0141】
結論:皮下UV-2237m腫瘍の外科的除去は、肺転移の増殖を有意に抑制した。H5BVIFN-βまたはUV-2237m単独を用いる治療は肺転移の増殖に影響がなかったが、H5BVIFN-βおよびUV-2237mを用いる治療は、肺転移の増殖を有意に阻害した。
【0142】
方法:存在している肺転移の増殖に対する、H5BVIFN-βおよび照射したUV-2237m腫瘍調製物の混合物の皮下注射の効果。UV-2237m細胞(5×104/マウス)を40匹のC3H/HeNマウスに皮下注射した。腫瘍細胞接種後3日目に、マウスを4群にランダム化し、PBS、2×106凍結乾燥H5BVIFN-β細胞、5×106照射UV-2237m細胞(セシウム137線源から2,000ラド)、またはH5BVIFN-βおよび照射UV-2237m細胞の皮下注射によって処置した。この治療は、10日目および17日目に反復した。マウスを、静脈内腫瘍細胞接種後50日目に屠殺した(図6)。
【0143】
(表4)

【0144】
結論:凍結乾燥したH5BVIFN-βおよび照射していないUV-2237m細胞の混合物を用いる治療は、UV-2237m肺転移の増殖を有意に阻害しなかった。
【0145】
方法:C3H/HeNマウスに2×105/マウスのUV-2237m細胞を皮下および静脈内投与した。接種の7日後、皮下腫瘍を切除した。1日後、マウスを、PBS、2×106凍結乾燥H5細胞および2×104単位のIFN-αの混合物、皮下腫瘍から調製された照射された107 UV-2237m細胞、または2×106凍結乾燥H5細胞、2×104単位のIFN-α、および107のUV-2237m細胞の混合物の皮下注射によって処置した。1週間後、処置を1回反復した。実験を治療後20日目に終了した(図11)。
【0146】
(表5)

【0147】
結論:結果を図11に示す、存在している肺転移の増殖はUV-2237m細胞、ならびにH5およびIFN-αを用いたマウスにおいて抑制されたが、UV-2237m、またはH5およびIFN-αのいずれか単独を用いると抑制されなかった。
【0148】
実施例4-結果(INF-α)
方法:UV-2237m細胞(2×105/マウス)を、C3H/HeNマウスに皮下注射した。腫瘍細胞接種の7日後、腫瘍に、PBSまたは2×106の凍結乾燥H5細胞、2×106の凍結乾燥されたH5細胞および1または2×104単位のIFN-βまたはIFN-αの混合物を注射した。皮下腫瘍を1週間に1回測定し、実験を腫瘍細胞接種後28日目に終了した。
【0149】
(表6)

【0150】
結論:結果を図8に示す。1または2×104単位のIFN-α単独の腫瘍内注射はC3H/HeNマウスの皮下組織におけるUV-2237m腫瘍の増殖に影響がなかった。IFN-αおよび凍結乾燥したH5細胞の混合物を使用する治療は、C3H/HeNマウスにおけるUV-2237m腫瘍を根絶することができた。H5細胞およびIFN-βの混合物を用いる処置は、C3H/HeNマウスにおけるUV-2237m腫瘍を根絶できなかった。
【0151】
方法:UV-2237m細胞(2×105/マウス)を30匹のC3H/HeNマウスに皮下注射した。腫瘍細胞接種後7日目に、腫瘍に、PBS、2×104単位のIFN-α、2×104単位のIFN-γ、2×106の凍結乾燥したH5細胞および2×104単位のIFN-αの混合物、または2×106の凍結乾燥したH5細胞および2×104単位のIFN-γの混合物を注射した。皮下腫瘍を1週間に1回測定し、示されるデータは腫瘍細胞接種後28日までである。
【0152】
(表7)

【0153】
結論:結果を図10に示す。IFN-αまたはIFN-γのいずれかを用いる治療は、皮下UV-2237m腫瘍を根絶することはできなかった。凍結乾燥したH5細胞およびIFN-αの混合物を用いる治療は腫瘍を根絶した。凍結乾燥したH5細胞およびIFN-γの混合物を用いる治療は、5マウスのうち1マウスで皮下UV-2237m腫瘍を根絶し、残りのマウスでは腫瘍増殖を抑制した。
【0154】
実施例5-結果(成分)
方法:UV-2237m細胞(2×105/マウス)をC3H/HeNマウスに皮下注射した。腫瘍細胞接種7日後、腫瘍に、PBSまたは2×106の凍結乾燥したH5BVIFN-β、2×104単位のIFN-βおよび2×106の凍結乾燥したH5細胞または2×106のH5細胞から抽出した成分(脂質、タンパク質、および/またはDNA)の混合物を注射した。皮下腫瘍を1週間に1回測定し、実験を腫瘍細胞接種後41日目に終了した。結果を図7に示す。
【0155】
(表8)

【0156】
結論:この実験において、凍結乾燥したH5細胞およびIFN-βの混合物は、大部分のマウスにおいて腫瘍を根絶することに失敗した。しかしこのことは、IFN-βの供給源が変えられていたので、IFN-β活性の変化に起因する可能性が高い。IFN-βおよびH5細胞のDNA/タンパク質/脂質の混合物は、5マウスのうちの4マウスにおいて腫瘍を根絶した。
【0157】
方法:UV-2237m細胞(2×105/マウス)を35匹のC3H/HeNマウスに皮下注射した。7日後、腫瘍に、PBS、2×106の凍結乾燥したH5BVIFN-β(正の対照)、2×104単位のIFN-αおよび2×106の凍結乾燥したH5細胞の混合物、または2×106のH5細胞から抽出した細胞成分(脂質、タンパク質、および/またはDNA)を注射した。皮下腫瘍を1週間に1回測定し、実験を腫瘍細胞接種後29日目に終了した。
【0158】
(表9)

【0159】
結論:結果を図9に示す。H5BVIFN-βを用いる治療は5マウスのうちの4マウスにおいて腫瘍を根絶した。凍結乾燥したH5細胞およびIFN-αの混合物を用いる治療は、H5BVIFN-βを使用する治療と同様の結果を生じた。IFN-αおよびH5細胞の成分の組み合わせは、UV-2237m腫瘍に対する治療において、H5BVIFN-βまたはH5細胞およびIFN-αのいずれかを用いる組み合わせ程には有効でなかった。
【0160】
実施例6-結果(毒性)
方法:2つの実験を、H5BVIFN-βの皮下投与がマウスに対して毒性効果を生じるか否かを決定するために行った。第1の実験において、正常C3H/HeNマウスを4群(10マウス/群)にランダム化し、PBSまたは凍結乾燥したH5BVIFN-β(2×106、20×106、または40×106細胞/注射)を、2回、1週間間隔をあけて皮下注射した。各マウスの体重を6週間1回づつ測定した(図13)。6週間後、群あたり3匹のマウスを安楽死させ、各マウスについて、組織学的研究のために、肺、肝臓、腎臓、脾臓、心臓、脳、および小腸のフラグメントを収集した。第2の実験において、H5BVIFN-βの長期的投与の潜在的な毒性効果を決定した。C3Hマウスを3群(10マウス/群)にランダム化し、PBS、または100μl PBS/マウス中の20×106のH5BVIFN-β凍結乾燥調製物を、1週間に1回、6週間または12週間の間皮下注射した。各マウスの体重を1週間に1回測定した(図14)。6週間または12週間の後、群あたり3匹のマウスをを安楽死させ、各マウスについて、組織学的研究のために、肺、肝臓、腎臓、脾臓、心臓、脳、および小腸のフラグメントを収集した。
【0161】
結論:4×107H5BVIFN-βまでの用量でのH5BVIFN-βの2回の連続的注射(1週間に1回を2週間)(これは治療研究において使用される量の20倍である)、または2×107H5BVIFN-βでのH5BVIFN-βの12回の連続的注射(1週間に1回を12週間)は、マウスの体重を有意に変化させなかった(図13および14)。6週間目または12週間目の最後に、マウスを屠殺し、いくつかの内部器官をH&E染色のためにサンプリングした。このH5BVIFN-β処置は、脳、心臓、腸、腎臓、肝臓、肺、および脾臓の形態学に有意な変化を起こさなかった。これらのデータにより、治療用量の100倍でのH5BVIFN-βの投与は、C3H/HeNマウスに対して有意な毒性を有さないと結論される。
【0162】
方法:12週齢のC3H/HeN雌性マウスを6群に分けた:群1〜3は腫瘍を有するマウス(群あたり5マウス)、群4〜6は正常マウス(群あたり5マウス)であった。腫瘍を有するマウスにUV-2237m細胞を皮下注射した。各マウスについて、4つの部位に注射した。各腫瘍がほぼ1cm直径に達したとき、マウスに処置の節に詳述される物質を注射した。処置は以下の通りであった:群1および4を1mlのPBSで処置;群2および5を、107の凍結乾燥したH5細胞および2×104単位のマウスIFN-αを有する1mlのPBSで処置;群3および6を、5×107の凍結乾燥したH5細胞および2×104単位のマウスIFN-αを有する1mlのPBSで処置。
【0163】
結論:腫瘍を有するマウス:マウスを腫瘍内注射後1週間モニターした。毒性は見い出されず、行動の有意な変化はなかった。正常マウス:腹腔内注射後、マウスを2週間モニターした。毒性は見い出されなかった。体重は変化しなかった(図15参照)。従って、凍結乾燥したH5細胞およびIFN-αの混合物の注射は、直接的に皮下腫瘍に(腫瘍を有するマウス)、または腹腔へ(正常マウス)のいずれの場合も、マウスに対して注目に値するいかなる毒性効果も生じなかった。
【0164】
本明細書において開示され特許請求されるすべての組成物および方法は、本開示に鑑みて過度の実験を伴うことなく作製および実行され得る。本発明の組成物および方法は特定の用語で記載されているかもしれないが、当業者は、これらの組成物のバリエーション、および本明細書に記載される方法の段階またはそれらの段階の順番のバリエーションが、本発明の概念、精神、および範囲から逸脱することなく実施され得ることを理解する。より詳細には、本明細書に記載された薬剤の代わりに、化学的におよび/または生理学的に関連する薬剤を用いても、同じかまたは同様な結果を達成できることが明らかである。
【0165】
I. 参考文献
以下の参考文献は、これらが本明細書中に示されたものを補足する典型的な手続きまたは他の詳細を提供する程度まで、具体的に参照として本明細書に組み入れられる。




【図面の簡単な説明】
【0166】
以下の図面は本明細書の一部を形成し、本発明の特定の局面をさらに実証するために含まれる。本発明は、ここに提供される特定の態様の詳細な記載を組み合わせてこれらの1つまたはそれ以上の図面を参照することによってより良好に理解され得る。
(図1)脳転移のH5BVIFN-β治療である。C3H/HeNマウスにUV-2237MまたはK-1735M2メラノーマ細胞のいずれかを皮下注射した。腫瘍が直径4〜5mmのサイズに達した1週間後、マウスを以下の群(n=10)にランダム化した:対照、外科的に切除した腫瘍、および2単位のH5BVIFN-β調製物を注射した腫瘍。1週間後、K-1735M腫瘍にH5BVIFN-βの2回目の注射を行った。腫瘍の完全な退縮(または切除)の6週間後、すべてのマウスにUV-2237MまたはK-1735M2細胞を頸動脈に注射した。マウスが瀕死になったときにマウスを屠殺した。生存していたマウスは180日目に屠殺した。脳を固定して切片化し、組織学的に調べた。皮下UV-2237M腫瘍のH5BVIFN-β処理はUV-2237M脳転移の発症を予防するが、K-1735M2脳転移のそれを予防しないことに注意されたい。逆に、皮下K-1735M2腫瘍のH5BVIFN-β処理はK-1735M2脳転移の発症を予防するが、UV-2237M脳転移のそれを予防しない。
(図2A〜E)確立された皮下腫瘍および潜在的脳転移のH5BVIFN-β治療による根絶である。UV-2237M細胞をC3H/HeNマウスに皮下注射した。5日後、マウスをUV-2237M細胞(図2A-B)またはK-1735M2細胞(図2C-D)のいずれかの頸動脈内注射を受容する2つの群にランダム化した。2日後、各群をH5BVIFN-βまたはPBSの注射を皮下腫瘍に受容させるように2つの群にさらにランダム化した。サイズ(mm直径)および皮下腫瘍の発生率(それぞれのラインの脇の分数)を示す(図2Aおよび2C)。瀕死のマウスを屠殺し、それらの脳を転移の存在について組織学によって評価した(図2E)。UV-2237M皮下腫瘍にH5BVIFN-β注射を受容したマウスはUV-2237M脳転移を有しなかったが、K-1735M2転移を有したことに注意されたい。矢印はH5BVIFN-βの腫瘍内注射の時点を示す。*3匹のマウスが35日目の前に死亡した。
(図3A〜B)H5BVIFN-β治療による皮下腫瘍および脳転移の根絶はT細胞依存性である。C3H/HeNマウスにUV-2237M線維肉腫細胞を皮下注射した。腫瘍が直径3〜5mmに達したとき(7日目)、マウスにUV-2237M細胞を内頸動脈内注射した。2日後、マウスに隔日で100μlのPBS(対照)、200μgのアイソタイプ一致ラットIgG、抗CD4抗体、抗CD8抗体、または抗CD4抗体および抗CD8抗体を含むPBSの3回の腹腔内注射を受容するようにランダム化した。1回目の腹腔内注射の1日後、皮下UV-2237M腫瘍に2単位のH5BVIFN-β細胞を病巣内注射した。対照腫瘍には注射しなかったが、一旦それらが直径15mmに達すると切除した。すべてのマウスを、それらが瀕死になったときに屠殺した。すべての生存していたマウスを180日目に屠殺した。*P<0.001。
(図4A〜B)脳転移の免疫組織化学である。C3H/HeNマウスにUV-2237M線維肉腫を皮下注射した。皮下腫瘍が直径4〜5mmに達した7日目に、マウスはUV-2237M細胞の頸動脈内注射を受容した。2日後、マウスに(隔日で) PBS(対照)、200μgのアイソタイプ一致ラットIgG、抗CD4抗体、抗CD8抗体、または抗CD4抗体および抗CD8抗体を含むPBSの3回の腹腔内注射を受容するようにランダム化した。1回目の腹腔内処置の1日後(10日目)、皮下腫瘍(対照マウスを除くすべての処置群)に2単位の凍結乾燥したH5BVIFN-βを注射した。マウスを19日目に屠殺し、脳転移内のCD4+細胞および/またはCD8+細胞の存在を同定するために免疫組織化学のために脳を処理した。
(図5)原発腫瘍の切除後に存在する肺転移に対するIFN-β昆虫細胞調製物の効果である。UV-2237m細胞(2×105/マウス)を20匹のC3H/HeNマウスに皮下注射した。腫瘍細胞接種の18日後に、腫瘍を有するマウスに5×104/マウスのUV-2237m細胞を静脈内注射した。未処置の5匹のマウスに対照としてUV-2237m細胞を静脈内注射した。1日後、皮下腫瘍を外科的に切除し、酵素的に解離させ、そして照射した(セシウム137線源から2,000ラド)。21日目に、皮下腫瘍が外科的に除かれたマウスを4群にランダム化し、PBS、2×106凍結乾燥H5BVIFN-β、UV-2237m腫瘍からの5×106照射細胞、またはH5BVIFN-βおよび5×106照射細胞の混合物を皮下注射した。皮下腫瘍接種後28日目および35日目に処置を反復した。
(図6)存在している肺転移に対するIFN-β昆虫細胞調製物の効果である。UV-2237m細胞(5×104/マウス)を40匹のC3H/HeNマウスに注射した。腫瘍細胞接種の3日後に、マウスを4群にランダム化し、PBS、2×106凍結乾燥H5BVIFN-β細胞、5×106照射UV-2237m細胞(セシウム137線源から2,000ラド)、またはH5BVIFN-βおよび照射UV-2237m細胞の皮下注射によって処置した。
(図7)IFN-β治療におけるH5細胞の活性成分である。UV-2237m細胞(2×105/マウス)をC3H/HeNマウスに皮下注射した。腫瘍細胞接種の7日後に、腫瘍にPBSまたは2×106凍結乾燥H5BVIFN-β、2×104単位のIFN-βおよび2×106凍結乾燥H5細胞の混合物、または2×106H5細胞から抽出した成分(脂質、タンパク質、および/またはDNA)を注射した。皮下腫瘍を1週間に一度測定し、実験を腫瘍細胞接種後41日目に終了した。
(図8)IFN-αおよびH5細胞の相乗効果である。UV-2237m細胞(2×105/マウス)をC3H/HeNマウスに皮下注射した。腫瘍細胞接種の7日後に、腫瘍にPBSまたは2×106凍結乾燥H5細胞、2×106凍結乾燥H5細胞および1もしくは2×104単位のIFN-βもしくはIFN-αの混合物を注射した。皮下腫瘍を1週間に一度測定し、実験を腫瘍細胞接種後28日目に終了した。
(図9)IFN-α治療におけるH5細胞の活性成分である。UV-2237m細胞(2×105/マウス)を35匹のC3H/HeNマウスに皮下注射した。7日後、腫瘍にPBS、2×106凍結乾燥H5BVIFN-β(正の対照)、2×104単位のIFN-αおよび2×106凍結乾燥H5細胞の混合物、または2×106H5細胞から抽出した成分(脂質、タンパク質、および/またはDNA)を注射した。皮下腫瘍を1週間に一度測定し、実験を腫瘍細胞接種後29日目に終了した。
(図10)IFN-αおよびIFN-βを伴うH5の治療的効果である。UV-2237m細胞(2×105/マウス)を30匹のC3H/HeNマウスに皮下注射した。腫瘍細胞接種の7日後に、腫瘍にPBS、2×104単位のIFN-α、2×104単位のIFN-γ、2×106凍結乾燥H5細胞および2×104単位のIFN-αの混合物、または2×106凍結乾燥H5細胞および2×104単位のIFN-γの混合物を注射した。皮下腫瘍を1週間に一度測定し、示されるデータは腫瘍細胞接種後28日目までのものである。
(図11〜12)存在している肺転移に対するH5細胞IFN-αの効果である。C3H/HeNマウスに2×105/マウスのUV-2237m細胞を皮下および静脈内注射した。接種の7日後に、皮下腫瘍を切除した。1日後、マウスを、PBS、2×106凍結乾燥H5細胞および2×104単位のIFN-αの混合物、皮下腫瘍から調製した107の照射したUV-2237m細胞、または2×106凍結乾燥H5細胞、2×104単位のIFN-α、および107のUV-2237m細胞の混合物の皮下注射によって処置した。この処置は1週間後に一度反復した。実験を治療後20日目に終了した。
(図13〜14)H5細胞慢性毒性研究である。2つの実験を、H5BVIFN-βの皮下投与がマウスに対して毒性効果を生じるか否かを決定するために実行した。第1の実験において、正常C3H/HeNマウスを4群(10マウス/群)にランダム化し、PBSまたは凍結乾燥したH5BVIFN-β(2×106、20×106、または40×106細胞/注射)を2回、1週間間隔をあけて皮下注射した。各マウスの体重を6週間1回づつ測定した(図13)。6週間後、群あたり3匹のマウスを安楽死させ、そして各マウスについての組織学的研究のために、肺、肝臓、腎臓、脾臓、心臓、脳、および小腸の断片を収集した。第2の実験において、H5BVIFN-βの長期的投与の潜在的な毒性効果を決定した。C3Hマウスを3群(10マウス/群)にランダム化し、PBSまたは100μl PBS中20×106 H5BVIFN-β凍結乾燥調製物/マウスを6週間または12週間の間、週に1回皮下注射した。各マウスの体重を週に1回測定した(図14)。6週間または12週間の後、群あたり3匹のマウスを安楽死させ、そして各マウスについての組織学的研究のために、肺、肝臓、腎臓、脾臓、心臓、脳、および小腸の断片を収集した。
(図15)H5細胞急性毒性研究である。12週齢のC3H/HeN雌性マウスを6群に分けた。群1〜3は腫瘍を有するマウス(群あたり5マウス)、および群4〜6は正常マウス(群あたり5マウス)であった。腫瘍を有するマウスにUV-2237m細胞を皮下注射した。各マウスについて、4つの部位に注射した。各腫瘍がほぼ1cm直径に達したとき、マウスに処置の節に詳述した物質を注射した。処置は以下の通りであった:群1および4を1mlのPBSで処置;群2および5を、107の凍結乾燥したH5細胞および2×104単位のマウスIFN-αを有する1mlのPBSで処置;群3および6を、5×107の凍結乾燥したH5細胞および2×104単位のマウスIFN-αを有する1mlのPBSで処置。
【図1】

【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図2D】

【図2E】

【図3】

【図4A】

【図4B】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫調節性ポリペプチドおよびバキュロウイルス-昆虫細胞調製物を含む組成物を被験体に投与する段階を含む、潜在的な脳転移を有する該被験体を処置するための方法。
【請求項2】
組成物が、脳内に局在しない腫瘍または腫瘍血管系に直接的に注射される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
免疫調節性ポリペプチドが昆虫細胞中の組換えバキュロウイルスベクターから発現された、請求項1記載の方法。
【請求項4】
免疫調節性ポリペプチドがIFN-α、IFN-β、IFN-γ、IL-1、IL-2、IL-6、IL-7、IL-12、IL-15、IL-16、またはGM-CSFである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
組成物が炎症刺激剤をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
炎症刺激剤が細菌全体、内毒素、またはメチル化されていないDNAである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
組成物がSpodopteraまたはTrichoplusiaの細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
組成物の2回目の投与をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
組成物の3回目の投与をさらに含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
組成物が約105と約107の間の昆虫細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
組成物がインタクトな昆虫細胞を含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
組成物が破壊された昆虫細胞を含む、請求項10記載の方法。
【請求項13】
組成物が凍結乾燥されている、請求項1記載の方法。
【請求項14】
組成物が凍結/融解されている、請求項12記載の方法。
【請求項15】
潜在的な脳転移が被験体の骨、肝臓、脾臓、膵臓、肺、結腸、精巣、卵巣、胸部、子宮頸部、前立腺、および子宮における原発腫瘍に由来する、請求項1記載の方法。
【請求項16】
組成物が腫瘍抗原をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項17】
腫瘍抗原がMAGE-1、MAGE-3、Melan-A、P198、P1A、gp100、TAG-72、p185HER2、ミルクムチンコアタンパク質、癌胎児性抗原(CEA)、P91A、p53、p21ras、P210、BTA、またはチロシナーゼである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
腫瘍抗原が昆虫細胞中で組換えバキュロウイルスベクターから発現された、請求項17記載の方法。
【請求項19】
被験体がヒト被験体である、請求項1記載の方法。
【請求項20】
第2の抗癌治療をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項21】
第2の抗癌治療が放射線治療、化学療法、遺伝子治療、または外科治療である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
被験体が以前に癌治療を受けたことがある、請求項1記載の方法。
【請求項23】
免疫調節性ポリペプチドおよびバキュロウイルス-昆虫細胞調製物を含む組成物を被験体に投与する段階を含む、該被験体における潜在的な脳転移の発生を予防するための方法。
【請求項24】
免疫調節性ポリペプチドおよび炎症刺激剤を含む組成物を被験体に投与する段階を含む、潜在的な脳転移を有する該被験体を処置するための方法。
【請求項25】
組成物が、脳内に局在しない腫瘍または腫瘍血管系に直接的に注射される、請求項24記載の方法。
【請求項26】
免疫調節性ポリペプチドが昆虫細胞中の組換えバキュロウイルスベクターから発現された、請求項24記載の方法。
【請求項27】
免疫調節性ポリペプチドがIFN-α、IFN-β、IFN-γ、IL-1、IL-2、IL-6、IL-7、IL-12、IL-15、IL-16、またはGM-CSFである、請求項24記載の方法。
【請求項28】
炎症刺激剤が細菌全体、内毒素、またはメチル化されていないDNAである、請求項24記載の方法。
【請求項29】
組成物がSpodopteraまたはTrichoplusiaの細胞を含む、請求項24記載の方法。
【請求項30】
組成物の2回目の投与をさらに含む、請求項24記載の方法。
【請求項31】
組成物の3回目の投与をさらに含む、請求項30記載の方法。
【請求項32】
組成物が凍結乾燥されている、請求項24記載の方法。
【請求項33】
組成物が凍結/融解されている、請求項24記載の方法。
【請求項34】
潜在的な脳転移が被験体の骨、肝臓、脾臓、膵臓、肺、結腸、精巣、卵巣、胸部、子宮頸部、前立腺、および子宮における原発腫瘍に由来する、請求項24記載の方法。
【請求項35】
組成物が腫瘍抗原をさらに含む、請求項24記載の方法。
【請求項36】
腫瘍抗原がMAGE-1、MAGE-3、Melan-A、P198、P1A、gp100、TAG-72、p185HER2、ミルクムチンコアタンパク質、癌胎児性抗原(CEA)、P91A、p53、p21ras、P210、BTA、またはチロシナーゼである、請求項35記載の方法。
【請求項37】
腫瘍抗原が昆虫細胞中で組換えバキュロウイルスベクターから発現された、請求項36記載の方法。
【請求項38】
被験体がヒト被験体である、請求項24記載の方法。
【請求項39】
第2の抗癌治療をさらに含む、請求項24記載の方法。
【請求項40】
第2の抗癌治療が放射線治療、化学療法、遺伝子治療、または外科治療である、請求項39記載の方法。
【請求項41】
被験体が以前に癌治療を受けたことがある、請求項24記載の方法。
【請求項42】
免疫調節性ポリペプチドおよび炎症刺激剤を含む組成物を被験体に投与する段階を含む、該被験体における潜在的な脳転移の発生を予防するための方法。

【公表番号】特表2006−507362(P2006−507362A)
【公表日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−501643(P2005−501643)
【出願日】平成15年10月21日(2003.10.21)
【国際出願番号】PCT/US2003/033395
【国際公開番号】WO2004/037182
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【出願人】(500039463)ボード・オブ・リージエンツ,ザ・ユニバーシテイ・オブ・テキサス・システム (115)
【Fターム(参考)】