説明

癌転移阻害剤

本発明の課題は、癌の転移阻害剤、特に骨転移および肝転移を治療するための有用な薬剤を提供することにある。
本発明により、IGF(insulin−like growth factor)−IおよびIGF−IIの活性を阻害する物質を有効成分とする癌転移阻害剤が提供される。該阻害剤により癌の転移を有意に抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、インスリン様成長因子(insulin−like growth factor;以下、IGFと表記する)−IおよびIGF−IIの活性を阻害する物質を有効成分として含有する癌転移阻害剤に関する。
【背景技術】
癌の転移とは、癌細胞が体中に広がって再増殖することである。患者を死に至らしめる最大の原因は癌転移である。原発部位にとどまる癌は、外科的手術によって比較的簡単に取り除くことができる。しかし、さまざまな部位に転移した癌を外科的手術によって取り除くことは難しい(日経サイエンス1996年12月号p30)。
癌の転移は特定の臓器に発生しやすい。骨は、肺、肝臓と並んで癌の遠隔転移の主な標的臓器である。特に、前立腺癌、乳癌、肺癌、多発性骨髄腫の患者では、骨に高率に転移する。骨に転移した癌に対して、従来の癌治療法ではほとんど効果が得られず、患者は強い肉体的苦痛および精神的不安に苛まれ、その結果、生活の質(Quality of life)は著しく損なわれる(Nature Reviews Cancer,2,584−593,2002、実験医学16、149−155、1998)。従って、骨転移を治療するための有用な治療方法が求められている。また、肝臓への転移は消化器癌、特に進行大腸癌で高率に発生するため、肝臓への転移は大腸癌の予後を不良にする大きな要因である。従って、肝転移を治療するために有用な治療法が求められている。
癌の骨転移のメカニズムについては、いまだ不明の点が多い。重要なメカニズムの一つとして、骨に豊富に含まれているさまざまな増殖因子が癌細胞の骨転移を促進する可能性が指摘されている。骨に貯蔵されている増殖因子とその貯蔵量(ng/g乾燥骨重量)は、次の通りである[IGF−II:1300−1700ng/g、トランスフォーミングβ増殖因子(TGFβ):400−460ng/g、IGF−I:85−170ng/g、血小板由来増殖因子(PDGF):50−70ng/g、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF):40−80ng/g、酸性繊維芽細胞増殖因子(aFGF):0.5−12ng/g、骨形態原性蛋白質(BMP):1−2ng/g、アクチビン:1ng/g(実験医学16、149−155、1998)]。癌細胞自身は骨を破壊することができない。しかしながら、破骨細胞で骨が破壊された後、骨に貯蔵されている上記増殖因子が遊離されて、癌細胞の増殖が促進される可能性が指摘されている。
また、癌の肝転移のメカニズムについても、いまだ不明の点が多い。消化器癌の血行性転移の場合には、原発巣から血流中に遊離した癌細胞は、まず肝臓に到達し、毛細血管床に捕らえられることが多いとの解剖学的な理由から、消化器癌は肝転移しやすいとの可能性が指摘されている。
IGFと癌の転移の関連性についても、報告がある。IGF−Iの受容体(以下、IGF−IRと表記する)のドミナントネガティブ体をヒト大腸癌細胞株に発現すると、マウスでの肝転移が抑制されることが報告されている(Laboratory Investigation、82、1377−1389、2002)。また、IGF−IRドミナントネガティブ体をヒト乳癌細胞株に発現すると、マウスでの肺、肝、リンパ節への転移が抑制されることが報告されている(Cancer Research、58、3353−3361、1998)。ルイス肺癌の亜株であるH−59は肝臓に高転移性を示す腫瘍細胞株であるが、肝臓細胞の培養上清に含まれるH−59の増殖を促進する因子を解析した結果、IGF−IがH−59の増殖促進活性を示すことが報告されている。ルイス肺癌の別の亜株で肺のみに転移するM−27はIGF−Iによる増殖促進活性を持たないことから、癌細胞の肝臓への転移にはIGF−Iが関与していることが報告されている(Cancer Research、54、3732−3737、1994)。
実際、IGF−IRに対するアンチセンスRNAを発現させることで、高転移性のヒト乳癌細胞のマウスでの造腫瘍性および肺への転移性が低下し、生存期間の延長が認められること(Cancer Gene Therapy,7,384−395,2000)、抗IGF−IR抗体により、マウスに移植されたヒト横紋筋肉腫細胞やヒト乳癌細胞の増殖が抑制されること(Cancer Research,54,5531−5534,1994;Journal of Clinical Investigation,84,1418−1423,1989;Breast Cancer Research & Treatment,22,101−106,1992)、などIGF作用の抑制による抗腫瘍効果が報告されている(Biochimica et Biophysica Acta,1332,F105−F126,1997)。その一方で、抗IGF−IR抗体は、マウスに移植されたエストロゲン非依存性増殖を示すヒト乳癌細胞の生着を抑制するものの、エストロゲン依存性増殖を示すヒト乳癌細胞の生着や生着したヒト乳癌細胞の増殖を抑制できないことが示されており、IGF−IRの作用阻害のみでは、充分な抗腫瘍効果が得られないことも示唆されている(Breast Cancer Research & Treatment,22,101−106,1992)。
IGFに対する抗体、すなわち抗IGF抗体としては、既にいくつかの抗体が知られている。代表的なヒトIGF−Iに対する抗体(抗hIGF−I抗体)としては、sm1.2が報告されている(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,81,2389−2392,1984)。sm1.2は、hIGF−IIと40%程度の交差反応性を有していること、1〜2μg/mLの濃度でウェスタンブロッティング法により、100ngのhIGF−Iを検出可能であること、10〜30μg/mLの濃度で20ng/mLのhIGF−Iによるマウス繊維芽細胞株BALB/c3T3の増殖を阻害すること、が明らかとなっている(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,81,2389−2392,1984;Journal of Clinical Investigation,99,2961−2970,1997)。
その他、抗hIGF−I抗体としては、Val59−SmC121があり、該抗体は、ヒトインスリンおよびhIGF−IIとは反応しないこと、hIGF−Iの10〜12番目のLeu−Val−Aspを含むペプチドを認識すること、125I−hIGF−Iを用いたラジオイムノアッセイでは、1ng/mLのhIGF−Iの検出感度を示したことが報告されている(Journal of Endocrinology,125,327−335,1990)。41/81は、hIGF−IIとは3%の反応性を有しており、また、125I−hIGF−Iを用いたラジオイムノアッセイでは、1ng/mLのhIGF−Iの検出感度を示す(FEBS Letters,149,109−112,1982)。35I17は、hIGF−IIと0.5%程度の交差反応性を有していること、1μg/mLの濃度でのウェスタンブロッティング法により、1μgのhIGF−Iを検出可能であること、12μg/mL以上の濃度でhIGF−Iによるマウス繊維芽細胞株BALB/c3T3の増殖を完全に阻害すること、30μg/mLの濃度で1μg/mLのhIGF−IによるhIGF−IRの自己リン酸化を阻害すること、また、125I−hIGF−Iを用いたラジオイムノアッセイでは、0.1nMのhIGF−Iの検出感度を示すことが報告されている(Hybridoma,16,513−518,1997)。 BPL−M23は、hIGF−Iに対して10.5 litres/nmolの結合活性を示し、一方、hIGF−IIおよびヒトインスリンには、それぞれ0.8%および0.0001%の交差反応性を示すこと、ヤギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウサギのIGFとは反応性を示すが、ラットおよびマウスのIGFとは反応しないこと、ラット脂肪細胞に対するhIGF−Iによる脂肪形成を抑制することが報告されている(Journal of Molecular Endocrinology,2,201−206,1989)。7A1、1B3、4C1、5A7は、hIGF−IのCおよびDドメインの異なるエピトープを認識すること、hIGF−IIとはそれぞれ6.6%、0.83%、12%、1.2%の交差反応性を示すことが報告されている(Hybridoma,12,737−744,1993)。3D1/2/1は、ヒトおよびモルモットのIGF−Iとは反応を示すが、ウサギ、ラット、マウスのIGF−Iとは反応しないこと、hIGF−IIとは、7%の交差反応性を示すことが報告されている(Journal of Clinical and Metabolism,54,474−476,1982)。
代表的なヒトIGF−IIに対する抗体(抗hIGF−II抗体)としては、S1F2が報告されている。S1F2は、hIGF−Iと10%程度の交差反応性を有していること、1μg/mLの濃度でのウェスタンブロッティング法により、10〜100ngのhIGF−IIを検出可能であること、100μg/mLの濃度で100ng/mLのhIGF−IIによるヒト繊維芽細胞のDNA合成促進作用を阻害することが明らかとなっている(Diabetes Research and Clinical Practice,7,S21−S27,1989;Endocrinology,124,870−877,1989)。2H11、2B11、ID5、ID9は、hIGF−IIと反応し、hIGF−Iとは反応しないこと、競合酵素免疫測定法(以下、ELISAと表記する)により、1ng/mLのhIGF−IIを定量可能であることが報告されている(特開平5−252987号)。しかしながら、これらの抗体が癌転移の阻害に有用であることは知られていない。
従って、本発明の課題は、癌の転移阻害剤、特に癌の骨転移および肝転移を抑制するために有用な薬剤を提供することにある。
【発明の開示】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(4)の発明を包含する。
(1) インスリン様成長因子−I(IGF−I)およびインスリン様成長因子−II(IGF−II)の活性を阻害する物質を有効成分として含有する癌転移阻害剤。
(2) 物質が、以下の(a)〜(e)からなる群より選ばれる、(1)に記載の阻害剤。
(a) IGF−IおよびIGF−IIに特異的に結合し、IGF−IおよびIGF−IIの活性を阻害する抗体または抗体断片
(b) IGF−Iに特異的に結合し、IGF−Iの活性を阻害する抗体または抗体断片、およびIGF−IIに特異的に結合し、IGF−IIの活性を阻害する抗体または抗体断片を含む組成物
(c) IGF−Iに特異的に結合し、IGF−Iの活性を阻害する抗体または抗体断片、およびIGF−IIに特異的に結合し、IGF−IIの活性を阻害する抗体または抗体断片を組み合わせてなる組成物
(d) IGF−Iに特異的に結合し、IGF−Iの活性を阻害する抗体または抗体断片、およびIGF−IIに特異的に結合し、IGF−IIの活性を阻害する抗体または抗体断片の複合体
(e)上記(a)〜(d)のいずれかと他分子を結合させた複合体
(3) 抗体がモノクローナル抗体である、(2)に記載の阻害剤。
(4) 抗体断片が、Fab、Fab’、F(ab’)、一本鎖抗体(scFv)、二量体化可変領域(Diabody)、ジスルフィド安定化可変領域(dsFv)およびCDRを含むペプチドからなる群から選ばれる抗体断片である、(2)または(3)に記載の阻害剤。
【図面の簡単な説明】
第1図は、ヒト前立腺癌細胞MDA PCa 2bの増殖に対する抗体KM1468による増殖阻害活性を示す。横軸は添加サンプルの種類と濃度を、縦軸は細胞増殖を示す。
第2図Aは、初期転移モデルにおける抗体KM1468の前立腺癌の骨転移阻害活性、第2図Cは、進行転移モデルにおける抗体KM1468の前立腺癌の骨転移阻害活性をそれぞれ示す。第2図Bは、初期転移モデルにおける抗体KM1468の添加および非添加時の血清中PSA濃度、第2図Dは、進行転移モデルにおける抗体KM1468の添加および非添加時の血清中PSA濃度をそれぞれ示す。
第3図は、ヒト多発性骨髄腫細胞RPMI8226に対するhIGF−I刺激によるIGF−IR、AktおよびMAPKのリン酸化、ならびに抗体KM1468、抗体KM1762によるリン酸化抑制をウェスタンブロッティングにより検出した結果を示す。
第4図は、hIGF−I刺激によるヒト多発性骨髄腫細胞RPMI8226増殖に対する抗体KM1468(1μg/mL)による増殖阻害活性を示す。
第5図は、hIGF−I刺激によるヒト多発性骨髄腫細胞RPMI8226増殖に対する種々の濃度の抗体KM1468による増殖阻害活性を示す。
第6図は、初期転移モデルにおける、抗体KM1468の多発性骨髄腫の骨への転移阻害活性を示す。
第7図は、初期転移モデルにおける、抗体KM1468の乳腺癌の骨への転移阻害活性を示す。
第8図は、大腸癌の肝臓への転移モデルにおいて、抗IGF抗体を投与したときの大腸癌細胞株の肝臓への転移の阻害活性を示す。各カラム内の横線は4分位置を示し、それぞれ上から90、75、50、25、10%分値位置を表す。各カラムの○は各群における最大値および最小値を示す。
第9図は、大腸癌の肝臓への転移モデルにおいて、抗IGF抗体を投与したときの腫瘍切片におけるAI(apoptosis index)値を示す。各カラム内の横線は4分位置を示し、それぞれ上から90、75、50、25、10%分値位置を表す。各カラムの○は各群における最大値および最小値を示す。
第10図Aは、大腸癌の肝臓への転移モデルにおいて、抗hIGF−I抗体を投与したときの大腸癌細胞株の肝臓での転移病巣に対する治療効果を示す。各カラム内の横線は4分位置を示し、それぞれ上から90、75、50、25、10%分値位置を表す。第10図Bは、大腸癌の肝臓への転移モデルにおいて、抗hIGF−I抗体を投与したときの延命効果を示す。横軸は投与開始後の経過日数を示し、縦軸は累積生存率を示す。実線は処置群を、破線は無処置群を示す。
第11図は、モノクローナル抗体のhIGF−Iに対する特異的な反応性を示す(結合ELISA)。横軸は、抗体と抗原の組み合わせを、縦軸は結合活性(OD415)を示す。
第12図は、モノクローナル抗体の液相系における天然の立体構造を有するhIGF−Iに対する反応性を示す(競合ELISA)。横軸は添加したhIGF−I濃度を、縦軸は結合活性(OD415)を示す。
第13図は、抗体KM1468およびsm1.2のhIGF−Iに対する反応を示す。横軸は抗体濃度(μg/mL)、縦軸は結合活性(OD415)を示す。○はKM1468、□はsm1.2の反応性をそれぞれ示す。
第14図は、抗体KM1468およびsm1.2のhIGF−Iに対する結合における各種因子による阻害活性を示す。横軸は各種因子濃度(μg/mL)、縦軸は結合活性(%)を示す。AはhIGF−I、BはhIGF−II、Cはヒトインスリン、DはmIGF−Iによるそれぞれの活性を示す。○はKM1468、□はsm1.2の反応性をそれぞれ示す。
第15図は、抗体KM1468、sm1.2およびS1F2のhIGFおよびヒトインスリンによるヒト乳癌細胞株MCF7の増殖に対する影響を示す。Aは各因子による細胞増殖活性を示す。横軸は各種因子濃度(μg/mL)、縦軸は増殖(OD450)を示す。○はhIGF−I、●はhIGF−II、□はヒトインスリンの活性をそれぞれ示す。BはhIGF−I、CはhIGF−II、Dはヒトインスリンによる増殖活性に対する各種抗体の影響を示す。横軸は抗体濃度(μg/mL)、縦軸は増殖(OD450)を示す。細点線は抗体非添加時の増殖を、点線は各因子非添加時の増殖を示す。○はKM1468、□はsm1.2、■はS1F2の活性をそれぞれ示す。
第16図は、抗体KM1468、sm1.2およびS1F2のhIGFおよびヒトインスリンによるヒト大腸癌細胞株HT−29の増殖に対する影響を示す。Aは各因子による細胞増殖活性を示す。横軸は各種因子濃度(ng/mL)、縦軸は増殖(OD450)を示す。○はhIGF−I、●はhIGF−II、□はヒトインスリンの活性をそれぞれ示す。BはhIGF−I、CはhIGF−II、Dはヒトインスリンによる増殖活性に対する各種抗体の影響を示す。横軸は抗体濃度(μg/mL)、縦軸は増殖(OD450)を示す。細点線は抗体非添加時の増殖を、点線は各因子非添加時の増殖を示す。○はKM1468、□はsm1.2、■はS1F2の活性をそれぞれ示す。
第17図は、抗体KM1468、sm1.2およびS1F2のhIGFおよびヒトインスリンによるヒト骨肉腫細胞株MG63の増殖に対する影響を示す。Aは各因子による細胞増殖活性を示す。横軸は各種因子濃度(ng/mL)、縦軸は増殖(OD450)を示す。○はhIGF−I、●はhIGF−II、□はヒトインスリンの活性をそれぞれ示す。BはhIGF−I、CはhIGF−II、Dはヒトインスリンによる増殖活性に対する各種抗体の影響を示す。横軸は抗体濃度(μg/mL)、縦軸は増殖(OD450)を示す。細点線は抗体非添加時の増殖を、点線は各因子非添加時の増殖を示す。○はKM1468、□はsm1.2、■はS1F2の活性をそれぞれ示す。
第18図は、抗体KM1468のhIGF−Iに対する結合における各種ペプチドによる阻害活性を示す。横軸は各種ペプチド濃度(μg/mL)、縦軸は結合活性(%)を示す。用いた各種ペプチドについては、図中に示した。
以下、本発明を詳細に説明する。本願は、2003年8月21日に出願された日本国特許出願2003−297871号、および2004年5月10日に出願された日本国特許出願2004−139707号の優先権を主張するものであり、該特許出願の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
A.本発明の癌転移阻害剤の有効成分
本発明の癌転移阻害剤の有効成分は、IGF−IおよびIGF−IIの活性を阻害する物質であればいかなるものでもよい。
IGF−IおよびIGF−IIの活性を阻害する物質は、単一の物質であってもよく、複数の物質からなる組成物であってもよく、複数の物質からなる組成物の場合にはそれぞれの物質を同時にまた別々に使用してもよい。
IGF−IおよびIGF−IIの活性を阻害する物質としては、
(a) IGF−IおよびIGF−IIに特異的に結合し、IGF−IおよびIGF−IIの活性を阻害する抗体または抗体断片
(b) IGF−Iに特異的に結合し、IGF−Iの活性を阻害する抗体または抗体断片、およびIGF−IIに特異的に結合し、IGF−IIの活性を阻害する抗体または抗体断片を含む組成物
(c) IGF−Iに特異的に結合し、IGF−Iの活性を阻害する抗体または抗体断片、およびIGF−IIに特異的に結合し、IGF−IIの活性を阻害する抗体または抗体断片を組み合わせてなる組成物
(d) IGF−Iに特異的に結合し、IGF−Iの活性を阻害する抗体または抗体断片、およびIGF−IIに特異的に結合し、IGF−IIの活性を阻害する抗体または抗体断片の複合体
(e)上記(a)〜(d)のいずれかと他分子を結合させた複合体
などがあげられる。
上記の「IGF−IおよびIGF−IIの活性を阻害する」とは、IGF−IおよびIGF−IIが有するいずれかの活性を阻害することをいうが、具体的には、IGF−IおよびIGF−IIが有する細胞増殖促進活性を阻害することがあげられる。
本発明で使用される「IGF−IおよびIGF−IIに特異的に結合し、IGF−IおよびIGF−IIの活性を阻害する抗体または抗体断片」とは、IGF−IとIGF−IIの両方に特異的に結合し、かつIGF−IとIGF−IIの両方の活性を阻害する抗体または抗体断片をいう。具体的には、天然型IGF−Iおよび天然型IGF−IIに存在するエピトープを認識する抗体または抗体断片、IGF−IおよびIGF−IIの立体構造を認識する抗体または抗体断片などがあげられる。
本発明で使用される上記の抗体または抗体断片は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のいずれであってもよいが、好ましくはモノクローナル抗体である。
また、上記の抗体または抗体断片には、「ヒト以外の動物の抗体」、「遺伝子組換え抗体」、それらの抗体断片なども含まれる。
ここで、「遺伝子組換え抗体」としては、ヒト化抗体、ヒト抗体などがあげられ、また、「ヒト化抗体」としては、ヒト型キメラ抗体、ヒト型CDR移植抗体などがあげられる。
「ヒト型キメラ抗体」とは、ヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLとヒト抗体のCHおよびCLとからなる抗体をいう。ヒト型キメラ抗体のCHとしては、ヒトイムノグロブリン(以下、hIgと表記する)に属すればいかなるものでもよいが、hIgGクラスのものが好適であり、さらにhIgGクラスに属するhIgG1、hIgG2、hIgG3、hIgG4といったサブクラスのいずれも用いることができる。また、ヒト型キメラ抗体のCLとしては、hIgに属すればいずれのものでもよく、κクラスあるいはλクラスのものを用いることができる。
また、ヒト以外の動物とは、マウス、ラット、ハムスター、ラビットなどをいう。
「ヒト型CDR移植抗体」とは、ヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのCDRをヒト抗体のVHおよびVLの適切な位置に移植した抗体をいう。
本発明のヒト型CDR移植抗体は、ヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのCDRを任意のヒト抗体のVHおよびVLのフレームワーク(以下、FRと表記する)と連結したV領域をコードするcDNAを設計、構築し、ヒト抗体のCHおよびCLをコードするcDNAを有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト型CDR移植抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入することにより発現させ、製造することができる。
ヒト型CDR移植抗体のCHとしては、hIgに属すればいかなるものでもよいが、hIgGクラスのものが好適であり、さらにhIgGクラスに属するhIgG1、hIgG2、hIgG3、hIgG4といったサブクラスのいずれも用いることができる。また、ヒト型CDR移植抗体のCLとしては、hIgに属すればいずれのものでもよく、κクラスあるいはλクラスのものを用いることができる。
「ヒト抗体」とは、元来、ヒト体内に天然に存在する抗体をいうが、最近の遺伝子工学的、細胞工学的、発生工学的な技術の進歩により作製されたヒト抗体ファージライブラリーおよびヒト抗体産生トランスジェニック動物から得られる抗体なども含まれる。ヒト体内に存在する抗体は、例えば、ヒト末梢血リンパ球を単離し、EBウイルスなどを感染させ不死化し、クローニングすることにより、該抗体を産生するリンパ球を単独で培養でき、培養上清中より該抗体を精製することができる。ヒト抗体ファージライブラリーは、ヒトB細胞から調製した抗体遺伝子をファージ遺伝子に挿入することによりFab、scFvなどの抗体断片をファージ表面に発現させたライブラリーである。該ライブラリーより、抗原を固定化した基質に対する結合活性を指標として所望の抗原結合活性を有する抗体断片を表面に発現しているファージを回収することができる。該抗体断片は、さらに、遺伝子工学的手法により2本の完全なH鎖および2本の完全なL鎖からなるヒト抗体分子へも変換することができる。ヒト抗体産生トランスジェニック動物は、ヒト抗体遺伝子が細胞内に組込まれた動物を意味する。具体的には、例えば、マウスES細胞へヒト抗体遺伝子を導入し、該ES細胞をマウスの初期胚へ移植後、発生させることによりヒト抗体産生トランスジェニックマウスを作製することができる。ヒト抗体産生トランスジェニック動物からのヒト抗体の作製方法は、通常のヒト以外の動物で行われているハイブリドーマ作製方法によりヒト抗体産生ハイブリドーマを取得し、培養することで培養上清中にヒト抗体を生成蓄積させることができる。
本発明において好ましく使用できる抗体または抗体断片としては、ハイブリドーマKM1468(FERM BP−7978)が生産するモノクローナル抗体KM1468、または、hIGF−Iに反応し、約40%hIGF−IIにも交差反応する抗hIGF−Iモノクローナル抗体sm1.2(Upstate Biology社)などがあげられる。
「IGF−Iに特異的に結合し、IGF−Iの活性を阻害する抗体または抗体断片、およびIGF−IIに特異的に結合し、IGF−IIの活性を阻害する抗体または抗体断片を含む組成物」としては、IGF−Iの活性を阻害する抗体または抗体断片のいずれかと、IGF−IIの活性を阻害する抗体または抗体断片のいずれかを含む組成物であればいかなるものでもよい。
ここで用いる「IGF−Iに特異的に結合し、IGF−Iの活性を阻害する抗体または抗体断片」とは、IGF−Iに特異的に結合するが、IGF−IIに特異的に結合しない(交差反応性がない)抗体をいい、例えば、マウスIGF−1(以下mIGF−Iと表記する)に対する抗体であるAF791(R&D社製)、ヒトIGF−I(以下hIGF−Iと表記する)に対するモノクローナル抗体である56408(R&D社製)、M23/ILG1−001(Biogenesis社製)などがあげられる。
また、「IGF−IIに特異的に結合し、IGF−IIの活性を阻害する抗体または抗体断片」とは、IGF−IIに特異的に結合するが、IGF−Iに特異的に結合しない(交差反応性がない)抗体をいい、例えば、mIGF−IIに対する抗体であるAF792(R&D社製)、hIGF−IIに対するモノクローナル抗体であるS1F2(Upstate Biology社製)などがあげられる。
また、「IGF−Iに特異的に結合し、IGF−Iの活性を阻害する抗体または抗体断片、およびIGF−IIに特異的に結合し、IGF−IIの活性を阻害する抗体または抗体断片を組み合わせてなる組成物」とは、「IGF−Iに特異的に結合し、IGF−Iの活性を阻害する抗体または抗体断片」を含む剤と、「IGF−IIに特異的に結合し、IGF−IIの活性を阻害する抗体または抗体断片」を含む剤を別々に調製し、これらの剤を組み合わせて同時にまたは逐次的に用いるための組成物をいう。
「IGF−Iに特異的に結合し、IGF−Iの活性を阻害する抗体または抗体断片、およびIGF−IIに特異的に結合し、IGF−IIの活性を阻害する抗体または抗体断片の複合体」としては、IGF−Iの活性を阻害する抗体または抗体断片のいずれかと、IGF−IIの活性を阻害する抗体または抗体断片のいずれかとを結合させることにより得られる複合体であればいかなるものでもよい。
具体的には、上記の二種類の抗体または抗体断片を下記の手段で結合させた抗体複合体があげられる。
抗体の結合方法としては、化学的に結合させる方法、または蛋白質工学的手法を用いる方法があげられる。
化学的に結合させる方法としては、二種類の抗体分子をN−succinimidyl−3−(2−pyridyldithiol)−propionateやS−acetylmercaptosuccinic acid anhydrideなどの架橋剤を用いて結合する方法などがあげられる。
蛋白質工学的な手法を用いる結合方法としては、蛋白質工学的手法を用いて複数個の抗体あるいは抗体断片を結合した形で発現させられる方法があれば、いかなる方法でも用いることができる。蛋白質工学的な手法と用いる結合方法で作製される抗体複合体としては、二種類のscFvを適当なリンカーを介して結合させた分子、二種類の抗体Fab’断片を適当なリンカーを介して結合させた分子、二種類のscFvをN末端とC末端に連結したFc融合蛋白質、二種類のscFvを連結したFc融合蛋白質のヘテロ分子、diabody、diabodyがN末端あるいはC末端に連結したFc融合蛋白質などがあげられる。
上述した抗体のいずれかと他分子を結合させた複合体としては、IGF−IおよびIGF−IIに特異的に結合し、IGF−IおよびIGF−IIの活性を阻害する抗体または抗体断片;IGF−Iに特異的に結合し、IGF−Iの活性を阻害する抗体または抗体断片、およびIGF−IIに特異的に結合し、IGF−IIの活性を阻害する抗体または抗体断片を含む組成物;IGF−Iに特異的に結合し、IGF−Iの活性を阻害する抗体または抗体断片、およびIGF−IIに特異的に結合し、IGF−IIの活性を阻害する抗体または抗体断片を組み合わせてなる組成物;IGF−Iに特異的に結合し、IGF−Iの活性を阻害する抗体または抗体断片、およびIGF−IIに特異的に結合し、IGF−IIの活性を阻害する抗体または抗体断片との複合体;のいずれかと少なくとも1種類の他分子を結合させることにより得られる複合体であればいかなるものでもよい。
他分子としては、例えば放射性同位元素、低分子の薬剤、高分子の化合物、蛋白質などがあげられる。放射性同位元素、低分子の薬剤、高分子の薬剤、蛋白質などの他分子と上述の抗体との結合方法としては、いかなる方法でもよいが、好ましくは化学的に結合させる方法(抗体工学入門、金光修著、地人書館、1994)、蛋白質工学的手法を用いる結合方法などがあげられる。
化学的な結合方法としては、抗体または抗体断片のH鎖あるいはL鎖のN末端側あるいはC末端側、抗体または抗体断片中の適当な置換基あるいは側鎖、さらには抗体または抗体断片中の糖鎖などに上記の他分子を結合させる方法である。
蛋白質工学的手法を用いる結合方法としては、抗体または抗体断片をコードするDNAと、結合させたい他分子、例えば蛋白質をコードするDNAを連結させて発現用ベクターに挿入し、該発現ベクターを適当な宿主細胞へ導入し、発現させることにより抗体または抗体断片と他分子を結合させた融合体を製造する方法をあげることができる。
放射性同位元素としては、131I、125Iなどがあげられ、例えば、クロラミンT法などにより抗体に結合させることができる。
低分子の薬剤としては、ナイトロジェン・マスタード、サイクロフォスファミドなどのアルキル化剤、5−フルオロウラシル、メソトレキセートなどの代謝拮抗剤、ダウノマイシン、ブレオマイシン、マイトマイシンC、ダウノルビシン、ドキソルビシンなどの抗生物質、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシンのような植物アルカロイド、タモキシフェン、デキサメタソンなどのホルモン剤などの抗癌剤(臨床腫瘍学、日本臨床腫瘍研究会編、癌と化学療法社、1996)、またはハイドロコーチゾン、プレドニゾンなどのステロイド剤、アスピリン、インドメタシンなどの非ステロイド剤、金チオマレート、ペニシラミンなどの免疫調節剤、サイクロフォスファミド、アザチオプリンなどの免疫抑制剤、マレイン酸クロルフェニラミン、クレマシチンのような抗ヒスタミン剤などの抗炎症剤(炎症と抗炎症療法、医歯薬出版株式会社、1982)などがあげられる。例えば、ダウノマイシンと抗体を結合させる方法としては、グルタールアルデヒドを介してダウノマイシンと抗体のアミノ基間を結合させる方法、水溶性カルボジイミドを介してダウノマイシンのアミノ基と抗体のカルボキシル基を結合させる方法などがあげられる。
高分子の化合物としては、ポリエチレングリコール(以下、PEGと表記する)、アルブミン、デキストラン、ポリオキシエチレン、スチレンマレイン酸コポリマー、ポリビニルピロリドン、ピランコポリマー、ヒドロキシプロピルメタクリルアミドなどがあげられる。これらの高分子化合物を抗体または抗体断片に結合させることにより、(1)化学的、物理的あるいは生物的な種々の因子に対する安定性の向上、(2)血中半減期の顕著な延長、(3)免疫原性の消失、抗体産生の抑制、などの効果が期待される(バイオコンジュゲート医薬品、廣川書店、1993)。例えば、PEGと抗体を結合させる方法としては、PEG化修飾試薬と反応させる方法などがあげられる(バイオコンジュゲート医薬品、廣川書店、1993)。PEG化修飾試薬としては、リジンのε−アミノ基の修飾剤(特開昭61−178926)、アスパラギン酸およびグルタミン酸のカルボキシル基の修飾剤(特公昭56−23587)、アルギニンのグアニジノ基の修飾剤(特開平2−117920)などがあげられる。
蛋白質としては、免疫担当細胞を活性化するサイトカイン、例えば、ヒトインターロイキン2、ヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、ヒトマクロファージコロニー刺激因子、ヒトインターロイキン12などがあげられる。また、癌細胞を直接障害する活性を有するリシンやジフテリア毒素などの毒素を用いることができる。例えば、蛋白質と抗体を結合させた複合体ついては、抗体または抗体断片をコードするcDNAに蛋白質をコードするcDNAを連結させ、複合体をコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物あるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、複合体を製造することができる。
本発明で使用される抗体断片としては、Fab、Fab’、F(ab’)、scFv、diabody、dsFvおよびCDRを含むペプチドなどがあげられる。
Fabは、IgG型抗体分子を蛋白質分解酵素パパインで処理して得られる断片のうち(H鎖の224番目のアミノ酸残基で切断される)、H鎖のN末端側約半分とL鎖全体がジスルフィド結合で結合した分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。
本発明で使用されるFabは、抗体を蛋白質分解酵素パパインで処理して得ることができる。または、該抗体のFabをコードするDNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、Fabを製造することができる。
F(ab’)は、IgG型抗体分子を蛋白質分解酵素ペプシンで処理して得られる断片のうち(H鎖の234番目のアミノ酸残基で切断される)、Fabがヒンジ領域のジスルフィド結合を介して結合されたものよりやや大きい、分子量約10万の抗原結合活性を有する抗体断片である。
本発明で使用されるF(ab’)は、抗体を蛋白質分解酵素ペプシンで処理して得ることができる。または、下記のFab’をチオエーテル結合あるいはジスルフィド結合させ、作製することができる。
Fab’は、上記F(ab’)のヒンジ領域のジスルフィド結合を切断した分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。
本発明で使用されるFab’は、F(ab’)を還元剤ジチオスレイトール処理して得ることができる。または、該抗体のFab’断片をコードするDNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、Fab’を製造することができる。
scFvは、1本のVHと1本のVLとを適当なペプチドリンカー(以下、Pと表記する)を用いて連結した、VH−P−VLないしはVL−P−VHポリペプチドで、抗原結合活性を有する抗体断片である。
本発明で使用されるscFvは、抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、scFvをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、scFvを製造することができる。
diabodyは、scFvが二量体化した抗体断片で、二価の抗原結合活性を有する抗体断片である。二価の抗原結合活性は、同一とすることもできるし、一方を異なる抗原結合活性とすることもできる。本発明で使用されるdiabodyは、抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、scFvをコードするDNAをリンカーのアミノ酸配列の長さが8残基以下となるように構築し、該DNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、diabodyを製造することができる。
dsFvは、VHおよびVL中のそれぞれ1アミノ酸残基をシステイン残基に置換したポリペプチドを該システイン残基間のジスルフィド結合を介して結合させたものをいう。システイン残基に置換するアミノ酸残基はReiterらにより示された方法(Protein Engineering,,697−704,1994)に従って、抗体の立体構造予測に基づいて選択することができる。本発明で使用されるdsFvは、抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、dsFvをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、dsFvを製造することができる。
CDRを含むペプチドは、VHまたはVLのCDRの少なくとも1領域以上を含んで構成される。複数のCDRを含むペプチドは、直接または適当なペプチドリンカーを介して結合させることができる。本発明で使用されるCDRを含むペプチドは、抗体のVHおよびVLのCDRをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、CDRを含むペプチドを製造することができる。また、CDRを含むペプチドは、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)などの化学合成法によって製造することもできる。
本発明で使用される抗体または抗体断片は、ELISA(Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Chapter 14,1988;Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,Academic Press Limited,1996)、IGF−IおよびIGF−IIによる細胞増殖に対する阻害活性(Cancer Research,48,4083−4092,1988)などを測定することにより、in vitroでのIGF−IおよびIGF−IIに対する結合活性、IGF−IおよびIGF−IIの活性を阻害する活性を評価することができる。
B.本発明の癌転移阻害剤の有効成分の作製
以下に、本発明で使用される抗体の一つである、IGF−IおよびIGF−IIに特異的に結合し、かつIGF−IおよびIGF−IIの活性を阻害する抗体または抗体断片の作製方法ならびに活性評価について記す。
1.IGFに対するヒト以外の動物のモノクローナル抗体の作製
(1)抗原の調製
IGFをコードするcDNAを含む発現ベクターを大腸菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞などに導入、発現させ、組換え型IGF蛋白質を得、これを抗原に用いることができる。あるいは、IGF部分配列を有する合成ペプチドを抗原に用いることもできる。
抗原用部分ペプチドとしては、5〜30残基程度の蛋白質部分配列が選択される。変性していない天然の構造を有している状態の該蛋白質を認識する抗体を取得するためには、立体構造上蛋白質の表面に存在している部分配列を抗原ペプチドとして選択する必要がある。立体構造上蛋白質表面に存在する部分は、ジェネティック・マック(Genetyx Mac)など市販の蛋白質配列解析ソフトを用い、親水性の高い部分配列を予測することで推測することができる。すなわち、一般的に親水性の低い部分は立体構造上蛋白質の内部に存在する場合が多く、親水性の高い部分は蛋白質表面に存在する場合が多いためである。また、蛋白質のN末端、C末端は蛋白質表面に存在する場合が多い。しかしながら、このように選択した部分ペプチドが目的通りの抗体を確立する抗原となるとは限らない。
部分ペプチドには蛋白質と架橋するために、システインを末端に付加する。蛋白質の内部配列を部分ペプチドとして選択した場合には、必要に応じペプチドのN末端はアセチル化、C末端はアミド化する。部分ペプチドは一般的な液相、固相ペプチド合成法およびそれらを適宜組み合わせる方法、またはそれらに準じる方法によって合成することができる(The Peptides,Analysis,Synthesis,Biology,Vol.1,1979;Vol.2,1980;Vol.3,1981,Academic Press;ペプチド合成の基礎と実験、丸善、1985;続医薬品の開発、第14巻、ペプチド合成、廣川書店、1991;International Journal of Peptide & Protein Research,35,161−214,1990)。また、自動ペプチド合成機を用いることもできる。ペプチド合成機によるペプチドの合成は、島津製作所製ペプチド合成機、Applied Biosystems,Inc.社(以下、ABI社と表記する)製ペプチド合成機、Advanced ChemTech Inc.社(以下、ACT社と表記する)製ペプチド合成機などの市販のペプチド合成機上で、適当に側鎖を保護したNα−Fmoc−アミノ酸あるいはNα−Boc−アミノ酸などを用い、それぞれの合成プログラムに従って実施することができる。
原料となる保護アミノ酸および担体樹脂は、ABI社、島津製作所、国産化学(株)、Nova Biochem社、渡辺化学(株)、ACT社またはペプチド研究所(株)などから入手することができる。また、原料となる保護アミノ酸、保護有機酸、保護有機アミンは報告されている合成法に従って、あるいはそれに準じて合成することができる(The Peptides,Analysis,Synthesis,Biology,Vol.1,1979;Vol.2,1980;Vol.3,1981,Academic Press;ペプチド合成の基礎と実験、丸善、1985;続医薬品の開発、第14巻、ペプチド合成、廣川書店、1991;International Journal of Peptide & Protein Research,35,161−214,1990)。
(2)動物の免疫と抗体産生細胞の調製
免疫に用いる動物としては、マウス、ラット、ハムスター、ラビットなどハイブリドーマを作製することが可能であれば、いかなるものでもよい。下記に、マウスおよびラットを用いる例について説明する。
3〜20週令のマウスまたはラットに、上記1(1)で調製した抗原を免疫し、その動物の脾臓、リンパ節、末梢血より抗体産生細胞を採取する。免疫は、動物の皮下、静脈内または腹腔内に適当なアジュバントとともに抗原を数回投与することにより行う。アジュバントとしては、フロインドの完全アジュバント(Complete Freund’s Adjuvant)または、水酸化アルミニウムゲルと百日咳菌ワクチンなどがあげられる。また、ウシ血清アルブミン(以下、BSAと表記する)やKeyhole Limpet Hemocyanin(以下、KLHと表記する)などのキャリア蛋白質とコンジュゲートを作製し、これを免疫原として用いることができる。各抗原の投与後3〜7日目に免疫動物の眼底静脈叢あるいは尾静脈より採血し、抗原として用いたhIGFに対する反応性をELISAなどで確認し、その血清が十分な抗体価を示したマウスまたはラットを抗体産生細胞の供給源とする。抗原の最終投与後3〜7日目に、免疫したマウスまたはラットより公知の方法(Antibodies−A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,1988)に準じて脾臓などを摘出し、抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合させる。
(3)骨髄腫細胞の調製
骨髄腫細胞としては、マウスから得られた株化細胞である8−アザグアニン耐性骨髄腫細胞株P3−X63Ag8−U1(P3−U1)(European Journal of Immunology,,511−519,1976)、SP2/0−Ag14(SP−2)(Nature,276,269−270,1978)、P3−X63−Ag8653(653)(Journal of Immunology,123,1548−1550,1979)、P3−X63−Ag8(X63)(Nature,256,495−497,1975)など、in vitroで増殖可能な骨髄腫細胞であればいかなるものでもよい。これらの細胞株の培養および継代については公知の方法(Antibodies−A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,1988)に従い、細胞融合時までに2×10個以上の細胞数を確保する。
(4)細胞融合
上記で得られた抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを洗浄したのち、ポリエチレングリコール−1000(以下、PEG−1000と表記する)などの細胞凝集性媒体を加え、細胞を融合させ、培地中に懸濁する。細胞の洗浄にはModified Eagle’s Medium(以下、MEMと表記する)またはPhosphate Buffered Saline(以下、PBSと表記する)などを用いる。また、融合細胞を懸濁する培地としては、目的の融合細胞のみを選択的に得られるように、HAT培地{通常培地[RPMI−1640培地に1.5mMグルタミン、50μM2−メルカプトエタノール、10μg/mLジェンタマイシンおよび10%牛胎児血清(以下、FBSと表記する)を加えた培地]に0.1mMヒポキサンチン、15μMチミジンおよび0.4μMアミノプテリンを加えた培地}を用いる。
培養後、培養上清の一部を取り、ELISAにより抗原蛋白質に反応し、非抗原蛋白質に反応しないサンプルを選択する。次いで、限界希釈法により単一細胞化を行い、ELISAにより安定して高い抗体価の認められたものをモノクローナル抗体産生ハイブリドーマとして選択する。
(5)ハイブリドーマの選択
抗hIGFモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの選択は、公知の方法(Antibodies−A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,1988)に従い、以下に述べるELISAにより行う。これらの方法により、後述する抗hIGFキメラ抗体、抗hIGF CDR移植抗体またはそれらの抗体断片を産生する形質転換株の培養上清中に含まれる抗体あるいはすべての精製抗体の結合活性を測定することができる。
ELISA
抗原を96穴ELISAプレートに固定化し、ハイブリドーマなどの培養上清あるいは精製抗体を第一抗体として反応させる。第一抗体反応後、プレートを洗浄して第二抗体を添加する。第二抗体としては、第一抗体を認識することができる抗体を、ビオチン、酵素、化学発光物質あるいは放射性同位元素などで標識した抗体を用いる。具体的にはハイブリドーマ作製の際にマウスを用いたのであれば、第二抗体としてはマウス抗体を認識できる抗体を用いる。反応後、第二抗体の標識物質に応じた反応を行ない、抗原に特異的に反応するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマとして選択する。
当該ハイブリドーマの具体例としては、ハイブリドーマKM1468などがあげられる。ハイブリドーマKM1468は、2002年3月26日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6 郵便番号 305−8566)にプタベスト条約の規定下でFERM BP−7978として寄託されている。
(6)モノクローナル抗体の精製
0.5mLのプリスタン(2,6,10,14−テトラメチルペンタデカン)を腹腔内投与し、2週間飼育した8〜10週令のマウスまたはヌードマウスに、1(4)で得られた抗hIGFモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ細胞5×10〜2×10細胞/匹を腹腔内に注射する。10〜21日間でハイブリドーマは腹水癌化する。該マウスまたはヌードマウスから腹水を採取し、遠心分離、40〜50%飽和硫酸アンモニウムによる塩析、カプリル酸沈殿法、DEAE−セファロースカラム、プロテインA−カラムあるいはセルロファインGSL2000(生化学工業社製)のカラムなどを用いて、IgGあるいはIgM画分を回収し、精製モノクローナル抗体とする。
精製モノクローナル抗体のサブクラスの決定は、マウスモノクローナル抗体タイピングキットまたはラットモノクローナル抗体タイピングキットなどを用いて行うことができる。蛋白質濃度は、ローリー法あるいは280nmでの吸光度より算出することができる。
抗体のサブクラスとは、クラス内のアイソタイプのことで、マウスでは、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、ヒトでは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4があげられる。
(7)モノクローナル抗体の活性評価
(7−1)hIGFへの結合活性評価
培養上清中あるいは精製した抗hIGFモノクローナル抗体のhIGFに対する結合活性は、上記1(5)のELISAおよび表面プラズモン共鳴(Journal of Immunological Methods,145,229−240,1991)などにより測定することができる。また、hIGFおよびhIGFの部分ペプチドを用いた競合ELISAにより、hIGFとの反応性および抗原エピトープを解析することができる。抗体がhIGFの立体構造を認識しているか否かは、通常行われる立体構造的解析法、あるいは種々の免疫学的測定法を組み合わせることにより、推測することができる。立体構造解析法としては、例えば、X線結晶解析、核磁気共鳴法などがあげられる。種々の免疫学的測定法を組み合わせる方法としては、例えば、非変性状態の抗原に対するELISA法と変性状態の抗原に対するELISA法を組み合わせる方法があげられる。このとき、非変性状態の抗原にのみ反応性を示す抗体は、抗原の立体構造を認識している可能性が高いものと推測できる。非変性状態の抗原に対するELISA法とは、液層中で非変性抗原と抗体を反応させるELISA法などがあげられる。変性状態の抗原に対するELISA法としては、抗原がもとの立体構造を保持していない状態で抗体を反応させるELISA法であればいずれでもよく、例えば、疎水性の反応プレート上に直接固定化した抗原や、適当な長さに消化した部分ペプチドなどに対するELISA法があげられる。
本発明の抗体は、該結合活性測定法または競合ELISAにより、hIGF−IIに対する結合活性とhIGF−Iに対する結合活性とを有する抗体を選択することにより取得することができる。
また、hIGF依存的な増殖を示す細胞株に対する影響を検討することにより、in vitroにおけるhIGFの活性を阻害する活性を測定することができる。hIGF−IまたはhIGF−II依存的な増殖を示す細胞株としては、ヒト乳癌細胞株MCF7(ATCC HTB−22)、ヒト大腸癌細胞株HT−29(ATCC HTB−38)、ヒト前立腺癌細胞株MDA PCa 2b(ATCC CRL−2422)などがあげられる。
さらに、マウスなどの動物を用いてhIGF依存的な細胞増殖測定系を確立し、該測定系に対する影響を検討することにより、in vivoにおけるhIGFの活性を阻害する活性を測定することができる。
(7−2)癌転移阻害活性評価
癌転移阻害活性の評価方法としては、Yonouら(Cancer Research,61,2177−2182,2001)のヒト前立腺癌のヒト骨への転移評価系等を用いる方法があげられる。
2.IGFに対するヒト以外の動物のポリクローナル抗体の作製
ポリクローナル抗体は、上記1.(2)に示された方法で免疫を施した動物のうち、その血清が十分な抗体価を示した動物の血清から調製することができる。
即ち、該動物から回収した血液から遠心分離法により分画した血清、あるいは該血清から常法に従って免疫グロブリン画分を精製し、ポリクローナル抗体を調製することができる。該ポリクローナル抗体の活性は、上記1.(7)に記載の方法により、抗原に対する結合活性を評価することができる。
3.ヒト化抗体の作製
(1)ヒト化抗体発現用ベクターの構築
ヒト化抗体発現用ベクターとしては、ヒト抗体のCHおよび/またはCLをコードする遺伝子が組み込まれた動物細胞用発現ベクターであればいかなるものでもよい。ヒト化抗体発現用ベクターは、動物細胞用発現ベクターにヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子をそれぞれクローニングすることにより構築することができる。
ヒト抗体のC領域は任意のヒト抗体のCHおよびCLであることができ、例えば、ヒト抗体のH鎖のIgG1サブクラスのC領域(以下、hCγ1と表記する)およびヒト抗体のL鎖のκクラスのC領域(以下、hCκと表記する)などがあげられる。ヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子としてはエキソンとイントロンからなる染色体DNAを用いることができ、また、cDNAを用いることもできる。
動物細胞用発現ベクターとしては、ヒト抗体のC領域をコードする遺伝子を組込み発現できるものであればいかなるものでも用いることができる。例えば、pAGE107(Cytotechnology,,133−140,1990)、pAGE103(Journal of Biochemistry,101,1307−1310,1987)、pHSG274(Gene,27,223−232,1984)、pKCR(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,78,1527−1531,1981)、pSG1βd2−4(Cytotechnology,,173−180,1990)などがあげられる。動物細胞用発現ベクターに用いるプロモーターとエンハンサーとしては、SV40の初期プロモーターとエンハンサー(Journal of Biochemistry,101,1307−1310,1987)、モロニーマウス白血病ウイルスのLTRプロモーターとエンハンサー(Biochemical & Biophysical Research Communications,149,960−968,1987)、イムノグロブリンH鎖のプロモーター(Cell,41,479−487,1985)とエンハンサー(Cell,33,717−728,1983)などがあげられる。
ヒト化抗体発現用ベクターは、抗体H鎖およびL鎖が別々のベクター上に存在するタイプあるいは同一のベクター上に存在するタイプ(以下、タンデム型と表記する)のどちらでも用いることができるが、ヒト化抗体発現ベクターの構築の容易さ、動物細胞への導入の容易さ、動物細胞内での抗体H鎖およびL鎖の発現量のバランスが均衡するなどの点からタンデム型のヒト化抗体発現用ベクターの方が好ましい(Journal of Immunological Methods,167,271−278,1994)。タンデム型のヒト化抗体発現用ベクターとしては、pKANTEX93(WO97/10354)、pEE18(Hybridoma,17,559−567,1998)などがあげられる。
構築したヒト化抗体発現用ベクターは、ヒト型キメラ抗体およびヒト型CDR移植抗体の動物細胞での発現に使用できる。
(2)ヒト以外の動物の抗体のV領域をコードするcDNAの取得およびアミノ酸配列の解析
ヒト以外の動物の抗体、例えば、マウス抗体のVHおよびVLをコードするcDNAは以下のようにして取得する。
マウス抗体などを産生するハイブリドーマよりmRNAを抽出し、cDNAを合成する。合成したcDNAをファージあるいはプラスミドなどのベクターにクローニングしてcDNAライブラリーを作製する。該ライブラリーより、マウス抗体のC領域部分あるいはV領域部分をプローブとして用い、VHをコードするcDNAを有する組換えファージあるいは組換えプラスミドおよびVLをコードするcDNAを有する組換えファージあるいは組換えプラスミドをそれぞれ単離する。組換えファージあるいは組換えプラスミド上の目的とするマウス抗体のVHおよびVLの全塩基配列を決定し、塩基配列よりVHおよびVLの全アミノ酸配列を推定する。
ヒト以外の動物としては、マウス、ラット、ハムスター、ラビットなど、ハイブリドーマを作製することが可能であれば、いかなるものも用いることができる。
ハイブリドーマから全RNAを調製する方法としては、チオシアン酸グアニジン−トリフルオロ酢酸セシウム法(Methods in Enzymology,154,3−28,1987)、また全RNAからmRNAを調製する方法としては、オリゴ(dT)固定化セルロースカラム法(Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Lab.Press New York,1989)などがあげられる。また、ハイブリドーマからmRNAを調製するキットとしては、Fast Track mRNA Isolation Kit(Invitrogen社製)、Quick Prep mRNA Purification Kit(Pharmacia社製)などがあげられる。
cDNAの合成およびcDNAライブラリー作製法としては、常法(Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Lab.Press New York,1989;Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1−34)、あるいは市販のキット、例えば、Super ScriptTM Plasmid System for cDNA Synthesis and Plasmid Cloning(GIBCO BRL社製)やZAP−cDNA Synthesis Kit(Stratagene社製)を用いる方法などがあげられる。
cDNAライブラリーの作製の際、ハイブリドーマから抽出したmRNAを鋳型として合成したcDNAを組み込むベクターは、該cDNAを組み込めるベクターであればいかなるものでも用いることができる。例えば、ZAP Express(Strategies,,58−61,1992)、pBluescript II SK(+)(Nucleic Acids Research,17,9494,1989)、λZAP II(Stratagene社製)、λgt10、λgt11(DNA Cloning:A Practical Approach,I,49,1985)、Lambda BlueMid(Clontech社製)、λExCell、pT7T3 18U(Pharmacia社製)、pcD2(Molecular & Cellular Biology,,280−289,1983)およびpUC18(Gene,33,103−119,1985)などのファージあるいはプラスミドベクターが用いられる。
ファージあるいはプラスミドベクターにより構築されるcDNAライブラリーを導入する大腸菌としては該cDNAライブラリーを導入、発現および維持できるものであればいかなるものでも用いることができる。例えば、XL1−Blue MRF’(Journal of Biotechnology,23,271−289,1992)、C600(Genetics,59,177−190,1968)、Y1088、Y1090(Science,222,778−782,1983)、NM522(Journal of Molecular Biology,166,1−19,1983)、K802(Journal of Molecular Biology,16,118−133,1966)およびJM105(Gene,38,275−276,1985)などが用いられる。
cDNAライブラリーからのヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLをコードするcDNAクローンの選択法としては、放射性同位元素あるいは蛍光標識したプローブを用いたコロニー・ハイブリダイゼーション法あるいはプラーク・ハイブリダイゼーション法(Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Lab.Press New York,1989)により選択することができる。また、プライマーを調製し、mRNAから合成したcDNAあるいはcDNAライブラリーを鋳型として、Polymerase Chain Reaction(以下、PCR法と表記する;Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Lab.Press New York,1989;Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1−34)によりVHおよびVLをコードするcDNAを調製することもできる。
上記方法により選択されたcDNAを、適当な制限酵素等で切断後、pBluescript SK(−)(Stratagene社製)などのプラスミドベクターにクローニングし、通常用いられる塩基配列解析方法、例えば、ジデオキシ法(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,74,5463−5467,1977)などの反応を行い、塩基配列自動分析装置ABI PRISM 377(ABI社製)などを用いて解析することで該cDNAの塩基配列を決定することができる。
決定した塩基配列からVHおよびVLの全アミノ酸配列を推定し、既知の抗体のVHおよびVLの全アミノ酸配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest,US Dept.Health and Human Services,1991)と比較することにより、取得したcDNAが分泌のためのシグナル配列を含む抗体のVHおよびVLの完全なアミノ酸配列をコードしているかを確認することができる。シグナル配列を含む抗体のVHおよびVLの完全なアミノ酸配列に関しては、既知の抗体のVHおよびVLの全アミノ酸配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest,US Dept.Health and Human Services,1991)と比較することにより、シグナル配列の長さおよびN末端アミノ酸配列を推定でき、さらにはそれらが属するサブグループを知ることができる。また、VHおよびVLの各CDRのアミノ酸配列についても、既知の抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest,US Dept.Health and Human Services,1991)と比較することによって見出すことができる。
さらに、VHおよびVLの完全なアミノ酸配列を用いて任意のデータベース、例えば、SWISS−PROTやPIR−Proteinなどに対してBLAST法(Journal of Molecular Biology,215,403−410,1990)などの配列の相同性検索を行い、配列の新規性を検討することができる。
(3)ヒト型キメラ抗体発現ベクターの構築
上記3(1)に記載のヒト化抗体発現用ベクターのヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子の上流に、ヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLをコードするcDNAをクローニングし、ヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築することができる。例えば、ヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを、ヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLの3’末端側の塩基配列とヒト抗体のCHおよびCLの5’末端側の塩基配列とから成り、かつ適当な制限酵素の認識配列を両端に有する合成DNAとそれぞれ連結し、それぞれを上記3(1)に記載のヒト化抗体発現用ベクターのヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子の上流にそれらが適切な形で発現するようにクローニングし、ヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築することができる。また、ヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを含むプラスミドを鋳型として、5’末端に適当な制限酵素の認識配列を有するプライマーを用いてPCR法によりVHおよびVLをコードするcDNAを増幅し、それぞれを上記3(1)に記載のヒト化抗体発現用ベクターのヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子の上流にそれらが適切な形で発現するようにクローニングし、ヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築することができる。
(4)ヒト型CDR移植抗体のV領域をコードするcDNAの構築
ヒト型CDR移植抗体のVHおよびVLをコードするcDNAは、以下のようにして構築することができる。まず、目的のヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのCDRのアミノ酸配列を移植するヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列を選択する。ヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列としては、ヒト抗体由来のものであれば、いかなるものでも用いることができる。例えば、Protein Data Bankなどのデータベースに登録されているヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列、ヒト抗体のVHおよびVLのFRの各サブグループの共通アミノ酸配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest,US Dept.Health and Human Services,1991)などがあげられるが、その中でも、十分な活性を有するヒト型CDR移植抗体を作製するためには、目的のヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列とできるだけ高い相同性(少なくとも60%以上)を有するアミノ酸配列を選択することが望ましい。次に、選択したヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列に目的のヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのCDRのアミノ酸配列を移植し、ヒト型CDR移植抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列を設計する。設計したアミノ酸配列を抗体の遺伝子の塩基配列に見られるコドンの使用頻度(Sequences of Proteins of Immunological Interest,US Dept.Health and Human Services,1991)を考慮して塩基配列に変換し、ヒト型CDR移植抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列をコードする塩基配列を設計する。設計した塩基配列に基づき、100塩基前後の長さからなる数本の合成DNAを合成し、それらを用いてPCR法を行う。この場合、PCRでの反応効率および合成可能なDNAの長さから、VH、VLとも6本の合成DNAを設計することが好ましい。
また、両端に位置する合成DNAの5’末端に適当な制限酵素の認識配列を導入することで、上記3(1)で構築したヒト化抗体発現用ベクターに容易にクローニングすることができる。PCR反応後、増幅産物をpBluescript SK(−)(Stratagene社製)などのプラスミドにクローニングし、上記3(2)に記載の方法により、塩基配列を決定し、所望のヒト型CDR移植抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するプラスミドを取得する。
(5)ヒト型CDR移植抗体のV領域のアミノ酸配列の改変
ヒト型CDR移植抗体は、目的のヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのCDRのみをヒト抗体のVHおよびVLのFRに移植しただけでは、その抗原結合活性は元のヒト以外の動物の抗体に比べて低下してしまうことが知られている(BIO/TECHNOLOGY,,266−271,1991)。この原因としては、元のヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLでは、CDRのみならず、FRのいくつかのアミノ酸残基が直接的あるいは間接的に抗原結合活性に関与しており、それらアミノ酸残基がCDRの移植に伴い、ヒト抗体のVHおよびVLのFRの異なるアミノ酸残基へと変化してしまうことが考えられている。この問題を解決するため、ヒト型CDR移植抗体では、ヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列の中で、直接抗原との結合に関与しているアミノ酸残基やCDRのアミノ酸残基と相互作用したり、抗体の立体構造を維持し、間接的に抗原との結合に関与しているアミノ酸残基を同定し、それらを元のヒト以外の動物の抗体に見出されるアミノ酸残基に改変し、低下した抗原結合活性を上昇させることが行われている(BIO/TECHNOLOGY,,266−271,1991)。ヒト型CDR移植抗体の作製においては、それら抗原結合活性に関わるFRのアミノ酸残基を如何に効率よく同定するかが、最も重要な点であり、そのためにX線結晶解析(Journal of Molecular Biology,112,535−542,1977)あるいはコンピューターモデリング(Protein Engineering,,1501−1507,1994)などによる抗体の立体構造の構築および解析が行われている。これら抗体の立体構造の情報は、ヒト型CDR移植抗体の作製に多くの有益な情報をもたらして来たが、その一方、あらゆる抗体に適応可能なヒト型CDR移植抗体の作製法は未だ確立されておらず、現状ではそれぞれの抗体について数種の改変体を作製し、それぞれの抗原結合活性との相関を検討するなどの種々の試行錯誤が必要である。
ヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸残基の改変は、改変用合成DNAを用いて上記3(4)に記載のPCR法を行うことにより、達成できる。PCR後の増幅産物について上記3(2)に記載の方法により、塩基配列を決定し、目的の改変が施されたことを確認する。
(6)ヒト型CDR移植抗体発現ベクターの構築
上記3(1)に記載のヒト化抗体発現用ベクターのヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子の上流に、上記3(4)および(5)で構築したヒト型CDR移植抗体のVHおよびVLをコードするcDNAをクローニングし、ヒト型CDR移植抗体発現ベクターを構築することができる。
例えば、上記3(4)および(5)でヒト型CDR移植抗体のVHおよびVLを構築する際に用いる合成DNAのうち、両端に位置する合成DNAの5’末端に適当な制限酵素の認識配列を導入することで、上記3(1)に記載のヒト化抗体発現用ベクターのヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子の上流にそれらが適切な形で発現するようにクローニングすることができる。
(7)ヒト化抗体の一過性発現
作製した多種類のヒト化抗体の抗原結合活性を効率的に評価するために、上記3(3)および(6)に記載のヒト化抗体発現ベクター、あるいはそれらを改変した発現ベクターを用いてヒト化抗体の一過性発現を行うことができる。発現ベクターを導入する宿主細胞としては、ヒト化抗体を発現できる宿主細胞であれば、いかなる細胞でも用いることができるが、その発現量の高さから、COS−7細胞(ATCC CRL−1651)が一般に用いられる(Methods in Nucleic Acids Research,CRC press,283,1991)。COS−7細胞への発現ベクターの導入法としては、DEAE−デキストラン法(Methods in Nucleic Acids Research,CRC press,283,1991)、リポフェクション法(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,84,7413−7417,1987)などがあげられる。
発現ベクターの導入後、培養上清中のヒト化抗体の発現量及び抗原結合活性はELISA(Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Chapter 14,1988;Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,Academic Press Limited,1996)などにより測定できる。
(8)ヒト化抗体の安定発現
上記3(3)および(6)に記載のヒト化抗体発現ベクターを適当な宿主細胞に導入することによりヒト化抗体を安定に発現する形質転換細胞を得ることができる。宿主細胞への発現ベクターの導入法としては、エレクトロポレーション法(Cytotechnology,,133−140,1990)などがあげられる。ヒト化抗体発現ベクターを導入する宿主細胞としては、ヒト化抗体を発現させることができる宿主細胞であれば、いかなる細胞でも用いることができる。例えば、マウスSP2/0−Ag14細胞(ATCC CRL−1581)、マウスP3X63−Ag8.653細胞(ATCC CRL−1580)、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(以下、dhfrと表記する)が欠損したCHO細胞(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,77,4216−4220,1980)、ラットYB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞(ATCC CRL−1662、以下、YB2/0細胞と表記する)などがあげられる。
発現ベクターの導入後、ヒト化抗体を安定に発現する形質転換体は、特開平2−257891に開示されている方法に従い、G418 sulfate(以下、G418と表記する)などの薬剤を含む動物細胞培養用培地で培養することにより選択できる。動物細胞培養用培地としては、RPMI1640培地(日水製薬社製)、GIT培地(日本製薬社製)、EX−CELL302培地(JRH社製)、IMDM(GIBCO BRL社製)、Hybridoma−SFM(GIBCO BRL社製)、またはこれら培地にFBSなどの各種添加物を添加した培地などを用いることができる。得られた形質転換細胞を培地中で培養することで培養上清中にヒト化抗体を発現蓄積させることができる。培養上清中のヒト化抗体の発現量および抗原結合活性は、ELISAにより測定できる。また、形質転換細胞は、特開平2−257891に開示されている方法に従い、dhfr増幅系などを利用してヒト化抗体の発現量を上昇させることができる。
ヒト化抗体は、形質転換細胞の培養上清よりプロテインAカラムを用いて精製することができる(Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Chapter 8,1988;Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,Academic Press Limited,1996)。また、その他に通常、蛋白質の精製で用いられる精製方法を使用することができる。例えば、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィーおよび限外濾過等を組み合わせて行い、精製することができる。精製したヒト化抗体のH鎖、L鎖あるいは抗体分子全体の分子量は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(以下、PAGEと表記する:Nature,227,680−685,1970)やウェスタンブロッティング法(Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Chapter 12,1988;Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,Academic Press Limited,1996)などで測定することができる。
(9)ヒト化抗体の活性評価
ヒト化抗体の活性評価は、上記1(7)と同様にして行うことができる。
4.抗体断片の作製
抗体断片は、上記1および2に記載の抗hIGF抗体をもとに遺伝子工学的手法あるいは蛋白質化学的手法により、作製することができる。
遺伝子工学的手法としては、目的の抗体断片をコードする遺伝子を構築し、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、大腸菌などの適当な宿主を用いて発現、精製を行うなどの方法があげられる。
蛋白質化学的手法としては、ペプシン、パパインなどの蛋白質分解酵素を用いた部位特異的切断、精製などの方法があげられる。
抗体断片として、Fab、F(ab’)、Fab’、scFv、diabody、dsFv、CDRを含むペプチドの製造法について以下に具体的に説明する。
(1)Fabの作製
Fabは、蛋白質化学的にはIgGを蛋白質分解酵素パパインで処理することにより、作製することができる。パパインの処理後は、元の抗体がプロテインA結合性を有するIgGサブクラスであれば、プロテインAカラムに通すことで、IgG分子やFc断片と分離し、均一なFabとして回収することができる(Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,third edition,1995)。プロテインA結合性を持たないIgGサブクラスの抗体の場合は、イオン交換クロマトグラフィーにより、Fabは低塩濃度で溶出される画分中に回収することができる(Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,third edition,1995)。また、Fabは遺伝子工学的には、多くは大腸菌を用いて、また、昆虫細胞や動物細胞などを用いて作製することができる。例えば、上記3(2)、3(4)および3(5)に記載の抗体のV領域をコードするDNAを、Fab発現用ベクターにクローニングし、Fab発現ベクターを作製することができる。Fab発現用ベクターとしては、Fab用のDNAを組み込み発現できるものであればいかなるものも用いることができる。例えば、pIT106(Science,240,1041−1043,1988)などがあげられる。Fab発現ベクターを適当な大腸菌に導入し、封入体あるいはペリプラズムにFabを生成蓄積させることができる。封入体からは、通常蛋白質で用いられるリフォールディング法により、活性のあるFabとすることができ、また、ペリプラズムに発現させた場合は、培養上清中に活性を持ったFabが漏出する。リフォールディング後あるいは培養上清からは、抗原を結合させたカラムを用いることにより、均一なFabを精製することができる(Antibody Engineering,A Practical Guide,W.H.Freeman and Company,1992)。
(2)F(ab’)の作製
F(ab’)は、蛋白質化学的にはIgGを蛋白質分解酵素ペプシンで処理することにより、作製することができる。ペプシンの処理後は、Fabと同様の精製操作により、均一なF(ab’)として回収することができる(Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,third edition,Academic Press,1995)。また、下記4(3)に記載のFab’をo−PDMやビスマレイミドヘキサンなどのようなマレイミドで処理し、チオエーテル結合させる方法や、DTNB[5,5’−dithiobis(2−nitrobenzoic acid)]で処理し、S−S結合させる方法によっても作製することができる(Antibody Engineering,A Practical Approach,IRL PRESS,1996)。
(3)Fab’の作製
Fab’は、上記4(2)に記載のF(ab’)をジチオスレイトールなどの還元剤で処理して得ることができる。また、Fab’は遺伝子工学的には、多くは大腸菌、また、昆虫細胞や動物細胞などを用いて作製することができる。例えば、上記3(2)、3(4)および3(5)に記載の抗体のV領域をコードするDNAを、Fab’発現用ベクターにクローニングし、Fab’発現ベクターを作製することができる。Fab’発現用ベクターとしては、Fab’用のDNAを組み込み発現できるものであればいかなるものも用いることができる。例えば、pAK19(BIO/TECHNOLOGY,10,163−167,1992)などがあげられる。Fab’発現ベクターを適当な大腸菌に導入し、封入体あるいはペリプラズムにFab’を生成蓄積させることができる。封入体からは、通常蛋白質で用いられるリフォールディング法により、活性のあるFab’とすることができ、また、ペリプラズムに発現させた場合は、リゾチームによる部分消化、浸透圧ショック、ソニケーションなどの処理により菌を破砕し、菌体外へ回収させることができる。リフォールディング後あるいは菌の破砕液からは、プロテインGカラムなどを用いることにより、均一なFab’を精製することができる(Antibody Engineering,A Practical Approach,IRL PRESS,1996)。
(4)scFvの作製
scFvは遺伝子工学的には、ファージまたは大腸菌、また、昆虫細胞や動物細胞などを用いて作製することができる。例えば、上記3(2)、3(4)および3(5)に記載の抗体のV領域をコードするDNAを、scFv発現用ベクターにクローニングし、scFv発現ベクターを作製することができる。scFv発現用ベクターとしては、scFvのDNAを組み込み発現できるものであればいかなるものも用いることができる。例えば、pCANTAB5E(Pharmacia社製)、pHFA(Human Antibodies & Hybridomas,,48−56,1994)などがあげられる。scFv発現ベクターを適当な大腸菌に導入し、ヘルパーファージを感染させることで、ファージ表面にscFvがファージ表面蛋白質と融合した形で発現するファージを得ることができる。また、scFv発現ベクターを導入した大腸菌の封入体あるいはペリプラズムにscFvを生成蓄積させることができる。封入体からは、通常蛋白質で用いられるリフォールディング法により、活性のあるscFvとすることができ、また、ペリプラズムに発現させた場合は、リゾチームによる部分消化、浸透圧ショック、ソニケーションなどの処理により菌を破砕し、菌体外へ回収することができる。リフォールディング後あるいは菌の破砕液からは、陽イオン交換クロマトグラフィーなどを用いることにより、均一なscFvを精製することができる(Antibody Engineering,A Practical Approach,IRL PRESS,1996)。
(5)diabodyの作製
diabodyは遺伝子工学的には、多くは大腸菌、また、昆虫細胞や動物細胞などを用いて作製することができる。例えば、上記3(2)、3(4)および3(5)に記載の抗体のVHとVLをリンカーがコードするアミノ酸残基が8残基以下となるように連結したDNAを作製し、diabody発現用ベクターにクローニングし、diabody発現ベクターを作製することができる。diabody発現用ベクターとしては、diabodyのDNAを組み込み発現できるものであればいかなるものも用いることができる。例えば、pCANTAB5E(Pharmacia社製)、pHFA(Human Antibodies Hybridomas,,48,1994)などがあげられる。diabody発現ベクターを導入した大腸菌の封入体あるいはペリプラズムにdiabodyを生成蓄積させることができる。封入体からは、通常蛋白質で用いられるリフォールディング法により、活性のあるdiabodyとすることができ、また、ペリプラズムに発現させた場合は、リゾチームによる部分消化、浸透圧ショック、ソニケーションなどの処理により菌を破砕し、菌体外へ回収することができる。リフォールディング後あるいは菌の破砕液からは、陽イオン交換クロマトグラフィーなどを用いることにより、均一なscFvを精製することができる(Antibody Engineering,A Practical Approach,IRL PRESS,1996)。
(6)dsFvの作製
dsFvは遺伝子工学的には、多くは大腸菌、また、昆虫細胞や動物細胞などを用いて作製することができる。まず、上記3(2)、3(4)および3(5)に記載の抗体のVHおよびVLをコードするDNAの適当な位置に変異を導入し、コードするアミノ酸残基がシステインに置換されたDNAを作製する。作製した各DNAをdsFv発現用ベクターにクローニングし、VHおよびVLの発現ベクターを作製することができる。dsFv発現用ベクターとしては、dsFv用のDNAを組み込み発現できるものであればいかなるものも用いることができる。例えば、pULI9(Protein Engineering,,697−704,1994)などがあげられる。VHおよびVLの発現ベクターを適当な大腸菌に導入し、封入体あるいはペリプラズムにdsFvを生成蓄積させることができる。封入体あるいはペリプラズムからVHおよびVLを得、混合し、通常蛋白質で用いられるリフォールディング法により、活性のあるdsFvとすることができる。リフォールディング後は、イオン交換クロマトグラフィーおよびゲル濾過などにより、さらに精製することができる(Protein Engineering,,697−704,1994)。
(7)CDRペプチドの作製
CDRを含むペプチドは、Fmoc法あるいはtBoc法等の化学合成法によって作製することができる。また、CDRを含むペプチドをコードするDNAを作製し、作製したDNAを適当な発現用ベクターにクローニングし、CDRペプチド発現ベクターを作製することができる。発現用ベクターとしては、CDRペプチドをコードするDNAを組み込み発現できるものであればいかなるものも用いることができる。例えば、pLEX(Invitrogen社製)、pAX4a(Invitrogen社製)などがあげられる。発現ベクターを適当な大腸菌に導入し、封入体あるいはペリプラズムにを生成蓄積させることができる。封入体あるいはペリプラズムからCDRペプチドを得、イオン交換クロマトグラフィーおよびゲル濾過などにより、精製することができる(Protein Engineering,,697−704,1994)。
(8)抗体断片の活性評価
精製した抗体断片の活性評価は、上記1(7)と同様にして行うことができる。
C.本発明の癌転移阻害剤
IGF−IおよびIGF−IIの活性を阻害する物質、具体的には、上記のようにして調製されるIGF−IおよびIGF−IIに特異的に結合し、IGF−IおよびIGF−IIの活性を阻害する抗体または抗体断片は、癌転移阻害作用を有するため癌転移阻害剤として有用である。また、該抗体または抗体断片は癌の転移先の転移巣において、転移後増殖を開始し、病態が進行してしまった転移巣に対して、病態の進行を抑制する活性を有するため、転移巣の治療剤としても有用である。
本発明の癌転移阻害剤の対象疾患としては原発巣から転移することが統計的に頻度が高いものであれば特に限定はされないが、各種悪性及び良性腫瘍、例えば、悪性黒色腫、悪性リンパ腫、消化器癌、肺癌、食道癌、胃癌、大腸癌、直腸癌、結腸癌、尿管腫瘍、胆嚢癌、胆管癌、胆道癌、乳癌、肝臓癌、膵臓癌、睾丸腫瘍、上顎癌、舌癌、口唇癌、口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、卵巣癌、子宮癌、前立腺癌、甲状腺癌、脳腫瘍、カポジ肉腫、血管腫、白血病、真性多血症、神経芽腫、網膜芽腫、骨髄腫、膀胱腫、肉腫、骨肉腫、筋肉腫、皮膚癌などがあげられる。
本発明の癌転移阻害剤は、特に、「hIGF依存性増殖癌」の転移に有効である。「hIGF依存性増殖癌」とは、hIGF存在下で増殖し、hIGF濃度に依存して増殖度が増加する癌のことをいい、たとえば前立腺癌、大腸癌、乳癌、骨肉腫などがあげられる。
上記の各種悪性及び良性腫瘍が転移する先の転移巣としては、ヒトの器官において癌の転移が認められる器官であればいかなる器官も包含される。これらの器官のうち、転移がよく認められる器官としては、例えば、肝臓、腎臓、胃、大腸、膵臓、乳腺、前立腺、膀胱、肺、気管支、脳、神経、リンパ節、副腎、骨などがあげられる。
本発明の癌転移阻害剤は、「hIGF依存性増殖癌」の転移に有効であるため、上記の各器官のうち、hIGFが器官内に存在している器官への癌転移に特に有効であり、このようなhIGFが器官内に存在している器官としては、例えば、肝臓、骨などがあげられる。
癌転移としては、血管やリンパ管を介した他所性転移以外に、血管やリンパ管を介さない同所性転移なども本発明の癌転移に包含される。
本発明の具体的な癌転移としては、例えば、前立腺癌の骨転移、大腸癌の肝転移、乳癌の骨転移、または多発性骨髄腫などの骨髄腫の骨転移などがあげられる。
本発明の癌転移阻害剤は、有効成分であるIGF−IおよびIGF−IIの活性を阻害する物質(以下、阻害物質と記す)である抗体または抗体断片を単独で含むものであってもよいが、通常は薬理学的に許容される一つあるいはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られる任意の方法により製造した医薬製剤として提供するのが望ましい。好ましくは水、あるいは食塩、グリシン、グルコース、ヒトアルブミン等の水溶液等の水性担体に溶解した無菌的な溶液が用いられる。また、製剤溶液を生理的条件に近づけるための緩衝化剤や等張化剤のような、薬理学的に許容される添加剤、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化カリウム、クエン酸ナトリウム等を添加することもできる。また、凍結乾燥して貯蔵し、使用時に適当な溶媒に溶解させて用いることもできる。
本発明の癌転移阻害剤の投与経路は、治療に際し最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口投与、あるいは口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内および静脈内等の非経口投与をあげることができるが、静脈内投与が好ましい。
経口投与に適当な製剤としては、乳剤、シロップ剤、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤等があげられる。例えば乳剤およびシロップ剤のような液体調製物は、水、ショ糖、ソルビトール、果糖等の糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、ごま油、オリーブ油、大豆油などの油類、p−ヒドロキシ安息香酸エステル類等の防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミント等のフレーバー類等を添加剤として用いて製造できる。カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤等は、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニトール等の賦形剤、デンプン、アルギン酸ナトリウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン等の結合剤、脂肪酸エステル等の界面活性剤、グリセリン等の可塑剤等を添加剤として用いて製造できる。
非経口投与に適当な製剤としては、注射剤、座剤、噴霧剤等があげられる。例えば、注射剤は、塩溶液、ブドウ糖溶液、あるいは両者の混合物からなる担体等を用いて調製する。座剤はカカオ脂、水素化脂肪またはカルボン酸等の担体を用いて調製される。また、噴霧剤は該阻害物質そのもの、ないしは受容者の口腔および気道粘膜を刺激せず、かつ該阻害物質を微細な粒子として分散させ吸収を容易にさせる担体等を用いて調製する。担体として具体的には乳糖、グリセリン等が例示される。該阻害物質および用いる担体の性質により、エアロゾル、ドライパウダー等の製剤が可能である。また、これらの非経口剤においても経口剤で添加剤として例示した成分を添加することもできる。
本発明の癌転移阻害剤の投与量または投与回数は、目的とする治療効果、投与方法、治療期間、年齢、体重等により異なるが、通常成人1日当たり10μg/kg〜10mg/kgである。
本発明の癌転移阻害剤の投与対象は、原発巣または転移巣が同時、またはそれぞれ単独で臨床的に確認される癌患者であり、外科療法、化学療法、放射線療法、その他全ての癌の治療法の施療の有無を問わない。
原発巣のみが臨床的に認められている癌患者であっても、原発巣以外の部位に臨床的に発見が困難な転移がある場合がある。このような臨床的に発見が困難な転移は、原発巣の治療後に、癌の再発の原因となる。本発明の癌転移阻害剤は、癌の転移巣に有効であるため、転移後の再発の予防剤としても使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を何ら限定するものでない。
(実施例1) 抗hIGF抗体KM1468による前立腺癌細胞株の骨転移阻害効果の検討
(1)hIGF−Iによるヒト前立腺癌細胞株MDA PCa 2b細胞の増殖に対する影響
癌転移阻害試験に先立ち、ヒト前立腺癌細胞株MDA PCa 2b(ATCC CRL−2422)細胞の増殖が、hIGF−Iにより影響を受けるかを調べた。
1ウェルあたり5×10個のMDA PCa 2b細胞を6ウェルプレートに播種し、20%ウシ胎児血清(SIGMA社製)を含んだF12K(+)培地{F12K(SIGMA社製)に、25ng/mLコレラトキシン(List Biological Laboratories社製)、10ng/mL組換えヒト上皮成長因子(Invitrogen社製)、100pg/mLヒドロコルチゾン(SIGMA社製)、0.1nMジヒドロテストステロン(SIGMA社製)、1/100容量ITS−Xサプリメント(×100)(Gibco BRL社製)を添加したもの}を用いて、37℃、5%COインキュベーター中で静置培養した。48時間の培養後、各ウェルの培地に、無添加、または1、10あるいは100ng/mLのhIGF−I(R&D社製)をそれぞれ添加した無血清F12K培地(SIGMA社製)に交換した。37℃、5%COインキュベーター中で、無血清培地に交換してから48時間静置培養した後、細胞を回収してトリパンブルー染色により各ウェルの生細胞数を測定した。結果を第1図に示した。
第1図に示したように、MDA PCa 2b細胞はhIGF−I濃度依存的に増殖が促進されることが明らかとなった。
(2)hIGF−I依存的な細胞増殖に対する抗hIGF抗体KM1468の影響
前項(1)で記載したhIGF−I依存的に増殖するMDA PCa 2b細胞を用いて、hIGF−Iの依存的な細胞増殖が、抗hIGF抗体KM1468(以下、抗体KM1468と記す)により影響を受けるかを調べた。抗体KM1468は、後記参考例1に従って調製した。
実施例1(1)と同様にMDA PCa 2b細胞を37℃、5%COインキュベーター中で48時間培養した後、100ng/mLのhIGF−I(R&D社製)および最終濃度0、0.1、1、10μg/mL抗体KM1468をそれぞれ添加した無血清F12K培地に交換し、37℃、5%COインキュベーター中で、静置培養した。無血清培地に交換してから48時間後、細胞を回収してトリパンブルー染色により各ウェルの生細胞数を測定した。結果を第1図に示した。
第1図に示したように、抗体KM1468はhIGF−I依存的なMDA PCa 2b細胞の増殖を阻害した。また、その増殖阻害活性は、抗体KM1468濃度依存的であった。また、ネガティブコントロールである抗体KM1762(抗アベルメクチン抗体)は増殖を全く阻害しなかった。
(3)抗体KM1468による前立腺癌細胞株の骨転移阻害効果および転移巣に対する治療効果の検討
ヒト前立腺癌細胞株MDA PCa 2b細胞のヒト骨への転移モデルを用いて、抗hIGF抗体の骨転移阻害効果および転移巣に対する治療効果を検討した。
Yonouらの手法(Cancer Research,61,2177−2182,2001)に従って調製した約1cmのヒト骨組織片を、6−8週齢のNOD/SCIDマウス(日本クレア)に皮下移植した。ヒト骨組織片の移植から4週間経過後、ヒト前立腺癌細胞株MDA PCa 2b細胞を4×10個/mLになるように無血清培地に懸濁し、細胞懸濁液100μLを移植したヒト骨組織片に注入した。初期転移モデルでは、ヒト前立腺癌細胞株MDA PCa 2b細胞の移植と同時に抗体の投与を開始した。一方、進行転移モデルでは、ヒト前立腺癌細胞株MDA PCa 2b細胞の移植から4週間経過した時点で抗体の投与を開始した。
各モデルにおけるマウスを、抗体KM1468を投与したマウス群(以下、処置群と表記する)、陰性対象として抗体KM1762(抗アベルメクチン抗体)を投与したマウス群(以下、無処置群と表記する)とに分けて、各群のマウスに抗体の投与を1回/週、4週間の腹腔内投与で行った。処置群での一回当たりの抗体KM1468投与量は、初期転移モデルでは0.01、0.1または2mg/kgとし、進行転移モデルでは0.1、2または10mg/kgとした。無処置群での一回当たりの抗体KM1762投与量は、初期転移モデルでは2mg/kgとし、進行転移モデルでは10mg/kgとした。同時試験数は、処置群、無処置群共にそれぞれ9〜10匹のマウスを用いて行った。両モデルとも、投与を開始してから4週間後に移植した骨組織の摘出し、同時に全採血を行った。
摘出したヒト骨組織を切片化し、骨組織中の腫瘍細胞が占める面積を、KS 300system version 2.00画像解析装置(CarlZeiss社製)を用いて解析した。また採取した血液から血清画分を分取し、前立腺癌の血清腫瘍マーカーである前立腺特異的抗原(以下、PSAと表記する)濃度を、ラジオイムノアッセイキット(Hybritech社製)を用いて測定した。
初期転移モデルのマウスから摘出したヒト骨組織に占める転移腫瘍細胞の面積の割合を第2図Aに示し、進行転移モデルのマウスから摘出したヒト骨組織に占める転移腫瘍細胞の面積の割合を第2図Cに示した。初期転移モデル(第2図A)の無処置群では、ヒト骨組織に占める腫瘍面積の割合は6%だったが、同モデルの処置群では、無処置群と比較して投与した抗体量依存的に腫瘍面積の割合が減少していた。2mg/kgの最大投与量では、腫瘍面積の割合は無処置群と比較して約1/20に減少していた。同様に、進行転移モデル(第2図C)においても、無処置群では骨組織内の腫瘍面積の割合が38%であったが、同モデルの処置群では、無処置群と比較して投与した抗体量依存的に腫瘍面積の割合が減少していた。10mg/kgの最大投与量では、腫瘍面積の割合は無処置群と比較して約1/4に減少していた。
初期転移モデルのマウスの血清PSA濃度を第2図Bに、進行転移モデルのマウスの血清PSA濃度を第2図Dに示した。初期転移モデル(第2図B)の無処置群では、血清PSA濃度が約5ng/mLであったが、同モデルの処置群では無処置群と比較して投与した抗体量依存的に血清PSAが減少していた。2mg/kgの最大投与量では、血清PSAは無処置群と比較して約1/10に減少していた。同様に、進行転移モデル(第2図D)においても、無処置群では血清PSA濃度が約45ng/mLであったが、同モデルの処置群では無処置群と比較して投与した抗体量依存的に血清PSAが減少しており、10mg/kgの最大投与量では、血清PSAは無処置群と比較して約1/2に減少していた。
以上のことから、抗体KM1468は、マウス体内に移植されたヒト骨組織へのヒト前立腺癌細胞株MDA PCa 2b細胞の生着を阻害するだけでなく、生着後、時間が経過し、増殖してしまった癌細胞の増殖を阻害する活性を有していることが示された。従って、抗体KM1468は前立腺癌の骨転移を阻害するのみならず、転移巣に対しても有効な治療効果を有することが明らかとなった。
(実施例2) 抗体KM1468による多発性骨髄腫細胞株の骨転移阻害効果の検討
(1)hIGF−I刺激によるヒト多発性骨髄腫細胞株RPMI8226細胞への影響
骨転移阻害効果試験に先立ち、ヒト多発性骨髄腫細胞株であるRPMI8226細胞(ATCC CCL−155)に対するhIGF−I刺激による影響をウェスタンブロッティング(Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Chaptor12,1988)により調べた。このとき、それぞれリン酸化されたIGF−IR、Akt(別称:Protein Kinase B)およびMitogen−Activated Protein Kinase(以下、MAPKと記す)に特異的に反応する抗体を用いて、IGF−IR、AktおよびMAPKのリン酸化を検出した。
各6×10個のRPMI8226細胞を無血清条件下で24時間培養した後、hIGF−I(R&D社製)をそれぞれ0、1または10ng/mLの濃度で添加して、30分間の刺激を与えた。刺激後の細胞は冷却したリン酸緩衝液にて洗浄後回収し、200μLのlysis buffer[150mM NaCl、1mM MgCl、1%NP40、10%glycerol、8μLのcomplete protease inhibitor mixture(1 tablet/ml HO)、1mM sodium orthovanadateおよび10mM NaFを添加した20mM Tris−HCl緩衝液(pH7.6)]に溶解して氷上で30分間静置した後、遠心分離により上清を回収し、蛋白抽出を行った。
抽出したタンパク質は、SDS−PAGEにより分画した後、定法に従ってメンブレンに転写し、各種抗体との反応性をウェスタンブロッティング(Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Chaptor12,1988)により検討した。
リン酸化されたIGF−IR、AktまたはMAPKを認識する抗体として、それぞれ、抗リン酸化IGF−IRポリクローナル抗体(BioSource International社製)、抗リン酸化Akt抗体(Cell Signaling Technology社製)または抗リン酸化MAPK抗体(Cell Signaling Technology社製)を、リン酸化および非リン酸化の区別無くIGF−IR、AktまたはMAPKを認識する抗体として、それぞれ、抗IGF−IRβ抗体(Santa Cruz Biotechnology社製)、抗Akt抗体(Cell Signaling Technology社製)または抗MAPK抗体(Cell Signaling Technology社製)を用いた。結果を第3図に示した。
第3図に示したように、hIGF−Iによる刺激により、hIGF−IRおよびAktのリン酸化が亢進した(第3図のレーン1、6および7)。一方、hIGF−IR、Akt、リン酸化MAPKおよびMAPKの発現変動は認められなかった。
このことは、hIGF−Iによる刺激が、MAPKを介する細胞増殖シグナルではなく、リン酸化されたIGF−IRからAktのリン酸化を介した細胞生存シグナルを伝達することを示している。
(2)hIGF−Iの刺激に対する抗体KM1468の阻害効果の検討
前項(1)に記述したウェスタンブロッティングにより、hIGF−Iの刺激に対する抗体KM1468の阻害効果を検討した。抗体KM1468またはネガティブコントロール抗体であるKM1762(抗アベルメクチン抗体)は、無血清条件下でhIGF−I添加前に添加した。抗体KM1762は1μg/mLの濃度で、抗体KM1468は0.1、1または10μg/mLの濃度で添加した。結果を第3図に示した。
第3図に示したように、抗体KM1762ではリン酸化は抑制されない(第3図のレーン8)が、抗体KM1468は濃度依存的にhIGF−I刺激によるhIGF−IRおよびAktのリン酸化を抑制できることが確認された(第3図のレーン9〜11)。
同様にRPMI8226細胞を用いて、hIGF−I刺激による細胞増殖に対する抗体KM1468の増殖阻害効果をトリパンブルー染色による生細胞数測定により、検討した。
無血清培地RPMI1640(GIBCO社製)で培養したRPMI8226細胞を1ウェルあたり2×10個で6ウェルプレートに播種し、各ウェルに、hIGF−I(R&D社製)を無添加、もしくは1ng/mLの濃度で添加し、さらに、ネガティブコントロール抗体である抗体KM1762または抗体KM1468を1μg/mLの濃度で添加した。37℃、5%COインキュベーター中で静置培養し、24時間毎に生細胞数の測定を行い、96時間後まで計測した。結果を第4図に示した。
第4図に示されるように、72時間と96時間では、hIGF−Iで刺激された細胞の増殖は、抗体KM1468によって抑制されることが有意差を持って示された(p<0.0001)。
さらに、同様の実験において、抗体KM1468の濃度を段階的に変更し、96時間静置培養した後の生細胞数を測定した結果を第5図に示した。
第5図に示されるように、抗体KM1468の濃度依存的にRPMI8226細胞の増殖は抑制されることが確認された。
以上のことから、抗体KM1468はhIGF−I刺激によるhIGF−IRからAktのリン酸化を介した細胞生存シグナルを阻害することにより、hIGF−I依存的な増殖を示す多発性骨髄腫細胞株RPMI8226細胞の増殖を阻害できることが示された。
(3)抗体KM1468による多発性骨髄腫細胞株の骨転移阻害効果の検討
ヒト多発性骨髄腫細胞株RPMI8226細胞を用いてヒト骨での腫瘍形成モデルを作製し、抗体KM1468の骨内での腫瘍形成に対する抑制効果の検討を行った。
Yonouらの手法(Cancer Research,61,2177−2182,2001)に従って作製した約1cmのヒト骨組織片を、6−8週齢のNOD/SCIDマウス(日本クレア)に皮下移植した。ヒト骨組織片の移植から4週間経過後、ヒト多発性骨髄腫細胞株RPMI8226細胞を1×10個/mLになるようにリン酸緩衝液に懸濁し、細胞懸濁液50μLを移植したヒト骨組織片に注入した。さらにヒト多発性骨髄腫細胞株RPMI8226細胞の移植と同時に抗体KM1468の投与を開始した。
抗体の効果を判定するために抗体KM1468を投与したマウス群(以下、処置群と表記する)、陰性対象として抗体KM1762を投与したマウス群(以下、対照処置群と表記する)とに分けて、各群のマウスに週1回の割合で4週間に渡って抗体の腹腔内投与を行った。処置群での1回当たりの抗体KM1468の投与量は、0.1または1mg/kgとした。対照処置群での1回当たりの抗体KM1762の投与量は0.1mg/kgとした。試験数は、処置群ではそれぞれ10匹、対照処置群では5匹のマウスを用いて行った。投与を開始してから4週間後に移植した骨組織を摘出し、以下の方法で抗体KM1468の投与効果の判定を行った。
摘出したヒト骨組織を切片化し、骨組織中の腫瘍細胞が占める面積を、KS 300system version 3.00画像解析装置(Carl Zeiss社製)を用いて解析した。結果は第6図に示した。
第6図に示したように、対照処置群では、ヒト骨組織に占める腫瘍面積の平均値は18.52±9.173mm/cmであったのに対して、処置群では0.1mg/kgの濃度で抗体KM1468を投与した場合では、2.530±0.9064mm/cm(p=0.0260)であり、また1mg/kgの濃度で抗体KM1468を投与した場合では、1.890±1.098mm/cm(p=and 0.0226)といずれも対照処置群と比較して腫瘍面積の減少が認められた。
以上のことから、抗体KM1468は、マウス体内に移植されたヒト骨組織でのヒト多発性骨髄腫細胞株RPMI8226細胞の生着、増殖を阻害することができ、hIGF−I依存的な多発性骨髄腫の骨転移を阻害できることが示された。
(実施例3) 抗体KM1468による乳腺癌細胞株の骨転移巣に対する治療効果の検討
抗hIGF抗体KM1468の乳癌骨転移巣に対する治療効果を、ヒト乳腺癌細胞株MCF7(ATCC HTB−22)細胞のヒト骨への転移モデルを用いて検討した。ヒト乳腺癌細胞株MCF7は、参考例2の(3)で示されるように、hIGF依存的な増殖を示す細胞株である。
Yonouらの手法(Cancer Research,61,2177−2182,2001)に従って調製した約400mmのヒト骨組織片を、6−8週齢のNOD/SCIDマウス(日本クレア)に皮下移植した。ヒト骨組織片の移植から4週間経過後、ヒト乳腺癌細胞株MCF7細胞を1×10個/mLになるように無血清培地に懸濁し、細胞懸濁液50μLを移植したヒト骨組織片に注入した。さらに、ヒト乳腺癌細胞株MCF7細胞の移植と同時に抗体の投与を開始した。
抗体KM1468を投与したマウス群(以下、処置群と表記する)、陰性対象として抗体KM1762を投与したマウス群(以下、対照処置群と表記する)とに分けて、各群のマウスに週1回の割合で、4週間に渡って抗体の腹腔内投与を行った。処置群および対照処置群での一回当たりの抗体の投与量は2mg/kgとした。同時試験数は、処置群、対照処置群共にそれぞれ12匹のマウスを用いて行った。いずれの群においても、抗体の投与を開始してから4週間後に移植した骨組織を摘出した。
摘出したヒト骨組織を切片化し、骨組織中の腫瘍細胞が占める面積を、KS 300system version 2.00画像解析装置(CarlZeiss社製)を用いて解析した。結果は第7図に示した。
第7図に示したように、対照処置群では、ヒト骨組織に占める腫瘍面積は平均2.70mmだったが、処置群では、対照処置群と比較して腫瘍面積は平均0.85mmと約30%に減少した。以上のことから、抗体KM1468は、マウス体内に移植されたヒト骨組織におけるヒト乳腺癌細胞株MCF7細胞の生着増殖を阻害することができ、hIGF−I依存的な乳癌の骨転移を阻害できることが示された。
(実施例4) 抗mIGF−I抗体および抗mIGF−II抗体による、大腸癌肝臓転移阻害効果
抗mIGF抗体のヒト大腸癌細胞株HT29(ATCC HTB−38)細胞の肝臓への転移抑制効果を確認するため、マウスを用いて以下の実験を行った。
HT29細胞を2×10個/mLになるようにPBSに懸濁し、該懸濁液200μLを9−10週齢のオスのNOD/SCIDマウス(日本クレア)の脾臓の被膜下に注入して移植した。HT29細胞の移植と同時に、各マウスを各種処置群および無処置群からなる以下の5群に分け、抗体およびPBSの投与を行った。併せて、各群の同時再現数を示した。
1.無処置群(PBS投与);10匹
2.抗mIGF−I抗体(R&D社製 AF791)単独投与群;8匹
3.抗mIGF−II抗体(R&D社製 AF792)単独投与群;6匹
4.抗mIGF−I抗体(R&D社製 AF791)と抗mIGF−II抗体(R&D社製 AF792)併用投与群;7匹
5.抗mIGF−I抗体(R&D社製 AF791)と抗体KM1468併用投与群;7匹
投与は、HT29細胞の移植同日より開始し、1回/週で4週間にわたり腹腔内に施した。処置群における一回当たりの投与量は、各抗体が一匹当たり2.5μgとなるようにし、無処置群には同容量のPBSを投与した。HT29細胞は、腫瘍マーカーである癌胎児性抗原(以下、CEAと表記する)を分泌するため、マウス血清中のCEA値をアーキテクトTM.CEAキット(ダイナボット社製)を用いて測定し、肝臓における腫瘍細胞の増殖の指標とした。
第8図には、腫瘍移植後28日目のマウス血清中のCEA値を示した。無処置群と比べて、それぞれ抗mIGF−I抗体または抗mIGF−II抗体の単独投与群では、腫瘍増殖を部分的に抑制した。一方、抗mIGF−I抗体と抗mIGF−II抗体の併用投与群および抗mIGF−I抗体と抗体KM1468併用投与群は、各抗体の単独投与群に比べて、顕著な腫瘍の増殖抑制活性を示した。抗体KM1468はヒトのIGF−IおよびIGF−IIを中和する抗体であるが、マウスIGFファミリーに対してはIGF−IIを選択的に中和する活性を示すことから、抗体KM1468はmIGF−IIに対する中和抗体として機能していると考えられる。以上のことから、腫瘍細胞の転移には、IGF−IおよびIGF−IIの両者が関与しており、腫瘍の抑制に対してIGF−IおよびIGF−IIの両方の活性を同時に阻害することが効果的であることが明らかとなった。
さらに、抗mIGF−I抗体と抗体KM1468併用投与群の腫瘍増殖抑制活性の機構を解析する目的で、上記の無処置群および抗mIGF−I抗体と抗体KM1468併用投与群について腫瘍移植後28日目のマウスの肝臓の転移病巣より腫瘍切片を作製し、免疫組織化学的検討を行なった。肝臓を切除後、30%ホルマリンで固定後、パラフィン包埋し、厚さ5μmの切片を作製した。切片をH&E染色(病理標本の作り方、病理技術研究会編、1992)およびEnVisonシステム(DAKO社製)を用いて抗cleaved caspase−3抗体(Cell Signaling Technology社製、200倍希釈で使用)で染色した。検出にあたっては、切片をクエン酸緩衝液(pH6.0)中でマイクロウェーブ処理(95℃、20分)を行い、抗原を賦活化して用いた。その結果、H&E染色で抗mIGF−I抗体と抗体KM1468併用投与群において、無処置群と比べて多数のアポトーシス小体が観察され、また、抗cleaved caspase−3抗体で染色されるアポトーシス細胞の増加が認められた。
アポトーシス誘導の指標(apoptosis index:AI)として、1000個の腫瘍細胞あたりのcleaved caspase−3陽性細胞の割合(%)を求め、グラフ化した結果を第9図に示した。無処置群と比べて、処置群では有意なアポトーシス細胞の増加が認められた。以上の結果から、IGF−IおよびIGF−IIの両方の活性を同時に阻害することにより、腫瘍細胞のアポトーシスが誘導され、腫瘍増殖が抑制されることが明らかとなった。
(実施例5) 抗mIGF−I抗体および抗mIGF−II抗体による、大腸癌の肝臓での転移病巣に対する治療効果
抗mIGF抗体のヒト大腸癌細胞株HT29(ATCC HTB−38)細胞の肝臓での転移病巣に対する治療効果を確認するため、マウスを用いて以下の実験を行った。
HT29細胞を2×10個/mLになるようにPBSに懸濁し、該懸濁液200μLを9−10週齢のオスのNOD/SCIDマウス(日本クレア)の脾臓の被膜下に注入して移植した。HT29細胞の移植2週間後、肝臓に転移が成立後に、マウスを以下の処置群、無処置群に分け、抗体およびPBSの投与を行った。併せて、各群の同時再現数を示した。
1.無処置群(PBS投与);8匹
2.処置群(抗mIGF−I抗体と抗体KM1468併用投与群);9匹
抗体はHT29細胞の移植2週間後より投与を開始し、1回/週、4週間の腹腔内投与を行った。処置群における一回当たりの投与量は、マウス体重1g当たり、抗mIGF−I抗体(R&D社製 AF791)が0.1μg、抗体KM1468が1μgとし、無処置群には同容量のPBSを投与した。マウス血清中のCEA値をアーキテクトTM.CEAキット(ダイナボット社製)を用いて測定し、肝臓における腫瘍細胞の増殖の指標とした。
第10図Aには、投与開始後28日目のマウス血清中のCEA値を示した。無処置群と比べて、処置群は、優位な腫瘍の増殖抑制効果が認められた。第10図Bには、マウスの累積生存率を示した。投与開始後41日目に無処置群では全マウスが死亡したが、処置群では優位な延命効果が確認され、実験終了時の42日目で4匹が生存していた。以上のことから、IGF−IおよびIGF−IIの両方の活性を同時に阻害することが、肝臓における大腸癌の転移病巣に対して有効な治療効果を示し、また、IGF−IおよびIGF−IIの両方の活性を同時に阻害する治療法は延命効果があることが明らかとなった。
(参考例1) 抗hIGFモノクローナル抗体の作製
(1)動物の免疫と抗体産生細胞の調製
組換え型hIGF−I(R&D社製)は、免疫原性を高める目的で以下の方法でメチル化BSA(SIGMA社製)とのコンジュゲートを作製し、免疫原とした。すなわち、2回蒸留水に溶解したメチル化BSAを、メチル化BSA:hIGF−I=1:4(重量比)になるように4℃で混合し、10秒間ボルテックスミキサーで攪拌した。その後、連結針付きシリンジを用いて完全フロインドアジュバントあるいは不完全フロインドアジュバントと容量比1:1で混合し、免疫原(以下、メチル化BSA−hIGF−Iと表記する)とした。
5週令雌SDラットに、完全フロインドアジュバントを用いて上記のように調製したメチル化BSA−hIGF−I(hIGF−Iの100μg相当量)を投与し、2週間後より不完全フロインドアジュバントを用いて同様に調製した免疫原を1週間に1回、計4回投与した。
眼底静脈叢より採血し、その血清中の抗体価を参考例1(4)に示す結合ELISAで調べ、十分な抗体価を示したラットから最終免疫3日後に脾臓を摘出した。
脾臓をMEM培地(日水製薬社製)中で細断し、ピンセットでほぐし、遠心分離(1200rpm、5分間)した後、上清を捨て、トリス−塩化アンモニウム緩衝液(pH7.65)で1〜2分間処理し、赤血球を除去し、MEMで3回洗浄し、細胞融合に用いた。
(2)マウス骨髄腫細胞の調製
8−アザグアニン耐性マウス骨髄腫細胞株P3−U1を通常培地で培養し、細胞融合時に2×10以上の細胞を確保し、細胞融合に親株として供した。
(3)ハイブリドーマの作製
参考例1(1)で得られたラット脾細胞と(2)で得られた骨髄腫細胞とを10:1になるよう混合し、遠心分離(1200rpm、5分間)した後、上清を捨て、沈澱した細胞に37℃で攪拌しながら、10個のラット脾細胞あたり0.2〜1.0mLの融合培地(2gのPEG−1000、2mLのMEM、0.7mLのジメチルスルホキシドの混液)を加え、1〜2分間毎に1〜2mLのMEMを数回加えた後、さらに、MEMを加えて全量が50mLになるようにした。遠心分離(900rpm、5分間)した後、上清を捨て、緩やかに細胞をほぐした後、100mLのHAT培地に懸濁した。
この懸濁液を96ウェル培養用プレートに100μL/ウェルずつ分注し、5%COインキュベーター中、37℃で10〜14日間培養した。この培養上清を参考例1(4)に示す結合ELISAを用いて、メチル化BSA−hIGF−Iに反応して、陰性対照であるメチル化BSA−BSA[BSAを用いて上記参考例1(1)と同様の反応を行い作製したコンジュゲート]に反応しないウェルを選び、さらにHT培地と通常培地に換え、2回の単一細胞化を行い、抗hIGF−Iモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを確立した。
その結果、第11図に示した反応性を有するKM1468、KM1469、KM1470、KM1471、KM1472およびKM1473の6クローンのハイブリドーマを取得した。各ハイブリドーマが産生する抗体のサブクラスを、サブクラスタイピングキットを用いたELISAにより検討した結果、いずれもIgG2bであった。
(4)モノクローナル抗体の選択(結合ELISA)
ELISAプレートに固定化する抗原としては、参考例1(1)で作製したメチル化BSA−hIGF−Iおよび陰性対照としてメチル化BSA−BSAを用いた。96ウェルELISAプレート(Greiner社製)に、上述の抗原をhIGF−IあるいはBSAの濃度として10μg/mLで50μL/ウェルで分注し、4℃で一晩放置して吸着させた。PBSで洗浄後、1%BSAを含むPBS(以下、BSA−PBSと表記する)を100μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させて残存する活性基をブロックした。BSA−PBSを捨て、被免疫ラット抗血清、抗hIGF−Iモノクローナル抗体産生ハイブリドーマの培養上清あるいは精製した抗hIGF−Iモノクローナル抗体を50μL/ウェルで分注し、室温で2時間反応させた。反応後、各ウェルを0.05%Tween 20を含むPBS(以下、Tween−PBSと表記する)で洗浄後、4000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識ウサギ抗ラットIg抗体(DAKO社製)を二次抗体として50μL/ウェルで加えて室温で1時間反応させた。反応後、Tween−PBSで洗浄後、ABTS基質液[2,2’−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)アンモニウムの0.55gを1Lの0.1Mクエン酸緩衝液(pH4.2)に溶解し、使用直前に過酸化水素水を1μL/mLで添加した溶液]を50μL/ウェルで加えて発色させ、415nmの吸光度(以下、OD415と表記する)をプレートリーダーEmax(Molecular Devices社製)を用いて測定した。
(5)モノクローナル抗体の精製
プリスタン処理した8週令Balb/cヌード雌マウスに参考例1(3)で得られたハイブリドーマクローンを5〜20×10細胞/匹でそれぞれ腹腔内注射した。10〜21日後に、ハイブリドーマが腹水癌化したマウスから、腹水を採取(1〜8mL/匹)し、遠心分離(3000rpm、5分間)して固形分を除去した。その後、カプリル酸沈殿法(Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,1988)によりIgG画分を精製し、精製モノクローナル抗体とした。
(参考例2) 抗hIGFモノクローナル抗体の反応性の検討
(1)hIGF−Iの天然の立体構造に対する反応性
参考例1(3)で選択された抗hIGFモノクローナル抗体の液相系における天然の立体構造を保つhIGF−Iに対する反応性を、下記に示す競合ELISAで調べた。
参考例1(4)に示した、参考例1(1)で作製したメチル化BSA−hIGF−Iを固定化したプレートを準備し、20μg/mLより5倍希釈で段階的に希釈したhIGF−Iを50μL/ウェルで分注後、抗hIGFモノクローナル抗体の精製抗体を希釈した溶液(KM1468:6.0μg/mL、KM1470:1.0μg/mL、KM1471:0.16μg/mL、KM1472:7.0μg/mL、KM1473:1.2μg/mL)を50μL/ウェルで分注し、混合して室温で2時間反応させた。反応後、Tween−PBSで洗浄後、4000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識ウサギ抗ラットIg抗体(DAKO社製)を50μL/ウェルで加えて室温で1時間反応させた。反応後、Tween−PBSで洗浄後、ABTS基質液[2,2’−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)アンモニウムの0.55gを1Lの0.1Mクエン酸緩衝液(pH4.2)に溶解し、使用直前に過酸化水素水を1μL/mLで添加した溶液]を50μL/ウェルで加えて発色させ、OD415をプレートリーダーEmax(Molecular Devices社製)を用いて測定した。
第12図に示したように、本発明の6種の抗hIGFモノクローナル抗体はいずれもhIGF−Iの天然の立体構造に反応性を示した。また、本系において、最も高い感度を示したKM1468を用いた場合、液相系に含まれる16ng/mLまでの濃度の天然の立体構造を有するhIGF−Iを検出可能であった。
(2)抗hIGFモノクローナル抗体のhIGFファミリーに対する反応性
精製した抗hIGFモノクローナル抗体KM1468(以下、抗体KM1468と記す)のhIGFに対する反応性を検討した。第13図に、参考例1(4)に示した結合ELISAにより、抗体KM1468および市販の抗hIGF−I抗体であるsm1.2(Upstate biotechnology社製)のhIGF−Iとの反応性を検討した結果を示した(抗体濃度は、30μg/mLから3倍希釈で段階的に希釈)。ただし、sm1.2の場合は、二次抗体として2000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識ウサギ抗マウスIg抗体(DAKO社製)を用いた。第13図に示したように、いずれの抗体も抗体濃度依存的なhIGF−I結合活性を示したが、その活性の強さは、抗体KM1468の方が高かった。
次に、各抗体のhIGF−Iに対する結合におけるhIGF−I(Pepro Tech EC社製)、hIGF−II(Pepro Tech EC社製)、ヒトインスリン(和光純薬社製)およびmIGF−I(Pepro Tech EC社製)による阻害活性を以下に示した競合ELISAで検討した。
参考例1(4)に示したように抗原を固定化したプレートを準備し、4.0μg/mLに希釈した各種抗体を50μL/ウェルで分注後、20μg/mLより3倍希釈で段階的に希釈したhIGF−IあるいはhIGF−II、または、10μg/mLより5倍希釈で段階的に希釈したヒトインスリンあるいはmIGF−Iを50μL/ウェルで分注し、混合して室温で1時間反応させた。反応後、Tween−PBSで洗浄後、KM1468の場合は、4000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識ウサギ抗ラットIg抗体(DAKO社製)、sm1.2の場合は、2000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識ウサギ抗マウスIg抗体(DAKO社製)を50μL/ウェルで加えて室温で1時間反応させた。反応後、Tween−PBSで洗浄後、ABTS基質液[2,2’−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)アンモニウムの0.55gを1Lの0.1Mクエン酸緩衝液(pH4.2)に溶解し、使用直前に過酸化水素水を1μL/mLで添加した溶液]を50μL/ウェルで加えて発色させ、OD415をプレートリーダーEmax(Molecular Devices社製)を用いて測定した。結果は、抗体のみを添加した時のOD415を100として相対値(%)で表示した。結果を第14図に示した。第14図に示したように、抗体KM1468のhIGF−Iに対する結合は、hIGF−I(第14図A)およびhIGF−II(第14図B)で強く阻害され、hIGF−Iによる結合の50%阻害の濃度(inhibition concentration 50;以下、IC50と表記する)は約0.3μg/mL(約39nM)、hIGF−IIによるIC50は約0.4μg/mL(約58nM)と同程度の値を示した。一方、ヒトインスリンおよびmIGF−Iでは阻害は認められなかった。以上の結果から、抗体KM1468は、hIGF−IとhIGF−IIの両方に特異的、かつ同程度の強さで反応することが明らかとなった。市販の抗IGF−I抗体であるsm1.2のhIGF−Iに対する結合は、hIGF−I(第14図A)により強く阻害され、hIGF−II(第14図B)による阻害活性は弱かった。sm1.2のhIGF−IによるIC50は約1.2μg/mL(約156nM)であったのに対し、hIGF−IIによるIC50は>10μg/mL(>1.45μM)であった。一方、ヒトインスリンおよびmIGF−Iでは阻害は認められなかった。
(3)抗hIGFモノクローナル抗体のhIGF依存性細胞増殖に対する影響
精製した抗体KM1468のhIGF依存性細胞増殖に対する影響を検討した。抗体としては、KM1468、市販の抗hIGF−I抗体であるsm1.2(Upstate biotechnology社製)および市販の抗hIGF−II抗体であるS1F2(Upstate biotechnology社製)を用いた。
ヒト乳癌細胞株MCF7(ATCC HTB−22)、ヒト大腸癌細胞株HT−29(ATCC HTB−38)あるいはヒト骨肉腫細胞株MG−63(ATCC CRL−1427)をTF/BSA培地[D−MEM/F−12(Gibco BRL社製)に10μg/mLのヒトトランスフェリン(Gibco BRL社製)、200μg/mLのBSAを添加した培地]で0.5〜1×10細胞/mLに調製し、96ウェル培養用プレートに100μL/ウェルで分注した。さらに、TF/BSA培地で各種濃度に希釈したhIGF−I、hIGF−IIあるいはヒトインスリンの各因子を50μL/ウェルで、TF/BSA培地で各種濃度に希釈した各抗体を50μL/ウェルで添加し、37℃、5%COインキュベーター内で5日間培養した。培養後、細胞増殖試薬WST−1(Roche社製)を20μL/ウェルで分注し、さらに、37℃、5%COインキュベーター内で2.5〜4時間培養した後に、OD450nmの吸光度(以下、OD450と表記する)をプレートリーダーEmax(Molecular Devices社製)を用いて測定した。
第15図Aには、ヒト乳癌細胞株MCF7の各因子による増殖曲線を示した。さらに、第15図Bには、40ng/mLのhIGF−I存在下、第15図Cには、100ng/mLのhIGF−IIの存在下、第15図Dには、100ng/mLのヒトインスリン存在下での、各抗体添加時の増殖を示した。第15図に示したように、KM1468は、hIGF−IおよびhIGF−IIによる細胞増殖を同程度に強く阻害し、その活性は、市販の抗hIGF−I抗体であるsm1.2および市販の抗hIGF−II抗体であるS1F2よりも高かった。一方、ヒトインスリンによる増殖に対しては、いずれの抗体も影響を与えなかった。以上の結果は、参考例2(2)の競合ELISAで認められた各抗体の結合特異性と良く相関しており、また、各抗体の結合により、hIGF−IおよびhIGF−IIの活性が阻害されることを明確に示したものである。
第16図Aには、ヒト大腸癌細胞株HT−29の各因子による増殖曲線を示した。さらに、第16図Bには、10ng/mLのhIGF−I存在下、第16図Cには、10ng/mLのhIGF−IIの存在下、第16図Dには、20ng/mLのヒトインスリン存在下での、各抗体添加時の増殖を示した。
第16図に示したように、KM1468は、hIGF−IおよびhIGF−IIによる細胞増殖を同程度に強く阻害し、その活性は、市販の抗hIGF−I抗体であるsm1.2および市販の抗hIGF−II抗体であるS1F2よりも高かった。一方、ヒトインスリンによる増殖に対しては、いずれの抗体も影響を与えなかった。以上の結果は、参考例2(2)の競合ELISAで認められた結合特異性と良く相関しており、また、各抗体の結合により、hIGF−IおよびhIGF−IIの活性が阻害されることを明確に示したものである。さらに、第16図BのKM1468、第16図CのKM1468およびS1F2を反応させた場合には、hIGF−IおよびhIGF−IIを添加しない場合よりも細胞増殖が抑制された。このことから、HT−29細胞は、自らhIGF−IおよびhIGF−IIを産生して増殖しており、その増殖効果も抗体の添加によって阻害できることが明らかとなった。
第17図Aには、ヒト骨肉腫細胞株MG−63の各因子による増殖曲線を示した。さらに、第17図Bには、20ng/mLのhIGF−I存在下、第17図Cには、20ng/mLのhIGF−IIの存在下、第17図Dには、20ng/mLのヒトインスリン存在下での、各抗体添加時の増殖を示した。第17図に示したように、KM1468は、hIGF−IおよびhIGF−IIによる細胞増殖を同程度に強く阻害し、その活性は、市販の抗hIGF−I抗体であるsm1.2および市販の抗hIGF−II抗体であるS1F2よりも高かった。一方、ヒトインスリンによる増殖に対しては、いずれの抗体も影響を与えなかった。以上の結果は、参考例2(2)の競合ELISAで認められた結合特異性と良く相関しており、また、各抗体の結合により、各因子の機能が阻害されることを明確に示したものである。
(参考例3)抗hIGFモノクローナル抗体の抗原認識部位の解析
(1)hIGF−Iの部分ペプチドの合成
WO01/64754に記載の方法に従って、hIGF−Iの部分ペプチドを合成した。合成したペプチドは、hIGF−Iの1−18番目(配列番号1;以下、p1−18と表記する)、14−30番目(配列番号2;以下、p14−30と表記する)、24−35番目(配列番号3;以下、p24−35と表記する)、29−41番目(配列番号4;以下、p29−41と表記する)、36−47番目(配列番号5;以下、p36−47と表記する)、41−56番目(配列番号6;以下、p41−56と表記する)、52−70番目(配列番号7;以下、p52−70と表記する)、53−61番目(配列番号8;以下、p53−61と表記する)、61−70番目(配列番号9;以下、p61−70と表記する)に相当するペプチドであり、hIGF−Iの全長を網羅するように設計した。上記ペプチドにおいては、内部に存在するCysについては、SerあるいはAlaに置換した配列を合成した。また、41−56番目に相当する配列については、内部のCysを有する配列(配列番号10;以下、p41−56Cと表記する)も合成した。
(2)抗hIGFモノクローナル抗体の抗原認識部位の解析
上記(1)で合成した各種ペプチドを用いて、抗hIGFラット抗体KM1468の抗原認識部位の解析を以下に示す競合ELISAで検討した。
参考例1(4)に示したように抗原を固定化したプレートを準備し、4.0μg/mLに希釈した各種抗体を50μL/ウェルで分注後、50μg/mLより3倍希釈で段階的に希釈した各種ペプチド溶液の単独あるいは種々の組合せ、あるいはhIGF−Iを50μL/ウェルで分注し、混合して室温で1時間反応させた。反応後、Tween−PBSで洗浄後、4000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識ウサギ抗ラットIg抗体(DAKO社製)を50μL/ウェルで加えて室温で1時間反応させた。反応後、Tween−PBSで洗浄後、ABTS基質液[2,2’−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)アンモニウムの0.55gを1Lの0.1Mクエン酸緩衝液(pH4.2)に溶解し、使用直前に過酸化水素水を1μL/mLで添加した溶液]を50μL/ウェルで加えて発色させ、OD415をプレートリーダーEmax(Molecular Devices社製)を用いて測定した。結果は、抗体のみを添加した時のOD415を100とした相対値(%)で表示した。結果を第18図に示した。第18図に示したように、KM1468のhIGF−Iに対する結合は、hIGF−Iにより濃度依存的に阻害されたが、各種ペプチドでは、単独あるいは組合せに拘わらず、阻害活性は認められなかった。以上の結果は、KM1468が、hIGF−Iの単なるアミノ酸一次配列ではなく、hIGF−Iの立体構造を認識していることを強く示唆する結果である。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書に組み入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
本発明の癌転移阻害剤は、前立腺癌の骨転移や大腸癌の肝転移などの癌転移を有意に阻害することができるので、癌治療のための医薬として臨床上極めて有用である。
また、本発明の癌転移阻害剤は、転移巣の腫瘍細胞の増殖抑制に特に有効であるので、癌転移の症状がはっきり現れていない患者へ予防的に投与することもできる。さらに、転移巣の腫瘍細胞の増殖抑制ができるため、病態が進行した転移巣に対する治療剤としても有効に用いることができる。
【配列表】





【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インスリン様成長因子−I(IGF−I)およびインスリン様成長因子−II(IGF−II)の活性を阻害する物質を有効成分として含有する癌転移阻害剤。
【請求項2】
物質が、以下の(a)〜(e)からなる群より選ばれる、請求項1に記載の阻害剤。
(a) IGF−IおよびIGF−IIに特異的に結合し、IGF−IおよびIGF−IIの活性を阻害する抗体または抗体断片
(b) IGF−Iに特異的に結合し、IGF−Iの活性を阻害する抗体または抗体断片、およびIGF−IIに特異的に結合し、IGF−IIの活性を阻害する抗体または抗体断片を含む組成物
(c) IGF−Iに特異的に結合し、IGF−Iの活性を阻害する抗体または抗体断片、およびIGF−IIに特異的に結合し、IGF−IIの活性を阻害する抗体または抗体断片を組み合わせてなる組成物
(d) IGF−Iに特異的に結合し、IGF−Iの活性を阻害する抗体または抗体断片、およびIGF−IIに特異的に結合し、IGF−IIの活性を阻害する抗体または抗体断片の複合体
(e) 上記(a)〜(d)のいずれかと他分子を結合させた複合体
【請求項3】
抗体がモノクローナル抗体である、請求項2に記載の阻害剤。
【請求項4】
抗体断片が、Fab、Fab’、F(ab’)、一本鎖抗体(scFv)、二量体化可変領域(Diabody)、ジスルフィド安定化可変領域(dsFv)およびCDRを含むペプチドからなる群から選ばれる抗体断片である、請求項2又は3に記載の阻害剤。

【国際公開番号】WO2005/018671
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【発行日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513375(P2005−513375)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012330
【国際出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000001029)協和醗酵工業株式会社 (276)
【出願人】(590001452)国立がんセンター総長 (80)
【Fターム(参考)】