説明

癌遺伝子治療薬

本発明の癌遺伝子治療薬は、生体のCTL反応を誘導するために投与される免疫処置用ウイルスと、投与前にオンコリティックウイルスを感染させ、同ウイルスを生体の腫瘍細胞に作用させるためのキャリアー細胞とを組み合わせたものである。キャリアー細胞には例えばA549細胞を使用することができる。また、免疫処置用ウイルスには例えば紫外線照射により不活化した非増殖型アデノウイルスを、オンコリティックウイルスには例えば腫瘍特異的プロモーターを有する増殖型アデノウイルスを、それぞれ使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌遺伝子治療薬、および同治療薬を用いた癌遺伝子治療方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、癌治療に関し、遺伝子治療が注目されており、これまでにも様々な遺伝子治療法が提案され、臨床試験が行われている。このうち、キャリアー細胞を使用した遺伝子治療については、Freemanらによって臨床試験が行われている。この遺伝子治療は、レトロウイルスによってHSV−tk遺伝子を導入した卵巣癌細胞PA−1をキャリアー細胞に使用するものであり、卵巣癌治療、さらに悪性中皮腫治療のための臨床試験が行われている(後述の非特許文献1・2参照)。一方、Culverらは、キャリアー細胞にマウスNIH−3T3細胞を使用して脳腫瘍に対する臨床試験を行っている(後述の非特許文献3参照)。しかし、ヒトへの癌治療の適用を考慮すると、キャリアー細胞にはヒト由来細胞を使用することが要請される。
【0003】
卵巣癌細胞PA−1をキャリアー細胞に使用した遺伝子治療は、Coukosらによっても行われている(後述の非特許文献4参照)。この遺伝子治療は、腫瘍細胞において特異的に増殖するオンコリティックウイルス(oncolytic virus)を構築し、同ウイルスをキャリアー細胞(プロデューサー細胞)に感染させた後、このキャリアー細胞を腫瘍部位に投与するというものである。オンコリティックウイルスには単純ヘルペスウイルス1型(HSV−1)が用いられ、ヌードマウスの卵巣癌腹腔内播種性転移モデルに対して腹腔内投与する動物実験が行われている(後述の特許文献1・2参照)。
【0004】
しかし、上記の卵巣癌細胞PA−1は、増殖能力が高く操作しやすい細胞ではあるものの、細胞質が小さく壊れやすい。そのため、レトロウイルスによってHSV−tk遺伝子を導入しても腫瘍部位でのHSV−tk遺伝子発現は少なく、Freemanらの臨床試験では、卵巣癌および悪性中皮腫に対する充分な抗腫瘍効果は得られていない。
【0005】
オンコリティックウイルスHSV−1による癌遺伝子治療においてキャリアー細胞としてPA−1を使用した場合も、オンコリティックウイルスHSV−1の単独療法に比べて著明な抗腫瘍効果は得られていない。ウイルスによる癌遺伝子治療の問題点は、血中の中和抗体により頻回投与ができない点である。PA−1を使用した場合、細胞が脆弱でウイルス産生量も少ないため、細胞間相互作用(cell to cell interaction)により標的腫瘍細胞に感染する前に細胞が壊れてしまうこと、さらに、直接的に中和抗体によりウイルスが不活化され、抗腫瘍効果が得られないことなどが考えられる。
【0006】
また、細胞性免疫遺伝子治療の臨床試験において、患者自身の癌細胞あるいは線維芽細胞(fibroblast)をキャリアー細胞に使用することがあるが、この場合安定した細胞系が得られるまで時間がかかり、手技が困難であること、さらに遺伝子導入が個体により差があり一定でないことから安定した効果を得ることが困難であった。
【0007】
【非特許文献1】Human Gene Therapy, 6, 927-939, 1995
【非特許文献2】Human Gene Therapy, 9, 2641-2649, 1998
【非特許文献3】Science, 256, 1550-1552, 1992
【非特許文献4】Clinical Cancer Research, 5, 1523-1537, 1999
【特許文献1】国際公開第99/45783号パンフレット
【特許文献2】国際公開第01/23004号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、オンコリティックウイルスを用いた癌遺伝子治療において、強力な抗腫瘍効果が得られる新たなキャリアー細胞を見出すこと、さらに得られたキャリアー細胞等を用いて劇的な抗腫瘍効果が得られる新たな癌遺伝子治療法を確立すること、および、同治療法に用いる新たな癌遺伝子治療薬を提供すること、にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題に鑑み鋭意研究を進めた結果、(1)キャリアー細胞に特定の細胞株を使用することで、従来のキャリアー細胞に比べて強力な抗腫瘍効果が得られること、さらに、(2)予めウイルスを投与して免疫処置を施した後、オンコリティックウイルスを感染させたキャリアー細胞を投与することで、生体のCTL反応が誘導・惹起され、in vivoにおいて劇的な抗腫瘍効果が得られること、等を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明の癌遺伝子治療薬(換言すれば、癌治療用薬剤キット)は、
キャリアー細胞投与に対する生体のCTL反応を誘導するために投与される免疫処置用ウイルスと、
投与前にオンコリティックウイルスを感染させ、同ウイルスを生体の腫瘍細胞に作用させるためのキャリアー細胞とを組み合わせたものである。
【0011】
本発明の免疫処置用ウイルスおよびオンコリティックウイルスは、好ましくは、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、HIVウイルス等のレンチウイルス、レトロウイルス、レオウイルス、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、又はその他のオンコリティックウイルスから選ばれる。このうち、アデノウイルスの使用は、後述のように良好な結果が得られたため、特に好ましい。
【0012】
また好ましくは、本発明のオンコリティックウイルスは、治療対象の癌の種類等に応じて、1A1.3Bプロモーター(IAI.3Bプロモーター)、ミッドカインプロモーター、β―HCGプロモーター、SCCA1プロモーター、cox−2プロモーター、PSAプロモーター、又はその他の腫瘍特異的プロモーターを有する。なお、本発明においてオンコリティックウイルスは、標的腫瘍細胞に感染し、増殖しうるものであればよく、例えばアデノウイルスの場合、その範疇には、野生型アデノウイルスが含まれる。その他オンコリティックウイルスは、ONYX社のE1B遺伝子欠失型のオンコリティックアデノウイルス、あるいは、UAB大学のE1A遺伝子の一部欠損型のAd5-△24アデノウイルスなど、腫瘍特異的プロモーターを有しないものであってもよい。
【0013】
本発明の免疫処置用ウイルスには、非増殖型のものおよび/又は紫外線等で不活化したものを使用することが好ましい。紫外線等で不活化することによって、免疫処置用ウイルスの投与からキャリアー細胞投与までの期間を短期間にすることができる。
【0014】
本発明のキャリアー細胞は、好ましくは、A549細胞、293細胞、SW626細胞、HT―3細胞(HT―III細胞)、又はその他のヒト由来の癌細胞もしくは正常細胞から選ばれるが、その他、Crucell社のPER.C6細胞など市販の細胞ラインを使用してもよい。上記A549細胞、293細胞、SW626細胞およびHT―3細胞は、後述のように良好な結果が得られたため、キャリアー細胞としてより好ましく、さらに後述するように、これら細胞の中でもA549細胞の使用は特に好ましい。
【0015】
本発明の癌遺伝子治療薬(癌治療用薬剤キット)は、免疫処置用ウイルスおよびキャリアー細胞を組み合わせたもの、あるいは、これにオンコリティックウイルスを加えて3者を組み合わせたキットの構成が考えられるが、さらに下記(1)〜(4)の物質のうち、1又は2以上の物質を備えたものであってもよい。
(1)アテロコラーゲン
(2)投与前にキャリアー細胞に感染させるGM−CSF(granulocyte-macrophage colony stimulating factor:顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子)発現ベクター
(3)鉄剤
(4)ポルフィリン化合物(例えば、5−アミノレブリン酸(5-aminolevulinic acid:ALA))
【0016】
また、免疫処置用ウイルスの投与と共に、あるいはその前後に、腫瘍免疫のため患者由来の腫瘍細胞またはそれと類似した抗原を提示すると考えられる一般に入手可能な放射線照射した腫瘍細胞を投与することが好ましいが、本発明の癌遺伝子治療薬は、腫瘍免疫のためこのような放射線照射した腫瘍細胞を備えたものであってもよい。
【0017】
本発明の癌遺伝子治療方法は、キャリアー細胞投与に対する生体のCTL反応を誘導するために免疫処置用ウイルスをヒトに投与し、所定期間経過後、オンコリティックウイルスを感染させ、同ウイルスを腫瘍細胞に作用させるためのキャリアー細胞を少なくとも1回ヒトに投与することを特徴とする。
【0018】
本発明の癌遺伝子治療方法において、好ましくは、免疫処置用ウイルス投与からキャリアー細胞投与までの期間を、およそ2週間以上13週間以下(より好ましくは、3週間以上4週間以下)とする。また好ましくは、(1)免疫処置用ウイルスの投与量を、当該ウイルスに対する抗体陰性の患者にはおよそ10ウイルス粒子以上1011ウイルス粒子以下とする一方、当該ウイルスに対する抗体陽性の患者にはおよそ10ウイルス粒子以上10ウイルス粒子以下とし、(2)キャリアー細胞によるオンコリティックウイルスの1回の投与量を、およそ10ウイルス粒子以上1014ウイルス粒子以下とし、(3)キャリアー細胞に対するオンコリティックウイルスの感染量を、およそ0.1ウイルス粒子/細胞(viral particle/cell:以下、「vp/cell」という。)以上2000vp/cell以下(より好ましくは、5vp/cell以上500vp/cell以下)とする。
【0019】
また本発明の癌遺伝子治療方法において、下記(1)〜(5)の方法を採用することは好ましい。
(1)腫瘍内投与によりキャリアー細胞を投与する。
(2)キャリアー細胞と共に、アテロコラーゲンを投与する。
(3)オンコリティックウイルスのみならず、GM−CSF発現ベクターを感染させたキャリアー細胞を投与する。
(4)キャリアー細胞と共に、鉄剤および/又はポルフィリン化合物(例えば、5−アミノレブリン酸(5-aminolevulinic acid:ALA))を投与する。
(5)免疫処置用ウイルスの投与と共に、またはその前後に、腫瘍免疫のため腫瘍細胞を投与する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の癌遺伝子治療薬は、予め投与される免疫処置用ウイルスと、その後に投与されるキャリアー細胞との2種類の薬剤を組み合わせたものであり、予めアデノウイルス等のウイルス投与により免疫処置を施した後、オンコリティックウイルスを感染させたキャリアー細胞を投与することで、同ウイルスが標的腫瘍細胞に感染して直接的な抗腫瘍効果をもたらし、さらに感染標的細胞に対し生体のCTL反応が誘導され、in vivoにおいて劇的な抗腫瘍効果を得ることができる。
【0021】
また、キャリアー細胞に、in vitroおよびin vivoの双方において高い抗腫瘍効果が認められたA549細胞などの細胞株を使用することによって、従来のキャリアー細胞に比べて強力な抗腫瘍効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】各種細胞株をキャリアー細胞に用いた場合の卵巣癌細胞HEYに対する増殖抑制効果をIC50における細胞数で調べた結果を示すグラフである。
【図2】オンコリティックウイルス単独の場合とキャリアー細胞を用いた場合とで、ウイルス抗体存在下、卵巣癌細胞HEYに対する増殖抑制効果をIC50における抗アデノウイルス抗体の抗体価で調べた結果を示すグラフである。
【図3】オンコリティックアデノウイルス感染293細胞などについて、ウイルス抗体存在下の卵巣癌細胞HEYに対する増殖抑制効果をIC50における抗アデノウイルス抗体の抗体価で調べた結果を示すグラフである。
【図4】293細胞、A549細胞、SW626細胞、HT―3細胞の各キャリアー細胞について、ウイルス抗体存在下の卵巣癌細胞HEYに対する増殖抑制効果を細胞数で調べた結果を示すグラフである。
【図5】ヌードマウスの皮下にヒト卵巣癌細胞RMG−1を移植し形成された10−15mmの巨大腫瘍モデルを用いて、オンコリティックアデノウイルス感染キャリアー細胞のin vivo抗腫瘍効果を検討した結果を示すグラフである。
【図6】ヌードマウスの皮下にヒト卵巣癌細胞PA−1を移植し形成された10−15mmの巨大腫瘍モデルを用いて、オンコリティックアデノウイルス感染キャリアー細胞のin vivo抗腫瘍効果を検討した結果を示すグラフである。
【図7】免疫機能が正常な皮下腫瘍モデルマウス((C57BL/6×C3/He)F1マウス)を用いて本発明の癌遺伝子治療薬のin vivo抗腫瘍効果を検討した結果を示すグラフである。
【図8】アデノウイルス投与によるA549細胞の細胞融合を顕微鏡により観察した図である。
【図9】コントロールであり、アデノウイルスを投与しなかったA549細胞を顕微鏡により観察した図である。
【図10】(a)は、1〜21のヒト手術標本におけるミッドカイン(MK)mRNAの発現をRT−PCRで検討した結果、(b)は、同様の方法により、悪性グリオーマの4つの細胞株におけるミッドカインmRNAの発現をRT−PCRで検討した結果、(c)は、上記各細胞株におけるミッドカインの発現をウエスタンブロット解析によって検討した結果、である。
【図11】長さが異なる2つのミッドカインプロモーターを用いて上記各細胞株におけるプロモーター活性を比較した結果を示すグラフである。
【図12】(a)は、今回設計した、ミッドカインプロモーターを有するオンコリティックアデノウイルスの構造を模式的に示す図であり、(b)は、3種類のアデノウイルスを上記各細胞株に感染させ、それぞれの細胞株におけるE1A蛋白の発現をウエスタンブロット解析によって検討した結果である。
【図13】(a)は、3種類のアデノウイルスによる癌細胞増殖抑制効果を比較検討した結果であり、(b)は、アデノウイルスのE3領域の増殖抑制効果に与える影響を検討した結果であり、(c)は、直径5mmのヌードマウス皮下移植モデルにおけるアデノウイルスの抗腫瘍効果を検討した結果である。
【図14】ミッドカインプロモーターを有するオンコリティックウイルスをキャリアー細胞に感染させ、当該ウイルス感染キャリアー細胞の直径10−15mmの巨大腫瘍に対する抗腫瘍効果をウイルス単独投与の場合と比較した結果を示すグラフである。
【図15】アデノウイルスAdE3-1A1.3Bの卵巣癌細胞PA−1に対する増殖抑制効果に対するFeの影響を検討した結果を示すグラフである。
【図16】アデノウイルスAdE3-1A1.3Bの卵巣癌細胞PA−1に対する増殖抑制効果に対するALAの影響を検討した結果を示すグラフである。
【図17】アデノウイルスAdE3-1A1.3Bの卵巣癌細胞PA−1に対する増殖抑制効果に対するFeおよびALA両存在下の影響を検討した結果を示すグラフである。
【図18】(a)は、免疫機能が正常な皮下腫瘍モデルマウス((C57BL/6×C3/He)F1マウス)を用いて、本発明の癌遺伝子治療薬(免疫処置用ウイルスをUV処理していない場合)のin vivo抗腫瘍効果を検討した結果であり、(b)は、この実験に供された各マウスの生存率を長期間観察した結果を示すグラフである。
【図19】免疫処置用ウイルス投与からキャリアー細胞投与までの投与間隔について検討を行った結果であり、(a)は、各マウスの腫瘍体積を観察した結果、(b)は、各群マウスの生存率を観察した結果である。
【図20】UVで不活化処理したアデノウイルスUV−Ad−β−galを免疫処置用ウイルスに使用することにより、上記投与間隔を短くすることができるか検討した結果を示すグラフ(サバイバル・カーブ)である。
【図21】上記UV−Ad−β−galを免疫処置用ウイルスに使用した場合の当該ウイルスの投与量について検討した結果を示すグラフ(腫瘍成長カーブ)である。
【図22】腫瘍免疫の効果を検討した結果であり、(a)は、各マウスの腫瘍体積を観察した結果、(b)は、各群マウスの生存率を観察した結果である。各群のマウスの数はn=5である。図中、コントロールの「SCC7」「OVHM」は、腫瘍免疫を行わずに、扁平上皮癌細胞SCC7または卵巣癌細胞OVHMを1×106個皮下移植し、AdE3-1A1.3B感染キャリアー細胞A549を投与したマウスの結果である。「OVHM-RT+Ad-β-gal→SCC7, OVHM」は、放射線照射したOVHMによる腫瘍免疫およびAd-β-galによるアデノウイルスに対するCTLを誘導した後に、SCC7あるいはOVHMの皮下腫瘍を作成し、AdE3-1A1.3B感染キャリアー細胞A549を投与したマウスの結果である。
【図23】非小細胞性肺癌細胞A549細胞による腫瘍免疫の効果を検討した結果を示すグラフ(サバイバル・カーブ)である。各群のマウスの数はn=10である。図中、コントロールの「OVHM」は、腫瘍免疫を行わずに、卵巣癌細胞OVHMを1×106個皮下移植し、AdE3-1A1.3B感染キャリアー細胞A549を投与したマウスの結果である。図中「AdE3-IAI.3B-infected A549→OVHM」は、AdE3-1A1.3Bを感染し放射線照射したA549細胞を106個、皮下に免疫し、卵巣癌細胞OVHMを1×106個皮下移植し、AdE3-1A1.3B感染キャリアー細胞A549を投与したマウスの結果である。
【図24】キャリアー細胞と共にアテロコラーゲンを投与した場合に、副作用による死亡率が改善されるかどうか調べた結果を示すグラフである。図中、かっこ内のNはマウスの数を示す。
【図25】UVで不活化処理していないアデノウイルスAd−β−galを1−3回投与し、抗アデノウイルス抗体存在下での抗腫瘍効果について検討した結果であり、(a)は、各マウスの腫瘍体積を観察した結果、(b)は、各群マウスの生存率を観察した結果である。キャリアー細胞には、A549細胞と293細胞とを混合したものを使用した。各群のマウスの数はn=5である。
【図26】UVで不活化処理していないアデノウイルスAd−β−galを1−3回投与し、抗アデノウイルス抗体存在下での抗腫瘍効果について検討した結果であり、(a)は、各マウスの腫瘍体積を観察した結果、(b)は、各群マウスの生存率を観察した結果である。キャリアー細胞にはA549細胞のみ使用した。各群のマウスの数はn=5である。
【図27】アデノウイルスAdE3−1A1.3Bのみならず、GM−CSF発現ベクターを感染させたキャリアー細胞(A549細胞)を投与し、かつ、このキャリアー細胞と共にアテロコラーゲンを投与した場合のin vivo抗腫瘍効果について検討した結果であり、(a)は、各マウスの腫瘍体積を観察した結果、(b)は、各群マウスの生存率を観察した結果である。図中、「Ad-β-gal」の前の「×1」「×2」「×3」は、それぞれ、アデノウイルスAd−β−galを1回、2回、3回投与したことを示す。各群のマウスの数はn=5である。
【図28】キャリアー細胞投与時に、鉄剤を腹腔内投与した場合のin vivo抗腫瘍効果について検討した結果であり、(a)は、各マウスの腫瘍体積を観察した結果、(b)は、各群マウスの生存率を観察した結果である。図中、「Ad-β-gal」の前の「×1」「×2」「×3」は、それぞれ、アデノウイルスAd−β−galを1回、2回、3回投与したことを示す。各群のマウスの数はn=5である。
【図29】キャリアー細胞A549に対して行う放射線処理において照射する線量について、ヌードマウスを用いて検討した結果を示すグラフである。
【図30】(C57BL/6×C3/He)F1マウスにOVHMを皮下移植した実験で、キャリアー細胞A549を異なる線量で放射線処理した場合の抗腫瘍効果について検討した結果を示すグラフである。
【図31】キャリアー細胞A549に対するオンコリティックウイルスの感染量について検討した結果を示すグラフである。
【図32】卵巣癌細胞OVHMによる腫瘍免疫の効果を検討した結果であり、(a)は、各マウスの腫瘍体積を観察した結果、(b)は、各群マウスの生存率を観察した結果である。図中、「A549」は腫瘍免疫なしにAdE3-1A1.3B感染キャリアー細胞A549を3回投与したマウス、「OVHM-RT→A549」は放射線照射したOVHMによる腫瘍免疫後、AdE3-1A1.3B感染キャリアー細胞A549を3回投与したマウス、各群のマウスの数はn=5である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の一形態について説明する。
〔1〕本発明の癌遺伝子治療薬に使用するキャリアー細胞等
まず、本発明の癌遺伝子治療薬に使用するキャリアー細胞について説明する。キャリアー細胞は、例えば以下の(1)〜(4)の細胞から選択することができる。
(1)A549細胞
(2)293細胞
(3)SW626細胞
(4)HT―3細胞(HT―III細胞)
【0024】
図1は、癌遺伝子治療薬に用いる効果的なキャリアー細胞を見出すために本発明者がキャリアー細胞の選別を行った結果であり、より具体的には、各種候補細胞株にオンコリティックウイルスを感染させた癌遺伝子治療薬を調製し、各々の癌細胞増殖抑制効果を調査した結果を示すグラフである。オンコリティックウイルスには、アデノウイルスAdE3−1A1.3B(IAI.3B)を使用した。このアデノウイルスAdE3−1A1.3Bは、E1A遺伝子およびE3遺伝子を有し、かつ、E1A遺伝子の上流に腫瘍特異的プロモーターとして卵巣癌特異的1A1.3Bプロモーター(IAI.3Bプロモーター)を有するアデノウイルスである。このアデノウイルスAdE3−1A1.3Bを各種候補細胞株に対して500vp/cellで2日間感染させた後、各細胞を培養2日目の卵巣癌細胞HEYに添加し、培養5日目に同癌細胞HEYの増殖抑制効果を調べた。
【0025】
図1のグラフ縦軸は、各種候補細胞株について50%の増殖抑制効果(IC50)が得られる細胞数を示し、細胞数が少ない細胞株ほど増殖抑制効果が高いことになる。同図に示すように、今回調査した癌細胞株では、293細胞、A549細胞、SW626細胞、HT―3細胞(HT―III細胞)の順に高い増殖抑制効果を示した。293細胞、A549細胞およびSW626細胞は、従来キャリアー細胞として使用されていたPA−1細胞に比べて、およそ100倍程度の高い増殖抑制効果を示した。HT―3細胞についても、SW626細胞と同程度の高い増殖抑制効果を示した。
【0026】
また、上記の293細胞、A549細胞、SW626細胞およびHT―3細胞にオンコリティックアデノウイルスを感染させた癌遺伝子治療薬を調製し、各治療薬について、充分量の抗アデノウイルス中和抗体存在下(Ab(+))における、癌細胞増殖抑制効果を検討した。その結果、図4に示すように、抗体存在下であっても、上記4種の細胞をキャリアー細胞に用いた癌遺伝子治療薬はいずれも強い癌細胞増殖抑制効果を示した。従来、ウイルスによる癌遺伝子治療は、抗体産生により頻回投与ができないことが難点とされていたが、上記4種の細胞をキャリアー細胞に用いた場合は、抗体存在下にもかかわらずin vitroにおいて強力な増殖抑制効果が得られた。なお、図4に示すように、上記4種類の細胞のうち、A549細胞をキャリアー細胞に用いた場合に最も強力な増殖抑制効果を示した。即ち、充分量の抗アデノウイルス中和抗体存在下にアデノウイルス感染A549細胞を投与すると、標的癌細胞の増殖は抗体存在下にもかかわらずほぼ完全に抑制された。
【0027】
さらに、直径10−15mmの巨大なヌードマウス皮下腫瘍モデルを用いたin vivoの実験においても、上記のA549細胞、293細胞およびSW626細胞をキャリアー細胞に用いた場合は、強力な抗腫瘍効果を示した(図5および図6参照)。なお、これら実験の詳細は後述の実施例において説明する。
【0028】
このように、オンコリティックウイルスをキャリアー細胞に感染させて得られる癌遺伝子治療薬において、キャリアー細胞にA549細胞、293細胞、SW626細胞、HT―3細胞のいずれかを使用することで高い抗腫瘍効果を得ることができる。
【0029】
上記4種の細胞について説明すると、A549細胞は、非小細胞性肺癌細胞株であり、その詳細については例えば論文Giard,D.J., Aaronson,S.A., Todaro,G.J., Arnstein,P., Kersey,J.H., Dosik,H., and Parks,W.P. In vitro cultivation of human tumors: establishment of cell lines derived from a series of solid tumors, J. Natl. Cancer Inst., 51: 1417-1423, 1973.などに記載されている。293細胞は、ヒト胎児腎由来細胞であり、アデノウイルス産生細胞として試験研究に多く用いられている細胞株である。293細胞については例えば論文Xie QW , et al. Complementation analysis of mutants of nitric oxide synthase reveals that the active site requires two hemes. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93: 4891-4896, 1996.などに説明がある。SW626細胞は、大腸癌卵巣転移株であり、その詳細については例えば論文Fogh J , et al. Absence of HeLa cell contamination in 169 cell lines derived from human tumors. J. Natl. Cancer Inst. 58: 209-214, 1977.などに記載されている。HT―3細胞は、子宮頚部扁平上皮癌細胞であり、その詳細については例えば論文Fogh J , et al. Absence of HeLa cell contamination in 169 cell lines derived from human tumors. J. Natl. Cancer Inst. 58: 209-214, 1977.などに記載されている。これら4種の細胞株はいずれもATCC(American Type Culture Collection)等の細胞保存機関から入手可能であり、その他、市販されているものを使用してもよい。
【0030】
A549細胞は、(1)高力価のオンコリティックアデノウイルスを産生し、非常にタフな細胞で扱いやすい、(2)抗アデノウイルス抗体存在下において癌細胞の増殖を最も強力に抑制する、(3)アデノウイルス等のウイルスが感染するとA549細胞は由来がtype IIの肺胞上皮細胞であるため分泌顆粒を放出し、この性質が癌治療において有利に作用すると考えられる、(4)アデノウイルスに感染した後もA549細胞はCTLによる殺細胞効果を受けにくい、などキャリアー細胞として使用する場合に多くの利点を有している。したがって、上記4種の細胞のうち、A549細胞の使用は特に好ましい。
【0031】
また、キャリアー細胞として、複数の種類の細胞を併用してもよい。後述の実施例では、キャリアー細胞にA549細胞と293細胞とを併用することによって、強力な癌治療効果が認められた。このように、複数の種類の細胞を併用した場合は、各細胞の特徴、利点を癌治療に利用することができ、好ましい。例えば、SW626細胞は、接着(adhere)するのに比較的時間を要するため、腹腔内投与すると局所のみにとどまらず周囲全体に拡散し、卵巣癌などの腹腔内治療に好適と考えられる。また、SW626細胞は、ウイルス産生量のピークがA549細胞や293細胞などよりも遅く、作用時間が比較的長いという特徴を有している。
【0032】
上述したように、キャリアー細胞は、上記4種の細胞(即ち、A549細胞、293細胞、SW626細胞、HT―3細胞)を使用することが好ましい。しかし、キャリアー細胞として利用可能な細胞は上記4種の細胞に限定されるものではなく、他の細胞、例えば、PA−1細胞(特にヘルペスウイルスをオンコリティックウイルスに使用する場合等)、繊維芽細胞(fibroblast)、その他のヒト由来の癌細胞あるいは正常細胞、患者由来の癌細胞などをキャリアー細胞に使用してもよい。
【0033】
本発明の癌遺伝子治療薬において、上記キャリアー細胞に感染させるオンコリティックウイルスとしては、従来遺伝子導入に用いられるウイルスベクターを使用することができ、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、単純ヘルペスウイルス1型(HSV−1)、単純ヘルペスウイルス2型(HSV−2)、HIVウイルス(エイズウイルス)等のレンチウイルスやマウス白血病ウイルス等のレトロウイルス、レオウイルス、水疱性口内炎ウイルス(VSV)などが例示され、さらにその他のオンコリティックウイルスであってもよい。オンコリティックウイルスは、増殖型ウイルスベクターであって標的の腫瘍細胞または腫瘍組織において特異的に増殖するようウイルス遺伝子を改変し、標的細胞を融解・殺傷するcell lysis作用を有するものであればよく、例えばアデノウイルスの場合、その増殖に必要なE1AまたはE1B領域を有するものであればよい。
【0034】
本発明の癌遺伝子治療薬は、ほぼ全ての悪性腫瘍に適用することができ、治療対象となる癌の種類は、卵巣癌、扁平上皮癌(子宮頚部癌、皮膚癌、頭頚部癌、食道癌、肺癌等)、消化器癌(大腸癌、膵癌、肝癌、胃癌等)、神経芽細胞腫、脳腫瘍、乳癌、精巣癌、前立腺癌などが例示される。また、アデノウイルス34,35型など血液細胞にも感染可能なウイルスを使用することで、本発明の癌遺伝子治療薬は血液性悪性腫瘍にも適用可能である。
【0035】
治療対象となる癌の種類に応じて、オンコリティックウイルスに導入する腫瘍特異的プロモーターの種類を選択するとよい。例えば、卵巣癌に対しては1A1.3Bプロモーター、脳腫瘍、悪性グリオーマなどに対してはミッドカインプロモーター、精巣癌に対してはβ―HCGプロモーター、扁平上皮癌に対してはSCCA1プロモーターおよびSCCA2プロモーター、大腸癌に対してはCEAプロモーター、前立腺癌に対してはPSAプロモーター、肝癌に対してはAFPプロモーター、を使用することができる。勿論、他の公知の腫瘍特異的プロモーター、例えば、種々の悪性腫瘍に対してプロモーター活性を発揮し、広い作用スペクトラムを有するcox−2プロモーターや、その他オステオカルシンプロモーター等の各種癌特異性プロモーターを使用してもよい。上記ミッドカインプロモーターについては、脳腫瘍、悪性グリオーマのほか種々の悪性腫瘍に対して使用可能であり、この点においてcox−2プロモーターと同様に広い作用スペクトラムを有する。
【0036】
使用する各プロモーター配列の長さ等については、腫瘍特異的プロモーター活性が得られる限りにおいて特に限定されるものではない。上記1A1.3Bプロモーターは、国際公開第03/025190号パンフレットおよび文献Cancer Research 63, 2506-2512, 2003の記載にしたがって設計・調製し、ウイルスゲノムに挿入することができる。上記のミッドカインプロモーター、β―HCGプロモーター、SCCA1プロモーターについては、それぞれ、国際公開第02/10368号パンフレット、国際公開第01/90344号パンフレット、国際公開第00/60068号パンフレットの記載にしたがって設計・調製し、ウイルスゲノムに挿入することができる。
【0037】
上記SCCA1プロモーターについては、論文Biochimica et Biophysica Acta 91522 (2001) 1-8, Molecular cloning of human squamous cell carcinoma antigen 1 gene and characterization of its promoter, Katsuyuki Hamada, Hiroto Shinomiya, Yoshihiro Asano, Toshimasa Kihana, Mari Iwamoto, Yasushi Hanakawa, Koji Hashimoto, Susumu Hirose, Satoru Kyo, Masaharu Itoにも詳細な説明がなされている。
【0038】
例えば、オンコリティックアデノウイルスを作製する場合、アデノウイルスの増殖に必須の遺伝子である初期遺伝子E1AまたはE1Bの上流に腫瘍特異的プロモーターを挿入するか、あるいは、初期遺伝子E1AまたはE1Bプロモーターと置換することにより構築することができる。HSV−1、HSV−2、レトロウイルス、レオウイルス、水疱性口内炎ウイルス(VSV)など、アデノウイルス以外のウイルスを使用する場合も、同様に、ウイルスの増殖に必要な遺伝子の上流に腫瘍特異的プロモーターを挿入するか、あるいは、当該遺伝子のプロモーターと置換することにより構築することができる。
【0039】
もっとも、オンコリティックウイルスは、標的の腫瘍細胞または腫瘍組織において特異的に増殖する性質を有する限り、必ずしも腫瘍特異的プロモーターを有するものでなくてもよい。例えば、ONYX社のE1B遺伝子欠失型のオンコリティックアデノウイルス、あるいは、UAB大学のE1A遺伝子の一部欠損型のAd5-△24アデノウイルスなど、腫瘍特異的プロモーターを有しないオンコリティックウイルスを使用することも可能である。また、オンコリティックウイルスとして野生型アデノウイルス、あるいは、その一部遺伝子を欠失させたものを使用することとしてもよい。
【0040】
オンコリティックウイルスをキャリアー細胞に感染させる方法は、常法に従って行えばよく特に限定されるものではないが、例えばキャリアー細胞をデイッシュに播き、これにオンコリティックウイルスをすべての細胞に感染可能な量添加し、95%O2、5%CO2、37℃、牛胎児血清FCS(−)、RPMI培地の条件下で6時間から36時間程度培養し感染させる方法が簡便である。後述の実施例においては、A549細胞、SW626細胞、HT―3細胞はこの方法で培養し、オンコリティックウイルスを感染させたが、293細胞に関してはFCS(+)10%、DMEM培地の条件下で培養し、オンコリティックウイルスを感染させた。なお、牛胎児血清FCSは、3−6時間感染の場合はFCS(−)の条件で、それ以上の時間感染させる場合は3−6時間FCS(−)の状態におき、後にFCS10%を加えるとよい。
【0041】
キャリアー細胞に対するオンコリティックウイルスの感染量および感染時間は、治療対象の腫瘍の大きさ・種類、キャリアー細胞の種類・投与量、使用するオンコリティックウイルスの種類、本遺伝子治療薬の投与方法などに応じて最適な量と時間を選択すればよい。特に限定されないが、一例として、キャリアー細胞にA549細胞を使用した場合、腹腔内投与では約5−250vp/cellでおよそ6−24時間、腫瘍内投与では約5−500vp/cellでおよそ12−24時間、SW626細胞の場合、腹腔内投与では約250−2000vp/cellでおよそ6−24時間、腫瘍内投与では約100−500vp/cellでおよそ12−24時間、293細胞の場合、腫瘍内投与では約5−50vp/cellでおよそ12−24時間、腹腔内投与では約0.1−10vp/cell でおよそ6−24時間、に設定することができる。このようにキャリアー細胞の種類、投与方法に応じて感染量・感染時間も異なるが、上記の例では腹腔内投与のときは約0.1−2000vp/cellでおよそ6−24時間、腫瘍内投与のときは約5−500vp/cellでおよそ12−24時間、の範囲でそれぞれ感染量・感染時間を設定することができる。
【0042】
キャリアー細胞にオンコリティックウイルスを感染させ、ウイルス感染キャリアー細胞を調製する場合、使用時まではオンコリティックウイルスを感染させない状態でキャリアー細胞を保存しておいてもよい。他方、オンコリティックウイルスを感染させ放射線照射したキャリアー細胞を凍結し、これを医療現場で解凍して使用するという製品形態にする場合は、ウイルス感染させたキャリアー細胞を保存しておくことが好ましい。キャリアー細胞の保存は、例えば液体窒素中あるいは−150℃程度の温度にて保存することができる。一方、オンコリティックウイルスは、例えば−80℃程度の温度にて保存することができる。
【0043】
使用時には、前記の方法によりオンコリティックウイルスをキャリアー細胞に感染させ、得られたウイルス感染キャリアー細胞を、これをそのまま、あるいは慣用の医薬製剤担体とともに、ヒト(またはマウス、ラット等の実験動物)に投与することができる。後述のように、キャリアー細胞投与時に、アテロコラーゲン、鉄剤、ポルフィリン化合物のうち、1又は2以上を組み合わせてキャリアー細胞と同時に投与することは好ましい。また、CTL反応を高めるため、キャリアー細胞に、オンコリティックウイルスのみならず、GM−CSF発現ベクターをも感染させ、いわばウイルスベクターをダブルで感染させたキャリアー細胞を投与することは好ましい。
【0044】
キャリアー細胞は、後述の免疫処置用ウイルスを投与してから所定期間経過後に投与する。キャリアー細胞に癌細胞を用いる際には、ウイルス感染前または感染後に放射線照射することが好ましい。後述の実施例では、キャリアー細胞にA549細胞、SW626細胞、HT―3細胞を使用した場合、これらの細胞をヌードマウスに投与する前にそれぞれ120−400Gy、20−40Gy、20−40Gyにて放射線照射を行った。A549細胞に対する放射線の照射量について検討した結果、120Gy以上であれば細胞の増殖は観察されなかったので(図29)、照射量は120Gy以上600Gy以下(より好ましくは150Gy以上400Gy以下)程度に設定することが好ましい。
【0045】
キャリアー細胞は、非経口剤として投与することが好ましいが、経口剤として使用できる可能性もある。非経口剤としての投与は、in vivo法、ex vivo法のいずれであってもよい。in vivo法の場合、腫瘍の大きさ・種類、症状の程度、患者の年齢、体重などに応じて用量(換言すれば、ウイルス感染キャリアー細胞の投与量)を調節し、例えば、静注、点滴静注、腫瘍内注射、腹腔注射のような腔内注射などによって投与することができるが、キャリアー細胞は、腫瘍内注射の方法により投与することが好ましい。このような注射剤は常法に従って製造され、希釈剤として一般に生理食塩水、細胞培養液等を用いることができる。さらに必要に応じて、殺菌剤、防腐剤、安定剤、等張化剤、無痛化剤などを加えてもよい。これら製剤中のウイルス感染キャリアー細胞の配合量は特に限定されるものではなく任意に設定できる。
【0046】
勿論、上記のウイルス感染キャリアー細胞は、数回にわたり患者に投与してもよいし、複数回のクールに分け、一クール当たりの投与回数、投与間隔などを任意に設定してもよい。
【0047】
上記のように、ウイルス感染キャリアー細胞の投与量は、腫瘍の大きさ・種類、症状の程度、患者の年齢、体重などに応じて決定すればよいが、通常の場合、1回のキャリアー細胞の投与量をおよそ107細胞数以上1010細胞数以下に、キャリアー細胞によるオンコリティックウイルスの1回の投与量をおよそ10ウイルス粒子以上1014ウイルス粒子以下に設定することができる。
【0048】
キャリアー細胞の種類は治療対象の癌の種類などに応じて適宜選択してもよい。また、遺伝子組換え技術によってキャリアー細胞を改変し、例えば標的腫瘍細胞と結合しやすくなるようキャリアー細胞の細胞表面に人為的に特定タンパク質等を発現させてもよいし、キャリアー細胞にセンダイウイルスを感染させる等の処置を行ってもよい。
【0049】
オンコリティックウイルスは、細胞間相互作用(cell to cell interatcion)によりキャリアー細胞から標的腫瘍細胞へと感染し、腫瘍細胞内で特異的に増殖し、腫瘍細胞を融解・殺傷するcell lysis作用を発揮することができる。ウイルスによる癌遺伝子治療は、抗体産生により頻回投与ができないことが難点とされていたが、キャリアー細胞を用いると細胞間相互作用により標的腫瘍細胞に直接的に感染が成立することによって頻回投与が可能となり、強力な抗腫瘍効果が期待できる。
【0050】
〔2〕本発明の癌遺伝子治療薬とその好適な使用例
本発明の癌遺伝子治療薬は、キャリアー細胞投与に対する生体のCTL反応を誘導するために投与される免疫処置用ウイルスと、オンコリティックウイルスを感染させ、同ウイルスを生体の腫瘍細胞に作用させるためのキャリアー細胞とを組み合わせたもの、つまり、予め投与される免疫処置用ウイルスと、その後に投与されるキャリアー細胞との2種類の薬剤を組み合わせたものであり、予めアデノウイルス等のウイルス投与により免疫処置(事前免疫(イムナイゼーション))を施した後、オンコリティックウイルスを感染させたキャリアー細胞を投与することで、生体のCTL反応が誘導・惹起され、in vivoにおいて劇的な抗腫瘍効果を得ることができる。
【0051】
実際に免疫機能が正常なsyngenicモデルマウスを使った実験において、本発明の癌遺伝子治療薬は劇的な抗腫瘍効果を示した。詳細は後述するが、(C57BL/6×C3/He)F1マウスに卵巣癌細胞OVHMを皮下移植し、その後、卵巣癌特異的プロモーターを導入したオンコリティックアデノウイルスを感染させたキャリアー細胞(A549細胞)を局所注射したところ、3ヶ月前に予めアデノウイルス(Ad-β-gal)により免疫処置を施こしたマウスでは、投与開始後3−4日で明らかな抗腫瘍効果を示し、9日後に腫瘍は完全に消失し、リンパ節転移も消失した(図7および図18以下参照)。
【0052】
このように、抗体産生があるにもかかわらずむしろ免疫力のあるマウスでより強力かつ劇的な抗腫瘍効果が得られたのは、免疫処置用アデノウイルスの投与によって生体のCTL反応(細胞障害性T細胞を介した細胞障害活性)が誘導・惹起されたためと考えられる。つまり、従来のウイルスによる癌遺伝子治療は、抗体産生により頻回投与ができないことが難点とされていたが、本発明の癌遺伝子治療薬は、生体の免疫機構を利用してウイルスが感染した標的腫瘍細胞を攻撃させることにより、むしろこれを武器に変えるものといえる。
【0053】
免疫処置用ウイルスとオンコリティックウイルスとは同種類のものを使用することが好ましい。免疫処置用ウイルスには非増殖型のものおよび/又は不活化したものを使用することが好ましく、非増殖型のものを更に紫外線照射等によりDNAを破壊し不活化したものがより好ましい。例えば、免疫処置用ウイルスにアデノウイルスを使用する場合は、E1領域が欠失したものおよび/又は紫外線照射によりDNAを破壊し不活化したものを使用するとよい。このように、免疫処置用ウイルスには、増殖型ウイルスを紫外線照射等により不活化したものを使用してもよい。
【0054】
後述の実施例では、免疫処置用ウイルスとして、E1領域が欠失し、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの制御下にβ-galactosidase(β−gal)をコードするLacZ遺伝子が組み込まれたアデノウイルス(Ad−β−gal)を使用した。勿論、免疫処置用ウイルスとしてはこれに限定されるものではなく、増殖型アデノウイルスを紫外線(UV)で不活化したものでもよく、さらに、LacZ遺伝子ほか何らの遺伝子も組み込まれておらず、polyA配列のみの非増殖型アデノウイルス(Ad−polyA)を紫外線照射により不活化して使用することは好ましい。
【0055】
本発明の癌遺伝子治療薬において、免疫処置用ウイルスの投与量は、患者のウイルスに対する抗体価、腫瘍の大きさ・種類、症状の程度、患者の年齢、体重などに応じて適宜選択すればよいが、ウイルスに対する抗体が陽性か陰性かに応じて投与量を変更することは好ましい。例えば、免疫処置用ウイルスおよびオンコリティックウイルスにタイプ5のアデノウイルスを使用する場合、当該アデノウイルスに対する抗体陰性(−)の患者には免疫処置用ウイルスの投与量をおよそ10ウイルス粒子以上1011ウイルス粒子以下とする一方、当該アデノウイルスに対する抗体陽性(+)の患者には免疫処置用ウイルスの投与量をおよそ10ウイルス粒子以上10ウイルス粒子以下とする。免疫処置用ウイルスの投与方法は特に限定されるものではないが、皮内注射または皮下注射の方法により投与することが好ましい。
【0056】
なお、実験などでマウス、ラット等の動物に対して本発明の癌遺伝子治療薬を投与する場合は、体重差を考慮してヒトに投与する場合のおよそ1000分の1量に各薬剤の投与量を設定すればよい。
【0057】
免疫処置用ウイルス投与からキャリアー細胞投与までの期間はおよそ2週間以上3ヶ月以下に設定することができるが、できるだけ短期間であることが望ましい。後述の実施例では、免疫処置用ウイルス(アデノウイルス)を紫外線照射により不活化することで、上記期間を3週間以上4週間以下程度に短縮することができるようになった。
【0058】
ウイルス感染キャリアー細胞の投与量などについては前述したが、キャリアー細胞によるオンコリティックウイルスの1回の投与量をおよそ10ウイルス粒子以上1014ウイルス粒子以下に、キャリアー細胞に対するオンコリティックウイルスの感染量を、およそ0.1vp/cell以上2000vp/cell以下(より好ましくは5vp/cell以上500vp/cell以下、さらに好ましくは150vp/cell以上400vp/cell以下)に設定することができる。
【0059】
免疫処置用ウイルスの投与と共に、またはその前後に、腫瘍免疫のため腫瘍細胞(癌細胞)を投与することは好ましい。即ち、免疫処置用ウイルスによるイムナイゼーション時、またはその前後に、腫瘍細胞によるワクチネーションを行う(予め放射線、エタノール、ホルマリン等処理した腫瘍細胞を投与することにより、治療対象の腫瘍細胞に対する生体の免疫応答を高めるようにする)ことは好ましい。
【0060】
上記ワクチネーション(腫瘍免疫)に使用する腫瘍細胞としては、患者由来の腫瘍細胞が望ましいが、それと類似した抗原を提示すると考えられる一般に入手可能な腫瘍細胞を使用してもよい。後述の実施例では、卵巣癌(OVHM)に対する治療効果を調べる実験で、治療対象の腫瘍細胞とは種類の異なる腫瘍細胞(扁平上皮癌細胞SCC7や肺癌細胞A549細胞)を腫瘍免疫に使用した場合にも、良好な癌治療効果が認められた。
【0061】
上記ワクチネーション(腫瘍免疫)において、腫瘍細胞の投与量は特に限定されるものではないが、例えば、およそ10細胞数以上1010細胞数以下に設定することができる。腫瘍細胞への放射線の照射量は、120Gy以上600Gy以下(より好ましくは200Gy以上500Gy以下)程度に設定することが好ましく、腫瘍細胞の投与方法は、皮内注射または皮下注射の方法により投与することが好ましい。
【0062】
さらに、治療対象の癌におけるウイルス産生量を高めるために、鉄剤の投与および/又はポルフィリン化合物の投与を行ってもよい。ポルフィリン化合物としては、5−アミノレブリン酸(5-aminolevulinic acid:ALA)、ヘマトポルフィリン(hematoporphyrin)、フォトフィリン(photofrin)等が例示される。鉄剤としては、経口剤として硫酸第一鉄(FeSO4)、クエン酸第一鉄、静注用鉄剤としてコンドロイチン硫酸鉄、含糖酸化鉄が例示される。投与方法は特に限定されるものではないが、本発明の癌遺伝子治療薬とともに、注射剤あるいは経口剤として投与することが好ましい。
【0063】
実際に、鉄剤(Fe)および/又は5−アミノレブリン酸(ALA)を投与することにより、オンコリティックアデノウイルスAdE3-1A1.3Bの癌細胞増殖抑制効果を著しく亢進することができた(図15−17および図28参照)。
【0064】
キャリアー細胞と共に、アテロコラーゲン(コラーゲンのテロペプチド結合のみをペプシン処理などで切断し、分子量を小さくすることで水溶性としたもの)を投与することも好ましい。後述の実施例に示すように、アテロコラーゲンをキャリアー細胞と同時投与した場合は、副作用による死亡率が激減した(図24)。これは、アテロコラーゲンによりオンコリティックアデノウイルスの拡散が抑制されると共に抗アデノウイルス抗体に対するブロックが生じたためと考えられる。
【0065】
したがって、アテロコラーゲンをキャリアー細胞と同時投与することにより副作用を抑え、オンコリティックウイルスの高投与が可能になる。アテロコラーゲンは、市販品(例えば、株式会社高研の製品)を使用してもよいし、あるいは、コラーゲンをペプシン処理するなどして製造したものを使用してもよい。アテロコラーゲンは、キャリアー細胞と共に注射液に混ぜて投与することが好ましく、薬液中濃度0.01―3.0%(w/v)程度で十分効果を発揮すると考えられる。(後述の実施例では、薬液中0.1―0.2%という低濃度でも十分効果が認められた。)
【0066】
また前述したように、免疫反応を高めるため、キャリアー細胞に、オンコリティックウイルスのみならず、GM−CSF発現ベクターをも感染させ、いわばウイルスベクターをダブルで感染させたキャリアー細胞を投与することは好ましい。(あるいは、両ベクターをそれぞれ個別に感染させたキャリアー細胞を同時に投与する方法としてもよい。)
【0067】
GM−CSF発現ベクターには、オンコリティックウイルスと同種類のウイルスベクターを使用することが好ましい。例えば、オンコリティックウイルスにアデノウイルスを使用する場合、GM−CSF発現ベクターには、E1領域が欠失し、GM−CSF(granulocyte-macrophage colony stimulating factor:顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子)をコードするGM−CSF遺伝子が組み込まれたアデノウイルスを使用することができる。
【0068】
また、このようにウイルスベクターをキャリアー細胞に感染させる場合は、オンコリティックウイルスおよびGM−CSF発現ベクターの両者を合わせた感染量を、およそ5ウイルス粒子/細胞以上2000ウイルス粒子/細胞以下とする。
【0069】
実際にGM−CSF発現ベクターを使用することで、非常に優れた癌治療効果が認められた(図27)。
【0070】
その他、GM−CSF発現ベクターを使用する代わりに、GM−CSF蛋白をキャリアー細胞と共に注射液に混ぜる、あるいは経静脈的に全身投与する方法も考えられる。
【0071】
本発明の癌遺伝子治療薬の使用方法は、勿論、上述した方法に限定されるものではなく、様々な使用例が考えられる。例えば、オンコリティックウイルスの感染力を高めるために、本発明の癌遺伝子治療薬を他の抗がん剤あるいは放射線照射などと併用してもよい。
【0072】
本発明の癌遺伝子治療薬の好適な使用例について、(1)免疫処置用ウイルスに対する抗体が陰性の患者の場合と、(2)同抗体が陽性の患者の場合とに分けて説明する。
【0073】
上記(1)の場合、免疫処置用ウイルスには、例えば、前述の非増殖型アデノウイルスを紫外線照射により不活化して使用する。投与量はおよそ10vpから1011vp程度とする。免疫処置用ウイルスの投与と共に、腫瘍免疫のため200Gy程度で放射線処理した患者由来の腫瘍細胞(癌細胞)をおよそ10個から1010個投与する。免疫処置用ウイルスおよび腫瘍細胞の投与方法は、皮内注射または皮下注射とする。
【0074】
免疫処置用ウイルスおよび腫瘍細胞の投与からおよそ3−4週後に、キャリアー細胞を腫瘍内注射にて投与する。キャリアー細胞の投与量は、例えば1回につき、1×10個―1×1010個程度とする。キャリアー細胞にはA549細胞を使用し、150Gyから400Gy程度で放射線処理した後、投与する。オンコリティックウイルスおよびGM−CSF発現ベクターにはアデノウイルスを使用し、キャリアー細胞にはそれぞれ、250vp/cell程度、5−20vp/cell程度感染させる。注射液には液中濃度およそ0.1−0.2%となるようアテロコラーゲンを混ぜて投与する。また同時に、鉄(Fe)を40−100mg程度静注する。あるいは、同時に、ALAを2−2000mg腫瘍内に投与する。
以上を1回として、キャリアー細胞等を1−6回投与する。複数回投与する場合は、連日あるいは2,3日おきに投与する。
【0075】
患者が抗体陽性の上記(2)の場合、免疫処置用ウイルスの投与量をおよそ10vp以下とする以外は、上記(1)と同様に、本発明の癌遺伝子治療薬を投与すればよい。
【0076】
本発明の癌遺伝子治療薬の具体例としては、(1)免疫処置用ウイルスとキャリアー細胞とを組み合わせたもの、(2)さらに、キャリアー細胞に感染させるオンコリティックウイルスを組み合わせたもの、(3)上記(1)又は(2)の組み合わせに、さらに、アテロコラーゲンを組み合わせたもの、(4)上記(1)〜(3)の組み合わせに、さらに、GM−CSF発現ベクターを組み合わせたもの、(5)上記(1)〜(4)の組み合わせに、さらに、ウイルス産生量を高めるための鉄剤および/又はポルフィリン化合物を組み合わせたもの、(6)上記(1)〜(5)の組み合わせに、さらに、腫瘍免疫のため投与される腫瘍細胞を組み合わせたもの、(7)上記(1)〜(6)の組み合わせに、保存、感染・培養、医薬製剤の調製などに必要な化合物(試薬、緩衝液、酵素等)、または容器(反応用、感染・培養用、保存用等)などを組み合わせたもの、を挙げることができる。
【実施例】
【0077】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0078】
〔実施例1:キャリアー細胞の選別と、抗体存在下における抗腫瘍効果〕
既存の癌細胞株のうち、キャリアー細胞として強力な癌細胞増殖抑制効果を発揮する細胞株を選別するため、以下の実験を行った。
【0079】
キャリアー細胞に感染させるオンコリティックウイルスには、アデノウイルスAdE3−1A1.3B(IAI.3B)を使用した。このアデノウイルスAdE3−1A1.3Bは、E1A遺伝子およびE3遺伝子を有し、かつ、E1A遺伝子の上流に腫瘍特異的プロモーターとして卵巣癌特異的1A1.3Bプロモーター(IAI.3Bプロモーター)を有するアデノウイルスである。このアデノウイルスAdE3−1A1.3Bを種々のキャリアー細胞に対し500vp/cellで2日間感染させた後、同キャリアー細胞を培養2日目の卵巣癌細胞株HEYに加え、培養5日目に同細胞株HEYのin vitro増殖抑制効果を調査した。
【0080】
上記実験結果を図1に示す。同図グラフの縦軸は、各細胞株について50%の増殖抑制効果(IC50)が得られる細胞数を示し、細胞数が少ない細胞株ほど増殖抑制効果が高いことになる。同図に示すように、今回調査した癌細胞株では、293細胞、A549細胞、SW626細胞、HT―3(HT―III細胞)細胞の順に高い抗腫瘍効果を示した。293細胞、A549細胞およびSW626細胞は、従来キャリアー細胞として使用されていたPA−1細胞に比べて、およそ100倍程度の高い増殖抑制効果を示した。HT―3細胞についても、SW626細胞と同程度の高い増殖抑制効果を示した。
【0081】
次に、オンコリティックウイルス単独の場合とキャリアー細胞を用いた場合とで、ウイルス抗体存在下、増殖抑制効果がどのように変化するかを調べた。キャリアー細胞には293細胞を用い、この293細胞に上記アデノウイルスAdE3−1A1.3Bを2日間感染させ、得られたアデノウイルスAdE3−1A1.3B感染293細胞およびその細胞上清(AdE3-1A13B 293 cell+SUPT)を、抗アデノウイルス抗体存在下、12ウェルプレートに投与した。各ウェルには前日に5万個程度の卵巣癌細胞株HEYがまき込まれている。抗アデノウイルス抗体には、600倍の抗体価を有するものを様々な抗体価に希釈して用いた。同様に、オンコリティックウイルス単独の場合として、アデノウイルスAdE3−1A1.3Bを、抗アデノウイルス抗体存在下、1ウェル1000vp/cellで12ウェルプレートに投与した。そして、それぞれの場合において培養5日目に癌細胞(HEY細胞)の増殖抑制効果を調べた。
【0082】
上記実験結果を図2に示す。同図グラフの縦軸は、50%の増殖抑制効果(IC50)が得られるときの抗アデノウイルス抗体の希釈度を示す。つまり、293細胞を用いた場合は、5倍程度の希釈(120倍の抗体価)でも50%の増殖抑制効果が得られ、アデノウイルス単独の場合は、600倍程度の希釈(1倍の抗体価)によって50%の増殖抑制効果が得られた。このように、キャリアー細胞を用いた場合は、抗体価の高い条件下においても増殖抑制効果を発揮することが示された。
【0083】
同様に、抗アデノウイルス抗体存在下、HEY細胞に対する増殖抑制効果を、(1)アデノウイルス感染293細胞の上清と細胞成分(AdE3-1A13B 293 cell+SUPT)、(2)アデノウイルスを含む細胞上清(AdE3-1A13B, SUPT)、(3) アデノウイルスを含む細胞上清を0.2μmのフィルターで処理したもの(AdE3-1A13B, SUPT, filter)、(4)アデノウイルス単独(AdE3-1A13B)、のそれぞれの場合について調べた。その結果を図3に示す。同図グラフの縦軸は、50%の増殖抑制効果(IC50)が得られるときの抗アデノウイルス抗体の希釈度を示す。同図に示すように、キャリアー細胞(293細胞)を用いた場合に、他の場合と比べてより強力な抗腫瘍効果が得られた。
【0084】
さらに上記と同様の実験で、293細胞、A549細胞、SW626細胞、HT―3細胞の各キャリアー細胞について、600倍の抗体価を有する抗アデノウイルス抗体存在下(Ab(+))、または非存在下(Ab(−))における、癌細胞株HEY細胞に対する増殖抑制効果を検討した。その結果を図4に示す。同図グラフの縦軸は、培養5日目の癌細胞数を示す。同図に示すように、上記4種類の細胞のうち、A549細胞をキャリアー細胞に用いた場合に最も強力な増殖抑制効果を示した。即ち、充分量の抗アデノウイルス中和抗体存在下にアデノウイルス感染A549細胞を投与すると、標的癌細胞の増殖は抗体存在下にもかかわらずほぼ完全に抑制された。他の3種類の細胞についても、抗体存在下、充分な増殖抑制効果が得られた。
【0085】
ウイルスによる癌遺伝子治療は、ウイルスに対する中和抗体産生により頻回投与ができないことが難点とされていたが、キャリアー細胞を用いることで、細胞間相互作用により標的癌細胞に直接的に感染が成立することによって、頻回投与が可能となる。さらに、キャリアー細胞として上記4種類の細胞を用いることで、強力な抗腫瘍効果を得ることができる。
【0086】
〔実施例2:ヌードマウス皮下腫瘍モデルにおけるin vivo抗腫瘍効果〕
次に、ヌードマウス皮下腫瘍モデルを用いて、上記アデノウイルスAdE3−1A1.3Bを感染させた各キャリアー細胞のin vivo抗腫瘍効果を検討した。実験では、生後5週のヌードマウスの皮下にヒト卵巣癌細胞RMG−1を移植し、4週間後、直径約10−15mmになった巨大腫瘍に対し、各キャリアー細胞を6回腫瘍内注射し、腫瘍体積の変化を観察した。その結果を図5のグラフに示す。グラフ中、黒四角印の「control」はPBS緩衝液を6回腫瘍内注射した結果、黒丸印の「AdE3-1A1.3B」は上記アデノウイルスAdE3−1A1.3Bをマウス1匹に1×1010ウイルス粒子投与した結果、黒三角印はアデノウイルスAdE3−1A1.3Bを250vp/cell感染させたSW626細胞をマウス1匹に1×10個投与した結果、黒菱形印はアデノウイルスAdE3−1A1.3Bを25vp/cell感染させた293細胞をマウス1匹に1×10個投与した結果、白四角印はアデノウイルスAdE3−1A1.3Bを50vp/cell感染させたA549細胞をマウス1匹に1×10個投与した結果、である。同図に示すように、293細胞およびA549細胞をキャリアー細胞に用いた場合は、投与後50日経過すると、直径約10−15mmの巨大腫瘍が完全に消退した。SW626細胞は、98%の増殖抑制効果を示した。
【0087】
上記と同様の実験を、生後5週のヌードマウスの皮下にヒト卵巣癌細胞PA−1を移植して行った。その結果を図6に示す。同図に示すように、293細胞およびA549細胞をキャリアー細胞に用いると、直径約10−15mmの巨大腫瘍が完全に消退した。SW626細胞は、5匹中4匹のマウスにおいて腫瘍が完全に消失した。
【0088】
〔実施例3:免疫力のある皮下腫瘍モデルマウスにおけるin vivo抗腫瘍効果〕
次に、免疫機能が正常な(C57BL/6×C3/He)F1マウスを用いて本発明の癌遺伝子治療薬のin vivo抗腫瘍効果を検討した。本実験では、(1) syngenicモデルマウスに対し同種の卵巣癌細胞OVHMを皮下移植し、その10日後以降形成された5−10mmの皮下腫瘍に対し、上記アデノウイルスAdE3−1A1.3Bを250vp/cell感染させた放射線処理(放射線治療)後のA549細胞を6回腫瘍内投与した場合、(2) 生後7週のsyngenicモデルマウスを免疫処置用ウイルスであるアデノウイルス投与により予め免疫し、その3ヶ月後、上記(1)の場合と同様に、卵巣癌細胞OVHMを皮下移植し、その10日後以降、上記アデノウイルスAdE3−1A1.3Bを250vp/cell感染させた放射線処理後のA549細胞を6回腫瘍内投与した場合、(3) コントロールとしてPBS緩衝液を6回腫瘍内投与した場合、のそれぞれの場合について抗腫瘍効果を検討した。
【0089】
上記実験結果を図7のグラフに示す。グラフ中、黒四角印の「control」は上記(3)のコントロールの場合の結果であり、黒丸印の「Ad(-)→A549」は上記(1)の免疫処置用アデノウイルスを投与しなかった場合の結果であり、黒三角印の「Ad(+)→A549」は上記(2)の免疫処置用アデノウイルスを投与した場合の結果である。なお、免疫処置用アデノウイルスには、E1遺伝子を有しない非増殖型のアデノウイルスを使用し、より具体的には、CMVプロモーターの下流にLacZ遺伝子が挿入されたアデノウイルスを使用した。同図に示すように、予めアデノウイルスによる免疫をしていない上記(1)の場合では、コントロールに比べて20%の抗腫瘍効果を示したのに対し、予めアデノウイルスによる免疫処置を施した上記(2)の場合では、投与開始後3−4日で明らかな抗腫瘍効果を示し、9日後に腫瘍は完全に消失し、リンパ節転移も消失した。このように、抗体産生があるにも関わらずむしろ免疫力のあるマウスでより強力かつ劇的な抗腫瘍効果が得られたのは、免疫処置用アデノウイルスの投与によって生体のCTL反応が誘導・惹起されたためと考えられる。
【0090】
オンコリティックアデノウイルスは、細胞間相互作用によりキャリアー細胞から標的腫瘍細胞へと感染し、腫瘍細胞内で特異的に増殖し、腫瘍細胞を融解・殺傷するcell lysis作用を発揮すると考えられるが、本発明の癌遺伝子治療薬においては、予め免疫処置用アデノウイルスを投与することによって、オンコリティックアデノウイルスに感染した標的腫瘍細胞を排除する生体の強いCTL反応が誘導され、アデノウイルス感染腫瘍細胞の完全な自然排除が誘導されると考えられる。
【0091】
標的腫瘍細胞へのアデノウイルスの感染方法の1つとして、アデノウイルスによる細胞融合が考えられる。図8は、A549細胞をまき込んだウェルに、紫外線照射により不活化したアデノウイルスを1細胞当たり10000ウイルス粒子投与し、一晩培養後、顕微鏡により観察した結果を示すものである。同図矢印に示すように、アデノウイルスの投与によって細胞融合が起こり、多核細胞が散見された。アデノウイルスを投与しなかったA549細胞では、このような変化は観察されなかった(図9参照)。
【0092】
細胞融合以外に考えられる感染方法としては、キャリアー細胞の標的細胞への細胞接着さらに局所的なアデノウイルスのバーストあるいはアデノウイルスを含むキャリアー細胞fragmentによる標的腫瘍細胞へのアデノウイルスの感染が成立すると考えられる。何れの方法にせよ、アデノウイルスに感染した標的腫瘍細胞においては、腫瘍特異的プロモーターを有するアデノウイルスが増加し強力な免疫原となって(あるいはアデノウイルスに感染した標的腫瘍細胞が有する癌特異的ペプチドを二次的に抗原認識することによって)、CTL反応により腫瘍細胞が排除されると考えられる。
【0093】
〔実施例4:ミッドカインプロモーターを使用した場合の抗腫瘍効果〕
次に、ミッドカインプロモーターを使用した場合の抗腫瘍効果を検討した。図10(a)は、1〜21のヒト手術標本におけるミッドカイン(MK)mRNAの発現をRT−PCRで検討した結果である。同図に示すように、神経膠芽腫(glioblastoma)、 未分化星細胞腫(anaplastic astrocytoma)といった悪性グリオーマ(malignant glioma)および瀰漫性星細胞腫(diffuse astrocytoma)においてミッドカインmRNAの過剰発現が認められた。このように、ミッドカインは脳腫瘍など多くの癌において過剰発現が認められる。
【0094】
図10(b)は、上記と同様の方法により、悪性グリオーマの4つの細胞株におけるミッドカインmRNAの発現をRT−PCRで検討した結果である。同図に示すように、4つの細胞株のうち、U87MGでは発現はなく、U251MG、LN319、 U373MGではミッドカインmRNAの過剰発現が認められた。
【0095】
図10(c)は、上記各細胞株におけるミッドカイン蛋白の発現をウエスタンブロット解析によって検討した結果であり、mRNAと同様にU87MGでは発現はなく、U251MG、LN319、U373MGではミッドカイン蛋白の過剰発現が認められた。
【0096】
次に、ミッドカインのプロモーターアッセイを行った。実験では、長さが異なる2つのミッドカインプロモーター(600塩基と2300塩基)の活性を比較した。それぞれのプロモーターの下流にルシフェラーゼ遺伝子が挿入されたプラスミド(pGL3-MK600およびpGL3-MK2300)を上記各細胞株に導入し、それぞれのルシフェラーゼ活性を調べることによりプロモーター活性を評価した。その結果、図11に示すように、悪性グリオーマの細胞株では、長さ600塩基のほうが長さ2300塩基より高いプロモーター活性を示した。
【0097】
図12(a)は、今回設計した、ミッドカインプロモーターを有するオンコリティック(細胞融解型)アデノウイルスの構造を模式的に示す図である。長さ600塩基または2300塩基のミッドカインプロモーターは、552bpの位置に導入された。
【0098】
図12(b)は、3種類のアデノウイルスを上記各細胞株に感染させ、それぞれの細胞株におけるE1A蛋白の発現をウエスタンブロット解析によって検討した結果である。同図に示すように、長さ600塩基のミッドカインプロモーターを有するアデノウイルス(AdMK600)を感染させた場合、ミッドカインを発現するU251MG、LN319、U373MGでのみアデノウイルスのE1A蛋白の発現が観察された。これに対して、野生型のアデノウイルス(AdWild)では正常脳細胞を含めすべての細胞にE1A蛋白の発現が観察され、コントロールウイルスであるAdLacZではいずれの細胞においてもE1A蛋白の発現が観察されなかった。
【0099】
図13(a)は、3種類のアデノウイルスによる癌細胞増殖抑制効果を比較検討した結果である。野生型のアデノウイルス(AdWild)ではすべての細胞において強い増殖抑制効果を示したが、ミッドカインプロモーターを有するアデノウイルス(AdMK600およびAdMK2300)では、ミッドカインを発現するU251MG、LN319、U373MGにおいてのみ増殖抑制効果を示し、これらの値は、ミッドカインmRNAの発現量、プロモーター活性とよく相関した。また、長さ2300塩基のミッドカインプロモーターを有するアデノウイルスAdMK2300よりAdMK600のほうが強い増殖抑制効果を示した。
【0100】
図13(b)は、アデノウイルスのE3領域の増殖抑制効果に与える影響を検討した結果であり、同図に示すように、E3領域のあるAdMK600ではE3領域のないアデノウイルス(AdMK600―ΔE3)より10倍程度の強い増殖抑制効果を示した。
【0101】
図13(c)は、腫瘍の直径5−10mm程度の大きさのヌードマウス皮下移植モデルにおけるアデノウイルスの抗腫瘍効果を検討した結果である。図中、黒菱形印は野生型のアデノウイルスAdWildを投与した結果、黒四角印はミッドカインプロモーターを有するアデノウイルスAdMK600を投与した結果、黒三角印はLacZ遺伝子が挿入されたアデノウイルスAd-β-galを投与した結果、黒丸印はPBS緩衝液のみ投与した結果である。同図に示すように、ミッドカインを発現しないU87MGでは野生型のアデノウイルスのみ抗腫瘍効果を示し、ミッドカインを発現するU373MGではAdMK600とAdWildは完全に腫瘍の消失をもたらし、PBS緩衝液のみ注射したコントロールとAdLacZを注射したものとの間には大きな差異は認められなかった。
【0102】
さらに、上記ミッドカインプロモーターを有するアデノウイルス(Ad-MK600)をキャリアー細胞に感染させ、当該ウイルス感染キャリアー細胞の抗腫瘍効果をAd-MK600単独投与の場合と比較した。実験では、293細胞およびA549細胞をキャリアー細胞に使用した。ヌードマウス5週令に上記U373MG細胞を移植し、3週間後に10−15mmの巨大腫瘍が得られた後、ウイルス感染キャリアー細胞またはAd-MK600のみを投与し、その4週間後に腫瘍体積の大きさを比較した。その結果を図14に示す。図中、「Ad-MK600」はAd-MK600を単独投与した結果、「293」「A549」はそれぞれ293細胞、A549細胞をキャリアー細胞に用いたウイルス感染キャリアー細胞を投与した結果である。同図に示すように、ウイルス感染キャリアー細胞を投与したときは完全に腫瘍が消失した。一方、Ad-MK600を単独投与したときはコントロール(control)と殆ど差は認められなかった。
【0103】
これまでの実験結果から、キャリアー細胞にA549細胞、293細胞などを使用し、オンコリティックウイルスに1A1.3Bプロモーター又はミッドカインプロモーターを有するアデノウイルスを使用することによって、実際に卵巣癌、悪性グリオーマに対する良好な治療効果が認められた。ミッドカインプロモーターは、悪性グリオーマのほか種々の悪性腫瘍に対して使用可能であり、悪性グリオーマ以外の癌治療にも有効と考えられる。
【0104】
〔実施例5:アデノウイルスAdE3-1A1.3Bの増殖抑制効果に対するFeおよびALAの影響〕
卵巣癌細胞HEYを12well dishに10000/well播いた後、翌日にFeSO4を50μg/ml、5μg/ml、0.5μg/ml、0μg/mlの各濃度において入れ、全てのwellに細胞障害型アデノウイルスAdE3-1A1.3Bを入れ、5日後にアデノウイルスの増殖抑制効果をIC50で評価した。その結果を図15に示す。図中縦軸は、各場合におけるIC50のウイルス投与量(vp/cell)を相対的に示すものである。同図に示すように、FeSO4 50μg/mlおよびアデノウイルスを併用した場合では、アデノウイルス単独に比べ約20倍、FeSO4 5μg/mlおよびアデノウイルス併用では、アデノウイルス単独に比べ約8倍の増殖抑制効果を示した。
【0105】
次に、卵巣癌細胞株HEYを12well dishに10000/well播いた後、翌日に5-aminolevulinic acid(ALA)を50μg/ml、5μg/ml、0.5μg/ml、0μg/mlの各濃度において入れ、全てのwellに細胞障害型アデノウイルスAdE3-1A1.3Bを入れ、5日後にアデノウイルスの増殖抑制効果をIC50で評価した。その結果を図16に示す。図中縦軸は、各場合におけるIC50のウイルス投与量(vp/cell)を相対的に示すものである。同図に示すように、ALA 50μg/mlおよびアデノウイルスを併用した場合では、アデノウイルス単独に比べ約100倍の増殖抑制効果を示した。
【0106】
さらに、卵巣癌細胞株HEYを12well dishに10000/well播いた後、翌日にFeSO4を50μg/ml、5μg/ml、0.5μg/ml、0μg/mlの各濃度において入れ、各wellに細胞障害型アデノウイルスAdE3-1A1.3Bおよび5-aminolevulinic acid(ALA)50μg/ml、又はコントロールとしてアデノウイルス単独を入れ、5日後にアデノウイルスの増殖抑制効果をIC50で評価した。その結果を図17に示す。図中縦軸は、各場合におけるIC50のウイルス投与量(vp/cell)を相対的に示すものである。同図に示すように、FeSO4 50μg/ml、ALA 50μg/mlおよびアデノウイルスを併用した場合では、アデノウイルス単独に比べ、約1000倍の増殖抑制効果を示し、FeSO4 5μg/ml、ALA 50μg/mlおよびアデノウイルスを併用した場合では、アデノウイルス単独に比べ、約700倍の増殖抑制効果を示し、FeSO4 0.5μg/ml、ALA 50μg/mlおよびアデノウイルスを併用した場合では、アデノウイルス単独に比べ、約200倍の増殖抑制効果を示した。
【0107】
以上のように、ALAおよびFeは、オンコリティックアデノウイルスAdE3-1A1.3Bの増殖抑制効果を著しく亢進することが明らかとなった。この理由は、β-gal assayによりアデノウイルスの感染能力を高めること、PFU assayによりアデノウイルスの産生量の増加によることが明らかとなっており、ALAおよびFeは、アデノウイルスの感染力を高め、産生量を増加させること、つまりアデノウイルスの癌細胞内への感染力増加と細胞内における産生量増加とともに抗腫瘍効果を著しく高めることが明らかとなった。
【0108】
ALAは、ポルフィリン代謝物で従来より癌細胞に取り込まれ、その代謝物であるprotoporphyrin IXが蓄積されやすいことが知られており、これが光増感作用を有することよりエキシマダイレーザーと併用され、表在性癌のPDT治療(photodynamic therapy)に用いられてきた。
【0109】
上記protoporphyrin IXは、Feと結合することによりhemeとなり、細胞内でcytcrome等のheme蛋白を形成する。このheme蛋白は、細胞内ミトコンドリアで呼吸器系に関与しており、ATP産生に働き蛋白合成に関与する。このように、heme蛋白は、アデノウイルス感染時のアデノウイルス産生のための蛋白合成に関与するため、これらポルフィリン代謝が亢進することは、アデノウイルス産生増加につながる可能性が高いと考えられる。
【0110】
したがって、本発明の癌遺伝子治療薬、癌遺伝子治療方法において、これらFeおよび/又はALA等のポルフィリン化合物を併用することにより、さらに治療効果を高めることが期待できる。即ち、Feおよび/又はALA等のポルフィリン化合物を併用することにより、直接的な抗腫瘍効果の増加、さらには抗体存在下の感染抑制状態において、標的細胞のアデノウイルス産生増加によるCTL responseの亢進により、syngenic mouse modelにおいて抗腫瘍効果が高まり、ヒトにおいても同様な良好な抗腫瘍効果を呈するものと考えられる。
【0111】
また、オンコリティックウイルスを用いた癌遺伝子治療において、キャリアー細胞を使用しない場合であっても、Feおよび/又はALA等のポルフィリン化合物を併用することにより、治療効果を高めることが期待できる。
【0112】
〔実施例6:本発明の癌遺伝子治療薬による癌治療法の最適化の検討〕
本発明の癌遺伝子治療薬による癌治療法の最適化を図るため、以下一連の実験を行った。
【0113】
まず、図7に示す実験と同様に、免疫機能が正常な皮下腫瘍モデルマウス((C57BL/6×C3/He)F1マウス)を用いて、本発明の癌遺伝子治療薬のin vivo抗腫瘍効果を検討した。本実験では、生後5週の(C57BL/6×C3/He)F1マウスを免疫処置用ウイルスの投与により事前免疫し、その12週後、卵巣癌細胞OVHMをマウス1匹あたり1×106個皮下移植し、5−10mmの腫瘍形成後、上記アデノウイルスAdE3−1A1.3Bを250vp/cell感染させたA549細胞(Ad−A549)を腫瘍内投与した。免疫処置用ウイルスには、E1遺伝子を有しない非増殖型のアデノウイルスを使用し、より具体的には、CMVプロモーターの下流にLacZ遺伝子が挿入されたアデノウイルスであって、紫外線等による不活化処理を行っていないアデノウイルスAd−β−galを使用し、このAd−β−galをマウス1匹あたり1×1010vp皮内投与した。また、キャリアー細胞であるA549細胞は、200Gyにて放射線処理後、マウス1匹につき1回あたり5×10個、合計6回腫瘍内投与した。
【0114】
上記実験結果を図18(a)(b)に示す。各グラフ中、「Ad-β-gal→Ad-A549」は上記実験結果であり、「Ad-A549」はキャリアー細胞のみ投与した結果、「Ad-β-gal」は免疫処置用ウイルスは投与せず、治療としてAd-β-galのみ投与した結果、「control」はPBS緩衝液を投与した結果である。各群のマウスの数はn=5である。(a)のグラフは、各マウスの腫瘍体積を比較的短期間観察した結果であり、(b)のグラフは、各群マウスの生存率を長期間観察した結果である。これらの図に示すように、「Ad-β-gal→Ad-A549」では強力なin vivo抗腫瘍効果が認められた。
【0115】
次に、免疫処置用アデノウイルス投与からキャリアー細胞投与までの投与間隔について検討を行った。本実験は、この投与間隔を様々なものに変更した点、および、キャリアー細胞であるA549細胞にアデノウイルスAdE3−1A1.3Bを50vp/cell感染させた点以外は、図18に示す実験と同様に行った。
上記実験結果を図19(a)(b)に示す。各グラフ中、「2−4w」「5−9w」「10−15w」「16−22w」は、それぞれ、上記投与間隔を2−4週、5−9週、10−15週、16−22週の間に設定した実験結果であり、各群のマウスの数はn=5である。これらの図に示すように、上記投与間隔を10−15週に設定したとき最も良好な抗腫瘍効果が得られた。本実験のように、不活化処理していないアデノウイルスAd−β−galを免疫処置用ウイルスに使用した場合には、当該ウイルス投与後およそ10−15週においてT細胞によるCTL反応が中和抗体による感染抑制に比べ優位になると考えられる。
【0116】
臨床応用を考慮すると、上記投与間隔は短期間であることが望ましい。そこで、不活化処理したアデノウイルスAd−β−galを免疫処置用ウイルスに使用することで上記投与間隔を短くすることができないか検討した。その結果図20に示すように、紫外線(UV)照射し、不活化処理したアデノウイルスUV−Ad−β−galを免疫処置用ウイルスに使用した場合は、上記投与間隔を4週または3週に設定したときに良好な抗腫瘍効果が得られること、すなわち、免疫処置用ウイルスを不活化処理することで、上記投与間隔を3−4週程度に短縮できることがわかった。
【0117】
上記実験は、不活化処理したアデノウイルスUV−Ad−β−galを免疫処置用ウイルスに使用した点、上記UV−Ad−β−galをマウス1匹あたり1×10vp皮内投与した点、上記投与間隔を3週、4週、5週または6週に設定した点、および、キャリアー細胞であるA549細胞にアデノウイルスAdE3−1A1.3Bを50vp/cell感染させた点以外は、図18に示す実験と同様に行った。各群のマウスの数はn=10である。
【0118】
図21は、上記UV−Ad−β−galを免疫処置用ウイルスに使用した場合の当該ウイルスの投与量について検討した結果である。この実験では、上記UV−Ad−β−galの投与量を1×10vpから1×1011vpの範囲で変更した。また、上記投与間隔は6週に設定し、それ以外は図20に示す実験と同様に行った。その結果、UV−Ad−β−galの投与量1×10vpのときに最も良好な抗腫瘍効果が得られた。(この結果から、図20に示す実験では、UV−Ad−β−galの投与量を1×10vpに設定した。)
【0119】
図22(a)(b)は、腫瘍免疫(tumor vaccination)の効果を検討した結果である。上記UV−Ad−β−galをマウス1匹につき1×10vp皮内投与し、その10日後に腫瘍免疫のため放射線照射した卵巣癌細胞OVHMを1×106個皮下移植した。同時に、扁平上皮癌細胞SCC7または卵巣癌細胞OVHMを1×106個皮下移植し、5−10mmの腫瘍を形成したマウスにAdE3-1A1.3B感染A549細胞を5×106個腫瘍内に6回投与したマウス(図中、「OVHM-RT+Ad-β-gal→SCC7」「OVHM-RT+Ad-β-gal→OVHM」)では、コントロール(図中、腫瘍免疫無しにSCC7腫瘍に対してキャリアー細胞治療した「SCC7」、腫瘍免疫無しにOVHM腫瘍に対してキャリアー細胞治療した「OVHM」)に比べて腫瘍の成長・増殖は著しく抑制され、特に放射線照射したOVHMによって腫瘍免疫しOVHM腫瘍形成したマウスにキャリアー細胞による治療を行うと、全てのマウスにおいて腫瘍は消失し、再発は認められなかった。
【0120】
図23は、非小細胞性肺癌細胞A549細胞による腫瘍免疫の効果を検討した結果である。この実験では、アデノウイルスAdE3−1A1.3Bを100vp/cell感染させた放射線処理後のA549細胞をマウス1匹につき1×106個皮下移植し、その40日後に卵巣癌細胞OVHMを1×106個皮下移植した。このマウス(図中、「AdE3-1A1.3B-infected A549→OVHM」)においても、コントロール(図中、腫瘍免疫無しにOVHM腫瘍形成しキャリアー細胞による治療を行った「OVHM」)に比べて腫瘍の成長・増殖は著しく抑制され、生存率は大きく改善した。
【0121】
以上の結果から、種類の異なる癌細胞で腫瘍免疫を行っても抗腫瘍効果があることがわかった。
【0122】
次に、キャリアー細胞と共にアテロコラーゲンを投与した場合の効果について検討した。この実験では、生後5−10週の(C57BL/6×C3/He)F1マウスに、アデノウイルスAdE3−1A1.3Bを所定量感染させたA549細胞を5×106個投与したが、このときアテロコラーゲンを混注して最終濃度を0.1%とし、アデノウイルス投与に伴う副作用による死亡率が改善されるかどうかを調べた。その結果を図24に示す。図中、右側のバーは、アデノウイルスAdE3−1A1.3Bを50vp/cellまたは250vp/cell感染させたA549細胞と共にアテロコラーゲンを投与した結果、左側および中央のバーは、アデノウイルスAdE3−1A1.3Bをそれぞれ5vp/cell、50vp/cell感染させたA549細胞を投与した結果(アテロコラーゲンは混注せず)である。同図に示すように、アテロコラーゲンを同時投与した場合は、副作用による死亡率が激減し、投与量も増加することが可能となった。これは、アテロコラーゲンによりアデノウイルスの拡散が抑制されると共に抗アデノウイルス中和抗体に対するブロックが生じたためと考えられる。
【0123】
以上の結果から、アテロコラーゲンをキャリアー細胞と同時投与することによって副作用を抑え、アデノウイルスの高容量の投与が可能になることがわかった。
【0124】
次に、不活化処理していない前記アデノウイルスAd−β−galを1、2、3回投与し、ブースター効果によりそれぞれ血中抗アデノウイルス抗体が増加したマウスにおける抗腫瘍効果について検討した。この実験では、生後5週の(C57BL/6×C3/He)F1マウスに、アデノウイルスAd−β−galを1回、2回または3回投与し(各回3週おきに、1回あたり1×1010vp投与)、その後、卵巣癌細胞OVHMをマウス1匹あたり1×106個皮下移植し、5−10mmの腫瘍形成後、放射線処理後のキャリアー細胞を腫瘍内投与した。キャリアー細胞には、A549細胞単独、または、A549細胞と293細胞とを混合したものを使用した。
【0125】
A549細胞と293細胞とを混合したものは、マウス1匹につき、アデノウイルスAdE3−1A1.3Bを50vp/cell感染させたA549細胞を3.75×10個、および、アデノウイルスAdE3−1A1.3Bを10vp/cell感染させた293細胞を3.75×10個腫瘍内投与し、これを1回として合計6回腫瘍内投与した。その結果を図25(a)(b)に示す。また、A549細胞単独の場合は、マウス1匹につき、アデノウイルスAdE3−1A1.3Bを50vp/cell感染させたA549細胞を7.5×10個腫瘍内投与し、これを1回として合計6回腫瘍内投与した。その結果を図26(a)(b)に示す。図25および図26において、「×1」「×2」「×3」は、それぞれ、アデノウイルスAd−β−galを1回、2回、3回投与した結果である。これらの図に示すように、アデノウイルスAd−β−gal数回投与により抗アデノウイルス抗体プラスのマウスにおいても、キャリアー細胞による抗腫瘍効果が認められた。また今回の実験では、A549細胞単独に比べて、A549細胞と293細胞とを混合したものをキャリアー細胞に使用したほうが成績は良好であった。
【0126】
図27(a)(b)は、アデノウイルスAdE3−1A1.3Bのみならず、GM−CSF発現ベクターを感染させたキャリアー細胞(A549細胞)を投与し、かつ、このキャリアー細胞と共にアテロコラーゲンを投与した場合のin vivo抗腫瘍効果について検討した結果である。この実験では、図26に示す実験と同様に、生後5週の(C57BL/6×C3/He)F1マウスに、アデノウイルスAd−β−galを1回、2回または3回投与し(各回3週おきに、1回あたり1×1010vp投与)、その後、卵巣癌細胞OVHMをマウス1匹あたり1×106個皮下移植し、5−10mmの腫瘍形成後、放射線処理後のキャリアー細胞を腫瘍内投与した。ただし、キャリアー細胞(A549細胞)には、アデノウイルスAdE3−1A1.3Bを50vp/cell感染させると共に、GM−CSF発現ベクター(アデノウイルスのE1遺伝子を欠失した部位にCMVプロモーターの下流にGM−CSF遺伝子を挿入したベクター)を10vp/cell感染させた。こうして調製した放射線処理後のA549細胞を1回につき7.5×10個、アテロコラーゲン(濃度0.1%)と共に腫瘍内投与し、合計3回(×3)腫瘍内投与した。
【0127】
図27(a)(b)において、「Ad-β-gal→AdE3-1A1.3B+GMCSF」は上記実験結果であり、「Ad-β-gal→AdE3-1A1.3B」はアデノウイルスAdE3−1A1.3Bのみ50vp/cell感染させたキャリアー細胞(A549細胞)を1回につき7.5×10個、合計6回(×6)腫瘍内投与した結果である。同図に示すように、「Ad-β-gal→AdE3-1A1.3B+GMCSF」では、3回投与にもかかわらず「AdE3-1A1.3B」6回投与に比べ、アデノウイルスAd−β−galを1回、2回、3回投与した場合のいずれも非常に強いin vivo抗腫瘍効果が認められた。
【0128】
以上の結果から、キャリアー細胞にオンコリティックアデノウイルスのみならず、GM−CSF発現ベクターをも感染させることは、癌治療に非常に有効であることがわかった。
【0129】
図28(a)(b)は、キャリアー細胞投与時に、鉄剤を腹腔内投与した場合の効果について検討した結果である。この実験では、図27に示す実験と同様に、生後5週の(C57BL/6×C3/He)F1マウスに、アデノウイルスAd−β−galを1回、2回または3回投与し(各回3週おきに、1回あたり1×1010vp投与)、その後、卵巣癌細胞OVHMをマウス1匹あたり1×106個皮下移植し、5−10mmの腫瘍形成後、放射線処理後のキャリアー細胞を腫瘍内投与した。ただし、キャリアー細胞投与時に、鉄剤として鉄デキストラン(Fe−Dextran)0.01mgを腹腔内投与した。キャリアー細胞には、アデノウイルスAdE3−1A1.3Bを50vp/cell感染させたA549細胞を使用し、1回につき7.5×10個、合計3回(×3)腫瘍内投与した(各回、鉄剤も投与した)。
【0130】
図28(a)(b)において、「Ad-β-gal→AdE3-1A1.3B+Fe」は上記実験結果であり、「Ad-β-gal→AdE3-1A1.3B」はアデノウイルスAdE3−1A1.3Bを50vp/cell感染させたキャリアー細胞(A549細胞)を1回につき7.5×10個、合計6回(×6)腫瘍内投与した結果である。同図に示すように、「Ad-β-gal→AdE3-1A1.3B+Fe」では、アデノウイルスAd−β−galを1回、2回、3回投与した場合のいずれもキャリアー細胞による治療は3回にもかかわらず、AdE3-1A1.3B感染キャリアー細胞による6回の治療に比べ非常に強いin vivo抗腫瘍効果が認められた。
【0131】
以上の結果から、キャリアー細胞投与時に、あわせて鉄剤を投与することは、癌治療に非常に有効であることがわかった。
【0132】
次に、キャリアー細胞投与前にキャリアー細胞に対して行う放射線処理において照射する線量について検討した。実験には、生後5週のヌードマウスを使用し、A549細胞を異なる線量で放射線処理後、マウス1匹あたり1×10個皮下移植し、腫瘍の形成・成長を観察した。その結果を図29に示す。同図に示すように、照射する線量を120Gy以上とすることで、腫瘍の形成・成長は抑制された。
【0133】
(C57BL/6×C3/He)F1マウスを使用した実験で、キャリアー細胞(A549細胞)を異なる線量で放射線処理した場合の抗腫瘍効果について検討した結果を図30に示す。この実験では、生後5週の(C57BL/6×C3/He)F1マウスに、アデノウイルスUV−Ad−β−galを1×1010vp投与し、その5週後、卵巣癌細胞OVHMをマウス1匹あたり1×106個皮下移植し、5−10mmの腫瘍形成後、線量50Gy、100Gy、200Gyまたは400Gyで放射線処理したキャリアー細胞を腫瘍内投与した。キャリアー細胞には、アデノウイルスAdE3−1A1.3Bを50vp/cell感染させたA549細胞を使用し、1回につき7.5×10個、合計6回腫瘍内投与した。その結果、放射線処理において照射する線量は、200Gyよりも400Gyのほうが良好な結果が得られた。
【0134】
図31は、キャリアー細胞に対するオンコリティックウイルスの感染量について検討した結果を示す。この実験では、生後5週の(C57BL/6×C3/He)F1マウスに、アデノウイルスAd−β−galを1×1010vp投与し、その4週後、卵巣癌細胞OVHMをマウス1匹あたり1×106個皮下移植し、5−10mmの腫瘍形成後、線量250Gyで放射線処理したキャリアー細胞を腫瘍内投与した。また、キャリアー細胞(A549細胞)に対するアデノウイルスAdE3−1A1.3Bの感染量を、100vp/cell、250vp/cellまたは500vp/cellのいずれかとし、1回につきキャリアー細胞を7.5×10個、合計6回腫瘍内投与した。さらに、キャリアー細胞投与時に、あわせてアテロコラーゲン(濃度0.1%)を腫瘍内投与した。その結果、上記感染量は250vp/cellのときに最も良好な結果が得られ、150−400vp/cell程度に設定すれば良好であることがわかった。
【0135】
図32(a)(b)は、図31に示す実験と同様の実験において、腫瘍免疫の効果を検討した結果である。この実験では、生後5週の(C57BL/6×C3/He)F1マウスに、アデノウイルスAd−β−galを1×1010vp投与し、その4週後に腫瘍免疫のため線量80Gyで放射線処理した卵巣癌細胞OVHM−RTをマウス1匹あたり1×106個皮下移植した。さらにこの後、卵巣癌細胞OVHMを1×106個皮下移植し、5−10mmの腫瘍形成後、線量250Gyで放射線処理したキャリアー細胞を腫瘍内投与した。キャリアー細胞には、アデノウイルスAdE3−1A1.3Bを50vp/cell感染させたA549細胞を使用し、1回につき7.5×10個、合計3回腫瘍内投与した。また、キャリアー細胞投与時に、あわせてアテロコラーゲン(濃度0.1%)を腫瘍内投与した。その結果、腫瘍免疫を行ったマウス(図中、「OVHM-RT→A549」)では、腫瘍免疫を行わなかったマウス(図中、「A549」)に比べて腫瘍の成長・増殖は著しく抑制され、生存率は大きく改善した。
【0136】
以上の結果から、本発明の癌遺伝子治療薬の使用に際し、腫瘍免疫を併用することで良好な抗腫瘍効果が得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0137】
以上のように、本発明の癌遺伝子治療薬は、ほぼ全ての悪性腫瘍に適用することができ、卵巣癌、扁平上皮癌(子宮頚部癌、皮膚癌、頭頚部癌、食道癌、肺癌等)、消化器癌(大腸癌、膵癌、肝癌、胃癌等)、神経芽細胞腫、脳腫瘍、乳癌、精巣癌、前立腺癌など各種癌に対する強力な抗腫瘍効果が期待できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアー細胞投与に対する生体のCTL反応を誘導するために投与される免疫処置用ウイルスと、
投与前にオンコリティックウイルスを感染させ、同ウイルスを生体の腫瘍細胞に作用させるためのキャリアー細胞とを組み合わせた癌遺伝子治療薬。
【請求項2】
免疫処置用ウイルスおよびオンコリティックウイルスは、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、HIVウイルス等のレンチウイルス、レトロウイルス、レオウイルス、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、又はその他のオンコリティックウイルスから選ばれる、請求項1記載の癌遺伝子治療薬。
【請求項3】
免疫処置用ウイルスは非増殖型のものおよび/又は不活化したものである、請求項1又は2記載の癌遺伝子治療薬。
【請求項4】
キャリアー細胞は、A549細胞、293細胞、SW626細胞、HT―3細胞、PA−1細胞、又はその他のヒト由来の癌細胞もしくは正常細胞から選ばれる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の癌遺伝子治療薬。
【請求項5】
キャリアー細胞に感染させるオンコリティックウイルスは、治療対象の癌の種類等に応じて、1A1.3Bプロモーター、ミッドカインプロモーター、β―HCGプロモーター、SCCA1プロモーター、cox−2プロモーター、PSAプロモーター、又はその他の腫瘍特異的プロモーターを有する、請求項1記載の癌遺伝子治療薬。
【請求項6】
さらに、アテロコラーゲンを備えた、請求項1記載の癌遺伝子治療薬。
【請求項7】
さらに、投与前にキャリアー細胞に感染させるGM−CSF発現ベクターを備えた、請求項1記載の癌遺伝子治療薬。
【請求項8】
さらに、鉄剤および/又はポルフィリン化合物を備えた、請求項1記載の癌遺伝子治療薬。
【請求項9】
さらに、腫瘍免疫のため投与される腫瘍細胞を備えた、請求項1記載の癌遺伝子治療薬。
【請求項10】
キャリアー細胞投与に対する生体のCTL反応を誘導するために免疫処置用ウイルスをヒトに投与し、所定期間経過後、オンコリティックウイルスを感染させ、同ウイルスを腫瘍細胞に作用させるためのキャリアー細胞を少なくとも1回ヒトに投与することを特徴とする癌遺伝子治療方法。
【請求項11】
免疫処置用ウイルス投与からキャリアー細胞投与までの期間を、およそ2週間以上13週間以下とする、請求項10記載の癌遺伝子治療方法。
【請求項12】
免疫処置用ウイルスの投与量を、当該ウイルスに対する抗体陰性の患者にはおよそ10ウイルス粒子以上1011ウイルス粒子以下とし、当該ウイルスに対する抗体陽性の患者にはおよそ10ウイルス粒子以下とする、請求項10記載の癌遺伝子治療方法。
【請求項13】
キャリアー細胞によるオンコリティックウイルスの1回の投与量を、およそ10ウイルス粒子以上1014ウイルス粒子以下とする、請求項10記載の癌遺伝子治療方法。
【請求項14】
キャリアー細胞に対するオンコリティックウイルスの感染量を、およそ0.1ウイルス粒子/細胞以上2000ウイルス粒子/細胞以下とする、請求項10記載の癌遺伝子治療方法。
【請求項15】
腫瘍内投与によりキャリアー細胞を投与する、請求項10記載の癌遺伝子治療方法。
【請求項16】
キャリアー細胞と共に、アテロコラーゲンを投与する、請求項10記載の癌遺伝子治療方法。
【請求項17】
オンコリティックウイルスのみならず、GM−CSF発現ベクターを感染させたキャリアー細胞を投与する、請求項10記載の癌遺伝子治療方法。
【請求項18】
キャリアー細胞と共に、鉄剤および/又はポルフィリン化合物を投与する、請求項10記載の癌遺伝子治療方法。
【請求項19】
免疫処置用ウイルスの投与と共に、またはその前後に、腫瘍免疫のため腫瘍細胞を投与する、請求項10記載の癌遺伝子治療方法。



【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【国際公開番号】WO2005/037321
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【発行日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514783(P2005−514783)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015220
【国際出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(800000057)財団法人新産業創造研究機構 (99)
【Fターム(参考)】