説明

癒着防止膜およびその製造方法

生体内分解吸収性ポリマーの繊維構造体からなる癒着防止膜において、該繊維構造体を形成する繊維の平均直径が0.05〜50μmであり、かつ該繊維構造体の繊維表面構造が0.01〜1μmの直径を有する凹み部を有し、その凹み部が繊維表面の10〜95%を占有する癒着防止膜を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は癒着防止膜、およびその製造方法に関する。更に詳しくは、取扱性が良く、細胞接着抑制効果が極めて高い癒着防止膜、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
心臓外科、整形外科、脳神経外科、腹部外科、産婦人科等の臨床分野において、様々な外科手術後に、あるいは外傷によって、患部の生体組織が癒着することが、重大な問題となっている。組織の癒着が発生すると、例えば、痛みや機能障害を引き起こし、ひどい場合には前記癒着を剥離するための手術が別途必要になることもある。また、癒着により、原疾患に対する再手術が困難になるという問題も生じている。そこで、従来、生体組織の癒着を防止するために、癒着が発生するおそれがある組織を覆い、保護する癒着防止膜が開発されており、実際に、再生酸化セルロース布やヒアルロン酸・カルボキシルメチルセルロース混合膜等が、癒着防止膜として実用化されている。
例えば、酸化セルロースの多層フィルムを癒着防止膜として用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、ヒアルロン酸とカルボキシメチルセルロースを凍結処理したゲル組成物を癒着防止膜として用いることが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
しかしながら、これら癒着防止膜は水分を吸収することによって接着性が生じるため、手術中外科医の手袋に付着するなど、取扱性に難がある。
取扱性が良い癒着防止膜として、生体内分解吸収性ポリマーからなる不織布などが提案されている。例えば、コラーゲンを主とする膜よりなる癒着防止膜が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。しかし、このようなコラーゲンを用いると、コラーゲンが天然由来の材料であるため、抗原性を有するテロペプタイド部分の完全な除去が困難であることとプリオン等混入の危険性を生じる。また、癒着防止膜の分解性を制御するための架橋剤としてアルデヒド類、イソシアネート類を使用しているが、これらの使用は生体内に於いては分解生成物が悪影響を及ぼし好ましくない。
一方、コラーゲンに代えて、免疫学的に問題のない乳酸−グリコール酸共重合体、乳酸−カプロラクトン共重合体による生体内分解吸収性ポリマーからなる癒着防止膜が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。また、静電紡糸法によって作成したポリ乳酸や乳酸−グリコール酸共重合体の不織布からなる癒着防止膜も提案されている(例えば、特許文献5参照。)。
特に、静電紡糸法によって作成した不織布は繊維径が極めて小さいため、柔軟性に優れ、かつ取扱性が良いという利点を有している。
しかしながら、これまで提案されてきた癒着防止膜は、その膜に対して細胞や組織が容易に接着、浸透するため癒着を防止する効果は不十分なままであり、細胞や組織の接着抑制効果の高い癒着防止膜が望まれている。
【特許文献1】特開平10−99422号公報
【特許文献2】特開2003−19194号公報
【特許文献3】特開平3−295561号公報
【特許文献4】特開昭60−14861号公報
【特許文献5】US2002/0173213号公報
【発明の開示】
本発明の課題は、高い癒着防止効果を有し、かつ取扱性に優れる癒着防止膜を提供することにある。また同時に本発明の他の課題は、簡便な操作で、高い癒着防止効果を有する癒着防止膜の製造方法を提供することにある。
本発明は、以下のとおりである。
1.生体内分解吸収性ポリマーの繊維構造体からなる癒着防止膜において、該繊維構造体を形成する繊維の平均直径が0.05〜50μmであり、かつ該繊維構造体の繊維表面構造が、0.01〜1μmの直径を有する凹み部を有し、その凹み部が繊維表面の10〜95%を占有することを特徴とする癒着防止膜。
2.繊維構造体が不織布である、1.記載の癒着防止膜。
3.繊維構造体が主として脂肪族ポリエステルよりなる、1.または2.に記載の癒着防止膜。
4.繊維構造体が主としてポリ乳酸よりなる、1.または2.に記載の癒着防止膜。
5.繊維形成性ポリマーを揮発性溶媒に溶解した溶液を製造する段階と、前記溶液を静電紡糸法にて紡糸する段階、および捕集基板に累積される繊維構造体を得る段階を経て、繊維形成性ポリマーよりなる繊維構造体を製造し、該繊維構造体から癒着防止膜を製造する方法であって、該繊維構造体を形成する繊維の平均直径が0.05〜50μmであり、かつ該繊維構造体の繊維表面構造が、0.01〜1μmの直径を有する凹み部を有し、その凹み部が繊維表面の10〜95%を占有する繊維構造体からなる癒着防止膜の製造方法。
6.揮発性溶媒が、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエタン、ジブロモメタン、ブロモホルム、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンよりなる群から少なくとも1種選ばれる、5.に記載の癒着防止膜の製造方法。
7.静電紡糸法で紡糸する段階において、繊維状物質が形成されるノズルと捕集基板の間の相対湿度を20%以上とする5.または6.に記載の癒着防止膜の製造方法。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の製造方法のなかで、紡糸液を静電場中に吐出する静電紡糸法で用いる装置の一例である。
図2は、本発明の製造方法のなかで、紡糸液の微細滴を静電場中に導入する静電紡糸法で用いる装置の一例である。
図3は、実施例1で得られた繊維構造体の表面(2000倍)。
図4は、実施例1で得られた繊維構造体の表面(20000倍)。
図5は、実施例1で得られた繊維構造体への細胞接着性評価結果(1000倍)。
図6は、比較例1で得られた繊維構造体の表面(8000倍)。
図7は、比較例1で得られた繊維構造体の表面(20000倍)。
図8は、比較例1で得られた繊維構造体への細胞接着性評価結果(1000倍)。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明について詳述する。本発明に用いる繊維構造体とは、単数または複数の繊維が積層され、織り、編まれ若しくはその他の手法により形成された3次元の構造体を指す。単繊維であるフィラメントおよびフィラメントを複数集めたヤーンで形成された3次元の構造体もまた包含されるものとする。
具体的な繊維構造体の形態としては、例えば不織布、織布、編布、チューブ、メッシュ、などが好ましく挙げられる。より好ましい形態は、不織布である。
本発明に用いる繊維構造体の繊維表面構造は、0.01〜1μmの直径を有する凹み部を有する。凹み部の直径が上記範囲外では組織の接着抑制効果が小さく、好ましくない。より好ましくは、0.02〜0.5μmである。その凹み部が繊維表面の1〜95%を占有する。
本発明に用いる繊維構造体の繊維表面構造は、該凹み部が繊維表面の10〜95%を占有することが望ましい。凹み部が繊維表面を占有する割合が上記範囲外では組織の接着抑制効果が小さく、好ましくない。凹み部が繊維表面を占有する割合は好ましくは40〜95%であり、より好ましくは60〜95%、さらに好ましくは60〜80%である。
本発明の癒着防止膜は、該繊維構造体を有することを必須とする。すなわち、本発明の癒着防止膜は該繊維構造体のみで形成されていても良く、他の部材と組み合わせても良い。組み合わせる部材としては、例えば癒着防止膜を手術した患部に固定するための組織接着性成分や、縫合に対する耐性を強化するための補強材などが挙げられる。組織接着性成分を組み合わせる場合は、例えば該繊維構造体の一方の面に組織接着性成分を固定し、該組織接着性成分を固定した面を手術した患部に貼ることで癒着防止膜を固定し、他方の面へ他の組織が癒着することを防止するといった構造を形成出来る。
本発明に用いる繊維構造体を形成する繊維の平均繊維径は0.05〜50μmであることが好ましい。平均繊維径が0.05μmより小さいと、該繊維構造体の強度が保てないため好ましくない。また、平均繊維径が50μmより大きいと柔軟性が乏しくなり好ましくない。より好ましい平均繊維径は0.07〜30μmである。
本発明に用いる繊維構造体が主として生体内分解吸収性ポリマーよりなると、生体組織面に残存し組織の修復を遅らせる恐れがなく、好ましい。生体内分解吸収性ポリマーとしては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン、ポリカプロラクトン、トリメチレンカーボネート、ポリブチレンサクシネート、あるいはこれらの共重合体などの合成ポリマーやコラーゲン、キチン、キトサン、アルギン酸、ヒアルロン酸、デンプンや、これらの誘導体など天然ポリマーが挙げられるが、抗原性や品質制御の観点から、合成ポリマーが好ましい。このうち、脂肪族ポリエステルが力学物性と生体内での分解性からより好ましく、特にポリ乳酸が好ましい。ポリ乳酸の重量平均分子量が10万以上であると更に力学強度や生体内分解性の観点からより好ましい。
これらの生体内分解吸収性ポリマーは単独で用いても良く、また複数種を用いても良い。
本発明に用いる繊維構造体を製造する方法としては、先述の表面構造を有する繊維等が得られる手法であれば特に限定されないが、静電紡糸法が好ましい。以下静電紡糸法により製造する方法について詳細に説明する。
本発明で用いる静電紡糸法では繊維形成性ポリマーを揮発性溶媒に溶解した溶液を電極間で形成された静電場中に吐出し、溶液を電極に向けて曳糸し、形成される繊維状物質を捕集基板に累積することによって繊維構造体を得ることができる。繊維状物質とは既に溶液の溶媒が完全に留去されて繊維構造体となっている状態のみならず、いまだ溶液の溶媒を含んでいる状態も示している。
まず静電紡糸法で用いる装置について説明する。本発明で用いられる電極は、金属、無機物、または有機物のいかなるものでも導電性を示しさえすれば良い。また、絶縁物上に導電性を示す金属、無機物、または有機物の薄膜を持つものであっても良い。本発明における静電場は一対又は複数の電極間で形成されており、いずれの電極に高電圧を印加しても良い。これは例えば電圧値が異なる高電圧の電極が2つ(例えば15kVと10kV)と、アースにつながった電極の合計3つの電極を用いる場合も含み、または3本を越える数の電極を使う場合も含むものとする。
次に静電紡糸法による本発明の製造手法について詳細に説明する。まず繊維形成性ポリマーを揮発性溶媒に溶解した溶液を製造する段階がある。本発明の製造方法における溶液中の繊維形成性ポリマーの濃度は1〜50重量%であることが好ましい。繊維形成性ポリマーの濃度が1重量%より小さいと、濃度が低すぎるため繊維構造体を形成することが困難となり好ましくない。また、50重量%より大きいと溶液の粘度が増大するために、電極間により高電圧をかける必要が生じるため好ましくない。より好ましい繊維形成性ポリマーの濃度は2〜30重量%である。
本発明で溶液を形成する揮発性溶媒は、脂肪族ポリエステルを溶解し、常圧での沸点が200℃以下であり、常温(例えば27℃)で液体である物質である。具体的な揮発性溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエタン、ジブロモメタン、ブロモホルム、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、トルエン、テトラヒドロフラン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール、1,4−ジオキサン、四塩化炭素、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、アセトニトリルなどが挙げられる。これらのうち、上記表面構造を有する繊維を容易に形成できることから、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエタン、ジブロモメタン、ブロモホルム、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンが好ましく、特に塩化メチレンが好ましい。
これらの揮発性溶媒は単独で用いても良く、複数の揮発性溶媒を組み合わせても良い。また、本発明においては、本目的を損なわない範囲で、他の不揮発性溶媒を併用しても良い。
次に前記溶液を静電紡糸法にて紡糸する段階について説明する。該溶液を静電場中に吐出するには、任意の方法を用いることが出来る。例えば、一例として図1を用いて以下説明する。溶液2をノズルに供給することによって、溶液を静電場中の適切な位置に置き、そのノズルから溶液を電界によって曳糸して繊維化させる。このためには適宜な装置を用いることができ、例えば注射器の筒状の溶液保持槽3の先端部に適宜の手段、例えば高電圧発生器6にて電圧をかけた注射針状の溶液噴出ノズル1を設置して、溶液をその先端まで導く。接地した繊維状物質捕集電極5から適切な距離に該噴出ノズル1の先端を配置し、溶液2が該噴出ノズル1の先端を出るときにこの先端と繊維状物質捕集電極5の間にて繊維状物質を形成させる。
また当業者には自明の方法で該溶液の微細滴を静電場中に導入することもできる。一例として図2を用いて以下に説明する。その際の唯一の要件は液滴を静電場中に置いて、繊維化が起こりうるような距離に繊維状物質捕集電極5から離して保持することである。例えば、ノズル1を有する溶液保持槽3中の溶液2に直接、直接繊維状物質捕集電極に対抗する電極4を挿入しても良い。
該溶液をノズルから静電場中に供給する場合、数個のノズルを用いて繊維状物質の生産速度を上げることもできる。電極間の距離は、帯電量、ノズル寸法、紡糸液流量、紡糸液濃度等に依存するが、10kV程度のときには5〜20cmの距離が適当であった。また、印加される静電気電位は、一般に3〜100kV、好ましくは5〜50kV、一層好ましくは5〜30kVである。所望の電位は任意の適切な方法で作れば良い。
上記説明は、電極が捕集基板を兼ねる場合であるが、電極間に捕集基板となりうる物を設置することで、電極と別に捕集基板を設け、そこに繊維構造体を捕集することが出来る。この場合、例えばベルト状物質を電極間に設置して、これを捕集基板とすることで、連続的な生産も可能となる。
本発明において、ノズルと捕集基板の間の相対湿度を20%以上に維持すると、上記表面構造を有する繊維を簡便に得ることができ、好ましい。より好ましい相対湿度は25〜95%以上である。
最後に捕集基板に累積される繊維積層体を得る段階について説明する。本発明においては、該溶液を捕集基板に向けて曳糸する間に、条件に応じて溶媒が蒸発して繊維状物質が形成される。通常の室温であれば捕集基板上に捕集されるまでの間に溶媒は完全に蒸発するが、もし溶媒蒸発が不十分な場合は減圧条件下で曳糸しても良い。また、曳糸する温度は溶媒の蒸発挙動や紡糸液の粘度に依存するが、通常は、0〜50℃である。
本発明の癒着防止膜は、その特徴を損なわない範囲であれば、抗腫瘍剤、抗癌剤、抗炎症剤あるいは活性型ビタミンD等のビタミン類、甲状腺刺激ホルモン等のポリペプタイドのような生理活性物質等の薬剤を組み合わせ、組織修復を促進させることもできる。また、該繊維構造体が生体内分解吸収性ポリマーよりなるときは、その繊維中に上記薬剤を含有させることで、徐放化機能をもたせることも出来る。
以下に、図1〜2に用いられている符号の簡単な説明を記載する。
1. ノズル
2. 紡糸液
3. 紡糸液保持槽
4. 電極
5. 繊維状物質捕集電極
6. 高電圧発生器
【実施例】
以下本発明を実施例により説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。また以下の各実施例、比較例における評価項目は以下のとおりの手法にて実施した。
[繊維表面構造の凹み部]
得られた繊維構造体の表面の走査型電子顕微鏡写真(倍率20000倍)を撮影し、その写真からn=20にて、凹み部の直径を測定した平均値を算出した。
また、n=5にて、繊維表面に対する凹み部の占有割合を測定した平均値を算出した。
[平均繊維径]
得られた繊維構造体の表面の走査型電子顕微鏡写真(倍率2000倍および8000倍)を撮影し、その写真からn=20にて繊維径を測定した平均値を算出した。
[細胞接着性評価]
得られた繊維構造体を直径24mmの円形に切り出し、滅菌のために70%エタノール水溶液に浸漬し風乾させた後、セルカルチャーインサート(BD Biosciences)にセットした。フィルムは培地に浸すことなく2x105Cells/ml/wellでマウス胎児線維芽細胞を播種し、wellプレート内に3mlの培地を入れて2日間、5%CO2、37℃の条件でインキュベーター(Heraeus)内で培養を行った。
培養後培地を取り除き、2.5%グルタルアルデヒド/リン酸緩衝液(0.2Mリン酸1ナトリウム19ml、0.2Mリン酸2ナトリウム81ml、イオン交換水100ml)=1/9(体積比)を1ml加え、4℃で2時間放置した。2時間後リン酸緩衝液で洗浄した後、50、70、90、95、99.5%エタノールの順で脱水を行った。
走査型電子顕微鏡写真を撮影した。(倍率:1,000倍)繊維構造体面積に占める、細胞および細胞外マトリクスの付着面積の割合を、n=3にて測定した平均値を算出した。
【実施例1】
ポリ乳酸(島津製作所:商品名「Lacty 9031」、重量平均分子量168,000)1重量部を塩化メチレン(和光純薬工業、特級)9重量部に室温(22℃)にて溶解し、溶液を作成した。図2にしめす装置を用いて、該溶液を繊維状物質捕集電極5に5分間吐出した。噴出ノズル1の内径は0.8mm、電圧は12kV、噴出ノズル1から繊維状物質捕集電極5までの距離は12cm、相対湿度35%であった。得られた繊維構造体を走査型電子顕微鏡(日立製作所S−2400)で測定したところ、平均繊維径は3μmであり、繊維表面の凹み部の平均直径は0.15μm、凹み部の面積が繊維表面に占める割合は68%であった。繊維構造体の走査型電子顕微鏡写真を図3,4に示す。
該繊維構造体の細胞接着性評価結果は約10%であり、細胞接着が抑制されていることが分かった。細胞接着後の走査型電子顕微鏡写真を図5に示す。
[比較例1]
ポリ乳酸(島津製作所:商品名「Lacty 9031」、重量平均分子量168,000)1重量部を塩化メチレン(和光純薬工業、特級)4.5重量部、N,N−ジメチルホルムアミド4.5重量部(和光純薬工業、特級)に室温(22℃)にて溶解し、溶液を作成した。図2にしめす装置を用いて、該溶液を繊維状物質捕集電極5に5分間吐出した。噴出ノズル1の内径は0.8mm、電圧は12kV、噴出ノズル1から繊維状物質捕集電極5までの距離は10cm、相対湿度32%であった。得られた繊維構造体を走査型電子顕微鏡(日立製作所S−2400)で測定したところ、平均繊維径は0.5μmであり、繊維表面には凹み部が観察されなかった。繊維構造体の走査型電子顕微鏡写真を図6,7に示す。
該繊維構造体の細胞接着性評価結果は約70%であり、細胞および細胞外マトリクスが繊維構造体をほぼ多い尽くしていることが分かった。細胞接着後の走査型電子顕微鏡写真を図8に示す。
【産業上の利用可能性】
本発明は特異な表面構造を有する繊維からなる繊維構造体を有することで、極めて高い癒着防止効果を有する癒着防止膜、およびその製造方法を提供できる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内分解吸収性ポリマーの繊維構造体からなる癒着防止膜において、該繊維構造体を形成する繊維の平均直径が0.05〜50μmであり、かつ該繊維構造体の繊維表面構造が、0.01〜1μmの直径を有する凹み部を有し、その凹み部が繊維表面の10〜95%を占有することを特徴とする癒着防止膜。
【請求項2】
繊維構造体が不織布である、請求項1記載の癒着防止膜。
【請求項3】
該繊維構造体が主として脂肪族ポリエステルよりなる、請求項1または2に記載の癒着防止膜。
【請求項4】
該繊維構造体が主としてポリ乳酸よりなる、請求項1または2に記載の癒着防止膜。
【請求項5】
繊維形成性ポリマーを揮発性溶媒に溶解した溶液を製造する段階と、前記溶液を静電紡糸法にて紡糸する段階、および捕集基板に累積される繊維構造体を得る段階を経て、繊維形成性ポリマーよりなる繊維構造体を製造し、該繊維構造体から癒着紡糸膜を製造する方法であって、該繊維構造体を形成する繊維の平均直径が0.05〜50μmであり、かつ該繊維構造体の繊維表面構造が、0.01〜1μmの直径を有する凹み部を有し、その凹み部が繊維表面の10〜95%を占有する繊維構造体からなる癒着防止膜の製造方法。
【請求項6】
該揮発性溶媒が、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエタン、ジブロモメタン、ブロモホルム、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンよりなる群から少なくとも1種選ばれる、請求項5に記載の癒着防止膜の製造方法。
【請求項7】
該静電紡糸法で紡糸する段階において、繊維状物質が形成されるノズルと捕集基板の間の相対湿度を20%以上とする請求項5または6に記載の癒着防止膜の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/089433
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【発行日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505287(P2005−505287)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004947
【国際出願日】平成16年4月6日(2004.4.6)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】