説明

発がん物質を解毒する組成物および方法

【課題】ヒトを含むほ乳類のがんの予防および治療に有用な医薬品、食品または化粧品の組成物を提供する。
【解決手段】本発明の組成物は、担体と、有効量の活性ベンゾ[a]ピレン結合タンパクとを含む、医薬品、食品または化粧品の組成物であって、前記タンパクは、SAM依存性メチルトランスフェラーゼか、該メチルトランスフェラーゼの機能を保存した変異体か、前記メチルトランスフェラーゼまたは変異体の断片かであり、前記タンパクはベンゾ[a]ピレンと特異的に結合するSAM結合ドメインを有する、医薬品、食品または化粧品の組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の発がん物質を生体内(in vivo)で結合可能なタンパク質を含む、医薬品、食品または化粧品の組成物に関する。より具体的には、本発明は、生体内でベンゾ[a]ピレンと結合可能なタンパク質を含む、医薬品組成物、食品組成物または化粧品組成物に関する。さらに本発明は、がんの予防または治療用タンパク質の使用に関する。本発明は、本発明のタンパク質を含む、医療用組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
本発明のベンゾ[a]ピレン(BaP)は以下の化学式の発がん物質である。
【0003】
【化1】

【0004】
BaPは有機物の燃焼によって発生する。火力発電所および製鉄所の労働者と、アルミ精錬およびルーフィング関係者とは、BaPを含むさまざまな多環芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbons、PAHs)の長期間曝露に関連する発がんリスクが高い(1、数字は、明細書の末尾に列挙する文献リストの番号である。また、本段落および次の段落では、段落末尾の非特許文献の番号でもある。)。細胞内に拡散した後は、BaPはアリル炭化水素レセプター(AhR)に結合し、当該細胞の核内に移行して、CYP1A1遺伝子を転写活性化する(2−4)。BaP7,8−ジヒドロジオール−9,10−エポキシド(BPDE)として知られるBaPの代謝産物は、DNA付加体の形成および突然変異誘発を行うことができる(5)。
【非特許文献1】Fischman.M.L.、Cadman、E.C.およびDesmond、S.Occupational Cancer.In LaDou J.編、Occupational Medicine.p.p.182−208.Pretince−Ha
【非特許文献2】Whitlock、J.P.Jr.、Okino、S.T.、Dong、L.、Ko、H.P.、Clarke−Katzenberg、R.、Ma、Q.およびLi、H.Cytochromes P450 5: Induction of cytochrome P4501A1: a model for analyzing mammalian gene transcription.FASEB J.、10: 809,818、1996.
【非特許文献3】Foldes、R.L.、Hines、R.N.、Ho、K.L.、Shen、M.L.、Nagel、K.B.およびBresnick、E.3−Methylchlanthrene−induced expression of the cytochrome P−450c gene.Arch.Biochem.Biophys.、239: 137−146、1985.
【非特許文献4】Raval、P.、Iversen、P.L.およびBresnick、E.Induction of cytochromes P4501A1 and P4501A2 as determined by solution hybridization.Biochem.Pharmacol.、41: 1719−1723、1991.
【非特許文献5】Wijnhoven.S.W.、Kool、H.J.、van Oostrom,C.T.、Beems、R.B.、Mullenders、L.H.、van Zeeland、A.A.、van der Horst、G.T.、Vrieling、H.およびvan Steeg、H.The relationship between benzo[a]pyrene−induced mutagenesis and carcinogenesis in repair−deficient Cockayne syndrome group B mice.Cancer Res.、60: 5681−5687、2000.
【0005】
多機能タンパク質である、グリシンN−メチルトランスフェラーゼ(GNMT、EC2.1.1.20)は、(a)SAMのS−アデノシルホモシスチン(SAH)に対する比の調節と、(b)葉酸との結合とによって遺伝的安定性に影響を与える(6、7)。本発明の発明者らは、ヒト肝細胞性癌(HCC)細胞株および腫瘍組織の両方においてGNMT発現レベルの低下を以前報告した(8、9)。以前の研究プロジェクトでは、ヒトGNMT遺伝子は6p12染色体領域に局在し、その多型性が特徴づけられた(10、11)。複数のヒトGNMT遺伝子多型の遺伝子型解析は、HCC組織での上述の遺伝子マーカーの36−47%においてヘテロ接合性が欠失していることを証明した(11)。
【非特許文献6】Kerr、S.J.Competing methyltransferase system.J Biol Chem.、247: 4248−4252、1972.
【非特許文献7】Yeo、E.J.およびWagner、C.Tissue distribution of glycine N−methyltransferase、a major folate−binding protein of liver.Proc.Natl.Acad.Sci.USA、91: 210−214、1994.
【非特許文献8】Chen、Y.M.A.、Shiu、J.Y.、Tzeng、S.J.、Shih、L.S.、Chen、Y.J.、Lui、W.Y.およびChen、P.H.Characterization of glycine−N−methyltransferase−gene expression in human hepatocellular carcinoma.Int.J.Cancer、75: 787−793、1998.
【非特許文献9】Liu、H.H.、Chen、K.H.、Lui、W.Y.、Wong、F.W.およびChen、Y.M.A.Characterization of reduced expression of glycine N−methyltransferase in the cancerous hepatic tissues using two newly developed monoclonal antibodies.J.Biomed.Sci.、10: 87−97、2003.
【非特許文献10】Chen、Y.M.A.、Chen、L.Y.、Wong、F.H.、Lee、C.M.、Chang、T.J.およびYang−Feng、T.L.Genomic structure、expression and chromosomal localization of the human glycine N−methyltransferase gene.Genomics、66:43−47、2000.
【非特許文献11】Tseng、T.L.、Shih、Y.P.、Huang、Y.C.、Wang、C.K.、Chen、P.H.、Chang、J.G.、Yeh、K.T.、Struewing、J.P.、Chen、Y.M.A.およびBuetow、K.H.Genotypic and phenotypic characterization of a putative tumor susceptibility gene、GNMT、in livcr cancer.Cancer Res.、63: 647−654、2003.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明の概要
ヒトを含むほ乳類のがん、主に、肝がん、肺がん、膀胱がん、前立腺がん、大腸がん、脳腫瘍、乳がんおよび腎がんの予防および治療に有用な、医薬品、食品または化粧品の組成物を提供することが本発明の課題である。
【0007】
ヒトまたは動物の身体の医学的治療薬としてのGNMTの新規な使用方法を提供することが本発明の別の課題である。
【0008】
BaPが介在する発がん、特に、ヒトを含むほ乳類のがん、主に、肝がん、肺がん、膀胱がん、前立腺がん、大腸がん、脳腫瘍、乳がんおよび腎がんの予防または治療の方法を提供することは本発明のさらに別の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
これらの課題は、本発明にしたがって、担体と、有効量の活性のあるベンゾ[a]ピレン結合タンパクとを含む、医薬品、食品または化粧品の組成物により解決されるが、前記タンパクは、ベンゾ[a]ピレンと特異的に結合するSAM結合ドメインを有するSAM依存メチルトランスフェラーゼか、その機能を保存した変異体か、これらの断片かである。本発明の組成物のメチルトランスフェラーゼは、GNMT、HhaI−DNA メチルトランスフェラーゼ(MTase)、HaeIII−DNA メチルトランスフェラーゼまたはPvuII−DNA メチルトランスフェラーゼであることが好ましい。前記メチルトランスフェラーゼが以下のアミノ酸配列を有するGNMTであることが最も好ましい(Chen YM、Chen LY、Wong FH、Lee CM、Chang TJ、Yang−Feng TL. Genomics. 2000年5月15日号;66(1):43−7. PMID: 10843803 [MEDLINE用にPubMedで索引される])。
【0010】
1-MVDSVYRTRSLGVAAEGLPDQYADGEAARVWQLYIGDTRSRTAEYKAWLL-50
51-GLLRQHGCQRVLDVACGTGVDSIMLVEEGFSVTSVDASDKMLKYALKERW-100
101-NRRHEPAFDKWVIEEANWMTLDKDVPQSAEGGFDAVICLGNSFAHLPDCK-150
151-GDQSEHRLALKNIASMVRAGGLLVIDHRNYDHILSTGCAPPGKNIYYKSD-200
201-LTKDVTTSVLIVNNKAHMVTLDYTVQVPGAGQDGSPGLSKFRLSYYPHCL-250
251-ASFTELLQAAFGGKCQHSVLGDFKPYKPGQTYIPCYFIHVLKRTD-295
配列番号1
GNMTの配列データは、EMBL/GenBankデータライブラリにアクセッション番号AF101475で登録されている。
【0011】
本発明は、メチルトランスフェラーゼの特定のサブクラスの要素としてのGNMTが発がん物質BaPの新規な解毒経路に関与するという認識に基づく。具体的には、本発明は、シトシンを標的原子団として用いるDNAメチルトランスフェラーゼとBaPとは容易に相互作用することを示す、BaPがGNMTその他のSAM依存メチルトランスフェラーゼ(MTases)のSAM結合ドメインと生体内で優先的に結合することの認識に基づく。GNMTを過剰発現するトランスジェニックマウスがベンゾ[a]ピレンで処理されるとき、当該マウスのうち30%だけが肺がんを発生したが、GNMTを過剰発現しない正常マウスは同じ条件で67%の発症率で肺がんを発生する。したがってGNMTが生体内でベンゾ[a]ピレンと結合することは発がんを予防できる。
【0012】
本発明は、ベンゾ[a]ピレンを特異的に結合するSAM結合ドメインを有する、SAM依存メチルトランスフェラーゼか、その機能を保存した変異体か、これらの断片を、ヒトを含むほ乳類のがん、特に、肝がん、肺がん、膀胱がん、前立腺がん、大腸がん、脳腫瘍、乳がんおよび腎がんの予防および治療用の医薬の製造のための使用を提供する。前記組成物は、経口、局部または非経口で投与される場合がある。前記メチルトランスフェラーゼは、GNMT、HhaI−DNA メチルトランスフェラーゼ、HaeIII−DNA メチルトランスフェラーゼまたはPvuII−DNA メチルトランスフェラーゼであることが好ましい。前記メチルトランスフェラーゼがGNMTであることが最も好ましい。
【0013】
本発明は、ベンゾ[a]ピレンと特異的に結合する、SAM結合ドメインを有するSAM依存メチルトランスフェラーゼか、その機能を保存した変異体か、これらの断片かの医薬品として有効な量を個人に投与することを含む、がんの予防または治療の方法を提供する。前記ベンゾ[a]ピレンと特異的に結合するSAM結合ドメインを有するSAM依存メチルトランスフェラーゼか、その機能を保存した変異体か、これらの断片かは、直接投与されてもよく、前記タンパク質をエンコードし、該タンパク質を発現可能なベクターによって投与されてもかまわない。
【0014】
発明の詳細な説明
図1 ベンゾ[a]ピレン処理後の細胞でのGNMTの核内移行
写真AおよびB:2重IFAがpGNMTをトランスフェクションしたHA22T/VGH細胞で実施された。抗血清:A、ウサギ抗GNMT抗体;B、マウス抗Flag抗血清。写真C−F:pGNMTをトランスフェクションしたHuh7細胞を固定する前にDMSO溶媒(CおよびD)またはBaP(EおよびF)のいずれかで処理し、マウス抗Flag抗血清と反応された。免疫蛍光染色は、ローダミン結合ヤギ抗ウサギ抗体(A)またはFITC結合ウサギ抗マウス抗体(B−F)で実施された。核はヘキストH33258で染色された。
【0015】
図2 (A)32Pポストラベリングと、5次元薄層クロマトグラフィとの組み合わせを用いるBPDE−DNA付加体の量(RAL)。レーン1、DMSO溶媒の対照;レーン2、モック(mock);レーン3、40μgの対照(pFLAG−CMV−5)ベクターをトランスフェクションした細胞;レーン4、40μgのpGNMTをトランスフェクションした細胞;レーン5、40μgのpGNMTアンチセンスをトランスフェクションした細胞;レーン6、20μgのpGNMTと、20μgのpGNMTアンチセンスとをコ・トランスフェクションした細胞。10ヌクレオチドあたりのDNA付加体量(付加体相対レベル、relative adducts level、RAL):レーン1、0;レーン2、1031.7;レーン3、1092.4;レーン4、719.8;レーン5、1411.3;レーン6、1079.7。(B)対照(pFLAG−CMV−5)ベクター(レーン1)、pGNMT(レーン2)、pGNMTアンチセンス(レーン3)またはpGNMT/pGNMTアンチセンス(レーン4)でトランスフェクションされたHepG2細胞におけるGNMT発現のウェスタンブロット解析。泳動度の速いバンドはこれら4つの実験でのβ−アクチン発現レベルを示す。(C)1または10μMのBaP処理されたHepG2、SCG2−1−1およびSCG2−1−11細胞におけるBPDE−DNA付加体の量。レーン1および4:それぞれ1および10μMのBaP処理されたHepG2細胞;レーン205:それぞれ1および10μMのBaP処理されたSCG2−1−1細胞;レーン3および6:それぞれ1および10μMのBaP処理されたSCG2−1−11細胞。10ヌクレオチドあたりのDNA付加体量(RAL):レーン1、161.9;レーン2、26.4;レーン3、55.2;レーン4、682.1;レーン5、354.9;レーン6、506.5。(D)HepG2細胞(レーン1)、SCG2−1−1細胞(レーン2)およびSCG2−1−11細胞(レーン3)におけるGNMT発現のウェスタンブロット解析。各細胞株から20μgの細胞溶解液がポリアクリルアミドゲル電気泳動に用いられた。泳動度の速いバンドはこれら4つの実験でのβ−アクチンの発現レベルを示す。
【0016】
図3 Ad−GFPまたはさまざまなMOIsのAd−GNMTを感染させたHepG2細胞におけるBPDE−DNA付加体形成に対するGNMTの過剰発現発現の影響
(A)レーン1、Ad−GFPを感染させ、DMSO溶媒で処理された細胞;レーン2、Ad−GFPを感染させ、BaPで処理された細胞;レーン3、100MOIsのAd−GNMTを感染させ、BaPで処理された細胞;レーン4、250MOIsのAd−GNMTを感染させ、BaPで処理された細胞;レーン5、1000MOIsのAd−GNMTを感染させ、BaPで処理された細胞。10ヌクレオチドあたりのDNA付加体量(RAL):レーン1、0;レーン2、638.9;レーン3、514.2;レーン4、405.3;レーン5、224.3。(B)同じ実験におけるGNMT発現のウェスタンブロット解析。レーン1、Ad−GFPの対照;レーン2、Ad−GNMT(100 MOIs);レーン3、Ad−GNMT(250 MOIs);レーン4、Ad−GNMT(1,000 MOIs)
【0017】
図4。アリル炭化水素ヒドロキシラーゼ(AHH)アッセイで測定される、SCG2−negおよびSCG2−1−1細胞におけるBaPにより誘導されるシトクロムp450 1A1(CYP1A1)酵素活性。レーン1−4、SCFG2−negにおけるCYP1A1活性;レーン5−8SCG2−1−1細胞におけるCYP1A1活性。処理:レーン1および5、DMSO溶媒、レーン2および6、3μMのBaP;レーン3および7、6μMのBaP;レーン4および8、9μMのBaP。前記CYP1A1酵素活性の平均(ピコモル/mg/分)および標準偏差(かっこ内):レーン1、14.5(0.27);レーン2、24.47(0.14);レーン3、41.5(1.42);レーン4、71.3(1.75);レーン5、16.2(3.6);レーン6、20.1(1.5);レーン7、27.7(1.2);レーン8、36.2(1.7)。
【0018】
図5 ラマルク型遺伝アルゴリズム(Lamarckian genetic algorithm)を用いる2量体および4量体型のGNMTと結合するBaPのモデル
(A)ラットGNMT(シアン色、1D2H)の4量体型と結合したSAH(白色)とドッキングしたBaP(赤色)。(B)ラットGNMT(黄色、1D2C)の2量体型とドッキングしたBaP(赤色)。(C)GNMTの4量体型(シアン色)とスーパーインポーズされたGNMTの2量体型。(黄色)。複数のBaPの炭素原子の近傍のGNMTのアミノ酸残基(2量体の一方のサブユニットのIle34、Thr37、Gly137、His142およびLeu240と、他方のサブユニットのGlu15)が、1D2CおよびBaPのドッキングモデルにもとづいて表示される。
【0019】
図6 BaPによるGNMT酵素活性の阻害
GNMT酵素活性の測定結果は、DMSO溶媒処理について2810.8 ± 73.7 ナノモル/時/μg;10μM BaP処理について1563.3 ± 127.4ナノモル/時/μg;50μM BaP処理について1069.5 ± 124.2ナノモル/時/μg;100μM BaP処理について1083.3 ± 175.9ナノモル/時/μgであった。各反応セットと、個々の実験とは、3重に繰り返して実施された。
【0020】
図7 pPEPCKex−flGNMTプラスミドの構築
pPEPCKeX(ベクター)とpSK−flGNMT(インサート)とはNotIおよびXhoIで消化され、pPEPCKex−flGNMTを生成するために連結された。
【0021】
図8 トランスジェニックマウスおよび正常マウスのノザンブロット。
【0022】
図9 トランスジェニックマウスおよび正常マウスのウェスタンブロット。
【0023】
図10 BaP処理され、78週間後に屠殺されたGNMTトランスジェニックマウス(A)および正常マウス(B)の肺の臓器病理写真。
【0024】
本発明はBaPによる発がんに関連するヒトの病状を予防および治療するための組成物および方法を提供する。本発明の治療薬および予防薬組成物は、ベンゾ[a]ピレンと特異的に結合するSAM結合ドメインを有する、少なくとも1種類のSAM依存メチルトランスフェラーゼか、その機能を保存した変異体か、これらの断片かを含む。本発明の組成物に含まれるメチルトランスフェラーゼタンパクは、他の全てのタンパク質または夾雑物をほぼ含まない、単離生成されたタンパク質の場合がある。前記メチルトランスフェラーゼタンパクは、例えば、抽出物のような、天然の原料から得られる混合物の形態で本発明の組成物中に含まれる場合がある。前記組成物が天然原料から得られる混合物を含む場合には、本発明の組成物は前記天然原料中のメチルトランスフェラーゼ濃度より高濃度のメチルトランスフェラーゼタンパクを含む。前記メチルトランスフェラーゼ濃度は前記天然原料中のメチルトランスフェラーゼ濃度より少なくとも2倍であることが好ましく、3ないし1000倍であることがより好ましい。
【0025】
本発明の組成物は治療薬の処方計画(regimen)の下で患者に投与されるとき、発がんを治療または予防できる。本発明の組成物および方法は、発がん物質ベンゾ[a]ピレンとその誘導体に関連する病状を治療するための用いられる場合がある。実施例に記載の生体内試験は、発がんの予防および治療におけるメチルトランスフェラーゼの特定のサブクラスの要素としてGNMTを使用することに成功したことを実証する。前記サブクラスはベンゾ[a]ピレンと選択的に結合するSAM結合ドメインによって特徴づけられる。
【0026】
本発明によれば、「タンパク質」とは、約1000個のアミノ酸残基以下を含み、少なくとも約50個のアミノ酸残基を含むのが好ましく、少なくとも約100個のアミノ酸残基を含むのが好ましく、少なくとも約150個のアミノ酸残基を含むのがより好ましい、特定のアミノ酸残基の配列をいい、メチルトランスフェラーゼに由来する場合には、メチルトランスフェラーゼ全体のアミノ酸配列と同じかより少ない数のアミノ酸残基を含み、特定の実施態様では、前記タンパク質の全体のアミノ酸残基の約95%以下であって、有効なSAM結合ドメインを含む。本発明にしたがって用いられるタンパク質は、少なくとも1個のSAM結合ドメインを含む。SAM結合ドメインは、BaPの認識および生体内でのBaPとの結合に必要な基本要素または最小単位である。前記SAM結合ドメインは、生体内でのBaPと結合して、BaPの細胞内への拡散、アリル炭化水素レセプター(AhR)との結合、前記細胞の核内への移行またはCYP1A1遺伝子の転写活性化を回避することに関与すると信じられている。したがって、BaPと特異的に結合するSAM結合ドメインを有するSAM依存メチルトランスフェラーゼか、その機能を保存した変異体か、これらの断片かは、発がんの予防または治療に有用である。本発明の最も好ましいタンパク質はGNMTである。ドッキングモデルに基づくGNMT(pdb:1D2C)とBaPとの間の接触距離は、GNMTの結合ポケットを例示するために以下の表1に示される。









【0027】
【表1】

【0028】
(BaPに起因する疾患徴候の予防または遅延をもたらす)本発明の治療薬/予防薬の処方計画は、ベンゾ[a]ピレンと特異的に結合するSAM結合ドメインを有するSAM依存メチルトランスフェラーゼか、その機能を保存した変異体か、これらの断片かのうち少なくとも1つを含む本発明の組成物の投与を含む。本発明の組成物の使用は、(a)固体または液体食品または煙または蒸気のような流体に存在するBaPまたはその誘導体に曝露された個体内にBaPが吸収される前に、前記BaPまたはその誘導体と結合するか、(b)前記個体内のBaPまたはその誘導体と結合する場合がある。
【0029】
本発明の組成物および方法は、ヒトを含むほ乳類における、肝がん、肺がん、膀胱がん、前立腺がん、大腸がん、脳腫瘍、乳がんおよび腎がんのようながんを治療するうえで有用である。
【0030】
ベンゾ[a]ピレンと特異的に結合する、SAM依存メチルトランスフェラーゼか、その機能を保存した変異体かの少なくとも1個のSAM結合ドメインを含む特定のアミノ酸配列を有するタンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するGNMTのような既知のメチルトランスフェラーゼのアミノ酸配列を含む場合がある。
【0031】
さらに、ベンゾ[a]ピレンと特異的に結合する、SAM依存メチルトランスフェラーゼか、その機能を保存した断片または変異体かの少なくとも1個のSAM結合ドメインを含む特定のアミノ酸配列を有するタンパク質は、GNMTを含むいずれかの既知のメチルトランスフェラーゼとして同定される場合がある。機能を保存した断片に係る1つの方法は、前記タンパク質を、所望の長さの重複しないペプチドまたは重複するペプチドに分割して、前記ペプチドが、ベンゾ[a]ピレンを特異的に結合するSAM結合ドメインを少なくとも1個含むペプチドと、その誘導体とを含むかどうかを決定するために、前記ペプチドを合成、精製および試験することを含む。別の方法では、ベンゾ[a]ピレンと特異的に結合するSAM結合ドメインを含む可能性があるペプチドを予測するためのアルゴリズムが用いられ、前記アルゴリズムによって予測されるペプチドが特異的にBaPと結合するかどうか決定するために、前記ペプチドを合成および精製して、例えば本実施例に記載のような細胞アッセイ中で試験する。タンパク質はGNMTと比較して同等またはそれ以上の高いBaPとの結合能を有することが好ましい。本発明で有用な好ましいタンパク質の断片は、ベンゾ[a]ピレンと特異的に結合する少なくとも1個のSAM結合ドメインを含む。
【0032】
(前記組成物が注射される場合に特に望ましい)可溶性を増大し、治療薬または予防薬としての薬効または安定性(例えば、生体外での貯蔵寿命および生体内でのタンパク質分解酵素による分解への抵抗性)を増強するような目的のため、本発明の機能を保存した変異体用に前記タンパク質のいずれかの構造を改変することも可能である。機能を保存した変異体は、BaP結合能の改変を目的として、前記変異体が由来する天然のタンパク質の配列か、アミノ酸置換、欠失または追加のような改変を施されるべきタンパク質断片かと比較して、アミノ酸配列が変更されるように、あるいは、ある構成部分が同じ目的のために追加されるように、製造することは可能である。
【0033】
本発明の組成物は、メチルトランスフェラーゼタンパク質を含む天然原料からの混合物に基づいて調製される場合がある。前記メチルトランスフェラーゼタンパク質を含む天然原料からの混合物は、適当な出発材料の抽出のようないずれかの適当な方法によって得られる場合がある。適当な天然原料は、微生物または動物に基づく場合がある。本発明の目的のためには、前記混合物中に含まれるメチルトランスフェラーゼがBaP結合活性を有することを条件として、前記メチルトランスフェラーゼが純粋な形態で単離されることは必須ではない。したがって、必要な活性を提供するのに十分な濃度で前記メチルトランスフェラーゼが存在するかぎり、前記混合物を使用することは可能である。
【0034】
GNMTを含む本発明の混合物は、微生物、特に酵母か、微生物から抽出された混合物かに基づく場合がある。
【0035】
本発明のGNMTを含む混合物は、動物の臓器に基づく場合がある。適当な動物は、ブタ、ウシまたはウサギから選択される場合がある。動物の適当な臓器は、肝臓、膵臓または前立腺から選択される場合がある。
【0036】
本発明のタンパク質は、チンキ剤を調製するために材料を適当な溶媒と接触させるような標準的な手段または方法か、二酸化炭素抽出、凍結乾燥または噴霧乾燥のようないずれかの他の従来の手段または方法かを用いることによって、原料から抽出物として得られる場合がある。(Gennaro AR: Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Mack Publishing Company, Easton Pa.1995と、The United States Pharmacopeia 22nd revと、The National Formulary (NF) 17 ed, USP Convention, Rockville Md., 1990とを参照せよ。)
【0037】
前記抽出物は、本発明のタンパク質と、溶媒とを含む、微生物またはそのホモジネートか、動物臓器またはそのホモジネートを用いて調製されるが、前記溶媒は、蒸留水のような水か、PBS、生理食塩水またはその他の溶媒と混合された水のような水溶液溶媒か、DMSO、DMFまたはエタノールまたはイソプロパノールのようなアルコールのような有機溶媒か、これらのいずれかの組み合わせかの場合がある。得られた抽出物は、液体の構成成分と、固体の構成成分とでできているのが典型的である。
【0038】
ベンゾ[a]ピレンと特異的に結合する少なくとも1個のSAM結合ドメインを含む特定のアミノ酸配列を有し、他の全てのポリペプチドおよび夾雑物を含まない、高度に精製されたペプチドは、標準的な技術を用いて化学合成によって合成される場合がある。タンパク質がポリマー支持体に固定される、固相合成方や、従来の均一な化学反応(液相合成)のような、さまざまなペプチドの化学合成方法が当業者に知られている。合成ペプチドは、均一状態(すなわち、少なくとも90%、より好ましくは95%、さらに好ましくは少なくとも97%の純度)になるように、任意的には、文献で知られるタンパク質精製技術を用いて、全ての他のポリペプチドおよび夾雑物を含まないように、精製される場合がある。
【0039】
高純度の均一なペプチド組成物を製造するための1つの実施態様によれば、合成化学的な手段によって製造されたタンパク質は、調製用逆相クロマトグラフィによって精製される場合がある。この方法では、粗製合成ペプチドは、適当な溶媒(典型的には水溶性バッファー)に溶解され、分離カラム(典型的には逆相シリカ系媒体、さらに、ポリマーまたは炭素系媒体が使用される場合がある)に適用される。ペプチドは、水溶性バッファー(典型的にはTFA、リン酸トリエチルアミン、酢酸等のバッファー)中の有機成分(典型的にはアセトニトリルまたはメタノール)の濃度を上昇することによって、前記カラムから溶出される。前記溶出液の分画が回収され、適当な分析方法(典型的には、逆相HPLCまたはCZEクロマトグラフィ)によって分析される。要求される純度を有する分画がプールされる。存在する対イオンは、選択する塩での追加の逆相クロマトグラフィか、イオン交換樹脂かによって交換される場合がある。前記ペプチドは、酢酸塩その他の適当な塩として単離される場合がある。前記ペプチドは、ろ過され、(典型的には凍結乾燥法により)水分が除去され、必要なペプチド成分の少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも97%を含む、均一なペプチド組成物が得られる。任意的に、あるいは、前記逆相HPLCとともに、アフィニティクロマトグラフィー、イオン交換、排除体積、向流または順相分離システムか、これらの方法のいずれかの組み合わせかにより精製が達成される場合がある。ペプチドは、限外濾過、回転乾燥、沈殿その他の類似技術を用いてさらに濃縮される場合がある。高純度の均一なペプチド組成物は、以下の技術か、これらの組み合わせのいずれかによって特徴づけられる場合がある。すなわち、(a)ペプチドの同一性をチェックするために分子量を決定する質量分析法と、(b)アミノ酸組成により前記ペプチドの同一性をチェックするためのアミノ酸分析法と、(c)特定のアミノ酸配列を確認するための(自動タンパク質シーケンサーまたは手作業による)アミノ酸配列決定法と、(d)ペプチドの同一性および純度をチェックする(すなわち、ペプチドの不純物を同定する)ために用いられるHPLC(所望の場合には多重システム)と、(e)前記ペプチド組成物の水分濃度を決定するための含水量と、(f)前記ペプチド組成物中の塩の有無を決定するためのイオン含有量と、残留有機試薬、出発材料および/または有機夾雑物の有無をチェックするための残留有機物とである。
【0040】
約50個以下の長さのアミノ酸残基を含み、最も好ましくは約30個以下の長さのアミノ酸残基を含む本発明の合成ペプチドが、長さが長くなるとペプチド合成に困難をきたす場合があるため、特に好ましい。もっと長いペプチドは以下に説明する組換えDNA法で製造される場合がある。
【0041】
本発明の方法で有用なタンパク質は、かかるペプチドをコードする核酸配列で形質転換された宿主細胞中で組換えDNA法を用いて製造される場合もある。組換え法で製造されるときには、所望のペプチドをエンコードする核酸で形質転換された宿主細胞は、該細胞に適した培地中で培養され、単離ペプチドは、イオン交換クロマトグラフィか、限外ろ過か、電気泳動か、前記所望のペプチドに特異的な抗体を用いる免疫精製法かを含む、当業者に知られたペプチドおよびタンパク質の精製技術を用いて、細胞の培地か、宿主細胞か、その両方かから精製される場合がある。組換え法で製造されたタンパク質は、合成ペプチドについてすでに説明した方法によって、細胞由来の物質その他のポリペプチドまたは利用する培養液を含まずに、均一にまで単離精製される場合がある。
【0042】
タンパク質は、化学的消化または酵素的切断の部位が予め定められており、消化結果が再現可能であるような、高純度な完全長または天然タンパク質の化学的または酵素的な切断によって製造される場合もある。切断は、いずれかの生物由来の少なくとも1種類のプロテアーゼその他の適当な酵素を用いる酵素的消化によって実行される場合がある。前記プロテアーゼは、http://www.chem.qmw.ac.uk/iumbmb/enzyme/EC34の国際生化学分子生物学連合(International Union of Biochemistry and Molecular Biology)の命名委員会によるリストと、MEROPSのデータベースhttp://www.merops.co.uk、Rawlings N DおよびBarrel A J、MEROPS:the peptidase database;Nucl.Acids Res.28 323−325 (1998)、およびBarret A J, Rawlings N D Woessner J F(eds)1998 Handbook of Proteolytic Enzymes、Academic Press Londonのリストとから選択される場合がある。特定のアミノ酸配列を有するタンパク質は、合成または組換え法によって製造された高純度の単離ペプチドのためにすでに説明された手順のいずれかによって、前記酵素的または化学的な消化の際に存在するいずれかの他のポリペプチドまたは夾雑物を含まないように高度に精製単離できる。
【0043】
本発明のタンパク質を含む単離精製タンパク質または混合物は、ヒトを含むほ乳類における予防または治療用に適する、医薬品、食品または化粧品組成物に処方される場合がある。
【0044】
本発明の治療または予防用組成物は、経口または非経口投与用か、局所適用用かの組成物である。前記組成物は、経口的に投与されるか、局所的に適用されるのが好ましい。
【0045】
本発明の医薬品組成物は、錠剤、顆粒、粉末、カプセル、ゲル、ペースト、シロップ、水薬(potion)、エアロゾル、点眼薬または噴霧薬のような、従来の医薬品の経口投与剤形の場合がある。医薬品組成物が、吸気に先立ってタバコの煙のBaPと結合するように、タバコのフィルターの中に取り込まれる場合もある。食品組成物は、キャンディその他の菓子の材料や飲料のような従来の機能食品製品または食品添加物の形態であるのが普通である。化粧品の組成物は、クリーム、軟膏、シャンプー、リンスまたは香油の形態であるのが普通である。
【0046】
ベンゾ[a]ピレンと特異的に結合するSAM結合ドメインを含む、SAM依存メチルトランスフェラーゼ、その機能を保存した変異体またはこれらの断片に加えて、本発明の組成物は担体も含む。この担体は、粉末、ゲル、ペースト、錠剤、カプセル、ガム、薬用ドロップ、エアロゾルおよび液体のようなさまざまな剤形のうちのいずれかの場合がある。例えば、前記担体は、キャンディ、チューインガムまたはタバコのフィルターの場合がある。前記担体は、食感向上剤、噛み心地向上剤、濃厚化剤および増粘剤のような、口腔内での使用を容易にする添加剤を含む場合がある。前記担体は、甘味剤(砂糖、ソルビトール、サッカリンまたはアルパルテーム等)、果実、香辛料または香草または香油(シナモン、ミントまたはチョウジ等)等のような天然または人工の香料または香油、葉緑素および/またはいずれかの適当な従来の色素のような色素を含む場合がある。
【0047】
経口投与の場合、本発明のタンパク質の不活性化を防止し、あるいは、吸収性および生体利用可能性を向上するための物質で本発明のタンパク質を含む組成物をコーティングするか、該組成物と同時投与する必要があるかもしれない。例えば、タンパク質の処方は、酵素阻害剤とともに、あるいは、リポソーム中で同時投与される場合がある。酵素阻害剤は、ジイソプロピルフルオロリン酸(DEP)、膵臓トリプシンインヒビターおよびトラシロールを含む。リポソームは、W/O/W型(water−in−oil−in−water)CGFエマルジョンと、従来のリポソーム(Strejanら、(1984)J.Neuroimmunol.、7:27参照)とを含む。あるタンパク質が適切に保護されるとき、該タンパク質は、例えば、不活性化希釈液または同化可能な可食性担体とともに経口投与される場合がある。前記タンパク質と他の含有成分とは、硬質または軟質のゼラチン製の殻でできたカプセルに封入されるか、錠剤に圧縮されるか、被検者(individual)の食事に直接取り込まれるかの場合がある。
【0048】
本発明の治療用組成物が注射(すなわち皮内注射)によって投与されるべき場合には、該組成物が流動性を有し、注射が容易なように、前記高純度のタンパク質は医薬品として受容可能なpH(すなわち、約4−9のpH範囲)の水溶液中で溶けることが好ましい。前記組成物は医薬品として受容可能な担体も含むことが好ましい。ここで用いられるところの「医薬品として受容可能な担体」とは、賦形剤、溶媒、分散媒体、コーティング、抗細菌および抗真菌剤、有毒物質(toxicity agents)、緩衝剤、吸収遅延または促進剤、界面活性剤およびミセル形成剤、脂質、リポソームおよび液体複合体形成剤(liquid comlex forming agent)安定化剤等のうちいずれかおよびすべてを含む。医薬品として活性がある物質についてのかかる媒体および試薬の使用は、当業者に知られている。いずれかの従来の媒体または試薬が前記活性化合物と不適合である場合を除いて、医薬品組成物中でのこれらの使用が意図される。補助的な活性化合物も前記組成物に取り込まれる場合がある。
【0049】
本発明の治療用組成物は、必要に応じてろ過滅菌後に、上記の成分の1つまたは組み合わせとともに、適当な送達手段(vehicle)中に必要量の活性化合物(すなわち、すでに説明した1種類または2種類以上の高度に精製単離されたタンパク質)を取り込むことによって調製される滅菌水溶液の形態で処方される場合がある。好ましい医薬品として受容できる担体は、滅菌水、リン酸ナトリウム、マニトール、ソルビトールまたは塩化ナトリウムまたはこれらのいずれかの組み合わせのような少なくとも1種類の賦形剤を含む。医薬品として受容可能な他の適当な担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコール等)と、これらの適当な混合物と、植物油とを含む、溶媒または分散媒体を含む。適当な流動性は、例えば、レシチンのコーティングの使用と、分散の場合に必要な粒径の維持と、界面活性剤の使用とによって、維持される場合がある。微生物の作用の予防は、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等のようなさまざまな抗細菌および抗真菌剤によって達成できる。注射可能な組成物の吸収の遅延は、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンのような吸収を遅延する試薬を前記組成物中に含むことによって実現できる。
【0050】
本発明の治療用組成物は、無菌で、かつ、製造、貯蔵、配達および使用の条件下で安定であるべきであって、細菌および真菌のような望ましくない微生物の汚染する作用から保護されるべきである。本発明の治療用組成物の保全性(integrity)を維持する(すなわち、汚染を防止する、貯蔵寿命を延ばす等)ように前記組成物を製造する好ましい手段は、滅菌水のような医薬品として受容可能な担体中で前記組成物が使用直前に再構成される凍結乾燥粉末の形状で、タンパク質と、医薬品として受容可能な担体との処方を調製することである。滅菌注射用液の調製のための無菌粉末の場合では、好ましい調製方法は、前記活性成分と、以前にろ過滅菌された溶液由来のいずれかの追加の所望の成分との粉末が得られる、真空乾燥、凍結乾燥または遠心乾燥法である。本発明の治療用組成物の具体的な処方は、以下および実施例に説明される。
【0051】
多くの場合では、本発明の治療用組成物は1種類または2種類以上の単離タンパク質を含む。ヒトへの医薬品としての投与に適する多タンパク質処方を含む治療用組成物は、複数の活性タンパク質を投与するうえで望ましい。前記多タンパク質処方は、特定のアミノ酸配列を有する少なくとも2種類または3種類以上の単離タンパク質を含む。多タンパク質処方を調製するときの特別な考慮事項は、前記処方中の全てのタンパク質の生理学的に受容可能なpHの水溶液中での溶解度および安定性を維持することを含む。これは、前記多タンパク質処方中の全てのタンパク質と適合可能な1種類または2種類以上の生理学的に受容可能な溶媒および賦形剤を選択することを要する。例えば、適当な賦形剤は、滅菌水か、マニトールか、リン酸ナトリウムか、リン酸ナトリウムおよびマニトールの両方かを含む。多タンパク質処方における追加の考慮事項は、必要な場合には、前記タンパク質の2量体化を阻止することである。EDTAその他の当業者に知られた2量体化を阻止することが知られた物質または手順のような2量体化を阻止する試薬が前記多タンパク質処方に含まれる場合がある。
【0052】
以下に本発明による好ましい医薬品組成物が提供される。
【0053】
GNMT: 0.75mgタンパク質
バッファー: 生理食塩水(0.9% NaCl)
膨潤剤: グリセリン
安定化剤: リン脂質(0.1%)
【0054】
100mMリン酸が代替的なバッファーとして使用されてもよい。代替的な膨潤剤はマニトールおよびデキストロースである。
【0055】
被検者(individual)への上記の治療用組成物の投与は、該被検者の発がんの予防または治療に有効な投与量または期間で既知の手順を用いて実施される場合がある。
【0056】
本発明の治療用組成物の有効量は、被検者の年齢、性別および体重のような因子によって変動する。本発明の治療用組成物は、経口投与、注射(皮下、静脈内等)、舌下、吸気、経皮適用、直腸投与または治療剤の投与のいずれかの他の一般的な経路によって投与される場合がある。1種類または2種類以上の本発明の治療用組成物の治療上の有効量を被検者に同時に、あるいは、逐次的に投与することが望ましい場合がある。同時または逐次的な投与のためのかかる組成物のそれぞれは、たった1種類のタンパク質しか含まない場合もあれば、上記の多タンパク質処方を含む場合もある。
【0057】
本発明の1種類または2種類以上の組成物の非経口投与には、投与ユニットあたり好ましくは0.01μg−500mg、より好ましくは0.3μg−50mgの各活性成分(タンパク質)が投与される場合がある。本発明の1種類または2種類以上の組成物の経口投与の場合には、投与ユニットあたり、好ましくは0.01μg−500mg、より好ましくは0.3μg−50mgの各活性成分(タンパク質)が投与される場合がある。投与が容易で投与量が均一になるため、投与剤形のユニットごとに非経口組成物または経口組成物を処方することは特に有利である。ここで用いられるところの投与剤形のユニットとは、治療されるべきヒトの被検者のために単一投与量として適する物理的に分離されたユニットをいい、各ユニットは、所望の医薬品担体と協働して所望の治療効果を奏するように計算された活性タンパク質の予め定められた量を含む。本発明の新規な投与剤形のユニットの明細は、(a)活性化合物の独特な特徴と、達成されるべき特定の治療効果と、(b)ヒトの被検者の治療のためにかかる活性化合物を調合する技術に固有の限界とに左右され、直接依存する。
【0058】
投与の処方計画は、最適な治療反応を提供するために調整される場合がある。例えば、複数の分割された投与量が数日間、数週間、数ヶ月間または数年間にわたって投与される場合があり、あるいは、前記投与量が治療状況の緊急性に比例して、それぞれの次回の注射で増減される場合がある。1つの好ましい治療処方計画では、治療用組成物の皮内注射が毎週1回、1ないし3週間行われる。投与量は、投与するたびに一定である場合もあれば、それぞれの次の投与で増減される場合がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
本発明は以下の限定ではない実施例によって例示される。
【実施例1】
【0060】
実施例1(試験管内試験)
1.材料および方法
1.1 細胞株および細胞培養
2種類のHCC株細胞Huh7(13)およびHA22T/VGH(14)と、1種類のヒト肝芽細胞腫株細胞HepG2(15)とが本研究に用いられた。細胞は、10%熱不動化ウシ胎児血清(HyClone、ユタ州、Logan)と、ペニシリン(100IU/mL)、ストレプトマイシン(100μg/mL)、不必須アミノ酸(0.1mM)、ファンギゾン(2.5mg/mL)およびL−グルタミン(2mM)を添加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、GIBCO BRL、ニューヨーク州、Grand Island)で、5%CO存在下加湿インキュベータ内で培養された。
【0061】
1.2 pGNMT、pGNMT−アンチセンスおよびpGNMT−His shortプラスミドの構築
CMVプロモーターとGNMTのcDNA断片とを含むプラスミドpGNMTを構築するために、我々は、pFLAG−CMV−5(Kodak、ニューヨーク州、ロチェスター)をベクターとして、pBluescript−GNMT−9−1−2プラスミド(8)をインサート作成用のPCRの鋳型として用いた。前記GNMTのcDNA配列と、両端の制限エンドヌクレアーゼ部位とを含む0.9kbのDNA断片が増幅された。2mM MgClおよび150nm プライマーという2つの点を除いて、全てのPCR条件は製造者(パーキン・エルマー、コネチカット州、Norwalk)によって推薦されたものであった。20回の増幅サイクルが、パーキン・エルマーのAmplitaqゴールドTaqDNAポリメラーゼと、DNAサーマルサイクラーとを用いて実行された。各PCRサイクルは、60°C30秒間のプライマーアニーリングのステップと、72°C30秒間のDNA伸長のステップとを含んでいた。上流プライマー(5’−gcggaattcATGGTGGACAGCGTGTAC−3’)は、3bp「クランプ」(gcg)を5’末端に有し、1つの制限エンドヌクレアーゼ部位(EcoRI)およびGNMTのcDNA配列とがこれに続いた。下流プライマー(5’−gcggaattcGTCTGTCCTCTTGAGCAC−3’)は、前記上流のプライマーと類似の構造的モチーフを含むが、前記GNMTのcDNA配列の終結領域のネガティブ鎖配列を含んでいた。増幅直後に、PCR反応液にSDS(0.1%)とEDTA(5mM)とが添加された。DNAは2.5M酢酸アンモニウムおよび70%エタノールで沈殿された。EcoRIでの消化後、DNA断片はアガロースゲルからの溶出によって単離sれ、EcoRI消化されたpFLAG−CMV−5と連結された。
【0062】
ファージミドのpBluescript−GNMT−9−1−2(8)から136bpのDNA断片を増幅するための2本のプライマー(F1、5’−gcggaattcATGGTGGACAGCGTGTAC−3およびR1、5’−gcggaattcTGTACTCGGCGGTGCGGC−3’)がアンチセンス−GNMTプラスミド(pGNMT−アンチセンス)を構築するために用いられた。前記断片は、前記GNMTの翻訳開始部位と、両端の2つの制限酵素部位(EcoRIおよびBamHI)にわたるアンチセンス配列を含んでいた。クローニングの手順はpGNMTについて説明したものと類似していた。GNMTのcDNA配列組換えタンパク質(RP)を大腸菌で発現させるために、我々は、プラスミドpGNMT−His−shortを構築した。EcoRIおよびNdeI制限酵素(ストラタジーン、カリフォルニア州、ラホヤ)を用いて大きなS−タグDNA断片がpGNMT−His(9)から切り出され、得られたプラスミドDNAはKlenow反応の後、再連結された。プラスミドDNA配列は、ダイターミネータサイクルシーケンシングコアキットを備えたDNAシーケンサー(アプライド・バイオシステムズモデル373A、バージョン1.0.2、カリフォルニア州、Foster City)で確認された。
【0063】
1.3 GNMT組換えタンパク質の発現および精製
pGNMT−His−shortが大腸菌BL21菌株を形質転換するのに用いられ、IPTG誘導(誘導時間3時間、細菌の培養最適密度[OD]0.6−0.7)に用いられた。GNMTの組換えタンパク質の精製は、製造者(Novagen、ウィスコンシン州、マジソン)のガイドラインに従って、Ni2+が荷電したヒスチジン結合樹脂カラムを用いて実施された。組換えタンパク質の濃度は、BCAタンパク質アッセイ(ピアース、イリノイ州、Rockford)で測定され、純度はサンプルを12.5%SDS−ポリアクリルアミド ミニゲル(バイオラッドラボラトリーズ、カリフォルニア州、リッチモンド)上で泳動することによってテストされた。
【0064】
1.4 トランスフェクション
全てのプラスミドDNAサンプルは、Qiagenメガキット(ドイツ、Hilden)を用いて調製された。標準的なリン酸カルシウム共沈殿法(16)がさまざまな肝がん細胞株由来の培養細胞にプラスミドDNAをトランスフェクションするのに用いられた。トランスフェクション後48時間の細胞は、DMSO(ナカライテスク、大阪)に溶解したBaP(シグマーアルドリッチ、ドイツ、シュタインハイム)の異なる濃度(1ないし10μM)で16時間処理された。処理細胞は、IFAか32Pポストラベリングかのいずれかに供された。陰性対照を作るために、0.1% DMSOが前記細胞培養に添加された。
【0065】
1.5 GNMTを発現する安定なクローンの確立
リン酸カルシウム法を用いて、HepG2細胞が、プラスミドDNAのpGNMTとpTH−Hyg(クロンテク、カリフォルニア州、パロアルト)とでコ・トランスフェクションされた。細胞は、ハイグロマイシン(300μg/mL)を含む選択培地に置かれた(17)。13個以上のクローンが選択され、GNMT発現が、各クローンから回収された細胞溶解液を用いてウェスタンブロットアッセイ法で解析された。これらのうちSCG2 1−1および1−11は、そのGNMT発現レベルに基づいて、さらに研究するために選択された。プラスミドpFLAF−CMV−5およびpTK−HygでトランスフェクションされたHepG2細胞から選択された安定なクローンである、SCG2−negも本研究における対照として用いられた。
【0066】
1.6 間接免疫蛍光抗体法(IFA)
培養HA22T/VGHまたはHuh7細胞は、カバースライド上に配置され、10μMBaPまたは0.1%DMSOで処理され、固定液I(PBS中に、4% パラホルムアルデヒド、400mM ショ糖)で37°C30分間固定され、固定液II(固定液Iに0.5% トリトンX−100を添加)で室温15分間固定され、ブロッキングバッファー(PBS中に0.5% BSA)で室温1時間処理された。PBSで洗浄後、前記スライドはさまざまな1次抗体と4°C終夜反応させられた。2種類の抗体は、1:500希釈の抗Flagモノクローナル抗体(Kodak、ニューヨーク州、ロチェスター)と、1:200希釈のウサギ抗GNMT抗血清R4(12)とであった。FITCコンジュゲート抗マウスIgGと、TRITCコンジュゲート抗ウサギIgG(シグマ−アルドリッチ)とが2次抗体として用いられた。PBSで4回洗浄後、スライドはマウントされ、共焦点蛍光顕微鏡(TCS−NT、ドイツ、Hilden)を用いて観察された。細胞各を局在化させるために、DNAがヘキストH33258(シグマ−アルドリッチ)で染色された。
【0067】
1.7 GNMTcDNAを含むアデノウイルス(Ad−GNMT)の作成
CMVプロモーターで制御されるGNMTのcDNA配列の組換えアデノウイルスを構築するために、PGEX−GNMT(9)がXhoIおよびBamHIで消化され、XhoI部位は平滑化された後、XbaIおよびBamHIで消化され、XbaI部位が平滑化されたpBluescript SK (−)(ストラタジーン)に挿入された。GNMTcDNAも、pXCMV−GNMTを作成するために、pAdE1CMV/pA(18)のHindIIIおよびNotI部位にクローン化された。組換えアデノウイルスは、pXCMV−GNMTおよびpJM17(18)の293細胞へのコ・トランスフェクション後7ないし12日以内に出現した。個別のウイルスクローンが単離され、アデノウイルス配列に特異的なプライマーセット(18)、挿入フランキング領域(18)およびGNMTのcDNA配列(8)によるPCRを用いて同定された。ウイルスのタイターは上記のプラークアッセイ法(18)によって決定された。
【0068】
1.8 BPDE−DNA付加体を定量するための32Pポストラベリングおよび5次元薄層クロマトグラフィ(5D−TLC)
pGNMTプラスミドDNAで48時間一時的にトランスフェクションされたSCG2細胞およびHCC細胞株が用いられた。DNAは、10μMBaPまたは0.1%DMSO(対照)で16時間処理された細胞から抽出され、コハク酸バッファー(20mM コハク酸ナトリウムおよび10mM CaCl)中のミクロコッカスエンドヌクレアーゼおよび膵臓ホスホジエステラーゼで3時間37°Cで消化された。得られた3’ヌクレオチドはブタノール溶液でさらに2回抽出され、ラベリングバッファー中でT4キナーゼを用いて38°C30分間γ−32P−ATPで標識された。5D−TLCが標識DNA付加体を解明するために用いられた(20)。付加体相対レベル(RAL)は、付加体ヌクレオチド中のcpm/全ヌクレオチド中のcpm x 希釈倍率として計算された。
【0069】
1.9 アリル炭化水素ヒドロキシラーゼ(AHH)アッセイ
シトクロムp450A1酵素活性を測定するために、約100μgの細胞ホモジネートが反応液(100mM HEPES、0.4mM NADPH、1mM MgClおよび20μM BaP)と37°C10分間インキュベーションされた。上清のタンパク質濃度はバイオラッドのタンパク質アッセイキット(カリフォルニア州、Hercules)を用いて決定された。反応はアセトンの添加によって停止され、抽出がヘキサンおよび1N NaOHで実施された。NaOH分画が、励起波長396nm、発光波長522nmの蛍光分光光度計(日立、F4500)で測定された。反応産物(3ヒドロキシ−BaP)の濃度は、標準試料との比較により計算され、手順の詳細は文献(21)に説明されている。
【0070】
1.10 ウェスタンブロット(WB)アッセイ
WBはトランスフェクションされた細胞またはSCG2クローン中のGNMTを検出するために用いられた。抗GNMTモノクローナル抗体14−1がGNMTを検出するのに用いられた(9)。WBの手順の詳細は文献(22)に説明されている。
【0071】
1.11 ラマルク型遺伝アルゴリズム(LGA)によるドッキング
LGAが、BaPと、さまざまな型のGNMTとの間の相互作用を解明するために用いられた。Autodock3.0ソフトウェアが最も有利なリガンド結合相互作用を同定するために用いられた。ファンデルワールス力結合と、疎水結合(hydrophobic desolvations)と、静電気およびねじり自由エネルギーとが、リガンド−タンパク質結合の自由エネルギーを再現するために経験的に決定された(23)。ヒトGNMTとのアミノ酸配列の相同性が91%であることから、ラットGNMTのX線結晶学的なデータがドッキングに用いられた(24、25)。BaPと、メチルトランスフェラーゼ−1VID(26)、1HMY(27)、2ADM(28)、1 DCT(29)、1 BOO(30)、2DPM(31)1EG2(32)および1G55(33)との間の相互作用が解析された。パラメータは以下のとおり。試行回数 10回、ポピュレーションサイズ 50、試行−終止基準 最大27,000世代または2.5 x 10回のエネルギー評価のいずれかが先に達成されること。rmsdコンフォメーションクラスタリング許容値の0.5オングストロームが前記リガンドの結晶学的座標値から計算された。手順の詳細は文献(34)に利用可能である。
【0072】
1.12 GNMT酵素活性アッセイ
Ni2+−荷電ヒスチジン結合樹脂カラムから精製されたGNMT組換えタンパク質が酵素活性アッセイに用いられた。GNMT組換えタンパク質(10mg)が、10、50または100μMのBaPまたはDMSO溶媒(対照)と室温で60分間混合された後、50mM グリシン、0.23mM SAMおよび2.16μM S−アデノシル−L−[メチル−H]−メチオニン(76.4Ci/ミリモル)を含む100mM Trisバッファー(pH7.4)の100μLで処理された。30分間37°Cでのインキュベーション後、個々の反応は10% トリクロロ酢酸および5% 活性炭(activated charcoal)の50μL混合物を添加することにより停止された。各反応は3重に繰り返して実施された。この手順はCookおよびWagner(35)に詳細に説明されている。
【0073】
2.結果
2.1 GNMTの核内移行がHA22T/VGHおよびHuh7細胞の両方でBaPにより誘導された。
GNMTは、pGNMTのDNAでトランスフェクション後48時間のHA22T/VGH細胞の細胞質中で発現された(ウサギ抗GNMT抗血清およびマウス抗Flagモノクローナル抗体とのIFA2重染色、図1Aおよび1B)。同様の結果はDMSO溶媒で処理された対照のHuh7細胞でも認められた(図1CおよびD)。これに対して、GNMTタンパクは10μM BaPで16時間処理されたHuh7細胞の核内移行は部分的にしか起こらなかった(図1EおよびF)。細胞核を局在化させるために、DNAはヘキストH33258で染色された(図1DおよびF)。
【0074】
2.2 BPDE−DNA付加体形成に対するGNMTの阻害効果
32P−ポストラベリング法および5D−TLC法がBPDE−DNA付加体形成を定量するのに用いられた。10M BaPとの16時間の処理後、pGNMTでトランスフェクションされたHepG2、Huh7およびHA22T/VGH細胞でのBPDE−DNA付加体形成は、ベクタープラスミドでトランスフェクションされた細胞と比較して、それぞれ52.8%、13.5%および20.7%減少した(表1)。BPDE−DNA付加体形成に対するGNMTの阻害効果はHepG2細胞で最も強力であったので、我々はこの株細胞を以下の実験での標的として用いた。HepG2細胞のDNAトランスフェクション効率は約30%であった。pGNMTに加えて、アンチセンスGNMT配列を含むプラスミドが、GNMTの効果の特異性を確認する目的で構築された。BaP処理後、ベクターの対照プラスミドでトランスフェクションされた細胞と比較して、pGNMTでトランスフェクションされた細胞で形成されたBPDE付加体は、34.1%の減少が認められた(図8A、レーン3および4)。これに対し、BPDE付加体の29.2%の増加がpGNMTアンチセンスでトランスフェクションされたHepG2細胞で認められた(レーン5)。等量(20μg)のpGNMT−His−およびpGNMTアンチセンスでトランスフェクションされた細胞で形成されたBPDE−DNA付加体の量は、前記ベクターの対照細胞で形成された量とほぼ等しかった(レーン6)。異なるトランスフェクション実験でのGNMT発現と、アンチセンスGNMTcDNAプラスミドコンストラクト(pGNMTアンチセンス)の効果とは、マウス抗GNMTモノクローナル抗体をもWBアッセイによって確認された。図2Bのレーン4に示されるとおり、GNMTは、pGNMTとpGNMTアンチセンスとを等量トランスフェクションされた細胞の溶解液では検出されなかった。
【0075】
【表2】

【0076】
*:ヌクレオチド10個あたりの付加体相対レベル(RAL)、γ−32P−ATPポストラベリング法によって測定。
**:トランスフェクション効率は、HepG2が30%、Huh7が45%、HA22T/VGHが60%であった。
【0077】
pGNMTをトランスフェクションしたHepG2細胞由来の2個の安定クローン(SCG2−1−1およびSCG2−1−11)が、上記と同じ実験に用いられた。ノザンブロットアッセイの結果は、SCG2−1−1およびSCG2−1−11細胞に存在するGNMTのcDNAの(細胞あたりの)コピー数がそれぞれ3および1であることを示した(データ示さず)。ウェスタンブロットアッセイの結果は、SCG2−1−1細胞中のGNMT発現レベルがSCG2−1−11細胞での発現レベルのほぼ3倍であることを示した(図2D、レーン2および3)。SCG2−1−1およびSCG2−1−11細胞を1または10μMのBaPで処理した後、BPDE−DNA付加体形成の阻害は、両方の処理条件下でのGNMT発現レベルに比例した(図2C)。
【0078】
同じ実験がアデノウイルスで伝達されるGNMTのcDNA(Ad−GNMT)を用いて実施された。正の直線的相関が、Ad−GNMTのMOIsと、BPDE−DNA付加体形成の阻害との間に認められた(図3)。Ad−GFPを感染した対照細胞と比較すると、Ad−GNMTのMOIsが100から、250に、そして1,000に増加すると、BPDE−DNA付加体形成は19.5%、36.6%および61.8%にそれぞれ減少した(図3A)。100MOIsのAd−GFPの対照と、100、250および1,000MOIsのAd−GNMTとで感染されたHepG2細胞のGNMTの発現レベルがウェスタンブロット法で解析され、結果が図3B、レーン1−4に示される。
【0079】
2.3 Bapによって誘導されるCYP1A1酵素活性に対するGNMTの効果
SCG2−1−1およびSCG2−neg細胞は、さまざまな濃度のBaPで16時間処理された後、AHHアッセイを用いて細胞のCYP1A1酵素活性が測定された。3、6および9μMのBaPで処理された細胞でのCYP1A1活性は、SCG2−neg細胞についてはそれぞれ24.5ピコモル/mg/分、41.5ピコモル/mg/分および71.3ピコモル/mg/分で、SCG2−1−1細胞についてはそれぞれ20.1ピコモル/mg/分、27.7ピコモル/mg/分および36.2ピコモル/mg/分であった(図4)。9μMのBaPで処理された細胞については、これは、GNMT発現細胞(すなわちSCG2−1−1)でのCYP1A1酵素活性が、SCG2−neg細胞と比較して45%減少したことを表す。
【0080】
2.4 GNMT−BaP相互作用のモデル作成
LGAが物理的なGNMT−BaP相互作用を予測するために用いられた。ここでも、ヒトGNMTタンパク質との相同性が91%であるため、ラットのGNMT−BaP相互作用のX線結晶解析データがBaPとのドッキング実験に用いられた。図5Aおよび5Bに示すとおり、BaPはGNMTの2量体型(黄色)と4量体型(シアン色)との両方に結合するが、2量体型(タンパク質データベースPDBコード;1D2C)と優先的に結合することを我々はみつけた。このクラスターは、SAMおよびSAH結合部位が交差する場所にあたる(表3および図5B)。GNMTの2量体型とBaPとの間の結合エネルギーが低い(−9.10Kcal/モル)ことは、BaPがSAMの位置を変位させることを示唆し、BaPと、SAMと既に結合しているGNMT(PDBコード:1XVA)との結合エネルギーが高い(254.9Kcal/モル)ことは、BaPおよびSAMがGNMTとの結合について競合していることを示唆する(表3)。したがって、(2量体の一方のサブユニットのThr37、Gly137およびHis142と、他方のサブユニットのGlu15とを含む)複数のGNMTアミノ酸残基が、BaPと非常に近接している(図5C)。
【0081】
表3 GNMTタンパク質とBaP分子とのラマルク型遺伝アルゴリズムによるドッキング
【0082】
【表3】

【0083】
a:PDB、タンパク質データバンク(http://www.resb.org/pdb)
b:クラスターはSAMおよびSAH結合領域の交差する場所にあたる。
c:BadはSAMから〜2オングストロームで、エネルギーレベルが高いことは、かかる複合体の形成は困難であることを示唆する。
d:BaPはSAMの1を変位させる。
e:RMSD=2.70オングストローム 第2のクラスター(n=5)は、RMSDが0.68オングストロームで、平均エネルギーが−8.80Kcal/モルの既知の結晶構造に対応する。第2のクラスターを安定化させる役割を果たすかもしれない酢酸基が近傍に位置することに留意せよ。
【0084】
2.4 BaPで誘導されるGNMT酵素活性の阻害
BaPがGNMTと結合可能であるという推論に基づいて、GNMT酵素活性に対するBaPの効果の可能性が、Hisタグ付きのGNMT組換えタンパク質を大腸菌で発現するためのプラスミドpGNMT−His−shortを構築することによって研究された。Ni2+荷電したヒスチジン結合樹脂カラムから精製されたGNMT組換えタンパク質が我々の解析に用いられた。図6に示されるとおり、10および50μMのBaPを含む反応からのGNMT酵素活性は、DMSOの対照と比較して、それぞれ44%および62%減少した。
【0085】
IFAが、GNMTの核内移行を誘導するBaPの能力を実証する。我々の結果は、GNMTがBPDE−DNA付加体形成を阻害するだけでなく、CYP1A1酵素活性を下向き調節することを示し、逆に、BaPはGNMT酵素活性も阻害する。最後に、我々は、BaP−GNMT相互作用の正確な場所を示すためにドッキング実験を用いた。これらの結果は、損傷の生じる可能性がある型の曝露に対する細胞の防御機構が新たに見つかったことを意味する。我々は、終始一貫した結果によって、一時的トランスフェクション、安定的なトランスフェクションおよびアデノウイルス感染の系で、GNMTによるBPDE−DNA付加体形成の阻害を確認した。GNMTのcDNAのアンチセンスコンストラクトが相互作用の特異性を示すために用いられ(図2A)、ウェスタンブロットアッセイがさまざまな遺伝子導入実験のセットにおけるGNMT発現レベルを監視するために用いられた。GNMTのBPDE−DNA付加体形成の用量依存的な阻害効果は、HepG2の安定なクローンと、GNMTcDNAを伝達する組換えアデノウイルスとでさらに調べられた(図2Cおよび3A)。
【0086】
多くのPAHsはアリル炭化水素レセプター(AhR)依存経路を通じてシトクロムP−450発現を誘導する(37)。細胞内に拡散した後、BaPはAhRと結合して核内に移行し、核内で、BaP−AhRヘテロ2量体がAhR核内移行タンパク質(Ah receptor nuclear translocator(Arnt))との複合体を形成する(2)。BaP−AhR−Arnt複合体は、CYP1A1遺伝子を、プロモーター領域内の生体異物応答エレメント(xenobiotic responsive element)との相互作用を通じて転写を活性化する(38)。BPDE−DNA付加体形成の阻害に加えて、我々の結果は、GNMTがBaPによって誘導されたCYP1A1酵素活性を低下させることができることを示す(図4)。Foussatら(39)は、GNMTがCYP1A1遺伝子の転写活性化因子ではないことを証明するためにAhR欠損トランスジェニックマウスを用いた。我々のリアルタイムPCR解析の予備的なデータは、BaP処理後、SCG2−1−1細胞でのCYP1A1遺伝子発現は、HepG2細胞と比較して約20%減少したことを示した(投稿準備中)。
【0087】
従前の研究は、ラットGNMTの4量体型が酵素として作用し、ラットGNMTの2量体型はPAHsと結合できることを示した(40)。本発明では、LGAおよびスコアリング機能が、結合に関連する自由エネルギーの変化を推定して、BaPとさまざまな型のGNMTとの間の相互作用の可能性がある部位を特定するために用いられ、ラットGNMTについてのX線結晶学的なデータがこの目的のために利用された。結果は、(a)BaP結合ドメインはGNMTの基質(SAM)結合部位に位置し、(b)BaPはGNMTの2量体型との結合を優先することを示す。GNMT4量体のR175K突然変異型(PDBコード;1D2G)が、R/K残基は前記結合部位に近い(前記SAM部位から−5オングストローム)が、R/K残基はGNMT−BaPクラスター形成には実質的になんら効果がないことを示すために用いられた(表3)。これに対し、酢酸イオンが存在すると、1XVA結晶構造内のGNMT−SAM結合部位に第2の好ましいクラスターの形成が促進される(表3、最終行)。さまざまな検索システムのうちでLGA法は、結晶構造を特定する可能性が最も高い(23)。ポピュレーションの多いクラスターは、結晶構造から0.2−0.8オングストロームのRMSの相違を示す結晶学的に決定された位置に対応する。たいていのリガンドについて、我々のドッキングシミュレーションは、1.0オングストロームのRMSD以内で結晶学的な結合モードに適合する単一の結合モードを予測した(23)。LGAは、リガンドが高分子の標的に結合したコンホメーションを予測するための信頼できる方法であることが示される。BaP−GNMTの相互作用は、GNMT酵素活性がBaPの存在下で50%近く減少したことを示す機能的なアッセイによっても確認された(図6)。
【0088】
BaPはGNMTのSAM結合ドメインとの結合を優先するため、LGAがBaPと、カテコールO−メチルトランスフェラーゼ(COMT)、HhaI DNA メチルトランスフェラーゼ、TaqI DNA メチルトランスフェラーゼ、HaeIII DNA メチルトランスフェラーゼ、PvuII DNA メチルトランスフェラーゼ、DpnII DNA メチルトランスフェラーゼ、RsrI DNA メチルトランスフェラーゼおよびDNMT2という、8種類の他のSAM依存性メチルトランスフェラーゼ(MTases)との間の相互作用を研究するために用いられた。我々の結果は、BaPがHhaI−、HaeIII−、PvuII−DNAメチルトランスフェラーゼおよびDNMT2とは結合可能だか、COMT、TaqI−メチルトランスフェラーゼ、DpnII−メチルトランスフェラーゼおよびRsrI−DNAメチルトランスフェラーゼとは結合しなかったことを示す(表4)。BaPが優先的に結合する全てのDNAメチルトランスフェラーゼの標的原子はシトシンであってアデニンでないことが知られている(41)。これは、BaPのような環境発がん物質が異なるDNAメチルトランスフェラーゼと相互作用する可能性があることを示唆する最初の証拠である。GNMT酵素活性が全トランス−レチノイン酸によって誘導されると、ラット肝細胞でのDNAメチル化が低下することを示す証拠(42)に照らして、BaPは、DNMTおよびGNMTとの相互作用を通じて、DNAメチル化に影響を与えて、発がん経路に寄与するかもしれないことが示される。
【0089】
表4 複数のSAM依存性メチルトランスフェラーゼとBaP分子とのラマルク型遺伝アルゴリズムによるドッキング
【0090】
【表4】

【0091】
a:SAM分子は1VID、1HMY、2ADMおよび2DPMメチルトランスフェラーゼの高分子からドッキング前に除去された。BaP分子が以前のSAMの位置に移動することが試みられた。SAH分子はドッキング前に1BOOおよび1G55メチルトランスフェラーゼ高分子から除去された。
b:PDB:タンパク質データバンク(http://www.resb.org/pdb)
c:第2クラスターのエネルギー(ポピュレーション6/10)は−0.32Kcal/モルで、COMTはBaPと特定の好ましい位置で結合するのではない。
d:第2のクラスター(ポピュレーション1/10)のエネルギーは−6.45Kcal/モルで、HhaI−DNA−メチルトランスフェラーゼは特定にエネルギーの低い好ましい位置でBaPと結合した。
e:結合エネルギーが高い(+47.19Kcal/モル)は、TaqI DNA−メチルトランスフェラーゼがBaPとは結合しないことを示唆する。
f:第2のクラスターのエネルギー(ポピュレーション1/10)は−9.50Kcal/モルで、エネルギーが最低のクラスター(ポピュレーション8/10、エネルギー−9.69Kcal/モル)に非常に近い。そこで、HaeIIIDNA−メチルトランスフェラーゼはBaPと特定の好ましい位置で強く結合した。
g:結合エネルギーが高いこと(−8.69Kcal/モル)は、PvuIIがBaPと結合することを示唆する。他の2つの観察されたクラスター(−8.63Kcal/モルおよび−8.58Kcal/モル)の結合エネルギーは最低エネルギーのクラスターと非常に近かった。
h:+13.46Kcal/モルの結合エネルギーは、DpnII DNA−メチルトランスフェラーゼはBaPとは結合しないことを示唆する。
i:+85.64Kcal/モルの結合エネルギーは、RsrI DNA−メチルトランスフェラーゼはBaPとは結合しないことを示唆する。
j:−8.70Kcal/モルの結合エネルギーはDNMT2がBaPと特定の好ましい位置で強く結合することを示唆する。
【0092】
3.要約
グリシンNメチルトランスフェラーゼは(a)S−アデノシルメチオニン(SAM)のS−アデノシルホモシスチンに対する比の調節と、(b)葉酸との結合とによって遺伝的安定性に影響を与える。GNMTの4S多環芳香族炭化水素結合タンパクとしての同定に基づいて、cDNAトランスフェクションにおいてGNMTを一時的か安定的かのいずれかで発現する肝がん株細胞が、ベンゾ[a]ピレン(BaP)解毒経路におけるGNMTの役割を解析するために用いられた。間接免疫蛍光抗体アッセイからの結果は、GNMTが、BaP処理の前は細胞質に発現し、BaP処理後に細胞核内に移行したことを示す。ベクタープラスミドでトランスフェクションした細胞と比較すると、GNMT発現細胞で形成されるBPDE−DNA付加体の数は有意に減少した。さらに、GNMTによるBPDE−DNA付加体形成の用量依存性阻害が、GNMTのcDNAを伝達する異なるMOIsの組換えアデノウイルスを感染させたHepG2細胞において観察された。AHH酵素活性アッセイによると、GNMTはBaPで誘導されたCYP1A1酵素活性を阻害した。GNMTのX線結晶学的データとともにラマルク型遺伝アルゴリズムを用いるBaPの自動化ドッキングは、BaPがGNMTの2量体型のSAM結合ドメインに優先的に結合することを解明したが、これは、損傷を与える可能性のある曝露に対する細胞防御の新規知見である。GNMTに加えて、ドッキング実験の結果は、BaPがHhaIメチルトランスフェラーゼ、HaeIIIメチルトランスフェラーゼ、PvuIメチルトランスフェラーゼおよびヒトDNMT2とを含む他のDNAメチルトランスフェラーゼ(MTases)と容易に結合することを示した。したがって、BaP−DNMTおよびBaP−GNMTの相互作用は発がんに寄与することが示された。
【実施例2】
【0093】
実施例2 BaP結合と生体内での発がん予防
1.試験用GNMTトランスジェニックマウスモデル
1.1 pPEPCKex−flGNMTプラスミドの構築
pPEPCKex−flGNMTプラスミドは、(肝臓および腎臓で特異的に発現するホスホエノルピルビン酸カルボキシキナーゼのプロモーター(PEPCK、Valeraら、1994)を含む)pPEPCKexベクターと、(完全長ヒトGNMTのcDNAを含む)pSK−flGNMTプラスミドとを用いて調製された。両方のプラスミドはNotIおよびXhoIで消化された。インサートは前記ベクターに連結され、コンピテント細胞(JM109)に形質転換された。クローンはアンピシリンで選択され、pPEPCKex−flGNMTプラスミドであることをチェックするためにPCRでスクリーニングされた(図1)。
【0094】
1.2 トランスジェニックマウスの作出
pPEPCKex−flGNMTプラスミドが増幅され、AscIで消化されて線状(4.3kb)にされた。線状pPEPCKex−flGNMT遺伝子は、FVB系統のマウスの0.5日胚に、前核顕微注入法によって導入された。前記胚は仮親(ICR系統)に移植された。18〜21日後、マウスは出産し、トランスジェニックマウスを調べるためにPCRでスクリーニングされた。
【0095】
1.3 トランスジェニックマウスの肝臓および腎臓におけるヒトGNMTの発現
PEPCKプロモーター特異的な発現臓器をチェックするために、我々はノザンブロット法(図2)およびウェスタンブロット法(図3)を用いた。ヒトGNMTは肝臓および腎臓に特異的に発現していた。トランスジェニックマウスでのGNMT発現レベルは正常マウスより高かった。
【0096】
1.4 GNMTトランスジェニックマウスおよびHBVラージSトランスジェニックマウスへのBaP処理
以下の2群のマウス
1.GNMTトランスジェニックマウス
2.正常マウス
が体重7gあたり375μgのBaPを15日間毎日腹腔内注射で処理された。
【0097】
図4は、BaP処理され、処理の78週間後に屠殺された前記2群の肺の病理観察写真である。
【0098】
2.結果と結論
BaP処理されたトランスジェニックマウスでGNMTが過剰発現されるとき、該マウスの30%しか肺の腫瘍が発生しなかった。(GNMTが過剰発現されない)BaP処理された正常マウスは66.66%の発症率で肺の腫瘍が発生した。したがって、GNMTは生体内でBaPと結合でき、これにより、発がんを予防できる。
【0099】
略語一覧
GNMT グリシンNメチルトランスフェラーゼ
HCC 肝細胞性癌
PAH 多環芳香族炭化水素
BaP ベンゾ[a]ピレン
BPDE BaP−7,8−ジオール9,10−エポキシド
MOI 多重感染度
IPTG イソプロピルチオ−β−D−チオガラクトピラノシド
CYP1A1 シトクロムP450A1
AhR アリル炭化水素レセプター
Arnt Ahレセプター核移行タンパク質
XRE 生体異物応答エレメント(xenobiotic−responsive elements)
PCR ポリメラーゼ連鎖反応
AHH アリル炭化水素ヒドロキシラーゼ
PBS リン酸緩衝生理食塩水
IFA 間接蛍光抗体法アッセイ
LGA ラマルク型遺伝アルゴリズム
PDB タンパク質データバンク
Mtase(s) メチルトランスフェラーゼ
DNMT2 DNAメチルトランスフェラーゼ2
RAL 付加体相対レベル
【0100】
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【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】ベンゾ[a]ピレン処理後の細胞でのGNMTの核内移行を示す蛍光顕微鏡写真
【図2A】さまざまな処理を施された細胞における10ヌクレオチドあたりのBPDE−DNA付加体相対レベルを示すグラフ
【図2B】トランスフェクションされたHepG2細胞におけるGNMT発現のウェスタンブロット
【図2C】1または10μMのBaP処理されたHepG2、SCG2−1−1およびSCG2−1−11細胞におけるBPDE−DNA付加体の量を示すグラフ
【図2D】HepG2細胞(レーン1)、SCG2−1−1細胞(レーン2)およびSCG2−1−11細胞(レーン3)におけるGNMT発現のウェスタンブロット
【図3A】Ad−GFPまたはさまざまなMOIsのAd−GNMTを感染させたHepG2細胞における10ヌクレオチドあたりのBPDE−DNA付加体形成を示すグラフ
【図3B】Ad−GFPまたはさまざまなMOIsのAd−GNMTを感染させたHepG2細胞におけるGNMT発現のウェスタンブロット
【図4】SCG2−negおよびSCG2−1−1細胞におけるBaPにより誘導されるシトクロムp450 1A1(CYP1A1)酵素活性を示すグラフ
【図5A】ラマルク型遺伝アルゴリズムを用いる2量体型のGNMTと結合するBaPのモデルを示すタンパク質ペプチド鎖骨格立体構造模式図
【図5B】ラマルク型遺伝アルゴリズムを用いる4量体型のGNMTと結合するBaPのモデルを示すタンパク質ペプチド鎖骨格立体構造模式図
【図5C】1D2CおよびBaPのドッキングモデルにおけるBaPの炭素原子とその近傍のGNMTのアミノ酸残基との位置関係を示す共有結合骨格立体構造模式図
【図6】BaPによるGNMT酵素活性の阻害を示すグラフ
【図7】pPEPCKex−flGNMTプラスミドの構築の手順を示す模式図
【図8】トランスジェニックマウスおよび正常マウスのノザンブロット
【図9】トランスジェニックマウスおよび正常マウスのウェスタンブロット
【図10】BaP処理され、78週間後に屠殺されたGNMTトランスジェニックマウス(A)および正常マウス(B)の肺の臓器病理写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体と、有効量の活性ベンゾ[a]ピレン結合タンパクとを含む、医薬品、食品または化粧品の組成物であって、該タンパクは、SAM依存性メチルトランスフェラーゼか、該メチルトランスフェラーゼの機能を保存した変異体か、前記メチルトランスフェラーゼまたは変異体の断片かであり、ベンゾ[a]ピレンと特異的に結合するSAM結合ドメインを有する、医薬品、食品または化粧品の組成物。
【請求項2】
前記医薬品または食品の組成物は、経口または非経口投与に適する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記メチルトランスフェラーゼは、GNMTと、HhaI DNAメチルトランスフェラーゼと、HaeIII DNAメチルトランスフェラーゼと、PvuII DNAメチルトランスフェラーゼとのグループから選択される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記メチルトランスフェラーゼはGNMTである、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記SAM依存性メチルトランスフェラーゼの機能を保存した変異体または前記メチルトランスフェラーゼの断片は、配列番号1のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物は、微生物か、微生物または動物臓器から抽出された混合物かである、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
SAM依存性メチルトランスフェラーゼか、該メチルトランスフェラーゼの機能を保存した変異体か、前記メチルトランスフェラーゼまたは変異体の断片かを用いる、がんの予防または治療用医薬の製造方法。
【請求項8】
前記がんは、ヒトを含むほ乳類の肝がん、肺がん、膀胱がん、前立腺がん、大腸がん、脳腫瘍、乳がんおよび腎がんである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ベンゾ[a]ピレンと特異的に結合するSAM結合ドメインを有する、SAM依存性メチルトランスフェラーゼか、該メチルトランスフェラーゼの機能を保存した変異体か、前記メチルトランスフェラーゼまたは変異体の断片かの医薬品としての有効量を投与することを含む、がんの予防または治療方法。



【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−45228(P2006−45228A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−218765(P2005−218765)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(503448479)晶研生化科技股▲ふん▼有限公司 (1)
【Fターム(参考)】