説明

発光コアー/シェルナノ粒子

本発明は、(a)リン酸塩、硫酸塩またはフッ化物から選択される発光金属塩でできているコアーが、(b)電子励起後のコアーからナノ粒子表面へのエネルギー伝達を妨げるまたは減じることができる金属塩または酸化物でできているシェルで囲まれているものを含む発光ナノ粒子に関する。例えば、シェルは非発光金属塩または酸化物でできている。本発明のナノ粒子は、より高い量子収量を特徴とし、そして発光およびセキュリティーマーキングを含む様々な分野で用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、特定のシェルで囲まれた発光物質のコアーを有する発光、特に光発光ナノ粒子、並びにその合成に関する。
【0002】
発明の背景
この10年間の間、ナノ粒子、すなわち、1マイクロメーター未満の大きさの粒子は、それら特有の性質のため、研究および産業において非常に大きな関心を呼んできた。光電子工学分野の研究および開発は、発光ダイオード(LED)、ディスプレー、ナノメーター寸法の光電子デバイスにおけるまたは低限界レーザーの光源としてのそれらの潜在的な用途を考慮して発光粒子に焦点を合わせてきた。
【0003】
発光材料の中で、半導体と非半導体材料との間の区別がしばしばなされている。
【0004】
半導体ナノ粒子、例えばドープされたまたはされていないII−VIまたはIII−V半導体は、結晶サイズの減少に伴う、物質の有効バンドギャップの増加につながる3次元全てにおける電子およびホールの量子閉じ込めを特徴とする。その結果、ナノ粒子のサイズが小さくなるにつれて、半導体ナノ粒子の光学吸収および放出を共に青(より高いエネルギー)へシフトすることが可能である。しかしながら、放出のサイズ依存性は、工業的用途を頭に描く前に、粒子サイズ分布またはサイズ選別工程の非常に厳密なコントロールを必要とするので、多くの用途に望ましくない。
【0005】
水溶性コアー/シェル半導体ナノ粒子は、例えば、WO00/17655に記載されている。
【0006】
それに対して、これは、蛍光が比較的狭く、ホスト材料およびナノ粒子のサイズにほとんどよらないという、ナノ結晶質の非半導体に基づく発光材料、特に、ランタニドでドープされた金属酸化物または塩の特定の魅力からなる。それはむしろ、放出色を決めるランタニド金属の種類に限られる。同じ出願人に譲渡されたPCT/DE01/03433には、この種のランタニドでドープされたナノ粒子の一般に利用可能な合成法が開示されている。これらのナノ粒子は可視光の波長ともはや相互作用しないサイズ(30nm未満)で製造することができ、それによって、例えば有機または水性溶媒中の、透明な分散液をもたらす。
【0007】
ランタニドでドープされたナノ粒子の有用性を支配する1つの重要なパラメーターは、それらの量子収量である。量子収量とは放出光子対吸収光子の比であると我々は理解する。
【0008】
一般に、ナノ粒子物質の量子収量が相当するマクロ結晶質発光物質と同じ程度に達するのが望ましい。商業的に入手しうるマクロ結晶質グリーン発光燐光体(La0.45、Ce0.40)PO:Tb0.15は、例えば93%程度(UV発光を含む)の全体量子収量を示す。
【0009】
しかしながら、ナノ結晶質物質の表面/体積比はずっと高いため、表面ルミネッセンス消光現象の可能性は増加する。
【0010】
K. Riwotzki等, J. Phys. Chem. B 2000, 104, 2824-2828, 「Liquid phase synthesis doped nanoparticles: colloids of luminescent LaPO4:Eu and CePO4:Tb particles with a narrow particle size distribution」は、例えば、277nmでの励起で、LaPO:Euの量子収量は10%未満、そしてCePO:Tbの量子収量は、セリウムの放出が含まれるならば16%、テルビウムの放出が考えられるだけならば11%と報告している。観察値はナノ結晶質LaPO:EuおよびCePO:Tbについて計算されたそれぞれの89%および38%の理論量子収量からはるかにずれている。この論文の著者等は、発光中心へばかりでなく輻射線不在再結合が生じる中心へのエネルギー伝達によって、ホストの励起状態が低下したと考えている。おそらく、輻射線不在再結合の中心は、発光イオンからのエネルギーが伝達される同じ消光物質イオンであるか、あるいはナノ粒子の表面状態であるかもしれない。これに関連して、著者等は、各ナノ粒子のまわりの不活性物質のシェルの成長は、半導体ナノ粒子にすでにうまく施されており、それによってルミネッセンス量子収量が30〜60%以上の値に増加すると述べている(K. Riwotzki等の引例37−44)。
【0011】
Jan W. StouwdamおよびFrank C. J. M. van Veggel, Nano Letters, ASAP article, ウェブ発表2002年5月15日、「Near-infrared emission of redispersible Er3+, Nd3+and Ho3+ doped LaF3 nanoparticles」は、ルミネッセンス、および珪素に基づく光学繊維が最高の透明性を有する1300〜1600nmの波長を示すので、ポリマーに基づく光学部材に有望な物質でありうるナノ粒子の製造を開示している。著者等は、これらのナノ粒子の2つの指数減衰を測定し、これに関連して、表面または表面付近にあるイオンのルミネッセンスの改良方法は、ドープされていないLaFの層を粒子のまわりに成長させることであると推測している。
【0012】
K. Riwotzki等, J. Phys. Chem. B 2001, 105, 12709-12713, 「Colloidal YVO4:Eu and YP0.95V0.05O4:Eu particles: Luminescence and Energy transfer process」では、ナノ結晶質YVO:Euに観察された15%の低い量子収量を改善する考えられる手段として、YVO:EuコアーのためのYPOコーティングについて議論している。
【0013】
しかしながら、コアー/シェル粒子の合成は大きな障害に直面する。第1に、同時に様々な組成の均質ナノ粒子をもたらすので、シェルに用いられる出発物質の独立した成長が妨げられる。同時に、個々のナノ粒子間の交換プロセスおよびオストワルト熟成を抑制しなければならない。オストワルト熟成は、より高い温度で小さい粒子の分散液で生じ、そしてより小さい粒子がより大きい粒子に成長する現象である。このメカニズムもまた、コアーおよびシェルに用いられる様々な組成のランダム化につながる。
【0014】
M. Haase等, Journal of Alloys and Compounds, 303-304 (2000) 191-197, 「Synthesis and properties of colloidal lanthanide-doped nanocrystals」では、熱水(水溶液)中でおよび高沸騰有機溶媒(リン酸トリブチル)中でそれぞれ製造されたランタニドでドープされたナノ結晶の性質を比較している。著者は、YVO:Euナノ粒子の場合、室温で15%のルミネッセンス量子収量を報告している。
【0015】
同じ程度(15%)のルミネッセンス量子収量は、Nd3+およびEr3+でドープされたLaPO粒子について、G. A. Hebbink等, Advanced Materials 2002, 14, No.16, pp.1147-1150, 「lanthanide-doped nanoparticles that emit in the near-infrared」にも記載されている。
【0016】
それ故、現在まで、非半導体コアー/シェル粒子はまだ合成されていない。
【0017】
従って、本発明の目的は、特定の非半導体コアー/シェル粒子の合成法を提供することである。
【0018】
さらに、本発明は、均質発光非半導体粒子の量子収量を高めることを目的とする。
【0019】
発明の概要
上記の技術的目的は、
発光ナノ粒子であって、
(a)リン酸塩、硫酸塩またはフッ化物から選択されるドープされていてもよい発光金属塩でできているコアーが、
(b)電子励起後のコアーからナノ粒子表面へのエネルギー伝達を妨げるまたは減じることができる金属塩または酸化物でできているシェル
で囲まれているものを含む発光ナノ粒子、並びに、
これらのナノ粒子の製造方法であって、
有機媒質中のドープされた発光金属硫酸塩、リン酸塩またはフッ化物ナノ粒子を含む第1混合物を製造する工程、
該第1混合物と、形成されるシェルのための陰イオン源と、シェル形成金属イオンおよび該金属イオンのための有機錯生成剤を含む第2混合物とを、50〜350℃で、シェルが該発光ナノ粒子のまわりに形成されるまで反応させる工程
を含む方法
によって解決した。
【0020】
発明の詳しい説明
I. 発光ナノ粒子
本発明の発光、特に光発光粒子は、リン酸塩、硫酸塩またはフッ化物から選択されるドープされていてもよい発光無機金属塩でできているコアーを含む。
【0021】
「発光(ルミネッセンス:luminescense)」は、請求項に記載のナノ粒子がエネルギー(例えば、光子、電子線、X線等の形の)を吸収し、その後、より低いエネルギーの光として放出する性質の特徴である。「発光」には、説明および請求の範囲を通して、より特定のかつ好ましい意味の「光発光(光ルミネッセンス:photoluminescense)」も含まれる。
【0022】
「光発光」とは、特定のエネルギー(例えば、UV、可視)の光子を吸収し、ある時間にわたって、より低いエネルギーの光(より長い波長、例えばUV、可視、IR)を放出する無機金属塩の能力であると我々は理解している。光放出時間は、一般に蛍光と呼ばれる10−7または10−8秒までの、さらにはそれよりずっと長い時間の励起状態の寿命に相当しうる。ランタニドでドープされた硫酸塩、リン酸塩またはフッ化物では、一般に、ミリ秒台(例えば、1〜20ms)の励起状態の寿命が観察される。
【0023】
「ドーピング」は広い意味で理解すべきである。用いられるドーパントの上限は、生じるルミネッセンスが集中消光(concentration quenchin)現象によって減少しない程度に低くすべきである。対応して、この上限は、各コアー物質に特異な格子中のドーパント金属イオン間距離のようなファクターによって決まる。ホスト物質は50モル%以下、好ましくは0.1〜45モル%、例えば0.5〜40モル%、または1〜20モル%の量のドーパントで置き換えられるのが好ましい。
【0024】
本発明の第1の態様では、好ましくはドープされたコアー物質が非発光金属塩、特にリン酸塩、硫酸塩またはフッ化物で被覆されている。
【0025】
コアーに用いられるホスト物質は特に限定されない。それは、格子に組み込まれるドーパントにより、公知の硫酸塩、リン酸塩またはフッ化物の中から選択することができる。たいていの発光ドーパントは2または3価金属イオンであるため、2族の金属(アルカリ土類金属、例えばMg、Ca、SrもしくはBa)、3族の金属(Sc、YもしくはLa)、13族の金属(例えば、Al、Ga、InもしくはTl)またはZnのような非発光2もしくは3価金属イオンの硫酸塩、リン酸塩またはフッ化物を用いるのが好ましい。特定のドーパントに適したホスト物質を選択したら、本技術分野で公知のように、ホストおよびドーパント金属が好ましくは同じ原子価および類似の(例えば±20%の許容度)または同一のイオン直径を有しなければならないことをさらに考慮すべきである。同時に、ドーパントおよびホスト金属の混和性は、これらが特定の陽イオンと共に、同じまたは類似の格子定数(例えば±20%の許容度)を有する同じまたは類似の格子タイプの結晶を形成することが可能ならば一般に増加する。
【0026】
上記の基準は、BaおよびSrはイオン直径が2価(+II)ランタニドドーパントのそれらと非常に似ているので、コアーのためのホスト物質金属としてBaおよびSrで満たすことができる。同じ理由のため、LaおよびY塩は3価(+III)ランタニドドーパントの適したホスト物質である。
【0027】
組み込まれるドーパント金属の種類については、これが吸収された光子を発光輻射線に変換することができる限り特別の制限はない。従って、例えばCr、Ag、Cu、CoまたはMnのような金属(例えば、ホスト金属としての亜鉛との組み合わせで)を用いることができる。これらの中で、Cr3+およびMn2+はそれぞれ、13族および2族のホスト金属原子に対する好ましいドーパントである。しかしながら、ランタニド金属の発光は特にその格子環境の影響を受けないので、ランタニド金属でのドーピングが好ましい。一般に2または3価のドーパント、特にランタニドドーパントを用いるのが好ましい。2価ランタニド(+II酸化状態)は吸収が比較的強いが、発光バンドが比較的広い特徴を有する。このため、それらは、エネルギーを他の発光金属(例えば、Eu2+対Mn2+)へ伝達する増感剤として用いるのに適している。3価のランタニド(酸化状態+III)は、比較的鋭いバンドの形で光を放出する能力により、また特別な用途のための特に魅力的なドーパントとなる。これらのドーパントは単独ドーパント金属として、または3価のランタニドのいくつかの組み合わせについて後で説明するような組み合わせの形で用いることができる。
【0028】
ドーピングランタニドイオンは、Ce(元素番号58)Pr(59)、Nd(60)、Sm(62)、Eu(63)、Gd(64)、Tb(65)、Dy(66)、Ho(67)、Er(68)、Tm(69)およびYb(70)から選択されるのが適している。好ましいドーパントは、Ce、Nd、Eu、Tb、Dy、Ho、ErおよびYbである。Er3+、Nd3+およびHo3+は、1300〜1600nmを放出するため、遠隔通信分野で特に関心がもたれている。Ceは別のドーパント物質、例えばNd、DyまたはTbと組み合わせて用いられるのが好ましい。Ceは、250〜300nmの波長を有するUV輻射線を強く吸収することが知られており、格子環境(例えば、リン酸塩格子中)により、330nm付近のかなり広いルミネッセンスバンドを示す。Ceを、これに吸収されたエネルギーを伝達することができる他のドーパントと組み合わせて用いるならば、非常に効率的な発光系を得ることができる。ドーパント金属の別の魅力的な組み合わせはYbおよびErであり、これはEr3+が、Er3+よりも吸収断面が3倍広くそして980nmでのピークがより広いYb3+により間接的に押出される、Er3+でドープされた光学増幅器において非常に重要である。
【0029】
前に示したように、これらのランタニド金属組み合わせはコアーのためのドーパントとして用いることができるだけではない。ホスト金属として、より広い吸収断面を有しそしてその一部を少量(例えば、0.1〜40モル%、好ましくは0.5〜30モル%)の他の金属で置き換えたランタニド金属イオン(例えば、Ce3+、Yb3+)を用いることが同様に効果的である。他の金属は、Ce3+に基づくホスト物質の場合はNd3+、Dy3+またはTb3+、そしてYb3+に基づくホスト物質の場合はEr3+が好ましい。このため、ランタニドの硫酸塩、リン酸塩またはフッ化物(例えば、Ce3+、Yb3+)をコアーのホスト物質として用いることもできる。それらは以下でさらに詳しく説明するような同じシェル物質、好ましくは2族の金属の硫酸塩、リン酸塩またはフッ化物、特にLaの硫酸塩、リン酸塩またはフッ化物と組み合わせることができる。特に好ましい態様は、CePO:Tb/LaPOおよびCePO:Nd/LaPOのコアー/シェル粒子である。
【0030】
本発明では、シェル物質、すなわち、金属塩または酸化物は、その電子励起状態におけるコアーから、消光されるであろうコアー/シェル粒子表面へのエネルギー伝達を妨げるまたは減じることが可能である。シェルのない発光ナノ粒子コアーで観察されるこれらの消光現象は、表面の発光中心と表面に接触もしくは結合している環境(例えば、溶媒)からの分子との相互作用によって、または不飽和表面状態によって生じると考えられる。後者の効果については、表面金属原子の遊離原子価が、表面の下に位置する金属原子によって吸収されるエネルギーが容易に伝達されることができる低エネルギー状態を生じる。
【0031】
エネルギー伝達を妨げるまたは減じる要件は、電子基底状態と第1電子励起状態との間のエネルギー的距離が選択されたコアーの相当するエネルギー的距離よりも大きい、金属塩または酸化物で常に満たすことができる。これらの状況下で、コアーによって吸収されたエネルギー(例えば、UV、可視、IR)はシェル、特にシェル金属原子に伝達することができない。これによって得られるコアーにおけるエネルギーの局在化は表面消光減少を妨げ、量子収量を高める。本発明の上記の第1態様では、シェル塩または酸化物は非発光性であり、従って、エネルギーが励起されたコアーから伝達されることができる低エネルギー電子状態を欠いている。
【0032】
本発明の第2態様では、コアーは発光ランタニド硫酸塩、リン酸塩またはフッ化物からなり、そしてシェルはコアー金属とは異なりかつ電子励起後のコアーからナノ粒子表面へのエネルギー伝達を妨げるまたは減じるランタニド塩または酸化物からなる。コアーおよびランタニド金属原子は、Ce(元素番号58)Pr(59)、Nd(60)、Sm(62)、Eu(63)、Gd(64)、Tb(65)、Dy(66)、Ho(67)、Er(68)、Tm(69)およびYb(70)から選択されるのが適している。ただし、上で説明したように、電子基底状態と第1電子励起状態との間の各エネルギー的距離は、コアーからシェルへの励起エネルギーの伝達を可能にしない。好ましくは、コアーはNdの硫酸塩、リン酸塩またはフッ化物からなり、そしてシェルはGdの塩または酸化物からなる。これらの金属原子のこの組み合わせは特に魅力的である。GdシェルはNdの硫酸塩、リン酸塩またはフッ化物の量子収量を増すばかりでなく、粒子表面でのGdの局在化を阻止すると考えられる優れたNMRコントラスト性を提供するからである。発光性とNMRコントラスト性の組み合わせによって、この態様は診断目的に特に魅力的である。
【0033】
シェルの化学構成については、コアー粒子を選択された金属原子と共に成長させることが可能である限り、どのような適した陰イオンまたは酸化物も用いることができる。
【0034】
シェルを形成する適した陰イオンは、限定されないが、ホスフェート、ハロホスフェート、アルセネート、スルフェート、ボレート、アルミネート、ガリウム酸塩、シリケート、ゲルマネート、オキシド、バナデート、ニオベート、タンタレート、タングステート、モリブデート、アルカリハロゲネート、他のハロゲン化物、窒化物、硫化物、セレン化物、スルホセレン化物、またはオキシ硫化物である。この種のナノ粒子金属塩はPCT/DE01/03433に開示されている。
【0035】
本発明では、シェル金属原子の選択を支配する唯一の基準は、それらが、照射後、励起されたコアーから表面へルミネッセンスエネルギーを伝達する能力に欠けていることである。この目的に用いることができる好ましい金属イオンは、コアー物質について上で述べたものと同じである。それらには、限定されないが、2族の金属(アルカリ土類金属、例えばMg、Ca、SrもしくはBa)、3族の金属(Sc、YもしくはLa)、Zn、または13族の金属(例えば、Al、Ga、InもしくはTl)が含まれる。シェル物質がコアー物質の表面で成長する傾向を高めるためには、絶対に必要ということはないが、シェル物質として、コアーのホストを構成する同じ金属硫酸塩、リン酸塩またはフッ化物を選択するのがさらに好ましい。この要件が満たされないならば、コアーのホスト物質およびシェル物質が同じ格子タイプに属し、非常に似た(例えば、±20%の許容度)または同じ格子定数を示すのが好ましい。
【0036】
本発明のコアー/シェル粒子は結晶質物質からなるのが好ましい。これはX線粉末回折図形で確認することができる。
【0037】
本発明のコアー/シェル粒子の形は、例えば、針状、楕円状または球状であり、後者の2つが好ましい。
【0038】
本発明のコアー/シェル粒子の平均サイズは、最長軸にそって測定して、好ましくは1〜100nm、より好ましくは1〜50nmである。平均サイズは、最高30nm、最高20nm、最高10nm、例えば2〜8nm、4〜6nmであることがさらに望ましい。それぞれの場合、標準偏差は、好ましくは30%未満、特に10%未満である。
【0039】
粒子サイズおよび分布は、例えば、透過電子顕微鏡(TEM)で、前に引用したK. Riwotzki 等およびM. Haase等による論文に記載の技術により測定することができる。
【0040】
シェルの平均の厚さは少なくとも1または2つの単分子層に相当するのが好ましい。シェルが厚すぎると、コアー/シェル粒子の全体的な光ルミネッセンス特性に悪影響を与える。従って、シェルの厚さの好ましい上限はコアーの直径、より好ましくは直径の2/3、さらに好ましくは直径の1/2である。
【0041】
II. コアー/シェルナノ粒子の合成
本発明の上記のコアー/シェルナノ粒子は、少なくとも次の2工程:
1. 有機媒質中のドープされていてもよい発光金属硫酸塩、リン酸塩またはフッ化物ナノ粒子(コアー)を含むいわゆる「第1混合物」を製造する工程、
2. 該第1混合物と、形成されるシェルのための陰イオン源、特にホスフェート、スルフェートまたはフッ化物源と、シェル形成金属イオンおよび該金属イオンのための有機錯生成剤を含む「第2混合物」とを、50〜350℃で、シェルが該発光ナノ粒子のまわりに形成されるまで反応させる工程
を含む請求項に記載の方法で合成される。
【0042】
II.1 第1工程およびコアー粒子の合成
コアー物質として提供されるかついわゆる「第1混合物」中に存在するナノ粒子は、本技術分野で公知の方法により合成することができる。一般に、湿式合成技術が乾燥形成法よりも好ましい。前者では粒子サイズをよりうまく調節することができるからである。さらに、湿式合成技術では形成されたナノ粒子の凝集の抑制がより容易である。
【0043】
公知の湿式合成技術の中で、ゾル−ゲル法、熱水合成法、または結晶成長を調節する錯生成剤での有機合成法を用いることができる。さらに、前に述べたJ. W. StouwdamおよびF. C. J. M. van Veggelによる論文に記載の合成技術で、特にフッ化物を生成することが可能である。従って、LaFナノ粒子および他のフッ化物は、ジ−n−オクタデシルジチオリン酸アンモニウムおよびNaFのエタノール/水中の溶液を加熱することによって製造することができる。その後、相当する金属硝酸塩の水中の溶液を滴加し、次に、溶液を75℃で2時間攪拌し、そして室温で冷却する。しかしながら、この技術の欠点は、生じた粒子が、遠心分離による精製工程をさらに必要とする比較的広い粒子サイズ分布を依然として示すことである。
【0044】
ランタニドでドープされたリン酸塩の「熱水合成」は、例えば、「ドープされたコロイド状ナノ物質の湿式化学合成」に記載されている:H. Meyssamy等, Advanced Materials (1999), Vol.11, No.10, pp.846以下に記載のLaPO:Eu、LaPO:CeおよびLaPO:Ce、Tbの粒子および繊維。硫酸塩、リン酸塩またはフッ化物ナノ粒子の出発物質として、好ましくは金属塩化物、硝酸塩または酢酸塩が用いられる。反応は反応の間、高圧、好ましくは10〜20バール(1,000kPa〜2,000kPa)を維持するオートクレーブにおいて、反応媒質としての水中で行われる。
【0045】
熱水合成法では、しばしば針状の形をした比較的大きい粒子が生じる。さらに、生成物は、一般に粒子サイズの分布が比較的広い特徴を有する。H. Meyssamy等による上記の方法では、直径が25nm未満のナノ粒子の割合は、例えば、ほんの約20%にすぎない。これらはその後の遠心分離工程によって単離することができる。
【0046】
さらに、金属−錯生成活性によって結晶成長を調節すると考えられているポリオールおよびスルホキシドから選択される有機媒質中、周囲圧下で、ドープされていてもよい硫酸塩を生成することが可能である。この技術は「ポリオールまたはスルホキシド合成」と以下で呼ぶ。
【0047】
用いられるポリオールは、2または3個のヒドロキシ基を有するのが好ましく、それらの例は、グリセロール、エチレングリコールまたはポリエチレングリコールであり、低分子量ポリエチレングリコールを用いるのが好ましい。(エチレングリコール単位の平均の数は4以下が好ましい)。スルホキシドとしてジメチルスルホキシド(DMSO)を用いうる。この合成技術は、ドープされたホスト物質としてのアルカリ土類金属硫酸塩、例えばマグネシウム、カルシウム、ストロンチウムまたはバリウムの硫酸塩の製造に用いるのが好ましい。
【0048】
好ましい金属原子源は相当する塩化物およびそれらの水和物である。硫酸塩の出発物質として、好ましくはアルカリ金属硫酸塩、硫酸アンモニウムまたは有機陽イオンを有する硫酸塩を用いるのが好ましい。相当する硫酸水素塩も同様に適している。
【0049】
有機陽イオンは、4〜30個、好ましくは4〜20個の炭素原子を有する塩基性N−含有脂肪族、芳香族および脂肪族/芳香族物質から選択されるのが好ましい。適した陽イオンには
・4つの置換基が1〜10個(好ましくは1〜5個)の炭素原子を有するアルキルもしくはベンジルから独立して選択されることができる第4アンモニウムまたはホスホニウム、あるいは
・プロトン化芳香族塩基、例えばヒドラジン、アマンタジン、ピリジンまたはコリジン
が含まれる。
【0050】
対応して、硫酸塩ナノ粒子は、硫酸水素テトラブチルアンモニウム、硫酸テトラメチルアンモニウム、硫酸ビステトラブチルアンモニウム、または硫酸水素トリエチルアンモニウムのような出発物質から生成することができる。他の適した出発物質は、硫酸水素アンモニウム、硫酸アンモニウム、アルカリ金属硫酸水素塩、硫酸アマンタジン、硫酸エチレンジアンモニウム、および硫酸ヒドラジニウムである。
【0051】
硫酸塩ホスト物質のドーピングには、相当するドーパントの硝酸塩またはハロゲン化物、特に相当する金属塩化物を用いることができる。
【0052】
硫酸水素塩が出発物質に含まれているのならば、有機塩基、例えばイミダゾールを酸スカベンジャーとして反応媒質に加えるのが好ましい。反応は50〜240℃で行うのが好ましく、50〜100℃のより低い温度はグリセロールに好ましく、160〜240℃、特に160〜180℃のより高い温度は他のポリオールまたはスルホキシド溶媒に最も適している。得られる粒子の平均直径は0.2〜50nm程度であり、水性媒質に容易に分散することができる。
【0053】
ゾル−ゲル法、熱水合成法またはいわゆる「ポリオールまたはスルホキシド合成法」で得られるナノ粒子コアーは、特にコアーおよび本発明の方法(シェル合成法)用の反応媒質がそれぞれ極性の点でかなり異なっているならば、特許請求の範囲の方法における第1工程で用いられる有機媒質にときどき分散することができないことがある。このため、それらの分散性を高めるために、ナノ粒子を適当な極性有機化合物で後処理する必要があるかもしれない。この後処理は、シェル合成法で用いられる同じ有機媒質または類似の極性の有機媒質で行われるのが好ましい。
【0054】
例えばシェル合成がN−またはP−含有媒質中で行われるならば、後処理は、ゾル−ゲル法、熱水合成法またはいわゆる「ポリオールまたはスルホキシド合成法」で得られるナノ粒子を、N−またはP−含有媒質で行うのが適している。
【0055】
後処理には、ナノ粒子を相当する有機化合物中で加熱することが含まれる。それは、水、またはナノ粒子表面に結合している他の親水性残基を極性有機化合物で置き換える効果を有する。上記の理由で、極性有機化合物は、「有機合成法」および第2工程について以下で説明するように、金属イオンのためのN−またはP−含有錯生成剤から選択されるのが好ましい。しかしながら、他の官能化極性有機化合物も用いうる。
【0056】
この後処理は、後に続く製造工程がポリオールおよび/またはスルホキシド中で行われるならば、「ポリオールまたはスルホキシド」合成法で生成されるように、硫酸塩には必要がない。
【0057】
以後「有機合成法」と呼ばれるさらなるおよび好ましい技術では、発光ナノ粒子コアーの製造方法は、
a)少なくとも1種の金属錯生成剤と任意の少なくとも1種のさらなる溶媒とを含む有機反応媒質中で、反応媒質に可溶性または分散性の金属源と反応媒質に可溶性または分散性のホスフェート、スルフェートまたはフッ化物源とを反応させること、
b)形成されたナノ粒子状金属リン酸塩、硫酸塩またはフッ化物から任意に反応媒質を除去すること、および
c)ナノ粒子状塩を任意に除去すること
の工程を含む。
【0058】
「有機媒質」とは、避けられない微量は別にして、水を含まない有機溶媒と我々は理解する。この有機媒質の沸点は、以下に示す反応温度より高いのが好ましい。それは、例えば、150〜400℃、好ましくは180℃以上、特に210℃以上(周囲圧で)である。
【0059】
金属源の酸化しやすさにより、反応を窒素またはアルゴンのような不活性ガス下で行うのが好ましい。
【0060】
出発物質の純度に関しては、少なくとも99.9%の純度の金属塩を用いるのがよい。用いられる全ての反応体および溶媒は水を含まずおよび/または使用前に乾燥されるのが好ましい。しかしながら、水和物としてしばしば用いられる金属塩化物は、反応媒質に不溶性のオキシ塩化物の形成を高めるので、乾燥処理をより長くしないのが好ましい。
【0061】
反応は50〜350℃、例えば120〜320℃、特に180〜290℃が好ましい。本技術分野における当業者であれば、温度をしだいに上げて反応体の反応を調べ、それによって反応が十分な速度で進行する合成最低温度を決定することによって適した温度を容易に決定することができる。このために、ナノ粒子を、例えば、反応媒質の試料から析出させて、反応時間の増加に伴う粒子成長を調べてもよい。
【0062】
適した反応時間は同様に決定することができ、10分〜48時間、特に30分〜20時間が好ましい。
【0063】
反応完了後、反応混合物を室温に冷却することができる。ナノ粒子が反応中または冷却後まだ十分に析出していなければ、最高収量を得るために、メタノールを反応媒質に、または逆に加えることが可能である。
【0064】
理論に結びつけるつもりはないが、「有機合成法」で用いられる金属錯生成剤は形成されるナノ粒子の表面金属原子と配位し、それによって出発物質が反応した後、それらの成長を停止させると考えられる。この金属錯生成剤は粒子表面へ結合してとどまって、凝集およびオストワルト熟成のような粒子間の交換プロセスを妨げまたは減じる。従って、有機合成法は、狭いサイズ分布(標準偏差<30%、特に<10%)を有する、最長軸で測定した平均直径が好ましくは1〜10nm、特に2〜8nm、例えば4〜6nmのかなり小さい粒子をもたらす。金属錯生成剤は、金属イオンおよび少なくとも1つの第2分子部分(極性がより少なく、好ましくは疎水性の)、例えば好ましくは4〜20個、特に6〜14個の炭素原子を有する脂肪族、芳香族/脂肪族、または純粋に芳香族の分子部分を配位することができる極性基の存在を特徴とする。
【0065】
金属錯生成剤はホスホ有機(phosphororganic)化合物またはモノ−もしくはジ−置換アミンが好ましい。
【0066】
後者の中で、最も好ましい態様は、アルキル残基が好ましくは4〜20個、特に6〜14個の炭素原子を有するモノ−もしくはジアルキルアミン、例えばドデシルアミンまたはビス(エチルヘキシル)アミンである。
【0067】
ホスホ有機化合物については、次の物質:
a)ホスフィン酸のエステル
【0068】
【化1】

【0069】
b)ホスホン酸のジエステル
【0070】
【化2】

【0071】
c)リン酸のトリエステル、最も好ましくはリン酸トリアルキル、例えばリン酸トリブチルまたはリン酸トリス(エチルヘキシル)
【0072】
【化3】

【0073】
d)トリアルキルホスフィン、例えばトリオクチルホスフィン(TOP)
【0074】
【化4】

【0075】
あるいは
e)トリアルキルホスフィンオキシド、例えばトリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)
【0076】
【化5】

【0077】
の少なくとも1種を用いるのが好ましく、上記式中、R、RおよびRは、4〜20個、より好ましくは4〜14個、特に4〜10個の炭素原子を有する分枝状もしくは線状脂肪族(好ましくはアルキル)、脂肪族/芳香族または芳香族残基から独立して選択される。芳香族残基は例えばフェニル、脂肪族/芳香族残基はトリル、キシリルまたはベンジルである。
【0078】
ホスホ有機化合物(a)〜(c)および(e)、特に(a)〜(c)を用いるのが特に好ましい。
【0079】
金属錯生成剤は有機反応媒質中の唯一の溶媒でもよい。唯一の溶媒であるならば、それは、金属源として用いられる金属原子のモル量に基づいて少なくとも10モルの量で用いるのが好ましい。好ましい上限は1000モルである。
【0080】
金属錯生成剤、特に、疎水性分子部分の長さの選択により、形成されるナノ粒子の完全な析出を妨げることになるので、より多量の使用は都合が悪い。
【0081】
従って、「少なくとも1種のさらなる溶媒」をさらに用いるのが好ましい。この態様では、金属錯生成剤(「第1溶媒」)は、金属イオン(金属源として用いる)1モルに基づき、好ましくは10モル未満、より好ましくは0.9〜6モルのモル量で用いるのが好ましい。「さらなる溶媒」の量は、金属イオン(金属源として用いる)1モルに基づき、5〜100モルが好ましい。
【0082】
「さらなる溶媒」は金属錯生成剤と混和することができ、合成最低温度より高い沸点、好ましくは150℃以上、より好ましくは180℃以上、最も好ましくは210℃以上の沸点を有する。400℃以上の沸点は望ましくない。
【0083】
「さらなる溶媒」は炭化水素に基づくものでも、あるいは少なくとも1つの極性基を有するものでもよい。結晶水が金属塩出発物質中に存在し、この水が金属に配位することができる溶媒によって置き換えられるならば、後者を用いるのが好ましい。「さらなる溶媒」は、
・ 少なくとも1つのエーテル官能基を有する溶媒;特に、アルキル基あたり5〜10個の炭素原子を有するジアルキルエーテル、例えばジペンチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジヘプチルエーテル、ジオクチルエーテル、またはジイソアミルエーテル;合計12〜18個の炭素原子を有するジアリールまたはジアラルキルエーテル、例えばジフェニルエーテルまたはジベンジルエーテル;あるいはモノ−もしくはポリエチレングリコール(PEG)ジアルキルエーテル(各アルキルは好ましくは1〜4個の炭素原子を有し、PEGの平均の数は好ましくは10以下である)、例えばジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、および/またはテトラエチレングリコールジメチルエーテル;
・ 好ましくは10〜18個、特に12〜16個の炭素原子を有する分枝状または非分枝状アルカン、例えばドデカンまたはヘキサデカン;および/または
・ 有機高沸点塩基、好ましくはN−含有脂肪族塩基、最も好ましくは三置換アミン、特にアルキル基当たり5〜10個の炭素原子を有するトリアルキルアミン化合物、例えばトリオクチルアミンまたはトリス(2−エチルヘキシル)アミン、あるいは3〜20個の炭素原子を有するN−含有芳香族塩基、例えばイミダゾール
から選択されるのが好ましい。
【0084】
これらの溶媒は組み合わせて用いてもよい。有機高沸点塩基は溶媒として働くばかりでなく、酸スカベンジャーとしても作用する。例えば、リン酸のような酸をイオン源として用いるならば、塩基は、酸の水素原子に関してほぼ等モル量(例えば、約0.6〜1.4モル)で用いるのが好ましい。
【0085】
「陽イオン源」は、どのような適した(十分に反応性の)金属塩から選択してもよく、金属塩化物、金属アルコキシド(アルコキシドは1〜6個、特に1〜4個の炭素原子を有するのが好ましい)、金属硝酸塩または金属酢酸塩が好ましい。金属塩化物が特に好ましい。水和した金属塩も用いうる。しかしながら、反応前に、結晶水を除去するのが好ましい。
【0086】
「陰イオン源」は、
a. 硫酸、リン酸またはHF
b. 合成混合物に可溶性または少なくとも分散性のリン酸、硫酸またはフッ化物塩、特に、有機陽イオンを有する塩またはアルカリ金属塩
から選択するのが好ましい。
【0087】
選択bについては、陽イオンは、塩基性4〜30個、好ましくは4〜20個の炭素原子を有する塩基性N−含有脂肪族、芳香族および脂肪族/芳香族物質から選択されるのが好ましい。適した陽イオンには、例えば、上記のような第4アンモニウムまたはホスホニウムあるいはプロトン化芳香族塩基、例えばピリジンまたはコリジンが含まれる。リン酸塩ナノ粒子の製造のため、ジヒドロゲンリン酸テトラブチルアンモニウム、ジヒドロゲンリン酸テトラメチルアンモニウム、またはジヒドロゲンリン酸トリエチルアンモニウムを陰イオン源として用いてもよい。対応して、硫酸塩ナノ粒子は、硫酸水素テトラブチルアンモニウム、硫酸テトラメチルアンモニウム、硫酸ビステトラブチルアンモニウム、または硫酸水素トリエチルアンモニウムのような出発物質から生成することができる。フッ素含有陰イオンでのナノ粒子の製造には、トリスヒドロフッ化トリエチルアミン、フッ化テトラブチルアンモニウム、ヒドロゲン二フッ化テトラブチルアンモニウム、ヒドロゲンフッ化ドデシルアミンまたはそれほど可溶性ではないヒドロフッ化ピリジン、またはヒドロフッ化コリジンが用いられる。
【0088】
金属イオン(陽イオン源)が有機媒質に溶解するのがあまりにも遅いならば、金属錯生成剤および反応溶媒を加える前に、これを低級アルコール、好ましくはメタノールに溶解するのが好ましい。次に、反応体をさらに加える前に、メタノールおよび結晶水を蒸留および乾燥によって除去する。
【0089】
本発明の方法では、上記合成技術の1つにより得られうるナノ粒子は、有機媒質中の分散液(いわゆる、「第1混合物」)として提供される。
【0090】
有機媒質は、沸点が120℃以上、特に180℃以上であるが400℃未満の1種以上の極性溶媒に基づくのが好ましい。それは「金属錯生成剤」、特にアルキル残基が4〜20個の炭素原子を有する上記モノ−もしくはジアルキルアミン、ホスホ有機化合物、ポリオールおよびスルホキシドから選択されるのが好ましい。有機媒質は金属錯生成剤および任意に、有機合成法で記載した「少なくとも1種のさらなる溶媒」を含有するのが好ましい。
【0091】
対応して、請求の範囲における第1工程の「有機合成法」または「ポリオールまたはスルホキシド」で生成されたナノ粒子を単離することなく用いることが可能であり、好ましい。
【0092】
有機媒質はナノ粒子コアーのための分散媒質として働くことを留意すべきである。従って、有機媒質が金属原子に配位する能力により、ナノ粒子は、シェルが上に成長する前は、コロイド(非溶解)状態で維持される。
【0093】
II.2 第2プロセス工程
第2工程では、
・ 上記第1混合物、
・ 形成されるシェルのための陰イオン源、特に、ホスフェート、スルフェートまたはフッ化物源、および
・ シェル形成金属イオン(およびそれらの対イオン)と該金属イオンのための有機錯生成剤とを含むいわゆる「第2混合物」
を、シェルが該発光ナノ粒子のまわりに形成されるまで、50〜350℃で反応させる。
【0094】
一般に、早期反応を避けるため、陰イオン源および第1混合物を別にしておくのが好ましい。
【0095】
第2プロセス工程は、次の3つの態様(A)、(B)および(C)により行うことができる:
プロセス(A)は、
有機媒質中のドープされていてもよい発光金属硫酸塩、リン酸塩またはフッ化物ナノ粒子を含む第1混合物を製造する工程、
該第1混合物を50〜350℃に加熱する工程、
この第1混合物に、この温度で、形成されるシェルのための陰イオン源と、シェル形成金属イオンおよび該金属イオンのための有機錯生成剤を含む第2混合物とを、別々に滴加する工程、並びに
得られた混合物を、この温度で、シェルが該発光ナノ粒子のまわりに形成されるまで反応させる工程
を含む。
【0096】
例えば、2つの滴下トンネルによる別々ではあるが、陰イオン源および第2混合物の同時の添加は、シェル用の活性出発物質の濃度を下げ、そしてシェル用の出発物質からの独立した粒子成長を減じることによって反応の選択性を高める。
【0097】
プロセス(B)は、
有機媒質中のドープされていてもよい発光金属硫酸塩、リン酸塩またはフッ化物ナノ粒子を含む第1混合物を製造する工程、
陰イオン源を該第1混合物に加える工程、
得られた混合物を50〜350℃に加熱する工程、
これに、シェル形成金属イオンと該金属イオンのための有機錯生成剤とを含む第2混合物を加える工程、並びに
得られた混合物を、この温度で、シェルが該発光ナノ粒子のまわりに形成されるまで反応させる工程
を含む。
【0098】
プロセス(A)および(B)はより均一な粒子を形成する傾向があり、これらの粒子はシェル形成物質の独立して成長した粒子をより少ない割合でさらに含む。
【0099】
プロセス(C)は、
有機媒質中のドープされていてもよい発光金属硫酸塩、リン酸塩またはフッ化物ナノ粒子を含む第1混合物を製造する工程、
該第1混合物と、形成されるシェルのための陰イオン源と、シェル形成金属イオンおよび該金属イオンのための有機錯生成剤を含む第2混合物とを、好ましくは、前記第1混合物と前記陰イオン源とを前記第2混合物へ加えることにより、混ぜる工程、
得られた混合物を、シェルが該発光ナノ粒子のまわりに形成されるまで、50〜350℃に加熱する工程
を含む。
【0100】
意外なことに、出発物質を徐々に加えること、例えば滴加することが全く必要ないことが分かった。プロセス(C)では、出発物質は全部混合することによって混ぜることができるが、望ましいコアー/シェル物質は高選択性で形成され、かつ独立した粒子成長はほとんどない。従って、プロセス(C)はプロセス(A)および(B)よりも行いやすい。
【0101】
そうでないならば、次の好ましい態様はプロセス(A)、(B)および(C)全てに適用する。
【0102】
金属イオン源として十分に反応性のどのような金属塩も用いることができ、シェル金属イオンの塩化物またはアルコキシドが好ましい。アルコキシド基は1〜4個の炭素原子を有するのが好ましい。
【0103】
どのような適した陰イオン源も、第1工程でもたらされたコアー粒子のまわりにシェルを形成することが可能でありさえすれば用いることができる。
【0104】
シェルを形成する適した陰イオンには、限定されないが、ホスフェート、ハロホスフェート、アルセネート、スルフェート、ボレート、アルミネート、ガレート、シリケート、ゲルマネート、オキシド、バナデート、ニオベート、タンタレート、タングステート、モリブデート、アルカリハロゲネート、他のハロゲン化物、窒化物、硫化物、セレン化物、スルホセレン化物、またはオキシ硫化物が含まれる。
【0105】
シェル形成陰イオンは、PCT/DE01/03433に記載の同じまたは類似の条件下、有機媒質中で都合よく反応するものを用いるのが好ましい。それらの例は、シリケート、ボレート、アルセネート、硫化物、スルフェート、ホスフェート、およびフッ化物、特にスルフェート、ホスフェートおよびフッ化物である。この文献はまた、陰イオン源が相当するナノ粒状物質の生成に用いることができることを教示している。
【0106】
適したホスフェート、スルフェートまたはフッ化物については、本発明の第1工程について上に記載の陰イオン源、特に「ポリオールまたはスルホキシド」および/または「有機」合成で用いられるものが参考になる。
【0107】
陰イオン源は、「ポリオールまたはスルホキシド」または「有機」合成に記載された溶媒の少なくとも1種中の微細分散液または溶液として加えるのが好ましい。
【0108】
陰イオン源、特にホスフェート、フッ化物またはスルフェート源は、加えられた全てのシェル形成金属原子との反応に化学量論的に必要なモル量に基づいて、0.75〜3モル、特に0.75〜2モルで用いるのが好ましい。2成分塩(AB)では、B(陰イオン)対A(金属)比は従って0.75:1〜2:1である。
【0109】
ホスフェートおよびフッ化物源、例えばリン酸またはHFは、ホスフェートまたはフッ化物でできているコアーまたはコアー/シェル粒子の「有機」合成では、過剰量で用いるのが好ましい。過剰モル量は、化学量論的に必要なモル量に基づいて、好ましくは少なくとも1.05モル、より好ましくは1.1〜2モル、特に好ましくは1.2〜1.6モルである。
【0110】
硫酸塩コアーまたはコアー/シェル粒子の「ポリオールまたはスルホキシド」で過剰量のスルフェート源、例えば第4アンモニウム(水素)硫酸塩を用いるのが同様に好ましい。過剰モル量は、化学量論的に必要なモル量に基づいて、好ましくは少なくとも1.05モル、より好ましくは1.1〜3モル、特に好ましくは1.2〜2モルである。
【0111】
第2混合物に含まれる有機錯生成剤はまた、ナノ粒子の有機合成で上に説明した有機錯生成剤または「ポリオールまたはスルホキシド」合成で記載した溶媒から選択しうる。
【0112】
一般に、シェル形成イオンの有効濃度はできるだけ低く保つのが望ましい。本発明では、これは、金属錯生成剤をもちいることによって達成される。理論に結びつけるつもりはないが、低濃度の反応性(非錯形成)金属イオンのみが、新しい粒子の独立した形成と相対するシェル成長に好都合であると考えられる。
【0113】
好ましい態様では、第1混合物に用いられる有機媒質および第2混合物中に存在する錯生成剤は同じ極性有機化合物、例えば、前に述べたホスホ有機化合物、モノ−もしくはジ−置換アミン、ポリオールまたはスルホキシドの1つである。
【0114】
さらに、上記の「少なくとも1種のさらなる溶媒」を有機錯生成剤に対して同じ比率で用いるのが好ましい。これによって、唯一の溶媒を構成するように、より少ない量の金属錯生成剤を用いることが可能になる。金属錯生成剤およびシェル形成金属イオンのモル比は0.9〜1:6:1が好ましい。
【0115】
シェル物質のための陰イオン源が酸水素原子を有するならば、上記の塩基を用いるのが好ましい。上記有機高沸点塩基(例えば、トリアルキルアミン)は、例えば、記載の条件下でリン酸またはHFのような陰イオン源のための酸スカベンジャーとして用いるのが好ましい。プロセス(A)または(B)では、塩基は、金属源および錯生成剤を含む「第2混合物」の成分として加えるのが好ましい。
【0116】
出発物質を全て均質に溶解または分散するのが一般に好ましいため、金属錯生成剤を含めた溶媒の全体量は、本技術分野における当業者によって容易に決定される。プロセス(A)または(B)では、ほぼ同じ量の溶媒を、陰イオン源および金属源(第2混合物)を溶解するのに用いるのが好ましい。
【0117】
一般に、反応は、特に断りがなければ、「ポリオールまたはスルホキシド」あるいは「有機」合成についてII.1項で前に議論したような同じまたは類似条件下で行うことができる。このことはまた、保護不活性ガスの使用および反応体の乾燥にも適用される。
【0118】
残りの出発物質と混ぜられるナノ粒子コアーの量は、特に限定されず、目標のシェルの厚さで主に決まる。
【0119】
本発明の方法では、シェルが第1工程で製造された発光ナノ粒子コアーのまわりに形成されるまで、反応媒質は50〜350℃、特に120〜320℃の温度に加熱される。
【0120】
反応は、フッ化物およびリン酸塩の場合は160〜240℃、特に180〜220℃、硫酸塩の場合は160〜180℃で行うのが好ましい。グリセロール中での硫酸塩シェルの形成は、ずっと低い温度(例えば、50〜100℃)も可能である。適した温度は、シェルに用いられる出発物質からの新たな粒子の開発のように、温度を徐々に上げてシェルの成長をモニターし、それによって望ましくない副反応なしで、反応が十分な速度で進行する合成最低温度を決定することによって、本技術分野における当業であれば容易に決めることができる。
【0121】
出発物質が滴加されるこれらのプロセス(AおよびB)では、添加時間は、好ましくは0.5〜10時間、特に1〜5時間である。
【0122】
好ましい反応時間は30分〜48時間、特に1〜20時間、とりわけ1.5〜16時間である。例えば反応媒質から取り出された試料からナノ粒子を析出させることによって、再度、反応をモニターし、そしてTEM顕微鏡写真で粒子サイズ分布を調べることで、適した反応時間を決定することが可能である。反応は、例えば、オストワルト熟成が観察されるやいなや、すなわち、より小さい粒子を費やしてより大きい粒子が成長し始めるとき、冷却することによって停止しなければならない。
【0123】
反応完了後、反応媒質を室温に冷却する。これによって、形成されたコアー/シェルナノ粒子の析出を増進させる。析出が不完全であるならば、析出溶媒(例えば、メタノール)を反応媒質にまたは逆に加えることによって反応生成物の完全な回収が可能になる。あるいは、それは、有機錯生成剤を含む過剰の有機溶媒を留去するか、または5000〜10000程度のダルトン値に相当する好ましい細孔サイズの膜を通して限外濾過を行うことによって可能である。これらの値は、多くの場合、溶媒を通過させのに十分に大きく、かつナノ粒子の貫通および損失を妨げるのに十分に小さい、約3nmのカット−オフに相当する。一般に、2〜5バール(200kPa〜500kPa)の圧力は、溶媒を相当する限外濾過セルで交換するのに必要である。
【0124】
さらに、得られたナノ粒子を、例えばメタノール、エタノールまたはイソプロパノールで洗浄するのが好ましい。
【0125】
以下に示す方法で、シェルの成長が確実に生じたことを確認することができる。
【0126】
1つの選択は、少量の試料を析出させ、それらの粒子サイズ分布を例えばTEM顕微鏡写真で分析することによって反応を連続モニターすることである。この方法で取り出した試料は、シェル成長が全反応時間にわたって生じたのか、あるいはより小さい粒子の独立形成も観察することができるのかも示すであろう。EDX分析法(エネルギー分散X線分析法)はナノ粒子の全体組成を証明することができる。XPS分光分析法は、XPSを様々な励起エネルギーで行うならば、粒子の外側から内側の部分の組成分布に関するさらなる情報を提供しうる。さらに、コアー/シェル粒子の量子収量は、反応に用いられたコアーナノ粒子から容易に見分けることができる。
【0127】
非発光物質がドープされていてもよい発光ナノ粒子コアーのまわりに成長すると、この量子収量は上昇する。これは、均質なCePO:Tbナノ粒子(実線)およびLaPOシェルがCePO:Tbコアーのまわりに成長した本発明によるコアー/シェル粒子(点線)の蛍光スペクトルを示す図1から導き出すことができる。いずれのスペクトルもi−プロパノール中で同じ光学密度(10−3重量%)にて測定した(λ励起=274nm)。
【0128】
図1から、CePO:Tbコアーの蛍光強度がLaPOシェルで被覆されることによってかなり増加することが分かる。
【0129】
III. コアー/シェル粒子の利用
本発明のコアー/シェル粒子は、光ルミネッセンスが関与する各種工業装置および製品に利用することができる。
【0130】
このために、それらは液体または固体媒質中の分散体として一般に製造される。
【0131】
適した液体媒質は、例えば、有機または水性分散媒質、コーティング組成物、インクもしくは染料、ポリマー組成物、またはエーロゾルである。適した有機分散媒質は、限定されないが、トルエン、キシレン、CHClまたはCHClである。
【0132】
上記のようなN−またはP−含有媒質/錯生成剤での合成は、本発明によるコアー/シェル粒子を有機媒質中に確実に易分散性にする。
【0133】
水性分散液の製造では、任意に水混和性溶媒と組み合わせた、合成に用いられた有機物質の残留物を粒子表面に結合する1つの官能基および水中での必要な相溶性を確実にする1つの親水性分子部分を有する溶媒で置き換える後処理が必要であるかもしれない。
【0134】
固体分散体媒質は、コーティング、インクもしくは染料、ポリマー組成物、特にポリマーフィルムから選択しうる。
【0135】
ナノ粒子自体、またはそれらを含有する一般に液体もしくは固体媒質は、例えば、発光、印刷またはマーキング品および材料に利用される。
【0136】
そのような用途には、例えば、発光ダイオード、ディスプレー、光電子デバイス、例えば、nm寸法の増幅器および低限界レーザーの光源がある。それらはまた、文書もしくは紙幣のセキュリティーマーキングに大きく関与する印刷装置のインクとしても用いることができる。
【0137】
IV. 実施例
実施例1: LaPOシェルを有するCePO:Tbナノ粒子コアー
高性能還流冷却器、温度プローブおよび加熱マントルを備えた100ml丸底フラスコ中で、2.79g(7.5ミリモル)のCeCl・7HOおよび0.934g(2.5ミリモル)のTbCl・6HOを約10mlのメタノールに溶解し、次に、10.9ml(40ミリモル)のリン酸トリブチルを溶液に加える。次の工程として、メタノールを20〜30℃で真空除去する。次いで、30mlのジフェニルエーテルを加え、残りの揮発性成分、主に結晶水を80℃で真空留去する。
【0138】
第2のフラスコの中で、乾燥オルト−リン酸(20ml)を10mlのテトラエチレングリコールジメチルエーテルに溶解する。
【0139】
10.2ml(30ミリモル)のトリヘキシルアミンおよび7.0ml(14ミリモルのリン酸)のオルト−リン酸/テトラエチレングリコールジメチルエーテル溶液を、上記CeCl/TbCl溶液に加え、次に、還流下、24時間、200℃に加熱する。その後、CePO:Tbナノ粒子の透明分散液(「第1混合物」)が得られる。
【0140】
高性能還流冷却器、温度プローブおよび加熱マントルを備えた第2の100ml丸底フラスコ中で、3.71g(10ミリモル)のLaCl・7HOを約10mlのメタノールに溶解し、次に、10.9ml(40ミリモル)のリン酸トリブチルを溶液に加える。次の工程として、メタノールを室温で真空除去する。次いで、30mlのジフェニルエーテルを得られた溶液に加え、残りの揮発性成分、主に結晶水を80℃で真空下で除去して、いわゆる「第2混合物」を得る。
【0141】
13.1ml(30ミリモル)のトリヘキシルアミン、7ml(14ミリモルのリン酸)のオルト−リン酸/テトラエチレングリコールジメチルエーテル溶液および14.5mlのをCePO/Tb分散液(20〜30℃に冷却した)を上記LaCl溶液(「第2混合物」)に加え、次にこれを16時間以上200℃に加熱する。
【0142】
反応混合物の仕上げのために、まずジフェニルエーテルを80〜150℃で真空下、留去し、その後、ナノ粒子を析出させるために、約200mlのエタノールを残留物に加える。析出物を遠心分離(5500upm)し、メタノールで洗浄し、乾燥する。
【0143】
得られたコアー/シェル粒子の最長軸にそった平均直径は、TEM顕微鏡写真による測定で約7nmである。
【0144】
その光ルミネッセンススペクトルは図1に示す。粒子は非常に強い緑色のルミネッセンスを示す。スペクトルデータから、70%の量子収量が計算された。
【0145】
さらに、次の分光分析を得られたコアー/シェル粒子について行った。このために、粒子を、細孔を有する炭素フィルム上に置き、フィリップスCM300UT顕微鏡で調べた。
【0146】
a) EELS(電子エネルギーロス分光測光法)は、陽イオンの平均化学組成がCe/La=0.34±0.05、Tb/La=0.12±0.03であったことを示し、これはLa/Ce=3.0±0.4およびCe/Tb=2.8±0.8を意味し、後者の値は用いたモル比Ce/Tb(3.14/1)に相当する。
【0147】
b) HREM(高分解電子顕微鏡)から、得られたコアー/シェル粒子の結晶化度を確認した。
【0148】
c) さらに、より小さい粒子もカバーするために0.48nm/イメージポイントの走査速度にて少しのアンダーフォーカスでHellfeldイメージを得た。このイメージの分析から、体積に基づいて過半量の粒子の直径が5〜9nmであることが分かった。この粒子のうちの6個にEFTEM(エネルギーフィルタリング透過電子顕微鏡)、特にいわゆる「スペクトルイメージ法」を実施した。これは定量分析のためにドイツ、ボンにある「Landeszentrum fur Hochleistungsspektroskopie Institut fur Anorganische Chemie」が開発した方法である。このために、6個の結晶質粒子を非常に高い倍率でイメージングエネルギーフィルターの後ろにあるCCDカメラの中心にくるようにした。最小の目的スクリーン(4.6mrad)および最大の入り口スクリーン(3mm)を挿入し、エネルギーフィルターをその分光分析法において用いた。これによって入り口スクリーンを通過する完全な強度が検出器上にラインごとに描かれる。レンズの色彩収差により、この方法は高い鮮明さ(nm以下)で約±40evの区分のみをイメージするため、832、849、884および902evでLaM5.4およびCeM5.4エッジに焦点を合わせた。99Kの選択された初期の倍率で、入り口スクリーンの直径は常に11.2nmであった。
【0149】
図2は、(D)LaPOシェルで囲まれた1つのCePO:Tbナノ粒子(直径約7nm)のHellfeldイメージ(入り口スクリーンでの)、(E)860evエネルギーロスでのスペクトルイメージ並びに粒子表面(A、C)および中心(B)のプロフィールを示す。プロフィール(A、BおよびC)は、LaM5.4およびCeM5.4ピークを示し、これらの相対強度はだいたい局部組成に相当する。
【0150】
異なるプロフィールは、Ceに富むコアーおよびLaに富むシェルのコアー/シェル構造であることを裏づけている。6個の選択された粒子の平均直径は7.5±1.9nmであり、直径4.0±1.1nmのCeに富むコアーおよび厚さ1.9±0.7nmのLaに富むシェルからなっていた(Tbはこの分析で測定されなかった)。
【0151】
実施例2: BaSOシェルを有するBaSO:Eu(II)ナノ粒子コアー
高性能還流冷却器、温度プローブおよび加熱マントルを備えた50ml丸底フラスコ中で、540mg(2.2ミリモル)のBaCl・2HOをメタノール/水混合物(5ml、50/50 v/v)に溶解する。次に、10mlのDMSOおよび545mg(8ミリモル)のイミダゾールを加える。この丸底フラスコを真空にした後、メタノールおよび水をまず室温(1〜2時間)、次いで35℃(2時間)で除去する。
【0152】
別のフラスコの中で、1.32g(3.9ミリモル)の硫酸水素テトラブチルアンモニウムを10mlのDMSOに溶解する。
【0153】
0.401g(1.8ミリモル)のEuClを上記BaCl溶液に加え、次に、上記のDMSO中の硫酸水素テトラブチルアンモニウム溶液を加える。反応混合物を170℃に30分以上加熱したところ、BaSO:Eu(II)ナノ粒子コアーの透明な分散液(「第1混合物」)となる。
【0154】
高性能還流冷却器、温度プローブおよび加熱マントルを備えた第2の100ml丸底フラスコの中で、977mg(4ミリモル)のBaCl・2HOをメタノール/水混合物(8ml、50/50 v/v)に溶解し、次に、10mlのジメチルスルホキシド(DMSO)および545ml(8ミリモル)のイミダゾールを加える。この丸底フラスコを真空にした後、メタノールおよび水をまず室温(1〜2時間)、次いで35℃(2時間)で除去する。窒素雰囲気下で攪拌しながら、冷却したBaSO:Eu分散液、およびDMSO10ml中の硫酸水素テトラブチルアンモニウムの溶液を、得られたBaCl溶液(「第2混合物」)に加え、次に、反応混合物を170℃以上で1時間加熱する。室温に冷却した後、反応混合物をメタノールに注ぐ。得られた析出物を遠心分離し(5500upmで)、メタノールで洗浄し、そして乾燥する。
【0155】
実施例3: GdPOシェルを有するNdPOナノ粒子コアー
高性能還流冷却器、温度プローブおよび加熱マントルを備えた100ml丸底フラスコ中で、3.0g(8.4ミリモル)のNdCl・7HOを約6mlのメタノールに溶解し、その後、37mlのリン酸トリス−2−エチルヘキシル(TEHP)を得られた溶液に加える。メタノールおよび結晶水を除去するために、まず室温(1〜2時間)、次いで50℃(数時間)丸底フラスコを真空にする。
【0156】
第2のフラスコの中で、乾燥オルト−リン酸(20ml)を5mlのテトラエチレングリコールジメチルエーテルに溶解する。
【0157】
窒素雰囲気下、50℃で、12.0ml(27.4ミリモル)のトリオクチルアミンおよび2.1mlのオルト−リン酸/テトラエチレングリコールジメチルエーテル混合物をTEHP中のNdCl溶液に加える。その後、混合物を16時間、200℃に加熱する。その後、NdPO粒子の透明な分散液(「第1混合物」)が得られる。
【0158】
高性能還流冷却器、温度プローブおよび加熱マントルを備えた第2の100ml丸底フラスコの中で、1.45g(6.6ミリモル)のGdCl・6HOを約10mlのメタノールに溶解し、次に、リン酸トリス−2−エチルヘキシル(TEHP)を溶液に加える。この丸底フラスコを真空にした後、メタノールおよび結晶水をまず室温(1〜2時間)、次いで50℃(数時間)で除去する。窒素雰囲気下、50℃で、5.3ml(12.1ミリモル)のトリオクチルアミンおよび0.99ml(3.96ミリモルのリン酸)オルト−リン酸/テトラエチレングリコールジメチルエーテル溶液並びにNdPO分散液の全量(約20〜30℃2冷却した)を、GdCl溶液(「第2混合物」)に加え、その後、200℃に16時間以上加熱する。室温に冷却した後、コアー/シェルナノ粒子を析出させるために、反応混合物をメタノール(300ml)に注ぐ。析出物を遠心分離し(5500upmで)、得られた粒子をメタノールで2回洗浄し、そして乾燥する。
【0159】
実施例4: LaPOシェルを有するNdナノ粒子コアー
まず、ジヘキシルエーテル中のリン酸の約2M溶液を、100ml丸底フラスコ中で、約9.80g乾燥リン酸および40mlジヘキシルエーテルから製造し、次に、メスフラスコに50mlまで満たす。水分含有HPO(約10〜11g)を用いるならば、水分は回転蒸発器で除去しなければならない
コアー用の母液:
3.61gのCeCl・7HO(9.7ミリモル)および0.108gのNdCl・6HO(0.3ミリモル)を、100ml三つ口フラスコ中の約10mlのメタノールp.a.に溶解し、これに10.98ml(40ミリモル)のリン酸トリブチルを加え、そしてメタノールを回転蒸発器(約40℃および50バール(5,000kPa)にて)で留去する。オイルポンプで結晶水を50℃で留去し、温度を最終的には80℃に上げる。混合物を50℃に冷却した後、30mlのジフェニルエーテルを加え、水を再びオイルポンプで留去する(泡がもはや形成されなくなるまで)。
【0160】
10.87mlのこの溶液(2.5ミリモルの金属原子に相当する)を250ml四つ口フラスコ(冷却器および滴下漏斗を有する)に移す。
シェル用の母液:
5.57gのLaCl・7HO(15ミリモル)を100ml三つ口フラスコ中の約15mlのメタノールp.a.に溶解し、これに16.36ml(60ミリモル)のリン酸トリブチルを加え、そしてメタノールを回転蒸発器(約40℃および50バール(5,000kPa)にて)で留去する。オイルポンプで結晶水を50℃で留去し、温度を最終的には80℃に上げる。50℃に冷却した後、45mlのジフェニルエーテルをこれに加え、水を再びオイルポンプで、泡がもはや形成されなくなるまで留去する。
【0161】
四つ口フラスコにつないだ滴下漏斗に35.52mlのこの母液を入れる。
コアー粒子の合成:
50℃で、2.54ml(7.5ミリモル)のトリヘキシルアミン、および3.5ミリモルリン酸に相当する量の上で製造したリン酸溶液を、四つ口フラスコ中の溶液に加え、この溶液を新たに排気し、窒素を満たし、そして200℃に少なくとも1時間(16時間以下)加熱する。
シェルの合成:
9.5ミリモルリン酸に相当する量のリン酸溶液を、四つ口フラスコ中の溶液に加える。滴下漏斗中のLaCl含有溶液を1.5〜2時間かけて、200℃の溶液に滴加し、その後、混合物を200℃で16時間攪拌する。
仕上げ:
反応混合物を50℃以下に冷却した後、得られた溶液をメタノールで希釈して合成されたコアー/シェル粒子を析出させる。これはその後、メタノールを用いる攪拌セル(5000D膜)中での多段限外濾過によってさらに精製してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0162】
【図1】均質CePO:Tbナノ粒子(実線)、およびLaPOシェルがCePO:Tbコアーのまわりに成長した、本発明によるコアー/シェル粒子(点線)の蛍光スペクトルである。
【図2】本発明による1つのコアー/シェル粒子のTEM(透過電子顕微鏡)分析結果を示す。具体的には、(D)LaPOシェルで囲まれた1つのCePO:Tbナノ粒子(直径約7nm)のヘルフェルド(Hellfeld)イメージ、(E)860eVエネルギーロスでのスペクトルイメージ並びに粒子表面(A、C)および中心(B)のプロフィールを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光ナノ粒子であって、
(a)リン酸塩、硫酸塩またはフッ化物から選択される発光金属塩でできているコアーが、
(b)電子励起後の当該コアーから当該ナノ粒子の表面へのエネルギー伝達を妨げるまたは減じることができる金属塩または酸化物でできているシェル
で囲まれているものを含む発光ナノ粒子。
【請求項2】
コアーおよびシェルの塩が同じ陰イオンを含み、該陰イオンがホスフェート、スルフェートまたはフッ化物から選択される、請求項1に記載の発光ナノ粒子。
【請求項3】
その最長軸に基づく平均直径が30nm未満である、請求項1または2に記載の発光ナノ粒子。
【請求項4】
シェルの平均の厚さがコアーの平均直径を超えない、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発光ナノ粒子。
【請求項5】
コアーが好ましくはドープされた発光金属硫酸塩、リン酸塩またはフッ化物でできており、そしてシェルが非発光物質からなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の発光ナノ粒子。
【請求項6】
コアーが、ドープされたホスト金属硫酸塩、リン酸塩またはフッ化物でできており、ここで、当該ホスト金属は2族(アルカリ土類金属)、3族(Sc、YもしくはLa)、13族(例えば、Al、Ga、InもしくはTl)またはZnから選択され、そして当該ドーパントは、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmもしくはYbから選択される少なくとも1種のランタニド金属であるか、またはCrおよびMnから選択される遷移金属である、請求項5に記載の発光ナノ粒子。
【請求項7】
コアーが、ドープされたホスト金属硫酸塩、リン酸塩またはフッ化物でできており、当該ホスト金属および当該ドーパントが、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmもしくはYbから選択される、請求項5に記載の発光ナノ粒子。
【請求項8】
コアーがCePO:TbまたはCePO:Ndからなり、シェルがLaPOからなる、請求項7に記載の発光ナノ粒子。
【請求項9】
コアーが発光ランタニド硫酸塩、リン酸塩またはフッ化物からなり、シェルが、コアー物質とは異なりかつ電子励起後のコアーからナノ粒子表面へのエネルギー伝達を妨げるまたは減じるランタニド塩または酸化物からなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の発光ナノ粒子。
【請求項10】
コアーが好ましくはNd硫酸塩、リン酸塩またはフッ化物からなり、シェルがGd塩または酸化物からなる、請求項9に記載の発光ナノ粒子。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のナノ粒子の製造方法であって、
有機媒質中のドープされていてもよい発光金属硫酸塩、リン酸塩またはフッ化物ナノ粒子を含む第1混合物を製造する工程、
該第1混合物と、形成されるシェルのための陰イオン源と、シェル形成金属イオンおよび該金属イオンのための有機錯生成剤を含む第2混合物とを、50〜350℃で、シェルが該発光ナノ粒子のまわりに形成されるまで反応させる工程
を含む方法。
【請求項12】
有機媒質中のドープされていてもよい発光金属硫酸塩、リン酸塩またはフッ化物ナノ粒子を含む第1混合物を製造する工程、
該第1混合物を50〜350℃に加熱する工程、
この第1混合物に、この温度で、形成されるシェルのための陰イオン源と、シェル形成金属イオンおよび該金属イオンのための有機錯生成剤を含む第2混合物とを、別々に滴加する工程、そして
得られた混合物を、この温度で、シェルが該発光ナノ粒子のまわりに形成されるまで反応させる工程
を含む、請求項11に記載の方法(A)。
【請求項13】
有機媒質中のドープされていてもよい発光金属硫酸塩、リン酸塩またはフッ化物ナノ粒子を含む第1混合物を製造する工程、
陰イオン源を該第1混合物に加える工程、
得られた混合物を50〜350℃に加熱する工程、
これに、シェル形成金属イオンと該金属イオンのための有機錯生成剤とを含む第2混合物を加える工程、そして
得られた混合物を、この温度で、シェルが該発光ナノ粒子のまわりに形成されるまで反応させる工程
を含む、請求項11に記載の方法(B)。
【請求項14】
有機媒質中のドープされていてもよい発光金属硫酸塩、リン酸塩またはフッ化物ナノ粒子を含む第1混合物を製造する工程、
該第1混合物と、形成されるシェルのための陰イオン源と、シェル形成金属イオンおよび該金属イオンのための有機錯生成剤を含む第2混合物とを混ぜる工程、そして
得られた混合物を、シェルが該発光ナノ粒子のまわりに形成されるまで、50〜350℃に加熱する工程
を含む、請求項11に記載の方法(C)。
【請求項15】
第1混合物中に存在する有機媒質および第2混合物中に存在する有機錯生成剤が同一である、請求項11〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
有機媒質および錯生成剤が、モノ−またはジアルキルアミン(そのアルキル残基は4〜20個の炭素原子を有する)、ホスホ有機化合物、ポリオールおよびスルホキシドから選択される、請求項11〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
ナノ粒子コアーを前記有機媒質中で合成し、続いてこれらのコアーを前もって単離することなく反応させる工程を含む、請求項11〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
陰イオン源、特にホスフェート、スルフェートまたはフッ化物源が、利用できるシェル形成金属原子と反応するために必要な化学量論量に基づいて過剰モル量で用いられる、請求項11〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のナノ粒子を含有する液体または固体媒質。
【請求項20】
有機もしくは水性分散媒質、コーティング組成物、インクもしくは染料、ポリマー組成物、またはエーロゾルから選択される、請求項19に記載の液体媒質。
【請求項21】
コーティング、インクもしくは染料、ポリマー組成物、特にポリマーフィルムから選択される、請求項19に記載の固体媒質。
【請求項22】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のナノ粒子または請求項19〜21のいずれか一項に記載の媒質の、発光、印刷またはマーキング品および材料のための使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−524727(P2006−524727A)
【公表日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505330(P2006−505330)
【出願日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【国際出願番号】PCT/EP2004/004573
【国際公開番号】WO2004/096943
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(504103548)ナノソリューションズ・ゲーエムベーハー (3)
【Fターム(参考)】