説明

発光タンパク質およびカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質並びにこれらを用いた研究方法

【課題】 本発明の目的は、新規の有用なタンパク質およびそれを利用した有用な研究手法を提供することにある。
【解決手段】 刺胞動物門ウミエラ目ウミサボテン科カベルヌラリア属に属する生物に由来する発光タンパク質、および刺胞動物門ウミエラ目ウミサボテン科カベルヌラリア属に属する生物に由来するカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光タンパク質およびカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質並びにこれらを用いた研究方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物発光を用いた細胞内カルシウムイオン濃度の測定およびイメージング観察のために、エクオリンおよびオベリン等の発光タンパク質が用いられている。エクオリンは、アポエクオリンというカルシウム結合タンパク質とセレンテラジンという発光基質とから構成されている。これにカルシウムが結合すると発光反応を生じて、極大波長460nmの光を発する。発光タンパク質のこのような性質を利用して、カルシウム測定およびイメージングが行われている。
【0003】
特許文献1には、発光タンパク質を用いてカルシウム濃度を測定する方法が記載されている。この方法では、カルシウムイオン濃度に依存して発光するよう発光標識された細胞を作製し、当該細胞に細胞外から所定の刺激を所定のタイミングで与えながらその細胞の発光画像を繰り返し撮像する。撮像した複数の発光画像に基づいて、細胞から発せられる発光の強度を経時的に測定する。
【0004】
特許文献2には、候補化合物がタンパク質の作動薬または阻害剤であることを、カルシウム感受性リポーターを含む細胞を用いて決定する方法が記載される。この方法では、エクオリン等のカルシウム感受性リポーターを含む細胞を作製し、細胞内への2価陽イオン(特に、カルシウム)の流入を定量化する。
【0005】
しかしながら、従来の技術では、刺激に応じたカルシウム変動の測定のための発光観察と、刺激後の伝達経路の解析のための蛍光観察とを同時に実施したい場合であっても、発光観察に用いる発光基質に起因した蛍光が、蛍光観察の際のバックグラウンドとして検出され、これらの観察を同時または連続的に行うことができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−139336号公報
【特許文献2】特表2003−527113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、新規の有用なタンパク質およびそれを利用した優れた研究手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施態様によれば、刺胞動物門ウミエラ目ウミサボテン科カベルヌラリア属に属する生物に由来する発光タンパク質が提供される。
本発明の別の実施態様によれば、刺胞動物門ウミエラ目ウミサボテン科カベルヌラリア属に属する生物に由来するカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、新規の有用なタンパク質を利用して、優れた研究手法を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ウミサボテン由来の発光タンパク質の発光スペクトルを示す図。
【図2】ウミサボテン由来の発光タンパク質の金属イオン感受性を示す図。
【図3】ウミサボテン由来の野生型発光タンパク質と変異型発光タンパク質とのアミノ酸配列の比較を示す図。
【図4】ウミサボテン由来の野生型発光タンパク質と変異型発光タンパク質との発光量の比較を示す図。
【図5】ウミサボテン由来のカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質のカルシウム応答性を示す図。
【図6】ウミサボテン由来の発光タンパク質およびカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質による反応の一例を示す図。
【図7】ウミサボテン由来の発光タンパク質およびカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質を用いた、カルシウム測定と蛍光測定とを連続的に行う方法の一例を示す図。
【図8】ウミサボテン由来の発光タンパク質のpH感受性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[発光タンパク質]
本発明の一態様は、刺胞動物門ウミエラ目ウミサボテン科カベルヌラリア属に属する生物に由来する発光タンパク質である。
【0012】
特に、当該発光タンパク質は、カベルヌラリア・オベサ(Cavernularia obesa)(和名:ウミサボテン)に由来する発光タンパク質であってよい。また、未だ分類されていない生物または未発見の生物であっても、それが後に刺胞動物門花虫綱ウミエラ目ウミサボテン科に属すとされ、且つ、それから得られる発光タンパク質が本願にて説明する性質を持てば、本発明に含まれる。本願において「由来する」という表現は、その生物から取得された野生型のタンパク質だけでなく、当該野生型タンパク質を改変して得られたものも含むことを意味する。
【0013】
発光タンパク質とは、化学発光を生じるタンパク質を意味する。特に、化学発光は、他の化合物との反応に起因して生じる。ここにいう他の化合物とは、特に発光基質を意味し、具体的にはルシフェリンであり、さらに具体的にはセレンテラジンおよびその誘導体である。なお、本願において「セレンテラジン」という語句を使用する場合、特別に説明しない限り、当該語句にはセレンテラジンの誘導体を含むものとする。
【0014】
本発明に係る発光タンパク質は、発光スペクトルを測定した場合、可視域に最大発光波長を有する。図1には、本発明に係る発光タンパク質の1つについての発光スペクトルが示される。図1から、この発光タンパク質が、450nmから550nmの範囲内に最大発光波長を有することがわかる。特に、この発光タンパク質は、488nm付近に最大発光波長を有する。
【0015】
本発明に係る発光タンパク質は、SDS−PAGE法による分子量を測定した場合、25kDaから35kDaの範囲内の分子量を有する。後述する配列番号1または3にアミノ酸配列が示される発光タンパク質は、約28kDaの分子量を有する。なお、ここにいう分子量とは、SDS−PAGE法を実際に行って測定した実測値のみならず、アミノ酸配列から予測される予測値を含む。
【0016】
本発明に係る発光タンパク質の具体的な例は、配列番号1または3に示されたアミノ酸配列を含む発光タンパク質である。
【0017】
配列番号1にアミノ酸配列が示される発光タンパク質は、ウミサボテンから取得された野生型発光タンパク質である。このタンパク質は298個のアミノ酸から成る。また、セレンテラジンを発光基質として発光反応を行うことができ、その結果、図1に示されるような発光スペクトルを示す。図1によれば、この発光タンパク質は、488nm付近に最大発光波長を有する。さらに、発光反応と各金属イオンの濃度との関係について、図3に示されるような傾向を示す。既知のタンパク質データベース検索によれば、配列番号1に係る発光タンパク質と80%以上の相同性を示すタンパク質は登録されていない。
【0018】
配列番号3にアミノ酸配列が示される発光タンパク質は、配列番号1による発光タンパク質に対して複数のアミノ酸の置換を行うことで得られる、ウミサボテン由来の変異型発光タンパク質である。具体的には、図3に示されるように、野生型タンパク質における47番目のセリンをスレオニンに、218番目のリジンをアスパラギンに、244番目のメチオニンをロイシンに、259番目のアスパラギン酸をグルタミン酸におよび298番目のリジンをグルタミン酸に置換することで得られる。この変異型発光タンパク質は、配列番号1による野生型発光タンパク質よりも高い発光強度を示す。図4には、配列番号1による野生型発光タンパク質(右)と配列番号3による変異型発光タンパク質(左)とを、同一の条件にて発光させたときの発光量の比較が示される。この図から、変異型発光タンパク質は、野生型発光タンパク質と比較して格段に高い強度で発光することがわかる。具体的には、約38倍高い強度で発光する。
【0019】
本発明に係る発光タンパク質は、配列番号3に係る発光タンパク質のように、生物から直接取得さられた野生型タンパク質を適宜改変させたものであってよい。ここにおいて、変異型タンパク質とは、野生型タンパク質のアミノ酸配列に変異(例えば、アミノ酸の置換、欠失および/または付加等)が生じたタンパク質を指す。この変異とは、野生型タンパク質のアミノ酸配列の1以上のアミノ酸の変異であり、好ましくは、野生型タンパク質のアミノ酸配列の1から20のアミノ酸の変異、1から15のアミノ酸の変異、1から10のアミノ酸の変異または1から5のアミノ酸の変異である。好ましくは、当該変異型タンパク質のアミノ酸配列は、野生型タンパク質のアミノ酸配列との間で75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上の相同性を有する。
【0020】
また、本発明の蛍光タンパク質は、発光反応により発光を生じるという特徴以外について変化させた変異型タンパク質を含む。特に、そのような変異は、発光タンパク質としての操作性を向上させる変異であることが好ましい。例えば、配列番号3による変異型タンパク質のように、野生型よりも強度の高い発光を発することができる変異型タンパク質が好ましい。この変異体は、感度の低い測定システムを使用する場合や、タンパク質の発現が弱い細胞にて測定する場合においても、十分な発光強度を提供することができる。このような変異体は、当該分野の従来の方法を使用して取得することができ、例えば、野生型発光タンパク質をコードする核酸にランダムに変異を導入した後、それを大腸菌等に発現させ、励起光を照射し、野生型発光タンパク質を発現する株よりも強い発光を発する株を選択することで取得できる。
【0021】
本発明に係る発光タンパク質は、発光反応のために機能する要素だけでなく、その他の機能ための要素を含んでよい。ここにいう「要素を含む」とは、アミノ酸配列が付加または挿入された場合だけでなく、化学基によって修飾される場合、担体に固定される場合等を含む。また「その他の機能」とは、本発明に係る発光タンパク質の精製を容易にする機能、本発明に係る発光タンパク質の細胞内における輸送を調節する機能等を含む。具体的な「その他の機能のための要素」とは、精製のためのペプチド配列、および細胞外分泌もしくは細胞内器官への移行のためのシグナルペプチド配列である。そのような要素は、発光タンパク質中に複数含まれていてもよい。
【0022】
本発明は、本発明に係る発光タンパク質をコードする塩基配列を含む核酸に関する。このような塩基配列は、刺胞動物門花虫綱ウミエラ目ウミサボテン科に属す生物に由来する塩基配列であってよい。ここにおける「由来する」とは、刺胞動物門花虫綱ウミエラ目ウミサボテン科に属す生物が本来有する野生型の塩基配列に変異が生じた塩基配列を含むことを意味する。また、ここにおける変異とは、塩基配列中の特定の塩基の置換、欠失および/または付加等を指す。塩基配列の変異には、コードされるアミノ酸配列に変化を生じさせない変異をも含む。また、核酸とは、特に、DNAまたはRNAを指す。
【0023】
特に、本発明に係る核酸は、(a)配列番号2または4に示された塩基配列、(b)前記(a)に示された塩基配列を含む核酸に対して緊縮的な条件下でハイブリダイズする核酸が有する塩基配列であって、発光タンパク質をコードする塩基配列、および(c)前記(a)または(b)に示された塩基配列に相補的な塩基配列から成る群から選択される塩基配列を含んでよい。配列番号2に示される塩基配列は、配列番号1に係る発光タンパク質をコードする塩基配列である。また、配列番号4に示される塩基配列は、配列番号3に係る発光タンパク質をコードする塩基配列である。
【0024】
「緊縮的な条件」としては、核酸を扱う研究分野にて一般的な条件を使用することができる。一般的に、緊縮条件は、定義されたイオン強度及びpHで、特定の配列のための熱溶融点(Tm)よりも約5℃低くなるよう選択される。Tmは、標的配列の50%が好ましく適合されたプローブにハイブリダイズする温度(定義されたイオン強度及びpH下で)である。
【0025】
1対の核酸分子、例えばDNA−DNA、RNA−RNA及びDNA−RNAは、ヌクレオチド配列がいくらかの程度の相補性を有する場合、ハイブリダイズすることができる。ハイブリッド二重ヘリックスにおけるミスマッチ塩基対を許容できるが、しかしハイブリッドの安定性はミスマッチの程度により影響される。ミスマッチハイブリッドのTmは、1〜1.5%の塩基対ミスマッチごとに1℃低下する。ハイブリダイゼーション条件の緊縮性の変更は、ハイブリッドに存在するであろうミスマッチの程度に対する制御を可能にする。緊縮性の程度は、ハイブリダイゼーション温度が上昇し、そしてハイブリダイゼーション緩衝液のイオン強度が低下するにつれて、上昇する。
【0026】
特定のポリヌクレオチドハイブリッドとの使用のためのそれらの条件を適合することは、当業者の能力内である。特定標的配列のためのTmは、標的配列の50%が完全に適合されたプローブ配列にハイブリダイズするであろう温度(定義された条件下で)である。Tmに影響を及ぼすそれらの条件は、ポリヌクレオチドプローブのサイズ及び塩基対含有率、ハイブリダイゼーション溶液のイオン強度、及びハイブリダイゼーション溶液における不安定化剤の存在を包含する。
【0027】
Tmを計算するための多くの等式は、当業界において知られており、そしてDNA、RNA及びDNA−RNAハイブリッド、及び種々の長さのポリヌクレオチドプローブに対して特異的である(例えば、Sambrookなど., Molecular Cloing: A Lavoratory Manual, Second Edition (Cold Spring Harbor Press 1989); Ausubel など., (eds.), Current Protocols in Molecular Biology (John Wiley and Sons, Inc. 1987); Berger and Kimmel (eds.), Guide to Molecular Cloning Techniques, (Academic Press, Inc. 1987); 及びWetmur, Crit. Rev. Biochem. Mol. Biol. 26: 227 (1990) を参照のこと)。
【0028】
また、本発明に係る核酸において、「緊縮的な条件」にてハイブリダイズする核酸の塩基配列同士は、少なくとも60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上または90%以上の相同性を有してよい。
【0029】
[カルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質]
本発明の別の態様は、刺胞動物門ウミエラ目ウミサボテン科カベルヌラリア属に属する生物に由来するカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質である。
【0030】
特に、カベルヌラリア・オベサ(Cavernularia obesa)(和名:ウミサボテン)に由来する発光タンパク質であってよい。また、未だ分類されていない生物または未発見の生物であっても、それが後に刺胞動物門花虫綱ウミエラ目ウミサボテン科に属すとされ、且つ、それから得られるカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質が本願にて説明する性質を持てば、本発明に含まれる。本願において「由来する」という表現は、その生物から取得された野生型のタンパク質だけでなく、当該野生型タンパク質を改変して得られたものも含むことを意味する。
【0031】
本発明においてカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質とは、カルシウムの存在および非存在に応じてセレンテラジンまたはその誘導体との結合が制御されるタンパク質のことを意味する。なお、本願では、カルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質(Ca2+−triggered coelenterazine− binding protein)を「CBP」という略称を用いて表現する場合がある。
【0032】
カルシウムに応じたセレンテラジンとの結合の制御とは、例えば、カルシウムが存在しないときにセレンテラジンと結合し、カルシウムが存在するときにセレンテラジンと結合という性質である。
【0033】
本発明に係るカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質は、SDS−PAGE法による分子量を測定した場合、25kDaから35kDaの範囲内の分子量を有する。後述する配列番号5、7、9または11にアミノ酸配列が示されるカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質は、約20kDaの分子量を有する。なお、ここにいう分子量とは、SDS−PAGE法を実際に行って測定した実測値のみならず、アミノ酸配列から予測される予測値をも含む。
【0034】
本発明に係るカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質の具体的な例は、配列番号5、7、9または11に示されたアミノ酸配列を含むタンパク質である。
【0035】
配列番号5にアミノ酸配列が示されるタンパク質は、ウミサボテンから取得された野生型カルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質であり、カルシウムが存在しないときにセレンテラジンと結合し、カルシウムが存在するときにセレンテラジンと結合しないという性質を有する。このタンパク質は186個のアミノ酸から成る。既知のタンパク質データベース検索によれば、配列番号5に係るタンパク質と83%以上の相同性を示すタンパク質は登録されていない。なお、配列番号5に係るタンパク質を「CBP1_1」と称する。
【0036】
配列番号7または9にアミノ酸配列が示されるタンパク質は、CBP1_1(配列番号5)と同様に、ウミサボテンから取得された野生型カルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質であり、カルシウムが存在しないときにセレンテラジンと結合し、カルシウムが存在するときにセレンテラジンと結合しないという性質を有する。なお、配列番号7に係るタンパク質を「CBP1_2」と称し、配列番号9に係るタンパク質を「CBP1_3」と称する。CBP1_1、CBP1_2およびCBP1_3は、互いに相同体ということができる。すなわち、これらのタンパク質同士では、わずかにアミノ酸置換が生じている。具体的には、CBP1_1のアミノ酸配列とCBP1_2のアミノ酸配列との間では7残基のアミノ酸の違いがあり、CBP1_1のアミノ酸配列とCBP1_3のアミノ酸配列との間では4残基のアミノ酸の違いがあり、CBP1_2のアミノ酸配列とCBP1_3のアミノ酸配列との間では3残基のアミノ酸の違いがある。
【0037】
配列番号11にアミノ酸配列が示されるタンパク質は、CBP1_1からCBP1_3と同様に、ウミサボテンから取得された野生型カルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質であり、カルシウムが存在しないときにセレンテラジンと結合し、カルシウムが存在するときにセレンテラジンと結合しないという性質を有する。なお、配列番号11にアミノ酸配列が示されるタンパク質を「CBP2」と称する。CBP2は、アミノ酸配列がCBP1_2と同一である。但し、後述するように、それらをコードする塩基配列は互いに異なる。
【0038】
本発明に係るカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質は、生物から直接取得された野生型タンパク質を適宜改変させたものであってよい。ここにおいて、変異型タンパク質とは、野生型タンパク質のアミノ酸配列に変異(例えば、アミノ酸の置換、欠失および/または付加等)が生じたタンパク質を指す。この変異とは、野生型タンパク質のアミノ酸配列の1以上のアミノ酸の変異であり、好ましくは、野生型タンパク質のアミノ酸配列の1から20のアミノ酸の変異、1から15のアミノ酸の変異、1から10のアミノ酸の変異または1から5のアミノ酸の変異である。好ましくは、当該変異型タンパク質のアミノ酸配列は、野生型タンパク質のアミノ酸配列との間で75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上の相同性を有する。
【0039】
また、本発明のカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質は、カルシウムに応じてセレンテラジンとの結合が制御されるという特徴以外について変化させた変異型タンパク質を含む。特に、そのような変異は、カルシウム感受性に関する感度を向上させる変異であることが好ましい。この変異型タンパク質は、カルシウムの放出が少ない細胞を対象として測定する場合に、十分なカルシウム感受性を提供することができるため有用である。
【0040】
本発明に係るカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質は、セレンテラジンとの結合のために機能する要素だけでなく、その他の機能ための要素を含んでよい。ここにいう「要素を含む」とは、アミノ酸配列が付加または挿入された場合だけでなく、化学基によって修飾される場合、担体に固定される場合等を含む。また「その他の機能」とは、本発明に係るカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質の精製を容易にする機能、本発明に係るカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質の細胞内における輸送を調節する機能等を含む。具体的な「その他の機能のための要素」とは、精製のためのペプチド配列、および細胞外分泌もしくは細胞内器官への移行のためのシグナルペプチド配列である。そのような要素は、本発明に係るカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質に複数含まれていてもよい。
【0041】
本発明は、本発明に係るカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質をコードする塩基配列を含む核酸に関する。このような塩基配列は、刺胞動物門花虫綱ウミエラ目ウミサボテン科に属す生物に由来する塩基配列であってよい。ここにおける「由来する」とは、刺胞動物門花虫綱ウミエラ目ウミサボテン科に属す生物が本来有する野生型の塩基配列に変異が生じた塩基配列を含むことを意味する。また、ここにおける変異とは、塩基配列中の特定の塩基の置換、欠失および/または付加等を指す。塩基配列の変異には、コードされるアミノ酸配列に変化を生じさせない変異をも含む。また、核酸とは、特に、DNAまたはRNAを指す。
【0042】
特に、本発明に係る核酸は、(1)配列番号6、8、10または12に示された塩基配列、(2)前記(1)に示された塩基配列を含む核酸に対して緊縮的な条件下でハイブリダイズする核酸が有する塩基配列であって、カルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質をコードする塩基配列、および(3)前記(1)または(2)に示された塩基配列に相補的な塩基配列から成る群から選択される塩基配列を含んでよい。配列番号6、8、10および12に示される塩基配列は、それぞれ配列番号5、7、9および11に係るタンパク質をコードする塩基配列である。すなわち、配列番号6、8、10および12に示される塩基配列は、それぞれCBP1_1、CBP1_2、CBP1_3およびCBP2をコードする塩基配列である。なお、配列番号6に係る塩基配列および配列番号12に係る塩基配列は、塩基配列としては異なるものの、何れも同一のアミノ酸配列を有するタンパク質(すなわち、CBP1_2およびCBP2)コードする。ここで、「緊縮的な条件」としては、発光タンパク質に係る核酸について記載したのと同様に、核酸を扱う研究分野にて一般的な条件を使用することができる。また、「緊縮的な条件」にてハイブリダイズする核酸の塩基配列同士は、少なくとも60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上または90%以上の相同性を有してよい。
【0043】
[タンパク質の特性]
本発明に係る発光タンパク質およびカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質の特性について以下に説明する。
【0044】
本発明に係る発光タンパク質は、発光基質と相互作用することで発光する。特に、セレンテラジンと結合することで発光する。一方、本発明に係るカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質は、カルシウムイオンが無い環境でセレンテラジンと結合し、カルシウムイオンが存在する環境では、カルシウムイオン3分子と結合し、代わりにセレンテラジンとの結合を解き、セレンテラジンを放出する。
【0045】
このような性質を有する2つのタンパク質を組み合わせることで、図6に示すような反応を生じさせることができる。図6には、細胞100において、カルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質1、発光タンパク質2、セレンテラジン3およびカルシウムイオン4によって行われる反応の一例が示される。
【0046】
図6(a)に示されるように、まず遊離したセレンテラジン3はカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質1に結合する。次に、図6(b)に示されるように、細胞を刺激することで、または細胞若しくは培地にカルシウムイオンを直接添加することで、細胞内のカルシウム濃度を上昇させると、3分子のカルシウムイオン4がカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質1に結合する。これにより、図6(c)に示されるように、カルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質1はセレンテラジン3を放出し、さらに放出されたセレンテラジン3は発光タンパク質2に結合する。その結果、発光タンパク質2が発光する。このような反応は、細胞内に限らず、溶液といった細胞外の環境でも生じさせることができる。
【0047】
[発現ベクターおよび宿主細胞]
本発明は、本発明に係る核酸を含むベクターに関する。特に、本発明は、本発明に係る核酸とこの核酸に作動的に連結されたプロモーターとを含む発現ベクターに関する。「作動的に連結」とは、本発明に係るタンパク質の発現をプロモーターによって制御できるように、プロモーターと核酸とが連結していることを意味する。発現ベクターには、発光タンパク質およびカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質の何れか一方が含まれてよく、またはそれら両方が含まれてよい。発現ベクターには、プロモーターの他の要素を含んでよく、例えばマーカー遺伝子の配列、発現ベクターの複製を制御するための配列等を含んでよい。
【0048】
本発明は、本発明に係る発現ベクターで形質転換された宿主細胞に関する。このような宿主細胞は、発現ベクターが導入された後、本発明に係る核酸を、染色体に組み込む形で維持し、またはプラスミド等の染色体外の核酸として維持する。このような宿主細胞は、本発明に係るタンパク質を発現することが可能となる。宿主細胞は、細胞生物学、分子生物学および生化学等の分野において一般的に使用される細胞であってよい。例えば、宿主細胞は、動物培養細胞または微生物細胞であってよい。動物培養細胞は、ヒト、サル、マウス、ラット等に由来する細胞であってよく、微生物細胞は、酵母菌、カビ、細菌等に由来する細胞であってよい。
【0049】
[製造方法]
本発明は、本発明に係るタンパク質を製造する方法に関する。そのような方法は、例えば、本発明に係る宿主細胞にて発現する、本発明に係るタンパク質を単離することを含む。これは生化学の分野で一般的に用いられる手法によって行うことができる。すなわち、上述した発現ベクターを細胞に導入し、当該細胞を発現に適した条件下で培養してタンパク質を発現させた後、細胞抽出液を作製して、その中から本発明に係るタンパク質をその他の物質(夾雑物)から分離することで単離することができる。夾雑物からの本発明に係るタンパク質の分離は、例えば、本発明に係るタンパク質に予め精製用のタグを付与しておき、当該タグに選択的に結合する物質を固定した担体等を用いて行うことができる。例えば、生物学的親和性の高い2つのタンパク質の一方をタグとして用い、その他方を担体に固定する物質として用いることができる。そのような典型的な例は、GSTタグとグルタチオンである。
【0050】
本発明は、本発明に係るタンパク質を発現する動物を製造する方法に関する。この方法は、本発明に係るタンパク質の遺伝子を動物に導入することを含む。例えば、動物(ドナー)から採取した受精卵前核に対してマイクロインジェクション法を用いて本発明に係る核酸を注入した後、その受精卵を動物(レシピエント)の卵管内に移植し、自然分娩させて、本発明に係るタンパク質を発現する動物を得ることができる。ここで、動物とは、このような研究手法にて一般的に使用される実験動物であってよく、例えばマウス、ラット、線虫、ショウジョウバエまたはゼブラフィッシュである。
【0051】
[研究方法]
(カルシウム濃度の測定方法)
本発明は、細胞内または細胞外のカルシウム濃度を測定する方法に関する。当該方法は、本発明に係る発光タンパク質およびカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質を利用する。すなわち、当該方法は、セレンテラジンと結合した本発明に係るカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質を用意する工程、および本発明に係る発光タンパク質からの発光を検出する工程を含む。
【0052】
当該方法では、本発明に係る発光タンパク質およびカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質の性質を利用する。すなわち、カルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質の有する、カルシウムイオンと結合することでセレンテラジンを放出するという性質、および発光タンパク質の有する、セレンテラジンを基質として発光反応を生じるという性質を利用する。すなわち、カルシウムイオン濃度の増大が、カルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質から放出されるセレンテラジン濃度の増大をもたらし、それによって発光タンパク質がセレンテラジンと結合して発光する。したがって、カルシウムの増減を、生じる発光の量の増減として検出することができる。発光タンパク質による発光は定量的に検出することが可能であるため、カルシウム濃度の測定も定量的に行うことができる。
【0053】
測定対象は、細胞内または細胞外の環境であってよい。細胞外の環境とは、例えば溶液中である。「用意する工程」とは、予めセレンテラジンに結合したカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質を測定対象に導入すること、またはセレンテラジンおよびカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質を測定対象に別々に導入した後、それらを測定対象内で結合させることを含む。細胞へのタンパク質の導入は、例えば、発現ベクターで形質転換した後に、細胞内で発現させる方法、マイクロインジェクション法によりタンパク質を直接注入する方法等を使用できる。発光タンパク質およびカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質は、測定対象に対して独立に導入してよく、またはそれらを直接繋いだもしくはリンカーを介して繋いだ融合タンパク質として導入してもよい。リンカーを用いる場合の長さや配列について、特に限定はなく適宜設定できる。このような融合タンパク質を用いることで、カルシウムの検出と発光の発生が同所で行われるため、細胞内の局所的な研究等を行うことができる。しかしながら、2つのタンパク質を独立に導入する場合であっても、それらを同所的に導入することで、そのような局所的な研究を行うことができる。必要に応じて、「用意する工程」の後に、過剰のセレンテラジンを除去する工程を行ってもよい。
【0054】
発光を検出する工程は、発光の検出が可能な分光器、フローサイトメーター、蛍光顕微鏡といった装置を用いて行うことができる。測定対象が細胞である場合には、フローサイトメーターまたは蛍光顕微鏡を用いることで、細胞ごとに検出することができる。さらに、蛍光顕微鏡を用いることで、細胞内の特定の部位における検出も可能となる。このときの顕微鏡は、発光の波長に対応したフィルターセットの蛍光キューブおよび撮像のためのCCDカメラ等を含んでよい。これにより、最適な発光ピークによる画像を撮影できる。
【0055】
細胞内の測定を行う場合の一例としては、発光タンパク質およびカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質の遺伝子を当該細胞にて発現させ、培地にセレンテラジンを添加してカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質と結合させ、培地を交換して余分なセレンテラジンを除去し、その後、細胞を刺激し、それにより細胞から放出される発光を蛍光顕微鏡により検出して、カルシウム濃度が増加したか否かを判断する。細胞外の測定、例えば溶液中の測定を行う場合の一例としては、精製したカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質とセレンテラジンとを予め結合させ、その結合後のタンパク質を再度精製し、それを、発光タンパク質を含んだ測定対象となる溶液に添加し、生じる発光を検出する。細胞内および細胞外のいずれの測定においても、濃度が既知の対象を同時に測定することで定量性を高めることができる。
【0056】
(カルシウム濃度測定および蛍光イメージングの方法)
本発明は、細胞内のカルシウム濃度測定および蛍光イメージングを同時または連続的に行う方法に関する。当該方法は、本発明に係る発光タンパク質およびカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質を利用する。すなわち、当該方法は、セレンテラジンと結合した本発明に係るカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質を用意する工程、過剰なセレンテラジンを除去する工程、本発明に係る発光タンパク質からの発光を検出する工程、および細胞内に発現させた蛍光タンパク質からの蛍光を検出する工程を含む。
【0057】
当該方法は、上述したカルシウム濃度を測定する方法と同様に、本発明に係る発光タンパク質およびカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質の性質を利用して、カルシウム濃度を測定するが、さらに、そのような性質を利用して、蛍光タグを利用して特定のタンパク質のイメージングを行うことができる。
【0058】
当該方法の例が図7に示される。図7(a)によれば、細胞100を含む培地200に対しセレンテラジン3が添加される。細胞100には、カルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質が発現しており、添加したセレンテラジン3と結合する。その後、図7(b)に示されるように、培地の交換や洗浄を行うことにより、余分なセレンテラジンを除去する。次に、図7(c)に示されるように、細胞に適当な刺激を与えて、それに応じてカルシウム濃度が変化するか否かを発光タンパク質の発光を発光検出器300にて測定する。その後またはそれと同時に、図7(d)に示されるように、細胞中に発現する蛍光タンパク質からの蛍光を蛍光検出器400にて測定する。図7(e)には、そのようにして測定した蛍光および発光の結果が示される。この結果によれば、発光の発生と蛍光の発生とが時間的にずれているが、このような時間的な計測によって、細胞に与えた刺激と、それに応じて生じる特定のタンパク質の発現との関係を調べることができる。例えば、カルシウム濃度が変化した後の遺伝子発現の調節または細胞の分化を研究することができる。また、図7(e)にはスペクトルのデータが示されているが、スペクトルデータに代えて、またはスペクトルデータに加えて、イメージングのデータを取得することができる。
【0059】
本発明による方法では、蛍光を検出する工程(図7d)の前に過剰なセレンテラジンを除去する工程を設けることで、蛍光検出の際のセレンテラジンによる非特異的な蛍光の発生を抑制することができる。これにより、蛍光タグを付したタンパク質のイメージング等を、バックグラウンドの蛍光の影響を受けずに行うことができる。カルシウムの濃度測定のために従来用いられているエクオリンまたはオベリンの場合、発光反応の進行に伴ってセレンテラジンを放出するため、培地の交換等によりセレンテラジンを除去しない限り、蛍光イメージングを有効に行うことができない。これに対し、本発明に係る方法によれば、発光タンパク質がセレンテラジンと結合することで発光を生じるため、細胞内または培地中に余分なセレンテラジンが生じることがなく、そのまま蛍光イメージングを行うことができる。すなわち、カルシウム濃度の測定と蛍光イメージングとを同時または連続的に行うことができ、カルシウム濃度を測定するときの細胞の状態と蛍光イメージングのときの細胞の状態とをほぼ一定に維持できる。結果として、カルシウム濃度と蛍光タグを付したタンパク質の挙動との関係を正確に研究することができる。
【0060】
「蛍光タンパク質」は、GFP等の蛍光タンパク質単体として細胞に発現させてもよく、または蛍光タンパク質と特定のタンパク質との融合タンパク質として発現させてもよい。発光タンパク質からの発光の波長と蛍光タンパク質からの蛍光の波長とは異なることが好ましい。特に、カルシウム濃度測定と蛍光イメージングとを同時に行う場合、二色の光を用いて行われる。また、「過剰なセレンテラジンを除去する工程」は、過剰なセレンテラジンが生じていない場合には省略することができる。例えば、セレンテラジンがカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質に対して適切な量で供給されている場合、または予めセレンテラジンと結合したカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質を細胞に導入した場合には、当該工程を省略することができる。対象となる細胞は、培養細胞のように単独で存在する細胞に限られず、組織片の一部を構成する細胞であってもよい。細胞へのタンパク質の導入は、発現ベクターによる形質転換を用いた方法、マイクロインジェクション法等により細胞内に直接注入する方法等によって行うことができる。
【0061】
(セレンテラジンの供給方法)
本発明は、セレンテラジンを供給する方に関する。当該方法は、本発明に係るカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質を利用する。すなわち、当該方法は、セレンテラジンと結合した本発明に係るカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質を用意する工程、およびカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質に対してカルシウムを供給する工程を含む。
【0062】
当該方法は、本発明に係るカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質の有する、セレンテラジンとの結合をカルシウム濃度によって制御できるという性質を利用する。供給は、溶液といった細胞外に対して、または細胞内に対して行うことができる。具体的な例としては、予めセレンテラジンを結合させたカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質を溶液に添加しまたは細胞内に注入し、特定の段階で溶液中または細胞中のカルシウム濃度を増大させてセレンテラジンの放出を誘導する。また、既にセレンテラジンを含む溶液または細胞にカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質を導入にし、遊離していたセレンテラジンを一旦結合させた後、特定の段階で再び放出させることもできる。このような方法は、例えば、セレンテラジンを発光基質として利用する発光タンパク質に対してセレンテラジンを供給する場合に有用となる。この方法により、セレンテラジンの分解およびセレンテラジンの意図しない反応を抑制することができる。
【0063】
(セレンテラジンの精製方法)
本発明は、セレンテラジンの精製方法に関する。当該方法は、本発明に係るカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質を利用する。すなわち、当該方法は、カルシウムイオンを添加しない条件下で、本発明に係るカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質が固定された担体と、セレンテラジンを含む溶液とを接触させる第1の工程、およびカルシウムイオンを添加した溶出液を前記担体に接触させ、セレンテラジンを含む精製液を得る第2の工程を含む。
【0064】
当該方法は、本発明に係るカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質の有する、セレンテラジンに特異的に結合する性質およびそのような結合をカルシウム濃度によって制御できるという性質を利用する。すなわち、カルシウムを添加しない条件下でセレンテラジンを結合させて、セレンテラジンと夾雑物とを分離し、カルシウムを添加する条件下でセレンテラジンのみを溶出させる。
【0065】
「担体」とは、生化学等の分野において一般的なものを使用でき、例えばデキストランまたはアガロースによるゲル状物質を使用することができる。そのような担体に対してカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質を固定したものを、カラム等に充填して使用する。このようなカラムに、セレンテラジンおよび夾雑物を含む溶液を流して、セレンテラジンとカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質とを接触させる。当該溶液にはカルシウムを添加しないか、またはカルシウムに対するキレート剤等を添加することで、当該溶液中のカルシウム濃度を低くする必要がある。その後、必要に応じて、担体を洗浄してもよいが、このときに使用する溶液もカルシウム濃度が低い必要がある。一方、セレンテラジンを溶出する際に使用する溶出液はカルシウム濃度が高い必要がある。このような溶出を行うことで、担体に非特異的に結合した夾雑物とセレンテラジンとを更に分離することができる。必要に応じて、得られた精製液について、その他のクロマトグラフィー等といった更なる精製を行うことで、カルシウムイオンといった精製液中の成分とセレンテラジンとを分離してもよい。
【0066】
本発明に係るセレンテラジンの精製方法には、さらに、精製液に本発明に係る発光タンパク質を添加し、前記発光タンパク質からの発光を検出することでセレンテラジンの濃度を定量する第3の工程を含めることができる。
【0067】
当該方法は、本発明に係る発光タンパク質の有する、セレンテラジンに応じた発光反応の定量性の高さをさらに利用する。すなわち、精製液に対して発光タンパク質を添加して、それによって生じる発光量を定量することで濃度を特定することができる。この場合、セレンテラジン濃度が既知の標準液についても同様に発光タンパク質を添加し、発光量を定量することで、より正確に濃度を特定することができる。また、精製前の溶液について同様に発光を検出し、精製液との比較を行うことで、セレンテラジンの精製度または濃縮率を特定することもできる。
【実施例】
【0068】
[実施例1]
ウミサボテンから発光タンパク質遺伝子をクローニングした。すなわち、ウミサボテンから抽出したtotal RNAをもとにcDNAライブラリーを作製し、これを鋳型とするPCR法によって行った。詳細を以下に述べる。
【0069】
1)ウミサボテンのcDNAライブラリーの作製
ウミサボテンからmRNAを抽出し、これをもとにcDNAライブラリーを作製した。2008年1月11日に−80℃で凍結保存した2gのウミサボテンを液体窒素中で破砕した。この破砕したウミサボテンに、20mlのRNA抽出用試薬TRIzol(インビトロジェン)を加え、ホモジナイザーを用いてさらに細かく破砕してRNAを抽出した。抽出したRNAの精製をRNA抽出用試薬TRIzolのマニュアルに従って行い、ウミサボテンのtotal RNA(1488μg)を得た。さらに、Micro−Fast Track 2.0 kit(インビトロジェン)を用いて、このtotal RNAからmRNA(19.52μg)を抽出精製した。得られたmRNA(5.0μg)をもとに、完全長cDNA合成試薬cDNA Synthesis Kit(ストラタジーン)を用いて完全長cDNAの合成を行った。cDNA合成はマニュアルに従って行った。これらの操作によって得られたcDNAを、制限酵素XhoIおよびEcoRIで処理したpRSET(B)ベクターへ導入した。このpRSET(B)ベクターのマルチクローニングサイトはプロモーター側からEcoRI、XhoIとなるように改変している。これによって、ウミサボテン完全長cDNAライブラリーを取得し、以後の遺伝子実験に用いた。
【0070】
2)発光タンパク質遺伝子の5’末端側クローニング
ウミエラ類などで報告されているルシフェラーゼのアミノ酸配列を参考に、よく保存されているアミノ酸領域「PDLIGMG」に着目してプライマーを作製した。プライマーの配列は次の通りである:RLtype−mixF1−A(5’−CCN GAY YTN ATH GGA ATG GG−3’)(配列番号13)、RLtype−mixF1−T(5’−CCN GAY YTN ATH GGT ATG GG−3’)(配列番号14)、RLtype−mixF1−G(5’−CCN GAY YTN ATH GGG ATG GG−3’)(配列番号15)、RLtype−mixF1−C(5’−CCN GAY YTN ATH GGC ATG GG−3’)(配列番号16)。プライマー中のY、HおよびNは混合塩基を示す。上記ウミサボテン由来のcDNAライブラリーを鋳型とし、アミノ酸配列から予測して作製した4種類の特異的混合プライマーおよび3’末端側のベクター特異的プライマーであるT7 Reverse Primer(5’−CTA GTT ATT GCT CAG CGG TGG−3’)(配列番号17)を用いてPCRを実施した。PCRにはポリメラーゼEx−Taq(タカラバイオ株式会社)を、マニュアルに従って用いた。
【0071】
20μlのPCR反応溶液として、10×Ex Taq Buffer(20mM Mg2+ plus)(最終濃度が等倍)、dNTP Mixture(各2.5mM)(最終濃度が各0.2mM)、TaKaRa Ex Taq(5U/μl)(最終濃度が0.05U/μl)、4種類のルシフェラーゼ特異的プライマー(各反応溶液にそれぞれ最終濃度が1.0μM)、T7 Reverse Primer(最終濃度が0.2μM)を含むように調整し、さらに0.5μlのウミサボテンcDNAライブラリー溶液を加えた。PCR反応条件は、94℃2分間の熱変性後、94℃20秒および68℃60秒を5サイクル、94℃20秒、60℃30秒および72℃1分を5サイクル、94℃20秒、55℃30秒および72℃1分を20サイクル、最後に72℃5分間の伸長反応で行った。PCR反応後、1μlのPCR反応溶液を、1%トリス酢酸緩衝液(以下TAEと略す)アガロースゲルを用いて電気泳動し、エチジウムブロマイド染色後、紫外線照射下で増幅遺伝子のバンドを観察した。RLtype−mixF1−CとT7 Reverse Primerとの組み合わせで実施したPCRの産物に顕著な遺伝子増幅が認められたため、フラグメントの遺伝子配列を読み取った。その結果、ウミサボテン発光タンパク質遺伝子の3’末端側のポリA配列を含む839塩基の配列を確認できた(配列番号18)。得られた配列をもとに、5’Race PCRに用いる遺伝子特異的プライマーを作製した。プライマーの配列は次の通りである:CoLuc−R1(5’−CCA TCT CGT CAC CAG CTT CCG ACT T−3’)(配列番号19)、CoLuc−R2(5’−CAA TTT CAG GCC ACG CAT CCC ACG A−3’)(配列番号20)。
【0072】
3)ウミサボテンの完全長cDNAライブラリーの作製
ウミサボテンからmRNAを抽出し、これをもとにcDNAライブラリーを作製した。2008年1月11日に−80℃で凍結保存した1gのウミサボテンを液体窒素中で破砕した。この破砕したウミサボテンに10mlのRNA抽出用試薬ISOGEN(株式会社ニッポンジーン)を加え、ホモジナイザーを用いてさらに細かく破砕してRNAを抽出した。抽出したRNAの精製をRNA抽出用試薬ISOGENのマニュアルに従って行い、ウミサボテンのtotal RNAを得た。OligotexTM−dT30<Super> mRNA Purification Kit(From Total RNA)(タカラバイオ株式会社)を用いて、このtotal RNAからmRNAを抽出精製した(mRNA濃度は収量が微量であるため未測定)。得られたmRNA溶液150μlを、エタノール沈殿法を用いて沈殿濃縮し、完全長cDNA合成試薬GeneRacer(インビトロジェン)を用いて完全長cDNAの合成を行った。cDNA合成はマニュアルに従って行った。これらの操作によって得られたcDNA溶液20μlをウミサボテン完全長cDNAライブラリーとしてその後の遺伝子実験に用いた。
【0073】
4)発光タンパク質遺伝子の5’末端側クローニング
発光タンパク質遺伝子の5’末端側のクローニングを以下の要領で実施した。完全長cDNA合成試薬GeneRacer(インビトロジェン)を用いて作製したウミサボテン完全長cDNAライブラリーを鋳型とし、ウミサボテン発光タンパク質特異的プライマーCoLuc−R1とGeneRacer5’ Primer(5’−CGA CTG GAG CAC GAG GAC ACT GA−3’)(配列番号21)とを用いて5’−RACE PCRを行った。5’−RACE PCRによって効果的に発光タンパク質遺伝子を増幅させるため、CoLuc−R1とGeneRacer5’ Primerとの組み合わせで増幅した遺伝子を鋳型にし、内側のプライマー対でさらに特異的に遺伝子増幅させるnested PCRを行った。このnested PCRは、CoLuc−R2とGeneRacer5’ Nested Primer(5’−GGA CAC TGA CAT GGA CTG AAG GAG TA−3’)(配列番号22)とのプライマー対で実施した。ポリメラーゼEx−Taq(タカラバイオ株式会社)をマニュアルに従って用いた。
【0074】
5’Race PCRを以下の要領で実施した。20μlのPCR反応溶液として、10×Ex Taq Buffer(20mM Mg2+ plus)(最終濃度が等倍)、dNTP Mixture(各2.5mM)(最終濃度が各0.2mM)、TaKaRa Ex Taq(5U/μl)(最終濃度が0.05U/μl)、CoLuc−R1とGeneRacer5’ Primerとのプライマー対(それぞれ最終濃度が0.2μM)を含むように調整し、2.0μlのウミサボテンの完全長cDNAライブラリー溶液を加えた。PCR反応条件は、94℃2分間の熱変性後、94℃30秒、55℃30秒および72℃1分を30サイクル、最後に72℃5分間の伸長反応とした。PCR反応後、1μlのPCR反応溶液を、1%TAEアガロースゲルを用いて電気泳動し、エチジウムブロマイド染色後、紫外線照射下で増幅遺伝子のバンドを観察した。CoLuc−R1とGeneRacer5’ Primerとのプライマーの組み合わせで実施したPCRでは顕著な遺伝子増幅は認められなかった。このPCR産物を鋳型として5’nested PCRを実施した。
【0075】
nested PCRを以下の要領で実施した。20μlのPCR反応溶液は、10×Ex Taq Buffer(20mM Mg2+ plus)(最終濃度が等倍)、dNTP Mixture(各2.5mM)(最終濃度が各0.2mM)、TaKaRa Ex Taq(5U/μl)(最終濃度が0.05U/μl)、CoLuc−R2とGeneRacer5’ Nested Primerとのプライマー対(それぞれ最終濃度が0.2μM)となるよう調整し、10倍希釈した5’Race PCR反応溶液を鋳型として1.0μlを加えた。PCR反応条件は、94℃2分間の熱変性後、94℃30秒、55℃30秒および72℃1分を30サイクル、最後に72℃5分間の伸長反応とした。PCR反応後、1μlのPCR反応溶液を、1%TAEアガロースゲルを用いて電気泳動し、エチジウムブロマイド染色後、紫外線照射下で増幅遺伝子のバンドを観察した。CoLuc−R2とGeneRacer5’ Nested Primerとのプライマーの組み合わせで実施したPCRにおいて顕著な遺伝子増幅が認められたため、フラグメントの遺伝子配列を読み取った。その結果、ウミサボテン発光タンパク質遺伝子の5’末端側の495塩基の配列を確認できた(配列番号23)。得られた配列を基に発光タンパク質遺伝子の完全長配列を増幅するためのPCRに用いる遺伝子特異的プライマーを作成した。プライマーの配列は次の通りである:CoLuc−Full−F1(5’−GCA CTT CAA TCA GTG GTA ACG GAA GG−3’)(配列番号24)、CoLuc−Full−F2(5’−GCA CTT CAA TC AGT GGT AAC GGA AGG CGA AC−3’)(配列番号25)。
【0076】
5)発光タンパク質遺伝子の完全長配列のクローニング
発光タンパク質遺伝子の完全長配列のクローニングを以下の要領で実施した。完全長cDNA合成試薬GeneRacer(インビトロジェン)を用いて作成したウミサボテン完全長cDNAライブラリーを鋳型とし、ウミサボテン発光タンパク質特異的プライマーCoLuc−Full−F1とGeneRacer3’ Primer(5’−GCT GTC AAC GAT ACG CTA CGT AAC G−3’)(配列番号26)とを用いて3’−RACE PCRを行った。3’−RACE PCRによって効果的に発光タンパク質遺伝子を増幅させるため、CoLuc−Full−F1とGeneRacer3’ Primerとの組み合わせで増幅した遺伝子を鋳型にし、内側のプライマー対でさらに特異的に遺伝子増幅させるnested PCRを行った。このnested PCRは、CoLuc−Full−F2とGeneRacer3’ Nested Primer(5’−CGC TAC GTA ACG GCA TGA CAG TG−3’)(配列番号27)とのプライマー対で実施した。ポリメラーゼEx−Taq(タカラバイオ株式会社)をマニュアルに従って用いた。
【0077】
3’Race PCRを以下の要領で実施した。20μlのPCR反応溶液として、10×Ex Taq Buffer(20mM Mg2+ plus)(最終濃度が等倍)、dNTP Mixture(各2.5mM)(最終濃度が各0.2mM)、TaKaRa Ex Taq(5U/μl)(最終濃度が0.05U/μl)、CoLuc−Full−F1とGeneRacer3’ Primerとのプライマー対(それぞれ最終濃度が0.2μM)となるように調整し、0.5μlのウミサボテンの完全長cDNAライブラリー溶液を加えた。PCR反応条件は、94℃2分間の熱変性後、94℃30秒、50℃30秒および72℃1分30秒を30サイクル、最後に72℃5分間の伸長反応とした。PCR反応後、1μlのPCR反応溶液を、1%TAEアガロースゲルを用いて電気泳動し、エチジウムブロマイド染色後、紫外線照射下で増幅遺伝子のバンドを観察した。CoLuc−Full−F1とGeneRacer3’ Primerとの組み合わせで実施したPCRでは顕著な遺伝子増幅は認められなかった。このPCR産物を鋳型として3’nested PCRを実施した。
【0078】
nested PCRを以下の要領で実施した。20μlのPCR反応溶液は、10×Ex Taq Buffer(20mM Mg2+ plus)(最終濃度が等倍)、dNTP Mixture(各2.5mM)(最終濃度が各0.2mM)、TaKaRa Ex Taq(5U/μl)(最終濃度が0.05U/μl)、CoLuc−Full−F2とGeneRacer3’ Nested Primerとのプライマー対(それぞれ最終濃度が0.2μM)となるように調整し、10倍希釈した5’Race PCR反応溶液を鋳型として1.0μl加えた。PCR反応条件は、94℃2分間の熱変性後、94℃30秒、50℃30秒および72℃1分30秒を30サイクル、最後に72℃5分間の伸長反応とした。PCR反応後、1μlのPCR反応溶液を、1%TAEアガロースゲルを用いて電気泳動し、エチジウムブロマイド染色後、紫外線照射下で増幅遺伝子のバンドを観察した。CoLuc−Full−F2とGeneRacer3’ Nested Primerとの組み合わせで実施したPCRにおいて顕著な遺伝子増幅が認められたため、フラグメントの遺伝子配列を読み取った。その結果、ウミサボテン発光タンパク質遺伝子のポリAを含む完全長配列を確認できた(配列番号28)。得られた完全長ウミサボテン発光タンパク質遺伝子の塩基配列から、配列情報解析ソフトウェアDNASIS Proを用いて、予想される発光タンパク質遺伝子のOpen Reading Frame塩基配列(配列番号2)およびそれを翻訳したアミノ酸配列(配列番号1)を得た。
【0079】
このOpen Reading Frame領域を遺伝子発現用ベクターpRSET(B)(プロメガ)に導入し、それを大腸菌株JM109(DE3)(プロメガ)に形質転換し、Hisタグを用いたタンパク質精製の手法を用いてウミサボテン発光タンパク質を精製した。このタンパク質について、Lumiflspectrocapture(アトー)を用いて発光スペクトルを測定した。3μlのウミサボテン発光タンパク質を含む溶液(濃度不明)、97μlのバッファー(20mM Tris−HCl,20mM NaCl)および1μlのセレンテラジンを含む溶液(4.72mM:プロメガ)を混ぜ合わせて発光を検出した。その発光スペクトルを図1に示す。図1から、当該タンパク質が、セレンテラジンを発光基質として発光反応を行うこと、且つその最大発光波長は488nm付近であることがわかった。また、上記溶液に対して、各種金属の塩化物を添加し、発光強度に対するその影響を調べた。その結果を図2に示す。さらに、ウミサボテン由来の発光タンパク質のpH感受性を調べた。図8(a)には、pH3.0からpH11.0の範囲でpHを変えた環境下での発光強度が示される。図8(b)には、pH7.0からpH9.0の範囲で、さらに細かくpHを変えた環境下での発光強度が示される。図8(a)および(b)の結果から、pH8.0付近、特にpH7.8付近の環境下において最も強度が高いことがわかる。さらに図8(c)には、pH7.0からpH8.0の範囲でpHを変えて測定した発光スペクトルが示される。図8(c)の結果から、pH7.0からpH8.0の間では最大発光波長は変化しないことがわかる。
【0080】
[実施例2]
ウミサボテンからカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質(CBP)遺伝子をクローニングした。すなわち、ウミサボテンから抽出したtotal RNAをもとにcDNAライブラリーを作製し、これを鋳型とするPCR法によって行った。詳細を以下に述べる。
【0081】
1)CBP遺伝子の5’末端側クローニング
CBP遺伝子の5’末端側のクローニングを以下の要領で実施した。既知の文献(Titushin, MS. et al. (2008) Coelenterazine-binding protein of Renilla muelleri: cDNA cloning, overexpression, and characterization as a substrate of luciferase., Photochem Photobiol Sci., 7(2):189-196.)を参考に、よく保存されているアミノ酸領域「DFNKNGQI」および「DTDKDGYV」に着目してプライマーを作製した。「DFNKNGQI」を参考に作製したプライマーの配列は、LBP−Cloning−R1−A(5’−ATY TGN CCR TTY TTR TTR AAa TC−3’)(配列番号29)およびLBP−Cloning−R1−R(5’−ATY TGN CCR TTY TTR TTR AAg TC−3’)(配列番号30)、「DTDKDGYV」を参考に作製したプライマーの配列は、LBP−Cloning−R2−A(5’−ACR TAN CCR TCY TTR TCN GTa TC−3’)(配列番号31)およびLBP−Cloning−R2−R(5’−ACR TAN CCR TCY TTR TCN GTg TC−3’)(配列番号32)である。プライマー中のY、RおよびNは混合塩基を示す。完全長cDNA合成試薬GeneRacer(インビトロジェン)を用いて作製したウミサボテン完全長cDNAライブラリーを鋳型とし、ウミサボテン発光タンパク質特異的プライマーLBP−Cloning−R1−AまたはLBP−Cloning−R1−RとGeneRacer5’ Primer(5’−CGA CTG GAG CAC GAG GAC ACT GA−3’)(配列番号21)とを用いて5’−RACE PCRを行った。効果的にCBP遺伝子を増幅させるため、5’−RACE PCRで増幅した遺伝子を鋳型にし、内側のプライマー対でさらに特異的に遺伝子増幅させるnested PCRを行った。このnested PCRにはLBP−Cloning−R2−AまたはLBP−Cloning−R2−RとGeneRacer5’ Nested Primer(5’−GGA CAC TGA CAT GGA CTG AAG GAG TA−3’)(配列番号22)とのプライマー対で実施した。ポリメラーゼEx−Taq(タカラバイオ株式会社)をマニュアルに従って用いた。
【0082】
5’Race PCRを以下の要領で実施した。10μlのPCR反応溶液として、10×Ex Taq Buffer(20mM Mg2+ plus)(最終濃度が等倍)、dNTP Mixture(各2.5mM)(最終濃度が各0.2mM)、TaKaRa Ex Taq(5U/μl)(最終濃度が0.05U/μl)、LBP−Cloning−R1−AまたはLBP−Cloning−R1−R(それぞれ最終濃度が2.0μM)、GeneRacer5’ Primer(最終濃度が0.3μM)となるように調整し、ウミサボテンの完全長cDNAライブラリー溶液を0.3μl加えた。PCR反応条件は、94℃2分間の熱変性後、94℃30秒、50℃30秒および72℃4分を30サイクル、最後に72℃5分間の伸長反応とした。PCR反応後、1μlのPCR反応溶液を、1%TAEアガロースゲルを用いて電気泳動し、エチジウムブロマイド染色後、紫外線照射下で増幅遺伝子のバンドを観察した。LBP−Cloning−R1−AまたはLBP−Cloning−R1−RとGeneRacer5’ Primerとのプライマーの組み合わせで実施したPCRでは顕著な遺伝子増幅は認められなかった。このPCR産物を鋳型として5’nested PCRを実施した。
【0083】
nested PCRを以下の要領で実施した。30μlのPCR反応溶液として、10×Ex Taq Buffer(20mM Mg2+ plus)(最終濃度が等倍)、dNTP Mixture(各2.5mM)(最終濃度が各0.2mM)、TaKaRa Ex Taq(5U/μl)(最終濃度が0.05U/μl)、LBP−Cloning−R2−AまたはLBP−Cloning−R2−Rはそれぞれ最終濃度が2.0μM、GeneRacer5’ Nested Primerは最終濃度が0.3μMに調整し、10倍希釈した5’Race PCR反応溶液を鋳型として3.0μlを加えた。PCR反応条件は、94℃2分間の熱変性後、94℃30秒、50℃30秒および72℃4分を30サイクル、最後に72℃5分間の伸長反応とした。PCR反応後、1μlのPCR反応溶液を、1%TAEアガロースゲルを用いて電気泳動し、エチジウムブロマイド染色後、紫外線照射下で増幅遺伝子のバンドを観察した。LBP−Cloning−R1−AとGeneRacer5’Primerとの組み合わせで実施した5’Race PCR反応溶液を鋳型とし、LBP−Cloning−R2−AとGeneRacer5’ Nested Primerとのプライマーの組み合わせで実施したPCRにおいて顕著な遺伝子増幅が認められたため、フラグメントの遺伝子配列を読み取った。その結果、2つCBPの5’末端側の配列を確認した(配列番号33および配列番号34)。得られた配列を基にCBP遺伝子の完全長配列を増幅するためのPCRに用いる遺伝子特異的プライマーを作製した。プライマーの配列は次の通りである:CoCBP−1−Full−F1(5’−ATA CAA ACA AAC AGT ATT AGA ATA A−3’)(配列番号35)、CoCBP−2−Full−F1(5’−TCA TCA TAA CAA ACT ACT AAC TGT T−3’)(配列番号36)。
【0084】
2)CBP遺伝子の完全長配列のクローニング
CBP遺伝子の完全長配列のクローニングを以下の要領で実施した。完全長cDNA合成試薬GeneRacer(インビトロジェン)を用いて作製したウミサボテン完全長cDNAライブラリーを鋳型とし、遺伝子特異的プライマーCoCBP−1−Full−F1またはCoCBP−2−Full−F1とGeneRacer3’ Primer(5’−GCT GTC AAC GAT ACG CTA CGT AAC G−3’)(配列番号26)とを用いて3’−RACE PCRを行った。ポリメラーゼはKOD−FX(TOYOBO)をマニュアルに従って用いた。
【0085】
3’Race PCRを以下の要領で実施した。10μlのPCR反応溶液として、2×PCR Buffer(最終濃度が等倍)、dNTP Mixture(各2.0mM)(最終濃度が各0.4mM)、KOD FX(5U/μl)(最終濃度が0.1U/μl)、CoCBP−1−Full−F1またはCoCBP−2−Full−F1とGeneRacer3’ Primerとのプライマー対(それぞれ最終濃度が0.3μM)となるように調整し、ウミサボテンの完全長cDNAライブラリー溶液を0.2μl加えた。PCR反応条件は、94℃2分間の熱変性後、94℃30秒、50℃30秒および68℃1分を35サイクル、最後に72℃5分間の伸長反応とした。PCR反応後、1μlのPCR反応溶液を、1%TAEアガロースゲルを用いて電気泳動し、エチジウムブロマイド染色後、紫外線照射下で増幅遺伝子のバンドを観察した。CoCBP−1−Full−F1またはCoCBP−2−Full−F1とGeneRacer3’ Primerとの組み合わせで実施したPCRにおいて顕著な遺伝子増幅が認められたため、フラグメントの遺伝子配列を読み取った。CoCBP−1−Full−F1とGeneRacer3’ Primerとの組み合わせで実施したPCRから3つの配列を確認できた(CBP1_1:配列番号37、CBP1_2:配列番号38およびCBP1_3:配列番号39)。また、CoCBP−2−Full−F1とGeneRacer3’ Primerとの組み合わせで実施したPCRから1つの配列を確認できた(CBP2:配列番号40)。得られた完全長CBP遺伝子の塩基配列から配列情報解析ソフトウェア DNASIS Proを用いて、予想されるCBP遺伝子のOpen Reading Frame塩基配列およびそれを翻訳したアミノ酸配列を得た(CBP1_1:配列番号37から配列番号6および配列番号5、CBP1_2:配列番号38から配列番号8および配列番号7、CBP1_3:配列番号39から配列番号10および配列番号9、およびCBP2:配列番号40から配列番号12および配列番号11)。なお、CBP1_2とCBP2とは、完全長塩基配列同士は5’UTRおよび3’UTRにおいて大きく異なるものの、アミノ酸に翻訳すると開始コドンから終始コドンまでのアミノ酸配列が一致した。
【0086】
このOpen Reading Frame領域を遺伝子発現用ベクターpRSET(B)(プロメガ)に導入し、大腸菌株JM109(DE3)(プロメガ)に形質転換し、Hisタグを用いたタンパク質精製の手法を用いてCBPを精製した。精製したタンパク質について、カルシウムに対する応答性を調べた。すなわち、CBPにセレンテラジンを結合させた後、カルシウム溶液を添加して、ウミシイタケルシフェラーゼによってセレンテラジンの放出を検出した。ウミシイタケルシフェラーゼはセレンテラジンと結合すると発光することがわかっている。
【0087】
ルシフェリン溶液を、5mLの緩衝液(20mM Tris−HCl(pH8.0)、20mM NaCl、1mM EDTA)に対し、5mMでセレンテラジンを含む溶液を5μL添加することで作製した。ルシフェラーゼ溶液を、5mLの緩衝液(20mM Tris−HCl(pH8.0)、20mM NaCl、1mM EDTA)に対し、4.18mg/mLでhRLucを含む溶液を5μL添加することで作製した。200mMカルシウム溶液を、4.5mLの緩衝液(20mM Tris−HCl(pH8.0)、20mM NaCl、1mM EDTA)に対し、2MのCaCl溶液を500μL添加することで作製した。
【0088】
最初に、精製したCBP1_1を含むCBP溶液5μlに対し、ルシフェリン溶液45μlを添加し、CBP1_1とセレンテラジンとを結合させた。その後、そこへルシフェラーゼ溶液50μlを添加し、一定時間発光量を測定した。測定にはLuminescensor(アトー)を用いた。さらに、200mMカルシウム溶液50μlを添加し、発光量を測定した。なお、200mMカルシウム溶液の添加により、溶液中の塩化カルシウム濃度は66.7mMとなる。CBP溶液の測定と並行して、CBP溶液の代わりにカルシウムを含まない50μlの緩衝液(20mM Tris−HCl(pH8.0)、20mM NaCl、1mM EDTA)についても同様に測定し、比較対象とした。
【0089】
図5に、測定結果を示す。図5に示されるグラフにおいて、横軸は時間(分)、縦軸は発光強度を示す。比較対象とした緩衝液では、添加の前後においてほぼ一定の低い発光強度を示した。一方、CBP溶液では、添加の前では、緩衝液と同様にほぼ一定の低い発光強度を示したものの、添加後、非常に高い発光強度を示した。このことから、CBP1_1は、カルシウムイオンの添加によってセレンテラジンを放出することがわかる。
【0090】
CBP1_2、CBP1_3およびCBP2についても実験を行い、同様の結果が得られた。
【0091】
[実施例3]
図7に沿って、カルシウム濃度測定および蛍光イメージングを同時または連続的に行う方法の例を示す。
図7(a)に示すように、本発明に係る蛍光タンパク質およびカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質が発現する細胞100に対してセレンテラジン3を添加する。このとき、ほぼ全てのカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質がセレンテラジン3と結合できるように、十分量のセレンテラジン3を添加する。
【0092】
次に、図7(b)に示すように、余分なセレンテラジン3を培地200から除去する。これは、培地200を交換することで行う。
【0093】
その後、図7(c)に示すように、細胞100を薬剤にて刺激し、それによって生じる細胞内カルシウム濃度の上昇を、発光タンパク質の発光観察により検出する。検出は、発光検出器300として蛍光顕微鏡を用いて行う。
【0094】
続いて、図7(d)に示すように、カルシウム濃度上昇以降の細胞内の状態を蛍光観察する。細胞100は、蛍光タンパク質と細胞内タンパク質との融合タンパク質の遺伝子が導入されており、刺激によって当該遺伝子の発現が生じることを、蛍光の発生として検出する。この検出は、蛍光検出器400として蛍光顕微鏡を用いて行う。
【0095】
図7(e)には、発光の検出および蛍光の検出の結果が示される。この結果によれば、発光が生じた後、一定時間後蛍光が生じている。刺激後、細胞内カルシウム濃度が上昇し、その一定時間後にタンパク質の発現が生じたことがわかる。すなわち、刺激とタンパク質の発現との関係にカルシウムによる情報伝達が関与することがわかる。
【0096】
本発明による方法を用いれば、例えば神経細胞において、外部からの薬剤刺激によって細胞内のカルシウム濃度が上昇する様子と、その後の伝達経路などの解析とを同時または連続的に行うことができる。
【符号の説明】
【0097】
1…カルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質、2…発光タンパク質、3…セレンテラジン、4…カルシウムイオン、100…細胞、200…培地、300…発光検出器、400…蛍光検出器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刺胞動物門ウミエラ目ウミサボテン科カベルヌラリア属に属する生物に由来する発光タンパク質。
【請求項2】
488nm付近に最大発光波長を有し、SDS−PAGE法による分子量が28kDaである請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
配列番号1または3に示されたアミノ酸配列を含む請求項1または2に記載のタンパク質。
【請求項4】
配列番号1または3に示されたアミノ酸配列に対して75%以上の相同性を示すアミノ酸配列を含む請求項1または2に記載のタンパク質。
【請求項5】
精製のためのペプチド配列および/または細胞外分泌もしくは細胞内器官への移行のためのシグナルペプチド配列を含む請求項1から4の何れか1項に記載のタンパク質。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1項に記載のタンパク質をコードする塩基配列を含む核酸。
【請求項7】
前記塩基配列が、
(a)配列番号2または4に示された塩基配列、
(b)前記(a)に示された塩基配列を含む核酸に対して緊縮的な条件下でハイブリダイズする核酸が有する塩基配列であって、発光タンパク質をコードする塩基配列、および
(c)前記(a)または(b)に示された塩基配列に相補的な塩基配列
から成る群から選択される塩基配列である請求項6に記載の核酸。
【請求項8】
刺胞動物門ウミエラ目ウミサボテン科カベルヌラリア属に属する生物に由来するカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質。
【請求項9】
カルシウムが存在しないときにセレンテラジンと結合し、カルシウムが存在するときにセレンテラジンと結合せず、且つSDS−PAGE法による分子量が20kDaである請求項8に記載のタンパク質。
【請求項10】
配列番号5、7、9または11に示されたアミノ酸配列を含む請求項8または9に記載のタンパク質。
【請求項11】
配列番号5、7、9または11に示されたアミノ酸配列に対して75%以上の相同性を示すアミノ酸配列を含む請求項8または9に記載のタンパク質。
【請求項12】
精製のためのペプチド配列および/または細胞外分泌もしくは細胞内器官への移行のためのシグナルペプチド配列を含む請求項8から11の何れか1項に記載のタンパク質。
【請求項13】
請求項8から12の何れか1項に記載のタンパク質をコードする塩基配列を含む核酸。
【請求項14】
前記塩基配列が、
(1)配列番号6、8、10または12に示された塩基配列、
(2)前記(1)に示された塩基配列を含む核酸に対して緊縮的な条件下でハイブリダイズする核酸が有する塩基配列であって、カルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質をコードする塩基配列、および
(3)前記(2)または(3)に示された塩基配列に相補的な塩基配列
から成る群から選択される塩基配列である請求項13に記載の核酸。
【請求項15】
請求項6、7、13または14に記載の核酸と前記核酸に作動的に連結されたプロモーターとを含む発現ベクター。
【請求項16】
請求項15に記載の発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項17】
動物培養細胞または微生物細胞である請求項16に記載の宿主細胞。
【請求項18】
請求項16または17に記載の宿主細胞にて発現する請求項1から5および8から12の何れか1項に記載のタンパク質を単離することを含む、前記タンパク質を製造する方法。
【請求項19】
請求項1から5および8から12の何れか1項に記載のタンパク質の遺伝子を動物に導入することを含む、前記タンパク質を発現する動物を製造する方法。
【請求項20】
セレンテラジンと結合した請求項8から12の何れか1項に記載のカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質を用意する工程、および
請求項1から5の何れか1項に記載の発光タンパク質からの発光を検出する工程
を含む細胞内または細胞外のカルシウム濃度を測定する方法。
【請求項21】
セレンテラジンと結合した請求項8から12の何れか1項に記載のカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質を用意する工程、
過剰なセレンテラジンを除去する工程、
請求項1から5の何れか1項に記載の発光タンパク質からの発光を検出する工程、および
細胞内に発現させた蛍光タンパク質からの蛍光を検出する工程
を含む細胞内のカルシウム濃度測定および蛍光イメージングを同時または連続的に行う方法。
【請求項22】
セレンテラジンと結合した請求項8から12の何れか1項に記載のカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質を用意する工程、および
前記カルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質に対してカルシウムを供給する工程
を含むセレンテラジンを供給する方法。
【請求項23】
カルシウムイオンを添加しない条件下で、請求項8から12の何れか1項に記載のカルシウム応答性セレンテラジン結合タンパク質が固定された担体と、セレンテラジンを含む溶液とを接触させる第1の工程、および
カルシウムイオンを添加した溶出液を前記担体に接触させ、セレンテラジンを含む精製液を得る第2の工程
を含むセレンテラジンの精製方法。
【請求項24】
前記精製液に請求項1から5の何れか1項に記載の発光タンパク質を添加し、前記発光タンパク質からの発光を検出することでセレンテラジンの濃度を定量する第3の工程をさらに含む請求項23に記載の精製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−110283(P2012−110283A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262687(P2010−262687)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】