説明

発光ダイオード用リフレクター及びハウジング

【課題】 紫外領域から可視領域において反射率が低下することなく、且つ耐熱性・耐光性・耐候性に優れる発光ダイオード用リフレクター及びこれを有するハウジングを提供する。
【解決手段】 平均粒径1μm未満の充填材を含むフッ素樹脂組成物を成形して得られ、波長240nm〜700nmにおける反射率の最大値と最小値の差が25%以内である発光ダイオード用リフレクター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線領域から可視線領域における反射率の低下が少なく、且つ耐熱性・耐光性・耐候性にも優れる発光ダイオード(以下、LEDという)用リフレクター、該リフレクターを有するLED用ハウジングに関する。
本発明はまた、紫外線から可視線領域において高反射率(反射率70%以上)を有する発光ダイオード用リフレクターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、発光ダイオード素子(以下、LEDチップともいう)は小型でフィラメント電球より長期間点灯することが出来る照明であり、電気エネルギーの光への変換効率が高いため、直管型蛍光灯を含む従来型の照明器具を置き換える傾向が強まり、家電製品、LED表示器、照光式操作スイッチとして広く用いられている。LEDの用途は波長により、一般(可視線)LEDと紫外線LEDに分けられる。
【0003】
例えば一般(可視線)LED用途は、自動車用ダッシュボード、ディスプレイ(LCDディスプレイ、パソコン用モニター、小型ゲーム、携帯電話)などの表示装置のバックライト、室内照明源、室内外表示装置、交通用表示装置などである。また、紫外線LED用途としては、蛍光体と組合せて演色性の高い白色LED、また紙幣識別装置(紙幣識別用センサー光源)、光触媒を用いた空気清浄機(家族用、車載用、冷蔵庫用)、汚染物質処理、また医療分野でバイオ、医療、分析用蛍光光源、また食品分野で殺菌、野菜や食品の鮮度維持、また電子部品・インクなどのUV硬化用光源、医療機器、蛍光アクリルを用いたイルミネーション、UV光源モニター、紫外線光量計、分光分析、蛍光剤励起光源、医療機器、水、空気清浄などの殺菌用光源などが挙げられる。
【0004】
LEDチップを搭載した従来の発光装置は、図1に示したように、一般的に凹状開口部を有するリフレクター(3)と、この凹状開口部内に実装されたLEDチップ(2)と、上記凹状開口部を封止する硬化樹脂モールド(1)とを備えている。該リフレクターが基板上に取り付けられ、ハウジング(5)を形成する。該リフレクターはセラミックスや白色反射樹脂などを成形して得られる成形品である。
【0005】
特許文献1には多気孔アルミナセラミックスからなるLEDハウジングが記載されている。多気孔アルミナセラミックスは、耐熱性・耐光性・耐候性に優れ、気孔直径と気孔率を制御することによって高反射率を得ることが出来るが、セラミックスの成形はバッチの工程で1,000℃以上の温度に加熱・時間をかけながら焼成するため、製造コストが高く、生産性が悪いという問題があった。
【0006】
近年では、LEDハウジングの製造コストを低減するため、連続成形可能な熱可塑性樹脂が用いられている。例えば、ポリアミド系の樹脂では300℃でも融解しないものもあるが、比較例5に示したように、500時間150℃で加熱した場合、樹脂が酸化され黒色に変色するため、反射率が大幅に低下するという欠点がある。その為、初期にLEDハウジングの反射率が高くても、高出力動作が継続した場合には樹脂ハウジングが高温になる為、LEDハウジングが変色し発光効率が落ちるという問題があった。また、ポリアミド系の樹脂は高温で劣化しやすいので、溶融成形する際に、溶融成形機内での残留時間が長くなると熱分解・変色が起こり、製品ロスが増え、生産性が悪いという問題もあった。
【0007】
更に、図3の比較例3に示したように、このポリアミド系樹脂ではリフレクターとして用いられる充填材である二酸化チタンの屈折率が2.7であるため、可視光領域において
は反射率が高いが、波長420nm未満では反射率が大幅低下する。これは、二酸化チタンが3.2eVのバンドギャップ構造をもつためと考えられる(参照:非特許文献1)。吸収したエネルギーが熱に変換されると共に、二酸化チタンが光触媒作用を示すため、樹脂の劣化が進むと考えられる。
【0008】
また、近年近紫外LEDに赤緑青3色の蛍光体を組合せた白色LEDの開発が進められており、演色性に優れることから一般照明の用途への展開が期待されている。この方式は、励起光源の波長が青色の460nmから405nmへとさらに短波長となるため、これまで以上にハウジング部材の劣化の恐れがあり、LEDハウジングの長寿命を期待することが出来ない。
【0009】
その為、耐熱性、耐光性、耐侯性、耐薬品性、高周波電気特性、難燃性などの優れた特徴を有し、酸、アルカリなどの薬液、溶剤、塗料などの移送用の配管、薬液貯蔵容器やタンクなどの化学工業製造用品、またはチューブ、ローラ、電線などの電気工業用品等にも広く利用されているフッ素樹脂、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)または、熱溶融性フッ素樹脂のテトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(EPE)などがLEDリフレクター用樹脂として検討されている。
【0010】
特許文献2には、二酸化チタンを充填材として含有するフッ素樹脂からなるLED用リフレクターが開示されているが、上記のポリアミド系樹脂(比較例3)の様に、紫外線を吸収する二酸化チタンを充填材として用いているため、紫外領域での反射率が大幅に低下するという問題があり(比較例2参照)、紫外線LED用リフレクター、近紫外LEDに赤緑青3色の蛍光体を組合せた白色LED用リフレクターに用いることが出来ない。そのため、紫外領域から可視領域での吸収が無く、すなわち、紫外領域での反射率が大幅に低下することなく、耐熱性・耐光性・耐候性に優れ、且つ高い反射率を有するLED用リフレクター及びこれを有するハウジングが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4576276号
【特許文献2】US2010/0032702A1
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】日本化学会:表面励起プロセスの化学、季刊 化学総説 No.12、p.132〜145(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、紫外領域から可視領域において反射率が低下することなく、且つ耐熱性・耐光性・耐候性に優れるLED用リフレクター及びハウジングを鋭意検討した結果、上記の問題点を解決し得る方法を見出し本発明に到達したものである。
本発明は、紫外領域から可視領域において反射率が低下することなく、且つ耐熱性・耐光性・耐候性に優れるLED用リフレクターを提供する。
本発明はまた、紫外線から可視線領域において高反射率(反射率70%以上)を有する発光ダイオード用リフレクターに関する。
本発明はまた、該LED用リフレクターを有するハウジングを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
平均粒径1μm未満の充填材を含むフッ素樹脂組成物を成形して得られるLED用リフレクターであって、波長240nm〜700nmにおける反射率の最大値と最小値の差が25%以内であるLED用リフレクターを提供する。
【0015】
上記リフレクターにおいて、フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレンの単独重合体、及び/またはテトラフルオロエチレンと、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、ビニリデンフルオライド、ビニルフルオライド、エチレン、プロピレンから選ばれる少なくとも1種のモノマーとの共重合体から選ばれる少なくとも1種であるLED用リフレクターは、本発明の好ましい態様である。
【0016】
上記リフレクターにおいて、平均粒径1μm未満の充填材の屈折率が1.5以上であるLED用リフレクターは、本発明の好ましい態様である。
【0017】
上記リフレクターにおいて、平均粒径1μm未満の充填材が、金属または金属酸化物であるLED用リフレクターは、本発明の好ましい態様である。
【0018】
上記リフレクターにおいて、金属または金属酸化物が、結晶系のαアルミナ、二酸化ハフニウム、二酸化ジルコニウム、五酸化タンタルから選ばれる少なくとも1種であるLED用リフレクターは、本発明の好ましい態様である。
【0019】
上記リフレクターにおいて、波長240nm〜380nmにおける反射率が70%以上であるLED用リフレクターは、本発明の好ましい態様である。
【0020】
上記リフレクターにおいて、平均粒径0.1〜1.0μmの結晶系のαアルミナ微粒子を含有するフッ素樹脂組成物を成形して得られるLED用リフレクターは、本発明の好ましい態様である。
【0021】
上記リフレクターにおいて、平均粒径1μm未満の充填材の含有量が、フッ素樹脂組成物全体に対して0.1〜50質量%であるLED用リフレクターは、本発明の好ましい態様である。
また上記LED用リフレクターを有するハウジングは、本発明の好ましい態様である。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、紫外領域から可視領域において反射率が低下することなく、且つ耐熱性・耐光性・耐候性に優れるLED用リフレクター及び該リフレクターを有するハウジングが提供される。
反射率が低下しないことにより、使用するLEDの波長によらず一定の反射率が得られる。
また、平均粒径1μm未満の充填材がリフレクター中に均一に分散されていることにより、従来のものより少ない量の充填材で高い反射率を実現し得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】LED用リフレクターを有するハウジングを示す概略図である。
【図2】テープ状のLED用リフレクターを示す概略図である。
【図3】成形品の反射率の波長依存性を示すグラフである。
【図4】電子顕微鏡で得た実施例3の複合体組成物破断面の写真である。
【図5】電子顕微鏡で得た比較例1の複合体組成物破断面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0025】
本発明に用いられるフッ素樹脂は、溶融成形可能なフッ素樹脂である。溶融成形とは従来公知の溶融成形装置を用いる成形方法で、重合体が溶融状態で流動することにより、溶融物から例えば、フィルム、繊維、チューブなど、それぞれの所定の目的に応じた十分な強度及び耐久性を示す成形品を成形することができることを意味する。
【0026】
溶融成形可能なフッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン(TFE)と、少なくとも一種の共重合可能なフッ素化モノマー(コモノマー)との共重合体(TFE共重合体)であって、少なくとも一種の共重合可能なフッ素化モノマー(コモノマー)は、TFEの単独重合体(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE))の融点(315℃)よりも実質的に低い融点となるのに十分な量で重合体中に存在する。
【0027】
本発明に好適に使用される溶融成形可能なフッ素樹脂は、少なくとも約40〜98モル%のTFE単位と、約2〜60モル%のTFEと共重合可能な少なくとも1種の他のモノマーとの共重合体である。TFEと共重合可能なモノマーとしては、例えば、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)(アルキル基は炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐アルキル基である)などを挙げることができる。PAVEモノマーとしては、炭素数1、2、3または4のアルキル基を含むPAVEモノマーが好ましい。TFE共重合体は複数種のPAVEモノマーとTFEとの共重合体であってもよい。TFE共重合体中のPAVEは、1〜20質量%であることが好ましい。
【0028】
好ましいTFE共重合体としては、FEP(TFE/HFP共重合体)、PFA(TFE/PAVE共重合体)、TFE/HFP/PAVE共重合体であって、PAVEがパーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)および/またはパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)である共重合体、MFA(TFE/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)/PAVE共重合体であって、PAVEのアルキル基が炭素数2以上である共重合体)、THV(TFE/HFP/ビニリデンフルオライド(VF2)共重合体)などが挙げられる。より好ましくは、PFA(TFE/PAVE共重合体)である。
【0029】
本発明に用いられるフッ素樹脂は、複数種のTFE共重合体を混合して用いてもよい。
【0030】
TFE共重合体は、ASTM D−1238に準じて、その特定のTFE共重合体の標準温度で測定したメルトフローレート(MFR)が約0.5〜100g/10分、好ましくは0.5〜50g/10分である。
【0031】
また、TFE共重合体の溶融粘度は、米国特許第4,380,618号に記載される修正されたASTM D−1238の方法によって372℃で測定し、少なくとも約102Pa・s、好ましくは102Pa・s〜約106Pa・s、より好ましくは約103〜約105Pa・sであることが望ましい。
【0032】
フッ素樹脂組成物中のTFE共重合体の含有量は、50〜99.9質量%、好ましくは60〜99質量%、より好ましくは70〜95質量%である。
溶融成形可能なフッ素樹脂の形態としては、溶融成形に適した形態であれば特に限定されず、粉末状物、粉末状物の造粒品、粒状物、フレーク、ペレット、ビーズなどあらゆる形態を挙げることが出来る。
【0033】
本発明で用いられる平均粒径1μm未満の充填材は、紫外領域から可視領域において屈折率が高く、高反射率を有する光反射化合物であることが好ましい。この光反射化合物の平均粒径は、0.01μm〜1.0μm、好ましくは0.1μm〜1.0μm、より好ましくは0.2μm〜1.0μmである。光反射化合物の平均粒径が1.0μm以上になると、光散乱効果が低くなり、反射率が低下するため好ましくない。平均粒径は、例えば、粒子サイズアナライザー(例えばCILAS社製、CILAS990、CILAS1090、CILAS1190:ISO13320)などにより測定できる。このような充填材としては、市販品(例えば、Almatis、Inc.製, A16GS)も使用できる。
成形品中の充填材の混合状態は、電界放射型走査電子顕微鏡(例えば、SEM、日立製作所製、S−4500)を用いて観察することができる。
【0034】
充填材の屈折率は1.5以上であることが好ましい。屈折率が1.5未満の場合には、高い反射率を得ることが出来なくなるため好ましくない。
【0035】
また、屈折率が1.5以上である充填材のバンドギャップは、バンドギャップが4.0eV以上であることが好ましい。バンドギャップが4.0eV以下となる充填材は、光触媒と同様に320nm〜700nmの波長範囲において光を吸収するため、240nmの短波長において十分な反射率を得ることが出来ず好ましくない(非特許文献1)。
【0036】
この様な充填材としては、金属または金属酸化物などが挙げられ、例えば結晶系のαアルミナAl2O3(屈折率:1.7、バンドギャップ:8.8eV)、二酸化ハフニウムHfO2(屈折率:1.7、バンドギャップ:5.5eV)、二酸化ジルコニウムZrO2(屈折率:1.9、バンドギャップ:4.6eV)、Ta2O5(屈折率:2.2、バンドギャップ:4.2eV)などを挙げることができる。より好ましくは、α−アルミナである。
【0037】
フッ素樹脂組成物中の充填材は、0.1〜50質量%、好ましくは1〜40質量%、より好ましくは5〜30質量%である。充填材が0.1質量%未満の場合には、高反射率が得られなくなるため好ましくなく、充填材の割合が50質量%を超える場合には、フッ素樹脂組成物の溶融粘度が高くなり射出成形し難く、得られる成形品の強度および耐久性が低下するため好ましくない。
【0038】
TFE共重合体と充填材との混合は、溶融成形前であっても、溶融成形と同時であっても良い。また、混合方法としては、一般的に用いられている混合方法を用いることができ、例えば、共凝集法(特開2007−119769)、プラネタリーミキサー、高速インペラー分散機、ロータリードラム型ミキサー、スクリュー型ミキサー、ベルトコンベヤ混合方式、ボールミル、ペブルミル、サンドミル、ロールミル、アトライター、ビードミルなどの公知慣用の分散・混合機を用いて行うことが出来る。TFE共重合体と充填材を均一に分散出来る装置がより好ましい。
【0039】
溶融成形前に、TFE共重合体と充填材との混合を行って得られるフッ素樹脂組成物の形態は、粉末状物、粉末状物の造粒品、粒状物、フレーク、ペレット、ビーズなどあらゆる形態を挙げることが出来る。
【0040】
前記の混合方法以外に次のようなウェット混合方法もある。例えば、充填材を、担体として働く水溶液或いは有機溶液に溶解し、TFE共重合体にスプレーすることにより、充填材で被覆されたTFE共重合体を得ることが出来る。尚、前記の水溶液或いは有機溶液を飛ばすため、軽く乾燥することが好ましい。有機溶液としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、クロロホルム、アセトン、トルエンなどを挙げることが出来る。また、充填材に対する溶解性が高いものがより好ましい。
【0041】
フッ素樹脂組成物の溶融成形方法としては、従来公知の成形方法を用いることができ、例えば、圧縮成形、押出成形、トランスファー成形、ブロー成形、射出成形、回転成形、ライニング成形、発泡体押出成形、フィルム成形などを挙げることができるが、好ましくは押出成形或いは射出成形である。
【0042】
上記溶融成形方法により得られる成形品は、紫外領域から可視領域において反射率が低下することなく、耐熱性、耐光性、耐候性に優れ、且つ紫外線領域から可視線領域において高い反射率を有する成形品である。後記する測定方法で測定する240nm〜700nmの波長範囲における成形品の反射率の最大値と最小値の差が25%以内となり、安定した反射率を得ることが可能となる。また、240nm〜700nmの波長範囲における成形品の反射率は70%以上となる。
【0043】
波長240nm〜700nmにおける成形品の反射率は、溶融圧縮成形によって作製した厚み約1.5mmの試料の反射率を以下の条件で測定して得ることができる。試料表面の反射層に波長240nm〜700nmの光を入射角10°で照射し、試料背面に反射板を置かず透過光を逃がす方法で、検出器に積分球を搭載した分光光度計(日立製作所製U−4100)を用いて、正反射成分と拡散反射成分を含む分光反射率(標準白板を対照とした相対反射率)を波長毎に測定した。
【0044】
該成形品をLED用リフレクターとして用いることにより、紫外領域から可視領域において反射率が低下することなく、耐熱性、耐光性、耐候性に優れ、且つ紫外線領域から可視線領域において高い反射率を有する発光ダイオード用ハウジングを得ることが出来る。
【0045】
また、本発明におけるLED用リフレクターの形状は特に制限されず、図1に示される凹状のもののほか、例えば、図2に示されるように、テープ状またはシート状のフレキシブル基板上にLED発光素子を複数配置した場合、単膜で絶縁、接着、及びリフレクター機能を具備したカバーレイ層としても用いることが出来る。
【0046】
本発明においてハウジングは、LEDチップを実装したリフレクターを基板上に取り付けたものを指し、ここでLEDチップは封止材により封止される。
【実施例】
【0047】
以下に本発明を、実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、この説明は本発明を限定するものではない。
本発明において各物性の測定は、下記の方法によって行った。
【0048】
A.物性の測定
(1)融点(融解ピーク温度)
示差走査熱量計(Pyris1型DSC、パーキンエルマー社製)を用いた。試料約10mgを秤量して専用のアルミパンに入れ、専用のクリンパーによってクリンプした後、DSC本体に収納し、150℃から360℃まで10℃/分で昇温をする。この時得られる融解曲線から融解ピーク温度(Tm)を求めた。
【0049】
(2)メルトフローレート(MFR)
ASTM D−1238−95に準拠した耐食性のシリンダー、ダイ、ピストンを備えたメルトインデクサー(東洋精機製)を用いて、5gの試料粉末を372±1℃に保持されたシリンダーに充填して5分間保持した後、5kgの荷重(ピストン及び重り)下でダイオリフィスを通して押出し、この時の押出速度(g/10分)をMFRとして求めた。
【0050】
(3)反射率測定
溶融圧縮成形によって作製した厚み約1.5mmの試料の反射率を以下の条件で測定した。
試料表面の反射層に波長240nm〜700nmの光を入射角10°で照射し、試料背面に反射板を置かず透過光を逃がす方法で、検出器に積分球を搭載した分光光度計(日立製作所製U−4100)を用いて、正反射成分と拡散反射成分を含む分光反射率(標準白板を対照とした相対反射率)を波長毎に測定した。
【0051】
(4)熱処理試験
溶融圧縮成形することによって作成された厚み約1.5mm試料をすでに150℃に昇温された熱風循環式のオーブン(ESPEC SUPER−TEM.OVEN STPH−101)に入れて熱処理を行った。
【0052】
(5)溶融混練試験
フッ素樹脂と充填材とを表1に示した組成で、溶融混練装置(東洋精機製作所製、KF−70V小型セグメントミキサー)を5枚のKneading discsの位相を2pitchずらしたせん断の組み合わせで用いて、フッ素樹脂融点(約308℃)より約40℃高く、350℃、100rpmで5分間溶融混練し、混合組成物を得た。
【0053】
(6)充填材の分散状態観察
上記のフッ素樹脂複合体組成物を350℃で溶融圧縮成形することによって作成された厚み約1.5mm試料の破断面の走査電子顕微鏡(SEM、日立製作所製、S−4500)観察から充填材の均一分散状態を評価し、また充填材の一次粒子のサイズを表1にまとめた。
【0054】
B.原料
本発明の実施例、及び比較例で用いた原料は下記の通りである。
(1)パーフルオロフッ素樹脂(TFE/PAVE共重合体、PFA)
これらの実施例で用いられたTFE/PAVE共重合体は、フッ素樹脂PFA(三井・デュポンフロロケミカル社製PFA440HPJ)、融点308℃、メルトフローレート15g/10分を使用した。
【0055】
(2)比較例3、4、5に用いられたポリフタルアミド(PPA)複合体は、アモデルポリフタルアミド、融点324℃(ソルベイアドバンストポリマーズ製、A−4122NLWH905)である。
【0056】
(3)充填材
a)α−アルミナ:日本軽金属株式会社製、A31、平均粒径5.2μm
b)α−アルミナ:Almatis、Inc.製, A16GS、平均粒径0.5μm
c)二酸化チタン:富士チタン株式会社製、TA―300、平均粒径0.3μm
【0057】
(実施例1〜3)
アルミナ(A16GS)とフッ素樹脂PFAとを表1に示した組成で溶融混練装置(東洋精機製作所製、KF−70V小型セグメントミキサー)を5枚のKneading discsの位相を2 pitchずらしたせん断の組み合わせで用いて、350℃、100rpmで5分間溶融混練し、混合組成物を得た。電子顕微鏡で得た複合体組成物破断面(図4)からアルミナ分散状態を評価し、アルミナはPFAに均一に分散していることが分かった。また、複合体組成物を350℃で溶融圧縮成形することによって作成された厚み約1.5mm試料を作った。常温で試料の反射率を測定した。得た結果を表1にまとめた。
【0058】
(実施例4)
実施例3で作った複合体組成物を350℃で溶融圧縮成形することによって作成された厚み約1.5mm試料を作った。得たサンプルを150℃に昇温された熱風循環式のオーブンに入れて100時間熱処理を行った後、常温で反射率を測定した。得た結果を表2にまとめた。
【0059】
(実施例5)
実施例3で作った複合体組成物を350℃で溶融圧縮成形することによって作成された厚み約1.5mm試料を作った。得たサンプルを150℃に昇温された熱風循環式のオーブンに入れて500時間熱処理を行った後、常温で反射率を測定した。得た結果を表2にまとめた。
【0060】
(比較例1)
アルミナ(A31)とフッ素樹脂PFAとを表1に示した組成で溶融混練装置(東洋精機製作所製、KF−70V小型セグメントミキサー)を5枚のKneading discsの位相を2pitchずらしたせん断の組み合わせで用いて、350℃、100rpmで5分間溶融混練し、混合組成物を得た。電子顕微鏡で得た複合体組成物破断面(図5)からアルミナ分散状態を評価し、アルミナはPFAに均一に分散していることが分かった。また、複合体組成物を350℃で溶融圧縮成形することによって作成された厚み約1.5mm試料を作った。試料の反射率を測定した。得た結果を表1にまとめた。
【0061】
(比較例2)
二酸化チタン(TA−300)とフッ素樹脂とを表1に示した組成で、溶融混練装置(東洋精機製作所製、KF−70V小型セグメントミキサー)を5枚のKneading discsの位相を2pitchずらしたせん断の組み合わせで用いて、350℃、100rpmで5分間溶融混練し、混合組成物を得た。得た複合体組成物破断面から二酸化チタン分散状態を電子顕微鏡で評価し、二酸化チタンはPFAに均一に分散していることが分かった。また複合体組成物を350℃で溶融圧縮成形することによって作成された厚み約1.5mm試料を作った。試料の反射率を測定した。得た結果を表1にまとめた。
【0062】
(比較例3)
PPA複合体を340℃で溶融圧縮成形することによって作成された厚み約1.5mm試料を作った。得た試料の反射率を測定し、結果を表2にまとめた。
【0063】
(比較例4)
比較例3と同条件で作った試料を150℃に昇温された熱風循環式のオーブンに入れて100時間熱処理を行った後、常温で反射率を測定した。得た結果を表2にまとめた。
【0064】
(比較例5)
比較例3と同条件で作った試料を150℃に昇温された熱風循環式のオーブンに入れて空気中で、500時間熱処理を行ってから反射率を測定した。得た結果を表2にまとめた。
【0065】
(参考例1)
フッ素樹脂PFA440HPJを350℃で溶融圧縮成形することによって作成された厚み約1.5mm試料を作った。得た試料の反射率を常温で測定して表1にまとめた。
【0066】
(反射率のアルミナ添加量依存性)
実施例1では、5質量%の粒径の0.5μmアルミナ粒子をPFAに均一に分散すると、波長測定(240nm〜700nm)範囲で光を吸収せずに、70%の反射率を示すことがわかった。また、実施例1〜3に示したように、アルミナ添加量を20質量%まで増やすと、各波長での反射率が90%以上のレベルに達した。図3や表1に示したように、フッ素樹脂(参考例1)は光の透過率が高く、特に可視線領域には低い反射率を示したので、光反射材のアルミナを添加すると、反射率が増加した。
【0067】
(反射率のアルミナ粒径依存性)
実施例3では20質量%のアルミナ粒子をPFAに均一に分散することで、240nm〜700nm波長領域で90%以上の反射率を示した。一方、実施例3に使われたアルミナと同じ結晶(α−アルミナ)、同じ添加量(20質量%)で粒径の5μmのアルミナを添加すると、70%の反射率しか示さなかった。よって、アルミナの粒径を5μmから0.5μmに下げると、反射率は20%ほど上がることが分かった。
【0068】
(アルミナの光反射挙動)
実施例3では20質量%のアルミナ粒子をPFAに均一に分散すると、240nm〜700nm波長領域で光を吸収せずに90%以上の反射率を示した。一方、比較例2と図3に示したように、20質量%の二酸化チタンをPFAに均一に分散すると、可視線領域(400nm〜700nm)で90%以上の反射率を示したが、二酸化チタンが紫外線領域で光を吸収するので、400nm以下の領域で数%の反射率しか示さなかった。
【0069】
(反射率の熱処理時間依存性)
実施例4〜5では、フッ素樹脂の複合体を150℃、100時間または500時間で継続的に熱処理しても反射率が殆ど変わらないことが分かった。一方、比較例4、5からPPA複合体は実施例4、5と同じ条件で熱処理すると、試料に変色が起こり、図3に示したように可視線領域での反射率が大幅に落ちた。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明により、紫外領域から可視領域において反射率が低下することなく、且つ耐熱性・耐光性・耐候性に優れるLED用リフレクター及びこれを有するハウジングが提供される。
240nm〜700nmの波長範囲におけるフッ素樹脂組成物を成形して得られる成形品の反射率の最大値と最小値の差が25%以内となり、安定した反射率を得ることが可能となる。また、240nm〜700nmの波長範囲における該成形品の反射率は70%以上の高反射率を得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0073】
1 封止材
2 LEDチップ
3 リフレクター
4 基板
5 ハウジング
6 間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径1μm未満の充填材を含むフッ素樹脂組成物を成形して得られる発光ダイオード用リフレクターであって、波長240nm〜700nmにおける反射率の最大値と最小値の差が25%以内である発光ダイオード用リフレクター。
【請求項2】
フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレンの単独重合体、及び/またはテトラフルオロエチレンと、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、ビニリデンフルオライド、ビニルフルオライド、エチレン、プロピレンから選ばれる少なくとも1種のモノマーとの共重合体から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の発光ダイオード用リフレクター。
【請求項3】
平均粒径1μm未満の充填材の屈折率が1.5以上である請求項1または2に記載の発光ダイオード用リフレクター。
【請求項4】
平均粒径1μm未満の充填材が、金属または金属酸化物である請求項1〜3のいずれかに記載の発光ダイオード用リフレクター。
【請求項5】
金属または金属酸化物が、結晶系のαアルミナ、二酸化ハフニウム、二酸化ジルコニウム、五酸化タンタルから選ばれる少なくとも1種である請求項4に記載の発光ダイオード用リフレクター。
【請求項6】
波長240nm〜380nmにおける反射率が70%以上である、請求項1〜5のいずれかに記載の発光ダイオード用リフレクター。
【請求項7】
平均粒径0.1〜1.0μmの結晶系のαアルミナ微粒子を含有するフッ素樹脂組成物を成形して得られる、請求項1〜6のいずれかに記載の発光ダイオード用リフレクター。
【請求項8】
平均粒径1μm未満の充填材の含有量が、フッ素樹脂組成物全体に対して0.1〜50質量%である請求項1〜7のいずれかに記載の発光ダイオード用リフレクター。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の発光ダイオード用リフレクターを有するハウジング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−244058(P2012−244058A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114924(P2011−114924)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000174851)三井・デュポンフロロケミカル株式会社 (59)
【Fターム(参考)】