説明

発光デバイスおよび表示装置

【課題】高精細で大面積化が容易な発光デバイスであって、低コストで製造することができる発光デバイスを提供する。
【解決手段】第1の基線、該第1の基線の外周面の少なくとも一部に設置されたカソード層、および少なくとも該カソード層の外周面を覆うように設置された第1の有機層を有する第1のワイヤと、第2の基線、該第2の基線の外周面の少なくとも一部に設置されたアノード層、および該アノード層の外周面を覆うように設置された第2の有機層を有する第2のワイヤとを有し、第1のワイヤは、第1の方向に配向され、第2のワイヤは、第1の方向とは異なる第2の方向に配向され、第2のワイヤは、該第2のワイヤの第2の有機層が、第1のワイヤの第1の有機層と接触部を形成するように、第1のワイヤに対して配置され、第1の有機層および第2の有機層のうち少なくとも一つは、発光材料を含み、前記接触部が発光部となる、発光デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンスを利用した発光デバイスおよびそのような発光デバイスを備える表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電圧の印加または電流の流通等により発光させることができる有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子が注目されている。有機EL素子は、自己発光型で視野角依存性が少ないため、表示特性が良く、さらに低消費電力であるなどの特徴を有することから、フラットディスプレイなどの表示装置および照明装置への利用が期待されている。また、有機EL素子は、低温での製作が可能であり、プラスチックフィルムを基板とした、可撓性ディスプレイおよび可撓性照明装置への適用も期待されている。例えば、プラスチックフィルム基板上に、有機EL層が設置された有機ELディスプレイが提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2006−85916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これまでに報告されている有機EL素子は、ガラス板、プラスチックなどの平面基板上に、アノード層、発光層を含む複数の有機層、およびカソード層を積層し、これらの積層領域を絶縁壁で区画して、複数の画素領域を設けた構造となっている。このような構造の有機EL素子を比較的容易に製作するため、通常の場合、有機EL素子の製作には、リソグラフィー技術、マスキング技術およびエッチング技術の組み合わせが利用され、例えば、前述の画素を構成する電極、発光層などの各構成部材は、基板上に微細2次元マトリクスのパターンとして構成される。
【0004】
しかしながら、従来の製造方法で製作される2次元マトリクスパターンの各構成部材の寸法幅には限界があり、各構成部材を今以上に微細化させることは、次第に難しくなってきている。また、この理由から有機EL素子のさらなる高精細化を達成することも難しくなってきている。
【0005】
さらに、従来のような有機EL素子の構造では、各構成部材の寸法および配置を高精度に維持したまま大面積化を行うことは難しく、また仮に大面積化が可能であったとしても、その場合、製造装置の設備が大がかりなものとなり、これに伴い装置の製造コストが著しく上昇してしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、高精細で大面積化が容易な発光デバイスであって、低コストで製造することができる発光デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、
第1の基線、該第1の基線の外周面の少なくとも一部に設置されたカソード層、および少なくとも該カソード層の外周面を覆うように設置された第1の有機層を有する第1のワイヤと、第2の基線、該第2の基線の外周面の少なくとも一部に設置されたアノード層、および該アノード層の外周面を覆うように設置された第2の有機層を有する第2のワイヤとを有し、
第1のワイヤは、第1の方向に配向され、第2のワイヤは、第1の方向とは異なる第2の方向に配向され、
第2のワイヤは、該第2のワイヤの第2の有機層が、第1のワイヤの第1の有機層と接触部を形成するように、第1のワイヤに対して配置され、
第1の有機層および第2の有機層のうち少なくとも一つは、発光材料を含み、前記接触部が発光部となる、発光デバイスが提供される。
【0008】
ここで、当該発光デバイスは、前記第1のワイヤを複数本含む第1のワイヤ群と、前記第2のワイヤを複数本含む第2のワイヤ群とを有し、
第1のワイヤ群と第2のワイヤ群は、直交するように配向されていても良い。
【0009】
特に、前記第1のワイヤと前記第2のワイヤは、相互に編み込まれていても良い。
【0010】
また、当該発光デバイスにおいて、前記カソード層とアノード層のうち少なくとも一つは、それぞれの対応する基線の外周面に全周にわたって設置されていても良い。
【0011】
あるいは、当該発光デバイスにおいて、前記第1の基線および前記第2の基線のうち少なくとも一つは、導電性材料で構成され、該基線においては、カソード層またはアノード層が排除されていても良い。
【0012】
この場合、前記導電性材料で構成された基線においては、第1の有機層または第2の有機層が、該基線の外周面に全周にわたって設置されていても良い。
【0013】
なお、前記第1の有機層および前記第2の有機層のうち少なくとも一つは、発光材料を含む高分子材料で構成されても良い。
【0014】
また、前記第1の基線および前記第2の基線のうち少なくとも一つは、ガラスファイバもしくは高分子樹脂ファイバで構成されても良い。
【0015】
さらに、本発明では、前述の発光デバイスと、
前記第1のワイヤ群と前記第2のワイヤ群の間に電圧を印加する電圧印加手段とを備え、
前記電圧印加手段を用いて、所定の第1のワイヤおよび第2のワイヤに選択的に電圧を印加することにより、所定の接触部で発光が生じる、表示装置が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、高精細で大面積化が容易な発光デバイスを低コストで製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下図面により本発明の形態を説明する。
【0018】
図1には、本発明による発光デバイスの概略的な上面図を示す。また、図2には、図1のA−A断面図を示す。
【0019】
図1に示すように、本発明による発光デバイス100は、第1のワイヤ群12Xと、第2のワイヤ群12Yとを有する。第1のワイヤ群12Xは、水平方向(X方向)に延伸する、複数の(図1の例では、10本の)第1のワイヤ120Xを有する。第2のワイヤ群12Yは、第1のワイヤ120Xと直交する方向(Y方向)に延伸する、複数の(図1の例では、10本の)第2のワイヤ120Yを有する。第1のワイヤ群12Xに含まれる各第1のワイヤ120Xは、Y方向に対して一定のピッチdxで、XY平面内に整列配置されている。第2のワイヤ群12Yに含まれる各第2のワイヤ120Yは、第1のワイヤ群12Xの上部に、X方向に対して一定のピッチdyで、XY平面内に整列配置されている。
【0020】
図2は、この発光デバイス100のA−A断面の一部を模式的に示したものである。この図に示すように、第1のワイヤ120Xは、基線130Xと、該基線130Xの周囲に設置された第1の電極(カソード)層140Xと、該第1の電極140X上に設置された第1の有機層150Xとを有する。同様に、第2のワイヤ120Yは、基線130Yと、該基線130Yの周囲に設置された第2の電極(アノード)層140Yと、該第2の電極140Y上に設置された第2の有機層150Yとを有する。第1の有機層150Xと第2の有機層150Yのうちの少なくとも一方は、発光材料を含む。
【0021】
第1のワイヤ120Xの第1の有機層150Xと、第2のワイヤ120Yの第2の有機層150Yとは、例えば第1のワイヤ群12Xと、その上部に配置された第2のワイヤ群12Yとを圧接すること等により、両者の交点で接触されている。この接触部は、発光デバイス100の発光部180を構成し、以下に示すように、発光デバイス100の作動の際に、発光部180から発光が生じる。すなわち、本発明による発光デバイスでは、第1のワイヤ群12Xと、第2のワイヤ群12Yとの各接触部が、一つ一つの画素を構成する。
【0022】
再度図1を参照すると、各ワイヤ120X、120Yの端部から突出している部分190Xおよび190Yは、各ワイヤの電圧印加用端子であり、これらの電圧印加用端子190Xおよび190Yは、それぞれ、第1のワイヤ120Xの基線130Xまたはカソード層140X、および第2のワイヤ120Yの基線130Yまたはアノード層140Yと接続されている。あるいは、これらの電圧印加用端子は、基線、カソード層またはアノード層の内の少なくとも一つの延伸部分であっても良い。
【0023】
次に、本発明による発光デバイスの発光動作について説明する。なお、以下の記載では、本発明による発光デバイスを表示装置に適用した場合を例にして、発光デバイスの発光動作を説明する。
【0024】
図3には、前述の発光デバイス100を有する表示装置200を示す。この表示装置200は、発光デバイス100を、パッシブマトリクス駆動方式で駆動することにより、画像を表示させることができる。
【0025】
表示装置200は、さらに、電圧印加手段210と、この電圧印加手段210を制御する制御手段220とを備える。ただし、電圧印加手段210と制御手段220は、一体化されていても良い。
【0026】
電圧印加手段210は、発光デバイス100のワイヤ群12Xを構成する各ワイヤ120X1、120X2、…120Xnの電圧印加用端子190X、およびワイヤ群12Yを構成する各ワイヤ120Y1、120Y2、…120Ynの電圧印加用端子190Yと接続されている。
【0027】
制御手段220は、表示すべき画像情報に基づいて、発光デバイス100の第1のワイヤ群12Xを構成する各ワイヤ120X1、120X2、…120Xn、および第2のワイヤ群12Yを構成する各ワイヤ120Y1、120Y2、…120Ynのうち、どのワイヤ組(120Xe,120Ye)に、選択的に電圧を印加するかを定める。また制御手段220は、選択されたワイヤ組に関する情報を、電圧印加手段210に送信する。電圧印加手段210は、制御手段220からそのような情報を受信し、この情報に従って、対応するワイヤ組(120Xe,120Ye)に電圧を印加する。印加電圧は、例えば20V程度である。なお印加電圧は、ワイヤ120Xeが卑(マイナス側)となり、ワイヤ120Yeが貴(プラス側)となるようにして印加される。
【0028】
所定のワイヤ組(120Xe,120Ye)に電圧が印加されると、選択された第1のワイヤ120Xeのカソード層130Xから第1の有機層150Xに向かって、電子が注入される。同様に、選択された第2のワイヤ120Yeのアノード層130Yから第2の有機層150Yに向かって、正孔(ホール)が注入される。従って、第1のワイヤ120Xeと第2のワイヤ120Yeの交差部、すなわち前述の発光部180では、発光材料が存在する領域において、第1の有機層150X内を進行する電子と、第2の有機層150Y内を進行するホールとが再結合され、これにより発光が生じる。
【0029】
このように、制御手段220を用いて、電圧印加手段210により電圧を印加するワイヤ組(120Xe,120Ye)を選択的に選定することにより、所望の発光部で発光を生じさせることができる(パッシブマトリクス駆動方式)。またこれにより、発光デバイスにおいて、所望の画像を表示させることが可能となる。
【0030】
なお、以上の記載では、本発明による発光デバイスが表示装置に適用された場合について示した。しかしながら、本発明による発光デバイスは、例えば照明装置のような他の装置に使用されても良いことは当業者には明らかであろう。
【0031】
このように構成された本発明による発光デバイスは、以下のような有意な特徴を有する:すなわち、
(1)前述のように構成された本発明による発光デバイスでは、発光デバイスの画素寸法は、第1および第2のワイヤの接触部、すなわち両ワイヤの外形寸法で定まり、第1および第2のワイヤの寸法を小さくすることにより、発光デバイスを容易に高精細化することができる。例えば、従来のEL素子では、各画素の寸法は、通常200μm程度であるが、本発明による発光デバイスでは、一つの画素の寸法を、例えば、50μm以下にすることができる。
(2)また、本発明による発光デバイスでは、第1のワイヤ群および第2のワイヤ群に含まれるワイヤの本数を増やすことにより、大面積の装置を比較的簡単に製作することができる。
(3)また、第1および第2のワイヤは、いずれも細線で構成されているため、本発明による発光デバイスは、可撓性を有し、必要に応じて形状を自由に変えることができるという特徴を有する。
(4)さらに、本発明の発光デバイスでは、各ワイヤを、例えば、基線を所定の溶液中に浸漬処理するような方法で比較的容易に製作することができる。従って、従来のように、リソグラフィー処理、マスキング処理およびエッチング処理などの各工程を繰り返して、基板上に各構成部材(電極、発光層、絶縁層等)を2次元マトリクスパターン状に構築して、画素領域を形成する必要がなくなるため、発光デバイスを低コストで製作することができる。
【0032】
次に、第1のワイヤ120Xおよび第2のワイヤ120Yの構成について、より詳しく説明する。
【0033】
図4には、第1のワイヤ120Xと第2のワイヤ120Yの接触領域、すなわち発光部180での層の積層状態を模式的に示したものである。なお図には、スケールは示されておらず、各層の厚さは、実際の厚さに対応していないことに留意する必要がある。
【0034】
この図に示すように、発光部180は、図の下側から、基線130X、カソード層140X、第1の有機層150X、第2の有機層150Y、アノード層140Y、および基線130Yをこの順に積層されて構成される。ここで、基線130X〜第1の有機層150Xまでが第1のワイヤ120Xの構成部材であり、第2の有機層150Y〜基線130Yまでが第2のワイヤ120Yの構成部材である。
【0035】
第1の有機層150Xと第2の有機層150Yの少なくとも一方は、発光層を含む。図4の例では、両者が発光層を備えている(第1の有機層150Xは、発光層155Xを有し、第2の有機層150Yは、発光層155Yを有している)。発光層155X、155Yには、有機エレクトロルミネッセンス特性を示すいかなる材料を使用しても良く、例えば、ポリフェニレンビニレン誘導体およびポリフルオレン誘導体などの蛍光発光の共役系高分子材料、またはイリジウム、白金錯体構造を有するリン光発光の高分子材料等が使用される。あるいは、低分子材料を高分子樹脂に分散したもの、または溶液から塗布形成できる低分子系材料を使用しても良い。有機層の厚さは、特に限られず、例えば1nm〜1000nm程度である。なお、第1および第2の有機層150X、150Yがそれぞれ、発光層155Xおよび155Yを有する場合、発光層155Xおよび155Yは、同じ層であっても異なっていても良い。
【0036】
このような発光層は、ワイヤを構成する基線130X、130Yを、例えば、1〜10wt%程度の発光層原料を含む溶液中に浸漬後、引き上げ、乾燥固着させることによって、基線の外周面に容易に形成することができる。
【0037】
第1の有機層150Xは、発光層155Xに加えてまたは単独で、電子輸送層158Xを含んでも良い。電子輸送層158Xは、電子を選択的に輸送する特性を有するいかなる材料を使用しても良い。電子輸送層158Xには、これに限られるものではないが、例えばオキサジアゾール系高分子、イミダゾール系高分子などを含む高分子材料が使用されても良い。ただし、この電子輸送層158Xは、省略しても良い。
【0038】
第2の有機層150Yは、発光層155Yに加えてまたは単独で、正孔輸送層158Yを含んでも良い。正孔輸送層158Yは、正孔(ホール)を選択的に輸送する特性を有するいかなる材料を使用しても良い。正孔輸送層158Yには、これに限られるものではないが、例えば芳香族アミン系高分子などが使用される。ただし、この正孔輸送層158Yは、省略しても良い。
【0039】
図4には示されていないが、第1の有機層150Xは、カソード層140Xと電子輸送層158Xの間に、さらに電子注入層を有しても良い。また、第2の有機層150Yは、アノード層140Yと正孔輸送層158Yの間に、さらに正孔注入層を有しても良い。必要に応じて多層構造にすることができ、これにより、発光効率が一層向上する。
【0040】
なお、第1の有機層150Xが発光層155Xを有する場合、第2の有機層150Yは、それ自身を省略することが可能である。この場合、第2のワイヤ120Yは、基線130Yとアノード140Yのみで構成される(後述のように、基線130Yが導電性材料で構成される場合、基線130Yで、アノード層140Yの役割を兼ねることも可能である)。同様に、第2の有機層150Yが発光層を有する場合、第1の有機層150Xは、省略することが可能である。
【0041】
第1のワイヤ120Xの基線130X、および第2のワイヤ120Yの基線130Y、は、金属、プラスチック等、いかなる材料で構成されても良い。例えば、デバイスの軽量化の観点からは、高分子樹脂(プラスチック)ファイバまたはガラスファイバ等が使用される。また、基線130X、121Yの軸方向に対して垂直な断面形状は、いかなる形状であっても良く、図2に示すような円の他、楕円、矩形または正方形などであっても良い。この断面形状の面積は、強度が維持される限り、できる限り小さいことが好ましい。例えば、断面が円形の場合、基線130X、130Yの直径は、約10μm〜1mm程度の範囲であることが好ましい。
【0042】
カソード層140Xは、導電性を示すいかなる材料で構成されても良く、例えば、金属または合金、導電性高分子、および導電性酸化物等が使用できる。金属としては、これに限られるものではないが、マグネシウム、カルシウムまたはアルミニウムのバルク材、ならびにアルミニウムにマグネシウムまたはカルシウムを薄くコーティングしたものが挙げられる。導電性高分子としては、これに限られるものではないが、例えばポリエチレンオキシチオフェン:ポリスルフォンサン(PEDT:PSS)混合物、ポリピロール、およびポリアニリン等が挙げられる。導電性酸化物としては、これに限られるものではないが、例えば酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム(In)、および酸化インジウム亜鉛(IZO)等が挙げられる。カソード層の厚さは、特に限られないが、カソード層が薄い場合、抵抗が上昇する傾向にあり、カソードが厚い場合、発光デバイスの可撓性が低下する。従って、10nm〜1μmの範囲であることが好ましく、通常の場合、100nm〜200nmの範囲である。
【0043】
カソード層140Xは、いかなる方法で基線130Xの外周面に設置されても良く、例えば、めっき、真空蒸着または浸漬のいずれかの処理で設置されても良い。特に、浸漬処理では、基線の外周面に、低コストで容易にカソード層を設置することができる。
【0044】
アノード層140Yは、カソードと同様、金属または合金、導電性高分子、および導電性酸化物等が使用できる。金属としては、これに限られるものではないが、仕事関数の大きなもの、例えば白金が挙げられる。導電性高分子としては、これに限られるものではないが、例えばポリエチレンオキシチオフェン:ポリスルフォンサン(PEDT:PSS)混合物、ポリピロール、およびポリアニリン等が挙げられる。導電性酸化物としては、これに限られるものではないが、例えば酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム(In)、および酸化インジウム亜鉛(IZO)等が挙げられる。アノード層の厚さは、特に限られないが、アノード層が薄い場合、抵抗が上昇する傾向にあり、アノード層が厚い場合、発光デバイスの可撓性が低下する。従って、10nm〜1μmの範囲であることが好ましく、通常の場合、100nm〜200nmの範囲である。
【0045】
アノード層140Yは、いかなる方法で基線130Yの外周面に設置されても良く、例えば、めっき、真空蒸着または浸漬のいずれかの処理で設置されても良い。特に、浸漬処理では、基線の外周面に、低コストで容易にアノード層を設置することができる。
【0046】
なお、カソード層140Xおよびアノード層140Yは、それぞれの基線130Xおよび130Yが導電性を有する場合、省略しても良い。
【0047】
また、発光デバイスの観察される方向にも依存するが、第1のワイヤ120Xを構成する各構成部材組(基線、カソード層、有機層)と、第2のワイヤ120Yを構成する各構成部材組(基線、アノード層、有機層)のいずれかは、光学的に透明であることが好ましい。これにより、図4の上下いずれかの方向から観察した際の、発光デバイスの発光輝度が高まる。その場合、光学的に透明であることが好ましい基線には、透明ガラスファイバまたは透明高分子樹脂ファイバを使用し、透明であることが好ましい電極には、透明導電性酸化物または透明導電性高分子を使用しても良い。
【0048】
なお、図1に示す本発明による発光デバイスは、第1のワイヤと第2のワイヤを配設してから、これに樹脂ペースト、プラスチックペースト等を含浸、固定化させることにより、全体を樹脂、プラスチック等で被覆しても良い。これにより、可撓性を維持したまま、発光デバイスが水や酸素等の侵入から保護され、寿命を延伸させることができる。
【0049】
図5には、本発明による発光デバイスの別の構成例を示す。この例では、発光デバイス500は、第1のワイヤ520Xと第2のワイヤ520Yが交互に上下となるように、両ワイヤが相互に編み込まれて構成されている。この場合、図1に示した発光デバイス100に比べて、各ワイヤ同士の接触状態がより安定となり、発光部においてより安定な発光特性が得られるようになる。なお、この構成形態では、第1のワイヤ520Xを構成する各構成部材組(基線、カソード層、有機層)、および第2のワイヤ520Yを構成する各構成部材組(基線、アノード層、有機層)には、いずれも光学的に透明である材料が使用されることが好ましい。
【0050】
上記記載の構成において、本発明の概念から逸脱せずに、多くの変更および修正を行うことが可能であることは、当業者には明らかである。例えば、上記例では、第1のワイヤ120Xがカソード層を有し、第2のワイヤ120Yがアノード層を有する場合を例に、本発明の特徴を説明したが、これとは逆に、第1のワイヤ120Xがアノード層を有し、第2のワイヤ120Yがカソード層を有する構成とすることも可能である。この場合、その他の構成部材は、適正に選択され、例えば、有機層が正孔輸送層および電子輸送層を有する場合、第1のワイヤ120Xの第1の有機層が正孔輸送層を有し、第2のワイヤ120Yの第2の有機層が電子輸送層を有するように構成されることは言うまでもない。
【0051】
また図2においては、カソード層140Xおよびアノード層140Yは、それぞれ基線130Xおよび130Yの外周面に全面にわたって設置されているが、本発明の態様は、これに限られるものではなく、カソード層140Xおよびアノード層140Yは、それぞれ基線130Xおよび130Yの外周面の一部に設置されていても良い。
【0052】
また、カソード層140Xおよびアノード層140Yが基線130Xおよび130Yの外周面の一部にのみ設置されている場合、第1の有機層150Xおよび第2の有機層150Yは、それぞれカソード層140Xおよびアノード層140Yの外周部分のみを覆うように設置されても良い。ただしこのような場合であっても、第1のワイヤ120Xと第2のワイヤ120Yの接触部、すなわち発光部180においては、図4に示す積層構造が維持されるように、各構成部材を配置する必要があることに留意する必要がある。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0054】
まず最初に、以下の方法により、基線と、発光層とを有する第1のワイヤを製作した。
【0055】
直径が100μmのアルミニウム線(長さ10cm)の表面を、アセトンおよびエタノールで十分に洗浄した後、3wt%の濃度のポリフルオレンを含むトルエン溶液中に、このアルミニウム線を浸漬させた。次に、アルミニウム線を約1mm/秒の速度で引き上げた。これにより、表面に約100nmの厚さのポリフルオレン薄膜が形成された。その後、このアルミニウム線を100℃で1時間乾燥させて、アルミニウム線の外周面に、ポリフルオレンを固定させた。これにより、導電性基線(アルミニウム線)の外周面に発光層(ポリフルオレン)が形成された第1のワイヤが得られた。なお、ポリフルオレンの構造式は、以下のように表される。
【0056】
【化1】


次に、以下の方法により、基線と、正孔輸送層とを有する第2のワイヤを製作した。直径が100μmのアルミニウム線(長さ10cm)の表面を、アセトンおよびエタノールで十分に洗浄した後、3wt%の濃度のポリエチレンオキシチオフェン:ポリスルフォン酸(PEDT:PSS)を含む水溶液中にこのアルミニウム線を浸漬させた。次に、アルミニウム線を約1mm/秒の速度で引き上げた。これにより、外周面に約50nmの厚さの薄膜が形成された。その後、このアルミニウム線を180℃で1時間乾燥処理し、アルミニウム線の表面に、ポリエチレンオキシチオフェンを固定させた。これにより、導電性基線(アルミニウム線)の外周面に正孔輸送層(ポリエチレンオキシチオフェン)が形成された第2のワイヤが得られた。なお、PEDT:PSSの構造式は、以下のように表される。
【0057】
【化2】

次に、このようにして得られた第1のワイヤと第2のワイヤとを(1本ずつ)交差させ、交点で両者を接触させた。さらに、外部から、第1のワイヤ側が負となるようにして、第1および第2のワイヤ間に、20Vの電圧を印加した。その結果、両ワイヤの接触部から、橙色の発光が観測された。この発光のスペクトルは、ポリフルオレンのフォトルミネッセンススペクトル(波長580nm)と一致した。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、映像や情報を表示する表示装置、ならびに照明機器に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明による発光デバイスの上面図である。
【図2】図1のA−A断面の一部を模式的に示した拡大図である。
【図3】本発明による発光デバイスを備える表示装置の一例を概略的に示した図である。
【図4】発光部における各層の積層構造を模式的に示した図である。
【図5】本発明による別の発光デバイスの上面図である。
【符号の説明】
【0060】
12X 第1のワイヤ群
12Y 第2のワイヤ群
100、500 発光デバイス
120X、520X 第1のワイヤ
120Y、520Y 第2のワイヤ
130X 第1の基線
130Y 第2の基線
140X 第1の電極(カソード)層
140Y 第2の電極(アノード)層
150X 第1の有機層
150Y 第2の有機層
180 発光部
200 表示装置
210 電圧印加手段
220 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基線、該第1の基線の外周面の少なくとも一部に設置されたカソード層、および少なくとも該カソード層の外周面を覆うように設置された第1の有機層を有する第1のワイヤと、第2の基線、該第2の基線の外周面の少なくとも一部に設置されたアノード層、および該アノード層の外周面を覆うように設置された第2の有機層を有する第2のワイヤとを有し、
第1のワイヤは、第1の方向に配向され、第2のワイヤは、第1の方向とは異なる第2の方向に配向され、
第2のワイヤは、該第2のワイヤの第2の有機層が、第1のワイヤの第1の有機層と接触部を形成するように、第1のワイヤに対して配置され、
第1の有機層および第2の有機層のうち少なくとも一つは、発光材料を含み、前記接触部が発光部となる、発光デバイス。
【請求項2】
当該発光デバイスは、前記第1のワイヤを複数本含む第1のワイヤ群と、前記第2のワイヤを複数本含む第2のワイヤ群とを有し、
第1のワイヤ群と第2のワイヤ群は、直交するように配向されていることを特徴とする請求項1に記載の発光デバイス。
【請求項3】
前記第1のワイヤと前記第2のワイヤは、相互に編み込まれていることを特徴とする請求項2に記載の発光デバイス。
【請求項4】
前記カソード層とアノード層のうち少なくとも一つは、それぞれの対応する基線の外周面に全周にわたって設置されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の発光デバイス。
【請求項5】
前記第1の基線および前記第2の基線のうち少なくとも一つは、導電性材料で構成され、該基線においては、カソード層またはアノード層が排除されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の発光デバイス。
【請求項6】
前記導電性材料で構成された基線においては、第1の有機層または第2の有機層が、該基線の外周面に全周にわたって設置されていることを特徴とする請求項5に記載の発光デバイス。
【請求項7】
前記第1の有機層および前記第2の有機層のうち少なくとも一つは、発光材料を含む高分子材料で構成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の発光デバイス。
【請求項8】
前記第1の基線および前記第2の基線のうち少なくとも一つは、ガラスファイバもしくは高分子樹脂ファイバで構成されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載の発光デバイス。
【請求項9】
前記請求項2または3に記載の発光デバイスと、
前記第1のワイヤ群と前記第2のワイヤ群の間に電圧を印加する電圧印加手段とを備え、
前記電圧印加手段を用いて、所定の第1のワイヤおよび第2のワイヤに選択的に電圧を印加することにより、所定の接触部で発光が生じる、表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−305864(P2008−305864A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−149695(P2007−149695)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】