説明

発光プローブ及び発光体

【課題】Sc、Zn等の金属イオンの発光プローブを提供すること。
【解決手段】テトラ−2−ピリジニルピラジン又はその誘導体からなる発光プローブ。テトラ−2−ピリジニルピラジン又はその誘導体の金属錯体からなる発光体。上記発光プローブを用いて発光を観測する、金属の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光プローブ及び発光体に関し、より詳しくは、テトラ−2−ピリジニルピラジン又はその誘導体からなる発光プローブ、及び、テトラ−2−ピリジニルピラジン又はその誘導体を配位子とする金属錯体からなる発光体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体系又は環境中の微量金属の検出には、発光プローブが用いられている。微量金属と発光プローブとが結合すると、発光する性質を利用し、この発光を測定することにより、微量金属を検知するものである。典型的には、蛍光を発すると考えられている。従来、NaやK等のアルカリ金属イオン、並びに、Mg2+、Ca2+等のアルカリ土類金属イオンを検出する発光プローブないし蛍光プローブは広く知られている。例えば、東京大学、薬学部、長野哲雄教授グループは、一酸化窒素プローブ、マグネシウムイオンプローブ、亜鉛イオンプローブ、一重項酸素プローブ、ヒドロシキラジカルプローブなどを開発しており、これらのプローブの多くは蛍光プローブである。
【0003】
非特許文献1は、亜鉛イオンを選択的に検出する発光プローブについて記載している。非特許文献1では、この発光プローブを選択的亜鉛センサーと称している。この発光プローブは、N,N−ビス(2−ピリジルメチル)エチレンジアミンの窒素原子に、ベンゼン環を介して、キサンテン(xanthene)骨格を導入した構造を有する(例えば、ZnAF−2、ZnAF−2M、ZnAF−2MM)。
【0004】
特許文献1は、亜鉛イオン蛍光センサーに関し、具体的には、N,N,N’,N’−テトラキス(2−キノリルメチル)エチレンジアミン及びその誘導体などの発光プローブを亜鉛イオン蛍光センサーと称している。特許文献1では、N,N,N’,N’−テトラキス(2−キノリルメチル)エチレンジアミン中のキノリル基に置換基が導入された誘導体も開示されている。特許文献1は、[(N,N,N’,N’−テトラキス(2−キノリルメチル)エチレンジアミン)亜鉛](ClOの物性を開示し、この錯体の単結晶X線構造解析も示している。N,N,N’,N’−テトラキス(2−キノリルメチル)エチレンジアミンそのものは蛍光を発しないが、この亜鉛錯体は、発光する。
【0005】
しかし、亜鉛イオン、スカンジウムイオン等の金属イオンを検出する発光プローブについては、報告例が限られている。生体系においては、亜鉛イオンを含有するタンパク質が多数存在することから、微量亜鉛イオンの検知は重要である。これまで知られている発光プローブでは、亜鉛イオンと作用する部分と発光部とが別であり、構造が複雑で合成上難しいか、あるいは選択性、感度等の点で改善の余地が多い。また、スカンジウムイオンを検出する発光プローブは、発明者等が調査した範囲では、未だ知られていない。
【0006】
一方、蛍光灯、発光ダイオード(LED)等の照明装置、プラズマディスプレイパネルなどの画像表示装置などには、発光体が用いられている。これらの発光体には、通常、複合酸化物などの無機物質が用いられている。
【0007】
しかし、有機系配位子が配位している金属錯体も将来、蛍光灯、発光ダイオード(LED)などの照明装置、プラズマディスプレイパネルなど画像表示装置の発光体に用いられる可能性もある。このような金属錯体では、有機系配位子を修飾することにより、発光体の物性を変え、様々な用途にカスタマイズすることができると考えられる。
【0008】
非特許文献2は、2,3,5,6−テトラ−2−ピリジニルピラジン及び2,3,5,6−テトラキス(6−メチルピリジン−2−イル)ピラジン、並びに、ビス[2,3,5,6−テトラ−2−ピリジニルピラジン]鉄錯塩、ビス[2,3,5,6−テトラ−2−ピリジニルピラジン]ニッケル錯塩、ビス[2,3,5,6−テトラ−2−ピリジニルピラジン]コバルト錯塩、ビス[2,3,5,6−テトラ−2−ピリジニルピラジン]ルテニウム錯塩、モノ[2,3,5,6−テトラ−2−ピリジニルピラジン]アクア銅錯塩、モノ[2,3,5,6−テトラ−2−ピリジニルピラジン]クロロ銅錯塩を開示している。しかし、非特許文献1は、これらの錯塩が、発光することは記載していない。
【0009】
【特許文献1】特開2005−194244号公報
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.2005、127、10197−10204
【非特許文献2】Goodwin,H.A.;Lions,F.,J.Am.Chem.Soc.1959、81、6415−6422
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発光プローブは、金属イオン等のターゲットと特異的に反応し、特異的な発光変化を起こすことが求められる。そこで、溶媒中の微量の金属イオンを検出するために、発光効率が高く、かつ、発光強度の高い発光プローブが待ち望まれていた。また、発光体の物性を変え、様々な用途にカスタマイズすることができる有機系発光体が待ち望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面では、テトラ−2−ピリジニルピラジン又はその誘導体(ただし、誘導体は、テトラ−2−ピリジニルピラジンのピリジン環中の任意の水素原子が、それぞれ、独立に、同一又は異なって、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基(−NH)、カルバモイル基(−CONH)、C〜C炭化水素基、C〜Cアルコキシ基、Cアリーロキシ基、C〜Cアシル基、C〜Cアシロキシ基、C〜Cアルコシキシカルボニル基、式−NHR21で示される基(式中、R21は、C〜Cアルキル基)、式−NR2122で示される基(式中、R21及びR22は、独立に、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、式−C(O)−NHR21で示される基(式中、R21は、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、式−C(O)−NR2122で示される基(式中、R21及びR22は、独立に、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、5〜7員炭素環、又は、1〜3個の酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を含む5〜7員複素環で置換されている。)からなることを特徴とする、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Ce)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)又は水銀(Hg)を検出するための発光プローブが提供される。
【0012】
本発明の他の側面では、式(1)で示される発光体が提供される。
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、Mは、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Ce)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)又は水銀(Hg)であり;
nは、1〜3の整数であり;
mは、1〜4の整数であり;
Lは、同一又は異なって、金属(M)に配位している配位子であり;
ただし、テトラ−2−ピリジニルピラジン配位子中の任意のピリジン環中の任意の水素原子は、それぞれ、独立に、同一又は異なって、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基(−NH)、カルバモイル基(−CONH)、C〜C炭化水素基、C〜Cアルコキシ基、Cアリーロキシ基、C〜Cアシル基、C〜Cアシロキシ基、C〜Cアルコシキシカルボニル基、式−NHR21で示される基(式中、R21は、C〜Cアルキル基)、式−NR2122で示される基(式中、R21及びR22は、独立に、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、式−C(O)−NHR21で示される基(式中、R21は、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、式−C(O)−NR2122で示される基(式中、R21及びR22は、独立に、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、5〜7員炭素環、又は、1〜3個の酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を含む5〜7員複素環で置換されていてもよい。)
【0015】
本発明において、Mは、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Ce)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド又は亜鉛(Zn)であることが好ましく、テトラ−2−ピリジニルピラジン配位子中の任意のピリジン環中の任意の水素原子は、それぞれ、独立に、同一又は異なって、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基(−NH)、カルバモイル基(−CONH)、C〜C炭化水素基、C〜Cアルコキシ基、Cアリーロキシ基、C〜Cアシル基、C〜Cアシロキシ基、C〜Cアルコシキシカルボニル基、式−NHR21で示される基(式中、R21は、C〜Cアルキル基)、式−NR2122で示される基(式中、R21及びR22は、独立に、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、式−C(O)−NHR21で示される基(式中、R21は、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、式−C(O)−NR2122で示される基(式中、R21及びR22は、独立に、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、5〜7員炭素環、又は、1〜3個の酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を含む5〜7員複素環で置換されていてもよい。
【0016】
本発明において、Mがスカンジウムであることが好ましい。
【0017】
本発明の他の側面では、上記の発光体を含む、照明装置が提供される。
【0018】
本発明の他の側面では、金属を検出する方法であって;前記金属は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Ce)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)又は水銀(Hg)であり;溶媒と、テトラ−2−ピリジニルピラジン又はその誘導体(ただし、誘導体は、テトラ−2−ピリジニルピラジンのピリジン環中の任意の水素原子が、それぞれ、独立に、同一又は異なって、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基(−NH)、カルバモイル基(−CONH)、C〜C炭化水素基、C〜Cアルコキシ基、Cアリーロキシ基、C〜Cアシル基、C〜Cアシロキシ基、C〜Cアルコシキシカルボニル基、式−NHR21で示される基(式中、R21は、C〜Cアルキル基)、式−NR2122で示される基(式中、R21及びR22は、独立に、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、式−C(O)−NHR21で示される基(式中、R21は、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、式−C(O)−NR2122で示される基(式中、R21及びR22は、独立に、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、5〜7員炭素環、又は、1〜3個の酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を含む5〜7員複素環で置換されている。)と、被分析物と、を混合し、混合溶液を得る工程と;前記混合溶液に光を照射する工程と;前記混合溶液の発光を観測する工程と;を含み、前記観測工程において、前記混合溶液が発光している場合に、前記被分析物中に、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Ce)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)又は水銀(Hg)が存在していること、又は、その濃度が検出できることを特徴とする、金属を検出する方法が提供される。
【0019】
本発明において、Mは、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Ce)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド又は亜鉛(Zn)であることが好ましく、テトラ−2−ピリジニルピラジン配位子中の任意のピリジン環中の任意の水素原子は、それぞれ、独立に、同一又は異なって、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基(−NH)、カルバモイル基(−CONH)、C〜C炭化水素基、C〜Cアルコキシ基、Cアリーロキシ基、C〜Cアシル基、C〜Cアシロキシ基、C〜Cアルコシキシカルボニル基、式−NHR21で示される基(式中、R21は、C〜Cアルキル基)、式−NR2122で示される基(式中、R21及びR22は、独立に、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、式−C(O)−NHR21で示される基(式中、R21は、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、式−C(O)−NR2122で示される基(式中、R21及びR22は、独立に、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、5〜7員炭素環、又は、1〜3個の酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を含む5〜7員複素環で置換されていてもよい。
【0020】
また、Mがスカンジウムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の発光プローブは、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Ce)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)又は水銀(Hg)を検出することができる。また、発光を高感度で検知できるので、これらの金属が微量ないし低濃度であっても検出することができる。また、スカンジウムイオンを検出することができる発光プローブは極めて珍しく、本発明の発光プローブは、スカンジウムイオンを検出することができる世界で最初の発光プローブと考えられる。
【0022】
本発明の発光体は、蛍光灯、発光ダイオード(LED)等の照明装置、プラズマディスプレイパネルなどの画像表示装置などに用いることができる。また、本発明の発光体では、テトラ−2−ピリジニルピラジン配位子中のピリジン環に置換基を導入して修飾することにより、発光体の物性を変え、様々な用途にカスタマイズすることができる。
【0023】
本発明の方法は、新規な発光プローブを用いることにより、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Ce)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)又は水銀(Hg)が微量ないし低濃度であっても検出することができる。また、本発明の方法は、溶媒として水を用いて、空気中で実施することもできるので、水又は空気中の酸素に触れると分解する化合物を取り扱うのと異なり、操作が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の一側面では、テトラ−2−ピリジニルピラジン又はその誘導体からなる発光プローブが提供される。本発明の発光プローブ、即ち、テトラ−2−ピリジニルピラジン又はその誘導体と所定の金属とが結合すると、発光するので、この発光を測定することにより、金属を検出することができる。発光は高感度で測定することができるので、微量ないし低濃度の金属も検出することができる。なお、テトラ−2−ピリジニルピラジン又はその誘導体そのものは発光しない。
発光プローブは、他の文献では、蛍光プローブと称されていることも多い。しかし、本発明の発光プローブの発光メカニズムは、蛍光であると考えられるが、蛍光であるとは断定できない。そこで、本明細書では、「蛍光プローブ」という用語ではなく、必ずしも蛍光に限定されていない「発光プローブ」という用語を用いる。
【0025】
本発明の発光プローブで検出することができる金属は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Ce)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)又は水銀(Hg)である。ランタノイドには、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)、Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、及び、Lu(ルテチウム)が含まれる。
一方、テトラ−2−ピリジニルピラジンは、鉄などの第8族元素、コバルトなどの第9族元素、ニッケルなどの第10族元素、銅などの第11族元素とも金属錯体を形成することができる。しかし、これらの金属錯体は発光しないので、本発明の発光プローブは、これらの金属を検出することはできない。
【0026】
テトラ−2−ピリジニルピラジン誘導体は、テトラ−2−ピリジニルピラジンのピリジン環中の任意の水素原子が、それぞれ、独立に、同一又は異なって、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基(−NH)、カルバモイル基(−CONH)、C〜C炭化水素基、C〜Cアルコキシ基、Cアリーロキシ基、C〜Cアシル基、C〜Cアシロキシ基、C〜Cアルコシキシカルボニル基、式−NHR21で示される基(式中、R21は、C〜Cアルキル基)、式−NR2122で示される基(式中、R21及びR22は、独立に、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、式−C(O)−NHR21で示される基(式中、R21は、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、式−C(O)−NR2122で示される基(式中、R21及びR22は、独立に、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、5〜7員炭素環、又は、1〜3個の酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を含む5〜7員複素環で置換されている。
【0027】
本明細書において、C〜C炭化水素基には、C〜Cアルキル基;C〜Cアルケニル基;C〜Cアルカンジエニル基;C〜Cアルキニル基などが含まれる。C〜C炭化水素基は、C〜C炭化水素基であることが好ましい。例えば、C〜Cアルキル基;C〜Cアルケニル基;Cアルカンジエニル基;C〜Cアルキニル基が好ましい。
【0028】
〜Cアルコキシ基は、C〜Cアルコキシ基が好ましい。C〜Cアシル基は、C〜Cアシル基が好ましい。C〜Cアシロキシ基は、C〜Cアシロキシ基が好ましい。C〜Cアルコシキシカルボニル基は、C〜Cアルコシキシカルボニル基が好ましい。
【0029】
本明細書では、式−NHR21で示される基(式中、R21は、C〜Cアルキル基)、式−NR2122で示される基(式中、R21及びR22は、独立に、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、式−C(O)−NHR21で示される基(式中、R21は、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、及び、式−C(O)−NR2122で示される基(式中、R21及びR22は、独立に、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)において、R21及びR22は、独立に、同一又は異なって、C〜Cアルキル基が好ましい。
【0030】
本明細書において、ハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を意味し、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が好ましい。
【0031】
5〜7員炭素環は、飽和環であってもよいし、不飽和環であってもよいし、芳香族環、即ち、ベンゼン環であってもよい。5〜7員炭素環は、5〜6員炭素環が好ましい。
【0032】
1〜3個の酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を含む、5〜7員複素環としては、フラン、チオフェン、ピロール、2H−ピロール、ピラン、チオピラン、ピリジン、オキサゾール(oxazole)、イソキサゾール(isoxazole)、チアゾール、イソチアゾール、フラザン、イミダゾール、ピラゾール、ピロリジン(pyrrolidine)、イミダゾリジン(imidazolidine)、ピラゾリジン(pyrazolidine)、ピペリジン(piperidine)、ピペラジン(piperazine)、ピロリン(pyrroline)、イミダゾリン(imidazoline)、ピラゾリン(pyrazoline)、モルフォリン(morpholine)、アゼピンなどが挙げられる。「1〜3個の酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を含む5〜7員複素環」は、飽和環であってもよいし、不飽和環であってもよい。1〜3個の酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を含む、5〜7員複素環は、1〜2個の酸素原子又は窒素原子を含む、5〜7員複素環が好ましく、1〜2個の酸素原子又は窒素原子を含む、5〜6員複素環が更に好ましい。
【0033】
テトラ−2−ピリジニルピラジン誘導体の合成を容易にするため、テトラ−2−ピリジニルピラジン誘導体中の4つの2−ピリジニル基が同一であることが好ましい。
【0034】
テトラ−2−ピリジニルピラジンは、商業的に入手することができる。また、Goodwin,H.A.;Lions,F.,J.Am.Chem.Soc.1959、81、6415−6422に記載されている方法により合成することができる。
【0035】
また、テトラ−2−ピリジニルピラジン誘導体も、テトラ−2−ピリジニルピラジンと同様に、Goodwin,H.A.;Lions,F.,J.Am.Chem.Soc.1959、81、6415−6422に記載されている方法により合成することができる。
【0036】
【化2】

【0037】
(式中、R、R及びRは、それぞれ、独立に、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基(−NH)、カルバモイル基(−CONH)、C〜C炭化水素基、C〜Cアルコキシ基、Cアリーロキシ基、C〜Cアシル基、C〜Cアシロキシ基、C〜Cアルコシキシカルボニル基、式−NHR21で示される基(式中、R21は、C〜Cアルキル基)、式−NR2122で示される基(式中、R21及びR22は、独立に、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、式−C(O)−NHR21で示される基(式中、R21は、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、式−C(O)−NR2122で示される基(式中、R21及びR22は、独立に、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、5〜7員炭素環、又は、1〜3個の酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を含む5〜7員複素環である。)
【0038】
有機溶媒中で、式(4)で示されるα−ピリドン誘導体及び過剰量の酢酸アンモニウムを混合し、加熱することにより、式(3a)に示されるテトラ−2−ピリジニルピラジン誘導体を得ることができる。加熱温度は、例えば、150〜300℃の範囲であり、160〜250℃の範囲であることが更に好ましい。
【0039】
式(4)で示されるα−ピリドン誘導体及び式(3a)に示されるテトラ−2−ピリジニルピラジン誘導体において、ピリジン環中の3位の炭素原子に、置換基が導入されていないのは、構造式に書き表すための便宜上に過ぎず、ピリジン環中の3位の炭素原子に置換基を導入しないことが好ましい旨を示すものではない。即ち、これらの誘導体のピリジン環中の3位の炭素原子に置換基Rを記載すると、隣接するピリジン環中の3位の炭素原子の置換基Rと重なってしまうからである。従って、α−ピリドン誘導体及びテトラ−2−ピリジニルピラジン誘導体のピリジン環中の3位の炭素原子に、R、R及びRと同様の置換基が導入されていてもよい。
【0040】
テトラ−2−ピリジニルピラジン誘導体は、フリーデルクラフツアルキル化反応、フリーデルクラフツアシル化反応、ハロゲン化、スルホン化、ニトロ化などにより、テトラ−2−ピリジニルピラジンに置換基を導入することにより調製することもできる。
【0041】
本発明の発光体は、上述した式(1)で示される。式(1)において、金属(M)に配位しているテトラ−2−ピリジニルピラジン又はその誘導体は、発光プローブとして上述した通りである。本発明の発光体において、Mは、発光プローブとして検出できる金属と同様であり、上述したとおりである。典型的には、上述した式(1)で示される発光体は、水中でも安定であり、また、空気中でも安定である。
【0042】
nは、金属(M)の酸化数を示し、1〜3の整数であり、2又は3であることが好ましく、2であることが好ましい。酸化数が2の場合には、酸化数が3の場合より、発光強度が高いことが観察されたからである。
【0043】
Lは、同一又は異なって、金属(M)に配位している配位子である。Lは、例えば、アセトニトリル(CHCN)、トリフレート(OSOCF)、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子)、水(アクア配位子)、アンミン(NH)、テトラアルキレンジアミン(アルキレン基は、1〜6の炭素原子、好ましくは2〜3の炭素原子を有する)等である。
【0044】
mは、配位子(L)の数であり、1〜4の整数である。この配位子の数は、金属(M)の種類により異なる。
【0045】
次に、本発明の発光体の製造方法を説明する。
【0046】
【化3】

【0047】
(式中、M、n、m及びLは、上記の意味である。Xは、Mの対イオンであり、lは、整数であり、典型的には、1〜3の整数である。)
【0048】
本発明の発光体(1)は、テトラ−2−ピリジニルピラジン又はその誘導体(3)と、式Mn+(X)で示される金属塩とを反応させることにより製造することができる。典型的には、本発明の発光体は、テトラ−2−ピリジニルピラジン又はその誘導体が溶媒に溶解している溶液に、金属塩を添加することにより、合成することができる。本発明の一実施形態では、空気中、大気圧、室温で、テトラ−2−ピリジニルピラジン又はその誘導体及び金属塩を水に添加し、混合してもよい。
【0049】
金属塩中の対イオン(X)としては、例えば、トリフレート、パークロレートなどの無機陰イオン、及び、テトラキスペンタフルオロボレート等の有機陰イオンを用いることができる。
【0050】
1モルのテトラ−2−ピリジニルピラジン又はその誘導体に対し、1モル以上の金属塩を用いることが好ましく、1〜10モルの金属塩を用いることが好ましく、1〜5モルの金属塩を反応させることが更に好ましく、1〜3モルの金属塩を用いることが更になお好ましい。1モルのテトラ−2−ピリジニルピラジン又はその誘導体に対し、1モル未満の金属塩を用いた場合には、下記式(2)で示す化合物が生成するので、過剰量の金属塩を用いることが好ましい。
【0051】
【化4】

【0052】
(式中、M及びnは、上記の意味である。)
【0053】
反応は、溶媒中で行われる。即ち、反応は、気相ではなく、液相で行われる。溶媒は有機溶媒であってもよいし、水であってもよいし、有機溶媒と水との混合溶媒であってもよい。有機溶媒は極性溶媒であることが更に好ましい。金属塩の溶解度は、極性溶媒が無極性溶媒より高いからである。有機溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、1−メチルー2−プロリドン、アセトン、アセトニトリル、ジエチルエーテルなどを用いることができる。
【0054】
反応温度は、例えば、−20℃〜80℃であってもよく、0℃〜60℃であってもよく、10℃〜40℃であってもよく、室温であってもよい。
【0055】
反応圧力は、例えば、0.1〜10気圧であってもよく、好ましくは0.5〜3気圧、更に好ましくは0.8〜1.5気圧、更になお好ましくは、ほぼ1気圧の圧力下で行われてもよい。
【0056】
反応は、空気中で行ってもよいし、不活性雰囲気下で行ってもよい。不活性雰囲気としては、窒素又はアルゴン雰囲気が挙げられる。
【0057】
本発明の金属を検出する方法は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Ce)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)又は水銀(Hg)を検出することができる。あるいは、これらの金属の何れかの濃度を測定することができる。即ち、これらの金属の定性分析又は定量分析をすることができる。
【0058】
本発明の方法では、まず、溶媒と、テトラ−2−ピリジニルピラジン又はその誘導体と、被分析物と、を混合し、混合溶液を得る。この工程は、本発明の一実施態様では、まず、テトラ−2−ピリジニルピラジン又はその誘導体を有機溶媒に溶解し、テトラ−2−ピリジニルピラジン又はその誘導体の溶液を調製する。次いで、テトラ−2−ピリジニルピラジン又はその誘導体の溶液に、被分析物を添加する。このとき、被分析物は固体であってもよいし、液体であってもよい。例えば、固体の被分析物を溶媒に溶解し、溶液を調整し、この溶液を、テトラ−2−ピリジニルピラジン又はその誘導体の溶液に添加してもよい。また、混合工程の前に、必要に応じて、被分析物の前処理をする。
【0059】
一方、本発明の他の実施態様では、まず、被分析物を溶媒に溶解し、溶液を調整し、この溶液にテトラ−2−ピリジニルピラジン又はその誘導体を添加する。
【0060】
次いで、前記混合溶液に光を照射する。この光は、紫外線を含むことが好ましい。光は、例えば、180〜800nmの波長を有してもよく、180〜500nmの波長を有してもよく、200nm〜400nmの波長を有していてもよい。
【0061】
また、前記混合溶液の発光、典型的には蛍光を観測する。この観測工程は、照射工程と同時であってもよい。また、混合工程、照射工程及び観測工程が同時であってもよい。本発明の一実施態様では、テトラ−2−ピリジニルピラジン又はその誘導体の溶液に、被分析物を添加し、混合している状態において、光を照射し、かつ、発光を観測する。
【0062】
この観測工程において、前記混合溶液が発光している場合に、前記被分析物中に、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Ce)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)又は水銀(Hg)が存在していることが検出できる。発光のピーク波長により、被分析物中の金属を同定することができる。
【0063】
本発明の方法で用いる溶媒は、上記発光体を合成するときに用いる溶媒と同様である。また、上記混合工程、上記照射工程及び上記観測工程の温度、圧力及び雰囲気も、上記発光体を合成するときの温度、圧力及び雰囲気と同様である。
【実施例】
【0064】
テトラ−2−ピリジニルピラジン、スカンジウムトリフレート、[Sc(OSOCF]、及び、亜鉛トリフレート、[Zn(OSOCF]をアルドリッチから購入した。イットリウムトリフレート[Y(OSOCF]をACROSから購入した。無水マグネシウムパークロレート[Mg(ClO]及びカルシウムパークロレート[Ca(ClO]をNacalai Tesqueから購入した。
【0065】
特に言及されていない限り、溶媒は、蒸留されており、不活性雰囲気下で反応が行われた。しかし、実施例1及び2で得られる錯塩は、空気中でも安定であり、また、水に触れても安定である。
【0066】
紫外可視吸収スペクトルは、ヒューレットパッカード8453 ダイオードアレイ分光分析器で測定した。
【0067】
H−NMRは、JEOL JNM−GSX−400(300MHz)スペクトロメーターで測定した。
【0068】
発光スペクトルは、島津スペクトロフルオロホトメーター(RF−5000)により、アセトニトリル溶液中で測定した。発光スペクトルを測定する前に、アセトニトリル溶液をアルゴンで8分間、パージすることにより、脱気した。
【0069】
実施例1
モノ[2,3,5,6−テトラ−2−ピリジニルピラジン]スカンジウム錯塩、及び、ビス[2,3,5,6−テトラ−2−ピリジニルピラジン]スカンジウム錯塩
約25℃にて、テトラ−2−ピリジニルピラジン(適宜、tpytrzという略語で示す)のアセトニトリル溶液(5.5x10−5M)に、スカンジウムトリフレート、[Sc(OSOCF]を徐々に添加した。これにより、スカンジウムトリフレートの濃度を、0から1.1x10−4Mにまで変化させた。
【0070】
同時に、この溶液の紫外可視吸収スペクトル(図2)及び発光スペクトル(図3)を観察した。
【0071】
図2の紫外可視吸収スペクトルでは、Sc3+濃度の増大に応じて、262nm、276nm、302nm及び311nmのピークが増大した。280nmにおけるピークは、テトラ−2−ピリジニルピラジンの濃度に対して丁度0.5当量のSc3+濃度で飽和に達した。このピークは、テトラ−2−ピリジニルピラジンとSc3+との2:1錯体、即ち、[(tpyprz)Sc3+]に由来するものであると考えられる。
【0072】
図3は、2:1錯体を含むアセトニトリル溶液の発光スペクトルも示している。この結果、この2:1錯体は少ししか発光を示さないことがわかった。
【0073】
さらに、テトラ−2−ピリジニルピラジンの濃度に対して0.5当量を超えて、更にSc3+を添加すると、図2において、1:1錯体の生成に伴う紫外可視吸収スペクトル変化が観測された。即ち、Sc3+を添加するにつれて、303nmのピークにおける吸光度が増大し、テトラ−2−ピリジニルピラジンの濃度に対して約1等量のSc3+濃度で飽和した。
【0074】
図3は、1:1錯体を含むアセトニトリル溶液の発光スペクトルも示している。1:1錯体は、2:1錯体と対照的に、非常に強い発光を示すことがわかった。この1:1錯体の励起スペクトル(図3中の破線)は、1:1錯体由来の紫外可視吸収スペクトルとほぼ一致した。なお、実施例1で得られた1:1錯体では、Sc3+に配位している配位子は、テトラ−2−ピリジニルピラジンと、アセトニトリル、及び/又は、トリフレート(OSOCF)であると考えられる。即ち、実施例1で得られた1:1錯体では、上記式(1)中のLは、アセトニトリル又はトリフレート(OSOCF)である。反応系にこれら以外のスピーシズが存在していないからである。
【0075】
次に、2:1錯体、即ち、[(tpyprz)Sc3+]と、1:1錯体、即ち、[(tpyprz)Sc3+]の錯形成平衡を利用した金属イオン濃度の検知について検討した。図5に示すように、テトラ−2−ピリジニルピラジンに対して0.5当量以下のSc3+濃度ではほとんど発光しないが(OFF)、0.5当量以上のSc3+存在下で発光(ON)するようになり、約1等量のSc3+濃度でその発光強度は飽和した。
【0076】
即ち、Sc3+が0.5当量を超えると発光(ON)するようになる。従って、未知濃度のSc3+イオン溶液に対して、テトラ−2−ピリジニルピラジン溶液を滴定することにより、発光を観測することでSc3+イオン濃度を決定することができる。
【0077】
図8(a)、(b)及び(c)は、H−NMRチャートを示す。図8(a)は、テトラ−2−ピリジニルピラジン(5.0x10−4M)のH−NMRチャートであり、Sc3+イオンは溶液に存在しない。
【0078】
図8(b)は、2:1錯体、[(tpyprz)Sc3+]のH−NMRチャートを示す。具体的には、この溶液は、1.1x10−2Mのテトラ−2−ピリジニルピラジン及び5.3x10−3MのSc3+イオンから得られたものである。即ち、この溶液には、5.3x10−3Mの[(tpyprz)Sc3+]が含まれている。
【0079】
H−NMR(CDCN):δ 8.48(d,J=4.5Hz,4H),8.14(d,J=7.2Hz,4H),8.04(t,J=4.5Hz,4H),7.62(t,J=7.2Hz,4H)
【0080】
図8(c)は、1:1錯体、[(tpyprz)Sc3+]のH−NMRチャートを示す。具体的には、この溶液は、1.1x10−2Mのテトラ−2−ピリジニルピラジン及び1.1x10−2MのSc3+イオンから得られたものである。即ち、この溶液には、1.1x10−2Mの[(tpyprz)Sc3+]が含まれている。
【0081】
H−NMR(CDCN):δ 8.93(d,J=5.4Hz,4H),8.73(d,J=7.8Hz,4H),8.48(t,J=7.8Hz,4H),7.99(t,J=5.4Hz,4H)
【0082】
実施例2
実施例1と同様に、テトラ−2−ピリジニルピラジンのアセトニトリル溶液(1.6x10−5M)に、それぞれ、イットリウムトリフレート[Y(OSOCF]、亜鉛トリフレート[Zn(OSOCF]、無水マグネシウムパークロレート[Mg(ClO]、及び、カルシウムパークロレート[Ca(ClO]を徐々に添加した。
【0083】
テトラ−2−ピリジニルピラジンが、これらの金属イオンと2:1錯体、[(tpyprz)−Mn+]及び1:1錯体、[tpyprz−Mn+]を形成し、1:1錯体が2:1錯体よりも非常に強く発光することがわかった(式中、Mn+は、Y3+、Zn2+、Mg2+、及びCa2+である。)。
【0084】
次に、1:1錯体、[tpyprz−Mn+](式中、Mn+は、Sc3+、Y3+、Zn2+、Mg2+、及びCa2+である。)の発光強度が金属イオンにどのように依存するかを調べた。その結果、この1:1錯体は三価の金属イオン(Sc3+,Y3+)を用いた場合に比べて二価の金属イオン(Zn2+,Mg2+,Ca2+)を用いた場合の方が5倍以上もその発光強度が増大することがわかった(図7)。
【0085】
実施例3
テトラ−2−ピリジニルピラジンのアセトニトリル溶液(5.0x10−7M)に、それぞれ、スカンジウムトリフレート[Sc(OSOCF](1.2x10−2M)、イットリウムトリフレート[Y(OSOCF](6.2x10−3M)、亜鉛トリフレート[Zn(OSOCF](1.1x10−2M)、無水マグネシウムパークロレート[Mg(ClO](8.2x10−1M)、カルシウムパークロレート[Ca(ClO](1.2x10−2M)(8.8x10−1M)、ホロニウムトリフレート[Ho(OSOCF](3.4x10−3M)、バリウムパークロレート[Ba(ClO](9.8x10−1M)、ユーロピウムトリフレート[Eu(OSOCF](1.1x10−2M)、ランタンビス(トリフルオロスルホニル)アミド[LaN(SOCF](9.8x10−3M)、リチウムパークロレート[Li(ClO)](8.1x10−1M)、ルテチウムトリフレート[Lu(OSOCF](4.0x10−3M)、ネオジムトリフレート[Nd(OSOCF](2.8x10−2M)、及び、ストロンチウムパークロレート[Sr(ClO](7.5x10−1M)のアセトニトリル溶液を添加した。
【0086】
得られた溶液の写真及び蛍光量子収率を、それぞれ、図9(a)及び(b)に示す。得られた溶液の蛍光スペクトル、励起スペクトル、及び、紫外可視分光分析吸収スペクトルを、それぞれ、図10(a)、(b)及び(c)に示す。得られた溶液についてのデータを表1にまとめる。
【0087】
【表1】

【0088】
表1中、金属塩は、出発原料を示す。ΔEは、O2・−との金属錯体における結合エネルギーを示す。rは、金属イオン半径を示す。Φは、テトラ−2−ピリジニルピラジンとの金属錯体の蛍光量子収率を示す。λmaxは、テトラ−2−ピリジニルピラジンとの金属錯体の蛍光スペクトルの発光ピーク波長(nm)を示す。λe1max及びλe2maxはテトラ−2−ピリジニルピラジンとの金属錯体の励起スペクトルのピーク波長(nm)を示す。
【0089】
比較例1
ビス[2,3,5,6−テトラ−2−ピリジニルピラジン]鉄錯塩
硫酸鉄(II)をテトラ−2−ピリジニルピラジンのアセトニトリル溶液(1.6x10−5M)に添加し、ビス[2,3,5,6−テトラ−2−ピリジニルピラジン]鉄錯塩を合成した。アセトニトリル中でこの鉄錯塩が発光しないことを確認した。
【0090】
参考例1
2,3,5,6−テトラキス(6−メチルピリジン−2−イル)ピラジン
Goodwin, H. A.;Lions,F.,J.Am.Chem.Soc.1959、81、6415−6422に記載されている方法に従って、標記化合物を合成した。具体的には、6,6’−ジメチル−α−ピリドン(8.6g)及び酢酸アンモニウム(35g)を混合し、30分かけて徐々に室温から180℃に加熱し、180℃〜200℃にて3時間保持した。冷却後、混合物から結晶性の固体を得た。エタノールから再結晶することにより、無色柱状結晶を得た(3.6g、46%)。その融点は、227℃であった。この反応を下記化学式に示す。
【0091】
【化5】

【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】テトラ−2−ピリジニルピラジン(tpyprz)と、Sc3+イオンとが反応して、2:1錯体、[(tpyprz)Sc3+]が生成し、更に、1:1錯体、[(tpyprz)Sc3+]が生成することを示すスキームである。
【図2】1:1錯体、[(tpyprz)Sc3+]及び2:1錯体、[(tpyprz)Sc3+]を含むアセトニトリル溶液の紫外可視分光分析吸収スペクトルである。
【図3】1:1錯体、[(tpyprz)Sc3+]及び2:1錯体、[(tpyprz)Sc3+]を含むアセトニトリル溶液の発光スペクトルである。
【図4】紫外線照射下における、アセトニトリル中の1:1錯体、[(tpyprz)Sc3+](右側)及び2:1錯体、[(tpyprz)Sc3+](左側)の写真である。2:1錯体が1:1錯体より強く発光していることが分かる。
【図5】テトラ−2−ピリジニルピラジン(tpyprz)のアセトニトリル溶液の発光強度が、Sc3+イオン濃度に依存することを示すグラフである。このグラフの縦軸は、発光強度である。
【図6】紫外線照射下における、アセトニトリル中の1:1錯体、[(tpyprz)Mn+](式中、Mn+は、Sc3+、Y3+、Znn+、Mg2+、及びCa2+である。)の写真である。Znn+、Mg2+及びCa2+が、Sc3+及びY3+より強く発光していることが分かる。
【図7】紫外線照射下における、アセトニトリル中の1:1錯体、[(tpyprz)Mn+](式中、Mn+は、Sc3+、Y3+、Znn+、Mg2+、及びCa2+である。)の蛍光強度を示すグラフである。このグラフの縦軸は、発光強度である。
【図8】(a)テトラ−2−ピリジニルピラジン(5.0x10−4M)のH−NMRチャートを示す。(b)2:1錯体、[(tpyprz)Sc3+]のH−NMRチャートを示す。(c)1:1錯体、[(tpyprz)Sc3+]のH−NMRチャートを示す。
【図9】(a)紫外線照射下における、アセトニトリル中のテトラ−2−ピリジニルピラジンと金属との1:1錯体の写真である。(b)テトラ−2−ピリジニルピラジンを含む金属錯体の蛍光量子収率である。
【図10】(a)テトラ−2−ピリジニルピラジンを含む金属錯体の蛍光スペクトルである。(b)テトラ−2−ピリジニルピラジンを含む金属錯体の励起スペクトルである。(c)テトラ−2−ピリジニルピラジンを含む金属錯体の紫外可視分光分析吸収スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラ−2−ピリジニルピラジン又はその誘導体(ただし、誘導体は、テトラ−2−ピリジニルピラジンのピリジン環中の任意の水素原子が、それぞれ、独立に、同一又は異なって、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基(−NH)、カルバモイル基(−CONH)、C〜C炭化水素基、C〜Cアルコキシ基、Cアリーロキシ基、C〜Cアシル基、C〜Cアシロキシ基、C〜Cアルコシキシカルボニル基、式−NHR21で示される基(式中、R21は、C〜Cアルキル基)、式−NR2122で示される基(式中、R21及びR22は、独立に、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、式−C(O)−NHR21で示される基(式中、R21は、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、式−C(O)−NR2122で示される基(式中、R21及びR22は、独立に、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、5〜7員炭素環、又は、1〜3個の酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を含む5〜7員複素環で置換されている。)からなることを特徴とする、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Ce)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)又は水銀(Hg)を検出するための発光プローブ。
【請求項2】
式(1)で示される発光体。
【化1】


(式中、Mは、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Ce)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)又は水銀(Hg)であり;
nは、1〜3の整数であり;
mは、1〜4の整数であり;
Lは、同一又は異なって、金属(M)に配位している配位子であり;
ただし、テトラ−2−ピリジニルピラジン配位子中の任意のピリジン環中の任意の水素原子は、それぞれ、独立に、同一又は異なって、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基(−NH)、カルバモイル基(−CONH)、C〜C炭化水素基、C〜Cアルコキシ基、Cアリーロキシ基、C〜Cアシル基、C〜Cアシロキシ基、C〜Cアルコシキシカルボニル基、式−NHR21で示される基(式中、R21は、C〜Cアルキル基)、式−NR2122で示される基(式中、R21及びR22は、独立に、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、式−C(O)−NHR21で示される基(式中、R21は、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、式−C(O)−NR2122で示される基(式中、R21及びR22は、独立に、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、5〜7員炭素環、又は、1〜3個の酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を含む5〜7員複素環で置換されていてもよい。)
【請求項3】
Mは、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Ce)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド又は亜鉛(Zn)であり、
テトラ−2−ピリジニルピラジン配位子中の任意のピリジン環中の任意の水素原子は、それぞれ、独立に、同一又は異なって、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基(−NH)、カルバモイル基(−CONH)、C〜C炭化水素基、C〜Cアルコキシ基、Cアリーロキシ基、C〜Cアシル基、C〜Cアシロキシ基、C〜Cアルコシキシカルボニル基、式−NHR21で示される基(式中、R21は、C〜Cアルキル基)、式−NR2122で示される基(式中、R21及びR22は、独立に、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、式−C(O)−NHR21で示される基(式中、R21は、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、式−C(O)−NR2122で示される基(式中、R21及びR22は、独立に、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、5〜7員炭素環、又は、1〜3個の酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を含む5〜7員複素環で置換されていてもよい、
請求項2に記載されている発光体。
【請求項4】
Mがスカンジウムである請求項2又は3に記載されている発光体。
【請求項5】
請求項2〜4の何れかに記載されている発光体を含む、照明装置。
【請求項6】
金属を検出する方法であって;
前記金属は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Ce)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)又は水銀(Hg)であり;
溶媒と、テトラ−2−ピリジニルピラジン又はその誘導体(ただし、誘導体は、テトラ−2−ピリジニルピラジンのピリジン環中の任意の水素原子が、それぞれ、独立に、同一又は異なって、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基(−NH)、カルバモイル基(−CONH)、C〜C炭化水素基、C〜Cアルコキシ基、Cアリーロキシ基、C〜Cアシル基、C〜Cアシロキシ基、C〜Cアルコシキシカルボニル基、式−NHR21で示される基(式中、R21は、C〜Cアルキル基)、式−NR2122で示される基(式中、R21及びR22は、独立に、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、式−C(O)−NHR21で示される基(式中、R21は、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、式−C(O)−NR2122で示される基(式中、R21及びR22は、独立に、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、5〜7員炭素環、又は、1〜3個の酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を含む5〜7員複素環で置換されている。)と、被分析物と、を混合し、混合溶液を得る工程と;
前記混合溶液に光を照射する工程と;
前記混合溶液の発光を観測する工程と;
を含み、
前記観測工程において、前記混合溶液が発光している場合に、前記被分析物中に、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Ce)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)又は水銀(Hg)が存在していること、又は、その濃度が検出できることを特徴とする、金属を検出する方法。
【請求項7】
Mは、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Ce)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド又は亜鉛(Zn)であり、
テトラ−2−ピリジニルピラジン配位子中の任意のピリジン環中の任意の水素原子は、それぞれ、独立に、同一又は異なって、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基(−NH)、カルバモイル基(−CONH)、C〜C炭化水素基、C〜Cアルコキシ基、Cアリーロキシ基、C〜Cアシル基、C〜Cアシロキシ基、C〜Cアルコシキシカルボニル基、式−NHR21で示される基(式中、R21は、C〜Cアルキル基)、式−NR2122で示される基(式中、R21及びR22は、独立に、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、式−C(O)−NHR21で示される基(式中、R21は、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、式−C(O)−NR2122で示される基(式中、R21及びR22は、独立に、同一又は異なって、C〜Cアルキル基)、5〜7員炭素環、又は、1〜3個の酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を含む5〜7員複素環で置換されていてもよい、
請求項6に記載されている方法。
【請求項8】
Mがスカンジウムである請求項6又は7に記載されている方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2008−32473(P2008−32473A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204835(P2006−204835)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】