説明

発光モジュールおよび蛍光体

【課題】本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、発光モジュールの発光強度の低下を抑制する技術を提供する。
【解決手段】発光モジュール10は、紫外線又は短波長可視光を発する半導体発光素子14と、紫外線又は短波長可視光により励起され、可視光を発光する青色蛍光体と、を備える。青色蛍光体は、一般式が(Ca1−x−y,Sr,Eu(POCl(ここで、x、yは、0.10<x<0.60、0.002<y<0.060、0.02<y/(x+y)<0.17を満たす範囲である)で表されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青色発光する蛍光体およびそれを用いた発光モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、照明用の灯具としては蛍光灯や電球が多く用いられてきた。近年、このような灯具の代替として、消費電力や寿命の観点から発光ダイオード(以下、適宜「LED」と称する。)を用いた発光装置が種々開発されている。
【0003】
このような発光装置として、近紫外線を発する半導体発光素子と、青色蛍光体および黄色蛍光体とを組み合わせて白色光を実現する技術が考案されている。例えば、350〜415nmの光を発生する第1の発光体と、第1の発光体からの光の照射によって可視光を発生する第2の発光体とを有する発光装置において、第2の発光体が、一般式EuCa5−a−b(PO(MはEu及びCa以外の金属元素を表し、XはPO以外の一価のアニオン基を表す。)の化学組成を有する発光装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−60468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、照明用の灯具として自動車のヘッドランプにLEDを採用する技術が開発されている。また、ヘッドランプでは、コストの低減からLEDの数を減らすことが求められており、LED1個あたりの出力が増大する傾向にある。そのため、このような高出力のLEDと組み合わせる蛍光体の開発が重要となる。
【0006】
しかしながら、このような高出力のLEDと蛍光体とを組み合わせた発光装置は、蛍光体を劣化させ、発光強度の低下を招く可能性があり、蛍光体の更なる改善が求められている。
【0007】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、発光モジュールの発光強度の低下を抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の発光モジュールは、紫外線又は短波長可視光を発する発光素子と、紫外線又は短波長可視光により励起され、可視光を発光する青色蛍光体と、を備える。青色蛍光体は、一般式が(M1−x−y,M,M(MX(ここで、M,M,Mは2価のアルカリ土類金属として、Mg,Ca,Sr,Ba及びEuからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、MはP,Si,Vからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、Xは少なくとも1種のハロゲン元素を示す。)で表され、好ましくは、一般式が(Ca1−x−y,Sr,Eu(POCl(ここで、x、yは、0.10<x<0.60、0.002<y<0.060、0.02<y/(x+y)<0.17を満たす範囲である)で表されているとよい。
【0009】
この態様によると、紫外線又は短波長可視光に対する青色蛍光体の耐光性が向上し、発光モジュールの発光強度の低下が抑制される。
【0010】
発光素子は、400mW以上の光出力が可能に構成されていてもよい。これにより、光出力の高い発光素子を用いた発光モジュールであっても長寿命を実現できる。
【0011】
発光素子は、350〜420nmの波長域にピーク波長を有する紫外線又は短波長可視光を発してもよい。これにより、発光スペクトルの異なる複数種の蛍光体を用いて白色光を実現できる。
【0012】
紫外線又は短波長可視光により励起され、青色蛍光体が発する可視光と混色することで白色を実現する可視光を発する黄色蛍光体を更に備えてもよい。これにより、発光素子の光を直接用いずに青色光と黄色光との混色で白色光を実現できる。また、長期にわたる使用における青色光の出力の低下が抑制されるため、黄色光と混色して実現される白色光の経年による色ズレが小さくなる。
【0013】
本発明の別の態様は、蛍光体である。この蛍光体は、一般式が(Ca1−x−y,Sr,Eu(POCl(ここで、x、yは、0.10<x<0.60、0.002<y<0.060、0.02<y/(x+y)<0.17を満たす範囲である)で表されている。
【0014】
この態様によると、耐光性の向上した青色蛍光体が実現できる。
【0015】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、発光モジュールの発光強度の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態に係る発光モジュールの概略断面図である。
【図2】実施例1に係る発光モジュールの初期の発光スペクトルと1000h発光後の発光スペクトルを比較した図である。
【図3】比較例1に係る発光モジュールの初期の発光スペクトルと1000h発光後の発光スペクトルを比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0019】
<青色発光蛍光体>
はじめに、耐光性を向上させた青色発光蛍光体(以下、「青色発光体」と称する。)の組成について詳述する。本実施の形態に係る青色蛍光体は、一般式が(Ca1−x−y,Sr,Eu(POCl(ここで、x、yは、0.10<x<0.60、0.002<y<0.060、0.02<y/(x+y)<0.17を満たす範囲である)で表されている。
【0020】
青色蛍光体は、一般式が(M1−x−y,M,M(MXで表され、M,M,Mは、2価のアルカリ土類金属としてMg,Ca,Sr,Ba及びEuを含んでおり、15%以下ならMg,Baを、3%以下なら1価のアルカリ金属であるNa,K,Rb,Csと3価の金属であるSc,Y,Laを含んでいても良い。また、Mは5%以下ならSi,Vを含んでいてもよい。
【0021】
また、青色蛍光体は、好ましくは、一般式が(Ca1−x−y,Sr,Eu(POClで表され、SrとEuの含有量x+yに対するEuの含有量yの比率が所定の範囲の値となっている。また、上記一般式で表される青色蛍光体は、励起スペクトルのピーク波長が350〜420nmの範囲にあるとよく、その中でも、励起スペクトルのピーク波長が390〜410nmの範囲にあることが好ましい。
【0022】
また、青色蛍光体は、その発光色が430〜480nmにピーク波長を有するように組成が定められているとよい。このような青色蛍光体は、近紫外又は短波長可視光を効率的に吸収し、ドミナント波長が440〜470nmの光を放射する。
【0023】
また、青色蛍光体は、紫外線や短波長可視光を発する半導体発光素子と組み合わせて発光モジュールとすることができる。例えば、紫外線発光素子と、青色および黄色蛍光体とを組み合わせて白色発光モジュールとすることができる。また、紫外線発光素子と、青色、赤色および緑色蛍光体とを組み合わせて白色発光モジュールとすることもできる。更には、所望の色度や演色性を実現するために、他の蛍光体を用いることも可能である。本実施の形態に係る青色蛍光体以外の蛍光体としては、特に限定されないが、公知公用の蛍光体も適宜使用できる。
【0024】
<黄色発光蛍光体>
本実施の形態に係る黄色発光蛍光体(以下、「黄色発光体」と称する。)として好適な一例として、一般式がM・aMO・bM:M(但し、MはSi、Ge、Ti、Zr及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、MはMg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、MはMg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、Xは少なくとも1種のハロゲン元素、Mは希土類元素及びMnからなる群より選ばれるEu2+を必須とする少なくとも1種の元素を示す。aは0.1≦a≦1.3、bは0.1≦b≦0.25の範囲である。)で表される黄色蛍光体が挙げられる。また、この黄色蛍光体は、紫外線又は短波長可視光により励起され、青色蛍光体が発する可視光と混色することで白色を実現する可視光を発する。より具体的には、黄色蛍光体は、560〜600nmの波長域にピーク波長を有する可視光を発する。
【0025】
<発光素子>
本実施の形態に係る青色蛍光体を備える発光モジュールに用いられる半導体発光素子としては、350〜420nmの波長域にピーク波長を有する紫外線又は短波長可視光を発するものがよい。例えば、紫外線を発光する半導体発光素子として一般的なInGaN/GaN系のものが好ましい。InGaN/GaN系の半導体発光素子は、In量が多くなるほど発光ピーク波長が長くなり、In量が減るほど発光ピーク波長が短くなる。よって、InGaN/GaN系の半導体発光素子を発光モジュールに適用するためには、その発光ピーク波長が350〜420nmになるように、Inの量を適宜調整すればよい。
【0026】
本実施の形態に係る発光モジュールは、上述の半導体発光素子と、本実施の形態に係る青色蛍光を含む蛍光体とから構成されるものである。より具体的には、半導体発光素子上に蛍光体の層を設ける構成が挙げられる。その場合、半導体発光素子上に設ける蛍光体層は、少なくとも1種以上の蛍光体を単層又は複数層に積層配置してもよいし、複数の蛍光体を単一の層内に混合して配置してもよい。半導体発光素子上に蛍光体層を設ける形態としては、半導体発光素子の表面を被覆するコーティング部材に蛍光体を混合する形態、モールド部材に蛍光体を混合する形態、あるいはモールド部材に被せる被覆体に蛍光体を混合する形態、更には半導体発光素子ランプの投光側前方に蛍光体を混合した透光可能なプレートを配置する形態等が挙げられる。
【0027】
また、半導体発光素子上のモールド部材に、前述の蛍光体の少なくとも1種以上が添加されていてもよい。更に、前述の蛍光体の少なくとも1種以上からなる蛍光体層を、発光モジュールの外側に設けてもよい。発光モジュールの外側に設ける形態としては、発光モジュールのモールド部材の外側表面に蛍光体を層状に塗布する形態、あるいは蛍光体をゴム、樹脂、エラストマー等に分散させた成形体(例えば、キャップ状)を作製し、これを半導体発光素子に被覆する形態、又は前記成形体を平板状に加工し、これを半導体発光素子の前方に配置する形態等が挙げられる。
【実施例】
【0028】
以下に本実施の形態を実施例によって更に具体的に説明する。以下の各実施例および各比較例に係る蛍光体は、一般式(Ca1−x−y,Sr,Eu(POClで表される。
【0029】
(実施例1)
実施例1に係る青色蛍光体は、一般式(Ca1−x−y,Sr,Eu(POClにおいて、x=0.35、y=0.040である。はじめに、原料としてCa、CaCO、SrCO、Eu、およびNHClを用い、これらの原料をモル比がCa:CaCO:SrCO:Eu:NHCl=1.50:0.05:1.75:0.10:1.00となるよう秤量し、秤量した各原料をアルミナ乳鉢に入れ粉砕混合し、原料混合物を得る。この原料混合物をアルミナ坩堝に入れ、2〜5%のHを含むN雰囲気中で、温度1000℃で5時間焼成し、焼成物を得る。この焼成物を温純水で丹念に洗浄し、余剰の塩化物を洗い流すことにより青色蛍光体を得ることができる。
【0030】
(実施例2)
実施例2に係る青色蛍光体は、一般式(Ca1−x−y,Sr,Eu(POClにおいて、x=0.20、y=0.016である。はじめに、原料としてCaCO、SrCO、NHPO、Eu、およびCaClを用い、これらの原料をモル比がCaCO:SrCO:NHPO:Eu:CaCl=3.42:1.00:3.00:0.04:0.50となるよう秤量した。その後は、実施例1と同じ方法で青色蛍光体を合成した。
【0031】
(実施例3)
実施例3に係る青色蛍光体は、一般式(Ca1−x−y,Sr,Eu(POClにおいて、x=0.20、y=0.040である。はじめに、原料としてCaCO、SrCO、NHPO、Eu、およびNHClを用い、これらの原料をモル比がCaCO:SrCO:NHPO:Eu:NHCl=3.80:1.00:3.00:0.10:1.00となるよう秤量した。その後は、実施例1と同じ方法で青色蛍光体を合成した。
【0032】
(実施例4)
実施例4に係る青色蛍光体は、一般式(Ca1−x−y,Sr,Eu(POClにおいて、x=0.25、y=0.040である。はじめに、原料としてCaHPO、CaCO、SrCO、Eu、およびCaClを用い、これらの原料をモル比がCaHPO:CaCO:SrCO:Eu:CaCl=3.00:0.05:1.75:0.10:0.50となるよう秤量した。その後は、実施例1と同じ方法で青色蛍光体を合成した。
【0033】
(実施例5)
実施例5に係る青色蛍光体は、一般式(Ca1−x−y,Sr,Eu(POClにおいて、x=0.20、y=0.008である。はじめに、原料としてCaHPO、CaCO、SrCO、Eu、NHPO、およびNHClを用い、これらの原料をモル比がCaHPO:CaCO:SrCO:Eu:NHPO:NHCl=3.00:0.96:1.00:0.02:0.01:1.00となるよう秤量した。その後は、実施例1と同じ方法で青色蛍光体を合成した。
【0034】
(実施例6)
実施例6に係る青色蛍光体は、一般式(Ca1−x−y,Sr,Eu(POClにおいて、x=0.20、y=0.020である。はじめに、原料としてCa、CaCO、SrCO、Eu、およびNHClを用い、これらの原料をモル比がCa:CaCO:SrCO:Eu:NHCl=1.50:0.86:1.00:0.07:1.00となるよう秤量した。その後は、実施例1と同じ方法で青色蛍光体を合成した。
【0035】
(比較例1)
比較例1に係る青色蛍光体は、一般式(Ca1−x−y,Mg,Eu(POClで表され、Srは添加されていない。はじめに、原料としてCaHPO、CaCO、MgCO、Eu、およびCaClを用い、これらの原料をモル比がCaHPO:CaCO:SrCO:Eu:CaCl=3.00:1.17:0.50:0.04:0.50となるよう秤量した。その後は、実施例1と同じ方法で青色蛍光体を合成した。
【0036】
(比較例2)
比較例2に係る青色蛍光体は、一般式(Ca1−x−y,Sr,Eu(POClにおいて、x=0.04、y=0.002である。はじめに、原料としてCaHPO、CaCO、SrCO、Eu、およびNHClを用い、これらの原料をモル比がCaHPO:CaCO:SrCO:Eu:NHCl=3.00:1.79:0.20:0.005:1.00となるよう秤量した。その後は、実施例1と同じ方法で青色蛍光体を合成した。
【0037】
(比較例3)
比較例3に係る青色蛍光体は、一般式(Ca1−x−y,Sr,Eu(POClにおいて、x=0.60、y=0.040である。はじめに、原料としてCaHPO、SrCO、Eu、NHPO、およびNHClを用い、これらの原料をモル比がCaHPO:SrCO:Eu:NHPO:NHCl=1.80:3.00:0.10:1.20:1.00となるよう秤量した。その後は、実施例1と同じ方法で青色蛍光体を合成した。
【0038】
(実施例7)
実施例7に係る青色蛍光体は、一般式(Ca1−x−y,Sr,Eu(POClにおいて、x=0.35、y=0.060である。はじめに、原料としてCaHPO、SrCO、Eu、NHPO、およびNHClを用い、これらの原料をモル比がCaHPO:SrCO:Eu:NHPO:NHCl=2.95:1.75:0.15:0.05:1.00となるよう秤量した。その後は、実施例1と同じ方法で青色蛍光体を合成した。
【0039】
(比較例4)
比較例4に係る青色蛍光体は、一般式(Ca1−x−y,Sr,Eu(POClにおいて、x=0.10、y=0.016である。はじめに、原料としてCa、CaCO、SrCO、Eu、およびNHClを用い、これらの原料をモル比がCa:CaCO:SrCO:Eu:NHCl=1.50:1.87:0.50:0.04:1.00となるよう秤量した。その後は、実施例1と同じ方法で青色蛍光体を合成した。
【0040】
<組成決定方法>
各蛍光体の組成は以下の手順により決定した。
(1)XRD(粉末X線回折)により単相であることを確認した後に、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法にてサンプルの組成を分析した。
(2)同一サンプルをEPMA(電子線マイクロアナライザ)を用い、粒子1粒の半定量により組成分析した結果がICP発光分光分析法で得られた値と一致したため、全てのサンプルについてEPMAを用い、粒子一粒で組成分析を行った。
【0041】
<耐光性評価方法>
上述の蛍光体と半導体発光素子とを備えた発光モジュールを蛍光体毎に作製し、耐光性評価を行った。図1は、実施の形態に係る発光モジュールの概略断面図である。図1に示す発光モジュール10は、マウント部材12と、半導体発光素子14と、枠部材16と、蛍光部材18と、を備える。半導体発光素子14は、マウント部材12により固定されている。半導体発光素子14の上方には、半導体発光素子14を覆う蛍光部材18が設けられている。また、枠部材16は、マウント部材12上に固定され、半導体発光素子14の側方の周囲を囲んでいる。
【0042】
発光素子には、紫外線又は短波長可視光を発光するLEDやLD等を用いることができる。本実施例に係る半導体発光素子14としては、近紫外線又は短波長可視光を発するLED(nUV−LED:ピーク波長405nm)を用いている。マウント部材12は、例えば銀ペースト等の導電性接着剤又は金錫共晶はんだ等である。
【0043】
蛍光部材18は、前述の各蛍光体が分散されたバインダー部材によってシート状に形成されている。バインダー部材としては、例えば、シリコーン樹脂やフッ素樹脂等を用いることができる。特に、本実施例に係る発光モジュールは、励起光源として紫外線又は短波長可視光を用いることから、耐紫外線性能に優れたシリコーン樹脂等のバインダー部材が好ましい。
【0044】
本実施例に係る蛍光部材18は、シート厚みが120μmであり、分散されている蛍光体の濃度は30vol%である。
【0045】
次に、前述のように構成された発光モジュール10を約1W/mmで発光するように1A程度の投入電流で駆動する。この状態で、各蛍光体を含む発光モジュールにおける初期の発光強度と1000h点灯後の発光強度を測定した。
【0046】
ここで、1000h後の発光強度=初期発光強度×(1000h後の耐光維持率)とした。また、今回の評価では、発光モジュールの1000h後の発光強度が0.70以上のものを合格レベルとしている。なお、合格レベルの根拠は、日本工業標準調査会標準部発行“照明用白色LED装置性能要求事項”“TSC8153”に基づいている。
【0047】
各実施例および各比較例に係る蛍光体をそれぞれ備えた発光モジュールでの耐光性評価結果を表1に示す。また、図2は、実施例1に係る発光モジュールの初期の発光スペクトルと1000h発光後の発光スペクトルを比較した図である。図3は、比較例1に係る発光モジュールの初期の発光スペクトルと1000h発光後の発光スペクトルを比較した図である。
【0048】
【表1】

【0049】
表1に示すように、実施例1に係る発光モジュールにおいて、耐光維持率(1000h点灯時)95%を達成している。また、その他の各実施例に係る発光モジュールにおいても、耐光維持率70%以上を達成している。このように、高出力の近紫外LEDを備えた発光モジュールにおいて経時での発光強度の低下が少ない青色蛍光体が実現できた。
【0050】
一方、比較例3においては、xの値が0.60とSrの含有量が多く、初期の発光強度が低い。また、比較例1、比較例4においては、いずれもxの値が0.10以下とSrの含有量が少なく、1000h後の発光強度の低下が大きく、UV耐光性が低い。そのため、一般式が(Ca1−x−y,Sr,Eu(POClで表されている各実施例に係る蛍光体は、Srの含有量と相関のあるxの値が0.10<x<0.60の範囲である。
【0051】
また、比較例2においては、yの値が0.002とEuの含有量が少なく、初期の発光強度が低い。また、実施例7においては、yの値が0.060とEuの含有量が多く、初期の発光強度は高いものの、耐光維持率が70%未満である。そのため、一般式が(Ca1−x−y,Sr,Eu(POClで表されている各実施例に係る蛍光体は、Euの含有量と相関のあるyの値が0.002<y<0.060の範囲である。
【0052】
また、各実施例に係る発光モジュールは、初期発光強度も高く、耐光維持率を70%以上である。各実施例の蛍光体において、SrとEuの合計含有量に対するEuの含有量の割合と相関のあるy/(x+y)の値は、0.020<y/(x+y)<0.17の範囲であり、より好ましくは、0.029≦y/(x+y)≦0.167の範囲である。
【0053】
このように、一般式が(Ca1−x−y,Sr,Eu(POCl(ここで、x、yは、0.10<x<0.60、0.002<y<0.060、0.02<y/(x+y)<0.17を満たす範囲である)で表されている青色蛍光体は、耐光性が向上している。また、このような青色蛍光体を含む、実施例に係る発光モジュールは、紫外線又は短波長可視光に対する青色蛍光体の耐光性が向上しているため、長期使用における発光強度の低下が抑制される。
【0054】
特に、400mW以上の光出力が可能な発光素子を備える発光モジュールの蛍光体として好適である。より好ましくは、600mW以上の光出力が可能な発光素子、更により好ましくは、800mW以上の光出力が可能な発光素子と組み合わせることで、耐光性のより顕著な効果が現れる。このように、光出力の高い発光素子を用いた発光モジュールであっても長寿命を実現できる。
【0055】
発光素子は、350〜420nmの波長域にピーク波長を有する紫外線又は短波長可視光を発しているものが好ましい。これにより、発光スペクトルの異なる複数種の蛍光体、例えば、各実施例に係る青色蛍光体と前述の黄色蛍光体を用いて白色光を実現できる。また、発光素子の光を直接用いずに青色光と黄色光との混色で白色光を実現できる。また、長期にわたる使用における青色光の出力の低下が抑制されるため、黄色光と混色して実現される白色光の経年による色ズレが小さくなる。
【0056】
以上、本発明を実施の形態や実施例をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の発光モジュールは種々の灯具、例えば照明用灯具、ディスプレイ用バックライト、車両用灯具等に利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
10 発光モジュール、 12 マウント部材、 14 半導体発光素子、 16 枠部材、 18 蛍光部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線又は短波長可視光を発する発光素子と、
前記紫外線又は短波長可視光により励起され、可視光を発光する青色蛍光体と、を備え、
前記青色蛍光体は、一般式が(Ca1−x−y,Sr,Eu(POCl(ここで、x、yは、0.10<x<0.60、0.002<y<0.060、0.02<y/(x+y)<0.17を満たす範囲である)で表されていることを特徴とする発光モジュール。
【請求項2】
前記発光素子は、400mW以上の光出力が可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の発光モジュール。
【請求項3】
前記発光素子は、350〜420nmの波長域にピーク波長を有する紫外線又は短波長可視光を発することを特徴とする請求項1または2に記載の発光モジュール。
【請求項4】
前記紫外線又は短波長可視光により励起され、前記青色蛍光体が発する可視光と混色することで白色を実現する可視光を発する黄色蛍光体を更に備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の発光モジュール。
【請求項5】
一般式が(Ca1−x−y,Sr,Eu(POCl(ここで、x、yは、0.10<x<0.60、0.002<y<0.060、0.02<y/(x+y)<0.17を満たす範囲である)で表されている蛍光体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−72041(P2013−72041A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213411(P2011−213411)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】