説明

発光モジュール

【課題】発光素子の光をより有効に利用し、発光効率の高い発光モジュールを提供する。
【解決手段】発光モジュール10において、発光素子は、紫外線又は短波長可視光を発する。第1の光波長変換層24は、紫外線又は短波長可視光により励起され、可視光を発光する第1の蛍光体を含む。第2の光波長変換層26は、紫外線又は短波長可視光により励起され、第1の蛍光体が発光する可視光と異なる色の可視光を発光する第2の蛍光体を含む。第1の光波長変換層24は、発光素子の出射面上に設けられている。第2の光波長変換層26は、第1の光波長変換層24の上に設けられている。第2の蛍光体の励起スペクトルの吸収端は、第1の蛍光体の励起スペクトルの吸収端よりも長波長側まで広がっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線又は短波長可視光で効率よく励起され発光する蛍光体を用いた発光モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体発光素子を用いた白色発光モジュールとして、青色発光の半導体発光素子と青色の補色である黄色蛍光体とを組み合わせたものが知られている。しかしながら、半導体発光素子の量子効率は、青色発光する半導体発光素子よりも、紫外線又は短波長可視光を発する半導体発光素子の方が高い。そのため、紫外線又は短波長可視光を発する半導体発光素子を用いた発光モジュールの開発がすすんでいる。一方で、紫外線又は短波長可視光を発する半導体発光素子と蛍光体層を組み合わせて白色発光を実現するためには、蛍光体層として、発光素子からの光を励起光とした青色から赤色の波長までの幅広い波長変換が要求される。そのため、一種の蛍光体でこの要求にこたえるのは困難である。
【0003】
そこで、紫外線又は短波長可視光を発する半導体発光素子と、複数種の蛍光体とを組み合わせて白色発光を実現する発光装置が考案されている(特許文献1参照)。この発光装置は、紫外光を発光する発光素子と、紫外光に励起されて発光する蛍光体を含有する波長変換部を備えている。また、この波長変換部は、発光素子の発光面を直接覆う、赤色を発光する蛍光体を含有する第1の発光層と、第1の発光層の上部に積層され、緑色を発光する蛍光体を含有する第2の発光層と、第2の発光層の上部に積層され、青色を発光する蛍光体を含有する第3の発光層と、を有し、紫外光を白色光に変換して発光する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−289829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、発光装置に用いられる蛍光体は、その種類によって吸収・励起特性が異なる。そのため、使用される蛍光体の励起特性(励起波長域)が半導体発光素子の発光波長域を十分にカバーしていない場合、半導体発光素子の光のうち蛍光体で吸収されない光が漏れ光として外部へ放出されることになる。このような漏れ光は、特に紫外線を発する半導体発光素子の場合、視感度の低い波長の光を多く含むため、発光装置の発光効率の低下の一因となっている。また、複数の蛍光体を用いる場合、一方の蛍光体が発した光が他方の蛍光体で吸収されると、発光効率の低下の一因となる。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、発光素子の光をより有効に利用し、発光効率の高い発光モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の発光モジュールは、紫外線又は短波長可視光を発する発光素子と、紫外線又は短波長可視光により励起され、可視光を発光する第1の蛍光体を含む第1の光波長変換層と、紫外線又は短波長可視光により励起され、第1の蛍光体が発光する可視光と異なる色の可視光を発光する第2の蛍光体を含む第2の光波長変換層と、を備える。第1の光波長変換層は、発光素子の出射面上に設けられており、第2の光波長変換層は、第1の光波長変換層の上に設けられており、第2の蛍光体の励起スペクトルの吸収端は、第1の蛍光体の励起スペクトルの吸収端よりも長波長側にあり、第2の蛍光体の、発光素子の発光スペクトルのピーク波長での励起光の吸収率をSmax、第2の蛍光体の、第1の蛍光体の発光スペクトルのピーク波長での励起光の吸収率をSaとすると、Sa<0.5×Smaxを満たしている。
【0008】
この態様によると、第1の蛍光体および第2の蛍光体は、発光素子が発した紫外線又は短波長可視光により励起され、視感度の高い可視光を発光するため、発光素子の紫外線又は短波長可視光をより有効に利用できる。また、第2の蛍光体の、第1の蛍光体の発光スペクトルのピーク波長での励起光の吸収率が比較的小さいため、第1の蛍光体から発した光が第2の蛍光体で吸収されて再発光することが抑制される。換言すれば、蛍光体同士の相互作用による2段変換が抑制される。
【0009】
紫外線又は短波長可視光により励起され、第2の蛍光体が発光する可視光よりもピーク波長が長い可視光を発光する第3の蛍光体を含む第3の光波長変換層を更に備えてもよい。第3の光波長変換層は、第1の光波長変換層と第2の光波長変換層の間に設けられており、第3の蛍光体の励起スペクトルの吸収端は、第1の蛍光体の励起スペクトルの吸収端よりも長波長側にあり、かつ、第2の蛍光体の励起スペクトルの吸収端よりも短波長側にあり、第3の蛍光体の、発光素子のスペクトルのピーク波長での励起光の吸収率をSmax’、第3の蛍光体の、第1の蛍光体の発光スペクトルのピーク波長での励起光の吸収率をSa’とすると、Sa’<0.5×Smax’を満たしている。
【0010】
これにより、第3の蛍光体は、発光素子が発した紫外線又は短波長可視光により励起され、視感度の高い可視光を発光するため、発光素子の紫外線又は短波長可視光をより有効に利用できる。また、第3の蛍光体の、第1の蛍光体の発光スペクトルのピーク波長での励起光の吸収率が比較的小さいため、蛍光体同士の相互作用による2段変換が抑制される。
【0011】
第3の蛍光体は、発光素子の発光スペクトルの波長域における短波長側の励起スペクトルの強度よりも長波長側の励起スペクトルの強度が小さい。
【0012】
第1の蛍光体は、発光素子の発光スペクトルの波長域における短波長側の励起スペクトルの強度よりも長波長側の励起スペクトルの強度が小さい。
【0013】
第2の蛍光体は、一般式が(M,M,M(2/n)(ここで、MはSi、Ge、Ti、Zr及びSnからなる群より選ばれる少なくともSiを含む1種以上の元素、MはCa、Mg、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくともCaを含む1種以上の元素、MはSr、Mg、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくともSrを含む1種以上の元素、Xは少なくとも1種のハロゲン元素、Mは希土類元素及びMnからなる群より選ばれる少なくともEu2+を含む1種以上の元素を示す。また、mは1≦m≦4/3、nは5≦n≦7の範囲であってもよい。また、x、y、zは、x+y+z=1、0<x<0.99、0<y<0.99、0.01≦z≦0.3を満たす範囲であってもよい。)で表されていてもよい。
【0014】
なお、第1の蛍光体が発光する可視光と第2の蛍光体が発光する可視光とは、補色の関係にあってもよい。また、「出射面上に設けられ」とは、出射面に直接接した状態で設けられている場合だけではなく、出射面の上方に隙間を有してまたは他の部材を介して設けられている場合も含む。また、「変換層の上に設けられ」とは、変換層に直接接した状態で設けられている場合だけではなく、変換層の上方に隙間を有してまたは他の部材を介して設けられている場合も含む。
【0015】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、発光素子の光をより有効に利用し、発光効率の高い発光モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1の実施の形態に係る発光モジュールの概略断面図である。
【図2】第2の実施の形態に係る発光モジュールの概略断面図である。
【図3】実施例1に係る発光モジュールで用いられている蛍光体1および蛍光体2の発光スペクトル及び励起スペクトルを示した図である。
【図4】実施例1に係る発光モジュールに20mAの電流を流した場合の発光スペクトルを示す図である。
【図5】実施例2に係る発光モジュールで用いられている蛍光体3乃至蛍光体5の発光スペクトル及び励起スペクトルを示した図である。
【図6】実施例2に係る発光モジュールに20mAの電流を流した場合の発光スペクトルを示す図である。
【図7】比較例1に係る発光モジュールに20mAの電流を流した場合の発光スペクトルを示す図である。
【図8】比較例2に係る発光モジュールに20mAの電流を流した場合の発光スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
近年、近紫外線又は短波長可視光を発するLED(以後nUV−LED)を一次光源に用い、その上に任意の色の可視光を発するための1種以上の蛍光体を実装した発光装置が考案されている。このような構成の発光装置で白色光を得るためには、複数の蛍光体を実装する必要がある。複数の蛍光体の組合せとしては、例えば、青・黄色の2種、青・黄(緑)・赤の3種、青・緑・橙・赤の4種等が挙げられる。
【0019】
このような複数の蛍光体を用いる場合、発光素子から発せられる励起光によってピーク波長が最も短い一方の蛍光体が励起され、励起された一方の蛍光体から発せられる一次蛍光が、一方の蛍光体よりピーク波長が長い他方の蛍光体に吸収され励起される多重励起(「カスケード励起」ともいう)が発生する。
【0020】
本発明者は、前述の事象や、発光モジュールに求められる性能、発光素子の光の有効利用、等の観点を考慮して本願発明に想到した。本発明者は、紫外線又は短波長可視光を発光する発光素子と複数種の蛍光体とを組み合わせた発光モジュールにおいて、効率よく白色発光するためには、特に、以下の点が重要となる点に想到した。
(1)実装する蛍光体の変換効率が高いこと
(2)発光素子の紫外線又は短波長可視光が外部に漏れることなく、蛍光体において可視光に変換されること
(3)蛍光体の吸収・励起帯が450nm以上の可視光領域にほとんどなく、蛍光体同士の相互作用による2段変換(多重励起)が少ないこと
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0022】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係る発光モジュールの概略断面図である。発光モジュール10は、基板12上に一対の電極14(陽極)及び電極16(陰極)が形成されている。電極14上には半導体発光素子18がマウント部材20により固定されている。半導体発光素子18と電極14はマウント部材20により導通されており、半導体発光素子18と電極16はワイヤー22により導通されている。半導体発光素子18の出射面上には、第1の蛍光体を含む第1の光波長変換層24が設けられている。第2の蛍光体を含む第2の光波長変換層26は、第1の光波長変換層24の上に設けられている。
【0023】
基板12は、導電性を有しないが熱伝導性は高い材料によって形成されることが好ましく、例えば、セラミック基板(窒化アルミニウム基板、アルミナ基板、ムライト基板、ガラスセラミック基板)やガラスエポキシ基板等を用いることができる。
【0024】
電極14及び電極16は、金や銅等の金属材料によって形成された導電層である。
【0025】
半導体発光素子18は、本発明の発光モジュールに用いられる発光素子の一例であり、例えば、紫外線又は短波長可視光を発光するLEDやLD等を用いることができる。具体例として、InGaN系の化合物半導体を挙げることができる。InGaN系の化合物半導体は、Inの含有量によって発光波長域が変化する。Inの含有量が多いと発光波長が長波長となり、少ない場合は短波長となる傾向を示すが、ピーク波長が400nm付近となる程度にInが含有されたInGaN系の化合物半導体が発光における量子効率が最も高いことが確認されている。本実施の形態に係る半導体発光素子18は、380〜420nmの波長域にピーク波長を有する紫外線又は短波長可視光を発するものが好適である。
【0026】
マウント部材20は、例えば銀ペースト等の導電性接着剤又は金錫共晶はんだ等であり、半導体発光素子18の下面を電極14に固定し、半導体発光素子18の下面側電極と基板12上の電極14を電気的に接続する。
【0027】
ワイヤー22は、金ワイヤー等の導電部材であり、例えば超音波熱圧着等により半導体発光素子18の上面側電極及び電極16に接合され、両者を電気的に接続する。
【0028】
第1の光波長変換層24は、紫外線又は短波長可視光により励起され、可視光を発光する第1の蛍光体を含む。第2の光波長変換層26は、紫外線又は短波長可視光により励起され、第1の蛍光体が発光する可視光と異なる色の可視光を発光する第2の蛍光体を含む。第1の実施の形態に係る発光モジュール10は、第1の蛍光体として青色に発光する蛍光体を、第2の蛍光体として黄色に発光する蛍光体を用いている。つまり、第1の蛍光体の発光色と第2の蛍光体の発光色は補色の関係にある。したがって、2種類の蛍光体の発光を混色することで白色光が得られる。
【0029】
対応する蛍光体を含む各光波長変換層としては、例えば、以下の形態を取り得る。
(i)シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ゾルゲルシリカ、シルセスキオキサン等のバインダーに蛍光体を分散させコーティングしたもの
(ii)(i)に記載の蛍光体分散樹脂をフィルム成形したもの
(iii)蛍光体をガラスマトリックスに分散したのち板状に成形し、蛍光ガラス板としたもの
(iv)蛍光体を高温高圧で焼結させ、セラミックス板状化したもの
【0030】
これらの変換層の実装は、接着、機械的締結等により行われる。接着剤としては、シリコーン系、ゾルゲルシリカ系、フッ素系、無機ガラス系等の光耐性に優れた透明材料を使用する。機械的締結法としては、反射基体へはんだ付け、かしめ、溶着、溶接、ねじ留め等の工法が可能である。また、本実施の形態に係る発光モジュールにおいては、励起光源として紫外線又は短波長可視光を用いることから、耐紫外線性能に優れたバインダーが好ましい。
【0031】
(第2の実施の形態)
図2は、第2の実施の形態に係る発光モジュールの概略断面図である。第2の実施の形態に係る発光モジュール110は、第1の実施の形態に係る発光モジュール10と比較して、半導体発光素子の上に積層されている光波長変換層が3層ある点が大きな相違点である。以下の説明で特に言及していない構成については、第1の実施の形態と同様である。
【0032】
図2に示す発光モジュール110は、第1の光波長変換層24と第2の光波長変換層26との間に第3の光波長変換層28が設けられている。第3の光波長変換層28は、紫外線又は短波長可視光により励起され、第2の蛍光体が発光する可視光よりもピーク波長が長い可視光を発光する第3の蛍光体を含んでいる。したがって、3種類の蛍光体の発光を混色することで白色光が得られる。
【0033】
次に、本実施の形態に係る発光モジュールに用いられる各蛍光体について詳述する。
【0034】
(第1の蛍光体)
第1の蛍光体は、発光スペクトルのピーク波長が430〜480nmの波長域にあり、吸収励起スペクトルの吸収(バンド)端が約410〜420nmの波長域にあり、励起により青色光を発する蛍光体である。このような第1の蛍光体は、紫外線または短波長可視光を効率的に吸収し、ドミナント波長が440〜470nmの光を放射する。第1の蛍光体として用いることができる蛍光体として、特に組成の限定はないが、例えば下記の一般式で表されるユーロピウム付活クロロリン酸塩系蛍光体が挙げられる。
【0035】
一般式がM(M:Re(ここで、MはCa、Sr、Ba、Mg、Zn、Cd、K、Ag及びTlからなる群より選ばれる少なくともCa、Sr、Baのいずれかを含む1種以上の元素、MはP、V、Si、As、Mn、Co、Cr、Mo、W及びBからなる群より選ばれる少なくともPを含む1種以上の元素、Xは少なくとも1種のハロゲン元素、Reは希土類元素及びMnからなる群より選ばれる少なくともEu2+を含む1種以上の元素を示す。また、aは4.2≦a≦5.8、bは2.5≦b≦3.5、cは0.8<c<1.4、dは0.01<d<0.1の範囲である)で表されている蛍光体。
【0036】
第1の蛍光体は、例えば、次のようにして得ることができる。第1の蛍光体は、原料としてCaCO、MgCO、CaCl、CaHPO、及びEuを用い、これらの原料をモル比がCaCO:MgCO:CaCl:CaHPO:Eu=0.05〜0.35:0.01〜0.50:0.17〜2.50:1.00:0.005〜0.050となるよう所定の割合で秤量し、秤量した各原料をアルミナ乳鉢に入れ約30分粉砕混合し、原料混合物を得る。この原料混合物をアルミナ坩堝に入れ、2〜5%のHを含むN雰囲気中で、温度800℃以上1200℃未満で3時間焼成し、焼成物を得る。この焼成物を温純水で丹念に洗浄し、余剰の塩化物を洗い流すことにより第1の蛍光体を得ることができる。
【0037】
(第2の蛍光体)
第2の蛍光体は、その発光色が第1の蛍光体の発光色と補色関係である。また、第2の蛍光体は、紫外線又は短波長可視光により励起され可視光を発光する蛍光体であり、一般式が(M,M,M(2/n)(ここで、MはSi、Ge、Ti、Zr及びSnからなる群より選ばれる少なくともSiを含む1種以上の元素、MはCa、Mg、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくともCaを含む1種以上の元素、MはSr、Mg、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくともSrを含む1種以上の元素、Xは少なくとも1種のハロゲン元素、Mは希土類元素及びMnからなる群より選ばれる少なくともEu2+を含む1種以上の元素を示す。また、mは1≦m≦4/3、nは5≦n≦7の範囲であってもよい。また、x、y、zは、x+y+z=1、0<x<0.99、0<y<0.99、0.01≦z≦0.3を満たす範囲であってもよい。)で表される蛍光体である。
【0038】
また、第2の蛍光体は、発光スペクトルのピーク波長が560〜600nmの波長域にあり、吸収励起スペクトルの吸収(バンド)端が430〜450nmの波長域にあり、励起により黄(黄緑)色光を発する蛍光体である。
【0039】
第2の蛍光体は、例えば、次のようにして得ることができる。第2の蛍光体は、原料として下記組成式(1)〜(4)で表される化合物を用いることができる。
(1)M’(M’はSi、Ge、Ti、Zr、Sn等の4価の元素を示す。)
(2)M’O(M’はMg、Ca、Ba、Zn等の2価の元素を示す。)
(3)M’(M’はMg、Sr、Ba、Zn等の2価の元素、Xはハロゲン元素を示す。)
(4)M’(M’はEu2+等の希土類元素及び/又はMnを示す。)
【0040】
組成式(1)の原料として、例えば、SiO、GeO、TiO、ZrO、SnO等を用いることができる。組成式(2)の原料として、例えば、2価の金属イオンの炭酸塩、酸化物、水酸化物等を用いることができる。組成式(3)の原料として、例えば、SrCl、SrCl・6HO、MgCl、MgCl・6HO、BaCl、BaCl・2HO、ZnCl、MgF、SrF、BaF、ZnF、MgBr、SrBr、BaBr、ZnBr、MgI、SrI、BaI、ZnI等を用いることができる。組成式(4)の原料として、例えば、Eu、Eu(CO、Eu(OH)、EuCl、MnO、Mn(OH)、MnCO、MnCl・4HO、Mn(NO・6HO等を用いることができる。
【0041】
組成式(1)の原料としては、M’が少なくともSiを含んでいることが好ましい。また、Siを、Ge、Ti、Zr及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素で一部置き換えたものでもよい。この場合、M’に占めるSiの割合が80mol%以上である化合物が好ましい。組成式(2)の原料としては、M’が少なくともCaを含んでいることが好ましい。また、Caを、Mg、Ba及びZn等からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素で一部置き換えたものでもよい。この場合、M’に占めるCaの割合が60mol%以上である化合物が好ましい。組成式(3)の原料としては、M’が少なくともSrを含んでいることが好ましい。また、Srを、Mg、Ba及びZn等からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素で一部置き換えたものでもよい。この場合、Srが30mol%以上である化合物が好ましい。また、組成式(3)の原料としては、Xが少なくともClを含んでいることが好ましい。また、Clを、他のハロゲン元素で一部置き換えたものでもよい。この場合、Clの割合が50mol%以上である化合物が好ましい。組成式(4)の原料としては、M’が2価のEuを必須とする希土類元素であることが好ましく、Mn又はEu以外の希土類元素等を含んでもよい。
【0042】
組成式(1)〜(4)の原料のモル比を、(1):(2)=1:0.1〜1.0、(2):(3)=1:0.2〜12.0、(2):(4)=1:0.05〜4.0、好ましくは、(1):(2)=1:0.25〜1.0、(2):(3)=1:0.3〜6.0、(2):(4)=1:0.05〜3.0、より好ましくは(1):(2)=1:0.25〜1.0、(2):(3)=1:0.3〜4.0、(2):(4)=1:0.05〜3.0の割合で秤量し、秤量した各原料をアルミナ乳鉢に入れ約30分粉砕混合し、原料混合物を得る。この原料混合物をアルミナ坩堝に入れ、還元雰囲気の電気炉で、所定の雰囲気(H:N=5:95)、温度700℃以上1100℃未満で3〜40時間焼成し、焼成物を得る。この焼成物を温純水で丹念に洗浄し、余剰の塩化物を洗い流すことにより第2の蛍光体を得ることができる。第2の蛍光体は、紫外線又は短波長可視光により励起され可視光を発光する。
【0043】
(第3の蛍光体)
第3の蛍光体は、発光スペクトルのピーク波長が600nm付近の波長域にあり、吸収励起スペクトルの吸収(バンド)端が約410〜420の波長域にあり、励起により橙(赤)色光を発する蛍光体である。このような第3の蛍光体は、紫外線または短波長可視光を効率的に吸収する。
【0044】
実施の形態に係る発光モジュールに含まれる第3の蛍光体は、特に組成の限定はないが、例えば下記の一般式で表されるユーロピウム・マンガン共付活ピロリン酸塩系蛍光体が挙げられる。
【0045】
一般式がCa2−X−Y−Z:Eu,Mn(ここで、MはCa以外のアルカリ土類元素を表し、X≧0、Y>0、Z>0である。)
【0046】
第3の蛍光体は、例えば、次のようにして得ることができる。第3の蛍光体は、原料としてCaHPO、NHPO、MHPO及びEuを用い、これらの原料を所定の割合で秤量し、秤量した各原料をアルミナ乳鉢に入れ約30分粉砕混合し、原料混合物を得る。この原料混合物をアルミナ坩堝に入れ、2〜5%のHを含むN雰囲気中で、温度1000℃以上1200℃未満で3時間焼成し、焼成物を得る。この焼成物を温純水で丹念に洗浄し、第3の蛍光体を得ることができる。
【実施例】
【0047】
上述した蛍光体や発光モジュールについて、以下、実施例を用いて更に具体的に説明するが、下記の蛍光体や発光モジュールの原料、製造方法、蛍光体の化学組成等の記載は本発明の蛍光体や発光モジュールの実施の形態を何ら制限するものではない。
【0048】
はじめに、本実施例の発光モジュールにおいて用いた蛍光体について詳述する。
【0049】
<蛍光体1>
蛍光体1は、(Ca4.67Mg0.5)(POCl:Eu0.08で表される蛍光体である。蛍光体1は、前述の第1の蛍光体の一例である。蛍光体1は、一般式 M(M:Reにおいて、M=Ca/Mg(モル比90.3/9.7)、M=P、X=Cl、Re=Eu2+、a=5.17、b=3、c=1,d=0.08となるように合成した蛍光体である。蛍光体2の製造は、まず、CaCO、MgCO、CaCl、CaHPO、及びEuの各原料を、これらのモル比がCaCO:MgCO:CaCl:CaHPO:Eu=0.42:0.5:3.0:1.25:0.04となるよう秤量し、秤量した各原料をアルミナ乳鉢に入れ約30分粉砕混合し、原料混合物を得た。この原料混合物をアルミナ坩堝に入れ、2〜5%のHを含むN雰囲気中で、温度800℃以上1200℃未満で3時間焼成し、焼成物を得た。得られた焼成物を温純水で丹念に洗浄し、本蛍光体1を得た。
【0050】
<蛍光体2>
蛍光体2は、第2の蛍光体の一種であり、(Ca0.47,Sr0.48,Eu0.057/6SiOCl2/6で表される蛍光体である。蛍光体2は、一般式(Mx,y,2/nにおいて、M=Si、M=Ca、M=Sr、X=Cl、M=Eu2+、m=7/6、n=6、M,M,Mの各含有量x,y、zは、それぞれ0.47,0.48,0.05となるように合成されている。蛍光体2の製造は、まず、SiO、Ca(OH)、SrCl・6HO、及びEuの各原料をこれらのモル比がSiO:Ca(OH):SrCl・6HO:Eu=1.1:0.45:1.0:0.13となるように秤量し、秤量した各原料をアルミナ乳鉢に入れ約30分粉砕混合し、原料混合物を得た。この原料混合物をアルミナ坩堝に入れ、還元雰囲気の電気炉で所定の雰囲気(H:N=5:95)、温度1000℃で5〜40時間焼成し、焼成物を得た。得られた焼成物を温純水で丹念に洗浄し、蛍光体2を得た。
【0051】
<蛍光体3>
蛍光体3は、第1の蛍光体の一種であり、(Sr、Eu)(POClで表されるユーロピウム付活クロロリン酸塩系蛍光体(化成オプトニクス社:KX−663)を用いた。
【0052】
<蛍光体4>
蛍光体4は、第3の蛍光体の一種であり、Ca7:Eu,Mnで表されるユーロピウム・マンガン共付活ピロリン酸塩系蛍光体を用いた。蛍光体4の製造は、まず、CaHPO、NHPO,Eu及びMnCOの各原料を、これらのモル比がCaHPO:NHPO:Eu:MnCO=1.7:0.6:0.1:0.1となるように秤量し、秤量した各原料をアルミナ乳鉢に入れ約30分粉砕混合し、原料混合物を得た。この原料混合物をアルミナ坩堝に入れ、2〜5%のHを含むN雰囲気中で、温度1000℃以上1200℃未満で3時間焼成し、焼成物を得た。得られた焼成物を温純水で丹念に洗浄し、蛍光体4を得た。
【0053】
<蛍光体5>
蛍光体5は、第2の蛍光体の一種であり、(Ca0.51,Sr0.44,Eu0.057/6SiO3(Cl0.72,Br0.282/6で表される蛍光体である。蛍光体5は、一般式(Mx,y,2/nにおいて、M=Si、M=Ca、M=Sr、X=Cl及びBr、M=Eu2+、m=7/6、n=6、M,M,Mの各含有量x,y、zは、それぞれ0.51,0.44,0.05となるように合成されている。蛍光体5の製造は、まず、SiO、Ca(OH)、SrBr、SrCl・6HO、及びEuの各原料をこれらのモル比がSiO:Ca(OH):SrBr:SrCl・6HO:Eu=1.1:0.45:0.65:0.65:0.13となるように秤量し、その後は蛍光体2と同様の方法で蛍光体5を得た。
【0054】
次に、実施例及び比較例に係る発光モジュールの構成について詳述する。
【0055】
<発光モジュールの構成>
(実施例1)
実施例1に係る発光モジュールは、図1に示した形状の発光モジュールにおいて下記の具体的な構成を用いたものである。
【0056】
はじめに、基板12として窒化アルミニウム基板を用い、その表面に金を用いて電極14(陽極)及び電極16(陰極)を形成した。半導体発光素子18としては、405nmに発光ピークを持つ1mm四方のLED(SemiLEDs社製:MvpLEDTMSL−V−U40AC)を用いる。そして、電極14(陽極)上にディスペンサーを用いて滴下した銀ペースト(エイブルスティック社製:84−1LMISR4)の上に前述のLEDの下面を接着させ、銀ペーストを175℃環境下で1時間硬化させた。また、ワイヤー22としてΦ45μmの金ワイヤーを用い、この金ワイヤーを超音波熱圧着にてLEDの上面側電極及び電極16(陰極)に接合した。
【0057】
また、バインダー部材としてのシリコーン樹脂を用い、これに蛍光体を所定濃度となるように混入した蛍光フィルムを作製した。蛍光フィルムは、第1の光波長変換層および第2の光波長変換層に対応させて2種類作製した。
【0058】
第1の光波長変換層に対応する第1の蛍光フィルムの作製方法は以下の通りである。まず、シリコーン樹脂(東レダウコーニングシリコーン社製:JCR6140)をバインダーとし、これに体積濃度が10vol%となるように計量した蛍光体1を加え、自公転式撹拌機で混合し蛍光体ペーストを作製した。次に、蛍光体ペーストを200μm厚に成形できるフッ素樹脂型内に流し込み、80℃環境下で40分、その後に150℃環境下で60分のステップ硬化にて固定化することで蛍光体が分散された第1の蛍光フィルムを得た。また、第2の光波長変換層に対応する第2の蛍光フィルムは、シリコーン樹脂(東レダウコーニングシリコーン社製:JCR6140)をバインダーとし、これに体積濃度が10vol%となるように計量した蛍光体2を加えた以外は、第1の蛍光フィルムと同様の方法で作製した。
【0059】
そして、各蛍光フィルムを1mm角に切断し、第1の蛍光フィルムを第1の光波長変換層24として半導体発光素子に実装した後に、その上に第2の光波長変換層26として第2の蛍光フィルムを積層した。各蛍光フィルムは、シリコーン樹脂(東レダウコーニングシリコーン社製:JCR6140)が接着剤として塗布され、150℃環境下で1時間硬化され、半導体発光素子に実装される。
【0060】
図3は、実施例1に係る発光モジュールで用いられている蛍光体1および蛍光体2の発光スペクトル及び励起スペクトルを示した図である。ここで、ラインL1は、実施例1で用いた蛍光体1の励起スペクトル、ラインL2は、実施例1で用いた蛍光体1の発光スペクトルを示している。また、ラインL3は、実施例1で用いた蛍光体2の励起スペクトル、ラインL4は、実施例1で用いた蛍光体2の発光スペクトルを示している。なお、ラインL5は、実施例1で用いた半導体発光素子の発光スペクトルを示している。また、図4は、実施例1に係る発光モジュールに20mAの電流を流した場合の発光スペクトルを示す図である。
【0061】
図3に示すように、蛍光体2の励起スペクトル(ラインL3)の吸収端は、蛍光体1の励起スペクトル(ラインL1)の吸収端よりも長波長側まで広がっている。つまり、蛍光体2は、蛍光体1よりも長波長の光によっても励起され発光する。また、蛍光体2の、半導体発光素子の発光スペクトル(ラインL5)のピーク波長λpでの励起光の吸収率をSmax、蛍光体2の、蛍光体1の発光スペクトル(ラインL2)のピーク波長での励起光の吸収率をSaとすると、Sa<0.5×Smaxを満たしている。
【0062】
ここで、吸収率とは、蛍光体に照射した波長の光が蛍光体表面で反射せず、蛍光体の発光サイトに吸収される割合をいう。蛍光体の変換効率は、吸収波長によらず一定なことから、励起スペクトルのプロファイルで相対的な吸収率が判定できる。
【0063】
加えて、実施例1に係る発光モジュールは、以下の特性を有している。
(1)図4に示すように、発光モジュールの発光スペクトルには、半導体発光素子の発光スペクトルのピーク波長である405nmの発光がほとんど含まれておらず、半導体発光素子の光が効率よく可視光に変換されている。
(2)図3に示すように、半導体発光素子は、405nmをピーク波長とし、半値幅が15〜20nmのブロードな発光を示す。
(3)蛍光体1、蛍光体2は、半導体発光素子の発光帯域に(半導体発光素子の発光を吸収し蛍光を発する)励起帯域を有している。
(4)蛍光体1の励起帯域よりも蛍光体2の励起帯域の方が長波側まで広がっており、半導体発光素子の発光帯域を十分カバーしている。
(5)蛍光体1の励起帯域は、半導体発光素子の発光帯域における長波側の吸収効率は低い。つまり、蛍光体1は、半導体発光素子の発光スペクトルの発光帯域(波長域)における短波長側の励起スペクトルの強度よりも長波長側の励起スペクトルの強度が小さい。
(6)蛍光体2の励起帯域は、蛍光体1の発光帯域ではほとんど励起特性を示さない。
【0064】
このように、実施例1に係る発光モジュールにおいて、蛍光体1および蛍光体2は、半導体発光素子が発した紫外線又は短波長可視光により励起され、視感度の高い可視光を発光するため、半導体発光素子の紫外線又は短波長可視光をより有効に利用できる。また、蛍光体2の、蛍光体1の発光スペクトルのピーク波長での励起光の吸収率が比較的小さいため、蛍光体1から発した光が蛍光体2で吸収されて再発光することが抑制される。換言すれば、蛍光体同士の相互作用による2段変換が抑制される。
【0065】
(実施例2)
実施例2係る発光モジュールは、図2に示した形状の発光モジュールにおいて下記の具体的な構成を用いたものである。
【0066】
実施例2に係る発光モジュールにおいては、実施例1に係る発光モジュールとほぼ同様であるが、第1の蛍光フィルムと第2の蛍光フィルムの間に、第3の蛍光フィルムが積層されている点が大きく異なる。第3の蛍光フィルムは、第3の光波長変換層28として機能する。
【0067】
はじめに、基板12として窒化アルミニウム基板を用い、その表面に金を用いて電極14(陽極)及び電極16(陰極)を形成した。半導体発光素子18としては、405nmに発光ピークを持つ1mm四方のLED(SemiLEDs社製:MvpLEDTMSL−V−U40AC)を用いる。そして、電極14(陽極)上にディスペンサーを用いて滴下した銀ペースト(エイブルスティック社製:84−1LMISR4)の上に前述のLEDの下面を接着させ、銀ペーストを175℃環境下で1時間硬化させた。また、ワイヤー22としてΦ45μmの金ワイヤーを用い、この金ワイヤーを超音波熱圧着にてLEDの上面側電極及び電極16(陰極)に接合した。
【0068】
また、バインダー部材としてのシリコーン樹脂を用い、これに蛍光体を所定濃度となるように混入した蛍光フィルムを作製した。蛍光フィルムは、第1の光波長変換層乃至第3の光波長変換層に対応させて3種類作製した。
【0069】
第1の光波長変換層に対応する第1の蛍光フィルムの作製方法は以下の通りである。まず、シリコーン樹脂(東レダウコーニングシリコーン社製:JCR6140)をバインダーとし、これに体積濃度が20vol%となるように計量した蛍光体3を加え、自公転式撹拌機で混合し蛍光体ペーストを作製した。次に、蛍光体ペーストを100μm厚に成形できるフッ素樹脂型内に流し込み、80℃環境下で40分、その後に150℃環境下で60分のステップ硬化にて固定化することで蛍光体が分散された第1の蛍光フィルムを得た。また、第2の光波長変換層に対応する第2の蛍光フィルムは、シリコーン樹脂(東レダウコーニングシリコーン社製:JCR6140)をバインダーとし、これに体積濃度が20vol%となるように計量した蛍光体5を加えた以外は、第1の蛍光フィルムと同様の方法で作製した。また、第3の光波長変換層に対応する第3の蛍光フィルムは、シリコーン樹脂(東レダウコーニングシリコーン社製:JCR6140)をバインダーとし、これに体積濃度が10vol%となるように計量した蛍光体4を加えた以外は、第1の蛍光フィルムと同様の方法で作製した。
【0070】
そして、各蛍光フィルムを1mm角に切断し、第1の蛍光フィルムを第1の光波長変換層24として半導体発光素子に実装した後に、その上に第3の光波長変換層として第3の蛍光フィルムを積層し、更にその上に第2の光波長変換層26として第2の蛍光フィルムを積層した。各蛍光フィルムは、シリコーン樹脂(東レダウコーニングシリコーン社製:JCR6140)が接着剤として塗布され、150℃環境下で1時間硬化され、半導体発光素子に実装される。
【0071】
図5は、実施例2に係る発光モジュールで用いられている蛍光体3乃至蛍光体5の発光スペクトル及び励起スペクトルを示した図である。ここで、ラインL1’は、実施例2で用いた蛍光体3の励起スペクトル、ラインL2’は、実施例2で用いた蛍光体3の発光スペクトルを示している。また、ラインL3’は、実施例2で用いた蛍光体5の励起スペクトル、ラインL4’は、実施例2で用いた蛍光体5の発光スペクトルを示している。なお、ラインL5’は、実施例2で用いた半導体発光素子の発光スペクトルを示している。また、ラインL6’は、実施例2で用いた蛍光体4の励起スペクトル、ラインL7’は、実施例2で用いた蛍光体4の発光スペクトルを示している。また、図6は、実施例2に係る発光モジュールに20mAの電流を流した場合の発光スペクトルを示す図である。
【0072】
図5に示すように、蛍光体4の励起スペクトル(ラインL6’)の吸収端は、蛍光体3の励起スペクトル(ラインL1’)の吸収端よりも長波長側にあり、かつ、蛍光体5の励起スペクトル(ラインL3’)の吸収端よりも短波長側にある。つまり、蛍光体4は、蛍光体3よりも長波長の光によっても励起され発光する。蛍光体5は、蛍光体4よりも長波長の光によっても励起され発光する。
【0073】
また、蛍光体5の、半導体発光素子の発光スペクトル(ラインL5’)のピーク波長λpでの励起光の吸収率をSmax、蛍光体5の、蛍光体3の発光スペクトル(ラインL2’)のピーク波長での励起光の吸収率をSaとすると、Sa<0.5×Smaxを満たしている。また、蛍光体4の、半導体発光素子の発光スペクトル(ラインL5’)のピーク波長λpでの励起光の吸収率をSmax’、蛍光体4の、蛍光体3の発光スペクトル(ラインL2’)のピーク波長での励起光の吸収率をSa’とすると、Sa7<0.5×Smax’を満たしている。
【0074】
加えて、実施例2に係る発光モジュールは、以下の特性を有している。
(1)図6に示すように、発光モジュールの発光スペクトルには、半導体発光素子の発光スペクトルのピーク波長である405nmの発光がほとんど含まれておらず、半導体発光素子の光が効率よく可視光に変換されている。
(2)図5に示すように、半導体発光素子は、405nmをピーク波長とし、半値幅が15〜20nmのブロードな発光を示す。
(3)蛍光体3乃至蛍光体5は、半導体発光素子の発光帯域に(半導体発光素子の発光を吸収し蛍光を発する)励起帯域を有している。
(4)蛍光体3、蛍光体4の励起帯域よりも蛍光体5の励起帯域の方が長波側まで広がっており、半導体発光素子の発光帯域を十分カバーしている。
(5)蛍光体3、蛍光体4の励起帯域は、半導体発光素子の発光帯域における長波側の吸収効率は低い。つまり、蛍光体3、蛍光体4は、半導体発光素子の発光スペクトルの発光帯域(波長域)における短波長側の励起スペクトルの強度よりも長波長側の励起スペクトルの強度が小さい。
(6)蛍光体4、蛍光体5の励起帯域は、蛍光体3の発光帯域ではほとんど励起特性を示さない。
【0075】
このように、実施例2に係る発光モジュールにおいて、蛍光体3乃至蛍光体5は、半導体発光素子が発した紫外線又は短波長可視光により励起され、視感度の高い可視光を発光するため、半導体発光素子の紫外線又は短波長可視光をより有効に利用できる。また、蛍光体4の、蛍光体3の発光スペクトルのピーク波長での励起光の吸収率が比較的小さいため、蛍光体3から発した光が蛍光体4で吸収されて再発光することが抑制される。換言すれば、蛍光体同士の相互作用による2段変換が抑制される。
【0076】
(比較例1)
比較例1に係る発光モジュールは、実施例1に係る発光モジュールが備える2つの蛍光フィルムの積層順を反対にしたものである。つまり、比較例1に係る発光モジュールは、半導体発光素子18の上に前述の第2の蛍光フィルムが積層され、その上に前述の第1の蛍光フィルムが積層されている。また、実施例1に係る発光モジュールの発光色と同等の色度となるように、比較例1に係る発光モジュールでは、第1の蛍光フィルムに含まれている蛍光体1は10vol%、第2の蛍光フィルムに含まれている蛍光体2は10vol%である。なお、各蛍光フィルムの製造方法や各蛍光フィルムの半導体発光素子への実装方法は、実施例1と同様である。図7は、比較例1に係る発光モジュールに20mAの電流を流した場合の発光スペクトルを示す図である。
【0077】
(比較例2)
比較例2に係る発光モジュールは、実施例2に係る発光モジュールが備える3つの蛍光フィルムの積層順を反対にしたものである。つまり、比較例2に係る発光モジュールは、半導体発光素子18の上に前述の第2の蛍光フィルムが積層され、その上に前述の第3の蛍光フィルムが積層され、更にその上に第1の蛍光フィルムが積層されている。また、実施例1に係る発光モジュールの発光色と同等の色度となるように、比較例1に係る発光モジュールでは、第1の蛍光フィルムに含まれている蛍光体3は20vol%、第2の蛍光フィルムに含まれている蛍光体5は20vol%、第3の蛍光フィルムに含まれている蛍光体4は10vol%である。なお、各蛍光フィルムの製造方法や各蛍光フィルムの半導体発光素子への実装方法は、実施例2と同様である。図8は、比較例2に係る発光モジュールに20mAの電流を流した場合の発光スペクトルを示す図である。
【0078】
図7および図8に示すように、比較例1および比較例2に係る発光モジュールの発光スペクトルは、波長405nm付近に大きなピークが観察される。この波長の光は、半導体発光素子の発光ピークに相当し、半導体発光素子の発光が有効に可視光に変換されていないことがわかる。また、半導体発光素子の光は紫外線又は短波長可視光であり、視感度が低いため、光束の向上にあまり寄与しない。
【0079】
表1は、実施例1、実施例2、比較例1、比較例2に係る各発光モジュールの光束比、色温度及び色度を示している。なお、実施例1の光束比は、比較例1を100としたときの数値、実施例2の光束比は、比較例2を100としたときの数値である。
【0080】
【表1】

【0081】
表1に示すように、比較例1よりも実施例1の発光モジュールが光束が向上している。同様に比較例2よりも実施例2の発光モジュールが光束が向上している。また、実施例1や実施例2に係る発光モジュールにおいては、図4および図6に示すように、半導体発光素子が発する紫外線や短波長可視光は、視感度の高い波長の可視光にほとんど変換されている。そのため、実施例1や実施例2に係る発光モジュールは、ほとんど紫外線や短波長可視光を発することがなく、照射対象の物質を劣化させにくいため、照明の光源として適用範囲が広くなる。
【0082】
このように、上述の各実施の形態に係る発光モジュールによれば、発光素子の光をより有効に利用し、発光効率を高めることができる。
【0083】
また、紫外線又は短波長可視光を発する半導体発光素子と複数の蛍光体とを組み合わせて白色発光を構成する上述の発光モジュールは、半導体発光素子から発する一次光をほとんど漏らすことなく有効に視感度の良好な可視光に変換し、発光する。
【0084】
また、半導体発光素子上に実装される複数の光波長変換層は、含まれている蛍光体の吸収・励起特性の波長域が短波長側のものから順に実装され、最上面には最も吸収・励起特性の波長域が長波長側にあるものが実装される。このとき最上面に実装される光波長変換層が含む蛍光体は、450nm以上の可視光域の吸収・励起特性がほとんどない。
【0085】
以上、本発明を実施の形態や実施例をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の発光モジュールは種々の灯具、例えば照明用灯具、ディスプレイ、車両用灯具、信号機等に利用することができる。
【符号の説明】
【0087】
10 発光モジュール、 24 第1の光波長変換層、 26 第2の光波長変換層、 28 第3の光波長変換層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線又は短波長可視光を発する発光素子と、
前記紫外線又は短波長可視光により励起され、可視光を発光する第1の蛍光体を含む第1の光波長変換層と、
前記紫外線又は短波長可視光により励起され、前記第1の蛍光体が発光する可視光と異なる色の可視光を発光する第2の蛍光体を含む第2の光波長変換層と、を備え、
前記第1の光波長変換層は、前記発光素子の出射面上に設けられており、
前記第2の光波長変換層は、前記第1の光波長変換層の上に設けられており、
前記第2の蛍光体の励起スペクトルの吸収端は、前記第1の蛍光体の励起スペクトルの吸収端よりも長波長側にあり、
前記第2の蛍光体の、前記発光素子の発光スペクトルのピーク波長での励起光の吸収率をSmax、
前記第2の蛍光体の、前記第1の蛍光体の発光スペクトルのピーク波長での励起光の吸収率をSaとすると、
Sa<0.5×Smaxを満たしている、
ことを特徴とする発光モジュール。
【請求項2】
前記紫外線又は短波長可視光により励起され、前記第2の蛍光体が発光する可視光よりもピーク波長が長い可視光を発光する第3の蛍光体を含む第3の光波長変換層を更に備え、
前記第3の光波長変換層は、前記第1の光波長変換層と前記第2の光波長変換層の間に設けられており、
前記第3の蛍光体の励起スペクトルの吸収端は、前記第1の蛍光体の励起スペクトルの吸収端よりも長波長側にあり、かつ、前記第2の蛍光体の励起スペクトルの吸収端よりも短波長側にあり、
前記第3の蛍光体の、前記発光素子のスペクトルのピーク波長での励起光の吸収率をSmax’、
前記第3の蛍光体の、前記第1の蛍光体の発光スペクトルのピーク波長での励起光の吸収率をSa’とすると、
Sa’<0.5×Smax’を満たしている、
ことを特徴とする請求項1に記載の発光モジュール。
【請求項3】
前記第3の蛍光体は、前記発光素子の発光スペクトルの波長域における短波長側の励起スペクトルの強度よりも長波長側の励起スペクトルの強度が小さいことを特徴とする請求項2に記載の発光モジュール。
【請求項4】
前記第1の蛍光体は、前記発光素子の発光スペクトルの波長域における短波長側の励起スペクトルの強度よりも長波長側の励起スペクトルの強度が小さいことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の発光モジュール。
【請求項5】
前記第2の蛍光体は、一般式が(M,M,M(2/n)(ここで、MはSi、Ge、Ti、Zr及びSnからなる群より選ばれる少なくともSiを含む1種以上の元素、MはCa、Mg、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくともCaを含む1種以上の元素、MはSr、Mg、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくともSrを含む1種以上の元素、Xは少なくとも1種のハロゲン元素、Mは希土類元素及びMnからなる群より選ばれる少なくともEu2+を含む1種以上の元素を示す。また、mは1≦m≦4/3、nは5≦n≦7の範囲である。また、x、y、zは、x+y+z=1、0<x<0.99、0<y<0.99、0.01≦z≦0.3を満たす範囲である。)で表されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の発光モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−104531(P2012−104531A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249425(P2010−249425)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】