説明

発光体、その製造方法及びその製造装置、並びに発光素子又は装置

【課題】 安定したターゲット材を用いた共スパッタによって、常に所望の組成に成膜される発光体、その製造方法及びその製造装置、並びに発光素子又は装置を提供すること。
【解決手段】
化学式:
EuxSiyOz
(但し、x=10〜40%
y=20〜72%
z=12〜60%)
で表示されるユウロピウムシリケート化合物の結晶からなるEuxSiyOz発光体層。この発光体を共スパッタで成膜するために、シリコンターゲット2とEu23焼結体1との複合ターゲットを用いたスパッタ装置。この発光体を用いた発光素子又は装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、光通信、発光表示装置、光集積回路、発光源等に好適な発光体、その製造方法及びその製造装置、並びに発光素子又は装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽光等の光を照射すると、暗所でも比較的長い時間にわたって残光を発する蓄光蛍光体又は発光体が知られており、例えばプラスチック等に混入することによって表示装置に使用するなどの用途がある。
【0003】
こうした発光体としてこれまで報告されているEuxSiyOz化合物を作製するには、例えば、HClガス(還元雰囲気)下で、1400℃という高温での処理が必要である(後述の非特許文献1を参照)。また、結晶化させるために、例えば1800℃といった一層高い温度が求められている(後述の非特許文献2を参照)。
【0004】
これに対し、低温での成膜が可能なスパッタを用いる方法では、例えば、Euメタル粉末とSi粉末とからなるターゲットや、EuSi2粉末をSi上に分散させたターゲットを用い、共スパッタする方法がある(後述の特許文献1を参照)。
【0005】
【非特許文献1】Kaldis E, Etreit P and Wachter P, 1971 J.Phys. Chem. Solids, 32, 159
【非特許文献2】Machida K, Adachi G, Shiokawa J, Shimada M, Koizumi M, Suito K and Onoera A, 1982, Inorg. Chem. 21, 1512
【特許文献1】特開2000−306674号公報(4頁左欄10行目〜5頁左欄19行目)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の高温での成膜方法は、温度管理をはじめ、成膜のコントロールが困難である。また、上記のスパッタ法では、大気中にて取り扱いが難しいEu(ユウロピウム)メタル粉末を用いたターゲットが必要とされ、或いは、一般的ではないEuSi2粉末を用いた共スパッタが必要とされ、成膜の生産性が悪いという欠点がある。
【0007】
特に、高輝度発光材料であるEuメタル粉末は、酸化し易いので、大気中ではその作製が極めて困難であり、変質し易い。また、これを用いる場合に、ターゲット表面の酸化が生じ易くなるので、スパッタ条件の変動や成膜物質の組成変化を生じるおそれがある。また、EuSi2粉末は、市販されておらず、入手が非常に困難である。
【0008】
従って、こうした特性の不安定な材料を使用する場合、成膜の再現性が困難となり、安定したターゲット材を得ることが難しく、それに伴って定量的な安定したスパッタが困難となり易い。
【0009】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、安定したターゲット材を用いた共スパッタによって、常に所望の組成に成膜される発光体、その製造方法及びその製造装置、並びに発光素子又は装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明は、
化学式:
EuxSiyOz
(但し、x=10〜40%
y=20〜72%
z=12〜60%)
で表わされるユウロピウムシリケート化合物の結晶からなる発光体に係わるものである。
【0011】
本発明は又、シリコンとユウロピウム酸化物との複合体からなるターゲットを基体に対向して配置する工程と、前記シリコンと前記ユウロピウム酸化物とを共スパッタする工程とを経て、前記ユウロピウムシリケート化合物の結晶からなる発光体を前記基体上に成膜する、発光体の製造方法にも係わるものである。
【0012】
本発明は又、シリコンとユウロピウム酸化物との複合体からなるターゲットと、前記ターゲットに電界を作用させる電界発生手段と、前記ターゲットに磁界を作用させる磁界発生手段とを有する、発光体の製造装置を提供するものである。
【0013】
本発明は更に、前記ユウロピウムシリケート化合物の結晶からなる発光体によって構成された発光素子又は装置も提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、共スパッタのターゲットとして、入手容易で低温成膜が可能である、シリコンと安定なユウロピウム酸化物との複合体を用いるために、表面の酸化が生じない安定したターゲット材を用いて、スパッタ条件の変動や成膜物質の組成変化を防止し、定量的にかつ安定した組成のユウロピウムシリケート化合物の結晶からなる発光体を容易かつ再現性良く作製することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明においては、発光効率を高めるために、前記ユウロピウムの組成x=20〜30%であるのが望ましい。
【0016】
また、スパッタ効率を向上させるために、前記ターゲットに電界及び磁界を同時に作用させて前記共スパッタを行い、この際、前記電界と前記磁界とが交差して磁力線が集中する領域(特にエロージョン領域)に前記ユウロピウム酸化物を配置するのが望ましい。
【0017】
また、前記共スパッタで成膜された非晶質のユウロピウムシリケート化合物は、真空雰囲気にてアニール処理することによって結晶化するのが望ましい。
【0018】
また、作製された発光体は、入射光又は電圧印加によって励起され、所定波長の光を放出する発光素子又は装置を構成することができる。
【0019】
この場合に、前記発光体が対向電極間に挟持されて表示画素を構成してなる発光素子又は装置を構成してもよい。
【0020】
次に、本発明の好ましい実施の形態を図面参照下に詳細に説明する。
【0021】
図1には、直流電界と磁界とが直交する領域を用いたマグネトロン放電方式の高速低温スパッタ(DCマグネトロンスパッタ)方法とその装置を概略的に示す。
【0022】
円盤状のシリコン基板からなるシリコンターゲット2上には、電界Eと磁界Bとが直交して磁束が集中するエロージョン領域3にEu23焼結体1(ユウロピウム酸化物)が配置される。このシリコンターゲット2とEu23焼結体1との複合体ターゲットは、ほぼ円筒形の永久磁石5の上に配置され、この複合体ターゲットの永久磁石5とは反対側には、一定の距離を置いて成膜用の基板12が対向配置されている。
【0023】
また、基板12とシリコンターゲット2とを電極として用い、これらの間に直流電圧Vを印加することによってターゲットに電界Eを作用させることができる。また、永久磁石5によって、その中央部から外周部へかけて連続する磁界Bを発生させ、ターゲットの表面上において、電界Eと磁界Bとが交差(特に直交)するエロージョン領域3をリング状に生じさせることができる。
【0024】
磁力線が集中するこのエロージョン領域3にEu23焼結体1を配置すると、効率よくスパッタを行うことができる。
【0025】
図2には、シリコンターゲット2上のエロージョン領域3に複数のEu23焼結体1を環状に配置した状態を示す。ここで、例えば、シリコンターゲット2の直径は6インチ、1つのEu23焼結体1の大きさはφ10mm×5tである。また、Eu23焼結体1の数は49個であり、内側(φ70mm)に22個、外側(φ90mm)に27個と2重に並べる。なお、Eu23焼結体1はシリコンターゲット2上に載置するだけでよい。
【0026】
次に、共スパッタ条件は、例えば、パワー400W〜500W(RF)(例えば400W(RF))、Ar流量20sccm、0.5Paの雰囲気にて行う。EuxSiyOz発光材料の成膜に用いる基板12は、Si、石英等、その後の真空アニール雰囲気に耐えられる材料であれば、何れでも可能である。
【0027】
共スパッタの結果、基板12上に成膜されたEuxSiyOzの組成は、例えばx:y:z=23:41:36となる。この状態では非晶質(アモルファス状)であり、発光は示さない。
【0028】
次に、この非晶質EuxSiyOzを、10-4Pa程度の真空雰囲気、又は0.133PaのAr、O2又はN2雰囲気にて、700〜1200℃(例えば1000℃)で30〜60分(例えば40分)アニール処理する。これにより、EuxSiyOzの結晶化が進み、例えば、黄色の603nmをピーク波長とする発光特性のユウロピウムシリケート化合物(発光体)を形成することができる。
【0029】
図3には、基板12上に形成されたEuxSiyOz発光層11の発光特性:低温フォトルミネセンス法(LT−PL:Low Temperature-Photo Luminescence)の原理を示す。
【0030】
即ち、例えば、−196℃(77K)の液体N2中で325nmのHe−Cdレーザ光L1をEuxSiyOz発光層11に照射し、その際に発生する励起波長光L2を観察して、その発光スペクトルを求める。
【0031】
図4は、波長(nm)と発光の相対強度との関係を示すが、例えば、603nm付近に強度ピークを持つユウロピウムシリケート化合物の黄色の発光スペクトルを示す。
【0032】
なお、この構造は、例えば、電圧の印加による自発光型のエレクトロルミネセンス素子(黄色用)や、カソードルミネセンス素子に適用することができる。また、シリコンターゲット2上におけるEu23焼結体1の配列個数を制御することにより、図5に示すように発光波長及び発光強度を変化させることが可能である。例えば、その個数を多くすれば、より短波長の色の発光特性を生じさせることができ、発光強度は一旦低下した後に向上させることができる。
【0033】
図6には、発光ピーク波長(nm)とEuの組成比(%)と発光強度(相対値)との相関性を示す。
【0034】
例えば、x=10〜40%、y+z=90〜60%のEuxSiyOz発光層11は、破線で示すように、xの割合が増加するにつれて発光ピーク波長が変化する。
【0035】
また、実線で示すように、xの割合が増加するにつれて発光強度が変化する。特に、x=20%未満になると発光が弱くなり、x=30%を超えると濃度消光により発光効率が低下してしまう。従って、発光効率を良好に保つためには、x=10〜40%、特に20〜30%とするのが好ましい。
【0036】
なお、従来知られているユウロピウムシリケートにおいては、Euの含有比が数〜0.数%であって少ないが、これは数%以上になると濃度消光を生じるためである。これに対して、本発明に基づくユウロピウムシリケートは結晶化しているために、10〜40%、特に20〜30%とEuを多くしても発光特性を良好に保持することができる。
【0037】
次に、図7(A)及び(B)には、上述のEuxSiyOz発光層11を用いて、例えば、方形の基板12上に、ストライプ状の電極16とストライプ状のEuxSiyOz発光層11及び電極7とをマトリックス状に交差して配置し、各画素を構成した表示素子又は装置を示す。両電極16−7間に選択的に電圧を印加することによって、画素の発光層11が励起され、所定波長の光を放出する素子又は装置を構成することができる。
【0038】
本実施の形態によれば、共スパッタのターゲットとして、入手容易で低温成膜が可能である、シリコン2と安定なユウロピウム酸化物1との複合体を用いるために、表面の酸化が生じない安定したターゲット材を用いて、スパッタ条件の変動や成膜物質の組成変化を防止し、定量的にかつ安定した組成のユウロピウムシリケート化合物の結晶からなる発光体11を容易かつ再現性良く作製することが可能となる。
【0039】
また、例えば、603nmを発光ピーク波長とする黄色発光のEuxSiyOz発光層11を、一般的な材料を用いた共スパッタによって容易に成膜することを可能とする。
【0040】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。
【0041】
例えば、Eu23焼結体1の組成比、載置位置、配置数及び大きさ、共スパッタ条件、アニール条件等は、EuxSiyOz発光層11の目的とする膜性能に応じて様々に変化させてよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の形態によるマグネトロンスパッタの断面図(図2のI−I線に沿う断面図)である。
【図2】同、シリコンターゲットの平面図である。
【図3】同、EuxSiyOz発光層の断面図である。
【図4】同、発光波長と発光強度との関係を示すグラフである。
【図5】同、発光ピーク波長及び発光強度とEu焼結体の個数との相関性を示すグラフである。
【図6】同、発光ピーク波長及び発光強度とEuの組成比との相関性を示すグラフである。
【図7】同、表示素子又は装置の平面図(A)及びそのVIIB−VIIB線断面図(B)である。
【符号の説明】
【0043】
1…Eu23焼結体、2…シリコンターゲット、3…エロージョン領域、
5…永久磁石、7、16…電極、11…EuxSiyOz発光層、12…基板、
E…電界、B…磁界

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式:
EuxSiyOz
(但し、x=10〜40%
y=20〜72%
z=12〜60%)
で表わされるユウロピウムシリケート化合物の結晶からなる発光体。
【請求項2】
前記ユウロピウムの組成x=20〜30%である、請求項1に記載の発光体。
【請求項3】
シリコンとユウロピウム酸化物との複合体からなるターゲットを基体に対向して配置する工程と、前記シリコンと前記ユウロピウム酸化物とを共スパッタする工程を経て、
化学式:
EuxSiyOz
(但し、x=10〜40%
y=20〜72%
z=12〜60%)
で表わされるユウロピウムシリケート化合物の結晶からなる発光体を前記基体上に成膜する、発光体の製造方法。
【請求項4】
前記ターゲットに電界及び磁界を作用させて前記共スパッタを行い、この際、前記電界と前記磁界とが交差して磁力線が集中する領域に前記ユウロピウム酸化物を配置する、請求項3に記載の発光体の製造方法。
【請求項5】
前記共スパッタによって成膜された非晶質のユウロピウムシリケート化合物を真空雰囲気にてアニール処理して、結晶化する、請求項3に記載の発光体の製造方法。
【請求項6】
シリコンとユウロピウム酸化物との複合体からなるターゲットと、前記ターゲットに電界を作用させる電界発生手段と、前記ターゲットに磁界を作用させる磁界発生手段とを有する、発光体の製造装置。
【請求項7】
前記電界と前記磁界とが交差して磁力線が集中する領域に前記ユウロピウム酸化物が配置される、請求項6に記載の発光体の製造装置。
【請求項8】
化学式:
EuxSiyOz
(但し、x=10〜40%
y=20〜72%
z=12〜60%)
で表わされるユウロピウムシリケート化合物の結晶からなる発光体によって構成された発光素子又は装置。
【請求項9】
前記ユウロピウムの組成x=20〜30%である、請求項8に記載の発光素子又は装置。
【請求項10】
入射光又は電圧印加によって励起され、所定波長の光を放出する、請求項8に記載の発光素子又は装置。
【請求項11】
前記発光体が対向電極間に挟持されて表示画素を構成してなる、請求項10に記載の発光素子又は装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−282890(P2006−282890A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−105643(P2005−105643)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】