発光体発光分布測定装置、散乱体物性測定装置、及び、宝石散乱光色測定装置
【課題】散乱体が一定の波長分布の電磁波を受けた際の立体的な散乱分布から、その散乱体の物性を測定する散乱体物性測定装置を提供する。
【解決手段】試料載置台に測定すべき散乱体を置き、該電磁波を前記焦点を中心とする仮想球面の、一以上の任意の方向、及び、一以上の連続する方向の、少なくともいずれかの方向から前記散乱体に照射し、その際に該散乱体で散乱されて前記放物面鏡または放物面スクリーンに反射または投影された散乱波を 平面的な撮像データとして前記撮像手段で撮像し、こうして得られた撮像データから、該散乱体から発生する散乱波の立体的な分布を得て、その結果から該散乱体の物性を測定する場合に、前記散乱波を前記散乱体を中心とする仮想球面の中心軸を含む断面上の円弧の3π/4ラジアンより小さい範囲内に渡って撮像する。
【解決手段】試料載置台に測定すべき散乱体を置き、該電磁波を前記焦点を中心とする仮想球面の、一以上の任意の方向、及び、一以上の連続する方向の、少なくともいずれかの方向から前記散乱体に照射し、その際に該散乱体で散乱されて前記放物面鏡または放物面スクリーンに反射または投影された散乱波を 平面的な撮像データとして前記撮像手段で撮像し、こうして得られた撮像データから、該散乱体から発生する散乱波の立体的な分布を得て、その結果から該散乱体の物性を測定する場合に、前記散乱波を前記散乱体を中心とする仮想球面の中心軸を含む断面上の円弧の3π/4ラジアンより小さい範囲内に渡って撮像する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、散乱体が一定の波長分布の電磁波を受けた際の立体的な散乱分布から、その散乱体の物性を測定する散乱体物性測定装置、この散乱体物性測定装置を宝石の散乱光色の測定に用いた宝石散乱光色測定装置、及び宝石の輝度の測定に用いた宝石輝度測定装置、更に、自ら光る発光体の立体的発光分布を測定する発光体発行分布測定装置に関する。
【0002】
本願は、2010年5月25日に出願された特願2010−119349号(宝石輝度測定装置)と、2010年11月15日に出願された特願2010−254869(散乱体物性測定装置、及び、宝石散乱光色測定装置)とをパリ条約の優先権主張の基礎とする。
【背景技術】
【0003】
本願出願人は、平成22年5月25日に出願した特願2010−119349号によって、外光を受けて輝く宝石の輝きを客観的に測定する宝石輝度測定装置を提案している。以下、まず、その宝石輝度測定装置の背景技術について、当該出願内容を引用して説明する。
【0004】
宝石輝度測定装置としては、特許文献1に記載されたものがあり、図14は、本発明の宝石輝度測定装置の背景技術となる、上記特許文献1に記載された宝石輝度測定装置を示す外観斜視図である。
【0005】
この宝石輝度測定装置60は、ダイヤモンドを測定対象とするもので、透明なガラス円板51bの中心に、ダイヤモンドのクラウン上テーブルをガラス面に接触させて置き、内面白色の半球状ドーム51aでこの上を覆い、ガラス円板51bの真下に円環状の光源52を上下させてクラウン側からの入射光角度を変えながら、光を照射し、その更に下方に置かれたCCDカメラによる検出器55を置くことで、テーブルにほぼ垂直な方向への散乱光のみを視野上の輝点として測定している。
【0006】
この装置60では、クラウン側を下に、パビリオン側を上方に置いて、円環状光源52を上下させることでクラウン側からの入射光角度を変えている。光強度の測定は鉛直軸上のテーブル面直下に配置した検出器55によって各入射角(つまり円環状光源の高さ変化)毎の入射強度として検出され、積算される。パビリオン側の散乱光は白色の半球状ドーム51aによって散漫に散乱された光を再入射させるが、このうちテーブル側法線方向の検出器に入る光も「輝き」として強度積算される。
【0007】
このため上記装置60では輝点の大小(散乱光の立体角)についての評価は不可能であり、視野内に入る強い散乱光の数のみをカウントすることになる。結果的に、細かい輝点(立体角の小さな散乱光)をカウント数の多さから過大評価し、逆に大きなファセットから来る立体角の大きな散乱光を過小評価することになる。
【0008】
しかし肉眼上の体感的な輝度は輝点の大きさ(=反射面ファセットの大きさ)によるものなので、たとえ散乱光強度の総量が同じであっても「散乱光輝点の反射立体角が大きく数が少ない」ものがより大きな美的感動をもたらす。その一方で、「反射立体角は小さいがカウント数が多い」ものは体感的な輝きの点で魅力が減殺されるにもかかわらずカウント数の多さ、または散乱光強度の総量のみによって「大きな輝きを放つ試料」と判断されることになる。
【0009】
また、この装置60ではガラス円板51bの中心軸と検出器55であるCCDカメラ軸を一致させ、光源52を軸対象な位置に輪環状に置いている。この配置は、最も強い反射であるテーブル面上での反射光によって、検出器55に強度光が入射することを回避するためと推測できるが、実際の使用条件下での光入射・散乱を再現しているとは必ずしも言えない。
【0010】
つまり、この装置60の測定方法、「テーブル面の法線方向以外の入射光」によって「テーブル面にほぼ垂直な方向に出てくる散乱光」をカウントする測定方法では、光入射・散乱の条件という点でも実際の使用条件と異なる条件下での測定と言わざるを得なない、と思われた。
【0011】
たとえば実際の使用条件では入射光も散乱光(『輝き』として肉眼に認識される光)のどちらも「テーブル面の法線方向」とは限らないので、現行機種は実際の使用条件をシミュレートしているとは言えないし、実際の使用例をシミュレートし定量化するためには任意の角度方向からの入射と任意の角度方向への散乱を測定する必要があった。
【0012】
上記の問題を部分的に解決しているものとして、特許文献2のものがあるが、この特許文献2の装置では、放物面鏡を用いて、その頂部に孔を明けて、その付近と思われる焦点上に測定対象物を置き、放物面鏡側からその中心軸に平行な視準光線を少なくとも2つ照射することで、その視準光線が放物面鏡に反射されて、焦点上の測定対象物に照射され、その反射により、測定対象物の双方向反射分布関数(BRDF)や、双方向透過分布関数(BTDF)を測定することができるものである。
【0013】
また、この特許文献2では、放物面鏡では、焦点を通る光線は、放物面の中心軸に平行であること、また、放物面の中心軸に平行な光線を反射させると焦点を通ることが記載されているが、宝石の輝度として必要な光の立体角による大きさや、その個数などについては記載されていなかった。
【0014】
また、放物面であっても、その形状によっては、周縁部分の中心軸の位置と反射角の関係が密になり過ぎて、測定精度に影響を与えることが考えられるが、そのような点についての記載は、この特許文献2にはなかった。
【0015】
上記特願2010−119349号では、上記解決課題を解決する宝石輝度測定装置を提案したが、その後、この放物面を用いる装置の構成は、宝石だけに限定されず、散乱体が一定の波長分布の電磁波を受けた際の立体的な散乱分布から、その散乱体の物性を測定する散乱体物性測定装置、及び、この散乱体物性測定装置を宝石の散乱光色の測定に用いた宝石散乱光色測定装置、更に、自ら光る発光体の立体的発光分布を測定する発光体発行分布測定装置にも適用できるということを見いだしたものである。
【0016】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開WO96/23207号公報(図4)
【特許文献2】特表2007−508532号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記知見を実現しようとするもので、特願2010−119349号の宝石輝度測定装置と、この宝石輝度測定装置の原理・構成を用いて、照射するものを可視光に限定しないで、また、測定対象を宝石に限定しないで、また、測定対象を輝度に限定しないで、散乱体が一定の波長分布の電磁波を受けた際の立体的な散乱分布から、その散乱体の物性を測定する散乱体物性測定装置、及び、この散乱体物性測定装置を宝石の散乱光色の測定に用いた宝石散乱光色測定装置、更に、自ら光る発光体の立体的発光分布を測定する発光体発行分布測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の散乱体物性測定装置は、特願2010−119349号で提案された宝石輝度測定装置の原理と構成を利用して、測定対象を散乱体の物性とし、照射する光をより広くしたもので、散乱体が一定の波長分布の電磁波を受けた際の立体的な散乱分布から、その散乱体の物性を測定する散乱体物性測定装置であって、放物面鏡または放物面スクリーンと、その焦点に散乱体を置くための試料載置台と、前記電磁波を発生させる発生器と、前記発生器からの該電磁波を受けて前記散乱体で散乱されて前記放物面鏡で反射され、あるいは、前記放物面スクリーンに投影された散乱波を平面的な画像として撮像する撮像手段とを備え、
前記試料載置台に測定すべき散乱体を置き、該電磁波を前記焦点を中心とする仮想球面の、一以上の任意の方向、及び、一以上の連続する方向の、少なくともいずれかの方向から前記散乱体に照射し、その際に該散乱体で散乱されて前記放物面鏡または放物面スクリーンに反射または投影された散乱波を 平面的な撮像データとして前記撮像手段で撮像し、こうして得られた撮像データから、該散乱体から発生する散乱波の立体的な分布を得て、その結果から該散乱体の物性を測定する場合に、前記散乱波を前記散乱体を中心とする仮想球面の中心軸を含む断面上の円弧の3π/4ラジアンより小さい範囲内に渡って撮像することが可能なので、散乱体から散乱される散乱波の、仮想球面の3π/4(rad.)までの画像が得られ、平面スクリーンで撮像するのに比べ遙かに大きい角度範囲で、なおかつ、変換精度を落とすことなく測定でき、その結果、その散乱体の物性の判断もより正確に行うことができる。
【0020】
なお、ここで、放物面とは、放物線(2次元平面上の曲線)をその焦点を含む中心軸周りに回転させてできる3次元の曲面をさすものとする。
【0021】
本発明の宝石散乱光色測定装置は、散乱体物性測定装置を、宝石の散乱光色の測定に用いたものであって、発生器から白色平行光を照射し、その際に該散乱体で散乱されて前記放物面鏡または放物面スクリーンに反射または投影された散乱波を 平面的な撮像データとして 前記撮像手段で撮像し、こうして得られた撮像データから、当該宝石の散乱色または散乱光の波長分布を定量的に測定することができる。
【0022】
例えば、ダイヤモンドについて言えば、ダイヤモンドの輝き色は、白色が最上ではあるが、これまでは、色見本との対比により、目視または官能検査により白に近いかそうでないかを判断していたが、この装置によれば、客観的に白色度、あるいは、RGBの割合を測定することができる。
【0023】
本発明の宝石輝度測定装置は、散乱体物性測定装置を、宝石が外光を受けて輝く輝きの立体的な分布を測定する宝石輝度測定装置に用いたもので、発生器の代わりに平行光を発生させる光源を備えている。
【0024】
この宝石輝度測定装置は、上記構成において、前記試料載置台に測定すべき宝石を置き、前記光源からの平行光を少なくとも放物面鏡または放物面スクリーンの中心軸から該中心軸に垂直な方向まで、かつ、少なくとも前記平行光と該宝石とを前記中心軸回りに少なくとも90度相対的に回転させて、前記宝石に照射し、その際に該宝石から発生して前記放物面鏡または放物面スクリーンで反射または投影された光の平面的な撮像データを前記撮像手段で撮像し、こうして得られた平面的な撮像データから、該宝石の発光する光の立体的な発光分布(その光の大きさと個数とを含む)を算出する。
【0025】
本発明の宝石輝度測定装置は、上記構成により、実際と同様に光を受けた場合に輝く宝石の光の大きさと個数とを客観的に安定した精度で測定することができる。
【0026】
なお、こここで、平行光を宝石に上記方向から照射するには、放物面鏡または放物面スクリーンにスリットを設けるか、放物面鏡または放物面スクリーン内に円弧状に光源を移動させる手段をもうければ良い。平行光としては、単色レーザー光、白色LED光、赤・青・緑の3色(3本)のレーザー光源を切り替えながら、各色に対するサイズ分布や輝点数を測定するなど、複数光源による観察測定も可能である。
【0027】
本発明の発光体発光分布測定装置は、自ら光る発光体の立体的な発光分布を測定する発光体発行分布測定装置であって、前記宝石輝度測定装置を用い、光源を備えず、試料載置台に測定すべき発光体を置き、該発光体から発光して放物面鏡または放物面スクリーンで反射または投影された光の平面的な撮像データを撮像手段で撮像し、こうして得られた平面的な撮像データから、該発光体の発光する光の立体的な発光分布を算出するので、前記宝石輝度測定装置、ひいては、前記散乱体物性測定装置の効果を、発光体発光分布測定装置として発揮する。
【発明の効果】
【0028】
本発明の散乱体物性測定装置、宝石散乱光色測定装置及び、宝石輝度測定装置、更に発光体発光分布測定装置の効果は、上記手段に記載した通りである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(a)は、本発明の宝石輝度測定装置の概念的な構成図であり、(b)は、該装置で用いる放物面と仮想球面との関係の概念説明図
【図2】発光体からの光の方向の立体角と反射光の中心軸からの距離との関係を得るための式(1)から式(9)を示す図
【図3】光SBの面積の変換について用いる式(10)〜式(20)を示す図
【図4】図1、2、3で説明した原理と計算式とに基づき宝石の輝度を測定する宝石輝度測定装置を示すもので、(a)はその全体の正面図、(b)はその側面図、(c)はその上面図、(d)はこの装置の画像処理、演算及び制御を行うパーソナルコンピュータを示す外観斜視図
【図5】(a)は、図4の鏡体を示す正面図、(b)その下面図
【図6】(a)、(b)は、宝石輝度測定装置で測定した発光体から発光した光を示す図
【図7】図6(b)の画像から得られた輝点SBを仮想球面LD上の立体角分布として変換した後に、サイズSVの度数分布(ヒストグラム)としてグラフ化したグラフ
【図8】サイズの度数分布(ヒストグラム)の指数関数を示すグラフ
【図9】放物面と仮想球面との関係を示す概念図
【図10】図9における「r」と「θ」との関係示すグラフ
【図11】代表的なダイヤモンドのカットを示す図
【図12】X線回折について、本発明の散乱体物性測定装置の原理の特徴を、背景技術の測定装置の原理と比べるもので、(a)は本発明の散乱体物性測定装置の原理の特徴を示す図、(b)は、背景技術の測定装置の原理図
【図13】本発明の宝石散乱光色測定装置の測定結果を示すもので、(a)は全色の散乱分布を示す図、(b)はそのうち赤(R)だけの散乱分布を示す図、(c)はそのうち緑(G)だけの散乱分布を示す図、(d)はそのうち青(B)だけの散乱分布を示す図、
【図14】本発明の背景技術となる宝石輝度測定装置を示す外観斜視図
【符号の説明】
【0030】
1 鏡体
1a スリット
2 光源(LF、発生器)
3 円弧レール
4 試料載置台
5 支持体
6A、6B 平面鏡
7 CCDカメラ
8 枠体
20 宝石輝度測定装置
30 発光分布測定装置
40 散乱体物性測定装置
50 宝石散乱光色測定装置
D 発光体
LL 赤色レーザー光
O 焦点
P〜P6 放物面上の光点
Q〜Q6 仮想球面上の光点
y 中心軸
PM 放物面鏡(スクリーン)
SV 放物面上の光の面積(=dΩ)
dS 仮想球面上の光の面積
r 中心軸からの距離
θ 発光(散乱波あるいは反射波)方向の立体角
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0032】
<本発明の参考となる実施形態1>
図1(a)は、本発明の宝石輝度測定装置の概念的な構成図であり、(b)は、該装置で用いる放物面と仮想球面との関係の概念説明図である。これらを用いて、宝石輝度測定装置の概念的な構成について説明する。
【0033】
本発明の宝石輝度測定装置20は、図1(a)に示すように、レーザー光源LFからの細い平行光LLを複数の方向から自ら発光しない発光体である宝石D(特に、ダイヤモンド)に入射させることによって、実際の使用場面(あらゆる方向から光が入射する)をシミュレートし、使用場面での「光り方」を数値化・定量化するものである。
【0034】
発光体Dの「光り方」は,平行光LLを照射された発光体Dが発光する光SBが試料位置を中心とする仮想球面VS上に投影されるサイズ・面積(立体角)SVによって定量化される。発光体Dの場合、実際の使用場面では試料に対してあらゆる方向から光が入射することによって散乱光が放射されるが、本測定装置20では数値化・定量化のために入射光源LFを1カ所にして、その方位を球面上で移動させる(図1(a)では極座標α、βの角度を変えて走査する)ことにより、実際の使用場面における「全方向からの光入射」を再現する。
【0035】
さらに図1(b)に示すように、「仮想球面VS上の光(面積)dΩ」を正確に測定するために放物面状の凹面鏡PMを用いて、そこで試料(発光体D)から放射されてくる光による輝点Sを「仮想球面VS上のサイズdΩ」(面積)に換算し、その統計量から元の発光体Dから放射される光のサイズdΩの分布を解析する。
【0036】
<発光体からの光の方向の立体角と反射光の中心軸からの距離との関係>
図1(b)に示すように、放物面鏡PMの焦点に置いた発光体Dのからの光SBの凹面鏡PMによる反射光は、放物面鏡の中心軸(y軸)に全て平行で、その焦点平面上の中心からの半径距離rと、光SBに関する方位角(立体角)θとの間には、次のような関係がある。その説明に用いる式を図2にまとめて示し、以下、その式を参照しながら、この関係について説明する。
【0037】
最初に3次元での極座標として(θ、φ)方向に出て行く光があるとする。この場合の「極座標」は地球上の緯度・経度や天球面と同じ概念なので、北極をθ=0°としておく。このとき、「南極」がθ=180°(deg.) =π (rad.;ラジアン)、「赤道」がθ=90°(deg.) =π/2 (rad.) となり、「北半球」は 0≦ θ ≦ π/2 (rad.) になる。また試料(発光体D)は球中心Oにある。と考える。
【0038】
このとき実体・仮想的なものを含めた投影面や反射面など、系は「軸対象」なのでφ(地球上の座標では経度に相当する)方向には座標変換を受けない。そこで以下ではθについての変換だけ考える。
【0039】
対称軸をy軸に取り、放物線の凸側に+y軸を取ると、球中心である原点Oに焦点を一致させた放物線の方程式は二次式である図2の式(1)で表される。
【0040】
一般的にはここでの定数A(>0)は任意の正数であれば良い。今、球中心から投射・散乱される光を半径aの「仮想球面」で受けることを考える。水平線(赤道線)方向(図のx軸方向、またはθ=90°)の位置でその「仮想球面」と放物面が一致するようにするには A=1/2a に選べばよい。つまり、図2の式(2)が「原点を焦点として赤道半径aの全天球をカバーする放物面(パラボラ面)」の方程式ということになる(実施例ではa=100mm)。
【0041】
原点から放射される光は、図2に示す式(3)という一次方程式(直線)で表せる。この時の傾きmはy軸との角度θと図2に示す式(4)の関係がある。たとえば、式(2)と式(3)との交点Pの座標を(p,mp)とすると、式(2)から図2に示す式(5)及び図2に示す式(6)が得られ、これを解くと図2の式(7)が得られ、式(4)は図2の式(4)′という表現も可能であり、その結果、図2の式(8)の関係が得られる。
【0042】
ここで、数式の上では、原点から放射される光を表す直線の方程式(式(3)。OPを結ぶ直線)は、図面では見えていないが、放物線を表す二次曲線(放物線)と2カ所で交わることになるが、0<θ<π/2 の範囲での交点Pのx座標が 0<p<a であることを考えると、(8)式の複号として「+」を考えれば良い。
【0043】
実はこの場合の複号の−(マイナス)も含めれば、本機構の原理が南半球(π/2<θ<π)も含む、南極点以外の全天をひとつの放物面でカバーできる、というアドバンテージを示している。ただしこれは、「放物面をいくらでも深く作ることができる」という条件の元での話であり、機構上は現実的ではないので、実際の測定上は「南半球用の放物面」を設置した方が有効とも言える。
【0044】
つまり「北極軸に対してθの角度で出てくる光は、放物面上のx座標=a((1−cosθ)/sinθ)の点に投影される」ということになる。このとき、もし放物面が「鏡」であれば、試料から出てきた光は反射され、全ての角度θの光がy軸に平行な光として−y方向に向かうことになる。
【0045】
または放物面が「白色スクリーン」の場合には、中心点から放射される光はそこで止まることになる。この投影像を十分に離れた位置(つまり視野に入る像を全て、近似的な平行光線として観測できる位置)から見ると「鏡」の場合に反射されるのと同じ位置に光が見えることになる。
【0046】
結局このことは、放物面が理想的(方程式(2)式で表せる形状を正確に実現している)でありさえすれば、
1)放物面形状のミラーによって反射された光を無限遠(十分に離れた位置)で観測する、
2)放物面形状のミラーによって反射された光をy軸に直交する平面状スクリーンに投影する、
3)放物面形状のスクリーンに投影された光を−y方向の無限遠で観測する、
4)放物面形状の半透明スクリーンに投影された光を+y方向(裏側)から観測する、などのいずれの光学系(図9を用いて、再度説明する。)としても観測され得ることを示している。
【0047】
そしてそのときの平面上の極座標 ( r, φ ) は元の球面上の極座標(θ, φ ) と、
図2の式(8)’または、式(9)によって相互に変換して一意的に求めることができる(φについては変換を受けない。)。
【0048】
<光SBの面積の変換>
以下、光SBの面積の変換について、図3の式(10)〜式(20)を用いて説明する。
【0049】
放物面の焦点に一致させた球中心に置いた試料から散乱・反射・放射された光が立体角dΩを持っているとすると、球面上での極座標(θ、φ)によって、図3の式(10)と表せる。この場合のdΩは、θについてはdθ、φについてはdφの幅を持った「矩形」の領域となる。また各輝点は最大のものでも全球面または半球面の空間内では相対的な面積は「微小」と考えて良い。
【0050】
そこで以下の近似を考える。説明上、「放物面状の凹面鏡を用いて球中心から放射される光を軸に平行な光線に変換して、それを赤道面平面に相当する平面スクリーンSCに投影する」という状況(図1(b))で説明すると、各輝点は、(θ、φ)〜(θ+dθ、φ+dφ)の矩形形状と考える。
【0051】
すると反射または投影される位置での球面(=面法線が中心点を向く、または中心からの光を垂直に受ける面)上で矩形の面積dS は、図3の式(11)となる。
Rは、図1(b)に示すように、球中心から放物面(ミラーまたはスクリーン)までの距離なので、θ(0≦θ≦π/2(rad.))に応じて (a/2)≦R≦aの範囲で変化する。
【0052】
輝点の大きさが十分に小さいという仮定の下で、「球中心から投影された矩形状の輝点は、放物面鏡で反射されて平行光として平面スクリーンに投影されたときにも矩形形状をしている」と考える。すると、平面状円板スクリーンに射影された輝点は「半径方向(図1(b)のr)に関して変換を受け、角度方向(球面極座標のφに一致する)には変換を受けない」と考えて良い。
【0053】
更に、もし元の散乱光が矩形形状をしていない場合でも、「θ方向には長さの変換を受けるがφ方向には長さが変わらない」という状況は同じなので、結果的には「試料から投射される元の光の輝点の立体角としての大きさ」と「放物面鏡で反射され、平行光線として投影される輝点の大きさ」について同じ議論を適用することができる。
【0054】
平面状スクリーン上の半径位置rと元の光SBの角度θとの間には図2の(8)’式、(9)式の関係があることから、図3の式(12)、式(13)(∵ 式(8)′)が導かれる。
【0055】
投影先の輝点(凹面鏡反射によって平行光線に変換された後に投影された、平面スクリーン上の扇形)の面積をdS′とすると、図3の式(14)、式(15)が得られる。
【0056】
ここでRは球中心(放物面の焦点)から実際の反射や投影が生じる「放物面」までの距離であることから、中心点から来る傾きmの直線と放物面との交点Pの座標を(p,mp)としたときの座標によってR2=(1+m2)p2となる。そしてこの交点Pのx座標pは平板状スクリーン上での輝点の投影先、中心からの距離(半径位置rとなり、図3の式(16)が得られる。
【0057】
これらの式(15)、(16)から,図3の式(17)が得られ、このことは「放物面鏡の焦点に置かれた試料から届く散乱光を放物面鏡を用いて平行光線に変換したとき、投影される先の輝点の面積は反射位置で見込んだ散乱光の面積(反射位置に仮想的な球面を考えた時に球面上に投影される面積)に等しい」ということを意味する。
【0058】
なお、この面積(反射前・反射後投影像)以外にも、輝点の立体角 dΩについて議論・比較することによって試料を評価することも可能であり、図3の式(18)、(19)、(20)の関係が導かれる。
【0059】
実施例ではa=100mm を半径(焦点を通り軸に直交する面の円半径)とする放物面凹面鏡によって得られた輝点の反射像面積dSと立体角dΩについて比較評価している。
【0060】
図4は、上記図1、2、3で説明した原理と計算式とに基づき宝石の輝度を測定する宝石輝度測定装置を示すもので、(a)はその全体の正面図、(b)はその側面図、(c)はその上面図、(d)はこの装置の画像処理、演算及び制御を行うパーソナルコンピュータを示す外観斜視図、図5(a)は、図4の鏡体を示す正面図、(b)その下面図である。なお、これより、既に説明した部分については同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0061】
この宝石輝度測定装置20は、所定の式に基づいた放物線を焦点を含む軸中心に回転させた形状の放物面上に白色塗装をした放物面スクリーンPMをその内面に備えた画像化体1と、赤色レーザー光LLを発する光源2(LF)と、光源を円弧上に移動させる円弧レール3と、発光体Dを載せる透明の試料載置台4と、画像化体1と光源2と円弧レール3とを一体的に支持しこれらを試料載置台4に対して回転させる支持体5とを備えている。
【0062】
宝石輝度測定装置20は、また、スクリーンPMに投影される投影像を2回90度に方向変換する2枚の平面鏡6A、6Bと、平面鏡6Bから来る反射光画像を撮像するCCDカメラ7と、これらを支持する枠体8とを備えている。
【0063】
また、宝石輝度測定装置20は、上記の関連機器を制御し、得られたデータを処理するためのパーソナルコンピュータ本体11、平面表示パネル12、キーボード13、及びマウス14を備えており、本願で説明する機器の作動を制御し、また、データ処理を行って、必要なデータを得ることができる。
【0064】
画像化体1は、図5に示すように、全体としては、平円柱状で、その下内面に放物面スクリーンPMが形成され、また、その外側からの光源2の赤色レーザ平行光線LLを、画像化体1内の試料である発光体Dに照射するため、少なくとも水平から垂直位置までのスリット1aが設けられている。また、この画像化体1を支持体5に取り付ける取付穴1bを備えている。
【0065】
このスリット1aは、非反射部分であり発光体Dからの全ての反射光を得るという点では、データの欠落となるものである。しかし、試料の大きさに応じて入射光の幅を狭くすることで、観測範囲内での欠落部分を小さくすることもできる。実施例では半径100mmの円形領域のうちの幅10mm×長さ105mmの範囲が欠落部分となっているだけで、全体のデータへの影響は少ない。
【0066】
光源2は、円弧レール3上を円滑に動き、かつ、任意角度位置でその角度を保持できるように、サーボモータ等の制御性のよい電動駆動手段で駆動されている。この円弧レール3は、画像化体1の外側に支持体5を介して固定されている。
【0067】
このような装置20で、発光体Dを試料載置台4に固定設置しながら、光源2を円弧レール3を移動停止させて、平行光LLの傾きを0度から90度まで変え、また、支持体5によって、固定された発光体Dに対し、光源2を放物線の焦点を含む中心線を垂線とする平面上で回転されることができる。
【0068】
なお、スリットを設けないで、放物面スクリーンPMや放物面鏡の内側に円弧軌道を移動する小形の平行光線の光源を設定して、発光体Dに平行光線を照射するようにしてもよい。
【0069】
図6(a)は、このような装置を用いて、ある角度位置で赤色レーザー光の平行光線LLを発光体D(ダイヤモンド)に入射させた時の発光(散乱光・赤色)を放物面スクリーンPMに反射させた輝点(光)SBをモノクロ化し、白黒反転で示したものである。得るべき画像は、放物面スクリーンPMを無限遠点から観察したものになるが、放物面スクリーンPMの形状が既知であるので、観察される各輝点SBの仮装球面LD上の位置と、輝点サイズとしての立体角SVは、中心点からの距離と位置によって、変換・換算することができる。
【0070】
図6(b)は、図6(a)の観測像を「2値化」した画像を示す。つまり、各輝点SBのサイズSVを計測するために「2値化処理」(白黒濃淡の画像を 0 or 1 の形状データに変換する)を施してサイズ分布を統計計測するのである。この「2値化」に際して、閾値を調整することで輝点の強度・コントラストの統計分布を解析することも可能となる。
【0071】
図7は、図5(b)で2値化した画像から得られた輝点SBを仮想球面LD上の立体角分布として変換した後に、サイズSVの度数分布(ヒストグラム)としてグラフ化したグラフを示すものである。
光源LFの位置を仮想球面LD上での極座標(θ、φ)を変えながら走査し、立体角SV(ステラジアン、 strad.)分布の総和からグラフ化したものである。
【0072】
その結果、立体角dΩ(strad.) に対する輝点SBの個数N が指数関数に比例する、つまり
N(dΩ)=N0exp{−λdΩ} (λ>0、N0は定数) 式(21)
という経験則が得られた。
【0073】
図7に示すヒストグラムは、光源LFの極座標位置(θ、φ)を10点((0度,0度),(30度, 0度),(30度, 90度),(60度,0度),(60度, 45度),(60度、90度),(90度,0度),(90度,30度),(90度,60度),(90度,90度))で変えながら観測した輝点すべてについて、換算後のdΩの度数分布を計数したものである。
【0074】
このヒストグラムについて、横軸は立体角dΩ、縦軸はdΩについての各区間範囲の立体角を持つ輝点SBの個数N(dΩ)を示す。
【0075】
なおこの10点は全球面の1/8上をほぼ平均的に選んだ入射方向と考えるが、入射光の方向について更に点数を増やし、走査ステップを密にすることで精度が向上するとともに、観測点数の数も増すことができる。また、よりひろい角度範囲について光源LFを移動させて照射させることも可能である。
【0076】
この度数分布データから得られる「散乱体の光り方」の指標となる数値は、
(1) dΩについての度数分布が指数関数的になる区間(おおよそdΩ=0 〜 1.5×10−4 strad.)の減衰率λ、
(2) 一定の範囲以上の大きさを持つ(立体角dΩが大きな、たとえばdΩ>2x10−4 strad.)輝点の個数であると考えられる。
【0077】
更に「2値化」という画像処理時の閾値を変えることで減衰率λが変化する。ここから導かれる輝点の立体角の統計的平均値を比較することで
(3) 各散乱体の輝点を強度として見たときのコントラストに関する指標、が計算できる。つまり度数分布を解析することで、
1)dΩの大きな輝点が多い試料か、小さなものが多い試料か、
2)dΩの絶対値が大きな輝点を多く散乱させる試料か、
3)輝点のコントラストが際立つ試料か、についての指標を数値化することができる。
【0078】
<サイズの度数分布(ヒストグラム)の指数関数>
これらの指標のうち、「dΩの大きな輝点が多い試料か、小さなものが多い試料か」の判断基準となる「指数関数的領域」から得られる「度数分布の減衰係数λ 」を上記の例で示す。
【0079】
立体角dΩを示す輝点の個数N(dΩ)が N(dΩ)=N0exp{−λdΩ} の分布を持つと仮定してN(dΩ)の対数 ln{N(dΩ)} を取り、それをdΩについてプロットすると図8に示すように、ほぼ直線関係が得られる。
【0080】
このときの直線の傾きが減衰係数の符号を変えた値( −λ)に相当するので、
・λが大きい試料 = 立体角dΩの輝点の個数N(dΩ)が早く減衰する
= 大きな立体角dΩを持つ輝点の個数が相対的に少ない試料
・λが小さい試料 = 立体角dΩの個数N(dΩ)が緩やかに減衰する
= 大きな立体角dΩを持つ輝点の個数が相対的に多い試料
という指標になる。
【0081】
以上の結果、本発明の宝石輝度測定装置20によれば、放物面スクリーンPMを用い、その焦点に測定すべき宝石Dを置き、前記放物面鏡Pに設けられたスリット1aから、少なくとも放物面スクリーンPMの中心軸yに垂直な方向から該中心軸に一致する方向まで、少なくとも該スリット1aと該宝石Dとを少なくとも90度相対的に回転させて、レーザ光LLを前記宝石Dに照射し、その際に該宝石Dから発生して前記放物面スクリーンPMで反射された光の撮像データを解析して、該宝石Dの発光する光SBの大きさと個数とを算出することができ、これにより、実際と同様に光を受けた場合に輝く宝石の光の大きさと個数とを客観的に安定した精度で測定することができる。
【0082】
本願の発明者は、宝石Dの発光する大きな光SBの個数が多いほど、感覚的に良く光る、輝く宝石であると考え、この宝石輝度測定装置20によって、宝石、特に、ダイヤモンドの輝きの客観的測定ができるものと考えている。今後、なるべく多くの宝石の測定を行い、人が感じる輝きと、この装置20による測定値との対応関係を明確にして行きたい。
【0083】
なお、例示した反射型放物面スクリーンPMの代わりに、放物面鏡としても同様の効果を得ることができる。また、こここで、平行光を宝石に上記方向から照射するには、放物面鏡または放物面スクリーンにスリットを設けるか、放物面鏡または放物面スクリーン内に円弧状に光源を移動させる手段をもうければ良い。平行光としては、単色レーザー光だけでなく、白色LED光、赤・青・緑の3色(3本)のレーザー光源を切り替えながら、各色に対するサイズ分布や輝点数を測定するなど、複数光源による観察測定も可能である。
【0084】
<本発明の基礎となる発光分布装置>
図9は、放物面と仮想球面との関係を示す概念図であり、この図を用いて、本発明の宝石輝度測定装置と同じ原理に基づく発光分布測定装置の概念的な構成について説明する。
【0085】
この発光分布測定装置30は、自ら発光する発光体Dの立体的な発光分布を測定する装置であって、放物面鏡PM1あるいは放物面スクリーンPM1を用い、該放物面鏡PM1を用いて、その焦点Oに発光体Dを置き、その放物面鏡PM1の中心軸y上から、前記発光体Dから発光され、前記放物面鏡PM1によって反射された光をCCDカメラCAで撮像し、あるいは、該放物面スクリーンPM1を用いて、その焦点Oに発光体Dを置き、その放物面スクリーンPM1の中心軸y上から、前記発光体Dから発光され、前記放物面スクリーンPM1に投影された光を撮像し、上記いずれかの撮像データを解析して、前記発光体Dの立体的な発光分布を測定することを特徴とするものである。
【0086】
この際、図上で、発光体Dから発光される光SB1からSB6が、放物面鏡PM1で反射され、あるいは、放物面スクリーンPM1に投影された各光点P1〜P6を撮像し、これらの投影光あるいは反射光L1〜L6は、中心軸yに平行で、その各光点の位置r1〜r6と、サイズdS1〜dS6から、仮想球面VS1上の光点Q1〜Q6の位置θ1〜θ6とサイズdΩ1〜dΩ6とを、それぞれ、上述した方法で算出することができる。
【0087】
この際、この図9で明確に解るように、また、既に説明したように、仮想球面VS1上の光点Q1〜Q6の位置θ1〜θ6とサイズdΩ1〜dΩ6とを簡単に計算でき、加えて、図示したような放物面PM1と仮想球面VS1との関係から、一回の撮像で、発光体Dの仮想球面VS1の3π/4(rad.)までの画像が得られ、実用的には十分である。この撮像範囲は、3π/4以下の範囲内であっても、3π/4より小さい範囲内であってもよい。
【0088】
また、放物面上の光点P1〜P6と、仮想球面上の光点Q1〜Q6との関係を見てもらうと解るように、概ねどの方向への発光についても、PとQの対応関係が変換精度良く変換できる関係となっていて、安定した精度で変換できる。図10は、そのような「r」(中心軸からの距離)と「θ」(発光の立体角)との関係を示すグラフである。ここで示されている式r(θ)=a・(1-cosθ)/sinθは、図2の式8´と同じ式である。
【0089】
また、放物面鏡を用いて、撮像する場合には、スクリーンSC1を用いても良いし、用いなくとも良く、理想的にCCDカメラCAの位置は、無限遠点が望ましいが、近くにおいても、角度変換は容易である。
【0090】
一方、放物面スクリーンを用いる場合は、CCDカメラCAは、凸側においても、凹側に置いても良くなり、装置の設計自由度が高まり、また、装置の小型化も可能となる。また、放物面スクリーンは、透過性のある合成樹脂などの素材からなるとすることができ、製造コストを下げることができる。また、カメラCAは、CCDカメラに限定されるものでは、用いる電磁波に応じた撮像手段を用いるのが良い。
【0091】
また、試料から放射される光が紫外線・X線のような不可視光である場合に、放物面スクリーンの素材として蛍光体を用いることで、発光測定ができる。
【0092】
こうして、この発光分布測定装置30によれば、放物面を用いることで、自ら発光する発光体の広い角度範囲の発光分布を客観的にかつ簡易精確に測定することができる。自ら光る発光体としては、発光ダイオード(LED)や、電球、蓄光蛍光体、有機EL発光体などが含まれる。
【0093】
つまり、本願では、放物面(鏡、スクリーン)を用いることで、発光体(みずから光らないものを含む。)の発する光を、放物面の中心軸に平行な光とすることができ、これを平面的な受光体であるCCDカメラで撮像したデータから、この発光体の発する光の分布を立体的に測定することができるのである。
【0094】
図11は、代表的なダイヤモンドのカットを示す図であり、これを用いて、ダイヤモンドについての概説と、その輝度測定の現状と、本願の宝石輝度測定装置を製作するに至った経緯について説明する。なお、この図は、Gemological Institute of America(G.I.A.)が1972年に発行した「TEXT B00K」のASSIGNMENT15のFIGURE6を引用したものである。
【0095】
ダイヤモンドの価値評価の基準としては、4Cと呼ばれているものがあり、1.カラット(重さ)、2.カラー(色)、3.カット(プロポーション、シンメトリー及びポリッシュ)、4.クラリティー(内包物の質と量)である。
【0096】
この内、ダイヤモンドの輝きに関与するものは、カットとクラリティ−であるが、クラリティ−は、自然によって作られるものであって、人が関与することはできない。一方、カットについては、ダイヤモンド粒子を用いた砥石で、ダイヤモンドの表面を研磨することで輝きを増減することができる。
【0097】
現在、そのダイヤモンドのカット形状としては、一般的に、58面体カット(キュレットを含む。)か、57面体カット(キュレットを含まない。)が採用されており、本願出願人もこの、57あるいは58面体カットを支持するものであり、図11はその58面体カットの各部分の形状と名称を示している。
【0098】
まず、58面体カットの形状は、大きく分けて、人に見える側のクラウン(CROWN)とその反対側のパビリオン(PAVILION)と、これら両者の境目の外縁部分であるガードル(GIRDLE)とから構成されている。なお、ガードル(GIRDLE)及びキュレット(CULET)部分に「(enlarged)」とあるのは、「拡大した」という意味である。
【0099】
クラウン(CROWN)は、その天頂面の8角形のテーブル(TABLE)と、このテーブルの各辺から下方へ傾斜した8つの三角形のスターファセット(STAR FACET)と、このスターファセットの隣り合う辺を含んでガードルに達するほぼ菱形の下方へ傾斜した8つのベーゼルファセット(BEZEL FACET)と、ベーゼルファセット間とガードル間の面を二つの直線辺を一つの円弧辺でつないだ16のアッパーガードルファセット(UPPER-GIRDLE FACETS)とから構成されている。
【0100】
パビリオン(PAVILION)は、ガードルからキュレットに向かう一対の短辺と一対の長辺からなる菱形状の8のパビリオンファセット(PAVILION FACET)と、パビリオンファセット間の長辺と、ガードル(GIRDLE)に達する円弧辺である16のロアーガードルファセット(LOWER-GIRDLE FACETS)と、底面を形成する8角形のキュレット(CULET)とから構成されている。
【0101】
このような58面体カットは、通称、ラウンドブリリアントカット(ROUNDBRILLIANT CUT)と呼ばれているので、その表記が図の下方にある。なお、図4の測定装置での測定の場合、発光体であるダイヤモンドは、キュレットを下に、テーブルが上になるように試料載置台4にセットされるが、測定の目的に応じて、異なる姿勢で発光体をセットしてもよい。
【0102】
これらのカット面は、原則として、平面であり、各カット面間の相互角度も詳しく定められており、その基準角度と平面度でカットされたダイヤモンドは最も美しく輝くというのが一般に言われていることである。
【0103】
しかしながら、ダイヤモンドについては、その硬度が一番高いので、そのダイヤモンドを磨くのにもダイヤモンド粒子を含んだ砥石を使う必要があり、ある面を研磨すると、その面が研磨されると同時に砥石も減っていく、という関係があり、精確に目標とする基準角度と平面度でカットすることは不可能である。
【0104】
現実に市販されているダイヤモンドの各カット面相互間の角度は、少なくとも小数点以下2桁の誤差があり、このような誤差のあるダイヤモンドに入射した光は、ダイヤモンド内で複雑な反射、屈折を繰り返して、最終的に散乱光として発光するが、その角度は、上記角度誤差が大きく影響して、理想的な散乱光が出てこない、という状況である。
【0105】
そこで、客観的にダイヤモンドの輝きを測定する装置として、特許文献1のものが、現存しているが、上述したような問題を抱えている。一方、米国宝石学会(Gemological Institute of America )で宝石鑑定の技術と経験を積んだ者が、GG(グラジュエイト・ジェモロジスト)として、ダイヤモンドの鑑定を行っているが、所詮、人の目による鑑定であり、客観的なものではない。
【0106】
また、カット数を増やして、66面、100面、144面、194面、210面などとして、輝きを増そうという提案もあるが、これらは、確かに細かい輝きの数は増えるかも知れないが、それが本当にダイヤモンドとしての上質な輝き、見た人に感動をあたえる輝きであるとはいえないし、また、上述のカット精度の問題も面数を増やせば増やすほど大きくなる。
【0107】
また、カットの面と面との関係に特殊な条件を設けてカットすることで、ダイヤモンドの輝きを増すという特許発明も提案されているが、上述のカット精度の問題から、その条件を満たすように正確にカットすることができない以上、この特許発明の効果とする輝きの増加という効果も期待しがたいものと思われる。
【0108】
そこで、本願出願人は、永年のダイヤモンド鑑定士としての経験を踏まえ、大きな面積の光をより多く出光するものが、ダイヤモンドとして上質な輝き、見た人を感動させる輝きを与えるものであることを踏まえ、今回の宝石輝度測定装置で、それらの値を客観的に測定することができるようにしたものである。
【0109】
また、本出願人は、この宝石輝度測定装置の原理は、自ら発光する発光体の発光分布にも有効であると感じ、上述の発光分布測定装置をも提案することにしたものである。
【0110】
なお、本発明の発光分布測定装置及び宝石輝度測定装置は、上記の実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲、実施形態の範囲で、種々の変形例、組み合わせが可能であり、これらの変形例、組み合わせもその権利範囲に含むものである。
【0111】
また、本発明の発光分布測定装置及び宝石輝度測定装置によれば、各輝点のサイズの立体角と方向の立体角を測定できるので、以下のようなことも可能である。
(1)輝点の異方性(「いびつ」の度合い。円形に近い輝点や、尾を引いた彗星のような形の輝点を統計的に測ることができる。これによって各試料のファセットの研磨精度や平滑性を評価することができる。
(2)特定方向からの光源入射(方位角(α、β))に対して、輝点の仮想球面内での位置分布(方位(θ、φ)での分布)の程度を測ることができる。たとえば、「北極近くに集中して輝点が出やすい試料」に対して、「北半球にほぼ一様に分布した輝点が出る試料」を定量的に区別することができる。これを数値化することで、たとえば「テーブル面方向に強い輝きを生じるカット」を評価する指標となる。
(3)光源を動的に移動させたときに、特定の輝点がどの程度の角度範囲に亘って見えるか、が分かる。つまり、動いていく一つ一つの輝点の動きを追跡できる。これは指輪、イヤリング、ネックレスなど動態条件下で使用されることが多い装飾品の評価指標となりうる。
【0112】
また、実施例では「試料を固定して光源を方位角α、βで動かす」という装置ではあるが、「放物面凹面ミラー・スクリーンを使った上で、たとえば光源位置を北極に固定し、試料側を方位角α、βで振る」(ゴニオメータ)という相対的な移動方法を用いてもよい。またはこれらの折衷による光源または試料の位置・方位についての移動方法であっても良い。
【0113】
<本発明の実施形態>
本願発明者は、上記で提案した宝石輝度測定装置は、対象物を宝石に限定しないで散乱体とし、当てる光も可視光線に限定せず一定の波長分布を持った電磁波とし、例えば、この散乱体の物性としての散乱分布が既知の場合に、この散乱体に前記電磁波を照射し、それによりこの散乱体から発生する散乱波の分布を平面的な撮像データとして得、この撮像データから、試料とされた散乱体の立体的な散乱分布を得て、両者の物性は同じであることを判断する、というような使い方も可能であると考え、本願発明の散乱体物性測定装置を提案するものである。
【0114】
この場合、入射光は、可視光、赤外線、紫外線、(軟・硬)X線、γ線を含めた電磁波または放射線。波長として10−12〜10−3mの単一波長を持った単色光または白色光などの波長分布を持った電磁波とする。
【0115】
また、散乱波は、入射波と同じ波長領域の電磁波または放射線。ただし散乱波が入射波と異なる波長であったり、入射波長によって最終的な散乱強度分布に差が生じたりしても良いこととする。
【0116】
観測方法:放物面を用いて、そこでのミラーとしての反射やスクリーンとしての投影を通じて、試料が発する3次元空間内での散乱波の強度・方位を2次元平面上での情報に対応させ、位置・強度情報として変換する。このとき「放物面」の素材、形状、反射・投影の方法に応じて位置・強度の補正を行う。これは、反射面・投影面の状況や試料位置の偏差による影響の評価を考慮して行われるものである。また、可視光・非可視光ともに可視化や強度測定は、「放物面」上での投影または「放物面」による反射光の投影先のどちらで行っても良い。
【0117】
たとえば、白色光(波長分布を持った入射光束)の入射において、試料内部での屈折率の差や変調構造などによって波長毎に散乱光の方位が変化する現象(波長分散)が生じる場合には、検出器のフィルター調整やスペクトル分解などを用いることで試料の色合い、波長毎の散乱強度分布などを分離し計測することができる。
【0118】
可視光、またはX線や紫外光などの非可視光を試料に入射したときに、試料から入射光波長とは異なる波長で散乱光が放射される物性(蛍光)を3次元空間内での方位毎に定量化し、観測測定することができる。
【0119】
散乱光として試料から非可視光が散乱放射される場合には、「放物面」上に塗布した蛍光物質の発光や輝尽性蛍光体などへの強度蓄積として散乱光を観測測定することもできる。
【0120】
測定対象は散乱体であって、入射光(電磁波)に対して、光学的な反射・屈折面(結晶光学的な反射面を含む)による反射や屈折、または微細構造に基づく散乱・回折を生じさせる構造を持った物質を含む。入射光と同じもしくは異なる波長の電磁波を散乱・回折・屈折する散乱体であってもよく、固体・液体・気体を問わない。
【0121】
液体、気体の場合は、使用する電磁波に対して透過性の良い、かつ、液密、気密が維持できる容器に収納して、試料載置台4に載せればよい。
【0122】
本発明の散乱体物性測定装置40と、宝石散乱光色測定装置50の具体的構成と効果は、手段に記載した通りである。ただ、散乱体物性測定装置においては、図4の宝石輝度測定装置に比べ、光源が平行光だけを照射するものに限定されない発生器2となっている点と、この発生器2を上下へ回転させるレール3が、発生器2そ試料載置台4の真下からも照射できるようになっている点が異なるだけである。また、宝石散乱光色測定装置では、光源2が白色平行光を照射する点だけが異なっているだけである。
【0123】
<実施例1>
図12(a),(b)は、本発明の散乱体物性測定装置をX線回折に用いた場合と、一般の平面スクリーンを用いた場合の作用効果の差異を説明する図である。
【0124】
図12において、LXはX線、DRは散乱体、DLは散乱光(回折光)FMは平面スクリーン、PMは放物面スクリーンで、図5に示す鏡体を材料を透明アクリルで作成し、その放物面に蛍光体、あるいは、イメージングプレート(GLScan社)に用いられる塗布剤を塗布したものである。Oは放物面の焦点である。
【0125】
本願の散乱体物性測定装置によれば、焦点位置からの散乱光DLを受光する。このとき放物面状スクリーンPMはθ=0〜90°の範囲の散乱光、更にθ>90°の「地平線以下」の範囲の散乱光を受光することができる。
【0126】
これに対して平面状スクリーンFMは装置の大きさRが有限である限りθの受光範囲が限定的であり、「地平線」付近(θ〜90°)の散乱光やθ>90°の範囲の散乱光を検出することは不可能である。
【0127】
また、平面状スクリーンFMまでのカメラ距離Dを短くする(スクリーンを試料に近づける)ことで検出角度範囲を拡張することは可能だが、θ〜0°付近とθ〜90°付近とで検出性能に大きな差が生じる。また装置の大きさRを無限に大きくすることは現実的ではない。
【0128】
本発明の場合は、上述したように、半球を超える大きな角度範囲で散乱光を撮像できるとともに、変換の場合の精度が一定し、また、変換式が簡易なものであるという効果を有する。
【0129】
<実施例2>
図4で説明した装置において、光源(発生器)2から、白色平行光を発生させて、一定の角度範囲で散乱体であるダイヤモンドに照射するという実験を行った。図13は、その実験結果として得られた散乱分布(発光分布)を示すもので、(a)は全色の分布、(b)は赤色(R)の分布、(c)は緑色(G)の分布、(d)は青色(B)の分布を示すものである。この宝石散乱光色測定装置は、結局、上記の宝石輝度測定装置の同じ原理と構成で、白色平行光を照射する点と、測定対象が宝石の散乱光の色調である点が異なるだけである。
【0130】
この結果により、白色平行光を照射した場合のダイヤモンドの散乱光分布が、RGBについて得られ、その結果を分析することで、宝石であるダイヤモンドの散乱光の色調を客観的に測定することができる。また、図13(d)に矢印で示すように青色の成分が多いことが解る。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の散乱体物性測定装置、宝石輝度測定装置、宝石散乱光色測定装置、及び、発光体発光分布測定装置は、放物面鏡または放物面スクリーンを用いて、その測定対象をその焦点において、測定することで、この焦点を中心とする仮想球面の天頂(北極)から3/4π(rad.)より小さい範囲内に渡って、散乱光あるいは反射光を変換精度よく測定することが要請される産業分野に用いることができる。
【図1(a)】
【図1(b)】
【技術分野】
【0001】
本発明は、散乱体が一定の波長分布の電磁波を受けた際の立体的な散乱分布から、その散乱体の物性を測定する散乱体物性測定装置、この散乱体物性測定装置を宝石の散乱光色の測定に用いた宝石散乱光色測定装置、及び宝石の輝度の測定に用いた宝石輝度測定装置、更に、自ら光る発光体の立体的発光分布を測定する発光体発行分布測定装置に関する。
【0002】
本願は、2010年5月25日に出願された特願2010−119349号(宝石輝度測定装置)と、2010年11月15日に出願された特願2010−254869(散乱体物性測定装置、及び、宝石散乱光色測定装置)とをパリ条約の優先権主張の基礎とする。
【背景技術】
【0003】
本願出願人は、平成22年5月25日に出願した特願2010−119349号によって、外光を受けて輝く宝石の輝きを客観的に測定する宝石輝度測定装置を提案している。以下、まず、その宝石輝度測定装置の背景技術について、当該出願内容を引用して説明する。
【0004】
宝石輝度測定装置としては、特許文献1に記載されたものがあり、図14は、本発明の宝石輝度測定装置の背景技術となる、上記特許文献1に記載された宝石輝度測定装置を示す外観斜視図である。
【0005】
この宝石輝度測定装置60は、ダイヤモンドを測定対象とするもので、透明なガラス円板51bの中心に、ダイヤモンドのクラウン上テーブルをガラス面に接触させて置き、内面白色の半球状ドーム51aでこの上を覆い、ガラス円板51bの真下に円環状の光源52を上下させてクラウン側からの入射光角度を変えながら、光を照射し、その更に下方に置かれたCCDカメラによる検出器55を置くことで、テーブルにほぼ垂直な方向への散乱光のみを視野上の輝点として測定している。
【0006】
この装置60では、クラウン側を下に、パビリオン側を上方に置いて、円環状光源52を上下させることでクラウン側からの入射光角度を変えている。光強度の測定は鉛直軸上のテーブル面直下に配置した検出器55によって各入射角(つまり円環状光源の高さ変化)毎の入射強度として検出され、積算される。パビリオン側の散乱光は白色の半球状ドーム51aによって散漫に散乱された光を再入射させるが、このうちテーブル側法線方向の検出器に入る光も「輝き」として強度積算される。
【0007】
このため上記装置60では輝点の大小(散乱光の立体角)についての評価は不可能であり、視野内に入る強い散乱光の数のみをカウントすることになる。結果的に、細かい輝点(立体角の小さな散乱光)をカウント数の多さから過大評価し、逆に大きなファセットから来る立体角の大きな散乱光を過小評価することになる。
【0008】
しかし肉眼上の体感的な輝度は輝点の大きさ(=反射面ファセットの大きさ)によるものなので、たとえ散乱光強度の総量が同じであっても「散乱光輝点の反射立体角が大きく数が少ない」ものがより大きな美的感動をもたらす。その一方で、「反射立体角は小さいがカウント数が多い」ものは体感的な輝きの点で魅力が減殺されるにもかかわらずカウント数の多さ、または散乱光強度の総量のみによって「大きな輝きを放つ試料」と判断されることになる。
【0009】
また、この装置60ではガラス円板51bの中心軸と検出器55であるCCDカメラ軸を一致させ、光源52を軸対象な位置に輪環状に置いている。この配置は、最も強い反射であるテーブル面上での反射光によって、検出器55に強度光が入射することを回避するためと推測できるが、実際の使用条件下での光入射・散乱を再現しているとは必ずしも言えない。
【0010】
つまり、この装置60の測定方法、「テーブル面の法線方向以外の入射光」によって「テーブル面にほぼ垂直な方向に出てくる散乱光」をカウントする測定方法では、光入射・散乱の条件という点でも実際の使用条件と異なる条件下での測定と言わざるを得なない、と思われた。
【0011】
たとえば実際の使用条件では入射光も散乱光(『輝き』として肉眼に認識される光)のどちらも「テーブル面の法線方向」とは限らないので、現行機種は実際の使用条件をシミュレートしているとは言えないし、実際の使用例をシミュレートし定量化するためには任意の角度方向からの入射と任意の角度方向への散乱を測定する必要があった。
【0012】
上記の問題を部分的に解決しているものとして、特許文献2のものがあるが、この特許文献2の装置では、放物面鏡を用いて、その頂部に孔を明けて、その付近と思われる焦点上に測定対象物を置き、放物面鏡側からその中心軸に平行な視準光線を少なくとも2つ照射することで、その視準光線が放物面鏡に反射されて、焦点上の測定対象物に照射され、その反射により、測定対象物の双方向反射分布関数(BRDF)や、双方向透過分布関数(BTDF)を測定することができるものである。
【0013】
また、この特許文献2では、放物面鏡では、焦点を通る光線は、放物面の中心軸に平行であること、また、放物面の中心軸に平行な光線を反射させると焦点を通ることが記載されているが、宝石の輝度として必要な光の立体角による大きさや、その個数などについては記載されていなかった。
【0014】
また、放物面であっても、その形状によっては、周縁部分の中心軸の位置と反射角の関係が密になり過ぎて、測定精度に影響を与えることが考えられるが、そのような点についての記載は、この特許文献2にはなかった。
【0015】
上記特願2010−119349号では、上記解決課題を解決する宝石輝度測定装置を提案したが、その後、この放物面を用いる装置の構成は、宝石だけに限定されず、散乱体が一定の波長分布の電磁波を受けた際の立体的な散乱分布から、その散乱体の物性を測定する散乱体物性測定装置、及び、この散乱体物性測定装置を宝石の散乱光色の測定に用いた宝石散乱光色測定装置、更に、自ら光る発光体の立体的発光分布を測定する発光体発行分布測定装置にも適用できるということを見いだしたものである。
【0016】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開WO96/23207号公報(図4)
【特許文献2】特表2007−508532号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記知見を実現しようとするもので、特願2010−119349号の宝石輝度測定装置と、この宝石輝度測定装置の原理・構成を用いて、照射するものを可視光に限定しないで、また、測定対象を宝石に限定しないで、また、測定対象を輝度に限定しないで、散乱体が一定の波長分布の電磁波を受けた際の立体的な散乱分布から、その散乱体の物性を測定する散乱体物性測定装置、及び、この散乱体物性測定装置を宝石の散乱光色の測定に用いた宝石散乱光色測定装置、更に、自ら光る発光体の立体的発光分布を測定する発光体発行分布測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の散乱体物性測定装置は、特願2010−119349号で提案された宝石輝度測定装置の原理と構成を利用して、測定対象を散乱体の物性とし、照射する光をより広くしたもので、散乱体が一定の波長分布の電磁波を受けた際の立体的な散乱分布から、その散乱体の物性を測定する散乱体物性測定装置であって、放物面鏡または放物面スクリーンと、その焦点に散乱体を置くための試料載置台と、前記電磁波を発生させる発生器と、前記発生器からの該電磁波を受けて前記散乱体で散乱されて前記放物面鏡で反射され、あるいは、前記放物面スクリーンに投影された散乱波を平面的な画像として撮像する撮像手段とを備え、
前記試料載置台に測定すべき散乱体を置き、該電磁波を前記焦点を中心とする仮想球面の、一以上の任意の方向、及び、一以上の連続する方向の、少なくともいずれかの方向から前記散乱体に照射し、その際に該散乱体で散乱されて前記放物面鏡または放物面スクリーンに反射または投影された散乱波を 平面的な撮像データとして前記撮像手段で撮像し、こうして得られた撮像データから、該散乱体から発生する散乱波の立体的な分布を得て、その結果から該散乱体の物性を測定する場合に、前記散乱波を前記散乱体を中心とする仮想球面の中心軸を含む断面上の円弧の3π/4ラジアンより小さい範囲内に渡って撮像することが可能なので、散乱体から散乱される散乱波の、仮想球面の3π/4(rad.)までの画像が得られ、平面スクリーンで撮像するのに比べ遙かに大きい角度範囲で、なおかつ、変換精度を落とすことなく測定でき、その結果、その散乱体の物性の判断もより正確に行うことができる。
【0020】
なお、ここで、放物面とは、放物線(2次元平面上の曲線)をその焦点を含む中心軸周りに回転させてできる3次元の曲面をさすものとする。
【0021】
本発明の宝石散乱光色測定装置は、散乱体物性測定装置を、宝石の散乱光色の測定に用いたものであって、発生器から白色平行光を照射し、その際に該散乱体で散乱されて前記放物面鏡または放物面スクリーンに反射または投影された散乱波を 平面的な撮像データとして 前記撮像手段で撮像し、こうして得られた撮像データから、当該宝石の散乱色または散乱光の波長分布を定量的に測定することができる。
【0022】
例えば、ダイヤモンドについて言えば、ダイヤモンドの輝き色は、白色が最上ではあるが、これまでは、色見本との対比により、目視または官能検査により白に近いかそうでないかを判断していたが、この装置によれば、客観的に白色度、あるいは、RGBの割合を測定することができる。
【0023】
本発明の宝石輝度測定装置は、散乱体物性測定装置を、宝石が外光を受けて輝く輝きの立体的な分布を測定する宝石輝度測定装置に用いたもので、発生器の代わりに平行光を発生させる光源を備えている。
【0024】
この宝石輝度測定装置は、上記構成において、前記試料載置台に測定すべき宝石を置き、前記光源からの平行光を少なくとも放物面鏡または放物面スクリーンの中心軸から該中心軸に垂直な方向まで、かつ、少なくとも前記平行光と該宝石とを前記中心軸回りに少なくとも90度相対的に回転させて、前記宝石に照射し、その際に該宝石から発生して前記放物面鏡または放物面スクリーンで反射または投影された光の平面的な撮像データを前記撮像手段で撮像し、こうして得られた平面的な撮像データから、該宝石の発光する光の立体的な発光分布(その光の大きさと個数とを含む)を算出する。
【0025】
本発明の宝石輝度測定装置は、上記構成により、実際と同様に光を受けた場合に輝く宝石の光の大きさと個数とを客観的に安定した精度で測定することができる。
【0026】
なお、こここで、平行光を宝石に上記方向から照射するには、放物面鏡または放物面スクリーンにスリットを設けるか、放物面鏡または放物面スクリーン内に円弧状に光源を移動させる手段をもうければ良い。平行光としては、単色レーザー光、白色LED光、赤・青・緑の3色(3本)のレーザー光源を切り替えながら、各色に対するサイズ分布や輝点数を測定するなど、複数光源による観察測定も可能である。
【0027】
本発明の発光体発光分布測定装置は、自ら光る発光体の立体的な発光分布を測定する発光体発行分布測定装置であって、前記宝石輝度測定装置を用い、光源を備えず、試料載置台に測定すべき発光体を置き、該発光体から発光して放物面鏡または放物面スクリーンで反射または投影された光の平面的な撮像データを撮像手段で撮像し、こうして得られた平面的な撮像データから、該発光体の発光する光の立体的な発光分布を算出するので、前記宝石輝度測定装置、ひいては、前記散乱体物性測定装置の効果を、発光体発光分布測定装置として発揮する。
【発明の効果】
【0028】
本発明の散乱体物性測定装置、宝石散乱光色測定装置及び、宝石輝度測定装置、更に発光体発光分布測定装置の効果は、上記手段に記載した通りである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(a)は、本発明の宝石輝度測定装置の概念的な構成図であり、(b)は、該装置で用いる放物面と仮想球面との関係の概念説明図
【図2】発光体からの光の方向の立体角と反射光の中心軸からの距離との関係を得るための式(1)から式(9)を示す図
【図3】光SBの面積の変換について用いる式(10)〜式(20)を示す図
【図4】図1、2、3で説明した原理と計算式とに基づき宝石の輝度を測定する宝石輝度測定装置を示すもので、(a)はその全体の正面図、(b)はその側面図、(c)はその上面図、(d)はこの装置の画像処理、演算及び制御を行うパーソナルコンピュータを示す外観斜視図
【図5】(a)は、図4の鏡体を示す正面図、(b)その下面図
【図6】(a)、(b)は、宝石輝度測定装置で測定した発光体から発光した光を示す図
【図7】図6(b)の画像から得られた輝点SBを仮想球面LD上の立体角分布として変換した後に、サイズSVの度数分布(ヒストグラム)としてグラフ化したグラフ
【図8】サイズの度数分布(ヒストグラム)の指数関数を示すグラフ
【図9】放物面と仮想球面との関係を示す概念図
【図10】図9における「r」と「θ」との関係示すグラフ
【図11】代表的なダイヤモンドのカットを示す図
【図12】X線回折について、本発明の散乱体物性測定装置の原理の特徴を、背景技術の測定装置の原理と比べるもので、(a)は本発明の散乱体物性測定装置の原理の特徴を示す図、(b)は、背景技術の測定装置の原理図
【図13】本発明の宝石散乱光色測定装置の測定結果を示すもので、(a)は全色の散乱分布を示す図、(b)はそのうち赤(R)だけの散乱分布を示す図、(c)はそのうち緑(G)だけの散乱分布を示す図、(d)はそのうち青(B)だけの散乱分布を示す図、
【図14】本発明の背景技術となる宝石輝度測定装置を示す外観斜視図
【符号の説明】
【0030】
1 鏡体
1a スリット
2 光源(LF、発生器)
3 円弧レール
4 試料載置台
5 支持体
6A、6B 平面鏡
7 CCDカメラ
8 枠体
20 宝石輝度測定装置
30 発光分布測定装置
40 散乱体物性測定装置
50 宝石散乱光色測定装置
D 発光体
LL 赤色レーザー光
O 焦点
P〜P6 放物面上の光点
Q〜Q6 仮想球面上の光点
y 中心軸
PM 放物面鏡(スクリーン)
SV 放物面上の光の面積(=dΩ)
dS 仮想球面上の光の面積
r 中心軸からの距離
θ 発光(散乱波あるいは反射波)方向の立体角
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0032】
<本発明の参考となる実施形態1>
図1(a)は、本発明の宝石輝度測定装置の概念的な構成図であり、(b)は、該装置で用いる放物面と仮想球面との関係の概念説明図である。これらを用いて、宝石輝度測定装置の概念的な構成について説明する。
【0033】
本発明の宝石輝度測定装置20は、図1(a)に示すように、レーザー光源LFからの細い平行光LLを複数の方向から自ら発光しない発光体である宝石D(特に、ダイヤモンド)に入射させることによって、実際の使用場面(あらゆる方向から光が入射する)をシミュレートし、使用場面での「光り方」を数値化・定量化するものである。
【0034】
発光体Dの「光り方」は,平行光LLを照射された発光体Dが発光する光SBが試料位置を中心とする仮想球面VS上に投影されるサイズ・面積(立体角)SVによって定量化される。発光体Dの場合、実際の使用場面では試料に対してあらゆる方向から光が入射することによって散乱光が放射されるが、本測定装置20では数値化・定量化のために入射光源LFを1カ所にして、その方位を球面上で移動させる(図1(a)では極座標α、βの角度を変えて走査する)ことにより、実際の使用場面における「全方向からの光入射」を再現する。
【0035】
さらに図1(b)に示すように、「仮想球面VS上の光(面積)dΩ」を正確に測定するために放物面状の凹面鏡PMを用いて、そこで試料(発光体D)から放射されてくる光による輝点Sを「仮想球面VS上のサイズdΩ」(面積)に換算し、その統計量から元の発光体Dから放射される光のサイズdΩの分布を解析する。
【0036】
<発光体からの光の方向の立体角と反射光の中心軸からの距離との関係>
図1(b)に示すように、放物面鏡PMの焦点に置いた発光体Dのからの光SBの凹面鏡PMによる反射光は、放物面鏡の中心軸(y軸)に全て平行で、その焦点平面上の中心からの半径距離rと、光SBに関する方位角(立体角)θとの間には、次のような関係がある。その説明に用いる式を図2にまとめて示し、以下、その式を参照しながら、この関係について説明する。
【0037】
最初に3次元での極座標として(θ、φ)方向に出て行く光があるとする。この場合の「極座標」は地球上の緯度・経度や天球面と同じ概念なので、北極をθ=0°としておく。このとき、「南極」がθ=180°(deg.) =π (rad.;ラジアン)、「赤道」がθ=90°(deg.) =π/2 (rad.) となり、「北半球」は 0≦ θ ≦ π/2 (rad.) になる。また試料(発光体D)は球中心Oにある。と考える。
【0038】
このとき実体・仮想的なものを含めた投影面や反射面など、系は「軸対象」なのでφ(地球上の座標では経度に相当する)方向には座標変換を受けない。そこで以下ではθについての変換だけ考える。
【0039】
対称軸をy軸に取り、放物線の凸側に+y軸を取ると、球中心である原点Oに焦点を一致させた放物線の方程式は二次式である図2の式(1)で表される。
【0040】
一般的にはここでの定数A(>0)は任意の正数であれば良い。今、球中心から投射・散乱される光を半径aの「仮想球面」で受けることを考える。水平線(赤道線)方向(図のx軸方向、またはθ=90°)の位置でその「仮想球面」と放物面が一致するようにするには A=1/2a に選べばよい。つまり、図2の式(2)が「原点を焦点として赤道半径aの全天球をカバーする放物面(パラボラ面)」の方程式ということになる(実施例ではa=100mm)。
【0041】
原点から放射される光は、図2に示す式(3)という一次方程式(直線)で表せる。この時の傾きmはy軸との角度θと図2に示す式(4)の関係がある。たとえば、式(2)と式(3)との交点Pの座標を(p,mp)とすると、式(2)から図2に示す式(5)及び図2に示す式(6)が得られ、これを解くと図2の式(7)が得られ、式(4)は図2の式(4)′という表現も可能であり、その結果、図2の式(8)の関係が得られる。
【0042】
ここで、数式の上では、原点から放射される光を表す直線の方程式(式(3)。OPを結ぶ直線)は、図面では見えていないが、放物線を表す二次曲線(放物線)と2カ所で交わることになるが、0<θ<π/2 の範囲での交点Pのx座標が 0<p<a であることを考えると、(8)式の複号として「+」を考えれば良い。
【0043】
実はこの場合の複号の−(マイナス)も含めれば、本機構の原理が南半球(π/2<θ<π)も含む、南極点以外の全天をひとつの放物面でカバーできる、というアドバンテージを示している。ただしこれは、「放物面をいくらでも深く作ることができる」という条件の元での話であり、機構上は現実的ではないので、実際の測定上は「南半球用の放物面」を設置した方が有効とも言える。
【0044】
つまり「北極軸に対してθの角度で出てくる光は、放物面上のx座標=a((1−cosθ)/sinθ)の点に投影される」ということになる。このとき、もし放物面が「鏡」であれば、試料から出てきた光は反射され、全ての角度θの光がy軸に平行な光として−y方向に向かうことになる。
【0045】
または放物面が「白色スクリーン」の場合には、中心点から放射される光はそこで止まることになる。この投影像を十分に離れた位置(つまり視野に入る像を全て、近似的な平行光線として観測できる位置)から見ると「鏡」の場合に反射されるのと同じ位置に光が見えることになる。
【0046】
結局このことは、放物面が理想的(方程式(2)式で表せる形状を正確に実現している)でありさえすれば、
1)放物面形状のミラーによって反射された光を無限遠(十分に離れた位置)で観測する、
2)放物面形状のミラーによって反射された光をy軸に直交する平面状スクリーンに投影する、
3)放物面形状のスクリーンに投影された光を−y方向の無限遠で観測する、
4)放物面形状の半透明スクリーンに投影された光を+y方向(裏側)から観測する、などのいずれの光学系(図9を用いて、再度説明する。)としても観測され得ることを示している。
【0047】
そしてそのときの平面上の極座標 ( r, φ ) は元の球面上の極座標(θ, φ ) と、
図2の式(8)’または、式(9)によって相互に変換して一意的に求めることができる(φについては変換を受けない。)。
【0048】
<光SBの面積の変換>
以下、光SBの面積の変換について、図3の式(10)〜式(20)を用いて説明する。
【0049】
放物面の焦点に一致させた球中心に置いた試料から散乱・反射・放射された光が立体角dΩを持っているとすると、球面上での極座標(θ、φ)によって、図3の式(10)と表せる。この場合のdΩは、θについてはdθ、φについてはdφの幅を持った「矩形」の領域となる。また各輝点は最大のものでも全球面または半球面の空間内では相対的な面積は「微小」と考えて良い。
【0050】
そこで以下の近似を考える。説明上、「放物面状の凹面鏡を用いて球中心から放射される光を軸に平行な光線に変換して、それを赤道面平面に相当する平面スクリーンSCに投影する」という状況(図1(b))で説明すると、各輝点は、(θ、φ)〜(θ+dθ、φ+dφ)の矩形形状と考える。
【0051】
すると反射または投影される位置での球面(=面法線が中心点を向く、または中心からの光を垂直に受ける面)上で矩形の面積dS は、図3の式(11)となる。
Rは、図1(b)に示すように、球中心から放物面(ミラーまたはスクリーン)までの距離なので、θ(0≦θ≦π/2(rad.))に応じて (a/2)≦R≦aの範囲で変化する。
【0052】
輝点の大きさが十分に小さいという仮定の下で、「球中心から投影された矩形状の輝点は、放物面鏡で反射されて平行光として平面スクリーンに投影されたときにも矩形形状をしている」と考える。すると、平面状円板スクリーンに射影された輝点は「半径方向(図1(b)のr)に関して変換を受け、角度方向(球面極座標のφに一致する)には変換を受けない」と考えて良い。
【0053】
更に、もし元の散乱光が矩形形状をしていない場合でも、「θ方向には長さの変換を受けるがφ方向には長さが変わらない」という状況は同じなので、結果的には「試料から投射される元の光の輝点の立体角としての大きさ」と「放物面鏡で反射され、平行光線として投影される輝点の大きさ」について同じ議論を適用することができる。
【0054】
平面状スクリーン上の半径位置rと元の光SBの角度θとの間には図2の(8)’式、(9)式の関係があることから、図3の式(12)、式(13)(∵ 式(8)′)が導かれる。
【0055】
投影先の輝点(凹面鏡反射によって平行光線に変換された後に投影された、平面スクリーン上の扇形)の面積をdS′とすると、図3の式(14)、式(15)が得られる。
【0056】
ここでRは球中心(放物面の焦点)から実際の反射や投影が生じる「放物面」までの距離であることから、中心点から来る傾きmの直線と放物面との交点Pの座標を(p,mp)としたときの座標によってR2=(1+m2)p2となる。そしてこの交点Pのx座標pは平板状スクリーン上での輝点の投影先、中心からの距離(半径位置rとなり、図3の式(16)が得られる。
【0057】
これらの式(15)、(16)から,図3の式(17)が得られ、このことは「放物面鏡の焦点に置かれた試料から届く散乱光を放物面鏡を用いて平行光線に変換したとき、投影される先の輝点の面積は反射位置で見込んだ散乱光の面積(反射位置に仮想的な球面を考えた時に球面上に投影される面積)に等しい」ということを意味する。
【0058】
なお、この面積(反射前・反射後投影像)以外にも、輝点の立体角 dΩについて議論・比較することによって試料を評価することも可能であり、図3の式(18)、(19)、(20)の関係が導かれる。
【0059】
実施例ではa=100mm を半径(焦点を通り軸に直交する面の円半径)とする放物面凹面鏡によって得られた輝点の反射像面積dSと立体角dΩについて比較評価している。
【0060】
図4は、上記図1、2、3で説明した原理と計算式とに基づき宝石の輝度を測定する宝石輝度測定装置を示すもので、(a)はその全体の正面図、(b)はその側面図、(c)はその上面図、(d)はこの装置の画像処理、演算及び制御を行うパーソナルコンピュータを示す外観斜視図、図5(a)は、図4の鏡体を示す正面図、(b)その下面図である。なお、これより、既に説明した部分については同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0061】
この宝石輝度測定装置20は、所定の式に基づいた放物線を焦点を含む軸中心に回転させた形状の放物面上に白色塗装をした放物面スクリーンPMをその内面に備えた画像化体1と、赤色レーザー光LLを発する光源2(LF)と、光源を円弧上に移動させる円弧レール3と、発光体Dを載せる透明の試料載置台4と、画像化体1と光源2と円弧レール3とを一体的に支持しこれらを試料載置台4に対して回転させる支持体5とを備えている。
【0062】
宝石輝度測定装置20は、また、スクリーンPMに投影される投影像を2回90度に方向変換する2枚の平面鏡6A、6Bと、平面鏡6Bから来る反射光画像を撮像するCCDカメラ7と、これらを支持する枠体8とを備えている。
【0063】
また、宝石輝度測定装置20は、上記の関連機器を制御し、得られたデータを処理するためのパーソナルコンピュータ本体11、平面表示パネル12、キーボード13、及びマウス14を備えており、本願で説明する機器の作動を制御し、また、データ処理を行って、必要なデータを得ることができる。
【0064】
画像化体1は、図5に示すように、全体としては、平円柱状で、その下内面に放物面スクリーンPMが形成され、また、その外側からの光源2の赤色レーザ平行光線LLを、画像化体1内の試料である発光体Dに照射するため、少なくとも水平から垂直位置までのスリット1aが設けられている。また、この画像化体1を支持体5に取り付ける取付穴1bを備えている。
【0065】
このスリット1aは、非反射部分であり発光体Dからの全ての反射光を得るという点では、データの欠落となるものである。しかし、試料の大きさに応じて入射光の幅を狭くすることで、観測範囲内での欠落部分を小さくすることもできる。実施例では半径100mmの円形領域のうちの幅10mm×長さ105mmの範囲が欠落部分となっているだけで、全体のデータへの影響は少ない。
【0066】
光源2は、円弧レール3上を円滑に動き、かつ、任意角度位置でその角度を保持できるように、サーボモータ等の制御性のよい電動駆動手段で駆動されている。この円弧レール3は、画像化体1の外側に支持体5を介して固定されている。
【0067】
このような装置20で、発光体Dを試料載置台4に固定設置しながら、光源2を円弧レール3を移動停止させて、平行光LLの傾きを0度から90度まで変え、また、支持体5によって、固定された発光体Dに対し、光源2を放物線の焦点を含む中心線を垂線とする平面上で回転されることができる。
【0068】
なお、スリットを設けないで、放物面スクリーンPMや放物面鏡の内側に円弧軌道を移動する小形の平行光線の光源を設定して、発光体Dに平行光線を照射するようにしてもよい。
【0069】
図6(a)は、このような装置を用いて、ある角度位置で赤色レーザー光の平行光線LLを発光体D(ダイヤモンド)に入射させた時の発光(散乱光・赤色)を放物面スクリーンPMに反射させた輝点(光)SBをモノクロ化し、白黒反転で示したものである。得るべき画像は、放物面スクリーンPMを無限遠点から観察したものになるが、放物面スクリーンPMの形状が既知であるので、観察される各輝点SBの仮装球面LD上の位置と、輝点サイズとしての立体角SVは、中心点からの距離と位置によって、変換・換算することができる。
【0070】
図6(b)は、図6(a)の観測像を「2値化」した画像を示す。つまり、各輝点SBのサイズSVを計測するために「2値化処理」(白黒濃淡の画像を 0 or 1 の形状データに変換する)を施してサイズ分布を統計計測するのである。この「2値化」に際して、閾値を調整することで輝点の強度・コントラストの統計分布を解析することも可能となる。
【0071】
図7は、図5(b)で2値化した画像から得られた輝点SBを仮想球面LD上の立体角分布として変換した後に、サイズSVの度数分布(ヒストグラム)としてグラフ化したグラフを示すものである。
光源LFの位置を仮想球面LD上での極座標(θ、φ)を変えながら走査し、立体角SV(ステラジアン、 strad.)分布の総和からグラフ化したものである。
【0072】
その結果、立体角dΩ(strad.) に対する輝点SBの個数N が指数関数に比例する、つまり
N(dΩ)=N0exp{−λdΩ} (λ>0、N0は定数) 式(21)
という経験則が得られた。
【0073】
図7に示すヒストグラムは、光源LFの極座標位置(θ、φ)を10点((0度,0度),(30度, 0度),(30度, 90度),(60度,0度),(60度, 45度),(60度、90度),(90度,0度),(90度,30度),(90度,60度),(90度,90度))で変えながら観測した輝点すべてについて、換算後のdΩの度数分布を計数したものである。
【0074】
このヒストグラムについて、横軸は立体角dΩ、縦軸はdΩについての各区間範囲の立体角を持つ輝点SBの個数N(dΩ)を示す。
【0075】
なおこの10点は全球面の1/8上をほぼ平均的に選んだ入射方向と考えるが、入射光の方向について更に点数を増やし、走査ステップを密にすることで精度が向上するとともに、観測点数の数も増すことができる。また、よりひろい角度範囲について光源LFを移動させて照射させることも可能である。
【0076】
この度数分布データから得られる「散乱体の光り方」の指標となる数値は、
(1) dΩについての度数分布が指数関数的になる区間(おおよそdΩ=0 〜 1.5×10−4 strad.)の減衰率λ、
(2) 一定の範囲以上の大きさを持つ(立体角dΩが大きな、たとえばdΩ>2x10−4 strad.)輝点の個数であると考えられる。
【0077】
更に「2値化」という画像処理時の閾値を変えることで減衰率λが変化する。ここから導かれる輝点の立体角の統計的平均値を比較することで
(3) 各散乱体の輝点を強度として見たときのコントラストに関する指標、が計算できる。つまり度数分布を解析することで、
1)dΩの大きな輝点が多い試料か、小さなものが多い試料か、
2)dΩの絶対値が大きな輝点を多く散乱させる試料か、
3)輝点のコントラストが際立つ試料か、についての指標を数値化することができる。
【0078】
<サイズの度数分布(ヒストグラム)の指数関数>
これらの指標のうち、「dΩの大きな輝点が多い試料か、小さなものが多い試料か」の判断基準となる「指数関数的領域」から得られる「度数分布の減衰係数λ 」を上記の例で示す。
【0079】
立体角dΩを示す輝点の個数N(dΩ)が N(dΩ)=N0exp{−λdΩ} の分布を持つと仮定してN(dΩ)の対数 ln{N(dΩ)} を取り、それをdΩについてプロットすると図8に示すように、ほぼ直線関係が得られる。
【0080】
このときの直線の傾きが減衰係数の符号を変えた値( −λ)に相当するので、
・λが大きい試料 = 立体角dΩの輝点の個数N(dΩ)が早く減衰する
= 大きな立体角dΩを持つ輝点の個数が相対的に少ない試料
・λが小さい試料 = 立体角dΩの個数N(dΩ)が緩やかに減衰する
= 大きな立体角dΩを持つ輝点の個数が相対的に多い試料
という指標になる。
【0081】
以上の結果、本発明の宝石輝度測定装置20によれば、放物面スクリーンPMを用い、その焦点に測定すべき宝石Dを置き、前記放物面鏡Pに設けられたスリット1aから、少なくとも放物面スクリーンPMの中心軸yに垂直な方向から該中心軸に一致する方向まで、少なくとも該スリット1aと該宝石Dとを少なくとも90度相対的に回転させて、レーザ光LLを前記宝石Dに照射し、その際に該宝石Dから発生して前記放物面スクリーンPMで反射された光の撮像データを解析して、該宝石Dの発光する光SBの大きさと個数とを算出することができ、これにより、実際と同様に光を受けた場合に輝く宝石の光の大きさと個数とを客観的に安定した精度で測定することができる。
【0082】
本願の発明者は、宝石Dの発光する大きな光SBの個数が多いほど、感覚的に良く光る、輝く宝石であると考え、この宝石輝度測定装置20によって、宝石、特に、ダイヤモンドの輝きの客観的測定ができるものと考えている。今後、なるべく多くの宝石の測定を行い、人が感じる輝きと、この装置20による測定値との対応関係を明確にして行きたい。
【0083】
なお、例示した反射型放物面スクリーンPMの代わりに、放物面鏡としても同様の効果を得ることができる。また、こここで、平行光を宝石に上記方向から照射するには、放物面鏡または放物面スクリーンにスリットを設けるか、放物面鏡または放物面スクリーン内に円弧状に光源を移動させる手段をもうければ良い。平行光としては、単色レーザー光だけでなく、白色LED光、赤・青・緑の3色(3本)のレーザー光源を切り替えながら、各色に対するサイズ分布や輝点数を測定するなど、複数光源による観察測定も可能である。
【0084】
<本発明の基礎となる発光分布装置>
図9は、放物面と仮想球面との関係を示す概念図であり、この図を用いて、本発明の宝石輝度測定装置と同じ原理に基づく発光分布測定装置の概念的な構成について説明する。
【0085】
この発光分布測定装置30は、自ら発光する発光体Dの立体的な発光分布を測定する装置であって、放物面鏡PM1あるいは放物面スクリーンPM1を用い、該放物面鏡PM1を用いて、その焦点Oに発光体Dを置き、その放物面鏡PM1の中心軸y上から、前記発光体Dから発光され、前記放物面鏡PM1によって反射された光をCCDカメラCAで撮像し、あるいは、該放物面スクリーンPM1を用いて、その焦点Oに発光体Dを置き、その放物面スクリーンPM1の中心軸y上から、前記発光体Dから発光され、前記放物面スクリーンPM1に投影された光を撮像し、上記いずれかの撮像データを解析して、前記発光体Dの立体的な発光分布を測定することを特徴とするものである。
【0086】
この際、図上で、発光体Dから発光される光SB1からSB6が、放物面鏡PM1で反射され、あるいは、放物面スクリーンPM1に投影された各光点P1〜P6を撮像し、これらの投影光あるいは反射光L1〜L6は、中心軸yに平行で、その各光点の位置r1〜r6と、サイズdS1〜dS6から、仮想球面VS1上の光点Q1〜Q6の位置θ1〜θ6とサイズdΩ1〜dΩ6とを、それぞれ、上述した方法で算出することができる。
【0087】
この際、この図9で明確に解るように、また、既に説明したように、仮想球面VS1上の光点Q1〜Q6の位置θ1〜θ6とサイズdΩ1〜dΩ6とを簡単に計算でき、加えて、図示したような放物面PM1と仮想球面VS1との関係から、一回の撮像で、発光体Dの仮想球面VS1の3π/4(rad.)までの画像が得られ、実用的には十分である。この撮像範囲は、3π/4以下の範囲内であっても、3π/4より小さい範囲内であってもよい。
【0088】
また、放物面上の光点P1〜P6と、仮想球面上の光点Q1〜Q6との関係を見てもらうと解るように、概ねどの方向への発光についても、PとQの対応関係が変換精度良く変換できる関係となっていて、安定した精度で変換できる。図10は、そのような「r」(中心軸からの距離)と「θ」(発光の立体角)との関係を示すグラフである。ここで示されている式r(θ)=a・(1-cosθ)/sinθは、図2の式8´と同じ式である。
【0089】
また、放物面鏡を用いて、撮像する場合には、スクリーンSC1を用いても良いし、用いなくとも良く、理想的にCCDカメラCAの位置は、無限遠点が望ましいが、近くにおいても、角度変換は容易である。
【0090】
一方、放物面スクリーンを用いる場合は、CCDカメラCAは、凸側においても、凹側に置いても良くなり、装置の設計自由度が高まり、また、装置の小型化も可能となる。また、放物面スクリーンは、透過性のある合成樹脂などの素材からなるとすることができ、製造コストを下げることができる。また、カメラCAは、CCDカメラに限定されるものでは、用いる電磁波に応じた撮像手段を用いるのが良い。
【0091】
また、試料から放射される光が紫外線・X線のような不可視光である場合に、放物面スクリーンの素材として蛍光体を用いることで、発光測定ができる。
【0092】
こうして、この発光分布測定装置30によれば、放物面を用いることで、自ら発光する発光体の広い角度範囲の発光分布を客観的にかつ簡易精確に測定することができる。自ら光る発光体としては、発光ダイオード(LED)や、電球、蓄光蛍光体、有機EL発光体などが含まれる。
【0093】
つまり、本願では、放物面(鏡、スクリーン)を用いることで、発光体(みずから光らないものを含む。)の発する光を、放物面の中心軸に平行な光とすることができ、これを平面的な受光体であるCCDカメラで撮像したデータから、この発光体の発する光の分布を立体的に測定することができるのである。
【0094】
図11は、代表的なダイヤモンドのカットを示す図であり、これを用いて、ダイヤモンドについての概説と、その輝度測定の現状と、本願の宝石輝度測定装置を製作するに至った経緯について説明する。なお、この図は、Gemological Institute of America(G.I.A.)が1972年に発行した「TEXT B00K」のASSIGNMENT15のFIGURE6を引用したものである。
【0095】
ダイヤモンドの価値評価の基準としては、4Cと呼ばれているものがあり、1.カラット(重さ)、2.カラー(色)、3.カット(プロポーション、シンメトリー及びポリッシュ)、4.クラリティー(内包物の質と量)である。
【0096】
この内、ダイヤモンドの輝きに関与するものは、カットとクラリティ−であるが、クラリティ−は、自然によって作られるものであって、人が関与することはできない。一方、カットについては、ダイヤモンド粒子を用いた砥石で、ダイヤモンドの表面を研磨することで輝きを増減することができる。
【0097】
現在、そのダイヤモンドのカット形状としては、一般的に、58面体カット(キュレットを含む。)か、57面体カット(キュレットを含まない。)が採用されており、本願出願人もこの、57あるいは58面体カットを支持するものであり、図11はその58面体カットの各部分の形状と名称を示している。
【0098】
まず、58面体カットの形状は、大きく分けて、人に見える側のクラウン(CROWN)とその反対側のパビリオン(PAVILION)と、これら両者の境目の外縁部分であるガードル(GIRDLE)とから構成されている。なお、ガードル(GIRDLE)及びキュレット(CULET)部分に「(enlarged)」とあるのは、「拡大した」という意味である。
【0099】
クラウン(CROWN)は、その天頂面の8角形のテーブル(TABLE)と、このテーブルの各辺から下方へ傾斜した8つの三角形のスターファセット(STAR FACET)と、このスターファセットの隣り合う辺を含んでガードルに達するほぼ菱形の下方へ傾斜した8つのベーゼルファセット(BEZEL FACET)と、ベーゼルファセット間とガードル間の面を二つの直線辺を一つの円弧辺でつないだ16のアッパーガードルファセット(UPPER-GIRDLE FACETS)とから構成されている。
【0100】
パビリオン(PAVILION)は、ガードルからキュレットに向かう一対の短辺と一対の長辺からなる菱形状の8のパビリオンファセット(PAVILION FACET)と、パビリオンファセット間の長辺と、ガードル(GIRDLE)に達する円弧辺である16のロアーガードルファセット(LOWER-GIRDLE FACETS)と、底面を形成する8角形のキュレット(CULET)とから構成されている。
【0101】
このような58面体カットは、通称、ラウンドブリリアントカット(ROUNDBRILLIANT CUT)と呼ばれているので、その表記が図の下方にある。なお、図4の測定装置での測定の場合、発光体であるダイヤモンドは、キュレットを下に、テーブルが上になるように試料載置台4にセットされるが、測定の目的に応じて、異なる姿勢で発光体をセットしてもよい。
【0102】
これらのカット面は、原則として、平面であり、各カット面間の相互角度も詳しく定められており、その基準角度と平面度でカットされたダイヤモンドは最も美しく輝くというのが一般に言われていることである。
【0103】
しかしながら、ダイヤモンドについては、その硬度が一番高いので、そのダイヤモンドを磨くのにもダイヤモンド粒子を含んだ砥石を使う必要があり、ある面を研磨すると、その面が研磨されると同時に砥石も減っていく、という関係があり、精確に目標とする基準角度と平面度でカットすることは不可能である。
【0104】
現実に市販されているダイヤモンドの各カット面相互間の角度は、少なくとも小数点以下2桁の誤差があり、このような誤差のあるダイヤモンドに入射した光は、ダイヤモンド内で複雑な反射、屈折を繰り返して、最終的に散乱光として発光するが、その角度は、上記角度誤差が大きく影響して、理想的な散乱光が出てこない、という状況である。
【0105】
そこで、客観的にダイヤモンドの輝きを測定する装置として、特許文献1のものが、現存しているが、上述したような問題を抱えている。一方、米国宝石学会(Gemological Institute of America )で宝石鑑定の技術と経験を積んだ者が、GG(グラジュエイト・ジェモロジスト)として、ダイヤモンドの鑑定を行っているが、所詮、人の目による鑑定であり、客観的なものではない。
【0106】
また、カット数を増やして、66面、100面、144面、194面、210面などとして、輝きを増そうという提案もあるが、これらは、確かに細かい輝きの数は増えるかも知れないが、それが本当にダイヤモンドとしての上質な輝き、見た人に感動をあたえる輝きであるとはいえないし、また、上述のカット精度の問題も面数を増やせば増やすほど大きくなる。
【0107】
また、カットの面と面との関係に特殊な条件を設けてカットすることで、ダイヤモンドの輝きを増すという特許発明も提案されているが、上述のカット精度の問題から、その条件を満たすように正確にカットすることができない以上、この特許発明の効果とする輝きの増加という効果も期待しがたいものと思われる。
【0108】
そこで、本願出願人は、永年のダイヤモンド鑑定士としての経験を踏まえ、大きな面積の光をより多く出光するものが、ダイヤモンドとして上質な輝き、見た人を感動させる輝きを与えるものであることを踏まえ、今回の宝石輝度測定装置で、それらの値を客観的に測定することができるようにしたものである。
【0109】
また、本出願人は、この宝石輝度測定装置の原理は、自ら発光する発光体の発光分布にも有効であると感じ、上述の発光分布測定装置をも提案することにしたものである。
【0110】
なお、本発明の発光分布測定装置及び宝石輝度測定装置は、上記の実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲、実施形態の範囲で、種々の変形例、組み合わせが可能であり、これらの変形例、組み合わせもその権利範囲に含むものである。
【0111】
また、本発明の発光分布測定装置及び宝石輝度測定装置によれば、各輝点のサイズの立体角と方向の立体角を測定できるので、以下のようなことも可能である。
(1)輝点の異方性(「いびつ」の度合い。円形に近い輝点や、尾を引いた彗星のような形の輝点を統計的に測ることができる。これによって各試料のファセットの研磨精度や平滑性を評価することができる。
(2)特定方向からの光源入射(方位角(α、β))に対して、輝点の仮想球面内での位置分布(方位(θ、φ)での分布)の程度を測ることができる。たとえば、「北極近くに集中して輝点が出やすい試料」に対して、「北半球にほぼ一様に分布した輝点が出る試料」を定量的に区別することができる。これを数値化することで、たとえば「テーブル面方向に強い輝きを生じるカット」を評価する指標となる。
(3)光源を動的に移動させたときに、特定の輝点がどの程度の角度範囲に亘って見えるか、が分かる。つまり、動いていく一つ一つの輝点の動きを追跡できる。これは指輪、イヤリング、ネックレスなど動態条件下で使用されることが多い装飾品の評価指標となりうる。
【0112】
また、実施例では「試料を固定して光源を方位角α、βで動かす」という装置ではあるが、「放物面凹面ミラー・スクリーンを使った上で、たとえば光源位置を北極に固定し、試料側を方位角α、βで振る」(ゴニオメータ)という相対的な移動方法を用いてもよい。またはこれらの折衷による光源または試料の位置・方位についての移動方法であっても良い。
【0113】
<本発明の実施形態>
本願発明者は、上記で提案した宝石輝度測定装置は、対象物を宝石に限定しないで散乱体とし、当てる光も可視光線に限定せず一定の波長分布を持った電磁波とし、例えば、この散乱体の物性としての散乱分布が既知の場合に、この散乱体に前記電磁波を照射し、それによりこの散乱体から発生する散乱波の分布を平面的な撮像データとして得、この撮像データから、試料とされた散乱体の立体的な散乱分布を得て、両者の物性は同じであることを判断する、というような使い方も可能であると考え、本願発明の散乱体物性測定装置を提案するものである。
【0114】
この場合、入射光は、可視光、赤外線、紫外線、(軟・硬)X線、γ線を含めた電磁波または放射線。波長として10−12〜10−3mの単一波長を持った単色光または白色光などの波長分布を持った電磁波とする。
【0115】
また、散乱波は、入射波と同じ波長領域の電磁波または放射線。ただし散乱波が入射波と異なる波長であったり、入射波長によって最終的な散乱強度分布に差が生じたりしても良いこととする。
【0116】
観測方法:放物面を用いて、そこでのミラーとしての反射やスクリーンとしての投影を通じて、試料が発する3次元空間内での散乱波の強度・方位を2次元平面上での情報に対応させ、位置・強度情報として変換する。このとき「放物面」の素材、形状、反射・投影の方法に応じて位置・強度の補正を行う。これは、反射面・投影面の状況や試料位置の偏差による影響の評価を考慮して行われるものである。また、可視光・非可視光ともに可視化や強度測定は、「放物面」上での投影または「放物面」による反射光の投影先のどちらで行っても良い。
【0117】
たとえば、白色光(波長分布を持った入射光束)の入射において、試料内部での屈折率の差や変調構造などによって波長毎に散乱光の方位が変化する現象(波長分散)が生じる場合には、検出器のフィルター調整やスペクトル分解などを用いることで試料の色合い、波長毎の散乱強度分布などを分離し計測することができる。
【0118】
可視光、またはX線や紫外光などの非可視光を試料に入射したときに、試料から入射光波長とは異なる波長で散乱光が放射される物性(蛍光)を3次元空間内での方位毎に定量化し、観測測定することができる。
【0119】
散乱光として試料から非可視光が散乱放射される場合には、「放物面」上に塗布した蛍光物質の発光や輝尽性蛍光体などへの強度蓄積として散乱光を観測測定することもできる。
【0120】
測定対象は散乱体であって、入射光(電磁波)に対して、光学的な反射・屈折面(結晶光学的な反射面を含む)による反射や屈折、または微細構造に基づく散乱・回折を生じさせる構造を持った物質を含む。入射光と同じもしくは異なる波長の電磁波を散乱・回折・屈折する散乱体であってもよく、固体・液体・気体を問わない。
【0121】
液体、気体の場合は、使用する電磁波に対して透過性の良い、かつ、液密、気密が維持できる容器に収納して、試料載置台4に載せればよい。
【0122】
本発明の散乱体物性測定装置40と、宝石散乱光色測定装置50の具体的構成と効果は、手段に記載した通りである。ただ、散乱体物性測定装置においては、図4の宝石輝度測定装置に比べ、光源が平行光だけを照射するものに限定されない発生器2となっている点と、この発生器2を上下へ回転させるレール3が、発生器2そ試料載置台4の真下からも照射できるようになっている点が異なるだけである。また、宝石散乱光色測定装置では、光源2が白色平行光を照射する点だけが異なっているだけである。
【0123】
<実施例1>
図12(a),(b)は、本発明の散乱体物性測定装置をX線回折に用いた場合と、一般の平面スクリーンを用いた場合の作用効果の差異を説明する図である。
【0124】
図12において、LXはX線、DRは散乱体、DLは散乱光(回折光)FMは平面スクリーン、PMは放物面スクリーンで、図5に示す鏡体を材料を透明アクリルで作成し、その放物面に蛍光体、あるいは、イメージングプレート(GLScan社)に用いられる塗布剤を塗布したものである。Oは放物面の焦点である。
【0125】
本願の散乱体物性測定装置によれば、焦点位置からの散乱光DLを受光する。このとき放物面状スクリーンPMはθ=0〜90°の範囲の散乱光、更にθ>90°の「地平線以下」の範囲の散乱光を受光することができる。
【0126】
これに対して平面状スクリーンFMは装置の大きさRが有限である限りθの受光範囲が限定的であり、「地平線」付近(θ〜90°)の散乱光やθ>90°の範囲の散乱光を検出することは不可能である。
【0127】
また、平面状スクリーンFMまでのカメラ距離Dを短くする(スクリーンを試料に近づける)ことで検出角度範囲を拡張することは可能だが、θ〜0°付近とθ〜90°付近とで検出性能に大きな差が生じる。また装置の大きさRを無限に大きくすることは現実的ではない。
【0128】
本発明の場合は、上述したように、半球を超える大きな角度範囲で散乱光を撮像できるとともに、変換の場合の精度が一定し、また、変換式が簡易なものであるという効果を有する。
【0129】
<実施例2>
図4で説明した装置において、光源(発生器)2から、白色平行光を発生させて、一定の角度範囲で散乱体であるダイヤモンドに照射するという実験を行った。図13は、その実験結果として得られた散乱分布(発光分布)を示すもので、(a)は全色の分布、(b)は赤色(R)の分布、(c)は緑色(G)の分布、(d)は青色(B)の分布を示すものである。この宝石散乱光色測定装置は、結局、上記の宝石輝度測定装置の同じ原理と構成で、白色平行光を照射する点と、測定対象が宝石の散乱光の色調である点が異なるだけである。
【0130】
この結果により、白色平行光を照射した場合のダイヤモンドの散乱光分布が、RGBについて得られ、その結果を分析することで、宝石であるダイヤモンドの散乱光の色調を客観的に測定することができる。また、図13(d)に矢印で示すように青色の成分が多いことが解る。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の散乱体物性測定装置、宝石輝度測定装置、宝石散乱光色測定装置、及び、発光体発光分布測定装置は、放物面鏡または放物面スクリーンを用いて、その測定対象をその焦点において、測定することで、この焦点を中心とする仮想球面の天頂(北極)から3/4π(rad.)より小さい範囲内に渡って、散乱光あるいは反射光を変換精度よく測定することが要請される産業分野に用いることができる。
【図1(a)】
【図1(b)】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自ら光る発光体の立体的な発光分布を測定する発光体発分布光測定装置であって、
放物面鏡または放物面スクリーンと、その焦点に前記発光体を置くための試料載置台と、前記発光体から発射され、前記放物面鏡で反射され、あるいは、前記放物面スクリーンに投影された光を平面的な画像として撮像する撮像手段とを備え、
前記試料載置台に測定すべき発光体を置き、前記発光体から発射され前記放物面鏡または放物面スクリーンに反射または投影された光を 平面的な撮像データとして前記撮像手段で撮像し、こうして得られた撮像データから、該発光体から発生する光の立体的な分布を得る場合に、
前記放物面の中心軸からの距離rから前記発光体から発射される光の立体角θを算出するのに図2の式(8)′を用い、該平面的な撮像データ上の輝点の面積dS′は、反射位置に仮想的な球面を考えた時に球面上に投影される面積dSに等しいという関係を用い、
前記仮想球面の中心軸を含む断面上の円弧の該中心軸から0ラジアン以上で、π/2ラジアンより大きく、3π/4ラジアンより小さい範囲内に渡って測定することが可能な、該発光体の発光する光の立体的な発光分布を算出する発光体発光分布測定装置。
【請求項2】
散乱体が一定の波長分布の電磁波を受けた際の立体的な散乱分布から、その散乱体の物性を測定する散乱体物性測定装置であって、
放物面鏡または放物面スクリーンと、その焦点に散乱体を置くための試料載置台と、前記電磁波を発生させる発生器と、前記発生器からの該電磁波を受けて前記散乱体で散乱されて前記放物面鏡で反射され、あるいは、前記放物面スクリーンに投影された散乱波を平面的な画像として撮像する撮像手段とを備え、
前記試料載置台に測定すべき散乱体を置き、該電磁波を前記焦点を中心とする仮想球面の、一以上の任意の方向、及び、一以上の連続する方向の、少なくともいずれかの方向から前記散乱体に照射し、その際に該散乱体で散乱されて前記放物面鏡または放物面スクリーンに反射または投影された散乱波を 平面的な撮像データとして前記撮像手段で撮像し、こうして得られた撮像データから、該散乱体から発生する散乱波の立体的な分布を得て、その結果から該散乱体の物性を測定する場合に、
前記放物面の中心軸からの距離rから前記散乱体から発射される散乱波の立体角θを算出するのに図2の式(8)′を用い、該平面的な撮像データ上のの輝点の面積dS′は、反射位置に仮想的な球面を考えた時に球面上に投影される面積dSに等しいという関係を用い、
前記仮想球面の中心軸を含む断面上の円弧の該中心軸から0ラジアン以上で、π/2ラジアンより大きく、3π/4ラジアンより小さい範囲内に渡って測定することが可能なことを特徴とする散乱体物性測定装置。
【請求項3】
請求項2記載の散乱体物性測定装置を、宝石の散乱光色の測定に用いた宝石散乱光色測定装置であって、発生器から白色平行光を照射し、その際に該散乱体で散乱されて前記放物面鏡または放物面スクリーンに反射または投影された散乱波を 平面的な撮像データとして 前記撮像手段で撮像し、こうして得られた撮像データから、当該宝石の散乱色または散乱光の波長分布を定量的に測定する宝石散乱光色測定装置。
【請求項4】
請求項2記載の散乱体物性測定装置を用い、宝石が外光を受けて輝く輝きの立体的な分布を測定する宝石輝度測定装置であって、発生器の代わりに平行光を発生させる光源を備え、前記試料載置台に測定すべき宝石を置き、前記光源からの平行光を少なくとも放物面鏡または放物面スクリーンの中心軸から該中心軸に垂直な方向まで、かつ、少なくとも前記平行光と該宝石とを前記中心軸回りに少なくとも90度相対的に回転させて、前記宝石に照射し、その際に該宝石から発生して前記放物面鏡または放物面スクリーンで反射または投影された光の平面的な撮像データを前記撮像手段で撮像し、こうして得られた平面的な撮像データから、該宝石の発光する光の立体的な発光分布(その光の大きさと個数とを含む)を算出する宝石輝度測定装置。
【請求項1】
自ら光る発光体の立体的な発光分布を測定する発光体発分布光測定装置であって、
放物面鏡または放物面スクリーンと、その焦点に前記発光体を置くための試料載置台と、前記発光体から発射され、前記放物面鏡で反射され、あるいは、前記放物面スクリーンに投影された光を平面的な画像として撮像する撮像手段とを備え、
前記試料載置台に測定すべき発光体を置き、前記発光体から発射され前記放物面鏡または放物面スクリーンに反射または投影された光を 平面的な撮像データとして前記撮像手段で撮像し、こうして得られた撮像データから、該発光体から発生する光の立体的な分布を得る場合に、
前記放物面の中心軸からの距離rから前記発光体から発射される光の立体角θを算出するのに図2の式(8)′を用い、該平面的な撮像データ上の輝点の面積dS′は、反射位置に仮想的な球面を考えた時に球面上に投影される面積dSに等しいという関係を用い、
前記仮想球面の中心軸を含む断面上の円弧の該中心軸から0ラジアン以上で、π/2ラジアンより大きく、3π/4ラジアンより小さい範囲内に渡って測定することが可能な、該発光体の発光する光の立体的な発光分布を算出する発光体発光分布測定装置。
【請求項2】
散乱体が一定の波長分布の電磁波を受けた際の立体的な散乱分布から、その散乱体の物性を測定する散乱体物性測定装置であって、
放物面鏡または放物面スクリーンと、その焦点に散乱体を置くための試料載置台と、前記電磁波を発生させる発生器と、前記発生器からの該電磁波を受けて前記散乱体で散乱されて前記放物面鏡で反射され、あるいは、前記放物面スクリーンに投影された散乱波を平面的な画像として撮像する撮像手段とを備え、
前記試料載置台に測定すべき散乱体を置き、該電磁波を前記焦点を中心とする仮想球面の、一以上の任意の方向、及び、一以上の連続する方向の、少なくともいずれかの方向から前記散乱体に照射し、その際に該散乱体で散乱されて前記放物面鏡または放物面スクリーンに反射または投影された散乱波を 平面的な撮像データとして前記撮像手段で撮像し、こうして得られた撮像データから、該散乱体から発生する散乱波の立体的な分布を得て、その結果から該散乱体の物性を測定する場合に、
前記放物面の中心軸からの距離rから前記散乱体から発射される散乱波の立体角θを算出するのに図2の式(8)′を用い、該平面的な撮像データ上のの輝点の面積dS′は、反射位置に仮想的な球面を考えた時に球面上に投影される面積dSに等しいという関係を用い、
前記仮想球面の中心軸を含む断面上の円弧の該中心軸から0ラジアン以上で、π/2ラジアンより大きく、3π/4ラジアンより小さい範囲内に渡って測定することが可能なことを特徴とする散乱体物性測定装置。
【請求項3】
請求項2記載の散乱体物性測定装置を、宝石の散乱光色の測定に用いた宝石散乱光色測定装置であって、発生器から白色平行光を照射し、その際に該散乱体で散乱されて前記放物面鏡または放物面スクリーンに反射または投影された散乱波を 平面的な撮像データとして 前記撮像手段で撮像し、こうして得られた撮像データから、当該宝石の散乱色または散乱光の波長分布を定量的に測定する宝石散乱光色測定装置。
【請求項4】
請求項2記載の散乱体物性測定装置を用い、宝石が外光を受けて輝く輝きの立体的な分布を測定する宝石輝度測定装置であって、発生器の代わりに平行光を発生させる光源を備え、前記試料載置台に測定すべき宝石を置き、前記光源からの平行光を少なくとも放物面鏡または放物面スクリーンの中心軸から該中心軸に垂直な方向まで、かつ、少なくとも前記平行光と該宝石とを前記中心軸回りに少なくとも90度相対的に回転させて、前記宝石に照射し、その際に該宝石から発生して前記放物面鏡または放物面スクリーンで反射または投影された光の平面的な撮像データを前記撮像手段で撮像し、こうして得られた平面的な撮像データから、該宝石の発光する光の立体的な発光分布(その光の大きさと個数とを含む)を算出する宝石輝度測定装置。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6(a)】
【図6(b)】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12(a)】
【図12(b)】
【図14】
【図15】
【図7】
【図13】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6(a)】
【図6(b)】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12(a)】
【図12(b)】
【図14】
【図15】
【図7】
【図13】
【公表番号】特表2012−529008(P2012−529008A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−551353(P2011−551353)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【特許番号】特許第5033266号(P5033266)
【特許公報発行日】平成24年9月26日(2012.9.26)
【国際出願番号】PCT/JP2011/002513
【国際公開番号】WO2011/148572
【国際公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(510144856)二宮宝石株式会社 (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【特許番号】特許第5033266号(P5033266)
【特許公報発行日】平成24年9月26日(2012.9.26)
【国際出願番号】PCT/JP2011/002513
【国際公開番号】WO2011/148572
【国際公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(510144856)二宮宝石株式会社 (1)
【Fターム(参考)】
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