説明

発光体

【課題】
光透過性の基材の表面に発光部が形成された発光体において、発光部は平面状に形成された基材の上に形成されていた。このため、陽極と陰極とで挟まれた発光に寄与する発光層の面積は、発光部が存在する上記平面状の面積に限定され、輝度に優れた発光部を構成することができなかった。
【解決手段】
前記基材の外周面のうち前記発光部が形成される領域を円弧の溝に形成し、この溝に沿って複数の発光部が形成されたことを特徴とする。これにより、発光に寄与する発光層の面積が増え、より一層輝度の高い発光体を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を発光する発光体に関し、その目的は輝度の優れた発光体を提供することにある。
【背景技術】
【0002】
現在主流のアクティブマトリックス型平面表示装置は、表示面にTFT(Thin Film Transistor)からなる画素駆動スイッチと画素表示媒体からなる平面ディスプレイであり、出発点の基材はソーダライム等の透明ガラス板である。基材としてはプラスチックフィルムを用いる試みがなされているが、未だ実用化に至らず、表示媒体としては液晶が、アクティブマトリックスとしてはa-SiTFT(Amorphous-Silicon-TFT)が現在のところ主流であり、PC用、モニタ用等に10"〜20"対角サイズのディスプレイが量産されている。
【0003】
表示媒体としてのLCD(Liquid Crystal Display)は、CRT(Cathode Ray Tube)と比較すると、テレビジョン動画の表示性能、特に白色、ホワイトピーク、応答性に問題がある。これに対して、最近開発、製品化が進められている有機LED((OLED:Organic Light-Emitting-Diode)は自発光であり、白色、ホワイトピーク応答性等でLCDより優れた画質を実現できる。
【0004】
一方、TFTも最近、低温プロセスの多結晶Si(p-Si)の開発、製品化が急速に進められている。これはまずp-SiのTFT性能が高く周辺回路内蔵が可能であり、コスト低減のメリットがあるためである。これに加えて、OLEDの駆動には駆動電流密度の面からa-SiTFTでは対応困難であり、LCDへの適用も含めてTFTは低温p-Siへの移行が全体的傾向である。
【0005】
アクティブマトリックス型平面表示装置をはじめとする全ての表示装置における市場の要求は、常に、表示サイズの大型化、高精細化、低コストの3点である。これらの要求に対して、現在主流のa-SiTFT−LCDは、性能改良の余地は僅かで、大型化に関しては40"対角テレビジョン、高精細化に対しては20"以下のディスプレイが実質的な限界で、コスト対応はガラス基材の大型化が唯一の手段といってよい状況である。また、そのガラス基材は高精度の平坦性が要求され、湾曲面を有する基材を用いることは難しい。
【0006】
これに対して、長手方向に複数のOLED素子が形成された線状発光体は可撓性に富み、これを湾曲した基材上に並べてディスプレイ装置を構成することが公知となっている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
この線状発光体は、断面四角形のファイバーの一面に沿って形成され、ファイバーの長手方向に形成された透明電極とその上に形成されたOLED発光層と、さらにOLED発光層の上に長手方向に沿って間隔をおいて形成された複数の陰極電極とを有している。
【0008】
しかしながら、そのような構造の線状発光体によれば、ファイバー上にOLED素子を形成した後に行われるファイバーの巻き取り、切断、基材上への配置等の際に、ファイバー上に突出している透明電極、OLED発光層及び陰極電極が治具等に接触して損傷を受けやすいので、歩留まりが低下する原因となる。
【0009】
これを解決するために、矩形状に形成されたファイバーの側面に絶縁膜を形成し、他の一面の長手方向に沿って複数の発光部を形成した線状発光体が公知となっている(例えば、特許文献2参照)。
【0010】
図4、図5は、係る線状発光体の製造方法の一例を示すものである。
【0011】
即ち、初めに、図示しないリールに巻かれて断面が図4(a)に示すような略四角形の石英等か
らなる光透過性のファイバー1を用意し、線状発光体を形成するための基材として使用する。その断面は、例えば約0.3mm×0.3mmの大きさである。
【0012】
なお、光透過性のファイバーとしては、石英の他に、ホウケイ酸塩若しくはソーダ石灰ガラス、サファイア、その他の適切なガラス材料等のガラスファイバー、又は、メタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート、アクリル、マイラ、ポリエステル、ポリイミド、その他の適切なプラスチック材料等からなるプラスチックファイバーを用いてもよい。
【0013】
次に、ファイバー1をリールから引き出して成膜装置(不図示)内に導き、図4(b)に示すように、その外周のうち隣り合う第1、第2及び第3面1a、1b、1cの上にスパッタ法により酸化インジウム錫(ITO:Indium Tin Oxide)、酸化亜鉛(ZnO )、酸化錫(SnO2)を順に堆積してなる透明電極2を約100nmの厚さに形成する。その透明導電材は、ファイバー1の第1〜第3面のそれぞれで略垂直方向に堆積される。
【0014】
次に、図4(c)に示すように、ファイバー1のうち第2面1bの両側の第1、第3面1a,1cの透明電極2上に導電性反射膜3、4をスパッタ法により所定の厚さに形成する。この導電性反射膜3、4は、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)を順に形成した二層構造導電膜や、チタン(Ti)、アルミニウムを順に形成した二層構造導電膜から構成される。
【0015】
さらに、図4(d)に示すように、二酸化シリコン(SiO2)よりなる光透過性の絶縁膜5をCVD(chemical vapor deposition)法によりファイバー1、透明電極2及び導電性反射膜3,4の上に所定の厚さに形成する。その後に、絶縁膜5の上にレジスト6を塗布する。
【0016】
ついで、図4(e)に示すように、レジスト6を露光、現像してパターニングし、ファイバー1の第2面1b上の画素領域に開口部6aを形成する。その開口部6aは、ファイバー1の長手方向に沿って間隔をおいて複数形成され、それらの平面の大きさを例えば50μm×50μm以下とする。なお、レジスト6に照射される露光光は、ファイバー1内を透過して反対側の第4面1d上のレジスト6にも照射されるために、透明電極2が形成されない第4面上のレジスト6にも開口部6bが形成される。
【0017】
次に、図4(f)に示すように、塩素系ガスを使用するドライエッチングによりレジスト6の開口部6a,6bを通して絶縁膜5をエッチングして開口部5a、5bを形成する。これにより、ファイバー1の第2面1b上の開口部5aを通して透明電極2の一部が露出し、第4面1d上の開口部5bを通してファイバー1の一部が露出する。
【0018】
さらに、図5(a)に示すように、絶縁膜5の開口部5aとレジスト6の開口部6aを通してOLED発光層7を蒸着法により透明電極2上に形成し、続いてマグネシウム(Mg)、銀(Ag)を順に形成してなる二層構造、又はカルシウム(Ca)、アルミニウムを順に形成してなる二層構造の陰極電極8を蒸着法により形成する。
【0019】
その後に、図5(b)に示すように、レジスト6をウェット又はドライにより除去すると、レジスト6上に堆積したOLED発光層7及び陰極電極8が除去されるので、OLED発光層7及び陰極電極8は絶縁膜5の開口部5a内に選択的に残される。それらの陰極電極8,OLED発光層7及び透明電極2によって発光素子が構成される。
【0020】
さらに、ファイバー1を所定の長さに切断した後に、図5(c)に示すように、絶縁基材11上に形成された導電性のデータラインセグメント配線12上の半田バンプ13に、陰極電極8を接続する。これにより、絶縁基材11上には、表示装置の1行分又は一列分の画素が配置される。
【0021】
係る発光体は、ファイバー1上で各画素を構成するOLED発光層7及び陰極電極8は、絶縁膜5の開口部5a内に形成されて絶縁膜5の上面から突出しないか、或いは絶縁膜5の厚さの調整により陰極電極8を必要量だけ突出させることができるので、ファイバー1の巻き取りや切断などの際に陰極電極8及びOLED発光層7が治具等と接触することが防止でき、損傷を受けにくくなって歩留まりが向上する。
【0022】
また、従来の他の例として、特許文献3に示されたものが公知である。
【0023】
かかる発光体は、有機発光層A1を、表示面側の透明電極板A2と背面電極A3とからなる一対の電極板により挾持してなる積層構造体の両側に、更に一対の防湿性フィルムA4、A4を積層してなるものである。表示面側の透明電極板A2は、熱可塑性樹脂基材A2a上に金属酸化物透明電極層A2bを形成してなり、更に透明電極板A2の逆側には、対向する電極として金属酸化物または金属からなる背面電極A3が設けられている。透明電極層A2および背面電極A3を含む積層構造は、更に防湿性フィルムの層A4または金属酸化物等からなる他の防湿層A5の積層により封止される。ここで透明電極板A2及び背面電極A3は、電源A6(直流または交流)に接続されるリード線が取り付けられて、有機発光層A1に電圧が印加できる仕組みとされている。
【特許文献1】特表2002−538502号公報
【特許文献2】特開2006−154589号公報
【特許文献3】特開2006−154589号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
しかしながら、前記特許文献1〜3に記載された発光体は、発光表面が平面状に形成されたものである。このため、陽極と陰極とで挟まれた発光に寄与する発光層の面積は、発光部が存在する上記平面状の面積に限定され、より一層、輝度に優れた発光部を構成することが出来なかった。
【0025】
また、特許文献2には、図6に示すように、矩形状のファイバーの一面における長手方向に沿って、複数の矩形状の窪み20を設け、この窪み20に図7に示すようにそれぞれ発光部9を形成することも記載されている。この例では、陽極層(透明電極2)が矩形状に形成された窪み20の側面を含めた全体に渡って形成され、この透明電極2の上にOLED発光層7が形成され、更にこの上に陰極層(陰極電極8)が形成されたものが示されているが、実際にはこれらの層2、7、8は極薄く且つスパッタリング法により形成されるものであり、前記側面には発光部9を構成するそれぞれの層が殆んど形成されないものになっている。従って、これら側面は発光に殆んど寄与しないものになっている。
【0026】
本発明が解決しようとする課題は、発光部が形成される表面を弧面形状の窪み(溝を含む)に形成することにより、発光部の面積を増やし、発光部の輝度の優れた線状発光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の発光体は、光透過性の基材の表面に発光部が形成された発光体において、発光部の形成される領域が断面円弧状の窪みに形成され、その窪みに沿って発光部が形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、発光部が形成される表面に円弧の窪みが形成され、この窪みに発光部が形成されているので、発光に寄与する発光層の面積が増え、より一層輝度の高い線状発光体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0030】
図1は、本発明の第1実施形態に係る線状発光体を示したものである。図において、1、2、3、4、5、6、7、8は、図4〜6と同様にそれぞれ、ファイバー、透明電極、導電性反射膜、導電性反射膜、絶縁膜、透明保護膜、OLED発光層、陰極電極であり、それぞれは図5〜7と同様に機能する。図5〜7に比較して異なる点は、OLED発光層7が形成されるファイバー1の表面を弧状の溝21に形成され、この溝21の上に、透明電極2、OLED発光層7、陰極電極8が順次積層されて構成された発光部9が長手方向に沿って複数個形成されている点である。
【0031】
本実施形態は溝21の断面形状が弧状に形成され、その溝21の形状に沿ってぞれの層が積層される。従って、発光に寄与するOLED発光層7(発光部)の面積は、前記溝21の表面積に相当し、従来の平面状の面積に比較して面積が増え、発光面積を増やすことができる。この結果、発光部の輝度を高めることができる。
【0032】
溝21の形状は、半楕円や半円の形状及びこれよりも小さい弧形状であることが望ましい。溝21の形状を半楕円や半円よりも大きな形状にすると、発光面積が大きくなるが、半円を超えた部分の光量利用効率が悪くなる。また溝21の形状を極端に小さな弧面で構成すると、それによって構成される溝21は浅く且つ平面に近いものとなって、発光面積を増やすことができない。従って、小さい円弧の溝21の形状は円周の32%以上50%以下の形状にするのが良い。仮に溝21の形状を半円(円周の50%)に構成した場合、平面の面積に比較して約2倍の面積に増やすことができ、発光輝度を2倍に増やすことができる。
【0033】
このようなファイバー1は、予め石英製のプリフォームの形状を前記溝21が付いた相似形状とし、これを従来の通信用石英光ファイバを製造するときと同様に、加熱・線引きすることにより容易に製造することができる。
【0034】
ところで、ファイバー1の長手方向に沿って形成された透明電極2はその端部で選択ライン信号配線(不図示)に接続されるので電気的に抵抗値を低くすることが好ましい。上記の構造において導電性反射膜3,4を導電性金属で構成することにより、透明電極2の抵抗値を実質的に低下させることができる。しかし、さらに抵抗を下げたい場合には、ファイバー1の第1面1aと第3面1cの上に蒸着法によって透明導電材からなる透明電極2の下層部を予め形成しておき、その後に、上記した工程を経て、透明電極2、導電性反射膜3,4、絶縁膜5、OLED発光層7及び陰極電極8を形成してもよい。
【0035】
図2は本発明の他の実施形態を示すものであり、図1のものに比較して、発光部9の光放出側の面のファイバ1に凸レンズ22が形成され、光の放出角を制御するように構成されている。これにより光が集光され、単位面積の光強度が強調される効果を得ることができる。
【0036】
図3は本発明の更に他の実施形態を示すものであり、溝21の弧の半径Rを適切に制御して構成することにより、出光面の光強度面分布が調整できる効果がある。
【0037】
上記の各実施形態ではファイバーの断面を略四角形、楕円形、円形にしたが、これに限定されるものではなく、多角形、筒状、その他の形状であってもよい。
【0038】
また、上記の実施形態ではOLEDを有する発光部9について説明したが、その他の発光層を有する発光素子であってもよい。また、発光素子の代わりにトランジスタ等の能動素子であってもよい。
【0039】
なお、上記実施例はファイバ1の長手方向に沿って円弧の溝が形成され、この溝に沿って複数の発光部が形成された線状の発光体を示した場合を説明しているが、本発明は、発光部の形成される基材の表面が断面半球状の窪みに形成され、その窪みに発光部が1個形成された発光体であっても良い。このような実施例においても、発光部が形成される表面が円弧状に形成されているので、平面状のものに比較して表面積を増やすことができ、上記と同様にして輝度が高まった発光体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1実施形態に係る線状発光体の要部切断端面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る線状発光体の要部切断端面図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係る線状発光体の要部切断端面図である。
【図4】(a)〜(f)は、従来の一例におけるファイバーに発光素子を形成する工程を示す要部切断断面図(その1)である。
【図5】(a)〜(c)は、従来の一例における係るファイバーに発光素子を形成する工程を示す要部切断断面図(その2)である。
【図6】従来のファイバーの一例を示す要部切断端面図である。
【図7】図6のファイバーに形成された従来の他の発光素子を示す要部切断端面図である。
【図8】従来の上記と異なる他の発光素子を示す要部切断端面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 ファイバー
1a 面
1b 面
1c 面
1d 面
2 透明電極
3 導電性反射膜
4 導電性反射膜
5 絶縁膜
5a 開口部
5b 開口部
6 レジスト
6a 開口部
6a 開口部
6b 開口部
7 OLED発光層
8 陰極電極
10 絶縁基材
11 絶縁基材
12 データラインセグメント配線
13 半田バンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性の基材の表面に発光部が形成された発光体において、発光部の形成される基材の表面が断面円弧状の窪みに形成され、その窪みに発光部が形成されたことを特徴とする発光体。
【請求項2】
基材が光透過性のファイバーからなり、この基材の外周の一部にその基材の長手方向に沿って円弧の窪み(溝)が形成され、この窪みに沿って複数の発光部が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の発光体。
【請求項3】
窪みの形状は半円よりも小さい円弧であることを特徴とする請求項2に記載の発光体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−84638(P2008−84638A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−261927(P2006−261927)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)/(一次元基板によるTFT−OLED製造技術)」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】