説明

発光分布推定方法、発光分布推定装置、発光分布推定プログラム、記録媒体、表示素子、画像表示装置

【課題】 有機EL素子における発光層内の発光分布を効率的かつ高精度に推定することができる発光分布推定方法を提供すること。
【解決手段】 十分に信頼できる各データ、例えば、ELスペクトルの測定データIEL(λ),PLスペクトルの測定データIPL(λ),光取出し効率の算出データη(λ,x)に基づいて、有機EL素子における発光層のEL発光分布WEL(x)を推定することができる。また、WEL(x)の推定の際に有機EL素子に追加的な構成を添加する必要がないので、有機EL素子の本来の構成を生かして効率良くWEL(x)を推定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光分布推定方法、発光分布推定装置、発光分布推定プログラム、記録媒体、表示素子、画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印加された電界に基づいて励起され所定の発光スペクトルを有する光を発光可能な発光体と、当該発光体における一方の面側に設けられ光を透過可能な第1電極と、当該発光体における前記一方の面とは反対側の他方の面側に設けられ光を反射可能な第2電極と、を備える表示素子が知られている。このような表示素子としては、いわゆるLED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)などが知られており、より具体的には、有機EL(Electro Luminescence)素子や無機EL素子などが知られている。
【0003】
図10は、有機EL素子の構成を模式的に示す断面図である。
この図において、有機EL素子1は、ガラスなどの透明材料によって構成される透明基板11と、ITO(Indium tin oxide)などによって構成される透明な陽極12(第1電極)と、正孔輸送層13と、発光層14(発光体)と、電子輸送層15と、金属などによって構成され光を反射可能な陰極16(第2電極)と、が順次積層されることによって構成されている。陽極12および陰極16は電源2に接続されており、陽極12から陰極16へ向かう電界Eが発生されるようになっている。このような電界Eの下、陽極12から正孔輸送層13へと注入された正孔(図10では、「+」、によって表示する)は陰極16側に輸送され、陰極16から電子輸送層15へと注入された電子(図10では、「−」、によって表示する)は陽極12側に輸送される。そして、正孔および電子は発光層14内で再結合し、励起状態にある正孔‐電子対(以下、励起子、という)が生成される。その後、励起子のエネルギーは発光層14を構成する発光材料に渡され、発光材料が励起して発光する。このときの発光スペクトルは主として発光材料の性質に応じて決まり、発光材料としてAlq3のみを用いた場合には、波長λ≒530nmにおいて強度が最大の発光スペクトルになることが知られている。なお、発光層14は、1種類の発光材料のみによって構成することもできるし、また、2種類以上の材料、例えば、ホスト材料とドーパント材料とによって構成することもできる。発光層14内において生成された光は、透明な陽極12および透明基板11を通して、有機EL素子1外に出射されるようになっている。
【0004】
以上のような構成の有機EL素子1において、表示性能を向上させるために、陽極12および陰極16との間にピーク波長λの光に対する共振構造を形成してピーク波長λの光を増幅する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、陽極12、正孔輸送層13、発光層14、電子輸送層15を併せた層の光学距離L(=Σnd:但し、nは各層の屈折率、dは各層の厚み、を表す)と、陰極16によって光が反射される際の位相シフトΦと、を含む以下の式(1)を満たすように有機EL素子1を構成することによって、共振構造を形成することができる。
【0005】
【数1】

【0006】
説明の簡素化のため、以下、陰極16が理想的な導電体であり、かつ、陰極16に接する電子輸送層15が理想的な透明体である場合を例にとって説明する。この場合、陰極16での位相シフトはΦ=−πとなる。したがって、式(1)を以下の式(2)に変形することができる。
【0007】
【数2】

【0008】
さらに、式(2)を変形すると、以下の式(3)が得られる。
【0009】
【数3】

【0010】
このように、ピーク波長λの光に対する共振構造を形成するためには、光学距離Lをピーク波長λの1/4倍,3/4倍,・・・にすればよいことがわかる。
【0011】
図11に、光学距離Lをピーク波長λの3/4倍とした場合に形成される共振構造において生じるピーク波長λの定在波形を模式的に示す。なお、説明の都合上、この図においては、正孔輸送層13,発光層14,電子輸送層15を一体的に図示している。実線の波形は陽極12側に進行する光を表し、破線の波形は陰極16側に進行する光を表す。陰極16の表面から光学距離λ/4だけ隔たった位置Aは定在波形の腹になっており、陰極16の表面から光学距離λ/2だけ隔たった位置Bは定在波形の節になっている。
【0012】
以上のようなピーク波長λの光に対する共振構造を利用して有機EL素子1の表示性能を最大限に高めるためには、定在波形における腹の位置Aを含むように発光層14を形成することはもちろん、特に、発光層14内の発光分布における最大発光位置を定在波形における腹の位置Aに一致させることが好ましい。したがって、有機EL素子1の表示性能を高めるためには、発光層14内の発光分布に関する情報が不可欠である。
【0013】
発光層14内での発光は、前述したように、励起子(正孔‐電子対)の生成が原因となって起こるので、発光層14内の発光分布は、発光層14内における励起子の生成分布とも解釈することができる。しかしながら、発光層14内の励起子の生成分布(発光層14内の発光分布)は、陽極12の仕事関数、陰極16の仕事関数、各層13,14,15を構成する物質のキャリア(正孔・電子)移動度、イオン化ポテンシャル、エネルギーギャップなどの様々な量に依存して決まるため、演算によって算出することは非常に困難である。また、発光層14内の発光分布を直接測定することも困難である。これは、透明な陽極12および透明基板11を通して有機EL素子1外に出射される光が、発光層14内の各位置において生成された光の混合光であるため、これを測定しても発光分布に関する情報を取得することが困難だからである。
【0014】
そこで、発光層14内の発光分布を演算や測定によって直接取得する代わりに、これを推定しようとする技術の開発が試みられており、現在、例えば以下の2つの発光分布推定方法が知られている。
【0015】
第1の発光分布推定方法では、陽極12の仕事関数、陰極16の仕事関数、各層13,14,15を構成する物質のキャリア移動度、イオン化ポテンシャル、エネルギーギャップなどの発光分布を決定する様々な量を予め測定しておき、これらの測定量に基づいて設定した物理モデルを用いて有機EL素子1の発光シミュレーションを行い、このシミュレーション結果に基づいて発光分布を推定する。
【0016】
第2の発光分布推定方法(例えば、非特許文献1参照)では、図12に示すように、発光層14内に微小な厚みを有するドープ層17を添加し、有機EL素子1外に出射される光の強度を測定する。光強度の測定は、発光層14内におけるドープ層17の位置を順次変えながら、複数回に渡って順次行われる。そして、発光層14内におけるドープ層17の位置と、測定された光強度との間の相関関係に基づいて、(ドープ層17が添加されていない)発光層14内の発光分布が推定される。
【0017】
【特許文献1】国際公開第01/039554号パンフレット
【非特許文献1】C.W.Tang, S.A.VanSlyke, and C.H.Chen, J.Appl.Phys. 65(9), 3610, (1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、現時点では有機EL素子1の発光層14の発光メカニズムが十分に解明されていないため、前記第1の発光分布推定方法における発光シミュレーションに用いる物理モデルの妥当性を十分な精度をもって判断することができない。そのため、推定された発光分布が正しいか否かを正確に検証することはできず、前記第1の発光分布推定方法では十分な信頼性が確保されないという問題があった。
【0019】
また、前記第2の発光分布推定方法では、発光層14にドープ層17を追加的に添加しているが、ドープ層17を構成する物質は、エネルギーギャップが発光層14を構成するホスト材料よりも小さく、かつ、HOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)準位およびLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)準位が、発光層14を構成するホスト材料の対応する準位よりも内側に存在することが多いので、ドープ層17は正孔や電子の移動の障害になりやすい。そのため、前記第2の発光分布推定方法では、(ドープ層17が添加されていない)本来の発光層14の発光状態が正確に再現されないおそれがあり、推定精度に問題があった。また、発光層14内にドープ層17を添加する煩雑な作業を、発光層14内においてドープ層17を添加する位置を順次変えながら複数回に渡って繰り返し行わなくてはならないので、作業効率が悪く、コストがかかってしまうという問題も生じていた。
【0020】
本発明の目的は、表示素子における発光体内の発光分布を効率的かつ高精度に推定することができる発光分布推定方法、発光分布推定装置、発光分布推定プログラム、記録媒体、表示素子、画像表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の発光分布推定方法は、印加された電界に基づいて励起され所定の発光スペクトルを有する光を発光可能な発光体と、当該発光体における一方の面側に設けられ光を透過可能な第1電極と、当該発光体における前記一方の面とは反対側の他方の面側に設けられる第2電極と、を備える表示素子において、前記第1電極および前記第2電極によって電界を印加した場合における前記発光体内の発光分布を推定する発光分布推定方法であって、前記第1電極および前記第2電極によって電界を印加して前記発光体を励起・発光させ、前記第1電極を通して出射される光のスペクトル(以下、電界励起出射光スペクトル、という)を測定する電界励起出射光スペクトル測定工程と、前記表示素子の各構成要素の特性に基づいて、前記発光体内において生成される光のうち前記第1電極を通して出射される光の割合(以下、光取出し効率、という)を、前記発光体内において光が生成される各位置ごと、および、当該各位置にて生成される光の各波長ごと、に算出する光取出し効率算出工程と、前記発光スペクトル、前記光取出し効率、前記電界励起出射光スペクトルに基づいて前記発光体内の発光分布を推定する発光分布推定工程と、が設けられることを特徴とする。
【0022】
まず、用語の意味について説明する。
「発光分布」は、発光体内の発光の分布を意味し、発光体内の位置xについての関数WEL(x)として表すことができる。前述したように、発光分布WEL(x)は、発光体内における励起子の生成分布とも解釈することができる。なお、発光分布WEL(x)が電界励起に基づくものであることを明示するために、以下の説明では、発光分布WEL(x)を、特に、「EL発光分布WEL(x)」と表現することがある。
「発光スペクトル」は、発光体によって発光される光のスペクトルを意味し、光の波長λの関数としての光強度I(λ)として表すことができる。前述したように、発光スペクトルは、主として発光体を構成する材料の性質に応じて決まる。しかしながら、発光体が2種類以上の材料によって構成されている場合には、その材料組成によっても発光スペクトルは変化する。例えば、ホスト材料内にドーパント材料が分散されることにより発光体が構成されている場合には、ドーパント材料からの発光が主となるが、ホスト材料の誘電率や密度によってドーパント材料の発光スペクトルは変化する。また、ドーパント材料の添加濃度によっても、濃度消光や自己吸収の影響により発光スペクトルが変化する。
「光取出し効率」は、発光体内の位置xにおいて波長λの光が生成された場合に、そのうち第1電極を通して表示素子外に出射される光の割合を意味し、波長λおよび位置xについての関数η(λ,x)として表すことができる。
「電界励起出射光スペクトル」は、第1電極および第2電極によって電界を印加して発光体を励起・発光させた場合に第1電極を通して表示素子外に出射される光のスペクトルを意味し、光の波長λの関数としての光強度IEL(λ)として表すことができる。
なお、添え字「EL(Electro Luminescence)」は、電界励起に関係することを意味する。
【0023】
続いて、表示素子の表示メカニズムを以上の用語を用いて説明する。
まず、第1電極および第2電極によって電界が印加されると、発光体は発光分布WEL(x)に応じて発光する。すなわち、発光体内の位置xでは、WEL(x)に応じた数の励起子が生成され、WEL(x)に応じた強度の光が生成される。
このとき、位置xで生成されるWEL(x)に応じた強度の光は、光強度I(λ)によって表される発光スペクトルを有している(∵発光スペクトルは、発光体を構成する物質に応じて決まり、発光体内の位置xには無関係)。したがって、位置xにおいて生成される波長λの光の強度は、積WEL(x)・I(λ)に応じて決まる。
そして、この光(波長λ,生成位置x)は、光取出し効率η(λ,x)に応じて第1電極を通して表示素子外に出射される。このため、位置xにおいて生成された波長λの光のうち、第1電極を通して表示素子外に出射される光の強度は、積WEL(x)・I(λ)・η(λ,x)に応じて決まる。
この積WEL(x)・I(λ)・η(λ,x)を位置xについて積分すれば、第1電極を通して表示素子外に出射される波長λの光の強度に相当する量を算出することができる。そして、この算出量は、電界励起出射光スペクトルにおける波長λの光強度IEL(λ)に相当する。
したがって、各項にかけるべき規格化定数などを無視すれば、以下の式(4)が成立する。
【0024】
【数4】

【0025】
このように、電界励起出射光スペクトルIEL(λ)は、発光分布WEL(x),発光スペクトルI(λ),光取出し効率η(λ,x)の3つの量に基づいて定まっているが、見方を変えれば、発光分布WEL(x)を、その他の3つの量に基づいて推定することができることが分かる。
【0026】
本発明の発光分布推定方法によれば、電界励起出射光スペクトルIEL(λ)を測定しており、かつ、光取出し効率η(λ,x)を表示素子の各構成要素の特性に基づいて算出しているので、これら2つの量と発光スペクトルI(λ)とに基づいて発光体内の発光分布WEL(x)を推定することができる。なお、発光スペクトルI(λ)は、発光体を構成する物質に応じて決まるので、当該構成物質を対象とする試験などによって予め測定しておくことも可能である。また、後述するように、光励起出射光スペクトルに基づいて発光スペクトルI(λ)を算出することも可能である。
【0027】
以上のような本発明の発光分布推定方法では、3つの量IEL(λ),η(λ,x),I(λ)に基づいて発光分布WEL(x)を推定しているが、この際、式(4)に基づく演算処理を行えば十分であり、従来の第1の発光分布推定方法のように理論、実験面で十分確立されていない物理モデルを設定して発光シミュレーションを行う必要がない。したがって、本発明の発光分布推定方法によれば、十分に信頼できる前記3つの量に基づいて、発光分布WEL(x)を高精度に推定することができる。
【0028】
また、本発明の発光分布推定方法によれば、従来の第2の発光分布推定方法のように発光体にドープ層のような追加的な構成を添加することなく、表示素子の本来の構成を生かして発光分布WEL(x)を推定することができるので、推定精度を向上させることができる。また、発光体にドープ層のような追加的な構成を添加する煩雑な作業を行わなくて済むので、作業効率を向上させることができ、作業コストを低減させることができる。
【0029】
また、本発明の発光分布推定方法では、前記発光体を励起・発光させることが可能な励起光を照射して当該発光体を励起・発光させ、前記第1電極を通して出射される光のスペクトル(以下、光励起出射光スペクトル、という)を測定する光励起出射光スペクトル測定工程と、前記光励起出射光スペクトルおよび前記光取出し効率に基づいて前記発光スペクトルを算出する発光スペクトル算出工程と、が設けられ、前記発光分布推定工程では、前記発光スペクトル算出工程において算出された前記発光スペクトル、前記光取出し効率、前記電界励起出射光スペクトルに基づいて前記発光体内の発光分布を推定する、ことが好ましい。
【0030】
ここで、「光励起出射光スペクトル」は、励起光を照射して発光体を励起・発光させた場合に第1電極を通して表示素子外に出射される光のスペクトルを意味し、光の波長λの関数としての光強度IPL(λ)として表すことができる。
なお、添え字「PL(Photo Luminescence)」は、光励起に関係することを意味する。
【0031】
光励起の場合には、電界励起の場合の式(4)と同様の以下の式(5)が成り立つ。
【0032】
【数5】

【0033】
ここで、WPL(x)は、光励起による発光体内の発光分布を意味する。なお、発光分布WPL(x)が光励起に基づくものであることを明示するために、以下の説明では、発光分布WPL(x)を、特に、「PL発光分布WPL(x)」と表現することがある。
発光分布WPL(x)は、発光体内における励起光の強度分布L(x)に応じて決まる。特に、強度分布L(x)が略一様であると仮定できる場合には、発光分布WPL(x)も略一様である。そこで、WPL(x)=WPL0(定数)と置けば、式(5)を以下の式(6)に変形することができる。
【0034】
【数6】

【0035】
そして、以下の式(7)のように、光取出し効率η(λ,x)のxについての積分値をη(λ)と置いて、式(6)を発光スペクトルI(λ)についてとけば以下の式(8)が得られる。
【0036】
【数7】

【0037】
【数8】

【0038】
このように、発光スペクトル算出工程では、光励起出射光スペクトルIPL(λ)および光取出し効率η(λ,x)に基づいて発光スペクトルI(λ)を算出することができる。
【0039】
以上のような発光分布推定方法によれば、表示素子に組み込まれた発光体の実際の発光状態に基づいて発光スペクトルI(λ)を高精度に算出することができるので、EL発光分布WEL(x)の推定精度を向上させることができる。
【0040】
また、本発明の発光分布推定方法では、前記発光スペクトル算出工程では、前記表示素子の各構成要素の特性に基づいて、前記光励起出射光スペクトル測定工程での前記発光体内における前記励起光の強度分布を算出し、当該強度分布、前記光取出し効率、前記光励起出射光スペクトルに基づいて前記発光スペクトルを算出する、ことが好ましい。
【0041】
発光体内の強度分布L(x)が略一様であるとの前記仮定が成り立たない場合には、発光体内の発光分布WPL(x)も略一様ではなく、ばらつきが生じる。
しかしながら、強度分布L(x)は、表示素子の各構成要素の特性(屈折率など)に基づいて正確に算出することが可能である。そのため、発光体内の発光分布WPL(x)も正確に算出することが可能である。この場合、前記仮定の下での式(5)から式(8)までの式変形は成り立たないが、代わりに、式(5)を以下の式(9)に変形することができる。
【0042】
【数9】

【0043】
ここで、右辺の各量IPL(λ),WPL(x),η(λ,x)は、いずれも測定あるいは算出されているので、式(9)によって発光スペクトルI(λ)を算出することができる。
【0044】
以上のような発光分布推定方法によれば、発光体内の強度分布L(x)のばらつきを加味した上で、発光スペクトルI(λ)を高精度に算出することができるので、EL発光分布WEL(x)の推定精度を向上させることができる。
【0045】
また、本発明の発光分布推定方法では、前記発光分布推定工程では、前記発光体内の発光分布の候補(以下、発光分布候補、という)を任意に設定する発光分布候補設定工程と、前記発光体が前記発光分布候補に基づいて発光したと仮定した場合に前記第1電極を通して出射される光のスペクトル(以下、電界励起出射光スペクトル候補、という)を、当該発光分布候補、前記発光スペクトル、前記光取出し効率に基づいて算出する電界励起出射光スペクトル候補算出工程と、前記電界励起出射光スペクトル候補を、前記電界励起出射光スペクトルと比較し、両者の差異が所定範囲以内であるときは、当該電界励起出射光スペクトル候補の算出に用いた前記発光分布候補を、前記発光体内の発光分布であると推定するスペクトル比較工程と、が設けられることが好ましい。
【0046】
発光分布候補設定工程において設定されるEL発光分布候補(EL発光分布WEL(x)の候補)をWEL’(x)と置く。電界励起出射光スペクトル候補算出工程では、式(4)のWEL(x)にWEL’(x)を代入することによって得られる以下の式(10)にしたがって電界励起出射光スペクトル候補IEL’(λ)を算出する。
【0047】
【数10】

【0048】
スペクトル比較工程では、算出されたIEL’(λ)を、測定されたIEL(λ)と比較し、両者の差異が所定範囲以内であるときは、IEL’(λ)の算出に用いたEL発光分布候補WEL’(x)を、発光体内のEL発光分布WEL(x)であると推定する。
【0049】
以上のような発光分布推定方法によれば、実際のEL発光分布WEL(x)に基づいて生成されるスペクトルIEL(λ)に近いスペクトル候補IEL’(λ)を生成するEL発光分布候補WEL’(x)を実際のEL発光分布であると推定しているので、推定されたEL発光分布(候補)WEL’(x)と実際のEL発光分布WEL(x)との差異を所定範囲以内に抑えることができ、高精度にEL発光分布WEL(x)を推定することができる。
【0050】
また、本発明の発光分布推定方法では、前記スペクトル比較工程では、複数のサンプル波長を設定し、前記電界励起出射光スペクトル候補における前記各サンプル波長に対する各強度データ、および、前記電界励起出射光スペクトルにおける前記各サンプル波長に対する各強度データ、の個々の差の二乗の総和が所定閾値以下であるときは、当該電界励起出射光スペクトル候補の算出に用いた前記発光分布候補を、前記発光体内の発光分布であると推定する、ことが好ましい。
【0051】
スペクトル比較工程においてN個のサンプル波長λi=λ1,λ2,・・・,λN(i=1,2,・・・,N)を設定した場合、スペクトル候補IEL’(λ)における各サンプル波長λiに対する各強度データIEL’(λi)、および、スペクトルIEL(λ)における各サンプル波長λiに対する強度データIEL(λi)、の個々の差の二乗の総和Δ
【0052】
【数11】

【0053】
が算出されて閾値Δと比較され、スペクトル候補IEL’(λ)の算出に用いた発光分布候補WEL’(x)を発光分布WEL(x)と推定してよいか否かが判定される。
なお、連続的なサンプル波長を設定した場合には、式(11)の右辺をλについての積分を用いて書き換えればΔを算出することができる。
【0054】
以上のような発光分布推定方法によれば、数学的な手法に基づいて、安定した精度で発光分布を推定することができる。
【0055】
また、本発明の発光分布推定装置は、印加された電界に基づいて励起され所定の発光スペクトルを有する光を発光可能な発光体と、当該発光体における一方の面側に設けられ光を透過可能な第1電極と、当該発光体における前記一方の面とは反対側の他方の面側に設けられる第2電極と、を備える表示素子において、前記第1電極および前記第2電極によって電界を印加した場合における前記発光体内の発光分布を推定する発光分布推定装置であって、前記第1電極および前記第2電極によって電界を印加して前記発光体を励起・発光させる電界印加手段と、前記電界印加手段による電界の印加の際に前記第1電極を通して出射される光のスペクトル(電界励起出射光スペクトル)を測定する電界励起出射光スペクトル測定手段と、前記表示素子の各構成要素の特性に基づいて、前記発光体内において生成される光のうち前記第1電極を通して出射される光の割合(光取出し効率)を、前記発光体内において光が生成される各位置ごと、および、当該各位置にて生成される光の各波長ごと、に算出する光取出し効率算出手段と、前記発光スペクトル、前記光取出し効率、前記電界励起出射光スペクトルに基づいて前記発光体内の発光分布を推定する発光分布推定手段と、を備えることを特徴とする。
【0056】
また、本発明の発光分布推定装置では、前記発光体を励起・発光させることが可能な励起光を照射して当該発光体を励起・発光させる励起光照射手段と、前記励起光照射手段による励起光の照射の際に前記第1電極を通して出射される光のスペクトル(光励起出射光スペクトル)を測定する光励起出射光スペクトル測定手段と、前記光励起出射光スペクトルおよび前記光取出し効率に基づいて前記発光スペクトルを算出する発光スペクトル算出手段と、が設けられ、前記発光分布推定手段は、前記発光スペクトル算出手段によって算出された前記発光スペクトル、前記光取出し効率、前記電界励起出射光スペクトルに基づいて前記発光体内の発光分布を推定する、ことが好ましい。
【0057】
また、本発明の発光分布推定装置では、前記発光分布推定手段は、前記発光体内の発光分布の候補(発光分布候補)を任意に設定する発光分布候補設定手段と、前記発光体が前記発光分布候補に基づいて発光したと仮定した場合に前記第1電極を通して出射される光のスペクトル(電界励起出射光スペクトル候補)を、当該発光分布候補、前記発光スペクトル、前記光取出し効率に基づいて算出する電界励起出射光スペクトル候補算出手段と、前記電界励起出射光スペクトル候補を、前記電界励起出射光スペクトルと比較し、両者の差異が所定範囲以内であるときは、当該電界励起出射光スペクトル候補の算出に用いた前記発光分布候補を、前記発光体内の発光分布であると推定するスペクトル比較手段と、を備えることが好ましい。
【0058】
以上のような構成の本発明の発光分布推定装置は、前述した本発明の発光分布推定方法を実施するための構成を備えているので、本発明の発光分布推定方法と同じ各作用・効果を奏することができる。
【0059】
また、本発明の発光分布推定装置では、光のスペクトルを測定可能な単一のスペクトル測定手段が設けられ、当該単一のスペクトル測定手段が、前記電界励起出射光スペクトル測定手段として機能し、かつ、前記光励起出射光スペクトル測定手段として機能する、ことが好ましい。
【0060】
このような構成の発光分布推定装置によれば、電界励起出射光スペクトル測定手段および光励起出射光スペクトル測定手段として単一のスペクトル測定手段を設ければよいので、発光分布推定装置の部品点数および部品コストを低減させることができる。
【0061】
また、本発明の発光分布推定プログラムは、印加された電界に基づいて励起され所定の発光スペクトルを有する光を発光可能な発光体と、当該発光体における一方の面側に設けられ光を透過可能な第1電極と、当該発光体における前記一方の面とは反対側の他方の面側に設けられる第2電極と、を備える表示素子において、前記第1電極および前記第2電極によって電界を印加した場合における前記発光体内の発光分布を推定する発光分布推定プログラムであって、前記第1電極および前記第2電極によって電界を印加して前記発光体を励起・発光させ、前記第1電極を通して出射される光のスペクトル(電界励起出射光スペクトル)を測定する電界励起出射光スペクトル測定工程と、前記表示素子の各構成要素の特性に基づいて、前記発光体内において生成される光のうち前記第1電極を通して出射される光の割合(光取出し効率)を、前記発光体内において光が生成される各位置ごと、および、当該各位置にて生成される光の各波長ごと、に算出する光取出し効率算出工程と、前記発光スペクトル、前記光取出し効率、前記電界励起出射光スペクトルに基づいて前記発光体内の発光分布を推定する発光分布推定工程と、を発光分布推定装置に組み込まれたコンピュータに実行させる、ことを特徴とする。
【0062】
また、本発明の記録媒体は、前記発光分布推定プログラムが記録され、発光分布推定装置に組み込まれたコンピュータによって読み取り可能である、ことを特徴とする。
【0063】
以上のような構成の本発明の発光分布推定プログラムおよび記録媒体は、前述した本発明の発光分布推定方法を実施するために利用されるので、本発明の発光分布推定方法と同じ各作用・効果を奏することができる。
【0064】
また、本発明の表示素子は、印加された電界に基づいて励起され、波長λにおいて強度が最大の発光スペクトルを有する光を発光可能な発光体と、当該発光体における一方の面側に設けられ光を透過可能な第1電極と、当該発光体における前記一方の面とは反対側の他方の面側に設けられ光を反射可能な第2電極と、を備える表示素子であって、当該表示素子は、前記波長λの光に対する共振構造が前記第1電極および前記第2電極の間に形成されるように構成され、前記発光分布推定方法に基づいて推定された前記発光体内の発光分布における最大発光位置と、前記共振構造において生じる前記波長λの定在波形における腹の位置と、が互いに一致している、ことを特徴とする。
【0065】
このような構成の表示素子によれば、発光体内の発光分布における最大発光位置が、ピーク波長λの定在波形における腹の位置に一致しているので、ピーク波長λの光に対する共振構造を利用して表示素子の表示性能を最大限に高めることができる。
【0066】
また、本発明の画像表示装置は、複数の表示画素を有する画像表示装置であって、前記個々の表示画素が、前記表示素子によって構成されている、ことを特徴とする。
【0067】
このような構成の画像表示装置によれば、前述した本発明の表示素子によって表示画素が構成されているので、表示性能を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0068】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る発光分布推定方法を実施するための構成を示すブロック線図である。
【0069】
有機EL素子1は、本発明の表示素子を構成している。有機EL素子1は、既に説明した図10に示される構成を備えている。ここでは、繰り返しになるので、説明を省略する。
【0070】
電界印加手段2(図10では、電源2に相当する)は、陽極12および陰極16によって電界Eを正孔輸送層13,発光層14,電子輸送層15に印加して、発光層14を励起・発光させる。このとき、陽極12および透明基板11を通して有機EL素子1から出射される光のスペクトルが電界励起出射光スペクトル(以下、記載の簡略化のため、ELスペクトル、と略することがある)IEL(λ)である。
【0071】
励起光照射手段3は、図示しない光源と光ファイバ31とを備えて構成され、発光層14を励起・発光させることが可能な励起光を光ファイバ31の先端から照射して発光層14を励起・発光させる。このとき、陽極12および透明基板11を通して有機EL素子1から出射される光のスペクトルが光励起出射光スペクトル(以下、説明の簡略化のため、PLスペクトル、と略することがある)IPL(λ)である。
【0072】
なお、励起光としては、例えば、紫外領域および可視領域を含むブロードな連続スペクトル光を出射可能なランプ(例えば、キセノンランプ)の光から分光器によって抽出した単色光や、レーザ光を利用することができる。
【0073】
また、励起光の特性としては、半値幅が20nm以下であることが好ましく、さらには10nm以下であることがより好ましい。半値幅が20nmよりも広いと、励起光スペクトルとPLスペクトルIPL(λ)との重なりが大きくなり、EL発光分布WEL(x)の推定精度に悪影響を及ぼす可能性があるからである。
【0074】
また、励起光は、発光層14のみを選択的に励起・発光させる波長を有することが好ましい。前述したように、電界励起時における発光層14の発光は、発光層14に含まれる発光材料が励起することによって起こるので、電界励起時と同等の発光状態を実現させるために発光材料のみを選択的に励起・発光させる波長の励起光を利用することが重要である。具体的には、発光材料および発光材料以外の材料(正孔輸送層13,電子輸送層15の構成材料)の光吸収スペクトルを測定し、発光材料の光吸収量が大きく、かつ、発光材料以外の材料の光吸収量が小さい波長を、励起光の波長とすればよい。さらに、発光材料がホスト材料およびそれに添加されるドーパント材料からなる場合には、ホスト材料の光吸収スペクトルも測定し、ドーパント材料の光吸収量が大きく、かつ、ホスト材料の光吸収量が小さい波長を、励起光の波長とすることが好ましい。
【0075】
スペクトル測定手段4は、分光放射輝度計や分光光度計など、波長λごとの光の強度を測定可能な計器によって構成され、有機EL素子1から出射されるELスペクトルIEL(λ)およびPLスペクトルIPL(λ)を測定する。このため、スペクトル測定手段4は、電界励起出射光スペクトル測定手段、および、光励起出射光スペクトル測定手段、を構成している。
【0076】
制御手段5は、光取出し効率算出手段51と、発光スペクトル算出手段52と、発光分布推定手段53と、を備えて構成されている。
【0077】
光取出し効率算出手段51は、有機EL素子1の各構成要素の特性に基づいて、発光層14内において生成される光のうち陽極12を通して出射される光の割合(光取出し効率η(λ,x))を、発光層14内において光が生成される各位置xごと、および、当該各位置xにて生成される光の各波長λごと、に算出する。
【0078】
発光スペクトル算出手段52は、スペクトル測定手段4によって測定されたPLスペクトルIPL(λ)、および、光取出し効率算出手段51によって算出された光取出し効率η(λ,x)、に基づいて発光層14の発光スペクトルI(λ)を算出する。
【0079】
発光分布推定手段53は、発光スペクトル算出手段52によって算出された発光スペクトルI(λ)、光取出し効率算出手段51によって算出された光取出し効率η(λ,x)、スペクトル測定手段4によって測定されたELスペクトルIEL(λ)に基づいて発光層内のEL発光分布WEL(x)を推定する。
発光分布推定手段53は、発光分布候補設定手段531と、電界励起出射光スペクトル候補算出手段532と、スペクトル比較手段533と、を備えて構成されている。
【0080】
発光分布候補設定手段531は、発光層14内のEL発光分布の候補(EL発光分布候補WEL’(x))を任意に設定する。
【0081】
電界励起出射光スペクトル候補算出手段532は、発光層14がEL発光分布候補WEL’(x)に基づいて発光したと仮定した場合に陽極12および透明基板11を通して有機EL素子1から出射される光のスペクトル(電界励起出射光スペクトル候補(以下、記載の簡略化のため、ELスペクトル候補、と略することがある)IEL’(λ))を、発光分布候補設定手段531によって設定されたEL発光分布候補WEL’(λ)、発光スペクトル算出手段52によって算出された発光スペクトルI(λ)、光取出し効率算出手段51によって算出された光取出し効率η(λ,x)、に基づいて算出する。
【0082】
スペクトル比較手段533は、電界励起出射光スペクトル候補算出手段532によって算出されたELスペクトル候補IEL’(λ)を、スペクトル測定手段4によって測定されたELスペクトルIEL(λ)と比較し、両者の差異が所定範囲以内であるときは、ELスペクトル候補IEL’(λ)の算出に用いたEL発光分布候補WEL’(x)を、発光層14内のEL発光分布WEL(x)であると推定する。
【0083】
以上の構成において、電界印加手段2,励起光照射手段3,スペクトル測定手段4,制御手段5は、陽極12および陰極16によって電界Eを印加した場合における発光層14内のEL発光分布WEL(x)を推定する発光分布推定装置を構成している。
【0084】
続いて、このような発光分布推定装置を用いたEL発光分布WEL(x)の推定手順について図2のフローチャートを参照しながら説明する。
【0085】
S1(Sは工程の意。以下同様)では、有機EL素子1を作成する。
【0086】
[電界励起出射光スペクトル測定工程]
S2では、制御手段5の制御の下、電界印加手段2が陽極12および陰極16の間に電圧を印加し、陽極12から陰極16に向かう電界Eを発生させる。この電界Eの下で、発光層14が励起・発光する。
S3では、制御手段5の制御の下、スペクトル測定手段4が、有機EL素子1から出射される光のスペクトル(ELスペクトルIEL(λ))を測定する。なお、ELスペクトルIEL(λ)は、そのピーク強度によって規格化されている。
【0087】
[光励起出射光スペクトル測定工程]
S4では、制御手段5の制御の下、励起光照射手段3が有機EL素子1に励起光を照射し、発光層14を励起・発光させる。
S5では、制御手段5の制御の下、スペクトル測定手段4が、有機EL素子1から出射される光のスペクトル(PLスペクトルIPL(λ))を測定する。なお、PLスペクトルIPL(λ)は、そのピーク強度によって規格化されている。
【0088】
[光取出し効率算出工程]
S6では、有機EL素子1の各構成要素の特性を測定する。具体的には、各構成要素の材料の屈折率nと吸収係数kとを測定する。ここでは、特に、精度の高い発光分布推定を行うために、公知の測定方法を利用して屈折率nおよび吸収係数kの波長分散特性を測定する。ここで、公知の測定方法としては、例えば、エリプソメータを用いる方法、垂直反射スペクトル測定データを理論式にフィッティングして波長分散特性データを算出する方法を利用することができる。なお、以上の測定は、有機EL素子1とは別に予め用意されている各構成要素の各サンプルについて行えばよく、有機EL素子1自体を測定対象として測定を行う必要はない。
【0089】
S7では、光取出し効率算出手段51が、各サンプルについて測定された屈折率nおよび吸収係数kの波長分散特性に基づいて、光取出し効率η(λ,x)を算出する。この計算は、例えば、以下の2つの公知の計算方法によって行うことができる。
【0090】
(1)発光層14内で生成される光が平面波であると近似し、有機EL素子1を構成する各層間における多重反射を考慮した計算方法(平面波近似法)
(2)媒体中の電磁波(光)の伝播を記述するマックスウェル方程式を時間および空間で差分化し、1階偏微分により計算解析空間の電磁波(光)強度を求める方法(FDTD法)
【0091】
ここでは、(1)の平面波近似法について概説する。この方法の概略は以下の通りである。
a)波長λの光について、有機EL素子1を構成する各層(第j層:但し、j=1,2,・・・,J)の位相膜厚δを算出する。
b)波長λの光について、以下の式(12)によって定義される各層の光学インピーダンスYをs偏光、p偏光のそれぞれについて算出する。
【0092】
【数12】

【0093】
c)波長λの光について、以下の式(13)によって定義される各層の特性マトリクスMをs偏光、p偏光のそれぞれについて算出する。
【0094】
【数13】

【0095】
d)発光層14において生成された波長λの光は、次の3通りのうちいずれか1通りの振る舞いを示す。
i)透明基板11の空気と接する界面(図10では、上面)を透過して有機EL素子1から出射される。
ii)透明基板11の空気と接する界面において反射される。
iii)陰極16の表面において反射される。
以上の3通りの振る舞いi),ii),iii)にそれぞれ対応する振幅透過率t,振幅反射率r,振幅反射率rを算出する。
【0096】
e)振幅透過率t,振幅反射率r,振幅反射率rに基づいて、発光層14内の位置xにおいて生成される光のうち多重干渉により有機EL素子1外に出射される光の振幅強度を算出する。
f)発光層14内の位置xにおいて生成される波長λの光のポインティングベクトルの時間平均値、および、この光のうち有機EL素子1外に出射される光のポインティングベクトルの時間平均値を求め、当該2つの値の比を計算することにより、位置xにおいて生成される波長λの光に対する光取出し効率η(λ,x)を算出する。
【0097】
なお、ポインティングベクトルとは、電界ベクトルE、磁界ベクトルHを有する電磁波が媒体中を進行するときのエネルギーを表しており、媒体の屈折率がnであるとき、その時間平均値は、次の式(14)のように電界ベクトルEの2乗に比例する量になっている。
【0098】
【数14】

【0099】
[発光スペクトル算出工程]
S8では、発光スペクトル算出手段52が、S5において測定されたPLスペクトルIPL(λ)と、S7において算出された光取出し効率η(λ,x)とに基づいて、発光層14の発光スペクトルI(λ)を算出する。
【0100】
このとき、光励起による発光層14内のPL発光分布をWPL(x)とすれば、前記式(5)が成立する。PL発光分布WPL(x)は、S4およびS5における発光層14内での励起光の強度分布L(x)に応じて決まる。有機EL素子1の外部から照射された励起光は、有機EL素子1の内部において発生する光と同様に、有機EL素子1内部における各層間の界面にて多重反射するので、有機EL素子1内部での励起光の強度分布L(x)は厳密には一様でない。しかしながら、有機EL素子1における発光層14の光学膜厚が励起光の波長λeに比べて十分に小さい(例えば、λe×0.2よりも小さい)場合には、励起光の強度分布L(x)を一様と近似することができる。この場合、PL発光分布WPL(x)も一様と近似することができるから、WPL(x)=WPL0(定数)と置いて、前記式(5)を、前記式(6),前記式(7)を経て、前記式(8)に変形することができ、発光スペクトルI(λ)を算出することができる。
【0101】
一方、発光層14の光学膜厚が比較的大きい(例えば、λe×0.2よりも大きい)場合には、励起光の強度分布L(x)を一様と近似することはできない。しかしながら、S7で利用したような公知の計算方法によって励起光の強度分布L(x)を正確に算出することが可能である。この場合、L(x)に基づくPL発光分布WPL(x)も正確に算出することが可能である。したがって、前記式(5)を前記式(9)に変形することができ、発光スペクトルI(λ)を算出することができる。
【0102】
[発光分布候補設定工程]
S9では、発光分布候補設定手段531が、ユーザの設定操作や、制御手段5のメモリ(図示せず)に予め記憶されている発光分布候補設定プログラムなどに基づいて、EL発光分布候補WEL’(x)を設定する。なお、EL発光分布候補WEL’(x)は、発光層14の厚み方向に沿って積分すると1になるように規格化されている。すなわち、WEL’(x)は、次の式(15)を満たすように設定される。なお、式(15)におけるdは発光層14の厚みである。
【0103】
【数15】

【0104】
[電界励起出射光スペクトル候補算出工程]
S10では、電界励起出射光スペクトル候補算出手段532が、EL発光分布候補WEL’(x),発光スペクトルI(λ),光取出し効率η(λ,x)に基づき、前記式(10)にしたがってELスペクトル候補IEL’(λ)を算出する。
なお、以下の式(16)によって、電界励起時に生成される光に対する平均的な光取出し効率ηEL’(λ)を定義すれば、前記式(10)を以下の式(17)に書き換えることができ、ELスペクトル候補IEL’(λ)が、発光スペクトルI(λ)と平均的な光取出し効率ηEL’(λ)との積として表されることが分かる。
【0105】
【数16】

【0106】
【数17】

【0107】
[スペクトル比較工程]
S11では、スペクトル比較手段533がELスペクトル候補IEL’(λ)とELスペクトルIEL(λ)とを比較し、S12では、両者の差異が所定範囲以内であるか否かが判定される。
具体的には、スペクトル比較手段533は、N個のサンプル波長λi=λ1,λ2,・・・,λN(i=1,2,・・・,N)を設定し、ELスペクトル候補IEL’(λ)における各サンプル波長λiに対する各強度データIEL’(λi)、および、ELスペクトルIEL(λ)における各サンプル波長λiに対する強度データIEL(λi)、の個々の差の二乗の総和Δを前記式(11)に基づいて算出し、所定の閾値Δと比較する。そして、Δ≦Δであるとき(S12においてYesと判定される)は、S13へと進んで、スペクトル比較手段533は、S10においてELスペクトル候補IEL’(λ)の算出に用いたEL発光分布候補WEL’(x)をEL発光分布WEL(x)と推定する。また、Δ>Δであるとき(S12においてNoと判定される)は、S9へと戻って、新たなEL発光分布候補WEL’(x)が設定される。
【0108】
<実施形態の効果>
以上のような実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
従来の第1の発光分布推定方法のように理論、実験面で十分確立されていない物理モデルを設定して発光シミュレーションを行う必要がなく、十分に信頼できるデータ(IEL(λ),η(λ,x),I(λ)など)に基づく演算によって、EL発光分布WEL(x)を高精度に推定することができる。
【0109】
また、従来の第2の発光分布推定方法のように発光層14にドープ層のような追加的な構成を添加することなく、有機EL素子1の本来の構成を生かしてEL発光分布WEL(x)を推定することができるので、推定精度を向上させることができる。また、発光層14にドープ層のような追加的な構成を添加する煩雑な作業を行わなくて済むので、作業効率を向上させることができ、作業コストを低減させることができる。
【0110】
また、発光層14を励起光によって励起・発光させた際に測定されるPLスペクトルIPL(λ)に基づいて発光スペクトルI(λ)を算出しているので、有機EL素子1に組み込まれた発光層14の実際の発光状態に基づいて発光スペクトルI(λ)を高精度に算出することができ、EL発光分布WEL(x)の推定精度を向上させることができる。
【0111】
また、PLスペクトルIPL(λ)を測定する際における発光層14内の励起光の強度分布L(x)のばらつきを加味して発光スペクトルI(λ)を高精度に算出することができるので、EL発光分布WEL(x)の推定精度を向上させることができる。
【0112】
また、実際のEL発光分布WEL(x)に基づいて生成されるELスペクトルIEL(λ)に近いELスペクトル候補IEL’(λ)を生成するEL発光分布候補WEL’(x)を実際のEL発光分布WEL(x)であると推定しているので、推定されたEL発光分布(候補)WEL’(x)と実際のEL発光分布WEL(x)との差異を所定範囲以内に抑えることができ、高精度にEL発光分布WEL(x)を推定することができる。
【0113】
また、スペクトル候補IEL’(λ)における各サンプル波長λiに対する各強度データIEL’(λi)、および、スペクトルIEL(λ)における各サンプル波長λiに対する強度データIEL(λi)、の個々の差の二乗の総和Δ(式(11))と、閾値Δとの比較という数学的な手法に基づいて、安定した精度でEL発光分布WEL(x)を推定することができる。
【0114】
また、単一のスペクトル測定手段4によってELスペクトルIEL(λ)およびPLスペクトルIPL(λ)の2つのスペクトルを測定することができるので、部品点数および部品コストを低減させることができる。
【0115】
<変形例>
本発明は、以上で説明した実施形態によって限定されるものではなく、この実施形態を、本発明の目的を達成できる範囲内において変形したものであれば、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0116】
例えば、前記実施形態では、有機EL素子1を発光分布推定対象の表示素子としていたが、これに限らず、例えば、無機EL素子などのLEDを対象として発光分布を推定することも可能である。
【0117】
また、前記実施形態では、第2電極としての陰極16が光を反射可能に構成していたが、陽極12と同様に光を透過可能に構成してもよい。
【0118】
また、前記実施形態では、発光スペクトルI(λ)を、測定されたPLスペクトルIPL(λ)に基づいて算出していたが、発光スペクトルI(λ)は、発光層14を構成する物質に応じて決まるので、当該構成物質を対象とする試験などによってI(λ)を予め測定しておくことも可能である。
【0119】
また、前記実施形態では、任意に設定したEL発光分布候補WEL’(x)を利用したEL発光分布WEL(x)の推定方法について説明していたが、推定方法はこれに限られない。要するに、発光スペクトルI(λ),光取出し効率η(λ,x),ELスペクトルIEL(λ)に基づいた推定方法であれば、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0120】
また、前記実施形態では、ELスペクトル候補IEL’(λ)とELスペクトルIEL(λ)との比較に当たって、ΔとΔとを比較していたが、スペクトルの比較方法はこれに限られない。
【0121】
また、前記実施形態では、発光層14内のEL発光分布WEL(x)の推定方法について説明したが、当該推定方法をコンピュータに実行させる発光分布推定プログラムや、当該発光分布推定プログラムが記録され、コンピュータによって読み取り可能な記録媒体も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0122】
また、前記実施形態に記載された発光分布推定方法に基づいて推定された発光層14内のEL発光分布WEL(x)における最大発光位置と、光を透過可能な陽極12および光を反射可能な陰極16の間に形成される発光層14の発光スペクトルI(λ)におけるピーク波長λの光に対する共振構造において生じるピーク波長λの定在波形における腹の位置と、が互いに一致するように構成された表示素子(有機EL素子1)も本発明の技術的範囲に含まれる。このような構成の表示素子によれば、ピーク波長λの光に対する共振構造を利用して表示素子の表示性能を最大限に高めることができる。
【0123】
また、このような構成の表示素子を表示画素として有する表示性能の高い画像表示装置も本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0124】
次に、本発明の実施例について説明する。
[装置の構成]
図1に示される装置の各構成要素を、以下の各部品を用いて構成した。
電界印加手段2:定電流発生器
励起光照射手段3:モノクロ光源SM−5(分光計器社製)。これは、300Wキセノンランプ,分光器,光ファイバによって構成される。キセノンランプの光を分光器によって分光して所望の波長を有する単色光(励起光:半値幅15nm)を抽出し、光ファイバの先端から有機EL素子1の面に対して45°の角度で照射する。
スペクトル測定手段4:分光放射輝度計CS1000A(コニカミノルタ社製)
制御手段5:平面波近似法によって光取出し効率η(λ,x)を算出するプログラム、および、ELスペクトル候補IEL’(λ)とELスペクトルIEL(λ)とを比較し、前記実施形態のS11〜S13にしたがってEL発光分布WEL(x)を推定するプログラム、を格納
【0125】
[S1:有機EL素子の作成]
ガラス基板11上にITOをスパッタリングにより成膜して陽極12を形成し、さらにその上にNPD,Alq3,Alなどを順次真空蒸着法により成膜して正孔輸送層13(NPD),発光層14(Alq3),電子輸送層15(Alq3),陰極16(Al)を形成して、NPD層およびAlq3層の厚みが互いに異なる以下の3つの有機EL素子1を作成する(以下、互いに区別するために3つの有機EL素子1を、それぞれ、素子α、素子β、素子γと表記する)。なお、以上の説明においては、発光層14と電子輸送層15とを互いに区別していたが、本実施例の素子構成では、発光層14および電子輸送層15はAlq3のみによって構成された一体的な層になっている。
【0126】
(1)素子α:基板(ガラス:0.7mm)/陽極(ITO:140nm)/正孔輸送層(NPD:40nm)/発光層および電子輸送層(Alq3:80nm)/陰極(Al:150nm)
(2)素子β:基板(ガラス:0.7mm)/陽極(ITO:140nm)/正孔輸送層(NPD:60nm)/発光層および電子輸送層(Alq3:60nm)/陰極(Al:150nm)
(3)素子γ:基板(ガラス:0.7mm)/陽極(ITO:140nm)/正孔輸送層(NPD:80nm)/発光層および電子輸送層(Alq3:40nm)/陰極(Al:150nm)
【0127】
[S2〜S3:ELスペクトルIEL(λ)の測定]
電流密度が10mA/cmとなる条件下で定電流発生器(電界印加手段2)によって、陽極12(ITO)および陰極16(Al)間に電界Eを印加したところ、素子α,β,γはいずれも緑色に発光した。そして、この緑色光を分光放射輝度計(スペクトル測定手段4)によって測定し、素子α,β,γのそれぞれについて、ELスペクトルIEL(λ)のデータを取得した(なお、IEL(λ)は、そのピーク強度によって規格化されている)。図3に、IEL(λ)を示す。素子α,β,γの順に、ELスペクトルIEL(λ)のピーク波長が短くなっていることがわかる。
【0128】
[S4〜S5:PLスペクトルIPL(λ)の測定]
励起光照射手段3を用いて、波長430nm、半値幅15nmの励起光(図4参照)を、素子α,β,γのそれぞれの面に対して45°の角度で照射したところ、電界励起時(S2〜S3)と同様、緑色の発光が観測された。そして、この緑色光を、ELスペクトルIEL(λ)の測定に用いたのと同じ分光放射輝度計によって測定し、素子α,β,γのそれぞれについて、PLスペクトルIPL(λ)のデータを取得した(なお、IPL(λ)は、そのピーク強度によって規格化されている)。図4に、IPL(λ)を示す。図3のELスペクトルIEL(λ)と同様、素子α,β,γの順に、PLスペクトルIPL(λ)のピーク波長が短くなっていることがわかる。
【0129】
[S6〜S7:光取出し効率η(λ,x)の算出]
ガラス基板上に、陽極12材料のITO(140nm)、正孔輸送層13材料のNPD(40nm)、発光層14および電子輸送層15材料のAlq3(40nm)、陰極16材料のAl(10nm)の薄膜をそれぞれ作製した。そして、光学式屈折率測定装置FilmTEK3000(SCI社製)を用いて、それぞれの薄膜の屈折率nと吸収係数kを測定した。測定された屈折率nと吸収係数kを用いて、平面波近似法により光取出し効率η(λ,x)を算出した。図5,図6,図7に、素子α,β,γの光取出し効率η(λ,x)をそれぞれ示す。なお、これらの図におけるA,B,C,D,Eのデータは、発光層14を構成するAlq3層を5等分したときの各面における光取出し効率を表している。
【0130】
[S8:発光スペクトルI(λ)の算出]
図4のPLスペクトルIPL(λ)と、図5〜図7の光取出し効率η(λ,x)とに基づいて、素子α,β,γのそれぞれについて発光スペクトルI(λ)を算出した。図8に、算出された発光スペクトルI(λ)を示す。素子α,β,γが同一のピーク波長を有していることがわかる。これは、前述したように、発光スペクトルI(λ)のピーク波長が発光層14を構成する物質に応じて決まり、発光層14の厚みなどには無関係であるからである。逆に、図8の算出データから、測定された図4のPLスペクトルIPL(λ)が同一の物質(Alq3)からの発光であることがわかる。
【0131】
[S9〜S13:EL発光分布WEL(x)の推定]
以上の工程で取得された測定データおよび算出データに基づいて、EL発光分布WEL(x)を推定した。図9に、素子α,β,γのそれぞれについてのEL発光分布WEL(x)の推定結果を示す。この図の横軸は、陽極12としてのITO層の表面(正孔輸送層13と接する面)からの距離(単位:nm)を表している。また、この図中のA,B,Cの各位置は、それぞれ、素子α,β,γにおける正孔輸送層13(NPD)と発光層14(Alq3)との境界面の各位置を表している。この推定結果により、発光層14を構成するAlq3の膜厚が80nmのとき(素子α)は、EL発光分布WEL(x)が20nm以上の幅に渡っており、Alq3の膜厚が小さくなるほど(素子α→素子β→素子γ)EL発光分布WEL(x)の幅が狭くなっていき、Alq3の膜厚が40nmのとき(素子γ)は、EL発光分布WEL(x)の幅が15nm程度になることなどが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明は、自発光表示素子の発光体内の発光分布の推定に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】本発明に係る発光分布推定方法を実施するための構成を示すブロック線図である。
【図2】EL発光分布WEL(x)の推定手順を示すフローチャートである。
【図3】有機EL素子α,β,γのそれぞれについてのELスペクトルIEL(λ)の測定データを示す図である。
【図4】有機EL素子α,β,γのそれぞれについてのPLスペクトルIPL(λ)の測定データを示す図である。
【図5】有機EL素子αの光取出し効率η(λ,x)を示す図である。
【図6】有機EL素子βの光取出し効率η(λ,x)を示す図である。
【図7】有機EL素子γの光取出し効率η(λ,x)を示す図である。
【図8】有機EL素子α,β,γのそれぞれについての発光スペクトルI(λ)の算出データを示す図である。
【図9】有機EL素子α,β,γのそれぞれについてのEL発光分布WEL(x)の推定結果を示す図である。
【図10】有機EL素子の構成を模式的に示す断面図である。
【図11】有機EL素子の共振構造において生じる定在波形を模式的に示す断面図である。
【図12】従来の発光分布推定方法を実施するための構成を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0134】
1…有機EL素子
2…電界印加手段
3…励起光照射手段
4…スペクトル測定手段
5…制御手段
11…透明基板
12…陽極
13…正孔輸送層
14…発光層
15…電子輸送層
16…陰極
51…光取出し効率算出手段
52…発光スペクトル算出手段
53…発光分布推定手段
531…発光分布候補設定手段
532…電界励起出射光スペクトル候補算出手段
533…スペクトル比較手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印加された電界に基づいて励起され所定の発光スペクトルを有する光を発光可能な発光体と、当該発光体における一方の面側に設けられ光を透過可能な第1電極と、当該発光体における前記一方の面とは反対側の他方の面側に設けられる第2電極と、を備える表示素子において、前記第1電極および前記第2電極によって電界を印加した場合における前記発光体内の発光分布を推定する発光分布推定方法であって、
前記第1電極および前記第2電極によって電界を印加して前記発光体を励起・発光させ、前記第1電極を通して出射される光のスペクトル(以下、電界励起出射光スペクトル、という)を測定する電界励起出射光スペクトル測定工程と、
前記表示素子の各構成要素の特性に基づいて、前記発光体内において生成される光のうち前記第1電極を通して出射される光の割合(以下、光取出し効率、という)を、前記発光体内において光が生成される各位置ごと、および、当該各位置にて生成される光の各波長ごと、に算出する光取出し効率算出工程と、
前記発光スペクトル、前記光取出し効率、前記電界励起出射光スペクトルに基づいて前記発光体内の発光分布を推定する発光分布推定工程と、
が設けられることを特徴とする発光分布推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の発光分布推定方法において、
前記発光体を励起・発光させることが可能な励起光を照射して当該発光体を励起・発光させ、前記第1電極を通して出射される光のスペクトル(以下、光励起出射光スペクトル、という)を測定する光励起出射光スペクトル測定工程と、
前記光励起出射光スペクトルおよび前記光取出し効率に基づいて前記発光スペクトルを算出する発光スペクトル算出工程と、
が設けられ、
前記発光分布推定工程では、前記発光スペクトル算出工程において算出された前記発光スペクトル、前記光取出し効率、前記電界励起出射光スペクトルに基づいて前記発光体内の発光分布を推定する、
ことを特徴とする発光分布推定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の発光分布推定方法において、
前記発光スペクトル算出工程では、前記表示素子の各構成要素の特性に基づいて、前記光励起出射光スペクトル測定工程での前記発光体内における前記励起光の強度分布を算出し、当該強度分布、前記光取出し効率、前記光励起出射光スペクトルに基づいて前記発光スペクトルを算出する、
ことを特徴とする発光分布推定方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の発光分布推定方法において、
前記発光分布推定工程では、
前記発光体内の発光分布の候補(以下、発光分布候補、という)を任意に設定する発光分布候補設定工程と、
前記発光体が前記発光分布候補に基づいて発光したと仮定した場合に前記第1電極を通して出射される光のスペクトル(以下、電界励起出射光スペクトル候補、という)を、当該発光分布候補、前記発光スペクトル、前記光取出し効率に基づいて算出する電界励起出射光スペクトル候補算出工程と、
前記電界励起出射光スペクトル候補を、前記電界励起出射光スペクトルと比較し、両者の差異が所定範囲以内であるときは、当該電界励起出射光スペクトル候補の算出に用いた前記発光分布候補を、前記発光体内の発光分布であると推定するスペクトル比較工程と、
が設けられることを特徴とする発光分布推定方法。
【請求項5】
請求項4に記載の発光分布推定方法において、
前記スペクトル比較工程では、複数のサンプル波長を設定し、前記電界励起出射光スペクトル候補における前記各サンプル波長に対する各強度データ、および、前記電界励起出射光スペクトルにおける前記各サンプル波長に対する各強度データ、の個々の差の二乗の総和が所定閾値以下であるときは、当該電界励起出射光スペクトル候補の算出に用いた前記発光分布候補を、前記発光体内の発光分布であると推定する、
ことを特徴とする発光分布推定方法。
【請求項6】
印加された電界に基づいて励起され所定の発光スペクトルを有する光を発光可能な発光体と、当該発光体における一方の面側に設けられ光を透過可能な第1電極と、当該発光体における前記一方の面とは反対側の他方の面側に設けられる第2電極と、を備える表示素子において、前記第1電極および前記第2電極によって電界を印加した場合における前記発光体内の発光分布を推定する発光分布推定装置であって、
前記第1電極および前記第2電極によって電界を印加して前記発光体を励起・発光させる電界印加手段と、
前記電界印加手段による電界の印加の際に前記第1電極を通して出射される光のスペクトル(電界励起出射光スペクトル)を測定する電界励起出射光スペクトル測定手段と、
前記表示素子の各構成要素の特性に基づいて、前記発光体内において生成される光のうち前記第1電極を通して出射される光の割合(光取出し効率)を、前記発光体内において光が生成される各位置ごと、および、当該各位置にて生成される光の各波長ごと、に算出する光取出し効率算出手段と、
前記発光スペクトル、前記光取出し効率、前記電界励起出射光スペクトルに基づいて前記発光体内の発光分布を推定する発光分布推定手段と、
を備えることを特徴とする発光分布推定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の発光分布推定装置において、
前記発光体を励起・発光させることが可能な励起光を照射して当該発光体を励起・発光させる励起光照射手段と、
前記励起光照射手段による励起光の照射の際に前記第1電極を通して出射される光のスペクトル(光励起出射光スペクトル)を測定する光励起出射光スペクトル測定手段と、
前記光励起出射光スペクトルおよび前記光取出し効率に基づいて前記発光スペクトルを算出する発光スペクトル算出手段と、
が設けられ、
前記発光分布推定手段は、前記発光スペクトル算出手段によって算出された前記発光スペクトル、前記光取出し効率、前記電界励起出射光スペクトルに基づいて前記発光体内の発光分布を推定する、
ことを特徴とする発光分布推定装置。
【請求項8】
請求項7に記載の発光分布推定装置において、
光のスペクトルを測定可能な単一のスペクトル測定手段が設けられ、
当該単一のスペクトル測定手段が、前記電界励起出射光スペクトル測定手段として機能し、かつ、前記光励起出射光スペクトル測定手段として機能する、
ことを特徴とする発光分布推定装置。
【請求項9】
印加された電界に基づいて励起され所定の発光スペクトルを有する光を発光可能な発光体と、当該発光体における一方の面側に設けられ光を透過可能な第1電極と、当該発光体における前記一方の面とは反対側の他方の面側に設けられる第2電極と、を備える表示素子において、前記第1電極および前記第2電極によって電界を印加した場合における前記発光体内の発光分布を推定する発光分布推定プログラムであって、
前記第1電極および前記第2電極によって電界を印加して前記発光体を励起・発光させ、前記第1電極を通して出射される光のスペクトル(電界励起出射光スペクトル)を測定する電界励起出射光スペクトル測定工程と、
前記表示素子の各構成要素の特性に基づいて、前記発光体内において生成される光のうち前記第1電極を通して出射される光の割合(光取出し効率)を、前記発光体内において光が生成される各位置ごと、および、当該各位置にて生成される光の各波長ごと、に算出する光取出し効率算出工程と、
前記発光スペクトル、前記光取出し効率、前記電界励起出射光スペクトルに基づいて前記発光体内の発光分布を推定する発光分布推定工程と、
を発光分布推定装置に組み込まれたコンピュータに実行させる、
ことを特徴とする発光分布推定プログラム。
【請求項10】
請求項9に記載の発光分布推定プログラムが記録され、発光分布推定装置に組み込まれたコンピュータによって読み取り可能である、
ことを特徴とする記録媒体。
【請求項11】
印加された電界に基づいて励起され、波長λにおいて強度が最大の発光スペクトルを有する光を発光可能な発光体と、当該発光体における一方の面側に設けられ光を透過可能な第1電極と、当該発光体における前記一方の面とは反対側の他方の面側に設けられ光を反射可能な第2電極と、を備える表示素子であって、
当該表示素子は、前記波長λの光に対する共振構造が前記第1電極および前記第2電極の間に形成されるように構成され、
請求項1から請求項5のいずれかに記載の発光分布推定方法に基づいて推定された前記発光体内の発光分布における最大発光位置と、前記共振構造において生じる前記波長λの定在波形における腹の位置と、が互いに一致している、
ことを特徴とする表示素子。
【請求項12】
複数の表示画素を有する画像表示装置であって、
前記個々の表示画素が、請求項11に記載の表示素子によって構成されている、
ことを特徴とする画像表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2006−278035(P2006−278035A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−92414(P2005−92414)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】