説明

発光基板および該発光基板を備えた画像表示装置

【課題】 発光基板および画像表示装置の輝度を向上させる。
【解決手段】 透明な基板の上に、フォトニック結晶構造と、透明なアノード電極と、拡散反射率が0.04%以下の発光体層と、がこの順序で積層され、前記発光体層の側面に側面反射部材が設けられており、前記フォトニック結晶構造の前記発光体層に対する相対面積をa[%]、前記側面反射部材の反射率をc[%]とした時に、95≦c、かつ40≦a<100の関係または85≦c<95、かつ80≦a<100の関係を満たす発光基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像表示装置として液晶ディスプレイ(LCD)やプラズマディスプレイ(PDP)や有機エレクトロルミネセンスディスプレイ(OLED)や電界放出ディスプレイ(FED)が知られている。このような画像表示装置には高い輝度が求められている。特許文献1には、回折格子又はゾーンプレートを用いて、OLEDにおける光の取り出し効率を向上することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−283751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように、発光体層の全面に渡って回折格子を設けたのでは、十分な輝度が得られないことを、本願発明者らは見出した。そこで、本発明は、より輝度を向上させることのできる発光基板および画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
透明な基板の上に、フォトニック結晶構造と、透明なアノード電極と、拡散反射率が0.04%以下の発光体層と、がこの順序で積層され、前記発光体層の側面に側面反射部材が設けられており、前記フォトニック結晶構造の前記発光体層に対する相対面積をa[%]、前記側面反射部材の反射率をc[%]とした時に、下記条件1の関係または下記条件2の関係を満たすことを特徴とする発光基板。
(条件1)95≦c、かつ40≦a<100
(条件2)85≦c<95、かつ80≦a<100
【発明の効果】
【0006】
輝度を向上させた発光基板および画像表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】発光基板の断面を示す模式図である。
【図2】画像表示装置の構造の一例を示す斜視模式図である。
【図3】フォトニック結晶構造の効果を説明する図である。
【図4】回折面への入射における球面波と平面波との違いを説明する図である。
【図5】光束の伝播距離と回折の効果との関係を示す図である。
【図6】光束の導波とフォトニック結晶構造の面積との関係を示す図である。
【図7】蛍光体層の拡散反射率、側面反射率、およびフォトニック結晶構造の相対面積と相対強度との関係を示す図である。
【図8】本発明の有効範囲を示す図である。
【図9】相対面積aの定義を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、電界放出ディスプレイを例に、本発明の実施の形態について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、電界放出ディスプレイ(FED)に限定されず、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ(OLED)、陰極線管ディスプレイ(CRT)、などの画像表示装置に好ましく適用される。FEDやOLEDが、特に本発明が好適に適用されるディスプレイである。以下では、FEDを例に、本発明の実施の形態の一例を説明する。
【0009】
尚、各図で共通に用いている符号は、特に記載がない限り、同じ部材を指している。そして、各図における各部材の大きさは、特に限定的な説明がなされていない限り、実際の大きさとは異なる。
【0010】
FEDの構成について、図2を用いて説明する。図2は、FEDの構造の一例を示す斜視模式図であり、その内部構造を示すために一部を切り欠いて示している。基板1の上には、複数の走査配線32と複数の変調配線33と複数の電子放出素子34が設けられている。基板1はリアプレート41の上に固定されている。透明基板43の内面には、アノード電極44と発光体層である蛍光体層45とが積層して設けられている。蛍光体層45は、一般には、図1を用いて後述するように、複数の蛍光体層45からなり、各々の蛍光体層45の間に公知のブラックマトリクスが設けられている。フェースプレート46は、透明基板43とアノード電極44と蛍光体層45とを含んでいる。リアプレート41とフェースプレート46との間に設けられた支持枠42は、リアプレート41およびフェースプレート46にフリットガラス等の接合部材を介して接合されている。そして、フェースプレート46、支持枠42、リアプレート41とで、気密容器47が構成されている。気密容器47の内部は大気圧よりも低い圧力(好ましくは10−7Pa程度)に維持されている。尚、FEDにおける発光基板はフェースプレート46である。
【0011】
尚、ここでは、基板1とリアプレート41とを別の部材で構成した態様を示したが、リアプレート41自体が十分な強度を持つ場合には、リアプレート41が基板1を兼ねることにより、基板1を省くこともできる。また、フェースプレート46とリアプレート41との間に、スペーサとよばれる不図示の支持体を設置することにより、大気圧に対して十分な強度を持たせた構成とすることもできる。
【0012】
m本の走査配線32は、それぞれに対応する端子(端子Dx1,Dx2,…Dxm)と接続されている。n本の変調配線33は、それぞれに対応する端子(端子Dy1,Dy2,…Dyn)と接続されている(m,nは、共に正の整数)。これらm本の走査配線32とn本の変調配線33との交差部には、不図示の層間絶縁層が設けられており、両者を電気的に絶縁している。そして、電子放出素子34の各々が、m本の走査配線32のうちの1つと、n本の変調配線33のうちの1つと、に接続している。
【0013】
高圧端子Hvはアノード電極44に接続され、例えば5kV以上15kV以下の直流電圧が高圧端子Hvを介してアノード電極44に供給される。この電圧は、電子放出素子34から放出された電子に、蛍光体層45を発光させるのに十分なエネルギーを付与する為の加速電圧である。
【0014】
図1(a)は、発光基板であるフェースプレート46の一部(ここでは1画素に相当する部分を示す)の断面模式図である。この図では、図2における電子放出素子34から放出された電子は、紙面に向かって上方から蛍光体層45に照射される。従って、図2と図1(a)では上下が逆さまになって示されている。
【0015】
透明基板43の上には、発光体層である蛍光体層45から発せられた光を透明基板43の外部に取り出すための、フォトニック結晶構造50が設けられている。透明基板43の材料としては、可視光領域において透過性の高い絶縁性基板が好ましく、ソーダライムガラスなどの板ガラスが好適に用いられる。フォトニック結晶構造50の詳細な構造については後述する。アノード電極44は、ITO等の透明電極で構成されており、透明基板43との間にフォトニック結晶構造50を挟むように、フォトニック結晶構造50の上に設けられている。蛍光体層45は、透明基板43との間にフォトニック結晶構造50とアノード電極44を間に挟むように、アノード電極44の上に設けられている。蛍光体層45の詳細な構成については後述する。
【0016】
また、ここで示す態様では、隣り合うフォトニック結晶構造50の間には、公知のブラックマトリクス48が設けられている。ブラックマトリクス48は、画素間の混色、拡散反射防止のために設けられている。そして、ここで示す態様では、アノード電極44は、フォトニック結晶構造50を覆いかつブラックマトリクス48の一部を覆っている。しかし、ブラックマトリクス48を設けない構成でも本発明の効果は得られるので、ブラックマトリクスは必須ではない。
【0017】
また、アノード電極44は、少なくともフォトニック結晶構造50の後述する回折領域を覆っていればよく、実用的には、フォトニック結晶構造50より大きければよい。そのため、アノード電極44は、各画素ごとに分離されていなくてもよく、各画素に対応するフォトニック結晶構造50を覆う、透明な1つの導電性の膜で構成することも可能である。
【0018】
ここで示す態様では、ブラックマトリクス48は、フォトニック結晶構造50が配置される、矩形状の開口部を備える。開口部のサイズとしては、短辺が50μm〜300μm、長辺が短辺の1倍〜3倍程度が好ましい。蛍光体層45の領域面積は、ブラックマトリクス48のパターンによって形成される開口部の面積と同程度である。なお、「領域面積」とは、フォトニック結晶構造50においてはフォトニック結晶構造50(特にフォトニック結晶構造50の回折領域)の透明基板43に接する面の面積のことを意味する。また、蛍光体層45においては、「領域面積」は、アノード電極44に接する面の面積のことを意味するが、ブラックマトリクスが用いられる場合には、ブラックマトリクスの開口の面積とみなすことができる。また、蛍光体層45の側面Sには側面反射部材51が接触して設けられている。側面反射部材51の詳細な構成については後述する。
【0019】
(発光体層)
本発明における発光体層としての蛍光体層45は、低散乱性を備える(発光体層内の光束の伝播損失が少ない)薄膜蛍光体層で構成することが好ましい。薄膜蛍光体層は、本発明の効果を顕著に得ることができる。ここで、「薄膜蛍光体層」は、透明基板43上にスパッタ法や電子ビーム蒸着法等の真空プロセスで直接成膜した蛍光体層を指す。より詳細には、例えば、母体結晶となりうる材料と発光中心となりうる材料とを、透明基板43上にアモルファス状態で成膜し、その後、熱処理することで透明基板43上で結晶化させた蛍光体結晶からなる層のことを指す。母体結晶となりうる材料としては、例えば、YやYSやGd等の酸化物、または、ZnSやSrGa等の硫化物が挙げられる。また、発光中心となりうる材料(賦活剤)としては、例えば、Eu、Cu,Al、Ag,Cl等が挙げられる。上記したアモルファス状態で成膜する方法としては、上述したスパッタ法や電子ビーム蒸着法以外に、真空蒸着法、分子線エピタキシー法等の成膜方法も挙げられる。また、上記熱処理としては、例えば、高温炉による熱アニール、レーザービームによる熱アニール等が挙げられる。
【0020】
また、ナノ粒子蛍光体層も、薄膜蛍光体層と同様に低散乱性を備えるので、本発明の発光体層として好ましく用いられる。尚、「ナノ粒子蛍光体」とは、粒径が当該蛍光体の発光波長(数百nm程度)以下の粒径を備える蛍光体を差す。ナノ粒子蛍光体は、蛍光体原料液からの化学反応による核の生成と成長により粒径を制御するボトムアップ手法や、バルク状の蛍光体を粉砕して得るトップダウン手法等によって得ることができる。ナノ粒子蛍光体層の特徴としては、CRT等で用いられる数μmサイズの蛍光体粒子を用いた蛍光体層と比較して、低散乱性であることや、励起線の浸入長に対して発光中心が十分に存在することなどが挙げられる。薄膜蛍光体層およびナノ粒子蛍光体層については、小林洋志他著、「蛍光体の基礎及び用途別最新動向」、株式会社 情報機構、2005年11月を参照されたい。
【0021】
尚、本発明における低散乱性とは、実用的には、拡散反射率が0.04%以下であることを意味する。蛍光体層45の拡散反射率は、JIS Z 8722:2009の5.3反射物体の測定方法に準じて測定する。具体的には、試料面の法線となす角が45°±2°の方向に配置した光源から光線束を試料面に照射し、試料面の法線となす角が10°以下の方向に配置した受光器で反射光束を受光する。そして同一条件の測定系で受光した標準白色面からの反射光束との強度の比を拡散反射率とする。ここにいう標準白色面とは、分光反射率の測定において、基準に用いる、分光反射率が校正された白色面を指し、全方向の反射率が略均一で100%に近く、材料には白色のBaSO等が用いられる。測定装置においては、例えば光源にはハロゲン光源(MHAA−100W−100V、(株)モリテックス製)を用いることができる。また、受光器には分光放射計(SR−UL1、(株)トプコンテクノハウス製)、標準白色面には標準白色板(WS−3(株)トプコンテクノハウス製)を用いることができる。
【0022】
蛍光体原料としては、赤色では、例えばY、Gd等の酸化物、或いはYS等の硫化物を母体とし、この母体にEu、Zn等の賦活剤金属を添加してなるものを用いることができる。緑色では、ZnS:Cu,Alや、SrGa:Euなどを用いることができ、青色では、ZnS:Ag,Clなどを用いることができる。
【0023】
ナノ粒子蛍光体およびナノ粒子蛍光体層の製法は例えば次の通りである。
ナノ粒子蛍光体の製造には、蛍光体原料に対し、噴霧熱分解法や、トップダウン法の固相法、ボトムアップ法の液相法、気相法などの方法を用いることができる。噴霧熱分解法は、原料溶液を噴霧して液滴化したのち、キャリアガス中でヒーターによって加熱し、溶媒の蒸発及び原料の熱分解によりナノ粒子蛍光体を形成するものである。固相法は、原料粉末を混合し、高温条件で加熱して焼成したものをボールミル等で微粉砕してナノ粒子蛍光体を形成する。液相法は、共沈法、ゾルゲル法などの液相反応を利用してナノ粒子蛍光体を形成するものである。気相法は、気相反応を利用してナノ粒子蛍光体を形成するものであり、キャリアガスに浮遊させた蛍光体原料をプラズマ等の熱源による加熱域を通過させて急速に加熱、冷却することで、ナノ粒子蛍光体を形成する方法である。これらの製造方法を適宜、選択して用いることができる。
【0024】
ナノ粒子蛍光体層を形成するには、まず、溶媒中に上述のナノ粒子蛍光体を分散し、ナノ粒子蛍光体の分散液を用意する。その後、ナノ粒子蛍光体の分散液を、インクジェット法、スピンコート法、バーコート法などにより成膜面に塗布し、乾燥およびまたは焼成を行うことで溶媒を蒸発させて、ナノ粒子蛍光体層を形成することができる。
【0025】
一方、蛍光体層45の側面は、鏡面性を持つことが好ましい。さらには、蛍光体層45の側面は、透明基板43の表面に対して垂直に近いことが望ましい。なお、ここにいう蛍光体層45の側面とは、蛍光体層45の持つ各面のうち、フォトニック結晶構造50に接する面(透明基板43の表面)に対して垂直方向の面を指す。そして、図1(a)中において、記号Sで指し示す箇所が蛍光体層45の側面である。蛍光体層45の側面形状の加工方法の一例としては、フォトレジストで蛍光体層の画素領域(残しておく領域)を保護した後、エッチングにより画素領域より外側の領域を除去する方法が挙げられる。エッチング条件やエッチング手法を選択することにより、所望の側面形状を形成することができる。
【0026】
(側面反射部材)
本発明において、蛍光体層45の側面Sに隣接して側面反射部材51が配置されることが好ましい。側面反射部材51の材質は例えば銀、アルミニウムなどを用いることができる。特に銀は光束の損失の少ない高反射率である点で好ましく用いられる。側面反射部材51の反射率は、おおむね85%以上であることが望ましい。本発明において、側面反射部材51の反射率は、ガラス基板上に側面反射部材51の材料を成膜して形成した試料面に対して5°方向の鏡面反射成分を測定することによって得ることができる。なお、ここにいう鏡面反射成分とは、反射面(試料面)より様々な角度方向に反射される光束の成分のうち、入射光束の入射角に等しい角度で反射する成分を指す。そして、試料の鏡面反射成分と校正された標準ミラーの鏡面反射成分との反射光束の強度の比を反射率として取得する。具体的には、例えば分光光度計SolidSpec3700(島津製作所製)を用いて測定する。側面反射部材51の製造方法は、上述の蛍光体層45の側面Sの形状を加工する過程におけるレジストを除去する前の段階で、蛍光体層45の側面Sに蒸着法などにより成膜することができる。また、側面反射部材51は、アノード電極44と接続させることが望ましい。このようにすることで、蛍光体層45の電位の制御性が増す。そのため、図1(a)に示すように、側面反射部材51の少なくとも一部が、アノード電極44の上に、積層して設けることが望ましい。
【0027】
(フォトニック結晶構造)
ここで説明するフォトニック結晶構造50は、(フォトニック結晶構造を構成する)互いに異なる材料からなる領域(52および53)を交互に配列した領域(回折領域)をその一部に備えた構造である(図1(a)参照)。
【0028】
典型的には、フォトニック結晶構造50は、低屈折率材料の層に高屈折率材料の領域(微細ドット)が散在するパターン、あるいは、高屈折率材料の層に低屈折率材料の領域(微細ドット)が散在するパターンを備える。前者のパターンの場合、図1(a)において、低屈折率材料が53、高屈折率材料が52に該当し、後者のパターンの場合、逆に、低屈折率材料が52、高屈折率材料が53に該当する。
【0029】
高屈折率材料としては、例えばZrO、Al、TiOなど、低屈折率材料としては、例えばMgF、SiOなどが好適に用いられる。高屈折率材料は、その屈折率が1.7から2.6までの間であり、また、低屈折率材料は、その屈折率が1.3から1.6までの間である。そして、高屈折率材料と低屈折率材料の屈折率の差が0.3以上であることが好ましい。
【0030】
図1(b)は、本発明のフォトニック結晶構造50の回折領域の一部の平面模式図である。pは低屈折率材料(または高屈折率材料)の領域(微細ドット)52のピッチであり、wは低屈折率材料(または高屈折率材料)の領域(微細ドット)52の径である。実用的には、pは300nmから3μmの範囲の中から設定され、wはpの0.2倍から1倍の範囲の中から設定される。微細ドット52は必ずしも正確にピッチpの周期パターンでなくとも良い。周期パターンでない場合は、pは隣接するドットの中心間の平均的距離と見なされる。また、ここでは低屈折率材料(または高屈折率材料)の領域(微細ドット)52の平面形状を円としたが、矩形や楕円など、その他の形状とすることもできる。
【0031】
また、ここで示す例では、フォトニック結晶構造50の上(電子放出素子に近い側)には透明なアノード電極44が設けられている。透明なアノード電極44としては、ITO膜やZnO膜、SnO膜等の透明導電膜を用いることができ、その形成方法としては、スパッタ法等を用いることができる。
【0032】
(透明基板内面での全反射による光閉じ込めメカニズムについて)
フォトニック結晶構造50の作用について、図3を用いて、蛍光体層45の一部の発光源から光が放射されて場合を例に、説明する。尚、図3と図1(b)では上下関係を逆に示している。フォトニック結晶構造の作用は、その周期構造の特徴から、基本的には回折格子における光の回折現象に基づくものである。図3において、本発明のフォトニック結晶構造がなく、基板43と空気の屈折率の差で決まる臨界角θ以上の角度で、蛍光体層45の発光源から基板43内部に入射した光束Lは、基板43内部(基板43と空気との界面)で全反射し、閉じ込められてしまう。しかし、本発明では、蛍光体層45の発光源から基板43内部に向けて放射された光束を、基板43内部に入射する際に、フォトニック結晶構造50の作用により回折させて光束L’とする(臨界角θ未満の角度θ’に変換する)。これにより、発光源から発せられた光を、より多く、基板43の外部(空気中)へ導き出すことができる。この結果、基板43の外部で観測される蛍光体層45からの発光輝度を向上させることができる。フォトニック結晶の一般的な記述は、「フォトニック結晶技術とその応用」(川上彰二郎監修、シーエムシー出版)などを参照されたい。
【0033】
しかしながら、本発明者の検討により、単純に蛍光体層45の全面にフォトニック結晶構造50(特に回折領域)を積層配置しただけでは、上述したフォトニック結晶構造による効果が十分に発揮されないことがわかった。そこで、本発明は、フォトニック結晶構造50の効果をより発揮させて、輝度が向上した画像表示装置を提供するものである。その基本的原理と本発明の特徴的な構造について、以下に説明する。
【0034】
(球面波の問題について)
本実施形態の基本的原理に係る光の回折の特性について説明する。フォトニック結晶構造50の様な回折構造による回折は、球面波入射よりも平面波入射の方が効果的に生じやすい。この事を、最も簡単な回折構造である単純格子からなる回折格子を例に用いて説明する。図4(A)および図4(B)は、平面波入射の場合(図4(A))と、球面波入射の場合(図4(B))における、回折格子60による回折現象の違いを定性的に説明する図である。図中、60は単純格子からなる回折格子、61は球面波入射の場合の点光源、62は入射光の波面である。Lは光源から各格子点60Aへ向かう入射光束を示している。回折格子60の面形状は平面である。
【0035】
図4(A)の平面波入射の場合は、回折格子60の全ての格子点60Aにおける波面62の位相差がよく揃う。その結果、回折格子60から射出される光は特定の角度に著しい強度ピークを有する明瞭な角度分布を示す。一方で図4(B)の球面波入射の場合は、回折格子60と波面62の形状が異なるために、特に光源61に近い各格子点60Aでの位相差が揃わない。その結果、隣接格子間の強め合いの方向が一様でなくなり、回折格子からの射出による光の角度分布は不明瞭になる。
【0036】
したがって、蛍光体層の発光源からフォトニック結晶構造50への入射状態が球面波である場合には、効率よく、臨界角θ内に、光束を回折により集中させることはできず、光束の一部は基板43内に閉じ込められてしまうことになる。
【0037】
発光源が前述の図4(B)のような単一の点光源の場合ではなく、ディスプレイのように画素内に有限の発光領域を持つ場合は、複数の微小な点光源の集まりと考えることが出来る。この際、個々の点光源は互いに独立であり、インコヒーレントな関係であると言える。すなわち画素内全体の光のコヒーレンスは完全ではなく、互いにインコヒーレントな点光源の集まりと考えるのが自然である。
【0038】
したがって、フォトニック結晶構造50での回折に対しては、点光源から放出される球面波の入射が影響するために、前述した、フォトニック結晶構造による効果が十分に発揮されないこととなる。
【0039】
そこで、発光源とフォトニック結晶構造50との間の光束の伝播距離を考慮することにより、上述した球面波がフォトニック結晶構造に入射することに起因した問題を低減することができる。すなわち、光源から発した光束が球面波であっても、その伝播距離が長くなるほど曲率半径が増すことになり、その結果、所定の大きさのフォトニック結晶構造に入射する波面が平面波に近づくことになる。
【0040】
(伝播距離の影響について)
図5は発光源からフォトニック結晶構造50までの光束の伝播距離に対する、回折光強度の角度分布を説明するイメージ図およびグラフである。図5(A)〜図5(C)において、43は透明基板、50はフォトニック結晶構造、61は発光源である点光源である。図5(A’)〜図5(C’)において、グラフ上の点線は臨界角θを示している。図5(A)および図5(A´)は、発光源61とフォトニック結晶構造50との間の光束の伝播距離Dが比較的近い場合の、それぞれ回折光の角度分布のイメージ図および相対強度のグラフである。この場合、回折光強度の角度分布は一様になり、臨界角内への光束の集中は不十分となる。この場合は、回折面入射時の波面が球面のために格子間の位相差が揃わず、フォトニック結晶構造50は回折格子としてではなく、単純な散乱体として作用すると考えられる。
【0041】
図5(B)および図5(B´)は、発光源61からフォトニック結晶構造50までの光束の伝播距離Dが図5(A)に比較して長い場合である。図5(A)および図5(A´)の場合とは異なり、回折光の角度分布には強弱が生じる。しかし、強弱のコントラストはあまり大きくないため、臨界角内への光束の集中は不足している。
【0042】
図5(C)および図5(C´)は、発光源61からフォトニック結晶構造50までの光束の伝播距離Dが図5(B)に比較してさらに長く、具体的には、100μm以上まで長くした場合である。この場合の回折光の角度分布には明確な強弱が生じる。すなわち、臨界角内へ光束が集中し、輝度の増加につながる。この場合、回折面への入射時の波面は、平面に近く、格子間の位相差が良く揃い、フォトニック結晶構造50は回折格子として作用すると考えられる。
【0043】
以上のことから、発光源とフォトニック結晶構造との間の光束の伝播距離が長い方が、よりフォトニック結晶構造50の回折の効果が高まり、輝度の低下を防ぐことができることがわかる。
【0044】
(フォトニック結晶構造の領域面積を小さくする構成)
次に、発光源61からフォトニック結晶構造50までの光束の伝播距離Dを長くする具体的な構成について図6を用いて説明する。
【0045】
図6は図1(a)の一部を抜き出して模式的に記載した図である。図6は蛍光体層45内を伝播する光束とフォトニック結晶構造50が形成されている部の大きさの関係を示す図である。図中、Lは光束を示す。
【0046】
伝播距離Dを長くするには、単純には基板43とフォトニック結晶構造50との界面に垂直な方向(z方向)における、基板43の膜厚方向への延長、すなわち蛍光体層45の膜厚の増加が考えられる。しかし、この方法で回折の効果を高めるには100μmスケールの距離を必要とする。ここまで蛍光体層45の膜厚を厚くするのは蛍光体材料の使用効率の悪さ、及び蛍光体層45の作製プロセスの効率の悪さの観点から適切でない。
【0047】
そこで本発明では、蛍光体層45の膜厚を増やすのではなく、基板43とフォトニック結晶構造50との界面に沿った(平行な)方向(面方向)における伝播距離Dを長くする。この場合、蛍光体層45が透明に近い低散乱性(拡散反射率が0.04%以下)の層であれば、結果的に伝播距離Dを長くすることができる。これは、図6に示す様に、フォトニック結晶構造50の回折領域の直下から離れた発光源61から放出された光束が、漏れの少ない状態で、蛍光体層45の側面および上下の面で反射され、蛍光体層45内部を導波するためである。尚、蛍光体層45の側面とは図6のX方向における蛍光体層45の端面であり、蛍光体層45の上下の面とは図6のY方向における蛍光体層45の両端面である。そして、蛍光体層45内部を導波した光束はフォトニック結晶構造50の回折領域まで到達するので、結果的に伝播距離Dを長くすることができる。なお、ここでいう「漏れ」とは、光束Lが蛍光体層45の各面で界面を透過し、蛍光体層45外部へ射出されることを意味する。
【0048】
この際、伝播距離Dを長くするために蛍光体層45の領域面積を大きくするのは電子線照射範囲の制約から不適切である。
【0049】
そこで、蛍光体層45の領域面積ではなく、フォトニック結晶構造50の領域面積(フォトニック結晶構造50の回折領域)を小さくすることが好ましい。すなわち蛍光体層45の領域の絶対面積は不変だが、フォトニック結晶構造50の領域面積(フォトニック結晶構造50の回折領域)に対し相対的に大きくすることで伝播距離Dを長くするのが好ましい。
【0050】
したがって、蛍光体層45の領域面積に対して、フォトニック結晶構造50の領域面積(フォトニック結晶構造50の回折領域)を小さくする構成とすれば、回折の効果が高まる。その結果、透明基板43の外部に取り出される蛍光体層45からの発光輝度を増加させることができる。
【0051】
(パラメータ関係)
ここで重要になるのが、蛍光体層45内部での光束Lの導波効率に影響を与える、蛍光体層45の低散乱性および側面反射部材51の反射率である。蛍光体層45の内部を導波中の光束の漏れを防ぐには、図6のz方向に光束が散乱されないことが重要である。また、蛍光体層45の外側、すなわち図6中のx方向で蛍光体層45の中心から離れる側に向かった光束が、側面で高い反射率で反射して内側、すなわち蛍光体層45の中心側に戻ることも重要である。
【0052】
したがって、蛍光体層45内部を好適に光束Lが導波し、フォトニック結晶構造50の回折の効果によって輝度が増加する条件としては、以下の3つのパラメータが重要となる。即ち、蛍光体層45の領域面積に対するフォトニック結晶構造50の相対面積a[%]、蛍光体層45の拡散反射率b[%]、側面反射部材51の反射率c[%]である。
【0053】
ここで、相対面積aの定義について図9を用いて説明する。
図9は、前述した蛍光体層45およびフォトニック結晶構造50を透明基板43側から見た平面模式図である。説明の簡略化のため、図1(a)に示した、透明基板43、アノード電極44、ブラックマトリクス48、側面反射部材51は省略している。図中、S1は蛍光体層45の領域面積を表し、S2はフォトニック結晶構造50の領域面積を表している。より詳細には、S2は、前述したフォトニック結晶構造50の「回折領域」の領域面積に相当する。そのため、図1(a)のフォトニック結晶構造50を透明基板43側から見た場合には、フォトニック結晶構造50の外縁は、蛍光体層45の外縁と重なる。また、図9では、説明を簡略化するために、蛍光体層45の領域およびフォトニック結晶構造50の「回折領域」をともに正方形に近い長方形で示している。しかし、蛍光体層45の領域およびフォトニック結晶構造50の「回折領域」は、この形に限定されるものではない。一般に、蛍光体層45の形状は概ね長方形状(Y1>X1)に設定され、同様に、フォトニック結晶構造50の「回折領域」も長方形状(Y2>X2)に設定される。
【0054】
図9に示すように、まず、長方形である蛍光体層45の一辺(短辺)をX1、他辺(長辺)をY1として蛍光体層45の領域面積をS1=X1×Y1、同様にフォトニック結晶構造50の「回折領域」の領域面積をS2=X2×Y2とそれぞれ表す。そして蛍光体層45に対するフォトニック結晶構造50の領域面積の比a=S2/S1をとることによって相対面積aを定義することができる。
【0055】
これらのパラメータa,b,cによる、フォトニック結晶構造50の「回折領域」の領域面積S2が蛍光体層45の領域面積S1と同じである場合(これを通常面積とする)に対する、輝度の変化を図7(A)、図7(B)に示す。この計算は、フォトニック結晶構造50内の回折特性については電磁場解析手法である転送行列法で行うこともできる。一方、蛍光体層45内および透明基板内の光束Lの伝播は光線追跡法で行うこともできる。光線追跡法は、具体的には照明設計解析ソフトウェアLightTools(Optical Research Associates製)を用いることができる。図7(A)は拡散反射率bが0.00%、図7(B)は拡散反射率bが0.04%の場合である。横軸は相対面積aを表し、縦軸は通常面積での輝度を1とした相対輝度を表す。図7(A)、図7(B)のグラフ内のプロットの系列は側面反射率cがそれぞれ100%、95%、90%、85%、80%の場合である。
【0056】
図8は、通常面積よりも、相対輝度が大きくなるパラメータa,b,cの有効範囲を示す図である。図8の横軸は相対面積a、縦軸は側面反射部材51の反射率cであり、蛍光体層45の拡散反射率bを等高線にしている。拡散反射率bが0.00%の時には、拡散反射率bが0.04%の時よりも有効範囲が広くなっていることがわかる。これらの結果より、通常面積より相対輝度が大きくなる条件は、拡散反射率bが0.04%以下であり、かつ、次の条件1または条件2を満たすことが必要である。
(条件1)側面反射部材51の反射率cが95%以上のとき、相対面積aが40%以上100%未満。
(条件2)側面反射部材51の反射率cが85%以上95%未満のとき、相対面積aが80%以上100%未満。
【0057】
これらの条件が好適である理由は、蛍光体層45の拡散反射率bの範囲が比較的広く、作製が比較的容易であるためである。また、条件1は輝度向上効果がより高い点、条件2は側面反射部材51の反射率が比較的広い範囲にあって、さらに作製が容易である点を考慮している。従って、これらの条件を満たす範囲であれば、通常面積のフォトニック結晶構造50に比して、高い輝度を得ることができる。
【0058】
以上に示した条件1およびまたは条件2を満たすフォトニック結晶構造を備えるディスプレイにおいては、輝度の高い表示画像を得ることができる。
尚、図1(a)に示した発光基板を有機ELディスプレイに用いる場合には、上述した発光体層としての蛍光体層45を有機EL層に置き換え、さらに、有機EL層の上(図1(a)の紙面に向かって上方)に陰極(カソード電極)を設ければよい。即ち、有機EL層のアノード電極とは反対側に陰極(カソード電極)を設ければよい。また、低分子系の有機ELディスプレイの場合には、発光層と陰極との間に電子輸送層を設け、発光層とアノード電極44との間に正孔輸送層を設ける。また高分子系の有機ELディスプレイの場合には、発光層と陰極との間に電子輸送層を設け、発光層とアノード電極44との間に導電性高分子層を設けることが望ましい。
【実施例】
【0059】
以下具体的な実施例について説明する。
【0060】
(実施例1)
図1(a)は実施例1の発光基板を示す図である。図中、43は透明基板、44はアノード電極、45は蛍光体層、48はブラックマトリックス、51は側面反射部材、50はフォトニック結晶構造を示す。以下に、詳細を記す。
【0061】
まず、透明基板43の上にスパッタ法を用いて酸化コバルトを成膜した後に、フォトニック結晶構造50を設けるために、レジストを用いたパターニングにより、矩形状の開口部を備えたブラックマトリクス48を形成した。矩形状の開口部のサイズは、短辺を100μm、長辺を200μmとした。
【0062】
続いてブラックマトリクスが形成された透明基板43上にスパッタ法によりTiO膜を堆積した。本実施例においては、透明基板43として屈折率1.55のガラス基板を用いた。TiO膜の屈折率は、2.2であった。TiO膜の膜厚は、1.3μmとした。その後、TiO膜の上にレジスト膜を塗布した。その後、露光装置を用いてレジスト膜の露光、現像を行い、図1(b)に示す微細ドット52に対応する開口パターンをレジスト膜に形成した。微細ドット52のピッチpが1700nm、微細ドット52の径wが1200nmとなるように開口パターンを形成した。フォトニック結晶構造の回折領域(図9で説明した領域面接S2に対応する領域)は、相対面積aが40%となる様に、図9のY2に対応する長辺を126μm、X2に対応する短辺を63μmとした。尚、回折領域の中心とブラックマトリクスの開口部の中心とが一致するようにした。
【0063】
続いてレジストをマスクとして、反応性イオンエッチング法(RIE法)により、TiO膜に開口を形成した。その後、レジスト剥離液にてレジスト膜を剥離した。
【0064】
次に、ポリシラザン系塗布液をスピンコート法にて塗布し、焼成してアモルファスSiOに変え、TiO膜に形成した各開口をSiOにて埋め、SiOからなる複数の微細ドット52を含むTiO膜からなる、フォトニック結晶構造50を得た。このようにして、画素領域内部にフォトニック結晶構造50が設けられた透明基板43を形成した。
【0065】
その後、フォトニック結晶構造50の表面に、アノード電極44として、スパッタ法を用いてITO膜を100nm堆積し、フォトニック結晶構造50をITO膜で覆った。尚、ITO膜44の面積をブラックマトリクスの開口面積よりも大きく形成し、且つ、ITO膜44の外縁がブラックマトリクスの開口の内側に入らないように配置した。ITO膜の屈折率は1.9であった。図1(a)では、アノード電極44がブラックマトリクスの上面の一部を覆うように配置された形態を示しているが、アノード電極は、ブラックマトリクスの上面の全てを覆うように配置することもできる。
【0066】
次に、蛍光体層45として、スパッタ法により薄膜蛍光体をアノード電極44の上に積層した。本実施例では、赤色に発光する薄膜蛍光体として、YS:Euからなる薄膜蛍光体を用い、その膜厚を1μmとして、ITO膜44の上に成膜した。
【0067】
その後、蛍光体層45の上にレジスト膜を塗布し、レジスト膜の露光、現像を行い、画素サイズと同一の大きさのパターン(ブラックマトリクス48の開口と同一のパターン)を形成した。なお、ここでは画素の形状は矩形状とし、サイズは長辺を200μm、短辺を100μmとした。
【0068】
このレジストをマスクとして、RIE法により、蛍光体層45のレジスト膜で覆われていない部分を除去し、蛍光体層45の側面Sを基板面に対して垂直になるように形成した。このようにして蛍光体層45を形成した。このときの蛍光体層45の拡散反射率は、0.01%であった。なお拡散反射率は、発明を実施するための形態中で記載した手法で測定した。即ち、ブラックマトリクス48の開口内部に位置する、フォトニック結晶構造50の回折領域の外側の領域(回折領域の隣接領域)を測定対象としている。そして、回折領域の隣接領域へ透明基板43側から透明基板43のフォトニック結晶構造50が形成されている面に対する法線とのなす角度が45°となるように照明光束を蛍光体層45に照射し、上記法線上(角度0°)の反射光束を受光した。そして同一測定系で受光した標準白色面からの反射光束との強度の比を拡散反射率として取得した。なお、測定装置には、照射光源にはハロゲン光源MHAA−100W−100V(モリテックス製)、受光器には分光放射計SR−UL1(トプコンテクノハウス製)、標準白色面には標準白色板WS−3(トプコンテクノハウス製)を用いた。
【0069】
次に、蛍光体層45の上にレジストが残っている状態で、側面反射部材51として銀を、真空蒸着法により蛍光体層45の側面に100nm堆積させた。その後、レジスト剥離液にて蛍光体層45の上のレジストを剥離して側面反射部材51を形成した。側面反射部材51の材料である銀の膜を別のガラス基板上に同じく100nm堆積させ、反射率を測定したところ98%であった。なお反射率は発明を実施する形態中で記述した手法で測定した。すなわちガラス基板側から、ガラス基板の銀の膜が形成されている面に対する法線とのなす角度が+5°となるように光束を銀の膜に照射した。そして、法線とのなす角度が−5°方向の反射光束を受光し、同一測定系で受光した標準ミラーからの反射光束の強度との比を反射率として取得した。なお、測定装置には分光光度計SolidSpec3700(島津製作所製)を用いた。
【0070】
以上のように形成した、前述した条件1を満たす発光基板の発光輝度を、輝度評価真空装置で測定した。
【0071】
具体的には、発光基板を輝度評価のための真空装置内に納め、真空中で電子銃により放出した電子を、アノード電極44と電子銃との間に印加した加速電圧で加速し、蛍光体層45に照射した。そして蛍光体層45の発光輝度を、透明基板43と真空装置のガラス窓とを通して、輝度計にて測定した。輝度評価のための真空装置内の真空度は1×10−6Paであり、アノード電極44にはと電子銃との間に7kVの電圧を印加した。電子銃からは40μAの電子ビームが放射され、蛍光体層45の表面上で電子ビーム径を1mmに収束させ、電流密度は4mA/cmとした。
【0072】
このようにして蛍光体層45を赤色に発光させた発光輝度の測定結果は366cd/mであった。
【0073】
そして、上述した構成の画素をガラス基板上にマトリクス状に多数配列形成してなるフェースプレート46と、電子放出素子34を有するリアプレート41と、支持枠42とを用いて、図2に示した画像表示装置を形成した。尚、電子放出素子34としては、表面伝導型電子放出素子を用いた。
このとき、赤色画素のみを点灯した時の画像表示装置の輝度は30.2cd/m2であった。本実施例における発光輝度は、後述する比較例1における発光輝度の4.5%増加となった。
【0074】
(比較例1)
比較例1では、実施例1で形成したフォトニック結晶構造50の回折領域を画素領域全体とした(ブラックマトリクスの開口内を全て回折領域とした)点だけが異なる。すなわち、フォトニック結晶構造50の回折領域と蛍光体層45とを同じ大きさとした点だけが異なる。このため、本比較例1は、相対面積aが100%となる。その他の構成については、実施例1と同様である。このように形成した発光基板の発光輝度を実施例1と同様に測定したところ、その測定結果は350cd/mであった。
【0075】
また、本比較例1と同様の構成の画素をガラス基板上にマトリクス状に多数配列形成してなるフェースプレート46を用いて、実施例1と同様に画像表示装置を形成し、赤色画素のみを点灯した時の画像表示装置の輝度は28.9cd/mであった。
【0076】
(実施例2)
本実施例2は、条件1の範囲にあり、実施例1とは蛍光体層45にナノ粒子蛍光体を用いた点だけが異なる。その他の構成については実施例1と同様であるので説明を省略する。ナノ粒子蛍光体を用いた蛍光体層45の形成方法を以下に記す。
【0077】
本実施例における蛍光体粒子の製造方法について説明する。本実施例では、液相法のうち、ゾルゲル法を用いてナノ粒子蛍光体粒子を形成した。
【0078】
赤色に発光するナノ粒子蛍光体は、例えば、Y、Gd等の酸化物、或いはYS等の硫化物を母体とし、この母体にEu、Zn等の付活剤金属を添加して形成するkとができる。Yの無機塩又はGdの無機塩と、Euの無機塩及びZnの無機塩と、有機酸とを溶媒に溶解又は分散させる。その後、得られた溶液又は分散液を加熱してゲル化させる(ゾルゲル法)。その後、酸素を含む雰囲気中(例えば大気中)で焼成する。YSを得る場合は、この酸化物を硫化水素雰囲気中で加熱することにより得ることができる。
【0079】
このYの無機塩、Gdの無機塩としては、焼成の際に分解して酸化物となり得る化合物であれば良く、例えば、硝酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩、硫酸塩、酢酸塩、水酸化物、ハロゲン化物(例えば、塩化物や臭化物等)等を挙げることができる。
【0080】
また、Eu及びZnの無機塩としては、例えば硝酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩、硫酸塩、酢酸塩、水酸化物、ハロゲン化物(例えば、塩化物や臭化物等)等を挙げることができる。
【0081】
本実施例においては、ゾルゲル法を用いて、赤色に発光するYS:Euのナノ粒子蛍光体を作製した。粒度分布を測定した結果、平均粒径が21nmの粒子であった。蛍光体粒子の平均粒径は、ゼータサイザーナノZS(シスメックス株式会社製)を用いて測定した。平均粒径は体積分布でみたメジアン径(D50)の値である。
【0082】
ゾルゲル法により得られたナノ粒子蛍光体をボールミルに入れ、溶媒分散処理を行った。溶媒としてIPA(イソプロピルアルコール)を用い、分散剤としてアクリル系分散剤を用いた。次に、バーコート法に適した粘度と表面張力を付与するため、BCA(ブチルカルビトールアセテート)にて溶媒置換を行い、蛍光体のナノ粒子を含有したバーコート法用インクを調製した。
【0083】
蛍光体層45の形成においては、アノード電極であるITO膜44の形成後に、ITO膜44の表面に、バーコート法を用いて、上述した平均粒径21nmの蛍光体を含有したインクを塗布した。その後、550℃にて1時間、焼成を行った。焼成後の蛍光体層45の厚さは1000nmであった。
【0084】
その他の構成および製造方法は、実施例1と同様であるので説明を省略する。なお、蛍光体層45の拡散反射率を実施例1と同一の方法で測定したところ、0.04%であった
このように形成した発光基板の発光輝度を実施例1と同様に測定したところ、その測定結果は359cd/mであった。また、実施例1と同様に画像表示装置を形成し、赤色画素のみを点灯した時の画像表示装置の輝度は29.6cd/mであった。本実施例における発光輝度は、後述する比較例2における発光輝度の1.4%増加となった。
【0085】
(比較例2)
比較例2では、実施例2で形成したフォトニック結晶構造50の回折領域を画素領域全体とした(ブラックマトリクスの開口内を全て回折領域とした)点だけが異なる。このため、本比較例2は、相対面積aが100%となる。その他の構成、製法については、実施例2と同様である。このように形成した発光基板の発光輝度を実施例1と同様に測定したところ、その測定結果は354cd/mであった。また、実施例2と同様に画像表示装置を形成し、赤色画素のみを点灯した時の画像表示装置の輝度は29.2cd/mであった。
【0086】
(実施例3)
本実施例3は、条件2の範囲にある。実施例2とは側面反射部材51にアルミニウムを用い、フォトニック結晶構造50の回折領域の画素領域に対する相対面積を80%とした(フォトニック結晶構造50の回折領域をブラックマトリクスの開口面積の80%とした)点が異なる。それ以外については、本実施例における発光基板の製造方法は、実施例1と同様の方法にて形成した。
【0087】
このように形成した発光基板の発光輝度を実施例1と同様に測定したところ、その測定結果は356cd/mであった。また、実施例1と同様に画像表示装置を形成し、赤色画素のみを点灯した時の画像表示装置の輝度は29.4cd/mであった。本実施例における発光輝度は、後述する比較例3における発光輝度の0.7%増加となった。
【0088】
(比較例3)
比較例3では、実施例3で形成したフォトニック結晶構造50の回折領域を画素領域全体とした(ブラックマトリクスの開口内を全て回折領域とした)点だけが異なる。このため、本比較例3は、相対面積aが100%となる。その他の構成、製法については、実施例3と同様である。このように形成した発光基板の発光輝度を実施例1と同様に測定したところ、その測定結果は353cd/mであった。また、実施例3と同様に画像表示装置を形成し、赤色画素のみを点灯した時の画像表示装置の輝度は29.2cd/mであった。
【符号の説明】
【0089】
43 透明基板
44 アノード電極
45 蛍光体層
51 側面反射部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な基板の上に、フォトニック結晶構造と、透明なアノード電極と、拡散反射率が0.04%以下の発光体層と、がこの順序で積層され、
前記発光体層の側面に側面反射部材が設けられており、
前記フォトニック結晶構造の前記発光体層に対する相対面積をa[%]、前記側面反射部材の反射率をc[%]とした時に、下記条件1の関係または下記条件2の関係を満たすことを特徴とする発光基板。
(条件1)95≦c、かつ40≦a<100
(条件2)85≦c<95、かつ80≦a<100
【請求項2】
前記発光体層が、薄膜蛍光体層またはナノ粒子蛍光体層であることを特徴とする請求項1に記載の発光基板。
【請求項3】
請求項1または2に記載の発光基板を備える画像表示装置。
【請求項4】
前記画像表示装置が有機エレクトロルミネッセンスディスプレイであり、
前記アノード電極と前記発光体層との間に正孔輸送層が設けられており、前記発光体層の前記アノード電極とは反対側に電子輸送層を間に挟んで陰極が設けられている、ことを特徴とする請求項3に記載の画像表示装置。
【請求項5】
前記画像表示装置が有機エレクトロルミネッセンスディスプレイであり、
前記アノード電極と前記発光体層との間に導電性高分子層が設けられており、前記発光体層の前記アノード電極とは反対側に陰極が設けられている、ことを特徴とする請求項3に記載の画像表示装置。
【請求項6】
前記画像表示装置がFEDであることを特徴とする請求項3に記載の画像表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−257651(P2011−257651A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133288(P2010−133288)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】