説明

発光性ガラスおよび発光性結晶化ガラス

【課題】光の励起によって可視域の光を発するガラスおよび結晶化ガラスにおいて、耐久性および耐候性が良好で、製造が容易でありながらも優れた発光効率を実現できる組成を提供する。
【解決手段】ガラスの組成比を、酸化物基準のモル%で、SiOを20〜70%、Yを3〜50%、Ln(LnはCe、Nd、Pr、Eu、Tb、Sm、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Mn、Bi、Cr、Snの中から選ばれる1種以上を示す)を0.005〜10%とし、好ましくはガラス中にCeとSbを共存させる。さらに好ましくは上記の構成に加えて、酸化物基準の合計100に対して1〜100モル%である、フッ素を含有することを特徴とする。この組成のガラスは励起光に対して優れた発光効率を有し、結晶化処理を施すことで更に良好な発光効率を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は希土類成分を含有し、紫外線及び可視光の励起によって効率よく発光するガラスおよび結晶化ガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
物質が外部から電子線や紫外線等の電磁波のエネルギーを受け取って励起され、基底状態に戻るときに、受け取ったエネルギーを特定波長の光として放出する光を蛍光といい、このような特性を有する物質を蛍光体という。蛍光体は、その種類によって吸収する光の波長や放出する蛍光の波長が異なり、光増幅器やレーザー、照明、ディスプレイ用発光素子など幅広い応用が期待されている。特に近年、短波長LEDの開発が進むにつれて、LEDと、このLEDからの光により励起され発光を生ずる蛍光体を組み合わせた発光素子が注目を浴びており、少ない電力で効率よく駆動する新しい光源としてその用途が広がりつつある。また、このような状況の中、長寿命でかつ発光強度が高い蛍光体の開発が必要とされている。
【0003】
光の励起により、可視域で発光する蛍光体の例として例えば特開2000−208815に開示されたようなものがある。これは、青色の光を発光するLED素子の上に、YAG系酸化物にCeをドープした粉末状の蛍光体とエポキシ樹脂を混合した部材を設けたもので、この蛍光体は青色光の励起で黄色の蛍光を発するので、LEDと蛍光体から出る二つの光の混色によって白色光の光源を実現している。しかし、この技術は蛍光体のバインダーとなる樹脂がLEDからの光や発熱によって劣化し、寿命や輝度が低下してしまうという問題がある。また、樹脂の中で蛍光体粒子が不均一な分布状態にあると発光むらが生じる。
【0004】
前述した樹脂の劣化や不均一による問題がない蛍光体として、ガラス状態のものが多数知られている。蛍光体の発光中心は主に希土類元素であるが、希土類元素は有機材料には溶けないため、ガラス等に添加し溶融することで均一な分布状態が可能になる。しかし良好なガラスの蛍光体を作るためには以下の問題を解決する必要がある。
【0005】
まず、ガラスの希土類元素はその濃度が高くなると、元素間の近接効果に伴う濃度消光現象をおこし、効率的に発光しなくなるという問題がある。また、ガラスに添加された希土類成分は、励起状態から基底状態にもどるときにイオンが得たエネルギーを「光」または「熱」として放出するが、その割合は母ガラスのフォノンエネルギーに大きく影響され、フォノンエネルギーが小さいほど発光する割合が高くなる。しかし一般的にフォノンエネルギーが小さいガラスマトリクス(例えばフッ化物系、硫化物系など)は化学耐久性および機械的強度が悪く、ガラス形成能が小さい。
【0006】
希土類をドープしたガラスにおけるこのような問題を解決し、発光効率を向上させるための研究が活発になされている。例えば特開平09−175831公報には、母ガラスからフォノンエネルギーが小さいハロゲン化物に希土類イオンがドープされた微結晶を析出させ、発光効率を向上させた結晶化ガラス蛍光体が記載されている。また、特開平08−133780号公報には蛍光剤としてテルビウム又はユウロピウムを比較的多量に含有できるフツリン酸塩系ガラスの組成が開示されている。また、特開2001−214162号公報には希土類元素を使用したオキシ窒化物ガラスを用いた蛍光体が開示されている。
【0007】
しかし、前記の結晶化ガラスはPbF結晶相を含有するものであり、環境上好ましくない鉛を多量含んでいる。また、前記のリン酸塩系ガラスは耐候性が悪く、強度も低いという問題を有し、オキシ窒化物ガラスは、窒素を含有するため1700℃という高温で溶融する必要がある。
【特許文献1】特開2000−208815
【特許文献2】特開平09−175831
【特許文献3】特開平08−133780
【特許文献4】特開2001−214162
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、希土類成分を含有し、紫外線及び可視光の励起によって発光するガラス又は結晶化ガラスにおいて、励起光により劣化する問題がなく耐候性が良好で、製造が容易でありながらも優れた発光効率を実現できる組成を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意研究の結果、発光効率の高いガラスまたは結晶化ガラスを得ることを目的として、ガラスを構成する成分の組成を特定の範囲とする事により希土類による発光が高効率となることを見出し、本発明をなすに至った。すなわち、本発明の好適な態様は以下の構成のいずれかで表わされる。
(構成1)酸化物基準のモル%で、SiOを20〜70%、Yを3〜50%、Ln(LnはCe、Nd、Pr、Eu、Tb、Sm、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Mn、Bi、Cr、Snの中から選ばれる1種以上を示す)を0.005〜10%含有する発光性ガラス。
(構成2)酸化物基準のモル%で、Ceを0.005〜5%、Sbを0.005〜5%を含有する上記構成1に記載の発光性ガラス。
(構成3)CeのSbに対する比(Ce/Sb)が0.2〜4の範囲であることを特徴とする上記構成2に記載の発光性ガラス。
(構成4)フッ素成分を含有し、その含有量が、酸化物基準のモル%で表されたガラス成分の合計100%に対して、フッ素原子として1〜100%であること特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の発光性ガラス。
(構成5)Al及び/又はGaを0.1〜60%含有する上記構成1〜4のいずれかに記載の発光性ガラス。
(構成6)Mを0〜40%含有する上記構成1〜5のいずれかに記載の発光性ガラス(MはGdまたはLuから選ばれる1種以上を示す)。
(構成7)M/(M+Y)が0.9より小さい上記構成6に記載の発光性ガラス(MはGdまたはLuから選ばれる1種以上を示す)。
(構成8)Bを0〜40%、及び/又はPを0〜10%、及び/又はGeOを0〜30、及び/又はRO(R=Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、の中から選ばれる1種以上)を0〜50%、及び/又はRnO(Rn=Li、Na、K、Csの中から選ばれる1種以上)を0〜12%、及び/又はTiO、ZrOから選ばれる1種以上を0〜10%、及び/又はNb、Ta、WOから選ばれる1種以上を0〜10%、及び/又はAsを0〜3%含有する上記構成1〜7のいずれかに記載の発光性ガラス。
(構成9)上記構成1〜8のいずれかに記載の発光性ガラスからなる発光性結晶化ガラス。
【0010】
本発明のガラスおよび結晶化ガラスの組成を上記のように限定した理由について以下に述べる。以下、各成分の含有量の説明については、特に明記しない限りは酸化物基準のモル%で表わすものとする。これはできたガラス中のアニオン成分は全て酸素であると仮定し、カチオン成分の含有量のみを考えるときに、そのカチオン成分全てが電荷の釣り合うだけの酸素と結合した酸化物でできていると考え、それら酸化物のモル分率×100によってガラス中に含有される各成分を表記する方法である。
【0011】
(ガラスの組成)
SiOはガラス形成酸化物で、安定かつ耐久/耐候性良好なガラスを得るのに非常に重要な成分である。その量が20%以下であると、所望のガラスが得られにくくなるので、SiO成分含有量の上限は、20%が好ましく、25%がより好ましく、30%が最も好ましい。一方その量が70%を超えるとガラスの溶解温度が著しく上昇するため、その下限は70%が好ましく、65%がより好ましく、60%が最も好ましい。
【0012】
成分は、後述する発光イオンの発光効率の向上に大きく寄与する非常に重要な成分である。その量が3%より少ないと十分な効果が得られにくくなるので、所望の効果を得るためには、Y成分含有量の上限を3%とすることが好ましく、4%とすることがより好ましく、5%とすることが最も好ましい。しかし、その量が50%を超えると、ガラスの安定性が大きく低下する傾向があるため、Y成分含有量の下限は、50%が好ましく、40%がより好ましく、35%が最も好ましい。
【0013】
Ln(LnはCe、Nd、Pr、Eu、Tb、Sm、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Mn、Bi、Cr、Snの中から選ばれる1種以上を示す)は発光中心の役割を果たし、ガラスおよび結晶化ガラスに発光特性を付与するので、本発明の目的を達成するのに不可欠な成分である。上記各酸化物の各成分は、それぞれ好ましくは0〜10%、より好ましくは0〜5%、最も好ましくは0〜3%含有される。但し、良好な発光特性を得るためには、各成分の合量は少なくとも0.005%以上であることが好ましく、0.01%以上であることがより好ましく、0.05%以上であることが最も好ましい。しかしこれら成分の添加量が多すぎるとかえって発光が弱くなる傾向があるため、各成分の合量の上限を10%とすることが好ましく、5%とすることがより好ましく、3%とすることが最も好ましい。また、上記のような酸化物の形以外にフッ化物または塩化物の形でガラスの中に導入してもよい。なお、上記の酸化物のカチオンは上記以外の価数をとるものもあるが、本発明においては上記酸化物で換算する。
【0014】
上記Lnの中でCe成分を含有する場合、Sb成分を共存させることが好ましい。セリウムはガラスの中でCe3+又はCe4+の二つの状態で存在し得る成分で、このうち発光する役割を果たすのはCe3+である。一方Ce4+は発光せず、しかも発光するCe3+の発光効率を低下させるという問題を有する。Ce3+イオンは空気中で溶融すると酸化されてCe4+となり、発光効果を失ってしまうのが、Ce成分とSb成分を共存させると、ガラスの中で2Ce4++Sb3+→2Ce3++Sb5+の反応が起こってCe3+の濃度が向上し、発光効率が大幅に向上する。このような反応を促しつつ良好な発光特性を得るには、Ce成分の含有量は0.005〜5%の範囲が好ましく、0.01〜3%の範囲がより好ましく、0.05〜1%の範囲が最も好ましい。Ce3+イオンはCeO又はフッ化物の形で導入することも可能である。またSbの含有量は0.005〜5%の範囲が好ましく、0.05〜3%の範囲がより好ましく、0.05〜1%の範囲が最も好ましい。
【0015】
さらに、本発明者はCeのSbに対する比(Ce/Sb)が発光特性に著しく影響を及ぼすことを見出した。その比が0.2未満であると、励起光のエネルギーがSbイオンに吸収され、発光中心であるCe3+へのエネルギーの伝達が悪くなる傾向にあるため、発光効率が低下してしまう。一方、4を超えるとCe4+が多く存在するので、良好な発光特性を得られにくい。よって良好な発光特性を得るためには、CeのSbに対する比が0.2〜4の範囲であることが好ましく、0.4〜3の範囲であることがより好ましく、0.6〜2の範囲であることが最も好ましい。
【0016】
フッ素成分はガラスの融点を下げ、ガラスの溶融性と安定性の向上に効果があり、更に発光イオンの発光効率の向上に効果がある。特にCeイオンを含有する場合は、Ce3+イオンの濃度およびその発光効率を向上させる効果が顕著である。良好な効果を十分得るためには、その含有量の下限が、酸化物基準のモル%で表されたガラス成分の合計100%に対して、フッ素原子として、1%であることが好ましく、3%であることがより好ましく、5%であることが最も好ましい。同様にフッ素の含有量の上限は100%であることが好ましく、85%であることがより好ましく、75%であることが最も好ましい。このフッ素の含有量は、ガラス中のカチオン成分がすべて電荷の釣り合うだけの酸素と結合して存在すると仮定し、その酸化物の合計量に対するフッ素の量を表したもので、いわゆる「外割」と呼ばれている表記である。
【0017】
Al及び/またはGa成分はガラスの安定性の向上と発光効率の向上に効果があるので、含有させることが好ましい。このうち、Al成分の含有量は0〜60%が好ましく、0〜50%がより好ましく、0〜35%が最も好ましい。また、Ga成分の含有量は、0〜50%が好ましく、0〜30%がより好ましく、0〜20%が最も好ましい。これらの成分はその量が少なすぎると効果を認め難く、多すぎるとガラスの溶融性と安定性が低下すると共に発光特性も低下する傾向がある。従って良好な効果を得るには、これら一種または二種の合計量の下限は0.1%が好ましく、5%がより好ましく、10%が最も好ましく、上限は60%が好ましく、50%がより好ましく、35%が最も好ましい。
【0018】
成分(MはGdまたはLuから選ばれる1種以上を示す)はガラスの安定化と発光効率の向上に効果があるので、添加できる成分である。GdおよびLu成分は、その量が40%を超えると、ガラスの安定性を悪くする傾向にあるので、それぞれ0〜40%含有することが好ましく、0〜35%含有することがより好ましく、0〜25%含有することが最も好ましい。また、より良好なガラスを得るためには、これら一種または二種の合量を40%以下にすることが好ましく、35%以下とすることがより好ましく、25%以下とすることが最も好ましい。
【0019】
上記のM成分はガラスの安定性を維持するためにYを置き換える形で導入することが好ましい。しかし、本発明においてM成分は、発光効率を向上させる効果がYほど大きくないので、添加する量が多すぎると、発光効率の低下を招いてしまう。従って、ガラスの良好な発光特性を損なわずに安定化を図るためには、M/(M+Y)の比を0.9以下とすることが好ましく、0.85以下とすることがより好ましく、0.8以下とすることが最も好ましい。
【0020】
成分はガラスの溶融性と安定性の向上に効果がある成分である。しかしその含有量が多すぎると発光強度を低下させるマイナスの働きもするので、発光特性を低下させない程度に添加することが好ましい。その含有量の上限は、好ましくは40%、より好ましくは35%、最も好ましくは30%である。
【0021】
成分はガラスの安定性の向上、更にガラスセラミックスの結晶相の析出に効果があるので、添加できる成分である。しかし、その量が多すぎると、ガラスの安定性が低下する傾向があるので、上限値を10%とすることが好ましく、5%とすることがより好ましく、1%とすることが最も好ましい
【0022】
GeO成分は、SiOと同様な働きをするので、SiOの一部または全部を置き換えることが可能であるが、高価であるため、上限値を30%とすることが好ましく、20%とすることがより好ましく、10%とすることが最も好ましい。
【0023】
RO成分(R=Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、の中から選ばれる1種以上)はガラスの融点を下げ、更にガラスの溶融性、安定性、及び発光効率の向上に効果があるので、添加できる成分である。これら各成分は、それぞれ0〜50%含有することが好ましく、0〜40%含有することがより好ましく、0〜35%含有することが最も好ましい。しかし、その量が多すぎると、ガラスが得られにくくなるので、これら成分は合計で、50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、35%以下であることが最も好ましい。
【0024】
RnO(Rn=Li、Na、K、Csの中から選ばれる1種以上)成分はガラスの融点を下げ、更にガラスの溶融性、安定性の向上に効果があるので、添加できる成分である。これら成分は、それぞれ0〜12%含有することが好ましく、0〜8%含有することがより好ましく、0〜5%含有することが最も好ましい。しかし、その量が多すぎると、ガラスの発光効率が低下する傾向があり、これら酸化物の含有量は、合計として12%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、5%以下であることが最も好ましい。
【0025】
TiOまたはZrO成分は、ガラスセラミックス作製の場合は核形成剤の役割を果たし、結晶相の析出に効果があるので、添加できる成分である。これら成分は、それぞれ0〜10%含有することが好ましく、0〜8%含有することがより好ましく、0〜6%含有することが最も好ましい。しかし、その量が多すぎると、ガラスの安定性が低下しやすくなるので、これら成分の合計量は10%以下とすることが好ましく、8%以下とすることがより好ましく、6%以下とすることが最も好ましい。
【0026】
Nb、Ta、WO成分から選ばれる1種以上の成分は、ガラスの溶融性と安定性の改善に効果があるので、添加できる成分である。これらの成分はそれぞれ0〜10%含有することが好ましく、0〜5%含有することがより好ましく、0〜3%含有することが最も好ましい。しかしその量が多すぎるとガラスの安定性が著しく低下するので、これら成分の合計量の上限値は10%以下とすることが好ましく、5%以下とすることがより好ましく、3%以下とすることが最も好ましい。
【0027】
As成分はガラスの脱泡剤として添加できる成分であるが、環境上よくない成分なので、3%以下の量で十分であり、さらに好ましくは2%以下、最も好ましくは1%以下若しくは含有しない。
【0028】
なお、前記各成分の他に、本発明によるガラスまたは結晶化ガラスの所望の特性を損なわない範囲で、TeO成分、In成分を1種または2種以上の合計で10%まで添加させることができる。
【0029】
本発明の発光性ガラスは以下の方法により製造することができる。すなわち、各出発原料を所定の比に秤量し均一に混合した後、白金、石英、またはアルミナ坩堝を用いて1250〜1600℃で1〜20時間溶融する。その後、ガラス融液を金型にキャストし、板状のガラスを得る。結晶化ガラスを作製する場合は、そのガラスをガラス転移温度より10〜500℃高い温度で1〜24h熱処理し、結晶化ガラスを得る。
【発明の効果】
【0030】
本発明の発光性ガラスは、光の励起により効率的に発光し、ガラスの安定性や耐久性、耐候性が優れており、特殊な雰囲気等を必要とせず製造においても容易である。また、本発明の発光性結晶化ガラスによると、発光の役割を担う元素を固溶した結晶が析出し、母ガラスよりさらに発光効率が高い発光体を得ることができる。これらの利点によって、発光素子などの光源用途をはじめ、様々な光学ティバイスへの応用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
次に、本発明の実施の形態としての発光性ガラスおよび発光性結晶化ガラスの実施例を説明する。なお、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
(実施例1)原料としてSiO、Al(OH)、Y、CeO及びSbを使用する。これらをモル%で49.8SiO−24.9Al−24.9Y−0.2Ce−0.2Sbの組成になるように秤量し、均一に混合した後、白金坩堝を用いて1580℃で4時間溶解した。その後、ガラス溶液を予め温めた金型にキャストし、徐冷することにより板状のガラスを作製した。こうして得られたガラスを30×20×2mmのサイズになるように両面を研磨し、諸物性を測定した。なお、原料はすべて純度99.99%以上のものを使用した。このガラスに紫外線を当てると青色の発光が肉眼で明確に観察された。
【0033】
(実施例2)原料としてSiO、AlF、Al(OH)、Y、CeO及びSbを使用する。これらをモル%で49.8SiO−22.1Al−27.6Y−0.3Ce−0.2Sbに対してFが外割で66.3の組成になるように秤量し、均一に混合した後、白金坩堝を用いて1500℃で2時間溶解した。その後実施例1と同様に評価用サンプルを作製した。このガラスに紫外線を当てる明るい青色の発光が肉眼で明確に観察された。
【0034】
(比較例1)実施例1の原材料のうち、Sbを除いた原料を用意し、それらを均一に混合して、実施例1と同じ方法で比較例1の試料を作製した。
【0035】
図1は実施例1、実施例2、比較例1のガラス試料を330nmの光で励起したときの発光スペクトルである。Sbの添加により、発光強度が約2倍向上することが確認できる。さらにF成分を添加すると、発光強度が4倍以上向上することが確認できた。
【0036】
(実施例3〜11)実施例1または実施例2と同じ方法で実施例3〜11を作製し、それらの組成比と発光色、発光強度を表1にまとめた。発光強度は、比較例1の強度を100としたときの相対値で表している。
【0037】
【表1】

【0038】
図2はフッ素含有量の変化による発光強度の変化を図示したものである。フッ素を含有しない実施例1によるガラスの発光強度を1としたときの実施例3、実施例6、実施例2の相対強度を表している。同じ組成系ガラスにおいてフッ素を多く含有するほど、発光強度が増加していくことがわかる。
【0039】
図3は実施例6の発光強度を100としたときの実施例7〜9における相対強度を図示したものである。実施例6〜9は他の成分の量は同一にし、Gd:Yの比を約0:25、5:20、15:10、20:5にして添加したものである。Gd/(Gd+Y)の値が大きくなるにつれて発光強度が減少することが確認できた。
【0040】
(実施例12〜16)実施例1または実施例2と同じ方法で実施例12〜16の試料を作製した。ガラス試料に紫外線を当てたところ、全ての実施例において肉眼で強い発光が観察された。各実施例の組成比、発光色を表2にまとめた。表1と2に示すように、本発明は青色から赤色まで、さらには種類の異なる希土類成分の発光により混合色として現れる白色まで、幅広い発光色を有することがわかる。
【0041】
【表2】

【0042】
(結晶化ガラス)本発明によるガラスをさらに結晶化処理すると、より強い発光強度を得ることが可能である。結晶化処理前後の発光スペクトルを見るために、実施例2、10、16のガラスを使用して結晶化ガラスを作製した。結晶化は1150℃で4時間行った。結晶化ガラスの試料に紫外線を当てたところ、すべて結晶化前のガラスより明るい発光を生ずることが肉眼で確認された。その発光スペクトル測定結果を図4〜6に示した。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】330nm光で励起するときの実施例1、2、比較例1の発光スペクトルである。横軸は発光波長(nm)、縦軸は発光強度(任意単位)である。
【図2】330nm光で励起するときの実施例1、3、6、2の発光強度の相対値である。横軸はフッ素の含有量(外割モル%)、縦軸は実施例1に対する比を表している。
【図3】330nm光で励起するときの実施例6、7、8、9の発光強度の相対値である。横軸はGd/(Gd+Y)、縦軸は実施例6に対する比を表している。
【図4】実施例2の結晶化処理前後の発行スペクトルである。横軸は発光波長(nm)、縦軸は発光強度(任意単位)である。
【図5】実施例10の結晶化処理前後の発行スペクトルである。横軸は発光波長(nm)、縦軸は発光強度(任意単位)である。
【図6】実施例16の結晶化処理前後の発行スペクトルである。横軸は発光波長(nm)、縦軸は発光強度(任意単位)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準のモル%で、SiOを20〜70%、Yを3〜50%、Ln(LnはCe、Nd、Pr、Eu、Tb、Sm、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Mn、Bi、Cr、Snの中から選ばれる1種以上を示す)を0.005〜10%含有する発光性ガラス。
【請求項2】
酸化物基準のモル%で、Ceを0.005〜5%、Sbを0.005〜5%を含有する請求項1に記載の発光性ガラス。
【請求項3】
CeのSbに対する比(Ce/Sb)が0.2〜4の範囲であることを特徴とする請求項2に記載の発光性ガラス。
【請求項4】
フッ素成分を含有し、その含有量が、酸化物基準のモル%で表されたガラス成分の合計100%に対して、フッ素原子として1〜100%であること特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の発光性ガラス。
【請求項5】
Al及び/又はGaを0.1〜60%含有する請求項1〜4のいずれかに記載の発光性ガラス。
【請求項6】
を0〜40%含有する請求項1〜5のいずれかに記載の発光性ガラス(MはGdまたはLuから選ばれる1種以上を示す)。
【請求項7】
/(M+Y)が0.9以下である請求項6に記載の発光性ガラス(MはGdまたはLuから選ばれる1種以上を示す)。
【請求項8】
を0〜40%、及び/又はPを0〜10%、及び/又はGeOを0〜30、及び/又はRO(R=Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、の中から選ばれる1種以上)を0〜50%、及び/又はRnO(Rn=Li、Na、K、Csの中から選ばれる1種以上)を0〜12%、及び/又はTiO、ZrOから選ばれる1種以上を0〜10%、及び/又はNb、Ta、WOから選ばれる1種以上を0〜10%、及び/又はAsを0〜3%含有する請求項1〜7のいずれかに記載の発光性ガラス。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の発光性ガラスからなる発光性結晶化ガラス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−286681(P2009−286681A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−143891(P2008−143891)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】