説明

発光性繊維構造体

【課題】発光性繊維構造体や発光性漁具において、電磁波に暴露させるなどの特別な処置を講じなくても発光状態を半永久的に持続させることができるようにする。
【解決手段】合成繊維にて構成された繊維構造体であって、この繊維構造体が、応力発光体を40〜80質量%含有する合成樹脂で被覆されている。あるいは、繊維構造体であって、応力発光体を40〜80質量%含有する合成繊維にて構成されている。これらの繊維構造体によって、発光性漁具が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発光性繊維構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
発光性を有する繊維構造体が、アウトドア分野、フィッシング分野、インテリア分野、安全対策分野、建設分野などにおいて用いられている。従来の発光性を有する繊維構造体には、発光性を有する材料として、蓄光顔料や蛍光顔料が使用されている。このようなものとして、例えば、合成繊維に蓄光材料を練り込んだものが知られている(例えば特許文献1参照)。また、蓄光材料を含有する樹脂を繊維構造物にコーティングしたものも知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−118955号公報
【特許文献2】特開2000−045185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のほかにも、特定の波長の電磁波で分子が励起して発光する蛍光材料や、その発光寿命が比較的長い蓄光材料が、従来から多く使用されている。しかし、これらの蛍光や蓄光と総称されるものは、材料の電子が励起状態から基底状態に戻るまでしか発光が持続せず、再び発光させるには所定の波長を有する電磁波に暴露しなければならないという問題点がある。
【0005】
本発明は、このような現状に鑑みて行われたもので、電磁波に暴露させるなどの特別な処置を講じなくても発光状態を半永久的に持続させることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討した結果、応力により発光する応力発光体を繊維構造体含有させる事により、特定の電磁波に暴露させることなく発光を持続させることができるという事実を見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち本発明は、
1.合成繊維にて構成された繊維構造体であって、前記繊維構造体が、応力発光体を40〜80質量%含有する合成樹脂で被覆されていることを特徴とする発光性繊維構造体、
【0008】
2.応力発光体を40〜80質量%含有する合成繊維にて構成された繊維構造体であることを特徴とする発光性繊維構造体、
【0009】
3.繊維構造体が、原糸、撚糸品、組紐、織物、編物、またはこれらの複合品であることを特徴とする1.または2.の発光性繊維構造体、
【0010】
4.応力発光体が無機材料であることを特徴とする1.から3.までのいずれかの発光性繊維構造体、
【0011】
5.応力発光体が、ユウロピウムを添加したアルミン酸ストロンチウム(SrAl:Eu)、またはマンガンを添加した硫化亜鉛(ZnS:Mn)であることを特徴とする1.から3.までのいずれかの発光性繊維構造体、
【0012】
6.上記1.から5.までのいずれかの発光性繊維構造体にて構成されていることを特徴とする発光性漁具、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、繊維構造体や漁具が、応力により発光する応力発光体を40〜80質量%含有するものであることにより、特定の電磁波に暴露させることなく発光する繊維構造体や漁具を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の繊維構造体または漁具を構成する合成繊維の種類等は、特に制限するものではない。具体的には、ポリアミド系、芳香族系ポリエステル系、脂肪族系ポリエステル系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系の合成繊維、またこれら合成繊維の再生品などを挙げることができる。耐摩耗性を鑑みるとポリアミド系が、寸法安定性を考慮しなければならない時はポリエステル系が、生分解性を鑑みなければならない場合は脂肪族系ポリエステル系が、それぞれ好適である。伸縮性が必要な場合は、ポリウレタン系樹脂を用い他繊維や、各種合成繊維に仮撚加工などの加工を施した繊維を用いることができる。軽量化を図らなければならない場合は、比重の小さいポリオレフィン系が特に好ましい。必要に応じて、これら合成繊維を任意に組み合わせて使用することもできる。また、一般に使用されている難燃剤、着色剤、顔料、滑剤、耐候剤、酸化防止剤、耐熱剤などを適宜添加してもよい。
【0015】
上記の合成繊維は長繊維、紡績糸のいずれでもよく、所望される用途によって適宜選択することができる。繊維構造体は所望される形状でよく、例えば織物、編物、立体織物、立体編物、製紐品、撚糸、原糸そのものなどの形態をとることができ、特に制限されるものではない。ネット状やメッシュ状のものでもよい。
【0016】
本発明によれば、応力発光体は、この応力発光体を含む適宜の合成樹脂によって繊維構造体や漁具に被覆されるか、または繊維構造体や漁具を構成する合成繊維に練りこまれる。
【0017】
応力発光体を合成繊維内に練りこむときに、その合成繊維の種類は、特に制限されるものではなく、上記のものを種々選択することができる。応力発光体の練り込み量は、合成繊維に対して40〜80質量%であることが必要である。40質量%未満であると発光が弱く目視で確認しにくくなり、80質量%より多いと繊維自体の強力が低くなって実用的な強度が得られにくくなる。
【0018】
合成繊維は芯鞘構造であることが好ましく、応力発光体は比較的高価であることから芯部もしくは鞘部のどちらかに配することができる。そして、芯部または鞘部に繊維全体の40〜80質量%となる量の応力発光体を含有させればよい。その場合には、要求される用途に応じて芯部もしくは鞘部のどちらに配してもよい。繊維の芯鞘比率も任意に選択することができる。
【0019】
繊維断面は、適宜選択することができ、一般的な円形断面のほか、異型断面などとすることもできる。ただし、異型断面は強力面で弱くなる。
応力発光体を合成繊維に被覆させる場合は、応力発光体を練り込んだ合成樹脂にて被覆を行うが、用いられる応力発光体の量は、合成繊維を被覆する合成樹脂に対して40〜80質量%であることが必要である。40質量%未満であると発光が弱く目視で確認しにくくなり、80質量%より多いと被覆を行うことができなくなる。
【0020】
応力発光体をコーティングする際に用いられる合成樹脂の種類は、特に制限されるものではなく、コーティングされる繊維構造体の用途に応じて適宜選択することができる。発光した時の状態をより目立たせるためには、透明性が高いものが良い。具体的には、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂や、これら合成樹脂の共重合体、ブレンド品などを挙げることができる。また応力を十分に伝えるために表面硬度が硬い樹脂や伸度が小さい樹脂の方がより好ましい。
【0021】
応力発光体は、外部から加えられた歪みエネルギー(摩擦力、せん断力、衝撃力、圧力などの機械的な外力によるもの)によって発光する材料であり、「応力発光性材料」または「応力発光性物質」と相互交換可能に使用される。すなわち、応力発光体は、外部から加えられた歪みエネルギーによって材料自体が発光するという性質を有し、かつその歪みエネルギーに比例して発光強度を変化させるという性質を有する。応力発光材料としては、例えば、特開2000−045185号公報、特開2000−119647号公報、特開2001−049251号公報、特開2000−313878号公報、特開2002−194394号公報などに記載の応力発光材料や、特開2001−064638号公報、特許第2992631号公報などに記載のもの(例えば、β−アルミナ構造を有するセラミクスまたはアルミン酸ストロンチウムなど)が挙げられる。一般には、アルミン酸塩またはケイ酸塩などのような無機化合物が用いられる。特に、市販ベースになっており汎用になってきているユウロピウムを添加したアルミン酸(SrAl:Eu)や、マンガンを添加した硫化亜鉛(ZnS:Mn)などの微粒子が最も好ましい。これらの応力発光微粒子は、合成樹脂や合成繊維に効率よく充填させるために、その形状が球状であり、かつその直径が1μm〜10μmの範囲にあることが好ましい。
【0022】
本発明の繊維構造体の好適な具体例として、釣糸や漁網などの漁具を挙げることができる。釣糸はモノフィラメントなどによって構成され、漁網はネット状やメッシュ状の繊維構造体によって構成される。本発明の繊維構造体によって構成された漁具であると、対象となる魚などを捕獲したときに、例えば魚の力や重みなどよって漁具が発光するため、漁具の使用者がそれを捕獲したことを容易に知ることができる。より具体的には、例えば本発明の繊維構造体からなる釣糸を用いて釣りを行うと、魚がかかった時に、魚自身の重みやあたりによって竿のガイド部分と釣糸との接触により釣糸に応力がかかり発光する。また本発明の繊維構造体からなる漁網を用いると、魚を捕獲した場合にその魚の重みや魚からの力によって、漁網を構成する網やロープの該当部分に応力が集中しその部分が発光する。
【実施例】
【0023】
次に本発明の実施例、比較例について詳細に説明する。
以下の実施例、比較例において、本発明の発光効果を評価するときには、暗室で材料を90〜180度に曲げて、その発光状態を目視にて確認した。
【0024】
[実施例1](応力発光体50質量%含有の繊維構造体)
ポリエチレンテレフタレートにて形成された糸条であるユニチカフアイバー社製のE223タイプ、品番:PET1100T96の原糸を用いた8本製紐品を準備した。またコーティング材としてTIM−2011A(三洋化成社製、ポリエステル系ウレタンプレポリマー、固形分30%)を用い、応力発光体としてTAIKO−ML−1(大光炉材社製、中心粒径5〜10μm)を、TIM−2011A中の含有量が50質量%となるように調整した組成物を用いた。この組成物には、粘度調整液として、トルエン/メチルエチルケトン=50/50(質量比)混合液を用いた。この組成物の具体的な組成は、
TIM−2011A 100部
TAIKO−ML−1 30部
トルエン/メチルエチルケトン=50/50(質量比)混合液 51.5部
とした。
【0025】
この組成物を用いて上記のPET1100T96の原糸を用いた8本製紐品をディッピング加工することで、これを2%omfの割合で付与し、実施例1の繊維構造体を得た。ディッピング後の乾燥処理は、110℃×2分間とした。
【0026】
[実施例2](応力発光体40質量%含有の繊維構造体)
コーティング材として、実施例1と同様にTIM−2011Aを用い、応力発光体であるTAIKO−ML−1を、TIM−2011A中の含有量が40質量%となるように調整した組成物を用いた。この組成物には、粘度調整液として、トルエン/メチルエチルケトン=50/50(質量比)混合液を用いた。この組成物の具体的な組成は、
TIM−2011A 100部
TAIKO−ML−1 20部
トルエン/メチルエチルケトン=50/50(質量比)混合液 51.5部
とした。
【0027】
この組成物を用いて、実施例1と同様にPET1100T96の原糸を用いた8本製紐品をディッピング加工することで、これを2%omfの割合で付与し、実施例2の繊維構造体を得た。ディッピング後の乾燥処理は、実施例1と同様に110℃×2分間とした。
【0028】
[実施例3](応力発光体48質量%含有の繊維構造体)
相対粘度1.90のナイロン12(ダイセルデグサ社製、VESTAMIDL1900)に応力発光体(実施例1で用いたのと同じ、大光炉材社製のTAIKO−ML−1)の量が60質量%となるように調整したものを芯成分とし、上記と同じナイロン12のチップ(ダイセルデグサ社製、VESTAMIDL1900)であって応力発光体を含まないものを鞘成分として、複合比率(芯/鞘)が80/20(質量比)となるように、紡糸温度250℃で溶融し、孔径0.50mmの紡糸孔を28個有する芯鞘複合溶融押出機の紡糸口金より吐出させた。次いで、150℃で延伸倍率1.1倍で延伸したうえで巻取り、2200T28fの、実施例3の繊維構造体としての、応力発光体を含有する原糸を得た。
【0029】
[比較例1](応力発光体35質量%含有の繊維構造体)
コーティング材として、実施例1と同様にTIM−2011Aを用い、応力発光体であるTAIKO−ML−1を、TIM−2011A中の含有量が30質量%となるように調整した組成物を用いた。この組成物には、粘度調整液として、トルエン/メチルエチルケトン=50/50(質量比)混合液を用いた。この組成物の具体的な組成は、
TIM−2011A 100部
TAIKO−ML−1 16.2部
トルエン/メチルエチルケトン=50/50(質量比)混合液 51.5部
とした。
【0030】
この組成物を用いて、実施例1と同様にPET1100T96の原糸を用いた8本製紐品をディッピング加工することで、これを2%omfの割合で付与し、比較例1の繊維構造体を得た。ディッピング後の乾燥処理は、実施例1と同様に110℃×2分間とした。
【0031】
[比較例2](応力発光体90質量%含有の繊維構造体)
コーティング材として、実施例1と同様にTIM−2011Aを用い、応力発光体であるTAIKO−ML−1を、TIM−2011A中の含有量が90質量%となるように調整した組成物を用いた。この組成物には、粘度調整液として、トルエン/メチルエチルケトン=50/50(質量比)混合液を用いた。この組成物の具体的な組成は、
TIM−2011A 100部
TAIKO−ML−1 270部
トルエン/メチルエチルケトン=50/50(質量比)混合液 51.5部
とした。
【0032】
この組成物を用いて、実施例1と同様にPET1100T96の原糸を用いた8本製紐品をディッピング加工した。しかし、得られた比較例2の繊維構造体は、コーティング材が被膜化せず、コーティング不良であった。
【0033】
実施例1〜3および比較例1〜2の繊維構造体の特性を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
[実施例4](応力発光体50質量%含有の漁具)
東洋紡績社製の高分子量ポリエチレンの原糸ダイニーマ(110T96、タイプSK71)を用いた8本製紐品を準備した。コーティング材として、実施例1と同様にTIM−2011Aを用い、応力発光体であるTAIKO−ML−1を、TIM−2011A中の含有量が50質量%となるように調整した組成物を用いた。この組成物には、粘度調整液として、トルエン/メチルエチルケトン=50/50(質量比)混合液を用いた。この組成物の具体的な組成は、
TIM−2011A 100部
TAIKO−ML−1 30部
トルエン/メチルエチルケトン=50/50(質量比)混合液 51.5部
とした。
【0036】
この組成物を用いて上記の東洋紡績社製の高分子量ポリエチレンの原糸ダイニーマを用いた8本製紐品をディッピング加工することで、これを2%omfの割合で付与し、実施例4の漁具を得た。ディッピング後の乾燥処理は、110℃×2分間とした。
【0037】
[実施例5](応力発光体40質量%含有の漁具)
コーティング材として、実施例1と同様にTIM−2011Aを用い、応力発光体であるTAIKO−ML−1を、TIM−2011A中の含有量が40質量%となるように調整した組成物を用いた。この組成物には、粘度調整液として、トルエン/メチルエチルケトン=50/50(質量比)混合液を用いた。この組成物の具体的な組成は、
TIM−2011A 100部
TAIKO−ML−1 20部
トルエン/メチルエチルケトン=50/50(質量比)混合液 51.5部
とした。
【0038】
この組成物を用いて、実施例4と同様に東洋紡績社製の高分子量ポリエチレンの原糸ダイニーマを用いた8本製紐品をディッピング加工することで、これを2%omfの割合で付与し、実施例5の漁具を得た。ディッピング後の乾燥処理は、実施例1と同様に110℃×2分間とした。
【0039】
[実施例6](応力発光体48質量%含有の漁具)
実施例3と同じ条件で、芯鞘複合構造の糸条を防止口金より吐出させた。次いで、100℃で延伸倍率1.1倍で延伸したうえで巻取り、220T1fの、実施例6の漁具としての、応力発光体を含有する釣糸原糸を得た。
【0040】
[実施例7](応力発光体50質量%含有の漁具)
ポリエステルヤーン(ユニチカファイバー社製210T24 E723)を用いた8本製紐品に、実施例1で用いたのと同じ組成物用いたディッピング加工を施すことで、これを2%omfの割合で付与し、実施例7の漁具を得た。ディッピング後の乾燥処理は、110℃×2分間とした。
【0041】
実施例4〜7の漁具の特性を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表1及び表2に示されるように、実施例1〜3、4〜7においては、応力により発光する応力発光体を40〜80質量%含有させることにより、特定の電磁波に暴露させることなく発光する繊維構造体及び漁具を提供することができた。
【0044】
これに対し比較例1では、応力発光体の含有割合が本発明の範囲未満であったため、明確な発光状態が確認されなかった。
【0045】
比較例2では、応力発光体の含有割合が本発明の範囲を超えていたため、上述のようにコーティング材が被膜化せず、コーティング不良であり、本発明で企図するところの発光性繊維構造体や発光性漁具は、得ることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維にて構成された繊維構造体であって、前記繊維構造体が、応力発光体を40〜80質量%含有する合成樹脂で被覆されていることを特徴とする発光性繊維構造体。
【請求項2】
応力発光体を40〜80質量%含有する合成繊維にて構成された繊維構造体であることを特徴とする発光性繊維構造体。
【請求項3】
繊維構造体が、原糸、撚糸品、組紐、織物、編物、またはこれらの複合品であることを特徴とする請求項1または2記載の発光性繊維構造体。
【請求項4】
応力発光体が無機材料であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載の発光性繊維構造体。
【請求項5】
応力発光体が、ユウロピウムを添加したアルミン酸ストロンチウム(SrAl:Eu)、またはマンガンを添加した硫化亜鉛(ZnS:Mn)であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載の発光性繊維構造体。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に記載の発光性繊維構造体にて構成されていることを特徴とする発光性漁具。

【公開番号】特開2010−236117(P2010−236117A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83832(P2009−83832)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】