説明

発光性金属錯体及びその用途

【課題】優れた発光特性を有する新規な発光性金属錯体を提供することを課題とする。
【解決手段】一般式(I):


で表わされる配位子と金属塩とを含むことを特徴とする発光性金属錯体により前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発光性金属錯体及びその用途に関する。さらに詳しくは、本発明は優れた発光特性を有する新規な発光性金属錯体、並びに前記発光性金属錯体を使用する水素イオン濃度指数の測定方法、ディスプレー材料及び水素イオン濃度指数センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、金属塩及び配位子からなる様々な金属錯体が、それらが有する特異的な性質を利用して、触媒、試薬、材料等として多くの分野で使用されている。また、これらの金属錯体の中でも、特定の金属塩と配位子との組み合わせを含む金属錯体が紫外線等の光線に対して発光性を有することが知られている。
【0003】
この場合、これらの金属錯体はこのような特異的な発光性を利用してディスプレー材料等として使用されている。また、これらは金属錯体が使用される環境や状態を把握し、認識するためのセンサー(標識)や表示材として使用されるようにもなっている。
【0004】
具体的には、これらを含む材料に紫外線等の光線を直接照射して、その発光状況を確認し、検出対象物の追跡や定量に用いられる他、環境中の微量成分の検出に用いられるようにもなっている。また、これらは溶液中で同様に用いられるようにもなっている。このような状況に鑑みて、これらの用途で使用するための多くの金属錯体が提案されている(非特許文献1〜7)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】L. Xueら, Inorg. Chem., 50, 3680 (2011)
【非特許文献2】S. J. Lippardら, Acc. Chem. Res., 42, 193 (2009)
【非特許文献3】D. R. Springら, Chem. Soc. Rev., 39, 1996 (2010)
【非特許文献4】T. Gunnulaugsson, Tetrahedron Lett., 42, 8901 (2001)
【非特許文献5】T. Gunnulaugsson and J. P. Leonard, Chem. Comm., 2424 (2003)
【非特許文献6】P. Pallavicini, V. Amendola, C. Massera, E. Mundum and A. Taglietti, Chem. Comm., 2452 (2002)
【非特許文献7】T. Gunnulaugsson J. P. Leonard , K. Senechal and A. J. Harte, J. Am. Chem. Soc., 125, 12062 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、溶媒の存在下又は非存在下に、紫外線等の光線をこれらに照射した場合、これらはそれぞれ特有の発光挙動を示すことが目視により確認されるものの、それらの多くは略単色の発光を示すのみであった。また、その発光の程度についても、その発光は金属錯体に求められる発光と比べて弱いことが多かった。この場合、これらはディスプレー材料として使用するには美観付与の観点から問題となることがあった。また、その発光が弱い場合、これらはセンサーとして使用し得ないこともあった。
【0007】
他方、このような金属錯体を含む溶液にその水素イオン濃度指数(pH等)を変化させながら紫外線等の光線を照射した場合も、同様に、各水素イオン濃度指数において、これらは略単色の弱い発光のみを示す場合が多かった。このことは、たとえ水素イオン濃度指数を変化させながらこれらに前記光線を照射した場合であっても、溶液の外観は大きく変化しないことを意味する。
【0008】
また、このことは、目視によって外観を調査しただけでは、溶液中の水素イオン濃度指数を確認することができないこと、即ち、このような金属錯体は水素イオン濃度指数センサーとしては大きく使用することはできないことを意味する。このため、溶液中の水素イオン濃度指数を把握するには、溶液をpH測定器、画像処理装置等を用いてより詳細に調査しなければならず、その調査方法は目視のような簡単な方法と比べて極めて煩雑なものである。
【0009】
他方、これらはそれぞれの異なった発光メカニズムに基づいて特有の略単色発光を示すことに鑑みれば、このような金属錯体を組み合わせて使用することにより、前記のような発光状態を調節することができるであろうとも考えられる。しかしながら、この場合、溶液中で金属錯体に含まれる配位子同士の交換が起こり、金属錯体の発光機能が失われてしまう場合があった。
【0010】
また、生化学的分野や医科学的分野では、複雑な生命現象や化学反応を正確に検出し、把握することが強く求められるようにもなっている。特に、前記のような生命現象や化学反応はその使用環境、特に水素イオン濃度指数に大きく依存することがある。具体的には、正常細胞周辺のpHは7.4であるのに対して、癌細胞周辺のpHは6.5付近に変化する。また、治療中の皮膚や傷口等においてもこれらは変化する。このため、このような環境を容易に把握するための優れた水素イオン濃度指数センサーや水素イオン濃度指数の簡便な測定方法の提供が強く求められるようにもなっている。
【0011】
従って、前記のような問題点に鑑みて、紫外線等の光線に対して溶媒の存在下又は非存在下であっても高発光性を示し、また、前記の水素イオン濃度指数センサーとして使用することができるような優れた発光特性を有する新規な発光性金属錯体の提供が課題とされている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで本発明者は、かかる状況下で前記の課題を解決すべく様々な金属錯体について鋭意検討した結果、特定の配位子と金属錯体との組み合わせが前記のような優れた発光特性を有することを見出すに至った。
【0013】
かくして、本発明によれば、一般式(I):
【化1】

(式中、R1及びR2は低級アルキル基であり、R3及びR4はカルボキシ基及び1以上のカルボキシ基で置換された低級アルキル基からなる群から独立して選択され、R5〜R16は水素原子及び低級アルキル基からなる群から独立して選択される)
で表わされる配位子と金属塩とを含むことを特徴とする発光性金属錯体を提供することができる。
【0014】
また、本発明によれば、水素イオン濃度指数の測定方法、ディスプレー材料及び水素イオン濃度指数センサーのような、発光性金属錯体についての優れた用途を提供することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、配位子として一般式(I)に記載の化合物を含む金属錯体が提供される。このため、本発明の金属錯体は、核となる金属塩にキノリン環を含む配位子が好適に配位しているため、溶媒の非存在下又はその存在下で紫外線をこれらに照射した場合、高発光性を示すことができる。また、金属錯体を含む溶液は、水素イオン濃度指数を変化させながら、紫外線を照射した場合であっても、水素イオン濃度指数に応答して多彩な色彩の発光を示すこともできる。よって、本発明によれば、前記のような優れた発光特性を有する新規な発光性金属錯体を提供することができる。
【0016】
また本発明によれば、一般式(I)に属する好ましい配位子は、R1及びR2が共にメチル基であり、R3及びR4が共にカルボキシメチル基であり、R5〜R16が全て水素原子である、式(II):
【化2】

で表される配位子である。この場合、立体障害がより少なく、かつ電子供与性置換基を含む発光特性により優れた配位子が金属塩に配位することができるため、前記のような優れた発光特性をより有する発光性金属錯体を提供することもできる。
【0017】
また本発明によれば、金属塩がZn系金属塩、Eu系金属塩及びこれらの組み合わせから選択される場合、金属塩が配位子の発光特性をより効果的に引き出すことができるため、同様に、前記のような優れた発光特性をより有する発光性金属錯体を提供することもできる。
【0018】
また本発明によれば、金属塩がZn(ClO42、Eu(ClO43、Eu(NO33及びこれらの組み合わせから選択される場合、金属塩が配位子の発光性をさらにより効果的に引き出すことができるため、同様に、前記のような優れた発光特性をさらにより有する発光性金属錯体を提供することもできる。
【0019】
また本発明によれば、発光性金属錯体が金属塩1モルに対して配位子を0.5〜1.5モル含む場合、金属塩が配位子をより好適な割合で配位させることができるため、同様に、前記のような優れた発光特性をより有する発光性金属錯体を提供することもできる。
【0020】
本発明によれば、発光性金属錯体が溶液中で紫外線に応答して発光性を示すような優れた発光特性を有する発光性金属錯体を提供することもできる。
【0021】
本発明によれば、発光性金属錯体を含む溶液に紫外線を照射する工程を経るだけで水素イオン濃度指数を容易に把握することができる、簡便な水素イオン濃度指数の測定方法を提供することができる。
【0022】
本発明によれば、紫外線等の光線を照射した場合に、高発光性を示すような優れた発光特性を有する新規なディスプレー材料を提供することができる。
【0023】
本発明によれば、発光性金属錯体を含む溶液に紫外線を照射するだけで水素イオン濃度指数を把握することができるような新規な水素イオン濃度指数センサーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】配位子L−Zn(ClO42錯体の蛍光スペクトルである。
【図2】配位子L−Zn(ClO42錯体を含む水溶液の蛍光スペクトルである。
【図3】配位子L−Eu(ClO43錯体を含む水溶液の燐光スペクトルである。
【図4】配位子L−Eu(NO33錯体の燐光スペクトルである。
【図5】配位子L−Zn(ClO42錯体を含む水溶液と配位子L−Eu(ClO43錯体を含む水溶液との混合液のpHによる発光の変化を示す写真である。
【図6】配位子L−Zn(ClO42錯体を含む水溶液と配位子L−Eu(ClO43錯体を含む水溶液との混合液のpHによる発光強度の変化を示す図である。
【図7】配位子DQ−Zn(ClO42錯体を含む水溶液の蛍光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の特徴は、一般式(I):
【化3】

(式中、R1及びR2は低級アルキル基であり、R3及びR4はカルボキシ基及び1以上のカルボキシ基で置換された低級アルキル基からなる群から独立して選択され、R5〜R16は水素原子及び低級アルキル基からなる群から独立して選択される)
で表わされる配位子と金属塩とを含む発光性金属錯体である。
【0026】
本発明において、発光性金属錯体とは、紫外線の照射に応答して発光性を示す金属錯体を意味する。具体的には、溶媒の非存在下又はその存在下で紫外線を照射した場合に、それに応答して高発光性を示すような金属錯体を意味する。また、群から独立して選択されとは、群から同一又は異なって選択されることを意味する。
【0027】
また、本発明の発光性金属錯体は核となる金属塩にキノリン環を含む配位子が好適に配位しているため、水素イオン濃度に応答して、(i)キノリン基からの直接発光と、(ii)キノリン基から金属イオンへのエネルギー移動を経た金属中心からの発光の異なる発光モードとを好適にスイッチすることができる。
【0028】
このため、このような特性を利用して、発光性金属錯体を含む溶液の水素イオン濃度指数を変化させながら、溶液に紫外線等の光線を照射した場合、発光性金属錯体は多彩な色彩の発光を示すこともできる。よって、本発明によれば、一般式(I)の配位子を使用することにより、前記のような優れた発光特性を有する新規な発光性金属錯体を提供することができる。
以下、本発明の発光性金属錯体について詳説する。
【0029】
<配位子>
本発明の配位子は、一般式(I):
【化4】

(式中、R1及びR2は低級アルキル基であり、R3及びR4はカルボキシ基及び1以上のカルボキシ基で置換された低級アルキル基からなる群から独立して選択され、R5〜R16は水素原子及び低級アルキル基からなる群から独立して選択される)
で表わされることを特徴とする。
【0030】
本発明の配位子はその構造中にキノリン環を有するため、赤外線、可視光線、紫外線、ガンマ線のような光線、好ましくは紫外線に対して好適な発光性を示す。また、前記の発光は、(i)キノリン基からの直接発光と、(ii)キノリン基から金属イオンへのエネルギー移動を経た金属中心からの発光によるものである。
【0031】
さらに、本発明の配位子は金属イオンに好適に配位しているため、錯体の溶媒和によって配位状態が破壊されることなく、その配位状態を維持しつつ溶媒中で発光性金属錯体を均一かつ十分に分散させることができる。このため、本発明の配位子を用いることによって、溶液中であっても本発明の金属錯体は紫外線等の光線に対して高発光性を維持することができる。
【0032】
また、一般式(I)中のR1及びR2は低級アルキル基であり、R5〜R16は水素原子及び低級アルキル基からなる群から独立して選択される。また、低級アルキル基とはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等の炭素数1〜3のアルキル基が挙げられる。本発明においては、より高い発光性を得ることができるため、R1及びR2は、それぞれメチル基又はエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。また、同様に、R5〜R16は、水素原子が好ましい。
【0033】
他方、一般式(I)中のR3及びR4はカルボキシ基及び1以上のカルボキシ基で置換された低級アルキル基からなる群から独立して選択される。1以上のカルボキシ基で置換された低級アルキル基とはカルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基、カルボキシイソプロピル基等のような1以上のカルボキシ基で置換された炭素数1〜3のアルキル基が挙げられる。ここで、R3及びR4は、より好適に金属塩に配位することができるため、それぞれ、好ましくは1〜4つ、より好ましくは1つのカルボキシ基で置換された低級アルキル基である。具体的には、R3及びR4は、それぞれカルボキシメチル基が好ましい。
【0034】
本発明においては、所望の発光特性を得ることができる限り、一般式(I)の配位子を単独で使用してもよく、複数種の配位子を組み合わせて使用してもよい。また、低級アルキル基及び1以上のカルボキシ基で置換された低級アルキル基は直鎖状であってよく、分枝状であってもよい。また、その他の置換基で置換されていてもよい。
【0035】
また本発明によれば、配位子は式(II):
【化5】

で表されることが好ましい(本発明においては、配位子Lとも称する)。
【0036】
この場合、立体障害がより少なく、発光特性により優れた配位子が金属塩により容易に配位することができる。また、所望の発光性金属錯体を容易に製造することもできる。さらに、(i)キノリン環からの直接発光と、(ii)キノリン環から金属イオンへのエネルギー移動を経た金属中心からの発光の異なる発光モードとの間のスイッチをより容易に行うこともできる。このため、前記のような優れた発光特性をより有する発光性金属錯体を提供することができる。
【0037】
<配位子の製造方法>
本発明の配位子の製造方法として、式(II)で表される配位子の製造方法を一例として説明するが、本発明の配位子の製造方法は以下のものに限定されるものではない。また、本発明の一般式(I)で表される配位子は同様の合成手順に従って製造することができる。
【0038】
例えば、式(II)で表される配位子は、出発原料として(S)−アラニンを使用して以下の合成手順に従って製造することができる。
【0039】
【化6】

【0040】
化合物1及び2は公知の製造方法に従って得ることもできる(Guo, Zijian; Wang, Xiaoyong; Zhang, Junyong; Tu, Chaoら, preparation of L-amino acid acyl-8-quinolinamine-Pt(II) complexes and their antitumor activity. Faming Zhuanli Shenqing Gongkai Shuomingshu (2003), 11 pp. CN 1448389 A 20031015; Zhang, Junyong; Wang, Xiaoyong; Tu, Chao; Lin, Jun; Ding, Jian; Lin, Liping; Wang, Zheming; He, Cheng; Yan, Chunhua; You, Xiaozeng; Guo, Zijian. Monofunctional Platinum Complexes Showing Potent Cytotoxicity against Human Liver Carcinoma Cell Line BEL-7402. Journal of Medicinal Chemistry, 46, 3502-3507 (2003); Zhang, Junyong; Ke, Xiaokang; Tu, Chao; Lin, Jun; Ding, Jian; Lin, Liping; Fun, Hoong-Kun; You, Xiaozeng; Guo, Zijian. Novel Cu(II)-quinoline carboxamide complexes: Structural characterization, cytotoxicity and reactivity towards 5'-GMP. BioMetals, 16, 485-496 (2003); Shao, Ying; Zhang, Junyong; Tu, Chao; Dai, Chunhui; Xu, Qiang; Guo, Zijian., Steric effect on the nuclease activity of Cu(II) complexes with aminoquinoline derivatives. Journal of Inorganic Biochemistry, 99, 1490-1496 (2005)等参照)。
【0041】
次いで、式(II)の配位子(配位子L)は、
(1)(S)−アラニン−8−キノリルアミドジヒドロクロリド(化合物2)とブロモ酢酸メチルとを用いてN−(メトキシカルボニルメチル)−(S)−アラニン−8−キノリルアミド(化合物3)を製造する工程(第1工程)、
(2)第1工程で得られたN−(メトキシカルボニルメチル)−(S)−アラニン−8−キノリルアミド(化合物3)とグリオキサールとを用いてN,N’−エチレン−ビス(N−(メトキシカルボニルメチル)−(S)−アラニン−8−キノリルアミド)(化合物4)を製造する工程(第2工程)、及び
(3)第2工程で得られたN,N’−エチレン−ビス(N−(メトキシカルボニルメチル)−(S)−アラニン−8−キノリルアミド)(化合物4)とBa(OH)2・8H2Oとを用いてN,N’−エチレン−ビス(N−(カルボニルメチル)−(S)−アラニン−8−キノリルアミド)(配位子L)を製造する工程(第3工程)
を含む製造方法により得ることができる。
以下、各工程について詳説する。
【0042】
(第1工程:N−(メトキシカルボニルメチル)−(S)−アラニン−8−キノリルアミド(化合物3)の製造)
第1工程においては、化合物2とブロモ酢酸メチルとを用いてN−(メトキシカルボニルメチル)−(S)−アラニン−8−キノリルアミド(化合物3)を製造することができる。
【0043】
具体的には、化合物2を含むアセトニトリル溶液に炭酸カリウムの存在下、ブロモ酢酸メチルを加え、次いで反応液を加熱することによって化合物3を得ることができる。本発明で使用する化合物2及びその他の工程で使用する原料は、特段の記載がされていない限り、公知の方法によって製造することができ、商業的に入手可能である。
【0044】
本発明においては、化合物2とブロモ酢酸メチルとの使用割合は、モル比で1:0.9〜1.1であることが好ましく、1:1であることがより好ましい。ブロモ酢酸メチルが化合物2 1モルに対して0.9モル未満である場合や、1.1モルを超える場合、目的化合物の収率が低下するおそれがあり、製造コストが高くなるおそれがある。
【0045】
反応条件は、原料の種類や量等により適宜設定すればよい。反応温度は、通常、50〜80℃、好ましくは60℃である。反応温度が50℃未満である場合、反応効率が低下するおそれがある。一方、反応温度が80℃を超える場合、目的化合物の収率が低下するおそれ、製造コストが高くなるおそれがある。
【0046】
また、反応時間は反応温度により最適時間は変化するが、通常、20〜40時間、好ましくは30時間である。反応時間が20時間未満である場合、反応が不十分となるおそれがある。一方、反応時間が40時間を超える場合、製造コストが高くなるおそれがある。
【0047】
さらに、反応圧力は、特に限定されず、例えば大気圧下が挙げられる。また、雰囲気は、特に限定されず、例えば空気中及び窒素雰囲気が挙げられる。
【0048】
(第2工程:N,N’−エチレン−ビス(N−(メトキシカルボニルメチル)−(S)−アラニン−8−キノリルアミド)(化合物4)の製造)
第2工程においては、第1工程で得られた化合物3とグリオキサールとを用いて化合物4を製造することができる。
【0049】
具体的には、化合物3を含む溶液に氷冷下グリオキサール水溶液を加え、次いで反応液を室温で攪拌することによって化合物4を得ることができる。
【0050】
本発明においては、化合物3とグリオキサールとの使用割合は、モル比で1:0.4〜0.6であることが好ましく、1:0.5であることがより好ましい。グリオキサールが化合物3 1モルに対して0.4モル未満である場合や、0.6モルを越える場合、目的化合物の収率が低下するおそれがあり、製造コストが高くなるおそれがある。
【0051】
反応条件は、原料の種類や量等により適宜設定すればよい。反応温度は、通常、−5〜2℃で、好ましくは−5〜0℃で化合物3とグリオキサール水溶液を混合し、その後室温で攪拌させる。反応温度が−5℃未満である場合、反応効率が低下するおそれがある。一方、反応温度が2℃を超える場合、ラセミ化が進行し、目的化合物の収率が低下するおそれ、製造コストが高くなるおそれがある。
【0052】
また、反応時間は、通常、10〜24時間、好ましくは12〜15時間である。反応時間が10時間未満である場合、反応が不十分となるおそれがある。一方、反応時間が24時間を超える場合、製造コストが高くなるおそれがある。
【0053】
さらに、反応圧力は、特に限定されず、例えば大気圧下が挙げられる。また、雰囲気は、特に限定されず、例えば空気中及び窒素雰囲気が挙げられる。
【0054】
(第3工程:N,N’−エチレン−ビス(N−(カルボニルメチル)−(S)−アラニン−8−キノリルアミド(配位子L)の製造)
第3工程においては、第2工程で得られた化合物4とBa(OH)2・8H2Oとを用いて配位子Lを製造することができる。
【0055】
具体的には、化合物4を含むメタノール溶液にBa(OH)2・8H2O水溶液を加え、次いで反応液を室温で攪拌することによって配位子Lを得ることができる。
【0056】
本発明においては、化合物4とBa(OH)2・8H2Oとの使用割合は、モル比で1:1〜3であることが好ましく、1:2であることがより好ましい。Ba(OH)2・8H2Oが化合物4 1モルに対して1モル未満である場合、目的化合物の収率が低下するおそれがある。一方、Ba(OH)2・8H2Oが化合物4 1モルに対して3モルを超える場合、製造コストが高くなるおそれがある。
【0057】
反応条件は、原料の種類や量等により適宜設定すればよい。反応温度は、通常、15〜30℃、好ましくは20〜25℃である。反応温度が15℃未満である場合、反応効率が低下するおそれがある。一方、反応温度が30℃を超える場合、目的化合物の収率が低下するおそれ、製造コストが高くなるおそれがある。
【0058】
また、反応時間は、通常、1〜5時間、好ましくは2〜4.5時間である。反応時間が1時間未満である場合、反応が不十分となるおそれがある。一方、反応時間が5時間を超える場合、製造コストが高くなるおそれがある。
【0059】
さらに、反応圧力は、特に限定されず、例えば大気圧下が挙げられる。また、雰囲気は、特に限定されず、例えば空気中及び窒素雰囲気が挙げられる。
【0060】
<金属塩>
本発明においては、本発明の配位子との関係で、所望の発光性を得ることができる限り、公知のいずれの金属塩も使用することができる。具体的には、Zn系金属塩、Eu系金属塩、Tb系金属塩、Cd系金属塩、Hg系金属塩、Sm系金属塩、Nd系金属塩、Yb系金属塩等を挙げることができる。
【0061】
また本発明においては、金属塩はZn系金属塩、Eu系金属塩及びこれらの組み合わせから選択されることが好ましい。この場合、発光性金属錯体の発光特性をより効果的に引き出すことができる。
【0062】
他方、これらの金属塩に使用するアニオンとしては、所望の発光特性を得ることができる限り、公知のアニオンを使用することができる。具体的には、F-、Cl-、Br-、I-、OH-、CN-、NO3-、NO2-、ClO-、ClO2-、ClO3-、ClO4-、MnO4-、CH3COO-、HCO3-、CO32-、H2PO4-、HPO42-、PO43-、SO42-、HSO4-、HS-、SCN-、O2-、S2-、S232-、CF3SO3-を挙げることができ、ClO4-及びNO3-が好ましい。
【0063】
よって、本発明においては、金属塩はZn(ClO42、Eu(ClO43、Eu(NO33及びこれらの組み合わせから選択されることがより好ましい。この場合、金属塩に一般式(I)の配位子をさらにより好適に配位させることができるため、前記のような異なる発光モード間のスイッチをより容易に行うことができる。このため、前記のような優れた発光特性をより効果的に引き出すことができる。その結果、本発明によれば、前記のような優れた発光特性をさらにより有する発光性金属錯体を提供することができる。
【0064】
他方、所望の発光特性に影響を与えない限り、本発明の金属塩中に含まれる金属カチオン及びアニオンはそれぞれ同一であってよく、或いは異なっていてもよく、少量のその他の金属塩を含んでいてもよい。
【0065】
<発光性金属錯体の製造方法>
発光性金属錯体の製造方法としては、公知の製造方法を挙げることができる。例えば、金属塩と配位子とをアセトニトリル等の溶媒に溶解させ、次いで得られた混合液を蒸発乾固、スプレードライ等をすることによって本発明の発光性金属錯体を回収することができる。工程温度、工程圧力、工程時間、使用器具等の工程条件は、使用する金属塩、配位子、溶媒等によって適宜選択される。
【0066】
<発光性金属錯体>
本発明の発光性金属錯体は一般式(I)で表わされる配位子及び金属塩で構成される。また、このような組成を有することにより本発明の発光性金属錯体は優れた発光特性を有することができる。具体的には、発光性金属錯体単体に紫外線を照射した場合、高発光性を目視により確認することができる。この場合、紫外線の波長としては200〜400nmが好ましく、300〜380nmがより好ましい。
【0067】
また、前記の発光を蛍光・燐光分光光度計を用いてその強度を測定することよって確認することもできる。この測定において、前記光線の波長としては、発光の変化をより容易に把握することができるため、200〜400nmが好ましく、300〜380nmがより好ましい。
【0068】
他方、発光性金属錯体は、使用する金属種にもよるが、金属塩1モルに対して配位子を通常1モル程度、より好ましくは0.5〜1.5モル、さらにより好ましくは0.5〜1.1モルを含む。この場合、金属塩が配位子をより好適な割合で配位させることができるため、所望の発光特性をより有する発光性金属錯体を得ることができる。
【0069】
また、発光性金属錯体が、金属塩1モルに対して配位子を1.5モルより多く含む場合、コスト面で不利となることがある。他方、発光性金属錯体が、金属塩1モルに対して配位子を0.5モルより少なく含む場合、金属塩に対して配位子の量が少なくなり、所望の効果を得ることができないことがある。
【0070】
発光性金属錯体としては、所望の発光特性を容易に得ることができるため、式(II)で表される配位子と、Zn(ClO42、Eu(ClO43、Eu(NO33及びこれらの組み合わせから選択される金属塩との組み合わせが好ましい。また、所望の発光特性を単独で得ることができるため、式(II)で表される配位子とZn(ClO42で表される金属塩との組み合わせがより好ましい。
【0071】
本発明の発光性金属錯体は単独で前記のような発光特性を有することができる。他方、本発明の発光性金属錯体を混合することによって、前記のような発光特性を有することができる場合がある。具体的には、略単色発光の発光特性を示す2以上の発光性金属錯体を好適に混合することによって、発光性金属錯体を単独で使用した場合と異なった色彩を示すこともできる。この場合、式(II)で表される配位子とZn(ClO42とを含むものと、式(II)で表される配位子とEu(ClO43とを含むものとの組み合わせがより好ましい。
【0072】
本発明の発光性金属錯体は使用する金属塩及び配位子に従って固有の発光挙動を示すことができる。このため、このような光学的な特性を利用して、本発明の発光性金属錯体をZn、Eu等の金属の存在を確認するための金属センサーとして使用することもできる。
【0073】
<発光性金属錯体を含む溶液の製造方法>
発光性金属錯体を含む溶液の製造方法としては、公知の製造方法を挙げることができる。例えば、発光性金属錯体を溶媒中に所定の濃度に溶解させることにより得ることができる。他方、配位子を含む溶液と金属塩を含む溶液を調製し、次いでこれらを混合することによって得ることもできる。また、工程温度、工程圧力、工程時間、使用器具、濃度等の工程条件は、使用する金属塩、配位子、溶媒等に従って、適宜選択される。
【0074】
<発光性金属錯体を含む溶液>
本発明の発光性金属錯体を含む溶液も優れた発光特性を有することができる。即ち、本発明の発光性金属錯体は溶液中で紫外線に応答して発光性を示すことができる。この場合も、発光性金属錯体単体に紫外線を照射した場合と同様に、溶液に紫外線を照射した場合も、高発光性を目視により確認することができる。また、紫外線の波長としては200〜400nmが好ましく、300〜380nmがより好ましい。
【0075】
他方、同様に、前記の発光を蛍光・燐光分光光度計を用いてそのスペクトルを測定することよって確認することもできる。この場合、前記光線の波長としては、発光の変化をより容易に把握することができるため、200〜400nmが好ましく、300〜380nmがより好ましい。
【0076】
本発明の発光性金属錯体を含む溶液は、水素イオン濃度指数を変化させながら紫外線を照射した場合、異なった色の発光を示すこともできる。具体的には、溶液中の水素イオン濃度指数を変化させることによって、溶液の発光色の変更、発光強度の調節、発光の停止等をすることもできる。
【0077】
一例を挙げて説明すると、発光性金属錯体として式(II)で表される配位子とZn(ClO42とを含むものを用い、溶媒として水、アセトニトリルを用いた場合、酸性条件下では弱い青色発光を示すのに対し、水素イオン濃度指数を中性から塩基性へと変化させることによって極めて強い緑色発光を示すことができる。
【0078】
本発明の発光性金属錯体の組み合わせを含む溶液も、水素イオン濃度指数を変化させながら紫外線を照射した場合、異なった色の発光を示す。一例を挙げて説明すると、式(II)で表される配位子とZn(ClO42とを含むものと、式(II)で表される配位子とEu(ClO43とを含むものとの組み合わせを用い、溶媒として水を用いた場合、酸性条件下では赤色発光を示すのに対し、水素イオン濃度指数を中性から塩基性へと変化させることによって、中性条件下では黄色発光を示し、次いで緑色発光を示す。このことは、例え溶液中で金属錯体に含まれる配位子同士の交換が起こった場合であっても、発光性金属錯体の発光機能が失われていないことを示す。
【0079】
また、本発明の発光性金属錯体を含む溶液は、紫外線の照射下において水素イオン濃度指数に応答して特異的な発光を示す。さらに、本発明の発光性金属錯体を含む溶液の発光を測定することによって、溶液中の水素イオン濃度指数を簡単に確認することができる。よって、本発明の発光性金属錯体を水素イオン濃度指数センサーとして使用することができる。
【0080】
ここで、発光性金属錯体の組み合わせを使用する場合、その組成比率は使用する配位子及び金属塩に従って適宜設定される。例えば、発光性金属錯体の組み合わせとして2種の発光性金属錯体を使用する場合、一方の発光性金属錯体1モルに対して、他方の発光性金属錯体を好ましくは0.1〜1モル、より好ましくは0.1〜0.3モルを使用する。この場合、紫外線の波長としては、発光の変化をより容易に把握することができるため、200〜400nmが好ましく、300〜380nmがより好ましい。
【0081】
また、前記の発光の変化を蛍光・燐光分光光度計を用い、その強度を測定することよって確認することもできる。具体的には、溶液中の水素イオン濃度指数を変化させることにより、異なった波長領域において新たに発光ピークの発生を確認することができることがある。他方、元の溶液において確認された発光ピークが消失することもある。このことは本発明の発光性金属錯体の色彩が水素イオン濃度指数に応答して連続的に変化することを意味する。
【0082】
この場合、紫外線等の光線の波長としては、発光の変化をより容易に把握することができるため、200〜400nmが好ましく、300〜380nmがより好ましい。
【0083】
本発明においては、溶液の溶媒として、所望の技術的効果を得ることができる限り、公知の溶媒を使用することができる。具体的には、水のみならず、アセトニトリル系、炭化水素系、エーテル系、エステル系、アルコール系、ハロゲン系、カルボン酸系等の有機溶剤を溶媒として用いることができる。また、発光性金属錯体をより均一に分散及び溶媒和させることができるため、溶媒は水、アセトニトリル及びこれらの組み合わせから選択されることが好ましい。この場合、発光性金属錯体の発光特性をより効果的に得ることができる。
【0084】
また、発光性金属錯体を溶媒中により好適な割合で溶解及び溶媒和させることができるため、本発明の溶液は発光性金属錯体を、好ましくは1〜1000μmol/L、より好ましくは5〜500μmol/L、さらにより好ましくは10〜100μmol/Lの濃度で含む。溶液が発光性金属錯体を1000μmol/Lより多く含む場合、発光性金属錯体の濃度が高くなりすぎ、発色の変化が確認できないことがある。他方、溶液が発光性金属錯体を1μmol/Lより少なく含む場合、発光性金属錯体の濃度が低くなりすぎ、この場合も、発色の変化が確認できないことがある。
【0085】
溶液中、水素イオン濃度指数を変化させる方法としては、溶媒として水を用いる場合、酸として過塩素酸水溶液、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸のような公知の酸を使用することができ、塩基として水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのような公知の塩基を使用することができる。他方、溶媒としてアセトニトリルのような有機溶媒を用いる場合、酸としてトリフルオロメタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸のような公知の有機酸を使用することができ、塩基としてDBU(ジアザビシクロウンデセン)、トリエチルアミンのような公知の有機塩基を使用することができる。
【0086】
また、本発明の溶液は、前記のような所望の発光特性を得ることができる限り、電解質、pH調整剤、界面活性剤、試薬、薬剤等のその他の添加剤を適宜含んでいてもよい。
【0087】
<水素イオン濃度指数の測定方法>
前記のように、本発明の発光性金属錯体を含む溶液に、溶液の水素イオン濃度指数を変化させながら溶液に紫外線を照射した場合、本発明の溶液は水素イオン濃度指数に応答して特異的な発光挙動を示す。このことは、発光性金属錯体を含む溶液に紫外線を照射する工程を含む水素イオン濃度指数の測定方法を用い、次いで前記の発光を目視で観察することにより、溶液内の水素イオン濃度指数を容易に把握することができることを意味する。よって、本発明によれば、本発明の発光性金属錯体を使用することにより、簡便な水素イオン濃度指数の測定方法を提供することができる。
【0088】
このような特性を利用して、本発明の発光性金属錯体は生化学的分野や医科学的分野において使用することもできる。例えば、正常細胞周辺のpHは7.4であるのに対して、癌細胞周辺のpHは6.5付近に変化する。従来、癌組織等の細胞におけるpH分布やpH変化を、画像処理等を行うことによって細胞内の状態や環境を評価していた。しかしながら、本発明の発光性金属錯体を使用し、その発光挙動を観察することによって、このような画像処理等をすることなく正常細胞とそれ以外の細胞とを極めて容易に識別することができる。
【0089】
また、前記の観察は同様に蛍光・燐光分光光度計を使用し、発光ピークを測定することによって行うこともできる。
【0090】
他方、評価を行う際の温度、圧力等の測定条件は、本発明の測定方法を行うことができる限り適宜設定される。本発明においては、より容易に本発明の測定方法を行うことができるため、常温、常圧下で行うことが好ましい。
【0091】
本発明の発光性金属錯体は、溶媒の非存在下又はその存在下で紫外線を照射した場合、或いは水素イオン濃度指数を変化させながら溶液に紫外線を照射した場合、特異的な発光挙動を示す。このため、本発明の発光性金属錯体を、このような特異的な発光特性を利用してディスプレー材料の原材料として使用することができる。また、本発光性金属錯体は光学活性であるため、円偏光発光も期待される。このため、3Dディスプレーに必要な原材料として使用することもできる。
【0092】
また、前記のような性質を利用して、本発明の発光性金属錯体は水素イオン濃度指数センサーとして使用することもできる。具体的には、水素イオン濃度指数センサーを生化学的分野や医科学的分野における指示薬として用いることもできる。
【実施例】
【0093】
本発明を以下の実施例を挙げてさらに具体的に説明するが、これにより本発明の範囲が限定されるものではない。実施例の各工程で得られた化合物を以下の機器及び条件で分析して同定し、またそれらの物性を評価した。
【0094】
1H−NMR及び13C−NMR)
1H−NMR及び13C−NMRスペクトルを核磁気共鳴分析装置(日本電子社製、製品名LA-300、400 FT-NMR)を用いて測定した。テトラメチルシランを0.1質量%含む重クロロホルムに試料を溶解し、室温で測定した。
【0095】
(IR)
IRスペクトルを赤外分光光度計(パーキンエルマー社製、製品名One FT−IR)を用いて測定した。油状の試料はそのまま塩化ナトリウム板に挟んで測定し、粉末試料は臭化カリウムと混合してペレットを作成し、測定した。
【0096】
(UV)
紫外可視吸収スペクトルを紫外−可視分光光度計(日本分光社製、製品名V−670)を用いて測定した。試料を水やアセトニトリルの溶媒に溶解し、石英セルに入れて測定した。
【0097】
(CD)
CDスペクトルを円二色性分散計(日本分光社製、製品名J−820)を用いて測定した。試料を水やアセトニトリルの溶媒に溶解し、石英セルに入れて測定した。
【0098】
(FAB−MS)
MSスペクトルを質量分析計(日本電子社製、製品名AX−700)を用いて測定した。試料を3−ニトロベンジルアルコール(NBA)と混合して、FABイオン化法により正イオンモードで測定した。
【0099】
(元素分析)
元素分析を定量装置(FISONS社製、製品名EA1108)を用いて測定した。
【0100】
(融点(m.p.))
融点を(Yanako社製、製品名MP−J3)を用いて測定した。粉末試料をカバーガラスにはさみ、加熱して溶解する温度を目視により測定した。
【0101】
(旋光度)
旋光度を旋光計(日本分光社製、製品名P−2200)を用いて測定した。10cm光路長の円筒形セルを用いて測定した。
【0102】
(発光性金属錯体の発光スペクトル測定(蛍光・燐光分光光度計測定))
発光スペクトル測定を蛍光・燐光分光光度計(パーキンエルマー社製、製品名LS−50B)を用いて測定した。スペクトルは、石英板(厚さ1mm)に粉末試料をはさみ、固体用ホルダーに固定して測定した。
【0103】
(発光性金属錯体を含む溶液の発光スペクトル測定(蛍光・燐光分光光度計測定))
発光スペクトル測定は浜松ホトニクスの光電子増倍管を取り付けた蛍光・燐光分光光度計(パーキンエルマー社製、製品名LS−50B)を用いて測定した。以下のスペクトルデータの実験条件は次の通りである。
(a)実施例2(図2) 濃度10μmol/L、セル長1cm、励起側スリット=10nm、蛍光側スリット=10nm
(b)実施例3 濃度10μmol/L、セル長1cm、励起側スリット=4nm、蛍光側スリット=4nm
(c)実施例4(図3) 濃度100μmol/L、セル長1mm、励起側スリット=10nm、蛍光側スリット=10nm
(d)実施例6 濃度10μmol/L、セル長1cm、励起側スリット=4nm、蛍光側スリット=4nm
(e)実施例7(図6) 錯体の総濃度100μmol/L、セル長1mm、励起側スリット=10nm、蛍光側スリット=10nm
(f)比較例1(図7) 濃度10μmol/L、セル長1cm、励起側スリット=10nm、蛍光側スリット=10nm
(g)比較例2 濃度100μmol/L、セル長1mm、励起側スリット=10nm、蛍光側スリット=10nm
【0104】
(分取GPC)
得られた発光性金属錯体をセミ分取HPLC(島津製作所社製、製品名LC6AD)を用いて精製した。試料をクロロホルムに溶解し、インジェクターより導入した。数回リサイクルした後、必要な分画を集めて精製した。
【0105】
製造例1(配位子Lの合成)
(第1工程:N−(メトキシカルボニルメチル)−(S)−アラニン−8−キノリルアミド(化合物3)の製造)
(S)−アラニン−8−キノリルアミドジヒドロクロリド(化合物2)0.906gと炭酸カリウム0.569gをアセトニトリル30mLに溶解し、ブロモ酢酸メチル289μLを加え60℃で30時間加熱した。析出した不要物をろ過して除き、ろ液を減圧下で濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(SiO2:30g、溶出溶媒:CH2Cl2/AcOEt=1/1)を用いて精製し、オイル状のN−(メトキシカルボニルメチル)−(S)−アラニン−8−キノリルアミド(化合物3)を得た(収量859mg、95%)。
【0106】
1H NMR (300 MHz, CDCl3) :δ(ppm) = 11.23 (s, 1H, NHCO), 8.85 (dd, 1H, J=1.74, 4.22 Hz, Ar), 8.80 (dd, 1H, J=2.52, 6.37 Hz, Ar), 8.16 (dd, 1H, J=1.74, 8.25 Hz, Ar), 7.54 (dd, 1H, J=8.30, 12.52 Hz, Ar), 7.53 (s, 1H, Ar), 7.45 (dd, 1H, J=4.22, 8.25 Hz, Ar), 3.75 (s, 3H, OCH3), 3.69 (d, 1H, J=17.70, CH2), 3.43 (d, 1H, J=17.70, CH2), 3.47 (q, 1H, J=6.92 Hz, Ala-CH), 1.54 (d, 3H, J=6.92 Hz, Ala-CH3).
13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ(ppm)= 173.2 (C=O), 172.6 (C=O), 148.5 (Ar), 139.0 (Ar), 136.2 (Ar), 134.3 (Ar), 128.0 (Ar), 127.2 (Ar), 121.7 (Ar), 121.5 (Ar), 116.6 (Ar), 59.5 (Ala-CH), 51.9 (CH2), 49.5 (OCH3), 20.0 (Ala-CH3).
IR: νmax/cm-1 (ニート) 3300m, 2953w, 1740s, 1683s, 1525s, 1485s, 1426m, 1385m, 1328m, 1209s, 1150m, 1090w, 1071w, 1022w, 983w, 923w, 883w, 825w, 795w, 756w, 736w.
UV-Vis (λmax/nm (ε/dm3 mol-1 cm-1), CHCl3), 319 (5480).
CD サイレント(250-500 nm).
高分解能FAB-MS (マトリックス, NBA): 実測値 m/z=288.1353, 理論値 C15H18N3O3 [M+H]+ 288.1348.
旋光度 [α]28D = -39.38 (deg dm-1 g-1 cm3, c=0.505, CHCl3).
【0107】
(第2工程:N,N’−エチレン−ビス(N−(メトキシカルボニルメチル)−(S)−アラニン−8−キノリルアミド)(化合物4)の製造)
化合物3 376mgをEtOH/AcOH=10/1 2mLに溶解し、氷冷下40%グリオキサール水溶液74.6μLを加え室温で1時間攪拌した。混合溶液にNaBH3CN82mgを氷冷下加え、1晩攪拌した。その間に溶液の温度は徐々に室温にした。減圧下、溶媒を除き、粗生成物に飽和Na2CO3水溶液10mLを加え、CHCl3 10mLで2回抽出した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(SiO2:10g、溶出溶媒:CH2Cl2/AcOEt=1/2)およびリサイクル分取HPLC(JAIGEL 1H、2H、溶媒:CHCl3)を用いて精製し、オイル状の化合物4を得た(収量181mg、46%)。
【0108】
1H NMR (300 MHz, CDCl3) :δ(ppm)= 11.18 (s, 2H, NHCO), 8.67 (dd, 2H, J=1.65, 4.22 Hz, Ar), 8.21 (dd, 2H, J=1.83, 7.15 Hz, Ar), 7.89 (dd, 2H, J=1.65, 8.30 Hz, Ar), 7.32 (dd, 2H, J=4.22, 8.30 Hz, Ar), 7.10-7.19 (m, 4H, Ar), 3.87 (q, 2H, J=6.97 Hz, Ala-CH), 3.63 (d, 2H, J=17.51, CH2CO), 3.58 (s, 6H, OCH3), 3.51 (d, 2H, J=17.51, CH2CO), 3.32 (m, 2H, CH2-CH2), 2.96 (m, 2H, CH2-CH2),1.38 (d, 6H, J=6.97, Ala-CH3).
13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ(ppm)= 171.9 (C=O), 171.6 (C=O), 148.3 (Ar), 138.2 (Ar), 135.6 (Ar), 133.9 (Ar), 127.4 (Ar), 126.5 (Ar), 121.3 (Ar), 121.1 (Ar), 115.6 (Ar), 62.2 (-CH2-CH2-), 51.6 (Ala-CH), 51.6 (OCH3), 49.4 (CH2-CO), 10.6 (Ala-CH3).
IR: νmax/cm-1 (KBr) 3296m, 3053w, 2984w, 2952m, 2846w, 1745s, 1683s, 1522s, 1485m, 1426w, 1387m, 1328m, 1193m, 1170w, 1140w, 1110w, 1061w, 1012w, 923w, 825m, 795m, 756w, 716w.
UV-Vis (λmax/nm (ε/dm3 mol-1 cm-1), CHCl3) 321 (9200).
CD (λmax/nm (Δε/dm3 mol-1 cm-1, CHCl3), 349 (2.78), 314 (-1.77), 280 (1.38).
高分解能FAB-MS (マトリックス, NBA) 実測値 m/z=601.2788, 理論値 C32H37N6O6 [M+H]+ 601.2769.
旋光度 [α]27D = 27.78 (deg dm-1 g-1 cm3, c=0.504, CHCl3).
【0109】
(第3工程:N,N’−エチレン−ビス(N−(カルボニルメチル)−(S)−アラニン−8−キノリルアミド(配位子L)の製造)
化合物4 255mgのMeOH溶液70mLにBa(OH)2・8H2O 311.9mgの水溶液35mLを加え、2時間室温で攪拌した。0.5M H2SO4 1.977mLを加え、生じた沈殿をろ過して除き、ろ液を減圧下濃縮した。粗生成物をCH2Cl2に溶解し、濃縮して得た粉末を真空乾燥した(収量155mg、60%)。
【0110】
1H NMR (400 MHz, CDCl3):δ(ppm)= 10.93 (s, 2H, NHCO), 8.75 (d, 2H, J=2.44 Hz, Ar), 8.56 (7, 2H, J=4.51 Hz, Ar), 8.06 (dd, 2H, J=1.40, 8.23 Hz, Ar), 7.43 (s, 2H, Ar), 7.42 (s, 2H, Ar), 7.29 (dd, 2H, J=4.21, 8.29 Hz, Ar), 4.24 (bd, 2H, J=17.81 Hz, CH2-CH2), 3.84 (q, 2H, J=6.89 Hz, Ala-CH) 3.57 (d, 2H, J=17.81 Hz, CH2-CH2), 3.01 (d, 2H, J=9.27, N-CH2-CO), 2.91 (d, 2H, J=10.06, N-CH2-CO), 1.33 (d, 6H, J=6.89 Hz, Ala-CH3).
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6):δ(ppm)= 172.4 (C=O), 171.3 (C=O), 148.5 (Ar), 137.5 (Ar), 135.9 (Ar), 133.5 (Ar), 127.2 (Ar), 126.2 (Ar), 121.6 (Ar), 121.1 (Ar), 114.7 (Ar), 61.6 (Ala-CH ppm)=52.5 (CH2-CO), 48.6 (-CH2-CH2-), 9.7 (Ala-CH3).
IR: νmax/cm-1 (KBr) 3428w, 3300w, 2976w, 1683s, 1529s, 1488m, 1426w, 1387w, 1328w, 1219w, 1140w, 825m, 795m, 756w.
UV-Vis (λmax/nm (ε/dm3 mol-1 cm-1), CH3CN), 319 (1.06×104), 241 (6.75×104), 206 (514×104).
CD (λmax/nm (Δε/dm3 mol-1 cm-1, CH3CN), 346 (4.82), 312 (-2.58), 277 (1.14), 257 (-6.57), 236 (18.1).
FAB-MS (マトリックス, NBA): m/z=573.2, C30H33N6O6 [M+H]+ 573.2.
元素分析: 実測値 : C 59.69%, H 5.60%, N 13.49%, 理論値 C30H32N6O6・0.5CH2Cl2 : C 59.56%, H 5.41%, N 13.66%.
m.p.=113-115 oC.
旋光度 [α]29D = 26.39 (deg dm-1 g-1 cm3, c=0.509, MeOH).
【0111】
製造例2(配位子L−Zn(ClO42錯体の製造)
配位子L・0.72CH2Cl2(633.8g/mol)2.98mgにZn(ClO42・6H2O(372.4g/mol)1.75mgのCH3CN溶液2mLを加え、30分間室温で攪拌した。溶媒を減圧下濃縮し、得られた粉末を40℃で2時間真空乾燥させ、得られた粉末を測定用試料(配位子L−Zn(ClO42=1:1錯体(モル比))として用いた。
【0112】
製造例3(配位子L−Eu(ClO43錯体の製造)
配位子L・0.72CH2Cl2(633.8g/mol)3.20mgにEu(ClO436H2O(558.4g/mol)2.82mgのCH3CN溶液2mLを加え、30分間室温で攪拌した。溶媒を減圧下濃縮し、得られた粉末を40℃で2時間真空乾燥させ、得られた粉末を測定用試料(配位子L:Eu(ClO43=1:1錯体(モル比))として用いた。
【0113】
製造例4(配位子L−Eu(NO33錯体の製造)
配位子L・0.72CH2Cl2(633.8g/mol)3.34mgのCH3CN溶液2mLにEu(NO33・6H2O(446.1g/mol)2.35mgのCH3CN溶液1mLを加え、1時間室温で攪拌した。溶媒を減圧下濃縮し、得られた粉末を40℃で2時間真空乾燥させ、得られた粉末を測定用試料(配位子L:Eu(NO33=1:1錯体(モル比))として用いた。
【0114】
実施例1(配位子L−Zn(ClO42錯体の発光性)
粉末試料(配位子L−Zn(ClO42=1:1錯体(モル比))にUVランプ(波長352nm)を照射すると強い緑色発光が目視により観察された。また、配位子L−Zn(ClO42錯体の蛍光スペクトルを測定することにより図1を得た(λex=320nm、励起側スリット10nm、蛍光側スリット=10nm)。
【0115】
実施例2(配位子L−Zn(ClO42錯体を含む水溶液の発光性)
配位子Lの水溶液(濃度20μmol/L、2mL)とZn(ClO43の水溶液(濃度20μmol/L、2mL)とを混合することによって製造した、配位子L:Zn(ClO42=1:1錯体(モル比)を含む水溶液(濃度10μmol/L)に紫外線(波長254nm)を照射すると、酸性水溶液(pH=1〜4)中では350−600nmにキノリン部位からの弱い青色発光を示すのみであったが、塩基として水酸化ナトリウムを使用して中性から塩基性へと液性を変化させると(pH=4以上)、400−600nmに新たに、強い緑色発光が現れた(図2)。配位子L−Zn(ClO42錯体の蛍光スペクトルピークは、pH=12.5においてλex=492nmに確認された。
【0116】
実施例3(配位子L−Zn(ClO42錯体を含むアセトニトリル溶液の発光性)
製造例2で得られた粉末測定用試料をアセトニトリル中で調製することによって製造した、配位子L:Zn(ClO42=1:1錯体(モル比)を含むアセトニトリル溶液(濃度10μmol/L)は、紫外線(波長254nm)を照射すると、酸性水溶液(pH=1〜4)中と同様350−600nmにキノリン部位からの弱い青色発光を示すのみであったが、有機塩基としてDBU(ジアザビシクロウンデセン)を加えるとpH=4以上の水溶液中と同様400−600nmに新たに強い緑色発光が現れた。
【0117】
実施例4(配位子L−Eu(ClO43錯体を含む水溶液の発光性)
配位子Lの水溶液(濃度200μmol/L、2mL)とEu(ClO43の水溶液(濃度200μmol/L、2mL)とを混合することによって製造した、配位子L:Eu(ClO43=1:1錯体(モル比)を含む水溶液(濃度100μmol/L)では、紫外線(波長254nm)を照射し、キノリン部位を励起すると、pH=4付近で570−710nmに現れたEu(III)中心からの特徴的な赤色発光が、塩基として水酸化ナトリウムを加えると、中性および塩基性(pH=8以上)では消光した(図3)。
【0118】
実施例5(配位子L−Eu(NO33錯体の発光性)
粉末試料にUVランプ(波長352nm)を照射すると強い赤色発光が目視により観察された。また、配位子L−Eu(NO33錯体の燐光スペクトルを測定することにより図4を得た(λex=320nm、励起側スリット10nm、蛍光側スリット=5nm、遅延時間(delay)=0.1ms、ゲート時間(gate)=2.0ms)。
【0119】
実施例6(配位子L−Eu(NO33錯体を含むアセトニトリル溶液の発光性)
製造例4で得られた粉末測定用試料をアセトニトリル中で調製することによって製造した、配位子L:Eu(NO33=1:1錯体(モル比)を含むアセトニトリル溶液(濃度10μmol/L)は、紫外線(波長254nm)を照射すると、pH=4の水溶液で観測されたような、570−710nmにEu(III)中心からの特徴的な赤色発光を示す。この溶液に有機酸としてトリフルオロメタンスルホン酸(CF3SO3H)を2当量加えると、発光強度がおよそ1.5倍になった。一方、有機塩基としてDBUを加えると消光していき4当量加えると完全に消光した。
【0120】
実施例3及び6より、本発明の発光性金属錯体は有機溶媒中であっても、水溶液中と同様に水素イオン濃度指数の変化に応答して亜鉛(II)錯体とEu(III)錯体の発光強度を調整することができる。
【0121】
実施例7(配位子L−Zn(ClO42錯体及び配位子L−Eu(ClO43錯体を含む水溶液の発光性)
配位子Lの水溶液(濃度300μmol/L、1mL)と、Zn(ClO43の水溶液(濃度60μmol/L、1mL)と、Eu(ClO43の水溶液(濃度240μmol/L、1mL)とを混合することによって製造した、2つの錯体を含む水溶液は、紫外線(波長254nm)を照射すると、強酸性条件下(pH=3以下)では青色、弱酸性条件下(pH=4〜5)では赤色発光を示すのに対し、塩基として水酸化ナトリウムを使用して、水素イオン濃度指数を中性から塩基性へと変化させることによって、中性条件下(pH=6〜7)では黄色発光を示し、次いで塩基性条件下(pH=8以上)では緑色発光を示した(図5、配位子L−Zn(ClO42錯体の濃度20μmol/L、配位子L−Eu(ClO43錯体の濃度80μmol/L)。
【0122】
また、使用する金属イオンにより、(i)キノリン基からの直接発光と、(ii)キノリン基から金属イオンへのエネルギー移動を経た金属中心からの発光の異なる発光モードをスイッチできることが明らかになった。さらに、それぞれの錯体は異なったpH窓をもつことも示された(図6)。
【0123】
図6中のpHによる発光強度の変化
○:配位子L−Zn(ClO42錯体 λex=320nm、λem=500nm、
●:配位子L−Eu(ClO43錯体 λex=300nm、λem=615nm
【0124】
比較例1(配位子DQ−Zn(ClO42錯体の水溶液の発光性))
次の式(III):
【化7】

を有する配位子について発光性の調査を行った(本発明においては、配位子DQとも称する)。
【0125】
配位子L:Zn(ClO42=1:1(モル比)錯体の場合と同様に(実施例2)、配位子DQ:Zn(ClO42=1:1を含む水溶液(濃度10μmol/L)に紫外線(波長254nm)を照射すると、酸性水溶液中(pH=3.5以下)では350−600nmにキノリン部位からの弱い青色発光を示すのみであったが、塩基として水酸化ナトリウムを使用して中性から塩基性へと液性を変化させると(pH=5以上)、400−600nmに新たに、緑色発光が現れた(図7)。しかしながら、その強度は配位子L:Zn(ClO42=1:1錯体を使用した場合と比べてはるかに弱かった。また、強塩基性水溶液中(pH=12)では420nmにショルダーが観察されることから、錯体が一部分解しているように見受けられる。このことは水素イオン濃度指数を変化させることによって発光機能が損なわれていることを示している。
【0126】
比較例2(配位子DQ−Eu(ClO43錯体の水溶液の発光性)
この錯体は中性および塩基性では水に溶解しない。酸性(pH=3.3)では溶解するが、Eu(III)中心からの発光は観察できなかった。
【0127】
実施例と比較例との比較より、本発明の発光性金属錯体は比較例のものと比べて紫外線等の光線に対して溶媒の存在下又は非存在下であっても高発光性を示す。また、本発明の発光性金属錯体を含む溶液は、水素イオン濃度指数を変化させながらこれらに紫外線を照射した場合、水素イオン濃度指数に応答して多彩な色彩の発光特性を示すこともできる。このため、本発明の発光性金属錯体はディスプレー材料、水素イオン濃度指数センサー等として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
【化1】

(式中、R1及びR2は低級アルキル基であり、R3及びR4はカルボキシ基及び1以上のカルボキシ基で置換された低級アルキル基からなる群から独立して選択され、R5〜R16は水素原子及び低級アルキル基からなる群から独立して選択される)
で表わされる配位子と金属塩とを含むことを特徴とする発光性金属錯体。
【請求項2】
前記配位子が、式(II):
【化2】

で表される請求項1に記載の発光性金属錯体。
【請求項3】
前記金属塩が、Zn系金属塩、Eu系金属塩及びこれらの組み合わせから選択される請求項1又は2に記載の発光性金属錯体。
【請求項4】
前記金属塩が、Zn(ClO42、Eu(ClO43、Eu(NO33及びこれらの組み合わせから選択される請求項1〜3のいずれか1つに記載の発光性金属錯体。
【請求項5】
前記発光性金属錯体が、前記金属塩1モルに対して前記配位子を0.5〜1.5モル含む請求項1〜4のいずれか1つに記載の発光性金属錯体。
【請求項6】
前記発光性金属錯体が、溶液中で紫外線に応答して発光性を示す請求項1〜5のいずれか1つに記載の発光性金属錯体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の発光性金属錯体を含む溶液に紫外線を照射する工程を含む水素イオン濃度指数の測定方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の発光性金属錯体を含むディスプレー材料。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の発光性金属錯体を含む水素イオン濃度指数センサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−56871(P2013−56871A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197545(P2011−197545)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年3月11日 社団法人 日本化学会発行の「日本化学会第91春季年会2011年講演予稿集II(DVD−ROM)」および 平成23年9月1日 錯体化学会発行の「錯体化学会第61回討論会講演要旨集」において発表
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)
【Fターム(参考)】