説明

発光性高分子アクチュエータ

【課題】薄型にして、照光部の照光品質が良好な応力発光体利用の発光性高分子アクチュエータを提供する。
【解決手段】高分子アクチュエータ10の内部に応力発光体部20を一体不可分に設けることによって、発光性高分子アクチュエータ1Aを構成する。高分子アクチュエータ10は、高分子電解質層11と、この高分子電解質層11の表裏両面に形成された電極層12,13とから構成され、応力発光体部20は、電極層12の表層部分に応力発光体粒子22を拡散充填するか、電極層12の表面分に応力発光体粒子22を拡散結合することにより形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部から応力を加えられると発光する応力発光体をその内部に有し、駆動力を発生すると同時に周囲の照明も可能な発光性高分子アクチュエータに係り、特に、高分子アクチュエータ内の応力発光体の配列及び形成手段に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、常温において機械的外力を受けたときに弾性変形領域で可逆的に発光する応力発光体が開発されている(例えば、非特許文献1参照)。また、近年、数V程度の低電圧を加えることにより、空気中において屈曲変形する高分子アクチュエータも開発されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0003】
本願出願人は、これらの応力発光体を高分子アクチュエータ内に取り込んで、駆動力を発生させると同時に照明も可能とする発光性高分子アクチュエータを開発中であるが、その過程において、図7に示すように、高分子電解質層101の表裏両面に電極層102を配してなるシート状の高分子アクチュエータ100の表面に、樹脂基材中に応力発光体粉末を拡散充填してシート状に成形された応力発光体200を、接着層300を介して接着してなるものが提案された。
【非特許文献1】応力発光材料とその応用、九州工業技術研究所 無機複合材料部機能セラミックス研究室 徐 超男(平成11年度 九州工業技術研究所研究講演会での講演要旨集)
【非特許文献2】ポリマー系アクチュエータ、独立行政法人産業技術総合研究所 セルエンジニアリング研究部門 人工細胞研究グループ長 安積欣志(「未来型アクチュエータ材料・デバイス」、シーエムシー出版、2006年12月発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、図7に示した発光性高分子アクチュエータは、それぞれ独立の別体として形成された高分子アクチュエータ100と応力発光体200とを接着層300を介して接合するので、発光性高分子アクチュエータとしての厚みが前記各部の合計厚となり、薄型化を図ることが難しいという問題がある。また、接着層300が高分子アクチュエータ100の負荷となり、高分子アクチュエータ100の変形量が抑制されるため、応力発光体200に作用する外力が小さくなり、照光部の輝度が低かったり、照光部に輝度むらが生じやすいという問題がある。これらの問題は、高分子アクチュエータ100の表裏両面に応力発光体200を設けてなる両面発光形の発光性高分子アクチュエータにおいて特に顕著になる。
【0005】
本発明は、かかる技術的課題を解決するためになされたものであり、その目的は、駆動力を発生すると同時に照明用としても用いることができ、薄型にして、照光部の照光品質が良好であり、かつ製造方法も簡便な応力発光体利用の発光性高分子アクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記の課題を解決するため、第1に、発光性高分子アクチュエータを、高分子電解質層の表裏両面に電極層を配してなる高分子アクチュエータと、この高分子アクチュエータの一部に一体不可分に形成された応力発光体部とからなるという構成にした。
【0007】
かかる構成によると、高分子アクチュエータの一部に応力発光体部を一体不可分に形成するので、それぞれ別体に形成された高分子アクチュエータと応力発光体とを接着層を介して接合する場合に比べて、応力発光体の厚み分と接着層の厚み分とを減ずることができ、発光性高分子アクチュエータの薄型化を図ることができる。また、接着層を省略できるので、高分子アクチュエータの負荷が小さく、高分子アクチュエータの変形量を大きくすることができる。したがって、応力発光体に大きな外力を付与することができるので、照光部の輝度を高く、かつ照光部の輝度むらを小さくできて、照明の目的に関しても照光品質が良好である。
【0008】
本発明は第2に、前記第1の発光性高分子アクチュエータにおいて、前記応力発光体部は、前記高分子電解質層の表裏両面に形成される2つの電極層のうち、少なくとも一方の電極層の表層部分に応力発光体粒子を拡散充填又は拡散結合してなるという構成にした。
【0009】
拡散充填とは、基材(電極層)の内部に添加物(応力発光体粒子)を均一に分散して埋め込むことであり、拡散結合とは、基材の表面に添加物を均一に分散して固定することである。このように、電極層の表層部分に応力発光体粒子を拡散充填又は拡散結合すると、高分子アクチュエータの表面に応力発光体部を均一に形成することができるので、面状の照光部を有する発光性高分子アクチュエータとすることができる。
【0010】
本発明は第3に、前記第1の発光性高分子アクチュエータにおいて、前記少なくとも一方の電極層は、樹脂基材中に導電フィラーを拡散充填したものからなり、前記応力発光体部は、前記樹脂基材の表層部分に応力発光体粒子を拡散充填又は拡散結合してなるという構成にした。
【0011】
かかる構成によると、高分子アクチュエータにおける電極層の形成時に応力発光体部を同時に形成することができるので、それぞれ別体に形成された高分子アクチュエータと応力発光体とを接着層を介して接合する場合に比べて、発光性高分子アクチュエータの製造工程を簡略化することができ、製造コストを低コスト化することができる。
【0012】
本発明は第4に、前記第1の発光性高分子アクチュエータにおいて、前記樹脂基材中に拡散充填される前記応力発光体粒子の濃度を、前記樹脂基材の内部側よりも表面側の方を高濃度にするという構成にした。
【0013】
応力発光体粒子からの発光は、樹脂基材の表面に近い位置に配置された応力発光体粒子からの発光ほど、樹脂基材による減衰を受けないので、照光部の輝度を高める上で有利である。また、樹脂基材の内部の深い位置に配置された応力発光体粒子からの発光ほど、照光部の輝度に対する寄与が低いので、樹脂基材の内部の深い位置に多くの応力発光体粒子を配置しても、応力発光体粒子の無駄となる。したがって、応力発光体粒子の濃度を樹脂基材の内部側よりも表面側の方を高濃度にすることにより、高輝度にして低コストの発光性高分子アクチュエータとすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、発光性高分子アクチュエータを、高分子電解質層の表裏両面に電極層を配してなる高分子アクチュエータと、この高分子アクチュエータの一部に一体不可分に形成された応力発光体部とから構成するので、それぞれ別体に形成された高分子アクチュエータと応力発光体とを接着層を介して接合する場合に比べて、発光性高分子アクチュエータの薄型化を図ることができる。また、接着層を省略できるので、高分子アクチュエータの負荷が小さく、応力発光体に大きな外力を付与することができて、照光部の照光品質が良好な発光性高分子アクチュエータとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る発光性高分子アクチュエータの実施形態を、図1乃至図6に基づいて説明する。図1は第1実施形態に係る発光性高分子アクチュエータの断面図、図2は第2実施形態に係る発光性高分子アクチュエータの断面図、図3は電極層内における応力発光体粒子の拡散充填状態を示す要部断面図、図4は電極層の表面における応力発光体粒子の拡散結合状態を示す要部断面図、図5は電極層内における応力発光体粒子の濃度分布を例示するグラフ図、図6は各実施形態に係る発光性高分子アクチュエータの発光時の形状変化を示す説明図である。
【0016】
第1実施形態に係る発光性高分子アクチュエータ1Aは、片面発光型であり、図1に示すように、高分子アクチュエータ10の片方の表面近傍の一部に、応力発光体部20が一体不可分に設けられた構成となっている。これに対して、第2実施形態に係る発光性高分子アクチュエータ1Bは、両面発光型であり、図2に示すように、高分子アクチュエータ10の表裏両方の表面近傍の一部に、応力発光体部20が一体不可分に設けられている。
【0017】
高分子アクチュエータ10は、高分子電解質層11と、この高分子電解質層11の表裏両面に形成された電極層12,13とから構成されており、電極層12,13間に所定の電圧を印加することにより、図6に示すように、表面側が凸となるように、或いは裏面側が凸となるように湾曲変形する。
【0018】
高分子電解質層11は、導電性高分子型、水系や非水系のイオン導電性高分子型、イオン交換膜や多孔質樹脂への電解液膨潤型、固体或いはゲル状電解質型などの公知に属する任意の高分子電解質材料からなるものを用いることができるが、空気中において封止レスで安定に駆動できることから、固体或いはゲル状電解質のポリマー型を用いることが特に望ましい。この固体或いはゲル状電解質のポリマー型の高分子電解質層11としては、http://www.kuraray.co.jp/release/2007/pdf/070413.pdfに掲示のものを挙げることができる。
【0019】
電極層12,13のうち、少なくとも応力発光体部20が形成される電極層は、樹脂基材14中に導電フィラー15を拡散充填したものをもって形成される。したがって、片面発光型の発光性高分子アクチュエータについては、一方の電極層を樹脂基材14中に導電フィラー15を拡散充填したものをもって形成し、他方の電極層を金属材料をもって形成することもできるし、2つの電極層12,13を共に樹脂基材14中に導電フィラー15を拡散充填したものをもって形成することもできる。
【0020】
応力発光体部20は、図3に示すように、電極層12,13の表層部分に応力発光体粒子22を拡散充填することにより形成することもできるし、図4に示すように、電極層12,13の表面に応力発光体粒子22を拡散結合することにより形成することもできる。電極層12,13の表層部分に応力発光体粒子22を拡散充填する場合には、応力発光体部20の形成を容易化でき、かつ発光性高分子アクチュエータの総厚を小さくできることから、電極層12,13を構成する樹脂基材14中に応力発光体粒子22を拡散充填することにより、応力発光体部20を形成することが望ましい。また、電極層12,13の表面に応力発光体粒子22を拡散結合する場合には、応力発光体部20,21の形成を容易化できることから、図4に示すように、電極層12,13を構成する樹脂基材14を接合剤として応力発光体粒子22を結合することにより、応力発光体部20を形成することが望ましい。
【0021】
電極層12,13の表層部分に応力発光体粒子22を拡散充填する場合においては、図5に実線(1)で示すように、応力発光体粒子22が拡散充填される電極層表面からの深さに関係なく、電極層12,13を構成する樹脂基材14に対する応力発光体粒子22の濃度を一定にすることもできるし、破線(2)及び鎖線(3)に示すように、樹脂基材14中に拡散充填される応力発光体粒子22の濃度を、電極層の内部側よりも表面側の方を高濃度にすることもできる。応力発光体粒子22からの発光は、樹脂基材14の表面に近い位置に配置された応力発光体粒子22からの発光ほど、樹脂基材14による減衰を受けないので、照光部の輝度を高める上で有利である。したがって、応力発光体粒子22の濃度を電極層12,13を構成する樹脂基材14の内部側よりも表面側の方を高濃度にすることにより、発光性高分子アクチュエータの輝度を高め、かつ応力発光体粒子22の無駄を防止することができる。
【0022】
なお、応力発光体部20の表面には、これを機械的又は化学的な悪影響から保護するため、保護フィルムを被覆することもできる。保護フィルムとしては、可撓性を有する透明プラスチックを用いることができる。
【0023】
実施形態に係る発光性高分子アクチュエータ1A,1Bは、電極層12,13に所定の電圧を印加すると、図6に示すように、高分子アクチュエータ10が、表面側が凸となるように、或いは裏面側が凸となるように変形する。勿論、電極層12,13にパルス状の電圧を印加することにより、高分子アクチュエータ10を振動させることもできる。このように、高分子アクチュエータ10が変形又は振動すると、電極層12,13の表層部分に形成された応力発光体部20に外力が付与されるので、その応力により応力発光体粒子22が発光し、電極層12,13の表面を照光部とする発光性高分子アクチュエータとして機能する。
【0024】
実施形態に係る発光性高分子アクチュエータ1A,1Bは、高分子電解質層11の表裏両面に電極層12,13を配してなる高分子アクチュエータ10において、電極層12,13の表層部分に、一体不可分に形成された応力発光体部20を有してなるので、それぞれ別体に形成された高分子アクチュエータと応力発光体とを接着層を介して接合する場合に比べて、応力発光体の厚み分と接着層の厚み分とを減ずることができ、発光性高分子アクチュエータの薄型化を図ることができる。また、接着層を省略できるので、高分子アクチュエータ10の負荷が小さくすることができて、応力発光体部20に大きな外力を付与することができ、照光部の照光品質が良好な発光性高分子アクチュエータとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1実施形態に係る発光性高分子アクチュエータの断面図である。
【図2】第2実施形態に係る発光性高分子アクチュエータの断面図である。
【図3】電極層内における応力発光体粒子の拡散充填状態を示す要部断面図である。
【図4】電極層の表面における応力発光体粒子の拡散結合状態を示す要部断面図である。
【図5】電極層内における応力発光体粒子の濃度分布を例示するグラフ図である。
【図6】実施形態に係る発光性高分子アクチュエータの発光時の形状変化を示す説明図である。
【図7】従来例に係る発光性高分子アクチュエータの断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1A,1B 発光性高分子アクチュエータ
10 高分子アクチュエータ
11 高分子電解質層
12,13 電極層
14 樹脂基材
15 導電フィラー
20 応力発光体部
22 応力発光体粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質層の表裏両面に電極層を配してなる高分子アクチュエータと、この高分子アクチュエータの一部に一体不可分に形成された応力発光体部とからなることを特徴とする発光性高分子アクチュエータ。
【請求項2】
前記応力発光体部は、前記高分子電解質層の表裏両面に形成される2つの電極層のうち、少なくとも一方の電極層の表層部分に応力発光体粒子を拡散充填又は拡散結合してなることを特徴とする請求項1に記載の発光性高分子アクチュエータ。
【請求項3】
前記少なくとも一方の電極層は、樹脂基材中に導電フィラーを拡散充填したものからなり、前記応力発光体部は、前記樹脂基材の表層部分に応力発光体粒子を拡散充填又は拡散結合してなることを特徴とする請求項1に記載の発光性高分子アクチュエータ。
【請求項4】
前記樹脂基材中に拡散充填される前記応力発光体粒子の濃度を、前記樹脂基材の内部側よりも表面側の方を高濃度にしたことを特徴とする請求項1に記載の発光性高分子アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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